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C型肝炎ウイルス(HCV)感染者の特定は公衆衛生上の優先課題であり、救急診療部(ED)は通常、他の医療施設を受診しないリスクの高い患者を多く受け入れるため、スクリーニングの重点領域となっている。しかし、EDにおけるHCVスクリーニングの最適な方法は明らかでないという。米国・Denver HealthのJason Haukoos氏らDETECT Hep C Screening Trial Investigatorsは「DETECT Hep C Screening試験」において、対象者選択的スクリーニング(targeted screening:TS)と比較して対象者非選択的スクリーニング(nontargeted screening:NTS)は、新規HCV患者の検出に優れるものの、診断から治療完了に至った患者は少数であることを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年7月9日号に掲載された。米国の都市部ED施設の無作為化臨床試験 DETECT Hep C Screening試験は、EDにおけるHCVスクリーニングの有効性を評価し、TSよりもNTSが新規HCVを多く検出するという仮説の検証を目的とする実践的な無作為化臨床試験であり、2019年11月~2022年8月に、米国の都市部の3つの大規模ED施設(365日24時間体制)で参加者の無作為化を行った(米国国立薬物乱用研究所[NIDA]の助成を受けた)。 年齢18歳以上で、EDを受診し、臨床的に病態が安定しており、医療に関する同意能力がある患者を対象とした。過去にHCVの診断を受けている患者や、ED滞在時間が60分未満と予測される患者は除外した。 対象とした患者を、NTS(リスクを問わず全患者でHCV検査を行う)群またはTS(リスク評価に基づき高リスク例でHCV検査を行う)群に無作為に割り付けた。TSのリスク評価の基準は、1945~65年生まれ、注射薬物や経鼻薬物の使用、規制のない環境でのタトゥーやピアス、1992年以前の輸血または臓器移植であった。 主要アウトカムは新規のHCV診断であり、HCV抗体検査が陽性で、HCV RNAが検出され、過去にHCVの診断を受けていないことと定義した。副次アウトカムとして、HCV検査の提案・受諾・完了、12週の時点での持続的ウイルス陰性化(SVR12)、18ヵ月時における全死因死亡などを評価した。NTS群、検査の提案は3.1倍、完了は2.1倍 14万7,498例(年齢中央値41歳[四分位範囲:29~57]、男性51.5%、黒人42.3%、ヒスパニック系20.9%、白人32.2%)を登録し、NTS群に7万3,847例、TS群に7万3,651例を割り付けた。 NTS群では、6万5,693例(89.0%)がHCV検査を提案され、1万6,563例(22.4%)がこれを受諾し、9,867例(59.6%)が検査を完了した。このうち416例(4.2%)がHCV抗体検査陽性で、154例(1.6%[95%信頼区間[CI]:1.3~1.8])でHCV RNAが検出されてHCVの新規診断が確定した。 TS群では、高リスクと判定された2万3,400例(31.8%)のうち2万982例(89.7%)がHCV検査を提案され、7,116例(30.4%)が受諾し、4,640例(65.2%)が検査を完了した。このうち348例(7.5%)がHCV抗体検査陽性で、115例(2.5%[95%CI:2.1~3.0])でHCV RNAが検出されてHCVの新規診断が確定した。 したがって、HCV検査の提案の割合はNTS群がTS群の3.1倍(89.0%vs.28.5%、群間差:60.5%[95%CI:60.1~60.9]、p<0.001)で、受諾の割合はTS群で高く(25.2%vs.33.9%、8.7%[8.0~9.4]、p<0.001)、最終的に検査を完了した患者の割合はNTS群がTS群の2.1倍(13.4%vs.6.3%、7.1%[6.8~7.4]、p<0.001)だった。 主要アウトカムである新規HCV診断の割合は、TS群が0.16%(115/7万3,651例)であったのに対し、NTS群は0.21%(154/7万3,847例)と有意に優れた(群間差:0.05%[95%CI:0.01~0.1]、相対リスク:1.34[1.05~1.70]、p=0.02)。治療完了やSVR12達成は両群とも減少、1.5年死亡率に差はない 新規HCV診断例のうち、その後治療に結び付いた患者は両群とも少なく、NTS群で19.5%(30/154例)、TS群で24.3%(28/115例)であった。治療としては、直接作用型抗ウイルス薬(DAA)を開始した患者がそれぞれ15.6%(24例)および17.4%(20例)で、DAAを完了した患者は12.3%(19例)および12.2%(14例)であった。 また、SVR12を達成した患者の割合は、NTS群9.1%(14例)、TS群9.6%(11例)で、18ヵ月時の全死因死亡率は、それぞれ5.2%(8例)および4.3%(5例)だった。 著者は、「SVR12に至った患者の数は、新規HCV診断数から大幅に減少しており、これはHCV治療の革新的モデルの開発が緊急に必要であることを強く示唆する」「米国における現在のHCVの流行は注射薬物の使用が主な要因で、この集団のHCV有病率は30%を超えると推定されるため、注射薬物使用者は対象者選択的な介入の重要な対象であり、治療障壁の理解や彼らのニーズに合ったアプローチの開発など新たな戦略が求められる」としている。