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全医師が遭遇しうる薬剤性肺障害、診断・治療の手引き改訂/日本呼吸器学会

 がん薬物療法の領域は、数多くの分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬(ICI)、抗体薬物複合体(ADC)が登場し、目覚ましい進歩を遂げている。しかし、これらのなかには薬剤性肺障害を惹起することが知られる薬剤もあり、薬剤性肺障害が注目を集めている。そのような背景から、2025年4月に『薬剤性肺障害の診断・治療の手引き第3版2025』が発刊された。本手引きは、2018年以来の改訂となる。本手引きの改訂のポイントについて、花岡 正幸氏(信州大学病院長/信州大学学術研究院医学系医学部内科学第一教室 教授)が第65回日本呼吸器学会学術講演会で解説した。いま薬剤性肺障害が注目される理由 花岡氏は、「いまほど薬剤性肺障害が注目を集めているときはない」と述べ、注目される理由として以下の5点を挙げた。(1)症例数の増加ICIなどの新規薬剤の登場に伴って薬剤性肺障害の報告が増加している。(2)人種差国際比較により、日本人で薬剤性肺障害の発症率が高い薬剤が存在する。(3)予後不良な病理組織パターン重症化するびまん性肺胞傷害(DAD)を呈する場合がある。(4)多様な病型非常に多くの臨床病型が存在し、肺胞・間質領域病変だけでなく気道病変、血管病変、胸膜病変も存在する。(5)新たな病態ICIによる免疫関連有害事象(irAE)など、新規薬剤の登場に伴う新たな病態が出現している。改訂のポイント8点 本手引きでは、改訂のポイントとして8点が挙げられている(p.viii)。これらについて、花岡氏が解説した。(1)診断・検査の詳説 今回の改訂において「図II-1 薬剤性肺障害の診断手順」が追加された(p.13)。薬剤性肺障害の疑いがあった場合には、(1)しっかりと問診を行って、原因となる薬剤の使用歴を調査し、(2)諸検査を行って他の原因疾患(呼吸器感染症、心不全、原病の悪化など)を否定し、(3)原因となる薬剤での既報を調べ、(4)原因となる薬剤の中止で改善するかを確認し、(5)再投与試験によって再発するか確認するといった流れで診断を実施することが記載されている。 肺障害の発症予測や重症化予測に応用可能なバイオマーカーの確立は喫緊の課題であり、さまざまな検討が行われている。そのなかから国内で報告されている3つのバイオマーカー候補分子(stratifin、lysophosphatidylcholine[LPC]、HMGB1)について、概説している。(2)最新の画像所見の紹介 薬剤性肺障害の画像所見が「表II-3 薬剤性肺障害の一般的なCT所見」にまとめられた(p.21)。薬剤性肺障害の代表的な画像パターンは、以下の5つに分類される。・DADパターン・OP(器質化肺炎)パターン・HP(過敏性肺炎)パターン・NSIP(非特異性間質性肺炎)パターン・AEP(急性好酸球性肺炎)パターン なお、今回の改訂において、特定の薬剤の肺障害としてALK阻害薬、ADCに関する画像所見が追加された。(3)薬物療法の例の追加 薬物療法のフローについて「図III-2 薬剤性肺障害の薬物療法の例」が追加された(p.50)。重症度別にフローを分けており、すべての症例でまず被疑薬を中止するが、無症状・軽症の場合は中止により改善がみられれば経過観察とする。被疑薬の中止による改善がみられない場合や中等症の場合は、経口プレドニゾロン(0.5~1.0mg/kg/日)を投与する。これで改善がみられる場合はプレドニゾロンを漸減し、2~3ヵ月以内に中止する。経口プレドニゾロンで改善がみられない場合や重症・DADパターンでは、ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1,000mg/日×3日)を行い、経口プレドニゾロンに切り替える。改善がみられる場合は漸減し、改善がみられない場合はステロイドパルスを繰り返すか、免疫抑制薬の追加を行う(ただし、免疫抑制薬に薬剤性肺障害に対する保険適用はないことに注意)。(4)予後不良因子の追加 薬剤性肺障害の予後を規定する要因として報告されているものを以下のとおり列挙し、解説している。・背景因子(高齢、喫煙歴、喫煙指数高値、既存の間質性肺炎、喘息の既往[ICIの場合]など)・発症様式(低酸症血症、PS2~4など)・胸部画像所見(DADパターンなど)・血清マーカー(KL-6、SP-D、stratifinなど)・気管支肺胞洗浄液(BALF)所見(剥離性の反応性II型肺上皮細胞)・ICIによる肺障害と抗腫瘍効果 ICIについては、irAEがみられた集団で抗腫瘍効果が高いこと、ニボルマブによる肺障害が生じた症例のうち、腫瘍周囲の浸潤影を呈した症例は抗腫瘍効果が高かったという報告があることなどが記されている。(5)患者指導の項目の追加 薬剤の投与中に新たな症状が出現した場合は速やかに医療機関や主治医に報告するよう指導すること、とくに抗悪性腫瘍薬や関節リウマチ治療薬を使用する場合には、既存の間質性肺疾患の合併の有無を十分に検討することなどが記載された。また、抗悪性腫瘍薬の多くは医薬品副作用被害救済制度の対象外である点も周知すべきことが示された。(6)抗悪性腫瘍薬による肺障害を詳説 とくに薬剤性肺障害の頻度が高いチロシンキナーゼ阻害薬、ICI、抗体製剤(とくにADC)について詳説している。(7)irAEについて解説 ICIによって生じた間質性肺炎では、BALF中のリンパ球の増加や制御性Tリンパ球の減少、抗炎症性単球の減少、炎症性サイトカインを産生するリンパ球・単球の増加など、正常分画とは異なる所見がみられることが報告されている。このようにirAEに特異的な所見がみられる場合もあることから、irAEの発症機序について解説している。(8)医療連携の章の追加 本手引きについて、花岡氏は「非専門の先生や診療所の先生にも使いやすい手引きとなることを目指して作成した」と述べる。そこで今回の改訂で「第VI章 医療連携」を新設し、非呼吸器専門医が薬剤性肺障害を疑った際に実施すべき検査について、「図VI-1 薬剤性肺障害を疑うときの検査」にまとめている(p.123)。また、専門医への紹介タイミングや、かかりつけ医・非呼吸器専門医と呼吸器専門医のそれぞれの役割について「図VI-2 かかりつけ医と専門医の診療連携」で簡潔に示している(p.124)。すべての薬剤が肺障害を引き起こす可能性 花岡氏は、薬剤性肺障害の定義(薬剤を投与中に起きた呼吸器系の障害のなかで、薬剤と関連があるもの)を紹介し、そのなかで「薬剤性肺障害の『薬剤』には、医師が処方したものだけでなく、一般用医薬品、生薬、健康食品、サプリメント、非合法薬などすべてが含まれることが、きわめて重要である」と述べた。それを踏まえて、薬剤性肺障害の診療の要点として「多種多様な薬剤を扱う臨床医にとって、薬剤性肺障害は必ず鑑別しなければならない。すべての薬剤は肺障害を引き起こす可能性があることを念頭において、まず疑うことが重要であると考えている」とまとめた。

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突然の心停止の最大のリスクは生活習慣

 生活習慣や環境関連のリスク因子をコントロールすることで、突然の心停止(SCA)の約3分の2を予防できる可能性があるという研究結果が、「Canadian Journal of Cardiology」に4月28日掲載された。復旦大学(中国)のRenjie Chen氏らの研究によるもの。論文の上席著者である同氏は、「リスク因子に対処することで、多くのSCAを予防し得るという結論に驚いている」と語っている。 SCAは致死率が高く、かつ予測が困難なため、世界的に主要な死亡原因の一つとなっている。SCAのリスク因子に関するこれまでの研究の多くは仮説主導型という研究手法で行われていて、この手法では事前に定義された仮説に含まれていない因子の発見が難しい。これを背景にChen氏らは、英国で行われている住民対象大規模疫学研究「UKバイオバンク」のデータを利用し、エクスポソームワイド関連研究(EWAS)やメンデルランダム化(MR)解析という、仮説に依存せずリスク因子を探索する手法による研究を行った。 UKバイオバンク参加者50万2,094人を平均13.8年追跡したところ、3,147人がSCAを発症していた。食事・運動・喫煙・飲酒習慣、抑うつや孤独、環境汚染への曝露、雇用状況・暮らし向き、体重・血圧など、修正可能な125の潜在的リスク因子を、SCA発症者と非発症者で比較したところ、SCAリスクと関連の強い56の因子が浮かび上がった。そのうち25の因子は、集団寄与危険割合(その因子を除外すればSCAを防ぐことのできる割合)が10~17.4%の範囲にあり、これには、喫煙、運動、テレビ視聴時間、肥満、睡眠、握力、教育歴などの変更可能な因子が含まれていた。 また、特にリスクの高い因子を除外することで、SCAの発生を40%予防できると予測された。それには生活習慣の改善が最も強く寄与し(40%のうち13%)、次いで身体的因子(9%)、社会経済的因子(8%)、心理社会的因子(5%)、環境因子(5%)が寄与していた。また、リスクがそれほど高くない因子も含めて、より徹底的な対処を行った場合、最大で63%のSCAを予防できると考えられた。この予測においても最も寄与するのは生活習慣の改善であり、18%の減少が見込まれた。 Chen氏は、「われわれの知る限りこの研究は、医学的な手段を用いずに修正可能なリスク因子とSCA発生率との関連性を包括的に調査した、初の研究である」と述べている。また論文の筆頭著者である同大学のHuihuan Luo氏は、「本研究により、SCAと有意な関連のあるさまざまな修正可能因子が見つかり、生活習慣の改善がSCA予防に最も効果的であることが分かった」と総括している。 少し意外なデータも見つかった。それは、パソコン操作時間(不健康とされる座位行動に該当する)が、SCAに対して保護的に働くような関連が見られたことだ。研究者らによると、これはパソコンの操作がSCA予防につながるというのではなく、パソコンユーザーには教育歴が長い人が多い傾向があり、教育歴の長さは一般に健康に対する保護因子として働くためではないかという。

