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風邪の予防・症状改善に亜鉛は有用か?~コクランレビュー

 風邪症候群の予防や症状持続期間の短縮に関して、確立された方法はいまだ存在しない。しかし、この目的に亜鉛が用いられることがある。そこで、システマティック・レビューおよびメタ解析により、風邪症候群の予防や症状改善に関する亜鉛の効果が検討された。その結果、亜鉛には風邪症候群の予防効果はないことが示唆されたが、症状持続期間を短縮する可能性が示された。Maryland University of Integrative HealthのDaryl Nault氏らがThe Cochrane Database of Systematic Reviews誌2024年5月9日号で報告した。 研究チームは、風邪症候群や上気道感染の予防または症状改善に関する亜鉛の効果をプラセボと比較した無作為化比較試験を検索した。検索には、CENTRAL、MEDLINE、Embase、CINAHL、LILACSを用い、2023年5月22日までに登録された試験を抽出した。また、Web of Science Core Collectionや臨床試験登録システムへ2023年6月14日までに登録された試験も検索した。エビデンスの確実性はGRADEを用いて評価した。また、有害事象についても調べた。 システマティック・レビューの結果、34試験(予防:15試験、治療:19試験)に参加した8,526例が対象となった。22試験が成人を対象としたもので、12試験が小児を対象としたものであった。 予防目的、治療目的での亜鉛の使用に関する主な結果は以下のとおり。【予防目的での使用】・風邪症候群の発症リスクは、プラセボと比較してほとんどまたはまったく低下しない可能性がある(リスク比[RR]:0.93、95%信頼区間[CI]:0.85~1.01、I2=20%、9試験[1,449例]、エビデンスの確実性:低い)。・風邪症候群を発症した場合、症状持続期間はプラセボと比較してほとんどまたはまったく短縮しない可能性がある(平均群間差:-0.63日、95%CI:-1.29~0.04、I2=77%、3試験[740例]、エビデンスの確実性:中程度)。・有害事象の発現リスクの違いは不明である(RR:1.11、95%CI:0.84~1.47、I2=0%、7試験[1,517例]、エビデンスの確実性:非常に低い)。・重篤な有害事象の発現リスクの違いも不明である(RR:1.67、95%CI:0.78~3.57、I2=0%、3試験[1,563例]、エビデンスの確実性:低い)。【治療目的での使用】・風邪症候群の症状持続期間は、プラセボと比較して短縮する可能性がある(平均群間差:-2.37日、95%CI:-4.21~-0.53、I2=97%、8試験[972例]、エビデンスの確実性:低い)。・非重篤な有害事象の発現リスクは、プラセボと比較して増加する可能性がある(RR:1.34、95%CI:1.15~1.55、I2=44%、16試験[2,084例]、エビデンスの確実性:中程度)。・重篤な有害事象に関する報告はなかった。 著者らは、本システマティック・レビューおよびメタ解析において、エビデンスの確実性が低いまたは非常に低い結果が多かったという限界を指摘しつつ、「亜鉛は風邪症候群の予防には、ほとんどまたはまったく効果がないことが示唆される。一方、治療に用いる場合は、非重篤な有害事象を増加させる可能性はあるが、風邪の罹病期間を短縮する可能性がある」とまとめた。

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第212回 緊急避妊薬が必要な女性に届かず?日薬が販路拡大へ動く

厚生労働省の医薬局医薬品審査管理課の委託調査事業として、昨年11月末から日本薬剤師会(以下、日薬)が『薬局での緊急避妊薬の試験販売』を行っている。これまで47都道府県で145軒の薬局が試験販売に参加してきたが、今年度も試験販売を継続するにあたって、日本薬剤師会は6月下旬までに参加薬局を200~250軒程度まで拡大する計画だ。昨年11月末から今年1月末までの試験販売実績などは、「令和5年度厚生労働省医薬局医薬品審査管理課事業 緊急避妊薬販売に係る環境整備のための調査事業報告書」としてまとめられている。この2ヵ月間での全国での販売実績は2,181件。調査研究事業であるため服用者に事後アンケートを行っており、このうち報告書で解析対象としたのは1,982件。その結果は、「面談した薬剤師の対応」「説明のわかりやすさ」「プライバシーの配慮」に対して、「とても満足」あるいは「概ね満足」と回答した割合は、それぞれ順に98.7%、98.7%、97.2%だった。薬剤師による緊急避妊薬の説明が「よく理解できた」が99.8%、必要時に「医師の診察を受けずに、薬局で薬剤師の面談を受けてから服用したい」が82.2%となっている。薬局での緊急避妊薬の販売は少なくとも服用者からの支持が高いと言ってよいだろう。今回の試験販売参加薬局の増加については、日薬常務理事の長津 雅則氏は「薬局当たりの販売件数は全国的にかなり濃淡がある。とくに女性人口に比して販売実績が少ない地域、薬局当たりの販売件数が全国平均より非常に多い地域はもう少し(軒数を)広げたほうが良いと思う。各都道府県の薬剤師会と連携し、参加薬局の追加を進めている」と定例会見で説明している。前述の報告書の結果を見ても、地域別の販売実態にばらつきが多いのは確かだ。試験販売対象は16歳以上だが、最新の国勢調査からそれ以上でかつ妊孕性があると見込まれる不妊治療の保険適用上限43歳までの女性人口を算出し、報告された都道府県別の販売件数と併せて該当女性人口1万人当たりの販売件数などを試算してみた。まず該当女性人口当たりの販売件数の全国平均は1.3件。都道府県別にすると、最低が北海道の0.2件、最高は高知県の4.4件である。このほかに販売件数が少ないのは山形県と山口県の0.4件、青森県と岐阜県の0.5件などで、逆に多いのは沖縄県の3.6件、富山県の3.2件、大分県の2.9件など。また、1薬局当たりの販売件数の全国平均は15件で、都道府県別では最低の山形県の1.7件に対し、最高の東京都は53.2件。ほかに少ない地域は山口県の2.0件、秋田県と島根県の2.7件、多い地域は沖縄県の40件、神奈川県の38.5件など。販売件数を人口当たりで見ても薬局当たりで見ても、最低値と最高値で20倍以上の開きがある。長津氏は「立地の問題もあったかと思うが、やはり人口の少ない県での販売件数は少ない」と説明したが、前述の試算データを詳細に見ると、どちらかというと立地に左右されていることがうかがえる。たとえば、該当女性人口当たりの販売件数最低の北海道、それに次ぐ山形県、山口県、岐阜県では最大人口となる道県庁所在地に参加薬局は皆無だ。1薬局当たりの販売件数が3番目に多い神奈川県も県庁所在地である横浜市には参加薬局はない。緊急避妊薬を必要とする女性(潜在的に必要とする人も含む)は、本来人口規模が大きくなればなるほど多くなると予想される。ということは、前述した道県の販売実績は少ない場合も多い場合も潜在的な必要性を正確に反映していないと言い切れるだろう。また、該当女性人口当たりの販売件数が最高値の高知県は、その該当女性人口の絶対数が全国で4番目の低値で、都道府県別で高齢化率はトップである。つまりこのような結果になったのは、高知県が特殊なのではなく、本来高知県より数値が高くなるはずの都道府県が前述のように参加薬局の立地や少なさによって、数値が見かけ上は低くなっているに過ぎないと考えるのが自然である。こうしたことを念頭に置けば、今回の日薬が参加薬局数を増やし、その立地・配置も検討するというのはある意味当然と言える。ちなみに全国145軒でこの試験販売が始まった時、前述のような人口規模が多い都道府県庁所在地に参加薬局がないなどの問題は各方面から疑問の声が上がっていた。なぜそうなったかについて、日薬関係者の口はかなり重いが、それでも聞こえてくる話を総合すると、「日本産婦人科医会などに緊急避妊薬の薬局販売に対する慎重論が根強い中、試験販売の失敗は許されず、日薬や都道府県薬剤師会との繋がりが強く信頼できる対応薬局が複数ある地域で、かつこれら薬局と連携ができて販売にも理解がある産婦人科医がいる地域を慎重に選ばねばならなかった」ということらしい。確かに日本産婦人科医会が、2021年8~9月に緊急避妊薬の処方および予期せぬ妊娠に関する診療を行っている産婦人科医を対象に行ったアンケート調査では緊急避妊薬のスイッチOTC化について、「無条件で賛成」が7.8%、「条件付き賛成」が46.9%、「反対」が42.0%で、いまだ反対が4割以上に上る。結局のところ、こうした背景による忖度などが、前述したニーズに対応できていない地域が多数あることを強くうかがわせる結果の一因のようだ。日本産婦人科医会には、なぜ、かくも一定数の根強い反対論があるのか? 同医会が行ったWebアンケートでは、緊急避妊薬のOTC化により懸念される問題はあるかについて、「ある」との回答が92.0%。具体的に懸念される問題(複数回答)については、「転売の可能性」が64.6%、「コンドーム使用率の低下による性感染症リスクの拡大の可能性」が61.1%、「緊急避妊薬服用後の妊娠(異常妊娠含む)への対応が遅れる可能性」が60.2%、「避妊に協力しない男性が増える」が57.5%などとなっている。ここで挙げられた懸念については、私も相当程度は納得する。しかし、実際のところOTC販売にどのような厳格な条件を付けても、これらを完全に防ぐことはできない。そして日本産婦人科医会をはじめとする医師系団体は、どのような条件が満たされれば試験販売からスイッチOTCとしての本格販売への移行を認めるかの出口戦略をほとんど示していない点についても、個人的にはやや首をかしげざるを得ない。確かにスイッチOTC化に一定の懸念はあるが、それは望まない妊娠の可能性に悩む女性たちの保護という眼前の問題を超えてまで語るべきほどの懸念だろうか? このように書くと、「いや、だからそうした女性は産婦人科医が直接診察して…」という声が上がるだろう。しかし、そうした女性の82.2%という大多数はその考えを支持していない。加えて今回の調査結果からは、もう1つ興味深い結果が明らかになっている。服用者に対して3~5週間後に行ったアンケートでは、その後、産婦人科医を受診したかを尋ねている。結果は受診したとの回答が14.4%。受診しなかった服用者の理由の筆頭は「生理が確認できたから」の78.8%で、次いで「受診する時間がなかったから」が21.6%。これについては多少なりとも懸念を示す医師が多いかもしれない。しかし、この調査では参考値として、緊急避妊薬を求めて産婦人科医を受診し、その後、薬局で調剤を受けた事例でも同じ調査を行っている。その結果では3~5週間後の時点で産婦人科医を受診した割合は14.3%。受診しなかった理由はやはり「生理が確認できたから」の62.5%で、「受診する時間がなかったから」が12.5%。薬局での直接販売と違うのは、「特に理由がない」が試験販売では3.3%に対し、産婦人科医から処方を受けた服用者では12.5%となっている点だ。ただ、これは深読みせずとも、この12.5%のかなりの割合が「受診する時間がなかったから」に分類されるのではと解釈するだろう。総合してみれば、緊急避妊薬を求める女性にとって、ファーストコンタクトが医師、薬剤師のいずれでも信頼度は同等と言ってもいいのではないだろうか?昨今でも望まない妊娠の結果とみられる、若い女性による胎児殺害・遺棄事件は断続的に報道されている。こうした現実や今回の結果を目の当たりにするにつけ、私たちの社会は「望まない妊娠の可能性を抱えて不安に苛まれる女性たちには一時的に耐えてもらって、転売や性感染症リスクを徹底的に封じ込める対策が確立されるまで待つ」のか「転売や性感染症拡大のリスクは一定程度目をつぶって、まずは望まない妊娠の不安を解消する」のか? これはあまりにも“究極”過ぎる選択と言えるのではないだろうか。今回の報告書を読んで、改めてこの問題に関しては、お上のお膝元で市民感覚を置き去りにした議論が行われていると思わざるを得ないのである。

