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米国成人の1.3%が慢性疲労症候群に罹患

 米国立保健統計センター(NCHS)によるデータ分析から、米国では2021〜2022年に成人の1.3%が筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に罹患していることが示された。詳細は、「NCHS Data Brief」12月号に発表された。 ME/CFSは、年齢や性別、人種/民族にかかわりなく生じる、複雑で多系統に影響が及ぶ疾患。通常、休息によっても改善されない重度の疲労が6カ月以上続くほか、患者の多くは、運動や仕事などの活動後に悪化する痛み、ブレインフォグなどさまざまな症状を訴える。関連研究では、ME/CFSは感染症やその他の免疫系への衝撃に対する身体の長期にわたる過剰反応であることが示唆されている。しかし現状では、ME/CFSを確定診断するための検査法はなく、治療薬や治療ガイドラインもない。米ミシガン大学慢性疼痛・疲労研究センター所長のDaniel Clauw氏は、「ME/CFSと診断されるのはほんの一部の患者に過ぎないというのが専門家の考えだ。そのため、実際の有病率はこれよりも高い可能性がある」と語る。 この報告書の上席著者である米疾病対策センター(CDC)慢性ウイルス性疾患部門のElizabeth Unger氏は、AP通信の取材に対し、「ME/CFSは決して珍しい病気ではないが、新型コロナウイルス感染症罹患後の後遺症であるlong COVIDの患者がME/CFSの有病率を押し上げているのは確かだ」と話す。Long COVIDで現れる症状は多様だが、ME/CFSの患者と同じ症状を訴えることも多いと同氏は説明する。一方、米ベイトマン・ホーン・センターの専門医であるBrayden Yellman氏は、「われわれは、long COVIDとME/CFSを同じ疾患と見なしている。ただ、long COVIDは、ME/CFSよりも医師に受け入れられているため、診断されるのも早い」と話す。 今回、NCHS Data Briefに発表された内容は、2021年と2022年に米国の成人5万7,133人(2021年:2万9,482人、2022年:2万7,651人)を対象に実施された調査結果に基づくもの。これらの調査では、参加者全員に、医師または他の医療専門家からME/CFSであると告げられたことがあるかどうか、また現在もME/CFSを患っているかどうかを尋ねた。 その結果、参加者の1.3%が両方の質問に「イエス」と答えたことが明らかになった。CDCによると、この割合を成人人口に換算すると、約330万人に相当するという。また、ME/CFS罹患者数は、男性(0.9%)よりも女性(1.7%)の方が多く、人種/民族別ではアジア系(0.7%)やヒスパニック系(0.8%)よりも非ヒスパニック系白人(1.5%)の方が多かった。非ヒスパニック系白人と非ヒスパニック系黒人(1.2%)との差は統計学的に有意ではなかった。さらに、世帯収入が連邦貧困水準の100%未満の人(2.0%)の方が連邦貧困水準の100〜199%の人(1.7%)や200%以上の人(1.1%)よりも、ME/CFSであると回答する人が多かった。 過去の研究結果から、「ME/CFSは裕福な白人女性の病気である」との見方が広まっている。しかし、この調査では、男女間の差と白人・黒人の間の差は、これまで報告されていたほど大きなものではないことが示された。Yellman氏は、「ME/CFSに対するこのような誤った認識は、ME/CFSと診断されて治療を受けている患者が、もともと医療を受ける機会に恵まれていることや、疲労が続いて仕事に行くのは無理だという訴えを他人に信じてもらいやすいことに由来するのかもしれない」との見方を示している。

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エムポックスワクチン、5分の1の投与量でも有効

 コンゴ民主共和国では2023年に入って以来、エムポックス(サル痘)の感染例が例年より大幅に多く、すでに何百人もの人が死亡している。こうした中、米ニューヨーク大学(NYU)の研究グループが、エムポックスワクチン(Jynneos)の5分の1の量を皮内接種することでも十分な感染予防効果が得られるとする研究結果を報告した。筆頭著者であるNYUグロスマン医学部の感染症専門医であるAngelica C. Kottkamp氏は、「ワクチン不足に直面した際の緊急措置として少量のワクチンを投与することの有効性が確認された」と述べている。この研究結果は、「The New England Journal of Medicine(NEJM)」12月14日号に掲載された。 2022年にLGBTQ+の人やHIV感染者を中心に世界各国でエムポックスが流行し、それに伴い、エムポックスワクチンの供給が限界にまで逼迫した。この事態に対処するために、米食品医薬品局(FDA)は2022年8月9日、より多くのワクチンを行き渡らせるために、通常は皮下投与するJynneosの5分の1の量を皮内投与する接種法に緊急使用許可を与えた。NYUのニュースリリースによると、この年の夏にニューヨークでエムポックスが流行した際に約15万5,000人のニューヨーカーがワクチンを接種したが、その大部分は5分の1用量の接種だったという。しかし、HIV感染者におけるワクチンの皮内投与の効果やJynneos接種後のエムポックスウイルスに対する抗体の持続期間は明らかになっていない。 この研究では、エムポックス罹患歴のない145人のニューヨーカー(男性80.7%)を対象に、Jynneosの皮内投与後の抗体の持続期間が調査された。対象者の24%はHIV感染者で、20%は天然痘ワクチンの接種歴があり、89%(うち85%が男性)はLGBTQ+を自認していた。Kottkamp氏らは、エムポックスウイルス中和の指標として、エムポックスウイルスのH3Lタンパク質に対するIgG抗体価を測定した。 その結果、天然痘ワクチンの接種歴がない人では、Jynneosの2回接種後にH3Lタンパク質に対するIgG抗体価がピークに達した後、低下していくことが明らかになった(抗体半減期107.9日)。一方、天然痘ワクチンの接種歴がある人では2回目接種後3カ月にわたり、より高い抗体価を維持していた。天然痘ワクチンの接種歴がない人では、Jynneosの2回接種後の幾何平均抗体価が1回接種後の4倍だった(199.4対49.6)。Jynneosの2回接種後のIgG抗体価に、投与経路(皮内/皮下投与)やHIVの状態による違いは認められなかった。 主任研究者であるNYUグロスマン医学部のMark Mulligan氏は、「この研究結果は、エムポックスウイルスへの感染リスクが最も高い人には貴重なサポート情報を提供し、また、感染症の専門家には、エムポックスが再流行した場合に、それを短期間で効果的に対処するためのワクチン接種の手段と知識があることの裏付けとなるだろう」と述べている。

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高齢者RSV感染における予防ワクチンの意義(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

