サイト内検索|page:12

検索結果 合計:890件 表示位置:221 - 240

221.

緊急虫垂切除の穿孔・合併症リスク、8h vs.24h/Lancet

 虫垂炎の標準治療は虫垂切除術とされ、院内での待機時間が長くなるほど穿孔や合併症のリスクが高まると考えられている。フィンランド・ヘルシンキ大学のKaroliina Jalava氏らは「PERFECT試験」において、急性単純性虫垂炎が疑われる患者では、8時間以内の虫垂切除術と比較して24時間以内の虫垂切除術は、虫垂穿孔のリスクが高くなく、術後の合併症の発生率も増加しないことを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年9月14日号に掲載された。フィンランドとノルウェーの非劣性試験 PERFECT試験は、フィンランドの2つの病院とノルウェーの1つの病院で実施された非盲検無作為化対照比較非劣性試験であり、2020年5月~2022年12月に参加者の適格性の評価を行った(Finnish Medical Foundationなどの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、急性虫垂炎と診断され、緊急虫垂切除術が予定されている患者であった。複雑性虫垂炎を除外するために、症状が3日以上持続している患者では画像診断が推奨された。 被験者を、8時間以内または24時間以内に虫垂切除術を施行する群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、手術中に診断された穿孔性虫垂炎(米国外傷外科学会[AAST]のグレード3~5)とし、intention to treat解析を行った。非劣性マージンは5%であった。 1,803例を解析に含めた。8時間以内群に907例(年齢中央値35歳[四分位範囲[IQR]:28~46]、男性57%)、24時間以内群に896例(35歳[28~47]、53%)を割り付けた。手術部位感染の頻度も同程度 無作為化から手術開始までの時間中央値は、8時間以内群が6時間(IQR:3~10)、24時間以内群が14時間(8~20)(群間差8時間)で、入院期間も8時間以内群で8時間短かった。24時間以内群の24%が8時間以内に手術を受けた。待機時間中に、8時間以内群の51%、24時間以内群の48%が抗菌薬の投与を受けた。 穿孔性虫垂炎は、8時間以内群の8%(77/907例)、24時間以内群の9%(81/896例)で発生し(絶対群間リスク差:0.6%、95%信頼区間[CI]:-2.1~3.2、p=0.68、リスク比:1.065、95%CI :0.790~1.435)、24時間以内群の8時間以内群に対する非劣性が示された。 30日以内の合併症の発生率(8時間以内群7%[66/907例]vs.24時間以内群6%[56/896例]、群間差:-1.0%、95%CI:-3.3~1.3、p=0.39)には有意な差はなく、手術部位感染(3%[24例]vs.2%[22例]、-0.2%、-1.6~1.3、p=0.80)の頻度も両群で同程度だった。手術部位感染による経皮的ドレナージまたは再手術は、それぞれ1%(6例)、1%(8例)で要した。追跡期間中に死亡例はなかった。 著者は、「これらの知見により、虫垂切除術のスケジューリングが容易になる可能性がある。また、たとえば、虫垂切除術を夜間から日中に延期することで、他の緊急手術のための医療資源の確保につながるだろう」としている。

222.

英語で「薬を中止する」は?【1分★医療英語】第97回

第97回 英語で「薬を中止する」は?He had a tarry stool this morning.(彼は今朝、タール便がありました)Okay, let’s hold aspirin.(わかりました、アスピリンは中止しましょう)《例文1》Steroid was held yesterday.(ステロイドは、昨日中止しました)《例文2》We are going to discontinue antibiotics tomorrow.(明日、抗菌薬を中止する予定です)《解説》「薬を開始する・中止する」というのは、患者さんや医療者同士のコミュニケーションで頻繁に行われるやりとりです。“hold”は「持っておく」という意味の動詞ですが、「やめておく」「控えておく」という意味もあり、hold+薬で、「薬を中止する・休止する」という意味になります。ちなみに、動詞の“hold”にはほかの使い方もあり、“Hold on please.”(ちょっと待ってください)、“Hold your breath.”(息を止めてください)といった表現も覚えておくと便利です。また、「中止する」を表すほかの動詞としては、“stop”や“discontinue”などがあります。“discontinue”という動詞は、“continue”(継続する)に否定を表す“dis”が接頭語に付いているので、継続の反対、つまりは「中止する」という意味を覚えやすいでしょう。講師紹介

224.

