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喘息?COPD?ACO?バイオマーカーに振り回されない~FeNOと血中好酸球の正しい解釈~【喘息・COPDのここが知りたい!】第2回

皆さま、こんにちは。神奈川県川崎市にあります日本鋼管病院で呼吸器内科医として働いておりますキュート先生こと田中 希宇人です。連載第2回となる今回は、日常診療で触れる機会の増えた「FeNO(呼気一酸化窒素濃度)」と「血中好酸球数」という2つのバイオマーカーについて解説します。はじめに:数値に振り回されていませんか?長引く咳や息切れを訴える患者さんを診るとき、検査値の数字を見て…FeNOが35ppb以上だから100%喘息に間違いない!血中好酸球数が低いから、喘息ではなくCOPDだろうFeNOも好酸球も両方高いから、とりあえず吸入ステロイド(ICS)を高用量に増やしてみようといった判断をしていることはありませんか?バイオマーカーの数値だけで診断や処方を決めてしまっているとしたら、少し注意が必要です。これらは気道の「2型炎症」を客観的に示してくれる非常に強力なツールですが、あくまで「気道で起きている炎症の性質を推測するための手がかり」に過ぎません。今回は、ガイドラインの数字の裏側にある「バイオマーカーの限界・落とし穴」と、実臨床で正しく使いこなすための解釈のコツを整理していきましょう。2型炎症としてのFeNOと好酸球を理解するまず基本の整理です。FeNOと血中好酸球数は、どちらも「2型炎症」のマーカーですが、実はそれぞれが見ている分子病態が異なります。FeNO    主にIL-4やIL-13の刺激によって気道上皮細胞で誘導されるiNOS(誘導型一酸化窒素合成酵素)由来のNOを測定しています。つまり「気道上皮の2型炎症」を反映しています。血中好酸球数骨髄でIL-5などの刺激により増殖・分化し、末梢血に動員された好酸球数を反映します。つまり「全身および気道の好酸球性炎症」を捉えています。同じ2型炎症であっても、「FeNO=上皮主体の反応」「好酸球=全身の反応」というように病態が異なる場合があります。このことは喘息・COPDの病態把握だけでなく、喘息でもCOPDでも難治例で生物学的製剤を選択する際の参考になります。バイオマーカーの偽陽性・偽陰性ガイドラインでは「FeNO 35ppb以上」や「血中好酸球数300/μL(または5%)以上」が1つの指標として提示されます。しかし実臨床において、これらの数値はさまざまな因子で容易に変動します。【FeNOを変動させる主な因子】数値が下がる(偽陰性)実際の臨床現場でよくあるのが「喫煙」です。タバコの煙はiNOSの発現を強く抑制するため、喘息であってもFeNOが低くなります。喫煙者をFeNO値だけで判断し「喘息を否定」してはいけません。また、「ICSの使用」によっても数日から数週間で低下することが知られています。数値が上がる(偽陽性)「アレルギー性鼻炎・好酸球性副鼻腔炎の合併」があると、下気道に炎症がなくてもFeNOが跳ね上がることがあります。また、検査直前の硝酸塩を多く含む食品(ホウレンソウに代表される葉物野菜など)の摂取でも高く出ることがあります。【血中好酸球数を変動させる主な因子】日内変動       血中好酸球数は日内変動します。午前中の採血で400/μLだった人が、午後の採血では180/μLまで下がっていることは珍しくありません。1回の採血データで判断することは好ましくありません。全身性ステロイドの使用内服や点滴のステロイドが入ると、数時間で血中好酸球はほぼゼロ近くまで減少します。過去の採血データをさかのぼる際は「ステロイドが入っていないときの値か」を必ず確認してください。「1回きりの1点の値」だけで判断するのではなく、採血の時間帯、喫煙歴、アレルギー性鼻炎の有無、ICSやステロイド内服の有無を必ずセットで評価し、できれば複数回の検査を行うことが肝要です。実臨床での喘息・COPD・ACOによるバイオマーカーの使い分けそれでは喘息、COPD、そしてそれらの病態を併せもつACO(喘息とCOPDのオーバーラップ)において、バイオマーカーを臨床現場でどう活かすべきでしょうか。(1)喘息診断の補助として喘息は「変動性・可逆性のある呼吸器症状と気流閉塞」が基本病態であり、問診やスパイロメトリーが診断の要です。典型的症状があり気道可逆性が証明できれば、FeNOが15ppbであっても喘息の可能性が高いと考えられます。逆に症状が非典型的で鑑別に悩む場合に、FeNO 35ppb以上や血中好酸球数300/μL以上であれば「喘息らしさ」を補う材料になります。(2)COPD治療にICSを足すべきかの判断材料としてCOPDの基本治療は長時間作用性抗コリン薬(LAMA)や長時間作用性β2刺激薬(LABA)に代表される気管支拡張薬です。一部の症例にはICSの併用が増悪抑制効果をもたらします。その「ICSを足すべき患者」を見極める指標の1つとして血中好酸球数が挙げられます(表)。血中好酸球数300/μL以上ICS併用(トリプル製剤など)を積極的に考慮。血中好酸球数100/μL未満ICSの追加は推奨されない(肺炎リスクなどが上回る)。COPDにおける好酸球数は、鑑別というよりも「治療反応性(ICSが効くか)のマーカー」として使います。表 タイプ2炎症バイオマーカーと病歴に基づいた吸入ステロイド薬使用の目安(COPD)画像を拡大する(3)ACO(喘息・COPDオーバーラップ)の発見40歳以上で固定性気流制限のあるCOPD患者において、FeNO 35ppb以上や血中好酸球数300/μL(または5%)以上を認めれば、喘息要素(2型炎症)の併存を疑う大きな手がかりになります。ACOと診断できれば、LAMA/LABAにICSをしっかり併用する適切な治療戦略へとつながります。おわりにバイオマーカーは、客観的データで私たちの診療をサポートしてくれる素晴らしいツールです。ただし、丁寧な問診で「症状の変動性」や「環境要因」を聞き出すこと、スパイロメトリーで「気流閉塞と可逆性」を確認することはさらに重要です。その上でFeNOや血中好酸球数を見て「いま気道で2型炎症が燃えているか?」を推測する。この基本に忠実な診療がバイオマーカーに振り回されずに目の前の患者さんを正しく診るための最大のコツだと思っています。

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海外渡航時に必要なワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】総論 第9回

狂犬病1)ワクチンで予防できる疾患狂犬病は、狂犬病ウイルスを保有する哺乳動物に咬まれる、引っかかれる、あるいは傷口や粘膜をなめられることで感染する人獣共通感染症である。感染源の多くはイヌだが、ネコ、コウモリ、サルなど、すべての哺乳動物が感染源となりうる。潜伏期間は多くが20~60日だが、侵入部位などによって5日~1年以上と幅がある。発症すると有効な治療法はほとんどなく、致死率はほぼ100%である。わが国では1957年以降、国内での感染例はないが、海外で感染して帰国後に発症した症例がある。現在もアジア、アフリカを中心に流行しており、渡航者にとって重要なワクチン予防可能疾患である。2)ワクチンの概要狂犬病ワクチンは不活化ワクチンであり、国内ではラビピュール、輸入ワクチンではVERORABなどが用いられる。曝露前接種は任意接種で、原則として自費診療である。接種は筋肉内注射で行う。あらかじめ接種しておくことで、動物との接触後に必要な処置が簡略化され、適切な曝露後接種と組み合わせることで発症が予防できる。主な副反応は接種部位の疼痛、発赤、腫脹、発熱など一般的なワクチン反応であり、狂犬病ワクチンに特異的な副反応は報告されていない。3)接種のスケジュール小児、成人とも曝露前接種は、初回、7日後、初回から21~28日後の計3回が基本である。世界保健機関(WHO)は0日、7日の2回法も認めているが、国内では3回接種が主流である。流行地域に長期間滞在し、動物との接触リスクが継続する場合は、抗体価の確認や追加接種を検討する。曝露後は接種歴の有無にかかわらず速やかな対応が必要である。未接種者ではワクチンに加えて、抗狂犬病免疫グロブリンを使用し、既接種者では通常、免疫グロブリンは不要である。4)日常診療で役立つ接種ポイント渡航先、滞在期間、都市部か地方か、動物との接触機会、現地におけるワクチンや免疫グロブリンの入手可能性を確認することが重要である。「接種していれば、イヌに咬まれても受診不要」と誤解されないよう、「接種済みでも受傷後はただちに医療機関を受診する必要がある」と説明しておく。受傷時にはすぐに傷口を大量の流水と石けんで十分に洗浄することが最優先で、その後受診するように伝えておく。短期渡航であっても、幼児、動物に近付きやすい旅行者、地方滞在者には積極的に提案する。5)今後の課題・展望曝露前接種の普及に加え、流行国におけるイヌへの予防接種、曝露後ワクチンと免疫グロブリンへのアクセス改善が課題である。国内では、渡航前相談を早期に受ける仕組みと、帰国後の曝露後予防を担う医療機関の情報がウェブサイトで公開されている。6)参考となるサイト(公的助成情報、主要研究グループ、参考となるサイト)こどもとおとなのワクチンサイト「狂犬病について」同「狂犬病ワクチン」厚生労働省「狂犬病に関するQ&A」厚生労働省検疫所FORTH「狂犬病」WHO「Rabies vaccines: WHO position paper-April 2018」腸チフス1)ワクチンで予防できる疾患腸チフスは、サルモネラ属のチフス菌による全身性感染症である。主に患者や保菌者の便に汚染された水、飲料、食品を介して経口感染する。潜伏期間は通常6~30日であり、高熱、全身倦怠感、頭痛、食欲不振などを呈する。感染症名から腸管感染症と思われやすいが、下痢や腹痛を伴わず、発熱のみで発症する場合もある。治療が遅れると重症化しうるが、適切な抗菌薬治療を受ければ死亡率は1%未満である。わが国での発生はまれだが、南アジア、とくにインド、パキスタン、バングラデシュなどへの渡航者では感染リスクが高い。薬剤耐性菌の増加も国際的な問題である。2)ワクチンの概要国内承認ワクチンとして、Vi莢膜多糖体ワクチンであるタイフィムブイアイがあり、2歳以上を対象とする任意接種である。1回0.5mLを筋肉内または皮下注射する不活化ワクチンであり、予防効果は約55~74%、有効期間は約2年である。輸入ワクチンには結合型ワクチンTypbar TCVがあり、生後6ヵ月以上45歳以下で使用される。報告されている有効性は87.1%で、免疫の持続性にも優れている。主な副反応は接種部位疼痛、筋肉痛、倦怠感、発熱、腫脹などである。いずれも過去にワクチン成分による全身性過敏反応を起こした者は禁忌である。3)接種のスケジュールタイフィムブイアイは、小児では2歳以上、成人では年齢を問わず、原則として渡航の少なくとも2週間前までに1回接種する。感染リスクが続く場合は2年ごとの再接種を検討する。Typbar TCVは生後6ヵ月以上45歳以下に1回筋肉内接種し、3~5年ごとの再接種が目安となる。4)日常診療で役立つ接種ポイント渡航国だけでなく、訪問地域、滞在期間、現地での食事、親族宅への滞在の予定を具体的に確認することが重要である。ワクチンの効果は100%ではないため、「接種したから自由に飲食できる」という誤解を避ける必要がある。十分に加熱された食品を選び、安全な水を飲用・使用し、生野菜、氷、加熱不十分な食品を避けるなど、飲食物対策を併せて説明する。帰国後に発熱した場合は、渡航歴を医療者へ伝え、自己判断で抗菌薬を服用しないよう説明しておく。5)今後の課題・展望国内承認ワクチンの導入によって接種機会は改善したが、任意接種であるため費用負担や医療機関ごとの供給体制に課題が残っている。そのため、渡航外来では渡航者個人のリスクを見積もって接種が必要な場合に推奨する。6)参考となるサイト(公的助成情報、主要研究グループ、参考となるサイト)こどもとおとなのワクチンサイト「腸チフスについて」こどもとおとなのワクチンサイト「腸チフスワクチン」厚生労働省「腸チフス」米国疾病予防管理センター(CDC)「Typhoid Fever and Paratyphoid Fever」WHO「Typhoid vaccines: WHO position paper-March 2018」Typhoid Vaccine Acceleration Consortium(TyVAC/Take on Typhoid)講師紹介

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東京遺伝性腫瘍研究会開催のお知らせ

 東京遺伝性腫瘍研究会は、10月31日に都内で「第2回 東京遺伝性腫瘍研究会」(世話人:新井 正美氏[順天堂大学])を開催する。 今回のテーマは「遺伝性腫瘍診療ネットワーク-知をつなぎ、人をつなぐ-」。SDHxの基礎から臨床、遺伝学的検査結果の読み解き方、多遺伝子パネル検査に関する講義のほか、臨床現場で判断に迷うテーマを扱う少人数のグループディスカッションを実施する。診療に関わる医療者が率直に語り合い、深め合える場となることを目指す。 開催概要は次のとおり。【研究会概要】・日時:2026年10月31日(土)14:00~17:30・会場:順天堂大学10号館1階 105カンファレンスルーム・プログラムの概要(1)特別講演:褐色細胞腫・パラガングリオーマの遺伝子診断の現状と展望-今さら聞けないSDHxの基礎から臨床まで- 講師:竹越 一博氏(筑波大学)(2)講演:遺伝学的検査結果を読み解くには 講師:江口 英孝氏(順天堂大学)(3)教育講演:多遺伝子パネル検査時代におけるmoderate risk遺伝子との向き合い方-基本から実臨床まで- 講師:植木 有紗氏(がん研有明病院)(4)グループディスカッション:テーマ「臨床現場でのQ&A こんなときどうする?」(5)懇親会(有料)17:45~20:30 会場は同会場(3,000~4,000円を予定)・参加申込URL:https://forms.gle/Nxzyd4kLd5kM5A1j8・応募期限:2026年10月19日(月)●問い合わせ先 不明な点などは、以下のメールアドレスまで。 第2回 東京遺伝性腫瘍研究会 E-mail:tokyo.iden2@gmail.com 担当:新井 正美氏(順天堂大学大学院医学研究科臨床遺伝学)、清水 絵理氏(同)

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第79回 「人生最初の1,000日」の砂糖摂取が、70年後の認知症リスクを変える?

