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1.

原発性局所多汗症の関連因子は?/神戸大

 原発性局所多汗症は、温熱や精神的な負荷、またそれらによらずに大量の発汗が起こり、日常生活に支障を来す状態と定義されている。本邦における過去の調査では、患者の大部分が医療機関を受診していない可能性が示唆されており、関連のある因子を特定することは、未治療の患者を発見し適切な医療介入を行ううえで有用と考えられる。神戸大学の福本 毅氏らは、多施設共同の横断的質問紙調査(KOBE study)を行い、原発性局所多汗症の関連因子について検討した。Frontiers in Medicine誌2026年2月9日号の報告。 本研究では、2024年4月~7月に日本国内の24の皮膚科医療機関のいずれかを受診し、質問票に回答した5~64歳の患者を対象とした。関連因子を探索するため、単変量および多変量ロジスティック回帰分析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・計3,617例が解析に組み入れられた。原発性局所多汗症の有病率は15.0%(3,617例中544例)であった。・潜在的な関連因子の中でオッズ比(OR)が高かったのは、順に腋臭症(OR:5.440)、乾癬(OR:1.830)、湿性耳垢(OR:1.780)、HADS-A(Hospital Anxiety and Depression Scale - Anxiety subscale)スコアで不安障害が確定的(OR:1.780)、HADS-Aスコアで不安障害の疑い(OR:1.460)、喫煙(OR:1.450)であった。・ROC曲線解析の結果、原発性局所多汗症を疑うに当たりHADS-Aスコア6が最適なカットオフ値であることが示された。

2.

老いに対する不安が老化を加速させる可能性も

 「心配ばかりしているとしわが増える」と言われるが、その影響は、しわの増加だけにはとどまらないかもしれない。新たな研究で、年を取ることに対して不安を抱いている女性は老化が早く、老化への恐れが細胞レベルでの老化を加速させていることが示唆された。米ニューヨーク大学(NYU)グローバル公衆衛生学大学院のMariana Rodrigues氏らによるこの研究は、「Psychoneuroendocrinology」2月号に掲載された。Rodrigues氏らは、「老いへの恐れは、その人の実年齢の積み重ねよりも速いスピードで身体の老化を招くことが分かった」と結論付けている。 Rodrigues氏は、「われわれの研究は、主観的な体験が老化の客観的な指標に影響を及ぼしている可能性があることを示唆している。老化に対する不安は、単なる心理的問題ではなく、実際に健康への影響を伴いながら身体に痕跡を残すのかもしれない」とニュースリリースの中で指摘している。 今回の研究では、米国の中年層を対象としたMidlife in the United States(MIDUS)研究に参加した726人の女性のデータを用いて、老化に対する不安と生物学的老化との関連が評価された。老化に対する不安は、魅力度の低下、健康状態の低下、生殖機能の老化の3つの領域で測定された。また、生物学的年齢は、第2世代のエピジェネティック指標であるGrimAge2、DunedinPACEを用いて評価された。 その結果、健康が衰えることへの不安が強いほど、DunedinPACEが0.07標準偏差(SD)高く、これは統計学的に有意であった。しかし、飲酒や喫煙などの健康行動を調整すると、有意性は失われた。このことから、健康の衰えに対する不安が強い人の健康行動の変化が老化速度に影響している可能性が示唆された。また、加齢に対する不安の累積量が多いことも、DunedinPACEの0.07SD高いことと有意に関連していた。しかし、慢性疾患や健康行動を調整すると、関連は有意ではなくなった。一方で、女性としての魅力が失われることや妊孕性の低下に対する不安は、老化の加速には関連していなかった。研究グループは、「これは、健康に関する不安は長期にわたって持続しやすい一方で、美しさや妊孕性に関する不安は年齢とともに薄れていくためかもしれない」との見方を示している。 Rodrigues氏らはこの分析結果について、「精神的な健康状態と身体的な健康状態が生涯にわたって密接に結び付いていることを改めて示したものだ」と説明している。またRodrigues氏は、「中年期の女性は、年老いた親の介護など複数の役割を担っている可能性もある。家族が年齢を重ね、病気になるのを目の当たりにすることで、自分にも同じことが起こるのではないかと心配する人がいるのかもしれない」と言う。 論文の上席研究者でNYUグローバル公衆衛生大学院社会・行動科学分野のAdolfo Cuevas氏は、「われわれの研究によって、老いに対する不安は老化の生物学的な仕組みを形作っていると考えられる、測定可能かつ修正可能な心理的要因であることが明らかになった」とニュースリリースの中で述べている。ただし研究グループは、老化速度に影響する要因が他にも存在する可能性は除外できないとして、慎重な解釈を求めている。 研究グループは、不安がもたらすこのような潜在的な影響について、今後さらなる研究で調べる必要があるとの見解を示している。Rodrigues氏は、「誰もが老化を経験する。われわれは、社会が規範や構造的要因、人間関係を通じて老いの課題にどのように向き合うのかについて、議論を始める必要がある」と話している。

3.

日本人の腸内細菌叢、世界と異なる特徴は?

 ヒトの腸内細菌叢(マイクロバイオーム)は、宿主の免疫や代謝、健康状態と密接に関わっている。東京大学の西嶋 傑氏らの研究グループは、日本人5,000人以上の腸内メタゲノムデータを解析し、世界37ヵ国と比較した。その結果、日本人の腸内細菌叢にはビフィズス菌が豊富であり、9割が海藻の分解酵素を持つという独自の特徴や、腸内細菌叢の構成には特定の薬剤が大きく影響することなどが判明した。Proceedings of the Japan Academy, Series B誌2026年2月号に掲載。 本研究では、疾患(Disease)、薬剤(Drug)、食習慣(Diet)、アルコール、喫煙、睡眠などの生活習慣(Daily life)、などの詳細な情報と腸内細菌データを統合して収集した大規模オミクス研究基盤である「Japanese 4Dマイクロバイオームコホート」を用いて、日本人5,466人(平均年齢65.9±13.2歳、男性56.9%)の腸内メタゲノムデータを、世界37ヵ国3万1,695人のデータを比較解析し、日本人の独自性を特定した。さらに、1,500項目以上の変数を用いて、細菌叢の多様性に寄与する要因を評価した。 主な結果は以下のとおり。・日本人の腸内には、他の高所得国と比較してビフィズス菌(Bifidobacterium属)が豊富に存在することが認められた。これは日本人に乳糖不耐症が多く、乳製品を摂取して消化されない乳糖が腸に到達し、ビフィズス菌の増殖を促進する可能性が示唆されている。・日本人において、ノリやワカメなどの海藻に含まれる多糖類を分解する酵素遺伝子を持つ個人の割合が約90%に達し、欧米諸国(0~16.7%)より圧倒的に多かった。・腸内細菌叢の構成には、生活習慣よりも薬剤の影響が大きかった。関連の強い順に、胃腸薬、糖尿病薬、抗菌薬/抗ウイルス薬であった。・プロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用は腸内細菌の多様性を上昇させる一方で、口腔内に多い細菌(レンサ球菌[Streptococcus属]、Lactobacillus属など)が腸内で増加し、日和見感染症の原因となる多剤耐性菌(肺炎桿菌[Klebsiella pneumoniae]、Enterococcus faecium、肺炎球菌[Streptococcus pneumoniae]など)の定着を促進するリスクが示された。・5種類以上の多剤併用により、有益な短鎖脂肪酸(SCFA)産生菌(Roseburia属、Dorea属、Faecalibacterium属、Alistipes属、Coprococcus属、Eubacterium属など)が減少し、日和見病原菌が増加して、腸内細菌叢の多様性が低下することが示された。 本研究により、日本特有の文化的・遺伝的背景によって形成された、集団特異的な腸内細菌叢の特徴が示された。著者らは、とくに高齢者における不要な薬剤の使用中止を含む薬物療法の最適化が、腸内環境の健全性を維持するうえで不可欠だと指摘し、国際的な腸内細菌叢データセットの構築は、精密医療(プレシジョンメディシン)を推進する鍵となるだろうとまとめている。

4.

末梢動脈疾患(PAD)の症状改善にメトホルミンは無効(解説:小川大輔氏)

