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国内初のICS/LAMA/LABAが1剤に配合されたCOPD治療薬「テリルジー100エリプタ14吸入用/30吸入用」【下平博士のDIノート】第27回

国内初のICS/LAMA/LABAが1剤に配合されたCOPD治療薬「テリルジー100エリプタ14吸入用/30吸入用」今回は、3成分配合の慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療薬「フルチカゾンフランカルボン酸エステル/ウメクリジニウム臭化物/ビランテロールトリフェニル酢酸塩ドライパウダーインヘラー(商品名:テリルジー100エリプタ14吸入用/30吸入用)」を紹介します。本剤は、COPD患者の呼吸困難などの諸症状を1日1回の吸入で改善し、QOLの改善にも寄与することが期待されています。<効能・効果>本剤は、COPD(慢性気管支炎・肺気腫)における諸症状の緩解の適応で、2019年3月26日に承認され、2019年5月22日より発売されています。なお、本剤の使用は、吸入ステロイド薬(ICS)、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)および長時間作用性β2刺激薬(LABA)の併用が必要な場合に限られます。<用法・用量>通常、成人には本剤1吸入(フルチカゾンフランカルボン酸エステルとして100μg、ウメクリジニウムとして62.5μgおよびビランテロールとして25μg)を1日1回投与します。<副作用>第III相国際共同試験(投与期間:52週)において、本剤が投与された総症例4,151例中485例(11.7%)に臨床検査値異常を含む副作用が報告されています。主なものは、口腔カンジダ症101例(2.4%)、肺炎45例(1.1%)、発声障害26例(0.6%)でした(承認時)。重大な副作用としてアナフィラキシー反応(頻度不明)、肺炎(1.1%)、心房細動(0.1%)が認められています。なお、ICSを長期で使用した場合、肺炎のリスクが高まる懸念があるため注意が必要です。<患者さんへの指導例>1.本剤は、気管支を拡張させる薬2種類と、炎症を抑える薬の計3種類が配合されているCOPDの治療薬です。2.1日1回の吸入で、持続的に気管支を広げるとともに炎症を抑えることで、呼吸を楽にして身体の活動性を改善します。3.毎日なるべく同じ時間帯に吸入し、1日1回を超えて吸入しないようにしてください。4.声がれや感染症を予防するため、吸入後はうがいをしてください。5.口の渇き、目のピントが合いにくい、尿が出にくい、動悸、手足の震えなどの症状が現れたらご連絡ください。6.COPDの治療では禁煙が大切なので、薬物治療と共に禁煙を徹底し、継続しましょう。7.薬のカバーを開けると吸入の準備が完了し、カウンターが減ります。必要以上に開け閉めすると、必要回数が吸入できなくなるため、吸入時以外はカバーを開けないでください。<Shimo's eyes>本剤は、国内初の3成分(吸入ステロイド薬[ICS]、長時間作用性抗コリン薬[LAMA]、長時間作用性β2刺激薬[LABA])が配合されたCOPD治療薬です。『COPD診断と治療のためのガイドライン2018[第5版]』において、安定期COPDの維持療法としては、気管支拡張薬のLAMA(あるいはLABA)を単剤で用い、効果不十分な場合はLAMA+LABAの併用が推奨されています。しかし、COPD患者の15~20%は喘息が合併していると見込まれており、その場合はICSを併用することとされています。なお、海外で報告されているGOLD2019レポートでは、LAMAもしくはLABAの単剤療法またはLAMA+LABAの併用療法を行っても増悪を繰り返す患者には、ICSの追加が有効な例もあるとされています。本剤は、COPD患者に対するLAMA+LABA+ICSのトリプルセラピーを1剤で行うことができますが、3成分それぞれの薬剤に関する副作用に注意する必要があります。患者さんへ確認するポイントとしては、LAMAによる口渇、視調節障害、排尿困難、LABAによる不整脈、頭痛、手足の震え、ICSによる口腔カンジダ症などが挙げられます。とくに、過量投与時には不整脈、心停止などの重篤な副作用が発現する恐れがあるため、服薬指導では吸入を忘れたときの対応などと併せて、1日に1回を超えて使用しないよう注意を促しましょう。COPD患者は、喫煙や加齢に伴う併存症に対する治療を行っていることが多く、安定期ではアドヒアランスが低下することがあります。COPDに加えて喘息の治療が必要な場合に、本剤のような3成分配合吸入薬を選択することで、症状の改善およびアドヒアランスの向上が期待できます。

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新型タバコ時代!電子タバコと加熱式タバコは何が違う?(2)【新型タバコの基礎知識】第2回

第2回 新型タバコ時代!電子タバコと加熱式タバコは何が違う?(2)Key Points加熱式タバコは、タバコの葉を加熱してニコチン等を含んだエアロゾルを発生させる。電子タバコはリキッドを加熱し、エアロゾルを発生させる。加熱式タバコには、アイコス、グロー、プルーム・テックといった商品があり、電子タバコには、500種類以上のブランドがある。加熱式タバコがタバコとして販売されている一方、日本ではニコチン入りの電子タバコは規制され、公には販売されていない。今回は、退屈に感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、新型タバコ(加熱式タバコと電子タバコ)の構造や規制の状況についてお伝えします。なぜなら、新型タバコ問題について医療者の皆さんから患者さんなど一般の方々に伝えていってもらう上で、簡単にでも理解しておいてもらう必要がある情報だからです。加熱式タバコは、従来からの紙巻タバコのようにタバコの葉に直接火をつけるのではなく、タバコの葉を加熱してニコチン等を含んだエアロゾルを発生させる方式のタバコです。アイコス、グローおよびプルームエスでは、それぞれの専用電子デバイスにより、タバコの葉を含む専用のスティックを200~350℃に加熱し、ニコチン等を含む気体状のエアロゾルを発生させ、吸引します(図1-A)。一方、プルーム・テックでは、粉末状のタバコの葉を含む専用カプセル内に、グリセロールやプロピレングリコール等を含む液体(リキッド)を加熱して発生させたエアロゾルを通して、ニコチン等をエアロゾル経由で吸引する仕組みとなっています(図1-B)。プルーム・テックではタバコの葉がある部分での温度が30℃程度と低くなっており、この部分が低温であることが産生される有害物質量が少ないことと関連しています(※最近市場に登場したプルームエスは、アイコスやグローと同様のタイプであり、200度で加熱する仕様)。画像を拡大するそして電子タバコは、プルーム・テックとよく似た構造をしています。電子タバコでは、吸引器に専用の液体(リキッド)を入れ、コイルを巻いたヒーターで熱し、発生したエアロゾルを吸い込みます(図2)。この基本構造は共通で、電圧が調節可能であったり、リキッド容量の大小があったりなど、さまざまな電子タバコ製品が開発されています。リキッドには、ニコチンや果物などさまざまな香りの人工香料、グリセロール、プロピレングリコールなどが用いられます。画像を拡大する新型タバコの外観、代表的なブランド名の例および規制の状況を表にまとめて示します(表1)。ご覧の通り、形態・形状は製品によって大きく異なります。電子タバコには、紙巻タバコにしか見えない外観のもの(タバコ型)やペン型のほか、タンク型といったリキッド容量が多く、電圧を調整できるタイプのものもあります。表1では電子タバコのブランド名として12種を例示しただけですが、世界中には500種類以上の電子タバコブランドがあります。今回の記事から、世の中にどんな新型タバコ製品があるのか、概要を把握していただければと思います。第3回は「加熱式タバコには、ニコチンは含まれない?」です。画像を拡大する

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脳心血管病予防策は40歳からと心得るべき/脳心血管病協議会

 日本動脈硬化学会を含む16学会で作成した『脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャート2019』が日本内科学会雑誌第108巻第5号において発表された。2015年に初版が発行されてから4年ぶりの改訂となる今回のリスク管理チャートには、日本動脈硬化学会を含む14学会における最新版のガイドラインが反映されている。この改訂にあたり、2019年5月26日、寺本 民生氏(帝京大学理事・臨床研究センター長)と神崎 恒一氏(杏林大学医学部高齢医学 教授)が主な改訂ポイントを講演した(脳心血管病協議会主催)。脳心血管病予防が今後はますます求められる  2018年12月、「健康寿命の延伸などを図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」が成立した。2015年度国民医療費1)は42兆円を超え、内訳を見ると循環器疾患に対する医療費は全体の19.9%(5兆9,818億円)、次いで、悪性新生物が13.7%(4兆1,257億円)を占めていた。近年では医療の発展に伴い、病態の発症から死亡に至るまでの期間が伸びているものの、平均寿命と健康寿命の差はまだ大きい。死亡までに介護が必要となった主たる原因も、認知症を上回り、脳血管疾患が1位にランクインしている2)。このように、そのほか問題視されている肥満、糖尿病、喫煙などの現状を踏まえると、今後ますます、脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャートの活用が求められるようになる。脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャートの対象 厚生労働省による“人生100年時代構想”や高齢者のフレイル・介護問題を受け、今回の改訂でも高齢者の留意点が多く盛り込まれた。健康寿命を伸ばして要介護期間を短くする、つまり“不健康な期間”を短縮することがわれわれの使命、と考える両氏。神崎氏は、「65歳以上になってから努力するのではなく、中年期から努力することが健康寿命を延ばすためには必要。高齢者の場合は生活習慣病を管理しながら、多病に基づくポリファーマシーやサルコペニア/フレイルの発生にも注意する必要がある」とし、寺本氏は「高血圧などの危険因子を持たない段階での予防(0次予防)の患者に啓発することが重要」と、脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャートの対象者について言及。また、寺本氏は「定期的にチェックするために誕生日月に実施するのが有用。その旨を事前に患者に伝えておくと、患者自身も覚えている」と活用時期やその方法についてコメントした。脳心血管病リスクの管理状態の評価ツールとして活用可能 脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャートは、臨床現場で使用しやすいようにStep1~6までの順に従って診断・診療できるように設計されている。また、健康診断などで偶発的に脳心血管病リスクを指摘されて来院する患者を主な対象者とし、既に加療中の患者に対しても、管理状態の評価ツールとして活用可能になるようにも作成されている。 以下に脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャート各Stepにおける留意点を示す。◆Step1:スクリーニングと専門医等への紹介の必要性の判断基準a~cに分類。aでは家族歴や脈拍について重視、bの場合は空腹時血糖の測定が必要になるため、空腹時での来院を求める必要がある。また、アルドステロン症の見落としが散見されるため、この段階でしっかりチェックする必要がある。cでは、各専門医への紹介の必要性がある対象者を明確にしている。また、慢性腎臓病(CKD)の記載方法が変更している。◆Step2:各リスク因子の診断と追加評価項目脳心血管病の各リスク因子の診断と追加評価項目は各学会のガイドラインに準拠。◆Step3:治療開始前に確認すべきリスク因子喫煙リスクがある患者での禁煙指導が重要で、1回/年の確認が鍵となる。また、個々の病態に応じた管理目標について高齢者について加味している点がポイント。◆Step4:リスクと個々の病態に応じた管理目標の設定改訂前はリスク層別にNIPPON DATA80を使用していたが、今回は「吹田スコア」の使用を推奨。脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャートには危険因子を用いた簡易版が載っているので、それを基にリスクスコアを算出することが可能。◆Step5:生活習慣の改善食事摂取量は、日本人の食事摂取基準を参考にし、これまでのkcal重視からBMI重視に変更。身体活動を患者と共有できるよう詳細に記述。◆Step6:薬物療法の紹介と留意点実際の薬物療法については各疾患のガイドラインに従い、導入前には生活習慣の改善を基盤に患者とのコンセンサスを得ることが重要。 脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャートは、5年に1回のタイミングで更新を目指しており、大きな改訂はできなくとも各学会で改訂事項が発表された際には、それらを脳心血管病協議会で話し合い、対策を講じるという。最後に寺本氏は「このような類いの包括的な管理チャートは海外では作成されておらず、世界に一歩先立った活動である」と締めくくった。■「日本人の食事摂取基準」関連記事日本人の食事摂取基準2020年版、フレイルが追加/厚労省