認知症の予防といえば、中高年になってからの運動や食事を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、イギリスの約6万5,000人を分析した新しい研究は、母親のおなかの中にいた時期から2歳ごろまでに砂糖が制限されていた人ほど、成人後の認知症の発症が少なかったと報告しました1)。「自然の実験」と呼ばれる特殊な歴史的状況を利用したこの研究の中身と、私たちが知っておくべき読み方を解説します。1953年9月、イギリスで起きた「自然の実験」第2次世界大戦中の1942年、イギリスでは砂糖やお菓子を含む食料の配給制が始まりました。この砂糖の配給は戦後も続き、1953年9月に突然終わります。配給が終わると、国全体の砂糖の消費量は1年余りで5割以上増えました。一方、脂質やほかの食品の消費はほとんど変わらず、総カロリーの増加も5%程度にとどまっていました。つまり、この時期に生まれた子供たちは、生まれた月の違いだけで「幼少期に砂糖が制限されていた人」と「制限されなかった人」に、いわば偶然に分かれることになります。研究者の意図で人を分けたわけではないのに比較ができる、この状況を疫学では「自然の実験」と呼んでいます2)。研究チームは、イギリスの大規模な健康データベース「UKバイオバンク」に参加する1951年10月~1956年3月生まれの6万4,737人を分析しました。母親の妊娠中(胎児期)のみ、胎児期から生後1年まで、胎児期から生後1~2年までと、配給を経験した期間の長さで分け、配給をまったく経験していない人と認知症の発症率を比べたのです。参加者の登録時の平均年齢は約55歳で、追跡は2023年まで行われました。制限期間が長いほど、認知症は少なく・遅い結果は、砂糖の制限期間が長いほど認知症のリスクが低いというものでした。胎児期から生後1年まで砂糖が制限されていた人は、制限されなかった人と比べて、あらゆる原因による認知症の発症が21%少なく、アルツハイマー病は23%少ないという結果でした。胎児期から生後1〜2年まで制限されていた人では、認知症が23%、アルツハイマー病が28%少なくなっていました。血管性認知症でも同じ傾向が見られましたが、統計学的にはっきりした差とは言えませんでした。また、発症の時期にも違いがありました。胎児期から生後1~2年まで制限されていた人は、認知症の発症が平均で2.55年、アルツハイマー病では2.87年遅いと推定されています。さらに、参加者の一部が受けた脳のMRI検査では、砂糖が制限されていた人のほうが脳の「灰白質」の体積が大きく、脳の小さな血管の傷みを反映する「白質病変」が少ないことがわかりました。認知機能のテストでも、情報を処理する速さや推論の課題で、わずかながら良い成績を示していました。興味深いのは、この関連が女性でより強く見られたことと、アルツハイマー病の遺伝的なリスク因子であるAPOE ε4遺伝子を持っているかどうかでは差がなかったことです。また、成人後の2型糖尿病と高血圧が、この関連の約4分の1を説明していると分析されました。残りの4分の3は、まだ十分に解明されていない別の経路を通じている可能性があります。この結果を、どう受け止めるべきかこの研究には大きな強みがあります。単なる観察研究では「砂糖を控える家庭は、ほかの生活習慣も健康的なのでは」という疑いが常につきまといますが、生まれた月による自然の実験ではそうした偏りが入りにくいのです。ただし、限界もあります。UKバイオバンクの参加者は、一般の人より健康で教育水準が高い傾向があり、また70年前のイギリスという特殊な環境での話です。当時の配給下の砂糖摂取量は、現在のWHOなどの推奨量とほぼ同じ水準だったと報告されていますが、これがそのまま今の日本の子供に当てはまるとは断言できません。認知症の発症数もまだ多くはなく、今後の追跡で結果が変わる可能性もあります。何より、研究者自身が「実際に妊娠中・幼少期の砂糖を減らす介入を試す臨床試験が必要だ」と述べているように、因果関係が証明されたわけではありません。それでも、依然としてこの研究が示唆するメッセージは重要なものです。脳の健康は、私たちが思っているよりずっと早い時期から積み重なっているのかもしれない。実際、妊娠中や乳幼児期に甘い飲み物やお菓子を控えることは、すでに肥満や糖尿病の予防のために各国で推奨されていることでもあります。認知症予防は「人生最初の1,000日から」すでに始まっているのかもしれません。1)Zheng J, et al. Association of sugar restriction in utero through age 2 years on dementia risk later in life. Neurology. 2026;107:e218313.2)Gracner T, et al. Exposure to sugar rationing in the first 1000 days of life protected against chronic disease. Science. 2024;386:1043-1048.3)Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024;404:572-628.

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小児の毎日続く頭痛、専門医受診遅延が治療結果に及ぼす影響が明らかに

 小児の毎日続く頭痛(連日性頭痛)は、難治性であり、日常生活に支障を来す疾患である。しかし、連日性頭痛の発症から専門医への初回受診までの期間が臨床アウトカムに及ぼす影響については、これまで明らかになっていなかった。兵庫医科大学の徳永 沙知氏らは、連日性頭痛を呈した小児および青年を対象に初回受診までの期間と症状改善までの期間との関係を明らかにするため、レトロスペクティブ観察研究を実施した。Medical Sciences誌2026年7月27日号の報告。 対象は、連日性頭痛を呈した小児および青年51例。受診までの期間は、頭痛が連日性となった日から初回受診日までの期間と定義した。主要評価項目は、3~4ヵ月時点での頭痛の改善(1ヵ月当たりの頭痛日数が50%以上減少すること)とし、副次評価項目は、6~7ヵ月時点での頭痛の改善とした。多変量ロジスティック回帰分析およびROC曲線分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・頭痛の改善は、3~4ヵ月時点で41.2%、6~7ヵ月時点で60.0%の患者に認められた。・初回受診までの期間が1週間長くなるごとに、3~4ヵ月時点での頭痛の改善オッズは12%低下した(調整オッズ比[aOR]:0.875、95%信頼区間[CI]:0.783~0.979、p=0.020)。・ROC曲線分析では、探索的な閾値として5週間が特定された(曲線下面積:0.837、95%CI:0.711~0.963)。・本コホートにおいて、この閾値を超えた場合、早期改善のオッズは著しく低かった(aOR:0.040、95%CI:0.007~0.238、p<0.001)。・併存疾患としての体位性頻脈症候群(POTS)は、3~4ヵ月時点での改善が得られないことと関連していた(p=0.003)。一方、その他の併存疾患との関連は認められなかった。 著者らは、小児の連日性頭痛において、受診までの期間が短いことは、併存疾患の有無にかかわらず、早期改善と独立して関連していたとまとめた。本コホートでは、この探索的な5週間の期間内に受診した患者において、早期改善の可能性が著しく高かった。ただし、臨床的な意思決定にこの閾値を活用するには、プロスペクティブな外部検証が必要である。これらの知見は、小児において連日性頭痛が発現した際、速やかな専門医への紹介を検討すべきという考えを支持するものと言える。

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今年も「ワクチン虎の穴セミナー」を開催/プライマリ・ケア連合学会

 日本では、今年も麻しん流行や肺炎球菌ワクチンのPCV20への変更など、感染症やワクチンに関係する話題が多い。また、海外ではハンタウイルス、エボラ出血熱などの再興感染症の流行も危惧されている。 こうした環境の中、「こどもとおとなのワクチンサイト」を運営する日本プライマリ・ケア連合学会 感染症委員会 ワクチンチームは、10月に医師・医療従事者向けに「ワクチン虎の穴セミナー」を開催する。 本セミナーは、ワクチンの基本から応用、新しいワクチンのアップデート、渡航ワクチンに至るまで、盛りだくさんの内容を専門医などが講義するもので、初学者からアドバンスドな実践者までが学べる機会となる。 開催の概要は以下のとおり。【2026年(第9回)ワクチン虎の穴セミナー】■日時:10月11日(日) 13:00~18:00(終了後懇親会あり)10月12日(月・祝) 8:45~13:00■会場:アットビジネスセンター東京八重洲通りまたはオンラインのハイブリッド開催 ※参加日数は選択制であり、たとえば1日目はオンライン、2日目は会場参加も可能■対象:医師、医学生、メディカルスタッフ(看護師・薬剤師など)■主な内容(講義時間割は下記のサイトを参照): 日々の外来で遭遇する事例を交え、基本的な考え方から最新情報までを深掘り。明日からすぐに使えるエビデンスを網羅する。【先行動画】ワクチンの基本など・ワクチンの基本(種類、スケジュール、副反応など)・小児ワクチンのUpdate、医療従事者・免疫不全者のワクチン・抗体価の考え方、ワクチンコミュニケーション【1日目】外来で「よくある疑問」を徹底解説・肺炎球菌ワクチン、20価と21価どちらを勧める?・RSVワクチン、誰に打つのが正解?・帯状疱疹の罹患歴がある人にも、ワクチンは勧めるべき?・来年度定期接種予定の高用量インフルエンザワクチンの特徴は?【2日目】体験型ワークショップ(現地参加推奨)・外来でのワクチン推奨シミュレーション・痛みの少ないワクチン接種ワークショップ・ワクチン接種を躊躇する患者の対応、ロールプレイ【オプション】要申込:渡航ワクチン動画 2025年度ver.のアーカイブ配信・渡航医学と渡航ワクチンの総論・各論・渡航地別ワクチンスケジュール作成・旅行保険、基礎疾患をもつ患者の注意ポイントなど■参加費:1日参加・2日間通し参加、現地/オンライン参加、ともに同料金。【医師(研修医を除く)】A 現地参加/オンライン参加(参加日数は問わない) 参加費 会員:8,000円/非会員:1万円/懇親会費:2,000円B アーカイブ視聴のみ(募集開始は2026年11月以降)参加費 会員:7,000円/非会員:9,000円【学生・研修医・医師以外】参加形態によらず一律参加費 会員・非会員:5,000円(特別価格)/懇親会費:2,000円【オプション(希望者のみ)】渡航ワクチン2025年度講義動画のアーカイブ視聴参加費 2,000円■定員(1)現地参加者:両日ともに48名(2)リモート参加者:定員なし■申込方法 下記フォームよりお申し込みください。・現地参加者の交通費・宿泊費は各自で手配・負担。・注)【いずれか1日のみ現地参加希望】の場合は【現地参加を希望の方】のフォームからお申し込みください。・現地参加者の応募者が多数の場合、現地参加からリモート参加への変更をお願いする場合がありますので、あらかじめご了承ください。◆現地参加を希望の方◆リモート参加を希望の方◆アーカイブ視聴を希望の方 セミナー開催後(2026年11月〜)に改めて参加者を募集する予定 (詳しくは下記のワクチンサイトを参照のこと)【詳細はこちら】 こどもとおとなのワクチンサイト 日本プライマリ・ケア連合学会【セミナーに関するお問い合わせ】office@primary-care.or.jp(日本プライマリ・ケア連合学会 学会本部)

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第313回 「安い薬価」が薬を遠ざける?-「ドラッグラグ」から「ドラッグロス」の時代へ

