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映画「二つの真実、三つの嘘」(後編)【重症のミュンヒハウゼン症候群とは?】Part 1

今回のキーワード病院に居場所を求める注目の的自作自演身体症状のねつ造前編では、1つの真実として、メラニーがミュンヒハウゼン症候群であることを説明しました。後編からネタバレになります。この映画をネタバレなしで見たい方は、先に見てからここに戻って来ていただき、残りの1つの真実と3つの嘘の答え合わせをしましょう。もう1つの真実とは?もう1人の主人公であるエスターは、妊娠中で、出産間近でしたが、街中で何者かに暴行され、胎児は死んでしまいます。彼女は、死産になってしまい悲しみに暮れているように見えました。しかし、衝撃的なことに、実はこれは彼女自身が望んで仕組んだものだったことが徐々に明らかになります。つまり、もう1つの真実とは、エスターもミュンヒハウゼン症候群であったということです。その根拠を5つ挙げてみましょう。(1)病院に居場所を求めようとしているシーンがあるエスターは、入院中に刑事やソーシャルワーカーなどのさまざまな人との関わりがありました。しかし、退院すると、一気に何もなくなり、家で独りぼっちで、うつうつとしています。そして、夜中にふらふらと病院に戻っていき、院内をさまよいます。看護師に呼び止められると、「ほかに行き場がなくて」「帰らなきゃだめ?」と言うのです。1つ目の根拠は、病院に居場所を求めようとしているシーンがあることです。これは、エスターの心情をよく描いています。なぜなら、病院は必ず誰かが助けてくれる場所だからです。(2)エスター本人から頼まれて暴行したとアニカが言っているように見えるエスターにはアニカという恋人がいます。その人が女性であることから、エスターは実はレズビアンであることがわかります。ベッドで話すシーンで、アニカは「浮気しないでね」「あんたのために私は危険を冒したんだから(私があんたにやったことのあとにはね※英語直訳)」「私にはとうてい理解できなかったけど、あんたの頼みだからやった」「ほかの奴がやると思う?」「あんたを愛しているのは私だけだから」と言っています。2つ目の根拠は、エスター本人から頼まれて暴行したとアニカが言っているように見えることです。しかし、このシーンの時点で、私たちはさすがにそのようにはぴんと来なくて、アニカが何を言っているのかがはっきりわからないままストーリーが進みます。(3)妊娠するための精子はどんな男性のものでもいいと思っているように見えるエスターは手当てを受けた病院で「精子バンクで妊娠した」と刑事に言っていました。退院後に傷が治ると、彼女はバーに行き、こなれた感じで目が合った男性を誘惑します。しかし、セックス中、エスターは無表情で機械的です。セックスをしたくてしているのではなく、ただ妊娠するためにセックスをしているように見えます。「精子バンクで妊娠」も、実は同じように行きずりの男性とセックスしたからではないかと思えてきます。3つ目の根拠は、彼女がレズビアンで子どもを望んでいるとしても、妊娠するための精子はどんな男性のものでもいいと思っているように見えることです。この点も、私たちは理解できないまま、またストーリーは進みます。(4)エスターは母親になりたくないと言っているエスターは、メラニーに「妊娠中は楽しかった。妊婦だってわかると、みんなが優しくしてくれた。これまで道を歩いてても、誰も気にしない。まるで存在しないみたい。私が注目の的に。知らない人がお腹を触ってくれたり、笑いかけてくれたり。私がいると、周りが幸せに」と話します。しかし、メラニーから「ママになることは楽しみだった?」と聞かれて、エスターは「私は一度もママになりたいと思ったことはないの」と答えるのです。4つ目の根拠は、エスターは母親になりたくないと言っていることです。メラニーが「理解できない」と言ったように、私たちも理解できません。まるで、初めから妊娠している状態だけを望み、暴行されたことは好都合であったかのように見えてきます。そう考えると、冒頭の妊婦健診のシーンで、エスターが「赤ちゃんの性別を知りたくない」と発言した真意もわかります。(5)エスター自身も自作自演をしていたことをほのめかしているエスターは、メラニーに「(死んでいるはずの)あなたの息子を見たわよ」と伝え、メラニーに自作自演がバレていることを気づかせます。エスターは、メラニーから「二度と私に近づかないで」と言われてしまうのですが、その数日後、エスターはメラニーの家に行き、なんとメラニーの息子を溺死させます。その時、エスターはメラニーに「あなたのためにやったのよ」「あなたの代わりにやってあげたの」「これで一緒になれるね」「もう嘘はだめよ」「私たちは同類でしょ」と言うのです。この時、ようやくすべてが繋がります。5つ目の根拠は、エスター自身も自作自演をしていたことをほのめかしていることです。そして、ためらいなく殺人ができている点から、エスターはメラニー以上に反社会的な行動への罪悪感がないことがうかがえ、胎児殺しをアニカに頼むことができたと考えることができます。なお、アニカも顔にタトゥーを彫るような反社会的なキャラクターとして描かれているため、その頼みを引き受けることができたと考えることができます。さらに、エスターはレズビアンであったことから、「同類」であるメラニーに親近感を抱いて好きになってしまったと考えることができます。なお、エスターは、その時にメラニーの夫が同じ家にいるのがわかっていたのに、犯行に及んでいました。この点については、エスターは、後先をあまり考えないくらい知能は低いことが考えられます。次のページへ >>

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映画「二つの真実、三つの嘘」(後編)【重症のミュンヒハウゼン症候群とは?】Part 2

3つの嘘とは?2つの真実とは、主人公の2人がそれぞれミュンヒハウゼン症候群であるということがわかりました。厳密に言えば、メラニーは精神症状をねつ造しており、エスターはけが(身体症状)をねつ造しているという違いはあります。エスターのほうが体を張っている点で、より重症であると言えるでしょう。ちなみに、身体症状のねつ造で多いのが、採血や採尿の検体への異物混入、インスリンやワーファリンなどの過剰内服、瀉血による貧血、意図的な外傷など、比較的手軽にできることです。それでは、タイトル後半部分の「3つの嘘」とは何でしょうか? この映画には、たくさんの嘘があります。その中で、一大事である殺しについての嘘がちょうど3つあります。その嘘を1つずつ挙げてみましょう。(1)エスターの胎児を殺したのは通り魔であるという嘘エスターは、刑事から「こういう犯罪は身近な人が犯人である可能性が高い」「通り魔とは考えにくい」「恨まれてる人は?」と聞かれても、「麻薬中毒者やホームレスじゃないの?」「赤ちゃんを殺されるほど恨まれたことはない」と言っていました。1つ目は、エスターの胎児を殺したのは通り魔であるという嘘です。実は、エスターがアニカにお願いして仕組んだものでした。(2)メラニーは息子が殺されて悲しんでいるという嘘メラニーは、息子を失い、悲しみにくれているように見えました。しかし、1ヵ月経つと、うつ状態になっている夫に「子どもはまたつくれるわ」と笑顔で言うのです。また、息子が殺されたことを報道するニュースを録画しており、その中でリポーターが「子どもの母親はひどくショックを受けて、今は話をできる状態ではないということです」とコメントする映像をうっとりとした表情で見ています。ここで、メラニーが以前に言っていた不可解なセリフに繋がります。それは、「自助グループで知ったけど、母親にとって最悪なのは誘拐よ。誘拐は、生きてるかどうかずっとわからないから一番つらいそうよ。でも、私だったら辛過ぎて、いっそのこと殺されてしまったほうがいいと思うかも。親なら当然子どもが無事に戻ってきて欲しいと思うんだろうけど」というセリフです。メラニーは、エスターほど子どもに死んで欲しいと積極的には思っていませんが、殺されたらそれはそれで同情されるという「ご褒美」があるので構わないくらいの感覚でしょう。「同類」であるエスターは、この心理については的確に読み取っていたのでした。2つ目は、メラニーは息子が殺されて悲しんでいるという嘘です。つまり、なんと彼女が悲しむのは、悲しいからではなく、注目されたいからであったということです。自分本位であり、息子が死んだことを心から残念に思っているのではなかったのでした。(3)メラニーの夫はアニカに殺され、メラニーは正当防衛でアニカを殺したという嘘アニカは、エスターがメラニーの夫に射殺されたと知って、その敵討ちのために、メラニーの家に押しかけます。アニカはメラニーを縛りますが、直後になんと今度はメラニーの夫が射殺されているのを発見します。その訳は、メラニーの夫が、息子が死んで1ヵ月経って自助グループに初めて参加したところ、実はメラニーは数年前から来ていたことを知り、メラニーに問いただし、出て行こうとしたからでした。アニカがメラニーの夫を発見した直後、メラニーは縛られていた紐をほどき、ショットガンをアニカに向けて構えるシーンでこの映画は終わります。3つ目は、メラニーの夫はアニカに殺され、メラニーは正当防衛でアニカを殺したという嘘です。厳密には、アニカも金槌を持って反撃しようとしており、そこで映画が終わり、決着はついていませんが、メラニーにとってとても都合の良い展開で、見ている私たちをハラハラさせます。この映画のタイトル伏線とは?この映画のもともとの英語タイトルは“PROXY”です。これは「身代わり」という意味で、実はタイトル伏線になっています。何が何の身代わりかと言うと、胎児殺しについては通り魔(実際はアニカ)がエスターの身代わり、息子殺しについてはエスターがメラニーの身代わり、夫殺しについてはアニカがメラニーの身代わりであるということです。これは、先ほどの3つの嘘に重なります。この3つの嘘によって、「身代わり」の意味の伏線を回収しています。なお、この“PROXY”は、代理ミュンヒハウゼン症候群の「代理」(by proxy)を連想します。前編でも説明した通り、自分の代理として誰かの症状をねつ造している訳ではないため、代理ミュンヒハウゼン症候群の伏線ではありません。この映画の唯一惜しかった点は、メラニーの夫はエスターを射殺したのですが、彼の恨みからの空想として、その数日後に地下室でエスターを拷問していることをほのめかすシーンがあります。これは、私たちから見ると、空想なのか現実なのかがそのシーンの時点ではわかりにくく、混乱を招いていたと思われます。ただ、ミュンヒハウゼン症候群をより深く理解していると、この映画のキャラ設定、展開、そして謎解きがとても楽しめます。もっと高い評価が付けられても良い映画であると思われました。1)病気志願者―「死ぬほど」病気になりたがる人たち:マーク・D・フェルドマン、原書房、19982)うその心理学:こころの科学、日本評論社、20113)特集「うそと脳」:臨床精神医学、アークメディア、2009年11月号4)「隠す」心理を科学する:太幡直也/佐藤拓/菊池史倫、北大路書房、20215)平気でうそをつく人たち:M・スコット・ペック、1996<< 前のページへ■関連記事映画「二つの真実、三つの嘘」(前編)【なんで病気になりたがるの? 実はよくある訳は?(同情中毒)】Part 1

