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人工骨頭置換術の骨セメント、抗菌薬1剤含有vs.高用量2剤含有/Lancet

 大腿骨頸部内側骨折で人工骨頭置換術を受ける60歳以上の患者において、高用量抗菌薬2剤含有骨セメントを使用しても深部手術部位感染の発生率は減少しなかった。英国・Northumbria Healthcare NHS Foundation TrustのNickil R. Agni氏らが、同国の26施設で実施した無作為化比較試験「WHiTE 8試験」の結果を報告した。股関節骨折の人工骨頭置換術では、深部手術部位感染のリスクを減らすため抗菌薬含有骨セメントが使用されているが、最近登場した高用量抗菌薬2剤含有骨セメントの使用に関しては議論の的となっていた。Lancet誌2023年7月15日号掲載の報告。無作為化後90日以内の深部手術部位感染の発生を比較 研究グループは、人工骨頭置換術を予定している60歳以上の転位型大腿骨頸部内側骨折患者を、セメント40g当たりゲンタマイシン0.5gを含有する骨セメント群(標準治療群)と、セメント40g当たりゲンタマイシン1gおよびクリンダマイシン1gを含有する骨セメント群(高用量抗菌薬2剤含有骨セメント群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。患者および評価者は盲検化された。 120日後に患者(または主たる介護人)に電話インタビューを行うとともに、手術記録、抗菌薬の詳細、画像診断報告等を含む医療記録からアウトカムに関するデータを入手した。 主要アウトカムは、120日時点のデータ入手に同意が得られた患者集団における、無作為化後90日以内の深部手術部位感染(米国疾病予防管理センターの定義による)であった。副次アウトカムは、120日時点における死亡率、抗菌薬の使用状況、健康関連QOLなどであった。抗菌薬1剤含有と2剤含有で、有意差なし 2018年8月17日~2021年8月5日の間に、4,936例が標準治療群(2,453例)または高用量抗菌薬2剤含有骨セメント群(2,483例)に無作為に割り付けられた。追跡終了日は2022年1月2日。 無作為化後90日以内の深部手術部位感染の発生は、標準治療群では主要アウトカム解析対象の2,183例中38例(1.7%)に、高用量抗菌薬2剤含有骨セメント群では2,214例中27例(1.2%)に認められた。 補正オッズ比は1.43(95%信頼区間[CI]:0.87~2.35、p=0.16)で、両群に有意差はなかった。

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思わぬ情報収集から服薬直前の抗菌薬の変更を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第55回

 今回は、抗菌薬の服薬直前に患者さんから飛び出た思わぬ発言から処方変更につなげた症例を紹介します。患者さんの話をしっかり聞き、気になることは深掘りすることが大事だと改めて感じた事例です。患者情報50歳、男性(施設入居中)基礎疾患多発性血管炎性肉芽腫、脊髄梗塞、仙骨部褥瘡既往歴半年前に総胆管結石性胆管炎副作用歴シロスタゾールによる消化管出血疑い処方内容1.アザルフィジン錠50mg 1錠 朝食後2.プレドニゾロン錠5mg 2錠 朝食後3.ランソプラゾールOD錠15mg 1錠 朝食後4.アムロジピン錠5mg 1錠 朝食後5.エルデカルシトールカプセル0.75μg 1C 朝食後6.アピキサバン錠5mg 2錠 朝夕食後7.マクロゴール4000・塩化ナトリウム・炭酸水素ナトリウム・塩化カリウム散 13.7046g 朝食後本症例のポイント訪問診療に同行したところ、この患者さんは褥瘡の状態が悪く、処置後の感染リスクを考慮して抗菌薬が処方されることになりました。アモキシシリン・クラブラン配合薬+アモキシシリン単剤(オグサワ処方)が処方となり、緊急対応の指示で当日中の服薬開始となりました。薬を準備して再度訪問した際に、患者さんより「過去に抗菌薬でひどい目にあったと思うんだよなぁ」と発言がありました。お薬手帳や過去の診療情報提供書には抗菌薬による副作用の記載はなく、その症状はいつ・何があったときに服用した薬なのかを患者さん確認してみると、「胆管炎を起こして入院したとき、抗菌薬を服用して2日目くらいに悪心と発疹が出て具合がものすごく悪くなった。医師に相談したら薬剤誘発性リンパ球刺激試験(DLST)のようなものを行ったら抗菌薬が原因だということで治療内容が変更になったことがある」とのことでした。準備した薬は服薬させず、過去に胆管炎で入院した病院に連絡し、病院薬剤師に詳細を確認することにしました。担当薬剤師によると、副作用の登録はシロスタゾールしかありませんでしたが、カルテの詳細な経過を追跡調査してもらうことにしました。すると、胆管炎時に使用したアンピシリン・スルバクタムを投与したところ、アナフィラキシー様反応があったという医師記録があり、投与を中止して他剤へ変更したことがわかりました。処方提案と経過病院薬剤師から得たペニシリン系抗菌薬アレルギーの結果をもとに、医師にすぐ電話連絡をして事情を話しました。そこで、代替薬として皮膚移行性が良好かつ表層菌をターゲットにできるドキシサイクリンを提案しました。医師より変更承認をいただき、ドキシサイクリン100mg 2錠 朝夕食後へ変更となり、即日対応で開始となりました。施設スタッフおよび本人には、過去に副作用が生じた抗菌薬とは別系統で問題ない旨を伝えて安心してもらいました。お薬手帳にも今後の重要な情報なのでペニシリンアレルギーの記載を入れ、臨時で受診などがある場合は必ずこのことを伝えるように共有しました。変更対応後に皮疹や悪心、下痢、めまいなどが出現することなく経過し、皮膚症状も悪化することなく無事に抗菌薬による治療は終了となりました。

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第50回 「また接種券が届いたが接種すべき?」にどう答える

新型コロナワクチンの推奨が相次いで追補Pixabayより使用最近、「6回目の接種券が届いたんですけど…接種したほうがよいでしょうか?」と患者さんから質問を受けることが増えました。今日も外来だったのですが、10人以上に質問を受けました。これまでは、接種券が届いたら周囲に相談することなく接種していた患者さんのほうが多かったのですが、最近は「本当に接種し続ける意味があるのか」と疑問を持っている人が増え、躊躇しておられる印象です。そんな国民の逡巡を見越してか、日本感染症学会と日本小児科学会から相次いでワクチンに関する提言が追補されました。■日本感染症学会:「COVID-19ワクチンに関する提言(第7版)」の公表に際して1)「わが国での流行はまだしばらく続くためワクチンの必要性に変わりはありません。COVID-19ワクチンが正しく理解され、安全性を慎重に検証しながら、接種がさらに進んでゆくことを願っています。」■日本小児科学会:小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方(2023.6追補)2)「国内小児に対するCOVID-19の脅威は依然として存在することから、これを予防する手段としてのワクチン接種については、日本小児科学会としての推奨は変わらず、生後6か月~17歳のすべての小児に新型コロナワクチン接種(初回シリーズおよび適切な時期の追加接種)を推奨します。」新型コロナワクチンのエビデンスは驚異的なスピードで積み上げられていて、パンデミック初期の頃と比べると不明な点が減りました。患者さんを相手に診療をしていると、リスクとベネフィットを天秤にかける瞬間というのは何度か経験しますが、新型コロナワクチンについてはほぼエビデンスは明解を出しているので接種推奨の意見を持つ人のほうが多いはずですが、なぜか医療従事者でも接種しなくなった人が増えている現状があります。EBM副反応がしんどいというのは1つの理由です。「しんどい思いをしてまで接種する理由がない」というのはまっとうな理由ですし、私もそれに否定的な見解は持っていません。そのほかの理由として、「もういいや」といワクチン疲れしている人が増えていることです。ワクチン接種に懐疑的な報道やSNSのコメントがあるという理由で、「もう接種しなくていいと思う」と患者さんに持論を伝える医療従事者も次第に増えてきました。さすがに政府や学会が上記のような推奨を出しているさなか、それはまずいなと思います。私は対象の集団が多いほどエビデンスの威力は大きいと思っていて、たとえば喘息の初期治療にロイコトリエン受容体拮抗薬単剤を使うより吸入ステロイドを使うほうが患者さんのQOLは向上しますし、市中肺炎のエンピリック治療ではテトラサイクリン系抗菌薬よりもβラクタム系抗菌薬のほうがおそらく多くの人を救えます。普段の診療でわりとEBMを重視するのに、対象の集団が多いワクチンについてEBMを軽視するというのが、私にはよく理解できないです。まとめ繰り返しますが、個々でワクチンを接種しないと決めるのは個人の自由です。ただ、医療機関に勤務している人については通常の推奨度よりも高く、また基礎疾患のある患者さんに対しては学会も接種を推奨しているということは、納得できないとしても「医療従事者として理解しておく」必要があります。おそらく次第に接種間隔を空けていくことになるでしょうが、ひとまず9月以降はXBB対応ワクチンを接種することになります。参考文献・参考サイト1)日本感染症学会:「COVID-19ワクチンに関する提言(第7版)」の公表に際して2)日本小児科学会:小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方(2023.6追補)

