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慢性掻痒でピンッとくるべき疾患は?【Dr.山中の攻める!問診3step】第3回

第3回 慢性掻痒でピンッとくるべき疾患は?―Key Point―皮膚に炎症がある場合は皮膚疾患である可能性が高い82歳男性。2ヵ月前から出現した痒みを訴えて来院されました。薬の副作用を疑い内服薬をすべて中止しましたが、改善がありません。抗ヒスタミン薬を中止すると痒みがひどくなります。一部の皮膚に紅斑を認めますが、皮疹のない部位もひどく痒いようです。手が届かない背中以外の場所には皮膚をかきむしった跡がありました。皮膚生検により菌状息肉腫(皮膚リンパ腫)と診断されました。この連載では、患者の訴える症状が危険性のある疾患を示唆するかどうかを一緒に考えていきます。シャーロックホームズのような鋭い推理ができればカッコいいですよね。◆今回おさえておくべき疾患はコチラ!【慢性掻痒を起こす疾患】(皮膚に炎症あり)アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、乾皮症、虫刺され、乾癬、疥癬、表在性真菌感染(皮膚に炎症なし)胆汁うっ滞、尿毒症、菌状息肉腫、ホジキン病、甲状腺機能亢進症、真性多血症、HIV感染症、薬剤心因性かゆみ(強迫神経症)、神経原性掻痒(背部錯感覚症、brachioradial pruritus)【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】慢性掻痒の原因を見極める、診断へのアプローチ■鑑別診断その1皮膚に目立った炎症があるアトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、乾皮症、虫刺され、乾癬、疥癬、表在性真菌感染家族や施設内に同様の掻痒患者がいる場合には疥癬を疑う。皮疹の部位が非常に重要である。陰部、指の間、腋窩、大腿、前腕は疥癬の好発部位である。皮膚に問題がない場合でも、慢性的にかきむしると苔癬化、結節性そう痒、表皮剥脱、色素沈着が起きることがある。■鑑別診断その2正常に近い皮膚なら全身性疾患によるそう痒を考え、以下を考慮する胆汁うっ滞、尿毒症、菌状息肉腫、ホジキン病、甲状腺機能亢進症、真性多血症、HIV感染症、薬剤薬剤が慢性掻痒の原因となることがあるかゆみを起こす薬剤:降圧薬(カルシウム拮抗薬、ACE阻害薬、サイアザイド)、NSAIDs、抗菌薬、抗凝固薬、SSRI、麻薬上記の鑑別疾患時に必要な検査と問診検査:CBC+白血球分画、クレアチニン、肝機能、甲状腺機能、血沈、HIV抗体、胸部レントゲン写真問診:薬剤歴■鑑別診断その3慢性的なひっかき傷がある時は、以下の疾患を想起すること心因性かゆみ(強迫神経症)、神経原性掻痒(背部錯感覚症、brachioradial pruritus)背部錯感覚症は背中(Th2~Th6領域)に、brachioradial pruritusは前腕部に激烈なかゆみを起こす。原因は不明。【STEP3】治療や対策を検討する薬が原因の可能性であれば中止する。以下3点を日常生活の注意事項として指導する。1)軽くてゆったりした服を身に着ける2)高齢者の乾皮症(皮脂欠乏症)は非常に多い。皮膚を傷つけるので、ナイロンタオルを使ってゴシゴシと体を洗うことを止める3)熱い風呂やシャワーは痒みを引き起こすので避ける入浴後は3分以内に皮膚軟化剤(ワセリン、ヒルドイド、ケラチナミン、亜鉛華軟膏)や保湿剤を塗る。皮膚の防御機能を高め、乾皮症やアトピー性皮膚炎に有効である。アトピー性皮膚炎にはステロイド薬と皮膚軟化剤の併用が有効である。副作用(皮膚萎縮、毛細血管拡張、ステロイドざ瘡、ステロイド紫斑)に注意する。Wet pajama療法はひどい皮膚のかゆみに有効である。皮膚軟化剤または弱ステロイド軟膏を体に塗布した後に、水に浸して絞った濡れたパジャマを着て、その上に乾いたパジャマを着用して寝る。ステロイドが皮膚から過剰に吸収される可能性があるので1週間以上は行わない。夜間のかゆみには、抗ヒスタミン作用があるミルタザピン(商品名:リフレックス、レメロン)が有効ガバペンチン(同:ガバペン)、プレガバリン(同:リリカ)は神経因性のそう痒に有効である。少量のガバペンチンは透析後の痒みに効果がある。<参考文献・資料>1)Yosipovitch G, et al. N Engl J Med. 2013;368:1625-1634.2)Moses S, et al. Am Fam Physician. 2003;68:1135-1142.

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痒みの悩みは軽そうでじつは重い問題/マルホ

 マルホ株式会社は、同社の実施した「頭皮トラブルを抱える生活者実態調査の結果」がまとまったことから「頭部の皮膚炎特有の悩みがもたらすQOL への影響と治療法の広がり」をテーマにWEB上でメディアセミナーを開催した。 セミナーでは、調査結果の概要とともに最新の頭部皮膚炎の治療法などの説明が行われた。頭皮トラブルで通院が必要とだと考えていない人が47% はじめに「頭皮トラブルを抱える患者の実態とQOLへの影響」をテーマに江藤 隆史氏(あたご皮フ科 副院長)が講演を行った。 頭皮のトラブルの原因となる疾患では、「アトピー性皮膚炎」、「脂漏性皮膚炎」、「接触皮膚炎」などが挙げられる。とくにアトピー性皮膚炎では、42%の患者が頭部・顔面・頸部に病変を有し、34%は頭部湿疹を有するとの報告もある。 今回の「頭皮トラブルを抱える生活者実態調査」は、全国の頭皮トラブルを抱える16~69歳の男女1,200名を対象にインターネットで行われた。 調査結果によると「頭皮トラブルを抱える人の割合」は20.7%で、人口割合に換算すると約1,700万人が同様の悩みを抱えていると推定される。 主な頭皮トラブルの症状は、「痒みのみ」(29.4%)が一番多く、つぎに「痒みとフケ」(15.8%)、「痒みとフケとぶつぶつ・炎症・赤み」(15.0%)が上位を占めた。 「悩んでいる期間」に注目してみると、たとえば回答数が1番多い「痒み」について回答者の59.6%が1年以上前から悩んでおり、解決策を見出せないという。 この「痒みの影響」について、とくに頭皮の痒みについての回答では、「気が付くとずっとかいている」と回答した人が36.9%、「眠れない、または眠りが浅い」と「じっとしていられない」が同数で22.6%の順で多く、日常生活で不便な生活をもたらす結果となっていることがわかった。また、関連として「フケ」について聞いたところ、「いつも洋服の肩口にフケが積もっている」が37.5%、「かみの毛に白く浮いているのが目立つ」が35.3%、「フケのために掃除が必要」が22.7%の順で多く、「頭皮の悩み」が「どのような精神的影響を与えているか」を聞いたところ「周囲の目が気になる」(24.0%)、「頭皮が気になり、集中できない」(21.4%)、「すべてに消極的になる」(15.8%)の順で回答が多かった。 こうした頭皮のトラブルへの対処について現在行っていることは「市販のシャンプーやコンディショナーをしっかり洗い流す」(41.8%)、「市販のシャンプーを変える」(33.9%)、「髪、頭皮の洗い方を変える」(27.8%)の順で多く、「病院に通う」は12.7%と医療機関に通院する人は少なく、また、「何も行っていない」という人も27.6%と多かった。「医療機関に通ったことがない」その理由としては、「通院するほどの症状ではないから」(47.0%)、「お金がかかってしまいそうだから」(34.6%)、「病気だと思っていないから」(30.4%)の順で多かった。 これらの調査から頭皮トラブルがある人は長期間悩みを抱えながらも、諦めている人が多く、そのトラブルゆえにQOLが低下している人が多いことが判明した。 江藤氏は、頭皮などのトラブルを放置したときの問題点として「症状の悪化」、「治療経過の悪化」、「脱毛や難治化」などを挙げ、「気になる症状があれば早めに皮膚科を受診して、正しい診断と治療を受けてほしい」と語り、説明を終えた。頭皮トラブルをシャンプーで治療する 次に五十嵐 敦之氏(NTT東日本関東病院 皮膚科部長)が、「頭部の痒み/湿疹・皮膚炎の治療法の広がり ~実臨床における最新トピックス~」をテーマに頭皮トラブルの診療について説明した。 頭部の痒み、フケなどを有する主な皮膚疾患としては、乾癬、湿疹・皮膚炎が代表であり、とくに皮膚炎では刺激物質との対応が明確な接触皮膚炎、光接触皮膚炎と刺激物質との対応が不明確なアトピー性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、貨幣状湿疹などがある。 たとえばアトピー性皮膚炎では、成長するにつれて軽快傾向を示すが最近では成人でも症状が残る例も増えている。一般的に痒みが強く、屈曲部、上肢、頭部、頸部、顔面などに多く発症する。そして、頭皮に長期にわたり持続すると、炎症性障害が毛球部にまで波及し、まれに休止期性脱毛に進展する。 こうした皮膚疾患には、ステロイド外用薬や抗ヒスタミンなどの内服薬が治療で使われ、アトピー性皮膚炎では免疫抑制剤や保湿剤が、脂漏性皮膚炎では抗真菌剤、非ステロイド性抗炎症剤外用薬、尿素外用薬、ビタミン剤なども治療で使用されている。同時にアトピー性皮膚炎では服や洗濯への配慮が、脂漏性皮膚炎ではストレス軽減、食事、嗜好品など日常生活での注意も必要とされている。 外用薬では、患者アンケートなどから「べたつき」「塗りにくさ」「垂れる」などの不満の声も聞かれ、患者の希望やライフスタイルの合わせた薬剤や剤形を選択しての治療が望まれている。 こうした声に対応するかたちで最近では、シャンプー剤による頭部の疾患(尋常性乾癬、湿疹・皮膚炎)に有用な治療法としてステロイドシャンプーによる“Short contact therapy”が保険適用となり、治療の幅は拡大している。 五十嵐氏も最後に「頭皮のトラブルはQOLに影響するため、気になる症状があれば、早めの皮膚科受診をしてほしい」と専門医への診療を促し、説明を終えた。

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患者が訴えるこの「めまい」症状は危険なサインか!? 【Dr.山中の攻める!問診3step】第1回