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COPDの新たな診断スキーマが有用/JAMA

 呼吸器症状、呼吸器QOL、スパイロメトリーおよびCT画像所見を統合した新たなCOPD診断スキーマによりCOPDと診断された患者は、COPDでないと診断された患者と比較して全死因死亡および呼吸器関連死亡、増悪、急速な肺機能低下のリスクが高いことが、米国・アラバマ大学バーミンガム校のSurya P. Bhatt氏らCOPDGene 2025 Diagnosis Working Group and CanCOLD Investigatorsの研究で明らかとなった。著者は、「この新たなCOPD診断スキーマは、多次元的な評価を統合することで、これまで見逃されてきた呼吸器疾患患者を特定し、呼吸器症状や構造的肺疾患所見のない気流閉塞のみを有する患者を除外できる」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年5月18日号掲載の報告。主要基準として気流閉塞、副基準に症状および画像所見5項目を設定 研究グループは、COPDの新たな多次元的診断スキーマを開発し、2つの大規模な前向きコホート、Genetic Epidemiology of COPD(COPDGene)およびCanadian Cohort Obstructive Lung Disease(CanCOLD)を用いてその有用性を検証した。 COPDGeneコホートは、2007年11月9日~2011年4月15日に米国の21施設において、現在または過去に喫煙歴のある45~80歳の1万305例を登録したもので、2022年8月31日まで追跡が行われた。 CanCOLDコホートは、2009年11月26日~2015年7月15日にカナダの9施設において、40歳以上(喫煙歴は問わない)の1,561例を登録したもので、2023年12月31日まで追跡が行われた。 新しいスキーマでは、気流閉塞(FEV1/FVCが<0.70または<正常下限値)を「主要基準」、CT画像での軽度以上の肺気腫、気道壁肥厚の2つを「副基準:CT画像所見」、呼吸困難(mMRCスコア≧2)、呼吸器QOL低下(SGRQ≧25またはCAT≧10)、慢性気管支炎の3つを「副基準:呼吸器症状」として、(1)主要基準を満たし、5つの副基準のうち1つ以上を認める、または(2)副基準のうち3つ以上を認める(他の疾患が呼吸器症状の原因と考えられる場合はCT画像所見2つが必要)場合にCOPDと診断した。 主要アウトカムは、新スキーマを用いて診断した場合の全死因死亡、呼吸器疾患特異的死亡、COPD増悪、FEV1の年間変化であった。気流閉塞を認めないCOPDで予後不良 COPDGeneコホート(解析対象9,416例、登録時平均[±SD]年齢59.6±9.0歳、男性53.5%、黒人32.6%、白人67.4%、現喫煙者52.5%)では、気流閉塞を認めない5,250例中811例(15.4%)が副基準により新たにCOPDと診断され、気流閉塞を認めた4,166例中282例(6.8%)は非COPDとされた。新たにCOPDと診断された群は、非COPD群と比較して、全死因死亡(補正後ハザード比[HR]:1.98、95%信頼区間[CI]:1.67~2.35、p<0.001)、呼吸器特異的死亡(補正後HR:3.58、95%CI:1.56~8.20、p=0.003)、増悪(補正後発生率比:2.09、95%CI:1.79~2.44、p<0.001)がいずれも有意に多く、FEV1の低下(-7.7mL/年、95%CI:-13.2~-2.3、p=0.006)が有意に大きかった。 スパイロメトリーで気流閉塞が認められたが新スキーマで非COPDとされた群は、気流閉塞がない集団と同様のアウトカムであった。 CanCOLDコホート(解析対象1,341例)においても同様に、新たにCOPDと診断された群は増悪頻度が高かった(補正後発生率比:2.09、95%CI:1.25~3.51、p<0.001)。

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飲酒は膵がんに関連するのか~WHOの大規模プール解析

 アルコール摂取と膵がんリスクとの関連を示すエビデンスは国際的専門家パネルによって限定的、あるいは決定的ではないと考えられている。今回、世界保健機関(WHO)のInternational Agency for Research on Cancer(IARC)のSabine Naudin氏らは、30コホートの前向き研究の大規模コンソーシアムにおいて、アルコール摂取と膵がんリスクとの関連を検討した。その結果、性別および喫煙状況にかかわらず、アルコール摂取と膵がんリスクにわずかな正の関連が認められた。PLOS Medicine誌2025年5月20日号に掲載。 本研究における集団ベースの個人レベルのデータは、アジア、オーストラリア、ヨーロッパ、北米の4大陸にわたる30のコホートからプールした。1980~2013年に、がんを発症していない249万4,432人(女性62%、ヨーロッパ系84%、飲酒者70%、喫煙歴なし47%)を登録(年齢中央値57歳)、1万67例が膵がんを発症した。喫煙歴、糖尿病の有無、BMI、身長、教育、人種・民族、身体活動で調整した年齢・性別による層別Cox比例ハザードモデルにおいて、アルコール摂取量のカテゴリーと10g/日増加による膵がんのハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・アルコール摂取量は膵がんリスクと正の相関を示し、1日0.1~5g未満と比べた1日30g以上60g未満および1日60g以上でのHR(95%CI)はそれぞれ1.12(1.03~1.21)および1.32(1.18~1.47)であった。・男女別では、女性で1日15g以上、男性で1日30g以上の場合に関連が明らかになった。・アルコール摂取量が10g/日増加すると、膵がんリスクは全体で3%増加し(HR:1.03、95%CI:1.02~1.04、p<0.001)、喫煙経験者では3%増加した(HR:1.03、95%CI:1.01~1.06、p=0.006)が、性別(異質性:0.274)または喫煙状況(異質性:0.624)による異質性は示されなかった。・地域別では、ヨーロッパ/オーストラリア(10g/日増加によるHR:1.03、95%CI:1.00~1.05、p=0.042)および北米(HR:1.03、95%CI:1.02~1.05、p<0.001)では関連が認められたが、アジア(HR:1.00、95%CI:0.96~1.03、p=0.800、異質性:0.003)では関連は認められなかった。・アルコールの種類別では、ビール(10g/日増加によるHR:1.02、95%CI:1.00~1.04、p=0.015)とスピリッツ/リキュール(95%CI:1.03~1.06、p<0.001)は膵がんリスクとの正の関連が認められたが、ワイン(HR:1.00、95%CI:0.98~1.03、p=0.827)については認められなかった。 著者らは、「地域やアルコールの種類による関連性の違いは、飲酒習慣の違いを反映している可能性があり、さらなる調査が必要」と考察している。

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第244回 外科医半減時代に備え、集約化とインセンティブで若手確保を/外保連

