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臨床検査結果をインターネット経由で入手可能に -BMLが臨床検査結果のWEB照会サービスを開始-

 臨床検査受託大手のビー・エム・エル(東京都渋谷区)は、医師が臨床検査結果をインターネット経由で閲覧できるサービス「WEB照会サービス」を開始した。インターネットを介することで半日から1日の時間短縮が見込める。 ビー・エム・エル(BML)社では従来、血液検査の場合、医療機関から検体を受け取った当日に検査を開始し、翌日までに検査結果が判明する。その検査結果が全国の営業所に伝送された後、現地にて出力し、検査結果が届くのが翌日午後であった。本サービスを利用すると、医師がインターネットを通じてアクセスすれば、検査結果が総合研究所内の専用サーバーに保存された時点で、検査結果を知ることができる。従来に比べて後工程が短縮されるため、医師は検査結果を得るまでの時間が半日から1日短縮できる。 特に細菌、病理検査は紙を使った結果報告であったため、総合研究所において得られた結果が全国の営業所に郵送された後、医療機関に届けられていた。本サービスでは、診断確定後、データサーバーに検査結果が格納されるため、画像やグラフ、数値などの検査結果を電子的に入手できるようになり、入手までの時間が1~2日ほど早くなる。診断結果によって治療内容が大きく異なる感染症、がんなどにおいてはより一層注目される。さらに、分離菌集計状況の集計、使用薬剤の耐性傾向の分析などの統計処理機能を備えており、院内感染対策にも活用できる。 この「WEB照会サービス」は、利用申込み後、電子証明書が発行され、利用するパソコンにインストールすることで本人確認が行われる。ID、パスワードは利用者ごとに発行され、データは暗号化されて取り扱われる。導入コスト、人的負荷、専門知識を必要としないため、導入や操作が簡単なことも医師にとってはありがたい。 5月にサービスを開始して依頼、診療所中心に毎日数十件を超える申し込みがあるという。BML社は幅広いユーザー層の利用を想定している。 電子カルテや他のWEBサービスとのデータ連関が実現すれば、サービスの充実化、拡大につながると考えられる。

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侵襲性細菌感染症の遺伝子感受性

世界で年間死者500万人に達する結核やマラリアなどの侵襲性細菌感染症で、疾患感受性の個体差が一部で有意にみられることについては、栄養失調やHIV罹患など環境要因によると考えられているものの、実態としては謎のままである。そこで、シンガポール遺伝子研究所感染症疾患部門のChiea C. Khor氏らは、感染症病原体に対するヒト免疫応答に注目した。免疫応答の際には炎症性サイトカインが産生される。その反応が過剰となると(サイトカインシグナル伝達により)、マラリアなどの重症化を招くのではないか。一方でヒト免疫応答には、炎症反応をコントロールするサイトカインシグナル伝達抑制蛋白質CISHが存在し関与することも知られる。Khor氏らは、CISHが疾患感受性と関連しているのではないかと仮定し、検討を行った。NEJM誌2010年6月3日号(オンライン版2010年5月19日号)掲載より。8,402例の血液検体を用いて、CISH遺伝子多型と主要感染症感受性との関連を調査Khor氏らが注目したのは、病原体免疫応答にプリンシパルな炎症誘発性のサイトカインであるインターロイキン(IL)2と、そのIL-2において特にシグナル伝達をコントロールするCISH[Cytokine-inducible SRC homology 2(SH2)domain protein]。ガンビア、香港、ケニア、マラウイ、ベトナムで行われた感染症の症例対照研究(計7件)の対象者8,402例の血液検体を用いて、CISH遺伝子多型と主要感染症(菌血症、結核、重症マラリア)感受性との関連を調べた。なお研究グループは、これまでにこの対象者で20の免疫関連遺伝子の検討を行っている。CISH変異体と感染症感受性との関連を確認結果、複数のCISH遺伝子多型の変異アレルが、感染症の感受性増大と関連していることが認められた。またCISH関連遺伝子座で特定した一塩基多型遺伝子(SNP)5つ(-639、-292、-163、+1320、+3415)を、一つの多重SNPとみなした場合、CISH遺伝子変異体と主要感染症(菌血症、結核、重症マラリア)感受性との間の関連性が確認された[すべての比較P=3.8×10(-11)]。特に-292変異体は、関連するシグナル伝達のほとんどに関与していた[P=4.58×10(-7)]。また、-292変異体を有する成人被験者から採取した末梢血分子細胞は、野生型細胞と比べて、IL-2産生刺激に対する反応が弱く、CISH発現が25~40%少ないことも明らかになった。Khor氏は、「CISH変異体が、多様な感染症病原体に起因する疾患感受性と関連しており、サイトカインシグナル伝達抑制因子は種々の感染症に対する免疫に関与していることが示唆された。またCISH変異アレルを有するヒトでは、主要感染症のうちの一つの全リスクが18%以上増加した」とまとめている。(医療ライター:武藤まき)

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エボラウイルスに対する実験的治療、マウスに次いでサルでも有効性確認

ボストン大学全米新興感染症研究所のThomas W Geisbert氏らは、致死性のザイールエボラウイルス(ZEBOV)に感染したアカゲサル(マカク属)のモデルを使った実験的治療で、RNA干渉を引き起こすsiRNA(small interfering RNAs)治療が有効であったことを報告した。Lancet誌2010年5月29日号掲載より。同治療の有効性は、マウスを使った実験的治療で確認されていた。siRNA治療は、安定核酸脂質分子(SNALPs)に調製したsiRNAを、ZEBOVのRNAポリメラーゼLたんぱく質をターゲットに投与するというもの。3つの蛋白質をターゲットにした混合siRNAを4回もしくは7回投与Geisbert氏らは、マウスで有効だった本治療について、ヒト以外の霊長類での有効性を評価することを目的に実験的治療を行った。投与されたのは、ZEBOVのRNAポリメラーゼL(EK-1 mod)、およびウイルスタンパク質(VP)24(VP24-1160 mod)、VP35(VP35-855 mod)をターゲットしSNALPs化された混合siRNA。第1試験のサル群(3例)に本剤を1回2mg/kgボーラス静注で、ZEBOV曝露後、30分、1、3、5日後にそれぞれ投与した。第2試験のサル群(4例)には、同剤を、曝露後、30分、1、2、3、4、5、6日後に投与した。曝露直後の7回投与が治療戦略として有効か4回投与の第1群は、プロテクトされたのは3例のうち2例(66%)だった。一方、7回投与の第2群は、全例プロテクトに成功した。第2群は、ウイルス感染に関連する肝酵素の値の変化も軽度で、治療としての忍容性が高いことも確認された。Geisbert氏は、「今回の結果、本治療戦略がヒトにおいても有効である可能性が示された。また、他の新生ウイルス感染の治療戦略としての可能性も示唆されたと言える」と結論している。(朝田哲明:医療ライター)

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かかりつけ医の抗菌薬処方が、地域に耐性菌を出現・増大

プライマリ・ケア医(かかりつけ医)の抗菌薬処方が、地域に第1選択薬の耐性菌を出現・増加させ、第2選択薬の乱用をもたらしていることが報告された。イギリス・ブリストル大学地域医療部門のCe'ire Costelloe氏らが行ったメタ解析によるもので、BMJ誌2010年5月22日号(オンライン版2010年5月18日号)に掲載された。システマティックレビューで24論文をメタ解析Costelloe氏らは、Medline、Embase、Cochraneをデータベース(1955~2009年5月)に、システマティックレビュー、メタ解析を行った。電子検索で「抗菌薬治療」「薬剤耐性」などの単語にヒットした4,373論文から、2人の独立したレビュアーが、かかりつけ医が処方した抗菌薬とその後の耐性菌出現との定量的関係性を調査したものを選定。24論文がレビューされた。22件は感染症状を有した患者が関与、2件は健康なボランティアが関与しており、19件は観察研究(うち2件は前向き研究)で、無作為化試験は5件だった。長期投与・多剤投与で耐性菌出現率高める尿路感染に関する5試験で、耐性菌出現の統合オッズ比は、抗菌薬処方後2ヵ月間2.5(95%信頼区間:2.1~2.9)、12ヵ月間1.33(1.2~1.5)であった。呼吸器感染に関する7試験では、耐性菌出現の統合オッズ比は各期間とも2.4(1.4~3.9)、2.4(1.3~4.5)だった。また、抗菌薬処方量が報告されていた試験で、長期投与・多剤投与がより高い耐性菌出現率と関連していることが認められた。前向き試験で、長期にわたり耐性菌出現が低下したことが報告されていたのは1試験だけだった。統合オッズは、1週12.2(6.8~22.1)、1ヵ月6.1(2.8~13.4)、2ヵ月3.6(2.2~6.0)、6ヵ月2.2(1.3~3.6)だった。