第1回 患者が訴えるこの「めまい」症状は危険なサインか!?―Key Point―回転性めまい、前失神、平衡障害、めまい感の分類は重要でない患者の訴えは経過中に変化する「めまい」を訴える患者はとても多いです。起床後にトイレに行く途中、天井が回り出しびっくりして救急車をコールする人がいます。雲の上を歩いているような浮遊性めまいが続くと内科外来を訪れる人もいます。小脳梗塞などの重大な中枢性めまいは見逃したくないですね。椎骨脳底動脈領域の障害を示唆するめまい以外の症状や心血管系リスクファクターを考慮すると、鑑別診断をかなり絞り込むことができます。症状や神経所見から脳梗塞を強く疑う場合には、当日のMRI検査で異常がなくても経過観察入院で経過を確認する慎重な姿勢が大切です。この連載では、患者の訴える症状が危険性のある疾患を示唆するかどうかを一緒に考えていきます。シャーロックホームズのような鋭い推理ができればカッコいいですよね。◆今回おさえておくべき疾患はコチラ!【中枢性めまいを起こす疾患】椎骨脳底動脈領域の脳梗塞(小脳梗塞、脳幹梗塞)、片頭痛、中枢神経感染症、脱髄疾患(多発性硬化症)が鑑別診断となる片頭痛に伴うめまい(前庭性片頭痛)の頻度はかなり高い。めまいの持続は数分から数日。片頭痛の既往や家族歴、光過敏、スピンする運動が苦手である【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】中枢性めまいを見逃さないめまいを訴える患者の約10%は中枢性めまいである心血管系リスクを評価し、めまい以外の脳神経症状が出ていないかを確認する。しかしながら、椎骨脳底動脈系の脳梗塞を起こした患者の20%はめまい症状だけであるHINTS(Head Impulse test、Nystagmus、Test of Skew)で中枢性めまいか末梢性めまいかを確認する1)垂直性眼振、方向交代性眼振は中枢性めまいを示唆する歩くことがまったくできなければ中枢性めまいの可能性が高い【STEP3】中枢性めまいではなさそうなら、末梢性めまいの診察へ頭位変換(寝返り、臥床)でめまいが誘発され、持続時間が1分程度なら、良性発作性頭位めまい症(BPPV: benign paroxysmal positional vertigo)の可能性が高い。耳鳴と聴力低下はない。末梢性めまいで最多の原因Dix-Hallpike法で誘発し、Epley法で治療を行う(85%に有効)2)末梢性めまいの他の原因として前庭神経炎、内耳炎、メニエール病、Ramsay-Hunt症候群、薬剤性がある前庭神経炎ではウイルス感染が先行することが多い。めまいは数日続き、眼振は方向固定性かつ急速相は健常側へ向かう水平性である。耳鳴なし。難聴なし内耳炎は前庭神経炎と症状が似ている。聴力低下ありメニエール病の3徴は回転性めまい、耳鳴、聴力低下である。症状は発作的に何度か繰り返す。めまいの持続は数分~数時間。聴力検査は重要である。メニエール病を疑えば、専門的な治療が必要なので耳鼻科へ紹介するRamsey-Hunt症候群では水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)により顔面神経麻痺と耳介の発赤・水疱、めまい、難聴、耳痛を起こすめまいに伴う症状(嘔気嘔吐、不安神経症など)を改善するための治療薬(抗ヒスタミン薬、ベンゾジアゼピン系薬、制吐薬)は、めまいに対する代償作用を損なうので漫然と使ってはいけない <参考文献・資料>1)ステップ ビヨンド レジデント6. 羊土社. 2016. p.55.2)BPPV(良性発作性頭位めまい症)に対するエプリー法(YouTube)プライマリ・ケア 外来診療目利き術50. 南山堂. 2020. p.10-11.MKSAP18. General Internal Medicine. 2018.p.55-59.Kim J-S, et al. N Engl J Med. 2014;370:1138-1147.Kaski D, et al. BMJ. 2019;366:I5215.

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総合内科専門医試験オールスターレクチャー アレルギー

第1回 食物アレルギー アナフィラキシー第2回 喘息 抗体医薬第3回 アレルギー性鼻炎 重症薬疹・薬剤アレルギー 総合内科専門医試験対策レクチャーの決定版登場!総合内科専門医試験の受験者が一番苦労するのは、自分の専門外の最新トピックス。そこでこのシリーズでは、CareNeTV等で評価の高い内科各領域のトップクラスの専門医を招聘。各科専門医の視点で“出そうなトピック”を抽出し、1講義約20分で丁寧に解説します。キャッチアップが大変な近年のガイドラインの改訂や新規薬剤をしっかりカバー。Up to date問題対策も万全です。アレルギーについては、聖路加国際病院リウマチ膠原病センターの岡田正人先生がレクチャーします。バイオテクノロジーの進歩によって次々と開発される抗体医薬や、より精度が上がったアレルゲン検査など、アレルギー治療の最新トレンドを解説します。※「アップデート2022追加収録」はCareNeTVにてご視聴ください。第1回 食物アレルギー アナフィラキシー アレルギーの第1回では、I型アレルギーの1つである食物アレルギーについて、例題を提示しながら、症状からアレルゲンを特定する際のポイントを解説します。近年実用化が進んでいるアレルゲンコンポーネント検査によって、感度・特異度ともに精度の高い診断が可能となりました。主な食品に対応するアレルゲンコンポーネントを確認しましょう。アナフィラキシーを起こした際は、第2層反応にも注意して適切な治療を行います。第2回 喘息 抗体医薬アレルギーの第2回は、喘息の治療法について解説します。この10年ほどで、重症喘息に対して使用できる生物学的製剤が相次いで登場しました。喘息のタイプによって、各抗体医薬を使い分ける必要があります。また、喘息の抗体医薬品が、ほかのアレルギー性疾患にも効果があることが明らかになりました。アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、慢性蕁麻疹への、各薬剤の適応を確認します。 第3回 アレルギー性鼻炎 重症薬疹・薬剤アレルギーアレルギーの第3回は、アレルギー性鼻炎と、重症薬疹を中心に薬剤アレルギーを取り上げます。アレルギー性鼻炎で最もよく使われる抗ヒスタミン薬。作用の仕組みと、添付文書でとくに注意する点を解説します。近年、スギ花粉症とダニアレルギーに対して、質の高い舌下免疫療法の薬が登場し、治療を希望する患者さんも増えています。薬剤アレルギーについては、SJS/TENやDIHSといった重症薬疹の、原因となる薬剤を確認します。

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ドンペリドン、胎児の奇形リスクなし/国内大規模データベース

 制吐薬ドンペリドンは動物実験で催奇形性が示されたことから、従来、妊婦禁忌とされてきた。しかし、つわりと知らずに服用し妊娠が判明した後に気付いて妊娠継続に悩む女性が少なくない。一方で、本剤は米国で発売されていないことから疫学研究も少なく、安全性の根拠に乏しい面もあった。今回、国立成育医療研究センターの「妊娠と薬情報センター」と虎の門病院は、両施設が保有する1万3,599例もの妊娠中の薬剤曝露症例のデータベースを用いて、ドンペリドンの催奇形性を解析。その結果、妊娠初期に本剤を服用した例と、リスクがないことが明らかな薬のみを服用した例では、奇形発生率に有意な差は見られなかった。The Journal of Obstetrics and Gynaecology Research誌オンライン版2021年2月25日号に掲載。ドンペリドン曝露は乳児の主要な奇形のリスク増加と関連なし 本研究は、1988年4月~2017年12月までに、虎の門病院「妊娠と薬相談外来」または国立成育医療研究センター「妊娠と薬情報センター」に、妊娠中の薬物の安全性について相談した女性が含まれ、妊娠初期(4~13週)にドンペリドンを服用した妊婦519例(ドンペリドン群)と、対照薬を服用した妊婦1,673例(対照群)から生まれた乳児の奇形発生率を比較した。なお、ドンペリドンとメトクロプラミドの両方を使用した妊婦は研究から除外された。 対照薬としては、アセトアミノフェン、催奇形性リスクが増加しない抗ヒスタミン薬、H2ブロッカー、消化酵素製剤、ペニシリンやセファロスポリンなどの抗菌薬、および外用薬(点眼、軟膏・クリームなど)が含まれた。また、妊婦の制吐薬として一般的に使用されるメトクロプラミドを服用した妊婦241例(メトクロプラミド群)を参照群として定義した。 ドンペリドンによる乳児の奇形発生率について検討した主な結果は以下のとおり。・カウンセリング時の年齢中央値はすべての群で30歳であり、年齢分布も同等だった。飲酒または喫煙習慣のいずれにおいても、3群に大きな違いはなかった。・出産の結果はすべての登録者について集計され、生産の割合は、ドンペリドン群で94.0%(488例)、対照群で93.8%(1,570例)、メトクロプラミド群で94.2%(227例)だった。3群間で死産、流産または中絶の発生率に顕著な違いはなかった。・生産の単胎児における奇形発生率は、ドンペリドン群で2.9%(14/485例、95%信頼区間[CI]:1.6~4.8)、対照群で1.7%(27/1,554例、95%CI:1.1~2.5)、メトクロプラミド群では3.6%(8/224例、95%CI:1.6~6.9)で、有意な差は見られなかった。・飲酒量、喫煙、母体年齢、妊娠初期、施設、対照薬以外の併用薬使用を調整した多変量ロジスティック回帰分析の結果、対照群とドンペリドン群の調整後オッズ比(OR)は1.86(95%CI:0.73~4.70、p=0.191)であり、奇形発生率に有意差は見られなかった。また、対照群とメトクロプラミド群の調整後ORは2.20(95%CI:0.69~6.98、p=0.183)と同様の結果だった。 研究者らは、「この観察コホート研究は、妊娠初期のドンペリドン曝露が乳児の主要な奇形のリスク増加と関連していないことを示した。これらの結果は、妊娠中にドンペリドンを服用した妊婦の不安を和らげるのに役立つ可能性がある」と結論している。

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第50回 COVID-19ワクチン接種後数日してからの皮膚反応