 原著論文 Respiratory Syncytial Virus Prefusion F Protein Vaccine in Older Adults./NEJM―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 2023年夏以降、急性呼吸器感染症として新型コロナに加え、季節性インフルエンザ、呼吸器合胞体ウイルス(RSV:respiratory syncytial virus)の3種類のウイルス感染に注意すべき新時代に突入した。興味深い事実として、新型コロナが世界に播種した2020年度にはインフルエンザ、RSVの感染は低く抑えられていたが、2021年度以降、両ウイルス感染は2019年以前のレベルに戻りつつある。この場合、インフルエンザは11月~1月、RSVは7月~8月に感染ピークを呈した。 本邦にあっては、RSVは主として幼児/小児の感染症として位置付けられており、ウイルス感染症の有意な危険因子である高齢者に対する配慮が不十分であった。本論評では、高齢者RSV感染に適用される新たな遺伝子組み換えProtein-based vaccine(RSVPreF3 OA、商品名:アレックスビー筋注用、グラクソ・スミスクライン)とGene-based vaccine(mRNA-1345、Moderna)に関する治験結果を基に、高齢者RSV感染症の全体像について考察する。RSVの分子生物学 RSVは1956年に同定されたParamyxovirus科のPneumovirus属に分類されるウイルスである。エンベロープを有する直径150~300nmのフィラメント状の球形を示す一本鎖(-)RNAウイルスで、10種の遺伝子をコードする15,000個の塩基からなる。RSVにあって宿主細胞との接着、侵入を司るのがウイルス表面に発現する1,345個のアミノ酸配列を有するF蛋白(膜融合前F蛋白)である(コロナウイルスのS蛋白に相当)。RSVは表面抗原であるG蛋白の違いによってA型とB型の2種類の亜型に分類されるが、両者の膜融合前F蛋白には明確な差を認めない。RSVの自然宿主はヒトを中心とする哺乳動物である。高齢者RSV感染の疫学 すべての新生児において母親と同程度のRSV抗体(母体からの移行抗体)が認められるが、その値は徐々に低下し、生後7ヵ月目以降のRSV抗体は生後に起こった新規自然感染に由来する(生後2年までに、ほぼ100%が新規感染)。それ以降、生涯を通して再感染を繰り返す。RSV感染の最大の脅威は生後3ヵ月以内の乳児、未熟児、先天性心疾患を有する小児であることは間違いないが、近年、成人、とくに、高齢者におけるRSV感染の重要性が指摘されている。 欧米の検討では、看護施設に入所中の高齢者のうち年間で5~10%がRSVに罹患、うち10~20%が肺炎を合併、2~5%が死亡すると報告されている。さらに、65歳以上の高齢者にあってA型インフルエンザによる死亡が毎年3.7万人であるのに対し、RSVによる死亡は毎年1万人(インフルエンザの約30%)に達すると報告されている。18歳以上の成人を対象とした検討では、基礎疾患として喘息、COPD、糖尿病、冠動脈疾患、うっ血性心不全を有する人のRSV感染による入院比率は、基礎疾患を有さない人に比べ有意に高いことが示されている。高齢に加え、上記の基礎疾患は新型コロナ、季節性インフルエンザ感染の増悪因子としても作用するので、ウイルス性呼吸器感染症の普遍的危険因子として念頭に置く必要がある。インフルエンザ感染との比較において、RSV感染のほうが入院した症例の肺炎合併頻度、基礎疾患として存在する喘息、COPDの増悪頻度が高いことが示されている。 本邦においては、RSV感染が小児科定点からの報告のみであり、本邦独自の成人データは集積されていない。2024年以降、3種のウイルスによる急性呼吸器感染症の本邦における重要性を確立するためには、RSV感染症に関する情報収集は成人を含めた広範囲な対象に広げる必要があり、早期の法的整備を望むものである。先進国のデータからの外挿値ではあるが、本邦の60歳以上の高齢者におけるRSV感染による入院者数は毎年6.3万人、死亡者数は4.5千人と推定されている(Savic M, et al. Influenza Other Respir Viruses. 2023;17:e13031.)。RSVワクチン開発の軌跡 RSVに対するワクチン製造は1960年代に開始され、当初は不活化されたRSVを生体に導入する不活化ワクチンが中心であった。しかしながら、不活化ワクチンを用いた臨床治験の結果は悲惨なものであった。失敗の原因は、不活化ワクチンの導入によってウイルス殺傷能力の低い不適切IgG抗体が産生され抗体依存性感染増強(ADE:Antibody dependent enhancement of infection)が発生したためである。それ以降の検討で、RSVが宿主細胞に侵入する際に本質的な働きをする膜融合前F蛋白の重要性が明らかにされ、それを標的として20世紀後半から現在に通じるモノクローナル抗体薬(mAb)、ワクチンの製造が開始された。まず初めに、膜融合前F蛋白に対する遺伝子組み換えmAbであるパリビズマブ(商品名:シナジス、アストラゼネカ)が実用化され、種々のハイリスクを有する新生児、乳児、幼児のRSV感染に伴う下気道感染の重症化阻止治療薬として使用されている(本邦承認:2002年1月)。現在、パリビズマブの半減期を延長させたニルセビマブの開発が進行中である。 新型コロナ発生に伴い、高度の蛋白・遺伝子工学手法を駆使した数多くのワクチンが作成されたことは記憶に新しい。新型コロナに対するワクチンは2種類に大別され、1つ目はGene-based vaccineであり、標的S蛋白をコードするmRNAをヒトに直接導入するもの(ファイザーのコミナティ、モデルナのスパイクバックスなど)、2つ目はProtein-based vaccineあるいはSubunit vaccineと定義されるもので、S蛋白に関する遺伝子情報をヒト以外の細胞に導入しS蛋白を生成、それをヒトに接種するものであった(ノババックス[武田]のヌバキソビッドなど)。2017年以降、以上と質的に同様のワクチンが、RSVの膜融合前F蛋白を標的として作成され始めた。高齢者に対する治験結果が報告されているProtein-based vaccineとしては、アレックスビー筋注用(GSK)とアブリスボ筋注用(ファイザー)がある。アレックスビー筋注用は2023年9月に、60歳以上の高齢者に対するRSV予防ワクチンとして本邦で製造承認された(米国での承認は2023年5月)。2023年12月、GSKはアレックスビー筋注用の適用を50歳以上の成人に拡大する申請を厚労省に提出した。 米国においては、アブリスボ筋注用も60歳以上の高齢者に使用可能である(2023年8月承認)。しかしながら、アブリスボ筋注用の特記事項は、本ワクチンを妊娠24~36週の妊婦に1回接種し、母体で作られた抗体を胎児に移行させるという斬新な方法が提示されたことである(米国での承認:2023年8月)。この方法によって新生児のRSV感染に由来する重症下気道感染を予防できるようになった(生後3ヵ月以内のRSV感染による重症化予防率:81.8%、生後6ヵ月以内の重症化予防率:69.4%)。本邦にあっては、アブリスボ筋注用は母体/新生児用として認可されているが(2023年11月)、高齢者用としては認可されていないことに注意する必要がある。 RSV膜融合前F蛋白を標的とした高齢者用のGene-based vaccineとしてmRNA-1345(Moderna)の開発が進められている。2023年現在、本ワクチンは、米国、スイス、オーストラリアなどにおいて製造承認の申請が始まっているが、本邦においても2024年度内に製造申請がなされるものと予測される。高齢者におけるRSVワクチンの予防効果 Papiらは60歳以上の高齢者2万4,966例を対象としたアレックスビー筋注用に関する国際共同プラセボ対照第III相試験の結果を報告した(Papi A, et al. N Engl J Med. 2023;388:595-608.)。中央値が6.7ヵ月の追跡期間においてRSVの下気道感染全体に対する有効率(予防効果)は82.6%であった。RSV感染の重症化因子(COPD、喘息、慢性心不全、糖尿病、慢性心血管疾患、慢性腎臓病、慢性肝疾患)を有する対象での下気道感染症に対する有効率は94.6%であった。これらの結果は、アレックスビー筋注用が高齢者のRSV感染全体に対して臨床的に意義ある予防効果を発揮することを示す。RSV-A型に対する下気道感染に対する有効率は84.6%、RSV-B型に対する有効率は80.9%と両亜型間でほぼ同等の有効率を示した。 Wilsonらは60歳以上の高齢者3万5,541例を対象としたmRNA-1345に関する国際共同無作為化二重盲検第III相試験の結果を発表した(Wilson E, et al. N Engl J Med. 2023;389:2233-2244.)。追跡期間の中央値は3.7ヵ月でRSV関連下気道感染に対する予防有効率は83.7%であった。基礎疾患の有無、RSV亜型による予防有効率に明確な差を認めなかった。以上より、Gene-based vaccineであるmRNA-1345のRSV感染抑制効果はProtein-based vaccineアレックスビー筋注用と同等であり、2024年度内に本邦を含め世界各国で承認されるものと期待される。 高齢者に対するRSVワクチンにあって今後の課題の1つがワクチンの年間接種回数である。しかしながら、RSVにあっては年1回の流行ピークが同定されているので、その時期に合わせた年1回のワクチン接種で十分だと論者らは考えている。RSVに関するもうひとつの課題は抗ウイルス薬の確立で早期の開発が望まれる。

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子どもの検査値の判断に迷ったら

そっと開けばポイントがわかる「小児科」64巻13号(2023年12月臨時増刊号)複数の既往歴や不定愁訴をもつことが多い成人患者と異なり、子どもは症状がはっきりしていることが多い分、検査結果が予想と異なっていたり、想定に反して検査上の異常がなかったりした場合、どう判断すべきか迷う…そんな場面に役立つ1冊を目指しました。日常診療でおなじみの検査から少々専門的な検査まで、検査結果の解釈に迷いが生じたときにそっと見直していただきたい情報をコンパクトにまとめました。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    子どもの検査値の判断に迷ったら定価8,800円(税込)判型B5判頁数394頁発行2023年12月編集「小児科」編集委員会電子版でご購入の場合はこちら

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チャットGPTとの連携で医師の診断精度は向上する?

