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COVID-19の積極的疫学調査の最終報告/感染研

 国立感染症研究所は、9月27日に同研究所のホームページにおいて、「新型コロナウイルス感染症における積極的疫学調査の結果について(最終報告)」を公開した。 この報告は、感染症法(第15条第1項)に基づいた積極的疫学調査で集約された、各自治体・医療機関から寄せられた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の退院患者の情報に関する最終報告である。 なお、「本情報は統一的に収集されたものではなく、各医療機関の退院サマリーの様式によるため解釈には注意が必要」と解析の読み方に注意を喚起している。調査は一定の情報が得られたことにより5月25日をもって停止している。【集計データ概要】・COVID-19患者数:770例・入院開始日:2020年1月25日~2021年5月6日・入院期間の中央値:12.0日・性別:男性440例(57%)/女性330例(43%)・年齢:中央値51.0歳(四分位範囲30.0-68.5歳)・基礎疾患の有無:有した症例は270例(35%)【発症時の症状】 多い順に発熱404例(52%)、呼吸器症状224例(29%)、倦怠感108例(14%)、頭痛63例(8%)、消化器症状45例(6%)、鼻汁31例(4%)、味覚異常26例(3%)、嗅覚異常24例(3%)、関節痛24例(3%)、筋肉痛11例(1%)の順だった。 入院時の症状は、発熱288例(37%)、呼吸器症状199例(26%)、倦怠感83例(11%)、消化器症状58例(8%)、味覚異常45例(6%)、頭痛46例(6%)、嗅覚異常43例(6%)、鼻汁28例(4%)、関節痛19例(2%)、筋肉痛6例(<1%)、意識障害1例(<1%)の順だった。 そのほか入院中、29例(4%)において合併症の記載があり、その内訳(重複を含む)は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)14例(2%)、急性腎障害7例(<1%)、人工呼吸器関連肺炎4例(<1%)、播種性血管内凝固症候群(DIC)3例(<1%)、多臓器不全2例(<1%)、誤嚥性肺炎2例(<1%)、カテーテル関連血流感染2例(<1%)、細菌性肺炎1例(<1%)であり、このうち19例が死亡した。【画像所見】(※サイト本文では所見画像もリンクされている) 所見画像は、2名の放射線科医師によって、2020年9月時点で集められた396例の読影が行われた。 入院時(入院日の前後3日を含む期間)に胸部単純X線写真が撮像された168症例のうち、異常所見の認められた79症例(47%)について主な所見を示す。 網状粒状影、心拡大、浸潤影は60歳以上に多く認められた。異常所見は両側(81%)、末梢肺野(75%)、下肺野優位(92%)に分布した。一方、入院時にCT画像が撮像された269例のうち、異常所見の認められた182例(68%)について、異常所見が5肺葉に及んだものが67例(37%)、陰影のサイズは3cmから肺葉の50%未満を占める場合が94例(52%)と最も多かった。また、異常陰影は、両側肺野145例(80%)、末梢性178例(98%)に認められ、とくに右下葉152例(84%)、左下葉149例(82%)と下葉優位であるものの、上葉にも分布していた。陰影所見として、すりガラス陰影182例(100%)、気管支透亮像(air bronchogram)98例(54%)、気管支拡張90例(49%)、胸膜下線状影80例(44%)が多く認められた。また、入院時に胸部単純X線写真およびCT画像ともに撮像されていた161例において、CT画像で異常陰影を認めた症例で、胸部単純X線写真で異常陰影を認めた症例の割合は、両側陰影58/90(64%)、右肺野陰影69/98(70%)、左肺野陰影61/98(62%)であった。CT画像で異常陰影が末梢にあった症例のうち、胸部単純X線写真でも末梢に異常陰影を認めた症例は56/102(55%)であった。また、CT画像で異常所見が確認されなかった症例のうち、胸部単純X線写真で異常所見ありと診断された症例はごくわずかであった。死亡例11例に限ると、両側陰影10/11(91%)、右肺野陰影10/11(91%)、左肺野陰影11/11(100%)、末梢肺野陰影8/11(73%)であった。また、入院時に胸部単純X線写真を撮像し、その後死亡した15例のうち10例(67%)に心拡大が認められた。 これらの結果から、入院時の胸部単純X線写真で認められた両側・末梢優位の異常陰影はCT所見とおおむね同様であった。退院時死亡した重症例に限定すると、胸部単純X線写真で認められた異常陰影は、CT所見とより一致する傾向が認められ、さらに死亡例の多くが胸部単純X線写真で心拡大を呈していた。【治療など】 全770例のうち、対症療法ではなくCOVID-19への直接的な効果を期待して231例(30%)で抗ウイルス薬投与などの治療介入が行われていた。うち、新型コロナウイルス感染症診療の手引き(第5版)に記載され、日本国内で承認されている医薬品としてレムデシビルは24例、ステロイドは20例が投与されていた。酸素投与は107例(14%)に実施され、その投与方法は、マスク55例、カニューラ12例、リザーバーマスク13例、非侵襲的陽圧換気(NPPV)2例、人工呼吸器22例、体外式膜型人工肺(ECMO)3例であった。

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経口コロナ治療薬molnupiravir、第III相中間解析で入院・死亡リスクを半減/米・メルク

 米・メルクは10月1日付のプレスリリースで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する経口抗ウイルス薬molnupiravir(MK-4482/EIDD-2801)について、日本を含む世界173施設で実施中の第III相試験(MOVe-OUT)の中間解析結果を公表した。2021年8月5日までに登録された軽度~中等度のCOVID-19患者775例について解析したところ、molnupiravir群では投与後29日目までの入院・死亡がプラセボ群と比べ約50%減少したことがわかった。MOVe-OUT試験は最終的に1,550人規模の被験者で実施する予定だったが、中間解析のポジティブな結果を受け、新たな被験者の登録はすでに停止している。メルクは、近くFDAに対し緊急使用許可(EUA)を申請する方針。承認されれば、COVID-19に対する初の経口治療薬となる見通しだ。 molnupiravirは、経口投与が可能な強力なリボヌクレオシドアナログで、SARS-CoV-2を含むさまざまなRNAウイルスの複製を阻害する。SARS-CoV-2の予防投与、治療、感染防止などのいくつかの前臨床モデル、またSARS-CoV-1、MERSに対する活性が認められている。 MOVe-OUT試験では、5日間、12時間ごとに経口投与(計10回投与)したmolnupiravir群で、投与後29日目の入院が7.3%(28/385例)で、プラセボ群の14.1%(53/377例)と比べ、有意に減少した。プラセボ群では8例の死亡が報告されたが、molnupiravir群では報告されなかった。有害事象の発生率は、両群で同程度だった。 メルクでは、すでにmolnupiravirの量産体制に入っており、2021年末までに1,000万人分を製造予定で、22年にはさらに多くの製造量を見込んでいるという。米国政府との間では、今年の初頭に約170万人分を供給する調達契約をすでに締結しており、他国の規制当局との協議も進めている。

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第72回 コロナ内服薬molnupiravirがFDA申請へ/今季もインフルワクチンの積極的接種を

<先週の動き>1.コロナ内服薬molnupiravirがFDA申請へ、国内でも早期承認を目指す2.今季もインフルワクチンの積極的接種を推奨/日本感染症学会3.子宮頸がんワクチン接種再開に向け、議論再開/厚労省4.岸田内閣の厚労大臣とワクチン担当相が内定、今日発足へ5.マイナンバー保険証、10月20日から本格運用へ/厚労省1.コロナ内服薬molnupiravirがFDA申請へ、国内でも早期承認を目指す米・メルク社がリッジバック・バイオセラピューティクス社と共同で開発中の経口抗ウイルス薬「molnupiravir」について、近く食品医薬品局(FDA)に緊急使用許可申請を行う見込みであることが明らかとなった。本剤は、今年の春からわが国を含めた国際共同治験が開始されており、中間解析では外来で軽症~中等症の新型コロナ患者に対して、プラセボと比較して入院・死亡リスクを約50%低減させたとの結果が報告された。日本国内でも早期承認を目指し開発が進められている。molnupiravirは新型コロナ治療薬として世界初の内服薬となるだろう。(参考)米メルク 経口新型コロナ治療薬候補molnupiravir 第3相臨床試験の中間解析で入院・死亡リスク低減 米FDAにEUA申請へ(ミクスonline)コロナ「飲み薬」、入院・死亡リスク半減 米メルクが緊急使用許可を申請へ(CNN)米メルクのコロナ飲み薬、年内に日本調達へ 軽症者向け特例承認(毎日新聞)新型コロナの飲み薬、臨床試験で高い効果 入院半減、米メルク株急伸(朝日新聞)2.今季もインフルワクチンの積極的接種を推奨/日本感染症学会日本感染症学会のインフルエンザ委員会は、9月28日に「2021-2022年シーズンにおけるインフルエンザワクチン接種に関する考え方」を発表した。今年の秋以降も新規コロナ患者が増えることが予想されるため、インフルエンザについてはなるべくワクチン接種を行い、医療現場の負担軽減を求めている。また、COVID-19罹患者ならびに濃厚接触者へのインフルエンザワクチン接種は、観察期間が終了してからの接種を、さらに中等症以上のCOVID-19で入院している人は、急性期症状から完全に回復してからの接種を推奨している。なお、厚生労働省が9月に発表した「季節性インフルエンザワクチンの供給について」では、今冬は昨年よりも遅れたペース(10月末時点では出荷見込み量全体の65%程度の供給)にとどまる一方、11月~12月中旬頃まで継続的にワクチンが供給される見込みだという。(参考)2021-2022年シーズンにおけるインフルエンザワクチン接種に関する考え方(感染症学会)3.子宮頸がんワクチン接種再開に向け、議論再開/厚労省厚労省は、子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)感染症を予防するワクチン接種について、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会を1日に開催した。海外におけるHPVワクチンの有効性や安全性データについて検討し、接種後の症状との関係を裏付ける根拠は認めなかった。またわが国における若年女性のHPVワクチン接種後症状についても検討され、接種群における有害事象の発現率の有意な上昇を認めなかった。このため「積極的勧奨を妨げる要素はない」との意見で一致した。今後は、接種の再開時期や接種後に症状を訴えた人への支援体制の拡充について議論を行っていく。(参考)接種の積極的呼びかけ 中止から8年 再開めぐる議論始まる(NHK)HPVワクチン勧奨、厚労省部会再開一致 接種後症状、医療体制強化(毎日新聞)資料 HPVワクチンの安全性・有効性に関する最新のエビデンスについて(厚労省)4.岸田内閣の厚労大臣とワクチン担当相が内定、今日発足へ自民党の岸田 文雄新総裁は3日、新たに発足する岸田内閣の厚生労働大臣に後藤 茂之氏を、新型コロナワクチン担当大臣に堀内 詔子氏を起用する人事を固めた。後藤氏は初の入閣。また、堀内氏は、オリンピック・パラリンピック担当大臣も兼務する見通し。野田 聖子氏は少子化担当相に起用されるとともに、新たに創設される「こども庁」も担当することになった。また、岸田氏は自民党総裁選に勝利した後の記者会見において、看護師・介護士等の給与を「適正に引き上げる」と表明したことも話題になっている。仕事に見合う処遇改善を目的に、賃上げにも力を入れる意向。総裁選では、エッセンシャルワーカーの報酬引き上げに向け「公的価格評価検討委員会」の設置を掲げていた。なお、財源については「医療の市場は40兆円、介護の市場は10兆円。市場自体を大きくすることもしっかり考えながら、この市場の中での分配のあり方、適正に分配されているかどうかを考えることも重要だと思う」と述べた。(参考)自民 岸田総裁 厚生労働相に後藤茂之氏 起用の意向固める(NHK)岸田新内閣きょう発足へ 閣僚の顔ぶれ固まる(同)岸田氏「介護士給与、思い切って引き上げないと」(産経新聞)岸田新総裁、介護職の賃上げに取り組む意向を表明 「公的価格を率先して上げる」(JOINT)5.マイナンバー保険証、10月20日から本格運用へ/厚労省厚労省は、マイナンバーカードを健康保険証として利用できるように準備を進めてきたが、全国での本格運用を10月20日から開始することを発表した。今年の3月より一部の医療機関で先行して運用開始したが、トラブルが発生し、本格運用は延期されていた。今月中には、「マイナポータル」で特定健診の結果や処方された薬の情報が閲覧が可能となり、来年以降はさらに自治体の検診や学校検診の結果、電子処方箋の情報などが閲覧可能となる見通し。一方、医療機関でのマイナンバーカードのリーダーの普及率が伸び悩むなど、厚労省・地方自治体はさらに病院団体や医師会に対して補助金の活用を働きかけている。なお、マイナンバーカードを保険証として利用するには、マイナポータルでマイナンバーカードの健康保険証利用の申し込みが必要となるため、普及の促進には利用者に対する周知徹底が課題となる。(参考)マイナンバーカードを健康保険証で利用 20日から本格運用へ(NHK)マイナ保険証10月20日本格運用 対応済み医療機関は6%(日経新聞)マイナンバーカードの保険証利用について(厚労省)資料 データヘルス改革に関する工程表について(同)

