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ニューキノロンの使用は、動脈瘤や動脈解離のリスクを高める(解説:佐田政隆氏)-839

 スウェーデンでは、nationwideの国民の医療に関するビッグデータが登録されており、薬の副作用など各種のコホート研究を行うことができる。本研究では、2006年7月から2013年12月に、ニューキノロンを服用した36万88人と、傾向スコアでマッチングしたアモキシシリンを服用した36万88人で、服用60日以内の大動脈瘤、大動脈解離の発症を比較検討した。結果として、ニューキノロン群がアモキシシリン群に比較して、大動脈瘤、大動脈解離の発症が、ハザード比1.66と多かったという。 ニューキノロンは以前からアキレス腱などの腱障害を増加させると報告されている。その機序としては、抗菌以外の薬理作用として、マトリックスメタロプロテアーゼを活性化してコラーゲンなどの細胞外基質の変性を促進するとか、コラーゲンの産生を抑制するとか、酸化ストレスを亢進させるためといわれている。今回、動脈瘤や大動脈解離の発生頻度を増やしたのも同様の機序が働いたものと思われる。 そうすると、動脈硬化プラークの被膜の菲薄化も促進して、急性冠症候群の発症を増加させるかもしれない。このnationwideのregistryの次の解析に興味が持たれる。ニューキノロンは、ほかにも、心電図のQT時間を延長させ、致死性不整脈を誘発することがよく知られている。ウイルス性の感冒などに、ニューキノロンが安易に処方されることをよく見かけるが、不要な抗生物質の処方は慎むべきであろう。

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迷ったら接種したい肺炎球菌ワクチン

 2018年4月3日、MSD株式会社は、肺炎予防に関するメディアセミナーを都内で開催した。セミナーでは、高齢者の肺炎の概要、ワクチン接種の動向などが語られた。肺炎死亡者の97.3%が65歳以上 セミナーでは、内藤 俊夫氏(順天堂大学医学部 総合診療科 教授)を講師に迎え、「超高齢社会における[まさか]に備えた肺炎予防~インフルエンザパンデミック、東日本大震災との関連から考察する~」をテーマに解説が行われた。 わが国の死因は、悪性新生物、心疾患に次いで、2010年頃より肺炎が第3位となり推移している。とくに肺炎による死亡者の97.3%が65歳以上ということから、今後もこの傾向は変わっていかないと予想されている(厚生労働省 人口動態統計[確定数]2016年より)。 肺炎は、主に細菌やウイルスが肺に侵入し起こる肺の炎症だが、高齢者や糖尿病などのリスクのある患者では、免疫力が弱いことから、重症化すれば死に至る疾患である。 肺炎を起こす主要な細菌は肺炎球菌で、「ウイルスか細菌感染かの鑑別は、臨床医の腕の見せどころであり、丁寧に診療してほしい」と内藤氏は語る。また、肺炎予防では、一般的に「マスク着用、手洗い、うがい」が行われているが、「歯磨きや誤嚥の防止など、口腔ケアも高齢者には大事だ」と指摘。さらに、規則正しい生活や禁煙、基礎疾患の治療のほか、「肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンのダブル接種が、肺炎予防には重要」と提案する。その理由として、インフルエンザに罹患し抵抗力が落ちた肺に、肺炎球菌が侵入することで肺炎を起こしやすくなり、予後を悪化させる、と説明する。接種率は20%から65%へ上昇 65歳以上の高齢者での肺炎球菌ワクチン接種率は、以前は20%程度だった(米国では63.6%[2015年NHIS調査])。理由としては、ワクチンへの無関心や接種へのアクセスの悪さが指摘されていた。そこで、2014年10月から国の施策により、65歳以上の高齢者への肺炎球菌ワクチンの定期予防接種が始まった。「これら公費の助成とワクチン接種率には密接な関係があり、ワクチン接種の普及に公費助成は重要な役割を果たした」と、同氏は語る。公費助成導入後の23価肺炎球菌ワクチンの推定全国接種率は、2018年3月末時点で約65%に上昇し、接種率の向上は実現した1,2)(総務省統計局政府統計[2012年10月1日現在]およびMSD社社内データより推定)。 そして、本年度が、定期接種の経過措置(65歳、70歳、75歳…と5歳刻みの年齢が接種対象者)の最終年度となり、2019年4月からは、65歳のみが定期接種の対象となる予定である。現行の制度は対象者にわかりにくく、接種を受けていない高齢者も多い。また、最初の時期に接種を受けた人は、あと1年で5年が経とうとしている。23価肺炎球菌ワクチンの免疫原性の効果は5年経つと弱まるとされ、来年以降、再接種を受ける必要性も専門家の間で示唆されているという。外来での働きかけが再接種成功の秘訣 「肺炎球菌ワクチンは、65歳を過ぎたら(糖尿病などのリスクの高い患者も含め)接種歴の有無にかかわらず、なるべく受けることをお勧めする」と同氏は語る。そのため医療者側でも接種の有無を外来で必ず聞いたり、電子カルテに記録の項目を設置したりすることが重要だという。また、「(患者へは)1年を通じていつでも接種できることを伝え、(1)定期接種の案内が来た時、(2)初診時、(3)健康診断時、(4)退院時、(5)インフルエンザワクチン接種時など、5つのタイミングで医師などに相談するように指導することが必要」と提案する。 最後に同氏は、「肺炎球菌ワクチンは特別なものではなく、普段からの接種が大事。医療者には対象者を、早く接種するように促し、接種する気になるようにして指導してもらいたい」と要望を語り、レクチャーを終えた。■参考文献1)Naito T, et al. J Infect Chemother. 2014;20:450-453.2)Naito T, et al. J Infect Chemother. 2018 Feb 1. [Epub ahead of print]■参考厚生労働省 肺炎球菌感染症(高齢者):定期接種のお知らせ肺炎予防.JP

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ジェネリック希少の医薬品、米国で価格高騰/BMJ

 米国において特許期限切れだがジェネリック承認薬がない処方薬のうち、半数超は米国外で少なくとも1社が承認を受けており、半数弱は4社以上が承認製造していた。米国・ジョンズ・ホプキンス大学のRavi Gupta氏らが、1939~2017年に米国食品医薬品局(FDA)で承認を受け、その後特許期限が切れた薬剤などを対象に行った観察試験で明らかにしたもので、BMJ誌2018年3月19日号で発表した。米国では、特許期限の切れた処方薬の一部が、競合会社が少ないために急激に価格が高騰し、入手が困難になるといった問題が生じている。今回の結果を受けて著者は、「それらの処方薬について、米国外からの輸入販売規制などを緩和化することで、適正な市場競争が促され、価格低下や患者への安定的な供給につながるだろう」とまとめている。ジェネリックが3種以下の薬剤を対象に調査 研究グループは、1939年以降に米国FDAの承認を受けた新規処方薬(錠剤またはカプセル)で、特許期限が切れるなど市場独占権を失っており、そのジェネリック製品が3種以下と市場での競争力が低い薬剤を対象に、2017年4月まで観察試験を行った。 対象の処方薬について、米国と同等な承認基準を設けている欧州、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、スイス、南アフリカ、イスラエルの7つの規制機関から承認を受けた製造業者の数について調査を行った。また、それら処方薬の特性と、米国における希少疾病用医薬品の指定、世界保健機関(WHO)必須医薬品、治療分野、製造工程の複雑さ(生物学的同等性の保持や製造が困難)、2015年のメディケイド総支出などとの関連についても調べた。米国でジェネリックのない薬剤、半数超が米国外で承認 特許期限が切れるなど市場独占権がなく、米国内でジェネリックを販売する企業が3社以下だった処方薬は、170種だった。そのうち109種(64%)は、米国外で少なくとも1社の製造業者が承認を受けていた。また32種(19%)は、4社以上が承認を受けていた。 米国FDAがジェネリック製品を承認していなかった44種(26%)において、21種(48%)は米国外で少なくとも1社が製造承認を受けていた。2種(5%)は4社以上が製造承認を受けていた。 また、調査対象となった170種のうち66種(39%)が、米国も合わせ4社以上の製造業者が製造していた。 少なくとも米国外の1ヵ国以上で承認を受けた109種のうち、希少疾病用医薬品は12種(11%)、WHO必須医薬品は29種(27%)だった。製造工程が複雑で米国への輸入に困難を伴う可能性があった医薬品は12種(11%)のみであった。 処方薬の数が最も多かったのは心血管系疾患・糖尿病・脂質異常症(高脂血症)の治療薬(19種、17%)、精神病治療薬(16種、15%)、感染症治療薬(15種、14%)だった。米国で適正な競争が行われていないジェネリック薬に対するメディケイドからの支出は、2015年で約7億ドルに上っていた。

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全身性エリテマトーデス〔SLE:Systemic Lupus Erythematosus〕

