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急性膵炎の抗菌薬処方はもう古い!?最新治療とは―診療ガイドライン2021発刊

 専門医でも抗菌薬や蛋白分解酵素阻害薬の投与が慣例となっている急性膵炎の治療。ところが、昨年12月に発刊された『急性膵炎診療ガイドライン2021年版(第5版)』で、遂に治療法へのメスが入ったのである。診断よりも治療法に重きを置いて今回の改訂がなされた理由について、急性膵炎診療ガイドライン改訂出版責任者の高田 忠敬氏(帝京大学附属病院)にインタビューした。 今回6年ぶりに発刊された急性膵炎診療ガイドライン第5版では、「予防的抗菌薬の投与がほぼ全例で行われている」「発症48時間以内の早期の経腸栄養が開始されていない」点を専門医に向けて問題提起している。急性膵炎の治療において栄養摂取は時間勝負であり予後改善の分岐点ともなることから、いかに早期に食事を開始するか、その方法や意義などが盛り込まれた。急性膵炎診療ガイドラインの推奨「予防的抗菌薬は投与しない」 急性膵炎診療ガイドライン2021年版のクリニカルクエスション(CQ13:予防的抗菌薬は急性膵炎の予後改善に有用か?)を見ると、予防的抗菌薬の投与について、軽症例の場合は「行わないことを推奨する」(強い推奨、エビデンスの確実性が高い)とされ、重症例もしくは壊死性膵炎の場合は「生命予後や感染性膵合併症発生に対する明らかな改善効果は証明されていない」(推奨なし)となった。ただし、胆石性膵炎で胆管炎を併発している場合のように予防的ではなく感染を伴った際には、治療薬として抗菌薬を使用する旨が記載されている。これについて高田氏は「現段階で重症例への予防投与も答えが出せない状況であるため、今後の研究が待たれる」と説明した。急性膵炎診療ガイドラインでは早期に経腸栄養を始めることが重要 続いて、軽症例の経腸栄養の早期開始について、同氏は「以前は腸を空にすることが善とされてきたが、近年では蠕動運動を保つという目的はもちろん、腸内環境を整えるためにも早期に経腸栄養を始めることが感染予防対策としても重要と報告されている」と述べた。また、急性膵炎診療ガイドライン2021年版のCQ16(重症急性膵炎に対する経腸栄養の至適開始時期はいつか?)が強い推奨、エビデンスの確実性高となっていることについて、「重症例の場合、通常の1.5倍ほどのカロリーが必要。それを補うためにも、腹痛や蠕動音が聴取できないなどの状態であっても禁忌条件に該当しない限りは静脈栄養に加えて経腸栄養を行うことが推奨される」とも説明した。*関連:CQ17 経腸栄養ではどこから何を投与するか?    CQ18 軽症膵炎ではどのように食事を再開するか? 重症例に対する、経腸栄養の禁忌条件や経腸栄養が可能な状態は以下のとおり。<経腸栄養の禁忌条件>1.高度の腸閉塞2.消化管閉塞3.消化管穿孔4.重篤な下痢5.難治性嘔吐6.活動性消化管出血7.汎発性腹膜炎8.膵性胸腹水<経腸栄養が可能な症状・所見>1.腹痛2.嘔気3.血清膵酵素上昇4.腸管蠕動音消失5.胃内容逆流(経鼻胃管からの排出)急性膵炎診療ガイドラインがスマホアプリとして初登場 一般的なガイドラインではクリニカルクエスチョンに対し解説が記載されていることが多いが、急性膵炎診療ガイドライン2021年版ではそれらを裏付けるための参考資料などはQRコードを利用して確認する仕様になっており、急性膵炎診療ガイドライン2021年版のp13などにもQRコードが掲載されている。それを読み取り、必要なページに瞬時にアクセスすることができるので、通常のガイドラインより必要な情報に集中することができる。また、急性膵炎診療ガイドライン2021年版Lはアプリにもなっているので、App storeにて書籍名を検索すれば誰でも無料で入手することができ、手軽に持ち歩くこともできる。 この機能に加え、患者がガイドラインを閲覧したり、医師がガイドラインを用いて説明したりする状況を鑑み「やさしい解説」が付記されている点も急性膵炎診療ガイドライン2021年版の大きなポイントで、患者に説明する際の使い勝手も良い仕様になっているので、まさに次世代ガイドラインとも言えるのではないだろうか。 最後に同氏は「抗菌薬投与も栄養管理も過去の経験則が代々引き継がれてきただけもので、エビデンスに基づく根拠がなかった。エビデンス重視の昨今において、ぜひ、本書もしくはアプリを活用いただき、最新の治療を理解いただくとともに悪しき慣習がなくなることを願う」と締めくくった。 なお、「日本消化器病学会誌」へ同氏の論文が、日本膵臓学会誌「膵臓」に『診療ガイドライン2021での巻頭言』が8月に掲載される予定だ。

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高リスクIgA腎症への経口ステロイドで転帰改善、用量は?/JAMA

 高リスクIgA腎症患者において、経口メチルプレドニゾロンによる6~9ヵ月の治療は、プラセボと比較して、腎機能低下・腎不全・腎疾患死亡の複合アウトカムのリスクを有意に低下させた。ただし、経口メチルプレドニゾロンの高用量投与では、重篤な有害事象の発現率が増加した。中国・北京大学第一医院のJicheng Lv氏らが、オーストラリア、カナダ、中国、インド、マレーシアの67施設で実施された多施設共同無作為化二重盲検比較試験「Therapeutic Effects of Steroids in IgA Nephropathy Global study:TESTING試験」の結果を報告した。本試験は、重篤な感染症が多発したため中止となったが、その後、プロトコルが修正され再開されていた。JAMA誌2022年5月17日号掲載の報告。メチルプレドニゾロンの用量を0.6~0.8mg/kg/日から0.4mg/kg/日に減量し、試験を再開 研究グループは、2012年5月~2019年11月の期間に、適切な基礎治療を3ヵ月以上行っても蛋白尿1g/日以上、推定糸球体濾過量(eGFR)20~120mL/分/1.73m2のIgA腎症患者503例を、メチルプレドニゾロン群またはプラセボ群に1対1の割合に無作為に割り付けた。 メチルプレドニゾロン群は、当初、0.6~0.8mg/kg/日(最大48mg/日)を2ヵ月間投与、その後4~6ヵ月で減量・離脱(8mg/日/月で減量)するレジメンであったが、メチルプレドニゾロン群に136例、プラセボ群に126例、計262例が無作為化された時点で重篤な感染症の過剰発生が認められたため、2015年11月13日に中止となった。その後、プロトコルを修正し、メチルプレドニゾロン群は、0.4mg/kg/日(最大32mg/日)を2ヵ月間投与、その後4~7ヵ月で減量・離脱(4mg/日/月で減量)するレジメンに変更するとともに、ニューモシスチス肺炎に対する抗菌薬の予防的投与を治療期間の最初の12週間に追加した。 2017年3月21日に修正プロトコルで試験が再開され、2019年11月までに241例(メチルプレドニゾロン群121例、プラセボ群120例)が登録された。 主要評価項目はeGFR40%低下・腎不全(透析、腎移植)・腎疾患死亡の複合で、副次評価項目は腎不全などの11項目とし、2021年6月まで追跡調査した。メチルプレドニゾロン群で複合アウトカムが有意に減少、高用量では有害事象が増加 無作為化された503例(平均年齢:38歳、女性:198例[39%]、平均eGFR:61.5mL/分/1.73m2、平均蛋白尿:2.46g/日)のうち、493例(98%)が試験を完遂した。 平均追跡期間4.2年において、主要評価項目のイベントはメチルプレドニゾロン群で74例(28.8%)、プラセボ群で106例(43.1%)に認められた。ハザード比(HR)は0.53(95%信頼区間[CI]:0.39~0.72、p<0.001)、年間イベント率絶対群間差は-4.8%/年(95%CI:-8.0~-1.6)であった。 メチルプレドニゾロン群の各用量について、それぞれのプラセボ群と比較して主要評価項目に対する有効性が確認された(異質性のp=0.11、HRは高用量群0.58[95%CI:0.41~0.81]、減量群0.27[95%CI:0.11~0.65])。 事前に規定された11項目の副次評価項目のうち、腎不全(メチルプレドニゾロン群50例[19.5%]vs.プラセボ群67例[27.2%]、HR:0.59[95%CI:0.40~0.87]、p=0.008、年間イベント率群間差:-2.9%/年[95%CI:-5.4~-0.3])などを含む9項目で、メチルプレドニゾロン群が有意に好ましい結果であった。 重篤な有害事象の発現は、メチルプレドニゾロン群がプラセボ群より多く(28例[10.9%]vs.7例[2.8%])、とくに高用量群で高頻度であった(22例[16.2%]vs.4例[3.2%])。

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経口カルバペネム系抗菌薬テビペネム 重症尿路感染症でも有効(解説:宮嶋哲氏)

 多剤耐性グラム陰性桿菌に効果的な経口抗菌薬が必要とされているなか、テビペネムピボキシルハイドロブロミドは、βラクタマーゼ産生のフルオロキノロン耐性株など尿路病原性エンテロバクターに対して抗菌力を発揮する経口カルバペネム系抗菌薬である。 本研究は、テビペネム経口薬の非劣性に関する、欧米アフリカ諸国95ヵ所における国際多施設無作為化二重盲検比較の第III相試験である。試験デザインは、急性腎盂腎炎と複雑性尿路感染症を含む重症尿路感染症患者を対象に、テビペネム経口投与群(8時間ごと600mg投与)とertapenem静注投与群(24時間ごと1g投与)に1:1でランダムに割り付けている。主要評価項目はITT populationにおける投与19日目での全奏効率(臨床的治癒と良好な微生物学的奏効)、非劣性マージンは12.5%としている。 本研究に登録された成人1,372症例のうち、868症例が微生物学的なITT populationであった。ertapenem静注投与群の全奏効率61.6%に対して、テビペネム経口投与群の全奏効率は58.8%であった。臨床的治癒は、テビペネム経口投与群93.1%:ertapenem静注投与群93.6%であった。微生物学的奏効不良な症例のほとんどは再発性細菌尿を呈する無症候性患者であった。副作用に関しては、テビペネム経口投与群25.7%:ertapenem静注投与群25.6%であり、そのほとんどは軽度の下痢と頭痛であった。以上から、比較的重篤な急性腎盂腎炎と複雑性尿路感染症を伴う症例において、テビペネム経口薬は従来のカルバペネム静注薬に対して非劣性な抗菌力と同等な安全性を示した。 テビペネムピボキシルハイドロブロミドは、わが国で開発され2009年に製造販売承認を取得した経口カルバペネム系抗菌薬である。感染症治療上問題となっている多剤耐性菌に対して抗菌力を呈し、とりわけ経口薬による治療困難であった小児気道感染症例における有効性が示されてきた。本検討では尿路感染症でも有効性が示され、その臨床応用が期待されるが、薬剤耐性の観点から標準治療では効果が期待しえない症例に限定して使用することが望ましいと考える。