不要な抗菌薬処方、60歳以上の医師に多く特定の医師に集中か

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を含むウイルス感染症には、抗菌薬が無効であるにもかかわらず、抗菌薬が処方されている実態が報告されている1,2)。ただし、抗菌薬処方に関連する医師や患者の特徴については明らかになっていない。そこで、東京大学大学院医学系研究科の宮脇 敦士氏らは、本邦の一般開業医を対象としたデータベース(Japan Medical Data Survey:JAMDAS)を用いて、COVID-19の外来受診データを分析した。その結果、本邦の新型コロナのプライマリケアにおいて、抗菌薬の処方は少数の診療所に集中していた。また、60歳以上の医師は抗菌薬の処方が多かった。本研究結果は、JAMA Network Open誌2023年7月25日号のリサーチレターで報告された。新型コロナの抗菌薬処方の傾向についてJAMDASを用いて解析 2020年4月1日~2023年2月28日の期間において、継続観察された843診療所の新型コロナの外来受診データ(JAMDAS)を分析し、抗菌薬処方の傾向について検討した。ロジスティック回帰モデル(月と都道府県で調整)を用いて、患者特性(性、年齢、合併症の有無)や医師特性(性、年齢)と抗菌薬処方の関連を調べた。なお、抗菌薬の処方が適切である可能性のある疾患の診断を有する患者の受診データは除外した。 JAMDASを用いて新型コロナの抗菌薬処方の傾向について検討した主な結果は以下のとおり。・COVID-19患者52万8,676例(年齢中央値33歳[四分位範囲:15~49]、女性51.6%)のうち、4万7,329例(9.0%)に抗菌薬が処方された。・新型コロナで最も多く処方された抗菌薬は、クラリスロマイシン(25.1%)であった。次いで、セフカペン(19.9%)、セフジトレン(10.2%)、レボフロキサシン(9.9%)、アモキシシリン(9.4%)の順に多かった。・新型コロナの抗菌薬処方絶対数の上位10%の診療所で、全体の処方数の85.2%を占めていた。・新型コロナの抗菌薬処方絶対数の上位10%の診療所における抗菌薬の平均処方率が29.0%であったのに対し、残りの90%の診療所における抗菌薬の平均処方率は1.9%であった。・医師が新型コロナに抗菌薬を処方する割合は、44歳以下の医師と比較して、60歳以上の医師で高かった(調整オッズ比[aOR]:2.38、95%信頼区間[CI]:1.19~4.47、p=0.03)。医師の性別によって、抗菌薬の処方に違いはなかった。・新型コロナ患者が抗菌薬を処方される割合は、18歳未満の患者と比較して、18~39歳(aOR:1.69、95%CI:1.37~2.09、p<0.001)および40~64歳(aOR:1.36、95%CI:1.11~1.66、p=0.01)の患者で高かった。・併存疾患のない新型コロナ患者と比較して、併存疾患を有する患者は抗菌薬を処方される割合が高かった(aOR:1.48、95%CI:1.09~2.00、p=0.03)。 本研究結果について、著者らは「本研究の限界として、患者の重症度など、未測定の交絡因子の影響を十分に考慮できないこと、JAMDASに含まれない診療所などへの一般化可能性には限界があることなどが挙げられる」としたうえで、「本研究結果は、抗菌薬の適正使用促進の取り組みに役立つ可能性がある」とまとめた。

225.

小児の急性副鼻腔炎、鼻汁の色で判断せず細菌検査を/JAMA

 急性副鼻腔炎の小児において、鼻咽頭から細菌が検出されなかった患児は検出された患児に比べ抗菌薬による治療効果が有意に低く、その有意差を鼻汁の色では認められなかったことが、米国・ピッツバーグ大学のNader Shaikh氏らによる多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験で示された。急性副鼻腔炎とウイルス性上気道感染症の症状の大半は見分けることができない。そのため小児の中には、急性副鼻腔炎と診断されて抗菌薬による治療を受けても有益性がない集団が存在することが示唆されていた。結果を踏まえて著者は、「診察時に特異的な細菌検査をすることが、急性副鼻腔炎の小児における抗菌薬の不適切使用を減らす戦略となりうる」とまとめている。JAMA誌2023年7月25日号掲載の報告。急性副鼻腔炎の持続・増悪患児約500例を、抗菌薬群とプラセボ群に無作為化 研究グループは2016年2月~2022年4月に、米国の6機関に付属するプライマリケア診療所において、米国小児科学会の臨床診療ガイドラインに基づいて急性副鼻腔炎と診断された2~11歳の小児で、急性副鼻腔炎が持続または増悪している症例515例を、アモキシシリン(90mg/kg/日)+クラブラン酸(6.4mg/kg/日)投与群(抗菌薬群)またはプラセボ群に1対1の割合に無作為に割り付け、1日2回10日間経口投与した。 割り付けは、鼻汁の色の有無(黄色または緑色と透明)によって層別化した。また、試験開始前および試験終了時の来院時に鼻咽頭スワブを採取し、肺炎球菌、インフルエンザ菌およびモラクセラ・カタラーリスの同定を行った。 主要アウトカムは、適格患者(症状日誌の記入が1日以上あり)における診断後10日間の症状負荷で、小児鼻副鼻腔炎症状スコア(Pediatric Rhinosinusitis Symptom Scale:PRSS、範囲:0~40)に基づき判定した。また、鼻咽頭スワブ培養での細菌検出の有無、ならびに鼻汁色でサブグループ解析を行うことを事前に規定した。副次アウトカムは、治療失敗、臨床的に重大な下痢を含む有害事象などとした。診断時の鼻咽頭からの細菌検出の有無で治療効果に有意差あり 無作為化後に不適格であることが判明した5例を除く510例(抗菌薬群254例、プラセボ群256例)が試験対象集団となった。患者背景は、2~5歳が64%、男児54%、白人52%、非ヒスパニック系89%であった。このうち、主要アウトカムの解析対象は、抗菌薬群246例、プラセボ群250例であった。 平均症状スコアは、抗菌薬群9.04(95%信頼区間[CI]:8.71~9.37)、プラセボ群10.60(10.27~10.93)であり、抗菌薬群が有意に低かった(群間差:-1.69、95%CI:-2.07~-1.31)。症状消失までの期間(中央値)は、抗菌薬群(7.0日)がプラセボ群(9.0日)より有意に短縮した(p=0.003)。 サブグループ解析の結果、治療効果は細菌が検出された患児(抗菌薬群173例、プラセボ群182例)と検出されなかった患児(それぞれ73例、65例)で有意差が認められた。平均症状スコアの群間差は、検出群では-1.95(95%CI:-2.40~-1.51)に対し、非検出群では-0.88(95%CI:-1.63~-0.12)であった(交互作用のp=0.02)。 一方、色あり鼻汁の患児(抗菌薬群166例、プラセボ群167例)と透明の鼻汁の患児(それぞれ80例、83例)では、平均症状スコアの群間差はそれぞれ-1.62(95%CI:-2.09~-1.16)、-1.70(95%CI:-2.38~-1.03)であり、治療効果に差はなかった(交互作用のp=0.52)。 なお、著者は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により試験登録が中断され症例数が目標に達しなかったこと、重症副鼻腔炎の小児は除外されたことなどを研究の限界として挙げている。

226.