<先週の動き> 1.外科医半減時代に備え、集約化とインセンティブで若手確保を/外保連 2.リンゴ病が過去10年で最大の流行、妊婦への感染に最大限の警戒を/JHIS 3.医師の大学病院離れ深刻化 臨床と研究の両立支援に制度改革案/文科省 4.社会保障費改革、病床11万削減で自公維が大筋合意、骨太方針に明記へ 5.職員9%給与削減で合意、市立室蘭病院の苦渋の経営判断/北海道 6.禁煙外来の病院職員が敷地内で喫煙 赤十字病院が診療報酬を返還へ/岐阜県 1.外科医半減時代に備え、集約化とインセンティブで若手確保を/外保連外科医療の持続可能性が危機に瀕する中、日本消化器外科学会と日本心臓血管外科学会は、高難度症例の「地域拠点への集約化」と「経済的インセンティブの付与」をセットで推進する必要性を訴えた。外科系学会社会保険委員会連合(外保連)が5月19日に開催した記者懇談会で明らかにされた。消化器外科学会の試算によれば、同会員(65歳以下)は2023年の約1万6,000人から2043年には約8,000人にと半減すると予測される。背景には、キャリア形成の難しさ(専門医取得まで17~20年)や、救急・移植など多岐にわたる業務負担の重さ、そしてその努力に見合わない評価の低さがある。同学会の調査では、現役外科医の4割が「子に外科を勧めない」と回答しており、外科離れの深刻さがうかがえる。これに対し学会は、症例を拠点病院に集約することにより短期間で多くの経験が得られ、キャリア形成が加速する環境を整備すべきと提言。集約先病院には報酬上の評価を充実させ、医師のモチベーション維持と人材確保を図るべきとする。同様に、心臓血管外科学会も「症例数と成績の正の相関」に基づき、高難度手術の集約化を推進。「搬送時間が予後に影響を及ぼさない」というデータも示し、集約化による利点が搬送距離の不利を上回るとした。加えて、ICU体制強化やタスクシフト推進、報酬面での手厚い支援の必要性も訴えた。一方、救急・産科領域では「集約化一辺倒」の議論に警鐘が鳴らされた。医療アクセスの確保が不可欠であり、働き方改革と診療報酬の乖離が、地域医療の崩壊を招く危険があると警告。産科では正常分娩の保険適用による報酬低下が、医療提供体制に大きな打撃を与える懸念が指摘された。こうした各学会の提言の根拠となるのが、NCD(National Clinical Database)である。年間150万例以上の手術データを蓄積するこの巨大データベースは、症例の集約が望ましい術式や、施設ごとに必要な外科医数の可視化を可能にし、今後の医療提供体制の設計に極めて重要な役割を果たす。2026年度の診療報酬改定に向け、外保連はNCDに基づく科学的データを活用し、地域医療構想との整合を図った制度設計を強く求めている。 参考 1) 消化器外科医が20年間で半減、学会試算 キャリア形成見えにくく 「手術の集約を」(CB news) 2) NCDを活用することで、地域ごとに「どの外科領域のどの術式について、どの程度の集約化が必要か」などを明確化できる-外保連(Gem med) 2.伝染性紅斑(リンゴ病)が過去10年で最大の流行、妊婦への感染に最大限の警戒を/JHIS子供に多くみられるウイルス感染症の「伝染性紅斑(リンゴ病)」の感染が拡大しており、妊婦に対する注意喚起が強まっている。国立健康危機管理研究機構(JHIS)の発表によれば、2025年5月5~11日の1週間に全国約2,000の小児科定点医療機関から報告された患者数は、1施設当たり1.14人。これはこの時期としては過去10年で最多の水準であり、4月以降、1.0人超の高水準が継続している。都道府県別では、栃木県(4.19人)、宮城県・山形県(各3.23人)、北海道(2.87人)など、東北・北日本を中心に高い報告数が続く。専門家は、昨年秋の関東での流行から、地域と時期をずらしながら今年秋頃までの流行継続を予測している。伝染性紅斑は、パルボウイルスB19が原因で、飛沫感染や接触感染により伝播する。感染初期は風邪様症状を呈し、その後、頬部の紅斑が出現するのが特徴。小児や一般成人では自然軽快することが多いが、過去に感染歴のない妊婦が感染した場合、胎児水腫や流産・死産のリスクがあることが知られている。日本産婦人科感染症学会の山田 秀人氏は、「流行年には全国で100人以上の流産・死産が発生していると推定される」と警鐘を鳴らす。感染経路の特徴として、発疹出現の約1週間前が最も感染性が高く、無症候期に家庭内で感染が広がる点も問題視されている。治療法やワクチンは存在せず、予防策としては手洗い・マスクの着用、人混みの回避が推奨される。とくに妊婦や、妊婦と接する職業に従事する医療関係者、保育・教育従事者への注意喚起が重要である。厚生労働省も、家庭内感染防止の観点から、同居家族にも感染対策の徹底を求めている。 参考 1) リンゴ病の患者数 この時期としては過去10年で最多 感染対策を(NHK) 2) 「リンゴ病」感染拡大、流産の原因になることもあり注意呼びかけ(読売新聞) 3.医師の大学病院離れ深刻化 臨床と研究の両立支援に制度改革案/文科省文部科学省は5月21日に「今後の医学教育の在り方に関する検討会」を開き、大学病院の人材確保と魅力向上を目的とした中間骨子案を提示した。医学生の63.1%が大学病院以外への就職を希望し、その主因は給与や労働環境の良さであった。勤務希望理由として「地域医療への貢献」が最多(73.0%)だった一方で、「研究力向上」は34.4%に留まった。勤務医の離職傾向も顕著で、助教・医員の54.1%が大学病院以外での勤務を志望している。博士課程進学希望者は44.0%で、進学時期は専門研修後が主流となっている。これにより大学院進学率や学位取得率の低下が顕在化し、臨床と研究の両立困難さが浮き彫りとなっている。助教の64.9%は研究時間が週5時間以下とされ、研究力の国際的低下も深刻化している。対策として、専門研修と博士課程を両立可能な「臨床研究医コース」の推進、研究時間確保のためのバイアウト制度活用、研究費・環境整備の支援強化などが骨子案に盛り込まれた。また、特定機能病院の見直しにおいて、大学病院が地域医療構想に整合した「地域貢献機能」を担うことも明記された。今後の重点課題は、医師にとって大学病院勤務が魅力ある選択肢となるよう、制度・評価・財政面での総合的な支援体制の構築が喫緊の課題となる。 参考 1) 第14回 今後の医学教育の在り方に関する検討会(文科省) 2) 大学病院の人材確保で「臨床研究医の育成推進」 文科省検討会(MEDIFAX) 3) 医学部5・6年生の63%が大学病院での勤務希望せず 在職者も過半数で 文科省検討会(CB news) 4) 大学病院で働く医師の研究・教育時間が減少傾向、世界での研究力低下が課題に(日経メディカル) 4.社会保障費改革、病床11万削減で自公維が大筋合意、骨太方針に明記へ5月23日、自民党・公明党と日本維新の会は、国会内で開かれた社会保障改革に関する実務者協議で、全国の医療機関に存在する余剰病床をおよそ11万床削減する方針で大筋合意した。維新の主張を自公が一定程度受け入れる形で、政府が6月に取りまとめる「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」への明記を目指す。維新は、医療費の年間総額を最低4兆円削減し、現役世代1人当たりの社会保険料を年間6万円引き下げることを主張。11万床の病床削減によって、1兆円の医療費削減が可能との試算を示していた。今回の協議では、自公側もこの見解を共有したとされ、病床削減に向けた合意形成が進展した形。しかし、維新が併せて提案している、OTC(一般用医薬品)と同等の効能を持つ医薬品の保険給付除外については、自公との間で意見の隔たりが大きく、今国会での結論は困難との見通しが示された。今後も継続して協議が行われる予定。背景には、21日の党首討論で維新の前原 誠司共同代表が改革への進展が見られないことに対し「守らなければ内閣不信任に値する」と強く牽制したことがある。これを受け、石破 茂首相は翌日、自民党幹部に誠意ある対応を指示したとされ、今回の合意形成に一定の政治的圧力が影響したとの見方も出ている。自民党の田村 憲久元厚生労働相は「内容的にはほぼ同じ考えを共有できた」と発言。維新の岩谷 良平幹事長も「11万床の削減については相互理解に達した」と述べた。3党は今後、協議内容を文書化し、制度改革の具体的方針を固めていく。医療現場においては、病床削減が地域医療に及ぼす影響の精査と、代替的な医療提供体制の整備が急務となる。現場の声やデータを踏まえた、慎重な制度設計が求められる段階に入ったといえる。 参考 1) 自公維、余剰病床削減で大筋合意 「骨太方針」に明記の方向で調整(東京新聞) 2) 保険料負担軽減へ“11万床減で医療費1兆円削減”自公維が共有(NHK) 3) 余剰病床の削減で大筋合意、自公維の社会保障協議 骨太方針に明記へ(日経新聞) 5.職員9%給与削減で合意、市立室蘭病院の苦渋の経営判断/北海道北海道室蘭市の市立室蘭総合病院は、2025年度に約19.8億円の赤字、累積資金不足が37億円超に達する見込みであることを受け、正職員の基本給を9%削減することで労働組合と合意した。削減は2026年3月末までの限定措置で、医師と市からの人事交流職員を除外。会計年度任用職員は4%の削減とし、総額約5.85億円の人件費削減を見込む。当初、病院側は正職員11%、会計年度任用職員5%の削減を提案していたが、組合は「赤字は国の政策による構造的問題であり、職員に責任はない」と反発。一方で、公立病院として地域医療を守る責任や、市の財政健全化への影響を考慮し、約3ヵ月にわたる交渉の末に妥結した。市立病院は現在、経営が厳しい民間の「日鋼記念病院」との統合を目指しており、病院再編に向けた協議が進行中だが、統合後の病院機能や人員配置の見通しは不透明なままである。組合は「病院の将来像が見えないことが交渉長期化の要因」とし、地域医療の継続に対する懸念を表明している。室蘭市の病院事業会計は、一般会計から毎年約16億円の繰り入れを受けているが、補助金など外部財源への依存は困難な状況で、持続可能な病院運営が喫緊の課題となっている。地域の医療圏を支える中核病院として、感染症対応や災害時の医療提供といった機能維持が求められる中、今回の給与削減は苦渋の決断といえる。今後、医療提供体制の再構築と財政的持続可能性を両立させるには、国・自治体・医療機関の三者による支援体制の再検討と、地域医療ビジョンの明確化が急務とされている。 参考 1) 市立室蘭病院 正職員の基本給9%削減で労使合意 医療機能維持「苦渋の決断」 病院統合へ課題は山積(北海道新聞) 2) 厳しい経営続く市立室蘭総合病院 再来年まで職員給与9%削減(NHK) 3) 「地域医療守る」組合決断 市立室蘭、給与削減合意(室蘭民報) 6.禁煙外来の病院職員が敷地内で喫煙 赤十字病院が診療報酬を返還へ/岐阜県岐阜市の岐阜赤十字病院は、職員16人が長年にわたり敷地内で喫煙していた事実が発覚したことを受け、禁煙外来の診療報酬約450万円を患者や健康保険組合に返還する方針を明らかにした。同病院は2005年から敷地内を全面禁煙とし、2006年からは「敷地内禁煙」が禁煙外来における診療報酬の請求要件となっていた。病院によると、喫煙行為は少なくとも2006年6月~2023年12月まで継続的に行われていたとされ、看護師や元管理職を含む16人が病棟の陰などで喫煙していた。昨年12月、日赤岐阜県支部に寄せられた匿名の情報提供をきっかけに、今年1月から全職員約550人への聞き取り調査を実施し、事実が判明した。この問題により、「ニコチン依存症管理料」などの診療報酬請求の正当性が失われたと判断し、病院は2006年6月~2023年までの禁煙外来の受診者約750人と健康保険組合などに対し、報酬を返還する。返還対象者には5月下旬以降、順次連絡が行われる予定。同病院には、以前から投書箱などを通じ、職員の喫煙を指摘する声が寄せられていた。病院は厚生労働省東海北陸厚生局に報告し、5月23日にはホームページ上で事案を公表した。 担当者は「認識が甘く、申し訳ない」と謝罪し、今後は職員への禁煙教育の徹底や公益通報窓口の設置を含む再発防止策を講じるとしている。 参考 1) 禁煙外来あるのに…岐阜赤十字病院の職員16人、長年にわたり敷地内で喫煙 診療報酬返還へ(中日新聞) 2) 岐阜赤十字病院の職員が敷地内で喫煙 診療報酬を返還へ(NHK)

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フィブラート系薬でCKDリスクは増加、死亡リスクは低下

 フィブラート系薬の服用が腎機能や死亡に及ぼす影響を検討した結果、フィブラート系薬は慢性腎臓病(CKD)発症リスクの増加と関連する一方で、末期腎不全(ESKD)発症および死亡リスクの低下と関連していたことを、米国・Harbor-UCLA Medical Centerの高橋 利奈氏らが明らかにした。Clinical Journal of the American Society of Nephrology誌オンライン版2025年4月7日号掲載の報告。 フィブラート系薬は血清クレアチニンの急激な上昇を引き起こす可能性があるが、腎アウトカムの評価は追跡期間の短い研究では困難である。さらに、特定の腎アウトカムに関する研究は限られており、それらの結果も一貫していない。 そこで研究グループは、フィブラート系薬の新規処方とCKDやESKDの発症、死亡との関連を調べるため、米国退役軍人省の研究データベース(68万8,382例)を用いた後ろ向きコホート研究で、最大14年間にわたり追跡・分析を行った。人口統計学的因子、主な併存疾患、eGFRを含む臨床検査値、アルブミン尿、服用薬で調整し、Cox比例ハザードモデルおよびFine-Grayモデルを用いて関連を検討した。 主な結果は以下のとおり。・5万8,773例がフィブラート系薬を新規で服用開始した。全体の平均年齢は59(SD 13)歳で、フィブラート系薬服用患者は男性や喫煙者が多く、併存疾患を有する頻度も高かった。・完全調整モデルでは、フィブラート系薬の服用は、非服用と比較してCKDリスクの上昇と関連していた(ハザード比[HR]:1.21、95%信頼区間[CI]:1.19~1.24)。・フィブラート系薬の服用は、死亡リスク(HR:0.91、95%CI:0.89~0.93)およびESKDリスク(0.80、0.71~0.92)の低下と関連していた。 これらの結果より、研究グループは「フィブラート系薬が腎アウトカムと生存に及ぼす潜在的な利点を裏付けるにはさらなる研究が必要である」とまとめた。

7.

若年性認知症リスクとMetSとの関連

 若年性認知症は、社会および医療において大きな負担となっている。メタボリックシンドローム(MetS)は、晩年の認知症の一因であると考えられているが、若年性認知症への影響はよくわかっていない。韓国・Soonchunhyang University Seoul HospitalのJeong-Yoon Lee氏らは、MetSおよびその構成要素が、すべての原因による認知症、アルツハイマー病、血管性認知症を含む若年性認知症リスクを上昇させるかを明らかにするため、本研究を実施した。Neurology誌2025年5月27日号の報告。 The Korean National Insurance Serviceのデータを用いて、全国規模の人口ベースコホート研究を実施した。2009年に国民健康診断を受けた40〜60歳を対象に、2020年12月31日または65歳までのいずれか早いほうまでフォローアップ調査を行った。MetSは、ウエスト周囲径、血圧、空腹時血糖値、トリグリセライド値、HDLコレステロールの測定値を含む、確立されたガイドラインに従って定義した。共変量には、年齢、性別、所得水準、喫煙状況、飲酒量および高血圧、糖尿病、脂質異常症、うつ病などの併存疾患を含めた。主要アウトカムは、65歳未満での認知症診断で定義したすべての原因による若年性認知症の発症率とし、副次的アウトカムに若年性アルツハイマー病、若年性脳血管性認知症を含めた。ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)の推定には、多変量Cox比例ハザードモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・対象者数は197万9,509人(平均年齢:49.0歳、男性の割合:51.3%、MetS罹患率:50.7%)。・平均フォローアップ期間7.75年の間に、若年性認知症を発症したのは8.921例(0.45%)であった。・MetSは、すべての原因による若年性認知症リスク24%上昇(調整HR:1.24、95%CI:1.19〜1.30)、若年性アルツハイマー病リスク12.4%上昇(HR:1.12、95%CI:1.03〜1.22)、若年性脳血管性認知症リスク20.9%上昇(HR:1.21、95%CI:1.08〜1.35)との関連が認められた。・有意な交互作用が認められた因子は、より若年(40〜49歳vs.50〜59歳)、女性、飲酒状況、肥満、うつ病であった。 著者らは「MetSおよびその構成要素は、若年性認知症リスク上昇と有意な関連を示した。これらの知見は、MetSに対する介入が、若年性認知症リスクの軽減につながることを示唆している。しかし、本研究は観察研究のため、明確な因果関係の推定は困難であり、請求データへの依存は、誤分類バイアスに影響する可能性がある。今後の縦断的研究や包括的なデータ収集により、これらの関連性を検証し、さらに発展させることが望まれる」と結論付けている。

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若年層での脳梗塞、意外な疾患がリスクに?

