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ダニ咬傷【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第14回

ダニは主に野外に生息し、哺乳類(ヒトを含む)や鳥類、爬虫類から血を吸う節足動物です。農業や林業作業中だけでなく、山登りやハイキングといったレジャーでもダニにかまれることがあります。ダニは日本紅斑熱(JSF)やライム病(LD)などのリケッチア症やボレリア症などの感染症を伝播しますが、ダニ媒介感染症は特定の地域に比較的限定されていて、効果的な抗菌薬もあるため、日本ではダニによる咬害をそれほど恐れない傾向がありました。しかし、2013年に重症熱性血小板減少症候群(Severe fever with thrombocytopenia syndrome:SFTS)が報告され、にわかに注目を集めています。結果として、ダニによる咬害治療のための来院が急速に増加しているため1)、皆さんの診療所や救急外来にダニにかまれた患者さんが突然受診するかもしれません。今回は、ダニ咬傷の対処法を説明します。日本では咬傷を生じるダニは6種類いて、地域によって異なります。SFTSなどを生じるマダニは主に西日本にいます。これらの詳細を書くととても長くなるので、今回はマダニにかまれて来院した患者さんの対処法を記載します。<症例>75歳男性主訴西日本在住。山菜を採りに山へ入った。当日の入浴時に右前腕に黒い脚が生えている動くダニを発見した。引っ張ってみたりしたが外れないため、救急外来を受診した。(1)ダニを確認するまずは、かんだダニを確認して吸血の有無を判断しましょう。血液を吸っていればお腹が大きく膨らんでいます。本症例は、さほど膨らんでいませんでした。(2)かまれてからの時間を確認かまれてからの時間を確認しましょう。ダニ咬傷はほとんど症状がなく、気付くまで2~3日、長いと1週間ほどかかることがあります。ダニがかみついてから24時間経過すると食いつきが強くなり、攝子では除去が困難になります2)。かまれてから3日以上経過した場合はマダニ媒介感染症のリスクが高くなるため、外科的除去がより強く推奨されます3,4)。本症例は、山に山菜取りに行ったのが久しぶりで、当日にかまれたことが想定されます。よって、24時間以内と判断しました。(3)ダニの除去方法はいくつかありますが、今回は非侵襲的方法2つと侵襲的方法1つを紹介します。a.非侵襲的除去基本的にダニの体には触らないことが理想です、なぜなら、体を押すと病原体や毒が体内に入ったり、体をつまんで除去をしようとするとダニの口が残ってしまったりします。よって1つ目の方法は「無鈎攝子でダニの口器をつかんで除去する」です(図1)。図1 攝子を用いたダニの除去方法2つ目の方法として、もし手元にあれば、Tick twisterという動物用のダニ除去器具を用いるのも手です(図2)。ダニの口は縦方向の力に強いため、攝子で引っ張るにはある程度力がいります。Tick twisterを皮膚とダニの間に挟んで軽く持ち上げながら回転させることで非常に簡便に除去できます。口器を意識せずに使用できるのも利点です。ダニ咬傷を診る機会があれば、1個1,000円程度ですので持っておいてもよいかもしれません。YouTubeで「Tick Twister」と検索すると複数の動画がヒットしますので使用の際は参考にしてください。本症例は攝子で口器をつまんで除去しました。図2 Tick Twisterb.侵襲的処置口が深く入って把持できなかったり、ダニ咬傷となってから3日以上経っていたりする場合は外科的切除が必要になります4)。まずキシロカインで鎮痛し、図3のようにダニの周囲を円錐状に切除して皮膚ごと除去します3)。図3 侵襲的処置(4)除去後の処置まずは創部を洗浄しましょう。抗菌薬はダニにかまれた場合には推奨されていません。というのも、そもそものマダニ媒介感染症のリスクが低いため、抗菌薬の使用によるリスクがベネフィットを上回るためです。しかし例外として、シュルツェマダニにかまれた場合は予防投与の適応となります。シュルツェマダニは北海道、本州中部が生息域と推定されています(参考文献5の図4を参考にしてください)。ダニがシュルツェマダニであり、血液を吸い肥大化している場合、ライム病のリスクが高いため200mgのドキシサイクリン単回投与が推奨されます4)。この場合はダニの種類の同定が必要であり、ダニを保存して専門家へ相談することも必要になります4)。本症例は西日本の患者さんであったため抗菌薬の予防投与は行いませんでした。帰宅時に、マダニ咬傷から4週間以内に発熱、嘔吐、下痢、感覚障害などの神経症状が出現した場合はマダニ媒介感染症を生じた可能性があるので、医療機関を受診するように指導しました。以上がダニ咬傷の対処法です。ダニはなるべく早く除くことが重要ですので、上記手技を使って素早く除去しましょう。1)Inoue Y, et al. 衛生動物. 2020;71:31-38.2)鵬図商事:マダニに刺されてしまったら3)Roupakias S, et al. Wilderness Environ Med. 2012;23:97-99.4)Natsuaki M. J Dermatol. 2021;48:423-430.5) 国立国際研究所:ライム病とは

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肺炎診療GL改訂~NHCAPとHAPを再び分け、ウイルス性肺炎を追加/日本呼吸器学会

 2024年4月に『成人肺炎診療ガイドライン2024』1)が発刊された。2017年版では、肺炎のカテゴリー分類を「市中肺炎(CAP)」と「院内肺炎(HAP)/医療介護関連肺炎(NHCAP)」の2つに分類したが、今回の改訂では、再び「CAP」「NHCAP」「HAP」の3つに分類された。その背景としては、NHCAPとHAPは耐性菌のリスク因子が異なるため、NHCAPとHAPを1群にすると同じエンピリック治療が推奨され、NHCAPに不要な広域抗菌治療が行われやすくなることが挙げられた。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行を経て、ウイルス性肺炎の項目が設定された。第64回日本呼吸器学会学術講演会において、本ガイドライン関するセッションが開催され、進藤 有一郎氏(名古屋大学医学部附属病院 呼吸器内科)がNHCAPとHAPの診断・治療のポイントや薬剤耐性(AMR)対策の取り組みについて解説した。また、ウイルス性肺炎に関して宮下 修行氏(関西医科大学 内科学第一講座 呼吸器感染症・アレルギー科)が解説した。NHCAPとHAPは耐性菌のリスク因子が異なる NHCAPとHAPは「敗血症性ショックの有無の判断」「重症度の判断(NHCAPはA-DROPスコア、HAPはI-ROADスコアで評価)」「耐性菌リスクの判断」を行い、治療薬を決定していくという点は共通している。しかし、耐性菌のリスク因子は異なる。進藤氏は、「この違いをしっかりと認識してほしい」と語った。なお、それぞれの耐性菌リスク因子は以下のとおり。NHCAP:経腸栄養、免疫抑制状態、過去90日以内の抗菌薬使用歴、過去90日以内の入院歴、過去1年以内の耐性菌検出歴、低アルブミン血症、挿管による人工呼吸管理を要する(≒診断時に重度の呼吸不全がある)HAP:活動性の低下や歩行不能、慢性腎臓病(透析を含む)、過去90日以内の抗菌薬使用歴、ICUでの発症、敗血症/敗血症性ショック HAPでは、「重症度が低く、耐性菌リスクが低い(リスク因子が1つ以下)場合」は狭域抗菌治療、「重症度が高い、または耐性菌リスクが高い(リスク因子が2つ以上)場合」には広域抗菌治療を行う。NHCAPでは、外来の場合はCAPに準じた外来治療を行う。また、入院の場合も非重症で耐性菌リスク因子が2つ以下であれば、CAPと類似した狭域抗菌治療を行い、重症で耐性菌リスク因子が1つ以上あるか非重症で耐性菌リスク因子が3つ以上であれば広域抗菌治療を行うという流れとなった(詳細は本ガイドラインp.54図3、p.64図3を参照されたい)。不要な広域抗菌薬の使用は依然として多い 進藤氏は、名古屋大学などの14施設で実施した肺炎患者を対象とした前向き観察研究(J-CAPTAIN study)の結果を紹介した。本研究では、CAP患者をNon-COVID-19肺炎とCOVID-19肺炎に分けて検討した。その結果、Non-COVID-19肺炎患者(1,802例)の10%にCAP抗菌薬耐性菌(β-ラクタム系薬、マクロライド系薬、フルオロキノロン系薬のすべてに低感受性と定義)が検出された。CAP抗菌薬耐性菌のリスク因子としては、過去1年以内の耐性菌検出歴、気管支拡張を来す慢性肺疾患、経腸栄養、ADL不良、呼吸不全(PaO2/FiO2≦200)が挙げられた。これらの項目は本ガイドラインのシステマティックレビューの結果と類似していたと進藤氏は語った。 また、本研究においてNon-COVID-19肺炎患者では、CAP抗菌薬耐性菌の検出がなかった患者の29.2%に広域抗菌薬が使用されていたことを紹介した。AMR対策としては、このような患者における広域抗菌薬の使用を減らしていくことが重要となると進藤氏は指摘する。CAP抗菌薬耐性菌のリスク因子が0個であった患者は、Non-COVID-19肺炎の61.2%を占め、そのうち21.8%で広域抗菌薬が使用されていた結果から、進藤氏は「AMR対策上、耐性菌リスクのない症例では広域抗菌薬の使用を控えることが重要である」と強調した。ウイルス性肺炎は想定以上に多い? 2018~20年に九州の14施設で実施された観察研究では、CAP患者の23.3%にウイルスが検出されており2)、肺炎へのウイルスの関与が注目されている。そこで、宮下氏は本ガイドラインに新たに追加されたウイルス性肺炎について、その位置付けを紹介した。 CAPは、(1)CAPとNHCAPの鑑別→(2)敗血症の有無・重症度の判断(治療場所の決定)→(3)微生物学的検査→(4)マイコプラズマ肺炎・レジオネラ肺炎の推定→(5)抗菌薬の選択といった流れで診療が行われる。この流れに合わせて、ウイルス性肺炎の特徴を考察した。 COVID-19肺炎患者の1年後の身体機能をみると、CAPと比較してNHCAPで予後が不良である3)。したがって、宮下氏は「CAPとNHCAPでは予後がまったく異なるため、治療方針を大きく変えるべきであると考える」と述べた。 本ガイドラインでは、重症度の評価をもとに治療場所を決定するが、CAPで用いられるA-DROPスコアによる評価がCOVID-19肺炎においても有用であった。ただし、COVID-19(デルタ株以前)ではA-DROPスコア1点(中等症、外来治療が可能)であっても、R(呼吸状態)の項目が1点の場合は疾患進行のリスクが高いという研究結果4,5)を紹介し、注意を促した。 前版で細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別に用いられていた鑑別表は、細菌性肺炎とマイコプラズマ肺炎の鑑別表(本ガイドラインp.32表4)に改められた。実際に、この鑑別表を非定型肺炎であるCOVID-19肺炎に当てはめると診断の感度は不十分であり、マイコプラズマ肺炎と細菌性肺炎の鑑別に用いるのが適切と考えられた。また、今回のガイドラインではレジオネラ診断予測スコアが掲載された(本ガイドラインp.33表5)。この診断スコアを用いた場合、COVID-19はいずれの株でもレジオネラ肺炎との鑑別が可能であった。 最後に、宮下氏はオミクロン株の流行後にCOVID-19肺炎において誤嚥性肺炎が増加し、誤嚥性肺炎を発症した患者の退院後の顕著な身体機能低下が認められていることに触れ、「早期診断・早期治療が重要であり、肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンに加えて新型コロナワクチンによる予防も重要であると考えている」とまとめた。