日本人NSCLCへのICI、PPI使用者は化学療法の併用が必要か/京都府立医大ほか

 現在、PD-L1高発現の非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対する初回治療の選択肢として、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)単剤療法、複合免疫療法が用いられている。しかし、その使い分けの方法は明らかになっていない。また、プロトンポンプ阻害薬(PPI)、抗菌薬の使用歴があるNSCLC患者は、ICI単剤療法の効果が減弱する可能性が指摘されている1,2)。そこで、京都府立医科大学大学院の河内 勇人氏らは、ペムブロリズマブ単剤療法、複合免疫療法の効果と各薬剤の使用歴の関係について検討した。その結果、PPIの使用歴がある患者は、複合免疫療法の効果がペムブロリズマブ単剤療法と比較して良好であった。一方、PPIの使用歴がない場合は、治療効果に有意差は認められなかった。本研究結果は、JAMA Network Open誌2023年7月11日号で報告された。 国内13施設において、初回治療としてペムブロリズマブ単剤療法(単剤療法群)またはペムブロリズマブと化学療法の併用療法(併用療法群)を受けたPD-L1高発現(TPS≧50%)のNSCLC患者425例を後ろ向きに追跡し、治療開始時の薬剤使用歴(PPI、抗菌薬、ステロイド)を含む患者背景と治療効果の関連を検討した。単剤療法群と併用療法群の比較は、傾向スコアマッチングにより背景因子を揃えて行った。 主な結果は以下のとおり。・単剤療法群は271例(年齢中央値[範囲]:72歳[43~90]、男性:215例)併用療法群は154例(同:69歳[36~86]、男性:121例)が対象となった。・多変量解析の結果、単剤療法群においてPPI使用歴は、無増悪生存期間(PFS)の短縮に有意な関連があった(ハザード比[HR]:1.38、95%信頼区間[CI]:1.00~1.91、p=0.048)。一方、併用療法群では関連が認められなかった(同:0.83、0.48~1.45)。・多変量解析において、単剤療法群と併用療法群のいずれも、抗菌薬使用歴やステロイド使用歴とPFSには有意な関連が認められなかった。・PPI使用歴のある患者集団において、PFS中央値は単独療法群が5.7ヵ月であったのに対し、併用療法群は19.3ヵ月であり、併用療法群は単独療法群と比較してPFSが有意に改善した(HR:0.38、95%CI:0.20~0.72、p=0.002)。・同様に、全生存期間(OS)中央値は単独療法群が18.4ヵ月であったのに対し、併用療法群は未到達であり、併用療法群は単独療法群と比較してOSが有意に改善した(HR:0.43、95%CI:0.20~0.92、p=0.03)。・PPI使用歴のない患者集団において、PFS中央値は単独療法群が10.6ヵ月であったのに対し、併用療法群は18.8ヵ月であったが、併用療法群と単独療法群に有意差は認められなかった(HR:0.81、95%CI:0.56~1.17、p=0.26)。・同様に、OS中央値は単独療法群が29.9ヵ月であったのに対し、併用療法群は未到達であったが、併用療法群と単独療法群に有意差は認められなかった(HR:0.75、95%CI:0.48~1.18、p=0.21)。 著者らは、「PPIの使用歴が、PD-L1高発現のNSCLCに対するペムブロリズマブ単剤療法と複合免疫療法の治療選択の予測因子として、有用であるであることが示唆された。すなわち、いずれの治療選択肢も選択可能な患者では、PPIの使用歴がある場合、複合免疫療法が推奨される治療法であると考えられた」とまとめた。

227.

