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第71回 「もはや災害時」なら、「現実解」は“野戦病院”、医師総動員、医療職の業務範囲拡大か

福井県は既に“野戦病院”整備こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末も大雨でどこにも行かず家に籠もっていました。甲子園の高校野球も延期に次ぐ延期だったので、NHK BSの「ワースポ× MLB」でMLBの現況をチェックしようと思い、何の気なしに観ていたら、興味深いニュースをやっていました。MLBが12日(日本時間13日)、名作映画「フィールド・オブ・ドリームス」(1989年公開)の舞台となったアイオワ州ダイアーズビルで初の公式戦を開催し、ホワイトソックスとヤンキースが1919年頃の雰囲気たっぷりの中、当時の復刻ユニホームで戦った、というニュースです。「ワースポ× MLB」では、トウモロコシ畑から出てくるホワイトソックスとヤンキースの選手らの姿を映し出していましたが、まさにあの映画そのものでした。ケビン・コスナーが主演したこの映画のロケ地、私も約30年前に訪れたことがあります。米国出張の時、留学でアイオワ・シティに住んでいた友人宅に寄り、そこから車で約2時間かけてダイアーズビルまで見学に出かけたのです。映画公開から数年後で、観光客はまばらでした。映画で使われたセットの前の球場(今回の試合のためにMLBが500万ドルかけて新設した球場とは別)で、訪れた人がソフトボールに興じていたのが印象的でした。それにしても、今回の試合で8本も出たホームラン。ボールがフェンスを超え、トウモロシ畑に吸い込まれて行く画像はMLBの試合には見えず、笑えました。さて、今週は先週(第70回 真夏のホラー、コロナ患者「重症者以外自宅療養」方針めぐるドタバタで考えた“野戦病院”の必要性)書いた“野戦病院”について補足し、その必要性について改めて考えてみたいと思います。知人から、「“野戦病院”をもうつくった県があるよ」という連絡があったからです。それは、福井県です。福井市内の体育館に100床開設福井県は8月2日、新型コロナウイルス患者を受け入れる新たな病床として最大100床を確保、患者の増加状況に応じて福井市内の体育館1ヵ所に開設し、主に軽症者を受け入れると発表しました。体育館にはベッド、空調、仕切りなどの設備を整えるとのことです。福井県内の病床数はこれで404床となり、宿泊療養施設の146床と合わせると県内に計550床が確保されたことになります。中日新聞等の報道によれば、福井県では今後さらに感染が拡大することに備え、6月補正予算に関連費用を盛り込んでいた、とのことです。常時設置するわけではなく、必要に応じて必要な病床数を開設、近隣の医療機関の医師らが治療に当たるとしています。なお、稼働病床数が増えた場合は、県医師会や看護協会に協力を要請する予定だそうです。「自宅療養では容体が急変しても直ちに対応できない」と福井県担当者東京都や大阪府と人口や医療機関数では比べものになりませんが、少なくとも福井県が軽症者向けとはいえ、“野戦病院”的施設を準備したことは、先進的で評価できることでしょう。福井県ではこれまで、無症状者も含めて全陽性者を病院や宿泊施設で受け入れてきました。8月7日付の日刊ゲンダイDIGITALによれば、同県が「自宅療養させず」を貫いている理由について、県地域医療課の担当者は「自宅療養では容体が急変しても直ちに対応できない。感染判明後、すぐに医師の診療を受ける体制も必要なため、臨時施設を稼働させた。陽性者を速やかに隔離すれば、感染拡大の防止にもつながる」と語ったとのことです。前回も書いたように、中等症、軽症と診断され、自宅で療養するのはとても不安なものです。自宅療養者が増え過ぎ、保健所や自治体のフォローアップ機関が対応できないなら、症状や重症度を的確に判断できる医療スタッフの下で集団療養してもらうべきです。仮に宿泊療養施設の確保や、そこでの医療提供が難しいとするなら、ここは割り切って各地の体育館などに即席の“野戦病院”的施設をつくり、必要な医療機器も配置し、そこに地域の開業医をはじめとする医療スタッフたちを持ち回りで常駐させ、中等症、軽症患者を効率よく診察し、必要に応じて重症病床のある病院に送る仕組みをつくるのです。日本医師会を激しく批判していた長島 一茂氏(「第58回 コロナ禍、日医会長政治資金パーティ出席で再び開かれる?“家庭医構想”というパンドラの匣(前編)」参照)も、8月13日のテレビ朝日の「モーニングショー」で、「(東京都は)入院待機患者と自宅療養者合わせて3万人。東京ドームなど、大規模に患者を集めるところをつくらなくてはいけないのではないか」とコメントしていました。また、東京都医師会の尾崎 治夫会長も8月16日の同番組に出演、東京都の自宅療養患者の状況を説明したうえで、「早急に野戦病院をつくるべきだ」と強調していました。「酸素ステーション」も抗体カクテルもリップサービス止まりか?翻って、1日の新規感染者数2万人超えの状況でも、国の対応は相変わらずの後手後手、その場しのぎの感が拭えません。菅 義偉首相は8月13日の記者会見で、自宅療養者らが酸素吸入を必要とした場合に備える「酸素ステーション」を設置する方針を示し、加えて軽症・中等症向けの抗体カクテル療法を集中的に使用できる拠点の整備についても言及しました。抗体カクテル療法については、対象拡大(入院患者限定から宿泊療養施設入所者などにも)の通知が13日、各都道府県に出されています。ですが、国が打ち出すこうした新機軸は、当面の自分たちの無策をごまかすためのリップサービスにしか聞こえません。そもそも「酸素ステーション」をどれだけ配置しても、中等症、重症患者の根本治療にはなりません。さらに、そのステーションに誰が患者を連れていくのでしょうか。抗体カクテル療法(「第27回 トランプ大統領に抗体カクテル投与 その意味と懸念」参照)については、医師の24時間配置に加え、日本での供給量にも不安があります。一部の報道で年内20万回分調達(当面は7万回分)と言われていますので、今の新規患者数では単純計算で約10日分しかないことになります。また、 1回(2種類の抗体医薬)で約20万円(米国での医療費)とも言われるこの薬剤を、軽症者(あるいは未発症者)のどの範囲まで投与を認めるのか、という点も問題です。期待を抱かせて、結局は必要な患者すべてには行き渡らない可能性が大です。ちなみに、米国では先週、抗体カクテルが濃厚接触者等、コロナウイルスに曝露した一部の未発症の人にも使用できるようになりました。米国食品医薬品局(FDA)が8月10日、抗体カクテル(REGEN-COV)の緊急使用許可を改訂し、成人および小児におけるCOVID-19の曝露後予防(予防)としての緊急使用を承認したからです。入院や死亡など、重度に進行するリスクが高い人(12歳以上で体重40 kg以上)が対象とのことです。“野戦病院”的施設の開設、医師総動員、医療職の業務範囲拡大をセットで実行すれば新型コロナウイルス対策を助言する厚生労働省の専門家組織「アドバイザリーボード」は8月11日、首都圏などの医療提供体制について「もはや災害時に近い」との見解をまとめました。東京都の小池 百合子知事も8月13日の記者会見で、自宅療養者2万人超の状況など踏まえ、「今、最大級、災害級の危機を迎えている」と強い危機感を表明しています。テレビでは、首都圏の中等症以上の患者が在宅療養を余儀なくされ、入院先探しに難渋している姿が、連日のように報道されています。それらの報道では、在宅医療で対応することの非効率性も指摘されています。菅首相が先週強調した「パルスオキシメーター配布」もまったく進んでいないようです。そう考えると、“野戦病院”的施設の開設は一つの「現実解」でしょう。同時にこれまでコロナ対応に十分に関わってこなかった医師たちを半ば強制的に総動員、“野戦病院”で働いてもらえば、今以上の「安全・安心」を自宅療養者に提供できるでしょう。医学部教育、医師の養成には多額の税金も投入されているわけですから、この際、動員には我慢して応じてもらいましょう。「強制的に動員」する仕組みの構築がすぐには難しいとしたら、医師以外の医療職(看護師、薬剤師、救急救命士…)に医師の業務の一定部分を任せる、という手も考えられます。今回の医療法改正で、医師の働き方改革の観点から、多くの医療職で業務範囲拡大が行われましたが(「第66回 医療法等改正、10月からの業務範囲拡大で救急救命士の争奪戦勃発か」参照)、その拡大範囲以上に、緊急措置として医師の業務を他職種に任せてしまうのです。例えば、宿泊療養施設の医療責任者は看護師にするとか、“野戦病院”での一定部分の医療行為は医師の指示なしでも看護師が行えるようにするなどが考えられます。動員についても、老健施設の管理者は看護師で代行させ、そこの医師を“野戦病院”に振り向ける、といった方法も考えられるでしょう。例によって、日本医師会は自分たちの領分を侵害されることを嫌がるでしょう。しかし、そこは政府がきちんと説得しないと。なにせ今は「災害時」であり有事なのですから。映画「フィールド・オブ・ドリームス」では、ケビン・コスナー演じる主人公が、だだっ広いトウモロコシ畑を整地し、野球場を一からつくるのですが、“野戦病院”は何も空き地に一からつくる必要はありません。ただ、体育館や室内アリーナなどを活用し、医療人材を集めればいいだけのことです。要はこの国の政治家、行政、医療人に、想像力と胆力があるかどうかの問題だと思います。

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コロナ治療薬「ロナプリーブ」、短期入院や宿泊療養でも使用可/厚労省

 厚生労働省は8月13日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬として先月、国内における製造販売を承認した「ロナプリーブ点滴静注セット300」「同1332」について、医療機関への配分を指示する事務連絡(2021年7月20日付で発出)の一部を改訂。主に軽症者~中等症を受け入れる医療機関における短期入院や、宿泊療養施設での使用も想定されるとの認識を示し、新たに記載を追加した。 今回の追記は、事務連絡の別添にある質疑応答集に加えられたもの。「ロナプリーブ」は、現状として安定的な供給が難しいことから、当面の間、重症化リスクのある入院患者が投与対象となり、本剤の配分を受けられる医療機関は、投与対象者を受け入れている病院または有床診療所とされていた。 改訂により、新たに使用できるケースとして「短期入院」と「宿泊療養施設・入院待機ステーション(臨時の医療施設等)」が示された。「短期入院」の場合は、主に軽症者~中等症を受け入れる医療機関において入院、投与後一定時間の健康観察を行った上、ごく短期間で宿泊療養・自宅療養に移行するというケースが想定される。一方「宿泊療養施設・入院待機ステーション(臨時の医療施設等)」の場合は、投与後の容態悪化に対応できるよう、療養先を有床診療所や有床の臨時医療施設化するというケースが想定される。なお、高齢者施設や自宅については、現時点では対象とならない。 ロナプリーブの配分を希望する場合は、従来通り、厚労省が「ロナプリーブ登録センター」に登録し、同センターを通じて配分依頼を行うことになる。具体的な登録方法・依頼方法については、製造販売業者からの案内または中外製薬ホームページ「PLUS CHUGAI」を参照、もしくはロナプリーブ専用ダイヤル(0120-002621)への問い合わせとなる。

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乾癬治療の生物学的製剤、重篤感染症リスクの違いは?

