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1.

知見のupdateを絶えず重ね続ける【国試のトリセツ】第40回

§3 decision making知見のupdateを絶えず重ね続けるQuestion〈111G57〉82歳の女性。肺炎で入院中である。抗菌薬が投与され肺炎の症状は軽快していたが、3日前から頻回の水様下痢が続いている。高血圧症で内服治療中である。意識は清明。体温37.6℃。脈拍76/分、整。血圧138/78mmHg。腹部は平坦、軟。下腹部に軽い圧痛を認める。血液所見赤血球380万、Hb12.0g/dL、Ht 36%、白血球9,800、血小板26万。腹部X線写真で異常所見を認めない。便中Clostridium difficileトキシン陽性。この患者に有効と考えられる薬剤はどれか。2つ選べ。(a)バンコマイシン(b)クリンダマイシン(c)エリスロマイシン(d)メトロニダゾール(e)ベンジルペニシリン(ペニシリンG)※2016年に、Clostridium difficileはClostridioides difficileに名称が変更されました。第111回医師国家試験は2017年に実施されましたが、まだ以前のままの表記になっています。以降の解説では、このupdateを汲み、新しい表記で統一します。Lawson PA, et al:Reclassification of Clostridium difficile as Clostridioides difficile(Hall and O’Toole 1935) Prevot 1938. Anaerobe, 40:95-99, 2016

2.

身体診察【とことん極める!腎盂腎炎】第2回

CVA叩打痛って役に立ちますか?Teaching point(1)CVA叩打痛があっても腎盂腎炎と決めつけない(2)CVA叩打痛がなくても腎盂腎炎を除外しない(3)他の所見や情報を合わせて総合的に判断する1.腎盂腎炎と身体診察腎盂腎炎の身体診察といえば肋骨脊柱角叩打法(costovertebral angel tenderness:CVA tenderness)が浮かぶ方も多いのではないだろうか。発熱、膿尿にCVA叩打痛があれば腎盂腎炎と診断したくなるが、CVA叩打痛は腎臓の周りの臓器にも振動が伝わり、肝胆道や脊椎の痛みを誘発することがあるため、肝胆道系感染症や化膿性脊椎炎を腎盂腎炎だと間違えてしまう場合がある。身体所見やその他の所見と組み合わせて総合的に判断する必要がある。2.CVA叩打痛と腎双手診CVA叩打痛は腎盂腎炎を示唆する身体所見として広く知られている。図1のように、胸椎と第12肋骨で作られる角に手を置き、上から拳で叩打し、左右差や痛みの誘発があるかどうかを観察する。なお腎臓は左の方がやや頭側に位置しているため、肋骨脊柱角の上部・下部とずらして叩打痛の確認をする。もし左右差や痛みがあれば腎盂腎炎を示唆する所見となるが、第1回で紹介したとおり、所見がないからといって腎盂腎炎を否定することはできず、ほかの所見と合わせて診断を考える必要がある。画像を拡大するその他の身体診察として腎双手診がある。腎臓のある側腹部を両手で挟み込み、痛みを生じるかどうかを確かめる診察であり尿管結石でも陽性となり得るが、腎盂腎炎においてCVA叩打痛陰性であっても腎双手診は陽性となる症例も散見される。CVA叩打痛は脊椎の痛みを反映している場合もある一方で腎双手診(図2)は大腸の病変を触れている可能性もある。CVA叩打痛が圧迫骨折などの脊椎の痛みを誘発していないか確かめるために、棘突起を押して圧痛を生じないか確かめることが有用である。棘突起を押して圧痛を生じるようであれば、椎体の病変の可能性が高くなる。画像を拡大するこのように、腎臓の位置は肉眼では把握しづらく、痛みを生じているのが腎臓なのか、その周囲の臓器なのかわかりにくい。裏技のような方法になるが、エコーで腎臓を描出しながらプローブで圧痛が生じるか確認する、いわばsonographic Murphy’s signの腎臓バージョンもある1)。3.自身が体験した非典型的なプレゼンテーション最後に自身が体験した非典型なプレゼンテーションを述べる。糖尿病の既往がある90歳の女性で、転倒後の腰痛で体動困難となり救急搬送された。身体診察・画像検査からは腰椎の圧迫骨折が疑われ、鎮痛目的に総合診療科に入院となった。その夜に39℃台の発熱を生じfever work upを行ったところ、右の双手診で側腹部に圧痛があり、尿検査では細菌尿・膿尿を認めた。圧迫骨折後の尿路感染症として治療を開始し、後日、尿培養と血液培養より感受性の一致したEscherichia coliが検出された。本人によく話を聞くと、転倒した日は朝から調子が悪く、来院前に悪寒戦慄も生じていたとのことだった。ERでは腰痛の診察で脊椎叩打痛があることを確認していたが、その後脊椎を一つひとつ押しても圧痛は誘発されず、腎双手診のみ再現性があった。腰椎圧迫骨折は陳旧性の物であり、急性単純性腎盂腎炎後の転倒挫傷だったのである。転倒後という病歴にとらわれ筋骨格系の疾患とアンカリングしていたが、そもそも転倒したのが体調不良であったから、という病歴を聞き取れれば初診時に尿路感染症を疑えていたかもしれない。この症例から高齢者の腎盂腎炎は転倒など一見関係なさそうな主訴の裏に隠れていること、腰痛の診察の際に腎双手診は脊椎の痛みと区別する際に有用であることを学んだ。4.腎盂腎炎診断の難しさ腎盂腎炎の診断は難しい。それは、腎盂腎炎の診断が非典型的な症状、細菌尿・膿尿の解釈、側腹部痛の身体所見、他疾患の除外など、さまざまな情報を統合して総合的に判断しなければならないからである。正しい診断にこだわることはもちろん重要だが、腎盂腎炎がさまざまな症状を呈し、また、どの身体所見も腎盂腎炎を確定診断・除外できないことを念頭に置き、柔軟に対応することが必要なのではないだろうか。たとえ典型的な症状や所見が揃っていなくても、できる限り他疾患の可能性について考慮したうえで、患者の余力も検討し腎盂腎炎として抗菌薬を開始することが筆者はリーズナブルであると考える。重要なことは治療を始めた後も、経過を観察し、合わない点があれば再度、腎盂腎炎の正当性について吟味することである。多種多様な鑑別疾患と総合的な判断が求められる腎盂腎炎は臨床医の能力が試される疾患である。1)Faust JS, Tsung JW. Crit Ultrasound J. 2017;9:1.

3.

経口ワクチンが抗菌薬に代わる尿路感染症の治療法に?

