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服薬負担を考慮した剤形・服用回数の変更提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第15回

 今回は患者さんの服薬負担を考慮した処方提案を紹介します。さまざまな薬の剤形や規格を把握している薬剤師だからこそ提案できる場面は多くあります。薬学的な判断を行いつつ、患者さんの想いも実現できるように寄り添いましょう。患者情報90歳、女性(施設入居)体  重:50kg基礎疾患:心房細動、閉塞性動脈硬化症、高血圧症、糖尿病、褥瘡既 往 歴:とくになし直近の血液検査:TG:151mg/dL処方内容1.ジゴキシン錠0.125mg 1錠 分1 朝食後2.エソメプラゾールカプセル20mg 1カプセル 分1 朝食後3.スピロノラクトン錠25mg 2錠 分1 朝食後4.アピキサバン錠2.5mg 2錠 分2 朝夕食後5.トコフェロールニコチン酸エステルカプセル200mg 2カプセル 分2 朝夕食後6.ニコランジル錠5mg 3錠 分3 毎食後7.イコサペント酸エチルカプセル300mg 6カプセル 分2 朝夕食後8.ポラプレジンク口腔内崩壊錠75mg 2錠 分2 朝夕食後本症例のポイントこの患者さんは、以前より両下肢の冷感と違和感を自覚しており、定期訪問診療で閉塞性動脈硬化症による血流障害を指摘され、イコサペント酸エチル(以下EPA)が開始となりました。EPAには300mgの軟カプセル(直径約18mm)と、300mg/600mg/900mgの3規格の小さな粒状カプセル(直径約4mm)の分包包装があります。今回、軟カプセルが処方されたのは、いつもの定期薬と一包化することで服薬アドヒアランスに影響を与えることなく治療が可能と判断されたためです。処方提案と経過しかし、実は患者さんはこれ以上薬を増やすことが嫌で、大きい薬は服用が難しいということを話されていました。また、併用注意のアピキサバンを服用していることから、EPA1,800mg/日では出血に関わる副作用を助長する可能性があり、開始用量も慎重に検討したほうがいいと考えました。そこで、患者さんの想いに沿って、負担の少ない剤形と用法用量への変更を医師に提案することにしました。医師への疑義照会を電話で行い、アピキサバンの出血リスクからEPAは900mg/日に減量し、患者さんの心理的負担を軽減するために小さい粒状カプセルに変更して1日1回服用にまとめるのはどうか提案しました。その結果、出血リスクを懸念した医師に提案を承認してもらうことができました。現在、患者さんはEPA900mgを夕食後に1包服用しており、薬剤は増えたものの問題なく服薬を続けて症状は改善傾向にあります。

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左手(とリズムコントロール)は添えるだけ(解説:香坂俊氏)-1036

心房細動(AF)治療はカテーテルによる肺静脈焼灼術(いわゆるアブレーション)の登場により、多くのブレークスルーが起きているかのように見えるが、実をいうと「リズムコントロールで無理をしない」という軸はブレていない。このことはつい最近結果が発表され巷で話題となっているCABANA試験からも裏打ちされている(10ヵ国126施設が参加した非盲検無作為化試験:「症候性AFへのアブレーションの効果、CABANA試験で明らかに/JAMA」)。今回発表されたRACE-7試験の結果もこの「リズムコントロールで無理をしない」というコンセプトを急性期に拡張したものである(新規発症AFに対して除細動によるリズムコントロールを行うべきかランダム化によって検討:4週間後の洞調律維持率や心血管イベント発症率に有意な差を認めなかった)。(※)ちなみに、RACE-1試験[NEJM 2002]はAFに対してrate v. rhythm controlを比較し、RACE-2試験[NEJM 2010]はrate controlの中で 心拍数80/min以下(strict)v. 110/min以下(lenient)を比較した試験である(今回なぜ一気に「7」に飛んだかは不明)。このRACE試験の系譜でもそうなのであるが、今までAFでリズムコントロールがレートコントロールに予後改善という側面で勝ったことはない。現段階でリズムコントロール戦略は症状に応じて「添えるだけ」という捉え方でよいのではないかと自分は考えている。 現状のおおまかなAF治療方針: 1.血行動態が不安定なときは電気的除細動を考慮 2.それ以外はレートコントロール(lenientでよい) 3.長期的にはCHADS2-VAScに従って抗凝固薬を導入 4.AFの症状が日常生活に影響を及ぼすようであればリズムコントロール 5.その際は抗不整脈薬がダメなときに初めてアブレーション考慮

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症候性心房細動、即時的な洞調律復帰は必要か/NEJM

 発症後間もない(recent-onset)症候性心房細動で救急診療部を受診した患者では、待機的(wait-and-see)アプローチとしての遅延的カルディオバージョン(cardioversion)は、即時的カルディオバージョンに対し、4週時の洞調律復帰の達成が非劣性であることが、オランダ・マーストリヒト大学のNikki AHA Pluymaekers氏らが行ったRACE 7 ACWAS試験で示された。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2019年3月18日号に掲載された。発症後間もない心房細動患者では、薬理学的または電気的カルディオバージョンにより、ただちに洞調律に復帰させるのが一般的である。しかし、心房細動は自然に終息することが多いため、即時的な洞調律復帰が必要かは知られていないという。待機的アプローチの非劣性を検証するオランダの無作為化試験 本研究は、オランダの15病院の心臓病科が参加した非盲検無作為化非劣性試験であり、2014年10月~2018年9月に患者登録が行われた(オランダ保健研究開発機構などの助成による)。 初発または再発の発症後間もない(<36時間)症候性心房細動で救急診療部を受診し、血行動態が安定した患者437例が、待機的アプローチ(遅延的カルディオバージョン)を行う群(待機群:218例、平均年齢65歳、男性60%)または即時的カルディオバージョンを行う群(即時群:219例、65歳、59%)に無作為に割り付けられた。 待機的アプローチでは、心拍数調節薬(β遮断薬、非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬、ジゴキシン)のみで治療を開始し、48時間以内に心房細動が消失しない場合に遅延的にカルディオバージョンを行った。 患者の87%で動悸が、26%で運動誘発性疲労がみられ、64%が脳卒中の高リスク例(CHA2DS2-VAScスコア≧2)であった。40%が経口抗凝固薬を使用し、インデックス受診時に29%が抗凝固療法を開始した。 主要評価項目は4週時の洞調律復帰とした。主要評価項目の群間差の95%信頼区間(CI)下限値が-10ポイントを上回る場合に、非劣性と判定した。48時間以内に69%が自然転換、即時施行の必要性は低い 4週時に心電図検査を受けた患者における洞調律復帰の割合は、待機群が91%(193/212例)と、即時群の94%(202/215例)に対し非劣性であった(群間差:-2.9ポイント、95%CI:-8.2~2.2、非劣性のp=0.005)。 待機群では、69%(150/218例)が48時間以内に自然に洞調律に転換し、28%(61例)は遅延的カルディオバージョン施行後に洞調律に復帰した。即時群では、16%(36/219例)がカルディオバージョン開始前に自然に洞調律に転換し、78%(171例)は施行後に復帰した。 心房細動の再発は、待機群が30%(49例)、即時群は29%(50例)に認められた。心血管合併症は、待機群が10例(虚血性脳卒中1例、急性冠症候群/不安定狭心症3例など)、即時群は8例(一過性脳虚血発作1例、急性冠症候群/不安定狭心症3例など)にみられた。 著者は、待機的戦略の利点として、次の3つを挙げている。(1)合併症の可能性を伴うカルディオバージョンの回避、(2)初発時に救急診療部で要する時間の節減、(3)心房細動の洞調律への自然転換が観察できれば、持続性心房細動の誤分類が減少する可能性がある。

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エピネフリン早期投与は予後を改善するか?(解説:香坂俊氏)-952

 ブラックジャックなど昔の医療マンガやドラマで、よく緊急事態にカンフル!と医師が叫ぶ場面があった。このカンフルというのは、筆者も使ったことはないのだが、ものの本によると「カンフルとはいわゆる樟脳(しょうのう)であり、分子式C10H16Oで表される二環性モノテルペンケトンの一種」ということで、かつて強心剤や昇圧薬としてよく用いられたとのことである。 現在はエピネフリン(Epinephrine:エピ)の大量生産が可能となったため、このカンフルが用いられることはなくなった。そして、現代のカンフルであるこのエピは四半世紀ほど前からACLSによってその使用法が細かく規定されており、心肺蘇生の現場においては、だいたい1A(1mg)を3~5分ごとに静注投与することとなっている。エピの用量や投与間隔については、実はイヌの実験データを基にして設定されたものなのではあるが、その昇圧効果は目に見えて明らかであったので(血圧はすぐ上がる)、今のところほぼ唯一ACLSに必須の薬剤として幅広く使用されている。 今回のこのPARAMEDIC2試験は、院外での心肺停止例に対する早期の(蘇生現場での)エピ投与の効果を二重盲検(!)ランダム化デザイン(RCT)で検討したものである。この研究は英国で行われたものであるが、いつもながらこうした「究極の状況」であったとしてもRCTを組んでいこうという欧米の姿勢には、絶対に「予後を改善させる!」という強い意志を感じる。 この試験では2014~17年の間に8,014例が登録され、エピ群に4,015例、プラセボ群には3,999例が割り付けられた。その結果は記事にあるとおりだが、●入院までの生存率は、エピネフリン群が23.8%と、プラセボ群の8.0%に比し有意に高かった●が、退院時に良好な神経学的アウトカムを有する生存例の割合は、エピネフリン群が2.2%、プラセボ群は1.9%であり、両群間に有意な差を認めなかった●さらに、退院時に重度神経障害(修正Rankinスケール4~5点)を有する生存例の割合は、エピネフリン群が31.0%と、プラセボ群の17.8%よりも多かったということになる。この解釈は難しいが、筆者にはアミオダロンを巡る一連の臨床試験の結果が想起される。アミオダロンは21世紀初頭の臨床試験で、病院にたどり着くまでの生存率を伸ばしたが(比較対象はリドカイン:ALIVE試験)、その後数年前に行われた臨床試験で、そのことが「良好な神経学的なアウトカムを有する生存」の上昇に明確にはつながらないことが示された(CLEAR!ジャーナル四天王「アミオダロンは効く?効かない?よくわからない?」)。 エピに関しては、おそらく今後院内での使用に関してRCTが行われることは(さすがに)ないかと思うが、やはり使い過ぎということには注意を要する薬剤だということはいえるだろう。このPARAMEDICS2で使用されたエピの量は平均で5mg程度であったとのことだが、このあたりが妥当なセンであり、今後の課題としてはどの程度までSafety Marginを下げずに、エピの投与量を下げられるかということに移っていくのではないだろうか?