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超加工食品の高摂取で死亡リスク増大/BMJ

 超加工食品を1日4サービング以上摂取すると、死亡のハザードが相対的に62%増加し、1日1サービング増えるごとに死亡リスクが18%増加することが、スペイン・ナバラ大学のAnais Rico-Campa氏らの調査で示された。研究の成果はBMJ誌2019年5月29日号に掲載された。既報の成人を対象とした前向きコホート研究により、超加工食品の摂取は、がん、過敏性腸症候群、肥満、高血圧のハザードの上昇と関連することが知られている。約2万例を2年ごとに観察 研究グループは、超加工食品の摂取と全死因死亡の関連を評価する目的で、前向きコホート研究を行った(Instituto de Salud Carlos IIIなどの助成による)。 解析には、スペインの大学卒業生が登録されたSeguimiento Universidad de Navarra(SUN)の1999~2018年のデータを用いた。1999~2014年の期間に、20~91歳の1万9,899例を2年ごとにフォローアップした。食品と飲料の摂取状況を、NOVA分類による加工の程度で分類し、妥当性が確認された136項目の食品頻度質問票を用いて評価した。 主要アウトカムは、4段階の超加工食品の1日摂取量(低[<2サービング/日]、低~中[2~<3サービング/日]、中~高[3~≦4サービング/日]、高[>4サービング/日])で調整したエネルギー消費量と全死因死亡の関連とし、多変量Cox比例ハザードモデルを用いて解析した。加工肉と砂糖入り飲料が最も多い 1万9,899例のうち、女性が1万2,113例、男性は7,786例で、ベースラインの全体の平均年齢は37.6(SD 12.3)歳、フォローアップ期間中央値は10.4年であった。観察人年20万432人年に、335例が死亡した(がん死164例、心血管死71例)。 超加工食品の平均1日摂取量は、低摂取群(4,975例)が1.4(SD 0.8)サービング、低~中摂取群(4,975例)が2.7(0.2)サービング、中~高摂取群(4,975例)が3.5(0.3)サービング、高摂取群(4,974例)は5.3(1.4)サービングであった。 高摂取群は平均BMI(23.8)が高かった。また、高摂取群は低摂取群と比較して、現喫煙者が多く、大学教育レベルが高く(大学院、博士号取得者が多い)、心血管疾患・がん・糖尿病・高血圧・高コレステロール血症・うつ病の家族歴を持つ者が多かった。 高摂取群は低摂取群に比べ、間食や1日3時間以上のテレビ視聴の割合が高く、1日のコンピュータ使用時間や昼寝の時間が長く(座位行動が多い傾向)、総脂肪摂取が多く、タンパク質や炭水化物の摂取は少なかった。高摂取群は他の群に比し、ファストフード、揚げ物、加工肉、砂糖入り飲料の摂取量が多く、野菜、果物、オリーブ油、アルコール飲料、総食物繊維の摂取量が少なかった。超加工食品の摂取量が多くなるほど、地中海食のアドヒアランス・スコア(0~9点、点数が高いほど伝統的地中海食へのアドヒアランスが高い)が低下した。 超加工食品のうち、最も多かったのは加工肉(15%、ハム、ソーセージ、チョリソ、サラミ、モルタデッラ、ハンバーガーを含む)と砂糖入り飲料(15%)で、次いで乳製品(12%、カスタード、アイスクリーム、ミルクシェイク、プチスイスを含む)、フレンチフライ(11%)、ペストリー(10%、マフィン、ドーナツ、クロワッサンや他の非手作りペストリー、菓子類を含む)、クッキー(8%、ビスケット、チョコレートクッキーを含む)の順であった。 超加工食品の高摂取群は低摂取群に比べ、全死因死亡のハザードが62%有意に高く(多変量で補正後のハザード比[HR]:1.62、95%信頼区間[CI]:1.13~2.33)、有意な用量反応関係が認められた(線形傾向のp=0.005)。がん死(1.22、0.70~2.12、p=0.42)および心血管死(2.16、0.92~5.06、p=0.11)には有意差はなかった。また、超加工食品が1サービング増えるごとに、全死因死亡が相対的に18%有意に増加した(補正後HR:1.18、95%CI:1.05~1.33)。 著者は、「超加工食品の摂取を抑制し、製品への課税や売買制限を目標とし、新鮮な最小限の加工食品(地中海食の重要な側面)の摂取を促進することは、世界の公衆衛生の改善において重要な健康施策の一環と考えるべきである」としている。

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新型タバコ時代!電子タバコと加熱式タバコは何が違う?(1)【新型タバコの基礎知識】第1回

第1回 新型タバコ時代!電子タバコと加熱式タバコは何が違う?(1)Key Points新型タバコとは、加熱式タバコと電子タバコのことを指す。加熱式タバコと電子タバコは別物だが、患者さんや一般の人は、加熱式タバコも電子タバコだと思っていることが多い。世界的には電子タバコはe-cigaretteであり、タバコではないものとして扱われる。英語論文を読む場合には要注意。タバコを吸うことは、肺がん、胃がん、大腸がんなどの多くのがん、心筋梗塞、脳卒中などの循環器疾患、COPDや糖尿病に加え、関節リウマチ、不妊や勃起不全など非常に多くの病態と関連することがわかっています。そしてタバコといえば、これまでずっとライターやマッチで火をつけて使う、紙巻タバコでした。本連載では、加熱式タバコと電子タバコを合わせて、新型タバコと呼びます。加熱式タバコは、海外ではheated tobacco productsと呼ばれ、日本語では加熱式タバコとなります。加熱式タバコという呼び名よりも、商品名であるアイコスやプルーム・テック、グローと言ったほうが伝わりやすいかもしれません。2014年にタバコ会社フィリップモリス・インターナショナルは世界に先駆けて、日本でアイコスの販売を開始しました。日本たばこ産業(JT)およびブリティッシュ・アメリカン・タバコは2016年からプルーム・テックおよびグローをそれぞれ販売開始しました。電子タバコは英語ではelectronic cigarettes(e-cigarettes)またはvapor(ベイパー)と呼ばれます。日本では、e-cigarettesに対する訳語として電子タバコという“タバコ”という表現を含む言葉が一般に使用されており、文字通り「電子タバコ」はタバコの一種だと考えている日本人が多いようです。私も日本の多くの人々と同様に、電子タバコはタバコの一種として扱えばよいのではないかと考えていますが、世界的にはその解釈は簡単には受け入れられないものと言えるでしょう(図)。画像を拡大する電子タバコの英語の名称(e-cigarettes)には、タバコ(tobacco)という文字は含まれていません。世界的には、英国などでは紙巻タバコに替えて電子タバコを使用することをハームリダクション*になるとして推奨している現状があるのです。いわゆるタバコは悪いものであるが、電子タバコ(e-cigarettes)は悪いものではなく、電子タバコ(e-cigarettes)はいわゆるタバコ製品ではない、とタバコ研究業界の権威者が主張しているのです。そのため、たとえば論文で電子タバコ(e-cigarettes)をタバコ製品として記述すると、「電子タバコはタバコではない」という指摘を受けることとなります。本連載では、加熱式タバコと電子タバコを合わせて新型タバコと呼びますが、世界的な英語論文ではこのようには定義されていません。新型タバコに関する英語論文や海外からの情報を読む場合には、ご注意ください。第2回では、「加熱式タバコと電子タバコの構造」についてお伝えします。*ハームリダクション:大きな害のある行動をそれよりも小さな害の行動に置き換えることで、害を完全にはなくせないが、少なくさせるという考え方。タバコ問題の場合、どうしてもタバコを止められない人に対して、代わりにニコチン入り電子タバコを吸ってもらえば、有害物質への曝露を減らせるのではないかという戦略。電子タバコがハームリダクションになるのかどうか、世界的に、専門家の間でも意見が割れている。

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日本人男女の喫煙と膵がんリスク~35万人の解析

 喫煙と膵がんリスクの関連はすでによく知られているが、アジアの大規模集団における詳細な前向き評価は少ない。今回、愛知県がんセンターの小栁 友理子氏らが、日本人集団における10研究をプール解析したところ、喫煙と膵がんリスクの関連に男女差がある可能性が示され、男性では禁煙が膵がん予防に有益であることが示唆された。Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention誌オンライン版2019年5月21日号に掲載。 本研究では、10の集団ベースのコホート研究のプール解析を行った。各研究のハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)についてCox比例ハザード回帰を用いて計算し、これらの推定値をランダム効果モデルと統合して要約HRを推定した。 主な結果は以下のとおり。・35万4,154人における469万5,593人年の追跡調査の間に、1,779人で膵がんが発症した。・男性(HR:1.59、95%CI:1.32~1.91)、女性(HR:1.81、95%CI:1.43~2.30)の両方で、生涯非喫煙者に比べて現在喫煙者で膵がんリスクが高かった。・環境中のタバコ煙曝露に関係なく、過去喫煙者や20pack-years以下の蓄積量でも、女性では有意に膵がんリスクが高かった。・傾向分析において、男性では10pack-yearsごとに膵がんリスクが有意に6%増加し、女性では有意ではないが6%増加した。・男性では、禁煙後5年で、膵がんリスクは生涯非喫煙者と同程度になったが、女性では禁煙によるリスク減少はみられなかった。