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事例025 レボフロキサシン錠の査定【斬らレセプト シーズン3】

解説再燃を繰り返す尿路感染症の患者に抗菌薬のレボフロキサシン錠(一般名:レボフロキサシン水和物、以下「同錠」)を処方したところ、D事由(告示・通知の算定要件に合致していないと認められるもの)にて査定となりました。同錠の添付文書をみてみると、必ず1日量を1回で投与することが求められているのみで、投与日数は適宜増減と記載されています。カルテをみると、初診時以降は細菌感受性検査などが行われておらず、再来時には同錠7日分が繰り返し処方されていました。「再燃」のコメントも入っています。投与日数の適宜増減から考えると問題が無いようにみえます。しかしながら、抗菌薬の使用目的は炎症を鎮めるためであり、耐性菌を防ぐために最小限の使用が求められます。過去の事例を見返したところ、ある返戻の理由に「尿路感染症に対する抗生剤・抗菌剤の算定は、診療開始日から2週間程度が基本となります。尿路感染症を繰り返す症例については診療開始日にご留意ください」と注意喚起されていたものをみつけました。今回の事例では、診療開始日が古いにもかかわらず、検査もなく繰り返し同一の抗菌薬が処方されていたため、「再燃」がコメントされていたとしても漫然投与とみなされ査定になったものと推測できます。今後の対応として医師には、今回のような投与を行った場合には、病名開始日を新しくしたうえで、病名に「増悪」「再燃」などを付けること、もしくはコメントを追加していただくようにお願いして査定対策としました。

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抗菌薬の長期使用で肺がんリスクが増加

 近年の研究で、抗菌薬によるマイクロバイオーム異常および腸と肺の相互作用が肺がん発症の引き金になる可能性が指摘されている。今回、韓国・ソウル国立大学のMinseo Kim氏らが抗菌薬の長期使用と肺がんリスクの関連を調べたところ、抗菌薬の累積使用日数および種類の数が肺がんリスク増加と関連することが示された。Journal of Infection and Public Health誌2023年7月号に掲載。 本研究は後ろ向きコホート研究で、韓国国民健康保険サービスのデータベースから2005~06年に健康診断を受けた40歳以上の621万4,926人について調査した。抗菌薬の処方累積日数と種類数で層別し、多変量Cox比例ハザード回帰を用いて、抗菌薬使用に対する肺がんリスクの調整ハザード比(aHR)および95%信頼区間(CI)を評価した。 主な結果は以下のとおり。・抗菌薬処方累積日数が365日以上の参加者の肺がんリスクは、抗菌薬非使用者より有意に高く(aHR:1.21、95%CI:1.16~1.26)、1~14日の参加者よりも有意に高かった(aHR:1.21、95%CI:1.17~1.24)。・5種類以上の抗菌薬を処方されていた参加者の肺がんリスクは、抗菌薬非使用者より有意に高かった(aHR:1.15、95%CI:1.10~1.21)。

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経口投与が可能になったALS治療薬「ラジカット内用懸濁液2.1%」【下平博士のDIノート】第121回

経口投与が可能になったALS治療薬「ラジカット内用懸濁液2.1%」今回は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬「エダラボン懸濁液(商品名:ラジカット内用懸濁液2.1%、製造販売元:田辺三菱)」を紹介します。本剤は、これまで点滴静注薬しかなかったエダラボン製剤の内服薬であり、ALS患者の通院・入院負担が軽減することで、在宅移行の支援となることが期待されています。<効能・効果>ALSにおける機能障害の進行抑制の適応で、2022年12月23日に製造販売承認を取得し、2023年4月17日より発売されています。なお、ALS重症度分類4度以上の患者、努力性肺活量が理論正常値の70%未満に低下している患者での有効性や安全性は確立していません。<用法・用量>通常、成人には1回5mL(エダラボンとして105mg)を空腹時に1日1回経口投与します。本剤投与期と休薬期を組み合わせた28日間を1クールとして、これを繰り返します。第1クール:14日間連日投与し、その後14日間休薬第2クール以降:14日間のうち10日間投与し、その後14日間休薬<安全性>国際多施設共同第III相試験(MT-1186-A01試験)において、日本人に認められた臨床検査値異常を含む副作用の発現は65例中3例(4.6%)でした。内訳は、下痢1例(1.5%)、肝機能異常1例(1.5%)、倦怠感1例(1.5%)でした。なお、重大な副作用として、急性腎障害、ネフローゼ症候群、劇症肝炎、肝機能障害、黄疸、血小板減少、顆粒球減少、播種性血管内凝固症候群(DIC)、急性肺障害、横紋筋融解症、ショック、アナフィラキシー(いずれも頻度不明)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、運動神経細胞などの酸化による傷害を防ぐことで、ALSによる機能障害の進行を抑制します。2.抗菌薬を服用することになった場合は、主治医に連絡してください。3.頭痛やめまい、吐き気、口や喉の渇き、肌の乾燥などが現れた場合は脱水症状の可能性があります。脱水症状があると腎機能障害が起こりやすくなるため、主治医に相談してください。<Shimo's eyes>筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis:ALS)は、運動神経が選択的に変性・脱落し、四肢、顔、呼吸筋などの全身の筋力低下と筋萎縮が進行的に起こる原因不明の神経変性疾患で、発病率は10万人に2人程度といわれています。これまで、エダラボン製剤の点滴静注薬(商品名:ラジカット注30mg、ラジカット点滴静注バッグ30mg)が脳梗塞急性期およびALSの治療薬として承認されています。点滴静注薬では、ALS進行による筋萎縮に伴い血管の確保が難しくなるとともに、注射による痛みや通院・入院などの治療負担が課題でした。本剤は投与が容易で、より利便性の高いエダラボンの経口薬であるため、これらの負担軽減が期待されています(現時点での適応はALSのみ)。本剤は、既存のエダラボン静注薬とエダラボン未変化体のAUC0-∞が生物学的同等性の基準を満たしていることにより、静注薬と同等程度の有効性と考えられます。なお、ALSに使用される既存の経口薬としては、グルタミン酸遊離阻害薬のリルゾール(同:リルテック錠50mgほか)があります。ALS患者は嚥下困難を伴うことが多いため、誤嚥リスクを考慮して、本剤はとろみを持たせた製剤となっています。使用前にボトルを振ってボトルの底に固着物の付着がないことを確認してから、専用の経口投与用シリンジで薬剤を量り取ってから直接投与します。なお、経鼻胃管または胃瘻チューブを用いて経管投与することもできます。本剤は食事の影響により血漿中濃度が低下するため、起床時など8時間絶食後に服用し、服用後少なくとも1時間は水以外の飲食は避けます。ボトル開封前は冷蔵(2~8℃)で保存し、開封後は密栓して室温で保存し、ボトル開封後15日以内に使用します。ALSは長期にわたる継続的な治療が必要であることから、エダラボンの経口薬の登場は、患者、介護者および医療者にとって朗報であり、エダラボン製剤が必要な患者の在宅治療移行が増えることが期待されます。