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急性心筋梗塞後の心原性ショックに対するエピネフリン vs.ノルエピネフリン【Dr.河田pick up】

 心筋梗塞後の心原性ショックに対して、昇圧薬はある特異的な効果をもたらす可能性があり、それが予後に影響をあたえうる。ノルエピネフリンとエピネフリンは最もよく使われる薬剤ではあるが、無作為化試験でその効果が調べられたことはなく、十分なデータが得られていない。フランス・CHRU NancyのBruno Levy氏らは、心筋梗塞後の心原性ショックにおいて、エピネフリンとノルエピネフリンの効果を比較することを目的に、多施設共同の前向き二重盲検無作為化試験を実施した。Journal of American College of Cardiology誌7月10日号に掲載。18歳以上で、PCIが成功した急性心筋梗塞患者が対象 本試験では、18歳以上で、下記の項目をすべて満たした患者が対象となった。・PCIによる冠動脈の再灌流が成功している・収縮期血圧<90mmHgまたは平均動脈圧<65mmHg・心係数<2.2L/min/m2・肺動脈圧>15mmHgもしくは心エコーによる肺動脈圧上昇・心エコーによるEF<40%・少なくとも1つの組織の低灌流の証拠がある・肺動脈カテーテルが留置されている また、その他の原因でショックを起こしている患者や、体外循環を用いている患者は除外されている。  主要有効評価項目は心係数の改善で、主要安全評価項目は抵抗性の心原性ショックの発生とされた。抵抗性の心原性ショックは持続した低血圧、末梢臓器不全や乳酸値の上昇および高用量の強心薬や昇圧薬の使用と定義された。エピネフリン群で抵抗性ショックの頻度が有意に高く、試験は早期中止 57例の患者がエピネフリン群とノルエピネフリン群の2群に無作為に割り付けられた。主要有効評価項目である心係数の改善は72時間後において2群間で同等であった(p=0.43)。主要安全評価項目に関しては、エピネフリン群で抵抗性ショックの頻度が有意に高かったため(エピネフリン群:10/27[37%] vs.ノルエピネフリン群:2/30[7%];p=0.008)、試験は早期中止となった。心拍数はエピネフリン群で2時間後~24時間後において有意に高くなったが、ノルエピネフリン群では変化がなかった(p<0.0001)。いくつかの代謝に関する変化は、ノルエピネフリン群と比較して、エピネフリン群において好ましくない結果がみられ、たとえば心臓のダブルプロダクト(=収縮期血圧×心拍数)(p=0.0002)と2時間後~24時間後における乳酸値(p

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NOAC併用で大出血リスクが増大する薬/JAMA

 非弁膜症性心房細動で非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)を服用する患者において、アミオダロン、フルコナゾール、リファンピシン、フェニトインの併用は、NOAC単独と比較して、大出血リスクの増大と関連する。台湾・桃園長庚紀念医院のShang-Hung Chang氏らが、台湾の全民健康保険データベースを用いて非弁膜症性心房細動患者計9万1,330例について後ろ向きに分析した結果を報告した。NOACは、代謝経路を共有する薬物と併用して処方される頻度が高く、大出血リスクを高める可能性がある。今回の結果を踏まえて著者は、「NOACを処方する臨床医は、他剤との併用によるリスクの可能性を考慮しなければならない」とまとめている。JAMA誌2017年10月3日号掲載の報告。台湾の非弁膜症性心房細動患者9万1,330例について分析 研究グループは、台湾の全民健康保険データベースを用いて、2012年1月1日~2016年12月31日(最終フォローアップ)の間に、ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバンのNOAC処方を1種以上受けた非弁膜症性心房細動患者9万1,330例を対象に、後ろ向きコホート研究を行った。被験者は、NOAC単独または併用(アトルバスタチン、ジゴキシン、ベラパミル、ジルチアゼム、アミオダロン、フルコナゾール、ケトコナゾール、イトラコナゾール、ボリコナゾール、posaconazole、シクロスポリン、エリスロマイシンまたはクラリスロマイシン、dronedarone、リファンピシン、フェニトイン)投与を受けていた。 主要アウトカムは大出血で、頭蓋内出血、消化管、泌尿器またはその他部位での出血と診断を受けて入院または緊急部門を受診した症例と定義した。 NOAC単独または他剤併用のperson-quarter(暦年の各四半期における各被験者の曝露時間)における大出血の補正後発生率の差を、Poisson回帰分析を用いた推算で評価。また、傾向スコアを用いて治療重み付けの逆数を算出し評価した。アミオダロン、フルコナゾール、リファンピシン、フェニトイン併用で有意に増大 対象の9万1,330例は、平均年齢74.7歳(SD 10.8)、男性55.8%、NOACの処方内訳は、ダビガトラン4万5,347例、リバーロキサバン5万4,006例、アピキサバン1万2,886例であった。 大出血を呈したのは、NOAC処方44万7,037 person-quarterにつき4,770件であった。全person-quarterにおいて、最も併用が多かったのはアトルバスタチン(27.6%)で、ジルチアゼム(22.7%)、ジゴキシン(22.5%)、アミオダロン(21.1%)と続いた。 NOACとアミオダロン、フルコナゾール、リファンピシン、フェニトインとの併用は、NOAC単独と比較し、大出血の補正後発生率比(1,000人年当たり)が有意に増大した。NOAC単独38.09 vs.アミオダロン併用52.04(差:13.94[99%信頼区間[CI]:9.76~18.13])、NOAC単独102.77 vs.フルコナゾール併用241.92(138.46[80.96~195.97])、NOAC単独65.66 vs.リファンピシン併用103.14(36.90[1.59~72.22])、NOAC単独56.07 vs.フェニトイン併用108.52(52.31[32.18~72.44])であった(すべての比較のp<0.01)。 大出血の補正後発生率比は、NOAC単独と比較して、アトルバスタチン(差:-14.38[99%CI:-17.76~-10.99])、ジゴキシン(-4.46[-8.45~-0.47])、エリスロマイシンまたはクラリスロマイシン(-39.78[-50.59~-28.97])の併用群では有意に低下した。 ベラパミル、ジルチアゼム、シクロスポリン、ケトコナゾール、イトラコナゾール、ボリコナゾール、posaconazole、dronedaroneの併用群では有意な差は認められなかった。

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心臓外科手術の急性左室機能不全に対する強心薬レボシメンダンの予防投与は、やはり死亡率を低下しなかった(CHEETAH試験)(解説:原田 和昌 氏)-674

強心薬について知られていること これまで強心薬による生命予後の改善効果は示されていない。ジギタリスとピモベンダンを除き、むしろ心不全の予後を悪化させる。強心薬は短期的には血行動態や臨床所見の改善に有効であるが、心筋酸素需要を増加させ、重篤な不整脈や心筋虚血を生じやすいことから、急性期の低心拍出量、末梢循環不全、ショックにおいて、一時的かつ低用量で使用することが推奨されている。さらに、ドブタミンはβ遮断薬を内服している患者において効果が十分に発揮されない可能性がある。 levosimendan(レボシメンダン)はCa増感作用とATP感受性Kチャネル開口作用を持つことから、拡張障害を起こしにくい血管拡張性強心薬として(最後の?)期待が持たれていた。他のカテコラミンやPDE3阻害薬と比較して心筋酸素需要を増加させずに心拍出量を増加し、抗酸化作用や抗炎症作用、心筋保護作用を持つためである。強心薬levosimendanの心不全に対する効果 LIDO試験やRUSSLAN試験でlevosimendanの有効性が示されたが、REVIVE-II試験では治療早期のBNP値は低下するが90日予後は不良であった。SURVIVE試験は、強心薬の静注投与が必要な急性非代償性心不全患者の長期予後に対する効果を検証した。levosimendan群は、ドブタミン群と比較して治療早期にはBNPの減少も大きく死亡率の抑制傾向がみられたが、30~180日の死亡率は両群間で差がなかった。しかし、levosimendanは、現在60以上の国で使用されている。levosimendanの心臓外科手術後の急性左室機能不全に対する効果 最近のネットワークメタ解析により、levosimendanは心臓外科手術に際して、他の強心薬と比べて最も生存率を改善すると報告された。CHEETAH試験は、術前の左室駆出率が25%未満または機械的な循環動態の補助を必要とする心臓外科周術期の心血管機能不全患者を対象に、低用量levosimendan追加により死亡率が低下するかどうかを検証した試験であるが、30日死亡率に差はみられなかった。60%以上の患者でβ遮断薬が使用されていた。 強心薬は心臓外科手術後の急性左室機能不全の予後を改善しないと考えるべきである。興味深いことに、本試験の平均年齢は66歳であったが、高齢者心不全と同様に、年齢、ヘマトクリット、血圧、脳卒中の既往が予後を規定した(補遺)。しかし、盲検下で急性期に用量調節を行うプロトコールで、低血圧や不整脈の割合、心拍出量にすら両群で差が出なかったことから判断すると、試験デザインにおいて設定用量が低すぎたという可能性は否定できない。