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「抗生物質ください!」にはどう対応すべき?【もったいない患者対応】第6回

「抗生物質ください!」にはどう対応すべき?登場人物<今回の症例>28歳男性。生来健康今日からの37℃台の発熱、咳嗽、喀痰、咽頭痛あり身体所見上、咽頭の軽度発赤を認める<診察の結果、経過観察で十分な急性上気道炎のようです>やっぱり風邪でしょうか?そうですね。風邪だと思います。そうですか。仕事が忙しくて、風邪をひいている場合じゃないんです。とにかく早く治したいので、抗生物質をください。抗生物質は風邪には効きませんよ?でも以前、抗生物質を飲んだら次の日にすっきり風邪が治ったことがあったんです。今日は抗生物質をもらいに来たんです。処方してください。…わかりました。では処方しましょうか。【POINT】若くて生来健康な患者さんの、受診当日からの上気道症状と微熱。上気道炎として、まずは対症療法のみで経過観察してもよさそうな症例です。患者さんから抗菌薬の処方を希望された唐廻先生は、それが不要であることを伝えますが、患者さんに強く迫られて根負けしてしまいました。このようなケース、どう対応すればよかったのでしょうか? デメリットをきちんと説明していますか?患者さんのなかには、何か目に見える形で治療してもらわないと満足できない、という方が一定数います。「治療の必要なし。経過観察可能」と判断されると、「医師は何もしてくれなかった」と思ってしまうのです。なかには、今回のケースのように「風邪には抗菌薬が効く」という間違った医学知識を自らの体験から信じている患者さんも多くいます。こういう方に、無治療経過観察が望ましいことはなかなか理解してもらえません。今回の唐廻先生のように、早々と患者さんの希望どおりに対応してしまうほうが医師にとっては楽です。しかし、医学的に不要な治療を患者さんの希望に合わせて行ってしまうと、患者さんに副作用リスクだけを与えることになります。また、必要のない治療を行うことにより、かえって病態が修飾されるので、精査が必要なまれな病気が隠れていたとき、その発見が遅れるリスクもあるでしょう。もちろん、不要な医療行為は医療経済的な観点からも望ましくありません。唐廻先生のように安易に処方せず、まずは治療が不要であることをきちんと説明することが大切です。一方で、十分な説明なしに処方を断ってしまうのも問題です。満足できなかった患者さんは、自分が望む治療を提供してくれるところを探し、結局別の病院を受診するかもしれないからです。これは、患者さんにとって有益とはいえません。では、治療が不要であることをどのように伝えればよいでしょうか?「なぜ処方できないのか」を明確に伝えようまず、医学的根拠を可能な限りわかりやすく伝えるよう努力すべきです。たとえば今回の抗菌薬に関する説明であれば、まず、風邪の原因はほとんどがウイルス感染である。抗菌薬は細菌をやっつける薬であって、ウイルスをやっつける薬ではないので、風邪には効果がないこと抗菌薬には吐き気や下痢、アレルギーのようなリスクがあり、効果が期待できないうえに副作用のリスクだけを負うのは割に合わないことを説明します。あくまでも個人的な意見“ではない”こともポイント次に、「治療は必要ない」という結論が「個人の主観的判断」によって得られたものではなく、ガイドライン上の記載や学会・公的機関の見解、過去の大規模な臨床試験のデータなど、客観的なエビデンスに基づくものであることを伝えるのがよいでしょう。風邪に抗菌薬を使用することは、メリットよりデメリットのほうが圧倒的に大きいため、厚生労働省が発行した「抗微生物薬適正使用の手引き」に「感冒に対しては、抗菌薬投与を行わないことを推奨する」と明記されていることをかいつまんで説明する、という形がおすすめです。もっと簡単に説明したい場合は、「近年は○○をするのが一般的です」「〇〇されています」「多くの医師が○○しています」のように、自分の主観“以外”のところに拠り所があるというニュアンスを伝えると効果的です。かかりつけの患者さんなど、長年の付き合いで信頼関係ができている場合とは違って、患者さんが医師と初めて会うときは「目の前の医師を本当に信頼していいだろうか」と不安になるものです。そのため、客観的な知見を拠り所にしたほうが、患者さんは安心する可能性が高いはずです。こうした根拠をわかりやすく説明できるよう、準備しておきましょう。もちろん、風邪から肺炎に発展するなど、本当に抗菌薬が必要な病態に発展する可能性はあります。こうしたケースで、患者さんが「抗菌薬を使用しなかったことが原因ではないか」と疑うことのないよう、今後の見通しや再受診のタイミングを伝えておくことも大切です。点滴やうがい薬も誤解が多い風邪は誰もが何度もかかる病気なので、「こういう風に治したい」という強い希望をもつ患者さんは多いと感じます。たとえば、「風邪は点滴で治る」と思い込んでいる人もいますし、ヨード液(商品名:イソジンなど)のうがい薬が風邪予防につながると信じている人もいます。患者さんにこうした希望がある場合、完全に否定するのではなく、それぞれのデメリットや拠り所となるエビデンスを説明したうえで判断してもらいます。点滴であれば、デメリットとして末梢ルート確保に伴う感染リスクや神経障害などのリスク長時間病院に滞在することによる体調悪化のリスク補液に伴う循環器系への負担をきちんと説明する必要があります。ヨード液については、「ヨード液よりも水うがいのほうが風邪予防や症状の緩和につながる」といった客観的なエビデンス1)があることを説明するとよいでしょう。これでワンランクアップ!やっぱり風邪でしょうか?そうですね。風邪だと思います。そうですか。仕事が忙しくて、風邪をひいている場合じゃないんです。とにかく早く治したいので、抗生物質をください。風邪の原因はほとんどが細菌ではなくウイルスです。抗生物質は細菌をやっつける薬なので、ウイルスをやっつけることはできません※1。風邪に効果は期待できないうえに副作用のリスクもある※2ので、今回は使わないほうがいいと思います。風邪に抗生物質を希望する患者さんが多いので、厚労省からも「風邪に対して抗生物質を使わないことを推奨する」という通達が出ているんですよ※3。抗生物質なしで一旦経過をみませんか※4。もちろん症状が悪化したときは風邪とは異なる別の病気を併発している可能性もありますので、そのときは必ずもう一度受診してくださいね。※1:ここを誤解している患者さんは多い。※2:あくまで患者さんの不利益になることを強調する。※3:客観的な意見を伝えると納得してもらいやすい。※4:一度猶予をもらうのも手。参考1)Satomura K, et al. Am J Prev Med. 2005;29:302-303.

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腕に貼る麻疹・風疹ワクチンは乳幼児に安全かつ有効

 予防接種の注射を嫌がる子どもに、痛みのないパッチを腕に貼るという新たなワクチンの接種方法を選択できるようになる日はそう遠くないかもしれない。マイクロニードルと呼ばれる微細な短針を並べたパッチ(microneedle patch;MNP)を腕に貼って経皮ワクチンを投与する方法(マイクロアレイパッチ技術)で麻疹・風疹ワクチン(measles and rubella vaccine;MRV)を単回接種したガンビアの乳幼児の90%以上が麻疹から保護され、全員が風疹から保護されたことが、第1/2相臨床試験で示された。英ロンドン大学衛生熱帯医学大学院の医学研究評議会ガンビアユニットで乳児免疫学の責任者を務めるEd Clarke氏らによるこの研究結果は、「The Lancet」に4月29日掲載された。 Clarke氏は、「マイクロアレイパッチ技術による麻疹・風疹ワクチン投与(MRV-MNP)はまだ開発の初期段階にあるが、今回の試験結果は非常に有望であり、多くの関心や期待を呼んでいる。本研究により、この方法で乳幼児にワクチンを安全かつ効果的に投与できることが初めて実証された」と語る。 この臨床試験では、18〜40歳の成人45人と、生後15〜18カ月の幼児と生後9〜10カ月の乳児120人ずつを対象に、MRV-MNPの安全性と有効性、忍容性が検討された。これらの3つのコホートは、MRV-MNPとプラセボの皮下注射を受ける群(MRV-MNP群)とプラセボのMNPとMRVの皮下注射(MRV皮下注群)を受ける群に、2対1(成人コホート)、または1対1(幼児・乳児コホート)の割合でランダムに割り付けられた。 その結果、ワクチン接種から14日後の時点で、MRV-MNP群に安全性の懸念は生じておらず、忍容性のあることが示された。MRV-MNPを受けた幼児の77%と乳児の65%に接種部位の硬化が認められたが、いずれも軽症で治療の必要はなかった。乳児コホートのうち、ベースライン時には抗体を保有していなかったが接種後42日時点で麻疹ウイルスと風疹ウイルスに対する抗体の出現(セロコンバージョン)が確認された対象者の割合は、MRV-MNP群でそれぞれ93%(52/56人)と100%(58/58人)、MRV皮下注群では90%(52/58人)と100%(59/59人)であった。接種後180日時点でも、MRV-MNP群では91%(52/57人)と100%(57/57人)の対象者で麻疹ウイルスと風疹ウイルスに対するセロコンバージョンを維持していた。 一方、幼児コホートで、ベースライン時には抗体を保有していなかったが、接種後42日時点で麻疹ウイルスと風疹ウイルスに対するセロコンバージョンが確認された割合は、MRV-MNP群で100%(5/5人)、MRV皮下注群で80%(4/5人)であった。風疹ウイルスに対しては、研究開始時から全ての対象児が抗体を保有していた。 こうした結果を受けてClarke氏は、「マイクロアレイパッチ技術によるワクチン接種としては麻疹ワクチンが最優先事項だが、この技術を用いて他のワクチンを投与することも今や現実的になった。今後の展開に期待してほしい」と話す。 研究グループは、マイクロアレイパッチ技術によるワクチン接種が貧困国でのワクチン接種を容易にする可能性について述べている。この形のワクチンなら、輸送が容易になるとともに冷蔵保存が不要になる可能性もあり、医療従事者による投与も必要ではなくなるからだ。論文の筆頭著者であるロンドン大学衛生熱帯医学大学院の医学研究評議会ガンビアユニットのIkechukwu Adigweme氏は、「この接種方法が、恵まれない人々の間でのワクチン接種の公平性を高めるための重要な一歩になることをわれわれは願っている」と話す。 研究グループは、今回の試験で得られた結果を確認し、さらに多くのデータを提供するために、より大規模な臨床試験を計画中であることを明かしている。

