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黒砂糖、がん発症を抑制か~J-MICC研究

 黒砂糖にはミネラル、ポリフェノール、ポリコサノールが多く含まれているが、黒砂糖が健康に役立つと評価した疫学研究はほとんどない。今回、鹿児島大学の宮本 楓氏らが、長寿者の割合が比較的高く黒砂糖をおやつにしている奄美群島の住民を対象としたコホート研究を実施したところ、黒砂糖摂取ががん全体、胃がん、乳がんの発症リスク低下と関連することが示された。Asia Pacific Journal of Clinical Nutrition誌2023月12月号に掲載。 本研究は日本多施設共同コホート研究(J-MICC研究)の一環で、黒砂糖摂取と死亡リスクおよびがん発症率の関連を明らかにするために実施された。奄美の一般住民から参加者を募集し、5,004人(男性2,057人、女性2,947人)が参加した。追跡期間中央値13.4年の間に274例が死亡、338例でがんが発症した。糖関連およびその他の変数を調整後、Cox比例ハザードモデルを用いてハザード比(HR)と95%信頼区間を推定した。黒砂糖の摂取頻度により低摂取群(週1回未満)、中摂取群(週1~6回)、高摂取群(1日1回以上)に分け、低摂取群を基準とした中摂取群、高摂取群の各HRとその傾向を評価した。 主な結果は以下のとおり。・交絡因子調整後、男女におけるがん全体と胃がん、女性における乳がんについて、黒砂糖の中摂取群と高摂取群のHRが低く、HRの低下傾向(がん全体:傾向のp=0.001、胃がん:傾向のp=0.017、乳がん:傾向のp=0.035)が認められた。・肺がんは非喫煙者および元喫煙者のみHRの低下傾向がみられた(傾向のp=0.039)。・全死亡、がん死亡、心血管疾患死亡におけるHRの低下は明らかではなかった。

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TG/HDL-C比は2型糖尿病発症の強力な予測因子

 中性脂肪(TG)と善玉コレステロール(HDL-C)の比が、将来の2型糖尿病の発症リスクの予測に利用できることが、12万人以上の日本人を長期間追跡した結果、明らかになった。京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科学の弓削大貴氏、岡田博史氏、福井道明氏、パナソニック健康管理センターの伊藤正人氏らの研究によるもので、詳細は「Cardiovascular Diabetology」に11月8日掲載された。2型糖尿病発症予測のための最適なカットオフ値は、2.1だという。 TGをHDL-Cで除した値「TG/HDL-C比」は、インスリン抵抗性の簡便な指標であることが知られているほか、脂肪性肝疾患や動脈硬化性疾患、および2型糖尿病の発症リスクと相関することが報告されている。ただしそれらの報告の多くは横断的研究またはサンプルサイズが小さい研究であり、大規模な追跡研究からのエビデンスは存在せず、2型糖尿病発症予測のための最適なカットオフ値も明らかになっていない。弓削氏、岡田氏らは、国内の企業グループの従業員を対象とするコホート研究(Panasonic cohort study)のデータを用いた縦断的解析によって、この点を検討した。 2008~2017年に健診を受けた計23万6,603人から、ベースライン時点で既に糖尿病と診断されている患者、脂質異常症治療薬を服用している患者、およびデータ欠落者などを除外し、12万613人を解析対象とした。主な特徴は、平均年齢44.2±8.5歳、男性76.0%、BMI22.9±3.4kg/m2であり、TGは110.0±85.9mg/dL、HDL-Cは60.5±15.4mg/dLで、悪玉コレステロール(LDL-C)は123.4±31.5mg/dLだった。 2018年までの追跡〔期間中央値6.0年(四分位範囲3~10年)〕で、6,080人が新たに2型糖尿病を発症した。2型糖尿病発症リスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、空腹時血糖値、喫煙習慣、運動習慣、収縮期血圧)を調整後に、脂質関連検査値と2型糖尿病発症リスクとの間に、以下の有意な関連が認められた。 まず、TGは10mg/dL上昇するごとのハザード比(HR)が1.008(95%信頼区間1.006~1.010)だった。同様の解析でHDL-CはHR0.88(同0.86~0.90)、LDL-CはHR1.02(1.02~1.03)であり、TG/HDL-C比は1上昇するごとにHR1.03(1.02~1.03)となった。 次に、向こう10年間での2型糖尿病発症を予測するための最適なカットオフ値と予測能(AUC)を検討。すると、予測能が低い指標から順に、LDL-Cがカットオフ値124mg/dLでAUCは0.609、HDL-Cは54mg/dLでAUC0.638、TGは106mg/dLで0.672であり、最も高いAUCはTG/HDL-C比の0.679であって、そのカットオフ値は2.1と計算された。TG/HDL-C比の予測能は、他の3指標すべてに対して有意に優れていた(いずれもP<0.001)。 続いて、性別およびBMI別のサブグループ解析を施行。すると、男性では全体解析と同様に、TG/HDL-C比が1上昇することによる2型糖尿病発症のHRは1.03(1.02~1.03)だったが、女性は1.05(1.02~1.08)であり、より強い関連が示された。ただし交互作用は非有意だった。 BMI25kg/m2未満/以上で層別化した解析からは、25未満の群でTG/HDL-C比が1上昇するごとのHRは1.04(1.03~1.05)である一方、25以上の群ではHR1.02(1.02~1.03)であって、有意な交互作用が観察された(交互作用P=0.0001)。最適なカットオフ値は、BMI25未満では1.7、25以上では2.5だった。 著者らは本研究の特徴として、日本人を対象とする縦断的研究でありサンプルサイズも大きいことを挙げる一方、女性が少ないこと、比較的若年者が多いことなどの限界点があるとしている。その上で「TG/HDL-C比は、LDL-C、HDL-C、TGよりも10年以内の2型糖尿病発症の強力な予測因子であることが示された。この結果は、2型糖尿病発症抑制のための今後の医療政策に有用な知見となり得る」と述べている。

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潜在的食物アレルギーが心血管死リスクと関連

 急性のアレルギー症状は現れないが、検査で反応が見つかる程度の潜在的な食物アレルギーが、心血管死のリスクと関連のあることが明らかになった。米バージニア大学保健システム(UVA)のJeffrey Wilson氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Allergy and Clinical Immunology」に11月9日掲載された。Wilson氏らは、「将来的には、既知のリスク因子を持たない人の中から心血管疾患リスクの高い人を探し出すために、食物アレルギー検査が役立つようになるかもしれない」と話している。 食物アレルギーの症状が現れない人にも、何らかの食物に対するアレルギー反応が生じていることが、抗体検査〔免疫グロブリンE(IgE)検査〕で示唆されることがある。従来、そのような検査所見は臨床的には意味がないものと考えられていたが、赤肉を摂取した後に、アレルギー症状が現れないにもかかわらずIgE抗体レベルが上昇する人は、心血管疾患のリスクが高い可能性のあることが最近指摘されている。これを背景としてWilson氏らは、そのような潜在的な食物アレルギー反応が、心血管疾患による死亡と関連しているかどうかを検討した。 研究には、2005~2006年の米国国民健康栄養調査(NHANES)と、アテローム性動脈硬化に関する多民族研究(MESA)のデータが用いられた。MESAは2000~2002年に研究参加登録が行われ、心血管疾患危険因子のない一般住民が登録されている。なお、IgEは総IgEと、牛乳、卵、ピーナッツ、エビなどの食品に対する特異的IgEが評価された。 NHANESでは4,414人の成人のうち229人の心血管死が確認され、MESAでは960人中56人の心血管死が記録されていた。性別、年齢、人種/民族、喫煙歴、教育歴、喘息の既往を調整したCox比例ハザードモデルでの解析の結果、NHANESでは、1種類以上の食品に対する感作が心血管死リスクの高さと有意に関連していた〔ハザード比(HR)1.7(95%信頼区間1.2~2.4)、P=0.005〕。特に牛乳への感作との関連が強く認められた〔HR2.0(同1.1~3.8)、P=0.026〕。同様の関連はMESAでも確認された〔HR3.8(同1.6~9.1)、P=0.003〕。 Wilson氏はUVA発のリリースの中で、「今回の研究対象者の大半は、明らかな食物アレルギーを有していたとは考えにくく、よって示された結果は、食物に対する潜在的なアレルギー反応の影響を示すものと言える。このような反応は急性アレルギー症状を来すほど強力ではないが、それでも炎症を惹起して時間の経過とともに、心臓病などの問題を引き起こす可能性がある」と解説している。この関連のメカニズムについては、現時点では推論の域を出ない。しかし、「アレルギー反応にかかわるマスト細胞と呼ばれる細胞は、血管や心臓にも存在する」と研究グループは指摘している。 ただし、未知の遺伝的要因または環境要因が関与している可能性も否定できず、より多くの研究が必要とされる段階だ。Wilson氏は、「この領域の研究は将来的に、アレルギー反応を評価する血液検査が、心臓の健康に良い食生活のアドバイスに役立てられる可能性につながるのではないか。とは言え、そのような推奨を実際に示すことができるようになるまでには、クリアすべき課題が多く残されている」と話している。