接種後の遅れ馳せ(Delayed)の皮膚反応への心づもりが必要新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイクタンパク質を作るmRNAが成分のModerna(モデルナ)社のワクチンmRNA-1273を接種した12人に接種後すぐではなく何日か(4~11日;中央値8日)してから生じた遅れ馳せの皮膚反応を米国ボストン市の著名病院・Massachusetts General HospitalのチームがNEJM誌に報告し1)、皮膚感染症と混同して抗生物質で無闇に治療してはいけないと注意を促しています2)。提供:Massachusetts General Hospital腫れ、痒み、痛みなどを伴う上の写真のようなそれら皮膚反応は接種後すぐの局所や全身の症状が解消した後に注射部位近くに広く生じ、5人の病変の直径は10cm以上ありました。主に冷やすか抗ヒスタミン薬で治療され、何人かにはステロイド(グルココルチコイド)が使われました。また1人は蜂巣炎と推定されて抗生物質が投与されました。症状は発生から2~11日(中央値6日)で解消しました。そのような皮膚反応が遅延型かT細胞を介した過敏反応らしいとの著者等の見立ては報告された12人と同様に遅れ馳せの広域皮膚反応を呈した別の1人の皮膚検体の解析で支持されています。検体の表層血管周囲や毛胞周囲には好酸球や肥満細胞(マスト細胞)を含むリンパ球浸潤が認められました。遅延型過敏反応や注射部位反応を呈した人への2回目接種は禁忌ではないことから12人には2回目の接種を案内し、全員が2回目の接種を済ませました。2回目の接種後に半数の6人は1回目と同様か1回目より軽度の反応を再び被りました。2回目の接種後の皮膚症状はより早く、接種から1~3日(中央値2日)後に発生しています。mRNA-1273ワクチンへの遅れ馳せの局所反応に心づもりができていない医師がいるかもしれませんが、今回の報告はそれらの反応がおよそ恐れるに足るものではないことを改めて示しています2)。著者によると遅れ馳せの皮膚反応は免疫が良好に働いていることをどうやら意味しており、ワクチン接種の妨げにはなりません。今回の報告が不必要な抗生物質使用を減らしてワクチン接種の全うを助けることを著者は望んでいます。皮膚病変はSARS-CoV-2感染でも生じうるワクチンのみならずCOVID-19と種々の皮膚異変の関連も示唆されており、たとえば足のつま先によく生じる3)ことから”COVID toes”として知られる凍瘡(しもやけ)様病変がCOVID-19流行に伴って小児や若い成人患者にとくに多く認められています4)。COVID toes患者の鼻や喉の拭い液のPCR検査でSARS-CoV-2が検出されることは少なく4)、まったく検出できなかった報告5,6)ではSARS-CoV-2感染との関連はなさそうと結論されています。しかし組織を生検した幾つかの試験ではSARS-CoV-2スパイクタンパク質が検出されており、それらの断片が皮膚の内皮細胞のACE2に結合して取り込まれて血管内皮炎を誘発するのかもしれません7)。スパイクタンパク質はPfizerやModerna 社のワクチンが体内で作り出す成分でもあり、スパイクタンパクと内皮細胞のACE2の相互作用がどういう顛末をもたらすのかをさらに調査する必要があります。参考1)Blumenthal KG,et al. N Engl J Med. 2021 Mar 3. [Epub ahead of print]2)MGH researchers call for greater awareness of delayed skin reactions after Moderna COVID-19 vaccine / MGH3)Magro CM, et al.Br J Dermatol . 2021 Jan;184:141-150. 4)Colmenero I, et al.Br J Dermatol. 2020 Oct;183:729-737. 5)Herman A, et al. JAMA Dermatol. 2020 Sep 1;156:998-1003.6)Roca-Gines J, et al. JAMA Dermatol.2020 Sep 1;156:992-997.7)Ko CJ, et al. J Cutan Pathol. 2021 Jan;48:47-52.

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治療フローが様変わり、「肝硬変診療ガイドライン2020」の変更点とは

 肝硬変の非代償期と聞けば誰しもが諦めていたものだが、時代遅れと言われぬよう、この感覚をアップデートさせねばならないようだー。2020年11月、『肝硬変診療ガイドライン2020(改定第3版)』が発刊された。第2版が発刊された2015年から5年もの間に肝硬変治療に関する知見が数多く報告され、治療法は目まぐるしく変化している。そのため、海外の最新治療ガイドライン(GL)と齟齬がないように、かつ日本の実地診療に即したフローとなるよう留意し、日本肝臓学会と日本消化器病学会が対等の立場で初めて合同作成した。今回、その作成委員長を務めた吉治 仁志氏(奈良県立医科大学消化器・代謝内科 教授)に非専門医もおさえておくべき変更点やGLの活用方法についてインタビューした。肝硬変症状、プライマリケアでも早期発見を 今回の改訂において、“実地医家(プライマリケア医)にも使いやすい”を基本に作成を進めたと話した吉治氏。同氏によると、肝硬変は肝臓専門医による診療だけではなく、実地医家による日々の診療からの気付きが重要だという。「これまで非代償期の患者は予後不良で治療も困難であった。しかし、肝硬変は非代償期からも可逆性である事が明らかとなると共に、この5~10年の間に新薬が次々と登場し肝硬変治療に対する概念が変わったことで、非代償期を含めた肝硬変を非専門医にも診察してもらう意味がある」と説明した。 今回のフローチャートの見やすさや検査項目の算出のしやすさは、そんな状況変化を反映させ刷新しており、肝硬変診断のフローチャートの身体所見に『黄疸』『掻痒感』が追加されたのもその一例である。同氏は「黄疸は進行例で発見されることが多く実地医家では診療が困難であったため、これまで所見として含まれていなかったが、現況を顧みて追加した」と補足した。一方、掻痒感については「多くの非専門医は肝臓疾患がもたらす痒みの認識が薄いように感じる。そのため、抗ヒスタミン薬などで経過観察され、その間に肝疾患が進行してしまう場合も散見される。冬場は乾燥によるかゆみを訴える患者も多いが、肝疾患によるかゆみは抗ヒスタミン薬が無効である例が多く、ほかの所見もあれば血液検査を行い肝臓疾患の有無について判別を行ってほしい」と訴えた。栄養療法を簡単に個別化できるフローチャートへ 肝硬変治療で重要となる栄養療法もフローチャートが明確になり非専門医でも利用しやすくなっているが、これには近年の肝硬変患者の成因変化が影響している。2008年の肝硬変成因別調査

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第24回 風邪薬1箱飲んだら、さぁ大変!【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)若年者の嘔気・嘔吐では必ず鑑別に!2)拮抗薬はきちんと頭に入れておこう!【症例】26歳女性。ご主人が帰宅すると、自宅で繰り返し嘔吐している患者さんを発見し、辛そうにしているため救急要請。救急隊からの情報では、リビングの机の上には市販薬の空箱が数箱あり、嘔吐物には薬塊も含まれていた様子。●受診時のバイタルサイン意識10/JCS血圧119/71mmHg脈拍98回/分(整)呼吸25回/分SpO299%(RA)体温36.2℃瞳孔3/3 +/+既往歴特記既往なし内服薬定期内服薬なし最終月経2週間前風邪薬の成分とはみなさん風邪薬を服用したことがあるでしょうか? 医療者はあまり使用することはないかもしれませんが、一般の方は風邪らしいなと思ったら薬局などで購入し、内服することは多いでしょう。救急外来や診療所に発熱や咳嗽を主訴に来院する患者さんの中には、市販薬が効かないから来院したという方が一定数いるものです。市販薬を指定されている量を内服している場合には、それが理由でとんでもない副作用がでることはまれですが、当然服用量が過剰になればいろいろと問題が生じます。風邪薬の成分は、アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの解熱鎮痛薬、クロルフェ二ラミンマレイン酸塩などの抗ヒスタミン薬、ジヒドロコデインリン酸塩などの鎮咳薬、そして無水カフェインが含まれている商品が多いです。今回は救急外来で遭遇する頻度が比較的高い「アセトアミノフェン中毒」について重要な点をまとめておきます。その他、カフェイン、ブロン、ブロムなども市販薬の内服で起こり得る中毒のため、是非一度勉強しておくことをお勧めします。アセトアミノフェンの投与量以前、アセトアミノフェンは1日最大量1,500mg(1回最大量500mg)と少量の使用しか認められていませんでしたが、2011年1月から1日最大量4,000mg(1回最大量1,000mg)と使用可能な量が増えました。また、静注薬も発売され、みなさんも外来で痛みを訴える患者さんに対して使用していることと思います。高齢者に対しても、肝機能障害やアルコール中毒患者では2,000〜3,000mg/日を超えないことが推奨されていますが、そうでなければ1回の投与量は10〜15mg/kg程度(1,000mgを超えない)が妥当と考えられています。アセトアミノフェン中毒とはアセトアミノフェンは、急性薬物中毒の原因物質として頻度が高く、救急外来でもしばしば遭遇します。最も注意すべきは肝障害であり、アセトアミノフェン中毒で急性肝不全を呈した患者の3週間死亡率は27%と非常に高率です1)。そのため、十分量使用しながらも中毒にならないように管理する必要があります。アセトアミノフェンの大部分は肝臓で抱合され尿中に排泄されますが、一部は肝臓で分解され、N-アセチル-p-ベンゾキノンイミン(NAPQI)を生成し、これをグルタチオンが抱合することで尿中に排泄されます。NAPQIは毒性が高いのですが、アセトアミノフェンが適正の量であれば、グルタチオンによって解毒されます。しかし、過剰量の場合には、グルタチオンが枯渇し、正常の30%程度まで減少するとNAPQIが蓄積、肝細胞壊死へと進行してしまいます2)。そのため、アセトアミノフェンを過剰に摂取した場合には、グルタチオンを増やすことが必要になるわけです。NACとは中毒診療において重要なこととして、拮抗薬の存在が挙げられます。拮抗薬が存在する薬剤は限られるため頭に入れておきましょう(参考:第7回 意識障害その6 薬物中毒の具体的な対応は?)。アセトアミノフェンに対する拮抗薬はN-アセチルシステイン(NAC)です。NACは、グルタチオンの前駆体であり、中毒症例、特に肝細胞壊死へと至ってしまうような症例では必須となります。タイミングを逃さず、NACの投与が開始できれば肝不全は回避できます。ちなみにこのNAC、投与経路は経口です。静注ではありません。臭いをかいだことがある人は忘れない臭いですよね。腐った卵のあの臭い…。NACはいつ投与するかそれではいつNACを投与するべきでしょうか。アセトアミノフェンの血中濃度が迅速に判明する場合には、その数値を持って治療の介入の有無を判断することがある程度することが可能です。ちなみに、アセトアミノフェン摂取後の経過時間を考慮した血中濃度で判断する必要があり、内服直後の数値のみをもって判断してはいけません。一般的には4時間値が100μg/mLを超えているようであればNAC開始が望ましいとされます(以前は150μg/mLでしたが、肝障害発症の予防を強固に、そして医療費の削減のため基準値が下げられました)。“Rumack-Matthewのノモグラム”は有名ですね2)。そのため、摂取時間を意識した測定、経過観察が大切です。測定が困難な場合には、内服した量から推定するしかありません。アセトアミノフェンを150mg/kg以上(50kgであれば7,500mg)服薬していた場合にはNAC療法が推奨されます。この7,500mgという量をみてどのように思いますか? 前述した通り、アセトアミノフェンの1日の最大投与量として許容されている量は4,000mgです。中毒量が目の前に存在することがよくわかると思います。痛みに悩む患者さんは多く、処方されている薬を飲み過ぎてしまうと、簡単に中毒量に達してしまう可能性があるため注意が必要なのです。1箱飲んだら危険製品にもよりますが、アセトアミノフェンが含有される風邪薬や頭痛薬など鎮痛薬と称される市販薬は、1錠に含まれるアセトアミノフェンは80~200mg程度と少量の物が多いのですが、1箱80錠のものも存在します。また、インターネット上で購入しようと思えば500mg錠100錠など、中毒量を購入することは簡単にできてしまうのが現状です。初療時のポイントは、本症例のように嘔気・嘔吐を認める患者など過量内服患者を拾い上げること、そしてNACの適応となり得る量を内服していないかを血中濃度や推定内服量から見積もり判断することです。さいごにアセトアミノフェンは使用し易く、処方する機会は多いと思います。しかし、使用方法を間違ってしまうと肝不全へ陥ってしまう可能性のある恐い薬でもあります。安全な薬というイメージが強いかもしれませんが、いかなる薬もリスクであるため、処方する際には正しい内服方法を丁寧に患者さんに説明しましょう。また、過量内服患者ではNACの適応を理解し、肝障害を防ぎましょう。1)Ostapowicz G,et al. Ann Intern Med. 2002;137:947-954.2)Heard KJ. N Engl J Med. 2008;359:285-292.