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救急外来の医師は小児の発熱を過小評価するも抗菌薬を処方

小児の救急外来受診で最も多い発熱について、5~10%で見逃されている重症細菌性感染症の診断を的確に行うための臨床モデルの開発が試みられた。オーストラリア・シドニー大学公衆衛生校のJonathan C Craig氏ら研究グループが、約16,000症例を前向きコホート研究により検討。BMJ誌2010年5月8日号(オンライン版2010年4月20日号)で発表している。救急外来の5歳未満15,781例の発熱症例を検証Craig氏らは、現状の診断プロセスで、どの程度、発熱を呈する小児に対し重症細菌性感染症疑いの診断をつけ治療が行われているのかを評価するとともに、経験値によるものではなく、重症細菌性感染症と非細菌性感染症とを見分ける臨床モデルの開発・検証を行った。オーストラリア・Westmeadの小児病院の救急外来での、2004年7月1日~2006年6月30日の2年にわたる前向きコホート研究による。被験者は、5歳未満の小児15,781例だった。医師がどのような診断をつけたかは、病院の電子カルテにセットされている40の臨床像を参考とした。また、重症細菌性感染症だったか否かは、標準的なX線検査、微生物学的検査、経過観察によって確定診断がされたか除外されたものとした。主要評価項目は、主要な重症細菌性感染症(尿路感染、肺炎、菌血症)のうちの1つの診断をつけたかどうか、また臨床診断モデル(臨床評価と確定診断のデータベースから多項ロジスティック回帰法を用いて提示)および臨床医の判断による両者の診断精度についても検討された。臨床診断モデルを感度の高いものに改善する必要がある追跡調査で入手できたデータは15,781例の93%だった。3つの主要な重症細菌性感染症の有病率は、合わせて7.2%(1,120/15,781例、95%信頼区間:6.7%~7.5%)だった。尿路感染の診断がつけられたのは543例(3.4%、95%信頼区間:3.2%~3.7%)、肺炎は533例(3.4%、同:3.1%~3.7%)、菌血症は64例(0.4%、同:0.3%~0.5%)だった。重症細菌性感染症を有した小児のほとんど(94%超)が、適切な検査(尿培養、胸部X線、血液培養)を受けていた。また抗菌薬が速やかに処方されたのは、尿路感染66%(359/543例)、肺炎69%(366/533例)、菌血症81%(52/64例)だった。しかし一方で、細菌性感染症ではない小児の20%(2,686/13,557例)にも抗菌薬の処方がされていた。診断精度は、医師の診断の感度は10~50%と低く、特異度は90~100%と高かった。一方、臨床診断モデルは、幅広い閾値の感度、特異度を呈した。Craig氏は、「救急外来の医師は、小児の重症細菌性感染症に対して過小評価するも抗菌薬を処方するという傾向があった。臨床診断モデルは、医師の意思決定を改善し、そのことによって早期処置が施されるように、細菌性感染症検出の感度を高めるものにしなければならない」と結論している。

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クラミジア検査で骨盤内炎症性疾患の予防は可能か

クラミジア感染症スクリーニングの実施で、PID(骨盤内炎症性疾患)の発病率を減らすことができるのか。ロンドン大学セント・ジョージア校地域保健科学部門のPippa Oakeshott氏らが無作為化試験を行い、BMJ誌2010年4月24日号(オンライン版2010年4月8日号)で報告している。クラミジア感染症は欧米で最も多い性感染症で、毎年新規患者は300万人以上。しかし症状に乏しいため放置され、PID発病を招くケースが少なくない。その医療コストは米国で年間20億ドル以上と推計されているという。迅速検査治療群と対照群とに無作為化し1年間のPID発病率を追跡試験は、ロンドンにある大学で女子学生2,529例を対象に実施された。被験者の平均年齢は21歳(範囲:16~27歳)。学生に質問票に回答してもらうと同時に、自己採取による検体(膣の分泌液を綿棒で採取)を提出してもらい、クラミジア感染症の迅速検査と治療を行う群(スクリーニング群)と、1年保管した後解析する群(対照群)とに無作為化され、追跡された。主要評価項目は12ヵ月間にわたるPID発病率。追跡調査を完了したのは94%(2,377/2,529例)だった。検査の実施はPID発病予防に効果あり、ただし……基線でのクラミジア感染症有病率は、スクリーニング群5.4%(68/1,254例)、対照群5.9%(75/1,265例)だった。12ヵ月間のPID発病率は、両群計38例で、スクリーニング群1.3%(15/1,191例)、対照群1.9%(23/1,186例)、スクリーニング群の相対リスクは0.65(95%信頼区間:0.34~1.22)だった。基線でクラミジア感染症陽性だった人のうち、12ヵ月間でPIDを発病したのは、対照群は74例のうち7例、発病率は9.5%(95%信頼区間:4.7%~18.3%)だった。一方、スクリーニング群の発病率は1.6%(1/63例)で、スクリーニング群の相対リスクは、0.17(同:0.03~1.01)だった。しかしPIDを発病した38例のうちの大半(30例、79%)は、基線でクラミジア感染症陰性の人だった。なお試験中、両群計22%(527/2,377例)の被験者が、クラミジア感染症スクリーニングを別途改めて受けていた。Oakeshott氏は、「クラミジア感染症のスクリーニングの実施が、PID発病の抑制に結びつくことが示唆された。特に、基線で陽性だった人には効果があるようだが、陽性だった人についてPID予防のためのクラミジア検査を、その後12ヵ月間で1回受ければ効果があるということについては議論の余地が残る」と結論している。

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新型インフルの最初の感染流行期、子どもの感染率は予想の10倍以上だった

イギリスにおける最初の2009パンデミックインフルエンザA H1N1ウイルスの感染流行期に、発病率が高い地域では子どもの約3人に1人がH1N1ウイルスに感染しており、これは当初の予想の10倍以上に相当することが、イギリス健康保護局(HPA)感染症センターのElizabeth Miller氏らによる調査で明らかとなった。2009年6月11日、WHOがブタを起源とするインフルエンザA H1N1の世界的な感染爆発を宣言したのを受け、イギリスでは感染の伝搬をリアルタイムで把握するモデルの構築を中心とする対策が進められた。H1N1ウイルスによる将来的な疾病負担やワクチンなどによる介入の効果をモデル化するには、年齢別の免疫獲得の状況や感染率を知ることが重要だという。Lancet誌2010年3月27日号(オンライン版2010年1月21日号)掲載の報告。年齢別の抗体価32倍以上の検体率を感染流行期の前後で比較研究グループは、イギリスにおけるH1N1ウイルスの感染状況を調査する横断的血清学研究を実施した。イギリス健康保護局による血清疫学プログラムの年次検体採取の一部として、2008年(H1N1ウイルス感染流行第1波の前)に1,403の血清検体を採取し、2009年8~9月(感染流行第1波の後)には1,954検体を集めた。抗体価は赤血球凝集抑制試験およびマイクロ中和試験で測定した。年齢別に2008年のH1N1ウイルスに対する抗体の保有率を算出し、赤血球凝集抑制抗体価が感染防御反応とされる32倍(1:32)以上に達した検体の割合を第1波の前後で比較した。子どもはワクチン接種の主要ターゲット感染流行第1波前の血清検体では、赤血球凝集抑制試験およびマイクロ中和試験による抗体価は加齢とともに有意に増加した(F検定:p<0.0001)。赤血球凝集抑制試験による抗体価が32倍以上の検体率は、0~4歳児の1.8%(3/171検体)から80歳以上の高齢者の31.3%(52/166検体)の範囲にわたった。ロンドンおよびウェストミッドランドでは、感染流行第1波前に対する第1波後の、赤血球凝集抑制抗体価32倍以上の検体率の増加分は、5歳未満の子どもが21.3%、5~14歳が42.0%、15~24歳が20.6%であり、25歳以上の年齢では差を認めなかった。他の地域では、第1波前に比べ第1波後に有意な増加(6.3%)を示したのは15歳未満の子どもだけであった。著者は、「H1N1ウイルスの最初の感染流行期に、インフルエンザによる発病率が高い地域では、子どもの約3人に1人がH1N1ウイルスに感染しており、これは当初の予想の10倍以上に相当する。すでに抗体を保有している高齢者は感染率が低かった」と結論し、「子どもはインフルエンザの伝搬において中心的な役割を担うため、自身のみならず他者への感染予防の観点から、集団免疫によるワクチン接種の重要なターゲットとなる可能性がある」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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准教授 小早川信一郎先生「白内障手術の光と影」

