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大腸手術前のMOABPは有益か/Lancet

 大腸手術において、機械的腸管前処置と経口抗菌薬の併用による腸管前処置(MOABP)は、腸管前処置なし(NBP)と比較して、手術部位感染(SSI)や術後合併症は低下しないことが示された。フィンランド・ヘルシンキ大学のLaura Koskenvuo氏らが、現在推奨されているMOABPの日常的な使用について検証した前向き多施設共同無作為化単盲検並行群間試験「Mechanical and oral antibiotic bowel preparation versus no bowel preparation for elective colectomy:MOBILE試験」の結果を報告した。これまで行われたいくつかの大規模後ろ向き研究において、MOABPによりNBPと比較しSSIと術後合併症が減少することが報告されている。米国ではそれらのデータに基づいてMOABPの実施が推奨されているが、著者は今回の結果を受けて、「結腸切除術でSSIや合併症を減らすために、MOABPを推奨することは再考されるべきであると提案したい」とまとめている。Lancet誌オンライン版2019年8月8日号掲載の報告。前向き無作為化試験でMOABPとNBPを比較 研究グループは、フィンランドの病院4施設にて結腸切除術を受ける患者をMOABP群またはNBP群のいずれかに、施設で層別化し1対1の割合で無作為に割り付けた。治験募集担当者、担当医、執刀医、データ収集者および分析者は、治療の割り付けに関して盲検化された。また、緊急手術、腸閉塞、手術中に大腸内視鏡の使用が予定されている患者、ポリエチレングリコール・ネオマイシン・メトロニダゾールに対するアレルギーを有する患者、18歳未満および96歳以上の患者は除外された。 治験コーディネーターの看護師が患者の割り付けに関する封筒を開封し、割り付けに従って患者に指示を出し、MOABP群の患者には、術前日の午後6時前にポリエチレングリコール2Lと清澄水(脂肪や果肉などを含まない水やお茶など)1Lを飲んでもらい、午後7時に経口ネオマイシン2gを、午後11時に経口メトロニダゾール2gを服用してもらった。 主要評価項目は、術後30日以内のSSIで、修正intention-to-treat集団(無作為割り付けされ、吻合を伴う待機的結腸切除術を受けた全患者)を対象として解析するとともに、安全性についても評価した。手術部位感染症や合併症の発生は、MOABPとNBPで有意差を認めず 2016年3月17日~2018年8月20日の期間に417例が無作為割り付けされた(MOABP群209例、NBP群208例)。このうち、MOABP群13例とNBP群8例が手術前に除外され、修正intention-to-treat集団は396例(MOABP群196例、NBP群200例)である。 SSIは、MOABP群で13例(7%)、NBP群で21例(11%)に確認され(オッズ比:1.65、95%信頼区間[CI]:0.80~3.40、p=0.17)、吻合部離開はMOABP群で7例(4%)、NBP群で8例(4%)報告された。 再手術を要した症例は、MOABP群16例(8%)、NBP群13例(7%)であった。術後30日以内の死亡はNBP群で2例認められ、MOABP群では確認されなかった。 なお、著者は検出力不足であったこと、処置の特性上、盲検化が困難であったこと、吻合部離開はCT検査ではなく臨床所見や症状に基づいた評価であったことなどを挙げて、試験結果は限定的だとしている。

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医学論文史上、最凶最悪の誤嚥論文!【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第145回

医学論文史上、最凶最悪の誤嚥論文!いらすとやより使用さて、この論文を紹介するにあたり、虫が嫌いな人はご注意を! 満を持して登場する、私が数多く見てきた中で、最凶最悪の誤嚥論文です。心して読めッ!Vazirani J, et al.A complicated cockroach-ectomy.Respirol Case Rep. 2018;6:e00332.発作性心房細動の既往歴がある42歳男性がゴキブリを吸い込んだ! ということで救急部を受診しました。キャーーーー!!! もうこの時点でアウトーッ!!ゴキブリを吸い込んでしまった後、胸部の圧迫感、息切れ、そして肺の中を虫が動き回る感覚を訴えたそうです。いや、吸い込むってどういうことだよ、と突っ込みたくなるのですが、……おええええ! 想像もしたくない。バイタルサインはおおむね問題なかったのですが、左側の呼吸音が減弱し、喘鳴を聴取しました。ゴキブリ喘鳴。しかし、胸部レントゲン写真では特段異常はみられませんでした。この時点では、「うーん、ゴキブリを吸い込んだ? まさか患者さんの狂言じゃないだろうな…」と主治医も思っていたかもしれません。念のため…と気管支鏡検査を行ったところ、まずちぎれたゴキブリの下半分(腹部以下)が舌区に深く入りこんでおり、その他のゴキブリの破片も気管内に散在していました。疑ってスイマセン、本当でしたね…。見たくない…。見たくないよぉ……!論文には、絶対に見てはいけない「endobronchial cockroach(気管支内ゴキブリ)」の写真が掲載されています。見たい人はどうぞ、PubMedでフリーで読めます。処置の途中、急激に酸素飽和度が低下しました。ゴキブリによるアレルゲン曝露なのか、喉頭痙攣か、とにかく処置が継続できませんでした。いったん中断し、酸素化改善を待つしかありませんでした。その後、残りのゴキブリは咳嗽とともに喀出されたものもあったそうです。状態が落ち着いてきたので、念のため全身麻酔下でもう一度気管支鏡で摘出し、晴れて気管支からゴキブリは消え去りました。ふぅ、やれやれ。その後、患者さんは発熱し、血培からMicrococcus luteusが検出されました。踏んだり蹴ったり。泣きっ面に蜂。ゴキブリの持っていた腐敗菌だったのかどうかはわかりませんが、しかるべき抗菌薬によって治療されました。さて、ゴキブリ誤嚥は、小児で過去に1例報告されています1)。小児や精神科疾患の患者さんでは仕方ないのかなという気持ちはありますが、基本的に元気な成人がこんなもん誤嚥することはないはずです。なぜ誤嚥したのか結局よくわからなかったためか、論文のDiscussionではミクロコッカス菌血症やアレルギーの話が主体になっています(笑)。1)Marlow TJ, et al. J Emerg Med. 1997;15:487-489.

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新型タバコで急性好酸球性肺炎になった人【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第144回

新型タバコで急性好酸球性肺炎になった人いらすとやより使用急性好酸球性肺炎(AEP)といえば、初めて喫煙をした若い男性が起こす強いアレルギー性肺炎で、末梢血や気管支肺胞洗浄液中の好酸球比率は数十%に及びます。全身性ステロイド投与によって著明に改善するので、予後は極めて良いです。呼吸器内科医としては、「初めての喫煙」というキーワードで必ず鑑別に挙げなければならない疾患です。基本的には燃焼式の紙巻きたばこによって起こるのですが、電子タバコや加熱式タバコでも起こりうるという症例が報告されています。Thota D, et al.Case report of electronic cigarettes possibly associated with eosinophilic pneumonitis in a previously healthy active-duty sailor.J Emerg Med. 2014;47:15-17.1例目はこれまで既往歴のない水兵さんです。電子タバコを吸った直後にAEPになり、ステロイドと抗菌薬で治療されました。海外の電子タバコは、日本では基本的に輸入以外では用いられず、加熱式タバコとは別物です。海外では、リキッドタイプのものが主流です。Arter ZL, et al.Acute eosinophilic pneumonia following electronic cigarette use.Respir Med Case Rep. 2019;27:100825.2例目は、電子たばこを吸い始めて2ヵ月目に呼吸不全で救急搬送された18歳女性です。ICUに入室するほどひどい状態でしたが、ステロイド投与してわずか6日目に退院したそうです。Kamada T, et al.Acute eosinophilic pneumonia following heat-not-burn cigarette smoking.Respirol Case Rep. 2016;4:e00190.3例目は、加熱式タバコによって起こった急性好酸球性肺炎の日本の症例報告です。加熱式タバコ開始から6ヵ月後に急性好酸球性肺炎を起こし、入院しました。加熱式タバコによる急性好酸球性肺炎は、実はこの症例が世界初の報告とされています。内因性に急性好酸球性肺炎を起こしやすい患者さんが、たまたま偶発的に新型タバコを始めた後に同疾患を発症したのかどうかは、疫学的研究を立案しないことにはわかりません。ですが呼吸器内科医としては、紙巻きタバコを止められないときの代替案として新型タバコを提示したくはないですね。

