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血流感染症の抗菌薬治療、7日間vs.14日間/NEJM

 血流感染症の入院患者への抗菌薬治療について、7日間投与は14日間投与に対して非劣性であることが示された。カナダ・トロント大学のNick Daneman氏らBALANCE Investigatorsが、7ヵ国の74施設で実施した医師主導の無作為化非盲検比較試験「BALANCE試験」の結果を報告した。血流感染症は、罹患率と死亡率が高く、早期の適切な抗菌薬治療が重要であるが、治療期間については明確になっていなかった。NEJM誌オンライン版2024年11月20日号掲載の報告。重度の免疫抑制患者等を除く患者を対象、主要アウトカムは90日全死因死亡 研究グループは、血流感染症を発症した入院患者(集中治療室[ICU]の患者を含む)を抗菌薬の短期(7日間)治療群または長期(14日間)治療群に1対1の割合で無作為に割り付け、治療チームの裁量(抗菌薬の選択、投与量、投与経路)により治療を行った。 重度の免疫抑制状態にある(好中球減少症、固形臓器または造血幹細胞移植後の免疫抑制治療を受けている)患者、人工心臓弁または血管内グラフトを有する患者、長期治療を要する感染症(心内膜炎、骨髄炎、化膿性関節炎、未排膿の膿瘍、未除去の人工物関連感染)、血液培養で一般的な汚染菌(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌など)が陽性、黄色ブドウ球菌またはS. lugdunensis菌血症、真菌血症などの患者は除外した。 主要アウトカムは血流感染症診断から90日以内の全死因死亡で、非劣性マージンは4%ポイントとした。診断後90日以内の全死因死亡率は7日群14.5%、14日群16.1% 2014年10月17日~2023年5月5日に、適格基準を満たした1万3,597例のうち3,608例が無作為化された(7日群1,814例、14日群1,794例)。登録時、1,986例(55.0%)はICUの患者であった。 血流感染症の発症は、市中感染75.4%、病棟内感染13.4%、ICU内感染11.2%であり、感染源は尿路42.2%、腹腔内または肝胆道系18.8%、肺13.0%、血管カテーテル6.3%、皮膚または軟部組織5.2%であった。 血流感染症診断後90日以内の全死因死亡は、7日群で261例(14.5%)、14日群で286例(16.1%)が報告された。群間差は-1.6%ポイント(95.7%信頼区間[CI]:-4.0~0.8)であり、7日群の14日群に対する非劣性が検証された。 7日群の23.1%、14日群の10.7%でプロトコール不順守(割り付けられた日数より2日超短縮または延長して抗菌薬が投与された)が認められたが、プロトコール順守患者のみを対象とした解析(per-protocol解析)においても主要アウトカムの非劣性が示された(群間差:-2.0%ポイント、95%CI:-4.5~0.6)。 これらの結果は、副次アウトカムや事前に規定されたサブグループ解析においても一貫していた。

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低温持続灌流はドナー心臓の虚血時間を安全に延長できる(解説:小野稔氏)

 低温浸漬保存(SCS)は脳死ドナーから提供された心臓を保存するゴールドスタンダードであるが、保存時間が4時間を超えると虚血、嫌気性代謝に続く臓器障害を来たし、移植後の合併症や死亡に至る場合がある。肝臓移植においてはXVIVO(XVIVO AB, Sweden)による低温灌流保存(HOPE: hypothermic oxygenated machine perfusion)についての12のメタアナリシスやシステマティックレビューがあり、その安全性と有効性が証明されている。 心臓移植におけるXVIVO装置を用いたHOPEの安全性と有効性を証明するために、欧州8ヵ国の15の心臓移植センターにおいて、多国多施設無作為化オープンラベル試験が実施された。対象は18歳以上の成人心臓移植患者で、いずれかの臓器移植の既往、先天性心疾患、腎不全、脱感作中、LVAD以外の循環補助中の場合には除外された。ドナーについては18~70歳が対象で、心停止後ドナーや再開胸が必要な場合には除外とした。心保存について従来のSCSとHOPEに1:1で割り付けられた。SCS群では各施設のプロトコルで心停止を誘導してアイススラッシュ保存を行った。HOPE群では、300~500mLの血液、抗生剤とインスリンが添加されたXVIVO Heart Solutionで満たされたXVIVO灌流装置を使用した。心臓摘出後に上行大動脈にカニューレを挿入して装置に接続し、大動脈圧20mmHgで8度を維持して灌流(毎分100~200mLに相当)した。 2020年11月から2023年5月までに1,050例がスクリーニングされ、HOPE群には101例、SCS群には103例が割り付けられた。レシピエント(56歳vs.58歳)、ドナー(48歳vs.50歳)共に両群間で背景因子、原疾患、循環補助の状態に差はなかった。ドナー心保存時間はHOPE群のほうが長かった(240分vs.215分)。主要評価項目(心臓関連死、中~高度の左室のグラフト不全、右室のグラフト不全、Grade 2R以上の細胞性拒絶反応を含む複合エンドポイント)はHOPE群19例(19%)、SCS群31例(30%)に見られ、HOPE群のリスク軽減率は44%となったがp値は0.059であった。副次評価項目である移植後グラフト不全単独では、SCS群28%に対してHOPE群11%と有意に少なかった。心臓関連主要有害事象についてはHOPE群18%で、SCS群32%に対して有意に少なかった。心臓関連死については両群間で差は見られなかった。 主要評価項目では有意差はなかったが、HOPE群に見られた44%のリスク軽減は臨床的には意義がある。とくに移植後グラフト不全がHOPE群に有意に少ないことは、遠方からのドナー心の搬送や複雑な手技が必要な心臓移植において、虚血時間等の問題解決につながる可能性がある。

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“しなくてもいいこと”を言う【もったいない患者対応】第18回

“しなくてもいいこと”を言う患者さんに対して指示を出す際に、「〇〇してください」だけでなく、「〇〇しなくてもいいですよ」という指示が必要なケースがあります。軽度外傷の消毒、抗菌薬たとえば、縫合処置のいらないような切り傷や擦り傷など、軽度の外傷で来院した患者さんには、「以前はこういった傷にはイソジン(ヨード液)のような消毒液で消毒していたんですが、いまは消毒が傷の治りを悪くすることがわかっているのでやらないんですよ」といった説明をしておくのが望ましいと考えています。というのも、「傷は消毒しなければならないものだ」と考えている患者さんは多いので、消毒をせず水道水による洗浄だけで対処し、のちに創部感染を起こしたりすると、「消毒してもらえなかったからではないか」と医師に対して不信感を抱くおそれがあるからです。ほかにも、「こうした小さな傷であれば抗生物質抗菌薬)は不要です。傷が膿んだりしたときには抗生物質を処方しますが、いまの時点では必要ないんですよ」といった説明が必要なのも、同じ理由です。患者さんによっては、過去の経験から「怪我には抗生物質が必要だ」と思い込んでいる方が多いからです。消毒と同様に、創部感染などの合併症を起こした際に問題になるため、あらかじめ説明すべきです。風邪に対する抗菌薬抗菌薬でいえば、風邪も同じです。もし風邪の患者さんから「抗生物質をもらえませんか?」と言われたら、前述のとおり「風邪はほとんどがウイルス感染なので、抗生物質は効かないんですよ。吐き気や下痢、アレルギーなどの副作用のデメリットのほうが大きいので、いまの時点では使用しないほうがいいでしょう」といった説明を返すことができますが、なかにはこうした質問をわざわざせず、心の中で、「抗生物質がもらえると思っていたのにもらえなかった」という不満を抱える患者さんもいるかもしれません。すると、のちに悪化して肺炎などを起こしてから、「あのとき、抗生物質を処方してもらえなかったからこんなことになったのだ」と誤解されるリスクがあるのです。医師が説明する必要がないと思ったことでも、一般的に知られておらず、かつ患者さんが誤解しがちなポイントは、先回りして伝えておくことが大切です。“すべきこと”に比べると“しなくてもいいこと”は、きちんと意識していないと抜け落ちてしまいがちです。十分に注意しましょう。

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第218回 医師不足地域での勤務経験を管理者要件に、対象医療機関を拡大/厚労省