日本眼科学会眼科専門医。医学を志す中で、自分の専門分野を持ちたいと眼科を志望。微生物・免疫学を米国で研究。現在、東邦大学医療センター大森病院にて眼科・白内障及び感染症の分野を担当している。直径3cmの天体観測白内障手術は高齢化社会の進行により、症例数が年々増加傾向にあります。白内障手術は、安全簡単なイメージが定着しつつありますが、決して100%安全な手術ではありません。医療従事者としても術前術後の患者さんケアは必須であり、手術適応の決定から術後フォローまでが手術治療であると考えています。術後フォローは、患者さん個々の症状に左右され、また患者さん一人ひとりの病気に対する意識も違うので、対応も異なります。高齢化社会の進行に伴い、以前と比較して、手術を受ける患者さんの年齢層が上がってきています。そういった患者さんでは、全身の免疫機能が落ちていることも考えられ、術後感染症など合併症の増加が予測されます。白内障手術は安全簡単なイメージが先行していますが、現場では決してそのような意識はありません。眼球の内部には痛覚が乏しいとされています。圧迫感は感じても、痛さを感じない場合が多くあります。たとえば、白内障の術後感染症が起きた場合、痛みを感じない症例が半分程度存在します。もちろん、患者さんからの見えないという情報があれば心強いですが、発症初期など自覚に乏しい場合、感染症の進行予測を診察や検査で得る情報のみで判断する場合もあります。眼球は直径3cm、それを顕微鏡で診察しているわけです。眼球は小宇宙であると、たとえられる場合がありますが、毎日我々眼科医は天体観測をしているのかもしれません。医師の満足と患者の満足にギャップ眼科手術はその殆どが局所麻酔で行われます。そのため医師間あるいは看護師との会話、看護師の動きなどが手術を受けている患者さんにも知られてしまうこととなります。手術指導の場合は、特に神経を使います。術後、医師の満足と患者の満足にギャップが生じる時があります。医師は患者さんが本当のところ、どう見えているかがわかりません。見えているはずと判断しても見えていなかったり、その逆であったりと、視点の違いを常に感じています。患者さんの中には、手術をすれば若い時の視力や見え方が取り戻せると考える人もいらっしゃいますので、術前の説明に注意が必要なケースもあります。ただ10年前と比較しますと、白内障手術の際に埋め込む代用水晶体、一般的に眼内レンズと呼ばれていますが、眼内レンズはかなりの技術革新がなされました。もちろん手術技術も進歩しました。当センターでは、遠近両用眼内レンズの使用における先進医療の認可を受けていますが、こういった新しい眼内レンズの登場は、これまでよりも確実に患者さんの満足度を高めていると思われます。白内障手術の光 -ここまで直せる白内障手術-白内障の手術は、この5年ほどで使用できるレンズの種類が多くなりました。1、遠近両用眼内レンズ'08年4月より全国で開始、当センターでも手術が可能です。'10年1月当センターでは先進医療認定を受けたため費用は36万円程度となっています。現在我が国で使用できる遠近両用眼内レンズは3種類で、屈折型1種類、回析型2種類となります。ただし、一番注意して頂きたいことは、全ての患者さんに適応があるわけではないということです。先程の話ではないですが、遠近両用眼内レンズを用いても老視が始まる前、若い頃の視覚、見え方に戻るわけではないのです。どちらかといえば、遠方と近方二つの異なる距離にピントが合うレンズとイメージして頂いた方がよいと思います。中間距離ではピントが合う場合も合わない場合もあります。遠近両用眼内レンズの挿入は、基本的に通常の手術と変わりませんが、より丁寧な手術操作が必要となります。次に、患者さんの選択に関してですが、角膜乱視が1D以上ある人は適応になりませんし、白内障以外の眼の病気がある人はもちろん適応になりません。当センターでは、まだ症例数がそれほど多くないですが、比較的術後成績の良い、回析型のレンズを中心に手術を行っています。2、乱視矯正用眼内レンズ'09年夏頃より乱視度数が加わったレンズが使用可能となりました。乱視が一定以上ある眼とそうでない眼との実際の見え方については、未知の部分もありますが、少なくとも乱視が少ない眼の方が見え方の質は高いはずです。現在、乱視矯正用眼内レンズでは矯正度数が3種類(1.0D, 1.5D, 2.0D)用意されています。すなわち、2.0D以上の乱視は残ることになりますが、このことからも眼鏡のようにきっちりと乱視を矯正するというよりは、乱視を減らすことに重点が置かれています。これまでの乱視矯正は、主に角膜切開術が行われてきました。しかし、術後の戻り(再び乱視となる)や再現性(定量性)が低いなどの理由で広く行われるまでには到りませんでした。我々も昨年末よりこのレンズを用いておりますが、同程度の乱視が残った症例と比較すると明らかに裸眼視力の向上が得られており、患者さんからの評判も上々です。手術は、乱視軸の決定などの操作が加わるため、従来と比較すると、やや煩雑ではありますが、そのために手術時間が何倍にも伸びるということはありません。3、難症例対策、特殊な眼内レンズ労働災害などによる穿(せん)孔性眼外傷により、角膜のみならず虹彩や水晶体まで広範囲に障害をうけた症例に対し、昨年、虹彩付きの眼内レンズを用いた手術を行いました。虹彩付き眼内レンズはヨーロッパを中心に用いられていますが、残念なことに我が国では医療材料として認められていません。こういったレンズは、個人輸入により我々術者の裁量のもとに使用せざるを得ないのです。眼科のみならずどこの科においても共通の問題点とは思いますが、こういった数の多くない症例に対し、欧米で普及しつつある治療法が、我が国においては保険制度の縛りによりスムーズに行えないという現実があります。難しい問題とは思いますが、今後少しでも改善されればと思います。白内障手術の影 -手術に潜む落とし穴-現代の白内障手術は、技術的にほぼ完成の域に達したといわれています。しかし、まだ解決されていない問題点は存在します。一つは「術後感染症」です。外科的処置に術後感染症は一定頻度で必ず起こります。眼科手術の術後感染症は、外科などと異なり、感染による全身への影響は少ないですが、視機能の喪失に直結します。当医療センターにおける12年間の白内障術後感染症の症例を見ると約1/3の症例が最終視力0.1以下でした。0.1は社会的な失明ラインとされていますので、この成績からも決して予後の良い疾患ではないことがわかります。現在、術後感染症の頻度は約0,05%とされており、年間100万眼行われている白内障手術では、1年に500眼この術後感染症が発生し、そのおおよそ3分の1、160眼に社会的失明が起こっていると予測されます。もちろん、両眼同時に感染症を起こすということはほとんどありませんので、160人の患者さんが全く生活できなくなるというわけではないのですが、手術前に多少なりとも見えていた眼が手術により見えなくなる、というのは大変恐ろしいことです。白内障手術といえども100%安全ではない、ということを是非知っていただきたいと思います。次に強調したいことは、「短時間で終了する手術は優れた手術ではない」ということです。白内障の手術は眼科専門医全ての医師が経験しています。指導者のもとで行われる経験の少ない術者の手術でも平均20~30分程度で終了し、術後の仕上がりも熟練者と大差ありません。もちろん熟練者であれば、難症例でなければ約10分程度で終了する場合が多いのですが、この約10-20分程度の差による違いは術翌日になればほとんどないのが現状です。一部の眼科医が4~5分で手術が終了するとマスコミを用いて宣伝していますが、とても違和感を覚えます。実際に4-5分で終了する術者を知っていますが、その先生方は決して自ら手術が人よりも早いことを宣伝しません。つまり、手術時間が早いことと優れた手術であることは一致するものでなく、自分の術式を追求した結果がその時間となっているだけであって、時間の早いことに白内障手術の価値を置いているわけではないからです。手術時間が早いことのメリットは、患者さん側よりも医療側にあると考えます。なぜなら、1日当たりに執刀できる症例数が増え、それに伴い手術による収入が増えるからです。私たちにとって理想の白内障の手術とは、短時間で終わる手術ではなく、丁寧な手術、眼に対する侵襲や合併症の少ない手術です。それは、結果的に患者さんの利益になると考えています。眼科医という選択眼科医という道は、何か手に職をつけたい、手術も面白そうだ、と考えたからです。父が眼科を開業していたことも大きかったですね。ただ、いざ始めてみると専門性がとても高く自分には向いていたかなと思います。眼科の検査はその殆どを外来で行っていますので、診療していく中で疑問に思ったことを自分自身で確かめることができます。専門的に活躍したい方には向いていると思います。私が医師になってから最初の10年は、白内障手術が劇的に変化した10年でした。技術革新も目覚ましいものがあり、1年たつともう古いといったことがしょっちゅうありました。自分自身はその変動を外野席から眺めていただけにすぎないのですが、その場所にいたこと、雰囲気を味わえたことはとても幸運だったと思います。人間が外界から得る情報の約8割は視覚、眼からといわれています。先日、認知症の患者さんの白内障手術を全身麻酔で行いました。術後、認知症が治ったとは思えないのですが、行動は術前とあきらかに変化していました。そんな姿を拝見すると、この仕事にやりがいを感じますね。質問と回答を公開中!