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IgG monoclonal抗体製剤はワクチンの代替薬になりえるか?(解説:山口佳寿博氏、田中希宇人氏)

 本論評では、遺伝子組み換えIgG monoclonal抗体治療の基礎をなす回復期血漿治療の変遷を考慮しながらmonoclonal抗体治療の臨床的意義について考察する。コロナ感染症に対する回復期血漿治療-無効かつ有害? 長年、インフルエンザ肺炎に対して古典的回復期血漿治療が施行されてきた。また、2002~03年のSARSに対しても回復期血漿治療が試みられたが満足いく結果が得られず、抗体依存感染増強(ADE:antibody-dependent enhancement of infection)を呈した症例が少なからず存在した。新型コロナに対しても回復期血漿治療が試行錯誤されたが、今年になって発表された2つの論文は新型コロナに対する回復期血漿治療が無効、あるいは、逆に、病態を悪化させる可能性があることを指摘した。RECOVERY Trialでは、ランダム化から28日目までの死亡率、機械呼吸導入率、腎透析導入率など重要な指標は血漿投与群と対照群の間で有意差を認めず、回復期血漿治療は無効であることが示された(RECOVERY Collaborative Group. Lancet 2021;397:2049-2059.)。Begin氏らの報告によると、ランダム化から30日以内の気管挿管と死亡の比率は血漿投与群と対照群の間で有意差はなく、さらに、重要な知見としてADEに相当する重篤な副反応の頻度が血漿投与群で高いことが示された(Begin P, et al. Nat Med. 2021 Sep 9. [Epub ahead of print])。 回復期血漿はコロナ以外の微生物などに由来する種々の抗原に対するIgG、IgA、IgMなどの抗体を含有する。たとえば、IgAはIgGと拮抗しHIVワクチン接種時にHIV感染を増悪させることが報告されている(Haynes BF, et al. Engl J Med. 2012;366:1275-1286.)。また、回復期血漿が含有するS蛋白に対するIgG抗体には中和作用を有さない“非機能的(不完全)IgG抗体”が含まれる。非機能的IgG抗体のFc(fragment crystallizable)部位と免疫細胞/食細胞に発現しているFc受容体(FcγR)との結合は不完全で、ウイルスは免疫細胞/食細胞内で完全に処理されず、その一部は感染性を有したまま細胞外に排出される(回復期血漿投与時のADE発生)。一方、S蛋白を構成する種々なる抗原決定基(epitope)に対するIgG monoclonal抗体はウイルスに対する中和作用が強く、非機能的IgG抗体は基本的に存在しない。それ故、IgG monoclonal抗体投与時にはADEが発生し難い。以上の考察を支持する知見として、S蛋白に対するIgG monoclonal抗体に関する複数の治験においてADE発症の報告がない事実を強調しておきたい。半減期が短いIgG monoclonal抗体-抗ウイルス薬 現在、米国では6種類のIgG monoclonal抗体が緊急使用の許可を得ている。その中の2種類ずつを併用する2つの抗体カクテル療法(カシリビマブ+イムデビマブ[REGEN-COV]とbamlanivimab+etesevimab[BEカクテル])の緊急使用をFDAは承認している。本邦においても2021年7月19日、REGEN-COVが特例承認された(商品名:ロナプリーブ点滴静注セット)。 カシリビマブとイムデビマブ(REGEN-COV)はウイルスが生体に侵入する際生体細胞のACE2と結合するRBD-motif(RBM)に存在する互いに重なりがない複数のepitopeと非競合的に結合し抗ウイルス作用を発現する(Baum A, et al. Science 2020;369:1014-1018.)。本論評で取り上げたコロナ感染患者と濃厚接触した家族を対象としたREGN-COV 2069治験において(O'Brien MP, et al. N Engl J Med. 2021;385:1184-1195.)、対照群の全感染リスクが14.2%であったのに対しREGEN-COV群では4.8%と有意に低かった。さらに、感染者の症状持続期間もREGEN-COV群で2週間短縮されるなど抗ウイルス薬として高い効果が示された。この治験で特記すべき事項はREGEN-COVを従来の点滴投与ではなく皮下注で投与しても何ら問題となる不都合が観察されなかったことである。以上の結果はIgG monoclonal抗体を簡便な皮下注で投与できる可能性を示した点で臨床的に価値がある。 Monoclonal抗体治療の最も魅力的側面はDelta株を中心とする変異株に対する抗ウイルス作用である。変異株における免疫回避作用を発現するS蛋白遺伝子変異の主たる部位は417位(Beta株、Gamma株)、452位(Delta株)、478位(Delta株)、484位(Beta株、Gamma株)である(山口. 日本医事新報 2021;5053:32-38,)。REGEN-COVにあって、カシリビマブは417位、478位、484位をepitopeとして認識するがイムデビマブはこれら部位を認識しない。両monoclonal抗体ともDelta株にあって最も重要な452位を認識せずREGEN-COVはDelta株に対して高い中和作用を示すことが示唆された(Corti D, et al. Cell. 2021;184:3086-3108.)。 REGEN-COVを構成する2つのmonoclonal抗体の血中半減期は約30日で抗ウイルス薬としては十分な期間有効性が持続する(O'Brien MP, et al. N Engl J Med. 2021;385:1184-1195.)。しかしながら、以下に提示するIgG monoclonal抗体をワクチン代替え療法として考えていく場合には30日という半減期は短過ぎる。 REGEN-COV使用に関する本邦の指針は米国FDAの指針に追従したもので、本薬剤の投与対象が“重症化リスク因子を有する酸素投与を要しない患者(軽症~中等症-I)”となっており、“重症例”は基本的に対象外とされた(厚生労働省. Aug. 13, 2021)。この記述は、回復期血漿治療で認められるADEがIgG monoclonal抗体投与時にも発生する可能性を配慮したものであるが、monoclonal抗体薬投与に起因するADEの発生が非常にまれであることが判明しつつある現在、REGEN-COVの投与対象を重症例にも広げていくべきであろう。さらに、ワクチン接種で中和抗体価が上昇しない免疫不全患者のコロナ感染時の治療にはIgG monoclonal抗体治療が最優先されるべきことも明記されるべきである(米国FDA. Press Release Aug. 12, 2021)。 BEカクテルにあってbamlanivimabはRBDの452位、484位を、etesevimabは452位近傍をepitopeとして認識するため(Corti D, et al. Cell 2021;184:3086-3108.)、BEカクテルはBeta株、Gamma株、Delta株に対する中和作用が弱く、変異株抑制を目的とした抗ウイルス薬としてはREGEN-COVよりも劣る。REGEN-COVと同様BEカクテルの半減期も短い。半減期が長いIgG monoclonal抗体-抗ウイルス薬、ワクチン代替え薬 2021年9月6日、グラクソ・スミスクラインは単剤で使用できるIgG monoclonal抗体ソトロビマブの特例承認を厚生労働省に申請し、9月27日に承認された(商品名:ゼビュディ点滴静注液500mg)。この製剤は他のmonoclonal抗体製剤と異なり、変異が発生しやすいRBMではなく変異が起こり難く多くのコロナウイルスでアミノ酸配列が普遍的に保存されている部位(S蛋白の332~361位)を抗体の標的として設計されている(Corti D, et al. Cell 2021;184:3086-3108.)。すなわち、ソトロビマブが認識するepitopeはDelta株を中心とする変異株を特徴付ける種々なる変異とは無関係な部位に位置する。それ故、ソトロビマブは現状の変異株のみならず今後形成されることが予想される新たな変異株に対しても高い中和作用を発揮するものと考えられる(Gupta A, et al. medRxiv. 2021 May 28.)。ソトロビマブのもう一つの特徴はIgGの分解を抑制し血中IgG抗体価の半減期を延長させるためにIgG抗体のFc領域に人工的変異が挿入されていることである(Cathcart AL, et al. bioRxiv. 2021 Aug 6.)。その結果、ソトロビマブは投与後少なくとも6~8ヵ月間は抗ウイルス作用を持続するものと考えられ、ワクチン接種が困難な人、あるいは、免疫不全でワクチンによる抗体産生が期待できない人に対するワクチン代替え療法になりえるものと期待できる。ただし、IgG monoclonal抗体治療の費用はワクチン2回接種の100倍に達する高額治療であることに留意する必要がある。 AstraZenecaの抗体カクテル(AZD7442:AZD1061+AZD8895)も注目に値する製剤である。AZD7442を構成する2つのIgG monoclonal抗体のFc領域には人工的変異が挿入されておりソトロビマブと同様にIgGの半減期が延長する(抗ウイルス作用:約1年持続)。それ故、AZD7442もソトロビマブと同様にワクチン代替え療法として期待できる。