動物咬傷(蛇)【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第5回

今回は蛇咬傷についてです。私は小さいころにアオダイショウの首根っこを捕まえてかまれたことがありますが、大した傷もなく、とくに何の治療もしませんでした。しかし、蛇にかまれた患者さんは傷に関して困っているのではなく、「毒蛇かもしれない」という恐怖を感じていることが多いように思います。今回は毒蛇かどうかを見分けるコツとその治療を紹介します。<症例>10歳代、男子関東の公園に遊びに行き、蛇が泳いでいるのを見つけた。追いかけて捕まえたら指をかまれた。蛇の種類がわからず、親が毒蛇の可能性を考えて救急外来を受診させた。アレルギー歴、既往歴、内服薬:特記事項なし右手の人差し指に擦過創あり(図1)図1 擦過創のような傷画像を拡大する画像を拡大するこの患者さんの対応について順を追って考えてみましょう。現在日本には60種類程度の蛇が存在していると言われています1)。データは少ないですが、蛇咬傷による入院で最も頻度が高いのがマムシ、次いでハブ、まれにヤマカガシです2)。よって、今回はマムシとハブを重点的に記載し、最後にヤマカガシに触れます。毒蛇かどうかの判断(1)蛇の種類を特定するマムシは北緯30度(鹿児島県の口之島)~46度(日本の最北端)に広く生息し、ハブは北緯24度~29度と沖縄周辺に生息しています2)。そのため、かまれた地域でマムシかハブか悩むことは少ないです。では、マムシorハブvs.そのほかの蛇を区別するにはどうしたらよいでしょうか? 蛇の模様は個体差が大きいので手っ取り早く見分けるとしたら頭の形です。毒蛇は三角形の頭をしていることが多いです。とっさのことですので難しいですが…。マムシ体に斑紋があり、頭が三角形に近い形をしている。ハブ 毒腺と毒をしぼり出す筋肉があるため、あごが張った三角形をしている。大部分のハブの背中には、黄色をベースにした黒の絣模様があるが種類によって異なる。図2 左:無毒の蛇、右:毒蛇の頭部の例最近ではスマートフォンを持っている人が多いため、写真に撮って持って来てくれるケースが多くなりました。今回の患者さんも動画を撮ってくれていました。少し画像が粗いですがアオダイショウとわかります(図3)。図3 患者さんが持ってきてくれた動画の一部(2)かみ傷を確認する動画があったので本症例は毒蛇でないことがわかるのですが、それだと話が終わってしまうので、動画や写真がなかったとしましょう。その場合、かみ傷を確認します。冒頭の図1の写真を見てもらいたいのですが、擦り傷のようなかみ傷が多数あります。マムシやハブにかまれた場合はこういった傷にはなりにくいです。というのも、マムシやハブなどの毒蛇は毒を体内に注入するための鋭い2本の歯を持っています(図4)。図4 左:マムシの歯、右:ハブの歯このためかみ傷は2つの小さな穴が空いたような傷になり、図1のような傷にはなりにくいです(図5)。よって、本症例は毒蛇にかまれた可能性は低いと考えます。図5 マムシやハブのかみ傷のイメージ報告によると、2つ穴のかみ傷が毒蛇咬傷を示唆する感度は100%、陽性的中率は89%で、図1のような擦過創の場合の毒蛇以外の咬傷を示唆する陽性的中率は100%とのことです3)。(3)腫れ具合を確認するかみ傷で毒蛇であるかどうかはだいたい判断できますが、腫れ具合がおかしいときは悩むことがあります。毒素が入った場合、通常の咬傷では考えられない急速な腫脹が広がり、水泡などが伴うことがあります(図6)。「指先をかまれて2時間ほどしたら手首も腫れてきた」というのは通常の咬傷では起き得ず、感染が生じるにしても早すぎるため違和感を持ちましょう。一説によると受傷後、3時間経っても腫脹が進展している場合は重傷化の可能性があるとされています4)。よって、かまれてすぐに受診した場合は外来で数時間フォローする必要があります。時間単位で腫脹が進展する場合は毒蛇にかまれた可能性を考えましょう。本症例は、診察などを合わせて受傷から2時間ほど経過をみましたがわずかな腫脹のみでした。やはり毒蛇にかまれた可能性は低いでしょう。図6 マムシのかみ傷(聖隷横浜病院 入江康仁先生のご厚意で画像をご提供いただきました)以上が毒蛇かどうかを見分けるコツでした。では、診療所でできる毒蛇と毒蛇以外の咬傷の治療方針の決定についてです。蛇咬傷の治療(1)毒蛇以外の場合基本的に、犬や猫による動物咬傷と治療は変わりません3)。まず洗浄してガーゼで保護します。そして、抗菌薬の予防投与や破傷風の予防接種を検討します。本症例は擦過創程度であり、洗浄後にガーゼで保護して帰宅としました。(2)毒蛇の場合毒蛇にかまれ、腫脹が存在する場合は基本的に入院の適応があります。というのも、蛇の毒素は急速に進行し、筋肉の破壊による横紋筋融解、コンパートメント症候群、毒素による血液凝固障害などさまざまな症状が出現し、ショックや急性腎不全など命が脅かされることがあります5)。なので、毒蛇にかまれて症状があると判断した場合は早急に高次医療機関に紹介しましょう。ただし、毒蛇にかまれてもほとんど症状がない患者さんがまれにいて、この場合が悩みます。私自身、「草刈り中に蛇に手をかまれ、持っていた鎌で蛇の首を切り落としたらマムシだった」という強者のおばあちゃんを診たことがあります。かみ傷は2つ穴で確かにマムシにかまれたと考えられるのですが、局所の腫脹はほとんどなく、採血も何も異常がありませんでした。蛇にかまれて毒が入ることを「Wet bite」、無毒の蛇や毒蛇にかまれても毒が入らなかったとき、つまり咬傷による傷害のみの場合を「Dry bite」と言います。毒蛇は一度毒を出すと元通りになるまで14日かかると報告があり、毒がないという毒蛇側の要因や、ほかにもさまざまな要因がかかわることで毒蛇にかまれても20%程度がDry biteになります6,7)。どのようにフォローすべきか悩ましいところですが、毒蛇にかまれてDry biteと判断された場合、12~24時間の経過観察が推奨されており、局所症状の有無にかかわらず入院し、24時間後に何も症状がないことを確認して退院することが推奨されています5,8)。結局のところDry biteは最終的に何もなければDry biteだったという診断になります。ただ、ほぼ無症状の人を入院させるハードルは高く、Dry biteと考えられる局所の軽度の炎症のみの人なら6時間の経過観察で進展がなければ帰宅でもよいという報告もありますが、議論の余地があるようです8)。私は毒蛇咬傷の経験は5例で、Dry biteは2例しか経験がなく、いずれも総合病院の救急外来で診察しました。受傷後2~3時間経っても咬傷部位に変化がなかったものの、リスクを説明して入院を勧めました。2例とも入院を希望しなかったため、腫脹の出現など異変がある場合はすぐに受診するように指導して、翌日外来でフォローしました。重症化した場合は、血清の投与、減張切開、集中治療などが必要になることがあり、もし診療所で診察する場合は可能であれば対応できる病院に紹介するのがよいと考えます。今回は蛇咬傷の治療を紹介しました。私は、蛇にかまれた人に、今後は見つけても近づかない、草むらに入るときは手袋や長ズボンで防御するよう指導しています。近年はペットショップで購入した毒蛇にかまれたなどの報告もあります11)。それらが逃げ出した可能性もあり得るので、やはりむやみに近づかないのが重要です。蛇に関する豆知識意外に危険なヤマカガシ:ヤマカガシは1〜1.5mほどの大きさで、水田、河川付近に生息しています。牙は後方に位置し、毒腺はその根元に開口しています(図6)。ヤマカガシ毒の作用は、ほぼ血液凝固促進作用のみであり、ハブやマムシ毒のように直接組織を損傷させることはないため、局所症状がなく診断は難しいです。症状は受傷後数時間して、強烈な頭痛とともに血栓を生じ、梗塞部位からの出血症状(脳出血、歯肉出血)が出現します。ただし、報告数は40年間で34件しかなく珍しい疾患です9)。図7に示すように歯が後ろにあるため、よほどしっかりとかみつかれないと毒は入りません。そのため、かまれても毒が入らないケースが多く、医療者も無毒と考えていることが多いようです。実は私も無毒だと思っていました…。外観の観察によって蛇の種類を特定しようにも、ヤマカガシは地域によって色が違い、個体差が大きいため難しいです10)。もし迷うようでしたらジャパンスネークセンターの毒蛇110番という連絡先がありますので相談することも1つの手です。図7 ヤマカガシ(毒牙は棒の先端に乗っている小さなとげ)中枢側を縛るべき?傷口から毒を吸い出す?:昔の映画で毒蛇にかまれた際に、中枢側(指先であれば前腕)を縛るシーンがよく出てきました。これは、血流に乗った毒が中枢側に行かないようにするために行われたそうですが、残念ながら有効性は証明されず現在は推奨されていません。同様に、傷口に口を付けて毒を吸い出す処置も昔は行われていましたが、これも効果がなく、口腔内は雑菌だらけで感染のリスクを上げるため現在では推奨されていません。現在のところ傷口の処置で推奨されているのは患部の安静です5)。1)鳥羽 通. 爬虫両棲類学会報. 2007;2007:182-203. 2)Yasunaga H, et al. Am J Trop Med Hyg. 2011;84:135-136.3)Savu AN, et al. Plast Reconstr Surg Glob Open. 2021;9:e3778.4)辻本登志英ほか. 日本救急医学会雑誌. 2017;2:48-54.5)Ralph R, et al. BMJ. 2022;376:e057926.6)Pucca MB, et al. Toxins(Basel). 2020;12:668.7)Young BA, et al. BioScience. 2002;52:1121-1126.8)Naik BS. Toxicon. 2017;133:63-67. 9)抗毒素製剤の高品質化、及び抗毒素製剤を用いた治療体制に資する研究 [AMED阿戸班] ヤマカガシ10)ジャパン・スネークセンター 身近な毒ヘビ11)大野 裕ほか.日本臨床救急医学会雑誌. 2022;25:735-739.