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マインドフルネス・運動は本当に認知機能に有効?/JAMA

 主観的な認知機能低下を自覚する高齢者において、マインドフルネスストレス低減法(MBSR)、運動またはその併用はいずれも、エピソード記憶ならびに遂行機能を改善しなかった。米国・ワシントン大学のEric J. Lenze氏らが、米国の2施設(ワシントン大学セントルイス校、カリフォルニア大学サンディエゴ校)で実施した2×2要因無作為化臨床試験「Mindfulness, Education, and Exercise(MEDEX)試験」の結果を報告した。エピソード記憶と遂行機能は、加齢とともに低下する認知機能の本質的な側面であり、この低下は生活習慣への介入で改善する可能性が示唆されていた。著者は、「今回の知見は、主観的な認知機能低下を自覚する高齢者の認知機能改善のためにこれらの介入を行うことを支持しない」とまとめている。JAMA誌2022年12月13日号掲載の報告。マインドフルネス低減法、運動、両者の併用の認知機能への影響を検証 研究グループは、認知症ではないが主観的な認知機能低下を自覚する65~84歳の高齢者585例を、MBSR群(150例)、運動群(138例)、MBSR+運動併用群(144例)、または健康教育群(対照群、153例)に、1対1対1対1の割合で無作為に割り付けた(登録期間:2015年11月19日~2019年1月23日、最終追跡日:2020年3月16日)。 MBSR群では、18ヵ月間、月1回MBSR教室が開催され、自宅で毎日60分間を目標に瞑想を行った。運動群では、6ヵ月間は週2回、その後12ヵ月間は週1回教室が開催され、それぞれ1.5時間運動(有酸素運動、筋トレ、機能訓練)するとともに、自宅で週300分以上(教室での運動の時間も含めて)運動することが目標とされた。併用群はこれらMBSRと運動の両方を行い、対照群ではグループでの教育のみを行った。 主要アウトカムは2つで、6ヵ月時ならびに18ヵ月時の神経心理学的検査によるエピソード記憶と遂行機能とし、平均[SD]を0[1]に標準化(スコアが高いほど認知機能良好)して評価した。副次アウトカムは5つが報告され、機能的MRIによる海馬体積、背外側前頭前野の厚さと表面積、機能的認知能力、自己申告による認知機能の懸念であった。いずれもエピソード記憶と遂行機能の改善には至らず 無作為化された585例(平均年齢71.5歳、女性424例[72.5%])のうち、568例(97.1%)が6ヵ月間、475例(81.2%)が18ヵ月間の試験を完遂した。 6ヵ月時点で、MBSRまたは運動のいずれも、エピソード記憶に対する有意な有効性は認められなかった。記憶複合スコアは、MBSRあり0.44 vs.なし0.48(平均群間差:-0.04、95%信頼区間[CI]:-0.15~0.07、p=0.50)、運動あり0.49 vs.なし0.42(0.07、-0.04~0.17、p=0.23)であった。 また、遂行機能に対する有効性も認められなかった。遂行機能複合スコアはMBSRあり0.39 vs.なし0.31(平均群間差:0.08、95%CI:-0.02~0.19、p=0.12)、運動あり0.39 vs.なし0.32(0.07、-0.03~0.18、p=0.17)だった。18ヵ月時点においても同様に、介入の有効性は確認されなかった。 6ヵ月時点において、MBSRと運動の間に有意な相互作用は認められなかった。また、副次アウトカムも、対照群と比較していずれの介入群も有意な改善は示されなかった。

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不眠症に対する認知行動療法アプリの有効性

 サスメド株式会社の渡邉 陽介氏らは、同社が開発した不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)のスマートフォン用アプリについて、有効性および安全性を検証するため国内第III相シャム対照多施設共同動的割り付けランダム化二重盲検比較試験を実施した。その結果、不眠症治療に対するスマートフォンベースのCBT-Iシステムの有効性が確認された。Sleep誌オンライン版2022年11月10日号の報告。 不眠症患者175例を、スマートフォンベースのCBT-Iアプリ使用群(アクティブ群、87例)と、本アプリから治療アルゴリズムなどの治療の機能を除いたアプリを使用する群(シャム群、88例)にランダムに割り付け、CBT-Iアプリの有効性および安全性を評価した。主要評価項目は、ベースラインから治療8週間後のアテネ不眠尺度(AIS)の変化量とした。 主な結果は以下のとおり。・modified-ITT解析では、AISの平均変化量は、アクティブ群で-6.7±4.4、シャム群で-3.3±4.0であった。・両群間の平均変化の差は-3.4であり(p<0.001)、アクティブ群の変化量が有意に大きかった。・ベースラインからの臨床全般印象度改善度(CGI-I)の変化量は、アクティブ群で1.3±0.8、シャム群で0.7±0.8であった(p<0.001)。・AISが6未満の患者の割合は、アクティブ群で37.9%、シャム群で10.2%であった(p<0.001)。・安全性の評価で、アクティブ群における有害な反応や機器の不良は認められなかった。

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認知症の根本治療薬により認知症の人は減るか?(解説:岡村毅氏)

