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抗糸球体基底膜抗体病〔anti-glomerular basement membrane(GBM) disease〕

1 疾患概要■ 定義抗糸球体基底膜抗体病(anti-glomerular basement membrane disease:抗GBM病)とは、抗GBM抗体によって引き起こされる予後不良の腎・肺病変を指す。このうち腎病変を「抗GBM抗体型(糸球体)腎炎」または「抗糸球体基底膜腎症」と呼ぶ。本疾患の最初の記載は古く1919年Goodpastureによるが、のちに肺と腎に病変を生ずる症候群として後に「Goodpasture症候群」と呼ばれるようになった1,2)。■ 疫学頻度は比較的まれであり、発症率は人口100万人当り0.5~1.0人/年とされる。厚生労働省の調査によると、平成18年度までに集積された1,772例の急速進行性糸球体腎炎(RPGN)症例のうち抗GBM抗体型腎炎は81例(4.6%)、肺出血を伴うGoodpasture症候群は27例(1.5%)、抗GBM病は合計6.1%であった。抗GBM抗体型腎炎の平均年齢は61.59歳(11~77歳)、Goodpasture症候群の平均年齢は70.88歳(57~93歳)と高齢化が進んでいる3)。■ 病因自己抗体である抗GBM抗体が原因と考えられており、腎糸球体と肺胞の基底膜に結合し、基底膜を破綻させて発症する。抗GBM抗体の対応抗原は、糸球体基底膜や肺毛細血管基底膜に分布するIV型コラーゲンα3鎖のC末端noncollagenous domain1(NC1ドメイン)の、N末端側17-31位のアミノ酸残基(エピトープA:EA)ないしC末端側127-141位のアミノ酸残基(エピトープB:EB)である4,5)。このうち、EBエピトープを認識する抗体が腎障害の重症化とより関連すると推定されている。IgGサブクラスでは、IgG1とIgG3が重症例に多いとの報告もある。α5鎖のNC1ドメインEA領域も抗原となりうる。通常の状態においては、これらの抗原エピトープはIV型コラーゲンα345鎖で構成された6量体中に存在し、基底膜内に埋没している(hidden antigen)。抗GBM抗体型腎炎では、感染症(インフルエンザなど)、吸入毒性物質(有機溶媒、四塩化炭素など)、喫煙などにより肺・腎の基底膜の障害が生じ、α345鎖の6量体が解離することで、α3鎖、α5鎖の抗原エピトープが露出し、これに反応する抗GBM抗体が産生される。この抗GBM抗体の基底膜への結合を足掛かりに、好中球、リンパ球、単球・マクロファージなどの炎症細胞が組織局所に浸潤し、さらにそれらが産生するサイトカイン、活性酸素、蛋白融解酵素、補体、凝固系などが活性化され、基底膜の断裂が起こる。腎糸球体においては、断裂した毛細管係蹄壁から毛細血管内に存在するフィブリンや炎症性細胞などがボウマン囊腔へ漏出するとともに、炎症細胞から放出されるサイトカインなどのメディエーターによってボウマン囊上皮細胞の増殖、すなわち細胞性半月体形成が起こる。後述のように、以前より抗GBM抗体と抗好中球細胞質抗体(ANCA)の両者陽性の症例の存在が知られており、抗GBM抗体型腎炎症例の多くで、発症の1年以上前から低レベルのANCAが陽性となっているとの報告がある。ANCAによりGBM障害が生じ、抗原エピトープが露出する可能性が推測されている。最近、MPOと類似構造をもつperoxidasinに対する抗体が抗GBM病の患者から発見されたと報告され、病態における意義が注目される6)。また、以前より感染が契機になることが推測されているが、最近、Actinomycesに存在するα3鎖エピトープと類似のペプチド断片がB細胞、T細胞に認識され抗GBM病の発症に関与することを示唆する報告がなされている7)。■ 症状・所見症状は、肺出血による症状のほか、倦怠感や発熱、体重減少、関節痛などの全身症状が高頻度で見られる8)。初発の症状としては、全身倦怠感、発熱などの非特異的症状が最も多い。肉眼的血尿も比較的高頻度で見られる。タバコの喫煙歴、直近の感染の罹患歴を調べることも重要である。■ 分類2012年改訂Chapel Hill Consensus Conference(CHCC)分類では、抗GBM病は、基底膜局所でin situ免疫複合体が形成されて生ずる病変であるため、免疫複合体型小型血管炎に分類されている9)。抗GBM病は、(1)腎限局型の抗GBM抗体型腎炎、(2)肺限局型抗GBM抗体型肺胞出血、(3)腎と肺の双方を障害する病型(Goodpasture症候群)の3つに分けられる。肺胞出血を伴う場合と伴わない場合があり、遅れて肺出血が見られることもある。2012年に改訂されたChapel Hill Consensus Conference(CHCC)分類では、抗GBM抗体陽性の血管炎を抗GBM病(anti-GBM disease)とし、肺と腎のどちらかあるいは両者が見られる病態を含むとしている。腎と肺の双方を障害する病型はGoodpasture症候群と呼ばれる。■ 予後予後規定因子としては、治療開始時の腎機能、糸球体の半月体形成率が挙げられる。Levyらは85例の抗GBM抗体型腎炎患者の腎予後を後ろ向きに検討し、治療開始の時点で、血清Cr値が5.7mg/dL以上または透析導入となった重症例、半月体が全糸球体に及ぶ場合は腎予後不良としている10)。抗GBM抗体価と腎予後・生命予後については、一般に、高力価の抗GBM抗体陽性所見は予後不良因子と考えられている。Herodyらは、診断時の腎機能、無尿、腎生検所見とともに抗GBM抗体価が有意な腎予後不良因子であったと報告している11)。2001年のCuiらの報告でも、抗GBM抗体価が患者死亡の独立した予知因子であることが示されている12)。抗GBM抗体が陰性となり、臨床的に寛解に至ればその後の再燃はまれである。ただし、初発時より長年経過して再発した例も報告されているため、経過観察は必要である。ANCA同時陽性例では抗GBM抗体単独陽性例よりも再燃が多い傾向にある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 検査所見全例で、血尿と腎炎性尿所見、血清クレアチニン値の急上昇、強い炎症所見(CRP値高値)を認める。肉眼的血尿のこともある。尿蛋白もさまざまな程度で見られ、時にネフローゼレベルに達することもある。貧血も高度のことが多い。抗GBM抗体が陽性となり、確定診断に必須である。抗GBM抗体値は病勢とほぼ一致し、治療とともに陰性化することが多い。抗GBM抗体とANCA(とくにMPO-ANCA)の両者が陽性になる症例が存在し、抗GBM抗体型腎炎のANCA陽性率は約30%、逆に、ANCA陽性患者の約5%で抗GBM抗体が陽性と報告されている13)。腎生検、高度の半月体形成性壊死性糸球体腎炎の病理所見が見られる。蛍光抗体法では、係蹄壁に沿ったIgGの線状沈着を示す。■ 診断と鑑別診断診断基準は以下の通りである。1)血尿(多くは顕微鏡的血尿、まれに肉眼的血尿)、蛋白尿、円柱尿などの腎炎性尿所見を認める。2)血清抗糸球体基底膜抗体が陽性である。3)腎生検で糸球体係蹄壁に沿った線状の免疫グロブリンの沈着と壊死性半月体形成性糸球体腎炎を認める。上記の1)および2)または1)および3)を認める場合に「抗糸球体基底膜腎炎」と確定診断する。鑑別としては、臨床的に急速進行性糸球体腎炎を示す各疾患(ANCA関連腎炎、ループス腎炎など)や急性糸球体腎炎を示す疾患が挙げられるが、検出される抗体により鑑別は通常容易である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)治療の目標は、可及的速やかに腎・肺病変を改善すると同時に、病因である抗GBM抗体を取り除くことである。腎予後が期待できず、肺出血が見られない場合を除き、ステロイドパルス療法を含む高用量の副腎皮質ステロイドと血漿交換療法による治療を早急に開始する12,14)。シクロホスファミドの併用が推奨されている。血漿交換は、血中から抗GBM抗体が検出されなくなるまで頻回に行う。重要なのは、治療が遅れると腎予後は著しく不良となる、腎機能低下が軽度の初期の段階で、全身症状・炎症所見・腎炎性尿所見などから本疾患を疑うことである。初期治療時は通常6~12ヵ月間免疫抑制療法を継続する。通常、抗GBM抗体が陰性であればそれ以上の長期維持治療は必要ない。末期腎不全患者に対する腎移植は、抗GBM抗体が陰性化してから6ヵ月後以降に行う15)。4 今後の展望B細胞をターゲットとした抗CD20抗体(リツキシマブ)が有効であったとの症例報告があるが、有用性は不明である。黄色ブドウ球菌由来のIgG分解活性を持つエンドペプチダーゼ(imlifidase:IdeS)の臨床試験が現在進行中である(NCT03157037)。5 主たる診療科腎臓内科、呼吸器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 抗糸球体基底膜腎炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Goodpasture EW. Am J Med Sci. 1919;158:863-870.2)Benoit, LFL,et al. Am J Med. 1964;37:424-444.3)Koyama A, et al. Clin Exp Nephrol. 2009;13:633-650.4)Pedchenko V, et al. N Engl J Med. 2010;363:343-354.5)Chen JL, et al. Clin J Am Soc Nephrol. 2013;8:51-58.6)McCall AS, et al. J Am Soc Nephrol. 2018;29:2619-2627)Gu Q, et al. J Am Soc Nephrol. 2020;31:1282-1295. 8)Levy JB, et al. Kidney Int. 2004;66:1535-1540.9)Jennette J, et al. Arthritis Rheum. 2012;65:1-11.10)Levy JB, et al. Ann Intern Med. 2001;134:1033-1042.11)Herody M, et al. Clin Nephrol. 1993;40:249-255.12)Cui Z, et al. Medicine(Baltimore). 2011;90:303-311.13)Levy JB, et al. Kidney Int. 2004;66:1535-1540.14)KIDIGO Clinical Practice Guideline. Anti-glomerular basement membrane antibody glomerulonephritis. Kidney Int. 2012(Suppl2):233-242.15)Choy BY, et al. Am J Transplant. 2006;6:2535-2542.公開履歴初回2020年08月18日

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COVID-19患者の約7割は転帰良好/国立国際医療研究センター