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ウェルナー症候群〔WS:Werner syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義ウェルナー症候群(Werner syndrome:WS)とは、1904年にドイツの眼科医オットー・ウェルナー(Otto Werner)が、「強皮症を伴う白内障症例(U[ウムラウト]ber Kataract in Verbindung mit Sklerodermie:Cataract in combination with scleroderma)」として初めて報告した常染色体劣性の遺伝性疾患である。思春期以降に、白髪や脱毛、白内障など、実年齢に比べて“老化が促進された”ようにみえる諸症状を呈することから、代表的な「早老症候群(早老症)」の1つに数えられている。■ 疫学第8染色体短腕上に存在するRecQ型のDNAヘリカーゼ(WRN)遺伝子のホモ接合体変異が原因と考えられる。これまで全世界で80種類以上の変異が同定されているが、わが国ではc.3139-1G>C(通称4型)、c.1105C>T(6型)、c3446delA(1型)の3大変異が症例の90%以上を占める。一方、この遺伝子変異が、本疾患に特徴的な早老症状、糖尿病、悪性腫瘍などをもたらす機序の詳細は未解明である。■ 病因希少な常染色体劣性遺伝病だが、日本、次いでイタリアのサルデーニャ島(Sardegna)に際立って症例が多いとされる。1997年に松本らは、全世界1,300例の患者のうち800例以上が日本人であったと報告している。症状を示さないWRN遺伝子変異のヘテロ接合体(保因者)は、日本国内の100~150例に1例程度存在し、WS患者総数は約2,000例以上と推定されるが、その多くは見過ごされていると考えられる。かつては血族結婚に起因する症例がほとんどとされたが、最近では両親に血縁関係を認めない患者が増え、患者は国内全域に存在する。遺伝的にも複合ヘテロ接合体(compound heterozygote)の増加が確認されている。■ 症状思春期以降、白髪・脱毛などの毛髪変化、両側性白内障、高調性の嗄声、アキレス腱に代表される軟部組織の石灰化、四肢末梢の皮膚萎縮や角化と難治性潰瘍、高インスリン血症と内臓脂肪蓄積を伴う耐糖能障害、脂質異常症、骨粗鬆症、原発性の性腺機能低下症などが出現し進行する。患者は低身長の場合が多く、四肢の骨格筋など軟部組織の萎縮を伴い、中年期以降にはほぼ全症例がサルコペニアを示す。しばしば、粥状動脈硬化や悪性腫瘍を合併する。内臓脂肪の蓄積を伴うメタボリックシンドローム様の病態や高LDLコレステロール(LDL-C)血症が動脈硬化の促進に寄与すると考えられている。また、間葉系腫瘍の合併が多く、悪性黒色腫、骨肉腫や骨髄異形成症候群に代表される造血器腫瘍、髄膜腫などを好発する。上皮性腫瘍としては、甲状腺がんや膀胱がん、乳がんなどがみられる。■ 分類WRN遺伝子の変異部位が異なっても、臨床症状に違いはないと考えられている。一方、WSに類似の症状を呈しながらWRN遺伝子に変異を認めない症例の報告も散見され、非典型的ウェルナー症候群(atypical Werner syndrome:AWS)と呼ばれることがある。AWSの中には、LMNA遺伝子(若年性早老症の1つハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候の原因遺伝子)の変異が同定された症例もあるが、WSに比べてより若年で発症し、症状の進行も早いことが多いとされる。■ 予後死亡の二大原因は動脈硬化性疾患と悪性腫瘍であり、長らく平均死亡年齢が40歳代半ばとされてきた。しかし、近年、国内外の報告から寿命が5~10年延長していることが示唆され、現在では60歳を超えて生活する患者も少なくない。一方、足部の皮膚潰瘍は難治性であり、疼痛や時に骨髄炎を伴う。下肢の切断を必要とすることも少なくなく、患者のADLやQOLを損なう主要因となる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)WSの診断基準を表1に示す。早老症候はさまざまだが、客観的な指標として、40歳までに両側性白内障を生じ、X線検査でアキレス腱踵骨付着部に分節型の石灰化(図)を認める場合は、臨床的にほぼWSと診断できる。診断確定のための遺伝子検査を希望される場合は、千葉大学大学院医学研究院 内分泌代謝・血液・老年内科学へご照会いただきたい。なお、本疾患は、難病医療法下の指定難病であり、表2に示す重症度分類が3度または「mRS、食事・栄養、呼吸の各評価スケールを用いて、いずれかが3度以上」または「機能的評価としてBarthel Index 85点以下」の場合に重症と判定し、医療費の助成を受けることができる。表1 ウェルナー症候群の診断基準画像を拡大する図 ウェルナー症候群のアキレス腱にみられる特徴的な石灰化像 画像を拡大する分節型石灰化(左):アキレス腱の踵骨付着部から近位側へ向かい、矢印のように“飛び石状”の石灰化がみられる。火焔様石灰化(右):分節型石灰化の進展した形と考えられる(矢印)。表2 ウェルナー症候群の重症度分類 画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 薬物療法WSそのものの病態に対する根本的治療法は未開発である。糖尿病は約6割の症例に見られ、高度なインスリン抵抗性を伴いやすい。通常、チアゾリジン誘導体が著効を呈する。これに対してインスリン単独投与の場合は、数十単位を要することも少なくない。ただし、チアゾリジン誘導体は、骨粗鬆症や肥満を助長する可能性を否定できないため、長期的かつ客観的な観察結果の蓄積が望まれる。近年、メトホルミンやDPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬の有効性を示唆する報告が増え、合併症予防や長期予後に対する知見の集積が期待される。高LDL-C血症に対しては、非WS患者と同様にスタチンが有効である。四肢の皮膚潰瘍に対しては、皮膚科的な保存的治療を第一とする。各種の外用薬やドレッシング剤に加え、陰圧閉鎖療法が有効な症例もみられる。感染を伴う場合は、耐性菌の出現に注意を払い、起炎菌の同定と当該菌に絞った抗菌薬の投与を心掛ける。足部の保護と免荷により皮膚潰瘍の発生や重症化を予防する目的で、テーラーメイドの靴型装具の着用も有用である。■ 手術療法白内障は手術を必要とし、非WS患者と同様に奏功する。40歳までにみられる白内障症例を診た場合、一度は、鑑別診断としてWSを想起して欲しい。四肢の皮膚潰瘍は難治性であり、しばしば外科的デブリードマンを必要とする。また、保存的治療で改善がみられない場合は、形成外科医との連携により、人工真皮貼付や他部位からの皮弁形成など外科的治療を考慮する。四肢末梢とは異なり、通常、体幹部の皮膚創傷治癒能はWSにおいても損なわれていない。したがって、甲状腺がんや胸腹部の悪性腫瘍に対する手術適応は、 非WS患者と同様に考えてよい。4 今後の展望2009年以降、厚生労働科学研究費補助金の支援によって研究班が組織され、全国調査やエビデンス収集、診断基準や診療ガイドラインの作成や改訂と普及啓発活動、そして新規治療法開発への取り組みが行われている(難治性疾患政策研究事業「早老症の医療水準やQOL向上をめざす集学的研究」)。また、日本医療研究開発機構(AMED)の助成により、難治性疾患実用化研究事業「早老症ウェルナー症候群の全国調査と症例登録システム構築によるエビデンスの創生」が開始され、詳細な症例情報の登録と自然歴を明らかにするための世界初の縦断的調査が行われている。一方、WSにはノックアウトマウスに代表される好適な動物モデルが存在せず、病態解明研究における障壁となっていた。現在、AMEDの支援により、再生医療実現拠点ネットワークプログラム「早老症疾患特異的iPS細胞を用いた老化促進メカニズムの解明を目指す研究」が推進され、新たに樹立された患者末梢血由来iPS細胞に基づく病因解明と創薬へ向けての取り組みが進んでいる。なお、先述の全国調査によると、わが国におけるWSの診断時年齢は平均41.5歳だが、病歴に基づいて推定された“発症”年齢は平均26歳であった。これは患者が、発症後15年を経て、初めてWSと診断される実態を示している。事実、30歳前後で白内障手術を受けた際にWSと診断された症例は皆無であった。本疾患の周知と早期発見、早期からの適切な管理開始は、患者の長期予後を改善するために必要不可欠な今後の重要課題と考えられる。5 主たる診療科内科、皮膚科、形成外科、眼科(白内障)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報千葉大学大学院医学研究院 内分泌代謝・血液・老年内科学 ウェルナー症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター ウェルナー症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)米国ワシントン州立大学:ウェルナー症候群国際レジストリー(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報ウェルナー症候群患者家族の会(患者とその家族および支援者の会)1)Epstein CJ, et al. Medicine. 1966;45:177-221.2)Matsumoto T, et al. Hum Genet. 1997;100:123-130.3)Yokote K, et al. Hum Mutat. 2017;38:7-15.4)Takemoto M, et al. Geriatr Gerontol Int. 2013;13:475-481.5)ウェルナー症候群の診断・診療ガイドライン2012年版(2019年中に改訂の予定)公開履歴初回2019年7月23日

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COPD増悪時のCRP検査、抗菌薬使用率を3割減/NEJM

 COPDの急性増悪でプライマリケア医の診察時に、C反応性蛋白(CRP)のポイントオブケア(臨床現場即時)検査を行い、その結果に基づく処方を行うことで、患者報告に基づく抗菌薬の使用率と医師から受け取る抗菌薬の処方率がいずれも低下することが示された。有害性は伴わなかった。英国・オックスフォード大学のChristopher C. Butler氏らが、653例の患者を対象に行った多施設共同非盲検無作為化比較試験の結果で、NEJM誌2019年7月11日号で発表された。CRPポイントオブケア検査の結果に沿って治療 研究グループは、プライマリケア診療録にCOPDとの診断記録があり、COPD急性増悪によりイングランドおよびウェールズの一般診療所86ヵ所のうちいずれか1ヵ所を受診した653例を対象に試験を行った。 被験者は無作為に2群に分けられ、一方の群ではCRPポイントオブケア検査に基づく通常治療が行われた(CRPガイド群)。もう一方の群は同検査なしで通常のケアのみが行われた(通常ケア群)。 主要評価項目は、無作為化後4週間以内のCOPD急性増悪に対する患者報告による抗菌薬の使用(優越性を示すための評価)と、無作為化後2週時点でのCOPD関連の健康状態(非劣性を示すための評価)とした。健康状態については、10項目からなる臨床COPD質問票(CCQ、スコア範囲:0[COPD健康状態が非常に良好]~6[COPD健康状態が極めて不良])で評価した。医師による抗菌薬投与率も約3割減少 抗菌薬を使用したと報告した患者は、通常ケア群(77.4%)よりもCRPガイド群(57.0%)のほうが少なかった(補正後オッズ比[OR]:0.31、95%信頼区間[CI]:0.20~0.47)。 2週時点のCCQ合計点の補正後平均差は、-0.19点(両側90%CI:-0.33~-0.05)で、CRPガイド群がより良好であることが示された。 初診時の臨床医による抗菌薬処方の決定は1例を除く全例で確認され、追跡当初4週間に抗菌薬の処方箋が交付された患者は96.9%であった。 初診時に抗菌薬を処方された患者の割合は、通常ケア群(69.7%)よりもCRPガイド群(47.7%)で低率だった(群間差:22.0ポイント、補正後OR:0.31、95%CI:0.21~0.45)。追跡4週間に抗菌薬を処方された人の割合も、通常ケア群(79.7%)よりもCRPガイド群(59.1%)で低率だった(20.6ポイント、0.30、0.20~0.46)。 なお、無作為化後4週間以内に通常ケア群で2例の死亡が報告されたが、研究者によって死因は試験とは無関係であるとみなされた。

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終末期がん患者、併発疾患への薬物療法の実態

 終末期緩和ケアを受けているがん患者において、併発している疾患への薬物療法はどうなっているのか。フランス・Lucien Neuwirth Cancer InstituteのAlexis Vallard氏らは、前向き観察コホート研究を行い、緩和ケア施設に入院した終末期がん患者に対する非抗がん剤治療が、一般的に行われていることを明らかにした。著者は「それらの治療の有益性については疑問である」とまとめている。Oncology誌オンライン版2019年6月20日号掲載の報告。 研究グループは、緩和ケア施設のがん患者に対する抗がん剤治療および非抗がん剤治療の実態と、非抗がん剤治療を中止するか否かの医療上の決定に至る要因を明らかにする目的で調査を行った。 2010~11年に緩和ケア施設に入院したがん患者1,091例のデータを前向きに収集し、解析した。 主な結果は以下のとおり。・緩和ケア施設入院後の全生存期間中央値は、15日であった。・緩和ケア施設入院後、4.5%の患者を除き、最初の24時間以内に特定の抗がん剤治療は中止されていた。・非抗がん剤治療については、患者が死亡するまで、強オピオイド(74%)、副腎皮質ステロイド(51%)、および抗うつ薬(21.8%)について十分に投与が続けられていた。・抗潰瘍薬(63.4%)、抗菌薬(25.7%)、血栓症予防療法(21.8%)、糖尿病治療薬(7.6%)、輸血(4%)もしばしば、継続して処方されていた。・多変量解析の結果、ECOG PS 4は、モルヒネについては継続の独立した予測因子であり、副腎皮質ステロイド、プロトンポンプ阻害薬、糖尿病治療薬、予防的抗凝固療法については中止の独立した予測因子であった。・感染症症状はパラセタモール継続の、麻痺および触知可能ながん腫瘤は副腎皮質ステロイド中止の、脳転移は抗潰瘍薬中止の、出血は予防的抗凝固療法中止の、それぞれ独立した予測因子であった。

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蜂窩織炎、丹毒、最適な抗菌薬治療は?