 人類史に残る論文ではないか。人類はとうとう認知症の進行を遅らせるエビデンスを得たようだ。この領域は日本のエーザイがとてつもない情熱をもって切り開いてきた。またこのlecanemab論文のラストオーサー(日本人)は、さまざまな不条理にも負けることなく一流の研究を進めてきた。最大限の敬意を表したい。 そのうえで、認知症を専門とする精神科医として、この偉大な一歩を解説しよう。神経学ではなくあくまで精神医学の視点であることを先に言っておく。 まず、主要アウトカムはCDR-SBで評価している。CDRは、臨床家ならわかると思うがかなり実生活に即した評価だ。この総点で、進行が緩やかになっているということは、確かに生活障害においても効果があるといえる。ちなみに変化量の差は、18ヵ月でおよそ3割であった。 つまり、アミロイドへの効果→認知機能低下への効果→生活障害への効果、という図式で見て最後の段階、つまり生活レベルできちんと効いている。大したものである。 今後さまざまな疾患修飾薬がどんどん出てくるに違いない。より安価で、より安全なものが出てくるだろう。 近未来には、こうなるかもしれない。あなたが50歳で検診を受けると(アミロイドペットという仰々しい検査を受けることなく)「コレステロールが高いです」「骨密度が低いです」のように「脳内のアミロイドが溜まってます」と書かれてしまう。すると専門外来を受診し、毎朝(あるいは月に1回とか)認知症の薬をのむ。あなたは、本来は70歳で認知症を発症していたかもしれない。しかし75歳までは認知症を発症しない。75歳になると、あなたは認知症を発症し、ゆっくりと認知機能そして身体機能が低下を始める。 素晴らしい科学の進歩だということをまず押さえよう。そのうえで以下を問い掛ける。 第一の疑問は、あなたは主観的に認知症予防効果を感じられるであろうか、というものだ。答えはイエスでありノーでもある。なぜなら人生は1回きりなので、あなたは結局のところ「高齢期に認知症になった」という1回きりの人生において1回きりの体験をしている。それは科学的には有意に遅くなっているのだろうが、あなたの実存においてはあまり関係ない。個人の体験と、集団での有意差は別の話である。 第二の疑問は、認知症に伴う不安は解消されるかというものだ。今回の対象者は軽度認知障害などであるが、進行が遅らされている(繰り返し言うが、それ自体は素晴らしいことだ)。しかし臨床家として言えるのは、不安な時期が延びたとも言えるな、ということだ(繰り返すが、早く進行してしまえばよいという意味では決してない)。 認知症になっても不安や孤独に陥ることなく、一回きりのかけがえのない人生を希望と尊厳をもって生きることができるようにするのは、薬ではなく、社会変革だろう。問題は人々が、薬が出たらすべてがバラ色だという思い込みをしていたら、大間違いだということである。ただ、人々のリテラシーは向上しているように感じる。ドネペジルが出たころは思い込みが多く見られたが、aducanumabやlecanemabに関する報道を見ていても基本的に抑制されてると思う。 第三の疑問は、認知症の人は本当に減るのかということだ。認知症の薬というとなぜか人々は「認知症が根絶される」ということを意味すると勘違いする。認知症になる人はこの先もずっといる。糖尿病や高血圧の良い薬はたくさんあるが、患者さんは増えている。おそらく、平和な社会、医学の発展、経済的繁栄が続く限り長寿化はまだ止まらないのだから、認知症の人は今後しばらくは増えるだろう(なお、人口は減少局面にあり絶対数は今後は減少に転じると思われるが、その時は青壮中年の人々も減少しているだろう)。 最後にまとめてみると、病態生理に直結し、進行を遅らせる薬剤が出たことを素直に喜びたい。一方で臨床家なら誰もが知っているし、そもそも製薬会社の人も十分にわかっていると思うが、年を取れば認知症になるということは変わらない。時を止めることができないのと同じだ。認知症になることを遅らせること(予防)と認知症になっても楽しく生きること(共生)は対立概念ではなく、別の次元の話なのだ。わが国から予防のイノベーションを起こす方々を尊敬しつつ、共生のイノベーションも起こしていきたい。

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PDQ-D-5による認知機能評価、日本人うつ病患者での有用性を検証

 国立精神・神経医療研究センターの住吉 太幹氏らは、「日本での大うつ病性障害関連の機能的アウトカムに関する前向き観察研究(PERFORM-J)」のデータを用いて、日本人うつ病患者における主観的認知機能を評価するための簡便な指標であるPDQ-D-5(5項目の評価尺度)の有用性を検証した。その結果、日本人うつ病患者に対するPDQ-D-5による評価は、PDQ-D-20(20項目の評価尺度)による評価を適切に反映していることが確認され、簡易版のPDQ-D-5にも、機能的アウトカム、うつ病重症度、QOLのいくつかの尺度との関連が認められた。このことから著者らは、PDQ-D-5は、認知機能に関する主観的な経験を評価するための実行可能かつ臨床的に信頼性のある尺度であり、時間的制限のある診療・相談に適用可能であるとしている。Neuropsychiatric Disease and Treatment誌2022年11月2日号の報告。PDQ-D-5スコアとDSSTスコアとの間には負の相関が認められた PERFORM-Jでは、日本人うつ病外来患者518例を対象に、抗うつ薬治療開始後6ヵ月間の抑うつ症状、認知機能、社会的および就業的機能の重症度、QOLが評価された。本事後分析においては、20項目の評価尺度であるPDQ-D-20とPDQ-D-5との内的整合性および収束的妥当性を評価した。これらの測定値についての相関関係は、各時点および経時的に調査した。また、PDQ-D-5と、こころとからだの質問票(PHQ-9)、Montgomery Asbergうつ病評価尺度(MADRS)、数字符号置換検査(DSST)、EuroQol-5-Dimension-5-Level(EQ-5D-5L)、シーハン障害尺度(SDS)、Work Productivity and Activity Impairment(WPAI)質問票との相関関係の調査も行った。 PDQ-D-5の有用性を検証した主な結果は以下のとおり。・PDQ-D-5スコアは、良好な内的整合性を示した。・PDQ-D-5とPDQ-D-20の間には、各時点(相関係数:ベースライン時0.94、1ヵ月目0.94、2ヵ月目0.96、6ヵ月目0.96)および経時的(相関係数:0.92)に強い正の相関が観察された(すべてp<0.0001)。・PDQ-D-5スコアとPHQ-9、MADRS、SDSスコアとの間には、正の相関が確認された。・PDQ-D-5スコアとEQ-5D-5L、DSSTスコアとの間には負の相関が認められたが、その程度はさまざまであった。・PDQ-D-5スコアと、欠勤に関する項目を除くすべてのWPAIサブスケールスコアとの間には、経時的に中程度の正の相関が認められた。

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認知症リスクと楽器演奏~メタ解析

 高齢者の認知症予防には、余暇の活動が重要であるといわれている。しかし、認知症リスクと楽器の演奏との関連は、あまりわかっていない。国立循環器病研究センターのAhmed Arafa氏らは、高齢者における楽器の演奏と認知症リスクとの関連を調査するため、プロスペクティブコホート研究のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、楽器の演奏と高齢者の認知症リスク低下との関連が確認された。著者らは、高齢者の余暇の活動に、楽器の演奏を推奨することは意義があると報告している。BMC Neurology誌2022年10月27日号の報告。 楽器を演奏する高齢者におけるプールされた認知症リスクのハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出するため、ランダム効果モデルを用いた。研究全体の不均一性の評価にはI2、出版バイアスの評価にはfunnel plotの非対称性検定、バイアスリスクの評価には修正済みニューカッスル・オタワスケールを用いた。 主な結果は以下のとおり。・3件のプロスペクティブコホート研究(米国:2件、日本:1件)が適格基準を満たした。・メタ解析では、楽器の演奏は、高齢者の認知症リスクの低下と有意に関連していることが示唆された(HR:0.64、95%CI:0.41~0.98)。・研究全体で、有意な異質性(I2=23.3%、p=0.27)または出版バイアス(z=-1.3、p=0.18)は確認されなかった。

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貼付薬承認とgantenerumabの試験結果【コロナ時代の認知症診療】第22回