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重症化リスクのある外来COVID-19に対し吸入ステロイドであるブデソニドが症状回復期間を3日短縮(解説:田中希宇人氏、山口佳寿博氏)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ではエビデンスの乏しかった2020年初頭からサイトカインストームによる影響がいわれていたことや、COVID-19の重症例のCT所見では気管支拡張を伴うびまん性すりガラス陰影、いわゆるDAD(diffuse alveolar damage)パターンを呈していたことから実臨床ではステロイドによる加療を行っていた。2020年7月に英国から報告された大規模多施設ランダム化オープンラベル試験である『RECOVERY試験』のpreliminary reportが報告されてからCOVID-19の治療として適切にステロイド治療が使用されることとなった。『RECOVERY試験』では、デキサメタゾン6mgを10日間投与した群が標準治療群と比較して試験登録後28日での死亡率を有意に減少(21.6% vs.24.6%)させた(Horby P, et al. N Engl J Med. 2021;384:693-704. )。とくに人工呼吸管理を要した症例でデキサメタゾン投与群の死亡率が29.0%と、対照群の死亡率40.7%と比較して高い効果を認めた。ただし試験登録時に酸素を必要としなかった群では予後改善効果が認められず、実際の現場では酸素投与が必要な「中等症II」以上のCOVID-19に対して、デキサメタゾン6mgあるいは同力価のステロイド加療を行っている。 また日本感染症学会に「COVID-19肺炎初期~中期にシクレソニド吸入を使用し改善した3例」のケースシリーズが報告されたことから、吸入ステロイドであるシクレソニド(商品名:オルベスコ®)がCOVID-19の肺障害に有効である可能性が期待され、COVID-19に対する吸入ステロイドが話題となった。シクレソニドはin vitroで抗ウイルス薬であるロピナビルと同等以上のウイルス増殖防止効果を示していたことからその効果は期待されていたが、前述のケースシリーズを受けて厚生労働科学研究として本邦で行われたCOVID-19に対するシクレソニド吸入の有効性および安全性を検討した多施設共同第II相試験である『RACCO試験』でその効果は否定的という結果だった(国立国際医療研究センター 吸入ステロイド薬シクレソニドのCOVID-19を対象とした特定臨床研究結果速報について. 2020年12月23日)。本試験は90例の肺炎のない軽症COVID-19症例に対して、シクレソニド吸入群41例と対症療法群48例に割り付け肺炎の増悪率を評価した研究であるが、シクレソニド吸入群の肺炎増悪率が39%であり、対症療法群の19%と比較しリスク差0.20、リスク比2.08と有意差をもってシクレソニド吸入群の肺炎増悪率が高かったと結論付けられた。以降、無症状や軽症のCOVID-19に対するシクレソニド吸入は『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第5.3版』においても推奨されていない。 その他の吸入ステロイド薬としては、本論評でも取り上げるブデソニド吸入薬(商品名:パルミコート®)のCOVID-19に対する有効性が示唆されている。英国のオックスフォードシャーで行われた多施設共同オープンラベル第II相試験『STOIC試験』では、酸素が不要で入院を必要としない軽症COVID-19症例を対象にブデソニド吸入の効果が検証された(Ramakrishnan S, et al. Lancet Respir Med. 2021;9:763-772. )。本研究ではper-protocol集団およびITT集団におけるCOVID-19による救急受診や入院、自己申告での症状の回復までの日数、解熱薬が必要な日数などが評価された。結果、ブデソニド吸入群が通常治療群と比較して有意差をもってCOVID-19関連受診を低下(per-protocol集団:1% vs.14%、ITT集団:3% vs.15%)、症状の回復までの日数の短縮(7日vs.8日)、解熱剤が必要な日数の割合の減少(27% vs.50%)を認める結果であった。 本論評で取り上げた英国のオックスフォード大学Yu氏らの論文『PRINCIPLE試験』では、65歳以上あるいは併存症のある50歳以上のCOVID-19疑いの非入院症例4,700例を対象に行われた。結果は吸入ステロイドであるブデソニド吸入の14日間の投与で回復までの期間を通常治療群と比較して2.94日短縮した、とのことであった。本研究は英国のプライマリケア施設で実施され、ブデソニド吸入群への割り付けは2020年11月27日~2021日3月31日に行われた。 4,700例の被検者は通常治療群1,988例、通常治療+ブデソニド吸入群1,073例、通常治療+その他の治療群1,639例にランダムに割り付けられた。ブデソニド吸入は800μgを1日2回吸入し、最大14日間投与するという治療で、喘息でいう高用量の吸入ステロイド用量で行われた。症状回復までの期間推定値は被検者の自己申告が採用されたが、通常治療群14.7日に対してブデソニド吸入群11.8日と2.94日の短縮効果(ハザード比1.21)を認めている。同時に評価された入院や死亡については通常治療群8.8%、ブデソニド吸入群6.8%と2ポイントの低下を認めたが、優越性閾値を満たさない結果であった。 今までの吸入ステロイドの研究では主に明らかな肺炎のない症例や外来で管理できる症例に限った報告がほとんどであり、前述の『STOIC試験』においても酸素化の保たれている症例が対照となっている。本研究ではCOVID-19の重症化リスクである高齢者や併存症を有する症例が対照となっており、高リスク群に対する効果が示されたことは大変期待できる結果であった考えることができる。ただしCOPDに対する吸入ステロイドは新型コロナウイルスが気道上皮に感染する際に必要となるACE2受容体の発現を減少させ、COVID-19の感染予防に効果を示す(Finney L, et al. J Allergy Clin Immunol. 2021;147:510-519. )ことがいわれており、本研究でもブデソニド吸入群に現喫煙者や過去喫煙者が46%含まれていることや、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)症例が9%含まれていることは差し引いて考える必要がある。そして吸入薬であり「タービュヘイラー」というデバイスを用いてブデソニドを投与する必要がある特性上、呼吸促拍している症例や人工呼吸管理がなされている症例に対してはこの治療が困難であることは言うまでもない。 また心配事として、重症度の高いCOPD症例に対する吸入ステロイドは肺炎のリスクが高まるという報告がある(Vogelmeier C, et al. N Engl J Med. 2011;364:1093-1103.、Crim C, et al. Ann Am Thorac Soc. 2015;12:27-34. )ことである。この論評で取り上げたYu氏らの論文では重篤な有害事象としてブデソニド吸入群で肋骨骨折とアルコールによる膵炎によるものの2例が有害事象として報告されており治療薬とはまったく関係ないものとされ、肺炎リスクの上昇は取り上げられていない。ただもともと吸入ステロイド薬であるブデソニドは、気管支喘息や閉塞性換気障害の程度の強いCOPDや増悪を繰り返すCOPDに使用されうる薬剤であり、ステロイドの煩雑な使用は吸入剤とはいえ呼吸器内科医としては一抹の不安は拭うことができない。 心配事の2つ目として吸入薬の適切な使用やアドヒアランスの面が挙げられる。この『PRINCIPLE試験』で用いられているブデソニド吸入は800μgを1日2回吸入、最大14日間であるが、症状の乏しいCOVID-19症例に、しかも普段吸入薬を使用していない症例に対しての治療であるので実臨床で治療薬が適切に使用できるかは考えるところがある。COVID-19症例や発熱症例に対して対面で時間をかけて吸入指導を行うことは非現実的なので、紙面やデジタルデバイスでの吸入指導を理解できる症例に治療選択肢は限られることになるであろう。 最後に本研究が評価されて吸入ステロイドであるブデソニドがコロナの治療薬として承認されたとしても、その適正使用に関しては慎重に行うべきであると考える。日本感染症学会に前述のシクレソニド吸入のケースシリーズが報告された際も、一部メディアで大々的に紹介され、一時的に本邦でもCOVID-19の症例や発熱症例に幅広く処方された期間がある。その期間に薬局からシクレソニドがなくなり、以前から喘息の治療で使用していた患者に処方ができないケースが散見されたことは、多くの呼吸器内科医が実臨床で困惑されたはずである。COVID-19の治療選択肢として検討されることは重要であるが、本来吸入ステロイドを処方すべき気管支喘息や増悪を繰り返すCOPD症例に薬剤が行き渡らないことは絶対に避けなければいけない。

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第69回 コロナ中等症自宅療養、AZワクチン接種推進―政策転換に求められるエビデンスある説明

東京都の新型コロナウイルスの新規感染者が4,000人台を突破、自宅療養者も1万人超となる中、政府は中等症以上の患者の「原則入院」を見直し、重症以外は自宅療養を基本とする方針に突然転換した。これに対し、医療現場からは「重症化リスクを誰がどう管理するのか」「患者を見捨てる政策ではないか」といった批判の声が上がっている。中等症自宅療養で懸念される重症化新型コロナ感染者は、発症からの日数と経過を概括すると、1週間は軽症(約80%)、1週間~10日位は中等症(15%)、10日以降は重症(約5%)となる。中等症はIとIIに分かれるが、自宅療養だと、中等症I(息切れ、肺炎所見)の場合、入院していれば投与できる抗ウイルス薬「レムデシビル」が使用できなくなり、中等症II(呼吸不全)の場合、重症化を防ぐ抗炎症薬の使用が遅れると、救える命も救えなくなる可能性が出てくる。中等症感染者を見捨てないためには、入院の必要性がある人を早く見つけ、入院させる体制を構築するのが急務だ。今後、感染者が爆発的に増えて、自宅療養中に重症化する人が増加した場合、発見が遅れたり、入院先も見つからなかったりするケースも増えるだろう。実際このような状況は、第3波では東京で、第4波では大阪ですでに起きている。とくに今回の新型コロナ第5波では、若年者の中等症IIが増えている点が問題になっている。感染層として一番多い年代が中等症化しており、背景にあるのは、感染力の強いインド型変異ウイルス「デルタ株」の感染拡大である。インドでは、感染者が酸素を求めて病院に押し寄せるなど、医療用酸素の不足も深刻化しており、日本においても危機感を感じている医療人は少なくない。ある医療人は「新型コロナ第5波では、いつ重症化するかわからない中等症患者の予備軍が大勢いる。感染状況を正確に把握しないかぎり根本的に解決しない問題だ。政府はどのようなエビデンスに基づいて、方針転換したのだろうか」と疑問を呈する。AZ製ワクチンではプラス情報が不足十分な説明のない新型コロナ政策の転換は、アストラゼネカ(AZ)製ワクチン接種を原則40歳以上に進める方針にも言える。AZ製ワクチンは接種後、まれに血栓症が生じる懸念が報告され、国民の間にはマイナスイメージが強い。自治体からは「住民の接種に使わない」との声も上がっているという。接種のめどが立たない中、コロナ感染が急拡大してワクチンが不足した台湾に、日本政府はAZ製ワクチンを供給したが、一部の台湾国民からは「日本人が使わないワクチンを台湾人に使わせるのか」といった批判も出た。今後、国内においてもAZ製ワクチンの接種を進めるならば、マイナスイメージを払拭するプラスの情報が必要なはずだ。安全性のエビデンスや副反応対策を示すほか、2回目接種にAZ製ワクチンを打つと、抗体がより多くできるといった研究をスルーせず、真摯に検証してみることも必要だろう。新型コロナ政策を巡っては、休業要請や緊急事態宣言などをとってみても、論理的根拠を示せないまま国民に要請するばかり。エビデンスを示し、納得のいく説明と強いメッセージを発することで医療人や国民に行動を促すのは、なにもコロナに限ったことではない、きわめてシンプルな政治の基本だと思う。

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日本のウイルス肝炎診療に残された課題~今、全ての臨床医に求められること~

COVID-19の話題で持ち切りの昨今だが、その裏で静かに流行し続けている感染症がある。ウイルス肝炎だ。特に問題になるのは慢性化しやすいB型およびC型肝炎で、世界では3億人以上がB型、C型肝炎ウイルスに感染し、年間約140万人が死亡している。世界保健機関(WHO)は7月28日を「世界肝炎デー」と定め、ウイルス肝炎の撲滅を目的とした啓発活動を実施している。検査方法や治療薬が確立する中、ウイルス肝炎診療に残された課題は何か?今、臨床医に求められることは何か?日本肝臓学会理事長の竹原徹郎氏に聞いた。自覚症状に乏しく、潜在患者が多数―日本の肝がんおよびウイルス肝炎の発生状況を教えてください。日本では、年間約26,000人程度が肝がんで死亡しているという統計があります。その大半はウイルス肝炎によるもので、B型肝炎は約15%、C型肝炎は約50%を占めています。B型およびC型肝炎ウイルスに感染して慢性肝炎を発症しても、自覚症状はほとんど現れません。気付かぬうちに病状が進行し、肝がん発症に至るわけです。日本においてB型、C型肝炎ウイルスの感染に気付かずに生活している患者さんは数十万人程度存在すると考えられています。こうした患者さんを検査で拾い上げ、適切な医療に結び付けることが、肝がんから患者さんを救うことにつながります。検査後の受診・受療のステップに課題―臨床では、どのような場面で肝炎ウイルス検査が実施されるのでしょうか。臨床で肝炎ウイルス検査が実施される場面は様々ですが、(1)肝障害の原因を特定するために行う検査、(2)健康診断で行う検査、(3)手術時の感染予防のために行う術前検査などが挙げられます。(1)はそもそも肝障害の原因を特定するために行われているので問題ないのですが、(2)では、検査で異常が指摘されても放置される場合がありますし、(3)では、陽性が判明してもその後の医療に適切に活用されないことがあり、課題となっています。その要因は様々ですが、例えば他疾患の治療が優先され、検査結果が陽性であることが二の次になるケースや、長く診療している患者さんでは、変にその結果を伝えて不安にさせなくても良いのではないか、とされるケースもあるでしょう。また患者さんの中には、検査結果を見ない、結果が陽性であっても気にしない、陽性であることが気になっていても精密検査の受診を躊躇する、といった方も多いです。そのため医療者側にどのような事情があっても、陽性が判明した場合はその結果を患者さんに伝え、精密検査の受診を促すことが大事です。非専門の先生で、ご自身では精密検査の実施が難しいと思われる場合は、ぜひ近隣の肝臓専門医に紹介してください。そのうえで、最終的に治療が必要かどうかまで結論付け、治療が必要な場合には専門医のもとでの受療を促すことが重要です。目覚ましい進歩を遂げる抗ウイルス治療―ウイルス肝炎の治療はどのように変化していますか。近年、ウイルス肝炎の治療は劇的に変化しています。特にC型肝炎治療の進歩は目覚ましいものがあります。従来のC型肝炎治療はインターフェロン注射によるものが中心で、インターフェロン・リバビリン併用でウイルスを排除できる患者さんの割合は50%程度でした1)。また、インフルエンザ様症状やその他の副作用が多くの患者さんで出現し、治療対象の患者さんも限られていました1),2)。しかしここ数年、経口薬である直接作用型抗ウイルス剤(DAA)が複数登場し、その様相は変化しています。まず治療奏効率は格段に向上し、ほとんどの患者さんでウイルスが排除できるようになりました。そして従来ほど副作用が問題にならなくなり3)、患者さんにとって治療がしやすい環境になっています。治療対象が高齢の患者さんや肝疾患が進行した患者さんに広がったことも、大きな変化です。B型肝炎治療では、まだウイルスを完全に排除することはできないものの、抗ウイルス治療によってウイルスの増殖を抑え、肝疾患の進行のリスクを下げることができます。このように、現在は治療に進んだ後のステップにおける課題はクリアされてきています。そのため、日本のウイルス肝炎診療の課題は、やはり検査で陽性の患者さんを受診・受療に結び付けるまでのステップにあるといえるでしょう。術前検査などで陽性が判明した患者さんがいらっしゃいましたら、ぜひ検査結果を患者さんに適切に伝え、受診・受療を促すと共に、近隣の肝臓専門医に紹介していただきたいと思います。日本肝臓学会のウイルス肝炎撲滅に向けた取り組み―日本肝臓学会では、ウイルス肝炎撲滅に向けてどのような取り組みを実施されていますか。日本肝臓学会では「肝がん撲滅運動」という活動を20年以上にわたって行ってきています。具体的には、肝炎や肝がん診療の最新情報を患者さんや一般市民の皆さまに知っていただくための公開講座を、毎年全国各地で開催しています。3年ほど前からは、肝炎医療コーディネーターを育成するための研修会も設けています。肝炎医療コーディネーターとは、看護師、保健師、行政職員など多くの職種で構成され、肝炎の理解浸透や受診・受療促進などの支援を担う人材です。また最近では、製薬企業のアッヴィ合同会社と共同で、「AbbVie Elimination Award」を設立しました。肝臓領域の臨床研究において優れた成果を上げた研究者を表彰する、研究助成事業です。「Elimination」は「排除」という意味で、一人でも多くの患者さんから肝炎ウイルスを排除したい、という意図が込められています。このように、日本肝臓学会ではウイルス肝炎撲滅に向けて、啓発活動や研究助成事業など、様々な活動に取り組んでいます。世界の先陣を切ってWHOが掲げる目標の達成を目指す―ウイルス肝炎の治療にあたる肝臓専門医の先生方に向けて、メッセージをお願いします。WHOはウイルス肝炎の撲滅に向けて「2030年までにウイルス肝炎の新規患者を90%減らし、ウイルス肝炎による死亡者を65%減らすこと」を目標に掲げています。COVID-19の流行によって、受診控えや入院の先送りなどの問題が発生し、この目標への到達は困難に感じられることもあるかもしれません。しかし、日本のウイルス肝炎診療には、国民の衛生観念がしっかりしている、肝臓専門医の数が潤沢である、行政的な施策が整備されている、など様々なアドバンテージがあります。世界の先陣を切ってWHOが掲げる目標を達成できるよう、今後も取り組んでいきましょう。肝炎ウイルス検査で陽性の患者さんは、肝臓専門医に紹介を―最後に、非専門の先生方に向けてメッセージをお願いします。従来のウイルス肝炎の治療は、副作用が問題になる、高齢の患者さんでは治療が難しい、といったイメージがあり、現在もそのように思われている先生がいらっしゃるかもしれません。患者さんも誤解している可能性があります。しかし、ウイルス肝炎の治療はここ数年で劇的に変化しています。肝炎ウイルス検査を実施して陽性が判明した場合は、患者さんにとって良い治療法があるかもしれない、と思っていただいて、ぜひ近隣の肝臓専門医に紹介してください。日本肝臓学会のHPに、肝臓専門医とその所属施設の一覧を都道府県別に掲載していますので、紹介先に迷われた際は、参考にしていただければと思います。1)竹原徹郎. 日本内科学会雑誌. 2017;106:1954-1960.2)日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会 編「 C型肝炎治療ガイドライン(第8版)」 2020年7月, P16.3)日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会 編「 C型肝炎治療ガイドライン(第8版)」 2020年7月, P57,63.