 末梢動脈疾患(Peripheral Artery Disease;PAD)は、動脈に脂肪やコレステロールが蓄積する動脈硬化によって、腹部大動脈から下肢の動脈が狭くなり血流が制限される疾患である。これにより、歩行時の足の痛み(間欠性跛行)などの症状が生じる。症状はゆっくりと現れることが多いが、急激に悪化する場合もある。主な原因は動脈壁への脂肪、コレステロールなどの蓄積、いわゆるアテローム性動脈硬化と考えられている。PADの患者は動脈硬化を原因とする狭心症や脳梗塞を合併することが多いため、下肢だけでなく全身の動脈硬化症の評価も必要となる。 PADの治療としては、禁煙、生活習慣病の管理、運動療法、薬物療法、血行再建術などがある。PADの最大の原因は喫煙であり、禁煙は必須の治療である。糖尿病、高血圧症、脂質異常症があればそれらの治療も行う。運動療法は血流改善や新しい血管(側副血行路)の発達を促すため、痛みが生じない範囲でのウォーキングなどの運動は有効である。血行再建術は、運動療法やシロスタゾールなどの薬物療法で症状の改善が見られない場合や重症の場合に検討される。カテーテル治療(血管内治療)やバイパス手術はPADの部位や患者の状態を考慮して実施される。 PADは歩行障害を引き起こす重篤な循環器疾患であり、効果的な治療法が限られている。そこで今回非糖尿病のPAD患者に対し、2型糖尿病の治療薬であるメトホルミンを6ヵ月間投与し、歩行能力に与える効果を検証したランダム化二重盲検試験が実施された1)。その結果、メトホルミンはPAD患者の歩行能力改善には効果がないと結論付けられた。 メトホルミンは主に肝臓での糖新生を抑制したり、筋肉や脂肪組織でのブドウ糖の取り込みを促進したりすることによって血糖値を下げる効果がある。その他、血管内皮細胞におけるAMP活性化プロテインキナーゼの活性化、酸化ストレスの抑制、内皮型一酸化窒素合成酵素の活性化などの作用も報告されている2)。メトホルミンのこれらの“pleiotropic effects”による血管内皮機能の改善により、PAD患者の血流改善や歩行時間延長を期待され、この試験が実施された。 メトホルミンがPAD患者の歩行能力改善に効果がなかった理由として、喫煙率が約30%と高かったことや、インスリン抵抗性の強くない症例が多かったこと、また観察期間が6ヵ月と短かったことなどが考えられる。その他の可能性として、著者らはPAD患者の骨格筋や血管内皮でAMP活性化プロテインキナーゼがすでに最大活性化されているため、メトホルミンの追加効果が得られなかった可能性を考察している。 いずれにしても今回の研究でPADの歩行障害に対するメトホルミンの効果はないことが示された。今後は異なる作用機序を持つ治療薬の開発や、PADの複雑な病態に対処する新たなアプローチの研究が求められる。またそれ以前に、完全禁煙や肥満の是正、厳格な血圧管理など、現状できることをまずはきちんと行うことが重要である。

5.

身体活動習慣を維持することが中年期の累積ストレスの少なさと関連

 成人期の初期から日常的に運動などで体を使っていないと、中年期に入った時点で累積ストレスによる身体への影響が強く現れるとする研究結果が報告された。オウル大学(フィンランド)のMaija Korpisaari氏らが、累積ストレスの程度を意味する「アロスタティック負荷」をスコア化して過去の身体活動習慣との関連を検討した結果であり、詳細は「Psychoneuroendocrinology」2月号に掲載された。 この研究で検討したアロスタティック負荷とは、慢性的なストレスによって引き起こされる心身の生理学的な消耗を指す。アロスタティック負荷の標準化された評価方法はまだ確立されていないが、本研究では先行研究を基に、13項目(BMI、ウエスト周囲長、血圧、血清脂質、空腹時血糖値、HbA1c、心拍数、高感度C反応性蛋白、コルチゾールなど)からスコア化する指標と、より絞り込んだ5項目からスコア化する指標を用いて評価した。 解析対象は1966年にフィンランドで生まれ、31歳および46歳になった時点で調査に参加した3,358人(男性42.6%)。世界保健機関(WHO)の身体活動に関するガイドラインの推奨(週に中~高強度運動を150分以上)を満たしているか否かに基づき、全体を以下の4群に分類した。一つ目は31歳と46歳のいずれの時点においてもガイドラインの推奨を満たしていた運動維持群(12.4%)、二つ目はいずれの時点においてもガイドラインの推奨を満たしていなかった非運動群(55.4%)、三つ目は31歳時点では満たしていなかったものの46歳時点では満たしていた運動量増加群(19.4%)、四つ目は31歳時点では満たしていたものの46歳時点では満たしていなかった運動量減少群(12.8%)。 結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、喫煙・飲酒習慣、教育歴、婚姻状況、仕事上のストレスの認識)の影響を調整し、運動維持群を基準とする解析の結果、身体活動量が少ない群ではアロスタティック負荷が強いことが明らかになった。例えば13項目のスコアでは、非運動群は負荷が18%高く、運動量減少群は10%高いことが示された。また5項目のスコアでは、非運動群は17%高く、運動量減少群は有意差がなかった。運動量増加群に関しては、13項目の指標と5項目の指標のいずれにおいても、運動維持群と有意差がなかった。 論文の筆頭著者であるKorpisaari氏は、「この研究結果は、身体活動はライフステージの特定の時期のみに重要というわけではなく、成人期を通して習慣的に運動を続けることで、慢性的なストレスの有害な影響から身体を守ることができる可能性を示唆している」と述べている。ただし研究者らは、この関連性を確認し、身体活動がストレス負荷をどのように軽減するかをより深く理解するため、さらなる研究の必要性も指摘している。

6.

未破裂脳動脈瘤のある健康な人、全死亡リスクが5倍に

 MRIの普及に伴い、症状のない未破裂脳動脈瘤(UIA)が偶然発見される機会が増加している。しかし、偶然発見されたUIAを持つ人の長期的な死亡率や死因については、これまで十分に解明されていなかった。佐賀大学の緒方 敦之氏らが実施した、脳ドック受診者を対象とした前向きコホート研究「The Kashima Scan Study」の結果、偶然UIAが発見された健康な人は、UIAがない人と比較して全死亡リスクが約5倍高く、その主な死因は動脈瘤の破裂ではなく悪性腫瘍であることが判明した。Stroke and Vascular Neurology誌オンライン版2026年2月24日号に掲載。 本研究では、2005年12月~2011年11月に脳ドックを自費で受診した神経学的に健康な成人1,670例(平均年齢57.7歳[範囲23~84]、男性47.5%)を対象とした。平均追跡期間8.7年(SD 2.3)において、MRIおよびMRAで診断されたUIAの有無と死亡率の関連性を、年齢、性別、高血圧、糖尿病、喫煙習慣などの要因を調整したCox比例ハザードモデルを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・全対象者1,670例のうち90例にUIAが認められた。UIA群90例(5.4%)、非UIA群1,580例(94.6%)。・追跡期間中に36例が死亡した。全死因死亡は、UIA群で7例(死亡率:7.8%)、非UIA群で29例(同:1.8%)であり、UIA群で死亡率が有意に高かった(p=0.002)。・多変量解析の結果、UIAの存在は死亡リスクの有意な上昇と独立して関連していた(調整ハザード比[HR]:4.95、95%信頼区間[CI]:2.14~11.4)。・全死因のうち、最も多かったのは悪性腫瘍(15例)であった。悪性腫瘍による死亡は、UIA群の死亡例の57%(4/7例)、非UIA群の38%(11/29例)を占めた。・UIA群の死亡例(7例)のうち、動脈瘤破裂による死亡は1例のみであった。 本研究の結果、偶然見つかったUIAを持つ神経学的に健康な人は死亡リスクが著しく高いことが示された。著者らはこの原因として、動脈瘤形成に関与する「全身性の炎症状態」が、心血管疾患やがんの発症・進行という共通の病理学的経路を介している可能性を指摘している。UIAが発見された人に対しては、従来の動脈瘤の経過観察だけでなく、より集中的な健康モニタリングや総合的なリスク因子管理が有益である可能性を示唆している。

7.

胃がんリスク因子の年齢別解析、ピロリ感染と喫煙が高齢で増加

 胃がんは依然として世界的ながん死亡の主要な原因の1つであり、その発症には感染、生活習慣、遺伝など複数の要因が関与する。中国の病院を対象とした後ろ向き研究により、胃がん患者におけるリスク因子の分布が年齢層によって異なる可能性が示された。Frontiers in Oncology誌2026年1月22日号掲載の報告。 本研究では、中国南部の複数の3次医療機関で診断された胃がん患者903例を対象とし、アンケート調査により生活習慣や臨床背景に関する情報を収集した。解析対象は、18~30歳(50例)、31~55歳(163例)、56歳以上(690例)の3つの年齢群に分類された。評価項目には、Helicobacter pylori(H. pylori)感染、喫煙歴、肥満、萎縮性胃炎、食習慣、既往歴、胃がん家族歴などが含まれた。 主な結果は以下のとおり。・年齢群によってリスク因子の分布に明確な違いが認められた。H. pyloriの感染率と喫煙率は年齢とともに有意に増加した。・燻製・焼いた食品の摂取は、とくに高齢者において胃がんリスクと有意な関連を示した(オッズ比[OR]:2.05、95%信頼区間[CI]:1.29~3.27、p=0.002)。肥満および果物・野菜の摂取量不足は統計的に有意な関連を示さなかった。・高齢群では、H. pylori感染、喫煙、燻製・焼いた食品の摂取といった環境要因への長期曝露が多く、これらが累積的に胃がん発症リスクを高めている可能性が示唆された。・一方、若年患者ではこれらの生活習慣関連因子の影響は比較的小さく、相対的に家族歴やその他の要因が重要となる可能性が示された。 研究者らは、本研究の臨床的意義として、年齢層に応じた予防介入の必要性を挙げている。具体的には、高齢者ではH. pylori感染検査と除菌プログラム、若年~中年期ではH. pylori除菌、禁煙指導、食習慣の改善などを実施することで、将来的な胃がん発症リスクの低減につながる可能性があるとした。

8.