新薬がわが国に入ってこない「ドラッグロス」の現実海外では標準的に承認され使用されている医薬品が、日本では使えない--。かつては欧米より承認が遅れる「ドラッグラグ」が問題視されていましたが、近年はより深刻な「ドラッグロス」への懸念が急速に高まっています。ドラッグロスとは、「欧米の製薬企業が日本国内での治験や発売自体を見送り、新薬がいつまで待っても国内に入ってこなくなる事態」を指します。医師にとっても患者にとっても看過できないこの問題の背景には、国際的な薬価政策の地殻変動があります。米国・トランプ政権の「最恵国待遇(MFN)」政策がもたらす余波背景として急浮上しているのが、米国における薬価政策の大転換です。トランプ大統領は2025年、米国内の薬価引き下げを目的に「最恵国待遇(MFN)」に関する大統領令に署名しました。これは、わが国や欧州など他国の実質価格(ネット価格)を参照し、バスケットの中で「2番目に低い価格」などを基準に米国の公的保険などの価格を引き下げる政策です。世界最大の医薬品市場である米国は、グローバル新薬の売上・利益の大部分を支えています。その一方で、わが国の薬価は、算定時に米英独仏の平均価格を参照する外国平均価格調整があるものの、毎年の薬価改定や市場拡大再算定などにより、収載後に価格が急速に削られていく仕組みになっています。そのため、国際的に見ても低水準にとどまる品目が少なくありません。もし、わが国で安く設定された薬価が米国の参照価格の底を押し下げ、巨大市場である米国内の薬価引き下げに直撃するのであれば、製薬企業にとっては「わが国で安価に発売するより、わが国への投入自体を見送るか遅らせたほうが得策」という経営判断が成り立ってしまいます。国内企業の4割に影響、スイスでも起きている「新薬見送り」この懸念はすでに現実化しつつあります。日本製薬工業協会が加盟16社を対象に行った調査では、37.5%が「すでに米国の薬価政策による影響が生じている」と回答しました。国内での治験や開発プロジェクトの縮小、承認申請・発売時期の見直しといった動きが報告されています。ロシュやノバルティスなどの大手製薬企業が本拠を置くスイスでも同様の事態が進行しています。同国では2025年1月~2026年6月に承認された革新的新薬22品目のうち、約3割に当たる7品目で国内の保険適用申請が見送られました。米国との価格差が本国市場での収益に及ぼす影響を警戒した結果とみられており、わが国にとっても対岸の火事ではありません。低薬価の歪み-チルゼパチドの教訓と未発売新薬低薬価による歪みは、臨床現場にもすでに現れています。糖尿病治療薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ)は、わが国の薬価が主要国の中で最も低い水準に抑えられた結果、安価な入手を求めて近隣国から来日する「医療ツーリズム」や、自由診療による適応外の痩身目的処方が問題視されました。本来治療を必要とする患者への供給不安を招き、イノベーション評価と供給維持の難しさを浮き彫りにしています。さらに深刻な実例として、日経新聞(「がんや糖尿病、承認済み新薬の発売遅れ 割安な薬価を米欧勢が警戒か」)が報じたように、国内で製造販売承認を取得しながら薬価が決まらず発売に至っていない経口乳がん治療薬などの事例も出現し始めています。従来、診療報酬改定のたびに「薬価引き下げ」を財源として捻出し、医療費を調整してきたわが国の手法は、世界の薬価が連動する時代を迎えて完全に限界を迎えつつあります。海外ガイドラインで「標準治療」とされる分子標的薬や遺伝子治療薬にわが国だけアクセスできないという、医療の後進国化すら危惧される状況です。「薬価(単価)」から「処方量(ボリューム)」の適正化へでは、国民皆保険を維持しながら新薬アクセスを守るために、わが国はどう舵を切るべきでしょうか。第1に、医薬品の価値に応じたメリハリのある薬価制度(Value-based Pricing)の確立です。これまでにない治療効果をもたらす画期的新薬や、生命予後を有意に改善する薬剤には国際水準に見合う十分な薬価を認め、特許期間中は予見性の高い薬価を維持する一方で、既存薬と大差のない新薬は厳格に評価するという優先順位付けが不可欠です。残念ながらわが国で行われている費用対効果評価制度では、2019年に制度が始まって以降の価格調整の実績(図)で見ると特許期間中の45品目中36品目で薬価が引き下げられ、わずか9品目のみが薬価維持という状況でした。評価をしても薬価が引き上げられた新薬は1つもありませんでした(中央社会保険医療協議会費用対効果評価専門部会)。製薬企業の業界団体からは議論が十分されないままであり、制度面の議論が尽くされず、かつ薬価を引き下げる局面にない現状では、費用対効果評価制度による価格調整は当面凍結すべきと提言しています。図 費用対効果評価制度における価格調整の実績画像を拡大する第2に、医師である私たちが向き合うべき課題が「薬剤使用量(ボリューム)」の適正化です。米国のシンクタンクであるランド(RAND)研究所の調査によると、わが国の1人当たり処方薬使用量、とりわけ新薬の数量シェアは経済協力開発機構(OECD)平均や米国を大きく上回っています。高齢者のポリファーマシーによる薬剤量の是正、不必要な抗菌薬の処方削減、バイオシミラーの活用、さらには患者の体格やエビデンスに基づいた抗がん剤の投与量・投与期間の適正化を進める必要があります。すなわち、「必要な新薬には適正な対価を支払い、必要性の低い投薬を減らす」という構造転換が求められるのです。おわりに国民皆保険の真の強みは、価値ある新薬が収載されれば全国民が公平に地域に関係なく治療を受けられる点にあります。しかし、この仕組みを維持するためには、「世界で最も薬価が安い国」を目指すのではなく、「真に必要な新薬を世界と同時に導入し、無駄な処方を削って確実に患者へ届ける国」を目指さなければなりません。政府が創薬・先端医療を国家成長戦略の柱に位置付ける今、臨床現場のわれわれ医師も、患者に求められるがままの漫然とした処方を見直し、医療資源の適正配分に主体的に関わっていく姿勢が求められています。 参考 1) 「新薬の薬価算定において価値評価をどのように導入すべきか」坂巻弘之(日本医事新報) 2) 米国の薬価政策が「新薬開発に影響」、国内4割…日本では薬が使えない「ドラッグロス」につながる恐れ(読売新聞) 3) がんや糖尿病、承認済み新薬の発売遅れ割安な薬価を米欧勢が警戒か(日経新聞) 4) スイスで「ドラッグロス」米との医薬品価格に差 革新薬3割、保険申請見送り(同) 5) 薬価引き下げは革新を阻害英アストラゼネカ マーク・デュノワイエCSO(同) 6) トランプ大統領MFN政策導入で処方薬価格は3.9%下落 今後10年間の上市新薬で5,290億ドル削減へ(ミクスオンライン) 7) 米国トランプ薬価政策がわが国に与える影響-わが国の薬剤費政策の根本的転換の好機-(日本総研) 8) 中央社会保険医療協議会費用対効果評価専門部会意見陳述 資料(中医協)

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第331回 127年ぶりの薬剤師知事誕生、どんな医療施策を実現させる?