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前糖尿病と喫煙の組み合わせは若者にとって致命的

 年齢中央値が30歳代という比較的若い集団においても、前糖尿病と喫煙習慣が組み合わさると、深刻な疾患のリスクが上昇し、特に脳卒中のリスク上昇が顕著であることを示唆するデータが報告された。米ネブラスカ大学医療センターのAdvait Vasavada氏らの研究によるもので、米国心臓協会(AHA)学術集会(AHA Scientific Sessions 2023、11月11~13日、フィラデルフィア)で発表された。Vasavada氏は、「若い喫煙者の脳卒中リスクを抑制するために、前糖尿病の早期スクリーニング体制と予防戦略を確立する必要があるのではないか」と述べている。 この研究には、米国の入院医療に関する大規模データベース(National Inpatient Sample)が用いられた。2019年の米国全土の入院患者のうち年齢が18~44歳で喫煙習慣があり、高血圧や2型糖尿病、高コレステロール血症、肥満などの心血管疾患危険因子のない101万7,540人が解析対象とされた。全員が、ニコチン依存状態または習慣的な喫煙者であって、禁煙が困難であることがカルテに記録されていた。 この集団の0.2%に当たる2,390人は前糖尿病だった。前糖尿病の入院患者は、年齢中央値36歳であり、前糖尿病でない(血糖値が正常範囲)の入院患者の31歳よりも高齢であり、また男性の割合が高かった。前糖尿病の患者は血糖値が正常範囲の患者に比べて、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の割合(19.2対11.7%)、心臓発作の既往(1.5対0.4%)、慢性腎臓病の割合(2.5対0.9%)が高く、また入院の目的が心臓発作や脳卒中または心不全の治療である割合(2.9対1.4%)が高かった。 特に脳卒中による入院の割合(1.9対0.5%)に顕著な差が認められた。年齢や性別、人種、世帯収入、飲酒習慣、薬物乱用歴、併発疾患などの影響を調整後にも、脳卒中による入院リスクが3.31倍高いことが分かった。 この結果に関連してVasavada氏はAHA発のリリースの中で、「たとえ代謝的に健康な若者であっても、喫煙者は喫煙本数を減らすことが賢明であり、できれば完全に禁煙することが理想的だ」とアドバイスしている。また、「タバコを吸わない人であっても前糖尿病に該当する場合、若いうちに脳卒中を発症するリスクが高まる可能性があることにも注意すべきだ」と付け加えている。 一方、AHAの薬物・アルコール・タバコ委員会の一員であるEsa Davis氏は、「この研究結果は、なぜタバコが若者にとっても危険であるのかを示している」と話す。加えて、「若い人は一般的に脳卒中のことを、自分たちの祖父母のような年齢の高齢者に起こる病気だという印象を持っている。しかし、そうではなく、今回の報告に見られるように、脳卒中はより若い年齢でも発生し得るということだ。さらにこの研究によって、前糖尿病に該当する場合、脳卒中や心臓病のリスクがはるかに高くなり、若いうちに発症する可能性があることが示され、できるだけ早い段階で禁煙することがより重要であることが分かった」と解説。Davis氏は、「心臓の健康を守り、そして脳卒中リスクを減らすためにできることの中で最も重要なことは、禁煙することだ」とも述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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第69回 傾向スコアマッチング法とは【統計のそこが知りたい!】

第69回 傾向スコアマッチング法とは傾向スコアマッチング法(propensity score matching methods)は、1983年に、ポール・ローゼンバウム(Paul Rosenbaum)とドナルド・ルービン(Donald Rubin)の2人が発表した解析方法です。臨床研究を行う際、目的変数と目的変数に関わる因子についての関係を調査・解析する方法として、単変量解析(1変量解析)と多変量解析(2~3つ以上の変数)があります。変数が2つの場合は2変量解析(相関分析)です。単変量解析とは、目的変数に関わる因子(説明変数または共変量)が1つの場合の解析です。基本統計量(平均値/標準偏差)、t検定、カイ2乗検定、ログランク検定(カプランマイヤー曲線)などがあります。多変量解析とは、説明変数や目的変数が2つ以上ある場合の解析です。たとえば、目的変数が「ある重篤な疾患で手術治療をした患者の生存・死亡」、説明変数が「年齢・性別・BMI・発症から手術までの時間・手術中輸血量」の5因子のような場合です。このように、多変量解析に用いるいくつかの説明変数は目的変数に直接関わるだけではなく、説明変数間同士でも影響し合っている場合が多くあります。これを「交絡因子」と言い、交絡した因子は、しばしば解析の妨げになります。この交絡因子の影響を効果的に取り除くための手法の1つに「傾向スコアマッチング法」があり、近年多く使用される解析法となっています。交絡因子は、調べようとする因子以外の因子で、結果(目的変数)に影響を与えるものであり、交絡因子であるための3つの条件としては、(1)交絡因子は問題となっている目的変数に影響を与える可能性のある因子(2)問題となっている要因(原因)と関係がある(3)問題となっている要因と結果の因果連鎖の中間変数ではないがあります。■事例で探る交絡因子簡単な事例で解説します。健康診断で肝臓機能の検査値の1つにγ-GTPがあります。γ-GTPは肝臓や胆管の細胞がどれくらい壊れたかを示す指標で、検査値が成人男性の場合100(基準は50)を超えると、肝硬変、肝がん、脂肪肝、胆道疾患の可能性があるといわれています。表1のデータは100人の成人男性について、γ-GTP、飲酒量(1ヵ月に飲酒する日数)、喫煙有無、ギャンブル嗜好(7件法)を調べたものです。表1 成人男性100人のγ-GTP、飲酒量、喫煙、ギャンブルの調査データ画像を拡大するそれでは、表1のデータを用いて以下の3つを検証してみましょう。(1)飲酒量はγ-GTPに関係があるかを検証する。(2)喫煙有無はγ-GTPに関係があるかを検証する。(3)ギャンブル嗜好はγ-GTPに無関係であることを検証する。■γ-GTPの2群間の有意差検定γ-GTPの「50以上」を群1=高群、「49以下」を群2=低群として、γ-GTP(2群)のデータを作成しました。1)飲酒量の平均は、高群16.2(日)、低群11.0(日)で高群が低群を5.2ポイント上回った。p値0.0037<0.05より高群は低群に比べ有意に高いといえます。このことから、飲酒量はγ-GTPに関係があることが検証できました。2)喫煙有無において「有り」の割合は、高群45.0%、低群18.3%で高群が低群を26.7ポイント上回った。p値0.0037<0.05より高群は低群に比べ有意に高いといえます。このことから、喫煙有無はγ-GTPに関係があることが検証できました。3)ギャンブル嗜好程度の平均は、高群4.03(点)、低群3.17(点)で高群が低群を0.86ポイント上回った。p値0.0252<0.05より高群は低群に比べ有意に高いといえます。ギャンブル嗜好程度はγ-GTPに無関係と思われていたが関係性があるという結論になりました。■相関分析(表2)(1)飲酒量とγ-GTPとの相関係数は0.6658(p値<0.05)で、飲酒量はγ-GTPへの影響要因といえます。(2)喫煙有無はγ-GTPとの相関係数0.3076(p値<0.05)で、喫煙有無はγ-GTPへの影響要因といえます。※喫煙有無は距離尺度ではないですが、「喫煙しない」を0点、「喫煙する」を1点として距離尺度に変換して相関係数を算出しました。(3)ギャンブル嗜好とγ-GTPとの相関係数は0.3580(p値<0.05)で、ギャンブル嗜好はγ-GTPへの影響要因といえます。表2 表1データの相関分析表相関関係を図1に示します。図1 変数の相関関係「γ-GTPとギャンブル嗜好」の相関は0.36、「γ-GTPと喫煙有無」は0.31で前者の方が高い。ギャンブル嗜好の方が喫煙有無より、γ-GTPに影響度が高いといえるでしょうか?「喫煙有無とギャンブル嗜好」の相関は0.37、「飲酒量とギャンブル嗜好」の相関は0.30でどちらも相関関係がみられ、喫煙する人、飲酒量が多い人ほどギャンブル嗜好程度が高いといえます。ギャンブル好きだからγ-GTPが高いのではなく、ギャンブル好きは喫煙し、飲酒量が多いからγ-GTPが高いと推察できます。「γ-GTPとギャンブル嗜好」の相関0.36は見かけの相関といい、「γ-GTPとギャンブル嗜好」の真の関係は喫煙有無や飲酒量の影響を除去したものでなければなりません。このような真の関係を把握する方法の1つに、傾向スコアマッチング分析があります。■傾向スコアマッチング分析とは高群は多量飲酒者や喫煙者が多く、低群は少量飲酒者や非喫煙者が多い。このような状況でギャンブル嗜好程度の平均について高群と低群を比較すれば「ギャンブル嗜好と飲酒量や喫煙は相関関係がある」ので、ギャンブル嗜好の程度は高群の方が低群より高くなるのは当然の結果となってしまいます(表3)。表3 高群と低群の比較と平均のまとめギャンブル嗜好程度の平均を高群と低群で比較する際、両群の飲酒量や喫煙有無が同等であれば真の比較ができるようになります。すなわち、高群と低群で飲酒量や喫煙有無が似ているサンプルだけを取り出して比較すればよいわけです。具体的には両群から似ている要素を持つデータをみつけてペアにすることです。※統計学において異なるサンプルで,似ている要素(交絡因子)をもつデータをみつけてペアにすることを「マッチング」と言います。14人について、飲酒量・喫煙有無から各サンプルがγ-GTP高群となる確率を求めてみましょう(表4)。両群から確率が似ている(同じ)サンプルをみつけてペアにします。高群6人、低群8人においてペアは3人である。選ばれた3人は、「飲酒量・喫煙有無」の状況(傾向)が似ている人であるということになります。確率を「傾向スコア」と言います。同じような傾向を持つ人をペアにする方法を「傾向スコアマッチング」と言います。表4 事例の傾向スコアマッチングの結果傾向スコアは,目的変数を高群=1,低群=0、説明変数を交絡因子である飲酒量、喫煙有無にしてロジスティック回帰を行うことで求められます。ロジスティック回帰で導かれる各サンプルの判別スコアを傾向スコアとします。マッチングされたペアデータについて、検証したい原因項目(具体例はギャンブル嗜好程度)と目的変数(γ-GTP)について相関検定や有意差検定を行います。交絡因子の傾向スコアでマッチングしペアを見つけ、ペアデータについて目的変数と原因変数の関係を検証する方法を「傾向スコアマッチング分析」と言います(図2)。図2 傾向スコアマッチング分析の整理■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ「わかる統計教室」第4回 ギモンを解決! 一問一答質問9 多変量解析を学ぶ前に知っておくべき統計の基礎を教えてください(その1)質問9(続き) 多変量解析を学ぶ前に知っておくべき統計の基礎を教えてください(その2)質問11 多変量解析とは何か?(その1)質問11 多変量解析とは何か?(その2)

