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イベルメクチンは、内部寄生虫と外部寄生虫の双方に有効なエンデクトサイドであり、集団投薬によりオンコセルカ症やリンパ系フィラリア症の伝播を抑制することが知られている。スペイン・ISGlobalのCarlos Chaccour氏らは「BOHEMIA試験」において、マラリアが高度に蔓延した地域に居住する小児では、アルベンダゾールと比較してイベルメクチンの集団投薬は、マラリア感染率が有意に低く、安全性に関する懸念はみられないこと示した。研究の成果は、NEJM誌2025年7月24日号に掲載された。ケニア・クワレ郡でのクラスター無作為化試験 BOHEMIA試験は、マラリア伝播の抑止におけるイベルメクチンの安全性と有効性の評価を目的とする非盲検評価者盲検クラスター無作為化対照比較試験であり、ケニア海岸地帯のマラリアが蔓延し、殺虫処理済みの蚊帳の普及率と使用率が高い地方(クワレ郡[人口86万6,820人])で、クラスターとして世帯地域を登録した(Unitaidの助成を受けた)。 世帯地域クラスターを、イベルメクチン(400μg/kg体重)の集団投薬を行う群またはアルベンダゾール(400mg、実薬対照)の集団投薬を行う群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。短期の雨季(“short rains”season)の始まり(2023年10月)に合わせて投薬を開始し、月1回、3ヵ月連続で投与した。年齢5~15歳の小児において、1回目の投与から6ヵ月間、マラリア感染の検査を月1回行った。 主要アウトカムは、マラリア感染の累積発生率(年齢5~15歳の小児[有効性コホート]で評価)と、有害事象の累積発生率(適格基準を満たしたすべての参加者[安全性コホート]で評価)の2つとした。10~15歳や男児で発生率が高い 84地域(2万8,932例、年齢5~15歳の小児2,871例)を登録し、両群に42地域ずつを割り付けた。両群とも参加者の93%以上が少なくとも2回の試験薬の投与を受けた。全体の平均年齢はイベルメクチン群が25.4歳、アルベンダゾール群が25歳、女性の割合はそれぞれ51.2%および49.8%であり、有効性コホートの小児の平均年齢は9.7歳および9.5歳、女児の割合は49.4%および49.9%であった。 1回目の投与から6ヵ月後の時点での、感染リスクのある小児におけるマラリア感染の粗累積発生率は、アルベンダゾール群が1人年当たり2.66件であったのに対し、イベルメクチン群は2.20件と有意に低率であった(補正後発生率比:0.74[95%信頼区間[CI]:0.58~0.95]、p=0.02)。 また、5~10歳に比べ>10~15歳(補正後発生率比:1.09[95%CI:1.00~1.20])、女児に比べ男児(1.09[1.01~1.17])、ベースラインの小児におけるマラリア感染の有病率が30%以下の地域に比べ30%超の地域(2.73[1.93~3.87])で、アルベンダゾール群に対するイベルメクチン群のマラリア発生の率比が高く、人口密度が613人/km2以下の地域に比べ613人/km2超の地域(0.73[0.54~0.99])、相対的に貧困な世帯に比べ富裕な世帯(0.67[0.54~0.83])では率比が低かった。試験薬関連の重篤な有害事象はなかった 妊娠以外に関連した重篤な有害事象が17例に17件発現し、9例(2例がイベルメクチン群)が死亡、7例(3例がイベルメクチン群)が入院したが、試験薬に関連したものはないと考えられた。投与100回当たりの重篤な有害事象の発生率には両群間に差を認めなかった(イベルメクチン群0.023[95%CI:0.010~0.051]vs.アルベンダゾール群0.037[0.016~0.082]、発生率比:0.63[95%CI:0.21~1.91]、p=0.46)。 参加者2万657例(イベルメクチン群9,662例、アルベンダゾール群1万995例)に、5万6,003回の投与が行われ(2万6,028回がイベルメクチン群)、1,975例に2,796件(1,651件がイベルメクチン群)の有害事象が発現した。投与100回当たりの有害事象発生率は、イベルメクチン群が6.19件(95%CI:4.92~7.77)、アルベンダゾール群は3.75件(2.98~4.71)で、発生率比は1.65(95%CI:1.17~2.34)とイベルメクチン群で有意に高率であった(p=0.005)。これらの有害事象は、主に全身性、知覚、神経系、筋骨格系、皮膚の症状だった。 著者は、「この試験の結果は、マラリアが中程度に流行し、年間を通じて伝播する地域において、マラリアの制御と予防のための補完的な戦略としてのイベルメクチンの使用を支持するエビデンスをもたらすものである」としている。