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MRIが耳の中の鉄球を吸いこんだ【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第312回

MRIが耳の中の鉄球を吸いこんだ異物論文専門医として毎日PubMedを眺めている私ですが、今回はいつもと少し勝手が違いました。というのも、異物を取り出したのが医師ではなく、MRIそのものだったからです。「MRI室に金属を持ち込んではいけない」これは医療者なら誰もが叩き込まれる大原則です。ペースメーカー、動脈瘤クリップ、体内に残った金属片。強力な磁場は、それらを一瞬で凶器に変えてしまいます。ところが今回の論文は、その磁力が「隠れていた異物」のほうを暴いてしまった、という逆転劇でした。Mckinnon K, et al. An unexpected ferromagnetic foreign body in a paediatric researchparticipant undergoing 3T MRI. BMJ Case Rep. 2024;17:e258969.舞台はイギリス。早産で生まれた子供の脳の発達を追う縦断研究に、男児が参加していました。その日、研究用の脳MRIを撮る予定でした。研究チームは、当然ながら安全対策を徹底していました。書面と口頭による安全チェックリスト、金属の有無の確認、髪や肌の視触診。撮影前には「安全のための小休止」まで設け、子供には磁場のない模擬スキャナーで予行演習までさせる念の入れよう。ここまでやれば、まず金属が紛れ込む余地はなさそうに思えます。さて、いよいよ本番。母親が男の子を抱き上げ、ボア(あの筒の穴)をのぞかせてあげました。その瞬間、スタッフは見ました。何かが、ヒュンとボアの中へ飛んでいくのを。すぐに子供と母親をMR環境の外へ避難させ、ボアの中を調べてみると、そこには直径5mmの鉄球が転がっていたのです。耳の中に入っていた鉄球が、MRIの磁力にヒュンッと引き抜かれて飛んでいったのでした。幸い、耳に外傷はありませんでした。考えてみれば、これはかなり際どい出来事です。3テスラという磁場は、地磁気のおよそ数万倍。強磁性体であれば、たとえ5mmの小さな鉄球でも、磁石に引かれて弾丸のように振る舞います。飛び出す向きやタイミングが少し違っていれば、外耳道や鼓膜を傷つけていたかもしれません。驚いたのは親御さんです。鉄球のことなどまったく知らず、子供自身も「耳に何か入れた」とは一言も言っていませんでした。ただ、よくよく振り返ってみると、ここ2週間ほど、聞こえがおかしいかも、という違和感がうっすらあったそうです。犯人は、ずっとそこにいたわけです。MRI撮影時は、本人も家族も知らない金属が、するりとすり抜けてしまうことがある。それを、身をもって(というかMRIをもって)教えてくれた1例です。

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第73回 インフルエンザワクチンが変わる? 米国で世界初の「mRNAインフルワクチン」承認

新型コロナワクチンでおなじみになった「mRNAワクチン」という技術。これをインフルエンザに応用したモデルナのワクチン「mRNA-1010(商品名:mFLUSIVA)」が、この夏、米国で承認されました1)。対象は50歳以上の成人で、米国では2026~27年シーズンからの接種開始が見込まれています。製造期間が「6ヵ月」から「6週間」に皆さまご存じのとおり、従来のインフルエンザワクチンの多くは、鶏の卵の中でウイルスを育てて作られています。この方法では製造に約6ヵ月かかるため、「今年はどの型が流行するか」という予測を、流行の半年も前、2~3月頃には決めてしまわなければなりません。ところがインフルエンザウイルスは絶えず姿を変えるため、秋になってみたら別の型が流行していて、ワクチンとの「ミスマッチ」が起きてしまうことがあります。一方、mRNAワクチンはウイルスの設計図にあたる遺伝情報を合成して作るため、製造は約6週間で済むとされます。流行の直前まで中身を調整できるわけですから、予測が外れるリスクを減らせるのではと期待されているのです。「27%減」は何を意味するのか承認の根拠となった臨床試験には、米国を含む11ヵ国で50歳以上の約4万1,000人が参加しました。半分の方がmRNAワクチンを、残り半分が従来型ワクチンを接種し、約半年間の経過をみたところ、検査で確定したインフルエンザの発症はmRNA群で約2.0%、従来型群で約2.8%。相対的にみてmRNA群が約27%少なかった、という結果です2)。ここで少し立ち止まってみたいのですが、この「27%」は割合の比較であって、「接種した人の27%が発症を免れる」という意味ではありません。100人当たりでいえば、発症が約0.8人減った計算になります。小さな差に見えるかもしれませんが、社会全体でみれば入院や死亡の減少につながりうる差ですし、リスクの高い65歳以上に限った解析でも同程度の効果が確認されています。副反応は、注射部位の痛みや倦怠感、頭痛などが従来型よりやや多かったものの、大半は軽度から中等度で、一時的なものだったと報告されています。まだわからないこと、私たちにできることもちろん、限界もあります。データはまだ1シーズン分だけで、米国で65歳以上の標準とされる「高用量ワクチン」との直接比較は行われていません。免疫能の低下した方やフレイルのある高齢者での効果も、まだ確立していません。そのため65歳以上への承認は条件付きの「迅速承認」で、今後2シーズンかけて約40万人規模の市販後試験で効果が検証される予定です。ソーシャルメディアなどでは「mRNAワクチンは効かない」といった根拠のない主張も聞かれますが、mRNAワクチンが中心だった新型コロナワクチンは、控えめに見積もっても世界で250万人以上の命を救ったと推計されており、データはむしろ逆の結果を示しています3)。日本では、インフルエンザに対するmRNAワクチンはまだ承認されていません。当面は従来型ワクチンでの接種が続きますが、米国では65歳以上は人口の2割弱ながら、インフルエンザ関連死亡の70~85%を占めるとされます。高齢の方にとって毎年の接種が大切であることは、これまでと変わりません。新しい技術の続報を待ちながら、今シーズンもまずは現行のワクチンで備えましょう。1)Rubin R. What to know about the mRNA flu vaccine, newly approved by the FDA. JAMA. 2026 Aug 14. [Epub ahead of print]2)Leroux-Roels I, et al. Efficacy and safety of an mRNA seasonal influenza vaccine in adults. N Engl J Med. 2026;394:1803-1813.3)Ioannidis JPA, et al. Global estimates of lives and life-years saved by COVID-19 vaccination during 2020-2024. JAMA Health Forum. 2025;6\:e252223.

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よくかめる小学生ほど体力が高い傾向、男子でより顕著

 子どもの口腔機能は、食べることだけでなく全身の発育や健康との関わりも注目されている。今回、日本の小学生約1,200人を対象とした研究で、よくかめる小学生ほど体力が高い傾向があり、その関連は男子でより顕著であることが明らかになった。研究は大阪大学大学院歯学研究科有床義歯補綴学・高齢者歯科学講座の平松里彩氏、高阪貴之氏らによるもので、詳細は7月6日付で「Journal of Dentistry」に掲載された。 子どもの体力は、現在の健康状態だけでなく将来の健康にも影響するとされ、体力に関わる要因を明らかにすることは公衆衛生上の重要な課題となっている。一方、咀嚼機能は食物をかみ砕いて栄養を摂取する上で重要な役割を果たすだけでなく、成人や高齢者では身体機能やフレイル、生活の質(QOL)との関連も報告されている。しかし、子どもの咀嚼能力と体力との関連については十分な検討が行われておらず、特に総合的な体力との関連や男女差を調べた研究は限られていた。こうした背景から、著者らは日本の小学生を対象に、総合体力スコアを用いて咀嚼能力と体力との関連を検討し、さらに男女差についても解析した。 研究では、大阪MELON研究(Mastication research in Elementary school student teaching applying LONgitudinal Study)の一環として、大阪市内29校の市立小学校に通う小学4年生1,225人(男子608人、女子617人)を対象とした。2023年4月~2024年3月に身体測定や歯科検診を実施し、咀嚼能力と体力との関連を調べた。咀嚼能力は、色が変化するガムを1秒に1回のペースで1分間かんでもらい、60回咀嚼後の色の変化を専用アプリで解析して評価した。体力については、握力、上体起こし、反復横跳び、20mシャトルラン、50m走、立ち幅跳び、ソフトボール投げの7項目を測定し、これらを基に総合体力スコアを算出した。さらに、身長や体重の影響を考慮した統計解析を行い、咀嚼能力と総合体力スコアとの関連を検討した。 解析の結果、咀嚼能力は、反復横跳び、20mシャトルラン、50m走、ソフトボール投げ、および総合体力スコアと有意に関連していた。男女別では、男子で上体起こし、20mシャトルラン、ソフトボール投げ、総合体力スコアとの関連が認められ、女子では20mシャトルランとの関連が認められた。 さらに、身長や体重などを考慮した解析では、全体および男子で咀嚼能力と総合体力スコアとの有意な関連が認められたが、女子では有意な関連はみられなかった。ただし、性別によって関連の強さが異なることを示す統計的な差は認められなかった。著者らは、女子で明確な原因が認められなかった背景として、発達段階や生活習慣など今回評価していない要因が影響した可能性を挙げている。 著者らは、咀嚼能力は口腔機能の指標にとどまらず、学童期の身体的な発達や機能状態とも関連する可能性があると指摘している。今回の研究は横断研究であるため因果関係は明らかにできないものの、子どもの健全な成長を支える観点から、適切な咀嚼習慣や口腔機能の発達を促すことの重要性が示唆されたとしている。

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ADHD治療薬、種類により体重への影響は異なる

 注意欠如・多動症(ADHD)の治療で広く用いられる2種類の中枢神経刺激薬、dexamphetamine(デキサアンフェタミン、デキストロアンフェタミン)とメチルフェニデートは、いずれも同程度に症状を改善するものの、体重に与える影響には違いが見られ、dexamphetamine群ではより体重が減少する傾向が認められたことが、臨床試験で示された。シドニー大学(オーストラリア)小児科・小児保健学分野のAlison Poulton氏らによるこの試験の詳細は、7月7日付で「Journal of Paediatrics and Child Health」に掲載された。 ADHDは、注意を持続することや衝動を抑えることなどに困難が生じる神経発達症である。ADHDを有する小児では、学校生活、友人関係の構築、集中力の維持など、日常生活のさまざまな場面で困難が生じる。世界では2021年時点で、20歳未満でのADHD患者数は約4700万人と推定されている。米国では3~17歳の約12%がADHDと診断されている一方、オーストラリアでは約8%とされている。2023年にオーストラリアでADHD治療薬を処方された18歳未満の人の数は、10年前と比べて約2.5倍に増加したという。 この研究では、これまで中枢神経刺激薬による治療を受けていなかったADHDの小児100人(平均年齢9.08歳、男児73%)を対象に、dexamphetamineまたはメチルフェニデートのいずれかを投与する群に50人ずつランダムに割り付け、有効性と副作用を比較した。薬の投与開始後は4週間の用量調整期間を設け、その間は毎週、教師が学校でIOWA Conners評価尺度で症状を評価した。その後は、臨床判断に基づいて用量調整や薬の変更を行い、対象者を12カ月間追跡した。 その結果、いずれの群も全ての評価時点でADHD症状が有意に改善し、両群間で効果に有意差は認められなかった。12カ月時点で62人が割り付けられた薬の使用を継続しており、患者・保護者による薬の選好にも有意差は認められなかった。さらに、3カ月時点で両群ともに体重減少が認められたが、減少幅はdexamphetamine群の方がメチルフェニデート群より大きかった(1.44 kg対0.31 kg)。12カ月時点では、メチルフェニデート群ではベースラインから1.26 kg増加したのに対し、dexamphetamine群では0.84 kg減少していた。一方、12カ月時点の身長増加量は、メチルフェニデート群で4.9 cm、dexamphetamine群で4.4 cmで、両群間に有意差は認められなかった。 Poulton氏は、「大きな違いは、dexamphetamineを服用した小児で、体重減少がより大きかったことだ。これは治療薬を選択する際や成長を経過観察する際に考慮すべき重要な点である」とニュースリリースで述べている。

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第308回 手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS

