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非専門医向け喘息ガイドライン改訂-喘息死ゼロへ

 日本全体で約1,000万人の潜在患者がいるとされる喘息。その約70%が何らかの症状を有し、喘息をコントロールできていないという。吸入ステロイド薬(ICS)の普及により、喘息による死亡(喘息死)は年々減少しているものの、2020年においても年間1,158人報告されているのが現状である。そこで、2020年に日本喘息学会が設立され、2021年には非専門医向けの喘息診療実践ガイドラインが発刊、2022年に改訂された。喘息診療実践ガイドライン発刊の経緯やポイントについて、日本喘息学会理事長の東田 有智氏(近畿大学病院 病院長)に話を聞いた。喘息診療実践ガイドラインで2028年までに喘息死を0に 東田氏は、「均質な医療を提供することで、2028年までに喘息死を半減させる。できれば0にしたい」と語った。そのために「喘息の科学的知見に基づく情報提供をしたい」「非専門医の日常診療に役に立つガイドラインを作りたい」との思いから、喘息診療実践ガイドラインを作成したという。喘息診療実践ガイドラインは、新薬の登場などに合わせて、可能な限り毎年改訂を行う予定とのことである。喘息診療実践ガイドライン2022の問診チェックリスト活用を 従来のガイドラインでは、「喘息診断の目安」が記載されているものの、「診断基準」は明記されていない。また、喘息の診断には呼吸機能検査が必要とされているが、日常診療の場では難しい。そこで、喘息診療実践ガイドライン2022では、臨床現場で実際に活用できる診断アルゴリズムを作成している。ここで、重要となるのが「問診」である。東田氏らは、4千人超の喘息患者のデータをレトロスペクティブに解析した結果を基に、喘息患者の特徴を抽出した「問診チェックリスト」を作成し、喘息診療実践ガイドライン2022上に掲載している(p4、表2-1)。チェックリストは、大項目(喘鳴、咳嗽、喀痰などの喘息を疑う症状)と小項目(症状8項目、背景7項目の計15項目)からなり、「大項目+小項目(いずれか1つ)があれば喘息を疑う」とされている。 問診の結果、喘息を疑った場合には、「まず中用量のICSと長時間作用性β2刺激薬(LABA)の配合剤(中用量ICS/LABA)を最低3日以上使ってほしい」という。「中用量ICS/LABAによる治療に反応し、治療開始前から喘鳴がある場合は喘息と診断して良い」とのことである。反応しない場合は、「他疾患も疑う必要があるため、迷わず専門医に紹介してほしい」と語った。喘息診療実践ガイドライン2022には喘息治療のフローを掲載 喘息診療実践ガイドライン2022の喘息治療のフローに基づくと、日常診療では診断もかねて基本的には中用量ICS/LABAで治療を開始し、それでも症状が残ってしまう場合には、症状に応じて次のステップを考える。咳・痰が続く、呼吸困難が残る、喫煙歴がある場合などは、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)を、鼻汁・鼻閉(鼻づまり)がある場合は、ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)を追加する。LAMAを追加する場合は、「1デバイスで3成分を吸入できるICS/LABA/LAMAの3成分配合剤が登場しているため、こちらを使用してほしい」とのことだ。 また、治療効果が不十分の場合には、吸入薬をきちんと吸えていない可能性があるという。そのため、「まず、うまく吸えているかを確認してほしい。吸入指導の動画も用意しているので活用してほしい」と述べた。各種吸入デバイスの吸入指導用動画や「ホー吸入」という薬の通り道を広く保つ吸入法が、日本喘息学会HPに掲載されているので活用されたい。喘息診療実践ガイドライン2022に医療連携の可能な病院リスト 喘息治療においては、専門医との病診連携を積極的に活用してほしいという。たとえば、「中用量ICS/LABAにLAMAまたはLTRAを追加しても効果が得られない場合」「重症喘息に該当する喘息患者に遭遇した場合」「治療のステップダウンを検討しているが、呼吸機能検査ができない場合」などは検査を行う必要があるため、「専門医で治療導入や呼吸機能検査を実施し、その後はかかりつけ医の先生に診療いただくという病診連携も可能だ」と専門医との病診連携の重要性を強調した。専門医への紹介を考慮すべきタイミングについての詳細や専門医紹介時のひな型、医療連携の可能な病院のリストが喘息診療実践ガイドライン2022上に記載されているので活用されたい(p68~p71)。COVID-19流行期こそ喘息コントロールが重要 注目を集める喘息と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の関係については、「喘息をきちんとコントロールできていれば、COVID-19感染リスクが高いわけではないので、必要以上に怖がることはない。ただし、喘息のコントロールが悪いと、気道に炎症が起こり感染しやすくなってしまうので、喘息をコントロールすることが最も重要である」と喘息コントロールの重要性を強調した。『喘息診療実践ガイドライン2022』定価:2,420円(税込)判型:B5判頁数:本文72頁発行:2022年7月作成:一般社団法人日本喘息学会発行:協和企画

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EGFR陽性肺がんオシメルチニブ1次治療の肺臓炎、リアルワールド解析の結果(OSI-FACT)/Chest

 オシメルチニブは、進行EGFR変異陽性肺がん患者(NSCLC) の1次治療として位置付けられている。一方、オシメルチニブの潜在的合併症である薬物関連肺臓炎(DRP)については、信頼できるリアルワールドデータが不足している。 リアルワールドにおけるオシメルチニブ1次治療のDRP発現頻度、特徴を評価する多施設後ろ向きコホート研究が行われた。その結果が、2022年11月のChest誌で発表されている。 対象は2018年8月〜2019年12月に、1次治療としてオシメルチニブを投与された進行EGFR変異陽性NSCLC患者。主要評価項目は、独立審査委員会で特定された DRP発現率であった。 主な結果は以下のとおり。・18施設から452例の患者が登録された。・全GradeのDRPは80例(18%) 、Grade3以上は21例(4.6%)に認められた。・DRPの患者のうち、46%が一過性無症候性肺陰影(TAPO)であることが確認された。・多変量解析では、DRPの独立した危険因子として喫煙歴が特定された(ハザード比:1.72、95%信頼区間:1.01〜2.89、p=0.046)。・3ヵ月のランドマーク分析によれば、DRPの存在は治療効果の低さと関連していたが、TAPOの存在は治療効果に悪影響を及ぼさなかった。

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職場での粉じんなどの吸入で関節リウマチのリスクが増大

 職場で吸入する空気により、関節リウマチ(RA)の発症リスクが高まることがあるようだ。カロリンスカ研究所(スウェーデン)のBowen Tang氏らが実施した研究で、職場で蒸気やガス、溶剤などから生じる粉じんやヒューム(物質の加熱や昇華により生じる粉じんや煙霧、揮発性粒子など)に曝されることで、RAの発症リスクが増大することが明らかにされた。そればかりか、そのような物質への曝露は、喫煙や遺伝的にRAになりやすい傾向の悪影響を増長する可能性のあることも示唆されたという。この研究の詳細は、「Annals of the Rheumatic Diseases」に12月6日掲載された。 喫煙がRAの発症リスクを高めることは明らかにされているが、職場で吸入する粉じんやヒュームが同リスクに及ぼす影響については知られていない。そこでTang氏らは、スウェーデンのRAに関する疫学調査(Swedish Epidemiological Investigation of RA)のうち、1996年から2017年の間に新たにRAの診断を受けた患者4,033人と、年齢と性別を一致させたRAのない対照6,485人のデータを抽出。職業性曝露とRA発症との関連を、喫煙やRA発症の遺伝的要因も考慮した上で検討した。職業性曝露については、個人の職歴を精査し、職場の空気中に存在する32種類の物質への曝露量から評価した。また、遺伝的なRAリスクについては、遺伝的リスクスコア(GRS)を算出して、リスクの高い群と低い群に分類した。 RAの検査では、血液中の抗シトルリン化蛋白抗体(ACPA)の有無を調べる。ACPA陽性は、関節の骨の破壊(骨びらん)の進行が早く、予後不良であることを示す。本研究では、RA患者4,033人のうち2,642人がACPA陽性、1,391人が陰性であった。解析の結果、何らかの職業性曝露を経験した人では、ACPA陽性のRAを発症するリスクが25%高いことが明らかになった(オッズ比1.25)。性別ごとにリスクを検討すると、職業性曝露を経験した男性では、あらゆるRA発症のオッズ比が1.40、ACPA陽性RA発症のオッズ比が1.66であるのに対して、女性でのオッズ比はいずれも1.13であり、男性でのリスク増加が顕著であった。 検討対象とした32種類の物質のうちの17種類(アスベスト、石英粉じん、ディーゼル排ガス、ガソリン排ガス、一酸化炭素、防カビ剤など)と、ACPA陽性RAの発症リスク増大との間に強い関連性が認められた。これに対して、ACPA陰性RAの発症と強い関連性を示したのは石英粉じん、アスベスト、洗浄剤など少数であった。また、曝露した物質の数が多いほど、または曝露期間が長いほど、リスクも増大していた。あらゆるRAの発症リスクが最も増大していたのは曝露期間が8~15年の場合であった。さらに、男性は女性よりも多くの物質に長期間曝露する傾向があった。 このほか、職業性曝露、喫煙、GRS高スコアの3つの条件を併せ持つ人では、このような条件に該当しない人に比べて、ACPA陽性RAの発症リスクが16~68倍に上昇することも明らかになった。物質の種類別に見ると、同リスクは、殺虫剤で68倍、ガソリン排ガスで45倍、石英粉じんで32倍、ディーゼル排ガスで28倍であった。 本研究論文の付随論評を執筆した米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のJeffrey Sparks氏は、「今回の研究結果は、RAの発症機序について興味深い手がかりを示すものだ。職場で吸入する物質の種類により、リスク遺伝子や喫煙との反応の仕方は異なる。そのため、これらの物質が本当にRA発症の原因であるのなら、それぞれ異なる経路を介して関与している可能性がある」と同氏は話す。さらに同氏は、「今回の知見は、ACPA陽性のRAがACPA陰性のRAとは大きく異なるという見解を裏付けるものでもある」と付け加えている。

