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ICU入室前のソーシャルサポートは退室後の抑うつと関連

 集中治療室(ICU)で治療を受けた患者を対象とする単施設前向きコホート研究の結果、ICU入室前のソーシャルサポートが少ないほど、ICU退室後の抑うつが生じやすいことが明らかとなった。駒沢女子大学看護学科の吉野靖代氏らによる研究であり、「BMJ Open」に6月19日掲載された。 ICU在室中・退室後、退院後に生じる認知・身体機能の障害やメンタルヘルスの問題は、集中治療後症候群(post-intensive care syndrome;PICS)と呼ばれる。集中治療の進歩により患者の生存率は向上している一方で、PICSによりQOLが低下し、元の生活に戻ることのできない患者も多い。メンタルヘルスに関しては、がん患者や心疾患患者を対象とした研究で、ソーシャルサポートと抑うつの軽減との関連が報告されている。ただ、ICU患者におけるソーシャルサポートとICU退室後のメンタルヘルスに関しては、研究結果が一貫していなかった。 そこで著者らは今回、2020年12月から2022年6月の期間に、国内1施設のICU(内科・外科8床)に2日間以上在室した患者で、中枢神経疾患や精神疾患などの患者を除いた153人を対象とし、ICU入室前のソーシャルサポート(ICU入室2日後から退室2週後の間に調査)と、ICU退室3カ月後の心的外傷後ストレス障害(PTSD)症状、不安、抑うつ症状との関連を検討した。ソーシャルサポートは「Duke Social Support Index(DSSI-J)」、PTSD症状は「Impact of Event Scale-Revised(IES-R)」、不安と抑うつ症状は「Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)」という自記式質問票を用いて評価した。 ICU退室3カ月後の追跡調査データの得られた解析対象患者は115人であり、年齢中央値は74.0歳(四分位範囲64.5~80.0歳)、男性が61人(53.0%)だった。患者の73.9%が予定手術のため入院し、57.3%が心臓手術のためICUに入室した。ICU在室日数の中央値は7日(四分位範囲5~8日)だった。ICU退室3カ月後、PTSDの疑いのある人の割合は11.3%、不安症状のある人は14.0%、抑うつ症状のある人は24.6%だった。 PTSD症状、不安、抑うつ症状について、説明変数をソーシャルサポート尺度とし、年齢、性別、教育年数を調整した多変量線形回帰分析を行った。その結果、PTSD症状および不安症状の重症度とソーシャルサポートに関連は認められなかった。しかし、抑うつ症状に関しては、ソーシャルサポート(β=-0.018、95%信頼区間-0.029~-0.006、P=0.002)は、抑うつ症状の重症度と独立して関連することが明らかとなった。また、抑うつ症状とソーシャルサポートとの関連には性差が認められ、男性の方が関連は強かった(交互作用P=0.056)。 今回の研究結果から著者らは、「ICU入室前のソーシャルサポートは、ICU退室後の抑うつ症状と関連するが、PTSD症状とは関連しなかった」と総括している。女性は抑うつと関連していた一方で、ソーシャルサポートが少ない男性は女性よりも抑うつ症状を生じやすいことなどを指摘し、「ICU入室前のソーシャルサポートが少ない患者は、ICU退室後の抑うつ症状に注意する必要がある」と述べている。

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アルツハイマー病、生存期間・悪化速度・入院/入所までの期間は?【外来で役立つ!認知症Topics】第20回

アルツハイマー病(AD)者に関わる臨床医なら、自分の治療は本当にうまくいっているのかと、時に心配になるのではなかろうか? 少なくとも筆者はそうである。たとえば「どんどん進行している」とか「一向に良くならないばかりか悪化した」などの訴えがあると、「むむっ!」と口元がゆがむ。ご家族は、医療者が思うような認知機能テストやADLなど数値化できるものの変化でなく、暴言・暴力、幻覚や妄想、衝動性、BPSDなど出れば、ひどく悪化したと思いがちだ。だから、その訴えと医師側の評価とが乖離することは稀でない。とはいえ、何が臨床経過の客観的な指標であり、それぞれの指標はどの程度の率で変化するかを知っていることは、認知症治療者にとっての素養かもしれない。そこで成書やレビューなどに当たってみた。結果として、生存期間、認知機能の悪化速度、そして入院・入所までの期間が3大ポイントと考えた。認知症と生存期間認知症性疾患全体の生命予後のメタアナリシス1)によれば、認知症全体としての死亡率は、認知症のない者に比べて5.9倍も高い。認知症全体の平均では、発症年齢が68.1±7.0歳で、診断された年齢は72.7±5.9歳。そして、初発から死亡まで7.3±2.3年で、診断から死亡まで4.8±2.0年との由。ADでは、初発から死亡まで7.6±2.1年、診断から死亡までが5.8±2.0年とされる。注目すべきは、いわゆる4大認知症性疾患の中で、ADの生命予後が一番良いことだ。もっともメタアナリシスの対象は、私が対応する患者さんの年齢より、少し若いかなという印象がある。それはさておき、ADの診断がついた患者さんやその家族から、余命は何年か?の質問を筆者が受けたなら、以上のメタアナリシスの結果を参考にして4~8年程度と答える。MMSEやADAS-cogで認知症の進行速度を評価認知機能の評価尺度として、ミニメンタルステート(MMSE:30点満点)が最もよく研究されている。ある教科書2)によると、年間の点数変化は1.8から4.2と幅が大きい。その理由は、観察開始時の重症度がどうだったかによる。つまり開始時に軽度なら点数変化は小さく、重度なら大きい。最近の研究で、MMSE、ADAS-cogについて大人数(開始時769例)のMCI者を対象にした報告を読んだ3)。開始時のMMSE得点は平均で27.3±1.9であった。これが3年後には、対象が473例になり、そのMMSE得点は25.3±4.8になった。3年で300例ものドロップアウトがあるが、以上の結果を分析して、MMSEについて低下が小さい群では年間2~3点の低下、中程度低下群では年間6~7点としている。この結果は従来の報告をほぼ支持すると思われる。次にADAS-Cogが注目される。このオリジナル版は11項目により、総合的にADの認知機能を評価する70点満点の尺度であり、問題なしが0点、最重度が70点である。従来のAD治療薬の治験においては、一番よく用いられてきた。ADAS-Cogが公表された頃の中等度のADを対象にした研究によれば、本尺度の年間変化は平均8点前後とまとまっている。なお上記したMCI者を対象にしてMMSE、ADAS-cogを詳細に検討した研究3)では、ADAS-Cogの研究開始時の平均得点は14.1±8.8である。3年の追跡結果から、ADAS-Cogについて、小変化群で年間2点の増加、中程度の群で年間3~4点の増加としている。はじめはゆっくり、途中で加速、再びゆっくり以上より、MMSEとADAS-Cogの成績推移では、当初ADが軽度なら両者における得点変化も少ないが、進行すれば大きくなるとまとめられる。これに関して2点の追記が欠かせない。まずこれらの経時的な変化の仕方(形状)は直線的なものではない。図に示すようなシグモイド、すなわち当初ゆっくりと、途中から直線的に加速し、末期は再度ゆっくりと変化する形状と考えられている。次に臨床経過を考えるとき、Rapid Declinerと言われる悪化速度の速いAD患者の一群が存在することは以前から注目されてきた。そのような患者を捉えるうえで、たとえばMMSEが半年で3点(年間6点)以上の低下をしていくことと提案したものがある。このような進行の予測因子を知ることは、臨床家が患者・家族にアドバイスするうえで重要である2)。まず教育年数が高いと進行が速いと考えられている。次に幻覚や妄想など神経精神医学的な症状があると進行が速くなるとする意見が多い。もっとも、こうした症状自体ではなく症状に対して処方される抗精神薬等が問題ではないかという意見がある。一方で、発症年齢が若いほど進行も速いと考えられがちだが、これは確立していない。性別も確立したものではない。アポリポ蛋白E4(APOE4)があるとAD発症のリスクが高くなり、発症年齢も早まることは有名だが、進行予測の要因としては確立していない。また合併症の脳血管障害も確立していない。なお錐体外路徴候も以前は検討されたが、今日ではレビー小体型認知症(DLB)の疾患概念が浸透してADと鑑別がかなり正確になった。それだけに従来の知見はADとDLBの進行の差異を論じていたのかもしれない。入院・入所までの期間は?入所予測因子について80の報告をレビューしたものによれば、施設入所を予測する因子として、患者要因では認知機能の重篤度、日常生活動作の自立と依存の度合い、BPSD、そしてうつ病が重要であった4)。介護者要因として、情緒的ストレスの高さが指摘されている。系統的な報告ではないが、失禁、焦燥、歩行困難、徘徊と過活動そして夜間の不穏などが、介護者が述べる入所の決定要因として最も多いと述べた報告があった。この意見は臨床の場でわかりやすく、筆者は大いに頷く。参考1)Liang CS, et al. Mortality rates in Alzheimer's disease and non-Alzheimer's dementias: a systematic review and meta-analysis. Lancet Healthy Longev. 2021 Aug;2(8): e479-e488.2)Fleisher AS, Corey-Bloom J. The natural history of Alzheimer’s disease. In Ames D, Burns A, O’Brien J. Dementia 4th ed. Boca Raton:CRC Press;2010.p.405-416.3)Lansdall CJ, et al. Establishing Clinically Meaningful Change on Outcome Assessments Frequently Used in Trials of Mild Cognitive Impairment Due to Alzheimer's Disease. J Prev Alzheimers Dis. 2023;10:9-18.4)Gaugler JE, et al. Predictors of nursing home admission for persons with dementia. Med Care. 2009;47:191-198.

