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富士登山で高山病になる人とならない人の違い

 富士登山で高山病になった人とならなかった人の血圧、心拍数、乳酸、動脈血酸素飽和度、心係数などを比較した、大阪大学医学部救急医学科の蛯原健氏らの研究結果が、「Journal of Physiological Anthropology」に4月13日掲載された。測定した項目の中で有意差が認められたのは、心係数のみだったという。 毎年20万人前後が富士登山に訪れ、その約3割が高山病を発症すると報告されている。高山病は一般に標高2,500mを超える辺りから発症し、主な症状は吐き気や頭痛、疲労など。多くの場合、高地での最初の睡眠の後に悪化するものの、1~2日の滞在または下山により改善するが、まれに脳浮腫や肺水腫などが起きて致命的となる。 高山病のリスク因子として、これまでの研究では到達高度と登山のスピードの速さが指摘されている一方、年齢や性別については関連を否定するデータが報告されている。また、心拍数や呼吸数の変化、心拍出量(1分間に心臓が全身に送り出す血液量)も、高山病のリスクと関連があると考えられている。ただし、富士登山におけるそれらの関連は明らかでない。蛯原氏らは、高地で心拍出量が増加しない場合に低酸素症(組織の酸素濃度が低下した状態)となり、高山病のリスクが生じるというメカニズムを想定し、以下のパイロット研究を行った。 研究参加者は、年に1~2回程度、2,000m級の山を登山している11人の健康なボランティア。全員、呼吸器疾患や心疾患の既往がなく、服用中の薬剤のない非喫煙者であり、BMI25未満の非肥満者。早朝に静岡県富士宮市(標高120m)から車で登山口(同2,380m)に移動し登山を開始。山頂の研究施設(旧・富士山測候所)に一泊後に下山した。この間、ポータブルタイプの測定器により、心拍数、血圧、動脈血酸素飽和度(SpO2)を測定し、ベースライン時(120m地点)と山頂での就寝前・起床後に、心係数(心拍出量を体表面積で除した値)、1回拍出量を測定。またベースライン時と山頂での就寝前に採血を行い、乳酸値、pHなどを測定した。 高山病の発症は、レイクルイーズスコア(LLS)という指標で評価した。これは、頭痛、胃腸症状、疲労・脱力、めまい・ふらつきという4種類の症状を合計12点でスコア化するもので、今回の研究では山頂での起床時に頭痛があってスコア3点以上の場合を高山病ありと定義した。 11人中4人が高山病の判定基準を満たした。高山病発症群と非発症群のベースライン時のパラメーターを比較すると、高山病発症群の方が高齢であることを除いて(中央値42対26歳、P=0.018)、有意差のある項目はなかった。登山中に両群ともSpO2が約75%まで低下したが、その群間差は非有意だった。また、登山中や山頂で測定された心拍数、1回拍出量、乳酸値などのいずれも有意な群間差がなかった。唯一、心係数のみが以下のように有意差を認めた。 高山病発症群の山頂での就寝前の心係数(L/分/m2)は中央値4.9、非発症群は同3.8であり、発症群の方が有意に高かった(P=0.04)。つまり、研究前の仮説とは反対の結果だった。心係数のベースライン値からの変動幅を見ると、睡眠前は高山病発症群がΔ1.6、非発症群がΔ0.2、起床後は同順にΔ0.7、Δ-0.2であり、いずれも発症群の変動幅の方が大きかった(いずれもP<0.01)。 このほかに、LLSで評価した症状スコアは、高山病非発症群の7人中4人は睡眠により低下したのに対して、発症群の4人は全員低下が見られないという違いも示された。 以上より著者らは、「山頂到着時の心係数が高いこと、およびベースライン時からの心係数の上昇幅が大きいことが、富士登山時の高山病発症に関連していた。心拍出量の高さが高山病のリスク因子である可能性がある」と結論付けている。ただし、高山病発症群は非発症群より高齢であったことを含め、パイロット研究としての限界点があることから、「高山病発症のメカニズムの解明にはさらなる研究が必要」としている。

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職場で差別を受けると高血圧になりやすい?

 職場の上司や同僚から差別を受けることが、高血圧の発症リスクとなる可能性を示す研究結果が報告された。被差別体験の多寡で最大54%のリスク差が示されたという。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のJian Li氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the American Heart Association」に4月26日掲載された。 論文の筆頭著者であるLi氏は、「この研究は因果関係を証明可能な研究デザインでは行われていない。ただし、職場での差別が高血圧の潜在的な危険因子であることが示唆される」と述べている。そのように考えられる理由の一つは、本調査では職場の差別の経験が高血圧の発症よりも時間的に先行していたことであり、もう一つの理由は、ストレスの多い状況が血圧上昇の一因となることを示す研究結果が存在しているからだとしている。 Li氏らの研究には、米国の中高年成人の幸福感を調査したコホート研究(MIDUS)のデータが用いられた。MIDUSは2004~2006年に参加登録が行われ、今回の研究では登録時点で高血圧を自己申告した人を除いた1,246人を解析対象とした。職場での差別の経験は、「ほかの人がやりたがらない仕事をどのくらいの頻度で不当に担当させられたか?」、「民族的、人種的、性的な中傷や冗談を、同僚からどのくらいの頻度で言われたか?」などの6項目の質問に対する回答からスコア化し判定された。 平均7.96年(9,923.17人年)の追跡で、319人が高血圧を発症。受けた差別のスコアの三分位で3群に分けると、第1三分位群(被差別体験が最も少ない下位3分の1)では1,000人年当たりの高血圧発症率が25.90、第2三分位群は同30.84、第3三分位群(被差別体験が最も多い上位3分の1)は同39.33だった。高血圧発症リスクに影響を及ぼしうる因子(年齢、性別、喫煙・飲酒・運動習慣、人種、婚姻状況、学歴、収入、業務上のストレスなど)を調整後の解析で、第3三分位群は第1三分位群に比較して54%リスクが高いことが明らかになった〔ハザード比1.54(95%信頼区間1.11~2.13)〕。 このような差別と心血管系の健康リスクとの関連をLi氏は、「差別を受けてストレスがかかると、心血管系の負荷となるホルモンの分泌が高まる。そのような状況が続くと身体は消耗し、ストレスからの回復能力も低下する可能性がある」と解説している。また、本研究には関与していない米国心臓協会(AHA)のEduardo Sanchez氏は、「人々は労働に人生の多くの時間を費やしている。よって職場で受ける差別が健康へ与える影響を研究することは、極めて重要だ。ストレスは、われわれが思いもよらないメカニズムで心血管系の健康に影響を及ぼしているのではないか」と語っている。 Li氏は、「職場環境の改善という問題は以前から存在しているが、これまでは主に『労働条件』という視点から語られることが多かった。しかし今日では、人間関係やワークライフの質などの、より多くの関連因子を考慮する必要がある」と指摘。さらにSanchez氏は、「職場での差別の解決を目指すことは正しいことに違いない。それは、従業員だけでなく企業にとっても重要である。なぜなら、幸福感の高い従業員が勤務していることは、雇用者側の利益にもつながるからだ」と、この問題に取り組むことの意義を述べている。