 8月7日、国立国際医療研究センターはメディア向けに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)をテーマとし、「COVID-19レジストリ研究の中間報告」のセミナーを開催した。 セミナーでは、2020年1月から現在まで収集された約4,800例のCOVID-19患者のデータから患者の入院時症状の傾向、予後、重症化傾向などの中間解析結果が説明された。COVID-19患者5,977例を精査 はじめに同センター理事長の國土 典宏氏が、東京・新宿区におけるセンターの意義、患者数の推移・傾向、患者対応などを説明した。 今回の研究では、センターで診療した5,977例(うち陽性1,335例、22.3%)の症例で検討がなされたこと、患者数も一度減少したものの、最近では増加傾向にあり、東京都の感染者数の拡大とパラレルであることが説明された。 センターでは、COVID-19対応総合病院機能として、検疫、重症者対応、診断法・治療法の開発、行政との連携だけでなく、疫学としてゲノム解析や患者レジストリにも力を入れていくと展望を述べた。全国748施設から4,797例を解析 続いて同センターのAMR臨床リファレンスセンターの松永 展明氏と同感染症センターの大津 洋氏が「COVID-19 レジストリ研究に関する中間報告について」をテーマに、レジストリ体制、システムの概要ならびに中間解析の結果について説明を行った。 レジストリ研究の概要について、目的は「COVID-19患者の臨床像および疫学動向を明らかにする」と定め、対象は「COVID-19と診断され医療機関において入院管理されている症例」と規定し、2020年1月(レジストリオープンは3月)からデータ収集されている(詳細は下記のホームページ参照)。 レジストリシステムは、世界保健機関とISARICが作成した症例報告書テンプレートを使用し、日本独自調査の項目も追加。センター内にサーバを設置し、データの集積が行われており、将来的には他国のデータとの統合分析も予定できる設計という。レジストリの登録施設は、全国で748施設、登録症例数は4,797例(8月3日現在)に上る。男性・高齢者・喫煙者や併存疾患のある例は重症化 続いて感染症センターの早川 佳代子氏が解析結果を説明した。中間解析の対象は、約230施設、約2,700例であり、レジストリ開設から7月7日までに登録された「入院治療を行った患者かつ入院時SARS-CoV-2陽性の患者」について行われた。 重症度の内訳として、入院後最悪の状態では「酸素不要」(61.8%)、「酸素要」(29.7%)、「挿管など」(8.5%)だった。入院中に酸素不要であった軽症者は約60%、挿管や体外式膜型人工肺(ECMO)を要した例は8.5%だったほか、入院時に重症であった例では、5人に1人以上が挿管やECMOを要したが、非重症であった例では2%未満だった。 患者背景では、2週間以内に陽性例や疑い例と濃厚接触があった例が58.3%。男性で喫煙者では重症化しやすかったほか、酸素や挿管などを要した患者は年齢が高めであった。また、60代以降では重症化しやすい(=酸素投与・挿管などが必要)傾向がみられた。 併存疾患では、軽症糖尿病(14.2%)、高脂血症(8.2%)、脳血管障害(5.5%)などがみられ、海外(一例としてイギリス:軽症糖尿病[22%]、重症糖尿病[8.2%]、 肥満[9%])の入院患者報告に比べると、併存疾患の割合は低めだった。 入院時の症状では、(37.5度以上)発熱、咳、倦怠感、呼吸困難感が多く、軽症例では頭痛、味覚障害、嗅覚障害を訴える例が多かった(発症から入院までの中央値:7日間)。とくに味覚障害と嗅覚障害の頻度は、海外からの報告でもばらつきが大きいものの、今後症状として増える可能性があると指摘した。 薬剤の使用歴について(併用例もそれぞれカウント)、酸素不要、酸素要、挿管などのいずれでも「ファビピラビル」が一番多く、次にシクレソニドだった。挿管などが必要な患者ではステロイドの使用も多かった。なお、有効性などの中間解析は未解析としている。 退院時の転帰について、全体で自宅退院(66.9%)が最も多く、ついで転院(16.6%)、医療機関以外への施設への入所(7.4%)で、入院死亡は7.5%だった。とくに挿管などの処置の例での死亡は33.8%と高い数値だった。なお、わが国では、海外の入院患者報告に比べると、死亡の割合は低めだという(イギリス:26%、米国NY:21~24%、中国:28%)。 以上から中間解析では、男性・高齢者・喫煙者や併存疾患のある例(心血管系・糖尿病・COPDなど慢性肺疾患)では重症化しやすく、入院中に酸素不要であった軽症者では約8割が自宅退院となり、予後良好であること。そして、欧米と比較し、低めの併存疾患の割合(糖尿病:16.7%、肥満:5.5%)や死亡率(7.5%)であったことが示唆されると説明した。 最後に臨床研究センターの大曲 貴夫氏が、「疫学研究としてさらなる知見の創出」、「医薬品医療機器開発への活用」、「臨床情報と検体情報の融合によるさらなる研究発展」を柱に研究を行っていくと展望を語り、セミナーを終えた。■参考サイトCOVID-19に関するレジストリ研究 COVIREGI-JP

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すべての診療科に関わる!タバコ問題を自分事にするために知っておきたいこと(2)(最終回)【新型タバコの基礎知識】第21回

第21回 すべての診療科に関わる!タバコ問題を自分事にするために知っておきたいこと(2)(最終回)Key Points喫煙者も煙を吸わされる非喫煙者もどちらもタバコの被害者新型タバコの登場で新たな対立が起きている医療者のあるべき姿を目指して、タバコ問題を自分事に重要な観点の一つは、タバコを吸う人がタバコの一番の被害者であるということです。タバコによって最も大きな害を被ることとなるのは喫煙者です。多くの人は、受動喫煙で被害を受ける非喫煙者こそ一番の被害者だと考えています。喫煙者が加害者であって、非喫煙者だけが被害者だと主張する人もいます。しかし、それは対立が誘導された結果だと気付いてほしいと思います。タバコを吸う人も、タバコの煙を吸わされる人も、どちらもタバコの被害者です*1。自治体や医療機関などで禁煙支援やタバコ対策に取り組んでいる人達が、タバコを吸う人にひどいことを言われたとか、あからさまに嫌な態度をとられたとか、辛いことがあっていやになるという話をよく聞きます*2。逆に、タバコを吸う人が、病院や路上で馬鹿にされたり、ひどい扱いを受けたりしたという話も聞きます。対立するのではなく、お互いの歩み寄りが必要ですが、なかなかうまくいきません。タバコを吸う人と吸わない人が対立すればするほど、タバコ会社が望んだ状況になってしまいます。対立すればするほど、タバコを吸う人は、タバコを吸わない人や禁煙を勧める人の言うことに耳を傾けなくなり、禁煙から遠ざかってしまうのです。*1:受動喫煙問題においては、喫煙者が加害者であり、非喫煙者が被害者だという構図もある。喫煙者は被害者だけでなく、加害者にもなってしまう。ぜひ喫煙者は、加害者とならないように受動喫煙を起こさないように努めてほしい。*2:タバコ対策をしっかり進めることは大変だと同意する。筆者もできる限り協力すると約束する。皆で励ましあって助け合ってやっていってほしい。新型タバコの登場により、新しい対立が起きてしまっています。新型タバコに関する認識の違いから対立が生じてしまっているのです。また、禁煙支援やタバコ対策の現場においても、新型タバコがハーム・リダクションとして機能するかどうか(第9回、第10回記事参照)、意見が対立しています。問題が複雑で難しければ難しいほど、考えや意見がまとまらず、対立が継続してしまいます。新型タバコ問題は、まさしく複雑で難しい問題です。さらには、実際の健康リスクについて、長期追跡の結果はしばらくは分からない状態が続きます。新型タバコ問題について見解が分かれ、タバコ対策の専門家も対立させられています。これがタバコ会社が意図して作り出した状況だとしたら、タバコ会社の大成功と言えるでしょう。この対立の社会的デメリットは計り知れません。喫煙者と非喫煙者、そしてすべてのタバコ対策の専門家集団が、対立するよりも協力して、タバコの害から逃れる道を模索していくことが必要です。医療者のあるべき姿を目指して、タバコ問題を自分事に医療者にとって、新型タバコを含めたタバコ問題は決して他人事では済まされません。タバコによりすべての診療科の疾患が増加もしくは増悪すると分かっています(図の疾患リスト参照)。この図のリストは単に一つの研究があるというわけではなく、複数の研究によりリスクの増大が確認されて、確実に喫煙によりリスクが増加すると考えられる疾患が羅列されています。実際に喫煙により増える病気は、まだ研究が少ないだけで、この他にもたくさんあると考えられます。画像を拡大する2002年に欧米の学会が発表した21世紀の医師憲章に掲げられた基本原則の一つは、「『患者の健康・幸福の追求』、すなわち、患者の健康・幸福を守ることを何よりも優先し、市場や社会からの圧力に屈してはならない」です。これをタバコ問題に当てはめれば、医療者はタバコ問題を放置しようとするさまざまな圧力に屈せず、患者の幸せのために禁煙支援・禁煙指導に努めなければならない、となるものと考えられます。喫煙はニコチン依存症であり、本人の意思だとは必ずしも言えません。もしも、医療者がタバコを吸っている患者に禁煙を勧めなければ、患者の健康・幸福を守る姿勢とは大きく乖離することとなってしまうのではないでしょうか。タバコ問題を自分事にして関心を持ち続けなければ、タバコ問題をきちんと理解することはできません。タバコ問題はとても複雑であり、タバコ問題の長い歴史に加えて、タバコ産業という意図的にタバコ対策を妨害してきた組織があることも問題を難しくしています(第20回記事参照)。一般的に医学や保健学の授業で簡単に伝えられるような表層的なタバコ問題の内容から、タバコ問題の深い闇に気付くことはできません。タバコ問題には、タバコ産業という明確な妨害者が存在するという特徴があり、世の中が歪められていると認識しなければ見えてこない部分があり、多くの人が騙されてしまっています。その延長線上に新型タバコ問題があります。医療現場においても、皆さんのエフォートを禁煙支援・禁煙指導に少しだけ割いて頂き、協働して新型タバコ時代のタバコ対策に取り組んでいきたいと考えています。最後に、タバコ問題を自分事にしてもらうための動画(タイで作られたテレビCM動画およそ2分)をご紹介します。喫煙者だけでなく、医療者やすべての人にタバコ問題を自分の問題として考えてもらうキッカケにできると考えています。いつも大好評をいただいている感動的動画です。是非ご覧ください。~Fin~

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認知症発症に対する修正可能なリスク因子~メタ解析

 高齢者の認知症発症に対する修正可能なリスク因子について、中国・蘇州大学のJing-Hong Liang氏らが、システマティックレビューおよびベイジアン・ネットワークメタ解析を実施した。Journal of the American Medical Directors Association誌オンライン版2020年6月17日号の報告。 複数の電子データベースより、2019年5月1日までのプロスペクティブコホート研究を網羅的かつ包括的に検索した。認知症でない参加者は、50歳以上とした。ベイジアン・ネットワークメタ解析を行うため、必要なデータを適格研究より抽出した。 主な結果は以下のとおり。・43件のコホート研究より27万7,294例が抽出された。・抗酸化物質を除く、以下の定義されたリスク因子は、すべての原因による認知症発症リスクの低下と関連していた。 ●睡眠障害なし(オッズ比[OR]:0.43、95%確信区間[CrI]:0.24~0.62) ●教育水準の高さ(OR:0.50、95%CrI:0.34~0.66) ●糖尿病の既往歴なし(OR:0.57、95%CrI:0.36~0.78) ●非肥満(OR:0.61、95%CrI:0.39~0.83) ●喫煙歴なし(OR:0.62、95%CrI:0.45~0.79) ●家族との同居(OR:0.67、95%CrI:0.45~0.89) ●運動の実施(OR:0.73、95%CrI:0.46~0.94) ●禁酒(OR:0.78、95%CrI:0.56~0.99) ●高血圧症の既往歴なし(OR:0.80、95%CrI:0.65~0.96) 著者らは「修正可能な身体的およびライフスタイル因子が、すべての原因による認知症の強力な予測因子であることが示唆された」としている。