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成人のうつ病や不安症と関連する幼少期の要因とは

 うつ病および不安症の発症率について、子宮内・周産期・幼児期の発達段階における5つの人生早期の因子(母乳育児、出産前後の母親の喫煙、出生体重、多児出産、養子縁組)との長期的な関連性を明らかにするため、中国・Medical College of Soochow UniversityのRuirui Wang氏らが40~69歳の成人を対象に調査を行った。Translational Psychiatry誌2024年7月20日号の報告。 UK Biobankのデータを用いて、2006~10年に40~69歳の50万2,394例を募集した。ベースライン時にタッチスクリーンアンケートまたは口頭でのインタビューを通じて、参加者より幼少期の情報を収集した。主要アウトカムは、うつ病および不安症の発症とした(ICD-10に従って定義)。各因子のハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間中央値13.6年の間に、うつ病の発症は1万6,502例(3.55%)、不安症の発症は1万5,507例(3.33%)であった。・潜在的な交絡因子で調整後、5つの人生早期の因子はうつ病リスクの有意な増加と関連していることが示唆された。【非母乳育児】HR:1.08、95%CI:1.04~1.13【出産前後の母親の喫煙】HR:1.19、95%CI:1.14~1.23【多胎児】HR:1.16、95%CI:1.05~1.27【低出生体重】HR:1.14、95%CI:1.07~1.22【養子】HR:1.42、95%CI:1.28~1.58・不安症リスクの増加も5つの人生早期の因子と関連が認められた。【非母乳育児】HR:1.09、95%CI:1.04~1.13【出産前後の母親の喫煙】HR:1.11、95%CI:1.07~1.16【多胎児】HR:1.05、95%CI:0.95~1.17【低出生体重】HR:1.12、95%CI:1.05~1.20【養子】HR:1.25、95%CI:1.10~1.41・用量反応関係も観察され、人生早期のリスク因子の数が増えると、うつ病および不安症のリスクが高まる可能性が示唆された。 著者らは、「5つの人生早期の因子は、それぞれが成人期のうつ病および不安症発症に対する独立したリスク因子であると考えられる」とし、「これら人生早期の因子を考慮することは、その後の人生のメンタルヘルスに対する感受性を理解するうえで不可欠である」とまとめている。

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映画「心のままに」(その2)【だからハイテンションになってたの?(双極性障害の起源)】Part 1

今回のキーワード反応閾値モデル双極スペクトラム(ソフト・バイポーラリティ)個体差季節変化順位付け双極I型障害双極II型障害ランク理論(社会的地位理論)前回(その1)は、双極性障害の症状と原因を説明しました。それでは、そもそもなぜ双極性障害は「ある」のでしょうか?今回(その2)は、前回に取り上げた映画「心のままに」を踏まえて、進化精神医学の視点から、双極性障害の機能、つまり双極性障害の存在理由(起源)に迫ります。そもそもなんで双極性障害は「ある」の?前回(その1)で、双極性障害は遺伝の要素が大きいことがわかりました。だとしたら、なぜ遺伝の要素が大きいのでしょうか? 言い換えれば、そもそもなぜ双極性障害は「ある」のでしょうか? ここから、双極性障害の起源を3つの段階に分けて、進化精神医学の視点から迫ってみましょう。(1)個体差約4億年前に昆虫が誕生しました。そのなかの真社会性の昆虫であるアリは、生殖だけをする1匹の女王アリと生殖不能になって働くだけの無数の働きアリになって分業するように進化しました。働きアリは、自分自身の子孫(遺伝子)を残せなくても、血縁のある女王アリが部分的に子孫(遺伝子)を残してくれるため、集団としては子孫を残していることになります。そしてさらに、働きアリの中にも、「とても働く」働きアリと「あまり働かない」働きアリがいるようにも進化しました。1つ目は、個体差です。つまり、個体差がない種よりも、個体差がある種の方が、集団としてはより子孫を残す、つまり結果的には包括適応度が高くなります。どういうことでしょうか?現代の人間の合理化された社会構造のなかでは、一律に決まった労働に対して、一律の労働力を発揮する方が労働効率は高まります。つまり、個人差(個体差)がない方が合理的であるとされています。しかし、原始の時代は違います。獲物がたまたま見つかり労働力が急に必要になったり、飢餓や災害が起きて労働力が急に失われたりするなど、生存環境はとても不安定です。そんななか、それぞれの個体の働くスイッチ(反応閾値)に個体差があると、労働力がいよいよ必要になった状況で、もともとスイッチが入りにくくて(反応が鈍くて)「あまり働かない」個体のスイッチがようやく入り、予備要員として働き始めるのです。臓器の予備能にも似ています。これは、反応閾値モデルと呼ばれています1)。簡単に言うと、周りが働いていれば自分は働かず、周りが働いていなければ自分は働くという反応へのスイッチの入り具合(閾値)に個体差があることです。実際の実験研究によると、働きアリ150匹を個体識別して、「とても働く」働きアリと「あまり働かない」働きアリを別々に分けたところ、もともと「とても働く」働きアリグループのなかで「あまり働かない」働きアリが現れる一方、もともと「あまり働かない」働きアリグループのなかで「とても働く」働きアリが現れていき、最終的には、働き具合はもともとの割合と同じになる結果が得られました1)。なお、当然ながら、とても働いている働きアリは、その分早く寿命が尽きる、つまり過労死しやすくなることもわかっています1)。実際のコンピューターシミュレーションの研究においても、必要な労働が一定の場合は、予想通り、個体差があるよりも個体差がない人口生命の集団の方がより高い労働効率で生き残っていました。一方で、必要な労働が不定の場合は、個体差がない人口生命の集団は過労死してしまい、逆に、個体差のある人口生命の集団の方が最終的に生き残り続けました1)。このように、活動レベルにおける個体差は、双極性障害を中核とした一連の症候群である双極スペクトラム(ソフト・バイポーラリティ)の起源でしょう。躁状態と抑うつ状態は、この個体差の正規分布のそれぞれ一番端っこ、つまり「とても働く」個体と「あまり働かない」個体の極端な例に過ぎないと言えるでしょう。ただし、実は「あまり働かない」のではなく、「あえて働かない」戦略を取る種も一定数います。これは、フリーライダーと呼ばれています。人間社会だけでなく、アリ社会にもその存在が確認されました1)。フリーライダーの詳細については、関連記事1をご覧ください。次のページへ >>