ドネペジルの貼付薬、使いどころは筆者は、コリンエステラーゼ阻害薬(ChE-I)の貼付薬を使うことが少なくない。ことに嚥下障害のある人、多剤・多量処方の人などではありがたい。また食欲不振の人で食欲が増すことを時に経験する。3種類のChE-Iのうち、リバスチグミンだけは貼付薬として流通している。本家のドネペジルでも以前から貼付薬開発の話があったが、容易でないという噂は前から聞いていた。この11月、帝國製薬のドネペジルを成分とする貼付薬であるアリドネパッチ27.5mgと55mgが承認された。適応は、アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制とされる。資料によれば、「通常、軽度~中等度のアルツハイマー型認知症患者にはドネペジルとして、1日1回27.5mgを貼付する。高度のアルツハイマー型認知症患者にはドネペジルとして、27.5mgで4週間以上経過後、55mgに増量する。なお、症状により1日1回27.5mgに減量できる。本剤は背部、上腕部、胸部のいずれかの正常で健康な皮膚に貼付し、24時間毎に貼り替える」とされる1)。本剤の登場で治療の選択肢が増すことはありがたい。やはり嚥下障害のある人、多剤・多量処方の人がターゲットだろう。筆者は、心密かに、「食欲に悪影響しないドネペジル張り薬」であって欲しいと期待している。というのはリバスチグミン治験に関する強い思い出があるからだ。この薬は、最初は飲み薬として試された。ところが胃腸症状と食欲不振が実に多くの患者で認められた。これを克服すべく貼付薬にリフォームしてなされた2回目の治験が成功した。筆者はいずれの治験にも参加したが、びっくりしたのは、食欲がむしろ改善するという効果が少なからぬ例で見られたことである。同じ成分の薬で、経口か皮膚吸収かで反対の効果なんて! という予想外の経験をしたわけだ。gantenerumabの試験結果をどう読み解く?さてこの数年、世界レベルの大きな治験がなされ、有力な疾患修飾薬として期待されていたのがgantenerumabであった。2022年11月、MCIと早期アルツハイマー病患者を対象にIgG1 mabである本剤の効果を評価したGRADUATE I試験、GRADUATE II試験の結果が発表された2)。両試験とも臨床症状の悪化抑制を検証した主要評価項目で有意差が得られなかった。この主要評価項目とは116週時点のCDR-SB(Clinical Dementia Rating-Sum of Boxes)のベースラインスコアからの変化量である。CDR-SBでは、記憶、見当識、判断力と問題解決、地域社会活動、家庭生活および趣味、介護状況を含む6つの領域について、認知機能と日常生活能を評価されたが、有意な効果が認められなかった。さらに、アミロイドβの除去レベルは想定より低かった。なお本剤の忍容性は、皮下による投与を含め、良好であった。実薬群において、浮腫または滲出液を伴うARIA-Eの発生は25%にみられたが、ほとんどが無症候性であり、投与の中断に至った例は少数であった。以上の結果は、副作用は少なかったが、効果も得られなかったと要約される。これらにより本剤の開発は中止になった。さてlecanemabに続くかと期待されたこのgantenerumabの失敗があっても、これからは疾患修飾薬の治験結果の発表・申請が続々となされるであろう。そこで承認されたとしても、今後の課題は少なくない。とくに重要と考えられるのは以下である。1)薬価と保険収載の有無、2)適応となるアルツハイマー病患者の特性、3)新薬が効く者・効かぬ者(レスポンダーか否か)の投与前判断が挙げられる。1)については、以前にも書いたが、保険収載にならず、費用が噂される年間数百万円であるのなら、新薬は多くの患者さんにとって福音とはならない。2)については若年性、遺伝性、初期・前駆期が基本である。しかしこの3項目に絞っても、投与要件の選び方によっては、数十万人の患者さんが投与対象になるかもしれない。となると国家財政にさえ少なからぬ影響を与えると役所側が考える可能性もある。3)が、臨床家にとって今後の最大の責務になるだろう。経験的にアミロイドPETや遺伝性の有無、発症年齢、認知機能テストの成績などと治療効果が相関するわけではない。それだけにエビデンスある予測の実現は容易ではない。おわりに、最近の新薬開発では、これまできわめて低いとされた脳血管関門(BBB)通過率をいかにして高めるかが大きなポイントだと聞く。ここが改善されたら、薬剤製造コストは下がり治療効率は上がって、これらの問題の克服につながるのではと期待される。参考1)厚生労働省「令和4年11月25日医薬品第一部会 事後ブリーフィング資料」2)Roche discontinues clinical trials of gantenerumab, after GRADUATE studies fail to meet their primary endpoints / Alzheimer Europe

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維持期うつ病治療の抗うつ薬比較~メタ解析

 藤田医科大学の岸 太郎氏らは、維持期の成人うつ病の治療に対する抗うつ薬の有効性、許容性、忍容性、安全性を比較するため、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。その結果、維持期の成人うつ病に対する抗うつ薬治療において、妥当な有効性、許容性、忍容性が認められた薬剤は、desvenlafaxine、パロキセチン、ベンラファキシン、ボルチオキセチンであることを報告した。Molecular Psychiatry誌オンライン版2022年10月17日号の報告。 PubMed、Cochrane Library、Embaseデータベースより、エンリッチメントデザインを用いた二重盲検ランダム化プラセボ対照試験(非盲検期間中に抗うつ薬治療で安定し、その後、同じ抗うつ薬群またはプラセボ群にランダム化)を検索した。アウトカムは、6ヵ月後の再発率(主要アウトカム、有効性)、すべての原因による治療中止(許容性)、有害事象による治療中止(忍容性)、個々の有害事象発生率とした。リスク比および95%信用区間を算出した。 主な結果は以下のとおり。・メタ解析には、20種類の抗うつ薬およびプラセボに関する34件の研究が含まれた。・対象患者数は9,384例(平均年齢:43.80歳、女性の割合:68.10%)であった。・抗うつ薬には、agomelatine、アミトリプチリン、bupropion、citalopram、desvenlafaxine、デュロキセチン、エスシタロプラム、fluoxetine、フルボキサミン、levomilnacipran、ミルナシプラン、ミルタザピン、nefazodone、パロキセチン、reboxetine、セルトラリン、tianeptine、ベンラファキシン、vilazodone、ボルチオキセチンが含まれた。・6ヵ月後の再発率に関して、プラセボよりも優れていた薬剤は、アミトリプチリン、citalopram、desvenlafaxine、デュロキセチン、fluoxetine、フルボキサミン、ミルタザピン、nefazodone、パロキセチン、reboxetine、セルトラリン、tianeptine、ベンラファキシン、ボルチオキセチンであった。・すべての原因による治療中止率に関して、プラセボよりも優れていた薬剤は、desvenlafaxine、パロキセチン、セルトラリン、ベンラファキシン、ボルチオキセチンであった。ただし、セルトラリンは有害事象による治療中止率が高かった。・プラセボと比較した個々の有害事象発生率については、ベンラファキシンではめまいの発生率が低く、desvenlafaxine、セルトラリン、ボルチオキセチンでは嘔気/嘔吐の発生率が高かった。

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乾癬とうつ病併存、脳構造と脳内コネクティビティの特徴は?

