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COVID-19に対する薬物治療の考え方 第7版を公開/日本感染症学会

 日本感染症学会(理事長:舘田 一博氏[東邦大学医学部教授])は、2月1日に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬について指針として「COVID-19に対する薬物治療の考え方 第7版」をまとめ、同会のホームページで公開した。 本指針は、COVID-19の流行から約1年が経過し、薬物治療に関する知見が集積しつつあり、これまでの知見に基づき国内での薬物治療に関する考え方を示すことを目的に作成されている。 現在わが国でCOVID-19に対して適応のある薬剤はレムデシビルである。デキサメタゾンは重症感染症に関しての適応がある。また、使用に際し指針では、「適応のある薬剤以外で、国内ですでに薬事承認されている薬剤をやむなく使用する場合には、各施設の薬剤適応外使用に関する指針に則り、必要な手続きを行う事とする。適応外使用にあたっては基本的にcompassionate useであることから、リスクと便益を熟慮して投与の判断を行う。また、治験・臨床研究の枠組みの中にて薬剤を使用する場合には、関連する法律・指針などに準じた手続きを行う。有害事象の有無をみるために採血などで評価を行う」と注意を喚起している。 抗ウイルス薬などの対象と開始のタイミングについては、「発症後数日はウイルス増殖が、そして発症後7日前後からは宿主免疫による炎症反応が主病態であると考えられ、発症早期には抗ウイルス薬、そして徐々に悪化のみられる発症7日前後以降の中等症・重症の病態では抗炎症薬の投与が重要となる」としている。 抗ウイルス薬などの選択について、本指針では、抗ウイルス薬、抗体治療、免疫調整薬・免疫抑制薬、その他として分類し、「機序、海外での臨床報告、日本での臨床報告、投与方法(用法・用量)、投与時の注意点」について詳述している。紹介されている治療薬剤〔抗ウイルス薬〕・レムデシビル(商品名:ベクルリー点滴静注液100mgなど)・ファビピラビル〔抗体治療〕・回復者血漿・高度免疫グロブリン製剤・モノクローナル抗体〔免疫調整薬・免疫抑制薬〕・デキサメタゾン・バリシチニブ・トシリズマブ・サリルマブ・シクレソニド〔COVID-19に対する他の抗ウイルス薬(今後知見が待たれる薬剤)〕インターフェロン、カモスタット、ナファモスタット、インターフェロンβ、イベルメクチン、フルボキサミン、コルヒチン、ビタミンD、亜鉛、ファモチジン、HCV治療薬(ソフォスブビル、ダクラタスビル)今回の主な改訂点・レムデシビルのRCTを表化して整理・レムデシビルの添付文書改訂のため肝機能・腎機能を「定期的に測定」に変更(抗体治療薬の項目追加)・バリシチニブ+レムデシビルのRCT結果を追加・トシリズマブのREMAP-CAP試験などの結果を追加・シクレソニドの使用非推奨を追加

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第42回 南アの新型コロナウイルス変異株へのワクチン効果が心配されている/変異株はどう発生するのか

南アの新型コロナウイルス変異株へのワクチン効果が心配されている南アフリカ(南ア)で広まる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株は英国で広まる変異株にはない変異があり、英国の専門家はそれらがワクチンの効果を妨げる恐れがあると心配しています1-3)。南アの変異株B.1.351(別称501Y.V2)のスパイクタンパク質の受容体結合領域(RBD)には英国の変異株B.1.1.7と共通するN501Y変異に加えてさらに2つの変異が存在します。南アの変異株に特有のそれら2つの変異の1つE484Kは抗体を寄せ付け難くすることが知られており1)、厄介なことに先立つ感染やワクチン接種で備わった免疫防御をウイルスが回避するのを助けます。E484Kだけで南アの変異株に目下のワクチンが全く歯が立たなくなるとは考え難いが、変異株の発見にはワクチンの効果の心配がつきものであり、南アの変異株へのワクチンの効き具合はまだ想像がつかないとロンドン大学のFrancois Balloux教授は言っています1)。英国の変異株は去年9月にみつかり4)、12月中旬に同国で急速に広まりました。南アの変異株は11月中旬から他のSARS-CoV-2に取って代わって同国で広まっていることが12月18日に発表されました5)。オックスフォード大学の免疫学者で英国のワクチン開発の取り組みへの助言者の1人・John Bell氏は英国の変異株にワクチンは効きそうだが南アの変異株への効果は大変心配(big question mark)で、調査を急いでいると言っています3,6)。南アの変異株のゲノムを調べている同国の大学University of KwaZulu-Natalの感染症専門家Richard Lessells氏はその調査こそ同氏等の最優先課題であるとし、抗体がすでに備わっている人やワクチン接種を経た人の血液の中和抗体活性の検討を始めています7)。中和抗体だけでなく細胞を介した免疫を調べることも有益だろうと米国のウイルス学者Kartik Chandran氏は科学ニュースThe Scientistに述べています3)。T細胞が担うそれらの免疫は中和抗体に比べて変異への対応がより鈍いかもしれません。※幸いなことに、南アと英国の SARS-CoV-2 変異株に共通のN501Y変異はPfizer/BioNTechのワクチンの効果を妨げはしないようです。先週7日にbioRxivに掲載された実験によると、同ワクチンの第III相試験の被験者20人の血清はN501Y変異導入SARS-CoV-2を非変異SARS-CoV-2と同様に中和しました。SARS-CoV-2変異株はどう発生するのか新型コロナウイルス感染(COVID-19)から1ヵ月が過ぎてもその原因ウイルスSARS-CoV-2を排出し続けるがん(リンパ腫)患者がいることを知ったケンブリッジ大学のウイルス研究者Ravindra Gupta氏は治療を助けるために出向いてその男性患者にとりつくSARS-CoV-2の面々の変遷を調べました8,9)。その結果、抗体を効かなくするスパイクタンパク質変異対を備えるSARS-CoV-2一派が回復者血漿投与に伴って優勢になっており、その変異対の片割れΔH69/ΔV70は英国で広まる変異株B.1.1.7にも存在するものでした。男性患者は抗体を作る免疫細胞・B細胞を減らす抗がん剤リツキシマブ治療を受けていて免疫が衰えている免疫弱者であり、抗ウイルス薬Remdesivir(レムデシビル)や回復者血漿投与の甲斐なくCOVID-19診断から101日で亡くなりました。男性にとりついたSARS-CoV-2の面々は2度の一連のレムデシビル治療にも関わらず65日間はほとんど進化的変化(evolutionary change)なしで居着いていました。しかし回復者血漿が投与されるやその組成は一変し、抗体を効かなくする変異対・D796HとΔH69/ΔV70を有するSARS-CoV-2一派があたまをもたげて優勢になり、その変異対はSARS-CoV-2への主な抗体を突き放すウイルスの常套手段の一つであることが判明しました。スパイクタンパク質に8つの変異を携えて英国で広まる変異株B.1.1.7もGupta氏等が見つけた変異対保有一派と同様に免疫弱者が出どころかもしれないと研究者は考えています8)。ΔH69/ΔV70変異を備えて抗体を突っぱねることがSARS-CoV-2の常套手段であることはその変異がB.1.1.7に備わることも物語っています。Scienceのニュースによると8)、レンチウイルスを試しに使ったGupta氏の実験でΔH69/ΔV70変異は感染を捗らせました。B.1.1.7のスパイクタンパク質に備わる別の変異N501Yは南アで広まる変異株B1.351にも存在し、Science誌掲載の研究では細胞受容体ACE2との密着を促すことが示唆されました10)。N501Yのように独立して生き残る変異はウイルスにとって有益である公算が大きいとFred Hutchinson Cancer Research Centerの進化生物学者Jesse Bloom氏は言っています8)。英国の変異株B.1.1.7のスパイクタンパク質に備わるP681H変異もN501Yと同様に注意が必要とみられています。P681Hは細胞侵入に際してのスパイクタンパク質切断部位を変えます。その切断部位は20年近く前の2003年に流行したコロナウイルスSARS-CoV-1とSARS-CoV-2のスパイクタンパク質の不一致領域に位置し、その領域の変化は感染をより広めやすくする恐れがあります10)。参考1)expert reaction to the South African variant / Science Media Centre2)UK scientists worried vaccines may not work on S.African coronavirus variant / Reuters3)South African SARS-CoV-2 Variant Alarms Scientists / TheScientist4)COVID-19 (SARS-CoV-2): information about the new virus variant / GOV.UK 5)SARS-CoV-2 Variants / WHO6)Covid: 'No question' restrictions will be tightened, says Boris Johnson / BBC7)South Africa testing whether vaccines work against variant / AP8)U.K. variant puts spotlight on immunocompromised patients’ role in the COVID-19 pandemic / Science9)Neutralising antibodies drive Spike mediated SARS-CoV-2 evasion. medRxiv. December 19, 202010)Gu H, et al. Science. 2020 Sep 25;369:1603-1607.