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ワクチン接種、50年間で約1億5,400万人の死亡を回避/Lancet

 1974年以降、小児期の生存率は世界のあらゆる地域で大幅に向上しており、2024年までの50年間における乳幼児の生存率の改善には、拡大予防接種計画(Expanded Programme on Immunization:EPI)に基づくワクチン接種が唯一で最大の貢献をしたと推定されることが、スイス熱帯公衆衛生研究所のAndrew J. Shattock氏らの調査で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年5月2日号に掲載された。14種の病原菌へのワクチン接種50年の影響を定量化 研究グループは、EPI発足50周年を期に、14種の病原菌に関して、ワクチン接種による世界的な公衆衛生への影響の定量化を試みた(世界保健機関[WHO]の助成を受けた)。 モデル化した病原菌について、1974年以降に接種されたすべての定期および追加ワクチンの接種状況を考慮して、ワクチン接種がなかったと仮定した場合の死亡率と罹患率を年齢別のコホートごとに推定した。 次いで、これらのアウトカムのデータを用いて、この期間に世界的に低下した小児の死亡率に対するワクチン接種の寄与の程度を評価した。救われた生命の6割は麻疹ワクチンによる 1974年6月1日~2024年5月31日に、14種の病原菌を対象としたワクチン接種計画により、1億5,400万人の死亡を回避したと推定された。このうち1億4,600万人は5歳未満の小児で、1億100万人は1歳未満であった。 これは、ワクチン接種が90億年の生存年数と、102億年の完全な健康状態の年数(回避された障害調整生存年数[DALY])をもたらし、世界で年間2億年を超える健康な生存年数を得たことを意味する。 また、1人の死亡の回避ごとに、平均58年の生存年数と平均66年の完全な健康が得られ、102億年の完全な健康状態のうち8億年(7.8%)はポリオの回避によってもたらされた。全体として、この50年間で救われた1億5,400万人のうち9,370万人(60.8%)は麻疹ワクチンによるものであった。生存可能性の増加は、成人後期にも 世界の乳幼児死亡率の減少の40%はワクチン接種によるもので、西太平洋地域の21%からアフリカ地域の52%までの幅を認めた。この減少への相対的な寄与の程度は、EPIワクチンの原型であるBCG、3種混合(DTP)、麻疹、ポリオワクチンの適応範囲が集中的に拡大された1980年代にとくに高かった。 また、1974年以降にワクチン接種がなかったと仮定した場合と比較して、ワクチン接種を受けた場合は、2024年に10歳未満の小児が次の誕生日まで生存する確率は44%高く、25歳では35%、50歳では16%高かった。このように、ワクチン接種による生存の可能性の増加は成人後期まで観察された。 著者は、「ワクチン接種によって小児期の生存率が大幅に改善したことは、プライマリ・ヘルスケアにおける予防接種の重要性を強調するものである」と述べるとともに、「とくに麻疹ワクチンについては、未接種および接種が遅れている小児や、見逃されがちな地域にも、ワクチンの恩恵が確実に行きわたるようにすることが、将来救われる生命を最大化するためにきわめて重要である」としている。

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抗菌薬は咳の持続期間や重症度の軽減に効果なし

 咳の治療薬として医師により抗菌薬が処方されることがある。しかし、たとえ細菌感染が原因で生じた咳であっても、抗菌薬により咳の重症度や持続期間は軽減しない可能性が新たな研究で明らかにされた。米ジョージタウン大学医学部家庭医学分野教授のDaniel Merenstein氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of General Internal Medicine」に4月15日掲載された。 Merenstein氏は、「咳の原因である下気道感染症は悪化して危険な状態になることがあり、罹患者の3%から5%は肺炎に苦しめられる」と説明する。同氏は、「しかし、全ての患者が初診時にレントゲン検査を受けられるわけではない。それが、臨床医がいまだに患者に細菌感染の証拠がないにもかかわらず抗菌薬を処方し続けている理由なのかもしれない」とジョージタウン大学のニュースリリースの中で述べている。 今回の研究では、咳または下気道感染症に一致する症状を理由に米国のプライマリケア施設または急病診療所を受診した患者718人のデータを用いて、抗菌薬の使用が下気道感染症の罹患期間や重症度に及ぼす影響を検討した。データには、対象患者の人口統計学的属性や併存疾患、症状、48種類の呼吸器病原体(ウイルス、細菌)に関するPCR検査の結果が含まれていた。 ベースライン時に対象患者の29%が抗菌薬を、7%が抗ウイルス薬を処方されていた。最も頻繁に処方されていた抗菌薬は、アモキシシリン/クラブラン酸、アジスロマイシン、ドキシサイクリン、アモキシシリンであった。このような抗菌薬を処方された患者とされなかった患者を比較した結果、抗菌薬に咳の持続期間や重症度を軽減する効果は認められないことが示された。 研究グループはさらに、検査で細菌感染が確認された患者を対象に、抗菌薬を使用した場合と使用しなかった場合での転帰を比較した。その結果、下気道感染症が治癒するまでの期間は両群とも約17日間であったことが判明した。 研究グループは、「抗菌薬の過剰使用は、危険な細菌が抗菌薬に対する耐性を獲得するリスクを高める」との懸念を示す。論文の上席著者である米ジョージア大学公衆衛生学部教授のMark Ebell氏は、「医師は、下気道感染症の中に細菌性下気道感染症が占める割合を知ってはいるが、おそらくは過大評価しているのだろう。また、ウイルス感染と細菌感染を区別する自身の能力についても過大評価していると思われる」と話す。 一方、Merenstein氏は、「この研究は、咳に関するさらなる研究の必要性を強調するものだ。咳が深刻な問題の指標になり得ることは分かっている。咳は、外来受診の理由として最も多く、年間の受診件数は、外来では約300万件、救急外来では約400万件以上に上る」と話す。その上で同氏は、「重篤な咳の症状とその適切な治療法は、おそらくはランダム化比較試験によりもっと詳しく研究される必要がある。なぜなら、今回の研究は観察研究であり、また、2012年頃からこの問題を研究したランダム化比較試験は実施されていないからだ」と述べている。

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未治療MCL、免疫化学療法+イブルチニブ±ASCT(TRIANGLE)/Lancet

 未治療・65歳以下のマントル細胞リンパ腫(MCL)患者において、自家造血幹細胞移植(ASCT)+免疫化学療法へのイブルチニブ追加はASCT+免疫化学療法に対する優越性を示したが、ASCT後のイブルチニブの投与継続により有害事象が増加した。ドイツ・ミュンヘン大学病院のMartin Dreyling氏らEuropean Mantle Cell Lymphoma Networkが欧州13ヵ国およびイスラエルの165施設で実施した無作為化非盲検第III相優越性試験「TRIANGLE試験」の結果を報告した。結果を踏まえて著者は、「導入療法および維持療法にイブルチニブを追加することは、65歳以下のMCL患者の1次治療の一部とすべきで、イブルチニブを含むレジメンにASCTを追加するかどうかはまだ決定されていない」とまとめている。Lancet誌オンライン版2024年5月2日号掲載の報告。治療成功生存期間(FFS)を評価 TRIANGLE試験の対象は、組織学的にMCLと確定診断された未治療の、Ann Arbor病期II~IV、測定可能な病変が1つ以上、Eastern Cooperative Oncology Groupのパフォーマンスステータスが2以下の、ASCTの適応がある18~65歳の患者であった。 研究グループは、被験者をASCT+免疫化学療法群(A群)、ASCT+免疫化学療法+イブルチニブ群(A+I群)、免疫化学療法+イブルチニブ群(I群)の3群に、試験グループおよびMCL国際予後指標リスクで層別化し、1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 3群とも導入免疫化学療法は、R-CHOP(リツキシマブ+シクロホスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン+prednisone)と、R-DHAP(リツキシマブ+デキサメタゾン+シタラビン+シスプラチン)またはR-DHAOx(リツキシマブ+デキサメタゾン+シタラビン+オキサリプラチン)を交互に6サイクル行った。A+I群およびI群ではR-CHOPサイクルの1~19日目にイブルチニブ(560mg/日経口投与)を追加した。その後、A群およびA+I群ではASCTを施行し、A+I群ではASCT後に、I群では導入免疫化学療法に引き続き、イブルチニブによる維持療法(560mg/日経口投与)を2年間継続した。なお、3群とも、リツキシマブ維持療法を3年間追加することが可能であった。 主要評価項目は、治験責任医師評価による治療成功生存期間(failure-free survival:FFS[導入免疫化学療法終了時に安定、進行、または死亡のうちいずれかが最初に起こるまでの期間と定義])で、3つのペアワイズ片側ログランク検定により比較し、ITT解析を行った。 2016年7月29日~2020年12月28日に、計870例(男性662例、女性208例)が無作為化され(A群288例、A+I群292例、I群290例)、そのうち866例が導入療法を開始した。イブルチニブ併用+ASCTで3年治療成功生存率88%、ただしGrade3~5の有害事象が増加 追跡期間中央値31ヵ月において、3年FFS率はA群72%(95%信頼区間[CI]:67~79)、A+I群88%(84~92)であり、A+I群のA群に対する優越性が認められた(ハザード比[HR]:0.52、片側98.3%CI:0.00~0.86、片側p=0.0008)。一方、I群の3年FFS率は86%(95%CI:82~91)であり、A群のI群に対する優越性は示されなかった(HR:1.77、片側98.3%CI:0.00~3.76、片側p=0.9979)。A+I群とI群の比較検討は現在も進行中である。 有害事象については、導入療法中またはASCT中のGrade3~5の有害事象の発現率について、R-CHOP/R-DHAP療法とイブルチニブ併用R-CHOP/R-DHAP療法で差は認められなかった。 一方、維持療法中または追跡調査中においては、ASCT+イブルチニブ(A+I群)が、イブルチニブのみ(I群)やASCT(A群)と比較してGrade3~5の血液学的有害事象および感染症の発現率が高く、A+I群では血液学的有害事象50%(114/231例)、感染症25%(58/231例)、致死的感染症1%(2/231例)が、I群ではそれぞれ28%(74/269例)、19%(52/269例)、1%(2/269例)が、A群では21%(51/238例)、13%(32/238)、1%(3/238例)が報告された。