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映画「心のままに」(その2)【だからハイテンションになってたの?(双極性障害の起源)】Part 2

(2)季節変化約2億年前に哺乳類が誕生しました。そして、活動レベルは、体に栄養を蓄えるために食料が多い春と夏に促進される一方、食料が少ない冬には抑制され、体温を下げて冬眠するように進化しました。なお、魚類、両生類、爬虫類、そして昆虫の活動レベルが冬に抑制されることは、「冬越し」と呼ばれています。2つ目は、季節変化です。現代の人間の文明化された社会構造のなかでは、冬に食料が少なくなって困ることはなく、生活環境である屋内の室温はエアコンでほぼ一定にコントロールされています。活動レベルは、夏だから上げて、冬だから下げる必要はありません。しかし、原始の時代は違います。とくに、約30万年前から約3万年前まで北ヨーロッパに住んでいたネアンデルタール人は、長く厳しい冬と短い夏の気候パターンである当時の氷河期に適応していきました。実際に、古代ゲノム学の研究から、このネアンデルタール人由来の遺伝子が多いヨーロッパ人やアジア人の方が、少ないアフリカ人よりも、双極性障害の発症リスクが高いという予測が示されています2)。現時点では、実証までには至っていないのですが、興味深い理論的解釈です。この気候パターンへの適応が、季節型の双極スペクトラム(季節性気分障害)の起源でしょう。そして、この冬眠する適応が、双極性障害の抑うつ状態の起源でしょう。実際の臨床経過においても、躁状態が軽いタイプ(双極II型障害)は、軽躁期1%強、抑うつ期50%強、寛解期46%、混合期2%強です3)。この割合は、軽躁期が短い夏、抑うつ期が長い冬、寛解期が春と秋にそれぞれ当てはめることができます。さらに、この活動レベルの促進と抑制のメカニズムは、単に気候パターンへの反応だけでなく、先ほどの不安定な生存環境にも働くようになったでしょう。つまり、「とても働く」ことで過労死するアリとは違い、人類は、「とても働く」分、そのあとに「よく休む」という能力(抑うつ状態)も進化させたというわけです。つまり、スイッチが入りやすい分、スイッチが切れやすくもなりました。人類の個体差は、単にスイッチの入りやすさだけでなく、スイッチの切れやすさ(時間差)も加わったと言えます。ちなみに、活動レベルに時間差が起きる個体差は、気候変動だけでなく、日内変動(概日リズム)も考えられます。それはとくに、若年者は夜更かししがち(睡眠時後退症候群)で、高齢者は早起きしがち(睡眠時前進症候群)であるという生理現象です。これらは、現代では睡眠障害(概日リズム障害)と見なされています。しかし、原始の時代は違います。約300万年前に、人類は血縁集団(部族)をつくって助け合うようになりました。しかし、人類は、まだか弱く雑食であり、獲物を狩る側ではなく、獲物として狩られる側でした。ライオンなど多くの肉食動物は、獲物に気付かれにくい夜に狩りをする夜行性です。そんななか、いかにその危険から部族を守るか、つまり夜間の保安が最重要課題になります。この時、若年者は夜更かしして、高齢者は早起きして、自発的に夜間の保安を分業するよう進化していったことが考えられます。なお、現代のように交代制について示し合わせることは、当時にはできません。なぜなら、言葉を話すようになったのは約20万年前であり、当時は時間の概念すらなく、他の動物と同じようにその日その夜その瞬間を周りの人と相互作用しながら反応的に生きているだけだったからです。また、高齢者が夜更かしではなく、あえて早起きになるように進化していった根拠としては、その危険性から考えることができます。そのわけは、早起きをする時間帯である未明は、最も油断して危険性が高いからです。実際に、合戦の奇襲のタイミングの基本は、夜明け前です。この時、若年者よりも余命が短い高齢者が盾として犠牲になる方が、集団の適応度が高くなります。もちろん、現代の人権尊重の価値観からは、明らかな年齢差別であり、まったく受け入れられません。ただ、原始の時代はそうではなかったというだけのことです。実際の観察研究において、アリやハチなどの真社会性の昆虫は、若いうちは安全な巣の中で幼虫や子供の世話をします。大きくなると次に、巣の修復にかかわる仕事をします。そして年を取った最後は、危険な巣の外で餌を取りに行く仕事をします。このように、年齢によって労働の内容が変わっていく習性は、齢間分業と呼ばれ、真社会性の昆虫に共通して見られます1)。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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映画「心のままに」(その2)【だからハイテンションになってたの?(双極性障害の起源)】Part 3

(3)順位付け約2000万年前に類人猿が誕生しました。彼らは実際にケンカをするよりも、うなり声や攻撃のポーズなどの威嚇をして、そのすごさ(ハイテンション)をもとにした序列によって群れをつくるように進化しました。3つ目は、順位付け(ランキング)です。なお、群れで飼われるニワトリも、お互いつつき合うことで、それぞれの強さ(序列)を確かめて、群れの秩序を保っています(つつき順位)。現代の人間の文明化された社会構造のなかでは、気分が安定して穏やかであることが望ましいとされています。ハイテンションになって偉そうにしたり威嚇することは、不必要であるどころか、むしろ、異常であると見なされます。しかし、原始の時代は違います。当時は、細かいルールや先々の予定はなく、その瞬間を瞬発力で生きているだけで十分なので、ハイテンションであることは、その分、獲物を多く取ることができるでしょう。そして、性的にアクティブにもなり、異性にモテていたでしょう。そして、映画でハイテンションのジョーンズがコンサートで勝手に指揮を執ったように、約300万年前の原始の部族社会ではボスになっていたでしょう。つまり、ハイテンション(躁状態)であることは、生存と生殖の適応度を高めることができるというわけです。以上より、順位付けが、躁状態を進化させた、つまり起源であると言えるでしょう。そして、躁状態は、順位付けされた群れ社会で上位に行くための機能である、簡単に言えば「ボスザル」になる能力であると言えるでしょう2,4)。これは、ランク理論(社会的地位理論)と呼ばれています。ただし、躁状態にはタイムリミットがあり、その後にはジョーンズのようにエネルギー切れ(抑うつ状態)になります。ボス行動(支配行動)とは対照的な服従行動です。これは、同僚のハワードや主治医のボーエン先生がジョーンズを助けてくれたように、周りの援助行動を引き出す生存戦略と言えます。このようにして、双極性障害であることは、子孫を残すだけのベネフィットの方が大きかったでしょう。実際の疫学研究において、双極性障害の繁殖成功率は、男性75%、女性85%と、症状が派手な割にそれほど低下していません2)。となると、原始の時代は断然高かったことが推定できます。また、臨床経過においても、躁状態が顕著なタイプ(双極I型障害)は、躁病期9%強、抑うつ期32%強、寛解期52%、混合期6%強です3)。先ほどの躁状態が軽いタイプ(双極II型障害)と比較すると、躁病期が1%→9%と長くなっているのにもかかわらず、体を休めるための抑うつ期は50%→32%と長くならずにむしろ短くなり、寛解期は46%→52%とやや長くなっています。これは、「ボスザル」の座になるべく長く座るための進化でしょう。なお、順位付けにとらわれる心理の詳細については、関連記事2をご覧ください。「心のままに」とは?ジョーンズの主治医であるボーエン先生は、精神科医として患者たちの感情を真摯に受け止め、常に自分の感情は抑えてきました。そして、実は離婚したばかりで心を閉ざしていました。そんな彼女は典型的な現代人です。一方、まさに「心のままに」生きるジョーンズは、対照的に「原始人」です。そんな2人は、やがてお互いに激しく惹かれ合うのでした。約200年前の産業革命で科学が発展し、合理主義が広がっていったことで、気分や気力はみんな等しく一定である(べき)という価値観が広がってしまいました。それ以降、ジョーンズのような双極性障害の人は「心の病」と見なされるようになってしまったのでした。「心のままに」とは、まさにジョーンズの生き方であり、そんなジョーンズに自然と惹かれてしまうボーエン先生であり、そんな彼らを私たちに温かい目で受け止めてほしいというこの映画のメッセージでしょう。1)「働かないアリに意義がある」p.39、p.59、pp.64-65、pp.74-78、p.122:長谷川英祐、ヤマケイ文庫、20212)「進化精神病理学」pp.214-217、p.281:マルコ・デル・ジュディーチェ:福村出版、20233)「標準精神医学 第8版」p.306、p.335:医学書院、20214)「進化精神医学」pp.109-112 :アンソニー・スティーヴンズ、世論時報社、2011<< 前のページへ■関連記事万引き家族(前編)【親が万引きするなら子供もするの?(犯罪心理)】Part 3本「ギネスブック」【2位じゃダメなんでしょうか?(「天才ビジネス」のからくり)】Part 3