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COVID-19入院患者への中和抗体、レムデシビルへの上乗せ効果示せず/NEJM

 レムデシビルの投与を受けている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の入院患者において、中和モノクローナル抗体LY-CoV555(bamlanivimab)の単回投与はプラセボと比較して、5日目までの有効性に差はないことが、デンマーク・コペンハーゲン大学病院のJens D. Lundgren氏らが実施した「ACTIV-3/TICO LY-CoV555試験」で明らかとなった。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2020年12月22日号に掲載された。抗ウイルス薬レムデシビルは、COVID-19入院患者の回復までの期間を短縮することが示されているが、有効な追加治療が早急に求められている。また、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する受動免疫を活用して、感染に対する液性免疫応答を増強することは、COVID-19患者の臨床評価における優先事項とされる。LY-CoV555は、COVID-19外来患者においてウイルス負荷および入院・救急診療部受診の頻度を低減することが知られている。3ヵ国31施設が参加したプラセボ対照無作為化試験 本研究は、COVID-19入院患者の治療における中和モノクローナル抗体と抗ウイルス薬の役割を解明する目的で、米国国立衛生研究所(NIH)によって設立されたACTIV-3/TICO(Therapeutics for Inpatients with COVID-19)プラットフォームに基づく最初の臨床試験であり、31施設(米国23施設、デンマーク7施設、シンガポール1施設)が参加し、2020年8月5日~10月13日の期間に患者登録が行われた(米国Operation Warp Speedなどの助成による)。 対象は、SARS-CoV-2に感染した成人入院患者で、COVID-19による症状発現から12日以内であり、末梢臓器不全(昇圧療法、新規腎代替療法、侵襲的機械換気、体外式膜型人工肺、機械的循環補助)がないこととされた。 被験者は、LY-CoV555(7,000mg)またはプラセボを1時間で静脈内注入する群(単回投与)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。加えて、全例が基礎治療として、レムデシビルと、適応がある場合は酸素補給やグルココルチコイドを含む質の高い支持療法を受けた。 主要アウトカムは90日の期間中における持続的回復(自宅退院し、少なくとも14日間自宅にいることと定義)とし、time-to-event解析で評価された。また、5日目の肺機能に関する7段階の順序尺度(カテゴリー1「症状が最小限またはまったくない状態で、通常の活動を自立的に行うことができる」~カテゴリー7「死亡」)に基づき、無益性(futility)の中間解析が実施された。5日目のカテゴリー1+2達成率:50% vs.54% 2020年10月26日、データ・安全性監視委員会は、314例(LY-CoV555群163例[年齢中央値63歳、女性40%]、プラセボ群151例[59歳、47%])が無作為化され投与を受けた時点で、無益性のため患者登録を中止するよう推奨した。 無作為化前または無作為化の日に、298例(95%)がレムデシビルの投与を開始しており、49%がグルココルチコイドの投与を受けていた。症状発現からの期間中央値は7日(IQR:5~9)だった。 5日目の時点で、肺アウトカムの上位2カテゴリー(カテゴリー1と2)を達成したのは、LY-CoV555群が161例中81例(50%)、プラセボ群は150例中81例(54%)であった。また、5日目までに退院した患者は、それぞれ90例(55%)および85例(56%)であった。7段階のカテゴリーに関して、LY-CoV555群がプラセボ群よりも良好なカテゴリーに属するオッズ比(OR)は0.85(95%信頼区間[CI]:0.56~1.29)であり、両群間に有意な差は認められなかった(p=0.45)。 10月26日の時点における持続的回復(少なくとも28日間追跡されるか、この間に死亡した患者が対象)は、LY-CoV555群が87例中71例(82%)、プラセボ群は81例中64例(79%)で達成された(率比[RR]:1.06、95%CI:0.77~1.47)。また、全患者における退院は、LY-CoV555群が163例中143例(88%)、プラセボ群は151例中136例(90%)で達成された(RR:0.97、95%CI:0.78~1.20)。 安全性の主要アウトカム(死亡、重篤な有害事象、Grade3/4の有害事象の複合)は、5日目の時点でLY-CoV555群が163例中31例(19%)、プラセボ群は151例中21例(14%)で発生した(OR:1.56、95%CI:0.78~3.10、p=0.20)。また、28日目の時点で、安全性主要アウトカムまたは臓器不全、重篤な重複感染症を発症した患者は、それぞれ163例中49例(30%)および151例中37例(25%)(HR:1.25、95%CI:0.81~1.93)であり、10月26日の時点における死亡は9例(6%)および5例(3%)であった(HR:2.00、95%CI:0.67~5.99)。死亡例14例のうち12例はCOVID-19の悪化、2例は心肺停止によるものだった。 著者は、「TICOプラットフォームは、今後も、新規モノクローナル抗体製剤を含め、COVID-19の追加治療の評価を進める予定である」としている。

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新型コロナの医療従事者への感染:院内感染と非院内感染が混在(解説:山口佳寿博氏)-1336

 新型コロナが中国・武漢で発生してから約1年が経過し、手探りで始まった本感染症における臨床所見の把握、診断法、治療法(抗ウイルス薬剤、抗炎症薬/サイトカイン・ストーム抑制薬、ECMOなどの呼吸管理法)、予防法(有効ワクチン)の確立に関し多くの知見が集積されつつある。感染症発生初期には、感染症の本体(感染性、播種性、重症化因子)が十分に把握できず、医療従事者の防御法(PPE:Personal Protective Equipment)も不完全で医療施設内での医療従事者を巻き込んだ感染クラスターの発生など、種々の社会的問題が発生した。これらの諸問題は時間経過と共に沈静化しつつあるが、現在施行されている医療従事者の一般的PPEが本当に正しいかどうかに関する検証はなされていない。もし、医療従事者のPPEが正しいならば、医療従事者の新型コロナ感染率は一般住民のそれと同等であるはずである。この問題に対する確実な答えを見つけておくことは、今後のコロナ感染症の診断/治療に当たるわれわれ医療従事者にとって重要な問題である。医療従事者はコロナ感染症患者に的確に対処すると同時に、1人の一般人として自らを取り巻く家族にも責任を持たなくてはならない。本論評では医療従事者における新型コロナ感染症の感染率、入院率について、現在までに報告された知見を基に考察する。 医療従事者における新型コロナ感染率は、中国・武漢における感染初期(2020年1月1日~2月3日)の院内感染データを基に初めて報告された(Wang D, et al. JAMA. 2020;323:1061-1069. )。感染症発症後間もない時期の疫学データで、PCR確定入院肺炎患者138例のうち57例(41%)が院内感染による肺炎であった。他疾患で入院中の患者における院内感染関連の肺炎発症は17例(12%)、医療従事者のそれは40例(29%)であった。これらの値は非常に高く、感染発症初期段階における院内感染予防策の稚拙さを物語っている。 感染が世界に広がり、PPEの重要性が医療現場に浸透しだした2020年2月12日から4月9日までのデータを基に、米国CDCは、39万5,030例のPCR確定患者のうち医療従事者の感染者数は9,286例(感染率:2.35%)であると報告した(Washington Post, USA Today, 2020年4月9日)。この医療従事者の感染率は新型コロナ発生の最も初期に中国・武漢の医療施設から報告された値の約10分の1であり、医療従事者におけるPPEの厳密度が時間経過に伴い上昇していることを示している。米国CDCの報告で重要な点は、医療従事者の感染者のうち45%は感染経路が不明で、院内感染など感染患者との接触歴を認めなかったことである。すなわち、医療従事者の多くは、医療現場で感染したわけではなく、通勤、買い物、あるいは、家族内など一般人と同じ経路で感染したことを物語っている。 同年4月22日から4月30日に集積されたデータを基に、ベルギーの単一施設におけるIgG抗体に基づく医療従事者の感染率が報告された(Steensels D, et al. JAMA. 2020;324:195-197.)。この報告によると、3,056例の医療従事者のうち197例(6.4%)でN蛋白に対するIgG抗体が陽性であった。ベルギーにおける一般人口のN蛋白IgG抗体陽性率は報告されていないが、欧州各国の一般人口におけるIgG抗体陽性率が人口の5~10%であることを考慮すると、ベルギーにおける医療従事者のIgG抗体陽性率は一般人口のそれとほぼ同等と考えてよい。この解析から得られた興味深い知見は、医療従事者のIgG抗体陽性がコロナ患者との院内接触歴ではなく、感染した家族との接触歴が関連した事実である。この結果も、医療従事者への感染は、一般人と同様に医療現場ではなく家族内感染が重要な役割を果たしていること示している。 同年3月1日から6月6日までに集積されたデータを基に、英国・スコットランド全域における医療従事者(15万8,445人)とその家族(22万9,905人)のコロナ感染による入院率が検討された(Shah ASV, et al. BMJ. 2020;371:m3582.)。医療現場を含めた何らかの仕事に従事する“Working age(18~65歳)”の入院総数は2,097例、そのうち医療従事者は243例(11.6%)、医療従事者の家族は117例(5.6%)であった。以上を医療従事者の仕事内容(患者対面職[patient facing]、患者非対面職[non-patient facing])で層別化すると、患者非対面職の医療従事者とその家族の入院リスクは非医療従事者(一般人)のそれと同等であった。一方、患者対面職医療従事者の入院リスクは患者非対面職医療従事者の3.3倍、患者対面職医療従事者の家族における入院リスクは患者非対面職医療従事者家族の1.8倍であった。救急隊員、集中治療室勤務、呼吸器内科医師/看護師など患者対面職の中で“最前線医療従事者(front door staffs)”と位置付けられる人たちの入院リスクは非最前線医療従事者の2.1倍であった。 以上の報告をまとめると、(1)医療従事者におけるコロナ感染は、医療施設内におけるコロナ患者との接触(院内感染)に起因するもの(~55%)と医療施設内患者接触とは無関係なもの(~45%)が混在する。(2)患者非対面職医療従事者(その家族を含む)のコロナ感染症による入院リスクは非医療従事者(一般人)のそれと同等である。(3)医療施設内での患者接触は、患者対面職医療従事者の入院リスクを有意に上昇させる。(4)同時に、感染した医療従事者からの感染を介してその家族の入院リスクを上昇させる。(5)患者対面職にあって最前線医療従事者の入院リスクは、一般的な患者対面職医療従事者に比べ有意に高い。以上より、一般的PPEは医療施設内での感染予防に貢献しているが、患者対面職の医療従事者、とくに、最前線医療従事者にあっては一般的PPEでは不十分で、さらに厳密なPPEが必要であることが示唆される。

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COVID-19へのシクレソニド、肺炎増悪抑制せず/国立国際医療研究センター