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全粒食品摂取量と2型DMリスクは逆相関/BMJ

 全粒穀物およびいくつかの全粒食品(全粒朝食用シリアル、オートミール、ライ麦パン、玄米、ふすま入り、小麦胚芽など)の摂取量が多いほど2型糖尿病のリスクは有意に低下することが示された。米国・ハーバード公衆衛生大学院のYang Hu氏らが、3つの前向きコホート試験(米国看護師健康調査[NHS]、看護師健康調査II[NHS II]、医療従事者追跡調査)のデータを分析し明らかにしたもので、BMJ誌2020年7月8日号で発表した。これまで、全粒穀物摂取と2型糖尿病のリスク低下との関連は一貫していることが認められていたが、個々の全粒食品摂取との関連はあまり検討されていなかった。男女合わせて約19万5,000人を調査 研究グループは、NHS(1984~2014年)、NHS II(1991~2017年)、医療従事者追跡調査(1986~2016年)の参加者を対象に、全粒穀物の摂取量と、2型糖尿病発症の関連を検証した。 対象被験者は、ベースラインで2型糖尿病や心血管疾患、がんの既往がない、女性15万8,259人と男性3万6,525人。主要評価項目は、追跡アンケート調査時および検証済みの補足アンケート調査で確認された自己申告の2型糖尿病発症とした。身体活動レベルや喫煙の有無にかかわらずリスクは低下 延べ追跡期間461万8,796人年の間に、1万8,629人が2型糖尿病を発症した。全粒穀物の1日総摂取量について、3つのコホートをそれぞれ5つのグループに等分し、2型糖尿病発症との関連を分析した。 糖尿病のリスク因子となるライフスタイルや食事内容で補正後、全粒穀物摂取量の最大五分位群は、最少五分位群に比べ、2型糖尿病リスクが29%(95%信頼区間[CI]:26~33)低かった。 全粒食品の種類別にみると、コールド全粒朝食用シリアルについて1日に1サービング以上摂取群は1ヵ月1サービング未満群に比べ2型糖尿病発症に関する統合ハザード比(HR)は、0.81(95%CI:0.77~0.86)だった。ライ麦パンの同HRは0.79(0.75~0.83)、一方でポップコーン摂取の同HRは1.08(1.00~1.17)だった。 摂取量が平均して少ないその他の全粒食品について、1週間に2サービング以上摂取群は1ヵ月に1サービング未満群に比べて同統合ハザード比は、オートミールが0.79(95%CI:0.75~0.83)、玄米は0.88(0.82~0.94)、ふすま入り食品は0.85(0.80~0.90)、小麦胚芽は0.88(0.78~0.98)だった。 スプライン回帰分析の結果、全粒穀物摂取量と2型糖尿病リスクには、非線形用量反応関係がみられ、同リスク減少の最大水準は1日2サービング超だった(曲率に関するp<0.001)。また、コールド全粒朝食用シリアルとライ麦パンでは、割合低下は1日約0.5サービングでプラトーに達した。ポップコーンの摂取についてはJカーブの関連性が認められ、その摂取量が1日1サービングを超えるまでは2型糖尿病率の有意な上昇はみられなかった。 全粒穀物摂取量の増加と2型糖尿病リスク減少の関連性は、痩せている人のほうが、過体重または肥満者に比べ強かった(相互作用に関するp=0.003)。同関連性は、身体活動レベルや糖尿病家族歴、喫煙の有無にかかわらず認められた。

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身体活動ガイドライン順守で、全死因・原因別死亡リスク減/BMJ

 米国では、「米国人の身体活動ガイドライン2018年版(2018 Physical Activity Guidelines for Americans)」で推奨されている水準で、余暇に有酸素運動や筋力強化運動を行っている成人は、これを順守していない集団に比べ、全死因および原因別の死亡リスクが大幅に低いことが、中国・山東大学のMin Zhao氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2020年7月1日号に掲載された。本研究の開始前に、身体活動ガイドラインの推奨を達成することと、全死因死亡や心血管疾患、がんとの関連を評価した研究は4件のみで、その結果は一致していなかった。また、身体活動ガイドラインと他の原因別の死亡(アルツハイマー病や糖尿病などによる死亡)との関連を検討した研究は、それまでなかったという。推奨順守で4群に分け、全死因と原因別の死亡を評価 研究グループは、米国の成人を代表するサンプルを用いて、米国人の身体活動ガイドラインの2018年版で推奨されている身体活動と、全死因死亡および原因別死亡の関連を評価する目的で、地域住民ベースのコホート研究を行った(責任著者は山東大学から研究支援を受けた)。 国民健康聞き取り調査(National Health Interview Survey)の1997~2014年のデータと、国民死亡記録(National Death Index)の2015年12月31日までのデータを関連付けた。成人(年齢18歳以上)47万9,856人が解析に含まれた。 調査参加者の自己申告に基づき、1週間の余暇時間のうち有酸素運動および筋力強化運動に費やした時間を集計し、身体活動ガイドラインに従って、4つの群(運動不足、有酸素運動のみ、筋力強化運動のみ、有酸素運動+筋力強化運動)に分類した。 主要アウトカムは、国民死亡記録から得た全死因死亡と原因別死亡とした。原因別死亡には、8つの疾患(心血管疾患、がん、慢性下気道疾患、事故/負傷、アルツハイマー病、糖尿病、インフルエンザ/肺炎、腎炎/ネフローゼ症候群/ネフローゼ)が含まれた。有酸素+筋力強化運動で、死亡リスク40%減 47万9,856人中7万6,384人(15.9%)が有酸素運動+筋力強化運動群、11万3,851人(23.7%)が有酸素運動群、2万1,428人(4.5%)が筋力強化運動群、26万8,193人(55.9%)は運動不足群に分類された。 ガイドライン2018年版の推奨を完全に満たした成人の割合は、男女とも年齢が上がるに従って低下した。ベースラインの背景因子のすべてで、4つの群に有意な差が認められた。ガイドラインの推奨を満たさなかった運動不足群に比べ、これを満たした3群の参加者は、年齢が若く、男性や白人、未婚者、非喫煙者、少量~中等量の飲酒者が多く、学歴が高く、正常体重者が多く、慢性疾患を有する者が少なかった。 追跡期間中央値8.75年の期間中に、5万9,819人が死亡した。このうち、1万3,509人が心血管疾患、1万4,375人ががん、3,188人が慢性下気道疾患、2,477人が事故/負傷、1,470人がアルツハイマー病、1,803人が糖尿病、1,135人がインフルエンザ/肺炎、1,129人が腎炎/ネフローゼ症候群/ネフローゼで死亡した。 全死因死亡のリスクは、ガイドラインの推奨を満たさなかった運動不足群と比較して、筋力強化運動群が11%(ハザード比[HR]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.85~0.94)、有酸素運動群が29%(0.71、0.69~0.72)低く、有酸素運動+筋力強化運動群(0.60、0.57~0.62)では、さらに大きな生存に関する利益が認められ、リスクは40%減少していた。 また、同様の関連が、心血管疾患死(筋力強化運動群のHR:0.82[95%CI:0.74~0.92]、有酸素運動群:0.65[0.62~0.69]、有酸素運動+筋力強化運動群:0.50[0.46~0.56])、がん死(0.85[0.77~0.95]、0.76[0.73~0.80]、0.60[0.56~0.65])、慢性下気道疾患死(0.76[0.62~0.93]、0.42[0.37~0.47]、0.29[0.23~0.37])で観察された。 著者は、「これらのデータは、ガイドラインで推奨されている身体活動の水準が、重要な生存上の利益と関連していることを示唆する」としている。

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内臓脂肪指数は大腸がん発症の予測因子~日本人コホート

 内臓脂肪蓄積は大腸がん発症に関連しているが、内臓脂肪蓄積と機能障害のマーカーである内臓脂肪指数(VAI)と大腸がん発症との関連についての報告はない。今回、京都府立医科大学の岡村 拓郎氏らが、大規模コホートNAGALA研究で検討した結果、VAIの最高三分位群において大腸がん発症リスクが有意に高いことが示された。BMJ Open Gastroenterology誌2020年6月号に掲載。 本研究では、2万7,921人(男性1万6,434人、女性1万1,487人)の参加者をVAIによって三分位に分けた。VAIは、男性では(腹囲/(39.68+1.88×BMI))×(トリグリセライド/1.03)×(1.31/HDLコレステロール)、女性では(腹囲/(36.58+1.89×BMI))×(トリグリセライド/0.81)×(1.52/HDLコレステロール)で算出した。性別、年齢、喫煙、飲酒、運動、ヘモグロビンA1c、収縮期血圧で調整し、Cox比例ハザードモデルを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間(中央値4.4年)中に、116人が大腸がんを発症した。・単変量解析では、最低三分位群と比較して、中間および最高三分位群における大腸がん発症のハザード比(HR)は1.30(95%信頼区間[CI]:0.76~2.28、p=0.338)および2.41(同:1.50〜4.02、p<0.001)で、最高三分位群で有意に高かった。・共変量の調整後、中間および最高三分位群における大腸がん発症のHRは1.27(95%CI:0.73〜2.23、p=0.396)および1.98(同:1.15〜3.39、p=0.013)で、最高三分位群で有意に高かった。 著者らは「VAIは大腸がん発症の予測因子になりうる。大腸がんの早期発見のために、VAIが高い人に大腸がん検診を勧めるべき」と結論している。

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恥ずかしいけど口に出したら幸せになるカード【これで「コロナ離婚」しなくなる!(レクリエーションセラピー)】Part 1