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歯科治療の中断が全身性疾患の悪化と有意に関連

 歯科治療の中断と、糖尿病や高血圧症、脂質異常症、心・脳血管疾患、喘息という全身性慢性疾患の病状の悪化が有意に関連しているとする研究結果が報告された。近畿大学医学部歯科口腔外科の榎本明史氏らの研究によるもので、詳細は「British Dental Journal」に4月11日掲載された。 近年、口腔疾患、特に歯周病が糖尿病と互いに悪影響を及ぼしあうことが注目されている。その対策のために、歯科と内科の診療連携が進められている。また、糖尿病との関連に比べるとエビデンスは少ないながら、心・脳血管疾患や高血圧症なども、歯周病と関連のあることが報告されている。歯周病とそれらの全身性疾患は、どちらも治療の継続が大切な疾患であり、通院治療の中断が状態の悪化(歯周病の進行、血糖値や血圧などのコントロール不良)につながりやすい。榎本氏らは、歯科治療を中断することが全身性疾患の病状に影響を及ぼす可能性を想定して、以下の横断的研究を行った。 研究には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの社会・医療への影響を把握するために実施された大規模Web調査「JACSIS(Japan COVID-19 and Society Internet Survey)研究」のデータが用いられた。パンデミック第5波に当たる2021年9月27日~10月30日に、Web調査登録者パネルを利用して、年齢、性別、居住都道府県を人口構成にマッチさせた上で無作為に抽出した3万3,081人に回答協力を依頼。2万7,185人(年齢範囲15~79歳、男性49.7%)から有効回答を得た。 このトピックに関する質問は、「過去2カ月間に、全身性疾患の病状は悪化したか」、「過去2カ月間に、歯科治療を受けることができたか」という二つで構成されていた。前者は「はい」か「いいえ」、後者は歯科治療を「継続していた」、「中断した」、および「該当しない(以前から継続的な歯科治療は受けていない)」から選んでもらった。 全身性疾患の検討対象者は、もともと内科疾患を放置している人やコロナ禍のもと内科疾患の通院を中断した人は除外。最終的には、糖尿病1,719人、高血圧症5,130人、脂質異常症2,998人、心・脳血管疾患833人、喘息677人、アトピー性皮膚炎792人、うつ病などの精神疾患1,638人を対象者とした。これら各疾患の患者のうち、50~60%は歯科治療を継続しており、4~8%は中断していた。いずれの疾患においても、歯科治療継続群より中断群の方が、病状が悪化したとの回答が多かった。 糖尿病患者を例にとると、1,719人のうち88人が歯科治療を中断しており、そのうち16人(18.2%)が糖尿病の悪化を報告。歯科治療を継続していた1,043人ではその割合が5.6%だった。年齢、性別、喫煙習慣、教育歴、収入、居住環境(独居か否か、持ち家か否か)を共変量として調整した解析でも、病状悪化率の群間差は有意だった(P=0.0006)。 同様の解析で、高血圧症(P=0.0003)、脂質異常症(P=0.0036)、心・脳血管疾患(P=0.0007)、喘息(P=0.0094)も、歯科治療を中断した群の病状悪化率の方が有意に高かった。アトピー性皮膚炎とうつ病などの精神疾患に関しては、有意差が見られなかった。 著者らは「本研究は横断研究であるために因果関係は不明」とした上で、「歯科治療の中断がいくつかの全身性疾患の状態を悪化させる可能性が示された。つまり、歯科治療の継続が全身性疾患の進展を抑制し得るのではないか。また、全身の内科的疾患の症状悪化によって、将来的に医療において必要となる人的労力や経済的負担が、口腔の健康の維持のための比較的軽度な負担によって抑制可能かもしれない。この結果はわが国における医歯学連携の推進を後押しする、有意義な知見と考えられる」と結論付けている。

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尿酸値の低さとCOVID-19重症化リスク上昇の関連には炎症が関与

 尿酸値が低い新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者は重症化リスクが高く、そのメカニズムとして、尿酸値の低さのために炎症反応が亢進していることの関与が想定されるとする研究結果が報告された。大阪公立大学大学院医学研究科代謝内分泌病態内科学の藏城雅文氏らの研究によるもので、詳細は「Biomedicines」に3月10日掲載された。 尿酸値は高すぎると痛風などのリスクとなるが、一方で尿酸には強力な抗酸化作用があるため、低すぎることでも腎機能低下などのリスクが上昇することが分かっている。またCOVID-19パンデミック以降は、尿酸値の低さとCOVID-19重症化リスクの高さとの関連を示唆する研究結果も報告されている。ただし、そのメカニズムについてはまだ不明点が多い。藏城氏らは、COVID-19重症化リスク因子である、炎症、肺胞損傷、凝固能亢進という3点と、尿酸値の低さとの関連に焦点を当て、患者データを用いた後方視的観察研究を行った。 研究対象は、2020年10月~2021年5月に大阪市立十三市民病院に入院した、非重症COVID-19患者から、高尿酸血症(7mg/dL以上)、三次医療機関での治療後に転院搬送された元重症患者、免疫抑制薬投与中、妊婦、自主退院、データ欠落に該当する患者を除外した488人。主な特徴は、年齢が中央値76歳(四分位範囲57~82)、男性52.0%で、尿酸値は4.4mg/dL(同3.6~5.4)で11.1%が尿酸降下薬を服用していた。炎症はCRPで評価し入院時に3.33mg/dL(0.58~6.77)、肺胞損傷を表すKL-6は252U/mL(198~337)、凝固能亢進を表すD-ダイマーは0.8μg/mL(0.6~1.2)だった。 入院後にICU入室や人工呼吸管理を要した場合を重症化症例と定義すると、19.5%が該当した。入院から重症COVID-19に進行するまでの期間は中央値7日(4~14)だった。 年齢や性別、BMI、eGFR、喫煙、基礎疾患などと尿酸値を調整する多変量解析の結果、重症化に独立して関連する因子として、高齢〔10歳ごとにハザード比(HR)1.342(95%信頼区間1.096~1.642)〕、男性〔女性に対してHR2.103(1.232~3.589)〕とともに、尿酸値の低さ〔-1mg/dLごとにHR1.279(1.021~1.602)〕が抽出された。 また、尿酸値は対数変換したCRP(logCRP)との間に有意な負の相関関係があり(r=-0.165、P<0.001)、尿酸値が低いほど炎症が亢進していることが明らかになった。それに対して、logKL-6やlogD-ダイマーは尿酸値との有意な相関は観察されなかった。 次に、前記の多変量解析の調整因子に、尿酸値、logCRP、logKL-6、logD-ダイマーをそれぞれ単独で追加して、各指標が1標準偏差(SD)異なる場合の重症化リスクを検討。その結果、尿酸値が1SD低いと重症化リスクは約1.3倍になり〔標準化ハザード比1.337(1.025~1.743)〕、logCRPが1SD高いと重症化リスクは約2倍〔同2.079(1.389~3.113)〕、logKL-6は1SD高いごとに約1.3倍〔同1.292(1.040~1.606)〕となった。logD-ダイマーは有意な関連が示されなかった。 続いて、尿酸値と同時にlogCRP、logKL-6、logD-ダイマーを調整因子として追加。すると、logKL-6やlogD-ダイマーを追加した場合には、尿酸値の標準化ハザード比に有意な変化を認めなかった。それに対して、logCRPを追加した場合は、尿酸値の標準化ハザード比が1.233(95%信頼区間0.941~1.616)と非有意になり、logCRPを追加しない場合と結果が有意に異なっていた(P=0.041)。 以上の結果の総括として著者らは、「高尿酸血症に該当しない場合、尿酸値が低いことが、炎症反応の亢進を介してCOVID-19重症化のリスクとなることが示唆された」と結論付けている。そのメカニズムについては既報論文を基に、「尿酸値が低い場合、尿酸の持つ抗酸化作用が低下し、活性酸素によって生じる炎症の抑制が十分になされないためではないか」と考察を述べている。

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歯の本数だけでなく、しっかりかめることが重要

 残っている歯が少なく、食べ物をしっかりかめないことが、主観的健康観の低下と関連していることを示すデータが報告された。ただし、残っている歯が少なくても、食べ物をしっかりかめる状態になっていれば、主観的健康観は低下していないという。山形大学医学部歯科口腔・形成外科の石川恵生氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に12月5日掲載された。 主観的健康観(self-rated health;SRH)は、BMIや血液検査の値などとともに、生命予後のリスクと関連のある因子の一つとされている。これまでに、残っている歯の本数(残存歯数)が少ないほどSRHが低く、全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスクが高いといったデータが報告されてきている。ただし、それらは主に高齢者を対象とする研究からのエビデンスであり、中年期成人の残存歯数とSRHの関連はよく分かっていない。また、残存歯数が少なくても、義歯などで適切に治療されていればSRHは低下せず、反対に残存歯数が多くても状態が悪ければSRHが低下する可能性が考えられるが、そのような視点での研究もほとんど行われていない。 以上を背景として石川氏らは、山形県で行われている疫学研究「山形県コホート研究」のデータを用いた横断的な解析により、これらの点を検討した。同コホート研究の対象は、同県内の40歳以上の一般住民であり、今回の研究では2017~2021年に実施した郵送アンケート調査に回答した7,447人から、データ欠落のある人を除外した6,739人(男性33.9%)を解析対象とした。 SRHの評価方法は、「最近1カ月間の健康状態は?」という質問に対して、「極めて良好」~「悪い」の五者択一で選んでもらい判定した。統計解析に際しては、下位2項目(「普通」と「悪い」)を選択した人を「SRHが低下している」と定義した。 口の中の状態については、残存歯数を問う質問と(インプラントは残存歯数に入れずにカウント)、「自分の歯や入れ歯で、左右の奥歯をかみしめることができるか?」という質問に対して、「両方できる」、「片方だけでできる」、「どちらもできない」から三者択一で選んでもらい判定した。 このほかに、年齢、BMI、婚姻状況、疾患既往歴、メンタルヘルス状態に関する自己評価や、睡眠・喫煙・飲酒・運動習慣、地域社会活動への参加頻度なども把握。それらの指標とSRHとの関係について単変量解析を行い、有意性が示された指標を独立変数とする多変量解析を施行した。その結果、SRHの低下に独立した関連のある因子として、痩せ(BMI18.5未満)、運動頻度が少ないこと、抑うつ、睡眠時間(5時間未満または9~10時間)、がんの既往などとともに、以下に挙げる口の中の状態が抽出された。 残存歯数が20本以上あり「両方ともしっかり噛みしめられる」群を基準とすると、残存歯数が20本未満で「どちらもできない」という状態〔aOR1.952(95%信頼区間1.265~3.014)〕、および、残存歯数が20本未満で「片方だけでできる」という状態〔aOR1.422(同1.015~1.992)〕が、SRHの低下に独立して関連していた。その一方、残存歯数が20本未満であっても「両方できる」という状態は、単変量解析の時点でSRHの低下に関連する有意な因子でなく、多変量解析でも有意性は示されなかった〔aOR1.099(0.884~1.365)〕。 反対に、残存歯数が20本以上あっても、「片方だけでできる」という状態や、「どちらもできない」という状態は、多変量解析では有意ではないもののオッズ比が上昇する傾向を認め、また単変量解析ではSRHの低下と有意な関連が認められた(単変量解析のオッズ比はそれぞれ1.458、1.876)。 著者らは本研究の限界点として、口の中の状態を歯科検診ではなく自己報告に基づいて評価しており、治療状態も不明であること、調整されていない交絡因子が存在する可能性のあることなどを挙げている。その上で、「幅広い年齢層で実施された本研究から、良好なSRHの維持には、歯周病などのない健康な歯が20本以上あること、または残存歯数は20本未満であっても、きちんと歯科治療がなされていることが重要と考えられる」と結論をまとめている。