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出勤とテレワークの反復による時差ぼけで心理的ストレス反応が強まる可能性

 出勤日とテレワークの日が混在することによって生じる時差ぼけによって、心理的ストレス反応が強くなる可能性を示唆するデータが報告された。久留米大学の松本悠貴氏らをはじめとする産業医で構成された研究チームによるもので、詳細は「Clocks & Sleep」に10月16日掲載された。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックとともに、新たな働き方としてテレワークが急速に普及した。テレワークによって、仕事と私生活の区別がつきにくくなることや孤独感を抱きやすくなることなどのため、以前の働き方にはなかったストレスが生じることが報告されている。また、テレワークの日と出勤日が混在している場合には睡眠時間が不規則になり、「ソーシャルジェットラグ(社会的時差ぼけ)」が発生しやすくなるとの指摘もある。 社会的時差ぼけとは、平日と休日の睡眠時間帯が異なることによって、週明けになるとあたかも海外から帰国した直後のような身体的・精神的不調が現れること。松本氏らは、テレワークと出勤の繰り返しによって生じる社会的時差ぼけを、「テレワークジェットラグ(テレワーク時差ぼけ)」と命名。社会的時差ぼけと同様にテレワーク時差ぼけも不調を来す可能性を想定し、オンラインアンケートによる検討を行った。 2021年10~12月に、東京都内にある企業4社の従業員2,971人(日勤者のみ)にアンケートへの協力を依頼。2,032人から回答を得て、過去1カ月以内にテレワークをしていない人や休職をしていた人などを除外して、1,789人(平均年齢43.2±11.3歳、男性68.8%)を解析対象とした(有効回答率60.2%)。出勤日とテレワークの日の就寝時刻と起床時刻の中央の時刻(睡眠中央値)の差が1時間以上ある場合を「テレワーク時差ぼけ」と定義。232人(13.0%)がこれに該当した。 心理的ストレス反応の評価には、「ケスラー6(K6)」という指標を用いた。K6は6項目の質問に対して0~4点で回答し、合計24点満点のスコアで評価する。本研究ではK6スコアが10点以上を「心理的ストレス反応が強い」と定義したところ、265人(14.8%)が該当した。 睡眠の時間帯に着目すると、テレワーク時差ぼけでない群の起床時刻は出勤日、テレワーク日ともに6時30分で、就床時刻は出勤日が0時30分、テレワーク日が23時30分だった。一方のテレワーク時差ぼけ群は、就床時刻はどちらも0時30分で変わらないものの、起床時刻は出勤日が6時30分であるのに対してテレワーク日は8時30分と2時間遅く起床していた。 心理的ストレス反応が強いと判定された人の割合は、テレワーク時差ぼけでない群は13.7%、テレワーク時差ぼけ群では22.0%であり、有意差が認められた(P<0.001)。 次に、結果に影響を及ぼし得る因子〔年齢、性別、テレワークの頻度や場所・期間、同居者の有無、職業、雇用形態、労働時間、仕事の裁量や他者からのサポート状況、通勤時間、飲酒・喫煙・運動習慣、カフェイン摂取量、睡眠時間、不眠症状(アテネ不眠尺度で評価)、仕事以外での電子端末等の使用など〕の影響を調整した上で比較。その結果、テレワーク時差ぼけと心理的ストレス反応の間には有意な関連性が示された〔オッズ比1.80(95%信頼区間1.16~2.79)〕。 著者らは本研究が横断研究であること、および交絡因子として収入や服薬状況が把握されていないことなどを限界点として挙げた上で、「出勤とテレワークが混在する『テレワーク時差ぼけ』が、心理的ストレス反応を増大させている可能性が示された」と結論付け、「労働者の健康を守りながらテレワークという新しい働き方を持続可能なものとするためにも、このトピックに関する縦断研究によって因果関係を確認することが望まれる」と述べている。 なお、時差ぼけによる不調には睡眠時間の長短自体が影響を及ぼしている可能性が考えられるが、本研究では上述のように交絡因子として睡眠時間を調整後にも有意なオッズ比上昇が観察された。この点について論文には、「テレワークの日の起床時刻が出勤日よりも遅くなることによって、起床直後に太陽光に当たる時間が遅くなり、メラトニンなどのホルモン分泌パターンが変動する。そのような変化も、テレワーク時差ぼけによってメンタルヘルス不調が生じる一因ではないか」との考察が加えられている。

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喫煙+受動喫煙で身体的フレイルのリスクがより上昇

 タバコを吸うことで身体的フレイルのリスクが有意に上昇し、受動喫煙が加わるとさらにリスクが高くなることを示すデータが、国内の地域在住高齢者を対象とする縦断研究から示された。国立長寿医療研究センター研究所老年学・社会科学研究センター老化疫学研究部の西田裕紀子氏、台中栄民総医院(台湾)の朱為民氏らの共同研究によるもので、詳細は「Geriatrics & Gerontology International」に10月26日掲載された。 喫煙や受動喫煙が有害であることについては、膨大な研究によって強固なエビデンスが確立されており、近年ではフレイル(要介護予備群)との関連も報告されている。ただし受動喫煙とフレイルとの関連を示した研究の大半は横断研究であり因果関係は確認されておらず、また喫煙と受動喫煙が重なった場合にフレイルリスクがどのように変化するのかは明らかにされていない。西田氏らは、同研究所による「老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」のデータを用いてこれらの点を検討した。 NILS-LSAは、愛知県大府市などの40~79歳の日本人一般住民2,267人を対象とする前向きコホート研究で、1997~2022年に全9回の調査が実施されている。本研究では、喫煙状況とフレイルの関連の解析に必要な情報が収集されていた第3次調査(2002~2004年)から第7次調査(2010~2012年)のデータを利用した。フレイルという高齢者に多い状態のリスクを評価するという目的から、65歳未満は解析対象から除外。そのほかに、研究参加登録時点でフレイルと判定されていた人、追跡調査に参加していなかった人などを除外し、最終的に540人(平均年齢71.4±4.6歳、男性52.4%)を解析対象とした。 喫煙状況はアンケートの回答に基づき判定。喫煙歴がない人と禁煙後の人を「非喫煙者」、現在も吸っている人を「喫煙者」として全体を二分すると、後者が13.2%だった。また受動喫煙については、家庭内や職場環境などでの自分以外の喫煙者の有無と、その人に接する頻度を問い、それらの喫煙者との接触頻度が「なし」以外(毎日または時々のいずれか)の場合を「受動喫煙曝露者」と定義した。 フレイルについては、CHS基準という基準を用いて、身体的フレイルに該当するか否かを判定。平均6.6年間の追跡で、139人が新たに身体的フレイルと判定された。 解析ではまず、全体を非喫煙者と喫煙者に二分して、交絡因子(年齢、性別、教育歴、婚姻状況、雇用状況、余暇身体活動、うつ症状、慢性疾患、残存歯数など)の影響を調整後に比較すると、喫煙者は身体的フレイルのオッズ比が2.4倍高い可能性が示された〔オッズ比(OR)2.39(95%信頼区間1.21~4.74)〕。 次に、非喫煙/喫煙および受動喫煙の曝露なし/ありにより全体を4群に分け、非喫煙かつ受動喫煙曝露のない群を基準として比較。すると、喫煙者で受動喫煙曝露のある群は、身体的フレイル発症のオッズ比が3.5倍高かった〔OR3.47(同1.56~7.73)〕。自分の喫煙のみや受動喫煙のみの群は、有意なオッズ比上昇が観察されなかった。 続いて性別や年齢で層別化したサブグループ解析を施行。性別の解析からは、男性では全体解析と同様に、非喫煙者に比較して喫煙者は有意なオッズ比上昇が認められたが〔OR3.75(1.76~8.00)〕、女性は非有意だった。年齢層別の解析からは、75歳以上では全体解析と同様に、非喫煙者に比較して喫煙者は有意なオッズ比上昇が認められたが〔OR4.12(1.43~11.87)〕、75歳未満は非有意だった。 最後に、解析対象を喫煙者のみとし、喫煙者の受動喫煙曝露の有無でオッズ比を算出。すると、喫煙者ながらも受動喫煙曝露のない群に比べて、喫煙かつ受動喫煙曝露のある群でのフレイル発症オッズ比は9倍を上回ることが明らかになった〔OR9.03(2.42~33.77)〕。 著者らによると、本研究は日本人高齢者の喫煙および受動喫煙の状況と身体的フレイルのリスクとの関連を縦断的に検討した初の研究だという。結果の総括として、「累積喫煙量を評価していないことなどが限界点として挙げられるが、喫煙と受動喫煙はフレイルリスクを相加的に高めることが示唆された。それら両者に対する公衆衛生対策の強化が必要と考えられる」と述べられている。