<先週の動き> 1.手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS 2.千葉の豪雨で25市町に災害救助法、マイナ保険証なくても受診可能に/厚労省 3.地域ごとに「推奨薬」選定へ 地域フォーミュラリ普及を本格化/厚労省 4.チルゼパチドの薬価25%減 低価格化による不適正使用を懸念/リリー 5.MMR混合ワクチンを個別接種へ 接種率低下と感染拡大に懸念/米国 6.沢井製薬が46品目販売中止、低薬価・設備老朽化で安定供給が課題に/沢井 1.手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS国立健康危機管理研究機構(JIHS)の感染症動向調査によると乳幼児を中心に流行する手足口病が、東北各県で高い水準となっている。青森県では8月3~9日の患者報告数が257人で、6週間ぶりに減少したものの、1定点医療機関当たり7.56人と警報基準の5人を上回った。県内6保健所管内のうち5管内が警報レベルで、青森市・東津軽では10.33人、八戸市・三戸では9.14人だった。その一方で、岩手県では同期間の患者数が415人と前週から69人増加。1定点当たり15.37人で10週連続の増加となり、警報基準の3倍を超えた。一関27.0人、中部26.5人、県央25.0人など、10管内中7管内が警報レベルとなっている。宮城県も1定点当たり10.45人と今季最多を更新し、4週連続で警報基準を超えた。同じく福島県でも9.71人と2週連続で今季最多となり、警報レベルが4週続いている。全国では7月27日~8月2日の定点当たり報告数は6.03人。2週連続で減少したものの、25都道県で警報基準を超えており、依然として広範な流行が続いている。手足口病はエンテロウイルスなどによる感染症で、多くは軽症だが、まれに脳炎などの中枢神経合併症を来す。飛沫や接触のほか便を介して感染し、症状消失後も数週間にわたり便中へウイルスが排泄されることがある。医療現場では乳幼児の発熱、口腔内病変、手足の発疹に加え、意識障害、けいれんなど重症化を示唆する症状に注意が必要である。家庭や保育施設では石けんと流水による手洗い、タオルの共用回避、おむつ交換時の排泄物処理の徹底が求められる。 参考 1) 手足口病の減少続くも、感染性胃腸炎やコロナは増転【感染症動向調査第31週:7月27日~8月2日】(Medical Tribune) 2) 青森「手足口病」感染者数減少も依然5保健所管内で警報レベル(NHK) 3) 岩手県内「手足口病」患者数さらに増加 警報基準の3倍余に(同) 4) 福島県内 「手足口病」今季最多に お盆休みの感染対策徹底を(同) 2.千葉の豪雨で25市町に災害救助法、マイナ保険証なくても受診可能に/厚労省8月13日に千葉県を中心に発生した記録的豪雨で、県内の医療機関にも浸水や停電などの被害が広がっている。厚生労働省によると、14日午前10時時点で大規模病院を含む22医療機関から被害報告があり、千葉市、柏市、八千代市などを中心に影響が確認された。内閣府は多数の住民が生命・身体に危害を受ける、またはその恐れがあるとして、千葉県の21市4町、計25市町に災害救助法を適用した。厚労省は14日、被災者の保険診療や診療報酬に関する特例措置を通知した。避難時にマイナンバーカードや資格確認書を紛失、または自宅に残した場合でも、氏名、生年月日、連絡先に加え、被用者保険では事業所名、国保・後期高齢者医療では住所などを申し立てれば保険診療を受けられる。医療機関は可能な限り保険者を確認した上でレセプト請求するが、特定できない場合も住所や事業所名、連絡先などを記載して請求できる。被災者受け入れに伴う診療報酬上の特例も適用される。許可病床数を超えて患者を受け入れても減額措置を適用せず、DPC病院も従来通り診断群分類点数表による算定が可能となる。患者急増や災害支援への職員派遣によって看護配置や夜勤時間などの施設基準が一時的に満たせなくなった場合も、一定範囲では変更届を不要とする。また、被災医療機関からの転院患者については、平均在院日数や重症度、医療・看護必要度などの算定から除外できる場合があり、ICU・HCUにやむを得ず本来の対象外患者を収容した場合も特例が設けられた。そのほか、避難所で継続的な診療が必要な通院困難患者には、条件を満たせば在宅患者訪問診療料の算定も認められる。その一方で、保団連は医療機関や介護施設、在宅人工呼吸器・酸素療法、人工透析患者への電力・水供給の早期確保、医薬品・医療材料の供給、被災者の医療費窓口負担免除などを政府に要望した。豪雨災害では直接的な外傷だけでなく、停電・断水による透析や在宅医療の継続困難、慢性疾患治療の中断も重要な課題となる。 参考 1) 令和8年8月13日からの大雨に伴う災害に係る災害救助法の適用について(内閣府) 2) 令和8年8月13日からの大雨に伴う災害の被災者に係るマイナ保険証又は資格確認書の提示等について(厚労省) 3) 千葉豪雨 県内の22の医療機関から被害報告 厚労省(テレビ朝日) 4) 千葉の大雨、死者8人に…被災者の“医療費免除”と“最大850万円の支給”を医師団体が国に緊急要望(弁護士JPニュース) 5) 2026年8月13日からの千葉県を中心とする大雨被害、保険診療受診や診療報酬算定に関する特例を適用-厚労省(Gem Med) 3.地域ごとに「推奨薬」選定へ 地域フォーミュラリ普及を本格化/厚労省厚生労働省は、地域ごとに使用を推奨する医薬品を定める「地域フォーミュラリ」の普及を本格化させる。今秋をめどに、医療関係者らを対象とした全国説明会を開き、制度への正確な理解を広げる方針。地域フォーミュラリは、高血圧、脂質異常症、胃潰瘍などの治療薬について、有効性、安全性、費用、供給状況などを踏まえ、地域で推奨する医薬品をリスト化する仕組み。院内フォーミュラリと異なり、病院だけでなく診療所や薬局も含む地域全体で運用する。医師の処方権を制限するものではなく、標準的な薬物療法の共有、後発医薬品の適正使用、医薬品の安定供給を目的とする。日本フォーミュラリ学会によると、2026年2月時点で18都道府県30地域に導入が済んでおり、31地域が準備中。大阪府八尾市ではスタチンなど10薬効群、茨城県つくば地域では14薬効群について策定している。学会も31薬効群の「モデルフォーミュラリ」を公開しており、各地域はこれを参考に独自の事情を加味して策定できる。2026年度診療報酬改定では、医科・調剤の施設基準に、地域の医療機関、薬局、関係団体と医薬品の品目情報を共有し、安定供給に向けた事前の取り決めを行うことが望ましいとの考え方が盛り込まれた。現時点では努力目標だが、国が地域フォーミュラリを政策的に後押しする姿勢が鮮明になった。厚労省は全都道府県に医師会や薬剤師会などが参画する検討会の設置を求める。普及の背景には医療費適正化に加え、後発薬の供給不安や災害対応がある。健保連は2019年、高血圧、脂質異常症、糖尿病で後発薬への切り替えが進めば、全国で年間3,100億円の薬剤費削減につながると試算している。また、地域で使用薬をある程度集約すれば、薬局の在庫負担軽減や供給途絶時の代替、災害時の備蓄・配送にも役立つ。今後は、地域の実情を反映しながら、医師の処方判断とどう両立させるかが普及の鍵となる。 参考 1) 地域フォーミュラリ、厚労省が「全国説明会」今秋、医療関係者ら向けも(MEDIFAX) 2) 高血圧・脂質異常症・胃潰瘍…地域ごとに異なる「使用が推奨される医薬品」、リスト作りを国が推進(読売新聞) 3) 報酬改定も策定を後押し、広がる地域フォーミュラリ(日経メディカル) 4.チルゼパチドの薬価25%減 低価格化による不適正使用を懸念/リリー日本イーライリリーは、2型糖尿病治療薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ皮下注)の薬価が8月1日付で25%引き下げられたことを受け、「画期的な医薬品に対する不当に不利益な対応」とする声明を発表した。今回の引き下げは、販売額が想定を上回った医薬品の価格を調整する「持続可能性特例価格調整」の適用によるもの。厚生労働省によると、同薬の保険診療での年間販売額は1,000~1,500億円規模に達している。薬価は2.5mg製剤で1本1,443円、15mg製剤で8,658円となった。リリーは、日本の価格は従来からG7で最も低い水準にあり、今回の引き下げにより同規模の経済圏でも最低水準になるとしている。同社は低価格化により、適応外となる痩身目的での不適正使用、海外からの医療ツーリズム、利益目的の買い占めや海外転売が拡大し、本来治療を必要とする2型糖尿病患者への安定供給に影響する可能性があると警告。政府に海外転売を厳格に規制する措置を求めている。チルゼパチドは週1回投与のGIP/GLP-1受容体作動薬で、食欲を抑制する作用も有する。わが国では2023年に2型糖尿病治療薬として発売されたほか、2025年には肥満症治療薬として別製品が発売されている。その一方で、糖尿病治療用製剤を美容・ダイエット目的で自由診療に使用する例が広がっており、適応外使用に伴う健康被害や、医薬品副作用被害救済制度の対象外となる可能性も指摘される。リリーは、今回の薬価引き下げについて、研究開発や国内投資の予見可能性を損ない、将来的なドラッグラグ・ドラッグロスにつながる恐れもあると主張している。高額な革新的医薬品による医療費増大への対応と、適正使用、安定供給、創薬イノベーションをどう両立させるか、薬価政策のあり方が改めて問われている。 参考 1) マンジャロの大幅な薬価引き下げに対する声明を発表~国際競争下における日本への長期的投資の持続のために、そして患者さんがイノベーションを享受するためには、予見可能で透明性の高い政策環境が不可欠~(日本イーライリリー) 2) 糖尿病薬マンジャロ「インドより安い」 不適正使用の助長に懸念(日経新聞) 3) 英アストラゼネカCSO 革新医薬への支出「先進国で公平負担を」(同) 4) リリー、マンジャロ薬価引き下げは「不当に不利益な対応」(AnswersNews) 5.MMR混合ワクチンを個別接種へ 接種率低下と感染拡大に懸念/米国米国のトランプ大統領は8月10日、小児のワクチン接種方針を見直す大統領令に署名した。麻しん、おたふく風邪、風しんを予防するMMR混合ワクチンについて、それぞれを別の機会に接種することを推奨するとともに、すべての小児に一律で推奨するワクチンを従来の17種類から11種類に縮小する方針を示した。A型・B型肝炎、ロタウイルス、髄膜炎菌、インフルエンザ、新型コロナワクチンなどは、医師と保護者による個別判断に移行するとしている。トランプ氏はワクチン接種数の増加と自閉症との関連を示唆しているが、米国小児科学会は「数百万人を対象とした多くの研究で関連がないことが示されている」と反論し、今回の見直しを「危険で誤解を招く」と批判している。WHOも、ワクチンと自閉症との因果関係を示す証拠はなく、MMRを単独接種に分ける医学的利点を裏付ける根拠もないとしている。さらに、麻しん・風しん・おたふく風邪の単独ワクチンは現在米国内では入手ができず、分割接種には製造体制の整備が必要となる。接種回数や受診回数の増加により、接種完遂率が低下するとの懸念も強い。米国では今年、8月6日時点で麻疹患者が2,465人に達しており、専門家はワクチン忌避の拡大がさらなる流行につながる可能性を警告している。なお、接種義務の決定権は各州にあり、大統領令のみでただちに接種スケジュールや保険適用が変更されるわけではない。 参考 1) 米、混合ワクチンを個別接種に 推奨対象も削減(共同通信) 2) 「ワクチンと自閉症が関連」が持論のトランプ氏、混合ワクチンを別々に接種する方針打ち出す…感染リスク拡大の恐れ(読売新聞) 3) 米医師ら、トランプ氏の大統領令に懸念 家庭でのワクチン離れにつながるか(CNN) 6.沢井製薬が46品目販売中止、低薬価・設備老朽化で安定供給が課題に/沢井沢井製薬は、後発医薬品22成分46品目について、在庫がなくなり次第、順次販売を中止すると医療関係者に通知した。大半は安定供給体制の構築と生産効率改善を目的とした製品構成の見直しによるもので、一部は協業する日医工グループ製品などへ統合する。対象にはアテノロール、アマルエット配合錠、アルファカルシドール、エバスチン、クアゼパム、テルミサルタンOD錠、ドネペジル、ニフェジピン、フルボキサミン、ブロナンセリン、メマンチンなど、日常診療で処方される薬剤も多数含まれる。沢井製薬は各品目について代替品・代替候補品を提示している。たとえばアマルエット配合錠はアムロジピンとアトルバスタチンの単剤、セチリジンOD錠は通常錠、ドネペジル錠は同社OD錠への切り替えが候補とされている。在庫消尽時期は品目ごとに異なり、多くは2027年4月だが、プロブコールは2026年10月、ザルトプロフェンやプロピベリン20mgは同年11月、ニフェジピンカプセルは2028年3月とされる。その一方で、アテノロールやアルファカルシドール、クアゼパムなどはすでに供給停止中となっている。経過措置期間の満了は2028年3月の予定。背景には後発薬業界の構造的な供給問題がある。日本製薬団体連合会の調査では、医療上の必要性が高い2,882品目のうち255品目、約9%で将来の供給継続が困難と回答された。主因は薬価低下や製造設備の老朽化であり、なかには全身麻酔薬や注射用抗菌薬など重要薬も含まれている。臨床現場では今後、単なる銘柄変更だけでなく、剤形や規格、配合剤から単剤への変更が必要となるケースもあり、処方時には院内採用品や地域薬局の在庫状況を含めた確認が求められる。 参考 1) 販売中止品目のお知らせ(沢井製薬) 2) 沢井製薬、後発薬46品目を販売中止へ 供給安定へ製品構成見直し(日経新聞) 3) 沢井製薬が46品目、高田製薬が31品目を販売中止に(日経メディカル) 4) 重要度高い薬「供給継続できず」1割 低薬価や老朽化で、日薬連調査(日経新聞) 5) 医療用医薬品供給状況報告(厚労省)