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コロナ外来患者に処方される抗菌薬、何が多い?/JAMA

 抗菌薬の使用は新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)を含むウイルスに対し、効果のない治療法であることは自明である。そこで、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)のSharon V Tsay氏らは新型コロナ外来の高齢者に対する抗菌薬の処方状況を調査した。その結果、メディケア被保険者の新型コロナ外来患者の30%に抗菌薬が処方されており、そのうち50.7%がアジスロマイシンであったことも明らかになった。JAMA誌オンライン版2022年4月8日号にリサーチレターとして掲載された。 本研究は医療保険メディケアのキャリアクレームとパートDのイベントファイルを使用し、新型コロナ外来患者の診察とそれに関連して抗菌薬を処方された65歳以上の被保険者を特定。また、年齢、性別、人種、処方場所ごとに、抗菌薬を「処方された」または「処方されなかった」新型コロナ感染した被保険者の分布を比較するために、カイ二乗検定を行った。 主な結果は以下のとおり。・2020年4月~2021年4月の期間、116万9,120例が外来受診し、そのうち34万6,204例(29.6%)に抗菌薬が処方されていた。処方量は月ごとに異なり、新型コロナが感染拡大した2020~21年の冬にはその処方割合は高くなった(範囲:17.5%[2020年5月]~33.3%[2020年10月])。・処方は病院の救急外来が最も高く(33.9%)、次に遠隔診療(28.4%)、Urgent care*(25.8%)、診療所(23.9%)と続いた。・最も頻繁に処方された抗菌薬はアジスロマイシン(50.7%)であり、次にドキシサイクリン(13.0%)、アモキシシリン(9.4%)、レボフロキサシン(6.7%)だった。・アジスロマイシンの処方割合が最も高かったのはUrgent care(60.1%)で、遠隔医療(55.7%)、診療所(51.5%)、病院の救急外来(47.4%)と続いた。・年齢、性別、処方場所にも違いが観察された。・非ヒスパニック系白人患者には、ほかの人種および民族グループ(アメリカインディアン/アラスカ先住民24.1%、アジア/太平洋諸島人26.5%、黒人またはアフリカ系アメリカ人23.2%、ヒスパニック系28.8%)よりも頻繁に新型コロナに対して抗菌薬が処方されていた(30.6%)。*Urgent care:急病診療所。かかりつけの医師やクリニックが閉まっている場合に利用する施設 なお、研究者らは「新型コロナ治療にアジスロマイシンの利点は示されていないうえ、抗菌薬の耐性に影響を及ぼす。また、本研究は米国全人口やメディケア処方薬の適用範囲ではない65歳以上の集団を代表するものではないかもしれないが、外来患者での抗菌薬の処方を適正化し、高齢者集団における新型コロナのようなウイルス感染症に対する不要な抗菌薬の使用を回避することの重要性を強調する」としている。

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女性の頻尿、どう尋ねるべき?【Dr.山中の攻める!問診3step】第13回

第13回 女性の頻尿、どう尋ねるべき?―Key Point―1日3L以上の排尿と強い口渇があるかを確認する2回以上の夜間頻尿があると生活に支障をきたす医師が質問をしないと女性は尿失禁を訴えないことが多い症例:76歳 女性主訴)頻尿現病歴)2週間前から頻尿と排尿時痛がある。近くの診療所で抗菌薬の処方を受けたが、症状の改善はない。尿の排出時、下腹部に痛みを生じる。3日前からトイレに間に合わず尿を漏らすことが増えてきたため紙パンツを使用するようになった。夜間の排尿回数は5回。熟眠できない。既往歴)変形性関節症薬剤歴)なし生活歴)機会飲酒、喫煙:5本/日(20歳~)身体所見)体温36.8℃、血圧132/80mmHg、心拍数86回/分、呼吸回数18回/分意識:清明腹部:軟。膨隆なし。下腹部に軽度の圧痛あり経過)尿意切迫感と頻尿、切迫性尿失禁の症状から過活動膀胱を疑い牛車腎気丸を処方した。尿意切迫感は改善を認めた。その後、ナースに「最近、子宮脱が気になっている」との訴えがあった。子宮脱も夜間多尿の原因となっていた可能性がある。◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!年をとると過活動膀胱に罹患する割合が増加する(70代で20%、80歳以上で35%)1)カルシウム拮抗薬は夜間頻尿を起こす成人女性の25%に尿失禁がある【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】多尿(>3L/日)か確認する2)問診:口渇の程度、飲水量、塩分摂取量、利尿薬、アルコールやカフェイン摂取心因性多飲症では1日3~5Lの飲水により低ナトリウム血症を起こすスポット尿のナトリウム濃度(mmol/L)を17で割ると、尿1LあたりのNaCl量(g)が推定できる。この数値に尿量(L)をかければ1日あたりの推定食塩摂取量となる多尿があれば、尿浸透圧を測定する。250mOsm/kg以下ならば水利尿、300mOsm/kg以上ならば浸透圧利尿である水利尿の原因:尿崩症(中枢性、腎性)、心因性多尿浸透圧利尿の原因:糖尿病、薬剤(マンニトール)、ナトリウム負荷、利尿薬、腎不全【STEP3-1】夜間は何度トイレに起きるか就寝後に2回以上、排尿のため起きなければならない症状を夜間頻尿と呼ぶ健常者では抗利尿ホルモン(バソプレシン)は夜間に多く分泌されるため、夜間尿は少なくなる。<夜間頻尿の原因>夜間のみ尿量が多くなる夜間多尿、膀胱容量の減少(過活動性膀胱、前立腺肥大症、間質性膀胱炎、骨盤臓器脱)、睡眠障害<夜間多尿の原因>高血圧、心不全、腎不全、睡眠時無呼吸症候群、寝る前の水分過剰摂取【STEP3-2】尿失禁はあるか2)3)4)◆新たに出現した尿失禁の鑑別診断(DIAPERS)Drug(薬剤)Atrophic vaginitis(萎縮性膣炎)Endocrine(高血糖、高カルシウム血症)Stool impaction(宿便)Infection(感染症:とくに尿路感染症)Psychological(うつ、認知症、せん妄)Restricted mobility(運動制限)(表)尿失禁のタイプ画像を拡大する<参考文献・資料>1)日本泌尿器科学会:頻尿(ひんにょう)とは2)Harrison’s Principles of Internal Medicine. 2018. p294-295,p3432-3436.3)MKSAP19 General Internal Medicine1. 2021. p95-98.4)山中克郎ほか. UCSFに学ぶ できる内科医への近道. 改訂4版. 2012. p343.

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テビペネム ピボキシル、複雑性尿路感染症に有望/NEJM

 複雑性尿路感染症および急性腎盂腎炎の入院患者の治療において、テビペネム ピボキシル臭化水素酸塩の経口投与はertapenemの静脈内投与に対し有効性に関して非劣性で、安全性プロファイルはほぼ同等であることが、英国・Spero TherapeuticsのPaul B. Eckburg氏らが実施した「ADAPT-PO試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2022年4月7日号に掲載された。テビペネム ピボキシル臭化水素酸塩はカルバペネム系のプロドラッグであり、経口投与されると腸管細胞によって速やかに活性本体であるテビペネムに変換される。テビペネムは、基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生腸内細菌科やフルオロキノロン耐性菌などの多剤耐性グラム陰性病原菌に対し広域抗菌スペクトル活性を有するという。95施設の国際的な第III相非劣性試験 本研究は、複雑性尿路感染症および急性腎盂腎炎の入院患者の治療におけるテビペネム ピボキシル臭化水素酸塩とertapenemの有効性と安全性の比較を目的とする第III相二重盲検ダブルダミー無作為化非劣性試験であり、2019年6月~2020年5月の期間に中東欧、南アフリカ、米国の95施設で参加者の登録が行われた(米国Spero Therapeuticsと米国保健福祉省[HHS]の助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、規制当局による現行のガイダンスに沿ったプロトコルで規定された疾患の定義の基準を満たす複雑性尿路感染症および急性腎盂腎炎の診断を受けた患者であった。 被験者は、テビペネム ピボキシル(600mg、8時間ごと)を経口投与する群またはertapenem(1g、24時間ごと)を静脈内投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられ、7~10日間(菌血症の患者は最長で14日間)の投与が行われた。 有効性の主要エンドポイントは、微生物学的intention-to-treat集団(複雑性尿路感染症または急性腎盂腎炎の診断が確定し、ベースライン時に尿培養が陽性のすべての患者)における治癒判定の受診時(19日目、±2日以内)の全奏効(臨床的治癒と良好な微生物学的反応の複合)とされた。非劣性マージンは12.5%。菌血症では治療終了時に90%を超える全奏効割合 1,372例の入院患者が登録された。このうち868例(63.3%)が微生物学的intention-to-treat集団(複雑性尿路感染症50.8%、腎盂腎炎49.2%)で、平均年齢(±SD)は58.1±18.3歳、女性が505例(58.2%)、中東欧の患者が856例(98.6%)を占めた。 治癒判定時の全奏効の割合は、テビペネム ピボキシル群が58.8%(264/449例)、ertapenem群は61.6%(258/419例)であり、加重群間差は-3.3ポイント(95%信頼区間[CI]:-9.7~3.2)と、テビペネム ピボキシル群のertapenem群に対する非劣性が確認された。 また、ベースライン時に菌血症が認められた患者の全奏効割合は、治療終了時がテビペネム ピボキシル群93.6%、ertapenem群96.2%で、治癒判定時はそれぞれ72.3%および66.0%(加重群間差:6.3ポイント、95%CI:-11.8~24.4)だった。 副次エンドポイントやサブグループ解析では、主解析の結果を支持するデータが得られた。たとえば、微生物学的intention-to-treat集団における治療終了時の全奏効割合は、テビペネム ピボキシル群が97.3%、ertapenem群は94.5%であった(加重群間差:2.8ポイント、95%CI:0.1~5.7)。 また、治癒判定時の臨床的治癒の割合は、テビペネム ピボキシル群が93.1%、ertapenem群は93.6%だった(加重群間差:-0.6ポイント、95%CI:-4.0~2.8)。治癒判定時の微生物学的反応は、それぞれ59.5%および63.5%で得られ(-4.5ポイント、-10.8~1.9)、治癒判定時に微生物学的反応が認められなかった患者の多くでは、無症候性の細菌尿の再発がみられた。 有害事象は、テビペネム ピボキシル群の25.7%、ertapenem群の25.6%で発現し、最も頻度の高い有害事象は軽度の下痢(テビペネム ピボキシル群5.7%、ertapenem群4.4%)と頭痛(3.8%、3.8%)だった。重篤な有害事象はそれぞれ1.3%および1.7%、投与中止の原因となった有害事象は0.1%および1.2%で認められた。 著者は、「ほかに有効な経口薬がない場合に、テビペネム ピボキシル臭化水素酸塩は、抗菌薬耐性の尿路病原体による複雑性尿路感染症および急性腎盂腎炎の治療選択肢となる可能性がある」としている。

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過去のものとは言わせない~SU薬の底力~【令和時代の糖尿病診療】第6回