<先週の動き>1.医師不足地域での勤務経験を管理者要件に、対象医療機関を拡大/厚労省2.電子処方箋とマイナ保険証の普及に遅れ、医療DXに課題/厚労省3.産婦人科・産科の減少が続く中、美容外科が急増/厚労省4.SNS誹謗中傷対策強化で相談窓口を来年から開設/日本医師会5.病院が深刻な赤字に、補助金減と収入減で経営難/病院団体6.医薬品の供給不安、問題の解消は半年先か?/日薬連1.医師不足地域での勤務経験を管理者要件に、対象医療機関を拡大/厚労省11月20日に厚生労働省は、「新たな地域医療構想等に関する検討会」を開催し、医師不足地域での開業や勤務を促すための経済的支援策と、医師過剰地域での開業規制などを検討する案を有識者検討会に提示した。医師不足地域では、開業や勤務に対する経済的支援を強化するほか、医師派遣を行う医療機関への支援も検討される。その一方で、医師過剰地域では、都道府県が必要な医療機能を要請し、応じない場合は勧告や公表を行うことができるようにする案が示された。医師不足地域での勤務経験を管理者要件とする医療機関を拡大する案も提示され、地域医療支援病院だけでなく、公立病院や公的医療機関も対象とする方針。日本病院会は、強制的な配置ではなく、医師の意欲や情熱を高める対策を重視するよう提言している。今後、医師の地域偏在是正に向け、厚労省は規制強化と経済的支援を組み合わせた総合的な対策パッケージを年内に策定する。参考1)第12回新たな地域医療構想等に関する検討会 医師偏在是正対策について(厚労省)2)医師不足地域で診療所開業支援など 医師の偏在に対策案 厚労省(NHK)3)医師過剰地域の診療所、開業に要件 厚労省案(日経新聞)4)医師少数地域での勤務要件、対象拡大を提案 厚労省、勤務期間は「1年以上」に延長(Gem Med)2.電子処方箋とマイナ保険証の普及に遅れ、医療DXに課題/厚労省厚生労働省は、11月19日に電子処方箋を導入した施設が全国で18.9%に止まっており、政府が推進する医療DXの進捗に遅れが生じていることを明らかにした。調剤薬局では導入率は5割を超えているものの、病院や診療所では導入が遅れている。電子処方箋は、薬の処方箋を電子化し、医療機関や薬局間で共有するシステム。政府は、医療情報の共有による重複投薬の防止や医療の質向上などを期待して導入を進めているが、システム改修の費用や時間などが課題となっている。福岡 資麿厚生労働大臣は、記者会見で「システム改修費の負担や周囲の施設への普及状況を様子見する医療機関が多いことが要因だ」と説明し、普及拡大に努める姿勢を示した。一方、マイナ保険証の利用率も低迷している。11月21日に開かれた社会保障審議会の医療保険部会で、今年10月の利用率は15.67%と、前月から増加したものの、目標には到達していない。12月2日には現行の健康保険証の新規発行が停止され、マイナ保険証が基本となるが、混乱を避けるために政府は、現行の健康保険証も1年間は使用できる措置を設けている。政府は、これまで電子処方箋の導入とマイナ保険証の利用を進めてきた。来年度からは介護保険証もマイナンバーカードに一体化されるなど、今後も普及を促進していく方針だが、医療・介護事業者への支援や国民への丁寧な説明など、さらなる取り組みが必要とみられる。参考1)第186回社会保障審議会医療保険部会(厚労省)2)マイナ保険証の利用率 10月なのに15.67% 病院27.96%、医科診療所12.91%(CB news)3)マイナ保険証を活用 電子処方箋導入の医療機関などは18.9%(NHK)3.産婦人科・産科の減少が続く中、美容外科が急増/厚労省11月22日に厚生労働省は、2023年の医療施設(静態・動態)調査・病院報告を公表した。これによると美容外科を標榜する診療所が2,016施設となり、3年間で43.6%増加したことが明らかになった。その一方で、産婦人科・産科を有する一般病院は前年比17施設減の1,254施設、小児科を有する一般病院は29施設減の2,456施設となり、それぞれ30年以上減少が続いている。近年は少子化による需要低下に加え、出産数そのものが大幅に減少していることが背景にある。今年1~9月の出生数は前年比5.2%減の54万人で、通年で70万人を割る見通し。日本医師会総合政策研究機構(日医総研)のレポートによると、美容外科医の増加が顕著で、2020年には診療所の35歳未満の医師の15.2%が美容外科で勤務していることが明らかになった。こうした状況について、山形大学大学院の村上 正泰教授は、医局の影響力低下や給与の低さ、長時間労働などが、若手医師の美容外科流出の要因になっていると指摘している。政府は、医師の働き方改革や待遇改善、キャリア支援などを進めることで、若手医師が保険診療の現場で働き続けられる環境を整備する必要がある。参考1)令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況2)産婦人科・産科が33年連続で最少更新 小児科のある一般病院も30年連続減 厚労省調査(産経新聞)3)診療所の美容外科が急増、3年間で4割増 厚労省調査、小児科は減少(朝日新聞4)美容外科3年で4割増 厚労省調査、伸び率首位 医師偏在助長の指摘も(日経新聞)5)1~9月出生数54万人 通年で70万人割れ公算大(東京新聞)4.SNS誹謗中傷対策強化で相談窓口を来年から開設/日本医師会日本医師会は、2025年1月から医療機関や医療従事者を対象とした「SNS等における誹謗中傷相談窓口」の運用を開始する。この窓口は、SNSや口コミサイト上での誹謗中傷や悪意ある書き込みに対処するための支援を目的としており、背景には医療機関に対する誹謗中傷が深刻化している状況がある。総務省は11月21日、SNS事業者に対し、誹謗中傷への対応を義務付ける改正プロバイダ責任制限法の施行に向け、月平均利用者数が1,000万人超のSNSを対象とする方針を示した。これにより、X(旧Twitter)やFacebook、Instagramなどが規制対象になるとみられる。改正法は2025年5月までに施行される予定で、SNS事業者には投稿削除の申し出に対し、迅速な判断と結果通知が義務付けられる。10月に日医が実施したアンケートでは、回答者の77%が誹謗中傷を経験し、そのうち削除を求めた投稿の8割が削除されていないことが判明。また、「相談したい」と答えた医療従事者は82%に達した。この結果を受け、相談窓口では電話とWebでの相談を受け付け、対応策を提示するほか、必要に応じて弁護士の紹介も行う。さらに、口コミサイトやSNSにおける「ペイシェントハラスメント」への関心が高まり、法的アドバイスを求める声も多い。相談窓口の開設により、医療現場の負担軽減と情報共有の場の構築が期待されている。日医の取り組みは、医療従事者と患者間の信頼関係を守る一助となるだけでなく、医療機関の社会的信用を保つ重要なステップとなる。今後の運用状況に注目が集まっている。参考1)SNS等における誹謗中傷相談窓口開設について(日本医師会)2)口コミサイトの誹謗中傷、日医が相談窓口開設へ 25年1月ごろ運用開始 法的アドバイスも(CB news)3)中傷対応義務、利用者1,000万人超のSNS対象 Xなど念頭(日経)5.病院が深刻な赤字に、補助金減と収入減で経営難/病院団体日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の3団体が合同で行った病院経営調査によると、2023年度の病院経営は、新型コロナウイルス関連の補助金減少や収入減の影響を受け、深刻な赤字に転落したことが明らかになった。調査対象となった967病院の2023年度の経常利益率は、100床当たりマイナス1.3%で、前年度のプラス4.9%から赤字に転落した。これは、新型コロナ関連の補助金などが大幅に減少したことに加え、本業の医療収入も減少したことが主な要因。2024年6月単月のデータでは、国の病院、自治体の病院、医療法人など、5つの開設主体のすべてで赤字を計上した。とくに、自治体病院の赤字幅が大きく、100床当たりマイナス9.2%に達した。病床区分別にみると、一般病院の赤字幅が最も大きく、100床当たりマイナス5.8%だった。療養・ケアミックス病院と精神科病院は黒字を維持したものの、前年同月からは悪化している。3団体では、2024年度の病院経営はさらに厳しさを増すと予想しており、病院経営の大きな転換点を迎えたと指摘している。また、医療機関の人材不足や人件費の高騰、医療材料費の高騰なども経営悪化に拍車をかけている。病院経営の悪化は、医療の質低下や医療提供体制の縮小に繋がりかねないと懸念されている。政府は、病院経営の安定化に向けた抜本的な対策を早急に講じる必要がある。参考1)2024年度 病院経営定期調査 概要版-最終報告(集計結果)-(病院3団体)2)病院の経常収支、5つの開設主体全て赤字に 6月単月、3団体の病院経営定期調査で(CB news)3)967病院の経常利益率マイナス1.3%に 23年度 3団体調査「24年度はさらに厳しさ増す」(同)6.医薬品の供給不安、問題の解消は半年先か?/日薬連近年、国内においてジェネリック医薬品を中心に医療用医薬品の供給不安が続き、とくに咳止め薬や解熱鎮痛剤の不足が深刻化し、小児科や薬局で患者対応に苦慮する現場が広がっている。中でもジェネリック(後発薬)医薬品を中心に薬局や医療機関で不足が深刻化している。日本製薬団体連合会が行った今年9月の調査では、医療用医薬品の18.5%に当たる3,103品目が出荷調整の対象となり、その6割以上がジェネリック医薬品だった。咳止め薬や解熱鎮痛剤、抗生物質の不足は、小児科や薬局ではとりわけ深刻で、代替薬への対応や粉薬が足りない場合に錠剤をすり潰す処方も行われている。冬季には、インフルエンザなど感染症の流行による患者の増加が予想され、薬不足が患者や医療現場にさらなる負担をかける懸念が高まっている。薬不足の背景には、複数のジェネリックメーカーによる品質不正がある。2020年以降、小林化工や日医工、業界最大手の沢井製薬で重大な不正が発覚した。これらの企業では、試験結果の捏造などの不正行為を防ぐ体制が機能しなかった。わが国のジェネリック市場は約1.4兆円で190社が参入しており、1社当たりの平均売上高はわずか70億円強と小規模。少量多品目生産による非効率な状態の中、シェア獲得のためにメーカーは価格競争を激化させ、さらに薬価の引き下げもあり、コスト競争がメーカーの収益を圧迫しているため、後発品の製造から撤退するメーカーも相次いでいる。安定供給のためには、医薬品の品質管理強化や生産体制の改革が急務とされているが、ジェネリック医薬品の生産効率を高めるための仕組み作りが求められている。今後の見通しとしては大手製薬会社による増産で、半年後に改善が見込まれている。薬不足は、患者や医療従事者に深刻な影響を与えており、政府と業界が一体となって安定供給に向けた取り組みを加速する必要がある。参考1)「医薬品供給状況にかかる調査(2024年10月)」 について(日薬連)2)医薬品 依然約2割が供給に支障 せき止め薬や解熱鎮痛剤も(NHK)3)薬不足はいつ終わる?ジェネリック再編#1(ダイヤモンドオンライン)4)第一三共・エーザイ・田辺三菱製薬…国内製薬大手が、処方薬の8割を占めるジェネリック市場から軒並み撤退した理由(同)

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Staphylococcus lugdunensis【1分間で学べる感染症】第15回

画像を拡大するTake home messageS. lugdunensisは、ほかのコアグラーゼ陰性ブドウ球菌と異なる特徴を持つ。黄色ブドウ球菌と同様に侵襲性感染を引き起こすことを覚えておこう。皆さんはStaphylococcus lugdunensis(スタフィロコッカス・ルグドゥネンシス:S. lugdunensis)という菌の名前を聞いたことがありますか? 今回は、この菌になじみがある方もそうでない方も、いま一度一緒に学んでいきましょう。では、なぜこの菌が重要なのでしょうか。結論から言うと、S. lugdunensisは「治療が遅れると致死率が高いから」です。皆さんは、表皮ブドウ球菌にはなじみがあるかもしれません。S. lugdunensisは表皮ブドウ球菌と同じコアグラーゼ陰性ブドウ球菌であるにもかかわらず、黄色ブドウ球菌に非常によく似た特徴を持っています。最も重要なポイントは、コンタミネーションが疑われることの多い表皮ブドウ球菌をはじめとするほかのコアグラーゼ陰性ブドウ球菌と異なり、血液培養でS. lugdunensisが検出されたら、メチシリン感受性ブドウ球菌(MSSA)と思って、その後の感染巣の検索や治療を検討しなければならない、ということです。S. lugdunensisの歴史から簡単に紹介すると、1988年にフランスのリヨンで初めて報告されました。lugdunumはリヨンのラテン語名であり、報告された土地の名が付けられました。微生物学的特徴としては、グラム陽性球菌に分類され、上記コアグラーゼ陰性を示します。コロニーはクリーム色で血液寒天培地において溶血を示すことが特徴です。粘着因子を有することが、高い病原性を示す理由でもあり、人工物が体内に存在する場合にはバイオフィルムを形成して抗菌薬が効果を発揮するのに難渋することがあります。主な臨床的な特徴としては、感染性心内膜炎や菌血症、皮膚軟部組織感染症や骨関節感染症など、黄色ブドウ球菌と類似の感染症を引き起こします。抗菌薬の感受性に関しては、セファゾリンを中心とした抗MSSA用の抗菌薬のほか、バンコマイシン、ダプトマイシン、ST合剤などにも感受性を示すことが多いとされます。以上、S. lugdunensisについて解説しました。「S. lugdunensisを見たらMSSAと思って治療する」という鉄則を念頭に置き、迅速な診断と適切な治療を心掛けるようにしましょう。1)Aldman MH, et al. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2021;40:1103-1106.2)Heilbronner S, et al. Clin Microbiol Rev. 2020;34:e00205-e00220.3)Argemi X, et al. J Clin Microbiol. 2017;55:3167-3174.

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第239回  温暖化でツツガムシ病はこれから増える?須藤・秋田大名誉教授の訃報を聞いて考えたこと

ツツガムシ病の早期診断法の開発、危険性・治療法の啓発活動に尽力した須藤恒久氏こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。いやあ、米国の大統領選に続き、兵庫県知事選の結果には驚きました。報道ではSNSを駆使して選挙運動を行ったとのことですが、誤情報も多く発信され、対立候補はその対応に相当苦慮したようです。新聞やテレビといった旧来のマスコミ報道の限界も垣間見えました。日本もポピュリズム政治がメインストリームになっていきそうで心配です。さて、今回は突然ですが、「ツツガムシ病」について書いてみたいと思います。というのも、私が新人記者時代、何度も取材でお世話になった秋田大学名誉教授の須藤 恒久氏が10月23日、98歳で逝去されたニュースを読んだからです。ツツガムシ病の早期診断法の開発、その危険性・治療法の啓発活動に尽力された須藤先生を悼みつつ、ツツガムシ病をはじめとするダニ媒介性疾患のこれからについて勝手に予想してみます。医師の頭にツツガムシ病の知識があれば診断できるが、なければ診断できず死に至る病ツツガムシ病は、ダニの一種であるツツガムシに刺されることによって発症する感染症です。かつては山形県、秋田県、新潟県などで夏季に河川敷で感染する“風土病”と言われていましたが、現在は媒介するツツガムシの種類も増え、ほぼ全国(北海道以外)で発生が確認されています。国立感染症研究所のWebサイトなどによれば、潜伏期は5〜14日で、典型的な症例では39℃以上の高熱、頭痛が現れます。その他の症状としては筋肉痛、咳、全身性のリンパ節腫脹、悪心、嘔吐、腹痛などがあります。早期に適切な治療を受けないと間質性肺炎、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、髄膜脳炎、急性腎障害、播種性血管内凝固(DIC)などを起こし、死亡する患者もいます。皮膚のどこかに特徴的なダニの刺し口がみられ、発症後数日で体幹部を中心に発疹が出るのも特徴です。この病気の最大のポイントは、ダニ媒介性のリケッチア症であることです。リケッチア症にはβラクタム系抗菌薬は効きません。ミノサイクリンなどのテトラサイクリン系抗菌薬が第一選択となります。というわけで、ツツガムシ病の診療経験がなく、リケッチア症の存在や、その治療法に疎い医師が初診でこの病気を診た場合、通常の抗菌薬が効かないために右往左往し、最悪、患者は死に至ることになります。実際、昨年1月、千葉県船橋市で70歳男性がツツガムシ病で死亡しています。この男性は、ツツガムシ病の発生が多い千葉県の南部地域に滞在中に草刈りをし、その約1週間後から咽頭痛や発熱、発疹の症状が出て、入院先の病院で約18日後に敗血症で死亡しています。ツツガムシ病との検査結果が出たのは死亡後でした。抗菌薬使用の主流がβラクタム系に変わり、知らないうちに治っていたツツガムシ病が治らなくなるさて、私が新人記者だった1980年代半ば頃、ツツガムシ病はまだ“風土病”の範疇で、全国的にはそれほど知られた病気ではありませんでした。ですから、医師向け月刊誌の企画にも選ばれたのでしょう。須藤氏に取材を依頼したのは、学会発表を聞いたか、学会誌などでの論文を読んだことがきっかけだったと思います。秋田大医学部の微生物学教室の狭い教授室で会った須藤氏は実に温厚で、秋田弁なまりの言葉でゆっくりと、そしてわかりやすくツツガムシ病について解説してくれました。須藤氏は秋田県由利本荘市出身で、東北大医学部を卒業後、県立中央病院微生物検査科長などを経て、1971年に秋田大医学部に創設された微生物学教室の教授に就任しました。1973年にツツガムシ病の研究を始め、1976年頃からツツガムシ病の早期診断・早期治療の啓発に取り組みました。その理由を須藤氏は、「秋田県の雄物川水系の風土病と言われていたツツガムシ病をなんとかしたかった」ことと、「医師の抗菌薬使用の主流がクロラムフェニコールやテトラサイクリン系からβラクタム系に変わってきたことで、それまで抗菌薬投与で知らないうちに治っていたツツガムシ病が治らなくなり、死亡例も多くなってきた」ことを挙げていました。須藤氏は1980年に免疫ペルオキシダーゼ反応による迅速血清診断法を確立、この診断法が普及していなかった当初は、全国からの検査依頼に対応したそうです。また、この方法は世界保健機関(WHO)の標準診断法に推薦され、東南アジア各国でも活用されるに至っています。こうした功績が認められ、須藤氏は1987年には病原微生物学、感染症学、公衆衛生学分野でわが国最高の賞とされる小島三郎記念文化賞を受賞しています。1992年に大学を退職した後も、医学誌などでツツガムシ病への注意喚起や早期診断・早期治療の啓発を続けられていました。4、5年おきに雑誌に掲載すると定番のように読まれたツツガムシ病の記事1980年代に書いた私の記事はとても読まれました。それだけ当時の医師にツツガムシ病の知識がなかったからだとも言えます。その後、日本紅斑熱(やはりマダニに刺されて発症するリケッチア症)やライム病(やはりマダニに刺されて発症するが、こちらはスピロヘータ感染症)などの取材で、幾度か秋田を訪れ、須藤氏を取材しました。当時は秋田の飲み屋街、川反通りも大変賑やかで、それはそれでいい思い出です。ツツガムシ病の記事は、4、5年おきに雑誌に掲載すると定番のように読まれました。それは、一定の期間が経てばこの病気を知らない医師が出てくることを意味します。須藤氏が生涯にわたって啓発活動に取り組んだ理由がわかる気がします。なお、ツツガムシ病は1999年4月に新感染症予防法の施行に伴って第4類感染症となり全数把握の対象となりました。ということで、国立感染症研究所のWebサイトに行けばその発症数を確認することができます。夏に患者数が多いわけではなく、むしろ今の時期、11月〜12月に患者数が多い地域もツツガムシ病は1種類のツツガムシによって発症するのではありません。かつての東北地方の”風土病”のように、夏に患者数が多いわけでもありません。むしろ今の時期、12月に患者数が多い地域もあります(先述した千葉県の死亡例は1月でした)。国立感染症研究所の病原微生物検出情報(IASR)の2022年8月号によれば、「全国集計では3~5月の春と11~12月の秋~初冬にかけた2つのピークがある。患者発生時期はツツガムシの種ごとの生息地域での幼虫の活動時期に左右される。寒冷に強いフトゲツツガムシが主に分布する地域では、孵化後の秋~初冬に患者が発生すると同時に、越冬した幼虫により春にも患者届出数のピークがみられる。一方、寒冷に弱いタテツツガムシの幼虫は越冬できず、その生息地では孵化した後の秋~初冬にかけて患者発生数のピークを示す」とのことです。ちなみに、かつて秋田県雄物川流域のほかに山形、新潟県の一部河川流域で多発していたツツガムシ病はアカツツガムシによるものだったそうです(最近は症例数が少なく、「古典型つつが虫病」と呼ばれています)。つまり、生息するツツガムシの種類とその地域の気候によって、患者の発生パターンは変わってくるということです。今後、温暖化が進めば、患者発生パターンも変動していくでしょう。たとえば、寒冷に弱いタテツツガムシが越冬できる地域が増えれば、そこでの春の発生も増えてくるかもしれません。ツツガムシ病は微増傾向、マダニが媒介する日本紅斑熱は明らかに増加傾向気になって、国立感染症研究所のWebサイトで年別の発生動向を調べてみました1)。それによると、ツツガムシ病は微増傾向、そしてマダニが媒介する日本紅斑熱は明らかに増加傾向にあるようです。マスコミは、北海道でブリが大漁となるなど、地球温暖化でとれる魚が変化することなどは大騒ぎしますが、ツツガムシ病などのダニの生息域の変化は大きくは報道されていません。日常診療と温暖化は今のところ関係ないように見えますが、昆虫などが媒介する感染症は大きな影響を受けます。ヤブ蚊(ヒトスジシマカ)が媒介するデング熱の発症地域が日本でも北上中との報道もあります。日頃から各都道府県の衛生研究所や地元の保健所からの最新情報には敏感になっておきたいものです。参考1)発生動向調査年別一覧(全数把握)/国立感染症研究所