 COVID-19の治療薬候補として期待されているシクレソニドについて、肺炎のない軽症COVID-19患者90例を対象に肺炎の増悪抑制効果および安全性を検討した、全国21施設における多施設共同非盲検ランダム化第II相試験の結果、有効性が示されなかった。2020年12月23日、国立国際医療研究センターが発表した。米国含む海外にて実施されている検証的な臨床試験の結果も踏まえて判断する必要があるが、今回の研究結果からは無症状・軽症のCOVID-19患者に対するシクレソニド吸入剤の投与は推奨できないとしている。 気管支喘息の治療薬である吸入ステロイド薬シクレソニド(商品名:オルベスコ)は、SARS-CoV-2に対する「抗ウイルス活性」が非臨床試験で報告されており、また国内においてCOVID-19患者3例で症状改善を認めたとの報告があることから、国立国際医療研究センターが中心となって有効性および安全性を検討するための臨床試験を厚生労働科学研究として実施した。 肺炎のない軽症COVID-19患者90例をシクレソニド吸入剤投与群と対症療法群にランダム化。主要評価項目は、胸部CT画像による入院8日目以内の肺炎増悪割合、主な副次評価項目は鼻咽頭ぬぐい液のウイルス量の変化量であった。 その結果、肺炎増悪率は、シクレソニド吸入剤投与群41例中16例(39%)、対症療法群48例中9例(19%)であり、リスク差0.20(90%信頼区間:0.05~0.36)、リスク比2.08(同:1.15~3.75)、p=0.057であった。p値は両側有意水準10%を下回り、対症療法群と比べてシクレソニド吸入剤投与群で有意に肺炎増悪が多かった。 本剤は、厚生労働省が公開している「新型コロナウイルス感染症診療の手引き」の第4版では「日本国内で入手できる薬剤の適応外使用」のその他の薬剤例として記載されており、「現在国内において特別臨床研究が実施されているほか、観察研究に関しても実施中」と紹介されている。

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新型コロナ、病床逼迫の診療現場から~呼吸器科医・倉原優氏が緊急寄稿

 各地で新型コロナ感染症の新規感染者数の増加が止まらない。7~8月にかけてのピーク時を超え、間違いなく現状は「第3波」の真っただ中にある。自治体独自の基準により「非常事態」を宣言している大阪府の状況について、CareNet.com連載執筆者の倉原 優氏(近畿中央呼吸器センター呼吸器内科)が緊急寄稿した。大阪府コロナ第3波の現状 大阪府は、現在コロナ第3波の最終局面であると信じたいくらい新規入院患者数が増えている。指定感染症として診療しているので、必然的に病床が逼迫している。政府は12月17日、向こう1年間は現行の指定感染症扱いを継続するという見通しを発表した。医療者の一部にも、「5類感染症に変えるべき」という意見もある。ただ、COVID-19を5類感染症にすることにより、複数の病院で分散して診療されるようになり、追跡されない水面下で感染者が激増するため、医療崩壊への道をたどることになるのではという懸念がある。 大阪府は現状、重症病床以外を軽症中等症病床という枠組みで運用しているが、医療施設によっては、ほぼ軽症しか診なくなっていたり、当院のようにほぼ中等症病床化していたりする施設もある。普段から高齢者を多く診ている施設には、基礎疾患がある寝たきりの症例を担当してもらい、当院のような急性期病院には少し重症寄りの症例を担当してもらおう、という暗黙の住み分けはあるかもしれない。重症化の予測は可能か パンデミック当初から、重症化指標として、フェリチン・CRP・リンパ球数が報告されていた。軽症例が少ない当院では、6~7人に1人が重症化(高流量鼻カニュラ酸素療法[HFNC] or 気管挿管 or 死亡)しているが、後ろ向きにデータを取ると、いろいろなことが見えてきた(2020年11月までの約120人で検討)。 COVID-19患者のリンパ球絶対数は、おおむね1,000/μL前後で、重症化例で際立って低いという印象はない。圧倒的に差があるのがCRPで、非重症化症例の中央値が3.7mg/dL(IQR:1.0~7.6)、重症化症例の中央値は11.0mg/dL(IQR:7.1~15.3)だった(p<0.001)。フェリチンも、非重症化323.1ng/mL(IQR:114.1~840.8)、重症化787.5ng/mL(IQR:699.9~1407.3)と約2倍の開きがある(p=0.002)。これらが高い患者は、中等症病床から重症病床へ転院する可能性が高いと言える。ASTとALTについては、正常上限を10 IU/Lほど上回っていることが多く、その理由として胆管細胞にACE2があるからという説が有力だという。時に150~200 IU/L近くまで上昇しているケースがあり、そういう場合抗ウイルス薬はなかなか使いづらい印象である。また、呼吸器専門施設ということで、当院ではKL-6を多くの症例で測定しているが、非重症例250U/mL(IQR:190.8~337.8)、重症例333.5U/mL(IQR:261.0~554.1)と、重症例でII型肺胞上皮細胞の傷害が強いことがわかる(p=0.04)。 重症化した患者さんは全例、「両肺全葉」に肺炎像があった。含気が1葉か2葉に残っていれば気管挿管は回避できるかもしれないが、全葉が侵されていると換気する肺胞がなく、呼吸不全から気管挿管に至るということである。「入院時の胸部画像検査を見たとき、医師がゾっとするほど陰影が多い」という現象は、もしかしたら重症化の一番のリスク因子かもしれない。治療と気管挿管 抗ウイルス薬については、軽症~中等症Iでファビピラビル、中等症I~重症でレムデシビルを使うことが多いが、発症早期にこれらを投与して効果があるかどうかは、臨床で実感できない。理論的には効果があると信じているが、現状「投与しない」という選択肢はほぼない状況である(投与していない施設もあると聞くが)。 SpO2が低め(94%未満)あるいはすりガラス陰影(GGO)主体のフレッシュなCOVID-19の肺炎には、デキサメタゾンを積極的に使用しているが、それが急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に進展するのを抑制しているのかどうか、これも実感があるとは言い難い。入院時に広範囲にGGOがあるシビアなARDSでは、ステロイドパルス療法を適用して、早い段階で気管挿管に踏み切っている。エアロゾルボックスの使用は、ハードウェアを介した接触感染のリスクがあるため、いまだ議論の余地がある。また、RSI(rapid sequence induction)の技術を持っている医師が院内に常時いるわけではないので、当院では呼吸器センターの強みを生かした気管支鏡を用いた気管挿管を行うことも多い。咳嗽によって術者に飛沫が飛ばないというメリットがあるが、内視鏡なので洗浄が煩雑である。 気管挿管した場合、大阪府では重症病床に転院することになる。大阪府コロナ重症センターが稼働したとはいえ、実運用ベースでの病床使用率は75%を超えているので、転院してから数日後に抜管され、再び中等症病床に戻ってくるというケースが多くなっている。今後、患者数がさらに増えてくれば、中等症病床においても重症患者を診るケースが増えることを覚悟している。【倉原 優氏プロフィール】2006年滋賀医大卒。洛和会音羽病院を経て、08年より現職。CareNet.comでは、「Dr. 倉原の“おどろき”医学論文」「Dr.倉原の“俺の本棚”」連載掲載中。

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第35回 メディアも市民も「新型コロナに有効」研究の餌食に過ぎない?

