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日本における認知症教育による潜在的態度の変化

 東京大学の松本 博成氏らは、成人および高齢者における認知症に対する偏見などの潜在的な態度の測定に関して、その実現可能性と妥当性を評価し、仮想現実(VR)を用いた認知症フレンドリー教育が潜在的な態度に及ぼす影響を評価した。Australasian Journal on Ageing誌オンライン版2024年2月15日号の報告。 ランダム化比較試験のデータを2次分析した。東京在住の20~90歳が、VRの有無にかかわらず、認知症フレンドリー教育に参加した。認知症フレンドリー教育プログラム終了後、Implicit Relational Assessment Procedure(IRAP)を用いて、認知症に対するimplicitを測定した。 主な結果は以下のとおり。・参加者145人中89人(61%)がIRAPを開始し、21人(15%)が完了した。・IRAPの開始/完了と有意な関連が認められた因子は年齢の低さであり、開始率50%の閾値年齢は72.3歳、完了率50%の閾値年齢は44.8歳と推定された。・家族以外の認知症患者と接触経験のある人では、経験のない人と比較し、IRAPスコアが有意に低かった。・VRプログラムに参加したグループは、対照グループと比較し、IRAPスコアが有意に低かった(p=0.09)。 著者らは「IRAPによる認知症に対する潜在的な態度の測定は、70代以上の人では実現が難しいと考えられるが、接触経験の違いが測定の妥当性を裏付けるものであろう」とし、「VRを用いた認知症フレンドリー教育は、認知症に対する偏見などの潜在的な態度を改善するうえで、有用である可能性が示唆された」としている。

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うつ病と診断された双極性障害患者の自殺企図リスク

 多くの場合、自殺には、原因となる精神疾患が関連している。うつ病と診断された双極性障害患者における自殺企図のリスク因子は、十分に明らかとなっているとは言えない。中国・北京大学のLin Chen氏らは、うつ病と診断された双極性障害患者における自殺企図の発生率および臨床的リスク因子を評価するため、本研究を実施した。Asian Journal of Psychiatry誌2024年3月号の報告。 対象は、中国の精神保健施設13施設より登録されたうつ病診断患者1,487例。うつ病と診断された双極性障害患者を特定するため、精神疾患簡易構造化面接法(MINI)を用いた。対象患者の社会人口統計学的および臨床的データを収集した。MINIを用いて、自殺企図を有する患者を特定した。 主な結果は以下のとおり。・双極性障害患者の20.6%は、うつ病と診断されていた。・うつ病と診断された双極性障害患者の26.5%に、自殺企図が認められた。・これらの患者の特徴として、高齢、入院回数が多い傾向があり、非定型的特徴、精神症状、自殺念慮を伴う季節性うつ病エピソードの頻度が高い可能性が示唆された。・高頻度のうつ病エピソードと抑うつ症状発現中の自殺念慮は、自殺企図の独立したリスク因子として特定された。・うつ病と診断された双極性障害患者と自殺企図歴を有するうつ病患者との間に、社会人口統計学的および臨床的な有意な違いが確認された。 著者らは「双極性障害患者における正確な診断の重要性が示唆されており、とくに自殺行動に関連して、うつ病と診断された双極性障害患者とうつ病患者を特定し、適切な介入を行うことが重要である」としている。

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映画「バッド・ジーニアス」【学歴社会を引っくり返す⁉(カンニング教育革命)】Part 1

今回のキーワードICT(情報通信技術)カンニングビジネス教育の平等身分社会(アリストクラシー)学歴社会(メリトクラシー)機会の平等結果の平等真の民主社会(デモクラシー)皆さんは、試験でカンニングをするのはけしからんと思いますか? なぜでしょうか? ずるくて不公平だから? それでは、試験を課す学歴社会の方が実は不公平だとしたら、どうでしょうか? そして、もしも絶対にバレないカンニングができるとしたら? さらに、実はみんなすでにこっそりやっているとしたら???今回は、カンニングをテーマに、映画「バッド・ジーニアス」を取り上げます。この映画を通して、文化進化の視点から、生成AIをはじめとするICT(情報通信技術)の高度な進歩によって、もはやカンニングが取り締まれなくなったら、学歴社会はどうなるのかを予想します。そして、カンニングをしても意味がなくなるようなこれからの教育のあり方、名付けて「カンニング教育革命」を一緒に探ってみましょう。カンニングはどこまでハイテク化したの?主人公のリンはタイの女子高校生。けっして裕福ではない父子家庭で育ちながら、成績が抜群に優秀だったため、特待奨学生として名門校に入学します。そこで人当たりの良いグレースと友達になります。グレースは勉強が苦手であったため、リンが家庭教師を引き受けることになります。しかし、テストでは、グレースは苦戦してしまい、前の席に座っていたリンはつい消しゴムに答えを書いて教えてしまうのです。この一件から、カンニングの手助けを希望するクラスメートがどんどん増えていきます。やがてリンたちは、米国の大学入学統一試験でハイテクも駆使して、世界を股にかけた「カンニングプロジェクト」をもくろみます。カンニングとは、試験で不正に答えを知ることです。古くは、中国の科挙まで遡ります。当時は、答えとなる聖典がびっしりと下着に書かれていました。このような歴史的な背景から、現在の中国でも超小型カメラ内臓の眼鏡や腕時計、金属探知機にも反応しない超小型イヤホンまでもが出回り、カンニングが闇ビジネスと化しています。そして、たびたび摘発されています1)。まさに、スパイさながらです。韓国でも、2009年に米国の大学入学統一試験(SAT)で、問題用紙がタイで持ち出され、時差によって米国にいる韓国人の受験生たちにその正解を流出させる事件が発覚しました2)。これが、この映画のモチーフとなっているようです。スウェーデンでは、2016年にテレビ番組のレポーターが潜入取材としてカンニングビジネスの犯罪グループに接触し、渡された超小型イヤホンを使うことで、実際の大学入学試験でほぼ満点を取ったことがテレビで放映されました3)。しかし、振り込め詐欺と同じように、捕まえられたのは「受け子」(お金の受け取り役)だけで、犯罪グループの全容は突き止めることができませんでした。なお、直接的なカンニングではありませんが、米国では、2019年に一流大学の関係者を組織的に買収するという不正入学事件が起き、30数人の裕福な親が起訴されました4)。その1人には、ドラマ「デスパレートな妻たち」の主演女優もいて、話題となりました。日本でも、2011年に京大をはじめとする4つの大学の入試問題が、携帯電話のメール機能によってヤフー知恵袋に投稿され、試験中に解答された事件がありました。2022年には共通テストの問題が試験中にスマホで撮影され流出した事件がありました。このように、たびたびニュースになっていますが、ICTが高度に進歩してしまった現在、これらの事件は氷山の一角でしょう。なんでカンニングに加担するの?リンたちが、米国の大学入学統一試験の正答の情報を流出させようとするシーンは、まさにスパイ映画を見ているようでスリリングです。カンニングを望む心理はよくわかるのですが、一方で、なぜカンニングに加担してしまうのでしょうか?ここで、その心理を大きく3つ挙げてみましょう。そして、実際のカンニングビジネスの協力者の心理に迫ってみましょう。(1)友達ほしさリンは、最初、本当にグレースを助けたいという純粋な思いで、つい答えを教えてしまいました。しかし、リンの彼氏からも手助けをお願いされてしまい、断れなくなくなります。リンは、グレース以外に友達がいなくて、カンニングによってでも、グレースとの関係をつなぎ留めておきたかったのでした。1つ目は、友達ほしさです。やがて、他のクラスメートたちからもカンニングの手助けをお願いされるようになり、ちやほやされます。リンもまんざらではありません。これは、承認の心理です。(2)お金ほしさグレースの彼氏は、裕福であったことから、大金を提示して、カンニングをビジネスにすることをリンに持ちかけます。決して裕福ではないリンは、その儲け話に乗ってしまいます。そして、手に入れたお金で父親に高級なシャツをプレゼントするのです。2つ目は、お金ほしさです。とくにタイでは貧富の差が大きく、お金のある人がお金のない人を搾取するという格差の問題としても描かれています。実際のカンニングビジネスにおいても、協力者たちはバレるリスクに見合う相当の大金が手に入るでしょう。(3)役割ほしさリンは、学校でカンニングに加担したことがバレて、奨学金や留学のチャンスを取り消されます。父親から「まともに育てられないなら、借金する意味がない」「留学はあきらめろ。どこにも行かず、ここにいろ(大学には進学せず地元で就職しろ)」と言われて、泣き崩れます。しかし、その後に再びグレースたちから、今度は米国の大学入学統一試験のカンニングの協力を持ちかけられます。リンは、カンニングの新しいアイデアを思いつき、彼女の死んでいた目が再び輝きを取り戻していくのです。3つ目は、役割ほしさです。これまでずっとリンは勉強ができることが唯一の取柄で、勉強ができることが彼女のすべてになっていました。しかし、進学の道が断たれてその能力を生かせず、悶々としていました。そんななか、その能力を発揮するチャンスが巡ってきたのでした。これは、アイデンティティの心理です。実際のカンニングビジネスにおいても、確実に合格点を取る協力者がいるわけですが、よくよく考えると、タイのような発展途上国でなければ、そんなに勉強ができる人は、表社会でエリートになっていそうです。それなのに、犯罪に手を染めてしまうのは、実は勉強ができるからといって、必ずしも仕事ができるとは限らないということがわかります。米国の研究においても、IQ 135以上の「極めて優秀」とされる約1,500人を子供の時から60年にわたって調査した結果、大多数が「普通」と呼ばれる仕事に就き、期待外れの仕事をしていたとの結果が出ています5)。この原因として、脳の機能はトレードオフ(一得一失)の関係にあるため、認知能力(システム化脳)が高すぎると、その分、社会的コミュニケーション能力(共感脳)が低くなってしまうことが考えられます(ゼロサム説)。たとえば、驚異的な記憶能力を発揮する人(サヴァン症候群)の多くは、非定型発達(自閉スペクトラム症)であることがわかっています。つまり、世の中には勉強しかできない人たちが一定数いるわけです。お金ほしさに加えて、この勉強ができるという役割(アイデンティティ)がほしいために、カンニングビジネスに「優秀」な協力者がいるのです。彼らが、まさにこの映画のタイトルの「バッド・ジーニアス」と言えるでしょう。なお、システム化脳と共感脳におけるゼロサム説の詳細については、関連記事1の最後をご覧ください。次のページへ >>