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低心機能合併の開心術に予防的強心薬投与がイベントを減らすか?(解説:絹川 弘一郎 氏)-670

 冠動脈バイパス術や弁膜症の開心術は術前の心機能が低下している例があり、人工心肺による侵襲ともあわせて、周術期に低心拍出量症候群で難渋することがある。ドブタミンをはじめとしたカテコラミンはほぼルーチンでそのような場合に使用されているが、必ずしも心筋保護という観点で良いものとは考えられていない。カテコラミンの心筋に対する好ましくない作用というのは、その強心作用が心筋酸素消費量の増大を常に伴うという点にあると考えられている。また、静注強心薬では不足で、機械的補助循環を余儀なくされるものもあり、低心拍出量症候群を効果的に回避しうる手段が待たれて久しい。そこで、心筋の酸素消費量を増大させずに強心作用を有する薬剤というのが、以前から開発のターゲットとなってきた。その1つがこの試験で使用されたlevosimendanである。 levosimendan自体は1990年代に開発された静注薬で、そんなに新しいものではない。心筋トロポニンCと結合して収縮蛋白のCa2+感受性を高める作用により、細胞内のCa2+の増加もなく、またATP消費も増加させずに(したがって、酸素消費量を増やさずに)より大きな張力を発生できるとされている。Ca2+センシタイザーという呼び方もある。一方で、血管平滑筋細胞のKチャンネルオープナーでもあり、血管を弛緩させるため、後負荷軽減をもたらし、心不全の血行動態改善に貢献するとされる。あわせて、inodilator(強心血管拡張薬)とも呼ばれる。 従来、levosimendanは急性心不全の治療においてドブタミンの代わりになるか、さらにドブタミンより優れた効果があるかが主として検証されてきた。いくつかの小規模な臨床試験では血行動態の改善や短期予後の改善なども示唆されてきたが、 REVIVE II(プラセボと比較)とSURVIVE(ドブタミンと比較)という2つのRCTでそれぞれ90日、180日の予後が改善せず、FDAが認可するに至っていない。わが国でも導入されていないことは周知の通りである。メタ解析では死亡率改善の結果が出ているが、エビデンスの読み方の難しさというか、メタ解析のレベルを問う必要性があると痛感する。 それはさておき、急性心不全の領域ではドブタミンに代わりうるものとの可能性が薄れた後、最初に述べた低心機能症例の開心術における予防投与という観点が注目され始めた。その検証を行ったのがこのLEVO-CTS試験である。対象はプラセボであり、カテコラミンなどを術前に併用することは基本的に主治医判断となっている。術前に割り付けを行い、プラセボまたは実薬の投与は24時間継続する。levosimendanに割り付けられた群では術後の低心拍出量症候群の発症が少なく、強心薬を追加投与する必要のある症例も当然少なかったものの、30日以内の死亡に有意差がなく、術後5日目までの機械的補助を必要とした群を減らすこともできなかったため、levosimendanの予防投与が有効であるとは位置付けられなかった。どうやら、この薬剤は内科治療的にも外科周術期的にも明確な有効性を証明することが難しいようである。 カテコラミンの悪が強調されており、酸素消費量を増やさないこの手の薬剤がいつも話題となる。そして、omecamtiv mecarbilというミオシンアクチベーターが今臨床試験の最中であるが、どうすれば強心作用と予後改善の2つを共に手に入れられるのか、まだ手探り状態である。

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レボシメンダン、心臓手術後の循環動態補助の上乗せ効果なし/NEJM

 心臓外科手術で循環動態の補助を必要とする患者において、標準治療に低用量のlevosimendanを追加しても、30日死亡率はプラセボと同等であることを、イタリア・ビタ・サルート・サンラファエル大学のGiovanni Landoni氏らが、周術期左室機能不全患者を対象に、標準治療へのlevosimendan追加により死亡率が低下するかどうかを検証したCHEETAH試験の結果、報告した。急性左室機能不全は心臓外科手術の重大な合併症であり、死亡率上昇と関連している。これまで、小規模試験のメタ解析では、levosimendanは他の強心薬と比較して心臓外科手術を実施した患者の生存率を上昇させる可能性が示唆されていた。NEJM誌オンライン版2017年3月21日号掲載の報告。標準治療+levosimendanの有効性、対プラセボで評価 CHEETAH試験は、2009年11月~2016年4月にイタリア、ロシア、ブラジルの14施設で実施された多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験である。 対象は、術前の左室駆出率が25%未満または機械的な循環動態の補助を必要とする周術期心血管機能不全患者で、標準治療+levosimendan(0.025~0.2μg/kg/分、持続静注)群、または標準治療+プラセボ群に無作為に割り付け、それぞれ最長48時間または集中治療室(ICU)入室から退室まで投与した。 主要アウトカムは30日死亡率で、統計解析はintention-to-treat集団で実施した。主要アウトカムの30日死亡率は12.9% vs.12.8%で有意差なし 本試験は、506例(levosimendan群248例、プラセボ群258例)が登録された段階(当初予定の50%)での解析で、試験続行の無益性が確認されて中止となった。試験の計画段階での予想死亡率は、プラセボ群10%、levosimendan群5%であった。 解析の結果、30日死亡率は、levosimendan群32例(12.9%)、プラセボ群33例(12.8%)で、両群間に有意差は認められなかった(絶対リスク差:0.1%、95%信頼区間[CI]:-5.7~5.9、p=0.97)。 人工呼吸器使用期間中央値(levosimendan群19時間、プラセボ群21時間、群間差:-2時間、95%CI:-5~1、p=0.48)、ICU在室期間中央値(それぞれ72時間および84時間、群間差:-12時間、95%CI:-21~2、p=0.09)、入院期間中央値(14日および14日、群間差:0日、95%CI:-1~2、p=0.39)も、両群で有意差は確認されなかった。また、低血圧や不整脈の割合も両群で差はなかった。

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ミオシンアクティベータは予後を改善する初の経口強心薬たりうるか?(解説:絹川 弘一郎 氏)-628

 収縮力の低下した心不全を治療するとき、誰しもまず考えるのは収縮力を元に戻すことができれば、ないしは少しでも収縮力を高めれば、心不全症状は良くなるであろうということである。それは確かにその通りで、いわゆる強心薬は経口薬も静注薬もたくさん開発されてきて、とくに静注強心薬は常に急性心不全の低心拍出量を伴う患者の治療の最前線に位置してきた。ところが、収縮不全の治療は、これを慢性に継続するとすべからく予後が悪い、すなわち患者が死亡するという事態が生じることがわかって以来、急性期から慢性期にかけて収縮力という観点ではまったく逆の治療を施すというparadoxicalな、そして誤解を恐れずにいえば面倒なことになって20年近くが経つ。β遮断薬という少なくとも薬理学的には収縮力を落とすはずの薬剤を長期(数ヵ月から1年)投与していくと左心室の容量が減少し、収縮力が増加する。いわゆるリバースリモデリングを伴うことも現象として記述されて久しいが、心拍数の減少のみで説明できるほど単純ではないと思っているのは筆者だけではないであろう。 前置きはこのくらいにして、収縮力を増強させる強心薬はこれまでの薬剤はすべて心筋のCa濃度を上昇させる機序に基づくものであり、多くの場合、心拍数の増加も伴った。Ca濃度の増加は、心筋細胞内のシグナリングにおいて好ましからざる影響を与えることは心筋細胞の肥大のメカニズムの研究からもすでに明らかであり、Ca濃度の増加を伴わない強心薬ならば悪影響を排して強心効果のみで長期的な使用に耐えうるのではないかと考えられてきた。心筋の収縮は、ミオシンとアクチンのクロスブリッジによって引き起こされるものであり、omecamtiv mecarbilはミオシンと結合して力を発生する段階にあるアクトミオシン結合状態を増加させることで、Ca濃度を変化させずに収縮力を増強させると考えられる。この薬剤を慢性収縮不全LVEF<40%の患者に投与してプラセボ対象の下、20週後のサロゲートマーカーの動向をみたのがCOSMIC-HF試験である。一定の血中濃度で明確な強心作用が発揮されるという以前の研究を基に、血中濃度をモニタリングして投与用量の調節を行う一群も設定された。 サロゲートマーカーは、心エコーによる駆出時間、左室容積、NT-proBNP、心拍数などであり、血中濃度をモニタリングして用量調節する群でより明確に左心室のリバースリモデリングと心拍数の低下が認められた。この2つはまさにβ遮断薬での変化と同様であり、サロゲートマーカーの変化が生命予後の改善と密にリンクしているならば、この薬剤でも生命予後の改善が得られる可能性がある。この作用はほぼ全例にβ遮断薬を投与したうえでのものであり、まったくもって上乗せ効果であるといえる。今後は、用量調節をするプロトコルで大規模な生命予後をエンドポイントにした第III相試験が計画されるであろう。ただし、サロゲートマーカーだけ模倣しても予後は改善しないという結果が得られる可能性もある。この意味で、真に重要なことがなんであるかを知らしめてくれる可能性のある試験ともいえ、omecamtiv mecarbilの予後改善効果があるのかないのか、興味深く今後を見届けたい。

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急性心筋梗塞後の心原性ショックに対する循環サポートの比較―Impella vs.IABP