「またか」と思わずため息が出てしまった。お茶が新型コロナウイルスに有効という、この記事のことだ。まあ、読めばすぐわかるが、試験管内、in vitroの話である。一応、発表した奈良県立医科大学側のリリースによると、3種類のお茶とコントロールの生理食塩水を、一定のウイルス感染価を有する新型コロナウイルス溶液と1:1で混合して静置し、1分後、10分後、30分後にそれぞれの溶液を培養細胞に接種してウイルス感染価を測定したというもの。確かにリリースを見ると、うち1種類のお茶では1分後の時点でウイルス感染価を計算すると99.625%も低下している。これ自体は事実なのだろう。だが、今発信すべき情報なのかという点では大いに疑問がある。こう書くと、「それはメディアが不勉強だから」と言われるのは分かっている。だが、もしそれを前提にするならば、不勉強な相手への発表なのだから、発信する側もそのやり方次第で責任を問われるべきものなのではないかと従来から考えている。実際、日常的に一般紙ではこの手のin vitroの研究やマウス、ラットレベルのin vivoの研究結果を、言い方は悪いが「誇大広告」のごとくに報じているのをよく見かける。これがどのような経緯で生み出されているかの構造は、実はかなり単純である。端的に言えば、ネタが欲しくて仕方がない記者と世間に少しでも成果をアピールしたい研究者・大学の利害が一致した結果だ。ただ、大手紙と地方紙、大都市圏と地方都市などの環境によって利害状況はやや異なる。大手紙の科学部記者などはin vitro、in vivoの研究に無条件に飛びつくことは少ない。だが、専門性のない社会部記者などは科学部記者よりも「読者にインパクトを与える見出しが立つようなネタかどうか?」に、より軸足が置かれる。また、大手紙地方支局や地方紙の場合、大手紙の科学部レベルの専門性がある記者がいないことも多いうえに、日常的に地元大学の研究者や広報部門と面識があれば、半分お付き合いも兼ねて大学発表の記事化に前向きになりがちである。ちなみにこの手の記事は一般的に年度末が近くなると増える傾向がある。新たな予算獲得や既に獲得した予算の成果を大学や研究者も外部にアピールしたいからだ。今回の記事に前述のような事情があるかどうかは定かではない。だが、この記事が出てきた背景により考えを巡らせるなら、さらに2つのファクターが考えられる。まず、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは既に1年近く社会機能をマヒさせ、決定打となる対処法は今のところない。ワクチンはようやくイギリスで緊急承認になったが、全世界に供給されるまでにはまだ時間を要する。感染時に使用できる承認薬は日本国内では抗ウイルス薬のレムデシビルと抗炎症薬のデキサメタゾンのみでいずれも「帯に短し、たすきに長し」である。結局のところAI実用化の現代なのに、今現在できる対策は3密回避、手洗い励行、屋内でのマスク着用という、まるでインテリジェントビルの中で暖を取るのに火打ち石で火を起こして焚火をしているかのごとくである(別に3密対策、手洗い励行、屋内でのマスク着用を馬鹿にしているわけではない)。記者とて医療者とて、この打つ手のなしの状況に何らかの光明を見いだしたい気持ちは同じだろう。そこに今回のお茶のニュースはピタッとはまってしまう。しかも、社会を混乱に陥れているCOVID-19に対抗する「武器」が誰もが身近で手にできるお茶なのだから、不特定多数に発信するメディアにとっても読者にとっても好都合である。やや余談になるが、がんの診療にかかわった経験がある医療従事者の方は、「がんに効く」とのキャッチフレーズにひかれて特定の食品や料理や健康食品にはまるがん患者に遭遇した経験があるだろう。実際、Amazonなどで一般向けのがんに関する書籍の売れ筋ランキングを見ると、上位にはかなりの頻度で「○○を食べたらがんが消えた」という類の本が登場する。特定の食品で発症したがんを治療できないことは医療従事者ならば誰もが承知のこと。しかし、がんに対する三大治療といわれる手術、放射線、抗がん剤はいずれも患者の手の届かないところにある。結局、今現状を何とかしたいと思うがん患者に手が届く対策が食事であり、そこに走ってしまうのはある意味やむを得ないこととも言える。つまり大学・研究者、メディア、一般人の鉄のトライアングルともいえる利害の一致が今回のお茶の記事を生み出していると言える。だが、この中で試験管内での現象がヒトの体内でどれだけ再現できるか、あるいはそれをヒトでより端的に効果を証明するための手法が何かを知っているのは誰だろう? それは間違いなく大学・研究者であるはずだ。だからこそまだまだヒトでの効果を期待するのは程遠い今回のファクトを発表した大学・研究者には疑問どころか軽い怒りさえ覚える。ちなみに9月に柿渋が新型コロナウイルスに有効という情報が一部メディアで流れたことがあるが、これも今回のお茶と同じ奈良県立医科大学で研究者も同じである。ちなみに大学のHPにはその後、柿渋に関して共同研究先を募集する告知が行われている。はっきり言うが、要はメディアもその読者も大学や研究者のアピール、共同研究先開拓の片棒を担がされたに過ぎない。しかも今回のケースでは特定の施設・研究者が繰り返し行っている。この手の一瞬は夢を与える耳障りのいいと情報を連発し、いつの間にか雲散霧消で実用化せずということを繰り返すことは、医学に対する不信感も醸成しかねないと敢えて言っておきたい。

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新型コロナ、感染6ヵ月後も抗ウイルス抗体・中和抗体を保有/横浜市立大

 『新型コロナウイルス感染症回復患者専用抗体検査PROJECT』を立ち上げていた横浜市立大学の山中 竹春氏率いる研究グループは、12月2日に行った「新型コロナウイルス感染6ヵ月後における抗ウイルス抗体保有および中和抗体保有調査に関する中間報告」の記者会見で、感染症回復者のほとんどが6ヵ月後も抗ウイルス抗体および中和抗体を保有していることを明らかにした。 日本初の国内最大規模の回復者データに基づく本研究は、COVID-19回復者の一定期間後の追跡調査として『コロナ回復者専用抗体検査PROJECT』で参加者を募集。8~9月に617名の参加希望者が集まり、そのうち10月26日までに採血して検体測定を完了した376例のデータを解析した。今回の中間報告では、抗体保有率のほか、COVID-19回復者のうち酸素投与を要した中等症・重症例のほうが軽症例よりも中和活性が高い傾向であることも示唆された。 これまでの海外の報告では「中和抗体の活性が検出限界以下、もしくは非常に低い感染者がいる」「抗ウイルス抗体が早期に消失する」などと言われているが、今回の結果によれば、感染から中長期後の回復者の体内に中和抗体が確認されれば、そうでない場合に比べて再感染する可能性は低くなる。今後、回復者の1年後の状態が調査されるほか、厚生労働省主導の抗体保有率疫学調査が12月19日から東京都、大阪府、愛知県、福岡県の各3,000人を対象に実施されることから、これらの調査結果の報告が待たれる。

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第35回 母乳保育は子にCOVID-19防御免疫を授けうる

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染(COVID-19)後の出産女性の大半の母乳にはSARS-CoV-2への抗体反応が備わっており1)、それらの女性の母乳保育は子に抗ウイルス免疫を授けうると示唆されました。ニューヨーク市のマウントサイナイ医科大学(Icahn School of Medicine at Mount Sinai)の免疫学者Rebecca Powell氏等はPCR検査でSARS-CoV-2が検出された8人と検査はされなかったけれども感染者との濃厚接触などがあって恐らく感染した7人の感染期間終了から数週間後の母乳を集めてSARS-CoV-2への抗体を調べました。その結果15人全員の母乳にSARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質に反応する抗体が認められました。また、15人中12人(80%)の母乳には細胞感染阻止(neutralization)に重要なSタンパク質抗原決定基・受容体結合領域(RBD)への結合抗体も認められました。目下のCOVID-19流行の最中(2月30日~4月3日)に41人の女性からCOVID-19経験の有無を問わず集めた母乳を解析した別の試験2)でもSタンパク質反応抗体がほとんどの女性から検出されています。それらの女性のSARS-CoV-2感染の有無の記録はなく、SARS-CoV-2に反応する抗体の出処は不明ですが、SARS-CoV-2以外のウイルスの貢献が大きいようです。Sタンパク質に反応するIgG抗体レベルは先立つ1年間に呼吸器ウイルス感染症を経た女性の方がそうでない女性に比べて高く、SARS-CoV-2へのIgAやIgM抗体の反応はSタンパク質に限ったものではなさそうでした。2018年に採取された母乳でもSARS-CoV-2タンパク質へのIgAやIgM抗体反応が認められ、目下のCOVID-19流行中に採取された母乳と差はなく、どうやらSARS-CoV-2以外のウイルスに接したことがSARS-CoV-2にも反応する抗体を生み出したようです。母乳中に分泌される抗体はSARS-CoV-2への抵抗力を含む幅広い免疫を授乳を介して子に授けうると研究チームの主力免疫学者Veronique Demers-Mathieu氏は言っています3)。この8月にJAMA誌オンライン版に掲載された試験でCOVID-19感染女性の母乳から生きているウイルスは検出されておらず4)、今回の結果も含めると、女性はCOVID-19流行のさなかにあっても少なくとも安心して母乳保育を続けることができそうです。もっと言うなら母乳保育は子にCOVID-19疾患の防御免疫を授ける役割も担うかもしれません。マウントサイナイ医科大学のPowell氏等は次の課題として母乳中の抗体がSARS-CoV-2の細胞感染を阻止しうるかどうかを調べます。また、母乳中のSARS-CoV-2反応抗体はCOVID-19疾患を予防する経口の抗体薬となりうる可能性を秘めており2)、Powell氏等のチームはCOVID-19を食い止める抗体を母乳から集める取り組みをバイオテック企業Lactigaと組んで進めています3)。参考1)Fox A, et al. iScience. 2020 Nov 20;23:101735.2)Demers-Mathieu V, et al. J Perinatol. 2020 Sep 1:1-10c3)Breastmilk Harbors Antibodies to SARS-CoV-2/TheScentist4)Chambers C, et al. JAMA. 2020 Oct 6;324:1347-1348.

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COVID-19、エクソソームによる予防と治療の可能性/日本癌治療学会

 10月に行われた第58回日本癌治療学会学術集会において、医療のさまざまな場面で活用されることが急増するリキッドバイオプシーの現状について、「目を見張る進歩をきたしたリキッドバイオプシー」とのテーマでシンポジウムが行われた。この中で東京医科大学の落谷 孝広氏(分子細胞治療研究部門)は「エクソソームによる新型コロナウイルス感染症の予防と治療」と題し、発表を行った。エクソソームがCOVID-19重症化の予測因子として使える可能性 エクソソームとは、細胞から分泌される直径50~150nm程度の物質で、表面には細胞膜由来の脂質やタンパク質、内部には核酸(マイクロRNA、メッセンジャーRNA、DNAなど)やタンパク質など細胞内の物質を含み、細胞間の情報伝達の役割を担うとされる。近年の研究においては、がん細胞由来のエクソソームが、がんの転移に深く関わることも明らかになっている。 落谷氏は、がん領域を中心に、エクソソームに関する研究が数多く行われている状況を紹介。膀胱がんにおける早期発見と再発検出、前立腺がんにおける診断マーカーや骨転移の診断、乳がんにおける早期発見や薬剤の副反応や予後予測などに使った研究などを紹介した。落谷氏は「がんの早期発見、層別化、個別科医療の実現と、エクソソームはがん治療のあらゆるフェーズで使える可能性を持っている」と述べつつも、現状は研究上での成果が出た段階であり、「健康診断や臨床の現場で使われ、がんの死亡率を下げ、医療費削減に貢献することが最終目標。そのためには今後の大規模治験が欠かせない」と強調した。 続けてエクソソームを介した情報伝達のシステムはすべての細胞・生物に共通するものだとし、COVID-19のウイルス(SARS-CoV-2)とエクソソームは非常に形状が似通っており、大きさも同等であると指摘。特定のエクソソームのクラスターがCOVID-19重症化の予測因子として使える可能性がある、という研究結果を紹介した。エクソソームやRNAを補充あるいは除去することがCOVID-19治療につながる 落谷氏らの研究チームは、PCR検査でCOVID-19陽性と判定され、入院となった軽症患者31例と健常者10例を対象とし、エクソソームのタンパク質と血液中RNAの2種類に関して網羅的な解析を行い、その後重症化した9例において高値となった複数のRNAを同定した。 軽症のままだった患者は、陽性判明時点で抗ウイルス応答関連のエクソソームタンパク質が高発現していた。重症化した患者はそれがない一方で、凝固関連エクソソームタンパク質およびRNAと肝障害関連RNAが高発現していた(抗ウイルス応答関連エクソソームタンパク質COPB2の重症化予測因子としてのAUC=1.0、感度・特異度共に100%)。 落谷氏は、「新型コロナウイルス感染症の重症化の特効薬は存在しない現状では、陽性判定時に重症化リスクによって層別化し、ハイリスク群を徹底管理することが重要。軽症者は早期退院・自宅療養として医療崩壊を食い止めるとともに、経済への影響も最小限にできるはず」とする。 現在、この研究結果をもとに別の患者集団による検証解析が行われているが、今回同定された分子のいくつかはSARS-CoV-2の治療標的分子や病態との関連が報告されており、単なる血液バイオマーカーとしてだけでなくCOVID-19の重症化メカニズムに関与している可能性が示唆される。このエクソソームやRNAを補充あるいは除去することが新たなCOVID-19治療法の開発につながることも期待されている。関連サイト【プレスリリース】東京医科大学医学総合研究所の落谷孝広教授が参画する研究チームが、リキッドバイオプシーを用いたCOVID-19における重症化予測因子の同定/東京医科大学