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女性の尋常性ざ瘡、スピロノラクトンが有効/BMJ

 尋常性ざ瘡の女性患者の治療において、カリウム保持性利尿薬スピロノラクトンはプラセボと比較して、12週時の尋常性ざ瘡特異的QoL(Acne-QoL)の症状スコアが良好で、24週時にはさらなる改善が認められ、標準的な経口抗菌薬の代替治療として有用な可能性があることが、英国・サウサンプトン大学のMiriam Santer氏らが実施した「SAFA試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2023年5月16日号に掲載された。イングランド/ウェールズの実践的な無作為化試験 SAFAは、イングランドおよびウェールズの10施設で実施された実践的な二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2019年6月~2021年8月の期間に参加者の募集が行われた(英国国立健康研究所[NIHR]の助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、顔面のざ蒼が6ヵ月以上持続し、担当医によって経口抗菌薬による治療を要すると判定され、担当医の全般的評価(IGA)が2(軽症または悪化)の女性患者であった。 被験者は、スピロノラクトン(50mg/日)またはプラセボを6週間経口投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。忍容性が確認された場合は、100mg/日に増量し、24週まで投与が継続された。両群とも、通常の外用薬の使用は容認された。 主要アウトカムは、12週の時点でのAcne-QoLの症状サブスケールスコア(0~30点、点数が高いほどQoLが良好)であった。副次アウトカムには、24週時のAcne-QoL症状サブスケールスコア、患者の自己評価による改善度、IGAに基づく治療成功、有害事象などが含まれた。患者自己評価による改善度も、24週には有意に良好 410例(平均[SD]年齢29.2[7.2]歳、軽症46%、中等症 40%、重症 13%)が登録され、スピロノラクトン群に201例、プラセボ群に209例が割り付けられた。主要アウトカムのデータは342例(スピロノラクトン群176例、プラセボ群166例)で得られた。 平均Acne-QoL症状スコアは、スピロノラクトン群がベースラインの13.2(SD 4.9)点から12週後には19.2(6.1)点に、プラセボ群は12.9(4.5)点から17.8(5.6)点にいずれも上昇し、ベースラインの変量で補正後の平均差は1.27点(95%信頼区間[CI]:0.07~2.46)と、スピロノラクトン群で改善度が大きかった。 24週時には、スピロノラクトン群が21.2(SD 5.9)点、プラセボ群は17.4(5.8)点へとそれぞれ上昇し、補正平均差は3.45点(95%CI:2.16~4.75)と、12週時よりも差が大きくなり、スピロノラクトン群で改善度が高かった。 患者の自己評価による全般的改善度(6段階Likert scaleの3~6点の達成率)は、12週時がスピロノラクトン群72%、プラセボ群68%(補正後オッズ比[OR]:1.16、95%CI:0.70~1.91)と両群間に有意差はなかったが、24週時にはそれぞれ82%、63%(2.72、1.50~4.93)となり、統計学的に有意な差が認められた。 12週時の治療成功(IGA分類)の割合は、スピロノラクトン群が19%(31/168例)、プラセボ群は6%(9/160例)だった(補正後OR:5.18、95%CI:2.18~12.28)。 有害事象の頻度(64% vs.51%、p=0.01)はスピロノラクトン群で高く、とくに頭痛(20% vs.12%、p=0.02)とめまい(19% vs.12%、p=0.07)が多かったが、ほとんどが軽度であった。試験薬に関連した重篤な有害事象の報告はなかった。 著者は、「スピロノラクトンは、第1選択の局所治療で効果がない持続性のざ蒼を有する女性において、経口抗菌薬に代わる有用な選択肢となる可能性がある」とまとめ、「スピロノラクトンは妊娠に注意を要し、参加者は受診時に避妊に関する助言を受けたが7件の妊娠が報告された。スピロノラクトンは、若年女性で頻用されているテトラサイクリン系の経口抗菌薬に比べ催奇性は低いと考えられ、通常の治療ではとくに避妊以外の制限は必要ないだろう」と指摘している。

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膵頭十二指腸切除後の手術部位感染予防、TAZ/PIPCが有用/JAMA

 適応症を問わず、開腹による膵頭十二指腸切除術後の手術部位感染(SSI)の予防において、セフォキシチン(国内販売中止)と比較して、広域スペクトラム抗菌薬ピペラシリン・タゾバクタムは、術後30日の時点でのSSIの発生率を有意に抑制し、術後の敗血症や膵液瘻の発生頻度も低いことが、米国・スローン・ケタリング記念がんセンターのMichael I. D'Angelica氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2023年5月9日号に掲載された。北米のレジストリ連携型非盲検多施設無作為化第III相試験 本研究は、レジストリ連携の実践的な非盲検多施設無作為化第III相試験であり、2017年11月~2021年8月の期間に、米国とカナダの26施設(外科医86人)で患者の登録が行われた(米国NIH/NCIがんセンター研究支援助成などの助成を受けた)。 年齢18歳以上で、適応症を問わず待機的な開腹膵頭十二指腸切除術を受けた患者が、ピペラシリン・タゾバクタム(各施設の基準に従い3.375または4.5g、静脈内投与)またはセフォキシチン(2g、静脈内投与、対照)の投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。試験薬は、切開開始から60分以内に初回投与が行われ、手術終了まで2~4時間ごとに追加投与され、術後は24時間以内に投与を終えることとされた。 主要アウトカムは、術後30日以内のSSIの発現であった。30日死亡率、臨床的に重要な術後の膵液瘻、敗血症の発生などが、副次アウトカムに含まれた。 本試験は、事前に規定された中止基準に従い、2回目の中間解析により有効中止となった。30日死亡率には差がない 778例が登録され、ピペラシリン・タゾバクタム群に378例(年齢中央値66.8歳、男性61.6%)、セフォキシチン群に400例(68.0歳、55.8%)が割り付けられた。456例(58.6%)が術前に胆管ステントを留置され、273例(35.1%)が術前化学療法もしくは放射線療法を、488例(62.7%)が膵がんの切除術を受けていた。 30日の時点におけるSSIの発生率は、セフォキシチン群が32.8%(131/400例)であったのに対し、ピペラシリン・タゾバクタム群は19.8%(75/378例)と有意に低かった(絶対群間差:-13.0%[95%信頼区間[CI]:-19.1~-6.9]、オッズ比:0.51[95%CI:0.38~0.68]、p<0.001)。 術後の敗血症(4.2% vs.7.5%、群間差:-3.3%[95%CI:-6.6~0.0]、p=0.02)および臨床的に重要な術後の膵液瘻(12.7% vs.19.0%、-6.3%[-11.4~-1.2]、p=0.03)の発生率は、いずれもピペラシリン・タゾバクタム群で有意に低かった。 一方、30日死亡率(1.3% vs.2.5%、群間差:-1.2%[95%CI:-3.1~0.7]、p=0.32)には、両群間に有意な差はみられなかった。 著者は、「術後SSIリスクの低減は、術前の胆道ステント留置の有無にかかわらず認められた。本試験の結果は、開腹膵頭十二指腸切除術後のSSI予防における標準治療としてのピペラシリン・タゾバクタムの使用を支持する」としている。