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映画「バッド・ジーニアス」【学歴社会を引っくり返す⁉(カンニング教育革命)】Part 2

学歴社会はどうなっていくの?リンは、カンニングプロジェクトを進めるために、もう1人優秀な生徒、バンクを引き込みます。彼もまた、母子家庭で決して裕福ではなく、家業を継がなければならない状況に追い込まれていました。リンは、「私たちは生まれながらの負け犬」「こっちが騙さなきゃ、世間に騙されるわ」と言い放ちます。身勝手な理屈ですが、不遇な彼にとっては殺し文句だったのでした。リンの言う「生まれながらの負け犬」とは、生まれながらの貧富による格差社会で搾取される側を意味しています。どんなに勉強ができてもお金がないために進学できない状況で、彼女は学力と悪知恵(カンニングビジネス)によってそこから抜け出し、学歴社会で成り上がろうとしているわけです。ただし、先ほど触れたように今後にカンニングがもはや取り締まれなくなったら、その学歴社会はどうなっていくのでしょうか?ここから、文化進化の視点から、学歴社会(学校)の起源を掘り下げ、現在の問題点を浮き彫りにし、その未来を予測してみましょう。(1)身分社会と違って公平に?-起源約5千年前に、西アジアの都市で文字が発明され、家畜などの数の情報管理が可能になり、ますます都市化していきました。これが、読み書きの起源です。この詳細については、関連記事2をご覧ください。当時から、読み書きを次世代に教える場所が町に設けられました。これが、学校の起源です。そして、読み書きを学校で学んだ人が、そのままその能力を発揮する仕事(特権階級)に就きました。しかし、学校に行ける人は、そもそも一部の特権階級の子女に限られていました。時代は進み、約200年前の産業革命以降、読み書き(計算も加わり)が職業的により多くの人に必要とされるようになったため、学校がどんどん増えていき、学校に行ける人もどんどん増えていきました。日本でも、江戸時代に寺子屋がありましたが、明治維新から学校制度が始まりました。そして、どこまで進学したか、つまりどれだけ能力があるかによって社会的地位(階級)が変わるようになりました。とくに戦後の日本では、教育の平等の名のもと、学習指導要領、検定教科書、同年齢同学年(学級固定化)の徹底によって、教育の内容が高度に標準化されるようになりました。こうして、学力の地域差を少なくするという成果をあげることができました6)。同時に、それでも能力に違いが出る場合は、それぞれの努力に違いがあるからだと考えられるようになりました。このように本人の努力によって能力が高まるとされる点で、このやり方は、生まれながらの身分社会(アリストクラシー)と違って公平であるとして受け入れられるようになりました。これが、学歴社会(能力主義、メリトクラシー)の起源です。(2)結局新たな「身分社会」に?-現在の問題点先ほどの裏を返せば、学歴がない、つまり能力が低いのは本人の努力が足りずに頭を良くすることができなかったということになります。現在、この考え方が主流になっています。そして、能力の高い人たちが能力の低い人たちよりも、より多くの収入を得ることは当然とされています。そして、その収入格差はますます大きくなっています。それでも、能力の低い人たちは努力不足というコンプレックスを植え付けられ卑屈にさせられているため、目立って抵抗できません。できるとしたら、代わりに自分の子供の学歴を高くさせようと必死になることでしょう。とくに日本では、その努力が、学校だけでなく塾にも通うことになっています。塾に行かせられる経済力のある家庭環境かそうじゃないかという教育格差の議論は、また別にあります。しかし、行動遺伝学の研究によると、努力(性格)も頭の良さ(知能)も、もともとの生まれ持った資質(遺伝)が約50%程度影響していることがわかっています7)。そして、グラフ1のように、収入への遺伝の影響度は、入職時から上積みされていき40代には約60%近くに達することがわかっています7)。一方で、収入への家庭環境の影響度、つまり教育格差は逆に目減りしていき40代にはほぼ0%になることから、教育格差は最終的には問題ではないこともわかります。ちなみに、国際比較すると、日本における教育格差は凡庸な水準です8)。一番問題なのは、遺伝という「生まれ」によって社会に格差を生み出していることです。この点では、学歴社会も公平であるとは言えず、結局新たな「身分社会」をつくっていることになります。これが、現在の問題点です。そして、これは「遺伝格差」と言い換えることができます。なお、教育格差と遺伝格差の詳細については、関連記事3をご覧ください。つまり、試験は、かつては測った能力によって順当に社会的役割を割り当てる手段であったはずなのに、現在では逆に社会的地位を分け隔てるために不当に能力(遺伝)の違いを見いだす目的そのものになってしまったのです。これは、よくある「手段の目的化」です。簡単に言うと、能力があるから試験で選ばれるのではなく、試験で選ばれるから能力があるとみなされるようになったのです。文化進化の視点に立てば、この社会構造(環境)の変化によって、先ほど触れた「勉強しかできない人(遺伝子)」が現れるようになったのでしょう。この変化の期間は、産業革命から約200年間であり、遺伝子進化の歴史としてはかなり短いです。しかし、この環境の変化は劇的であることから、より適応的な遺伝子(より勉強ができる人)が急速に選択されていった(結婚相手に選ばれていった)と考えられます。これは、ここ100年で知能検査が改定されるたびに知能指数が相対的に上がり続けている現象(フリン効果)を説明することができます。ちなみに、知能検査についても、能力の違いによって知能指数に違いが出るのではなく、知能指数に意図的につくった違い(正規分布)によって能力に違いがあるとみなしています。なお、学歴への選り好みの心理の詳細については、関連記事4をご覧ください。(3)カンニングが革命に?-未来不公平かどうかは置いておいて、学歴社会は国力を高めるために必要であると考える人は多いです。国民の学力(認知能力)が高まれば高まるほど国の経済力がますます高まるという考え方です。実は、厳密には違います。確かに、現在まで日本のPISA(国際学習到達度調査)の成績はトップレベルを維持しており、GDP(国内総生産)もトップレベルを維持してます。しかし、GDPのトップである米国のPISAの成績は決してトップレベルではありません。GDPで2位の中国のPISAの成績(2018年)は、確かにトップレベルなのですが、北京などの大都市に絞り農村部を除いている点で、いかにも面子を重んじる中国ならではの結果です。また、1人あたりGDPとしてみると、米国は10位以内で良いのですが、なんと日本は世界ランキング30位台で、中国は50位圏外です。むしろ、米国、中国、日本に共通するのは、先進国の中で格差の度合い(ジニ係数)が大きいことです8)。このことから、かつての身分社会にしても現在の学歴社会にしても、結果的に搾取するシステムを先鋭化させて格差を大きくした方が、その国の経済力が高まることがわかります。たとえば、中国はコネ社会(身分社会)と学歴社会の要素が両方あります。米国も実は日本以上に学歴社会です。米国が「自由の国」であるというのは昔話であり、学歴という「身分」を得ることができなければ搾取される「自己責任の国」になっています。逆に、北欧のように格差の小さい社会を目指そうとしたら、経済力はそこまで高まらず、国際競争力は期待できないというジレンマはあります。このわけは、格差の大きい社会と格差の小さい社会をそれぞれゲーム理論の「主人と奴隷戦略」「しっぺ返し戦略」に当てはめて説明することができます(関連記事5)。つまり、学歴(認知能力)は先進国になるためにある程度必要ですが、学歴を高めれば高めるほど、その分仕事がよりできる(経済力がより高まる)ようになるわけではないです。とくに日本における高度な受験勉強が、その後の一般の仕事や日常生活に役立つことがほとんどないことは、受験勉強をした多くの人がすでに気付いていることでしょう。受験勉強がその後の人生に役立つと主張する人は、実は教育ビジネスに携わる人だけでしょう。学歴社会が公平であるということも経済力を高めるということも見せかけで、その実態は不公平(格差)を生み出す装置になり下がっていることがわかりました。そんな学歴社会をひっくり返すのが、なんとカンニングです。現在、生成AIの登場によって、今ある多くの認知能力を必要とする仕事は将来なくなっていくことが予測されています。それでは、残った仕事の取り合いのために、学歴社会がより熾烈になるでしょうか?むしろ、残った仕事は、学歴で求められるような認知能力を必要としません。仮にそれでもあえて学歴が求められたとしても、生成AIを利用した「カンニング眼鏡」が出回れば、受験生全員が単独犯でほぼ満点の答案を作成することができるようになります。すでに、生成AIを利用した学校の課題レポートの作成が急速に広まっています。もはやカンニングが取り締まれなくなる状況は、すぐそこまで来ています。もちろん、生成AIを使いこなす認知能力は必要ですが、認知能力そのものを高める必要はなくなります。これはちょうど、サバンナで猛獣と戦うために、原始の時代は身体能力を高める必要がありましたが、現代では身体能力そのものを高める必要はなく、銃と車を使いこなす能力があれば十分であるのと同じです。つまり、カンニングが学歴社会に革命を起こすと言えます。そうなれば、学歴に価値がそこまでなくなります。スポーツや楽器演奏が得意であるのと同じレベルになります。そして、学校は、それ自体に権威がなくなり、もはや役所や公園と同じようなただの社会の機能の1つにすぎなくなるでしょう。すると、最終的にはカンニングをする必要すらなくなります。これは、学歴社会、学校の歴史の1つの転換期と見ることができます。この時、真の教育のあり方が問われます。これは、「カンニング教育革命」と名付けることができます。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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映画「バッド・ジーニアス」【学歴社会を引っくり返す⁉(カンニング教育革命)】Part 3