 新たに開発された経口投与型のワクチンが、尿路感染症(UTI)を繰り返す「再発性UTI」の患者にとって抗菌薬に代わる治療法となる可能性のあることが、英ロイヤル・バークシャーNHS財団トラストの泌尿器科専門医であるBob Yang氏らの研究で示唆された。同氏らによると、スプレーを使って舌の下にワクチンを投与した再発性UTI患者の半数以上(54%)は、その後9年にわたってUTIを再発することがなく、また目立った副作用も認められなかったという。この研究結果は、欧州泌尿器科学会(EAU 2024、4月5~8日、フランス・パリ)で発表された。 UTIは最も一般的な細菌感染症で、女性の半数、男性の5人に1人が生涯に一度は経験するとされる。UTI症例の20~30%では、抗菌薬による治療を必要とするUTIが再発する。 Yang氏は、「ワクチン接種前は、全参加者が再発性UTIに苦しんでいた。また、多くの女性患者で再発性UTIは治療困難となり得る」とニュースリリースの中で述べている。そして、「この新たなUTIワクチンを初めて接種してから9年後の時点まで、参加者のほぼ半数は感染することはなかった」と説明。また、「全体として、このワクチンは長期にわたって安全であり、参加者はUTIの再発が減少したこと、再発した場合でも重症度が低く、多くは水をたくさん飲むだけで治ったと話していた」と振り返っている。 このMV140と呼ばれるワクチンは、4種類の細菌種を含んだパイナップル風味の懸濁液で、スペインの製薬会社であるImmunotek社によって開発された。ワクチンには、感染と闘う抗体の産生を促す細菌が含まれている。ワクチンは3カ月間、毎日舌の下に2回吹きかけて投与する。 今回の研究は、英国のロイヤルバークシャー病院でUTIの治療を受けた18歳以上の女性72人と男性17人を対象としたもの。これらの患者は、MV140の臨床試験への当初からの参加者で、ワクチン投与後1年間の追跡調査の結果は2017年に報告されていた。今回の報告は、その後の9年に及ぶ追跡調査の結果である。Yang氏らは、89人の医療記録データを分析するとともに聞き取り調査を実施した。 その結果、48人の参加者が、9年間の追跡期間中にUTIを再発しなかったことが明らかになった。再発が認められなかった期間は、女性で平均54.7カ月(4年半)、男性で平均44.3カ月(3年半)だった。なお、参加者の約40%は、1年後または2年後にMV140の再接種を受けたことを報告していた。 今回の研究には関与していない専門家であるアルタ・ウロ泌尿器医療センター(スイス)教授のGernot Bonkat氏は、「これらは有望な結果だ。再発性UTIによってもたらされる経済的な負担は大きく、また、抗菌薬の過剰使用は抗菌薬耐性感染症の要因にもなり得る」と研究結果に期待を寄せる。 Bonkat氏は、「今後は、より複雑なUTIについての研究や、異なる患者のグループを対象とした研究の実施が必要だ。そこから得られる研究成果を通じて、このワクチンの使用方法を最適化できる」と話す。また同氏は、「現実的な視点を持つ必要はあるが、このワクチンはUTI予防において画期的な手段となる可能性や、従来の治療法に代わる安全で有効な治療法となる可能性を秘めている」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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事例047 アンブロキソール塩酸塩の査定【斬らレセプト シーズン3】

解説痰のからみを訴える扁桃炎の患者に対して、抗菌薬と去痰薬のアンブロキソール塩酸塩錠(以後「同錠」)を投与したところ、多くは病名不足を示すA事由(医学的に適応と認められないもの)にて査定となりました。同錠の添付文書を参照したところ、効能・効果には、気管支炎もしくは肺炎由来の去痰に適用があると記載されていました。扁桃炎は、扁桃に炎症が起きる上気道疾患です。効能・効果には、上気道疾患に伴う去痰が記載されていません。現在はコンピュータによる審査が行われています。添付文書の効能・効果と病名が一致しないために、A事由が適用されたものと推測ができます。他のレセプトも調べてみました。同様の理由にてブロムヘキシン塩酸塩などが査定となっていました。医師にはこの結果を伝えて、同錠などを投与する場合には、気管支や肺の炎症に伴う去痰を目的に使用した理由が読み取れる病名を付けていただくようにお願いしました。

5.

CPOE導入で、尿路感染症入院への広域抗菌薬の使用が減少/JAMA

 尿路感染症(UTI)で入院した非重症の成人患者では、通常の抗菌薬適正使用支援と比較して、多剤耐性菌(MDRO)のリスクが低い患者に対して標準スペクトルの抗菌薬をリアルタイムで推奨するオーダーエントリーシステム(computerized provider order entry:CPOEバンドル)は、在院日数やICU入室までの日数に影響を及ぼさずに、広域スペクトル抗菌薬の経験的治療を有意に減少させることが、米国・カリフォルニア大学アーバイン校のShruti K. Gohil氏らが実施した「INSPIRE UTI試験」で示された。JAMA誌オンライン版2024年4月19日号掲載の報告。米国59施設のクラスター無作為化試験 INSPIRE UTI試験は、MDROのリスクが低い(<10%)と推定されるUTI入院患者に対して標準スペクトル抗菌薬による経験的治療を推奨するCPOEバンドル(フィードバック、教育、リアルタイムのリスクベースCPOEプロンプトから成る)の有効性を、通常の抗菌薬適正使用支援と比較するクラスター無作為化試験(米国疾病管理予防センター[CDC]の助成を受けた)。 米国の59の病院を、CPOEバンドルを使用するCPOE介入群(29施設)または通常の抗菌薬適正使用支援を行う群(30施設)に無作為に割り付けた。対象は、年齢18歳以上の非重症のUTIによる入院患者であった。試験は、18ヵ月間のベースライン期間(2017年4月~2018年9月)、6ヵ月間の段階的導入期間(2018年10月~2019年3月)、15ヵ月間の介入期間(2019年4月~2020年6月)で構成された。 主要アウトカムは、入院から3日間における広域スペクトル抗菌薬の投与日数であり、ICU以外の場所で患者1例当たりに投与された広域スペクトル抗菌薬の総数とした。バンコマイシン、抗緑膿菌薬の投与日数も良好 59の病院に入院したUTI患者12万7,403例(ベースライン期間7万1,991例、介入期間5万5,412例)を解析の対象とした。全体の平均年齢は69.5(SD 17.9)歳、男性が30.5%で、Elixhauser併存疾患指数中央値は4点(四分位範囲[IQR]:2~5)であった。 1,000日当たりの広域スペクトル抗菌薬による経験的治療の日数は、通常の抗菌薬適正使用支援群ではベースライン期間で431.1日、介入期間で446.0日であったのに対し、CPOE介入群ではそれぞれ392.2日および326.0日といずれも少なかった。全体の率比は0.83(95%信頼区間[CI]:0.77~0.89)であり、CPOE介入群で広域スペクトル抗菌薬による経験的治療の日数が有意に短縮した(p<0.001)。 副次アウトカムであるバンコマイシンによる治療日数(全体の率比:0.89、95%CI:0.82~0.96、p=0.002)および抗緑膿菌薬による治療日数(0.79、0.72~0.87、p<0.001)は、いずれもCPOE介入群で有意に短縮した。MDROの増殖は6%未満 安全性アウトカムの評価では、在院日数(全体の率比:0.96、95%CI:0.91~1.01、p=0.21)およびICU入室までの日数(0.98、0.85~1.12、p=0.77)には両群間に有意な差を認めなかった。 著者は、「MDRO関連感染の患者別リスクのデータを使用して、電子健康記録(electronic health record)から標準スペクトル抗菌薬の推奨をリアルタイムに生成することで、UTI入院患者に対する広域スペクトル抗菌薬による経験的治療を安全に削減する可能性が示された」とまとめ、注目すべき点として、試験の終盤に新型コロナウイルス感染症の流行による混乱があったにもかかわらず、ICU入室や在院期間といった安全性のアウトカムには変化がなかったこと、研究に用いたアルゴリズムによりMDROのリスクが低いと推定された患者のうち、MDROの増殖を認めたのは6%未満であったことを挙げている。

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手足口病の予防は手洗いで

夏、小児に流行する手足口病〔原因ウイルス〕・エンテロウイルスやコクサッキーウイルス(※アルコール消毒や熱に抵抗性が高いウイルス)〔流行期、おもな患者層、潜伏期間〕・夏季を中心に流行し、4歳くらいの幼児が主体(2歳以下が半数。成人もまれに感染)・約3~5日の潜伏期間の後に発症〔主症状〕・口腔粘膜、手掌、足底や足背などの四肢末端に2~3mmの水疱性発疹出現(下図参照)。肘、膝、臀部などにも出現する場合もある。・発熱は約1/3にあるが、軽度でほぼ38℃以下。・通常は3~7日で消退し、水疱が痂皮を形成することはない。・まれに幼児に髄膜炎、小脳失調症などの中枢神経系合併症が生ずるので注意が必要。〔治療〕・特異的な治療法はない。 抗菌薬の投与は意味がない。・口腔内病変には柔らかめで薄味の食べ物を推奨。・発熱には通常解熱剤なしで経過観察が可能。・頭痛、嘔吐、高熱、2日以上続く発熱などの場合 には髄膜炎、脳炎などへの進展に注意。・ステロイドの多用が症状を悪化させる示唆あり。〔予防〕・有症状中の接触予防策および飛沫予防策が重要。 とくに手洗いの励行(排便後の手洗いを徹底)!図 手足口病における水疱性発疹国立感染症研究所ホームページより引用・作成(2024年4月25日閲覧)https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/441-hfmd.htmlCopyright © 2024 CareNet,Inc. All rights reserved.