INDEX沖縄の基地・犯罪の現実政治にもみえる、沖縄の特殊事情TV報道からは想像しえない選挙戦薬剤師知事の誕生と医療マニフェスト都道府県知事選挙について、大手メディアは告示直後の情勢や開票結果をおおむね報じるものの、選挙戦の最中の動きを詳しく伝えることは少ない。その点で、9月13日に投開票が行われた沖縄県知事選は、まれにみる全国区のニュースとして取り上げられた。今回はこの件を取り上げたい。結論を先に言えば、今回の知事選は医療とも一定以上の関係があるからだ。ただし、この選挙と医療の関係を語るには、一見すると無関係にみえる沖縄県の事情について、改めて触れなければならない。沖縄の基地・犯罪の現実そもそも沖縄県知事選挙がここまで注目を浴びるのは同県の特殊事情がある。第1に日米安全保障条約に基づき日本に駐留する在日米軍の基地の多くが存在し、日本の安全保障を語る際に欠かせない県だからだ。2026年1月1日現在、日本国内の在日米軍専用施設・区域は76、総面積は262.6km2に上るが、施設・区域数で40.8%、面積で70.27%が沖縄県に集中している。また、沖縄県の事情にあまり詳しくない人でも、真っ先に想起するものの1つが駐留米軍構成員による犯罪ではないだろうか?沖縄県が本土に復帰した1972年から2025年末までに米軍構成員による刑法犯検挙件数は6,409件。これを多いとみるか、少ないとみるかだが、注意すべきはこれがあくまで検挙件数という点だ。一般に犯罪統計で最初に使われるのが、警察が犯罪発生を認知した認知件数であり、検挙件数はこのうち捜査で被疑者を検挙した件数である。認知件数には当然ながら被害者が泣き寝入りしたものは含まれていない。私が知る複数の沖縄県行政関係者は米軍構成員による犯罪について「泣き寝入りまで含めればこの数倍」と口をそろえる。中には「検挙件数の10倍以上あると言っても県内の人は大げさとは思わないはず」と言う人までいる。こうした現実が日本の国土面積のわずか0.6%に過ぎない沖縄県で起きている。しかも、この種の犯罪については、在日米軍が日本国内に駐留・活動する際の法的地位や日本の法律との関係を定めた「日米地位協定」に基づく特殊な取り扱いがある。同協定では、米軍構成員が刑法に抵触した際の第1次裁判権の扱いは、公務中は米国側、公務外では日本側が有する。ここまでは理論上は納得できる人も多いだろうが、問題になるのが被疑者の身柄の扱いである。公務外で日本が第1次裁判権を行使すべき被疑者であっても、現行犯逮捕以外で米側に身柄がある場合は、日本が公訴を提起するまで日本側は身柄を拘束できない。政治にもみえる、沖縄の特殊事情これが問題になったのは、1995年に起きた少女暴行事件である。同事件は米軍人3人が同県北部で女子小学生を集団強姦した事件である。事件では当初、日本側が発行した逮捕状が同協定に阻まれて執行できず、このことに県民の反米軍感情が爆発。県内の複数の自治体議会が抗議決議を採択し、警察発表ですら約6万人という大規模な県民総決起集会が開催された。この件は日米の外交問題にまで発展し、同協定の運用を協議する日米合同委員会で、「殺人や強姦などの凶悪犯罪の場合、米国側は起訴前の米軍構成員被疑者について、日本側からの身柄引き渡し要請に"好意的な考慮を払う"」との合意が成立した。もっとも前述の協定文言までは変更されていない。なお、事件で逮捕された3人は後に懲役刑が確定し、日本で服役した後に帰国したが、うち1人は強姦殺人を犯し自殺している。さて、沖縄県のもう1つの特殊事情がこの米軍を取り巻く状況に起因し、県政では長らく保守・革新の対立構造が続いてきたことである。ただ、この構造は首都圏などの感覚とは、かなり異なる。従来型の保守・革新を、典型的な政党別で示すと、保守=自民党、革新=社民党(旧日本社会党)・日本共産党と分類するのが最もクリアだろう(立憲民主党を含む旧民主党系は党内に幅があるので、一言でどちらかとは言い難いというのが私見である)。この構図は沖縄県でも一定程度は当てはまるが、実は本土とはかなり異なる。とくに違うのが自民党である。沖縄県の自民党は、自民党中央と比べれば、リベラル色が強めだ。沖縄振興策では自民党中央とほぼ同じでも、米軍基地問題などではかなり立場が異なる人を含んでいる。とくに県議会や市町村議会の議員レベルだと、この傾向はより顕著になる。今回の報道では本土復帰後初の1972年の知事選挙から数えて、保革対立は保守側の8勝7敗と報じられたが、これほど保革が近接した勝敗結果を示すのも、過去の知事選の約半分の7回が当選者と次点の差が5万票以内であることも、その表れと言える。最も象徴的だったのは2014年知事選で当選した翁長 雄志氏である。翁長氏は自民党所属として那覇市議、沖縄県議、那覇市長を歴任した。しかし、普天間基地の返還を前提としつつも、政府・自民党本部が進める辺野古移設に対しては県外移設も求める立場へと意向を転換。党の方針に反して辺野古移設に反対していた自民党の那覇市議らから要請を受ける形で同党を離党し、2014年の沖縄県知事選で初当選を果たした。翁長氏は1期目中に膵臓がんが発覚し、任期満了直前に在職のまま死去。その後継として2018年の知事選で勝利したのが玉城 デニー氏であり、これまで知事を2期務めてきた。今回の選挙は、3期目をかけた玉城氏の出馬に対抗する形で、地元経済界の支援をバックに自民党、日本維新の会、国民民主党、参政党、日本保守党、公明党沖縄県本部から推薦を受けた無所属・新人で那覇市前副市長の古謝 玄太氏が立候補。これ以外にも兼島 俊氏(無所属・新人、IT会社社長)、末吉 正弘氏(無所属・新人、医療法人役員)、比嘉 隆氏(無所属・新人、磁気探査会社社長)、屋良 朝助氏(諸派・新人、琉球独立党党首)が立候補し、同知事選では過去最多の6人の候補者が登場した。もっとも選挙期間中も各メディアが報じていたように、事実上は玉城氏と古謝氏の一騎打ちとなった。実は選挙戦後半、私は沖縄県入りし、この選挙を取材していた。「なぜ?」と思われるかもしれないが、実は古謝氏は東京大学薬学部卒の薬剤師免許保持者だったからである。選挙中、そして本稿執筆時点でも沖縄県薬剤師会副会長および沖縄県薬剤師連盟副会長である(ともにまもなく辞職予定)。実際の選挙戦は告示直後から古謝氏優勢、玉城氏が激しく追う展開と報じられたが、現地入りした私の肌感覚はやや違っていた。少なくとも街頭演説での聴衆数や選挙運動員の動員力では、古謝氏側が圧倒的に上回っていた。TV報道からは想像しえない選挙戦那覇入りした当日、駅からホテルに向かう途中の交差点では1ブロック違いで、両陣営の運動員がのぼりを持ちながら、通行する車に手を振ったり、応援演説を展開したりしていた。この時、古謝陣営は交差点の4つ角すべてに運動員を配置、玉城陣営は4つ角のうち運動員配置は1ヵ所だけ。ただ、地元の人に言わせると、「それだけの動員差がありながら接戦なんだから」という評価だった。さて肝心の選挙結果は、周知のとおり古謝氏が42万3,124票を得票し、現職の玉城デニー氏に14万票以上の大差をつけて勝利した。古謝氏の得票数は沖縄県知事選としては過去最高である。しかも、大接戦と報じられながら、当選確実の報道はこの選挙に関心を持っていた人たちの多くがまさかと思った「ゼロ打ち(投票終了直後の午後8時に報道機関から当選確実が報じられる現象)」だった。ちなみに一部報道関係者の間では11日頃から推定得票率で古謝氏が玉城氏に5%以上差をつけていると噂され、投開票前日の12日には「ひょっとしたらゼロ打ちがあるかも?」くらいは囁かれていた。ところが投開票日の13日夕になると、その可能性が大きいとの情報が流れ始めた。13日、古謝氏が開票結果を待つ予定の那覇市中心部の中小企業会館2階では、7時50分頃から会場で司会進行を務める自民党の沖縄県議会議員と大手メディア関係者がヒソヒソ話を始め、そこから「ゼロ打ち」という言葉も耳に入って来た。薬剤師知事の誕生と医療マニフェスト古謝氏は戦後の1947年から導入された都道府県知事公選制以降、薬剤師資格保持者として初の知事。また、1947年以前の都道府県知事は、1868年(明治元年)の府県制開始から旧内務省の官選知事制だったが、その時代までさかのぼると、初代日本薬剤師会会長で後に大正天皇の侍従長になった正親町 実正氏が1899年(明治32年)に埼玉県知事に就任した事例があるだけだ。つまり日本の歴史上では、127年ぶりの薬剤師知事の誕生となった。その意味では古謝新知事の誕生は、沖縄県の医療政策に転換をもたらす可能性は十分にある。今回、古謝氏は「沖縄を前に進める120の政策」というかなり膨大なマニフェストを発表している。大項目にして10項目、その下に合計で120の政策をぶら下げているのだが、その中から医療や介護に関するものを、大項目とその番号とともに以下にすべて抜粋する。「01 暮らしをまもる、明日に希望が持てる社会の実現」雇用主・従業員双方に負担のある社会保険料の引き下げを国へ強く働きかけます。「02 沖縄独自の魅力を生かした多様な産業の発展と“人”が輝く経済の実現」国、市町村や専門家と連携し、働く人々の心身の健康をまもり、初期の心のケアから悪質事案への法的対応まで事業所を包括的に支援します。「03 それぞれの地域、それぞれの島が輝く地域振興」離島地域の地理的不利を解消するため、空港、港湾、道路、通信などのインフラ整備を進めるとともに、医療・福祉・行政サービスのDX推進、離島患者渡航費助成の拡充、エッセンシャルワーカーの定着に向けた支援、そして島ごとの個別課題への支援を実施します。「05 日本一子育てにやさしい島づくり」詳細はこちら早い段階から妊娠・出産の知識を持ち、自分の身体の健康意識を高める「プレコンセプションケア」の教育・普及啓発を推進します。市町村や経済団体と連携し、不妊・不育症治療等への県独自助成の拡充検討および企業における不妊治療休暇制度の導入支援、ならびに国への保険適用範囲拡充を要請します。出産費用の負担軽減、および妊婦健康診査費用の完全無償化に向けた制度設計を推進します。産科や小児科の医師の地域偏在を解消し、地域の周産期医療・小児医療の提供体制を強化します。市町村と連携し、心身の負担の大きい母親を支えるための産後ケア事業の使いやすい制度を推進します。0〜2歳児の保育料無償化を加速化、子ども医療費無償化の維持・拡充と病児保育の受入体制強化を図るとともに、小中学校の教育費・給食費の無償化を加速化します。本人や家族に自覚がないことが多いヤングケアラーを早期に発見・把握するため、教育・福祉・医療等の関係機関職員への研修を推進します。障がい児を育てるご家族を孤立させないよう、きょうだい児支援やレスパイトケアの充実、安心な移動や送迎サポートの仕組みを、市町村・医療・保育・教育・その他専門機関と連携し構築します。妊娠・出産、更年期など女性特有の健康課題に対する職場等の理解を促進し、健康上の理由による望まない離職を防ぎます。 「06 これからの沖縄の未来を担う人材育成」県内国公立大学への薬学部の設置により、薬剤師不足の解消と、創薬・ヘルスケア産業の活性化を目指します。「07 沖縄健康長寿復興プロジェクトの推進」詳細はこちら食生活の改善(沖縄の伝統的な食文化の活用)、適度な運動、禁煙、適正飲酒、血圧管理などの健康づくりに関する知識を県民のライフステージに併せてわかりやすく普及・啓発し、健康づくりを促進します。市町村と連携した定期検診の受診率の向上を図り、病気の早期発見・早期治療につなげることで県民の健康を促進するとともに財政負担の低減につなげます。健康・医療にかかわる最新技術の活用、医療ビックデータの活用等により、健康長寿の島沖縄を復活させます。福祉・医療・介護人材の所得向上とキャリアパスを支える処遇改善を強化し、人材不足の解消と、福祉・医療・介護の連携の更なる深化を図ります。西普天間地区を核とした国際医療拠点構想の実現により、高度医療体制を確立します。北部基幹病院の早期整備、中部病院等の拠点医療機関の機能強化等を進め、地域医療を担う県立病院を堅実に運営します。エッセンシャルワーカーである医師・看護師・薬剤師の安定的確保を進めます。高齢者が健康で長生きできるよう、外出しやすい制度、要介護認定率の低下、フレイル予防などに取り組みます。医療・福祉・障害福祉の各専門職が連携し、高齢者や障害者が住み慣れた地域で安心して暮らし続けられる支援体制を構築します。家族の介護に直面しても、仕事やキャリアを無理なく両立できるよう、レスパイトケアを含む支援制度や柔軟な就業環境を、市町村・民間企業と連携し構築します。 「08 県民の安心・安全を守る」消防防災ヘリの導入により、離島を含む緊急搬送体制・医療体制の充実を図ります。県民の命の源である水と土壌を守るため、PFAS等の汚染実態調査の徹底と対策強化を図ります。感染症対策について、パンデミックに備えた医療資源の動員計画と、公衆衛生体制の抜本的強化を推進します。さて次回、この古謝氏のマニフェストについて、薬学部新設構想を中心に現状と未来予測を述べていきたい。

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インフルで入院しやすい人、死亡リスクが高い人の特徴~メタ解析

 インフルエンザ患者における入院および死亡に関連するリスク因子を特定することは、臨床管理および公衆衛生戦略を策定するうえで重要である。今回、中国・Shandong University School of Public HealthのYa Gao氏らは、WHOインフルエンザ臨床ガイドラインの更新を支援する目的で、季節性インフルエンザ患者における入院および全死因死亡のリスク因子を系統的レビューおよびメタ解析で検討した。その結果、非重症例の入院の主要リスク因子として、65歳以上、免疫不全、心血管疾患、神経疾患、慢性呼吸器疾患が、重症例の全死因死亡の主要リスク因子として、2次細菌感染、栄養不良、敗血症、急性腎障害、65歳以上、慢性心血管疾患、悪性腫瘍、慢性神経疾患が示唆された。Lancet Respiratory Medicine誌オンライン版2026年9月8日号に掲載。 本研究では、Medline、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Cumulative Index to Nursing and Allied Health Literature、Global Healthにおいて、2000年1月1日~2025年10月30日に発表された観察研究を検索した。対象とした研究は、年齢を問わず、検査で確認された季節性インフルエンザ患者を登録し、少なくとも1つのリスク因子と入院または全死因死亡との関連について調整済み効果推定値を報告したものとした。逆分散法によるランダム効果モデルでメタ解析を行い、エビデンスの確実性はGRADEアプローチで評価した。 主な結果は以下のとおり。・特定された3万5,808件の登録のうち、63研究(計215万518例、平均年齢:3.6~87.9歳)が適格基準を満たしていた。・非重症インフルエンザ患者における入院の主要なリスク因子として、GRADEで確実性が中または高のエビデンスにより、高齢(成人における10歳上昇当たりのオッズ比[OR]:1.72、95%信頼区間[CI]:1.02~2.89)、心血管疾患(OR:2.72、95%CI:1.24~5.94)、HIV感染/免疫不全/免疫抑制(OR:2.70、95%CI:1.55~4.70)、慢性呼吸器疾患(OR:2.24、95%CI:1.90~2.64)、神経疾患全般(OR:2.31、95%CI:1.65~3.24)が示された。・非重症例の入院に関する追加リスク因子としては、妊娠(OR:1.88、95%CI:1.73~2.05)、糖尿病(OR:1.84、95%CI:1.26~2.67)、悪性腫瘍(OR:1.75、95%CI:1.12~2.75)が認められた。・重症インフルエンザ患者における全死因死亡の主要なリスク因子として、2次細菌感染(OR:4.13、95%CI:1.53~11.14)、栄養不良(OR:3.29、95%CI:1.57~6.89)、敗血症(OR:3.19、95%CI:2.08~4.89)、急性腎障害(OR:2.92、95%CI:1.11~7.73)、65歳以上(OR:2.47、95%CI:2.21~2.75)、慢性心血管疾患(OR:2.43、95%CI:1.16~5.09)、悪性腫瘍(OR:2.21、95%CI:1.31~3.72)、慢性神経疾患(OR:2.08、95%CI:1.13~3.83)が示された。・重症例の全死因死亡に関する追加リスク因子としては、肝疾患全般(OR:1.86、95%CI:1.35~2.58)、HIV感染/免疫不全/免疫抑制(OR:1.79、95%CI:1.51~2.13)、慢性閉塞性肺疾患(OR:1.74、95%CI:1.37~2.20)が認められた。

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第77回 「もう打たなくていい」は本当か?最新155本の研究が示すコロナワクチンの効果と安全性