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双極性障害のうつ症状の適応も有する非定型抗精神病薬「ラツーダ錠20mg/40mg/60mg/80mg」【下平博士のDIノート】第56回

双極性障害のうつ症状の適応も有する非定型抗精神病薬「ラツーダ錠20mg/40mg/60mg/80mg」今回は、抗精神病薬/双極性障害のうつ症状治療薬「ルラシドン塩酸塩(商品名:ラツーダ錠20mg/40mg/60mg/80mg、製造販売元:大日本住友製薬)」を紹介します。本剤は、長期間の治療が必要な統合失調症や双極性障害のうつ症状の患者に対し、忍容性を保ちながら適切な治療効果を維持することが期待されています。<効能・効果>本剤は、統合失調症および双極性障害におけるうつ症状の改善の適応で、2020年3月25日に承認され、2020年6月11日より発売されています。<用法・用量>《統合失調症》通常、成人にはルラシドン塩酸塩として40mgを1日1回、食後に経口投与します。なお、年齢、症状により適宜増減しますが、1日量は80mgを超えることはできません。《双極性障害におけるうつ症状の改善》通常、成人にはルラシドン塩酸塩として20mgから開始し、1日1回、食後に経口投与します。年齢、症状により適宜増減しますが、増量幅は20mgとして、1日量60mgを超えることはできません。<安全性>国内で実施された臨床試験において、安全性評価対象876例中338例(38.6%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、アカシジア75例(8.6%)、悪心40例(4.6%)、統合失調症29例(3.3%)、傾眠28例(3.2%)、頭痛、不眠症各25例(2.9%)などでした(承認時)。なお、重大な副作用として、遅発性ジスキネジア、高血糖、白血球減少(いずれも1%未満)、悪性症候群、痙攣、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡、肺塞栓症、深部静脈血栓症、横紋筋融解症、無顆粒球症(いずれも頻度不明)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、脳内のドパミン、セロトニンなどのバランスを整えることで、幻覚、幻聴、妄想、不安、緊張、意欲低下などの症状を和らげ、また、双極性障害におけるうつ症状を改善します。2.薬の飲み始めや増量した時期に低血圧が起こることがあります。眠気が出たり、注意力・集中力・反射運動能力が低下したりすることもあるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作はしないでください。3.薬を飲み始めてから、じっとしていられない、興奮が強くなる、ちょっとしたことで怒りっぽくなるなど、普段と異なる様子がみられた場合は、医師または薬剤師に相談してください。4.血糖値が上がることがあるので、本剤を服用後に激しい喉の渇きを感じたり、尿の回数や量が増えたりしたら連絡してください。5.動きが遅い、手足の震えやこわばり、呼吸回数の減少、低血圧などが現れたらご相談ください。6.アルコールは薬の効果を強めることがあるので、本剤を服用中は飲酒を控えてください。また、グレープフルーツを含む飲食物によっても、薬の作用が強く現れることがあるので、本剤を服用中は摂取しないよう気を付けてください。<Shimo's eyes>本剤は第2世代の抗精神病薬(非定型抗精神病薬)で、SDA(セロトニン・ドパミン拮抗薬)に分類されます。既存のSDA内服薬としては、リスペリドン(商品名:リスパダール)、ペロスピロン(同:ルーラン)、ブロナンセリン(同:ロナセン)、パリペリドン(同:インヴェガ)の4剤があり、本剤が5番目となります。本剤は、ドパミンD2受容体、セロトニン5-HT2A受容体および5-HT7受容体に対してはアンタゴニスト、5-HT1A受容体に対してはパーシャルアゴニストとして作用する一方で、抗ヒスタミン作用や抗コリン作用は少ないと考えられています。そのため、本剤は既存のSDAにはない、統合失調症における幻聴や妄想といった陽性症状、意欲減退や感情鈍麻といった陰性症状の改善のほか、不安や落ち込みといったうつ症状の改善も期待できます。統合失調症患者もしくは双極I型障害うつ患者を対象とした国際共同第III相試験において、本剤の忍容性に関して大きな問題は認められませんでした。また、長期投与試験において、統合失調症患者の精神症状に対する効果および双極性障害患者のうつ症状に対する効果は、それぞれ52週にわたり維持されたことが確認されています。2020年5月現在、統合失調症治療薬として、欧米を含む47の国と地域で承認されており、また、双極I型障害のうつ症状治療薬としては米国を含む7つの国と地域で承認されています。海外の最新治療ガイドラインでは、体重増加、糖代謝異常などの代謝系副作用が少ないなどの観点から統合失調症に対して推奨され、双極性障害におけるうつ症状では第一選択薬の1つとして推奨されています。処方時の注意点として、中等度以上の腎機能・肝機能障害のある患者では、投与量の制限があるため、投与量を適宜減量し、慎重に投与することとされています。また、本剤は、1日1回食後に服用することで最高血中濃度が引き上げられ、効果が継続するため、食後投与を厳守する必要があります。なお、本剤と同様に「双極性障害におけるうつ症状」の適応を有するクエチアピンフマル酸塩徐放錠(商品名:ビプレッソ)は就寝前投与なので、服用時点を混同しないように注意しましょう。相互作用としては、CYP3A4の基剤であるため、クラリスロマイシン、アゾール系抗真菌薬などのCYP3A4を強く阻害する薬剤や、リファンピシンなどのCYP3A4を強く誘導する薬剤は禁忌です。アルコールやグレープフルーツ含有食品も併用注意になっており、摂取には注意が必要であることを伝えましょう。参考1)PMDA 添付文書 ラツーダ錠20mg/ラツーダ錠40mg/ラツーダ錠60mg/ラツーダ錠80mg

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アトピーのそう痒、nemolizumab+外用薬で改善/NEJM

 アトピー性皮膚炎の治療において、nemolizumabと外用薬の併用は、プラセボと外用薬の併用に比べそう痒が大幅に減少し、湿疹面積・重症度指数(EASI)スコアや皮膚科学的生活の質指数(DLQI)も良好であるが、注射部位反応の発現率はnemolizumabで高いことが、京都大学の椛島 健治氏らが実施した「Nemolizumab-JP01試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2020年7月9日号に掲載された。nemolizumabは、アトピー性皮膚炎のそう痒と炎症に関与するインターロイキン(IL)-31受容体Aのヒト化モノクローナル抗体であり、投与は皮下注射で行われる。本薬は、第II相試験でアトピー性皮膚炎の重症度を軽減すると報告されている。そう痒の低減効果を評価する日本の無作為化第III相試験 本研究は、アトピー性皮膚炎と中等度~重度のそう痒がみられ、外用薬に対する反応が不十分な日本人患者を対象とする16週間の二重盲検無作為化第III相試験で、2017年10月に開始され、2019年2月にデータ解析が行われた(マルホの助成による)。 被験者は、外用薬併用下に、nemolizumab(60mg)を4週ごとに16週まで皮下投与する群、またはプラセボを投与する群に2対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは,そう痒の視覚アナログ尺度(VAS)のスコア(0~100点、点数が高いほどそう痒が重度)のベースラインから16週目までの平均変化率とした。 副次エンドポイントは、4週目までのそう痒VASスコアの変化率の推移、EASIスコア(0~72点、点数が高いほど重症)の変化率、DLQIスコア(0~30点、点数が高いほど日常生活への影響が大きい)が4点以下の患者の割合、不眠重症度指数(ISI)スコア(0~28点、点数が高いほど重症)が7点以下の患者の割合、および安全性などであった。有害事象の頻度は同じ、多くが軽度~中等度 215例が登録され、nemolizumab群に143例(年齢中央値39.0歳[範囲:13~73]、男性65%)、プラセボ群には72例(40.5歳[13~80]、67%)が割り付けられた。ベースラインのそう痒VASスコアの中央値は75.4点、EASIスコア中央値は23.2点であった。全例が事前に外用薬の投与を受けており、88%は経口抗ヒスタミン薬を投与されていた。 16週の時点で、そう痒VASスコアのベースラインからの最小二乗平均の変化率は、nemolizumab群が-42.8%と、プラセボ群の-21.4%に比べ有意に改善された(群間差:-21.5ポイント、95%信頼区間[CI]:-30.2~-12.7、p<0.001)。また、4週までのそう痒VASスコアの平均変化率は、nemolizumab群が−34.4%であり、プラセボ群の−15.3%に比し良好であった(-19.3ポイント、-26.6~-11.9)。 16週までのEASIスコアの平均変化率(nemolizumab群:-45.9% vs.プラセボ群:-33.2%、群間差:-12.6%、95%CI:-24.0~-1.3)、16週時にDLQIスコア≦4点の患者の割合(40% vs.22%、17%、2~31)、16週までにDLQIスコアが4点以上低下した患者の割合(67% vs.50%、17%、3~31)、16週時にISIスコア≦7点の患者の割合(55% vs.21%、33%、17~48)も、nemolizumab群で優れた。 有害事象は、両群とも71%で発生した。ほとんどが軽度~中等度で、重度の有害事象はnemolizumab群で3例(メニエール病、急性膵炎、アトピー性皮膚炎)に認められた。薬剤の投与中止の原因となった治療関連有害事象は、nemolizumab群の3例で4件(アトピー性皮膚炎、メニエール病/円形脱毛症、末梢性浮腫)発現した。 最も頻度の高いとくに注目すべき有害事象はアトピー性皮膚炎の増悪で、nemolizumab群で24%、プラセボ群では21%に発現した。注射関連反応の発現率は、nemolizumab群が8%で、プラセボ群の3%よりも高かった。 著者は、「本試験では、16週以降のnemolizumabの効果の持続性と安全性は検討しておらず、これら課題を明らかにするためには、より長期で大規模な試験を行う必要がある」としている。

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CDK4/6i治療歴のあるHR+/HER2-進行乳がん、alpelisib併用が有効性示す(BYLieve)/ASCO2020