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准教授 小早川信一郎先生の答え

アトピー性白内障手術時の注意点まだまだ駆け出しの眼科医なので、初歩的な質問で失礼します。アドピー性白内障手術の場合、網膜剥離を併発している可能性も念頭に入れて手術を行うことを指導されました。このような場合、小早川先生が特に意識していることや注意していること等がありましたら教えて頂きたく存じます。(1)術前に眼底が全く観察できない程度に白内障が進行していた場合、術前の超音波検査はもちろんですが、術中に網膜剥離の有無を直接観察することになると思います。私は術中に発見したことはありませんが、術後すぐに(1週間以内)剥離を起こされたことが出張中にありました。(2)手術においては、極力大きめのCCC(5.5-6ミリ程度)を狙います。レンズ選択は以前、PMMAでしたが、今はアクリルを入れています。1P、3Pは問いません。(3)若い方が当然多いので縫合します。私はすべての症例で基本的に上方強角膜切開、輪部後方からトンネルを1.5ミリ程度作成していますので、縫合は容易です。結膜は縫合したりしなかったりですが、終了時にうまく元に戻らなければ縫合します。(4)術前ムンテラはRDの話もします。(5)硝子体脱出は極力避けてください。脱出したらたぶん剥がれます。(6)予想外に炎症が強い時があります。そういう時はステロイドを点滴します(リンデロン4ミリ相当を2-3日間)。基本、入院して頂いています。眼内炎を疑うほどの炎症は経験ありません。加齢黄斑変性の研究動向加齢黄斑変性の治療方法についての最近の動向など、御存知でしたら教えて下さい。滲出型の場合は、第一選択ルセンティス、第二選択マクジェンを月一で3回投与し、経過を見て追加、維持療法が基本ではないでしょうか。蛍光眼底造影(必要ならICG造影)は必須と思います。OCTは治療効果判定に有用ですが、なくても視力やアムスラーチャートなどで大体把握できます。ドライタイプにアバスチンを試しましたが、効果はありませんでした。ドライタイプの方には、希望があればルセンティスをやっていますが、効果がない場合がほとんどなので、その時点でムンテラして止めています。レーザーは最近やっていません。レーザーはアーケード内ですと、暗点が出たり自覚的な見え方の質の低下を経験しています。硝子体手術は出血がなければしません。高齢者に手術を勧めるべきか在宅をやっている開業医です。白内障と思われる高齢者の方を見かけますが、90歳や100歳になる高齢者の方の場合、ご家族の心配もあり、白内障の手術を勧めるべきかどうか、よく悩みます。その辺の考え方を教えていただければと思います。3年ほど前までは、85歳以上の方の時は手術については積極的に勧めませんでした。もちろん過熟白内障の時はします。緑内障になるからです。最近は85歳以上の元気な方が増えてきて、本人の希望があり、家族も希望していればします。ただし、ムンテラとして、破嚢や核落下のリスクが上がること、感染リスクも高いこと、は必ず言います。それほど黄ばみの強くない核白内障であれば、たぶん勧めませんし、家族がやってくれと言っても最初は乗り気でない姿勢をみせます。90歳代は経験ありますが、100歳の方は手術の経験がありません。チン小体脆弱、前部硝子体膜剥離がある、は予測して手術に入ります。中には60-70代と変わらない方もいますが、弱い方がやはり多いと思います。また、きちんと手術が終了しても、0.7程度にとどまる方が多く、1.0はあまりいない印象です。レンズを選ぶ眼内レンズの種類が増えるにつれ治療後にピントが合わずに再手術をすることになる例が出ております。大森病院さんでは、レンズを選ぶ際の注意点、できれば個人の感覚に頼るのものではなく、科としてのガイドラインの様なものがあれば教えて頂きたいと思います。(1)-3.0D以上の近視がある方を除いて、基本的には-0.5から0Dを狙っています。乱視が強い場合、最近はトーリックです。以前は乱視の分を考慮して、少しプラス気味に球面を狙ったりして、等価球面ができるだけ-0.5から0程度になるようにしています。(2)中等度から高度近視の方の場合、コンタクトをしていて老眼鏡を使用という方は(1)と同じく狙います。(3)中等度から高度近視の方で術前眼鏡使用の場合、患者さんとお話をして、-2.5から3程度に等価球面がいくように選択します。必ずピントが合う距離が今よりも遠くなることをお話します。(4)(2)や(3)のような近視の方はメガネの必要性をお話しています。(5)一般の患者さんに多焦点の話はしていますが、自費で36万円ということを話すとその時点であきらめる方が多いです。ただ、考えてくると言った方の場合、一度手術の予約のみ取って、日を変えて多焦点IOLのお話を再度しています。乱視適応は原則1D以内です。80歳以上の方には積極的に勧めていません。(6)トーリックは、乱視が強いのでそれも少し治るようなIOLを入れますとだけ言い、過剰な期待は抱かせないようにしています。適応は積極的にしており、1D以上角膜乱視があればトーリックです。術後感染症差し支えなければ、眼科手術の術後感染症を防ぐために行っている貴院ならではの取組、工夫をご教授下さい。(1)術前に結膜嚢培養(2)(1)で腸球菌、MRSAが出たら告知して術前に抗菌薬点眼処方(3)全例、極力、術3日前からの抗菌薬点眼(クラビッド)(4)皮膚消毒したあと1分間放置(5)穴あきドレープをかけて洗眼したあともう一度露出した皮膚を消毒。(6)30秒間放置して、テガタームなどを皮膚に貼り付け、開瞼器をかける術後は極力(主治医が診察できない場合もあるので)、当日より眼帯を外して抗菌薬点眼を開始する。こんな感じです。糖尿病専門医との連携について眼科をやっている者です。糖尿病専門医との連携で気をつけているポイントがあれば教えて下さい。どこも同じ状況だとは思いますが、糖尿病白内障や糖尿病網膜症の患者さんが増えてきたため血糖コントロールなど、糖尿病専門医と連携をとる機会が増えてきました。宜しくお願いします。白内障は急ぎませんが、網膜症の場合、特に硝子体手術が必要な程度まで進行している場合は連携が必要と思います。急ぎでオペの時は、コントロールしながら、というスタイルとなります。どのぐらい急ぎなのか、をはっきり伝え、手術までの時間にレーザーは1週間に2回程度、同じ眼でもかけています。血糖コントロールを高めに、とか低めにとかそのような指示はしません。こちらの状況をはっきり伝えるのみです。コントロールは程ほどで手術に入るか、コントロール後手術なのかは一度話し合いを持たれた方がよいとおもいます。白内障手術前に行うリスク説明時に、何か工夫をされていることあればお教え下さい。実は最近、テレビや雑誌の影響なのか、「白内障手術は気軽で簡単!」「術後は、メガネなしで若い頃の視力が手に入る(レーシックと勘違いしているのでしょうか?)」とのイメージを持つ患者さんが増えてきたと感じます。このような場合、手術前にいくらリスクを説明しても、この先入観が邪魔しリスク内容を安易に捉えられてしまっているように感じます。実際、昔と比べて、術後に「こんなはずでは!」とのクレームが多くなったと感じます。小早川先生が術前のリスク説明時に何か工夫されていることがあれば是非教えて下さい。過度な期待は抱かせない、ということに留意はしています。ただし、眼内炎や核落下について必要以上にムンテラすることは避けています。手術ですからやってみるまでは分からない、という話もします。術者の技量、土地柄も影響していると思います。また特別な症例、水晶体揺れている、90歳以上、mature、ぶどう膜炎、などは自分でムンテラしています。通常の症例は主治医にお願いしています(白内障は入院ですので主治医が付きますので)。CCCのコツを伝授下さい先生も書いておられるように、手術時は局所麻酔で行うことが多く、こちらの動きが患者さんに伝わってしまいます。特に、CCCが上手く行かなかった時には大変焦ってしまい、「絶対患者さんが不安に思っているな。」と感じることがあります。上級医から、学会時に小早川先生からCCCでトラぶった時の対処方法を教えて頂いたと聞きました。もし宜しければそれを伝授願えないでしょうか。宜しくお願いします。(1)道具にこだわる セッシの積極的使用、いろいろなセッシを試してみる、針にこだわらない、(2)顕微鏡にこだわる ツァイスの一番新しいモデル、ルメラは見えます。視野の中心で見ることも忘れない(3)ビスコにこだわる ヒーロンVをすすめています。(4)染色 僕自身はめったにしませんが、見えなければ積極的に染めてもらっています。第一に前嚢が見えているかの確認です。次にヒーロンVを使用して確実に前房深度を保ちます。道具を厳選し、確実に前嚢を把持することに努めます。後は豚眼の練習通り、進めていきます。もし流れたらですが、下方で流れたら観音開きになるように逆回しでつなげるか、針を細かく動かしてカンオープナーにするか、を考えます。手前で流れたら、余分な前嚢を切除した後、前房虚脱に注意してオペを進めます。切開創の構築についてもセッシ使用の場合など考慮すべきでしょう。基本的には流さないように万全の準備をしてオペに臨み、流れたら、成書のごとく対処していくという指導をしています。糖尿病患者を診て頂く場合の注意点内科医です。糖尿病患者を眼科の先生に受診させる場合、どのような点に注意すべきでしょうか。また、東邦大学で内科・眼科の連携の際には、網膜症の分類をどのように使い分けていらっしゃいますか。白内障に関する質問でなくて恐縮ですが、よろしくお願いいたします。(1)血糖値、A1Cあたりがあれば十分と思います。通院歴がまじめ、ふまじめといった情報はさらにありがたいと思います。(2)網膜症は福田分類を使っています。AとBで大別し、レーザー治療は済でもう枯れてきた網膜症である、といった情報は内科に提供しています。逆に手術を急ぐべき、といったときはその旨明記します。コントロールについては原則お任せしています。海外留学について先生の記事、興味深く読ませて頂きました。現在初期研修中ですが、私も是非先生の様に研究発表もできる眼科医を目指したいと思っております。先生のプロフィールにも海外留学されたとありますが、やはり、基礎を習得するためには海外留学が必要なのでしょうか?症例の質問ではなくて恐縮ですが、実際に眼科の第一線で活躍されていて論文や発表も数多く出されている先生に伺う機会がないので教えて頂ければと願っています。また、大森病院のホームページには「積極的に海外留学も行えるようにしています。」とありましたが、具体的にどの様な支援をされていて、どの程度の方々が支援を受けているのでしょうか?色々と質問して申し訳ありませんがよろしくお願いします。海外留学で一番学んだことは問題解決能力でした。自分で解決する、その選択肢を多く持ったことです。基礎を習得するのは国内でも十分と思います。私は、知り合いの先生がいる微生物の教室で、実験をさせて頂いておりました。その後、眼内炎がやりたくなって、留学いたしました。日本でも実験はできますが、教室の垣根や動物センターの規約など、面倒くさいことが多いです。その点、システムがすでに出来上がったラボではそういった根回しにあまり力を入れなくて済みますので楽と思います。自分のやりたい研究ができる環境がアメリカだったとそのように考えてます。研究には臨床のような研修プログラムがなく、やりたい人間ができるようになればよい、というスタンスが多いと思います。もし、本気で考えていらっしゃるなら大学院という選択がよいと思います。眼内レンズの解析、微量検体の測定など、実験系を組むと費用がかかるものは企業のものも積極的に使用しています。SRL等、結構やってくれますし、仲良くなると研究員の方とお話しできることもあります。眼内レンズの解析は、旧メニコンにお願いすることも多いです。最近では電顕写真を外にお願いしたりもしています。わたくしたちの医局では、例えば大阪大学のように常に誰かがどこかに留学している状況ではないですから、留学希望者が順番待ちしているといったことはありません。研究が好きな人間や大学院生を中心に海外学会に連れて行って、雰囲気を味合わせ、少しやる気がある人に対しては、僕がもといたラボに連れて行って、ボスと話をさせたりします。で、行きたいとの希望が出れば、医局長に話をして人事面で考慮をしていくという状況です。僕は微生物でしたので、感染症のテーマでよいという人間を連れて出ています。東邦大学には給費留学制度(留学中助教の給料が保証)がありますので、教授とも話をしながら進めます。僕がもといたラボに行った人間はうちの医局からはまだいませんが、来年あたりに一人出せるかもしれない状況に来ています。海外留学は医局の責任者と十分に話し合い、穏便に行ける環境を作り、経済的な問題を解決してからが一番と思います。教室によっては定期的に人を出すシステムが作られているところもあるでしょうが、我々はまだまだです。なかなか、帝大クラスのようなシステムには到達できません。准教授 小早川信一郎先生「白内障手術の光と影」