 先行研究で乾癬患者の最大25%にうつ病の併存が認められるとの報告がある中、英国・マンチェスター大学のGeorgia Lada氏らは、うつ病併存に関連する乾癬の脳構造と脳内コネクティビティ(connectivity)を調べる脳画像研究を行い、乾癬による局所脳容積や構造的なコネクティビティへの影響はみられないこと、乾癬とうつ病併存で右楔前部の肥厚が認められ、自殺傾向に関連している可能性があることなどを明らかにした。 患者に共通する神経生物学的およびうつ病脳画像のパターンなど、併存疾患のドライバについてはほとんど解明されていない。一方で、慢性の全身性炎症皮膚疾患である乾癬について、脳と皮膚間における免疫が介在したクロストークが仮説として示唆されていた。Brain, Behavior, & Immunity - Health誌2022年12月号掲載の報告。 調査は、測定した脳容積値等におけるうつ病と全身性炎症の意味を調べる初となる検討で、研究グループが知りうる限り最大の乾癬患者サンプルデータとしてUK Biobank登録者1,048例の脳MRIデータを用いて行われた。調査では、乾癬における関節の関与と、炎症状態がより高いことを示す乾癬性関節炎(PsA)併存の影響についても探索的評価が行われた。 調査対象の1,048例の内訳は、乾癬とうつ病併存患者が131例、年齢・性別で適合した非うつ病の乾癬患者131例、うつ病対照393例、非うつ病対照393例である。アプリオリに定義された関心領域(ROI)の容積・厚さ・表層、白質トラクトおよび安静時コネクティビティ評価に適切な55×55偏相関マトリックスにおける乾癬とうつ病の相互作用の影響を、一般線形モデルを用いて調べた。また、線形回帰法を用いて、C反応性蛋白質(CRP)値および好中球数と脳測定値の関連性を試験した。 主な結果は以下のとおり。・局所または全体の脳容積や白質統合度における差異は、乾癬患者と非乾癬/非PsA対照との比較において認められなかった。・対照と比較してうつ病が併存している乾癬患者のみにおいて、右楔前部の肥厚が認められた(β=0.26、95%信頼区間[CI]:0.08~0.44、p=0.02)。・さらなる解析で、PsAを有する乾癬患者では、安静時コネクティビティにおける前頭後頭部の非連動(decoupling)が、非PsA対照(β=0.39、95%CI:0.13~0.64、p=0.005)および対照(0.49、0.25~0.74、p<0.001)と比較してそれぞれ有意であることが示された。このことはうつ病併存とは無関係であった。・楔前部の肥厚と前頭後頭部のコネクティビティは、CRP値や好中球数では予測できなかった。・うつ病乾癬患者における楔前部の肥厚は、繰り返される自殺傾向と、わずかだが相関性が示された。 研究グループは、UK Biobankデータを使用した検討では重症疾患を有する集団の結果の一般化を限定する可能性があり、重症疾患およびより大規模なPsA集団で今回の所見が再現されるか、さらなる検討が必要だ、とまとめている。

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慢性片頭痛と睡眠の質との関係

 最近の研究によると、片頭痛患者では睡眠に関する問題が高頻度に発生し、慢性的な睡眠不足に陥ることが示唆されているが、慢性片頭痛が睡眠の質に及ぼす影響に関するメカニズムは明らかになっていない。トルコ・Yozgat Bozok UniversityのHikmet Sacmaci氏らは、慢性片頭痛患者で一般的に報告される睡眠障害を分析し、睡眠の質に対する慢性片頭痛の影響を明らかにするため、本研究を行った。その結果、慢性片頭痛患者では睡眠障害が一般的に認められ、睡眠の質と片頭痛の慢性化とは相互に関連していることが示唆された。Nature and Science of Sleep誌2022年10月6日号の報告。 2022年3月までに公開された慢性片頭痛と睡眠の質に関する文献を包括的にレビューした。臨床試験、観察研究、20件以上のケースシリーズを対象に含めた。2人のレビュアーおよび1人のスーパーバイザーにより、すべての検索された文献のタイトルおよびアブストラクトが事前に定義した包括基準や除外基準を満たしているかをレビューした。慢性片頭痛、睡眠、不眠症、睡眠の質、睡眠ポリグラフ、ピッツバーグ睡眠質問票を検索キーワードとし、1983~2022年に英語で報告された慢性片頭痛と睡眠の質に関するランダム化比較試験およびオープンスタディをPubMedより検索した。 主な結果は以下のとおり。・関連研究として535件が抽出されたが、そのうち455件は包括基準を満たしていなかったため、レビューから除外した。・残りの研究のうち、睡眠の質と片頭痛との関連をレビューした臨床研究36件が特定され、これらを本レビューに含めた。・睡眠不足と片頭痛の慢性化は、他の併存疾患や概日リズム調節不全と相互に関連しており、革新的な治療方法により睡眠不足と片頭痛の両方を緩和する可能性が示唆された。・高頻度の片頭痛発作を伴う併存疾患を有する患者では、睡眠の質を低下させる可能性が示唆された。・不適切な疼痛に対するプロセスは睡眠を悪化させ、睡眠の質の不良も片頭痛に悪影響を及ぼす。・片頭痛発作の悪化による睡眠障害は、QOL、労働力の低下、経済的負担を引き起こすと考えられる。

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認知機能を学ぶオンラインカフェスペース「Cognition Cafe」公開【ご案内】

 ケアネットは、医療従事者に認知機能(cognition)を「知り」「学び」「考える」きっかけを届けるオンラインカフェスペース「Cognition Cafe」を公開した。 本サイトは、認知機能の理解を通して「人と関わる」「人が集まる」「社会復帰ができる」ことの実現を目的に、認知機能に関するさまざまなコンテンツや企画を発信するために立ち上げられた。現在(2022年12月)、実臨床に役立つ書籍や文献が紹介されているほか、認知機能に関するより専門的なコンテンツが掲載されている。本サイトは、認知機能改善に携わる精神科医師・リハビリ医師・看護師・心理士・ケアスタッフなどに向けて、認知機能を知り、また当事者の日常生活を改善するために必要な専門職の役割や知見を学ぶことを、リラックスできるカフェのようなオンライン空間で体験できる場を目指していく。 「Cognition Cafe」はこちらから

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小児および思春期の精神疾患に対する薬物治療反応の予測因子

 これまで、小児および思春期の精神疾患患者に対する薬物療法の治療反応の予測に関する研究は、十分に行われていなかった。慶應義塾大学の辻井 崇氏らは、米国国立精神衛生研究所(NIMH)によるサポートで実施された、小児および思春期の精神疾患患者を対象とした4つの二重盲検プラセボ対照試験のデータを分析し、薬物治療反応の予測因子の特定を試みた。その結果、小児および思春期の精神疾患患者に対する薬物療法の治療反応予測因子として、実薬による薬物療法の実施、女性、早期での改善が特定された。Neuropsychopharmacology Reports誌オンライン版2022年11月3日号の報告。 分析対象データは、不安症に対するセルトラリンおよびフルボキサミン治療、自閉スペクトラム症に対するリスペリドン治療、うつ病に対するfluoxetine治療を評価した4つの二重盲検プラセボ対照試験より抽出した。治療反応の定義は、エンドポイントでの臨床全般印象度の改善度(CGI-I)スコア1または2とした。治療反応と性別、診断、治療の割り付け、ベースライン時の臨床全般印象度の重症度(CGI-S)スコアとの関連を評価するため、ロジスティック回帰分析を用いた。さらに、1週目の早期改善(CGI-Iスコア3以下)は、2つの研究データを用いて、追加のバイナリロジスティック回帰分析により評価した。 主な結果は以下のとおり。・分析対象の患者数は、599例であった。・バイナリロジスティック回帰分析では、治療反応と有意に関連していた因子は、実薬の使用(オッズ比[OR]:8.64、p<0.001)、女性(OR:1.89、p=0.002)であった。・追加のバイナリロジスティック回帰分析では、CGI-Iでの早期改善(OR:3.47、p=0.009)、実薬の使用(OR:15.05、p<0.001)、女性(OR:2.87、p=0.016)が、その後の治療反応と関連していた。

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長時間労働に関連するうつ病リスクに対する身体活動の影響

 長時間労働がうつ病発症率の増加と関連していることを示唆する研究が増加している。しかし、長時間労働に関連するうつ病リスクに対する身体活動(PA)の影響を調査した研究はほとんどなかった。中国・Beijing Institute of Occupational Disease Prevention and TreatmentのTenglong Yan氏らは、PAが長時間労働に関連するうつ病リスクの修正可能な因子であるかを検討した。その結果、長時間労働はうつ病リスクと関連しており、PAはうつ病リスクをある程度修正可能であることが示唆された。Journal of Affective Disorders誌2023年1月15日号の報告。 2015~18年の国民健康栄養調査より得られた横断的データを分析した。国際労働機関(ILO)の基準により、長時間労働は、1週間当たり40時間以上と定義した。うつ病の特定には、こころとからだの質問票(PHQ-9)を用いた。長時間労働とうつ病との関連を推測し、PAとの関連を明らかにするため、バイナリロジスティック回帰および制限付き3次スプライン(RCS)モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・分析対象5,958人のうち、3,074人(51.6%)が長時間労働に該当していた。・うつ病の有病率は、7.7%であった。・ロジスティック回帰分析では、長時間労働とうつ病リスクとの関連が認められ(オッズ比[OR]:1.738、95%信頼区間[CI]:1.427~2.117)、他の交絡因子で調整した後でも、この関連は維持されていた。・RCSモデルでは、高度なPA群でうつ病リスクが最も低く、次いで低度PA群および非PA群であることが確認された。