 治療の進歩にもかかわらず、急性心筋梗塞による心原性ショックの死亡率は依然高いままである。短期間の循環補助デバイスは急性期の血行動態を改善するもので、大動脈内バルーンパンピング(IABP)は過去数十年にわたって最も広く使用されてきたが、急性心筋梗塞後の心原性ショックに対する有用性は、大規模ランダム化試験では明らかになっていない。一方、Impellaは新しい循環補助デバイスで、IABPよりも強力な血行動態の補助をもたらす。今回、オランダの施設が、急性心筋梗塞後の心原性ショックに対して、IABPとImpellaの前向きランダム化比較試験を実施した。Journal of the American College of Cardiology誌オンライン版2016年11月号に掲載。IABPもしくはImpella CPを使用し、30日後の死亡率を比較 本研究は多施設共同による、オープンラベル前向きランダム化試験で、48例の急性心筋梗塞に伴う重症心原性ショック患者をImpella CP(24例)とIABP(24例)に割り付け、Impella CPがIABPと比較して、ST上昇急性心筋梗塞による心原性ショックを有する患者の30日での予後を改善するかを評価する目的として行われた。 Impellaには、Impella 2.5(最高拍出量2.5L/分)、Impella CP(最高拍出量3.7L/分)、Impella 5.0、Impella LD(共に最高拍出量 5.0L/分)などがあるが、今回は、大腿動脈から経皮的に標準的なカテーテル操作で留置可能で、より高い心拍出量を生みだすImpella CPが用いられた。 なお、収縮期血圧が90mmHg未満、強心剤あるいは血管作動薬を必要とし、人工呼吸器が必要となった場合を、重症心原性ショック状態と定義した。主要評価項目は、30日以内の全死亡率とした。また、全例においてprimary PCI(経皮的冠動脈形成術)が施行された。30日後の死亡率は両群で同等 30日後の時点で、IABP、Impella CP両群における死亡率は同等であった(50% vs.46%、ハザード比[HR] :Impella CP群で0.96、95%信頼区間[CI]:0.42~2.18、p=0.92)。6ヵ月の時点では、Impella CP群およびIABP群の死亡率は、共に50%であった(HR:1.04、95%CI; 0.47~2.32、p=0.923)。なお、IABP群のうち3例において、無作為化後にImpellaへのアップグレードが行われている。 急性心筋梗塞後に人工呼吸器を必要とする心原性ショックを発症した患者を対象とした本研究では、ルーチンにImpella CP を使用した治療は、IABPと比較して、30日での死亡率を減少させなかった。筆者らは、本研究は小規模であり、Impellaの本当の価値を評価するにはより大規模なランダム化試験が必要だとしている。(カリフォルニア大学アーバイン校 循環器内科 河田 宏)原著論文Ouweneel DM, et al. J Am Coll Cardiol. 2016 Oct 27.[Epub ahead of print]関連コンテンツ循環器内科 米国臨床留学記

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特発性拡張型心筋症〔DCM : idiopathic dilated cardiomyopathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義拡張型心筋症(idiopathic dilated cardiomyopathy: DCM)は、左室の拡張とびまん性の収縮障害を特徴とする進行性の心筋疾患である。心不全の急性増悪を繰り返し、やがて、ポンプ失調や致死性不整脈により死に至る。心筋症類似の病像を呈するが、病因が明らかで特定できるもの(虚血性心筋症や高血圧性心筋症など)、全身疾患との関連が濃厚なもの(心サルコイドーシスや心アミロイドーシスなど)は特定心筋症と呼ばれ、DCMに含めない。■ 疫学厚生省特発性心筋症調査研究班による1999年の調査では、わが国における推計患者数は約1万7,700人、有病率は人口10万人あたり14.0人、発症率は人口10万人あたり3.6人/年とされる。男女比は2.5:1で男性に多く、年齢分布は小児から高齢者まで幅広い。■ 病因DCMの病因は一様ではない。一部のDCMの発症には、遺伝子異常、ウイルス感染、自己免疫機序が関与すると考えられているが、その多くがいまだ不明である。1)遺伝子異常DCMの20~30%程度に家族性発症を認めるが、孤発例でも遺伝要因が関与するものもある。心機能に関与するどのシグナル伝達経路が障害を受けても発症しうると考えられており、心筋のサルコメア構成蛋白や細胞骨格蛋白をコードする遺伝子異常だけでなく、Caハンドリング関連蛋白異常の報告もある。2)ウイルス感染心筋生検検体の約半数に、何らかのウイルスゲノムが検出される。コクサッキーウイルス、アデノウイルス、C型肝炎ウイルスなどのウイルスの持続感染が原因の1つとして示唆されている。3)自己免疫機序βアドレナリン受容体抗体や抗Caチャネル抗体といったさまざまな抗心筋自己抗体が、患者血清に存在することが判明した。DCMの発症・進展に自己免疫機序が関与する可能性が指摘されている。■ 症状本疾患に疾患特異的な症状はない。初期には無症状のことが多いが、病状の進行につれて、労作時息切れ、易疲労感、四肢冷感などの左心不全症状を認めるようになり、運動耐容能は低下する。また、動悸、心悸亢進、胸部不快感といった頻脈・不整脈に伴う症状を訴えることもある。一般には、低心拍出所見よりもうっ血所見が前景に立つことが多い。両心不全へ至ると、全身浮腫、頸静脈怒張、腹水などの右心不全症状が目立つようになる。右心機能が高度に低下している重症例では、左心への灌流低下から、肺うっ血所見を欠落する例があり、重症度判断に注意を要する。■ 予後一般に、DCMは進行性の心筋疾患であり、予後は不良とされる。5年生存率は、1980年代には54%と低かったが、最近では70~80%にまで改善したとの報告もある。標準的心不全治療法が確立し、ACE阻害薬、β遮断薬、抗アルドステロン薬といった心筋保護薬の導入率向上がその主たる要因と考えられている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)DCMの診断は、特定心筋症の除外診断を基本とすることから、二次性心筋症を確実に除外することがDCMの診断に直結する。■ 身体所見一般に、収縮期血圧は低値を示すことが多く、脈圧は小さい。聴診所見では、心尖拍動の左方偏移、ギャロップリズム(III・IV音)、心雑音および肺ラ音の聴取が重要である。■ 胸部X線多くの症例で心陰影は拡大するが、心胸郭比は低圧系心腔の大きさに依存するため、正常心胸郭比による本疾患の除外はできない。心不全増悪期には、肺うっ血像や胸水貯留を認める。Kerley B line、peribronchial cuffingが、肺間質浮腫所見として有名である。■ 心電図疾患特異度の高い心電図所見はない。ST-T異常、異常Q波、QRS幅延長、左室側高電位、脚ブロック、心室内伝導障害など、心筋病変を反映した多彩な心電図異常を呈する。また、心筋障害が高度になると、不整脈を高頻度に認めうる。■ 血液生化学検査心不全の重症度を反映し、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)や脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)およびその前駆体N末端フラグメントであるNT-proBNPの上昇を認める。また、交感神経活性の指標である血中カテコラミンや微小心筋障害を示唆するとされる高感度トロポニンも上昇する。低心拍出状態が進行すると、腎うっ血、肝うっ血を反映し、クレアチニンやビリルビン値の上昇を認める。■ 心エコー検査通常、びまん性左室収縮障害を認め、駆出率は40%以下となる。心リモデリングの進行に伴い、左室内腔は拡張し、テザリングや弁輪拡大から機能性僧帽弁逆流の進行をみる。最近では、僧帽弁流入血流や組織ドップラー法を用いた拡張能の評価、組織ストレイン法を用いた収縮同期性の評価など、より詳細な検討が可能になっている。■ 心臓MRI検査シネMRIによる左室容積や駆出率計測は、信頼度が高い。ガドリニウムを用いた心筋遅延造影パターンの違いによるDCMと虚血性心筋症との鑑別が報告されており、心筋中層に遅延造影効果を認めるDCM症例では、心イベントの発生率が高く、予後不良とされる。■ 心筋シンチグラフィ123I-MIBGシンチグラフィによる交感神経機能評価では、後期像での心臓集積(H/M比)の低下や洗い出し率の亢進を認める。201Tlあるいは99mTc製剤を用いた心筋シンチグラフィでは、patchy appearanceと呼ばれる小欠損像を認め、その分布は、冠動脈支配に一致しない。心電図同期心筋SPECTを用いて、左室容積や駆出率も計測可能である。■ 心臓カテーテル検査冠動脈造影は、冠血管疾患、虚血性心筋症の除外を目的として施行される。血行動態の評価目的に、左室内圧測定や左室造影による心収縮能評価、肺動脈カテーテルを用いた右心カテーテル検査も行われる。左室収縮能(最大微分左室圧: dP/dtmax)の低下、左室拡張末期圧・肺動脈楔入圧の上昇、心拍出量低下を認める。■ 心筋生検DCMに特異的な病理組織学的変化は確立されていない。典型的には、心筋細胞の肥大、変性、脱落と間質の線維化を認める。心筋炎や心サルコイドーシス、心ファブリー病などの特定心筋症の除外目的に行われることも多い。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)DCMに対する根本的な治療法は確立していない。そのため、(1) 心不全、(2) 不整脈、(3) 血栓予防を治療の根幹とする。左室駆出率の低下を認めるため、収縮機能障害を伴う心不全の治療指針に準拠する。■ 心不全の治療1)心不全の生活指導生活習慣の是正を基本とする。適切な水分・塩分摂取量および栄養摂取量の教育、適切な運動の推奨、禁煙、感染予防などが指導すべきポイントとされる。2)薬物療法収縮機能障害を伴う心不全の治療指針に準拠し、薬剤を選択する。心臓のリバースリモデリングおよび長期予後改善効果を期待し、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬あるいはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)といったレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬とβ遮断薬、抗アルドステロン薬を導入する。原則として、β遮断薬は、カルベジロールあるいはビソプロロールを用い、忍容性のある限り、少量より漸増する。さらに、うっ血症状に応じて、利尿薬の調節を行う。急性増悪期には、入院下に、強心薬・血管拡張薬といったより高度な点滴治療を行う。3)非薬物療法(1)心室再同期療法(CRT)左脚ブロックなど、心室の収縮同期不全を認める症例に対し、心室再同期療法が行われる。除細動機能を内蔵したデバイス(CRT-D)も普及している。心拍出量の増加や肺動脈楔入圧の低下、僧帽弁逆流の減少といった急性期効果だけでなく、慢性期効果としての心筋逆リモデリング、予後改善が報告されている。CRTによる治療効果の乏しい症例(non-responder)も一定の割合で存在することが明らかになっており、その見極めが課題となっている。(2)陽圧呼吸療法、ASVわが国では、心不全患者に対するASV(adaptive servo ventilation)換気モード陽圧呼吸療法の有用性が多く報告されており、自律神経活性の改善、不整脈の減少、運動耐容能およびQOLの向上、心および腎機能の改善などが期待されている。しかし、海外で行われた大規模臨床試験ではこれを疑問視する研究結果も出ており、いまだ議論の余地を残す。(3)心臓リハビリテーション“包括的心臓リハビリテーション”の概念のもと、運動のみならず、薬剤、栄養、介護など各領域からの多職種介入による全人的心不全管理が急速に普及している。(4)和温療法遠赤外線均等温乾式サウナを用いた低温サウナ療法が、心不全患者に有用であるとの報告がある。心拍出量の増加、前負荷軽減、肺動脈楔入圧の低下といった急性効果のみならず、慢性効果として、末梢血管内皮機能の改善、心室性不整脈の減少も報告されている。(5)僧帽弁形成術・置換術、左室容積縮小術高度の僧帽弁逆流を伴うDCM例では、僧帽弁外科的手術を考慮する。しかしながら、その有効性は議論の余地を残すところであり、左室容積縮小術の1つに有名なバチスタ手術があるが、中長期的に心不全再増悪が多いことから、最近は推奨されない。(6)左室補助人工心臓(LVAD)重症心不全患者において、心臓移植までの橋渡し治療、血行動態の安定を目的として、LVAD装着が考慮されうる。2011年以降、わが国でも植込型LVADが使用可能となり、装着患者のQOLが格段に向上した。現在、植込型LVAD装着下に長期生存を目指す“destination therapy”の是非に関する議論も始まっており、今後、重症心不全治療の選択肢の1つとして臨床の場に登場する日も近いかもしれない。しかし、ここには医学的見地のみならず、医療倫理や医療経済、日本人の死生観も大きく関わっており、解決すべき課題も多い。(7)心臓移植重症心不全患者の生命予後を改善する究極の治療法である。わが国における原疾患のトップはDCMである。不治の末期的状態にあり、長期または繰り返し入院治療を必要とする心不全、β遮断薬およびACE阻害薬を含む従来の治療法ではNYHA3度ないし4度から改善しない心不全、現存するいかなる治療法でも無効な致死的重症不整脈を有する症例が適応となる。(8)緩和医療高齢化社会の進行につれ、有効な治療効果の得られない末期心不全患者へのサポーティブケアが、近年注目されつつある。このような患者のエンドオブライフに関し、今後、多職種での議論・検討を重ねていく必要がある。■ 不整脈の治療致死性不整脈の同定と予防が重要となる。DCMによる心筋障害を基盤として発生し、心不全増悪期により出現しやすい。また、電解質異常も発生要因の1つである。そのため、心不全そのものの治療や不整脈誘発因子の是正が必要である。DCMにおける不整脈治療には、アミオダロンがよく使用される。カテーテルアブレーションが選択されることもあるが、確実に突然死を予防できる治療手段は植込型除細動器(ICD)であり、症候性持続性心室頻拍や心室細動既往を有する心不全患者の二次予防あるいは一部の心不全患者の一次予防を目的として適応が検討される。また、心房細動も高率に合併する。これまでリズムコントロールとレートコントロールで死亡率に差はないと考えられてきたが、近年これを否定するメタアナリシス結果もでており、さらなる研究結果が待たれる。■ 血栓予防治療非弁膜症性心房細動合併例では、ワルファリンのみならず、新規経口抗凝固薬の使用が考慮される。また、左室駆出率30%以下の低心機能例では、心腔内血栓の予防目的に抗凝固療法が望ましいとされるが、新規経口抗凝固薬の適応はなく、ワルファリンが選択される。4 今後の展望現在のところ、確立された根本治療法のないDCMにおける究極の治療法は、心臓移植であるが、わが国では、深刻なドナー不足により汎用性の高い治療法としての普及にはほど遠い。そのため、自己の細胞あるいは組織を用いた心筋再生治療の研究・臨床応用が進められている。しかしながら、安全な再生医療の確立には、倫理面などクリアすべき課題も多く、医用工学技術を応用した高性能・小型化した人工機器の開発研究も進められている。5 主たる診療科循環器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 特発性拡張型心筋症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)友池仁暢ほか. 拡張型心筋症ならびに関連する二次性心筋症の診療に関するガイドライン. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009−2010年度合同研究班報告).2)奥村貴裕, 室原豊明. 希少疾患/難病の診断・治療と製品開発. 技術情報協会; 2012:pp1041-1049.3)奥村貴裕. 心不全のすべて.診断と治療(増刊号).診断と治療社;2015:103.pp.259-265.4)松崎益徳ほか. 慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版).循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009年度合同研究班報告).5)許俊鋭ほか. 重症心不全に対する植込型補助人工心臓治療ガイドライン.日本循環器学会/日本心臓血管外科学会合同ガイドライン(2011-2012年度合同研究班報告).公開履歴初回2014年11月27日更新2016年05月31日