 片頭痛、静脈血栓、腎臓病や肝臓病、がんなどは、一般に脳梗塞リスクを高めるとは考えられていない。しかし、一般的な心臓の構造的異常を有する50歳未満の人においては、このような因子が脳梗塞リスクを2倍以上に高める可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。ヘルシンキ大学病院(フィンランド)脳卒中ユニットの責任者であるJukka Putaala氏らによるこの研究の詳細は、「Stroke」に4月17日掲載された。 Putaala氏は、「われわれは、これまで脳梗塞のリスク因子と見なされていなかった因子(以下、非伝統的リスク因子)、特に片頭痛がもたらす影響に驚かされた。片頭痛は、若年成人の脳卒中発症の主なリスク因子の1つであると思われる」と米国心臓協会(AHA)のニュースリリースの中で述べている。 この研究では、原因不明の脳梗塞である潜因性脳梗塞(cryptogenic ischemic stroke;CIS)を発症して間もない患者を対象に、修正可能な伝統的リスク因子、非伝統的リスク因子、および女性特有のリスク因子の影響の大きさと、それらと若年発症型CISとの関連を検討した。対象は、ヨーロッパの19施設の18〜49歳のCIS患者523人(平均年齢41歳、女性47.3%)と対照523人とした。CIS患者の37.5%には、卵円孔開存(PFO)が認められた。PFOは、胎児期に右心房と左心房の間にある壁(心房中隔)に開いていた孔(卵円孔)が出生後も閉じずに残存している状態を指す。解析は、臨床的に意義のあるPFO(心房中隔瘤または大きな右左シャントを伴う場合と定義)の有無で層別化して行った。 伝統的なリスク因子としては、高血圧、糖尿病、高コレステロール、喫煙、心血管疾患、閉塞性睡眠時無呼吸、肥満、不健康な食事、運動不足、大量飲酒、ストレス、うつ病の12項目、非伝統的なリスク因子としては、慢性的な他臓器不全(炎症性腸疾患、慢性腎臓病、慢性肝炎、自己免疫疾患、血液疾患/血栓傾向)、静脈血栓症の既往、悪性腫瘍の既往、前兆を伴う片頭痛、違法薬物の現在の使用の10項目、女性特有のリスク因子としては、妊娠糖尿病の既往、妊娠高血圧の既往、妊娠合併症の既往など5項目が検討された。 PFOのないCIS患者では、対照群に比べて、リスク因子が1つ増えるごとにCISリスクが有意に上昇していた。CIS発症リスクは、伝統的なリスク因子で約40%(オッズ比1.417、95%信頼区間1.282〜1.568)、非伝統的なリスク因子で約70%(同1.702、1.338〜2.164)、女性特有のリスク因子で約70%(同1.700、1.107〜2.611)高かった。一方、PFOのあるCIS患者では、非伝統的なリスク因子についてのみ有意なリスク上昇が見られ、リスク因子が1つ増えるごとのCISの発症リスクは165%(同2.656、2.036〜3.464)上昇していた。 さらに、人口寄与危険割合(PAR)を算出して、当該リスクがなければどの程度のCISを防げたかを推定したところ、PFOがないCISでは、伝統的リスク因子が64.7%、非伝統的リスク因子が26.5%、女性特有のリスク因子が18.9%のCIS発症に寄与していると推定された。一方、PFOがあるCISでは、それぞれ33.8%、49.4%、21.8%がCIS発症に寄与していると推定された。CISの最も強い寄与因子は前兆を伴う片頭痛であり、PFOありのCISの45.8%、PFOなしのCISの22.7%は前兆を伴う片頭痛により説明されると推定された。前兆を伴う片頭痛の影響は、特に女性で顕著であった。 Putaala氏は、「これらの結果は、医療専門家が、より個別化されたリスク評価と管理の方法を考えるべきであることを示している。また、若い女性には、片頭痛の既往歴やその他の非伝統的なリスク因子の有無について確認するべきだ」と述べている。

9.

紙巻きタバコと電子タバコの併用で健康リスクは軽減しない

 折につけて紙巻きタバコを電子タバコに替えることでがんのリスクを減らせると考える人がいるかもしれないが、その考えは正しくないようだ。新たな研究で、紙巻きタバコと電子タバコを併用しても、タバコに関連するニコチンや発がん物質への曝露量は紙巻きタバコだけを吸う人と同等であることが示された。米国がん協会(ACS)タバコ規制研究グループのシニア・アソシエイト・サイエンティストであるZheng Xue氏らによるこの研究結果は、「Nicotine and Tobacco Research」に4月15日掲載された。 この研究でXue氏らは、タバコ製品使用の長期的影響に関する連邦政府の研究に参加した成人2,679人のデータを分析した。参加者のうち、1,913人は紙巻きタバコのみ、316人は電子タバコのみを使用しており(専用者)、紙巻きタバコと電子タバコの併用者は450人だった。参加者を、自己申告による1日当たりの紙巻きタバコの喫煙本数(CPD〔cigarettes per day〕)および過去30日間の電子タバコ(e-cigarette)の使用日数(以下、ECIGと表記)を基に平均以上または平均未満で分け、8つのサブグループに分類した。各サブグループは、CPDとECIGを組み合わせたものとしてラベル付けした(例:高CPD/高ECIG群)。その上で、総ニコチン当量、タバコ製品に含まれる発がん物質の代謝産物であるNNAL(4-(メチルニトロソアミノ)-1-(3-ピリジル)-1-ブタノール)、3種類の揮発性有機化合物(VOC)、および重金属(鉛およびカドミウム)の調整幾何平均濃度を群間で比較した。 その結果、CPDについて、併用者(13.1本)と紙巻きタバコ専用者(11.8本)の間で大きな差は見られなかった。併用者のうち、CPDが多い群では少ない群に比べて、NNALとVOCレベルが有意に高かった。具体的には、NNALレベルは、高CPD/高ECIG群で257.07ng/mgクレアチニン、低CPD/高ECIG群で64.57ng/mgクレアチニンであり、両群の差は有意だった。またVOCレベルは、高CPD/低ECIG群で312.02ng/mgクレアチニン、低CPD/低ECIG群で144.11ng/mgクレアチニンであり、こちらも差は有意だった。さらに、紙巻きタバコ使用者(併用者、専用者ともに)は、電子タバコ専用者に比べて有害物質への曝露量が高いことも示された。ただし、重金属(鉛、カドミウム)については群間に差は認められなかった。 Xue氏は、「米国では、複数のタバコ製品を使用する場合、紙巻きタバコと電子タバコの併用が最も一般的だ。この方法で紙巻きタバコの喫煙本数削減や禁煙を目指す人もいる。しかし、われわれの研究結果は、紙巻きタバコと電子タバコの併用が健康を守るための効果的な方法ではないことに加え、タバコ製品の使用が有害であることのさらなるエビデンスを示した」と述べている。また同氏は、「臨床医や公衆衛生従事者は、紙巻きタバコと電子タバコの併用は安全ではなく、併用しても、紙巻きタバコの喫煙本数を減らさない限り、紙巻きタバコの単独喫煙と同程度のリスクを伴う可能性があることを広く認識させる必要がある」と強調している。 一方、ACSがん対策ネットワークのLisa Lacasse氏は、「この結果は、喫煙者は禁煙プログラムに参加して、ニコチン中毒からの離脱に役立つ薬を服用した方が良いことを示している」との見方を示す。同氏はさらに、「米食品医薬品局(FDA)は、その権限をフルに活用して、公衆衛生に対する有益性が証明されていない市場に出回っている何千もの違法製品を排除するなど、全てのタバコ製品を規制する必要がある」と提言している。

10.

β遮断薬やスタチンなど、頻用薬がパーキンソン病発症を抑制?

 痛みや高血圧、糖尿病、脂質異常症の治療薬として、アスピリン、イブプロフェン、スタチン系薬剤、β遮断薬などを使用している人では、パーキンソン病(PD)の発症が遅くなる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。特に、PDの症状が現れる以前からβ遮断薬を使用していた人では、使用していなかった人に比べてPDの発症年齢(age at onset;AAO)が平均で10年遅かったという。米シダーズ・サイナイ医療センターで神経学副部長兼運動障害部門長を務めるMichele Tagliati氏らによるこの研究結果は、「Journal of Neurology」に3月6日掲載された。 PDは進行性の運動障害であり、ドパミンという神経伝達物質を作る脳の神経細胞が減ることで発症する。主な症状は、静止時の手足の震え(静止時振戦)、筋強剛、バランス障害(姿勢反射障害)、動作緩慢などである。 この研究では、PD患者の初診時の医療記録を後ろ向きにレビューし、降圧薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、スタチン系薬剤、糖尿病治療薬、β2刺激薬による治療歴、喫煙歴、およびPDの家族歴とPDのAAOとの関連を検討した。対象は、2010年10月から2021年12月の間にシダーズ・サイナイ医療センターで初めて診察を受けた1,201人(初診時の平均年齢69.8歳、男性63.5%、PDの平均AAO 63.7歳)の患者とした。 アテノロールやビスプロロールなどのβ遮断薬使用者のうち、PDの発症前からβ遮断薬を使用していた人でのAAOは72.3歳であったのに対し、β遮断薬非使用者でのAAOは62.7歳であり、発症前からのβ遮断薬使用者ではAAOが平均9.6年有意に遅いことが明らかになった。同様に、その他の薬剤でもPDの発症前からの使用者ではAAOが、スタチン系薬剤で平均9.3年、NSAIDsで平均8.6年、カルシウムチャネル拮抗薬で平均8.4年、ACE阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)で平均6.9年、利尿薬で平均7.2年、β刺激薬で平均5.3年、糖尿病治療薬で平均5.2年遅かった。一方で、喫煙者やPDの家族歴を持つ人は、PDの症状が早く現れる傾向があることも示された。例えば、喫煙者は非喫煙者に比べてAAOが平均4.8年早かった。 Tagliati氏は、「われわれが検討した薬剤には、炎症抑制効果などの共通する特徴があり、それによりPDに対する効果も説明できる可能性がある」とシダーズ・サイナイのニュースリリースで話している。 さらにTagliati氏は、「さらなる研究で患者をより長期にわたり観察する必要はあるが、今回の研究結果は、対象とした薬剤が細胞のストレス反応や脳の炎症を抑制することで、PDの発症遅延に重要な役割を果たしている可能性が示唆された」と述べている。