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誤嚥性肺炎予防に黒こしょうが効く?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第234回

誤嚥性肺炎予防に黒こしょうが効く?Unsplashより使用咳嗽を誘発するものは、誤嚥性肺炎に対して予防的に働くことが知られています。ACE阻害薬は、副作用の咳嗽が誤嚥性肺炎を予防する効果があるとされています。さて今回紹介する論文で検証されたのは、黒こしょうです。黒こしょうは咽頭へのサブスタンスPの放出を増加させることによって、嚥下反射を改善して誤嚥を予防することが示されています。山口 学ほか.療養型病棟における黒胡椒を用いた誤嚥性肺炎予防.日本気管食道科学会会報. 2018;69(1):13-16.この研究では、療養型病床群に入院している患者32例を2群に分け、60日ごとに黒こしょうを使用する群と非使用群にクロスオーバーして黒こしょうを使用し、誤嚥性肺炎の発生率を調べました。研究期間中に37.5℃以上の発熱があった症例は28例で、2日以上の発熱と誤嚥性肺炎があり、抗菌薬を使用した症例は11例でした。黒こしょうを使用した群は、発熱例11例、抗菌薬使用例は2例であり、有意に抗菌薬の使用頻度および治療日数を抑制することが示されました。これと同じメカニズムで、黒こしょうオイルを吸入してもらうことで、脳卒中後遺症の105例に嚥下反射の改善がみられたという報告があります1)。なんかクシャミ出そうなので、個人的には、あまり黒こしょうは吸いたくない気もしますが…。1)Ebihara T, et al. A randomized trial of olfactory stimulation using black pepper oil in older people with swallowing dysfunction. J Am Geriatr Soc. 2006 Sep;54(9):1401-1406.

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重症アルコール性肝炎に抗菌薬予防投与は有効か?/JAMA

 重症アルコール性肝炎の入院患者に対する抗菌薬の予防的投与のベネフィットは明らかになってないが、フランス・Lille大学のAlexandre Louvet氏らが292例を対象に行った多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験で、60日全死因死亡率を改善しないことが示された。著者は、「今回示された結果は、重症アルコール性肝炎で入院した患者の生存改善に対して抗菌薬の予防的投与を支持しないものであった」とまとめている。JAMA誌2023年5月9日号掲載の報告。Maddrey機能スコア32以上、MELDスコア21以上の患者を対象 研究グループは2015年6月13日~2019年5月24日に、フランスとベルギーの医療センター25ヵ所で、生検で確認された重症アルコール性肝炎の患者292例を対象に試験を開始した。被験者のMaddrey機能スコアは32以上、末期肝疾患モデル(MELD)スコアは21以上だった。 被験者を無作為に2群に分け、一方にはプレドニゾロン+アモキシシリン・クラブラン酸(145例)、もう一方にはプレドニゾロン+プラセボ(147例)をそれぞれ投与した。追跡期間は180日で、最終フォローアップは2019年11月19日だった。 主要アウトカムは、60日時点の全死因死亡率だった。副次アウトカムは、90日、180日時点の全死因死亡率、60日時点の感染症、肝腎症候群、MELDスコア17未満のいずれも発生率、および7日時点のLilleスコア0.45未満の患者の割合だった。60日全死因死亡率、アモキシシリン群17%、プラセボ群21%で有意差なし 被験者292例の平均年齢は52.8歳、女性80例(27.4%)で、284例(97%)が解析に含まれた。 60日死亡率は、アモキシシリン群17.3%、プラセボ群が21.3%で統計的有意差はなかった(補正前絶対群間差:-4.7ポイント[95%信頼区間[CI]:-14.0~4.7]、ハザード比[HR]:0.77[95%CI:0.45~1.31]、p=0.33)。 60日時点の感染症発生率は、アモキシシリン群(29.7%)がプラセボ群(41.5%)より有意に低かった(補正前絶対群間差:-11.8ポイント[95%CI:-23.0~-0.7]、サブHR:0.62[95%CI:0.41~0.91]、p=0.02)。その他の副次的アウトカムは、両群で有意差はなかった。 最も多くみられた重篤有害イベントは、肝不全関連(アモキシシリン群25例、プラセボ群20例)、感染症(同23例、46例)、胃腸障害(同15例、21例)だった。

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RA系阻害薬やアンピシリン含有製剤など、使用上の注意改訂

 厚生労働省は5月9日、RA系阻害薬(ACE阻害薬、ARB含有製剤、直接的レニン阻害薬)、アンピシリン水和物含有製剤およびアンピシリンナトリウム含有製剤(アンピシリンナトリウム・スルバクタムナトリウムを除く)の添付文書について、使用上の注意改訂指示を発出した。RA系阻害薬-妊娠する可能性のある女性への注意事項を追加 RA系阻害薬の添付文書には「9.4 生殖能を有する者」の項が新設され、“妊娠する可能性のある女性には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与する旨、及び妊娠する可能性がある女性に投与が必要な場合の注意事項”を以下のように追記した。(1)本剤投与開始前に妊娠していないことを確認すること。本剤投与中も、妊娠していないことを定期的に確認すること。投与中に妊娠が判明した場合には、直ちに投与を中止すること。(2)次の事項について、本剤投与開始時に患者に説明すること。また、投与中も必要に応じ説明すること。・妊娠中に本剤を使用した場合、胎児・新生児に影響を及ぼすリスクがあること。 ・妊娠が判明した又は疑われる場合は、速やかに担当医に相談すること。 ・妊娠を計画する場合は、担当医に相談すること。[妊娠していることが把握されずアンジオテンシン変換酵素阻害剤又はアンジオテンシンII受容体拮抗剤を使用し、胎児・新生児への影響(腎不全、頭蓋・肺・腎の形成不全、死亡等)が認められた例が報告されている] 今回、妊娠中の調査対象医薬品の曝露による児への影響が疑われる症例(児の副作用関連症例)の集積状況を評価した結果、添付文書で妊婦に投与しないよう注意喚起しているにもかかわらず症例の報告が継続していることが明らかとなり、妊娠する可能性のある女性への使用に関する注意が必要であると判断された。抗菌薬のアンピシリンなどは肝機能障害に注意 また、アンピシリン水和物含有製剤およびアンピシリンナトリウム含有製剤については、投与後の肝機能検査値の最悪値が有害事象共通用語規準(CTCAE v5.0)Grade3以上に該当する肝機能障害関連の国内症例を評価し、本剤と肝機能障害との因果関係の否定できない国内症例が集積したことから、以下のように使用上の注意を改訂することが適切と判断された。1.「重要な基本的注意」(新記載要領)又は「重大な副作用」(旧記載要領)の項に定期的な肝機能検査を行う旨を追記する。2. 「重大な副作用」の項に「肝機能障害」を追記する。