 蜂窩織炎や丹毒は、よくみる細菌感染症であり、抗菌薬治療が至適治療とされている。しかし、その治療法についてのコンセンサスは得られておらず、入手可能な試験データではどの薬剤が優れているのかを実証することができない。最適な投与ルート、治療期間のデータも限定的である。英国・ブリストル大学のRichard Brindle氏らは、システマティックレビューとメタ解析により、非外傷性の蜂窩織炎に対する抗菌薬治療の安全性と有効性を評価した。しかし、低質なエビデンス結果しか得られず、著者は「標準的なアウトカム(重症度スコア、用量、治療期間)を設定した試験を行う必要がある」と提言している。JAMA Dermatology誌オンライン版2019年6月12日号掲載の報告。 研究グループは、システマティックレビューとメタ解析による分析を行うため、2016年6月28日時点で次のデータベースを検索した-Cochrane Central Register of Controlled Trials(2016、issue 5)、Medline(1946年~)、Embase(1974年~)、Latin American and Caribbean Health Sciences Information System(LILACS、1982年~)。さらに、5つの試験データベースとその試験内リファレンスのほか、2016年6月28日~2018年12月31日の期間におけるPubMedとGoogle Scholarも検索した。適格試験は、異なる抗菌薬、投与ルート、治療期間などを比較している無作為化試験とした。 データの抽出と解析は、Cochrane Collaborationの標準的な方法論的手法を用い、2値アウトカムのリスク比とその95%信頼区間(CI)を算出。エビデンスの質を評価するGRADEアプローチに合わせて、主要評価項目の結果要約テーブルを作成した。 主要アウトカムは、治療終了時に治癒、改善・回復が認められた、または症状が消失もしくは軽減した患者の割合(試験で報告されていたもの)。副次アウトカムは、あらゆる有害事象とした。 主な結果は以下のとおり。・43試験、5,999例(生後1ヵ月~96歳)の適格患者のデータが包含された。・蜂窩織炎が原発例であったのは15試験(35%)、そのほかの試験では蜂窩織炎患者の割合は中央値29.7%(四分位範囲:22.9~50.3%)であった。・全体として、どれか1剤がほかの製剤よりも優れていることを支持するエビデンスは見つからなかった。・MRSA活性のある抗菌薬に優位性があるとの所見は認められなかった。・経口剤より静脈内投与を支持、また5日超の投与期間を支持するエビデンスは、いずれもなかった。

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メタゲノム解析による中枢神経感染症の原因診断(解説:吉田敦氏)-1068

 髄膜炎・脳炎といった中枢神経感染症では、速やかな原因微生物の決定と、適切な治療の開始が予後に大きな影響を及ぼす。ただし現実として、原因微生物が決定できない例のみならず、感染症と判断することに迷う例にも遭遇する。抗菌薬の前投与があれば、脳脊髄液(CSF)の培養は高率に偽陰性となるし、CSFから核酸ないし抗原検査で決定できる微生物の種類も限られている。このような例について、病原微生物の種類によらず遺伝子を検出できる次世代シークエンサー(NGS)によるメタゲノム解析を用いれば、原因微生物を決定でき、マネジメントも向上するのではないか―という疑問と期待はかねてから存在していた。 今回の検討では、1年余りの間に集積された中枢神経感染症疑い204例(うち23%が18歳以下、41%が免疫不全者、64%が脳炎、49%がICU入室)についてCSFのメタゲノム解析が行われ、その結果と、従来法(微生物検出と血清抗体)を合わせた臨床的最終診断に照らし合わせて、メタゲノム解析の有用性が評価された。結果として、微生物決定を伴った感染症と明らかにできたのは28%であり、8%は自己免疫疾患、3%は腫瘍性で、不明は50%に上った。微生物が決定された57例の中では、メタゲノム解析によって初めて原因微生物が決定できたのは13例(うち7例は結果を受けて治療を適正化できた)であり、メタゲノム解析で陽性にならなかった26例中、11例は血清抗体のみで診断、8例(*)はCSF中の微生物遺伝子量が少なかったため、メタゲノム解析で陰性と判断されていた。 本検討では、いわゆるgold standardが存在しない中で、従来法とNGSによるメタゲノム解析の結果を合わせ、その結果について臨床側と詳しく議論したうえで、メタゲノム解析の有用性を評価するという手法を採用している。この点が1つの限界になっているが、さらに著者らも述べているように、CSF採取のタイミングが遅い例も少なからず含まれている点も、微生物同定例を少なくさせた可能性はあるであろう。一方、NGSを使用した場合の感度であるが、微生物特異的な遺伝子の検出を上回るほど高くはないというのが一般的な印象である。そして本検討のように検出されたデータの中から、(バックグラウンドノイズとなる)ヒトゲノム分を差し引かねばならない(つまり白血球数の増加が大きくなるとバックグラウンドも大きくなる)となると、少量検出された微生物データを有意と取るべきかという問題が生じる。この閾値の設定と解釈が問題となり、上記の8例(*印)はこれに影響を受けたと思われる。したがってNGSのデータは、陽性、陰性では判定できず、臨床的妥当性に照合して判断することになってくる。 しかし一方で、微生物遺伝子が何も検出できなかったために、非感染性疾患の可能性が高くなり、感染性/非感染性の鑑別に役立ったという例も存在した。またこれまで病的意義が明らかでなかった微生物が検出されれば、その意義を議論する機会も増え、新規の神経感染症の病原微生物の提唱につながる可能性もある。メタゲノム解析は今後も続行されるべきであろうし、その結果と臨床的背景を詳細に照合し、意義をさらに深く追究する努力も怠ってはいけないと考える。

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家族性良性慢性天疱瘡〔familial benign chronic pemphigus〕

1 疾患概要■ 概念・定義家族性良性慢性天疱瘡(ヘイリー・ヘイリー病[Hailey-Hailey disease])は、厚生労働省の指定難病(161)に指定されている皮膚の難病である。常染色体優性遺伝を示す先天性の水疱性皮膚疾患で、皮膚病変は生下時には存在せず、主として青壮年期以降に発症する。臨床的に、腋窩・鼠径部・頸部・肛囲などの間擦部に小水疱、びらん、痂皮などによる浸軟局面を生じる。通常、予後は良好である。しかし、広範囲に重篤な皮膚病変を形成し、極度のQOL低下を示す症例もある。また、一般的に夏季に増悪、冬季に軽快し、紫外線曝露・機械的刺激・2次感染により急激に増悪することがある。病理組織学的に、皮膚病変は、表皮下層を中心に棘融解性の表皮内水疱を示す。責任遺伝子はヒトsecretory pathway calcium-ATPase 1(hSPCA1)というゴルジ体のカルシウムポンプをコードするATP2C1であり、3番染色体q22.1に存在する。類似の疾患として、小胞体のカルシウムポンプ、sarco/endoplasmic reticulum Ca2+ ATPase type 2 isoformをコードするATP2A2を責任遺伝子とするダリエ病があり、この疾患は皮膚角化症に分類されている。■ 疫学わが国の患者数は300例程度と考えられている。現在、本疾患は、指定難病として厚生労働省難治性疾患政策研究事業の「皮膚の遺伝関連性希少難治性疾患群の網羅的研究班」(研究代表者:大阪市立大学大学院医学研究科皮膚病態学 橋本 隆)において、アンケートを中心とした疫学調査が進められている。その結果から、より正確なわが国における本疾患の疫学的情報が得られることが期待される。■ 病因本症の責任遺伝子であるATP2C1遺伝子がコードするヒトSPCA1はゴルジ体に存在し、カルシウムやマグネシウムをゴルジ体へ輸送することにより、細胞質およびゴルジ体のホメオスタシスを維持している。ダリエ病と同様に、常染色体優性遺伝する機序として、カルシウムポンプタンパクの遺伝子異常によってハプロ不全が起こり、正常遺伝子産物の発現が低下することによって本疾患の臨床症状が生じると考えられる。しかし、細胞内カルシウムの上昇がどのように表皮細胞内に水疱を形成するか、その機序は明らかとなっていない。■ 症状生下時には皮膚病変はなく、青壮年期以降に、腋窩・鼠径部・頸部・肛門周囲などの間擦部を中心に、小水疱、びらん、痂皮よりなる浸軟局面を示す(図1)。皮膚症状は慢性に経過するが、温熱・紫外線・機械的刺激・感染などの因子により増悪する。時に、胸部・腹部・背部などに広範囲に皮膚病変が拡大することがあり、極度に患者のQOLが低下する。とくに夏季は発汗に伴って増悪し、冬季には軽快する傾向がある。皮膚病変上に、しばしば細菌・真菌・ヘルペスウイルスなどの感染症を併発する。皮膚病変のがん化は認められない。高度の湿潤状態の皮膚病変では悪臭を生じる。表皮以外にも、全身の細胞の細胞内カルシウムが上昇すると考えられるが、皮膚病変以外の症状は生じない。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断は主として、厚生労働省指定難病の診断基準に従って行う。すなわち、臨床的に、腋窩・鼠径部・頸部・肛囲などの間擦部位に、小水疱、びらんを伴う浸軟性紅斑局面を形成し、皮疹部のそう痒や、肥厚した局面に生じた亀裂部の痛みを伴うこともある。青壮年期に発症後、症状を反復し慢性に経過する。20~50歳代の発症がほとんどである。皮疹は数ヵ月~数年の周期で増悪、寛解を繰り返す。常染色体優性遺伝を示すが、わが国の約3割は孤発例である。参考項目としては、増悪因子として高温・多湿・多汗(夏季)・機械的刺激、合併症として細菌・真菌・ウイルスによる2次感染、その他のまれな症状として爪甲の白色縦線条、掌蹠の点状小陥凹や角化性小結節、口腔内および食道病変を考慮する。皮膚病変の生検サンプルの病理所見として、表皮基底層直上を中心に棘融解による表皮内裂隙を形成する(図2)。裂隙中の棘融解した角化細胞は少数のデスモソームで緩やかに結合しており、崩れかけたレンガ壁(dilapidated brick wall)と表現される。画像を拡大するダリエ病でみられる異常角化細胞(顆粒体[grains])がまれに出現する。棘融解はダリエ病に比べて、表皮中上層まで広く認められることが多い。生検組織サンプルを用いた直接蛍光抗体法で自己抗体が検出されない。最終的には、ATP2C1の遺伝子検査により遺伝子変異を同定することによって診断確定する(図3)。変異には多様性があり、遺伝子変異の部位・種類と臨床的重症度との相関は明らかにされていない。別に定められた重症度分類により、一定の重症度以上を示す場合、医療費補助の対象となる。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)ステロイド軟膏や活性型ビタミンD3軟膏などの外用療法やレチノイド、免疫抑制薬などの全身療法が使用されているが、対症療法が主体であり、根治療法はない。2次的な感染症が生じたときには、抗真菌薬・抗菌薬・抗ウイルス薬を使用する。予後としては、長期にわたり皮膚症状の寛解・再燃を繰り返すことが多い。比較的長期間の寛解状態を示すことや、加齢に伴い軽快傾向がみられることもある。4 今後の展望前述のように、本疾患は、指定難病として厚生労働省難治性疾患政策研究事業の「皮膚の遺伝関連性希少難治性疾患群の網羅的研究班」において、各種の臨床研究が進んでいる。詳細な疫学調査によりわが国での本疾患の現状が明らかとなること、最終的な診療ガイドラインが作成されることなどが期待される。最近、新しい治療として、遺伝子上の異常部位を消失させるmutation read throughを起こさせる治療として、suppressor tRNAによる遺伝子治療やゲンタマイシンなどの薬剤投与が試みられている。5 主たる診療科皮膚科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働省の難治性疾患克服事業(難治性疾患政策研究事業)皮膚の遺伝関連性希少難治性疾患群の網羅的研究班(研究代表者:橋本 隆 大阪市立大学・大学院医学研究科 皮膚病態学 特任教授)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 家族性良性慢性天疱瘡(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Hamada T, et al. J Dermatol Sci. 2008;51:31-36.2)Matsuda M, et al. Exp Dermatol. 2014;23:514-516.公開履歴初回2019年6月25日