今回のキーワード「ポジティブ合戦」社会的報酬ピグマリオン効果認知(マインドセット)健康(ウェルビーイング)幸福感(主観的ウェルビーイング)マズローの動機(欲求)のピラミッドポジティブ心理学コロナ禍の中、親の在宅勤務や子どもの自宅学習が増え、家族が家にいる時間が増えたことで絆が強まる…と思ったら、実際は、逆でした。その距離感に戸惑い、夫婦げんかや親子げんかが増えています。そして、モラハラやDVが社会問題となり、「コロナ離婚」という言葉が生まれています。このようにならないためには、どうすれば良いでしょうか?その答えが、今回紹介するカードゲーム「恥ずかしいけど口に出したら幸せになるカード」です。今回は、いつもとは違い、シネマセラピーのスピンオフバージョン「レクリエーションセラピー」をお送りします。このゲームは、一言で言うと、ファミリーやカップル向けの「ポジティブ合戦」です。それでは、なぜポジティブなセリフを言い合うとポジティブになるのでしょうか? なぜポジティブになると幸せになるのでしょうか? そもそもなぜ私たちは幸せになりたいのでしょうか? これらの答えを、このゲームに触れながら、進化心理学的に解き明かします。ネガティブになりがちな今だからこそ、ポジティブになることについて考え、「コロナ離婚」しない、幸せな夫婦のあり方、家族のあり方を一緒に探っていきましょう。 なんでポジティブなセリフを言い合うとポジティブになるの?このゲームのアイテムは、ポジティブなセリフが書かれた48枚のカードと30枚のチップを使います。ルールは、プレイ人数2~4人で、毎朝1~5枚ずつカードを引いて、そのカードに書かれたセリフを1日の間で「対戦相手」にどれだけ言えるかを1週間単位で競います。また、自分が引いたカードを「対戦相手」にアピールしてそのセリフを言ってもらうと、お互いにポイントになります。毎日の夕食の時など一緒にいる時に「対戦結果」を集計し、ポイントのチップをゲットして、勝敗を決めます。このゲームをし続けるうちに、プレイヤーはだんだんとポジティブになっていきます。ここから、この心理メカニズムを3つに分けて、ご説明しましょう。(1)言われると心地良く感じるたとえば、「素敵だね」というカードがあります。こう相手から言われると、どうなるでしょうか?1つ目は、私たちが美味しいものを食べた時と同じように、ポジティブなことを言われると心地良く感じるからです。これを心理学では、社会的報酬と言います。さらに、相手からポジティブに見られると、自分も相手をポジティブに見るようになります。これを心理学では、魅力の返報性(互恵性)と言います。(2)言われるとその良さを再認識するたとえば、「思いやりがあるね」というカードがあります。こう相手から言われると、どうでしょうか?2つ目は、ポジティブなことを言われるとその良さを再認識するからです。これを心理学では、リソースの発見と言います。これは、自尊心や自信を高めることにつながり、ポジティブになります。また、期待されるという暗示的な効果によって、その良さを生かすことに意識が向いて、実際にそのようになっていきます。これを心理学では、ピグマリオン効果と言います。なお、ピグマリオンとは、ギリシア神話に登場する彫刻家です。彼に恋をした石像が、その彼の期待に応えようと本物の人間の女性になったというストーリーにちなんでいます。日本のことわざの「ひょうたんから駒」や「嘘から出た真」にも通じます。(3)言い続けると癖になるたとえば、「一緒にいられて嬉しいな」というカードがあります。こう自分が言おうとすると、どうなるでしょうか?3つ目は、ポジティブなことを言い続けると癖になるからです。これは、カードのセリフを言うタイミングを見極めようと、そのセリフが頭の中を占めるようになることです。そして、相手の良さを探し出す発想が自分自身にも向き、自分も自分の良さに気付き、ポジティブ思考の「癖」が身に付きます。この考え方の「癖」を心理学では、認知(マインドセット)と言います。ある心理学者(ジェームズ・ランゲ)が、「悲しいから泣くのではない。泣くから悲しい」という名言を残しています。言い換えれば、「楽しいから笑うのではない。笑うから楽しい」です。これは、「笑う門には福来たる」という日本のことわざにも通じます。つまり、私たちは行動を変えることで、思考パターン(認知)を変えるができます。この思考パターンは、まさにスポーツや楽器演奏と同じく、練習すればするほどうまくなります。これは、心理カウンセリングでよく行われる認知行動療法です。認知とは、心のあり方そのものです。もっと言えば、どういう生き方をしたいのか、生き方そのものとも言えるでしょう。 なんでポジティブになると幸せになるの?幸せとは、健康(ウェルビーイング)と言い換えられます。ここから、ポジティブになると得られる健康を3つに分けて、紹介しましょう。(1)精神的な健康たとえば、「いつもそばにいるよ」というカードは、「自分は大丈夫」という自尊心(自尊感情)を高めます。「センスがいいね」というカードは、「自分はできる」という自信(自己効力感)を高めます。そして、「ワクワクするね」というカードは、「自分はこうしたい」という積極性(内発的動機付け)や目標意識(自己実現)を高めます。これの心理によって、たとえストレスにさらされても、解決しようと働きかけるようになります(ストレスコーピング)。これは、裏を返せば、心が折れにくくなります(レジリエンス)。1つ目は、うつ病などの精神障害を発症しにくくなる、つまり精神的な健康です。なお、レジリエンスの詳細については、末尾の関連記事1をご参照ください。(2)身体的な健康精神的な健康によって、ストレスを減らすことは、脳血管疾患や心血管疾患のリスクを減らします。また、免疫力を維持して、がんのリスクも減らします。2つ目は、寿命が延びる、つまり身体的な健康です。実際に、「修道女研究」によって、若年期にポジティブであることは長寿の傾向になることが示されています。これは、アメリカのある教会の修道女180人の若年期の日記の中にあるポジティブワードの割合を分析した研究です。結果として、順位付けた4つのグループの間で明らかな生存率の違いが判明しました。なお、修道女である理由は、質素な食事量、適度な運動、喫煙や飲酒などの嗜好品の禁止などが徹底されており、生活習慣が完全にコントロールされているからです。(3)社会的な健康たとえば、「あなたがいてくれて良かった」というカードは、「自分は周りから大切にされている」という自尊心(集団的アイデンティティ)から「周りを大切にしたい」という愛他性(利他性)を高めます。また、「人の心を動かせる人だね」というカードは、「自分たちは社会の役に立てる」という自信(集団的効力感)を高め、「自分たちは世の中の役に立ちたい」という社会貢献(向社会性)につながります。これが制度化されたものが、ソーシャルサポートであり福祉です(コミュニティ・レジリエンス)。3つ目は、ソーシャルサポート(福祉)が充実する、つまり社会的な健康です。実際に、宗教に入信している人は、一般の人よりも寿命が平均7年長いことが分かっています。その理由として、宗教というコミュニティに属することで、精神的な健康だけでなく、助け合いによるソーシャルサポートも得られることが指摘されています。また、対人魅力の研究によると、結婚相手に選ばれるのは、ネガティブな人よりもポジティブな人であることが分かっています。つまり、ポジティブであることは、それだけ社会、そして子孫が繁栄することが示唆されます。次のページへ >>

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COVID-19、がん患者の全死亡率への影響/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患したがん患者のデータが不足している中、米国・Advanced Cancer Research GroupのNicole M. Kuderer氏らによる検討で、COVID-19に罹患したがん患者の30日全死因死亡率は高く、一般的なリスク因子(年齢、男性、喫煙歴など)、およびがん患者に特異な因子(ECOG PS、活動性など)との関連性が明らかにされた。今回の結果を踏まえて著者は、「さらなる長期追跡を行い、がん患者の転帰へのCOVID-19の影響を、特異的がん治療の継続可能性も含めて、明らかにする必要がある」とまとめている。Lancet誌2020年6月20日号掲載の報告。米国・カナダ・スペインの患者について分析 研究グループは、COVID-19罹患のがん患者コホートの転帰を特徴付け、死亡および疾患重症化の潜在的予測因子を特定するコホート研究を行った。 COVID-19 and Cancer Consortium(CCC19)データベースから、SARS-CoV-2感染確定例で、活動性がんおよびがん既往歴のある18歳以上の米国・カナダ・スペインの匿名化患者データを集めて分析した。各患者のデータは、2020年3月17日~4月16日の間にベースラインデータが入力され、フォローアップデータは5月7日まで入力されていた。 収集・分析したのは、ベースラインの臨床状態、治療歴、がんの診断・治療、COVID-19の経過。主要エンドポイントは、COVID-19診断後30日間の全死因死亡とした。 転帰と潜在予後変数の関連性を、年齢、性別、喫煙状態、肥満について補正後のロジスティック回帰分析を用いて評価した。人種、肥満、がん種、がん治療、直近手術は死亡と関連せず 試験期間中にCCC19データベースには1,035件の記録が入力され、解析の適格基準を満たした患者928例について分析した。被験者の年齢中央値は66歳(IQR:57~76)、279例(30%)が75歳以上で、男性患者は468例(50%)であった。 最も一般的にみられた悪性腫瘍は、乳がん(191例[21%])および前立腺がん(152例[16%])。366例(39%)の患者が抗がん剤の治療中で、396例(43%)が活動性(測定可能)がん患者であった。 2020年5月7日の解析時点で、死亡は121例(13%)であった。年齢等補正後ロジスティック回帰分析の結果、30日死亡増大の関連独立因子は、加齢(10歳増につき、年齢等補正後オッズ比[OR]:1.84、95%信頼区間[CI]:1.53~2.21)、男性(1.63、1.07~2.48)、喫煙状態(元喫煙者vs.非喫煙者の同1.60、1.03~2.47)、併存疾患数(2 vs.なしの同4.50、1.33~15.28)、ECOG PS 2以上(2 vs.0または1の同3.89、2.11~7.18)、活動性がん(進行vs.寛解の同:5.20、2.77~9.77)、アジスロマイシン+ヒドロキシクロロキン投与(vs.非投与の同:2.93、1.79~4.79、適応症による交絡は除外できなかった)であった。 また、米国北東部の住民と比較して、カナダの住民(年齢等補正後OR:0.24、95%CI:0.07~0.84)、米国中西部の住民(0.50、0.28~0.90)の30日全死因死亡率は低かった。人種・民族、肥満状態、がんのタイプ、抗がん剤治療のタイプ、直近の手術について死亡との関連は認められなかった。

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COVID-19重症化リスクのガイドラインを更新/CDC

 6月25日、米国疾病予防管理センター(CDC)はCOVID-19感染時の重症化リスクに関するガイドラインを更新し、サイトで公開した。 CDCは、重症化リスクの高い属性として「高齢者」「基礎疾患を持つ人」の2つを挙げ、それぞれのリスクに関する詳細や感染予防対策を提示している。また、今回からリスクを高める可能性がある要因として、妊娠が追加された。高齢者のリスクと推奨される対策 米国で報告されたCOVID-19に関連する死亡者の8割は65歳以上となっている。・他人との接触を避け、やむを得ない場合は手洗い、消毒、マスク着用などの感染予防策をとる。・疑い症状が出た場合は、2週間自宅に待機する。・イベントは屋外開催を推奨、参加者同士で物品を共有しない。・他疾患が進行することを防ぎ、COVID-19を理由に緊急を要する受診を遅らせない。・インフルエンザ、肺炎球菌ワクチンを接種する。・健康状態、服薬状況、終末期ケアの希望などをまとめた「ケアプラン」を作成する。基礎疾患を持つ人のリスクと推奨される対策【年齢にかかわらず、重症化リスクが高くなる基礎疾患】・慢性腎疾患・慢性閉塞性肺疾患(COPD)・臓器移植による免疫不全状態(免疫システム減弱)・肥満(BMI:30以上)・心不全、冠動脈疾患、心筋症などの深刻な心臓疾患・鎌状赤血球症・2型糖尿病【重症化リスクが高くなる可能性がある基礎疾患】・喘息(中等度~重度)・脳血管疾患(血管と脳への血液供給に影響を与える)・嚢胞性線維症・高血圧または高血圧症・造血幹細胞移植、免疫不全、HIV、副腎皮質ステロイド使用、他の免疫抑制薬の使用による免疫不全状態・認知症などの神経学的状態・肝疾患・妊娠・肺線維症(肺組織に損傷または瘢痕がある)・喫煙・サラセミア(血液疾患の一種)・1型糖尿病 上記の基礎疾患を持つ人は高齢者同様の感染予防対策をとるほか、疾患治療を中断せず、1ヵ月分の処方薬を常備することが推奨されている。

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すべての診療科に関わる!タバコ問題を自分事にするために知っておきたいこと(1)【新型タバコの基礎知識】第20回