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インフルエンザワクチンの有効性、前シーズンの感染・接種歴で変動―17シーズン解析

 前シーズンのインフルエンザ感染歴は今シーズンのワクチン有効性(VE)を高め、前シーズンの接種歴はVEを減弱させることが、日本臨床内科医会 インフルエンザ研究班の河合 直樹氏らによる日本での17シーズンにわたる前向きコミュニティベースコホート研究の解析で示された。今シーズン未接種者における罹患率(AR)は、前シーズン接種歴のある小児で14.0%、接種歴のない小児で8.6%と有意差が認められた(p<0.001)。研究成果はThe Journal of Infectious Diseases誌オンライン版2026年7月11日付で発表された。日本の17シーズン、コミュニティベースコホート研究のデザインと対象 本研究は、日本で2002~03年シーズンから2018~19年シーズンにかけて実施された17シーズンにわたる前向きコミュニティベースコホート研究のデータを用いた解析である。14万8,108人・シーズン分のデータが対象となった。インフルエンザ感染の確認には迅速抗原検査が用いられた。今シーズン未接種者におけるARをベースラインリスクの代理指標として、前シーズンの感染歴および接種歴によって定義されたグループ間でARおよびVEを比較した。統計解析には多変量ロジスティック回帰が用いられ、検査確定インフルエンザA型感染(あり/なし)をアウトカムとして、調整オッズ比(aOR)および相対調整オッズ比(rOR)が推定された。今シーズンのワクチン接種効果と前シーズン歴による変動 今シーズンのワクチン接種はインフルエンザA型感染のオッズを低下させ、全体のaORは0.52(95%信頼区間[CI]:0.47~0.57)であった。前シーズンにインフルエンザ感染歴がある個人では、この効果がより顕著であり(aOR:0.35、95%CI:0.25~0.49)、前シーズンに接種歴がある個人では効果が減弱したものの依然として有効であった(aOR:0.59、95%CI:0.50~0.70)。すべてのグループでaORは1未満であり、今シーズンのワクチン接種による保護効果は各群で維持されていた。また、今シーズン未接種者のARは前シーズンの感染歴の有無によらず類似していたが、前シーズン接種歴がある場合にはARが高い傾向が認められた。罹患率とワクチン有効性を併せた解釈の重要性 本解析の結果は、前シーズンの感染歴が今シーズンのワクチン接種のVEを高める一方、前シーズンの接種歴はVEを減弱させるものの有効性は保たれることを示している。さらに、今シーズン未接種者のARが前シーズン接種歴のある集団で高かったことは、集団間のベースラインリスクの差異がVEの解釈に影響しうることを示唆している。著者らは、ARはベースラインリスクの差を反映するものであり、VEと並行してARを解釈することの重要性を強調している。インフルエンザワクチンの効果を正確に評価するうえで、前シーズンの感染・接種歴を考慮した解析の枠組みが今後さらに検討される必要がある。

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【GET!ザ・トレンド】チーム医療で心臓も家族も診る、ジストロフィン異常症の最前線(後編)

前編では、大規模コホートからみえた各臓器症状の「乖離」や、微小変異における重症化リスクのリアルをお伝えした。後編となる今回は、「なぜ特定の筋肉が選択的に障害されるのか」という分子メカニズムの深層に、われわれのベッカー型筋ジストロフィー(BMD)モデルマウス研究から得られた最新の知見を交えて迫りたい。さらに、血清CK値に代わる注目の次世代バイオマーカー「尿中タイチン」の可能性、そしてわれわれ医療コミュニティが今こそ認識を改めるべき、患者を支える家族を含めた「包括的な診療アプローチ」の重要性について解説する。3. 分子病態へのアプローチ:なぜ特定の筋肉が選択的に萎縮するのか?日常診療でBMDを診ていると、「なぜ全身の筋肉が一様ではなく、大腿四頭筋など特定の筋肉から選択的に萎縮・障害されるのか(=骨格筋内における障害の選択性)」という大きな疑問が浮かぶ。われわれの研究グループは、この臨床の問いに対し、異なるエクソン領域を欠失させた3種のBMDモデルマウス(exon 45-47欠失、exon 45-48欠失、exon 45-49欠失)を樹立し、その分子メカニズムの一端を解き明かした4)。幼少期から老年期まで時間を追ってこれら3種のマウスを解析した結果、いずれも「イン・フレーム欠失」でありながら、欠失部位の違いによって病態の重症度に「d45-49>d45-47>d45-48」という序列(進行速度の差)があることが実証された。このマウスで観察された進行速度の序列は、実際のヒトの臨床における「exon 45-49欠失(早期進行型)」、「exon 45-47欠失(時に重症化)」、「exon 45-48欠失(比較的軽症)」という表現型の傾向(重症度グラデーション)に矛盾しない。このグラデーションを生み出す背景には、筋組織の破綻へと至る、以下の一連の病態機序が存在すると考えられる。まず、遺伝子欠失によるジストロフィン結合部のミスマッチ(不安定化)の度合いに応じて、筋形質膜に存在する、血管拡張酵素である神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS)の発現が低下する。この発現低下が、結果として筋線維の周囲を取り囲む毛細血管の減少(Capillary change)を招き、筋肉に慢性的な局所血流障害をもたらす。骨格筋傷害は、運動時の機械的ストレスのみならず、この血流障害も重なって引き起こされる。その複合的な病態機序を下図にまとめた。画像を拡大するこの虚血ストレスは重症度の高いd45-49やd45-47のモデルにおいてきわめて顕著であり、主要な好気的代謝を行う「タイプIIa筋線維(速筋)」の選択的な減少・減衰(Decay)と変性・萎縮を誘発していたのである。すなわち本研究は、遺伝子の欠失パターンの違いが毛細血管の維持・減少に関与し、重症度を決定づける要因の1つであることを科学的に裏付けた形だ。そして、この骨格筋の解析から得られた「毛細血管の減少と局所血流障害」という病態グラデーションは、骨格筋症状とは独立して心筋症が重症化していく臨床像を説明する重要なエビデンスにもなる。以前のインタビュー(『【GET!ザ・トレンド】 循環器内科医が救う、筋ジストロフィー患者の予後』)でも指摘したとおり、BMDは「原因不明の心筋症として治療される中で、ジストロフィン異常症という背景が見落とされやすい」という課題がある。24時間休むことなく拍動し、全身で最も高密度の毛細血管網(血流供給)を必要とする心筋は、この毛細血管の減少に伴う慢性的な虚血ストレスに対して、骨格筋よりも脆弱である。そのため、運動制限などによって見た目の骨格筋症状が「軽症」に保たれていても、血流障害が生じている心臓は耐えきれずに重症化すると考えられる。この知見は、未来のBMD治療において、従来の「筋細胞そのものの保護」だけでなく、遺伝子型に応じた「血管や局所血流をターゲットにした包括的なアプローチ(血管標的療法)」を組み合わせる多角的な戦略が、有効な一手になる可能性を示唆している(下図)。現在、根本的な治療法がないBMD患者に対し、こうした多角的なアプローチが次なる展開につながることを期待している。画像を拡大する4. 診断と評価のアップデート:CKに代わる「尿中タイチン」という次世代バイオマーカー骨格筋の保護薬の開発が進む中で、日常診療において病勢をどう評価するかという問題もアップデートが必要だ。長年使われてきた血清CK値は、患者の運動量によって激しく変動し、筋容量が減少した進行期にはむしろ低下してしまうため、筋疾患における正確な病勢の指標になりにくいという欠点があった。ここで臨床現場への導入が期待されるのが、筋構造タンパク質タイチンの代謝産物である。近年、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)において「尿中タイチン(タイチンN末端断片)」が高感度なバイオマーカーとして注目されているが、これがBMD患者123例の大規模コホートにおいても、臨床重症度を反映することが日本の共同研究チームによって示された5)。タイチンは心筋や骨格筋の収縮を支える巨大タンパク質であり、その崩壊に伴って尿中に排泄される断片量は、いわば筋崩壊の活動性(病勢)をリアルタイムに反映する指標となる。本研究により、尿中タイチン値は、BMD患者の歩行能力の維持状態や筋力低下、ならびに心筋傷害マーカーである高感度心筋トロポニンT(hs-cTnT)や心不全マーカーの数値と有意に相関し、迅速な対応が求められる心筋のダメージ総量を反映していることが明らかとなった。「採尿」という非侵襲的な検査で、心筋症の進行リスクや骨格筋の変性度をタイムリーに追えるメリットは、患者の負担を減らし、BMDの疾患マネジメントのあり方を大きく変える可能性を秘めている。ただし、日常診療へ組み込むためには、まだいくつかの課題が残されている。最大のハードルは、検査として一般に利用可能となるための「保険適用」だ。現状、尿中タイチンの測定は一部の高度専門医療・研究機関での研究や自費診療の枠組みを中心に行われており、ルーティン検査としてオーダーできるようになるには、もう一段階の制度的・技術的なブレイクスルーが必要とされている。5. 家族を診る:女性ジストロフィン変異保有者(患者の母親・姉妹)に潜む心筋症リスク新薬開発への期待が高まる裏で、われわれ医療コミュニティは「患者を支える家族」の健康リスクにも目を向ける必要がある。当センターを含む共同研究チームが行ったクロスセクショナル研究は、DMD/BMD患者の主介護者36人(平均55.7歳、その83.3%に当たる30人が母親)を対象に、介護負担度(Zarit介護負担尺度:ZBI)と身体症状を調査した6)。調査の結果、主介護者全体の平均ZBI合計スコアは20.9点であった。主介護者のうちキャリア(変異保有)確定は52.8%(19人)、未確定は38.9%(14人)だが、両者の負担感には明確な差がみられた。ZBIで「中程度の介護負担」の基準となる25点以上の割合は、未確定の介護者に比べ、キャリア確定者において有意に高かったのである(p=0.04)。以前のインタビュー(『【GET!ザ・トレンド】 循環器内科医が救う、筋ジストロフィー患者の予後』)でも触れたとおり、母親らは「わが子に遺伝させてしまった」という深い心理的葛藤に加え、患者が学習障害や発達障害などを伴うケースでは、そこから生じる社会的困難も一人で抱え込みがちだ。これら精神的・社会的負担に加え、今回の研究では、遺伝学的な確定状況にかかわらず、彼女たち自身の35人中19人がすでに何らかの骨格筋または心臓の症状を有し、25人中21人で血清CK値の上昇が確認された。つまり、彼女たち自身も「ジストロフィノパチーの身体的リスクの当事者」であるという看過できない現実が示されている。そのようなリスクを抱えながらも、自身の健康管理のために定期的な健康診断を受けているのは半数(50.0%)にとどまり、残る半数は健診の機会を持てていない。また、健診を受けている半数についても、一般的な健診メニューだけでは潜在する心筋症リスクの完全な把握や、健診項目に含まれないCK値の評価は難しく、確実なリスク管理には循環器内科などでの専門的なフォローアップが不可欠となる。主介護者である母親は、患者であるわが子の付き添いで通院していることが多いが、主治医(小児科や脳神経内科)の視線は患者本人に集中し、隣に座る母親のリスクは見落とされがちだ。われわれはこの認識を改め、家族に対しても適切な遺伝カウンセリングや循環器内科への受診を主体的に促す「家族をも視野に入れた包括的な診療アプローチ」を実践していく必要がある。DMD/BMDの診療は、女性変異保有者の心機能チェックまでをシームレスにつなぐ多職種連携を構築して初めて、真の実効性を持つと考える。結語:明日からの診療に活かしたいポイント前編の冒頭に記載のある、グローバル製薬企業における筋ジストロフィー事業買収に象徴されるように、この領域への関心は確実に高まっている。だからこそ、現場の医師には「BMDはDMDに比べて軽症」という言葉に惑わされない先見的かつ包括的なアプローチが求められる。循環器内科との他科連携:遺伝子型から予測される骨格筋や呼吸機能の予後にかかわらず、全例において循環器内科との緊密な連携による定期的な心機能評価を徹底し、必要に応じた早期の心保護薬による介入を進める。中枢神経症状への早期対応と専門機関への橋渡し:骨格筋症状が軽微であっても、発達遅滞や学習障害などの高次脳機能障害に注意を払い、小児科、脳神経内科、精神科、療育などの専門医療機関へ早期につなぐゲートキーパーとしての役割も担う必要がある。遺伝学的評価における微小変異の確認:代表的なエクソン欠失がない症例であっても、C末端側の微小変異を見逃さない遺伝学的評価の重要性を認識し、正確なリスク評価につなげていく。家族(母親・姉妹)への目配りと多職種による包括ケア:目の前の患者本人だけでなく、それを支える母親などの女性変異保有者の潜在的な心筋症・骨格筋リスクに注視する。認定遺伝カウンセラーやソーシャルワーカーらとも協働し、家族に対しても自ら循環器内科などへの受診勧奨や適切な遺伝カウンセリングを行う「チーム医療」を実践する。新たな治療の選択肢が現実味を帯びてくる今だからこそ、集積されたエビデンスをいち早く日常臨床に還元する姿勢が、われわれすべての医師に求められている。(聞き手:ケアネット 三浦 愛子)<<前編に戻る 参考 1) Servierプレスリリース(2026年6月1日公開) 2) Nakamura A, et al. Ann Clin Transl Neurol. 2023;10:2360-2372. 3) Nakamura A, et al. Neurol Genet. 2025;11:e200215. 4) Miyazaki D, et al. eLife. 2025;13:RP100665. 5) Awano H, et al. Clin Chim Acta. 2025;566:120053. 6) Ishizaki M, et al. Intern Med. 2024;63:365-372.