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肺炎への広域抗菌薬使用、オーダーエントリーシステムで減少/JAMA

 肺炎でICU以外に入院した成人患者において、患者特異的な多剤耐性菌(MDRO)の感染リスク推定に基づき、リスクが低い患者に対し標準スペクトラム抗菌薬を推奨するオーダーエントリーシステム(computerized provider order entry:CPOEバンドル)の使用は、通常の抗菌薬適正使用支援の実践と比較し、広域スペクトラム抗菌薬の経験的使用が有意に減少した。ICU転室までの日数および在院期間に差はなかった。米国・カリフォルニア大学アーバイン校のShruti K. Gohil氏らが、米国の地域病院59施設で実施したクラスター無作為化比較試験「INSPIRE(Intelligent Stewardship Prompts to Improve Real-time Empiric Antibiotic Selection)肺炎試験」の結果を報告した。肺炎は入院を要する一般的な感染症であり、広域スペクトラム抗菌薬過剰使用の主な要因である。MDROの感染リスクは低いにもかかわらず、臨床上の不確実性が最初の抗菌薬選択につながることがよくあり、肺炎患者に対する抗菌薬の経験的過剰使用を抑制する戦略が求められている。JAMA誌オンライン版2024年4月19日号掲載の報告。CPOEバンドル使用施設vs.通常施設、広域スペクトラム抗菌薬の使用を評価 研究グループは参加施設を、CPOEバンドルを使用するCPOE介入群(29病院)と通常の抗菌薬適正使用支援のみを行う対照群(30病院)に無作為に割り付けた。対象は、肺炎で入院した非重症成人(18歳以上)患者である。 CPOE介入群では、通常の抗菌薬適正使用支援に加え、MDRO肺炎の絶対リスクが低い(10%未満)患者には、入院の最初の3日間(経験的治療期間)は広域スペクトラム抗菌薬の代わりに標準スペクトラム抗菌薬を推奨するCPOEプロンプトの提供、ならびに臨床医の教育とフィードバック報告が行われた。 ベースライン期間を18ヵ月(2017年4月1日~2018年9月30日)、段階的導入期間を6ヵ月(2018年10月1日~2019年3月31日)、介入期間を15ヵ月(2019年4月1日~2020年6月30日)とし、ベースライン期間と介入期間のアウトカムを比較した。 主要アウトカムは、入院の最初の3日間における広域スペクトラム抗菌薬による累積治療日数(患者1人当たりに投与された広域スペクトラム抗菌薬の数×日数として算出。たとえば、最初の3日間に2種類の広域スペクトラム抗菌薬を少なくとも1回ずつ投与した場合は6日間とする)。副次アウトカムはバンコマイシンおよび抗緑膿菌薬による経験的治療など、安全性アウトカムはICU転室までの日数、在院期間などであった。CPOE介入により広域スペクトラム抗菌薬による経験的治療が28.4%減少 試験期間に肺炎で入院した非重症成人患者は9万6,451例(ベースライン期間5万1,671例、介入期間4万4,780例)であった。患者背景は、平均(SD)年齢68.1(17.0)歳、男性48.1%、Elixhauser併存疾患指数中央値は4(四分位範囲[IQR]:2~6)であった。 経験的治療日数1,000日当たり患者1人当たりの広域スペクトラム抗菌薬累積治療日数は、CPOE介入群ではベースライン期間613.9日から介入期間428.5日に減少したのに対して、対照群ではそれぞれ633.0日、615.2日であった。 施設および期間別にクラスタリングした率比(RR)は0.72(95%信頼区間[CI]:0.66~0.78、p<0.001)であり、対照群と比較してCPOE介入群では広域スペクトラム抗菌薬による経験的治療が28.4%(95%CI:22.2~34.1、p<0.001)有意に減少した。副次アウトカムも同様の結果であった。 安全性アウトカムについては、介入期間におけるICU転室までの平均日数(対照群6.5日、CPOE介入群7.1日)および在院期間(それぞれ6.8日、7.1日)に両群で差は認められなかった。

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優先度を考えてdecision makingを組み立てる【国試のトリセツ】第39回

§3 decision making優先度を考えてdecision makingを組み立てるQuestion〈109F11〉咽頭痛、喘鳴および呼吸困難を訴える成人が救急外来を受診した際に、バイタルサインを確認しながらまず準備するのはどれか。(a)気管挿管(b)抗菌薬投与(c)動脈血採血(d)鎮痛薬投与(e)胸部X 線撮影

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第192回 マイナンバーカードはデータヘルス改革のキープレーヤー