229.

8月1日 肺の日【今日は何の日?】

【8月1日 肺の日】〔由来〕「は(8)い(1)」(肺)と読む語呂合わせから、肺の健康についての理解を深め、呼吸器疾患の早期発見と予防についての知識を普及・啓発することを目的に日本呼吸器学会が1999年に制定し、翌2000年から実施。学会では、肺の病気・治療について全国で一般市民を対象にした講座会や医療相談会を行っている。関連コンテンツ軽症の肺炎は入院適応ではないのか?【救急診療の基礎知識】電子タバコは紙巻きタバコの禁煙には役立たない【患者説明用スライド】抗菌薬の長期使用で肺がんリスクが増加肺炎の予防戦略、改訂中の肺炎診療GLを先取り/日本呼吸器学会軽症の肺炎は入院適応ではないのか?【救急診療の基礎知識】

230.

オズウイルス感染症に気をつけろッ! その1【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さん、こんにちは。大阪大学の忽那です。この連載では、本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。本日のテーマは「オズウイルス感染症」です。皆さんはすでにオズウイルス感染症についてのニュースはご覧になったでしょうか。2023年6月23日、国立感染症研究所から日本初、いやむしろ世界初となるオズウイルス感染症の症例が報告されました。世界で初めて報告されたオズウイルス感染症例症例の概要は以下の通りです。2022年初夏、高血圧症・脂質異常症を基礎疾患に持ち、海外渡航歴のない茨城県在住の70代女性に倦怠感、食欲低下、嘔吐、関節痛が出現し、39℃の発熱が確認された。肺炎の疑いで抗菌薬を処方されて在宅で経過を観察していたが、症状が増悪し、体動困難となったため再度受診し、その後、紹介転院となった。身体所見上は右鼠径部に皮下出血がみられたが皮疹はなかった。血液検査では、血小板減少(6.6万/µL)、肝障害、腎障害、炎症反応高値(CRP22.82mg/dL)、CK高値(2,049U/L、CK-MB14IU/L)、LDH高値(671U/L)、フェリチン高値(10,729ng/mL)が認められた。入院時、右鼠径部に飽血に近い状態のマダニの咬着が確認されたため、マダニ媒介感染症が疑われたが、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)やリケッチア症は陰性であった。入院後、心筋炎によるものと考えられる房室ブロックが出現し、ペースメーカーが留置され、心筋炎が疑われた。入院20日目には意識障害が出現し、多発脳梗塞が確認されたため抗凝固療法を開始した。治療継続中の入院26日目、突如心室細動が生じて死亡し、病理解剖が行われた。キーワード的には、「マダニ刺咬後の発熱」「血小板減少」「肝障害」「腎障害」「CK上昇」「フェリチン高値」「心筋炎」「凝固障害」などでしょうか。マダニ媒介感染症は流行地域も重要ですので、「茨城県」というのも大事な情報です。とくに心筋炎については、他のマダニ媒介感染症でもあまり報告がなく、オズウイルス感染症に特徴的なのかもしれません。とはいえ、まだ世界で1例ですので、オズウイルス感染症の典型的な経過なのかもよくわかっていません。オズウイルス肉眼で確認この症例は、原因不明でありましたが、茨城県衛生研究所において実施した次世代シーケンサー(NGS)によるメタゲノム解析とMePIC v2.0を用いた検索で、血液、尿などの検体からオズウイルスの遺伝子断片が検出され、国立感染症研究所でウイルスが分離され、遺伝子の配列が解析された結果、オズウイルスであることが確認されました(図1)。図1 患者検体から分離されたオズウイルス粒子の電子顕微鏡写真画像を拡大する(出典:国立感染症研究所.IASR.「初めて診断されたオズウイルス感染症患者」)本症例で初めてオズウイルスがみつかったわけではなく、実は以前からオズウイルスの存在は知られていました。ヒトで世界初の感染例なのに、その前からウイルスの存在が知られており、本症例ではそのオズウイルスの遺伝子断片を検出するためのRT-PCR検査まで行われています。これはなぜかと言うと、マダニからオズウイルスからみつかっており、「いつかこのようなオズウイルスによるヒト感染例が現れるのではないか」と予想され検査体制も整えられていたためです。ぶっちゃけ、マダニ媒介感染症の世界では、SFTSがみつかって以降、ヒトでの感染例が出る前から、マダニが持っているウイルスを先回りして調べるというのがトレンドとなっており、このオズウイルスも2018年に愛媛県のタカサゴキララマダニというマダニからオズウイルスがみつかっていました1)(なお、このオズウイルスは現時点では日本以外の国ではみつかっていません)。オズウイルスの正体とは、バーボンとの関係はオズウイルス(通は「OZV」と呼ぶ)は、オルソミクソウイルス科トゴトウイルス属に属するウイルスです。オルソミクスウイルス科と言えばインフルエンザウイルスが有名ですね。オルソミクスウイルスは、(1)Influenzavirus A、(2)Influenzavirus B、(3)Influenzavirus C、(4)Thogotovirus(トゴトウイルス)、(5)Isavirus(アイサウイルス)の5つの属に分類されます。トゴトウイルス属には他にもトゴトウイルス、ドーリウイルスなどがあり、とくにオズウイルスはアメリカで報告されている「バーボンウイルス」に近縁のウイルスです。えっ…バーボンウイルスを知らないッ!?バーボンウイルス感染症は、2014年にカンザス州東部のバーボン郡の住民が感染したとして初めて報告され2)、その後ミズーリ州でも観察されている感染症です。お酒のバーボンとは関係ありません。このバーボンウイルスも致死率の高い感染症であり、その類縁ウイルスということでオズウイルスもヒトが感染すれば重症度は高いのではないかと予想されていました。ではわが国で今後もオズウイルス感染症の症例が報告される可能性はあるのでしょうか?次回、その可能性を解説します!1)Ejiri H, et al. Virus Res. 2018;249:57-65.2)Kosoy OI, et al. Emerg Infect Dis. 2015;21:760-764.

