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10人に1人が糖尿病疑い、男性は3割が肥満/国民健康・栄養調査2024

 厚生労働省は2025年12月2日、「令和6年国民健康・栄養調査」の結果概要を発表した。この調査は、健康増進法に基づき毎年実施され、2024年10〜11月に日本全国から無作為に選ばれた約1万世帯が、身体・栄養摂取状況、生活習慣についての調査に回答した。結果の要点は以下のとおり。【糖尿病】推計有病者は約1,100万人、治療中は約7割にとどまる・HbA1c値と自己申告に基づく推計によると、「糖尿病が強く疑われる者」は約1,100万人と推計され、1997年以降、一貫して増加している。一方、「糖尿病の可能性を否定できない者」は約700万人で、こちらは2007年をピークに減少傾向を示した。・20歳以上の「糖尿病が強く疑われる者」の割合は12.9%(男性17.7%、女性9.3%)、「糖尿病の可能性を否定できない者」は男女とも8.2%であった。「糖尿病を指摘された経験がある者」のうち現在治療を受けている者の割合は67.4%と3分の2にとどまり、とくに30〜40代において相対的に未治療率が高かった。【体格】若年女性のやせと高齢者の低栄養傾向が並存・20歳以上で適正体重を維持している者(BMI:18.5以上25未満、65歳以上は20超25未満)は60.7%で、20〜60代男性では肥満者(25以上)が34.0%、40〜60代女性では20.2%であった。・一方、20〜30代女性のやせ(18.5未満)は16.6%と依然として高い割合を示し、さらに65歳以上の低栄養傾向(20以下)は19.5%と、高齢者の栄養リスクも顕著であり、若年層のやせと高齢者の栄養不良が同時に進む様相が明確になった。【食習慣】減塩・野菜・果物の摂取は依然として目標未達・主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を「1日2回以上、ほぼ毎日」摂っている者は52.8%で、男女とも20代が最も低かった。・食塩摂取量は依然として多く、平均9.6g/日(男性10.5g、女性8.9g)で、「健康日本21」が掲げる目標値7gを大きく上回った。・野菜摂取量は平均258.7g/日(男性268.6g、女性250.3g)で目標値の350gに届かず、果物は平均78.1gと、こちらも目標値200gの半分以下だった。【身体活動・睡眠】運動習慣は約3割、歩数は目標をほぼ達成・「運動習慣のある者」(30分以上の運動を週2回以上、1年以上継続)は34.6%(男性38.5%、女性31.5%)、男女とも30~40代でとくに低かった。・歩数の全国平均は7,071歩/日(男性7,763歩、女性6,495歩、年齢調整値7,231歩)で、年齢調整後の目標値7,100歩をおおむね達成した。一方、65歳以上では男女とも平均歩数が大きく減少した。・睡眠では、「睡眠で休養がとれている」と回答した者が79.6%、睡眠時間が適正範囲(成人6〜9時間、60歳以上6〜8時間)なのは56.0%であった。【喫煙・飲酒】加熱式タバコが4割超、60代男性は2割が問題量の飲酒・「習慣的に喫煙している者」は14.8%(男性24.5%、女性6.5%)で、うち加熱式タバコの割合が男性41.4%、女性44.2%に達し、紙巻タバコとの併用者も一定数存在した。・生活習慣病のリスクを高める量の飲酒(純アルコール摂取量が男性40g/日以上、女性20g/日以上)をしている者の割合は全体で11.4%(男性13.9%、女性9.3%)。とくに60代の男性(21.6%)と50代の女性(18.4%)で割合が高かった。

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代謝異常を伴う脂肪肝「MASLD」、慢性腎臓病の独立リスクに

 新しい脂肪肝の概念「MASLD;代謝機能障害関連脂肪性肝疾患」が、慢性腎臓病(CKD)の独立したリスク因子であることが国内研究で示された。単一施設の約1.6万人の健康診断データを解析したもので、MASLDの早期発見や管理の重要性が改めて示された。研究は京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科学の大野友倫子氏、濱口真英氏、福井道明氏、朝日大学病院の大洞昭博氏、小島孝雄氏らによるもので、詳細は10月17日付で「PLOS One」に掲載された。 日本では食生活の欧米化に伴い肥満が増加し、非アルコール性脂肪肝(NAFLD)の有病率も上昇している。NAFLDは主に内臓脂肪やインスリン抵抗性と関連し、糖尿病や心血管疾患などの代謝異常を伴うことが多い。2020年には、こうした代謝背景を重視する形でNAFLDはMAFLDとして再定義され、日本の大規模コホート研究ではCKDの独立したリスク因子であることが報告された。さらに2023年、国際的専門家パネル(Delphiコンセンサス)により、より包括的でスティグマの少ない概念としてMASLDへと名称が変更され、少なくとも1つの心血管代謝リスク(BMI、血糖値、HDL-C値など)を伴う脂肪肝と定義された。本研究は、この新しい定義によるMASLDがCKD発症の独立したリスク因子となるかを明らかにすることを目的に、人間ドック受診者を対象とした縦断的コホート解析として実施された。 本研究では、岐阜県の朝日大学病院で実施されているNAFLDの縦断的解析(NAGALA Study)に基づき、1994~2023年の間に人間ドックを受けた1万5,873人を解析対象とした。ベースライン時点で肝疾患を有する者、またはCKD(推算糸球体濾過量〔eGFR〕<60mL/分/1.73m2、もしくはタンパク尿〔+1~+3〕が少なくとも3か月持続)と診断された者は除外した。参加者はアルコール摂取量、心血管代謝リスク、脂肪肝の有無によりグループ1~8までのカテゴリーに分類された。主要評価項目は、5年間の追跡期間中におけるCKDの新規発症率とし、ロジスティック回帰分析によりMASLDとCKD発症との関連を評価した。 解析対象の9,318人(58.7%)が男性で、平均年齢は43.7歳だった。追跡期間中のCKD新規発症率は、アルコール摂取が閾値以下で心血管代謝リスクおよび脂肪肝を認めないグループ1で最も低く(4.7%)、MASLDと診断されたグループ8で最も高かった(9.5%)。 次に、ベースライン時の年齢、性別、eGFR、喫煙習慣、運動習慣で調整した多変量解析を実施した。その結果、グループ1と比較して、MASLDと診断されたグループ8でのみCKD新規発症のオッズ比(OR)が有意に上昇した(OR 1.37、95%信頼区間〔CI〕1.12~1.67、P=0.002)。さらに、年齢(OR 1.04、95%CI 1.03~1.05、P<0.001)およびベースライン時のeGFR(OR 0.88、95%CI 0.87~0.89、P<0.001)も、CKDの有意な予測因子として同定された。 著者らは、「MASLDは、これまでのNAFLDを包含する新しい疾患概念として、CKD発症リスクを独立して高める可能性がある。特に日本に多い『非肥満型MASLD』では、腎機能低下リスクに注意が必要だ。今後は、筋肉量の影響を受けない腎機能指標を用いたリスク評価や、個別化された介入の検討が求められる」と述べている。 なお、本研究の限界点としては、参加者が岐阜県の人間ドック受診者に限られ、選択バイアスの可能性があること、食事内容や食後血糖などのデータが欠如している点などを挙げている。

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夕食時間が蛋白尿に影響、時間帯や患者特性は?

 蛋白尿や微量アルブミン尿は、心血管疾患および全死亡リスク上昇との関連が報告されている。また、いくつかの研究で、夕食時間の遅さと蛋白尿との関連が報告されているが、患者特性などは明らかにされていない。そこで今回、りんくう総合医療センター腎臓内科の村津 淳氏らは、夕食時間の遅さが蛋白尿を来すことを明らかにし、とくに低BMIの男性で強く関連することを示唆した。本研究結果はFront Endocrinol誌2025年11月10日号に掲載された。 研究者らは、夕食時間の遅さと蛋白尿の出現との関連を評価するため、りんくう総合医療センターの健康診断データを用い、推定糸球体濾過量(eGFR)60mL/分/1.73m2以上で腎疾患の既往のない2,127人(男性1,028人、女性1,099人)を対象に横断研究を実施。週3日以上、就寝前2時間以内に夕食を取った参加者を夕食時間が遅い群と定義した。夕食時間による蛋白尿の影響は、臨床的関連因子(年齢、性別、喫煙歴、飲酒歴、既往歴など)を調整したロジスティック回帰モデルを用いて評価した。また、これまでに報告された横断研究では、蛋白尿の有病率はBMI(kg/m2)とJ字型関係を示していることから、今回、男女別でBMIと腹囲を各3群に区分。BMIは、男性では22.3未満、22.3~24.9、24.9以上に分け、女性では20.3未満、20.3~23.0、23.0以上と分けた。腹囲(cm)は、男性は83.0未満、83.0~90.1、90.1以上、女性は75.0未満、75.0~83.5、83.5以上として評価した。 なお、「蛋白尿陽性」は尿試験紙法で蛋白尿±以上と定義した。その理由として、尿蛋白±が微量アルブミン尿に相当し、糸球体障害の早期段階や心血管リスクの上昇を反映することから、早期腎障害も評価に含めるためとしている。 主な結果は以下のとおり。・夕食時間が遅かったのは、男性297人(28.9%)、女性176人(16.0%)であった。・多変量調整後のロジスティック回帰分析の結果、夕食時間の遅さは男性の蛋白尿の出現率に有意に関連し、臨床的関連因子調整後も低BMI(BMI24.9kg/m2未満)の男性で有意であった(調整オッズ比は、それぞれ3.57[1.34~9.48]、3.15[1.22~8.13])。・BMI、腹囲が共に低いほど蛋白尿と有意な関係を認めた。・BMIが24.9kg/m2以上の高BMIではこの関連は認められなかった。

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ESMO2025レポート 肺がん(後編)