 医師は優れた意思決定者であるが、それでも、チャットGPTの確率に基づく推論を考慮することが診断に大いに役立つ可能性のあることが、新たな研究で示唆された。米ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターのAdam Rodman氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に12月11日掲載された。 Rodman氏は同センターのニュースリリースで、「人間は確率的推論、つまり確率を計算した上で決断を下すことに苦労している。確率的推論は診断を下す際に不可欠な要素の一つであるが、そのプロセスはさまざまな認知的戦略を必要とし、極めて複雑だ。その一方で、確率的推論は人間がサポートを利用できる領域でもある。それゆえ、われわれは確率的推論を単独で評価することにした」と研究背景を説明する。 この研究では、過去の調査データを用いて、医師による確率的推論とOpenAI社が開発した大規模言語モデル(LLM)であるGPT-4による確率的推論の比較が行われた。調査データは、2018年6月1日から2019年11月26日の間に収集されたもので、553人の医師が5つの症例について確率的推論を行い、診断を下していた。症例には、肺炎の胸部X線画像、乳がんのマンモグラフィの画像、冠動脈疾患のストレステスト、尿路感染症の尿培養などの医療検査の情報が含まれていた。Rodman氏らは同じ情報をGPT-4にも与え、温度(AIが生成する内容のランダム性や創造性を調整するパラメーターで、高いほど出力内容が多様になる)1.0の設定で症例ごとにLLMを100回実行。その結果から推定値の中央値を算出し、人間のパフォーマンスと比較した。 その結果、GPT-4は5つの症例全てで、検査結果が陰性だった場合の検査前確率と検査後確率において、人間よりも誤差が小さいことが明らかになった。例えば、無症候性の細菌感染症例の場合、検査前確率はGPT-4で26%、人間で20%、平均絶対誤差(平均絶対パーセンテージ誤差)はそれぞれ、26.2(5240%)と32.2(6450%)であり、GPT-4の方が人間よりも予測精度が高かった。Rodman氏はこの結果を受け、「人間は、検査での陰性判定後にリスクを実際よりも高く見積もることがあり、それが過剰治療や検査数の増加、薬剤の過剰投与につながることがある」と説明している。 また、全体的に見て、GPT-4は人間よりも、特に検査で陰性が判明した症例において予測のばらつきが少なく、より一貫性のある予測を行っていることがうかがわれた。さらに、GPT-4の検査での陽性判明後の検査後確率は、2症例では人間よりも正確であり、別の2症例での正確度は同等であり、1症例では人間の方が正確だった。 研究グループは、将来的には医師がAIと連携して、患者の診断をより正確に行えるようになる可能性があるとの見方を示す。Rodman氏はその見通しを「胸躍るような未来」と話す。同氏は、「まだ不完全ではあるが、チャットボットは使いやすく、また臨床ワークフローに組み込みやすいことを考えると、理論的には、人間がより的確な判断を下すのに有用だろう。人間とAIの連携に焦点を当てた研究が急務である」と述べている。

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コロナ外来患者への高用量フルボキサミン、症状期間を短縮せず/JAMA

 軽症~中等症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)外来患者において、高用量フルボキサミン(100mgを1日2回投与)を12日間投与しても、プラセボと比較してCOVID-19症状期間を短縮しなかった。米国・バージニア大学のThomas G. Stewart氏らが、無作為化二重盲検プラセボ対照プラットフォーム試験「ACTIV(Accelerating COVID-19 Therapeutic Interventions and Vaccines)-6試験」の結果を報告した。JAMA誌2023年12月26日号掲載の報告。発症から7日以内の軽症~中等症患者を対象に、高用量フルボキサミンvs.プラセボ ACTIV-6試験は、軽症~中等症のCOVID-19外来患者における既存治療転用を評価するようデザインされた分散型臨床試験である。 研究グループは、2022年8月25日~2023年1月20日に米国103施設において、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染確認後10日以内で、COVID-19の症状(疲労、呼吸困難、発熱、咳、悪心、嘔吐、下痢、体の痛み、悪寒、頭痛、喉の痛み、鼻の症状、味覚・嗅覚の異常)のうち2つ以上の症状発現後7日以内の、30歳以上の外来患者を、フルボキサミン群またはプラセボ群に無作為に割り付けた。 フルボキサミン群では、1日目にフルボキサミン50mg錠1錠を2回投与し、その後50mg錠2錠(100mg)を1日2回12日間投与した。 主要アウトカムは持続的回復までの期間(少なくとも3日間連続して症状がないことと定義)、副次アウトカムは28日以内の死亡、入院または死亡、あるいは入院・救急外来(urgent care)/救急診療部(emergency department)受診・死亡の複合などであった。持続的回復までの期間中央値、両群とも10日 無作為化されて治験薬の投与を受けた1,208例は、年齢中央値50歳(四分位範囲[IQR]:40~60)、女性65.8%、ヒスパニック系/ラテン系45.5%、SARS-CoV-2ワクチンの2回以上接種者76.8%であった。 有効性解析対象集団のフルボキサミン群589例およびプラセボ群586例において、持続的回復までの期間の中央値は両群とも10日(IQR:10~11)であり、持続的回復までの期間に差は確認されなかった(ハザード比[HR]:0.99、95%信用区間[CrI]:0.89~1.09、有効性の事後確率p=0.40)。 副次アウトカムついては、死亡例の報告はなく、入院はフルボキサミン群1例およびプラセボ群2例、入院・救急外来/救急診療部受診はそれぞれ14例および21例(HR:0.69、95%CrI:0.27~1.21、有効性の事後確率p=0.86)であった。 重篤な有害事象は、6例(フルボキサミン群2例、プラセボ群4例)で7件報告された。

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第79回 トイレの悪臭と極寒、被災地の看護師が見たもの

Unsplashより使用「令和6年能登半島地震」により、避難生活を余儀なくされている方がまだまだたくさんおられます。断水と停電の中、気温が低く、インフルエンザも流行しており、多くの避難者が精神的に疲弊しています。現地にいる看護師から、どのような現状なのかお聞きしました。発熱者が増加する避難所1~2日間程度の避難生活であればそこまで大きな問題にならないのですが、1週間を超えてくると、感染症などさまざまな医学的問題が勃発します。とくに現在流行しているインフルエンザはピークアウトの兆しがあったものの、避難所のように密に寄せ合う環境では、発熱者がちらほら出てきたみたいです。石川県の直近の定点医療機関当たりの感染者数はインフルエンザで22.69人、新型コロナで4.73人です(図)。じわじわと新型コロナが増えているのが気がかりですね。画像を拡大する図. 石川県の定点医療機関当たりのインフルエンザおよび新型コロナ感染者数(筆者作成)1、2)本来、手指衛生やマスクによって感染対策を講じる必要がありますが、断水で水不足の状況では手洗いがなかなかできず、マスクも何日も使えるものではありません。数十人規模の避難所では発熱者が10人を超えているところもあり、個々の感染対策ができない以上、感染症が広がるのは必然と言えます。とはいえ、診断キットが不足しており、発熱の原因の実態はよくわかっていないようです。避難所によって差私が話を聞いた看護師がいる七尾市の避難所は、ストーブも暖房も全然効かないような場所だそうで、支給されていた毛布は1枚のみだそうです。厚着していても、最低気温2度の状態では毛布1枚ごときでは全然眠れないという意見があったそうです。断水になっている地域はどこもトイレ環境は劣悪で、トイレの前に汚物を置いているため、悪臭が漂っていたようです。感染性腸炎も流行している避難所があり、悪臭が地獄だという投稿もありました。被災地では病院の水も不足しており、病院によっては雪を溶かして使っているところもあったそうです。テレビもネットもなかなかつながらず、情報が入ってこないことにストレスを感じて、その看護師のいる避難所では、避難者同士の揉め事が増えているようです。さすがに殴り合いや犯罪は起こっていないようですが、ネットでは詐欺や窃盗のニュースも増えており、危機感を持っていると言っていました。道路の補修が進んでいないことから、石川県に入る道路が渋滞しているため、これが物資が届きにくい要因になっています。とはいえ、すでにいろいろな公的ボランティアが現地入りできており、避難所で炊き出しや物資の配布が行われています。場所によって少し差が発生しているようですが、これも早晩解消されるのではないかと思います。参考文献・参考サイト1)厚生労働省:インフルエンザの発生状況2)厚生労働省:新型コロナウイルス感染症に関する報道発表資料(発生状況等)2023年6月~