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アルコール摂取と白内障リスクとの関連が明らかに―日本人約3万人の症例対照研究

 アルコールの摂取習慣と白内障リスクとの間に、有意な用量反応関係があることが、日本人約3万人のデータを用いた症例対照研究の結果として示された。飲酒をやめた人は白内障リスクが低下する可能性があることも明らかになった。東海大学医学部基盤診療学系衛生学公衆衛生学の深井航太氏、東京慈恵会医科大学眼科学の寺内稜氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に11月22日掲載された。 白内障は眼のレンズである水晶体が混濁して視機能が低下する病気で、多くは加齢現象として生じる。詳細な検査を行えば高齢者の大半に認められるほど有病率の高い病気のため、仮に修正可能なリスク因子があるとすれば、公衆衛生対策の大きな効果が期待できる。これまでに、飲酒も白内障のリスク因子の一つである可能性が検討されてきているが、結果に一貫性が見られない。また、それらの研究は主に海外で行われており、超高齢社会の日本は白内障治療を受ける患者数が多いにもかかわらず、そのような視点での研究がほとんど行われていない。深井氏らの研究はこうした背景の下で行われた。 この研究には、国内最大級の入院患者レジストリである、34カ所の労災病院グループによる「入院患者病職歴調査(ICOD-R)」のデータが用いられた。2005~2019年度に同グループ病院へ加齢性白内障の手術治療のために入院した40~69歳の患者を「症例群」、性別、年齢(±5歳以内)、入院年などが一致する白内障以外の疾患での入院患者を「対照群」として抽出。各群1万4,861人からなる症例対照研究として実施した。なお、加齢性白内障は高齢であるほどハイリスクとなるため、飲酒量との関連を検討するという目的から、年齢上限を69歳とした。 飲酒量については、飲酒の頻度(飲酒習慣なし、以前は飲酒習慣があったが現在はなし、週1~3回、週4~7回)、1日当たりの飲酒量〔飲まない、1日2ドリンク以下、2超~4ドリンク以下、4ドリンク超(1ドリンクはエタノール換算10g相当)〕を把握。さらに、両者の積により飲酒の生涯累積摂取量〔摂取なし、40以下、40超~60以下、60超~90以下、90超(単位はdrink-years)〕を算出した。また、飲酒以外の共変量として、喫煙習慣、生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満)の有無、屋外作業の有無、職業上の放射性被曝リスクの有無などを把握した。 症例群と対照群を比較すると、前者は飲酒習慣のある人や、高血圧・糖尿病患者や屋外作業をしている人の割合が有意に高かった。喫煙習慣や教育歴、職業上の放射性被曝リスク、脂質異常症、肥満の割合などは有意差がなかった。 前述の共変量を全て調整したロジスティック回帰分析の結果、飲酒頻度、1日当たりの飲酒量、生涯累積摂取量のいずれについても、高値であるほど白内障手術を受ける人の割合が高いという有意な傾向性が認められた(全てP<0.01)。例えば、過去に飲酒習慣のない人を基準として飲酒頻度が週4~7回の群のオッズ比(OR)は1.30(95%信頼区間1.21~1.40)であり、また飲酒頻度が週に1~3日〔OR1.10(同1.03~1.17)〕や、1日当たりの飲酒量が2ドリンク以下〔OR1.13(1.06~1.20)〕であっても、有意なオッズ比の上昇が認められた。 それに対して、以前は飲酒習慣があったものの現在は飲んでいない群はOR1.00(0.91~1.09)で、関連は非有意だった。なお、性別に解析した結果は、男性・女性ともに全体解析の結果と同様であり、全て有意な傾向性が認められた。生涯累積摂取量については、男性では90超〔OR1.26(1.14~1.39)〕で有意なオッズ比上昇が見られたのに対して、女性では40超~60以下〔OR1.31(1.14~1.51)〕でもオッズ比上昇が認められた。 感度分析として、既知の白内障リスク因子である糖尿病患者を除外した解析では、以前は飲酒習慣があったものの現在は飲んでいない群でオッズ比低下が認められ、特に女性でその傾向が強かった〔男性はOR0.93(0.81~1.06)、女性はOR0.86(0.74~1.00)〕。 著者らは、本研究では白内障リスクを入院での手術症例のみで判断しており、日帰り手術が含まれていないためリスクを過小評価している可能性があることなどを、限界点として挙げている。その上で、「日本人ではエタノール換算20g/日程度の低用量の飲酒であっても白内障リスクが上昇する可能性が示された。また、飲酒量と白内障リスクとの間に用量反応関係が認められた。白内障患者に対しては、飲酒量を抑えるという生活習慣の改善が推奨される」と結論付けている。 なお、飲酒が白内障の進行を促すメカニズムについては、「アルコール代謝は酸化ストレスと関連があり、その過程で発生する活性酸素種が水晶体タンパク質の変性を引き起こすといった経路が考えられる」と考察している。

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健康経営と企業の業績の関連性

 労働者の健康を重視することで生産性の向上を期待するという「健康経営」が、実際に企業収益を押し上げている可能性を示唆するデータが報告された。滋賀医科大学社会医学講座公衆衛生学部門の矢野裕一朗氏らの研究によるもので、詳細は「Epidemiology and health」に9月23日掲載された。 バブル崩壊以降続いている日本の競争力の低下の一因として、労働者の生産性の低さが指摘されている。労働者の生産性の向上には、健康で安心して働ける環境が必要と考えられることから、経済産業省は「健康経営」の普及を推進しており、例えば「健康経営銘柄」の選定などを行っている。ただし、従業員の健康への投資がその企業の業績向上に結び付いているのか否かは不明。矢野氏らは、経産省の健康経営に関する年次調査のデータと、企業が公表している財務指標との関連を調べるという手法で、この点を検討した。 調査対象は1,593社だった。その内訳は、2017年度の経産省調査と2017~2020年度の財務指標データの双方を得られた842社、および、2018年度経産省調査と2018~2020年度の財務指標データの双方を得られた751社。業種は、専門サービスが12.7%、電気通信12.4%、小売11.2%、金融サービス8.7%、卸売7.3%、電気製造5.9%、建設4.3%、化学4.1%、輸送機器3.8%、海運3.5%、食品3.3%など。これらの企業の従業員数は合計435万9,834人で平均年齢40.3±3.4歳、女性25.8%、勤続年数は14.2±4.9年だった。 財務指標を基に従業員1人当たりの利益の増加が大きい上位25%の企業を“業績良好(=利益あり)”と定義し、それと関連性の強い健康経営調査の項目を抽出した上で、利益が上昇している企業を特定するためのモデルを作成。統計学的解析の結果、正確度0.997、精度0.993、再現性0.997という予測能の高いモデルを得られた。このモデルの中で、健康経営調査の各項目の重要度(企業利益ありに対する寄与度)をシャープレイ値(SHAP値)という指標で評価したところ、以下のように、健康経営指標と、従業員1人当たりの利益の増加との関連が明らかになった。なお、SHAP値は数値が大きいほど重要性が高いことを意味する。 従業員1人当たりの利益の増加に最も強い関連のある健康経営指標は、現在の喫煙者の割合の低さであり、SHAP値は0.121だった。2位は従業員1人当たりの医療サービスコスト(SHAP値0.084)で、そのほかは、よく眠れる従業員の割合(同0.055)、定期的に運動する習慣がある従業員の割合(0.043)、1人当たりの年間福利厚生費(0.041)などだった。 著者らは、本研究が観察研究であり因果関係の証明にはならないこと、例えば、企業業績が良好なために福利厚生に力を入れているという結果を表している可能性があることなどを、解釈上の限界点として挙げている。その上で、「企業従業員のライフスタイルに関連する健康リスク要因と、企業の収益性との間に関連があることが実証された。労働者の生産性を引き下げる健康上のリスクを特定して対処するという投資が、将来的な収益改善に貢献する可能性が想定される」と結論付けている。