レポーター紹介2025年10月17~21日に、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)がドイツ・ベルリンで開催された。善家 義貴氏(国立がん研究センター東病院)が肺がん領域における重要演題をピックアップし、結果を解説。後編では、Presidential symposiumの2演題とドライバー陰性切除不能StageIII非小細胞肺がん(NSCLC)の1演題、進展型小細胞肺がん(ED-SCLC)の1演題を取り上げ、解説する。前編はこちら[目次]Presidential symposium1.HARMONi-62.OptiTROP-Lung04ドライバー陰性切除不能StageIII NSCLC3.SKYSCRAPER-03ED-SCLC4.DeLLphi-303Presidential symposium1.進行扁平上皮NSCLCの初回治療として、化学療法+チスレリズマブと化学療法+ivonescimabを比較する第III相試験:HARMONi-6本試験は、StageIII~IVでEGFR、ALK遺伝子異常のない、未治療進行扁平上皮NSCLCを対象に、標準治療群としてカルボプラチン(AUC 5、Q3W)+パクリタキセル(175mg/m2、Q3W)+チスレリズマブ(PD-1阻害薬)と、試験治療群のカルボプラチン+パクリタキセル+ivonescimab(20mg/kg、Q3W)を比較する第III相試験で、中国のみで実施された。ivonescimabは、PD-1とVEGFを標的とする二重特異性抗体である。ivonescimab群と標準治療群にそれぞれ266例ずつ割り付けられ、患者背景は両群でバランスがとれていた。扁平上皮NSCLCでは一般的に抗VEGF抗体が使用されない、中枢病変や大血管浸潤、空洞のある患者や喀血の既往歴がある患者も含まれた。今回の発表は、事前に規定された中間解析の結果であり、観察期間中央値は10.28ヵ月であった。主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)の中央値は、ivonescimab群/標準治療群で11.14ヵ月/6.9ヵ月(ハザード比[HR]:0.60[95%信頼区間[CI]:0.46~0.78]、p<0.0001)であり、ivonescimab群が良好であった。奏効割合(ORR)は75.9%/66.5%(p=0.008)とivonescimab群で高く、PD-L1の発現状況によらずivonescimab群が良好であった。Grade3以上の有害事象は、ivonescimab群/標準治療群で63.9%/54.3%に認められ、治療関連死亡や免疫関連有害事象(irAE)の頻度は両群で大差なく、ivonescimab群でVEGFに関連する毒性を認めたが、多くはGrade1~2であった。<結論>化学療法+ivonescimabは進行扁平上皮NSCLCにおいて、有意にPFSを延長し、今後の新規治療になりうる。<コメント>事前に規定された中間解析で観察期間が短いが、PFSは有意に化学療法+免疫チェックポイント阻害薬(ICI)と比較し延長したことは評価したい。しかしながら、標準治療となるにはOSの延長が必要であり、さらなるフォローアップデータが求められる。2.EGFR-TKI治療後に増悪したEGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対する、プラチナ製剤併用化学療法とsacituzumab tirumotecan (sac-TMT)を比較する第III相試験:OptiTROP-Lung04本試験は、第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)治療後の増悪例、もしくは第1、2世代EGFR-TKI治療増悪後にT790M陰性かつEGFR感受性変異陽性例に対して、化学療法(カルボプラチンまたはシスプラチン+ペメトレキセド)とsacituzumab tirumotecan(sac-TMT:TROP2標的抗体薬物複合体[ADC])(5mg/kg IV、Q2W)を比較する第III相試験である。本試験も中国のみで実施された。sac-TMT群、化学療法群にそれぞれ188例ずつ割り付けられた。患者背景は両群でバランスがとれており、初回治療で第3世代EGFR-TKIによる治療を受けた患者は、sac-TMT群/化学療法群で118例(62.8%)/117例(62.2%)、EGFR遺伝子サブタイプはEx19delが106例(56.4%)/118例(62.8%)、L858Rが84例(44.7%)/71例(37.8%)、脳転移ありは33例(17.6%)/36例(19.1%)であった。主要評価項目であるPFSの中央値は、sac-TMT群/化学療法群で8.3ヵ月(95%CI:6.7~9.9)/4.3ヵ月(同:4.2~5.5)であり、sac-TMT群で有意な延長を認めた(HR:0.49[95%CI:0.39~0.62])。さらにOSは、sac-TMT群/化学療法群で未到達(95%CI:21.5~推定不能)/17.4ヵ月(同:15.7~20.4)であり、こちらもsac-TMT群で有意な延長を認めた(HR:0.60[95%CI:0.44-0.82])。ORRはsac-TMT群/化学療法群で60.6%/43.1%(群間差17.0%[95%CI:7.0~27.1])であった。後治療は72.3%/85.5%で実施された。毒性について、有害事象の頻度は両群で差がなく、sac-TMT群の主な有害事象は貧血(85%)、白血球減少(84%)、脱毛(84%)、好中球数減少(75%)、胃炎(62%)であった。眼関連の有害事象を9.6%に認めたが多くはGrade1~2であり、ILDは認めなかった。<結論>sac-TMTはEGFR-TKI治療後に増悪した進行EGFR遺伝子変異陽性NSCLCにおいて、化学療法と比較してPFS、OSを延長し有望な治療選択となる。<コメント>中国のみで実施された第III相試験で、薬剤の承認にglobal試験の必要性が問われる。今後は同対象への初回治療での試験が進行中であり、進行EGFR遺伝子変異陽性NSCLCの初回治療は目まぐるしく変わっていくと予想される。ドライバー陰性切除不能StageIII NSCLC3.切除不能StageIII NSCLCに対する、プラチナ同時併用放射線治療後のデュルバルマブとアテゾリズマブ+tiragolumabを比較する第III相試験:SKYSCRAPER-03本試験は、EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子異常を除く、切除不能StageIII NSCLCに対して、化学放射線治療(CRT)後に、標準治療であるデュルバルマブ群と試験治療群であるアテゾリズマブ+tiragolumab群を比較する第III相試験である。アテゾリズマブ+tiragolumab群/デュルバルマブ群にそれぞれ413/416例が割り付けられ、患者背景は両群でバランスがとれていた。白人は55.7%/59.6%、PD-L1<1%は49.4%/49.5%、1~49%は25.7%/28.1%、≧50%は24.9%/22.4%、扁平上皮がんは59.1%/59.9%であった。主要評価項目であるPD-L1≧1%集団のPFSの中央値は、アテゾリズマブ+tiragolumab群/デュルバルマブ群で19.4ヵ月/16.6ヵ月(HR:0.96[95%CI:0.75~1.23]、p=0.7586)、副次評価項目であるOSの中央値はアテゾリズマブ+tiragolumab群/デュルバルマブ群で未到達/54.8ヵ月(HR:0.99(95%CI:0.73~1.34)であり、いずれもアテゾリズマブ+tiragolumab群は延長を示せなかった。毒性については、両群で有害事象の頻度に差がなく、アテゾリズマブ+tiragolumab群で掻痒感、皮疹などが多く認められた。<結語>本試験は主要評価項目であるPFSの延長を示せず、新規治療とはならなかった。毒性は新規プロファイルのものはなかった。<コメント>2018年にCRT後のデュルバルマブが標準治療として確立されて7年経過するが、新規治療法の承認がされていない。近年、術前導入化学免疫療法が良好な成績を示しており、StageIII NSCLCの治療戦略は大きく変化している。SCLC4.ED-SCLCに対するプラチナ製剤+エトポシド+PD-L1阻害薬+タルラタマブの治療成績:DeLLphi-303(パート2、4、7)初回治療としてプラチナ製剤+エトポシド+PD-L1阻害薬(アテゾリズマブまたはデュルバルマブ)の併用療法を1サイクル実施したED-SCLC患者を対象に、導入療法と維持療法へのタルラタマブ上乗せの安全性、有効性を確認する第Ib相試験(パート2、4、7)が実施された。96例が登録され、PD-L1阻害薬の内訳はアテゾリズマブ56例(58.3%)、デュルバルマブ40例(41.7%)であった。全体で男性が67%、アジア人が16%、白人が74%、非喫煙者が7%であった。全体で、タルラタマブ開始時からのORR、奏効期間中央値はそれぞれ71%、11.0ヵ月であった。OS中央値は未到達で、1年OS割合は80.6%であった。毒性について、サイトカイン放出症候群(CRS)と免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)は、いずれもサイクル1での発現が多く、ほとんどがGrade1/2であった。タルラタマブに関連した死亡は認められていない。<結論>標準治療であるプラチナ製剤+エトポシド+PD-L1阻害薬および維持療法としてのPD-L1阻害薬へのタルラタマブ上乗せは、有望な治療成績を示した。現在、初回治療におけるプラチナ製剤+エトポシド+デュルバルマブおよび維持療法としてのデュルバルマブと比較するDeLLphi-312試験(NCT07005128)が進行中である。<コメント>タルラタマブは2次治療、初回治療へ順次適応範囲を広げていく予定である。初回治療での化学療法+PD-L1阻害薬との併用は、有効性、安全性ともに問題なく、第III相試験の結果が待たれる。ADC製剤の開発も盛んに行われており、SCLCも治療が数年で目まぐるしく変わっていくと予想される。

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ESMO2025 レポート 肺がん(前編)