社会保障制度改革にマイナンバーカードは必須新型コロナウイルス感染症が落ち着き、いよいよ団塊の世代のすべてが後期高齢者になる2025年がみえてきました。多くの医療機関にとって、今年の診療報酬改定は賃上げを求められるとともに、厚生労働省が打ち出したさまざまな政策により大きく影響を受けることになります。この中で1番注目すべきは、マイナ保険証の利用促進です。日本健康会議が4月25日に開いた、医療DX推進フォーラム「使ってイイナ!マイナ保険証」には武見 敬三厚労大臣、河野 太郎デジタル大臣、斉藤 健経済産業大臣が参加し、マイナ保険証利用促進集中取組月間のキャンペーンのキックオフを行いました。政府だけでなく、保険者団体、医療界、経済界も一丸となって国民にマイナンバーカード(マイナカード)の普及によって医療DXに取り組む宣言を行っています。マイナカードについては、当初からマイナンバーと健康保険証の紐付けミスが発生したことで批判も多く、国民の半数以上が所有しながらも、4割程度しか常時所持していないことが明らかになるなど、政府の取り組みについて実効性を疑問視する声も挙げられている一方、そのメリットは計り知れないことが国民にはまだ理解されていません。〔マイナンバー保険証によるメリット〕オンライン資格確認医療機関で保険証として直接利用でき、受診時の手続きが迅速化できるセキュリティの向上個人情報の保護が強化され、情報の漏洩リスクを低減できるデータ連携の効率化医療・介護情報がデジタル化され、異なる医療機関間での情報共有がスムーズに行えるこれらの実現によって、医療の質を高め効率的な医療介護連携が促進されることは間違いなく、患者さんが急病になって、意識がなくても救急車内で持病や内服などの情報も確認できるなど、救急医療現場でも利便性や信頼が高まっていくと考えられます。持続性可能な社会保障制度を求めた動きを強化わが国は、少子高齢化が急速に進展するため、2050年には高齢化率が36%に達する見込みであり、国民1人ひとりの健康寿命延伸が望まれる一方、医療・介護費の負担増大も見込まれています。毎年のように報道される過去最高を記録し続ける社会保障費の増大に対して、政府も伸び率の抑制を試みてはいるものの、医療アクセスを維持しながらの医療費抑制は困難です。さらに健康保険組合の財政も厳しく、「健保組合の9割が赤字見通し」「全体の赤字幅、過去2番目6,578億円」といったように社会保障制度の根幹である国民皆保険制度の維持にもかかわっています。このため、政府は後発品への置き換えによる薬剤費の抑制などを行ったものの、1人当たりの医療費や介護費が多く必要となる後期高齢者が増加し、そのスピードに追い付けていません。これに対して、厚労省は2017年1月からデータヘルス改革推進本部を設立し、レセプト(医療情報)、健診結果などのデータ分析に基づいて、PDCAサイクルで効果的、効率的に保健事業へ取り組む「データヘルス改革」に着手をしようとしていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大によって実際に動き出せたのが遅れたというのが真相です。データヘルス改革によって、データに基づく質の高い医療を実現させるとしていますが、患者個人の医療情報が、複数の医療機関にまたがって患者の健康情報や治療歴が保管され、医薬品の副作用やワクチンの接種歴などがアナログで参照できない状態では、効率性もさることながら、医療の質が高まらない上に医療安全でも好ましくない状態となっています。「厚生労働省が進めるデータヘルス改革」の今後のデータヘルス改革の進め方によるとゲノム医療・AI活用の推進自身のデータを日常生活改善などにつなげるPHRの推進医療・介護現場の情報利活用の推進データベースの効果的な利活用の推進とあり、この頃からAIの活用も盛り込みながら、医療・介護情報の利活用推進を行っていくことが明らかになっています。具体的には保健医療・介護分野の公的データベースに連結、解析することで、医薬品の安全性のさらなる向上、治療の質の向上や新たなサービスなどの開発など、保健医療介護分野におけるイノベーションを創出地域包括ケアの実現などに向けた保健医療介護分野の効果的な施策の推進などのメリットが得られるとしています。厚労省医政局は、健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループをこれまでに21回開催し、医療・介護情報の利活用についてAction Planをまとめ、実施に向けた準備を取り組んでいます。この中で、来年の4月から本格化する「電子カルテ情報共有サービス」については電子カルテ情報共有サービスの運用開始までのロードマップ(「電子カルテ情報共有サービスにおける運用について」30ページ目)によれば、令和7年度中に稼働が本格的に始まることになります。さらに、政府は介護保険証のマイナカードとの一体運用を2024年度中にデータ基盤が整った自治体から開始し、2026年度に全国規模で運用を目指すことを決定しており、介護保険の介護認定の申請や通知にも利用されるほか、ケアプランの作成や提出だけでなく、主治医意見書などもマイナ保険証を介する可能性があり、医療だけでなく介護現場にもマイナ保険証がますます活用されることになると予想されます。医療・介護情報の連結に必要なのは、実はマイナカードです。来年度には、電子カルテ情報共有サービスが本格的に稼働するなどさらに進むことになります。紙の保険証が、今年12月から発行停止になることで、国民に広がっていく不安を解消するために、医療機関や行政機関はさらに力を入れていく必要があります。医療DXで進む「効率化」と「医療費適正化」医療費適正化については、あまり広くは知られていませんが、厚労省は令和6年度から6年間の第四期医療費適正化計画(2024~2029年度)を開始しています。政府は第4期の計画策定にあたり、2023年7月20日に「医療費適正化に関する施策についての基本的な方針」を定めています。この中には特定健診などの実施率向上実施率目標につき特定健診を70%、特定保健指導を45%後発医薬品の使用促進後発医薬品の数量シェアを80%以上(2023年度末までに全都道府県で)生活習慣病(糖尿病)などの重症化予防重複・多剤投薬の是正のように従来から取り組んできた項目のほか、新たに抗菌薬の適正使用、リフィル処方箋など今年の診療報酬改定につながるような項目が加わっています。政府は、各都道府県に対して医療費適正化計画の策定を求め、PDCAサイクルで医療費の適正化に取り組むように求めていきます。これまでと異なるのは医療・介護データを連結することで解析を行い、目標に近付けるために、各都道府県がよりデータに基づいて、保険者と連携して、医療機関だけでなく国民に働きかけることが増えると思われます。多くの医療機関は、保険償還の範囲の中であれば自由に検査や治療が行っていますが、今後は医薬品の適正使用、医療資源の効果的・効率的な活用のために地域ごとに高額な医療機器の共有なども進められていくほか、新たな地域医療構想に基づいた病床機能の分化・連携の推進が進んでいくように働きかけも強くなっていくと考えられます。今回の診療報酬改定や介護報酬改定では、医療機関や介護サービス事業者に対して補助金を支給するなどマイナカードの普及への協力を求めており、今後のオンライン資格確認や電子処方箋など将来的にも重要な役割を果たすマイナカードに対して、患者さんへの利用の呼びかけなど積極的な協力が求められます。参考1)健康・医療・介護情報利活用検討会 医療等情報利活用ワーキンググループ(厚労省)2)第四期医療費適正化計画(2024~2029年度)について(同)3)医療費適正化に関する施策についての基本的な方針(同)4)第四期東京都医療費適正化計画(東京都)5)介護保険証もマイナカード一体化検討 24年度にも運用(日経新聞)6)健保組合の9割が赤字見通し 全体の赤字幅、過去最大6578億円に(朝日新聞)

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両下肢の浮腫・発赤への抗菌薬【日常診療アップグレード】第3回

両下肢の浮腫・発赤への抗菌薬問題75歳女性。2年前から両側下肢の腫脹あり。1週間前から両側下腿の浮腫が悪化し、右側に強い発赤を認めている。体温は37.0℃で全身状態は良好である。蜂窩織炎を疑い抗菌薬の点滴投与を検討したが、両側下腿に発赤があることから静脈不全の合併を考え抗菌薬を投与は取りやめた。

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診断を下すには定義が必要となる【国試のトリセツ】第38回

§2 診断推論診断を下すには定義が必要となるQuestion〈108I56〉1歳の男児。発熱、頸部の腫脹および前胸部の皮疹を主訴に母親に連れられて来院した。4日前から38℃台の発熱が続き、今朝から頸部の腫脹と前胸部の紅斑とに気付いた。体温39.3℃。脈拍148/分、整。両側眼球結膜に充血を認める。顔面下部の写真を次に示す。右頸部に径3cmのリンパ節を1個触知する。心音と呼吸音とに異常を認めない。血液所見赤血球406万、Hb11.2g/dL、Ht35%、白血球19,600(桿状核好中球9%、分葉核好中球72%、好酸球2%、単球4%、リンパ球13%)、血小板39万。血液生化学所見総蛋白6.2g/dL、アルブミン3.1g/dL、AST40IU/L、ALT80IU/L。CRP7.9mg/dL。初期治療として適切なのはどれか。(a)血漿交換(b)抗菌薬の投与(c)免疫抑制薬の投与(d)生物学的製剤の投与(e)免疫グロブリン製剤の投与