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尿から嫌気性菌が発育したら何を考える?【とことん極める!腎盂腎炎】第9回

尿から嫌気性菌が発育したら何を考える?Teaching point(1)ルーチンで尿検体の嫌気性培養は依頼しない(2)汚染のない尿検体のグラム染色で菌体が見えるのに通常の培養で発育がないときに嫌気性菌の存在を疑う(3)尿検体から嫌気性菌が発育したら、泌尿器および生殖器関連の膿瘍疾患や瘻孔形成を疑う《今回の症例》66歳女性。進行子宮頸がんによる尿管狭窄のため半年前から尿管ステントを留置している。今回、発熱と腰痛で来院し、右腰部の叩打痛から腎盂腎炎が疑われた。ステントの交換時に尿管から尿検体を採尿し、グラム染色で白血球と複数種のグラム陰性桿菌を認めた。通常の培養条件では大腸菌のみが発育し、細菌検査室が嫌気培養を追加したところ、Bacteroides fragilisが発育した。検体採取は清潔操作で行われ、汚染は考えにくい。感染症内科に結果の解釈と治療についてコンサルトされた。1.尿検体の嫌気性培養は通常行わない細菌検査室では尿検体の嫌気性培養はルーチンで行われず、また医師側も嫌気培養を行う明確な理由がなければ依頼すべきではない。なぜなら、尿検体から嫌気性菌が分離されるのは約1%1)とまれで、嫌気性菌が常在している陰部からの採尿は汚染の確率が高く起炎菌との判別が困難であり、培養に手間と費用を要するためだ。とくに、中間尿やカテーテル尿検体の嫌気性培養は依頼を断られる2)。嫌気性培養が行われるのは、(1)恥骨上穿刺や泌尿器手技による腎盂尿などの汚染の可能性が低い尿検体、(2)嫌気性菌を疑う尿所見があるとき、(3)嫌気性菌が関与する病態を疑うときに限られる2)。2.嫌気性菌を疑う尿所見は?尿グラム染色所見と培養結果の乖離が嫌気性菌を疑うきっかけとして重要である2)。まず、検体の採取状況で汚染がないことを確認する。扁平上皮の混入は皮膚接触による汚染を示唆する。また、抗菌薬の先行投与がないことも確認する。そのうえで、尿検体のグラム染色で膿尿と細菌を認めるが通常の培養(血液寒天培地とBTB乳糖寒天培地)で菌の発育がなければ嫌気性菌の存在を疑う2)。細菌検査室によっては、この時点で嫌気性培養を追加することがある。グラム陰性桿菌であればより嫌気性菌を疑うが、グラム陰性双球菌の場合には淋菌を疑い核酸増幅検査の追加を考える。一方で、膿尿がみられるのにグラム染色で菌体が見えず、通常の尿培養で発育がなければ嫌気性菌よりも、腎結核やクラミジア感染症などの無菌性膿尿を疑う。3.嫌気性菌が発育する病態は?表に嫌気性菌が発育した際の鑑別疾患をまとめた。なかでも、泌尿器および生殖器関連の膿瘍疾患と、泌尿器と周囲の消化管や生殖器との瘻孔形成では高率に嫌気性菌が同定され重要な鑑別疾患である。その他の感染経路に、便汚染しやすい外性器および尿道周囲からの上行性感染やカテーテル、泌尿器科処置に伴う経尿道感染、経血流感染があるがまれだ3)。画像を拡大する主な鑑別疾患となる泌尿器・生殖器関連の膿瘍では、103例のうち95例(93%)で嫌気性菌を含む複数菌が同定され、その内訳はグラム陰性桿菌(B. fragilis、Prevotella属、Porphyromonas属)、Clostridium属のほか、嫌気性グラム陽性球菌やActinomyces属だったとされる3)。膀胱腸瘻についても、瘻孔形成による尿への便混入を反映し48例のうち44例(92%)で嫌気性菌を含む複数菌が同定されたとされる4)。逆に尿検体から嫌気性菌が同定された症例を集めて膿瘍や解剖学的異常の頻度を調べた報告はないが、筆者はとくに悪性腫瘍などの背景のある症例や難治性・反復性腎盂腎炎の症例などでは、解剖学的異常と膿瘍の検索をすることをお勧めしたい。また、まれな嫌気性菌が尿路感染症を起こすこともある。通性嫌気性菌のActinotignum(旧Actinobaculum)属のA. schaalii、A. urinale、A. massilienseで尿路感染症の報告がある。このうち最多のA. schaaliiは腎結石や尿路閉塞などがある高齢者で腎盂腎炎を起こす。グラム染色ではわずかに曲がった時々分岐のあるグラム陽性桿菌が見えるのに通常の培養で発育しにくいときは炭酸ガスでの嫌気培養が必要である。A. schaaliiはST合剤とシプロフロキサシンに耐性で、β-ラクタム系薬での治療報告がある5)。Arcanobacterium属もほぼ同様の経過で判明するグラム陽性桿菌で、やはり発育に炭酸ガスを要し、β-ラクタム系薬での治療報告がある6)。グラム陽性桿菌のGardnerella vaginalisは性的活動期にある女性の細菌性膣症や反復性尿路感染症、パートナーの尿路感染症の原因になるが、約3万3,000の尿検体中の0.6〜2.3%とまれである7)。メトロニダゾールなどでの治療報告がある。臨床経過と背景リスクによっては炭酸ガスを用いた嫌気培養の追加が考慮されるだろう。《症例(その後)》造影CTを追加したところ骨盤内膿瘍が疑われ、緊急開腹で洗浄したところ、腫瘍転移による結腸膀胱瘻が判明した。細菌検査室の機転により発育した嫌気性菌が膿瘍および膀胱腸瘻の手掛かりになった症例であった。1)Headington JT、Beyerlein B. J Clin Pathol. 1966;19:573-576.2)Chan WW. 3.12 Urine Cultures. Clinical microbiology procedures handbook, 4th Ed. In Leber AL (Ed), ASM Press, Washington DC. 2016;3.12.14-3.12.17.3)Brook I. Int J Urol. 2004;11:133-141.4)Solkar MH, et al. Colorectal Dis. 2005;7:467-471.5)Lotte R, et al. Clin Microbiol Infect. 2016;22:28-36.6)Lepargneur JP, et al. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 1998;17:399-401.7)Clarke RW, et al. J Infect. 1989;19:191-193.

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「電気絆創膏」で皮膚感染を予防する可能性

 実験段階にある「電気絆創膏」によって、いつの日か医師は薬を全く使わずに細菌感染を防げるようになる可能性のあることが、新たな研究で示された。皮膚パッチを通じて知覚できないほど弱い電気的刺激を与えることで、人間の皮膚の常在菌である表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)が10倍近く減少したことが確認されたという。米シカゴ大学化学科教授のBozhi Tian氏らによるこの研究の詳細は、「Device」に10月24日掲載された。Tian氏は、「この研究により、薬剤を使わない治療、特に薬剤耐性が深刻な問題となっている皮膚感染症や創傷の治療において素晴らしい可能性が広がった」と話している。 Tian氏らによると、電気はすでに数多くの疾患の管理に利用されている。例えば、ペースメーカーは電気を利用して安定した心拍を維持しており、眼球インプラントは電気で網膜を刺激することで視力を部分的に回復させることができる。 今回の研究では、抗菌薬の代わりに電気を使って表皮ブドウ球菌の増殖を制御できるかが調査された。研究グループは、表皮ブドウ球菌に着目した理由を、切り傷や医療処置によってこの菌が人体に侵入すると深刻な感染症を引き起こす可能性があるからだと説明している。なお、これまでに、全てのクラスの抗菌薬に耐性を持つ3種類の表皮ブドウ球菌の菌株が出現している。論文の責任著者の一人で米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)分子生物学教授のGurol Suel氏は、「ブドウ球菌は皮膚の常在菌であり、微生物生態系の一部を構成している。そのため、皮膚から完全に除去することは、別の問題が生じる可能性があるため望ましいことではない」と説明している。 今回の研究では、まず、マイクロエレクトロニクス技術を用いて、表皮ブドウ球菌の電気的刺激に対する生理的な反応を調査した。その結果、理想的な酸性条件下(pH 5)では、抗菌薬を使用しなくても細菌のバイオフィルム形成を99%抑制することが示された。しかし、弱アルカリ性(pH 7.4)の条件下では、細菌に対する電流の効果は示されなかった。健康な人間の皮膚は弱酸性だが、慢性の傷は中性からアルカリ性になる傾向がある。 この情報に基づき、研究グループは電子薬学皮膚パッチを設計した。この皮膚パッチには、1.5ボルトの微弱な電流を流すための電極と、酸性環境を作り出す水性ゲルが含まれている。豚の皮膚モデル上でこの皮膚パッチによる18時間の治療を行ったところ、表皮ブドウ球菌のレベルは、電気的刺激を与えていないブタの皮膚モデルと比べて10倍近く減少したことが示された。細菌に汚染されたカテーテルに皮膚パッチを貼った場合も、結果は同様であった。 研究論文の筆頭著者であるシカゴ大学のSaehyun Kim氏は、「電気的刺激に対する細菌の反応に関しては十分に研究されていない。その一因は、細菌が反応を示す条件が明らかになっていないことにある」と話し、「細菌が特定の条件下でのみ反応する性質を明らかにすることは、異なる条件を調べて他の細菌種を制御する方法を見つけ出すことにつながる」としている。 さらなる研究でこの皮膚パッチの安全性と有効性を検証する必要はあるが、Tian氏らは、薬なしで感染症を制御できる「電気絆創膏」につながる可能性があるとの考えを示している。

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第217回 医師偏在対策で自由開業の見直しも? 規制強化を提言/財務省

