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第80回 オミクロン株を懸念、3回目接種の間隔見直し検討へ/厚労省

<先週の動き>1.オミクロン株を懸念、3回目接種の間隔見直し検討へ/厚労省2.医師の残業、年間上限導入で2024年から原則年960時間に3.地域医療構想の実現に向け、重点支援区域で準備が進む/厚労省4.がん診療連携拠点病院の指定要件を改定へ/厚労省5.新型コロナ後遺症についても診療の手引きを作成/厚労省6.コロナ経口薬molnupiravir、日本でも承認申請へ/MSD1.オミクロン株を懸念、3回目接種の間隔見直し検討へ/厚労省政府は新型コロナウイルスの新しい変異型オミクロン株の世界的な急拡大に対応するため、来年1月以降から本格的に取り組む予定であった3回目のワクチン接種について、諸外国と同様に2回目接種との間隔の短縮を検討している。12月2日に開かれた全国知事会と日本医師会のオンライン会合では、3回目接種の時期を「前倒しする必要がある」との意見で一致している。3回目の接種をめぐっては、ファイザー製ワクチン以外に、モデルナ製ワクチンの在庫も活用する方向で検討に入っており、早期の開始に向け、準備が進められる。(参考)オミクロン株2例目 政府 ワクチン3回目接種の間隔見直しも検討(NHK)首相、3回目接種前倒し表明へ モデルナ在庫を活用(日経新聞)3回目接種「前倒しする必要がある」…全国知事会と日本医師会が意見交換(読売新聞)2.医師の残業、年間上限導入で2024年から原則年960時間に厚生労働省は、11月30日に労働政策審議会分科会を開催し、医師の働き方改革に関する検討会報告書と医師の働き方改革の推進に関する検討会中間とりまとめを踏まえた医療法の改正に伴い、2024年4月から上限規制を適用することとなった。地域医療を担う医療機関などで特例水準(連携B、B、C-1、C-2)の医療機関で、長時間労働を避けられない場合は、医師労働時間短縮計画作成ガイドラインに基づいて医師労働時間短縮計画の立案と実施をもとに、都道府県の許可を受けた医療機関のみ年1,860時間とする省令案について了承した。なお、都道府県から指定を受けるためには、2021年10月~2022年9月末までに各医療機関が「医師労働時間短縮計画」を策定し、2022年度中に第三者機関による評価を受けたうえで、2023年度に都道府県に申請することが必要となる。(参考)医師残業、年1860時間 上限定める省令案了承(中日新聞)資料 医師の時間外労働の上限水準を超える時間外労働時間を設定する医療機関について(山形県)資料 労働基準法施行規則の一部を改正する省令案等の概要(厚労省)資料 医師の時間外労働規制について(同)3.地域医療構想の実現に向け、重点支援区域で準備が進む/厚労省厚労省は3日に「地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ」を開催し、地域医療構想の取り組み・検討状況について調査し、その結果について討論した。再検証対象の436医療機関において、2025年7月までに病床機能あるいは病床数を変更する予定と回答したのは340医療機関(全体の78%)だった。また、再検証の実施について合意済みまたは合意結果に基づいて措置済みの175医療機関において、2022年7月までに病床機能あるいは病床数を変更する予定と回答したのは150医療機関でほとんどを占めた。具体的には、医療機能(病床機能、診療科など)の集約化のために、医療機関の統合、地域医療連携推進法人の設立、在宅療養支援病院の指定など役割の明確化・変更など実施状況が共有され、今後も重点支援区域の設定を通じて国による助言や集中的な支援を行うこととした。なお、重点支援区域には、宮城県仙南区域、石巻・登米・気仙沼区域のほか、滋賀県(湖北区域)、山口県(柳井区域、萩区域)、北海道(南空知区域、南檜山区域)、岡山県(県南東部区域)、新潟県(県央区域)、佐賀県(中部区域)、兵庫県(阪神区域)、熊本県(天草区域)、山形県(置賜区域)、岐阜県(東濃区域)、新潟県(上越区域、佐渡区域)、広島県(尾三区域)の12道県17区域が含まれている。(参考)資料 地域医療構想に関する地域の検討・取組状況等について(厚労省)再検証対象の公立・公的175医療機関が合意済み 重点支援区域に新潟「上越」「佐渡」、広島「尾三」(CBnewsマネジメント)4.がん診療連携拠点病院の指定要件を改定へ/厚労省厚労省は11月30日にがん診療連携拠点病院等の指定要件に関するワーキンググループを開き、要件の見直しについて検討を行った。がん対策基本法に基づき閣議決定されている「がん対策推進基本計画」により、全国どこでも質の高い医療を提供することができるよう、がん診療の均てん化を目指して整備を進めてきたが、この整備指針の要件や、要件を満たせなくなった施設への対応などについて議論を行った。今後、2022年6~7月までに議論を重ね、整備指針を改定する見込み。(参考)資料 がん診療連携拠点病院等における指定要件の見直しについて(厚労省)2022年夏にがん連携拠点病院の指定要件見直し、高度型の意義、診療実績・体制要件等を議論―がん拠点病院指定要件WG(Gem Med)がん診療拠点病院、指定要件見直しの議論開始 厚労省WG、「望ましい」要件など論点(CBnewsマネジメント)5.新型コロナ後遺症についても診療の手引きを作成/厚労省厚労省は1日に新型コロナウイルス感染症について、「罹患後症状のマネジメント」を公表した。感染者数が減少する一方で、新型コロナウイルス感染からは回復したにもかかわらず“後遺症”と呼ばれるような症状に悩む患者が存在する。今回、診療の手引きの別冊として、回復後の経過を診るかかりつけ医がどのタイミングで専門医の受診を勧めるべきかなどについて書かれている。なお、新型コロナウイルス感染症の後遺症の頻度については、海外における45の報告から出された系統的レビューで、COVID-19の診断・発症・入院後2ヵ月あるいは退院・回復後1ヵ月を経過した患者のうち、72.5%が何らかの症状を訴えたと報告されている。倦怠感、関節痛、筋肉痛といった全身症状のほか、咳、喀痰、息切れなどの呼吸器症状、あるいは集中力低下、記憶障害、不眠、抑うつなどの精神・神経症状のほか、嗅覚障害・味覚障害などが含まれており、もっとも多いのは倦怠感(40%)だった。(参考)新型コロナウイルス感染症 診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント(厚労省)新型コロナ後遺症 初の医療関係者向け手引きを公表 厚生労働省(NHK)「コロナ後遺症」に初めての手引き 「患者の支援を」厚労省が公表(朝日新聞)6.コロナ経口薬molnupiravir、日本でも承認申請へ/MSD米メルク日本法人のMSDは、厚労省に新型コロナウイルス感染症に対する経口治療薬として抗ウイルス薬molnupiravir(モルヌピラビル)の製造販売承認を申請した。今回は特例承認の適用を求めており、今月中に厚労省の専門家部会で審議される見込み。軽症から中等症の新型コロナウイルス感染症の入院していない成人患者を対象としてモルヌピラビルを投与した第III相MOVe-OUT試験の中間解析の結果、無作為割り付けから29日目までに入院または死亡した患者はモルヌピラビル群では7.3%(28/385例)、プラセボ群では14.1%(53/377例)と有意差を認めた(p=0.0012)。29日目までにモルヌピラビル群では死亡は認めず、プラセボ群では8例の患者が死亡した。(参考)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療薬として経口の抗ウイルス薬モルヌピラビルの製造販売承認申請 特例承認の適用を希望した申請(MSD)米製薬大手メルク 新型コロナの飲み薬 日本での使用 承認申請(NHK)コロナ飲み薬「モルヌピラビル」、オミクロン株にも有効な可能性…今月中に特例承認へ(読売新聞)コロナ飲み薬の承認を申請 米メルクのモルヌピラビル(産経新聞)