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小児への抗菌薬処方、多面的介入で減らせるか/BMJ

 急性咳嗽および呼吸器感染症(通常はウイルス性疾患)の小児は、プライマリケアにおいて最大の患者集団であり、半数近くが抗菌薬治療を受けている。そのような現状を背景に、英国・ブリストル大学のPeter S. Blair氏らは、抗菌薬適正使用支援の多面的介入の効果を無作為化試験で検証した。小児への無分別な抗菌薬使用の重大要因として、予後不良に関する不確実性があることなどを踏まえて介入効果を検証したが、全体的な抗菌薬投与を減らしたり、呼吸器感染症関連の入院を増やしたりすることもなかったことを報告した。BMJ誌2023年4月26日号掲載の報告。呼吸器感染症で受診していた0~9歳児への抗菌薬の処方調剤率と入院率を評価 研究グループは、呼吸器感染症でプライマリケアを受診した小児について、使いやすい多面的介入が、呼吸器感染症関連の入院を増やすことなく抗菌薬の処方調剤率を減らすかどうかを、効率的実臨床クラスター2アーム(介入vs.通常診療)非盲検無作為化試験で評価した。定性的および経済的評価を伴う日常的なアウトカムデータを用い、イングランドのEMIS電子医療記録システムを使用している一般診療所に、COVID-19パンデミック前および期間中に呼吸器感染症で受診していた0~9歳児をクラスター化して評価した。 介入は、(1)診察中に保護者の懸念を誘発、(2)受診した小児の30日以内の入院リスク(極めて低い、標準、高い)を予測するための臨床医向け診療アルゴリズムと抗菌薬処方ガイダンスの提供、(3)セーフティネットのアドバイスなどが示された介護者向けリーフレットの提供であった。 主要アウトカムは2つで、12ヵ月の試験期間中に処方されたアモキシシリンおよびマクロライド系抗菌薬の処方調剤率(比較群との優越性を評価)、呼吸器感染症による入院率(比較群との非劣性を評価)であった。介入の効果はみられず 一般診療所310ヵ所のうち、イングランドの全登録0~9歳児の5%が受診していた294ヵ所(95%)が無作為化された(介入群144ヵ所、対照群150ヵ所)。このうち12ヵ所(4%)は、その後に退いた(6ヵ所はパンデミックによる)。診療所当たりの介入利用中央値は70であった(臨床医中央値9人による)。 介入診療所(155[95%信頼区間[CI]:138~174]剤/年/1,000児)と対照診療所(157[140~176]剤/年/1,000児)で、抗菌薬の処方調剤率が異なるというエビデンスは認められなかった(率比:1.011、95%CI:0.992~1.029、p=0.25)。 事前規定のサブグループ解析において、処方看護師が少ない介入診療所で処方調剤の減少が示唆された。この示唆は単施設(多施設との比較において)で、社会経済的貧困レベルは低い地域の診療所でみられ、さらなる調査が必要である可能性があった。 事前規定の感度解析では、介入診療所の年齢の高い小児において処方調剤率の減少が示唆された(p=0.03)。 事後解析では、パンデミック前の介入診療所のほうが処方調剤率は低いことが示唆された(率比:0.967、95%CI:0.946~0.989、p=0.003)。 介入診療所の呼吸器感染症に関する入院率(13[95%CI:10~18]の入院/1,000児)は、対照診療所の同入院率(15[12~20]の入院/1,000児)に対して非劣性であった(率比:0.952、95%CI:0.905~1.003)。 結果を踏まえて著者は、「いくつかのサブグループとシチュエーション(たとえば非パンデミック下)で、介入によりわずかに処方調剤率の減少がみられたが、介入が臨床的に妥当な手法といえるものではなかった」とまとめている。

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釣り針が刺さった【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第2回

皆さんは釣りをしますか? 私は学生時代に釣りの楽しさを知り、よく遠征していました。「魚の引き」に快感を覚えるタイプで、学生時代はカジキマグロ、福井で働いているときは玄達瀬でアジ科最大種のヒラマサを釣り上げました。地域にもよると思いますが、救急外来で働いていると釣り針が刺さった患者を診る機会がしばしばあります。一般の方は釣り針が刺さったときに何科を受診したらよいかわからないため、かかりつけ医や意外な診療科にふらっとやって来ることもあります。そういうときに対処方法やコツを知らないと本当に困ることになりますよ! 下記は私が経験した苦い経験です。指に釣り針の刺さった強面のお兄さんが受診。疑似餌を用いて釣りをしていたようで、ゴム製の疑似餌が付いたままであった。除去しようとして疲れたのか、ややイライラしながら「痛くないようにしてくださいよ!」とプレッシャーをかけてくる。String pull technique(後述)による抜去に慣れてきたころだったのでトライしてみたが、緊張のためか変な力が入って釣り針はうまく抜けない。激しい痛みが生じたようで、顔をゆがめながらものすごい目つきでこちらを見てくる…。皆さんなら初めの段階に、もしくはこの後どうされますか? このようなことにならないように、今回は釣り針が刺さったときの対処方法とそのコツを紹介します。釣り針の構造釣りをされる方であれば一度は経験すると思いますが、釣り中に釣り針が服に引っ掛かって取れなくなってしまうことがあります。服を傷つけないように取ろうとしてもなかなか難しいですよね。釣り針には下図のように「カエシ」という突起があり、釣り針を抜こうとするとカエシが引っかかって抜けない仕組みになっています。強引に抜こうとすると皮下組織を損傷してしまい、かなりの痛みが伴います。また、餌が外れにくくするための突起である「ケン」にも注意しなければいけません。これらの複雑な構造が釣り針の抜去を難しくしています。画像を拡大する釣り針の抜去方法4選一般的に指に刺さった釣り針を抜去する手法は4つあります1)。(1)Retrograde techniqueRetrograde techniqueは、釣り針を刺さった方向と逆向きにそのまま引き抜くという方法です。釣り針を指側に押して、カエシが引っかからないように抜去します。報告によると成功率は74%とありますが、私の印象ではなかなかこの方法で釣り針を抜去することは難しいです2)。魚を簡単に逃がさないための人類の工夫ですので簡単に取れても困りますもんね…。画像を拡大する(2)String pull techniqueString pull techniqueは、最も傷が小さいと言われる方法です。釣り針を糸で結び、指側に押しながら、釣り針が刺さった方向と逆向きに糸を引っ張ります。屋外でもできることが利点ですが、しっかりとした固定が必要なので耳たぶなどの固定が難しい部位では行えません。画像を拡大する(3)Needle cover techniqueNeedle cover techniqueは、釣り針の針穴に18Gの注射針を挿入し、内腔にカエシを入れ、カエシが皮下組織に引っ掛からないようにカバーしながら抜去する方法です。注射針の先端を直接見ることができないのが難点で、成功率は高くない(47%)という報告があります。私は一度トライしましたが、カエシに注射針が入っているのかよくわからず、「かぶさった」という感覚があったものの結局皮下で引っかかって断念しました。それ以降はやっていません。画像を拡大する(4)Advance and cut techniqueAdvance and cut techniqueは、釣り針を刺さった方向に押し進め、カエシを皮膚から出してペンチなどで切断する方法です。カエシの手前で釣り針を切りますが、切った瞬間に断端が飛んでしまう危険があるため、私は釣り針をガーゼなどで覆ってから切るようにしています。カエシがなくなれば釣り針は逆向きから簡単に抜けるようになります。デメリットは釣り針による穴が2ヵ所できることでしょうか。画像を拡大するケンがある釣り針の場合は注意が必要で、刺さった方向に押し進める際に最初の針穴にケンが入り込んでしまうとそこで抜けなくなります。そのため、あらかじめケンを切っておくか、釣り針の根元を切断して、そのまま刺さった方向に押し進めて針先側から釣り針を抜く方法もあります。画像を拡大する私は基本的には(1)か(2)をトライしてダメなら(4)で抜去しています。(4)で抜けないということはまずないです。鎮痛釣り針の抜去の手技には痛みが生じることが多いため、私は処置の前に局所麻酔(1%キシロカイン)で鎮痛しています。(2)の処置では鎮痛は必要ないとも言われていますが、失敗したときの痛みはかなりのものなので私は鎮痛しています。インターネットで「String pull technique, fish hook」と検索すると動画が見れますが、なかなか簡単にはいきません。なお、痛みを抑えるコツは釣り針を素早く引っ張ることです!抗菌薬と創部処置抗菌薬に関しては基本的に推奨されていません。しかし、免疫抑制状態や糖尿病、肝硬変がある場合や、釣り針が関節内や靭帯や皮下の深いところまで到達している場合は予防投与が検討されます。予防の目的の1つに最近注目を集めるようになったエロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)があります。これは淡水、河口部、海水に広く常在するグラム陰性の通性嫌気性桿菌であり、治療にはフルオロキノロンが適応となります。海や川で使用した釣り針で傷を負い、抗菌薬の予防投与が必要な場合はフルオロキノロンを検討しましょう。また、患者の予防接種歴を確認し、基礎免疫がある場合は最終接種から5年以上経過している場合は破傷風トキソイドを投与し、基礎免疫がない場合は破傷風トキソイドに加えて抗破傷風人免疫グロブリンの投与を検討します3)。創部処置では、針穴を密閉すると感染リスクが高まるので控え、軟膏を塗布もしくは通気性がよいガーゼなどで保護します1)。もし、院外で釣り針が刺さった患者に遭遇した場合、私は(2)のString pull techniqueはあまり推奨しません。冒頭の苦い経験のように、うまくいかないとどうしても強い痛みが生じるからです。院外で遭遇したら無理をせず病院受診を促し、院内ではどの手法を使うにしても鎮痛をしっかりしたほうがよいでしょう。ちなみに、冒頭の強面のお兄さんの釣り針は、結局(4)のadvance and cut techniqueで抜去しましたが、最後に一言「最初からこれでやれよ」と言われてしまいました。ものすごい目つきでにらまれた記憶が今でも残っています…。1)Gammons MG, et al. Am Fam Physician. 2001:63;2231-2236.2)McMaster S, et al. Wilderness Environ Med. 2014:25;416-424.3)Callison C, et al. In:StatPearls [Internet]. Tetanus Prophylaxis. Treasure Island(FL):StatPearls Publishing. 2022.