1 疾患概要■ 概念・定義全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus:SLE)は、自己免疫異常を基盤として発症し、多彩な自己抗体の産生により多臓器に障害を来す全身性炎症性疾患で、再燃と寛解を繰り返しながら病像が完成される。全身に多彩な病変を呈しうるが、個々人によって障害臓器やその程度が異なるため、それぞれに応じた管理と治療が必要となる。■ 疫学本疾患は指定難病に指定されており、令和元年(2019年)度末の特定医療費(指定難病)受給者証所持者数は6万1,835件であり、計算上の有病率は10万人中50人である。男女比は1対9で女性に多く、発症年齢は10~30代で大半を占める。■ 病因発症要因として、遺伝的背景要因に加えて、感染症や紫外線などの環境要因が引き金となり、発症することが考えられているが、不明点が多い。その病態は、抗dsDNA抗体を主体とする多彩な自己抗体の出現に加え、多岐にわたる免疫異常によって形成される。自然免疫と獲得免疫それぞれの段階で異常が指摘されており、樹状細胞・マクロファージを含めた貪食能を持つ抗原提示細胞、各種T細胞、B細胞、サイトカインなどの異常が病態に関与している。体内の細胞は常に破壊と産生を繰り返しているが、前述の引き金などを契機に体内の核酸物質が蓄積することで、異常な免疫反応が惹起され、自己抗体が産生され免疫複合体が形成される。そして、それらが各臓器に蓄積し、さらなる炎症・自己免疫を引き起こし、病態が形成されていく。■ 症状障害臓器に応じた症状が、同時もしくは経過中に異なる時期に出現しうる。初発症状として最も頻度が高いものは、発熱、関節症状、皮膚粘膜症状である。全身倦怠感やリンパ節腫脹を伴う。関節痛(関節炎)は通常骨破壊を伴わない。皮膚粘膜症状として、日光過敏症や露光部に一致した頬部紅斑のほかに、手指や四肢体幹部に多彩な皮疹を呈し、脱毛、口腔内潰瘍などを呈する。その他、レイノー現象、腎炎に関連した浮腫、肺病変や血管病変と関連した労作時呼吸困難、肺胞出血に伴う血痰、漿膜炎と関連した胸痛・腹痛、神経精神症状など、さまざまな症状を呈しうる。■ 分類SLEは障害臓器と重症度により治療内容が異なる。とくに重要臓器として、腎臓、中枢神経、肺を侵すものが挙げられ、生命および機能予後が著しく障害される可能性が高い障害である。ループス腎炎は組織学的に分類されており、International Society of Nephrology/Renal Pathology Society(ISN/RPS)分類が用いられている。神経精神ループス(Neuropsychiatric SLE:NPSLE)では大きく中枢神経病変と末梢神経病変に分類され、それぞれの中でさらに詳細な臨床分類がなされる。■ 予後生命予後は、1950年代は5年生存率がおよそ50%であったが、2007年のわが国の報告では10年生存率がおよそ90%、20年生存率はおよそ75%である1)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)検査所見として、抗核抗体、抗(ds)DNA抗体、抗Sm抗体、抗リン脂質抗体(ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、β2GPⅠ依存性抗カルジオリピン抗体など)が陽性となる。また、血清補体低値、免疫複合体高値、白血球減少(リンパ球減少)、血小板減少、溶血性貧血、直接クームス陽性を呈する。ループス腎炎合併の場合はeGFR低下、蛋白尿、赤血球尿、白血球尿、細胞性円柱が出現しうる。SLEの診断では1997年の米国リウマチ学会分類基準2)および2012年のSystemic Lupus International Collaborating Clinics(SLICC)分類基準3)を参考に、他疾患との鑑別を行い、総合的に判断する(表1、2)。2019年に欧州リウマチ学会と米国リウマチ学会が合同で作成した新しい分類基準4)が提唱された。今後はわが国においても本基準の検証を元に診療に用いられることが考えられる。画像を拡大する表2 Systemic Lupus International Collaborating Clinics 2012分類基準画像を拡大するループス腎炎が疑われる場合は、積極的に腎生検を行い、ISN/RPS分類による病型分類を行う。50~60%のNPSLEはSLE診断時か1年以内に発症する。感染症、代謝性疾患、薬剤性を除外する必要がある。髄液細胞数、蛋白の増加、糖の低下、髄液IL-6濃度高値であることがある。MRI、脳血流シンチ、脳波で鑑別を進める。貧血の進行を伴う呼吸困難、両側肺びまん性浸潤影あるいは斑状陰影を認めた場合は肺胞出血を考慮する。全身症状、リンパ節腫脹、関節炎を呈する鑑別疾患は、パルボウイルス、EBV、HIVを含むウイルス感染症、結核、悪性リンパ腫、血管炎症候群、他の膠原病および類縁疾患が挙がるが、感染症を契機に発症や再燃をすることや、他の膠原病を合併することもしばしばある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)SLEの基本的な治療薬はステロイド、免疫抑制薬、抗マラリア薬であるが、近年は生物学的製剤が承認され、複数の分子標的治療が世界的に試みられている。ステロイドおよび免疫抑制薬の選択と使用量については、障害臓器の種類と重症度(疾患活動性)、病型分類、合併症の有無によって異なる。治療の際には、(1)SLEのどの障害臓器を標的として治療をするのか、(2)何を治療指標として経過をみるのか、(3)出現しうる合併症は何かを明確にしながら進めていくことが重要である。SLEの治療選択については、『全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019』の記載にある通り、重要臓器障害があり、生命や機能的予後を脅かす場合は、ステロイド大量投与に加えて免疫抑制薬の併用が基本となる5)(図)。ステロイドは強力かつ有効な免疫抑制薬でありSLE治療の中心となっているが、免疫抑制薬と併用することで予後が改善される。ステロイドの使用量は治療標的臓器と重症度による。ステロイドパルス療法とは、メチルプレドニゾロン(商品名:ソル・メドロール)250~1,000mg/日を3日間点滴投与、大量ステロイドとはプレドニゾロン換算で30~100mg/日を点滴もしくは経口投与、中等量とは同じく7.5~30mg/日、少量とは7.5mg/日以下が目安となるが、体重により異なる6)(表3)。ステロイドの副作用はさまざまなものがあり、投与量と投与期間に依存して必発である。したがって、副作用予防と管理を適切に行う必要がある。また、大量のステロイドを長期に投与することは副作用の観点から行わず、再燃に注意しながら漸減する必要がある。画像を拡大する画像を拡大する寛解導入療法として用いられる免疫抑制薬は、シクロホスファミド(同:エンドキサン)とミコフェノール酸モフェチル(同:セルセプト)が主体となる(ループス腎炎の治療については別項参照)。治療抵抗性の場合、免疫抑制薬を変更するなど治療標的を変更しながら進めていく。病態や障害臓器の程度により、カルシニューリン阻害薬のシクロスポリン(同:サンディミュン、ネオーラル)、タクロリムス(同:プログラフ)やアザチオプリン(同:イムラン、アザニン)も用いられる。症例に応じてそれぞれの有効性と副作用の特徴を考慮しながら選択する(表4)。画像を拡大するリツキシマブは、米国リウマチ学会(American College of Rheumatology:ACR)および欧州リウマチ学会(European League Against Rheumatism:EULAR)/欧州腎臓学会-欧州透析移植学会(European Renal Association – European Dialysis and Transplant Association:ERA-EDTA)の推奨7,8)においては、既存の治療に抵抗性の場合に選択肢となりうるが、重症感染症や進行性多巣性白質脳症の注意は必要と考えられる。わが国ではネフローゼ症候群に対しては保険承認されているが、SLEそのものに対する保険適用はない。可溶型Bリンパ球刺激因子(B Lymphocyte Stimulator:BLyS)を中和する完全ヒト型モノクローナル抗体であるベリムマブ(同:ベンリスタ)は、既存治療で効果不十分のSLEに対する治療薬として、2017年にわが国で保険承認され、治療選択肢の1つとなっている9)。本稿執筆時点では、筋骨格系や皮膚病変にとくに有効であり、ステロイド減量効果、再燃抑制、障害蓄積の抑制に有効と考えられている。ループス腎炎に対しては一定の有効性を示す報告10)が出てきており、適切な症例選択が望まれる。NPSLEでの有効性はわかっていない。ヒドロキシクロロキン(同:プラケニル)は海外では古くから使用されていたが、わが国では2015年7月に適用承認された。全身症状、皮疹、関節炎などにとくに有効であり、SLEの予後改善、腎炎の再燃予防を示唆する報告がある。短期的には薬疹、長期的には網膜症などの副作用に注意を要し、治療開始前と開始後の定期的な眼科受診が必要である。アニフロルマブ(同:サフネロー)はSLE病態に関与しているI型インターフェロンα受容体のサブユニット1に対する抗体製剤であり、2021年9月にわが国でSLEの適応が承認された。臨床症状の改善、ステロイド減量効果が示された。一方で、アニフロルマブはウイルス感染制御に関与するインターフェロンシグナル伝達を阻害するため、感染症の発現リスクが増加する可能性が考えられている。執筆時点では全例市販後調査が行われており、日本リウマチ学会より適正使用の手引きが公開されている。実臨床での有効性と安全性が今後検証される。SLEの病態は複雑であり、臨床所見も多岐にわたるため、複数の診療科との連携を図りながら各々の臓器障害に対する治療および合併症に対して、妊娠や出産、授乳に対する配慮を含めて、個々に応じた管理が必要である。4 今後の展望本稿執筆時点では、世界でおよそ30種類もの新規治療薬の第II/III相臨床試験が進行中である。とくにB細胞、T細胞、共刺激経路、サイトカイン、細胞内シグナル伝達経路を標的とした分子標的治療薬が評価中である。また、異なる作用機序の薬剤を組み合わせる試みもなされている。SLEは集団としてヘテロであることから、適切な評価のためのアウトカムの設定方法や薬剤ごとのバイオマーカーの探索が同時に行われている。5 主たる診療科リウマチ・膠原病内科、皮膚科、腎臓内科、その他、障害臓器や治療合併症に応じて多くの診療科との連携が必要となる。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 全身性エリテマトーデス(公費対象)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報全国膠原病友の会(膠原病患者とその家族の会)1)Funauchi M, et al. Rheumatol Int. 2007;27:243-249.2)Hochberg MC, et al. Arthritis Rheum. 1997;40:1725.3)Petri M, et al. Arthritis Rheum. 2012;64:2677-2686.4)Aringer M, et al. Ann Rheum Dis. 2019;78:1151-1159.5)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業 自己免疫疾患に関する調査研究(自己免疫班),日本リウマチ学会(編):全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019.南山堂,2019.6)Buttgereit F, et al. Ann Rheum Dis. 2002;61:718-722.7)Hahn BH, et al. Arthritis Care Res (Hoboken). 2012;64:797-808.8)Bertsias GK, et al. Ann Rheum Dis. 2012;71:1771-1782.9)Furie R, et al. Arthritis Rheum. 2011;63:3918-3930.10)Furie R, et al. N Engl J Med. 2020;383:1117-1128.公開履歴初回2018年04月10日更新2022年02月25日

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日本人若年者のピロリ除菌療法、第1選択は?

 若年者のHelicobacter pylori(以下、ピロリ菌)感染に対する除菌治療は、胃がん予防に有効である。今回、JAPAN GAST Study Groupが、プロトンポンプ阻害薬ベースのトリプル療法(PACおよびPAM)について若年者での有効性を多施設無作為化比較試験で検討したところ、PAMによる除菌率がPACより有意に高いことが示された。研究グループは「抗菌薬感受性試験が実施できない場合、PAMが若年者のピロリ菌除菌の第1選択となりうる」としている。Journal of Infection and Chemotherapy誌オンライン版2018年3月28日号に掲載。 本試験は2012年2月~2015年3月に実施。ピロリ菌感染者を青年期(13~19歳)と若年成人期(20~39歳)に層別化し、クラリスロマイシンベース(PAC)またはメトロニダゾールベース(PAM)のトリプル療法(1週間)に無作為に割り付けた。 主な結果は以下のとおり。・137人がPAC、169人がPAMによる除菌治療を受けた。・青年における除菌率は、ITT(intention-to-treat)解析およびPP(per-protocol)解析でそれぞれ、PACで60.5%および63.4%、PAMで98.3%および100%であった。・若年成人における除菌率は同様に、PACで67.0%および66.7%、PAMで95.5%および96.3%であった。・PAMによる除菌率はどちらの年齢層でもPACより有意に高かった。・両群とも重篤な有害事象は認められなかった。