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妊娠期の暑さへの曝露が子どもの脳の発達に影響か

 気候変動が子どもの脳発達に影響を及ぼす可能性があるようだ。妊娠期および乳児期に高温環境にさらされることが、その後の視床の成長速度の低下と関連することが、新たな研究で示された。視床は、嗅覚を除く全ての感覚情報を大脳皮質へ送る中継点の役割を果たすほか、運動調節や意識、記憶、情動のコントロールにも関与している重要な脳領域である。バルセロナ国際保健研究所(スペイン)のEsmee Essers氏らによるこの研究成果は、「Environment International」8月号に掲載された。Essers氏は、「今後の研究では、人生早期の暑さへの曝露が神経発達障害の発症に関与するかどうか、また視床の発達の変化が両者の関連を説明する手がかりとなるかどうかを検討する必要がある」と述べている。 研究グループによると、視床は妊娠初期から発達が始まり、その発達には十分な血液供給が必要であるため、高温の影響を特に受けやすい。また、高温への曝露は胎盤や胎児への血液供給にも影響を及ぼす可能性があるという。 この研究では、オランダの3,251人の小児を対象に、妊娠期から8.5歳までの高温および低温への曝露が、9〜15歳時点での脳構造の変化と関連するかどうかが検討された。対象児はいずれも、2002年に開始された長期出生コホート研究への参加者で、妊娠期から成人期までの成長、健康状態、発達の経過が追跡されていた。10.1歳時と14.0歳時に取得されたMRIデータを用いて、11の脳構造の体積変化が評価された。論文の筆頭著者であるバルセロナ国際保健研究所Laura Granes氏は、研究目的について、「われわれの研究は、受胎時から8.5歳までの期間における暑さや寒さへの曝露が、思春期から青年期にかけての脳発達の変化と関連するかどうかを調べ、脳が最も影響を受けやすい時期を特定することを目的とした」と説明している。 その結果、受胎から生後5カ月までの期間では、基準温度(平均12.5℃)の環境への曝露と比べて、平均気温20.5℃の高温環境への曝露が、その後の視床体積の成長速度の低下と関連していた。平均気温20.5℃の環境への累積曝露に伴う視床体積の成長量の差は、妊娠第1トリメスターで−25.80mm3、第2トリメスターで−25.60mm3、第3トリメスターで−22.92mm3、生後3カ月間で−5.31mm3であった。低温への曝露や、視床以外の脳構造については、影響を受けやすい時期は確認されなかった。また、視床の成長遅延は、思春期における攻撃的行動や規則違反行動などの外在化行動症状と関連した。一方、認知能力との関連は確認されなかった。 では、なぜ外気温がこのような違いをもたらすのだろうか。研究グループは、暑さは母体のストレスホルモンのレベルを上昇させる一方で、胎盤が胎児をこうしたホルモン変化から守る能力を低下させる可能性があると推測している。また、高温環境は神経伝達物質であるセロトニンの働きを損なう可能性もあるという。セロトニンは、妊娠期から乳児期にかけて、視床と大脳皮質を結ぶ神経回路の形成に重要な役割を果たしている。 論文の上席著者である同研究所のMÒnica Guxens氏は、「地球温暖化により世界各地でより深刻かつ長期化する熱波が発生している中で、この研究結果は重要な意味を持つ可能性がある。世界の気温が上昇し続ける中、妊娠期および乳児期早期の暑熱曝露を減らすことは、小児の脳発達を守る上で重要な役割を果たす可能性がある」と述べている。

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「右利き」か「左利き」かは何によって決まる?

 字を書く、ボールを投げる、道具を使うといった日常的な動作をするとき、右利きの人は右手、左利きの人は左手の方がはるかに上手に動かせるのはなぜだろうか。新たな研究で、利き手の優れた運動能力は練習の積み重ねによって形成されるものであり、人の利き手を決定付けるような生まれつき固定された大脳半球の優位性は存在しないことが示された。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)デイヴィッド・ゲフィン医学部神経内科のAhmet Arac氏らによるこの研究の詳細は、「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」に6月30日掲載された。 これまでの研究では、すでに胎児の段階で左右の四肢のどちらかを優先して動かす傾向が見られ、その傾向から出生後にどちら側が利き手になるのか予測できることが示されている。このことから、人では一方の脳半球が運動制御において優れているため、その半球が主に制御する手や腕も、もう片方より巧みに動かせると考えられてきた。しかし、今回の結果はこの説に異を唱えるものだ。研究を主導したArac氏は、「利き手の優位性は、単にその手や腕に関わる脳半球が運動をうまく制御できるからではない。道具の使用や文字を書くといった複雑な動作を生涯にわたって練習してきた結果なのだ」とニュースリリースの中で述べている。 今回の研究でArac氏らは、健康な成人を対象に利き手と非利き手の運動能力を比較する一連の実験を行い、利き手の運動制御が優れている理由は、脳の左右差による生まれつきの運動能力の差なのか、それとも長年の経験によって培われた技能なのかを検証した。 最初の実験では、モーションキャプチャーカメラを用いて、被験者が5つのターゲットに向かって腕を伸ばす際の3次元の動作を分析した。動作は、1)通常の状態、2)手首に約4ポンド(約1.8kg)の重りを装着した状態、3)道具使用を模倣するため、前腕に軽い棒を固定した状態の3条件で実施された。 その結果、通常条件では、利き手と非利き手の動きの精度はほぼ同等だった。また、重りを装着した状態でも、両腕の動きの精度は同程度だった。しかし、棒を固定した状態で手を伸ばすという、より高い運動制御能力と精密さが求められる条件では、利き手の方が明らかに高い精度を示した。 次の実験では、参加者に左右それぞれの手で文字や数字を書いてもらった。次いで、左右それぞれの肘にペンを固定して、文字や数字を書いてもらった。その結果、肘に固定したペンで書いたときには、通常見られる利き手の優位性は完全に消えていた。予想通りの結果ともいえるが、左右の肘で書かれた文字はいずれもひどいものだった。 Arac氏は、「筆記という動作を一度も行ったことのない身体部位である肘に切り替えると、練習によって得られた利き手の優位性は消えてしまう」と言う。さらに、練習を重ねると、左右どちらの肘も同程度に上達し、最終的には非利き手では達したことのないレベルまで向上したという。 研究グループは、今回の研究結果は運動技能を再学習する必要がある脳卒中やその他の脳損傷を負った患者を助ける上で、新たな視点をもたらす可能性があると述べている。また、この結果は、人がどのように技能を要する運動を学習し、それを脳がどのように処理しているのかを解明する一助になる可能性があるとしている。

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【GET!ザ・トレンド】チーム医療で心臓も家族も診る、ジストロフィン異常症の最前線(前編)