 乾癬治療の生物学的製剤と重篤感染症リスクについて、生物学的製剤を選択する際に有用な研究報告が、フランス医薬品・保健製品安全庁(ANSM)のLaetitia Penso氏らによる中等症~重症の乾癬患者を対象としたコホート研究で示された。 エタネルセプト新規使用者を比較対照とした重篤感染症リスクは、インフリキシマブ、アダリムマブでは高い一方、ウステキヌマブでは低かった。またIL-17およびIL-23阻害薬やアプレミラストでは重篤感染症リスクの増大は認められなかったものの、非ステロイド性抗炎症薬や全身性コルチコステロイドとの併用によって増大したという。著者らは、「さらなる観察研究で、最新の薬剤に関する結果を確認する必要がある」と述べている。JAMA Dermatology誌オンライン版2021年7月21日号掲載の報告。 研究グループは、フランス国民の約99%をカバーする国民健康データシステム(National Health Data System)のデータを用いて、エタネルセプトを比較対照薬として、乾癬治療に使用される生物学的製剤およびアプレミラストの重篤感染症のリスクを評価するコホート研究を行った。 2008年1月1日~2019年5月31日にデータベースに登録された、2年以内に2つ以上の局所ビタミンD誘導体の処方を受けた成人乾癬患者を適格と定義し、試験対象集団には、生物学的製剤またはアプレミラストの新規使用者(すなわち前年に生物学的製剤またはアプレミラストの処方がなかった)を包含した。HIV感染症やがん、移植、または重篤感染症の既往者は除外した。フォローアップ終了は2020年1月31日であった。 主要エンドポイントは重篤感染症の発生で、傾向スコア加重Cox比例ハザード回帰モデルを用いたtime-to-event解析で、加重ハザード比(wHR)と95%信頼区間(CI)を算出して評価した。 主な結果は以下のとおり。・生物学的製剤の新規使用者計4万4,239例が特定された。平均年齢は48.4(SD 13.8)歳、男性が2万2,866例(51.7%)、追跡期間中央値は12ヵ月(四分位範囲:7~24)だった。・計2万9,618例(66.9%)が初回に腫瘍壊死因子阻害薬を、6,658例(15.0%)がIL-12/23阻害薬を、4,093(9.3%)がIL-17阻害薬を、526例(1.2%)がIL-23阻害薬を、そして3,344例(7.6%)がアプレミラストの処方を受けた。・重篤感染症の発生は計1,656件で、全体の粗発生率は1,000人年当たり25.0(95%CI:23.8~26.2)だった。・最も頻度の高い重篤感染症は消化管感染症であった(645例・38.9%)。・時間依存共変数を調整後、重篤感染症のリスクはエタネルセプトの新規使用者と比べて、アダリムマブ(wHR:1.22、95%CI:1.07~1.38)またはインフリキシマブ(1.79、1.49~2.16)の新規使用者では増大した。・同様の評価で、ウステキヌマブの新規使用者では低下した(wHR:0.79、95%CI:0.67~0.94)。・同様の検討で、IL-17およびIL-23阻害薬グセルクマブまたはアプレミラストの新規使用者では、増大は認めらなかった。・重篤感染症リスクは、非ステロイド性抗炎症薬または全身性コルチコステロイドの併用で増大することが認められた。

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原則40歳以上が対象のコロナワクチン「バキスゼブリア筋注」【下平博士のDIノート】第80回

原則40歳以上が対象のコロナワクチン「バキスゼブリア筋注」今回は、「コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン(遺伝子組み換えサルアデノウイルスベクター)(商品名:バキスゼブリア筋注、製造販売元:アストラゼネカ)」を紹介します。本剤は5月の特例承認後、国内使用について検討されていましたが、7月末に原則40歳以上の人への接種が承認されました。<効能・効果>本剤は、SARS-CoV-2による感染症の予防の適応で、2021年5月21日に特例承認され、7月30日に開催された厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会において、予防接種法に基づく臨時接種として、原則40歳以上の人に使用することが承認されました。なお、(1)他の新型コロナウイルスワクチンに含まれる成分にアレルギーを有するなど医学的見地からとくに本剤を希望する場合、(2)他国で本剤の1回目を接種してから入国した場合、(3)他ワクチンの流通停止など緊急の必要がある場合、などであれば18~39歳でも接種が認められています。<用法・用量>1回0.5mLを4~12週間の間隔を置いて、2回筋肉内に接種します。本剤は2回接種により効果が確認されていることから、同一の効能・効果を持つ他ワクチンと混同することなく2回接種します。最大の効果を得るためには8週以上の間隔を置いて接種することが望ましいとされています。<安全性>臨床試験で報告された主な副反応は、注射部位圧痛(62.9%)、注射部位疼痛(54.7%)、疲労(51.6%)、頭痛(51.1%)、倦怠感(43.8%)、筋肉痛(43.5%)、発熱感(33.5%)、悪寒(31.0%)、関節痛(26.6%)、悪心(20.5%)、注射部位熱感(17.9%)、注射部位挫傷(17.9%)、注射部位そう痒感(13.1%)でした。重大な副反応として、ショック、アナフィラキシー、血栓症・血栓塞栓症(脳静脈血栓症・脳静脈洞血栓症、内臓静脈血栓症など)(いずれも頻度不明)が現れる可能性があります。<患者さんへの指導例>1.ワクチンを接種することで新型コロナウイルスに対する免疫ができ、新型コロナウイルス感染症の発症を予防します。2.医師による問診や検温、診察の結果から、接種できるかどうかが判断されます。発熱している人などは本剤の接種を受けることができません。1回目に副反応が現れた場合は、2回目の接種前に医師などに伝えてください。3.本剤の接種当日は激しい運動を避け、接種部位を清潔に保ってください。接種後は健康状態に留意し、接種部位の異常や体調の変化、高熱、痙攣など普段と違う症状がある場合には、速やかに医師の診察を受けてください。4.副反応として、注射した場所の痛み・腫れ・発赤などの局所症状、発熱、頭痛、疲労、筋肉痛などが現れることがあります。接種後の注射部位の痛みや筋肉痛、発熱などの副反応に対して、解熱鎮痛薬(アセトアミノフェン、ロキソプロフェンなど)の使用が可能です。5.1回目接種時の副反応の多くは接種翌日に見られ、発症から1~3日以内に治まります。症状が回復せず、痛みや高熱などが持続する場合は、医師の診察を受けてください。6.心因性反応を含む血管迷走神経反射として、失神が現れることがあります。接種後一定時間は接種施設で待機し、帰宅後もすぐに医師と連絡を取れるようにしておいてください。7.ごくまれに血小板減少症を伴う血栓症が起こることがあります。接種後4~28日は激しい頭痛や持続する頭痛、あざ、注射部位以外の小さな点状の内出血などの症状にとくに注意してください。これらの症状が認められた場合には、ただちに医師の診察を受けてください。<Shimo's eyes>本剤は、わが国で初めて承認されたウイルスベクターワクチンで、サル(チンパンジー)由来の非増殖性で弱毒化されたアデノウイルスに、SARS-CoV-2のスパイク糖タンパク質の遺伝子を組み込んだ新しい製造方法のワクチンです。これまでに承認されているファイザー製ワクチン、モデルナ製ワクチンは、保管温度がそれぞれ-75℃、-20℃という超低温でしたが、本剤は2~8℃の冷蔵温度で6ヵ月間保管できるため流通・管理が容易で、当然ながら解凍の必要もありません。また、希釈の必要もありません。接種間隔は、8週以上の間隔を置くことが推奨されており、他ワクチンよりも長く設定されています。これは、初回接種から2回目接種までの接種間隔が、8週未満の場合よりも8週以上の場合のほうが有効性が高いためです。さらに、12週以上のほうが、6週未満の場合よりも有効率が高いということが報告されています。副反応は国内第I/II相試験と海外臨床試験の結果で大きな違いはありませんが、すでに承認されている2種のmRNAワクチンと異なり、2回目よりも初回接種後の副反応の頻度が高いことが特徴です。重大な副反応としては、血小板減少症を伴う血栓症に注意が必要です。本剤接種後に非常にまれ(10万人当たり1人未満)ですが、重篤な血小板減少症を伴う血栓症が認められ、致死的転帰の症例も報告されています。この血栓症が海外で問題視されたことから、わが国では使用が見合わせられていましたが、7月30日に公的接種の対象として厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会で承認されました。なお、本剤は7月27日に添付文書の改訂指示が発出され、「毛細血管漏出症候群」が追記され、本症の既往歴のある人は接種不適当者とされました。本剤との関連性は確立されていないものの、海外において非常にまれながら手足の浮腫、低血圧、血液濃縮、低アルブミン血症などが報告されているため、そのような症状が認められた場合はただちに医師などに相談するようにあらかじめ伝えましょう。参考1)PMDA 添付文書 バキスゼブリア筋注

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下痢症状から急性胃腸炎を診断、ゴミ箱診断を防ぐには?【Dr.山中の攻める!問診3step】第5回

第5回 下痢症状から急性胃腸炎を診断、ゴミ箱診断を防ぐには?―Key Point―下痢症状から急性胃腸炎の診断をするときは、本当に診断が正しいのかどうか後ろめたい気持ちにならなければならない。なぜなら、ゴミ箱診断の可能性があるからである。48歳男性が動悸を主訴に救急室を受診。1週間前から臥位で寝ると息苦しいという。3日前に下痢と発熱が出現。昨日は37.9℃、水様便10回と嘔吐20回あり。意識清明で38.2℃、血圧230/102mmHg、心拍数132回/分(絶対性不整脈)、呼吸回数22回/分だった。ベラパミル(商品名:ワソラン)5mgを2回静注しても頻脈は変化なし。甲状腺機能を調べるとTSH:0.01μIU/mL(基準値:0.3~4.0)、 FT4:8ng/dL(基準値:0.9~1.7)であった。このとき優秀な後期研修医が「発熱+下痢+嘔吐+頻脈+心不全、これって甲状腺クリーゼじゃないの」と気が付いてくれた。◆今回おさえておくべき疾患はコチラ!経口摂取や消化液の分泌により、毎日7.5Lの水分が消化管に流れ込む。小腸でほとんどの水分が吸収され、1.2Lの水分が大腸に到達する。大腸は1Lの水分を吸収するため、正常の便は200mLの水分を含む。したがって、大量の下痢は小腸に病変があることを示す1)急性下痢は感染症、慢性下痢は感染症以外で起こることが多い急性下痢では脱水になっていないかの評価が重要である就寝中に起こる下痢は器質的疾患の存在を示唆する大腸がんでは便秘のみならず下痢となることもある【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】疾患の緊急性を見極める下痢は腸管以外の原因から考える。下痢の原因は腸管にあると考えがちだが、緊急性が高い腸管以外の疾患から考えるようにするとよい。●緊急性が高い“腸管以外”の疾患甲状腺クリーゼ、アナフィラキシー、トキシックショック症候群(TSS)、敗血症、腹膜炎、膵炎、薬剤●うんちしたい症候群(しぶり腹)大動脈瘤の切迫破裂、直腸がん、異所性妊娠、虚血性腸炎、炎症性腸疾患、細菌性大腸炎、急性虫垂炎、憩室炎、直腸異物*しぶり腹とは激しい便意にもかかわらず、ほとんど便が出ない状態*S状結腸や直腸に刺激が加わるとしぶり腹になる●血便が出る感染性下痢症腸管出血性大腸菌、赤痢菌、サルモネラ、カンピロバクター、赤痢アメーバ【分類】■急性下痢(1)炎症性(大腸型)下痢腸管出血性大腸菌、赤痢菌、サルモネラ、カンピロバクター、赤痢アメーバ*発熱、少量頻回(8~10回/日)の血性下痢、しぶり腹(2)非炎症性(小腸型)下痢ノロウイルス、ロタウイルス、コレラ、ウェルシュ、ランブル鞭毛虫*軽度の発熱、多量の水様下痢(3~4回/日)、悪心嘔吐、脱水■慢性下痢2)(1)浸透圧性下痢乳糖不耐症、下剤*乳糖不耐症は大人になって起こることがある*絶食により下痢は軽快する(2)炎症性下痢炎症性腸疾患、顕微鏡的大腸炎、放射線照射性腸炎、好酸球性腸炎、悪性腫瘍(大腸がん、悪性リンパ腫)*NSAIDsやプロトンポンプ阻害薬は顕微鏡的大腸炎を起こす*炎症性腸疾患は30~40代で多く、顕微鏡的大腸炎は70~80代に多い。(3)吸収不良症候群慢性膵炎、small intestinal bacterial overgrowth(SIBO、小腸内細菌異常増殖症)、短腸症候群*脂肪便は悪臭を伴い、便器に付着したり水に浮いたりする(4)分泌性下痢神経内分泌腫瘍(カルチノイドやVIPoma)、胆汁酸による下痢(5)腸管運動の異常過敏性腸症候群、糖尿病、甲状腺機能亢進症、強皮症(6)慢性感染症ランブル鞭毛虫、アメーバ赤痢、Clostridium difficile【STEP3】検査で原因を突き止める●急性下痢のほとんどは自然治癒するので検査は不要●以下の症状があれば検査が必要発熱(38.5℃超)、血便、脱水、ひどい腹痛、免疫力が低下している、高齢者(70歳超)、衛生状態が悪い外国から帰国症状に応じて血算、生化学、ヘモグロビン、便中白血球、便培養、CD毒素/抗原、寄生虫、大腸カメラを考慮する。●薬が原因の下痢は多い(薬剤性下痢)化学療法薬、抗菌薬、NSAIDs、アンギオテンシンンII受容体拮抗薬(とくにオルメサルタン)、プロトンポンプ阻害薬、ジゴキシン、メトホルミン、コルヒチン、ジスチグミン*、人工甘味料、アルコール*ジスチグミン(商品名:ウブレチド)はコリン作動性クリーゼを起こす<参考文献>1)Mansoor AM. Frameworks for Internal Medicine. p.176-197.2)Alguire PC, et al. MKSAP18 Gastroenterology and Hepatology. 2018. p.26-35.