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成人の8割が感染、歯周病予防に効く「ロイテリ菌」とは

 5月30日、オハヨー乳業・オハヨーバイオテクノロジーズは「歯周病への新たな良化習慣」をテーマとしたプレスセミナーを開催した。国内の歯周病(歯肉炎および歯周疾患)患者数は330万人を超え、30~50代の約8割が罹患するなど、最も罹患率の高い疾患とされる。本セミナーでは、若林 健史氏(日本歯周病学会理事・専門医・指導医/日本大学 客員教授)と坂本 紗有見氏(銀座並木通りさゆみ矯正歯科デンタルクリニック81 院長)が講演し、ロイテリ菌(Lactobacillus reuteri)の「バクテリアセラピー」によって歯周病予防効果が期待できる、との研究内容を発表した。歯磨き・歯科検診に続く予防策「バクテリアセラピー」 歯周病の治療を専門とする若林氏は、口腔内に生息する細菌が全身の健康に影響する、歯周病もむし歯も子供の頃からの感染予防が重要、という前提を説明した。また、最近の研究では、歯周炎によってアルツハイマーの発症リスク増加の示唆1)や介護施設で口腔ケアを徹底することで肺炎の発症・死亡者数が低下する報告2)がされるなど、「口腔内だけに留まらない疾患との関連性も指摘されている」とした。若林氏はこうした歯周病と全身疾患の関わりを「ペリオドンタルシンドローム」と名付け、啓蒙活動を行っている。次に、歯磨き・歯科定期検診に続く第3の歯周病予防策として注目される手法として「バクテリアセラピー」を紹介。バクテリアセラピーとは、“口の中にいる善玉菌を増やし、むし歯菌・歯周病菌を減らす”もので、抗菌薬による薬物治療と比較した場合、1)効果が持続する、2)耐性フリー、3)安全である、という優位点があるという。「ロイテリ菌」の歯周病予防効果に着目 続いて坂本氏が、「バクテリアセラピーにはロイテリ菌が有用である」と提唱。ロイテリ菌は、バクテリアセラピー研究で有名なスウェーデンのカロリンスカ研究所・医科大学と特許を持つBio Gaia社が、提携して研究を進めている。ロイテリ菌は1980年代にペルー人の母乳から発見されたもので、日本人は7人に1人が保有するが、そのほかの先進国のヒトから検出されることは少なく、米国人はまったく保有していない。世界100以上の国と地域で使用実績があり、200以上の臨床研究が発表される一方、副作用の報告は1件もないという。ロイテリ菌は体内で「ロイテリン」という有害な菌を抑える物質を生成し、歯周病菌の増殖を抑制する効果が期待できる。歯周病患者を対象とした二重盲検ランダム化比較試験において、ロイテリ菌とプラセボをそれぞれ30日間摂取した群を比較したところ、ロイテリ菌摂取群は、プラーク有りの患者数、歯茎の出血有りの患者数などが減少し、プラセボ摂取群に対し有意差が認められた3)。坂本氏は「安全性が高く、データも豊富なロイテリ菌を長年注目してきた。日本は平均寿命と健康寿命の差が最も大きい国。バクテリアセラピーで歯周病を予防することが、この差を縮めることに役立つはず」とコメントした。 ロイテリ菌関連商品としては、ヨーグルト・サプリメントが市販されている。

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肝性脳症〔Hepatic encephalopathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義意識障害には脳機能障害以外に多くの原因があるが、肝機能低下に伴う意識障害が肝性脳症とされている。肝性脳症は多くの場合、肝硬変や劇症肝炎患者などの肝障害が進行した状況において発生する。傾眠傾向といった軽度のものから、重度の深昏睡に至るまで多様な精神神経症状を来す合併症で、肝不全の特徴的徴候の1つである。顕性肝性脳症の臨床病型は急性型、慢性型、および先天性尿素サイクル異常症など代謝異常に伴う特殊型に大別される。また、顕性の意識障害はないが、精神神経機能検査で異常を認める状態を「ミニマル脳症」と呼ぶ。■ 疫学わが国では数十万人の肝硬変患者が存在するとされており、病状の悪化に伴い、いずれの患者においても肝性脳症を発症しうる。ミニマル脳症については、肝硬変患者の1/3が有しているとの報告もあり、ミニマル脳症患者のうち約20%が半年以内に顕性脳症に移行するとされている。急性型の劇症肝炎の発症数は減少しているものの、肝硬変を基礎疾患として急性増悪を来す“Acute-on chronic liver failure(ACLF)”がアルコールを原因とするものとして近年増加している。■ 病因急性型では劇症肝炎が代表的原因である。先行する慢性肝疾患が存在しない患者において、さまざまな原因により広範な肝細胞壊死を来し肝不全に至る。以前はB型肝炎ウイルスによるものが多かったが、近年は減少傾向にある。最近では肝硬変などの慢性肝疾患が急性増悪して、急激に肝不全症状を呈した場合を“Acute on chronic”と呼ぶことが提唱されている。慢性型では肝硬変によるものが臨床的に最も多い。肝硬変では、門脈大循環短絡路を形成していることが多く、その程度により治療反応性と予後が異なることから、短絡路の評価を行ったうえで治療法を決定する。頻度は高くないものの、先天性尿素サイクル異常症も、念頭において診療に当たることが必要である。アンモニア高値のみを示す成人では、オルニチントランスカルバミラーゼ (OTC)欠損症とシトルリン血症などの可能性が考えられる。■ 症状肝性脳症は、傾眠傾向といった軽度のものから重度の深昏睡に至るまで多様な精神神経症状を来す。わが国で広く使用されている犬山シンポジウムの分類を表1に示す。先に述べたミニマル脳症は、臨床的には診断できないためナンバーコネクション(数字追跡)試験などの精神神経学的テストで判断する。なお、このテストはiPadなどにダウンロードして使用でき、日本肝臓学会のホームページから無料でダウンロードできるようになっている。表1 肝性脳症の犬山分類画像を拡大する■ 分類顕性肝性脳症の臨床病型は急性型、慢性型、および先天性尿素サイクル異常症など代謝異常に伴う特殊型に大別される。また、顕性の意識障害はないが、精神神経機能検査で異常を認める状態をミニマル脳症と呼ぶ(表2)。欧米での肝性脳症の分類を表3に示す。表2 臨床病型分類画像を拡大する表3 欧米における肝性脳症の分類画像を拡大する表3に示したように、肝性脳症は大きく(A)急性型、(B)バイパス型、(C)肝硬変型に分けられる。型別頻度は、急性型28%、慢性型のうち再発型54%、末期昏睡型18%といわれており、初回脳症時の生存率は慢性再発型で76%であるのに対し、末期昏睡型では23%と報告されている。救急外来を受診した意識障害患者において、肝性脳症の頻度は約2%とされており、頻度が高いものではないが常に念頭に置くべき疾患の1つである。急性型では劇症肝炎が代表的原因である。先行する慢性肝疾患が存在しない患者において、さまざまな原因により広範な肝細胞壊死を来し肝不全に至る。以前はB型肝炎ウイルスによるものが多かったが、近年は減少傾向にある。■ 予後肝性脳症が出現した患者の予後は悪いことが知られている。海外の報告では脳症出現後の1年生存率は約35%、2年で30%、3年で20%、5年で15%とされている。慢性型では肝硬変によるものが最も多いが、脳症の出現は予後を悪化させる合併症であり、脳症の出現した肝硬変患者の生存率は30~40%と考えられる。また、ACLFに関しても、脳症出現が重症度分類に加えられていることから、脳症の出現は肝疾患全体に関する予後決定因子の1つと考えられる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)臨床症状に加えて検体検査、画像検査、精神神経機能検査などを行って総合的に診断する。身体所見としては肝不全に伴う皮膚黄染(黄疸)、浮腫、腹部膨隆(腹水貯留)を認める場合が多い。羽ばたき振戦や、肝性口臭などは急性型、慢性型のいずれにもみられるが、手掌紅斑、くも状血管腫、腹壁静脈怒張などは慢性型を疑う所見となる。ミニマル脳症は臨床的所見による診断が困難である。わが国では顕性脳症の昏睡度分類として主に表1の犬山分類が用いられる。脳症の昏睡度I度は臨床的には判定困難なことが多く、振り返って初めて診断できることも少なくない。II度になると、羽ばたき振戦など診断は比較的容易であるが、羽ばたき振戦は尿毒症や低血糖症でも出現することがあるので鑑別が必要である。1)検体検査肝不全を判定するため、一般肝機能検査、肝予備能(アルブミン、プロトロンビン時間、コリンエステラーゼなど)とともにアンモニア値を測定する。シトルリン血症などの尿素サイクル異常症では、アンモニア以外の肝機能は正常であることが多い。BCAA/AAAモル比(フィッシャー比)の低下を認めるが、最近では簡便な指標としてBCAA/チロシン比であるBTRが用いられることが多い。また、脱水や消化管出血が誘因となっている場合は、BUN(血液尿素窒素)/Cr(血中クレアチニン)比の上昇がみられ、利尿剤使用による低カリウム血症などの電解質異常を認める場合も多い。2)画像検査腹部超音波、CT検査などで慢性肝疾患や脾腫、短絡路の有無などを検索する。また、頭部MRI検査などで中枢神経系の疾患を除外する。深昏睡では脳浮腫の有無も評価する。慢性再発型ではMRI T1強調検査で淡蒼球の高信号が特徴的とされている。3)精神神経機能検査症状に乏しいミニマル脳症を疑う患者に対しては数字追跡試験、WAIS(Wechsler Adult Intelligence Scale)式成人知能検査などによる評価を行う。脳波は三相波が出現し、進行とともに低振幅徐波となっていく。意識障害を伴っている患者の場合、頭部CT、MRI検査や髄液検査などの検査を行い、中枢神経系の疾患を除外することが大切である。さらに、糖尿病性ケトアシドーシスや低血糖症など代謝性疾患の除外のため、血糖、尿中ケトン体、血液ガス検査なども行う。肝性脳症初期の症状は、睡眠パターン変化、人格変化、被刺激性、精神反応の鈍化など軽微で非特異的な症状であり、臨床的診断は困難である。必要に応じて、定量的精神神経機能検査(数字追跡試験、WAIS式成人知能検査など)や電気生理学的神経検査(脳波[三相波がみられる]、大脳誘発電位など)を組み合わせて診断を試みる。アンモニア値が低いからといって肝性昏睡を否定できないことに注意が必要である。逆にアンモニア値が高くても意識障害を認めない症例も多数あるため、肝性脳症の診断には家人を含めた詳細な問診が必要となる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)肝性脳症の治療は、誘因の除去および食事療法による一般療法と薬物療法に分けられる。1)誘因の除去タンパク質の過剰摂取、便秘、下痢などの便通異常、脱水、感染症、利尿剤や睡眠剤、安定剤の過剰投与などは、非代償性肝硬変患者において容易に肝性脳症を誘発するため、普段より生活指導を行うことが重要である。2)食事療法肝性脳症時の食事療法は、低タンパク食(0.4~0.6kg/標準体重)が基本であるが、長期間のタンパク制限は栄養不良を助長し、予後に悪影響を及ぼすことが懸念されるため、漫然と継続しないことに注意する。3)薬物療法アンモニアの生成および吸収抑制のため(1)合成二糖類、(2)難吸収性抗生物質を用いる。(2)に関して、これまではカナマイシンや硫酸ポリミキシンBが使われてきたが、いずれも保険適用外であり、長期投与による聴力障害や腎機能障害を生じるなどの問題があった。2016年に、海外では30年以上前から使用されていたリファキシミン(商品名:リフキシマ)が、肝性脳症に対してわが国でも使用が認可された。海外のガイドラインでは難吸収性抗生物質は、合成二糖類に併用投与が推奨されている。リファキシミンに関しては、長期投与の安全性が認められていることから第1選択薬としての可能性もあり、今後わが国における検証が期待される。亜鉛補充やカルニチン製剤が、単独投与あるいは合成二糖類や分岐鎖アミノ酸(BCAA)製剤との併用投与により高アンモニア血症を改善するとの報告がある。亜鉛補充は、これまで各施設で硫酸亜鉛などを調剤していたが、ウイルソン病治療薬である酢酸亜鉛(同:ノベルジン)が肝疾患の低亜鉛血症に対して適応拡大となった。4 今後の展望最新の認知症ガイドラインにおいて、早期認知症との鑑別すべき疾患の1つとして肝性脳症が挙げられている。最近問題となっている車の運転における逆走などは、ミニマル脳症の患者も同様のハイリスクを有していることから、ミニマル脳症を含めた早期治療介入の重要性が今後注目されると思われる。さらにリファキシミンに関しては、長期投与の安全性が認められていることから、第1選択薬としての可能性もあり、今後わが国における検証が期待される。亜鉛補充やカルニチン製剤が、単独投与あるいは合成二糖類やBCAA製剤との併用投与により高アンモニア血症を改善するとの複数の報告もなされている。肝性脳症を含めて肝硬変領域においては、この数年間で多くの新薬が上市された。2019年には非代償期のC型肝硬変患者に対する直接的抗ウイルス治療薬(DAA)製剤も認可されており、今後肝硬変診療は新たなパラダイムシフトに向かっていくと思われる。5 主たる診療科消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本消化器病学会ガイドライン閲覧サイト(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本肝臓学会肝性脳症診断ツールダウンロード(医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2019年6月11日