<先週の動き>1.医師偏在対策で自由開業の見直しも? 規制強化を提言/財務省2.マイナ保険証一本化へ、資格確認方法見直しを中医協で了承/厚労省3.医療費高騰で現役世代の負担軽減へ 高額療養費制度の見直しを検討/政府4.出産費用高騰、妊婦の負担軽減へ対策急務 保険適用など議論続く/厚労省5.美容医療トラブル増加で規制強化へ、年次報告義務化などを検討/厚労省6.生後6ヵ月の女児、抗菌薬過剰投与で死亡/兵庫県1.医師偏在対策で自由開業の見直しも? 規制強化を提言/財務省11月13日に財政制度等審議会は、2025年度予算編成に向けた議論を行い、財務省は医師の偏在対策が不十分であるとして、規制強化などを求める提言を行った。審議会で増田 寛也分科会長代理は、「これまでの取り組みは実効性が乏しかった」と指摘し、「診療報酬の減算などの経済的ディスインセンティブ措置を含め、より強力な対策が必要だ」と強調した。財務省は、医師多数区域での開業規制や診療報酬の地域別単価設定、自由開業・自由標榜の見直しなどを提言、また、地域で過剰な医療サービスを提供する医療機関に対し、診療報酬を減算する仕組みの導入の提案を行った。さらに、診療科別の医師偏在指標が不足している点を批判し、厚生労働省に対し、診療科ごとの医師偏在指標を早急に作成するよう求めた。これらの提言に対し、日本医師会は反発する可能性がある。政府は、年末までに医師偏在対策の総合的な対策パッケージを策定する予定だが、規制強化と医師確保の両立が課題となる。参考1)社会保障(財務省)2)過剰な医療への診療報酬減算を提言、財務省 偏在是正策、外来機能は「転換・集約」(CB news)3)医師偏在対策「手ぬるかった」財政審分科会で 増田氏は「もう一段強く」と主張(同)2.マイナ保険証一本化へ、資格確認方法見直しを中医協で了承/厚労省12月2日から健康保険証の新規発行が終了し、マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」が基本となることを受け、中央社会保険医療協議会(中医協)は11月13日、患者の資格確認方法の変更に伴うルール見直しを了承した。このため厚生労働省は、医療機関や薬局がマイナ保険証や資格確認書で患者の資格を確認できるよう、療養担当規則を改正する。マイナンバーカードを持っていない人や、健康保険証としての利用を登録していない人でも、保険者から発行される「資格確認書」を医療機関に提示することで、これまで通り保険診療が受けられる。資格確認書は、カード型、はがき型、A4型の3種類があり、氏名や被保険者番号などが記載される。申請は不要で、対象者には現行の健康保険証の有効期限に応じて、加入している医療保険者から無償で交付される。デジタル庁では、資格確認書の交付や健康保険証の有効期限に関する情報を公開し、マイナンバーカードの未取得者や、マイナンバーカードを健康保険証としての利用を登録していない人が従来通り保険診療を受けられるよう国民へ周知を図っている。中医協の小塩 隆士会長は、「マイナ保険証への移行に伴う混乱を懸念し、保険診療を受けられない人が出ないよう、必要があれば制度を改めるべきだ」と危惧している。厚労省は、マイナ保険証の利用促進に取り組む一方、国民が安心して保険診療を受けられるよう、制度の周知徹底に努めるとしている。参考1)中央社会保険医療協議会 総会(厚労省)2)12月2日以降の資格確認、療担規則見直しへ 厚労相が諮問 即日答申(CB news)3)2024年12月2日以降のマイナ保険証「以外」(資格確認書等)で保険診療受けるための法令整備を決定-中医協総会(2)(Gem Med)4)12月2日で発行停止の健康保険証、代わりとなる「資格確認書」の交付対象や方法は?-デジ庁が公開(CNET Japan)3.医療費高騰で現役世代の負担軽減へ 高額療養費制度の見直しを検討/政府医療費が高額になった場合に患者の自己負担を軽減する「高額療養費制度」について、政府は自己負担の上限額を引き上げる方向で検討に入った。11月15日、政府の有識者会議「全世代型社会保障構築会議」で、高額療養費制度の見直しを求める意見が相次いだ。厚生労働省は、医療費の増加や患者の負担能力向上を踏まえ、上限額を引き上げることで医療費の抑制と現役世代の保険料負担軽減を図りたい考え。具体的な引き上げ幅は、年収区分に応じて7~16%を軸に調整されており、所得が低い人への配慮も検討されている。引き上げは2段階で行われ、2025年度に上限額を引き上げた後、2026年度には年収区分を細分化し、高所得者はより高い上限額とする見込みである。高額療養費制度は、医療費の自己負担に上限を設け、超過分を健康保険組合などの保険者が給付する仕組み。近年、高額な新薬の登場や高齢化により、医療費が高額化するケースが増加しており、制度の適用件数と支給総額は増加している。政府は、今回の見直しを通じて、支払い能力に応じた負担を求める「応能負担」を強化したい考え。その一方で、患者の自己負担が増えることから、与野党を問わず反発が出る可能性もあり、今後の議論の行方が注目されている。参考1)全世代型社会保障構築会議[第19回](内閣府)2)高額療養費、見直し求める 政府の有識者会議(日経新聞)3)「高額療養費制度」上限額引き上げる方向で検討 厚労省(NHK)4)高額療養費制度の上限額引き上げ検討 最大5万400円、来年夏めど(朝日新聞)4.出産費用高騰、妊婦の負担軽減へ対策急務 保険適用など議論続く/厚労省値上げが続く出産費用と支援策の課題について、厚生労働省は11月13日に「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」を開き、出産費用の上昇や支援策の有効性を巡り多角的な議論が展開された。全国の正常分娩による出産費用は2024年度上半期で平均51万8,000円に達し、昨年度からさらに1万1,000円増加した。出産育児一時金は、2023年4月に42万円から50万円に引き上げられたが、実際の負担額を賄いきれないケースが多く、都道府県別では東京や神奈川で高額化が顕著となっている。一時金が不足する割合は、全国平均で45%に上り、個室利用料などを含めるとその割合は80%に達している。また、出産費用の「見える化」を目的としたウェブサイト「出産なび」についても検討会で報告が行われた。2024年5月に開設されたこのサイトは、認知率は36%、利用率は18%と低調で、妊婦の情報収集への活用が進んでいない現状が明らかとなった。その一方で、利用者の満足度は高く、妊婦が望む情報の充実が求められている。出産費用の保険適用(現物給付化)については賛否が分かれている。推進派は、経済的負担軽減や標準化の重要性を訴える一方、地方の産科医療体制への悪影響や財源問題を懸念する声もある。とくに一時金引き上げと同時に医療機関が費用を引き上げた印象が拭えず、さらなる分析が必要との意見が多く挙げられた。少子化対策として「安心して出産できる環境整備」の必要性が叫ばれる中、今後は出産費用の地域差解消や制度の簡素化、支援内容の拡充が急務となる。2025年春を目途に検討会での意見が集約される予定。参考1)第5回「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」(厚労省)2)「出産なび」を知らない妊産婦が6割超 開設後3ヵ月時点で 厚労省検討会に報告(CB news)3)出産育児一時金の引き上げで軽減されたはずが…妊婦の負担額が再び増加、原因は産院の値上げ(読売新聞)4)出産費用 半数近くで一時金の50万円上回る 厚生労働省(NHK)5)出産費用の保険適用には賛否両論、「出産育児一時金の引き上げを待って、医療機関が出産費用引き上げる」との印象拭えず-出産関連検討会(Gem Med)5.美容医療トラブル増加で規制強化へ、年次報告義務化などを検討/厚労省美容医療をめぐるトラブル増加を受け、厚生労働省は規制強化に乗り出す。11月13日に開かれた厚労省の「美容医療の適切な実施に関する検討会」では、クリニックなどに安全管理措置の状況を年1回、自治体に報告することを義務付ける案を含む報告書案が議論された。この背景には、美容医療に関する健康被害や料金トラブルなどの相談が急増している現状がある。国民生活センターへの相談件数は、2023年度には5,507件と、5年間で3倍に増加した。報告書案では、自由診療が多い美容医療は、保険診療に比べて行政による指導・監査の範囲が限定的であることや、患者の要望や医師の技量によって合併症や後遺症のリスクも高まる可能性があることなどが課題と指摘している。対応策として、医療機関による定期報告の仕組み導入が提案された。報告内容には、安全管理措置の実施状況、医師の専門医資格の有無、トラブル発生時の相談窓口などが含まれ、患者にとって必要な情報は自治体が公表する。厚労省は、年内にも正式な対策をまとめる方針。また、この検討会で臨床研修修了直後に若手の医師が美容医療分野に流入していることが指摘されたが、この問題は医師の偏在是正の観点から、厚労省において別途必要な検討がなされる見込み。参考1)美容医療の適切な実施に関する報告書(案)(厚労省)2)美容医療の安全管理状況を自治体に年1回定期報告へ 健康被害や料金相談増加で厚労省方針(産経新聞)3)美容医療、安全管理状況を年1回報告へ 自治体に 厚労省方針(毎日新聞)4)美容医療「安全管理の報告」取りまとめ案 若手医師の“直美”「別途検討必要」(CB news)6.生後6ヵ月の女児、抗菌薬過剰投与で死亡/兵庫県兵庫県立こども病院(神戸市中央区)は11月14日、生後6ヵ月の女児に抗菌薬を過剰投与する医療ミスがあり、女児が死亡したと発表した。女児は先天性疾患で入院しており、9月に肺炎症状がみられたため、医師が抗菌薬の点滴を指示した。しかし、医師は通常濃度の5倍の抗菌薬を投与するよう誤って指示し、看護師もそれに気付かず投与。さらに、投与時間も本来の2時間ではなく1時間と指示し、2倍の速度で投与していた。女児は点滴開始から約1時間後に心拍数が低下し、その後死亡が確認された。医師は「なぜ初歩的なことを間違ったのかわからない」と話しているという。病院では、医療事故調査委員会を設置し、投与と死亡の因果関係を調査する。また、病理解剖では、新型コロナウイルス感染や敗血症などの疑いもみられたが、抗菌薬の副作用に多い不整脈などは確認されなかったという。病院側は、医療ミスと死亡の因果関係は現時点では明らかではないとしているが、再発防止に向け、正しい希釈方法を看護師らが確認できるようシステムを改修するなどの対策を講じるとしている。参考1)規定量5倍の抗菌薬投与、女児が1時間半後に死亡…医師「なぜ初歩的なこと間違ったかわからない(読売新聞)2)兵庫県立こども病院 生後6か月の乳児 薬の過剰投与後に死亡(NHK)3)乳児に抗菌薬を過剰に投与、直後に死亡 兵庫・こども病院で医療事故(朝日新聞)4)兵庫県立こども病院で医療ミス 生後6カ月の女児に高濃度の抗菌薬を投与、2時間半後に死亡(神戸新聞)