2026年6月1日、仏セルヴィエ(Servier)が米エッジワイズ・セラピューティクス(Edgewise Therapeutics Inc.)の筋ジストロフィー事業を最大26.5億ドル(約4,100億円)で買収することを発表した1)。この買収の目玉は、現在ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)を対象に臨床試験が進行中の経口速筋ミオシン阻害薬「sevasemten」である。これまで根本的な治療薬が乏しかったBMD領域において、大型の事業買収が行われたという事実は、この疾患のアンメット・メディカル・ニーズへの注目度が高まっていることを示している。臨床現場においてBMDは、DMD(Duchenne muscular dystrophy)遺伝子のコドンの読み枠(リーディングフレーム)が維持されるイン・フレーム欠失が多く、完全欠損のデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)に比べて進行が緩徐な「軽症型」と説明されることが多い。しかし、実際に現場でBMD患者を診る医師は、「軽症」の一言では決して片付けられない臨床像の多様さに直面していた。治療薬開発のタイムラインが現実味を帯びてきた今だからこそ、BMDに関わる、またはその可能性のあるすべての医師に、「軽症だから」という固定観念にとらわれない包括的なアプローチが求められている。ここで、BMDの病態解明にモデルマウス研究や自然歴調査などを通じて長年尽力してきた、独立行政法人国立病院機構まつもと医療センターの中村 昭則氏に、近年発表された5つの重要な研究報告を踏まえ、これまでの臨床常識を最新のエビデンスに基づいてアップデートする解説をいただいた。1. 自然歴の再定義:大規模コホートからみえた骨格筋・呼吸・心機能・中枢神経症状の「乖離」今回のテーマを紐解くうえで不可欠なエビデンスとなるのが、日本の22の医療施設が参加し、私も携わった、イン・フレーム欠失を持つ225例のBMD患者を対象とした大規模な全国マルチセンター共同研究である2)。冒頭に記載があるとおり、BMDが「軽症型」と説明される背景には、同原因遺伝子の完全欠損型であるDMDと比較して遺伝子の読み枠が維持されているという特徴がある。この両疾患の分子遺伝学的な違いを下図に整理した。画像を拡大するこの共同研究のデータ解析から、これまで一括りに「軽症」と語られがちであったBMDのリアルな自然歴が浮き彫りとなった。患者の平均年齢は31.5歳(1~81歳)であり、初発症状は骨格筋症状が60.0%を占めたが、無症候性高CK血症の存在から発見される例も32.4%に上っている。注目すべきは進行のタイムラインである。歩行障害は53.8%の患者で認められ、車椅子導入の平均年齢は36.5歳であった。また、生命予後に直結する人工呼吸器の導入率も6.7%(平均年齢36.6歳)という結果であった。一見すると、これらの数字(平均年齢30代半ばでの車椅子や人工呼吸器導入)は、BMDが「緩徐に進行する軽症型」であるという従来のイメージと相反するように思えるかもしれない。しかしここで重要なのは、このデータが示す臨床像の「幅の広さ(多様性)」である。本研究の対象年齢が1~81歳ときわめて広範囲に及んでいることが示すとおり、軽微な骨格筋症状のまま高齢に至る例がある一方で、30代という若さで車椅子や呼吸器管理が必要となる例も確実に存在する。つまり、「BMD」という疾患名で一括りにできないほど、患者ごとにまったく異なる経過をたどるリアルな自然歴が、この大規模データによって浮き彫りになったといえる。また、心症状に関しては、患者の30%以上で心電図異常がみられ、15.1%に心不全症状がみられた。中枢神経症状においては、てんかん発作の合併率が8.0%、知的障害や発達障害の合併率が16.9%であった。ここで臨床医が最も注意すべきは、臓器間で進行度が並行しない「臨床症状の乖離」である。たとえば、本研究においてDMD遺伝子の「exon 45-47欠失」や「exon 45-55欠失」の患者は人工呼吸器の導入を必要としておらず、呼吸器症状においては比較的緩徐な経過をたどる傾向がみられた。一方、「exon 45-49欠失」の患者では、重度の骨格筋および呼吸筋の機能障害がみられた。しかしながら、心機能においては、こうしたエクソンの欠失パターンによらず患者間できわめて大きなばらつきが確認された。つまり、「骨格筋症状が軽い」からといって、心臓の病態も連動して軽いとは限らない。中枢神経症状についても、中枢神経に発現しているジストロフィン・アイソフォームに影響する後半のエクソンの欠失との関連が示唆されているものの、骨格筋の重症度とは相関せず、症状や重症度は一様ではなかった。以前のインタビュー(『【GET!ザ・トレンド】 循環器内科医が救う、筋ジストロフィー患者の予後』)でも言及したが、「骨格筋が軽症にみえること自体が、致命的な心不全リスクを覆い隠す最大のピットフォール」である。今回の全国規模のデータは、私が日頃から臨床現場で抱いていたこの危機感が、数字として実証された形となった。「骨格筋症状が軽いから、心臓も大丈夫だろう」という予測はBMDには通用しない。すべてのBMD患者に対し、エクソンの欠失パターンを念頭に置きつつも、各臓器やシステム(骨格筋、呼吸器、心筋、中枢神経系)を独立して定期評価する重要性が、この大規模データから明らかになったといえる。2. 「イン・フレーム欠失」以外の盲点:微小変異・重複変異の重症化リスクBMDといえば「イン・フレーム欠失」が定説だが、実際には全体の数%~十数%に微小変異(Microvariants:ミスセンス、ナンセンス、スプライス部位変異など)や重複変異(Duplication)が存在する。私も含めた日本の筋疾患専門医療機関のチームが報告した研究は、この「非欠失型BMD」49例(微小変異33例、重複変異16例)の臨床像を明らかにしている3)。解析の結果、とくに微小変異を持つBMD患者の多くで、心電図異常の合併率が非常に高いことが判明した。変異タイプ別の心電図異常の合併率を比較すると、イン・フレーム欠失(59.5%)や重複変異(31.3%)に対して、微小変異では90.9%に達していたのである。さらに、「変異の種類(ミスセンスかナンセンスか)」よりも、「ジストロフィンのどのドメインに変異があるか」が予後を左右することが明らかになった。具体的には、ロッド(Rod)ドメインの変異に比べ、システインリッチ(Cysteine-rich)/C末端(C-terminal)ドメインに変異を持つ症例では、骨格筋機能の低下(車椅子導入など)および呼吸機能障害が有意に重篤であった。また、発達障害や知的障害などの中枢神経系症状の合併率については、これら変異ドメインの間で有意な差はみられず、変異部位にかかわらず一定の割合で生じる点にも注意を払う必要がある。さらに本研究では、通常のDNA検査(MLPA法など)をすり抜ける、ジストロフィン変異の最大7%に存在するとされる「ディープイントロン変異」の存在とその病態の複雑さも示された。驚くべきことに、同じディープイントロン変異(c.265-463A>G)を持ちながらも、ある症例はBMDと診断される一方で、その同胞(きょうだい)は14歳で歩行不能となりDMDと診断されていたのである。この「まったく同じ変異でありながら臨床像が分かれる」という事実は、ジストロフィン異常症が遺伝子の一次配列(DNA)だけで一律に規定できないことを示唆している。日常診療において、遺伝子検査の結果が「エクソン欠失なし」であっても、次世代シークエンサーなどで微小変異が検出され、それがC末端側に位置している場合は、「BMDだから進行は緩徐だろう」と判断せず、ときにはDMDに近い厳重なフォローアップが必要となることを、われわれ臨床医は肝に銘じておかねばならない。>>後編に続く 1) Servierプレスリリース(2026年6月1日公開) 2) Nakamura A, et al. Ann Clin Transl Neurol. 2023;10:2360-2372. 3) Nakamura A, et al. Neurol Genet. 2025;11:e200215.

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第325回 予防接種法改正へ、水面下で起きていた反対論説