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遥か遠くの蜃気楼【Dr. 中島の 新・徒然草】(275)

二百七十五の段 遥か遠くの蜃気楼エレベーターで一緒になった救急の先生。先ほど院内コンビニでも一緒でした。中島「さっきの列、レジ直前まで来て救急なんかに呼び出されたら嫌ですよね」救急「そうなったら私、意地でも買ってから行きます」中島「『処置中だ』とか言って?」救急「たぶん『手が離せない』と言うかな」中島「やるなあ!」こういう会話になったのには理由があります。1時間ほど前のこと。昼食を買うべくコンビニに向かう途中に、他科の先生から電話があったのです。他科「実は入院患者さんのことで」中島「いいですよ」他科「もともとの病気は治ったのですが、肺炎になったので抗生剤を使ってですね」中島「ええ」他科「一旦は良くなったのですが、また熱が出て」中島「おやまあ」他科「今度は肺炎ではなさそうなんです」中島「なるほど」他科「別の抗生剤を始めたのですが、なかなか良くならなくて」中島「ふんふん」他科「あちこちの科に相談したのですが」中島「要するに、先生の手に余るから総診への転科を頼むってことでしょうか?」他科「そ、そうなんですよ! 僕には歯が立ちません」中島「端末のあるところに行って確認するので、IDをお願いします」といったやりとりで、コンビニから引き離されてしまいました。何とかこの症例の決着をつけてから、再びコンビニに向かう途中のこと。今度は研修担当者から電話がありました。担当「研修医の○○先生がトラブルに巻き込まれてしまって」中島「あら」担当「今から事情聴取をするので、同席いただけませんか?」中島「すぐ行きます」何か私をコンビニに行かせないようにする陰謀が働いているのでしょうか?ごく簡単な事情聴取の後、再々度、コンビニに向かいます。見ればレジの前は長蛇の列。ざっと見て、15人は並んでいそう。もしレジを目前にして、また呼び出されたりしたら、どうするんだべ?つらい、あまりにもつらすぎる!ふと見ると、顔見知りの救急の先生が私の少し後ろに並びました。列はどんどん長くなっていきます。少しずつ列が進み、いよいよあと2人。となったときに院内PHSが鳴り響きました。ERの看護師さんです。ER「中島先生、痙攣の人が来るらしいんですけど」中島「はい」(その事と私との間に何の関係が?)ER「〇〇病院からですけど、中島先生にすぐ来るように言われたとか」中島「はあ?」(泣)ER「もう救急車がこっちに向かっているらしいですよ」中島「そんなバナナ!」ER「おかしいな。すぐ来るように言ったのは脳外科の先生かな」中島「そうそう、きっとそやろ」(僕も脳外科やけど)ER「脳外科外来にきいてみます」中島「ごめん、頼むわあ」レジ「次の方?」中島「はいはいはいはい、僕です僕です」(危ないところやった)あわててザルソバを買ってエレベーターに乗りました。そこで冒頭の救急の先生との会話になるわけです。その昔、レジデントが「自分が10分後にどこで何をしているか想像できないのがキツイっす」と言っていましたが、何十年経った今でも状況が変わっていません。落ち着けるのは引退してからでしょうか?最後に1句ザルソバは 遥か遠くの 蜃気楼

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犬との暮らし、乳幼児の食物アレルギーを予防か

 わが国ではペットの飼育方法が変化し、近年、室内での飼育が進んでいる。それに伴いペット飼育と健康について高い関心が集まっているなかで、犬を飼うことが乳幼児にメリットを与えるという新たな知見が報告された。英国・キングス・カレッジ・ロンドンのThomas Marrs氏らは、食物アレルギー予防の無作為化試験「Enquiring About Tolerance(EAT)試験」に登録された生後3ヵ月の児1,303人について、犬猫飼育の有無とアレルギー発症との関連を調査。その結果、犬の飼育が食物アレルギー予防と関連する可能性が示されたという。Allergy誌オンライン版2019年5月11日号掲載の報告。 アレルギー疾患の負荷を軽減する鍵として、食物アレルギーの予防が挙げられる。食物アレルギーの発現リスクは環境曝露によって左右され、一部は、乳幼児期のマイクロバイオームの発達による可能性がある。しかし、これまでペット飼育など、潜在的に保護的な環境曝露が食物アレルギーにもたらす影響については、大規模調査が行われていなかった。そこで、研究グループはEAT試験の被験者のサブ解析を行った。 試験登録時、被験者のペット所有とアトピー性皮膚炎(AD)について、それぞれの有無を調査。3、12、36ヵ月時に経皮および血清での試験にて、食物およびエアロアレルゲン感作を調べ、1~3歳時に二重盲検プラセボ対照食物負荷試験(DBPCFC)を行い、食物アレルギーの状態を確認した。 主な結果は以下のとおり。・食物アレルギーと確認されたのは、完全データが得られた参加者のうち6.1%(68/1,124人)であった。・食物アレルギーと帝王切開、生後間もない時期の感染症または抗菌薬曝露との間に、有意な関連は認められなかった。・アトピー性疾患の家族歴、母親の犬/猫感作、および参加者のADを補正後、犬と暮らすことによって乳幼児期の食物アレルギー発症率が90%低下するという関連が認められた(補正後オッズ比[aOR]:0.10、信頼区間[CI]:0.01~0.71、p=0.02)。・2匹以上の犬と暮らしていた乳幼児49人では、食物アレルギー発症者が1人もみられず、用量反応関係があることが示唆された(飼育する犬が増えるごとのaOR:0.12、CI:0.02~0.81、p=0.03)。・犬または猫を飼うこととAD発症との間に関連性は認められなかった。

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第23回 アジスロマイシン6日間連続投与はなぜ?【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 だいぶ前の話ですが、患者さんから次のような質問を受けたことがあります。「咳が出ているので受診して、アジスロマイシン500mg(力価)を1日1回3日分処方されました。飲みきりましたが、咳が残っているので再度受診したところ、また同じ量を処方されました(受け取りはほかの薬局)。3日間の服用で7日間作用が続くと説明書に書いてあるのに、6日間も飲むことがあるのですか?」。疑義照会の対象だと思いますよね。実際、2回目の処方箋を持って行った薬局もその処方に対して疑義照会をしましたが、医師がその飲み方でよいと指示を出したため、それに従って調剤をしたとのことです。こうなるとそれなりに根拠がないと医師にも患者さんにも意見を言いづらいため、アジスロマイシンの6日間投与について調べてみました。添付文書の用法・用量に関連する使用上の注意の項には、「4日目以降においても臨床症状が不変もしくは悪化の場合には、医師の判断で適切なほかの薬剤に変更すること」とあります。また、薬物動態の項には、半減期が長く分布容積が大きいことから、服用8日目でも十分な組織濃度を保つと書かれています。そもそも、血中から薬剤が消失した後も組織にとどまり効果が持続するので1日製剤や3日製剤があるわけですが、副作用も同様に持続する可能性があるため注意が必要です。アジスロマイシンのインタビューフォームには、米国では5日間投与(初日500mg 1日1回、2~5日目250mg 1日1回)、英国など欧州諸国では3日間投与が適応となっている、とありますが、6日間投与の記載はありません。そうなると、たまたま疑義照会を受けた医師が誤って変更を却下した可能性も否めませんが、イレギュラーな服用方法の論文も調べてみました。1つ目が、上記の患者さんと対象疾患は異なりますが、急性副鼻腔炎に対して、アジスロマイシン500mg/日を1日1回3日間服用(AZM-3)または6日間服用(AZM-6)と、アモキシシリン500mg/クラブラン酸塩カリウム125mgを1日3回10日間服用(AMC)の群に分けた二重盲検ランダム化比較試験です1)。アジスロマイシン6日間服用群を設定しているのは、日数に幅を持たせて最適な服用スケジュールを見いだすという意図のようです。主解析項目は、急性細菌性副鼻腔炎症状の改善でした。急性副鼻腔炎症状を呈している合計936例の患者をランダムに上記3群に振り分け(AZM-3:312例、AZM-6:311例、AMC:313例)比較したところ、治療終了時の治療成功率はAZM-3:88.8%、AZM-6:89.3%、AMC:84.9%で、試験終了時における治療成功率はAZM-3:71.7%、AZM-6:73.4%、AMC:71.3%でした。AMC投与群の副作用発生率は51.5%であり、AZM-3(31.1%、p<0.001)またはAZM-6(37.6%、p<0.001)よりも高いという結果でした。最も多かったのが下痢で、吐き気、腹部膨満感と続き、副作用による中止はAZM-3で7例、AZM-6で11例、AMCで28例でした。6日間投与が検討されていることはわかりましたが、効果と副作用のバランスをみると、あえて6日間も服用する必要性はなさそうです。アジスロマイシンを長期服用して安全性に影響なし?次に、気管支拡張症に対するアジスロマイシンの予防的投与についてです2)。またしても今回の患者さんとは対象疾患が異なる試験ですが、痰、咳、肺炎などが症状として出やすい疾患ですので、こちらのほうが患者像は近そうです。1999年2月~2002年4月に外来を受診し、以下の基準を満たした患者でアジスロマイシンの予防的投与が検討されています。CTスキャンで気管支拡張症と診断されたほかの原因となりうる要因に対する対処がなされている過去12ヵ月以内に4回以上の経口または静脈投与の抗菌薬治療を必要とする感染性の増悪エピソードあり慢性症状のコントロール不良 などマクロライドアレルギー例や肝機能異常例は除外され、平均年齢51.9歳(範囲18~77)の39例が組み込まれました。投与スケジュールは、500mgを1日1回6日間服用し、次に250mgを1日1回6日間服用し、その後は250mgを毎週月曜日/水曜日/金曜日服用するという、これはこれでまたイレギュラーなスケジュールです。治療開始1ヵ月後に血液検査を実施し、肺機能検査は開始後少なくとも4ヵ月後までに行っています。少なくとも4ヵ月の治療を完了した33例において、経口抗菌薬を必要とする感染性増悪エピソードが1ヵ月当たり平均0.71から0.13まで有意に減り(p<0.001)、抗菌薬の静脈内投与の必要量も月平均0.08から0.003へと有意に減少し(p<0.001)、肺機能パラメータも改善傾向がみられています。副作用による中止は、肝機能低下2例、下痢2例、発疹1例、耳鳴り1例で、すべてが治療初月に発生しています。そのほかの副作用は軽度なものばかりで、主に胃腸症状でした。アジスロマイシンを予防的投与として長期間服用しても、安全性には特段の問題はなさそうですが、こちらの論文も6日間投与の有用性に強い根拠を持てるものではなく、結局医師の意図はわかりませんでした。実はその後、いろいろ調べたものの、正当と思える理由が見つからないまま処方医へ再確認したところ、追加の3日分は服用なしとなったというオチがあります。いろいろと論文を読んで調べてもそういうときもあります。調べたことは無駄にはなりませんし、調べてもわからないことがあると知ったことに意味があったのかもしれません。1)Henry DC, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2003;47:2770-2774.2)Davies G, et al. Thorax. 2004;59:540-541.3)ジスロマック錠 添付文書 2018年10月改訂(第24版)・インタビューフォーム 2018年12月改訂(第22版)