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ADHDや境界性パーソナリティ障害に対するシンバイオティクスの有効性〜basket試験

 注意欠如多動症(ADHD)およびまたは境界性パーソナリティ障害(BPD)の患者では、易怒性により予後が悪化し、死亡率上昇を来す可能性がある。しかし、その治療選択肢は、不十分である。近年、プロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせたシンバイオティクスは、医療のさまざまな領域で注目されている。スペイン・Hospital Universitari Vall dHebronのGara Arteaga-Henriquez氏らは、ADHDまたはBPD患者の易怒性レベルに対するシンバイオティスクの有効性を評価するため、ランダム化二重盲検プラセボ対照試験を実施した。Brain, Behavior, and Immunity誌2024年8月号の報告。 本試験は、2019年2月〜2020年10月、ハンガリー、スペイン、ドイツの臨床センター3施設で実施した。対象は、ADHDおよびまたはBPDと診断され、易怒性レベルの高い18〜65歳の患者。易怒性レベルが高い患者の定義は、Affectivity Reactivity Index(ARI-S)5以上かつ臨床全般印象度-重症度(CGI-S)スコア4以上とした。対象患者は、シンバイオティクス群とプラセボ群にランダムに割り付けられ、10週間連続で毎日投与を行った。主要アウトカムは、治療終了時の治療反応とした。治療反応の定義は、ベースライン時と比較し10週目のARI-Sスコア30%以上減少かつ臨床全般印象度-改善度(CGI-I)総スコアが3未満(very muchまたはmuch)とした。両群間の副次的アウトカムの治療差および安全性も評価した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者231例中180例がランダム化され(シンバイオティクス群:90例、プラセボ群:90例)、ITT分析に含めた。・分析対象患者のうち、女性は117例(65%)、平均年齢は38歳、ADHD診断患者は113例(63%)、BPD診断患者は44例(24%)、ADHDとBPDの両方の診断患者は23例(13%)であった。・シンバイオティクスの忍容性は良好であった。・シンバイオティクス群における10週目の治療反応率は、プラセボ群と比較し、有意に高かった(OR:0.2、95%信頼区間[CI]:0.1〜0.7、p=0.01)。・シンバイオティクス(併用)療法は、ADHDおよびまたはBPDの成人患者において、臨床的に意味のある易怒性の改善と関連している可能性が示唆された。・シンバイオティクスは、プラセボと比較し、さまざまな副次的アウトカムのマネジメントにおいて優れていた。【感情調節障害】−3.6、95%CI:−6.8〜−0.3、p=0.03【感情症状】−0.6、95%CI:−1.2〜−0.05、p=0.03【不注意】−1.8、95%CI:−3.2〜−0.4、p=0.01【機能】−2.7、95%CI:−5.2〜−0.2、p=0.03【知覚ストレスレベル】−0.6、95%CI:−1.2〜−0.05、p=0.03・シンバイオティクス群では、ベースライン時のRANKLタンパク質レベルが高い場合、治療反応率の低下が認められた(OR:0.1、95%CI:−4.3〜−0.3、p=0.02)。・プラセボ群では、ベースライン時のIL-17Aレベルが高い場合、とくに感情調節障害の改善度が有意に上昇しており(p=0.04)、新規標的の薬物療法介入の可能性が示唆された。 著者らは「シンバイオティクスによる治療は、成人のADHDやBPD患者の易怒性改善に有効である可能性が示唆された。これらの結果を確認するためにも、より大規模なプロスペクティブ研究が求められる」としている。

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加糖飲料とうつ病リスク〜前向きコホート研究

 加糖飲料とうつ病リスクの遺伝的素因との関連性は、いまだ明らかとなっていない。中国・天津医科大学のYanchun Chen氏らは、加糖飲料、人工甘味飲料、天然ジュースとうつ病との関連を調査し、これらの関連が遺伝的素因により変化するかを評価した。General Psychiatry誌2024年7月17日号の報告。 ベースライン時のうつ病でない39〜72歳の一般集団18万599人を英国バイオバンクのデータより抽出した。加糖飲料、人工甘味飲料、天然ジュースの摂取量は、2009〜12年の24時間思い出し法(24-hour dietary recall)より収集した。うつ病の多遺伝子リスクスコアを推定し、低リスク(最低三分位)、中リスク(中間三分位)、高リスク(最高三分位)に分類した。ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)の算出には、Cox比例ハザードモデルおよびsubstitutionモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・12年間のフォローアップ期間中にうつ病を発症した人は、4,915人であった。・加糖飲料と人工甘味飲料の摂取量が多い(1日当たり2単位超)人では、うつ病リスクの上昇が認められた。【加糖飲料】HR:1.26、95%CI:1.12〜1.43【人工甘味飲料】HR:1.40、95%CI:1.23〜1.60・天然ジュースの適度な摂取(1日当たり0〜1単位超)は、うつ病リスク低下と関連が認められた。【天然ジュース】HR:0.89、95%CI:0.83〜0.95・遺伝的素因により、これらの関連性に影響を及ぼさなかった(p interaction>0.05)。・substitution-モデルでは、1日当たり1単位の加糖飲料または人工甘味飲料を天然ジュースに変更することにより、うつ病リスクのHRはそれぞれ0.94(95%CI:0.89〜0.99)、0.89(95%CI:0.85〜0.94)へと低下することが示唆された。 著者らは「加糖飲料や人工甘味飲料の摂取量が多いとうつ病リスクは上昇し、天然ジュースの適度な摂取は、うつ病リスク低下と関連していた。理論的には、加糖飲料や人工甘味飲料を天然ジュースに変更することで、うつ病リスクが軽減されると考えられる」としている。