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名前が出てこない!【Dr. 中島の 新・徒然草】(456)

四百五十六の段 名前が出てこない!先日、脳外科外来を受診した患者さん。会社で悔しいことがあったりしたら、帰路にはオフコースを聴いていたのだとか。「オフコースの全盛期って、私はまだ小学生だったんですよ。でも子供心にも小田さんの声って素敵だなって思って」彼女は心の問題で出勤できなくなっていました。病気やら家庭のことやら、それはもう人生の大変なことが、一度に降りかかってきたわけです。それでしばらく病欠しておられました。「心療内科の先生のアドバイスで、少しずつ会社の近くまで行けるようになって、ついに裏門まで到達できました」そういう治療法があると耳にしたような気もしますが、実際にやっているんですね。「で、次は出勤して1時間だけ自分の机に座って何もせずに帰る、というのに挑戦しました」まだ病欠期間のことだったそうです。「人事部からは『前例がない』と許可が出なかったのですが、上司が味方になってくれて実現したんです」でも、机に座っているのに何もしない、というのは周囲からずいぶん奇異な目で見られたのだとか。「私がいないと思って、若い人が悪口を言っているのが聞こえてきたりして、つらかったです」そんな時に彼女の慰めになったのが、オフコースの歌でした。患者「心療内科の先生には『言いたい奴には言わせておけ』と言われました」中島「おお、ピッタリその通りの歌詞の歌がありますよ」患者「えっ、何ですか。ぜひ聴きたいです!」中島「えっと、テレビドラマで使われていて、SMAPの中居くんと篠原 涼子が出演していた医学もので、90年代の……うーん」患者「その頃の医学ものと言えば、『振り返れば奴がいる』ですか?」中島「いや、そっちじゃないです。うーん、うーん」こういうのが出てこなくなったんですよね、年を取ってから。後で調べてみると「輝く季節(とき)の中で」というテレビドラマで、「君がいたから」という曲でした。それと「言いたい奴」ではなく「笑いたい奴」でした。すみません。患者「じゃあ、帰りの地下鉄の中ででも、そのキーワードで調べてみます」中島「そうしてください。僕も年を取ったなあ」患者「先生も嫌なことがあった時に聴く曲がありますか?」中島「もちろんありますよ」患者「なになに? 教えてください!」またしても曲名が出てこない。中島「あの、ポカリスエットのコマーシャルで使われていた……一色 紗英の出ていたやつで」患者「YouTubeで探してみます」後で調べたら、織田 哲郎の「いつまでも変わらぬ愛を」でした。情けない。ちなみに彼女によるオフコースのベスト3は、「YES-YES-YES」「愛を止めないで」「眠れぬ夜」なのだそうです。患者「それで何ヵ月も掛かって、ようやくフルタイムで働けるようになりました」中島「すごいですね、それは!」患者「すごいですか?」中島「それはもう、白血病を克服してオリンピックに出場した、水泳の池江選手くらい立派ですよ」池江 璃花子選手ですね、今度は名前が出ました。それにしても、物忘れがひどくなったという患者さんの訴えを、自ら経験する日が来るとは!果たして次は、何を経験させられることになるのか?ということで最後に1句師走きて みんな忘れて 出てこない

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双極性障害に対する多剤併用療法~リアルワールドデータ

 双極性障害に対する薬物治療は、多剤併用で行われることが少なくない。イタリア・ジェノバ大学のAndrea Aguglia氏らは、双極性障害患者に対する複雑な多剤併用に関連する社会人口学的および臨床的特徴を明らかにするため、検討を行った。結果を踏まえて著者らは、とくに薬物治療の中止が必要な場合においては、双極性障害の長期マネジメントのための明確なガイドラインを作成する必要があることを報告した。Psychiatry Research誌2022年12月号の報告。 対象は、双極性障害患者556例。社会人口学的および臨床的特徴、薬理学的治療に関する情報は、半構造化インタビューを用いて収集した。対象患者を複雑な多剤併用(4剤以上の向精神薬の併用)の状況に応じて2群に分類した。両群間の比較は、t検定およびカイ二乗検定を用いて評価した。また、複雑な多剤併用に関連する因子を特定するため、ステップワイズロジスティック回帰を用いた。 主な結果は以下のとおり。・複雑な多剤併用が行われている双極性障害患者は、独身および失業している傾向があった。・さらに、複雑な多剤併用と関連していた因子として、発症年齢の低さ、罹病期間の長さ、入院回数の多さ、医学的および精神医学的合併症の多さ、違法物質(ヘロインを除く)の使用が挙げられた。・ロジスティック回帰モデルでは、複雑な多剤併用と関連している因子として、独身、高齢、入院回数、精神医学的合併症が特定された。

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映画「二つの真実、三つの嘘」(前編)【なんで病気になりたがるの? 実はよくある訳は?(同情中毒)】Part 1

今回のキーワードミュンヒハウゼン症候群作為症(虚偽性障害)詐病疾病利得対人希求演技性パーソナリティ障害シックロールイエス・バット・ゲーム皆さんは、とくに休みやお金がもらえる訳ではないのに、病気になりたいと思ったことはありますか? 「そんな訳ない」と思いますよね。しかし、世の中には、症状をねつ造してまで、病気になりたがる人がいます。いわゆるミュンヒハウゼン症候群です。今回は、これをテーマに、サスペンス映画「二つの真実、三つの嘘」を取り上げます。病気になりたがる原因を解き明かし、嘘つきの心理を掘り下げます。そして、嘘をつくほどでなければ、病気になりたがるのは実はよくある訳を解説します。さらに、病気になりたがる人の見分け方やその対策を探ります。なお、ミュンヒハウゼン症候群への理解を深めると、この映画のキャラ設定や展開をよりリアルに見ることができ、B級ホラーらしからぬこの映画の魅力を見いだすことができます。サスペンスではありますが、この前編はネタバレなしです。ホラーOKなら、とくに医療関係者をはじめとする援助職の方々にぜひ見て欲しい映画です。1つ目の真実は?主人公はメラニーとエスター。2人は子どもを亡くした女性向けの自助グループで出会います。メラニーは、以前からこの自助グループに通っており、初めて参加するエスターに、夫と小さい息子が以前に交通事故で亡くなっていたことを打ち明けます。ところが、後日、エスターがデパートに行くと、たまたまメラニーが一人で歩いているのを見かけます。そして、突然、慌てふためいて息子の名前を叫び出し、店員に子どもが誘拐されたと言い出すのです。エスターは、駐車場に行って探そうとするメラニーを隠れて追いかけます。すると、メラニーが自分の車から息子を降ろして店に連れていくのを目撃してしまうのです。その後、夫も普通に一緒に暮らしていることを目撃します。ここで、タイトルである「二つの真実、三つの嘘」の1つ目の真実が分かります。それは、メラニーがミュンヒハウゼン症候群であるということです。彼女は、夫と息子が交通事故で亡くなったり息子が誘拐されたと嘘をつき、その悲嘆や動揺などの辛い精神症状を真に迫って演じています。このように、症状をねつ造すること、周りにアピールすること、金銭目的ではないことなどがポイントになります。なお、ミュンヒハウゼン症候群は、従来の病名であり、この現在の正式な病名は、作為症または虚偽性障害(DSM-5)です。この診断基準は、表1をご覧ください。ちなみに、息子や夫が嘘の内容の対象になっている点で、表1の右欄の代理ミュンヒハウゼン症候群であると思われるかもしれません。しかし、厳密には、息子や夫に症状をねつ造している訳でなく、メラニーが自分自身に症状をねつ造している点で、左欄のただのミュンヒハウゼン症候群です。また、金銭を得たり仕事などの義務を免れたりするのが主な目的である場合は、詐病です。これは、ミュンヒハウゼン症候群とは区別します。なお、詐病については、関連記事1で詳しく説明しています。なんで症状をねつ造するの?メラニーはなんのためにこんなことをするのでしょうか? それは、同情されることが快感(社会的報酬)になっているからです。詐病に物理的な疾病利得(報酬)があるとすれば、ミュンヒハウゼン症候群には心理的な「疾病利得」があると言い換えられます。もちろん、私たちも同情されたいと思うことはあります。ただし、それは本当に同情されるほど辛い状態になった時だけです。自分から嘘をついてわざわざ同情される状態を作り出すのは、度が過ぎています。さらに、嘘を繰り返してまで同情されることが止められなくなっているのも、度が過ぎています。もはや、これは「同情中毒」と言えます。「中毒」とは、アルコール、ドラッグ、ギャンブルと同じように、止めたくても止められない嗜癖(アディクション)の古い言い回しですが、生々しくてインパクトがあるので、この記事ではあえてそう名付けました。なんでそんなに同情されたいの?メラニーは、そもそもなぜそこまでして同情されたいのでしょうか? それは、同情されることでしか人と関われなくなっているから、つまり同情を乱用した対人希求です。私たちは人と関わる時、「すごい」「さすが」とちやほやされたいという承認欲求があります。たとえば、映画のラストで、テレビ出演して周りから注目されることをメラニーが想像するシーンが分かりやすいです。しかし、現実のメラニーは、夫の稼ぎによってお金があるとは言え、専業主婦で家庭に閉じ込められて子育てに追われ、夫婦関係もうまく行っていません。そうなると、承認されることが子育てぐらいしかなく、しかもそれすら承認してくれる人がいないので、代わりに「かわいそう」「大丈夫よ」とよしよしされたいという「同情欲求」を満たそうとするのです。つまり、承認欲求がポジティブな対人希求だとすれば、同情欲求はネガティブな対人希求であり、対照的です。もちろん、この承認欲求も度が過ぎると、「承認中毒」という状態になります。これについては、関連記事2で詳しく説明しています。ちなみに、ミュンヒハウゼンとは、「ほら吹き男爵」のモデルとなった中世に実在した貴族の名前です。周りから注目されようと嘘をつく点では同じです。しかし、このミュンヒハウゼン伯爵は周りを楽しませて承認欲求を満たそうと嘘をつきましたが、ミュンヒハウゼン症候群は周りから気の毒がられて同情欲求を満たそうと嘘をついている点で違います。つまり、ミュンヒハウゼン伯爵は、症状をねつ造したというエピソードがとくにないので、実はミュンヒハウゼン症候群は当てはまりません。あえて言えば、注目されたいという特徴から、障害レベルではない演技性パーソナリティが当てはまります。なんで嘘をつくの?それでは、メラニーはなぜ次々と嘘がつけるのでしょうか? 私たちは、嘘をつく時に、無意識に落ち着かなくなります。その理由として、もちろん理屈で考えれば、嘘がばれた時に信用されなくなり自分が困るからです。そして、そもそも私たち人間は、嘘をつくなどの反社会的な行動をすると罪悪感を抱くように心が進化したからです。これは、社会脳と呼ばれています。逆に言えば、嘘つきの原因は、この社会脳が生まれながらうまく働かないという遺伝素因の問題か、社会脳が親によって十分に育まれてこなかったという生育環境の問題か、またはその両方が考えられます。これについては、関連記事3で詳しく説明しています。ただし、嘘をついても落ち着かなくならない例外があります。それは、相手を傷つけないための嘘、いわゆる「ホワイト・ライ」です。これも、相手とうまくやっていくための社会脳として進化しました。次のページへ >>