全国データで見えた舌がんの実像

 舌がんは、舌に発生する口腔がんの一つで、進行すると発話や嚥下に大きな影響を及ぼす。日本では舌がんの全国的な動向は十分に把握されてこなかったが、今回、全国レセプトデータを用いた解析により、舌がんが女性の特定年齢層で増加している可能性が示された。研究は、稲毛病院整形外科の城戸優充氏、京都府立医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室の辻川敬裕氏らによるもので、詳細は1月18日付で「Cancer Medicine」に掲載された。 舌がんの罹患率は世界的に増加しており、特に若年層や女性での増加が懸念されている。しかし日本では、舌がんは口腔・咽頭がんとして一括して統計化されており、全国的な実態は十分に把握されていない。国民皆保険制度のもと、95%以上の保険請求を網羅するレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)は、全国疫学研究に適したデータ基盤である。舌切除術が全病期で標準治療であることから、本研究では手術コード(医科K415および歯科J018)に基づき舌がん手術を新規症例の代替指標として用い、全国的な舌がん罹患の年次推移および年齢・性別別の特徴を明らかにすることを目的とした。 本研究では、医科(2014~2022年)および歯科(2016~2022年)のレセプトデータを用い、全体ならびに年齢階級別の男女比を算出した。さらに、人口10万人年あたりの手術率について、性別および年齢階級別に人口学的ピークの解析を行った。年次推移については、手術件数を線形回帰モデルで、手術率をポアソン回帰モデルで解析し、年次リスク比(RR)を推定した。なお、RR>1.0は人口10万人年あたりの手術率が年々増加していること、RR<1.0は減少していることを示す。 2016~2022年の医科・歯科レセプトデータを用いた解析では、年間平均4,470.7件の手術が実施されていた(手術率:3.4件/10万人年)。男女比は全体で1.6:1であり、男性がやや優勢であることが示された。年齢階層別の男女比は、40歳未満ではほぼ1:1であったのに対し、60~70歳代では2.0:1となり男性優位の傾向が顕著に認められた。 手術率は、男性では75~79歳でピーク(12.0件/10万人年)を示し、女性では75~84歳でピーク(5.9件/10万人年)を示した。年齢調整後の手術件数(医科)は2014年から2022年にかけて有意に増加していた。 さらに年齢調整した手術率は、女性全体(RR=1.020、P<0.0001)および全体集団(RR=1.010、P=0.0006)で有意な増加を示した。年齢階級別の解析では、女性の40~44歳(RR=1.083、P=0.0001)および60~64歳(RR=1.055、P=0.0005)で有意な増加が認められた。 本研究の結果から、特定の年齢層(中高年)の女性で、舌がんが増えている可能性が浮かび上がった。著者らは、「本研究で示された中高年女性での舌がん手術率の増加傾向は、今後、喫煙や飲酒などの修正可能なリスク因子に関する啓発を含め、女性を意識した予防・早期対応の重要性を示唆する結果といえる」と述べている。 なお、本研究の限界として、レセプトデータを用いた解析であり、再手術や疾患分類の誤差、病期や生活習慣など患者背景を考慮できていない点を挙げている。また歯科レセプトの観察期間が短く、結果の解釈には注意を要するとしている。

9.

男性の性機能障害、3つのリスク因子とは/順大

 不妊治療開始前の新婚または結婚予定男性の約5人に1人が性機能障害を有することが、日本の単施設研究で明らかになった。順天堂大学医学部附属浦安病院の谷口 歩氏らによる研究成果は、Reproductive Medicine and Biology誌2026年1月号に掲載された。 本研究は、新婚男性または結婚予定男性の性機能の現状を把握することを目的とした横断研究であり、2014年10月~2018年6月に順天堂大学医学部附属浦安病院および関連クリニックで各種不妊検査を受けた男性719例を対象とした。患者を直接面接し、患者自身が障害を感じているか否かの自己申告に基づく二分法判定により、勃起障害(ED)、射精障害、性欲減退、または複数の症状を有する者を性機能障害とした。年齢、性的状況、精液所見、喫煙状況、血液検査などの患者特性を評価し、性機能障害群と性機能正常群間で各種因子を比較して、単変量解析および多変量解析により性機能障害のリスク因子を特定した。 主な結果は以下のとおり。・対象となった719例は、平均年齢35.5±6.5歳、平均BMI 22.8±3.0kg/m2であった。113例(15.7%)が喫煙者であった。・719例中139例(19.3%)に性機能障害が認められ、内訳はEDが88例(12.2%)、射精障害が66例(9.1%)、性欲減退が35例(4.9%)であった(重複あり)。・性機能障害群では、単変量解析では年齢、アルブミン値、肝酵素、トリグリセライド、血糖値、精液量に有意差が観察されたが、多変量解析の結果、年齢、BMI、うつ症状を評価するベック抑うつ質問票スコアが、性機能障害の独立したリスク因子として特定された。 研究者らは「本研究により、高齢、肥満、うつ症状を呈する男性は、不妊治療開始前に性機能障害を経験する可能性が高いことが示された。新婚男性の約5人に1人という高い頻度で性機能障害が認められたことは、妊娠を希望するカップルにとって重要な知見である。これらの結果は、不妊治療開始前に、男性の性機能評価とリスク因子の把握が重要であることを示唆している。今後は、これらのリスク因子に対する早期介入や予防的アプローチの検討が、男性の生殖機能向上と治療成功率の改善につながる可能性がある」としている。

10.

複数のがん種で診断後の運動量とがん死亡リスク低下が関連

 これまでの研究で、一部のがん種では身体活動ががんの発症や再発・死亡リスク低下と関連することが報告されている。しかし、乳がん、大腸がん、前立腺がん以外のがん種における身体活動とがん死亡に関するエビデンスは限られている。今回、米国がん協会のErika Rees-Punia氏らは、身体活動とがん死亡との関連が十分に検討されてこなかった7種のがん(膀胱がん、子宮体がん、腎がん、肺がん、口腔がん、卵巣がん、直腸がん)の患者を対象に、診断後の身体活動量、および診断前後の身体活動量の変化とがん死亡リスクとの関連を検討する観察研究を実施した。結果はJAMA Network Open誌2026年2月17日号に掲載された。 本研究では、6つの大規模前向きコホート※の統合データを用いた。対象は上記7がん種の患者で、ベースラインデータは1976~97年に収集した。1週間当たりの余暇時間の中高強度身体活動量をMET・時/週で評価し、診断後少なくとも1年を経過した時点(平均2.8年後)の中高強度身体活動量とがん死亡との関連を解析した。主要アウトカムはがん死亡で、平均追跡期間は10.9年であった。※Cancer Prevention Study-II Nutrition Cohort、Health Professionals Follow-Up Study、NIH-AARP Diet and Health Study、Nurses' Health Study、Nurses' Health Study II、Women's Health Study 主な結果は以下のとおり。・統合解析には、1万7,141例のがん患者が含まれた(平均年齢67歳、女性60%)。多いがん種は膀胱がん(24%)、子宮体がん(22%)、肺がん(18%)であった。・膀胱がん、子宮体がん、肺がん、卵巣がん患者において、診断後の身体活動レベルが高い群では、身体活動を行っていない群と比較してがん死亡リスクの低下が認められた。・膀胱がん、子宮体がん、肺がん患者では、推奨量(7.5MET・時/週以上)を下回る身体活動レベルであっても、身体活動を行っていない群と比較して死亡リスクの低下が認められた。・口腔がんおよび直腸がんでは、一部の高い身体活動レベルにおいてがん死亡リスクの低下が示唆された。・腎がんでは、推奨量を満たす群でリスク低下の傾向がみられたものの、有意差は認められなかった。・診断前後の身体活動の変化を検討した解析では、肺がんおよび直腸がん患者において、診断前後ともに推奨量を満たさなかった群と比較して、診断前は推奨量を満たさなくても診断後に満たした群ではがん死亡リスクが低かった。ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)は以下のとおり。 -肺がん HR:0.58(95%CI:0.47~0.71) -直腸がん HR:0.51(95%CI:0.32~0.83) 研究グループは「本研究は、身体活動量の低下が全身状態の悪化や死期が近いことを反映している逆因果の可能性、アンケートに回答できる健康な患者が対象となっている選択バイアス、喫煙による残余交絡の影響を完全には排除できない」と指摘したうえで、「これらの結果は、がんとともに生きる人々とがんを乗り越えた人々の寿命と全体的な健康のために身体活動を促進することが重要であることを示唆している」とまとめた。

11.

飲酒と大腸がん、リスクの高い頻度と量は?

 飲酒は大腸がんリスクの上昇と関連していることが示されているが、生涯飲酒に関する研究は限られている。米国国立がん研究所のCaitlin P. O'Connell氏らは、生涯飲酒と大腸腺腫および大腸がんの発症との関連性を推定することを目的とした研究を行った。Cancer誌2026年2月1日号掲載の報告。 前立腺がん、肺がん、大腸がん、卵巣がん検診の効果を評価するPLCO試験に参加した米国成人を対象とした。参加者はビール、ワイン、蒸留酒の摂取頻度について、4つの事前定義された年齢層(18~24歳、25~39歳、40~54歳、55歳以上)ごとに、10段階の頻度カテゴリー(飲酒経験なし~1日6杯以上)を用いて回答した。また、過去1年間のビール・ワイン・蒸留酒摂取量も報告した。参加者を「非飲酒者」「元飲酒者」「現飲酒者」に分類し、生涯平均飲酒量(週1杯未満、1~7杯未満、7~14杯未満、14杯以上)でも分類した。 ベースライン時の検診で陰性であった1万2,327例のうち、812例が2回目の検診で腺腫と診断された。腺腫発症のオッズ比(OR)を推定するためにロジスティック回帰分析を用いた。20年間の追跡調査期間中、8万8,092例の参加者において1,679件の大腸がん発症が確認された。Cox比例ハザード回帰を用いて、大腸がんのハザード比(HR)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・参加者の大半が現飲酒者であった(73.4%)。ベースライン年齢は、非飲酒者群が飲酒者群よりわずかに高かった。飲酒頻度が最も低い群(週1杯未満)と比較し、生涯飲酒量が最も多い群(週14杯以上)では、男性(89.8%vs.24.2%)、非ヒスパニック系白人(90.7%vs.90.2%)、現喫煙者(18.3%vs.6.4%)、過体重(48.1%vs.38.2%)である傾向が強く、大学卒業者の割合は低かった(34.7%vs.37.6%)。・一貫して大量飲酒している現飲酒者は、少量飲酒者と比較して、大腸がんリスクが91%高かった(HR:1.91、95%信頼区間[CI]:1.17~3.12)。・現飲酒者において、生涯平均飲酒量が最多の群と最少の群を比較すると、大腸がんリスクとの間に正の関連が認められた(週14杯以上vs.週1杯未満、HR:1.25、95%CI:1.01~1.53)。とくに直腸がんリスク(HR:1.95、95%CI:1.17~3.28)が顕著に上昇した。・少量飲酒者と比較して、元飲酒者は非進行性腺腫のオッズが低かった(OR:0.58、95%CI:0.39~0.84)。・一方、週7~14杯未満の中程度の飲酒者は、週1杯未満の飲酒者と比較して、大腸がんリスクが低下し(HR:0.79、95%CI:0.64~0.97)、とくに遠位結腸がん(HR:0.64、95%CI:0.42~1.00)リスクが低下傾向を示した。 研究者らは「本前向き研究において、継続的な多量のアルコール摂取と生涯平均飲酒量の増加は、とくに直腸がんのリスクを高めることが観察された。また、元飲酒者では非進行性腺腫リスクが低いことも確認され、禁酒が大腸がんリスクを低下させることを示唆している」とした。