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若年発症2型DMは世界的な健康問題-30年で1.5倍超に/BMJ

 1990年以降、若年発症2型糖尿病は、世界的に増大している青少年・若年成人(15~39歳)の健康問題であり、とくに社会人口統計学的指標(SDI)低中・中の国で疾病負担は大きく、また30歳未満の女性で疾病負担が大きいことを、中国・ハルピン医科大学のJinchi Xie氏らが世界疾病負担研究2019(Global Burden of Disease Study 2019)のデータを解析し報告した。これまで若年発症2型糖尿病の世界的疾病負担や長期傾向、および性別やSDI分類別にみた違い、さらに国別の若年発症2型糖尿病寄与リスク因子の違いなどは調査されていなかった。BMJ誌2022年12月7日号掲載の報告。1990~2019年の204ヵ国15~39歳のデータを解析 研究グループは、青少年・若年成人(15~39歳)の2型糖尿病の世界的負担を推計するため、1990~2019年に204ヵ国の15~39歳が参加した世界疾病負担研究2019のデータを用いてシステマティックな解析を行った。 主要評価項目は、1990~2019年の15~39歳2型糖尿病者の年齢標準化罹患率、年齢標準化障害調整生存年(DALY)率、年齢標準化死亡率、および各リスク因子の寄与率(因子別寄与DALY÷総計DALYで算出)であった。罹患率、DALY率、死亡率とも有意に増加 1990~2019年に、青少年・若年成人の2型糖尿病の年齢標準化罹患率、年齢標準化DALY率は、有意に増加していた(p<0.001)。年齢標準化罹患率(10万人当たり)は、1990年の117.22(95%信頼区間[CI]:117.07~117.36)から2019年は183.36(183.21~183.51)に、年齢標準化DALY率は同106.34(106.20~106.48)から149.61(149.47~149.75)へとそれぞれ増加していた。年齢標準化死亡率は、同0.74(95%CI:0.72~0.75)から0.77(0.76~0.78)へとわずかだが有意に増加していた(p<0.001)。 SDIでグループ化した国別では、2019年では、SDI低中・中の国で年齢標準化罹患率、年齢標準化DALY率が最も高く、SDI低の国は年齢標準化罹患率が最も低い一方で年齢標準化死亡率が最も高かった。 性別では、30歳未満では女性が男性よりも概して死亡率とDALY率が高かった。30歳以上では、SDI低の国以外は男女差が逆転していた。 若年発症2型糖尿病DALYの主な寄与リスク因子は、すべてのSDI分類地域でBMI高値であった。その他のリスク因子の寄与率は地域によって異なっており、SDI高の国では、室外環境中の粒子状物質による大気汚染および喫煙の割合が高く、SDI低の国では、室内の固形燃料による大気汚染や果物が不足気味の食事の割合が高かった。 これらの結果を踏まえて著者は、「若年発症2型糖尿病の負担の軽減には体重管理が欠かせないが、この問題へのより効果的な対応には、各国で個別に政策を確立する必要がある」と述べている。

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料理に塩をふりかける習慣は心疾患リスクを上昇させる

 心疾患の発症リスクを下げたいならテーブルソルトを食卓に置かないようにする方が良いかもしれない。日頃から減塩を実践している人でも、料理に塩をふりかける習慣があると、心血管疾患(CVD)の発症リスクの上昇をまねく恐れのあることが、米テュレーン大学公衆衛生・熱帯医学部教授のLu Qi氏らの研究で示された。研究結果は、「Journal of the American College of Cardiology」12月6日号に掲載された。 この研究でQi氏らは、成人17万6,570人の塩分摂取量に関するデータを収集し、料理に塩をふりかける習慣やDASH食とCVDリスクとの関連について調べた。高血圧の予防と改善を目的とするDASH食では、果物や野菜、全粒穀物、低脂肪の乳製品などを多く摂取するほか、肉や魚、鶏肉などの家禽類、ナッツ類、豆類なども摂取できるが、砂糖が添加された食品や飲料、赤肉、添加脂肪の摂取は制限される。 その結果、料理に塩をふりかける習慣があまりない人では、CVDリスクが有意に低いことが明らかになった。リスクは、料理に「常に」塩をふりかける人に比べて、ふりかける頻度が「たいてい」と「時々」の人でそれぞれ19%と21%、「全く/めったにふりかけない」人では23%低かった。さらに、CVDの種類ごとに検討すると、料理への塩の添加と最も強い関連を示したのは心不全、次いで関連が強かったのは虚血性心疾患であった。その一方で、脳卒中との間に関連は認められなかった。CVDリスクが最も低かったのは、DASH食を実践し、かつ塩をふりかける頻度が最も低い人であった。 料理に塩をふりかける習慣があまりない人の特徴としては、女性、白人、適正体重の人、飲酒量が適度で喫煙習慣がなく、身体活動量の多い人、つまり健康的な生活習慣の人であることが明らかになった。一方、料理に塩をふりかける習慣がある人には、社会経済的地位が低く、喫煙者の割合が高い傾向が認められた。 Qi氏は、「われわれの研究結果から、CVDは摂取する塩の量を減らすという行動変容を通じて予防できる可能性が示された」と述べている。ただ、この研究で関連性は示されたが、塩をふりかけることとCVDの因果関係が証明されたわけではない。 今回の研究の付随論評を執筆した、米ネブラスカ大学医療センターのSara Ghoneim氏は、「心筋梗塞や心不全などの有害な心疾患と診断される確率は、料理にどの程度の塩をふりかけているかによって変わってくる」と説明する。同氏は、塩をふりかける頻度やその量が増えるにつれて、心不全や心筋梗塞、狭心症のリスクが高まると指摘。それに対し、DASH食を取り入れ、塩分摂取量を制限することで、「これらの疾患から心臓を守ることができる」と説明している。 料理への塩の添加量を制限するには、食卓に塩を置かないようにすれば良い。これは誰にでも簡単にできることだ。Ghoneim氏は、「結局のところ、最も重要なのは生活習慣の是正だ」とした上で、「含まれる食塩の量が2g未満の健康的な食事を取ることが理想的だ。また、量だけでなく、料理に塩をふりかける頻度にも注意すべきだ」と呼び掛けている。

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性への関心が薄れると死亡率は高くなる/国内前向き研究

 性的関心が薄れることは、健康や寿命に関係するのであろうか。山形大学の櫻田 香氏らの研究グループは、性的関心の欠如と全死因死亡率との関連性について、山形県における前向き観察研究を行った。この研究は、山形県内の40歳以上の被験者2万969人を対象に行ったもので、性的関心を持たなかった男性では、全死亡率およびがん死亡率が有意に上昇した。PLoS One誌2022年12月14日号の報告。 山形県内の年次健康診断に参加した40歳以上の被験者2万969人(男性8,558人、女性1万2,411人)を対象。性的興味は自己報告式の質問紙で評価した。性的関心と全死亡、心血管疾患死亡、がん死亡の増加との関連をCox比例ハザードモデルにより検討。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中(中央値:7.1年)、503人が死亡した(心血管疾患死亡:67人、がん死亡:162人)。・カプランマイヤー解析の結果、性的関心がない男性では、全死亡率(p<0.0001)およびがん死亡率(p<0.05)が有意に上昇した。・年齢、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、飲酒状況、BMI、教育、配偶者の有無、笑いの頻度、心理的苦痛を調整したCox比例ハザードモデル解析では、性的関心がない男性では、性的関心がある男性より全死亡のリスクが有意に高かった(ハザード比:1.69、95%信頼区間:1.17~2.44)。