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第69回 「骨太」で気になった2つのこと(後編) 制度化4年目にして注目集める地域医療連携推進法人の可能性

首都圏に緊急事態宣言再発令も手詰まり感、ロックダウン法制化も現実味こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。オリンピックの競技が佳境に入る中、新型コロナ感染症の新規感染者数もうなぎ登りになって来ました。首都圏の病床の逼迫具合も深刻さを増しており、菅 義偉首相が繰り返し国民に約束してきた「安全、安心」のオリンピック開催は既に破綻状態と言えます(オリンピック関係者の陽性者も増えています)。7月28日、東京都の新規感染者数が初めて3,000人を超え、3,177人と発表された日、テレビ朝日系列の報道ステーションは興味深い指摘をしていました。約1ヵ月前に厚生労働省が発表したシミュレーションでは、緊急事態宣言を出した場合、東京都の7月の新規感染者数は1,000人程度のピークで留まり、その後は減少していく、という予測だったそうです。一方、緊急事態宣言を出さずに人流も減らなかった場合は、28日の段階で3,000人規模になり、その後も上昇する、という予測でした。つまり、現在の東京の感染状況は、「緊急事態宣言を出さなかった場合の予測」とほぼ同じになっているのです。それにも関わらず、8月2日から埼玉、千葉、神奈川の各県と大阪府に再び緊急事態宣言が発令されました。もはや感染拡大を抑える効果がほとんどない緊急事態宣言は、国が国民に感染拡大の責任の一部を押し付けるためのエクスキューズのようにも見えます。政府が首都圏での緊急事態宣言発令を決定する前日の7月29日には、日本医師会、日本病院会など9つの医療関係団体が、緊急事態宣言の対象を全国にすることも検討するよう、政府に求める緊急声明を発表しています。年初から散々、コロナ対応病床不足や地域での連携不足を指摘され、その反省のもと医療体制を整えてきたはずなのに、この慌てぶりは何なのでしょう。政府も日医をはじめとする医療関係団体も、ワクチン接種に過大な期待をかける一方で、デルタ株の恐ろしさ(7月末に明らかになった疾病対策センターの内部資料では「デルタ株はより重篤な症状を引き起こし、水痘と同じくらい容易に蔓延するとみられる」とされています)を甘く見ていたのではないでしょうか。7月30日の政府の基本的対処方針分科会では、将来的にはロックダウン(都市封鎖)を可能とする法整備の検討を求める声も出たようです。菅首相はこの時点では否定的な考えだったとのことですが、このまま感染拡大が収まらなければ、日本でもロックダウンの法制化があるかもしれません。8月2日に開かれた関係閣僚会議では、重症患者や重症化リスクの高い人には、必要な病床を確保するとともに、それ以外の人は自宅療養を基本とし、症状が悪化すれば、すぐに入院できる体制を整備する方針が示されました。自宅などを医師が往診した場合、診療報酬が950点増額されるとのことですが、これで新たに往診を始めよう、件数を増やそうという医療機関がそれほど出てくるとは思えません(往診に取り組んでいるところはもうやっているでしょう)。むしろ、コロナ患者の往診や訪問診療に慣れておらず感染対策も不十分な医師の新規参入は、逆に地域で感染を拡大させる危険性すらあります。「かかりつけ医」と「地域医療連携推進法人」をフィーチャーさて、前回に続き、政府が臨時閣議で決定した「経済財政運営と改革の基本方針2021」(「骨太の方針2021」)について、気になったことを書いていきます。「骨太の方針2021」では、感染症拡大の緊急時の対応を、より強力な体制と司令塔の下で推進する考えが示されました。中でも医療提供体制については、感染症に対応するため、医療定休体制の「平時」と「緊急時」の体制を迅速・柔軟に行うべき、としています。そのための具体的方策としては「かかりつけ医」と「地域医療連携推進法人」がフィーチャーされています。前回は日本医師会が頑なに制度化を反対する「かかりつけ医」について書きました。今回はもう一つの要となりそうな制度、地域医療連携推進法人について考えてみたいと思います。連携推進法人制度を活用し、病院の連携・機能強化と集約化進める「骨太の方針2021」では、地域医療連携推進法人について「第3章 感染症で顕在化した課題等を克服する経済・財政一体改革」の中で、「今般の感染症対応の検証や救急医療・高度医療の確保の観点も踏まえつつ、地域医療連携推進法人制度の活用等による病院の連携強化や機能強化・集約化の促進などを通じた将来の医療需要に沿った病床機能の分化・連携などにより地域医療構想を推進する」と明記されました。地域医療連携推進法人制度がスタートして4年、当初は「単なる医療機関の統廃合の促進策」「経済的なメリットがほとんどなく手を挙げるところは少ないのでは」などと医療関係者の多くから揶揄され、認定される数も全国で年数法人程度と超スローペースでした。しかしここに来て、コロナ禍の中、地域医療連携推進法人に参加している病院・施設間で、コロナ患者の重症度による患者振り分けを行っているところも出てきており、より有機的な医療連携のモデルとして改めて着目されています。コロナ禍にあっても設立を検討する医療法人や自治体が増えていると聞きます。制度ができる前から、各地で地域医療連携推進法人の設立をサポートしてきた知人の医療コンサルタントは、閣議決定直後、「雌伏4年、やっと連携法人の時代がやって来る!」とわざわざ連絡してきたくらいでした。危機感を持つ医療法人同士が連携と効率化を自発的に進める仕組みでは、地域医療連携推進法人とはいったいどんな制度なのでしょうか。簡単におさらいしておきましょう。この制度は、「医療機関相互の機能の分担および業務の連携を推進し、地域医療構想を達成するための一つの選択肢」として、2015年の医療法改正で創設が決まり、2017年4月から制度がスタートしました。「競争よりも協調を進め、地域において質が高く効率的な医療提供体制を確保」するため、それまで個々の経営理念、方針に基づき運営されてきた複数の病院などを一つの方向性に導き、より良い機能分担や連携、経営効率化を進めるための仕組みが制度に盛り込まれています。元々は「ホールディングカンパニー型」を提案もっとも、国は当初、違った思惑と目的を持って制度化を検討していました。今から8年前の2013年8月、「社会保障制度改革国民会議報告書」は、「地域における医療・介護サービスのネットワーク化を図るためには、当事者間の競争よりも協調が必要であり、その際、医療法人等が容易に再編・統合できるよう制度の見直しを行うことが重要である」とし、制度改革の一例としてホールディングカンパニー型を提案しました。そもそも医療法人には、合併制度はあるもののハードルが高く、一方、公的病院は合併制度自体が存在しません。こうした状況を踏まえての提案でした。その後、2014年6月に閣議決定した「日本再興戦略(改訂2014)」で、「複数の医療法人や社会福祉法人等を、社員総会等を通じて統括し、一体的な経営を可能とする『非営利ホールディングカンパニー型法人制度(仮称)』を創設する」として新制度創設に向けて議論が本格的に動き出しました。しかし、紆余曲折を経て、最終的には現行の医療法の枠組みの中で「新型法人」として検討が進み、地域の医療機能の連携強化や資源効率化のための手段、という役割が全面に出された今の制度に落ち着いたわけです。「地域医療構想を達成するための一つの選択肢」という役割も付与されています。地域医療連携推進法人の3つの業務地域医療連携推進法人の主な業務内容は、1)統一的な医療連携推進方針の決定2)医療連携推進業務等の実施3)参加法人の統括の3つです。1)の「統一的な医療連携推進方針」とは、複数の医療機関で、診療内容や病床機能、在宅復帰への流れなどについて統一した方針を定めるということです。核となる2)の「医療連携推進業務」は、診療科・病床の再編、医療従事者らの共同研修、医師の配置換え、医薬品等の共同交渉・共同購入、医療機器の共同利用等、かなり幅広い業務が認められています。なお、診療科・病床の再編に関しては、参加法人内の病院間の病床の融通も可能です。ある病院で産科病床を閉めて病床が余った場合、他の病院のがんの病床の増床に振り向ける、といったこともできるわけです。経営者のセンスが試される「医療連携推進業務等の実施」つまり、参加した医療法人が有する病院間で、診療科や医療機能の棲み分けを行い、より効率的に地域医療を展開するためのツールが地域医療連携推進法人なのです。医師ばかりでなく、看護師や診療放射線技師などの医療スタッフを必要に応じて法人間で融通したり、地域フォーミュラリーを策定して薬剤を共同購入したりしている地域医療連携推進法人もあります。参加法人の了解を取り、「医療連携推進業務」をどこまで広げられるかが活用のポイントであり、経営者のリーダーシップやセンスが試される制度と言えるでしょう。北海道から鹿児島県まで28法人が認定2021年7月1日現在、北は北海道から南は鹿児島県まで28法人が地域医療連携推進法人として認定されています。厚生労働省のサイトには、その一覧が掲載されています。各都道府県の当該サイトでは、個々の地域医療連携推進法人の詳細を見ることもできます。大病院を核に中小病院や介護保険施設などが集まり、地域包括ケアシステムの構築を視野に入れるもの(山形県の日本海ヘルスケアネットなど)から、へき地において医師の確保に主眼を置くもの(広島県の備北メディカルネットワークなど)、県立病院と民間病院の統合をスムーズに進める前段階として認可を受けたもの(兵庫県のはりま姫路総合医療センター整備推進機構)まで、制度の活用の仕方はさまざまです。大学病院が主導して地域医療連携推進法人をつくる例もあります。愛知県の藤田医科大学が中心となってつくった尾三会や、大阪府の関西医科大学が主導してつくった北河内メディカルネットワークなどがそれに当たります。大学病院から退院する患者の受け皿整備が狙いとみられます。各地の地域医療連携推進法人に共通するのは、将来への危機感を持つ病院が生き残りをかけて集まっていることです。国や都道府県が進める地域医療構想では医療機能の棲み分けや、経営効率化が進まないことから、リーダーシップのある病院経営者が地域の医療機関を説得し、地域医療連携推進法人の設立を考えるケースもあるようです。日医は「株式会社の参入につながる」と懸念を表明地域医療連携推進法人は、医療法において5年ごとに制度見直しを行うことが決まっており、2022年度から厚労省は制度見直しに着手する予定です。政府の「成長戦略フォローアップ工程表」では、国は2021年度中に資金融通等の制度面・運用面の課題を把握し、2022年度から検討を踏まえ措置する、とされており、地域医療連携推進法人の取り組みに対しインセンティブが働くような制度に改善されるでしょう。そうなると、生き残りをかける地域の医療機関にとっては、なくてはならない制度になる可能性もあります。もっとも、「骨太」で脚光を浴び、制度も改善の方向で動き始めた一方で、日本医師会はこの制度の普及・発展にはあまり乗り気ではないようです。中川 俊男会長は6月23日の定例記者会見で「骨太の方針2021」に明記された事項に対する日医の見解を説明しましたが、地域医療連携推進法人については、国や都道府県主導M&Aの推進、更には病院経営への株式会社の参入につながることへの懸念を表明したとのことです。医療機関が自主的に連携を強化し、機能の役割分担をしようという動きをも牽制するとは、相変わらずの守旧派ぶりと言えるでしょう。そう言えば、この制度がスタートしたばかりの2017年、九州のある県の医療審議会に、乳がん専門病院と泌尿器科の専門病院同士が地域医療連携推進法人を設立しようと認定を申請したことがありました。しかし、結果は「認定見送り」でした。書類等は完全に揃っていたにもかかわらず「見送り」となった理由は、「地元の医師会への事前の挨拶がなかったなど、医師会への配慮不十分だったため」(乳がん専門病院理事長の話)とのことでした。前回のかかりつけ医の制度化だけでなく、地域医療連携推進法人にまで横槍を入れる日本医師会。未曾有の医療危機にあっても変革をことごとく嫌うその姿勢には、正直呆れるほかありません。