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ChatGPTと暮らす日々【Dr. 中島の 新・徒然草】(529)

五百二十九の段 ChatGPTと暮らす日々天気が目まぐるしく変化しています。晴れている日はこれ以上ない青い空。一方、雨の日はなんだか鬱陶しくて気が滅入ってしまいます。さて、今回はChatGPTについて。かなり前に無料の3.5から有料の4.0に変更しました。そうすると何だか使わないと損するみたいな気になります。ということで、今は毎日のように使っています。で、だんだん付き合い方というか距離感がわかってきました。ChatGPTに何を期待していいのか、何を期待してはならないのか。3.5から4.0に変わって、多少は回答の精度が上がったような気がします。前の3.5は、素人でもわかるような間違いが散見されました。それを指摘すると、丁寧な言葉遣いで別の誤答を出してきて疲れてばかり。良いところといえば、何を尋ねても何らかの返事があるところですね。一方、4.0のほうは「松竹梅」で言えば「竹」程度の回答です。診断に困る症例のことを相談しても、通り一遍の答えしか返ってきません。が、自分が知らない分野について尋ねてみると、ほどほどの回答を得ることができます。その中の疑問の部分を「もう少し説明を」というと、さらに詳しく説明してくれます。簡単に言えば、双方向性のウィキペディアみたいなものかもしれません。このような限界を知った上で、ChatGPTの得意分野を活用するのが良さそうです。ChatGPTの良さを実感できる場面の1つは、文章を書いていて、良い表現を思い付かないときですね。たとえば「感染性心内膜炎と細菌性動脈瘤は感染症界の二大ラスボスだ」みたいなことを書いているとき。「二大ラスボス」というのは何と言ったらいいのでしょうか?こういうときに、ChatGPTに「同じような意味の言葉を20個考えてください」というと、瞬時に20個挙げてくれます。実際にやってみるとこんな提案をしてくれました。致死的双璧最凶二病死を招く二大巨頭二大終焉導師致死率の双子星死を司る双頭の鷲……などなど玉石混交というか、そのままでは使いにくい気もします。文脈に合っていそうなのは「恐怖のツートップ」か「二大災厄」あたりでしょうか。ピッタリのものがなかったときは、提案された中の前半と後半をうまくつなげて使うというのもアリですね。エッセイのタイトルを考えてもらうのも良さそうに思います。前々回の「洗脳事件の謎解き」のときも、内容を伝えてタイトルを10個考えてもらいました。同窓会の風景思い出の確認昭和の日の語り故郷の再発見忘れられたクラスメイト洗脳事件の真実……などこれまた出来不出来が激しかったわけですが、ChatGPTとのしばらくのやり取りの後に「洗脳事件の謎解き」とした次第です。当たり前ですが、やはりChatGPTが得意なのは英語です。日本語に相応しい英単語を挙げるなどというのは、類語辞典よりも良いかもしれません。「“That CT scan depicted the lesion.” の “depict” を他の英単語に置き換えるとすると、どのようなものがありますか? 10個挙げてください」というプロンプトを入れると、たちまち10個挙げてくれました。showillustraterevealdisplaydemonstratepresentportrayexhibitvisualizehighlight素晴らしい!結局、ChatGPTにも得意不得意があるので、不得意な分野で期待し過ぎてもガッカリするだけです。一方、得意分野にはこれ以上ないほど頼もしい味方だといっても過言ではありません。実際に使っている方や、これから使ってみようと思っている読者の皆さまの参考になれば幸いです。最後に1句五月雨や 試行錯誤の AIぞ

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クラミジアワクチン、初期臨床試験で好成績

 クラミジアワクチンに関する初期の臨床試験において、ワクチン接種者に免疫反応が誘導され、安全性も確認されたことが報告された。研究者の間では、将来、このワクチンが性感染症(STI)の蔓延を抑えるのに役立つことへの期待が高まっている。Statens Serum Institut(国立血清学研究所、デンマーク)のJes Dietrich氏らによるこの研究の詳細は、「The Lancet Infectious Diseases」に4月11日掲載された。 米疾病対策センター(CDC)によると、クラミジアは米国で最も一般的な細菌性STIであるが、現時点では、クラミジアに対して有効なワクチンは存在しない。全米性感染症科長連合会(National Coalition of STD Directors;NCSD)の事務局長であるDavid Harvey氏は、NBCニュースに対し、「米国でのSTIの感染率は、1950年代以来、おそらくはそれ以前から、非常に高い」と指摘し、「クラミジアワクチンは切実に必要とされている」と話す。 また、米ワイル・コーネル・メディスン人口健康科学教授であるJay Varma氏は、「クラミジアは、依然として女性の不妊症の最も一般的な原因の一つである」とNBCニュースに語っている。クラミジアを治療しないまま放置すると、骨盤内炎症性疾患が引き起こされ、妊娠しにくくなる可能性がある。さらにクラミジアは眼感染症を引き起こすこともあり、世界中で190万人の失明や視力障害の原因となっている。 今回報告された第1相試験では、健康な男性および妊娠していない女性65人(18〜45歳)を、異なる用量のクラミジアワクチン(CTH522)を2種類のリポソームアジュバント製剤(CAF01、CAF09b)のいずれかと組み合わせて筋肉内投与する5つの群(A〜E群)とプラセボのみを投与する群(F群)にランダムに割り付けた。CTH522の用量は、A〜C群およびE群で85μg、D群で15μgであり、アジュバントとしてA〜D群はCAF01、E群はCAF09bを用いた。これらの6群は、28日目と112日目に筋肉内、皮下、または点眼の投与方法で2回の追加接種を受け、さらに140日目には、免疫応答のリコールのためにワクチンまたはプラセボの点眼投与を受けた。 最終的に60人(平均年齢26.8歳、女性52%、白人71%)が試験を完了した。有害作用は865件報告されたが、重症度がグレード3(重症)だったのは7件(1%)のみで、それ以外は全て軽度から中等度であった。A〜E群では42日目までに全ての参加者で抗体陽転(セロコンバージョン)率が4倍以上に達したのに対し、F群ではセロコンバージョンは確認されなかった。CTH522に対する血清IgG抗体価は、CTH522を85μg投与した群の方が15μgを投与した群よりも高かったが、有意差は認められなかった。また、85μgのCTH522-CAF01を3回投与した群と85μgのCTH522-CAF09bを3回投与した群との間にも、抗体価に有意な差は認められなかった。 以上のような有望な結果が得られたものの、解決すべき疑問はまだ多く残されている。例えば、本研究には関与していない、米ワシントン大学医学部教授のHilary Reno氏はNBCニュースに対し、「このワクチンに、クラミジア感染を食い止める力はあるのだろうか。それとも、感染しても無症候性である可能性が高いということなのか」と疑問を呈した上で、「こうしたことが、次の段階の試験で検討されることになるだろう」と話している。 研究グループは、すでにワクチンの有効性を評価する大規模な第2相試験の開始を予定している。Dietrich氏は、「将来的には、このワクチンにより生殖器と目の両方の感染を予防できるようにしたいものだ」との希望を語っている。

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腰椎穿刺前の頭部CT検査の適応【1分間で学べる感染症】第3回

画像を拡大するTake home message髄膜炎を疑った際には頭部CT検査の適応を速やかに判断し、髄液検査を遅らせないようにしよう。腰椎穿刺前の頭部CT検査の適応は6つの項目「PUNISH」で覚えよう。細菌性髄膜炎の初期対応に関しては、研修医を含め、救急外来や内科外来で働くあらゆる医師にとって必須の項目です。それでは、どのような状況で頭部CT検査を検討すればよいのでしょうか。最も重要なこととしては、頭部CT検査の適応を迅速に判断し、髄液検査を遅らせないことです。ここでは、腰椎穿刺前の頭部CT検査の適応として、6つの項目を「PUNISH」で覚えましょう。PPapilledema 乳頭浮腫UUnconsciousness/abnormal level of consciousness 意識レベル低下NNeurologic deficit (focal) 局所神経障害IImmunocompromised state HIVや免疫抑制剤、移植後などを中心とした免疫不全の患者SSeizure 1週間以内の新規けいれん発症HHistory of CNS disease 頭蓋内占拠性病変や脳卒中、感染などの中枢神経病変の既往がある場合頭蓋内圧が亢進している場合、腰椎穿刺により脳ヘルニアを引き起こす可能性があるため注意が必要です。しかし、頭部CTで異常所見がないからといって安心するのではなく、不規則な呼吸や乳頭浮腫などの脳幹徴候を認めた場合は腰椎穿刺を避けるようにしましょう。1)Hasbun R, et al. N Engl J Med. 2001;345:1727-1733.2)Gopal AK, et al. Arch Intern Med. 1999;159:2681-2685.3)Tunkel AR, et al. Clin Infect Dis. 2004;39:1267-1284.