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脳の強化にはベリー類などの食品が良い可能性

 ベリー類やお茶をたくさん摂取すれば、加齢に伴う認知機能の低下速度を遅らせることができるかもしれない。米ラッシュ大学医療センターのThomas Holland氏らが、900人以上の成人を対象に実施した研究で、抗酸化物質のフラボノール類を含む食品や飲料は、高齢者の脳に有益な影響をもたらすことが示された。フラボノール類は、ベリー類などの果物や緑色の葉物野菜、茶、ワインなどに含まれている。この研究結果は、「Neurology」に11月22日掲載された。 この研究でHolland氏らは、認知症がない60〜100歳の研究参加者961人(平均年齢81歳)のデータを収集した。平均6.9年にわたる追跡期間中に、これらの参加者は年に1回の頻度で食事に関する質問票に回答しており、1日当たりのフラボノール類の摂取量に応じて5群に分けられた。参加者のフラボノール類の1日当たりの平均摂取量は、最も多い群で15mg(葉物野菜で約1カップ分に相当)、最も少ない群で5mgだった。認知機能については、参加者に対して1年に1回の頻度で実施された19種類の認知機能検査の結果を基に、包括的な認知機能スコアを算出した。 その結果、年齢や性別、喫煙の有無を考慮しても、1日当たりのフラボノール類の摂取量が最も多い群では、最も少ない群に比べて記憶力の低下速度が遅いことが示された。また、フラボノール類の種類(ケンぺロール、ケルセチン、ミリセチン、イソラムネチン)で分類して、それらの含有量の多い食品を調べたところ、ケンぺロールはケール、豆類、茶、ホウレンソウ、ブロッコリーに、ケルセチンはトマト、ケール、リンゴ、茶、ミリセチンは茶、ワイン、ケール、オレンジ、トマトに、イソラムネチンはナシ、オリーブ油、ワイン、トマトソースに多く含まれていることが判明した。 Holland氏は、「フラボノール類は抗炎症物質であるとともに抗酸化物質でもある。フラボノール類が含まれるこれらの食品はフリーラジカルを破壊し、脳、心血管系や腎臓、肝臓などの臓器の細胞を酸化のダメージから守ってくれる」と説明。また、同氏は、「フラボノール類はサプリメントからではなく食品から摂取するのが最も良い方法だ。食品からの方が、より多様な栄養素を摂取することができるからだ。サプリメントは、その名の通り、栄養補助食品として健康的な食事を補うものと捉えるべきだ」との考えを示している。 今回の研究では、フラボノール類の摂取量の多さと認知機能の低下速度の遅さとの間に関連が認められたが、Holland氏は、「これらが因果関係にあることを証明したわけではない」とし、慎重な解釈を求めている。また、摂取した食品に関する調査は人々の記憶に基づくものであるため、必ずしも正確ではない可能性にも言及している。 この研究には関与していない、米ニューヨーク大学ランゴン・ヘルスの上級臨床栄養士であるSamantha Heller氏は、「植物性食品は、人々の健康に大きなベネフィットをもたらす効果的な栄養素の宝庫だ」と話す。 今回の研究は、食事に含まれるフラボノール類と認知機能との関連について着目したものだが、Heller氏は、「フラボノール類のみを摂取すれば良いという話ではない」と指摘。「われわれが摂取している食品にはフラボノール類以外にも、食物繊維やビタミン、ミネラルなどさまざまなファイトケミカル(植物栄養素)が含まれている。これらの栄養素の相乗的な効果が、健康にベネフィットをもたらす」と説明している。さらに、「おそらく、この研究で認知機能に最大のベネフィットを得たのは、植物由来の食品の摂取量が多かった人たちだと思う。ただ、その点については研究では検討されなかった」としている。 フラボノール類のみでは認知機能の低下を抑えるには不十分であるという点に関しては、Holland氏も同意見だ。同氏は、「心身の健康を維持する最善の方法は、果物や野菜を含む多様な食品で構成された食事を取り、運動するなどの健康的な生活習慣を心がけることに加え、日々新しいことを学ぼうと挑戦し続け、脳を鍛えることだ」と話す。さらに、「睡眠やストレス軽減といったことが全て合わさることで、全般的な健康に有益な影響がもたらされる」と説明している。

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女性が運動をするなら朝が最適?

 中年期以降の女性が健康のために運動をするなら、早朝から午前中に行うと良いかもしれない。その方が心血管イベントリスクをより抑制できる可能性を示唆するデータが報告された。ライデン大学医療センター(オランダ)のGali Albalak氏らの研究によるもので、詳細は「European Journal of Preventive Cardiology」に11月14日に掲載された。なお、男性ではこのような傾向は見られないとのことだ。 Albalak氏はこの研究結果の報告に際して、「まず基本的に伝えたいことは、いつ行ったとしても運動にはメリットがあるということだ」と述べ、運動そのものの意義を強調している。実際、公衆衛生に関する大半のガイドラインでは、運動の強度や頻度に関する推奨を掲げているものの、タイミングについては触れていない。Albalak氏らはそのような認識を基盤とした上で、概日リズム(1日24時間周期の生理活動)との関連から、運動を行うタイミングが健康上のメリットに影響を及ぼす可能性があるのではないかと考え、本研究を行った。 研究には、英国の大規模ヘルスケア情報データベース「UKバイオバンク」のデータが用いられた。解析対象は、7日間連続で3軸加速度計による身体活動量が把握されていた40~69歳の一般住民8万6,657人(平均年齢61.6±7.8歳、女性58%、BMI26.6±4.5)。加速度計の記録から、身体活動のピークが早朝の群(22.9%)、午前中の遅い時間帯の群(26.1%)、夕方以降の群(19.2%)、および最も一般的な日中の時間帯に平均的に活動している群(31.8%)という4群に分類。平均6年間追跡して、冠動脈疾患(CAD)や脳卒中の発生リスクを比較検討した。 解析に際しては、結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、喫煙習慣、降圧薬・脂質改善薬の服用、タウンゼント剥奪指数)を調整し、日中の時間帯に平均的に活動している最も一般的な群を基準として比較した。その結果、女性では身体活動のピークが早朝の群で、CADのリスクが22%有意に低く〔ハザード比(HR)0.78(95%信頼区間0.62~0.97)〕、午前中の遅い時間帯がピークの群では、CADのリスクが24%〔HR0.76(同0.63~0.92)〕、脳卒中のリスクは35%〔HR0.65(同0.47~0.89)〕有意に低いという結果が示された。しかし、男性では有意な関連は認められなかった。 女性で認められた早朝や午前中に身体活動を行うことのメリットが、男性では見られないことの理由についてAlbalak氏は、「明確に説明できるデータは見つからなかった」と述べている。また、解釈上の注意点として、加速度計で把握された身体活動が、必ずしも運動を目的とするものとは限らないことを挙げ、「運動のタイミング次第で心血管疾患のリスクが変わると結論付けることは尚早」としている。 この研究報告について、米テキサス大学サウスウエスタン医療センターのLona Sandon氏は、「驚くべきもので興味深く、かつ、やや不可解でもある」と評し、より深い理解のために、対象者の食事パターンに関する情報を加味した解析を行うことを提案している。同氏は、「栄養学の研究から、夜に食べるよりも朝に食べる方が、満腹感が強くなることが分かっている。また、朝と夜とでは代謝が異なり、この研究の結果にもその影響が現れている可能性がある」と考察している。さらに、朝の運動は夜の運動よりもストレスホルモンを低下させる傾向を示唆する研究もあるという。 ただ、Sandon氏も、「どんな時間帯であっても、運動をしないよりした方が良い」と、Albalak氏と同じ言葉を口にしている。また、「通常の生活リズムの中で、可能な時間帯に運動をしてほしい。その上で、可能であれば朝のコーヒーブレイクの代わりに運動してみてはどうか」とSandon氏は提案している。

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喘息が動脈硬化の進行を促す?