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第68回 「骨太」で気になった2つのこと(前編) かかりつけ医制度化拒む日医は開業医の質に自信がない?

「骨太の方針」は国や財務省が考える医療リストラ策こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末、ぼんやりとオリンピックの開会式を観ていたのですが、最終聖火ランナーの中に、何度か取材したことのある、多摩ファミリークリニック院長の大橋 博樹氏が「クルーズ船で対応にあたった」という紹介とともに突然登場したのには驚きました。それも、長嶋 茂雄氏、王 貞治氏、松井 秀喜氏から聖火を引き継ぐ形で。一緒に聖火をつないだのは、大規模クラスターが発生し、現場対応で大変な苦労をされた永寿総合病院の看護師の方とみられます。いわゆる“コロナ医療枠”というわけですが、どういう経緯でコロナに関わる数多くの医師の中から大橋氏(日本プライマリ・ケア連合学会の副理事長でもあります)が選ばれたのか、今度取材する機会があったらうかがってみたいと思います。さて、今回は約1ヵ月前の6月18日に、政府が閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2021」(「骨太の方針2021」)について、気になったことを書きたいと思います。「骨太の方針」とは、政府としての経済・財政運営の基本的な方針や重要政策をまとめたものです。内閣府の重要政策に関する会議の一つである経済財政諮問会議(議長は首相、経済財政担当相、財務相、民間議員らで構成)において、通常年明けから主要テーマを決めて検討します。最終的に、例年6月に経済財政諮問会議で決定された後、政府の正式な決定として閣議決定されます。「骨太」と言われる所以は、2001年1月、省庁再編により内閣府に設置された経済財政諮問会議が開催され、当時の宮沢 喜一財務相が「骨太」と命名したため、と言われています。基本策、つまり「骨や軸」を諮問会議で決めた後、中身の具体策を財務省などで決めていく流れです。宮沢財務相は、「太くてしっかりした骨組み」という意味合いを込めて「骨太」と表現したようです。ではなぜ、毎年「骨太の方針」の内容が医療関係者を悩ませるのか。それは、国の予算の4割近くを社会保障費が占めているからです(2021年度予算案の国の一般会計歳出106.6兆円のうち社会保障費は35.8兆円[33.6% ])。社会保険料等も含めた社会保障給付費全体は2020年度で126.8兆円、うち医療費は40.6兆円で32%を占めています。つまり、医療関係者から見る「骨太の方針」とは、国や財務省が考える、医療リストラ策の方針そのものなのです。「かかりつけ医」と「地域医療連携推進法人」をフィーチャー「骨太の方針2021」では、感染症拡大の緊急時の対応を、より強力な体制と司令塔の下で推進する考えが示されました。中でも医療提供体制については、感染症に対応するため、医療定休体制の「平時」と「緊急時」の体制を迅速・柔軟に行うべきとしています。注目されるのは、上記の具体的方策として「かかりつけ医」と「地域医療連携推進法人」がフィーチャーされた点です。かかりつけ医については、「第3章 感染症で顕在化した課題等を克服する経済・財政一体改革」の章で、「かかりつけ医機能の強化・普及等による医療機関の機能分化・連携の推進」と明記されました。これは、社会保障制度の見直しについて議論する財政制度等審議会・財政制度分科会が今年4月、医療や介護、年金など社会保障制度の改革についての考え方を示した中で提言した、「かかりつけ医機能」の制度化を、やや表現をマイルドにしてもってきたものと言えます。この提言については以前の本連載でも紹介しました(第59回 コロナ禍、日医会長政治資金パーティ出席で再び開かれる? “家庭医構想”というパンドラの匣)。4月の時点で財務省は、「かかりつけ医機能」の制度化について、紹介状なしで大病院外来を受診した患者から定額負担を徴収する仕組みと共に推進し、外来医療の機能分化と連携につなげることを求めていました。日医はかかりつけ医制度化に「反対」を再度表明「骨太」では「制度化」という言葉は使わず、「かかりつけ医機能の強化・普及等」になっています。とはいえ閣議決定された文書に明記されたのだから何らかのアクションあるはず、と思いますですが、なかなかそうは問屋が卸さないようです。日本医師会の中川 俊男会長は6月23日の定例記者会見で、「骨太の方針2021」に対する日医の見解を説明しています。その中で、「かかりつけ医機能の強化・普及」について、「かかりつけ医は患者が選ぶものであり、その際には、国民皆保険の柱であるフリーアクセスを担保する必要がある」と、定番の「フリーアクセス」を持ち出して制度化反対を表明しました。さらに、日医がこれまで「かかりつけ医機能研修制度」を創設し、地域住民から信頼される「かかりつけ医」の養成・普及に努めてきたことを説明し、その上で「今後は、医療費抑制のためにフリーアクセスを制限するような仕組みを制度化するのではなく、『骨太の方針』にも記載されているとおり、上手な医療のかかり方を啓発し、かかりつけ医を普及していくことが重要である」と話したとのことです。以前の回でも書いたように、相変わらずののらりくらり振りです。中川会長は、「俺たち医師側はちゃんとしている。患者側に上手な医療のかかり方を啓発しろ」と言っているわけですが、これでは議論放棄です。コロナワクチン接種を巡っては、「通ったことがある」とかかりつけ医の個別接種を希望した人が、受診回数や頻度が少ないので「あなたは、うちのかかりつけではない」と断られるケースが各地で頻発しました。これも「かかりつけ医」の定義が曖昧であることから起こっているのですが、そうした現場での混乱について中川氏は特段コメントしていません。中医協でも本格議論始まる「骨太の方針2021」を受ける形で、7月に入り中央社会保険医療協議会(中医協)でも、かかりつけ医の評価を2022年の診療報酬改定にどう反映させるかについての議論が始まっています。7月7日に開かれた総会では、診療・支払各側の委員が共にかかりつけ医推進の重要性を言及しています。もっとも、支払側の委員が「いわゆるゲートキーパー的な機能を患者は求めている。特定の領域に偏らず、幅広い疾患をまずは診療できるという医師と患者が1対1の関係でしっかりした関係を構築し、安心、安全で質の高い医療を提供できる場合に評価するような医療費の配分を次期改定でぜひ行っていくべき」と患者視点のかかりつけ医の必要性を述べたのに対し、診療側(日医常任理事)はかかりつけ医の制度化について「フリーアクセスということは担保されるべき。日本医師会としては明確に反対させていただく」と述べたとのことです。何度聞いても日医の言う「フリーアクセス」とは、患者のためのものではなく、質が悪い医師のところにも一定の患者が来るようにしておくための仕組みとしか思えないのですが、どうでしょう。なお、この場で支払側委員は「次期診療報酬改定において、かかりつけ医機能を評価する診療報酬項目の要件をゼロベースで見直し、再構築すべき」とも提案しています。医療の質を、会員全体で担保できないからでは?日医側の、かかりつけ医関係の診療報酬は上げて欲しいが、その診療報酬を得るための「かかりつけ医の制度化」は嫌だ…、というのは本当に虫のいい話です。なぜ、日医は制度化を嫌がるのでしょうか。それは、かかりつけ医(言い換えれば総合診療のプロ)としての医療の質を、会員全体で担保することができないからではないでしょうか。普通に考えれば、日医が自慢げに話す「かかりつけ医機能研修制度」を今回の制度化のベースにもってくればいい気がします。ただ、研修内容の中身や応用研修受講者延べ3万9,073名、修了者数6,009名(2020年3月現在)という規模では、報酬の恩恵を多くの会員が受けられず、診療報酬算定の要件として提案できそうにありません。「かかりつけ医の制度化で、医療の質の面には踏み込んで欲しくない。だって実力も自信もないから。でも報酬は上げてくれ」というのが彼らの本心なのかもしれません。ちなみに、冒頭で触れた大橋先生が所属する日本プライマリ・ケア連合学会の家庭医の認定制度のカリキュラム内容は、当然ながら日医の研修制度よりも充実しています。患者の立場にたてば、かかりつけ医、家庭医を自称し報酬増も望むからには、これくらいの質の担保は欲しいところです。財務省は現時点ではやる気まんまんかかりつけ医については、医療法等改正で新たに始まる外来機能報告制度の中身を議論する「外来機能報告等に関するワーキンググループ」(「第8次医療計画等に関する検討会」の下部組織)でも議論される予定です。7月20日付のメディファクスには、医療・介護の予算を担当する財務省主計局の一松 旬主計官(厚生労働係第1担当)のインタビューの概要が掲載されています。同記事によれば、一松主計官は、2022年度診療報酬改定に向けて 「医療提供体制の改革なくして改定なし」の姿勢で臨む考えを示すとともに、かかりつけ医を普及・定着させるには、 要件を定めて認定することや、 患者による登録促進といった「制度化は必ず必要」と述べたとのことです。さらに、かかりつけ医の診療報酬上の評価は「包括払いがなじむ」とも語ったとのことです。患者が登録して包括払いとなると、財務省は以前の回でも紹介した英国のNHS(National Hearth Service)の家庭医制度に近い仕組みをイメージしているのかもしれません。仮にそうならば、日医の反対運動は相当なものになるでしょう。今秋から冬にかけ、かかりつけ医の制度化に向けての動きから、目が離せません。次回は、「骨太」の中でもう一つ気になった「地域医療連携推進法人」について考えてみたいと思います(この項続く)

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第53回 時間外・休日ワクチン接種の医師派遣に支援金/厚労省