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会話の時間が短いと非高齢者でも嚥下機能が低下?

 50~60歳代という誤嚥性肺炎が生じるにはまだ早い年齢層であっても、人と会話をする時間が短い人は、嚥下機能が低下している可能性のあることを示すデータが報告された。大分大学医学部呼吸器・感染症内科学の小宮幸作氏らの研究によるもので、詳細は「Cureus」に10月29日掲載された。 日本人の死亡原因の上位の一角は毎年、肺炎が占めている。死因としての肺炎の多くは高齢者の誤嚥性肺炎と推測されるが、その誤嚥性肺炎につながる嚥下機能の低下は高齢者に特有のものではなく、より若い年齢から加齢とともに徐々に進行していくと考えられる。ただし、どのような因子が嚥下機能の低下に関連しているのかは明らかにされていない。これを背景として小宮氏らは、医師を対象とするインターネットアンケートによる横断調査を行い、関連因子の特定を試みた。 調査対象は、アンケート調査パネルに登録している50~60歳代の医師310人。対象を医師に限った理由は、嚥下機能を評価するための反復唾液嚥下テスト(RSST)を、医師であれば正確に行えると考えられるため。RSSTは、30秒間にできるだけ多く唾を飲み込んでもらい、飲み込む回数が多いほど嚥下機能が良好と判定する。なお、嚥下機能の正確な評価にはバリウムを用いる画像検査が行われるが、RSSTの回数はその検査の結果と強く相関することが報告されている。 アンケートではこのRSSTの回数のほかに、年齢、性別、BMI、併存疾患(脳血管疾患、COPD、胃食道逆流症、頭頸部腫瘍、神経筋疾患など)、服用中の薬剤、生活習慣(飲酒・喫煙・運動習慣、睡眠時間、歯みがきの頻度、1日の会話時間)、自覚症状(口呼吸、口渇、鼻閉、飲み込みにくいなど)について質問。なお、RSSTは上限を20回として、0~20の間で回答を得た。また、会話の時間は、自分が話している時間と相手の話を聞いている時間を区別せずに答えてもらった。 回答者の年齢は中央値59歳(四分位範囲54~64)、女性6.1%だった。RSSTスコアは中央値12で、1~12回を低RSST群(52.3%)、13~20回を高RSST群(47.7%)とした。 両群を比較すると、年齢や性別の分布、会話時間以外の生活習慣、自覚症状に有意差は見られず、脂質異常症の割合〔低RSST群19.8%、高RSST群30.4%(P=0.030)〕と会話時間〔1日に3時間未満が同順に66.0%、50.6%(P=0.006)〕のみ有意差が認められた。このほかに、睡眠時無呼吸症候群(P=0.054)や口呼吸(P=0.076)、窒息しかけた体験の有無(P=0.084)が、有意水準未満ながらも比較的大きな群間差が認められた。 次に、有意差または有意に近い群間差が認められた上記の因子を独立変数、低RSSTであることを従属変数とする多変量解析を施行。その結果、低RSSTに独立した関連のある因子として、1日の会話の時間が3時間未満であることのみが抽出された〔オッズ比1.863(95%信頼区間1.167~2.974)〕。 著者らは本研究の対象が医師のみであり、RSSTの中央値も比較的高かったことから(既報研究での中央値は一桁台)、この結果から得られた知見を必ずしも一般化できないと述べている。その上で、「誤嚥性肺炎のリスクが高まる年齢層より若い世代において、会話の時間が少ないことが嚥下機能の低下と有意な関連があることが明らかになった。会話時間は将来の誤嚥性肺炎の予測因子となるのではないか。誤嚥性肺炎のリスク抑制を目的として会話を増やすという介入研究の実施が望まれる」と結論付けている。 なお、論文中には本研究で示された関連のメカニズムとして、会話をすることが口腔の筋力や認知機能を維持するように働き、嚥下機能の低下を抑制するのではないかとの考察が加えられている。また、脂質異常症の該当者が高RSST群で有意に多かった点については、「脂質異常症は脳血管障害のリスク因子であるため、嚥下機能低下と関連すると考えられる。示された結果はそのような理解に反するものだが、嚥下機能が優れている人は食事摂取量が多いことを反映した結果かもしれない」と述べられている。

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食後に椅子に座らなければエネルギー消費が1割増える

 食後に立っているだけで、座って過ごすよりもエネルギー消費が1割増えるというデータが報告された。ただし、糖尿病でない人を対象に行われたこの研究では、食後の血糖値には有意差が認められなかったことから、代謝性疾患の予防という点では単に立っているだけでなく、軽い運動を加えた方が良い可能性があるという。岐阜大学教育学部保健体育講座の河野寛也氏、上田真也氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Environmental Research and Public Health」に10月17日掲載された。 エネルギー収支がプラスの状態が続いていると、肥満やそれに伴う糖尿病、心血管疾患などのリスクが上昇する。最近の肥満や糖尿病の増加の一因として、人々の生活の中の座位行動が増えてエネルギー消費が減り、収支がプラスになりやすくなっていることとの関係が指摘されている。特に本研究で対象とした大学生は座学での講義が多いために、一般人口以上に座位行動が長いという報告がある。 一方、エネルギー消費を増やす方法として以前からスポーツや運動が推奨されているが、近年では座位行動を減らすだけでも健康上のメリットを得られることが分かってきた。ただし、食後の座位を立位に変えることの代謝への影響は、十分検討されていない。上田氏らは、食後に立位で過ごすことでエネルギー消費が増え、血糖上昇が抑制されるとの仮説の下、大学生を対象に以下の検討を行った。 研究参加者は15人の男子大学生(平均年齢21.6±1.1歳)で全て非喫煙者であり、代謝性疾患などの既往歴のある学生や何らかの薬剤が処方されている学生は除外されている。試験デザインはクロスオーバー法で、全員に対して食事摂取後に通常の椅子に座るか、身長に合わせて高さを調整したスタンディングデスクを使うという2条件を試行。試行順序は無作為化し、7日間のウォッシュアウト期間を設けて行った。 テスト前日からアルコールやカフェインの摂取と中強度以上の運動を禁止し、夕食は21時までに済ませて、それ以降は翌日の朝食以外、水以外の飲食を禁止した。テスト当日は8時までに、2条件共通の食事を取った上で、12時から300gの白米を食べてもらうという食事負荷テストを実施。食前から食後120分まで、間接熱量測定法に基づくエネルギー消費量、心拍数、血糖値、呼吸交換比(RER)、外因性グルコース代謝率などの推移を把握した。 その結果、食後30~120分のエネルギー消費量は、両条件ともに食前に比べて有意に増大し、食事誘発性熱産生が確認された。ただし、立位条件のエネルギー消費量の方がより高値で推移し、30分おきに測定した全てのポイントで有意差が認められた。条件間の差は1分当たり0.16±0.08kcalであり、立位条件では120分間でのエネルギー消費が10.7±4.6%多かった。 10分おきに測定された心拍数に関しては、食前は有意差がなかったものが、食後は10~120分の全てのポイントで立位の方が有意に高値だった。血糖値は30分おきに測定され、両条件ともに食後30分のみ食前より有意に高値となり、その他のポイントは食前値と有意差がなく、また全ポイントで条件間の有意差は見られなかった。 RERや外因性グルコース代謝率の推移にも、条件間の有意差は観察されなかった。なお、両条件ともに食後60~120分にかけて外因性グルコース代謝率が食前値より高値となり、糖質の酸化が同程度に亢進していたことが確認された。このことから、立位条件でのエネルギー消費の増大は、主として脂質酸化の亢進によるものと考えられた。 著者らは以上の総括として、「食後に立位で過ごすことで、糖代謝への影響は生じないが、エネルギー消費は有意に増大することが確認された」と結論付けている。なお、立位によりエネルギー消費が10.7±4.6%増えるという結果を基に、1日に4時間の座位を立位に置き換えた場合の影響を試算すると、エネルギー収支が38.4kcalマイナスになり、これを毎日続ければ1年間で体脂肪量1.6kg減という効果が予測されるという。 一方、血糖変動には有意差がなかったことに関連して、「食後の血糖上昇は非糖尿病者でも酸化ストレス亢進や血管内皮機能の低下などをもたらし得る。疾患予防のためには、例えば食後に座位と立位を繰り返すなどの運動を加えて糖質の酸化を刺激することが必要ではないか」との考察を付け加えている。