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最も多く「いいね!」を集めたのはこれ!【2015年 Facebookいいね!年間ランキング】

2015年にCareNet.comに掲載した医療ニュースの中でFacebookの「いいね!」が多かった記事、トップ30を発表します。最新の医学情報はもちろん、飲食や睡眠にまつわるエビデンス、生活習慣とがんリスクなど、私たち自身の健康に関わるテーマの記事が多くランクインしました。1位音楽療法が不眠症に有用(2015/9/8)2位本当だった!? 血液型による性格の違い(2015/6/2)3位緑茶やコーヒーで胆道がんリスクは減少するか~日本のコホート研究(2015/11/12)4位かかりつけ機能を基に薬局を地域の健康窓口へ~「健康情報拠点薬局」第2回検討会(2015/6/24)5位膝OAに陸上運動療法は有効(2015/2/3)6位コーヒー摂取量と死亡リスク~日本人9万人の前向き研究(2015/5/11)7位なんと!血糖降下薬RCT論文の1/3は製薬会社社員とお抱え医師が作成(解説:桑島 巖氏)(2015/7/14)8位心房細動へのジゴキシン、死亡増大/Lancet(2015/3/30)9位脳梗塞の発症しやすい曜日(2015/4/3)10位片頭痛の頻度と強度、血清脂質と有意に相関(2015/10/13)11位周術期の音楽が術後の疼痛・不安を軽減/Lancet(2015/8/24)12位抗認知症薬の脳萎縮予防効果を確認:藤田保健衛生大(2015/8/13)13位新しいがん免疫療法、これまでと何が違う?~肺がん医療向上委員会(2015/8/4)14位少量飲酒でも発がんリスクは上昇する?/BMJ(2015/9/1)15位夫の喫煙で乳がんリスクが増大~高山スタディ(2015/2/9)16位心肺蘇生への市民介入で後遺症のない生存が増大/JAMA(2015/8/7)17位長時間労働は、冠動脈心疾患よりも脳卒中のリスクを高める/Lancet(2015/8/31)18位認知症患者への睡眠薬投与、骨折に注意(2015/7/1)19位腰痛は患者の心身を悪化させ医療費を増やす:日本発エビデンス(2015/3/27)20位肺がん患者が禁煙したときの延命効果は?(2015/7/2)21位社会生活の「生きにくさ」につながる大人のADHD(2015/9/16)22位唐辛子をほぼ毎日食べると死亡リスク低下/BMJ(2015/8/17)23位長時間労働は多量飲酒につながる/BMJ(2015/1/26)24位アルコール摂取とがんリスク、用量依存的に関連(2015/10/14)25位慢性疼痛 患者の性差を考慮した対処を(2015/5/1)26位脱毛症の人はあのリスクが上昇(2015/1/21)27位失明患者の視覚を回復、人工網膜システムが欧米で初承認(2015/8/26)28位統合失調症への集団精神療法、効果はどの程度か(2015/6/24)29位糖質制限食と糖尿病リスク:日本初の前向き研究(2015/2/27)30位魚をよく食べるほど、うつ病予防に:日医大(2015/7/1)

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2015年、最も読まれた「押さえておくべき」医学論文は?【医療ニュース 年間ランキングTOP30】