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肺炎診療ガイドライン改訂~市中肺炎の2024年版での改訂点は?/日本呼吸器学会

 2024年4月に『成人肺炎診療ガイドライン2024』1)が発刊された。2017年版からの約7年ぶりの成人肺炎診療ガイドライン改訂となる。第64回日本呼吸器学会学術講演会において、成人肺炎診療ガイドライン2024に関するセッションが開催され、岩永 直樹氏(長崎大学病院 呼吸器内科)が市中肺炎(CAP)に関する改訂のポイントを解説した。成人肺炎診療ガイドラインでは非定型肺炎の鑑別を大切にする方針 CAPへの初期の広域抗菌薬投与や抗MRSA薬のエンピリックな使用は予後を改善せず、むしろ有害であるという報告がある。そのため、エンピリックな耐性菌カバーは予後を改善しない可能性がある。そこで、今回の成人肺炎診療ガイドライン2024では、非定型肺炎の鑑別を大切にするという方針を前版から継承し、CAPのエンピリック治療薬の考え方を示している。そこでは、外来患者や一般病棟入院患者では抗緑膿菌薬や抗MRSA薬は使用せず、これらの薬剤は重症例や免疫不全例に検討することとしている(詳細は成人肺炎診療ガイドライン2024のp.34図4を参照されたい)。 近年、CAPではウイルスが検出されることが多いことも報告されている2)。そのような背景から、今後は同時多項目遺伝子検査の活用が重要となってくることが考えられる。そこで、今回の成人肺炎診療ガイドライン2024では、多項目遺伝子検査に関するクリニカルクエスチョン(CQ)が設定された。多項目遺伝子検査は従来法と比較して原因微生物の同定率が高く(67.5% vs.42.7%)、「行うことを弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])」とされた(CQ19)。なお、多項目遺伝子検査の対象について、岩永氏は「主にCAPがターゲットとなると考えている。とくに免疫不全例では典型的な病像を呈さないことも多いため、これらの症例に有用性があるのではないか」と意見を述べた。成人肺炎診療ガイドライン2024でのCAPのCQとポイント 成人肺炎診療ガイドライン2024でのCAPに関するCQとポイントは以下のとおり。・CAPの重症度評価の方法(CQ1) A-DROPスコアはCURB-65スコアやPSIスコアと同等の予測能を示した。A-DROPスコアによる評価は本邦でよく用いられており、簡便であることから成人肺炎診療ガイドライン2024では「A-DROPスコアによる重症度評価を弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])」となった。・注射用抗菌薬から経口抗菌薬への変更(スイッチ療法)(CQ2) CAPに対するスイッチ療法は注射用抗菌薬の継続と比較して、同等の肺炎治癒率を示し、副作用発現頻度は有意差がないが減少傾向で、入院期間を有意に短縮した。また、医療費についてはシステマティックレビュー(SR)を実施していないが、3件の無作為化比較試験(RCT)においていずれも低下させる傾向にあった。以上から成人肺炎診療ガイドライン2024では「スイッチ療法を行うことを強く推奨する(エビデンスの確実性:B[中程度])」となった。・短期抗菌薬治療(CQ3) CAPのアジスロマイシンによる治療とアジスロマイシンを含まない治療のいずれにおいても、短期治療(1週間以内)は標準治療(1週間超)と比較して、死亡率と肺炎治癒率に差がなかった。また、肺炎再燃率や副作用発現率も同等であった。医療費についても、SRは実施していないが、3件のRCTではいずれも低下させる傾向にあった。以上から成人肺炎診療ガイドライン2024では「初期治療が有効な場合には短期治療を弱く推奨する(エビデンスの確実性:B[中程度])」となった。ただし多くのRCTが軽症〜中等症を対象としており、重症例、集中治療を要する症例、高齢者などは注意が必要である。・β-ラクタム系薬へのマクロライド系薬の併用(CQ4) 重症例では、β-ラクタム系薬にマクロライド系薬を併用することで死亡率と肺炎治癒率の改善が認められた。1件の観察研究でコストは増加する傾向にあったが、耐性菌発生率は変化しなかった。非重症例では、併用療法により死亡率や肺炎治癒率、入院期間、耐性菌発生率のいずれも変化しなかった。また、1件の観察研究でコストは増加する傾向にあった。以上から、成人肺炎診療ガイドライン2024では「重症例では併用することを弱く推奨する、非重症例では併用しないことを弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])」となった。・抗菌薬へのステロイドの併用(CQ5) 全身性ステロイド薬投与は重症例では死亡率を低下させ、非重症例では死亡率を低下させなかった。CAP全体では、併用により肺炎治癒率は変化せず、入院期間が短縮した。以上から、成人肺炎診療ガイドライン2024では「重症例では併用することを弱く推奨する、非重症例では併用しないことを弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])」となった。

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第93回 「高すぎる自己負担額の話」をする?新型コロナのレムデシビル投与前

当院では、中等症以上の新型コロナを現在も引き受けています。「5類感染症」に移行してからというもの、基本的には自施設で診ていただける感染症と思っていましたが、「新型コロナ陽性になりました、当院では対応は難しいので貴院にてよろしく診療お願い申し上げます」という紹介がチラホラとあります。地域で機能集約していくことはよいことだと思いますが…。しかし、いつになったら「特別な感染症」ではなくなるのか、はなはだ疑問ではあります。ところで、中等症以上の新型コロナで入院になるということは、高確率で肺炎を発症しているわけです。新型コロナ陽性者の肺炎というのは、ウイルス性肺炎だけでなく誤嚥性肺炎や二次性器質化肺炎などいろいろな可能性を考慮する必要があるわけですが、抗菌薬を使用する・しないにかかわらず、抗ウイルス薬が必要になることが多いです。錠剤の内服ができないくらい症状がつらかったり、ADLや嚥下機能が低かったりする患者さんが多いので、基本的には入院例に対しては抗ウイルス薬の点滴であるレムデシビル(商品名:ベクルリー)が適用されることになります。レムデシビル、2024年4月1日から高額になりました。厳密には、これまで自己負担割合に応じて最大9,000円の自己負担で済んでいたものが、そのままガチで負担割合をかけ算した自己負担が生じることになってしまいました。具体的には表のようになります。他の経口抗ウイルス薬と比べると、レムデシビルの点滴が一歩抜きん出ていることがおわかりかと思います。画像を拡大する表. 新型コロナ治療薬の自己負担額(2024年4月1日以降)たとえば、レムデシビルを5日間投与すると、3割負担で約9万円になります。これだと、高額療養費制度の上限に達してしまう患者さんも結構多いのではないでしょうか。自己負担額がこのくらいになる治療を、事前に説明すべきかどうかは診療科や病院によって異なるでしょう。当院では、トラブルにならないように、「4月1日から抗ウイルス薬の自己負担額が高額となっております」という説明をするよう配慮しています。

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ピロリ菌の除菌治療の失敗は虫歯と関連

 ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)の除菌治療に成功するかどうかは、虫歯の有無と有意に関連しているとの研究結果が示された。朝日大学歯学部口腔感染医療学講座社会口腔保健学分野の岩井浩明講師、友藤孝明教授らによる研究であり、詳細は「Scientific Reports」に2月19日掲載された。 ピロリ菌は、胃炎、胃潰瘍、胃がんなどを引き起こす。胃がんの90%以上はピロリ菌が原因とされている。ピロリ菌の感染者は減少傾向であるものの、2017年時点で日本人の約3600万人が感染しており、年齢が上がるほど感染率は高まる。ピロリ菌の感染者には抗菌薬による除菌治療が行われるが、除菌は必ず成功するわけではない。除菌失敗の可能性としてピロリ菌の薬剤耐性が報告されているが、まだ不明な点も多く、さらなる研究が必要とされている。 著者らは過去の研究で、日本人におけるピロリ菌感染と虫歯との関連を報告している。今回の研究では、ピロリ菌の除菌失敗と、未治療の虫歯との関連について検討した。対象は、2019年4月から2021年3月に朝日大学病院でピロリ菌の除菌治療および歯科検診を受けた226人(男性150人、平均年齢52.7歳)。対象者には標準的な初回除菌治療として、7日間の3剤併用療法(ペニシリン系抗菌薬、マクロライド系抗菌薬、プロトンポンプ阻害薬)が行われ、1カ月後に除菌の成否が尿素呼気試験で判定された。 その結果、226人のうち除菌に失敗した人は38人(17%)だった。除菌に失敗した人は成功した人と比べて、歯磨きの回数が1日2回以上である人の割合が有意に低く、虫歯のある人の割合が有意に高かった。除菌に失敗した人と成功した人で、歯の詰め物や歯の欠損の有無について有意な差はなかった。 次に、多変量ロジスティック回帰を用いて、年齢、性別、歯磨きの回数による影響を調整して解析した結果、ピロリ菌の除菌失敗は、虫歯ありと有意に関連していた(虫歯なしと比較したオッズ比2.672、95%信頼区間1.093~6.531)。虫歯の本数別に検討したところ、除菌に失敗した人の割合は、虫歯が1本の人では24%(21人中5人)、2本の人では40%(5人中2人)、3本以上の人では67%(6人中4人)だった。虫歯の本数が増えるほど、除菌に失敗する人の割合が高まるという有意な傾向が認められた。 今回の研究で示された、ピロリ菌の除菌失敗と虫歯が有意に関連することの説明として著者らは、虫歯のある部位からもピロリ菌は検出されるが、この部位は血液循環が悪く、抗菌薬が浸透しにくいという可能性を挙げている。さらに、コロニーを形成した虫歯の細菌が「バイオフィルム」という膜を形成することで、ピロリ菌も抗菌薬から保護され、抗菌薬の効果が低下する可能性を指摘。一方、除菌の失敗と歯の詰め物との関連は見られなかったことから、「虫歯が発生しても、適切に治療すれば、除菌失敗のリスクを減らすことができる」と述べている。

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第210回 リンパ節にミニ肝臓を作る治療の臨床試験開始/抗菌薬で心不全治療?