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免疫不全患者のCOVID-19長期罹患がウイルス変異の温床に

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に1年半にわたって罹患していた免疫不全の男性患者が、ウイルスの新たな変異の温床となっていたとする研究結果が報告された。さらに悪いことに、確認された変異のいくつかは、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質に生じていた。これは、ウイルスが現行のワクチンを回避するために進化していることを意味する。アムステルダム大学医療センター(オランダ)のMagda Vergouwe氏らによるこの研究の詳細は、欧州臨床微生物・感染症学会議(ECCMID 2024、4月27〜30日、スペイン・バルセロナ)で発表された。 Vergouwe氏は、「この症例は、免疫不全患者が新型コロナウイルスに長期にわたって感染している場合の危険性を強調するものだ。なぜなら、そうした症例から新たな変異株が出現する可能性があるからだ」と話している。研究グループによると、例えばオミクロン株は、より初期の変異株に感染した免疫不全患者の中で変異を遂げて登場したものと考えられているという。 Vergouwe氏らが報告した症例は、新型コロナウイルスへの感染が原因で2022年2月にアムステルダム大学医療センターに入院した72歳の男性患者に関するもの。この男性患者は、骨髄から白血球が過剰に産生される骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍(MDS/MPN)オーバーラップ症候群に罹患しており、その治療として行われた同種造血幹細胞移植により免疫不全状態にあった。患者はその後、移植後リンパ増殖性疾患を発症し、リツキシマブによる治療を受けた。これにより、患者の体内には、通常であれば新型コロナウイルスと闘う抗体を産生するB細胞が消失していた。 この患者は、COVID-19に罹患する前に新型コロナワクチンを複数回、接種していた。しかし、入院時の検査で新型コロナウイルスに対するIgG抗体は検出されなかった。定期的なゲノムサーベイランスから、この患者はBA.1系統のオミクロン株(BA.1.17)に感染していることが分かり、ソトロビマブ、抗IL-6抗体であるサリルマブ、およびデキサメタゾンによる治療が行われた。しかしシーケンス解析からは、ソトロビマブ投与後21日目には、患者の体内の新型コロナウイルスは同薬に耐性を持つように変異していたことが判明した。また、治療から1カ月が経過しても、新型コロナウイルスに特異的なT細胞の活性化や抗スパイク抗体の産生がほとんど認められず、患者の免疫システムにはウイルスを排除する能力がないことが示唆された。最終的に、患者は613日にわたって新型コロナウイルスと闘い、その後、血液疾患により死亡した。 この男性の入院中(2022年2月〜2023年9月)に採取された27点の鼻咽頭ぬぐい液の全ゲノムシーケンスからは、現時点で世界的に広まっているBA.1系統と比べると、ACE-2受容体と結合するスパイクタンパク質の部位にL452M/KやY453Fの変異が生じるなど、ヌクレオチドに50以上の新たな変異が生じていることが明らかになった。さらに、スパイクタンパク質のN末端ドメインにはいくつかのアミノ酸の欠失が生じており、免疫回避の兆候が示唆された。 こうした調査結果を踏まえて研究グループは、「この症例では、COVID-19の罹病期間が長引いた結果、宿主の中でウイルスが広範に進化し、新規の免疫を回避する変異体が出現したものと思われる」と述べている。そして、このような症例は、「エスケープ変異株を地域社会に持ち込むリスクをはらんでおり、公衆衛生上の脅威となり得る」と付け加えている。ただし、この男性患者から他の人への新型コロナウイルス変異株の伝播は記録されていないという。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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身体診察【とことん極める!腎盂腎炎】第2回

CVA叩打痛って役に立ちますか?Teaching point(1)CVA叩打痛があっても腎盂腎炎と決めつけない(2)CVA叩打痛がなくても腎盂腎炎を除外しない(3)他の所見や情報を合わせて総合的に判断する1.腎盂腎炎と身体診察腎盂腎炎の身体診察といえば肋骨脊柱角叩打法(costovertebral angel tenderness:CVA tenderness)が浮かぶ方も多いのではないだろうか。発熱、膿尿にCVA叩打痛があれば腎盂腎炎と診断したくなるが、CVA叩打痛は腎臓の周りの臓器にも振動が伝わり、肝胆道や脊椎の痛みを誘発することがあるため、肝胆道系感染症や化膿性脊椎炎を腎盂腎炎だと間違えてしまう場合がある。身体所見やその他の所見と組み合わせて総合的に判断する必要がある。2.CVA叩打痛と腎双手診CVA叩打痛は腎盂腎炎を示唆する身体所見として広く知られている。図1のように、胸椎と第12肋骨で作られる角に手を置き、上から拳で叩打し、左右差や痛みの誘発があるかどうかを観察する。なお腎臓は左の方がやや頭側に位置しているため、肋骨脊柱角の上部・下部とずらして叩打痛の確認をする。もし左右差や痛みがあれば腎盂腎炎を示唆する所見となるが、第1回で紹介したとおり、所見がないからといって腎盂腎炎を否定することはできず、ほかの所見と合わせて診断を考える必要がある。画像を拡大するその他の身体診察として腎双手診がある。腎臓のある側腹部を両手で挟み込み、痛みを生じるかどうかを確かめる診察であり尿管結石でも陽性となり得るが、腎盂腎炎においてCVA叩打痛陰性であっても腎双手診は陽性となる症例も散見される。CVA叩打痛は脊椎の痛みを反映している場合もある一方で腎双手診(図2)は大腸の病変を触れている可能性もある。CVA叩打痛が圧迫骨折などの脊椎の痛みを誘発していないか確かめるために、棘突起を押して圧痛を生じないか確かめることが有用である。棘突起を押して圧痛を生じるようであれば、椎体の病変の可能性が高くなる。画像を拡大するこのように、腎臓の位置は肉眼では把握しづらく、痛みを生じているのが腎臓なのか、その周囲の臓器なのかわかりにくい。裏技のような方法になるが、エコーで腎臓を描出しながらプローブで圧痛が生じるか確認する、いわばsonographic Murphy’s signの腎臓バージョンもある1)。3.自身が体験した非典型的なプレゼンテーション最後に自身が体験した非典型なプレゼンテーションを述べる。糖尿病の既往がある90歳の女性で、転倒後の腰痛で体動困難となり救急搬送された。身体診察・画像検査からは腰椎の圧迫骨折が疑われ、鎮痛目的に総合診療科に入院となった。その夜に39℃台の発熱を生じfever work upを行ったところ、右の双手診で側腹部に圧痛があり、尿検査では細菌尿・膿尿を認めた。圧迫骨折後の尿路感染症として治療を開始し、後日、尿培養と血液培養より感受性の一致したEscherichia coliが検出された。本人によく話を聞くと、転倒した日は朝から調子が悪く、来院前に悪寒戦慄も生じていたとのことだった。ERでは腰痛の診察で脊椎叩打痛があることを確認していたが、その後脊椎を一つひとつ押しても圧痛は誘発されず、腎双手診のみ再現性があった。腰椎圧迫骨折は陳旧性の物であり、急性単純性腎盂腎炎後の転倒挫傷だったのである。転倒後という病歴にとらわれ筋骨格系の疾患とアンカリングしていたが、そもそも転倒したのが体調不良であったから、という病歴を聞き取れれば初診時に尿路感染症を疑えていたかもしれない。この症例から高齢者の腎盂腎炎は転倒など一見関係なさそうな主訴の裏に隠れていること、腰痛の診察の際に腎双手診は脊椎の痛みと区別する際に有用であることを学んだ。4.腎盂腎炎診断の難しさ腎盂腎炎の診断は難しい。それは、腎盂腎炎の診断が非典型的な症状、細菌尿・膿尿の解釈、側腹部痛の身体所見、他疾患の除外など、さまざまな情報を統合して総合的に判断しなければならないからである。正しい診断にこだわることはもちろん重要だが、腎盂腎炎がさまざまな症状を呈し、また、どの身体所見も腎盂腎炎を確定診断・除外できないことを念頭に置き、柔軟に対応することが必要なのではないだろうか。たとえ典型的な症状や所見が揃っていなくても、できる限り他疾患の可能性について考慮したうえで、患者の余力も検討し腎盂腎炎として抗菌薬を開始することが筆者はリーズナブルであると考える。重要なことは治療を始めた後も、経過を観察し、合わない点があれば再度、腎盂腎炎の正当性について吟味することである。多種多様な鑑別疾患と総合的な判断が求められる腎盂腎炎は臨床医の能力が試される疾患である。1)Faust JS, Tsung JW. Crit Ultrasound J. 2017;9:1.

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経口ワクチンが抗菌薬に代わる尿路感染症の治療法に?

 新たに開発された経口投与型のワクチンが、尿路感染症(UTI)を繰り返す「再発性UTI」の患者にとって抗菌薬に代わる治療法となる可能性のあることが、英ロイヤル・バークシャーNHS財団トラストの泌尿器科専門医であるBob Yang氏らの研究で示唆された。同氏らによると、スプレーを使って舌の下にワクチンを投与した再発性UTI患者の半数以上(54%)は、その後9年にわたってUTIを再発することがなく、また目立った副作用も認められなかったという。この研究結果は、欧州泌尿器科学会(EAU 2024、4月5~8日、フランス・パリ)で発表された。 UTIは最も一般的な細菌感染症で、女性の半数、男性の5人に1人が生涯に一度は経験するとされる。UTI症例の20~30%では、抗菌薬による治療を必要とするUTIが再発する。 Yang氏は、「ワクチン接種前は、全参加者が再発性UTIに苦しんでいた。また、多くの女性患者で再発性UTIは治療困難となり得る」とニュースリリースの中で述べている。そして、「この新たなUTIワクチンを初めて接種してから9年後の時点まで、参加者のほぼ半数は感染することはなかった」と説明。また、「全体として、このワクチンは長期にわたって安全であり、参加者はUTIの再発が減少したこと、再発した場合でも重症度が低く、多くは水をたくさん飲むだけで治ったと話していた」と振り返っている。 このMV140と呼ばれるワクチンは、4種類の細菌種を含んだパイナップル風味の懸濁液で、スペインの製薬会社であるImmunotek社によって開発された。ワクチンには、感染と闘う抗体の産生を促す細菌が含まれている。ワクチンは3カ月間、毎日舌の下に2回吹きかけて投与する。 今回の研究は、英国のロイヤルバークシャー病院でUTIの治療を受けた18歳以上の女性72人と男性17人を対象としたもの。これらの患者は、MV140の臨床試験への当初からの参加者で、ワクチン投与後1年間の追跡調査の結果は2017年に報告されていた。今回の報告は、その後の9年に及ぶ追跡調査の結果である。Yang氏らは、89人の医療記録データを分析するとともに聞き取り調査を実施した。 その結果、48人の参加者が、9年間の追跡期間中にUTIを再発しなかったことが明らかになった。再発が認められなかった期間は、女性で平均54.7カ月(4年半)、男性で平均44.3カ月(3年半)だった。なお、参加者の約40%は、1年後または2年後にMV140の再接種を受けたことを報告していた。 今回の研究には関与していない専門家であるアルタ・ウロ泌尿器医療センター(スイス)教授のGernot Bonkat氏は、「これらは有望な結果だ。再発性UTIによってもたらされる経済的な負担は大きく、また、抗菌薬の過剰使用は抗菌薬耐性感染症の要因にもなり得る」と研究結果に期待を寄せる。 Bonkat氏は、「今後は、より複雑なUTIについての研究や、異なる患者のグループを対象とした研究の実施が必要だ。そこから得られる研究成果を通じて、このワクチンの使用方法を最適化できる」と話す。また同氏は、「現実的な視点を持つ必要はあるが、このワクチンはUTI予防において画期的な手段となる可能性や、従来の治療法に代わる安全で有効な治療法となる可能性を秘めている」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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第193回 医師の働き方改革、面接指導はA水準医師も対象に/厚労省