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ロピナビル/リトナビル合剤が新型コロナに対して無効であった理由は?(解説:山口佳寿博氏)-1308

 新型コロナ感染症が中国・武漢において発生してから10ヵ月が経過した。この10ヵ月の間、感染症の分子生物学的/生理学的病態解明が進み、治療法に関しても抗ウイルス薬、ウイルス誘発免疫過剰状態(血栓過形成を含む)に対する多数の薬物に関する治験、ウイルスに対する不活化ワクチン、遺伝子工学的ワクチンの製造が驚くべきスピードで進行している。それらの結果として、新型コロナ感染症に対する有効な治療方針が整理されつつあり、同一施設における入院死亡率はパンデミック初期に比べ明らかに低下している(Horwitz L, et al. medRxiv. doi.org/10.1101/2020.08.11.20172775.)。初期治療に重要な抗ウイルス薬に関しては、種々の薬物が“篩(ふるい)”にかけられ、RNA-dependent RNA polymerase(RdRp)阻害薬であるレムデシビル(商品名:ベクルリー、Beigel JH, et al. N Engl J Med. 2020 Oct 8. [Epub ahead of print] , Wang Y, et al. Lancet. 2020;395:1569-1578.)ならびにファビピラビル(商品名:アビガン、Ivashchenko AA, et al. Clin Infect Dis. 2020 Aug 9. [Epub ahead of print], Cai Q, et al. Engineering (Beijing). 2020 Mar 18. [Epub ahead of print], 富士フイルム富山化学 9月23日付 News Release)が一定の効果を有することが確認された。一方、RdRpより上位で作用するウイルス―宿主細胞膜融合阻害薬であるクロロキン/ヒドロキシクロロキンならびに3-chymotrypsin protease阻害薬(Protease inhibitor)であるロピナビル/リトナビル(商品名:カレトラ、以下L/R合剤)の効果は確認されなかった。本論評においてはL/R合剤に焦点を合わせ、この薬物が臨床的効果を発揮できなかった理由について考察する。 抗ウイルス薬に関するメタ解析では、L/R合剤が新型コロナ患者の入院日数を短縮する可能性が示唆された(Siemieniuk RA, et al. BMJ. 2020;370:m2980.)。しかしながら、中国ならびに英国で施行された信憑性の高いRCTではL/R合剤の臨床的に意義のある有効性は確認されなかった(中国・LOTUS Study[Cao B, et al. N Engl J Med. 2020;382: 1787-1799.]対照群:100例、L/R群:99例、英国・RECOVERY Trial[RECOVERY Collaborative Group. Lancet. 2020 Oct 5. [Epub ahead of print]]対照群:3,424例、L/R群:1,616例)。 L/R合剤は、HIV-1(コロナと同様に1本鎖RNAウイルス)に対するキードラッグの1つとして、本邦では2000年12月に厚労省の薬事承認を受けたProtease inhibitorである。リトナビルは肝臓の薬物代謝酵素であるCYP3A4の活性を競合的に阻害しロピナビルの血中濃度を維持する。しかしながら、ロピナビルの95%以上は血漿タンパクと結合・不活化されるため、ロピナビルの生体内薬物活性はリトナビル共存下においても高く維持することは難しい。コロナウイルスが感染源である2002年のSARS、2012年のMERSが発生した時には、in vitroの検討でL/R合剤がSARS、MERSウイルスに対して感受性を有する可能性が示唆された。この時の検討結果(in vitro)では、ウイルス感染を50%抑制するL/R合剤の有効血中濃度(EC50)はSARSで17.1 μmol/L、MERSで6.6 μmol/Lであると報告された(日本小児科学会)。HIV-1を抑制するL/R合剤の血中濃度が7.2~12.1 μmol/Lであることを考慮すると(Lopez-Cortes LF, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2013;57:3746-3751.)、通常量のL/R合剤投与でMERSは抑制される可能性があるもののSARSの抑制は難しい。新型コロナに対するL/R合剤のin vitro EC50は26.1 μmol/Lであり(Choy KT, et al. Antiviral Res. 2020;178:104786.)、HIV-1を抑制する通常量のL/R合剤投与では到底到達できない濃度であることが理解できる。L/R合剤の投与量を増加すれば臨床的有効性が認められる可能性があるが、その場合には、生命を脅かす重篤な有害事象の発生が予想され臨床の現場で施行すべきものではない。以上のように、生体にとって安全な投与量が低く制限されていることがL/R合剤によって新型コロナ感染症を制御できなかった理由であり、L/R合剤が新型コロナウイルスに対して薬理学的にまったく無効であることを意味するものではない。  結論として、現状のL/R合剤を用いたこれ以上の臨床治験は無意味である。今後HIV-1をターゲットとしたProtease inhibitorを用いて新型コロナに対する臨床治験を実施するならば、近年新たに開発されたダルナビル製剤(商品名:プリジスタ、シムツーザ)などの新型コロナに対するEC50の測定を含めたin vitroの検討とその基礎的/薬理学的結果を踏まえた臨床治験を計画すべきである。

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新型コロナ後遺症、4ヵ月後も続く例や遅発性の脱毛例も/国際医療研究センター

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を巡っては、回復後もなお続くさまざまな症状が報告され、後遺症に着目した研究が進んでいる。今回、国立国際医療研究センターがCOVID-19回復者を追跡調査したところ、発症から120日超の時点でも依然続く呼吸苦や倦怠感、咳などを訴えたり、数ヵ月後になって脱毛を経験したりした人がいたことがわかった。研究グループは、COVID-19回復者の一部で見られる持続症状および遅発性症状に関するリスク因子の特定には、さらなる研究が必要だとしている。この研究をまとめた論文は、Open Forum Infectious Diseases誌2020年10月21日号に掲載された。 本研究では、センターにCOVID-19で入院し、2020年2~6月に退院した人に対し、7月30日~8月13日に電話による聞き取り調査を実施。回復後の持続症状および遅発性症状の有無、自覚症状やその期間について尋ねた。 主な結果は以下のとおり。・本研究において追跡調査対象となったのは78例。このうち、退院後死亡の2例と認知症などにより聞き取りができなかった13例を除く63例について調査を実施した。・21例(33.3%)は女性で、平均年齢は48.1歳(標準偏差[SD]:18.5)、BMIの平均は23.7(SD:4.0)、56例(88.9%)が日本人、3例(4.8%)が中国人、バングラデシュ、ベトナム、米国、フランスが1例ずつ(各1.6%)であった。・入院時に、47例(74.6%)が肺炎症状を有し、17例(27.0%)が酸素療法、5例(7.9%)が機械的換気を必要とし、29例(46%)が抗ウイルス薬を服用した。・発症から60日時点で、咳(5例、7.9%)、倦怠感(10例、15.9%)、呼吸苦(11例、17.5%)、味覚異常(3例、4.8%、不明1)、嗅覚異常(10例、16.1%、不明1)といった症状を訴えていた。・発症から120日時点では、咳(4例、6.3%)、倦怠感(6例、9.5%)、呼吸苦(7例、11.1%)、味覚異常(1例、1.7%、不明1)、嗅覚異常(6例、9.7%、不明1)といった症状を訴えていた。・58例(対象者から不明5例を除く)のうち14例(24.1%)が脱毛を報告した。うち5例が女性で、4例が男性だった。・COVID-19発症から脱毛症が出現するまでの期間は58.6日(SD:37.2)だった。・14例中5例で脱毛症は解消し、有症期間は平均76.4日(SD:40.5)だった。9例は調査時にも症状が続いており、有症期間は平均47.8日(SD:32.2)だった。

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第30回 経口液剤AMX0035でALS患者の生存も改善