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期待が高まる核酸医薬品の現状と将来の展望は?

株式会社シード・プランニングは19日、世界における核酸医薬品の開発状況と将来展望について調査を実施し、その結果を発表した。今回の調査では核酸医薬品開発について、世界における研究開発の状況とDDS技術の開発状況の2つの視点で調査を実施。特に本研究分野で先行している欧米企業の研究動向や臨床試験の状況を中心に国内企業の動向などをも調べている。結果によると、酸医薬品の対象疾患領域はがんを中心に循環器や眼、自己免疫・炎症、感染症、脳神経など多岐にわたっていて、抗体医薬と異なり、多くの製薬企業に研究開発・販売の機会があることがわかった。 核酸医薬品の開発段階については、最近はsiRNAの開発に注目が集まっているが、実際には第2世代のRNA修飾技術の登場によりアンチセンスの臨床開発が最も進んでいて、数年の内に複数の核酸医薬品が上市されることは間違いないと思われるとのこと。現在、臨床試験が進められている核酸医薬品の7割強は新規市場が期待できる(1)既存薬がない、もしくは(2)既存薬との併用として開発が進められている。これらの開発品が上市されれば、医薬品市場の拡大につながるものと期待されるという。詳細はプレスリリースへhttp://www.seedplanning.co.jp/press/2010/2010031902.html