レポーター紹介2025年10月17~21日に、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)がドイツ・ベルリンで開催された。善家 義貴氏(国立がん研究センター東病院)が肺がん領域における重要演題をピックアップし、結果を解説。前編として、ドライバー陽性非小細胞肺がん(NSCLC)1次治療で注目の3演題を取り上げ、解説する。後編はこちら[目次]HER2遺伝子変異陽性1.Beamion Lung-12.SOHO-01ALK融合遺伝子陽性3.ALEXHER2遺伝子変異陽性1.進行HER2陽性NSCLCに対するHER2-TKI(ゾンゲルチニブ)の初回治療の報告:Beamion Lung-1本試験の第IB相において、未治療HER2遺伝子変異陽性NSCLCに対するゾンゲルチニブ120mg QDの有効性、安全性が確認された。計74例が登録され、75歳以上が13例(18%)、女性が37例(50%)、非アジア人が33例(45%)、喫煙者が26例(35%)であった。HER2遺伝子変異は、チロシンキナーゼドメイン(TKD)変異のみが対象であり、A775_G776insYVMAが49例(66%)であった。主要評価項目である奏効割合(ORR)は77%(95%CI:66~85)であり、6ヵ月奏効持続割合および6ヵ月無増悪生存(PFS)割合はそれぞれ80%、79%であった。主な有害事象は、下痢40例(3%)、皮疹17例(23%)、ALT上昇13例(18%)、AST上昇12例(16%)であった。Grade3の有害事象は13例(18%)に認められ、Grade3の下痢は2例(3%)であった。<結論>ゾンゲルチニブは、進行HER2遺伝子変異陽性NSCLCの初回治療において、有望な治療成績を示した。現在、初回治療でゾンゲルチニブと化学療法を比較するBeamion Lung-2試験(NCT06151574)が進行中である。<コメント>ゾンゲルチニブは、既治療の進行HER2陽性NSCLCの適応で承認されているが、今後は進行HER2遺伝子変異陽性NSCLCの初回治療での使用が期待される。他剤との使い分けが今後の議論となるが、毒性のマネジメントがしやすいことは良い点である。2.進行HER2陽性NSCLCに対するHER2-TKI(sevabertinib[BAY 2927088])の治療成績:SOHO-01進行HER2遺伝子変異陽性NSCLCを対象に、3つのコホート(コホートD:既治療かつHER2標的治療未治療、コホートE:既治療かつHER2標的抗体薬物複合体[ADC]既治療、コホートF:全身治療未治療)における有効性、安全性を確認する第Ib相拡大コホート試験が実施された。コホートD/E/Fでは、それぞれ81例/55例/73例が登録された。女性が50例(52%)/36例(65%)/46例(63%)、アジア人が57例(70%)/32例(58%)/51例(70%)、非喫煙者が50例(62%)/35例(64%)/57例(78%)、HER2-TKD変異が 73例(90%)/52例(95%)/71例(97%)であった。主要評価項目であるORRは、コホートDが64%(95%信頼区間[CI]:53~75)、コホートEが38%(同:25~82)、コホートFが71%(同:59~81)であった。奏効期間(DoR)中央値およびPFS中央値は、コホートDがそれぞれ9.2ヵ月(95%CI:6.3~13.5)、8.3ヵ月(同:6.9~12.3)、コホートEがそれぞれ8.5ヵ月(同:5.6~16.4)、8.3ヵ月(同:4.3~8.3)、コホートFがそれぞれ11.0ヵ月(同:8.1~推定不能)、未到達(同:9.6~推定不能)であった。主な有害事象は全体で下痢(87%)、皮疹(49%)、爪囲炎(26%)、胃炎(19%)、悪心(18%)であった。Grade3以上の下痢は、コホートD/E/Fでそれぞれ23%/11%/5%に発現した。間質性肺炎(ILD)は認められていない。<結論>sevabertinibも進行HER2遺伝子変異陽性NSCLCの初回治療例、既治療例ともに有望な治療成績を示した。現在、初回治療でsevabertinibと化学療法と比較するSOHO-02試験(NCT06452277)が進行中である。<コメント>sevabertinibもゾンゲルチニブ同様に有望なHER2-TKIである。全体的に下痢の頻度は高いが、初回治療例ではGrade3以上の下痢の頻度は少なかった。ILDの発現がないことも特徴的であり、今後、HER2-ADC、ゾンゲルチニブとの使い分けが焦点となる。ALK融合遺伝子陽性3.進行ALK陽性NSCLCに対するアレクチニブとクリゾチニブの比較のOS最終解析:ALEX本試験は、進行ALK融合遺伝子陽性NSCLCに対するアレクチニブとクリゾチニブを比較する海外第III相試験であり、すでにPFSが有意に改善したことが報告されている。今回はOSの最終解析の報告である。未治療の進行ALK融合遺伝子陽性NSCLCを対象として、アレクチニブ(600mg BID)群とクリゾチニブ(250mg BID)群に、152/151例を割り付けた。アレクチニブ群/クリゾチニブ群における脳転移を有する割合は42.1%/38.4%、脳転移に対する放射線治療歴を有する割合は17.1%/13.9%であった。クロスオーバーは本試験では許容されていない。最終解析のOS中央値は、アレクチニブ群/クリゾチニブ群で81.1ヵ月/54.2ヵ月(ハザード比[HR]:0.78[95%CI:0.56~1.08]、p=0.132)であった。脳転移の有無によらずアレクチニブの治療成績は良好であった。後治療を受けた割合は37.5%/47.7%であり、アレクチニブ群で最も多かったのはロルラチニブ(18.4%)、クリゾチニブ群ではアレクチニブ(25.2%)であった。Grade3以上の主な有害事象として、アレクチニブ群では貧血(7.2%)、AST上昇(5.3%)を認めた。<結論>アレクチニブは81.1ヵ月(中央値)という臨床的に意義のあるOSを示し、引き続き初回治療の標準治療であることを支持するデータであった。<コメント>現状では分子標的薬治療では最長のOSである。今後、ロルラチニブのOSが出たときには、どちらを選択するかさらなる議論が予想される。アレクチニブの日本の承認用量は海外の半分であることも記載しておく。

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歯周病は脳にダメージを与え脳卒中のリスクを高める

 歯周病が脳の血管にダメージを与えたり、脳卒中のリスクを高めたりする可能性のあることが、2件の研究で明らかになった。歯周病と虫歯の両方がある場合には、脳卒中のリスクが86%上昇することや、習慣的なケアによってそのリスクを大きく抑制できる可能性があることも報告された。いずれも、米サウスカロライナ大学のSouvik Sen氏らの研究の結果であり、詳細は「Neurology Open Access」に10月22日掲載された。 一つ目の研究は、歯周病のある人とない人の脳画像を比較するというもの。解析対象は、一般住民のアテローム性動脈硬化リスク因子に関する大規模疫学研究「ARIC研究」のサブスタディーとして実施された、口腔状態の詳細な検査も行う「Dental ARIC」の参加者のうち、脳画像データのある1,143人(平均年齢77歳、男性45%)。このうち800人が歯周病ありと判定された。結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、人種、喫煙、高血圧、糖尿病など)を調整後、歯周病のある人は脳の白質高信号域(認知機能低下リスクの高さと関連のある部分)の体積が有意に大きく(P=0.012)、その体積と歯周病の重症度との有意な関連も認められた(ρ=0.076、P=0.011)。 二つ目の研究もDental ARICのデータが用いられた。解析対象5,986人(平均年齢63±5.6歳、男性48%)のうち、1,640人は口腔の健康状態が良好、3,151人は歯周病があり、1,195人は歯周病と虫歯が併存していた。そして、それら両者が併存していると、虚血性脳卒中のリスクが86%有意に高く(ハザード比〔HR〕1.86〔95%信頼区間1.32~2.61〕)、主要心血管イベントのリスクも36%有意に高いことが分かった(HR1.36〔同1.10~1.69〕)。また虚血性脳卒中の病型別の検討では、血栓性脳梗塞(HR2.27〔1.22~4.24〕)、および心原性脳塞栓(HR2.58〔1.27~5.26〕)のいずれも、有意なリスク上昇が認められた。 一方、希望につながるデータも示された。歯磨きやデンタルヘルスで日常的な口腔ケアを行い、定期的に歯科へ通院している人は、歯周病が約3割少なく(オッズ比〔OR〕0.71〔0.58~0.86〕)、歯周病と虫歯の併存が約8割少ないという(OR0.19〔0.15~0.25〕)、有意な関連が観察された。 報告された2件の研究結果は、口腔衛生状態が良くないことが脳卒中を引き起こすという直接的な因果関係を証明するものではない。しかし、口腔内の炎症が心臓と脳の健康に悪影響を及ぼす可能性があるとする、近年増加しているエビデンスを裏付けるものと言える。これらのデータを基に研究者らは、「歯と歯茎の健康を維持することが、脳卒中リスクを軽減する簡単な方法の一つになる可能性がある」と述べている。 なお、世界保健機関(WHO)は、世界中で35億人が歯周病や虫歯を有していると報告している。また米国心臓協会(AHA)によると、米国では毎年79万5,000人以上が脳卒中を発症しているという。

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心不全に伴う体液貯留管理(4):症例2(79歳男性)Dr.わへいのポケットエコーのいろは】第10回

心不全に伴う体液貯留管理(4):症例2(79歳男性)今回は、後縦靭帯骨化症の影響により寝たきりで、足のむくみのある79歳男性を例に、ポケットエコーの有用性を考えていきましょう。足のむくみがある79歳男性【今回の症例】79歳男性主訴足がすれて、むくんでいる現病歴意識疎通は明瞭だが、ベッド上の生活で、ほぼ全介助の状態1日30本喫煙。常に息苦しい感じがある禁煙ができないため、家族はCOPDとしての治療介入に消極的内服薬(服薬管理者:配偶者)プレガバリン75mg 1×、リマプロスト アルファデクス15μg 3×、メコバラミン1.5mg 3×、レボチロキシン62.5μg 1×、酪酸菌製剤錠3T 3×、ロキソプロフェン180mg 3×、ガバペンチン600mg 3×、L-カルボシステイン1,500mg 3×、レバミピド300mg 3×、アンブロキソール45mg 3×、ジメチコン120mg 3×、ラメルテオン8mg 1×、トラゾドン25mg 1×、クロナゼパム0.5mg 1×、スボレキサント15mg 1×併存症後縦靭帯骨化症、甲状腺機能低下症、糖尿病、C型慢性肝炎治療後バイタル体温36.0℃、血圧140/80mmHg、脈拍65回/分 整、SpO2 97%(room air)今回は79歳男性で、意思疎通は明瞭に取れますが、後縦靭帯骨化症の影響でベッド上の寝たきりの生活です。タバコが大好きで1日30本吸っていて「なんか息苦しい感じがある」と本人は言っています。家族は「タバコをやめられないんだったら治療する意味がない」と言い、家族のほうが治療に消極的でした。薬剤を見るとわかるのですが、とくに心不全の指摘はなく、肺気腫の要素があるのかもしれないといったところです。治療経過まず心エコーを見てみましょう。治療介入前の心エコー像1回当てただけでわかりますが、胸水がかなり溜まっていて、下大静脈(IVC)は27mm、呼吸性変動は消失していました。僧帽弁と三尖弁は同時に開いていたため、VMTスコアは2aでした。胸水が溜まっていて、VMTスコアから慢性心不全の非代償寄りで、右心不全の要素が強めと判断しました。そのため、治療はフロセミド20mgから開始しました。治療経過を見ていくと、治療介入から1ヵ月後にはむくみがかなり減っていました。IVCは23mmでしたが呼吸性変動が出てきていました。僧帽弁と三尖弁が開くのはほぼ同時です(図1)。少し改善が観察されているということで、フロセミド20mgはそのまま継続しました。図1 治療開始1ヵ月後のNT-proBNP・症状・VMTスコア画像を拡大する続いて、治療開始2ヵ月後のエコー像を見てみましょう。治療介入後の心エコー像最終的に、NT-proBNP値に著変はなかったですが、心エコー所見は改善しました。三尖弁と僧帽弁の開放はほぼ同時ながらも三尖弁がやや先行するようになり、胸水も初回と比べて著明に減少。VMTスコアは1点、IVCは16mmで呼吸性変動も認められました。フロセミド20mgの介入で2ヵ月後には、このような状況になりました(図2)。図2 治療開始2ヵ月後のNT-proBNP・症状・VMTスコア画像を拡大する治療介入2ヵ月後には「先生、すごく調子がいい」「よく寝られる」「タバコがうまいわ」と言っていて、タバコに対する介入はできなかったのですが、心不全を発見してQOLの向上に寄与することができたケースでした。まとめ4回にわたって、心不全に伴う体液貯留管理へのポケットエコーの応用を紹介しました。そのなかで、心不全の治療介入の判断にVMTスコアが非常に有用であることが、理解いただけたのではないでしょうか。VMTスコアは繰り返して用いることで、診断だけではなく治療効果の判定にも使えます。そして、エコーは我々だけではなく、患者やその家族も絵として見ることができます。たとえば「胸水がこんなに減っている」「心臓の動きが良くなっている」という画像を共有することで、家族も「先生のおかげで、本人も楽になっているようだ」と治療効果を視覚的に実感し、より協力的になっていただけるという利点もあります。