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重症化前のCOVID-19入院患者、ヘパリン介入で転帰改善/NEJM

 非重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者の治療において、治療量のヘパリンを用いた抗凝固療法は通常の血栓予防治療と比較して、集中治療室(ICU)における心血管系および呼吸器系の臓器補助なしでの生存退院の割合を改善し、この優越性はDダイマー値の高低を問わないことが、カナダ・トロント大学のPatrick R. Lawler氏らが実施した、3つのプラットフォーム(ATTACC試験、ACTIV-4a試験、REMAP-CAP試験)の統合解析で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2021年8月4日号で報告された。中等症入院患者の適応的マルチプラットフォーム試験 研究グループは、治療量の抗凝固療法はCOVID-19による非重症入院患者の転帰を改善するとの仮説を立て、これを検証する目的で、非盲検適応的マルチプラットフォーム無作為化対照比較試験を行った(ATTACC試験はカナダ保健研究機構[CIHR]など、ACTIV-4a試験は米国国立心臓・肺・血液研究所[NHLBI]など、REMAP-CAP試験は欧州連合[EU]などによる助成を受けた)。本研究では、2020年4月21日~2021年1月22日の期間に、9ヵ国121施設で患者登録が行われた。 対象は、中等症のCOVID-19で、登録時に入院を要するが、臓器補助は必要とせずICUへの入室が不要な患者であった。被験者は、治療量のヘパリンを用いた抗凝固療法を受ける群、または通常の血栓予防薬の投与を受ける群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは臓器補助離脱日数とし、院内死亡(最も不良なアウトカム、-1点)と、最長で21日までの生存退院時における心血管系または呼吸器系の臓器補助なしの日数(0~21点)を合わせた順序尺度(ICUでの介入と生存を反映し、点数が高いほどアウトカムが良好)で評価された(21日までに臓器補助なしで生存退院した場合は22点[最良のアウトカム]と判定された)。このアウトカムの評価は、全例およびベースラインのDダイマー値別に、ベイズ流統計モデルを用いて行われた。 本研究は、1,398例の適応的解析においてDダイマー値の高値集団と低値集団の双方で、治療量抗凝固療法群が事前に規定された優越性の中止基準に到達したため、2021年1月22日、データ安全性監視委員会の勧告により患者登録が中止された。1,000例当たり大出血7件増、臓器補助なし生存退院40例増 ベースラインの平均年齢(±SD)は、治療量抗凝固療法群が59.0±14.1歳、通常血栓予防薬群は58.8±13.9歳、男性がそれぞれ60.4%および56.9%であった。最終解析には2,219例(治療量抗凝固療法群1,171例、通常血栓予防薬群1,048例)が含まれた。治療量抗凝固療法群のうちデータが得られた1,093例では、94.7%(1,035例)が低分子量ヘパリン(ほとんどがエノキサパリン)の投与を受けていた。通常血栓予防薬群は、71.7%が低用量の、26.5%が中用量の血栓予防薬の投与を受けた。 治療量抗凝固療法群で、通常血栓予防薬群に比べ臓器補助離脱日数が増加する事後確率は、98.6%(補正後オッズ比中央値:1.27、95%信用区間[CrI]:1.03~1.58)であった。21日までに臓器補助なしで生存退院した患者は、治療量抗凝固療法群が1,171例中939例(80.2%)、通常血栓予防薬群は1,048例中801例(76.4%)、補正後絶対差中央値は4.0ポイント(95%CrI:0.5~7.2)であり、抗凝固療法群で良好だった。 治療量抗凝固療法群で臓器補助離脱日数が優越する事後確率は、Dダイマー高値(各施設の基準値上限の≧2倍)の集団で97.3%、同低値(同<2倍)の集団で92.9%、同不明の集団では97.3%であった。 大血栓イベント/死亡(心筋梗塞、肺塞栓症、虚血性脳卒中、全身性動脈塞栓症、院内死亡の複合)は、治療量抗凝固療法群で8.0%(94/1,180例)、通常血栓予防薬群で9.9%(104/1,046例)に発現した。大出血はそれぞれ1.9%(22/1,180例)および0.9%(9/1,047例)、致死的出血は3例および1例にみられた。頭蓋内出血やヘパリン起因性血小板減少症は認められなかった。 著者は、「これらの知見に基づくと、治療量抗凝固療法は通常血栓予防薬と比較して、中等症COVID-19入院患者1,000例当たり、大出血イベントを7件増やす一方で、40例に臓器補助なしでの生存退院を追加的にもたらす可能性が示唆される」としている。

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重症COVID-19患者へのヘパリン介入、転帰を改善せず/NEJM

 重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の治療において、治療量のヘパリンを用いた抗凝固療法は通常の血栓予防治療と比較して、生存退院の確率を向上させず、心血管系および呼吸器系の臓器補助なしの日数も増加させないことが、カナダ・トロント大学のEwan C. Goligher氏らが行った、3つのプラットフォーム(REMAP-CAP試験、ACTIV-4a試験、ATTACC試験)の統合解析で示された。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2021年8月4日号に掲載された。重症ICU入室患者の適応的マルチプラットフォーム試験 本研究は、治療量の抗凝固療法は重症COVID-19患者の転帰を改善するとの仮説の検証を目的とする非盲検適応的マルチプラットフォーム無作為化対照比較試験であり、2020年4月21日~12月19日の期間に10ヵ国393施設で参加者が募集された(REMAP-CAP試験は欧州連合[EU]など、ACTIV-4a試験は米国国立心臓・肺・血液研究所[NHLBI]など、ATTACC試験はカナダ保健研究機構[CIHR]などの助成を受けた)。 対象は、重症のCOVID-19患者(疑い例、確定例)で、重症の定義は集中治療室(ICU)で呼吸器系または心血管系の臓器補助(高流量鼻カニュラによる酸素補給、非侵襲的/侵襲的機械換気、体外式生命維持装置、昇圧薬、強心薬)を要する場合とされた。被験者は、治療量のヘパリンを用いた抗凝固療法を受ける群、または各施設の通常治療に準拠した血栓予防薬の投与を受ける群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは臓器補助離脱日数とされ、院内死亡(−1点)と最長で21日までの生存退院における心血管系または呼吸器系の臓器補助なしの日数(0~21点)を合わせた順序尺度で評価された。 本研究は、適応的中間解析で治療量抗凝固療法群が事前に規定された無益性の判定基準を満たしたため、2020年12月19日に患者登録が中止された。離脱日数は95.0%、生存退院は89.2%の確率で、通常治療より劣る 1,103例が登録され、治療量抗凝固療法群に536例(平均年齢[±SD]60.4±13.1歳、男性72.2%)、通常血栓予防薬群に567例(61.7±12.5歳、67.9%)が割り付けられた。主要アウトカムのデータは1,098例(534例、564例)で得られた。 臓器補助離脱日数中央値は、治療量抗凝固療法群が1点(IQR:-1~16)、通常血栓予防薬群は4点(-1~16)で、補正後オッズ比(OR)は0.83(95%信用区間[CrI]:0.67~1.03)であり、無益性(OR<1.2と定義)の事後確率は99.9%、劣性(OR<1と定義)の事後確率は95.0%、優越性(OR>1と定義)の事後確率は5.0%であった。 また、生存退院の割合は両群で同程度だった(治療量抗凝固療法群:62.7%、通常血栓予防薬群:64.5%、補正後OR:0.84[95%CrI:0.64~1.11]、無益性の事後確率:99.6%、劣性の事後確率:89.2%)。 大血栓イベント(肺塞栓症、心筋梗塞、虚血性脳血管イベント、全身性動脈血栓塞栓症)の割合は、治療量抗凝固療法群で少なかった(6.4% vs.10.4%)が、大血栓イベント/死亡(大血栓イベント+院内死亡の複合)の割合は両群で同程度であった(40.1% vs.41.1%)。また、大出血は、治療量抗凝固療法群で3.8%、通常血栓予防薬群で2.3%に発現した。 著者は、「今回の共同研究は、個々の独立プラットフォームではありえないほど迅速に、有害な可能性のある無益性の結論に到達することを可能にした」とし、「重症COVID-19患者では、複数の臓器系で凝固活性の亢進が示されているが、重症COVID-19の発症後に治療量の抗凝固療法を開始しても、確立された疾患過程の結果を改善するには遅過ぎる可能性がある。また、肺に著明な炎症がある場合、治療量の抗凝固療法は肺胞出血の増悪をもたらし、転帰の悪化につながる可能性がある」と指摘している。

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第66回 宿泊療養も抗体カクテル療法適用/救急搬送困難例が1ヵ月で2倍超

<先週の動き>1.宿泊療養も抗体カクテル療法が可能に、自治体に酸素ステーション配備2.救急搬送困難事案が1ヵ月で2倍増、ICU受け入れ制限も/消防庁3.コロナ患者の不適切な受け入れ拒否は病床確保料の対象外に/厚労省4.AZ製ワクチン、16日から緊急事態宣言区域にて接種開始5.コロナ対応の医療従事者、濃厚接触でも要件を満たせば出勤可能/厚労省1.宿泊療養も抗体カクテル療法が可能に、自治体に酸素ステーション配備軽症~中等症COVID-19に対して7月に特例承認された抗体カクテル療法(商品名:ロナプリーブ点滴静注セット)について、当初は原則として入院治療を要する患者への使用に限られていたが、13日に事務連絡が改正され、宿泊療養中の患者についても適用可能となった。宿泊療養施設を「有床の臨時医療施設」と見なし、東京都では同日から投与を開始している。なお、供給量の観点から本剤の一般流通は行われず、厚生労働省が所有した上で、対象となる患者が発生した医療機関からの依頼に基づき、無償で譲渡する体制が取られている。本剤の使用を希望する医療機関は、予め「ロナプリーブ登録センター(中外製薬)」への医療機関登録が必須となる。問い合わせ先中外製薬 ロナプリーブ専用ダイヤル:0120-002-621(平日9:00~17:30)第5波の新規感染者数増加に歯止めがかからず、病院において患者受け入れ困難が発生しているため、菅首相は13日に、自治体と連携して酸素ステーションを設置して対処する方針を明らかにしている。(参考)菅首相 「酸素ステーション」「抗体カクテル療法」拠点整備へ(NHK)厚労省 抗体カクテル療法・ロナプリーブ点滴静注の宿泊療養での投与可能に 事務連絡を改正(ミクスonline)新型コロナウイルス感染症における中和抗体薬「カシリビマブ及びイムデビマブ」の医療機関への配分について(質疑応答集の修正・追加)(事務連絡 令和3年7月20日、8月13日一部改正)2.救急搬送困難事案が1ヵ月で2倍増、ICU受け入れ制限も/消防庁総務省消防庁は11日、救急車が到着しても搬送先の病院がすぐに決まらない「救急搬送困難事案」について、8月第1週(2~8日)で全国2,897件と、7月第2週(5~11日)の1,390件と比較して2倍以上になっていることを公表した。救急搬送困難事案は、第3波の今年1月3週目に過去最多の3,317件を記録しているが、7月から8月にかけて、それを超す増加率で推移している。全国医学部長病院長会議は10日、27つの大学病院において集中治療室(ICU)での患者受け入れ制限を発表しており、他疾患での救急搬送にも影響が出ていることが明らかになっている。(参考)救急搬送困難2897件、1ヵ月で2.5倍 コロナで医療逼迫 8月2~8日、全国で(日経新聞)新型コロナウイルス感染症第5波が大学病院診療に与える影響(声明)(全国医学部長病院長会議)各消防本部からの救急搬送困難事案に係る状況調査の結果(総務省消防庁)3.コロナ患者の不適切な受け入れ拒否は病床確保料の対象外に/厚労省厚労省は、病床が逼迫している状況を受け、COVID-19患者の入院医療機関(重点医療機関および疑い患者受け入れ協力医療機関を含む)に対し、都道府県からCOVID-19の入院受け入れ要請があった場合は、正当な理由なく断らないよう6日の事務連絡で通知した。コロナ患者の入院医療機関において、適切な受け入れが困難な場合は、その医療機関の即応病床数の見直しを求めており、新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業の補助金を受け取りながら、入院要請のあったコロナ患者を受け入れない医療機関は、病床確保料の支給対象外となることが明記されている。(参考)新型コロナウイルス感染症患者等入院医療機関について(事務連絡 令和3年8月6日)コロナ入院対応拒否、病床確保料の対象外の可能性も 正当な理由なく、厚労省(CBnewsマネジメント)4.AZ製ワクチン、16日から緊急事態宣言区域にて接種開始河野規制改革相は10日の記者会見で、アストラゼネカ(AZ)製の新型コロナウイルスワクチン(商品名:バキスゼブリア筋注)を、自治体での接種開始に向けて緊急事態宣言が発令中の6都府県に16日から供給すると発表した。政府は200万回分を確保しており、それ以外の地域でも8月下旬から接種可能となる見込み。AZ製ワクチンは、原則として40歳以上が接種対象であり、2~8℃で冷所保存が可能、また2回の筋肉内注射で、標準的には27~83日の間隔を空けることとされている。副反応として、ごく稀に「血小板減少症を伴う血栓症」が起こるとされ、『アストラゼネカ社 COVID-19 ワクチン接種後の血小板減少症を伴う血栓症の診断と治療の手引き・第2版』を日本脳卒中学会と日本血栓止血学会が公開している。(参考)アストラ製ワクチン、宣言発令中の6都府県に16日から供給(読売新聞)明治系、アストラ製ワクチン配送開始 自治体接種に備え(日経新聞)アストラゼネカ社ワクチンの接種・流通体制の構築について(厚労省)5.コロナ対応の医療従事者、濃厚接触でも要件を満たせば出勤可能/厚労省厚労省は、新型コロナウイルスワクチンの接種が完了している医療従事者について、濃厚接触者になっても、新型コロナ診療に当たることを認める通知を13日、各都道府県などに通知した。該当する医療従事者は、コロナ診療に従事する者に限られ、濃厚接触の認定より前に2回のワクチンを接種後14日間が経過している必要がある。また、無症状であり、毎日業務前にPCR検査や抗原検査などで陰性を確認することなどが要件とされる。なお、当該医療従事者が感染源にならないよう細心の注意を払う必要がある。これにより、全国的な感染急拡大で逼迫する医療現場の人手不足を回避する狙いだろう。(参考)新型コロナウイルス感染症対策に従事する医療関係者である濃厚接触者に対する外出自粛要請への対応について(事務連絡 令和3年8月13日)コロナ治療の医療従事者、濃厚接触者の制限を緩和(朝日新聞)濃厚接触の医療従事者、条件つきで出勤可能に(日経新聞)