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ラッサ熱に気を付けろッ! その1【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。いやー、しかしまったりとし過ぎましたね…。もう前回から4ヵ月も経っちゃってるし。隔週連載とか言ってたのに年3回ペースですね。でも、ほら、なんつーか、スランプなんですよ。もう納得できる原稿が書けないっつーか。イチローだってさすがに打率が1割切ったら引退するでしょ? もうオレもケアネット引退しようかなって思ってたんですよ。引退する前に解雇されそうなんですけどね。そもそも連載は新興再興感染症の連載なんですけどね、皆さん、ぶっちゃけ新興再興感染症に興味ありますか? ないでしょ。どうせビットコインとか加計学園とかのほうが興味あるでしょ。そんなこんなでスランプにあえいでいたらさ…嫁が励ましてくれるんですよ。いいから書けって。面白くなくてもいいから書けって。いい嫁でしょ? とにかく書きなさいって言うんですよ。んで金を稼げって。住宅ローン組んだばっかりだろうがって、言うわけですよ。途中から「あ、これ励ましじゃないな」って気付いたんですけどね。まぁとにかく原稿を書いてローンを返済しろ、と。世知辛いですな。私が「スランプで原稿書けないんで、その代わり当直バイトするんで勘弁してください」って言ったら、「じゃあ当直中に原稿書け」って。天才かよって思いましたね。その手があったか!って、一挙両得じゃんって。そういうわけで、今まさに言われるまま、当直中に原稿を書いている私であります。エボラ出血熱とシンクロする流行地域そんなことで、今日は「ラッサ熱」の話でいいですか。前回、次はバベシアって言ったんですが、どうせ誰もバベシアとか興味ないし。だって今、ラッサ熱がナイジェリアでアウトブレイクしてるんですよ。2013~14年のエボラのような危機が訪れるのか、今まさにその瀬戸際にいるのですッ! そんな感じでムリヤリ自分のテンションを高めながらラッサ熱を紹介していきますッ!と思ったら、看護師さんに呼ばれたんでちょっといってきます。そのまま待っててください。…すいません、おまたせしました。すっかりテンション下がっちゃいましたね。まぁいいか。ラッサ熱について紹介していきますね。ラッサ熱って病気を聞かれたことはありますでしょうか。ラッサ熱はアレナウイルス科ラッサウイルスによる感染症で、エボラ出血熱などと同じ、いわゆるウイルス性出血熱の1つです。日本では一類感染症に指定されています。つまり、ラッサ熱が疑われる患者がいた場合、ただちに保健所に連絡して、日本に約50施設ある特定または第一種感染症指定医療機関に搬送する必要があります。皆さま自身の身を守るためには、不要な曝露は避け、保健所の指示を仰いでください。自然宿主はマストミス(Mastomys natalensis)という野ネズミです。マストミスのフリー素材がありませんでしたので、代わりに図1に「かわいいフリー素材集 いらすとや」の野ネズミのイラストを貼っておきますね(いらねーっつーの)。「マストミス」でググってみると写真がいっぱい出てきますので、参考にしてください。図1 野ネズミ(マストミスもだいたいこんな感じ)画像を拡大するヒトはこのラッサウイルスに感染したマストミスに咬まれたり、尿や便などに接触したり、エアロゾル化した排泄物を吸引したり、あるいは食べたりすることによってラッサ熱に感染します。ラッサ熱の発生地域は、このマストミス分布と一致しているといわれています。また、ラッサ熱はウイルス性出血熱ですので、エボラ出血熱と同様にヒト-ヒト感染が起こりえます。ラッサ熱患者の血液、吐しゃ物、便などに曝露することによって感染することがあります。したがって、われわれ医療従事者は、とくにハイリスクということになります。診療に当たっては適切な標準防護具を装着するようにしなければなりませんし、日本では特定または第一種感染症指定医療機関で診療することとなっております。図2はラッサ熱の流行地域ですが、いわゆる西アフリカと呼ばれる地域の中でも、とくに赤道に近い国々ということになります。注意すべきポイントとしては、2013~14年にエボラ出血熱が流行したギニア、リベリア、シエラレオネもこのラッサ熱の流行地域になっていることです。すなわちッ! これらの国から帰国後にウイルス性出血熱が疑われる場合には、ラッサ熱だけでなくエボラ出血熱も考慮すべしッ! ということです。実際にはマラリアが多い地域ですので、まずはマラリアの除外が重要です。図2 ラッサ熱の流行地域画像を拡大する青色:ラッサ熱の症例やアウトブレイクが報告されている地域緑色:ラッサ熱の症例報告や抗体陽性者が見つかっている地域灰色:ラッサ熱の流行状況が不明な地域(文献2より引用)8割の患者は自然軽快するけれど…さて、臨床症状についてですが、ラッサ熱というと超ヤバい感染症のように思われますが、まぁ実際超ヤバい感染症なんですけど、エボラ出血熱と比較するともう少しマイルドな感染症だと考えられています。潜伏期は1~3週くらいで発症しますが、およそ8割の感染者は微熱、頭痛、倦怠感くらいで自然に軽快すると考えられています。そして、残りの2割は下痢・嘔吐・腹痛などの消化器症状、咽頭痛や咳嗽などの呼吸器症状、鼻出血や吐血・下血などの出血症状を呈します。重症例では多臓器不全で死に至ります。ラッサ熱患者全体の死亡率は1%程度ですが、入院するような重症例では死亡率は15~30%にもなります。エボラ出血熱は発症者がほぼ全員重症化し、30~40%が死亡していますので対照的ですね。血液検査上は他のウイルス性出血熱と同様に、白血球減少、血小板減少、肝酵素上昇、凝固系異常、腎機能障害などがみられます。お~っと、危ない! もうそろそろドクターストップがかかりそうなんで、次回でいいですか。原稿は3,000字を超えるな、超える場合はコピペを多用しろって主治医に言われてますから。まぁ、主治医って私自身なんですけどね。まだスランプ中ですから、ゆっくりいきましょうよ。おかげさまでリハビリができましたので、次はさすがに4ヵ月は空けないと思います。次回は、日本国内での診断、治療として唯一報告されたウイルス性出血熱であるラッサ熱の輸入例について、また、ナイジェリアでの流行状況についてもご紹介したいと思います!1)Fisher-Hoch SP, et al. BMJ. 1995;311:857-859.2)Centers for Disease Control and Prevention . Lassa Fever Outbreak Distribution Map.

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市中肺炎の高齢者、再入院しやすい患者は?

 市中肺炎(CAP)で入院した患者では、複数の併存疾患を有する高齢者において再入院が多く、臨床的および経済的負担が生じる。スペインのProject FIS PI12/02079 Working Groupが横断研究を行ったところ、65歳以上のCAP患者の11.39%が退院後30日以内に再入院し、その関連因子として「15歳未満の同居者あり」「発症前90日に病院受診が3回以上」「慢性呼吸不全」「心不全」「慢性肝疾患」「退院先が在宅医療サービスのある自宅」が挙げられた。BMJ open誌2018年3月30日号に掲載。 本研究は、2回のインフルエンザシーズン(2013~14年および2014~15年)にスペインの7地域20病院の入院患者において実施した。対象は、CAPと診断され救急部から入院した65歳以上の患者で、初回入院時に死亡した患者と30日以上入院した患者は除外した。最終的に1,756例のCAP症例が含まれ、これらのうち200例(11.39%)が再入院した。主要アウトカムは退院後30日以内の再入院とした。 主な結果は以下のとおり。・退院後30日以内の再入院に関連した因子の調整オッズ比(95%信頼区間)  15歳未満の同居者あり:2.10(1.01~4.41)  発症前90日に病院受診が3回以上:1.53(1.01~2.34)  慢性呼吸不全:1.74(1.24~2.45)  心不全:1.69(1.21~2.35)  慢性肝疾患:2.27(1.20~4.31)  退院先が在宅医療サービスのある自宅:5.61(1.70~18.50)・年齢、性別、入院前5年間での肺炎球菌ワクチン接種、入院前3シーズンでの季節性インフルエンザワクチン接種との関連はみられなかった。

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米国で死亡率が増えている感染症は?/JAMA

 1980~2014年の米国における感染症死亡の動向を調べた結果、ほとんどの感染症疾患で死亡は減少していたが、郡(county)レベルでみるとかなりの格差があった。さらに同期間中に下痢症の死亡は増大していたという。米国・ワシントン大学のCharbel El Bcheraoui氏らによる調査報告で、JAMA誌2018年3月27日号で発表された。感染症はほとんどが予防可能だが、米国ではいまだに公衆衛生上の脅威とみなされている。そうした中でこれまで、郡レベルの感染症死亡の推定値は把握されていなかった。1980~2014年の下気道感染症、下痢症、HIV/AIDS、髄膜炎、肝炎、結核死亡率を推算 研究グループは、1980~2014年の下気道感染症、下痢症、HIV/AIDS、髄膜炎、肝炎、結核による年齢標準化死亡率と郡レベルの動向を、全米保健医療統計センター(National Center for Health Statistics:NCHS)の非識別死亡記録、国勢調査局(US Census Bureau)やNCHS、Human Mortality Databaseの集団計数を用いて推定した。郡レベルの感染症死亡率は、これらのデータを小地域別推定モデル(small-area estimation model)に適用して検証した。 主要評価項目は、下気道感染症、下痢症、HIV/AIDS、髄膜炎、肝炎、結核による年齢標準化死亡率で、郡、年次、性別ごとに推算し評価した。2014年の感染症死亡の主因は下気道感染症、26.87/10万人 1980~2014年に米国で記録された感染症死亡は、408万1,546例であった。 2014年の感染症死亡は11万3,650例(95%不確定区間[UI]:10万8,764~11万7,942)で、死亡率は10万人当たり34.10(95%UI:32.63~35.38)であったのに対し、1980年はそれぞれ7万2,220例(95%UI:6万9,887~7万4,712)、41.95(95%UI:40.52~43.42)であった。全体では、18.73%(95%UI:14.95~23.33)減少していた。 2014年の感染症死亡の主因は下気道感染症で(全感染症死亡数の78.80%)、死亡率は10万人当たり26.87(95%UI:25.79~28.05)であった。 すべての感染症による死亡率について、郡間にかなりの差があった。絶対死亡率の郡間のばらつきが最も大きかったのは下気道感染症で、死亡率の分布区分の差(10thパーセンタイル区分と90thパーセンタイル区分の差)は、10万人当たり24.5であった。ただし、死亡率の相対比(分布区分の10thパーセンタイル区分と90thパーセンタイル区分の比)が最も高かったのはHIV/AIDSで、10.0であった。 髄膜炎、結核の死亡率は、対象期間中すべての郡で低下していた。 しかしながら唯一、下痢症による死亡率だけは、2000~14年にかけて上昇していた。死亡率は10万人当たり2.41(95%UI:0.86~2.67)に達しており、高死亡率の郡の大部分は、ミズーリ州から米国北東部の地域にわたっていた。

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民谷式 内科系試験対策ウルトラCUE Vol.3

第9回  消化器(肝胆膵) 第10回 消化器(消化管) 第11回 感染症 第12回 呼吸器 内科系試験に対応した全3巻の基本講座の第3巻です。試験内容が異なる認定内科医と総合内科専門医試験ですが、学生の頃に学んだことを復習するというスタートラインは同じ。全13領域で出題頻度の高いテーマを、わかりやすいシェーマと明快な講義で総復習しましょう。題名の「CUE」は放送業界用語の「キュー」、『臨床的有用性』(Clinical Utility)、そしてパーキンソン病医療における「CUE」から来ています。つまり、「動こうとしてもはじめの一歩が踏み出せない状態」に対して、このレクチャーが試験勉強を始める一歩を踏み出すきっかけになってほしいという思いです。講師の民谷先生の実臨床経験を組み込んだクリアな解説は、とても役に立ちます。専門外や苦手科目からチェックして、次のステップへ進んでください。第9回 消化器(肝胆膵)出題数の多い消化器領域は、まずは民谷式の解剖図を用いて肝臓の病態や疾患を解説します。ミクロの視点で疾患を整理していくと、長い臨床問題を論理的な筋道を追いながらスムーズに解いていけるようになります。また、この領域でとくに出題が多いのはIgG関連疾患。試験に役立つポイントが丸わかりです。第10回 消化器(消化管) 出題数の多い消化器領域の消化管領域について取り上げます。まずは消化管の壁断面をおさらいしてから、それぞれの疾患について掘り下げていきます。クローン病と潰瘍性大腸炎、マロリー・ワイス症候群と特発性食道破裂。症状が似たの疾患の区別も、民谷式オリジナルシェーマを用いた解説ですんなりと頭に入ります。第11回 感染症 感染症の領域では、原因微生物・薬理学・臨床症状を総合して理解することが大切になります。民谷式でわかりやすくまとめた表で一つひとつ整理していくと、長い臨床問題を短い時間で解くためのポイントがわかっていきます。さらにどの抗菌薬がどこまでカバーしているかをまとめた表は、試験に必ず役に立ちます。第12回 呼吸器 呼吸器領域では、肺の疾患を中心におさらいしていきます。民谷式オリジナルの簡略化したシェーマでまずは全体の流れを掴みます。臨床問題では、低酸素血症と二酸化炭素が不足している状態をしっかり分けて考えることが、問題文を読み解くヒントになります。

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抗菌薬が効かなくなる -AMR(薬剤耐性)との闘いに人類は勝てるのか?