第20回 すべての診療科に関わる!タバコ問題を自分事にするために知っておきたいこと(1)Key Points新型タバコ問題に行く前の段階で、いかに社会はタバコ産業によって歪められているかについて知っておくことがとても重要歴史上、タバコ会社による“安全なタバコ”の開発は一度も成功していないタバコ会社の歴史を知ることで新型タバコ問題がみえてくる残念ながらタバコ問題を客観的に捉え、自分事にできている人は少ないのが現状です。われわれが生まれる前から認識が歪められてしまっていて、そのこと自体に気付くことが難しいからかもしれません。それは医師も例外ではありません。新型タバコ問題に行く前の段階で、いかに社会はタバコ産業によって歪められているかについて知っておくことがとても重要です。新型タバコ問題についてきちんと理解するために、知っておかなければならないことは、人々とタバコとタバコ会社の歴史です。歴史上、タバコ会社による“安全なタバコ”の開発は一度も成功していません。しかし、タバコ会社は、新しいタバコ製品が従来からのタバコ製品よりもより安全ではないかと誤解させることには、何度も成功してきています。その最新の事例が加熱式タバコだと言えるでしょう。人々とタバコとタバコ会社の歴史を知ることで新型タバコ問題がみえてきます。今回は、タバコについてのよくある疑問と一緒に、歴史をみていこうと思います。よく聞かれるのが、「タバコを禁止してくれたら禁煙するのに、なぜ禁止してくれないのか?」というものです。そもそも、なぜ、いまだにタバコは合法であり続けているのでしょうか? 今でもタバコが合法だからこそ、新しいタバコが市場に出てきたとも言えます。紙巻タバコは20世紀前半にかけての産業技術開発により大量生産が可能となり、まず高所得国を中心に普及しました。1900年以前において、タバコは広く普及しておらず、大衆文化ではありませんでした。タバコが国民・住民の文化であるというイメージは、近年にタバコ産業によって意図的に創出されたものです。普及前や普及直後には、タバコによる健康被害は当然分かっていませんでした*1。タバコ産業による巧みなマーケティング戦略により、タバコは20世紀に急激に普及しました。*1:ただし、タバコが普及した当初からタバコの健康被害を懸念する者もいた。そのはるか昔にも、タバコの健康被害は指摘されていた。たとえば、1712年に貝原益軒が著した「養生訓」には「煙草は性毒あり」「煙をふくみて眩ひ倒るゝ事あり」「病をなす事あり」「習へばくせになり、むさぼりて後には止めがたし」などと書かれている。タバコの害を懸念していた状況というのは、現在の新型タバコをめぐる状況と同じだとも言えそうだ。その後、タバコの害に関する研究が進み、1950年前後になってようやく喫煙による健康被害が報告されはじめました。この時になってはじめてタバコには害があると公に分かったわけですが、すでにタバコは広く普及してしまっていました。タバコ利権はすでに巨大なものとなっていたのです。その利権があまりに大きかったがゆえにタバコを擁護する勢力が強大で、すぐにタバコを禁止することができなかったと言えるでしょう。タバコには明らかに害があるとされたにも関わらず、です。今でもタバコが合法であり続けているのには、さらなる理由があります。タバコの害が明らかになったその時、世界のタバコ会社の幹部による会議が開かれました。そこで、タバコ会社は、「できるだけ人々がタバコの害に気付かず、吸い続けてくれるようにマーケティング戦略を駆使して、人々をだましていこう」との方針を決めたのです。タバコの害が報告されて以降も、世の中には、タバコの害を認識していない人がまだ多くいました。タバコの害を認識していない医師をつかまえてきて、タバコは良いものだ! と訴える広告に使ったのです(図)。画像を拡大するタバコ会社がお金を出して、「ストレスが体に悪い」*2、「タバコはストレスを減らす」というストーリーが作られてきたということが、タバコ会社の内部文書等の分析から明らかにされています。タバコはまったくストレスを減らさず、むしろ、ニコチン欠乏によるストレスを増やすと分かっています。ストレスが悪い、というストーリーは、タバコ以外にも悪いものを作りたかったタバコ産業の意図に完全に沿ったものとして作られました。その結果として、ストレスといえば悪いもの、とのイメージができてしまっていますが、これは誤ったイメージです*3。*2:実は、この「ストレスが体に悪い」というストーリーは、動物実験の結果から導かれたものだ。その動物実験では、ストレスとして、お腹に針を刺すと健康が害される、というような実験がされていた。お腹に針を刺すというのはストレスというよりは傷害事件になるレベルの出来事である。それであれば、健康を害してもなんらおかしくはない。そんな実験結果をもとにして、「ストレスは悪い!」というイメージだけが作られてしまったのである。*3:精神科医の中沢正夫氏は「ストレスは悪玉なのではない…ストレスを1つ1つ乗り越えることが、『人間』の発達なのである。ストレスは元来、避けるべき対象ではなく、乗り越えるべき対象なのである。一切のストレスを回避すれば、それは楽であろうが、その人は成長もまたあきらめることになるのである」と書いている。出典:中沢正夫著、ストレス善玉論、情報センター出版局、1987年ストレスはまったくないよりも適度にあった方がよい、過度でない適度なストレスはむしろやる気につながる、といった認識に対して反対される方は少ないのではないでしょうか。タバコ産業が意図的にストレスは悪いという極端なイメージを植え付けてきたために、われわれの認識は大きく歪められてしまっているのです。さて、タバコ問題の歴史に話をもどします。1964年、タバコ問題にとって非常に重要な報告がなされました。米国公衆衛生総監による最初のタバコの有害性に関する報告書が公開されたのです。1950 年代に喫煙と肺がんとの関連を示す研究が相次いで発表されたことを背景にして、喫煙と健康に関する包括的評価が実施され、男性において喫煙と肺がん、喫煙と喉頭がんとの間に因果関係がある*4と結論付けました。この報告の影響もあり、欧米の高所得国では喫煙率が減少傾向となり、日本でも1960年代をピークに喫煙率は減少に転じました。*4:「因果関係がある」とは単に関連しているということではなく、時間的前後関係として先に「喫煙」したことによって後に「肺がん」に罹患したり、肺がんを原因として死亡したりすることが増えるということを指す。1990年代、米国では各地でタバコ病に関する集団訴訟が起こり、タバコ会社が販売するタバコのために人々が病気になり、社会的損失が大きいとして、タバコ会社は追い詰められました。その結果、1998年にMaster Settlement Agreement というタバコ病訴訟の和解があり、米国のタバコ会社はその後25年間をかけて42 兆円にのぼる賠償金(和解金)を米国政府に支払うこととなったのです。その賠償金を使い、米国では多額の費用を要するテレビCM 等の脱タバコ・メディアキャンペーンが積極的に展開されてきています。こういった影響もあり、米国をはじめとした先進国では喫煙率は減少してきました。しかし、タバコ会社が世界中にマーケットを広げていったため、中低所得国にもタバコが普及しました。東南アジアなどの国では以前はほとんどタバコを吸う人はいなかったにもかかわらず、近年急激にタバコが普及してしまっています。タバコ産業は世界のタバコマーケットを維持するために莫大な予算をマーテティング活動に投じているのです。そして、地球人口の増加や中国などの経済新興国におけるタバコ消費量の増大も影響し、実は世界のタバコ消費量は増え続けています1)。1964年にタバコの害が明確に証明されてから50年以上がたっていますが、世界のタバコ消費量はその当時に比べて減るどころか、増えています。タバコ問題は決して過去の問題ではないのです。タバコ会社は、中低所得国では昔の日本や欧米で使われたような古典的なマーケティング戦略を駆使してタバコを売り込んでいます。一方で、日本や欧米のように喫煙率が低下傾向にある先進国におけるタバコ会社の戦略は基本的に一貫しています。「喫煙率が低下していくとしても、少しでも低下するスピードを遅くする。そのために、あらゆる手段を駆使して、タバコ対策を阻害し、少しでも多くの人にタバコを始めてもらい、吸い続けてもらうように仕向ける」という戦略です。2010年に神奈川県で受動喫煙防止条例が制定されました。日本で初めての受動喫煙防止条例です。この時、タバコ会社からの妨害工作がすさまじく、神奈川県は住民世論調査をまるまるやり直す事態となりました。はじめの調査では、タバコ会社による組織的動員によって不自然な反対票の急増が確認されたのでした。調査をやり直した結果、8割近くの県民が条例に賛成していると分かり、この世論が条例成立の後ろ盾となりました。もし、不自然な票の動きに気付いていなければ、日本で最初の受動喫煙防止条例は成立していなかったかもしれません。この辺りの事情はその当時の神奈川県知事であった松沢成文氏の著書『JT、財務省、たばこ利権』2)に詳しく書かれています。第21回は、「すべての診療科に関わる!タバコ問題を自分事にするために知っておきたいこと(2)(最終回)」です。1)Eriksen M, et al. The Tobacco Atlas, Fifth Edition: Revised, Expanded, and Updated. Atlanta, USA: American Cancer Society,2015.2)松沢成文 著. JT、財務省、たばこ利権 ~日本最後の巨大利権の闇~. ワニブックス;2013.

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COVID-19の肺がん患者、死亡率高く:国際的コホート研究/Lancet Oncol

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行期における、肺がん等胸部がん患者の転帰について、初となる国際的コホート研究の結果が公表された。COVID-19に罹患した胸部がん患者は死亡率が高く、集中治療室(ICU)に入室できた患者が少なかったことが明らかになったという。イタリア・Fondazione IRCCS Istituto Nazionale dei TumoriのMarina Chiara Garassino氏らが、胸部がん患者における重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染の影響を調査する目的で行ったコホート研究「Thoracic Cancers International COVID-19 Collaboration(TERAVOLT)レジストリ」から、200例の予備解析結果を報告した。これまでの報告で、COVID-19が確認されたがん患者は死亡率が高いことが示唆されている。胸部がん患者は、がん治療に加え、高齢、喫煙習慣および心臓や肺の併存疾患を考慮すると、COVID-19への感受性が高いと考えられていた。結果を踏まえて著者は、「ICUでの治療が死亡率を低下させることができるかはわからないが、がん治療の選択肢を改善し集中治療を行うことについて、がん特異的死亡および患者の選好に基づく集学的状況において議論する必要がある」と述べている。Lancet Oncology誌オンライン版2020年6月12日号掲載の報告。 TERAVOLTレジストリは、横断的および縦断的な多施設共同観察研究で、COVID-19と診断されたあらゆる胸部がん(非小細胞肺がん[NSCLC]、小細胞肺がん、中皮腫、胸腺上皮性腫瘍、およびその他の肺神経内分泌腫瘍)の患者(年齢、性別、組織型、ステージは問わず)が登録された。試験適格条件は、RT-PCR検査で確認された患者、COVID-19の臨床症状を有しかつCOVID-19が確認された人と接触した可能性のある患者、または、臨床症状があり肺画像がCOVID-19肺炎と一致する患者と定義された。 2020年1月1日以降の連続症例について臨床データを医療記録から収集し、人口統計学的または臨床所見と転帰との関連性について、単変量および多変量ロジスティック回帰分析(性別、年齢、喫煙状況、高血圧症、慢性閉塞性肺疾患)を用いて、オッズ比(OR)およびその95%信頼区間(CI)を算出して評価した。なお、データ収集は今後WHOによるパンデミック終息宣言まで継続される予定となっている。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は、2020年3月26日~4月12日に、8ヵ国から登録された最初の200例であった。・200例の年齢中央値は68.0歳(範囲:61.8~75.0)、ECOG PS 0~1が72%(142/196例)、現在または過去に喫煙81%(159/196例)、NSCLC 76%(151/200例)であった。・COVID-19診断時に、がん治療中であった患者は74%(147/199例)で、1次治療中は57%(112/197例)であった。・200例中、入院は152例(76%)、死亡(院内または在宅)は66例(33%)であった。・ICU入室の基準を満たした134例中、入室できたのは13例(10%)で、残りの121例は入院したがICUに入室できなかった。 ・単変量解析の結果、65歳以上(OR:1.88、95%CI:1.00~3.62)、喫煙歴(OR:4.24、95%CI:1.70~12.95)、化学療法単独(OR:2.54、95%CI:1.09~6.11)、併存疾患の存在(OR:2.65、95%CI:1.09~7.46)が死亡リスクの増加と関連していた。・しかし、多変量解析で死亡リスクの増加との関連が認められたのは、喫煙歴(OR:3.18、95%CI:1.11~9.06)のみであった。

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第12回 ニコチン依存症治療用アプリが人間味を帯びたら医者いらず?