<先週の動き>1.時間外・休日ワクチン接種の医師派遣に支援金/厚労省2.コロナ即日受け入れ、外来・入院加算の併算定が可能に3.コロナ労災6,041件、医療・福祉関係が75%を占める4.大規模接種センター開設も、医療者の未接種が先決問題か5.大学病院の経営状況、コロナ再拡大で回復の見込みなし6.受診控え、10ヵ月で1診療所当たり500万円以上の減収1.時間外・休日ワクチン接種の医師派遣に支援金/厚労省厚労省は、7月末までに希望する高齢者全員に接種を完了できるよう、ワクチン接種を行う医師・看護師等を確保するため、時間外・休日の接種について、被接種者1人当たりのワクチン接種対策費負担金2,070円に、診療報酬上の時間外等加算相当分の上乗せを行うと発表した。また、医師が不足すると都道府県が判断した地域に対しては、新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金の「時間外・休日のワクチン接種会場への医療従事者派遣事業」により、接種会場に時間外・休日の医師・看護師等を派遣した医療機関に対しても、財政支援が実施される。(参考)ワクチン接種要員派遣、医療機関に財政支援 医師1人1時間ごと最大7,550円、時間外・休日(CBnewsマネジメント)新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(医療分)における「時間外・休日のワクチン接種会場への医療従事者派遣事業」について(事務連絡 令和3年4月30日)2.コロナ即日受け入れ、外来・入院加算の併算定が可能に厚労省は7日、新型コロナ患者の受け入れをスムーズに行う目的で、初診・再診の後、その患者がただちに入院した場合、「医科外来等感染症対策実施加算」と「入院感染症対策実施加算」の同時算定で1日あたり10点が加算できるとの事務連絡を発出した。ただし、算定に当たっては、院内感染予防策を実施した上で、患者あるいは家族等に対して、十分な対応を行っている旨を説明することが求められている。この加算は、2021年4月から9月診療分までであり、2月26日に発出された通知に対するQ&Aの形で発出されている。(参考)初・再診後の入院も10点加算 感染予防策が前提、新型コロナ臨時措置(CBnewsマネジメント)初・再診から直ちに入院した場合、【医科外来等感染症対策実施加算】と【入院感染症対策実施加算】を併算定可―厚労省(Gemmed)新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて(その44)(事務連絡 令和3年5月7日)3.コロナ労災6,041件、医療・福祉関係が75%を占める昨年、新型コロナウイルス感染症が原因の労働災害の発生件数は、全業種で合計6,041件、うち医療保健業(病院など)の発生が2,961件、社会福祉施設での発生が1,600件に上ることが明らかとなった。これは、2020年1月1日~12月31日までに新型コロナウイルス感染による労災(休業4日以上の休業や死亡)について、厚労省が報告したもの。これより、医療機関や福祉施設における感染防御がより重要だと言える。(参考)コロナ労災、昨年1年間で6,041人…医療・福祉関係者らが計75%(読売新聞)資料 令和2年労働災害発生状況の分析等(厚労省)4.大規模接種センター開設も、医療者の未接種が先決問題か菅 義偉首相は、新型コロナワクチン接種について、1日100万回を目標とする方針を7日に明らかにした。24日に東京と大阪で大規模接種センターを開設し、6月末には高齢者の5割、7月末には全員の接種完了を目指す。なお、厚労省の4月時点の調査では、集団接種を行う2割の自治体で医師や看護師の不足が課題とされており、地方自治体の中には、高齢者ワクチンの配送が急増しても、接種を行う医療従事者の確保が十分でない現状。また、医師・看護師で2回目の接種を終えている者はまだ2割前後であり、ワクチン接種を受ける前にワクチン接種に従事することになるなど、医療従事者側にも混乱が見られる。今後、これらの課題を対応しつつ、7月末までの接種完了に向けた取り組みが強化されるだろう。(参考)新型コロナ 接種従事、医師にリスク 8割ワクチン未完了(毎日新聞)新型コロナワクチンの高齢者向け接種の前倒しについて(事務連絡 令和3年4月30日)5.大学病院の経営状況、コロナ再拡大で回復の見込みなし全国医学部長病院長会議は、新型コロナウイルス感染症に関する昨年度の大学病院の経営状況について発表した。アンケート結果によると、第3波のコロナ患者増加の中で、収支状況についても落ち込みが見られ、初診外来患者数は前年度に比べて19%減少、入院延べ患者数、新入院患者数は前年度に比べて9.9%減少、2021年1月末時点の2020年度の医業収益率は8.4%(2,196億円)減収となり、依然として厳しい経営状況にある。大学病院が通常の重症患者の医療も維持しながらコロナへの対応を果たしていくために、医療連携体制の構築や一層の財政支援を要望している。(参考)資料 新型コロナウイルス感染症に関する大学病院の経営状況調査(1月度)(全国医学部長病院長会議)コロナ入院1人につき診療報酬500万円減 京大推計(朝日新聞)6.受診控え、10ヵ月で1診療所当たり500万円以上の減収日本医師会は、新型コロナウイルス感染症による2021年1月までの診療所経営への影響に関する調査結果を公表した。これによると、「入院外(外来と在宅医療)総件数の対前年同月比」で、総件数は2020年5月を底として6月以降改善傾向だったが、11月に再び大きく落ち込み、2021年1月の対前年同月比は、小児科38.5%減、耳鼻咽喉科25.1%減と受診控えが再び見られたことが明らかとなった。また、2020年4月~2021年1月の10か月で、1施設当たり医業収入の増減額の累計は、有床診療所で573万8,000円減、無床診療所で1,091万7,000円減であった。(参考)新型コロナウイルス感染症の診療所経営への影響-2020年11月~2021年1月分-(日本医師会)

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Onco-Cardiology(腫瘍循環器学)とは【見落とさない!がんの心毒性】第1回