リンパ節にミニ肝臓を作る治療の臨床試験開始末期肝疾患(ESLD)患者の肝臓機能を担うことを目指してリンパ節を肝臓化する治療が第IIa相試験(Ph2a試験)で初めてヒトに施されました1,2)。初めて投与されたのはLyGenesis社のLYG-LIV-001という名称の開発品です。LYG-LIV-001は寄付された肝臓から段階を追って念入りに単離された肝細胞です。1つの肝臓から多ければ75例に移植できる量を製造できます3)。Ph2a試験はESLD患者12例を募っています。今回、その最初の患者の肝臓近くのリンパ節に超音波と内視鏡を使って肝細胞5千万個を含むLYG-LIV-001が投与されました。肝臓近くのリンパ節に投与するのは肝臓の助けを借りるためです。肝臓は再生能を有する唯一の臓器であり、たとえ損傷しても再生のための増殖因子やその他の分子を放ちます。肝臓の近くでLYG-LIV-001はそれらの信号を受け取って肝臓構造を形成します。そうしてLYG-LIV-001はリンパ節に根付き、増殖して肝臓の役割を担うことを目指します。LYG-LIV-001投与患者は1年間観察され、安全性や治療の許容のほどの検討に加えて、ESLDの症状や状態への効果も調べられます。LyGenesis社の臓器再生技術は肝臓にとどまらず、胸腺、腎臓、膵臓などの他の臓器の再生にも応用できそうです。実際、老齢胸腺、末期腎不全(ESRD)、1型糖尿病(T1D)の臓器再生細胞治療の前臨床開発に同社は取り組んでいます。LYG-LIV-001を含むLyGenesis社の開発品は遺伝的加工を含まないのでより短期間でより安く作ることができます。また、遺伝的加工につきものの害の心配もありません。米国で1万例弱が肝臓移植の待機者リストに名を連ねています。多くは移植までに数ヵ月から長ければ数年待たねばなりません。また、移植に至る前に死んでしまう患者も多く、待機者リストの患者の12%ほどが毎年亡くなっています。LYG-LIV-001が有効なことが裏付けられれば肝疾患治療が一新するかもしれません。LyGenesis社の技術の実用化によってわずか数年のうちに肝臓移植の待機者リストが不要になりうると同社の舵を取る最高経営責任者(CEO)Michael Hufford氏は言っています2)。抗菌薬で心不全治療?薬による臓器再生の研究でも進展があり、承認済みの意外な薬2つの心臓再生作用が、大型動物ブタを含む実験で示されました。Meis1とHoxb13と呼ばれる協調する2つの転写因子を省くことで成体の心筋細胞の細胞周期停止が解除され、心筋梗塞マウスの左心室機能が向上することが、米国のテキサス大学南西医療センター(UTSW)のHesham Sadek氏らの先立つ研究で示されています4)。よってMeis1やHoxb13の転写活性阻害による心筋細胞の増加は心臓再生手段として有望です。Sadek氏らのさらなる研究5,6)で見付かったのが、Meis1とHoxb13の転写活性を阻害してどうやら心臓再生を促す米国FDA承認薬2つです。2つともアミノグリコシド系抗菌薬で、1つはパロモマイシン、もう1つはネオマイシンです。Hoxb13はMeis1を介添えし、Meis1を細胞の核内へと運ぶ役割を担います7)。パロモマイシンとネオマイシンはどちらもMeis1に結合します。結合領域はHoxb13と相互作用する部位の近くです。成体のマウスやブタの心筋梗塞(心虚血/再潅流障害)後にそれら2つとも投与したところ心筋細胞が増え、左心室機能が改善し、瘢痕を減らすことができました。Sadek氏らの今回の成果は臨床試験での検討をより現実的なものにしており6)、心筋梗塞後に高頻度で生じる心不全をパロモマイシンとネオマイシンで治療できる日がもしかしたら来るかもしれません8)。参考1)LyGenesis Announces First Patient Dosed in its Phase 2a Clinical Trial of a First-in-Class Regenerative Cell Therapy for Patients with End-Stage Liver Disease / PRNewswire 2)Therapy that turns lymph nodes into livers gets first human trial / (NewScientist)3)This Bag of Cells Could Grow New Livers Inside of People / WIRED4)Nguyen NUN, et al. Nature. 2020;582:271-276.5)Ahmed MS, et al. Nature Cardiovascular Research. 2024;3:372-388.6)Heart Regeneration Induced by FDA-Approved Antibiotics / Genetic Engineering & Biotechnology News7)Helping the heart heal itself / Eurekalert8)Common antibiotics can regenerate heart cells in animals / NewScientist

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C. difficile 感染のリスク【1分間で学べる感染症】第1回

画像を拡大するTake home messageC. difficile 感染のリスクを大まかに高リスク・中リスク・低リスクに分類して理解しよう。広域抗菌薬、とくに嫌気性菌をカバーする抗菌薬はリスクが高い。C. difficile 感染を引き起こすリスクのうち、最も重要なものが抗菌薬によるものです。それでは一体どのような抗菌薬が、リスクが高いのでしょうか。一般的には、広域抗菌薬、とくに嫌気性菌をカバーする抗菌薬はリスクが高いとされています。具体的には、上記のように、メロペネム、イミペネム、モキシフロキサシン、第3世代・第4世代セファロスポリンなどが最もリスクが高いとされ、次にシプロフロキサシン、レボフロキサシン、クリンダマイシンなどが続きます。一方、アモキシシリン、第1世代セフェム系、アジスロマイシン、アズトレオナム、ダプトマイシン、リネゾリド、テトラサイクリンなどはリスクが低いとされています。C. difficile 感染のリスクをできるだけ最小限にするために、可能な限り狭域な抗菌薬にde-escalationできないか、常に検討しましょう。1)Di Bella S, et al. Clin Microbiol Rev. 2024 Feb 29. [Epub ahead of print]

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第206回 紅麴サプリ、小林製薬に問われた2つの論点(後編)