疾患治療にスマホアプリが処方される時代がやってきた。厚生労働省の薬事・食品衛生審議会(医療機器・体外診断薬部会)は6月19日、株式会社CureApp(キュア・アップ)が申請した禁煙治療用アプリ「CureApp SCニコチン依存症治療アプリおよびCOチェッカー」の製造販売承認を了承した。7月にも正式承認となる見込みで、同社は保険適応を目指している。臨床試験でも認められた禁煙治療用アプリの効果日本では2014年に施行された医薬品医療機器等法(薬機法、旧薬事法改正とともに名称変更)で、診断・治療などを目的としたソフトウェア単体も医療機器として分類されることになった。アメリカでは2型糖尿病の治療用アプリが既にFDAの承認を取得して実際に用いられているが、日本国内で臨床試験を経た治療用アプリの承認は初。しかも、禁煙治療用アプリとしては世界初である。このアプリは既存のニコチン製剤による禁煙治療と併用される。喫煙によるニコチン依存は、ニコチン摂取により脳内で起きる快感や報酬感が反復することで起こる身体的依存と喫煙で身に付いたクセや習慣が抜けない心理的依存の2つに分けられ、医療的な措置として、前者はまさにニコチン製剤、後者は診察時の医療従事者によるカウンセリング的なものとなる。ただ、現在の保険適応のニコチン製剤による治療期間は3ヵ月で、最初の1ヵ月間は2週間おき、その後は1ヵ月おきで受診回数は合計5回のみ。しかし、この間、患者は個人差があっても日常的に身体的依存と心理的依存に悩まされる。身体的依存に対するニコチン製剤は毎日2回服用するものの、心理的依存への対処は5回の受診時のみだ。この心理的依存への措置を補完するのが今回のアプリである。報道にもあるように禁煙治療期間中に心理的依存に悩む場合はアプリを立ち上げると、そのつらさに共感し、緩和措置を提案するメッセージが表示される。また、前述のアプリの正式名称からも分かるように禁煙治療中の受診時に測定される呼気中一酸化炭素(CO)濃度の専用測定機器が付属し、測定結果をアプリに送信して医師と共有することでよりきめ細かな日常管理も可能になるという。ちなみにアプリによる治療はニコチン製剤による治療より長い6ヵ月間。医師がアプリを処方した際に患者には処方コードが渡される。このコードをダウンロードしたアプリに入力することで、アプリはアクティベートされ、6ヵ月後には自動的に使用不可となる。実際に行った臨床試験での継続禁煙率は半年間(9~24週)で対照群が50.5%、アプリ使用群が63.9%、1年間(9~52週)では対照群が41.5%、アプリ使用群52.3%でいずれも統計学的な有意差(p=0.010)が認められた。禁煙治療中にはどんなことが起こるのか?率直に言ってもう少し早く承認されていれば、私自身が使ってみたかったと思う。というのも、この原稿を執筆している今現在、ニコチン製剤による禁煙治療中だからだ。ちなみに7月1日で3ヵ月間の全治療コースが終了予定である。前回も書いたが、私は高尿酸血症の解消のため1年7ヵ月で体重14kg減を実現した。減量開始当初はここまでできるとは思っていなかったが、この間、ウエストも20cm減となり、お腹ポッコリが気になって着れなかったボディコンのTシャツも着れるなど良いことは多い。そしてこの14kg減量を実現すると、どうしても喫煙を続けている自分が気になった。要は高級ブランドのワイシャツを着ると、ネクタイも高級ブランドのものにしたくなるような感覚といったらいいのかもしれない。私は安アパートを個人事務所にしており、かつてはほぼ1日中喫煙しながら仕事をしていた。14kg減量できたのだから禁煙もそんなに苦痛なくできるはずだろう、と思って始めたのだが、これが予想外に大変だった。完全禁煙から約2週間は1日3時間ほどしか仕事ができなかった。原稿を書く以上、当然キーボードに両手を置いているはずなのだが、実は結構な頻度で喫煙し、むしろ喫煙の合間に仕事をしているような感覚に近かったのかもしれない。禁煙を開始し、頻繁にタバコを手にしていた左手が手ぶら状態なのがどうにも気になって仕方ない、率直な表現をすると左手をどこに置いて良いのか分からないのだ。それならば左手もキーボードに置いて終始仕事に集中すれば良いだろうと言われるかもしれないが、そんな「生易しい」ものではない。あまりの手持無沙汰に左手をブルブル振り、それも疲れると散歩と称して外をぶらぶら歩く。この繰り返しでまともに着席していられない。この地獄の2週間を過ぎると、今度は食後、飲酒時に無性にタバコが欲しくなる。絶対タバコは購入しないと決めていたが、緊急事態宣言もあり喫煙者がいる飲酒の席がほとんどなかったことも幸いしたかもしれない。2ヵ月以上過ぎた今は2~3日に1回ぐらいは「タバコがあったら」と思うことはあるが、だいぶ慣れてきた。今では喫煙直後と思われる人とすれ違っただけで、それに気づくようにもなっている。禁煙治療を阻害する医師たちとは?この間、受診時に主治医から「どうですか?」と尋ねられた際は率直にそのことを説明していたが、一度だけ「気を紛らわすためには水を飲むとか運動するとかが良いと言われています」と他人事のように言われたぐらいである。臨床試験の結果から推察すれば、私が経験した悩みがこのアプリで解決できる可能性はあるということだ。ただ、このアプリで示されているようなモデルは、医師を巡るある命題を再燃させることにもつながる。近年の人工知能(AI)の台頭とともに一時期活発化した「医師はAIに置き換わるのか」という議論だ。この件は現状のAIの精度が決定打といえないことから、「医師かAIかではなく、AIを使わない医師は淘汰される」との方向で収束しているように思う。また、別の観点からは「AIは患者に共感はできないが、ヒトである医師は患者に共感を示せる」から医師がAIに置き換わることは難しいと言われてきた。だが、今回のアプリが患者への共感の一部も代行できるならば、医師はもはや患者に共感を示せるだけでは不十分となる。古の孫子が唱えた「彼を知り己を知れば百戦殆からず」にならい、アプリの挙動も踏まえてより高い共感を患者に示さねばならなくなる。医師の生存環境はより厳しいものになるが、逆にそれができれば、前述の臨床試験で示された長期的な禁煙継続率も上昇すると肯定的に捉えることは可能だ。ちなみに私は元喫煙者として、経験上、患者の禁煙の阻害になる医師像のほうが明示しやすい。それは健康増進法改正議論が活発化した際にとくに目立った「喫煙の害のみを繰り返し強調する医師」である。こうした医師が間違っているというわけではない。しかし、年々喫煙率が低下し、現在では2割を切る少数派としての喫煙者はいわば確信犯である。その確信犯たる喫煙者に善悪論のみで行動変容を迫ることはかなり困難である。なぜなら自分をひたすら否定する人の忠告にヒトは耳を貸さないからだ。実際、私自身、あの健康増進法改正論議の当時は「意地でも止めるものか」と思ったものだ。喫煙問題に熱心な医師ほど「喫煙はニコチン依存症」と病気であることを強調する。依存症治療では、依存対象と物理的に距離を取らせ、依存対象を分散させるが、そのベースには患者への寄り添いが必要であると多くの精神科医が強調する。だからこそ今回の禁煙治療用アプリの登場で、禁煙治療での「共感=寄り添い」の欠如を改めて感じてしまうのだ。参考Masaki K, et al. NPJ Digit Med. 2020 Mar 12;3:35.[Epub ahead of print]

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第12回 新型コロナ接触確認アプリ(COCOA)利用開始、DLは240万件超

<先週の動き>1.新型コロナ接触確認アプリ(COCOA)利用開始、DLは240万件超2.唾液で新型コロナウイルスの抗原検査が可能に3.初の“デジタル薬”? 禁煙治療アプリが承認4.厚労省が医療人材の求人情報サイト「医療のお仕事 Key-Net」を開設5.医師の時間外労働「年960時間+別枠420時間」を提言(日本医師会)1.新型コロナ接触確認アプリ(COCOA)利用開始、DLは240万件超厚生労働省は、新型コロナウイルスに感染した人と濃厚接触した疑いがある場合に通知を受けられるスマートフォン向けのアプリを、19日午後、インターネット上に公開した。このアプリを事前にダウンロードし、Bluetoothをオンにしておくことにより、15分以上1メートル以内の距離にいる場合、接触した相手として記録する。アプリは21日17:00時点で約241万回ダウンロードされており、14日経過するとデータの記録を消去するなど、個人のプライバシー保護に配慮したものとなっている。(参考)新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA) COVID-19 Contact-Confirming Application(厚労省)2.唾液で新型コロナウイルスの抗原検査が可能に加藤 勝信厚生労働大臣は、19日の会見で、唾液を使った新型コロナウイルス抗原検査についての検査試薬が承認されたことを明らかにした。痛みもなく、採取時に医療従事者の感染リスクも少なく、約30分で判定が可能となっている。感度はPCR検査と同程度とされており、PCRを補完するものとして期待されている。ただし、専用の機器が必要であり、現在対応できる検査機器は約800台と限りがある。今後、全国の医療機関での導入が進むかは予算措置などにもよると考えられる。(参考)全自動検査機器における新型コロナウイルス抗原検査試薬製造販売承認の取得について(みらかグループ)3.初の“デジタル薬”? 禁煙治療アプリが承認19日に開催された第2回 薬事・食品衛生審議会(医療機器・体外診断薬部会)において、ニコチン依存症治療アプリが医療機器として承認されることが了承された。このアプリは、禁煙外来に受診している紙巻きタバコを吸っている人が対象で、禁煙治療薬と併用する。禁煙指導患者に対して、禁煙の継続率を高めるために医師が処方するもので、医療機器として申請されており、日本国内で初めて承認された。今後、高血圧や糖尿病といった生活習慣病に対する治療アプリ利用が国内で増えるきっかけとなる可能性が高い。(参考)医師が処方する「治療用アプリ」として国内初の薬事承認へ(CureApp)第2回 薬事・食品衛生審議会(医療機器・体外診断薬部会)議題(厚労省)4.厚労省が医療人材の求人情報サイト「医療のお仕事 Key-Net」を開設新型コロナウイルス感染拡大に伴う医療人材不足に対して、厚労省は19日に、医療人材募集情報と求職者のマッチングを行うウェブサイト「医療のお仕事 Key-Net」を開設した。すでにサイトは一般に公開されており、全国の医療機関・保健所などの人材募集情報が掲載されている。医療機関などへの問い合わせや応募、面接までオンラインで完結するが、本サイトを通じて採用する者に対しては、厚労省の提示する研修(無料・数時間程度)を受講することが条件となっている。対象職種は、医師、保健師、助産師、看護師、准看護師、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、薬剤師、救急救命士および事務職。(参考)医師・看護師・医療人材の求人情報サイト「医療のお仕事 Key-Net」の開設について(厚労省)5.医師の時間外労働「年960時間+別枠420時間」を提言(日本医師会)日本医師会は、17日の記者会見において「医師の特殊性を踏まえた働き方検討委員会」(委員長:岡崎 淳一元厚生労働審議官)が作成した答申を公表した。これによると、2024年度から開始予定の「罰則付き」時間外の上限時間の適用を猶予する内容である。実施に当たっては、大学附属病院の診療科によっては960時間が適用される場合があり、960時間では地域医療の支援は不可能となることなどから、地域医療支援機能を維持するために、960時間が上限の場合には、副業・兼業のために別枠として1週あたり8時間、年間420時間まで認める制度を導入する必要があるとされる。実施に当たって、対応が間に合わない部分については医療機関の判断に任せることを提言した。(参考)「医師の特殊性を踏まえた働き方検討委員会 答申」(日本医師会)

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中高年女性の前兆ある片頭痛、CVD発生リスクと関連/JAMA