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グルコサミン、心血管イベントを抑制/BMJ

 変形性関節症の痛みを軽減するためのグルコサミンの習慣的な補充療法が、心血管疾患イベントのリスクを低減しており、とくに喫煙者でその効果が高い可能性があることが、米国・テュレーン大学のHao Ma氏らによる前向きコホート研究で明らかとなった。研究の成果はBMJ誌2019年5月14日号に掲載された。グルコサミン補助剤を用いる補充療法は、変形性関節症の治療で一般的に使用されているが、疾患や関節痛の軽減への効果は議論が続いている。その一方で、最近の動物実験やヒトの横断研究により、心血管疾患の予防や死亡率の抑制において役割を担う可能性が示唆され、前向き研究のエビデンスが求められている。英国のUKバイオバンクのデータを前向きに解析 研究グループは、習慣的なグルコサミンの使用と心血管疾患イベントの関連の評価を目的に、前向きコホート研究を行った(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]などの助成による)。 解析には、英国のUKバイオバンク(2006~10年に、年齢40~69歳の約50万人を登録)のデータを用いた。ベースライン時に、心血管疾患がなく、グルコサミンを含む補助剤の使用に関する質問票に回答した参加者46万6,039例を、2016年まで追跡した。 主要アウトカムは、心血管疾患イベント(心血管疾患による死亡、冠動脈疾患、脳卒中)の新規発生とした。心血管疾患イベント15%低下、喫煙者の有効性は偶然の可能性も グルコサミン使用群は8万9,985例(19.3%、平均年齢58.9[7.1]歳、女性63.6%)、非使用群は37万6,054例(80.7%、55.6[8.2]歳、54.0%)であり、使用群は年齢が高く、女性が多かった。 追跡期間中央値は7年で、この間に1万204件の心血管疾患イベントが新たに発生し、このうち心血管疾患による死亡が3,060件、冠動脈疾患イベントが5,745件、脳卒中イベントは3,263件だった。 年齢、性別、BMI、人種、生活習慣(喫煙、飲酒、身体活動など)、食事摂取、薬剤使用、他の補助剤使用などで調整すると、グルコサミン使用により、心血管疾患イベントが15%有意に低下した(補正後ハザード比[HR]:0.85、95%信頼区間[CI]:0.80~0.90、p<0.001)。 また、心血管疾患による死亡は22%(補正後HR:0.78、95%CI:0.70~0.87、p<0.001)、冠動脈疾患イベントは18%(0.82、0.76~0.88、p<0.001)、脳卒中イベントは9%(0.91、0.83~1.00、p=0.04)、それぞれ有意に減少した。 さらに、冠動脈疾患は、非致死的(補正後HR:0.84、95%CI:0.77~0.91、p<0.001)および致死的(0.70、0.59~0.85、p<0.001)の双方が、グルコサミンにより有意に低下した。一方、脳卒中では、非致死的、致死的、虚血性、出血性のいずれにも有意差は認めなかった。 層別解析では、グルコサミンの使用と喫煙には、心血管疾患および冠動脈疾患に関して、有意な相互作用がみられた。すなわち、グルコサミン使用群のうち、元喫煙者で心血管疾患が15%(補正後HR:0.85、95%CI:0.79~0.94)、生涯非喫煙者で12%(0.88、0.82~0.97)、それぞれ低下したのに対し、現喫煙者では26%(0.74、0.63~0.87)と、さらにリスクが低下していた(pinteraction=0.02)。同様に、冠動脈疾患は、元喫煙者で18%(0.82、0.73~0.93)、生涯非喫煙者で12%(0.88、0.79~0.99)、現喫煙者では37%(0.63、0.51~0.79)と低下した(pinteraction=0.004)。現喫煙者での効果は、元喫煙者や生涯非喫煙者よりも強力だった。 著者は、「喫煙者での良好な結果は、偶然による可能性を排除できない」としたうえで、「喫煙者は炎症レベルが高いとされ、炎症ストレスが大きい集団では抗炎症薬の効果が高いとの仮説があることから、グルコサミンと喫煙の相互作用は生物学的にはありえると考えられる」と考察している。

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早期乳がん患者の心血管疾患リスク、運動で低下/JAMA Oncol

 がんサバイバーの心血管疾患による死亡は重大な懸念となっている。米国・南カリフォルニア大学のKyuwan Lee氏らによる前向き無作為化臨床試験の結果、16週間の監視型有酸素運動およびレジスタンス運動の介入により、過体重または肥満の早期乳がん患者におけるFraminghamリスクスコア(FRS)で予測された10年間の心血管疾患発症リスクが、低下することが示された。FRSは、10年間の心血管疾患発症リスクを予測する有効な方法として知られる。早期乳がんで過体重の患者では、同年齢の健康な女性と比較してFRSが高いことが報告されているが、これまでこの患者集団において運動介入によりFRSが低下するかどうかはわかっていなかった。JAMA Oncology誌オンライン版2019年3月28日号掲載の報告。 研究グループは、過体重または肥満の早期乳がん患者のFRSに及ぼす、有酸素運動およびレジスタンス運動介入の影響を調べるため、単一施設無作為化臨床試験を実施した。 対象は、登録前6ヵ月以内にがん治療が終了した、過体重または肥満(BMI≧25.0または体脂肪≧30%)で運動不足のStageI~IIIの乳がん患者100例。運動群と通常ケア(対照)群に無作為に割り付け、運動群では監視型有酸素運動を週3回、16週間実施した。 主要評価項目はFRSで、6項目(年齢、収縮期血圧、HDLコレステロール値、LDLコレステロール値、糖尿病の有無、喫煙の有無)から算出し、混合モデル反復測定解析を用い、両群における平均変化量の差を評価した(intention-to-treat解析)。 主な結果は以下のとおり。・100例(運動群50例、対照群50例)の患者背景は、55例(55%)がヒスパニック系白人で、平均年齢が53.5歳であった。・16週後のFRSスコア(平均±SD)は、運動群で2.0±1.5、対照群で13.0±3.0であった。・16週後のFRSスコアは、対照群と比較し運動群で有意に減少した(平均群間差:-9.5、95%CI:-13.0~-6.0)。これはFRSで予測される10年間の心血管疾患発症リスクの11%低下(95%CI:-15.0~-5.0)に相当した。

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がん患者の喫煙継続で増える治療失敗とコストはどの程度?

 喫煙は、がんの大きなリスク因子といわれているが、がん患者の喫煙継続およびがん1次治療の失敗増は、がん2次治療コストの有意な増大と関連していることが、米国・サウスカロライナ医科大学のGraham W. Warren氏らによる検討の結果、示された。著者は「さらなる調査を行い、コスト増を軽減する最適な方法を明らかにする必要があるだろう」と述べている。先行研究で、がん患者の喫煙継続は全死亡率・がん死亡率や二次原発がんリスク、がん治療の毒性作用を増大することが示唆されていたが、著者らによれば、喫煙によるがん治療の追加コストの推算はこれまでされていなかったという。JAMA Network Open 2019年4月5日号掲載の報告。 研究グループは、がん2次治療による増大コストとがん患者の喫煙継続の関連をモデル化するため、2014年の米国 Surgeon General's Report(非喫煙がん患者で予測される1次治療の失敗率、喫煙率、非喫煙と比較した喫煙によるがん1次治療失敗のオッズ比、および1次治療失敗後のがん治療コストを検討している)からデータを集め、2018年に経済評価モデルを開発した。 主要評価項目は、がん1次治療失敗増および2次治療によるコスト増と、喫煙を継続するがん患者との関連であった。 主な結果は以下のとおり。・治療失敗率は、非喫煙者における1次治療治癒率が低いと予測された場合と比べ、高いと予測される場合に高かった。・喫煙による治療失敗率は、非喫煙者における治癒率が50~65%と予測された場合にピークを示した。・非喫煙患者における予測治療失敗率30%、喫煙率20%、非喫煙患者に対する喫煙患者の1次治療失敗のオッズ比1.6、1次治療失敗に対処する平均追加コスト10万ドルの条件下では、1,000患者当たりの追加コストは210万ドル、喫煙患者1例当たりの追加コストは1万678ドルと推算された。・同条件下において、がんと診断される患者の年間160万例の喫煙による増大コストは、34億ドルと見込まれた。

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IV期NSCLCにおける放射線治療と免疫CP阻害薬の相乗効果

 切除不能な局所進行非小細胞肺がん(NSCLC)に対する化学放射線同時療法の維持治療にデュルバルマブが適応になるなど、放射線治療と免疫チェックポイント阻害薬との組み合わせは相乗効果をもたらすとされる。しかし、IV期NSCLCにおける放射線治療の意義を明確に示した報告は少ない。埼玉医科大学国際医療センターの山口央氏らは、放射線療法(RT)の治療歴がその後のニボルマブ(抗PD-1抗体)の治療効果や予後に影響を与えるかを後方視的に解析した。Thoracic Cancer誌2019年4月号の掲載報告。 2016年2月~2017年12月に既治療の進行NSCLC患者124例にニボルマブが投与された。この研究では、それらの患者をニボルマブ開始前に何らかの放射線治療歴のある群(RT群)と放射線治療歴のない群(非RT群)に分け比較検討した。 主な結果は以下のとおり。・124例中RT群は66例(53%)で、脳以外への照射が52例(42%)、胸部への照射は40例(32%)であった。・ニボルマブ治療期間の中央値は4サイクルであった。・ニボルマブ治療全体(124例)の客観的奏効率(ORR)は28.0%、病勢コントロール率(DCR)は58.4%であった。・RT群のORRは36.4%、非RT群は19%で、RT群で有意に高かった。・ニボルマブの治療効果はとくに脳以外に照射歴のある非腺がん患者(59例)および扁平上皮がん患者(38例)で高く、非腺がんのORRは48.3%、DCRは87.1%、扁平上皮がんのORRは52.6%、DCRは84.2%であった。・多変量解析では放射線治療歴と喫煙歴が無増悪生存期間(PFS)の独立した予後因子であった。・脳以外に照射歴のある非腺がん患者(59例)を対象とした予後解析ではRT群は非RT群に比べPFSと全生存期間が有意に延長していた。 RTはニボルマブ治療との相乗効果を示し、進行NSCLC患者のORR、PFSを改善することが確認された。RT治療歴は、ニボルマブの治療効果に関する予後良好因子の1つ考えられる。

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週1本のワインによるがん生涯リスクはタバコ何本に相当?

 適度のアルコールもやはりリスクなのか。英国・サウサンプトン大学病院 NHS Foundation TrustのTheresa J. Hydes氏らが英国のデータを解析し、ワインを1週間に1本飲む女性は、アルコール関連がんの生涯絶対リスクが増加し、この増大をもたらしているのは、乳がんであることを明らかにした。女性では、週1本のワインは週10本の喫煙に相当するという。著者は、「今回の結果は、女性にとって適度な飲酒は公衆衛生上の重大なリスクであることを知ってもらうのに役立つだろう。男性でも、週1本のワインが週5本の喫煙に相当することに注意が必要である」とまとめている。BMC Public Health誌2019年3月28日号掲載の報告。 研究グループは、適度な飲酒に起因するがんの絶対リスク(1,000人当たりの症例数)の増加を推定するとともに、これらを低頻度の喫煙が関与するがんの絶対リスクと比較した。 アルコール関連がんおよび喫煙関連がんの一般集団における生涯リスクから、アルコールおよび喫煙の寄与割合を差し引き、禁酒をしている非喫煙者のがんの生涯リスクを算出した。これにアルコールおよび喫煙の寄与として、消費レベルの増加も含み、1週間にアルコール10単位の飲酒またはタバコ10本の喫煙の相対リスクを乗じた。 主な結果は以下のとおり。・非喫煙者のがんの生涯絶対リスクは、1週間にワイン1本で男性では1.0%、女性では1.4%増加した。・ワイン1本/週によるがんの生涯リスクの絶対増加は、タバコにすると男性で5本/週、女性で10本/週に相当した。・飲酒による顕著な性差は、女性の非喫煙者の乳がんの絶対リスクが0.8%増加することであった。