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フィリピン先生の無茶振り【Dr. 中島の 新・徒然草】(607)

六百七の段 フィリピン先生の無茶振りなんだか寒くなったと思ったら、もう立冬ですよ。そろそろ年賀状の準備をする時期ですが、今年はどうしようかと迷っています。郵便料金も大幅に上がったことだし。そろそろ止め時かも。さて、オンライン英会話では、しばしば初対面のフィリピン人講師に当たります。こちらは自己紹介をしたら、さっさと本日のテーマに移りたいと思っているのですが「職業:医師」というところに食いつかれがち。「なんでドクターになろうと思ったの?」「これまでで一番長い手術は?」「日本でもドクターはお金持ちなの?」あれこれと質問攻めにされてしまいます。時には、これ幸いとばかり健康相談をされることも。「ちょっと医学的なことでアドバイスしてほしいんだけど」確か今日の講師は22歳とか言っていたはず。一体どんな病気があるというのでしょう!でも念のために聞いてみましょう。「何か病気があるんですか?」「私はいたって健康よ」呆れた。じゃあ診断もクソもないじゃないですか。「今の私の健康を保つ方法を教えて欲しいの。ドクターなら知っているでしょ?」そりゃアアタ、無茶振りってもんすよ。本気で言ってるんですか?でも、こちらもダテに何十年もこの仕事をやってきたわけではありません。適当に聞いて適当に答えるテクニックこそが外来診療の真骨頂。だから、健康な人に対してもちゃんとアドバイスは準備してあります。ただね、英語で説明しようとすると難しいんですよ、これが。Since you inherit your parents’ genes, you might develop similar diseases.(先生はご両親の体質を引き継いでいるはずですから、同じような病気になる可能性がありますよ)ここで genes というのは「遺伝子」の複数形。衣服の jeans と同じ発音だそうです。If your mother has diabetes mellitus, you might develop the same condition, so you’d better keep an eye on your blood sugar from a young age.(もしお母さんが糖尿病なら先生も糖尿病になる可能性がありますから、若い時から血糖値には注意しておいたほうがいいですよ)われながら説得力のある回答。もちろん血圧や血糖値に注意しろ、などというのは素人でも使える万能アドバイスです。だから医師ならではの説得力を付け加えたいところ。確か脳卒中や心筋梗塞などの発症は、その半分くらいしかリスクファクターで説明できなかったんじゃなかったかな。ここでいうリスクファクターとは、喫煙とか飲酒とかですね。もう少し範囲を広げて、高血圧や脂質異常症まで入れてもいいかもしれないけど。いくら清く正しい生活を送ったとしても、いわゆる生活習慣病になってしまう人がたくさんいるのは、読者の皆さんがご承知のとおり。だから、リスクファクター以外の多くは体質なのだと私は思っています。たしか百何歳まで生きた女性がこう言ったのだとか。「長生きの秘訣はタバコじゃ。私に禁煙を勧めてきた医者は、どいつもこいつも先に死によった」喫煙しながら百歳以上生きたのであれば、よほど優れた遺伝子を親から引き継いだに違いありません。だから祖父母や親の病気をよく見ておいて、自分がかからないように、あるいはかかったとしても先手を打って治療すべきだと思います。問題は……こういった話をどうやって英語でフィリピン人講師に説明したらいいのか、ですね。果てしなき英語修業は続きます。最後に1句 立冬や 健康相談 聞き流す

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日本人EGFR陽性NSCLCへのオシメルチニブ、PD-L1高発現の影響は?(WJOG20724L)/日本肺癌学会

 EGFR遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者の標準治療の1つとして、オシメルチニブが用いられている。しかし、1次治療でオシメルチニブ単剤を用いた進行NSCLC患者を対象とした後ろ向き観察研究(OSI-FACT)において、PD-L1高値の集団は無増悪生存期間(PFS)が不良であったことが報告された1)。ただし、OSI-FACTはPD-L1発現状況の影響を検討することを目的とした研究ではなかった。そこで、StageIVの肺がん患者6,751例の大規模コホート研究(REAL-WIND/WJOG1512L)のデータを用いて、初回治療としてオシメルチニブ単剤を用いたNSCLC患者の治療効果と、PD-L1発現状況の関係を検討する研究(WJOG20724L)が実施された。本研究の結果を坂田 能彦氏(済生会熊本病院)が第66回日本肺癌学会学術集会で報告した。 対象は、2016年1月~2020年12月にREAL-WINDへ登録されたStageIVの肺がん患者6,751例のうち、初回治療でオシメルチニブ単剤が投与されたEGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者486例。このうちPD-L1不明例(101例)を除いた385例(コホートB)、およびコホートBからOSI-FACTの重複症例を除いた200例(コホートA)が解析対象となった。対象患者をPD-L1発現状況で2群(TPS≧50%、TPS<50%)に分類し、治療成績を比較した。主要評価項目はPFS、副次評価項目は全生存期間(OS)、PFS率、OS率などとした。未調整の解析に加えて、逆確率重み付け法(IPTW)や傾向スコアマッチング法(PSM)を用いて背景因子を調整した解析も実施した。 主な結果は以下のとおり。・PD-L1発現状況(TPS≧50%/TPS<50%)は、コホートAが48例(24%)/152例(76%)、コホートBが83例(22%)/302例(78%)であった。・PD-L1高発現群(TPS≧50%)は低発現/陰性群(TPS<50%)と比較して、男性、PS1以上、喫煙歴あり、EGFR uncommon変異が多かった。・コホートAにおけるPFSは、未調整解析でPD-L1高発現群が低発現/陰性群と比較して有意に不良であり、PSM、IPTWを用いた解析でも同様の傾向であった。詳細は以下のとおり。<未調整>PFS中央値:10.8ヵ月vs.20.1ヵ月(ハザード比[HR]:1.95、95%信頼区間[CI]:1.30~2.92、p=0.001)1/2年PFS率:45.6%/24.8%vs.76.2%/41.6%<PSM>PFS中央値:10.5ヵ月vs.19.7ヵ月(HR:1.74、95%CI:0.97~3.11、p=0.061)1/2年PFS率:43.7%/26.2%vs.78.0%/34.2%<IPTW>PFS中央値:10.8ヵ月vs.19.8ヵ月(HR:1.91、95%CI:1.13~3.23、p=0.016)1/2年PFS率:45.6%/24.8%vs.79.2%/36.6%・コホートAにおけるOSも、未調整解析でPD-L1高発現群が低発現/陰性群と比較して有意に不良であり、PSM、IPTWを用いた解析でも同様の傾向であった。詳細は以下のとおり。<未調整>OS中央値:26.7ヵ月vs.32.8ヵ月(HR:1.77、95%CI:1.02~3.09、p=0.044)1/2年OS率:80.2%/57.9%vs.91.5%/80.5%<PSM>OS中央値:23.7ヵ月vs.32.8ヵ月(HR:1.68、95%CI:0.81~3.52、p=0.17)1/2年OS率:80.2%/48.9%vs.91.5%/69.7%<IPTW>OS中央値:26.7ヵ月vs.32.8ヵ月(HR:1.69、95%CI:0.82~3.48、p=0.15)1/2年OS率:80.2%/57.9%vs.94.1%/81.9%・コホートBにおいても、PFS、OSはいずれの解析もコホートAと同様の結果であった。 本結果について、坂田氏は「いずれの患者集団においても、PD-L1高発現は初回治療でオシメルチニブ単剤が投与された患者の有効性に、負の影響を及ぼすことが追認された。EGFR遺伝子変異陽性例において、PD-L1高発現は治療戦略を検討するうえで考慮するべき因子である」と述べた。