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特別編 ジェラシー全開で中山 祐次郎氏と話してみた!【Dr.倉原の“俺の本棚”】第18回

【第18回 特別編】ジェラシー全開で中山 祐次郎氏と話してみた!Dr.倉原の“俺の本棚”も連載開始から1年が経過し17冊を紹介しました。その中で、2回登場している『医者の本音』、『泣くな研修医』の著者である中山 祐次郎氏。『医者の本音』出版のためのクラウドファンディングへの支援※1といった接点はあるものの、直接お話はしたことがないという2人。今回CareNet.comで対談をセッティングしました。医師と物書きという2つの顔を持つ2人に共通するものとは?―幻冬舎・見城 徹氏との交流から出版に倉原:今日はまず、中山先生の最初、つまり「なぜ書き始めたのか」を教えてもらえますか?僕が最初に中山先生の名前をお見かけしたのは、Yahoo!ニュース個人※2でした。一介の外科医というプロフィールを覚えていて、この人のブログをよく見るなと思っていて。東日本大震災後に福島の病院に駐在されたという話を聞き、その後いろんなところでお名前を聞くようになって。ずっと何がきっかけで書くようになったのか、気になっていたんですよね。中山:ありがとうございます。僕はまず、いきなり本を書いたんです。卒後5年か6年くらいの2014年ごろのことです。僕は消化器がんが専門なので、やはり患者さんが亡くなっていくんですよ。だから死について考えることが多くなって、ある日突然、「これは書かねば自分が立ち行かなくなってしまう」と、考えていることをWordに書いていったんです。とくにきっかけもなく、ただ知って欲しい、と。今思えば押し付けがましい内容だったと思うんですが、ブログでもSNSでもなくWordに書きためていったんですよね。1冊の本を目指して。倉原:日々の診療がきっかけというか。中山:そうですね。そうとも言えるかもしれない。その原稿を友人経由で出版社に持ち込んだんですけど、8ヵ月待ってボツになりましてね。激しいショックで、落ち込んで1人毎日やさぐれて酒を飲んでいたときに、当時流行していた755というSNSを始めたんです。そのアプリはホリエモンと、サイバーエージェントの社長の藤田 晋さんが作ったSNSで、その当時はテレビCMも始まって話題になっていたんですよね。ツイッターと似た感じのアプリなんですけど。それで、面白そうだなと思って、僕は「藪医師」と名乗って、医者として恋愛相談と病気の相談を受ける「藪医者外来へようこそ」というタイトルで、755をやり始めたんです。フォロワーが200人くらいになって少し注目していただくようになったころ、幻冬舎という出版社の社長の見城 徹さんも、755をやり始めたんですよ。60歳を過ぎて、初SNSを始めます、と。755上で見城さんとやり取りをさせてもらい、「すべての新しいことは、たった1人の孤独な熱狂から始まる」という言葉を目にしたとき、やっぱり出版したいという気持ちが再燃したんです。それを755上で「このボツ原稿を、諦めない」と宣言したら、見城さんが原稿を見せてみろと言ってくれて、その後3ヵ月くらいの間に出版が決まったんです。幸いにもこの本※3が3万部以上売れてくれたことでYahoo!ニュースの立場を紹介いただいたという感じです。中山 祐次郎氏:1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、同院大腸外科医師(非常勤)として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、現在福島県郡山市の総合南東北病院外科医長として、手術の日々を送る。消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。倉原:SNSがきっかけというのは今っぽいですね。1作目は存じ上げませんでした。内容は「死」について。それにしても3万部か…。医学書はヒットして1万部くらいですから。3万部…すごい…。中山:いやいや、マーケットが10倍くらい違いますから、そこは比べないでおきましょう。それよりも、倉原先生はなぜ書き始めたんですか? 倉原:僕はブログがきっかけです。2008年に後期研修医になったときに「呼吸器内科医」というブログを始めたんです。高岸※4っていう、恐ろしい量の論文を読む後輩がいて、毎日、3本とか読んでるんですよ。中山:毎日ですか!倉原:そう、毎日。彼に触発されて、自分も1日1本は読もうと決めたんです。ブログは読んだものを記録するための自己満足で始めたんですけど、続けているうちにだんだんアクセスが増えていって。それを見たシーニュっていう会社の社長から、何か書いてみませんかと声をかけてもらったんです。2013年ごろでしたね。中山:もともとお知り合いだったんですか?倉原:ううん、ブログを見て連絡をくれたんです。ひたすら論文を訳しただけのブログだったんですけど、患者さんに届けたい! みたいな熱意が伝わったって言ってもらって。最初の本※5は、結局そういう本になりました。5年目の若造が何言ってるんだと当時は叩かれてへこみましたけど。中山:それはまた、なぜ批判があったんですか?倉原:扱ったテーマが、答えのない問題ばかりだったから、ですかね。正しい選択がAかBかわからないしエビデンスもないけど、その選択の向こうにある患者さんの未来を見越して、こういうふうに選びましょうとか、そういうことを書いたんです。中山:治療上根拠はないけど、臨床医が結論を出さないといけないような選択を扱ったと。倉原:そうです。具体的に言うと、間質性肺疾患で外科的肺生検とか安易にやっちゃうじゃないですか。当時は当たり前にやられていたけど、すごく疑問に感じていて。やってもIPFの患者さんはどんどん悪くなっていく。全身麻酔をかけてまでやる意味はどこにあるんだろうと思っていて。そういうのをぶつけたんです。まあ、学会とかで本の批判をする先生方の声を聞くたびに心が折れましたよ。だけどシーニュの社長が励ましてくれて、書き続けるにいたっています。医者で本を書くのってこういう始まり方が多いんじゃないかな。1冊出して出版社とつながりができて続いていく、みたいな。―『泣くな研修医』の生みの親は“無力感”倉原:新書ではなく、なぜ小説を書こうと思ったんですか?中山:僕、生きているだけで虚無感がそれほど弱くないレベルで常にあるんです。だってみんな死ぬじゃないですか。とくにこの地球にも、日本にも、大阪にも、何の意味も残さないわけじゃないですか。死んだら全部ゼロになるのに生きるって何なの、という虚無感がひどいんですよ。その中で死を思ったりするところがあると思います。それに気付いたのは最近なんですけどね。倉原:その出口が創作に向かうってすごいですね。中山:結局小説を書いてみて思ったのは、僕が書いていたのは無力感だったなと。やるせなさ、存在しているだけで悲しい、そんなこと。倉原:オーベンを前にしたときの無力感ってありますよね。小説でとてもリアルでした。中山:オーベンは書くのに苦労したからうれしいです。倉原:男性のオーベン、岩井先生、とても冷たいじゃないですか。でも実は…というシチュエーション、現実にも結構ありますよね。中山:ありますね。倉原:いつも冷たいんだけど、飲んだときとかにポロッと出てきたりするのね。中山:そうそう、早く教えてくださいよーってなるやつ。倉原:熱いもの持ってるじゃないですか! みたいにね(笑)。ベテランになってくると動揺しないんですよ。動揺しないべきでもある。それが指導医でもある。それを研修医から見ると冷たい指導医に見えてしまうんだよね。ツンデレと言ってしまえばそれまでだけど。―気持ち悪くなるほど生々しい描写はどうやってできた?倉原:ほかにも細かい描写が、本当にリアルですよね。ストレッチャーを押していてベッドが壁にぶつかるとか。中山:そこのところは自分でも気に入っていたのですが、指摘してくれたのは先生が初めてだったのでうれしいです。倉原:サイレン待つのも嫌ですね。中山:あはは、あれは本当に嫌ですよねー。倉原:あと、「人工呼吸器に乗っている」って。乗っているって何だよ、みたいなあの表現。こういうちょっとした言い回しが本当に生々しい。研修医のころを思い出す、と言われませんか。中山:当時を思い出してつらくなるとか、嫌になるとか。気分が悪くなるっていう人も多いですね。倉原:どう勉強したらこういう生々しい文章が書けるのか、めちゃくちゃ気になります。中山:うまいかどうかは別として、村上 龍氏の受け売りですが、「正確さ」にこだわりました。登場人物の行動と人物像に矛盾が生じないようにしています。このキャラクターだったら、この服は選ばない、きっと患者さんと話すときにこういう感情が生まれるだろうという必然性を見つけていく感じ。あと、妻に読んでもらっています。彼女は医療関係ではないので、わからないところや面白くないところに率直な意見をくれるので、それを参考にすることが多いですね。―中二病だと言われても、太宰の影響は大きい!倉原:読んできた本からの影響はないんですか?中山:ベタで恥ずかしいんですけど、太宰 治。僕、太宰の人には言えないような恥ずかしい感情の動きを書いてしまうところが好きなんです。中二病っぽいですけど。ほかにも夏目 漱石とか昭和の純文学をたくさん読んでいたから、その影響もあるかもしれません。倉原先生はどんな本を読むんですか?倉原:小説はそんなに読んできていなくて、読むのはもっぱら医学書ばかりです。中山:献本も全部ですか? 倉原:ええ、頂いたものはほぼすべて読みます。中山:それだけでも膨大そうですね。それこそ医学書もたくさん出版される中で、いい本に出合うコツはあります?倉原:はっきり言えば著者でしょうか。なかでもやっぱり岩田 健太郎先生はすごい。いい意味で怪物だと思います。中山:それはどういう意味ですか? 倉原:僕、医学書ってもともと読み物ではないと思っていたんです。アメリカの医学書も読みますが、あちらの本は今でも「ですます調」の硬い文体で、内容はもちろんムズカシイから、読んで笑う要素はないんですよ。それと比べて岩田先生は、『抗菌薬の考え方、使い方』※6という本で、医学書と小説を足した、寝転んで読めるような“読み物としての医学書”というジャンルを作り出した。これが、岩田先生は怪物級にスゴイと思う理由です。読み物としての医学書というジャンルができたことで、日本の医学書出版業界のトレンド―文化ができたんだと思います。だから、平均の売上部数が数千部の医学書業界で、岩田先生の本はフツウに1万部売れますからね。医学書業界で1万部は異例中の異例ですよ。そこにきて中山先生の本は10万部超えって本当にジェラシー以外の何物でもないです※7、ほんと。ジェラシー(笑)。中山:いやいや、比べないでおきましょう…。倉原:うん、そうですね。―医学書にストーリー性は必要か?中山:医学書って基本的には情報を得るためのものであって、勉強ができればストーリー性は必要ないと思っていました。でも、今のお話だと医学書にもストーリーが必要ということでしょうか?倉原:あくまで僕個人の体験談ですが、リファレンス、辞書みたいな使い方をする本って、本棚の奥にしまって出さなくなってしまうんです。眠くなっちゃうから。でも1度通読したものは記憶に残っていて、また読む。通読した本って、物語風だったり、話し口調だったりするものですよね。坂本 壮先生※8もそうですけど、本屋で手に取ったときに読みやすそうだなと思うとすぐ買っちゃうし、読んだ後も記憶に残る。中山:ああ、なるほど。倉原:だから、今のトレンドでは、1回すべて読み通させるだけの文章力がないと売れないのかなとも思います。中山:なるほど。今後もそのトレンドは続くのでしょうか。個人的にすごく気になります。倉原:硬い医学書を好む先生も一定数いるので、すみ分けがされるという感じじゃないでしょうか。中山:すみ分けは年齢層によるものですか? 倉原:そうですね…。基本的に僕らより上の世代のベテランドクターは硬い医学書を好むように見えますし、4~5年目までくらいの若手のドクターは、圧倒的に砕けた文体の読み物を読んでいる印象を受けます。でも、年齢で区切れるかというとそうでもないんじゃないかとも思うんです。僕は14年目だけど永遠の若手の自負があるし。岩田先生以降の“読み物としての医学書”に触れてきた人たちは年齢に関係なく、読みやすいものを手に取るから。全体としては読み物のシェアが増えていくんじゃないかな、というのが僕の見方です。―やっぱり医学書が書きたい!中山:それを聞いてやる気が出ました! 僕も医学書を書きたいと思っているんです!倉原:医学書! 中山先生は一般向けに発信しているイメージが強いから、少し意外です。中山:基本は一般の方に向けたものが多いんですが、やっぱり医者なので。ちょうど、小説と医学書の中間のようなものを書いている途中です。倉原:もうすでに書き始めていると。ちなみに内容はどういったもの?中山:ずばりコンサルトの極意です! コンサルト情報の書き方や電話のかけ方とか、自分が若手のときに困ったことをまとめている感じです。倉原:それはニーズあると思うな。それこそストーリー性があったらウケそう。さすがにこれは幻冬舎ではないですよね。中山:これは専門出版社からです。あと、まだ構想でしかないですけど、今、誰からも応援されていない医療者に光を当てるようなものが書きたいですね。倉原:誰からも応援されてない医療者?中山:例えばお局さんです。新人ナース向けの本はたくさんあっても、ある程度経験年数がある看護師さんって置き去りにされている気がして。お局っていう単語自体もあんまりよくないじゃないですか。もっとポジティブな意味付けをした単語を作り出したいと思っています。倉原:それは確かに。ぽっかり抜け落ちているところですね。目のつけどころが面白い。中山:倉原先生は今後、どんなものを書く予定なんですか?倉原:今は喘息関連の本を書いています。あと…、実は僕も読み物的な医学書を書きたいとずっと思っています。でも自分には文才がないなと思って踏みとどまってます。中山:ちょっと待ってください。僕、“文才”という言葉はないと思うんです。倉原:文才という言葉はない。それかっこいいな…。中山:文才っていうと特別なものに感じてしまうけど、率直に自分の感情の動きを書ける人のことを文才がある人というんじゃないかなという気がしています。倉原:かっこつけないで書けるのが文才? それは深いな…。中山:飾らないというか、感情と言葉の間に1個もフィルターのない人。CareNet.comの倉原先生の連載も、ご自身の体験談や時々奥さんとのやりとりが入っていたりしてリアルな感じがしますよね。倉原:下ネタが?中山:そこじゃないです(笑)。なぜ急に下ネタと。倉原:ブログから書き始めたのもあって、PVを上げる方法をつい考えるんです。そうすると自然と下ネタが多くなる。はっちゃけてごまかしている感じが自分ではしていて、だいぶ恥ずかしいです。中山:下ネタは人類共通の話題ですから。でも下ネタなら何でもいいわけではないでしょう。やっぱり文章力のなせる業だと思います。倉原:憧れの小説家に言われるとすごく照れますね。でも読み物的な医学書を書きたい、目指すところが似ている気がします。中山:それはとってもありますね。倉原:そう考えると、出会うべくして出会っているのかもしれませんね。※1第9回「何もかも前代未聞な本」※2Yahoo!ニュース個人中山祐次郎※3中山祐次郎.幸せな死のために一刻も早くあなたにお伝えしたいこと 若き外科医が見つめた「いのち」の現場三百六十五日. 2015.幻冬舎新書※4第1回「エビデンスが本の中で踊っている」※5「寄り道」呼吸器診療―呼吸器科医が悩む疑問とそのエビデンス※6岩田健太郎. 抗菌薬の考え方、使い方. 2004.中外医学社※7中山祐次郎. 医者の本音.2018.SBクリエイティブ※8第5回「指導医が語る心得のような本」(取材・構成・撮影 ケアネット 安原 祥)