3月29日に大阪市内で開かれた紅麹サプリの健康被害に関する記者会見。冒頭でテレビ朝日の報道ステーションのキャスター下村 彩里氏の質問以降も、この時点で一切可能性として名前が挙がっていなかった原因物質に関する質問が相次いだ。以下、質問に対する小林製薬側の回答を会見での質疑応答の順に抜粋する。*梶田氏、渡邊氏とは、それぞれ同社の梶田 恵介氏(ヘルスケア事業部食品カテゴリー カテゴリー長)、渡邊 純氏(執行役員/信頼性保証本部 本部長)のこと。「(原因の可能性がある)想定していない成分は、だいぶ構造体は見えていますが、国の研究機関とともに解明を進めていきたいというふうに考えております。紅麹と言われる原料にはさまざまな成分が入っており、今回の想定していない成分と何らかの相互作用で悪影響を及ぼした可能性も現在は否定できない。(国の研究機関との連携による原因確定までは)プランが私どものほうにはまだ見えていないので、現時点は迅速に対応をしていくと回答させていただく」(梶田氏)「未知の成分と紅麹由来の成分が新しい生成物を引き起こしたことを否定はできないが、可能性は限りなく少ないと思っている。何か新しい成分が入ったことは、推定はしているが、国の研究機関とともにわれわれの持っている情報を提供しながら、迅速に解決に向けて進めていきたい」(梶田氏)「一刻も早く原因物質を特定し、それが疾患を起こしていたことを明確にしたいのですが、そこが非常に難しく、特定して発表するに至らないところ」(渡辺氏)「環状構造体ということしかわかっていないので、実際にはこれから論文調査を本格的に進めて解明していく計画」(梶田氏)「さまざまな構造体がわれわれの中では仮説があり、それぞれの腎疾患との関連性に大小がある。その1つには、そういう(腎疾患と関連がある)ものがあるが、それと今回の健康被害を紐付けてよいのか、われわれではまだ判断できていない」(梶田氏)質疑当初、原因物質についてはかなり暗中模索のようにも思えたが、「論文検索」や「仮説」などから、かなり絞り込まれているのがわかる。この時点で私自身は、小林製薬側は可能性の高い原因物質を1~2種類くらいに絞り込んでいるのではないと考えていた。というのもこの会見に先立つ3月22日の記者会見で小林製薬側が記者に配った補足資料(なぜか同社公式HPにはアップされていない)を入手しており、それによると3月16日時点で「一部の製品ロットと紅麹原料ロットにおいて通常は見られないピークを検出」という記述があったからだ。「ピーク」という表現からは、ガスあるいは液体のクロマトグラフ分析を実施したことをうかがわせていた。そして会見開始から約58分、前述の下村氏から数えること9番目の質問指名が自分に回ってきた。原因物質は混入したのか、生成されたのか前述した記者会見の補足資料で、未知の成分が紅麹原料と製品の双方の一部から検出されたと記述されていることから、 私はまず“今回の健康被害の原因物質と考えられるものは、紅麹原料の製造過程で混入あるいは生成されたと同社が考えているか”を尋ねた。これに対して山下 健司氏(執行役員/製造本部本部長)が「はい、そのように考えております」と回答した。続いて尋ねたのは、この時点での“紅麹原料の製造手順書と現場のオペレーションに相違がなかったかの調査の有無”である。これに対しても山下氏が「現時点で調査を進めている状況。この点で何らかの問題があったと今のところは認識していない」とのことだった。実は最も聞きたかったのは3番目の質問だった。クロマトグラフによる分析をしているなら、原因の可能性のある物質の分子量を特定できているのではないかということだった。これには梶田氏が回答した。私はその言葉を一つも漏らすまいと梶田氏のほうを凝視した。「われわれの推察ではだいたいわかっておりまして、150~250ぐらいの間の分子量ではなかろうかと、データではわかっている」数字が出た、と内心思った。ただ、私は引き続き質問を続けた。それはこれまで多くの医師が原因ではないかと疑っていたシトリニンの件である。それまでの小林製薬側の説明では「検出されなかった」としているが、これが本当にゼロを意味するのか、それとも検出限界以下だったかということだ。これについては梶田氏が「外部の機関で測定しまして不検出(すなわちゼロ)」だったと説明した。この後、ドラッグストアでの対応も聞いたが、ここでは詳細は省いておく。とりあえず合計5つの質問をして一旦切り上げた。ほかの記者もいるし、小林製薬側はすべての質問に答えるとあらかじめ言っているのだから、2回目の質問をすればよいと思ったのだ。「それでも1回の質疑で5問は多過ぎだろう」と批判されるかもしれないが、記者会見はすべて現場のみの勝負。小林製薬側も質問数は限定していなかった。ここで聞かないで、後でうっかり忘れてしまうこともなくはない。また、4人もの責任者が並んでいる以上、この場を逃す手はないからである。一部に「会見での質問はできるだけ絞って後で広報部門に確認すれば?」と、メディア関係者外のみならずメディア関係者内でも口にする人がいるが、これも私は違うと思っている。問い合わせを受けた担当者から上位に役職者が多いか否かで、同じ質問に対する相手の回答はかなり変化してくるのだ。有体に言えば、よりシャープな言葉も数多くの人を経るにしたがって丸くなり、ゼロ回答のような結果になることは少なくない。原因物質は低分子化合物さて会見の話に戻そう。分子量150~250という回答を得て、その後、私の頭の中はこのことで一杯になった。まず、この分子量は、大雑把に言えば低分子と高分子の境界のやや低分子よりになる。しかも、問題の製品が紅麹菌から作られることを考え合わせても、合成化合物よりも天然化合物の可能性が高い。ただ、分子量150~250の天然化合物といってもたくさんある。何だろうと思いながら、最初に疑われたシトリニンがカビ毒の1種、いわゆるマイコトキシン類だったことを思い出し、ほかの記者の質疑に耳をダンボにしながらも、スマートフォンで検索を始めた。なかなかこれぞというモノが見つからない。会見開始から約2時間。有料ネットニュースサイト「NewsPicks」副編集長の須田 桃子氏(元毎日新聞記者、「捏造の科学者 STAP細胞事件」で2015年に大宅壮一ノンフィクション賞受賞)がオンラインから質問をしていた。それに対する回答の中で梶田氏が「シトリニンの分析は終わり不検出、そのほかのカビ毒だと言われている成分も数種類分析をしてこちらも不検出」との説明が耳に入った。カビ毒ではないのか。振り出しに戻ったと思いながら、再びほかの記者の質疑応答に耳を傾けながら、合間に無駄とは知りつつ原因物質が何かについて思考をめぐらした。ちょうど16時20分、スマホに入っているFacebookメッセンジャーが立ち上がった。知人の大手紙記者からである。「16時からの厚労省会見では物質名を出していますよ。プベルル酸。青カビから出る物質で、抗マラリア薬。強い毒性のある抗生物質」は? 何だそれ? 確かに16時から厚生労働省、国立医薬品食品衛生研究所、小林製薬の合同会見があることは聞いていた。しかし、そっちで可能性のある物質名を出したとは。しかも、「プベルル酸って何?」。私自身は初めて聞く化合物である。2回目の指名を受けるために挙手し続けながら、再びスマホで検索をするが、ほとんどそれらしい情報がひっかからない。それから4分後、毎日新聞の記者が「厚生労働省が今、記者会見しているそうなんですが、未知の物質がプベルル酸と同定されたとの発表があったのですが、それについて説明をしてください」と質問した。これに対し、梶田氏は「われわれが意図しない成分の候補との一つとして、先ほど申し上げたプベルル酸をこれじゃなかろうかということで、厚労省に情報提供した。(人体への影響は)まだわれわれの文献調査等々が追いついていない」と回答した。毎日新聞の記者からは、会見冒頭から原因の可能性が高い物質名について小林製薬側は一切言及せず、同時進行の会見で厚労省側から発表があったことの齟齬も質問されたが、梶田氏は「われわれは事前に把握をしていなかった」と答えるに留まった。プベルル酸に対する小林製薬側の主張以後、プベルル酸に関する質問の小林製薬側の主な回答は以下のようなものだ。「プベルル酸の可能性に気付いたのは3月25日夜」「微量ながらも青カビから生成の可能性としてあるため、青カビが生えるようなところがないか、今、製造ラインすべてを点検中」「(プベルル酸の異性体の数は)最近、調査結果が明らかになったばかり。われわれはまだ把握できていない」「(プベルル酸と紅麹などの相互作用は)われわれは取り扱ったことがなく、どのような作用を持っているのかは、正直、わかっていない」。「(紅麹自体がプベルル酸を産生する可能性は)われわれが持っている分析(結果)からは生成しにくいと考えている」再び質問、プベルル酸の50%致死量は?会見開始から4時間5分。再び指名を受けた。この時点でもネット検索で確たる情報が得られなかったので、私は“プベルル酸の50%致死量(LD50:Lethal Dose 50)のデータを把握しているか”を尋ねた。梶田氏からは「そこまでの情報が把握できていない」との回答だった。2つ目の質問として、“今回のプベルル酸が検出された紅麹原料の大本である米、水、紅麹菌のサンプルが残っていないか”を尋ねたが、残っていないとのこと。加えて今回、同時並行の厚労省側の会見に小林製薬も参加しながら、プベルル酸の名称が公開されることを知らなかったことについて確認を求めたが、梶田氏によると「発表内容まではわれわれは把握していなかった」とのことだった。この後、5~6人の質問で会見は終了となった。外はすでに真っ暗になっており、私は急ぎ東京行きの新幹線に飛び乗った。この帰りの新幹線内で、「そうだ!」と思い付き、Google検索で「プベルル酸 acid」とAND検索を掛けた。そこから「puberulic acid」の単語が見つかった。会見場では焦っていたので、こんなことも思いつかなかったのだ。そこでPubMedにこのキーワードを入れたところ、ヒットした論文はわずか6本。これほど報告が少ない物質なのかと驚いた。となると、完全に原因として特定され、かつ混入した経路を特定するには、相当な時間がかかるだろう。これは長丁場の事件になると、改めて思っている。

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亜鉛欠乏症、日本人の特徴が明らかに

 亜鉛欠乏症*は、免疫機能の低下、味覚障害、嗅覚障害、肺炎、成長遅延、視覚障害、皮膚障害などに影響を及ぼすため、肝疾患や慢性腎臓病などをはじめとするさまざまな疾患を管理するうえで、血清亜鉛濃度の評価が重要となる。今回、横川 博英氏(順天堂大学医学部総合診療科学講座 先任准教授)らが日本人患者の特徴と亜鉛欠乏との相関関係を調査する大規模観察研究を行った。その結果、日本人の亜鉛欠乏患者の特徴は、男性、入院患者、高齢者で、関連する病態として呼吸器感染症や慢性腎臓病などが示唆された。Scientific reports誌2024年2月2日号掲載の報告。*「亜鉛欠乏症」は亜鉛欠乏による臨床症状と血清亜鉛値によって診断されるとされている。これに対し、「低亜鉛血症」は亜鉛欠乏状態を血清亜鉛値から捉えたもの。 研究者らは2019年1月~2021年12月の期間、メディカル・データ・ビジョン(MDV)が保有する日本全国のレセプトデータベースを使用して、遡及的かつ横断的観察研究を実施した。研究母集団のうち、20歳未満の患者、亜鉛含有薬剤の処方後に血清亜鉛濃度が評価された患者を除く、外来および入院患者1万3,100例の血清亜鉛データを解析した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者の平均年齢は69.0歳、男性は48.6%であった。・血清亜鉛濃度の平均値±SDは65.9±17.6μg/dLで、4,557例(34.8%)が亜鉛欠乏症(60μg/dL未満)に、5,964例(45.5%)が潜在性亜鉛欠乏(60~80μg/dL)に該当した。・亜鉛欠乏症との有意な関連がみられたのは、男性(オッズ比[OR]:1.165)、高齢者(OR:1.301)、入院患者(OR:3.367)だった。男性の亜鉛欠乏症の割合は50代を境に高くなったが、80代では男女共に40%以上が亜鉛欠乏症であった。・亜鉛欠乏症の割合が高い併存疾患について、年齢と性別による多変量解析後の調整オッズ比(aOR)は、肺臓炎で2.959、褥瘡や圧迫で2.403、サルコペニアで2.217、新型コロナウイルス感染症で1.889、慢性腎臓病で1.835だった。・また、亜鉛欠乏症と有意な関連がみられた薬剤のaORは、スピロノラクトンが2.523、全身性抗菌薬が2.419、フロセミドが2.138、貧血治療薬が2.027、甲状腺ホルモンが1.864、と明らかになった。

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乳がん免疫療法中の抗菌薬投与が予後に影響?