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メンソールフレーバーの電子タバコ、肺にはより有害

 電子タバコでのメンソールフレーバーのリキッドの使用は、それ以外のリキッドを使用した場合よりも多くの微小粒子を肺に届け、肺機能にダメージを与える可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。米ピッツバーグ大学医学部呼吸器・アレルギー・クリティカル医学分野のKambez Benam氏らによる研究で、「Respiratory Research」に4月11日掲載された。 電子タバコの蒸気が、肺の炎症や酸化ストレス、DNA損傷、喘息を誘発する気道過敏性を引き起こす可能性があることは、多くの研究で示唆されている。大麻の精神活性成分であるTHC(テトラヒドロカンナビノール)を含む電子タバコ用リキッドにはビタミンEアセテートが添加されていることが多いが、Benam氏らは過去の研究で、ビタミンEアセテートの添加により、より多くの有害な微小粒子が肺の抹消気道、気管や気管支壁の内層にとどまる可能性のあることを報告している。 Benam氏らは今回、メンソールの潜在的な危険性を調べるために、人間の呼吸パターンを再現したロボットシステム「Human Vaping Mimetic Real-Time Particle Analyzer(HUMITIPAA)」を使用して、電子タバコから発生したエアロゾルに含まれている微小粒子の大きさや数をリアルタイムで測定した。 その結果、メンソールフレーバーのリキッドを使用すると、非メンソール系のリキッドを使用した場合よりも多くの微小粒子が放出されることが明らかになった。また、電子タバコの喫煙者の患者記録を分析したところ、メンソールフレーバーのリキッド使用者の方が非使用者に比べて、年齢、性別、人種、喫煙量(パックイヤー)、ニコチンやカンナビス(大麻)含有のリキッドの使用に関わりなく、呼吸が浅く、肺機能が低いことが分かった。 こうした結果を受けてBenam氏は、「メンソールが植物のミントに由来する成分であり、食品や飲み物に添加されることがあるからといって、それを吸い込んでも問題はないと考えるのは間違いだ」とし、「メンソールフレーバーのリキッドを使用することで、肺に到達する微小粒子の数が大幅に増加する可能性のあることが、この研究で明らかになった。電子タバコから発生するエアロゾルは、ニコチンやホルムアルデヒドなどの有害物質を多く含むことが知られている」と懸念を示す。研究グループは、電子タバコ用リキッドへのメンソールの添加はビタミンEアセテートの添加と同程度に危険な可能性があるとの見方を示している。 その一方で、メンソールを禁止する動きも進んでいる。米食品医薬品局(FDA)は2022年に、子どもが紙巻きタバコや電子タバコを吸い始めるのを阻止する目的で、紙巻きタバコでのメンソールの使用と、メンソールフレーバーのリキッドを使った2種類の電子タバコ製品の販売を禁じることを提案している。 米ノースウェル・ヘルス・タバココントロールセンターのディレクターを務めるJennifer Sidi氏は、「電子タバコは、紙巻きタバコよりも健康に害のない、紙巻きタバコの代替品と考えられているが、その考えが間違いであることを示すための研究が実施されているところだ。その結果、電子タバコには危険な化学物質がたくさん含まれており、必ずしも健康的な選択肢ではないことが明らかになりつつある」と強調する。 残念ながら、電子タバコはティーンエージャーの間で依然として人気が高い。Sidi氏は、「電子タバコが安全な選択肢でないことを示す研究結果は増える一方だ。それなのに、若く多感な年代の人々が、電子タバコを売るためのターゲットにされている」と危惧を示している。

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Life's Essential 8を遵守している人は長寿の可能性―AHAニュース

 心血管の健康に関係のある一連の目標を守っている人は、そうでない人よりも寿命が約9年長い可能性のあることを示唆する報告が、「Circulation」に4月10日掲載された。 この研究では、米国心臓協会(AHA)が開発した「Life's Essential 8」と呼ばれる健康スコアと余命との関連が検討された。Life's Essential 8には、タバコを吸わないこと、身体的に活動的であること、健康的な食事をすること、適切な睡眠を取ること、体重を管理すること、および、血圧・血糖値・コレステロールの良好なコントロールが、推奨事項として掲げられている。以前の研究では、これらの推奨事項を遵守しており評価スコアが高い人は、スコアが低い人よりも、人生の中で慢性疾患に罹患していない期間が長いことが示されていた。そして今回の研究によって、「ライフスタイルの変更が、長生きにつながるというエビデンスが示された」と、論文の上席著者で米テュレーン大学肥満研究センター長のLu Qi氏は語っている。 Qi氏らは、2005~2018年の米国国民健康栄養調査に参加した成人2万3,003人(年齢範囲は20~79歳)を、2019年12月31日まで追跡し、Life's Essential 8の遵守状況と死亡リスクとの関連を検討した。Life's Essential 8の遵守状況は、0~100ポイントで評価し、スコア50点未満を「低い」、50~79点を「中程度」、80点以上を「高い」と分類した。 中央値7.8年の追跡で1,359人が死亡。50歳時点の平均余命は、スコアが低い群は27.3年、中程度の群は32.9年、高い群は36.2年であり、低い群と高い群との間には8.9年の差のあることが明らかになった。Life's Essential 8の推奨事項の中で、平均余命への影響力の大きい因子は、非喫煙、睡眠、身体活動、血糖管理だった。 平均余命の延長の約42%は、心血管死の減少に起因していた。ただしそれは逆に言えば、余命延長の58%近くは心血管疾患リスクの減少を介さずに生じたことを意味している。この結果について米カリフォルニア大学アーバイン校のNathan Wong氏は、「Life's Essential 8の推奨に基づく総合的な評価が重要であり、心血管の健康を維持することの好ましい影響が、心血管疾患以外での死亡リスクも抑制することを示している」と解説している。 また、Wong氏は、「この知見は、年1回の健康診断の結果やAHAの『My Life Check』(Life's Essential 8に基づく健康スコアを把握可能)をはじめとするオンラインツールの使用を通じて、人々が自分自身の心血管の健康リスクを理解する動機付けに役立つだろう。これらの評価結果を参考に、心血管の健康状態の改善に向けて、自分が何をすべきかを知ることができる」と付け加えている。 ただし同氏によると、Life's Essential 8には心血管の健康に関する多くの重要な事項が含まれているが、今後の研究では、さらに他の要因がどの程度、心血管の健康に関与しているのかを調べる必要があるとしている。「ストレスや抑うつなどの心理的因子や、ヘルスケアへのアクセスの良否などの社会的因子が、心血管疾患、あるいはその他の疾患の転帰に与える影響を考慮しなければならない。また今回の研究は死亡率に焦点を当てているが、非致死的な心血管転帰への影響の評価も求められる」とのことだ。[2023年4月11日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.

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交通騒音の多い道路の近くに住むと血圧が上昇?