2015年も、4大医学誌の論文を日本語で紹介する『ジャーナル四天王』をはじめ、1,000本以上の論文をニュース形式で紹介してきました。その中で、会員の先生方の関心が高かった論文は何だったのでしょう?アクセス数順にトップ30を発表します!1位本当だった!? 血液型による性格の違い(2015/6/2)2位脳梗塞の発症しやすい曜日(2015/4/3)3位心房細動へのジゴキシン、死亡増大/Lancet(2015/3/30)4位緑茶で死亡リスクが減る疾患(2015/4/30)5位学会発表後になぜ論文化しない?(2015/3/3)6位食道がんリスクが高い職業(2015/2/4)7位「朝食多め・夕食軽く」が糖尿病患者に有益(2015/3/4)8位アルツハイマー病への薬物治療、開始時期による予後の差なし(2015/10/28)9位片頭痛の頻度と強度、血清脂質と有意に相関(2015/10/13)10位パートナーがうつ病だと伝染するのか(2015/5/14)11位コーヒー摂取量と死亡リスク~日本人9万人の前向き研究(2015/5/11)12位長時間労働は多量飲酒につながる/BMJ(2015/1/26)13位急性虫垂炎は抗菌薬で治療が可能か?/JAMA(2015/6/30)14位2型糖尿病と関連するがんは?/BMJ(2015/1/23)15位脳梗塞と脳出血の発症しやすい季節(2015/10/19)16位胃がん切除予定例のピロリ除菌はいつすべき?(2015/7/16)17位ジゴキシンは本当に死亡を増大するのか/BMJ(2015/9/14)18位甘くみていませんか、RSウイルス感染症(2015/10/9)19位認知症、早期介入は予後改善につながるか(2015/2/6)20位肺炎球菌ワクチン 接種間隔はどのくらい?(2015/4/22)21位新規経口抗凝固薬の眼内出血リスク、従来薬との比較(2015/8/12)22位5歳までのピーナッツ摂取でアレルギー回避?/NEJM(2015/3/9)23位軽度認知障害からの進行を予測する新リスク指標(2015/1/7)24位若白髪のリスク因子(2015/1/19)25位社会生活の「生きにくさ」につながる大人のADHD(2015/9/16)26位内科診療「身体診察」の重要性を再認識(2015/6/5)27位性別で異なる、睡眠障害とうつ病発症の関連:東京医大(2015/8/20)28位心不全患者へのASV陽圧換気療法は死亡を増大/NEJM(2015/9/18)29位低GI食、インスリン感受性や収縮期血圧を改善せず/JAMA(2015/1/5)30位唐辛子をほぼ毎日食べると死亡リスク低下/BMJ(2015/8/17)

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英国プライマリケアでの処方の安全性、施設間で差/BMJ

 英国一般診療所の代表サンプル526施設を対象に処方の安全性について調べた結果、患者の約5%に不適切処方がみられ、また約12%でモニタリングの記録が欠如していることが、英国・マンチェスター大学のS Jill Stocks氏らによる断面調査の結果、明らかになった。不適切処方のリスクは、高齢者、多剤反復処方されている患者で高く、著者は、「プライマリケアにおいて、とくに高齢者と多剤反復投与患者について処方のリスクがあり適切性について考慮すべきであることが浮かび上がった」と述べている。英国では、プライマリケア向けに処方安全指標(prescribing safety indicator)が開発されているが、これまで試験セットでの検討にとどまり、大規模なプライマリケアデータベースでの評価は行われていなかった。BMJ誌オンライン版2015年11月3日号掲載の報告。英国一般診療所526施設のデータを分析 研究グループは、英国一般診療所における複数タイプの潜在的有害処方の有病率を調べ、また診療所間にばらつきがあるかどうかについて調べた。2013年4月1日時点でClinical Practice Research Datalink(CPRD)に登録された526施設において、診断と処方の組み合わせで特定した潜在的処方リスクやモニタリングエラーの可能性がある全成人患者を包含した。 主要アウトカムは、抗凝固薬、抗血小板薬、NSAIDs、β遮断薬、glitazone(チアゾリジン系糖尿病薬:TZD)、メトホルミン、ジゴキシン、抗精神病薬、経口避妊薬(CHC)、エストロゲンの潜在的に有害な処方率。また、ACE阻害薬およびループ利尿薬、アミオダロン、メトトレキサート、リチウム、ワルファリンの反復処方患者の、血液検査モニタリングの頻度が推奨値よりも低いこととした。不適切処方、モニタリング欠如は指標によりばらつき、診療所間のばらつきも高い 全体で94万9,552例のうち4万9,927例(5.26%、95%信頼区間[CI]:5.21~5.30%)の患者が、少なくとも1つの処方安全指標に抵触した。また、18万2,721例のうち2万1,501例(11.8%、11.6~11.9%)が、少なくとも1つのモニタリング指標に抵触した。 同処方率は、潜在的処方リスクタイプの違いでばらつきがみられ、ほぼゼロ(静脈または動脈血栓症歴ありでCHC処方:0.28%、心不全歴ありでTZD処方:0.37%)のものから、10.21%(消化器系潰瘍または消化管出血歴ありで消化管保護薬処方なし、アスピリンやクロピドグレル処方あり)にわたっていた。 不十分なモニタリングは、10.4%(75歳以上、ACE阻害薬やループ利尿薬処方、尿素および電解質モニタリングなし)から41.9%(アミオダロン反復処方、甲状腺機能検査なし)にわたっていた。 また、高齢者、多剤反復処方患者で、処方安全指標の抵触リスクが有意に高かった一方、若年で反復処方が少ない患者で、モニタリング指標の抵触リスクが有意に高かった。 さらに、いくつかの指標について診療所間での高いばらつきもみられた。 なお研究グループは、処方安全性指標について、「患者への有害リスクを増大する回避すべき処方パターンを明らかにするもので、臨床的に正当なものだが例外も常に存在するものである」と述べている。さらに、検討結果について「いくつかの診療について、CPRDで捕捉できていない情報がある可能性もあった(ワルファリンを投与されている患者のINRなど)」と補足している。

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ジゴキシンは本当に死亡を増大するのか/BMJ

 ジゴキシン(商品名:ジゴシンほか)使用と死亡との関連は認められず、一方で入院減少との関連が認められたことを、英国・バーミンガム大学循環器サイエンスセンターのOliver J Ziff氏らが報告した。ジゴキシンは心不全患者の症状軽減や心房細動患者の心拍数コントロールに用いられる頻度が高いが、最近の観察研究で死亡増大との関連が指摘されていた。研究グループは、すべての観察研究、無作為化試験を対象に試験デザインや方法を考慮しつつ、ジゴキシンの死亡および臨床的アウトカムへの影響を明らかにするシステマティックレビューとメタ解析を行った。BMJ誌オンライン版2015年8月30日号掲載の報告。ジゴキシン vs.対照の比較試験をシステマティックレビュー、メタ解析 ジゴキシンの安全性と有効性に関する本検討は、Medline、Embase、Cochrane Libraryおよび参照リスト、さらに現在進行中の前向き試験(PROSPEROデータベースに登録)を検索して行われた。1960年~2014年7月に発表され、ジゴキシンと対照(プラセボまたは無治療)を比較検討した試験を適格とした。 未補正および補正済みデータを、試験デザイン、解析方法、リスクバイアス別にプール。ランダム効果モデルを用いたメタ解析法で、主要アウトカム(全死因死亡)、副次アウトカム(入院など)を評価した。死亡への影響はベースライン差によるもの システマティックレビューにより52試験、被験者62万1,845例が包含された。被験者は、ジゴキシン使用者が対照よりも2.4歳年上で(加重差95%信頼区間[CI]:1.3~3.6)、駆出率が低く(33% vs.42%)、糖尿病者が多く、利尿薬と抗不整脈薬の服用数が多かった。 メタ解析には75件の解析試験(未補正33件、補正後22件、傾向適合13件、無作為化7件)が含まれ、総計400万6,210人年のフォローアップデータが組み込まれた。 結果、対照と比べて、ジゴキシンのプール死亡リスク比は、未補正解析試験データ群で1.76(1.57~1.97)、補正後解析試験データ群で1.61(1.31~1.97)、傾向適合解析試験データ群で1.18(1.09~1.26)、無作為化対照試験データ群で0.99(0.93~1.05)であった。 メタ回帰分析により、ジゴキシンと関連した死亡への有意な影響は、利尿薬使用といった心不全重症度マーカーなど(p=0.004)治療群間のベースライン差によるものであることが確認された。 方法論が良好で、バイアスリスクが低い試験は、ジゴキシンと死亡についてより中立的であると報告する傾向が有意にみられた(p<0.001)。 全試験タイプにわたって、ジゴキシンは、わずかだが有意に、あらゆる要因による入院の減少と関連していた(リスク比:0.92、0.89~0.95、p<0.001、2万9,525例)。 結果を踏まえて著者は、「ジゴキシンは、無作為化試験において死亡との関連は中立的であることが認められ、また全タイプの試験で入院の減少と関連していた」とまとめ、「観察試験でみられたジゴキシンと有害転帰との関連は、ジゴキシン処方を原因とするものではなく、統計的補正によっても軽減されない交絡因子によるものと思われる」と述べている。

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歴史的なジギタリスと心房細動:ROCKET-AF試験(解説:後藤 信哉 氏)-338

 筆者の世代の循環器医にとって、ジギタリスはなじみの深い薬物である。学生のころ、ジギタリスは南米の矢毒から分離されたと教わったが、本当であるか否かを確認していない。筆者の世代にとって、心不全治療の唯一の選択ともいえる時代があった。ジギタリスは房室伝導を阻害するので、頻拍性不整脈に対しても広く使用されていた。また心房細動症例に対しても、脈拍コントロールのための主要薬剤であった。 心不全症例にジギタリスを使用しても効果がないとの報告はあった。それでも筆者の世代の循環器医は、若い時代からの慣習によりジギタリスを広く使用している。慢性心房細動の心拍コントロールにも実臨床ではいまだに広く使用されている。 今回発表されたROCKET-AFのデータベースでも、心房細動症例の37%がジギタリスを使用している実態を示した。ランダム化比較試験に登録される症例は、厳密な症例登録基準と除外基準を満たし、いわゆる治験慣れした施設からの特殊な症例サンプルである。また、ROCKET-AF試験の目的はPT-INR 2~3のワルファリン治療と、1日20mgを標準用量とするリバロキサバンの脳卒中・全身塞栓症予防効果の差異の有無の検証であって、死亡は2次エンドポイントにすぎない。そのため、本サブ解析はLancetというインパクトファクターの高い雑誌に発表され、統計解析はそれなりに充実しているが、発表された結果が実臨床に応用可能であるか否かの判断には、慎重になる必要がある。 ROCKET-AFに登録されたCHADS2 score 2点以上の非弁膜症性心房細動症例は、年間100例当たり4例以上が死亡する、死亡リスクの高い集団である。ジゴキシン使用と総死亡、血管死亡、突然死の増加も興味ある課題であるが、死亡に関するサブ解析が可能なほど死亡リスクの高い患者集団において、死亡率よりも低い脳卒中・全身塞栓症が1次エンドポイントであった事実を、臨床家は再認識する必要がある。非弁膜症性心房細動の症例を見たら、とくに抗凝固療法をしている症例では近未来の死亡リスクにこそ、注意を向ける必要があるのだ。