 ペムブロリズマブによる術前治療中のHER2陰性高リスク早期乳がん患者において、抗菌薬の投与と高い残存腫瘍量(RCB)との関連が示唆された。これまで、免疫療法中の抗菌薬への曝露が、さまざまな種類のがんにおいて臨床転帰に悪影響を与えることが報告されている。米国・ミネソタ大学のAmit A. Kulkarni氏らは、ISPY-2試験でペムブロリズマブが投与された4群について、抗菌薬への曝露がRCBおよび病理学的完全奏効(pCR)へ与える影響について評価した2次解析の結果を、NPJ Breast Cancer誌2024年3月26日号に報告した。 ISPY-2試験では、ペムブロリズマブの4サイクル投与と同時にパクリタキセルを12週間投与し、その後ドキソルビシンとシクロホスファミドを2~3週間ごとに4サイクル投与した。免疫療法(IO)と同時に少なくとも1回の抗菌薬の全身投与を受けた患者が抗菌薬曝露群に、それ以外のすべての患者が対照群に割り付けられた。 RCBインデックスとpCR率は、t検定とカイ二乗検定、線形回帰モデルとロジスティック回帰モデルを使用してそれぞれ両群間で比較された。 主な結果は以下のとおり。・66例が解析に含まれ、うち18例(27%)が抗菌薬投与を受けていた。・免疫療法中の抗菌薬の投与は、より高い平均RCBスコア(1.80±1.43 vs.1.08±1.41)および低いpCR率(27.8% vs.52.1%)と関連していた。・抗菌薬の投与とRCBスコアについて、多変量線形回帰分析においても有意な関連がみられた(RCBインデックス係数:0.86、95%信頼区間:0.20~1.53、p=0.01)。 著者らは、より大規模なコホートでの検証が必要としている。

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市中肺炎、12%が「不適切な診断」

 市中肺炎は一般的な疾患だが、診断の正確性とそれに関連する有害性についてはあまり知られていない。米国ミシガン大学・アナーバー校のAshwin B. Gupta氏らは市中肺炎の不適切な診断の特徴を明らかにすることを目的に、前向きコホート研究を行った。この結果はJAMA Internal Medicine誌オンライン版2024年3月25日号に掲載された。 ミシガン州の48の病院で、市中肺炎を理由に入院し、入院1日目または2日目に抗菌薬投与を受けた成人患者を対象とした。調査は2017年7月1日~2020年3月31日にカルテレビューおよび患者への電話連絡で実施され、データ解析は2023年2~12月に行われた。 不適切な診断は、市中肺炎の徴候または症状が2つ未満または胸部画像検査が陰性の患者への抗菌薬投与と定義した。不適切な診断のリスク因子を評価し、不適切な診断とされた患者については30日間の複合アウトカム(死亡率、再入院、救急外来受診、C. difficile感染、および抗菌薬関連有害事象)を記録した。交絡因子および治療傾向を調整し、抗菌薬の完全投与(3日超)と短期投与(3日以下)に層別化して評価した。 主な結果は以下のとおり。・市中肺炎の治療を受けた入院患者1万7,290例のうち、不適切な診断の基準を満たしたのは2,079例(12.0%)だった。2,079例の年齢中央値は71.8(IQR:60.1~82.8)歳、女性が1,045例(50.3%)で、このうち1,821例(87.6%)が抗菌薬の完全投与を受けた。・患者全般と比較して、不適切な診断を受けた患者は高齢であり(10年当たりの調整オッズ比[AOR]:1.08、95%信頼区間[CI]:1.05~1.11)、認知症(AOR:1.79、95%CI:1.55~2.08)、または来院時の精神状態の変化(AOR:1.75、95%CI:1.39~2.19)を有する可能性が高かった。・不適切な診断を受けた患者において、抗菌薬の完全投与と短期投与の30日複合アウトカムに差はなかった(25.8% vs.25.6%、AOR:0.98、95%CI:0.79~1.23)ものの、完全投与は抗菌薬の有害事象リスクと関連していた(31/1,821例[2.1%] vs.1/258例[0.4%]、p=0.03)。 研究者らは「このコホート研究において、市中肺炎で入院した患者では、高齢、認知症、精神状態に変化がみられた患者では不適切な診断のリスクが高く、不適切な診断がされた患者は抗菌薬の投与が長期になり、それが抗菌薬の有害事象と関連することが示唆された」とした。

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再発性尿路感染症、治療後も続く痛みの原因を解明か

 尿路感染症(UTI)の再発を繰り返す人は、抗菌薬による治療後も骨盤部位の痛みや頻尿が続くことが多いが、その原因は不明だった。しかし、米デューク大学のByron Hayes氏らが実施した研究で、UTIの発症を繰り返すことで膀胱内に非常に感度の高い神経細胞が過剰に増殖することが、これらの症状を引き起こしている可能性のあることが明らかになった。この研究結果の詳細は、「Science Immunology」に3月1日掲載された。 この研究でHayes氏らは、尿検査では陰性であるが痛みが残存する再発性UTI患者とUTIではない対照の膀胱生検を行い、痛みや炎症の調節に関与する神経ペプチドのサブスタンスP(SP)レベルについて比較した。その結果、再発性UTI患者では対照に比べて、粘膜固有層でのSPレベルが有意に高いことが明らかになった。尿検査でも、再発性UTI患者ではSPレベルが高いことが示された。これらのことから、再発性UTI患者では感覚神経が高度に活性化しており、それが長引く痛みや頻尿の原因である可能性の高いことがうかがわれた。 次いで行ったマウスを用いた実験からは、マウスをUTIに繰り返し罹患させることで、感覚神経からの発芽(神経突起が伸びて成長する)が促され、その発芽は感染により呼び寄せられた単球と組織内在性のマスト細胞から産生された神経成長因子と関連していることが明らかになった。そこで、神経成長因子の活性を抑制する抗体をマウスに投与したところ、感覚神経の発芽が抑制され、腹部に機械的刺激を与えて評価した骨盤の過敏性が低下することが確認された。一方、未感染のマウスの膀胱に神経成長因子を注入すると、感覚神経の発芽が促され、骨盤の過敏性も亢進することが示された。 Hayes氏は、「UTIは通常、再発するたびに細菌が付着した上皮細胞が剥がれ落ち、近傍の神経組織が著しく破壊される。これにより、破壊された神経細胞の大規模な再生を伴う、損傷した膀胱の迅速な修復プログラムが作動する」と説明する。この反応はマスト細胞によって導かれるが、その過程でマスト細胞が神経成長因子を放出し、感覚神経が活性化される。その結果、SPが放出されて神経が過敏になり、患者はより多くの痛みを感じるようになるのだという。 論文の上席著者であるデューク大学病理学教授のSoman Abraham氏によると、UTIは女性での感染症の約25%を占めるという。同氏は、「その多くは再発性UTIであり、所定量の抗菌薬を服用しても、骨盤部位の慢性的な痛みや頻尿を訴える患者が多い」と説明し、「われわれの研究は、初めてUTIの治療後も続くこのような症状の根本的な原因を突き止め、新たな治療開発への道を切り開くものだ」と述べている。 Abraham氏はさらに、「この研究は、医療費を押し上げ、何百万人もの人(主に女性)の生活の質(QOL)に影響を及ぼしている不可解な臨床症状の解明に役立つ。マスト細胞と神経との間のクロストークを理解することは、再発性UTIに効果的な治療法を開発するために不可欠なステップなのだ」と話している。

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相手が退屈しない話し方をするには?【もったいない患者対応】第2回

相手が退屈しない話し方をするには?登場人物僕はどうしても話がくどくど長くなりがちで、患者さんに退屈そうにされてしまうので困っています。それは困ったねぇ。どうすれば最後までちゃんと相手に話を聞いてもらえるんでしょうか?話にメリハリをつける必要があるね。どんなに話の上手な人でも、話が一辺倒だと誰もついていけないからね。ふむふむ。ポイントがいくつかあるので、わかりやすく説明しよう。長い話は退屈なもの医師は患者さんに、専門的な内容を噛み砕いて説明しなければなりません。ときには、20分、30分と長時間一方的に話し続けてしまうこともあるでしょう。患者さんの身になってみると、これはなかなかつらいものです。たとえば、私たちが車を買いにディーラーに行き、店員から30分ぶっ通しで車の性能に関する話を聞く場面を想像してみてください。相当車に興味があって、背景知識が豊富にある場合を除いては、徐々に集中力が切れてくるのが自然ではないでしょうか。いくら自分が満足する車を買いたいと思っていても、そのうち、「もうよくわからないので、店員さんのおすすめの商品にします」と言いたくなってくるかもしれません。しかし、医療現場では患者さんが医師の話をきちんと理解していないと、大きなトラブルにつながるおそれがあります。では、集中力を切らさず、最後まで話を聞いてもらうにはどうすればいいのでしょうか?疑問を「先回り」するまず1つ目の方法として「先回り」があります。患者さんへの説明を繰り返し行っていると、患者さんが疑問に感じやすいポイントや、誤解しやすいポイントが次第にわかってきます。これを上手に先回りして伝えるのがコツです。たとえば、風邪で救急外来を受診した患者さんに対して、「風邪は抗生物質抗菌薬)では治りません」「風邪薬は風邪の症状を抑える薬で特効薬ではありません」「解熱薬は 38℃以上の熱が出たときを目安に飲んでください」という3点を伝えたいとします。このまま情報を羅列して伝えてもよいのですが、疑問や誤解を「先回り」して、「抗生物質で風邪が治ると思っている人がいるのですが、実は治らないんです」「風邪薬は風邪の特効薬だと誤解している人がいますが、症状を抑えるだけなんですよ」「解熱薬はどのくらいの熱が出たときに飲めばいいのか、と疑問に思う人が多いので、私はいつも38℃以上を目安にするようお伝えしています」といった具合に説明します。前半の「疑問」「不安」「誤解」の部分で聞き手の共感を得られるので、患者さんの興味を一層引きつけることができるのです。風邪の場合はシンプルな説明で済みますが、複雑な話のときは、とくにこの方法が有効です。たとえば私なら、胆石症の手術前に、「胆石症は手術が必要です」「胆石症の手術は胆嚢自体を切除する手術です」「胆嚢を切除しても日常生活に支障はありません」と話したいときに、あえて、「胆石を薬で治せないのか? と疑問に思う人がいますが、実は手術でしか治せないんです」「胆嚢を取らずに胆石だけ取ったらダメなのか? と思う方が多いんですが、実は胆石だけを取ることはできないので胆嚢自体を切除するんです」「胆嚢は取ってしまって大丈夫かと不安になる人がいますが、心配はいりません。胆嚢はなくても困らない臓器なんですよ」といった形で抑揚をつけて話すようにしています。重要性の高低を伝える仮に30分間、病状説明をするとしても「すべての内容が同じくらい重要」というわけではないと思います。少なくとも、「最も重要でぜひ覚えておいてほしいところ」や「専門的なので必ずしも覚えなくてもいいところ」といった“重要性の高低”はあるでしょう。これを、話す前に逐一伝えておくのがコツです。たとえば、少し専門性の高い話題で「医師として患者さんに説明はしなければならないものの必ずしも覚えておく必要はない」という程度の内容であったときには、「いまから話すことは少し難しいので、覚えなくても大丈夫なんですが…」と言ったり、説明文を見せながら説明するときに、「ここは少し専門的なので、サラッと読み流していただいてもいいのですが…」と前置きを入れたりします。学生時代を思い出してみてください。学校や塾の授業で、最初は意気込んで話を聴き始めたのに、途中で難しい話が続くと途端に集中力を維持するのが難しくなった経験があるでしょう。患者さんも、私たちの説明を聞きながら常に100%の集中力を維持しておくことはできません。そこで、「ここの重要性は低いですよ」と事前に伝えることで、少し“息抜き”をしてもらうわけです。一方で、必ず理解しておいてほしい重要なことを説明するときは、「ここからは非常に重要な話になりますので、しっかり聞いていてくださいね」と前置きを入れることも大切です。ここで前項の“アウトライン”を使って、「ここから非常に重要な話を3つお伝えします」と話し始めてもよいでしょう。短い話であれば、話し始める前に、「今日お話しすることは10分くらいで終わる簡単な内容です」というように、長さの目安を伝えるのも有効です。たとえば、私たちが何か専門的なことを調べようとGoogle検索したときに、「3分でわかる! ○○の仕組みと使い方」というタイトルがあれば、クリックしたくなりませんか?知らないことを知ろうとするときは、誰しも「難しい話で理解できなかったらどうしよう」とストレスを感じています。最初の敷居を下げ心理的ストレスを軽くできれば、スムーズに話を聞き始めてもらえるということです。質問は最後にまとめて病状説明の際に、途中で患者さんに質問されて話を何度も遮られた、という経験をお持ちの方は多いと思います。あまりに頻繁に話を遮られるので、「いま私が話しています。私の話をまず聞いてください」と怒ってしまった医師を見たこともあります。ただ、どちらかというと「話を遮る勇気のある患者さん」のほうが少ないのが現実でしょう。医師に一方的に話されて、途中で疑問を抱いても、「話を遮るのは悪い」と思って聞き続け、「結局わからないことだらけだった」という思いで病院を後にする人は多いからです。そこで、途中で、「ここまでの話で何か疑問はありますか?」と伝えるか、途中で遮られずに話すべき内容だと思ったときは、事前に、「質問は最後に聞きますので、まず私の話を聞いてくださいね」と伝えるのが得策です。あるいは、途中で遮られても話の構成上とくに問題ないというケースであれば、「質問があれば途中で遮っていただいても大丈夫です」とお伝えするのもよいでしょう。こうすることで、患者さんはどのタイミングで質問すればいいのかが事前にわかるため、安心して話を聞くことができるのです。