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米CDCが妊婦のコロナワクチン接種推奨「リスクよりベネフィット上回る」

 妊娠中および授乳中の女性にとって、新型コロナワクチン接種による副反応を含めた身体への影響は、もっとも懸念するところである。しかし、感染力が強く急激に悪化するデルタ株の世界的まん延は、接種をためらう猶予すら与えない脅威になっているようだ。米国・疾病対策センター(CDC)は8月11日付でウェブサイトを更新し、ワクチン接種によって流産などのリスクが高まる懸念は見られなかったとする新たなデータを公表した。CDCは「ワクチンによって得られるベネフィットがリスクを上回ることを示唆している」として、妊婦の接種を強く推奨している。 CDCのデータによると、妊娠20週までに、ファイザー製およびモデルナ製のmRNAワクチンを少なくとも1回接種した妊婦2,456例について自然流産(SAB)の累積リスクを評価したところ、12.8%(95%信頼区間:10.8~14.8)であった。経済水準が同等の国における一般的なSABの割合は11~16%と見られ、CDCは「妊娠中にmRNAワクチンを接種した女性において流産のリスクが高まることはなかった」とし、安全上の懸念は見られないという認識を示した。 新型コロナワクチンの接種が急ピッチで進められる中、妊娠中のCOVID-19ワクチン接種の安全性と有効性に関するエビデンスも徐々に増えている。CDCは、「COVID-19ワクチンを受けるベネフィットが、妊娠中のワクチン接種の既知または潜在的なリスクを上回ることを示唆している」とし、妊娠している人を含め12歳以上のすべての人にワクチンを推奨し、1回目接種後に妊娠が判明した場合でも、2回目の接種を受ける必要があるとしている。

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新型コロナ治療薬「レムデシビル」が薬価収載、10月にも流通へ

 ギリアド・サイエンシズ株式会社は8月12日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬「ベクルリー点滴静注用100mg」(一般名:レムデシビル)が、同日付で薬価収載されたと発表した。薬価は1瓶(100mg)当たり63,342円。 ベクルリーは、2020年5月1日に米国食品医薬品局(FDA)よりCOVID-19治療薬としての緊急時使用許可を受け、日本では同年5月7日に特例承認された。投与の対象となるのは、ECMO装着患者、人工呼吸器装着患者、ICU入室中の患者であって除外基準や基礎疾患の有無を踏まえ、医師の判断により投与することが適当と考えられる患者、および「ECMO装着、人工呼吸器装着、ICU入室」以外の入院患者うち、酸素飽和度94%(室内気)以下または酸素吸入が必要で、除外基準や基礎疾患の有無を踏まえ、医師の判断により投与することが適当と考えられる患者、となっている。本剤は、COVID-19のパンデミック下で迅速かつ公平に配分されることを目的に、厚生労働省との供給および販売契約を締結しているが、本年10月にも一般流通を開始する予定。 なお一般流通が始まるまでの期間は、引き続き国が購入した同製品を、現状のG-MIS(新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム)への入力を通じた方法により配分する。<製品概要>販売名:ベクルリー点滴静注用100mg一般名: レムデシビル効能・効果:SARS-CoV-2による感染症効能又は効果に関連する注意:臨床試験等における主な投与経験を踏まえ、SARS-CoV-2による肺炎を有する患者を対象に投与を行うこと。用法・用量:通常、成人及び体重40kg以上の小児にはレムデシビルとして、投与初日に200mgを、投与2日目以降は100mgを1日1回点滴静注する。通常、体重3.5kg以上40kg未満の小児にはレムデシビルとして、投与初日に5mg/kgを、投与2日目以降は2.5mg/kgを1日1回点滴静注する。なお、総投与期間は10日までとする。製造販売承認日:2020年5月7日薬価基準収載日:2021年8月12日薬価:63,342円/瓶

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デルタ株(インド株)の遺伝子変異と臨床的特徴(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

原著論文【Lancet】SARS-CoV-2 Delta VOC in Scotland: demographics, risk of hospital admission, and vaccine effectiveness 2019年12月末に中国・武漢で発生した新型コロナ感染症の原因ウイルスを武漢原株(第1世代)と定義する。ウイルスは2.5塩基/月の速度で変異を繰り返し(Meredith LW, et al. Lancet Infect Dis.2021;20:1263-1271.)、2020年2月下旬にはS蛋白614位のアミノ酸がアスラギン酸(D)からグリシン(G)に置換されたD614G株(第2世代、従来株)が発生した。D614G株は変異を繰り返し、D614G株から数多くの変異株が形成されたが2020年の秋口まではD614G株自体が世界を席巻する主たるウイルスであった。しかしながら、2020年の秋以降、D614G株のS蛋白501位のアミノ酸がアスパラギン(N)からチロシン(Y)に置換されたN501Y株ならびにN501Y変異を有さない非N501Y株がD614G株を凌駕し、コロナ感染症は第2世代から第3世代変異株の時代に突入した。WHOは、第3世代の変異株にあってAlpha株(英国株:B.1.1.7)、Beta株(南アフリカ株:B.1.351)、Gamma株(ブラジル株:P.1)、Delta株(インド株:B.1.617.2)の4種類をVOC(Variants of Concern)と定義し、世界的な監視/警戒を呼び掛けている。 Alpha株は2020年9月以降、Beta株は2020年11月以降、Gamma株は2020年12月以降に世界的播種が始まった。インド株は2020年10月にインドにおいて初めて検出されたN501Yを有さない第3世代変異株であるが、初期には、S蛋白にE484QとL452Rという2つの液性免疫回避作用の原因となる遺伝子変異を有するB.1.617.3が主流を占めていた。しかしながら、2021年4月末以降、B.1.617.3の頻度が低下、代わってB.1.617.1とB.1.617.2による感染頻度が増加した。5月に入り、B.1.617.1が衰退し、現在ではB.1.617.2がインド株の中心的ウイルスとして世界に播種している(Weekly epidemiological update on COVID-19. WHO. 2021 May 11.)。 Delta株のS蛋白には遺伝子変異が8ヵ所認められ(T19R、G142D、157/158欠損、L452R、T478K、D614G、P681R、D950N)、L452R変異が強力な液性免疫回避作用を発現する。157/158欠損、T478Kも液性免疫回避作用を有するがL452Rほど強力ではない。P681R変異はS2領域のFurin切断部位近傍に存在し、ウイルスと生体膜との融合を強めウイルスの感染性を上昇させる。Delta株は変異/進化を続け、現在、B.1.617.2から派生したAY.1、AY.2、AY.3も検出されるようになった(B.1.617.2のSublineage、Tracking SARS-CoV-2 Variants. WHO. 2021 July 18.)。AY.1、AY.2はB.1.617.2にK417T変異が加わったもの、AY.3はB.1.617.2にI1371V(ORF1aの変異)変異が挿入されたものである。2021年5月以降、Alpha株からDelta株への置換が進行し、2021年7月20日現在、インド、英国、米国、南アフリカ、ロシア、中国など世界の多くの国/地域で直近1ヵ月における新型コロナ感染の75%をDelta株が占めるようになっている(Weekly epidemiological update on COVID-19. WHO. 2021 July 20.)。本邦にあっては、3月初旬より第2世代のD614G株から第3世代のAlpha株への置換が始まり、5月末には感染ウイルスの85%をAlpha株が占めるようになった。しかしながら、6月初旬よりAlpha株感染の低下が始まり、7月中旬にはDelta株感染が新規感染の50%に達するものと予測されている。6月28日現在、関東圏(東京、埼玉、千葉、神奈川)においては新規感染者の30%、関西圏(大阪、京都、兵庫)においては新規感染者の5%がDelta株に起因すると推定されている(国立感染症研究所. 2021年7月6日)。 本論評で取り上げたSheikhらの論文は、スコットランドにおけるPfizer社のBNT162b2(RNAワクチン)ならびにAstraZeneca社のChAdOx1(Adeno-vectoredワクチン)のAlpha株、Delta株に対する発症/重症化予防効果を解析したものである。解析施行時(2021年4月1日~6月6日)のスコットランドでは、背景ウイルスがAlpha株からDelta株に置換されつつあった時期であり、コロナ感染者の39.5%、入院患者の35.5%がDelta株感染であり、Delta株感染による入院リスクはAlpha株感染の1.85倍であった。スコットランドにおける解析終了時点でのワクチン完全接種率(2回のワクチン接種終了)は65歳以上の高齢者で88.8%、国民全体で39.4%であり、Alpha株感染の75%、Delta株感染の70%はワクチン非接種者に認められた。Pfizer社ワクチンの発症予防効果はAlpha株に対して92%、Delta株に対して79%、AstraZeneca社ワクチンの発症予防効果はAlpha株に対して73%、Delta株に対して60%であり、両ワクチンともDelta株に対する予防効果が有意に減弱していることが示された。他のワクチンを含めた各種ワクチンのVOC変異株に対する中和抗体価、予防効果に関しては次の論評で詳細に検討する予定であるので、それを参照していただきたい。本論文の興味深い点は、5月1日から5月27日までの約1ヵ月間におけるAlpha株とDelta株感染の推移が具体的に提示されていることであり(論文の補遺参照)、スコットランドでは1ヵ月という非常に短い期間でAlpha株はDelta株にほぼ置換されたことを示している。本論文で明らかにされたDelta株の感染性、病原性の増強ならびにワクチン抵抗性は、Delta株のS蛋白における複数の遺伝子変異から説明可能である。 本論文ならびに他の論文で明らかにされた、Delta株に対するワクチンの効果以外の臨床的特徴について考察する。感染性の指標である実効再生産数(Rt)の野生株あるいは従来株に対する比は、Alpha株で1.41倍、Beta株で1.36倍、Gamma株で1.11倍である(Weekly epidemiological update on COVID-19. WHO. 2021 March 21.)。一方、Delta株のRtは野生株・従来株の1.97倍、Alpha株の1.55倍になると報告された(Campbell F, et al. Euro Surveill. 2021;26:2100509.)。すなわち、Alpha株、Beta株では発生から75%の感染率に達するまでには約3ヵ月の期間を要するのに対し、Delta株ではスコットランドの研究で示されたように約1ヵ月で75%の感染率に達する。一方、Gamma株では約6ヵ月を要して75%の感染率に達する。 Delta株感染時の生体へのウイルス負荷量は野生株/従来株感染時の1,200倍にも達し、ウイルス感染からPCRが陽性になるまでの潜伏期間は6日から4日に短縮される(Li B, et al. medRxiv. 2021;2021.07.07.21260122.)。その結果、野生株/従来株感染に比べ、Delta株感染では一般的入院リスクが1.2倍、ICU入院リスクが2.9倍、死亡リスクが1.4倍上昇すると報告されている(Fishman DN, Tuite AR. medRxiv. 2021;2021.07.05.21260050.)。別の論文では、野生株/従来株感染に比べてDelta株感染ではウイルス陽性期間が長く、肺炎発症リスクが1.9倍、ICU入院/死亡リスクが4.9倍に達すると報告された(Ong SWX, et al. Social Science Research Network. 2021.)。 Delta株感染の年齢分布、性差の影響に関する確実な報告は現時点では存在しない。これは、ワクチン接種という人為的要因が加わったためにDelta株の自然感染時のデータ集積が困難になっているためである。Delta株の感染性、病原性は野生株/従来株、Alpha株より強いものであることは間違いないが、それに対して年齢、性差が影響するという科学的根拠はない。それ故、Delta株の自然感染における年齢分布、性差の影響は、ワクチン接種が始まる前に集積された野生株/従来株、Alpha株に対する影響と質的に同じと考えるべきであろう。もしこの考えが正しいならば、性差によってDelta株感染に著明な差を認めず、感染者数の年齢分布はダイヤモンド型を呈するものと推察される。すなわち、Delta株感染者数は、小児、高齢者で少なく、活動度の高い20~50代で多い(Public Health England)。Delta株感染者数がこのダイヤモンド形態から外れる場合には、各世代のワクチン接種率の差が人為的要因として関与しているものと考えるべきである。