感染症のエキスパートとAMR対策行政官が、その「危機」を伝えますフレミングが「ペニシリン」を発見して90年。人類は感染症を克服するかにみえましたが、すぐさま病原菌は抗菌薬に対し耐性を獲得、再び人類を脅かす存在となりました。薬剤耐性(AMR)の問題です。2050年には耐性菌による死者は1,000万人と推定され、2015年世界保健機関(WHO)は「薬剤耐性に関する国際行動計画」を採択し、厚生労働省もただちに動きだしました。この運動のきっかけとなったのが本書("The Drugs Don’t Work")です。原著者のサリー・デービスは英国保健省のトップであり、監訳に感染症専門医の忽那賢志医師を迎え、井上肇WHO事務局長補、長谷川学内閣官房国際感染症対策調整室企画官が編集を務め、ここに「感染症エキスパート」と「AMR対策行政官」がタッグを組んだ書籍が出来上がりました。日本語版には,オリジナルコンテンツ(わが国の薬剤耐性菌対策)も加わり、まさに感染症に関わる臨床医、専門家、行政官が訴える危機と対策が各視点で述べられています。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。    抗菌薬が効かなくなる-AMR(薬剤耐性)との闘いに人類は勝てるのか?定価1,900円 + 税判型A5判 ソフトカバー頁数124頁発行2018年4月原著者Sally C. Davies監訳忽那 賢志編集井上 肇・長谷川 学訳・著者高山 義浩Amazonでご購入の場合はこちら

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siponimod、二次性進行型多発性硬化症の身体的障害の進行を抑制/Lancet

 スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体のS1P1およびS1P5サブタイプ選択的調節薬であるsiponimodは、二次性進行型多発性硬化症(SPMS)患者において、身体的障害の進行リスクを低下させ、安全性プロファイルは他のS1P受容体調節薬と同様であることが認められた。スイス・バーゼル大学のLudwig Kappos氏らが、siponimodの無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験(EXPAND試験)の結果を報告した。SPMSは、再発とは無関係に障害が徐々に進行し続けることが特徴で、これまで身体的障害の進行を遅延させる効果を示した治療はなかった。著者は、「siponimodはSPMSの治療に役立ちそうである」とまとめている。Lancet誌オンライン版2018年3月22日号掲載の報告。SPMS患者約1,650例で身体的障害の進行を評価 EXPAND試験は、31ヵ国の292施設で、総合障害度評価尺度(EDSS)が3.0~6.5点のSPMS患者(18~60歳)を対象に行われた。被験者を、siponimod群(1日1回2mgを経口投与)またはプラセボ群に2対1の割合で無作為に割り付け、最長3年、あるいは事前に定義した身体的障害の進行(confirmed disability progression:CDP)イベントが生じるまで投与した。 2013年2月5日~2015年6月2日に、1,651例が無作為化を受けた(siponimod群1,105例、プラセボ群546例)。 主要評価項目は、3ヵ月以上継続するCDPが認められるまでの期間。有効性は最大解析集団(無作為化と試験薬の投与を受けた全患者)で、安全性は安全性解析対象集団で評価し、Cox比例ハザードモデルを用いて解析した。3ヵ月以上継続する身体的障害の進行リスク、siponimod群21%低下 1,651例の患者背景は、多発性硬化症の罹病期間が平均(±SD)16.8±8.3年、SPMSへ移行してからの期間が平均3.8±3.5年で、1,055例(64%)は過去2年間に再発がなく、918例(56%)が歩行介助を必要とした。 解析集団には、siponimod群の同意が得られなかった1例と試験薬の投与を受けなかった5例を除く計1,645例(siponimod群1,099例、プラセボ群546例)が包含され、siponimod群903例(82%)、プラセボ群424例(78%)が試験を完遂した。 siponimod群1,096例中288例(26%)、プラセボ群545例中173例(32%)で、3ヵ月以上継続するCDPが確認された(ハザード比:0.79、95%CI:0.65~0.95、相対リスク低下21%、p=0.013)。有害事象の発現率はsiponimod群89%(975/1099例)、プラセボ群82%(445/546例)で、重篤な有害事象はそれぞれ197例(18%)および83例(15%)が報告された。リンパ球減少症、肝トランスアミナーゼ上昇、投与開始時の徐脈/徐脈性不整脈、黄斑浮腫、高血圧、帯状疱疹、痙攣に関しては、プラセボ群よりsiponimod群で多く認められた。心臓への影響は初期の漸増投与により軽減した。感染症や悪性腫瘍の頻度、および死亡率は両群に違いはなかった。

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全国の抗菌薬の使用状況が一目瞭然

 薬剤耐性(AMR)対策のために国立国際医療研究センターに設置された「AMR臨床リファレンスセンター」(センター長:大曲 貴夫氏)は、国内初の取り組みとして「国内都道府県別抗菌薬使用量(販売量)統計データ」の公開ならびに「薬剤耐性(AMR)ワンヘルス動向調査」のWEBサイト開設を4月3日に発表した。これら抗菌薬使用量や薬剤耐性菌のサーベイランス(調査・監視システム)は、今後のAMR対策の重要な基礎データとなる。2016年の抗菌薬使用量が一番多いのは石川県 「都道府県別抗菌薬使用量(販売量)集計データ」は、AMRアクションプラン実行のため、都道府県別抗菌薬使用量や使用増減率を発表することで、医療従事者をはじめ行政団体への抗菌薬処方量の意識改革につなげる。また、サーベイランス事業を通じ、情報の収集・分析・発信を積極的に行うことでAMRの認知、啓発を行うことを目的に公開される。 今回公開された2016年の「都道府県別抗菌薬使用量」では、石川県、徳島県、大分県、東京都、広島県の順で多く、とくに石川県では、「ペニシリン以外のβラクタム」の使用が目立った。また、「都道府県別抗菌薬使用量増減2013~2016」では、石川県、沖縄県、大分県の順で増加していることが示された。 主な公開データとして「抗菌薬使用量変化2013-2016(抗菌薬種類別)」「同(投与経路別)」「都道府県別抗菌薬使用量2013-2016」「同(薬効割合)」「都道府県別抗菌薬使用増減 2013-2016」などを照会することができる。・都道府県別抗菌薬使用量サーベイランス薬剤耐性をワンヘルスの視点からみる 「薬剤耐性ワンヘルス動向調査」は、ヒト・動物・食品および環境から分離される薬剤耐性菌に関する統合的なワンへルス動向調査データである。これらのデータは、AMRの現状把握、問題点抽出、適切な施策の遂行に役立てられ、データは視覚的なグラフと表形式を用意し、直感的でわかりやすく提供されている。 今後、多分野間の連携・協力が進むことで、AMR対策のさらなる前進が期待され、これら先進的な調査が、世界のAMR対策をリードするうえでも重要になると考えられている。 主な統計データとして「耐性菌・感染症の推移」「抗菌薬の推移」「一般国民の意識」「医療関係者の意識」の4つを照会することができる。・薬剤耐性ワンヘルス動向調査

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再発・難治性CLLにvenetoclaxとリツキシマブ併用が有効/NEJM

 再発または難治性(R/R)慢性リンパ性白血病(CLL)患者において、venetoclax+リツキシマブ併用療法は、ベンダムスチン+リツキシマブ併用療法より無増悪生存率が有意に高率であることが示された。オーストラリア・メルボルン大学のJohn F. Seymour氏らが、多施設共同無作為化非盲検第III相試験「MURANO試験」の結果を報告した。venetoclaxは、CLLで過剰発現し、CLL細胞の生存に重要な役割を持つ抗アポトーシス蛋白のB細胞リンパ腫-2(BCL-2)を阻害する経口薬で、venetoclax+リツキシマブ併用療法は、忍容性が良好でvenetoclax単独療法よりも有効性が期待できることが示唆されていた。NEJM誌2018年3月22日号掲載の報告。venetoclaxまたはベンダムスチンとリツキシマブとの併用療法を比較 MURANO試験は、2014年3月31日~2015年9月23日の期間で、20ヵ国109施設で実施された。対象は1~3レジメンの治療歴があるR/R CLL患者389例で、venetoclax+リツキシマブ群(venetoclaxを最長2年間、リツキシマブを最初の6ヵ月間投与)と、ベンダムスチン+リツキシマブ群(ベンダムスチンとリツキシマブを6ヵ月間投与)に無作為に割り付けた。ベンダムスチン+リツキシマブ群で病勢進行した場合、venetoclax+リツキシマブ群へのクロスオーバーは行わなかった。 主要評価項目は、治験担当医師の評価による無増悪生存期間(PFS)とし、有効性はintention-to-treat集団で解析した。venetoclax+リツキシマブ群で無増悪生存期間が延長 追跡期間中央値23.8ヵ月において、治験担当医師の評価によるPFS中央値は、venetoclax+リツキシマブ群未到達(進行/死亡は32/194例)、ベンダムスチン+リツキシマブ群17.0ヵ月(同114/195例)と、venetoclax+リツキシマブ群で有意に延長した。2年無増悪生存率は、それぞれ84.9%および36.3%であった(進行/死亡のハザード比[HR]:0.17、95%信頼区間[CI]:0.11~0.25、層別log-rank検定のp<0.001)。 サブグループ解析の結果、染色体17p欠失患者を含むすべての臨床的および生物学的サブグループにおいて、一貫したPFSの改善が認められた。染色体17p欠失患者の2年無増悪生存率は、venetoclax+リツキシマブ群で81.5%、ベンダムスチン+リツキシマブ群で27.8%(HR:0.13、95%CI:0.05~0.29)、非染色体17p欠失患者でそれぞれ85.9% vs.41.0%であった(HR:0.19、95%CI:0.12~0.32)。 venetoclax+リツキシマブのベンダムスチン+リツキシマブに対する有効性は、独立評価委員会の評価によるPFSおよび他の副次有効性評価項目の結果によっても確認された。 Grade3/4の好中球減少症の発現率は、venetoclax+リツキシマブ群がベンダムスチン+リツキシマブ群より高値であったが、Grade3/4の発熱性好中球減少症および感染症/寄生虫感染症の発現率は、venetoclax+リツキシマブ群が低値であった。venetoclax+リツキシマブ群におけるGrade3/4の腫瘍崩壊症候群の発現率は3.1%(6/194例)であった。