第6回 過去のものとは言わせない~SU薬の底力~最近、新薬に押されてめっきりと処方数が減ったSU薬。低血糖を来しやすい、血糖変動が大きくなるなど罵詈雑言を並べ立てられ、以前はあれほど活躍していたのにもかかわらず、いまや悪者扱いされている。私が研修医のころは、経口薬といえばSU薬(BG薬はあったもののほとんど使われなかった)、注射剤といえばインスリン(それも速効型と中間型の2種類しかない)、加えて経口薬とインスリンの併用などはご法度だった時代である。同じような時代を生きてきた先生方にこのコラムを読んでいただけるか不安だが、今回はSU薬をテーマに熟年パワーを披露してみたい。最近の若手医師はこの薬剤をほとんど使用しなくなり、臨床的な手応えを知らないケースも多いだろう。ぜひ、つまらない記事と思わずに読んでいただきたい。もしかしたら考え方が変わるかもしれない。SU薬は、スルホンアミド系抗菌薬を研究していた際に、実験動物が低血糖を示したことで発見されたというユニークな経緯を持つ。1957年に誕生し、第一~三世代に分けられ、現在使用されているのは第二世代のグリベンクラミドとグリクラジド、第三世代のグリメピリドである。血糖非依存性のインスリン分泌促進薬で、作用機序は膵臓のβ細胞にあるSU受容体と結合してATP依存性K+チャネルを遮断し、細胞膜に脱分極を起こして電位依存性Ca2+チャネルを開口させ、細胞内Ca2+濃度を上昇させてインスリン分泌を促進する。血糖降下作用は強力だが、DPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬と違い、血糖非依存性のため低血糖には注意が必要で、日本糖尿病学会の治療ガイドには、使用上の注意として(1)高齢者では低血糖のリスクが高いため少量から投与を開始する、(2)腎機能や肝機能障害の進行した患者では低血糖の危険性が増大する、と記載されている。この2点に気を付けていただければ、コストパフォーマンスが最も良好な薬剤かと思われる。まずはこの一例を見ていただきたい。75歳男性。罹病歴29年の2型糖尿病で、併存疾患は高血圧、脂質異常症、高尿酸血症および肺非結核性抗酸菌症。三大合併症は認めていない。α-GI薬から開始し、その後グリニド薬に変更したが、14年前からSU薬+α-GI(グリメピリド1mg+ボグリボース0.9mg/日)に変更。体重も大きな増減なく標準体重を維持し、HbA1cは6%台前半で低血糖症状もなく、経過は良好であった。そこで主治医は、朝食後2時間値70~80mg/dLが時折見られることから無自覚低血糖の可能性も加味し、後期高齢者になったのを機にグリメピリドを1mgから0.5mgに減量したところ、HbA1cがなんと1%も悪化してしまった。症例:血糖コントロール(HbA1c)および体重の推移この患者には肺病変があるのでもともと積極的な運動はできず、HbA1cの季節性変動もない。また、食事量も変わりなく体重変化もないため、SU薬の減量がもっともらしい原因として考えられた。よって、慌てて元の量に戻したケースである。このような症例に出くわすことは、同世代の先生方には十分理解してもらえるだろう。いわゆる「由緒正しき日本人糖尿病」で、非肥満のインスリン分泌が少し低い患者である。これを読んでも、あえてSU薬を使う必要があるのかという反論もあろう。新しい経口糖尿病治療薬は、血糖降下作用のみならず大血管障害などに対し少なくとも非劣性であることが必要だが、最近の薬剤はむしろ大血管障害や腎症に対しても優越性を持つ薬剤が出てきているではないか。さらには、血糖依存性で低血糖が起こりにくく、高齢者にも使用しやすい。確かにそのとおりなのだが、エビデンスでいうとSU薬も負けてはいないのだ。次に説明する。最近の報告も踏まえたSU薬のエビデンス手前みそにはなるが、まずはわれわれの報告1)から紹介させていただく。2型糖尿病患者における経口血糖降下薬の左室心筋重量への影響画像を拡大するネットワークメタ解析を用いて、2型糖尿病患者における左室拡張能を左室心筋重量(LVM)に対する血糖降下薬の効果で評価した結果、SU薬グリクラジドはプラセボと比較してLVMを有意に低下させた唯一の薬剤だった(なお、この時SGLT2阻害薬は文献不足により解析対象外)。左室拡張能の関連因子として、酸化ストレス、炎症性サイトカイン、脂肪毒性、インスリン抵抗性、凝固因子などが挙げられるが、なかでも線溶系活性を制御する凝固因子PAI-1(Plasminogen Activator Inhibitor-1)の血中濃度上昇は、血栓生成の促進、心筋線維化、心筋肥大、動脈硬化の促進および心血管疾患の発症と関連し、2型糖尿病患者では易血栓傾向に傾いていることが知られている。このPAI-1に着目し、2型糖尿病患者におけるSU薬の血中PAI-1濃度への影響をネットワークメタ解析で比較検討したところ、グリクラジドはほかのSU薬に比して血中PAI-1濃度を低下させた2)。これは、ADVANCE研究においてグリクラジドが投与された全治療強化群では心血管疾患の発症が少なかったことや、ACCORD研究においてグリクラジド以外の薬剤が投与された治療強化群での心血管疾患発症抑制効果は見られなかったことなど、大規模試験の結果でも裏付けられる。また、Talip E. Eroglu氏らのReal-Worldデータでは、SU薬単剤またはメトホルミンとの併用療法はメトホルミン単独療法に比べて突然死が少なく、さらにグリメピリドよりグリクラジドのほうが少ないという報告3)や、Tina K. Schramm氏らのnationwide studyでは、SU薬単剤はメトホルミンと比較して死亡リスクや心血管リスクを増加させるが、グリクラジドはほかのSU薬より少ないという報告4)もある。過去のものとは言わせない~SU薬の底力~以上より、SU薬のドラッグエフェクトによる違いについても注目すべきだろう。SU薬は血糖降下作用が強力で安価なため、世界各国では2番目の治療薬として少量から用いられており、わが国でも、やせ型の2型糖尿病患者の2~3剤目として専門医に限らず多く処方されている。結論として、SU薬の使用時は単剤で用いるよりは併用するほうが望ましく、少量で使用することにより安全で確実な効果が発揮できる薬剤だと理解できたかと思う。また、私見ではあるが、高齢者糖尿病が激増している中で、本来ならインスリンが望ましいが、手技的な問題や家庭状況により導入が難しい例、あるいは厳格なコントロールまでは必要ないインスリン分泌の少ない例などは良い適応かと考える。おまけに、とても安価である。決してお払い箱の薬剤ではないことも付け加えさせていただく!1)Ida S, et al. Cardiovasc Diabetol. 2018;17:129.2)Ida S, et al. Journal of Diabetes Research & Clinical Metabolism. 2018;7:1. doi:10.7243/2050-0866-7-1.3)Eroglu TE, et al. Br J Clin Pharmacol. 2021;87:3588-3598.4)Schramm TK, et al. Eur Heart J. 2011;32:1900-1908.

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薬物性味覚障害マニュアルが11年ぶりに改定、注意すべき薬剤と対策は?/厚労省

 『重篤副作用疾患別対応マニュアル』は77項目に細分化され、医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページに掲載されているが、今回、「薬物性味覚障害」の項が11年ぶりに改定された。薬剤性味覚障害は味覚障害の原因の約20%を占めていること、多くの薬剤の添付文書の副作用に記載されていることから、以下に示すような薬剤を服用中の患者の訴えには十分注意が必要である。<添付文書に口腔内苦味の記載がある薬剤の一例>・ニコチン(禁煙補助剤)・フルボキサミンマレイン酸塩(選択的セロトニン再取り込み阻害薬[SSRI])・ラベプラゾールナトリウム(PPI)・レバミピド(胃炎・胃潰瘍治療薬) ・レボフロキサシン水和物(ニューキノロン系抗菌薬)・炭酸リチウム(躁病・躁状態治療薬)*そのほかは重篤副作用疾患別対応マニュアル(薬物性味覚障害)参照<添付文書に味覚障害の記載がある薬剤の一例>・アロプリノール(キサンチンオキシダーゼ阻害薬・高尿酸血症治療薬)・ジクロフェナクナトリウム(フェニル酢酸系消炎鎮痛薬)・レトロゾール(アロマターゼ阻害薬・閉経後乳癌治療薬)・ロサルタンカリウム(アンギオテンシンII受容体拮抗薬)*そのほかは重篤副作用疾患別対応マニュアル(薬物性味覚障害)参照<添付文書に味覚異常の記載がある薬剤の一例>・アカルボース(α-グルコシダーゼ阻害薬)・アプレピタント(選択的NK1受容体拮抗型制吐薬)・イリノテカン塩酸塩水和物(I型DNAトポイソメラーゼ阻害型抗悪性腫瘍薬)・インスリンデグルデク[遺伝子組換え]・リラグルチド[遺伝子組換え](持効型溶解インスリンアナログ/ヒトGLP-1アナログ配合薬)・エルデカルシトール(活性型ビタミンD3)・オロパタジン塩酸塩(アレルギー性疾患治療薬)・チアマゾール(抗甲状腺薬)・テルビナフィン塩酸塩(アリルアミン系抗真菌薬)・バルサルタン(選択的AT1受容体遮断薬)・フェンタニル(経皮吸収型持続性疼痛治療薬)・ボリコナゾール(トリアゾール系抗真菌薬)・メトトレキサート(抗リウマチ薬/葉酸代謝拮抗薬)*そのほかは重篤副作用疾患別対応マニュアル(薬物性味覚障害)参照 上記のような薬剤を服用している患者が症状を訴えた場合、まずは(1)原因薬剤の中止・減量を行うが、原疾患の治療上、中止などの対応ができない場合、または味覚障害を起こす可能性のある薬剤を複数服用して特定が困難な場合もある。そのような場合でも(2)亜鉛剤の補給[低亜鉛血症がある場合、味蕾の再生促進を期待して補給]、(3)口腔乾燥の治療などで唾液分泌を促進させる、(4)口腔掃除とケアで対応することが必要で、とくに(1)(2)は重要度が高いと記載されている。<早期に認められる症状>薬物性味覚障害は高齢者に多く、複数の薬剤を服用しており、また発症までの時間や症状もまちまちで、初期の症状を捉えることは困難なことが多い。初期症状を含め、よく訴える症状に以下のようなものがある。 1:味(甘・塩・酸・苦)が感じにくい 2:食事が美味しくない3:食べ物の好みが変わった 4:金属味や渋味など、嫌な味がする 5:味のしないところがある 6:口が渇く<患者が訴えうる自覚症状>1:味覚減退:「味が薄くなった、味を感じにくい」2:味覚消失・無味症:「まったく味がしない」 3:解離性味覚障害:「甘みだけがわからない」4:異味症・錯味症:「しょう油が苦く感じる」 5:悪味症:「何を食べても嫌な味になる」6:味覚過敏:「味が濃く感じる」 7:自発性異常味覚:「口の中に何もないのに苦みや渋みを感じる」 8:片側性味覚障害:一側のみの味覚障害 本マニュアルには医師、薬剤師などの医療関係者による副作用の早期発見・早期対応に資するため、ポイントになる初期症状や好発時期、医療関係者の対応などが記載されている。 また、患者が読みやすいように、患者やその家族に知っておいてもらいたい副作用の概要、初期症状、早期発見・早期対応のポイントをできるだけわかりやすい言葉で記載してもいるので、ぜひ参考にしていただきたい。

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新型コロナワクチンからリスクとベネフィットを考える【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第46回

第46回 新型コロナワクチンからリスクとベネフィットを考える新型コロナとの闘いが続きます。3回目のワクチン接種の普及が鍵といわれています。小生もワクチン接種会場の問診係として何度か協力しております。接種に当たり皆に配布されるワクチンについての説明用紙に、「接種に当たっては、リスクとベネフィットをご理解いただき、納得したうえで接種してください」と記載してあることに気づき驚きました。リスクとベネフィットに基づいて、ワクチンを接種するかしないかを選択することは難しいことだと感じたからです。これは、医師や医療関係者にも難しいことで、一般市民の方々には本当に困難なことに思えます。私たちは日々の生活をしていく中でも、毎日多くのことを選択しています。晩御飯はなににするか? 肉か魚か? 肉は高価だが国産にするか外国産にするか? 休日にはどこに行こう? ディズニーランドか田舎の温泉宿か? 自分の車で行くか電車で行くか? などなど…です。選択の結果、良い結果になることもあれば悪い結果になることもあります。しかし、この程度の選択では生命を左右するほどの差異に至ることはないので気楽です。人生に大きく関わる選択もあります、この人と結婚して良いのか? もっと良い次の出会いがあるかもしれない。この課題では、選択が正しかったのか間違っていたのかの評価が困難であることと、いったん解消してリセットすることも可能な社会システムも準備されています。しかし、医療における選択は命に関わるだけに重大です。なによりも、いったん失われた命はリセットして回復させることはできません。ワクチンの接種によって得られる利益つまりベネフィットと、副反応などのリスクを比較し判断するのは、なぜ難しいのでしょうか。ワクチンは、感染症の抗菌薬や対症療法薬ではありません。すでに感染し発熱や呼吸困難に苦しむ患者の治療薬であれば、その薬剤の効果を評価することは比較的容易です。ワクチンは予防薬ですから、すでに疾患をもつ患者への治療薬のような目に見える効果がありません。ワクチンを接種して健康な生活を続ける人々は、「俺はワクチンを打たなくても感染もしなかったし元気でいた」と思うのです。責めるわけではありません。それが人間です。健康な人は、感染症予防や感染症拡大の抑制といったワクチンの役割に気づくことはありません。ワクチンのベネフィットは、ワクチンを接種した人としなかった人での、感染率や死亡率の差異などの疫学的に正確に収集したデータに拠らなければ判明しません。こういったデータに基づく地味な情報を粛々と報じて、わかりやすく解説する成熟した報道機関が期待される由縁です。一方で、ワクチンの副反応などのリスクは可視化が容易です。ワクチン接種後の、心筋炎や心膜炎などの個々の症例の情報はソーシャルメディアなどを通して拡散しがちです。これにより、ワクチン接種を躊躇したり、懸念を示したり、あるいは接種に強く反対したりする人々が増える可能性があります。実際に、ワクチン後の心筋炎はゼロではありません。その点について、日本循環器学会は声明を発表しています。一部を紹介します(2022年3月12日日本循環器学会ホームページ確認)。新型コロナウイルスワクチン接種後の急性心筋炎と急性心膜炎の発症率は、新型コロナウイルス感染後の急性心筋炎と急性心膜炎の発症率に比較して極めて低い。新型コロナウイルスワクチン接種後に発症する急性心筋炎と急性心膜炎の大半は軽症である。新型コロナウイルスワクチン接種による利益は、ワクチン接種後の急性心筋炎と心膜炎の危険性を大幅に上回る。さらにワクチン接種のリスクとベネフィットを複雑にするのが集団免疫という概念です。ワクチンは集団免疫として働きますので、ワクチンの接種率も重要です。例えば、自分勝手な独裁者は、ワクチンを接種しなくとも自分以外の全員にワクチンを強制的に接種させればワクチンの利益を享受することができます。ワクチンは、背景因子によって医学的に接種できない人が一定数いますので、可能な人は受けていただきたい理由です。ワクチンを接種しないという意思決定は個人的な選択のように見えますが、集団免疫のため他者への影響を伴うものであることを認識すべきです。ワクチン接種は幅広い社会における義務の一部という考えの背景です。今回は、新型コロナのワクチンをめぐってのリスクとベネフィットを考えてみました。話を変えます。とっても変な夢を見ました。オリンピックの開会式などで鳩が一斉に放たれ競技場から飛び去る状況はイメージできると思います。自分の見た夢を紹介します。世の中の人すべてがマスクをはずし捨て去ると、そのマスクがあたかも鳩が離散するかのようにヒラヒラと天高く消え去っていくシーンです。これは、きっと正夢に違いありません。コロナ収束を願っております。