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是か非か? 熱傷患者への予防的抗菌薬全身投与

熱傷患者に対する感染対策としての予防的抗菌薬全身投与は、有効性を裏づけるエビデンスに乏しいことや、耐性獲得リスクへの懸念といった理由から、患者マネジメントとして推奨されていない。しかし一方で、抗菌薬投与により、熱傷患者の全死因死亡が低下することが知られてもいる。そこでイスラエルのテル・アビブ大学Beilinson病院のTomer Avni氏らは、熱傷患者に対する予防的抗菌薬投与のエビデンスを評価する、システマティックレビューおよびメタ解析を行った。BMJ誌2010年3月6日号(オンライン版2010年2月15日号)より。無作為化・準無作為化の計17試験を対象にシステマティックレビューおよびメタ解析は、熱傷患者に対して抗菌薬の予防的投与(全身、非吸収性、局所)、またはプラセボもしくは無治療介入が比較検討された、無作為化または準無作為化対照試験を選定し行われた。PubMed、コクラン・ライブラリー、LILACS、Embaseをデータ・ソースとして、2人の評価者が個々にデータを抽出。その際、言語、年月日、公表重要度による制限は課さなかった。主要評価項目は、全死因死亡とした。解析対象となったのは1968年から2008年までに報告された17試験(1,113例、年齢中央値51歳)だった。4試験は、子ども、青少年も対象に含んでいた。全死因死亡率の低下確認、しかし試験のクオリティに疑問符全死因死亡が報告されていたのは9試験。そのうち、入院後4~14日に予防的抗菌薬全身投与が行われた患者(5試験・272例)で、全死因死亡の有意な低下が認められた(リスク比:0.54、95%信頼区間:0.34~0.87)。対照群のイベント発生率は26%。治療必要数(NNT)は8(95%信頼区間:5~33)だった。一方、周術期における非吸収性および局所単独投与の試験の評価では、死亡率への有意な影響は認められなかった。有害転帰に関しては、予防的全身投与による肺炎発症の減少、および周術期予防投与では創傷感染症の減少が確認された。また、黄色ブドウ球菌の感染および定着が、抗ブドウ球菌抗菌薬の予防的投与で減少していた。予防的投与による耐性獲得の有意な増加は、3試験で認められた(リスク比:2.84、95%信頼区間:1.38~5.83)。このように一部で抗菌薬の予防的投与による全死因死亡が確認されたが、研究グループは、「全体として試験のクオリティが低い」とも報告。メタ解析の結果に疑問符を付し報告をまとめている。また、周術期は別として予防投与は今のところ重度熱傷患者には推奨されていない。その利用を正しく評価するための無作為化対照試験が求められると最後に述べている。

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小児の重症感染症の危険信号となる臨床徴候を同定

外来診療における小児の臨床徴候のうち、重症感染症の危険信号(red flag)としてチアノーゼ、速い呼吸、末梢循環不全、点状出血発疹が重要であり、両親の心配や臨床医の直感も危険なことが、ベルギーLeuvenカトリック大学一般医療科のAnn Van den Bruel氏らが行った系統的なレビューで明らかとなった。小児重症感染症の死亡率や罹患率を低減するには早期の正確な診断が要件となるが、重篤な病態の罹患率は低く、また重症度が明確でない早期の時点で重篤な病態を呈する患児はほとんどいないため診断は容易でないという。プライマリ・ケアでは重篤な病態に至る患児は1%未満だが、臨床医には心配する両親を安心させ、重症患児を診断する義務がある。Lancet誌2010年3月6日号(オンライン版2010年2月3日号)掲載の報告。危険信号としての臨床徴候を尤度比で評価研究グループは、先進国における外来診療時の小児重症感染症の鑑別に有用な臨床徴候の同定を目的に系統的なレビューを行った。小児の重症感染症の臨床徴候を評価した論文を同定するために、データベース(Medline、Embase、DARE、CINAHL)を検索し、関連研究の参考文献リストに当たり、各研究者と連絡を取った。1,939の関連文献を同定し、さらに以下の6つの基準で論文の絞り込みを行った。1)診断精度や予測基準を評価する研究、2)対象は感染症以外の疾患がみられない1ヵ月~18歳の小児、3)外来診療、4)予後:重症感染症、5)外来診療で評価が可能な徴候、6)十分なデータが提示されている。試験の質の評価は、Quality Assessment of Diagnostic Accuracy Studiesの判定基準で行った。各臨床徴候について、重症感染症発現の尤度比(陽性尤度比)および非発現の尤度比(陰性尤度比)を算出した。陽性尤度比>5.0の臨床徴候を重症感染症の危険信号とし、陰性尤度比<0.2の場合は除外徴候とした。リスクのレベルに応じてとるべき臨床行動を同定すべき30の試験が解析の対象となった。チアノーゼ(陽性尤度比:2.66~52.20)、速い呼吸(同:1.26~9.78)、末梢循環不全(同:2.39~38.80)、点状出血発疹(同:6.18~83.70)が複数の研究で危険信号として同定された。プライマリ・ケアに関する一つの研究では、両親の心配(陽性尤度比:14.40、95%信頼区間:9.30~22.10)および臨床医の直感(同:23.50、同:16.80~32.70)が強力な危険信号であった。40℃以上の発熱は、重症感染症の罹患率が低い状況でも危険信号としての価値はあることが確認された。単一の臨床徴候のみで重症感染症の可能性を除外することはできなかったが、いくつかの徴候を組み合わせると可能であった。たとえば、呼吸困難がみられず、かつ両親の心配がない場合は、肺炎は高い確率で除外できた(陰性尤度比:0.07、95%信頼区間:0.01~0.46)。観察所見で重症度を判定するYale Observation Scaleは、重症感染症の確定(陽性尤度比:1.10~6.70)にも、除外(陰性尤度比:0.16~0.97)にも有効ではなかった。これらの結果を踏まえ、著者は「今回の検討で同定された重症感染症の危険信号はルーチンに用いるべきだが、効果的な予防措置を講じなければ重篤な病態は今後も見逃されるだろう」とし、「リスクのレベルに応じてとるべき臨床行動を同定する必要がある」と指摘する。(菅野守:医学ライター)

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5つの推奨項目でできるカテーテル関連血流感染症の発生低下

集中治療室(ICU)での中心静脈カテーテルに関連した血流感染症は、医療従事者の感染防止意識と手技によってある程度防ぐことができるとされ、継続的な質向上への取り組みが広く行われはじめている。ジョンズ・ホプキンス大学のPeter J Pronovost氏らは、状況を評価するため、米国ミシガン州病院協会の「Keystone ICU project」に参加するICUが、カテーテル関連血流感染症の発生率低下をどれだけ維持できているかを評価する観察研究を行った。BMJ誌2010年2月27日号(オンライン版2010年2月4日号)に掲載された。ごく一般的な感染防止5項目の順守を求める研究対象となったのは米国ミシガン州にある67病院、103ユニットのICU。介入の具体的な内容は、カテーテル関連血流感染症発生率を低下させるためのエビデンスに基づいた5つの推奨項目(手洗いの実行、穿刺部の完全消毒、クロルヘキシジンによる皮膚消毒、できるだけ大腿部を避ける、不必要なカテーテルの抜去)を医療従事者に順守させることで、感染率の測定とフィードバックが指示された。介入の継続期間中は、スタッフ・オリエンテーションで繰り返し介入内容の確認を行うよう求め、院内感染対策スタッフから感染率の月次データを回収し、関係者に報告を行った。主要評価項目は、継続期間(介入実施後19~36ヵ月)中、四半期ごとの1,000カテーテル・日当たりのカテーテル関連血流感染症発生率とした。介入実施後18ヵ月以降も血流感染症の低下を維持103ユニットのうち90ユニット(87%)が参加し、継続期間中の集中治療期間は延べ1,532ヵ月、30万310カテーテル・日分のデータが報告された。その結果、カテーテル関連血流感染症発生率の平均値と中央値は、ベースラインでは7.7と2.7(四分位範囲0.6~4.8)だったものが、介入実施後16~18ヵ月には1.3と0(同:0~2.4)、34~36ヵ月には1.1と0(同:0.0~1.2)まで低下した。マルチレベル回帰分析の結果、介入実施後の血流感染症罹患率比は0~3ヵ月に0.68(95%信頼区間:0.53~0.88)に、16~18ヵ月には0.38(同:0.26~0.56)に、34~36ヵ月には0.34(同:0.24~0.48)に低下した。また、継続期間中の平均血流感染率は、最初の介入実施後18ヵ月以降は有意な変化がなかった(-1%、95%信頼区間:-9%~7%)。これらの結果から研究グループは、最初の18ヵ月の実施期間に達成されたカテーテル関連血流感染症の減少率がその後の18ヵ月間も継続したのは、研究に参加したICUが実践に介入を組み込んだためであると結論し、この介入が広く導入され同様の結果が達成できれば、カテーテル関連血流感染症の罹患率と経済的損失を大幅に低下させることに結びつくだろうと述べている。

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尿路感染症疑い例管理の有効性:管理方法間で有意差なし、経験的投与も3日目以降で