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第70回 Pfizerワクチン2回目接種後に自然免疫が大幅増強

インドで見つかって世界で広まるデルタ変異株にもPfizer/BioNTechの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンBNT162b2が有効なことが先週21日にNEJM誌に掲載された英国Public Health Englandの試験で示されました1)。その効果を得るには決まりの2回接種が必要であり、デルタ変異株感染の発症の予防効果はBNT162b2接種1回では僅か36%ほどでした。2回接種の予防効果は大幅に上昇して88%となりました。一方、イスラエル保健省の先週木曜日の発表によると、デルタ変異株が広まる同国でのBNT162b2のここ最近1ヵ月程のCOVID-19発症予防効果は心配なことに約41%(40.5%)に低下しています2)。ただし、被験者数が少なくて対象期間も短いためかなり不確実な推定であり、今後更なる慎重な解析が必要です3)。仮に感染予防効果が落ちているとしても重症化は防げており、COVID-19入院の88%と重度COVID-19の91%を予防しました。BNT162b2はデルタ変異株感染による重症化を予防する効果も恐らく高く、先月発表された英国Public Health Englandの報告によるとデルタ変異株COVID-19入院の96%を防いでいます4)。BNT162b2は中国の武漢市で見つかったSARS-CoV-2元祖株を起源とするにも関わらず少なくとも変異株感染重症化を確かに防ぎ、2回接種すると効果が跳ね上がるのはなぜなのか? 抗体やT細胞などの標的特異的な免疫反応のみならず感染源に素早く手当たり次第より広く攻撃を仕掛ける自然免疫を引き出す力がその鍵を握るのかもしれません。SARS-CoV-2への免疫の研究やニュースといえば主に抗体で、T細胞がたまに扱われるぐらいです。スタンフォード大学の免疫学者Bali Pulendran氏のチームはそういう免疫のパーツではなくそれらを含む免疫系全体に目を向け、BNT162b2が接種された56人の血液検体を調べてみました。その結果、抗体やT細胞の反応が他の研究と同様に認められたことに加え、強力な抗ウイルス防御を担うにもかかわらずワクチン開発で見過ごされがちな効果・自然免疫の増強が判明しました5)。自然免疫の大幅な増強は2回目の接種後のことであり、インターフェロン応答遺伝子(ISG)を発現する単球様の骨髄細胞の一群・C8細胞が1回目接種1日後には血液細胞の僅か0.01%ほどだったのが2回目接種1日後には100倍多い1%ほどに増えていました。2回目接種1日後の血中インターフェロンγ(IFN-γ)濃度は高く、C8細胞の出現と関連しており、C8細胞の誘導にはIFN-γが主たる役割を担っているようです。SARS-CoV-2のみならず他のウイルスの防御にも働きうるC8細胞は新型コロナウイルス感染自体ではどうやら生じないようです5,6)。C8細胞を引き出すためにも1回のBNT162b2接種で十分とは思わず、他の多くの試験でも支持されている通り2回目も接種すべきでしょう7)。ModernaのワクチンもBNT162b2と同様にmRNAを中身とします。Modernaのワクチンも恐らくはBNT162b2と同様の反応を引き出すと想定されますが定かではありません。実際のところどうかを調べるべくPulendran氏はそれらワクチン2つの比較研究を始めています7)。参考1)Lopez Bernal J,et al.N Engl J Med. 2021 Jul 21. [Epub ahead of print] 2)Concentrated data on individuals who have been vaccinated with two vaccine (HE) doses before 31.1.2021 and follow up until 10.7.2021 / gov.il 3)Israeli Data Suggests Possible Waning in Effectiveness of Pfizer Vaccine / New York Times4)Effectiveness of COVID-19 vaccines against hospital admission with the Delta (B.1.617.2) variant / PHE5)Arunachalam PS, et al.. Nature . 2021 Jul 12. [Epub ahead of print]6)Study shows why second dose of COVID-19 vaccine shouldn't be skipped / Eurekalert.7)How the Second mRNA Vaccine Bolsters Immunity / TheScientist

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第67回 例外だらけのコロナ治療、薬剤費高騰と用法煩雑さの解消はいずこへ?

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対するワクチン接種の進行状況が注目を浴びている陰で、治療薬開発もゆっくりではあるが進展しつつある。中外製薬が新型コロナの治療薬として6月29日に厚生労働省に製造販売承認申請を行ったカシリビマブとイムデビマブの抗体カクテル療法(商品名:ロナプリーブ点滴静注セット)が7月19日に特例承認された。この抗体は米国のリジェネロン・ファーマシューティカルズ社が創製したものを提携でスイス・ロシュ社が獲得、ロシュ社のグループ会社である中外製薬が日本国内での開発ライセンスを取得していた。両抗体は競合することなくウイルスのスパイクタンパク質の受容体結合部位に結合することで、新型コロナウイルスに対する中和活性を発揮する薬剤。日本での申請時には、昨年11月に米国食品医薬品局(FDA)で入院を要しない軽度から中等度の一部のハイリスク新型コロナ患者に対する緊急使用許可の取得時にも根拠になった、海外第III相試験『REGN-COV 2067』と国内第I相試験の結果が提出されている。「REGN-COV 2067」は入院には至っていないものの、肥満や50歳以上および高血圧を含む心血管疾患を有するなど、少なくとも1つの重症リスク因子を有している新型コロナ患者4,567例を対象に行われた。これまで明らかになっている結果によると、主要評価項目である「入院または死亡のリスク」は、プラセボ群と比較して1,200mg静脈内投与群で70%(p=0.0024)、2,400mg静脈内投与群で71%(p=0.0001)、有意に低下させた。また、症状持続期間の中央値は両静脈内投与群とも10日で、プラセボ群の14日から有意な短縮を認めた。安全性について、重篤な有害事象発現率は1,200mg静脈内投与群で1.1%、2,400mg静脈内投与群で1.3%、プラセボ群で4.0%。投与日から169日目までに入手可能な全患者データを用いた安全性評価の結果では、新たな安全性の懸念は示されなかったと発表されている。今回の承認により日本国内で新型コロナを適応とする治療薬は、抗ウイルス薬のレムデシビル、ステロイド薬のデキサメタゾン、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬のバリシチニブに次ぐ4種類目となった。従来の3種類はすべて既存薬の適応拡大という苦肉のドラッグ・リポジショニングの結果として生み出されたものであったため、今回の薬剤は「正真正銘の新型コロナ治療薬」とも言える。「統計学的に有意に死亡リスクを低下させる」とのエビデンスが示されたのはデキサメタゾンについで2種類目であり、これまでに行われた臨床試験の結果からは、なんと家族内感染での発症予防効果も認められている。発症予防効果は米国国立衛生研究所(NIH)傘下の国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)と共同で実施した第III相試験『REGN-COV 2069』で明らかにされた。本試験は4日以内に新型コロナ陽性と判定された人と同居し、新型コロナウイルスに対する抗体が体内に存在しない、あるいは新型コロナの症状がない1,505例が対象。プラセボと1,200mg単回皮下注射で有効性を比較したところ、主要評価項目である「29日目までに症候性感染が生じた人の割合」は、プラセボ群に比べ、皮下注射群で81%減少したことが分かった。また、皮下注射群で発症した人の症状消失期間は平均1週間以内だったのに対し、プラセボ群の3週間と大幅な期間短縮が認められている。死亡率低下効果に予防効果もあり、なおかつ限定的とはいえ軽度や中等度の患者にも使用できるというのは、やや手垢のついた言い方だが「鬼に金棒」だ。もっとも冷静に考えると、そう単純に喜んでばかりもいられない気がしている。まず、そもそも今回の抗体カクテル療法も含め、新型コロナを適応として承認された治療薬は、いずれも従来の感染症関連治療薬とは毛並みが異なり、現実の運用では非専門医が気軽に処方できるようなものではない。今後承認が期待される薬剤も含めてざっと眺めると、もはや従来の感染症の薬物治療からかけ離れたものになりつつある。もちろん現行では非専門医がこうした薬剤を新型コロナ患者に処方する機会はほとんどないが、専門医でも慣れない薬剤であるため、それ相応に臨床現場で苦労をすることが予想される。その意味では治療選択肢の増加にもかかわらず、新型コロナの治療自体は言い方が雑かもしれないが、徐々にややこしいものになりつつある。一方、隠れた問題は治療費の高騰である。現在、新型コロナは指定感染症であるため、医療費はすべて公費負担である。そうした中でデキサメタゾンを除けば、薬剤費は極めて高額だ。レムデシビルは患者1人当たり約25万円、バリシチニブも用法・用量に従って現行の薬価から計算すると最大薬剤費は患者1人当たり約7万3,900円。今回の抗体カクテル療法は薬価未収載で契約に基づき国が全量を買い取り、その金額は現時点で非開示だが、抗体医薬品である以上、安く済むわけはない。しかも、これ以前の3種類がいずれも中等度以上であることと比べれば、対象患者は大幅に増加する。本来、疾患の治療は難治例の場合を除き、疾患の解明が進むほど、選択肢が増えて簡便さが増し、時間経過に伴う技術革新などで薬剤費や治療関連費は低下することが多い。ところが新型コロナでは世界的パンデミックの収束が優先されているため、今のところ治療が複雑化し、価格も高騰するというまったく逆を進んでいる。そうした現状を踏まえると、やはりワクチン接種のほうがコストパフォーマンスに優れているということになる。こうした時計の針がどこで逆に向くようになるのか? 個人的にはその点を注目している。

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総合内科専門医試験オールスターレクチャー 消化器(肝胆膵)