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歩く速度が不整脈リスクと関連

 歩行速度が速い人は不整脈リスクが低いという関連のあることが報告された。英グラスゴー大学のJill Pell氏らの研究によるもので、詳細は「Heart」に4月15日掲載された。歩行速度で3群に分けて比較すると、最大43%のリスク差が認められたという。 これまで、身体活動が不整脈リスクを抑制し得ることは知られていたが、歩行速度と不整脈リスクとの関連についての知見は限られていた。Pell氏らはこの点について、英国で行われている一般住民対象大規模疫学研究「UKバイオバンク」のデータを用いて検討した。 UKバイオバンクの参加者42万925人(平均年齢55.8±9.30歳、女性55.3%)を、自己申告に基づき、歩行速度が速い群(時速4マイル〔約6.4km〕超)40.7%、遅い群(時速3マイル〔約4.8km〕未満)6.6%、および、平均的な速度の群(時速3~4マイル)52.7%の3群に分類。中央値13.7年(四分位範囲12.8~14.4年)の追跡期間中に、全体で3万6,574人(8.7%)が不整脈を発症していた。 結果に影響を及ぼし得る交絡因子(年齢、性別、民族性、喫煙・飲酒・運動習慣、睡眠時間、野菜や果物・加工肉・赤肉の摂取量、握力など)を調整後、歩行速度が遅い群を基準として不整脈発症リスクを比較すると、歩行速度が平均的な群では35%(ハザード比〔HR〕0.65〔95%信頼区間0.62~0.68〕)、速い群では43%(HR0.57〔同0.54~0.60〕)、それぞれ有意にリスクが低いことが明らかになった。 不整脈の中でも脳梗塞につながる心房細動は、追跡期間中に2万3,526人が発症していた。この心房細動の罹患リスクも上記と同様の解析の結果、歩行速度が平均的な群では38%(HR0.62〔0.58~0.65〕)、速い群では46%(HR0.54〔0.50~0.57〕)、それぞれ有意にリスクが低かった。 次に、加速度計のデータにより歩行時間を把握できた8万773人を対象とする解析が行われた。この集団では中央値7.9年(四分位範囲7.4~8.5)の追跡期間中に4,177人が不整脈を発症していた。前記同様の交絡因子を調整後、高速での歩行の時間が長いこと(1標準偏差当たりHR0.93〔0.88~0.97〕)、および、平均的な速度での歩行の時間が長いこと(同HR0.95〔0.91~0.99〕)は、不整脈リスクの低さと有意な関連があった。一方で低速での歩行時間の長さは不整脈リスクと関連がなかった。 なお、サブグループ解析からは、女性、60歳未満、非肥満者、高血圧罹患者、2種類以上の慢性疾患罹患者で、歩行速度と不整脈リスクとの関連がより強く認められた。また、媒介分析からは、歩行速度と不整脈リスクとの関連の36.0%を、肥満や代謝・炎症(BMI、総コレステロール、収縮期血圧、HbA1c、C反応性蛋白)によって説明できることが分かった。 著者らは、「われわれの研究結果は、歩行速度と不整脈の関連性を示し、その関連に代謝因子と炎症因子が何らかの役割を果たしている可能性を示す、初のエビデンスである」と述べている。

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バレニクリン、ニコチンベイピングの中止にも有効/JAMA

 中等度~重度のニコチンベイピング依存の青年において、遠隔からの簡易な行動カウンセリングにバレニクリン(α4β2ニコチン受容体部分作動薬)を併用すると、プラセボを併用した場合と比較してニコチンベイピングの中止が促進され、忍容性も良好であることが、米国・マサチューセッツ総合病院のA. Eden Evins氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年4月23日号に掲載された。3群を比較する米国の無作為化臨床試験 研究グループは、タバコを常用していない青年におけるニコチンベイピング中止に対するバレニクリンの有効性の評価を目的に、3群を比較する無作為化臨床試験を行った(米国国立衛生研究所[NIH]の助成を受けた)。2022年6月~2023年11月に米国の1州で参加者を登録し、2024年5月にデータ収集を終了した。 年齢16~25歳、過去90日間に週5日以上ニコチンベイピングをしており、次の月にベイピングの回数を減らすか中止を希望し、タバコを常用(週に5日以上)しておらず、ニコチン依存(10項目のE-cigarette Dependence Inventory[ECDI]スコアが4点以上)がみられる集団を対象とした。 被験者を、バレニクリン群(7日間で1mgの1日2回投与まで漸増し12週間投与+Zoomを介した週1回20分間の行動カウンセリング+テキストメッセージによりベイピング中止支援を行うThis is Quitting[TIQ]の紹介)、プラセボ群(プラセボ+行動カウンセリング+TIQの紹介)、強化通常ケア群(TIQの紹介のみ)に、1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、プラセボ群と比較したバレニクリン群の最後の4週間(9週目から12週目)における生化学的に検証した継続的なベイピング中止とした。プラセボ群と強化通常ケア群には差がない 261例(平均年齢21.4歳、女性53%)を登録し、バレニクリン群に88例、プラセボ群に87例、強化通常ケア群に86例を割り付けた。254例(97.3%)が24週間の試験を完了した。TIQへの登録の割合は、バレニクリン群が41%(36/88例)、プラセボ群が36%(31/87例)、強化通常ケア群が74%(64/86例)だった。 バレニクリン群とプラセボ群の比較では、9週目から12週目までの4週間における生化学的な継続的ベイピング中止の割合は、プラセボ群が14%であったのに対し、バレニクリン群は51%と有意に優れた(補正後オッズ比[aOR]:6.5[95%信頼区間[CI]:3.0~14.1]、p<0.001)。また、9週目から24週目までの16週間における継続的なベイピング中止の割合は、プラセボ群の7%に比べバレニクリン群は28%であり、有意に良好だった(6.0[2.1~16.9]、p<0.001)。 バレニクリン群と強化通常ケア群の比較では、生化学的な継続的ベイピング中止の割合は、9週目から12週目までの4週間(51%vs.6%、aOR:16.9[95%CI:6.2~46.3])および9週目から24週目までの16週間(28%vs.4%、11.0[3.1~38.2])のいずれにおいてもバレニクリン群で高かった。 プラセボ群と強化通常ケア群の比較では、4週間(プラセボ群14%vs.強化通常ケア群 6%、aOR:2.6[95%CI:0.9~7.9])および16週間(7%vs.4%、2.0[0.5~8.5])のいずれについても、継続的ベイピング中止の割合に有意な差を認めなかった。吐き気/嘔吐、風邪症状、鮮明な夢が高頻度に 全般に、試験薬の忍容性は良好であった。試験期間中の治療関連有害事象は、バレニクリン群で76例(86%)、プラセボ群で68例(79%)、強化通常ケア群で68例(79%)に発現した。バレニクリン群の有害事象発生率は先行研究と同程度であり、同群で頻度の高い有害事象として吐き気/嘔吐症状(バレニクリン群58%vs.プラセボ群27%)、風邪症状(47%vs.34%)、鮮明な夢(39%vs.16%)、不眠(31%vs.19%)が挙げられた。 有害事象による試験薬の投与中止はバレニクリン群で2例(2%)、プラセボ群で1例(1%)に、有害事象による減量はそれぞれ4例(5%)および1例(1%)にみられた。試験薬関連の重篤な有害事象は認めなかった。また、24週の時点でニコチンベイピングから離脱した参加者で、過去1ヵ月間に喫煙(タバコ)したと報告した者はいなかった。 著者は、「ニコチンベイピングに依存する青年の多くはタバコを常用したことがなく、ベイピングを止めたいと望んでいることから、今回のこの集団におけるベイピング中止に有効で、忍容性が高い薬物療法の知見は重要と考えられる」「精神神経系の有害事象である不安(バレニクリン群25%vs.プラセボ群33%)や気分障害(25%vs.31%)はプラセボ群で多く、おそらくニコチン離脱症状の一部であるこれらの症状をバレニクリンが軽減した可能性が示唆される」としている。

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米国がん協会のガイドライン遵守はがんサバイバーの寿命を延ばす

 喫煙習慣のない肥満関連のがんサバイバーは、米国がん協会(ACS)が推奨する食事と身体活動に関するガイドラインを遵守することで死亡リスクが低下する可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。ACS疫学研究の主任科学者であるYing Wang氏らによるこの研究結果は、「Journal of the National Cancer Institute」に4月3日掲載された。 Wang氏は、「がんの診断がきっかけで、どうすれば生活習慣をより健康的にできるかを考える人は多い。多くのがんサバイバーは、長生きする可能性を高めるためにできる生活習慣の是正について知りたがっている」とACSのニュースリリースで述べている。 ACSは2022年にがんサバイバー向けの栄養と身体活動に関するガイドラインを改訂した。改訂ガイドラインでは、健康的な体重の維持、定期的な身体活動、健康的な食生活、飲酒の制限が強調されている。具体的な推奨事項は以下の通り。・毎週、中強度の身体活動を150~300分、または高強度の身体活動を70~150分、あるいはこれらを組み合わせて行うこと。・座って過ごす時間を減らすこと。・野菜、果物、全粒穀物を豊富に摂取すること。・赤肉や加工肉、甘い飲み物、高度に加工された食品、精製された穀物の摂取を制限するか、摂取しないこと。・飲酒量を制限、または禁酒すること。・健康的な体重を維持すること。 Wang氏らは今回、1992年に始まったがんリスクに関する長期研究(Cancer Prevention Study-II Nutrition Cohort)に参加した喫煙習慣のないがんサバイバー3,742人(平均年齢67.6歳)の生活習慣を分析し、ガイドラインの推奨事項の有効性を検討した。これらのがんサバイバーは、1992年から2002年の間に、胃がん、大腸がん、肝臓がん、胆嚢がん、膵臓がん、乳がん、子宮がん、腎臓がん、甲状腺がん、神経系のがん、血液がんなどの肥満関連のがんの診断を受けていた。追跡は2020年まで行われた(追跡期間中央値15.6年)。がん診断後のBMI、身体活動、食生活、飲酒の4つの領域に関するガイドライン遵守度は、それぞれに0〜2点の合計0〜8点で評価された。 追跡期間中に2,430人が死亡していた。解析の結果、ガイドラインの遵守度のスコアが6〜8点だった人は、0〜3点だった人に比べて全死亡リスクが24%(ハザード比0.76、95%信頼区間0.68〜0.85)、心血管疾患による死亡リスクが33%(同0.67、0.54〜0.83)、がん特異的死亡リスクが21%(同0.79、0.64〜0.97)低いことが明らかになった。 領域別に見ると、BMIの遵守度が最も高い人(2点)では最も低い人(0点)に比べて、全死亡リスクが10%、心血管疾患による死亡リスクが27%低かったが、がん特異的死亡リスクについては統計学的に有意な差は認められなかった。同様に、身体活動の遵守度が最も高い人(2点)では最も低い人(0点)に比べて、全死亡リスクが22%、心血管疾患による死亡リスクが26%低かった。 Wang氏は、「これらの結果は、生活習慣を適切にすることが、がんサバイバーの生存に影響することを明示している」と述べている。

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脳卒中、認知症、老年期うつ病は17個のリスク因子を共有

 脳卒中、認知症、老年期うつ病は17個のリスク因子を共有しており、これらの因子のうちの一つでも改善すれば、3種類の疾患全てのリスクが低下する可能性のあることが、新たな研究で示唆された。米マサチューセッツ総合病院(MGH)脳ケアラボのSanjula Singh氏らによるこの研究結果は、「Journal of Neurology, Neurosurgery and Psychiatry」に4月3日掲載された。 研究グループによると、脳卒中の少なくとも60%、認知症の40%、老年期うつ病の35%は修正可能なリスク因子に起因しており、これらの疾患が共通の病態生理学的背景を持つため、リスク因子にも多くの重複が見られるという。 Singh氏らは、論文データベースから、修正可能なリスク因子が脳卒中、認知症、老年期うつ病の発症に及ぼす影響について検討したメタアナリシスを182件抽出。その中から最も関連性の高い59件のメタアナリシスのデータを用いて、これら3疾患の複合アウトカムに対するさまざまなリスク因子の影響の大きさを、障害調整生存年数(DALY)で重み付けして算出した。 その結果、脳卒中、認知症、老年期うつ病のうち2つ以上に共通する修正可能なリスク因子として、飲酒、血圧、BMI、空腹時血糖、総コレステロール、余暇の認知的活動(パズルなど)、抑うつ症状、食事、難聴、腎機能、痛み、身体活動、人生における目的、睡眠、喫煙、社会との関わり、ストレスの17個が特定された。 これらのリスク因子の中で、特に、高血圧と重度の腎臓病は、脳卒中、認知症、老年期うつ病の発症と疾病負担に最も大きな影響を与えていることが示された。一方で、身体活動や余暇の認知的活動は、これらの疾患のリスク低下と関連していた。ただし、研究グループは、「脳の疾患が進行するほど、運動や知的活動はできなくなる傾向があるため、この関連は、原因というより症状の現れなのかもしれない」との見方を示している。 論文の筆頭著者であるMGH脳ケアラボのJasper Senff氏は、「認知症、脳卒中、老年期うつ病は互いに関連し合っているため、いずれかを発症すると、将来的に別の疾患を発症するリスクが大幅に高まる」と話す。同氏はさらに、「これらの疾患は、互いにリスク因子を共有しているため、予防のための努力により複数の疾患の発症リスクを低下させることができ、それが結果的に加齢に伴う脳疾患の負担軽減につながる可能性がある」と述べている。 研究グループはこれらの結果を使って、脳の健康を守るための取り組みを測定するために開発した「脳ケアスコア」の精度を高める予定だとしている。論文の共著者の1人である、MGH神経学科長のJonathan Rosand氏は、「医療は複雑化する一方だが、今回の研究結果は、疾患の予防が非常に簡単であることを思い起こさせてくれる。なぜなら、最も一般的な疾患の多くが同じリスク因子を共有しているからだ」とMGHのニュースリリースで述べている。