世界保健機関(WHO)主催の世界30ヵ国以上での無作為化試験(Solidarity)の査読前報告が先週木曜日15日にmedRxivに掲載され1,2)、残念ながらギリアド社のベクルリー(Remdesivir、レムデシビル)やその他3つの抗ウイルス薬・ヒドロキシクロロキン、カレトラ(lopinavir/ritonavir)、インターフェロン(Interferon-β1a)はどれもCOVID-19入院患者の死亡を減らしませんでした。たとえばレムデシビル投与群の28日間の死亡率は非投与対照群の11.2%(303/2,708人)とほとんど同じ11%(301/2,743人)であり1,3)、その差は有意ではありませんでした(p=0.50)。そんなSolidarity試験とは対照的に、その発表の翌16日、脳や脊髄の運動神経が死ぬことで生じる難病・筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬候補の良いニュースがありました4-6)。先月9月初めにNEJM誌に掲載されたプラセボ対照第II相試験(CENTAUR)でALS進行を有意に抑制した神経死抑制剤AMX0035がその試験と一続きの非盲検継続(OLE)試験で今度は有意な生存延長をもたらしたのです。米国マサチューセッツ州ケンブリッジ拠点のAmylyx社が開発しているAMX0035は昔からある成分2つが溶けた経口の液剤です。成分の1つはヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害薬・フェニル酪酸ナトリウム(sodium phenylbutyrate)、もう1つは胆汁酸・タウルソジオール(Taurursodiol)です7)。今回発表されたOLE試験に先立つCENTAUR試験にはALS患者137人が参加し、それらのうち3人に1人はプラセボ、あとの3人に2人はAMX0035を6ヵ月間服用しました。NEJM誌報告によると6ヵ月間のAMX0035服用群の体の不自由さの進行はプラセボに比べてよりゆっくりでした7)。また、AMX0035服用は腕の筋力低下も抑制しました。今回のOLE試験にはCENTAUR試験から継続して90人が参加し、全員がAMX0035を服用し、CENTAUR試験の始まりから数えて最大約3年間(35ヵ月間)追跡されました。その結果、生存期間中央値はAMX0035を最初から服用し続けた患者(56人)では25ヵ月、当初プラセボを服用した患者では18.5ヵ月であり(p=0.023)、最初からのAMX0035服用患者は当初プラセボを服用した患者に比べて有意に半年以上(6.5ヵ月)生存が延長されました8)。細胞内小器官・小胞体(ER)へのストレスや機能障害、それにミトコンドリアの機能や構造の欠損がALSの発病要因と目されており、AMX0035に含まれるフェニル酪酸ナトリウムはERがストレスを受けて誘発する毒性を緩和し、もう1つの成分タウルソジオールはミトコンドリアを助けて細胞を死に難くします7)。米国ワシントン D.C.の隣街アーリントンを本拠とするALS患者の会・ALS Association等はAMX0035をALS患者ができるだけ早く使えるようにする請願活動を先月初めに開始しており、16日のニュースによると5万人近く(4万7,000人以上)が請願に署名しています4)。参考1)Repurposed antiviral drugs for COVID-19; interim WHO SOLIDARITY trial results. medRxiv. October 15, 2020.2)Solidarity Therapeutics Trial produces conclusive evidence on the effectiveness of repurposed drugs for COVID-19 in record time / WHO 3)Remdesivir and interferon fall flat in WHO’s megastudy of COVID-19 treatments / Science4)AMX0035 Survivability Data Adds to Urgency to Make Drug Available / ALS Association5)Amylyx Pharmaceuticals Announces Publication of CENTAUR Survival Data Demonstrating Statistically Significant Survival Benefit of AMX0035 for People with ALS / BUSINESS WIRE6)Investigational ALS drug prolongs patient survival in clinical trial / Eurekalert7)Paganoni S,et al. N Engl J Med. 2020 Sep 3;383:919-930.8)Paganoni S,et al. Muscle & Nerve. 16 October 2020. [Epub ahead of print]

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レムデシビル、COVID-19入院患者の回復期間を5日以上短縮/NEJM

 米国・国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)のJohn H. Beigel氏らは、「ACTT-1試験」において、レムデシビルはプラセボに比べ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者の回復までの期間を有意に短縮することを示し、NEJM誌オンライン版2020年10月8日号で報告した(10月9日に更新)。COVID-19の治療では、いくつかの既存の薬剤の評価が行われているが、有効性が確認された抗ウイルス薬はないという。10ヵ国1,062例のプラセボ対照無作為化試験 研究グループは、COVID-19入院患者の治療におけるレムデシビルの臨床的な安全性と有効性を評価する目的で、日本を含む10ヵ国が参加した二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験を行った(米国NIAIDなどの助成による)。 2020年2月21~4月19日の期間に、COVID-19感染が確定され、下気道感染症の証拠がある成人の入院患者1,062例が登録され、レムデシビル(541例)またはプラセボ(521例)を投与する群に無作為に割り付けられた。レムデシビルは、1日目に負荷投与量200mgを静脈内投与され、2日目から10日目または退院か死亡まで維持投与量として100mgを1日1回投与された。 主要アウトカムは、登録から28日以内における回復までの期間とした。回復は、退院または入院の理由が感染管理のみ、あるいはその他の非医学的事由の場合と定義された。回復までの期間中央値:10日vs.15日 全体の患者の平均年齢は58.9±15.0歳で、64.4%が男性であった。79.8%が北米、15.3%が欧州、4.9%がアジアの患者であった。登録時に、ほとんどの患者が1つ(25.9%)または2つ以上(54.5%)の併存疾患を有しており、高血圧が50.2%と最も多く、肥満が44.8%、2型糖尿病が30.3%であった。症状発現から無作為割り付けまでの期間中央値は9日(IQR:6~12)で、957例(90.1%)が重症COVID-19感染患者だった。 回復までの期間中央値は、レムデシビル群が10日(95%信頼区間[CI]:9~11)、プラセボ群は15日(13~18)であり、レムデシビル群で有意に短かった(回復の率比:1.29、1.12~1.49、log-rank検定のp<0.001)。重症例における回復までの期間中央値は、レムデシビル群が11日、プラセボ群は18日であった(1.31、1.12~1.52)。また、ベースライン時に機械的換気または体外式膜型人工肺(ECMO)を導入されていた患者の回復の率比は0.98(0.70~1.36)だった。 8つのカテゴリーから成る順序尺度による比例オッズモデルを用いた解析では、15日の時点で臨床的改善が達成される確率は、レムデシビル群がプラセボ群よりも高かった(実際の疾患重症度で補正後のオッズ比[OR]:1.5、95%CI:1.2~1.9)。 Kaplan-Meier法による推定死亡率は、15日時がレムデシビル群6.7%、プラセボ群11.9%(ハザード比[HR]:0.55、95%CI:0.36~0.83)、29日時はそれぞれ11.4%および15.2%(0.73、0.52~1.03)であった。 重篤な有害事象は、レムデシビル群が532例中131例(24.6%)、プラセボ群は516例中163例(31.6%)で報告された。治療関連死は認められなかった。全体で頻度の高い非重篤な有害事象として、糸球体濾過量低下、ヘモグロビン低下、リンパ球数低下、呼吸不全、貧血などがみられ、発生率は両群でほぼ同等であった。 著者は、「米国食品医薬品局(FDA)は、レムデシビルの初期結果を考慮して、2020年5月1日、COVID-19感染が疑われる、または確定した成人および小児の入院患者において、レムデシビルの緊急時使用許可(EUA)を発出(8月28日に修正)したが、レムデシビルを使用しても死亡率は高いことから、抗ウイルス薬単独では十分な効果は得られないと考えられる」と指摘し、「患者アウトカムを改善するには、さまざまな薬剤との併用療法が必要であり、現在、レムデシビルと免疫調節薬(例:JAK阻害薬バリシチニブ[ACTT-2試験]、インターフェロンβ-1a[ACTT-3試験])との併用が検討されている」としている。