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ポケット呼吸器診療2018

呼吸器診療で役立つマニュアルの最新版が登場!呼吸器領域の診療のお供として、絶大な支持を得ている『ポケット呼吸器診療』の最新版の登場です。今版では、改訂部分を色付けして変更点を強調、各種ガイドラインの改訂にも対応し、最新情報にアップデートしています。また、新項目として喀血、肺ノカルジア症、リンパ脈管筋腫症、胸腺腫・胸腺がん、気胸、肺血栓塞栓症などを追加しました。臨床で使える邪魔にならない小さなマニュアル(新書判)で、呼吸器疾患の診療手順/処方例/診療指針・ガイドラインを掲載しています。とくに患者さんへの病状説明のポイント、よくある質問の回答例の掲載も本書の特色です。著者の「実臨床で使用することを最優先に、不要な贅肉を極限までこそぎ落とした」という制作理念を具現化した本書は、呼吸器診療に携わる医療者は持っておきたい1冊です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。    ポケット呼吸器診療2018定価1,800円 + 税判型新書判頁数221頁発行2018年3月著者倉原 優監修林 清二Amazonでご購入の場合はこちら

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TNF受容体関連周期性症候群〔TRAPS:Tumor necrosis factor receptor-associated periodic syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義TNF受容体関連周期性症候群(Tumor necrosis factor receptor-associated periodic syndrome:TRAPS)は、常染色体優性形式をとる家族性の周期性発熱・炎症疾患である。本疾患は1982年にWilliamsonらが再発性の発熱、皮疹、筋痛、腹痛を呈するアイルランド/スコットランドの1家系を見いだし、“familial Hibernian fever”として報告したことに始まる。1999年にMcDermottらが1型TNF受容体の遺伝子変異が本疾患の原因であることを報告し“TRAPS”と命名した1)。その論文において、自己炎症という新しい疾患概念が提唱された。TRAPSは自己炎症疾患(autoinflammatory disease)の代表的疾患であり、自己抗体や自己反応性T細胞によって生じる自己免疫疾患(autoimmune disease)とは異なり、自然免疫系の異常によって発症すると考えられている。本症は2015年1月1日より医療費助成対象疾患(指定難病、小児慢性特定疾病)となった。■ 疫学欧米人、アジア人、アフリカ系アメリカ人などさまざまな人種において、まれな疾患として報告されている。「TNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)の病態の解明と診断基準作成に関する研究」研究班(研究代表者:堀内孝彦[九州大学] 平成22-24年度 厚生労働省)が行った全国調査では、わが国には少なくとも33家系51例の患者がいることが明らかになった2)。■ 病因1型TNF受容体遺伝子(TNFRSF1A)の変異で生じる。1型TNF受容体は455個のアミノ酸より構成され、細胞外ドメインの4つのCRD(cysteine-rich domain)と細胞膜貫通部、細胞内ドメインと細胞内のDD(death domain)という特徴的な構造を持っている。TRAPSで報告されている変異のほとんどはCRD1とCRD2をコードしているエクソン2-4の単一塩基ミスセンス変異である。なかでもタンパクの高次構造に重要な働きをしているジスルフィド(S-S)結合を形成するシステイン残基の変異が多い。これらの変異がTRAPSの病態形成にいかに関与するかは、いくつかの仮説が提唱されてきた。現時点では次のように考えられている。高次構造の異常によるmisfolding(タンパク質の折り畳みの不良)のため、変異1型TNF受容体は細胞表面へ輸送されずに小胞体内に停滞する。小胞体内の変異1型TNF受容体は、ミトコンドリアからのROS産生を介して細胞内のMAPキナーゼ脱リン酸化酵素を阻害することにより、定常状態でのMAPキナーゼを活性化状態にする。これだけでは炎症性サイトカイン産生の誘導は起こらないが、細菌感染などでToll様受容体からのシグナルが加わることにより、IL-1、IL-6、TNFなどの炎症性サイトカイン産生誘導が起こると考えられる。また、マクロファージなどのTNF産生細胞では、片方の対立遺伝子由来の正常なTNF受容体からのシグナルにより、炎症がパラクライン的に増幅されると考えられる3)。■ 症状TRAPSは常染色体優性の遺伝形式をとり、典型的な変異を示すものでは浸透率は85%以上と高い。発症年齢は同一家族内でも一定ではなく、乳児期から成人期に至るまで幅広い。症状の種類については2002年にHullらが提案したTRAPS診断指針を参照いただきたい(表1)4)。発作時には、38℃以上の発熱はほぼ必発であり、それに加えて腹痛、筋痛、皮疹、結膜炎、眼窩周囲浮腫、胸痛、関節痛などの随伴症状をともなう。わが国のTRAPS患者での個々の症状の頻度を表2に示す2)。表1 TRAPS診断指針1. 6ヵ月を超えて反復する炎症症状によるエピソードの存在(いくつかは同時にみられることが一般的)(1)発熱(2)腹痛(3)筋痛(移動性)(4)皮疹(筋痛を伴う紅斑様皮疹)(5)結膜炎・眼窩周囲浮腫(6)胸痛(7)関節痛、あるいは単関節滑膜炎2. エピソードの持続期間が(エピソードごとにさまざまだが)平均して5日を超える3. ステロイドに反応するがコルヒチンには反応しない4. 家族歴あり(いつも認められるとは限らない)5. どの人種、民族でも起こりうる画像を拡大する1)発熱最も特徴的でありTRAPSを疑うきっかけになる。1ヵ月~数ヵ月の間隔で不規則に繰り返す。発熱の期間は通常1~4週間であることが多く、平均21日程度である。2)腹痛日本人の頻度は欧米人に比べて少ない。腹膜炎や腸炎、腹壁の筋膜炎によって生じる。嘔気や便秘を伴うこともある。3)筋痛原因は筋炎というよりも筋膜炎と考えられている。症状は通常1ヵ所に起こり、発作期間中に寛解と増悪を繰り返す。4)皮疹(図1A)遠心性に移動性の紅斑であり筋痛の位置に一致することも多い。熱感と圧痛を有し、自然消退する。5)結膜炎・眼窩周囲浮腫(図1B)片側性または両側性の結膜炎、眼窩周囲浮腫、眼窩周囲痛が発作期間中に出現する。6)胸痛胸膜炎や胸壁の筋膜炎による症状である。7)関節痛非破壊性、非対称性で下肢の大関節に起きることが多い。画像を拡大する■ 予後TRAPSの長期予後については不明な点が多いが、経過とともに症状が増悪していく症例も、軽症化していく症例もみられる。長期的な経過では、ステロイド治療の副作用や、アミロイドーシスの合併が問題となる。欧米ではアミロイドーシスは10%の合併頻度であるが、わが国の全国調査ではアミロイドーシス合併例の報告はない。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)2002年、Hullらは症状、家族歴などから構成される「TRAPS診断指針」を発表したが、これは診断基準ではなく、遺伝子検査の適応を判断するための指針であった(表1)。TRAPS診断のgold standardは遺伝子検査である。疾患関連性が明確なTNFRSF1A遺伝子異常は、CDR1、CDR2のシステインの変異、T50M変異などである。これらが認められれば診断は確定する。その一方で、病的意義の明らかではない多型も存在する。その代表は、欧米ではP46LとR92Qである。これらは欧米の健常人の数%に認められるため、病的意義について議論がある。P46LとR92QのTRAPSは浸透率が低く、軽症で予後が良い。わが国ではT61Iが最も多くのTRAPS患者から報告されているが、健常人にも約1%の対立遺伝子頻度で認めるため病的意義については議論がある6)。TNFRSF1A遺伝子異常のリストは、INFEVER websiteで参照できる。「自己炎症疾患とその類縁疾患に対する新規診療基盤の確立」研究班(研究代表者:平家俊男[京都大学]平成24-26年度 厚生労働省)では、前述の厚生労働省堀内班の研究結果を踏まえてTRAPS診療フローチャートを作成した。この診断フローチャートは、指定難病、小児慢性特定疾病の診断基準として利用されている(図2)。6ヵ月以上の炎症兆候の反復を必須条件とし、家族歴などの補助項目を満たす場合に遺伝子検査を推奨している。最終的な診断は遺伝子検査による。遺伝子検査結果の解釈は専門家への相談が必要である。画像を拡大する2015年、ヨーロッパの小児リウマチ学会(Paediatric Rheumatology International Trials Organisation:PRINTO)は、ヨーロッパを中心とした自己炎症症候群患者のデータベース(Eurofever registry)のデータを元に、家族性地中海熱、メバロン酸キナーゼ欠損症、クリオピリン関連周期熱症候群、TRAPSの予備的臨床的診断基準を作成し発表した(表3)7)。作成にあたり遺伝子検査で診断が確定した患者がgold standardとされた。TRAPSのP46LとR92Qのような浸透率の低い遺伝子異常や疾患関連性が不明な遺伝子異常は除外された。陰性対照群としてPFAPA症候群を加えた5疾患の患者群の臨床所見について多変量解析が行われ、各疾患を区別する項目が抽出され、そして、各項目をスコア化して診断基準が作成された。診断基準の適用については、感染症や他のリウマチ性疾患などを除外していることが重要な前提条件である。この予備的臨床的診断基準は、遺伝子検査の適応の判断や、疾患関連性が不明な遺伝子異常を有する患者の診断において参考にできる。将来的には、検査値や遺伝子検査と組み合わせた診断基準の作成が期待される。画像を拡大する症状は典型的な有熱性エピソードに関連してなければならない(感染症などの併存疾患を除外する)。†:末梢側へ向かって移動する紅斑であり、最も典型的には筋痛の部位を覆い、通常四肢または体幹に生じる。‡:東地中海:トルコ人、アルメニア人、非アシュケナージ系ユダヤ人、アラブ人  北地中海:イタリア人、スペイン人、ギリシャ人略称FMF:家族性地中海熱 MKD:メバロン酸キナーゼ欠損症 CAPS:クリオピリン関連周期熱症候群 TRAPS:TNF受容体関連周期性症候群■ 検査本症に疾患特異的なバイオマーカーはない。発作時に血沈、CRP、フィブリノゲン、フェリチン、血清アミロイドA蛋白などの急性期反応物質の増加が認められる。好中球の増加、慢性炎症に伴う小球性低色素性貧血、血小板の増加なども認められる。これらの検査値は発作間欠期にも正常ではないことがある。筋症状があっても、CK、アルドラーゼの上昇は認められない。最も重篤な合併症であるアミロイドーシスでは腎病変の頻度が高く、蛋白尿が認められるため、早期発見のために定期的な尿検査が推奨される。血清中の可溶型1型TNF受容体濃度の低値が特徴的とされていたが、TRAPSに特異的な所見とはいえず診断的意義は乏しいと考えられる。■ 鑑別診断ほかの周期性発熱を呈する疾患が挙げられる。ただし、筋痛や腹痛などが前景に立ち高熱が認められない症例、炎症性エピソードが周期的(反復性)ではなく慢性的に持続する患者などでもTRAPSの可能性はある。具体的には、家族性地中海熱、メバロン酸キナーゼ欠損症、クリオピリン関連周期熱症候群などの自己炎症疾患や全身型若年性特発性関節炎、成人スティル病、ベーチェット病などが鑑別に挙がる。TRAPS様症状の家族歴は、遺伝子異常の存在を予測する最も重要な因子である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)前述したわが国のTRAPS診断フローチャートに、治療(TRAPS診療の推奨)についての記述がある(表4)。また、2015年にPRINTOからTRAPSを含む自己炎症疾患の診療に関するエビデンスに基づいたレコメンデーションが発表された(表5)。発作時の短期的なNSAIDsもしくはステロイド投与が基本治療である。発作が軽症で頻度も年1、2回などと少ない場合、NSAIDsによる症状緩和のみでも対応可能である。わが国の診断フローチャートにある、経口プレドニゾロン(PSL)1mg/kg/日で開始し7~10日で減量・中止する方法(表4)は、HullらがTRAPS診断指針を発表した論文で推奨した方法である。留意事項に記載されているとおり、必要なステロイドの投与量や期間は、症例毎に、また同一症例でも発作ごとに異なり、状況に応じて判断していく必要がある。ステロイドは、当初効果があった症例でも次第に効果が減弱し、増量や継続投与を強いられる場合がある。重度の発作が頻発する場合、追加治療としてTNF阻害薬のエタネルセプト(商品名:エンブレル)とIL-1阻害薬カナキヌマブ(同:イラリス)が推奨されている。エタネルセプトは受容体製剤であるが、同じTNF阻害薬でも抗体製剤であるインフリキシマブ(同:レミケード)とアダリムマブ(同:ヒュミラ)はTRAPSで著しい増悪を起こした報告があり使用が推奨されない。また、エタネルセプトもステロイドと同様に効果が減弱するとの報告がある。PRINTOのレコメンデーションは、IL-1阻害薬の推奨度をより高く設定し、欧州医薬品庁(European Medicines Agency:EMA)は、TRAPSに対するIL-1阻害薬のカナキヌマブの使用を認可している。わが国でも2016年12月にカナキヌマブがTRAPSに対して適応が追加された。画像を拡大する表5 TRAPS診療の推奨画像を拡大するL:エビデンスレベル1B(randomised controlled study)、2A(controlled study without randomisation)、2B(quasi-experimental study)、3(descriptive study)、4(expert opinion)S:推奨の強さA(based on level 1 evidence)、B(based on level 2 or extrapolated from level 1)、C(based on level 3 or extrapolated from level 1 or 2)、D(based on level 4 or extrapolated from level 3 or 4 evidence)略称TRAPS:TNF受容体関連周期性症候群 MKD:メバロン酸キナーゼ欠損症 CAPS:クリオピリン関連周期熱症候群4 今後の展望TRAPSは国内の推定患者数が数十例の極めてまれな疾患だが、不明熱の診療などで鑑別疾患に挙がることは少なくない。TRAPS様症状の家族歴があるときには遺伝子検査が診断に最も有用であるが、保険適用はなく施行できる施設も限られており、容易にできる検査とは言い難い。日本免疫不全・自己炎症学会では、TRAPSを含めた関連疾患の遺伝子検査の保険適用を将来的に目指した検討を進めている。5 主たる診療科小児科、膠原病内科、血液内科、感染症内科、総合診療科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療研究情報INFEVER website(医療従事者向けのまとまった情報)一般社団法人日本免疫不全・自己炎症学会(医療従事者向けのまとまった情報)1)McDermott MF, et al. Cell. 1999;97:133-144.2)Ueda N, et al. Arthritis Rheumatol. 2016;68:2760-2771.3)Simon A, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2010;107:9801-9806.4)Hull KM, et al. Medicine (Baltimore). 2002;81:349-368.5)Lachmann HJ, et al. Ann Rheum Dis. 2014;73:2160-2167.6)Horiuchi T. Intern Med. 2015;54:1957-1958.7)Federici S et al. Ann Rheum Dis. 2015;74:799-805.公開履歴初回2018年03月27日