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第160回 岡山大教授の論文不正、懲戒解雇で決着も論文撤回にはまだ応じず

コロナは文字通り“普通の風邪”へこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。5月8日、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが「5類」に移行しました。これに伴い、3年3ヵ月余りにわたって設置されていた政府の対策本部も廃止されました。また、WHOのテドロス事務局長は5月5日の記者会見で、新型コロナウイルス感染症をめぐる世界の状況について、2020年1月に発表した「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の終了を宣言しました。これで、新型コロナウイルス感染症の流行はほぼ“終息”し、文字通り“普通の風邪”となったと言えるでしょう。ただ、日本においてこの3年間で浮き彫りになった医療提供体制や医療連携の課題がすべて解決したとは到底言えません。“喉元過ぎれば熱さを忘れる“ではないですが、次のパンデミックにおいても同じような失敗、ドタバタを繰り返さぬよう、政府や医療関係者にはこの3年間の徹底した検証とパンデミック対策の更新を行ってほしいと思います。ところで、WHOのデータによれば、これまでに世界人口(約80億人)の1%弱が新型コロナウイルス感染症に感染(診断された確定例の累積)し、0.1%弱が死亡したと報告されています(途上国などを考慮すると、実際はより多くが感染し、0.25%超が死亡したとの見方もあります)。今から100年前、世界的大流行を引き起こしたA/H1N1型のスペインインフルエンザ(いわゆるスペイン風邪)では、1918〜1920年の3年間に3度の流行の波が押し寄せたと言われています。そして、当時の世界人口(18億〜20億人と推定)の25〜30%が感染し、2〜5%が死亡したと推計されています。当時は、抗生物質やワクチンはおろか、インフルエンザウイルスの存在すらわかっておらず、医学・医療のレベルも低かったので、全人口に対する死亡率の差はこんなものだろうと思われますが、終息までに同じく約3年かかっている点がとても興味深いです。どれだけ医学が進歩しても、「新興感染症によるパンデミックの終息には3年はかかる」ということなのでしょうか。誰かにこの謎を解き明かしてもらいたいと思います。岡山大、細胞生理学分野の教授を懲戒解雇さて今回は、岡山大学医学部での論文不正について書きます。岡山大学・学術研究院医歯薬学域の神谷 厚範教授(医学部・細胞生理学分野)が2019年7月にnature neuroscience電子版に発表したがん治療に関する論文1)に実験に使ったマウスの数などの捏造や画像の使い回しが113ヵ所確認も確認された問題で、同大は4月17日、神谷教授を懲戒解雇処分とした、と発表しました(処分は4月14日付)。AMEDもプレスリリース、全国紙も大きく報道した研究この事件、たびたび発覚する医学部や生命科学系の研究者による論文不正ではあるのですが、2019年に発表したのがnature neuroscienceという一流誌であったため、研究資金を提供した日本のAMED(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)も論文掲載当時、「がんに自律神経が影響することを発見!がんの神経医療の開発へ」と題するプレスリリース(最近までAMEDのサイトに掲載されていましたが4月27日に取り下げられました)を出し、全国紙やNHKもその成果を大きく報道しました。そうした経緯もあってか今回の懲戒解雇を報道したメディアの数も心なしか多かった印象です。研究成果を“誤報”したことへのメディア自身の反省もあったのかもしれません。全国紙各紙は、今回の懲戒解雇報道の末尾に2019年の記事を取り消す旨を記しています。たとえば読売新聞は「2019年7月9日の朝刊社会面で、神谷教授らによる論文について『乳がん 交感神経で悪化?』の見出しで報じました。岡山大などが論文不正を認定し、日本医療研究開発機構も研究費の一部返還と、神谷教授に対する新たな研究申請の停止を決めたことから、記事と見出しを取り消します」と記しました。交感神経の働きを止めるとがんの進行も抑えられることを、マウスを使って確認神谷元教授が発表した論文は、交感神経をがんの中で活発に働かせたところ腫瘍が大きくなるなどがんが進行し、交感神経の働きを止めるとがんの進行も抑えられることを乳がんのマウスを使った実験で確認した、という内容でした。マウスにヒトの乳がん組織を移植し、乳がん組織内の交感神経を刺激し続けると、60日後、刺激しないマウスと比較して刺激したマウスのがんの面積は2倍近く大きくなり、転移数も多かったそうです。一方、遺伝子治療で交感神経の活性化を止めると、60日経ってもがんの大きさはほとんど変化せず、転移もなかったとのことです。当時の朝日新聞の記事によれば、神谷元教授は「不安や怒りなどをうまくコントロールし、交感神経を刺激し過ぎないようにすることで、良い影響を与えられるかも知れない」と話していました。AMEDに論文に関する匿名の告発が届き不正発覚「精神の状態ががんの転移にも影響する…」。一般人にも極めてわかりやすいロジックゆえ、マスコミも飛びつきやすかったこの研究ですが、2020年9月にAMEDに対し同論文に関する匿名の告発があったことで事態は急転します。告発を受け取ったAMEDは、元教授が論文の実験を行った前任地、国立循環器病研究センターと岡山大に研究不正の予備調査実施の要請を行いました。翌2021年には、それぞれで調査委員会が立ち上げられ、本格的な調査がスタートしました。国立循環器病研究センターの調査報告書2)は2023年3月2日に、岡山大学の調査報告書3)は3月24日にそれぞれ公表されました。実験に用いたとするマウス、ラットの数と実際に使用できた数が大きく乖離それらの調査結果によれば、論文ではマウス914匹、ラット368匹を実験に用いたとしていましたが、神谷元教授が購入するなどして実際に使用できたとみられるのはそれぞれ72匹、35匹しかいなかったとのことです。こうした動物の使用数に関する捏造が108ヵ所に上り、「論文の実験は不可能」と結論付けています。ほかにも実験結果を示す画像5ヵ所の捏造も認定されました。たとえば自律神経の操作でマウスのがんの増殖が抑制されたとした実験では「0日目」と「60日目」の画像がいずれも同じ日に撮影されていました。調査報告書は、露光時間を変えることで見かけ上、がんの大きさを調整したとみられるとしています。調査委員会の調べに対し、神谷元教授は「2018年6月の大阪府北部地震でハードディスクが落下して故障し、データを失った」として実験データを提供しませんでした。捏造の指摘についても「マウスは再利用していた」「画像の取り違いがあった」などと説明し、不正を認めていないとのことです。岡山大が懲戒免職という重い処分を下したのに対し、AMEDは神谷元教授が論文執筆時に所属していた国立循環器病研究センターに対し、研究費の一部約11万8,000円の返還を求めました。AMEDによると、神谷教授が同センターで研究所室長などとして活動していた2015~2018年度、計約4,700万円の研究資金を提供。このうち、不正が確認された論文に直接関係する費用として、英文の校正費(2017年度)について返還を求めたとのことです。同センターは返還に応じる方針です。研究所時代の成果を引っさげ、教授に就任神谷元教授は1994年に浜松医科大学医学部卒業、2000年に名古屋大学大学院医学系研究科博士課程を修了しています。名古屋大学環境医学研究所助手を経て2002年より国立循環器病研究センター研究所・循環動態機能部室員となり、2017年には同循環モデル解析研究室長となっています。同研究所時代の研究成果を引っさげ、2018年に岡山大学の教授に就任しました。2019年にnature neuroscienceに発表した論文は、国立循環器病研究センター研究所の室長時代に行った実験によって得られた成果を発表したものであり、そのためもあって、同センターによる調査報告書は50ページ(岡山大学は10ページ)と長く、不正の背景や原因をより詳しく分析した内容となっています。研究姿勢が「科学者としてあるべき真摯さや誠実な姿勢からかけ離れたものであった」その中で、論文不正の社会的影響については、「論文I(nature neuroscience掲載の論文)については、2019年7月5日に岡山大学をはじめ5機関の連名で記者発表され、複数の新聞で報道されるとともに、元室長により複数回学会等で発表されている。また、元室長により、この論文と関連する別の研究が開始されている。加えて、この論文の被引用回数は2022 年8月4日現在で100回を超えており、すでに相当数の論文で引用がなされている状況である。掲載された『Nature Neuroscience』は、影響力の大きな科学雑誌であり、この論文を基に、新たな研究を着想している研究者がいることも十分に想定される。以上より、患者を対象とした新たな臨床研究等がスタートしているような状況でないものの、このような論文において、極めて不適切な研究が行われた事実が当該分野の研究の進展に与える悪影響は大きいと言わざるを得ない」と書いています。さらに、発生要因については、「今回の事案が発生した要因として、まず、元室長の研究に対する姿勢が、科学者としてあるべき真摯さや誠実な姿勢からかけ離れたものであった点を挙げざるを得ない。科学者として当然に備えるべき『科学界に対して真正なる結果を報告する』という意識、倫理観が欠如していたことが、今回の事案が引き起こされた最大の要因と言える。科学雑誌では、科学的根拠となる実験手法を正確に記載して、再検証ができるようにすることが求められているが、元室長による論文の記載は、それとはかけ離れたものであった」と、元室長個人の研究者としての姿勢を厳しく糾弾しています。さらに、「元室長が、調査の過程において、科学者が第三者的な立場から本実験結果を評価する上で考えもしない独自の主張を繰り返すとともに、『共著者や学術誌の査読者と編集者も気付かずに、そのまま出版されてしまいました』と他に責任を転嫁するような主張を行い、また、『大量の図の中においてこのエラーに気付くのは困難でした』と、図表が大量であれば、過失が許されるかのような主張をしたことも、上記の意識の欠如を裏付けるものである」とも書いています。2020年には別の国立循環器病研究センター室長による論文不正もそれにしても、論文不正が発覚すると、研究が行われた前職・元職の研究所や大学だけではなく、現職の職場でも調査を行わなければならないので大変です。今回は、国立循環器病研究センターの調査委員会は5人、岡山大の調査委員会では7人が調査を担当しています。数本の論文の捏造や改ざんのためにそれだけの時間と労力(外部有識者には費用も)が割かれたわけです。大変な無駄遣いと言えるでしょう。そう言えば、国立循環器病研究センターの論文不正としては、2020年8月にも別の事案が発覚し(「第22回 大阪大論文不正事件の“ナゾ” NHKスペシャル「人体」でも取り上げられた臨床研究の行方は?」参照)、大きなニュースになりました。この時も、同センターで室長を務めていた医師が発表した論文5本に捏造・改ざんが確認されています。論文を量産することでどこかの大学教授のポストをなんとか狙いたい“室長”という微妙な地位が、不正に走らせる一因となっているのでしょうか。なお、nature neuroscienceの論文について、岡山大は撤回するよう神谷元教授に対して勧告を行いましたが、まだ撤回は行われていません。参考1)Kamiya A, et al. Nat Neurosci. 2019;22:1289-1305.2)研究活動の不正行為に関する調査結果報告書/国立循環器病研究センター3)研究活動の不正行為及び倫理指針不適合に関する調査結果報告について/岡山大学