はじめに生活習慣の欧米化や高齢化に伴い本邦の疾病構造は大きく変化し、がんの増加と共にがんに循環器疾患を合併する患者さんが増加しています。世界的にもがん治療の進歩に伴う新しい抗がん剤の登場により循環器合併症(心毒性)の頻度が高くなり、がんと循環器の両者を診療する腫瘍循環器学(Onco-Cardiology)が注目されるようになりました。このような中、2000年に米国MDアンダーソンがんセンター循環器内科にOnco-Cardiology 外来が、本邦では2011年に大阪府立成人病センターにおいて腫瘍循環器外来を開始しました。当時、subspeciality化が進む医療現場においてニッチな学際領域であったOnco-Cardiologyは、がん治療専門施設や大学病院の循環器内科の腫瘍循環器外来として開設されました。それから約10年の歳月を経て、2020年末に日本腫瘍循環器学会の編集により「腫瘍循環器診療ハンドブック」1)が作成され、がん診療の現場での腫瘍循環器診療の標準化が始まろうとしています。しかしながら、すべてのがん診療の現場において対応するには未だ腫瘍循環器医の数は十分ではなく、がん治療の複雑化と長期化に伴う新たな心毒性の出現やがんサバイバーの増加に伴う晩期心毒性の出現など、Onco-Cardiologyにおいて新たな課題が生まれてきています。本連載は、「腫瘍循環器学:Onco-Cardiology」を初めて耳にされる方や、がん診療を行っておられる腫瘍専門医や循環器専門医の皆様で実際に心毒性のコントロールに困っておられる先生を対象に、現在第一線で腫瘍循環器診療を行っているエキスパートらが知っておいていただきたい事項の解説、具体的な症例を提示しながらOnco-Cardiologyの最新情報を紹介します。なお、本企画を連載するメンバーは、それぞれが異なった規模の医療施設において実際にOnco-Cardiologyの診療・研究を行っています。Onco-Cardiologyをできるだけ多くの読者の皆様に知っていただき、理解いただくためにも、それぞれの経験を元に最新情報を交えながらOnco-Cardiologyを紹介してまいります。掲載の都合上、不足部分については「腫瘍循環器診療ハンドブック(日本腫瘍循環器学会編集)」をお手元に置いて連載を読んでいただければ、より理解が深いものになると期待いたしております。腫瘍循環器学(Onco-Cardiology)とは従来、がんと循環器はお互いに離れた関係にあり、1970年代アントラサイクリン系抗がん剤の投与による心筋症が報告されたものの両者が触れ合う機会は決して多くありませんでした。しかしながら、21世紀を迎え分子標的薬が登場しHER2阻害薬(トラスツズマブ)心筋症などの新しい機序の心毒性が登場するようになると、循環器専門医ががん診療に介入する機会は急激に増加するようになります。(図1)に示すように新たな心毒性が出現するごとに腫瘍循環器に関連した論文数は増え、2010年以降には急速な増加を認めています2)3)。とくに血管新生阻害薬や新たな標的に対する薬剤の登場により、心筋毒性が中心であった心毒性は高血圧症や動脈・静脈血栓塞栓症などの血管毒性や不整脈関連毒性(QTc延長、心房細動、心室性頻拍症ほか)など多彩な病態を呈するようになり、循環器専門医による診療が不可欠です。さらに、免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象(irAE)では、腫瘍循環器医のみならず内分泌内科専門医、神経内科専門医など複数の診療科が共同で診療する必要のあるような複雑な合併症を示す症例も多く認められます。(図1)腫瘍循環器学関連の論文数と循環器合併症(心毒性)の推移画像を拡大するがん診療における心血管リスクの変化がん診療は発がん前の時点から始まり、急性期がん治療期、がんの回復・寛解期、そしてがん治療が終了した後と、それぞれのステージに合わせて腫瘍専門医によるがん治療が行われます。その間、(図2)に示すように心血管リスクはがん発症前~がん治療中に出現する急性期心毒性、治療開始後から1年程度で認める慢性期心毒性、そしてがん治療が終了し数年から10年以上が経過し潜在的に進行する晩期心毒性と、各ステージにおいて、がん種のみならず患者の病態や治療内容により大きく変化しています4)。(図2)がん診療における心血管リスクと腫瘍循環器診療画像を拡大する腫瘍循環器医は、腫瘍専門医の依頼によりそれぞれのステージに合わせ診療を行い、がん治療前に患者が有する心血管リスクを層別化することでがん治療による心毒性の発症を予測します。さらに、治療前から有する生活習慣病などのリスク因子を適正化することでがん治療のリスクを軽減し、がん治療が開始した後は心毒性の早期発見、早期治療を行います。従って、急性期心毒性への対応は、腫瘍専門医を中心として外来化学療法室、薬剤師などの多くのメディカルスタッフと連携し、あくまでがん治療の継続を第一の目標としてがん患者の安全性を確保すると共にがん治療の適正化を目指します。その一方で、がん治療が終わったがんサバイバーに出現する晩期心毒性に対する対応は、長期的にわたる循環器疾患モニタリングによる継続的な循環器ケア(continuum of cardiovascular care)が必要となります。本邦ではこのがんサバイバーがすでに500万人以上とされ、現在も急速に増加しているため、腫瘍循環器外来のみならず一般の循環器外来でも診療の機会が増えています。すでにがん治療が終了したがんサバイバーにとって、晩期心毒性への対応は急性期がん治療を専門とする医療機関のみでは困難な場合が多く、腫瘍循環器医、かかりつけ医(総合内科医)、薬剤師などを含めた長期間にわたる医療連携が必要となっています。実際の医療現場では晩期合併症に対する医療リソースは決して十分ではなく、日々進歩するがん診療において今後の大きな課題となっています5)。今後の方向性がんと循環器における関係は、2017年の日本腫瘍循環器学会設立を機に、国や学会レベルでも学際領域の連携が進み、基礎・臨床・疫学研究への支援が加速しています。前述の「腫瘍循環器診療ハンドブック」により腫瘍循環器外来における基本的な治療指針が示されたことで、今まで触れることのなかった多くの医療者にもOnco-Cardiologyがより身近なものとなっています。今後、多くのエビデンスが集積されることで本邦独自の腫瘍循環器関連診療ガイドラインが作成され、がん患者へより良い治療が提供できることが期待されています。1)日本腫瘍循環器学会編集委員会編. 腫瘍循環器診療ハンドブック.メジカルビュー社. 2020.2)Barac A, et al. J Am Coll Cardiol. 2015;65:2739-2746.3)Herrmann J, et al. Nat Rev Cardiol. 2020;17:474-502.4)Okura Y, et al. Cir J 2019;83:2191-2202.5)向井幹夫. 医学のあゆみ 2020; 273:483-488.講師紹介