 交通騒音の激しい道路の近くに住んでいる人は、高血圧の発症リスクが高いことが報告された。騒音に大気汚染の影響が加わると、そのリスクはさらに高くなるという。北京大学(中国)のJing Huang氏らの研究の結果であり、詳細は「JACC. Advances」3月発行号に掲載された。同氏はジャーナル発のリリースの中で、「交通騒音と高血圧リスクとの関連性が、大気汚染を調整した後でも強固であったことにやや驚いた」と述べている。 交通騒音が血圧に及ぼす影響を調べるためHuang氏らは、英国の大規模ヘルスケア情報ベース「UKバイオバンク」の24万人以上のデータを利用した前向き研究を行った。解析対象者は40~69歳で、高血圧の既往のある人は除外されている。交通騒音は、欧州で用いられている標準的な評価指標に基づいて推定した。 中央値8.1年の追跡で、2万1,140人が高血圧を発症。解析結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、民族、喫煙・飲酒・運動習慣、HbA1c、HDL-C、中性脂肪、塩分摂取量、睡眠時間、教育歴、経済状況、居住地域、居住期間、難聴、タウンゼント剥奪指数など)を調整後、24時間の平均的な交通騒音の音量が10デシベル高いごとに、高血圧の発症リスクが7%有意に高いという関連のあることが明らかになった〔ハザード比(HR)1.07(95%信頼区間1.02~1.13)〕。調整因子に、大気汚染の影響(PM2.5または二酸化窒素レベル)を追加してもこの関連は有意だった〔いずれもHR1.06(同1.00~1.12)〕。 交通騒音に大気汚染が加わった場合には、高血圧発症リスクがより高くなることも分かった。例えば、交通騒音が55デシベル以下でPM2.5が9.9μg/m3以下を基準とすると、PM2.5レベルが同じなら交通騒音が65デシベル超でも高血圧発症HRは1.02(95%信頼区間0.85~1.23)で有意なリスク上昇は見られなかった。それに対して、PM2.5レベルが10.6μg/m3超で交通騒音が65デシベル超の場合は、HR1.22(1.06~1.40)と有意なリスク上昇が認められた。 Huang氏は、「われわれの研究結果は、交通騒音の悪影響を抑制するという公衆衛生対策を推し進めることの十分な根拠となり得る。その対策には、現状よりも厳格な基準の騒音規制ガイドラインの施行、道路計画の改善、より静かな車両を作り出すための先進技術への投資などが含まれるだろう」と話している。 本論文の付随論評を寄せている、米ノースカロライナ大学チャペルヒル校のJiandong Zhang氏は、「この研究は、心血管の健康状態を向上させるためには、個人レベルと社会レベルの双方で、交通騒音と大気汚染への対策を講じる必要のあることを示す、質の高いエビデンスと言える」と評している。なお、研究グループでは現在、交通騒音が血圧にどのような影響を及ぼすのかをより詳細に把握するためのフィールド調査を行っている。

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ワクチン接種者はコロナ後遺症リスクが4割以上低い可能性

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の急性期以降にさまざまな症状が遷延する、「コロナ後遺症」と呼ばれる状態(post-COVID-19 condition;PCC)のリスクに関連する因子が報告された。女性や喫煙者、急性期に入院を要した人などはリスクが高く、反対にワクチン接種によってリスクが大幅に抑制されている可能性が示された。英イースト・アングリア大学のVassilios Vassiliou氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Internal Medicine」に3月23日掲載された。 Vassiliou氏らは、PCCのリスク因子を探るために、既報論文を対象とするシステマティックレビューとメタ解析を実施。MedlineおよびEmbaseに2022年12月5日までに収載された論文を対象とするシステマティックレビューにより、18歳以上のPCC患者(何らかの症状が3カ月以上持続している患者)合計86万783人が含まれている、計41件の研究を抽出した。メタ解析の結果、女性や高齢者、喫煙者など、さまざまな因子がPCC発症と有意な関連のあることが明らかになった。詳細は以下の通り。 男性に対して女性はオッズ比(OR)1.56(95%信頼区間1.41~1.73)、40歳未満に対して40~69歳はOR1.19(同1.06~1.34)、70歳以上はOR1.21(1.11~1.33)、喫煙者はOR1.10(1.07~1.13)、肥満(BMI30以上)はOR1.15(1.08~1.23)、COVID-19急性期に入院を要した患者はOR2.48(1.97~3.13)、ICU入室を要した患者はOR2.37(2.18~2.56)。 基礎疾患については、喘息はOR1.24(1.15~1.35)、COPDはOR1.38(1.08~1.78)、糖尿病はOR1.06(1.03~1.09)、虚血性心疾患はOR1.28(1.19~1.38)、免疫抑制状態はOR1.50(1.05~2.15)、不安や抑うつはOR1.19(1.02~1.40)だった。検討された基礎疾患のうち、慢性腎臓病についてはPCCリスクとの有意な関連が示されなかった〔OR1.12(0.98~1.28)〕。 一方、ワクチン接種者はOR0.57(0.43~0.76)であり、4割以上リスクが低い可能性が示された。 Vassiliou氏は、「ワクチン接種者はPCCリスクが低い可能性が示された点は安心材料と言える。PCCリスク抑制のためにワクチン接種を推奨することの根拠にもなり、重要な知見だ」と述べている。また論文著者の1人である、英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)およびイプスウィッチ病院に所属しているEleana Ntatsaki氏は、「われわれの研究結果はPCCリスク因子を明確にしていく作業にとって有用である。さらに、禁煙、ワクチン接種、体重管理など、修正可能なリスク因子の改善を働きかけるといった、公衆衛生政策の最適化にも役立つだろう」と語っている。 PCCの患者数に関しては、英国で約200万人、米国では約2300万人との推計値が報告されている。PCCの主な症状として、息切れ、咳、動悸、頭痛、耳鳴り、倦怠感、胸痛、ブレインフォグ(頭がぼんやりして記憶力などが低下した状態)、不眠、めまい、不安や抑うつ、食欲低下、嗅覚や味覚の障害、関節痛などがある。

170.

社会的孤立と糖尿病を含む既知のアルツハイマー型認知症リスク因子が関連

 社会的な孤立が、アルツハイマー型認知症を予防するための修正可能なリスク因子の可能性があるとする、マギル大学(カナダ)のKimia Shafighi氏らの研究結果が「PLOS ONE」に2月1日掲載された。社会的孤立や周囲からのサポートの欠如と、糖尿病を含む身体疾患をはじめとする、アルツハイマー病の種々のリスク因子との関連が明らかになったという。 アルツハイマー病とそれに関連する認知症(alzheimer’s disease and related dementias;ADRD)の増加は、多くの国で公衆衛生上の重要な課題となっている。ADRDの治療法はいまだ確立されていないが、予防に関しては、修正可能なリスク因子の管理によって、最大40%程度、発症を抑制できる可能性が報告されている。修正可能なリスク因子として、これまでのところ、喫煙、運動不足、肥満、聴力や視力の低下、糖尿病や高血圧の管理不良などとともに、近年、社会的な孤立と周囲からのサポートの欠如の関与も指摘されている。 これらのリスク因子は相互に影響を及ぼしてADRDリスクをより高める可能性が想定されるが、社会的な孤立と周囲からのサポートの欠如と、ADRDの既知のリスク因子との関連については、十分明らかになっているとは言えない。Shafighi氏らはこの点について、英国の大規模ヘルスケアデータベース「UKバイオバンク」と、カナダで行われている加齢に関する縦断研究「CLSAコホート」のデータを用いて検討した。 研究対象者数は、UKバイオバンクが50万2,506人(女性54.4%)、CLSAコホートは3万97人(同50.9%)。「孤独だと感じる頻度は?」、「悩みを打ち明けられる人はいるか?」などの質問によって、社会的孤立と周囲からのサポートレベルを評価し、それらの結果とADRDの既知のリスク因子との関連の有無を調べた。 ベイジアンモデルという統計学的手法による解析の結果、社会的孤立を感じていたり周囲からのサポートが欠如している人は、喫煙量や飲酒量が多く、身体活動量が少なく、睡眠障害を有することが多いという関連が浮かび上がった。例えばUKバイオバンクでは、喫煙本数が多いほど社会的孤立を感じる割合が19.7%増え、喫煙頻度が高いほど周囲からのサポートが欠如した状態が10.2%増加するという関連が見られた。 CLSAコホートでは、ほかの人と運動をする機会が増えると社会的孤立を感じる割合が20.1%減少し、周囲からのサポートが欠如した状態は26.9%減少するという関連が認められた。また、テレビの視聴は社会的孤立の増加や周囲からのサポートの欠如と強い関連があり、反対にパソコンの使用は社会的孤立の減少と周囲からのサポートの増加と関連していた。 認知症のリスク因子として位置付けられている糖尿病と聴覚障害は、UKバイオバンクとCLSAコホートの双方で、社会的孤立および周囲からのサポートの欠如と強固な関連が認められた。そのほかにも、心血管疾患、視覚障害、抑うつ様行動など、既知の身体的・精神的リスク因子との関連性も観察された。 著者らは、「一般住民を対象とする疫学データに基づくわれわれの研究結果は、神経変性疾患の多くのリスク因子が、孤独やサポートの欠如と関連していることを示している。孤独を感じている個人への社会的な介入が、ADRDリスク抑制のための有望な戦略となるのではないか」と語っている。