じゃあなんで学ぶの?「カンニング教育革命」によって、学歴社会がひっくり返ったあとはどうなるでしょうか? それでも、私たちは勉強するでしょうか? 再び映画のワンシーンから、これからの真の学びのあり方を大きく3つ挙げてみましょう。(1)楽しむリンとバンクが早押しクイズ大会に参加して優勝するシーンがあります。彼らは、誇らしげで楽しそうです。1つ目は、楽しむことです。たとえば、たとえ車があっても足の速さはオリンピックなどで突出した身体能力として注目されるのと同じように、AIがあっても頭の良さはクイズ大会などで突出した認知能力として注目されます。もちろん、価値が置かれるのは、あくまでエンターテインメントです。そして、競技になるのであれば、スポーツにドーピング検査があるのと同じように、クイズ大会会場での「カンニング眼鏡」の取り締まりや通信電波の遮断を徹底するでしょう。参加者は、プロアスリートと同じように「プロ勉強家」と呼ばれるでしょう。つまり、スポーツをしたり楽器を演奏したりするのと同じように、楽しむために語学や数学の勉強をする人が増えていくことが考えられます。(2)答えじゃなくて問いを探すラストシーンで、バンクはカンニングビジネスに染まり、新しい計画をリンに持ちかけます。まさに、カンニングビジネスが彼のアイデンティティになってしまっていたのでした。大金とアイデンティティが両方再び得られる点で、リンの答えは決まっているかに思われました。しかし、リンはためらいます。2つ目は、答えではなく問いを探すことです。もはや必要な答えを出すことは生成AIができてしまいます。生成AIにできなくて人にできることは、ものごとに疑問を感じることです。人から教えられたことを鵜呑みにせず、社会で当然とされている前提を疑うことです。そこから、自分は本当に何を学びたいか、もっと言えば、自分はどう生きるか、これで幸せかどうか、そして人はどこに向かっていくのかを問い続けるのです。つまり、学ぶとは、答えを得るという結果ではなく、問い続けるというプロセスに重きが置かれるようになります。これは、知的好奇心を追い求める従来の学者の姿勢です。この点で、学歴社会がひっくり返ったからと言って、学問自体がなくなるわけではないです。むしろ、学問が学歴に利用されることがなくなり、より純粋に学びたいことを学ぶ人が増えるでしょう。一方で、学びたくない人は学ばなくなるでしょう。ちょうど、運動したくない人がいるのと同じように、本人の生き方の問題になるわけです。(3)自分なりの答えを出すリンが断ろうとすると、バンクはカンニングビジネスの首謀者だったことをバラすと脅します。彼から「おまえの決断次第だ」と言われたリンは、「そうね、私次第ね」と最後は微笑み、なんと自分がやってきたカンニングビジネスについてメディアに告白するのです。彼女らしい行動です。その告白の内容は、自分の言葉で語られる真実であり、試験の正解ではありません。3つ目は、自分なりの答えを出すことです。生成AIが模範解答を瞬時に教えてくれる時代、求められるのは、1つの模範解答をなるべく速く出すことではなくなります。それは、その人の経験と結びついたオリジナルの答えをじっくり出すことです。学校の課題レポートもそうなっていくでしょう。それが、その人の魅力になるでしょう。これは、学歴社会とは真逆の価値観です。なお、その人なりの言葉で語られることは、「ポスト真実」という昨今の情報コミュニケーションのあり方や、「ナラティブセラピー」という心理カウンセリングにも通じます。これらの詳細については、関連記事6、関連記事7をご覧ください。学歴社会がひっくり返った先にある社会とは?「カンニング教育革命」によって学歴社会がひっくり返った先にある社会とは、どのようなものでしょうか? ここで、平等を「機会の平等」と「結果の平等」に分け、それぞれを縦軸と横軸にして、グラフ化します。そして、社会のタイプを4つに分けて、公平という視点で望ましい社会を考えてみましょう。なお、この分類の仕方は、子育てタイプの分類にも重なります。この詳細については、関連記事8をご覧ください。(1)身分社会1つ目は、身分社会(アリストクラシー)です。これは、生まれた身分による明らかな差別があり、教育を受ける機会がありません。貧富の差(収入格差)もはっきりしています。機会の平等も結果の平等もありません。このような社会はもちろん不公平で、私たちは決して望まないでしょう。しかし、AIに依存する未来の社会では、ごく一部のAIの管理者が社会システムをコントロールして、新たな身分社会をつくる可能性があります。(2)学歴社会2つ目は、学歴社会(メリトクラシー)です。これは、先ほど日本の戦後の「教育の平等」で触れたように、教育の機会については平等です。しかし、その分収入格差が広がることを良しとしてしまっている点で、結果の平等はありません。結局、遺伝という「生まれ」によって新たな身分社会をつくっていることになり、公平とは言えません。だからこそ、革命が起きるとも言えるでしょう。ただし、すでに既得権のあるエリート層や受験ビジネスの関係者たちがあの手この手で学歴社会を維持しようとするかもしれません。実際に、日本では今のところ、カンニングは偽計業務妨害罪(刑法第233条)に当たり、軽犯罪です。一方、中国では、大学入試の当日には受験会場の敷地の通信電波がすべて遮断され、カンニング行為には有期刑が課されるなど、取り締まりが徹底されています。それほど、カンニングが国家体制(学歴社会)を揺るがすものであると認識されています。(3)共産主義社会3つ目は、共産主義社会です。これは、貧富の差をなくすことを徹底するため、結果(収入)については平等です。しかし、がんばっても(能力を発揮しても)、収入が増えない点では不公平です。そうなると、機会の平等は、どうでもよくなります。がんばってもがんばらなくても変わらないので、仕事をする気が失せて生産性が落ち、国の経済力は高まりません。これは、歴史が証明しています。さらに、一部のエリート層が私腹を肥やし、結局ステルスの身分社会になっていました。(4)真の民主社会4つ目は、真の民主社会(デモクラシー)です。これは、教育などの機会の平等を保ちつつ、収入格差を小さくするよう調整して、結果もある程度平等にすることです。これは、能力(遺伝)の違いを認めつつも、その結果が大きな不平等にも完全な平等にもならないようにバランスを取ることです。これが、公平です。先ほどにも触れたように、すでに北欧諸国がこのような社会を目指しています。進化心理の視点に立てば、この公平さは、原始の時代の部族社会のあり方にも重なります。たとえば、獲物を捕まえた人は、その能力があるからと言ってその肉を独り占めせず、部族の仲間に公平に分け与えていました。人類は数百年万年という気の遠くなる期間を、部族でこのやり方を貫くことで生き延び、子孫を残してきました。その心を受け継いだのが現代の私たちです。だからこそ、このような社会を望ましいと思うのです。なお、人類が公平さを好む心理メカニズムは、先ほど紹介したゲーム理論の「しっぺ返し戦略」を含むさまざまな心理実験で確かめられています。再び「バッド・ジーニアス」とは?「カンニング教育革命」によって学歴社会がひっくり返った未来の社会に思いを馳せました。学歴社会の不公平さに気付いた今、映画のタイトルの「バッド・ジーニアス」とは、リンやバンクのようにカンニングによって学歴社会を出し抜く側の人間ではなく、実は学歴社会を頑なに守ろうとする側の人間であるように思えてくるのではないでしょうか? そして、今後にAIで社会を支配しようともくろむ人間であるようにも思えてくるのではないでしょうか?1)「中国の入試「カンニング」驚愕のハイテク化実態」:浦上早苗、東洋経済オンライン、20222)「時差利用してSAT試験で不正、江南語学院の講師摘発」:東亜日報、20103)「変動する大学入試」P195:伊藤実歩子、大修館書店、20204)「実力も運のうち 能力主義は正義か?」P21:マイケル・サンデル、早川書房、20235)「脳科学的に正しい一流の子育てQ&A」P43:西剛志、ダイヤモンド社、20196)「教育と平等」P241:苅谷 剛彦、中公新書、20097)「日本人の9割が知らない遺伝の真実」P81、P106:安藤寿康、SB新書、20168)「教育は何を評価してきたのか」P10、P8:本田由紀、岩波新書、2020<< 前のページへ■関連記事ガリレオ【システム化、共感性】映画「イン・ハー・シューズ」【なんで読み書きだけできないの?なんで計算できないの?(学習障害)】Part 2ドラマ「ドラゴン桜」(中編)【実は幻だったの!? じゃあ何が問題?(教育格差)】Part 1ドラマ「ドラゴン桜」(後編)【そんなんで結婚相手も決めちゃうの? 教育政策としてどうする?(学歴への選り好み)】Part 1半沢直樹【なんでやられたらやり返すの?逆に手を組むには?(ゲーム理論)】Part 2NHKドラマ「フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話」(中編)【そもそもなんで私たちは噂好きなの?じゃあこれから情報にどうする?(メディアリテラシー)】Part 1ライフ・イズ・ビューティフル【こんな人生に意味はない」と嘆かれたら?(ナラティブセラピー)】Part 1クレヨンしんちゃん【ユーモアのセンス】Part 1