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長期のコロナ罹患後症状、入院後6ヵ月時点がカギに

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、急性期以降の認知および精神医学的転帰のリスク増加と関連することが知られている。英国で行われた大規模研究ではCOVID-19による入院後2~3年間における認知・精神症状の進行を追跡し、その症状と就労への影響について調査した。The Lancet Psychiatry誌2024年9月号掲載の報告。 本研究は英国の臨床医コンソーシアムであるThe Post-hospitalisation COVID-19 study(PHOSP-COVID)の登録データを使い、英国全土の参加病院でCOVID-19の臨床診断を受けて入院した成人(18歳以上)を対象とした前向き縦断コホート研究だった。参加者は入院から2~3年の間に、客観的な認知機能、うつ病、不安障害、慢性疾患治療疲労機能を評価する課題と、主観的な認知機能を評価する質問票に回答した。また、参加者は就労状況の変化やその理由についても報告した。6ヵ月後、12ヵ月後、2〜3年後の追跡調査において症状の絶対リスクの変化を評価し、2〜3年後の症状が初期症状によって予測できるかを検討した。 主な結果は以下のとおり。・83病院の入院患者2,469例が対象となり、うち475例(男性284例[59.8%]、平均年齢58.3[SD 11.13]歳)が2~3年後の追跡調査時にデータを提供した。・参加者は、テストされたすべての認知領域において、社会人口統計学的に予想されるよりもスコアが悪かった。・多くの参加者が、軽度以上のうつ病(263/353例[74.5%])、不安(189/353例[53.5%])、疲労(220/353例[62.3%])、主観的な認知機能低下(184/353例[52.1%])を報告した。・5分の1以上が重度のうつ病(79/353例[22.4%])、重度の疲労(87/353例[24.6%])、重度の認知機能低下(88/353例[24.9%])を報告した。・抑うつ、不安、疲労は、6ヵ月後や12ヵ月後よりも2〜3年後のほうが悪化しており、既存の症状の悪化と新たな症状の出現の両方が認められた。新たな症状の出現は、6ヵ月後と12ヵ月後にほかの症状がみられた人に多くみられ、それ以前の時点で完全に良好であった人にはみられなかった。・2~3年後の症状は、COVID-19の急性期の重症度とは関連しなかったが、6ヵ月後の回復度、急性期のC反応性蛋白に関連するD-ダイマー値上昇、および6ヵ月後の不安、抑うつ、疲労、主観的な認知機能低下と強い関連がみられた。・2〜3年後の客観的な認知機能低下と関連する因子は、6ヵ月後の客観的な認知機能低下のみだった。・95/353例(26.9%)が「職業が変わった」と報告し、その理由として最も多いものは「健康不良」であった。職業の変化は、客観的な認知機能低下(オッズ比[OR]:1.51 )および主観的な認知機能低下(OR:1.54)と強く特異的に関連していた。 著者らは「精神症状および認知症状は、入院後2〜3年の間に、6ヵ月時点ですでに存在していた症状の悪化と、新たな症状の出現の両方により増加するようだ。新たな症状は6ヵ月時点ですでにほかの症状がみられる人に多くみられた。したがって、症状を早期に発見し管理することは、後に複合症候群が発症するのを防ぐ有効な戦略である。COVID-19は、客観的および主観的な認知機能低下を伴う。COVID-19の機能的・経済的影響を抑制するためには、認知機能の回復を促進する、あるいは認知機能の低下を予防するための介入が必要である」としている。

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流行株によるコロナ罹患後症状の発生率とコロナワクチンの効果(解説:寺田教彦氏)

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、起源株やアルファ株、デルタ株といったプレオミクロン株流行時期は、重症化率・死亡率の高さから、国内でも緊急事態宣言が出されるほど公衆衛生に多大な影響を与えていた。その後コロナワクチンや中和抗体治療薬により、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化率や死亡率は低下したが、2021年ごろから後遺症の問題が注目されるようになった。 新型コロナウイルス感染症罹患後症状(以下、本文ではPASC:post-acute sequelae of SARS-CoV-2 infectionとする)は、診断基準を提案する論文はあるが(Thaweethai T, et al. JAMA. 2023;329:1934-1946.)、世界的に統一された明確な定義や診断基準はなく、病態や治療法も判明しきってはいない。 PASCはオミクロン株では、過去のアルファ株やベータ株、デルタ株などより発症率が低下していること(Couzin-Frankel J. Science. 2023;379:1174-1175.)や、ワクチン接種者でPASC発症のリスクが軽減する可能性は指摘されていた(Mizrahi B, et al. BMJ. 2023;380:e072529. , Iversen A, et al. Front Public Health. 2024;12:1320059.)が、ウイルス変異の影響(罹患した株による違い)とワクチン接種の効果が、どの程度PASC発症のリスクに影響しているかははっきりしていなかった。 本研究では、新型コロナウイルス感染者のうち、感染時期がプレデルタ株、デルタ株、オミクロン株優勢期だったワクチン未接種者と、感染時期がデルタ株、オミクロン株優勢期だったワクチン接種者のSARS-CoV-2感染後1年間のPASC累積発生率を推定し、優勢株の時期に関連した影響(ウイルスの特性やそのほかの時間的影響)とワクチンによる効果を報告している。 結果は、「コロナ罹患後症状の累積発生率、変異株で異なるか/NEJM」に報告されたとおりで、ウイルスの特性(変異)による影響も罹患後症状リスク低下に関与していたが、罹患後症状が減少した主因(71.89%)はコロナワクチン接種による影響と考えられた。 本研究の特徴として、退役軍人省の大規模な健康記録を活用したため膨大なデータではあるものの、研究対象集団が主に高齢白人男性で構成されていることがある。PASCが問題となる患者層は、女性、高齢者、BMI高値、喫煙歴や基礎疾患がある患者など(Tsampasian V, et al. JAMA Intern Med. 2023;183:566-580.)であり、リスクファクター層と一部合致していない。しかし、本研究結果は過去の研究と同様の傾向を読み取ることができ、おそらくリスク集団を含めたほかの集団でも、同様の傾向となることは予測されるだろう。 ところで、本研究結果からはコロナワクチン接種がPASC発症のリスク軽減に役立つことはわかったが、ワクチンの種類や接種回数、接種時期については調査していないため、コロナワクチン接種後、どの程度の期間PASCのリスク軽減に役立つかはわからなかった。 COVID-19は、今夏も昨年と同様に増加傾向となっており、当院でも入院を要する中等症・重症患者が増加してきている。 今年も昨年同様に8月中旬ごろにピークを迎え、秋に患者数が減少し、冬季に再度ピークとなる可能性が考えられる。本研究から、新型コロナワクチンはPASC発症のリスク軽減に大きな役割を果たしたことが判明したが、新型コロナワクチンはリスクのある患者に接種することで、重症化率や死亡率の軽減にも役立つことも期待されている。今年度より、新型コロナワクチンは65歳以上や、60~64歳でリスクのある対象者で定期接種となっている(厚生労働省「新型コロナワクチンについて」)。 気道ウイルス感染症は冬季に流行しやすい性質があり、定期接種の対象者に対する秋から冬にかけてのコロナワクチン接種は、COVID-19による入院や死亡を減らすためにメリットが大きいと私は考えている。本研究結果からは、PASCリスク軽減にワクチン接種が大きく貢献したことも確認でき、ワクチン接種を推奨するさらなる1つの理由になるだろう。

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日本における低気圧誘発性頭痛に関する性差

 片頭痛は、女性に多い疾患である。低気圧は、頭痛発症の因子であるが、性別により違いがあるかは確認されていない。慶應義塾大学の藤本 卓磨氏らは、低気圧誘発性頭痛の性差について、調査を行った。BMC Research Notes誌2024年7月23日号の報告。 対象は、調査会社(マクロミル)のWebパネルよりランダムに抽出された20〜49歳の慢性片頭痛および緊張型頭痛患者。対象患者は、Webベースの自己記入式アンケートに回答した。目標変数をHeadache Impact Test-6(HIT-6)の高スコア(56以上)または低気圧誘発性頭痛とし、ロジスティック回帰分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・対象患者数は、女性332例、男性337例であった。・HIT-6高スコアは、頭痛発症時年齢が20歳以下、低気圧誘発性頭痛との関連が認められた。【頭痛発症時年齢が20歳以下】オッズ比(OR):1.85、95%信頼区間(CI):1.15〜2.99、p=0.012【低気圧誘発性頭痛】OR:2.11、95%CI:1.51〜2.94、p<0.001・低気圧誘発性頭痛は、女性と有意な関連が認められた(OR:2.92、95%CI:2.12〜4.02、p<0.001)。 著者らは「低気圧誘発性頭痛には、性差が認められた。このことからも、性別に特化した頭痛への治療アプローチが必要である可能性が示唆された」としている。