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンは、今も打つ意味があるのでしょうか。JAMA誌に発表された最新の系統的レビュー論文は、2025年8月以降に公表された155本の研究を総ざらいし、ワクチンが高齢者・妊婦・乳幼児・持病のある人で入院リスクをおおむね半分に減らし続けていること、そして新たな安全性の懸念は見つからなかったことを報告しました1)。いまも「風邪」で終わらない病気新型コロナは、すでに「ただの風邪」になったと感じている方も多いかもしれません。しかし、米国の2024~25年シーズンだけで、推定1,040万~1,670万例が感染し、29万~45万例が入院、3万4千~5万3千例が亡くなったと報告されています。入院率が最も高いのは75歳以上で、次いで生後6ヵ月未満の赤ちゃんです。そしてコロナ関連死の88.4%は65歳以上に集中しています。つまり「重症化しやすい人」がはっきりしている病気なのです。今回のレビューは、米国の研究チームが2025年8月~2026年6月末に発表された論文1万1,829本から、質の基準を満たした155本を選び、最新の流行に合わせて更新されたワクチンの効果と安全性をまとめたものです。入院リスクは「およそ半分」結果をそれぞれ数字で見てみましょう。ワクチンの有効率(VE)とは、「接種した人が、しなかった人と比べて発症などのリスクをどれだけ減らせたか」を示す割合です。65歳以上の高齢者:2025~26年シーズンのワクチンで、コロナ関連の入院リスクが53.0%低下。集中治療室(ICU)入室に対しては57.0%、人工呼吸や院内死亡に対しては73.0%の減少が報告されています。18〜64歳の成人:入院リスクが54.0%低下(2024~25年シーズン)。妊娠中の接種:妊婦本人の救急外来受診が58.0%減少。さらに生まれてきた赤ちゃんの生後2ヵ月間のコロナ関連の受診も50〜54%減りました。妊娠のどの時期に打っても効果がみられています。生後9ヵ月~4歳の乳幼児:救急外来受診が76.0%減少。免疫能が低下している人(透析患者など):ICU入室や死亡といった重篤な結果が32~53%減少。医療従事者:3~5回接種した人は2回だけの人に比べ、検査で確認された感染が41.0%、いわゆる「コロナ後遺症」も57.0%少なくなっていました。注意すべきは、これらは「感染そのものをゼロにする」数字ではないことです。ワクチンの主な役割は、たとえ感染しても入院や死亡といった深刻な事態を避けることにあり、その効果は「おおむね半分に減らす」と覚えておくとよいでしょう。安全性はどうだったかワクチンの話題になると必ず出てくるのが副反応の懸念です。今回のレビューでは、心筋炎・心膜炎、心筋梗塞、ギラン・バレー症候群、脳卒中、血栓症といった「特に注目すべき有害事象」について、150万例を超える米国退役軍人のデータを含む複数の大規模研究を検証しました。結論は「新たな安全性の懸念は見つからなかった」というものです。心筋炎については、若い男性で2回目接種後にリスクが上がるという報告が以前からあり、米国では2022年2月に接種間隔を延ばす指針の変更が行われています。今回のレビューで心筋炎リスクの上昇を報告した研究は、いずれもこの変更前に接種した人を対象としたもので、変更後に限って調べた研究では新たなリスク上昇は報告されていません。妊婦では、死産、早産、低出生体重児のいずれも増加はみられず、むしろ早産はわずかに少ないという結果でした。インフルエンザワクチンとの同時接種でもリスク上昇は確認されていません。もちろん限界もあります。多くが観察研究であり、接種する人としない人の背景の違いを完全には取り除けません。また、これは米国のデータであり、接種状況や流行が異なる日本にそのまま当てはまるとは限りません。それでも、私たちが知っておきたいのは以下の点です。コロナは今も高齢者や乳幼児にとって重い病気であり、更新されたワクチンは重症化リスクをおおむね半分に減らし、その安全性は膨大なデータで裏付けられ続けている、ということです。とくに65歳以上の方、妊娠中の方、持病で免疫が下がっている方は、秋の流行シーズン前にかかりつけ医と接種について相談する価値があるでしょう。1)Lipson RA, et al. COVID-19 vaccine effectiveness and safety for the 2026-2027 respiratory season. JAMA. 2026 Sep 2. [Epub ahead of print]2)Wiegand RE, et al. Interim estimated effectiveness of 2025-2026 COVID-19 vaccines in adults using a test-negative design. JAMA Netw Open. 2026;9:e2625152.3)Ma KC, et al. Estimated effectiveness of 2024-2025 COVID-19 vaccination against severe COVID-19. JAMA Netw Open. 2026;9:e2557415.4)Eide HN, et al. COVID-19 mRNA vaccination in pregnancy and risk of infection in early childhood. Pediatrics. 2026;157:e2025073661.5)Irving SA, et al. Effectiveness of 2024-2025 COVID-19 vaccines in children in the United States-VISION, August 29, 2024-September 2, 2025. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2025;74:607-614.

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妊娠中のRSVワクチン接種は乳児の入院リスクを低減

 妊娠中のRSV融合前Fタンパク(RSVpreF)ワクチン接種は、生後90日以内の乳児におけるRSV関連入院の予防に有効であるという研究結果が、「JAMA Network Open」に6月5日掲載された。 米ピッツバーグ大学の Anne-Marie Rick 氏らは、RSVpreFワクチン承認後、最初の2シーズンにおいて、生後90日以内の乳児におけるRSV関連の急性呼吸器感染症(ARI)および下気道疾患(LRTD)による入院に対して、妊娠中のRSVpreFワクチン接種がどの程度有効であるかを推定した。解析対象は274人の乳児であった(RSV症例83人、対照191人)。 その結果、RSV症例83人中11人(13.3%)および対照191人中71人(37.2%)がRSVpreF接種歴のある母親から出生していた。ワクチン有効性は、生後0~90日におけるRSV関連ARI入院に対して67.6%、RSV関連LRTD入院に対して69.0%と推定された。生後30日以内では、RSV関連ARI入院に対するワクチン有効性はさらに高く、74.2%であった。 著者らは、「これらの知見は、妊娠中のRSVpreFワクチン接種が、乳児期早期におけるRSV関連入院に対して臨床的保護効果をもたらすことを示している。しかし、ワクチン有効性の推定値を、さらに精緻なものにするためには、継続的なデータ収集が不可欠である」と述べている。なお、複数の著者が、RSVpreFワクチンを製造し本研究に資金提供を行ったファイザー社を含むバイオ医薬品企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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オレキシン2受容体を活性化するナルコレプシータイプ1治療薬「オーゼイフル錠0.5mg/1mg/2mg」【最新!DI情報】第71回

オレキシン2受容体を活性化するナルコレプシータイプ1治療薬「オーゼイフル錠0.5mg/1mg/2mg」今回は、オレキシン2受容体選択的作動薬「オベポレクストン(商品名:オーゼイフル錠0.5mg/1mg/2mg、製造販売元:武田薬品工業)」を紹介します。本剤は、ナルコレプシータイプ1に適応のある初のオレキシン2受容体選択的作動薬です。オレキシン2受容体の活性化で覚醒を促進するとともに、入眠時・出眠時幻覚や睡眠麻痺などの症状を軽減すると期待されています。<効能・効果>ナルコレプシータイプ1の適応で、2026年8月24日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人にはオベポレクストンとして1mgを1日2回経口投与します。起床時に1回目の投与を行い、3時間から5時間後に2回目の投与を行います。なお、忍容性に問題がなく、十分な効果が認められない場合に限り、2mgを1日2回に増量することができます。<安全性>副作用として、不眠症(55.6%)、頻尿(54.0%)、尿意切迫(16.7%)、流涎過多(2%以上)、錯感覚、尿失禁、血圧上昇(いずれも2%未満)、心拍数増加、トランスアミナーゼ上昇、血中クレアチンホスホキナーゼ増加(頻度不明)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、ナルコレプシータイプ1の治療薬です。不足しているオレキシンの代わりにオレキシン受容体に結合して持続的な覚醒を促し、異常なレム睡眠関連の症状を軽減させます。2.この薬は、1日2回飲む薬です。朝起きたら1回目の薬を飲み、3~5時間後に2回目の薬を飲みます。3.睡眠リズムへの影響を避けるため、毎日できるだけ同じ時間帯に薬を飲んでください。また、2回目の薬を飲んだ後は、就寝まで10時間程度空けるようにしてください。4.飲み忘れた場合は気付いた時点では飲まずに、次に飲む予定の時間帯に1回分を飲んでください。決して2回分を一度に飲まないでください。5.この薬を飲んでいても覚醒状態が正常なレベルに戻らない可能性があるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作を行う場合には医師と相談してください。また、眠気などが現れた場合には、自動車の運転など危険を伴う機械の操作は行わないでください。【ここがポイント!】ナルコレプシーは、日中の過度の眠気や通常は覚醒している時間帯に本人の意思では制御できない居眠り(睡眠発作)、入眠時・出眠時幻覚、睡眠麻痺などを特徴とする睡眠障害であり、タイプ1(NT1)とタイプ2(NT2)に分類されます。NT1は情動脱力発作(カタプレキシー)を伴うことが特徴であり、神経ペプチドであるオレキシンの脳脊髄液中濃度が著しく低下しています。NT1は、脳内でオレキシン産生細胞が脱落することで発症すると考えられており、オレキシン受容体の活性化による覚醒・睡眠および注意力の調節機能が低下します。本剤の有効成分であるオベポレクストンは、NT1を効能・効果とする世界初のオレキシン2受容体選択的作動薬です。本剤は、オレキシン2受容体を活性化することにより覚醒を促進するとともに、カタプレキシーを含む異常なレム睡眠関連症状に作用し、入眠時・出眠時幻覚や睡眠麻痺などの症状を軽減します。NT1患者を対象とした国際共同第III相試験(FirstLight/TAK-861-3001試験)において、主要評価項目である覚醒維持検査による平均睡眠潜時の12週時におけるベースラインからの変化量は、プラセボ群で-1.3分、本剤1mg群で12.5分、2mg群で15.9分でした。12週時におけるベースラインからの変化量のプラセボ群との差は本剤1mg群で13.83分(95%信頼区間[CI]:10.23~17.44)、本剤2mg群で17.20分(95%CI:13.66~20.73)であり、いずれの用量群においてもプラセボ群に対する優越性が検証されました(いずれもp<0.001)。また、副次評価項目であるエプワース眠気尺度合計スコア、1週間当たりのカタプレキシー発現率、精神運動覚醒検査による平均反応遅延回数、患者による変化の全般的印象度スコア、ナルコレプシー重症度尺度合計スコア、ナルコレプシーの機能的影響の評価尺度(FINI)各ドメインスコアならびに自己報告式の健康状態調査票(SF-36)身体的および精神的コンポーネントサマリースコアは、いずれもプラセボ群と比較して本剤群で有意な改善が認められました。「最新!DI情報」は今回で最終回となります。長らくのご愛読ありがとうございました。

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「ジンタス」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第89回

第89回 「ジンタス」の名称の由来は?販売名ジンタス錠®25mgジンタス錠®50mg一般名(和名[命名法])ヒスチジン亜鉛水和物(JAN)効能又は効果低亜鉛血症用法及び用量通常、成人及び体重30kg以上の小児では、亜鉛として、1回50~100mgを開始用量とし1日1回食後に経口投与する。なお、血清亜鉛濃度や患者の状態により適宜増減するが、1日1回150mgを超えないこと。警告内容とその理由設定されていない禁忌内容とその理由本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2026年9月11日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2026年6月作成(第5版)医薬品インタビューフォーム「ジンタス錠®25mg、ジンタス錠®50mg