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心房細動へのジゴキシン、死亡増大/Lancet

 心房細動(AF)患者へのジゴキシン(商品名:ジゴシンほか)治療は、全死因死亡、血管系による死亡、および突然死の有意な増大と関係していることが、Jeffrey B Washam氏らが行ったROCKET AF被験者データの後ろ向き分析で示された。関連は、他の予後因子とは独立しており、著者は「残余交絡の影響の可能性も示唆されたが、ジゴキシンの影響の可能性が示された。心不全あり・なしのAF患者で、ジゴキシン治療の無作為化試験を行う必要がある」と報告している。ジゴキシンは、無作為化試験のデータが不足しているにもかかわらずAF患者に広く使われている。Lancet誌オンライン版2015年3月5日号掲載の報告。ROCKET AF被験者データを後ろ向きに分析 ROCKET AF試験は、AF患者の脳卒中および血栓塞栓症の予防についてリバーロキサバン(商品名:イグザレルト)vs. ビタミンK拮抗薬を検討した多施設共同無作為化試験であった。被験者は45ヵ国で登録され、AF歴およびそのリスク因子相当の中等度~重度の脳卒中リスクを有していた。心不全の有無は問わなかった。 研究グループは、ベースラインおよび試験中のジゴキシン使用状況で患者を包含・層別化し、ジゴキシン使用と有害心血管アウトカムの関連を調べた。 Cox比例ハザード回帰モデルを用いて、ベースライン特性、使用薬剤で補正後、ジゴキシンと全死因死亡、血管系による死亡、突然死との関連を調べた。使用患者は全死因死亡、血管系死亡、突然死が有意に増大 無作為化を受けた1万4,171例のうち、ベースラインでジゴキシン使用が認められたのは5,239例(37%)であった。 分析の結果、ジゴキシン使用患者は、女性が多く(42% vs. 38%)、また心不全(73% vs. 56%)、糖尿病(43% vs. 38%)、持続性AF(88% vs. 77%)既往者が多い傾向がみられた(それぞれ比較のp<0.0001)。 補正後、ジゴキシンと、全死因死亡の増大(100患者年当たり発生5.41例vs. 4.30例、ハザード比[HR]:1.17、95%信頼区間[CI]:1.04~1.32、p=0.0093)、血管系による死亡の増大(同:3.55例vs. 2.69例、1.19、1.03~1.39、p=0.0201)、突然死の増大(同:1.68例vs. 1.12例、1.36、1.08~1.70、p=0.0076)が認められた。

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ICDの初移植、除細動テストなしでも転帰同等/Lancet

 植込み型除細動器(ICD)の初移植の際、除細動テストを実施しなくても、実施した場合と比べて、その後のアウトカムについて非劣性であることが明らかにされた。カナダ・マックマスター大学のJeff S Healey氏らが、2,500例について行った単盲検無作為化非劣性試験「SIMPLE」の結果、報告した。除細動テストは広く行われているが、その有効性と安全性について検討した試験はこれまで行われていなかったという。Lancet誌オンライン版2015年2月20日号掲載の報告より。18ヵ国、85ヵ所の病院で試験を実施 研究グループは、2009年1月13日~2011年4月4日にかけて、18ヵ国、85ヵ所の病院を通じ、ICDを初めて移植する患者2,500例を対象に調査を行った。被験者は無作為に2群に割り付けられ、一方にはICD移植に当たり除細動テストを行い(1,253例)、もう一方の群では除細動テストを行わなかった(1,247例)。 主要有効性分析における評価項目は、不整脈死または適切なショック無効の複合アウトカムだった。非劣性マージンは、非テスト群vs. テスト群の比例ハザードモデルで算出したハザード比が1.5であった場合とし、95%信頼区間(CI)上限値が1.5未満であれば非テスト群は非劣性とした。 また、安全性について、2日、30日時点で有害事象アウトカム集団を評価した。主要アウトカム発生率、安全性アウトカムともに両群で同等 被験者の平均年齢は63歳、男性は81%、追跡期間の平均値は3.1年(SD:1.0)だった。 結果、不整脈死または適切なショックの失敗の発生率は、テスト群が年間8%(104例)に対し、非テスト群が7%(90例)と、非テスト群の非劣性が示された(ハザード比:0.86、95%信頼区間:0.65~1.14、非劣性のp<0.0001)。 死亡、脳卒中、心筋梗塞などの有害事象でみた安全性に関する主要複合アウトカムの初回発生率は、テスト群で6.5%(1,242例中81例)、非テスト群で5.6%(1,236例中69例)と、両群で同等だった(p=0.33)。 除細動テストが直接の原因であると考えられる有害事象のみを対象にした安全性に関する2次複合アウトカムの発生率は、テスト群が4.5%、非テスト群が3.2%だった(p=0.08)。 最も多く認められた有害事象は、強心薬や利尿薬の静注療法を要する心不全で、同発症率はテスト群が2%(1,242例中28例)、非テスト群が2%(1,236例中20例)だった(p=0.25)。

