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心血管疾患(CVD)リスク因子については、高血圧や喫煙、体型、栄養などの関連性が指摘されている。では、これらの因子はCVDへの寄与について、どの程度定量化できるのであろうか。このテーマに関して、国立循環器病研究センター予防医学・疫学情報部の尾形 宗士郎氏らの研究グループは、高度なマイクロシミュレーションモデル「IMPACT NCD-JPN」を開発し、2001~19年に起きた循環器病のリスク要因の変化が、全国の循環器病(冠動脈疾患と脳卒中)の発症数、死亡数、医療費、QALYs(質調整生存年)にどのような影響を与えたかを定量的に評価した。その結果、収縮期血圧(SBP)の低下と喫煙率の低下が循環器病発症の軽減に大きく寄与していることがわかった。この結果は、The Lancet Regional Health Western Pacific誌2025年7月8日号に掲載された。男女ともに収縮期血圧と喫煙率の低下がCVD発症予防に寄与 研究グループは、2001~19年までの日本の人口集団(30~99歳)を、7つのCVDリスク因子の生涯データを用いてシミュレートし、集団におけるCVD発症率、死亡率、医療経済を推定した。ベースケースは観察傾向を反映、対照シナリオでは2001年の水準が継続したと仮定した。主要なアウトカムは、脳卒中と冠動脈疾患を含む全国的なCVD発症率であり、IMPACT NCD-JPNを用い、対照分析を含むマイクロシミュレーション研究を実施した。 主な結果は以下のとおり。・2001~19年にかけて、SBPと喫煙率は、男性/女性でそれぞれ6.8/7.2mmHgと18.4/6.8%減少した。・LDLコレステロール(LDL-c)、HbA1c、体格指数(BMI)、身体活動(PA)、果物/野菜(FV)の摂取量は、よりわずかな変化または悪化する傾向を示した。・ベースケースと対照シナリオについて、IMPACT NCD-JPNでCVD発生率を推定し、シナリオ間の差を定量化した結果、CVDリスク因子の変化により、期間累計で84万件(95%不確実性間隔:54万~130万)の国内CVD症例を予防またはその発症を遅らせた。・個々のCVDへの寄与度は、SBP:54万件、喫煙:28万件、LDL-c:2万7,000件、HbA1c:7,900件、BMI:-1万5,000件、PA:-1万6,000件、FV:-1万1,000件だった。 以上の結果から研究グループでは、「わが国における2001~19年までのCVDの負担減少の大部分は、SBPと喫煙の減少によるものだった。LDL-cとHbA1cからはわずかな効果が得られたが、BMIの増加、PAの低さ、およびFV摂取量の不足がこれらの効果を一部相殺した」と考えている。