 45歳以上の女性医療従事者を対象としたコホート研究において、前兆のある片頭痛を有する女性は、前兆のない片頭痛を有する女性または片頭痛なしの女性と比較して、心血管疾患(CVD)発生率が高いことが示された。ドイツ・シャリテー-ベルリン医科大学のTobias Kurth氏らが、米国のWomen's Health Study(WHS)の追跡調査結果を解析・報告した。前兆のある片頭痛がCVDリスクを増加させることは知られている。しかし、ほかのCVDリスク因子と比較した場合、前兆を伴う片頭痛のCVD発生への絶対的寄与率は不明であった。JAMA誌2020年6月9日号掲載の報告。45歳以上の女性医療従事者約3万人を20年以上追跡 研究グループは、WHSに参加した45歳以上の女性医療従事者のうち、ベースライン(1992~95年)の脂質測定データがあり、かつCVDの既往がない女性について、2018年12月31日まで追跡調査した。ベースラインでの片頭痛の有無(前兆あり/前兆なし)は自己報告とした。 主要評価項目は、主要CVD(初発心筋梗塞、脳卒中、CVD死)で、一般化モデリング法を用いコホートの全女性を対象に、リスク因子ごとに多変量調整主要CVDイベント発生率を算出した。 解析対象は、2万7,858例(ベースラインの平均[±SD]年齢:54.7±7.1歳)であった。このうち1,435例(5.2%)が前兆のある片頭痛を有し、2万6,423例(94.8%)が前兆のない片頭痛あり/片頭痛なしであった(2,177例[7.8%]が前兆のない片頭痛あり、2万4,246例[87.0%]がベースラインの前年に片頭痛なし)。CVD発生率、片頭痛前兆あり群3.36/1,000人年、前兆なし/片頭痛なし群2.11/1,000人年 平均追跡期間は、22.6年(62万9,353人年)で、主要CVDイベントは1,666件発生した。1,000人年当たりの調整主要CVD発生率は、前兆のある片頭痛を有する女性で3.36(95%信頼区間[CI]:2.72~3.99)、前兆のない片頭痛あり/片頭痛なしの女性では2.11(1.98~2.24)であった(p<0.001)。 前兆のある片頭痛を有する女性における調整主要CVD発生率は、肥満(2.29、95%CI:2.02~2.56)、トリグリセライド高値(2.67、2.38~2.95)、HDLコレステロール低値(2.63、2.33~2.94)の女性に比べて有意に高かったが、収縮期血圧値上昇(3.78、95%CI:2.76~4.81)、総コレステロール高値(2.85、95%CI:2.38~3.32)、心筋梗塞の家族歴あり(2.71、95%CI:2.38~3.05)の女性との比較では有意差は確認されなかった。一方で、糖尿病(5.76、95%CI:4.68~6.84)または現喫煙者(4.29、95%CI:3.79~4.79)の女性における発生率は、前兆のある片頭痛を有する女性より有意に高値であった。 前兆のある片頭痛を有する女性での発生率の増加は、肥満の要素が加わった場合の1.01/1,000人年から、糖尿病が加わった場合の2.57/1,000人年の範囲にわたった。 著者は、研究の限界として片頭痛と血管リスク因子について自己報告であること、女性医療従事者のみを対象としたことなどを挙げたうえで、「本解析結果の臨床的意義と一般化の可能性については、さらなる調査が必要である」とまとめている。

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ディスアナプシスは高齢者のCOPDリスクを増大/JAMA

 気道サイズと肺胞の大きさが不均衡のディスアナプシスは、高齢者の慢性閉塞性肺疾患(COPD)と有意に関連しており、肺の大きさに比して下気道樹径が小さいほどCOPDのリスクが大きいことも示された。米国・コロンビア大学のBenjamin M. Smith氏らが、2件のコホート試験と1件のケースコントロール試験を基に、後ろ向きコホート試験を行い明らかにしたもので、結果を踏まえて著者は、「ディスアナプシスはCOPDのリスク因子と思われる」とまとめている。COPDの主要なリスクとして喫煙があるが、COPDリスクの大部分は不明のままである。研究グループは、高齢者において、CT画像診断で確認したディスアナプシスがCOPDの発生およびCOPDにおける肺機能低下と関連しているかを調べる検討を行った。JAMA誌2020年6月9日号掲載の報告。ディスアナプシスと、COPD発症率やCOPD患者の肺機能低下との関連を検証 研究グループは、2010~18年に米国6ヵ所で行われた「アテローム性動脈硬化症の多民族研究(MESA)肺試験」(被験者数2,531例)と、2010~18年にカナダ9ヵ所で行われた「カナダコホート閉塞性肺疾患」(CanCOLD、被験者数1,272例)の2件のコミュニティーベースのサンプル、および2011~16年に米国12ヵ所で行われたCOPDのケースコントロール試験「COPDの部分母集団と中期アウトカム尺度に関する試験」(SPIROMICS、被験者数2,726例)を基に、後ろ向きコホート試験を行い、CT画像診断で確認したディスアナプシスと、高齢者のCOPD発症率や、COPD患者における肺機能低下との関連を検証した。 ディスアナプシスは、標準的な解剖学的部位19ヵ所で測定した幾何学的平均気道内腔を、肺容積で割り定量化した(気道/肺比)。 主要アウトカムはCOPDの発症率で、気管支拡張薬投与後の1秒率(FEV1:FVC)が0.70未満で、呼吸症状を伴う状態と定義した。副次アウトカムは、肺機能の縦断的変化だった。 全分析結果について、人口統計学的要因や標準的COPDリスク因子(喫煙や受動喫煙、職業性・環境汚染、喘息)で補正を行った。気道/肺比の格差、FEV1低下幅には関連せず MESA肺試験被験者2,531例の平均(SD)年齢は69歳(9)で、女性は1,334例(52.7%)だった。COPD患者は237例(9.4%)で、平均(SD)気道/肺比は0.033(0.004)、平均(SD)FEV1低下幅は-33mL/年(31)だった。COPDを有していなかった被験者2,294例において、追跡期間中央値6.2年の間に新たにCOPDを発症したのは、98例(4.3%)だった。 気道/肺比が最高四分位群の被験者と比べて、最低四分位群のCOPD発症率は有意に高率だった(1,000人年当たり9.8 vs.1.2、率比[RR]:8.12、95%信頼区間[CI]:3.81~17.27、率差:8.6/1,000人年、95%CI:7.1~9.2、p<0.001)。一方で、FEV1低下幅について有意差はみられなかった(−31 vs.−33mL/年、群間差:2mL/年、95%CI:-2~5、p=0.30)。 CanCOLD試験被験者1,272例の平均(SD)年齢は67歳(10)、女性は564例(44.3%)だった。追跡期間中央値3.1年の間にCOPDを発症したのは、113/752例(15.0%)、平均(SD)FEV1低下幅は-36mL/年(75)だった。 気道/肺比が最高四分位群の被験者と比べて、最低四分位群のCOPD発症率は有意に高率だった(1,000人年当たり80.6 vs.24.2、RR:3.33、95%CI:1.89~5.85、率差:56.4/1,000人年、95%CI:38.0~66.8、p<0.001)。一方で、FEV1低下幅について有意差はみられなかった(-34 vs.-36mL/年、群間差:1mL/年、95%CI:-15~16、p=0.97)。 SPIROMICS被験者のうち、追跡期間中央値2.1年でCOPDを発症したのは1,206例で、平均(SD)年齢は65歳(8)、女性は542例(44.9%)だった。そのうち気道/肺比が最低四分位群の平均(SD)FEV1低下幅は-37mL/年(15)で、MESA肺試験被験者の低下と有意差はなかった(p=0.98)。一方で、最高四分位群の低下幅は、MESA肺試験被験者の低下幅と比べて有意に大きく、低下が急速に起きていたことが判明した(-55mL/年[SD 16]、群間差:-17mL/年、95%CI:-32~-3、p=0.004)。

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「そろそろ禁煙しないと」と思っているだけの患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第34回

■外来NGワード「禁煙しなさい!」(これでできたら苦労していない)「喫煙を続けると早死にしますよ!」(ショックを与える言動)「タバコの本数を減らしなさい!」(あいまいな節煙指導)■解説 新型コロナ感染症の重症化には、糖尿病、心不全、呼吸器疾患、透析などに加え、喫煙が強く関係しています。喫煙室は、新型コロナウイルス感染リスクが高い「3密」(密閉、密集、密接)の代表ともいえます。また、テレワークや休校のために、喫煙者が家でタバコを吸う機会が多くなり、家族の受動喫煙のリスクも高まっています。このようなパンデミックは、経済的な負担だけでなく精神的なダメージも大きく、「ストレスで喫煙本数が増えた」という患者さんもおり、普段以上に禁煙のハードルが高くなっているのかもしれません。禁煙治療には、ニコチンパッチ・ニコチンガムなど(ニコチン代替療法)や、禁煙補助薬バレニクリンなどを用いた薬物療法があります。薬物療法に行動療法(行動パターン変更法、環境改善法、代償行動法など)を組み合わせることで、禁煙成功率は高まります。しかし、すぐに禁煙しようとしない無関心期にある患者さんの場合、本数を減らすという選択肢もあります。コクランによると、禁煙する前に喫煙本数を減らすのと、ただちに完全禁煙する場合では、同程度の禁煙成功率であるとのエビデンスが報告されています1)。徐々に減らす場合には、1~2週間後に禁煙するという目標を立てることが大切です。新型コロナ感染症にはACE2受容体が関係するとの報告がありますが、喫煙はACE2受容体の発現を増加させます。喫煙が新型コロナウイルス感染症の重症化に深く関わることを上手に説明して、禁煙に真摯に向き合ってもらえるといいですね。 ■患者さんとの会話でロールプレイ医師最近、タバコの本数はいかがですか?患者今、テレワークになって家にずっといるんですが、子供も家にいるのでタバコが吸いづらくて。医師なるほど。確かに、ご家族にとっては受動喫煙になりますからね。患者そうなんです。妻から、「家の中では吸わないで」と言われていて…。医師どこで吸っておられるんですか?患者外に出て吸っています。近くに喫煙所もないし、マンションのベランダも喫煙禁止なので。医師なるほど。喫煙室も3密ですし、吸える場所がだんだん少なくなってきましたね。患者そうなんですよ。医師ところで、喫煙が新型コロナの重症化に深く関わっているのはご存じですか?患者やっぱり、そうですよね。そろそろ、禁煙しないといけないとは思っているんですが。医師これをきっかけに、禁煙について真剣に考えてもいいかもしれませんね。患者はい。けど、スパッと禁煙する自信がなくて。医師そんな人でも禁煙できる方法がありますよ!(前置きする)患者それはどんな方法ですか?(禁煙の準備についての話に進む)■医師へのお勧めの言葉「コロナをきっかけに、禁煙について真剣に考えてみませんか?」1)Lindson N, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2019;9:CD013183.2)Berlin I, et al. Nicotine Tob Res. 2020 Apr 03. [Epub ahead of print]3)Vardavas CI, et al. Tob Induc Dis. 2020;18:20.4)Seys LJM, et al. Clin Infect Dis. 2018;66:45-53.5)Brake SJ, et al. J Clin Med. 2020;9:841.