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境界性パーソナリティ障害、思春期〜成人期の経過

 境界性パーソナリティ障害(BPD)の治療において、思春期以降の中長期にわたる臨床的および機能的経過に関する研究は、不十分である。デンマーク・Mental Health ServicesのMie Sedoc Jorgensen氏らは、思春期BPD患者における診断から5年後の精神病理学的および機能的状態についての検討を行った。Comprehensive Psychiatry誌2024年7月号の報告。 対象は、思春期BPDに対するメンタライゼーション・ベースド・セラピーによるグループ介入と通常治療を比較したランダム化臨床試験(RCT)に登録された患者。5年後のフォローアップ調査時に、Schedules for Clinical Assessment in Neuropsychiatry(Scan)およびStructured Clinical Interview for DSM-5 Personality Disorders(SCID-5-PD)を含む半構造化面接評価を行った。自己報告ツールを用いて、注意欠如多動症(ADHD)、アルコール、薬物、タバコの使用、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、複雑性PTSD、一般機能の評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・最初のRCT対象患者111例中97例(87%)が本研究に参加した。・年齢範囲は、19〜23歳であった。・最も多くみられた疾患は、ADHD(59%)、さまざまな人格障害(47%)であり、そのうち半数はBPD(24%)、不安症(37%)、うつ病(32%)、PTSDまたは複雑性PTSD(20%)、統合失調症(16%)、摂食障害(13%)の基準を満たしていた。・精神疾患の基準を満たさなかった患者は、わずかに16%であった。・フォローアップ調査時点で、心理療法およびまたは精神薬理学的治療を行っていた患者は、約半数であった。・一般的な機能は、依然損なわれたままであり、ニート状態は36%でみられた。これは、一般集団の同年齢層のニート率の約4倍であった。 著者らは「BPD診断の安定性は中程度ではあるが、思春期にBPD診断基準を満たしていた患者は、5年間のフォローアップ調査において、広範なアウトカム不良を示していた。BPDは、思春期の一般的な不適応の指標となるが、成人期への移行よる重篤な問題発生の前兆であるとも考えられる。思春期BPD患者に対する早期介入プログラムは、現在のBPDだけでなく、幅広い機能的および精神病理学的アウトカム、とくに将来の社会的および職業的サポートに焦点を当てる必要がある」としている。

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5~17歳の10人に1人がADHD/米国調査結果

 米国疾病予防管理センター(CDC)下の組織である国立衛生統計センター(NCHS)は、2024年3月に米国における注意欠如・多動症(ADHD)に関する調査結果を発表した。この報告書によると、2020~22年にADHDと診断された5~17歳の子供の割合(有病率)は11.3%だったという。 その他の主な結果は以下のとおり。・5~17歳では、男児(14.5%)のほうが女児(8.0%)より有病率が高く、この傾向は5~11歳と12~17歳の年齢別においても一貫していた。・5~11歳の有病率(8.6%)よりも、12~17歳の有病率(14.3%)のほうが高かった。・有病率は、すべての人種において、5~11歳よりも12~17歳のほうが高かった。・5~17歳の子供のうち、黒人の子供(10.8%)やヒスパニック系の子供(8.9%)よりも白人の子供(13.4%)のほうが有病率が高かった。・世帯収入が上がるにつれてADHDの有病率は減少する傾向があり、5~17歳の有病率は世帯収入が米国貧困水準の100%未満の場合は14.8%だったが、200%以上では10.1%となった。世帯収入の増加とともにADHDの有病率が減少するパターンは、いずれの年齢層の子供にもみられた。・5~17歳の子供では、ADHDの有病率が最も高かったのは公的保険に加入している子供(14.4%)で、最も低かったのは無保険の子供(6.3%)だった。

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うつや不安に対するウォーキング効果〜メタ解析

 ウォーキングから得られるメンタルヘルスのベネフィットに関する総括的な情報は、十分ではない。中国・香港中文大学のZijun Xu氏らは、さまざまなウォーキングパターンがうつや不安症状に及ぼす影響を評価したランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビュー、およびメタ解析を実施した。JMIR Public Health and Surveillance誌2024年7月23日号の報告。 2022年4月5日、各種データベース(MEDLINE、CENTRAL、Embase、PsycINFO、AMED、CINAHL、Web of Science)より検索を行った。研究のスクリーニングおよびデータ抽出は、2人の独立した著者により実施した。ランダム効果メタ解析を用いて、データを統合した。フォレストプロットの95%信頼区間(CI)による標準化平均差(SDM)を算出した。バイアスリスクの評価には、Cochrane Risk of Bias toolを用いた。 主な結果は以下のとおり。・レビューには、RCT 75件、8,636例を含めた。研究の内訳は、抑うつ症状の研究68件、不安症状の研究39件、両症状の研究32件であった。・思春期の結果を報告した1件は、メタ解析に含めなかった。・成人における統合結果では、ウォーキングは、非活動的な対照群と比較し、抑うつ症状(RCT:44件、SMD:−0.591、95%CI:−0.778〜−0.403、I2=84.8%、τ2=0.3008、p<0.001)および不安症状(RCT:26件、SMD:−0.446、95%CI:−0.628〜−0.265、I2=81.1%、τ2=0.1530、p<0.001)を有意に軽減することが示唆された。・ウォーキングは、頻度、期間、場所(屋内/屋外)、形式(グループ/個人)などの異なるサブグループの多くにおいて、抑うつまたは不安症状を有意に軽減させる可能性が示唆された(各々、p<0.05)。・うつ病患者(RCT:5件、SMD:−1.863、95%CI:−2.764〜−0.962、I2=86.4%、τ2=0.8929)と非うつ病患者(RCT:39件、SMD:−0.442、95%CI:−0.604〜−0.280、I2=77.5%、τ2=0.1742)のいずれにおいても、ウォーキングによる抑うつ症状への効果が示された。とくに、うつ病患者では、そのベネフィットが大きい可能性が示唆された(p=0.002)。・ウォーキングは、活動的な対照群と比較し、抑うつ症状(RCT:17件、SMD:−0.126、95%CI:−0.343〜−0.092、I2=58%、τ2=0.1058、p=0.26)および不安症状(RCT:14件、SMD:−0.053、95%CI:−0.311〜0.206、I2=67.7%、τ2=0.1421、p=0.69)の軽減に有意な差が認められなかった。 著者らは「いずれのウォーキングパターンにおいても、抑うつおよび不安症状の軽減に効果的であり、その効果は活動的な対照群と同様であった。うつや不安の軽減に対するウォーキング介入は採用可能であると考えられる。今後は、低強度ウォーキングの効果に関するさらなるエビデンスが求められる」としている。

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糖質摂取と認知症リスク〜前向きコホート研究

 いくつかの研究において、食事中の糖質摂取と認知症との潜在的な関連が示唆されているが、実証するエビデンスは限られている。中国・四川大学のSirui Zhang氏らは、この関連性について、大規模集団による検証を行った。BMC Medicine誌2024年7月18日号の報告。 英国バイオバンクコホートに参加した21万832人を対象に、プロスペクティブコホート研究を実施した。食事中の糖質摂取を反映するため、糖質の絶対摂取量および相対摂取量、高糖質食スコアを用いた。糖質の絶対摂取量は、英国バイオバンクのOxford WebQにより特定した。糖質の相対摂取量は、絶対摂取量を総食事エネルギー量で割ることにより算出した。高糖質食パターンの特定には、縮小ランク回帰法を用いた。食事中の糖質摂取量とすべての原因による認知症およびアルツハイマー病との縦断的関係を調査するため、Cox比例ハザード回帰分析および制限付き3次スプラインを用いた。根本的なメカニズムを解明するため、探索的媒介分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・糖質の絶対摂取量(g/日)の増加は、すべての原因による認知症およびアルツハイマー病のリスク増加と有意な関連が認められた。【すべての原因による認知症】ハザード比(HR):1.003、95%信頼区間(CI):1.002〜1.004、p<0.001【アルツハイマー病】HR:1.002、95%CI:1.001〜1.004、p=0.005・糖質の相対摂取量(%g/kJ/日)も、すべての原因による認知症(HR:1.317、95%CI:1.173〜1.480、p<0.001)およびアルツハイマー病(HR:1.249、95%CI:1.041〜1.500、p=0.017)との有意な関連が認められたが、高糖質食スコアは、すべての原因による認知症のみでリスク増加との関連が認められた(HR:1.090、95%CI:1.045〜1.136、p<0.001)。・糖質摂取量と高糖質食スコアの両方が、すべての原因による認知症およびアルツハイマー病と有意な非線形関係を示した(非線形のすべてのp値:p<0.05)。 著者らは、「過剰な糖質摂取は、認知症リスクと関連していることが示唆された。食事中の糖質摂取を制限することは、認知症予防にとって大きな意味を持つ可能性がある」としている。