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レディ・プレーヤー1【なぜゲームをやめられないの?どうなるの?(ゲーム依存症)】

今回のキーワード多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲームeスポーツ「デジタルドラッグ」「ゲーム脳」「シンデレラ法」「スマホ育児」AI(人工知能)「ホモ・ルーデンス」(遊ぶ人)皆さんは、ゲームをしますか? またはお子さんがゲームをしますか? 今や、ゲームと言えば、多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲーム(MMORPG)です。これは、インターネット上のサーバーを介して、不特定多数の人が同じゲームの中で、数人のチーム(ギルド)をつくり、冒険、狩り、モンスター退治などをするものです。自分のプレイの分身(アバター)によって、ほかのプレーヤーと文字のやりとりや会話を行うこともできます。さらにこれからは、VR(仮想現実)ゴーグルによる、よりリアルな体験をするゲームが注目されています。最近では、ゲームをeスポーツと呼び、従来のスポーツ大会の種目の1つに入れようとする動きがあります。また、学校の部活動の1つとして、「eスポーツ部」を認めようとする動きもあります。これは、サークルや同好会ではなく、部活動としてゲーム関連の費用を学校が負担することを意味します。どうやらゲームは、今、世の中でますます広がりを見せています。ところで、そのゲームをやめられない、やめさせられないと困っている人はいませんか? または、そのようは相談を受けることはありませんか? なぜゲームをやめられないのでしょうか? やめられないとどうなるのでしょうか? そもそも、なぜゲームは「ある」のでしょうか? そして、どうすれば良いのでしょうか? これらの疑問を解き明かすために、今回は、2018年の映画「レディ・プレーヤー1」を取り上げます。この映画を通して、ゲームをする心理を脳科学的に、そして、その起源を進化心理学的に掘り下げ、ゲーム依存症の理解を深めましょう。そして、私たちの未来の生き方について、一緒に考えていきましょう。なぜゲームをやめられないの?ストーリーの舞台は、未来の西暦2045年。多くの人は、食べる、寝る、トイレに行く以外は、VR(仮想現実)ゴーグルを着けて、オアシスというネット上のVR(仮想現実)の世界で過ごしています。まさに「食う、寝る、遊ぶ」です。まずここから、このVRの世界を現在のゲームと照らし合わせながら、その3つの特徴を整理してみましょう。そして、「なぜゲームをやめられないの?」という問いへの答えを導きましょう。(1)何でもできる -達成感主人公のウェイドは、「今、現実は重くて暗い。みんな逃げ場を求めている」「(一方で)オアシスは、想像が現実になる世界。何でもできる」と言っています。現実の世界は、ゴミだらけで荒廃しており、彼はぱっとしない日常を送ります。一方、オアシスは、色鮮やかで華やかで、魅力的なキャラクターたちが次々と登場し、冒険、戦闘、自動車レースなどが、毎日繰り返されています。ウェイドは、パーシヴァルという名のアバターで、やりたいことをして、毎日生き生きとした時間を過ごしています。1つ目の特徴は、何でもできる、つまり達成感が得られることです。これは、現在のゲームにも通じています。そのからくりは、主に3つあります。1つ目は、時間とお金をかければ必ずうまくいくように作られていることです。お金をかけるとは、課金システムで強い武器などのアイテムを得て、地位を上げることです。2つ目は、繰り返しやればチャンスが増すように作られていることです。たとえば、「連続ログインボーナス」は、毎日必ずログインして一定期間が経つと、ボーナスがもらえる仕組みです。また、「1日1回だけのチャンス」は、1日1回だけ特級アイテムを得る「ガチャ」(抽選)のチャンスがもらえる仕組みです。逆に言えば、1日1回しかチャンスがないので、毎日必ずログインしてチャレンジするよう仕向けられていると言えます(機会損失の回避)。3つ目は、次から次へと新しい課題が出され、飽きないように作られていることです。これは、ゲームの設定が常にアップデートされるためです。つまり、従来のゲームのようなクリア(ゴール)という概念がなく、延々とやり続けることが可能になります。このように、ゲームをやめられなくなるのは、やればやるほど達成感が得られるからです。逆に言えば、現実の世界では、そう簡単に達成感は得られません。そのわけは、ゲームほど何でもできる状況がそもそもあまりないからです。(2)仲間がいる -連帯感オアシスで、パーシヴァル(ウェイド、以下略)は「エイチは、はっきり言って親友だ。現実の世界では会ったことないけど」と言い、エイチと過ごします。やがて、彼は、オアシスの後継者の権利を掛けた宝探しレースをする最中、ランキングで暫定1位になり、オアシスの住人全員から注目を集めて、人気者になります。そして最後に彼は、エイチたちと5人組の仲間となり、オアシスの共同運営者になります。2つ目の特徴は、仲間がいる、つまり連帯感が得られることです。これは、現在のゲームにも通じています。そのからくりは、主に3つあります。1つ目は、自分の居場所があるように作られていることです。これは、毎回プレイ中にチームのメンバーとコミュニケーションをすることで、仲良くなり、信頼され、つながっている感覚が得られることです(所属欲求)。2つ目は、自分の役割があるように作られていることです。これは、チームで協力することで、お互いに必要とされ、勇気や決断力が認められる感覚が得られることです(承認欲求)。3つ目は、自分の目指すものがあるように作られていることです。これは、チームで敵や宝などの分かりやすいターゲットに向かって突き進んで達成していくことです(自己実現欲求)。これは、ゲームの1つ目の特徴である達成感にもつながります。もはや、チームのメンバーは「戦友」で、ターゲットは「戦果」とも言えます。逆に言えば、自分がやめると、チームのメンバーに遅れをとってしまったり、迷惑をかけることになります。このように、ゲームをやめられなくなるのは、やればやるほど連帯感が得られるからです。逆に言えば、現実の世界は、そう簡単に連帯感は得られません。そのわけは、ゲームほど仲間でいることの理由が見いだせないことが多いからです。(3)気楽である -安全感パーシヴァルは、現実のウェイドと違って、ビジュアルが良く、おしゃれで、身体能力も高いです。もちろん、見た目だけでなく声を変える設定もできます。彼は、アルテミスという女性とデートをして、イケイケのダンスもします。彼は、彼女に「現実の世界で会いたい」「君に恋してる」と言うと、「私の顔はこんなんじゃない。がっかりするよ」と言われてしまいます。また、パーシヴァルは、ライバルのソレントと向き合った時、VRゴーグルを一時的に外して、動悸を隠します。また、オアシスでは、死ぬと所持金は0になりますが、リセットすれば生き返るようになっています。3つ目の特徴は、気楽である、つまり安全感です。これは、現在のゲームにも通じています。そのからくりは、主に3つあります。1つ目は、見せたくない自分を見せないように作られていることです。これは、顔などの見た目から相手にされないのではないかという不安がなくなります。2つ目は、見たくない相手やものを見ないように作られていることです。これは、気が合わない相手でもその場にいなければならないという義務感がなくなります。また、音や光などの感覚刺激は、調節したり遮断することができます。3つ目は、いつでも休めたりやり直しができるように作られていることです。これは、失敗すると取り返しが付かないという緊張感がなくなります。このように、ゲームをやめられなくなるのは、安全感が保たれているからです。逆に言えば、現実の世界は、そう簡単に安全感は保たれません。そのわけは、ゲームほど気楽なままで何かを達成する機会はあまりないからです。ゲームをやめられないとどうなるの? ―ゲーム依存症ウェイドと同居する叔母の恋人は、オアシス内の戦闘ゲームでアバターが死んでしまい、「(高性能の武器を使うために)全部つぎ込んだ。勝てるはずだった」と怒り狂います。同じように、ある幼児は、アバターが死んで、泣き叫びます。ある男性は、飛び降り自殺をしようとします。ある母親は、ゲームに夢中になり、家事や育児に手が付かなくなっています。ウェイドは、「みんな、全部オアシスにつぎ込んでるから、全部失ったら(ゲームに負けてアバターが死んだら)、そりゃ正気も失うよね」と説明します。このように、お金や時間などが奪われて日常生活に差し障るほどゲームがやめられなくなる、コントロールができない状態は、通称、ゲーム依存症と言います。精神医学的には、ゲーム障害(ICD-11)、インターネットゲーム障害(DSM-5研究枠)と呼ばれます。また、先ほどご紹介した「ガチャ」(抽選)によってアイテムを得る課金システムは、必ずしも欲しいアイテムが得られるわけではないので、つい「ガチャ」をやりすぎてお金をつぎ込んでしまうというギャンブル依存症の要素もあります。ここから、ゲーム依存症の特徴を3つに分けて、脳科学的に考えてみましょう。そして、「どうなるの?」という問いへの答えを導きましょう。(1)もっとやりたくなる -渇望先ほどご紹介した達成感や連帯感は、脳へのご褒美、つまり報酬です。とくに連帯感は、社会的報酬と言います。これらは、満足感、幸福感、わくわく感、胸のときめき、快感などと自覚され、ドパミンという脳内ホルモン(神経伝達物質)が大きく関わっています(報酬系)。たとえば、栄養価が高いものを食べると、ドパミンが刺激され、美味しいと感じます。それが、もう1回食べようという動機付けになります。まさに、「味を覚える」「味を占める」というわけです。ゲームは、このドパミンがより効率的に分泌し続けるように人工的に作られたものです。分かりやすく言えば、安楽なままで快感がすぐに得られてしまう覚醒剤に似ています。実際の論文では、脳画像検査(PET)によって、ゲームの開始前と50分後での脳内(線条体)のドパミンの放出量が2倍に増えていると報告されています。これは、覚醒剤(0.2mg/kg)の静脈注射に匹敵します。もちろん現実の世界でも、達成感や連帯感からドパミンがこのレベルに増えることはあります。ただし、その頻度はまれで、時間は一瞬からせいぜい数十分です。美味しいものも満腹になればそれ以上食べられません。それに対して、ゲームは、やっている時間すべてです。つまり、ゲームによるドパミン分泌は、そもそも覚醒剤と同じくらい刺激が強くて長続きするものであるということです。もはやゲームは、「デジタル・ドラッグ」とも言えるでしょう。すると、どうなるでしょうか?1つ目の特徴は、ゲームをもっとやりたくなります(渇望)。言い換えれば、脳がゲームの刺激をより欲してしまいます。そのメカニズムは、大きく3つあります。1つ目は、ゲームの刺激に鈍くなることです(耐性)。これは、ちょうど1回目の覚醒剤の摂取が一番快感で、その後に同じ快感を得るために量が増えていくことに似ています。その理由として、ドパミンを使いすぎて足りなくなっていることがあげられます。もう1つの理由としては、慢性的なドパミンの刺激によって、脳内のドパミンの受け皿(受容体)の数が減ってしまうことがあげられます(ダウンレギュレーション)。これは、過剰な刺激で神経細胞が消耗するのを防ぐため、その反応を抑えることでバランスを保つ生体の調節機能が自動的に働くからです(ホメオスタシス)。2つ目は、ゲームをしないといらいらすることです(離脱症状)。これは、ちょうどアルコール依存症の人が断酒後に手が震えて汗が出るなどのいわゆる禁断症状に似ています。その理由として、慢性的な刺激を受けていると、それがバランスのとれた通常の状態(ホメオスタシス)であると脳が誤認識してしまい、逆に刺激がなくなると脳が異常だと誤作動を起こしてしまうからです。3つ目は、ゲーム関連に敏感になることです(プライミング、キュー)。たとえば、それは、ゲームの宣伝を見ることから、パソコンやスマホの画面をただ見ること、そして自室の椅子にただ座ることなどです。これは、ちょうど覚醒剤依存症の人が注射器を見ただけで覚醒剤を打ちたくなったり、アルコール依存症の人がおつまみを見ただけでビールが飲みたくなったり、ギャンブル依存症の人がネオンサインを見ただけパチンコがしたくなることに似ています。その理由として、刺激を受け続けることで脳神経のネットワークが変わり(短絡回路)、頭の中はその報酬がすべてになってしまうからです(投射ニューロン)。