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大気汚染と認知症リスク (解説:岡村毅氏)

 黄砂の飛来がニュースになっているが、タイムリーに大気汚染が認知症発症とも関連するかもしれないという報告だ。喫煙等と比べると認知症発症に与える影響は小さいが、何せ逃げることができないリスクなので、人々への影響は大きい。 なお本論文では主にPM2.5を扱っているが、これは大気中に浮遊している直径2.5μm以下の小さな粒子を指し、化石燃料をはじめとする工業活動で排出されるものである。黄砂とは中国やモンゴルの乾燥域から偏西風に乗って飛んでくる砂塵であり、その大きさは4μm程度であるからほとんどがPM2.5ではない。 長期的にはPM2.5も黄砂も中国では減少傾向にあることも押さえておこう。一方でPM2.5は地球全体では工業化と共に増えている。 本研究は、これまでの大気汚染と認知症発症の報告のメタアナリシスであり、関連があると結論している。2μg/m3増加当たりのハザード比は全体では1.04(95% CI:0.99~1.09)と一見とても小さい。 しかし環境汚染と健康の研究では大体これくらいである。大気汚染による心血管疾患等で世界では年間700万人近くが死亡しているという報告もある1)。そして、その多くは発展途上国である。 とはいえ、このような研究ではバイアスの問題が難しい。そもそも認知症の診断技術は一貫して上がっており、診断は増えている。また大気汚染区域に住む人は貧困や学歴資本の少ない人が多い可能性があり(日本ではそのような可能性があるのかどうかは知らない)、これら自体が認知症発症リスクである。この論文はバイアスを厳密に評価したところも特徴である。 また認知症発症についても、個別に確認しているもの(Active Case Ascertainment)もあれば、保険データなどを使っているもの(Passive Case Ascertainment)もある。前者は信頼性が高いが、nは少なくなるし、後者はnが大きいが、やや雑なデータと言えよう。筆者によると前者のハザード比である1.42(95%Cl:1.00~2.02)が信頼できるのではと言っている。 いずれにせよ、結論としては、大気汚染は認知症発症とも関連する可能性が高そうである。きれいな空気が頭にも体にもよいというのは、われわれの直感とも一致する。 最後は精神科的な意見で終わっておこう。認知症リスクも増えるのだからクリーンエネルギーにしないといけません、と安易に言ってしまうと、「だからどうした」「それは意識高い系のたわごとだ」「フェイクニュースだ」「自分は石炭産業で食ってるんだ」「先進国はさんざん好き放題やってきて、いまになって上から目線だ」といった反論が来そうである。科学とは別の次元の二項対立は避けつつも、こうやって科学論文にすることに大きな意味がある。残念ながら人々が豊かな生活を夢見て行う古典的工業活動が大気汚染を起こし、大気汚染によってさまざまな病気(呼吸器系や心血管系)が増えているうえに、認知症までも増えるという事実を静かに噛みしめたい。

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身長が5mm低くなっただけで死亡リスクが有意に上昇―日本人での縦断研究

 加齢に伴い、わずかに身長が低くなっただけで、死亡リスクが有意に高くなる可能性を示唆するデータが報告された。2年間で5mm以上低くなった人は、そうでない人より26%ハイリスクだという。福島県立医科大学医学部腎臓高血圧内科の田中健一氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に3月3日掲載された。 身長は椎間板の変形や椎骨骨折などの影響を受けて、歳とともに徐々に低くなる。そのような身長短縮の影響は骨粗しょう症との関連でよく検討されており、また死亡リスクとの関連も検討されている。ただし後者については、2cm以上という顕著な身長短縮が見られた場合を評価した研究が多く、わずかな身長短縮と死亡リスクの関連は明らかになっていない。田中氏らは、特定健診研究(J-SHC study)のデータを用いて、軽微な身長短縮の死亡リスクへの影響を縦断的に検討した。 福島や大阪、沖縄などの7府県の2008年、2010年両年の特定健診受診者から、データ欠落者や測定誤差と見なされる身長の変化(2年間で5cm以上)が記録されていた人を除外した22万2,392人(平均年齢63.4±7.3歳、男性39.7%)を解析対象とした。このうち31.2%が、2年間で身長が5mm以上低くなっていた。身長短縮幅が5mm以上の群は5mm未満の群(対照群)に比べて、高齢で女性が多かった。また、ベースライン時データに関しては、身長が対照群より低く体重は軽くて、ウエスト周囲長が大きいという有意差が見られた。BMIについては同等だった。 平均4.8±1.1年の観察で、1,436人が死亡。死亡リスクの評価に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、ベースライン時の身長、BMI、喫煙習慣、高血圧・糖尿病・脂質異常症・脳卒中・心血管疾患の既往)を調整後、身長短縮幅が5mm以上の群は、主要評価項目の全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスクが26%有意に高いことが示された〔対照群を基準とする調整ハザード比(aHR)1.26(95%信頼区間1.13~1.41)〕。性別に見ても、男性はaHR1.24(同1.08~1.43)、女性はaHR1.28(1.07~1.52)であり、ともに有意なリスク上昇が認められた。 二次評価項目として設定されていた心血管死については、全体解析〔aHR1.34(1.04~1.72)〕と女性〔aHR1.60(1.08~2.37)〕では、身長短縮幅が5mm以上の場合に有意なリスク上昇が認められたが、男性はこの関連が非有意だった〔aHR1.18(0.85~1.64)〕。男性では非有意となった理由として著者らは、心血管死が少なかったこと(全体で279人、男性は172人)が一因ではないかとの考察を加えている。 これらの結果を基に論文の結論は、「日本人を対象とする研究から、2年間でわずか5mmの身長短縮も全死亡リスクと関連のあることが明らかになった。身長の変化は、死亡リスクを層別化して評価するための、低コストで簡便なマーカーとして利用できるのではないか」とまとめられている。 なお、身長短縮が全死亡リスクを上昇させるメカニズムについては、既報研究に基づき、骨粗しょう症による骨折リスクや骨格筋量の減少、サルコペニア、フレイル、心肺機能や消化器機能への影響などを介した機序に言及。また、身長短縮を防ぐための介入として、骨粗しょう症の治療や身体活動が有効なのではないかとしている。ただし、身長短縮を防ぐという目的での介入が全死亡リスクを低下させ得るかは、「今後、検討されるべき課題」と述べている。

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若いほど心筋梗塞後の心肺停止リスクが高い―J-PCI Registryのデータ解析

 若年の急性心筋梗塞(AMI)患者は心肺停止(CPA)に至るリスクが高いことや、病院到着時にCPAだった若年AMI患者は院内死亡のオッズ比が14倍以上に上ることなどが明らかになった。愛知医科大学循環器内科の安藤博彦氏らが、日本心血管インターベンション治療学会の「J-PCI Registry」のデータを解析した結果であり、詳細は「JACC: Asia」10月発行号に掲載された。 動脈硬化性疾患の危険因子に対する一次予防が普及したことや、イベント発生後の積極的な二次予防が行われるようになったことで、高齢者のAMIは減少傾向にあると報告されている。その一方で、健診の対象外であることが多く一次予防がなされにくい若年世代のAMIは、依然として抑制傾向が見られない。ただ、若年者でのAMI発生件数自体が少ないため、この世代のAMI患者の危険因子や院内転帰などについての不明点が多い。安藤氏らは、J-PCI Registryのデータを用いてそれらを検討した。なお、J-PCI Registryには、国内で行われている経皮的冠動脈形成術(PCI)の9割以上が登録されている。 解析対象は、2014~2018年にJ-PCI Registryに登録された患者のうち、AMIに対する緊急PCIが施行されていた20~79歳の患者21万3,297人。このうち50歳未満を若年群としたところ、11.2%が該当した。 動脈硬化危険因子を比較すると、若年群は高齢群に比べて、男性(92.1対80.9%)、喫煙者(62.8対41.8%)、脂質異常症(65.5対58.7%)が多いという有意差が認められた。その反対に、高血圧、糖尿病、慢性腎臓病(CKD)は高齢群で有意に多かった(全てP<0.001)。血管造影検査の結果からは、多枝病変や左冠動脈主幹部(LMT)閉塞が若年群で少ないことが示された。 病院到着時にCPAだった患者は全体の6.6%だった。年齢(10歳ごと)、性別、喫煙、高血圧・糖尿病・脂質異常症・CKD・心不全・心筋梗塞の既往、多枝病変、LMT閉塞を交絡因子として調整した多変量解析の結果、若年であるほどCPAのオッズ比(OR)が高いことが明らかになった。具体的には70代を基準として、60代はOR1.279(95%信頼区間1.223~1.337)、50代はOR1.441(同1.365~1.521)、40代はOR1.548(1.447~1.655)、30代はOR1.650(1.430~1.903)と、いずれも有意にハイリスクだった。20代はOR1.389(0.856~2.253)だった。なお、50歳未満の若年群で、病院到着時にCPAだったのは1,711人であり、若年群の患者の7.2%、病院到着時にCPAだった患者の12.2%を占めていた。 一方、院内死亡率は全体で2.1%であり、若年であるほどオッズ比が低かった。50歳未満の若年群での院内死亡率は1.4%だった。ただし、これを病院到着時にCPAだった群とそうでない群に二分して比較すると、前者は13.6%、後者は0.46%と顕著な差が認められた。前記の交絡因子を調整後、病院到着時にCPAだった若年AMI患者の院内死亡のオッズ比は、14.21(9.201~21.949)と計算された。 著者らは、本研究の限界点として、PCIが行われた症例のみを対象に解析していること、川崎病や早発性AMIの家族歴など、若年者に多い危険因子の影響を考慮していないことなどを挙げている。その上で、「若年AMI患者はCPAのリスクが高く、若年患者のCPAは院内死亡率と強い関連が認められた。この結果は、若年者に対する動脈硬化性疾患一次予防の重要性を強調している。その予防戦略を確立することによって、若年者の心臓突然死と死亡率を大きく抑制できるのではないか」と結論付けている。