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Dr.水谷の妊娠・授乳中の処方コンサルト

第1回 【妊娠中】解熱鎮痛薬・抗菌薬・抗インフルエンザ薬第2回 【妊娠中】抗てんかん薬・抗うつ薬・麻酔薬第3回 【妊娠中】β刺激薬・チアマゾール・レボチロキシン第4回 【妊娠中】経口血糖降下薬・ワルファリン・制酸薬第5回 【妊娠中】抗リウマチ薬・抗アレルギー薬・タクロリムス外用薬第6回 【妊娠中】漢方薬・CT,MRI検査・悪性疾患の治療方針第7回 【授乳中】解熱鎮痛薬・抗菌薬・抗ウイルス薬第8回 【授乳中】抗てんかん薬・向精神薬・全身麻酔第9回 【授乳中】胃腸薬・降圧薬・抗アレルギー薬第10回 【授乳中】ステロイド・乳腺炎への対処・造影検査後の授乳再開 臨床では妊娠中・授乳中であっても薬が必要な場面は多いもの。ですが、薬剤の添付文書を見ると妊婦や授乳婦への処方は禁忌や注意ばかり。必要な治療を行うために、何なら使ってもいいのでしょうか?臨床医アンケートで集めた実際の症例をベースとした30のQ&Aで、妊娠中・授乳中の処方の疑問を解決します。産科医・総合診療医の水谷先生が、実臨床で使える、薬剤選択の基準の考え方、そして実際の処方案を提示します。第1回 【妊娠中】解熱鎮痛薬・抗菌薬・抗インフルエンザ薬臨床医アンケートで集めた妊婦・授乳婦への処方の疑問を症例ベースで解説・解決していきます。初回は、妊娠中の解熱鎮痛薬、抗菌薬、抗インフルエンザ薬の選択についてです。明日から使える内容をぜひチェックしてください。第2回 【妊娠中】抗てんかん薬・抗うつ薬・麻酔薬妊娠を機に服薬を自己中断してしまう患者は少なくありません。そして症状の悪化とともに受診することはよくあります。今回は抗てんかん薬、抗うつ薬の自己中断症例から妊娠中の薬剤選択について解説します。緊急手術時に必須の麻酔薬の処方についても必見です。第3回 【妊娠中】β刺激薬・チアマゾール・レボチロキシン喘息は妊娠によって症状の軽快・不変・増悪いずれの経過もとりえます。悪化した場合にβ刺激薬やステロイド吸入など一般的な処方が可能のか?甲状腺関連の疾患では妊娠の希望に応じて、バセドウ病患者はチアマゾールを継続していいのか?橋本病ではレボチロキシンを変更すべきなのか?といった実臨床で遭遇する疑問を解決します。第4回 【妊娠中】経口血糖降下薬・ワルファリン・制酸薬今回のクエスチョンは弁置換術既往の妊婦の抗凝固薬選択。ワルファリンからヘパリンへの変更は適切なのでしょうか?降圧薬の選択では妊娠週数に応じて使用可能な薬剤が変わる点を必ず押さえましょう!そのほか、妊娠中の内視鏡検査の可否とその判断、2型糖尿病の薬剤選択についても取り上げます。2型糖尿病管理は、薬剤選択とともに血糖管理目標についてもチェックしてください。第5回 【妊娠中】抗リウマチ薬・抗アレルギー薬・タクロリムス外用薬膠原病があっても妊娠を継続するにはどのような薬剤選択が必要なのでしょうか?メトトレキサートや抗リウマチ薬の処方変更について解説します。花粉症症状に対する抗アレルギー薬処方、アトピー性皮膚炎へのタクロリムス外用薬の継続可否など、臨床で頻用される薬剤についての解説もお見逃しなく。第6回 【妊娠中】漢方薬・CT,MRI検査・悪性疾患の治療方針妊娠中に漢方薬を希望する患者は多いですが、どういうときに漢方薬を使用すべきなのでしょうか?上気道炎事例を入り口に、妊婦のよくある症状に対する漢方薬の処方について解説します。CTやMRIの適応判断に必要な放射線量や妊娠週数に応じたリスクを押さえ、がん治療については永久不妊リスクのある治療をチェックしておきましょう。第7回 【授乳中】解熱鎮痛薬・抗菌薬・抗ウイルス薬今回から授乳中の処方に関する質問を取り上げます。授乳中処方のポイントはRID(相対的乳児投与量)とM/P比(母乳/母体濃度比)。この2つの概念を理解して乳児への影響を適切に検討できるようになりましょう。今回取り上げるのは、解熱鎮痛薬、抗菌薬、抗インフルエンザ薬といった日常診療に必要不可欠な薬剤。インフルエンザについては、推奨される薬剤はもちろん、家庭内での感染予防に対する考え方なども必見です。第8回 【授乳中】抗てんかん薬・向精神薬・全身麻酔ほとんどの母親は服薬中も授乳継続を希望します。多くの薬剤は添付文書上で授乳中止が推奨されていますが、実は授乳を中断しなくてはならないケースはあまり多くありません。育児疲労が増悪因子になりやすい、てんかんや精神疾患について取り上げ、こうした場合の対応を解説します。治療と母乳育児を継続するための、薬剤以外のサポートについても押さえておきましょう。第9回 【授乳中】胃腸薬・降圧薬・抗アレルギー薬授乳中の処方で気を付けるべきは、薬剤の児への移行だけではありません。見落としがちなのが、乳汁分泌の促進・抑制をする薬剤があるということ。症例ベースのQ&Aで、胃腸薬、降圧薬、抗アレルギー薬など日ごろよく処方する薬の注意点を解説していきます。OTC薬で気を付けるべき薬剤やピロリ菌除菌の可否なども押さえておきましょう。第10回 【授乳中】ステロイド・乳腺炎への対処・造影検査後の授乳再開ステロイド全身投与で議論になるのは児の副腎抑制と授乳間隔。どちらも闇雲に恐れる必要はありません。乳腺炎については、投与可能な薬剤だけでなく再発を予防するための知識を押さえておきましょう。造影剤使用後の授乳再開については日米での見解の違いを臨床に活かすための知識を伝授します。

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10月からロタワクチン定期接種化、知っておくべきことは?

 10月1日より、ロタウイルス胃腸炎のワクチンが定期接種となった。これに先立ってMSDが主催したプレスセミナーにおいて、日本大学の森岡 一朗氏(小児科学系小児科学分野)が疾患の特性やワクチン接種時の注意点について解説した。 ロタウイルス胃腸炎は冬の終わりから春にかけて流行する急性疾患で、下痢、嘔吐、発熱などの症状を引き起こす。ロタウイルスワクチンが導入される前は、国内で毎年約80万人が罹患し、7~8万人が入院し1)、数名が死亡していた。感染するのは5歳までの乳幼児が中心だが、5歳までの入院を要する下痢症に占める割合は42~58%と推計される2)。最近では5歳以上の幼児の感染が増加しており、10~20代の感染報告もある。糞口感染し、感染力が非常に強いことが特徴で、先進国においても乳幼児下痢症の主要原因であり、院内感染や保育所等での集団感染の報告例も多い。感染した場合、抗ウイルス薬などの治療法はなく、経口補液や点滴などの対症療法が中心となる。 ほとんどの乳幼児が2歳までに1度は感染するが、1回の感染では完全な予防免疫は得られないため、ワクチンが有効な感染・重症化予防策となる。ロタウイルスワクチンは2011年から導入されているが、これまで任意接種だったため、計2~3万円の費用がかかっていた。今回の定期接種化の対象は2020年8月1日以降に生まれた子で、指定期間内に接種すれば全額が補助される。ロタウイルスワクチンには1価と5価の2種類があり、1価は2回、5価は3回接種となるが、効果に差はない。 ロタウイルスワクチンの副反応として腸重積症の増加が懸念されてきたが、厚生科学審議会がロタウイルスワクチン導入前後の国内における5歳未満の腸重積症入院例を調査し、ワクチン導入後の腸重積症の増加のリスクよりもロタウイルス胃腸炎の予防のベネフィットが上回るとして、今回の定期接種化に踏み切った。定期接種化によって接種率のさらなる向上が見込まれる。

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第26回 「死の病」克服患者の訃報でよぎる、コロナ禍脱却の道しるべ

終わりの見えない新型コロナウイルス感染症の蔓延。現在、われわれができる対策は、3密の回避、手洗いの励行、マスクの着用という極めてプリミティブなものばかりだ。これまで本連載で書いてきたように治療薬もまだ決定打と言えるものがなく、ワクチンも開発が進んできたとはいえ、先行きはまだ不透明である。医療従事者の中にも、またそれを見守る周囲の中にまだまだ閉塞感が充満しているだろうと思う。そんな最中、私はあるニュースに接し、勝手ながら個人的に光明を感じている。そのニュースとは世界で初めてHIVを克服したとされ「ベルリンの患者」と称されたティモシー・レイ・ブラウン氏の訃報である。他人の訃報を喜んでいるわけではない。今回ブラウン氏の訃報に接することで、「あのHIVも一部は克服ができていた」という忘却の彼方にあった事実を改めて思い出したからである。そしてこの訃報をきっかけに思い出したHIV克服にやや興奮してしまうのは、私がこの病気を長らく取材してきたからかもしれない。私が専門紙記者となったのは1994年である。そしてこの年、駆け出しの記者としていきなり国際学会の取材という重荷を負わされた。それが横浜市で開催された第10回国際エイズ会議である。当時はHIV感染症の治療は逆転写酵素阻害薬が3製品しかなく、薬剤耐性により治療選択肢は早々に尽き、最終的にはエイズを発症して亡くなる「死の病」の時代だった。また今でもHIV感染者に対する差別が根強いことは、昨年判決が下されたHIV感染者内定取り消し訴訟でも明らかだが、当時はそれ以上の偏見・差別が蔓延しており、感染者のプライバシーに配慮するとの観点から国際エイズ会議では感染者向けのセッションは報道関係者立ち入り禁止。当該セッション中の部屋に一歩でも立ち入った場合は記者証没収という厳しい措置が敷かれていた。これに加え日本の場合、当時のHIV感染者の多くが非加熱血液製剤を介して感染した、いわゆる「薬害エイズ」の被害者である血友病患者だったことも、この病気の負のイメージを増幅させていた。その結果、国内のHIV専門医は、一部の感染症専門医を除くと、もともとの感染原因を作った血友病専門医が多くを占めた。当時話を聞いたHIV感染血友病患者が「自分の住む地域では、そもそも血友病の専門医が限られているので、感染させた主治医であっても離れることはできず、同時に彼がHIVの主治医。正直言うと、主治医の前で顔では笑っていても腹の底には押し込めた恨みが充満しているよ」と語ったことが忘れられない。そして横浜での国際エイズ会議の翌年である1995年に、アメリカで新たな抗HIV薬としてプロテアーゼ阻害薬のサキナビルが上市。そこから後続の治療薬が相次いで登場すると、現在のHAART療法と呼ばれる多剤併用療法につながっていく。ちょうどこの頃、HIVの逆転写酵素阻害薬の開発者でもあり、当時は米・国立がん研究所内科療法部門レトロウイルス感染症部長だった満屋 裕明氏(後に熊本大学医学部第二内科教授)が日本感染症学会の講演で、「今やHIV感染症はコントロール可能な慢性感染症になりつつある」と語った時は、個人的にはややフライング的な発言ではと思ったものの、実際に今ではそのようになった。そして今回訃報が報じられたブラウン氏のように、血液がんの治療で行われる造血幹細胞移植によってHIVを克服した2例目が、昨年3月に科学誌ネイチャーで報告されている。HIV発見から10年強、医学は敗北を続けたものの、そこからは徐々に巻き返し、現在ではほぼコントロール下に置いたと言ってもいい状態まで達成している。現在、新型コロナの治療薬が抗ウイルス薬のレムデシビル、抗炎症薬のデキサメタゾンのみで、ここに前回紹介したようなアビガン、アクテムラが今後加わっていくことになるだろうが、まだ「いずれも決定打」とは言えない。ただ、この状況は2割打者同士の切磋琢磨から3割打者が登場する前夜の状況、過去のHIV治療で見れば逆転写酵素阻害薬3製品時代と同じなのかもしれないと、ふと思ったりもする。どうしても記者という性分は物事を悲観的に捉えすぎるきらいがある。しかし、あのHIVに苦戦していた当時から考えれば、医学も創薬技術も大きく進歩している。やや感傷的過ぎるかもしれないが、COVID-19もある臨界点を超えれば、思ったよりも早く共存可能なレベルに制御されてくるかもしれないとも考え始めている。まあ、逆にそう考えてしまうほど、自分も閉塞感に満ち満ちた状態で事態を眺めているからかもしれないが。

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第27回 日本のCOVID-19死亡率が低いのはα1-アンチトリプシンのおかげ?