 喘息がアテローム性動脈硬化の進行を促す可能性を示唆するデータが報告された。米ウィスコンシン大学マディソン校のMatthew Tattersall氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the American Heart Association(JAHA)」に11月23日掲載された。持続型喘息の患者では、頸動脈の動脈硬化が有意に進行していることが確認されたという。ただし、間欠型喘息の患者では、この関係は非有意とのことだ。 喘息とアテローム性動脈硬化の病態にはともに炎症が関与していることから、両者に何らかの相互関係がある可能性が想定される。Tattersall氏らは、アテローム性動脈硬化のリスク評価に頻用されている、超音波検査による頸動脈内膜中膜複合体厚(頸動脈IMT)を指標として、喘息の有無により動脈硬化の進行レベルが異なるか否かを検討した。 研究対象は、アテローム性動脈硬化に関する多民族疫学研究(MESA)の参加者のうち、ベースライン時に心血管疾患のなかった成人5,029人(平均年齢61.6±10.0歳、女性53%)。このうち、喘息でない人が4,532人であり、持続型喘息患者(発作抑制のために毎日薬剤を使用している人)が109人、間欠型喘息患者(発作時の薬剤使用のみで管理されている人)が388人含まれていた。頸動脈IMTについては、1.5mm以上の肥厚、または周辺より50%以上肥厚している箇所がある場合に「プラークあり」と定義した。炎症レベルは、C反応タンパク質(CRP)とインターロイキン-6(IL-6)で評価した。 まず、炎症レベルに着目すると、CRPは持続型か間欠型かにかかわらず、喘息患者群は喘息のない対照群に比べて有意に高値だった。IL-6については、持続型喘息群のみ対照群より有意に高値であり、間欠型喘息群は対照群と有意差がなかった。 頸動脈プラークを有する割合は、対照群が50.5%、間欠型喘息群は49.5%、持続型喘息群は67.0%だった。動脈硬化の進行に影響を及ぼし得る因子〔年齢、性別、BMI、喫煙習慣、人種/民族、総コレステロール、HDL(善玉)コレステロール、収縮期血圧、糖尿病、スタチン・降圧薬の処方、教育歴など〕を調整後に、対照群を基準として頸動脈プラークを有する割合を比較。その結果、持続型喘息群は「プラークあり」が83%有意に多いことが分かった〔オッズ比(OR)1.83(95%信頼区間1.21~2.76)〕。間欠型喘息群はOR1.10(同0.87~1.38)であり、対照群と有意差がなかった。 Tattersall氏は、「本研究により、炎症が動脈硬化と喘息の双方の発症に重要な役割を演じていることが明らかになった。ただし、本研究結果からは因果関係に言及することはできない」としている。また、調整因子に炎症マーカーのIL-6またはCRPを追加した解析でも、持続型喘息群では「プラークあり」のオッズ比が高いという有意性が消失することはなかったことから、「炎症以外にも喘息患者の頸動脈プラーク形成リスクを高める因子の存在が示唆される」と考察。「喘息患者の頸動脈IMTの肥厚には、喘息の罹病期間なども関係しているのではないか」とした上で、「持続型喘息の患者は喘息の管理を継続するとともに、食事や運動に気を付け、血圧・コレステロール・体重をコントロールするなど、修正可能な動脈硬化リスク因子にも注意を払う必要がある」とアドバイスしている。 Tattersall氏はまた、2019年に米国心臓協会(AHA)が策定した心血管疾患一次予防のためのガイドラインの中に、慢性炎症が心血管疾患リスクと関係しており、臨床医にこの点の留意を求める記載があることに言及。「われわれの研究結果も、あらゆる種類の炎症が心血管疾患リスクを高めるという考え方を支持している」と語っている。 米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のGregg Fonarow氏によると、米国成人の約10人に1人が喘息を患っているという。同氏は、「慢性炎症は喘息と心血管疾患の双方に関連しており、今回報告された研究も、その関連性を浮き彫りにしたものと言える。何らかの抗炎症療法がメリットをもたらし得るのか、さらなる研究が必要」と論評している。

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睡眠が不規則な人は全死亡リスクが最大1.5倍高い―日本人8万人の縦断的研究

 自分の睡眠が不規則だと自覚している人は、睡眠時間を含む多数の交絡因子を調整後も全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスクが高いというデータが報告された。京都府立医科大学大学院医学研究科地域保健医療疫学の大道智恵氏、小山晃英氏らの研究によるもので、詳細は「Sleep Health」に10月10日掲載された。 睡眠時間の長短がさまざまな疾患の発症や全死亡のリスクと関連のあることは、多くの研究により明らかになっている。また近年では、シフト勤務などによる不規則な睡眠も健康リスクとなり得ることが示唆されている。小山氏らも既に、主観的な評価に基づく不規則な睡眠が、メタボリックシンドロームのリスクと有意な関連のあることを報告している。主観的な評価は客観性に欠けるという欠点があるものの、煩雑な検査を必要としないため、一般住民など大人数の睡眠に関連する健康リスクを、簡便かつ低コストで評価できるというメリットがある。今回、小山氏らは、主観的な評価による不規則な睡眠と全死亡リスクとの関連の有無を、「日本多施設共同コーホート研究(J-MICC研究)」のデータを用いて検討した。 J-MICC研究は、日本人の生活習慣病リスクの解明を目的として2005年から14拠点で継続されている前向きコホート研究。2004~2014年に35~69歳の成人9万2,527人がベースライン登録されている。そのうち、習慣的に睡眠薬を服用している人や追跡期間が1年未満の人を除外して8万1,382人(男性44.2%)を解析対象とした。睡眠の規則性については、ベースライン時の自記式アンケートに含まれていた「就床・起床時刻は規則的か?」の回答から判定。9,768人(12.0%)が「不規則」と回答した。なお、平均睡眠時間は6.6±1.0時間だった。 73万6,319人年(平均9.01年)の追跡で、3,376人が死亡。1,000人年当たりの死亡率は4.59だった。睡眠時間と睡眠が規則的か否かによって全体を6群に分け死亡率を比較すると、長時間睡眠群と睡眠が不規則な群で高いことが分かった。具体的には、睡眠時間6時間未満で規則的な場合は4.5、不規則な場合5.1、睡眠時間6~8時間未満では同順に4.1、5.2、睡眠時間8時間以上では6.3、7.6だった。 死亡リスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、飲酒・喫煙・運動習慣、教育歴、虚血性心疾患・脳卒中・がんの既往、および調査拠点)を調整後の全死亡リスクは、睡眠時間6~8時間未満に比較し8時間以上の群で15%高く〔ハザード比(HR)1.15(95%信頼区間)1.05~1.25〕、睡眠が規則的な群より不規則な群は30%高かった〔HR1.30(同1.18~1.44)〕。性・年齢別に解析すると、男性は年齢(60歳未満/以上)にかかわらず、睡眠が不規則な群は有意に死亡リスクが高かった。一方、女性では睡眠が不規則なことと死亡リスク上昇との関連が有意なのは60歳未満のみであり、60歳以上や女性全体では有意な関連がなかった。 次に、睡眠時間が6~8時間未満でかつ規則的な群を基準として、他の5群の死亡リスクを比較。その結果、睡眠が規則的な場合は睡眠時間が8時間以上の群で有意なリスク上昇が認められ〔HR1.14(1.04~1.24)〕、睡眠が不規則な場合は睡眠時間にかかわらず、全てのカテゴリーで有意な死亡リスク上昇が認められた。具体的には、6時間未満はHR1.21(1.02~1.44)、6~8時間未満はHR1.23(1.09~1.40)、8時間以上はHR1.52(1.18~1.96)であり、最大で52%ハイリスクだった。 著者らは本研究を、「睡眠の規則性に対する主観的な評価と、全死亡リスクとの関連性を示した初の報告」としている。結論は、「睡眠障害を含む慢性疾患の既往歴が不明のため、交絡因子の調整が十分でない可能性などが限界点として挙げられるものの、死亡リスクの評価には睡眠時間の長短だけでなく、睡眠の規則性も把握する必要があることが明らかになった」とまとめられている。