第1回 ウイルス性肝炎第2回 アルコール性肝疾患とNAFLD第3回 自己免疫性肝炎の原発性胆汁性胆管炎第4回 肝硬変第5回 急性胆嚢炎・胆管炎第6回 急性膵炎第7回 慢性膵炎 IPMN 総合内科専門医試験対策レクチャーの決定版登場!総合内科専門医試験の受験者が一番苦労するのは、自分の専門外の最新トピックス。そこでこのシリーズでは、CareNeTV等で評価の高い内科各領域のトップクラスの専門医11名を招聘。各科専門医の視点で“出そうなトピック”を抽出し、1講義約20分で丁寧に解説します。キャッチアップが大変な近年のガイドラインの改訂や新規薬剤をしっかりカバー。Up to date問題対策も万全です。消化器の肝胆膵については、東京医科歯科大学の山田徹先生がレクチャー。最新のガイドラインに合わせて、変更された標準治療など要点を押さえます。肝胆膵のいずれ疾患も、アルコール性か否かによって異なる治療法を整理します。※「アップデート2022追加収録」はCareNeTVにてご視聴ください。第1回 ウイルス性肝炎ウイルス性肝炎では、まず最も多いB型とC型を解説。B型肝炎は各種抗原抗体と一般的な感染パターンを相関図で整理。C型肝炎は、新しい直接型抗ウイルス薬(DAA)の開発が進み、慢性肝炎・代償期肝硬変だけでなく、非代償期肝硬変を含むすべてが治療対象となっています。最新のガイドラインに記載されている重症度別の第1選択薬を押さえます。日常臨床ではあまり見られない、A型・D型・E型肝炎についてもポイントを確認。第2回 アルコール性肝疾患とNAFLDウイルス性や自己免疫性が除外された肝疾患は、アルコール性と非アルコール性に分けられます。非アルコール性脂肪性肝疾患NAFLDの日本での有病率はおよそ30%で、現在増加傾向。肥満でない人にも多いのがポイント。NAFLD のうち、NASHは肝硬変への進展や肝がんの発生母地になるため、臨床的に重要な疾患概念です。バイオマーカーは未確定で、鑑別には原則肝生検が必要です。肝生検を行う目安を確認します。第3回 自己免疫性肝炎の原発性胆汁性胆管炎自己免疫性肝炎AIHは中年以降の女性に好発する肝疾患で、約30%に慢性甲状腺炎やシェーグレン症候群といった他の自己免疫性疾患を合併。AIHの10~20%に原発性胆汁性胆管炎PBCを合併したオーバーラップ症候群がみられます。PBCも中年以降の女性に好発し、他の自己免疫性疾患と合併する場合があります。ともに無症状から非特異的な症状が多く、診断のポイントとなる血液検査と病理検査が問題を解くカギです。第4回 肝硬変肝硬変の主な原因は、これまではC型肝炎でしたが、直接型抗ウイルス薬(DAA)の進歩により減少が予想されており、対してNASHの割合が増加傾向です。特徴的な身体所見を確認します。診断と予後予測には肝線維化を評価。肝硬変は低栄養や低血糖に陥りやすく、死亡率増加や各種合併症につながります。合併症となる食道静脈瘤、肝性脳症、腹水、特発性細菌性腹膜炎、肝腎症候群、肝細胞がんの各治療法も試験で問われるポイント。第5回 急性胆嚢炎・胆管炎急性胆嚢炎と急性胆管炎を比較しながら解説します。まず原因に胆石性の有無を確認することが重要。無石胆嚢炎は、症状は胆石性胆嚢炎と同じですが、外傷、心臓手術後、敗血症など高ストレス下で発症し、重症化しやすく死亡率が高いため、早期発見・早期治療が必須。急性胆嚢炎の画像診断は、腹部エコーが第1選択。診断基準となる数値を押さえます。急性胆嚢炎・胆管炎の治療は、抗菌薬・ドレナージ・手術の使い分けがポイント。第6回 急性膵炎急性膵炎の2大原因はアルコールと胆石。強い腹痛を伴う疾患で、約7割が心窩部痛です。重症度診断のスコアとともに、重症垂炎を除外するためのHAPSというスコアも有用です。発症早期の多量輸液が死亡率を下げるため重要。治療については、抗菌薬や蛋白分解酵素阻害薬の有効性について、最新の見解を整理します。膵周囲の液体貯留の定義である「改訂Atlanta分類」を踏まえて、感染性膵壊死の治療法を押さえます。第7回 慢性膵炎 IPMN慢性膵炎の原因はアルコールが68%を占めています。飲酒と喫煙がリスク因子で、原因が不明瞭な場合は遺伝子検査の対象になります。試験で出題されやすい画像診断では、膵石・石灰化、主膵管不整拡張といった所見が重要。無症状で偶発的に見つかることが多い膵管内乳頭粘液性腫瘍IPMN。画像診断はMRCPが第1選択。浸潤がんや悪性所見を見落とさないように、MCNやSCNとの鑑別ポイントを確認します。

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第67回 がん患者にmRNAワクチン有効/米国のCOVID-19死亡例の接種状況/ワクチン開発に役立つ発見

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの効果を裏付ける2つの報告と次世代のCOVID-19ワクチン開発で参考になりそうな研究成果を紹介します。がん患者の94%がCOVID-19のmRNAワクチンに応答Pfizer/BioNTech社やModerna社のmRNAワクチン・BNT162b2やmRNA-1273が投与されたがん患者のほとんどが新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)への抗体を幸いにも発現しました1)。2回目の接種を済ませたがん患者123人中116人(94%)にSARS-CoV-2への抗体が認められました。ただし、先立つ6ヵ月間に抗CD20抗体リツキシマブ治療経験がある4人にはSARS-CoV-2への抗体が認められませんでした。また、骨髄腫やホジキンリンパ腫などの血液がん患者の抗体発現率は77%であり、固形がん患者の98%に比べて低めでした。血液がん患者は抗体活性も低めでした。今後の課題として、そのような不安要素がある患者へのがん治療後の3回目の接種の検討などが必要です2)。米国では今やワクチン接種済みのCOVID-19死亡例は1%に満たないAP通信社が米国疾病予防管理センター(CDC)の5月のデータを独自に調べた結果によると同国のCOVID-19死亡のほぼすべてはワクチン接種が済んでいない人でした3)。5月のおよそ11万のCOVID-19入院患者にワクチン接種が済んだ人はほとんどおらず僅か約1.1%の1,200人足らずでした。また、5月にCOVID-19で死亡した1万8,000人超にもワクチン接種が済んでいる人はほとんどおらず1%にも満たない(およそ0.8%)約150人のみでした。好中球の投網でCOVID-19を一網打尽?Pfizer/BioNTechのmRNAワクチン接種でも発現4)しうることが知られるIgA抗体は粘膜表面に豊富でウイルス病原体の防御で重要な役割を担います。IgA抗体はウイルスに直接取り付いて細胞感染を阻止することに加え、免疫細胞表面にあるFc受容体と協力して抗菌活性を促しうることが知られています。Fc受容体を介したIgA抗体のウイルス感染への作用はこれまでよく分かっていませんでしたが、PNAS誌に掲載された新たな研究の結果5)、IgA抗体-ウイルス複合体は好中球のFc受容体に結びついてクモの巣状の仕掛け・NET(好中球細胞外トラップ)を投網の如く好中球に分泌させると分かりました。好中球が破裂(NETosis)して放たれるNETはウイルスを捉えて不活性化することも確認され、その抗ウイルス機能が裏付けられました。他の免疫活性がそうであるようにNETは有益である一方で行き過ぎると害をもたらします。IgA抗体が感染前に豊富に備わっていればNETは感染防御を担うでしょう。しかし感染でIgA抗体がたくさん作られてしまうとNETは炎症を引き起こしてむしろ病状を悪化させてしまう恐れがあります6)。SARS-CoV-2やインフルエンザウイルスなどに対抗するIgA抗体をあらかじめ備えておくための次世代のワクチン開発に今回の成果は参考になるでしょう。参考1)Addeo A, et al.Cancer Cell. 2021 Jun 18:S1535-6108,00330-5.2)94% of patients with cancer respond well to COVID-19 vaccines / Eurekalert3)Nearly all COVID deaths in US are now among unvaccinated / AP4)Turner JS, et al.Nature. 2021 Jun 28. [Epub ahead of print]5)Stacey HD, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2021 Jul 6;118.6)Researchers discover unique 'spider web' mechanism that traps, kills viruses / Eurekalert

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コロナ関連急性呼吸不全の呼吸管理:高流量鼻腔酸素or ヘルメット型非侵襲換気?(解説:山口佳寿博氏)-1402

 新型コロナ感染症に惹起された急性低酸素性呼吸不全(ARDS)の病理/形態、分子生物学的異常は、本感染症が発生した2020年の早い段階で明らかにされた(Ackermann M, et al. N Engl J Med. 2020;383:120-128., 山口. CLEAR!ジャーナル四天王-1265)。その結果、コロナARDSの病理/形態学的特徴は;(1)ARDSの通常所見としてのDiffuse alveolar damage(DAD)、(2)特異的所見として、血管内皮細胞炎(Endothelialitis)、血管増生賦活遺伝子と抑制遺伝子の不均衡に起因する著明な血管増生(Angiogenesis)を伴う肺微小循環血栓形成(TMA:Thromboembolic microangiopathy)であることが判明した。 血管内皮細胞炎/血管増生は、コロナ以外の原因によるARDSでも認められるが(Osuchowski MF, et al. Lancet Respir Med. 2021;9:622-642.)、コロナARDSではとくに著明な現象である。これらの病理/形態学的異常から、コロナARDSの呼吸生理学的特徴は;(1)肺胞虚脱/無気肺に起因する右-左血流短絡(Shunt:VA/Q=ゼロ)を含む低VA/Q領域の形成、(2)TMAに起因する肺胞死腔(Alveolar dead space:VA/Q=無限大)を含む高VA/Q領域の形成、(3)肺胞中隔病変(肺胞膜、肺毛細血管)に起因する拡散障害(Diffusion limitation)と考えることができる。これら3要因によって重篤な低酸素血症が惹起されるが、拡散障害の寄与率は低い。 ここで注意しなければならない点は、微小血管損傷を伴わない低VA/Q領域では、低酸素性肺血管攣縮(HPV:Hypoxic pulmonary vasoconstriction)によって肺血流は損傷部位から正常部位に再分布し低酸素血症を是正するが、ARDS肺にあっては、低VA/Q領域のHPVが麻痺しており(HPV paralysis)、肺血流の再分布が起こらず低酸素血症の是正は簡単ではない(Yamaguchi K. Chapter 9, p.149-172, 2020. In: Structure-Function Relationships in Various Respiratory Systems -Connecting to the Next Generation, Springer-Nature, Tokyo, Japan.)。高VA/Q領域のTMA病変部位からはHPV paralysisに陥っている低VA/Q領域に肺血流が再分布し、低酸素血症をさらに悪化させる。すなわちHPV paralysisは、ARDS肺における低酸素血症を治療抵抗性に移行させる重要な要因の1つである。治療抵抗性の重篤な低酸素血症は、“Refractory hypoxemia”と定義される。 本論評で取り上げたGriecoらの論文(Grieco DL, et al. JAMA. 2021;325:1731-1743.)は、首から上をHelmetで覆い非侵襲的呼吸管理(NIV:Non-invasive ventilation)を行うHelmet型NIVと鼻腔を介する高流量酸素投与(HFNO:High-flow nasal oxygen)の効果を、イタリア4施設のICUにおける多施設ランダム化比較試験によって検討したものである(HENIVOT Trial)。対象患者は、両側肺に浸潤陰影を認め、PaO2/FIO2値が200以下のARDS患者で、基礎的薬物治療として低用量デキサメタゾン(サイトカイン産生抑制薬)が100%の患者に、レムデシビル(抗ウイルス薬)が81%の患者に投与されていた。HFNO群(54例)では、高流量酸素(60L/min)投与を少なくとも48時間継続した後HFNOを離脱する方法がとられた。Helmet型NIV群(53例)では、Peak inspiratory flow:100L/min、Pressure support:10~12cmH2O、PEEP:10~12cmH2Oの初期設定の下48時間の呼吸管理が施行され、その後、Helmet型NIVを離脱する方法がとられた。以上のような2群において、28日間の観察期間における呼吸管理に関連する種々の指標が比較された。 その結果、Primary outcomeである28日間における補助呼吸管理が必要であった日数においては両群間で有意差を認めなかったが、Secondary outcomesとして設定された治療失敗率(気管内挿管率)、侵襲的機械呼吸補助が必要な日数に関してはHelmet型NIV群において有意に良い結果が得られた。以上より、症例数が少ないために確実な結果とは言い切れないが、Griecoらの論文は、コロナARDSの低酸素血症の治療にはHFNOよりもHelmet型NIVを適用することがより妥当であることを示唆した。 Helmet型NIVは、通常のFace-mask型NIVならびにHFNOに比べ、患者の密閉度が高い、安定したPEEPを維持できる、会話可能などの患者耐用能が高い、呼吸筋仕事量を低く抑え呼吸筋疲労を抑制できる、などの利点がある。コロナなど種々の感染症に起因する呼吸不全の管理では、患者から排出される感染微生物の周囲環境への播種をどのようにして防御するかが、ICUなどの施設内感染を予防するうえで非常に重要な問題である。Helmet型NIVでは吸気側、呼気側に微生物除去用Filterを装着することによって患者をHelmet内に密閉・隔離できるので、ICU内感染防御の面からはFace-mask型NIV、HFNOに比べ確実に優れている。しかしながら、Helmet型NIVはCO2の再呼吸が発生しやすく、上肢浮腫の発生頻度が高くなる欠点を有する(Munshi L, et al. JAMA. 2021;325:1723-1725.)。 HFNOにおいても装置の改良が進み、現在では、吸入気酸素濃度を21%から100%の間で調節できる機種が臨床の現場で使用されている。HFNOにおいても高流量酸素吸入(30L/min以上)によって気道内圧が上昇しPEEP様効果が発現する。しかしながら、HFNOにおけるPEEPはHelmet型NIVなどによる通常のPEEPとは異なり、気道内圧の変動に伴う受動的なもので、呼気相の早期に肺胞内圧は上昇するが呼気終末には肺胞内圧は低下する。そのため、肺ガス交換の維持に必要な呼気終末の肺胞Recruitmentの程度は、Helmet型NIVに比べHFNOで低いと考えなければならない。 コロナARDSの呼吸管理において今後考えなければならない重要事項の1つは、肺損傷部位に発生するHPV paralysisに対する治療法の確立である。HPV paralysisは治療抵抗性の低酸素血症を惹起するので、いくら酸素投与法を工夫してもHPV paralysisを是正しない限り、肺のガス交換効率ならびに生体の酸素化状態を劇的に改善させることができない。HPVは細葉内に存在する直径100~300μmの筋性肺細動脈の収縮によって生じるが、ARDSなどの損傷肺にあっては、肺細動脈壁における種々の血管拡張物質合成酵素の過剰発現がHPVの減弱に関与する。過剰発現する血管拡張物質合成酵素の中で、構造型、誘導型のNO合成酵素(eNOS、iNOS)ならびに構造型、誘導型のCyclooxygenase(COX-1、COX-2)がHPV paralysisの発生に重要な役割を果たすことが判明しており、これらの酵素を阻害することでARDSのHPV paralysisは有意に回復することが動物実験レベルで示されている(Naoki N, et al. Eur Respir J. 2002;20:43-51.)。臨床的に安全に投与できるのはCOX阻害薬(インドメタシン、アスピリンなど)であるので、今後、これらの薬物投与下でHelmet型NIV、HFNOの効果を検証する治験を期待したい。 Chowらは、小規模の観察研究ではあるが(アスピリン投与群:98例、非投与群:314例)、コロナ感染症患者にあって侵襲的機械呼吸の導入率、ICU入院率、病院内死亡率が、何らかの理由でアスピリン投与を受けていた群で有意に低いことを示した(Chow J, et al. Anesth Analg. 2021;132:930-942.)。さらに、アスピリンがARDSの発症/進行リスクを低下させるという直接的報告も散見される(Erlich JM, et al. Chest. 2011;139:289-295., Chen W, et al. Crit Care Med. 2015;43:801-807. , Panka BA, et al. Shock 2017;47:13-21.)。これらの報告は、アスピリンがHPV paralysisを抑制しコロナ重症例の肺ガス交換異常を改善するという、本論評で展開した仮説を支持する臨床的知見として興味深い。 アスピリンは、上述した血管拡張物質産生抑制に加え、トロンボキサンA2合成阻害を介して血小板凝集に起因する血栓性病変の発現を抑制、さらには、IL-6の産生抑制を介してCytokine stormの進行を抑制する(Chow J, et al. Anesth Analg. 2021;132:930-942.)。すなわち、アスピリンはARDSの発症/進行を抑制、血栓性病変を予防、HPV paralysisを是正し肺ガス交換効率を維持する作用を有し、ARDSに対する“廉価な総合薬”と考えることができる。今後、古き廉価なアスピリンがコロナ感染症などに併発したARDSの分野において正しく再評価されることが望まれる。