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第49回 新型コロナと東日本大震災(後編) あの時の医療支援は、被災地の医療をどう変えたか?

東北沿岸部の医療を進化させた在宅医療の支援こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。3月11日を境に、東日本大震災の関連報道も一気に下火となりました。NHKは、先々週はドラマが主軸でしたが、11日を迎えた先週はドキュメンタリー中心で、考えさせられる番組も多かった印象です。中でも、3月11日の夜に放送された「定点映像 10年の記録〜100か所のカメラが映した“復興”〜」は、被災3県100カ所で定期的に撮影してきた映像を基につくられたドキュメンタリーで、被災地によって復興の歩みに大きな違いがあり、そこに住む人々の思いや生活も多様であることを、改めて我々に気づかせてくれる内容でした。番組の最後で被災地を取材してきたNHKの記者が、「被災地では一般の方々は復興という言葉をほぼ使わない。使っているのは行政であり、政治家であり、われわれマスコミ」と語り、「行政の復興は、基本は住まい。被災された方は住まいも大事だが、そこがゴールとは思っていない。復興という言葉をめぐる行政と一般の方々のズレが広がっている」と指摘していたのが印象的でした。さて、今回も引き続き、東日本大震災が医療に及ぼした影響について考えてみたいと思います。東日本大震災では、前回(第48回 新型コロナと東日本大震災(前編) あの時の経験は今、医療現場でどう役に立っているか?)書いたDMAT以外にも、さまざまな医療支援チームが被災地に入りました。日本医師会のJMAT、日本プライマリ・ケア連合学会のPCATなどは、急性期医療だけではなく、亜急性期や慢性期の患者にも臨機応変に対応しました。そんな中、被災地のそれまでの医療提供体制を一気に進化させた支援もありました。それは、東北沿岸部のいくつかの町で展開された「在宅医療」です。日本の10年後だった東北沿岸部東日本大震災は、高齢化が進んだ東北沿岸部を襲ったことにより、病院や介護施設など入院・入所“施設”主体であった日本の医療提供体制の問題点を浮き彫りにしました。今から10年前の2011年、日本人口はちょうど減少傾向に入ったばかりでした(日本の人口のピークは2008年の1億2,800万人)。当時、日本全体の高齢化率は23%(現在は約29%)。それに対し、東北沿岸部の市町村の多くは30%前後に達していました。つまり、震災当時の東北沿岸部は日本の10年後の姿だった、とも言えるわけです。震災直後は津波で道路が寸断され、自動車も流されて、病院に通えない患者が続出しました。また、停電が続いたことで電動ベッドが動かず、自宅や施設で褥瘡が悪化する患者が続出しました。その時、自宅や施設において渇望されたのは、病院での医療でなく、在宅医療でした。しかし、当時、東北沿岸部の多くの市町村において、在宅医療はまだ十分に普及・定着していませんでした。医療支援チームと一体になって在宅専門部隊を組織一例として、宮城県の沿岸部最北に位置する気仙沼市では、震災前までは基幹病院である気仙沼市立病院が市民の医療の最後の砦として、急性期から慢性期まで対応しており、同病院で死を迎える人も多かったと言われています。震災前から同病院でも急性期医療への特化が模索されてはいましたが、地域で在宅医療が定着しておらず、回復期の機能を持った病床も未整備で、急性期後の患者の退院先探しには難渋していました。そんな状況の中、東日本大震災が起こり、在宅医療のニーズが急速に高まったわけです。その危機をどう乗り越えたのか……。気仙沼では全国から集った医療支援チームと地元の開業医、市立病院の医師らが一体となって、急遽、「気仙沼巡回療養支援隊」が組織され、突発的な在宅医療のニーズに対応したのです。同支援隊の活動は約6ヵ月続き、地元の開業医に在宅患者を引き継ぐ形で終了しましたが、在宅医療や口腔ケア・摂食嚥下のサポートは着実に普及・定着していきました。10年経った今、気仙沼周辺は、在宅医療だけではなく、多職種連携でも先進地域となっています。それは、大震災で気仙沼巡回療養支援隊の活動をベースに、地元の医療機関や介護事業所のスタッフたちが、研修や交流などを継続し、連携を深めてきた結果だと言えます。2017年に新築移転した気仙沼市立病院も、病床を震災時の451床から340床(一般336床〈うち回復期リハビリ病床48床〉、感染症4床)まで一気にスリム化し、地域の医療機関との連携にも力を入れはじめている、とのことです。なお、気仙沼のように、地元のリソースで在宅医療を定着させた地域がある一方で、宮城県の石巻市や登米市などでは関東を本拠とする医療法人が在宅専門診療所を開設し、やはり在宅医療や医療連携の定着・普及に寄与しています。在宅医療のニーズ拡大はコロナ禍と似ている震災によって“弱者”である高齢者が自宅に留まらざるを得なくなって、在宅医療・介護のニーズが拡大した状況は、現在のコロナ禍と似ています。今、感染防止の観点から医療機関の受診を控える高齢者が増えています。また、がん手術後の患者や末期患者なども、病院ではなく自宅療養を選択する人が増加しています。コロナ患者についても、重症病床から回復期病床、在宅への流れがきちんと定まっていなかったことが、病床逼迫の一因であったことは確かです。今後の第4波の襲来に備え、通常診療の在宅医療での対応拡大や、コロナ回復患者の在宅医療での対応なども考えておく必要があるでしょう。そうした仕組みづくりには、ひょっとすると、気仙沼巡回療養支援隊をはじめとした被災地での在宅医療の展開事例が参考になるかもしれません。

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肺がん2020 Wrap Up【肺がんインタビュー】 第59回

第59回 肺がん2020 Wrap Up出演:兵庫県立がんセンター 副院長(医療連携・医療情報担当) 兼 ゲノム医療・臨床試験センター長 呼吸器内科部長 里内 美弥子氏2020年肺がんの重要トピックを兵庫県立がんセンターの里内 美弥子氏が、一挙に解説。これだけ見ておけば、今年の肺がん研究の要点がわかる。

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第36回 タスクシフトで医師労働時間の短縮計画は実現できるのか?