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第101回 私が見聞きした“アカン”医療機関(中編) オンライン診療、新しいタイプの“粗診粗療”が増える予感

18都道府県に出ていた「まん延防止等充填措置」がやっと解除こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。3月21日、18都道府県に出ていた「まん延防止等充填措置」が解除されました。全面解除は実に約2ヵ月半ぶりです。ただ、これからの時期、お花見、春休み、新学期、新年度などで宴会や移動が活発化します。「第7波」に備えた体制は怠りなく進めておく必要がありそうです。ところで、先週のこのコラムで、「鈴木 誠也選手はサンディエゴ・パドレス、菊池 雄星投手はトロント・ブルージェイズと合意したとの報道もありました」と書きましたが、鈴木選手の情報は一部スポーツ紙の勇み足による“誤報”でした。その後、鈴木選手は歴史あるシカゴ・カブスと合意、契約しました。契約金は5年総額8,500万ドル(約101億3,000万円)と伝えられており、日本人野手の渡米時の契約としては、4年総額4,800万ドルの福留 孝介(当時、カブス)を上回る史上最高額とのことです。カブスと言えば「ヤギの呪い(Curse of the Billy Goat)」で有名なチームです。鈴木選手が何らかの呪いに襲われることなく、大活躍することを願っています(「ヤギの呪い」自体は2016年のワールドシリーズ優勝で解けたと言われていますが…)。さて、今回も前回に引き続き、少し趣向を変え、最近私や知人が体験した“アカン”医療機関について、書いてみたいと思います。【その3】オンライン診療ゆえの“マイルド”処方に困った友人新型コロナウイルス感染症のオミクロン株に感染した友人の話です。症状は軽快し、PCR検査も陰性となって療養解除となったのですが、数週間経ってもひどい咳がなかなか止みません。とくに夜間がひどく、「これは『いつもの処方』が必要だ」と感じた彼は、時節柄、外来診療ではなく近所のクリニックでオンライン診療を受けることにしました。「いつもの処方」とはステロイド内服薬の服用です。これまでも風邪などで気管支がひどくやられると、炎症が治まらずひどい咳が遷延することがたびたびありました。そんなときだけ、知り合いの呼吸器内科医に頼んで、ステロイド(プレドニゾロンなど)を頓服で処方してもらっていたのです。ただ、その呼吸器内科医は最近、遠方の病院に異動してしまったため、今回は渋々、呼吸器内科も標榜し、オンライン診療にも対応している近所のクリニックをネットで見つけ、受診することにしたわけです。ステロイド内服薬を出せない、出さないオンライン診療医LINEを用いてのオンライン診療は、初めての体験でとても緊張したそうです。これまでの咳治療の経験も詳しく説明し、「スパッ」と咳が止まるステロイド内服薬の処方を頼んでみたのですが、願いは叶えられなかったそうです。「結局、吸入薬のサルタノールインヘラーとツムラ麦門冬湯エキス顆粒が出されただけだった。粘ってみたんだけど…」と友人。サルタノールインヘラーは、β2アドレナリン受容体刺激剤です。ステロイドも入っている吸入薬(ブデホルなど)もあるはずなのに、それも避け、漢方を気休めに上乗せするというのは、幾多のしつこい咳と戦ってきた彼にとっては、効き目があまり期待できない“マイルド”過ぎる処方でした。「オンラインで初診だと、マイルドで安全な処方をしたくなるのはわかるが、患者側の意見もきちんと聞いて欲しい。これで咳にまだ数週間悩まされると思うとウンザリだ。結局、次は外来に来てくれと言われたし…」と、オンライン診療に不満たらたらの友人でした。処方箋が届いたのは診療から5日後実はこの話、これだけで終わりませんでした。水曜日にオンライン診療を受診し、「処方箋は郵送します」と言われたのですが、2日後の金曜になっても処方箋が届かなかったのです。金曜夕刻に診療所に電話すると、夜8時過ぎに、クリニックの事務職員が薬(おそらく院内調剤)を持って自宅にやって来たそうです。「処方箋はちゃんと郵送したのですが」と弁明する職員でしたが、現物が届いたのは翌週月曜でした。これは全く“アカン”ですね。最終的に彼は、最初の処方では全く軽快しませんでした。翌週末に外来を訪れ、今度はステロイドも入ったブデホルを入手することができ、その後徐々に快方に向かったそうです。新しいタイプの“粗診粗療”が増えるのではオンライン診療については、処方箋のやり取りと、薬剤のデリバリーが障害になることがある、とも聞きます。クリニックから薬局にファクスやメールで処方箋を送るにしても、その薬局が患者の近所にあるか、宅配を行っていなければなりません。また、そうしたオンライン診療の処方箋に対応できる“かかりつけ”薬局を持っている人もまだ多くはありません。診療から薬剤入手までのインターバルの解消は、オンライン診療普及に向けた大きな課題の一つでしょう。オンライン診療については、「第96回 2022年診療報酬改定の内容決まる(前編)オンライン診療初診から恒久化、リフィル処方導入に日医が苦々しいコメント」でも詳しく書きました。こうした新しい動きに対し、日本医師会の今村 聡副会長は3月2日の定例会見で、自由診療下でオンライン診療を活用し、GLP-1受容体作動薬のダイエット目的での不適切処方が横行している状況について問題提起をしました。今村氏は、「本来の治療に用いる医薬品が不適切に流通して健康な方が使用してしまうというような状況は、国民の健康を守るという日本医師会の立場としては看過できない」と話したとのことです。オンライン診療のこうした“悪用”は確かに問題ですが、私自身は、逆に友人が経験したような、対面でないために慎重になり、治療効果が低い、“マイルド”過ぎる薬剤を処方してしまうという、新しいタイプの“粗診粗療”が増えることを危惧しています。ステロイドと同様、抗菌薬も初診からの投与を嫌う医師が多い印象があります。診断が適切なら問題はないのですが、結局、2回目からはリアルの対面受診を余儀なくされ、本来服用が必要な薬にたどり着くまでに通院回数が増えるとしたら、オンライン診療のメリットはほぼないに等しいと思うのですが、皆さんどうでしょう。次回も、引き続き“アカン”医療機関を紹介します(この項続く)。

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腹痛患者、波があれば“管”を疑おう!【Dr.山中の攻める!問診3step】第12回

第12回 腹痛患者、波があれば“管”を疑おう!―Key Point―肋間神経の前皮枝が腹直筋を貫く部位で絞扼されることがある前皮神経絞扼症候群は慢性腹痛のかなり多い原因と考えられているリドカインの局所注射で劇的に痛みが改善する症例:72歳 女性主訴)増悪する左下腹部痛現病歴)5ヵ月前に頻尿となり、近くの診療所で膀胱炎と診断、抗菌薬を処方された。膀胱炎の症状は良くなったが、しばらくして尿道の先端にツーンとする痛みが出現した。左下腹部の異常知覚もある。その後、徐々に左下腹部に耐え難い痛みが出現した。総合病院の泌尿器科と婦人科の診察では異常なしと言われた。食欲あり。体重変化なし。排便は規則的。帯下はない。既往歴)虫垂炎(20歳)、左卵管筋腫摘出術(33歳)薬剤歴)漢方[猪苓湯]、アセトアミノフェン生活歴)飲酒:なし 喫煙:なし身体所見)体温35.9℃、血圧197/116mmHg、心拍数96回/分、呼吸回数18回/分、意識清明腹部:恥骨左上方(腹直筋外縁)にピンポイントで圧痛あり。カーネット徴候陽性。tapping painなし。圧痛点周囲の皮膚3×3cmの領域に異常知覚あり。この部位をつまむと対側と異なり強く痛みを感じる直腸診:活動性出血なし、黒色便なし、骨盤内腹膜に圧痛なし経過)症状と身体所見から前皮神経絞扼症候群:ACNES(anterior cutaneous nerve entrapment syndrome)を疑った1)疼痛部位に1%リドカイン10mLを皮下注射した注射の5分後から左下腹部痛は3/10に減少した。腹痛が悪化しため、2ヵ月後に追加の注射を行い、その後は軽快している◆上記の患者背景を『痛みのOPQRST』に当てはめてみると…Onset(発症様式)突然痛くなるPalliative/Provocative factor(寛解/増悪因子)前かがみ、足を組む、下肢を伸ばす時、左側臥位で痛みがひどくなる。歩きまわると痛みがまぎれる。楽になる姿勢はないQuality(症状の性質)焼けるような痛み。痛みがゼロになることはない。疼痛のある所に何かが張りついているような異常感覚ありRegion(部位)いつも左下腹部が痛む。尿道のほうに放散するような感じがするSeverity(強さ)死にたくなるくらいズキンという激しい痛みTime course(時間的経過)5ヵ月前から痛みはあるが、最近3ヵ月間はとくにひどい。痛みは毎日数回襲ってくる。持続時間は1~10分くらい。余波のような軽い痛みは一日中ある◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!急性腹症は年齢により疾患頻度が異なる。50歳以下なら虫垂炎、50歳以上ならば腸閉塞、胆嚢炎/胆管炎、虫垂炎を第一に考える 虫垂炎と鑑別が必要な疾患は、カンピロバクター感染症と憩室炎である前皮神経絞扼症候群は慢性腹痛の原因として多い【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】間欠痛か持続痛か腹痛に波があるかどうかを確認する。波がある腹痛は管(くだ)の痛みである。消化管や尿管由来の痛みであり、内臓痛とも呼ばれる内臓痛では、どこの部位に問題があるのかはっきり自覚できない尿管結石の痛みは非常に激しい。痛みが楽になった時も7/10程度の痛みは持続する。患者はベッドで七転八倒する。尿管に詰まった石が落ちると、痛みは嘘のようになくなる持続的に痛む場合には膜(まく)の痛みである。体性痛と呼ばれる。腹膜炎の痛みである痛みは限局し、振動によって痛みが響くことが特徴である。患者は腹部に振動を与えないようにそろりと歩き、寝返りをうたないようにじっとベッドに横たわっている胆嚢炎では胆嚢周囲に限局性の腹膜炎が起こるため、ピークに達した痛みは持続する(表1)内臓痛と体性痛(図)疝痛パターン2)画像を拡大する【STEP3-1】痛みの原因となっている層を明らかにする●皮膚ピリピリする、皮疹は数日後に出現することもある●筋骨格/皮神経体動時に痛みがひどくなる、カーネット徴候*が陽性である*カーネット徴候(Carnett’s sign)では、両手を胸の前で組み、臍を見るように頭部を前屈させ腹筋を緊張させる。この状態で疼痛部位を押し、痛みの軽減がなければ陽性●腹膜筋性防御あり。tapping painあり●内臓交感神経の緊張から嘔気、嘔吐、冷汗、徐脈を引き起こす【STEP3-2】虫垂炎の可能性を考える手術が必要な急性腹症の場合、50歳以下では虫垂炎が20%と最も頻度が高い。50歳以上では胆嚢炎/胆管炎、腸閉塞、虫垂炎が多い3)急性虫垂炎の典型的な症状経過は、(1)心窩部または臍周囲の痛み[間欠痛](2)嘔気/嘔吐または食欲低下(3)右下腹部へ痛みが移動[持続痛](4)振動で右下腹部が響く(5)発熱、が一般的である「アッペもどき」と呼ばれるカンピロバクター感染症では、腸間膜リンパ節炎を起こすので右下腹部痛となることがある。頻度の高い食中毒であるカンピロバクター感染症では、初期から発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛を起こす点が虫垂炎の典型的な症状とは異なる。急性憩室炎は右下腹部に痛みがあることが多く虫垂炎と紛らわしいが、虫垂炎が3日くらいで状態がかなり悪くなるのに対し、憩室炎では1週間以上状態は安定し食欲もあることが多い(表2)4)画像を拡大する<参考文献・資料>1)Waldman SD, et al. Atlas of Uncommon Pain Syndromes 3rd edition. Saunders. 2013.2)Silen W, et al. Cope's Early Diagnosis of the Acute Abdomen 22nd edition. OXFORD UNIVERSITY PRESS, INC. 2010.3)de Dombal FT, et al. J Clin Gastroenterol. 1994;19:331-335.4)窪田忠夫. ブラッシュアップ急性腹症. 中外医学社. 2014. p19.