 CDK4/6阻害薬を含む治療歴のあるホルモン受容体陽性/HER2陰性(HR+/HER2-)進行乳がんに対し、α特異的PI3K阻害薬alpelisibとフルベストラントの併用療法が、臨床的有効性を示した。米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO20 Virtual Scientific Program)で、米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)包括的がんセンターのHope S. Rugo氏が第II相BYLieve試験の結果を発表した。・対象:CDK4/6阻害薬を含む治療後に増悪した、PIK3CA遺伝子変異陽性、ECOG PS≦2、測定可能病変あるいは溶骨性病変を有する、男性あるいは女性(閉経後/閉経前)のHR+/HER2-進行乳がん患者 ・試験群(コホートA):直前の治療としてCDK4/6阻害薬+アロマターゼ阻害薬(AI)の投薬を受けた患者 alpelisib 300mg/日+フルベストラント500mgを1サイクル28日でDay1に投与(1サイクル目のみDay1、15)※BYLieve試験ではコホートB(直前の治療がCDK4/6阻害薬+フルベストラントの患者、alpelisib+レトロゾールを投与)およびコホートC(AIで増悪後全身化学療法を受けた患者または直前の治療が内分泌療法だった患者、alpelisib+フルベストラントを投与)についても登録中。今回はコホートAの結果について発表された。・評価項目:[主要評価項目]RECISTv1.1に基づく6ヵ月時点の各コホートでの無増悪生存率[副次評価項目]無増悪生存期間(PFS)、PFS2、全生存期間(OS)、奏効率(ORR)、クリニカルベネフィット率(CBR)、奏効期間(DOR)、安全性 主な結果は以下のとおり。・2017年8月14日~2019年12月17日に、少なくとも6ヵ月以上の追跡期間のある患者127例がコホートAに登録された(追跡期間中央値は11.7ヵ月)。このうち、PIK3CA遺伝子変異陽性が確認された121例が解析対象とされた。・ベースライン特性は女性が100%、年齢中央値は58歳(範囲:33~83)。白色人種63.8%、アジア人種9.4%、黒色人種4.7%。ECOG PS 0が62.2%であった。・転移病変に対する治療歴数0(術後療法としてCDK4/6阻害薬を投与)が11.8%、1が70.1%、2が16.5%、3が1.6%。転移病変に対する内分泌療法歴数0が11.8%、1が77.2%、2が11.0%であった。・試験登録時のprimary endocrine resistance(転移・再発乳がんに対する一次内分泌療法を開始して6ヵ月以内にPD、または術後内分泌療法を開始して2年以内の再発)症例が20.5%を占めていた。・6ヵ月時点の無増悪生存率は50.4%(95%信頼区間[CI]:41.2~59.6)となり、あらかじめ設定された95%信頼区間の下限(>30%)を超え、臨床的有効性が示された。・PFS中央値は7.3ヵ月(95%CI:5.6~8.3)であった。・ORRは17.4%、CBRは45.5%。CRは0例、PRは21例、SDは55例であった。・Grade 3以上の有害事象は、高血糖28.3%、発疹9.4%、下痢5.5%など。有害事象による治療中止は20.5%で起き、治療中止につながった有害事象で最も多かったのは皮疹であった(3.9%)。・抗ヒスタミン薬を事前に投与されなかった患者(117例)で皮疹が発生しなかったのは53.0%だったのに対し、事前に投与された患者(10例)では70.0%で発生せず、またGrade 3以上の皮疹の発生率も低かった(21.4% vs.10.0%)。同様の傾向がSOLAR-1試験でも観察され、予防的抗ヒスタミン剤が皮疹の発生と重症度を低下させる可能性があることが示唆された。・米国Flatiron Health Foundation Medicineのデータベースを利用した、リアルワールドデータとのマッチド解析の結果、リアルワールドでの標準治療と比較して、コホートAの治療法はPFSを改善した。 SOLAR-1試験において、CDK4/6阻害薬による治療歴のあった少数のサブグループでは、alpelisib併用群で6ヵ月時点の無増悪生存率は44.4%、PFS中央値は5.5ヵ月であった。研究者らは、今回のBYLieve試験からの報告はSOLAR-1試験の結果をサポートするもので、CDK4/6阻害薬治療後のalpelisibとフルベストラントの併用療法が、臨床的に意味のある有効性と管理可能な毒性を示したとまとめている。

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高齢者特有のリスクを考慮した抗ヒスタミン薬の提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第20回

 今回は、抗ヒスタミン薬の追加提案について紹介します。高齢者で抗ヒスタミン薬を選択する際には、鎮静やせん妄などのリスクを十分に考慮する必要があります。経過をフォローすることで、漫然投与も防ぎましょう。患者情報75歳、男性(施設入居)基礎疾患:高血圧症、便秘症訪問診療の間隔:2週間に1回処方内容1.オルメサルタン錠20mg 1錠 分1 朝食後2.酸化マグネシウム錠500mg 2錠 分2 朝夕食後3.センノシド錠12mg 1錠 分1 夕食後4.d-クロルフェニラミンマレイン酸塩錠2mg 3錠 分3 朝昼夕食後(今回追加)5.ヘパリン類似物質油性クリーム 50g 1日2回 全身に塗布(今回追加)6.ジフルプレドナート軟膏 10g 1日2回 体幹部位に塗布(今回追加)本症例のポイントこの患者さんは、全身の乾燥と体幹部に強い痒みを伴う湿疹があり、夜間も痒くて眠れないので飲み薬も出してほしい、という訴えを訪問診療の同行時に聴取しました。そこで医師より、しっかりとした作用が必要なのでd-クロルフェニラミンマレイン酸塩錠2mgを1日3回でどうかという相談がありました。ここでの処方薬のポイントは3点あります。1.高齢者における第1世代抗ヒスタミン薬のリスク第1世代の抗ヒスタミン薬は、中枢神経を抑制して鎮静作用が強く生じることがあります。この患者さんが眠れないと訴えたことから、鎮静作用を期待している可能性もありますが、抗コリン作用などに伴う口渇や便秘、認知機能低下、せん妄があり、高齢者ではリスクが大きいと懸念されます。2.第2世代抗ヒスタミン薬の代謝と排泄経路、鎮静作用代替薬として、よりH1受容体に選択的に作用する第2世代抗ヒスタミン薬を検討しました。多くの薬剤が発売されていますが、高齢者では肝・腎機能などの低下を考慮して、安全に使用できる薬剤が望ましいです。また、鎮静の強さも各薬剤で違いがありますので、鎮静作用が比較的弱いフェキソフェナジン、ロラタジン、エピナスチンが適切と考えました。3.併用薬との相互作用相互作用の面では、現在服用中の酸化マグネシウムとフェキソフェナジンは併用注意です。酸化マグネシウムがフェキソフェナジンの作用を減弱させるため候補から外れました。服用回数の少なさも薬剤選択の大きなポイントですが、ロラタジンもエピナスチンも1日1回ですので、今回は腎臓への負担の少ないエピナスチンが妥当と考え、医師に提案しました。処方提案と経過医師には、冒頭の処方内容では、鎮静が強く生じて転倒するリスクがあり、口渇や便秘、認知機能低下、せん妄リスクもあることを伝えました。代替薬として、エピナスチン錠20mg(後発品)を提示し、服用薬との薬物相互作用もなく、腎機能への影響も少なく、服用回数も1回で済むことを紹介しました。医師からは、高齢者での第1世代抗ヒスタミン薬のリスクを軽視するわけにはいかないと返答があり、提案のとおりに変更されました。患者さんはエピナスチン錠を服用開始した翌日の夜には掻痒感が改善し、よく眠れたと聴取することができました。2週間後には皮疹もきれいに治っていたことから、エピナスチン錠を中止し、保湿剤によるスキンケアのみを継続することを医師に提案しました。この提案も採用され、保湿剤のみとなりましたが現在も経過は良好です。抗ヒスタミン薬は漫然と飲み続けているケースも多く見受けられますが、継続的にフォローして、治療終了を判断することも重要と考えます。画像を拡大する※2020年5月時点の薬価※肝・腎:肝機能低下、腎機能低下でそれぞれ血中濃度上昇の可能性あり1)各薬剤のインタビューフォーム2)「透析患者に対する投薬ガイドライン」, 白鷺病院.3)谷内一彦ほか. 日耳鼻. 2009;112:99-103.

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岡田正人のアレルギーLIVE

第1回 食物アレルギー第2回 臨床免疫第3回 アナフィラキシーショック第4回 鼻炎第5回 薬物アレルギー第6回 アトピー性皮膚炎第7回 蕁麻疹第8回 好酸球増加 岡田正人が帰ってきた!2007年にリリースされた名作『Dr.岡田のアレルギー疾患大原則』を最新の知見を踏まえて全面刷新。白熱教室さながらの熱いレクチャーをご体感ください。外来でよく遭遇するが悩ましい食物アレルギーや即座の対応を必要とするアナフィラキシーはもちろん、花粉症、蕁麻疹、喘息、薬剤アレルギーなど、アレルギー疾患の基本を世界標準の診療を知り尽くしたDr.岡田が圧倒的なわかりやすさでお届けします。第1回 食物アレルギーどの科の医師でも必ず知っておくべきアレルギー診療。その基本をわかりやすくレクチャーします。初回は外来で出会うことも多い食物アレルギーについて。症例ベースに詳しく解説します。第2回 臨床免疫自然免疫と獲得免疫、免疫系のそれぞれの細胞の働き、またそれに伴う疾患、薬剤についてなど‥。免疫についてこんなにわかりやすく解説した番組はこれまでになかったといっても過言ではありません!第3回 アナフィラキシーショックアナフィラキシーショックは、時間との勝負!わずかなためらいや判断の遅れが患者の命にかかわります。即座に判断、対応するための知識をわかりやすく解説します。なぜ、アナフィラキシーが起こるのか、なぜその対応が必要なのかまで、しっかりとカバー。アナフィラキシーに関する疑問や悩みを解決します。第4回 鼻炎今回はアレルギー性鼻炎についてです。アレルギー性鼻炎は、鼻漏、鼻閉、かゆみ、結膜炎などさまざまな症状があります。実は、出る症状(とくに鼻漏と鼻閉)によって、処方する薬が異なってきます。患者の症状に合わせた治療薬と処方方法についてそれぞれの薬の特徴も踏まえ、詳しくわかりやすく解説します。また、効果のある飲み方とその理由など、患者に説明することによって、より効果を高めることができます。次回の花粉症シーズン前に知識を整理してみませんか。第5回 薬物アレルギー今回は薬物アレルギーについて解説します。薬物アレルギーは、100%防ぐことは不可能です。発症したときにできるだけ早く、そして重症化しないように対処しなければなりません。医原性である薬物アレルギーの対処法は、すべての医療者にとって必要なことです。しっかりと理解しておきましょう。一方で、近年、抗菌薬アレルギーに対するオーバーダイアグノーシス(過剰診断)が問題となっています。それにより、本来使うべき薬剤を使用できず、薬剤の効果や耐性菌など、実際の治療への影響を及ぼしています。ならば、どうすればよいのか。岡田正人がわかりやすくお教えします。第6回 アトピー性皮膚炎「アトピー性皮膚炎」当然のように使われるこの言葉ですが、本来の意味だと、実はちょっとおかしいのでは?そう、アトピーで皮膚炎が起こるのではありません。なぜ皮膚炎が起こるのか、起こさないためにはどうすべきか、起こったときの治療方法は、そしてなぜその方法なのか。そのことを患者が理解することが、治療への近道となります。ステロイド・保湿剤の選択、患者への説明の仕方、ステロイドが嫌だという患者への対応など、実際の臨床で行われているDr.岡田のシンプルかつ詳細な治療方法をわかりやすくお教えします。第7回 蕁麻疹今回のテーマは蕁麻疹。蕁麻疹には、抗ヒスタミン薬。それだけ処方すればいいと思っていませんか?確かに抗ヒスタミン薬は有効ですが、それが効かない患者さんもいます。なぜ効かないのかを知っておくと、その後の対応がぐっと楽になります。問診や検査はどうするか、かゆみの鑑別診断は?そして薬剤の処方のしかたや患者さんの納得する説明など、蕁麻疹の診療のノウハウを岡田正人がわかりやすくお教えします。第8回 好酸球増加好酸球が増加する原因はアレルギー、薬剤、寄生虫感染症、膠原病、HES、悪性腫瘍など多岐にわたります。現在では、好酸球の遺伝子異常の検査もできますが、医療経済的なことを考えると、最初から行うものではありません。診察、問診によって、まずは明らかな原因がないかどうかを確認し、そのうえで必要な検査を行うようにしましょう。好酸球の働きや特性を知っておけば、その症状を引き起こす原因と理由がはっきりと理解できるようになります。