<先週の動き>1.タスクシフトで医師労働時間の短縮計画は実現できるのか?2.医薬品メーカーに今、問われる安全性と安定供給3.コロナ禍でも着々と進められる社会保障制度改革4.マイナンバーのスマホ搭載でさらなるデータヘルス改革を目指す5.コロナに阻まれる地域医療構想の実現6.准教授の不正請求により再び問われた製薬企業の資金提供1.タスクシフトで医師労働時間の短縮計画は実現できるのか?2019年3月に取りまとめられた「医師の働き方改革に関する検討会」報告書に基づいて、2024年4月からは診療に従事する勤務医における年間の時間外・休日労働の上限は原則960時間以下とされる。2019年7月からは、実際に現場での働き方を改善するために「医師の働き方改革の推進に関する検討会」で討論されてきたが、本年12月21日に中間とりまとめが発表された。過酷な労働環境で働く医師の働き方改革の必要性から、着実に労働時間短縮の取り組みを進められるように、地域医療確保暫定特例水準(B・連携B水準)と集中的技能向上水準(C水準)の対象医療機関の指定の枠組みや、追加的健康確保措置の義務化、履行確保に係る枠組み、医師労働時間短縮計画などについて必要性が指摘されてきた。今後、地域の医療機関は2023年までに地域住民の求める救急医療を提供しつつ、医師事務補助作業員や他職種とタスクシフティングをして、医師の労働時間短縮に取り組む必要がある。(参考)医師の働き方改革の推進に関する検討会 中間とりまとめの公表について(厚労省)2.医薬品メーカーに今、問われる安全性と安定供給製薬業界において、後発品の経口抗真菌薬に通常用量を超える睡眠剤が混入し、死亡者が発生した事件は記憶に新しい。これまで厚労省は、医療費を抑制するため薬価引き下げを続けてきたが、医薬品の製造承認時に定めた製造工程を守れていないメーカーが存在し、今回のような事件が発生した。患者さんに安心して薬物治療を受けていただくためにも、再発防止が望まれる。とくに、薄利多売を求められる後発品は、原薬の調達をインドや中国といった国々に依存しているが、昨年は原薬工場のトラブルにより、セファゾリンの安定供給が途絶えるなど、医療現場に大きな影響が出たばかりだ。医療安全の観点からは、医薬品の安定供給と安全性はコスト削減を実現しながらバランスよく行われるべきである。厚労省は、2020年9月に医薬品の安定確保について取りまとめを発表しており、ワクチンも含め、国民の期待に業界が応える必要がある。(参考)医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議(取りまとめ)資料(厚労省)3.コロナ禍でも着々と進められる社会保障制度改革2020年、厚労省は、新型コロナウイルス感染症への対策を打ち出しながらも、2025年に向けた社会保障制度の改革について取り組み続けている。高齢者の自己負担増については、日本医師会から受診抑制への懸念が表明されたにもかかわらず、75才以上の後期高齢者の2割負担導入を決定した。この経緯からも、現役世代から後期高齢者支援への支出軽減というより、現行の社会保障制度を維持する目的が明らかで、一定金額以上の収入のある高齢者には負担増を求め、財政健全化を先送りせずに同時達成する「社会保障と税の一体改革」を実現するためとも言える。新型コロナ感染拡大による財政出動により、健全化の目標は遠のいたが、2025年には団塊の世代が後期高齢者となるため、高齢者医療の支出増に備えた社会保障費の支出マネジメントが、今後も政府の大きな課題となっていくと考えられる。今年の12月14日には、全世代型社会保障改革の方針(案)が取りまとめられており、少子化対策と並んで医療提供体制の改革が述べられている。今後、医療現場でもこの動きを受け止める必要がありそうだ。(参考)全世代型社会保障改革の方針(案)(首相官邸)4.マイナンバーのスマホ搭載でさらなるデータヘルス改革を目指す2020年、政府はマイナンバーの普及促進にさまざまな対策を行ってきた。1人あたり5,000円相当のポイント付与だけでなく、来年度の春から本格的にマイナンバーの利用が推進されることになる。診療所や病院についても、マイナンバー専用端末に補助金を交付し、マイナンバーによって医療機関や薬局において健康保険のオンライン資格確認が可能となる。このほか、マイナポータルを介して、処方箋データや健診データの閲覧など利用者の利便性を高め、複数医療機関での検査、医薬品の処方の重複などを防ぐなど、さらに活用促進を目指す。また、12月23日に開催された社会保障審議会医療保険部会では、マイナンバーカードをスマートフォンに搭載可能にする法改正の検討を行い、保険診療をマイナンバーカードなしでも受けられる方向性について了承を得た。今後のデータヘルス集中改革プランも明らかとなっており、医療現場でも診療情報の情報共有に利用が進むことが期待される。(参考)データヘルス改革の進捗状況等について(厚労省)健康保険証、スマホ搭載 マイナカード活用で可能に(日本経済新聞)5.コロナに阻まれる地域医療構想の実現2025年に向け、病床の機能分化・連携を進めるために、医療機能ごとに医療需要と病床の必要量を推計し、「地域医療構想」の策定を行うため2015年3月から進めてきた。二次医療圏によっては急性期病床が過剰となるため、「地域医療構想調整会議」で協議することとなっていたが、具体的には医療機関の統廃合を伴うため、進捗が遅々として進まなかった。このため厚労省は、2020年1月17日に各都道府県に対して、公立・公的医療機関の再編統合を伴う場合については、遅くとも2020年秋頃までとしていたが、今年は新型コロナウイルス感染拡大のため、延期を余儀なくされた。今年の9月には公立病院事業934億円の赤字の増加が報道されるなど、地方自治体にとっては運営が今後困難となることが予想される。政府は地域医療構想の実現のために、地域医療連携推進法人の利用や再編を支援する取り組みとして、優遇措置を来年度から開始するなど本格的なテコ入れに乗り出した。2023年度には各都道府県において第8次医療計画(2024~2029年度)の策定作業もあり、コロナの収束を待つ間もなく、議論を重ねていく必要がありそうだ。(参考)公立・公的医療機関等の具体的対応方針の再検証等について(厚労省)令和3年度厚生労働省関係税制改正について(同)6.准教授の不正請求により再び問われた製薬企業の資金提供今年も、麻酔科の元准教授が、実際には使用していない薬剤を手術中に使ったとしてカルテを改ざんし、診療報酬の不正請求を行っていたなど、製薬マネーを巡った大きな報道があった。第三者委員会を立ち上げた病院側によると、同医師は2018年から2年間で、2,800万円以上を不正請求していた。この事件発覚により、大学当局は同医師を懲戒解雇し、10月2日、津地検に刑事告発を行った。その後、12月23日に津地方検察庁から、公電磁的記録不正作出および供用の罪で起訴された。通常、奨学寄付金は製薬企業からアカデミアに対して研究助成目的に提供されるが、今回のように医薬品のプロモーション目的で提供される可能性があり、従来から行っているCOIの開示だけでなく、2020年10月12日に改定された日本製薬工業協会の「医療用医薬品等を用いた研究者主導臨床研究の支援に関する指針」に基づいて、適切に行われる必要性がある。(参考)当院における不正事案について(三重大学医学部附属病院)医療用医薬品等を用いた研究者主導臨床研究の支援に関する指針(日本製薬工業協会)