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にんにくは糖尿病のリスクを減らす【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第281回

にんにくは糖尿病のリスクを減らすにんにく摂取と糖尿病発症リスクとの関連を検討した10年間の前向きコホート研究が発表されました!2008年時点で糖尿病を有していない高齢者を登録し、その後10年間にわたって追跡し、にんにく摂取頻度と糖尿病新規発症の関連を解析…構造になっており、曝露(にんにく摂取)を基準に将来のアウトカム(糖尿病発症)を観察した前向きデザインですが、そんな研究を立案しちゃうんだ…。すごい。Du J, et al. Garlic consumption and risk of diabetes mellitus in the Chinese elderly: A population-based cohort study. Asia Pac J Clin Nutr. 2025 Apr;34(2):165-173.動物実験や細胞レベルの研究において、にんにくが血糖降下作用を示すことが確認されていますが、ヒトを対象とした疫学的研究、とくに高齢者に焦点を当てた前向き研究は少なく、その因果関係の証明は不十分です。この研究では、中国高齢者健康長寿調査(CLHLS)を用いて、にんにくの摂取頻度と糖尿病発症との関連性を検証しています。研究対象は2008~18年にかけて追跡された1,927人の中国人高齢者です。ベースライン時に糖尿病の既往がない人を対象に、にんにく摂取頻度(毎日、時々、ほとんどまたは全く摂取しない)と自己申告による糖尿病診断の有無を記録し、多変量Cox比例ハザードモデルにより解析を行いました。対象者のうち、24.1%が毎日、55.1%が時々にんにくを摂取しており、糖尿病の発症率は全体で20.08%でした。4~5人に1人が毎日にんにくを摂取しているんですね、たしかに僕もそのくらいの頻度でにんにくを食べている気もします。にんにく大好きマンです。さて、毎日摂取していた群は、にんにくをほとんど摂らない群に比べて糖尿病のリスクが42%低下していました(ハザード比:0.58、95%信頼区間[CI]:0.42~0.80)。この関連は、年齢、性別、居住地、教育、BMI、食事の多様性、喫煙・飲酒習慣、運動、婚姻状況、収入源、職業、慢性疾患の既往などの共変量で調整した後も、有意に認められました。サブグループ解析において、65~79歳、農村在住者、非飲酒者、教育水準が高くない人、経済的援助が必要な人、農業従事者では、にんにく摂取による糖尿病リスクの有意な低下が示されました。一方で、80歳以上、都市部在住者、飲酒者、教育水準が高い人、経済的自立者ではその影響は有意ではありませんでした。にんにくの糖尿病に対する効果は、インスリン分泌の促進、インスリン感受性の改善、DPP-4阻害による血糖調節、脂質代謝の改善、抗酸化・抗炎症作用などが報告されています。とくに、アリシンなどの含硫化合物はインスリンの不活化を防ぎ、炎症を抑制することでインスリン抵抗性の改善に寄与すると考えられています。また、酸化ストレスの抑制、非酵素的糖化反応の抑制といった作用もあり、糖尿病の合併症予防にもつながる可能性があります。この研究、調理方法や妥当なにんにくの量がわからないという点がリミテーションです。ただ、過去のメタアナリシスでは、にんにく摂取量1.5g/日というのがおおよその目安となっています1)。よし、明日から毎日にんにくを食べよう!1)Shabani E, et al. The effect of garlic on lipid profile and glucose parameters in diabetic patients:A systematic review and meta-analysis. Prim Care Diabetes. 2019;13(1):28-42.

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帯状疱疹生ワクチン、認知症を予防か/JAMA

 米国・スタンフォード大学のMichael Pomirchy氏らは、オーストラリアにおける準実験的研究の結果、帯状疱疹(HZ)ワクチンの接種が認知症のリスクを低下させる可能性があることを示した。オーストラリアでは、全国的なワクチン接種プログラムにおいて2016年11月1日から70~79歳を対象に弱毒HZ生ワクチンの無料接種を開始。同時点で1936年11月2日以降に生まれた人(2016年11月1日時点で80歳未満)が対象で、それ以前に生まれた人(80歳になっていた人)は対象外であったことから、著者らは、年齢がわずかに異なるだけで健康状態や行動は類似していると想定される集団を比較する準実験的研究の利点を活用し、HZワクチン接種の適格基準日である1936年11月2日の前後に生まれた人について解析した。結果を踏まえて著者は、「先行研究であるウェールズでの知見を裏付ける結果であり、認知症に対するHZワクチン接種の潜在的利益には因果関係がある可能性が高いエビデンスを提供するものである」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年4月23日号掲載の報告。誕生日で分かれたワクチン接種適格者と不適格者の、認知症新規診断率を比較 研究グループは、オーストラリアにおけるプライマリケアの電子カルテ情報を提供している医療情報会社「PenCS」のデータを用い、2016年11月1日時点で50歳以上で、1993年2月15日~2024年3月27日にプライマリケア65施設を受診した患者10万1,219例を対象に、認知症の新規診断とHZワクチン接種との関連について解析した。この65施設は、PenCSソフトウェアを使用しており、電子カルテのデータを研究に使用することに同意した施設である。 主要アウトカムは、追跡期間中(2016年11月1日~2024年3月27日)に新たに診断された認知症であった。回帰不連続(RD)デザインを用い、HZワクチン接種の生年月日適格基準である1936年11月2日以降に生まれた接種適格者と、それ以前に生まれた接種不適格者を比較した。RDデザインでは、閾値周辺の帯域に分析を制限することに加えて、閾値(1936年11月2日)に最も近い日に生まれた人に最も高い重みが割り当てられる。追跡期間7.4年間において、接種適格者で認知症診断確率が1.8%ポイント低い 10万1,219例のうち52.7%が女性で、2016年11月1日時点の平均年齢は62.6歳(SD 9.3)であった。このうち、主要解析の解析対象集団(平均二乗誤差の最適帯域である1936年11月2日の前後482週間に生まれた人)は1万8,402例で、54.3%が女性で、平均年齢は77歳(SD 4.7)であった。これら集団の接種適格者と不適格者で、ベースラインにおける過去の予防的医療の利用状況や慢性疾患既往歴に差はなかった。 追跡期間においてHZワクチン接種を受ける確率は、適格基準日後1週間に生まれた接種適格者では、基準日前の1週間に生まれた接種不適格者と比べて16.4%ポイント(95%信頼区間[CI]:13.2~19.5、p<0.001)高いと推定された。両集団は、HZワクチン接種確率を除けば、肥満、脂質異常症、高血圧、糖尿病、喫煙、降圧薬またはスタチンの使用や、HZワクチン以外のワクチン接種などの他の予防医療サービス利用の確率は類似していた。 追跡期間7.4年間に新たに認知症と診断される確率は、接種適格者では不適格者より1.8%ポイント(95%CI:0.4~3.3、p=0.01)低かった。接種適格性について、他の予防医療サービスを受ける確率や、認知症以外の慢性疾患の診断を受ける確率への影響はみられなかった。

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第240回 百日咳感染者、過去最多を更新 10代と乳幼児中心に拡大/厚労省