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クローン病〔CD : Crohn’s disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)は、クローン病(CD)と潰瘍性大腸炎の両疾患の総称である。CDは原因不明であるが、免疫異常などの関与が考えられる肉芽腫性炎症性疾患である。主として若年者に発症し、小腸・大腸を中心に浮腫や潰瘍を認め、 腸管狭窄や瘻孔など特徴的な病態が生じる。すでに18~19世紀に現在のCDに相当すると考えられる症例報告があり、その後1932年、米国・ニューヨークのMount Sinai HospitalのBurrill B. Crohn氏、Leon Ginzburg氏、Gordon D. Oppenheimer氏の3人が、終末回腸炎14例を“Regional Ileitis:A Pathologic and Clinical Entity”として発表した。現在では口腔から肛門までの消化管のあらゆる部位に起こりうることが判明している。消化管以外にも種々の合併症(腸管外合併症)を伴うため、全身性疾患としての対応が必要である。■ 疫学もともと白人やユダヤ人種に多いとされていたが、近年わが国をはじめとするアジア地域や南米などで患者が急増しグローバル化してきている。2023年に実施された全国疫学調査による推定患者数(軽症者を含む)はCD9万6,000人、令和5年度特定疾患医療受給者証所持者数は5万2,108人である。わが国および東アジアでは男性患者の割合が多く、欧米では男女差は認められない。発症年齢のピークは10代後半~20代とされている。日本人初発CD患者において小腸に病変を有するのは82.7%、狭窄や瘻孔を有しているのは36.5%、肛門病変を有しているのは48.9%と報告されている。■ 病因炎症性腸疾患の病態はまだ完全には解明されていないが、疾患関連遺伝子に代表される遺伝学的素因を背景に、食事や衛生環境などの環境因子の変化に伴う腸内微生物叢と宿主の免疫機構との間の恒常性維持の破綻により引き起こされる多因子疾患と考えられている。CDの腸管局所ではTNF-α、IL-23、IFN-γといった炎症性サイトカイン・ケモカインの過剰産生が起こっている。■ 症状臨床像は病変の部位や範囲により異なる。下痢や腹痛などの消化管症状と発熱や体重減少・栄養障害などの全身症状を認め、貧血、関節炎、虹彩炎、皮膚病変などの合併症に由来する症状も呈する。小児では成長障害で見つかることもある。病状が進行すれば腸管合併症(狭窄、瘻孔)を生じ、通過障害や皮膚瘻からの排膿などを来すことがある。また、肛門病変を合併すると排便時痛、排膿や圧痛を伴う肛門部の腫脹・発赤・結節を認める。■ 予後外科手術率でみると2000年以前は発症後10年間での手術率は46.5%であったのに対して2000年以後は26.2%と低下している。しかし、依然として手術率の高い疾患である。腸管切除の主たる理由は小腸狭窄である。また、CDによる大腸炎も潰瘍性大腸炎と同様に炎症性発がんのリスクとなる。その他、わが国では肛門管がん、痔瘻がん合併の報告が欧米と比較して多い。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断は難治性炎症性腸管障害に対する調査研究班の診断基準(表)に基づく。CDの診断では鑑別診断として潰瘍性大腸炎、腸管ベーチェット病、感染性腸炎などの疾患を否定する必要がある。縦走潰瘍、敷石像といった特徴的所見を内視鏡検査あるいはX線造影検査で検出する(図1)。生検病理での非乾酪性類上皮細胞肉芽腫の検出は特異的所見である。また、CT検査、MRI検査、腸管エコーは全層性炎症、瘻孔、腹腔内膿瘍、肛門病変の評価に有用である。表 クローン病診断基準診断の基準(1)主要所見A.縦走潰瘍B.敷石像C.非乾酪性類上皮細胞肉芽腫(2)副所見a.消化管の広範囲に認める不整形~類円形潰瘍またはアフタb.特徴的な肛門病変c.特徴的な胃・十二指腸病変確診例:[1]主要所見のAまたはBを有するもの。[2]主要所見のCと副所見のaまたはbを有するもの。[3]副所見のa、b、cすべてを有するもの。疑診例:[1]主要所見のCと副所見のcを有するもの。[2]主要所見のAまたはBを有するが潰瘍性大腸炎や腸管型ベーチェット病、単純性潰瘍、虚血性腸病変と鑑別ができないもの。[3]主要所見のCのみを有するもの。[4]副所見のいずれか2つまたは1つのみを有するもの。(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班). 潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針 令和7年度 改訂版. 2026;38.を一部改変)図1 クローン病の内視鏡像画像を拡大する3 治療 (治験中のものも含む)CDの治療では腸の炎症を抑えて症状を改善し、再燃や腸の合併症を防ぐことを目指す。栄養療法、薬物療法、手術療法を、病状に応じて組み合わせることが基本となる(図2~4)。発症から1.5年以内の早期に適切な生物学的製剤による疾患コントロールが長期予後改善に重要とされている。図2 令和7年度クローン病治療指針(内科)(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班). 潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針 令和7年度 改訂版. 2026;47.より出典)画像を拡大する図3 クローン病治療フローチャート(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班). 潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針 令和7年度 改訂版. 2026;48.より出典)画像を拡大する図4 クローン病肛門病変診療フローチャート(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班). 潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針 令和7年度 改訂版. 2026;49.より出典)画像を拡大する■栄養療法栄養状態を改善するとともに、腸への負担を軽くする治療。栄養剤を飲む「経腸栄養療法」が中心で、通常の食事と組み合わせる場合もある。病状が安定していれば、過度な食事制限は必要ない。炎症が強いときや腸が狭くなっているときは、脂肪や食物繊維を控えるなど、病状に合わせた調整が必要となる。■薬物療法腸の炎症を抑えるため、以下のような治療薬を使用する。5-ASA製剤副腎皮質ステロイド免疫調節薬生物学的製剤(抗TNF-α抗体、抗α4β7インテグリン抗体、抗IL-12/23p40抗体、抗IL-23p19抗体)JAK阻害薬ステロイドは炎症を速やかに抑えるが、長期使用には適さないため、症状が改善したら減量・中止する。中等症から重症では、生物学的製剤やJAK阻害薬の適応となる。症状の改善だけでなく、内視鏡検査などで腸の炎症を確認し、将来の狭窄や手術を防ぐことが重視されている。■血球成分除去療法(GMA)血液をいったん体外に取り出し、炎症に関係する白血球(顆粒球・単球)を吸着してから体内に戻す治療。他の治療と組み合わせる補助療法として行われることが多い。■手術療法消化管すべての部位が標的となり得るCDでは外科手術は根治治療とはならない。腸閉塞、狭窄、穿孔、膿瘍、瘻孔、大量出血などがある場合や、薬物療法で十分な効果が得られない場合には、手術が必要になることがある。手術は病変のある腸を切除する、狭くなった部分を広げるために行う。手術後も再発する可能性があるため、定期検査と薬物療法・栄養療法を続けることが大切である。■開発中の治療現在、炎症や腸の線維化に関係する「TL1A」を標的とした薬、免疫細胞が腸へ移動するのを抑える内服薬、腸内細菌を利用した治療などの研究が進められている。治験中に参加する場合は、担当医から詳しい説明を受ける必要がある。4 今後の展望近年、分子標的薬をはじめとする薬物療法の進歩により、CDの治療成績は大きく向上し、腸管切除を必要とする患者は減少している。その一方で、狭窄や瘻孔などの合併症がある場合には、適切な時期に手術を行うことが生活の質(QOL)の改善につながる。将来の腸管障害を防ぐためには、早期に正確な診断を行い、必要な治療を適切な時期に開始することが重要である。また、これまで治療が難しかった肛門病変や小腸病変に対しても、新しい治療薬の有効性が示されつつある。今後は、患者ごとに最適な薬を選ぶ「個別化医療」の発展が期待される。さらに、病気そのものの治療だけでなく、就学、就労、妊娠・出産などを支える社会的な支援体制の充実も重要である。5 主たる診療科消化器内科、消化器外科、肛門科(肛門病変)、小児科(小児発症の場合)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター クローン病(指定難病96) (一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)一般社団法人 日本炎症性腸疾患学会(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報NPO法人 IBDネットワーク(患者とその家族および支援者の会) 1) 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班). 潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針令和7年度 改訂版. 2026. 2) Tsutsui A, et al. J Gastroenterol. 2025;60):1513-1522. 3) Matsuoka K, et al. J Gastroenterol. 2022;57:867-878. 4) Tsai L, et al. Clin Gastroenterol Hepatol. 2021;19:2031-2045. 公開履歴初回2026年9月10日

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第330回 アトピー当事者が語る、ステロイドの保険見直し問題

INDEXステロイド外用薬で思い出す、苦い過去外用剤といえども…共同声明の発表当事者でないとわからない感覚ステロイド外用薬で思い出す、苦い過去前回、OTC類似薬の一部保険外療養の負担に関して「OTC類似薬の保険給付の見直しの実施に向けた技術的検討会」の中間とりまとめに関する中央社会保険医療協議会総会への報告・説明、それに伴う議論を取り上げた。実はこの中間とりまとめについては、私個人もある点で驚きを隠せなかった。それはステロイド外用薬に関して「慢性・再発性疾患に使用される場合があるが、急性増悪時の短期使用が中心であり、別途負担の対象として整理する」という記述だ。これを読んだ時は一瞬、目が点になり、「嘘だろう」と思った。かくいう私は過去に本連載でも触れたが、アトピー性皮膚炎を持病として抱えている。これまでの人生を振り返ると、成人してからはほぼ問題なく過ごしてきたものの、およそ10数年周期で急性増悪を経験してきた。最悪だったのは今から30年以上前、上京して間もない大学1年生だった頃だ。当時は今のようなTARC*を測定しながらのプロアクティブ療法(急性増悪時にステロイド外用薬で一気に炎症の抑え込みにかかり、その後はステロイド外用薬の強さをレベルダウンさせながら、間欠使用に移行し、最終的に保湿剤での維持を続ける)は一般的ではなかった。むしろ記憶する限り、皮膚科クリニックを受診しても「これ塗っといてね」とステロイド外用薬のチューブを処方され、切り替えも塗布中止時期も何も説明されず、漫然と処方され続けたものだ。*アトピー性皮膚炎の重症度評価に用いられる検査当時は医療知識もなく、私自身いわゆる「脱ステロイド」に走った。その結果、全身真っ赤な象皮状態となり、一部からはリンパ液が流れ出し、朝起きるとTシャツの一部が真っ黄色になるほど。そんな生活を10ヵ月弱経験し、日本東洋医学会などでは必ずと言っていいほど名前が挙がる、ある自由診療の漢方治療診療所にたどり着いた。そこで煎じ薬である方剤を処方されたが、ほとんど効果は実感できなかった。2回目の受診の際、そのことを医師に告げると方剤は別のものに変わった。しかし、やはり結果は同じ。その後はこの2種類の方剤が何度も入れ替わる日々が4ヵ月ほど続いた。当時は大学1年生で経済的には親に依存していたが、それでも自由診療の漢方薬の代金は重荷で、ある時は窓口で薬代を払ったら、210円しか残っていなかった。今でも覚えているが、その日は金曜日の夕方。今のように土日にも銀行ATMが開いている時代ではない。携帯電話もない時代のため、同居していた姉にも連絡は取れない。自宅まで210円で帰れる駅を目指して、寒空の下を10kmほどとぼとぼ歩いた。しかも、体は象皮状態。日常動作でも皮膚が切れて出血する状態だったので正直歩くのもつらかった。歩きに歩いて、ようやく電車に乗り、自宅に着いた時は真っ暗。姉はまだ帰宅しておらず、自分の部屋でベッドに腰を掛け、泣き続けていた。その後、私は保険診療でエキス製剤を使って漢方治療をする診療所のことを知り、そこを訪ねた。診察をした医師は丁寧に腹脈をとって事細かに問診をし、自由診療の漢方診療所では単剤で交互に使用していた方剤を2剤併用する旨を告げた。それからわずか2週間ほどで、私の全身の皮膚は半ば忘れかけていた元の状態を取り戻した。外用剤といえども…さて、現在の私の急性増悪に話を戻そう。2026年4月末の診察時、医師には簡潔に過去のことを伝えた。すると、「今はステロイドに拒否感はあります?」と尋ねられた。それはない旨を告げると、「プロアクティブ療法をやっていくうえで、ステロイドは勿論だが、これを使うと上手くいきやすいんですよ。ちょっとお高いけど」と言われ、ジファミラスト(商品名:モイゼルト軟膏、PDE4阻害薬)とデルゴシチニブ(同:コレクチム軟膏、JAK阻害薬)を勧められた。私は一瞬ギョッとしてしまった。非ステロイド性の免疫抑制系外用薬を使わねばならないのかと。これは経口薬で治療を続けてきた2型糖尿病患者がインスリンを勧められた時に受けがちなショックと似た感覚かもしれない。とりあえずこれらは一旦辞退し、ステロイド外用薬のみの治療を開始した。2週間後に思い直してジファミラストを追加することになったが、この際、主治医に最初の提案に私が抱いた感覚を伝えたところ、「ああ、何かわかりますよ」と笑われた。現在は体幹と四肢はほぼ4日おきの外用ステロイド薬・ジファミラストの混合、間にはジファミラスト・ヘパリン類似物質の混合を塗布している。顔も当初は塗布間隔が体幹同様にまで延びたが、日差しが強いと日焼け止めを使っていても炎症が強くなり、今は暫定的に外用ステロイド薬・ジファミラストの混合とジファミラスト・ヘパリン類似物質の混合を1日おきに塗り分けている。一旦は急性増悪を抑え込めても、おそらく保湿剤のみに切り替えることができるまでには相当の時間を要するだろうと覚悟はしている。そんなこんなで今回の中間とりまとめで、私はOTC類似薬の一部保険外療養の負担の半ば当事者になってしまったのである。共同声明の発表さすがにアトピー性皮膚炎患者や皮膚科専門医もこの状態を黙認することはないだろうと思っていたが、実は前回は触れなかったが中医協総会でもアトピー性皮膚炎に関しては問題となった。9月3日に開催された社会保障審議会(医療保険部会)での患者団体へのヒアリングで、認定NPO法人・日本アレルギー友の会(理事長:武川 篤之氏)が患者団体としてこの件に関して強い反対を表明した。その論旨は以下のようなものだ。長くなるが引用する。「アトピー性皮膚炎は寛解と増悪を繰り返す慢性・再発性の疾患であり、急性増悪時だけを治療する病気ではありません。診療ガイドラインでは、抗炎症外用薬によって速やかに寛解を導入したうえで、毎日の保湿と再燃部位への間欠的な外用(プロアクティブ療法)によって再燃を防ぐ長期管理が標準とされています。ステロイド外用薬は、この長期管理を日常的に支える薬剤です。ステロイド外用薬は効果の強さによって5段階に分類され、症状の重症度、部位、年齢に応じて医師が選択し、量や範囲を細かく調整する必要があります。OTC医薬品は軽度の症状を対象としており、医療用のステロイド外用薬とは効能・効果が一致せず、医学的に代替性は成立しません。薬局で購入する場合には、強さを認識しないまま使用して副作用が生じたり、逆に症状に対して十分な効果を得ることができず炎症が持続したり重症化するおそれもあります。追加負担によって毎日の維持治療が細れば、結果として高額な生物学的製剤への移行や入院治療の増加につながりかねません」まったくの同感である。友の会は同日、日本皮膚科学会、日本臨床皮膚科医会と共同で『OTC類似薬の保険給付見直し案に関する共同声明』1)も発表した。詳細は声明を参照してほしいが、「3.医学的誤認に基づく制度設計」は、前出のようなガイドラインなどを踏まえないもので私も一番驚いた点である。しかも、プロアクティブ療法で、保湿剤によるスキンケアに移行する直前は、(中間とりまとめの中で一部負担対象とされた)比較的効果が弱めのOTC類似薬のステロイド外用薬が長期にわたって使用される。そして声明の「5.歴史的教訓と現在の誤情報」もまさにその通りである。負担が過度に増えることになれば、エビデンスの乏しい民間療法(自然由来ハーブ・オイル療法、温泉療法など)に患者が走る恐れが高まる。さらに「7.患者・家族の生活実態」にある「外用薬は『生きるための薬』であり、寛解維持のための計画的外用が不可欠である」もまさにその通りだ。これに関連して中医協総会では日本医師会副会長の茂松 茂人氏が次のように語っている。「がん患者さん、難病患者さん、指定難病でなくとも重症で就職などができないといった患者さんもおられます。とくに成人のアトピー性皮膚炎では、正規雇用になれない非正規雇用の患者さんが多いとも聞いておりますので、その辺はヒアリングをしっかり聞いていただいて、対応を考えていただければと思います」当事者でないとわからない感覚自分も経験者だからわかるのだが、アトピー性皮膚炎は自分では隠し切れない皮膚に病変が出てしまうため、患者は劣等感を抱きがちだ。とくに顔の症状が強く、治療によるコントロールが十分得られなければ、患者は外出すら避けるようになる。そうなればなかなか正規雇用で働こうとは思わないことは、私自身は容易に想像がつく。再度、自分語りで恐縮だが、茂松氏の発言を聞いて思い出したことがある。まさに30数年前の急性増悪時、本当は外出したくなかったのだが、やむを得ない事情で外出した際のことだ。総武線の各駅停車に乗車中、席がなく顔が真っ赤で盛大に粉を吹いていたこともあり、私は車両の隅に隠れるよう立っていた。その時、着席していた中年女性が私を見るなり、こちらに向かって歩いてきて「お席代わりましょうか?」と申し出てきた。私は丁重に断ったが、明らかに親切心からの申し出にもかかわらず、「自分はよっぽどひどい病人に見えるのだろうな」と落ち込んだ覚えがある。幸いにして今回のOTC類似薬のステロイド外用薬の扱いについては、厚生労働省保険局が患者団体のヒアリングが行われた前述の社会保障審議会(医療保険部会)に提出された『OTC類似薬の保険給付の見直しの実施について』2)の「実施に向けた論点について」において、「ステロイド外用薬は急性増悪時の短期使用が中心である一方で、アトピー性皮膚炎に対するステロイド外用薬のプロアクティブ療法は、診療ガイドラインに位置づけられた計画的な間欠使用であることを踏まえ、長期使用等の例外としてどのように整理するか」と記載され、中間とりまとめに修正が加えられる方向となった。私自身は以前から言っているように、OTC類似薬の保険給付のあり方そのものを見直すことに異論はなく、たとえ自分がその対象になっても医学的・合理的理由があればやむなしとして受け入れるつもりである。しかし、今回のこの1件は医学的な観点から大いに疑問を感じた次第だ。ちなみにこの件に関連して同業の知人からは「国会終了直後、しかも来年施行という短過ぎる時間制約もあったので事務局を責めるのは酷すぎる」と言われた。知人の指摘はわからなくもない。ただ、アトピー性皮膚炎の総患者数は厚生労働省「令和5年(2023年)患者調査」3)では約125万3,000人とされるほど巨大な層である。しかも、患者調査の数字の算出方法を知っている人ならば百も承知だろうが、この数字はある意味最低ラインなのである。なんとかセルフスキンケアだけで凌いでいる人も含めれば、相当な患者数になるはずだ。当初の中間とりまとめの内容に驚いたアトピー性皮膚炎患者は少なくないだろう。そしてそのことで疎外感を抱いた患者もわりといたはずだ。ちなみに私は今も30数年前にコートのポケットの中で210円を握りしめながら歩いた経路を歩くのは、その一部であってもなるべく避けようとしてしまう。患者とはそこまで敏感な存在なのである。125万3,000分の1の「蟷螂の斧」として申し上げておきたい。参考1)日本皮膚科学会:OTC類似薬の保険給付見直し案に関する共同声明2)厚生労働省:OTC類似薬の保険給付の見直しの実施について3)厚生労働省:令和5年(2023)患者調査の概況