<先週の動き>1.医師の働き方改革、面接指導はA水準医師も対象に/厚労省2.特定健診・保健指導の実施率、過去最高の改善を記録/厚労省3.コロナ専門家への攻撃実態、半数が誹謗中傷などを経験4.正常分娩の保険適用を、2026年度までに検討を/こども家庭庁5.医療機器メーカーと医師の癒着、医師が再逮捕/東京労災病院6.奨学金返還とお礼奉公を巡り、看護学生と医療法人が民事訴訟に/大阪1.医師の働き方改革、面接指導はA水準医師も対象に/厚労省厚生労働省は、長時間働く医師に対する面接指導のポイントをまとめたリーフレットを初めて作成した。2024年4月から労働時間が長い医師に対する面接指導が義務化されたことに伴い、A水準の医師も面接指導の対象になると注意を喚起している。医師への面接指導は、月100時間以上の時間外労働(休日含む)が見込まれる医師に実施することとされており、時間外労働の上限が年960時間とされているA水準の医師でも対象となる。しかし、A水準の医師は、月の時間外労働が100時間未満のため、面接指導の対象にならないと考えている医療機関が見受けられる。そのため、厚労省は、A水準か特例水準かにかかわらず、長時間労働を行う医師は面接指導の対象となることを明記したリーフレットを作成し、8日に公開したもの。リーフレットでは、面接指導を適切に実施するためのチェックリストも盛り込まれている。このチェックリストには、「対象となる医師を把握しているか」「面接指導実施医師を確保しているか」「適切な時期に実施しているか」などの6項目が含まれている。さらに、適切なタイミングで面接指導を行うため、時間外労働が月80時間前後に達した場合に実施するルールを各自で設定するよう呼び掛けている。これにより、医師の長時間労働を未然に防ぎ、医師の健康を守ることを目指すとしている。参考1)長時間労働医師への面接指導を行う先生へ面接指導の進め方クイックガイド(厚労省)2)長時間労働医師への健康確保措置に関するマニュアル(改訂版)(同)3)医師への面接指導、「A水準も対象」チェックリストを初めて作成 厚労省(CB news)2.特定健診・保健指導の実施率、過去最高の改善を記録/厚労省厚生労働省は、2022年度の特定健康診査(特定健診)と特定保健指導の実施状況を公表した。2022年度の特定健診の対象者は約5,192万人、そのうち約3,017万人が受診し、実施率は58.1%で前年より1.6ポイント向上した。特定保健指導の対象者は、約512万人おり、そのうち約135万人が指導を終了し、実施率は26.5%で前年より1.9ポイント向上した。メタボリックシンドロームの該当者および予備群の減少率は、2008年度比で16.1%減少し、前年から2.3ポイント向上した。国は、2023年度までに特定健診の実施率を70%以上、特定保健指導の実施率を45%以上、メタボリックシンドローム該当者およびその予備群を2008年度比で25%以上減少させることを目標としている。参考1)2022年度 特定健康診査・特定保健指導の実施状況(厚労省)2)特定健診58.1%、保健指導26.5% 22年度実施率、厚労省(MEDIFAX)3.コロナ専門家への攻撃実態、半数が誹謗中傷などを経験新型コロナウイルス感染症の流行中、情報を発信していた専門家の半数が誹謗中傷などの被害を受けていたことが、早稲田大学の田中 幹人氏らの研究グループのアンケート調査で明らかになった。調査は2020年2月~2021年3月に行われ、国内の専門家121人にアンケートを送付、42人から回答を得たもの。そのうち21人(50%)が「情報発信後に攻撃を受けた」と回答、殺害予告や身体的・性的暴力に関する脅迫も含まれていた。とくに深刻な被害として、3人が殺害予告を受け、2人が身体的・性的暴力の脅迫を受けたと回答した。悪影響を受けた29人のうち8割は感情的、心理的な苦痛を経験している。 海外でも同様の調査が行われており、英国や米国、台湾などの専門家のうち15%が殺害予告を受け、22%が身体的・性的暴力の脅迫を受けていたことが判明している。田中氏は、「こうした脅迫行為が健全な社会の議論を妨げる」と指摘し、「科学的な議論を支援し、保護する仕組みの必要性」を強調する。また、感染症専門医である大阪大学の忽那 賢志氏も情報発信の際に多くの誹謗中傷を受け、裁判所に発信者情報の開示命令を申し立てるなど対策を講じている。忽那氏はエビデンスに基づく情報発信を心掛ける一方で、誹謗中傷に対しては反論せず、法的手段を用いて対応した。専門家が情報発信する際には、感情的な反発や誤解を避けるため、メリットとデメリットをバランスよく伝えることが重要となる。今後、科学的なリテラシーを社会全体で向上させることが必要であり、専門家の発言を組織的にサポートする体制が求められる。参考1)コロナ情報発信の国内専門家、半数が「攻撃受けた」 殺害予告も(毎日新聞)2)Xではあえて反論せず 忽那さんが振り返るコロナ情報発信(同)4.正常分娩の保険適用を、2026年度までに検討を/こども家庭庁こども家庭庁は「こども家庭審議会」の基本政策部会を5月9日に開き、「こどもまんなか実行計画」の審議会案を大筋でまとめた。この実行計画では、誕生前から幼児期にかけての継続的な保健・医療の確保を目指し、2026年度をめどに正常分娩の保険適用を検討すると明記した。実行計画では、2023年末に政府が閣議決定した「こども大綱」に基づき、子供や若者のライフステージごとに具体的な政策を整理したもの。さらに、周産期医療の集約化・重点化も盛り込まれている。2024年度からの第8次医療計画(2029年度まで)に沿って、医療機関の役割分担を進め、周産期母子医療センターを中心に新生児集中治療室(NICU)や母体胎児集中治療室(MFICU)の機能と専門医などの人材を集約化・重点化させることが計画されている。これにより、安全で安心な妊娠・出産環境を整備することを目指している。さらに、休日や夜間を含めて子供がいつでも医療サービスを受けられるように小児医療体制の充実が図られる。また、不妊症や不育症、出生前検査に関する正しい知識の普及や相談体制の強化も進められる予定。正式な実行計画は、閣僚らによる「こども政策推進会」が2024年6月頃に決定し、骨太方針に反映される見込み。「こども大綱」は5年後をめどに見直され、実行計画は毎年それぞれ見直される予定であり、こども家庭審議会が政策の実施状況を点検する。正常分娩への保険適用などの重点政策を中心に、2024年度~2028年度までの工程表も作成される。正常分娩への保険適用は、出産に伴う経済的な負担を軽減するための施策であり、政府は2026年度の導入を目指している一方で、医療機関が提供するサービスの多様化や費用の差異により、保険適用に対しては慎重な意見も存在する。参考1)こども家庭審議会 第12回基本政策部会(こども家庭庁)2)正常分娩「保険適用検討」明記、子ども政策計画案 周産期医療の集約・重点化も(CB news)5.医療機器メーカーと医師の癒着、医師が再逮捕/東京労災病院東京労災病院の医療機器納入に関する贈収賄事件で、同病院整形外科副部長が収賄容疑で再逮捕された。また、医療機器メーカー「HOYAテクノサージカル」社員も贈賄容疑で再逮捕された。被告医師は、2022年6~9月に同社の医療機器を多く使用する見返りに、現金20万円を受け取った疑いがある。この事件では、同様の手法で2022年1~4月に計50万円の賄賂を受け取っていたことが発覚しており、被告となった医師はすでに収賄罪で起訴されている。警視庁捜査2課によると、メーカー側から自社製品の使用個数に応じて1ポイントを1万円とする「ポイント」を被告の医師に付与し、被告はそのポイントを私的な飲食の領収書と引き換えて現金を受け取っていたとされる。さらに、被告医師は他の医師に対しても同社製品を使用するよう勧め、他の医師が使った分も自分のポイントとして偽っていたとみられている。医療機器業界では、競争が激化する中で、病院幹部に対する接待や贈答が行われることがあり、今回の事件もその一環とみられている。医療機器業公正取引協議会は、医療機関との取引に際して利益供与を禁じる規約を運用しているが、競争の激しさから規約違反が後を絶たない状況である。警視庁では、2022年1~9月の計約80万円の賄賂授受を立件し、3人の被告を起訴した。東京労災病院は、独立行政法人労働者健康安全機構が運営しており、その職員は「みなし公務員」として収賄罪が適用される立場にある。参考1)当院職員の再逮捕について(東京労災病院)2)自社製品使用の医師に1ポイント1万円の「ポイント」付与か 東京労災病院の汚職事件(産経新聞)3)東京労災病院の医師、別の収賄疑いで再逮捕 医療機器調達巡り(日経新聞)4)現場医師の権限、癒着生む 「大病院」汚職次々 業界の禁止規定も限界(毎日新聞)5)「聖域」で営業競争激化、しわ寄せは患者に 医療業界で汚職続く理由(朝日新聞)6.奨学金返還とお礼奉公を巡り、看護学生と医療法人が民事訴訟に/大阪看護学校卒業後に系列病院で一定期間働けば奨学金の返済が免除される制度について、その病院で勤務できない場合に返済義務があるかどうかが大阪地裁で争われている。訴訟の発端は、卒業生3人が系列病院の採用試験に不合格となり、奨学金の返済を求められたことにある。卒業生側は、不採用の理由が法人の都合によるものであり、返済義務を課すのは信義則に反すると主張している。問題となっているのは、看護学校を運営する社会医療法人が提供する奨学金制度で、卒業生はこの奨学金を受給し、卒業後に法人の病院で2年以上勤務すれば返済が免除されるというもの。しかし、2020年に不採用となった3人に対しては、法人が奨学金の返済を求め、その結果訴訟に至った。被告の法人側は、奨学金の貸与が採用を保証するものではないと主張し、不採用の理由として面接や心理テストでの基準未達を挙げている。一方、原告の卒業生側は奨学金の募集案内に不採用時の返済義務が明記されていない点、経済的事情を考慮した条件変更の説明がなかったことを問題視している。また、不採用の理由が新型コロナウイルス感染症の影響による採用人数の抑制など経営上の事情変更によるものである可能性も指摘している。このような奨学金制度は「お礼奉公」とも呼ばれ、看護師不足対策として普及しているが、雇用の流動化が進む中でトラブルも増加している。看護師養成制度に詳しい専門家は、病院側が奨学金制度の不利益な情報も丁寧に説明し、学生側もリスクを十分に検討する必要があると指摘する。参考1)トラブル相次ぐ看護学生の「お礼奉公」、系列病院が不採用なら奨学金返還義務?…訴訟に発展(読売新聞)2)お礼奉公契約は有効ですか(河原崎法律事務所)