<先週の動き> 1.百日咳感染者、過去最多を更新 10代と乳幼児中心に拡大/厚労省 2.2週間以上咳なら早期受診を、マンガ喫茶で結核集団感染の注意喚起/千葉県 3.肺がん検診指針19年ぶり改訂、重喫煙者には低線量CTを推奨/国立がん研究センター 4.無床診療所の高利益にメス、2026年度報酬改定に向けて提言/財政審 5.病床削減支援、民間優先へ方針転換 自治体病院は対象外に/厚労省 6.大学病院への財政支援強化へ、医師養成・研究支援策を整理/文科省 1.百日咳感染者、過去最多を更新 10代と乳幼児中心に拡大/厚労省百日咳の流行が全国で急拡大している。国立健康危機管理研究機構(JIHS)と厚生労働省によると、4月7~13日の1週間で全国の感染者数は1,222人に達し、現在の統計(2018年~)開始以降で最多を記録している。10代が694人、0~9歳が350人と、若年層中心に広がっている。今シーズンの累積患者数は7,084人となり、すでに昨年(4,054人)を大幅に上回った。百日咳は、激しいけいれん性の咳が特徴。とくに生後6ヵ月未満の乳児では無呼吸や肺炎、脳症を併発し、致死率は0.6%と高い。3月以降感染者数は急増し続け、全国で耐性菌(MRBP株)の報告も増加。中国、韓国などで流行中の株と類似しており、コロナ後の国際往来再開が一因とみられる。地域別では新潟県(99人)、東京都(89人)、兵庫県(86人)などで多発。新潟や大阪、福岡でも過去最多水準を更新している。新潟県ではすでに年間最多だった2019年(499人)を超え、今年550人を報告。大阪府では1週間で110人、福岡県でも102人と、感染拡大が止まらない。対策としては、生後2ヵ月からの定期ワクチン接種の徹底に加え、11~12歳での追加接種が推奨される。日本小児科学会は、乳児への感染を防ぐため、兄姉や家族、とくに妊婦のワクチン接種も勧めている。妊婦が接種すれば胎児に抗体が移行し、生後数ヵ月間は防御効果が期待できる。感染対策はワクチンに加え、手洗いやマスク着用、咳エチケットの徹底が基本となる。長引く咳症状があれば、早期受診を促し、適切な診断と対応が求められる。耐性株による感染拡大にも注意が必要であり、今後も動向を注視した上で地域の流行状況に応じた柔軟な対応が望まれる。 参考 1)百日せき 感染状況MAP(NHK) 2)百日せき患者数 4月13日までの1週間1,222人 3週連続で過去最多(同) 3)「百日ぜき」急増 乳児死亡例も 妊婦や家族はワクチン接種も選択肢(毎日新聞) 4)「百日せき」の感染者数、3週連続で過去最多 直近は1,222人 中国からの流入か(産経新聞) 2.2週間以上咳なら早期受診を、マンガ喫茶で結核集団感染の注意喚起/千葉県千葉県は4月25日、習志野保健所管内の漫画喫茶において、利用者と従業員計6人が結核に感染し、うち4人が発病した集団感染事例を確認、厚生労働省に報告した。発端は昨年7月、長期利用していた40代男性が肺結核と診断されたことに始まる。その後、接触者15人を対象に健康診断を実施したところ、今年1月以降に感染者5人、発病者3人が確認された。さらに調査を拡大し、新たに感染者1人、発病者1人がみつかり、合計6人の感染、4人の発病に至った。発病者のうち1人は救急搬送され、現在も入院中であるが、全員適切な治療を受け、快方に向かっている。結核は、同一感染源により2家族以上、または20人以上に感染が広がった場合、発病者1人を感染者6人分と換算して集団感染と認定される。今回の事例はこの基準に該当した。千葉県内では令和6年に493人が新規に結核登録されており、集団感染は昨年に続き2年連続となる。県では、結核の初期症状が風邪に似ているため、2週間以上咳が続く場合には速やかな医療機関受診を呼びかけている。 参考 1)漫画喫茶で結核の集団感染、長期利用の40代男性ら5人確認…千葉・習志野保健所管内(読売新聞) 2)千葉で結核集団感染 昨年に漫画喫茶で広がり6人感染 2週間以上続く咳は医療機関へ(産経新聞) 3)漫画喫茶で結核集団感染 習志野保健所管内、利用者と従業員の計6人(千葉日報) 3.肺がん検診指針19年ぶり改訂、重喫煙者には低線量CTを推奨/国立がん研究センター国立がん研究センターは2025年4月25日、19年ぶりに改訂した「有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン 2025年度版」を公表した。改訂では、喫煙指数600以上(1日平均喫煙本数×喫煙年数)の50~74歳の重喫煙者を対象に、年1回の低線量CT検査を推奨、従来の胸部X線検査と喀痰細胞診の併用は、任意型検診も含め非推奨とされた。改訂の背景には、欧米でのランダム化比較試験(RCT)やメタ解析により、低線量CT検査が肺がんによる死亡リスクを約16%低下させる効果が確認されたことがある。一方、被曝によるがんリスク増加は否定され、標準体型の被験者に対しては線量2.5mGy以下と定義された。胸部X線検査は引き続き、40~79歳の非喫煙者、および40~49歳・75~79歳の重喫煙者に推奨される。なお、喀痰細胞診については、標的である肺門部扁平上皮がんの罹患率が国内で低下していることや、死亡率減少への寄与が証明できなかったため、検診としての併用は推奨されない。ただし診療行為としての喀痰細胞診は否定されていない。加熱式たばこについても、カートリッジ1本を紙巻きたばこ1本と換算して喫煙指数に加算される。禁煙して15年以内の者も対象とする。なお、非重喫煙者に対する低線量CT検診は、死亡率低減効果が不明確なため対策型検診では推奨されず、個人の判断による任意型検診に委ねることとされた。国立がん研究センターは、今後、低線量CT検診の導入にはマニュアル整備、検診体制(読影医や機器確保)、過剰診断・過剰治療への対応策が必要と指摘している。厚生労働省はこのガイドラインを踏まえ、市町村が行う住民検診への反映を検討する予定。肺がんは国内で年間約12万人が診断され、約7万5千人が死亡しており、がんによる死因の中では最多。 参考 1)有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン(2025年度版)(国立がん研究センター) 2)「重喫煙者」は年1回低線量CT検査を…国立がん研究センター、肺がん検診の指針改訂(読売新聞) 3)喫煙者は低線量CT推奨 肺がん検診指針を改定 死亡率減、06年度版以来(共同通信) 4)国がん「肺がん検診ガイドライン 2025年度版」を公開、50~74歳の重喫煙者に低線量CT検査を推奨(日経メディカル) 4.無床診療所の高利益にメス、2026年度報酬改定に向けて提言/財政審財政制度等審議会は4月23日、2026年度の診療報酬改定に向けた議論を行い、医師の都市部集中を是正するための報酬体系見直しを提言した。診療所が過剰な地域では、診療報酬を減額する一方、医療機関が不足する地域では加算措置を講じる「メリハリある改定」を求めた。とくに、無床診療所の利益率が8.6%と高水準にある点を指摘し、病院との経営状況の違いを踏まえた適正化を強調した。また、慢性疾患患者を継続的に診療する「かかりつけ医」機能を持つ医療機関への報酬体系も見直し、より質の高い医療提供を評価する仕組みを構築するよう求めた。現在一律に算定できる機能強化加算についても、廃止を含めた見直しを検討すべきと提言している。さらに、外来診療医師が過剰な地域で新規開業を希望する医師に対し、都道府県が要件を課す仕組みの強化や、要請に従わない場合の診療報酬減額措置も視野に入れる。医薬分業についても、医療機関内で薬を受け取る方が薬局より高くなる現行制度の見直しや、薬剤師による減薬提案など対人業務の評価拡充を求めた。人材紹介会社については、医療機関が高額手数料を負担している実態に懸念を示し、紹介会社の選別・規制強化も提言。持続可能な社会保障制度構築のため、限られた財源下で医療・介護費用の効率化と適正化を強く求めた。 参考 1) 財政制度等審議会財政制度分科会(財務省) 2) 財政制度等審議会 来年度の診療報酬改定に向けて議論(NHK) 3) 医師偏在「診療報酬改定で対応を」 財制審、都市部は報酬減も(日経新聞) 4) 診療所に照準、財務省「無床の利益率8.6%」めりはりある診療報酬改定求める(CB news) 5) 不適正な人材紹介会社の「排除を徹底」財務省提言 同一建物減算の強化も(同) 5.病床削減支援、民間優先へ方針転換 自治体病院は対象外に/厚労省厚生労働省は、病床削減を行う医療機関に対する医療施設等経営強化緊急支援事業(病床数適正化支援事業)において、申請数が想定(約7,000床)の7.7倍に当たる5万4,000床に達したことを受け、支援対象の条件を急遽厳格化する内示を通知した。1床当たり410万4,000円が支給されるこの制度は、地域医療の効率化を目指して病床削減を促すもので、当初は広範な適用を予定していたが、財源不足を背景に民間医療機関を優先する方針に転換し、公立病院など一般会計から繰り入れを受ける医療機関は対象外とされた。厚労省は第1次内示として7,170床分(約294億円)の配分を決定。1医療機関当たり50床を上限とし、経常赤字が続く民間医療機関を支援対象とした。公立病院などの自治体病院は大半が対象外となり、北海道では143医療機関・4,862床の申請のうち、採択は352床に止まった。留萌市立病院や室蘭総合病院など、補助金を前提に病床削減を計画していた自治体病院では、財源確保に向けた再検討が迫られている。自治体側からは「はしごを外された」「地域医療軽視だ」との反発が相次ぎ、支援対象からの排除が地域医療体制に深刻な影響を及ぼす懸念が広がっている。厚労省は6月中旬を目処に第2次内示を予定しているが、補助対象の拡大は不透明な状況だ。医療経済に詳しい識者からは「制度設計の甘さ」と「自治体病院の補助金依存体質」の両方に問題があると指摘され、地域医療のあり方を再考する契機とするべきとの声も上がっている。 参考 1) 令和7年度医療施設等経営強化緊急支援事業(病床数適正化支援事業)の内示について(厚労省) 2) 5万床超の返上申請に対して病床削減の支援対象は7,170床(日経メディカル) 3) 病床削減の申請5.4万床、想定の7.7倍に 福岡厚生労働相(日経新聞) 4) 病床減への補助 支給条件を厳格化 全国から応募殺到で厚労省 自治体病院、実質対象外に(北海道新聞) 5) 「はしごを外された」 国の唐突な補助金方針転換 憤る北海道の自治体病院(同) 6.大学病院への財政支援強化へ、医師養成・研究支援策を整理/文科省文部科学省は、4月23日に「今後の医学教育の在り方に関する検討会」を開き、大学病院の位置付けを明確化し、財政的支援を検討する整理案を示した。物価高騰による経営悪化や建設費増大に対応するため、大学病院の診療・教育・研究機能の重要性を改めて位置付け、これに応じた財政措置を求めた。また、特定機能病院の承認要件見直しに関し、地域医療を支える医師の養成・派遣体制の整備が重要と提言した。さらに、総合的な診療能力を持つ医師養成を推進するため、モデル・コア・カリキュラムの改訂により「総合的に患者・生活者をみる姿勢」を新たに資質・能力項目に追加した。一方、日本医学会連合は、大学病院教員の研究時間減少に危機感を示し、研究支援制度の拡充を求める要望書を文科省に提出した。医師の働き方改革により診療や教育の負担が増え、研究時間がさらに削減されていると指摘。バイアウト制度活用による研究時間確保や、研究補助員の充実などの支援策強化を求めた。加えて、医学生や若手医師が研究に取り組みやすくするため、早期大学院進学促進と給与保障、海外留学制度の柔軟化・拡充も提案された。これらの議論を受け、文科省は、大学病院を中心とした医師養成・地域医療強化、医学研究基盤の再構築に向けた支援策の具体化を進める方針。持続可能な医療提供体制と国際競争力ある医学研究体制の構築が急務となっている。 参考 1)第13回 今後の医学教育の在り方に関する検討会 配布資料(文科省) 2)大学病院、「位置付け明確化し財政支援」文科省が整理案(MEDIFAX) 3)大学病院での研究時間大幅減少 支援制度の整備を要望「働き方改革で拍車」医学会連合が指摘(CB news) 4)わが国の医学研究力の向上へ向けての要望書(日本医学会連合)

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タバコ規制により米国で400万人近い人が死亡を回避

 喫煙者を減らすための公衆衛生キャンペーンやタバコ税の導入などのさまざまな対策によって、米国では過去50年間で約400万人の肺がんによる死亡が防がれたことが明らかになった。回避された肺がんによる死亡者数は、同期間に回避された全てのがん死の約半数を占めるという。 この研究は、米国がん協会(ACS)のFarhad Islami氏らによるもので、詳細は「CA: A Cancer Journal for Clinicians」に3月25日掲載された。論文の筆頭著者である同氏は、「肺がんによる死亡を回避し得た人の推定数は膨大な数に上っている。これは、喫煙防止のための公衆衛生対策の推進が、肺がんによる早期死亡の低減に大きな効果を発揮してきたことを物語っている」としている。ただし一方で同氏は、「それにもかかわらず、肺がんは依然として米国におけるがん死の主要な原因であり、さらに、喫煙に起因する肺がん以外のがん、および、がん以外の喫煙関連疾患の罹患率や死亡率は依然として高いままだ」と、さらなる改善の必要性を強調している。 この研究では、1970~2022年の米国健康統計センター(NCHS)による全米での死亡データを利用して、年齢、性別、人種、調査年ごとに肺がんによる死亡数の予測値を算出した上で、その値から実際に発生していた肺がんによる死亡者数を差し引くという計算が行われた。その結果、この約50年間で385万6,240人(男性224万6,610人、女性160万9,630人)の肺がんによる死亡が回避されていたことが分かった。この数は、この間に回避された全てのがん死(750万4,040人)の51.4%を占めていた。 Islami氏は、「タバコ規制による喫煙の減少は何百万人もの命を救ってきたし、今後も何百万人もの人の命を救うことだろう。しかし、喫煙者をさらに減らし、喫煙関連疾患の死亡リスク抑制をより確実なものとするために、地域、州、国家レベルでのより強力な取り組みが必要とされている」と話している。また同氏は、喫煙リスクの高い集団に対して、そのような取り組みをより積極的に行うことの重要性も指摘。その理由の一つとして、例えば「教育歴が高校卒業以下の集団の喫煙率と肺がんによる死亡リスクは、大学を卒業した集団に比べて5倍高い」という事実を挙げている。 ACSに対して政策提言などのサポートを行っているACSがん対策推進ネットワークのLisa Lacasse氏は、「本研究の結果は、予防可能な死亡が依然として発生しているという事実を浮き彫りにしている」と論説。「喫煙者を減らし、最終的には米国民全員のタバコによる発がんという疾病負担を減らすためのアプローチの一環として、エビデンスに基づく喫煙防止策や禁煙プログラムの継続と、そのための資金の確保が、これまで以上に求められる」と同氏は述べ、タバコ税の引き上げを含めた包括的な禁煙政策の必要性を指摘している。