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重症心不全への遠心流ポンプ、2年時も有用性持続/NEJM

 重症心不全患者への埋め込み型補助人工心臓による治療では、完全磁気浮上型遠心連続流ポンプ(HeartMate 3)が機械軸受軸流ポンプ(HeartMate II)に比べ、2年時の臨床アウトカムが良好であることが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のMandeep R. Mehra氏らが進めるMOMENTUM 3試験の2年間のフォローアップで示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2018年3月11日号に掲載された。遠心流ポンプは、デバイス内血栓症の防止を目的にデザインされた。本試験の早期解析では、6ヵ月時の臨床アウトカムは、遠心流ポンプが軸流ポンプに比べ改善したと報告されている。2年時の遠心流ポンプの非劣性と優越性を評価 MOMENTUM 3は、重症心不全患者における遠心流ポンプの軸流ポンプに対する非劣性と優越性を評価する非盲検無作為化試験である(Abbott社の助成による)。 対象は、ガイドラインで規定された医学的管理を行っても再発を認めた重症心不全患者であり、心臓移植への橋渡しか、恒久治療かは問わなかった。 主要エンドポイントは、2年時の後遺障害を伴う脳卒中(修正Rankinスコア[0~6点、点数が高いほど重症]>3点)の発現のない生存と、デバイス交換のための再手術またはデバイス不具合による除去が発生しない生存の複合であった。リスク差の非劣性マージンは、−10ポイントとした。 2014年9月~2015年11月の期間に、米国の69施設に366例が登録され、遠心流ポンプ群に190例、軸流ポンプ群には176例が割り付けられた。無イベント生存、ポンプ血栓症、脳卒中発症も改善 ベースラインの年齢中央値は、遠心流ポンプ群が65歳(範囲:19~81)、軸流ポンプ群は61歳(24~84)、男性がそれぞれ78.9%、81.2%を占めた。遠心流ポンプ群の1例、軸流ポンプ群の4例は植え込み術を受けなかった。 intention-to-treat(ITT)集団における2年時の主要エンドポイントの発生率は、遠心流ポンプ群が79.5%(151例)と、軸流ポンプ群の60.2%(106例)に対し非劣性(絶対差:19.2ポイント、95%信頼区間[CI]の下限値:9.8%、非劣性のp<0.001)であり、優越性(ハザード比[HR]:0.46、95%CI:0.31~0.69、優越性のp<0.001)も示された。 ポンプ不具合による再手術の発生率は、遠心流ポンプ群が1.6%(3例)であり、軸流ポンプ群の17.0%(30例)に比べ有意に低かった(HR:0.08、95%CI:0.03~0.27、p<0.001)。また、死亡および後遺障害を伴う脳卒中の発生率は同等であったが、全脳卒中は遠心流ポンプ群が10.1%と、軸流ポンプ群の19.2%に比し有意に低かった(HR:0.47、95%CI:0.27~0.84、p=0.02)。 ITT集団におけるKaplan-Meier推定法による2年時の無イベント生存率(主要エンドポイント)は、遠心流ポンプ群が77.9%と、軸流ポンプ群の56.4%に比べ有意に優れた(HR:0.46、95%CI:0.31~0.69、log-rank検定のp<0.001)。 ポンプ血栓症(疑い)は、遠心流ポンプ群の1.1%(2例)にみられ、軸流ポンプ群の15.7%(27例、33件)に比べ有意に少なかった(HR:0.06、95%CI:0.01~0.26、p<0.001)。 脳卒中は、遠心流ポンプ群の10.1%(19例、22件)に発生し、軸流ポンプ群の19.2%(33例、43件)に比し有意に低率であり(HR:0.47、95%CI:0.27~0.84、p=0.02)、per-protocol集団における2年時の無脳卒中率はそれぞれ89.1%、76.3%(0.47、0.27~0.84、log-rank検定のp=0.008)と、遠心流ポンプ群が有意に良好であった。 出血は遠心流ポンプ群で少ない傾向を認めたが、有意な差はなかった(42.9 vs.52.3%、p=0.07)。死亡は、遠心流ポンプ群が30例、軸流ポンプ群は36例で、最も多い死因は両群とも右心不全、脳卒中、感染症であった。 著者は、「遠心流ポンプ群でポンプ血栓症の疑い例が2例みられたが、いずれもポンプ外での血栓形成に起因する可能性がある」と指摘している。

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APROCCHSS試験-敗血症性ショックに対するステロイド2剤併用(解説:小金丸博氏)-831

 敗血症性ショック患者に対するステロイドの有効性を検討した研究(APROCCHSS)がNEJMで発表された。過去に発表された研究では、「死亡率を改善する」と結論付けた研究(Ger-Inf-051))もあれば、「死亡率を改善しない」と結論付けた研究(CORTICUS22)、HYPRESS3)、ADRENAL4))もあり、有効性に関して一致した見解は得られていなかった。 本研究は、敗血症性ショックに対するヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン投与の有効性を検討した多施設共同二重盲検ランダム化比較試験である。敗血症性ショックでICUへ入室した患者のうち、SOFAスコア3点、4点の重篤な臓器障害を2つ以上有し、ノルエピネフリンなどの血管作動薬を0.25μg/kg/min以上投与が必要な患者を対象とした。研究開始時は、活性化プロテインCとヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾンの2×2要因デザインで患者を組み込んでいたが、活性化プロテインCは試験途中で市場から撤退したため、その後はステロイド投与群とプラセボ投与群の2群で試験を継続した。その結果、プライマリアウトカムである90日死亡率はヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン投与群で43.0%、プラセボ投与群で49.1%であり、ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン投与群が有意に低率だった(p=0.03)。また、セカンダリアウトカムであるICU退室時死亡率、退院時死亡率、180日死亡率もヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン投与群が有意に低率だった。 本論文の考察の中で、敗血症性ショックに対するステロイドの有効性に関する見解が一致しない理由が2つ挙げられている。1つは、投与するステロイドの種類の違いである。ステロイドの有効性を示したAPROCCHSSとGer-Inf-05では、ヒドロコルチゾンにミネラルコルチコイドであるフルドロコルチゾンが併用投与されている。フルドロコルチゾンを投与することによってアドレナリン作動薬の反応改善が期待できるとされており、アドレナリン作動薬が必要な敗血症性ショックに対して有効性を示した可能性がある。2つ目は、患者重症度の違いである。本試験では高用量の血管作動薬投与が必要な患者が対象となっており、プラセボ投与群の90日死亡率は49.1%と高率だった(ADRENALのプラセボ投与群の90日死亡率は28.8%)。重篤な敗血症性ショック患者に対してステロイド投与が有効である可能性がある。現行の敗血症ガイドラインでは、十分な輸液と昇圧薬の投与でも血行動態が安定しない患者に対してはステロイド投与が推奨されており、重症敗血症例に対してステロイドを投与することは妥当性があると考える。