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認知症リスクと喫煙に対する歯の喪失の影響~JAGESコホート研究

 歯の喪失には、さまざまな原因があるが、その原因別に健康への影響を評価した研究は、これまでなかった。東北大学の草間 太郎氏らは、現在また過去の喫煙歴と認知症リスクとの関連が、歯の喪失により媒介されるかを評価した。Journal of Clinical Periodontology誌オンライン版2024年2月7日号の報告。 65歳以上の成人を対象に、9年間のフォローアッププロスペクティブコホート研究を実施した。アウトカムは2013~19年の認知症罹患率、エクスポージャーは2010年の喫煙状況(非喫煙、喫煙歴あり、現在の喫煙)、メディエーターは2013年の残存歯数(19本以下、20本以上)として評価した。媒介分析を用いてCox比例ハザードモデルを適合させ、歯の喪失による認知症発症に対する喫煙の自然間接効果(NIE)のハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)、およびそれらの媒介比率を推定した。 主な結果は以下のとおり。・参加者は3万2,986人(平均年齢:72.6±5.4歳、男性の割合:48.4%)。・フォローアップ期間中の認知症発症率は、2.11/100人年であった。・歯の喪失は、喫煙歴ありおよび現在の喫煙と認知症発症率との関係と有意に関連していた。・喫煙歴ありおよび現在喫煙者は、非喫煙者と比較し、残存歯数が少ないNIEは、HRが1.03(95%CI:1.02~1.05)、媒介比率が18.0%であった。 著者らは「歯の喪失は、喫煙歴や現在の喫煙と高齢者の認知症リスク増加との関連を強く媒介することが示唆された」としている。

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統合失調症の認知機能に対する抗うつ薬、ベンゾジアゼピン、抗コリン作用負荷の影響

 統合失調症は、日常生活に影響を及ぼす認知機能障害を特徴とする疾患である。これまでの研究では、抗うつ薬が認知機能改善と関連している可能性があるとの仮説が立てられていたが、その結果に一貫性は見られていない。フィンランド・ヘルシンキ大学のVille Makipelto氏らは、臨床サンプルにおける反応時間と視覚学習の観点から、抗うつ薬の使用と認知機能との関連を調査した。また、ベンゾジアゼピン使用と抗コリン薬負荷との関連も調査した。Schizophrenia Research誌2024年4月号の報告。 参加者は、2016~18年にフィンランドの精神疾患患者を対象に実施されたSUPER-Finlandコホートより抽出された1万410例。分析には、統合失調症と診断された成人患者のうち認知機能評価結果が含まれていた3,365例を含めた。薬物治療および心理社会的要因に関する情報は、アンケートとインタビューを通じて収集した。認知機能は、返納時間と視覚学習を測定する2つのサブテストを備えたCambridge Neuropsychological Test Automated Battery(CANTAB)を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・1種類以上の抗うつ薬を使用していた参加者は、36%であった。・全体として、抗うつ薬の使用と反応時間や視覚学習課題のパフォーマンスとの関連は認められなかった。・SNRI使用と反応時間短縮との関連が認められた。・ベンゾジアゼピン使用と高い抗コリン薬負荷は、反応時間と視覚学習のパフォーマンス低下と関連が認められた。 結果を踏まえ、著者らは「これまでの知見と同様に、統合失調症患者に対する抗うつ薬使用と認知機能との関連が認められないことが示唆された。ただし、SNRIと反応時間の改善との関連については、さらなる研究が必要である。さらに、統合失調症患者は、ベンゾジアゼピンの継続使用を避けるだけでなく、抗コリン作用負荷を軽減することにも注意を払うべきであることが明らかとなった」としている。

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ADHD患者の薬物療法、全死因死亡リスクを有意に低減/JAMA

 注意欠如・多動症(ADHD)患者への薬物療法は、全死因死亡リスクを有意に低減することが示された。スウェーデン・カロリンスカ研究所のLin Li氏らが、約15万例のADHD患者を対象に行った全国的な観察コホート試験で明らかにした。ADHDは早期死亡を含む有害な健康アウトカムのリスク増大と関連していることが知られているが、ADHD薬物療法が死亡リスクに影響を与えるかどうかについては不明だった。JAMA誌2024年3月12日号掲載の報告。ADHD診断後2年間の全死因、自然死因、非自然死因の死亡率を比較 研究グループは、今回スウェーデンで行われた観察コホート試験について、標的試験模倣フレームワークを用い、2007~18年にADHDの診断を受け、診断前にADHD薬物療法を受けていなかった6~64歳を特定した。ADHDの診断から、死亡、移住、ADHD診断後2年、2020年12月31日のいずれか早い時点まで追跡した。ADHD薬物療法の開始は、診断後3ヵ月以内の処方で定義した。 ADHD診断後2年間の全死因死亡、自然死因(身体の状態によるなど)、非自然死因(不慮の傷害、自殺、偶発的な中毒によるなど)を評価した。ADHD薬物療法、自然死は低減せず ADHDと診断された14万8,578例(女性6万1,356例、41.3%)のうち、診断後3ヵ月以内にADHD薬物療法を開始したのは8万4,204例(56.7%)だった。診断時の年齢中央値は17.4歳(四分位範囲:11.6~29.1)だった。 ADHD診断後3ヵ月以内に薬物療法を開始し継続する「治療開始戦略」群と、薬物療法を行わない「非治療開始戦略」群の2年全死因死亡リスクは、それぞれ39.1/1万人と48.1/1万人だった(リスク差:-8.9/1万人、95%信頼区間[CI]:-17.3~-0.6)。 ADHD薬物療法の開始は、全死因死亡(ハザード比[HR]:0.79、95%CI:0.70~0.88)、非自然死(2年死亡リスク:治療開始戦略群25.9/1万人vs.非治療開始戦略群33.3/1万人、群間差:-7.4/1万人[95%CI:-14.2~-0.5]、HR:0.75[95%CI:0.66~0.86])の有意な低減と関連していた。 一方で、自然死の低減には関連していなかった(2年死亡リスク:治療開始戦略群13.1/1万人vs.非治療開始戦略群14.7/1万人、群間差:-1.6/1万人[95%CI:-6.4~3.2]、HR:0.86[95%CI:0.71~1.05])。