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犬は人間のストレスのにおいを感じ取り、行動を選ぶ

 犬は人間がストレスを感じているのかリラックスしているのかを嗅ぎ分けることができ、また、そのような嗅覚情報は犬の感情や行動の選択にも影響することが、新たな研究で示唆された。英ブリストル大学獣医学部野生動物保護学分野のNicola Rooney氏らによるこの研究の詳細は、「Scientific Reports」に7月22日掲載された。Rooney氏は、「使役犬の訓練士はよく、自分のストレスがリードを介して犬に伝わると表現するが、われわれは、空気を介してストレスが犬に伝わる可能性のあることを示した」と述べている。 研究グループは、十分に評価されていないものの、人間の間ではにおいが感情的コミュニケーションの重要な一形態であることは以前より指摘されていると説明する。このことから研究グループは今回、人間よりもはるかに高性能の嗅覚を持つ犬は、人間の感情を嗅覚で感じ取り、それに応じた行動をとるのではないかと考え、18頭の犬を対象に実験を行った。 実験は、それぞれ7日程度の間隔を空けて実施する3つのセッションで構成されていた。最初のセッションでは、無臭サンプルを用いて、ある場所に置かれたボウルの中にはおやつが入っているが別の場所に置かれたボウルの中には何も入っていないことを犬に学ばせた。 続くセッション2と3では、ストレスのかかった状態とリラックス状態にある人から採取した息と汗のサンプル(それぞれ、「ストレスサンプル」「リラックスサンプル」とする)に犬を曝露させた上で、おやつ入りのボウルと空のボウルの間の曖昧な位置(おやつが入っているボウルに近い位置、おやつの入っているボウルと空のボウルの中間、空のボウルに近い位置)に置かれたボウルに対して犬がどのように行動するのかを観察した。セッション2では半数の犬にストレスサンプル、残りの半数にリラックスサンプルを用い、セッション3ではその逆とした。犬をサンプルに曝露させる前には必ずおやつ入りのボウルと空のボウルの位置を学ばせる訓練を行った。犬が曖昧な位置に置かれたボウルに素早く近付いた場合には、「ボウルの中に食べ物があるかもしれない」という「楽観的」な心境にあり、逆に、ゆっくり近付いた場合には、「多分、中におやつは入ってない」という「悲観的」な心境にあると見なした。 その結果、セッション3でストレスサンプルのにおいに曝露した犬は、無臭のサンプルに曝露した場合と比べて、曖昧な位置(空のボウルに近い場所)に置かれたボウルへ向かおうとする意欲が有意に低下することが明らかになった。このことは、犬は人間のストレスのにおいを嗅ぎ取ると、エネルギーを節約して失望を避けるというリスク回避行動を取る可能性があることを示唆している。このような「悲観的」な反応は、リラックスサンプルに曝露させた場合には見られなかった。また、おやつ入りのボウルと空のボウルの位置に関する犬の学習は訓練を重ねるごとに向上したが、セッション2と3の間では、セッション3でストレスサンプルに曝露した場合にのみ顕著な向上を見せた。この結果から、においが学習に影響を及ぼしていることがうかがわれた。 Rooney氏は、「犬の飼い主は、ペットがどれほど自分の感情に同調しているかを知っている。しかし今回の実験では、ストレスのかかった見知らぬ人のにおいでさえも、犬の感情状態、報酬の知覚、学習能力に影響を与えることが示された」と話す。 さらにRooney氏は、この知見は実社会への応用が可能だと話す。同氏は、「人間のストレスが犬のウェルビーイングにどのような影響を与えるのかを理解することは、犬舎で飼われている犬、コンパニオンドッグや補助犬などの使役犬として訓練されている犬にとって重要な検討事項だ」と述べている。

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クリーフストラ症候群〔KS:Kleefstra Syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義2009年にクリーフストラらが9番染色体長腕サブテロメア欠失を持つ複数の症例について、重度から中等度の知的障害、筋緊張低下、てんかんに加え、特徴的な顔貌など、共通する臨床症状があることを報告した。その論文の中で、共通欠失領域に位置していたEHMT1遺伝子が責任遺伝子である可能性を疑い、同様の症状を示しながら9番染色体長腕サブテロメア欠失がない患者を調べたところ、EHMT1遺伝子の病的なバリアントが認められたため、EHMT1の機能喪失が原因であることを明らかにした。これにより、EHMT1遺伝子を含む9番染色体長腕サブテロメア欠失と、EHMT1遺伝子の病的バリアントによって引き起こされる病態をクリーフストラ症候群と称するようになった。■ 疫学正確な疾患頻度は明らかでないが、厚生労働省・山本研究班による複数施設での定点観測では、1万人~1万5,000人に1人と推測され、わが国には推定数千人の患者が存在すると考えられている。■ 病因9番染色体長腕末端から約1-Mbに位置するEHMT1を含む9番染色体長腕の部分欠失による場合と、EHMT1の機能喪失変異による場合がある。染色体欠失による場合の多くはサブテロメア欠失であるが、その切断端は多様であり、欠失サイズもさまざまである。基本的に染色体欠失も遺伝子の機能喪失変異も突然変異によって生じるが、サブテロメア欠失の場合は、他の染色体サブテロメア領域との不均衡転座によっても生じる可能性があり、その場合は両親のどちらかが均衡転座保因者の可能性があるため、次の妊娠時に同じ染色体異常が繰り返されたり、反復流産の原因となることがある。■ 症状知的障害、筋緊張低下、小頭症、先天性心疾患(とくに円錐幹の欠陥)、てんかん(約30%)、および特徴的顔貌(癒合したアーチ型の眉、眼間解離、短鼻、開いた口、および突出した舌など)を示す。その他、先天性心疾患(全患者の50%)、腎泌尿器奇形(全患者の10~30%)、睡眠障害や常同行為などの行動異常、外性器異常、難聴などが認められることがある。■ 予後合併症によるが、一般的に生命予後が不良であるという報告はない。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)染色体異常の場合、マイクロアレイ染色体検査などで9番染色体長腕サブテロメア領域のEHMT1遺伝子を含んだ欠失を確認することにより診断される(図)。遺伝子変異の場合、ターゲット解析、網羅的解析に関わらず、EHMT1の機能喪失変異を確認することにより診断される。図 9番染色体長腕サブテロメア欠失の確認画像を拡大するUCSC genome browserにより、3例のクリーフストラ症候群自験例の欠失範囲を表示した。全例欠失範囲内にEHMT1遺伝子(赤丸)を含む。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)根本的な治療法はない。てんかんに対しては、発作型に合わせた治療が必要である。神経発達症に由来する多動や行動障害に対しては、環境調整や必要に応じた薬物療法を要することがある。 4 今後の展望疾患概念が明らかになってきたばかりであり、疾患特性の理解や治療法の開発はこれからである。5 主たる診療科小児の場合は小児科遺伝学的検査の場合は遺伝診療科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報「マイクロアレイ染色体検査で明らかになる染色体微細構造異常症候群を示す小児から成人の診断・診療体制の構築」研究班ホームページ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報クリーフストラ症候群日本家族会(患者とその家族および支援者の会)1)Kleefstra T, et al. J Med Genet. 2009;46:598-606.2)Kleefstra T, et al. Am J Hum Genet. 2012;91:73-82.3)Yang Q, et al. Front Neurol. 2024;15:1340458.4)今泉太一、山本俊至. 脳と発達.2024;56:270-272.公開履歴初回2024年08月15日

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映画「心のままに」(その1)【どうハイテンションになるの?そのあとは?(双極性障害)】Part 1