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新型コロナ既感染者、1年後の抗体保有状況は?/横浜市立大

 横浜市立大学の山中 竹春氏(学術院医学群 臨床統計学)率いる研究グループは、「新型コロナウイルス感染12ヵ月後における従来株および変異株に対する抗ウイルス抗体および中和抗体の保有率に関する調査」の記者会見を5月20日に開催。回復者のほとんどが6ヵ月後、12ヵ月後も従来株に対する抗ウイルス抗体および中和抗体を保有していたことを報告した。調査概要と結果 本調査は同大学が開発した「hiVNTシステム」を用いて、新型コロナウイルス感染症からの回復者(2020年2~4月に自然感染した既感染者で、研究への参加同意を取得)約250例を追跡した国内最大規模の研究である。2021年3月末までの期間に採血・データ解析を行い、感染から6ヵ月後と12ヵ月後の抗ウイルス抗体と中和抗体の保有率を確認した。従来株(D614G)ならびに変異株4種[イギリス株(B.1.1.7)、ブラジル株(P.1)、南アフリカ株(B.1.351)、インド株(B.1.617)]を調査した。中和抗体の測定はシュードウイルス法*を用いて行われた。*SARS-CoV-2スパイクを持つ偽ウイルスを用いてLuciferase活性を定量する方法で、危険性が低く、短期間で検出が可能。 主な結果は以下のとおり。・参加者250例の平均年齢は51歳(範囲:21~78歳)だった。・重症度別の内訳は、軽症・無症状は72.8%(182例)、中等症は19.6%(49例)、重症は7.6%(19例)だった。・従来株に対する6ヵ月後の中和抗体の陽性率は98%(245/250例)、12ヵ月後では97%(242/250例)だった。・自然感染から6ヵ月後と12ヵ月後の参加者の中和抗体陽性率は重症度別では、軽症・無症状(97%、96%)、中等症(100%、100%)、重症(100%、100%)で、中和抗体の量は6ヵ月から12ヵ月で大きく低下しなかった。・変異株の中和抗体の保有率はいずれの時点でも従来株に比べ低下傾向だったものの、多くの人が検出可能な量の中和抗体を有していた[イギリス株(6ヵ月:88.4%、12ヶ月:84.4%)、ブラジル株(同:85.6%、同:81.6%)、南アフリカ株(同:75.2%、同:74.8%)、インド株(同:80.4%、同:75.2%)]。 ・変異株の場合は軽症・無症状者の抗体保有率が低く、南アフリカ株やインド株の抗体保有率は70%前後だった。 また、山中氏はモデルナ製ワクチンの海外データ1)を踏まえ「ワクチン接種を行うことで自然感染と同様の中和抗体が残っている可能性が示唆されている。自然感染者よりワクチン接種者のほうが効率よく中和抗体を上げることができるので、1年後に再接種し免疫強化を図るのが良いのでは」とも見解を述べた。

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AIが探索したCOVID-19の治療薬/日本イーライリリー

 日本イーライリリーは、SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)による肺炎に対する治療薬として、適応追加承認を取得した経口ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤バリシチニブ(商品名:オルミエント)に関するプレスセミナーを開催した。バリシチニブは関節リウマチ、アトピー性皮膚炎の治療薬として承認されている薬剤。 今回のセミナーでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への適応拡大で行われた臨床試験の経過、使用上の詳細について説明が行われた。COVID-19のサイトカインストームを抑えるバリシチニブ はじめに齋藤 翔氏(国立国際医療研究センター 国際感染症センター 総合感染症科)が、「新型コロナウイルス感染症の病態、治療の現状と課題 JAK阻害剤の臨床的位置づけ」をテーマに、バリシチニブの臨床的な位置付けや使用上の注意点などを説明した。 COVID-19の病態はすでに広く知られているようにウイルス応答期と宿主炎症反応期に分けられる。そして、治療では、軽症から中等症では抗ウイルス薬のレムデシビルが使用され、病態の進行によっては抗炎症治療薬のデキサメタゾンが併用されているが、今回追加適応されたバリシチニブは中等症以上で顕著にみられるサイトカインストームへの治療として期待されている。 バシリニブの適応追加では、米国国立衛生研究所(NIH)傘下の国立アレルギー感染症研究所(NIAID)主導によるACTT試験が行われた。特にACTT-2試験は、他施設共同・アダプティブ・無作為化・二重盲検・プラセボ対照・並行群間比較検証試験で実施され、COVID-19と診断された成人入院患者を対象にバリシチニブとレムデシビル群(n=515)とプラセボとレムデシビル群(n=518)を比較し、有効性および安全性を評価した。その結果、有効性として回復までの期間はバリシチニブ群で7日に対し、プラセボ群で8日だった(ハザード比[95%CI]:1.15[1.00-1.31] p=0.047)。また、無作為化後14日時点の死亡率では、バリシチニブ群で8例に対し、プラセボ群で15例だった(ハザード比[95%CI]:0.55[0.23-1.29])。 安全性では、グレード3(高度)または4(生命を脅かす可能性のある事象)の有害事象はバリシチニブ群で41%、プラセボ群で47%であり、重篤な有害事象ではバリシチニブ群で15%、プラセボ群で20%だった。また、死亡に至った有害事象はバリシチニブ群で4%、プラセボ群で6%だった。 次に使用上の注意点として禁忌事項に触れ、「結核患者」、「妊婦または妊娠の可能性のある女性」、「敗血症患者」、「透析患者」などへは事前の問診、検査をしっかり実施して治療に臨んでもらいたいと説明した。AIが探索したバリシチニブの可能性 次に「オルミエント錠、SARS-CoV-2による肺炎への適応追加承認と適正使用について」をテーマに吉川 彰一氏(日本イーライリリー株式会社 バイスプレジデント・執行役員/研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部)が適応承認までの道程と適正使用について説明した。 もともと本剤は関節リウマチ、アトピー性皮膚炎の治療薬として使用されていたが、COVID-19の流行とともに治療薬の探索が急がれていた。その中で「Benevolent AI社が、バリシチニブがCOVID-19の治療薬になる可能性があるとLancetに発表1)、この報告後、in vitroでの薬理作用が確認され、2020年5月にACTT試験が開始された」と語った。 作用機序は、COVID-19による急性呼吸窮迫症候群について、JAK-STATサイトカインシグナル伝達を阻害することで、増加したサイトカイン濃度を低下させ、抗炎症作用を示すという。 追加された効能は、SARS-CoV-2による肺炎(ただし酸素吸入を要する患者に限る)。用法および用量は、成人にはレムデシビルとの併用においてバリシチニブ4mgを1日1回経口投与し、総投与期間は14日間。本剤は、酸素吸入、人工呼吸管理または体外式膜型人工肺(ECMO)導入を要する患者を対象に入院下で投与を行うものとされている。また、経口投与が困難な場合、懸濁させた上で経口、胃瘻、経鼻または経口胃管での投与も考慮できるとしている。 最後に吉川氏は同社の使命である「『世界中の人々のより豊かな人生のため、革新的医薬品に思いやりを込めて』を実現し、患者の豊かな人生へ貢献していきたい」と語り講演を終えた。●参考文献1)Richardson P, et al. Lancet. 2020;395:e30-e31.