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脳内の老廃物を排出する機能の障害が認知症に関連

 脳内の老廃物の排出機能の不具合が、認知症の一因となっている可能性のあることが、新たな研究で示された。脳の保護と洗浄の役割を果たしている透明な液体である脳脊髄液(CSF)の流れの障害が、将来的な認知症リスクを予測する指標となることが示されたという。英ケンブリッジ大学のYutong Chen氏らによるこの研究結果は、「Alzheimer’s & Dementia」に10月23日掲載された。Chen氏らは、「このような老廃物の排出機能の問題は、脳内の血管に損傷を与える心血管のリスク因子と関連している可能性がある」と指摘している。 Chen氏らが今回の研究で着目したのは、「グリンパティックシステム」と呼ばれる仕組みだ。グリンパティックシステムは、脳内の小血管を取り囲む微細な経路を通してCSFを循環させ、脳内から毒素や老廃物を排出して洗浄するシステムである。排出される老廃物の中には、アルツハイマー病の特徴的な要素と考えられているアミロイドβやタウタンパク質なども含まれている。 研究では、UKバイオバンク参加者4万4,384人の成人のMRI画像を分析した。その結果、グリンパティックシステムの機能低下に関連する以下の3つのマーカー(指標)に、その後10年間の認知症リスクの予測能があることが明らかになった。1)DTI-ALPSの低下:DTI-ALPSはMRIの一種である拡散テンソル画像(DTI)から計算される指標で、グリンパティックシステムの微細な経路に沿った水分子の動きを表す。2)脈絡叢の拡大:脈絡叢はCSFを産生する脳領域であり、その拡大はCSF産生および老廃物除去量の減少と関連している。3)血中酸素濃度依存(BOLD)信号とCSFの同期低下:BOLD信号とCSFの同期が強いほど、CSFの流れが良好であることを意味する。 さらにChen氏らは、高血圧や糖尿病、喫煙、飲酒といった心血管リスク因子がグリンパティックシステムの機能を低下させ、その結果として認知症リスクを高めることも突き止めた。心血管リスク因子は脳内の血管に損傷を与え、その血管の周囲のグリンパティックシステムにも影響が及ぶとChen氏らは説明している。 Chen氏は、「極めて大規模な集団を対象にした今回の研究から、グリンパティックシステムの障害が認知症の発症に関与しているという有力なエビデンスが得られた。これは、このシステムの障害をどう改善できるのかという新たな疑問につながるため、素晴らしいことである」とニュースリリースの中で述べている。 一方、論文の上席著者であるケンブリッジ大学脳卒中研究グループ長のHugh Markus氏は、「認知症リスクのうち、少なくとも4分の1は高血圧や喫煙などの一般的なリスク因子によって説明できる。もし、これらがグリンパティックシステムの機能を低下させるのであれば、介入が可能だ。高血圧を治療したり禁煙を促したりすることは、グリンパティックシステムの働きを改善する達成可能な方法になるだろう」と指摘している。 研究グループは、グリンパティックシステムの働きには睡眠が重要であるため、良質な睡眠が老廃物の排出を促進する可能性があるとの見方を示している。また、薬剤によってこのシステムの効率を高められる可能性も考えられるとしている。研究グループはさらに、心血管リスク因子への対策が、グリンパティックシステムの機能に保護的に働く可能性にも言及している。これまでに報告されている臨床試験では、血圧を厳格にコントロールすることで認知機能低下や認知症のリスクが20%低下することが示されている。

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歯を失うと寿命にも影響?80歳女性で“咬合支持”の重要性が明らかに

 高齢になると「歯が抜けても仕方ない」と思われがちだが、噛み合わせの力が寿命にまで影響する可能性がありそうだ。今回、地域在住の80歳高齢者を10年間追跡した研究で、咬合支持(噛み合わせの支え)を失った女性は、そうでない女性に比べて死亡リスクが有意に高いことが示唆された。研究は新潟大学大学院医歯学総合研究科口腔健康科学講座予防歯科学分野の田村浩平氏、濃野要氏、小川祐司氏によるもので、詳細は9月23日付けで「International Dental Journal」に掲載された。 咀嚼は全身の健康と長寿に重要であり、歯や義歯による安定した咬合支持が不可欠である。咬合支持の低下は咀嚼の満足度や効率を損ない、栄養不足や運動機能低下にも関連することが報告されている。また、フレイルは高齢者の死亡リスク因子として注目され、歯の喪失や咬合力低下などの口腔要因も関連する。日本では高齢者の歯の保存が重要視されているが、健康な高齢者を対象に残存歯数や咬合力と死亡率の関係を検証した研究は少ない。咬合と死亡率については、最大咬合力や機能歯の数が全死因死亡率の有力な予測因子であり、Eichner Index(アイヒナー指数:EI)がこれらの指標の代替になり得ると考えられる。このような背景を踏まえ、著者らは新潟市の高齢者を対象とした25年間のコホート研究の一環として、咬合支持の喪失が死亡リスク因子であるという仮説を検証した。具体的には、フレイルのない健康な地域在住の80歳高齢者において、EIで評価した咬合支持と10年間の死亡率との関連を調査した。 本研究の解析対象は、新潟市在住のフレイルのない80歳の高齢者360人であり、追跡調査は2008年6月~2018年6月まで実施された。ベースライン時に、歯牙および歯周検査、唾液分泌量測定(ガム試験)、血液検査、および自記式アンケート(喫煙・飲酒習慣、運動習慣、既往歴など)が実施された。口腔検査票から、咬合支持はEIクラスA/B群(咬合支持あり/部分的にあり)およびC群(咬合支持なし)に分類され、歯周炎症表面積も算出された。生存解析にはKaplan-Meier法とログランク検定が用いられ、多変量解析にはCox比例ハザードモデルを用いてハザード比(HR)が算出された。 最終的な解析対象には297人(男性155人、女性142人)が含まれた。ベースライン時のEIクラスはA/B群が203人、C群が94人だった。10年間の累積生存率はA/B群とC群でそれぞれ79.8%および66.0%であり、有意な差が認められた(P=0.038)。 多変量Cox比例ハザードモデルでは、「EIクラスC」および「男性」が全死因死亡の有意な独立リスク因子であった。性別、BMI、喫煙状況、既往歴などの交絡因子で調整後のHRは、EIクラスCで1.88(95%信頼区間 [CI] 1.08~3.36、P<0.05)、男性で2.28(CI 1.23~4.26、P<0.05)であった。 男女別の層別解析では、EIクラスCは女性のみで有意な独立リスク因子となり、歯周炎症表面積、唾液分泌量、BMI、喫煙状況、既往歴などで調整後のHRは4.17(95%CI 4.17~11.79、P<0.05)であった。その一方、男性では統計的に有意な差は認められなかった。 著者らは、「地域在住の健康な80歳高齢者において、咬合支持の喪失は、特に女性で全死因死亡の独立したリスク因子であった。この結果は、咬合支持の維持が咀嚼機能や十分な栄養摂取を支えることで、長寿の促進に重要な役割を果たす可能性を示している。今後の研究では、咬合支持の喪失が死亡に至るまでの間接的な経路をさらに検討する必要がある」と述べている。 なお、結果に性差が出た理由として、男性は一般的に筋肉量や咀嚼筋力が大きく、咬合支持を失っても咀嚼機能や栄養摂取への影響が相対的に小さいこと、また、心理社会的要因(抑うつや孤立)の影響は女性でより顕著に現れやすいことが指摘されており、歯の喪失による審美的な変化が心理的に与える影響が、女性でより大きい可能性などが考察された。

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既治療のEGFR陽性NSCLC、sac-TMTがOS改善(OptiTROP-Lung04)/NEJM

 上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)による前治療後に病勢が進行したEGFR遺伝子変異陽性の進行・転移のある非小細胞肺がん(NSCLC)において、抗TROP2抗体薬物複合体sacituzumab tirumotecan(sac-TMT)はペメトレキセド+白金製剤ベースの化学療法と比較して、無増悪生存期間(PFS)とともに全生存期間(OS)をも改善し、新たな安全性シグナルの発現は認められなかった。中国・Guangdong Provincial Clinical Research Center for CancerのWenfeng Fang氏らが、第III相試験「OptiTROP-Lung04試験」の結果で示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年10月19日号に掲載された。中国の無作為化試験 OptiTROP-Lung04試験は、中国の66施設で実施した非盲検無作為化試験であり、2023年7月~2024年4月に参加者のスクリーニングが行われた(Sichuan Kelun-Biotech Biopharmaceuticalの助成を受けた)。 年齢18~75歳、局所進行(StageIIIBまたはIIIC)または転移のある(StageIV)の非扁平上皮NSCLCと診断され、治癒切除術または根治的化学放射線療法が非適応で、EGFR変異(exon19delまたはexon21 L858R置換)陽性であり、1次または2次治療においてEGFR-TKI(第1・2世代はT790M変異陰性例、第3世代はT790M変異の有無を問わない)の投与を受けたのち病勢が進行した患者376例(年齢中央値60歳[範囲:31~75]、男性39.6%)を対象とした。  参加者を、sac-TMT群(188例)またはペメトレキセド+白金製剤ベースの化学療法群(188例)に無作為に割り付けた。sac-TMT群は、28日を1サイクルとして1および15日目に5mg/kg体重を静脈内投与した。化学療法群は、21日を1サイクルとして1日目にペメトレキセド(500mg/m2体表面積)+担当医の選択によりカルボプラチン(AUC 5mg/mL/分)またはシスプラチン(75mg/m2)の投与を最大で4サイクル行い、その後ペメトレキセドによる維持療法を施行した。客観的奏効割合、奏効期間も優れる 登録時に、74.5%が非喫煙者で、97.6%がStageIVであった。全身状態の指標(ECOG PSスコア)は、0が20.7%、1が79.3%で、94.7%が前治療で第3世代EGFR-TKIの投与(62.5%は1次治療として)を受けていた。  追跡期間中央値18.9ヵ月の時点における、独立審査委員会が盲検下に評価したPFS中央値(主要エンドポイント)は、化学療法群よりもsac-TMT群で延長した(8.3ヵ月vs.4.3ヵ月、病勢進行または死亡のハザード比[HR]:0.49、95%信頼区間[CI]:0.39~0.62)。12ヵ月時のPFS率は、sac-TMT群が32.3%、化学療法群は7.9%だった。  また、OS中央値(主な副次エンドポイント)は、化学療法群が17.4ヵ月であったのに対し、sac-TMT群は推定不能(95%CI:21.5~推定不能)であり有意に優れた(死亡のHR:0.60、95%CI:0.44~0.82、両側p=0.001)。18ヵ月時のOS率は、sac-TMT群が65.8%、化学療法群は48.0%だった。  独立審査委員会が盲検下に評価した客観的奏効(完全奏効+部分奏効)の割合は、sac-TMT群が60.6%、化学療法群は43.1%であった(群間差:17.0%ポイント、95%CI:7.0~27.1)。奏効期間中央値はそれぞれ8.3ヵ月および4.2ヵ月であり、奏効期間中央値が1年以上の患者の割合は36.3%および8.1%だった。口内炎が高頻度に sac-TMT関連の新たな安全性シグナルは認めなかった。Grade3以上の治療関連有害事象は、sac-TMT群で58.0%、化学療法群で53.8%に発現し、最も頻度が高かったのは好中球数の減少(39.9%、33.0%)であった。Grade3以上の貧血(11.2%vs.14.3%)、血小板減少(2.1%vs.16.5%)はsac-TMT群で少なく、重篤な治療関連有害事象の頻度もsac-TMT群で低かった(9.0%vs.17.6%)。また、sac-TMT群では、治療関連有害事象による投与中止の報告はなかった。  とくに注目すべき薬剤関連有害事象については、sac-TMT群で口内炎(64.4%vs.4.9%)の頻度が高かった。sac-TMT群の口内炎の内訳は、Grade1が42例(22.3%)、同2が70例(37.2%)、同3が9例(4.8%)で、Grade4/5は認めなかった。19例(10.1%)が口内炎のため減量したが、投与中止例はなく、Grade3の9例はいずれも適切な介入と減量により診断から中央値で10日以内にGrade2以下に改善した。  著者は、「近年の治療の進歩は主に、化学療法と免疫チェックポイント阻害薬、抗血管新生薬、二重特異性抗EGFR/c-Met抗体、HER3を標的とする抗体薬物複合体を組み合わせた多剤併用療法が中心となっているが、主要な臨床試験ではOSの有益性に関して有意差は達成されていないことから、本試験においてsac-TMTが単剤でOSを有意に改善したことは注目に値する」「EGFR-TKI抵抗性のNSCLCでは、ペメトレキセド+白金製剤ベースの化学療法の前に、sac-TMTが考慮すべき好ましい治療選択肢となる可能性がある」としている。