今回のキーワード双極性障害躁状態(躁病エピソード)抑うつ状態(抑うつエピソード)診断基準遺伝率リチウム皆さんは、どんな時にテンションが上がりますか? 仕事がうまく行った時? 好きな人とデートした時? それとも競馬で大穴を当てた時???…などなどさまざまでしょう。そして、数時間かせいぜい数日でそのテンションは元に戻るでしょう。しかし、とくにきっかけなくテンションが上がり、ずっと続いたらどうでしょうか? 精神医学では、これを躁状態と呼んでいます。そして、躁状態のあとには抑うつ状態になることが多く、この一連の状態を双極性障害と呼んでいます。具体的にどんな症状があるでしょうか? なぜ双極性障害になるのでしょうか?今回は、双極性障害をテーマに、映画「心のままに」を取り上げます。双極性障害の主人公を通して、双極性障害の症状と原因を解説します。躁状態にはどんな症状があるの?主人公はジョーンズ。彼はいきなり建築現場に現れ、働かせてくれと現場監督に直談判をするところからストーリーは始まります。ノリノリの話し方で軽いジョークを飛ばし、気を良くした監督は彼にすぐに仕事を任せます。彼はただ気さくでお調子者のように見えます。しかし、すぐに彼が普通ではないことに気付きます。彼は、鼻歌で「心ウキウキ~♪」と歌い続けます。隣り合った建築作業員の同僚に名前を聞いておきながら、自分の名前を聞かれても、楽しさのあまり返事をしません。これは、注意散漫です。そして、明らかにハイテンションになっていて、高揚気分が当てはまります。そして彼は、その同僚ハワードが金づちを叩く音に合わせて、自分も同じリズムで金づちを叩くのです。仕事中ですので、明らかにふざけすぎています。さらに彼は、ハワードと軽く世間話をしたあと、なんと「道で拾った100ドル札だ。天の声が聞こえてきてね、ハワードにやれって言ったんだよ」と言い出します。ハワードから「恵みなんか受けないよ」と断られても、「取っとけよ」と無理やりそのお金をハワードのポケットに入れ込むのでした。高揚気分から気前が良すぎます。そして、このように考えが次から次へとポンポンと飛んで行くのは、観念奔逸が当たります。その後、ジョーンズはまだ骨組みだけの屋根に勝手に上がり、棟木の上を命綱なしで渡り始めます。そして、ハワードに「飛びたいと思ったことはないか? 飛べるよな。飛んでみるか。やってみればきっと飛べるさ」と言い出し、飛ぼうとする真似をします。最後に彼はハワードに何とか捕まえられますが、それでも、楽しそうに笑い続けているのです。このように、「自分は空を飛べる」など自分はすごいという不合理な思い込みは、誇大妄想(誇大性)が当てはまります。いったん精神科病院に運ばれましたが、病棟のベッド数削減の事情によって、すぐに退院となってしまいます。しかし、女医のボーエン先生にまとわりつき、一方的にまくし立てていました。これは、多弁が当てはまります。そして、1人になっても、抑えられずに1人で踊っていました。これは、多動が当てはまります。その後、銀行で預金をすべて下ろしますが、その時に対応した銀行員の女性をデートにいきなり誘います。楽器店で高価なグランドピアノをいきなり買い、高級ホテルに泊まり、リムジンでコンサート会場に乗り入れます。これは、熱中が当てはまります。そして、衝動買いや浪費に発展しています。コンサート会場では、なんと彼は演奏の真っ最中にステージに上がり、指揮者の隣で指揮を執り出すのです。自分の指揮のほうがうまいと思ったのでした。これも、誇大妄想です。精神科病院に再び強制入院となり、隔離室で看護師たちにブーツを脱がされている時は、「空飛ぶブーツだぞ。大事にしろ!」と急に怒鳴っていました。これは、些細なことでも怒りっぽくなる易怒性が当てはまります。以上より、表1の診断基準で、ジョーンズは、6は不明ですが、他のすべての項目を満たしていることになります。次のページへ >>

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映画「心のままに」(その1)【どうハイテンションになるの?そのあとは?(双極性障害)】Part 2

抑うつ状態にはどんな症状があるの?ジョーンズの強制入院の継続を判断する公聴会(日本にはない制度)で、彼は判事に対して、屋根の上に上がって空を飛ぶと言ったことや、ステージに上がって勝手に指揮を始めたことについても、「つい子供っぽいことをしちゃっただけなんだ」「おれはもともと陽気で明るい性格なんだ」と熱弁を振るいます。彼は、たまたま判事とはうまくやり取りができてしまったことで、強制入院は免れます。しかし、その後まもなく、ボーエン先生が予告していたとおり、彼は抑うつ状態になってしまいます。建築現場の元同僚ハワードの自宅に招かれた時、ジョーンズは、もともと計算が得意だったのに、ハワードの小学生の子供の宿題を手伝おうにも、頭が回らず、茫然としているだけなのでした。これは、思考制止が当てはまります。その後も、ジョーンズは、沈んだ表情で、街をさまよっていました。心配して訪ねてきたボーエン先生には、「悲しみが止まらない」と涙ぐむのです。これは、抑うつ気分です。精神科病院に自ら再入院しますが、自分で体を洗うこともできません。これは、精神運動制止が当てはまります。以上より、表2の診断基準で、ジョーンズは、9はみられず、5と6は不明だとしても、1・3・8を確実に満たし、2・4・7は満たすであろうと推定されます。なお、先ほどの躁状態(表1)とこの抑うつ状態(表2)は、感情、意欲、思考の精神機能の点で、ほぼ真逆であることもわかります。また、この双極性障害の抑うつ状態は、うつ病の抑うつ状態とまったく同じ症状(診断基準)です。うつ病の詳細については、関連記事1をご覧ください。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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映画「心のままに」(その1)【どうハイテンションになるの?そのあとは?(双極性障害)】Part 3

なんで双極性障害になるの?ジョーンズは、これまで入退院を20回以上繰り返してきたことが判明します。ボーエン先生は、ジョーンズが双極性障害になった原因を、彼のかつての恋人エレンとの失恋ではないかと考えました。しかし、さすがにこれでは、入退院を繰り返すわけを説明できません。また、ジョーンズは、双極性障害によって、仕事やお金の管理ができなくなり、社会的なトラブルを繰り返してしまいました。それでも、公聴会では「生まれつきなんです」「これがおれなんだ」と言うのです。躁状態は気分が良いので、このままがいいと思う気持ちは理解できるのですが、それにしても、もはや双極性障害が彼らしさ(アイデンティティ)になっています。実際には、双極性障害の遺伝率は、約80%です1)。つまり、原因はストレス(環境)よりも遺伝が大きいことになります。ただし、その発症メカニズムについては、現時点で詳しくわかっていません。なお、ジョーンズが一時持ち歩いていたリチウム(気分安定薬)は、薬理メカニズムは不明なのですが、予防効果が確かにあり、治療薬として使われています。このリチウムはアルカリ金属の1つであり、地中に広く微量に存在します。実際の疫学研究において、水道水に含まれる微量のリチウムの濃度が相対的に低い地域ほど自殺率が高くなるという結果が出ています2)。これを応用して、自殺予防の医療政策として、水道水に微量のリチウムを人為的に添加するというアイデアがあります3)。虫歯予防にキシリトールを水道水に添加する医療政策をすでにしている国もあるくらいなので、一見合理的に思われます。しかし、キシリトールとは違い、リチウムは高濃度で胎児奇形性などのリスクがあります。この点も踏まえて、やはり倫理的な議論を呼ぶでしょう。1)「標準精神医学 第8版」p.306、p.337:医学書院、20212)「飲料水中の天然リチウムと自殺率との関連 生態学的研究の系統的レビューとメタアナリシス」:the British Journal of Psychiatry、20203)「水道水に含まれるリチウムが自殺防止に?」:松丸さとみ、ニューズウィーク日本版、2020<< 前のページへ■関連記事ツレがうつになりまして。【うつ病】

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