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CPOE導入で、尿路感染症入院への広域抗菌薬の使用が減少/JAMA

 尿路感染症(UTI)で入院した非重症の成人患者では、通常の抗菌薬適正使用支援と比較して、多剤耐性菌(MDRO)のリスクが低い患者に対して標準スペクトルの抗菌薬をリアルタイムで推奨するオーダーエントリーシステム(computerized provider order entry:CPOEバンドル)は、在院日数やICU入室までの日数に影響を及ぼさずに、広域スペクトル抗菌薬の経験的治療を有意に減少させることが、米国・カリフォルニア大学アーバイン校のShruti K. Gohil氏らが実施した「INSPIRE UTI試験」で示された。JAMA誌オンライン版2024年4月19日号掲載の報告。米国59施設のクラスター無作為化試験 INSPIRE UTI試験は、MDROのリスクが低い(<10%)と推定されるUTI入院患者に対して標準スペクトル抗菌薬による経験的治療を推奨するCPOEバンドル(フィードバック、教育、リアルタイムのリスクベースCPOEプロンプトから成る)の有効性を、通常の抗菌薬適正使用支援と比較するクラスター無作為化試験(米国疾病管理予防センター[CDC]の助成を受けた)。 米国の59の病院を、CPOEバンドルを使用するCPOE介入群(29施設)または通常の抗菌薬適正使用支援を行う群(30施設)に無作為に割り付けた。対象は、年齢18歳以上の非重症のUTIによる入院患者であった。試験は、18ヵ月間のベースライン期間(2017年4月~2018年9月)、6ヵ月間の段階的導入期間(2018年10月~2019年3月)、15ヵ月間の介入期間(2019年4月~2020年6月)で構成された。 主要アウトカムは、入院から3日間における広域スペクトル抗菌薬の投与日数であり、ICU以外の場所で患者1例当たりに投与された広域スペクトル抗菌薬の総数とした。バンコマイシン、抗緑膿菌薬の投与日数も良好 59の病院に入院したUTI患者12万7,403例(ベースライン期間7万1,991例、介入期間5万5,412例)を解析の対象とした。全体の平均年齢は69.5(SD 17.9)歳、男性が30.5%で、Elixhauser併存疾患指数中央値は4点(四分位範囲[IQR]:2~5)であった。 1,000日当たりの広域スペクトル抗菌薬による経験的治療の日数は、通常の抗菌薬適正使用支援群ではベースライン期間で431.1日、介入期間で446.0日であったのに対し、CPOE介入群ではそれぞれ392.2日および326.0日といずれも少なかった。全体の率比は0.83(95%信頼区間[CI]:0.77~0.89)であり、CPOE介入群で広域スペクトル抗菌薬による経験的治療の日数が有意に短縮した(p<0.001)。 副次アウトカムであるバンコマイシンによる治療日数(全体の率比:0.89、95%CI:0.82~0.96、p=0.002)および抗緑膿菌薬による治療日数(0.79、0.72~0.87、p<0.001)は、いずれもCPOE介入群で有意に短縮した。MDROの増殖は6%未満 安全性アウトカムの評価では、在院日数(全体の率比:0.96、95%CI:0.91~1.01、p=0.21)およびICU入室までの日数(0.98、0.85~1.12、p=0.77)には両群間に有意な差を認めなかった。 著者は、「MDRO関連感染の患者別リスクのデータを使用して、電子健康記録(electronic health record)から標準スペクトル抗菌薬の推奨をリアルタイムに生成することで、UTI入院患者に対する広域スペクトル抗菌薬による経験的治療を安全に削減する可能性が示された」とまとめ、注目すべき点として、試験の終盤に新型コロナウイルス感染症の流行による混乱があったにもかかわらず、ICU入室や在院期間といった安全性のアウトカムには変化がなかったこと、研究に用いたアルゴリズムによりMDROのリスクが低いと推定された患者のうち、MDROの増殖を認めたのは6%未満であったことを挙げている。

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コロナワクチンに不安のあるがん患者の相談相手は?

 外来で化学療法を受けるがん患者を対象に、新型コロナワクチンに関して不安を感じることの内容やその相談相手などが調査された。その結果、相談相手としてプライマリケア医が最も多いことが明らかとなった。研究グループは、薬剤師が介入できる可能性も示唆されたとしている。これは順天堂大学医学部附属順天堂医院薬剤部の畦地拓哉氏らによる研究であり、「Journal of Pharmaceutical Health Care and Sciences」に3月4日掲載された。 新型コロナワクチンは日本で2021年2月に承認され、がん患者において接種が推奨されている。しかし、がん患者のワクチン接種状況や副反応に焦点を当てた研究はほとんどない。患者はがん治療への影響も含めて多くの不安を抱えるため、医療職の関与が重要となる。 著者らは今回、順天堂大学医学部附属順天堂医院で外来化学療法を行い、2022年10月~2023年1月に薬剤師の服薬指導を受けたがん患者を対象としてオンライン横断調査を行った。無記名の質問紙を用いて、新型コロナワクチンの接種歴や副反応、ワクチン接種に関する不安の内容、相談相手や情報の入手源などを調べた。 調査の回答者は60人(男性16人、女性44人)であり、年齢層は40歳未満が3人、40~49歳が15人、50~59歳が21人、60~69歳が13人、70~79歳が8人。主ながんの種類は、乳がん(21人)、卵巣がん(9人)、肺がん(6人)、膵がん(5人)、子宮がん(5人)などだった。 不安の内容として、「がん治療がスケジュール通りにできないのではないか?」(29人)、「がんなので特別な副作用がでないか?」(24人)などの回答が多かった。一方、調査時点でワクチンを2回以上接種していた人の割合は96.7%(58人)であり、これは同時期の日本全体の接種率よりも高かった。副反応は注射部位の痛みが最も多く、全身症状は発熱と倦怠感が多かったが、がんの治療スケジュールに影響があった人はほとんどいなかった。 ワクチンについての相談相手・情報入手源としては、プライマリケア医(25人)、家族・親族(22人)、インターネット(15人)、テレビ・ラジオ(13人)、友人・知人(12人)の回答が多かった。その他、医療職に関する回答は、プライマリケア医以外の医師と看護師はどちらも4人、病院薬剤師は1人のみで、薬局薬剤師やケアマネジャーの回答はなかった。 さらに、各相談相手について、今後ワクチン接種に不安を感じたときにどの程度相談しやすいかが検討された。6段階の回答を点数化・平均し、医療職間で比較すると、最も相談しやすいのはプライマリケア医(3.55点)、次に看護師(3.20点)だったが、どちらも病院薬剤師(2.85点)との統計的な有意差はなかった。また、病院薬剤師とプライマリケア医以外の医師(2.50点)や薬局薬剤師(2.27点)との間にも有意差は認められなかった。 以上、病院薬剤師は相談相手としての回答自体は少なかったが、プライマリケア医、看護師の次に相談しやすいとされたことについて著者らは、「外来化学療法時の服薬指導や有害事象のモニタリングを通じて築かれた信頼関係による可能性がある」と説明。また、がん患者の多くはプライマリケア医に相談した場合にも、ワクチンに対して不安を抱いていることが示されたという。患者はワクチン接種後の発熱や治療薬との相互作用などを不安に感じるが、「一般集団との間で副反応に有意差がないことを経験として伝えることも不安を和らげる上で有益」とし、薬剤師が介入できる可能性を示す結果だったと総括している。

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手足口病の予防は手洗いで

夏、小児に流行する手足口病〔原因ウイルス〕・エンテロウイルスやコクサッキーウイルス(※アルコール消毒や熱に抵抗性が高いウイルス)〔流行期、おもな患者層、潜伏期間〕・夏季を中心に流行し、4歳くらいの幼児が主体(2歳以下が半数。成人もまれに感染)・約3~5日の潜伏期間の後に発症〔主症状〕・口腔粘膜、手掌、足底や足背などの四肢末端に2~3mmの水疱性発疹出現(下図参照)。肘、膝、臀部などにも出現する場合もある。・発熱は約1/3にあるが、軽度でほぼ38℃以下。・通常は3~7日で消退し、水疱が痂皮を形成することはない。・まれに幼児に髄膜炎、小脳失調症などの中枢神経系合併症が生ずるので注意が必要。〔治療〕・特異的な治療法はない。 抗菌薬の投与は意味がない。・口腔内病変には柔らかめで薄味の食べ物を推奨。・発熱には通常解熱剤なしで経過観察が可能。・頭痛、嘔吐、高熱、2日以上続く発熱などの場合 には髄膜炎、脳炎などへの進展に注意。・ステロイドの多用が症状を悪化させる示唆あり。〔予防〕・有症状中の接触予防策および飛沫予防策が重要。 とくに手洗いの励行(排便後の手洗いを徹底)!図 手足口病における水疱性発疹国立感染症研究所ホームページより引用・作成(2024年4月25日閲覧)https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/441-hfmd.htmlCopyright © 2024 CareNet,Inc. All rights reserved.