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酒さ〔Rosacea〕・鼻瘤〔Rhinophyma〕

1 疾患概要■ 定義酒さは20歳代以降に好発し、顔面中央部の前額・眉間部、鼻部、頬部(中央寄り)、頤部に、紅斑・潮紅や毛細血管拡張による赤ら顔を来す疾患である。■ 疫学白人(コーカソイド)では5~10%程度までとする報告が欧米の地域からなされている。アジア人(モンゴロイド)では数~20%程度までの報告がある。日本人の酒さの罹患率の正確なデータはないが、自覚していない軽症例を含めると0.5~1%程度の罹患率が見込まれる。■ 病因酒さに一元的な病因は存在しない。酒さの病理組織学的病変の主体は、脂腺性毛包周囲の真皮内にあり、脂腺性毛包を取り囲む炎症と毛細血管拡張を来す。コーカソイドを祖先に持つ集団でのゲノムワイド関連解析(GWAS)調査では酒さ発症に遺伝的背景の示唆がある1)。後天的要因として、環境因子からの自然免疫機構・抗菌ペプチドの過活性化2,3)や肥満細胞の関与する皮膚炎症の遷延化4)、末梢神経応答などの関与する知覚過敏や血管拡張反応などが病態形成に関与することが示されている。■ 症状・分類酒さの皮疹は眉間部、鼻部・鼻周囲、頬部、頤部の顔面中央部に主として分布する。まれに頸部や前胸部、上背部の脂腺性毛包の分布部に皮疹が拡大することもある。酒さは主たる症候・個疹性状に基づいて、紅斑血管拡張型酒さ、丘疹膿疱型酒さ、瘤腫型酒さ・鼻瘤、眼型酒さの4病型・サブタイプに分類される。1)紅斑血管拡張型酒さ脂腺性毛包周囲の紅斑と毛細血管の拡張を主症候とし、酒さの中で最も頻度が高い病型である。寒暖差などの気温変化、紫外線を含む日光曝露、運動や香辛料の効いた食餌などの顔面血流が変化する状況で、火照りや顔の熱感などの自覚症状が悪化する。2)丘疹膿疱型酒さ尋常性ざ瘡と類似の丘疹や膿疱が頬部、眉間部、頤部などに出現する。背景に紅斑血管拡張型酒さにみられる紅斑や毛細血管拡張を併存することも多い。尋常性ざ瘡と異なり、丘疹膿疱型酒さには面皰は存在しないが、酒さと尋常性ざ瘡が合併する患者もあり得る。尋常性ざ瘡との鑑別には面皰の有無に加えて、寒暖差による火照り感や熱感などの外界変化による自覚症状の変動を確認するとよい。3)瘤腫型酒さ・鼻瘤皮下の炎症に伴って肉芽腫形成や線維化を来す病型である。とくに、鼻部に病変を来すことが多く、「鼻瘤」という症候名・病名でも知られている。頬部の丘疹膿疱型酒さを合併することがまれではない。紅斑毛細血管拡張型酒さや丘疹膿疱型酒さは女性患者の受診者が多いが、瘤腫型酒さ・鼻瘤では男女比は1対1である5)。4)眼型酒さ眼瞼縁のマイボーム腺周囲炎症・機能不全を主たる病態とし、初期症状は、眼瞼縁睫毛部周囲の紅斑と毛細血管拡張、そして眼瞼結膜の充血や血管拡張である。自覚症状として眼球や眼瞼の刺激感や流涙を訴えることが多い。眼型酒さのほとんどは、他の酒さ病型に併存しており、酒さの眼合併症という捉え方もされる。■ 予後生命予後は良い。紅斑血管拡張型酒さの毛孔周囲炎症と毛細血管拡張の改善には数年を要する。丘疹膿疱型酒さの丘疹・膿疱症状は、3~6ヵ月程度の治療で改善が期待できる。瘤腫型酒さ・鼻瘤は鼻形態の変形程度に併せて、抗炎症療法から手術療法までが選択されるが、症候の安定には数年を要する。眼型酒さの炎症症状(結膜炎や結膜充血)は3~6ヵ月程度の治療で改善が期待できる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)酒さの診断のための特定の検査方法はなく、皮疹性状や分布、臨床経過から総合的に酒さを診断する。酒さ患者にはアトピー素因やアレルギー素因を有する患者が20~40%ほど含まれており、特異的IgE検査(VIEW39など)を行い、増悪因子の回避に努める5)。アレルギー性接触皮膚炎の併存が疑われる場合にはパッチテスト(貼布試験)を考慮する。酒さ病変部では、毛包虫が増えていることがあり、毛包虫の確認には皮膚擦過試料の検鏡検査を行う。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)酒さの治療では、主たる症候を見極めて治療計画を立てる。一般的には、抗炎症作用を有する治療薬で酒さの脂腺性毛孔周囲の紅斑、丘疹、膿疱の治療を3~6ヵ月程度行う。炎症性皮疹のコントロールの後に、器質的変化による毛細血管拡張や、瘤腫や鼻瘤にみられる線維化と形態変形に対する治療を計画する。酒さ症候は、生活環境や併存症によっても症状の増悪が起こる5,6)。酒さの再燃や増悪の予防には、患者毎の増悪因子や環境要因に沿った生活指導と肌質に合わせたスキンケアが重要である。■ 丘疹膿疱型酒さに対する抗炎症外用薬・内服薬1)メトロニダゾール外用薬欧米では、メトロニダゾール外用薬(商品名:ロゼックスゲル)が酒さの抗炎症薬として1980年代から使用されている7,8)。わが国でも2022年に国際的酒さ標準治療薬の1つであるメトロニダゾール外用薬0.75%が酒さに対して保険適用が拡大された9)。メトロニダゾール外用薬は、その炎症反応抑制効果から丘疹膿疱型酒さにみられる炎症性皮疹の丘疹と膿疱の抑制効果、脂腺性毛包周囲の炎症による紅斑に対して改善効果が期待できる。2)イオウ・カンフルローションイオウ・カンフルローションは、わが国では1970年代から発売されざ瘡と酒さに対して保険適用がある。ただ、イオウ・カンフルローションの保険適用は、わが国での酒さ患者を対象とした臨床試験に基づいた承認経過の記録が見当たらず、現代のガイドライン評価基準に則した本邦での良質なエビデンスはない。イオウ・カンフルローションは、エタノールを含んでおり、皮脂と角層内水分の少ない乾燥肌の患者に用いると、乾燥感や肌荒れ感が強くなる場合がある。イオウ・カンフルローション懸濁液は、淡黄色で塗布により肌色調が黄色調となることがある。肌色調が気になる患者には、上澄み液だけを用いるなどの工夫をする。3)テトラサイクリン系抗菌薬ドキシサイクリンは、丘疹膿疱型酒さの炎症性皮疹(丘疹、膿疱)に有効である。酒さ専用内服薬としてドキシサイクリンの低用量徐放性内服薬が欧米では承認されている。ミノサイクリンは、ドキシサイクリン低用量徐放性内服薬と同等の効果が示されているが、間質性肺炎や皮膚色素沈着などの副作用から、長期服用時に留意が必要である10)。■ 紅斑毛細血管拡張型酒さに対する治療紅斑毛細血管拡張型酒さの主たる症候は、毛細血管の拡張に伴う紅斑や一過性潮紅である。治療には拡張した毛細血管を縮小させる治療を行う。パルス色素レーザー(pulsed dye laser:PDL)[595nm]、Nd:YAGレーザー[1,064nm]、Intense pulsed light (IPL)が、酒さの毛細血管拡張と紅斑を有意に減少させることが報告されている。これらのレーザー・光線治療は酒さに対しては保険適用外である。4 今後の展望2022年にメトロニダゾールが酒さに対して保険適用となり、わが国でも酒さ標準治療薬が入手できるようになった。酒さの診断名登録が増えており、医療関係者と患者ともに酒さ・赤ら顔に対する認知度の増加傾向が感じられる。しかしながら、潮紅や毛細血管拡張を主体とする紅斑毛細血管拡張型酒さに対する保険適用の治療方法は十分ではなく、今後の治験や臨床試験が期待される。5 主たる診療科皮膚科顔面の丘疹・膿疱を主たる皮疹形態とする疾患の多くは皮膚表面の表皮の疾患ではなく、真皮における炎症、肉芽腫性疾患、感染症、腫瘍性疾患である可能性が高い。皮膚炎症性疾患に頻用されるステロイド外用薬は、これらの疾患に効果がないばかりか、悪化させることがしばしば経験される。酒さは、ステロイドで悪化する代表的な皮膚疾患であり、安易なステロイド使用が患者と医療者の双方にとって望ましくない経過につながる。顔面に赤ら顔や丘疹や膿疱をみかける症例は、ステロイドなどの使用の前に鑑別疾患を十分に考慮する必要があるし、判断に迷う場合には外用薬を処方する前に速やかに皮膚科専門医にコンサルタントすることをお勧めする。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報酒さナビ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)National Rosacea Society(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)American Acne and Rosacea Society(医療従事者向けのまとまった情報、米国の本症の診療サイト)1)Aponte JL, et al. Hum Mol Genet. 2018;27:2762-2772.2)Yamasaki K, et al. Nat Med. 2007;13:975-980.3)Yamasaki K, et al. J Invest Dermatol. 2011;131:688-697.4)Muto Y, et al. J Invest Dermatol. 2014;134:2728-2736.5)Wada-Irimada M, et al. J Dermatol. 2022;49:519-524.6)Yamasaki K, et al. J Dermatol. 2022;49:1221-1227.7)Nielsen PG. Br J Dermatol. 1983;109:63-66.8)Nielsen PG. Br J Dermatol. 1983;108:327-332.9)Miyachi Y, et al. J Dermatol. 2022;49:330-340.10)van der Linden MMD, et al. Br J Dermatol. 2017;176:1465-1474.公開履歴初回2024年11月14日

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市中肺炎の入院患者、経口抗菌薬単独での有効性

 市中肺炎の入院患者のほとんどで、静注抗菌薬から経口抗菌薬への早期切り替えが安全であることが無作為化比較試験で示されているが、最初から経口抗菌薬のみ投与した場合のデータは限られている。今回、入院中の市中肺炎患者を対象にβラクタム系薬の投与期間を検討したPneumonia Short Treatment(PST)試験の事後解析として、投与開始後3日間の抗菌薬投与経路を静脈内投与と経口投与に分けて有効性を比較したところ、有意差が認められなかったことをPST研究グループのAurelien Dinh氏らが報告した。Clinical Microbiology and Infection誌2024年8月号に掲載。 PST試験は、ICU以外の病棟に市中肺炎で入院した患者を対象に、投与開始から3日間はアモキシシリン・クラブラン酸または第3世代セファロスポリン(セフトリアキソン、セフォタキシム)を静脈内投与または経口投与し、その後プラセボ群とアモキシシリン・クラブラン酸群に無作為化して5日間経口投与した無作為化プラセボ対照試験である。本試験では、主要評価項目である抗菌薬の投与開始から15日目の治療失敗(「体温37.9℃超」「呼吸器症状の消失・改善なし」「原因を問わず抗菌薬を追加投与」の1つ以上)について、3日間投与が8日間投与に非劣性を示したことがすでに報告されている。 今回の事後解析では、投与経路別の有効性を調べるため、最初の3日間が静脈内投与、すべて経口投与の症例の治療失敗率を比較し、さらにサブグループ(アモキシシリン・クラブラン酸と第3世代セファロスポリン、アモキシシリン・クラブラン酸の静注と経口、多葉性肺炎、65歳以上、CURB-65スコア3~4)でも比較した。 主な結果は以下のとおり。・PST試験から200例が組み入れられ、最初の3日間静脈内投与の症例は93例(46.5%)、すべて経口投与の症例は107例(53.5%)であった。・15日目の治療失敗率は静脈内投与(26.9%)と経口投与(26.2%)で有意差はなかった(調整オッズ比:0.973、95%信頼区間:0.519~1.823、p=0.932)。・15日目の治療失敗率はサブグループ間で有意差はなかった。 著者らは「本研究は探索的事後解析で、少ない症例数とロジスティック回帰に基づいているため結論には限界がある」と述べ、またニューキノロン系薬が本試験から除外されていることから「入院を必要とする市中肺炎に対する投与経路による新たな無作為化比較試験が必要」としている。

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救急外来でのChatGPTの活用は時期尚早

 人工知能(AI)のChatGPTを病院の救急外来(ED)で活用するのは時期尚早のようだ。EDでの診断にAIを活用すると、一部の患者に不必要な放射線検査や抗菌薬の処方を求め、実際には入院治療を必要としない患者にも入院を求めるような判断を下す可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のChristopher Williams氏らによるこの研究は、「Nature Communications」に10月8日掲載された。Williams氏は、「本研究結果は、AIモデルの言うことを盲目的に信頼するべきではないという、臨床医に対する重要なメッセージだ」と話している。 この研究でWilliams氏らは、EDの臨床ノートを用いて、AIモデル(GPT-3.5 turboとGPT-4 turbo)が、入院、放射線検査、抗菌薬処方の必要性の3点についての推奨を的確に提供できるかどうかを評価した。25万1,000件以上のED受診から、それぞれのタスクにつき1万件の受診サンプルをランダムに抽出し、患者の症状や診察所見などの書かれた臨床ノートの内容をAIモデルに分析させた。モデルには、患者に入院が必要か、放射線検査が必要か、抗菌薬の処方が必要かについて、全て「はい」か「いいえ」で答えさせた。 その結果、AIモデルは全体的に、実際に必要とする以上の過剰なケアを推奨する傾向があることが明らかになった。レジデントの医師の診断精度に比べて、GPT-4 turboモデルの精度は8%、GPT-3.5 turboモデルの精度は24%低かった。 こうした結果を受けてWilliams氏は、「AIモデルは医学試験の質問に答えたり臨床記録の作成を手助けしたりすることはできるが、現時点では、EDのような複数の要素を考慮する必要がある状況に対処できるようには設計されていない」とUCSFのニュースリリースで述べている。 Williams氏は、「AIモデルのこのような過剰処方の傾向は、モデルがインターネット上でトレーニングされているという事実によって説明できるかもしれない」と話す。正規の医療アドバイスサイトは、緊急性の高い医学的質問に回答するためではなく、それに答えることのできる医師に患者を紹介するために設計されている。 またWilliams氏は、「これらのAIモデルは、たいていの場合、『医師の診察を受けてください』と答えるようになっている。これは、安全性の観点からはもっともなことだが、EDの現場では、用心し過ぎることが必ずしも適切であるわけではない。不必要な介入が患者にはかえって害となり、リソースの浪費と患者の医療費増加につながる可能性があるからだ」と述べている。 Williams氏は、AIモデルをEDで活用するには、患者の診察により得られる情報を評価するためのより優れたフレームワークが必要だとの見方を示す。そして、そのようなフレームワークの設計者は、AIモデルが重大な問題を見逃さないようにしつつ、不要な検査や費用が発生しないようにバランスを取る必要があると述べる。同氏は、「完璧な解決策はない。それでも、ChatGPTのようなモデルにはこのような傾向があることが明らかになったのだから、われわれには、AIモデルを臨床現場でどのように機能させたいかを熟考する責任がある」と話している。