言い換えれば、その刺激と結び付いた情報や体験がセットになって脳に記憶として刻まれることで、報酬が予測されやすくなるからです(報酬予測、条件反射)。ひと言で言えば、「ゲーム漬け」「ゲームに溺れる」ということです。逆に言えば、現実の世界の達成感や連帯感は、苦労しても少ししか得られないばかりか、脳がゲームだけでなく現実の生活の刺激にも鈍くなってしまうため、ますますバカらしくてどうでも良くなってしまいます。つまり、報酬系とは、その人の価値観であり、生き方を決めてしまうものです。まさに、ゲーム依存症になると、その人の生き方が変わってしまうと言えるでしょう。(2)頭が働かなくなる -認知機能障害ドパミンが慢性的に出すぎていると、興奮状態になった神経細胞がやがて消耗していき、死んでいきます(変性)。実際の論文では、脳画像検査(MRIのDTIやVBM)によって、ゲーム依存症の人の前頭葉などで、覚醒剤などの薬物依存症と同じように、神経ネットワークの統合性の低下や萎縮が認められていることが報告されています。すると、どうなるでしょうか?2つ目の特徴は、頭が働かなくなります(認知機能障害)。体が酷使されて弱るのと同じように、脳も酷使されて弱っている状態です。たとえば、衝動的でキレやすくなったり(眼窩前頭葉)、相手の気持ちに無関心で冷淡になったり(前帯状回)、無気力で無関心になります(外包)。これは、ちょうど同じくドパミンが慢性的に出すぎていることで引き起こされる統合失調症の陰性症状に似ています。かつて、根拠がないと批判され、「疑似科学」の烙印を押された「ゲーム脳」が、いまや現実の科学として認められたことになります。ウェイドは、「重くて暗い」現実から軽やかでまぶしいオアシスに逃げ場を求めていきました。しかし、実は、彼はオアシスでの強い刺激を受け続けていることで脳が消耗してしまい、現実が「重くて暗い」ようにますます見えてしまっているという解釈もできるでしょう。ここで、皆さんに考えていただきたいことがあります。それは、ゲームが、冒頭でもご紹介したeスポーツとしてスポーツ大会の種目の1つになったり、学校の部活動になるのは良いと言えるでしょうか? 答えは、ノーです。なぜなら、スポーツの理念(スポーツ基本法)の1つが健康になることであるという点で、ゲームは不健康になるリスクがあまりにも高いからです。もちろん、従来のスポーツもトレーニングをしすぎて体を壊すということはありえます。ただし、決定的な違いは、ゲームは刺激性や依存性があることです。そして、それによって「脳を壊す」おそれが著しく高いことです。そのゲームが従来のスポーツと並んでしまうと、あたかも健康的なイメージを子供にも植え付けてしまいます。ゲーム会社のマーケティング戦略に完全に取り込まれているように思われます。やはり、望ましいのは、ゲームは「eスポーツ」とは名乗らないこと、そしてゲームは「ゲーム大会」として従来のスポーツ大会とは区別し、別々に開催されることです。(3)気疲れしやすくなる -ストレス脆弱性先ほどご紹介した安全感が保たれることは、逆に言えば、ストレスフリーの時間が増えることになります。ストレスとは、相手からどう見られるか緊張したり、相手が何を考えているか察知し、状況により我慢するなど、周りの空気を読む意識的な労力です(社会脳)。また、外界で複雑に絡み合ってざわざわと揺らいでいる音や光などの感覚刺激の無意識的な情報処理です(デフォルトモードネットワーク)。すると、どうなるでしょうか?3つ目の特徴は、気疲れしやすくなります(ストレス脆弱性)。体を動かさないで鈍るのと同じように、頭も動かさないで鈍っている状態です。たとえば、人混みが耐えられなくなったり、初対面の相手に極度に緊張したり、雑談ができなくなったり、逆に、言われたことを過剰に気にするようになることです。これは、ちょうど同じく社会的参加のストレスを避けた「社会的ひきこもり」の精神状態に似ています。ウェイドは、オアシスで、アルテミスとイケイケのダンスをして体を密着させていたのに、現実の世界で会った時はキスするのをためらっていました。これは、もともと彼が奥手であったということに加えて、生身の人間と触れ合うことに緊張しやすくなっていたという解釈もできるでしょう。ゲーム依存症になりやすい人は? ―リスクそれでは、ゲーム依存症になりやすいのは、どんな人でしょうか? そういう人を特徴と状況に分けて、ゲーム依存症のリスクを考えてみましょう。(1)特徴特徴、つまり個人因子としては、主に2つあげられます。a.探究心が強いウェイドは、宝探しのヒントが、オアシスの開発者の言動にあるとひらめき、オアシスの博物館に何度も通い、探し求めます。1つ目の特徴は、探究心が強いことです(新奇性探求)。それを、ゲームが達成感として手軽に満たしてくれます。これは、ADHDとの関連が強いです。その特性としては、興味のあることに飛び付きます(衝動性)。一か八かの勝負事が好きで、スリルと興奮を追い求めます(衝動性)。ひらめきなどの発想の転換が早く、アイデアマンの素質もあります(多動性)。また、ADHDの気の早さ(衝動性)や気の多さ(多動性)と同時に見られる気の散りやすさ(不注意)が、ゲームをすることで改善し、一時的に注意力や集中力が高まることです。そもそもADHDは前頭葉のドパミンの働きが弱いです。そのため、ゲームをすることは、ADHD治療薬と同じようにドパミンの働きを活性化させます。ゲームが、あたかもADHDの自己治癒行動になっています。b.内気であるオアシスの開発者のハリデーは、「オアシスをつくったのは、現実世界はどうにも居心地が悪かったからなんだ」「周りの人たちと、どうつながっていいか分からなかった」「ずうっとびくびくしながら生きてきた」と言っています。現実のハリデーがおどおどしている一方で、オアシスでのアノラック(ハリデーのアバター名)は、堂々として威厳があります。2つ目の特徴は、内気であることです(回避性)。それを、ゲームが安心感として満たしてくれます。これは、社交不安、回避性パーソナリティ、そして自閉症スペクトラムとの関連が強いです。とくに自閉症スペクトラムの特性は、周りの空気を読むのが苦手であることです(社会的コミュニケーションの低さ)。これが、ゲームの中では目立たなくなります。そのわけは、コミュニケーションの目的や手段は、現実の世界では曖昧で複雑である一方、ゲームの中では明確で単純だからです。また、興味のあることには、のめり込みます(こだわり、過集中)。特性であるこだわりが生かされているとも言えます。さらに、自閉症スペクトラムの別のこだわりである音や光、肌触りへの敏感さ(感覚過敏)が、ゲームの環境では、調節・遮断することができるため、快適になることです。(2)状況状況、つまり環境因子としては、主に2つあげられます。a.居場所がないウェイドの両親は早くに病死しているため、ウェイドは叔母さんとその恋人の家に居候し、とても肩身の狭い思いをしています。1つ目の状況は、居場所がないことです(自尊心の低さ)。それを、ゲームが連帯感として満たしてくれます。これは、反応性愛着障害や境界性パーソナリティとの関連が強いです。自分を大切にしてくれるつながり(愛着対象)がないため、それを極度に欲してしまいます。また、自尊心の低さは、社交不安や回避性パーソナリティの根っこにもなっています。b.ストレスがたまっているウェイドは、叔母の恋人から暴力を振るわれ、叔母さんからは「あんたも出ていきな」と言われ、家出してから3日間、ゲーム漬けになっています。2つ目の状況は、ストレスがたまっていることです(ストレス負荷)。それを、ゲームが達成感、連帯感、安心感のある逃げ場として満たしてくれます。これは、適応障害やPTSDなどのストレス障害との関連が強いです。最近の研究では、トラウマなどのストレス体験を脳に記憶させることをある程度阻害するために、その体験から6時間以内にコンピューターゲームのテトリスをやり続ける予防策が提唱されています。まさにストレス解消法です。ゲームが、あたかもストレス障害の予防行動になっています。なぜゲームは「ある」の?そもそも、なぜゲームは「ある」のでしょうか? ここから、ゲームの起源を進化心理学的に考えてみましょう。そして、ゲームの三大要素に重ねてみましょう。(1)コミュニケーションをするため -相手約2億年前に哺乳類が誕生し、生まれてからより多くの記憶を学習する脳を進化させました。たとえば、ネズミは、相手のネズミと上になったり下になったりするじゃれ合いをします(プレイ・ファイティング)。また、犬は、相手の犬に頭を下げてお尻を上げて尻尾を振るあいさつ遊びをします(プレイ・バウ)。それらは、人間の1歳児から好まれる、体が触れ合うじゃれ合いや「グーチョキパーでなにつくろう」「てをたたきましょう」などの手遊びに通じます。ゲームの起源の1つ目は、コミュニケーションです。相手との相互作用によって、身体感覚を発達させ、あいさつをはじめとするコミュニケーションを学習するようになったと考えられます。ゲームの三大要素の1つに重ね合わせると、コミュニケーションとして相手がいることです。相手とは、ゲームでいう対戦相手、競争相手、つまり敵に当たります。さらには、チームメイト、協力関係の相手、つまり味方も当てはまります。(2)トレーニングをするため -ルール約700万年前に人類が誕生し、約300~400万年前に相手の気持ちをくむ脳を進化させました(社会脳)。それは、2歳児から好まれる「おままごと」などのふり遊び、見立て遊び、ごっこ遊びに当たります。そして、約10~20万年前に喉の構造を進化させ、言葉を話すようになり、抽象的な思考ができるようになりました。それは、現代の4歳児から好まれる「鬼ごっこ」「カード遊び」などのルール遊びに通じます。ゲームの起源の2つ目は、トレーニングです。ルール遊びを理解することを通して、社会生活のルールの学習をトレーニングとして積み重ねるようになったと考えられます。ゲームの三大要素の1つに重ね合わせると、トレーニングとしてルールがあることです。ルールとは、ゲームでいう武器を揃えることや戦略に当たります。(3)シミュレーションをするため -勝ち負け約1万数千年前に農業革命が起こり、人間は、食料という富を蓄積し、定住するようになりました。すると、部族同士の縄張り争いや略奪、つまり戦争が頻発するようになりました。また、食料の取り置きが可能になったため、時間の余裕ができるようになりました。その暇つぶしや娯楽として、戦いのまねごと、シミュレーションをするようになったでしょう。それは、現代の大人からも好まれるスポーツなどの競技に通じます。ゲームの起源の3つ目は、シミュレーションです。競技で勝ち負けの結果を重視することを通して、実際の社会生活をうまく切り抜けるシミュレーションの能力を発達させるようになったと考えられます。ゲームの三大要素の1つに重ね合わせると、シミュレーションとして勝ち負けがあることです。勝ち負けとは、ゲームでいう得点、生死、結果に当たります。このように、ゲームが「ある」のは、コミュニケーション、トレーニング、そしてシミュレーションをして、生存や生殖に有利になる手段として発達したからと言えます。人類は、「ホモサピエンス」(賢い人)と呼ばれますが、それだけでなく、「ホモ・ルーデンス」(遊ぶ人)とも呼ばれています。これは、遊びという現実から離れた想像力を持つ人類という意味です。ただし、その想像力の賜物(たまもの)であるゲームが、これからの技術革新によって、生活を支える手段を超えて、生活(人生)のすべて、つまり目的そのものになってしまう時代に来ています。どうすれば良いの?それでは、そんな生活と結び付きを強めるゲームの特徴を踏まえて、ゲーム依存症にどうすれば良いのでしょうか? その対策を主に3つ挙げてみましょう。(1)オフラインの時間を設ける ―ゲームの制限ウェイドは、オアシスの運営者となり、新しい取り組みを進めます。彼は、「3つ目の変更はいまいちウケなかったけど、火曜日と木曜日はオアシスを休みにしたんだ。」「人には現実で過ごす時間も必要だよ」と言っています。1つ目の対策は、オフラインの時間を設ける、つまりゲームの制限です。たとえば、韓国では、オンラインゲームをするためのIDが必要で、ユーザーが16歳未満の場合は、0時から6時までオフラインになるシャットダウン制が設けられています(「シンデレラ法」)。個人だけでなく、家族や社会としての取り組みも重要になるでしょう。たとえば、家族全員でオフラインにする時間帯を設定するなど家族の一体感も利用できます。また、オフラインによる制限の程度は、アルコール依存症や薬物依存症などの物質の依存症と、過食嘔吐(摂食障害)や抜毛症や自傷行為(境界性パーソナリティ)などの行動の依存症の中間であると考えることができます。