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日本初、1日2回の抗ヒスタミン点眼薬「アレジオンLX点眼液0.1%」【下平博士のDIノート】第44回

日本初、1日2回の抗ヒスタミン点眼薬「アレジオンLX点眼液0.1%」今回は、「エピナスチン塩酸塩点眼液」(商品名:アレジオンLX点眼液0.1%、製造販売元:参天製薬)を紹介します。本剤は、薬剤を高濃度化したことで抗アレルギー作用が長時間持続する1日2回点眼の薬剤であり、アレルギー性結膜炎患者のアドヒアランスと治療満足度の向上が期待できます。<効能・効果>本剤は、アレルギー性結膜炎の適応で、2019年9月20日に承認され、2019年11月27日より発売されています。<用法・用量>通常、1回1滴、1日2回(朝、夕)点眼します。<副作用>本剤の臨床試験で安全性解析対象となった総症例189例において、本剤との因果関係が否定できない臨床検査値異常変動を含む副作用として、結膜充血1例(0.5%)が認められました(承認時)。なお、アレジオン点眼液0.05%で報告されている刺激感、異物感、羞明、眼瞼炎、眼痛、流涙、点状角膜炎、そう痒感、眼脂が、その他の副作用として注意喚起されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、アレルギー症状や炎症を引き起こすヒスタミンの働きを抑えるとともに、炎症を誘発する物質の放出を抑えます。2.1日2回の点眼でかゆみを減らします。防腐剤が含まれていないので、コンタクトをつけたままでも使用可能です。3.点眼時に刺激を感じることがあります。症状が強い場合や継続する場合は、医師または薬剤師に相談してください。4.ほかの点眼薬を併用する場合には、少なくとも5分以上間隔を空けてから点眼してください。<Shimo's eyes>本剤は、2013年から発売されているアレジオン点眼液0.05%の高用量製剤です。「LX」は、Lasting extendという造語に由来し、持続性を意味しています。薬剤の高濃度化により、持続性を向上させたことで、わが国で初めての1日2回点眼の持続性抗ヒスタミン点眼薬となりました。また、防腐剤フリーの点眼薬ということも特徴に挙げられます。アレジオン点眼液0.05%も、防腐剤としてコンタクトレンズへの吸着や角膜上皮障害が問題となる塩化ベンザルコニウムではなく、ホウ酸を使用しています。本剤は、防腐剤フリーでありながら、保存効力試験に適合しているため、開封後28日間は安全に使うことができ、患者さんへの負担が少ない製剤になったと考えられます。参考1)PMDA アレジオンLX点眼液0.1%

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透析皮膚掻痒症は解決に向かうのか?(解説:浦信行氏)-1147

 透析皮膚掻痒症は50~90%の例に認められると報告され、程度が強いものは睡眠障害などで患者のADLを著しく低下させる。従来の対処法には皮膚の保湿や抗アレルギー薬、抗ヒスタミン薬などがあるが、効果は限定的で満足な治療効果は得られていないのが現状である。また、腎不全そのものの病態、すなわち尿毒症物質やCa、Pの沈着などの機序も加味することから重症で難治性の症例が多い。 掻痒の機序の一部は内因性オピオイドのβ-エンドルフィンによるμ受容体の活性化であるが、κ受容体がこの作用に拮抗し掻痒を抑制する。このたび報告されたdifelikefalinは選択的κ受容体作動薬である。有効性や有害事象は11月21日配信のジャーナル四天王の記事のとおりである。ただし、週3回透析終了後の回路からの静注で使用するので、腹膜透析患者や保存期腎不全患者には適応しにくい。保存期腎不全でも15~49%に難治性の掻痒症が見られると報告されている。difelikefalinの経口薬が保存期腎不全を対象に、現在第II相で試験が行われているようだ。末梢のκ受容体への選択性が高く、中枢性の幻覚や身体違和感などは見られていないとのことで安全性も高い。 ただし、わが国には10年以上前から同一機序のナルフラフィンが透析患者で保険適応があり、1割以上の症例で使用されている。使用が認められているのがわが国と韓国だけのようであり、その分わが国では有利な状況である。ナルフラフィンの有効率は63.5%という報告があるが、プラセボ対照無作為化二重盲検試験ではなく、しかも評価法も違うことからdifelikefalinと単純に比較はできない。また、わが国の透析患者は透析期間が長く、高齢者が多いことから欧米の透析患者とは病状が異なる。difelikefalinについては、わが国での臨床試験が必要と考えられる。また、いずれの薬剤も現時点では保存期腎不全には使用できない。保存期腎不全での適応に関する試験が行われ、保存期腎不全患者にも恩恵をもたらすことを切に願う。

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第2回 薬局薬剤師のレベルは低すぎる?

第2回 薬局薬剤師のレベルは低すぎる?―薬剤師は保険薬局の仕事を一般的にどう捉えていると感じていますか?鈴木:研修会に来た薬剤師さんとか最近の学生さんが、保険薬局ってDo処方だとやることなくて楽でいいよね、と言っているのを聞いて危機感を感じています。Do処方の裏に隠れている問題を考えたり、なぜDo処方なのか掘り下げて把握したりしているのでしょうか? 降圧薬1個飲むにしたって、普段の血圧がどうなのか、医師がどういう治療方針なのか、食生活や仕事、生活習慣がどう影響しているのかなどを考えることが重要です。渡すだけなら保険薬局薬剤師は不要です。笹川:学生さんに話を聞くと、薬局はレベルが低いと思っていて、病院に行きたがる人が多いです。薬局は6年間の知識を生かすところだとは思われていないようです。鈴木:薬剤師が何をする人なのかまだ把握できていないのでは? 今の薬局薬剤師も自信を持って業務をしていないという自覚があるようで、子供を薬剤師にさせたくないという薬剤師も多いんです。裏には薬剤師なんて…というコンプレックスがあるのでしょう。ただ、実際にたいていの患者さんが薬剤師に求めていることは、いかに早く医師から処方された薬を渡すかということかもしれません。以前、皮膚科と眼科で抗ヒスタミン薬がバッティングしていた患者さんがいたんですが、診察時に他科の処方を伝えたか聞いても、「話してない。なんか悪いの? それより早くしてよ」と言われ、そのまま渡すわけにはいかないので疑義照会して1剤減らしていたら、「あと何分?」とかしつこく言われたことがあります。かなり腹が立ったんですが、普段この人たちが行く薬局には、懇切丁寧な説明や状況把握を心掛けているのではなく、とにかく薬を渡すことと調剤スピード命の薬剤師しかいないんだろうなと思いました。現時点では臨床的なレベルが低いと思われても仕方がないような仕事ぶりの薬剤師も多いような印象を受けています。山﨑:人は起こらなかったことにはありがたみを感じにくいので、事故や重複服用を未然に防ぐという薬剤師の職能について理解しづらいという構造的な課題もあるように思います。万一の話ですが、患者さんからすれば、たとえば抗ヒスタミン薬がバッティングして抗コリン性の副作用で痙攣を起こして搬送されるリスクなど夢にも思わないでしょうし。すでに困っていて、それを解消できたら感謝されるのかもしれませんが。―今、薬局薬剤師に求められているスキルは何だと思いますか?笹川:今、薬剤師に求められているのはコミュニケーション能力でしょう。でも、人と話すのが苦手と平気で言う薬剤師が多いんです。患者さんと話をするのが仕事なのですから、心では思っていても口には出さないでほしいなと思います。調剤だけをするのが薬剤師だとでもいまだに思っているのでしょうか?山﨑:話すのが苦手だと思っていた人がうまくいったときのほうが喜びは大きいので、成功体験があれば変わるのではないでしょうか? 話しやすい患者さんと会話するところから始めて自信をつけてもらったり、アドバイスを周りから提案してみたりするなど、ちょっとしたきっかけやアシストで覚醒される薬剤師もいらっしゃいます。鈴木:話をせざるを得ない環境に置いてもいいかもしれません。私は学生さんの実習では在宅に連れて行くようにしています。担当(役割)を持たせることによって責任感も持ちますし、今起きている問題は何か考えるよい機会になります。在宅だと何回もフォローできますので、どんどん情報をもらってきて、患者さんが抱えている問題は何か教えて、っていう課題を与えるとやりがいを持ってもらえますよ。薬局薬剤師に必要なスキルは、臨床推論を活用して目の前の患者さんに何が起きているかを把握・言語化して、多職種と共通言語でコミュニケーションがとれることだと思っています。大学で学んできたことや薬剤師スキルをフル活用できる場はいくらでもあるので。チェーンと個店、どっちの薬剤師が幸せか?―チェーン薬局と個店の違いはどう感じていますか?山﨑:それぞれ良いところがあると思います。チェーンは体系的な学びや発表の機会を得やすかったり、社内キャリアの幅があったりするのがメリットかと思います。病院実習の機会が設けられたり、抗がん剤の知識をしっかり習えたり、社内学習コンテンツがあったりさまざまのようです。個店でもできるところはあると思いますし、チェーン顔負けの魅力的な取り組みをされているところもあるのですが、そうした機会のバラつきが大きいとは感じています。薬歴の記入の仕方でも、記入する基準・必要性を考えさせたり、服薬指導で必要なことを考えさせたりする研修もあります。外国語が得意な人は語学力を生かせる立地に配属させてもらって経験を積めたりもするそうです。笹川:私はチェーン薬局のあり方には問題を感じています。チェーンでは異動がつきものですが、3年程度で異動するのであれば患者さんを長くみることはできません。病院はともかく開業医の先生は何十年もその患者さんを担当しているのに、薬剤師は3年ごとに変わるんだったらどちらを信頼するかは考えるまでもないでしょう。医師からの信頼も同様です。10年担当するからこそ見えてくるものってありますよ。地域密着型薬局と地域にあるだけの薬局では意味が全然違います。薬剤師が行きつくところはド地域密着しかないと思っています。山﨑:ファンがつくまでって時間がかかりますよね。2~3年で異動していたらそれは難しいかもしれませんね。鈴木:チェーンに就職する学生さんに話を聞くと、チェーンは教育がしっかりしているからそこに決めたという話をよく聞くんです。やはり個店よりも職場環境や教育環境は手厚いんでしょうね。山﨑:いいスーパーバイザーやエリアマネジャーがいる薬局は全然動きが違いますね。もちろん人の資質によるところはありますし、個店でもそういう側面はあると思いますが、全国チェーンだと全国規模の情報が手に入って、こういうことをすべきだという情報も社内で手に入ることがあります。集合知のようなものがありそうというイメージや説明会などで目につくなどの事情で学生さんがチェーンを選択されるのかもしれません。笹川:未来というか、社内キャリアの見通しがききやすいというメリットはあると思います。山﨑:少し先の未来像が先輩を通してイメージできて、それがご自身の理想にそぐわないと辞めてしまう方もいるようです。かかりつけなど課せられたノルマがご自身の考えに合わないと漏らされる方もいます。笹川:数百人からかかりつけの同意書をとったからといって偉いわけではないでしょう? 質を担保することが目的なので、数字に意味はないと思います。何もしなくてもかかりつけ薬剤師を名乗れるのは疑問です。鈴木:まったく同意見で、同意書をとったから何? という感じですね。その先に何があるのか聞いてみたいです。でも、現状は質よりもとにかく点数を稼げという本部からの圧力が大きいらしいですね。そして圧力に耐えられなくて辞めていくんでしょう。―では、理想の薬局環境とはどのような環境でしょうか?鈴木:私が理想の環境だと思っているのは、尊敬できる先輩や同僚がいることです。キーパーソンではないけれど、導いてくれたり、現場を教えてくれたりする先輩は必要でしょう。薬剤師の仕事の面白さをリアルに伝えてくれる人がいれば、下の子たちも自然と付いてくるのではないでしょうか? この人みたいになりたいとか、学会に行ってみたいとか、こんな仕事がやりたいとか。ちなみにうちの薬局は尊敬できるそんな仲間が多いです(笑)。山﨑:Musubi(株式会社カケハシの電子薬歴システム)の導入施設を見ていて、うまくいっている薬局で明確に共通しているのはそういうリーダーシップを発揮している方がいることですね。当たり前にすごい業務ができる人がいると、周りの人の仕事の基準も変わってくるようです。鈴木:自分にもできるかもしれないっていうのは大きいポイントですよね。あと、仲間がいないと孤独ですよ。仲間がいると同じ方向に向かって頑張れるので、環境としてはベストかなと思います。尊敬できる先輩や仲間がいる薬局のほうが絶対に楽しめます。笹川:医師の世界では誰々先生に師事しましたっていうのはよく聞きますが、薬剤師の世界ではそういう話はあまりないですよね?鈴木:医師は研修期間が年単位であるので、尊敬できる先輩に付くことができれば身近で見ることのできるいい環境だと思います。薬剤師はそういう教育の部分が弱いので、教育の仕組みを作って、薬局でもしっかり勉強できるということをアピールしたら、学生さんも薬局の活動やすごい先輩がいるということを知って変わってくるのではないでしょうか?山﨑:確かに薬局に尊敬できる先輩がいたことはモチベーションになっていました。逆に、そういう環境がない中で仕事にやりがいを持てないとか、異動が多いといった理由から地域密着で活躍している個店に転職を検討される方もいます。ただ、よい個人薬局をネットで探そうとしてもなかなか見つけられないので「紹介してください」と言われることもあります。薬局側も地域での活動を際立たせてPRする戦略が必要かもしれません。笹川:個店でもホームページを作って、アピールしたほうがいいですよ。個店だからと縮こまらないで、コラムを書いたり、講演会をしたりして薬局薬剤師もどんどん発信していく必要はあるでしょうね。これからは薬局単位よりも個々の薬剤師の活動を発信していく時代だと思います。―次回は、薬剤師の知識の得方や発信の方法について伺います。