INDEX予防接種法改正の目的RSVの罹患率と重症化率ニルセビマブの効果、海外での位置付け法改正、地味に反対されていた理由予防接種法改正の目的先日閉会した国会では皇室典範改正や副首都法案が世を賑わせたが、医療界にとってはある重要な法案が6月30日に衆院、7月24日に参院で可決成立した。予防接種法の一部改正である。今回の法改正の要点は、従来の同法第二条で「予防接種」に用いる手段をワクチンと定めていたが、これを特定医薬品とし、その区分としてワクチンに加え、「モノクローナル抗体を有効成分として含有し、かつ、ワクチンと同程度にその効果が長期間にわたる医薬品」を含むとした点である。この法令条文だとややわかりにくいが、要は感染予防目的で使用する抗体製剤も予防接種法でカバーするということだ。ここで多くの医療者は「RSウイルス(RSV)に対する抗体製剤・ニルセビマブ(商品名:ベイフォータス)のことだろう?」と想像するに違いない。率直に言ってしまえば、ほぼ当たりである。"ほぼ"と付けたのは、あくまで厚生労働省は「将来的に登場する感染防止目的の抗体製剤も念頭に」と説明しているためだ。これについてはより詳細な説明として、参院厚生労働委員会で厚生労働大臣の上野 賢一郎氏自ら次のように語っている。「まず予防接種の対象については、すでに先進諸国ではRSV感染症を予防できる新たな手段として抗体製剤が用いられております。また、わが国においても同様の抗体製剤が薬事承認をされているにもかかわらず、現行法(予防接種法)ではワクチンのみが対象と規定され、抗体製剤に係る定期接種に向けた議論などをさらに行うことが困難となっているところであります。こうした中、審議会の提言では抗体製剤が予防接種法上の予防接種に用いる医薬品の1つの例、早期に定期接種において抗体製剤を使用できる環境が整備されることが求められているところであります。このように今般の法改正は、RSV感染症に対する抗体製剤がいわば1つの例として想定されるものでありますが、直ちに個別の製剤を定期接種に位置付けることを目的としたものではなく、当該抗体製剤を定期接種に用いることに関して審議会における議論を行うことを可能にするものであるというふうに考えております」要は各国ではすでにニルセビマブを定期予防接種の中に位置付けているにもかかわらず、現行の予防接種法の定義に沿えば、日本では議論すらできないため、まずは法改正をしたという理屈である。RSVの罹患率と重症化率日本ではニルセビマブは2024年3月、「RSVによる重篤化のおそれがある新生児、乳児、幼児での生後初回または2回目のRSV感染流行期のRSVによる下気道疾患の発症抑制、あるいは重篤化リスクのない新生児・乳児での生後初回のRSV感染流行期のRSV感染による下気道疾患の発症抑制」を適応として承認された。EU、英国では2022年11月、カナダでは2023年4月、米国では2023年7月に承認されており、日本はG7の中では最も承認が遅かった国である。ご存じのようにRSV感染症は小児ではほぼ必発の感染症で、生後1歳までに50%以上、2歳までにほぼ100%の乳幼児が最低でも1度は感染する。感染から2~8日の潜伏期間後、発熱、鼻水、咳などの症状が数日続き、初感染した乳幼児の約7割は数日のうちに軽快するが、約3割では喘鳴や呼吸困難、さらに細気管支炎の症状が出るなどの下気道症状が重症化する。2010年代には、2歳未満の乳幼児12~18万人(年間)がRSV感染症と診断され、3~5万人が入院を要したと推計されている。また、入院例の7%がなんらかの人工換気を必要としたとする報告もある。2017年にLancet誌に掲載されたシステマティックレビューに基づく推計1)によると、全世界では生後6ヵ月未満児の約4.6万人を含む、5歳未満の約10.1万人がRSV感染により死亡し、その大部分は低・中所得国で起きている。ニルセビマブの効果、海外での位置付けさて、そのニルセビマブの効果だが、在胎期間29週以上35週未満の健康な早産児を対象に行った50mg単回投与群とプラセボ投与群を比較した無作為化二重盲検第IIb相試験では、投与後150日間に受診を要した下気道感染の発現率は、ニルセビマブ群が2.6%、プラセボ群が9.5%で、ニルセビマブ群での発現率は70.1%(95%信頼区間[CI]:52.3~81.2)も有意に低下した。また、RSV感染流行期を初めて迎えた健康な正期産児および後期早産児(在胎35週以上)を対象に行われた無作為化プラセボ対照二重盲検第III相MELODY試験でも、投与後150日間に受診を要した下気道感染の発現率は、ニルセビマブ群が1.2%、プラセボ群が5%で、ニルセビマブ群での発現率は74.9%(95%CI:50.6~87.3、p<0.001)低下した2)。ご存じのようにRSVに関しては母子免疫を目的に妊婦が接種をする組換えRSVワクチン・アブリスボがすでに承認されており、過去の本連載(第289回)でも触れたように2026年4月からは妊娠28~36週の妊婦を対象に定期接種が開始された。こうした小児のRSV感染予防に向け、母子免疫ワクチンと抗体製剤が並立するのは、日本以外の先進国も同様である。ちなみに米国では、米国疾病予防管理センター(CDC)の低所得層や無保険の子供にワクチンを無償提供する連邦プログラム「Vaccines for Children(VFC)」の推奨予防接種スケジュールにニルセビマブが組み込まれた3)際、VFCでのワクチンの定義を抗体製剤も含む形に変更、また、欧州各国では医薬品の扱いのまま公的予防接種プログラムに組み込んでいる。母子免疫ワクチンと抗体製剤の相互の位置付け、使い分けに関しては、米国、欧州、オーストラリアなどでは原則どちらか一方を選択するとしている。母子免疫ワクチンを接種している母親から産まれた新生児・乳幼児には、原則は抗体製剤を投与せず、母子免疫ワクチンを接種していない場合は抗体製剤を選択できるという形だ。ただし、母親が出産直前にワクチンを接種したため抗体が十分移行していないと考えられるケースや早産で生まれてきた場合、出生児が重度の心疾患を有している場合などでは例外的に二重接種を認めている国もある。法改正、地味に反対されていた理由さて、実は今回の法改正については、衆院では「起立総員」すなわち全会一致、参院では賛成多数での可決だった。ここで「衆院は全会一致で、参院は賛成多数とは、参院では反対した政党がいたのか?」という疑問が湧く人もいるだろう。その通りである。衆院の採決結果も全会一致と記述したが、これは厳密に言えば、議場に出席した議員全員の賛成ということであり、欠席者は含まない。実際、当日の衆院本会議の議場の映像を見ると、議長に向かって右端方向に空席が目立つ。ちなみに衆参両院とも議長席に向かって左端から議席数の多い政党の議員席が配置される。さらに参院では個別議員の採決結果4)が公表されており、ここで衆院を欠席した政党・議員がほぼ予測可能になる。参院で同法改正に反対したのは参政党の15人とれいわ新選組の5人である。実際、参政党では、衆参両院の厚生労働委員会、れいわについては参院厚生労働委員会で所属議員が反対の立場から討論を行っている。以下に反対討論で述べられた理由について要約の上で箇条書きする(各人の反対理由は通し番号で列挙する)。◯牧野 俊一氏(衆院厚生労働委員会:参政党・北海道大学医学部卒)(1)高額なニルセビマブを国、自治体、保護者の負担割合が不明確なまま制度のみを先行させることには慎重であるべき(2)ニルセビマブの国際共同臨床試験では投与者の6.2%が抗薬物抗体(ADA)陽性であり、これが人体組織や細胞の一部と交差性を持ち、予期せぬ有害事象につながる可能性は否定しきれない(3)新たなモダリティを予防接種法に適用する以前に新型コロナワクチンやHPVワクチンの副反応で揺らいでいる予防接種行政への信頼回復が先決◯岩本 麻奈氏(参院厚生労働委員会 参政党・東京女子医科大学卒)(4)健康な乳幼児を含む、すべての乳幼児を対象とする根拠が十分に示されていない(5)ニルセビマブの非接種対比増分費用効果比(ICER)は643万8,000円/QALYで、日本で費用対効果の判断目安である500万円/QALYを超えている(6)新規抗体製剤ゆえ投与の有無に関連した乳幼児の安全性を継続的に検証する仕組みづくりが不可欠◯天畠 大輔氏(参院厚生労働委員会 れいわ新選組)(7)安全性の検証と被害救済が不十分(8)立法事実が曖昧なまま、ワクチンとは採用基準が異なる抗体製剤を予防接種法の対象に加えることへの懸念(9)妊婦向けの母子免疫ワクチンの安全性検証や副反応発生状況のデータが揃う前に次の抗体製剤の承認を進める二重推進への懸念以上は一見すると、一定の妥当性がある主張に見える人もいるだろう。ただ、私個人は公党の反対論拠としては疑問に感じるものが少なくない。まず、(3)と(7)の主張はかなり類似点が多い。たとえば新型コロナウイルス感染症ワクチンについては、これまで1万5,000件以上の健康被害救済制度への申請があり、その審査に時間を要し、なおかつ結果として「判定不能」となるものが多いのは事実であり、牧野、天畠氏とも反対討論前の質疑でこの点について言及している。制度のより円滑な運用を求める主張自体は妥当である。しかし、コロナワクチンに関しては、新規モダリティかつ日本国内で承認されたワクチンの中ではおそらく最も多くの国民が短期間のうちに接種したものであり、過剰反応や漠然とした不安も含め健康被害救済制度申請が多くなったやや異例の事態である。ゆえにそこでの審査遅れをもって制度全体が機能不全であるかのような指摘は、やや揚げ足取りの印象がある。また、そもそもワクチンと有害事象の因果関係を正確に判定するならば、たとえばワクチン接種者全員に対して接種前の検体採取などをしなければ、「判定不能」を減らすことはできない。しかし、そのようなオペレーションが現場でできるかは、医師である牧野氏ならばわかるはずである。そもそも新たな抗体製剤を予防接種法に位置付けるか否かという医学的な議論と予防接種に伴う健康被害救済制度の運用議論は、ある意味別次元のものでもある。そしてもし、今回の参政党やれいわの主張に沿うならば、健康被害救済制度の運用が改善されるまでは、国民は有効なワクチンや抗体製剤の恩恵を享受できないことになり、その間に感染症そのものの被害が拡大してしまう恐れがある。こちらのほうが政治としては失策である。一方、(2)、(6)、(7)、(9)はいずれも抗体製剤そのものの安全性に関する一抹の不安としては理解しうるが、これも揚げ足取りに映る。まず、岩本氏が主張する(6)は、ニルセビマブの場合、承認申請時に提出したプラセボ対照比較試験で一定程度立証済みである。このように書くと「それでは十分とは言えない」との反論もありそうだが、そもそも「どれだけの症例数・期間で、どのような結果ならば安全性が担保された」と言えるのだろうか? この問いは、よくありがちな「臨床試験上は短期的な安全性は確保されていると思われるが、長期ではわからない」という主張にも適用できるだろう。おおむねこの手の主張をする側は自分たちからは明確なエンドポイントは示さない。これでは揚げ足取りと言われても仕方ないのではと思う。また、牧野氏が主張する(2)で指摘するデータは事実だが、ADA陽性者と陰性者の抗体血中濃度は150日まではほぼ同等で、RSV感染率や安全性にも明らかな差は認められないと報告5)されている。さらに、米国食品医薬品局(FDA)の抗微生物薬専門委員会のニルセビマブに関する評価6)では、「2シーズン連続でニルセビマブを投与された被験者では、初回投与が第2シーズンの記憶ADA反応を誘導した、あるいは第1シーズンにADAを有していた被験者のADA反応を増強したことを示す証拠は認められなかった」と明記している。(1)と(5)はわかりやすく言えば、コスパである。この(5)で示されたICERは2025年10月に開催された厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会ワクチン評価に関する小委員会で報告された数字で、死亡と罹患中のQOL低下のみを考慮した結果である。このICERの500万円/QALYは、国内での過去の研究7)や国際比較などにより、日本での目安となった経緯があるが、金科玉条のものではない。ちなみに参考にされた研究では、日本での許容額は約500~600万円/QALYと幅のある計算になっていた。この目安に沿えば、ニルセビマブのICERはやや高めだが、前述のようにあくまで死亡と罹患中の患児のQOL低下のみを考慮し、たとえば子供が重症RSV感染症で入院したことに伴う親の経済損失などは考慮されていない。また、小委員会で示された試算では、RSV流行期直前に接種できた時のICERは274万円/QALYまで低下することも示されている。つまり使いようによってはかなり高いコスパが得られるということでもある。一方、牧野、岩本両氏が委員会審議でかなり追及したのが、このICER算定ではニルセビマブの接種費用を用量にかかわらず1回約4万5,000円としている点だ。これには驚く人もいるかもしれない。というのも、現在の国内でのニルセビマブの薬価は、体重5kg未満児向け50mgシリンジが約46万円、5kg以上児向け100mgシリンジが約90万円だからである。これに対しては、委員会の場で厚生労働省感染症対策部長の鷲見 学氏が、企業にヒアリングした結果、この算定価格を設定した旨を説明している。この価格は実は欧米の公的接種向けの卸売価格とほぼ同等であり、実際の納入価格はこれよりも安価といわれている。現在の日本の薬価がなぜこれだけ高いのかは、現状の保険適応対象が非常に限定的であり、その対象患者数の少なさを考慮して薬価設定が行われたと考えればほぼ納得できるはずだ。また、岩本氏は委員会質疑の中で過去5年のRSV感染症の年間死者数が最大29人であり、国側がその年齢別内訳のデータを持ち合わせていないことにも疑問を呈した。かみ砕いて言えば、小児の死者は少なく、その中でも早産児ではない正期産児での死者はごくわずか、すなわち健常乳幼児を幅広く接種対象とするのはコスパが悪いと言いたかったのだろう。もっとも、この点については岩本氏との質疑応答で、鷲見氏が“すべての新生児に接種した場合、絶対リスク減少値を年間の出生者数に単純に当てはめて計算すると約8,200人の入院を防げる”との試算を示している。ニルセビマブの接種で防げる乳幼児の死者はごくわずかでも、これだけの入院を防げるならば子供、親、医療者にとってもメリットは少なくないだろう。このような理由から、私には参政党、れいわ新選組の反対主張は、枝葉末節にこだわり過ぎであり、本質を見失っていると映る。れいわの天畠氏は参院厚生労働委員会の質疑冒頭で「わが党としては、経済的格差による医療アクセスの違いを解消し、子育て世代や小児医療の現場の負担を軽減しようとする政策目的には深く共感する」と発言していたが、失礼ながら今回のような重箱の隅をつつくような指摘に基づく反対によりもし法案が否決・遅延されていたならば、本来助成されるはずだった乳幼児の保護者に対し、高額な自己負担を強いることになる点をどのように考えているのだろう。目的への賛同と採決での反対という結論の間に政策選択上の矛盾が生じているようにしか思えない。いずれにせよ両党の主張については、私個人はやや厳しい言い方になるが、その発言の割には党利党略的なニオイしか感じないのである。1)Shi T, et al. Lancet. 2017;390:946-958.2)MELODY試験(ClinicalTrials.gov)3)CDC:RSV Immunization Guidance for Infants and Young Children4)衆議院:本会議投票結果(第221回国会2026年 7月 24日投票結果)5)Griffin MP, et al. N Engl J Med. 2020;383:415-425.6)AstraZeneca:Advisory Committee Briefing Document_Nirsevimab7)Ohsusa Y, et al. Iryo To Shakai. 2006;16:157-165.

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母親の素早い応答は子どもの精神疾患リスク低下と関連か

 忙しくてイライラしがちな母親にとってはさらにプレッシャーとなるかもしれないが、赤ちゃんの「あー」や「うー」などの発声(クーイング)や「ばばば」「ダーダー」などの喃語に対する反応が遅いと、子どもが後に精神疾患を発症するリスクが高まる可能性があるようだ。新たな研究で、乳児の発声に対し、母親が1秒以内に応答する確率が高いほど、乳児が7歳までに精神疾患と診断されるオッズは低かったことが示された。英アバディーン大学のPhilip Wilson氏らによるこの研究結果は、「PLOS One」に7月1日掲載された。Wilson氏は、「今回の結果は、乳児からのサインに対する母親の応答が遅いことと、その後の子どもの精神健康上の問題との間に強い関連があることを示唆している」と述べている。 この研究では、Avon Longitudinal Study of Parents and Children(ALSPAC)のデータを用いて、158組の母親と1歳児が絵本を見ながらやり取りする様子を撮影した動画を基に、母親が乳児の発声に、また乳児が母親の発声に、一定時間内に応答する確率を評価した。これらの乳児は、7歳時にDevelopment and Well-Being Assessment(DAWBA)を用いた精神疾患の評価を受け、55人が、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、反抗挑発症や素行症などの破壊的行動障害(DBD)、または不安症やうつ病を含む情緒障害と診断されていた。 解析の結果、乳児が母親の発声に8秒以内に応答する確率は、精神疾患の診断全体および、ADHDを除く各診断と関連していなかった。ADHDでは、乳児が8秒以内に応答する確率が10%高いことは、ADHD診断オッズの21%上昇と関連していた。一方、母親が乳児の発声に応答する確率は、精神疾患全体、DBD、およびADHDの診断と関連していた。母親が乳児の発声に1秒以内に応答する確率が10%高くなるごとに、乳児が何らかの精神疾患と診断されるオッズは17%低下した。また、ADHDでは21%、DBDでは20%低下した。一方、自閉スペクトラム症や情緒障害との関連は認められなかった。 ただし研究者らは、母親の乳児に対する応答が遅いことが後の精神健康上の問題の原因であるかどうかは明らかではないと述べ、今回の結果を確認し、観察された関連が生じる理由を明らかにするためには、さらなる研究が必要だとしている。Wilson氏は、「応答が遅いことが問題を引き起こしているのか、それとも遺伝的リスクなど他の要因が今回の結果を説明しているのかは、現時点では不明だ。今回の研究は、子どもの心理的な脆弱性を評価する上で、幼少期の親子のやり取りを観察することの重要性を強調している」と述べている。

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長鎖脂肪酸代謝異常症患者のエネルギー代謝を改善/ウルトラジェニクス ジャパン