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“風邪”への抗菌薬処方、医師の年齢で明確な差/東大

 日本における非細菌性の急性呼吸器感染症に対する抗菌薬の処方実態を調査した結果、高齢院長の診療所、患者数が多い診療所、単独診療の診療所では抗菌薬を処方する割合が高く、とくに広域スペクトラム抗菌薬を処方する可能性が高かったことを、東京大学大学院医学系研究科の青山 龍平氏らがJAMA Network Open誌2024年10月21日号のリサーチレターで報告した。 日本では2016年より薬剤耐性(AMR)対策アクションプランなど、適切な抗菌薬処方を推し進める取り組みが行われているが、十分な成果は出ていない。そこで研究グループは、急性呼吸器感染症が不適切な抗菌薬処方を受けることが多い疾患の1つであることに注目し、非細菌性の急性呼吸器感染症に対する抗菌薬処方とそれに関連する診療所の特性を調査した。 研究グループは、電子カルテデータベースを用いて、2022年10月1日~2023年9月30日に非細菌性の急性呼吸器感染症(ICD-10のJ00~J06またはJ20~J22)と診断された外来の成人患者を抽出し、診療所の特性(院長の年齢や性別、患者数、グループ診療か単独診療か)と抗菌薬処方との関連を分析した。なお、成人のプライマリケアに従事する診療所に焦点を当てるため、耳鼻咽喉科および小児科の診療所と、研究期間中の非細菌性の急性呼吸器感染症の診療が100例未満の診療所は除外した。 主な結果は以下のとおり。・1,183軒の診療所を受診した97万7,590例(平均年齢:49.7[SD 20.1]歳、女性:56.9%)の非細菌性の急性呼吸器感染症患者を解析した。・抗菌薬は17万1,483例(17.5%)に処方され、広域スペクトラム抗菌薬抗菌薬処方全体の88.3%を占めた。・最も多く処方されたのはクラリスロマイシン(30.7%)で、レボフロキサシン(12.2%)、セフジトレン(11.2%)、アジスロマイシン(11.1%)、セフカペン(9.2%)、アモキシシリン(7.9%)と続いた。・高齢の院長の診療所、患者数が多い診療所、単独診療の診療所では、抗菌薬の処方が有意に多かった。 【院長の年齢が60歳以上vs.45歳未満】調整オッズ比(aOR):2.14、95%信頼区間(CI):1.56~2.92、p<0.001 【患者数が年間中央値58例/日以上vs.35例/日以下】aOR:1.47、95%CI:1.11~1.96、p=0.02 【グループ診療vs.単独診療】aOR:0.71、95%CI:0.56~0.89、p=0.01・院長の性別では統計学的に有意な差は認められなかった。・広域スペクトラム抗菌薬の処方に限定した解析でも、上記すべての特性で同様の傾向が認められた。 研究グループは「患者数の多い診療所は、時間的なプレッシャーや決断疲れのために抗菌薬を過剰に処方している可能性がある」と示唆したうえで、「今回の結果は抗菌薬の適正使用に向けて、より的を絞った介入の実施に役立つだろう」とまとめた。

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糞便中ヘリコバクター・ピロリ抗原検査、胃がん予防に有効か/JAMA

 国立台湾大学のYi-Chia Lee氏らは、糞便中ヘリコバクター・ピロリ抗原検査(HPSA)の勧奨が胃がんの罹患率および死亡率に与える影響を評価する目的でプラグマティックな無作為化臨床試験を行い、免疫学的便潜血検査(FIT)単独との比較において、HPSA+FITの勧奨は胃がんの罹患率や死亡率を低減しなかったことを報告した。ただし、検査への参加率と追跡期間の違いを考慮すると、HSPA+FIT群ではFIT単独群と比較し、胃がん死亡率に差はなかったが、罹患率低下との関連が示されたという。これまでHPSAが胃がんの罹患率と死亡率に及ぼす影響は不明であった。JAMA誌オンライン版2024年9月30日号掲載の報告。HPSA+FIT vs.FIT単独、胃がんの罹患率と死亡率を比較 研究グループは、2014年1月1日~2018年9月27日に、台湾の彰化県に在住し、大腸がん検診プログラム(2年ごとのFIT)の対象となる50~69歳の住民26万9,870例から24万例を無作為に抽出し、HPSA+FIT群またはFIT単独群に1対1の割合で無作為に割り付け、各検査への参加を募った(最終追跡調査は2020年12月31日)。 HPSA+FIT群でHPSAの結果が陽性の場合は、標準的な10日間の除菌療法(1~5日目:エソメプラゾール[40mg]1日1回+アモキシシリン[1g]1日2回、6~10日目:エソメプラゾール[40mg]1日1回+クラリスロマイシン[500mg]1日2回+メトロニダゾール[500mg]1日2回)を行い、終了後6~8週時のHPSAでも陽性だった場合は、さらに10日間の3剤併用療法(エソメプラゾール[40mg]1日1回+アモキシシリン[1g]1日2回+レボフロキサシン[500mg]1日1回)を行った。 主要アウトカムは、胃がんの罹患率および死亡率、副次アウトカムは大腸がんの罹患率および死亡率とし、ポアソン回帰モデルを用いて群間差を解析した。胃がんの罹患率と死亡率に有意差なし 無作為に抽出した24万例(平均年齢58.1歳[SD 5.6]、女性46.8%)のうち、3万8,792例は電話による連絡が取れず、4万8,705例には必要例数に達したため電話招待を行わなかった。参加率(電話による連絡が取れ招待された人のうち検査を受けた人の割合)は、HPSA+FIT群で49.6%(3万1,497/6万3,508例)、FIT単独群で35.7%(3万1,777/8万8,995例)であった。 HPSAを受けた3万1,497例中1万2,142例(38.5%)が陽性で、このうち8,664例(71.4%)が治療を完了し、91.9%で除菌が達成された。 胃がん罹患率(/100人年)は、HPSA+FIT群0.032%、FIT単独群0.037%、平均群間差は-0.005%(95%信頼区間[CI]:-0.013~0.003、p=0.23)、胃がん死亡率はそれぞれ0.015%と0.013%で、平均群間差は0.002%(95%CI:-0.004~0.007、p=0.57)であった。 事後解析において、検査への参加率、追跡期間、患者背景を補正後、HPSA+FIT群ではFIT単独群と比較し、胃がん罹患率の低下と関連していたが(補正後相対リスク[RR]:0.79、95%CI:0.63~0.98)、胃がん死亡率に差はなかった(1.02、0.73~1.40)。 抗菌薬を投与された参加者における主な副作用は、腹痛または下痢(2.1%)、消化不良または食欲不振(0.8%)であった。 なお、著者は研究の限界として、参加率が41.5%であったこと、HPSAの結果が陽性の参加者のうち治療を受けたのは71.4%であったこと、追跡期間が相対的に短かったことなどを挙げている。

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耐性菌が出ているけど臨床経過のよい腎盂腎炎に遭遇したら【とことん極める!腎盂腎炎】第8回

耐性菌が出ているけど臨床経過のよい腎盂腎炎に遭遇したらTeaching point(1)耐性菌が原因菌ではないことがあり、その原因について考える(2)多くが検体採取時のクリニカルエラーであるため採取条件の確認を行う(3)尿中の抗菌薬は高濃度のため耐性菌でも効いているように見えることがある(4)診断が正しいかどうか再確認を行うはじめに尿培養結果と臨床症状が合わない事例は、たまに遭遇することがある。“合わない”事例のうち、耐性菌が検出されていないのに臨床経過が悪い場合と、耐性菌が検出されているが臨床経過はよいものがある。今回は後者について解説していく。培養検査は原因菌のみ検出されるわけではなく、尿中に一定量の菌が存在する場合はすべて陽性となる。そのため、培養検査で検出されたすべての微生物が原因菌ではなく、複数菌が同時に検出された場合では、原因菌以外の菌が分離されていたことになる。それは耐性菌であっても同じであり、耐性菌が検出されているが臨床経過がよい場合、以下の2点が考えられる。1.検出された耐性菌が原因菌ではない場合膀胱内に貯留している尿は一般的に無菌であるが、尿路感染症を引き起こした場合、尿には菌が確認されるようになる。尿培養では尿中の菌量が重要になるが、採取条件が悪くなることで、周辺からの常在菌やデバイス留置による定着菌の混入を最小限におさえて検査を行うことで正しい検査結果が得られる。【採取条件が悪い場合(図)】尿は会陰や腟、尿道周囲の常在菌が混入しやすいため、採取条件が悪い場合は不正確な検査結果を招く恐れがある。画像を拡大する中間尿標準的な採取法で通常は無菌的に採取できるが汚染菌が混入するシチュエーションを把握しておく。女性は会陰や腟、尿道の常在菌が混入しやすいため、採取時は尿道周囲や会陰部を洗浄した後に採尿する。男性は外尿道口を水洗するだけで十分であるが、包茎であれば皮膚常在菌が混入しやすいので包皮を剥いてから採尿する。間欠導尿による採尿で汚染菌の混入を減らすことができる。尿道留置カテーテルからの採尿入れ替え直後のカテーテルを除き、通常カテーテルには細菌がバイオフィルムを形成しているため、検出された細菌が膀胱に停留しているものかどうかはわからない。もし、採尿する場合は、ポートを消毒後に注射器を使い採取をする。また、採尿バッグから採取を行うと室温で自然に増殖した細菌が検出されて不適切であるため行わないこと。尿バッグからの採尿乳児の場合は中間尿の採取は技術的に難しいため、粘着テープ付き採尿バッグを装着する。女児や包茎の男児では常在菌の混入が免れないため、不必要な治療や入院が行われる原因となる。回腸導管からの採尿回腸に常在菌は多く存在しないが、回腸導管やストーマ内は菌が定着しているため採取した尿は解釈が難しくなる。【保存条件が悪い場合】尿を採取後はできるだけ早く培養を開始しないといけないが、院外検査であったり、夜間休日で搬送がスムーズにできなかったりするなど、検査をすぐに開始できない場合が考えられる。尿の保存条件が悪い場合は、少量混入した汚染菌や定着菌が増え、原因菌と判別がしにくくなるほど尿培養で検出されてしまう。尿は採取後2時間以内に検査を開始するか、検査がすぐに開始できない場合は冷蔵庫(4℃)に保管をしなければならない。【複数菌が同時に検出されている場合】原因菌以外にも複数菌が同時に検出され、主たる原因菌が感受性菌で、汚染菌や定着菌、通過菌が耐性菌として検出された可能性がある。たとえば、尿道留置カテーテルが長期挿入されている患者や回腸導管でカテーテル挿入患者からの採尿で観察される。【常在菌の混入や定着菌の場合】Enterococcus属やStreptococcus agalactiae、Staphylococcus aureus、Corynebacterium属、Candida属については汚染菌や定着菌のことが多く、菌量が多くても原因菌ではないこともある(表1、2)1,2)。画像を拡大する画像を拡大する【検査のクリニカルエラーが原因となる場合】検体の取り違え(ヒューマンエラー)別患者の尿を誤って採取し提出した。別患者の検体ラベルを誤って添付した。別患者の検体で誤って培養検査を行った。培養時のコンタミネーション別患者の検体が混入してしまった。環境菌の汚染があった。感受性検査のエラー(テクニカルエラー)感受性検査を実施したところ、誤って偽耐性となった。感受性検査の試薬劣化。感受性検査に使用する試薬が少なかった。感受性試験に使用した菌液濃度が濃かった。2.検出された耐性菌が原因菌の場合【疾患の重症度が低い場合】入院適用がなく、併存疾患もなく、血液培養が陰性で、経口抗菌薬が問題なく服用ができる患者であれば外来で治療が可能な場合がある。その後の臨床経過もよいが、初期抗菌薬に耐性を認めた場合であってもそのまま治療が奏功する症例も経験する。しかし、耐性菌が検出されているため、抗菌薬の変更や治療終了期間の検討は慎重に行わなければならない。【抗菌薬の体内動態が原因となる場合】抗菌薬は尿中へ排泄されるため、尿中の抗菌薬は高濃度となる。尿中に排泄された抗菌薬濃度は血中濃度と平衡状態になく高濃度で貯留するため、たとえ耐性菌であっても感受性の結果どおりの反応をみせないことがある3)。抗菌薬のなかでも、濃度依存性のもの(ニューキノロンやアミノグリコシドなど)では効果が期待できると思うが、時間依存性のもの(β-ラクタム)でも菌が消失することを経験する。しかし、耐性菌であるため感受性菌に比べると細菌学的に効果が劣ることから、感受性の抗菌薬への変更も検討が必要になる。【診断は正しくされているのか】尿路感染症を診断する場合、鑑別疾患から尿路感染症が除外される条件が必要になる。たとえば、細菌が確認されない、膿尿が確認されない、尿路感染症に特徴的な所見が確認されないことが条件になる。尿は、汚染菌や定着菌が同時に検出されやすい検査材料になるため、検出菌の臨床的意義を再度検討し、診断が正しいのか確認することも求められる。おわりに感染症診療がnatural courseどおりにいかないことは、苦しいことであり、診療のうえで楽しみでもある。投与している抗菌薬に感受性の菌しか検出されていないのに、治りが悪いということはたまに遭遇するが、耐性菌が検出されているのにもかかわらず治療経過がよいというのは、どこかにピットフォールが隠れていないか疑心暗鬼になりがちである。治療経過がよいので、わざわざ抗菌薬を変更しないといけないのか、そもそも治療は必要なのか答えはみつからないことが多い。看護師に指示をして結果だけ待つのではなく、採取した尿を確認し、検査結果がどのように報告されているのか一度確認を行うことは、今後の感染症診療をステップアップする足がかりになるため、1つ1つ解決していきたいものである。1)Hooton TM, et al. N Engl J Med. 2013;369:1883-1891.2)Chan WW. Chapter 3 Aerobic Bacteriology. Urine Culture. Clinical Microbiology Procedures Handbook 4th Ed. ASM Press. 2016.3)Peco-Antic A, et al. Srp Arh Celok Lek. 2012;140:321-325.