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第70回 五輪然りPCR検査済みなら修学旅行はOK?大阪府教育委員会の見解は…

新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急事態宣言が東京都に発令され、東京都だけでなく全国各地で過去最高の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の感染者数を記録し続ける最中に開催された東京オリンピック2020が8月8日に終了した。原則無観客開催であったことも幸いしてか、今のところオリンピックを直接のきっかけとする感染拡大は起きてはいないとみられる。そのせいか、菅 義偉首相も丸川 珠代東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会担当大臣もオリンピックが感染拡大につながっていないと繰り返し強調している。「菅首相“オリンピック 感染拡大 つながっているわけではない“」(NHK)「『五輪開催 感染拡大の原因にはなっていない』丸川五輪相」(NHK)少なくとも現時点ではこの見解を覆すエビデンスはないが、過去に例を見ない感染状況の最中に本来感染対策に向けるべきリソースをオリンピックの円滑な開催に振り向けたであろうことは、これまた疑いの余地がないのではないかと思っている。この感染状況にもかかわらずオリンピックを開催したことは紋切り型の表現で恐縮だが、「国民に適切な感染対策を取るよう求めるメッセージが伝わりにくくなる」という現実もある。そうした最中、私が注目したのは以下のニュースだ。「緊急事態でも修学旅行実施 大阪市長『五輪やっている』」(朝日新聞)簡単に要約すると緊急事態宣言中ではあるが、8月に予定されている大阪市立の中学校4校の修学旅行は、生徒に事前のPCR検査を受けさせて陰性の生徒のみで予定通り実施するというニュースだ。記事の見出しにもある「五輪やっている」は、実はこの記事だけだと真意が分かりにくいが、大阪市のホームページにある市長会見の全文を見ればより理解がしやすい。松井 一郎市長が言っていることを要約すると、「大会期間中も定期的なPCR検査を実施して陰性者のみでオリンピックを開催できているのだから、修学旅行も事前のPCR検査実施で陰性者のみで実施するならばそれは構わないのではないか」という見解だ。松井市長はこれに関連して「僕も悩みましたけども」「子どもたちの一生の思い出に残るような事業、行事についてはできる限り実施をしたい」と発言しているように少なくとも短絡的に決めたわけではなさそうだ。かくいう私もコロナ禍で娘の修学旅行中止を経験している。昨春に予定されていた娘の修学旅行はコロナ禍により初冬に日程を短縮したうえで延期。ところがその時期に第3波の感染拡大が始まったことで、実施1週間前に突如中止となった。娘は表面上ヘラヘラしていたが、どれだけ辛かったろうと今でも思っている。その意味では本音ではあまり無粋なことは言いたくない。ただ、どうしてもPCR検査に対する過剰な期待と陰に隠れた危険性を認識していないのではないかと思ってしまうのだ。まず、読者の皆様には明らかに釈迦に説法なのだが、PCR検査は万能ではない。感染から4日以内ならば感度は50%に満たない。結果として参加者に偽陰性者が紛れ込む可能性があり、修学旅行中に生徒内や滞在先の関係者に感染させてしまう恐れがある。また、当然ながら出発時に陰性だったとしても滞在先で感染してしまうケースもある。だが、私がそれ以上に気になったのは、事実上「修学旅行不参加=新型コロナ感染者」と丸わかりになってしまう怖れだ。松井市長は記者との質疑応答内で感染していれば修学旅行に行けないのは「インフルエンザでも一緒ですよね」とあっさり言っている。しかし、ワクチンが登場したとはいえ、一般人からすれば新型コロナはまだまだ未知の感染症のイメージだ。インフルエンザに罹ったことで周囲から白眼視されることはほぼないが、新型コロナ感染では白眼視も含め不利益を被る可能性はまだ十分にあることを念頭に置かねばならない。そもそも同じ感染症でもインフルエンザとは状況が異なるから、わざわざ事前にPCR検査をすると言っているわけだからこの例えは問題をやや矮小化している。また、事前のPCR検査で陽性と判明した生徒と濃厚接触者の認定を受けた生徒が発生した場合どうするのか? これについても松井市長と記者との質疑応答がある。以下、その部分を引用する。記者そこで一部、陽性の方が出てしまったっていう場合には、当然その陽性の方は行けないだろうというのは分かるんですが。市長だから、それ何度も言うけどインフルエンザも駄目でしょそれは。記者濃厚接触者の特定というのは保健所を通じてやって、そういう方については行けないということになるわけですかね。市長うん、申し訳ないけどね。だから行けない子どもはそら本当に可哀想や思うよ。でもそのことをもってね、全て行事中止かといえば、それはちょっと違うでしょと思ってます。もちろん松井市長の考え方も一つだ。しかし、PCR検査で陽性となった生徒も濃厚接触となった生徒も罪はない。だが、双方の生徒ともその後も続くかもしれない心理的傷を負う可能性はあるし、とりわけ友人に感染させた可能性を持つ生徒の心痛は計り知れない。大阪市教育委員会に電話をし、指導部の担当者に尋ねてみた。―報道でも発表があった8月の市立中学校4校の修学旅行(行先は岐阜県の学校と長野県の学校がある)の実施は予定通りですか?担当者現時点では岐阜のほうに関しては調整中なので、行くことは行くけれども延期ということになっています。―4校すべて延期ですか?担当者いえ、岐阜県を行き先とした学校は延期ということです。―延期というのは受け入れ先の要望ですかね?担当者受け入れ先と言いますか、県ですね。―念のため確認をしたいのですが、報道ではPCR検査で陰性となった生徒のみが修学旅行に参加できると伺っていますが、間違いありませんか?担当者はい、そうですね。―ちなみに陽性と分かった生徒と学校内で濃厚接触と認定された生徒についてはどうなりますか?担当者今は夏季休暇中でもあるので、もしあるとするならば部活動ですかね。その場合は個別にどのような状況だったかを確認したうえで保健所などとの調整になるかとは思うのですが、授業とかをやっているわけではないので、その辺の可能性は低いのではないかと考えています。―修学旅行への不参加ということでPCR検査陽性者が特定できる可能性はありますよね?担当者すでに過去にさまざまな形で感染の例を経験しています。そのうえで誰がということではなく、さまざまな事情でお休みすることがあったりはするので、その都度の個別の対応で結果として感染者が誰かが分かることはあるかもしれません。そのことでマイナスイメージを持たれる、あるいはトラブルになることも想定できますし、正直避けては通れない問題であることは確かですので、従来から学校のほうで慎重に取り扱うことにはなっています。―過去の感染発生のケースも含め、個人情報の扱い方や対応について何か市ではマニュアル等の作成は行っているのでしょうか?担当者そもそも感染が判明した場合だけでなく、感染が怖いため登校を見合わせるケースなどさまざまなケースが考えられるため、それらも含めて慎重に対応するよう昨年度から大阪市教育委員会でも「学校園における新型コロナウイルス感染症対策マニュアル」を策定しており、完全に学校任せにはしていません。―ちなみに、延期により9月以降の修学旅行を実施する学校もありますよね?その場合は生徒内で濃厚接触者も発生する可能性もあります。自分が行けなくなってしまっただけでなく、友達を行けなくさせてしまったことで心理的に相当つらい思いをする生徒も発生する可能性があります。その場合を想定した対策は考えていらっしゃいますか?担当者基本的には従来と対応は変わりません。というのも、それぞれ個々の感染状況があると思うので一概に決められるものではないからです。また、今回のPCR検査については基本的に業者に依頼するもので、陽性になった場合でもさらに保健所と対応を協議することを念頭に余裕も持たせたスケジュールで行う予定で、その上で修学旅行自体は延期をベースにしつつも、内容を変えた実施も含めて検討します。誰かのせいで行けなかったということが極力ないような形で実施したいと思っています。この回答を聞いて単なる官僚答弁というつもりはない。むしろ当初はこのPCR検査の結果の運用次第で生徒に与える影響についてほとんど考えていないのではないかとやや斜に構えた見方をしていたのだが、思ったよりは教育委員会もさまざまなケースを想定していたのだと感じている。よどみなくしかも嫌がらずに答える担当者の対応にもそうした空気を感じた。私がこの問題にこだわったのは自分の娘の経験もあるが、ある医師から修学旅行にまつわるエピソードを聞き、そのことが頭からは離れなかったためである。この医師はある中学校の先生から「修学旅行を何とか実施したい、ついては生徒全員にPCR検査をし、全員が陰性だった場合のみ実施しようと思うがどう考えるか?」との相談を受けたという。医師は次のように答えたという。「PCR検査は感染性が失われた隔離解除期間後も陽性となることがある。つまり流行中に中学生たちに一斉に検査をするとリアルに感染性がある子どもたちを発見する可能性がある一方で、治癒後の生徒たちもかなり見つかる。では治癒後と思われる子は修学旅行に行かせないのでしょうか? 行かせないだけならまだしも、陽性の生徒が発生したクラスや部活はどうするんですか?濃厚接触者ならば、同じクラスの生徒や同じ部活の生徒も行かせることはできないですよね。しかもどの子が陽性だったからみんなが行けなくなったのか分かります。その時に『お前が感染してたからみんなが修学旅行に行けなくなったんだ』ということをその子に背負わせることができますか?」この医師が示唆する対応、すなわち修学旅行を実施しないは最も誰も傷つかない、あるいはみな平等に傷つく対応といえ一つの解と言える。その一方でギリギリの判断をする前述の大阪市教育委員会の解も完全に的外れではないと思う。ただ、一つだけ言えることはPCR検査も含めその結果がもたらす医学的確からしさ、科学的確からしさは時に極めて残酷な結論をもたらし、かつその影響を長期にわたって引きずることになるかもしれないということを、この件を通じて改めて思い知った次第である。