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CTスクリーニング検査で肺がんの転帰が劇的に改善

 喫煙者が年1回の肺がんスクリーニング検査を受けることで、肺がん生存率を大幅に改善できる見込みのあることが、国際的な大規模研究で明らかにされた。低線量CTスクリーニング検査で早期段階の肺がんが発見された場合の患者の20年生存率は80%であり、がんの種類によっては100%であることが示されたという。この知見は、北米放射線学会年次学術集会(RSNA 2022、11月27日〜12月1日、米シカゴ)で発表された。 米国肺協会(ALA)によると、肺がんの平均的な5年生存率は18.6%、早期発見される肺がんは全体の16%にとどまり、患者の半数以上が診断から1年以内に死亡するという。肺がんは、がんが小さいうちに発見、治療することで長期にわたる生存が見込める。しかし、肺がんのスクリーニング検査は十分に活用されているとはいえないと研究グループは話す。最近のALAの報告では、対象となる米国人のうちスクリーニング検査を受けているのは6%にとどまり、州によっては受診率が1%とかなり低い。 今回の研究を率いた米マウントサイナイ・アイカーン医科大学放射線学教授のClaudia Henschke氏は、スクリーニング検査の障壁をいくつか指摘している。「よく言われるのが偽陽性の多さと放射線被曝だが、被曝量はマンモグラフィ検査での被曝量よりも少ない」と同氏は言う。偽陽性についても、優れたプロトコルがあるため問題にはならないという。米国予防医療専門委員会(USPSTF)は、1日1箱の喫煙を20年以上続けているか、禁煙後15年以内の50~80歳の人に、年に1回のスクリーニング検査の受診を勧めている。 Henschke氏らは1992年にスクリーニング検査のベネフィットに関する国際的な研究(登録者数8万7,000人以上)を開始し、2006年時点で、スクリーニング検査によりがんを早期発見できた患者の10年生存率が80%であったことを報告している。今回の研究では、検査でがんが早期発見された1,285人を20年間追跡した結果、20年生存率は80%であることが判明した。肺結節の分類別に見ると、すりガラス状結節の139人と部分充実型結節の155人の20年生存率は100%、それ以外の充実型結節の患者での20年生存率は73%であった。ステージ1A(リンパ節への転移がなく、腫瘍サイズが30mm以下)の肺がん患者の生存率は、充実型であるか否かにかかわらず86%、腫瘍が10mm以下の場合は92%であった。 この研究には関与していない、米レイヒー病院・医療センターのAndrea McKee氏は、「この研究は、肺がんのスクリーニング検査がどれほど効果的であるかを明らかにした」と話す。Henschke氏とMcKee氏は、「課題は、より多くの喫煙者と元喫煙者にスクリーニング検査を受けてもらうようにすることだ」と話す。Henschke氏は、「肺がんスクリーニング検査は、有効性に関するデータが出てきたのが2011年以降、保険が適用されるようになったのは2016年以降と、比較的新しい検査であるため、人々にとってなじみが薄い」と説明する。一方McKee氏は、大手たばこ会社が肺がんスクリーニング検査に関する率直な会話を阻んでいる現状や、肺がんに対するスティグマから、「自分が肺がんになるのは自業自得だ」という考えを持っている喫煙者がいることも指摘している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。

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HDL-コレステロールは“善玉”?/JACC

 “善玉”として知られているHDL-コレステロール(HDL-C)は、心臓の健康にそれほど大きな違いをもたらさないことを示すデータが報告された。白人と黒人の比較では、後者において特にその可能性が大きいという。米オレゴン健康科学大学のNathalie Pamir氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the American College of Cardiology(JACC)」に11月21日掲載された。 米国成人約2万4,000人を対象としたこの研究では、HDL-Cが低い白人は、冠動脈心疾患(CHD)のリスクがやや高くなることが分かった。しかし黒人ではそのような関連は見られなかった。また、白人か黒人かにかかわらず、HDL-Cが高い場合にCHDリスクが低下するという関連は見つからなかった。この結果を受けて、「CHDリスクの予測のためのHDL-Cの位置付けを再検討する必要がある」とする研究者も現れている。論文の上級著者であるPamir氏も、「CHDの古典的リスク因子が誰にでも同様の影響を及ぼすわけではない。治療ガイドラインは全ての人に役立つものであるべきだ」と述べている。 HDL-Cが“善玉”のコレステロールと認識されたのは、1970年代にさかのぼる。第二次世界大戦後に米国で増加していたCHDのリスク因子を探る目的でスタートし、現在も継続されている大規模疫学研究の嚆矢「フラミンガム研究」から、HDL-Cが高いほどCHDリスクが低いことが示され始めていた。HDL-C以外には運動がリスク低下に働き、反対に喫煙、肥満、高血圧、“悪玉”のLDL-Cはリスクを上げることも分かってきていた。 それらのエビデンスを基に、血圧やLDL/HDL-Cなどの値を組み合わせてCHDリスクを予測する手法が確立された。今日でもその手法を用いたリスク判定に基づいて、治療介入が行われている。例えばHDL-Cについては、米国では男性40mg/dL未満、女性50mg/dL未満の場合に、HDL-Cが低すぎる「低HDL-C血症」と診断され、60mg/dLを目標にコントロールすることが推奨されている。 ただし、フラミンガム研究の参加者は大半が白人だった。現在では、CHDリスクに影響を及ぼす因子には人種差があることが分かっており、低HDL-C血症が白人以外にも良くないことかどうかの確認が必要な状況にある。そして今回のPamir氏らの研究により、人種差を十分考慮しないリスク評価は、支持されない可能性が高くなった。 Pamir氏らの研究は、CHDの既往のない45歳以上の米国人2万3,901人(平均年齢64±9歳、女性58.4%、白人57.8%)を中央値で10年間追跡。CHDイベント(心筋梗塞の発症またはCHDによる死亡)リスクとHDL-Cとの関連を検討した。 CHDリスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、喫煙、BMI、LDL-C、中性脂肪、糖尿病、スタチン・降圧薬の処方など)で調整後、低HDL-C血症は白人のCHDリスク増大と関連が認められた〔ハザード比(HR)1.22(95%信頼区間1.05~1.43)〕。一方、黒人では有意な関連が認められなかった〔HR0.94(同0.78~1.14)〕。また、HDL-C高値(60mg/dL超)であっても、白人〔HR0.96(0.79~1.16)〕、黒人〔HR0.91(0.74~1.12)〕ともに、有意なリスク低下は観察されなかった。 この研究結果について、米テュレーン大学のKeith Ferdinand氏は、「この知見が、CHDのリスク評価におけるHDL-Cの位置付けの変更につながるとしたら、それは良い変化である」と語っている。同氏は、黒人患者の場合、低HDL-C血症よりも高血圧や肥満、LDL-C高値などのリスク因子をより重視する必要があるとしている。とはいえ、HDL-Cを上げるために推奨される事柄は全て健康に良いという。具体的には、運動、禁煙、加工食品に多く含まれているトランス脂肪酸の摂取を減らすことなどが当てはまる。Pamir氏によると、HDL-Cが低いのであれば、それらの努力を続けるべきだが、HDL-Cの数値にとらわれる必要はないとのことだ。 なお、本研究は米国立衛生研究所(NIH)の資金提供により実施された。

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自転車通勤で糖尿病を防げる―J-ECOHサブスタディ

 自転車通勤をしている人は糖尿病発症リスクが2割以上低いことが報告された。職域多施設研究(J-ECOHスタディ)の運動疫学サブスタディのデータを、帝京大学大学院公衆衛生学研究科の桑原恵介氏らが前向きに解析した結果であり、「Diabetes Care」にレターとして10月17日掲載された。 近年、環境保護や健康増進の観点から、自転車を利用した通勤への関心が高まっており、海外からは自転車通勤が糖尿病リスクを抑制する可能性を示す研究結果も報告されている。ただしアジア人での研究は行われていないことから、桑原氏らはJ-ECOHスタディのデータを用いてこの点を検討した。 J-ECOHスタディは、国立国際医療研究センターが主体となり、国内十数社の企業と共同で行っている疫学研究で、今回の研究は身体活動の詳細なデータがある1社での運動疫学サブスタディとして実施。2006年度に企業内健診を受診し、以後2017年度まで健診を受けていて、糖尿病発症の有無を把握し得た労働者3万1,678人(平均年齢44.0±9.8歳、男性84.9%)を解析対象とした。ベースライン時点で、糖尿病、心血管疾患、脳卒中、がんの既往のある人や、解析に必要なデータが欠落している人は除外されている。 健診時に主な通勤手段を質問し、自転車、徒歩、電車またはバス、車またはバイクの四者択一で回答を得て、自転車通勤だった群とその他の群に二分した上で、2017年度までの糖尿病発症リスクを比較した。解析に際しては、年齢や性別の影響を調整し、それら以外に、喫煙・飲酒習慣、睡眠時間、婚姻状況、役職、交代勤務の有無、高血圧、糖尿病の家族歴で調整した「モデル1」、余暇時間の身体活動、仕事中の身体活動、通勤中の歩行時間も調整因子に加えた「モデル2」、さらにBMIでも調整した「モデル3」という計4通りで検討。また、性別の解析、および年齢が30~64歳の2万9,121人でのサブグループ解析も行った。 自転車通勤をしていた群での糖尿病発症率は2万6,602人年中219人、その他の群では23万939人年中2,812人だった。年齢と性別のみの調整では、自転車通勤群の糖尿病発症ハザード比(HR)が0.77(95%信頼区間0.68~0.88)であり、その他の群に比べてリスクが有意に低く、全ての交絡因子を調整したモデル3でもHR0.78(同0.63~0.96)と、22%有意に低リスクであることが示された。 性別の解析では、男性はモデル2でHR0.78(0.62~0.98)と有意なリスク低下が示されたが、BMIを調整因子に加えたモデル3ではHR0.81(0.65~1.02)で非有意となった。女性に関しては、調整因子が年齢のみでもHR0.77(0.54~1.09)で非有意だった。一方、年齢30~64歳の群では、モデル3でHR0.78(0.63~0.97)と、全体解析と同様に22%のリスク低下が観察された。 著者らは、糖尿病発症リスクに影響を及ぼす食事摂取状況が調整されていないこと、解析対象が特定の業種の労働者に限られていることなどを本研究の限界点として挙げた上で、「自転車通勤が糖尿病リスクの低下と有意に関連していることが分かった。この研究結果は、アジア人の糖尿病予防における自転車通勤の重要性を示している」と述べている。なお、女性のみでの解析結果が非有意であった点に関しては、「サンプル数が少なかったことの影響ではないか」としている。