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COVID-19入院患者における細菌の同時感染率は?

 新型コロナウイルス感染症患者における細菌の同時感染や2次感染はまれであるということが、最近発表されたメタアナリシスや前向き研究で明らかにされている。しかし、これらの研究では、調査対象の患者の約70%に抗菌薬が処方されているという。国立病院機構栃木医療センターの駒ヶ嶺 順平氏らの研究グループは、新型コロナウイルス感染症患者における細菌の同時感染率を明らかにするため、入院中の抗菌薬使用と同時感染の状況について後ろ向き横断研究により検討した。本研究の結果は、JAMA Network Open誌2022年2月18日号に掲載。新型コロナウイルス感染症において細菌による同時感染はまれ 国立病院機構栃木医療センターでは、新型コロナ流行開始以来、COVID-19患者に対し、症状からほかの感染症が疑われる場合を除き、抗菌薬の処方を行っていない。2020年11月1日~21年10月9日までに、同センターに入院した新型コロナウイルス感染が確認された症候性患者1,056例(年齢中央値:50歳[IQR:36~61]、男性669例[63.4%]、女性387例[36.7%])を解析対象とした。533例(50.5%)が軽症、313例(29.6%)が中等症I、203例(19.2%)が中等症II、7例(0.7%)が重症であった。入院中、9例(0.9%)が死亡、1,046例(99.1%)が回復、1例が回復前に他院に転院した。 調査結果によると、104例(9.9%)の新型コロナウイルス感染症患者で入院前に抗菌薬が処方されていたが、入院中に抗菌薬が投与された患者は18名(1.7%)だった。このうち15例は治療、3例は予防として使用した。入院中に微生物学的に確認された新型コロナウイルス以外の感染症は6例(0.6%)で7件であった。軽症のCOVID-19を除いても5例(0.9%)であった。 本研究により、新型コロナウイルス感染症患者において、入院中の抗菌薬使用頻度が低いにもかかわらず、細菌による同時感染はまれで、そのほとんどが非重症例だった。また、非重症患者のほとんどが抗菌薬なしで回復したことから、著者らは、非重症患者の治療に抗菌薬を使用する必要はほぼなく、新型コロナウイルス感染症の治療には、薬剤耐性を考慮し、抗菌薬の使用を慎重に行う必要があるとしている。

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死に至る薬剤耐性菌感染症、最も多い疾患と原因菌は/Lancet

 薬剤耐性(AMR)は、世界中で人々の健康を脅かす主要な原因となっている。これまでのAMR研究は、特定の地域における限られた病原体と薬剤の組み合わせについて、感染症の発生率や死亡数、入院期間、医療費に及ぼすAMRの影響の評価を行い、広範な地域や、病原体と薬剤の網羅的な組み合わせに関する包括的な検討は行われていないという。米国・ワシントン大学のMohsen Naghavi氏らAntimicrobial Resistance Collaboratorsは、今回、AMR負担に関して現時点で最も包括的な検討を行い、2019年に世界で495万人が細菌のAMRに関連する感染症で死亡し、このうち127万人は薬剤耐性菌感染症が直接の原因で死亡したことを明らかにした。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2022年1月18日号に掲載された。204の国と地域で、88件の病原体と薬剤の組み合わせを評価 研究グループは、2019年時点の204の国と地域における、23種の病原体および、88件の病原体と薬剤の組み合わせについて、細菌のAMRに起因する死亡と、これによる障害調整生存年数(DALY)などを推算した(ビル&メリンダ・ゲイツ財団などの助成を受けた)。 データは、文献の系統的レビュー、病院やサーベイランスのシステム、その他の情報源から収集された。解析には4億7,100万件の患者記録や分離株が含まれ、調査地の数×年数は7,585であった。 予測統計モデルを用いて、データのない場所を含むすべての地域のAMR負担の推定値が算出された。AMR負担には、次の5つの一般的な要素が含まれた。(1)感染症に起因する死亡数、(2)特定の感染性症候群に起因する感染性の死亡の割合、(3)特定の病原体に起因する感染性症候群による死亡の割合、(4)対象となる抗菌薬に対する特定の病原体の耐性の割合、(5)この耐性に関連する死亡または感染期間の過剰リスク。 これらの要素を用いて、2つの反事実的シナリオ(AMR菌に起因する死亡、AMRに関連する死亡)に基づく疾病負担が推定された。世界全体および地域別の最終的な推定値とその95%不確実性区間(UI)が算出された。負担は下気道感染症、関連死は大腸菌、死亡はMRSAで多い 2019年、世界全体における細菌のAMRに関連する死亡数は495万件(95%UI:3.62~6.57)であり、このうちAMR菌に直接起因する死亡数は127万件(91万1,000~171万)と推定された。 地域別のAMR負担は、サハラ以南のアフリカ西部で最も高く、AMR関連の全年齢死亡割合は10万人当たり114.8件、AMR菌に起因する死亡割合は10万人当たり27.3件であった。これに対し、AMR負担が最も低かったのはオーストララシアで、AMR関連の死亡割合は10万人当たり28.0件、AMR菌に起因する死亡割合は10万人当たり6.5件だった。 また、2019年の世界全体のAMR負担は、主に3つの感染性症候群(下気道感染症/胸部感染症、血流感染症、腹腔内感染症)の割合が大きく、AMR菌に起因する死亡の78.8%をこれらが占めた。さらに、下気道感染症だけで、AMR関連死亡が150万件以上、AMR菌に起因する死亡は40万件以上に達し、最も負担の大きい感染性症候群だった。 世界全体のAMR関連死亡の最も多い原因となった病原体は大腸菌で、次いで黄色ブドウ球菌、肺炎桿菌、肺炎球菌、Acinetobacter baumannii、緑膿菌の順であった。これら6つの主要な病原体による2019年のAMR関連死亡は357万件(全495万件中)で、AMR菌に起因する死亡は92万9,000件(全127万件中)に達していた。 一方、2019年にAMR菌に起因する死亡数が10万件を超え、DALYが350万年以上であった病原体と薬剤の組み合わせは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)(12万1,000件)だけであった。 また、AMR菌に起因する死亡数が5万~10万件の組み合わせは6つあり、死亡数が多い順に、超多剤耐性菌(XDR)を除く多剤耐性(MDR)結核菌(6万4,600件)、第3世代セファロスポリン耐性大腸菌(5万9,900件)、カルバペネム耐性Acinetobacter baumannii(5万7,700件)、フルオロキノロン耐性大腸菌(5万6,000件)、カルバペネム耐性肺炎桿菌(5万5,700件)、第3世代セファロスポリン耐性肺炎桿菌(5万100件)であった。 著者は、「AMRは、世界各地で主要な死因であり、低医療資源環境では最大の負担となっている。AMR負担と、その原因となる病原菌と薬剤の組み合わせを理解することは、とくに感染予防や管理計画、必須抗菌薬の評価、新たなワクチンや抗菌薬の研究開発に関して、十分な情報を得たうえで地域ごとの施策を決定する際にきわめて重要である。低所得国の多くでは深刻なデータ不足があり、この重要な健康上の脅威に関する理解を深めるためには、微生物学研究所の能力とデータ収集システムの拡充が必要である」と指摘している。

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なぜ抗菌薬をやめて酪酸菌とカゼイ菌?【処方まる見えゼミナール(大和田ゼミ)】

処方まる見えゼミナール(大和田ゼミ)なぜ抗菌薬をやめて酪酸菌とカゼイ菌?講師:大和田 潔氏 / 秋葉原駅クリニック院長動画解説前医で感染性胃腸炎の抗菌薬治療を受けていた患者さんに対して、大和田先生が処方したのは抗菌薬ではなく、酪酸菌(宮入菌)とカゼイ菌でした。この組み合わせがベストという先生の経験とは? 下痢のメカニズムや懸念すべき病態、薬剤選択のコツを解説します。

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急性中耳炎に抗菌薬を処方しないのはなぜ?【処方まる見えゼミナール(三澤ゼミ)】

処方まる見えゼミナール(三澤ゼミ)急性中耳炎に抗菌薬を処方しないのはなぜ?講師:三澤 美和氏 / 大阪医科大学附属病院 総合診療科動画解説急性中耳炎と診断された男児。当然抗菌薬…と思いきや、三澤先生は解熱鎮痛薬だけを処方しました。急性中耳炎の病態や抗菌薬の適正使用について、実体験を交えながら解説します。

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抗菌薬1日3回飲ませられないのですが…【スーパー服薬指導(2)】

スーパー服薬指導(2)抗菌薬1日3回飲ませられないのですが…講師:近藤 剛弘氏 / 元 ファイン総合研究所 専務取締役動画解説「昼の薬を保育園で飲ませてくれない」と訴える母親。相談を受け抗菌薬の服用回数を減らすために薬剤師が出した答えとは?

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イチゴ腫根絶に向けたアジスロマイシン集団投与3回の効果/NEJM

 イチゴ腫(yaws、framboesia)の治療において、アジスロマイシンの集団投与を6ヵ月間隔で3回行う方法は、標準治療である集団投与を1回行ってからイチゴ腫様病変がみられる集団に標的治療を2回行う方法に比べ、地域有病率が大幅に低下し、小児の潜在性イチゴ腫の有病率も低くなることが、パプアニューギニア保健省のLucy N. John氏らの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌2022年1月6日号に掲載された。イチゴ腫は梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)の亜種であるpertenueに起因する感染症で、主に熱帯地方の貧しい農村に住む子供の皮膚や長骨が侵される。撲滅キャンペーンを行わなければ、2015~50年の間に160万の障害調整生存年数が失われるとされる。ナマタナイ地区38行政区のクラスター無作為化第III相試験 本研究は、イチゴ腫の治療において、標的治療に切り換える前にアジスロマイシンの集団投与を3回行う方法の有用性を示唆する仮説の検証を目的に、パプアニューギニアのニューアイルランド州ナマタナイ地区で行われた地域住民ベースの非盲検クラスター無作為化第III相試験であり、2018年4月~2019年10月の期間に実施された(“la Caixa”財団などの助成を受けた)。 地区内の38の行政区(クラスター)に居住する生後1ヵ月以上の全住民が対象となった。38行政区は、アジスロマイシンの集団投与を3回行う群(試験群)または同集団投与を1回行った後に標的治療を2回行う群(対照群)に無作為に割り付けられた。 集団投与は、ベースラインで1回目が行われ、6ヵ月後に2回目、12ヵ月後に3回目が実施された。アジスロマイシンは、WHOのガイドラインで推奨されている年齢別の用量が投与された。標的治療は、参加者全員にイチゴ腫の有無を確認するスクリーニングを行い、イチゴ腫様病変を有する参加者とその同居者、学校での接触者に対して実施された。 複合主要エンドポイントは2つで、試験集団全体における活動性イチゴ腫の有病率(ポリメラーゼ連鎖反応[PCR]法で確定)と、1~15歳の無症状の小児サブグループにおける潜在性イチゴ腫の有病率(血清検査で確定)であった。有病率の評価は18ヵ月の時点で行われ、群間差が算出された。試験群の3例でマクロライド耐性 38行政区の住人5万6,676例が対象となった。試験群と対照群に19区ずつが割り付けられ、参加者はそれぞれ2万6,238例および3万438例だった。全体で、4万2,362例(74.7%)が1回目(ベースライン)の投与を受け、6ヵ月後に3万6,810例(64.9%)、12ヵ月後には4万8,488例(85.6%)が投与を受けた。 アジスロマイシンは、試験群で5万9,852回、対照群では2万4,848回(1回目の集団投与は2万2,033回、2回目と3回目の標的治療は2回の合計でイチゴ腫様病変を有する参加者に207回、その接触者に2,608回)投与された。 試験期間中に、PCR検査で297例がイチゴ腫と確定され、1,026個の潰瘍が同定された。活動性イチゴ腫の有病率は、試験群ではベースラインの0.43%(87/2万331例)から18ヵ月時には0.04%(10/2万5,987例)へと低下し、対照群では0.46%(102/2万2,033例)から0.16%(47/2万9,954例)に減少した。クラスターの割り付けを補正した相対リスクは4.08(95%信頼区間[CI]:1.90~8.76、p<0.001)であり、試験群で有病率の減少効果が優れた。 活動性イチゴ腫の有病率は15歳未満の小児で高く、再燃例はとくに対照群の6~10歳の小児で多い傾向がみられた。 18ヵ月の時点で、試験群の小児945例と対照群の小児994例で血清検査による潜在性イチゴ腫の有病率の評価が行われた。潜在性イチゴ腫の有病率は、試験群が3.28%(95%CI:2.14~4.42)と、対照群の6.54%(5.00~8.08)に比べ低かった(クラスター割り付けと年齢を補正した相対リスク:2.03、95%CI:1.12~3.70、p=0.02)。 18ヵ月時に、試験群の3例で、マクロライド耐性と関連するA2058G変異のあるイチゴ腫が認められた。 著者は、「これらのデータは、イチゴ腫根絶の一環として、複数回の薬剤の集団投与を検討する必要があることを示唆する。また、3回の集団投与後に抗菌薬耐性がみられ、イチゴ腫の根絶には至らなかったことから、臨床および分子レベルで抗菌薬耐性の出現と拡大を慎重に監視する必要がある」としている。