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日本における片頭痛患者の治療パターンと特徴

 日本における片頭痛患者にみられる実際の臨床的特徴や治療実践については、十分に調査されていない。慶應義塾大学の滝沢 翼氏らは、近年の片頭痛の臨床実態、現在の治療選択肢では十分にコントロールできていない可能性のある患者の特徴を明らかにするため、レセプトデータベースを用いたレトロスペクティブコホート研究を実施した。The Journal of Headache and Pain誌2024年2月8日号の報告。 大規模レセプトデータシステムJMDCデータベースを用いて調査を行った。2018年1月~2022年7月に頭痛または片頭痛と診断された患者を対象とした頭痛コホート、頭痛コホート内で片頭痛と診断され片頭痛治療薬を使用した患者を対象とした片頭痛コホートとして定義し、検討を行った。頭痛コホートでは、医療機関の特徴、二次性頭痛を鑑別するための画像検査の状況を検討した。片頭痛コホートでは、急性期およびまたは予防的治療では十分にコントロールできていない可能性のある患者の治療パターン、および特徴を評価した。 主な結果は以下のとおり。・頭痛コホートには、98万9,514例(女性の割合:57.0%、平均年齢:40.3歳)が含まれた。1次診断のために診療所(19床以下)を受診した患者の割合は77.0%、CTおよびまたはMRIによる画像診断を行った患者の割合は30.3%であった。・片頭痛コホートでは、16万5,339例(女性の割合:65.0%、平均年齢:38.8歳)が含まれ、95.6%が急性期治療を行い、20.8%が予防的治療を実施していた。・片頭痛治療の初回選択肢は、アセトアミノフェン/非ステロイド系抗炎症薬(54.8%)が最も高く、次いでトリプタン(51.4%)であった。・初回治療では、15.6%に予防的治療が含まれていた。4回目治療時には、予防的治療の実施割合が82.2%へ増加していた。・12ヵ月以上のフォローアップ調査を行った患者のうち、薬物乱用頭痛のリスクが示唆される処方パターンが3.7%に認められた。これらの患者の特徴として、女性の割合が高い、併存疾患の有病率が高いが挙げられた。 著者らは「この研究により、医療機関に来院する片頭痛患者の約5分の1は、予防薬を使用していることが明らかとなった」とし、また、薬物乱用頭痛のリスクがある潜在的患者と片頭痛治療における診療所の役割についても述べた。

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トラブルになりそうな職場復帰、どう対応するか【実践!産業医のしごと】

トラブルを引き起こす可能性のある職場復帰事例の典型を紹介します。産業医として、企業から無理筋な判断の要求を受ける典型的なケースとして、一緒に考えてみましょう。事例:ある企業の産業医として選任され、A人事課長からB従業員との復職面談の実施を依頼されました。今回、B従業員は休職満了直前まで療養し、復職可能の診断書を提出しています。B従業員はこれまで3回休職と復職を繰り返しています。これまでもパフォーマンスが低いようで、仕事でも職位に見合った成果を出せていません。A人事課長からは、今回の産業医面談で「できればB従業員が復職できないよう、意見してほしい」と言われました。考え方:職場復帰の可否は、最終的には使用者(事業者)が決定するものですが、産業医がどのような意見を述べたのかは、企業の判断において重要な点となります。産業医として勤務していると、今回の例ほど強い要求でなくとも、似たような例に遭遇することがあります。どのような事例でも必要なのは、中立的かつ独立的な立場から客観的に意見を述べるスタンスです。それを踏まえたうえで以下の2つの点から考えます。1)職場復帰判断には、事前情報が重要産業医の立場から、客観的かつ合理的な判断をするためには、職場復帰前から現在に至るまでの情報が必要です。休職期間の満了間際になって慌てて産業医面談を始めるのでは、その情報をほとんど聴取することができません。休職期間中から定期的に休職者と産業医面談を行う、リワークに通所を依頼する、通勤訓練や試し勤務を行う、等の方法によって適切な情報を事前に収集しておく必要があります。産業医が説得力のある医学的判断を行うためには、こうした事前情報が不可欠です。つまり、復職時の産業医面談のみで判断せざるを得ない場合は、事前情報が不足している可能性が高いのです。その場合、明らかな心身の不調が認められない限り、職場復帰可能と判断するのが妥当と考えます。2)休職期間の残期間も考慮する職場復帰の際には、休まずに出社できればよいだけではなく、休職前の職位に相当する業務ができることが必要です。しかし、過去の裁判例では、休職満了時の際には、「回復が当該労働者の本来業務に就く程度には回復していなくても、当初は軽易な業務に就かせれば、程なく従前の業務を行える程度に回復する」と見込まれる場合には、職場復帰させるべきと考えられています。「どの程度の軽減業務で、どの程度の期間行うべき」であるかは明確にはなっていませんが、「従前の半分程度で、半年程度の期間」と示した主治医見解を、「当初は軽易な業務に就かせれば、程なく従前の業務を行える程度に回復すると予測できる場合とは解されない」とした裁判例(独立行政法人N事件)もあります。産業医面談において、従前の業務ができるほどに回復していないと判断した場合、休職期間に残りがあれば、企業は復職を認めずに従前の業務ができるほどに回復を待つことが妥当です。休職満了が迫るタイミングでは、企業は本人の同意を得て、主治医に情報提供を依頼し、改めて主治医が復職可能と判断した根拠と、軽減勤務を必要とする場合の条件を聴取する必要があるでしょう。「その理由を第三者にも合理的に説明できるか」を考える職場復帰における産業医の意見は、企業の判断の根拠となる材料です。職場復帰の判断は、復職面談に至るまでの事前の情報が重要であり、職場復帰が困難であることを判断する十分な根拠がない場合は、企業は復職を認めることが原則と考えます。仮に産業医が主治医と異なる意見を出すときには上記に示したことを基に、「復職できないと判断した根拠を、第三者にも客観的かつ合理的に説明できるか」を意識するとよいでしょう。企業が復職を望まない場合には、従業員のパフォーマンスやスキル不足が背景にあることがあります。それが問題となっている場合は、企業が職場復帰後にOJTや指導を通じて、改善を求めるのが妥当でしょう。産業医が本来負うべきでない(果たすことができない)責任を負わないよう、使用者の責任と産業医の責任の範囲を整理することも重要です。

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早期アルツハイマー病における攻撃的行動と関連する脳の変化

 認知症患者の精神神経症状は、介護者の負担につながり、患者の予後を悪化させる。これまで多くの神経画像研究が行われているものの、精神神経症状の病因学は依然として複雑である。東京慈恵会医科大学の亀山 洋氏らは、脳の構造的非対称性が精神神経症状の発現に影響している可能性があると仮説を立て、本研究を実施した。Journal of Alzheimer's Disease誌オンライン版2024年2月23日号の報告。 アルツハイマー病患者における精神神経症状と脳の非対称性との関連を調査した。対象は、軽度のアルツハイマー病患者121例。日本の多施設共同データベースより、人口統計学的データおよびMRIのデータを収集した。脳の非対称性は、左脳と右脳の灰白質体積を比較することで評価した。精神神経症状の評価には、Neuropsychiatric Inventory(NPI)を用いた。その後、脳の非対称性と精神神経症状との相関関係を包括的に評価した。 主な結果は以下のとおり。・攻撃的な精神神経症状は、前頭葉の非対称性と有意な相関を示しており、右側の萎縮が認められた(r=0.235、p=0.009)。・この相関は、多重比較の調整後も統計学的に有意なままであった(p<0.01)。・事後分析において、この関連性はさらに確認された(p<0.05)。・対照的に、感情症状や無関心を含む他の精神神経症状のサブタイプについては、有意な相関が認められなかった。 著者らは「前頭葉の非対称性、とくに右側の相対的な萎縮が、早期アルツハイマー病における攻撃的行動と関連している可能性が示唆された」としている。