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糖尿病とうつ病の併存で死亡リスクがより高まる

 2型糖尿病患者はうつ病を併発していることが少なくないこと、そして両者の併存により死亡リスクが4倍以上高くなることを示すデータが報告された。米ニューメキシコ州立大学のJagdish Khubchandani氏らの研究によるもので、詳細は「Diabetes & Metabolic Syndrome: Clinical Research & Reviews」11月号に掲載された。 Khubchandani氏によると、「米国では3500万人以上が糖尿病に罹患し、9500万人以上が前糖尿病状態にあって、糖尿病は米国における主要な死因の一つに挙げられる」という。また同氏は、「残念ながら、これらの人の多くがうつ病や不安症などのメンタルヘルス上の問題を抱えている。しかし、2型糖尿病とうつ病を併発した場合の死亡リスクに及ぼす影響は、これまでのところ十分に検討されていない」と、研究の背景を説明している。 研究では、2005~2010年の米国国民健康栄養調査(NHANES)と2019年までの同国の死亡統計のデータが解析に用いられた。NHANESの解析対象は1万4,920人の米国人成人であり、そのうち約10人に1人がうつ病(9.08%)または2型糖尿病(10%)に罹患していた。うつ病患者は、女性、喫煙者、肥満者、低所得者、および教育歴の短い人に多く、また2型糖尿病患者や心血管疾患の有病率が有意に高かった。 交絡因子調整後、2型糖尿病患者は糖尿病でない人に比べて死亡リスクが1.70倍高いことが明らかになった。この結果をうつ病の併発の有無別に見ると、うつ病のない2型糖尿病患者では1.55倍のリスク上昇であるのに対して、うつ病と2型糖尿病を併発している患者は死亡リスクが4.24倍であることが示された。 このような結果の背景をKhubchandani氏は、「糖尿病という病気は衰弱をもたらしやすい病気だが、うつ病を併発するとその状態がより悪化しやすくなる。さらに不運なことに、糖尿病を患う多くの米国人は、経済的にも精神的にも負担の生じやすい生活を強いられており、そのために病気の治療が困難な状況にある」と解説。また著者らは、「心理・社会的因子や生物学的メカニズムが、うつ病と糖尿病の併発の原因となっている可能性がある」と述べている。 具体的には、不十分な治療、遺伝的背景、ライフスタイル関連因子、うつ病や2型糖尿病以外の疾患を併発するリスクの高さ、ストレス、医療アクセスの低下、経済的負担の増加、免疫や血管系の機能不全などが、共通の原因として挙げられるとのことだ。実際、今回の研究では、うつ病と糖尿病を併発している人には、いくつかの共通する特徴があることも示された。例えば、収入が少ないことや教育歴が短いこと、人種/民族的マイノリティーであること、および不健康なライフスタイルであること、その他の慢性疾患の併存などが認められた。 先進国では、一般的に糖尿病患者の約75%が血糖管理のための治療を受けているとされる。しかし、何らかのメンタルヘルス上の問題を抱えている患者の50%以上が、その適切なケアを受けられていないと、著者らは指摘している。Khubchandani氏も、「糖尿病と併発することの多いメンタルヘルス上の問題に関するケアの質を向上させることで、糖尿病とともに生きる人々の幸福感の向上とともに、寿命を延長できる可能性がある」と語っている。

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アンドロゲン遮断療法後に狭心症を発症した症例【見落とさない!がんの心毒性】第27回

※本症例は、実臨床のエピソードに基づく架空のモデル症例です。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。《今回の症例》年齢・性別70代・男性主訴ECG異常、NT-proBNP高値既往歴高血圧症、糖尿病、脂質異常症、喫煙歴(+)、飲酒歴(-)家族歴父親:大腸がん、母親:狭心症現病歴X-9年の人間ドック受診時にPSA上昇を指摘されたため精査目的で泌尿器科を受診、前立腺生検を施行した。初回ならびに2回目(X-7年)の生検では陰性であったが、X-5年のドック検査でPSAがさらに上昇したことからMRI検査ならびに3回目の生検を施行し、前立腺がんと診断された。がん治療はアンドロゲン遮断療法(androgen deprivation therapy:ADT)と放射線の併用療法が選択された。X-5年3月から同年12月まで第一世代抗アンドロゲン薬が投与され、X-5年4月からX-4年6月までGnRHアゴニストが併用された。さらに、放射線療法(78Gy)をX-5年10~12月まで施行された。その結果、PSAは正常化した。がん治療終了後に心臓CT検査を施行したが、冠動脈に有意な狭窄は認めなかった。その後、泌尿器科の定期的な受診とかかりつけ医で生活習慣病の治療を受けており、引き続き年1回の人間ドックは当院を受診していた。X年に受診した人間ドックで運動負荷試験陽性(図1)、NT-pro BNP高値を指摘された。胸痛などの自覚症状は認めなかったが糖尿病などのリスク因子を有しており、虚血性心疾患の合併を疑い、精査加療目的で循環器内科を紹介し受診された。(図1)X年の人間ドックでの運動負荷心電図試験(マスターダブル負荷)画像を拡大するX年に受診した人間ドック時運動負荷心電図ではV4-V6でST低下を認め、NT-proBNP 152pg/mLの上昇を認めた。本例は、前立腺がん治療終了後に心臓CT検査が施行されるも、冠動脈に有意狭窄は認められず、前年までの運動負荷心電図所見の異常はなかった。心電図変化は比較的軽く、自覚症状も認めなかったが、高齢かつ複数の動脈硬化危険因子を有していたこと、ADTを施行されていたことから心血管疾患の合併を疑い精査を行った。循環器専門病院で施行した冠動脈造影検査では左冠動脈#7に75~90%狭窄を認めたため、同部位に冠動脈形成術(ステント留置術)を施行した。【問題】本症例の治療に際して注意する点として、適切な答えを選択せよ。a.前立腺がん症例の多くは、治療前より高齢、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、喫煙などの心血管リスクを複数有している事が多く、がん治療を施行する際には心血管毒性に対する注意が必要である。b.ADTの施行後は肥満症、糖尿病、脂質異常症を来すことがあり、その後の動脈硬化症や冠動脈疾患の発症に注意が必要である。c.症候性冠動脈疾患の既往を有する症例に対し、ADTを施行する際には、心血管リスクの有無を考慮したがん治療薬の選択が重要である。d.ADTにおける筋肉系合併症としてはサルコペニア・運動耐容能の低下、骨関連合併症としては骨粗鬆症・骨折などを認めることがあるので注意を要する。e.すべて正しい1)Studer UE, et al. J Clin Oncol. 2006;24:1868–1876.2)Calais da Silva FE, et al. Eur Urol. 2009;55:1269–1277.3)Weiner AB, et al. Cancer. 2021;127:2895-2904.4)Klimis H, et al. J Am Coll Cardiol CardioOnc. 2023;5:70-81.5)Narayan V, et al. J Am Coll Cardiol CardioOnc. 2021;3:737-741.6)Chen DY, et al. Prostate. 2021;81:902-912.7)Okwuosa TM, et al. Circulation. 2021;14:e000082.8)Lyon AR, et al. Eur Heart J. 2022;432:4229-4361.講師紹介