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米軍のパイロットと地上要員はがん罹患リスクが高い

 米軍のパイロットと地上要員はがん罹患リスクが高いとする、米国防総省のレポートが公表された。同国のレッドリバーバレー戦闘機パイロット協会のVince Alcazar氏は、この結果に関するAP通信の取材に対して、「軍のパイロットのがんリスクが高いことに対する懐疑的な考え方を捨て、この問題に積極的に取り組むべくかじを切る時期は、とっくに過ぎている」とコメントしている。 米国議会は2021年、国防権限法(NDAA)に基づき、軍のパイロットと地上要員の発がん、およびがん死亡リスクの調査研究を義務付けた。今回公表されたデータはその結果として報告されたもの。1992~2017年に米軍で勤務したパイロット15万6,050人と地上要員73万7,891人を対象に、がんの罹患とがん死の発生を追跡する調査が行われた。 解析対象者の年齢や性別は、パイロットが中央値41歳、男性93.2%、地上要員は同26歳、90.1%。所属している軍は、パイロットは空軍70.6%、海軍21.1%、地上要員は同順に47.8%、38.3%。がん死に関する追跡終了時点の年齢は、パイロットが中央値48歳、地上要員は同41歳だった。米国の一般人口を比較対象として、全てのがんの罹患とがん死リスク、および12種類の個別のがんの罹患とがん死リスクを検討した。 解析の結果、パイロットは全てのがんの罹患リスクが24%高く〔標準化罹患比(SIR)1.24(95%信頼区間1.21~1.27)〕、地上要員は3%ハイリスクだった〔SIR1.03(同1.01~1.05)〕。がん種別に見ると、パイロットではメラノーマ〔SIR1.87(1.74~2.00)〕や甲状腺がん〔SIR1.39(1.20~1.61)〕のリスクの高さが目立ち、地上要員では脳・神経系のがん〔SIR1.19(1.06~1.32)〕や甲状腺がん〔SIR1.15(1.04~1.27)〕のリスクが特に高かった。反対に、パイロット、地上要員ともに肺・気管支がん(SIRがパイロットは0.29、地上要員は0.66)〕や大腸がん(同順に0.56、0.75)などは低リスクであることが分かった。 一方、がん死リスクについては、パイロット〔標準化死亡比(SMR)0.44(0.41~0.46)〕、地上要員〔SMR0.65(0.63~0.66)〕ともに、一般人口より低いことが明らかになった。がん種別に見た場合、がん死リスクが一般人口より有意に高いがんはなかった。 この結果について国防総省は、「追跡終了時点の年齢が比較的若いため、高齢の退役軍人などを含めて解析した場合、異なる結果となる可能性がある」としている。一方で、「本調査には、喫煙・飲酒習慣、家族歴などの未調整の交絡因子が複数存在する。よって明らかになった結果が、軍のパイロットや地上要員として勤務することが原因で、がんリスクが上昇するという因果関係を示すものではない」とも述べている。 なお、NDAAに基づく今回の調査は第1ステップとして実施された。当初の計画では、第1ステップの調査でパイロットや地上要員のがんリスクが高いことが示された場合、そのリスク因子を特定するための第2ステップの研究を行うことになっている。ただしレポートには、第2ステップの研究に進む前に、予備役や州兵などを対象とした疫学調査により、発がんやがん死リスクのより正確な把握が必要と記されている。

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認知症のリスクを下げる7種類の習慣

 心臓に良いことは、脳にも良い――。これは、心臓の健康を維持するための7種類の習慣が、認知症の発症リスクも抑制する可能性のあることを示した、新しい研究からのメッセージだ。この研究は、米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のPamela Rist氏らによって行われ、第75回米国神経学会(AAN2023、4月22~27日、ボストン)での発表に先立ち、研究要旨が2月27日にオンラインで公開された。 この研究で認知症リスク抑制効果が評価された7項目のリストには、より多く体を動かすこと、より健康的な食事を取ること、適正体重を維持すること、タバコを吸わないこと、血圧とコレステロールおよび血糖値を良好に保つことが含まれている。これらは米国心臓協会(AHA)が、心臓の健康維持のために提唱していた「Life's Simple 7」と呼ばれるもの。なお、現在はこれらに加えて「睡眠」も留意すべき事柄とされ、「Life's Essential 8」と呼ばれている。 Rist氏は、「高血圧は無症候の段階の認知症リスク上昇を示す所見と関連性があり、糖尿病と高コレステロール血症も認知症のリスクを高める可能性がある。心臓の健康に良いとされる『Life's Simple 7』の7項目が、どのようなメカニズムで認知症のリスクをも低下させるのかは完全には解明されていないが、全てが相互に連携して機能しているのではないか」と述べている。 この研究には、米国で行われている女性対象の健康調査(Women's Health Study)のデータが用いられた。1992~1994年の研究参加登録時と約10年後の2004年に、Life's Simple 7の順守状況を調査。各項目について理想的な状態であれば1点、理想的でない場合は0点と評価した。解析対象1万3,720人のベースライン時の年齢は54.2±6.6歳で、Life's Simple 7のスコアは4.3±1.3点、10年後のスコアは4.2±1.3点だった。 2011~2018年まで約20年間の追跡で、1,771人(12.9%)が認知症を発症。年齢や教育歴などの認知症発症リスクに影響を及ぼし得る因子を調整後、Life's Simple 7のスコアが高いほど認知症を発症した人が少ないことが明らかになった。例えば、ベースライン時のLife's Simple 7のスコアが1点高いと、認知症発症が6%少ないという有意な関連があった〔オッズ比(OR)0.94(95%信頼区間0.90~0.98)〕。追跡10年目のLife's Simple 7のスコアについても、ほぼ同様の関連が認められた〔OR0.95(同0.91~1.00)〕。 この結果を基にRist氏は、「遺伝的背景などの変更できない認知症リスク因子もあるが、修正できるリスク因子は修正することが大切だ」とアドバイス。より具体的に、「Life's Simple 7のリストを見て、まだ実行していない項目を確認してほしい。もし血圧が高いのであれば、それを下げることに力を入れるべき。禁煙は必須だ」と語る。さらにAAN発のリリースの中では、「1日30分の運動や血圧コントロールによって、認知症の発症リスクを抑制できる」とも記している。 一方、この研究の限界点としては、喫煙者が禁煙した場合などの生活習慣の修正によって、認知症のリスクがどのように変化したかを評価できていない点が挙げられる。また、Life's Simple 7に含まれていない項目が、認知症リスクをさらに押し下げる可能性がある。現在その可能性が考えられているのは、生涯を通して継続的に教育を受けることと、質の高い睡眠、社会活動への参加などだ。「今後の研究では、Life's Simple 7にほかの要素を追加できるかどうかを検討する必要がある」とRist氏は話している。 この研究は、米国立衛生研究所(NIH)のサポートにより実施された。なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。

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不健康なプラントベース食では死亡、がん、CVDリスクが増大