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間質性肺炎合併肺がん、薬物療法のポイント~ステートメント改訂/日本呼吸器学会

 2017年10月に初版が発行された『間質性肺炎合併肺癌に関するステートメント』について、2025年4月に改訂第2版が発行された。肺がんの薬物療法は、数多くの分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬(ICI)、抗体薬物複合体(ADC)が登場するなど、目覚ましい進歩を遂げている。そのなかで、間質性肺炎(IP)を合併する肺がんの治療では、IPの急性増悪が問題となる。そこで、近年はIP合併肺がんに関する研究も実施され、エビデンスが蓄積されつつある。これらのエビデンスを含めて、本ステートメントの薬物療法のポイントについて、池田 慧氏(神奈川県立循環器呼吸器病センター)が第65回日本呼吸器学会学術講演会で解説した。NSCLCへの細胞傷害性抗がん薬 細胞傷害性抗がん薬によるIP合併非小細胞肺がん(NSCLC)の1次治療の中心は、カルボプラチンに(nab-)パクリタキセルまたはS-1を併用するレジメンである。これは、本邦で実施された複数の前向き研究や後ろ向き研究の多数例の報告に基づき、比較的安全に投与可能と判断されることによるものである。一方で2次治療以降の検討は少なく、標準治療は確立していない。これについて、池田氏は「後ろ向きの報告から、S-1が比較的安全に投与可能と判断され、用いられているのではないか」と述べた。 IP合併肺がん患者への細胞傷害性抗がん薬の使用について、『特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版)』では投与を提案しているが(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:C[低])、「一部の患者には合理的な選択肢でない可能性がある」ことも記載されている。そのため、池田氏は急性増悪のリスク評価が重要であると述べる。リスク評価については、後ろ向き研究においてHRCTでの線維化範囲の広さ、UIP(通常型間質性肺炎)パターン、%FVC(努力肺活量の予測値に対する実測値の割合)低値、%DLco≦50%などが急性増悪のリスク因子として挙げられている。また、ILD-NSCLC-GAPスコア/modified GAPスコア、Glasgow Prognostic Scaleが急性増悪のリスク評価に有用である可能性も報告されている。ただし、確立されたリスク評価方法は存在せず、本ステートメントでは「治療前に急性増悪発症リスクを評価する方法は複数提案されているが確立していない」としている。SCLCへの細胞傷害性抗がん薬 IP合併小細胞肺がん(SCLC)について、本ステートメントの作成にあたり検索に含まれた介入研究は、国内の17例を対象としたカルボプラチン+エトポシドのパイロット試験のみである。本試験では、急性増悪の発現割合は5.9%と比較的低かったことが報告されている。また「びまん性肺疾患に関する調査研究」班(びまん班)の調査では、急性増悪の発現割合がカルボプラチン+エトポシドで3.7%、シスプラチン+エトポシドで11.0%であったことも報告されている。以上から、本ステートメントでは「プラチナ製剤とエトポシド併用療法がIP合併症例においても標準的治療とするコンセンサスが得られている」としている。分子標的薬 EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)のゲフィチニブ、エルロチニブ、オシメルチニブは、既存肺のIPが肺臓炎発現のリスク因子となることが報告されている。これらのことから、『特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版)』では、IP合併肺がんに対して分子標的薬を投与しないことを推奨または提案するとされている。ただし、池田氏は「実際のところ、EGFR-TKI以外の分子標的薬については、既存肺のIPと肺臓炎リスクの関連は十分に検討されていない」と指摘する。近年では、KRAS、BRAF、METなどを標的とする分子標的薬が登場しており、これらの分子の遺伝子異常を有する患者には喫煙者が多いことから、肺気腫や間質性肺炎の合併が多い可能性も考えられる。そこで、びまん班が「間質性肺炎合併非小細胞肺癌におけるドライバー遺伝子変異/転座検索の実態と分子標的治療薬の安全性・有効性に関する多施設共同後方視的研究」を実施しており、すでに1,250例を超える症例が集積されているとのことである。池田氏は「かなり興味深い結果になっていることが期待され、近いうちに学会でデータを示し、IP合併肺がん患者でもドライバー遺伝子変異を調べることの意義を共有したい」と述べた。抗線維化薬 特発性肺線維症(IPF)合併NSCLC患者を対象に、カルボプラチン+nab-パクリタキセルへのニンテダニブの上乗せ効果を検討した国内第III相無作為化比較試験「J SONIC試験」では、主要評価項目であるIPF無増悪生存期間(PFS)の優越性は示せなかったものの、非扁平上皮がんに限定するとPFSとOSの延長傾向がみられた。また、IPF合併SCLC患者を対象とした国内第II相試験「NEXT SHIP試験」では、カルボプラチン+エトポシドにニンテダニブを上乗せすることで、間質性肺炎の急性増悪の発現割合を3.0%に抑制したことが報告されている。以上から、ニンテダニブはIP合併の非扁平上皮NSCLC、SCLCにおいて抗線維化作用と抗腫瘍作用の双方を期待でき、1次治療の選択肢の1つになる可能性がある。ADC、モノクローナル抗体 HER2を標的とするADCのトラスツズマブ デルクステカンは肺臓炎の発現が多く、胃がんの市販後調査では既存肺のIPが肺臓炎リスク因子となることが報告されている。そのため、本ステートメントではIP合併肺がんでの使用に際して注意が必要であることが記載されている。ICI ICIは、予後不良なIP合併進行肺がん患者に長期生存をもたらしうる現状で唯一の治療選択肢である。しかし、複数の観察研究において、既存肺に間質性肺疾患を有する場合は免疫関連有害事象(irAE)としての肺臓炎の発現割合が高いことが報告されている。そのため、IP合併肺がん患者へICIを投与する場合は肺臓炎リスクの低い患者の絞り込みが重要となる。 そこで、本邦では複数の介入研究が実施されている。HAVクライテリア(蜂巣肺なし、自己抗体なし、%VC[肺活量の予測値に対する実測値の割合]≧80%)を満たす軽症のIPを合併した肺がん患者に対してICIを投与することで、肺臓炎の発現が抑制されることが示唆されている。一方、HAVクライテリアより緩い基準(蜂巣肺を許容、%FVC≧70%など)で実施した試験では、Grade3以上の肺臓炎が23.5%に認められている。これらの結果を受け、本ステートメントでは「既存肺に蜂巣肺を有すると判断された症例に関しては、とくに肺臓炎のリスクが高いものとして慎重な姿勢で臨むべきである」ことが記載されている。また、これらの結果について、池田氏は「軽症のIPであれば比較的安全な可能性があるが、蜂巣肺を有している場合は、現状の介入研究のデータをみると肺臓炎リスクが高い可能性が示唆されている。ただし、有効性に関する良好なデータも示されており、細胞傷害性抗がん薬では長期生存が見込めない予後不良な集団であることも考慮すると、現状ではICIはIP合併肺がんに対して長期生存をもたらしうる唯一の選択肢であるため、リスクベネフィットを患者に共有し、一緒に考えながら治療を選択していく必要がある」と述べた。

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花粉症時のアイウォッシュ、その使用傾向が調査で明らかに

 アイウォッシュ(洗眼)は花粉症シーズンの目のトラブル対策として有効な手段だが、洗眼剤の使用傾向は年齢、既往歴、生活習慣などの違いによって異なる、とする研究結果が報告された。若年層、精神疾患の既往、コンタクトレンズ(CL)利用者などが洗眼剤使用に関連する因子であったという。研究は順天堂大学医学部眼科学講座の猪俣武範氏らによるもので、詳細は「Scientific Reports」に3月10日掲載された。 洗眼剤の使用はアレルギー性結膜炎の初期症状の軽減に効果的であるとされるが、現在、花粉症患者における洗眼剤使用の疫学的特徴に関しては知識のギャップが存在している。このギャップを埋めることは、花粉症管理において包括的でエビデンスに基づいた洗眼剤のガイドラインを作成するために不可欠である。そのような背景から、研究グループは花粉症患者における洗眼剤使用者と非使用者を総合的にプロファイリングし、花粉症とセルフケアの習慣に関連するパターンと特徴を特定することを目的とした大規模疫学研究を実施した。 花粉症患者の人口統計、既往歴、ライフスタイル、花粉症の症状などの疫学情報は、順天堂大学が花粉症研究のために開発したスマートフォンアプリケーション「アレルサーチ」より収集された。収集された1万7,597人のうち、研究に同意し、花粉症を有していた9,041人が最終的な解析対象に含まれた。 解析対象9,041人のうち、3,683人(40.7%)が洗眼剤を使用しており、年齢層は20歳未満(47.6%)の割合が最も多かった。洗眼剤使用群では非使用群に比べ、年齢が若く、体格指数(BMI)が高く、薬による高血圧の割合が低く、精神疾患の既往、ドライアイ(DE)診断、腎臓病の既往の割合が高いことが観察された。さらに、洗眼剤使用群ではCLの使用頻度が高く、花粉症シーズンでその使用を中止している割合は低かった。喫煙は洗眼剤使用群で非使用群より有意に高かった。また、ヨーグルトの摂取は、洗眼剤使用群で多かった。 次に単変量および多変量ロジスティック回帰分析を実施し、花粉症患者における洗眼剤使用の関連要因を検討した。その結果、年齢が若い、BMIが高い、精神疾患の既往歴あり、CL使用歴あり、現在のCL使用、1日当たりの睡眠時間が短い(6時間未満)、喫煙歴あり、ヨーグルトの頻繁な摂取、鼻症状スコアが低い、非鼻症状スコアが高い、DE症状がある(軽度~重度)などが、洗眼剤使用の独立した関連因子であることが明らかになった。 また、花粉症関連の眼症状を有する患者の洗眼剤非使用に関連する独立因子は、高齢であること、BMIの低さ、1日当たりの睡眠時間の短さ、DE症状がある(中等度~重度)であった。 本研究の結果について著者らは、「今回の解析結果から、高齢者や重度のDE患者が花粉症の眼症状に洗眼剤を使用していない可能性があることが浮き彫りにされた。これは、花粉症の予防と管理に対する市販の洗眼薬の有効性、副作用、安全性プロファイルについて、今後の花粉症対策や社会的な取り組みを考える上で重要な意味をもつかもしれない」と述べている。 本研究の限界点については、選択バイアスの影響を受け一般化が制限されている可能性があること、自記式調査を採用していることから、想起バイアスや過剰報告の可能性があること、横断研究であるため、洗眼とBMIやヨーグルト摂取などの要因との因果関係を評価できないことなどを挙げている。

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