231.

人工骨頭置換術の骨セメント、抗菌薬1剤含有vs.高用量2剤含有/Lancet

 大腿骨頸部内側骨折で人工骨頭置換術を受ける60歳以上の患者において、高用量抗菌薬2剤含有骨セメントを使用しても深部手術部位感染の発生率は減少しなかった。英国・Northumbria Healthcare NHS Foundation TrustのNickil R. Agni氏らが、同国の26施設で実施した無作為化比較試験「WHiTE 8試験」の結果を報告した。股関節骨折の人工骨頭置換術では、深部手術部位感染のリスクを減らすため抗菌薬含有骨セメントが使用されているが、最近登場した高用量抗菌薬2剤含有骨セメントの使用に関しては議論の的となっていた。Lancet誌2023年7月15日号掲載の報告。無作為化後90日以内の深部手術部位感染の発生を比較 研究グループは、人工骨頭置換術を予定している60歳以上の転位型大腿骨頸部内側骨折患者を、セメント40g当たりゲンタマイシン0.5gを含有する骨セメント群(標準治療群)と、セメント40g当たりゲンタマイシン1gおよびクリンダマイシン1gを含有する骨セメント群(高用量抗菌薬2剤含有骨セメント群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。患者および評価者は盲検化された。 120日後に患者(または主たる介護人)に電話インタビューを行うとともに、手術記録、抗菌薬の詳細、画像診断報告等を含む医療記録からアウトカムに関するデータを入手した。 主要アウトカムは、120日時点のデータ入手に同意が得られた患者集団における、無作為化後90日以内の深部手術部位感染(米国疾病予防管理センターの定義による)であった。副次アウトカムは、120日時点における死亡率、抗菌薬の使用状況、健康関連QOLなどであった。抗菌薬1剤含有と2剤含有で、有意差なし 2018年8月17日~2021年8月5日の間に、4,936例が標準治療群(2,453例)または高用量抗菌薬2剤含有骨セメント群(2,483例)に無作為に割り付けられた。追跡終了日は2022年1月2日。 無作為化後90日以内の深部手術部位感染の発生は、標準治療群では主要アウトカム解析対象の2,183例中38例(1.7%)に、高用量抗菌薬2剤含有骨セメント群では2,214例中27例(1.2%)に認められた。 補正オッズ比は1.43(95%信頼区間[CI]:0.87~2.35、p=0.16)で、両群に有意差はなかった。

234.

思わぬ情報収集から服薬直前の抗菌薬の変更を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第55回

 今回は、抗菌薬の服薬直前に患者さんから飛び出た思わぬ発言から処方変更につなげた症例を紹介します。患者さんの話をしっかり聞き、気になることは深掘りすることが大事だと改めて感じた事例です。患者情報50歳、男性(施設入居中)基礎疾患多発性血管炎性肉芽腫、脊髄梗塞、仙骨部褥瘡既往歴半年前に総胆管結石性胆管炎副作用歴シロスタゾールによる消化管出血疑い処方内容1.アザルフィジン錠50mg 1錠 朝食後2.プレドニゾロン錠5mg 2錠 朝食後3.ランソプラゾールOD錠15mg 1錠 朝食後4.アムロジピン錠5mg 1錠 朝食後5.エルデカルシトールカプセル0.75μg 1C 朝食後6.アピキサバン錠5mg 2錠 朝夕食後7.マクロゴール4000・塩化ナトリウム・炭酸水素ナトリウム・塩化カリウム散 13.7046g 朝食後本症例のポイント訪問診療に同行したところ、この患者さんは褥瘡の状態が悪く、処置後の感染リスクを考慮して抗菌薬が処方されることになりました。アモキシシリン・クラブラン配合薬+アモキシシリン単剤(オグサワ処方)が処方となり、緊急対応の指示で当日中の服薬開始となりました。薬を準備して再度訪問した際に、患者さんより「過去に抗菌薬でひどい目にあったと思うんだよなぁ」と発言がありました。お薬手帳や過去の診療情報提供書には抗菌薬による副作用の記載はなく、その症状はいつ・何があったときに服用した薬なのかを患者さん確認してみると、「胆管炎を起こして入院したとき、抗菌薬を服用して2日目くらいに悪心と発疹が出て具合がものすごく悪くなった。医師に相談したら薬剤誘発性リンパ球刺激試験(DLST)のようなものを行ったら抗菌薬が原因だということで治療内容が変更になったことがある」とのことでした。準備した薬は服薬させず、過去に胆管炎で入院した病院に連絡し、病院薬剤師に詳細を確認することにしました。担当薬剤師によると、副作用の登録はシロスタゾールしかありませんでしたが、カルテの詳細な経過を追跡調査してもらうことにしました。すると、胆管炎時に使用したアンピシリン・スルバクタムを投与したところ、アナフィラキシー様反応があったという医師記録があり、投与を中止して他剤へ変更したことがわかりました。処方提案と経過病院薬剤師から得たペニシリン系抗菌薬アレルギーの結果をもとに、医師にすぐ電話連絡をして事情を話しました。そこで、代替薬として皮膚移行性が良好かつ表層菌をターゲットにできるドキシサイクリンを提案しました。医師より変更承認をいただき、ドキシサイクリン100mg 2錠 朝夕食後へ変更となり、即日対応で開始となりました。施設スタッフおよび本人には、過去に副作用が生じた抗菌薬とは別系統で問題ない旨を伝えて安心してもらいました。お薬手帳にも今後の重要な情報なのでペニシリンアレルギーの記載を入れ、臨時で受診などがある場合は必ずこのことを伝えるように共有しました。変更対応後に皮疹や悪心、下痢、めまいなどが出現することなく経過し、皮膚症状も悪化することなく無事に抗菌薬による治療は終了となりました。