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既治療のNSCLCに対するアテゾリズマブ単剤のリアルワールドデータ(J-TAIL)/日本肺癌学会2022

 既治療の切除不能非小細胞肺がん(NSCLC)に対するアテゾリズマブの単剤療法は、実臨床においても開発治験と同様の臨床効果を示すことが明らかとなった。 既治療の切除不能NSCLCにおいて、ドセタキセルに対し優越性を示したOAK試験の結果に基づき、アテゾリズマブの単剤療法は2次治療以降の治療選択肢となっている。しかし、開発治験における日本人データは限定されており、日常臨床での再現性は明らかではない。 そこで、日本の実臨床における同レジメンの安全性と有効性を検討する前向き試験J-TAILが行われている。第63回日本肺癌学会学術集会では、松坂市民病院の畑地治氏がJ-TAIL試験の最終解析を発表した。 対象はわが国の169施設で登録され、2次治療以降にアテゾリズマブを投与された切除不能NSCLC患者1,000例超。主要評価項目は18ヵ月生存(OS)率、副次評価項目にはOS、無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)、安全性などが設定された。AOK試験の適格患者(OAK-like)と非適格患者(OAK-unlike)に分けて解析している。 主な結果は以下のとおり。・全体で1,039例が登録され、安全性解析対象は1,002例、有効性解析対象(FAS)は1,000例であった。・登録患者にはPS2(10.7%)、PS3/4(1.4%)といった開発治験除外症例も含まれ、喫煙歴ありも75.6%含まれた。・主要評価項目である18ヵ月OS率は41.1%で、OAK試験の40.0%と同等の成績であった。・OS中央値はFAS全体で13.0ヵ月、OAK-like患者では17.7ヵ月、OAK-unlike患者では11.1ヵ月で、OAK-likeが最も良好であった。・PFS中央値はFAS全体で2.1%、OAK-like患者では2.6ヵ月、OAK-unlike患者では2.1ヵ月であった。・PD-L1発現と予後の関係をみると、OAK-like患者ではOS、PFSともPD-L1高発現で延長していたが、OAK-unlike患者ではPD-L1発現レベルとの関連は見られなかった。・ORRはFAS全体で8.8%、OAK-like患者では10.9%、OAK-unlike患者では7.5%で、OAK-likeが最も良好であった。・Grade3/4の有害事象(AE)は18.0%、Grade3/4の免疫関連AEは7.4%で報告されている。 アテゾリズマブ単剤によるNSCLCの2次治療は、実臨床でもOAK試験と遜色ない結果を示した。しかし、OAK-likeとOAK-unlike患者で予後は異なる傾向であった。また、OAK-unlikeにおいてはPD-L1発現と予後の間に関連は示されていない。

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認知症で修正可能な危険因子は?~ランセット認知症予防モデルを検証

 認知症リスクに対し修正可能なリスク因子は、40%の影響を与えるといわれており、認知症の予防または進行遅延につながると考えられる。Lancet委員会による認知症予防のリスク因子ライフコースモデルは、一般集団においてまだ検証されていない。ニュージーランド・オタゴ大学のCharlotte Mentzel氏らは、高齢者の大規模データセットを用いて、本モデルの評価を行った。その結果、ニュージーランドの高齢者集団においてBMI、高血圧、聴覚障害、うつ病が、認知症の修正可能なリスク因子として確認されたことから、認知症予防のためのこれらのリスク因子に対する介入の信頼性が向上したことを報告した。Archives of Gerontology and Geriatrics誌オンライン版2022年11月2日号の報告。ランセットの認知症予防モデルを6万6,638人で検証 標準化されたデータセットを提供するため、ニュージーランドで高齢者に義務付けられているinterRAI assessment(236項目を網羅する包括的なエビデンスベースツール)を2013~18年に受けた6万6,638人を対象に、ランセットの認知症予防モデルの検証を行った。女性のインタビュー回答者は59%(平均年齢:82歳、年齢範囲:65~107歳)であった。認知症診断を主要アウトカムとし、ロジスティック回帰分析を用いて、横断的データセット分析を行った。 ランセットの認知症予防モデルの検証を行った主な結果は以下のとおり。・ランセットの認知症予防モデルは、部分的にサポートされた。・高血圧、聴覚障害、過去または現在のうつ病は、認知症リスクを高めることが示唆された。・認知症リスク増加との関連は、年齢では85歳まで、性別では女性、BMIでは高BMIによる初期の影響が認められた。・修正可能な因子である運動、糖尿病、視覚障害、喫煙についてはLancet認知症リスクモデルとの関連が認められなかった。・分析したデータセットの制限が、本調査結果に影響を及ぼした可能性が考えられるが、認知症リスクを増加させる修正可能なリスク因子が確認された。

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明るい寝室で寝ることが肥満やうつ症状、全身性炎症と関連

 約3,000人の一般住民を対象に、睡眠中の寝室の明るさと健康指標との関連を検討した研究(平城京スタディ)から、明るい寝室で寝ている人には、肥満、脂質異常、全身性炎症、うつ症状、睡眠障害が多いという結果が報告された。奈良県立医科大学疫学・予防医学講座の大林賢史氏らの研究であり、詳細は「Environmental Research」に9月21日掲載された。 寝室の明るさが健康リスクとなる可能性を示した研究は、過去にも報告されているが、それらは対象者数が限られていた。今回、大林氏らが実施した研究は、奈良県に居住する40歳以上の一般成人3,012人を対象とする大規模な疫学研究であり、照度計を用いて2日間にわたり睡眠中の寝室の明るさを測定した。 解析対象は、照度計の設置位置が適当でないと判断された対象者などを除く2,947人(平均年齢69.3±7.8歳、女性60.6%)。睡眠中の寝室照度の中央値は1.0ルクスだった。照度の四分位値で全体を4群に分類すると、第1四分位群は0.2ルクス未満、第2四分位群は0.2~1.0ルクス、第3四分位群は1.0~4.0ルクス、第4四分位群は4.0ルクス以上だった。 これら4群の健康指標を比較すると、以下の有意な関連が認められた。睡眠中の寝室照度が明るい群ほど、BMI、腹囲長、中性脂肪が有意に高値であり、HDL(善玉)コレステロールは有意に低値だった。また、睡眠障害(ピッツバーグ睡眠スコア6点以上)やうつ症状(老年期うつ尺度スコア6点以上)の割合が有意に高かった。これらの健康指標に影響を及ぼし得る因子(年齢、性、喫煙・飲酒・運動習慣、収入、教育歴、入床時刻、就床時間、睡眠薬・抗うつ薬の使用など)を調整した多変量解析でも、睡眠中の寝室の明るさがさまざまな健康リスクとなっている可能性が浮かび上がった。 第4四分位群(最も寝室が明るい上位25パーセント)は第1四分位群(最も寝室が暗い下位25パーセント)に比べて、BMI(P=0.007)、腹囲長(P<0.001)、LDL(悪玉)コレステロール(P=0.015)が有意に高く、睡眠障害の割合も有意に高かった〔第4四分位群ではオッズ比(OR)1.43(95%信頼区間1.14~1.79)〕。さらに、10ルクスをカットオフ値として二群に分けて比較すると、寝室の明るさが明るい群は前述の指標に加えて白血球数が高値(P=0.041)で全身性炎症の亢進が示唆され、また、うつ症状を有するオッズ比が有意に高かった(P=0.047)。 以上の結果から大林氏らは「3,000人規模の横断研究により、交絡因子を調整後も寝室の明るさが、肥満、脂質異常、全身性炎症、睡眠障害、うつ症状と有意に関連していることが示された。今後の追跡調査による縦断的研究が必要とされる」と総括。また、「寝室の明るさと白血球数の関連を示した研究は、本研究が初めて。白血球数は心血管死や全死亡の予測因子である」としている。なお、両者の関連のメカニズムについては、「夜間の光曝露による睡眠障害やメラトニン分泌の減少が白血球数を増加させたのではないか」と考察している。