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腸内での酪酸産生菌の増加は感染症リスクの低下と関連

 腸内で酪酸産生菌が10%増えるごとに、感染症による入院リスクが14〜25%低下することが、オランダとフィンランドの大規模コホートを対象にした研究で明らかになった。アムステルダム大学医療センター(オランダ)のRobert Kullberg氏らによるこの研究結果は、欧州臨床微生物学・感染症学会(ECCMID 2024、4月27〜30日、スペイン・バルセロナ)で発表予定。 酪酸は、ビフィズス菌や乳酸菌などの「善玉」の腸内細菌が食物繊維を分解・発酵させる際に産生される短鎖脂肪酸の一種である。米クリーブランド・クリニックの説明によると、酪酸は大腸の細胞が必要とするエネルギーの大部分(約70%)を供給しており、消化器系の健康に重要な役割を果たしているという。 重症の感染症による入院患者において腸内細菌叢に変化が生じることは珍しくなく、また、前臨床モデルでは、好気性の酪酸産生菌が全身感染症に対して保護効果を持つことが示されている。酪酸産生菌は入院患者では減少していることが多く、またこれらの菌は感染症以外の腸疾患に対しても保護効果を持つ可能性が考えられることから、これまで酪酸産生菌に焦点を当てた研究が実施されてきている。しかし、腸内細菌叢が大きく変化することで重症感染症に罹患しやすくなるのかについては、明確になっていない。 今回の研究では、総計1万699人から成るオランダとフィンランドの2つの大規模コホート(オランダコホート4,248人、フィンランドコホート6,451人)を対象に、ベースライン時の腸内細菌叢とその後の感染症関連の入院リスクとの関連が検討された。試験参加者の便サンプルを用いて腸内細菌のDNAシーケンス解析を行い、腸内細菌叢の組成や多様性、酪酸産生菌の相対存在量を評価した。さらに、国の登録データを用いて、便サンプルの採取から5〜7年間の追跡期間中に生じた感染症による入院または死亡について調査した。 追跡期間中に総計602人の参加者(オランダコホート152人、フィンランドコホート450人)が感染症(多くは市中肺炎)により入院または死亡していた。腸内細菌叢と感染症リスクとの関連を検討したところ、腸内細菌叢の中に占める酪酸産生菌の量が10%増えるごとに感染症による入院リスクは、オランダコホートでは25%、フィンランドコホートでは14%低下することが明らかになった。このような結果は、人口統計学的属性やライフスタイル、抗菌薬曝露や併存疾患で調整して解析しても変わらなかった。 こうした結果を受けてKullberg氏は、「ヨーロッパの2つの独立したコホートを用いたこの研究で、腸内細菌叢の組成、特に酪酸産生菌の定着は、一般集団の感染症による入院予防と関連していることが示された」と結論付けている。 研究グループは、「今後の研究では、腸内細菌叢を調整することで重症感染症のリスクを低減できるかどうかを検討する必要がある」と述べている。ただ残念なことに、酪酸産生菌は酸素を嫌う嫌気性細菌であるため、これらの貴重な細菌を腸内に取り込むことは困難であるという。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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ダニ咬傷【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第14回

ダニは主に野外に生息し、哺乳類(ヒトを含む)や鳥類、爬虫類から血を吸う節足動物です。農業や林業作業中だけでなく、山登りやハイキングといったレジャーでもダニにかまれることがあります。ダニは日本紅斑熱(JSF)やライム病(LD)などのリケッチア症やボレリア症などの感染症を伝播しますが、ダニ媒介感染症は特定の地域に比較的限定されていて、効果的な抗菌薬もあるため、日本ではダニによる咬害をそれほど恐れない傾向がありました。しかし、2013年に重症熱性血小板減少症候群(Severe fever with thrombocytopenia syndrome:SFTS)が報告され、にわかに注目を集めています。結果として、ダニによる咬害治療のための来院が急速に増加しているため1)、皆さんの診療所や救急外来にダニにかまれた患者さんが突然受診するかもしれません。今回は、ダニ咬傷の対処法を説明します。日本では咬傷を生じるダニは6種類いて、地域によって異なります。SFTSなどを生じるマダニは主に西日本にいます。これらの詳細を書くととても長くなるので、今回はマダニにかまれて来院した患者さんの対処法を記載します。<症例>75歳男性主訴西日本在住。山菜を採りに山へ入った。当日の入浴時に右前腕に黒い脚が生えている動くダニを発見した。引っ張ってみたりしたが外れないため、救急外来を受診した。(1)ダニを確認するまずは、かんだダニを確認して吸血の有無を判断しましょう。血液を吸っていればお腹が大きく膨らんでいます。本症例は、さほど膨らんでいませんでした。(2)かまれてからの時間を確認かまれてからの時間を確認しましょう。ダニ咬傷はほとんど症状がなく、気付くまで2~3日、長いと1週間ほどかかることがあります。ダニがかみついてから24時間経過すると食いつきが強くなり、攝子では除去が困難になります2)。かまれてから3日以上経過した場合はマダニ媒介感染症のリスクが高くなるため、外科的除去がより強く推奨されます3,4)。本症例は、山に山菜取りに行ったのが久しぶりで、当日にかまれたことが想定されます。よって、24時間以内と判断しました。(3)ダニの除去方法はいくつかありますが、今回は非侵襲的方法2つと侵襲的方法1つを紹介します。a.非侵襲的除去基本的にダニの体には触らないことが理想です、なぜなら、体を押すと病原体や毒が体内に入ったり、体をつまんで除去をしようとするとダニの口が残ってしまったりします。よって1つ目の方法は「無鈎攝子でダニの口器をつかんで除去する」です(図1)。図1 攝子を用いたダニの除去方法2つ目の方法として、もし手元にあれば、Tick twisterという動物用のダニ除去器具を用いるのも手です(図2)。ダニの口は縦方向の力に強いため、攝子で引っ張るにはある程度力がいります。Tick twisterを皮膚とダニの間に挟んで軽く持ち上げながら回転させることで非常に簡便に除去できます。口器を意識せずに使用できるのも利点です。ダニ咬傷を診る機会があれば、1個1,000円程度ですので持っておいてもよいかもしれません。YouTubeで「Tick Twister」と検索すると複数の動画がヒットしますので使用の際は参考にしてください。本症例は攝子で口器をつまんで除去しました。図2 Tick Twisterb.侵襲的処置口が深く入って把持できなかったり、ダニ咬傷となってから3日以上経っていたりする場合は外科的切除が必要になります4)。まずキシロカインで鎮痛し、図3のようにダニの周囲を円錐状に切除して皮膚ごと除去します3)。図3 侵襲的処置(4)除去後の処置まずは創部を洗浄しましょう。抗菌薬はダニにかまれた場合には推奨されていません。というのも、そもそものマダニ媒介感染症のリスクが低いため、抗菌薬の使用によるリスクがベネフィットを上回るためです。しかし例外として、シュルツェマダニにかまれた場合は予防投与の適応となります。シュルツェマダニは北海道、本州中部が生息域と推定されています(参考文献5の図4を参考にしてください)。ダニがシュルツェマダニであり、血液を吸い肥大化している場合、ライム病のリスクが高いため200mgのドキシサイクリン単回投与が推奨されます4)。この場合はダニの種類の同定が必要であり、ダニを保存して専門家へ相談することも必要になります4)。本症例は西日本の患者さんであったため抗菌薬の予防投与は行いませんでした。帰宅時に、マダニ咬傷から4週間以内に発熱、嘔吐、下痢、感覚障害などの神経症状が出現した場合はマダニ媒介感染症を生じた可能性があるので、医療機関を受診するように指導しました。以上がダニ咬傷の対処法です。ダニはなるべく早く除くことが重要ですので、上記手技を使って素早く除去しましょう。1)Inoue Y, et al. 衛生動物. 2020;71:31-38.2)鵬図商事:マダニに刺されてしまったら3)Roupakias S, et al. Wilderness Environ Med. 2012;23:97-99.4)Natsuaki M. J Dermatol. 2021;48:423-430.5) 国立国際研究所:ライム病とは

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肺炎診療GL改訂~NHCAPとHAPを再び分け、ウイルス性肺炎を追加/日本呼吸器学会