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2次観察分析としてこういった観点はいかがなものか?(解説:野間重孝氏)

 今回の研究は、著者らのグループが2018年にLancet誌に発表したHigh-STEACS試験の関連観察研究である。正直に言って論点がわかりにくく、論文を誤解して読んだ方が多かったのではないかと心配している。 著者らはHigh-STEACS試験において、急性冠症候群(ACS)を疑われた患者に対して、トロポニンIの高感度アナリシスを用いることにより、より多くの心筋障害患者を同定することができたのだが、標準法を用いた場合と1年後の予後に差がなかったことを示した。この論文はジャーナル四天王でも取り上げられたのでお読みになった方も多いと思うが、当時の論調では著者ら自身、そこまで言い切ってよいものか迷いが見られていたのだが、本論文でははっきり「心イベントが有意に減少することはなかった」という表現で断定している。分析法とカットオフ値が確定したことが要因だったのではないかと推察する。 本研究はHigh-STEACS試験の2次観察分析で、今回は非虚血性と診断された高感度アッセイによる再分類患者の5年後の予後を調査したものである。心筋梗塞と診断された患者の予後は高感度アッセイの結果とは関係がなかった一方、非虚血性心筋障害の患者では再分類され、適切な治療を受けた患者の予後が良かったとしたもので、高感度アッセイは非虚血性心筋障害を発見し、適切な治療を施すことに貢献できるのではないかとしている。やや乱暴な解釈の仕方をすると、「心筋梗塞を診断するためには標準法で十分であり、高感度アッセイはその他の心筋障害を見つけ出すことにこそ寄与する」と言っていると言えなくもない。 現在、心筋梗塞のバイオマーカーとしてはCK-MB、トロポニンT&I、H-FABP、ミオシン軽鎖が使用されており、一時はCK-MBが最も一般的な検査項目だったが、Universal Definition以来、現在ではもっぱらトロポニンが使用されている。なお、CK-MBは連続測定することにより梗塞のサイズの推定が行われていた時期もあったが、現在では行われていない。 ところが検査というのは皮肉なもので、感度が上がると本来検出されない濃度のものまでが検出されて問題にされるようになる。心筋トロポニンは確かに心筋に特異的なタンパク質であるが、敗血症、腎不全、肺塞栓症、心不全、外科的治療後、SARS-CoV-2感染症など、さまざまな非心疾患でも心筋の障害が惹起されることによりわずかな上昇を示すことが知られている。何回か測定し、測定値にはっきり高低がつけば虚血性、ほぼ同じ値を示せば非虚血性と判断できるが、できるだけ早い判断が求められる救急の現場にはそのようなやり方は通用しないだろう。 これは国情の違いということになるのだろうが、わが国(米国においても同じだが)においては、臨床症状、諸検査からACSが強く疑われた場合は、血液検査の結果がすべて出そろうのを待つことなく緊急カテーテル検査が行われるのが常識となっており、それに対応できない組織は第3次救急施設には認定されない。虚血性心疾患ではonset-to-balloon timeがすべてを決めると言っても過言ではないからである。その意味でACSが強く疑われる患者を2次救急施設に留め置くことは厳に控えるべきで、ただちに3次施設に搬送することが望ましい。 高感度アッセイを行うことにより諸疾患に伴う心筋障害を発見し、より適切な治療を行うという主旨にはまったく異論はないが、それをACSの診断・治療と絡めて論ずるのは適当とは言えないと考えるものである。さらに付け加えることをお許しいただけるならば、SARS-CoV-2による心筋炎は大変話題になったが、この診断にトロポニン測定がぜひ必要だったとは言えない。それぞれの疾患にはその主流となる診断・治療の流れがあり、トロポニン測定はその手助けにはなるであろうが、決して主流ではない。大きな臨床研究が行われた場合、その追跡調査や2次観察研究が行われるのは自然の流れではあるが、今回の研究についてはこのような一流誌に掲載される性格のものではなかったのではないかというのが、評者の偽らざる感想である。

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第194回 能登半島地震、被災地の医療現場でこれから起こること、求められることとは~東日本大震災の取材経験から~