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第210回 GLP-1製剤の品薄状態、危惧する人と安堵する人

以前、こちらで取り上げたGLP-1受容体作動薬(以下、GLP-1製剤)のダイエット目的の濫用とそれが原因の1つであると思われる供給不安問題。品薄はダイエット目的で使いやすいであろう週1回製剤のセマグルチド(商品名:オゼンピックなど)、デュラグルチド(商品名:トリルシティ)、チルゼパチド(商品名:マンジャロ)に集中していたが、今年1月15日にセマグルチド、4月22日にデュラグルチドが限定出荷から通常出荷に切り替わり、残すはチルゼパチドのみが品薄状態となっている。そして2023年のメガファーマ各社の決算内容が明らかになっているが、この3製剤の中で最も売上高が高いセマグルチドの2型糖尿病に適応をもつ注射薬「オゼンピック」の2023年売上高は138億ドル(日本円換算で2兆1,126億円、ノボ ノルディスク社の決算はデンマーク・クローネでの発表のため、ドル・円の売上高は現行レートで換算)となった。ちなみに同じセマグルチドを成分とし、同じく2型糖尿病の適応をもつ経口薬「リベルサス」は27億ドル(同4,204億円)、肥満症の適応をもつ注射薬「ウゴービ」は45億ドル(同7,025億円)。セマグルチド成分括りにした2023年総売上高は210億ドル(同3兆2,355億円)である。2023年の医療用医薬品の製品別売上高は、世界第1位が免疫チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)の250億ドル(同3兆8,911億円)、世界第2位が新型コロナウイルス感染症のmRNAワクチン「コミナティ」の153億ドル(同2兆3,814億円)で、オゼンピックが世界第4位。だが、セマグルチド括りでの売上高は世界第2位となる。日本の製薬企業で考えると、国内第2位のアステラス製薬と第3位の第一三共の2024年3月期決算で発表された売上高の合算を1成分の売上高で超えてしまっているのだ。なんとも驚くべきことである。オゼンピックは2017年末のアメリカでの発売から1年強で、全世界売上高10億ドル以上のブロックバスター入りを果たし、過去4年ほどで全世界売上高は9倍以上に急伸長している。糖尿病治療薬は患者数の多さゆえにブロックバスター入りしやすいが、オゼンピックは糖尿病治療薬としては、ほぼ史上最高売上高を記録している。糖尿病治療薬の売上高を更新、“注射製剤”のなぜこの背景には、これまでブロックバスター入りした糖尿病治療薬がほぼ経口薬であり、それと比べて注射薬のオゼンピックは薬価が高いという事情はあるだろう。しかし、それだけではないはずだ。余計な一言を言えば、オゼンピックの売上高が2型糖尿病患者への処方のみで形成されていると思うウブな関係者はいないだろう。たぶんここには世界的に見ても、ダイエット・美容目的の適応外処方による売り上げが含まれていると考えられる。さて、供給不安はかなり解消されたとは言え、現場ではまださまざまな不都合が生じている模様だ。たとえば薬局薬剤師に話を聞くと、実際の週1回GLP-1製剤の処方箋は1ヵ月分、すなわち製剤としては注射キット4本の処方が多いという。しかし、市中の保険薬局では今でも入庫がスムーズではなく、処方箋受け取り時には2本のみを患者に渡し、残り2本は後日に再来局をお願いするか、配送するケースも目立つという。この背景には通常出荷になっても供給が綱渡りということもあれば、自由診療クリニックへの横流しを警戒して必要量を医薬品卸が適宜配送しているという事情もあるらしい。このようなケースで薬局側が患者宅に配送をする際は、人が直接届けるかクール便を使うという。ある薬剤師は「(薬局への)納入価に配送の人件費やクール便費用を上乗せしたら赤字になる」とため息をついていた。この現状は患者にとっても薬局にとっても迷惑千万な話だろう。この状況の解消まで考えると、完全な通常流通まではまだ時間がかかりそうだ。しかし、あまのじゃくな私は、危惧すべきは完全な通常流通が実現した後ではないか? と考えてしまう。少なくとも現状はGLP-1製剤を必要とする2型糖尿病や肥満症の患者に薬が届かないという最悪の状況は避けられている。ただ、前述のように受け取りに多少の手間暇がかかっている。その一方で、いわば「メディカルダイエット」と称したダイエット・美容目的の自由診療でのGLP-1製剤の適応外処方が極端に廃れたなどという話は、少なくとも私個人はまったく耳にしていない。ネット広告では今でもこの手の広告がじゃんじゃん表示される。余談になるが、どうやら年齢・性別の属性では中高年男性もGLP-1製剤のターゲットにされているらしく、最近は私に対してもこの種の広告と薄毛治療の広告が頻繁に表示される。そして、ご存じのように自由診療での適応外処方を法令で取り締まることはできない。つまるところGLP-1製剤で完全な通常流通が実現するということは、本当に必要な患者が困らないだけではなく、適応外処方の自由診療も栄えるということだ。通常流通を危惧する理由こんなことを考えてしまったのは、先日ある開業医と話をしていて、ため息が出るような事例を聞いてしまったからだ。この医師は都内の繁華街近くで内科クリニックを開業している。そのクリニックに昨春、強い吐き気で路上にうずくまっていたという若い女性が通行人に付き添われて来院したという。「場所柄もあり『昨夜、かなり飲みましたか?』と尋ねても本人は元々飲めないと答えるし、昼時だったので食中毒を疑って直近の食事状況を聞いたら、朝からお茶を飲んだのみで、とくに何かを食べたわけでもないと言うんですよ。そこでピンと来ました」結局、問診の結果、オンラインの自由診療でGLP-1製剤の処方を受けていたことがわかった。医師は女性にGLP-1製剤では悪心・嘔吐の副作用頻度が高いことなどを伝え、中止を促すとともに、最低限の対症療法の処方箋を発行。女性は「こんなに副作用がひどいとは思わなかった。すぐに止めます」と応じたという。ちなみに問診時に身長、体重を尋ねたところBMIは18にも満たなかったとのこと。その後、女性は来院していないため、本当に彼女がGLP-1製剤を止めたかどうかは定かではない。この医師は私に「自由診療の副作用で苦しんでいる患者でも助けなければならないとは考える。でもね、それを保険診療で対応しなければならないのはねえ…」とぼやいた。至極真っ当な指摘である。この話を聞いて私が反応してしまったのは、「朝から何も食べていない」という話だった。痩身願望のある人が我流の食事制限などを行っていることは少なくない。GLP-1製剤は、その性格上、低血糖になりにくいことがウリの一つである。しかし、それはごく普通の食生活を送っていることが前提で、その場合でもほかの血糖降下薬を併用している場合には低血糖は発生している。ということは、今後、自由診療が野放しのまま完全流通が実現すれば、この医師が経験した副作用の悪心・嘔吐レベルだけではなく、重大な低血糖発作の報告事例が増加してしまうのではないだろうか?そしてオンライン診療でかなりの適応外処方が行われている実態を考えれば、車社会である地方都市在住者でも適応外で使われることが増えるだろう。運転の最中に低血糖発作が起きたらどうなるのだろうと考えてしまった。これは私の妄想だろうか? それとも考え過ぎだろうか?

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成人肺炎診療ガイドライン2024

7年ぶりの改訂!肺炎診療に関する最新のエビデンスを掲載科学的根拠に基づいて肺炎診療の流れについて解説した本書が7年ぶりに改訂しました。今回の改訂では、前版2017年のガイドラインの形式を踏襲しつつ、最新のエビデンスを反映し、肺炎診療の流れを網羅的に掲載しています。改訂のポイントとしては、各肺炎の種類ごとの治療選択を更新しているほか、項目として「誤嚥性肺炎」「ウイルス性肺炎」を新規に追加しました。今回も各領域におけるクリニカルクエスチョンに対してシステマティックレビューを実施し、作成委員会にて投票した結果に基づき推奨を提示しています。ぜひ本ガイドラインを活かしていただき、質の高い医療の提供にお役立てください。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見る成人肺炎診療ガイドライン2024定価4,950円(税込)判型A4変型判頁数236頁発行2024年4月編集日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン2024作成委員会ご購入はこちらご購入はこちら

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肺炎への広域抗菌薬使用、オーダーエントリーシステムで減少/JAMA

 肺炎でICU以外に入院した成人患者において、患者特異的な多剤耐性菌(MDRO)の感染リスク推定に基づき、リスクが低い患者に対し標準スペクトラム抗菌薬を推奨するオーダーエントリーシステム(computerized provider order entry:CPOEバンドル)の使用は、通常の抗菌薬適正使用支援の実践と比較し、広域スペクトラム抗菌薬の経験的使用が有意に減少した。ICU転室までの日数および在院期間に差はなかった。米国・カリフォルニア大学アーバイン校のShruti K. Gohil氏らが、米国の地域病院59施設で実施したクラスター無作為化比較試験「INSPIRE(Intelligent Stewardship Prompts to Improve Real-time Empiric Antibiotic Selection)肺炎試験」の結果を報告した。肺炎は入院を要する一般的な感染症であり、広域スペクトラム抗菌薬過剰使用の主な要因である。MDROの感染リスクは低いにもかかわらず、臨床上の不確実性が最初の抗菌薬選択につながることがよくあり、肺炎患者に対する抗菌薬の経験的過剰使用を抑制する戦略が求められている。JAMA誌オンライン版2024年4月19日号掲載の報告。CPOEバンドル使用施設vs.通常施設、広域スペクトラム抗菌薬の使用を評価 研究グループは参加施設を、CPOEバンドルを使用するCPOE介入群(29病院)と通常の抗菌薬適正使用支援のみを行う対照群(30病院)に無作為に割り付けた。対象は、肺炎で入院した非重症成人(18歳以上)患者である。 CPOE介入群では、通常の抗菌薬適正使用支援に加え、MDRO肺炎の絶対リスクが低い(10%未満)患者には、入院の最初の3日間(経験的治療期間)は広域スペクトラム抗菌薬の代わりに標準スペクトラム抗菌薬を推奨するCPOEプロンプトの提供、ならびに臨床医の教育とフィードバック報告が行われた。 ベースライン期間を18ヵ月(2017年4月1日~2018年9月30日)、段階的導入期間を6ヵ月(2018年10月1日~2019年3月31日)、介入期間を15ヵ月(2019年4月1日~2020年6月30日)とし、ベースライン期間と介入期間のアウトカムを比較した。 主要アウトカムは、入院の最初の3日間における広域スペクトラム抗菌薬による累積治療日数(患者1人当たりに投与された広域スペクトラム抗菌薬の数×日数として算出。たとえば、最初の3日間に2種類の広域スペクトラム抗菌薬を少なくとも1回ずつ投与した場合は6日間とする)。副次アウトカムはバンコマイシンおよび抗緑膿菌薬による経験的治療など、安全性アウトカムはICU転室までの日数、在院期間などであった。CPOE介入により広域スペクトラム抗菌薬による経験的治療が28.4%減少 試験期間に肺炎で入院した非重症成人患者は9万6,451例(ベースライン期間5万1,671例、介入期間4万4,780例)であった。患者背景は、平均(SD)年齢68.1(17.0)歳、男性48.1%、Elixhauser併存疾患指数中央値は4(四分位範囲[IQR]:2~6)であった。 経験的治療日数1,000日当たり患者1人当たりの広域スペクトラム抗菌薬累積治療日数は、CPOE介入群ではベースライン期間613.9日から介入期間428.5日に減少したのに対して、対照群ではそれぞれ633.0日、615.2日であった。 施設および期間別にクラスタリングした率比(RR)は0.72(95%信頼区間[CI]:0.66~0.78、p<0.001)であり、対照群と比較してCPOE介入群では広域スペクトラム抗菌薬による経験的治療が28.4%(95%CI:22.2~34.1、p<0.001)有意に減少した。副次アウトカムも同様の結果であった。 安全性アウトカムについては、介入期間におけるICU転室までの平均日数(対照群6.5日、CPOE介入群7.1日)および在院期間(それぞれ6.8日、7.1日)に両群で差は認められなかった。

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