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日本人EGFR陽性NSCLC、アファチニブvs.オシメルチニブ(Heat on Beat)/日本肺癌学会

 オシメルチニブは、EGFR遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者の標準治療として用いられている。ただし日本人では、オシメルチニブの有用性をゲフィチニブまたはエルロチニブと比較検証した「FLAURA試験」1,2)において、有効性が対照群と拮抗していたことも報告されている。そこで、1次治療にアファチニブを用いた際のシークエンス治療の有用性について、1次治療でオシメルチニブを用いる治療法と比較する国内第II相試験「Heat on Beat試験」が実施された。第66回日本肺癌学会学術集会において、本試験の結果を森川 慶氏(聖マリアンナ医科大学 呼吸器内科)が報告した。なお、本試験の結果は、米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)でも報告されている(PI:帝京大学腫瘍内科 関 順彦氏)。・試験デザイン:国内第II相無作為化比較試験・対象:未治療のStageIIIB/IIIC/IVのEGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者100例・試験群(アファチニブ群):アファチニブ→病勢進行時の再生検でEGFR T790M変異が認められた場合にオシメルチニブ 50例(解析対象:47例)・対照群(オシメルチニブ群):オシメルチニブ 50例(解析対象:48例)・評価項目:[共主要評価項目]3年全生存(OS)率、免疫学的バイオマーカー探索[副次評価項目]無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)、OSなど 主な結果は以下のとおり。・解析対象患者の年齢中央値は、アファチニブ群70歳(範囲:43~87)、オシメルチニブ群72歳(48~88)、非喫煙者の割合はそれぞれ46.8%、45.8%であった。EGFR exon21 L858R変異がそれぞれ48.9%、47.9%であった。・ORRはアファチニブ群63.8%(CR:1例)、オシメルチニブ群62.5%(CR:3例)であった。・3年OS率はアファチニブ群54.7%、オシメルチニブ群57.5%であり、主要評価項目は達成されなかった(p=0.64)。・OS中央値はアファチニブ群38.8ヵ月、オシメルチニブ群未到達であった(ハザード比[HR]:1.15、95%信頼区間[CI]:0.64~2.05)。・PFS中央値はアファチニブ群16.7ヵ月、オシメルチニブ群14.5ヵ月であった(HR:1.17、95%CI:0.72~1.90)。・EGFR遺伝子変異の種類別にみたPFS中央値、OS中央値は以下のとおりであった(アファチニブ群vs.オシメルチニブ群[HR、95%CI]を示す)。【exon19欠失変異】 PFS中央値:18.3ヵ月vs.33.6ヵ月(HR:1.62、95%CI:0.75~3.48) OS中央値:未到達vs.未到達(HR:1.16、95%CI:0.42~3.20)【exon21 L858R変異】 PFS中央値:13.9ヵ月vs.10.6ヵ月(HR:0.88、95%CI:0.43~1.79) OS中央値:35.9ヵ月vs.未到達(HR:1.21、95%CI:0.54~2.70)・有害事象は、アファチニブ群では下痢、ざ瘡様皮膚が多かった。下痢の発現割合(全Grade/Grade3以上)はアファチニブ群91.5%/29.8%、オシメルチニブ群31.3%/6.3%であり、ざ瘡様皮膚はそれぞれ68.1%/10.6%、43.8%/2.1%であった。一方、オシメルチニブ群では肺臓炎が多く、発現割合はそれぞれ10.6%/2.1%、20.8%/6.3%(オシメルチニブ群のGrade3以上はいずれもGrade5)であった。・有害事象で1次治療が治療中止に至った患者のうち、2次治療に移行した患者の割合はアファチニブ群70.0%(7/10例)、オシメルチニブ群35.7%(5/14例)であった。・2次治療を受けた患者の割合は、アファチニブ群74.5%、オシメルチニブ群54.2%であった。2次治療の内訳は以下のとおりであった。【アファチニブ群】 化学療法20.0% 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)±化学療法42.9% オシメルチニブ±化学療法31.4% オシメルチニブ以外のEGFR-TKI±化学療法5.7%【オシメルチニブ群】 化学療法23.1% ICI±化学療法53.8% オシメルチニブ±化学療法3.8% オシメルチニブ以外のEGFR-TKI±化学療法19.3%・アファチニブ群の病勢進行時の再生検検体でEGFR T790M変異が認められた割合は、組織検体19.2%(5/26件)、リキッドバイオプシー検体20%(4/20件)であった。・末梢血中の種々の免疫細胞を評価し、Th7RおよびTh2フラクションのみがPFSおよびOSとの相関を認めた。オシメルチニブ群では、Th7R高値、Th2低値で予後が良好な傾向にあったが、この傾向はアファチニブ群では認められなかった。バイオマーカー別のオシメルチニブ群のPFS中央値、OS中央値は以下のとおり。【免疫バイオマーカー:Th7R高値vs.低値】 PFS中央値:33.1ヵ月vs.6.7ヵ月(p<0.01) OS中央値:未到達vs.40.5ヵ月(p=0.29)【免疫バイオマーカー:Th2高値vs.低値】 PFS中央値:6.0ヵ月vs.30.6ヵ月(p=0.02) OS中央値:30.2ヵ月vs.未到達(p<0.01) 本結果について、森川氏は「主要評価項目の3年OS率は達成されなかった。その要因の1つとして、EGFR T790M変異の検出が低く、かつT790M変異陽性症例でのオシメルチニブ投与期間も想定より短かったため、シークエンス治療(アファチニブ→オシメルチニブ)が有効であった症例が少なかったことが考えられる」と考察した。また「オシメルチニブはホストの免疫状態によって治療効果が大きく影響を受ける可能性があり、Th7Rなどの免疫バイオマーカーがオシメルチニブの治療効果予測に関与する可能性がある」と述べた。

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筋力が強ければ肥満による健康への悪影響を抑制できる可能性

 肥満による健康への悪影響を、筋力を鍛えることで抑制できる可能性を示唆するデータが報告された。米ペニントン・バイオメディカル研究センターのYun Shen氏らの研究の結果であり、詳細は「The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism」に10月15日掲載された。 この研究からは、肥満関連の健康障害の発生リスクだけでなく早期死亡リスクも、握力が高いほど低いことが示された。Shen氏は、「握力は測定が容易であり、リスクのある介入すべき対象者を早期に低コストで見いだすことができる。そしてわれわれの研究の結果は、握力に基づき評価した筋力の低下が、肥満関連健康障害の鋭敏な指標であることを示している」と語っている。 Shen氏らの研究は、英国の一般住民対象大規模疫学研究であるUKバイオバンクのデータを用いて行われた。UKバイオバンク参加者のうち、BMI30以上(アジア人は28以上)であり、かつウエスト周囲長や体脂肪率などのBMI以外の肥満関連指標に異常がありながら、肥満関連健康障害は生じていない人を「前臨床的肥満」と定義。これに該当する9万3,275人を握力の三分位数に基づき3群に分類したうえで、平均13.4年間追跡して、肥満関連健康障害の発症や死亡のリスクを比較した。解析に際しては、交絡因子(年齢、性別、人種、血清脂質、血圧、HbA1c、eGFR、CRP、喫煙・飲酒・食事・運動・睡眠習慣、教育歴、雇用状況、高血圧・高血糖・脂質異常症治療薬、糖尿病家族歴など)の影響を統計学的に調整した。 握力の最も弱い第1三分位群を基準とする解析の結果、握力が高い群は肥満関連健康障害や死亡リスクが有意に低いことが示された。例えば、追跡期間中の最初の肥満関連健康障害の発症リスクは、握力の最も高い第3三分位群は調整ハザード比(aHR)0.80(95%信頼区間0.79~0.82)、握力が中程度の第2三分位群もaHR0.88(同0.87~0.90)であり、それぞれ20%、12%のリスク低下が認められた。また、追跡期間中に二つ目の肥満関連健康障害が発症するリスク、その後に死亡するリスクなどについても、握力が高いほど有意に低かった。 さらに、握力の1標準偏差(SD)の差とそれらのリスクとの関連を検討した結果、やはり握力が高いことによるリスク低下が認められた。例えば、肥満関連健康障害の発症を経ずに死亡するリスクは、1SD高いごとに9%有意に低下していた(aHR0.91〔0.85~0.97〕)。 これらを性別や喫煙状況、人種で層別化した解析の結果、握力が高いことによるリスク低下は、女性、非喫煙者、黒人でより顕著に認められた。 研究者らは、「過剰な脂肪蓄積に伴う慢性炎症の影響が、筋肉量が多いことによって抑制される可能性がある。われわれの研究結果は、前臨床的肥満において筋肉量と筋力を向上することの重要性を強調するものと言える」と述べている。ただし本研究は関連性のみを示すものであり、因果関係の存在を示すものでないことから、「この知見の検証のため、さらなる研究が必要」と付け加えている。