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夜型の生活習慣は心臓の健康に悪影響

 夜更かしの習慣は、心臓の健康に悪影響を与えているかもしれない。クロノタイプが夜型の中高年は、朝型でも夜型でもない中間型の中高年と比較して、心臓の健康状態が悪い傾向にあることが、新たな研究で示された。この研究を主導した米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院内科部門のSina Kianersi氏は、「夜型の人は、食事の質が低かったり、喫煙したり、睡眠が不足していたり不規則だったりと、心血管の健康に影響を及ぼす行動を取りがちな可能性がある」と述べている。この研究結果は、「Journal of the American Heart Association」に1月28日掲載された。 研究グループによると、夜型の人は体内時計とも呼ばれる概日リズムが乱れることが多く、それが健康的な行動や心代謝機能に悪影響を及ぼす可能性が考えられるという。今回の研究では、心血管疾患(CVD)の既往がない39〜74歳のUKバイオバンク参加者32万2,777人(ベースライン時の平均年齢57歳)を対象に、クロノタイプ(朝型、夜型、中間型)とCVDリスクとの関連を検討した。CVDリスクはAHAのLife's Essential 8(LE8)を用いて評価した。LE8は、CVDリスクとして4つの健康行動(食習慣、身体活動、喫煙、睡眠)、および4つの健康因子(BMI、血清脂質、血糖、血圧)をそれぞれ0〜100点で評価し、全項目の平均点を包括的LE8スコアとする。スコアは高いほど心血管の健康状態が良好であることを示す。 対象者の67%が朝型でも夜型でもない中間型のクロノタイプであり、夜型は8%であった。解析の結果、中間型の人に比べて夜型の人ではLE8スコアが50点未満になる可能性が79%高いのに対し、朝型の人では5%低いことが示された。追跡期間の中央値は13.8年で、その間に1万7,584件のCVDイベントが発生した(心筋梗塞1万1,091件、脳卒中7,214件)。CVDの発症リスクは、中間型のクロノタイプの人と比べて、夜型の人では16%有意に高かった。一方、朝型の人と中間型の人との間でリスクに有意な差は見られなかった。クロノタイプとCVDとの関連にLE8がどの程度影響しているのかを検討したところ、中間型の人と比べた場合の夜型の人におけるLE8を介した間接的な効果によりCVDリスクは11%上昇すると推定された(ハザード比1.11、95%信頼区間1.09〜1.13)。これは、夜型の人でのCVDリスク上昇の75%はLE8の因子により説明されることを意味する。 ただし、これらの結果には良い側面もあるとAHAで概日リズムと心臓の健康に関する声明を担当する米ノースウェスタン大学のKristen Knutson氏は、ニュースリリースの中で指摘している。本研究には関与していない同氏は、「CVDリスクの大部分は生活習慣に起因することから、夜型だからといって心臓の健康が必ず損なわれるわけではない。今回の研究では、夜型の人に認められたCVDリスクの上昇は、喫煙や睡眠など改善可能な行動の影響を受けていることが示された。つまり、夜型の人でも心血管の健康を向上させる方法はあるのだ」と話す。その上で同氏は、「夜型の人が本質的に不健康というわけではないが、健康維持に特に注意が必要な状況に置かれてはいる」と結論付けている。

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転移のあるTNおよびHR+/HER2-乳がんへのSG、最大規模のリアルワールドでのOS解析

 転移を有するトリプルネガティブ乳がん(mTNBC)および転移を有するホルモン受容体陽性/HER2陰性乳がん(HR+/HER2- mBC)の3次治療でのサシツズマブ ゴビテカン(SG)のリアルワールドにおける生存アウトカムを、フランス・National Agency for Medicine and Health Product Safety(ANSM)/National Health Insurance Center(CNAM)のAya Elhusseiny Shaaban氏らが過去最大規模のリアルワールド研究で評価した。本研究では、全生存期間(OS)中央値はmTNBCで11.0ヵ月、HR+/HER2- mBCで11.4ヵ月であった。British Journal of Cancer誌オンライン版2026年2月5日号に掲載。 本研究はフランス国民健康データシステム(National Health Data System)を用いて、2021年7月1日~2023年12月31日にSGを開始した全患者の人口統計学的情報、併存疾患、前治療歴を記録し、2024年6月30日まで追跡調査した。た。OSおよび治療中止までの期間(TTD)はカプランマイヤー法を用いて推定し、多変量Coxモデルを用いてOSの予後因子を調べた。 主な結果は以下のとおり。・3,653例が対象となり、うちmTNBCは2,527例、HR+/HER2- mBCは1,126例で、年齢中央値はそれぞれ58歳、61.5歳であった。・OS中央値は、mTNBCで11.0ヵ月(95%信頼区間[CI]:10.4~11.7)、HR+/HER2- mBCで11.4ヵ月(95%CI:10.7~12.4)であった。・1年生存率はそれぞれ47%、48%、TTD中央値はそれぞれ4.3ヵ月、3.5ヵ月であった。・OSの不良は、入院SG治療および肝/消化管転移と独立して関連していた。mTNBCでは、脳転移、呼吸器疾患、喫煙関連の入院、複数の転移部位、前治療歴が加わった。

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多発性硬化症〔MS:multiple sclerosis〕