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COVID-19、心筋梗塞・脳梗塞リスクが大幅に上昇/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は急性心筋梗塞および虚血性脳卒中のリスク因子であることが、スウェーデンにおけるCOVID-19の全症例を分析した自己対照ケースシリーズ(SCCS)およびマッチドコホート研究で示唆された。スウェーデン・ウメオ大学のIoannis Katsoularis氏らが報告した。COVID-19は多臓器を標的とした複雑な疾患であり、これまでの研究で、COVID-19が急性心血管系合併症の有力なリスク因子であることが浮き彫りになっていた。Lancet誌オンライン版2021年7月29日号掲載の報告。スウェーデンのCOVID-19全患者約8万7千例を解析 研究グループは、2020年2月1日~9月14日の期間にスウェーデンでCOVID-19を発症したすべての患者の個人識別番号を特定し、入院、外来、がんおよび死因に関する登録とクロスリンクした。対照群は、年齢、性別、スウェーデンの居住地域でマッチングさせた。SCCSではCOVID-19全患者、マッチドコホート研究ではCOVID-19全患者とマッチングした対照者の入院原因は、急性心筋梗塞または虚血性脳卒中の国際疾病分類コードによって特定された。 SCCS研究では、COVID-19発症後の初回急性心筋梗塞または虚血性脳卒中の発生率比(IRR)を算出し対照期間と比較。マッチドコホート研究では、COVID-19発症後2週間以内における初回急性心筋梗塞または虚血性脳卒中の発症リスク増加を、マッチングし対照群と比較した。 解析対象は、SCCS研究でCOVID-19全患者8万6,742例、マッチドコホート研究でマッチングされた対照者34万8,481例であった。急性心筋梗塞および虚血性脳卒中のリスクはCOVID-19発症後1週以内で約3倍 SCCS研究における初回急性心筋梗塞のIRRは、COVID-19発症日をリスク期間から除外した解析(解析1)では、COVID-19発症後1週間以内(1~7日)で2.89(95%信頼区間[CI]:1.51~5.55)、2週目(8~14日)で2.53(1.29~4.94)、3~4週目(15~28日)で1.60(0.84~3.04)、COVID-19発症日をリスク期間に含めた解析(解析2)では、それぞれ8.44(5.45~13.08)、2.56(1.31~5.01)、1.62(0.85~3.09)であった。 また、初回虚血性脳卒中のIRRは、解析1では、それぞれ2.97(95%CI:1.71~5.15)、2.80(1.60~4.88)、2.10(1.33~3.32)、解析2では6.18(4.06~9.42)、2.85(1.64~4.97)、2.14(1.36~3.38)であった。 マッチドコホート研究では、解析1の場合、COVID-19発症後2週以内の初回急性心筋梗塞のオッズ比(OR)は3.41(95%CI:1.58~7.36)、虚血性脳卒中は3.63(1.69~7.80)、解析2の場合、それぞれ6.61(3.56~12.20)、6.74(3.71~12.20)であった。

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重症COVID-19入院患者への新たな治療薬検証する臨床試験開始へ/WHO

 WHOは、8月11日付で発表したプレスリリースにおいて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で入院した重症患者に対し、マラリアやがん治療などに使われている既存薬3種の治療効果を検証する臨床試験(Solidarity PLUS trial)を開始することを明らかにした。臨床試験は52ヵ国600超の病院から数千人規模の入院患者を登録し、実施される見通し。 WHOは、既存候補薬のCOVID-19入院患者への有効性を検証するため、オープンラベルのランダム化比較試験(Solidarity trial)を2020年3月から実施。単一のプロトコルを使用して同時に複数の治療法を評価するもので、試験の過程を通じて効果のない薬剤については評価を打ち切る一方、新たな候補薬を逐次追加できるデザインだ。これまでに、レムデシビル、ヒドロキシクロロキン、ロピナビル、インターフェロンβ-1aの4剤について評価が行われ、いずれも有効性が確認されず、すでに試験が打ち切られている。 今回、評価の対象となる1つ目の候補薬は、抗マラリア薬のアルテスネートで、本試験では重症マラリア治療に推奨される標準的な用量で7日間静脈内投与される。2つ目の候補薬は、慢性骨髄性白血病などのがん治療に使用されるイマチニブで、本試験では1日1回、14日間経口投与される。3つ目の候補薬は、クローン病など免疫疾患の治療に使用されるインフリキシマブで、本試験では、単回で静脈内投与される。これらはいずれも独立した専門家パネルによって選択された候補薬だという。 COVID-19を巡っては、感染力の強さと急激な症状悪化が見られるデルタ株のまん延により、人口の多くでワクチン接種が進んだ国においても感染制御に苦慮している。WHOのテドロス事務局長は、「COVID-19患者に対する、より効果的でアクセス可能な治療法を見つけることは依然として重要なニーズだ」とコメントしている。

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ワクチン突破新規感染(Breakthrough infection)の原因ウイルスは病原性の高い変異ウイルスが中心?(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

 新型コロナ感染症に対する主たるワクチン(Pfizer社のBNT162b2、Moderna社のmRNA-1273、AstraZeneca社のChAdOx1、Johnson & Johnson/Janssen社のAd26.COV2.S、Novavax社のNVX-CoV2373)の予防効果は、播種する主たるウイルスが野生株(武漢原株とそれから派生したウイルスの機能に影響を与えない株を含む:第1世代)からD614G変異株(従来株:第2世代)に置換されつつあった2020年の夏から秋にかけて施行された第III相試験の結果を基に報告された(Polack FP, et al. N Engl J Med. 2020;383:2603-2615.; Baden LR, et al. N Engl J Med. 2021;384:403-416.; Voysey M, et al. Lancet. 2021;397:99-111.; Sadoff J, et al. N Engl J Med. 2021;384:2187-2201.; Heath PT, et al. N Engl J Med. 2021 Jun 30. [Epub ahead of print])。 各ワクチンの第III相試験の結果は満足いくもので、有症候性感染に対する発症予防効果は、BNT162b2で94.8%、mRNA-1273で94.1%、ChAdOx1で81.5%、Ad26.COV2.S(単回接種)で72%、NVX-CoV2373で85.6%であった。さらに、無症候性感染予防効果、重症化(ICU入院/死亡)予防効果においても臨床的に満足いく結果が報告された。しかしながら、2021年の1月以降、世界を席巻する主たるウイルスはD614G株からさらに変異/進化を遂げた第3世代のウイルスに置換されつつある。第3世代変異株は、従来株に比べ感染性、病原性が高く、WHOは広範囲の地域に播種し世界レベルで多大な健康被害をもたらす可能性がある変異ウイルスをVariants of Concern(VOC)と定義した(Weekly epidemiological update on COVID-19. WHO. 2021 April 27.)。 VOCとして定義された変異株には、Alpha株(英国株:B.1.1.7)、Beta株(南アフリカ株:B.1.351)、Gamma株(ブラジル株:P.1)、Delta株(インド株:B.1.617.2)の4種類が含まれる。7月27日現在、Alpha株は世界182ヵ国、Beta株は131ヵ国、Gamma株は81ヵ国、Delta株は132ヵ国で検出されており(Weekly epidemiological update on COVID-19. WHO. 2021 July 27.)、7月13日現在、本邦を含む世界41ヵ国で4種のVOCすべてが共存することが確認されている(Weekly epidemiological update on COVID-19. WHO. 2021 July 13.)。さらに、WHOは局地的に蔓延している4種類の変異株をVariants of Interest(VOI)、13種類の変異株をVariants of Alert(VOA)に分類し、今後の持続的注意を呼び掛けている(Tracking SARS-CoV-2 Variants. WHO. 2021 July 18.)。VOC、VOI、VOAに分類された21種類の変異株は、感染性増強、ウイルス複製増加、あるいは、液性免疫回避を惹起する変異を有し、武漢原株のS蛋白を原型として作成された現状ワクチンの予防能力を減弱させる。すなわち、ワクチンの効果は地域/国によって異なり、その地域にあっていかなる変異株が優勢的に蔓延しているかを背景因子として考えておかなければならない。ワクチン接種後の新規感染は、Breakthrough infection(ワクチン突破新規感染)と呼称されるが、このBreakthrough infectionを形成する原因ウイルスも、その地域/国に蔓延しているウイルスの種類によって規定されることを念頭に置く必要がある。 本論評で取り上げたThompsonらの論文は、米国でワクチン接種が開始された2020年12月14日から2021年4月10日までの期間に集積されたReal-world settingにおけるワクチン接種の効果をワクチン非接種群と比較検討したものである。RNAワクチン(BNT162b2:67%、mRNA-1273:33%)の1回目接種後14日以上で2回目接種後14日未満の対象をワクチン不完全接種群、2回目接種後14日以上経過した対象をワクチン完全接種群と定義し、両者の感染予防効果(症状とは無関係に鼻腔拭い液のPCR陽性患者に対する予防効果)とワクチン接種に抗して発生したBreakthrough infectionの動態について解析している。 本論文で明らかにされた重要な事項は、(1)ワクチン完全接種群の感染予防効果は91%(BNT162b2:93%、mRNA-1273:82%)、不完全接種群の感染予防効果は81%(BNT162b2:80%、mRNA-1273:83%)、(2)ワクチン接種後のBreakthrough infectionのウイルスRNA量はワクチン非接種群の新規感染者に較べ40%低く、ウイルス検出期間はワクチン非接種群より66%低下していたという事実である。以上の結果は、ワクチン接種群では、たとえBreakthrough infectionが発生したとしても原因ウイルスの病原性はワクチン非接種群における同じウイルスの病原性よりも低く抑えられていることを意味し、これもワクチン接種の重要な効果の1つと考えることができる。本論文から推測できるワクチン完全接種による疑似感染後の新規感染率は0.19%であり、この値は新型コロナ自然感染後の再感染率(0.2%)と一致した(Rosemary RJ, et al. Lancet. 2021;397:1161-1163.)。以上の事実は、mRNAワクチン接種による疑似感染後の液性・細胞性免疫反応と自然感染後のそれらには質的な差が存在するにもかかわらず(Arunachalam PS, et al. Nature. 2021 Jul 12. [Epub ahead of print])、両者の感染予防効果はほぼ同等であることを示唆する。 Thompsonらの論文は、2021年4月初旬までの期間に集積されたワクチン接種群と非接種群における新規感染者の解析結果であり、背景ウイルスは7月現在の状況とは異なる。Thompsonらの論文に添付された補遺によると、ワクチン非接種群から判定される解析時点で米国を席巻していた背景ウイルスは、本論評で定義した第1世代に相当する野生株が90%を占め、WHOが定義したVOC(B.1.1.7)とVOA(B.1.427、B.1.429、P.2)が10%を占めた。一方、ワクチン接種群におけるBreakthrough infectionの原因ウイルスは、野生株が70%、VOA(B.1.429)が30%を占めた。ワクチン接種群と非接種群におけるVOC、VOA感染率が有意な差であるか否かは解析されていないので正確なところは不明であるが、Thompsonらの報告は、ワクチン接種後には、ワクチン抵抗性であるが故に高病原性のVOC、VOAの感染率が相対的に高くなる可能性を示唆している。 Thompsonらの論文では、5月以降、米国で感染が急上昇しているWHO分類のVOCの1つであるDelta株(インド株:B.1.617.2)が一例も検出されていないことに注意する必要がある。New York Times紙は、(1)米国では、新規感染者におけるDelta株の占める割合が5月初旬に数%であったものが2.5ヵ月後の7月14日時点では85%に達し、VOCにあってAlpha株から病原性の高いDelta株への置換が急速に進行している、(2)大規模なワクチン接種の励行によって一度低下した重症患者数が7月に入り再度増加に転じている、(3)Delta株による自然感染はワクチン接種率が低い州でより著明である、と報じた(The New York Times. 2021 July 17.)。2021年7月30日、米国CDCは、ワクチン接種率(接種ワクチン:BNT162b2、mRNA-1273、Ad26.COV2.S)が69%であったマサチューセッツ州のバーンスタブル郡で、ワクチン完全接種群においてDelta株感染のクラスターが発生したことを報告した(Brown CM, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2021;70:1059-1062.)。CDCの報告によると、7月中に上記の地域で469例の新規コロナ感染者が検出され、うち346例(74%)がワクチン完全接種者におけるBreakthrough infectionであり、その90%がDelta株感染であった(B.1.617.2:89%、AY.3:1%)。この報告は衝撃的で、代表的な3つのワクチンに対するDelta株の高い抵抗性と、その結果として、ワクチン接種後のDelta株感染率が相対的に上昇する可能性を示唆している。 本邦における2021年4月1日から6月30日までのBreakthrough infectionの実態については、国立感染症研究所が報告している(国立感染症研究所. 2021年7月21日)。この時期、本邦を播種していたウイルスの主体はAlpha株であり、Delta株感染は上昇傾向を示していたものの主たるウイルスには至っていない。報告によると、27都道府県から130例のBreakthrough infectionが検出されたとのことである。原因ウイルスはAlpha株が77%、Delta株が10%、R.1株が10%、Gamma株が2.6%であった。Breakthrough infectionを形成する原因ウイルスは、その地域/国に蔓延しているウイルスの種類によって規定されるので、本邦においても背景ウイルスのさらなる厳密なモニターを念願するものである。