もちろん、ゲームをアルコールや薬物のように完全に断つ制限ができれば一番良いです。たとえば、それは、ゲームのメインアカウントを消去すること、刺激(キュー)となる通知も来ないようにすることです。しかし、ゲームは、デジタル機器との結び付きが強く、食べること、毛を抜くこと、リストカットをすることと同じくらい身近に溢れ手軽にできてしまう行動です。そのため、まず日常生活に差し障らない上限のお金や時間を決めて制限するのが現実的でしょう(ハームリダクション)。(2)現実の世界で社会生活をする ―「リアル」な体験ウェイドは、現実の世界で、サマンサ(アルテミスの実名)に「ここってゆっくりだね。風も人も」と言います。サマンサの住まいは自然の緑に囲まれており、オアシスの無機的な世界とのギャップに気付かされ、見ている私たちもほっとします。ラストシーンで、オアシスの開発者のハリデーはウェイドに「ようやく分かったんだよ。確かに現実はつらいし、苦しいし」「でも、唯一、現実の世界でしか、うまい飯は食えないってな。なぜなら、現実だけがリアルだから」と言っています。2つ目の対策は、現実の世界で社会生活をする、つまり「リアル」な体験です。つまり、ただゲームをしなければ良いというわけではなく、もともと人間に必要な社会生活を十分にすることです。なぜなら、私たちの脳は、原始の時代から大きく変わってはいないからです。そのために、ゲーム以外の、たとえば、相手に直接会ったり、スポーツをするなど、ゲームの代わりになる達成感や連帯感をあえて見いだし、安心感のない適度なストレスをあえて味わうことです。(3)子供に予防する ー低年齢化の予防ハリデーの子供時代、テレビゲームばかりしている様子が当たり前のように映し出されます。3つ目は、子供に予防する、つまり低年齢化の予防です。たとえば、使用時間帯と使用時間制限を書面にするなど、親子でルール作りをする取り組みです(ペアレンタル・コントロール)。フィルタリング機能やタイマー機能を駆使することもできます。同時に、先ほど触れたように、ほかの「リアル」な体験を一緒にすることです。学校や病院などの理解者、第三者を介入させるのも一案です。子供の予防対策が重要な理由は、ゲームの開始年齢が早いほど、ゲーム依存症の発症リスクが上がることが分かっているからです。子供の脳は、大人よりも刺激に敏感で、影響を受けやすいです(可塑性)。そして、影響を受けたら、大人よりも回復しにくいです。だからこそ、より刺激(嗜癖性)の強い、アルコールとタバコは20歳から、パチンコやポルノは18歳からと法律的に制限されています。ちなみに、スマートフォンのアプリでぐずる乳児をあやす、いわゆる「スマホ育児」は、どうでしょうか? とても危ういです。なぜなら、乳児には刺激が強すぎるからです。実際に、日本小児科医会からは「スマホに子守りをさせないで!」というポスターが出され、問題の提言がされています。現時点で、子供へのスマートフォンは制限されていないので、実質0歳から見せることができます。タバコは、麻薬へのゲートウェイ・ドラッグと言われます。「スマホ育児」は、ゲーム依存症への「ゲートウェイ・デジタルドラッグ」と言えるかもしれないです。よって、子供に早くからその「味」を覚えさせない取り組みが重要になります。そういう意味では、今後の社会的な取り組みとしては、刺激の強いゲームの宣伝を規制することになるでしょう。これは、ゲーム依存症の特徴でも触れたように、子供をなるべくゲームの刺激にさらさないことです。海外で映画の喫煙シーンがR指定になっているように、手がかり刺激(キュー)への反応性を高めなくするためです。私達の未来の生き方は? ―「幻」か「リアル」かパーシヴァルが「オアシスでは、結婚もできるし、離婚もできる」と説明するシーンがあります。その後、「オアシスで現実の世界で見つけられないものをやっと見つけた。生きがいとか。友達とか。愛も見つけた」とオアシスの住人に高らかに語るシーンもあります。彼はオアシスで大まじめで苦労もしています。自分は頼りにされていると実感もしています。オアシスで生きることが、人生そのものになっています。ストーリーの中では、現実の世界とうまくつながり、ハッピーエンドになりました。しかし、もしその達成感や連帯感、そして苦労さえもが、AI(人口知能)によって本人に都合良く作られたものだったらどうでしょうか?その答えに近いことをアルテミス(サマンサ)が答えています。彼女は、パーシヴァルに「あんたが見てるのは、私が見せたいと思ってる私」「私の夢に恋してるの」「あんたはリアルの世界に生きてない」「あんたが生きてるのは幻の中」と言い放っています。サマンサの父親は、課金による借金で強制労働をさせられて、現実の世界で死んでいました。彼女は、その敵討ちのためにオアシスの宝探しレースに参加していたのでした。彼女は、実は駆け引きに長けた現実主義者なのでした。ゲームと現実の世界の決定的な違いは、「幻」か「リアル」かです。「リアル」とは、単に食べ物が美味しい、セックスが気持ち良いだけでなく、仕事や人間関係がうまくいかないで逃げ出したくなる生々しい苦しさや葛藤も含まれます。そして、その「リアル」な苦労があるからこそ、些細な喜びにも意味を見いだせます。そして、苦労するからこその「リアル」な人間的成長があります。たとえば、山頂まで自分で登るのと、VRゴーグルを着けて空を飛んで登った気分になるのとでは、山頂に立つ喜びの「味」やそれを感じる「舌」の感度がまったく変わってくるということです。現在のゲームでも、時間とお金をかければ、自分に都合の良い理想の親友、パートナー、そして子供をつくることができます。それは、ユーザーが満足することを最優先にした「友情ごっこ」「恋愛ごっこ」「子育てごっこ」というコンテンツです。そこに、「リアル」な苦労はありません。その「幻」をどこまで生活(人生)の一部にするかです。つまり、「幻」をどこまで「リアル」の代わりとして望むかということです。私たちの未来の生き方が問われてきます。その生き方を見極めるために、3つの価値観を考えてみましょう。(1)「こうでなければならない」1つ目は、「こうでなければならない」という価値観です。これは、これまでの社会の価値観です。その社会構造としては、貧富の格差がありました。これは、約1万数千年前の農業革命によって生まれ、200年前の産業革命によって広がりました。その社会を生き残る個人の価値観としても、たとえば「親や先生の言うことを聞かなければならない」「友達と仲良くしなければならない」「勉強しなければならない」「仕事をしなければならない」「出世しなければならない」「結婚して子供を生まなければならない」「子育てをしなければならない」「子供を良い学校に行かせなければならない」「親の介護をしなければならない」という義務感がありました。そこには、親をはじめとする社会の同調圧力が個人に対して機能していました。同時に、その価値観に従ってさえいればうまくいくので、個人としても、あまり深く考えなくても良かったのでした。良く言えば、受け身で生きていれば良かった時代でした。(2)「どうであっても良い」ところが、時代が変わりつつあります。20世紀後半の情報革命により、社会よりも個人に重きがますます置かれるようになりました。「かけがえのない自分」「特別な存在」という自意識を根っこに、忍耐や自己犠牲よりも、個性や自己実現が尊ばれるようになりました。このような多様化した社会では、もはや「こうでなければならない」という価値観は通じにくくなります。そして、AI(人口知能)の登場です。貧富の格差を生み出す「面倒な仕事」がすべてAI化されたら、社会はどうなるでしょうか?2つ目は、「どうであっても良い」という価値観です。これは、これからの社会の価値観になるでしょう。2040年頃に「シンギュラリティ(技術的特異点)」というAIが人間の知能を超える転換点を迎えると言われています。その頃には、「生活革命」が起きるでしょう。それは、人間が何もしなくても生活(人生)が送れることです。ストーリーの設定である2045年のオアシスのように、「食う、寝る、遊ぶ(VRの世界で過ごす)」という生活が現実になるでしょう。この点で、現代の「ひきこもり」は、未来の生活を先駆けていると言えるかもしれません。彼らがますます増えているのも、彼らこそが時代の最先端だからとも言えるかもしれません。(3)「こうありたい」ただし、果たしてその生活は自分が望んでいるものでしょうか? 仕事をしないで遊んで暮らせているから、得しているようにも見えます。しかし、実はその分、何かを失って損しているかもしれないです。その生活は、安楽かもしれませんが、退屈で楽しくないかもしれません。なぜなら、やはり「リアル」な苦労をしていないからです。たとえば、それは、「友達とけんかする」「第一志望の学校に落ちる」「がんばっても仕事がうまく行かない」「交際相手から振られる」「夫婦喧嘩をする」「子供の夜泣きで眠れない」「子供が反抗期になる」「親が認知症になる」などの生々しい人生経験です。これらの「リアル」な苦労をしてこそ得られる人間的成長やそれを乗り越えた時の喜びがあります。なぜなら、先ほどにも触れましたか、私たちの脳は、ほとんど原始の時代のままだからです。原始の時代の環境と同じく、苦労することもセットであってこそ脳は恒常性(ホメオスタシス)を保つからです。ちょうど飽食の現代だからと言って食べ過ぎたりお酒を飲み過ぎたりすると、また便利な時代だからと言って運動不足になると不健康になるのと同じです。AIの時代だからと言って、ストレスフリー、つまり「ストレス不足」になると、不健康になるとも言えるでしょう。それでは、ストレスフルながらも人間的成長やその喜びを得るための価値観とは何でしょうか?3つ目は、「こうありたい」という価値観です。たとえば、けんかしながらも相手の気持ちに思いをはせることで、相手のことをより深く理解できるようになります。雑務を含め自分が最初から最後までかかわった仕事だからこそ思い入れや、やりがいを感じます。腹を立てながらも粘り強く子供の面倒を見ることで子供への愛情が深まり、そして子供からの愛着も深まります。逆に言えば、AIを相手にしていたら、「リアル」なコミュ力は高まりません。AIに仕事を任せたら、仕事をこなす能力も思い入れも高まりません。AIに子育てを任せたら、子供が懐くのはAIであり、自分ではなくなるかもしれません。つまり、自分が納得して「こうありたい」と主体的に思う気持ちが重要になっていきます。そして、その程度は、人それぞれになっていくでしょう。それは、未来の社会構造を大きく揺るがす、文化の較差と言えます。進化心理学的に言えば、受け身なままで安楽に生きれば、遺伝子(ジーン)も文化(ミーム)も残せません。残す人が、その先の未来をつくります。つまり、何をしたいか、何を与えたいか、そして何を残したいかは自分次第であることをますます問われる時代になってきました。そして、どういう自分になりたいか、どういう生き方を子供(次の世代)に伝えたいか、そしてどういう社会をつくっていきたいかを考えさせられます。「レディプレーヤー1」とは?「レディプレーヤー1」とは、初期のテレビゲームの最初に表示される「プレーヤー1、準備を」という意味です。原作者の思い入れからタイトルとされました。これを先ほどの3つの生き方に重ね合わせると、かつて人生はプレーヤーの1人としてクリアすべきという価値観がありました。つまり、人生は苦労しなければならないという考え方です。今や、人生はプレーヤー1(主役)として好きに生きていける価値観が広がりつつあります。これは、人生は苦労しなくても良いという考え方です。そして、その先は、「リアル」な人生のプレーヤー1(主役)としての「レディ」(心構え)をより意識する価値観が生き残ると言えるでしょう。つまり、人生は苦労したいという考え方です。この映画から、「リアル」な人生という苦労する「ゲーム」を通して、今、その瞬間の苦労をあえて買って出る、その苦労に意味付けをすることの大切さに気付くことができるのではないでしょうか? そして、「幻」への受け身ではなく、「リアル」への働きかけの大切さをより学ぶことができるのではないでしょうか?■関連記事(外部サイト含む)2019年サンプルスライド「嗜癖性障害」「カイジ」と「アカギ」(前編)【ギャンブル依存症とギャンブル脳】酔いがさめたら、うちに帰ろう。(前編)【アルコール依存症】酔いがさめたら、うちに帰ろう。(後編)【アルコール依存症】だめんず・うぉ~か~【共依存】1)スマホゲーム依存症:樋口進、内外出版社、20182)インターネット・ゲーム依存症:岡田尊司、文春新書、20153)進化発達心理学―ヒトの本性の起源:D.F.ビョークランドほか、新曜社、2008