1 疾患概要■ 定義多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)は、脳・脊髄・視神経からなる中枢神経系に炎症性脱髄が生じる慢性疾患である。病変は時間的多発性(再発)と空間的多発性(中枢神経系のさまざまな場所に病変が生じる)であることを特徴とする。自己免疫機序が病態の中心であると考えられているが、近年は神経変性機序の関与も推定されている。■ 疫学MSは若年成人に多く、20~40代で発症することが多い。女性に多く、高緯度地域で発症率が高い(わが国では北海道に多く、沖縄では少ない)。世界中で約300万人の患者が存在すると推定されている。従来は欧米に多い疾患とされてきたが、近年はアジア地域でも患者数が増加しており、わが国でも有病率は上昇している。診断技術の進歩に加え、環境因子の変化が背景にあると考えられている。■ 病因MSは遺伝的要因と環境因子が組み合わさって発症する多因子疾患である。特定の免疫関連遺伝子が発症リスクに関与する一方で、遺伝要因のみで発症が決まるわけではない。環境因子としては、ビタミンD不足、喫煙、肥満などが知られている。近年、Epstein-Barr virus(EBV)感染がMS発症と強く関連することが示され、免疫異常を引き起こす重要な因子と考えられている。■ 症状MSの症状は多彩であり、病変部位によって異なる。代表的な症状には、視力低下や眼痛(視神経炎)、手足のしびれや脱力、歩行障害、ふらつき、排尿障害などがある。また、易疲労感、疼痛、抑うつ、集中力低下など、外見からわかりにくい症状も多く、患者の日常生活や就労に大きな影響を与える。これらは看護師や薬剤師が関わるケアの場面でとくに重要な視点である。■ 分類MSは臨床経過により以下に分類される。1)再発寛解型(RRMS)再発と寛解を繰り返しながら少しずつ後遺症が蓄積する病型で、最も頻度が高い2)2次進行型(SPMS)RRMSの経過の後に、徐々に再発とは無関係の障害進行(progression independent of relapse activities:PIRA)が生じるようになった病型3)1次進行型(PPMS)発症初期からPIRAを認める病型、まれである以上の病型の理解は、治療方針を考えるうえで重要である。■ 予後現在は治療薬の進歩により、MSの長期予後は大きく改善している。しかし、PIRAの治療は開発途上にあるために、早期診断と治療介入が予後改善には重要である。近年は、治療初期から高い有効性を有する薬剤を導入する“early high-efficacy treatment(eHET)”の考え方が広まっている1)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)MSの診断は除外診断が基本である。とくに視神経脊髄炎スペクトラム障害やMOG抗体関連疾患は臨床像が類似するため、鑑別が重要である。ほかにも鑑別すべき疾患は多岐にわたり、悪性リンパ腫などの腫瘍性疾患、脳血管障害、膠原病、神経サルコイドーシスや神経ベーチェット病といった炎症性疾患、感染症(梅毒、進行性多巣性白質脳症など)、さらに頸椎症性脊髄症や脊髄空洞症などの脊髄疾患、ミトコンドリア病、HTLV-1関連脊髄症(HAM)、脊髄小脳変性症などが挙げられる。診断には臨床経過、MRI検査、脳脊髄液検査を総合的に評価するMcDonald診断基準が用いられる。本基準の本質は「炎症性脱髄病変が時間的・空間的に多発していること」を確認する点にある。2024年改訂では早期診断を支援する内容が加えられたが、診断はあくまで臨床判断を補助するものであり、慎重な運用が求められる2)。3 治療MSの治療は、再発時に行う急性期治療と、再発や進行を予防する病態修飾療法に大別される。急性期には副腎皮質ステロイドの大量静注療法(ステロイドパルス療法)が行われる。効果が不十分な場合には血漿交換療法が選択されることもある。再発や障害進行を抑えるため、維持期には病態修飾薬が使用される。近年では有効性の高い薬剤が増えており、早期から治療を開始することの重要性が強調されている。わが国で承認されている主要な病態修飾薬を表にまとめる。服薬管理、副作用モニタリング、多職種による支援が治療継続に不可欠である。表 MSの主要な病態修飾薬画像を拡大する4 今後の展望現在、新しい作用機序をもつ治療薬や、より精度の高い画像診断・血液バイオマーカーの研究が進行している。また、EBVを標的とした治療やワクチン研究も注目されており、将来的には個別化医療の実現が期待される。近年、MSの診療は、再発抑制を主目的とした治療から、PIRAの抑制を含む長期的な機能予後改善を目指す方向へと大きく変化している。この流れの中で、治療および診断の両面で新たなアプローチが研究・開発されている。治療分野では、Bruton型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬が新たな病態修飾療法として注目されている。BTK阻害薬は、B細胞の活性化や抗原提示機能を抑制するだけでなく、中枢神経内のミクログリア活性化を抑制する作用を併せ持つ点が特徴である。現在、RRMSに加え、SPMSやPPMSを対象とした第III相臨床試験が進行中であり、既存治療では十分に抑制できなかった進行性病態への効果が期待されている。とくに、PIRAに対する治療選択肢としての位置付けが注目されている。診断分野においては、疾患特異性や病勢評価を高める新たなバイオマーカーの研究が進展している。MRIでは、central vein sign(CVS)やparamagnetic rim lesion(PRL)といった所見が、MSに特徴的な病態を反映する補助的画像指標として注目されている。これらは鑑別診断や慢性活動性病巣の評価に有用である可能性が示されている。一方、体液バイオマーカーとしては、血清・髄液中の神経フィラメント軽鎖(NfL)やκフリーライトチェーン(κFLC)が、疾患活動性や予後予測の指標として臨床応用に近付いている。今後は、これらの新規治療薬および診断技術を組み合わせることで、疾患活動性・進行リスクに基づく層別化医療や個別化治療がより現実的になると考えられる。MS診療は、再発を抑制する医療から、長期的な障害蓄積を最小限に抑える医療へと進化しており、今後も基礎研究と臨床研究の橋渡しが重要となる。5 主たる診療科主な診療科は脳神経内科であるが、眼科、泌尿器科、リハビリテーション科、精神科などとの連携が重要である。看護師・薬剤師を含めた多職種チーム医療が不可欠である。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト診療、研究に関する情報難病情報センター 多発性硬化症/視神経脊髄炎  (一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本神経学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)医薬品医療機器総合機構(PMDA)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)MSキャビン(MSCABIN)(多発性硬化症の総合情報サイト:情報共有、患者・支援者向け知識ベース)MS International Federation(国際疫学、研究動向、教育・啓発リソースなど医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報日本多発性硬化症協会(患者とその家族および支援者の会)1)Rotstein D, et al. Nat Rev Neurol. 2019;15:287-300.2)Montalban X, et al. Lancet Neurol. 2025;24:850-865.公開履歴初回2026年2月20日

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日本人のMg摂取と認知症リスク

 食事性マグネシウム(Mg)は認知症予防における変更可能な因子だが、そのエビデンスは不十分である。今回、新潟大学のIrina Bulycheva氏らが、日本人の中高年者コホートでMg摂取量と認知症リスクの関連を調べた結果、男性でのみMg摂取量が少ないと認知症リスクが高いことが示唆された。Journal of Nutritional Science誌2026年1月22日号に掲載。 本研究は、40~74歳の地域住民1万3,032人が参加した8年間のコホート研究である。食事データは2011~13年に検証済み食品摂取頻度質問票を用いて収集した。Mg摂取量は残差法を用いてエネルギー摂取量で調整した。評価項目は日本の介護保険データベースで判定した新規の認知症診断とした。共変量は、年齢、性別、BMI、婚姻状況、教育水準、職業、総身体活動レベル、喫煙、アルコール摂取量、コーヒー摂取量、総エネルギー摂取量、病歴(心筋梗塞、脳卒中、糖尿病、高血圧)とし、調整ハザード比(HR)はCox比例ハザードモデルを用いて算出した。 主な結果は以下のとおり。・参加者の平均年齢は59.0歳で、認知症は男性148例、女性138例で発症した。・男性では、エネルギー調整Mg摂取量が低い四分位群は認知症の高リスクと関連し(多変量調整後の傾向のp=0.0410)、最低四分位群(Q1)は最高四分位群(Q4、基準)より認知症リスクが高かった(HR:1.73、95%信頼区間[CI]:1.07~2.83)。この関連は女性では認められなかった。・男性の病歴によるサブグループ解析では、両サブグループでQ1のHRが低く、病歴あり群で1.52(95%CI:0.74~3.11)、病歴なし群で1.40(同:0.73~2.69)であった。 本研究において、日本人中高年男性において、Mg摂取量が少ないと認知症リスクが高かった。ただし、著者らは「この関連は基礎疾患の既往歴に一部起因する可能性がある」と考察している。