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乳幼児期の睡眠不足、3歳時の発達遅延と関連――日本の出生コホート研究

 睡眠は、子どもの健やかな発達に欠かせない重要な要素である。今回、日本の全国出生コホート研究のデータを用いた解析から、乳幼児期の短い睡眠時間が3歳時の発達遅延と関連することが示された。また、睡眠場所が睡眠時間に関連する可能性も示された。研究は、鳥取大学医学部社会医学講座健康政策医学分野の増本年男氏らによるもので、詳細は7月8日付の「Frontiers in Public Health」に掲載された。 これまでの研究で、子どもの短い睡眠時間は、肥満や不安・抑うつなどの精神的健康問題、感情調整の困難さと関連することが報告されている。また、乳幼児期は神経回路の形成が活発な時期であり、この時期の睡眠がその後の発達に影響する可能性も指摘されている。一方で、乳幼児期の睡眠時間と、その後の子どもの発達との関連については、研究結果が一貫しておらず、十分には解明されていない。また、睡眠時間に影響を及ぼす睡眠環境の要因についても、明らかになっていない。そこで研究グループは、日本の大規模出生コホート研究のデータを用いて、乳幼児期の睡眠時間と3歳時の発達との関連、さらに睡眠時間に影響する睡眠環境について検討した。 著者らは、日本の出生コホート研究「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査、The Japan Environment and Children’s Study:JECS)」のデータを用いて解析を行った。2011~2014年に全国19府県で登録された妊婦から生まれた子どものうち、出生情報などが得られた10万303人を主解析の対象とした。子どもの睡眠時間は、保護者への質問票により生後6カ月、1歳、1歳6カ月、3歳時点で評価した。年齢別の推奨睡眠時間(生後6カ月は12時間以上、1歳・1歳6カ月は11時間以上、3歳は10時間以上)を下回る場合を「短い睡眠時間」と定義した。また、子どもの発達は、生後6カ月、1歳、1歳6カ月、3歳時点で、保護者回答式の発達評価尺度であるAges and Stages Questionnaires, Third Edition(ASQ-3)を用いて評価した。主解析として、乳幼児期の睡眠時間と3歳時の発達遅延との関連について、個人差を考慮した統計解析を実施した。さらに、詳細調査の対象者を用いて、睡眠場所や騒音などの睡眠環境と睡眠時間との関連についても検討した。 解析の結果、生後6カ月、1歳、3歳時点で睡眠時間が年齢別推奨範囲を下回っていた子どもでは、3歳時の発達遅延との関連が認められた。短い睡眠時間は、推奨睡眠時間以上の子どもと比べて、3歳時の発達遅延と関連していた(生後6カ月:オッズ比〔OR〕1.11、1歳:OR1.10、3歳:OR1.15)。 また、ASQ-3の各領域について解析したところ、生後6カ月および3歳時の短い睡眠時間は、コミュニケーション、粗大運動(歩行などの全身運動)、微細運動(手先の細かな動作)、問題解決、個人・社会の全ての領域で発達遅延との関連が認められた。1歳時の短い睡眠時間は粗大運動および問題解決領域、1歳6カ月時の短い睡眠時間は粗大運動領域の発達遅延と関連していた。 さらに、詳細調査の対象者を用いて睡眠環境との関連を調べた結果、睡眠場所が短い睡眠時間と関連していた。一方で、寝室へのペットの侵入、騒音、騒音による睡眠障害、就寝時間、喘息などの要因は、短い睡眠時間との有意な関連を示さなかった。 今回の研究から、乳幼児期の短い睡眠時間は、3歳時の発達遅延と関連することが示された。また、睡眠場所などの睡眠環境が、子どもの睡眠時間に関連する可能性も示唆された。一方で、睡眠時間と発達との因果関係や、その背景にあるメカニズムについては明らかになっておらず、さらなる研究が必要だとしている。 なお、睡眠時間や発達の評価は保護者への質問票に基づいており、客観的な測定ではない点などが研究の限界として挙げられる。

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手足口病の現状を解説/感染症クォータリーレポート

 ケアネットライブにて四半期に1回実施している感染症クォータリーレポート。9月9日に配信された2026年第3四半期の報告を期間限定で無料公開する。 感染症クォータリーレポートでは感染症専門医である国立国際医療センター・国際感染症センターの石金 正裕氏が、世界の病原微生物の流行状況を四半期ごとにレポートしている。 第3四半期では手足口病を取り上げる。 例年夏季にピークを迎える手足口病。2025年は低調だったが、今年は秋口にかけても発生が続く兆しがある。一部には髄膜炎や脳炎など重症化するケースもあり、注意を要する。番組では、手足口病の各種原因ウイルス、重症化のサイン、治療などについて解説いただいた。番組はこちらからCareNeTVアーカイブページ(9月15日 24時まで 前編無料公開)

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後天性視床下部性肥満への薬物療法の体組成への影響

 視床下部の器質的病変ないしは物理的損傷により生じる後天性視床下部性肥満(aHO)の患者への薬物療法が体組成に及ぼす影響などは、どのようなものがあるだろうか。このテーマについて、中国・上海体育大学運動・健康学部のHanhan Yu氏らの研究グループは、aHO患者への薬物療法が体組成に及ぼす影響と背景療法としての生活習慣介入の効果を体系的に評価した。その結果、特定の薬物療法がaHOの体重や体組成の転帰を改善する一方で、エビデンスがまだ限定的であり、確実性が低いことがわかった。Obesity誌2026年8月26日号に掲載。7つのRCTを対象に検討した結果 研究グループは、PubMed、Embase、Cochrane Library、CINAHL、CNKIを用い、2015年7月24日~2025年11月8日までの研究論文を検索した。対象とした研究は、あらゆる年齢のaHO患者を対象に、体重管理を目的とした薬物療法および/または生活習慣介入を評価したランダム化比較試験(RCT)の全文論文。評価項目は、身体計測・体組成、代謝マーカー、行動・エネルギー関連指標、有害事象の4つの領域とした。バイアスリスクはCochrane Risk of Bias 2ツールを用いて評価し、エビデンスの確実性はGRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)アプローチを用いて評価した。介入内容や評価指標に大きな異質性が認められたため、記述的な統合のみを行った。 主な結果は以下のとおり。・7件のRCTが対象となった。・セマグルチドは持続的な体重減少を示し、持続型エキセナチドは除脂肪体重の大きな減少を伴わずに脂肪量を減少させた。・tesometは体重と除脂肪体重の双方の減少に関連していた一方で、ジアゾキシドの体重管理に対する有効性は限定的だった。・いくつかの介入は満腹感を高め空腹感を軽減させたが、代謝に関する所見は研究間で一貫していなかった。・有害事象は大部分が軽度から中等度であった。・バイアスリスク評価では、1件の研究が高リスク、1件が「懸念あり」と判定された。・GRADEアプローチに基づくと、エビデンスの確実性は、身体計測・体組成、代謝、行動・エネルギー関連の各指標については「低い」、有害事象については「中等度」だった。 以上の結果から研究グループは、「現在のエビデンスは、特定の薬物療法がaHOにおける体重や体組成の転帰を改善する可能性を示唆している一方で、そのエビデンスは依然として限定的であり、主に確実性は低い。既存の研究には、除脂肪体重の評価が不十分であることや、生活習慣への介入方法の標準化が不十分であるといった制約がある。今後は、体系的な体組成評価と構造化された生活習慣介入プロトコールを組み込んだ、大規模かつ長期的なRCTの実施が求められる」と提言している。