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映画「二つの真実、三つの嘘」(前編)【なんで病気になりたがるの? 実はよくある訳は?(同情中毒)】Part 2

病気になりたがることが実はよくある訳は?確かに、嘘をついてまで病気になりたがるのは、かなり度が過ぎています。しかし、嘘をつくほどでなければ、病気になりたがることは、心療内科・精神科や心理カウンセリングの現場で、実はよくあることです。その理由を大きく3つ挙げてみましょう。(1)もっとかまって欲しいから病気になりたがる1つ目の理由は、もっとかまって欲しいからです。そのために、嘘をつかなくても、困っていることや症状を大げさに訴えたり見せつけます。たとえば、毎回の診察で「死にたい」と訴え続けることです。また、急に倒れ込んだり、リストカットの傷痕を隠さずに出していることです。症状を伝えることは、かまってもらうためではなく、良くするためであるはずなのにです。なお、これらは、意識的に嘘をついている訳ではないので、ミュンヒハウゼン症候群ではなく、演技性パーソナリティ障害と診断されます。(2)病気のせいにしたいから病気になりたがる2つ目の理由は、病気のせいにしたいからです。仕事や人間関係でうまく行っていない時、それが自分の能力や性格によるものであれば、自分のせいになります。しかし、「うつ病」「自律神経失調症」などと診断されれば、その問題を病気のせいにすることができます。また、自分の能力の問題であっても、「ADHD(注意欠如・多動症)」「HSP(敏感な人)」などと指摘されれば、やはり病気のせいにできます。さらに、自分の性格の問題であっても、「毒親」「アダルトチルドレン」などと指摘されれば、家庭環境のせいにすることができます。病気になったのは本人の責任ではないかもしれませんが、病気を良くしていくのは本人の責任であるはずなのにです。もはや、自分で自分に嘘をついている状態です。なお、これらは、無意識に責任逃れや責任転嫁をしている点で、自己奉仕バイアスと呼ばれます。婚活でうまく行かない人が、良い相手がいないと嘆く心理に通じます。また、ひきこもりの人が親に謝罪をしつこく求める心理にも通じます。(3)病人として生きたいから病気になりたがる3つ目の理由は、病人として生きたいからです。病人でいる状況が長くなると、病気に立ち向かって頑張って生きている自分というアイデンティティが確立してしまいます。逆に言えば、病人ではなくなると、病気以外で頑張ること(役割)やその居場所を新しく探さなければならず、見つからなければ自分は何者でもなくなってしまうという恐怖が出てきます。よって、彼らにとって、たとえば精神障害者保健福祉手帳の取得はステータスになります。3級が2級になれば、資格試験で頑張った成果であるかのように納得した表情をします。やがて、「病気自慢」「不幸自慢」をするようになります。そもそも、病気や不幸を語ることは、健康や幸福になるための手段であって、目的そのものではないはずなのにです。なお、これは、無意識に治りたいと思っておらず、病人の役割(アイデンティティ)をまっとうしようとする点で、シックロールと呼ばれています。病気になりたがる人を見分けるには?病気になりたがることが実はよくある理由は、もっとかまって欲しい、病気のせいにしたい、そして病人として生きたいからであることが分かりました。それでは、これらの心理を踏まえて、彼らをどうやって見分ければいいでしょうか? 彼らの特徴を大きく3つ挙げてみましょう。(1)症状を語りたがる病気になりたがる人の特徴の1つ目は、症状を語りたがることです。たとえば、症状を次々と列挙して、その症状がどんなふうでどうなってきたかを、辛そうな表情を交えながらもよくしゃべります。また、医療機関での予診票では、症状のチェック欄には、ほぼすべての症状をチェックします。自己記入式の病状のスクリーニング検査では、病状が重く見られるようにチェックします。そして、こちらが、症状を語りたがっている意図を察知して、あえて話を切り上げようとすると、「話を聞いてくれない」「辛さを分かってくれない」と怒り出します。そもそも、本当に病気の人は、症状を伝えるにしても、一番辛い症状を何とか1つか2つあげるだけで、そんなに語れません。そして、治してもらえるなら、話が早くに終わっても気にしません。(2)病名や原因をはっきりさせたがる病気になりたがる人の特徴の2つ目は、病名や原因をはっきりさせたがることです。たとえば、病名や原因をしつこく聞いてきます。自分がネットで調べて見つけた病名が、厳密には違うと聞かされると、がっかりしたり食い下がってきます。わざわざ自分が持ち歩くだけのために、診断書の発行を希望する人もいます。そもそも、精神科医が病名や原因を伝えるのは、薬の処方をはじめとして今後のためになる場合に限られています。逆に言えば、今後のためにならない場合は積極的には伝えません。その理由は、そうすること自体が、決め付け(ラベリング)になってしまい、その病気や原因に本人がとらわれて、逆になかなか良くならないことがあるからです。(3)治療には乗ってこない病気になりたがる人の特徴の3つ目は、治療には乗ってこないことです。たとえば、病気を良くするためのさまざまな提案に対して、すべて「はい、いいんですけど…でもやっぱり私には無理です」と曖昧に返してきます。これは、心理学で「イエス・バット・ゲーム」と呼ばれています。一方で、「いいえ、そうじゃなくて(ノー・バット)」とはっきり返してくる場合は、「ということは何か考えがあるのですね」とその人なりの思いを掘り起こすことができます。また、「この病気さえなければ」と言い続ける人に、「じゃあ、もしもこの病気が良くなったら、どうしていますか?」と聞くと、「そんなこと考えられないです。だって、病気があることには変わりないじゃないですか」「そんなこと考えて、結局良くならなかったら、ますます辛いじゃないですか」と言い返してきます。さらに、ポジティブな面に目を向ける問いかけに対しては、「私のポジティブなところを聞かれても困ります」「前向きに考えてなんて言って欲しくない」「私はそんなんじゃない」「私の病気を軽く見ないでください」「それがうざいんですよ」と言う人もいます。確かに、とても弱っている時は前向きには考えられません。しかし、それがずっと続く場合は、もはやその人の考え方、生き方の問題になってきますので、治療として限界があることを理解する必要があります。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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映画「二つの真実、三つの嘘」(前編)【なんで病気になりたがるの? 実はよくある訳は?(同情中毒)】Part 3