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掌蹠角化症〔PPK:palmoplantar keratoderma〕

1 疾患概要■ 概念・定義掌蹠角化症は、手掌と足底の高度な過角化を主な臨床症状とする疾患群である。主として遺伝的素因により生じるが、非遺伝性の病型もある。掌蹠角化症の中には、掌蹠角化症の皮膚症状に加えて、がんあるいは他臓器の異常を伴うまれな遺伝性疾患も存在し、このような疾患群は掌蹠角化症症候群と呼ばれる。これらの合併症が重篤になると生命予後が悪化する。臨床所見ならびに病理組織像の検討のみから病型を決定するのは困難な場合が多く、遺伝歴の詳細な聴取、最終的には遺伝子変異の同定が必要となる。■ 疫学長島型掌蹠角化症の頻度は、日本および中国ではそれぞれ1万人当たり1.2人ならびに3.1人と見積もられている。ボスニア型掌蹠角化症の頻度はスウェーデンの北部(ボスニア湾沿岸地域)で、一般人口当たり0.3~0.55%(1万人当たり30~55人)と報告されている。筆者らは、2015年に掌蹠角化症の患者数についての全国1次アンケート調査を行った。全国の500床以上の病院の皮膚科ならびに小児科にアンケート用紙を送付して掌蹠角化症全国疫学調査を施行した。この調査では、過去5年間に期間を限定し、掌蹠角化症患者の家系の数、患者数を回答してもらうようにした。型が明らかな家系についてはそれぞれの型の家系の数、患者数の記載を依頼した。また、自由記載欄も設け、アンケート調査についての感想・要望などを記載も求めた。全国690施設の皮膚科ならびに小児科にアンケート用紙を送付した。うち325施設より回答を得た。病型が明らかな家系は113家系、患者数は147例(人口100万人当たり1.2人)であった。約9割は大学病院にて診断されていた。人口100万人当たりの患者数でみると、青森県が最多で、100万人当たり30.6人であった。■ 病因掌蹠角化症を構成するそれぞれの疾患は、大部分が遺伝性疾患である。原因遺伝子に遺伝子変異が生じることにより個々の疾患が引き起こされる。現在、個々の疾患の遺伝子変異は(掌蹠角化症を構成する)大多数の疾患において同定されている。■ 症状手掌と足蹠の過角化が存在する。過角化の程度や罹患部位は、個々の病型により異なる。過角化の状態も病型によりさまざまである。過角化の臨床症状に加え、手掌と足蹠の潮紅を伴う病型(わが国では最も多い病型である長島型掌蹠角化症)もある。■ 分類日本皮膚科学会作成の「掌蹠角化症診療の手引き」では、(1)びまん性角化を示す掌蹠角化症、(2)限局型・先天性爪甲肥厚症・線状・点状掌蹠角化症、(3)掌蹠角化症症候群の3群に分類している。びまん性角化を示す掌蹠角化症には8疾患、限局型・先天性爪甲肥厚症・線状・点状掌蹠角化症には9疾患、掌蹠角化症症候群には22疾患が含まれている。■ 予後びまん性角化を示す掌蹠角化症、限局型・先天性爪甲肥厚症・線状・点状掌蹠角化症は、生命予後は良い。掌蹠角化症症候群のうち、がん、拡張型心筋症を合併するものがあり、これらの疾患を合併すると予後不良である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)図の病型診断アルゴリズムにしたがって、おおよその病型の見当を付ける。これは外来において視診で行える。Transgrediensとは、掌蹠を超えて、指趾背側や手首、足首、アキレス腱部にまで皮疹が拡大していることである。日本皮膚科学会の掌蹠角化症診療の手引きを参考にすると、調べるべき原因遺伝子が判明する。上記の臨床的診断に引き続いて、患者より採血を行い、白血球よりDNAを抽出、病型の原因遺伝子の塩基配列を決定する。病因遺伝子変異を同定することが出来れば、病型が診断できる。可能であれば、家族の遺伝子変異同定も診療上非常に有益である。。家系図を描くことができれば、遺伝形式が判明し、確定診断に役立つとともに、患者ならびに家族に対して遺伝カウンセリングを行うことができる。図 (遺伝性・非症候性)掌蹠角化症の病型診断アルゴリズム画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)掌蹠角化症は症例数が少なく、大規模な治験が不可能である。そのためエビデンスレベルの高い治療法は確立されていない。現在、有効とされている治療法は、症例報告に基づくものである。1)外用療法サリチル酸ワセリンや尿素軟膏などの角質溶解剤の塗布やカルシポトリオール含有軟膏の塗布を行う。2)皮膚切削術コーンカッター、長柄カミソリ、生検用パンチ、眼科剪刀などを用いて肥厚した角質を除去する。3)内服療法レチノイド内服を行う。ただし、この薬剤には催奇形性があるので、妊婦または妊娠している可能性のある女性には投与してはならない。また、エトレチナートに対し、過敏症の既往歴のある患者、肝障害のある患者、腎障害のある患者、ビタミンA製剤投与中の患者、ビタミンA過剰症の患者には禁忌である。エトレチナートを処方するときには、処方のたびに所定の様式の文書での同意を得る。4)合併症に対する治療絞扼輪や皮膚がんなどの合併症に対しては早期発見に留意し、外科的に対処する。難聴、食道がん、歯周病、心筋症、真菌症、細菌感染症などの合併症に対しては専門医に治療を依頼すると同時に適切な抗真菌薬や抗生物質の投与などを行う。5)患者自身によるケア掌蹠に亀裂ができて疼痛をともなう場合、長柄カミソリなどを用いて、角質を削り、就寝時にワセリンを使用して密封療法(ODT)を行う。掌蹠の亀裂がなくなり、疼痛がやわらぐ。4 今後の展望核酸医薬低分子干渉RNA(siRNA)を用いる治療法も報告されている。KRT6A遺伝子に対するsiRNAを用いて、培養ヒト表皮角化細胞とマウスの皮膚におけるケラチン6aタンパク質の発現を抑制したという報告もある。この治療法は、先天性爪甲厚硬症患者にも使用されており、将来実行可能な方法であるがいまだ明らかになっていない部分もある。リードスルー薬を治療に用いたという報告もある。5例の長島型掌蹠角化症の患者に対してリードスルー薬としてゲンタマイシンを使用して有効であったという報告もあるが、報告例が少なく現時点ではその有効性についての結論は出ていない。ただ、ゲンタマイシンは安全かつ簡便に使用が可能で、本症以外の疾患でも効果が期待されているので、将来有望な治療薬であろう。5 主たる診療科皮膚科、小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 掌蹠角化症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)掌蹠角化症診療の手引き(医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2024年10月14日

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重度の便秘、メタン生成菌の過剰増殖が原因か

 重度の便秘の原因は、メタンを生成する腸内微生物(メタン生成菌)の過剰な増殖である可能性が、新たな研究で明らかになった。腸内細菌叢のバランスが崩れて腸内メタン生成菌異常増殖症(IMO)が引き起こされている人では、IMOがない人に比べて重度の便秘が生じるリスクが約2倍高いことが明らかになったという。米シーダーズ・サイナイ消化管運動プログラムの医療ディレクターを務めるAli Rezaie氏らによるこの研究の詳細は、「Clinical Gastroenterology and Hepatology」に8月13日掲載された。 人間の腸内には、細菌、ウイルス、真菌、古細菌など、数兆個もの微生物が生息している。このような腸内微生物は、食物の消化の促進や免疫反応の管理など、健康の維持に重要な役割を果たしている。しかし、有害な微生物が有益な微生物を駆逐して健康上の問題を引き起こすこともある。例えば、Clostridioides difficileという細菌が腸内に定着すると、ひどい下痢を引き起こすことがある。 メタン生成菌は、細菌や真菌とは異なる微生物の一種である古細菌に分類され、IMOは便秘などのさまざまな病気の発症機序に関与していることが示唆されている。このことからRezaie氏らは今回、IMOの症状の特徴を明らかにするために、19件の研究(対象は、IMO患者1,293人、IMOのない対照3,208人)を対象にシステマティックレビューとメタアナリシスを行い、IMOのある人とない人の消化器症状の発生率と重症度を比較した。 IMO患者には、膨満感(78%)、便秘(51%)、下痢(33%)、腹痛(65%)、吐き気(30%)、おなら(56%)など、さまざまな消化器症状が認められた。解析の結果、IMO患者は対照に比べて、便秘の発生率が有意に高かったが(47%対38%、オッズ比〔OR〕2.04、95%信頼区間〔CI〕1.48〜2.83、P<0.0001)、下痢の発生率は低いことが明らかになった(37%対52%、OR 0.58、95%CI 0.37〜0.90、P=0.01)。また、IMO患者は対照に比べて、便秘の重症度は有意に高いが(標準化平均差〔SMD〕0.77、95%CI 0.11〜1.43、P=0.02)、下痢の重症度は有意に低いことも示された(SMD −0.71、95%CI −1.39〜−0.03、P=0.04)。 便秘は一般的に、食物繊維の摂取不足や薬の副作用などが原因とされるが、研究グループは、腸内細菌の構成も便秘の一因である可能性を疑っていたという。Rezaie氏は、「われわれの研究により、IMO患者は便秘、特に重度の便秘になりやすい一方で、重度の下痢になる可能性は低いことが明らかになった」と述べている。 研究グループは、IMOを原因とする便秘の治療には、抗菌薬と腸内細菌の健康促進を目的とした特別な食事療法を組み合わせる必要があると話す。最も一般的な方法である下剤による治療は、症状を一時的に緩和するものの、問題の根本的な解決にはならない。そのため研究グループは、まずは呼気検査によりIMOの有無を確認することが重要だと話す。 Rezaie氏によると、IMOは簡単な呼気検査で確認できるという。同氏は、「腸内に古細菌が過剰に存在するとメタンの生成が増え、その一部が血流に入り込んで肺に運ばれ、呼気として排出される。IMOの診断テストは、そのような呼気中のメタンを利用して行われる。基本的に、メタンが過剰に存在する人は、便秘、鼓腸、腹部膨満感、下痢など、多くの消化器症状を呈する」と説明する。 Rezaie氏は、「将来的には、IMOを原因とする便秘に悩む人を対象に、特定の治療法や個別化された治療法の開発を進めたいと考えている。そのための最初のステップは、呼気検査により過剰なメタン生成を特定し、古細菌の過剰増殖を検出することだ。それが、最終的にはより的を絞った治療法の開発につながる可能性がある」と話す。同氏はさらに、「これは、一般的な下剤による治療から脱却するための大きな一歩だ」と付言している。

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第116回 アメリカで百日咳が急増、警告

前年比5倍で急増ペースの百日咳アメリカでは、百日咳の報告数が、前年比5倍に増加していると報道されています。え?百日咳?マイコプラズマじゃなくて?米国疾病予防管理センター(CDC)1)によると、2024年では累計1万5,661件の百日咳症例が確認されたと報告しています。昨年の同時期の3,635件と比べると「急増」と言ってもいいでしょう2)。2014年以来、10年ぶりの水準とされています。ウィスコンシン州では前年比約24倍、マサチューセッツ州に至っては前年比約51倍となっています。この理由として「ワクチン接種の忌避」があるようです。ワクチン反対の感情の高まりが感染拡大に影響していると指摘されているのです。なんか最近ワクチンネタが多いこの連載ですが、なんでもかんでもワクチンと結びつけようとまでは思っていません。ただ、そういう忌避が次の感染症を引き起こすトリガーになっているという指摘はほうぼうから上がっています。しかしまあ、さすがに百日咳ワクチンは打っておいたほうがよいでしょう。日本の4種混合ワクチン接種率はきわめて高い(2歳児の接種完了率は97%以上)ですが、実は、世界的にはジフテリア、破傷風、百日咳の混合ワクチンを受けているのは84%と低い状況です。この数値だけをみると、日本で百日咳が問題になることはそれほどないかもしれません。ただ、日本では、百日咳ワクチンの接種開始の月齢が早期化しており、実は3歳以上で百日咳ワクチンを接種される機会が多くないのです。そのため、5歳頃には抗PT抗体の保有率が20%台にまで低下するとされています。鑑別診断に入れよう若い頃は、ちらほら百日咳っぽい患者さんを診たことがあるのですが、コロナ禍以降は、そもそも咳嗽の「受診遅れ」がひどく、鑑別診断にすら挙がりにくくなりました(もしそうでも抗菌薬での介入が難しいフェーズに入っているため)。「咳で悩んでいるんです」「ほうほう、どのくらいですか?」「1年前からです」なんて会話もざらです。2018年から5類感染症(全数把握対象疾患)に定められたので、一時的に診断ムーブメントが勃興しましたが、最近は咳のセミナーなどでも百日咳という鑑別診断をとんと耳にしません。昔は、抗体価の結果が返ってくる頃に治療を始めても遅かったので、経験的治療を導入することもありました。現在の診断においては、イムノクロマト法や核酸増幅法が使用可能です。咳が強めだとマイコプラズマかもしれないということで、マクロライドが入ることも多いと思います。実際、これは百日咳にも有効なので、どちらもカバーできる優れものです。それでもなお、頭のどこかで「百日咳かもしれない」と思いながら、咳嗽診療に当たるべきでしょう。ちなみに、2024年4月1日から、これまで使われてきた4種混合ワクチンにヒブワクチンを加えた5種混合ワクチンが定期接種の対象となっています。親の立場としては非常にラクになります。参考文献・参考サイト1)CDC. Pertussis Surveillance and Trends2)Weekly cases of notifiable diseases, United States, U.S. Territories, and Non-U.S. Residents week ending September 21, 2024 (Week 38)