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第205回 アドレナリンを「打てない、打たない」医者たちを減らすには(後編) 「ここで使わなきゃいけない」というタイミングで適切に使えていないケースがある

インタビュー: 海老澤 元宏氏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター長)昨年11月8日掲載の、本連載「第186回 エピペンを打てない、打たない医師たち……愛西市コロナワクチン投与事故で感じた、地域の“かかりつけ医”たちの医学知識、診療レベルに対する不安」は、2023年に公開されたケアネットのコンテンツの中で最も読まれた記事でした。同記事が読まれた理由の一つには、この事故を他人事とは思えなかった医師が少なからずいたためと考えられます。そこで、前回に引き続き、この記事に関連して行った、日本アレルギー学会理事長である海老澤 元宏氏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター長)へのインタビューを掲載します。愛西市コロナワクチン投与事故の背景には何があったと考えられるのか、「エピペンを打てない、打たない医師たち」はなぜ存在するのか、「アナフィラキシーガイドライン2022」のポイントなどについて、海老澤氏にお聞きしました。(聞き手:萬田 桃)造影剤、抗がん剤、抗生物質製剤などなんでも起こり得る(前回からの続き)――「薬剤の場合にこうした呼吸器症状、循環器症状単独のアナフィラキシーが起こりやすく、かつ症状が進行するスピードも早い」とのことですが、どういった薬剤で起こりやすいですか。海老澤造影剤、抗がん剤、抗生物質製剤などなんでも起こり得ます。とくにIV (静脈注射)のケースでよく起こり得るので、呼吸器単独でも起こり得るという知識がないとアナフィラキシーを見逃し、アドレナリンの筋注の遅れにつながります。ちなみに、2015年10月1日〜17年9月30日の2年間に、医療事故調査・支援センターに報告された院内調査結果報告書476件のうち、死因をアナフィラキシーと確定または推定したのは12例で、誘引はすべて注射剤でした。造影剤4例、抗生物質製剤4例、筋弛緩剤2例などとなっていました。――病院でも死亡例があるのですね。海老澤IV(静脈注射)で起きたときは症状の進行がとても速く、時間的な余裕があまりないケースが多いです。また、心臓カテーテルで造影剤を投与している場合は動脈なので、もっと速い。薬剤ではないですが、ハチに刺されたときのアナフィラキシーも比較的進行が速いです。こうしたケースで致死的なアナフィラキシーが起こりやすいのです。2001~20年の厚労省の人口動態統計では、アナフィラキシーショックの死亡例は1,161例で、一番多かったのは医薬品で452例、次いでハチによる刺傷、いわゆるハチ毒で371例、3番目が食品で49例でした。そして、そもそもアナフィラキシーを見逃すことは致命的ですが、対応しても手遅れとなってしまうケースもあります。病院の救急部門などで治療する医師の中には、「ルートを取ってまず抗ヒスタミン薬やステロイドで様子を見よう」という方がまだいるようです。しかし、その過程で「ここでアドレナリンを使わなきゃいけない」というタイミングで適切に使えていないケースがあるのです。先程の死亡例の中にもそうしたケースがあります。点滴静注した後の経過観察が重要――いつでもどこでも起き得るということですね。医療機関として準備しておくことは。海老澤大規模な医療機関ではどこでもそうなっていると思いますが、たとえば当院では、アドレナリン注シリンジは病棟、外来、検査室、処置室などすべてに置いてあります。ただ、アドレナリンだけで軽快しないケースもあるので、その後の体制についても整えておく必要があります。加えて重要なのは、薬剤を点滴静注した後の経過観察です。抗がん剤、抗生物質、輸血などは処置後の10分、20分、30分という経過観察が重要なので、そこは怠らないようにしないといけません。ただ、処方薬の場合、自宅などで服用してアナフィラキシーが起こることになります。たとえば、NSAIDs過敏症の方がNSAIDを間違って服用するとアナフィラキシーが起こり、不幸な転帰となる場合があります。そうした点は、事前の患者さんや家族からのヒアリングに加えて、歯科も含めて医療機関間で患者さんの医療情報を共有することが今後の課題だと言えます。抗ヒスタミン薬とステロイド薬で何とか対応できると考えている医師も一定数いる――先ほど、「僕らの世代から上の医師だと、“心肺蘇生に使う薬”というイメージを抱いている方がまだまだ多い」と話されましたが、アナフィラキシーの場合、「最初からアドレナリン」が定着しているわけでもないのですね。海老澤アナフィラキシーという診断を下したらアドレナリン使っていくべきですが、たとえば皮膚粘膜の症状だけが最初に出てきたりすると、抗ヒスタミン薬をまず使って様子を見る、ということは私たちも時々やることです。もちろん、アドレナリンをきちんと用意したうえでのことですが。一方で、抗ヒスタミン薬とステロイド薬でアナフィラキシーを何とか対応できると考えている医師も、一定数いることは事実です。ルートを確保して、抗ヒスタミン薬とステロイド薬を投与して、なんとか治まったという経験があったりすると、すぐにアドレナリン打とうとは考えないかもしれません。PMDAの事例などを見ると、アナフィラキシーを起こした後、死亡に至るというのは数%程度です。そういった数字からも「すぐにアドレナリン」とならないのかもしれません。アナフィラキシーやアレルギーの診療に慣れている医師だと、「これはアドレナリンを打ったほうが患者さんは楽になるな」と判断して打っています。すごくきつい腹痛とか、皮膚症状が出て呼吸も苦しくなってきている時に打つと、すっと落ち着いていきますから。打てない、打たない医者たちを減らしていくには――打つタイミングで注意すべき点は。海老澤血圧が下がり始める前の段階で使わないと、1回で効果が出ないことがよくあります。「血圧がまだ下がってないからまだ打たない」と考える人もいますが、本来ならば血圧が下がる前にアドレナリンを使うべきだと思います。――「打ち切れない」ということでは、食物アレルギーの患者さんが所持している「エピペン」についても同様のことが指摘されていますね。海老澤文科省の2022年度「アレルギー疾患に関する調査」1)によれば、学校で子供がアナフィラキシーを発症した場合、学校職員がエピペン打ったというのは28.5%に留まっていました。一番多かったのは救急救命士で31.9%、自己注射は23.7%でした。やはり、打つのをためらうという状況は依然としてあるので、そのあたりの啓発、トレーニングはこれからも重要だと考えます。――教師など学校職員もそうですが、今回の事件で浮き彫りになった、アドレナリンを「打てない」「打たない」医師たちを減らしていくにはどうしたらいいでしょうか。海老澤エピペン注射液を患者に処方するには登録が必要なのですが、今回、コロナワクチンの接種を契機にその登録数が増えたと聞いています。登録医はeラーニングなどで事前にその効能・効果や打ち方などを学ぶわけですが、そうした医師が増えてくれば、自らもアドレナリン筋注を躊躇しなくなっていくのではないでしょうか。立位ではなく仰臥位にして、急に立ち上がったり座ったりする動作を行わない――最後に、2022年に改訂した「アナフィラキシーガイドライン」のポイントについて、改めてお話しいただけますか。海老澤診断基準の2番目で、「典型的な皮膚症状を伴わなくてもいきなり単独で血圧が下がる」、「単独で呼吸器系の症状が出る」といったことが起こると明文化した点です。食物によるアナフィラキシーは一番頻度が高いのですが、9割方、皮膚や粘膜に症状が出ます。多くの医師はそういったイメージを持っていると思いますが、ワクチンを含めて、薬物を注射などで投与する場合、循環器系や呼吸器系の症状がいきなり現れることがあるので注意が必要です。――初期対応における注意点はありますか。海老澤ガイドラインにも記載してあるのですが、診療経験のない医師や、学校職員など一般の人がアナフィラキシーの患者に対応する際に注意していただきたいポイントの一つは「患者さんの体位」です。アナフィラキシー発症時には体位変換をきっかけに急変する可能性があります。明らかな血圧低下が認められない状態でも、原則として立位ではなく仰臥位にして、急に立ち上がったり座ったりする動作を行わないことが重要です。2012年に東京・調布市の小学校で女子児童が給食に含まれていた食物のアレルギーによるアナフィラキシーで死亡するという事故がありました。このときの容態急変のきっかけは、トイレに行きたいと言った児童を養護教諭がおぶってトイレに連れて行ったことでした。トイレで心肺停止に陥り、その状況でエピペンもAEDも使用されましたが奏効しませんでした2)。アナフィラキシーを起こして血圧が下がっている時に、急激に患者を立位や座位にすると、心室内や大動脈に十分に血液が充満していない”空”の状態に陥ります。こうした状態でアドレナリンを投与しても、心臓は空打ちとなり、心拍出量の低下や心室細動など不整脈の誘発をもたらし、最悪、いきなり心停止ということも起きます。――そもそも動かしてはいけないわけですね。海老澤はい。ですから、仰臥位で安静にしていることが非常に重要です。とにかく医療機関に運び込めば、ほとんどと言っていいほど助けられますから。アナフィラキシーは症状がどんどん進んで状態が悪化していきます。そうした進行をまず現場で少しでも遅らせることができるのが、アドレナリン筋注なのです。(2024年1月23日収録)参考1)令和4年度アレルギー疾患に関する調査報告書/日本学校保健会2)調布市立学校児童死亡事故検証結果報告書概要版/文部科学省