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夜間照明が心疾患リスク上昇に影響

 夜間の光曝露は概日リズムの乱れを引き起こし、心血管疾患における予後不良の危険因子として知られている。今回、オーストラリア・フリンダース大学のDaniel P. Windred氏らの研究で、夜間の光曝露は40歳以上の心血管疾患発症の有意な危険因子であることが示唆された。JAMA Network Open誌2025年10月23日号掲載の報告。 研究者らは、昼夜の光曝露による心血管疾患発症の関連、および光曝露と心血管疾患関連に影響する因子(遺伝的感受性、性別、年齢など)を評価するため、前向きコホート研究を実施。UKバイオバンク参加者の心血管疾患の記録を9.5年間(2013年6月~2022年11月)にわたり追跡調査し、2024年9月~2025年7月にデータ解析を行った。 光センサーは手首に装着するタイプで、約1,300万時間(各参加者の1週間分)から得られたデータを基に、光曝露環境をパーセンタイルで4グループに分類した(最も暗い:0~50、やや明るい:51~70、比較的明るい:71~90、非常に明るい:91~100)。また、各疾患(冠動脈疾患、心筋梗塞、心不全、心房細動、脳卒中)の発症率データは、英国・国民保健サービス(NHS)より得たもので、疾患リスクをCox比例ハザードモデルで評価し、ハザード比(HR)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・研究参加者は、40代以上の成人8万8,905人(平均年齢±SD:62.4±7.8歳、女性:5万577例[56.9%])であった。・夜間照明が非常に明るい環境の人(91~100パーセンタイル)は、最も暗い人(0~50パーセンタイル)と比較して、さまざまな疾患発症リスクが有意に高かった。 ●冠動脈疾患…調整ハザード比(aHR):1.32、95%信頼区間(CI):1.18~1.46 ●心筋梗塞…aHR:1.47、95%CI:1.26~1.71 ●心不全…aHR:1.56、95%CI:1.34~1.81 ●心房細動…aHR:1.32、95%CI:1.18~1.46 ●脳卒中…aHR:1.28、95%CI:1.06~1.55・これらの関連性は、既存の心血管リスク因子(身体活動、喫煙、アルコール、食事、睡眠時間、社会経済的地位、多遺伝子リスク)調整後も有意であった。・夜間の光曝露と心不全(交互作用のp=0.006)および冠動脈疾患(交互作用のp=0.02)リスクとの関連は女性でより大きかった。また、参加者のうち若年者では、夜間の光曝露と心不全(交互作用のp=0.04)および心房細動(交互作用のp=0.02)リスクとの関連が大きかった。 同氏らは「既存の予防対策に加え、夜間の光曝露を避けることが心血管疾患リスクを低減するための有用な戦略となる可能性がある」としている。 なお、11月7~10日に米国・ニューオリンズで開催されたAmerican Heart Association Scientific Sessions 2025(AHA2025、米国心臓学会)でも米国・ハーバード大学のShady Abohashem氏らにより同様の報告がなされた。

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進行扁平上皮NSCLCの1次治療、ivonescimab併用がICI併用と比較しPFS改善(HARMONi-6)/Lancet

 未治療の進行扁平上皮非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、ivonescimab+化学療法はチスレリズマブ+化学療法と比較して、PD-L1の発現状態を問わず無増悪生存期間(PFS)を有意に改善させ、安全性プロファイルは管理可能なものであった。中国・上海交通大学のZhiwei Chen氏らが、同国50病院で実施した第III相無作為化二重盲検比較試験「HARMONi-6試験」の結果で示された。扁平上皮NSCLCは非扁平上皮NSCLCと比べて臨床アウトカムが不良で、治療選択肢は限られている。今回の結果を踏まえて著者は、「本レジメンは扁平上皮NSCLC患者集団における1次治療として使用できる可能性がある」とまとめている。Lancet誌2025年11月1日号掲載の報告。臨床病期(IIIB/IIIC期vs.IV期)、PD-L1発現(TPS≧1%vs.<1%)で層別化 HARMONi-6試験では、進行扁平上皮NSCLC患者に対する1次治療として、ivonescimab+化学療法(ivonescimab群)の有効性と安全性をチスレリズマブ+化学療法(チスレリズマブ群)と比較した。対象は、年齢18~75歳、未治療・切除不能な病理組織学的に確認されたStageIIIB/IIICまたはStageIVの扁平上皮NSCLCで、ECOG PSスコア0または1の患者とした。 被験者は、ivonescimab群またはチスレリズマブ群に1対1の割合で無作為に割り付けられ、ivonescimab(20mg/kg)またはチスレリズマブ(200mg)+パクリタキセル(175mg/m2)およびカルボプラチン(AUC 5mg/mL/分)をいずれも静脈内投与で3週ごとに4サイクル受けた後、維持療法としてivonescimab(20mg/kg)またはチスレリズマブ(200mg)の単独療法を受けた。臨床病期(IIIB/IIIC期vs.IV期)、PD-L1発現(TPS≧1%vs.<1%)によって層別化された。 主要評価項目は、無作為化された全被験者におけるPFS(RECIST v1.1に基づく独立画像判定委員会判定)であった。また、安全性(治療に関連した有害事象および重篤な有害事象ならびに免疫またはVEGF阻害に関連した有害事象と定義)は、割り付け治療の試験薬を少なくとも1回投与された全被験者を対象に解析が行われた。PFS中央値はivonescimab群11.1ヵ月、チスレリズマブ群6.9ヵ月 2023年8月17日~2025年1月21日に761例が適格性についてスクリーニングを受け、532例(70%)が試験に登録・無作為化された(ivonescimab群266例、チスレリズマブ群266例)。ベースライン特性は両群間でバランスが取れており、被験者は、ほとんどが現在または元喫煙者で(92%と86%)、両群ともPD-L1 TPS<1%は39%であった。 データカットオフ日の2025年2月28日時点で、ivonescimab群で162例(61%)、チスレリズマブ群で134例(50%)が割り付け治療を継続していた。追跡期間中央値は10.3ヵ月(95%信頼区間[CI]:9.5~11.0)で、PFS中央値は、ivonescimab群11.1ヵ月(95%CI:9.9~評価不能)、チスレリズマブ群6.9ヵ月(5.8~8.6)であった(ハザード比[HR]:0.60、95%CI:0.46~0.78、片側p<0.0001)。ivonescimab群のPFS改善、PD-L1発現状態にかかわらず ivonescimab群におけるPFSベネフィットは、PD-L1の発現状態にかかわらず一貫して認められた(TPS≧1%群のHR:0.66[95%CI:0.46~0.95]、<1%群:0.55[0.37~0.82])。 ivonescimab群で170例(64%)、チスレリズマブ群で144例(54%)にGrade3以上の治療関連有害事象が認められ、ivonescimab群で24例(9%)、チスレリズマブ群で27例(10%)にGrade3以上の免疫関連有害事象が認められた。Grade3以上の治療関連出血は、ivonescimab群で5例(2%)、チスレリズマブ群で2例(1%)に認められた。

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HER2変異陽性NSCLCに対するゾンゲルチニブを発売/ベーリンガーインゲルハイム

 日本ベーリンガーインゲルハイムは「がん化学療法後に増悪したHER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌(NSCLC)」の適応で、厚生労働省より製造販売承認を取得したゾンゲルチニブ(商品名:ヘルネクシオス)を2025年11月12日に発売した。ゾンゲルチニブは、同適応症に対する分子標的薬として、国内初の経口薬となる。 HER2遺伝子変異は、NSCLC患者の約2~4%に認められるとされており、非喫煙者や女性、腺がんで多くみられる。また、HER2遺伝子変異陽性のNSCLCは予後不良であり、脳転移のリスクも高いことが知られている。 ゾンゲルチニブは、野生型EGFRを阻害せず、HER2のチロシンキナーゼドメイン以外の変異(HER2 exon20挿入変異など)を含む広範なHER2変異体に対して阻害活性を有するHER2選択的チロシンキナーゼ阻害薬である。また、共有結合型の不可逆的な結合様式を有する。 ゾンゲルチニブの承認の根拠となった国際共同第I相非盲検用量漸増試験「Beamion LUNG-1試験」1)では、既治療のNSCLC患者における奏効率は71%(完全奏効率7%、部分奏効率64%)であり、病勢コントロール率は96%であった。最も多く報告された有害事象はGrade1の下痢(48%)であり、治験薬との因果関係のあるGrade3以上の有害事象の発現割合は17%であった。<製品概要>販売名:ヘルネクシオス60mg錠一般名:ゾンゲルチニブ製造販売承認日:2025年9月19日薬価基準収載日:2025年11月12日効能又は効果:がん化学療法後に増悪したHER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌用法及び用量:通常、成人には、ゾンゲルチニブとして1日1回120mgを経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。製造販売元:日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社

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がん治療の中断・中止を防ぐ血圧管理方法とは/日本腫瘍循環器学会