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肺炎球菌ワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第11回

ワクチンで予防できる疾患:肺炎球菌感染症肺炎球菌感染症とは肺炎球菌の感染による疾病の総称であり、肺炎、中耳炎、副鼻腔炎、髄膜炎などが含まれる。肺炎球菌は主に鼻腔粘膜に保菌され、乳幼児では40〜60%と高頻度に、成人ではおよそ3〜5%に保菌されている1)。感染経路は飛沫感染であり、小児の細菌感染症の主な原因菌の1つである。また、成人の市中肺炎の起因菌では38%と最も多い2)。肺炎球菌が髄液や血液などの無菌部位に侵入すると、菌血症を伴う肺炎、髄膜炎、敗血症などの侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal disease:以下「IPD」)を引き起こす。治療は抗菌薬投与および全身管理であるが、近年は薬剤耐性菌の出現も問題となっている3)。わが国の成人IPDの好発年齢は60~80代で4,5)、基礎疾患があることは発症や重症化のリスクとなる3,6)。65歳以上の成人(以下「高齢者」)の罹患率はおよそ5/10万人・年であり、致命率は6%台と高い1)。成人の肺炎球菌感染症とりわけIPDの発症や重症化の予防には、日常診療における基礎疾患の管理とともに肺炎球菌ワクチンの接種が重要である3,6)。ワクチンの概要肺炎球菌の病原因子の中で最も重要なものは、菌の表層全体を覆う莢膜である。この莢膜は多糖体からなり、97種類の型が報告されている3)。ある莢膜型の肺炎球菌に感染するとその型に対する抗体が獲得され、同じ型には感染しなくなるが、別の型には抗体がないため感染が成立し、発症する7)。そのため肺炎球菌による発症や重症化を予防するには、さまざまな莢膜型の抗体をあらかじめ獲得しておく必要があり7)、肺炎球菌ワクチンは莢膜多糖体を抗原としている。国内では以下の2つのワクチンが承認されているが、それぞれカバーする莢膜型の数や種類、免疫応答の方法などが異なる(表)。以下に2つのワクチンの特徴を述べる。1)23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)〔商品名:ニューモバックスNP〕23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(以下「PPSV23」)は、莢膜多糖体からなる不活化ワクチンで、23種類の莢膜型を有する。PPSV23接種による免疫応答では、T細胞を介さないため免疫記憶は獲得されず、B細胞の活性化によりIgG抗体のみが獲得される。IgG抗体は経年的に減弱し、減弱するとワクチン血清型の菌に対して予防効果は期待できなくなる3)。PPSV23の予防効果としては、接種により高齢者のワクチン血清型のIPDを39%減少させ8)、すべての肺炎球菌による市中肺炎を27.4%、ワクチン血清型の肺炎球菌による市中肺炎を33.5%減少させたと国内より報告されている9)。PPSV23は2006年に販売開始となり、2014年から5年間限定で65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳および100歳になる人を対象に定期接種となった。2019年度以降はさらに5年間の期限で、同年齢を対象に定期接種が継続されている10)。初回接種後の予防効果は3〜5年で低下する11)。再接種による予防効果について明確なエビデンスは報告されていないが、再接種後の免疫原性は初回接種時と同等であり、初回接種時と同等の予防効果が期待されている12)。また、再接種時の局所および全身性の副反応の頻度は初回接種時より高いことに注意が必要だが、いずれも軽度で許容範囲と考えられている12)。以上より症例によっては追加接種を繰り返してもよいと考えられ、接種後5年以上の間隔をおいて再接種することができる12)。2)沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)〔同:プレベナー13水性懸濁注〕沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(以下「PCV13」)は、莢膜多糖体に無毒化したジフテリア蛋白を結合させた蛋白結合型の不活化ワクチンで、13種類の莢膜型を有する。PCV13接種による免疫応答は、T細胞とB細胞を介している。まず、樹状細胞に抗原が提示されてT細胞の活性化を誘導する(T細胞依存型)。ついで活性したT細胞とB細胞の相互作用によりB細胞が活性化する。その後、形質細胞によるIgG抗体の産生とメモリーB細胞による免疫記憶が獲得される。そのため記憶された莢膜型の菌が侵入すると速やかにIgG抗体産生能が誘導(ブースター効果)され免疫能が高まる3)。小児に対する7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)は2010年より販売開始となり、同年に接種費用の公費助成が開始された。2013年4月より定期接種となり、同年11月よりPCV13に切り替えられた。予防効果として、PCV7・PCV13の導入により小児のIPD、とくに髄膜炎は87%も激減したと報告されている4)。一方、2014年より高齢者に対しても適応が拡大され、任意接種することが可能となった。PCV13接種により高齢者のワクチン血清型のIPDを47〜57%減少させ、ワクチン血清型の肺炎(非侵襲型)を38〜70%、すべての原因の肺炎を6〜11%減少させたとの予防効果が諸外国より報告されている13)。さらに2020年5月からは、高齢者のみならず全年齢に適応が拡大され、全年齢の「肺炎球菌感染症に罹患するリスクが高い人」に接種が可能となった。また、PCV13接種には集団免疫効果が認められており、小児へのPCV7およびPCV13接種の間接効果(集団免疫)により、成人IPD症例のPCV13血清型(莢膜型)は劇的に減少した3)。その一方で、PCV13に含まれない血清型が増加するなど血清型置換が報告されている3)がこの問題は後述する。表 肺炎球菌ワクチン(PPSV23とPCV13)の比較画像を拡大する接種のスケジュール1)23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)〔商品名:ニューモバックスNP〕【定期接種】これまでにPPSV23を1回も接種したことがなく、以下(1)(2)にあてはまる人は定期接種として1回接種できる。(1)2019年度から2023年度末までの5年間限定で65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳および100歳になる人。なお、2023年度以降は65歳になる年度に定期接種として1回接種できる見込みである。(2)60〜64歳で、心臓、腎臓、呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限されている人。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)で免疫機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な人。【任意接種】2歳以上で上記以外の人。接種後5年以上の間隔をおいて再接種することができる12)。2)沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)〔同:プレベナー13水性懸濁注〕【定期接種】小児(2ヵ月以上5歳未満)以下のように接種開始時の月齢・年齢によって接種間隔・回数が異なることに注意する。(〔1〕1回目、〔2〕2回目、〔3〕3回目、〔4〕4回目)[接種開始が生後2ヵ月~7ヵ月に至るまでの場合(4回接種)]〔1〕〔2〕〔3〕の間は 27 日以上(27~56日)、〔3〕〔4〕の間は 60日以上の間隔をあけて(12~15ヵ月齢で)接種する 。[接種開始が生後7ヵ月~12ヵ月に至るまでの場合(3回接種)]〔1〕〔2〕の間は 27日以上(27~56日)、〔2〕〔3〕の間は 60日以上の間隔をあけて(12ヵ月齢以降で)接種する。[接種開始が12ヵ月~24ヵ月に至るまでの場合(2回接種)]〔1〕〔2〕の間は 60日以上の間隔をあけて接種する。[接種開始が24か月-5歳の誕生日に至るまでの場合(1回接種)]1回のみ接種する。【任意接種】5歳以上の罹患するリスクが高い者:1回1回のみ接種する。日常診療で役立つ接種ポイント1)PPSV23の推奨(1)2歳以上の脾臓を摘出した患者肺炎球菌感染症の発症予防として保険適用されるが、より確実な予防のためには摘出の14日以上前までに接種を済ませておくことが望ましい。(2)2歳以上の脾機能不全(鎌状赤血球など)の患者(3)高齢者(4)心臓や呼吸器の慢性疾患、腎不全、肝機能障害、糖尿病、慢性髄液漏などの基礎疾患がある患者(5)免疫抑制作用がある治療が予定されている患者。治療開始の14日以上前までに接種を済ませておくことが望ましい。2)PCV13の推奨(1)乳幼児(生後2ヵ月~5歳未満:定期接種)IPDは、とくに乳幼児でリスクが高く、5歳未満の致命率はおよそ1%と報告され14)、後遺症を残す危険性もある。そのため乳児であっても、接種が可能となる生後2ヵ月以上ではワクチン接種をされることを強く勧める。(2)基礎疾患がある5〜64歳の人2017年時点のIPDの致命率は、6〜44歳で6.2%、45〜64歳で19.5%と高く、基礎疾患を有することがリスクとなることが報告されている6)。基礎疾患(先天性心疾患、慢性心疾患、慢性肺疾患、慢性腎疾患、慢性肝疾患、糖尿病、自己免疫性疾患、神経疾患、血液・ 腫瘍性疾患、染色体異常、早産低出生体重児、無脾症・脾低形成、脾摘後、臓器移植後、髄液漏、人工内耳、原発性免疫不全症、造血幹細胞移植後など6,15)がある人には、本人・保護者と医師との話し合い(共有意思決定)に基づいてワクチン接種をされることを勧める。詳しくは「6歳から64歳までのハイリスク者に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方」(2021年3月17日)を参照。(3)基礎疾患がある高齢者、高齢者施設の入所者 基礎疾患(慢性的な心疾患、肺疾患、肝疾患、糖尿病、アルコール依存症、喫煙者など)がある高齢者では、本人・家族と医師との話し合い(共有意思決定)に基づいてワクチン接種することを勧める11)。とくに、髄液漏、人工内耳、免疫不全(HIV、無脾症、骨髄腫、固形臓器移植など)の患者には接種を勧める11)。高齢者施設の入所者も医師と相談して接種することを勧める11)。3)高齢者に対するPPSV23とPCV13の接種に関する考え方これまで高齢者に対するPPSV23とPCV13の接種について国内外で議論されてきたが、現時点での日本呼吸器学会・日本感染症学会の合同委員会による「考え方」16)を紹介する。【PPSV23未接種者に対して】(1)まず定期接種としてPPSV23の接種を受けられるようにスケジュールを行う。(2)PPSV23とPCV13の両方の接種をする場合には(1)を考慮しつつPCV13→PPSV23の順番で接種し、PCV13接種後6ヵ月〜4年以内にPPSV23を接種することが適切と考えられている。この順番の利点は、成人ではPCV13接種後に、被接種者に13の血清型の莢膜抗原特異的なメモリーB細胞が誘導され、その後のPPSV23接種により両ワクチンに共通した12の血清型に対する特異抗体のブースター効果が期待されることである。ただし、この連続接種については海外のデータに基づいており、日本人を対象とした有効性、安全性の検討はなされていない。【PPSV23既接種者に対して】PPSV23接種から1年以上あけてからPCV13接種を行う。詳細は以下の図1と「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第3版)」を参照。図1 65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方(2019年10月)(日本感染症学会/日本呼吸器学会 合同委員会)画像を拡大する今後の課題・展望小児へのPCV7およびPCV13接種の間接効果(集団免疫)により、成人IPD症例のPCV13血清型(莢膜型)は劇的に減少したが、一方でPCV13に含まれない血清型が増加し、血清型置換が報告されている3)(図2)。図2 小児へのPCVs導入後のIPD由来株の莢膜型変化画像を拡大する2018年の厚生労働省の予防接種基本方針部会では、国内のIPDや肺炎原因菌の血清型分布などを検討しPCV13を高齢者に対する定期接種に指定しないと結論された17)。また、米国予防接種諮問委員会(ACIP)において、PPSV23はこれまで同様に推奨されたが、小児へのPCV13定期接種の集団免疫効果により高齢者の同ワクチン血清型の感染が劇的に減少したことから費用対効果も考慮し、高齢者へのPCV13の定期接種や一律のPCV13-PPSV23の連続接種は推奨しない方針に変更され、患者背景を考慮してPCV13接種を推奨することとされた13)。PCV13は高齢者の定期接種には指定されていないものの、接種しないことが勧められているわけではなく、その効果や安全性は確認されており13)、患者背景を考慮して接種する必要があることに注意する。とくに基礎疾患がある高齢者、高齢者施設の入所者には積極的に接種を勧めたい。また、2016年時点の高齢者のPPSV23接種率は40%ほど1)に留まっており、接種率のさらなる向上が必要である。基礎疾患を有することはIPDの重症化のリスクであり、日常診療における基礎疾患の管理とともに、適切にPPSV23やPCV13の接種を勧め、被接種者と共有意思決定を行い(shared decision making)、接種を実施し患者や地域住民をIPDから守りたい。わが国では成人IPDの調査・研究に限界があるが、前述の通りIPD症例の莢膜型の変化が報告4)されており、将来的にはさらに多くの血清型をカバーするワクチンやすべての肺炎球菌に共通する抗原をターゲットとした次世代型ワクチンの開発が望まれ、今後の動向にも注目したい3,6,18)。参考となるサイト(公的助成情報、主要研究グループ、参考となるサイト)1)23 価肺炎球菌莢膜ポリサッカライド ワクチン(肺炎球菌ワクチン) ファクトシート. 平成30(2018)年5月14日.国立感染症研究所.2)13価肺炎球菌コンジュゲートワクチン(成人用)に関するファクトシート. 平成27年7月28日.国立感染症研究所. 3)65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第3版 2019-10-30)日本呼吸器学会呼吸器ワクチン検討WG委員会/日本感染症学会ワクチン委員会・合同委員会4)「6歳から64歳までのハイリスク者に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方」(2021年3月17日).日本呼吸器学会呼吸器ワクチン検討委員会/日本感染症学会ワクチン委員会/日本ワクチン学会・合同委員会.5)こどもとおとなのワクチンサイト1)国立感染症研究所. 23 価肺炎球菌莢膜ポリサッカライド ワクチン(肺炎球菌ワクチン) ファクトシート. 平成30(2018)年5月14日. 2018.(2021年8月9日アクセス)2)Yoshii Y, et al. Infectious diseases. 2016;48:782-788.3)生方公子,ほか. 肺炎球菌感染症とワクチン. 2019.(2021年8月10日アクセス)4)Ubukata K, et al. Emerg Infect Dis. 2018;24:2010-2020.5)Ubukata K, et al. J Infect Chemother. 2021;27:211-217.6)Hanada S, et al. J Infect Chemother. 2021;27:1311-1318.7)生方公子, ほか. 肺炎球菌. 重症型のレンサ球菌・肺炎球菌感染症に対するサーベイランスの構築と病因解析、その診断・治療に関する研究.(2021年8月10日アクセス)8)新橋玲子, ほか.成人侵襲性肺炎球菌感染症に対する 23 価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチンの有効性. 2018; IASR 39:115-6.(2021年8月10日アクセス) 9)Suzuki M, et al. Lancet Infect Dis. 2017;17:313-321.10)厚生労働省. 第27回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会 資料. 2019.(2021年8月10日アクセス)11)World Health Organization. Releve epidemiologique hebdomadaire. 2008;83(42):373-384.12)肺炎球菌ワクチン再接種問題検討委員会. 肺炎球菌ワクチン再接種のガイダンス(改訂版). 感染症誌. 2017;9;:543-552.(2021年8月10日アクセス)13)Matanock A, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2019;68:1069-1075.14)国立感染症研究所. 資料3 13価肺炎球菌コンジュゲートワクチン(成人用)に関するファクトシート. 平成27年7月28日. 第1回厚生科学審議会予防接種・ワクチン文科会予防接種基本方針部会ワクチンに関する小委員会資料. 2015.(2021年8月9日アクセス)15)日本呼吸器学会呼吸器ワクチン検討委員会/日本感染症学会ワクチン委員会/日本ワクチン学会・合同委員会. 「6歳から64歳までのハイリスク者に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方」(2021年3月17日). (2021年8月9日アクセス)16)日本呼吸器学会呼吸器ワクチン検討WG委員会/日本感染症学会ワクチン委員会・合同委員会. 65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第3版 2019-10-30). 2019.(2021年8月9日アクセス)17)厚生労働省. 第24回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会 資料 2018.(2021年8月9日アクセス)18)菅 秀, 富樫武弘, 細矢光亮, ほか. 13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)導入後の小児侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の現状. IASR Vol. 39 p112-113. 2018.(2021年8月10日アクセス)講師紹介