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低線量CTの肺がんスクリーニング、5年以上実施で10年生存が改善/Ann Oncol

 肺がんスクリーニングは肺がん死を減少するのか。National Lung Screening Trial(NLST)では、低線量CTによる年1回3年間の肺がんスクリーニングが肺がん死を減少させたことが示されている。イタリア・Foundation IRCCS国立がん研究所のUgo Pastorino氏らは、低線量CTによるさらに長期のスクリーニングについて評価する前向き無作為化臨床試験「Multicentric Italian Lung Detection:MILD試験」を行った。その結果、5年を超える長期スクリーニングは、NLST研究と比較し、早期発見のベネフィットの増強が可能であり、全死亡および肺がん死を大きく減少できる可能性が認められたという。Annals of Oncology誌オンライン版2019年4月1日号掲載の報告。 研究グループは、49~75歳の喫煙歴のある試験参加希望者4,099例を、低線量CTによるスクリーニングを実施する介入群(2,376例)と、実施しない対照群(1,723例)に無作為に割り付けた。介入群ではさらに、年1回群(1,190例)と隔年群(1,186例)に無作為に割り付け、中央値で6年間のスクリーニングを実施した。 主要評価項目は、10年間の全死亡および肺がん特異的死亡であった。低線量CTによるスクリーニングの長期効果を検討するため、最初の5年間における肺がん発症および死亡を除外したランドマーク分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・2005~18年までに、3万9,293人年の追跡調査が行われた。・介入群では対照群と比較し、10年で肺がん死亡リスクが39%減少し(HR:0.61、95%CI:0.39~0.95)、全死亡リスクが20%減少した(HR:0.80、95%CI:0.62~1.03)。・低線量CTのベネフィットは、5年目以降のスクリーニングも改善した。肺がん死亡リスクは58%減少(HR:0.42、95%CI:0.22~0.79)、全死亡リスクも32%減少した(HR:0.68、95%CI:0.49~0.94)。

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高血圧治療ガイドライン2019で降圧目標の変更は?

 本邦における高血圧有病者は約4,300万人と推計される。このうち、治療によって良好なコントロールが得られているのは30%以下。残りの70%は治療中・未治療含め血圧140/90mmg以上のコントロール不良の状態となっている。2014年以来5年ぶりの改訂となる「高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)」では、一般成人の降圧目標値が引き下げられ、より早期からの非薬物治療を主体とした介入を推奨する内容となっている。 4月25日の「高血圧治療ガイドライン2019」発表を前に、日本高血圧学会主催の記者発表が4月19日に行われ、平和 伸仁氏(横浜市立大学附属市民総合医療センター)が改訂点やその作成経過について解説した。家庭血圧 vs.診察室血圧、厳格治療 vs.通常治療などCQ方式で推奨度を明記 高血圧治療ガイドライン2019では、初めてClinical Question(CQ)方式、Systematic Review(SR)方式が採用され、エビデンスに基づく17のCQが作成された。また、エビデンスが十分ではないが、医療者が実臨床で疑問を持つ課題として9のQ(クエスチョン)を設定。コンセンサスレベルでの推奨が解説されている。 作成されたCQは、「成人の本態性高血圧患者において、家庭血圧を指標とした降圧治療は、診察室血圧を指標とした治療に比べ、推奨できるか?(CQ1)」、「降圧治療において、厳格治療は通常治療と比較して心血管イベントおよび死亡を改善するか?(CQ3)」、「高血圧患者における減塩目標6g/日未満は推奨されるか?(CQ4)」など。推奨の強さが3段階、エビデンスの強さが4段階でそれぞれ評価されている。 Qについては、2021年以降製造・輸出入が禁止される水銀血圧計に代わって何を推奨するか(Q1)、家庭血圧はいつ/何回/何日間の測定を推奨するか(Q2)などの項目が設けられた。基準値は変更なし、ただし120/80mmHg以上は定期的な再評価と早期介入を推奨 高血圧治療ガイドライン2019での高血圧の基準値は、2014年版と同じく140/90mmHg以上。一方で、正常域血圧の名称と拡張期血圧の範囲が、一部変更された:・至適血圧:120/80mmHg未満→正常血圧:120/80mmHg未満・正常血圧:120~129/80~84mmHg→正常高値血圧:120~129/80mmHg未満・正常高値血圧:130~139/85~89mmHg→高値血圧:130~139/80~89mmHg 背景には、120~139/80~89mmHgでは生涯のうちに高血圧へ移行する確率が高く、120/80mmHg未満と比較して脳心血管リスクが高いというデータがある。そのため、高血圧治療ガイドライン2019では基準値以下である高値血圧あるいは正常高値血圧の段階から、早期介入が推奨されている。2014年版では、I度高血圧以上のみ年齢や合併症の有無によって層別化されていた脳心血管病リスクが、高値血圧についても低~高リスクに分類された(表3-2)。また、高血圧管理計画は、高値血圧や正常高値血圧についてもフローチャートの形で整理され、初診時の血圧レベルに応じた再評価時期、治療法選択の考え方が示されている(図3-1)。なぜ高血圧治療ガイドライン2019で降圧目標が10mmHgずつ引き下げられたか 合併症のない75歳未満の成人および脳血管障害患者、冠動脈疾患患者については、高血圧治療ガイドライン2019では130/80mmHg未満、75歳以上の高齢者については140/90mmHg未満に、それぞれ降圧目標値が10mmHgずつ引き下げられた。この背景には、日本人対象のJATOS、VALISH、HOMED-BPなどを含む介入試験のメタ解析結果(CQ3)と、EPOCH-JAPANや久山町研究などのコホート研究結果があるという。 厳格治療群と通常治療群を比較したRCTのメタ解析では、厳格治療群で複合心血管イベントおよび脳卒中イベントリスクが有意に低く、130/80mmHgを目標とする厳格治療のメリットが示された。またEPOCH-JAPANでは、120/80mmHg未満と比較して血圧レベルが上昇するにつれ脳心血管死亡リスクが高まることが示されている。 高血圧治療ガイドライン2019では、高齢者は130 mmHg未満への降圧による腎障害などに注意を要するため、140/90mmHg未満とされたが、「忍容性があれば個別に判断して130/80mmHg未満を目指す」とされている。高血圧治療ガイドライン2019で従来より厳格な薬物治療が求められる患者とは? とはいえ、「この目標値は、すべての患者における降圧薬による降圧目標ということではない」と平和氏は重ねて強調。初診時あるいは降圧薬治療中で130/80mmHg台、低・中等リスクの患者では、生活習慣修正の開始・強化が推奨されている。脳心血管病や糖尿病などの合併症のある高リスク患者でのみ、「降圧薬治療の開始/強化を含めて、最終的に130/80mmHg未満を目指す」とされた。 2014年版と比較して、高血圧治療ガイドライン2019で生活習慣修正の上で薬物による降圧強化が新たに推奨された病態としては、下記が挙げられている:◇130~139/80~89mmHgで、以下のいずれか・75歳未満の高リスク患者※・脳血管障害患者(血管狭窄なし)・冠動脈疾患患者※高リスク患者の判定: ・脳心血管病既往 ・非弁膜症性心房細動 ・糖尿病 ・蛋白尿陽性のCKD ・65歳以上/男性/脂質異常症/喫煙の4項目のうち、3項目以上がある ・上記4項目のうちいずれかがあり、血圧160/100mmHg以上 ・血圧180/110mmHg以上◇75歳以上で、収縮期血圧140~149mmHg