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新しい抗うつ薬の出現(解説:岡村毅氏)-1117

 まったく新しい機序の抗うつ薬に関する臨床からの報告である。まずは抗うつ薬についておさらいしてみよう。1999年にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が使えるようになり、うつ病の薬物療法に革命的な変化が起きた。それまでの古典的抗うつ薬には抗コリン作用(便秘など)や抗ヒスタミン作用(眠気など)などが伴ったが、SSRIには消化器症状(吐き気など)以外は比較的少なかったからである。 また、このころ(製薬業界にとっては黒歴史かもしれないが)うつはこころの風邪というキャンペーンがなされたりして、精神科・心療内科の敷居がずいぶん低くなった。うつはこころの風邪という言説は、今ではすっかり疾病喧伝(薬を売るために変な宣伝をしたという批判)の文脈で引用されるが、個人的には物事には両面があると思う。今では信じられないかもしれないが、「うつは弱い人がなるものだ」「精神科に行くなんて人生の破滅だ」と信じて、誰にも助けを求められずに重篤化する人もいたので、このキャンペーンによって救われた人もいただろう。 もちろん操作診断が使われるようになり、専門家が経験と知識に基づいて診断する「うつ病」から、いくつかの基準を満たしたときに診断される「うつ病エピソード」として捉えられるようになったことも大きいだろう。 ともあれ、20世紀から21世紀になるころ、うつ病は特殊で恐ろしい精神疾患ではなくなり、僕らの生活世界に現れた。人々は、かつてはそう簡単には「わたし、うつっぽいかも」とは言わなかったが、いまやずいぶん簡単に言うようになった。あれから20年間、いち臨床医としての意見であるが、SSRIが出たときのような革命的変化をもたらした薬剤は出ていない。 これは実は、統合失調症についてもいえる。1996年に同じく副作用が少ない非定型抗精神病薬が使えるようになって(もちろん、ないわけではない)、革命的な変化が起きた。具体的には新たな長期入院者はほとんど見なくなった。その後いくつかいい薬は出たが、破壊的イノベーションは起きていない。そして人々は「トウシツ」などと気軽に言うようになった。 おそらく50年前には、うつ病や統合失調症を経験した友達がいる人は少なかったであろう。今では、たぶん普通のことだ。 いずれにせよ、うつ病の薬物治療は20年程度、革命的な進歩はない。よく言えば漸進している状態である。むしろ、うつ病として治療すべき状態と、そうではない状態(たとえば生活習慣の乱れをまずは治すべき状態)などの、薬物治療以前の仕分けがしっかりなされるようになってきている。また人的資源の少ないわが国でも認知行動療法もようやく行われつつある。修正型電気けいれん療法(m-ECT)もいまや広く行われている。薬物療法以外が拡充しているのだから、健全なことだと思う。 さて、うつ病の薬物治療で現在のところ期待されている薬剤は「ケタミン」と「GABA受容体作用薬」であろう。本論文は、後者についての明らかな臨床効果を報告するものである。 これが、革命を起こしたSSRI以来の20年間に出現した「その他大勢」の新薬の末席に連なることになるのか、ブレークスルーになるのかは、もうしばらく見てみないとわからないだろう。 なお、筆者は抗うつ薬が常に必要だとは思わない。うつ病の治療には薬物治療、精神療法、環境調整の3つの柱があり、とくに軽症の場合は薬物を使わなくてもよい場合も多い。一方で、医学はしょせん人間の営みであり、苦しむ人を支援するためには、3つの柱を総動員しなければならない。また、こころを込めて治療をしても治らないときもある。とはいえ、この3つの柱はがんの「標準治療」みたいなものであり、奇妙な代替療法に患者さんが迷い込まないことを祈りたい。

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第15回 薬剤投与後の意識消失、原因は?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)アナフィラキシーはいつでも起こりうることを忘れずに!2)治療薬はアドレナリン! 適切なタイミング、適切な投与方法で!3)“くすりもりすく”を常に意識し対応を!【症例】62歳女性。数日前から倦怠感、発熱を認め、自宅で様子をみていたが、食事も取れなくなったため、心配した娘さんと共に救急外来を受診した。意識は清明であるが、頻呼吸、血圧の低下を認め、悪寒戦慄を伴う発熱の病歴も認めたため、点滴を行いつつ対応することとした。精査の結果、「急性腎盂腎炎」と診断し、全身状態から入院適応と判断し、救急外来で抗菌薬を投与し、病床の調整後入院予定であった。しかし、抗菌薬を投与し、付き添っていたところ、反応が乏しくなり、血圧低下を認めた。どのように対応するべきだろうか?●抗菌薬投与後のバイタルサイン意識10/JCS血圧88/52mmHg脈拍112回/分(整)呼吸28回/分SpO297%(RA)体温38.9℃瞳孔3/3mm+/+既往歴高血圧内服薬アジルサルタン(商品名:アジルバ)、アトルバスタチン(同:リピトール)アナフィラキシーの認識本症例の原因、これはわかりやすいですね。抗菌薬投与後に血圧低下を認める点から、アナフィラキシーであることは、誰もが認識できると思いますが、「アナフィラキシーであると早期に認識すること」が非常に大切であるため、いま一度整理しておきましょう。アナフィラキシーとは、「アレルゲンなどの侵入により、複数臓器に全身性のアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与えうる過剰反応」と定義されます。また、アナフィラキシーショックとは、それに伴い血圧低下や意識障害を伴う場合とされます1)。アナフィラキシーの診断基準は表1のとおりですが、シンプルに言えば、「食べ物、蜂毒、薬などによって皮膚をはじめ、複数の臓器に何らかの症状が出た状態」と理解すればよいでしょう。表2が代表的な症状です。皮膚症状は必ずしも認めるとは限らないこと、消化器症状を忘れないことがポイントです。そして、本症例のような意識消失の原因がアナフィラキシーであることもあるため注意しましょう。表1 アナフィラキシーの診断基準画像を拡大する表2 アナフィラキシーの症状と頻度画像を拡大するアナフィラキシーの初期対応-注射薬によるアナフィラキシーは「あっ」という間!アナフィラキシー? と思ったら、迷っている時間はありません。とくに、抗菌薬や造影剤など、経静脈的に投与された薬剤によってアナフィラキシーの症状が出現した場合には、進行が早く「あっ」という間にショック、さらには心停止へと陥ります。今までそのような経験がない方のほうが多いと思いますが、本当に「あっ」という間です。万が一の際に困らないように確認しておきましょう。一般的に、アナフィラキシーによって、心停止、呼吸停止に至るまでの時間は、食物で30分、蜂毒で15分、薬剤で5分程度と言われていますが、前述のとおり、経静脈的に投与された薬剤の反応はものすごく早いのです4)。アドレナリンを適切なタイミングで適切に投与!アナフィラキシーに対する治療薬は“アドレナリン”、これのみです! 抗ヒスタミン薬やステロイドを使う場面もありますが、どちらも根本的な治療薬ではありません。とくに、本症例のように、注射薬によるアナフィラキシーの場合には、重症化しやすく、早期に対応する必要があるため、アドレナリン以外の薬剤で様子をみていては手遅れになります。ちなみに、「前も使用している薬だから大丈夫」とは限りません。いつでも起こりうることとして意識しておきましょう。日本医療安全調査機構から『注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析』が平成30年1月に報告されました。12例のアナフィラキシーショックによる死亡症例が分析されていますが、原因として多かったのが、造影剤、そして抗菌薬でした。また、どの症例もアナフィラキシーを疑わせる症状が出てからアドレナリンの投与までに時間がかかってしまっているのです5)。アドレナリンの投与を躊躇してしまう気持ちはわかります。アドレナリンというと心肺停止の際に用いるもので、あまり使用経験のない人も多いと思います。しかし、アナフィラキシーに関しては、治療薬は唯一アドレナリンだけです。正しく使用すれば恐い薬ではありません。どのタイミングで使用するのか、どこに、どれだけ、どのように投与するのかを正確に頭に入れておきましょう。アドレナリンの投与のタイミングアドレナリンは、皮膚症状もしくは本症例のように明らかなアレルゲンの曝露(注射薬が代表的)があり、そのうえで、喉頭浮腫や喘鳴、呼吸困難感などのairwayやbreathingの問題、または血圧低下や失神のような意識消失などcirculationの問題、あるいは嘔気・嘔吐、腹痛などの消化器症状を認める場合に投与します。大事なポイントは、造影剤や抗菌薬などの投与後に皮膚症状がなくても、呼吸、循環、消化器症状に異常があったら投与するということです。アドレナリンの投与方法アドレナリンは大腿外側広筋に0.3mg(体型が大きい場合には0.5mg)筋注します。肩ではありません。皮下注でも、静注でもありません。正しく打てば、それによって困ることはまずありません。皮下注では効果発現に時間がかかり、静注では頻脈など心臓への影響が大きく逆効果となります。まずは筋注です!さいごに抗菌薬、造影剤などの薬剤は医療現場ではしばしば使用されます。もちろん診断、治療に必要なために行うわけですが、それによって状態が悪化してしまうことは、極力避けなければなりません。ゼロにはできませんが、本当に必要な検査、治療なのかをいま一度吟味し、慎重に対応することを心掛けておく必要があります。救急の現場など急ぐ場合もありますが、どのような場合でも、常に起こりうる状態の変化を意識し、対応しましょう。1)日本アレルギー学会 Anaphylaxis対策特別委員会. アナフィラキシーガイドライン. 日本アレルギー学会;2014.2)Sampson HA, et al. J Allergy Clin Immunol. 2006;117:391-397.3)Joint Task Force on Practice Parameters, et al. J Allergy Clin Immunol. 2005;115:S483-523.4)Pumphrey RS. Clin Exp Allergy. 2000;30:1144-1150.5)日本医療安全調査機構. 医療事故の再発防止に向けた提言 第3号 注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析. 日本医療安全調査機構;2018.