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アレルギー性鼻炎か副鼻腔炎か?誤診の実態が明らかに

 実際には慢性副鼻腔炎(chronic rhinosinusitis;CRS)に罹患しているにもかかわらず、アレルギー性鼻炎と誤診され、CRSにはほとんど効果のない抗アレルギー薬を使用し続けている米国人が相当数いることが、新たな研究で示された。米シンシナティ大学医学部耳鼻咽喉・頭頸部外科のAhmad Sedaghat氏らによるこの研究の詳細は、「Otolaryngology Head & Neck Surgery」に1月31日掲載された。 研究論文の上席著者であるSedaghat氏は、「われわれは、アレルギーとCRSが混同されたことで長い間苦しまざるを得なかった患者を数多く見てきた」と振り返る。同氏は続けて、「これまで、10年や20年、人によってはそれ以上にわたってアレルギーの治療を受けてきたにもかかわらず症状が改善しなかったと訴える患者を私は見てきた。しかし、それがCRSであることが判明し、われわれが適切な治療を開始したところ、症状は数カ月以内に改善した」と話す。 シンシナティ大学のニュースリリースによると、米国人の約15%がCRSに罹患しているという。CRSは通常、抗菌薬で治療されるが、やっかいなのはCRSの症状が鼻のアレルギー症状(アレルギー性鼻炎)と似ている点にある。Sedaghat氏は、「米国中西部で育った者として、実際に副鼻腔や鼻の症状が『アレルギー』と決めつけられがちであることは断言できる。なぜなら、アレルギー性鼻炎とCRSは、鼻閉や鼻汁などの特徴的な症状が共通しているからだ。また、いずれの疾患も副鼻腔に圧迫感をもたらすことがある」と話す。しかし、CRSとアレルギー性鼻炎は治療法が大幅に異なる。そのため、誤診された場合、数カ月から数年にわたって不要な苦しみが続くことになる。 今回の研究では、鼻にアレルギー症状が生じている219人(平均年齢44.3歳、女性63.9%)の患者を対象に、経鼻内視鏡検査と、Sino-Nasal Outcome Test(SNOT-22)と呼ばれる質問票による副鼻腔および鼻の症状の重症度と種類の評価が行われた。Sedaghat氏は、「われわれが患者の症状を評価するためにこの質問票を使用したのは、CRSとアレルギー性鼻炎の症状を同時に評価でき、それぞれについて別の質問票を使う必要がなかったからだ」と説明している。 その結果、これらの患者のうちの91.3%(200人)でアレルギー性鼻炎の診断が確定されたが、45.2%(99人)はCRSの診断基準も満たすことが明らかになった。 Sedaghat氏は、「それまで何年も抗アレルギー薬を服用していたとしても、CRSであることが判明すれば、症状を解消する治療法が見つかるかもしれない」と言う。また、同氏は「われわれの地域の多くの患者が抱えている極めて重要な問題に光を当てることができたのは喜ばしいことだ。アレルギー性鼻炎だと思って受診した患者のほぼ50%にCRSがあったのだ」と強調。その上で、「どれだけ多くの患者が適切な治療を受けていない可能性があるのか、またCRSの可能性を疑って受診することがどれだけ多くの患者に良い影響を及ぼす可能性があるのか、想像してみてほしい」と付け加えた。 さらにSedaghat氏は、CRSの誤診や過小診断に対する解決策は、それほど複雑なものではないと指摘し、「自分で簡単に回答できる自記式質問票などのツールは、アレルギーの治療では改善しない鼻や副鼻腔の症状を抱える多くの患者がCRSに対する追加治療を求めるべきかどうかの判断の助けになるだろう」と述べている。

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英語で「予防」は?【1分★医療英語】第123回

第123回 英語で「予防」は?《例文1》Do you recommend initiating antibiotic prophylaxis?(抗菌薬での予防を開始したほうがいいと思いますか?)《例文2》The oncology team has decided to use neutropenia prophylaxis.(腫瘍チームが好中球減少症の予防をすることを決めました)《解説》「予防」を示す英単語は、“prevention”と習ったかと思います。患者さんとの会話の際は一般的なこの表現を使いますが、医療者同士では“prophylaxis”(プロフィラクスィス:[病気の]予防)が使われることが多く、臨床ガイドライン等でもこちらが採用されています。“PrEP”(pre-exposure prophylaxis=曝露前予防)、“PEP”(post-exposure prophylaxis=曝露後予防)など、HIV曝露前後に予防として抗HIV薬を服用する意味の単語にも使われています。“prophylaxis”は少し長いので、カルテ等では略語の“ppx”と書くこともあります。同じ薬であっても、治療目的と予防目的では異なる用量で処方することも多く、注意が必要です。“therapeutic dose”は「治療目的の用量」、“prophylactic dose”は「予防目的の用量」を指します。薬のオーダーをするときや、スタッフとの会話の際に、間違いや勘違いがないよう気を付けてください。講師紹介

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電子カルテを通じた医師への警告で不要な検査が減少

 80歳の男性に定期的な前立腺がんの検査(PSA検査)を指示するために医師がコンピューターを操作していると、患者の電子カルテに派手な黄色の警告が表示された。そこには、「ガイドラインで推奨されていない検査をオーダーしています。PSA検査の結果に基づき行われる診断や治療が患者に有害となる可能性があります。正当な理由なく検査を行うと、不要な検査であることがカルテに記載されます」との警告文が表示されていた。 この警告文は、医師による高齢患者への不要な検査を減らすための戦略の一環として米ノースウェスタン大学フェインバーグ医学部のStephen Persell氏らが作成し、試験的に導入したものである。同氏らの研究では、この戦略により18カ月後には不要なPSA検査が9%、女性での尿路感染症診断のための尿検査が約6%減少したという。Persell氏は、「われわれの知る限り、これはポイント・オブ・ケア(ケアが行われている場)での警告が全ての不要な検査や治療を有意に減少させることを示した初めての研究である」と述べている。この研究の詳細は、「Annals of Internal Medicine」に2月6日掲載された。 この研究では、ノースウェスタン・メディスンに属する60施設のプライマリケア診療所の医師とその患者を対象に、医師の注意を患者が被る害に向けさせ、また、医師に過剰医療に対する社会的懸念や風評に対する懸念を考えさせることで、医師の意思決定がどのように変わるかが評価された。対象とされた医師は、行動科学に基づいた臨床意思決定支援ツールによる介入と症例ベースの教育を受ける群(30クリニックの医師187人、介入群)と、症例ベースの教育のみを受ける群(30クリニックの医師187人、教育群)に割り付けられた。意思決定支援ツールは、患者にもたらされる潜在的な害や結果に対する医師の責任を強調し、社会的規範を伝えるようにデザインされたものだった。 介入効果は、前立腺がんの既往歴がない76歳以上の男性に対するPSA検査、65歳以上の女性に対する非特異的な理由での尿検査、HbA1cが7%未満の75歳以上の糖尿病患者に対する血糖降下薬による過剰治療の3点について検討した。先行研究では、75歳以上の男性でのPSA検査は延命治療につながらないばかりか、不要な治療を受けることで尿失禁や性機能障害、直腸出血などが生じる可能性もあることが示されている。同様に、65歳以上の無症状の尿路感染症に対する抗菌薬による治療が健康を改善することを示したエビデンスもない。さらに、インスリンやスルホニル尿素のような糖尿病治療薬を使用している75歳以上の糖尿病患者の血糖値を低下させる治療も低血糖のリスクを高めるので危険である。 その結果、介入から18カ月後には、介入群では教育群に比べてPSA検査が8.7%、非特異的な尿検査が5.5%、糖尿病に対する過剰治療が1.4%少なく、介入が有効であることが明らかになった。 先行研究では、電子カルテを通じて医師にメッセージを配信することで不要な検査を減らすことが試みられているが、Persell氏らは今回の研究で、医師に影響を与え得る言葉の組み合わせを考え出すことができたと話している。同氏は、「患者にもたらされる潜在的な害に焦点を当て、社会的規範を共有し、社会的責任や風評への懸念を促進する要素を取り入れることが、これらのメッセージの効果につながったと考えている」と大学のニュースリリースで説明している。その上で、「臨床医にとって説得力のあるメッセージを、臨床医がオーダーを出す際に電子カルテを通じて配信することができるのなら、これはケアを改善する簡単な方法となるし、大規模な医療システム全体への適用も可能だ」と付け加えている。 研究グループは、このようなメッセージ配信による介入が、オピオイドや睡眠薬の処方、潜在的に危険な薬剤の組み合わせなど、他のタイプの過剰治療を減らす上でも有効であるのかを検討する予定だと話している。