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心房細動を防ぐ生活習慣、3階なら階段で/日本循環器学会

 国立循環器病研究センターでは2年前、心房細動罹患予測確率を計算する吹田心房細動リスクスコアを開発した。しかし、心房細動発症予防のための生活習慣に関するエビデンスは、わが国では喫煙と飲酒のみときわめて少ない。今回、国立循環器病研究センター予防健診部の小久保 喜弘氏らは、吹田研究を用いて心房細動になりにくい健康的な生活習慣の指標を検討し、それを吹田心房細動リスクスコアに加えることにより予測能が向上することを示した。健診や日常外来で用いることにより、心房細動の予防啓発につながることが期待される。2019年3月29~31日に開催された第83回日本循環器学会学術集会にて発表された。理想の生活習慣の因子別に心房細動罹患調整ハザード比を算出 本研究では、健診受診者のうち、ベースライン時検査で心房細動有病者を削除した6,195人(30~79歳)を平均14年間追跡した。ベースライン時に、基本の健診の他に健康アンケート、生活習慣問診(食事、身体活動、睡眠、ストレス)、既往歴/現病歴を聴取した。食事については122項目の半定量食物摂取頻度調査を実施し、個人の平均的な食事からの栄養素、食品を集計した。追跡期間中の心房細動の判断については、2年に1回の健診受診時に心電図検査で心房細動・心房粗動(持続性・一過性)が認められた場合、問診現病歴で心房細動と認められた場合、診療録に心房細動を確認し認めた場合、原死因で心房細動を認めた場合のいずれか早い時点で、心房細動ありとして打ち切りとした。エンドポイントは、最終の健診受診日、最新の発症登録日、2015年12月末とし、Cox比例ハザードモデルを用いて解析した。 心房細動になりにくい健康的な生活習慣の指標を検討した主な結果は以下のとおり。・8万6,957人年の追跡期間中、257人の心房細動罹患が観察された(男性:4.7/1,000人年、女性:2.1/1,000人年)。これは、日本の人口で計算すると毎年45万人以上が発症していることになる。・理想の生活習慣の因子別による心房細動罹患調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりであった。- 健康的な食生活:「大豆製品(豆腐換算で半丁/日程度以上)」「野菜300g/日以上」「魚5回/週」「減塩(6g/日未満)」「清涼飲料水を控える」の5項目のうち3項目以上満たした場合、0.51(0.30~0.85)- 健康的な身体活動:「3階に上がるときに階段を利用する割合」が6割以上ある場合、0.72(0.53~0.98)- 健康的な睡眠時間:「6時間以上」で0.77(0.59~0.99)- タバコを吸わないこと:0.71(0.53~0.95)- 適正飲酒以下(男性:1合/日以下、女性:半合/日以下):0.61(0.44~0.85)・上記の理想の生活習慣因子5項目のうち、0または1個のみを満たす場合を基準とすると、3個満たす場合の心房細動罹患リスクは3分の1、4個以上満たす場合は4分の1となった。・理想の生活習慣因子を吹田心房細動リスクスコアに追加することで、C統計量は0.748から0.766と有意(p<0.05)に高まり、予測能が向上することが示された。

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失業と不眠症との関連

 順天堂大学の前田 光哉氏らは、雇用形態と不眠症関連症状との関連について調査を行った。Industrial Health誌オンライン版2019年3月27日号の報告。 日本の国民生活基礎調査2010のデータより、20~59歳の4万3,865人の匿名データを分析した。雇用形態は、正規雇用、非正規雇用、自営業、その他、失業者、非労働力の6カテゴリで定義した。不眠症関連症状の性別特異的オッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を算出するため、交絡因子で調整した多変量ロジスティック回帰分析を用いた。さらに、精神疾患、喫煙状況、年齢による層別分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・男性における不眠症関連症状の多変量ORは、失業者で2.5(95%CI:1.8~3.4)、非労働力で2.1(95%CI:1.2~3.7)であった。・女性における不眠症関連症状の多変量ORは、失業者で1.9(95%CI:1.5~2.5)であった。・精神疾患で層別分析を行ったところ、この関連性は、精神疾患のない人において、より明確であった。なお、喫煙や年齢との関連性は認められなかった。 著者らは「失業または非労働力男性において、不眠症関連症状の有意に高いORが認められた。そして、この関連性は、精神疾患のない人において、とくに明確であった」としている。■関連記事仕事のストレスとベンゾジアゼピン長期使用リスクとの関連仕事のストレスが大きいほど、うつ病発症リスクは高い:獨協医科大学仕事の早期リタイアは認知症リスクを高める

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がんゲノム解析と電カルの統合データが治療効果と関連/JAMA

 非小細胞肺がん(NSCLC)の患者を対象に、ルーチンの診療から得た電子健康記録(EHR)と網羅的ゲノム解析(CGP)をリンクしたデータが、治療選択などに有効であることが明らかにされた。遺伝子のドライバー変異と標的治療の有効性の関連や、遺伝子変異数(TMB)と抗PD-1/PD-L1療法反応性との関連などが確認されたという。米国企業Foundation MedicineのGaurav Singal氏らが、約2万9,000例のがん患者データベースの中から、NSCLC患者4,000例超について解析し明らかにしたもので、JAMA誌2019年4月9日号で発表した。今回の成果について著者は「ルーチンの診療に由来する臨床ゲノムデータベースの構築が可能であることを示すもので、オンコロジーにおけるこのようなアプローチを評価する、さらなる研究と発見があることを支持することが示された」とまとめている。 がんゲノミクスと患者の臨床アウトカムなどを探索的解析 研究グループは、米国内275ヵ所のがん診療外来患者2万8,998例について、EHR臨床データとCGPをリンクしたデータを基に試験を行った。2011年1月~2018年1月のデータが入手できたNSCLC患者4,064例のデータについて、がんゲノミクスと患者の臨床アウトカムを含む特徴との関連性を探索的に検証した。 具体的には、ドライバー変異を含む腫瘍CGP、TMB、EHRから得られた臨床的特徴と、全生存期間(OS)、治療を受けた期間、最大治療反応性(EHRの治療担当医による記録で確認)、治療の臨床的有効性(安定[SD]、部分奏効[PR]、完全奏効[CR]の患者割合)の関連を調べた。ドライバー変異、標的治療で生存期間7ヵ月超延長 NSCLC患者4,064例の年齢中央値は66.0歳、女性の割合は51.9%、喫煙歴ありは3,183例(78.3%)だった。3,153例(77.6%)が非扁平上皮NSCLCで、EGFR、ALK、ROS1に遺伝子変異が認められたのは、それぞれ701例(17.2%)、128例(3.1%)、42例(1.0%)だった。また、7年間で1,946例が死亡した。 ドライバー変異患者のうち、標的治療を受けた575例は受けなかった560例に比べ、OSが改善し、進行が診断されてからの生存期間中央値はそれぞれ18.6ヵ月(95%信頼区間[CI]:15.2~21.7)、11.4ヵ月(9.7~12.5)だった(p<0.001)。 TMBは、喫煙者が8.7(IQR:4.4~14.8)と、非喫煙者の2.6(1.7~5.2)より有意に高かった(p<0.001)。また遺伝子変異のある人が、ない人に比べ有意に低く、EGFRに関しては変異あり群3.5(1.76~6.1)vs.なし群7.8(3.5~13.9)(p<0.001)、ALKは同2.1(0.9~4.0)vs.7.0(3.5~13.0)(p<0.001)、RETは4.6(1.7~8.7)vs.7.0(2.6~13.0)(p=0.004)、ROS1は4.0(1.2~9.6)vs.7.0(2.6~13.0)(p=0.03)だった。 抗PD-1/PD-L1療法を行った1,290例(31.7%)についてみると、TMB値が20以上群は20/Mb未満群に比べOSが延長し(16.8ヵ月[95%CI:11.6~24.9]vs.8.5ヵ月[7.6~9.7]、p<0.001)、長期間治療を受けていた(7.8ヵ月[5.5~11.1]vs.3.3ヵ月[2.8~3.7]、p<0.001)。臨床的有効となった患者割合も高率だった(80.7% vs.56.7%、p<0.001)。

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ペットと肺がん死亡率に意外な関連

 わが国でもペットを飼っている人は多く、ここ数年はネコがイヌを上回っている。今回、米国ジョージアサザン大学のAtin Adhikari氏らは、米国の全国コホートにおける18年間の追跡調査で、ネコを飼っている女性は飼っていない女性に比べ、肺がん死亡率が2.85倍と有意に高かったことを報告した。ペットによるこの影響は、喫煙やアトピー性疾患の交絡によって説明されないという。Environmental Research誌2019年2月25日号に掲載。 この研究の対象は、1988~94年の米国国民健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey:NHANES)IIIにおいて、ペット所有に関する質問に回答した19歳以上の1万3,725人で、2010年12月31日まで追跡調査を行った。 主な結果は以下のとおり。・対象者の約43%がペットを飼っており、20.4%がネコ、4.6%が鳥を飼っていた。・18万3,094人年(unweighted)の追跡期間中に肺がんで213人死亡し、肺がん特異的死亡率は1,000人年当たり1.00であった。・喫煙・飲酒・身体活動・BMI・アトピー性疾患歴・血清中コチニンについて調整後、女性では、ペット所有者は非所有者に比べて、肺がん死亡率が2倍以上であった(ハザード比[HR]:2.31、95%信頼区間:1.41~3.79)。ペット別のHRは、ネコが2.85(1.62~5.01)、鳥が2.67(0.68~10.5)、イヌが1.01(0.57~1.77)で、ネコおよび鳥の所有がこの関連に大きく起因していた。・男性では、ペットの有無やペットの種類にかかわらず、有意な関連はみられなかった。

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コーヒーは5杯未満が有益?日本人の死亡率への影響

 これまでのコホート研究で、コ―ヒー摂取によるがん、心疾患、呼吸器疾患などへの良い影響が示唆されている。今回、国立がん研究センターによる「科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」で、コーヒー摂取による日本人の全死因および死因別死亡リスクへの影響について、日本の8つのコホート研究(Japan cohort consortium)のプール解析を行った。その結果、コーヒー1日5杯未満の摂取で全死因死亡や主な死因による死亡リスクが低下する可能性が示唆された。Preventive Medicine誌オンライン版2019年4月2日号に掲載。 本解析には、日本の8つのコホート研究(JPHC-IとJPHC-IIの多目的コホート研究、JACC研究、宮城県コホート研究、大崎国保コホート研究、三府県宮城コホート研究、三府県愛知コホート研究、三府県大阪コホート研究)における男性14万4,750人、女性16万8,631人のデータを用いた。17年間の平均追跡期間中に5万2,943人が死亡し、うち、がん1万9,495人、心疾患7,321人、脳血管疾患6,387人、呼吸器疾患3,490人、傷害・事故3,382人であった。ランダム効果モデルを用いて、統合ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・男女共に、コーヒー5杯/日未満の摂取が全死因死亡に予防的であり、コーヒー摂取量が最も高いカテゴリー(5杯/日以上)で関連が減弱した。・男性では、がん以外の主な死因による死亡で同様の負の関連が観察された。・女性では、1~2杯/日のカテゴリーでは、コーヒー摂取により心臓病による死亡リスクが減少したが、5杯/日以上のカテゴリーではリスクが増加した。・男女共に、がんはコーヒー摂取とは関連がみられなかった。・男性の現在喫煙者と女性の未喫煙者で結果が類似していた。

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