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うつ病高齢者に対する日本で使用可能な抗うつ薬~系統的レビューとメタ解析

 日本うつ病学会のうつ病治療ガイドラインの改定を行うために、藤田医科大学の岸 太郎氏らは、うつ病の高齢者を対象とした日本で使用可能な抗うつ薬の、二重盲検ランダム化プラセボ対照試験のシステマティックレビューおよびペアワイズメタ解析を実施した。Neuropsychopharmacology Reports誌2024年3月号の報告。 主要アウトカムは、治療反応率とした。副次的アウトカムに、抑うつ症状評価尺度のスコア改善、寛解率、すべての原因による治療中止、有害事象による治療中止、1つ以上の有害事象を含めた。ランダムエフェクトモデルを用いて、リスク比(RR)、標準化平均差(SMD)、95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・9件の二重盲検ランダム化プラセボ対照試験(2,145例)が特定された。・日本で行われた研究はなかった。・本メタ解析に含まれた抗うつ薬は、デュロキセチン、エスシタロプラム、イミプラミン、セルトラリン、ベンラファキシン、ボルチオキセチンであった。・抗うつ薬治療群はプラセボ群と比較し、治療反応率が有意に高かった(RR:1.38、95%CI:1.04~1.83、p=0.02)。・抗うつ薬治療群はプラセボ群と比較し、良好な抑うつ症状評価尺度のスコア改善が認められた(SMD:-0.62、95%CI:-0.92~-0.33、p<0.0001)。・抗うつ薬治療群はプラセボ群と比較し、有害事象による治療中止率が高く(RR:1.94、95%CI:1.30~2.88、p=0.001)、1つ以上の有害事象発現率も高かった(RR:1.11、95%CI:1.02~1.21、p=0.02)。・寛解率やすべての原因による治療中止に関しては、両群間に差は認められなかった。 結果を踏まえ、著者らは「日本で使用可能な抗うつ薬による治療は、中等度~重度のうつ病高齢者に対し、弱く推奨される」と結論付けた。

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抗精神病薬使用と認知症リスク~40万人超のプロスペクティブコホート研究

 抗精神病薬は、最も汎用されている薬剤の1つであり、認知機能低下を引き起こす可能性が示唆されている。しかし、認知症リスクに対する抗精神病薬の影響に関する研究は、一貫性がなく、十分とは言えない。中国・青島大学のLi-Yun Ma氏らは、抗精神病薬使用と認知症リスクとの関係を調査するため、本研究を実施した。Journal of Affective Disorders誌2024年3月15日号の報告。 英国バイオバンク参加者41万5,100例のプロスペクティブコホート研究のデータを用いて、分析を行った。抗精神病薬およびさまざまなクラスの使用が認知症リスクに及ぼす影響を評価するため、多変量Cox比例ハザードモデルおよび経口抗精神病薬用量反応効果分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ調査後(平均:8.64年)、すべての原因による認知症を発症した参加者は5,235例(1.3%)であった。・主な内訳は、アルツハイマー病2,313例(0.6%)、血管性認知症1,213例(0.3%)であった。・いずれかの抗精神病薬使用により、すべての原因による認知症および血管性認知症のリスクは増加したが、アルツハイマー病リスクの増加は認められなかった。【すべての原因による認知症】ハザード比(HR):1.33、95%信頼関係(CI):1.17~1.51、p<0.001【血管性認知症】HR:1.90、95%CI:1.51~2.40、p<0.001【アルツハイマー病】HR:1.22、95%CI:1.00~1.48、p=0.051・経口抗精神病薬とすべての原因による認知症および血管性認知症のリスクとの累積用量反応関係が認められた(p for trend:p<0.05)。・本研究は、観察研究であり因果関係を示すものではない。・英国バイオバンクのデータは認知症症例数が比較的少なかったことから、抗精神病薬使用は、推定値よりも高い可能性がある。 著者らは「抗精神病薬使用により認知症発症リスクの増加が認められた。経口抗精神病薬と認知症リスクとの間には、用量反応関係が認められており、抗精神病薬の減量に対する医師および患者の意識を高めていく必要がある」としている。

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モラハラにご用心!【Dr. 中島の 新・徒然草】(520)

五百二十の段 モラハラにご用心!3月といっても雪が降る一方、クーラーを入れるくらい暑くなることもあります。三寒四温とはまさしくこのこと。そうこうしているうちに花粉の季節が忍び寄ってきました。私の場合、2回続けてクシャミが出たら、その後に鼻水が止まらなくなります。情けない!さて、先日のことです。脳神経外科外来にやってきた患者さんは50代の女性でした。診察中にふと私が「何かストレスはありますか?」と尋ねた時のこと。「ストレスはありません!」という答えが返ってきました。普通は誰でも何かしらのストレスを抱えているはず。おそらく私が困惑した表情をしていたのでしょう。彼女は「離婚してストレスがなくなりました」と続けたのです。そのあまりにもキッパリとした言い方は、むしろ素人が想像できない闇の存在を示唆しています。患者「夫が、いや元・夫が私にとっての最大のストレスだったんです」ふむふむ。患者「ああいうのをモラハラって言うんでしょうね、私のことを全否定するんです」モラハラというのは最近よく耳にする言葉ですが、いまひとつパワハラとの区別がつきません。後で調べてみると、パワハラというのはパワーハラスメント、立場の優位性を利用したハラスメントで、これはよく知られています。職場で上司が部下に対して行うものが典型的です。対してモラハラはモラルハラスメントで、立場が同等の者の間でも起こるものとされています。その性質上、家庭で起こりやすいハラスメントです。とはいえ、これではよくわかりません。するとこの患者さん、尋ねるまでもなくいくつかの例を挙げてくれました。患者「『俺が食わしてやっているんだ』とか『専業主婦は楽でいいよな』とか、ネチネチと言われるんです」中島「それ、昭和の頑固親父じゃないですか!」患者「会社では頑固でも家では優しい、とかだったら良かったんですけど」中島「たぶん僕よりもちょっと若いくらいのご主人ですよね」患者さんにご主人の年齢を確認してみると、やはり私よりも少し若いくらいでした。中島「うーん、僕も知らない間に昭和を引きずっているかもしれん」思わず言ってしまいました。患者「先生は大丈夫ですよ」中島「いやいや、人の振り見て我が振り直せと言いますからね」すると彼女は他にも例を挙げ始めました。患者「私の目の前でタバコを吸うんですけど、『やめて!』と言っても聞く耳を持たないんです」中島「せめて吸う時は家の外にしてもらいたいですね」患者「そうなんですよ。私が怒った時だけやめるけど、1週間したら元に戻ってしまうんです」なるほど。中島「参考になりました。僕も『女房に何か言われた時には聞き流してはならない』と肝に銘じておきます」医療現場でやかましく言われている患者対応と一緒です。職場でも家でも傾聴が大切!中島「でも離婚してしまったら経済的なこととか大変でしょう」患者「上の子が社会人で下が高校生ですけど、親子3人で仲良く暮らしています」それは何より。患者「養育費なんか、送ってくるのは雀の涙です。でも、せいせいしました」中島「離婚の原因といったら浮気やDVみたいなイメージがありましたが、モラハラも言葉の嫌がらせってことですか、勉強になりました」他にもアルコールやギャンブル、借金など、ネガティブなことをいろいろと聞かされるのが外来診療の常です。こういった問題について何一つ思い当たらなければ、それだけで十分に立派だと最近は思うようになりました。普通を実現するのは案外難しいことですね。読者の皆さまはどのようにお考えでしょうか?最後に1句花粉きて 鼻水垂らして 傾聴す