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コロナワクチン追加接種後も重篤なCOVID-19となる患者の特徴(解説:寺田教彦氏)

 2022年11月末、新型コロナウイルス患者は増加傾向となり、「第8波」への対応が問題となっている。「第1波や第2波」の頃と比較すると、新型コロナワクチンの普及や、重症化リスクの高いCOVID-19患者への抗ウイルス薬処方が可能になるなど治療の選択肢が増えており、これらの適切な活用が求められている。 本論文の執筆者であるUtkarsh Agrawal氏は、過去に新型コロナワクチン初回接種完了後も重症化する患者(COVID-19関連入院またはCOVID-19関連死)についてスコットランドで検討しており、高齢(80歳以上)、5つ以上の併存疾患、過去4週間以内の入院歴、新型コロナウイルスに接触するリスクの高い職業、行動(10回以上の検査歴)、介護施設入居者、社会的弱者、男性、前喫煙者でリスクが高いことを報告していた(Agrawal U, et al. Lancet Respir Med. 2021;9:1439-1449.)。 当時と今回の論文で異なる点は、流行株がアルファ株からオミクロン株に変化した点と、新型コロナワクチンの接種回数が以前の研究では2回接種者を対象としていたが、本研究ではワクチン2回接種後に追加接種をした患者を対象としている点である。 「第8波」を迎える本邦の環境としても、流行株はオミクロン株と考えられ、ワクチンの接種も3回目以降の追加接種済みの患者が増えていることから、この論文を参考にしやすい状況と考えられる。 本論文の概要は「ブースター接種後もコロナ重症化リスクが高い人は?/Lancet」にまとめられており、ブースター接種後も高リスク患者の特徴は、高齢者(aRR:3.60[95%信頼区間[CI]:3.45~3.75])、5つ以上の併存疾患(aRR:9.51[95%CI:9.07~9.97])、免疫抑制状態(aRR:5.80[95%CI:5.53~6.09])、慢性腎臓病(aRR:3.71[95%CI:2.90~4.74])等である。※aRR:人口統計学的、臨床的因子と重症COVID-19との関連についてワクチン接種後の時間で調整した率比 本研究の結果を参考にできる臨床場面の1つは、執筆者の指摘どおり、抗コロナ薬の処方の判断がある。以前オミクロン株流行中のニルマトレルビルによるCOVID-19の重症化予防に関する報告がされていた(オミクロン株流行中のニルマトレルビルによるCOVID-19の重症化転帰(解説:寺田 教彦 氏)-1570)。本研究で特定された、ブースター接種後もCOVID-19重症化リスクの高い患者層に対して、ニルマトレルビル等の抗ウイルス薬の処方をすることでCOVID-19重症化リスクが低下するか否かのエビデンスは今後の報告を待つ必要はあるが、現時点でのエビデンスとしては、これらの患者に対して抗ウイルス薬の処方を検討することは妥当だろう。 また、筆者は、重症化リスクの高い人々には、2回目接種以降のブースター接種を優先的に行うことも提案している。新型コロナウイルスワクチンのブースター接種により重症化率等の低下は認められており、本邦においてもブースター接種が未実施の場合は適切なタイミングでの接種が望ましいだろう。 ただし、ワクチンのブースター接種の実施に関しては、メリット(感染予防効果、重症化予防効果、集団免疫効果など)とデメリット(費用、副反応など)は継続して考えていく必要がある。本論文のように、新型コロナウイルスワクチン接種後もCOVID-19が重症化するリスクの高い患者層を特定するとともに、健康成人や重症化リスクの高い患者層それぞれに対して、ワクチンを追加接種する適切なタイミングを考察するための研究も望まれる。

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睡眠の時間や質が緑内障リスクを左右する可能性

 睡眠時間が短過ぎたり長過ぎることや、睡眠中にいびきをかくといった症状から把握される睡眠の質の低下が、緑内障のリスクを高める可能性を示すデータが報告された。四川大学西中国病院(中国)のHuan Song氏らの研究によるもので、詳細は「BMJ Open」に11月1日掲載された。 緑内障は視神経が障害される病気で、治療が不十分だと視野の異常が進んでしまい失明に至る。失明の主要原因であり、日本ではその原因の第1位を占めている。また2040年までに世界中で1億1200万人が、緑内障によって視覚に何らかの影響を受けるとの予測もある。 緑内障の進行は眼圧(眼球内の圧力)が高いほど速い。その眼圧を左右する因子の一つとして、睡眠が挙げられる。睡眠中は眼圧が高くなることや、睡眠時間の長短が眼圧と関係していることなどが既に報告されている。そこでSong氏らは、睡眠時間や睡眠の質が緑内障リスクと関連がある可能性を想定し、英国の大規模ヘルスケア情報データベース「UKバイオバンク」のデータを用いて検討を行った。 2006~2010年にUKバイオバンクに登録された人の中から、緑内障患者やデータ欠落者を除外した40万9,053人(平均年齢57.0±8.09歳、女性55.05%)を10.7±1.63年追跡したところ、8,690人が新たに緑内障と診断された。緑内障を発症した群はそうでない群より高齢で(62.2対56.9歳)、男性(47.4対44.9%)、喫煙歴のある人(48.6対45.3%)が多く、また高血圧(12.9対7.6%)や糖尿病(4.4対2.0%)の患者が多かった。 緑内障リスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、飲酒・喫煙・運動習慣、人種/民族、教育歴、高血圧、糖尿病、タウンゼント剥奪指数)で調整後、以下のように、睡眠時間、および睡眠の質の低下を表すさまざまな症状が、緑内障発症と有意に関連していることが明らかになった。 まず睡眠時間については、7~9時間の人に比べてそれより短い人や長い人は8%リスクが高く〔ハザード比(HR)1.08(95%信頼区間1.03~1.13)〕、不眠症の症状がある人は12%ハイリスクだった〔HR1.12(同1.07~1.17)〕。また、いびきをかく人〔HR1.04(同1.00~1.09)〕や、日中に眠気を感じることの多い人〔めったにない人に比べて時々ある人はHR1.06(同1.01~1.11)、頻繁にある人はHR1.20(1.07~1.34)〕もリスクが高かった。なお、クロノタイプ(朝型か夜型か)は有意な関連がなかった。 睡眠習慣が緑内障リスクに影響を及ぼす可能性を示したこの研究結果について、Song氏らは、「横になっているときは眼圧が高くなりやすい。また、不眠症の場合は睡眠に関連しているホルモンの乱れも眼圧に影響を及ぼし得る」と、メカニズムの考察を加えている。さらに、不眠症に伴うことの多い抑うつや不安も、コルチゾール(ストレスホルモン)産生の調節不全を介して眼圧を上昇させる可能性があるという。加えて、睡眠時無呼吸症候群による睡眠中の低酸素状態が視神経にダメージを与えるという経路も想定されるとしている。 ただし、本研究は観察研究であるため因果関係の証明にはならない。とは言え、緑内障リスクの高い人にとって、適切な睡眠の時間や質の確保が大切であることが示唆された。Song氏らは、「睡眠関連の行動は修正可能であるため、緑内障のリスクのある人に対する睡眠習慣への介入が、発症抑制につながる可能性がある。また、睡眠習慣に問題がある人に対しては、眼科的スクリーニングを行うといった対策が必要かもしれない」と述べている。

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