 “健康的”なプラントベース食(植物由来の食品)の摂取が多いほど、死亡、がん、心血管疾患のリスクが低くなるが、“不健康”なプラントベース食ばかりではそれらのリスクがむしろ高くなることが、英国・クイーンズ大学ベルファストのAlysha S. Thompson氏らの研究により明らかになった。JAMA Network Open誌2023年3月28日号掲載の報告。 プラントベース食は、卵、乳製品、魚、肉を少量のみ摂取またはまったく摂取しないことを特徴とする食事で、環境と健康の両方の理由から世界中で人気となっている。しかし、プラントベース食の質と死亡や慢性疾患のリスクに関する総合的な評価は不十分であった。そこで研究グループは、健康的なプラントベース食と不健康なプラントベース食が、英国成人の死亡や主要な慢性疾患(心血管疾患、がん、骨折など)と関連しているかどうかを調査した。 調査は、UKバイオバンクの参加者を前向きに収集して行われた。2006~10年に40~69歳の参加者を募集して2021年まで追跡し、データの解析は2021年11月~2022年10月に行われた。主要アウトカムは、健康的/不健康なプラントベース食の順守の程度による、死亡率(全死因死亡および疾患特異的死亡)および心血管疾患(全イベント、心筋梗塞、虚血性脳卒中、出血性脳卒中)、がん(全がん、乳がん、前立腺がん、結腸直腸がん)、骨折(全部位、椎骨、股関節)の相対的危険度であった。 健康的なプラントベース食か不健康なプラントベース食かどうかは、1日最低2回の食事を、24時間の平均摂取量に基づいて17項目の食品群(全粒穀物、果物、野菜、ナッツ、植物性の代替食品、紅茶/コーヒー、フルーツジュース、精製穀物、ジャガイモ、砂糖入り飲料、お菓子/デザート、動物性脂肪、乳製品、卵、魚介類、肉、その他の動物性食品)のスコアで評価した。 主な結果は以下のとおり。・参加者12万6,394例(平均年齢56.1歳、女性55.9%、白人91.3%)を10.6~12.2年間追跡したところ、5,627例の死亡、6,890例の心血管疾患イベント、8,939例のがん、4,751例の骨折が発生した。・健康的なプラントベース食をより多く摂取していたのは、女性、低BMI、高齢、服薬/健康異常なし、低アルコール摂取、高学歴の人であった。・健康的なプラントベース食の順守率が最も高い四分位集団では、最も低い集団と比較して、全死因死亡、全がん、全心血管疾患のリスクが低かった(死亡のハザード比[HR]:0.84[95%信頼区間:0.78~0.91]、がんのHR:0.93[0.88~0.99]、心血管疾患のHR:0.92[0.86~0.99])。・同様に、健康的なプラントベース食の順守率が最も高い集団では、心筋梗塞および虚血性脳卒中のリスクも低かった(心筋梗塞のHR:0.86[0.78~0.95]、虚血性脳卒中のHR:0.84 [0.71~0.99])。・一方、不健康なプラントベース食を最も多く摂取していた集団では、全死因死亡、全がん、全心血管疾患のリスクが高かった(死亡のHR:1.23[1.14~1.32]、がんのHR:1.10[1.03~1.17]、心血管疾患のHR:1.21[1.05~1.20])。・同様に、不健康なプラントベース食を最もよく摂取していた集団では、心筋梗塞および虚血性脳卒中リスクも高かった(心筋梗塞のHR:1.23[0.95~1.33]、虚血性脳卒中のHR:1.17[1.06~1.29])。・健康的または不健康なプラントベース食と、出血性脳卒中、個別のがん種、骨折(全部位、部位別)には有意差はみられなかった。・砂糖入り飲料、スナック/デザート、精製穀物、ジャガイモ、フルーツジュースの摂取量が少ない健康的な食事がリスクの低下と関連していた。・これらは、性別、喫煙状況、BMI、社会経済的地位、多遺伝子リスクスコア(PRS)と関連はみられなかった。 上記の結果より、研究グループは「健康的なプラントベース食の摂取が、心血管疾患、がん、および死亡のリスクの低下と関連していた。健康的なプラントベース食をより多く摂取し、動物性食品の摂取を減らすことで、慢性疾患の危険因子や遺伝子素因に関係なく健康に有益である可能性がある」とまとめた。

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収縮期血圧とCOVID-19重症化リスクの用量反応関係

 高血圧患者の血圧管理状況と、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患時の重症化リスクとの間に、有意な用量反応関係があるとする研究結果が報告された。英ケンブリッジ大学のHolly Pavey氏らが、同国の大規模ヘルスケア情報ベース「UKバイオバンク」のデータを解析した結果であり、詳細は「PLOS ONE」に11月9日掲載された。 高血圧はCOVID-19患者の基礎疾患として最も多く見られ、かつ重症化リスクとの関連が示唆されている。ただし、血圧管理状況と重症化リスクとの関連は、必ずしも十分明らかになっていない。Pavey氏らはこの点について、UKバイオバンクのビッグデータを用いた検討を行った。 解析に必要なデータ欠落のない43万8,400人のうち、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)陽性判定やCOVID-19の診断、またはCOVID-19による死亡が記録されていた1万6,134人(平均年齢65.3±8.7歳、男性47.4%)を解析対象とした。このうち6,517人(40.4%)が高血圧であり、その67.4%は降圧薬が処方されていた。 世界保健機関(WHO)のCOVID-19重症度分類の4~10(入院を要する状態~死亡)を重症と定義すると、3,584人(22.2%)が該当。そのうち29.6%は死亡していた。 まず、高血圧でないCOVID-19患者と高血圧患者を比較すると、高血圧患者の重症化リスクは交絡因子未調整でオッズ比(OR)2.33(95%信頼区間2.16~2.51)であり、年齢と性別で調整してもOR1.52(同1.40~1.65)であって、高血圧患者で有意なリスク上昇が認められた。さらに、調整因子にBMI、人種/民族、喫煙習慣、糖尿病、CRP、タウンゼント指数を追加してもOR1.22(1.12~1.33)、心血管疾患や脳卒中の既往を加えた場合もOR1.15(1.05~1.26)であり、有意性は保たれていた。 次に、研究の主題である、血圧管理状況と重症化リスクとの用量反応関係を検討。収縮期血圧(SBP)120~129mmHgに管理されていた患者を基準とすると、血圧がより低く管理されている場合と管理不良の場合の双方で、以下のように重症化リスクの上昇が認められた。SBP120mmHg未満ではOR1.40(1.11~1.78)、150~159mmHgではOR1.91(1.44~2.53)、160~169mmHgでOR1.77(1.21~2.58)、170~179mmHgでOR1.90(1.09~3.31)、180mmHg以上でOR1.93(1.06~3.51)。なお、SBP130~149mmHgの範囲は非有意だった。 著者らは結論を、「高血圧はCOVID-19重症化のリスク因子である。また、降圧治療を受けている患者では、血圧がコントロールされていない場合に、重症化リスクがより高いことが示された」とまとめている。 なお、SARS-CoV-2はアンジオテンシン変換酵素II(ACEII)を足場として体内に侵入するため、パンデミック当初、ACE阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)が重症化リスクに影響を与えるとの懸念が指摘され、その後、そのような可能性を否定する研究が複数報告されていたが、本研究においても、ACE阻害薬やARBによる重症化リスクへの影響は認められなかった。

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緑地が産後うつを予防?