尿路感染症疑い例に対する5つの管理方法の有効性について無作為化試験の結果、症状コントロール達成に5つの方法間に差異はなく、「48時間以降に試験紙法で処方抗菌薬を決定して」あるいは「48時間以降に経験的投与」が、より少量の抗菌薬投与で症状コントロール達成が可能なことが明らかになった。英国サウサンプトン大学地域臨床学部門プライマリ・ケア医学グループのP Little氏らの報告によるもので、BMJ誌2010年2月20日号(オンライン版2010年2月5日号)に掲載された。プライマリ・ケアベースで非妊娠女性309例を5つの管理方法群に無作為化し検証Little氏らが検討したのは、(1)速やかに抗菌薬を経験的投与、(2)48時間以降に抗菌薬を経験的投与、(3)排尿症状スコア(尿の混濁・異臭、夜間頻尿、排尿障害のうち2つ以上)に基づき抗菌薬投与、(4)試験紙法の結果(亜硝酸塩、白血球、潜血が陽性)に基づき抗菌薬投与、(5)中間尿検査で陽性なら抗菌薬投与、の5つの管理方法。研究グループは試験にあたって、(1)に比べて他の群では症状コントロール達成が悪いであろう、特に(2)(5)の待機群で悪いだろうと仮定し、また(4)試験紙法、(5)中間尿検査が他の3方法に比べて効果的であろうと仮定し、試験に臨んだ。被験者は、2003年6月~2005年9月の間、イングランド南部の62の開業医から、尿路感染症が疑われる妊娠していない女性309例(18~70歳)が集められ、5つの方法群に無作為化された。各群患者に対しては、無作為化試験が患者とのコンセンサスを得たうえで遂行されやすいよう、アドバイスシートを使用して介入をコントロールした。また、症状についての自己評価記録を依頼した。主要評価項目は、症状の重症度(2~4日目)と期間、抗菌薬の使用についてとした。抗菌薬減を目指すなら、試験紙法、48時間以降投与が有用(1)群の抗菌薬を速やかに投与された患者の、中等症期間は3.54日間だった。しかし同期間に関して、その他4群と有意差はみられなかった。(1)群との期間比で、(2)群1.12、(3)群1.11、(4)群0.91、(5)群1.21だった(5群の尤度比検定p=0.369)。重症度についても、5群間に有意差はなかった。重症度スコア0~6の平均値は、(1)群2.15、(2)群2.11、(3)群1.77、(4)群1.74、(5)群2.08だった(p=0.177)。一方、抗菌薬使用については5群間に違いがみられた。使用率は(1)群97%、(2)群77%、(3)群90%、(4)群80%、(5)群81%だった(P=0.011)。また、(2)群の48時間以降投与患者について、(1)群の速やかな投与患者と比べて再診の割合が少なかった(ハザード比:0.57、P=0.014)。しかし平均症状期間は37%長かった(発生率比:1.37、P=0.003)。これら結果を踏まえてLittle氏は、「5つの管理戦略とも、症状コントロール達成は同程度だった。48時間以降に試験紙法で抗菌薬を決定して処方、あるいは48時間以降に経験的投与が、抗菌薬使用を減らすことにつながると思われる」と結論している。中間尿検査には利点が見いだせず中間尿検査の実施については、(1)群23%、(2)群15%、(3)群33%、(4)群36%、(5)群89%と違いがみられた(P

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尿路感染症疑い例管理の費用対効果:試験紙法か経験的投与に軍配、価値基準設定で変化

英国サウサンプトン大学ウェセックス研究所のDavid Turner氏らが、尿路感染症に対する5つの治療管理方法の費用対効果について検討した結果、最も費用対効果に優れているのは「試験紙法」だったと報告した。ただし結果は条件付きのうえ不確定要素が多いとし、また費用対効果に求める価値基準設定によっては、「速やかな経験的投与」が最も費用対効果に優れることも示されている。BMJ誌2010年2月20日号(オンライン版2010年2月5日号)掲載より。5つの管理方法について1ヵ月間の費用対効果を検証Turner氏らが検討したのは、(1)速やかに抗菌薬を経験的投与、(2)48時間以降に抗菌薬を経験的投与、(3)排尿症状スコア(尿の混濁・異臭、夜間頻尿、排尿障害のうち2つ以上)に基づき抗菌薬投与、(4)試験紙法の結果(亜硝酸塩、白血球、潜血が陽性)に基づき抗菌薬投与、(5)中間尿検査で陽性なら抗菌薬投与、の5つの管理方法。尿路感染症が疑われる妊娠していない女性309例(18~70歳)を上記5群に割り付け有効性が比較検討された無作為化試験の、1ヵ月間の費用対効果について解析した。主要評価項目は、症状期間とケアに要した費用とした。中等症期間を1日回避することにどれだけの価値があるか1ヵ月間で最も費用を要したのは、(5)中間尿検査群で37.1ポンド(約5,200円)だった。次いで(4)試験紙法群で35.3ポンド。一方で最も少なかったのは、(1)速やかな経験的投与群で30.6ポンド(約4,300円)だった。(2)48時間以降に経験的投与群は31.9ポンド、(3)排尿症状スコア群は32.3ポンドだった。費用対効果については、中等症期間を1日回避しても10ポンド(約1,400円)の価値もないとみる場合は、(1)速やかな経験的投与群が最も優れた戦略のようだった。1日回避に10ポンド以上の価値があるとみる場合は、(4)試験紙法群が最も費用対効果があるようだった。ただし、その結果については70%以上の確信性を得ることはできなかったとしている。