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第161回 糞から集めた細菌が中身の経口薬を米国が承認

適格なヒトの糞から集めた細菌を成分とするクロストリジオイデス・ディフィシル(C. difficile)感染症(CDI)の再発予防経口薬・Vowst(SER-109)が米国FDAに承認されました1,2)。米国でCDIは最も一般的な医療関連感染症の1つで、毎年1万5,000人~3万人がそのために亡くなっています。人の腸には数百万種もの微生物がいます。抗菌薬の服用などによってその共存の均衡が崩れてはびこったC. difficileが分泌する毒素が下痢、腹痛、発熱、果ては臓器不全や死をもたらします。CDIはひとたび回復しても再発することがあり、再発が増えるごとに再発しやすさも上昇するという悪循環があり、残念ながら再発CDIの治療は限られています。先週4月26日に承認されたVowstのような糞中微生物の補給は腸微生物の均衡回復を助けてCDIの再発を予防すると考えられています。米国のバイオテクノロジー企業であるSeres Therapeutics社が開発したVowstはヒトの糞から集めた生きた細菌を含むカプセル剤です。1日1回4カプセルを3日間連続して服用することでCDI再発を予防します。その効果は先立つ1年間にCDIを3回以上経験し、標準的な抗菌薬治療でひとまず症状が収まっている患者を募った第III相試験3)で裏付けられています。試験には182例が参加し、Vowst投与群89例の8週間のCDI再発率は12%でした。すなわち9割近い88%が8週時点を再発なしで迎えることができました。一方、プラセボ群では半数近い40%が8週後までに再発し、無再発患者の割合は60%でした。よってVowst投与群の無再発率は差し引きでプラセボ群を28%上回りました。Vowst投与群の再発率はその後も低いままで、6ヵ月経っても約8割(79%)の被験者が無再発を保っていました。プラセボ群では半数を超える53%が6ヵ月後までに再発しています。Vowstの原料である糞やその糞の提供者に伝染性病原体一揃いが含まれていないことは検査されますが、感染源の混入の恐れはあります。また、食物アレルギー源を含んでいるかもしれません。とはいえ幸いなことに試験でVowstと関連する重篤な有害事象は認められていません。世界に名立たる食品メーカーNestlé(ネスレ)の栄養科学事業Nestlé Health ScienceがSeres社と協力してVowstを米国で販売します。排泄物から作るとはいえ開発費や製造などの諸々の手間を考慮すると安上がりとは言えないらしく、3日間の同剤治療の値段は1万7,500ドル(240万円ほど)です4)。ヒトの糞から集めた微生物が成分の薬の承認はVowstが初めてではありません。スイスのFerring社のCDI再発予防薬Rebyotaが昨年の暮れに米国承認に至っています5,6)。ただしRebyotaは浣腸薬であり、経口薬のVowstの方が使いやすいかもしれません。また、第III相試験での単回のRebyota浣腸の8週間無再発率は71%でプラセボとの差し引きの効果増分は13%であり7)、間接比較なのであまり頼りになりませんが上述したVowstの第III相試験での効果増分28%の方が見栄えします。参考1)FDA Approves First Orally Administered Fecal Microbiota Product for the Prevention of Recurrence of Clostridioides difficile Infection / PRNewswire2)Seres Therapeutics and Nestl? Health Science Announce FDA Approval of VOWSTTM (fecal microbiota spores, live-brpk) for Prevention of Recurrence of C. difficile Infection in Adults Following Antibacterial Treatment for Recurrent CDI / BUSINESS WIRE3)Feuerstadt P, et al. N Engl J Med. 2022;386:220-229.4)Seres and Nestl? take on Ferring in C diff / Evaluate5)FDA Approves First Fecal Microbiota Product / PR Newswire6)Ferring Receives U.S. FDA Approval for REBYOTA®(fecal microbiota, live-jslm) - A Novel First-in-Class Microbiota-Based Live Biotherapeutic / BusinessWire7)Khanna S, et al. Drugs. 2022;82:1527-1538.