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2024年、時間外労働上限スタート!あなたの職場は対応できる?【今日から始める「医師の働き方改革」】第1回

第1回 2024年、時間外労働上限スタート!あなたの職場は対応できる?2024年4月から、勤務医の時間外労働に上限規制が適用される、いわゆる「医師の働き方改革」がスタートします。しかし、準備期間だったはずの2020年、2021年は新型コロナウイルス感染症の対応に追われ、それどころではなかった、という医療機関も多いことでしょう。コロナ対応に多少収束のめどが付きはじめるであろう2022年度にかけ、いよいよ本格的に働き方の見直しに取り組まねば、と考えている医療機関が多いのではないでしょうか。私が所属する株式会社ワーク・ライフバランスは、2006年の創業時からこれまで、1,000組織以上の働き方改革のコンサルティングを実施してきました。その中で見えてきたのは、どんな業界・業種でも基本的な進め方は同じ、ということです。そしてその基本原則となるのは「現場主体」であることです。私たちが現場主体にこだわる理由は、その「持続性」にあります。「誰かにやらされて実施した働き方改革」は、その強制力が弱くなるとあっという間に元に戻ってしまいます。それどころか、強制した経営陣に不信感を抱いて、前の状態よりも職場の雰囲気や働き方が悪化してしまうことすらあります。「現場主体」で無理なく続けるからこそ、常に新しいアイデアが生まれ、現場を良い状態に保つことができるのです。この連載では、厚生労働省が提示する「医師の働き方改革」を、皆さんの現場と皆さん自身でスタートするための手法とコツをお伝えします。医療機関での働き方改革の実践は、2019年から私たちがコンサルタントとしてお手伝いしている長崎大学病院での経験が基になっています。2024年には、時間外労働1,860時間の上限規制が開始されます。医療現場の働き方改革はもはや待ったなしの状態です。トップや経営陣がやってくれるはず、ではなく、まずはあなたができることを見つけて、始めてみませんか?時間外労働の上限が高いC群も、認定申請が煩雑&猶予があるだけ厚生労働省から発表された医師の働き方改革の概要をおさらいしてみましょう。画像を拡大するまず、一般則として、医師の時間外労働の上限は、年間720時間、月100時間未満(休日労働含む)の月を年間6ヵ月までとすると定められています。ただ、医療機関によっては正確な労働時間を把握できていなかったり、外勤時間はカウントしなかったりするところも多く、医師の勤務実態は非常に過酷です。そこで2024年4月からは、全医療機関・診療科をA・B・Cという3つの群に分け、A群は年間960時間の上限、B・C群は年間1,860時間の上限が設定されます。この分類は診療科ごと、都道府県ごとに行われ、地域医療にどのような影響があるのかを検討している段階です。加えて、A群は連続勤務時間制限28時間、勤務間インターバル9時間の確保・代償休息のセットが努力義務となり、B・C群はこれらが義務化されます。C群は集中的技能向上水準を満たさなくてはならず、適用を受ける医療機関・医師は限られると考えられます。そして、重要なことは、B群の認定を受けても、10年後の2035年にはA群と同じ年間960時間に収めることが求められます、という点です。B群もいわば「猶予期間」があるだけなのです。高齢化や高度医療が進む日本社会にあって、医療の現場はますます忙しくなるでしょう。この法規制を守りながら患者に適切な医療を提供し、且つ医師・医療者の健康を守る必要があるのです。まずは自分と身近なチームで「できること」から私たちがお手伝いしている長崎大学病院での取り組みは、2015年に長崎大学として働き方改革の取り組みであるワークスタイルイノベーション(WSI)のプロジェクトが発足したことから始まりました。きっかけは「性別関係なく、研究者が活躍できる職場環境づくりをしていきたい」という思いからでした。その後、2015年度の文部科学省の女性研究者支援事業「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ」を申請、採択され予算を獲得したことから本格的に取り組みがスタートしました。長崎大学病院のWSIは現在も継続中で、これまでに多くの医師、看護師、管理栄養士などの専門職のみならず、事務職の方にも参加していただきました。医療機関は一般企業以上に部門ごとの差異が大きく、問題や課題感も異なっています。よって「これだけやれば医療機関の働き方が変わる!」といった特効薬はありませんが、各診療科・部門の取り組みを紹介することで、読者の方が「これならできるかも」と思えるものが見つかるのでは、と考えています。本連載では、長崎大学病院での働き方改革の事例を基に、誰でもできることから始められるよう、具体的なツールや手法を紹介していきます。はじめは1人かもしれませんが、そこから職場で仲間を見つけ、チームで取り組んでください。1人では解決できないことも、複数人で知恵を絞れば解決できることがあったり、意見を言いやすくなったりするはずです。チームでの上手な働き方改革の進め方も紹介していきますよ!

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第70回 医療者が危惧する国産コロナワクチン・治療薬の「条件付き早期承認」

新型コロナウイルスを巡っては、国産のワクチンや治療薬の登場が見えてきた。第一三共が開発中のmRNAワクチン「DS-5670」は、年内にも最終の臨床試験を行い、来年後半の実用化を目指す。塩野義製薬が開発中の治療薬「S-217622」は、年内に100万〜200万人分の提供体制を整える方針だ。いずれも「条件付き早期承認制度」の適用を受け、国に承認を申請する。同制度は、国産薬剤を早期に承認するため治験の条件を緩和するものだが、販売後に評価を行う条件で承認するため、拙速な審査を懸念する声が医療現場から出ている。治療薬も国内外で開発競争が激化政府は、海外製ワクチンに依存している現状を打破し、国産ワクチンの開発を進めるため、今年6月に「ワクチン開発・生産体制強化戦略」を閣議決定し、薬事承認プロセスの迅速化や戦略的研究費の配分などを打ち出した。その流れに沿って、第一三共は従来数万人規模で行う最終臨床試験を、国内外の数千人規模で実施。接種後の抗体価などをファイザー製やモデルナ製のワクチンと比較する方法で有効性を確認することなどにより、開発に要する期間を短縮する。塩野義の治療薬は、承認されれば軽症者用の経口薬としては国内初。自宅で簡単に服用できる飲み薬のニーズは大きい。感染初期に1日1回、5日間服用することで重症化を防ぎ、発熱などの症状を改善する。7月に臨床試験を開始、第1段階を9月、第2段階を11月に終了する予定だ。国内で承認されている4つの新型コロナ治療薬のうち、軽症者用は「抗体カクテル療法」だけで、入院患者が対象だ。そのため、入院前に重症化を防ぐ治療薬が求められていた。 自宅でこうした薬を飲むことで入院しなくて済めば、医療の逼迫も抑えられる。ちなみに、塩野義以外の新型コロナ治療薬の経口薬候補には、中外製薬の「AT-527」、富士フイルムホールディングスの「アビガン」、MSDの「モルヌピラビル」が最終段階にある。また、米ファイザーも米国で第1段階の治験を進めており、国内外で開発競争は激化している。塩野義は経口治療薬の海外への供給に向け、米国の生物医学先端研究開発局と協議を進めている。拙速承認と市販後評価におけるリスク条件付き早期承認制度について、新型コロナ感染症患者を診ているクリニックの理事長は「早期承認は、国際的には評価が定まっていない方法。抗体価は免疫のパワーを測定する数値だが、それが全てではない。発病予防効果の有無について市販して実際人々に打ってからデータを集めるとなると、海外から売ってくれということにはならないだろう。私も第1選択にはしない」と言う。一方、薬事規制当局国際連携組織(ICMRA)では、日本を含む30ヵ国の薬事承認担当者でタスクフォースを作り、新たに開発するワクチンに関わる迅速な承認の国際ルールについて協議し、年末をめどに合意する方向にあるという。ある自民党議員は「将来的には日本で作ったワクチンを30ヵ国に売り込むことができる。ワクチンには戦略も重要だ」と話す。接種率が低くても世界3番目のワクチン供与国際社会での影響力を強めるため、米中がワクチン供与でしのぎを削る中、日本は世界3番手の“ワクチン外交”を展開している。主要7ヵ国でワクチン接種率が最も低調であるにもかかわらず、である。それだけに、国産ワクチン・治療薬の開発が国民のためだけではない“思惑”を感じる。前述の理事長は「科学的データに基づき、感染・発病・重症化に対する予防効果がしっかり評価されたワクチンを患者のために選んでいきたい。メーカーには、市場における勝ち負けよりも、患者のためという基本理念に忠実であってほしい」と述べる。

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家庭内濃厚接触者への抗体カクテル療法、予防効果は?/NEJM

 重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)感染が確認された家族と接触した感染歴のない家族に対して、カシリビマブとイムデビマブの抗体カクテル「REGEN-COV」皮下投与は、症候性の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)および無症候性のSARS-CoV-2感染を予防することが示された。米国・Regeneron PharmaceuticalsのMeagan P. O'Brien氏らが、接触4日以内の家庭内濃厚接触者第III相のプラセボ対照無作為化二重盲検試験の結果を発表した。感染が認められた被験者家族における、症状解消までの期間および高ウイルス量期間を短縮したことも認められたという。REGEN-COVは、高リスクCOVID-19患者の入院または死亡のリスクを著しく低下することが示されていたが、家庭内濃厚接触者に対するSARS-CoV-2感染および感染後のCOVID-19発症を予防するかについては不明であった。NEJM誌オンライン版2021年8月4日号掲載の報告。28日までの症候性COVID-19の発症をプラセボ投与と比較 研究グループは、SARS-CoV-2感染の診断を受けた家族と接触後96時間以内の12歳以上の家族を被験者として登録。1対1の割合で無作為に2群に分け、一方にはREGEN-COV(総投与量1,200mg)を、もう一方にはプラセボを、それぞれ単回皮下注で投与した。無作為化時に、被験者についてSARS-CoV-2診断検査の結果と年齢で層別化した。 有効性の主要エンドポイントは、SARS-CoV-2感染歴がない被験者(逆転写酵素定量的ポリメラーゼ連鎖反応検査で計測)または免疫がない被験者(血清陰性)における、28日までの症候性COVID-19の発症だった。相対リスクは81.4%低下、症状解消までの期間は約2週間短縮 症候性COVID-19の発症は、REGEN-COV群11/753例(1.5%)、プラセボ群59/752例(7.8%)で認められた(REGEN-COV群の相対リスク低下[1-相対リスク]81.4%、p<0.001)。また、第2~4週においては、同発症はそれぞれ2/753例(0.3%)、27/752例(3.6%)だった(同相対リスク低下92.6%)。 REGEN-COV群では、症候性・無症候性SARS-CoV-2感染全体の予防効果が認められた(相対リスク低下66.4%)。 症候性COVID-19の発症者において、症状解消までの期間中央値は、プラセボ群3.2週間に対しREGEN-COV群は1.2週間と約2週間短く、高ウイルス量(>104コピー/mL)の期間も、それぞれ1.3週間、0.4週間とREGEN-COV群で短かった。なお、REGEN-COVの用量規定毒性は認められなかった。

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第70回 真夏のホラー、コロナ患者「重症者以外自宅療養」方針めぐるドタバタで考えた“野戦病院”の必要性