木造家屋の倒壊の多く死因は圧死や窒息死こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。元日に起きた、最大震度7を観測した能登半島地震から9日が経過しました。最も被害が大きかった石川県では、1月9日現在、死者202人、負傷者565人、安否不明者102人と発表されています。1月8日現在の避難者数は2万8,160人とのことです。テレビや新聞などの報道をみていると、木造家屋の倒壊の多いことがわかります。その結果、死因は圧死や窒息死が大半を占めているようです。道路の寸断などによって孤立している集落がまだ数多く、避難所の中にも停電や断水が続いているところもあります。さらには、避難所が満員で入所できない人も多いようです(NHKニュースではビニールハウスに避難している人の姿を伝えていました)。本格的な冬が訪れる前に、被災した方々が、まずは一刻でも早く、ライフラインや食料が整った避難所やみなし避難所(宿泊施設等)への避難できることを願っています。東日本大震災との大きな違い1995年に起きた阪神・淡路大震災では、約80%が建物倒壊による圧死や窒息死でした。このときの教訓をもとに組織されたのがDMATです。しかし、2011年に起きた東日本大震災では津波の被害が甚大で、死亡者の8〜9割が溺死でした。震災直後、私は被災地の医療提供体制を取材するため宮城県の気仙沼市や石巻市に入りましたが、阪神・淡路と同じような状況を想定して現地入りしたDMATの医師たちが、「数多くの溺死者の前でなすすべもなかった」と話していたのを覚えています。今回の地震は、津波の被害より建物倒壊の被害が圧倒的に多く、その意味で震災直後のDMATなどの医療支援チームのニーズは大きいと考えられます。ただ、道路の寸断などで、物資や医療の支援が行き届くまでに相当な時間が掛かりそうなのが気掛かりです。これから重要となってくるのは“急性期”後、“慢性期”の医療支援震災医療は、ともすれば被災直後のDMATなどによる“急性期”の医療支援に注目が集まりますが、むしろ重要となってくるのは、その後に続く、“慢性期”の医療支援だということは、今では日本における震災医療の常識となっています。外傷や低体温症といった直接被害に対する医療提供に加え、避難所等での感染症(呼吸器、消化器)や血栓塞栓症などにも気を付けていかなければなりません。その後、数週間、数ヵ月と経過するにつれて、ストレスによる不眠や交感神経の緊張等が高血圧や血栓傾向の亢進につながり、高血圧関連の循環器疾患(脳梗塞、心筋梗塞、大動脈解離、心不全など)が増えてくるとされています。そのほか、消化性潰瘍や消化管穿孔、肺炎も震災直後に増えるとのデータもあります。DMAT後の医療支援は、東日本大震災の時のように、日本医師会(JMAT)、各病院団体や、日本プライマリ・ケア連合学会などの学会関連団体が組織する医療支援チームなどが担っていくことになると思われますが、過去の大震災時と同様、単発的ではなく、長く継続的な医療支援が必要となるでしょう。ちなみに厚生労働省調べでは、1月8日現在、石川県で活動する主な医療支援チームはDMAT195隊、JMAT8隊、AMAT(全日本病院医療支援班)9隊、DPAT(災害派遣精神医療チーム)14隊とのことです。避難所や自宅で暮らす高齢者に対する在宅医療のニーズが高まる医療・保健面では、高血圧や糖尿病、その他のさまざまな慢性疾患を抱えて避難所や地域で暮らす多くの高齢者の医療や健康管理を今後どう行っていくかが大きな課題となります。そして、避難所や自宅で暮らす住民に対する在宅医療の提供も必要になってきます。東日本大震災では、病院や介護施設への入院・入所を中心としてきたそれまでの医療提供体制の問題点が浮き彫りになりました。震災被害によって被災者が病院・診療所に通えなくなり、在宅医療のニーズが急拡大したのです。この時、気仙沼市では、JMATの医療支援チームとして入っていた医師を中心に気仙沼巡回療養支援隊が組織され、突発的な在宅医療のニーズに対応。その支援は約半年間続き、その時にできた在宅医療の体制が地域に普及・定着していきました。奥能登はそもそも医療機関のリソースが少なかった上に、道路が寸断されてしまったこと、地域の高齢化率が50%近いという状況から、地域住民の医療機関への「通院」は東日本大震災の時と同様、相当困難になるのではないでしょうか。東日本大震災が起こった時、気仙沼市の高齢化率は30%でした。今回、被害が大きかった奥能登の市町村の高齢化率は45%を超えています(珠洲市50%、輪島市46% 、いずれも2020年)。「気仙沼は日本の10年先の姿だ」と当時は思ったのですが、奥能登は20年、30年先の日本の姿と言えるかもしれません。テレビ報道を見ていても、本当に高齢者ばかりなのが気になります。東日本大震災では、被災直後からさまざまな活動に取り組み始めた若者たちがいたのが印象的でした。しかし、これまでの報道を見る限り、被災者たちは多くが高齢で“受け身”です。東日本大震災や熊本地震のときよりも、個々の被災者に対する支援の度合いは大きなものにならざるを得ないでしょう。プライマリ・ケア、医療と介護をシームレスにつなぐ「かかりつけ医」機能、多職種による医療・介護の連携これからの医療提供で求められるのは、プライマリ・ケアの診療技術であり、医療と介護をシームレスにつなぐ「かかりつけ医」機能、そしてさまざまな多職種による医療・介護の連携ということになるでしょう。東日本大震災、熊本地震、そして新型コロナウイルス感染症によるパンデミックで日本の医療関係者たちは多くのことを学んできたはずです。日本医師会をはじめとする医療関係団体の真の“力”が試される時だと言えます。ところで、被災した市町村の一つである七尾市には、私も幾度か取材したことがある、社会医療法人財団董仙会・恵寿総合病院(426床)があります。同病院は関連法人が運営する約30の施設と共に医療・介護・福祉の複合体、けいじゅヘルスケアシステムを構築し、シームレスなサービスを展開してきました。同病院も大きな被害を被ったとの報道がありますが、これまで構築してきたけいじゅヘルスケアシステムという社会インフラは、これからの被災地医療の“核”ともなり得るでしょう。頑張ってほしいと思います。耐震化率の低さは政治家や行政による不作為にも責任それにしても、なぜあれほど多くの木造住宅が倒壊してしまったのでしょうか。1月6日付の日本経済新聞は、その原因は奥能登地方の住宅の低い耐震化率にある、と書いています。全国では9割近くの住宅が耐震化しているのに対して、たとえば珠洲市では2018年末時点で基準をクリアしたのは51%に留まっていたそうです。ちなみに輪島市は2022年度末時点で46%でした。耐震化は都市部で進んでいる一方、過疎地では大きく遅れているのです。その耐震基準ですが、建築基準法改正で「震度5強程度で損壊しない」から「震度6強〜7でも倒壊しない」に引き上げられたのは1981年、実に40年以上も前のことです。きっかけは1978年の宮城県沖地震(当時の基準で震度は5、約7,500棟の建物が全半壊)でした。仙台で学生生活を送っていた私は、市内で地震に遭遇、ブロック塀があちこち倒れまくった住宅街の道路を自転車で下宿まで帰ってきた記憶があります。各地域(家の建て替えがないなど)や個人の事情はあるとは思いますが、法改正後40年経っても耐震化が進んでおらず、被害が大きくなってしまった理由として、政治家(石川県選出の国会議員)や行政による不作為もあるのではないでしょうか。もう引退しましたが、あの大物政治家は石川県にいったい何の貢献をしてきたのでしょうか。お金をかけてオリンピックを開催しても、過疎地の住民の命は守れません。いずれにせよ、全国各地の過疎地の住宅の耐震化をしっかり進めておかないと、また同じような震災被害が起こります。政府にはそのあたりの検証もしっかりと行ってもらいたいと思います。

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インフルエンザでも後遺症が起こり得る

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患後症状、いわゆるlong COVIDでは、さまざまな症状が、数週間や数カ月間、時には何年もの間、続く可能性があることは広く知られている。こうした中、季節性インフルエンザ(以下、インフルエンザ)でも長期間にわたって症状が持続する「long Flu(ロング・フルー)」が起こり得ることが、米セントルイス・ワシントン大学の臨床疫学者Ziyad Al-Aly氏らが実施した研究で示された。詳細は、「Lancet Infectious Diseases」に12月14日掲載された。 Al-Aly氏らは今回、米国退役軍人省のデータを用いて、2020年3月1日から2022年6月30日の間にCOVID-19により入院した8万1,280人と、2015年10月1日から2019年2月28日の間にインフルエンザにより入院した1万985人のデータを解析。18カ月間の追跡期間中に生じた、体の主要な臓器系に影響を与える94種類の有害な健康アウトカムを両群間で比較した。 解析の結果、全体としてCOVID-19による入院患者ではインフルエンザによる入院患者と比べて、追跡期間中の死亡リスクが51%高く、死亡者は患者100人当たり8.62人多いことが示された。また、COVID-19による入院患者では、インフルエンザによる入院患者と比べて退院後に再入院するリスクが11%、集中治療室(ICU)入室のリスクが27%高く、再入院となる患者は100人当たり20.50人、ICU入室となる患者は100人当たり9.23人多いことが示された。さらに、COVID-19による入院患者では、94種類の健康アウトカムのうちの64種類(68.1%)でリスクの上昇が示され、COVID-19はより多くの臓器系にリスクをもたらすことも判明した。一方、インフルエンザによる入院患者でリスク上昇が認められたのは94種類中6種類(6.4%)のみで、その多くは呼吸器系のアウトカムだった。 Al-Aly氏は「この研究で得られた最も重要な知見は、COVID-19とインフルエンザはいずれも長期にわたる健康問題につながるということだ。また、長期的な健康の損失の大きさが感染の初期段階の問題を上回るというのは、大きな気付きだった」と説明している。 Al-Aly氏はまた、「明らかな例外は、インフルエンザはCOVID-19よりも、呼吸器系により大きなリスクをもたらすという点だった。これは、過去100年にわたる通説通り、インフルエンザは呼吸器系ウイルスそのものであることを示している。一方で新型コロナウイルスは呼吸器系だけでなく、さまざまな臓器系にも影響を与え、心臓や脳、腎臓などの臓器に関連した致死的あるいは重篤な症状を引き起こす可能性がある。こうした面からCOVID-19はインフルエンザよりも手ごわく、広範囲に影響を与える感染症であると考えられる」と付け加えている。 なお、Al-Aly氏は、「5年前であればlong Fluが存在する可能性について調べようとは思わなかった。われわれがCOVID-19から得た大きな教訓の一つが、当初は短期間の症状しかもたらさないと考えられていた感染症が、慢性疾患を引き起こすこともあるということだ」と話す。同氏によると、いずれの感染症においても、死亡や障害の半数以上が、感染後30日以内ではなく、感染から数カ月の間に発生していたという。これは、いずれの感染症も短期的な健康上の問題にはとどまらないことを示していると同氏は指摘する。その上で、「COVID-19やインフルエンザを急性疾患として捉えると、これらの疾患が健康に及ぼす長期的な影響を見逃してしまう。われわれは、これらの疾患では罹患後に後遺症が生じ得るという現実を直視し、ウイルス感染症を軽視せず、これらが慢性疾患の大きな要因であることを認識する必要がある」と強調している。

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65歳未満の成人に対する遺伝子組み換えインフルエンザワクチンの有効性(解説:小金丸博氏)