 2024年4月に『成人肺炎診療ガイドライン2024』1)が発刊された。2017年版では、肺炎のカテゴリー分類を「市中肺炎(CAP)」と「院内肺炎(HAP)/医療介護関連肺炎(NHCAP)」の2つに分類したが、今回の改訂では、再び「CAP」「NHCAP」「HAP」の3つに分類された。その背景としては、NHCAPとHAPは耐性菌のリスク因子が異なるため、NHCAPとHAPを1群にすると同じエンピリック治療が推奨され、NHCAPに不要な広域抗菌治療が行われやすくなることが挙げられた。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行を経て、ウイルス性肺炎の項目が設定された。第64回日本呼吸器学会学術講演会において、本ガイドライン関するセッションが開催され、進藤 有一郎氏(名古屋大学医学部附属病院 呼吸器内科)がNHCAPとHAPの診断・治療のポイントや薬剤耐性(AMR)対策の取り組みについて解説した。また、ウイルス性肺炎に関して宮下 修行氏(関西医科大学 内科学第一講座 呼吸器感染症・アレルギー科)が解説した。NHCAPとHAPは耐性菌のリスク因子が異なる NHCAPとHAPは「敗血症性ショックの有無の判断」「重症度の判断(NHCAPはA-DROPスコア、HAPはI-ROADスコアで評価)」「耐性菌リスクの判断」を行い、治療薬を決定していくという点は共通している。しかし、耐性菌のリスク因子は異なる。進藤氏は、「この違いをしっかりと認識してほしい」と語った。なお、それぞれの耐性菌リスク因子は以下のとおり。NHCAP:経腸栄養、免疫抑制状態、過去90日以内の抗菌薬使用歴、過去90日以内の入院歴、過去1年以内の耐性菌検出歴、低アルブミン血症、挿管による人工呼吸管理を要する(≒診断時に重度の呼吸不全がある)HAP:活動性の低下や歩行不能、慢性腎臓病(透析を含む)、過去90日以内の抗菌薬使用歴、ICUでの発症、敗血症/敗血症性ショック HAPでは、「重症度が低く、耐性菌リスクが低い(リスク因子が1つ以下)場合」は狭域抗菌治療、「重症度が高い、または耐性菌リスクが高い(リスク因子が2つ以上)場合」には広域抗菌治療を行う。NHCAPでは、外来の場合はCAPに準じた外来治療を行う。また、入院の場合も非重症で耐性菌リスク因子が2つ以下であれば、CAPと類似した狭域抗菌治療を行い、重症で耐性菌リスク因子が1つ以上あるか非重症で耐性菌リスク因子が3つ以上であれば広域抗菌治療を行うという流れとなった(詳細は本ガイドラインp.54図3、p.64図3を参照されたい)。不要な広域抗菌薬の使用は依然として多い 進藤氏は、名古屋大学などの14施設で実施した肺炎患者を対象とした前向き観察研究(J-CAPTAIN study)の結果を紹介した。本研究では、CAP患者をNon-COVID-19肺炎とCOVID-19肺炎に分けて検討した。その結果、Non-COVID-19肺炎患者(1,802例)の10%にCAP抗菌薬耐性菌(β-ラクタム系薬、マクロライド系薬、フルオロキノロン系薬のすべてに低感受性と定義)が検出された。CAP抗菌薬耐性菌のリスク因子としては、過去1年以内の耐性菌検出歴、気管支拡張を来す慢性肺疾患、経腸栄養、ADL不良、呼吸不全(PaO2/FiO2≦200)が挙げられた。これらの項目は本ガイドラインのシステマティックレビューの結果と類似していたと進藤氏は語った。 また、本研究においてNon-COVID-19肺炎患者では、CAP抗菌薬耐性菌の検出がなかった患者の29.2%に広域抗菌薬が使用されていたことを紹介した。AMR対策としては、このような患者における広域抗菌薬の使用を減らしていくことが重要となると進藤氏は指摘する。CAP抗菌薬耐性菌のリスク因子が0個であった患者は、Non-COVID-19肺炎の61.2%を占め、そのうち21.8%で広域抗菌薬が使用されていた結果から、進藤氏は「AMR対策上、耐性菌リスクのない症例では広域抗菌薬の使用を控えることが重要である」と強調した。ウイルス性肺炎は想定以上に多い? 2018~20年に九州の14施設で実施された観察研究では、CAP患者の23.3%にウイルスが検出されており2)、肺炎へのウイルスの関与が注目されている。そこで、宮下氏は本ガイドラインに新たに追加されたウイルス性肺炎について、その位置付けを紹介した。 CAPは、(1)CAPとNHCAPの鑑別→(2)敗血症の有無・重症度の判断(治療場所の決定)→(3)微生物学的検査→(4)マイコプラズマ肺炎・レジオネラ肺炎の推定→(5)抗菌薬の選択といった流れで診療が行われる。この流れに合わせて、ウイルス性肺炎の特徴を考察した。 COVID-19肺炎患者の1年後の身体機能をみると、CAPと比較してNHCAPで予後が不良である3)。したがって、宮下氏は「CAPとNHCAPでは予後がまったく異なるため、治療方針を大きく変えるべきであると考える」と述べた。 本ガイドラインでは、重症度の評価をもとに治療場所を決定するが、CAPで用いられるA-DROPスコアによる評価がCOVID-19肺炎においても有用であった。ただし、COVID-19(デルタ株以前)ではA-DROPスコア1点(中等症、外来治療が可能)であっても、R(呼吸状態)の項目が1点の場合は疾患進行のリスクが高いという研究結果4,5)を紹介し、注意を促した。 前版で細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別に用いられていた鑑別表は、細菌性肺炎とマイコプラズマ肺炎の鑑別表(本ガイドラインp.32表4)に改められた。実際に、この鑑別表を非定型肺炎であるCOVID-19肺炎に当てはめると診断の感度は不十分であり、マイコプラズマ肺炎と細菌性肺炎の鑑別に用いるのが適切と考えられた。また、今回のガイドラインではレジオネラ診断予測スコアが掲載された(本ガイドラインp.33表5)。この診断スコアを用いた場合、COVID-19はいずれの株でもレジオネラ肺炎との鑑別が可能であった。 最後に、宮下氏はオミクロン株の流行後にCOVID-19肺炎において誤嚥性肺炎が増加し、誤嚥性肺炎を発症した患者の退院後の顕著な身体機能低下が認められていることに触れ、「早期診断・早期治療が重要であり、肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンに加えて新型コロナワクチンによる予防も重要であると考えている」とまとめた。

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肺炎診療GL改訂~市中肺炎の改訂点は?/日本呼吸器学会

 2024年4月に『成人肺炎診療ガイドライン2024』1)が発刊された。2017年版からの約7年ぶりの改訂となる。第64回日本呼吸器学会学術講演会において、本ガイドライン関するセッションが開催され、岩永 直樹氏(長崎大学病院 呼吸器内科)が市中肺炎(CAP)に関する改訂のポイントを解説した。非定型肺炎の鑑別を大切にすることに変わりはない CAPへの初期の広域抗菌薬投与や抗MRSA薬のエンピリックな使用は予後を改善せず、むしろ有害であるという報告がある。そのため、エンピリックな耐性菌カバーは予後を改善しない可能性がある。そこで、今回のガイドラインでは、非定型肺炎の鑑別を大切にするという方針を前版から継承し、CAPのエンピリック治療薬の考え方を示している。そこでは、外来患者や一般病棟入院患者では抗緑膿菌薬や抗MRSA薬は使用せず、これらの薬剤は重症例や免疫不全例に検討することとしている(詳細は本ガイドラインp.34図4を参照されたい)。 近年、CAPではウイルスが検出されることが多いことも報告されている2)。そのような背景から、今後は同時多項目遺伝子検査の活用が重要となってくることが考えられる。そこで、今回のガイドラインでは、多項目遺伝子検査に関するクリニカルクエスチョン(CQ)が設定された。多項目遺伝子検査は従来法と比較して原因微生物の同定率が高く(67.5% vs.42.7%)、「行うことを弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])」とされた(CQ19)。なお、多項目遺伝子検査の対象について、岩永氏は「主にCAPがターゲットとなると考えている。とくに免疫不全例では典型的な病像を呈さないことも多いため、これらの症例に有用性があるのではないか」と意見を述べた。CAPのCQとポイント CAPに関するCQとポイントは以下のとおり。・CAPの重症度評価の方法(CQ1) A-DROPスコアはCURB-65スコアやPSIスコアと同等の予測能を示した。A-DROPスコアによる評価は本邦でよく用いられており、簡便であることから「A-DROPスコアによる重症度評価を弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])」となった。・注射用抗菌薬から経口抗菌薬への変更(スイッチ療法)(CQ2) CAPに対するスイッチ療法は注射用抗菌薬の継続と比較して、同等の肺炎治癒率を示し、副作用発現頻度は有意差がないが減少傾向で、入院期間を有意に短縮した。また、医療費についてはシステマティックレビュー(SR)を実施していないが、3件の無作為化比較試験(RCT)においていずれも低下させる傾向にあった。以上から「スイッチ療法を行うことを強く推奨する(エビデンスの確実性:B[中程度])」となった。・短期抗菌薬治療(CQ3) CAPのアジスロマイシンによる治療とアジスロマイシンを含まない治療のいずれにおいても、短期治療(1週間以内)は標準治療(1週間超)と比較して、死亡率と肺炎治癒率に差がなかった。また、肺炎再燃率や副作用発現率も同等であった。医療費についても、SRは実施していないが、3件のRCTではいずれも低下させる傾向にあった。以上から「初期治療が有効な場合には短期治療を弱く推奨する(エビデンスの確実性:B[中程度])」となった。ただし多くのRCTが軽症〜中等症を対象としており、重症例、集中治療を要する症例、高齢者などは注意が必要である。・β-ラクタム系薬へのマクロライド系薬の併用(CQ4) 重症例では、β-ラクタム系薬にマクロライド系薬を併用することで死亡率と肺炎治癒率の改善が認められた。1件の観察研究でコストは増加する傾向にあったが、耐性菌発生率は変化しなかった。非重症例では、併用療法により死亡率や肺炎治癒率、入院期間、耐性菌発生率のいずれも変化しなかった。また、1件の観察研究でコストは増加する傾向にあった。以上から、「重症例では併用することを弱く推奨する、非重症例では併用しないことを弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])」となった。・抗菌薬へのステロイドの併用(CQ5) 全身性ステロイド薬投与は重症例では死亡率を低下させ、非重症例では死亡率を低下させなかった。CAP全体では、併用により肺炎治癒率は変化せず、入院期間が短縮した。以上から、「重症例では併用することを弱く推奨する、非重症例では併用しないことを弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])」となった。