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プロカルシトニン値による抗菌薬投与短縮と肺炎再発

 肺炎における抗菌薬投与について、プロカルシトニン(PCT)値に基づいた管理により、死亡率を増加させることなく投与期間を短縮したという研究がいくつか報告されている。今回、福岡大学筑紫病院の赤木 隆紀氏らの研究により、PCTガイドによる抗菌薬中止により、肺炎の再発を増加させることなく投与期間を短縮するのに役立つ可能性が示唆された。the American Journal of the Medical Sciences誌オンライン版2019年4月16日号に掲載。 本研究では、2014~17年、入院時PCT値が0.20ng/mLを超えていた市中肺炎または医療関連肺炎の入院患者を前向きに登録した。PCT値は5、8、11日目、その後必要があれば3日ごとに測定した。PCT値が0.20ng/mLを下回った場合に抗菌薬中止を勧奨され、0.10ng/mLを下回った場合は中止するよう強く勧奨された。なお、2010~14年の入院患者をヒストリカルコントロール(対照群)とした。主要評価項目は、抗菌薬投与期間と抗菌薬中止後30日以内の肺炎再発とした。 主な結果は以下のとおり。・PCTガイド群および対照群は、それぞれ116例であった。・肺炎の重症度およびPCT値を含む背景因子は、2つのグループ間で同様であった。・抗菌薬投与期間の中央値は、PCTガイド群で8.0日、対照群で11日であった(p<0.001)。・多変量回帰分析において、PCTガイドによる抗菌薬中止(偏回帰係数[PRC]:-1.9319、p<0.001)、PCT(PRC:0.1501、p=0.0059)およびアルブミン(PRC:-1.4398、p=0.0096)が、抗菌薬投与期間と有意に関連していた。・抗菌薬中止後30日以内の肺炎再発は、2群間で統計的に差がなかった(4.3% vs.6.0%、p=0.5541)。

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植込み型心臓用医療機器感染予防のための抗菌包装の有効性の検討(解説:許俊鋭 氏)-1037

背景 植込み型心臓用電子医療機器(Cardiac Implantable Electronic Devices:CIED)留置後のポケット感染は、術後の合併症率および死亡率と関連している。しかし、術前抗菌薬の使用以外のポケット感染を予防するための治療方法に関しては、限られたエビデンスしかない。方法 CIED植込み手術に関連するポケット感染の発生率を減らすための吸収性の抗菌薬溶出性包装(Antibacterial Envelope)の安全性と有効性を評価するために、無作為化比較臨床試験(WRAP-IT)を実施した。Antibacterial Envelopeは吸収性マルチフィラメントメッシュエンベロープ(Absorbable Antibacterial Envelope、Medtronic)を使用していて、皮下ポケット内のCIED安定性を改善するとともに、抗菌薬のミノサイクリンとリファンピンを溶出することができる。 両心室ペーシング機能付植込み型除細動器 (CRTD)の初回植込み手術症例、挿入ポケットの修復、ジェネレータの交換、およびシステムのアップグレード等の手術を受けた患者を、抗菌包装を行う群(エンベロープ群)と行わない群(対照群)に1:1の割合で無作為に割り付けた。感染防止のための標準治療は全症例に実施した。主要評価項目は、CIED植込み手術後12ヵ月以内の感染に起因したCRTDの摘出またはポケットの修復、感染の再発を伴う長期の抗菌薬療法、または死亡とした。安全性に関する副次的評価項目は、12ヵ月以内の植込み手術やデバイス関連の合併症とした。結果 6,983例の患者を無作為に割り付けた。エンベロープ群3,495例、対照群に3,488例であった。主要評価項目は、エンベロープ群の25例、対照群の42例の患者で発生した(12ヵ月のカプランマイヤー推定事象率、それぞれ0.7%および1.2%;p=0.04)。安全性の評価項目は、エンベロープ群の201例、対照群の236例の患者で発生した(12ヵ月カプランマイヤー推定事象率、それぞれ6.0%および6.9%;非劣性検定、p<0.001)。平均追跡調査期間は20.7±8.5ヵ月であった。追跡調査期間全体を通しての主要なCIED関連感染症は、エンベロープ群32例、対照群51例の患者で発生した。結論 抗菌包装の併用により合併症発生率が上昇することなく、単独の標準的感染予防戦略よりもCIED感染症の発生率が大幅に(約40%)低下した。