 65歳未満の成人に対する遺伝子組み換えインフルエンザワクチンの有効性を鶏卵由来の従来ワクチンと比較したクラスターランダム化比較試験の結果が、NEJM誌2023年12月14日号に報告された。研究対象集団には18歳から64歳までのワクチン接種者163万328例が含まれた(組み換えワクチン群63万2,962例、従来ワクチン群99万7,366例)。研究期間中に組み換えワクチン群で1,386例、従来ワクチン群で2,435例のインフルエンザがPCR検査で診断された。50~64歳の参加者では、従来ワクチン群では925例(1,000例当たり2.34例)がインフルエンザと診断されたのに対し、組み換えワクチン群では559例(1,000例当たり2.00例)がインフルエンザと診断された(相対的なワクチン有効性15.3%、95%信頼区間:5.9~23.8、p=0.002)。組み換えワクチンは従来ワクチンと比べて、インフルエンザ関連の入院に対する予防効果は有意に高くはなかった。 50~64歳の成人において、遺伝子組み換えインフルエンザワクチンは鶏卵由来の従来ワクチンと比較して感染予防効果が有意に高いことが示された。従来ワクチンと比べて相対リスクで15.3%低下させたという結果は、従来ワクチンの感染予防効果がおおむね40~60%程度ということを考えると、上乗せ効果として決して低い数字ではないと考える。インフルエンザ関連の入院や市中肺炎による入院を有意に減少させる効果は示されなかったが、どちらも16%程度の相対的な有効性を認めた。試験対象者の入院率が決して高くない年齢層であることを考えると、一定の効果を示したと思われる。 遺伝子組み換えインフルエンザワクチンの特徴として、従来の鶏卵由来のインフルエンザワクチンの3倍量のヘマグルチニン蛋白を含んでいることが挙げられる。過去の研究では、高齢者において高用量のインフルエンザワクチンのほうが標準用量のワクチンと比べて感染予防効果が高いことが示されており、今回、65歳未満の成人を対象とした本研究でも有効性が示された。ワクチンに含まれる抗原量が増えることで、免疫原性が高まると考えられている。 また、遺伝子組み換えワクチンでは鶏卵由来のワクチンの製造中に生じる抗原変異(antigenic drift)の影響を受けないことも特徴の1つである。本研究で遺伝子組み換えワクチンの有効性が鶏卵由来のワクチンより改善した理由についてはよくわからないが、この点も寄与した可能性は考えられる。 本研究のLimitationとして、2シーズンに限定された試験であること、インフルエンザの診断にPCR検査のみを用いたこと、入院や死亡など65歳未満の成人では頻度の低い転帰を検討するには検出パワーが限られていたことなどが挙げられる。これらの点が本研究結果の一般化を制限する可能性がある。 遺伝子組み換えインフルエンザワクチンは本邦ではまだ認可されていないタイプのワクチンであり、今後の国内導入に向けて話が進むかどうか注目したい。

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1月9日 風邪の日【今日は何の日?】

【1月9日 風邪の日】〔由来〕寛政7(1795)年の旧暦の今日、第4代横綱で63連勝の記録を持つ谷風 梶之助が風邪で亡くなったことに由来して制定。インフルエンザや風邪が流行する季節でもあることから、医療機関や教育機関で風邪などへの予防啓発で周知されている。関連コンテンツ手洗いの具体的な効果【患者説明用スライド】熱があるときの症状チェック【患者説明用スライド】鎮咳薬・去痰薬不足、医師が知っておきたい“患者対応Q&A”【バズった金曜日】英語で「ゼーゼーする」は?【1分★医療英語】

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第196回 コロナ後遺症の原因と思しきミトコンドリア異常を同定

コロナ後遺症の原因と思しきミトコンドリア異常を同定新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状(long COVID)の1つである疲労の根本原因と思しきミトコンドリア機能低下が被験者46例の試験で示唆されました1)。試験にはlong COVID患者25例と新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染したものの完全に回復した21例(回復例)が参加しました。心身を急に働かせた後の疲労や痛みの悪化はlong COVIDを特徴づける症状の1つである労作後倦怠感(post-exertional malaise:PEM)と関連します。試験ではPEMを誘発する15分間の自転車こぎ運動を被験者にあえて課しました。long COVID患者は自転車こぎの後に症状の悪化を呈し、筋肉組織を調べたところミトコンドリア異常が認められました。long COVID患者のミトコンドリアは回復例に比べて働きが悪く、エネルギー生成が劣りました。一方、long COVID患者の心臓や肺の機能に異常はなく、それらの異常によって長患いが生じているわけではなさそうです。また、SARS-CoV-2が居続けることがlong COVIDの原因の1つと想定されていますが、今回の研究で調べた筋肉組織にSARS-CoV-2のはびこりは見られませんでした。SARS-CoV-2に特有のヌクレオカプシドタンパク質の筋肉組織での検出はlong COVID患者と回復例で似たり寄ったりで、SARS-CoV-2残存もlong COVIDのPEMの発現や運動能力の原因ではなさそうです。ということはSARS-CoV-2残存以外の何かがlong COVID患者のミトコンドリア異常に寄与しているようであり、そのような異常をもたらす分子経路を今後調べる必要があります。long COVID患者のミトコンドリア異常はほかの研究でも示されています。昨年9月に報告されたlong COVID患者11例の検討結果では今回の報告と同様にミトコンドリア機能の指標の低下が認められました2)。また、ミトコンドリアの量や新生の指標の低下も観察されています。今回の試験の被験者は少なく、別の集団でも同じ結果になるかどうかを調べる必要があります。とはいえlong COVID患者の疲労はれっきとした生理的要因に基づくことはどうやら確からしく、生理作用に基づく適切な治療の研究がいまや可能になったと今回の研究の著者は言っています3)。long COVID患者の運動は許容範囲に抑えるべき自転車こぎ運動をしたlong COVID被験者が疲労の悪化や認知症状などのPEM症状を被ったことが示すように、long COVID患者の運動は有益とは限りません。ウォーキングなどで体調を維持することは好ましいですが、運動のしすぎで病状の悪化を招いては元も子もありません。そうならないように患者は許容範囲の運動量を各自あらかじめ設定し、病状を悪化させない程度の軽い運動を心がけるとよいようです3)。参考1)Appelman B, et al. Nat Commun. 2024;15:17. [Epub ahead of print]2)Colosio M, et al. J Appl Physiol(1985). 2023;135:902-917. 3)Tiredness experienced by Long-COVID patients has a physical cause / Eurekalert

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咳の種類、危険な咳とは

患者さん、それは…危険な咳(せき) かもしれません!咳(せき)は、気道内に異物が混入するのを防ぎ、逆に気道内から異物を排除するための身体防御機構です。継続期間によって急性(3週間未満)、遷延性(3~8週間)、慢性(8週間超)と分類されます。また、痰(たん)を伴う咳を湿性[⇔乾性]と区分します。●こんな時に症状が出ませんか?□明け方・夜間 □運動時/後 □寒冷時□季節の変わり目●以下の症状はありませんか?□ヒューヒュー音 □のどの奥に鼻水が垂れる□声がかすれる□横になった時□口臭がある◆病気が潜んでいるかもしれない咳とは!?• 高熱や息苦しさ、胸痛があれば、すぐに医療機関へ受診しましょう• 遷延性(3~8週間)の咳の原因はウイルスやマイコプラズマなどによる気道感染です• 2ヵ月以上続く慢性咳は軽い喘息であることが多いです出典:日本気管食道科学会、外来を愉しむ攻める問診監修:福島県立医科大学 会津医療センター 総合内科 山中 克郎氏Copyright © 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.