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「五輪の裏で現場はギリギリまで追い詰められていた」感染症内科医・岡秀昭氏インタビュー(前編)

 2021年も残すところあと数週間。昨年の年明け早々に始まった新型コロナウイルス感染症との闘いは、2年近くになる。医療現場のみならず、社会全体を激変させたコロナだが、その最前線で治療に当たってきた医師は、最大の患者数を出した第5波を乗り越え、今ようやく息をつける状態となった。この休息が束の間なのか、しばらくの猶予となるのかは不明だが、諸外国の状況やオミクロン株の出現などを鑑みると、それほど悠長に構えていられないのが現在地点かもしれない。 第6波は来るのか。これまでのコロナ政策で今後も闘い続けられるのか―。地域のコロナ拠点病院で重症患者治療に奔走した感染症内科医・岡 秀昭氏(埼玉医科大学総合医療センター)に話を伺った。******* 今現在(11月8日)、コロナが始まって以来、一番落ち着いている。ここひと月近く、コロナの入院患者はいない。夏休みも取れなかった部下たちが、ようやく交代で休みを取ることができた。――最大のピークとなった第5波はどのような推移を辿り、減少傾向はいつごろから? まず、8月の上旬から逼迫感が出てきて、8月いっぱいはしんどかったと記憶している。それが9月に入り、患者が急激に減ってきた。8月と9月とでは状況がまったく違った。私自身、9月中旬には第5波の振り返りをする余裕も出てきて、9月後半にはずいぶん落ち着いていた。 過去の記録を見ると、9月7日時点で、入院数よりも退院数のほうが上回っている。9月13、20、27日と1週間ごとに、いくつかあったコロナ病棟を、患者の退院で空床化し、いったん閉鎖状態にしたのがこの時期だった。 振り返ると、五輪開幕の直前辺りから五輪期間中が最も大変だった。時期的にも、メディアでは五輪ばかりが話題になって、コロナの状況が取り上げられなくなっていた。 われわれの現場では、7月ごろからかなり危機感が募っていた。しかし一部の人が、重症者数は多くないので、医療体制は問題ないとメディアで公言し、五輪開催の機運が高まった。われわれもできる限りメディアの取材に応え、「重症者のピークは遅れてやってくるので、むしろこれから増える。楽観視しないでほしい」と切実な状況を訴えていたにもかかわらず、それは聞き届けられなかった。 私の主張はただ1つ、「五輪の延期」だった。今になってみてわかることだが、ワクチン接種が進んで落ち着いて来る時期、せめて10月以降になれば有観客でも開催できるはずだっただろうと思う。これは“後出しじゃんけん”ではなく、SNSでもたびたび発信していた。 しかし、菅 義偉前首相は、五輪開催を強行した。それが原因で感染者が増えたのかどうか、本当のところはわからない。しかし、五輪の裏で多くのコロナ患者が重症化し、医療が逼迫した結果、本来失わずに済んだ命が失われたことが紛れもない事実であることを伝えたい。 感染者数が減少にシフトしたかなりの要因は、言うまでもなくワクチンの普及によるものだろう。もうこれ以上の患者数になれば終わりだ……というギリギリまで追い詰められたところで、急速にブレーキが掛かった感覚だった。言い換えれば、われわれが治療に当たったそのころの重症患者のほとんどがワクチン未接種者、死亡も(免疫がつきにくい重篤な基礎疾患を有するなどの一部例外を除いて)、いずれも未接種者だった。五輪を強行開催した菅前首相に関して評価する点を挙げるなら、ワクチンを五輪に何とか間に合わせようと、かなりテコ入れしたことだろう。明らかにワクチン接種の急加速が入った。仮に五輪開催がなかったとしたら、あれほど接種が進まなかったかもしれない。そうなれば、第5波は高齢者を中心に重症者が増え、さらに大きなピークになっていた可能性がある。事実、第5波ピーク時の患者はワクチン未接種の40~50歳代が多かった。ワクチンが広がっていなかったら、さらに高齢者層が大きく上乗せされただろう。そうなれば死亡も格段に増えた可能性がある。 もう1つ、日本人の感染予防に対する意識の高さは、大いに評価されるべきだと思う。海外メディアが報じる現地の状況を見ると、マスクを着けていない人がいかに多いかがわかる。日本人の同調圧力とまでは言わないが、相互監視的に「ほかの人が着けてるから自分も着けなくては」という意識からか、外では皆がきちんとマスクを着用している。 この、ワクチン完遂率の高さと予防意識が、かなり第5波のブレーキには貢献したと考える。――第5波の渦中では、五輪開催と緊急事態宣言の発令などの相反する行動に多くの国民が矛盾と戸惑いを感じた。 さかのぼるが、第4波(2021年3月1日~6月20日)は、緊急事態宣言がスムーズかつ早く、大型連休前に発令された。あの発令については、医療者の中では高く評価されている。中には、「タイミングとして早過ぎるのでは」という指摘もあったようだが、先手を打って出せたのが第4波の宣言だった。ちょうど、より感染力の強いアルファ株に置き換わるタイミングだったにもかかわらず、少なくとも関東地域では比較的“ボヤ”程度で済んだ。ところが、第5波は違った。五輪という目標があり、そこに政治家たちが惑わされた。「そうたやすく宣言は出せない」という政府の思惑があったと思う。しかも、現場からの訴えを聞かず、「重症者は増えていない」というストーリーまで語ったのは間違いだった。あの時点で、すでに静観している場合ではなかった。 さらに、感染力が強いデルタ株の出現があり、より重症化しやすい特性もあった。そして、長らく続いた自粛ムードへの疲れと抑制効果の低下。国民はすでに相当な疲れと緩みを覚えていたし、そういう状況下にもかかわらず五輪は開催されるという。それなら、もう大丈夫なんじゃないかという形で、世論を割ることになってしまった。つまり、五輪開催と感染対策が矛盾し合うことになり、国民にうまく伝わらなかったのが、あの時期の日本だったと思う。――ワクチンに関して、ブレークスルー感染については現場で影響が? 自院では重症や中等症IIの治療がもっぱらで、在宅療養の軽症者は送られて来ない。つまり、ブレークスルー感染が起きていたとしても、現在の状況から推測できるのは、軽症で済んでいる、つまり重症化には至っていないということだ。したがって、ワクチンの90%の予防効果というのは、完全に100%防ぎ切るということではないにせよ、かなり予防できていて、ブレークスルー感染も想定の範囲内だということ。それでも重症化して送られてくるのは、重症化リスクを有するのにワクチン未接種の人とみて、第5波ではほぼ間違いなかった。 ワクチンが接種者のためだけと考えると、重症化しにくい年齢層にはその意義がなかなか見出しにくいかもしれない。ただ、これだけ効果があることがわかってきているコロナワクチンなので、自分も接種者となることで、社会の集団免疫を作る一員になるということ、それに協力することになる。今後、子どもへのワクチンも議論になってくるだろう。子ども個人の健康を守るという側面もあるが、もし第6波で重症者が多く出て来たら、子どもまで接種していかないと抑制できないのではないかと考える。それは子ども自身の現在だけでなく、成人した後の未来も守ることになり、ひいてはその周りの家族をも守ることになる。――米国ではすでに5~12歳まで接種対象が引き下げられている。 日本での導入には議論が必要になると思うが、ポイントとしては、子どもが感染したとしても重症化リスクは小さいということと、人種として多系統炎症症候群(MIS-C)を起こすアジア人が相対的に少ないという点がある。そして大人から子どもへの感染は多いが、その逆は少ないというのもある。その点で、周りを守るというワクチンの意義が、子供に関してはそこまで大きくないのではないかという指摘もある。治験では一定の効果が示されているが、副反応もあり、そこまでして子供に接種させるべきなのかというと、微妙だという意見もある。ワクチン供給量とのバランスという観点も考える必要があるだろう。もしくは、追加接種も含め途上国とのバランスという問題もあり、そこが崩れると輸入感染症になるという危惧が出てくる。 コロナに関しては、ある1つの国が“ひとり勝ち”というわけにいかない。今後、世界的に経済活動が再び活発化してきた時、海外との人流増加は避けられない。ビジネス相手国となるワクチン接種が遅れている一部のアフリカや南米、アジア諸国との行き来が増えれば、確実に入って来る。そうした点でも、世界のバランスをとってワクチン接種を進めていく必要がある。 抗体価は接種から半年で低下するのはすでに知られているが、デルタ株でも重症化を減らす効果は依然続いており、そこまで追加接種を慌てなくてもよいのではないかとは思う。一方で、ワクチンを2回打っていても免疫不全者、とくに抗がん剤治療中の患者や臓器移植患者には抗体が2回では十分につかず、ワクチンの予防効果が下がることがわかっている。今、追加接種が優先的に必要なのはそうした患者、もしくはその周りにいる医療従事者や家族だろう。更なる展望としては、抗体カクテル、モノクローナル抗体治療薬、経口薬も出てくるだろうが、高額な薬価の問題がある。抗体カクテルの重症化リスクがある患者への早期治療投与が有用ということはデータに示されているが、それも7割の重症阻止効果ということで、単純比較だがワクチンのほうが効果が高いことがわかる。また、曝露後予防には9割近い効果があるとされているが、推定薬価は30万前後と高額だ。これらの治療薬の効果が証明されているのは、重症化リスクがある患者に対してであり、リスクのない患者にはコストパフォーマンスも含め効果は不透明である。ワクチンが数千円ということを考えると、未接種者でも、万一感染したら皆が抗体カクテルや経口薬の治療が受けられ、効果もあるという理屈は間違っているという認識が必要だ。抗体カクテルは受動免疫で、一時的に外部から抗体を入れるという仕組み。つまり、入れた抗体がなくなれば無効になる。一方、ワクチンの免疫は接種によって能動的に免疫をつけるという仕組みなので、減弱するものの、長く効果が続く。しかもコストパフォーマンスも良い。抗体カクテルや治療薬が、ワクチンに置き換わるものでは決してないことも理解してほしい。 一部からは、「コロナを5類感染症に」という声が上がっているが、医療費が現在の全額公費負担から3割負担になるのだというところまで理解して言っているのかと問いたい。例えば、レムデシビルは1本6万円。入院初日はそれを2倍量使うので、2本で12万円。さらにその後4日間使うので、薬剤費だけで40万円近く掛かる。レムデシビルが必要な人は酸素やステロイド剤、場合によってはICUに入り、人工呼吸器が必要なケースもある。状況によっては、高価な生物学的製剤や抗菌薬も使う。相当額になる治療費を、現在は公費で全額負担しているのに、5類となった場合にはどうなるのか。高額療養費が適用されるかもしれないが、それでもかなりの額を患者自身が負担することになる。自己負担が大きく増えるということは、全員が望む治療を受けられるかどうかという観点からもかなり危惧する。それだけ最近の治療薬は高コスト。今後続いていくコロナ治療薬も、内服であってもそれなりに高額な薬価となるだろう。 また、コロナ治療薬に関しては、現在のところすべてが特例承認で迅速化が優先されているが、今までもガチフロキサシンやテリスロマイシンなどの抗菌薬などでIII相試験まで治験が進んで効果が確認されたにもかかわらず、いざ承認されて多くの患者に投与したら、低血糖や意識消失などの思わぬ副作用が確認されて使われなくなった例が複数ある。さらにもう1つの懸念は、感染症治療薬は、多用すればいずれは耐性化するのが常であるという問題がある。選択肢が増えてくるのはいいが、その裏にはたくさんの課題があることも忘れてはならない。 コロナに関して、ワクチンの副作用は気にする人が多いのに、治療薬だとなぜウェルカムなのかは疑問だ。治療薬にも副作用があって、新薬が怖いという点はワクチンと同じだ。治療薬を投与するのは、つまりコロナに罹患したということなので、後遺症の問題もある。やはり、感染するより未然に防げたほうがよいのは自明だ。したがって、治療薬が出てきたらワクチンは不要ということには決してならないということは強調したい。<後編に続く>