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mTOR阻害剤が腎細胞がんにもたらす可能性

2010年1月、mTOR阻害による抗悪性腫瘍剤としては日本初となる「エベロリムス(商品名:アフィニトール)」が承認を得た。ここでは、2月22日、アーバンネット大手町ビルにて開催された「mTOR阻害剤『アフィニトール』が腎細胞がん治療にもたらす可能性」と題するプレスセミナーをお届けする。帝京大学医学部泌尿器科学教室 主任教授 堀江重郎氏は、mTOR阻害剤の基礎から臨床治験まで広範にわたり講演した。<ノバルティス ファーマ株式会社主催> がん治療における新しい戦略無秩序な細胞増殖を繰り返すがんにおいて、その制御を失った細胞周期を停止させるのが従来の抗がん剤の作用機序であるが、さらに近年、がんそのものが自らを養う血管を新生させることから、そこをターゲットとする分子標的薬による治療が進んできている。そして新たにmTOR阻害剤など、無制限な細胞内の代謝もがん進行の要因となっている点に着目した治療戦略が、難治性がんへの福音となる可能性が強まってきた。mTORとは堀江氏はまず、mTORとその阻害剤について概説した。mTORとはマクロライド系抗生物質ラパマイシンの標的分子として同定されたセリン・スレオニンキナーゼであり、細胞の分裂や成長、生存における調節因子である。その重要性を示唆する事実として、酵母からヒトにいたるまで95%以上相同な蛋白であるため、mammalian Target Of Rapamycin(=mTOR)と総称される。正常細胞においては、栄養素や成長因子、エネルギーといった「エサ」があると活性化し、エサのない状況ではいわば冬眠状態となっている。栄養素やその他増殖促進経路からのシグナル伝達を制御する役割から、糖尿病や生活習慣病への関与も報告されている。一方、mTOR阻害剤のアフィニトールやラパマイシンは、タクロリムスと同様の機序で免疫抑制効果を持つ。分子生物学的には、細胞周期をG1期で停止させることや、低酸素誘導因子(HIF※)の安定化および転写活性を抑制することが示されている。多くのがんでmTORシグナル伝達経路が調節不全を起こして常に活性化しており、mTOR阻害剤の抗腫瘍効果が臨床レベルでも検討されている。(※HIF:mTOR活性化や低酸素によって細胞内に蓄積し、血管新生や解糖系代謝を亢進させる。)昨年Natureで発表され話題となった、興味深い知見がある。ラパマイシン適量をマウスに投与したところ、加齢期であっても寿命延長効果が見られた。これはカロリー制限したサルの方が長寿命であったデータと同等と考えられる、と堀江氏は語った。また、がん患者を高カロリー摂取群とカロリー制限群に分けたところ、制限群の方が長生きしたという結果が複数出ており、これまでは切り離して考えられていた「がん」と「体内環境」の密接な関連に関心が寄せられている。がん細胞の代謝にも影響するmTOR阻害剤は、この流れに合致する薬剤といえる。 腎細胞がんわが国における腎がんの9割は腎細胞がんであり、好発年齢は50歳以降、男女比は約2:1である。年間で発症数は1万人を超えて増加傾向にあるとされ、約7千人が死亡する。寒冷地方に多く発症し、ビタミンD欠乏との関連が指摘されている。遺伝性にフォン・ヒッペル・リンダウ(VHL)遺伝子が変異または欠失しているVHL症候群は120家系あり、遺伝性腎細胞がんを発症する割合は50%程度。根治的治療は手術で、StageⅣであってもなるべく切除した方が予後良好である。分子標的薬登場以前はサイトカイン療法しか薬物治療がなく、治療抵抗性のがんの一つである。 腎細胞がんとmTOR阻害剤堀江氏によると、腎細胞がん患者においてはmTORの上流蛋白Aktの過剰な活性化や、血中血管内皮増殖因子(VEGF)濃度の上昇が認められ、増殖シグナルが亢進している。加えて、mTORに至るシグナル経路を抑制する因子の変異・機能低下や、VHL遺伝子変異によるHIFの過剰産生が見られ、抑制シグナルの低下もある。正常ではVHLはがん抑制因子であってHIFを抑制しているが、腎がんの多くでは変異による不活化が起こっている。もともと腎臓は血管に富み、VHL変異で異常な血管が作られやすい。mTOR阻害剤は、このようにVHLが機能しない状況でもHIF合成を阻止する。また、VEGF-Aの産生も阻害し、結果として腫瘍細胞での血管新生を抑制する。このように、がん細胞の増殖抑制と血管新生阻害の抗腫瘍効果を併せ持つmTOR阻害剤のアフィニトールの、VEGF受容体チロシンキナーゼ阻害剤(スニチニブまたはソラフェニブ)が無効となった進行性腎細胞がんを対象として有効性および安全性について検討した臨床試験がRECORD-1である。患者をBSC+アフィニトール群とBSC群に無作為割付した結果、アフィニトール群で無増悪生存期間が有意に延長し、抗腫瘍効果も示された。副作用発現は、対象患者が比較的PSが良好というバイアスはあるが、高グレードがあまり多くない印象があるとのことである。注意すべきものとして、アジア人に多い間質性肺疾患、免疫抑制による感染症、インシュリン抵抗性となるための高血糖、糖尿病の発症・増悪などが挙げられた。mTOR阻害剤の間質性肺疾患については、副腎皮質ホルモン剤への反応性が高いことが報告されている。堀江氏は、がんへの本質的なアプローチといえるmTOR阻害剤、アフィニトールが承認され、VEGF受容体チロシンキナーゼ阻害剤投与後の進行性腎細胞がんの治療における期待が寄せられるとした。なおわが国では現在、乳がん、胃がん、悪性リンパ腫、膵内分泌腫瘍を対象とした、第Ⅲ相の国際共同治験に参加している。(ケアネット 板坂倫子)

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小児用肺炎球菌ワクチン「プレベナー」2月24日発売

ワイス株式会社は、昨年10月16日に製造販売承認を受けた7価肺炎球菌結合型ワクチン「プレベナー」(製品名:プレベナー水性懸濁皮下注)を2月24日から発売したと発表した。プレベナーは、肺炎球菌による細菌性髄膜炎、菌血症などの侵襲性感染症を予防する国内初の小児用肺炎球菌結合型ワクチン。接種対象は、生後2カ月齢から9歳以下の小児。現在101の国・地域で承認されている。●詳細はプレスリリースへhttp://www.wyeth.jp/news/2010/0223.asp

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C. difficile感染再発を抑制する新たな治療法

 Clostridium difficile(C. difficile)感染の再発に対して、抗C. difficileモノクローナル抗体(CDA1+CDB1)が有効であることが報告された。米国Medarex社のIsrael Lowy氏ら研究グループが行った第II相無作為化試験の結果、抗菌薬投与中の患者への追加投与で再発の有意な減少が確認されたという。C. difficileは通常は病原性を有さないが、抗菌薬投与による腸内細菌叢の乱れによってトキシンの産生が誘発され、下痢症や大腸炎の病原菌となる。ここ10年ほど欧米では、広域スペクトラム抗菌薬使用の広がりがC. difficile疫学を変えたと言われるほど、毒性が強いC. difficile(BI/NAP1/027株)の出現、治療失敗や感染症再発の増大、および顕著な死亡率増加がみられるようになり問題になっている。NEJM誌2010年1月21日号掲載より。抗菌薬に完全ヒトモノクローナル抗体を追加投与第II相試験は無作為化二重盲検プラセボ対照で行われた。症候性のC. difficile感染でメトロニダゾール(商品名:フラジール)かバンコマイシンを投与されていた患者に対し、抗C. difficileモノクローナル抗体(CDA1+CDB1)かプラセボを、10mg/kg体重、単回静注した。2006年7月から2008年4月の間に、米国およびカナダの30施設で、18歳以上の患者200例が登録。モノクローナル抗体投与群は101例、プラセボ投与群は99例だった。主要転帰は、モノクローナル抗体かプラセボを投与後84日以内に、検査で確認された感染再発とした。再発率は、抗体群7%、プラセボ群25%C. difficile感染再発率は、抗体群7%、プラセボ群25%で、モノクローナル抗体投与群の方が低かった(P

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日本感染症学会、抗インフルエンザ薬の使用適応で提言

1月25日に日本感染症学会が抗インフルエンザ薬の使用についての提言を発表した。点滴静注薬のペラミビル(商品名:ラピアクタ)の発売に伴い、「インフルエンザ患者のリスクに応じた抗インフルエンザ薬の適正な使用」を目指した指針として取りまとめている。提言では、基本的な考え方として、治療の判断は基礎疾患の有無やその程度に関わらず「患者の重症度そのものが重視されるべき」と指摘した上で、重症度に応じた抗インフルエンザ薬の適応と使い分けが重要と訴えている。また抗インフルエンザ薬については、現在、臨床の現場で使われているタミフルとリレンザのほか、新発売となったラピアクタ、さらに開発中のラニナミビル(CS-8958)、ファビピラビル(T-705)についても言及。さらに重症度ごとに使用法を示した「抗インフルエンザ薬の使用指針」を提示している。 提言の詳細はこちらからhttp://www.kansensho.or.jp/topics/100122soiv_teigen.html

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軽度アルツハイマー病へのtarenflurbil投与、認知機能やADL低下に効果なし:第3相臨床試験

軽度アルツハイマー病に対し、選択的Aβ42低下薬であるtarenflurbilを投与しても、認知機能やADL(日常生活動作)の低下を遅延させる効果は見られないことが、治験第3相の結果、報告された。治験第2相の結果で、その効果の可能性が期待されたが立証することはできなかった。tarenflurbil治験第3相の報告は、米国ボストン大学神経内科部門のRobert C. Green氏らにより、JAMA誌2009年12月16日号で発表された。全米133ヵ所で1,600人超を18ヵ月追跡同治験は多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照で、2005年2月21日~2008年4月30日にかけて、全米133ヵ所の医療機関で、1,684人の軽度アルツハイマー病患者を対象に行われた。解析対象に含まれたのは1,649人、試験を完了したのは1,046人。統合第一有効性エンドポイントは、アルツハイマー病評価尺度の認知サブスケール(ADAS-Cog、80ポイント版)とアルツハイマー病共同研究-日常生活動作スケール(ADCS-ADL)による、試験開始時点と開始後18ヵ月時点のスコアの変化とした。被験者へのコリンエステラーゼ阻害薬(商品名:アリセプト)やmemantineの併用投与は許可された。ADAS-Cog、ADCS-ADLのスコア変化、プラセボ群と有意差なし結果、tarenflurbil群とプラセボ群には、認知能力などの変化に有意差は見られなかった。両群の変化差は、ADAS-Cogは0.1(95%信頼区間:-0.9~1.1、p=0.86)、ADCS-ADLは-0.5(同:-1.9~0.9、p=0.48)だった。なお、ADAS-Cogスコアは、試験開始時点と比べ、18ヵ月時点ではtarenflurbil群で7.27ポイント、プラセボ群で7.08ポイント低下した。またtarenflurbil群では、めまい、貧血、感染症の頻度がわずかに増加した。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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