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タンジール病〔Tangier disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義タンジール病は、高比重リポ蛋白(HDL)コレステロール(HDL-C)、アポリポ蛋白(アポ)A-I濃度が著しく低下し、オレンジ色の咽頭扁桃腫大、肝脾腫、角膜混濁、末梢神経障害などの種々の臓器にコレステロールエステルが蓄積することに伴う臨床症状を特徴とする常染色体潜性(劣性)遺伝疾患である。なお、血清脂質値は常染色体共優性遺伝。1961年に米国バージニア州タンジール島の5歳の少年から摘出されたオレンジ色の異常扁桃の病理所見で、多数の泡沫細胞が存在し、この少年と姉の血清HDL-Cが極端な低値を示すことが、Fredricksonらによって報告され「タンジール病」と命名された1)。アポA-Iによる細胞からのコレステロール引き抜きに関与するATP-binding cassette transporter A1(ABCA1)の遺伝子異常に起因する極めてまれな疾患で、早発性冠動脈疾患を来すため早期診断が重要である。■ 疫学極めてまれな難病で、世界全体でこれまで約130例程度しか報告がなく2)、有病率はおよそ100万分の1と推定されている。わが国でも報告例は十数家系程度であるが、未診断例も存在する可能性がある。HDL-C値の下位1%未満の集団の10%にABCA1変異が同定されている。■ 病因ABCA1遺伝子は染色体9q31に位置し、その機能喪失型変異によりタンジール病が生じる3)。ABCA1は細胞膜上のコレステロール輸送体で、血中の遊離アポA-IがABCA1に結合し、ABCA1は細胞内から余剰のコレステロールとリン脂質を細胞外へ排出し、アポA-Iに受け渡し、原始HDLである円盤状のpreβ-HDL粒子を形成する役割を担う。本症では、ABCA1の機能喪失によりpreβ-HDL粒子が形成されず、HDL産生が著しく低下する。また、細胞内からのコレステロール搬出が障害された結果、コレステロールエステルが網内系、皮膚、粘膜、末梢神経のシュワン細胞などの細胞内に異常蓄積し、多臓器で泡沫細胞が出現して機能障害や細胞死を引き起こす。骨髄、肝、脾、リンパ節、皮膚、大腸粘膜、平滑筋などに泡沫細胞が認められ、その結果種々の症状を来す。■ 症状1)臓器腫大と機能障害コレステロールエステルの異常沈着は全身の網内系臓器や粘膜に及ぶため、多彩な臓器腫大・障害が生じる。主な所見は以下のとおりである。(1)オレンジ色扁桃腫大:扁桃は分葉・腫大し、明らかなオレンジ色または黄~灰色の表面を持つ。再発性扁桃炎や扁桃摘出の病歴がしばしば認められる(図1)。(2)肝脾腫:肝腫大は約3分の1に認めるが、肝機能障害は通常軽微である。脾腫は約半数で認められ、軽度の血小板低下症と網状赤血球増加を伴う。脾臓・肝臓への脂質沈着により腹部膨満や肝脾腫が身体診察で認められる。(3)その他臓器へのコレステロールエステル蓄積:リンパ節、胸腺、腸管粘膜、皮膚などで、組織学的には泡沫細胞浸潤として確認される。大腸粘膜沈着に起因する難治性の慢性下痢を呈したまれな症例もある。(4)眼病変:角膜へのコレステロール沈着により角膜混濁(角膜の乳白色の濁り)を来す。多くは軽度で視力障害は生じないが、進行すると視力低下を来す可能性がある。網膜にも色素変性様所見(斑点状の色素沈着)が報告されている。(5)血液・骨髄:血中HDL欠損に伴い赤血球形態異常(棘状赤血球や口裂赤血球など)が報告されており、軽度の溶血性貧血を伴う例もある。骨髄生検では泡沫化マクロファージの貯留像を認める。図1 タンジール病患者のオレンジ色扁桃A:舌扁桃 B:咽頭扁桃(文献2より引用)画像を拡大する2)末梢神経障害軽度から重症までさまざまな末梢神経障害が報告されている。知覚障害、運動障害または混合障害が、一過性または持続性に出現する。小児~若年期から発症し、シュワン細胞内へのコレステロール沈着により髄鞘脱落を起こし、多彩な神経症候を呈する。深部知覚や腱反射の低下はまれで、脳神経を含む末梢神経の再発性非対称性障害や下肢に強い対称性の末梢神経障害や脊髄空洞症様の末梢神経障害として出現する。3)早発性の動脈硬化性疾患タンジール病(ABCA1遺伝子変異ホモ接合体)中の20%で狭心症・心筋梗塞などの動脈硬化性心血管病変の症状が認められる。さらに35~65歳の本症患者では約44%と対照群(男性6.5%、女性3.2%)と比較すると著しく高頻度である。ただ、ABCA1のミスセンス変異の機能障害の違いにより、動脈硬化の程度は個々の症例により異なる。したがって、各患者での動脈硬化のリスク評価と画像診断が必要である。血管内超音波法(IVUS:intravascular ultrasound)による冠動脈の観察で、強度のびまん性の石灰化病変を認めた報告4)や、全身性の重症の動脈硬化病変を合併した症例の報告2)がある。4)耐糖能異常・2型糖尿病膵β細胞におけるABCA1欠損はインスリン分泌障害を引き起こすことが示されており、本症の患者で耐糖能異常や2型糖尿病を合併しやすい一因と考えられる。ABCA1欠損により、膵島(とくにβ細胞)へのコレステロール蓄積によるインスリン初期分泌能低下が機序と考えられる5)。耐糖能異常や2型糖尿病の管理は心血管リスク低減のためにも重要である。■ 予後タンジール病そのものは先天的代謝異常であり、生涯にわたりHDL欠損状態が続くため、長期療養と経過観察が必要である。適切な管理により小児~成人期まで比較的良好に経過する症例もあるが、若年~中年期での冠動脈疾患発症や脳卒中により生命予後が短縮するケースもある。予後改善には動脈硬化性合併症の予防と早期介入が最も重要であり、患者のQOL維持のためには症状コントロールと包括的なリスク管理を続ける必要がある。とくに、狭心症、心筋梗塞などの早発性冠動脈疾患の発症に留意し、定期的な動脈硬化性疾患のチェックが重要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 一般検査血液検査で脾機能亢進による血小板減少症(巨大血小板性血小板低下症)や溶血性貧血(間接ビリルビンや網状赤血球増加)が見られることがある。空腹時血糖上昇、経口糖負荷試験(OGTT)で耐糖能異常やインスリン初期分泌能の指標であるinsulinogenic index を評価し、インスリン初期分泌低下が認められることがある。■ 特殊検査1)脂質検査タンジール病(変異ABCA1遺伝子ホモ接合体または複合ヘテロ接合体)患者では、血中HDL-Cは通常5mg/dL以下(同定された症例の平均3±3mg/dL)と正常の約6%に低下しており、アポA-I値も10mg/dL以下に低下する。LDLコレステロール(LDL-C)も平均正常値の約37%に低下している。これはABCA1欠損により末梢から肝へのコレステロール逆転送が低下し、肝細胞のコレステロール不足からLDL受容体発現が亢進してLDL-Cが低下するためと考えられる。軽度の高TG血症を認めることが多く、TGに富むレムナントリポ蛋白の増加を認める。近年の研究で、ABCA1欠損が肝臓由来のangiopoietin-like protein 3(ANGPTL3)の分泌増加を招き、これが本症患者でみられる高TG血症に関与する可能性が報告されている。一方、変異ABCA1遺伝子ヘテロ接合体(キャリア)では血中HDL-CおよびアポA-I値は正常者の約50%程度に低下する。2)眼科検査コレステロール蓄積による角膜混濁を認めることがあり、眼科で角膜検査が必須である。3)耳鼻科検査本症に特徴的なオレンジ色の扁桃腫大を認めることがあり、耳鼻科での目視検査が必要となる。幼少~青年期に扁桃の著明な腫大と黄色~橙色調への変色がしばしば最初の兆候として現れる。扁桃は分葉状に肥大し、独特のオレンジ~黄灰色を呈するため「オレンジ色扁桃」と呼ばれる。小児期に反復する扁桃炎や扁桃摘出術の既往を有する患者も少なくない。4)画像・生検所見腹部超音波検査で肝脾腫を検査する。オレンジ色扁桃や肝脾腫、角膜混濁などの身体所見から本症を疑った場合、組織生検で泡沫細胞沈着を確認する。とくに直腸粘膜生検は侵襲が比較的低く有用とされ、粘膜固有層にコレステロールエステルを蓄積して泡沫化したマクロファージの集積像が認められれば支持所見となる。同様の所見は骨髄、生検可能な皮膚、肝・脾、生検可能なリンパ節などでも検出される。5)神経内科的検査末梢神経障害精査のため神経伝導速度や筋電図検査で神経障害の分布・程度を評価する。6)早発性動脈硬化性疾患の有無の評価早発性動脈硬化性疾患の有無の精査のため、運動負荷心電図、経胸壁心臓超音波検査、頸動脈エコーや冠動脈CTスキャン検査などで、動脈硬化病変のスクリーニングを行う。無症状でも思春期以降は定期的に心血管評価を実施し、動脈硬化性疾患の発症防止と早期発見に努める。家族内発症が疑われる場合は保因者(ヘテロ接合体)に対する脂質検査によるスクリーニングも重要である。■ 確定診断遺伝子診断でABCA1(ATP-binding cassette transporter A1)遺伝子変異(ホモ接合または複合ヘテロ接合体)を認める。常染色体優性遺伝でHDL-Cが著減するfamilial HDL deficiency(ABCA1遺伝子変異のヘテロ接合体やアポA-I遺伝子変異で起こり、早発冠動脈疾患を合併し、タンジール病のような全身性のコレステロール沈着[オレンジ扁桃・肝脾腫・神経障害]は伴わない)との鑑別が必要である。以下に、厚生労働省難治性疾患政策研究事業「原発性脂質異常症に関する調査研究班」による本症の診断基準を示す。難病情報センターのホームページ「タンジール病」より引用した(2026年1月20日)。最新の情報については、当該ホームページまたは厚生労働省「原発性脂質異常症に関する調査研究班」のホームページで確認いただきたい。【タンジール病の診断基準】Definite、Probableを対象とする。A.必須項目1)血清HDLコレステロールが25mg/dL未満2)血中アポA-I濃度20mg/dL未満B.症状1.オレンジ色の特徴的な扁桃腫大2.肝腫大または脾腫3.角膜混濁4.末梢神経障害5.動脈硬化性心血管病変C.鑑別診断以下の疾患を鑑別する。レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)欠損症、アポリポタンパクA-I欠損症、二次性低HDLコレステロール血症*1*1:外科手術後、肝障害(とくに肝硬変や重症肝炎、回復期を含む)、全身性炎症疾患の急性期、がんなどの消耗性疾患など、過去6ヵ月のプロブコールの内服歴、プロブコールとフィブラートの併用(プロブコール服用中止後の処方も含む)HDL-C<25mg/dLの場合、低HDL-C血症の診断フローチャート(図2)6)に従って、二次性低HDL血症を除外し、他の原発性低HDL血症である、古典的LCAT欠損症、魚眼病、アポA-I欠損症を鑑別して診断する(表)6)。遊離コレステロールは増加しておらず、アポA-Iが20mg/dL未満であるが検出限界以下ではない場合、タンジール病が強く疑われる。D.遺伝子検査ABCA1遺伝子変異の同定。ABCA1遺伝子解析が2021年4月に保険収載されている。<診断のカテゴリー>Definite必須項目の2項目をすべて満たす例のうち、Bの1項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外し、Dを満たすもの。Probable必須項目の2項目をすべて満たす例のうち、Bの2項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの。図2 遺伝性HDL欠損症の診断フローチャート(文献6より引用)表 遺伝性HDL欠損症の臨床所見の比較(文献6より引用)画像を拡大する3 治療HDL-C低値そのものを直接是正する薬剤は存在しない。また、現在のところ、遺伝子治療によるABCA1の補充などの根本的な治療はなく、臨床で利用可能な特異的治療薬は存在しない。過去にナイアシン(ニコチン酸)薬やフィブラート系薬がHDL-C上昇の目的で試みられたが、タンジール病ではABCA1欠損が根本原因のため薬物でのHDL-C正常化は困難であり、有効性を支持する明確なエビデンスはない。粥状動脈硬化性疾患の著しい増加が問題となるので、心血管リスクを下げる目的でHDL-Cを可能な範囲で増加させるための生活習慣の改善が推奨される。具体的には、有酸素運動、適正体重の維持、禁煙に加え、食事では飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に置き換える(地中海食的なアプローチ)ことなどが推奨される。これらによりHDL-Cが僅かに上昇し得るほか、末梢神経症状の改善が報告されている。高TG血症を伴う場合にはフィブラート系薬、選択的PPARαモジュレーターのペマフィブラート(商品名:パルモディア)や魚油製剤の使用を検討する。本症の血清LDL-C値は一般に低いが、もしそうでない場合はスタチンあるいはそのほかの薬でLDL-C値を低下させる。治療目標は症状軽減と動脈硬化危険因子の管理に置かれ、高血圧があれば厳格な降圧、喫煙者には禁煙指導を行い、すべての心血管リスク因子を包括的に管理する。血糖コントロールのための食事・運動療法(必要に応じ経口血糖降下薬やインスリンなど)も糖尿病合併例では重要となる。さらに、合併する早発性動脈硬化性疾患の早期発見と治療も行う。一方、タンジール病に伴う各臓器・組織の症状には、必要に応じて対症的・外科的介入を行う場合がある。扁桃肥大による呼吸・嚥下障害や反復炎症がある場合、扁桃摘出術を検討する。オレンジ色扁桃そのものは病的ではないが、大きさにより気道狭窄や感染温床となる場合がある。角膜混濁が進行し、視力障害を来した場合には角膜移植が考慮されるが、タンジール病の角膜混濁は軽度で視機能に問題はない例が多く、定期フォローに留めることもある。末梢神経障害に対してはリハビリテーションと支持療法を行う。筋力低下や足下垂に対しては装具装着(足関節装具など)や理学療法による歩行補助を行う。痛みやしびれが強い場合は、プレガバリンやデュロキセチンといった神経障害性疼痛の薬物療法を用いることもあるが、エビデンスは症例報告レベルである。なお、本症は2015年から「指定難病 261」として、医療費給付の対象となっている。4 今後の展望(治験中・研究中の診断法や治療薬剤など)将来的な治療法として遺伝子治療が期待されている。たとえば、肝臓におけるABCA1発現をウイルスベクターなどで補充し、HDL産生を回復させる試みが提案されている。ただし、HDL代謝は全身の細胞で営まれるため、肝細胞への遺伝子導入だけでどこまで臨床効果が得られるかは不明である。また、アポA-Iや合成HDLの補充療法、肝X受容体(LXR)作動薬による残存ABCA1の発現誘導なども理論上考えられるが、いずれも現時点では成功していない。総じて現時点では対症療法と合併症予防が中心であり、新規治療法の実現には今後の研究の進歩が必要である。5 主たる診療科(紹介すべき診療科) 患者の予後は主に動脈硬化性疾患の発症に左右されるため、長期的には主に循環器内科で心血管イベント予防に重点を置きつつ、管理を行う。神経障害やその他臓器合併症への対策を継続するために多職種チーム医療が重要であり、循環器内科医、脳神経内科医、眼科医、消化器科医、遺伝カウンセラーなどが連携して患者を包括的にケアする。また、定期フォローアップでは以下の点に留意する。1)早発性動脈硬化性疾患のモニタリング若年期より定期的な循環器内科的評価を行う。具体的には詳細な問診・診察に加え、必要に応じて心電図や心エコー、運動負荷試験、頸動脈エコー、冠動脈CTなどで無症候性の動脈硬化病変のスクリーニングを行う。血清脂質、血糖、血圧、喫煙の有無のチェックも継続し、LDL-C、TGや血圧が管理目標を逸脱していれば治療を行う。2)末梢神経障害の管理神経症状は進行したり寛解したりするため、脳神経内科医による神経学的評価を定期的に行い、筋力低下や感覚障害の変化をモニタリングする。必要に応じてリハビリ計画を見直し、装具の調整や痛みのコントロールを図る。重度の神経障害に対しては日常生活動作のサポート(理学療法士・作業療法士の介入、補助具導入など)も検討する。3)眼合併症の管理眼科検査を定期施行し、角膜混濁の進展や視力変化を評価する。角膜混濁による視力障害が生じれば眼科的介入のタイミングを検討する。4)脾腫・感染症対策脾摘を施行した場合は感染症予防を徹底する。脾腫を温存している場合も、脾臓破裂を防ぐため、激しいスポーツ時のプロテクター装着や事故防止策について指導する。5)家族検査とカウンセリング患者の血縁者に対しては遺伝カウンセリングを提供し、希望があれば保因者検査(ABCA1遺伝子検査や脂質検査)を実施する。ヘテロ接合体では動脈硬化リスクがやや高い可能性もあるため、生活習慣指導を行う。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報、主要な研究グループ、その他参考となるサイト)診療、研究に関する情報厚生労働省難治性疾患政策研究事業「原発性脂質異常症に関する調査研究」(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター タンジール病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本動脈硬化学会(編):動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド 2023年版 「低脂血症の診断と治療」 日本動脈硬化学会(2023年6月30日発行)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)大阪大学医学部附属病院循環器内科(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)りんくう総合医療センター循環器内科  (一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報) 1) Fredrickson DS, et al. Ann Intern Med. 1961;55:1016-1031. 2) Muratsu J, et al. J Atheroscler Thromb. 2018;25:1076-1085. 3) Brooks-Wilson A, et al. Nat Genet. 1999;22:336-345. 4) Komuro R, et al. Circulation. 2000;101:2446-2448. 5) Koseki M, et al. J Atheroscler Thromb. 2009;16:292-296. 6) 日本動脈硬化学会(編). 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド 2023年版. 低脂血症の診断と治療. 日本動脈硬化学会. 2023. 公開履歴初回2026年2月16日