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第93回 「高すぎる自己負担額の話」をする?新型コロナのレムデシビル投与前

当院では、中等症以上の新型コロナを現在も引き受けています。「5類感染症」に移行してからというもの、基本的には自施設で診ていただける感染症と思っていましたが、「新型コロナ陽性になりました、当院では対応は難しいので貴院にてよろしく診療お願い申し上げます」という紹介がチラホラとあります。地域で機能集約していくことはよいことだと思いますが…。しかし、いつになったら「特別な感染症」ではなくなるのか、はなはだ疑問ではあります。ところで、中等症以上の新型コロナで入院になるということは、高確率で肺炎を発症しているわけです。新型コロナ陽性者の肺炎というのは、ウイルス性肺炎だけでなく誤嚥性肺炎や二次性器質化肺炎などいろいろな可能性を考慮する必要があるわけですが、抗菌薬を使用する・しないにかかわらず、抗ウイルス薬が必要になることが多いです。錠剤の内服ができないくらい症状がつらかったり、ADLや嚥下機能が低かったりする患者さんが多いので、基本的には入院例に対しては抗ウイルス薬の点滴であるレムデシビル(商品名:ベクルリー)が適用されることになります。レムデシビル、2024年4月1日から高額になりました。厳密には、これまで自己負担割合に応じて最大9,000円の自己負担で済んでいたものが、そのままガチで負担割合をかけ算した自己負担が生じることになってしまいました。具体的には表のようになります。他の経口抗ウイルス薬と比べると、レムデシビルの点滴が一歩抜きん出ていることがおわかりかと思います。画像を拡大する表. 新型コロナ治療薬の自己負担額(2024年4月1日以降)たとえば、レムデシビルを5日間投与すると、3割負担で約9万円になります。これだと、高額療養費制度の上限に達してしまう患者さんも結構多いのではないでしょうか。自己負担額がこのくらいになる治療を、事前に説明すべきかどうかは診療科や病院によって異なるでしょう。当院では、トラブルにならないように、「4月1日から抗ウイルス薬の自己負担額が高額となっております」という説明をするよう配慮しています。

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ピロリ菌の除菌治療の失敗は虫歯と関連

 ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)の除菌治療に成功するかどうかは、虫歯の有無と有意に関連しているとの研究結果が示された。朝日大学歯学部口腔感染医療学講座社会口腔保健学分野の岩井浩明講師、友藤孝明教授らによる研究であり、詳細は「Scientific Reports」に2月19日掲載された。 ピロリ菌は、胃炎、胃潰瘍、胃がんなどを引き起こす。胃がんの90%以上はピロリ菌が原因とされている。ピロリ菌の感染者は減少傾向であるものの、2017年時点で日本人の約3600万人が感染しており、年齢が上がるほど感染率は高まる。ピロリ菌の感染者には抗菌薬による除菌治療が行われるが、除菌は必ず成功するわけではない。除菌失敗の可能性としてピロリ菌の薬剤耐性が報告されているが、まだ不明な点も多く、さらなる研究が必要とされている。 著者らは過去の研究で、日本人におけるピロリ菌感染と虫歯との関連を報告している。今回の研究では、ピロリ菌の除菌失敗と、未治療の虫歯との関連について検討した。対象は、2019年4月から2021年3月に朝日大学病院でピロリ菌の除菌治療および歯科検診を受けた226人(男性150人、平均年齢52.7歳)。対象者には標準的な初回除菌治療として、7日間の3剤併用療法(ペニシリン系抗菌薬、マクロライド系抗菌薬、プロトンポンプ阻害薬)が行われ、1カ月後に除菌の成否が尿素呼気試験で判定された。 その結果、226人のうち除菌に失敗した人は38人(17%)だった。除菌に失敗した人は成功した人と比べて、歯磨きの回数が1日2回以上である人の割合が有意に低く、虫歯のある人の割合が有意に高かった。除菌に失敗した人と成功した人で、歯の詰め物や歯の欠損の有無について有意な差はなかった。 次に、多変量ロジスティック回帰を用いて、年齢、性別、歯磨きの回数による影響を調整して解析した結果、ピロリ菌の除菌失敗は、虫歯ありと有意に関連していた(虫歯なしと比較したオッズ比2.672、95%信頼区間1.093~6.531)。虫歯の本数別に検討したところ、除菌に失敗した人の割合は、虫歯が1本の人では24%(21人中5人)、2本の人では40%(5人中2人)、3本以上の人では67%(6人中4人)だった。虫歯の本数が増えるほど、除菌に失敗する人の割合が高まるという有意な傾向が認められた。 今回の研究で示された、ピロリ菌の除菌失敗と虫歯が有意に関連することの説明として著者らは、虫歯のある部位からもピロリ菌は検出されるが、この部位は血液循環が悪く、抗菌薬が浸透しにくいという可能性を挙げている。さらに、コロニーを形成した虫歯の細菌が「バイオフィルム」という膜を形成することで、ピロリ菌も抗菌薬から保護され、抗菌薬の効果が低下する可能性を指摘。一方、除菌の失敗と歯の詰め物との関連は見られなかったことから、「虫歯が発生しても、適切に治療すれば、除菌失敗のリスクを減らすことができる」と述べている。

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第210回 リンパ節にミニ肝臓を作る治療の臨床試験開始/抗菌薬で心不全治療?