 第8回日本腫瘍循環器学会学術集会が2025年10月25、26日に開催された。本大会長を務めた向井 幹夫氏(大阪がん循環器病予防センター 副所長)が日本高血圧学会合同シンポジウム「Onco-Hypertensionと腫瘍循環器の新たな関係」において、『高血圧管理・治療ガイドライン2025』の第10章「他疾患やライフステージを考慮した対応」を抜粋し、がん治療の中断・中止を防ぐための高血圧治療実践法について解説した。高血圧はがん患者でもっとも多い合併症の一つ、がんと高血圧の関係は双方向性を示す がんと高血圧はリスク因子も発症因子も共通している。たとえば、リスク因子には加齢、喫煙、運動不足、肥満、糖尿病が挙げられ、発症因子には血管内皮障害、酸化ストレス、炎症などが挙げられる。そして、高血圧はがん治療に関連した心血管毒性として、心不全や血栓症などに並んで高率に出現するため、血圧管理はがん治療の継続を判断するうえでも非常に重要な評価ポイントとなる。また、高血圧が起因するがんもあり、腎細胞がんや大腸がんが有名であるが、近年では利尿薬による皮膚がんリスクが報告されている1)。 このように高血圧とがんは密接に関連しており、今年8月に改訂された『高血圧管理・治療ガイドライン2025』(以下、高血圧GL)には新たに「第10章7.担がん患者」の項2)が追加。治療介入が必要な血圧値を明記するとともに、がん特有の廃用性機能障害・栄養障害、疼痛、不安などの全身状態に伴う血圧変動にも留意する旨が記載されている。 向井氏は「このような高血圧はがん治療関連高血圧と呼ばれ、さまざまながん治療で発症する。血圧上昇のメカニズムは血管新生障害をはじめ、血管拡張障害によるNO低下、ミトコンドリアの機能低下など多岐にわたる。血圧上昇に伴いがん治療を中断させないためにも、発症早期からの適切な降圧が必要」と強調した。<注意が必要な薬効クラス/治療法と高血圧の発生率>3,4)・VEGF阻害薬(血管新生阻害薬):20~90%・BTK阻害薬:71~73%・プロテアソーム阻害薬:10~32%・プラチナ製剤:53%・アルキル化薬:36%・カルシニューリン阻害薬(シクロスポリン):30~60%・BRAF/MEK阻害薬:20%・RET阻害薬:43%・PARP阻害薬:19%・mTOR阻害薬:13%・ホルモン療法(アンドロゲン受容体遮断薬・合成阻害薬):11~26%*注:上記についてすべての症例が同様の結果を示すわけではない140/90mmHg以上で降圧薬開始、がん治療後も130/80mmHg未満を この高血圧GLにおいて、がん治療患者の降圧治療開始血圧は140/90mmHg以上、動脈硬化性疾患、慢性腎臓病、糖尿病合併例では130/80mmHg以上で考慮することが示され、まずは140/90mmHg未満を目指す。もし、降圧治療に忍容性があれば130/80mmHg未満を、転移性がんがある場合には予後を考慮して140~160/90~100mmHgを目標とする。 がん治療終了後については、血圧管理は130/80mmHg未満を目標とする。治療介入するには低過ぎるのでは? と指摘する医師も多いようだが、患者の血管はがんやがん治療によりすでに傷害されていることがあり、「その状況で血圧上昇を伴うと早期に臓器障害が出現してしまう」と同氏は経験談も交えて説明した。ただし、廃用性機能障害・栄養障害 を示す症例において血圧の下げ過ぎはかえって危険なため、がん治療関連高血圧マネジメントにおいては、基本的には高リスクI度高血圧およびII・III度高血圧に対する降圧薬の使い方(第8章1.「2)降圧薬治療STEP」)の遵守が重要である。同氏は「STEP1として、治療開始はまず単剤(RA系阻害薬あるいは長時間作用型ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬)から、160/100mmHg以上の場合には両者を併用する。降圧不十分な場合にはSTEP2、3と高血圧GLに沿って降圧薬を選択していく」とし、「がん患者の病態をチェックしながら体液貯留や脱水状態そして頻拍、心機能障害などの有無などに合わせ降圧薬を選択する必要がある。さらに治療抵抗性を示す症例では選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)などの投与を考慮して欲しい」と説明した。 がん治療の中止基準となる血圧値については「180/110mmHg以上または高血圧緊急症が認められた場合、がん治療の休止/中止または治療薬変更が求められる」と説明した。 最後に同氏は「がん治療終了後も治療終了(中止)に伴う血圧変化として血圧低下に注意し、がんサバイバーにおいては晩期高血圧のフォローアップが重要となる。そのためには、がん治療が終了した後もがん治療医、循環器医、そして腎臓内科医やプライマリケア医、外来薬剤師などが連携して、患者の血圧管理を継続してほしい」と締めくくった。「大阪宣言2025」 今回の学術集会では、日本の腫瘍循環器外来発症の地、大阪での開催を1つの節目として、南 博信氏(神戸大学大学院医学研究科 腫瘍・血液内科/日本腫瘍循環器学会 理事長)による「大阪宣言2025」がなされた。これは、がん診療医と循環器医が診療科横断的に協力し合い、多職種が連携・協同し、がん患者の心血管リスクや心血管合併症の管理・対応、がんサバイバーにおける予防的介入により、がん患者・がんサバイバーの生命予後延伸とQOL改善を目指すため、そして市民啓発から腫瘍循環器の機運を高めていくために宣言された。 日本での腫瘍循環器学は、2011年に大阪府立成人病センター(現:大阪国際がんセンター)で腫瘍循環器外来が開設されたことに端を発する。その後、2017年に日本腫瘍循環器学会が設立され、2023年日本臨床腫瘍学会/日本腫瘍循環器学会よりOnco-Cardiologyガイドラインが発刊されるなど、国内での腫瘍循環器診療の標準化が着実に進められている。

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原因不明の慢性咳嗽の“原因”が明らかに?

 英国・マンチェスター大学のAlisa Gnaensky氏らが、原因不明の慢性咳嗽(unexplained chronic cough:UCC)と原因が明らかな慢性咳嗽(explained chronic cough:ECC)を区別するための臨床リスク因子として、後鼻漏の有無を特定した。Allergy and Asthma Proceedings誌2025年9月1日号掲載の報告。本研究者らは過去の研究において、喘息や慢性閉塞性肺疾患よりもUCCである可能性が高い患者像*を報告していた。*鎮咳薬の服用量が多い、医療機関の受診回数/頻度が多い、肺機能が正常またはほぼ正常な高齢女性 本研究は、米国の7つの咳嗽センターで慢性咳嗽患者に配布された電子質問票を基に調査を行い、平均±標準誤差、連続変数の頻度(一元配置分析)、カテゴリ変数のクロス集計頻度(二元配置分析)を計算した。UCCとECCの単変量比較はt検定とノンパラメトリック一元配置分析を使用して行われた。 主な結果は以下のとおり。・登録全150例のうち、UCCは29例、ECCは121例であった。・UCCとECCの鑑別について、家族歴、年齢、性別、人種、季節性による有意差は認められなかった。・多重ロジスティック回帰分析の結果、後鼻漏の有無がUCCとECCの有意な鑑別因子であることが示された(オッズ比:4.8、95%信頼区間:1.6~15.3)。・咳嗽の重症度は、UCC患者、慢性気管支炎および/または肺気腫の患者、高血圧症、喫煙歴、高BMI、女性、教育水準、および環境刺激物質(香水[p=0.006]、家庭用洗剤[p=0.01]、芳香剤[p=0.03]、冷気[p=0.007]、タバコの煙[p=0.05])の反応性が高い患者ではより重症であった。 UCC患者はECC患者と比較して、特定の人口統計学的特徴、併存疾患を有し、環境刺激物質による重度の咳嗽を呈する頻度が高かった。これらの臨床的特徴は、UCCの診断を加速させるリスク因子を特定するのに役立つ可能性がある。

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シフト勤務は腎結石のリスク増加と関連

 シフト勤務で働く人は、腎結石の発症リスクが高いようだ。新たな研究で、シフト勤務者では、非シフト勤務者と比較して腎結石の発症リスクが15~22%高く、この傾向は、特に50歳未満の人や肉体労働をほとんどあるいは全くしない人で顕著なことが示された。中国中山大学の疫学者であるYin Yang氏らによるこの研究の詳細は、「Mayo Clinic Proceedings」10月号に掲載された。 Yang氏らは、「この研究結果は、シフト勤務が腎結石発症のリスク因子として考慮されるべきであることを示唆するとともに、シフト勤務者の間で腎結石の発症予防を目的とした健康的なライフスタイルを推進する必要性を強調するものだ」と結論付けている。 腎臓結石は、尿に含まれているシュウ酸カルシウムなどの物質が腎臓内で塊となってできる硬組織である。腎結石が尿管に下降すると(尿管結石)、鋭い痛みや吐き気などを引き起こすことがある。 今回の研究でYang氏らは、UKバイオバンク参加者22万6,459人(平均年齢52.55±7.07歳)のデータを用いて、シフト勤務と腎結石発症との関連を検討した。対象者の16.13%(3万6,537人)がシフト勤務に従事していた。 中央値13.7年の追跡期間中に2,893人が腎結石を発症していた。解析の結果、シフト勤務者では非シフト勤務者と比較して腎結石の発症リスクが15%高いことが明らかになった(ハザード比1.15、95%信頼区間1.04〜1.26)。シフト勤務者の中で最もリスクが高いのは夜間勤務者であった(同1.22、1.08〜1.38)。媒介分析からは、シフト勤務と腎結石発症との関連を媒介する因子として、喫煙、睡眠時間、座位時間、BMI、水分摂取量のあることが示された。さらにサブグループ解析からは、シフト勤務と腎結石発症との関連は、50歳未満の人(同1.32、1.14〜1.52)と重度の肉体労働をほとんどあるいは全く行わない人(同1.27、1.09〜1.47)で顕著に高いことが示された。 この研究の付随論評を執筆した米メイヨー・クリニックの腎臓専門医Felix Knauf氏は、シフト勤務が人間の睡眠・覚醒サイクル(概日リズム)に与える影響も、腎結石リスクの一因となっている可能性が高いとの見方を示している。同氏は、「人の体内時計は、水分バランスや体内の化学反応を調節するシステムの制御に役立っている。したがって、シフト勤務が腎結石の形成を促進するという本研究で観察された影響は、少なくとも部分的には、シフト勤務が概日リズムを乱すことによる影響を反映していると言える」との考えを示し、「この研究結果は、勤務スケジュールの柔軟性の向上など、腎結石のリスク要因を改善するための取り組みを模索する必要があることを浮き彫りにしている」と指摘している。 Yang氏も、「シフト勤務者の健康的な生活習慣をサポートすることは、彼らの泌尿器の健康に大きな影響を与える可能性がある」としてKnauf氏に同意を示している。またYang氏は、「職場における健康促進活動には、体重管理、水分摂取量の増加、健康的な睡眠習慣、座位時間の減少、禁煙の重要性を強調する教育プログラムを組み込むことが有効だ。これらの介入は、シフト勤務が腎結石形成に及ぼす悪影響を軽減し、労働者の健康を改善する可能性を秘めている」と話している。

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