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認知症の修正可能な14因子、日本人で影響が大きいのは?

 Lancet委員会では、2017年より認知症の修正可能なリスク因子に関する研究結果を報告しており、最新の研究結果は2024年に公開されている。そこでは、修正可能なリスク因子として14因子が挙げられ、難聴と高LDLコレステロール(LDL-C)が最も影響の大きな因子とされた1)。では、これらの因子の日本人における影響はどうだろうか。その疑問に答える研究結果が、和佐野 浩一郎氏(東海大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科 教授)らによって、The Lancet Regional Health – Western Pacific誌2026年1月号で報告された。本研究では、日本人は難聴が最も影響が大きく、14因子を合計すると最大で38.9%(グローバル研究は45%)が理論上予防可能であることが示された。 研究グループは2024年のLancet委員会の報告に基づき、14の修正可能なリスク因子(教育歴の低さ、難聴、高LDL-C、うつ、外傷性脳損傷、身体不活動、糖尿病、喫煙、高血圧、肥満、過度の飲酒、社会的孤立、大気汚染、未治療の視力低下)を調査対象とした。日本の国民健康・栄養調査や大規模コホート研究などのデータを用いて、各リスク因子の日本国内での該当割合を推定し、集団寄与危険割合(PAF)※1 および潜在的影響割合(PIF)※2 を算出した。これにより、本邦における認知症予防の潜在的規模を定量的に評価した。※1:あるリスク因子が存在しなかったと仮定した場合に、どれだけの割合で疾患発生が予防できた可能性があるかを示す指標※2:あるリスク因子を一定割合減らしたと仮定した場合に、どれだけの割合で疾患発生が減少する可能性があるかを示す指標 主な結果は以下のとおり。・全14因子を考慮した場合、認知症の38.9%が理論上予防可能であると推計された。影響が大きい因子(PAFが大きい因子)は、難聴、身体不活動、高LDL-Cであった。詳細は以下のとおり(括弧内はグローバル研究の数値を示す)。<早期(early life)>教育歴の低さ:1.5%(5%)<中年期(midlife)>難聴:6.7%(7%)身体不活動:6.0%(2%)高LDL-C:4.5%(7%)糖尿病:3.0%(2%)高血圧:2.9%(2%)うつ:2.6%(3%)喫煙:2.2%(2%)過度の飲酒:1.3%(1%)外傷性脳損傷:0.8%(3%)肥満:0.7%(1%)<老年期(late life)>社会的孤立:3.5%(5%)大気汚染:2.5%(3%)未治療の視力低下:0.6%(2%)・PIFについて、危険因子を一律に10%低減させた場合は4.7%(約20.8万人)の認知症が予防され、20%低減の場合は9.2%(約40.8万人)予防されると推計された。 本研究結果について、著者らは「日本における認知症予防戦略として、とくに聴覚ケア、身体活動の促進、代謝関連疾患の管理を優先すべきであることを示唆している。2024年に施行された認知症基本法や今後の認知症施策の具体化に向けて、これらの知見が科学的根拠として活用されることが期待される」とまとめている。

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食事からの重金属摂取は2型糖尿病の発症因子か/国立環境研

 糖尿病の発症には、遺伝、環境、生活習慣因子などさまざまな原因がある。とくに食生活において海産物を多く摂取する日本人は、魚介類からごく微量の重金属も摂取している可能性がある。こうした重金属の摂取が、2型糖尿病の発症のリスク因子となるのであろうか。このテーマに関し、国立健康危機管理研究機構 臨床研究センター 疫学・予防研究部の伊東 葵氏らの研究グループは、健康診断の血液サンプルを用いて、水銀、鉛などと2型糖尿病発症との関連性を検討した。その結果、血清水銀濃度が高いほど2型糖尿病のオッズ比が高いことが判明した。この結果は、Clinical Nutrition誌2026年2月号に掲載された。水銀が2型糖尿病発症のリスク因子になる可能性 研究グループは、血清中の水銀、鉛、カドミウム、ヒ素と2型糖尿病発症との関連性を明らかにすることを目的に、2008~09年に人間ドックを受けた日本人勤労者4,754例を対象としたネステッドケースコントロール研究を行った。研究では、カドミウム、鉛、水銀、ヒ素濃度を誘導結合プラズマ質量分析法で測定した。2型糖尿病の発症は、5年間の追跡期間中に血漿グルコースやHbA1cが基準を満たした場合、または自己申告により判断した。発生密度法を用い、各症例に対し年齢、性別、ドック受診時期を基準に2例の対照群を無作為にマッチングした結果、2型糖尿病を発症した325例と対照群611例が得られた。その後、条件付きロジスティック回帰モデルを用いて、各重金属濃度の四分位群ごとに2型糖尿病のオッズ比と95%信頼区間を推定した。 主な結果は以下のとおり。・職業区分、交代勤務、喫煙、飲酒、余暇の身体活動、糖尿病家族歴、BMI、高血圧、および血清中長鎖ω3脂肪酸、ビタミンD、マグネシウム、セレン、鉛、カドミウム、ヒ素濃度を調整後も、血清水銀濃度が高いほど2型糖尿病のオッズ比は高かった。・血清水銀濃度の最低から最高四分位におけるオッズ比(95%信頼区間)は、それぞれ1(基準値)、1.15(0.70~1.90)、 1.41(0.85~2.36)、1.98(1.13~3.47)だった(P=0.01)。・カドミウム、鉛、ヒ素と2型糖尿病発症との間に関連は認められなかった。 なお、研究グループは、「血中水銀濃度が食事からの摂取量を直接反映するものではなく、水銀曝露あるいは魚摂取と2型糖尿病との関連についてはさらなる研究が必要」と述べている。