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薬剤耐性に起因する死者数、2050年までに3900万人以上に/Lancet

 微生物に対して抗菌薬が効かなくなる薬剤耐性(antimicrobial resistance;AMR)が健康上にもたらす脅威が増大している。こうした中、AMRに対する措置を早急に講じない限り、今後25年の間にAMRに起因する世界の死者数が3900万人に上るとの予測が示された。AMRに関するグローバル研究(GRAM)プロジェクトによるこの研究結果は、「The Lancet」に9月16日掲載された。 AMRは、すでに世界規模の健康問題として広く認識されており、その影響は今後数十年でさらに大きくなると予想されている。しかし、これまでAMRの歴史的傾向を評価し、AMRが今後、世界に与える影響を詳細に予測する研究は実施されていなかった。 AMRの真の規模を初めて明らかにしたのは、2022年に発表された最初のGRAM研究である。この研究では、2019年の世界におけるAMR関連の死者数は、HIV/AIDSやマラリアによる死者数を上回り、120万人の直接的な死因になるとともに、495万人の死因にも関与していることが示唆された。 今回、報告された新たなGRAM研究では、204の国と地域のあらゆる年齢の人を対象に、22種類の病原体、84種類の病原体と薬剤の組み合わせ、および髄膜炎、血流感染症などの11種類の感染症に関連する死者数が推定された。推定は、1990年から2021年までの病院の退院データ、死因データ、抗菌薬使用調査など、さまざまな情報源からの5億2000万件の個人記録に基づいて算出された。また、得られた推定値に基づき、AMRが2022年から2050年の間に健康に与える影響についても推定された。 その結果、1990年から2021年の間に、AMRを直接原因として毎年100万人以上が死亡していたものと推定された。この間のAMRによる死亡の傾向には年齢層により大きな違いが見られ、5歳以下の子どもでは、AMRを直接原因とする死者数は59.8%、AMR関連の死者数は62.9%減少していたが、70歳以上の高齢者では同順で89.7%と81.4%増加していたと推定された。 現在の傾向に基づくと、今後数十年間でAMRによる死者数は増加の一途をたどり、2050年までにAMRを直接原因とする死者数は年間191万人に達すると予測された。これは、2021年(114万人)から67.5%の増加に相当する。同様に、2050年までにAMR関連の死者数も2021年(471万人)から74.5%増の822万人に達すると予測された。2025年から2050年までの間の累計死者数は、AMRを直接原因とする死者数が3900万人以上、AMR関連の死者数で1億6900万人以上に上ると推定された。さらに、子どものAMRによる死者数は今後も減少し続ける一方で、70歳以上での死亡者数は2050年までに146%増加する可能性があると予測された。 論文の筆頭著者である、米ワシントン大学保健指標評価研究所のMohsen Naghavi氏は、「これらの結果は、AMRが何十年にもわたって世界的な健康上の重大な脅威であり、また、この脅威が今も拡大していることを浮き彫りにしている」と話す。 一方、論文の共著者の一人であるノルウェー公衆衛生研究所のStein Emil Vollset氏は、「この問題が致命的な現実となるのを防ぐためには、ワクチン接種や新薬の開発、医療の向上、既存の抗菌薬へのアクセスの改善、そしてそれらの最も効果的な使用方法に関する指導などを含む、重篤な感染症リスクを減じるための新しい戦略が緊急に必要だ」と述べている。

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腎盂腎炎に対する内服抗菌薬を極める~スイッチのタイミングなど~【とことん極める!腎盂腎炎】第7回

腎盂腎炎に対する内服抗菌薬を極める~スイッチのタイミングなど~Teaching point(1)抗菌薬投与前に必ず血液/ 尿塗抹・培養検査を提出する(2)単純性腎盂腎炎ではセフトリアキソンなどの単回注射薬を使用し、適切なタイミングで内服抗菌薬に変更する(3)複雑性腎盂腎炎では基本的には入院にて広域抗菌薬を使用する。外来で加療する場合は慎重に、下記のプロセスで加療を行う(4)副作用や薬物相互作用に注意し、適切な内服抗菌薬を使用しよう《今回の症例》78歳、男性。ADLは自立。既往に前立腺肥大症があり尿道カテーテルを留置されている。来院3日前から悪寒戦慄を伴う発熱と右腰背部痛があり当院を受診した。尿中白血球(5/1視野)と尿中細菌105/mLで白血球貪食像があり、訪問看護師からの「尿道カテーテルをしばしば担ぎあげてしまっていた」という情報と併せ、カテーテル関連の腎盂腎炎と診断した。来院時、発熱に伴うふらつき・食思不振がみられたため入院加療とした。尿中のグラム染色とカテーテル留置の背景からSPACE(S:Serratia属、Pseudomonas aeruginosa[緑膿菌]、Acinetobacter属、Citrobacter属、Enterobacter属)などの耐性菌を考慮し、ピペラシリン/タゾバクタム1回4.5gを6時間ごとの経静脈投与を開始し、経過は良好であった。その後、尿培養と血液培養から緑膿菌が検出された。廃用予防のため早期退院の方針を立て、内服抗菌薬への切り替えを検討していた。また入院3日目に嚥下機能を確認したところ嚥下機能が低下していることが判明した。はじめに本項では腎盂腎炎の内服抗菌薬への変更のタイミングや嚥下機能や菌種による選択薬のポイントや副作用などについて述べる。まずひと口に腎盂腎炎といっても、単純性腎盂腎炎と複雑性腎盂腎炎では選択するべき抗菌薬や対応は異なる。 1.単純性腎盂腎炎単純性腎盂腎炎において、(1)ショックバイタルでない、(2)敗血症でない、(3)嘔気や嘔吐がない、(4)脱水症の徴候が認められない、(5)免疫機能を低下させる疾患(悪性腫瘍、糖尿病、免疫抑制薬使用、HIV感染症など)が存在しない、(6)意識障害や錯乱などがみられない、のすべてを満たせば外来での治癒が可能である1)。単純性腎盂腎炎の原因菌はグラム陰性桿菌が約80%を占め、そのうち大腸菌(Escherichia coli)が90%である。そのほかKlebsiella属やProteus属が一般的であることからエンピリックにセフトリアキソンによる静脈投与を行う。その後、治療開始後に静注抗菌薬から経口抗菌薬へのスイッチを考慮する場合、従来からよく知られた指標としてCOMS criteriaがある(表1)。画像を拡大する2.複雑性腎盂腎炎冒頭の症例も当てはまるが、複雑性腎盂腎炎は、尿路の解剖学的・機能学的問題(尿路狭窄・閉鎖、嚢胞、排尿障害、カテーテル)や全身の基礎疾患をもつ尿路感染症である。一番の問題としては再発・再燃を繰り返し、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、Enterobacter属、Serratia属、Citrobacter属、腸球菌(Enterococcus属)などの耐性菌が分離される頻度が増えることである。そのため単純性のように単純にセフトリアキソン単剤→内服スイッチともいかないのが厄介な点である。この罠にはまらないためには、必ず尿塗抹・培養検査を提出しグラム染色を確認することが大切である。基本的には全例入院で加療することが推奨されているが、全身状態良好でかつグラム陰性桿菌が起因菌とわかった際には周囲に見守れる人の確認(高齢者の場合)や連日通院することを約束しセフトリアキソンを投与し、培養結果と全身状態が改善したことを確認して内服抗菌薬を処方する2)。この場合も合計14日間の投与期間が推奨されている1)。なお、複雑性腎盂腎炎を外来加療することはリスクが高く、入院加療が理想である。【内服抗菌薬の使い分け】いずれにせよ培養の結果がKeyとなるが、一般的な内服抗菌薬は以下が推奨されている。処方例3,4)(1)ST合剤(商品名:バクタ)1回2錠を12時間ごとに内服(2)セファレキシン(同:ケフレックス)1回500mgを6〜8時間ごとに内服(3)シプロフロキサシン(同:シプロキサン)1回300mgを12時間ごとに内服(4)レボフロキサシン(同:クラビット)1回500mgを24時間ごとに内服腎機能に合わせた投与量や注意事項など表2に示す。なお、腎機能はeGFRではなくクレアチニンクリアランスを使用し評価する必要がある。画像を拡大する治療期間は一般に5〜14日間であり、選択する抗菌薬による。キノロン系は5〜7日間、ST合剤は7〜10日間、βラクタム系抗菌薬は10〜14日間の投与が勧められている2)。各施設や地域の感受性パターンに基づいて抗菌薬を選択することも大切である。筆者の所属施設では、単純性の腎盂腎炎の内服への切り替えは大腸菌のキノロン系への耐性が20%を超えていることから、セファレキシンやST合剤を選択することが多い。【各薬剤の特徴】<ST合剤>バイオアベイラビリティも良好で腎盂腎炎の起因菌を広くカバーする使いやすい薬剤である。ただし最近では耐性化も進んできており培養結果を確認することは重要である。また消化器症状、皮疹、高カリウム血症、腎機能障害、汎血球減少など比較的副作用が多いため注意して使用する5)。とくに65歳以上の高齢患者では高カリウム血症と腎不全をより来しやすいと報告されており経過中に血液検査で評価する必要がある6)。簡易懸濁も可能なため、嚥下機能低下時や胃ろう造設されている患者でも投与可能である。妊婦への投与は禁忌である。<セファレキシン>第1世代セフェム系抗菌薬であるセファレキシンは、一部の大腸菌などの腸内細菌に耐性の場合があるため、起因菌や感受性の結果を確認することが重要である。また一般的には長時間作用型の静注薬であるセフトリアキソンを初めの1回使用したうえで、セファレキシンを用いることが推奨されている。なお第2世代セフェム系内服抗菌薬であるセファクロル(商品名:ケフラール)はアレルギーの頻度が多いため推奨されていない。第3世代セフェム系抗菌薬(同:メイアクトMS、フロモックス)は、わが国ではさまざまな場面で使用されてきたが、バイオアベイラビリティの関係で処方しないほうがよい。ペニシリン系では、βラクタマーゼ阻害薬配合であれば使用可能とされている。日本のβラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン(同:オーグメンチン)はペニシリン含有量が少なく、アモキシシリン(同:サワシリン)と併用し、サワシリン250mg+オーグメンチン375mgを8時間ごとに投与することが推奨されている。<ニューキノロン系>シプロフロキサシン、レボフロキサシンなどのニューキノロン系については、施設における大腸菌のニューキノロン耐性が10%以下の際は経験的治療として投与が可能とされている。また大腸菌以外に緑膿菌にも効果があることが最大の利点であるため、耐性獲得の点からはなるべく最低限の使用を心がけ、温存することが推奨される。副作用としてQT延長、消化器症状、アキレス腱断裂、血糖異常がある。相互作用として、NSAIDsやテオフィリン(とシプロフロキサシン)との併用で痙攣発作を誘発する7)。妊婦への投与は禁忌である。レボフロキサシンはOD錠があるため、嚥下機能が低下している高齢者にも使いやすい。細粒もあるが、経管栄養では溶けにくいため細粒ではなく錠剤を粉砕する方が望ましい。<ESBL産生菌>extended spectrum β-lactamases(ESBL)産生菌に対する経口抗菌薬としてST合剤やホスホマイシンが知られている。ST合剤は感受性があれば使用可能であり、カルバペネム系抗菌薬に治療効果が劣らず、入院期間の短縮、合併症の減少、医療コストの削減が期待できるとの報告がある8)。ホスホマイシンは、海外では有効性が示されているものの、国内で承認されている経口薬はfosfomycin calciumだが、海外で用いられているのはfosfomycin trometamolであるため注意を要する。fosfomycin trometamolのバイオアベイラビリティは42.3%だがfosfomycin calciumのバイオアベイラビリティは12%にすぎない。近年耐性菌が増加するなかで他剤と作用機序の異なる本剤が見直されてきてはいるが、国内で有効性が示されているのは単純性の膀胱炎のみである7,9)。腎盂腎炎に対する有効性は現在研究中であり、現時点では他剤が使用できない軽症膀胱炎、腎盂腎炎に使用を限定するべきである。《今回の症例のその後》尿培養から検出された緑膿菌はレボフロキサシンへの感性が良好であった。心電図にてQT延長がないことを確認し、入院5日目に全身状態良好で発熱など改善傾向であったことから、レボフロキサシンOD錠1回250mgを24時間ごと(腎機能低下あり、用量調節を要した)の内服へ切り替え同日退院し再発なく経過している。1)山本 新吾 ほか:JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015 ─ 尿路感染症・男性性器感染症─. 日化療会誌. 2016;64:1-30.2)Johnson JR, Russo TA. N Engl J Med. 2018;378:48-59.3)Hernee J, et al. Am Fam Physician. 2020;102:173-180.4)Gupta K, Trautner B. Ann Intern Med. 2012;156:ITC3-1-ITC3-15, quiz:ITC3-16.5)Takenaka D, Nishizawa T. BMJ Case Rep. 2020;13:e238255.6)Crellin E, et al. BMJ. 2018;360:k341.7)青木 眞 著. レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版. 医学書院. 2020.8)Shi HJ, et al. Infect Drug Resist. 2021;14:3589-3597.9)Matsumoto T, et al. J infect Chemother. 2011;17:80-86.

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