237.

第50回 「また接種券が届いたが接種すべき?」にどう答える

新型コロナワクチンの推奨が相次いで追補Pixabayより使用最近、「6回目の接種券が届いたんですけど…接種したほうがよいでしょうか?」と患者さんから質問を受けることが増えました。今日も外来だったのですが、10人以上に質問を受けました。これまでは、接種券が届いたら周囲に相談することなく接種していた患者さんのほうが多かったのですが、最近は「本当に接種し続ける意味があるのか」と疑問を持っている人が増え、躊躇しておられる印象です。そんな国民の逡巡を見越してか、日本感染症学会と日本小児科学会から相次いでワクチンに関する提言が追補されました。■日本感染症学会:「COVID-19ワクチンに関する提言(第7版)」の公表に際して1)「わが国での流行はまだしばらく続くためワクチンの必要性に変わりはありません。COVID-19ワクチンが正しく理解され、安全性を慎重に検証しながら、接種がさらに進んでゆくことを願っています。」■日本小児科学会:小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方(2023.6追補)2)「国内小児に対するCOVID-19の脅威は依然として存在することから、これを予防する手段としてのワクチン接種については、日本小児科学会としての推奨は変わらず、生後6か月~17歳のすべての小児に新型コロナワクチン接種(初回シリーズおよび適切な時期の追加接種)を推奨します。」新型コロナワクチンのエビデンスは驚異的なスピードで積み上げられていて、パンデミック初期の頃と比べると不明な点が減りました。患者さんを相手に診療をしていると、リスクとベネフィットを天秤にかける瞬間というのは何度か経験しますが、新型コロナワクチンについてはほぼエビデンスは明解を出しているので接種推奨の意見を持つ人のほうが多いはずですが、なぜか医療従事者でも接種しなくなった人が増えている現状があります。EBM副反応がしんどいというのは1つの理由です。「しんどい思いをしてまで接種する理由がない」というのはまっとうな理由ですし、私もそれに否定的な見解は持っていません。そのほかの理由として、「もういいや」といワクチン疲れしている人が増えていることです。ワクチン接種に懐疑的な報道やSNSのコメントがあるという理由で、「もう接種しなくていいと思う」と患者さんに持論を伝える医療従事者も次第に増えてきました。さすがに政府や学会が上記のような推奨を出しているさなか、それはまずいなと思います。私は対象の集団が多いほどエビデンスの威力は大きいと思っていて、たとえば喘息の初期治療にロイコトリエン受容体拮抗薬単剤を使うより吸入ステロイドを使うほうが患者さんのQOLは向上しますし、市中肺炎のエンピリック治療ではテトラサイクリン系抗菌薬よりもβラクタム系抗菌薬のほうがおそらく多くの人を救えます。普段の診療でわりとEBMを重視するのに、対象の集団が多いワクチンについてEBMを軽視するというのが、私にはよく理解できないです。まとめ繰り返しますが、個々でワクチンを接種しないと決めるのは個人の自由です。ただ、医療機関に勤務している人については通常の推奨度よりも高く、また基礎疾患のある患者さんに対しては学会も接種を推奨しているということは、納得できないとしても「医療従事者として理解しておく」必要があります。おそらく次第に接種間隔を空けていくことになるでしょうが、ひとまず9月以降はXBB対応ワクチンを接種することになります。参考文献・参考サイト1)日本感染症学会:「COVID-19ワクチンに関する提言(第7版)」の公表に際して2)日本小児科学会:小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方(2023.6追補)

238.

事例025 レボフロキサシン錠の査定【斬らレセプト シーズン3】

解説再燃を繰り返す尿路感染症の患者に抗菌薬のレボフロキサシン錠(一般名:レボフロキサシン水和物、以下「同錠」)を処方したところ、D事由(告示・通知の算定要件に合致していないと認められるもの)にて査定となりました。同錠の添付文書をみてみると、必ず1日量を1回で投与することが求められているのみで、投与日数は適宜増減と記載されています。カルテをみると、初診時以降は細菌感受性検査などが行われておらず、再来時には同錠7日分が繰り返し処方されていました。「再燃」のコメントも入っています。投与日数の適宜増減から考えると問題が無いようにみえます。しかしながら、抗菌薬の使用目的は炎症を鎮めるためであり、耐性菌を防ぐために最小限の使用が求められます。過去の事例を見返したところ、ある返戻の理由に「尿路感染症に対する抗生剤・抗菌剤の算定は、診療開始日から2週間程度が基本となります。尿路感染症を繰り返す症例については診療開始日にご留意ください」と注意喚起されていたものをみつけました。今回の事例では、診療開始日が古いにもかかわらず、検査もなく繰り返し同一の抗菌薬が処方されていたため、「再燃」がコメントされていたとしても漫然投与とみなされ査定になったものと推測できます。今後の対応として医師には、今回のような投与を行った場合には、病名開始日を新しくしたうえで、病名に「増悪」「再燃」などを付けること、もしくはコメントを追加していただくようにお願いして査定対策としました。

239.