 希少疾患分野に特化し、治療薬の研究開発・製造・販売を行うウルトラジェニクス ジャパンは、希少疾患である長鎖脂肪酸代謝異常症(LC-FAOD)について、2026年5月21日に治療薬トリヘプタノイン(商品名:ドジョルビ内用液100%)を発売した。この発売によせ、都内でメディアセミナーを開催した。セミナーでは、LC-FAODの診療やトリヘプタノインの概要などについて専門医がレクチャーを行った。日本でも年間数十人の新生児が長鎖脂肪酸代謝異常症と診断 「エネルギー代謝の破綻にどのように向き合うか-長鎖脂肪酸代謝異常症とトリヘプタノイン-」をテーマに村山 圭氏(順天堂大学大学院医学研究科 小児科学講座 /難治性疾患診断・治療学 教授)が、LC-FAODの病態や診療の実際、トリヘプタノインの特徴や臨床試験の概要などを説明した。 人間は生存において空腹時には脂肪をエネルギー変換することで、生き延びることができるように進化した。この脂肪酸のミトコンドリア内輸送やβ酸化が障害される先天代謝異常症が脂肪酸代謝異常(FAOD)であり、「カルニチン回路異常」と「脂肪酸β酸化酵素異常」の2種類がある。 その中でもLC-FAODは、長鎖脂肪酸代謝障害を特徴とし、生命を脅しかねない常染色体潜性遺伝性疾患群である。本症はエネルギー産生の急性クリーゼと慢性的なエネルギー不足を引き起こす。約100例 米国では2,000~3,500例の患者が推計され、年間約100例の新生児がLC-FAODと確定診断を受けている。また、わが国では年間10~50例の発症患者が推定されている。LC-FAODの症状は通常、出生直後および乳児期早期に始まるが、一部には疾患の進行が遅い場合があり、後年になるまで診断されないケースもある。現在は、新生児マススクリーニングでほとんどの患者が診断されている。LC-FAODの症状は、肝臓、心臓、骨格筋など、脂肪酸酸化によるエネルギー産生に依存する組織に発現する。たとえば、肝臓では低ケトン性低血糖や肝機能障害などが起き、心臓では肥大型および/または拡張型心筋症や心嚢液貯留、心不全などが起きる。そのほか、神経症状、骨格筋ミオパチー、網膜疾患、消化器症状など多臓器に多彩な症状を来す。患者は、こうした症状により日常のQOL低下や過大な医療費の負担、そして、潜在的に高い死亡率につながる急性症状と慢性症状に直面している。 とくに急性症状では、横紋筋融解症、心筋症、または低ケトン性低血糖症などが発現するとともに、LC-FAODの一部では、突発的な意識障害やけいれんが起こることもあり、入院、救急外来の受診、緊急の治療介入、突然死に至ることもある。LC-FAOD患者の多くは、継続的な疾病の管理、心の健康管理、不安への対応のほか、トリガー回避などのために生活が制限されるとともに、重大な合併症や生命を脅かす合併症を経験している。 LC-FAODの治療はこれまで対症療法が中心であり、基本的には「長時間の空腹の回避」「糖中心のエネルギー摂取(頻回摂取)」「MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)による代替エネルギー」「ベザフィブラート(酵素誘導)」「シックデイ対応」の5つが行われている。しかしながら、患者の根本的なエネルギー不足は解決されておらず、脂肪摂取制限の有効性に明確なエビデンスがないなどの課題を村山氏は指摘する。大事なことはエネルギー代謝の正常化 こうした問題の解決の一助として開発されたのがトリヘプタノインである。トリヘプタノインは、2つの代謝経路でエネルギーの産生に寄与し、脂肪酸代謝の改善とエネルギー産生の向上が期待されている。 トリヘプタノインは、炭素数7のヘプタン酸3分子がグリセロールで結合した合成中性脂肪で、LC-FAODに対して迅速かつ効率的なエネルギー源となる。経口摂取後に腸管内より吸収・代謝されたヘプタン酸は、長鎖脂肪酸とは異なり直接ミトコンドリア内に拡散移動し、生体エネルギー産生回路であるTCAサイクルの基質であるアセチルCoAとTCAサイクルの中間体であるスクシニルCoAを生成し、その後、速やかにTCAサイクルに入ることで患者のエネルギー産生に働く。 トリヘプタノインの海外第II相試験(UX007-CL201試験)では、LC-FAOD患者におけるトリヘプタノインの有効性および安全性評価を目的に24週間投与後の効果などが試験された。対象は、現行の管理法(低脂肪・高炭水化物食による管理、MCTオイルまたはMCT含有ミルクのいずれかを投与)にもかかわらず、重篤な臨床症状を示す生後6ヵ月以上のLC-FAOD患者29例。4週間の導入期間中、患者は現行の管理を継続し、導入期間終了後、ベースライン時に偶数鎖MCT(以降MCT)の使用を中止し、他の食事制限を維持しつつ、トリヘプタノインの投与を開始した。24週間投与し、その後、さらに54週間の継続期間において投与を継続した(合計78週間)。その結果、主要臨床イベントの年換算発現率では、トリヘプタノイン投与前(29例)1.69回/年に対し、トリヘプタノイン投与開始後(同)では0.88回/年となり、48.1%減少していた(p=0.0208)。また、年換算発現日数では、トリヘプタノイン投与前(29例)5.96回/年に対し、トリヘプタノイン投与開始後(同)では2.96回/年となり、50.3%減少していた(p=0.0284)。安全性について主な副作用は、下痢、腹痛、上腹部痛などの消化器症状が多く、死亡などの重篤なものはなかった。 最後に村山氏は「トリヘプタノインはエネルギー代謝ネットワークを再構築する可能性があり、エネルギー代謝の“断絶”を“連結”へと取り戻す治療ができる。新生児スクリーニングで本症と診断された患者に早く治療が届くように『こどもの未来に光を!』」と語り、講演を終えた。

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アトピー性皮膚炎への抗ヒスタミン薬、ルーチン使用を支持せず/BMJ

 アトピー性皮膚炎患者において、ヒスタミンH1受容体拮抗薬(抗ヒスタミン薬)の追加投与は、重症度およびかゆみについて臨床的に意義のある改善には至らない可能性があり、睡眠障害やアトピー性皮膚炎の増悪も軽減しないことが示唆された。また、第1世代の同薬剤は認知機能障害の増加および有害事象による治療中断を増加させる可能性があり、第2世代の同薬剤では認知機能障害リスクに差異があることも示された。カナダ・マクマスター大学のAlexandro W.L. Chu氏らが無作為化試験のシステマティックレビューおよびネットワークメタ解析の結果を報告した。著者は、「これらの知見は、アトピー性皮膚炎の治療における抗ヒスタミン薬のルーチンな使用を支持しないことの根拠となり、臨床ガイドラインの改訂に資するものである」と述べている。BMJ誌2026年7月29日号掲載の報告。システマティックレビューおよびネットワークメタ解析で評価 アトピー性皮膚炎(湿疹)患者の治療における経口抗ヒスタミン薬の使用は、近年の英国では5人に1人、米国では約半数に上ると推定されている。研究グループは、これらのOTC薬の有益性と有害性を調べ、アトピー性皮膚炎の患者にとって重要なアウトカムに対処するために包括的な解析が必要であり、最適な治療には経口抗ヒスタミン薬の科学的根拠に基づく評価が必要として本検討を行った。 開設から2025年5月5日までのMedline、Embase、CENTRALおよび米国食品医薬品局(FDA)と欧州医薬品庁(EMA)のデータベースを検索し、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を行った。 適格試験は、抗ヒスタミン薬、H2受容体拮抗薬、肥満細胞膜安定化薬(nedocromil sodium、クロモグリク酸ナトリウム)あるいはそれらの併用の追加投与を評価した無作為化試験とした。2人のレビュアーがそれぞれ、記録のスクリーニング、データの抽出および改訂Cochrane Risk of Bias 2ツールを用いたバイアスリスクの評価を行った。 ベイズ流ランダム効果ネットワークメタ解析により、アトピー性皮膚炎の重症度(oSCORAD、客観的スコア:0~83点、臨床的に意義のある最小差は8.2点、低スコアほど良好)、かゆみの重症度(数値評価スケール:0~10、臨床的に意義のある最小差は3、低値ほど良好)、睡眠障害、アトピー性皮膚炎に関連した生活の質(QOL)、および有害事象の統合解析を行った。エビデンスの確実性(質)の評価には、ネットワークメタ解析のためのGRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)およびCore GRADEアプローチが用いられた。第1世代抗ヒスタミン薬は認知機能障害を増加 解析には、主に中等症~重症の小児および成人6,230例(報告された平均年齢の中央値20歳[平均値の範囲:1~43])が登録された47試験が組み入れられた。27試験(57%)が小児を対象に含んでおり、31試験(66%)はプラセボ対照試験で、37試験(79%)は並行群間比較試験であった。また、36試験(77%)が全被験者に基礎的な併用治療(保湿剤または外用コルチコステロイド)が行われていた。 中程度のエビデンスの確実性があるものとして、プラセボと比較し、第1世代または第2世代の抗ヒスタミン薬の追加投与は、アトピー性皮膚炎の重症度(平均群間差:-1.87、95%信用区間[CrI]:-3.47~-0.27)およびかゆみの重症度(平均群間差:-0.89、95%CrI:-1.41~-0.37)を、わずかに軽減したに過ぎない可能性が示唆された。統計的検出は可能であったが、これらの効果は、確立された意義のある最小差(患者が重要だとするアウトカムの最小変化量)を大きく下回るものであった。 エビデンスの確実性は低かったが、すべての試験で検討された介入は、睡眠障害の改善やアトピー性皮膚炎増悪の軽減にはつながらない可能性が示唆された。 第1世代の抗ヒスタミン薬の追加投与は、認知機能障害を増加させ(リスク差は被験者1,000人当たり66人増、95%CrI:0~231、エビデンスの確実性は中程度)、有害事象による治療中断も増加(リスク差は被験者1,000人当たり29人増、95%CrI:1~131、エビデンスの確実性は低い)させる可能性が示唆された。 第2世代の抗ヒスタミン薬の追加投与は、認知機能障害のリスクについて差が認められた。平均的な影響の範囲は、ロラタジンが1,000人当たり0人増、レボセチリジンが1,000人当たり16人増、セチリジンが1,000人当たり17人増であった。

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医師の4割が抱える歯の悩みとは/医師1,000人アンケート

 近年、口腔疾患は糖尿病、脳梗塞、動脈硬化に伴う心筋梗塞など、全身疾患リスクとの関連性が見いだされたり、高齢者の健康寿命を縮める10大原因の1つとしても問題視されたりしている。このような状況を踏まえ、日本でも2026年度より『歯周病検診マニュアル2023』1)や歯科健康診査票を用いた歯周病検診がスタートし、国を挙げて国民の歯周病の早期発見・重症化予防に乗り出している。そこで今回、日々患者の健康を守る医師自身の定期検診や歯周病検診の受診率、口腔ケアの実態についてアンケート調査を行い、医師自身の歯科領域に対する意識を可視化した。歯周病や歯間への挟まりに悩む まず、自身の歯の健康やオーラルケアに対する意識(Q1)について、「意識している」と回答した医師は約90%に上り、年齢による差はみられなかった。診療科別では、血液内科(100%)、脳神経外科(97%)、呼吸器科(95%)の順で意識が高いものの、眼科医は76%と意識が低かった。 口腔内の健康で気になっていること・悩み(Q2)については、歯周病(38%)が最も多く、歯と歯の間にものが挟まりやすい(29%)、歯の着色・黄ばみ(26%)と続いた。しかし、これらは加齢による影響も大きいことから、歯周病に対する意識は年齢とともに上昇する傾向がみられた。一方で、20代医師の悩みの多くは、歯の着色・黄ばみ、口臭、歯並びなど審美的要素が中心であった。 日常のオーラルケア・審美目的で行っていること(Q3)は、デンタルフロス・歯間ブラシの使用(59%)、電動歯ブラシ・特殊な歯ブラシの使用(32%)、マウスウォッシュ・洗口液の使用(26%)と続いた。デンタルフロス・歯間ブラシの使用はいずれの年代でも最も多く、上述の悩みの解消のために実践されていた。歯周病検診や定期検診の受診率は約60% 歯周病検診を含め、定期検診やメンテナンスで歯科受診している医師の割合は60%に上り、20代を除く30代以降の半数以上が、なんらかの目的で1年に1回以上は歯科受診していた。その年間費用は、80%以上の医師で「5万円未満」であったが、50万円以上という回答も30代以上では1%ほどみられた。意識と行動のギャップ、「頭で理解していても通えていない」 全体を通して、日常のオーラルケアへの意識がある医師は約90%と非常に高い水準であるが、不定期を含め受診経験のある医師は約60%(定期的に通う医師は54%)にとどまり、約40%は受診していなかった。歯のケアなどに関する自由記入では、以下のような声が寄せられた。―――・定期検診の必要性はわかるが、予約が取りづらく、なかなか歯科に行けない(60代、形成外科)・セカンドオピニオンが医科よりも難しい(60代、耳鼻咽喉科)・どれくらいの間隔で歯科受診したらいいのか?(50代、小児科)・顎関節症、口臭、舌痛など、どの医療機関に相談したらよいかわからないことが多い(50代、耳鼻咽喉科)・歯石除去予防が困難(60代、内科)・若いうちにケアしておくべきだったと後悔しています(50代、麻酔科)――― このように、口腔の悩みやセルフケアの必要性を認識しているものの、通院時間や業務の忙しさなどのアクセス面が障壁となり、適切な治療に到達できていない可能性が浮き彫りになった。また、医師であっても自身の受診のみならず、医科歯科連携先の歯科医院選択などの悩みを抱えており、その詳細は以下のページに掲載している。医師自身の口腔ケア問題、その対策は?/医師1,000人アンケート