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小児期の不十分なケアや過保護が成人後の糖尿病に関連

 子どもの頃に両親から十分なケアを受けていなかったり、過保護な環境で育てられたりすることと、成人期の糖尿病リスクとの関連を示唆する研究結果が報告された。九州大学大学院医学研究院衛生・公衆衛生学分野の柴田舞欧氏らが、久山町研究参加者のデータを横断的に解析した結果であり、詳細は「BMC Endocrine Disorders」に10月12日掲載された。 十分でないケアまたは過保護といった「不適切な養育」が、成人後の肥満などと関連のあることが既に報告されている。ただし、不適切な養育と糖尿病の関連の有無はよく分かっていない。柴田氏らはこの点について、日本を代表する地域住民対象疫学研究である「久山町研究」のデータを用いて検討した。 2011年に健診を受けた40歳以上の住民2,250人のうち研究参加に同意した793人から、データ欠落者を除外した710人(男性38.0%、糖尿病有病率14.9%)を解析対象とした。小児期の子育てスタイルは、自記式アンケート(Parental Bonding Instrument;PBI)を用いて、生後16年間の状況について回答してもらった。PBIは25項目から成り、父親と母親から受けた「不十分なケア」や「過保護」の程度をスコア化して評価する。本研究では各スコアの中央値をカットオフ値として群分けし比較した。 まず、父親の養育スタイルについて、ケアが適切であった場合を基準として、不十分だった場合の糖尿病有病率を、交絡因子〔年齢、性別、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、高血圧・脂質異常症、糖尿病家族歴、婚姻状況、教育歴、主観的経済状況、ストレスホルモン(コルチゾール)レベル〕を調整して比較すると、オッズ比(OR)1.27(95%信頼区間0.79~2.05)であり、有意な関連は見られなかった。しかし、過保護だったか否かの比較では、OR1.71(同1.06~2.77)となり、父親から過保護に育てられた人の糖尿病有病率が有意に高かった。 一方、母親の養育スタイルとの関連について同様の交絡因子で調整して比較すると、ケアが不十分だった場合はOR1.61(1.00~2.60)、過保護であった場合はOR1.73(1.08~2.80)であって、いずれも有意な関連が認められた。 母親の養育スタイルが、適切なケアで過保護でない群〔以下、「最適な養育」〕を基準とすると、ケアが不十分で過保護な群〔以下、「不適切な養育」〕はOR1.94(1.12~3.35)と、成人後に糖尿病を有するオッズ比が2倍近くとなった。なお、ケアが不十分のみ、または過保護のみの場合は、いずれも有意なオッズ比上昇は見られなかった。また、父親の養育スタイルとの関連については、最適な養育と不適切な養育との比較で、有意なオッズ比上昇は見られなかった。 次に、父親と母親双方の養育スタイルが最適であった群を基準とする比較を実施。すると、父親と母親の養育スタイルがともに不適切であった群は交絡因子調整後、OR2.12(1.14~3.95)と2倍を超えるオッズ比が示された。なお、父親または母親いずれか一方のみが不適切な養育であった群はOR1.23(0.58~2.61)で、有意なオッズ比上昇は見られなかった。同様に、父親および母親の養育が不適切でも最適でもない群(ケアが不十分または過保護のいずれかのみに該当)はOR1.03(0.52~2.04)であり、有意なオッズ比上昇は見られなかった。 著者らは本研究が横断研究であり因果関係の解釈は制限されることや、健診受診者の3分の2が本研究への参加に同意せず悉皆性が高いとは言えないこと、残余交絡が存在する可能性のあることなどの限界点があるとしている。その上で、「幼少期の不十分なケアや過保護が成人後に糖尿病を有することと関連しており、特に両親から不適切な養育を受けた場合にはその関連性がより顕著になる」と結論付け、「最適な子育てのための保護者に対する社会的サポートが、糖尿病予防のための公衆衛生対策の手段となり得るのではないか」と付け加えている。 なお、両親の養育スタイルが糖尿病リスクに関連するメカニズムとしては、慢性的なストレスにより甘い物を口にしやすくなることや、自尊心および社会的スキルの低下などが媒介因子として働くのではないかとの考察が述べられている。

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フレイルを考える【Dr. 中島の 新・徒然草】(508)

五百八の段 フレイルを考える急に風が冷たくなりました。外は人が歩いていないし、道路の脇の木は坊主だし。すっかり年末年始の風景になってしまいました。さて、先日に当院であったのが「おおさか健康セミナー」という市民講座です。テーマはフレイルで、その最初に私がしゃべることになっていました。担当の師長さんに言われて仰天したのですが、実は半年前に依頼されていたのです。でも、そんな昔のことは忘れていますよね、普通は。「フレイルのことなんて何も知らないのに、よくも安請け合いしたもんだ」と半年前の自分に呆れてしまいます。が、引き受けた以上、市民の皆さんに有難いお話をするしかありません。というわけでまずは勉強です。その結果、自分なりの結論に達しました。フレイルというのは、いわゆる「生老病死」という四苦のうちの「老」ではないかということです。これまで、われわれ医師はもっぱら「病」を相手にしてきました。でも、いつのまにか「病」だけでなく「老」も相手にすることになったのではないでしょうか。「病」と「老」は似ているので、なかなか区別が付きません。でも、例を挙げるとわかりやすい気がします。つまり、病脳梗塞、心筋梗塞、透析、喘息、がん、リウマチ、肺炎など老腰が痛い、目が見えにくい、おしっこが近い、眠れない、耳が遠い、ふらつく、物忘れするといったところでしょうか。「老」で挙げた症状はすべて「年のせいだよ!」で片付けられそうですね。でも、われわれ医師も、これらの症状に真面目に取り組む時代になったといえましょう。おおさか健康セミナーでは、管理栄養士さんや理学療法士さんの講演もありました。フレイル予防のための栄養や運動は彼らに任せるとなると、私の話は物忘れ対策が中心になります。私自身も物忘れが気になる年齢なので、自分自身の工夫を伝授しました。カメラ機能や録音機能を利用して、忘れそうなことはスマホに記憶させておく。なるべく物を捨てて、シンプル・ライフを心掛ける。年を取っても新しいことを勉強する。などですね。講演後の質疑応答では「認知症を予防する生活習慣はどうすればいいですか」という直球が来ました。中島「まずは喫煙をやめ、飲酒をほどほどにしましょう」聴衆「そんなことは当たり前やないか!」さすが、大阪の高齢者は元気ですね。中島「わかっておられるのであれば、あとは実行あるのみですよ」さらに付け加えました。認知症というは、多かれ少なかれ、血管性の要素があるのではないかと私は思っているからです。中島「血圧や血糖、コレステロールに注意して、動脈硬化を予防しましょう」当たり前のことの羅列なのですが、皆さん感心して聴いておられます。中島「歩くというのは血圧にも血糖にも効果があります」そして私が最も言いたいこと。中島「薬の副作用で物忘れが出ることがありますからね。ご自分の服用している薬の効果と副作用を必ずチェックしておきましょう」これができている人が少ないですね。後発品全盛の昨今、コロコロ変わる薬品名を覚えるのすら至難の業なのかもしれません。ということで、盛況だったおおさか健康セミナー。管理栄養士さんや理学療法士さんの話を聴くことによって、自らも勉強になった1日でした。最後に1句フレイルに 歩いて打ち勝つ 冬日向

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コーヒーや炭酸飲料、潰瘍性大腸炎リスクを減少/日本人での研究

 食事は潰瘍性大腸炎リスクに影響する可能性があるが、日本人でのエビデンスは乏しい。今回、日本潰瘍性大腸炎研究グループが、コーヒーやその他のカフェインを含む飲料・食品の摂取、カフェインの総摂取量と潰瘍性大腸炎リスクとの関連を症例対照研究で検討した。その結果、欧米よりコーヒーの摂取量が少ない日本においても、コーヒーやカフェインの摂取が潰瘍性大腸炎リスクの低下と関連することが示された。愛媛大学の田中 景子氏らがJournal of Gastroenterology and Hepatology誌オンライン版2023年12月10日号で報告。 本研究では、潰瘍性大腸炎の症例群として384人、対照群として665人が参加した。コーヒー、カフェインレスコーヒー、紅茶、緑茶、ウーロン茶、炭酸飲料、チョコレート菓子の摂取量について半定量的食物摂取頻度調査票を用いて調査し、性別、年齢、喫煙、飲酒量、虫垂炎既往、潰瘍性大腸炎の家族歴、学歴、BMI、ビタミンC、レチノール、総エネルギー摂取量で調整した。なお、本研究は厚生労働科学研究費補助金の「潰瘍性大腸炎の発症関連及び予防要因解明を目的とした症例対照研究」班として実施された。 主な結果は以下のとおり。・コーヒーと炭酸飲料の摂取量が多いほど潰瘍性大腸炎リスクが減少し、有意な用量反応関係が認められた。一方、チョコレート菓子の摂取量が多いほど潰瘍性大腸炎リスクが有意に高かった。・カフェインレスコーヒー、紅茶、緑茶、ウーロン茶の摂取量と潰瘍性大腸炎リスクとの関連は認められなかった。・カフェインの総摂取量は潰瘍性大腸炎リスクと逆相関し、両極の四分位間の調整オッズ比は0.44(95%信頼区間:0.29~0.67)であった。