 樹木が豊かな環境に暮らしている女性は、産後うつのリスクが低い可能性を示唆するデータが報告された。米カリフォルニア大学アーバイン校のJun Wu氏らの研究によるもので、詳細は「The Lancet Regional Health」に3月6日掲載された。 産後うつは、ホルモンバランスや環境の急な変化とそれに伴うストレスなどにより引き起こされるのではないかと考えられている。一方、緑の豊かな環境がメンタルヘルスに良い影響を与えることが知られている。ただし、緑の豊かさと産後うつリスクの関係に焦点を当てた研究は少なく、これまでに報告されている研究も結果に一貫性がない。また、緑に接することによるメンタルヘルスへの影響は、視線の高さによって異なり、低木や草地を見下ろした時よりも高い木々を見上げた時の方が、影響が大きいとする研究結果も報告されている。 これらを背景としてWu氏らは、緑の豊かさと産後うつとの関係を、草木の高さを考慮して検討した。また、緑が豊かな環境の方が身体活動量が多くなり、それによって産後うつリスクを押し下げるのではないかとの仮説を立て、その点の検討も行った。 研究には、南カリフォルニアの人口の約19%が加入しているカイザーパーマネンテの医療データを利用。2008~2018年の単胎妊娠女性から、死産や居住地が不明な人などを除外した41万5,020人(平均年齢30.2±5.8歳)を解析対象とした。そのうち4万3,399人(10.5%)が産後うつと診断されていた。居住地域の緑の豊富さや草木の高さは、人工衛星で収集されたデータに基づく正規化植生指数(NDVI)という指標や、ストリートビューの画像解析に基づく指標で評価した。また、最寄りの公園までの距離も評価項目に加えた。身体活動量は、妊娠から出産まで平均7回行われたインタビューの回答から把握した。 産後うつリスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、BMI、人種/民族、喫煙習慣、世帯収入、保険の種類、早産および妊娠関連合併症など)の影響を調整後、自宅から500m以内の緑の豊かさと産後うつリスクとの間に有意な関連が認められた〔ストリートビューに基づく指標が四分位範囲高いごとの調整オッズ比が0.98(95%信頼区間0.97~0.99)〕。ただし、低木や草地の豊かさ、最寄りの公園までの距離は、産後うつのリスクと有意な関連がなかった。媒介分析の結果、緑の豊かさと産後うつリスクとの関連の2.7~7.2%を、身体活動量で説明できることが分かった。 論文の著者らは、本研究は因果関係を示すものではないが、緑が豊かな環境での生活が人々のメンタルヘルスに好影響をもたらすことを示す一連の研究に、新たな知見を加えられたとしている。またWu氏は、「自宅のそばに木立があり、日影があって空気も良いという環境は、産後の女性にとってより重要なことかもしれない」と語っている。その理由として、「産後間もない女性は疲れており、時間の余裕も少ないと考えられる。わざわざ公園まで出かけるよりも、自宅周辺が緑の豊かな環境なら、すぐにそこへ足を踏み入れられるからだ」としている。 Wu氏らの報告について、米ワシントン大学のKathleen Wolf氏は、「緑の豊かさとメンタルヘルスとの関連は多くの研究で示されてきている。両者の関連のメカニズムとして、この研究では身体活動量に着目しているが、緑が豊富な環境で暮らすことには身体活動量以外にもさまざまなメリットがある」と述べている。例えば、豊かな緑はストレス解消に役立ち、緑の中で時間を過ごす習慣のある人は血圧や心拍数、およびストレスホルモンであるコルチゾールのレベルが低いことが報告されているとのことだ。 さらに、Wu氏とWolf氏はともに、緑豊かな環境で暮らすことで外出の機会が増え、社会とのつながりが強まるというメリットも挙げている。一方で、都会の緑は高所得者が多く暮らす地域に集中しているという現状の問題点も指摘。Wolf氏は、「緑地の確保が公衆衛生上の課題であることを示すエビデンスが既にそろっている」とし、「今回報告された研究も、都市計画の政策立案者に対して緑地の位置付けの再考を促すものと言える。自然はわれわれの公共の財産であるべきだ」と述べている。

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女性や北国の人、ビタミンD摂取量が多いほど死亡リスクが低い

 ビタミンDの摂取量が多い女性は死亡リスクが低いことが、日本人を対象とする研究から明らかになった。福岡女子大学国際文理学部食・健康学科の南里明子氏らが、国立がん研究センターなどによる多目的コホート研究(JPHC研究)のデータを解析した結果であり、詳細は「European Journal of Epidemiology」に1月31日掲載された。高緯度地域の居住者、カルシウム摂取量の多い人などでも、ビタミンD摂取量が多い群では少ない群に比べ死亡リスクが低い傾向があるという。 ビタミンDが骨の健康に重要であることは古くから知られている。しかし近年はそればかりでなく、血液中のビタミンDレベルの低さが、がんや循環器疾患、糖尿病、抑うつ、新型コロナウイルスを含む感染症など、さまざまな疾患の罹患リスクや死亡リスクの高さと関連のあることが報告されてきている。ただしビタミンDは、皮膚に紫外線が当たった時に多く産生されるため、食事からの摂取量と血液中のビタミンレベルとの相関が、ほかの栄養素ほど高くない。その影響もあり、ビタミンDの摂取量と死亡リスクとの関連についてのこれまでの研究結果は一貫性を欠いている。 今回、南里氏らは、日光を避けることの多い女性や高緯度地域に住んでいる人は、皮膚でのビタミンD産生量が少ないため、食事からのビタミンD摂取量の多寡が死亡リスクに影響を及ぼしている可能性を想定。また、ビタミンDの吸収を高めるカルシウム摂取量の多い人、何らかの疾患があり死亡リスクの高い人なども、摂取量の多寡の違いが強く現れているのではないかと考え、性別や居住地、栄養素摂取量、併存疾患などの特徴別に、ビタミンD摂取量と死亡リスクの関連を検討した。 研究対象は、1990年と1993年に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、茨城県水戸、東京都葛飾区、新潟県長岡、大阪府吹田、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古など11の保健所管内に居住していた40~69歳の成人のうち、研究開始5年後の食事調査に回答し、かつ、がんや循環器疾患などに罹患していなかった9万3,685人(女性54.1%)。2018年12月まで追跡して、食事調査時のビタミンD摂取量と追跡期間中の死亡リスクとの関連を解析した。 平均18.9年(176万8,746人年)の追跡で、2万2,630人が死亡。年齢、性別、研究地域で調整後、ビタミンD摂取量の第1五分位群(下位20%)に比べて、第2~第5五分位群は全死亡のハザード比が有意に低かった(傾向性P=0.021)。ただし、調整因子にBMI、喫煙・飲酒・運動習慣、糖尿病や高血圧の既往、摂取エネルギー量、カルシウムやオメガ3脂肪酸の摂取量、緑茶・コーヒー・サプリメントの摂取、職業などを加えると、有意性が消失した(同0.29)。 次に、事前に作成した解析計画に沿って、性別や居住地の緯度などで層別化したサブグループ解析を実施。その結果、女性はビタミンD摂取量が多いほど全死亡リスクが低いという有意な関連のあることが明らかになった(傾向性P=0.001)。また、高緯度地域の居住者やカルシウム摂取量が中央値以上の人、高血圧の既往のある人では、摂取量の第1五分位群に比べて第2~第5五分位群は全死亡ハザード比が有意に低かった(傾向性P値は同順に、0.085、0.19、0.058)。 続いて死因に着目すると、ビタミンD摂取量が多いほど脳梗塞による死亡のリスクが低いという有意な関連が認められ(傾向性P=0.029)、肺炎も有意に近い傾向が認められた(同0.09)。脳梗塞以外の脳・心血管疾患やがんによる死亡リスクについては、ビタミンD摂取量との有意な関連が見られなかった。 これらの結果を基に著者らは、「日光にあまり当たらない人や高緯度地域に住む人は食事からのビタミンD摂取を増やすことで、早期死亡リスクが抑制される可能性がある」と結論付けている。なお、ビタミンDを多く含む食品として、青魚やキノコなどが挙げられる。 著者の1人である国立国際医療研究センター疫学・予防研究部の溝上哲也氏は、「日光を浴びる機会が少ない現代の生活様式がコロナ禍で加速しており、食事からビタミンDを摂取することの重要性が高まっている」とコメントしている。

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日本の食事パターンと認知症リスク~NILS-LSAプロジェクト

 日本食の順守が健康に有益である可能性が示唆されている。しかし、認知症発症との関連は、あまりよくわかっていない。国立長寿医療研究センターのShu Zhang氏らは、地域在住の日本人高齢者における食事パターンと認知症発症との関連を、アポリポ蛋白E遺伝子型を考慮して検討した。その結果、日本食の順守は、地域在住の日本人高齢者における認知症発症リスクの低下と関連しており、認知症予防に対する日本食の有益性が示唆された。European Journal of Nutrition誌オンライン版2023年2月17日号の報告。 本研究データはNILS-LSA(国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究)プロジェクトの一環として収集され、愛知県在住の認知症でない高齢者1,504人(65~82歳)を対象とした20年間のフォローアップコホート調査が実施された。これまでの研究に基づき、3日間の食事記録データにより日本食インデックス(9-component-weighted Japanese Diet Index:wJDI9)のスコア(範囲1~12)を算出し、日本食の順守の指標として用いた。認知症発症は、介護保険制度の認定証で確認し、フォローアップ開始後5年以内に認知症を発症した場合は除外した。wJDI9スコアの三分位(T1~T3)に従い、多変量調整Cox比例ハザードモデルを用いて認知症発症のハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出し、認知症でない期間の差を推定するため、ラプラス回帰を用いて認知症発症年齢のパーセンタイル差(PD)および95%CIを算出した。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間の中央値は11.4年(四分位範囲[IQR]:7.8~15.1)であった。・フォローアップ期間中に認知症発症が確認された高齢者は225例(15.0%)であった。・T3群は、認知症発症率が最も低く10.7%であった。・T1群とT3群の間の認知症発症年齢のPDは11番目(11th PD)と推定された。・wJDI9スコアが高いほど、認知症発症リスクが低く、認知症でない期間が長かった。・T1群に対するT3群の認知症発症年齢の多変量調整HRは0.58(95%CI:0.40~0.86)、11th PDは36.7ヵ月(95%CI:9.9~63.4)であった。・wJDI9スコアが1ポイント上昇するごとに、認知症発症リスクは5%低下し(p=0.033)、認知症でない期間が3.9ヵ月(95%CI:0.3~7.6)延長した(p=0.035)。・ベースライン時の性別または喫煙状況(現在の喫煙者/非喫煙者)で差は認められなかった。

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