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第48回 世界のがんの4割は予防可能。しかし日本には「欧米とは異なる」決定的なリスク構造がある

今月、Nature Medicine誌に非常に示唆に富む研究結果が報告されました1)。この研究は、世界185ヵ国のがん罹患データ(GLOBOCAN 2022)をもとに、修正可能なリスク要因が、どのがんの負担にどれほど寄与しているかを包括的に解析したものです。日々の診療で私たちが接するがん患者さんの中には、「なぜ自分が」と運命を呪う方も少なくありません。しかし今回のデータは、世界で新たに診断されたがんの約37.8%、実に4割近くが、理論上は「防ぐことのできたがん」であることを示唆しています。今回はこの論文の要点と、日本を含む東アジア特有の事情、そして解釈上の限界について、共有したいと思います。潜伏期間まで考慮した、より「リアル」な推計これまでもGlobal Burden of Disease研究などで同様の解析は行われてきましたが、今回の研究にはいくつかのユニークな強みがあります。まず、評価対象とするリスク要因の包括性です。喫煙やアルコール、BMIといった代謝・行動要因だけでなく、これまでの研究では除外されがちだった「感染症(ピロリ菌、HPV、肝炎ウイルス等)」や「紫外線」を含む30もの要因を網羅しています。さらに特筆すべきは、曝露から発がんまでのタイムラグ、いわゆる「潜伏期間」をモデルに組み込んでいる点です。多くのがんにおいて、現在の罹患率は「今」ではなく「過去」の生活習慣の結果です。そこで研究チームは、10年前の曝露状況などのデータを用いることで、因果関係の推定精度をより高めようと試みています。世界と異なる「東アジア」のリスク構造解析の結果、世界全体ではがんの約4割が予防可能なリスク要因に起因しており、とくに男性ではその割合が約半数(45.4%)に達することがわかりました。女性は約3割(29.7%)です。この性差は、主に喫煙率とアルコール摂取量の男女差を反映していると考えられます。ここで、私たち日本人の医療者がとくに注目すべきデータがあります。地域別の解析を見ると、高所得国グループの中でも、欧米と東アジアではリスクの顔ぶれが大きく異なるのです。欧米諸国では、喫煙、高BMI(肥満)、アルコールが主要なリスク要因となっています。一方で、日本を含む東アジア地域では、依然として「感染因子」による疾病負担がきわめて高い水準にあります。具体的には、胃がんの主因であるヘリコバクター・ピロリ、肝細胞がんの主因である肝炎ウイルス(HBV/HCV)、そして子宮頸がん等に関与するヒトパピローマウイルス(HPV)です。これらががん負担の大きな部分を占めているという事実は、日本の臨床現場における感染症対策(具体的には、ピロリ菌の除菌、肝炎ウイルスの拾い上げ、そしてHPVワクチンの普及)が、がん予防において依然として重要であることを如実に物語っています。もちろん、食の欧米化に伴い、高BMIによるリスクも年々増加傾向にあります。感染症対策の手を緩めず、同時に肥満などの代謝リスクへも介入していくという、「二刀流」が私たちには求められているといえるでしょう。研究データの解釈における「限界」非常に精緻な研究ではありますが、解釈にあたっては、いくつかの限界も念頭に置く必要があります。まず挙げられるのが、データの質の地域差です。世界185ヵ国すべてにおいて高品質なリスク曝露データが揃っているわけではなく、一部の国や地域では推計モデルに依存しているため、数値の精度にはばらつきがある可能性があります。また、潜伏期間の設定についても課題が残ります。本研究では多くの要因で一律に「10年」という潜伏期間を設定して解析していますが、実際の発がんプロセスはがん種や要因によって千差万別です。10年という期間設定が、必ずしもすべての病態を正確に反映しているとは限らない点には注意が必要です。さらに、今回は各リスク要因の影響を足し合わせるモデルを基本としています。しかし実際の生体反応では、たとえば「喫煙」と「アスベスト曝露」が組み合わさることでリスクが跳ね上がるといった相互作用が起こりえます。こうした複合的なシナジー効果については、今回の数値には十分に反映されていない可能性があり、実際のリスクはさらに高いかもしれません。臨床現場への示唆こうした限界はあるものの、この研究が私たちに提供してくれているものの価値は揺らぎません。がんの4割は、運ではなく、対策可能なリスクによって引き起こされているのです。患者さんへの生活指導において、禁煙や節酒の重要性を伝えることはもちろんですが、東アジア特有のリスクである感染症への介入を徹底することが、将来のがんを減らす価値のある投資になります。私たち医療従事者が、このエビデンスを日々の診療や啓発活動に落とし込んでいくことが、10年後、20年後の日本の「がんの風景」を変えることにつながるのかもしれません。 1) Fink H, et al. Global and regional cancer burden attributable to modifiable risk factors to inform prevention. Nat Med. 2026 Feb 3. [Epub ahead of print]

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PFAS曝露が若者の脂肪性肝リスクを3倍に高める?

 「永遠の化学物質」と呼ばれている有機フッ素化合物(PFAS)によって、若者が代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)を発症するリスクが約3倍上昇する可能性のあることが、新たな研究で示された。PFASの一種であるペルフルオロオクタン酸(PFOA)の血中濃度が2倍高まるごとにMASLD発症のオッズが2.7倍上昇するとの結果が得られたという。米南カリフォルニア大学(USC)ケック医学校ポピュレーションヘルス・公衆衛生科学および小児科学教授のLida Chatzi氏らによるこの研究の詳細は、「Environmental Research」1月1日号に掲載された。 Chatzi氏は、「MASLDは、深刻な健康問題を引き起こすようになるまで、何年にもわたって自覚症状なく進行する可能性がある。思春期に肝臓で脂肪が蓄積し始めると、それが生涯にわたる代謝および肝臓の健康問題の基になってしまいかねない。早期にPFASへの曝露を抑えることができれば、将来の肝疾患の予防につながるかもしれない。これは公衆衛生上、極めて大きなチャンスになる」と述べている。 PFASは炭素とフッ素が強固に結合した化合物で、「永遠の化学物質」との異名の通り、除去や分解は極めて困難である。PFAS化合物は1940年代以降、泡消火薬剤や焦げ付き防止調理器具、食品の包装紙、汚れ防止加工の家具、防水性の衣類など、さまざまな製品に使用されてきた。Chatzi氏らによると、米国人の99%以上で血液中に測定可能なPFASが存在している。また、米国で供給されている飲料水のほぼ半分に、少なくとも1種類のPFAS化学物質が含まれているという。 今回の研究では、USCの2つの先行研究の一環で収集された南カリフォルニア在住の284人(SOLARコホート:8〜13歳の162人、Meta-AIRコホート:17〜23歳の122人)の青少年と若年成人のデータが分析された。全ての参加者が2型糖尿病または過体重の親を持ち、すでに代謝疾患のリスクが高い状態にあった。PFASの血中濃度は血液検査で測定され、肝臓の脂肪量はMRI検査によって評価された。 その結果、PFOAの血中濃度が倍増するごとに、MASLDオッズが約2.7倍(オッズ比2.69、95%信頼区間1.16〜6.26)高まり、この影響は、年齢が高いほど強まることが示された。さらに、喫煙習慣がある若者や、肝臓の脂肪蓄積に関与する遺伝的変異(PNPLA3高リスクアレル)保有者では、そのリスクがさらに高まることも判明した。 Chatzi氏は、「PFAS曝露は肝臓の生物学的機能を阻害するだけでなく、若者の肝疾患リスクにつながる。思春期は特に影響を受けやすい重要な時期であると見られ、肝臓がまだ発達しつつある段階でのPFAS曝露は最も強い影響を及ぼす可能性があることが示唆される」と述べている。 論文の筆頭著者である米ハワイ大学公衆衛生科学分野のShiwen “Sherlock” Li氏は、「特に思春期は発達と成長の重要な時期であることから、PFASがもたらす健康への影響を受けやすい」とニュースリリースの中で指摘。また同氏は、「PFAS曝露は肝疾患だけでなく、いくつかの種類のがんを含むさまざまな有害な健康アウトカムに関連していることが示されている」と述べている。 共著者の1人であるUSCケック医学校ポピュレーションヘルス・公衆衛生科学分野のMax Aung氏は、「この研究結果は、ライフステージに応じたPFAS曝露、遺伝的要因、そして生活習慣要因の相互作用が、MASLDの発症リスクに影響していることを示唆している。遺伝と環境の相互作用について解明を進めることは、MASLDのためのプレシジョン・エンバイロメンタル・ヘルスの発展の一助になる」とニュースリリースの中で述べている。

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