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子どもの頃の逆境体験、成人後の市販薬乱用と関連

 近年、市販薬の過量服薬(オーバードーズ)が社会問題となる中、幼少期の逆境体験がその背景に関与する可能性が示された。日本の成人約2万5,000人を対象とした全国調査の解析により、子どもの頃に虐待や家庭機能不全などの逆境体験を多く経験した人では、成人後の市販薬の習慣的乱用との関連が認められた。特に、電子たばこや加熱式たばこの使用者では、その関連がより強く認められたという。研究は、福島県立医科大学神経精神医学講座の森湧平氏、東北大学大学院医学系研究科精神神経学分野の長岡敦子氏らによるもので、詳細は6月2日付の「Psychiatry and Clinical Neurosciences Reports」に掲載された。 逆境的小児期体験(ACEs)は、虐待やネグレクトなどの幼少期のつらい体験を指し、その後の心身の健康や物質使用障害との関連が指摘されている。日本でも成人の約4人に3人が少なくとも1つのACEを経験しているという。また、市販薬(OTC医薬品)の乱用は社会問題となっており、中学生を対象とした厚生労働省の調査では、過去1年間のOTC乱用経験は1.8%(約55人に1人)で、同年齢層の違法薬物使用を上回っていた。しかし、ACEsとOTC乱用との関連を直接検討した研究は乏しい。こうした背景から、著者らは全国規模の成人集団を対象に両者の関連を検討した。 本研究では、2025年2月23日~3月31日に実施された全国インターネット調査「Japan Society and New Tobacco Internet Survey(JASTIS)」の回答者2万8,000人のうち、不適切回答などを除外した2万5,424人を解析対象とした。18歳未満の10項目のACEsを評価し、4項目以上を経験した場合を高ACE曝露と定義した。OTC医薬品の習慣的乱用は、1)過去1年間に5回以上使用した、2)推奨量を超える過量服用をした、3)気分変容や多幸感を得る目的で使用した――の3つを満たした場合と定義した。また、多変量ロジスティック回帰分析により、ACEsとOTC乱用との関連を評価するとともに、紙巻きたばこ、電子たばこ、加熱式たばこ、アルコール、違法薬物の使用状況による違いも検討した。 解析対象となった2万5,424人のうち、OTC医薬品の習慣的乱用の割合は6.8%だった。また、5.4%が4項目以上のACEsを経験した高ACE曝露群に該当した。高ACE曝露群では、低ACE曝露群と比べてOTC医薬品を習慣的に乱用するオッズが約3倍高く(調整オッズ比〔aOR〕 3.18、95%信頼区間〔CI〕 2.47~4.10)、有意な関連が認められた。さらに、ACEsの該当項目が1つ増えるごとにOTC乱用オッズは26%上昇した。ACE数別の解析でも、ACE数が多いほど関連が強まる傾向が認められた。 他の依存行動との関連を検討したところ、紙巻きたばこ、加熱式たばこ、電子たばこの使用者では、非使用者よりもACEsとOTC乱用との関連が強かった。特に電子たばこ使用者では、その関連が最も強かった(aOR 27.14、95%CI 13.12~56.14)。 本研究では、ACEsが成人後のOTC医薬品の習慣的乱用と独立して関連することが示された。特に電子たばこや加熱式たばこ使用者ではその関連がより強く認められた。著者らは、幼少期の逆境体験が長期的なメンタルヘルスに影響し得るとして、情緒的ストレスや社会的孤立に配慮した予防の重要性を指摘している。 なお、本研究は横断研究であり因果関係を示すものではない。また、自己申告データに基づくことから誤分類や過少申告の可能性があるほか、オンライン調査参加者に限定されているため、一般集団との構成の違いや過大推定の可能性にも注意が必要とされる。

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スマホ依存は本当に自殺リスクと関連しているか?

 スマートフォン依存は、精神衛生上の悪影響と関連付けられてきたが、自殺念慮や自殺企図との関連については、いまだ結論が出ていない。中国・University of Health and Rehabilitation SciencesのYufeng Li氏らは、スマートフォン依存と自殺念慮や自殺企図との関係に関するエビデンスを統合することを目的とし、システマティックレビューを実施した。PeerJ誌2026年6月8日号の報告。 スマートフォン依存と自殺念慮または自殺企図との関連を検討した査読付き英語論文を対象に、PubMed、Embase、Web of Science、Cochrane Libraryより検索した(対象期間:1971~2025年8月)。研究の質は、ニューカッスル・オタワ尺度を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・11件の横断研究が選択基準を満たした。・研究の実施地域は、韓国が9件、中国が1件、米国が1件であった。・11件中7件の研究は、研究の質が高かった。・スマートフォン依存と自殺念慮との間には、青年、大学生、若年成人のいずれの集団においても、一貫して有意な正の関連が認められた。・この関連には用量反応関係が認められ、依存の重症度が増す高リスク群ほど自殺念慮のオッズ比(OR)が上昇した(ORの範囲:1.14~4.57)。・自殺企図についても、高リスク群において有意な関連が認められた(ORの範囲:1.15~1.87)。・この関係には、ストレスや使用時間といった相乗的な要因による影響が認められた。 著者らは「スマートフォン依存は、さまざまな集団において自殺念慮および自殺企図のOR上昇と有意に関連していることが明らかとなった。この関係は、おおむね用量反応パターンを示しており、依存の重症度が高いほどORが上昇するという相関が認められた。これらの知見は、あらゆる年齢層を対象とした自殺予防戦略において、問題のあるスマートフォン使用を考慮に入れることの重要性を裏付けている」とまとめている。

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英語で「中耳炎」、患者に説明するには?【患者と医療者で!使い分け★英単語】第69回

医学用語紹介:中耳炎 otitis media「中耳炎」は専門用語ではotitis mediaといい、医療従事者の間では標準的な用語ですが、一般の方にはほぼ通じないでしょう。では、どのような一般用語で言い換えればよいでしょうか?講師紹介

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統合失調症と自閉スペクトラム症に共通する6つのポイント

 歴史的に、統合失調症と自閉スペクトラム症(ASD)は、一方は精神疾患、もう一方は神経発達障害として、それぞれ異なる疾患に分類されてきた。しかし近年の研究では、これら2つの疾患の間には、重複している部分が多い可能性が示唆されている。サウジアラビア・Northern Border UniversityのNahi Sabih Alruwaili氏らは、両疾患の類似点を示す疾患発症に関与する生物学的メカニズムについてのレビューを行った。Progress in Neuro-psychopharmacology & Biological Psychiatry誌オンライン版2026年6月11日号の報告。 主な内容は以下のとおり。・疾患発症に関与する生物学的メカニズムには、ドパミン、セロトニン、グルタミン酸、GABA、アセチルコリンといった神経伝達物質系の調節不全、BDNFシグナル伝達の変化、ヒスタミン調節の異常、ミクログリアの活性化、神経炎症、補体介在性のシナプス除去、脳腸相関シグナル伝達、エンドカンナビノイド系の機能不全などが挙げられる。・重要なポイントとして、上述の生物学的メカニズムは、うつ病、アルツハイマー病、多発性硬化症などの中枢神経系疾患にも認められる。・他の多くの中枢神経系疾患についても、統合失調症やASDと共通の生物学的メカニズムを有している可能性がある。しかし、統合失調症とASDの類似性は、次の6つの理由から顕著であった。(1)統合失調症とASDにみられる生物学的メカニズムが著しく類似している(2)遺伝率のパターンが高い整合性を示す(3)発達の経過が類似している(4)神経回路レベルでの病態が類似している(5)双方向的な疫学的リスクを共有している(6)神経発達スペクトラムに沿って推移している・こうした重複を認識することは、早期診断やバイオマーカーの開発、さらには疾患横断的な治療戦略(例えばメマンチン、α7ニコチン受容体作動薬、抗炎症薬などの既存薬のリポジショニングを含む)において、重要な意義を持つ可能性がある。・ただし、共通する経路を早期にターゲットとすることが、ASDにおける長期的な精神疾患リスクに影響するかを明らかにするには、縦断的な研究が必要とされる。

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子どものジュース摂取、多いと将来の高血圧リスク上昇と関連

 子どもがおやつの時間に飲むジュースは、将来の心血管の健康に悪影響を及ぼす可能性があるようだ。子どもの頃から果汁100%のジュースや砂糖入り飲料(sugar-sweetened beverage;SSB)を日常的に飲んでいると、成人期に高血圧を発症するリスクが高まる可能性が、新たな研究で示された。トロント大学(カナダ)栄養学・慢性疾患予防分野のカナダ・リサーチ・チェアであるVasanti Malik氏らによるこの研究結果は、「Circulation」に6月22日掲載された。Malik氏はニュースリリースで、「幼少期の食習慣は、その後の健康に長期的な影響を及ぼす可能性がある。高血圧は若年成人だけでなく、小児や思春期の若者でも増加しており、早期発見と予防の重要性が一層高まっている」と述べている。 果糖(フルクトース)は、はちみつや果物に含まれている単糖類の一種で、清涼飲料水などに使用されている。小児や思春期の若者における果糖の多量摂取は、肥満や高血圧などの肥満関連の合併症と関連することが報告されている。しかし、SSB、果汁100%ジュース、果物では、含まれる栄養成分や食品としての性質が異なるため、血圧への影響もそれぞれ違う可能性がある。 今回の研究でMalik氏らは、米国の長期コホート研究「Growing Up Today Study(GUTS)」の参加者2万5,749人(女性55%)のデータを用いて、果糖の総摂取量、およびSSB、果汁100%ジュース、果物の摂取と高血圧との関連を検討した。参加者のGUTS登録時の平均年齢は12歳で、最長25年間追跡された。 追跡期間中に1,625人(6.3%)の参加者が高血圧を発症していた。解析の結果、果糖の総摂取量と高血圧発症の間に有意な関連は認められなかった。果糖の総摂取量が最も少ない群を基準とすると、最も多い群の高血圧発症のハザード比は1.07(95%信頼区間〔CI〕0.92~1.25)であった。種類別に検討すると、SSBを1日2サービング以上摂取している群では週3サービング未満の群と比べて高血圧の発症リスクが52%高いことが示された(ハザード比1.52、95%CI 1.27~1.83)。また、果汁100%ジュースを1日1.5サービング以上摂取している群では、週1サービング未満の群と比べて同リスクが35%高かった(同1.35、1.06~1.71)。一方、果物の摂取では、高血圧発症との有意な関連は認められなかった。 さらに、1日1サービングのSSBを1サービングの牛乳、水、または果物に置き換えた場合、高血圧発症リスクはそれぞれ13%、9%、22%低くなることが示された。1日1サービングの果汁100%ジュースを1サービングの果物に置き換えた場合でも、高血圧発症リスクは19%低くなった。 Malik氏は、「炭酸飲料やスポーツドリンクなどの糖分を含む飲料は、一部では健康的であるかのように宣伝されているが、摂取は控えるべきである。また、フルーツジュースは適量であれば問題ないかもしれないが、多量摂取すると有害となる可能性がある。飲む際には果汁100%のものを選び、適量摂取にとどめるべきだ。SSBよりも果物を積極的に摂取する方が望ましい」と話している。研究グループは、果物にもフルーツジュースと同じ果糖が含まれているが、果肉や食物繊維が消化を緩やかにするため、ジュースや炭酸飲料を飲んだときのような急激な血糖値の上昇が起こることはないと説明している。 研究内容を確認した米テキサス大学サウスウェスタン医療センターのAmit Khera氏は、「成人で示されているのと同様に、高血圧の発症には果糖の総摂取量よりも、どのような食品から摂取するかが重要であると考えられる。実際に本研究でも、糖分を含む飲料や果汁100%のジュースは高血圧発症のリスク上昇と関連する一方、果物そのものは関連していなかった。これまで、果糖は供給源に関係なく心血管の健康に有害であるという考え方や、果汁100%ジュースは健康に良いという考え方があった。しかしこの研究は、どちらの考え方も正しくないことを示している」とコメントしている。

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