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ホリデーパーティーは新型コロナの巣窟!【臨床留学通信 from NY】第55回

第55回:ホリデーパーティーは新型コロナの巣窟!11月の第4木曜日は「サンクスギビング(Thanksgiving)」と呼ばれる祝日です。米国人にとっては家族や親戚で集まったりする日のようですが、追加の休みを取って旅行に出かけたりもします。12月25日のクリスマスも祝日です。宗教的に全員がクリスマスを祝うわけではなく、たとえばユダヤ教の方々は「ハヌカ(Hanuka)」と呼ばれる祝い事を、クリスマスのちょっと前にしたりします。そのためか、お祝いのあいさつは「Merry Christmas」というよりは「Happy holidays」といって、サンクスギビングからクリスマスの時期はお祭りムードとなっています。サンクスギビングの次の日は「ブラックフライデー(Black Friday)」、次の週の月曜日は「サイバーマンデー(Cyber Monday)」と呼ばれて、お店の商品が一時的にグッと安くなったり、主に年末までセールが続いたりもするため、冬服や靴など日用品も含めて出費を抑えるべく、毎年いろいろ購入しています。日本のように、病棟の歓迎会、送別会、忘年会、新年会などいろいろあるわけではありませんが(コロナ禍以降はわかりませんが)、米国の病院でも年末の忘年会に相当する「ホリデーパーティー(Holiday party)」というものが、コロナが落ち着いてきた昨年から開催されるようになりました。Montefiore Medical Centerの循環器内科から開催費が支給されるため、参加者は基本タダ。配偶者などを一緒に連れて行くことも可能で、その際は追加料金が掛かる程度。こういう時に困るのは、音楽に合わせてみんな踊っているので、日本人としてはどう踊ったらいいのかわからないところです。もう1つの病院のJacobi Medical Centerのカテーテル室にも最近主に勤務しているため、そちらの忘年会にも顔を出しました。が、なんとそこはコロナの巣窟だったようです。微妙に体調不良な人が参加していたため、私を含めた参加者約30人中10人弱がその会の後に発症してしまいました。思い起こせば、米国でコロナが流行り始めた時に瞬く間に広がったのは、会えば握手、はたまたハグするという日本とは異なる文化、うつらないわけがありません。そんなこんなでコロナにかかってしまいました。CDCは医療従事者の隔離を症状発症から7日としていて結構長く感じました。米国の病院にはOHSと呼ばれるOccupational health serviceと呼ばれる部門があり、そこに電話し、抗原テストが陽性であることを告げると、「いついつまで休んでね、抗原テストをこの日にやってね」といった指示が出され、担当部署のトップにも連絡がいき、休みを余儀なくされます。2022年夏に初めてかかった時は、熱が3日くらい続いて結構つらかったのですが、今回は熱はほぼ出ず、最初は胃腸症状から鼻水が2日ほど立て続けに出て、その後は回復しました。よくなってから飲んでみたコーヒーの味がわからなかったような気がしましたが、大きな問題はありません。結局7日のうちの後半は大分調子は良かったのですが、休まざるを得ないという状況でした。次のホリデーシーズンは気を付けようと思った次第です。画像を拡大する

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出勤とテレワークの反復による時差ぼけで心理的ストレス反応が強まる可能性

 出勤日とテレワークの日が混在することによって生じる時差ぼけによって、心理的ストレス反応が強くなる可能性を示唆するデータが報告された。久留米大学の松本悠貴氏らをはじめとする産業医で構成された研究チームによるもので、詳細は「Clocks & Sleep」に10月16日掲載された。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックとともに、新たな働き方としてテレワークが急速に普及した。テレワークによって、仕事と私生活の区別がつきにくくなることや孤独感を抱きやすくなることなどのため、以前の働き方にはなかったストレスが生じることが報告されている。また、テレワークの日と出勤日が混在している場合には睡眠時間が不規則になり、「ソーシャルジェットラグ(社会的時差ぼけ)」が発生しやすくなるとの指摘もある。 社会的時差ぼけとは、平日と休日の睡眠時間帯が異なることによって、週明けになるとあたかも海外から帰国した直後のような身体的・精神的不調が現れること。松本氏らは、テレワークと出勤の繰り返しによって生じる社会的時差ぼけを、「テレワークジェットラグ(テレワーク時差ぼけ)」と命名。社会的時差ぼけと同様にテレワーク時差ぼけも不調を来す可能性を想定し、オンラインアンケートによる検討を行った。 2021年10~12月に、東京都内にある企業4社の従業員2,971人(日勤者のみ)にアンケートへの協力を依頼。2,032人から回答を得て、過去1カ月以内にテレワークをしていない人や休職をしていた人などを除外して、1,789人(平均年齢43.2±11.3歳、男性68.8%)を解析対象とした(有効回答率60.2%)。出勤日とテレワークの日の就寝時刻と起床時刻の中央の時刻(睡眠中央値)の差が1時間以上ある場合を「テレワーク時差ぼけ」と定義。232人(13.0%)がこれに該当した。 心理的ストレス反応の評価には、「ケスラー6(K6)」という指標を用いた。K6は6項目の質問に対して0~4点で回答し、合計24点満点のスコアで評価する。本研究ではK6スコアが10点以上を「心理的ストレス反応が強い」と定義したところ、265人(14.8%)が該当した。 睡眠の時間帯に着目すると、テレワーク時差ぼけでない群の起床時刻は出勤日、テレワーク日ともに6時30分で、就床時刻は出勤日が0時30分、テレワーク日が23時30分だった。一方のテレワーク時差ぼけ群は、就床時刻はどちらも0時30分で変わらないものの、起床時刻は出勤日が6時30分であるのに対してテレワーク日は8時30分と2時間遅く起床していた。 心理的ストレス反応が強いと判定された人の割合は、テレワーク時差ぼけでない群は13.7%、テレワーク時差ぼけ群では22.0%であり、有意差が認められた(P<0.001)。 次に、結果に影響を及ぼし得る因子〔年齢、性別、テレワークの頻度や場所・期間、同居者の有無、職業、雇用形態、労働時間、仕事の裁量や他者からのサポート状況、通勤時間、飲酒・喫煙・運動習慣、カフェイン摂取量、睡眠時間、不眠症状(アテネ不眠尺度で評価)、仕事以外での電子端末等の使用など〕の影響を調整した上で比較。その結果、テレワーク時差ぼけと心理的ストレス反応の間には有意な関連性が示された〔オッズ比1.80(95%信頼区間1.16~2.79)〕。 著者らは本研究が横断研究であること、および交絡因子として収入や服薬状況が把握されていないことなどを限界点として挙げた上で、「出勤とテレワークが混在する『テレワーク時差ぼけ』が、心理的ストレス反応を増大させている可能性が示された」と結論付け、「労働者の健康を守りながらテレワークという新しい働き方を持続可能なものとするためにも、このトピックに関する縦断研究によって因果関係を確認することが望まれる」と述べている。 なお、時差ぼけによる不調には睡眠時間の長短自体が影響を及ぼしている可能性が考えられるが、本研究では上述のように交絡因子として睡眠時間を調整後にも有意なオッズ比上昇が観察された。この点について論文には、「テレワークの日の起床時刻が出勤日よりも遅くなることによって、起床直後に太陽光に当たる時間が遅くなり、メラトニンなどのホルモン分泌パターンが変動する。そのような変化も、テレワーク時差ぼけによってメンタルヘルス不調が生じる一因ではないか」との考察が加えられている。

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会話の時間が短いと非高齢者でも嚥下機能が低下?