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電子タバコ/vaping製品の安全性が担保されていないこと/急増する電子タバコ関連肺損傷を周知し、安易に手を出すことを慎もう!(解説:島田俊夫氏)-1240

紙巻きタバコが有害は自明 紙巻きタバコが有害なことはこれまでの多くの研究から生活習慣病の悪習の一因として周知されており、紙巻きタバコはあらゆるがんの発生や動脈硬化の促進に関与していることは周知の事実である。さらに、心血管障害の大きなリスク因子としてのみならず、感染症に対して免疫力の低下をもたらすこともわかってきており1)、生活習慣病の大きな病因と見なされるようになっている。電子タバコ/vaping製品は決して安全な紙巻きタバコの代替にはならない 電子タバコ/vaping製品は、ニコチンに関しては確実に低減されているが、禁煙のための代替喫煙としての電子タバコ/vaping製品の使用に関する安全性は十分に担保されているとは言い難い。 喫煙者が禁煙したいと思う気持ちをもてあそび、禁煙のために紙巻きタバコ代替品に安易に飛び付くように仕向けられた誇大広告により電子タバコ/vaping製品を使用する禁煙志願者が増加している。残念ながら、いろいろな禁煙手段を試みるも、紙巻きタバコ中毒にどっぷりつかって禁煙できない喫煙者が数多くみられる。電子タバコ/vaping製品の有害性低減の宣伝をうのみにして、禁煙できない対象者が、健康被害を十分に検証することもなく比較的無害な代替タバコだと思い込み、藁にもすがる気持ちで電子タバコ/vaping製品に飛び付いている。この行為により致命的合併症が誘発されることが米国の臨床研究からわかってきた2)。 ところが、皮肉なことに、多くの喫煙者が代替タバコに救いを求めたため、これらの代替タバコの有害性が日増しに露呈され、電子タバコ/vaping製品が決して無害でないとの認識が深まってきた。もし、代替タバコとしての電子タバコ/vaping製品が紙巻きタバコ同様あるいはそれ以上に有害性を持っていることがわかれば、これらの使用は法的な規制を含め再検討されねばならない。E-cigarette, or vaping, product use-associated lung injury (EVALI) そこで、米国の各州の保健当局は2019年8月から米国疾病管理予防センター(CDC)にEVALI症例の報告を行っており、CDCのAngela K. Werner氏らが2,558例のEVALI症例データに基づき、致死例(60例)と非致死例(2,498例)の2群に分けた統計解析の結果をまとめた論文が2020年4月23日にNEJMに掲載された。この論文の意義を日本の現況を踏まえながらコメントする。 電子タバコやvaping製品の使用に基づく肺障害(EVALI)による致死例と非致死例を比較検討した結果、致死例では喘息、心疾患、精神疾患の併存割合が非致死例と比較し高かったと報告している。また、致死例の半数以上に肥満を認めた。電子タバコ/vaping製品では日本国内ではニコチン量が確実に低減されている。しかし安全性が十分に担保されていない有害物質(テトラヒドロカンナビノール、カルボニル類など)や多数の有害成分が含まれていることもわかっている。 この論文で気になるのは電子タバコ/vaping製品の使用と関連したEVALIによる致死例が60例、非致死例2,458例を対象とした米国の観察研究であり、わが国とは異なり人種の多様性もあり、社会背景が複雑なため正確な統計解析を行うには致死例群の数が2.3%と少なく、信頼に足る統計解析は難しく、確固たるエビデンスを得ることが難しかった側面もあるのではと推測する。致死例では35歳以上の高齢群が35歳未満の低年齢群よりも有意に多かった(60例中44例[73%]が高齢群)。逆に非致死例群では高齢群の占める割合が22%(2,514例中551例)と低かった。病歴の利用できる患者中、喘息歴、心疾患歴、精神疾患歴についてみるとそれぞれ13/57(23%)vs.102/1,297(8%)、26/55(47%)vs.115/1,169(10%)、32/49(65%)vs.575/1,398(41%)と致死例群で高かった。心疾患、呼吸器疾患および精神疾患歴は入院EVALI患者ではごく普通にみられる病態であった。 日本国内では受動喫煙防止の観点から、喫煙を容認されない環境でニコチンを摂取可能にする代替タバコとして、スウェーデン型無煙タバコ(スヌース)や電子タバコなどの新しいタイプのタバコが急速にシェアを拡大している。しかし、電子タバコ/vaping製品を盲目的に安全と信ずることに警鐘を鳴らすにはこの論文は十分で、目下の段階では何がEVALIの原因かは明らかになっていないが電子タバコ/vaping製品に原因があることだけは確実である。この論文は時宜を得た論文であり、ことの重要性を理解し、電子タバコ/vaping製品に安易に手を出さないことが命を守る確実な手段であることを知ってほしい。日本国内での電子タバコ/vaping製品に関しては、米国の現況を即当てはめることは適切でないかもしれないが、早晩米国同様の事態を招きかねないので転ばぬ先の杖として耳を傾けてほしい。

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EGFR陽性肺がん、ベバシズマブとエルロチニブの併用療法はOSを改善したか(NEJ026試験)/ASCO2020

 EGFR変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)に対する1次治療としてのベバシズマブ(商品名:アバスチン)とエルロチニブ(同:タルセバ)の併用療法と、エルロチニブ単独療法との比較試験(NEJ026試験)の全生存期間(OS)に関する最終解析の結果報告が、米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO20 Virtual Scientific Program)で岩手医科大学の前門戸 任氏より発表された。NEJ026試験のOS最終解析で両群間に差見られず NEJ026試験は、日本の臨床試験グループ(North East Japan Study Group)により実施されたオープンラベルの多施設共同の第III相比較試験である。無増悪生存期間(PFS)に関してはASCO2018で良好な結果が報告されており、今回はそのOSに関する最終解析結果である。・対象:非扁平上皮EGFR変異陽性のNSCLC。化学療法による治療歴のないStage IIIB/IV症例、または術後再発例。無症候性の脳転移有り症例も登録可能とした。・試験群:ベバシズマブとエルロチニブの併用投与群(BE群)・対照群:エルロチニブ単剤群(E群)・主要評価項目:独立評価委員会によるPFS・副次評価項目:OS、奏効率、奏効期間、安全性など・探索的評価項目:2次治療後までを含めたPFS(PFS2)、バイオマーカー検索など NEJ026試験のOSに関する最終解析の主な結果は以下のとおり。・2015年6月~2016年8月の期間にBE群114例、E群114例が登録され、そのうちBE群112例、E群112例が有効性の解析に用いられた。今回のOS解析のためのデータカットオフは2019年11月で、観察期間中央値は39.2ヵ月であった。・OS最終解析の結果は、中央値がBE群50.7ヵ月、E群46.2ヵ月、ハザード比(HR)は1.007(95%CI:0.681~1.490)で、p=0.973であった。EGFR変異のサブタイプ(Exon19 delとExon21 L858R)や性別、喫煙歴、脳転移の有無などのサブグループにおいても、両群間に差は見られなかった。 ただし、NEJ026試験のサンプルサイズは、OSの差を検証するには十分ではなかった。・2次治療は、BE群で76%、E群で83%に施行され、その内訳はプラチナ+ペメトレキセド(PP)がBE群29.5%、E群16.1%、PP+ベバシズマブがBE群4.5%、E群28.6%、オシメルチニブがBE群25.9%、E群25.0%であった。・2次治療としてのオシメルチニブの投与の有無で、両群のOSを検討したところ、両群ともに2次治療でオシメルチニブを投与された症例のほうがOSの延長がみられた。BE群ではオシメルチニブ投与有り50.7ヵ月、投与無し37.6ヵ月で、HRは0.63(95%CI:0.33~1.20)、E群ではオシメルチニブ投与有りが未到達、投与無しで40.1ヵ月で、HRは0.65(95%CI:0.33~1.28)であった。

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COVID-19へのヒドロキシクロロキン、死亡・心室性不整脈が増加か/Lancet

※本論文は6月4日に撤回されました。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者へのヒドロキシクロロキンまたはクロロキン±第2世代マクロライド系抗菌薬による治療は、院内アウトカムに関して有益性をもたらさず、むしろ院内死亡や心室性不整脈のリスクを高める可能性があることが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のMandeep R. Mehra氏らの調査で示された。研究の成果は2020年5月22日、Lancet誌オンライン版に掲載された。抗マラリア薬クロロキンと、そのアナログで主に自己免疫疾患の治療薬として使用されるヒドロキシクロロキンは、多くの場合、第2世代マクロライド系抗菌薬との併用でCOVID-19治療に広く用いられているが、その有益性を示す確固たるエビデンスはない。また、これまでの研究で、このレジメンは心血管有害作用としてQT間隔延長をもたらし、QT間隔延長は心室性不整脈のリスクを高める可能性が指摘されている。6大陸671病院の入院患者の多国間レジストリ解析 研究グループは、COVID-19治療におけるヒドロキシクロロキンまたはクロロキン±第2世代マクロライド系抗菌薬の有益性を評価する目的で多国間レジストリ解析を行った(ブリガム&ウィメンズ病院の助成による)。 レジストリ(Surgical Outcomes Collaborative)には6大陸671ヵ所の病院のデータが含まれた。対象は、2019年12月20日~2020年4月14日の期間に入院し、検査で重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)が陽性のCOVID-19患者であった。 診断から48時間以内に次の4つの治療のうち1つを受けた患者と、これらの治療を受けていない対照群を解析に含めた。(1)ヒドロキシクロロキン、(2)ヒドロキシクロロキン+マクロライド系抗菌薬、(3)クロロキン、(4)クロロキン+マクロライド系抗菌薬。マクロライド系抗菌薬はクラリスロマイシンとアジスロマイシンに限定された。 診断後48時間を超えてから治療が開始された患者や、機械的換気およびレムデシビルの投与を受けた患者は除外された。 主要アウトカムは、院内死亡と新規心室性不整脈(非持続性・持続性の心室頻拍および心室細動)とした。4レジメンすべてで、死亡と心室性不整脈が増加 試験期間中にCOVID-19患者96,032例(平均年齢53.8歳、女性46.3%)が入院し、適格基準を満たした。このうち、1万4,888例が治療群(ヒドロキシクロロキン群3,016例、ヒドロキシクロロキン+マクロライド系抗菌薬群6,221例、クロロキン群1,868例、クロロキン+マクロライド系抗菌薬群3,783例)で、8万1,144例は対照群であった。1万698例(11.1%)が院内で死亡した。 交絡因子(年齢、性別、人種または民族、BMI、心血管系の基礎疾患とそのリスク因子、糖尿病、肺の基礎疾患、喫煙、免疫不全疾患、ベースラインの疾患重症度)を調整し、対照群の院内死亡率(9.3%)と比較したところ、4つの治療群のいずれにおいても院内死亡リスクが増加していた。各群の院内死亡率およびハザード比(HR)は、ヒドロキシクロロキン群18.0%(HR:1.335、95%信頼区間[CI]:1.223~1.457)、ヒドロキシクロロキン+マクロライド系抗菌薬群23.8%(1.447、1.368~1.531)、クロロキン群16.4%(1.365、1.218~1.531)、クロロキン+マクロライド系抗菌薬群22.2%(1.368、1.273~1.469)であった。 また、入院中の新規心室性不整脈のリスクは、対照群(発生率0.3%)と比較して、4つの治療群のすべてで増加していた。各群の発生率とHRは、ヒドロキシクロロキン群6.1%(HR:2.369、95%CI:1.935~2.900)、ヒドロキシクロロキン+マクロライド系抗菌薬群8.1%(5.106、4.106~5.983)、クロロキン群4.3%(3.561、2.760~4.596)、クロロキン+マクロライド系抗菌薬群6.5%(4.011、3.344~4.812)。 著者は、「これらの薬剤の有用性を示唆するエビデンスは、少数の事例研究や小規模の非盲検無作為化試験に基づいているが、今回の研究は複数の地域の多数の患者を対象としており、現時点で最も頑健な実臨床(real-world)のエビデンスをもたらすものである」とし、「これらの知見は、4つの治療レジメンは臨床試験以外では使用すべきでないことを示唆しており、無作為化臨床試験により早急に確認する必要がある」と指摘している。 なお、本論文のオンライン版は、掲載後に、使用したデータベースに問題があることが判明し、修正のうえ2020年5月29日付で再掲されている。修正の前後で結論は変わらないとされるが(https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)31249-6/fulltext)、同じデータベースを用いた他の論文を含め調査が進められており、今後、さらに修正が加えられる可能性もある。

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