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内科的救急の診療実態をお聞きしました

CareNet.comでは、会員医師の方々に内科的な救急診療に関するアンケートへのご協力をお願いしました。今回、その結果がまとまりましたので、詳報いたします。調査は、2018年1月22日にCareNet.comの会員医師を対象にインターネット上で実施され、回答者総数は329名でした。その内訳は、20代:2%、30代:16%、40代:29%、50代:34%、60代:16%、70代:2%でした。また、所属別では勤務医師が79%、開業医師が21%でした。結果概要8割近くが救急場面に遭遇設問1「直近3年以内に場所を問わず、救急診療を行った経験の有無」を尋ねたところ、「ある」との回答が75%、「ない」が25%と、回答した会員医師の4分の3が過去3年以内に救急対応を経験しているという結果でした。■設問1 直近3年以内に場所を問わず、救急診療を行った経験はありますか。1) ある2) ない救急対応の9割は病院またはクリニック内設問2「過去に、救急診療をした場所(複数回答)」について尋ねたところ、圧倒的に病院内での対応が多く、院内急変事例に遭遇するケースが多いことがうかがわれました。また、少数ながら航空機や電車内での対応という回答もみられました。なお、海外の外出先や選択肢以外の場所の回答はありませんでした。■設問2 直近3年以内にかかわらず、過去に救急診療をされたことがある場合、診療の場所はどこでしたか。(複数回答)1) 病院2) 診療所・クリニック3) 航空機、船舶など4) 新幹線、電車、バスなどの公共交通機関5) 自宅6) 国内の外出先7) 海外の外出先8) その他(具体的に)9) 救急診療の経験はない画像を拡大する「意識障害」など予後を左右する症候が上位設問3「救急診療の具体的な症候(複数回答)」について尋ねたところ、上位3位は「意識障害」(191回答)、「呼吸困難」(153回答)、「腹痛」(143回答)の順で多く、生命予後に直結する症候で占められました(参考までに「胸痛」[131回答]は6位、「頭痛」[121回答]は9位でした)。また、よくある不定愁訴の「腹痛」(143回答)、「発熱」(142回答)、「めまい」(136回答)も多くありました。■設問3 救急診療をされたときの具体的な症候は、次のどれでしたか。(複数回答)1) 意識障害2) 失神3) 頭痛4) めまい5) 痙攣6) 呼吸困難7) 窒息(感)8) 胸痛9) 血痰、喀血10) 背部痛11) 動悸12) 悪心、嘔吐13) 腹痛14) 吐血、下血15) 黄疸16) 発熱17) 異常体温18) 異常血圧19) 薬物中毒20) 尿閉21) 浮腫22) ショック23) その他(具体的に)24) 救急診療の経験はない画像を拡大するやっぱり知りたい「意識障害」への対応設問4で「内科的な救急診療で詳しく知りたいと思う症候(複数回答)」について尋ねたところ、「意識障害」(176回答)、「失神」(139回答)、「痙攣」(130回答)の順で多く、いずれも診断時に患者からの応答が妨げられる症候が上位3位を占めました。とくに意識障害は、設問3のよく診る症候でも1位であり、遭遇する機会が多いけれど、実は対応に苦慮していることがうかがわれました。■設問4 先生が、内科的な救急診療で詳しく知りたいと思う症候について、教えてください。(複数回答)1) 意識障害2) 失神3) 頭痛4) めまい5) 痙攣6) 呼吸困難7) 窒息(感)8) 胸痛9) 血痰、喀血10) 背部痛11) 動悸12) 悪心、嘔吐13) 腹痛14) 吐血、下血15) 黄疸16) 発熱17) 異常体温18) 異常血圧19) 薬物中毒20) 尿閉21) 浮腫22) ショック23) その他(具体的に)画像を拡大する転送の見極め、どこまで対応するかが難題最後に設問5として「内科的な救急診療で知りたい、日頃疑問に思っていること」を自由記入で質問したところ、「めまい」に関しての疑問が一番多く、そのほかにも「意識障害」「胸痛」「腹痛」「薬物・劇物中毒」「転送・搬送」などへの疑問が寄せられました。コメント抜粋(一部割愛、簡略化しておりますことをご了承下さい)症候・症状「めまい」についてCT検査が必要な緊急性の判断突然のめまいに対する処置非専門医が診療する場合の対応「意識障害」について失神などとの鑑別診断転倒などでの意識障害の評価「胸痛」について背部痛との鑑別診断帰宅判断の根拠検査機器が一切ない環境下での診断「腹痛」について(効率的な)鑑別診断腹部症状、画像検査でわからない危険な腹痛外科的処置を要する腹痛の判断「薬物・劇物中毒」について初期対応と治療様子をみてよいものとその根拠診療後の警察・関係諸機関への連絡・連携の方法「循環器疾患」について発作性心房細動への対応治療を要する不整脈の鑑別心蘇生術開始の見極め「内分泌代謝疾患」についてショックの際のサイン浮腫や脱水の治療急性・慢性の電解質異常「精神科疾患」について緊急の転送が必要なケース向精神薬を内服中の救急患者への対応精神科単科病院での転送の実際そのほかの症候手軽な神経所見の取り方小児領域の救急疾患全般吐血と喀血の鑑別点難聴と耳鳴りへの対処問診、理学所見のみでの転送判定の可能性異常体温の救急処置下肢浮腫がリンパ浮腫か深部静脈血栓によるかの鑑別低体温の治療呼吸困難の鑑別高齢者の過降圧や注意すべき事項高齢者独特の愁訴痙攣の鑑別と治療感染症の救急対処、感染のフォーカスを早く見極める診察法喘息・アレルギーの治療アナフィラキシーショックの処置がん患者の救急対応原因不明の不規則な発熱の検査と治療診断全般、転送・搬送など「転送・搬送」について紹介のタイミング効果的な紹介方法転送の必要性の判断搬送すべき疾患のリスト鑑別診断、応急処置の最近の知見危険な症状(胸部不快感、動悸、倦怠感、頭痛、背部痛)の判断帰していい患者、帰してはいけない患者見逃してはいけない症候自院で受け入れ可能かどうかの判断2次救急の外来でどこまで処置するかクリニック、診療所の守備範囲非専門医が最低限するべき対応重症感のない患者の病態の見極め次々と検査を要求してくる患者や家族への対処法蘇生機械などがない、飛行機や電車内での救急対応 アンケート概要内容『内科的な救急診療について、先生のご経験をお聞かせください』実施日2018年1月22日調査方法インターネット対象ケアネット会員医師329名属性アンケート調査へのご協力、ありがとうございました。

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経口フルオロキノロンが大動脈瘤リスク増と関連/BMJ

 スウェーデン・カロリンスカ研究所のBjorn Pasternak氏らは、スウェーデン国内の登録データを用いたコホート研究を行い、経口フルオロキノロン系抗菌薬の使用が大動脈瘤のリスク増加と関連していることを報告した。フルオロキノロンには、血管壁の細胞外マトリックスの完全性を損なう可能性のある非抗菌的特性があり、最近の研究でフルオロキノロン系抗菌薬が大動脈瘤のリスクを増加させる懸念が高まっていた。BMJ誌2018年3月8日号掲載の報告。フルオロキノロンとアモキシシリンによる大動脈瘤/解離の発生を72万人を対象に比較 研究グループは、2006年7月~2013年12月のスウェーデンの全国患者登録、処方薬登録、統計局ならびに死因登録のデータを用い、コホート研究を実施した。対象は、フルオロキノロン系抗菌薬使用例36万88件(78%はシプロフロキサシン)と、傾向スコアでマッチングした対照のアモキシシリン使用例36万88件であった。 主要評価項目は、治療開始から60日以内の大動脈瘤/解離の初回診断(大動脈瘤/解離による病院/救急部への入院、または大動脈瘤/解離による死亡)とし、Cox比例ハザードモデルを用いて解析した。フルオロキノロン系抗菌薬使用で、大動脈瘤/解離のリスクが66%増加 治療開始後60日間の大動脈瘤/解離の発生頻度は、フルオロキノロン系抗菌薬使用群1.2例/1,000人年、アモキシシリン使用群0.7例/1,000人年であった。両群の大動脈瘤/解離発生推定絶対差は、60日までの治療100万人当たり82例(95%信頼区間[CI]:15~181)で、フルオロキノロン系抗菌薬使用が大動脈瘤/解離のリスク増加と関連していることが認められた(ハザード比:1.66、95%CI:1.12~2.46)。 副次解析の結果、フルオロキノロン系抗菌薬使用に関連するハザード比は、大動脈瘤が1.90(95%CI:1.22~2.96)、大動脈解離が0.93(95%CI:0.38~2.29)であった。