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アラスカポックスウイルス、初の死亡例が報告される

 米アラスカ州保健当局は、同州の男性が、主に小型の哺乳類に感染する珍しいウイルスであるアラスカポックスウイルス(Alaskapox virus;AKPV)に感染して死亡したことを、「State of Alaska Epidemiology Bulletin」2月9日号で報告した。アラスカ州疫学課は、死亡したのは、キナイ半島在住の高齢男性で、がん治療による免疫抑制の既往歴があったことを説明し、「これは、入院と死亡に至った重症AKPV感染症の最初の症例だ。患者の免疫不全状態が病気の重症化に寄与したと思われる」と述べている。 アラスカ州保健当局によれば、2015年以来、AKPVのヒトへの感染例はわずか7例しか報告されておらず、この症例の男性が死亡した2024年1月以前に、AKPV感染が原因で入院した人や死亡した人はいなかったという。また、7人の感染者のうちの6人はフェアバンクスノーススター郡に居住しており、同郡ではアカハタネズミやトガリネズミがAKPVに感染していることが確認されている。 保健当局は、AKPV感染で現れる症状は、皮膚病変、リンパ節腫脹、筋肉痛や関節痛などであると説明している。米疾病対策センター(CDC)の疫学者Julia Rogers氏も、「AKPV感染症は症状が軽い場合が多いため、われわれが発見できなかった症例がこれまでにもあったかもしれない。AKPV感染症例の見つけ方を学ぶ医師が増えるにつれ、症例数は増加する可能性がある」とニューヨーク・タイムズ紙に話している。 今回の症例報告によると、男性は2023年9月に右腋窩に赤くて軟らかい丘疹があることに気付き、6週間で数回にわたってかかりつけ医と地元の救急外来を受診した。その際に男性は、よく世話をしている野良猫に引っ掻かれたことが何度もあると話したという。パンチ生検では、悪性腫瘍や細菌感染の証拠は認められなかった。男性には複数の抗菌薬が処方されたがどれも効果を示さず、倦怠感や、右腋窩と肩に痛みが生じ、丘疹も硬化していった。 男性の右腕は可動域が制限されるようになり、11月にその原因として蜂窩織炎の広範な進行が疑われて入院した。その後に移送されたアンカレッジの病院では、「焼けるような痛み」を訴えたという。右腋窩の生検部位は治癒しておらず、その周囲には灰色の凝集性プラークとともに大量の浸出液が認められた。CTとMRIによる検査では、右腋窩および肩に広範な筋炎が確認され、また、体全体に4つの小さな天疱瘡様の病変が認められた。 検査の結果、牛痘、天然痘、その他のウイルスへの感染の可能性は除外され、AKPVの感染症例と一致することが判明した。保健当局によると、この男性は入院中、傷が治るのに時間がかかり、栄養失調、急性腎不全、呼吸不全に陥り、2024年1月下旬に死亡したという。 男性を引っ掻いた野良猫は、エムポックスウイルスが属するオルソポックスウイルス属の検査でも陰性であったが、保健当局は、この野良猫が感染源である可能性があるとの見方を示している。アラスカ州疫学課のチーフJoe McLaughlin氏はニューヨーク・タイムズ紙に対し、「AKPVに感染した患者はいずれも猫か犬を飼っていた」と話している。 McLaughlin氏は、「AKPV感染症はまれであるため、アラスカの人々はこのウイルスを過度に心配すべきではないが、その存在に対する認識を高めるべきだというのが、われわれが伝えたい第一のメッセージだ」と話している。

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市中誤嚥性肺炎、嫌気性菌カバーは必要?

 誤嚥性肺炎の治療において、本邦では嫌気性菌カバーのためスルバクタム・アンピシリン(SBT/ABPC)などが用いられることがある。しかし、海外では誤嚥性肺炎の0.5%にしか嫌気性菌が認められなかったという報告もあり1)、米国胸部学会/米国感染症学会(ATS/IDSA)の市中肺炎ガイドライン2019では、嫌気性菌カバーは必須ではないことが記載された2)。また、2023年に実施されたシステマティックレビューにおいて、嫌気性菌カバーの有無により、誤嚥性肺炎患者に転帰の差はみられなかったことも報告されている3)。しかし、本レビューに含まれた論文は3本のみであり、サンプルサイズも小さく、結論を導くためには大規模研究が必要である。そこで、カナダ・クイーンズ大学のAnthony D. Bai氏らは、約4千例の市中誤嚥性肺炎患者を対象とした多施設後ろ向きコホート研究を実施した。その結果、嫌気性菌カバーは院内死亡リスクを低下させず、C. difficile大腸炎リスクを上昇させた。本研究結果は、Chest誌オンライン版2月20日号で報告された。嫌気性菌カバーで院内死亡率は改善せずにC. difficile大腸炎リスクが上昇 研究グループは、カナダの18施設において市中誤嚥性肺炎で入院した患者のうち、入院から48時間以内に抗菌薬が投与された3,999例を対象とした後ろ向き研究を実施した。セフトリアキソン、セフォタキシム、レボフロキサシンが投与された患者を非カバー群(2,683例)とした。アモキシシリン・クラブラン酸※、モキシフロキサシンが投与された患者、非カバー群の薬剤とクリンダマイシンまたはメトロニダゾールが併用された患者を嫌気性菌カバー群(1,316例)とした。主要評価項目は院内死亡、副次評価項目はC. difficile大腸炎の発現、治療開始後のICU入室であった。なお、両群間の背景因子を調整するため、傾向スコアオーバーラップ重み付け法を用いて解析した。※:本研究が実施されたカナダではSBT/ABPCが使用できないため、SBT/ABPCに相当するものとした。 市中誤嚥性肺炎治療で嫌気性菌カバーの有無による転帰の差を評価した主な結果は以下のとおり。・市中誤嚥性肺炎患者の入院期間中央値は非カバー群6.7日、嫌気性菌カバー群7.6日であった。・市中誤嚥性肺炎患者の院内死亡率は非カバー群30.3%(814例)、嫌気性菌カバー群32.1%(422例)であった。・傾向スコアによる背景因子の調整後の院内死亡リスクの群間差は1.6%(95%信頼区間[CI]:-1.7~4.9)であり、両群間に有意差は認められなかった。・C. difficile大腸炎の発現率は非カバー群0.2%以下(5例以下)、嫌気性菌カバー群0.8~1.1%(11~15例)であった。・傾向スコアによる背景因子の調整後のC. difficile大腸炎の発現リスクの群間差は1.0%(95%CI:0.3~1.7)であり、嫌気性菌カバー群で有意にリスクが高かった。・治療開始後のICU入室率は非カバー群2.5%(66例)、嫌気性菌カバー群2.7%(35例)であった。 著者らは、本研究には抗菌薬を必要としない誤嚥性肺炎患者が含まれる可能性があること、院外死亡や再入院の評価ができなかったこと、多くの患者で肺炎の原因菌が特定できていなかったことなどの限界が存在することを指摘しつつ、「誤嚥性肺炎において、嫌気性菌カバーは院内死亡率を改善せず、C. difficile大腸炎リスクを上昇させることから不要である可能性が高いと考えられる」とまとめた。

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新たな薬剤耐性大腸菌の広がりに科学者が警戒

 中国の小児病院で、抗菌薬に耐性を持つ大腸菌が新たに確認された。英国の研究グループによると、中国の病院で最も一般的となった薬剤耐性大腸菌は、最後の砦とされるカルバペネム系抗菌薬にも耐性を持つ配列タイプ(sequence type;ST)410に属する大腸菌(ST410)であるが、中国の小児病院で発生した2件の大腸菌アウトブレイクの背景には、B5/H24RxCと呼ばれるST410より強毒性の大腸菌が関与していたことが判明したという。英バーミンガム大学微生物学・感染症研究所所長のAlan McNally氏らによる研究で、詳細は、「Nature Communications」に1月12日掲載された。 この変異株は、非常に感染力が強く、従来の大腸菌より増殖スピードが速く、より多くの害を生物に及ぼすと研究グループは警鐘を鳴らしている。McNally氏は、「この新しい変異株は、抗菌薬に対する耐性が強くなるとともに病原性も増している。これは、これまでには見られなかった憂慮すべき傾向だ。この大腸菌が中国国外にも広がっていることが確認されている。世界中のサーベイランスラボが、この大腸菌を警戒すべきだ」と話している。 McNally氏らはこの研究で、2017年から2021年の間に中国の26の省で入院患者から採取されたカルバペネム系抗菌薬に耐性を持つ大腸菌(CREC)の388の分離株のゲノム解析を行った。これらの分離株は主に、尿(111点)、痰(64点)、血液(47点)の検体から分離されたものだった。 その結果、これらの株の中で最も多く認められたSTはST410(109株)であり、次いで、ST167(41株)、ST131とST617(12株ずつ)の順であった。2015〜2017年に実施された研究では、ST410はST131、ST167に次いで3番目に多いSTであったことから、CRECのポピュレーションが変化したことがうかがわれた。 ST410についてさらに詳しく解析したところ、通常よりも高い毒性や感染力を持つB5/H24RxCと呼ばれるST410のクローンが同定され、このクローンが、中国の小児病院で生じた2件のアウトブレイクの原因菌である可能性が示唆された。研究グループは、B5/H24RxCは、2006年に特定され、2015年から2021年の間に中国以外の10カ国で分離されたB4/H24RxCの進化型である可能性があると述べている。 論文の筆頭著者である、英ケンブリッジ大学獣医学分野のXiaoliang Ba氏は、「本研究は、大腸菌のような臨床的に重要な病原体における抗菌薬耐性の進化を浮き彫りにするものだ。また、世界的な公衆衛生において深刻化しているこの課題に対処するためには、各国が互いに協力しあって取り組むことが喫緊に必要なことを強調する結果だ」と述べている。

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