抗菌薬の長期使用で肺がんリスクが増加

 近年の研究で、抗菌薬によるマイクロバイオーム異常および腸と肺の相互作用が肺がん発症の引き金になる可能性が指摘されている。今回、韓国・ソウル国立大学のMinseo Kim氏らが抗菌薬の長期使用と肺がんリスクの関連を調べたところ、抗菌薬の累積使用日数および種類の数が肺がんリスク増加と関連することが示された。Journal of Infection and Public Health誌2023年7月号に掲載。 本研究は後ろ向きコホート研究で、韓国国民健康保険サービスのデータベースから2005~06年に健康診断を受けた40歳以上の621万4,926人について調査した。抗菌薬の処方累積日数と種類数で層別し、多変量Cox比例ハザード回帰を用いて、抗菌薬使用に対する肺がんリスクの調整ハザード比(aHR)および95%信頼区間(CI)を評価した。 主な結果は以下のとおり。・抗菌薬処方累積日数が365日以上の参加者の肺がんリスクは、抗菌薬非使用者より有意に高く(aHR:1.21、95%CI:1.16~1.26)、1~14日の参加者よりも有意に高かった(aHR:1.21、95%CI:1.17~1.24)。・5種類以上の抗菌薬を処方されていた参加者の肺がんリスクは、抗菌薬非使用者より有意に高かった(aHR:1.15、95%CI:1.10~1.21)。

240.

経口投与が可能になったALS治療薬「ラジカット内用懸濁液2.1%」【下平博士のDIノート】第121回

経口投与が可能になったALS治療薬「ラジカット内用懸濁液2.1%」今回は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬「エダラボン懸濁液(商品名:ラジカット内用懸濁液2.1%、製造販売元:田辺三菱)」を紹介します。本剤は、これまで点滴静注薬しかなかったエダラボン製剤の内服薬であり、ALS患者の通院・入院負担が軽減することで、在宅移行の支援となることが期待されています。<効能・効果>ALSにおける機能障害の進行抑制の適応で、2022年12月23日に製造販売承認を取得し、2023年4月17日より発売されています。なお、ALS重症度分類4度以上の患者、努力性肺活量が理論正常値の70%未満に低下している患者での有効性や安全性は確立していません。<用法・用量>通常、成人には1回5mL(エダラボンとして105mg)を空腹時に1日1回経口投与します。本剤投与期と休薬期を組み合わせた28日間を1クールとして、これを繰り返します。第1クール:14日間連日投与し、その後14日間休薬第2クール以降:14日間のうち10日間投与し、その後14日間休薬<安全性>国際多施設共同第III相試験(MT-1186-A01試験)において、日本人に認められた臨床検査値異常を含む副作用の発現は65例中3例(4.6%)でした。内訳は、下痢1例(1.5%)、肝機能異常1例(1.5%)、倦怠感1例(1.5%)でした。なお、重大な副作用として、急性腎障害、ネフローゼ症候群、劇症肝炎、肝機能障害、黄疸、血小板減少、顆粒球減少、播種性血管内凝固症候群(DIC)、急性肺障害、横紋筋融解症、ショック、アナフィラキシー(いずれも頻度不明)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、運動神経細胞などの酸化による傷害を防ぐことで、ALSによる機能障害の進行を抑制します。2.抗菌薬を服用することになった場合は、主治医に連絡してください。3.頭痛やめまい、吐き気、口や喉の渇き、肌の乾燥などが現れた場合は脱水症状の可能性があります。脱水症状があると腎機能障害が起こりやすくなるため、主治医に相談してください。<Shimo's eyes>筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis:ALS)は、運動神経が選択的に変性・脱落し、四肢、顔、呼吸筋などの全身の筋力低下と筋萎縮が進行的に起こる原因不明の神経変性疾患で、発病率は10万人に2人程度といわれています。これまで、エダラボン製剤の点滴静注薬(商品名:ラジカット注30mg、ラジカット点滴静注バッグ30mg)が脳梗塞急性期およびALSの治療薬として承認されています。点滴静注薬では、ALS進行による筋萎縮に伴い血管の確保が難しくなるとともに、注射による痛みや通院・入院などの治療負担が課題でした。本剤は投与が容易で、より利便性の高いエダラボンの経口薬であるため、これらの負担軽減が期待されています(現時点での適応はALSのみ)。本剤は、既存のエダラボン静注薬とエダラボン未変化体のAUC0-∞が生物学的同等性の基準を満たしていることにより、静注薬と同等程度の有効性と考えられます。なお、ALSに使用される既存の経口薬としては、グルタミン酸遊離阻害薬のリルゾール(同:リルテック錠50mgほか)があります。ALS患者は嚥下困難を伴うことが多いため、誤嚥リスクを考慮して、本剤はとろみを持たせた製剤となっています。使用前にボトルを振ってボトルの底に固着物の付着がないことを確認してから、専用の経口投与用シリンジで薬剤を量り取ってから直接投与します。なお、経鼻胃管または胃瘻チューブを用いて経管投与することもできます。本剤は食事の影響により血漿中濃度が低下するため、起床時など8時間絶食後に服用し、服用後少なくとも1時間は水以外の飲食は避けます。ボトル開封前は冷蔵(2~8℃)で保存し、開封後は密栓して室温で保存し、ボトル開封後15日以内に使用します。ALSは長期にわたる継続的な治療が必要であることから、エダラボンの経口薬の登場は、患者、介護者および医療者にとって朗報であり、エダラボン製剤が必要な患者の在宅治療移行が増えることが期待されます。

検索結果 合計:890件 表示位置:221 - 240