病気になりたがる人にどう接する?病気になりたがる人の特徴は、症状を語りたがる、病名や原因をはっきりさせたがる、治療には乗ってこないことであることが分かりました。それでは、これらの見分け方を踏まえて、彼らにどう接すればいいでしょうか? その対策を大きく3つ挙げてみましょう。(1)ある程度は受容するメラニーは、症状をねつ造していたとは言え、長らく自助グループに通い、お互いに慰め合うことで、日常生活は安定していました。病気になりたがる人への対策の1つ目は、ある程度は受容することです。たとえば、「辛い気持ちを分かって欲しい」と自傷行為を繰り返す人に対しては、「そんなことするくらい辛かったんですね」とその気持ちを受け止めます。その理由は、まずは信頼関係を築く必要があるからです。そもそも信頼関係がなければ、治療が進まないからです。また、病気になりたがっているかは、最初に会った段階でははっきりと分からないことがあるからです。ただし、受容は、あくまで一定レベルで一定期間に留める必要があります。無制限に無期限に気持ちを受け止めると、病気になりたがる気持ちをただ煽る(強化する)だけになってしまうからです。つまり、皮肉にも、困った人の話を聞き続けると、ますます困った人にさせてしまうということです。(2)その気持ちそのものを考えさせる病気になりたがる人への対策の2つ目は、その気持ちそのものを考えさえることです。たとえば、「病気が良くなることを考えること自体が治療なんです。それでも考えたくないですか?」と問いかけ、「変な話、病気であることが生きがいになっている人もいます。私はあなたにそうなって欲しくないと思っています」と遠回しに伝えます。また、症状をねつ造している可能性があるとしても、まずはその矛盾している点を具体的に細かく指摘することに留めます。これらのやり方は、認知行動療法に通じます。注意点は、「あなたは病気になりたがってますね」「嘘をついていますね」とストレートには伝えないことです。心理学では、これを直面化と呼んでいます。そうしてしまうと、そういう人は激しく否認し、信頼関係を損ねます。なお、これは、子どもが嘘をついた時の対応にも通じます。(3)病気以外での人との関わりを促すもしもメラニーが想像した通りにテレビ出演して周りから注目されるようになると、承認によって対人希求が満たされます。すると、もはや同情によって対人希求を満たす必要はなくなるため、症状をねつ造することをしなくなるでしょう。病気になりたがる人への対策の3つ目は、病気以外での人との関わりを促すことです。たとえば、「病気が辛いことについてではなく、病気を良くすることについてなら話を聞きます」と伝え、話の方向付けをすることです。そして、「もしも病気が良くなったら」という先ほどの質問をもう一度して、「あなたの得意なことは?」「好きなことは?」「それを生かす場所は?」という質問につなげていくのです。それでも病気になりたがる人には?しかし、それでも病気になりたがる人もいます。聞き入れられずに堂々巡りになる場合は、もはや治療の限界です。そんな時は「診察の時間には制限があります」「これ以上は治療としてお役に立てることは難しいです」と伝える必要があります。なぜなら、現実問題として、医療現場で病気になりたがる人の話を聞き続けることは、その気持ちを強化する以前に、時間と労力の浪費となり、税金によって成り立っている医療資源の無駄遣いをしていることになるからです。もちろん、病院以外で、「病気自慢」を私小説としてブログで発信したり、自分語りとしてSNSのコミュニティ(自助グループ)で披露することをお勧めすることはできます。それは、自己表現であり、文学です。つまり、対人希求は、病院でネガティブに発揮するのではなく、病院以外でポジティブに発揮することを促すのです。また、自費による心理カウンセリングをお勧めすることもできます。なぜなら、お金を払って話を聞いてもらうのは、本人の自由だからです。ただし、今度は病気になりたがる人がカウンセリングビジネスに利用されないように、助言をする必要はあります。なぜなら、旧ソ連に「国は給料を払うふりをして国民は働くふりをする」というジョークがあるように、「クライエントは病気のふりをして、セラピストは治すふりをする」という関係性ができてしまうからです。それは、もはや治療ではなく、「治療」という衣をかぶった宗教でしょう。なお、カウンセリングビジネスは、関連記事4で詳しく説明しています。なお、次の後編からネタバレになります。この映画をネタバレなしで見たい方は、先に見てから後編に進んでいただき、残りの1つの真実と3つの嘘の答え合わせをしましょう。1)病気志願者―「死ぬほど」病気になりたがる人たち:マーク・D・フェルドマン、原書房、19982)うその心理学:こころの科学、日本評論社、20113)特集「うそと脳」:臨床精神医学、アークメディア、2009年11月号4)「隠す」心理を科学する:太幡直也/佐藤拓/菊池史倫、北大路書房、20215)平気でうそをつく人たち:M・スコット・ペック、1996<< 前のページへ■関連記事万引き家族(前編)【年金の財源を食いつぶす!?「障害年金ビジネス」とは?どうすればいいの?】Part 1ザ・サークル【「いいね!」を欲しがりすぎると?(承認中毒)】Part 1万引き家族(前編)【親が万引きするなら子どももするの?(犯罪心理)】Part 3M-1グランプリ(続編・その2)【ツッコミから学ぶこれからのセラピーとは?】Part 2

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レビー小体型認知症の初期症状の特徴

 レビー小体型認知症(DLB)は、神経変性疾患による認知症のうち2番目に多いとされる。レビー小体型認知症は認知機能障害の変動を特徴としているが、認知機能症状が出現する前に、急速眼球運動、睡眠行動障害、精神症状、自律神経症状、パーキンソン症状などが認められることが多い。そのため、レビー小体型認知症の初期段階では他疾患と診断されることも少なくない。中国・天津医科大学のMin Fei氏らは、レビー小体型認知症の初期症状の特徴を調査し、レビー小体型認知症の早期診断に必要な手掛かりを得ようと試みた。その結果、レビー小体型認知症患者の初期症状は性別や年齢により違いが認められた。著者らは、レビー小体型認知症の初期症状を理解することでより正確な診断が可能となるであろうとまとめている。Frontiers in Neurology誌2022年10月12日号の報告。レビー小体型認知症の初期症状で睡眠行動障害は女性よりも男性で多い 対象は、2015年9月~2021年3月にTianjin Huanhu Hospitalの認知症外来を受診したレビー小体型認知症が疑われる患者239例。すべての患者の初期症状をレトロスペクティブに調査した。初期症状の発症時期も併せて評価した。 レビー小体型認知症の初期症状の特徴を調査した主な結果は以下のとおり。・レビー小体型認知症患者の初期症状は、以下の順で認められた。 ●記憶障害:53.9% ●精神症状:34.7% ●睡眠行動障害:20.9% ●パーキンソン症状:15.1% ●自律神経症状:10.1%・レビー小体型認知症患者の初期症状は、性別や年齢により有意な違いが認められた。・睡眠行動障害は女性よりも男性で多く、幻覚や幻聴は男性よりも女性で多かった。

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