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絵画編【ムンクはなぜ叫んでいるの?】

今回のキーワード統合失調症過敏性侵入性妄想性創造性合理性産業革命人工知能みなさんは、ムンクの「叫び」を見たことはありますか? その絵を見ているだけでゾクゾクしませんでしたか? 以前に、オークションで100億円近い値が付いたことでも話題になりました。やはりそれくらいの価値があるほど、私たちの心を揺さぶる何かがあるのでしょうか?今回は、有名な絵画のムンクの「叫び」を取り上げます。いつもとは違い、シネマではなく、絵画から学ぶメンタルヘルスをお送りします。テーマは、ずばり統合失調症です。実は、ムンクは統合失調症を発症していたという説が有力で、この絵はそのムンクの自画像です(編注:絵の解釈には諸説あります)。実際に、この絵には統合失調症にまつわる3つの特徴が垣間見られます。その特徴を脳科学的そして進化精神医学的に掘り下げ、統合失調症の本質に迫っていきましょう。際立ち-過敏性ムンクの日記によると、「日が沈んだ時、突然空が血のように赤く染まり」「フィヨルドと町並みが青黒く彩られた」とあります。実際の絵の色使いは、赤、青、黒を主として、その取り合わせがとても際立っていて、まぶしいです。1つ目の特徴は、周りの世界が際立っていると感じる、つまり過敏性です。これを統合失調症の症状として見ると、見えるもの全てを鋭敏に見てしまい、感覚が研ぎ澄まされている状態です(気付き亢進)。そこから、不安感や緊迫感が煽られています(緊迫困惑気分)。さらに、何かとんでもないことが起きそうな不気味な雰囲気を醸し出していきます(妄想気分)。それでは、なぜ際立つのでしょうか? ここから脳科学的に考えてみましょう。際立つとは覚醒度が上がることです。この覚醒度が上がるのは、いつもと違う状況(新奇場面)が刺激となり、脳内ではドパミンという神経伝達物質が分泌される時です。さらに、その覚醒度を保つために、同じく神経伝達物質であるグルタミン酸が分泌されます。その後に、覚醒が度を超えないようにするために、視床という脳領域で入力情報の感度を下げるフィードバックが働きます(視床フィルター)。つまり、覚醒度を燃え上がる火に例えると、脳が暖炉、新奇場面が薪、ドパミンは点火装置、グルタミン酸は給油装置、そして視床は薪の入る数を調節する暖炉の扉と言えます。ここで、これらの点火装置や給油装置が過剰に作動したり、扉が閉まらなくなったらどうなるでしょう? 勝手に燃え上がってしまいます。いつもと同じ状況なのにいつもと違う状況に様変わりしてしまい、際立っていると感じてしまいます。これが、統合失調症の原因と考えられています。過剰作動を起こす原因としては、もともとの遺伝負因、胎児期や乳児期の感染症(神経発達障害仮説)、思春期以降の心理社会的ストレスなどによる相互作用が考えられています。ちなみに、ドパミンが急性的に過剰分泌された場合、興奮状態になった神経細胞は、損傷を避けるために、一時的に神経伝達を遮断するメカニズムがあります(脱感作)。例えるなら、暖炉が壊れないように点火装置のブレーカーが一時的に落ちてしまうことです。これは、統合失調症で興奮状態から突如動かなくって、刺激に反応しなくなる症状です(緊張病)。一方、ドパミンが慢性的に過剰分泌された場合は、興奮状態になった神経細胞は、損傷を避けられず、変性していき、脳が萎縮していきます(残遺症状)。例えるなら、暖炉が燃やし過ぎで消耗してしまうことです。これは、統合失調症で、感情的に鈍くなり(感情鈍麻)、特に何をすることもなく(無為)、ひきこもって暮らす(自閉)など、本来あるべき能力が失われていく一連の症状です(陰性症状)。そもそもなぜ際立ちは「ある」のでしょうか? さらに進化精神医学的に考えてみましょう。10数億年前に太古の原始生物が誕生してから、エサが近くにあることが臭いや見た目で分かったら、ドパミンによって覚醒度を上げて、必死に近付くように進化しました。5億年前に魚類が誕生してから、天敵の気配などいつもと違う状況で、ドパミンによって覚醒度を上げて、早くに離れるように進化しました。境目のなさ-侵入性ムンクの日記によると、「血のような炎を吐く舌のような空が青黒いフィヨルドと町並みに覆い被さるようであった」とあります。実際の絵の構成は、輪郭が重なり合い大きくうねるような筆遣いで、中心に置かれる本人は周りに飲み込まれて溶けてしまいそうです。2つ目の特徴は、自分と周りの世界の境目がなくなると感じる、つまり侵入性です。これを統合失調症の症状として見ると、自分と他人の境目(自我境界)がはっきりしなくなり、自分は自分であるという実感がなくなることです(自我障害)。体がスケスケなのと同じように、心もスケスケに感じてしまい、自分の考えが漏れていると思うようになります(自我漏洩体験)。周りの人の視線が自分に迫ってくるようにもなります(被注察感)。さらには、何か得体の知れない誰かに自分が操られている感覚に陥ります(作為体験)。それでは、なぜ境目がなくなるのでしょうか? ここから脳科学的に考えてみましょう。境目とは自分と周り(他人)を区別することで、前頭葉(前部傍帯状皮質)が司っています。これは、周りを認知している自分を認知する、つまり認知していることを認知することでもあります(メタ認知)。ここで、先ほどの過敏性によって境目はどうなるでしょうか? 周りの世界を認知する感度が上がり過ぎてしまい、自分の想像(内的体験)への認知も周りの現実(外的体験)への認知と誤認知(偽陽性)してしまい、自分への認知と周りへの認知を区別する精度が落ちてしまいます。つまり、周りの世界を過剰に認識してしまうと、逆に正確には認識できなくなってしまい、境目がはっきりなくなってしまうということです。これは、検査の検出の感度と分類の精度(特異度)の相関関係です。例えるなら、教科書でテストに出そうな箇所に赤線を引く時、全てが出そうに思えて、全てに赤線を引いてしまうことです。すると、本当に出そうな箇所とそうでない箇所の区別ができなくなってしまいます。境目がなくなることで、想像も現実の体験の一部として認識してしまいます。そこから、自分が世界に侵入されてしまう感覚に陥ります。例えば、自分の考えたことが声になって聞こえます(考想化声)。やがてそれは他人の声として聞こえてしまいます(幻聴)。そう考えると、先ほどの誰かに見られているという感覚(被注察感)や、誰かに操られているという感覚(作為体験)のその誰かとは、実は他でもない自分自身であるということが理解できるでしょう。そもそも、なぜ境目は「ある」のでしょうか? さらに進化精神医学的に考えてみましょう。人類は、約700万年前にアフリカの森に誕生し、約300~400万年前に草原(サバンナ)に出てから、助け合い(協力)と競い合い(競争)の狭間で、相手の心を読む、つまり相手の視点に立つ心理を進化させてきました(心の理論)。この心理から、自分自身を離れて自分自身を見る視点を持つようになり、自分と周りの世界を区別できるようになりました。さらに、この視点を手に入れたことで、周りの世界をより良く知りたいという好奇心の心理(新奇希求性)も進化したと考えられます。だからこそ、私たちは、新しかったり珍しかったりする状況(新奇場面)でも過敏になるのでしょう。つまり、境目という心の理論、さらには好奇心という新奇希求性は、人間の生存に必要だから「ある」のでしょう。逆に言えば、人間以外のほとんどの動物は、境目が最初からないわけなので、自分と周りはもともと一体であり、境目がなくなる危うさをそもそも感じることはないと言えるでしょう。意味付け-妄想性ムンクの日記によると、「2人の友人と歩道を歩いている時、やむことのない自然をつんざくような叫びを聞いた」とあります。実際の絵の状況は、実はムンクは叫んでいるわけではなく、叫びに恐れおののき、耳を塞いで、かろうじて突っ立っているだけなのでした。3つ目は、周りの誰かまたは世界が叫んでいると意味付ける、つまり妄想性です。これを統合失調症の症状として見ると、自分の心の中(内的世界)の「叫び」を、現実世界の誰か(外的体験)の「叫び」として聞いたとしています(幻聴)。さらに、何となく不気味な気分(妄想気分)や、自分が自分ではなくなり自分の存在が危うく感じる体験(自我障害)から、世界が終わってしまうと感じてしまいます(世界没落体験)。もはや2人の友人も、黒服で得体の知れない存在に見えてしまい、監視しているか、尾行しているかとも思ってしまいます(被害妄想)。それでは、なぜ意味付けるのでしょうか? ここから脳科学的に考えてみましょう。意味付けとは、それぞれの体験について、ある程度抽象的で大まかな言葉に置き換えること、つまり概念化です。これは、言葉を聞き取る能力を司る感覚性言語中枢(ウェルニッケ野)と言葉を話す能力を司る運動性言語中枢(ブローカー野)が司っています。そうすることで、過去の体験と関連付けをして、記憶に残しやすくなります。ここで、先ほどの過敏性よって意味付けはどうなるでしょうか? 意味付けがされ過ぎてしまいます。例えば、テーブルに携帯電話が置いてあったとしましょう。たまたま置いてあっただけなのに、「なぜあるの?」とその意味を考えるようになります。そして、意味が分からないことに違和感を覚えるようになり、何気ないことを何気なく思えなくなり、当たり前のことを当たり前に思えなくなります(自明性の喪失)。つまり、意味付けは、され過ぎると、逆に失われてしまうということです。全ての出来事に意味を求めてしまい、クタクタになってしまいます。その刺激を避けるために、統合失調症の人は、早い段階でひきこもりになることがよくあります。また、間違った意味を見いだしてしまうと、論理の飛躍が起こります。それが先ほどの世界没落体験や被害妄想です。さらに、意味付けが極端になり自覚がなくなれば、意味のつながりが失われて、話すことにまとまりがなくなります(滅裂思考)。また、侵入性に意味付けをするとどうなるでしょうか? 侵入する対象として言語化します。それが、統合失調症の人がよく言う「得体の知れない巨大なもの」です。さらに、この表現は時代や文化によって変わります。例えば、日本なら、現代は「悪の秘密結社」「ヤクザ・暴力団」が多いですが、昔は「狐憑き」などが多かったでしょう。欧米なら、現代は「テロ集団」、昔なら「悪魔」が多いでしょう。そもそも、なぜ意味付けは「ある」のでしょうか? さらに進化精神医学的に考えてみましょう。人類は、約10~20万年前に、喉の構造を進化させて、複雑な発声ができるようになり、言葉を話すようになりました。そして、人だけでなく、自然環境や様々な自然現象を名付けることによって、世界を区切り、関係付け、説明しようとしました。こうして、シンボルを使って抽象的思考をする概念化の心理が進化したと考えられます。概念化によって、道具、建築、美術、音楽、文学、宗教、政治などの文化が爆発的に発展していきました(文化のビッグバン)。これが、創造性です。こうして、人は、その文化を、神話や言い伝え、民謡などの様々な方法で子孫に伝えることができるようになりました。人は、約5000年前に文字を発明して、ようやく原因と結果をつなぐ論理的思考(システム化脳)の体系が可能になりました。それが、科学であり、合理性です。ということは、そもそも創造性には合理性があるわけではないと言えるでしょう。もっと言えば、創造性と妄想は、同じ概念化の心理として合理性がない点では、コインの表と裏ということです。まさに、ムンクの絵もその1つです。つまり、意味付けという概念化は、人間の生存、さらには文化の継承に必要だから「ある」のでしょう。統合失調症はいつ生まれたの? -産業革命これまでの際立ち(過敏性)、境目のなさ(侵入性)、意味付け(妄想性)という3つの特徴から、統合失調症は人類の心の進化の歴史と密接にかかわりがあることがわかります。そして、統合失調症が世界中のどの国や地域でもほぼ一定の割合で発症することから、統合失調症の心理には普遍性がありそうです。それでは、統合失調症という病はいつ生まれたのでしょうか? 正確には言えば、病として目立つようになったのはいつでしょうか?その答えは、18世紀の産業革命であると考えられています。それまで、幻聴は「神のお告げ」または「悪魔の囁き」であり、妄想は「神の思し召し」または「悪魔の仕業」であり、自我障害は「神との一体化」または「悪魔の憑依」と解釈されていました。そして、実際にこのような症状を持つ人は、シャーマン(巫女)や信心深い信者として社会的に一定のステータスがあり、文化の一部として、社会に溶け込んでいたでしょう。ところが、産業革命によって、生産性や効率性などの合理主義や、貨幣経済や民主政治によってはっきり個人を区別する個人主義が広く世の中に広がっていきました。社会構造の変化です。すると、根拠のない不合理な言動を繰り返す幻覚妄想や、自分らしさ(アイデンティティ)が危うくなる自我障害はネガティブで困ったもの、つまり病として認識されるようになったのでした。実際に、現代でも、農村地域よりも工業化や都市化が進む地域ほど、そして発展途上国よりも先進国ほど、統合失調症は回復しにくいことが統計的に分かっています。つまり、発症率は変わらなくても、社会構造の違いによって、回復率は変わるということです。統合失調症はどこに行くの? -人口知能創造性・妄想を生み出す概念化の心理が進化したのが10~20万年前に対して、産業革命により合理性に重きを置くように社会構造が変化したのはたかだか200年前です。つまり、創造性・妄想の心理の進化の歴史の方が、合理性の心理よりも圧倒的に長いと言えます。つまり、私たちは合理的であろうとしていますが、人類の心の進化の歴史から考えると、そこまで合理的ではないということです。さらに、これからはAI(人工知能)の時代です。近い将来には、合理的なことはほとんどAI化されるというさらに新しい社会構造への変化が予想されます。そうなると、私たちは、もはや合理的であることを追求する必要がなくなってしまいます。むしろ逆です。そもそも私たちに不合理な心理もあることを生かして、これからはその不合理さを楽しむ創造性が求められるでしょう。そう考えると、私たちは、ムンクの「叫び」から統合失調症の世界観を疑似体験する危うさと魅力を知るだけでなく、そこから私たちの創造性をくすぐりかき立てる何かがあり、そこに大きな価値があることをよく理解することができます。そして、AI化された将来の社会構造で統合失調症の創造性に再び目が向けられる時、もはや統合失調症は病ではなく、個性や多様性の1つになっているのではないでしょうか?1)井村裕夫:進化医学、羊土社、20132)臨床精神医学、心の進化と精神医学、アークメディア、2011年6月号3)岡田尊司:統合失調症、PHP新書、2010

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