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第27回 有名だけれども意外と見落とされがちな意識障害の原因は?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)意識障害の原因は主軸を持って対応を!2)忘れがちな意識障害の原因を把握し対応を!【症例】62歳男性。意識障害仕事場の敷地内で倒れていた。●受診時のバイタルサイン意識20/JCS血圧128/51mmHg脈拍95回/分(整)呼吸20回/分SpO295%(RA)体温36.0℃瞳孔4/4 +/+既往歴高血圧内服薬定期内服薬なし所見麻痺の評価は困難だが、明らかな左右差なし意識障害の原因は?1)救急外来では意識障害患者にしばしば遭遇します。以前に取り上げた意識障害のアプローチに準じて対応しますが、今回の原因は何らしいでしょうか。意識障害というとどうしても頭蓋内疾患を考えがちですが、一般的に頭蓋内疾患が原因の意識障害では血圧は高くなるため、この時点で明らかな麻痺も認めないことから脳卒中は積極的には疑いません。クモ膜下出血の多くは左右差を認めないため、突然発症であった場合には注意が必要ですけどね。それでは原因は何でしょうか?意識障害の原因は多岐に渡り、“AIUEOTIPS”などの語呂合わせで覚えている人も多いのではないでしょうか。急性発症の意識障害であれば、低血糖を除外し、その後頭部CTを検査するというのは一般的な流れかと思います。診療の場において頻度は異なりますが、救急外来を受診する患者では感染症、脳卒中、痙攣、薬剤性、外傷が多く、その他、血糖異常やアルコール、電解質異常などもそれなりに経験します。今回はその中でも見逃しがちな意識障害の原因を見逃される理由と併せて整理しておきましょう。細菌性髄膜炎2)頻度として高くはありませんが、病態として敗血症が考えられる状況においては常に考える必要があります。見逃してしまう理由は、そもそも鑑別に挙げることができない、鑑別に挙げても発熱がない、項部硬直を認めないなどから除外してしまう、その他腰椎穿刺は施行したものの細胞数の上昇を認めなかったため除外してしまったなどが一般的でしょう。ワクチンの普及によって、以前と比較し細菌性髄膜炎は減少傾向にあるものの、毎年私の施設でも数例を経験します。忘れた頃にやってくる疾患といったイメージでしょうか。救急外来では、qSOFA陽性患者では鑑別に挙げ、他のフォーカスが明らかでない場合には積極的に腰椎穿刺を施行し、たとえ細胞数が上昇していなくてもグラム染色所見や培養結果で根拠を持って否定できるまでは、細菌性髄膜炎として対応するようにしています。髄膜刺激徴候は重要ですが、ケルニッヒ徴候やブルジンスキー徴候など特異度が比較的高い所見はあるものの、感度が高い身体所見は存在しないことに注意が必要です(項部硬直は感度46.1%、特異度71.3%)。単一の指標ではなく、総合的な判断が必要であるため、髄膜刺激徴候は1つ1つ確認しますが、結果の解釈を誤らないようにしましょう。細菌性髄膜炎は内科的エマージェンシー疾患であり、安易な除外は禁物です。レジオネラ症(legionellosis)「レジオネラ肺炎」。誰もが聞いたことがある病気ですが、早期に疑い適切な介入を行うことは簡単なようで難しいものです。呼吸困難を主訴に来院し、低酸素血症を認め、X線検査所見では明らかな肺炎像、尿中抗原を提出して陽性、このような状況であれば誰もが考えると思いますが、実臨床はそんなに甘くはありません。肺炎球菌と並んで重症肺炎の代表的な菌であるため、早期発見、早期治療介入が重要ですが、入り口を把握し疑うポイントを知らなければ対応できません。レジオネラ肺炎を見逃してしまう理由もまた同様であり、そもそも鑑別に挙がらない、疑ったものの温泉入浴などの感染経路がなく否定してしまった、尿中抗原陰性を理由に除外してしまったなどが挙げられます。市中肺炎患者に対して肺炎球菌をカバーしない人はいないと思いますが、意外とレジオネラは忘れ去られています。セフトリアキソン(CTRX)やアンピシリン・スルバクタム(ABPC/SBT)などの抗菌薬は、しばしば救急外来で投与されますが、これらはレジオネラに対しては無効ですよね。重症肺炎、喀痰グラム染色で起因菌が見当たらない、紹介症例などでCTRXなどβラクタム系抗菌薬が無効な場合には積極的にレジオネラ肺炎を疑う必要があります。難しいのは入り口が肺炎を示唆する症状ではない場合です。レジオネラ症の初期に認めうる肺外症状を頭に入れておきましょう(表)。これらを認める場合、他に説明しうる原因があれば過度にレジオネラを考える必要はありませんが、そうではない場合、「もしかしてレジオネラ?!」と考え、改めて病歴や身体所見をとるとヒントが隠れているかもしれません。また、意識すれば発熱の割に脈拍の上昇が認められない比較的徐脈にも気付くかもしれません。尿中抗原は診断に多々利用されていますが、これも注意が必要です。特異度は比較的高いとされますが、偽陽性の問題もあります。また、感度は決して高くないため陰性であっても否定できません。(1)重症肺炎、(2)βラクタム系抗菌薬が効かない肺炎、(3)グラム染色で有意な菌が認められない場合、(4)肺外症状を認める場合、(5)比較的徐脈を認める場合、このような場合にはレジオネラを意識して対応するようにしています。表 レジオネラ肺炎の肺外症状画像を拡大するウェルニッケ脳症4)アルコール多飲患者では鑑別に挙げ対応することが多いと思いますが、それ以外の場合には忘れがちです。フレイル患者など低栄養の患者さんでは常に考えるべき疾患であると思います。ウェルニッケ脳症が見逃されがちな5つの誤解があります。それは、「(1)非常にまれである、(2)慢性アルコール患者のみに起こる、(3)3徴(意識障害、眼球運動障害、歩行失調)が揃っていなければならない、(4)チアミンを静注するとアナフィラキシーのリスクが高い、(5)他の診断があれば除外できる」です。正確な頻度は不明であるものの、私たちが行わなければならないのはウェルニッケ脳症を診断すること以上に治療介入のタイミングを逃さないことです。意識障害患者に対するビタミンB1の投与は経静脈的に行いますが、迷ったら投与するようにしましょう。典型的な症状が揃うまで待っていてはいけません。重要なこととして(5)の他の診断があれば除外できるという誤解です。フレイル患者が脳梗塞を起こした場合、肺炎を起こした場合、その場合にビタミンB1が欠乏している(しかけている)ことも考え対応するようにしましょう。意識すると撮影した脳梗塞のMRIに典型的な所見が映っているかもしれませんよ。今回の症例の最終診断は「レジオネラ肺炎」でした。診断へのアプローチは紙面の都合上割愛しますが、意識障害のアプローチは主軸を持ちつつ、そのアプローチで見逃しがちな点を把握し、対応することが重要です。私は重度の意識障害患者に対するアプローチ方法を決め、そこから目の前の患者さんでは必要のない項目を引く形で対応しています。これもあれもと足し算で対応すると忘れたり、後手に回ることがありますからね。1)坂本 壮、安藤 裕貴著. 意識障害。あなたも名医!. 日本医事新報社;2019.2)Akaishi T, et al. J Gen Fam Med. 2019;20:193-198.3)Cunha BA. Infect Dis Clin North Am. 2010;24:73-105.4)坂本 壮 編著. 救急外来、ここだけの話. 医学書院;2021.

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