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抗菌薬静脈内投与後のアナフィラキシーショックによる死亡

消化器最終判決平成16年9月7日 最高裁判所 判決概要S状結腸がんの開腹術後に縫合不全を来たした57歳男性。抗菌薬投与を中心とした保存的治療を行っていた。術後17日、ドレーン内溶液の培養結果から、抗菌薬を一部変更してミノサイクリン(商品名:ミノマイシン)を静脈内投与したが、その直後にアナフィラキシーショックを発症して心肺停止状態となる。著しい喉頭浮腫のため気道確保は難航し、何とか気管内挿管に成功して救急蘇生を行ったが、発症から3時間半後に死亡した。詳細な経過患者情報平成2年7月19日 注腸造影検査などによりS状結腸がんと診断された57歳男性。初診時の問診票には、「異常体質過敏症、ショックなどの有無」欄の「抗菌薬剤(ペニシリン、ストマイなど)」の箇所に丸印を付けて提出した経過平成2(1990)年8月2日開腹手術目的で総合病院に入院。看護師に対し、風邪薬で蕁麻疹が出た経験があり、青魚、生魚で蕁麻疹が出ると申告。担当医師の問診でも、薬物アレルギーがあり、風邪薬で蕁麻疹が出たことがあると申告したが、担当医師は抗菌薬ではない市販の消炎鎮痛薬であろうと解釈し、具体的な薬品名など、薬物アレルギーの具体的内容、その詳細は把握しなかった。8月8日右半結腸切除術施行。手術後の感染予防目的として、セフォチアム(同:パンスポリン)およびセフチゾキシム(同:エポセリン)を投与(いずれも皮内反応は陰性)。8月16日(術後8日)腹部のドレーンから便汁様の排液が認められ、縫合不全と診断。保存的治療を行う。8月21日(術後13日)ドレーンからの分泌物を細菌培養検査に提出。8月23日(術後15日)38℃前後の発熱。8月25日(術後17日)解熱傾向がみられないため、抗菌薬をピペラシリン(同:ペントシリン)とセフメノキシム(同:ベストコール)に変更(いずれも皮内反応は陰性)。10:00ペントシリン® 2g、ベストコール® 1gを点滴静注。とくに異常は認められなかった。13:00細菌培養検査の結果が判明し、4種類の菌が確認された。ベストコール®は2種の菌に、ペントシリン®は3種の菌に感受性が認められたが、4種の菌すべてに感受性があるのはミノマイシン®であったため、ベストコール®をミノマイシン®に変更し、同日夜の投与分からペントシリン®とミノマイシン®の2剤併用で様子をみることにした。22:00看護師によりペントシリン® 2g、ミノマイシン® 100mgの点滴静注が開始された(主治医から看護師に対し、投与方法、投与後の経過観察などについて特別な指示なし)。ところが、点滴静注を開始して数分後に苦しくなってうめき声を上げ、付き添い中の妻がナースコール。22:10看護師が訪室。抗菌薬の点滴開始直後から気分が悪く体がピリピリした感じがするという言葉を聞き、各薬剤の投与を中止してドクターコール。22:15「オエッ」というような声を何回か発した後、心肺停止状態となる。数分後に医師が到着し、ただちにアンビューバッグによる人工呼吸、心臓マッサージを開始。22:30気管内挿管を試みたが、喉頭浮腫が強く挿管不能のため、喉頭穿刺を行う。22:40気管内挿管に成功するが心肺停止状態。アドレナリン(同:ボスミン)投与をはじめとした救急蘇生を続けるが、心肺は再開せず。8月26日(術後18日)01:28死亡確認。死因はいずれかの薬剤によるアナフィラキシーショックと考えられた。当事者の主張患者側(原告)の主張今回使用した抗菌薬には、アナフィラキシーショックなど重篤な副作用を生じる可能性があるのだから、もともと薬剤アレルギーの既往がある本件に抗菌薬を静脈内投与する場合、異常事態に備えて速やかに対応できるよう十分な監視体制を講じる注意義務があった。ところが、医師は看護師に特別な監視指示を与えることなく、漫然と抗菌薬投与を命じたため、アナフィラキシーショックの発見が遅れた。しかも、重篤な副作用に備えて救命措置を準備しておく注意義務があったにもかかわらず、気道確保や強心剤投与が遅れたため救命できなかった。病院側(被告)の主張本件で使用した抗菌薬は、従前から投与していた薬剤を一部変更しただけに過ぎず、薬物アレルギーの既往症があることは承知していたが、それまでに使用した抗菌薬では副作用はなかった。そのため、新たに投与した(皮内反応は不要とされている)ミノマイシン®投与後にアナフィラキシーショックを生じることは予見不可能であるし、そのような重篤な副作用を想定して医師または看護師が付き添ってまで経過観察をする義務はない。そして、容態急変後は速やかに当直医師が対応しており、救急蘇生に過誤があったということはできない。裁判所の判断高等裁判所の判断医師、看護師に過失なし(1億2,000万円の請求を棄却)。最高裁判所の判断(平成16年9月7日)原審(高等裁判所)の判断は以下の理由で是認できない。薬剤が静注により投与された場合に起きるアナフィラキシーショックは、ほとんどの場合、静脈内投与後5分以内に発症するものとされており、その病変の進行が急速であることから、アナフィラキシーショック症状を引き起こす可能性のある薬剤を投与する場合には、投与後の経過観察を十分に行い、その初期症状をいち早く察知することが肝要であり、発症した場合には、薬剤の投与をただちに中止するとともに、できるだけ早期に救急治療を行うことが重要である。とくに、アレルギー性疾患を有する患者の場合には、薬剤の投与によるアナフィラキシーショックの発症率が高いことから、格別の注意を払うことが必要とされている。本件では入院時の問診で薬物アレルギーの申告を受けていたのだから、アナフィラキシーショックを引き起こす可能性のある抗菌薬を投与するに際しては、重篤な副作用の発症する可能性を予見し、その発症に備えてあらかじめ看護師に対し、投与後の経過観察を指示・連絡をする注意義務があった。担当看護師は抗菌薬を開始後すぐに病室から退出してしまい、その結果、心臓マッサージが開始されたのが発症から10分以上経過したあとで、気管内挿管が試みられたのが発症から20分以上、ボスミン®投与は発症後40分が経過したあとであり、救急措置が大幅に遅れた。これでは投与後5分以内に発症するというアナフィラキシーショックへの対応は明らかに不適切である。以上のように、担当医師や看護師が注意義務を怠った過失があるから、判決の結論に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるため、死亡との因果関係をさらに審理をつくさせるため、本件を高等裁判所に差し戻すこととする。考察またまた医師にとっては驚くべき裁判官の考え方が示されました。しかも、最高裁判所の担当判事4名が全員一致した判断というのですから、医師と法律専門家との考え方には、どうしようもなく深い溝があると思います。本症例は、S状結腸がんの開腹手術後8日目に縫合不全を来たし(これはやむを得ない合併症と考えられます)、術後17日でそれまで投与していた抗菌薬を変更、その後に報告された細菌培養の結果から、より効果の期待できるミノマイシン®を点滴投与したところ、その直後にアナフィラキシーショックを発症しました。ショック発現までの時間経過を振り返ると、22:00ミノマイシン®開始。数分後に苦しくなりうめき声を上げたので家族がナースコール。22:10看護師が訪室、各薬剤の投与を中止してドクターコール。22:15心肺停止状態。数分後に医師が到着し、救急蘇生開始。22:30喉頭浮腫が強く挿管不能のため、喉頭穿刺を行う。22:40気管内挿管に成功するが心肺停止状態。となっています。今回の病院は約350床程度の規模で、上記の対応をみる限り、病院内の急変に対する体制としてはけっして不十分ではないと思います。最高裁判所の判事は、アナフィラキシーショックは5分以内の発見が大事である、という文献をもとに、もし看護師がミノマイシン®開始後ずっと付き添っていれば、もっと早く救急措置ができたであろう、という根拠で医師の過失と断じました。ところが当時の状況は、大腸がんの開腹手術後17日が経過し、すでに集中治療室から一般病室へ転室していると思われ、何とか縫合不全を保存的治療で治そうとしている状況でした。しかも、薬剤アレルギーの既往症が申告されていたとはいえ、それまでに使用したパンスポリン®、セフチゾキシム®、ベストコール®、ペントシリン®では何ら副作用の問題はなかったのですから、抗菌薬の一部変さらに際して看護師に特別な指示を出すべき積極的な理由はなかったと思います。ましてや、ミノマイシン®は皮内反応が不要とされている抗菌薬なので、裁判官のいうようにアナフィラキシーショックを予見して、22:00からのミノマイシン®開始に際して看護師をつきっきりで貼り付けておくことなど、けっして現実的ではないように思います。もし、看護師がベッドサイドでずっと付き添っていたとして、救命措置をどれくらい早く開始することができたでしょうか。側に付き添っていた家族が異変に気づいたのは、ミノマイシン®静脈注射開始後数分でしたから、おそらく22:05頃にドクターコールを行い、22:10くらいには院内の当直医が病室へ到着することができたと思われます(おそらく5~10分程度の短縮でしょう)。その時点から救急蘇生が開始されることになりますが、果たして22:15の心肺停止を5分間の措置で防ぎ得たでしょうか。しかもアナフィラキシーショックに関連した喉頭浮腫が急激に進行し、気道を確保することすらできず、やむなく喉頭穿刺まで行っていますので、けっして茫然自失として事態をやり過ごしたとか、注意義務を果たさなかったというような診療行為ではないと思います。つまり、本件のような激烈なアナフィラキシーショックの場合、医師が神業のような処置を行っても救命できないケースが存在するのは厳然とした事実です。にもかかわらず、医師や看護師がつきっきりでみていなかったのが悪い、救急措置をもう少し早くすれば助かったかもしれないなどという考え方は、病気のリスクを紙面でしか知り得ない裁判官の偏った考え方といえるのではないでしょうか。このように、医師にとっては防ぎようのないと思われる病態をも、医療ミスとして結果責任を問う声が非常に大きくなっていると思います。極論すると、個々の医療行為に対してすべてのリスクを説明し、それでもなお治療を受けると患者が同意しない限り、医師は結果責任を免れることはできません。すなわち本件でも、患者およびその家族へ、術後の縫合不全や感染症にはミノマイシン®が必要であることを十分に説明し、アレルギーがある患者ではミノマイシン®によってショックを起こして死亡することもありうるけれども、それでも注射してよいか、という同意を求めなければならない、ということですが、そのような説明をすることはきわめて不自然でしょう。本件は「医師や看護師の過失はない」と考えた高等裁判所へ差し戻されていますが、ぜひとも良識のある判断を期待したいと思います。一方、抗菌薬の取り扱いに関して、2004年10月に日本化学療法学会から「抗菌薬投与に関連するアナフィラキシー対策のガイドライン」が発表されました。それによると、これまで慣習化していた抗菌薬投与前の皮内反応は、アナフィラキシー発現の予知として有用性に乏しいと結論付けています。具体的には、アレルギー歴のない不特定多数の症例には皮内反応の有用性はないとする一方で、病歴からアレルギーが疑われる患者に抗菌薬を投与せざるを得ない場合には、あらかじめ皮内反応を行った方がよいということになります。そして、抗菌薬静脈内投与に際して重要な基本的事項として、以下の3点が強調されました。事前に既往症について十分な問診を行い、抗菌薬などによるアレルギー歴は必ず確認すること投与に際しては必ずショックなどに対する救急処置のとれる準備をしておくこと投与開始から投与終了後まで、患者を安静の状態に保たせ、十分な観察を行うこと。とくに、投与開始直後は注意深く観察することこのうち、本件のようなケースには第三項が重要となります。これまでは、抗菌薬静脈内注射後にはまれに重篤な副作用が現れることがあるので経過観察は大事ですよ、という一般的な認識はあっても、具体的にどのようにするのか、といった対策まで講じている施設は少ないのではないでしょうか。しかも、抗菌薬投与の患者全員に対し、「投与開始から投与終了後まで十分な観察を行う」ことは、実際の医療現場では事実上不可能ではないかと思われます。ところが、このようなガイドラインが発表されると、不幸にも抗菌薬によるアナフィラキシーショックを発症して死亡し紛争へ至った場合、この基本三原則に基づいて医師の過失を判断する可能性がきわめて高くなります。当時は急患で忙しかった、看護要員が足りずいかんともし難い、などというような個別の事情は、一切通用しなくなると思います。またガイドラインの記述は、「抗菌薬投与開始直後は注意深く観察すること」という漠然とした内容であり、ではどのようにしたらよいのか、バイタルサインをモニターするべきなのか、開始直後とは何分までなのか、といった対策までは提示されていません。ところが、このガイドラインのもとになった「日本化学療法学会臨床試験委員会・皮内反応検討特別部会の報告書(日本化学療法学会雑誌 Vol.51:497-506, 2003)」によると、「きわめて低頻度であるがアナフィラキシーショックが発現するので、事前に抗菌薬によるショックを含むアレルギー歴の問診を必ず行い、静脈内投与開始後20~30分における患者の観察とショック発現に対する対処の備えをしておくことが必要である」とされました。すなわち、ここではっきりと「20~30分」という具体的な基準が示されてしまいましたので、今後はこれがスタンダードとされる可能性が高いと思います。したがって、抗菌薬の初回静脈内投与では、全例において、点滴開始後少なくとも20分程度は誰かが付き添う、モニターをつけておく、などといった注意を払う必要があることになります。これを杓子定規に医療現場に当てはめると、かなりな混乱を招くことは十分に予測されますが、世の中の流れがこのようになっている以上、けっして見過ごすわけにはいかないと思います。今回の症例を参考にして、ぜひとも先生方の施設における方針を再確認して頂ければと思います。日本化学療法学会「抗菌薬投与に関連するアナフィラキシー対策のガイドライン(2004年版)」日本化学療法学会「抗菌薬投与に関連するアナフィラキシー対策について(2004年版概要)」日本化学療法学会臨床試験委員会・皮内反応検討特別部会報告書(日本化学療法学会雑誌 Vol.51:497-506, 2003)」消化器

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