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インフルエンザで入院の小児、オセルタミビルはICU入室減と関連

 インフルエンザで入院した小児では、オセルタミビル(商品名:タミフル)の投与が集中治療室(ICU)入室リスクの低下と関連することが、新たな研究で明らかになった。米コロラド大学医学部およびコロラド小児病院のSuchitra Rao氏らによるこの研究結果は、8月10日付で「JAMA Pediatrics」に掲載された。 Rao氏は、「過去20年間で最も厳しいインフルエンザシーズンの1つを経験した後だけに、今回の結果は、インフルエンザで入院した小児を治療することの重要性を改めて強調している。われわれの研究結果から、オセルタミビルによる治療は、発症から2日を過ぎて開始してもクリティカルケアが必要となるリスクを低下させる可能性があることが分かった」と述べている。 米国のガイドラインでは、インフルエンザで入院した小児に対して抗ウイルス薬による治療を行うことが推奨されている。しかし、こうした小児への抗ウイルス薬の投与率は近年低下している。米疾病対策センター(CDC)のInfluenza Hospitalization Surveillance Network(FluSurv-NET)によると、2024~2025年のインフルエンザシーズンにインフルエンザで入院した小児のうち、抗ウイルス薬の投与を受けたのは63%で、2017~2018年シーズンの86%から低下していた。 今回の後ろ向きコホート研究では、FluSurv-NETのデータを用いて、米国13州で、検査によりインフルエンザが確認され、入院した18歳未満の小児6,044人を対象に、オセルタミビル投与とICU入室との関連を解析した。対象期間は2014~2015年シーズンから2022~2023年シーズンまでの8シーズンで、2020~2021年シーズンは除外された。 対象患者のうち4,240人(70.2%)がオセルタミビルの投与を受けていた。解析の結果、オセルタミビル投与群では、非投与群に比べてICU入室リスクが31%低かった(調整ハザード比〔aHR〕0.69、95%信頼区間〔CI〕0.60~0.80)。発症から2日以内に治療を開始した場合と3日以降に開始した場合のいずれでも、治療を受けなかった場合に比べてICU入室リスクはそれぞれ26%(aHR 0.74、95%CI 0.63~0.86)と45%(aHR 0.55、95%CI 0.41~0.73)低かった。 副次評価項目である入院期間の解析には7,103人が含まれ、このうち5,746人(80.9%)がオセルタミビルの投与を受けていた。解析の結果、オセルタミビルの投与は入院期間の短縮と関連していた(aHR 1.13、95%CI 1.06~1.21)。推定入院期間は非投与群で3.72日、投与群で3.33日であり、9.4時間の短縮に相当した。 Rao氏は、「これまでの研究では、小児がいつ発症したのか、あるいは入院前に抗ウイルス薬による治療を開始していたのかといった重要な情報が欠けていることが多く、薬の有効性を評価することが難しかった」と指摘する。その上で、「今回の研究では、そうした詳細な情報を把握し、高度な統計手法を用いることで、インフルエンザで入院した小児の治療に役立つ、より強固なリアルワールドエビデンスを示すことができた」と述べている。 研究グループは、「今回の結果は、オセルタミビル投与の有益性を示すとともに、インフルエンザが疑われる、または検査で確定した小児の入院患者には、発症からの経過時間や重症化リスク因子の有無にかかわらず、できるだけ早くオセルタミビルによる治療を行うという現在の米国の推奨を支持するものである」と結論付けている。

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【GET!ザ・トレンド】原因不明の多臓器症状に潜む「ミトコンドリア病」と創薬の最前線

はじめに:早期診断の鍵は、ミトコンドリアの「SOS」を見抜く力にかかっている「少しの運動による著しい疲弊(運動不耐症)」「若年期からの難聴や糖尿病」「発熱や代謝負荷に伴う急激な症状悪化」など、日常外来で単なる「原因不明の慢性疲労」や不定愁訴、あるいは個別の臓器疾患として片付けられがちな症状の背景には、エネルギー代謝の根幹を担うミトコンドリアの機能異常「ミトコンドリア病」が隠れている可能性がある。こうした希少神経筋疾患や先天性代謝異常症の診療・研究の第一線で長年患者と歩んできた、自治医科大学小児科学講座の小坂 仁氏に話を伺った。同氏によれば、ミトコンドリア病は多臓器にまたがる複雑な病態で主訴も多岐にわたるため、一般外来で診断に至らず長年苦しむ患者が少なくないという。そして彼らを早期診断・適切な医療へとつなぐ鍵は、「多臓器症状を細胞のエネルギー不足という共通軸で捉え直す視点」にあると指摘する。なお、毎年9月の第3週は「世界ミトコンドリア病啓発週間(World Mitochondrial Disease Week)」として、International Mito Patients(IMP)を中心に、世界規模で疾患の認知向上と研究推進に向けたキャンペーンが展開されている。この機会に、日常診療の背後に潜むミトコンドリアからの「SOS」にあらためて目を向けてみたい。1. 疲れやすさの影に潜む多臓器症状:「個別の不調」を線でつなぐ視点「細胞のエネルギー不足」という診断の共通軸ミトコンドリア病診療において、小坂氏がまず強調するのは、単なる「疲れ」として見過ごされがちな症状の質だ。「ミトコンドリア病はウルトラレア(超希少)と思われがちですが、決して診る機会のない疾患ではありません。ただ、病態が複雑なため『どう疑うか』が難しいと感じる先生も多いようです。もちろん、単に『疲れやすい』という主訴だけで本症を疑うのは現実的ではありません。重要なのは、疲労感の質と多臓器症状の合併です」と同氏は語る。軽微な労作で著しく体力を消耗する運動不耐症や進行性の筋力低下に加え、エネルギー需要の高い心筋、耳(内耳)、内分泌系(膵臓)などの障害、具体的には若年発症の難聴、糖尿病、心筋症、片頭痛などが複数併存している場合、それらを個別の疾患として捉えるのではなく、細胞のエネルギー不足という共通軸で評価することが診断の第一歩になるという。「増悪のタイミング」を問診するさらに小坂氏が注意を促すのが、過度の代謝負荷がかかった局面に現れる「急激な症状の顕在化」だ。「普段は静かに順応して生活していても、体に急激なエネルギー需要が発生すると、一気に症状が表出する特徴があります」と同氏は指摘する。小児期のリー(Leigh)症候群などでは、発熱や感染症、激しい運動などを契機に、突然の痙攣や意識障害、呼吸不全などが引き起こされる。また成人期のミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作症候群(MELAS)などにおいても、過食や過度な運動、精神的ストレスが誘因となり、脳卒中様発作や激しい頭痛として顕在化するケースがあるという。「日常外来において『症状が急激に悪化したとき』の問診を丁寧に拾い上げること、そして小児例であれば脳MRIで脳血管支配に一致しない脳卒中様病変や、両側基底核や脳幹に左右対称性の病変がないかを確認することが、きわめて強力な診断の手掛かりになる」と同氏は語る。「母系遺伝」という固定観念からの脱却診断の過程で留意したいもう1つのポイントが、遺伝形式に対する理解だという。「『ミトコンドリア病=母系遺伝』という印象が強いかもしれませんが、実際には常染色体遺伝やX連鎖遺伝など多様な遺伝形式が存在します。とくに小児発症例では核DNA上の病的バリアントによるものも多く、常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)では両親が無症状であることも少なくありません」と同氏は説明する。一方で、成人期に多いMELASなどのミトコンドリアDNA変異では母系遺伝を認める。そのため、「母系親族における若年性の難聴、糖尿病、片頭痛、筋力低下、腎障害などの集積がないか」を問診することは、病型を見抜くうえできわめて有効な鍵になると同氏は強調する。こうした問診や観察のポイントを踏まえ、一般外来でミトコンドリア病を疑うための臨床チェックリストを下表にまとめた。表 一般外来で疑うための臨床チェックリスト疲れの質:少しの労作で極端に疲弊する「運動不耐症」はあるか?多臓器症状:若年難聴、糖尿病、心筋症、片頭痛、腎障害などが「複数」重なっていないか?増悪の契機:発熱・感染・過食・激しい運動・精神的ストレスなどで「急激に増悪」したエピソードはあるか?遺伝形式の解釈:「母系遺伝=すべてのミトコンドリア病」ではない。家族歴がなくても、小児発症例では核DNA上の病的バリアントによるものも多いことを念頭に置く。2. 対症療法から根本病態への介入へ:最新創薬が拓く未来と意外な広がり着実に進む臨床応用への歩み長らく対症療法に限られてきたミトコンドリア病だが、近年は国内外で新薬開発の動きが大きく加速している。小坂氏はその最前線について次のように語る。「現在、世界中で低分子化合物や遺伝子治療など多様なアプローチによる創薬が進んでいます。国内においても、東北大学で見いだされ、第II相臨床試験中であるMitochonic acid-5(MA-5)は、ミトコンドリア病の幅広い遺伝的背景の患者由来細胞でATP産生を促進することが示されている化合物であり、臨床現場からの期待も非常に大きい『希望の星』です。また、パーキンソン病治療薬アポモルフィンの化学構造を出発点に、ドパミン作用を抑え、ミトコンドリア機能改善作用に着目した誘導体を開発しています。現在、安全性の向上を目指しながら前臨床研究を進めています」。さらに、MELASの脳卒中様発作抑制薬としてタウリンが世界に先駆けて日本で承認・実用化された実績もある。「病態の解明から臨床応用まで日本人が主導したこの成功体験は、希少疾患研究における誇るべき足跡なのです」と同氏は強調する。パーキンソン病や老化現象の未来を変えるポテンシャルなぜ、希少疾患とされるミトコンドリア病の創薬にこれほどの期待が寄せられるのか。小坂氏は、その影響範囲が希少疾患にとどまらず、臨床医が日常で遭遇する加齢性疾患や神経変性疾患にまで及ぶ点を示唆する。「ミトコンドリアの機能低下は、パーキンソン病などの神経変性疾患や老化現象とも密接に関与しています。ミトコンドリア病研究から得られた知見が、パーキンソン病などの神経変性疾患や加齢に伴う病態の理解、新たな治療標的の発見につながる可能性があります。希少疾患研究は、私たちが日常的に診ている疾患の治療をも大きく変えるポテンシャルを秘めているのです」と同氏は語る。3. 「患者の熱意が、医師と研究者を突き動かす」:二人三脚の歩み「共に治療法を創るパートナー」へインタビューの終盤、小坂氏が最も熱を込めて語ったのは、長年共に歩んできた患者やその家族との深い絆であった。ミトコンドリア病における患者用ハンドブックの作成や診療マニュアルの編集は、単なる医師主導のプロジェクトではない。かつて患者・家族と医師たちが合宿形式で膝を突き合わせ、情熱を注ぎ込みながら形作られてきた歴史がある。「患者さんや、『わが子を救いたい』というご家族の切実な声に接したとき、私たち医師や研究者のエンジンが一気に掛かるのです」と同氏は振り返る。実際、国内で進む創薬プロジェクトの多くも、患者・家族とアカデミアの強い結びつきから生まれている。患者である「七海(ななみ)ちゃん」のご家族と一般社団法人こいのぼりが主体となり、自ら研究資金を募りアカデミアと連携して治療薬開発を推し進めた「7 SEAS PROJECT(セブン・シーズ・プロジェクト)」はその象徴的な例だ。「こうした動きは、もともと海外で先行して活発に行われてきたものでもあります。海外では患者会が自ら巨額の研究費を募り、米国食品医薬品局(FDA)や世界の研究機関を動かして開発を牽引する活動が行われています。希少疾患の医療においては、患者と医師・研究者が対等なパートナーとして手を取り合い、新たな治療法を一緒に創り出していくという側面が非常に強いと感じています」と同氏は語る。おわりに:日常外来の「1つの選択肢」が患者の未来を変える最後に小坂氏は、一般外来で日々多様な病態と向き合う医師たちに向けて、次のようなメッセージを寄せた。「多臓器にまたがる原因不明の不調を訴える患者さんを前にしたとき、頭の片隅に『ミトコンドリア病かもしれない』という選択肢が存在するかどうか。その可能性への思いが、長年原因がわからず診療科を転々としてきた患者さんを早期の専門医療へとつなぐ鍵となります」。日常診療の背後に潜むミトコンドリアのSOSに耳を傾け、希少疾患領域から発信される最新の知見に目を向ける。そのアプローチは、ミトコンドリア病の克服にとどまらず、多様な疾患の治療法を切り拓く未来の医療への第一歩となる。(ケアネット 三浦 愛子)

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