日本、中国、韓国、タイ、ベトナム、カンボジア、マレーシア等のアジアの国で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死亡率が比較的低いことに関心が集まっていますが、理由はいまだ不明です。サハラ以南アフリカのいくつかの国でCOVID-19発症やその死亡率が低いことも注目に値します。おそらくその背景にはSARS-CoV-2の検査が広まっていないことや海外からの入国者が少ないことがあるでしょうが、それぞれの国に特有の遺伝的特徴も寄与しているかもしれません。SARS-CoV-2はヒト細胞のセリンプロテアーゼTMPRSS2の助けを借りて別の細胞表面タンパク質ACE2に結合して細胞に侵入します。セリンプロテアーゼ阻害薬・ナファモスタットやカモスタットはTMPRSS2を阻害することが分かっており、COVID-19患者へのそれら薬剤の臨床試験が進行中です。ヒトの血液中の主なセリンプロテアーゼ阻害タンパク質・α1-アンチトリプシン(AAT)もナファモスタットやカモスタットと同様にTMPRSS2を阻害することが最近の研究で確認されています1)。遺伝子変異のせいでAATが乏しい人が多いイタリアのロンバルディ地域ではCOVID-19感染率が高く2)、AAT欠乏の人の割合とCOVID-19感染率が関連するのではないかと考えられています。そこでイスラエルのテルアビブ大学の研究者3人は67ヵ国のデータを使い、AAT欠乏を招く一般的な遺伝子変異とCOVID-19流行の関連を世界規模で調べてみました。その結果イタリアでの疫学データと同様の傾向があり、AAT欠乏変異保有者が多い国ほどCOVID-19死亡率が高く、逆に少ない国ほどCOVID-19死亡率が低い事が示されました3,4)。たとえばスペインはCOVID-19死亡率が高く、100万人あたり640人がCOVID-19で死亡しており、1,000人あたり17人がPiZという主たるAAT欠乏変異を有していました。イタリアも同様で、100万人あたり620人がCOVID-19で死亡し、1,000人あたり13人に変異がありました。一方、COVID-19死亡率が世界で最も低い国々の一つ日本のPiZ変異保有は無視できるほど少なく、COVID-19死亡率はスペインの71分の1の100万人あたり9人です。興味深いことに、日本でCOVID-19が少ないことやCOVID-19重症化阻止との関連が示唆されているBCGワクチン接種は血中のAATを増やします5)。AATは抗ウイルス作用に加えて抗炎症作用もあります。副腎皮質ステロイド(コルチコステロイド)・デキサメタゾンはCOVID-19入院患者の死亡を防ぐことが示されていますが、AATの抗炎症作用はどうやら副腎皮質ステロイドの上を行きます6)。AATが生理濃度でヒト気道上皮へのSARS-CoV-2感染を阻害することも確認されており7)、COVID-19患者への吸入AAT投与の臨床試験(NCT04385836)8)がサウジアラビアで進行中です。参考1)Alpha 1 Antitrypsin is an Inhibitor of the SARS-CoV2-Priming Protease TMPRSS2. bioRxiv. May 05, 20202)Vianello A,et al. Arch Bronconeumol. 2020 Sep;56:609-610. 3)Shapira G, et al. FASEB J. 2020 Sep 22.4)Carriers of two genetic mutations at greater risk for illness and death from COVID-19 / Eurekalert 5)Cirovic B, et al. ell Host Microbe. 2020 Aug 12;28:322-334.e5. [Epub ahead of print]6)Schuster R,et al. Cell Immunol. 2020 Oct;356:104177.7)Alpha-1 antitrypsin inhibits SARS-CoV-2 infection. bioRxiv. July 02, 2020. 8)Trial of Alpha One Antitrypsin Inhalation in Treating Patient With Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 (SARS-CoV-2)(ClinicalTrials.gov)

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第25回 新型コロナ治療薬の治験結果が続々、選択の軸となる意外な条件とは

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の話ばかりが続いて恐縮だが、この1週間で新型インフルエンザ治療薬のアビガン(一般名:ファビピラビル)、ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体で抗リウマチ薬のアクテムラ(同:トシリズマブ)に関して、それぞれCOVID-19を対象とした企業治験(第III相試験)の結果が公表された。いずれも公表ベースではポジティブな結果である。主要評価項目を達成したアクテムラまず、9月18日にスイス・ロシュ社がアクテムラの第III相試験「EMPACTA」を公表した。試験の対象となったのは新型コロナウイルスへの感染が確認され、人工呼吸器管理を必要としない酸素飽和度(SpO2)94%未満の18歳以上の入院患者389例。試験デザインは無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験である。主要評価項目は28日目までの死亡または人工呼吸器の装着を必要とする患者の累積割合で、アクテムラ投与群が12.2%、プラセボ群が19.3%となった。ハザード比(HR)は0.56 (95%信頼区間[CI]:0.32~0.97、p=0.0348)となり、死亡・人工呼吸器装着に至るリスクはアクテムラ群で44%有意に低下した。ちなみに副次評価項目の一つである28日目までの死亡率は、アクテムラ群10.4%、プラセボ群8.6%(p= 0.5146)で有意差は認められず、そのほかの副次評価項目である28日目までの退院準備期間、臨床的改善に要した期間、臨床的悪化までの期間も有意差は認められていない。つまりアクテムラの投与では、少なくとも人工呼吸器の装着を避けられる可能性はあるということだ。なおアクテムラ投与群での有害事象は、便秘が5.6%、不安が5.2%、頭痛が3.2%などで従来のアクテムラ投与と比べて新たな有害事象は確認されていない。非重篤例で有意に症状改善したアビガンアビガンに関しても9月23日付で治験結果の一部が公表された。こちらの対象は非重篤な肺炎を有するCOVID-19患者で、解析対象156例の無作為化単盲検プラセボ対照比較試験である。主要評価項目は発熱、SpO2、胸部画像といった症状の軽快かつウイルス陰性化までの期間で、公表された結果ではこの期間がアビガン投与群で11.9日、プラセボ投与群では14.7日となり、調整後HRは1.593 (95%CI:1.024~2.479、p=0.0136) となり、アビガン投与群で有意に症状を改善する可能性が示された。安全性については新たな有害事象は確認されていないと述べるにとどまっている。一方、アビガンに関しては過去に本連載でも触れた藤田医科大学での無症候・軽症者のCOVID-19に対する臨床研究では、ウイルス消失率で有意な差は認めていない。今後の各社対応あれこれちなみにロシュ側は今回のEMPACTA試験の結果を受けて米・FDAなどの規制当局と結果を共有するとし、富士フイルムは10月中に国内で承認申請するとしている。アクテムラの場合は、既に欧米でCOVID-19による重症肺炎患者を対象に実施した第III相試験「COVACTA」で主要評価項目とした臨床状態の改善、死亡率のいずれもプラセボと比較して有意差が認められなかったと発表している。その一方で、現在、COVID-19による重症肺炎患者を対象に、日本国内では承認を受けている抗ウイルス薬のベクルリー(同:レムデシビル)との併用療法をプラセボ対照で比較する無作為化二重盲検の第III相試験「REMDACTA」など複数の治験が進行中である。この点は、過去のがん領域でのアバスチン(同:ベバシズマブ)で見せた、途中でネガティブな結果が出ようとも、さまざまながん種で単剤から併用療法まで数多くの治験を行ってきたロシュらしい周到さがにじみ出ている。ここで今回の企業治験で示された結果を持って、アクテムラとアビガンが承認された場合を仮定して国内でどのような状況になるかを考えてみたい。その場合、使える治療薬は既存のベクルリー、ステロイド薬のデキサメタゾンに加えて4種類となる。少なくとも死亡率低下が認められているのはデキサメタゾンのみであることや、残る3種類では死亡率低下効果が示せていない点を考えると、重症肺炎例で選択肢となるのはデキサメタゾンのみとなる。また、3種類に関しては治験の対象患者群などから考えると、いずれも公表されている「新型コロナウイルス感染症 診療の手引き 第3版」での重症度分類にある「中等症I呼吸不全なし」(93%<SpO2<96%)に適応となることが予想される。ただ、率直に言えば、3種類の治験結果は「どんぐりの背比べ」と言っても過言ではないだろう。では、臨床での使い分けはどのようになるだろうか?この場合、選択肢の軸となりうるものが個人的には2つ思い浮かぶ。1つは供給量である。3種類の中でもっとも供給量に不安があるのは、今回のCOVID-19パンデミックで初めて世に出たベクルリーである。これに加え製薬会社の地理的条件や製造労力を考えると、供給量はベクルリー<アクテムラ<アビガンとなる。もう1つは安全性である。製造が比較的容易とは言え、アビガンによる催奇形性や尿酸値上昇の副作用が指摘されている以上、妊娠・挙児を希望する若年の男女、高齢者を中心とする尿酸値が高めの患者には使いにくい。アクテムラはこれまでの症例蓄積などから肝炎ウイルスキャリアや心血管疾患のある人、ベクルリーは腎機能低下例には不向きである。こうしてみると、臨床現場としては使い分けがやや悩ましいのではないだろうか、と勝手に想像している。

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