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新型コロナ感染症に対する回復期血漿療法は無効(解説:山口佳寿博氏)-1384

 2021年2月11日の本サイト論評で新型コロナ感染症に対する回復期血漿療法の意義・有効性を2021年1月までに発表された論文をもとに中間報告した。しかしながら、2月から3月にかけて回復期血漿療法に関する重要な論文が相次いで発表され、本療法に対する世界的評価が定まった感がある。それ故、本論評では、回復期血漿療法を再度とり上げ、本療法が新型コロナ感染症におけるウイルス増殖の抑制、感染後の重症化阻止に対して有用であるか否かを再度議論するものとする。 本論評でとり上げたJaniaudらの論文(Janiaud P,et al. JAMA. 2021 Mar 23;325:1185-1195.)は、回復期血漿療法に関するメタ解析の結果を報告したもので、2021年1月29日までに報告された10個のランダム化対照試験(RCT)を解析対象とし、観察研究は除外された。RCTは、インド、アルゼンチン、バ-レ-ン、中国、オランダ、スペイン、英国で施行されたものを含む。これらの対象論文には4個の査読終了後の正式論文に加えPress releaseを含む6個の非査読論文が含まれる。4個の正式論文における総対象者数は1,060例(回復期血漿群:595例、対照群:465例)であった。非査読論文にあって最大のものは英国のRECOVERY Trial(Randomized Evaluation of COVID-19 therapy)で総対象者数は11,558例(回復期血漿群:5,795例、対照群:5,763例)であり、他の5個の非査読論文の総対象者数は316例(回復期血漿群:155例、対照群:161例)であった。すなわち、Janiaudらのメタ解析の対象者の89%はRECOVERY Trialに登録された症例であり、その解析結果はRECOVERY Trialの結果によって決定されたものと考えなければならない。それ故、本論評では、2021年3月10日に非査読論文としてmedRxivに掲載されたRECOVERY Trialの結果について解説する(The RECOVERY Collaborative Group. medRxiv.)。 RECOVERY Trialは、英国177の医療施設で施行されている非盲検RCTであり、現在までに、デキサメタゾン、ヒドロキシクロロキン、ロピナビル/リトナビル、アジスロマイシン、トシリズマブに関する治験結果を報告している。RECOVERY Trialで使用された回復期血漿は、ELISA法によりS蛋白特異抗体が高くウイルスに対する中和抗体価が100倍以上の高力価のものであり、ランダム化から出来る限り早期に投与された(初回:137.5mL、2回目:初回より少なくとも12時間あけて翌日に137.5mLを投与)。対象者の8%で酸素投与なし、87%で酸素投与のみ、5%で侵襲的人工呼吸管理が導入されていた。すなわち、対象者の大部分はWHO分類による非重篤患者であった(WHO COVID-19 Clinical management (Ver.1.4) , 2021年1月25日)。Primary outcomeとして、ランダム化から28日目までの死亡率、Secondary outcomesとして、入院期間、ランダム化以降にECMOを含む侵襲的補助呼吸管理あるいは腎/腹膜透析が導入された症例の割合が評価された。興味深いPost-hoc analysisとして、従来株(D614G株)と英国変異株(B.1.1.7)に対する回復期血漿の効果が検討された。従来株感染者は、2020年12月1日までにランダム化された症例、英国株感染者は、それ以降にランダム化された症例と仮定された。 ランダム化から28日目における死亡率は、回復期血漿群、対照群で共に24%であり全く同一であった(Primary outcome)。従来株感染者と英国変異株感染者の死亡率も回復期血漿群と対照群で有意差を認めなかった(Post-hoc analysis)。すなわち、ウイルスの種類によらず回復期血漿療法は無効で新型コロナ感染症患者の死亡を抑制しなかった。Secondary outcomesの評価項目でも両群間で有意差を認めた指標は存在しなかった。以上の結果は、年齢、性、症状持続期間、対象患者のランダム化時のS蛋白に対するIgG抗体価、基礎治療としてのステロイド投与の有無、ランダム化時の呼吸管理の差異などの背景因子を補正しても変化せず、回復期血漿療法の臨床的有効性を全面的に否定するものであった。RECOVERY Trial以上の大規模試験を施行することは不可能、かつ、無意味であり、回復期血漿療法に関する最終結論として、本療法は無効と判断すべきである。 この大規模RECOVERY Trialの結果を受け、世界各国での回復期血漿療法に関する多くの治験は中止されつつある。RECOVERY TrialのPress releaseを受け、2021年2月4日、米国FDAは回復期血漿療法の適用を厳密化し、それを施行するにあたり以下の点を遵守することを臨床現場に要請した(New York Times, 2021年3月22日);(1) S蛋白に対する高力価の抗体を有する血漿のみを使用すること、(2) 主たる対象は免疫不全を有する感染者に限定すること、(3) 免疫不全を認めない感染者に対しては感染早期の投与のみに限定すること。本邦にあっては、回復期血漿療法は保険適用外治療として去年の早い段階で承認されているが、RECOVERY Trialを中心とした世界の趨勢を鑑み、その適用に関し早急に見直す必要がある。2021年4月2日、武田薬品工業は、新型コロナ感染症患者血漿から精製した高濃度免疫グロブリン製剤(CoVIg-19 Plasma Alliance)の第III相ITAC試験(二重盲検化RCT)の結果をPress releaseで公表した(ミクスonline, 2021年4月5日)。ITAC試験は、世界10ヵ国、63施設が参加して施行されたものであり、発症12日以内の新型コロナ感染症患者600例が対象として登録された。治験計画として、抗ウイルス薬レムデシビルにCoVIg-19 Plasma Allianceを追加したレジメンが新型コロナ感染症の制御に有効であるかどうかが解析された。残念なことに、上記のレジメンの有効性は証明されず、ITAC試験の結果はRECOVERY Trialの結論を支持するものであった。 最後に、回復期血漿療法がまったく無意味な治療法であるかどうかについて考察してみたい。この考察のために、S蛋白に対するIgG monoclonal抗体であるCasirivimabとImdevimabの抗体カクテル(REGN-COV)に関する最新の第III相治験結果(REGN-2069 Trial)を紹介したい(Roche. Media & Investor Release, 2021年4月12日)。REGN-2069 Trialは、IgG monoclonal抗体カクテルREGN-COVの皮下投与が新型コロナ感染症患者との濃厚接触に起因する家族内感染リスクを81%、無症候性感染から有症候性感染への移行リスクを31%軽減させることを示した。回復期血漿療法はS蛋白を標的としたPolyclonal抗体治療と考えることができるので、家族内感染に関してREGN-COVカクテルと同様の効果を発揮する可能性がある。その意味で、新たな治験が必要ではあるが、回復期血漿療法を家族内感染に対する予防法の1つとして位置付けることが可能ではないかと論評者は考えている。しかしながら、REGN-COVカクテルは皮下投与で外来治療ができる簡便な方法であるのに対し、回復期血漿は入院で点滴投与が必要であり実際面で非常に制限が多く、REGN-COVカクテル療法を凌駕する方法ではないことを忘れてはならない。

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発症後2日でウイルス排出量ピーク、新型コロナ治療が困難な理由を解明

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を巡っては、病態の多様性もさることながら、いまだウイルス自体の全容が明らかになっていない。そんな中、九州大学大学院理学研究員の岩見 真吾氏らの研究グループは、米国インディアナ大学公衆衛生大学院の江島 啓介氏らとの共同研究により、SARS-CoV-2を特徴付ける感染動態の1つとして、生体内におけるウイルス排出量のピーク到達日数が既知のコロナウイルス感染症よりも早く、この特徴がゆえに、発症後の抗ウイルス薬による治療効果が限定的になっていることがわかった。研究結果は、PLOS Biology誌2021年3月22日号に掲載された。新型コロナのウイルス排出量のピークは発症から平均2.0日程度 研究グループは、新型コロナウイルス感染症に加えて、過去に流行した中東呼吸器症候群(MERS)および重症急性呼吸器症候群(SARS)の臨床試験データを分析。症例間の不均一性を考慮した上で、生体内でのウイルス感染動態を記述する数理モデルを用いて解析した。その結果、新型コロナウイルス感染症におけるウイルス排出量のピーク到達日数が発症から平均2.0日程度であり、MERS(12.2日)やSARS(7.2日)と比べ、かなり早期にピークに達することがわかった。 さらに、本研究で開発したコンピューターシミュレーションによる分析から、投与するウイルス複製阻害薬やウイルス侵入阻害薬が強力であったとしても、ピーク後に治療を開始した場合では、ウイルス排出量を減少させる効果はきわめて限定的であることも示唆された。 本結果は、新型コロナウイルス感染症に対する抗ウイルス薬治療が、ほかのコロナウイルス感染症と比べて困難である理由の1つを明らかにするものである。著者らは、「今回の研究は、新型コロナウイルス感染症を含む症例データを数理科学の力で分析することで、コロナウイルスのさまざまな感染動態を特徴付け、治療戦略を開発するうえで重要な定量的知見である」と述べている。なお、本研究で得られた知見に基づいた医師主導治験が、現在国内で進行中である。

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先天性腎性尿崩症〔Congenital nephrogenic diabetes insipidus〕

1 疾患概要■ 概念・定義腎性尿崩症(Nephrogenic Diabetes Insipidus:NDI)は、腎尿細管におけるAVP(Arginine Vasopressin)の作用不足のために尿濃縮障害を呈し、そのために多尿(尿の過剰産生)と多飲(過度の口渇)を呈する疾患群である。NDIは、成因により先天性と二次性に分けられる。先天性NDIは、AVPのV2受容体やAVP依存性水チャンネルのアクアポリン-2の遺伝子異常などにより発症する。二次性NDIは、低カリウム血症、高カルシウム血症、腎泌尿器疾患、薬剤(炭酸リチウムほか)、アミロイドーシスなどに伴って発症する。先天性NDIは難病指定を受けている。本稿では主に先天性NDIについて述べる。■ 疫学わが国の関連学会会員を対象とした全国規模の腎性尿崩症の頻度調査(2009~2010年)では、173例のNDIが確認され、そのうち15例はリチウム製剤に起因する二次性NDIであった1)。■ 病因と分類NDIの原因は、先天性と二次性に大別されるが、二次性はさらに、薬剤性、腎泌尿器疾患によるもの、その他、などに区分される(表12))。表1 腎性尿崩症の原因2)1.先天性1)X連鎖潜性遺伝(劣性遺伝)性 AVPR22)常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)性 AQP23)常染色体顕性遺伝(優性遺伝)性 AQP24)その他2.電解質異常1)高カルシウム血症2)低カリウム血症3.薬剤性リチウム、デメクロサイクリン、アンホテリシン B、アミノグリコシド系薬剤、メトキシフルレンなど4.腎泌尿器疾患1)慢性腎不全2)逆流性腎症、間質性腎炎3)異形成腎、髄質嚢胞性腎疾患、ネフロン癆4)ファンコニー症候群(シスチン蓄積症、他)、バーター症候群5)尿路閉塞5.その他1)サルコイドーシス2)アミロイドーシス3)シェーグレン症候群4)鎌状赤血球症5)浸透圧利尿(糖、マンニトール、ナトリウム)6)ACEI/ARB fetopathy**は著者改変1)AVPによる集合管における尿濃縮の機序V2受容体は7回膜貫通型Gタンパク質共役受容体で、腎集合管主細胞の血管膜側細胞膜に発現している。AVPがV2受容体に結合するとGタンパクとアデニル酸シクラーゼの活性化を生じ、cAMPが産生される。cAMPはプロテインキナーゼA(PKA)を介して、輸送小胞膜上にホモ4量体で水チャンネルを形成しているアクアポリン-2をリン酸化する。リン酸化されたアクアポリン-2を載せた小胞は管腔側細胞膜へ移動し、エクソサイトーシスにより細胞膜と融合することで管腔と主細胞間に水チャンネルが開通する。主細胞の血管側細胞膜上でアクアポリン-3、4により恒常的に開通している水チャンネルの作用と併せて、管腔側から血管側へ水が再吸収されて尿が濃縮される(図)。図 腎尿細管主細胞におけるV2受容体とアクアポリンによる水の再吸収(著者作成)画像を拡大する2)先天性NDI(a)遺伝形式と発症機序先天性NDIの90%以上はX連鎖潜性遺伝(劣性遺伝)である。約9%の患者は常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)であり、1%は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)である。X連鎖潜性遺伝(劣性遺伝)NDIの95%にはAVPのV2受容体遺伝子AVPR2に病的バリアントを認め、常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)NDIの約95%にはアクアポリン-2遺伝子AQP2に病的バリアントを認める。軽症または部分型の先天性NDIは、AVPR2遺伝子異常に報告されることが多いが、顕性遺伝(優性遺伝)形式をとるAQP2遺伝子異常によるものも報告されている。(b)AVPR2の遺伝子異常AVPのV2受容体遺伝子AVPR2はヒトではX染色体上に位置していて、3つのエクソンからなる。この遺伝子の病的バリアントによるNDIの発症は、男性100万人に4人程度の発症率で認められている。報告されている200種以上のバリアントには特定の集積部位は認められない。機能解析がなされているミスセンス例の多くは、misfoldingによるtrafficking障害によりバリアントタンパクが膜に到達できないことによる。バリアントの種類によっては、部分的にAVP作用が保たれる例も存在する。2012年の厚生労働省研究班の全国調査では、遺伝子解析が実施された62例のうち、AVPR2異常が43例を占めた1)。(c)AQP2の遺伝子異常アクアポリン-2の遺伝子AQP2はヒトでは12q13に位置し、4つのエクソンよりなる。常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)形式と常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式の双方が報告されている。2012年の厚生労働省研究班の全国調査では、遺伝子解析が実施された62例のうち、AQP2異常が5例を占めた1)。(d)ACEI/ARB fetopathy遺伝性ではないが先天性NDIが、妊娠中に降圧薬ACEI/ARBを内服した母体から出生した児に発生することが報告されている3)。薬剤による影響がその原因であるので二次性でもある。3)二次性 NDI以下の原疾患・原因により引き起こされるNDIであり、主に、年長児や成人に発症する。(a)腎泌尿器疾患慢性腎不全、間質性腎炎、慢性尿路閉塞などの腎尿細管機能低下を招来する腎泌尿器疾患は尿濃縮力を低下させ、NDIを呈する。(b)電解質異常高カルシウム血症,低カリウム血症に伴う尿濃縮障害によるNDIが知られている。(c)薬剤性 NDI躁状態治療薬(炭酸リチウム)、抗リウマチ薬(ロベンザリット二ナトリウム)、抗 HIV 薬(フマル酸テノホビルジソプロキシル)、抗菌薬(イミペネム・シラスタチンナトリウム、アムホテリシン、塩酸デメクロサイクリン)、抗ウイルス薬(ホスカルネットナトリウム水和物)などによるNDIが知られている。リチウムについては、glycogen synthase kinase 3(GSK3)を抑制することにより、AVP感受性アデニル酸シクラーゼ活性が低下して細胞内cAMP産生が低下し、AVP作用が減弱するとされている。(d)その他頻度は低いがアミロイドーシス,サルコイドーシスなどの全身疾患もNDIの原因となる。■ 症状多尿が共通した症状であるが、患者の年齢により徴候が異なる。先天性NDIの徴候を述べる。(1)胎児期:母体の羊水過多。(2)新生児期:生後数日頃から、原因不明の発熱およびけいれんを来す。高浸透圧血症、高ナトリウム血症を呈す。(3)幼児期~成人:多尿(3~20L/日、乳幼児では体表面積あたりの尿量が2,500mL/m2以上)とそれに伴う多飲を呈す。軽症例では、心因性多飲として経過観察されていたり、多尿に気付かれず夜尿のみを訴えることもある。体重増加不良、便秘を呈すこともある。■ 予後1)中枢神経系口渇に対して自らの意思で飲水できない新生児、乳幼児や意識障害を伴う例では、特に診断前には高張性脱水(高ナトリウム血症)を来し、中枢神経系の不可逆的な障害を残すことが多い。新生児では初発症状が高ナトリウム血症による痙攣のこともある。2012年の厚生労働省研究班による全国調査では、先天性NDIの約1割に精神発達遅滞を認めた。乳幼児期を過ぎれば自律的に水分摂取が可能となるので、意識障害時を除いて高張性脱水による中枢神経合併症を生じることはないとされる。2)腎泌尿器系現在のところ、NDIの多尿を適切に改善させる治療法がないので、長期間の多尿による腎泌尿器系の合併症が約半数の患者にみられる。水尿管を含む水腎症、膀胱尿管逆流症の併発により腎機能低下を招来する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)先天性腎性尿崩症の診断基準は、主要症状である多尿、検査所見として尿浸透圧の低値とAVPへの無反応/反応低下、鑑別診断と遺伝学的検査よりなっている(表24))。これには軽症または部分型NDIを診断するための重症度分類も含まれている1)。先天性NDIの診断年齢は、1歳未満が半数以上を占めているが、1~4歳で診断される例も1~2割を占める。表2 先天性腎性尿崩症の診断基準4)と重症度分類1)画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)多尿に見合う適切な量の水分摂取、腎への溶質負荷を軽減するための塩分・蛋白質の摂取制限、サイアザイド系利尿薬や非ステロイド系抗炎症薬の投与が行われる。小児期には、まず塩分制限を行い、効果が不十分な場合に蛋白制限を追加するが、成長障害に十分な注意を払わなければならない。サイアザイド系利尿薬(ヒドロクロロサイアザイドで2~4 mg/kg/日)は、利尿により生じる軽度の体液量減少がレニン・アルドステロン・アンギオテンシン系や交感神経系を賦活して近位尿細管におけるNaと水の再吸収を促進することで、結果的にAVPの作用部位である集合管への水・電解質の負荷を軽減し、逆説的に尿量減少効果を呈すると考えられている。サイアザイド系利尿薬の投与により、尿量は、1/2~1/3程度に減少する。効果が不十分な場合、AVPR2遺伝子異常によるNDIではインドメタシンや選択的COX-2 阻害薬が有効とされるが、近年、長期の選択的COX-2阻害剤投与が心臓の副作用を招くことが明らかにされた。部分的NDIではAVPへの反応性が残存しているので、高容量のDDAVPとサイアザイドの併用による治療が可能な場合がある。4 今後の展望AVPR2バリアントやAQP2バリアントでは、タンパクの細胞質移送が障害されていることが明らかになっているので、種々の薬剤のシャペロン作用により、バリアント蛋白の細胞質内での滞留を解除する試みがなされているが、実用には至っていない5)。5 主たる診療科新生児科、小児科、内科、泌尿器科、腎臓内科、神経内科、神経小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 先天性腎性尿崩症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報腎性尿崩症 友の会(患者とその家族および支援者の会)1)腎性尿崩症の実態把握と診断・治療指針作成に関する研究(研究代表者 神崎 晋). 平成21~23年度総合研究報告書. 2012.2)根東義明. 日腎会誌. 2011;53:177-180.3)Miura K,et al. Pediatric Nephrology.2009;24:1235–1238.4)先天性腎性尿崩症.難病医学研究財団 難病情報センター.(2021年3月1日閲覧)5)Bernier V, et al. J Am Soc Nephrol.2006;17:232-243.公開履歴初回2021年04月13日