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カフェインは片頭痛を引き起こすのか

 カフェイン摂取は、片頭痛の要因であると考えられており、臨床医は、片頭痛患者に対しカフェイン摂取を避けるよう指導することがある。しかし、この関連性を評価した研究は、これまでほとんどなかった。習慣的なカフェイン摂取と頭痛の頻度、持続時間、強さとの関係を調査するため、米国・Albany Medical CollegeのMaggie R. Mittleman氏らは、発作性片頭痛成人患者を対象としたプロスペクティブコホート研究を実施した。Headache誌オンライン版2024年2月6日号の報告。 2016年3月~2017年8月に発作性片頭痛と診断された成人患者101例を対象に、カフェイン入り飲料の摂取に関する情報を含むベースラインアンケートを実施した。対象患者は、頭痛の発症、持続時間、痛みの強さ(スケール:0~100)に関する情報を1日2回、6週間、電子的日誌で報告した。年齢、性別、経口避妊薬の使用で調整した後、ベースライン時の習慣的なカフェイン摂取と6週間の頭痛との関連を評価した。 主な結果は以下のとおり。・データ収集が完了した対象患者は97例。・調整後の平均頭痛日数は、習慣的なカフェイン摂取のない患者20例、カフェイン摂取1~2回/日の患者65例、カフェイン摂取3~4回/日の患者12例で同様であった。【習慣的なカフェイン摂取のない患者】7.1日、95%信頼区間(CI):5.1~9.2【カフェイン摂取1~2回/日の患者】7.4日、95%CI:6.1~8.7【カフェイン摂取3~4回/日の患者】5.9日、95%CI:3.3~8.4・推定値は不正確であったものの、平均頭痛継続時間、痛みの強さにおいても、カフェイン摂取レベルによる差は認められなかった。●平均頭痛継続時間【習慣的なカフェイン摂取のない患者】8.6時間、95%CI:3.8~13.3【カフェイン摂取1~2回/日の患者】8.5時間、95%CI:5.5~11.5【カフェイン摂取3~4回/日の患者】8.8時間、95%CI:2.3~14.9●痛みの強さ【習慣的なカフェイン摂取のない患者】43.8:95%CI、37.0~50.5【カフェイン摂取1~2回/日の患者】43.1:95%CI、38.9~47.4【カフェイン摂取3~4回/日の患者】46.5:95%CI、37.8~55.3 著者らは「本研究では、習慣的なカフェイン摂取と頭痛の頻度、持続時間、痛みの強さとの関連は認められなかったことから、発作性片頭痛患者に対するカフェイン摂取制限は推奨されない」としながらも、「通常のカフェイン摂取量から逸脱した場合、片頭痛発作が引き起こされるかどうかを明らかにするためにも、さらなる研究が求められる」としている。

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コロナによる認知障害、症状持続期間による違いは?/NEJM

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)へ感染し、症状が消失・回復しても、症状の持続期間にかかわらず軽度の認知機能障害が認められた。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのAdam Hampshire氏らが、オンライン評価による大規模コミュニティのサンプル調査(14万例超)の結果を報告した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)後の認知機能障害はよく知られているが、客観的に測定可能な認知機能障害が存在するか、またどのくらいの期間持続するかは不明だった。NEJM誌2024年2月29日号掲載の報告。イングランドの成人を対象に認知機能のオンライン評価を実施 研究グループは、イングランドの試験に参加した成人80万例に対し、認知機能のオンライン評価の実施を依頼し、8タスクの全般的認知機能スコアを推定した。 感染発症後に12週間以上持続する症状を有した患者は、客観的に測定可能な全般的認知機能障害があり、とくに直近の記憶力低下または思考や集中困難(ブレインフォグ)を報告した患者では、実行機能と記憶の障害が観察されるだろうと仮説を立て、検証した。起源株感染者は、変異株感染者より認知機能障害の程度が大きい オンライン認知機能評価を開始した14万1,583例のうち、11万2,964例が評価を完了した。重回帰分析の結果、COVID-19症状が4週間未満で消失・回復した患者や12週以上症状が持続するも消失・回復した患者は、非COVID-19群(SARS-CoV-2に非感染または感染が不確定)と比較し、同程度に軽度の全般的認知機能障害を有していた(それぞれ、-0.23 SD[95%信頼区間[CI]:-0.33~-0.13]、-0.24 SD[-0.36~-0.12])。 一方、12週以上症状が持続し、認知機能評価時点においても消失していなかった患者は、非COVID-19群と比較し、認知機能障害の程度が大きかった(-0.42 SD、95%CI:-0.53~-0.31)。 起源株やB.1.1.7変異株が優勢の期間にSARS-CoV-2に感染した患者は、その後の変異株感染者より認知機能障害の程度が大きかった(たとえばB.1.1.7変異株vs.B.1.1.529変異株:-0.17 SD、95%CI:-0.20~-0.13)。また、入院した患者のほうが、入院しなかった患者より認知機能障害の程度が大きかった(たとえばICU入院患者:-0.35 SD、95%CI:-0.49~-0.20)。 解析結果は傾向スコアマッチング解析を実施しても同様だった。症状が持続する患者は非COVID-19群に比べて、記憶、推理、実行機能のタスクで障害が大きく(-0.33~-0.20 SD)、これらのタスクは、記憶力低下、ブレインフォグなどの最近の症状と弱い相関が認められた。 今回の結果を踏まえて著者は、「認知機能障害の長期的な持続の有無および臨床的影響は、依然として不明である」と述べている。

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認知症になる前に頭の中で何が起きているのか(解説:岡村毅氏)

 アルツハイマー型認知症になる前に頭の中で何が起きているのだろうか? もうすぐ新学期だから、医学生・看護学生に話すつもりでわかりやすく説明しよう。 かつてはアルツハイマー型認知症のことは何もわかっていなかったが、亡くなった人の脳を調べることで、重症になればなるほどアミロイドが溜まり、タウが溜まり、脳が小さくなっている(萎縮という)ということがわかっていた。しかし脳は、たとえば肝臓のように、バイオプシーができないため、実際に生きている人の脳の中で何が起きているのかはわからないという大問題があった。診断に関しても、血液検査や画像検査(こういうのをバイオマーカーという)ではわからないので、臨床診断しかなかったのだ。われわれがいつも使ってきたDSM4やICD10はバイオマーカーを用いない臨床診断である。 しかしアミロイドペットによってアミロイドを見える化できるようになったことで、革命的な変化が始まった。第一にバイオマーカーを用いた新たな診断体系が出来上がった。National Institute on Aging-Alzheimer’s Association group(NIA/AA)の診断基準である。新しい「望遠鏡」ができたのだ。第二に脳の画像やバイオマーカーを追っていく大規模研究が世界規模で行われた。これがAlzheimer's Disease Neuroimaging Initiative(ADNI)であり、わが国のADNIはJ-ADNIという。これにより脳内に何が起きているのかが「見えてきた」。第三にバイオマーカーについてさらにわかってきた、アミロイド⇒タウ⇒神経損傷という順番がわかり、がんのTNM分類のようにATN分類が出来上がった。アミロイド(A)タウ(T)神経損傷(N)である。見えるだけではなく「わかってきた」といったところか。 という大きな流れを見てみると、中国で上記のバイオマーカーの進展を調べたというのがこの研究である。やはりアミロイドが先に動いていることがわかる。この論文の価値は十分に認めたうえで記載するが、大局的には「追試」を行ったともいえる。 さて、時代はすでにアミロイドへの先制介入へと移っている。初期のアルツハイマー型認知症に抗体が進展抑制効果を持つことがわかり、今後はプレクリニカル期へと延びていくだろう。この後の未来のシナリオは3つある。 シナリオ1は、アルツハイマー型認知症が完全に予防できるようになり、認知症の人が減るという未来だ。もし認知症が完全に発症予防できるようになれば人間は神に近づいていくともいえよう。シナリオ2は、アルツハイマー型認知症はある程度ゆっくりになるので、逆に患者が増えていくという未来である。共生がより重要になる。シナリオ3は、実はアルツハイマー型認知症以外にも多数の認知症が隠れており(専門家ならよく知っているのだが)、アルツハイマー型認知症の薬剤が社会に広がることで、むしろ他の治らない認知症が増えていくように見えるという未来である。共生は重要だが、予防もまだまだ最先端課題だ。 どのシナリオになりそうかはここでは私はあえて述べない。私のような精神科医ではなく脳神経内科医なら、もっと正確な未来予測もできるかもしれないことも付記しておく。