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静脈血栓塞栓症治療中の肺動脈塞栓を伴う右室内腫瘤の治療方針【見落とさない!がんの心毒性】第20回

※本症例は、患者さんのプライバシーへの配慮と、臨床経過の円滑な理解を進めるため、一部改変を加えております。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。《今回の症例》年齢・性別50代・女性受診までの経過子宮頸がんに対する化学放射線療法後、無再発で経過していたが、5年目のCT検査にて右腸骨静脈の下大静脈合流部から右下腿までの広範囲な静脈血栓症と静脈周囲の炎症所見があり(図1)、深部静脈血栓塞栓症と血栓性静脈炎の合併として、当科に診療依頼があった。血栓性静脈炎が出現するまでは、日常生活になんら支障がない日常生活動作(ADL)であった。(図1)造影CT検査【既往症】子宮頸がん3B期当院にて5年前に全骨盤外照射 50Gy+CDDP 35mg/m2/week× 6回、両側内腸骨リンパ節および傍大動脈リンパ節領域10Gy、その後、エトポシド25mg/day 内服3週間、休薬1週間を合計21cycle追加し、当科初診時までの5年間無再発。当科初診時、右下肢広範囲の発赤腫脹を認め、血液検査ではD-dimer 7.4μg/mL、抗カルジオリピン抗体は陰性であった。下肢全体の腫脹と疼痛は強かったが、CT検査にて肺動脈血栓塞栓症は認めず、抗凝固療法を開始して1ヵ月ほどでD-dimerが0.8μg/mLと正常化し下肢腫脹も改善した。4ヵ月後にD-dimerの再上昇傾向を認め下肢腫脹が再燃したが、CT検査では、明らかな子宮頸がんの再発や転移を認めず、大腿静脈血栓はほぼ消失したものの、腸骨静脈血栓が残存している状態であった。他院循環器病院へ薬剤抵抗性のDVT後遺症として血管内治療も含めてセカンドオピニオンしたところ、現行の治療継続指示であった。6ヵ月後に軽度の貧血、断続的な発熱と炎症反応高値が出現したため、精査目的に当科入院となった。【入院時所見】WBC 5,900/μL、Hb 8.2g/dL、CRP 14mg/dL、BNP 113.8pg/mL、D-dimer 5.5μg/mL、SCC抗原 0.3ng/mL、新CYFRA 1.0ng/mL、CEA < 0.5ng/mL、心電図は洞調律、III・aVF・V2-3誘導にてT波異常。感染性心内膜炎のスクリーニングとして血液培養を提出し、心臓超音波検査を施行したところ、右室心尖部に可動性の乏しい26×42mmの腫瘤像を認めた(図2)。(図2)心臓超音波検査【入院後経過】貧血に対しては上下部内視鏡検査を予定した。入院時の心エコー検査にて、半年前には認めなかった右室内腫瘤を認め、CT検査では明らかな感染源や、明らかな子宮頸がんの局所再発や主要な他臓器転移も認めなかったものの、右室内に腫瘤が疑われた。また、右腸骨静脈と右肺動脈に造影欠損像を認めた。心臓MRI検査では、右室腫瘤像を認めるが、その腫瘤の質的診断は出来なかった。冠動脈カテーテル検査では、右冠動脈からの栄養血管を認めたが、病理学的な検査は行えなかった。PET-CT検査は、当時の当院では撮影困難であった。【問題】右室腫瘤の精査加療方針として、最も適切と判断した選択肢はどれか。a.不明熱と炎症反応高値を認めるため、感染性疣贅として抗生剤治療を4~6週間施行し、その治療反応性をみてから治療方針を再検討する。b.静脈血栓塞栓症の治療中の肺動脈血栓症の出現があるため、抗凝固療法を2ヵ月施行しその治療反応性をみてから治療方針を再検討する。c.原発性心臓腫瘍の中では発生確率が高い良性腫瘍を疑うが、可動性が乏しいため3ヵ月後に再検する。d.原発性心臓腫瘍や転移性心臓腫瘍、感染性疣贅、血栓などの診断がつかないが、何かしらの悪性腫瘍の可能性があるため、がん薬物治療を開始する。e.明らかな他臓器転移がない状態で診断がつかず肺動脈塞栓症を伴う粗大な心腔内腫瘤であり、開胸右室生検、ならびに右室腫瘤摘出術を施行する。悪性の(原発性、転移性)心臓腫瘍は稀な疾患だが、腫瘍が増大傾向を示す場合などは重要な鑑別疾患である。がんの既往歴の問診や心臓超音波、CT、MRIなどの画像検査、血栓塞栓症合併などのアセスメントは診断の補助となるが、組織学的検査による確定診断が最も重要である。本例のように、外科的切除も含めた心臓腫瘍の診断・治療について、循環器内科、心臓外科、腫瘍内科、放射線科による連携が必要である。1)北原 康行ほか. 呼吸と循環. 2016;64:889-903.2)Butany J, et al. Can J Cardiol. 2005;21:675-680.3)Lam KY, et al. Arch Pathol Lab Med. 1993;117:1027-1031.4)Amano J, et al. Gen Thorac Cardiovasc Surg. 2013;61:435-447.5)Silvestri F, et al. G Ital Cardiol. 1997;27:1252-1255.6)Klatt EC, et al. Cancer. 1990;65:1456-1459.【謝辞】本文作成にあたり、丸山 雄二氏(日本医科大学付属病院心臓血管外科准教授)、金政 佑典氏(都立駒込病院腫瘍内科医長)、向井 幹夫氏(大阪国際がんセンター成人病ドック科部長)、大倉 裕二氏(新潟県立がんセンター新潟病院循環器内科部長)、草場 仁志氏(国家公務員共済組合連合会 浜の町病院 腫瘍内科部長)、志賀 太郎氏(がん研有明病院腫瘍循環器・循環器内科部長)にご指導とご監修いただきました。ここに深く感謝申し上げます。講師紹介

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