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第21回 関節リウマチとMTXにまつわるお役立ちエビデンス集【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 関節リウマチの罹患率は人口の1%とも言われ、とくに女性の患者は男性の2~3倍と多く、いずれの年代でも発症しうる疾患です1)。関節リウマチ治療の第1選択薬は言わずと知れたメトトレキサート(MTX)で、関節破壊の進行を抑制するために重要かつ有名な薬剤です。今回はそのMTXに関連するエビデンスをあらためて紹介します。有効性についてMTXの有効性については、関節リウマチ患者732例においてMTX単独投与の効果をプラセボと比較したコクランのシステマティックレビュー2)など、すでに十分なエビデンスがあります。これは1997年に発表されたレビューの2014年改訂版で、レビューに含まれているのは1980〜90年代の試験です。以前の治療や併用薬としてNSAIDsや他の抗リウマチ薬を使用している場合もありますが、有効性については、ほとんどの主要評価項目で有意な改善を認めています。ACR50(圧痛関節数、膨張関節数、患者による疼痛評価、患者による全般活動性評価、などの評価で必須項目を含む50%以上の改善)を達成したのは100人当たりプラセボ8例、MTX23例で、健康関連QOLのNNT(Number Needed to Treat:必要治療数)=9、X線写真における関節破壊の進行評価のNNT=13と、MTXの有意な効果が示されています。一方で、3~12ヵ月の評価では、プラセボと比較して100人当たり9例に、多くの有害事象による中止が報告されています。葉酸との併用について葉酸またはフォリン酸(ロイコボリン)を摂取することで、MTXによる悪心、腹痛、肝機能異常などが低減し、口内炎も減る傾向にあることが示唆されています3)。こちらもコクランに掲載された、MTXと葉酸またはプラセボ併用を比較した6つの二重盲検ランダム化比較試験、計624例を含むシステマティックレビューです。葉酸またはフォリン酸併用群では、24~52週のフォローアップで、消化器系の副作用(悪心、嘔吐、腹痛)の絶対リスク減少率-9.0%、相対リスク減少率-26.0%、NNT=11と、プラセボ群よりも有意に減少しています。同じ期間の口内炎の発生については、絶対リスク減少率-6.2%、相対リスク減少率-27.8%で、統計的有意差はないものの減少傾向にありました。また、肝毒性(トランスアミナーゼ上昇)の発生率は、8〜52週間のフォローアップ期間において、絶対リスク減少率-16.0%、相対リスク減少率-76.9%、NNT=6と、葉酸を併用する多くのメリットが示されています。なお、葉酸併用によるMTXの効果の有意な減弱はありませんでした。関節リウマチ治療におけるMTX診療ガイドライン 2016年改訂版においても、MTXを継続している患者では、必要に応じて葉酸を併用することが推奨されています4)。投与間隔については、MTX服用の24~48時間後が一般的です。同ガイドラインによれば、そのベストな投与間隔について明確なエビデンスはないとされていますが、少なくともその時間を空ければMTXの効果に影響はないだろうとのことです。なお、ロイコボリンレスキュー療法の研究では、MTX服用後42~48時間を過ぎてしまうとMTXの毒性が発現しやすくなることが報告されています5)。感染症リスクについてMTXは免疫抑制作用を有する薬剤ですので、肺炎、発熱、口内炎など感染兆候に注意を払うことも大切です。2015年にLancetに掲載されたネットワークメタ解析で、慢性関節リウマチ患者において、MTX使用時と生物学的製剤使用時の重篤感染症(死亡例、入院例、静脈注射の抗菌薬使用例)発現リスクについて検討されています6)。結果としては、生物学的製剤はDMARDsに比べて重篤感染症リスクが約30%高く、とくにMTX使用歴がある患者および標準〜高用量の生物学的製剤使用患者ではリスクが高いという傾向にありました。年間1,000人当たりの重篤感染症発生人数は、DMARDs服用群で20例、標準量の生物学的製剤使用群で26例、高用量の生物学的薬剤使用群で37例、生物学的製剤との併用群で75例です。MTX使用歴がない患者では、感染症リスクの有意な増加はありませんでした。近年では多くの生物学的製剤が発売されているので、MTXとの併用時や易感染性疾患罹患時の感染兆候モニタリングは意識しておくとよいでしょう。1)MSDマニュアル 関節リウマチ2)Lopez-Olivo MA, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2014;6:CD000957.3)Shea B, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2013;5:CD000951.4)関節リウマチ治療におけるメトトレキサート(MTX)診療ガイドライン 2016年改訂版5)Cohen IJ, et al. Pediatr Blood Cancer. 2014;61:7-10.6)Singh JA, et al. Lancet. 2015;386:258-265.

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第16回 発熱の症例・全てのバイタルが異常。何を疑う?-3【薬剤師のためのバイタルサイン講座】

今回の症例は、発熱を来した症例です。発熱のため受診される高齢者は少なくありませんが、なかには早期に治療を開始しないと生命にかかわる場合もあります。患者さんDの場合◎経過──3家族の到着後、医師・訪問看護師、施設の職員とあなたは、家族とよく相談して、近隣の救急病院に救急搬送することにしました。その晩、帰宅したあなたは、SIRSと敗血症について調べてみました。「サーズ、サーズっと。あら?SARS(Severe Acute Respiratory Syndrome;重症急性呼吸器症候群)とは違うのね?」教科書を読むと、細菌毒素などにより様々なサイトカインや血管拡張物質が放出されて末梢血管抵抗が低下し、相対的に循環血液量が減少することで血圧が低下、臓器への低灌流や臓器障害を来すことが書かれていました。臓器への低灌流や臓器障害を来している場合は重症敗血症(severe sepsis)」と呼ばれ、適切な補液を行っても改善しない血圧低下があること、血圧を維持するためにドパミンやノルアドレナリンなどの昇圧薬を必要とする場合には「敗血症性ショック(septic shock)」といわれること、さらに循環動態を安定化させるための初期治療(Early Goal Directed Therapy; EGDT)について学びました。「すぐに点滴を始めたのは、このためだったのね」敗血症診療ガイドライン2016(J-SSCG2016)と新しい敗血症の定義つい最近、敗血症診療ガイドラインが新しくなったのをご存知ですか?新しいガイドラインでは敗血症の定義は「感染症によって重篤な臓器障害が引き起こされる状態」と変更されました。敗血症の病態について、「感染症による全身性炎症反応症候群」という考え方から、「感染症による臓器障害」に視点が移されたわけです(図2)。本文の「経過3」には「臓器への低灌流や臓器障害を来している場合は『重症敗血症』と呼れ・・・」とありますが、この以前の重症敗血症が今回の敗血症になりました。また、敗血症性ショックの診断基準は、「適切な輸液にもかかわらず血圧を維持するために循環作動薬を必要とし、『かつ血清乳酸値>2mmol/Lを認める』」となりました。そこで何か感じませんか?そうなんです、敗血症の定義からSIRSがなくなったんです。SIRSは体温・脈拍数・呼吸数・白血球数から診断できますね。新しい敗血症はバイタルサインからその徴候に気付くことができるのでしょうか・・・。敗血症の診断「感染症によって臓器障害が引き起こされた状態」が新しい敗血症の定義でしたね。そこで、どうしたら臓器障害がわかるんだろうという疑問が出てきます。臓器障害は「SOFA(sequential organ failure assessment)スコア」によって判断します(表4)。感染症があり、SOFAスコアが以前と比べて2点以上上昇していた場合に臓器障害があると判断して、敗血症と診断します。この表をみるとすぐに点数を付けるのは難しいな・・・と思いますよね。そこで、救急外来などではqSOFA(quick SOFA)を使用します(表5)。意識の変容・呼吸数(≧22回/分)・収縮期血圧(≦100mmHg)の3項目のうち2項目以上を満たすときに敗血症を疑います。ガイドラインが新しくなったといっても、やはりバイタルサインによって敗血症かどうか疑うことができますね。敗血症が疑われたら、その次にSOFAスコアを評価して、敗血症と診断するわけです。具体的な診断の流れを図に示します(図3)。スライドを拡大するスライドを拡大するEGDT(Early Goal Directed Therapy)についてEGDTは、中心静脈圧・平均動脈圧などを指標にしながら、補液・循環作動薬などを使用して、尿量・血中乳酸値などを早期に改善しようとする治療法ですが、近年の臨床試験ではEGDTを遵守しても有益性は見いだせなかったという結果が得られました。ただ、敗血症性ショックに対する初期治療の一つは補液であることにかわりはありません。時の流れでガイドラインが変わっても患者さんを診るときにバイタルサインが重要なことは変わっていないようですね。エピローグ救急搬送先の病院で細菌学的検査、抗菌薬の投与、およびドブタミン、ノルアドレナリンによる治療が行われました。敗血症性ショックでした。約3週間が経ち、退院後にあなたが訪問すると、その91歳の女性は以前と同じようにベッドの上に寝ていました。以前と同じように寝たきりの状態で、以前と同じように職員の介助で何とか食事をしていました。本人の家族(長男)に新しく処方された薬について説明する機会がありました。ベッドサイドで長男と話をしていると、普段無表情な本人が、長男が来ているところを見て少しニコッと微笑んだように見えました。五感を駆使して、患者さんの状態を感じとる今回のポイントは、敗血症とSIRSの概念を知り、急を要する発熱を見極めることができるようになることでした。それともう1つ、今回のあなたは五感を駆使して患者さんの状態を知ろうとしました。ぐったりしているところや呼吸の状態を"視て"、呼吸が速い様子(息づかい)を耳で"聴き"ながら、手や手首を"触れて"体温や脈の状態を確認しました(味覚と嗅覚が入っていないなんて言わないでくださいね)。緊急度を素早く察知する手段のひとつですから、バイタルサインと併せて患者さんを注意して観察するとよいと思います。

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小児におけるリスペリドン使用関連有害事象

 リスペリドンは、小児の行動障害によく使用されるが、この集団における薬剤関連有害事象の定義は、あいまいである。米国・ヴァンダービルト大学のKazeem A. Oshikoya氏らは、リスペリドン治療を受けた小児における有害事象発生率およびリスク因子について検討を行った。Drugs-Real World Outcomes誌オンライン版2019年3月27日号の報告。 ジェネラリストおよび小児科専門医が所属する学術医療センターで、4週間以上のリスペリドン治療を受けた18歳以下の患者を対象とした。非特定化された電子健康記録よりデータを収集した。有害事象は、患者または親/保護者からの報告および、医師による発見もしくは研究室でのフォロー中に検出された、リスペリドンに起因する害のあるあらゆるイベントと定義した。有害事象と臨床変数との関連は、単変量および多変量解析を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者は、371例(年齢中央値:7.8歳[四分位範囲:5.9~10.2]、男児:271例[73.0%])であった。・最も一般的な診断は、注意欠如多動症(160例[43.1%])と自閉症(102例[27.5%])であった。・リスペリドンのターゲット症状は、攻撃性(166例[44.7%])および問題行動(114例[30.7%])であった。・有害事象は、110例(29.6%)で156件認められた。・そのうち、最も一般的な有害事象は、体重増加(32件[20.5%])および錐体外路症状(23件、14.7%)であった。・攻撃性、過敏性、自傷行為は、有害事象と正の相関が認められ、鎮痛薬と抗菌薬の併用と負の相関が認められた。・多変量解析では、この関連性は、自傷行為(調整オッズ比:3.1、95%CI:1.7~5.4)および抗菌薬の併用(調整オッズ比:0.2、95%CI:0.1~0.9)において有意なままであった。 著者らは「1ヵ月以上のリスペリドン治療により、小児の3人に1人が1つ以上の有害事象を経験した。自傷行為を有する小児では、とくに注意が必要である」としている。■関連記事小児攻撃性に対する抗精神病薬の効果~メタ解析自閉スペクトラム症とADHDを有する小児における不安障害と気分障害第2世代抗精神病薬、小児患者の至適治療域を模索

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