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塩分過多は糖尿病のリスクも高める可能性

 糖分の取り過ぎは2型糖尿病リスクを高めることはよく知られている。一方、高血圧リスクとの関連で注意が呼び掛けられることの多い塩分の取り過ぎも、2型糖尿病リスクを高める可能性のあることが報告された。米チューレーン大学公衆衛生熱帯医学大学院のLu Qi氏らの研究によるもので、詳細は「Mayo Clinic Proceedings」11月号に掲載された。 この研究は、英国の一般住民対象大規模疫学研究「UKバイオバンク」のデータを用いて行われた。ベースライン時に糖尿病、慢性腎臓病、がん、心血管疾患の既往がなく、料理に塩を加える頻度を問う質問への回答が記録されていた40万2,982人を解析対象とした。中央値11.9年の追跡で1万3,120人の2型糖尿病発症が記録されていた。 料理に塩を「全く、またはほとんど加えない」と回答していた群(55.5%)を基準として、交絡因子調整後の2型糖尿病発症ハザード比は、「時々加える」群(28.1%)が1.11(95%信頼区間1.06~1.15)で、「だいたい加える」群(11.6%)は1.18(同1.12~1.24)、「常に加える」群(4.8%)は1.28(1.20~1.37)であり、塩を加える頻度が高いほど2型糖尿病リスクが高いことが明らかになった(傾向性P<0.001)。 サブグループ解析から、年齢や性別、人種、BMI、C反応性タンパク、喫煙・飲酒・運動習慣、高血圧・脂質異常症の有無、食習慣(高血圧予防のためのDASH食に近い食習慣か否か)、教育歴、所得、タウンゼント剥奪指数(貧困など社会的不平等の程度を表す指標)などの違いでは、有意な交互作用は観察されなかった。一方、媒介分析からは、塩の添加と2型糖尿病リスクとの有意な関連は、BMIが33.8%、ウエスト/ヒップ比が39.9%、C反応性タンパクが8.6%媒介していることが示された。また、BMIの媒介効果を除脂肪量(主に筋肉や骨の重量)と体脂肪量とに分けて解析すると、前者は2.0%のみであり、体脂肪量の媒介効果が大きいことが明らかになった。 これらの結果からQi氏は、「塩分制限が高血圧や心血管疾患のリスクを抑制することは既に知られているが、われわれの研究は食卓塩をテーブルに置かないことが、2型糖尿病の予防にも役立つことを初めて示した」と語っている。また、塩の添加と2型糖尿病リスクとの関連のメカニズムについては、「明確には分からないが、塩を加えることで過食につながり、肥満やそれに伴う炎症が亢進するためではないか」と考察している。 研究グループは、このトピックに関する次のステップとして、塩分添加量を研究参加者自身が管理することによって、2型糖尿病のリスクが抑制されることを実証するための臨床試験が必要だとしている。ただしQi氏は、そのような前向き研究のエビデンスのない現時点におけるアドバイスとして、「なるべく減塩を心掛けた食生活を、早めにスタートするに越したことはない」と述べている。

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統合失調症患者に対する心血管リスク最適化プログラム

 心血管疾患は、統合失調症患者の早期死亡の主な原因の1つである。関連する修正可能なリスク因子には、不健全なライフスタイル、薬剤性副作用、身体的併存疾患などが含まれる。スペイン・ビック大学のNuria Riera-Molist氏らは、統合失調症患者の心血管リスク(CVR)低下のための6ヵ月間にわたる多因子CVR介入の有効性を評価する目的で本研究を実施した。その結果、患者中心の多因子CVR介入は統合失調症患者の6ヵ月後のCVRを改善し、それは主に脂質プロファイルの改善によりもたらされていたという。Journal of Psychiatric Practice誌2023年11月1日号の報告。 地域の精神保健センターにおいて、2群間並行ランダム化臨床試験を実施した。1つ以上のCVR因子(高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、喫煙)のマネジメントが不十分な統合失調症患者46例を、介入群または対照群にランダムに割り付けた。介入群では、健康的なライフスタイルの促進、CVR因子の薬理学的管理、向精神薬の最適化、動機付けフォローアップなどの患者中心のアプローチ(心血管リスク最適化プログラム[Programa d'optimitzacio del RISc CArdiovascular:PRISCA])を行った。主要アウトカムは、両群のベースライン時と比較した6ヵ月後のCVRの変化とし、Framingham-REGICOR関数を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者は、介入群23例、対照群23例にランダムに割り付けられた。・ベースライン時に最も高頻度で認められたCVR因子は、高コレステロール血症(84.8%)であり、次いで喫煙(39.1%)であった。・介入群では、6ヵ月後のREGICORスコアの有意な低下が認められたが(相対リスクの低減率:20.9%)、対照群では有意な変化が認められなかった。 【介入群】REGICORスコア:-0.96%、95%信頼区間(CI):-1.60~-0.32、p=0.011 【対象群】REGICORスコア:0.21%、95%CI:-0.47~0.89、p=0.706・介入群では、LDLコレステロールの有意な低下も確認された(-27.14mg/dL、95%CI:-46.28~-8.00、p=0.008)。

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ソーシャルメディアの使用、健康に及ぼす影響とは/BMJ

 ソーシャルメディアの利用は、若年層において、好ましくない健康リスク行動と関連しており、なかでも健康リスク行動を表示する情報内容は、不健康な食生活やアルコール摂取と強く関連することが、英国・グラスゴー大学のAmrit Kaur Purba氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2023年11月29日号で報告された。10~19歳を対象としたメタ解析 研究グループは、年齢10~19歳の青少年におけるソーシャルメディアの利用と健康リスク行動との関連を評価する目的で、系統的レビューとメタ解析を行った(英国医学研究審議会[MRC]などの助成を受けた)。 1997年1月1日~2022年6月6日に医学関連データベースに登録された文献を検索した。健康リスク行動は、アルコール・薬物・タバコ・電子式ニコチン供給システム(いわゆる電子タバコ)の使用、不健康な食生活、不十分な身体活動、ギャンブル、反社会的行動、性的リスクのある行動、複数のリスク行動と定義した。 解析の対象とした論文は、ソーシャルメディア変数(利用時間[1日当たりの時間など]、使用頻度[日/週当たり、日常的に使用など]、健康リスク行動の内容を含む情報[例:Facebook上のアルコールの広告など]への曝露、その他のソーシャルメディア活動[オンラインプレゼンスの管理や方策など])および1つ以上の関連アウトカムを報告している研究とした。 126編の論文についてレビューし、73編をメタ解析に含めた。最終的に143万1,534人(平均年齢15.0歳)の青少年を解析の対象とした。使用頻度が高いと、多くの健康リスク行動と関連 メタ解析を含まない統合解析では、63.6%の研究がソーシャルメディアと不十分な身体活動には有益な関連を認めたと報告していたが、これを除いた場合、ほとんどの研究でソーシャルメディアと健康リスク行動には有害な関連があることが示された。 ソーシャルメディアの使用頻度が低い場合と比較して、高い場合に増加していた有害な健康リスク行動として、アルコール摂取(オッズ比[OR]:1.48、95%信頼区間[CI]:1.35~1.62、解析対象者数38万3,068人)、薬物使用(1.28、1.05~1.56、11万7,646人)、喫煙(1.85、1.49~2.30、42万4,326人)、性的リスク行動(1.77、1.48~2.12、4万7,280人)、反社会的行動(1.73、1.44~2.06、5万4,993人)、複数のリスク行動(1.75、1.30~2.35、4万3,571人)、ギャンブル(2.84、2.04~3.97、2万6,537人)が挙げられた。 ソーシャルメディア上で健康リスク行動を見せる情報内容への曝露がない場合と比較して、このような曝露がある場合にオッズが上昇していた有害な健康リスク行動として、電子式ニコチン供給システムの使用(OR:1.73、95%CI:1.34~2.23、解析対象者数72万1,322人)、不健康な食生活(2.48、2.08~2.97、9,892人)、アルコール摂取(2.43、1.25~4.71、1万4,731人)を認めた。利用者作成の情報、2時間以上の利用で、アルコール摂取が増加 アルコール摂取については、マーケティング担当者が作成したソーシャルメディアの情報内容(OR:2.12、95%CI:1.06~4.24)と比較して、利用者が作成した情報内容(3.21、2.37~4.33)に曝露した場合に、より強力な関連が確認された。 また、ソーシャルメディアの利用時間については、1日2時間未満の場合と比較して、2時間以上ではアルコール摂取のオッズが高かった(OR:2.12、95%CI:1.53~2.95、解析対象者数1万2,390人)。 GRADEによるエビデンスの確実性の解析では、不健康な食生活は「中」、アルコール摂取は「低」、その他のアウトカムは「非常に低」であった。 著者は、「今後は、因果関係を立証し、健康格差への影響を解明し、ソーシャルメディアのどの側面が最も有害かを明らかにするために、さらに質の高い研究を進める必要がある」とし、「本研究の知見は、主に横断研究に基づくもので、ソーシャルメディアの利用に関する自己報告による測定値を使用しており、未調整の多くの交絡因子による交絡が残存している可能性がある」と指摘している。