「重症患者や重症化リスクの特に高い方以外の方は自宅で」と菅首相こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この連休は、諸々危ない東京を離れ、こっそりテントを担いで山に籠ろうと考えていたのですが、台風の接近で渋々断念。秋山に備え、山道具のメンテナンスで時間を潰しました。結構へたった道具も見つかり、それはそれで有意義な時間でした。新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、7月30日には緊急事態宣言の対象府県が追加され、8月8日からはまん延防止等重点措置の適用地域に福島、茨城、栃木、群馬、静岡、愛知、滋賀、熊本の8県が追加されました。これによって、重点措置の適用地域は13道府県となりました。そんな中、8月2日に政府が打ち出した「新型コロナウイルスの感染者は重症患者などを除き自宅療養を基本とする」とした方針が、医療界だけでなく、政治の世界でも大混乱を引き起こしました。菅 義偉首相はこの日の記者会見で「重症患者や重症化リスクの特に高い方には、確実に入院していただけるよう、必要な病床を確保します。それ以外の方は自宅での療養を基本とし、症状が悪くなればすぐに入院できる体制を整備します。(自宅療養者には)地域の診療所が、往診やオンライン診療などによって、丁寧に状況を把握できるようにします」と語ったわけですが、国民の多くには“患者切り捨て”と聞こえてしまったのです。私自身もニュースで菅首相の発言を聞いていました。重大なことを国民に伝えようとしているのに目は死んだ鯉のようで、事態の深刻さは伝わってきません。どうやら、菅首相は自分が話している言葉の意味を理解していないことが多いようです。8月6日の広島の平和記念式典での挨拶でも、肝心の部分を読み飛ばし、意味不明のことを話していましたし…。「究極の棄民政策だ」と舛添氏それにしても、中等症(肺炎症状が相当深刻な人もいます)を入院させないなんて…。これはもはや真夏のホラー映画です。野党は「患者を放棄する無責任な対応だ」と猛反対、自民党の新型コロナウイルス感染症対策本部とワクチン対策プロジェクトチーム内からも「事前に知らされていなかった」と不満が吹き出し、撤回を求める動きも起こりました。前東京都知事で厚生労働大臣も務めたことがある舛添 要一氏はツイッターで「究極の棄民政策だ」と強く批判しました。混乱が起こった理由の一つは、この方針が全国一律で行われるとみられたことです。2日の菅首相の記者会見を聞き直しても、「全国一律の方針」に聞こえました。その後、あまりの大反対の声に政府は方針を転換、4日の記者会見で菅首相は「東京や首都圏など爆発的な感染拡大が生じている地域であり、全国一律ではない」と強調するに至りました。「重症者以外自宅療養」のトーン弱まる「地域の診療所に往診やオンライン診療でなどで状況把握を行ってもらう」という方針に対しても、医療現場からは「急変した時に、確実に入院させられるか保証がない」「往診はそもそも手間と時間がかかり、対応人数にも限りがある」など、批判が相次ぎました。「重症者以外切り捨てようとしている」という批判に政府も流石に焦ったのか、菅首相は8月3日に行われた医療関係団体との意見交換で、病床確保や自宅・宿泊療養の強化への協力を要請した際、中等症患者については入院対応の方針を示しました。MEDIFAX等の報道によれば菅首相は、「酸素投与が必要な人、糖尿病などの疾患がある人は確実に入院していただき、それ以外の人で症状が悪くなった場合には、必ずすぐに入院できる体制を整備していく」と語ったとのことです。同日には厚生労働省から「現下の感染拡大を踏まえた患者療養の考え方について(要請)」と題する事務連絡が出され、 その中で「入院治療は、重症患者や、中等症以下の患者の中で特に重症化リスクの高い人に重点化することも可能である」との解釈が示されました。事務連絡も2日後に内容修正、「中等症は原則入院」にさらにこの事務連絡、2日後の8月5日、「中等症も原則入院対象とする」という内容に追加資料で修正するに至りました。上記の事務連絡の3枚目に1枚追加されているパワーポイントの資料がそれです。与党が問題視した対象地域について、当初は「患者が急増している地域」となっていましたが、「東京都をはじめ感染者が急増している地域」と地域名が追加され、全国一律の対応ではないことが強調されました。患者対応の方法についても、「感染者急増地域において可能とする新たな選択肢」という名称になり、「緊急的な対応として自治体の判断で対応を可能とする」となりました。そして肝心の入院については、当初「重症患者や特に重症化リスクの高い者に重点化」としていたものが、修正資料では「入院は重症患者、中等症患者で酸素投与が必要な者、投与が必要でなくても重症化リスクがある者に重点化(最終的には医師の判断)」となり、「医師の判断」も明記されました。つまり、「中等症は原則入院」ということになったのです。ただし、「入院させる必要がある患者以外は自宅療養を基本」の方針は変わっていません。3日の事務連絡そのものは撤回せず、追加資料において事実上の軌道修正を行った格好ですが、政府と厚労省の混乱ぶりがうかがえます。厚労省は「精査不足」で、政府は「調整役不足」与党である自民党、公明党にも知らされず、政府対策分科会の尾身 茂会長にも事前相談がなかったとされるこの方針決定。政府が2日の関係閣僚会議で打ち出した、とのことですが、どういった議論を経て決定し、公表に至ったのかは不透明なままです。報道等によれば、尾身会長に相談しなかったことに関して田村 憲久厚生労働大臣は、「病床のオペレーションの問題なので政府で決めた」と語ったとのことです。厚労省も入って検討したということですが、厚労省の幹部が本当に、中等症含む自宅療養者を往診とオンライン診療でカバーするというような、稚拙かつ現実味のない対応策を提案したのでしょうか。8月6日付の朝日新聞は、「厚労省幹部によると、入院制限は今週後半に公表する予定で東京都と調整していたが、都内の感染拡大を受けて前倒しで発表。資料を精査しきれず、根回しも十分行わない見切り発車だった」と報道しています。また、同日付の日本経済新聞は、政府と与党の連絡不足を指摘、「首相は官房長官を務めていた時期、自民党本部などにしばしば足を運んだ。菅政権ではこのような調整役不足が指摘される」と書いています。厚労省は「精査不足」で、政府は「調整役不足」って、一体この政権、大丈夫なのでしょうか。入院制限、重症者以外自宅療養を打ち出したのは誰かそれにしても気になるのは厚労省の「精査不足」です。在宅医療は医師が患者宅に出向く必要があるため効率が悪く、X線やCTを用いての肺炎の診断もできません。患者数が多い場合は在宅には限界があることや、そもそも地域で在宅医療(や往診)を積極展開している医療機関の数は決して多くはないことを、厚労省の幹部も認識しているはずです。そう考えると、入院制限、重症者以外自宅療養を打ち出したのは、厚労官僚ではなく、菅首相取り巻きの内閣府の官僚ではないか、という推測も成り立ちます。厚労省幹部が在宅での対応の限界を菅首相に進言したにもかかわらず一蹴され、引き下がってしまったのだとしたら、それもまたホラーです。各地の体育館などに“野戦病院”的施設をつくったら?そんな混乱の中、8月5日の尾身会長の厚生労働委委員会での発言は、とても建設的で意味があると感じました。尾身氏は「入院か在宅か、という議論になりつつあるが、今の感染状況の中で国民のニーズに応えるためには一本足打法は駄目だ。一つ目は医療を病院だけでなく、地域全体でさらに強化する。二つ目は、宿泊療養施設の強化。最後に、自宅療養で軽症の人も重症化するリスクがあるから、すぐに医療に結びつけるようなシステム。この3点を総合的にやることが必要だ」と語ったとのことです。「尾身氏は感染症の専門家であり、医療提供体制の専門家ではない」という批判もあるようですが、関係閣僚会議で出された方針よりも、はるかに理にかなっています。中等症、軽症と診断され、自宅で療養するというのはとても不安なものです。自宅療養者が増え過ぎ、保健所や自治体のフォローアップ機関が対応できないなら、症状や重症度を的確に判断できる医療スタッフの下で集団療養してもらうほうが、「安全・安心」ではないでしょうか。仮に宿泊療養施設の確保や、そこでの医療提供が難しいとするなら、ここは割り切って各地の体育館などに即席の“野戦病院”的な療養施設をつくり、必要な医療機器も配置し、そこに地域の開業医をはじめとする医療スタッフたちを持ち回りで常駐させたらどうでしょう。今が有事とするならば、療養環境は後回しにして、より多くの中等症、軽症患者を効率よく診察し、必要に応じて重症病床のある病院に送る(在宅死を招かない)仕組みの構築は待ったなしだと思います。災害時の福祉避難所のイメージ尾身氏の発言を聞いてふと頭に浮かんだのは、東日本大震災の時に取材した、石巻市の福祉避難所「遊学館」です。「遊学館」は、元々はスポーツアリーナ・コンサートホール・室内プール多目的会議室等を有する複合施設だったのですが、震災直後は、介護度が高い高齢者や医療が必要な人が、広い体育館の中で寝かされ、必要な医療・介護サービスを受けていました。当然ながら他の避難所よりも医療・介護スタッフが多く、自宅で療養するよりも「安全・安心」の医療・介護が提供されていました。そもそも、今年1月以降、医療提供体制の不備が批判され始めた時に、最悪の状況に対応するための仕組みを各地で準備しておくべきだったのです。仮にデルタ株の感染拡大が収まったとしても、脅威となる新たな変異株が出現する可能性もあります。ぜひとも、国や医療関係団体は、体育館等を活用した“野戦病院”的療養施設の開設と地域の開業医動員についての検討を進めてほしいと思います。

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「尿路感染症はとりあえずキノロン」の医師へST合剤を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第41回

 今回は、尿路感染症にはフルオロキノロン薬を第1選択と考える医師に対し、代替薬としてST合剤をどのように提案したのか紹介します。フルオロキノロン薬は使いやすい抗菌薬ですが、経口第3世代セフェム系抗菌薬と同様に薬剤耐性に注意が必要です。医師は使用経験が少ない代替薬には抵抗があるものですが、薬剤師が共同でモニタリングする姿勢を示すことで、医師の治療選択肢を増やすことができました。患者情報70歳、女性(施設入居)基礎疾患高血圧症、骨粗鬆症介護度要介護1服薬管理施設職員が管理処方内容1.アムロジピンOD錠5mg 1錠 分1 朝食後2.カンデサルタンシレキセチル錠4mg 1錠 分1 朝食後3.ラロキシフェン塩酸塩錠60mg 1錠 分1 朝食後4.酸化マグネシウム錠330mg 3錠 分3 毎食後本症例のポイント訪問診療に同行した際、施設看護師より、昨日から患者さんに倦怠感・頻尿・濃尿・尿臭があると相談を受けました。医師より、尿路感染症の可能性が高く、抗菌薬治療が必要なので、レボフロキサシン500mgを5日間処方しようと思うがどうかと聞かれました。医師としては、尿路感染症に対しては長年フルオロキノロン薬をほぼ一択で処方しており、治療効果も満足していることから、今回もレボフロキサシンでよいだろうという認識でした。フルオロキノロン薬は組織移行性に優れた広域抗菌薬であり、また1日1回服用と服薬負担も少ない薬剤ですが、薬剤耐性が問題となっています。そこで下記のポイント(1)、(2)を整理して代替薬の提案をすることにしました。なお、βラクタム系の抗菌薬に関しては、医師より菌種のカバーや治療成績から積極的には使用したくないと回答を得ています。(1)フルオロキノロン薬の薬剤耐性と相互作用の懸念近年の報告において、尿路感染症の主要な起炎菌である大腸菌のフルオロキノロン耐性率は40%となっています。薬剤耐性(AMR)対策アクションプランの目標である「25%以下」を大きく超えており、今後も薬剤耐性対策として適正使用を進め、使用量を減らす必要があります。また、この患者さんは便秘治療で酸化マグネシウムを服用していますが、フルオロキノロン薬との相互作用が問題となります。同時服用ではキレート形成による吸収低下から抗菌効果が減弱する可能性があるため、時間をずらして服用することになりますが、服薬時刻を指定すると施設側の介護負担が増大するため、他剤へ変更するほうがよいと考えました。(2)代替薬としてST合剤を検討ST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム配合錠)は、腸内細菌科細菌を広くカバーしており、消化管吸収や前立腺などの組織移行性も良好な薬剤です。そのため、尿路感染症においては腎機能低下や妊娠などの問題がなければ第1選択薬となります。ただし、ワルファリンカリウムやフェニトイン、レパグリニド、メトトレキサートなどとの相互作用があり、併用が困難な場合もあるため注意が必要です。幸いこの患者さんは相互作用がある薬剤の服用はなく、腎機能も年齢相応(Scr:0.75mg/dL、推算CCr:47.38mL/min、K値:3.5mEq/L)であることから、治療薬候補として妥当と考えました。処方提案と経過上記のポイント(1)、(2)を医師に伝えてST合剤を提案したところ、使用経験が少ないので不安もあるとのことでしたが、薬剤師と施設スタッフの共同モニタリングを行うことで安心してもらい、スルファメトキサゾール・トリメトプリム配合錠 4錠 分2、7日間の処方となりました。医師としては、フルオロキノロン薬の大腸菌の耐性化が全国的に進んでいることに驚かれ、今後の治療選択肢としてST合剤やセファレキシン、セファクロルも考慮するとのことでした。治療開始2日目の夜より患者さんの頻尿や尿臭の訴えが改善し、その後も有害事象はなく経過も順調だったため、7日間でST合剤による治療は終了となりました。薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書2020. 厚生労働省健康局結核感染症課;2021.高山義弘 著. 高齢者の暮らしを守る 在宅感染症診療. 日本医事新報社;2020.

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