 50~60歳代という誤嚥性肺炎が生じるにはまだ早い年齢層であっても、人と会話をする時間が短い人は、嚥下機能が低下している可能性のあることを示すデータが報告された。大分大学医学部呼吸器・感染症内科学の小宮幸作氏らの研究によるもので、詳細は「Cureus」に10月29日掲載された。 日本人の死亡原因の上位の一角は毎年、肺炎が占めている。死因としての肺炎の多くは高齢者の誤嚥性肺炎と推測されるが、その誤嚥性肺炎につながる嚥下機能の低下は高齢者に特有のものではなく、より若い年齢から加齢とともに徐々に進行していくと考えられる。ただし、どのような因子が嚥下機能の低下に関連しているのかは明らかにされていない。これを背景として小宮氏らは、医師を対象とするインターネットアンケートによる横断調査を行い、関連因子の特定を試みた。 調査対象は、アンケート調査パネルに登録している50~60歳代の医師310人。対象を医師に限った理由は、嚥下機能を評価するための反復唾液嚥下テスト(RSST)を、医師であれば正確に行えると考えられるため。RSSTは、30秒間にできるだけ多く唾を飲み込んでもらい、飲み込む回数が多いほど嚥下機能が良好と判定する。なお、嚥下機能の正確な評価にはバリウムを用いる画像検査が行われるが、RSSTの回数はその検査の結果と強く相関することが報告されている。 アンケートではこのRSSTの回数のほかに、年齢、性別、BMI、併存疾患(脳血管疾患、COPD、胃食道逆流症、頭頸部腫瘍、神経筋疾患など)、服用中の薬剤、生活習慣(飲酒・喫煙・運動習慣、睡眠時間、歯みがきの頻度、1日の会話時間)、自覚症状(口呼吸、口渇、鼻閉、飲み込みにくいなど)について質問。なお、RSSTは上限を20回として、0~20の間で回答を得た。また、会話の時間は、自分が話している時間と相手の話を聞いている時間を区別せずに答えてもらった。 回答者の年齢は中央値59歳(四分位範囲54~64)、女性6.1%だった。RSSTスコアは中央値12で、1~12回を低RSST群(52.3%)、13~20回を高RSST群(47.7%)とした。 両群を比較すると、年齢や性別の分布、会話時間以外の生活習慣、自覚症状に有意差は見られず、脂質異常症の割合〔低RSST群19.8%、高RSST群30.4%(P=0.030)〕と会話時間〔1日に3時間未満が同順に66.0%、50.6%(P=0.006)〕のみ有意差が認められた。このほかに、睡眠時無呼吸症候群(P=0.054)や口呼吸(P=0.076)、窒息しかけた体験の有無(P=0.084)が、有意水準未満ながらも比較的大きな群間差が認められた。 次に、有意差または有意に近い群間差が認められた上記の因子を独立変数、低RSSTであることを従属変数とする多変量解析を施行。その結果、低RSSTに独立した関連のある因子として、1日の会話の時間が3時間未満であることのみが抽出された〔オッズ比1.863(95%信頼区間1.167~2.974)〕。 著者らは本研究の対象が医師のみであり、RSSTの中央値も比較的高かったことから(既報研究での中央値は一桁台)、この結果から得られた知見を必ずしも一般化できないと述べている。その上で、「誤嚥性肺炎のリスクが高まる年齢層より若い世代において、会話の時間が少ないことが嚥下機能の低下と有意な関連があることが明らかになった。会話時間は将来の誤嚥性肺炎の予測因子となるのではないか。誤嚥性肺炎のリスク抑制を目的として会話を増やすという介入研究の実施が望まれる」と結論付けている。 なお、論文中には本研究で示された関連のメカニズムとして、会話をすることが口腔の筋力や認知機能を維持するように働き、嚥下機能の低下を抑制するのではないかとの考察が加えられている。また、脂質異常症の該当者が高RSST群で有意に多かった点については、「脂質異常症は脳血管障害のリスク因子であるため、嚥下機能低下と関連すると考えられる。示された結果はそのような理解に反するものだが、嚥下機能が優れている人は食事摂取量が多いことを反映した結果かもしれない」と述べられている。

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ドキシサイクリンPEP、シスジェンダー女性では予防効果なし/NEJM

 シスジェンダー女性において、ドキシサイクリンの曝露後予防(PEP)は標準治療と比較し性感染症(STI)の発生率を有意に低下しなかった。また、毛髪試料の分析の結果、ドキシサイクリンPEPの服用率は低かったという。米国・ミネソタ大学のJenell Stewart氏らdPEP Kenya Study Teamが無作為化非盲検試験の結果を報告した。ドキシサイクリンPEPは、シスジェンダー男性およびトランスジェンダー女性のSTIを予防することが示されているが、シスジェンダー女性を対象とした試験のデータは不足していた。著者は、「生物医学的な予防効果を得るためには、予防薬服用アドヒアランスに対する理解を深めてもらうこと、および支援を行う必要がある」とまとめている。NEJM誌2023年12月21日号掲載の報告。ケニア人女性449例をドキシサイクリンPEP群と標準治療群に無作為化し1年追跡 研究グループは2020年2月5日~2022年10月30日に、ケニアにおいてヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染に対する曝露前予防投与を受けている18~30歳のケニア人女性449例を、ドキシサイクリンPEP群(224例)または標準治療群(225例)に1対1の割合で無作為に割り付け、1年間追跡した。 ドキシサイクリンPEP群では、コンドームを使用しない性交渉後72時間以内にドキシサイクリン塩酸塩200mgを服用することとし、3ヵ月ごとにSTI検査を受けてもらった。標準治療群では、3ヵ月ごとのSTI検査と治療のみとした。 主要エンドポイントは、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)のいずれかの感染症発生とした。また、ドキシサイクリン使用の客観的評価のため、ドキシサイクリンPEP群では3ヵ月ごとに参加者の22%を無作為に抽出し毛髪を採取した。STI発生頻度に有意差なし、総じてドキシサイクリン服用率が低い 全体で計109件のSTIが発生した。内訳はドキシサイクリンPEP群50件(100人年当たり25.1件)、標準治療群59件(100人年当たり29.0件)であり、発生頻度に有意差は認められなかった(相対リスク:0.88、95%信頼区間[CI]:0.60~1.29、p=0.51)。 また、109件のうちクラミジア感染が85件(78.0%)を占め、内訳はドキシサイクリンPEP群35件、標準治療群50件(相対リスク0.73、95%CI:0.47~1.13)であった。そのほか、109件のうち淋菌感染31件、梅毒トレポネーマ感染1件、クラミジアと淋菌の重複感染が8件であった。 ドキシサイクリンに関連する重篤な有害事象ならびにHIV感染症の発生は認められなかった。 ドキシサイクリンPEP群で無作為に抽出された50例から得られた毛髪計200検体のうち、ドキシサイクリンが検出されたのは58検体(29.0%)であった。また、淋菌陽性者から分離された淋菌株は、すべてドキシサイクリンに対して耐性があった。

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抗ウイルス薬が1型糖尿病患児のインスリン分泌能低下を抑制する可能性

 1型糖尿病を発症してからあまり時間が経過しておらず、インスリン分泌がまだ残存している小児に対して抗ウイルス薬を投与すると、インスリンを産生する膵臓のβ細胞の保護につながる可能性のあることが報告された。オスロ大学病院(ノルウェー)のIda Maria Mynarek氏らの研究によるもので、第59回欧州糖尿病学会(EASD2023、10月2~6日、ドイツ・ハンブルク)で発表されるとともに、「Nature Medicine」に10月4日掲載された。 1型糖尿病は、インスリンを産生する膵臓のβ細胞が破壊されてインスリンを分泌できなくなり、インスリン療法の絶対的適応となる病気。ウイルス感染を契機に異常な自己免疫反応が生じて、β細胞が破壊されることが発症の一因と考えられている。例えば、エンテロウイルスというウイルスの感染と1型糖尿病発症の関連などが報告されている。Mynarek氏らは、エンテロウイルス感染症の治療薬として開発されている抗ウイルス薬(pleconaril)と、ウイルス性肝炎の治療などに実用化されているリバビリンとの併用により、診断後間もない1型糖尿病患児のβ細胞機能を保護できるか否かを検討した。 研究参加者は、1型糖尿病と診断されてから3週間以内の患児96人。主な特徴は、年齢は範囲6~15歳で平均11.1±2.4歳、女子が41.7%、診断時のHbA1cが11.8±4.3%で、エンテロウイルスの感染が確認された患児はいなかった。無作為に抗ウイルス薬群47人とプラセボ群49人に分け、診断から17.8±3.2日後から6カ月間にわたって投与を継続した。ベースライン時点において、年齢や性別の分布、BMI、診断時HbA1c、1型糖尿病リスクに関連のある自己抗体の保有率、診断から投与開始までの期間などに有意差はなかった。 主要評価項目として設定していた12カ月経過時点における食事負荷2時間以内のC-ペプチド(インスリン分泌能の指標)上昇曲線下面積(AUC)は、プラセボ群よりも抗ウイルス薬群の方が37%有意に高かった(ベースラインレベルで調整後の群間差がP=0.04)。プラセボ群でのベースラインからのC-ペプチドAUC低下幅は24%だったが、抗ウイルス薬群では11%であり、また後者の群の86%は比較的容易なインスリン療法のレジメンで血糖コントロールが可能な状態に維持されていた。ただし、HbA1cやグリコアルブミン、インスリン投与量には有意差がなかった。なお、重症低血糖を含む有害事象の発生状況は有意差がなかった。 研究グループによると、「1型糖尿病発症のベースにあるメカニズムは悪性度の高くないウイルス感染の持続であって、新たなワクチンを開発することで1型糖尿病を予防できるという考え方はこれまでにもあった」といい、「われわれの研究の結果はそのような概念を裏付けるものだ」としている。また、「1型糖尿病の病態進行を引き起こすβ細胞破壊を、抗ウイルス治療によって遅らせることができるかどうかを詳細に評価するため、より早期の段階で介入するといった、さらなる研究を行うべきだ」と付け加えている。

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