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喫煙はがんの抑制に関わる遺伝子の変異と関連

 喫煙ががんの主因であることは周知の事実だが、喫煙によりがんが発生する機序の一端を解き明かす研究結果が、カナダの研究グループにより発表された。この研究によると、喫煙は、DNAのストップゲイン変異と呼ばれる危険な変異と関連しており、この変異が特に、がん抑制遺伝子で多く認められることが明らかになったという。オンタリオがん研究所(OICR、カナダ)のJuri Reimand氏らによるこの研究の詳細は、「Science Advances」に11月3日掲載された。 ストップゲイン変異では、DNA塩基の変異によりアミノ酸をコードする部分がタンパク質合成を終結させる終止コドンと呼ばれるコードに置き換わってしまう。その結果、正常なタンパク質が作られず、そのタンパク質が本来持つはずの機能を発揮できなくなる可能性がある。Reimand氏は、「われわれの研究により、喫煙が、がん抑制遺伝子の変異と関連することが明らかになった。がん抑制因子が作られなければ、細胞の防御機能が働かずに異常な細胞が増殖し続け、がんが発生しやすくなる」とOICRのニュースリリースで説明している。 Reimand氏らは、18の主要な組織に由来する1万2,341件のがんゲノムを解析し、一塩基置換(single-base substitution;SBS)がタンパク質のコーディング領域に及ぼす影響を調べた。その結果、SBSはがん発生において重要な経路や、TP53、FAT1、APCなどのがん抑制遺伝子に頻繁に影響を与えていることが明らかになった。特に肺がんでは、喫煙に起因するストップゲイン変異と喫煙量が強い相関を示し、それが最終的にはがんをより複雑で治療困難なものにする可能性のあることが示された。 Reimand氏は、「喫煙はDNAに大きなダメージを与え、細胞の機能に深刻な影響を与える。われわれの研究は、喫煙が、細胞の基本的な構成要素である重要なタンパク質の働きを阻害し、それが長期的な健康に影響を与え得る可能性を示したものだ」と述べている。 さらに、APOBECと呼ばれる酵素群(DNAやRNAのシトシンをウラシルに置換する機能を持つ)もストップゲイン変異の発生に関わる要素として特定され、特に、乳がん、頭頸部がん、子宮体がん、肺がん、食道がんと強く関連することが示された。このほか、不健康な食生活、飲酒なども同様にDNAにダメージを与える可能性があるが、Reimand氏は、「これらが具体的にどのようにDNAに作用するのかを完全に理解するためには、さらなる情報が必要だ」と述べている。 論文の筆頭著者である、トロント大学(カナダ)のNina Adler氏は、喫煙は世界的に見てもがんの主因の一つであり、本研究結果は、その関連を理解するための重要な手がかりとなり得るとの見方を示す。同氏は、「喫煙ががんの原因となり得ることは広く知られているが、ライフスタイル要因ががんリスクに及ぼす影響を理解するためには、その影響を分子レベルで説明することが重要な一歩となる」と説明している。

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若~中年での高血圧、大腸がん死亡リスクが増加~NIPPON DATA80

 高血圧とがんリスクとの関連についての報告は一貫していない。今回、岡山大学の久松 隆史氏らが、日本人の前向きコホートNIPPON DATA80において、高血圧と胃がん、肺がん、大腸がん、肝がん、膵がんによる死亡リスクとの関連を調査したところ、30~49歳における高血圧は、後年における大腸がん死亡リスクと独立して関連していることがわかった。Hypertension Research誌オンライン版2023年11月22日号に掲載。高血圧は大腸がん死亡リスクと正の関連 研究グループは、NIPPON DATA80(厚生労働省の循環器疾患基礎調査)において、ベースライン時に心血管系疾患や降圧薬服用のなかった8,088人(平均年齢48.2歳、女性56.0%)を2009年まで追跡。喫煙、飲酒、肥満、糖尿病などの交絡因子で調整したFine-Gray競合リスク回帰を用いて、血圧が10mmHg上昇した場合のハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定した。逆の因果関係を考慮し、追跡開始後5年以内の死亡を除外して解析した。 高血圧と胃がん、肺がん、大腸がん、肝がん、膵がんによる死亡リスクとの関連を調査した主な結果は以下のとおり。・29年の追跡期間中に、胃がんで159人(2.0%)、肺がんで159人(2.0%)、大腸がんで89人(1.1%)、肝臓がんで86人(1.1%)、膵臓がんで68人(0.8%)が死亡した。・高血圧は大腸がん死亡リスクと正の関連を認めたが、他のがんによる死亡リスクとは関連を認めなかった。・収縮期および拡張期血圧と大腸がん死亡率の関連は30~49歳で明らかだった(収縮期血圧におけるHR:1.43、95%CI:1.22~1.67、拡張期血圧におけるHR:1.86、95%CI:1.32~2.62)が、50~59歳および60歳以上では認められなかった(収縮期および拡張期血圧における年齢交互作用のp<0.01)。・これらの関連は、喫煙、飲酒、肥満、糖尿病の有無で層別化した解析でも同様にみられた。

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医師数が少なく検査機器数が多い日本の医療/OECD

 経済協力開発機構(OECD/本部:フランス・パリ)から加盟38ヵ国に関する医療レポートが、11月7日に公表された。レポートでは、新型コロナ感染症(COVID-19)が与えた各国への影響のほか、医療費、医療の質などに関する内容が記載されている。わが国は、平均寿命はOECDの中で84.5歳と1番長いが、受診率の多さ、医師数、電子化の遅れなど他の国との差もあり、今後の課題も提示されている。 以下に概要を示す。【COVID-19禍での国民の健康状態について】・2020~22年のCOVID-19での10万人当たり死亡率は、ノルウェー、インドが同順で38人、ニュージーランドが45人、わが国が46人と4番目に低かった。・2020年は平均余命が伸びた半面、21年は0.1歳短くなった。・COVID-19初期(2020年)には17%の人がうつの症状を訴えていた。・自殺者は2020年に10万人当たり15.4人だった(参考:2019年14.6人)。【医療支出の現状と今後について】・2022年または直近年のGDPに占める医療支出の割合は、アメリカの16.6%、ドイツの12.7%、フランスの12.1%に次いで、わが国は11.5%と4番目に多かった。・2021年の政府支出に占める公的医療費支出の割合は、わが国が22%と1番高く、アメリカ、イギリス、アイルランドが21%と続いた。・2021年の受診回数は、韓国15.7回が1番多く、わが国は11.1回と2番目に多く、スロバキアが11.0回と続いた。OECDの平均受診回数は6.0回だった。・2021年の高齢化率は、65歳以上の人口割合で、わが国は28.9%と1番高く、次いでイタリアの23.6%、ギリシャの22.8%と続いた。OECDの高齢者割合の平均は18.0%だった。【医療資源の活用について】・2021年の1,000人当たりの病床数は、韓国の12.8床が1番多く、次いでわが国の12.6床、ブルガリアの7.9床と続いた。OECDの平均病床数は4.3床だった。・2021年の病院支出における内訳では、OECDの平均では入院が64%、日帰りが6%、外来が24%、介護が3%、その他が3%だった。これに対しわが国は、入院が63%、日帰りが1%、外来が23%、介護が10%、その他が3%と介護の割合が高かった。・2021年の平均在院日数は、韓国が18.5日と1番多く、次いでわが国が16.0日、ハンガリーが9.7日と続いた。OECDの平均在院日数は7.7日だった。・2019年または直近年の人口100万人当たりのCT、MRIなどの医療機器数は、わが国が1番多く178台、次いでオーストラリアが88台、アメリカが86台と続いた。OECDの平均医療機器台数は48台だった。・2021年の医師数は、1,000人当たりでギリシャが1番多く6.3人、次いでポルトガルの5.6人、オーストリアが5.4人と続いた。わが国は5番目に少なく2.6人だった。また、OECDの平均医師数は3.7人だった。【予防医療について】・2021年または直近年の喫煙率を男女合わせた数字でみると、インドネシアが1番多く33%、次いでブルガリアが29%、トルコが28%と続いた。わが国は男性27%、女性8%で、OECDの平均喫煙率は、男性20%、女性12%だった。・2021年または直近年の乳がん検診率(50~69歳女性)は、デンマークが1番多く83%、次いでフィンランドとポルトガルが82%と続き、わが国は45%だった。OECDの平均受診率は54%だった。【医療へのアクセスとデジタル化について】・2021年または直近年の医療での自己負担額割合は、トルコとクロアチアが1番低く1.4%、次いでコロンビアが1.7%と続き、わが国は2.4%だった。OECDの平均の医療での自己負担額割合は3.3%だった。・2021年の開業クリニックにおける電子カルテ利用率は、クロアチアが1番低く3%、次いでポーランドとスイスが30%と続き、わが国は42%と5番目に低かった。OECDの平均開業クリニックにおける電子カルテ利用率は93%で、欧米、とくに北欧の利用率はほぼ100%だった。

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