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経口C型肝炎薬による治療の注意点【ママに聞いてみよう(5)】

ママに聞いてみよう(5)経口C型肝炎薬による治療の注意点講師:堀 美智子氏 / 医薬情報研究所 (株)エス・アイ・シー取締役、日本女性薬局経営者の会 会長動画解説C型肝炎治療の中心となってきた経口の直接作用型抗ウイルス薬。高い有効性の半面、費用やこれまでの薬にはみられなかった重大な副作用や相互作用など、注意すべき点がたくさんあります。服薬指導のポイントをしっかり頭に入れておきましょう。

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J&Jの新型コロナワクチン、単回接種で速やかな免疫応答を誘導/JAMA

 Janssen Pharmaceuticalsが開発中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)新規ワクチン候補「Ad26.COV2.S」について、第I相試験の一部として米国マサチューセッツ州ボストンの単施設で実施された無作為化二重盲検比較試験において、Ad26.COV2.Sの単回接種により速やかに結合抗体および中和抗体が産生されるとともに、細胞性免疫応答が誘導されることが示された。米国・ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターのKathryn E. Stephenson氏らが報告した。COVID-19パンデミックのコントロールには、安全で有効なワクチンの開発と導入が必要とされている。JAMA誌オンライン版2021年3月11日号掲載の報告。25例で、ワクチン2用量の免疫原性をプラセボと比較 研究グループは、Ad26.COV2.Sワクチンのヒトにおける免疫原性(SARS-CoV-2スパイク特異的液性および細胞性免疫応答の動態、強さ、表現型など)を評価する目的で、2020年7月29日~8月7日の期間に25例を登録し、Ad26.COV2.Sをウイルス粒子量5×1010/mL(低用量)、同1×1011/mL(高用量)、またはプラセボを、1回または2回(56日間隔)筋肉内投与する群に無作為に割り付けた。 液性免疫応答として接種後複数時点でのスパイク結合抗体および中和抗体、細胞性免疫応答としてT細胞反応(ELISPOTおよび細胞内サイトカイン染色法)を評価した。 本論では、中間解析として71日目までの追跡調査(2020年10月3日時点)に関する結果が報告されている。持続性に関する追跡調査は2年間継続される。単回接種後、結合抗体および中和抗体の速やかな産生と細胞性免疫応答が誘導 全25例(年齢中央値42歳[範囲:22~52]、女性52%、男性44%、区別なし4%)が71日時点の中間解析評価を受けた。 初回接種後8日までに、結合抗体はワクチン接種者の90%に、中和抗体は25%で検出された。57日目までに、両抗体は単回接種者の100%で検出された。 ワクチン接種者において、71日時点のスパイク特異的結合抗体の幾何平均抗体価は2,432~5,729、中和抗体の幾何平均抗体価は242~449であった。また、さまざまな抗体のサブクラス、Fc受容体結合能、抗ウイルス機能が誘発されたこと、CD4+およびCD8+ T細胞応答が誘導されたことも確認された。 現在、Ad26.COV2.Sの有効性を評価するため、2件の第III相試験が進行中である。

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COVID-19疑いへのアジスロマイシン追加の臨床的意義/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の市中感染疑い例の治療において、アジスロマイシンを通常治療に追加するアプローチは通常治療単独と比較して、回復までの期間を短縮せず、入院リスクを軽減しないことが、英国・オックスフォード大学のChristopher C. Butler氏らPRINCIPLE Trial Collaborative Groupが行った「PRINCIPLE試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2021年3月4日号に掲載された。アジスロマイシンは、抗菌作用と共に抗ウイルス作用や抗炎症作用が期待できるためCOVID-19の治療に使用されているが、市中の無作為化試験のエビデンスは不足しているという。英国のプライマリケアの適応的プラットフォーム試験 本研究は、英国のプライマリケアをベースとし、合併症のリスクの高い市中COVID-19疑い例の治療における複数の薬剤の有用性を同時に評価する、非盲検無作為化適応的プラットフォーム試験である(英国研究技術革新機構[UKRI]と同国保健省の助成による)。本研究ではこれまでに、ヒドロキシクロロキン、アジスロマイシン、ドキシサイクリン、吸入ブデソニドの検討が行われており、今回はアジスロマイシンのアウトカムが報告された。 対象は、年齢65歳以上または1つ以上の併存症を有する50歳以上で、直近の14日以内にCOVID-19(確定例、疑い例)による症状(発熱、新規の持続的な咳嗽、臭覚または味覚の変化)がみられる患者であった。被験者は、通常治療+アジスロマイシン(500mg/日、3日間)、通常治療+他の介入、通常治療のみを受ける群のいずれかに無作為に割り付けられた。 無作為化から28日以内に2つの主要エンドポイントの評価が行われた。1つは患者の自己申告による初回の回復(ベイズ区分指数モデルで評価)、もう1つはCOVID-19関連の入院または死亡(ベイズロジスティック回帰モデルで評価)であった。 2020年4月2日にPRINCIPLE試験の最初の参加者が登録され、アジスロマイシンの試験には、2020年5月22日~11月30日の期間に英国の1,460の総合診療施設から2,265例が登録された。このうち2,120例(94%)で追跡データが得られ、500例がアジスロマイシン群、823例が通常治療単独群、797例は他の介入群だった。 11月30日、予定されていたデータ監視・安全性審査委員会による中間解析において、事前に規定された無益性基準を満たしたため、PRINCIPLE試験運営委員会によりアジスロマイシン試験への患者の割り付けの中止が勧告された。28日回復割合:80% vs.77%、入院/死亡割合:3% vs.3% アジスロマイシン試験(1,388例、アジスロマイシン群526例、通常治療単独群862例)の全体の平均年齢は60.7(SD 7.8)歳、女性が57%で、88%が併存症を有し、無作為化前の罹病期間中央値は6日(IQR:4~10)、83%がポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法による重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の検査を受け、全体の31%が陽性だった。アジスロマイシン群の87%がアジスロマイシンの1回以上の投与を受け、71%は全3回の投与を受けた。 28日以内に回復したと報告した患者の割合は、アジスロマイシン群が80%(402/500例)、通常治療単独群は77%(631/823例)であった。初回回復の報告までの期間に関して、アジスロマイシン群は通常治療単独群と比較して意義のある有益性は認められず(ハザード比[HR]:1.08、95%ベイズ信用区間[BCI]:0.95~1.23)、初回回復までの期間中央値の有益性の推定値は0.94日(95%BCI:-0.56~2.43)であった。回復までの期間が臨床的に意義のある有益性を示すとされる1.5日以上の短縮を達成する確率は0.23だった。 入院は、アジスロマイシン群が3%(16/500例)、通常治療単独群も3%(28/823例)で認められた(絶対有益性割合:0.3%、95%BCI:-1.7~2.2)。死亡例は両群ともみられなかった。入院/死亡が臨床的に意義のある有益性を示すとされる2%以上の低下を達成する確率は0.042であった。 また、安全性アウトカムは両群で同程度だった。試験期間中に、COVID-19と関連しない入院が、アジスロマイシン群で1%(2/455例)、通常治療単独群で1%(4/668例)に認められた。 著者は、「抗菌薬の不適切な使用は抗菌薬耐性の増加につながるため、今回のCOVID-19の世界的大流行中は抗菌薬の適正使用の支援が重要な意義を持つことを、これらの知見は示している。他の研究により、今回の世界的大流行中の英国におけるアジスロマイシン使用の増加のエビデンスが報告されている」とまとめ、「これまでのエビデンスと今回の知見を統合すると、市中でも病院でも、アジスロマイシンはルーチンの使用を正当化する十分な有効性を持つ治療ではないことが示唆される」と指摘している。

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