リンパ節にミニ肝臓を作る治療の臨床試験開始末期肝疾患(ESLD)患者の肝臓機能を担うことを目指してリンパ節を肝臓化する治療が第IIa相試験(Ph2a試験)で初めてヒトに施されました1,2)。初めて投与されたのはLyGenesis社のLYG-LIV-001という名称の開発品です。LYG-LIV-001は寄付された肝臓から段階を追って念入りに単離された肝細胞です。1つの肝臓から多ければ75例に移植できる量を製造できます3)。Ph2a試験はESLD患者12例を募っています。今回、その最初の患者の肝臓近くのリンパ節に超音波と内視鏡を使って肝細胞5千万個を含むLYG-LIV-001が投与されました。肝臓近くのリンパ節に投与するのは肝臓の助けを借りるためです。肝臓は再生能を有する唯一の臓器であり、たとえ損傷しても再生のための増殖因子やその他の分子を放ちます。肝臓の近くでLYG-LIV-001はそれらの信号を受け取って肝臓構造を形成します。そうしてLYG-LIV-001はリンパ節に根付き、増殖して肝臓の役割を担うことを目指します。LYG-LIV-001投与患者は1年間観察され、安全性や治療の許容のほどの検討に加えて、ESLDの症状や状態への効果も調べられます。LyGenesis社の臓器再生技術は肝臓にとどまらず、胸腺、腎臓、膵臓などの他の臓器の再生にも応用できそうです。実際、老齢胸腺、末期腎不全(ESRD)、1型糖尿病(T1D)の臓器再生細胞治療の前臨床開発に同社は取り組んでいます。LYG-LIV-001を含むLyGenesis社の開発品は遺伝的加工を含まないのでより短期間でより安く作ることができます。また、遺伝的加工につきものの害の心配もありません。米国で1万例弱が肝臓移植の待機者リストに名を連ねています。多くは移植までに数ヵ月から長ければ数年待たねばなりません。また、移植に至る前に死んでしまう患者も多く、待機者リストの患者の12%ほどが毎年亡くなっています。LYG-LIV-001が有効なことが裏付けられれば肝疾患治療が一新するかもしれません。LyGenesis社の技術の実用化によってわずか数年のうちに肝臓移植の待機者リストが不要になりうると同社の舵を取る最高経営責任者(CEO)Michael Hufford氏は言っています2)。抗菌薬で心不全治療?薬による臓器再生の研究でも進展があり、承認済みの意外な薬2つの心臓再生作用が、大型動物ブタを含む実験で示されました。Meis1とHoxb13と呼ばれる協調する2つの転写因子を省くことで成体の心筋細胞の細胞周期停止が解除され、心筋梗塞マウスの左心室機能が向上することが、米国のテキサス大学南西医療センター(UTSW)のHesham Sadek氏らの先立つ研究で示されています4)。よってMeis1やHoxb13の転写活性阻害による心筋細胞の増加は心臓再生手段として有望です。Sadek氏らのさらなる研究5,6)で見付かったのが、Meis1とHoxb13の転写活性を阻害してどうやら心臓再生を促す米国FDA承認薬2つです。2つともアミノグリコシド系抗菌薬で、1つはパロモマイシン、もう1つはネオマイシンです。Hoxb13はMeis1を介添えし、Meis1を細胞の核内へと運ぶ役割を担います7)。パロモマイシンとネオマイシンはどちらもMeis1に結合します。結合領域はHoxb13と相互作用する部位の近くです。成体のマウスやブタの心筋梗塞(心虚血/再潅流障害)後にそれら2つとも投与したところ心筋細胞が増え、左心室機能が改善し、瘢痕を減らすことができました。Sadek氏らの今回の成果は臨床試験での検討をより現実的なものにしており6)、心筋梗塞後に高頻度で生じる心不全をパロモマイシンとネオマイシンで治療できる日がもしかしたら来るかもしれません8)。参考1)LyGenesis Announces First Patient Dosed in its Phase 2a Clinical Trial of a First-in-Class Regenerative Cell Therapy for Patients with End-Stage Liver Disease / PRNewswire 2)Therapy that turns lymph nodes into livers gets first human trial / (NewScientist)3)This Bag of Cells Could Grow New Livers Inside of People / WIRED4)Nguyen NUN, et al. Nature. 2020;582:271-276.5)Ahmed MS, et al. Nature Cardiovascular Research. 2024;3:372-388.6)Heart Regeneration Induced by FDA-Approved Antibiotics / Genetic Engineering & Biotechnology News7)Helping the heart heal itself / Eurekalert8)Common antibiotics can regenerate heart cells in animals / NewScientist

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C. difficile 感染のリスク【1分間で学べる感染症】第1回

画像を拡大するTake home messageC. difficile 感染のリスクを大まかに高リスク・中リスク・低リスクに分類して理解しよう。広域抗菌薬、とくに嫌気性菌をカバーする抗菌薬はリスクが高い。C. difficile 感染を引き起こすリスクのうち、最も重要なものが抗菌薬によるものです。それでは一体どのような抗菌薬が、リスクが高いのでしょうか。一般的には、広域抗菌薬、とくに嫌気性菌をカバーする抗菌薬はリスクが高いとされています。具体的には、上記のように、メロペネム、イミペネム、モキシフロキサシン、第3世代・第4世代セファロスポリンなどが最もリスクが高いとされ、次にシプロフロキサシン、レボフロキサシン、クリンダマイシンなどが続きます。一方、アモキシシリン、第1世代セフェム系、アジスロマイシン、アズトレオナム、ダプトマイシン、リネゾリド、テトラサイクリンなどはリスクが低いとされています。C. difficile 感染のリスクをできるだけ最小限にするために、可能な限り狭域な抗菌薬にde-escalationできないか、常に検討しましょう。1)Di Bella S, et al. Clin Microbiol Rev. 2024 Feb 29. [Epub ahead of print]

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亜鉛欠乏症、日本人の特徴が明らかに

 亜鉛欠乏症*は、免疫機能の低下、味覚障害、嗅覚障害、肺炎、成長遅延、視覚障害、皮膚障害などに影響を及ぼすため、肝疾患や慢性腎臓病などをはじめとするさまざまな疾患を管理するうえで、血清亜鉛濃度の評価が重要となる。今回、横川 博英氏(順天堂大学医学部総合診療科学講座 先任准教授)らが日本人患者の特徴と亜鉛欠乏との相関関係を調査する大規模観察研究を行った。その結果、日本人の亜鉛欠乏患者の特徴は、男性、入院患者、高齢者で、関連する病態として呼吸器感染症や慢性腎臓病などが示唆された。Scientific reports誌2024年2月2日号掲載の報告。*「亜鉛欠乏症」は亜鉛欠乏による臨床症状と血清亜鉛値によって診断されるとされている。これに対し、「低亜鉛血症」は亜鉛欠乏状態を血清亜鉛値から捉えたもの。 研究者らは2019年1月~2021年12月の期間、メディカル・データ・ビジョン(MDV)が保有する日本全国のレセプトデータベースを使用して、遡及的かつ横断的観察研究を実施した。研究母集団のうち、20歳未満の患者、亜鉛含有薬剤の処方後に血清亜鉛濃度が評価された患者を除く、外来および入院患者1万3,100例の血清亜鉛データを解析した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者の平均年齢は69.0歳、男性は48.6%であった。・血清亜鉛濃度の平均値±SDは65.9±17.6μg/dLで、4,557例(34.8%)が亜鉛欠乏症(60μg/dL未満)に、5,964例(45.5%)が潜在性亜鉛欠乏(60~80μg/dL)に該当した。・亜鉛欠乏症との有意な関連がみられたのは、男性(オッズ比[OR]:1.165)、高齢者(OR:1.301)、入院患者(OR:3.367)だった。男性の亜鉛欠乏症の割合は50代を境に高くなったが、80代では男女共に40%以上が亜鉛欠乏症であった。・亜鉛欠乏症の割合が高い併存疾患について、年齢と性別による多変量解析後の調整オッズ比(aOR)は、肺臓炎で2.959、褥瘡や圧迫で2.403、サルコペニアで2.217、新型コロナウイルス感染症で1.889、慢性腎臓病で1.835だった。・また、亜鉛欠乏症と有意な関連がみられた薬剤のaORは、スピロノラクトンが2.523、全身性抗菌薬が2.419、フロセミドが2.138、貧血治療薬が2.027、甲状腺ホルモンが1.864、と明らかになった。

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