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高齢者の睡眠の質改善に対するバイノーラルビートの効果

 バイノーラルビートとは、人間の耳では聞くことのできない脳に効果のある低い周波数を、特別な方法で聞こえるようにしたものであり、脳波をコントロールし、集中力や睡眠に影響を及ぼすことが期待される。高齢者の睡眠の質改善に対するバイノーラルビートの影響を明らかにするため、台湾・Shu Zen Junior College of Medicine and ManagementのPin-Hsuan Lin氏らは、単盲検ランダム化対照試験を実施した。Geriatrics & Gerontology International誌2024年3月号の報告。 対象は、台湾の長期介護施設に入居している睡眠の質の低下が認められる高齢者64例。対象患者は、14日間のバイノーラルビートミュージック(BBM)介入を行ったBBM群と対照群にランダムに割り付けた。介入期間中、BBM群は、週3回、朝と午後に20分間、BBMを組み込んだTaiwanese Hokkien oldiesをリスニングした。対照群は、BBMを組み込んでいないTaiwanese Hokkien oldiesをリスニングした。アンケートや心拍変動分析により、対象者の睡眠の質、心拍変動、抑うつ症状を評価した。 主な結果は以下のとおり。・介入後、BBM群では、心拍数と正常な洞拍動の心拍数変動平均値の増加、低周波正規化単位と抑うつ症状の重症度の減少とともに、睡眠の質の有意な改善が認められた。・対照群では、睡眠の質に対する影響に一貫性がなかったが、心拍変動の一部の自律神経調節における有意な改善、抑うつ症状重症度の有意な減少が認められた。・BBM群は、対照群と比較し、睡眠の質の有意な向上が認められ、交感神経活動の有意な低下が認められた。 著者らは「睡眠の質が低下している長期介護施設入所の高齢者に対し、非侵襲的なBBM介入を14日間実施することで、睡眠の質や抑うつ症状を改善できる可能性が示唆された」とまとめている。

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認知症発症の危険因子としてのコロナ罹患【外来で役立つ!認知症Topics】第15回

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が始まってから、コロナと認知症との関係という新たなテーマが生まれた。まず予防には3密だと喧伝された。その結果、孤独化する高齢者が増えたので、認知症の発症が増加しているという報告が相次いだ。つまり孤独という認知症の危険因子を、コロナが一気に後押ししたという考え方である。そうだろうなとは思いつつ、このエビデンスは乏しかった。それから次第に前向きの疫学研究から、コロナ罹患と認知症発症との関係を報告するものが出てきた。そして最近では、こうしたもののレビューも報告されるようになり、なるほど、こういうことかとポイントが見えてきた。そこで今回は、認知症発症の危険因子としてのコロナ罹患を中心にまとめてみたい。スペイン風邪と認知症の関連は?まず人畜共通感染症による第1のパンデミックとされる「スペイン風邪(Spanish Flu)」を連想した。というのは、コロナはスペイン風邪をしのぐ人畜共通感染症によるパンデミックをもたらしたからだ。スペイン風邪の原因は、トリインフルエンザウイルスとヒトインフルエンザウイルスの遺伝子が混ざり合った新型のウイルス(Influenza A virus subtype H1N1の亜系)だと考えられている。そこで1918年の第1次世界大戦当時に世界的に流行したこのスペイン風邪の認知症への影響はどうだったのかと調べてみた。説得力の強いものに、デンマークで1918年当時妊娠中の母親の胎内にあったヒトに注目し、対象とコントロールで合計28万人余りのデータを用いた研究がある1)。ここでは、該当者が62~92歳に達した期間において、あらゆる認知症性疾患についての発症に注目し、その相対危険度を調査している。その結果、スペイン風邪罹患と認知症発症の間には有意な関係はなかったとされる。この報告のように、どうも積極的に両者の関係を指摘する報告は乏しいようだ。コロナと認知症、追跡期間が長いほど発症率が上昇?さてコロナについて成された近年の報告のレビューが注目された2)。多くの研究結果からは、コロナに罹患することでアルツハイマー病を含むすべての認知症の発症率はおよそ2倍と考えられている。実際、これまでの報告の多くは、60歳以上のヒトにおいては、コロナに罹患することで、亜急性期、慢性期の認知症発症は確かに高まりそうだと報告している。もっとも、コロナ罹患による認知症発症への影響力は、他の呼吸器系のインフルエンザ感染や細菌感染と大差がないとの結論になっている。一方で興味深いのは、追跡期間の違いによる認知症の発症率の相違である。すなわち発症から3ヵ月間もしくは6ヵ月間追跡した研究に比べて、1年間追跡した研究では認知症の発症率が高くなっているのである。このことは、コロナによる認知症の発症は、罹患ののち長期間にわたって続くことを示唆している。また疫学から、なぜコロナが認知症とくにアルツハイマー病に関連するかについてのレビューも興味深い3)。まずコロナへの罹患しやすさについては、加齢が最大にして唯一の危険因子だとされる。そしてその背景として高血圧、糖尿病、心疾患など、いわゆる生活習慣病が考えられている。またこうした要因が、回復を遅くすることも事実である。さらに、最初に述べたような孤独化と普通の生活に戻れないことが高齢者においてうつ病や不安を生じる間接的な要因になることも関係しているだろうとされる。ところで、すでに認知症であった人が、パンデミックによって社会的な交流がなくなったり、ケアが手薄になったりしたことで死亡率が高まった可能性もあることが述べられている。実際、パンデミック時代になってから、コロナ感染の有無にかかわらず、認知症者の死亡率が25%も高まったことを報告したメタアナリシスもある4)。認知症発症の原因として注目される炎症こうしたコロナによる認知機能の低下や認知症発症の原因として最も注目されるのは炎症、とくにこれに関わるサイトカインであろう。このサイトカインとは、ある細胞から他の細胞に情報伝達するための物質である。その中でも有名なのは、インターフェロンやインターロイキンだろう。感染量が多くなるほど、サイトカインも大量に放出されるが、それが著しい場合はサイトカインストーム(免疫暴走)と呼ばれる。サイトカインストームが起こることで大脳組織の炎症が生じる結果、認知機能に障害が生じる。なお近年では、アルツハイマー病の病因仮説として、脳の炎症説は主流の1つとなっている。また別の説として、新型コロナウイルスは、微小血管に障害をもたらし、肺の組織を障害することによって、大脳への酸素の流れに支障を来すことに注目するものがある。さらには、新型コロナウイルスとアミロイドやタウとの関係にも注目するもの、あるいはアルツハイマー病の危険因子とされるAPOE4を介して発症に関係するという考えなどもある。いずれにせよ現時点において新型コロナウイルスと認知症の発症との関係について確立しているわけではない。今後の長期的なフォローアップにより、少しずつ解明が進んでいくと思われる。参考1)Cocoros NM, et al. In utero exposure to the 1918 pandemic influenza in Denmark and risk of dementia. Influenza Other Respir Viruses. 2018;12:314-318.2)Sidharthan C. COVID-19 linked to higher dementia risk in older adults, study finds. News-Medical.Net. 2024 Feb 9.3)Axenhus M, et al. Exploring the Impact of Coronavirus Disease 2019 on Dementia: A Review. touchREVIEWS in Neurology. 2023 Mar 24.4)Axenhus M, et al. The impact of the COVID-19 pandemic on mortality in people with dementia without COVID-19: a systematic review and meta-analysis. BMC Geriatr. 2022;22:878.

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統合失調症の幻聴に関連する報酬ネットワーク異常

 統合失調症における幻聴は、中脳辺縁系皮質回路の機能不全と関連しているといわれており、とくに正常ではない顕著および内部の言語性リソースモニタリング処理中に見られる。しかし、統合失調症における幻聴の病態生理学に相互に関与する領域間の情報の流れについては、不明であった。中国・鄭州大学のJingli Chen氏らは、統合失調症の幻聴に関連する報酬ネットワークの異常を明らかにするため、検討を行った。Journal of Psychiatric Research誌2024年3月号の報告。 幻聴を伴う薬物療法未治療の初発統合失調症患者(AVH群)86例、幻聴のない統合失調症患者(NAVH群)93例、マッチした健康対照者(NC群)88例を対象に安静時の磁気共鳴機能画像法(fMRI)を用いて、報酬ネットワークの8つの重要なハブ間の接続を定量化するため、本研究を実施した。定量化には、spectral dynamic causal modeling(DCM)を用いた。各群の関連係数、群間差、画像と症状との相関分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・AVH群では、NAVH群と比較し、右腹側線条体から腹側被蓋野への有効接続が弱いことが、DCMより明らかとなった。・AVH群は、NC群と比較し、左前頭から右腹側線条体、右腹側線条体から前帯状皮質、腹側被蓋野から後帯状皮質への有効接続が強かった。・相関分析では、右前頭から前帯状皮質への有効接続と各群のPNASSのポジティブサブスコア、P1サブスコア、P3サブスコアとの負の相関が認められた。 著者らは「本発見は、AVHに関連する報酬ネットワーク間の神経因果的相互作用の異常が認められることを示唆しており、AVHの潜在的な神経生物学的メカニズムに対する理解を促進させる」とし、「とくに、ドパミン依存性の顕著な特性、トップダウンモニタリング機能の低下、前帯状皮質への興奮神経の強化による代償作用は、統合失調症におけるAVHのin vivoに基づく治療標的の証拠を示唆している可能性がある」としている。

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