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アナフィラキシーには周囲の理解が必要

 2019年8月21日、マイランEPD合同会社は、9月1日の「防災の日」を前に「災害時の食物アレルギー対策とは」をテーマにしたアナフィラキシー啓発のメディアセミナーを開催した。セミナーでは、アナフィラキシー症状についての講演のほか、患児の親の声も紹介された。アナフィラキシーの原因、小児は食物、成人は昆虫 セミナーでは、佐藤さくら氏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター 病態総合研究部)を講師に迎え、「アナフィラキシーの基礎知識とガイドラインに基づく正しい治療法について」をテーマに講演を行った。 アナフィラキシーとは「短時間に全身に現れる激しい急性のアレルギー反応」とされ、その原因として抗菌薬やNSAIDsなどの医薬品、手術関連、ラテックス、昆虫、食物などがある。とくに小児では食物が本症の一番大きな誘因となる(65%)のに対し、成人では昆虫刺傷が一番大きな誘因となる(48%)というデータが欧州では報告されている1)。 日本アレルギー学会が行った「全国アナフィラキシー症例集積研究」(n=767、平均年齢6歳[3~21歳])によれば、本症の誘因は食物(68.1%)、医薬品(11.6%)、食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA:5.2%)の順で多く、誘因が食物の場合、牛乳(21.5%)、鶏卵(19.7%)、小麦(12.5%)の順で発生があったと報告されている。また、アナフィラキシーショックによる死亡は毎年60例前後(多い年は70例超)が報告されている。必要ならば早くアドレナリン筋注を 診断として次の3項目のいずれかに該当すればアナフィラキシーと診断する。1)皮膚症状(全身の発疹、瘙痒または紅斑)または粘膜症状(口唇・舌・口蓋垂の腫脹など)のいずれかが存在し、急速(数分~数時間以内)発現する症状で、かつ呼吸症状(呼吸困難、喘鳴など)、循環器症状(血圧低下、意識障害)の少なくとも1つを伴う2)一般的にアレルゲンとなりうるものへの曝露後、急速に(数分~数時間以内)発現する皮膚・粘膜症状(全身の発疹、瘙痒、紅潮、浮腫)、呼吸器症状(呼吸困難、喘鳴など)、循環器症状(血圧低下、意識障害)、持続する消化器症状(腹部疝痛、嘔吐)のうち、2つ以上を伴う3)当該患者におけるアレルゲンへの曝露後の急速な(数分~数時間以内)な血圧低下。具体的には、収縮期血圧の場合、平常時血圧の70%未満、または生後1~11ヵ月まで(<70mmHg)、1~10歳(<70mmHg+2×年齢)、11歳~成人(<90mmHg) 以上の診断のあとグレード1(軽症)、2(中等症)、3(重症)の重症度を評価2)し、それぞれのグレードに応じた治療が行われる。 グレード1(軽症)であれば抗ヒスタミン薬やβ2アドレナリン受容体刺激薬、ステロイド薬が選択されるが、即効性はない。グレード3(重症)ならアドレナリン筋肉注射(商品名:エピペンなど)の適応となる(ただしグレード2[中等症]でも過去に重篤な本症の既往がある、病状進行が激烈な場合、気管支拡張薬吸入で改善しない呼吸症状では適応となる)。 佐藤氏は、本症の診療では「初期対応が大切で、軽いうちから治療していくことが重要。エピペンの使用率が低く、使用に対する教育・啓発も必要」と説明を行った。災害時の食物アレルギーのリスクを最低限に抑えるために つぎに大規模災害とアナフィラキシーについて触れ、とくに食物アレルギー患者への対応が重要と指摘した。 災害時には、患者の誤食リスクの上昇、アレルギー対応食品の入手困難、症状発症時の治療薬不足、周囲の病気への理解不足などリスクが生じるため、さまざまな対応が必要となる。現在は、「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」(平成25年8月内閣府作成)などが決められ、避難所にはアルファ米や特別ミルクなどの備蓄と配給上の配慮などが決められている。その一方で、熊本地震でのアレルギー対応食への取り組みについて自治体に聞いたアンケートでは、「十分取り組まれていた」がわずか3.1%など現場への浸透に課題があることも紹介された。 災害時の食物によるアナフィラキシーへの備えとして、地域公的機関での備蓄、ネットワーク作り、病気への理解、アレルギー情報の携帯、発症時の対応、炊き出し原材料の確認、アレルギー表示の確認、自宅での備蓄が必要であり、こうした情報は「アレルギーポータル」などのwebサイト、自治体の各種配布物に記されている。おわりに「こうした媒体で医療者も患者もよく学び、病気への理解を深めることが大切」と語り、佐藤氏は講演を終えた。 続いて、患者会代表の田野 成美氏が、実子の闘病経験を語り、親の目の届かない学校生活での不安や周囲の理解不足による発症の危険性、氾濫する診療情報などの問題点を指摘した。■参考「アレルギーポータル」(日本アレルギー学会)「アナフィラキシーってなあに.jp」(マイランEPD合同会社)

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HR+/HER2-進行乳がんへのPI3K阻害薬alpelisib、日本人解析結果(SOLAR-1)/日本臨床腫瘍学会

 ホルモン受容体陽性/HER2陰性(HR+/HER2-)進行乳がんに対する、α特異的PI3K阻害薬alpelisibとフルベストラント併用療法の有効性を評価する第III相SOLAR-1試験の日本人解析結果を、第17回日本臨床腫瘍学会学術集会(7月18~20日、京都)で、愛知県がんセンターの岩田 広治氏が発表した。なお、同患者に対するalpelisib併用療法は、SOLAR-1試験の結果に基づき、2019年5月にPI3K阻害薬として初めてFDAの承認を受けている。alpelisib併用群とプラセボ群に割り付け SOLAR-1試験は、HR+/HER2-進行乳がん患者(ECOG PS≦1、1ライン以上のホルモン療法歴あり、進行後の化学療法歴なし)を対象とした国際第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験。登録患者はPIK3CA遺伝子変異陽性もしくは陰性コホートに分けられ、それぞれalpelisib併用群(alpelisib 300mg/日+フルベストラント500mg/1サイクル目のみ1日目、15日目に投与、以降28日を1サイクルとして1日目に投与)とプラセボ群(プラセボ+フルベストラント)に1:1の割合で無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、PIK3CA陽性コホートにおける無増悪生存期間(PFS)。副次評価項目は、PIK3CA陰性コホートのPFS、両コホートの全生存期間(OS)、客観的奏効率(ORR)、安全性などであった。 alpelisib併用療法の主な結果は以下のとおり。・全体で572例が登録され、うち日本人は68例(PIK3CA陽性が36例、陰性が32例)。両コホートでそれぞれalpelisib併用群またはプラセボ群に無作為に割り付けられた(陽性:alpelisib併用群17例 vs.プラセボ群19例、陰性:15例 vs.17例)。・日本人集団の年齢中央値は両群とも67歳。BMI中央値は25kg/m2 vs.21.4kg/m2で全体集団(26.5kg/m2 vs.26.1kg/m2)よりも低く、PS 0の割合は88.2% vs.89.5%と全体集団(66.3% vs.65.7%)よりも高かった。その他のベースライン特性は全体集団と同様であった。・PIK3CA陽性コホートにおけるPFS中央値は、全体集団ではalpelisib併用群11.0ヵ月に対しプラセボ群5.7ヵ月とalpelisib併用群で有意に改善した(ハザード比[HR]:0.65、95%信頼区間[CI]:0.50~0.85; p=0.00065)。これに対し日本人集団では、alpelisib併用群9.6ヵ月に対しプラセボ群9.2ヵ月と両群で差はみられなかった(HR:0.78、95%CI:0.35~1.75)。・PIK3CA陽性コホートにおけるalpelisibの曝露期間は、全体集団で平均8.0ヵ月、中央値5.5ヵ月(0.0~29.0)、平均相対的用量強度(RDI)77.8%だったのに対し、日本人集団では曝露期間の平均4.2ヵ月、中央値1.4ヵ月(0.3~21.1)、平均RDI 58.8%であった。・日本人集団において、全体集団と比較してalpelisib併用群で多くみられたGrade3以上の有害事象は、皮疹(日本人集団:43.8%/ 全体集団:20.1%)、膵炎(15.6%/5.6%)、重度皮膚有害反応(9.4%/1.1%)であった。・alpelisib併用群の有害事象による治療中止は、日本人集団では全Gradeで56.3%、Grade3以上で25.0%と、全体集団(25.0%、13.0%)と比較して多く発生した。日本人集団で治療中止につながった有害事象は、高血糖症(18.8%)、皮疹(12.5%)、重度皮膚有害反応(9.4%)など。Grade3以上の皮疹は多くが14日以内に起きていた。・投与開始後8日目におけるalpelisibの血中トラフ濃度を日本人と日本人以外で比較すると、平均値474ng/mL vs.454ng/mL、中央値410ng/mL vs.442ng/mLと差はみられなかった。 ディスカッサントを務めた虎の門病院の尾崎 由記範氏は、他のPI3K阻害薬による臨床試験での重篤な皮疹の発生率は3.8~8.0%(全体集団)1)2)で、43.8%という数字は顕著に高いことを指摘。alpelisibの第I相試験で皮疹の発生は用量依存的に増加している点3)、今回のサブセット解析で最初の数週間で多く発生している点などに触れ、日本人集団での最適用量の再検討や、経口非鎮静性抗ヒスタミン薬の予防的使用の検討が必要ではないかとの考えを示した。 岩田氏は発表後の質疑において、アジア人の他のポピュレーションでは全体集団と同様の結果が得られていることを明らかにし、日本人集団を対象とした追加試験を行う必要があるとした。

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