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がん治療で心疾患リスクを伴う患者の実態と対策法/日本循環器学会

 第84回日本循環器学会学術集会(2020年7月27日~8月2日)で佐瀬 一洋氏(順天堂大学大学院臨床薬理学 教授/早稲田大学医療レギュラトリーサイエンス研究所)が「腫瘍循環器診療の拡がりとCardio-Oncology Rehabilitation(CORE)」について発表。がんを克服した患者の心血管疾患発症リスクやその予防策について講演した。循環器医がおさえておくべき、がん治療の新たなる概念-サバイバーシップ がん医療の進歩により、がんは不治の病ではなくなりつつある。言い換えるとがん治療の進歩により生命予後が伸びる患者、がんサバイバーが増えているのである。とくに米国ではがんサバイバーの急激な増加が大きな社会問題となっており、2015年時点で1,500万人だった患者は、今後10年でさらに1,000万人の増加が見込まれる。 たとえば小児がんサバイバーの長期予後調査1)では、がん化学療法により悪性リンパ腫を克服したものの、その副作用が原因とされる虚血性心疾患(CAD)や慢性心不全(CHF)を発症して死亡に繋がるなどの心血管疾患が問題として浮き彫りとなった。成人がんサバイバーでも同様の件が問題視されており、長期予後と循環器疾患に関する論文2)によると、乳がん患者の長期予後は大幅に改善したものの「心血管疾患による死亡はその他リスク因子の2倍以上である。乳がん診断時の年齢が66歳未満では乳がんによる累計死亡割合が高かった一方で、66歳以上では心血管疾患(CVD)による死亡割合が増加3)し、循環器疾患の既往があると累計死亡割合はがんとCVDが逆転した」と佐瀬氏はコメントした。心疾患に影響するがん治療を理解する この逆転現象はがん治療関連心血管疾患(CTRCD:Cancer Therapeutics-Related Cardiac Dysfunction)が原因とされ、このような患者は治療薬などが原因で心血管疾患リスクが高くなるため、がんサバイバーのなかでも発症予防のリハビリなどを必要とする。同氏は「がん治療により生命予後が良くなるだけではなく、その後のサバイバーシップに対する循環器ケアの重要性が明らかになってきた」と話し、がんサバイバーに影響を及ぼす心毒性を有する薬を以下のように挙げた。●アントラサイクリン系:蓄積毒性があるため、生涯投与量が体表面積あたり400mg/m2を超えるあたりから指数関数的にCHFリスクが上昇する●分子標的薬:HER2阻害薬はアントラサイクリン系と同時投与することで相乗的に心機能へ影響するため、逐次投与が必要。チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)は世代が新しくなるにつれ血栓症リスクが問題となる●免疫チェックポイント阻害薬:PD-1阻害薬とCTLA-4阻害薬併用による劇症心筋炎の死亡報告4)が報告されている これまでのガイドラインでは、薬剤の影響について各診療科での統一感のなさが問題だったが、2017年のASCOで発表された論文5)を機に変革を迎えつつある。心不全の場合、日本循環器学会が発刊する『腫瘍循環器系の指針および診療ガイドライン』において、がん治療の開始前に危険因子(Stage A)を同定する、ハイリスク患者とハイリスク治療ではバイオマーカーや画像診断で無症候性心機能障害(Stage B)を早期発見・治療する、症候性心不全(Stage C/D)はGLに従って対応するなど整備がされつつある。しかしながら、プロテアソーム阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬のような新規薬剤は未対応であり、今後の課題として残されている。循環器医からがんサバイバーへのアプローチが鍵 がん治療が心機能へ影響する限り、これからの循環器医は従来型の虚血性心疾患と並行して新しい危険因子CTRCDを確認するため「がん治療の既往について問診しなければならない」とし、「患者に何かが起こってから対処するのではなく腫瘍科医と連携する体制が必要。そこでCardio-Oncologyが重要性を増している」と述べた。 最後に、Cardio-Oncologyを発展させていくため「病院内でのチームとしてなのか、腫瘍-循環器外来としてなのか、資源が足りない地域では医療連携として行っていくのか、状況に応じた連携の進め方が重要。循環器疾患がボトルネックとなり、がん治療を経た患者については、腫瘍科医からプライマリケア医への引き継ぎ、もしくは心血管疾患リスクが高まると予想される症例は循環器医が引き継いでケアを行っていくことが求められる。これからの循環器医にはがんサバイバーやCTRCDに対するCORE6)を含めた対応が期待されている」と締めくくった。■参考1)Armstrong G, et al. N Engl J Med. 2016;374:833-842.2)Ptnaik JL, et al. Breast Cancer Res. 2011 Jun 20;13:R64.3)Abdel-Qadir H, et al. JAMA Cardiol. 2017;2:88-93.4)Johnson DB, et al. N Engl J Med. 2016;375:1749-1755.5)Almenian SH, et al. J Clin Oncol. 2017;35:893-911.6)Sase K, et al. J Cardiol.2020 Jul 28;S0914-5087(20)30255-0.日本循環器学会:心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2012年改訂版)

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COVID-19流行下における緩和ケア、各施設の苦闘と工夫

 日本がんサポーティブケア学会、日本サイコオンコロジー学会、日本緩和医療学会は8月9~10日にオンライン形式で合同学術集会を予定している。これに先立って、7月上旬に特別企画として「COVID19と緩和ケア・支持療法・心のケア」と題するオンラインセミナーが行われた。3学会から立場の異なるメンバーが集まり、COVID-19が緩和ケアに与える影響とその対処法について、それぞれの経験を語り合った。COVID-19が緩和ケアにどのような影響を与えたかアンケートを分析【司会】・里見 絵理子氏(国立がん研究センター中央病院 緩和医療科科長)・林 ゑり子氏(藤沢湘南台病院 がん看護専門看護師)【登壇者】・廣橋 猛氏(永寿総合病院 がん診療支援・緩和ケアセンター長)・柏木 秀行氏(飯塚病院 連携医療・緩和ケア科部長)・秋月 伸哉氏(がん・感染症センター駒込病院 精神腫瘍科科長)・渡邊 清高氏(帝京大学医学部内科学 腫瘍内科准教授) 冒頭に、日本緩和医療学会COVID-19関連特別ワーキンググループらが5月上旬に行った「新型コロナウイルス感染症に対する対応に関するアンケート」の結果1)が共有された。これはCOVID-19が、全国の専門緩和ケアサービスにどのような影響を与えたかを調べる目的で実施されたもので、654件の回答のうち重複を除く598件を分析対象とした。 専門的緩和ケアの提供形態別に「A:ホスピス・緩和ケア病棟(PCU)のみ/109施設」「B:緩和ケアチーム(PCT)のみ/303施設」「C:PCUとPCTの両方/186施設」に分類したうえで、「A+C:緩和ケア病棟群/295施設」「B+C:緩和ケアチーム群/489施設」に分けて分析が行われた。これは全国の緩和ケア病棟の約70%、緩和ケアチームの約50%を占めるという。 緩和ケア病棟群では、「新型コロナウイルス感染症の流行後、緩和ケア病棟の患者受け入れ方針に変化があった」と回答した施設が55%(161施設)あり、うち22施設では緩和ケア病棟がCOVID-19患者用の専門病棟に変更されていた。 続いて、「新型コロナウイルス感染症の流行後、緩和ケア病棟での面会制限はあるか」という質問に対して、緩和ケア病棟群の98%にあたる289施設が「ある」と回答。ここでは、予測される患者の予後によって段階的な対応をする施設が多く、末期近いことが予測される患者には面会制限を緩めるケースが多かった。 面会制限を行っているあいだ、面会以外でのコミュニケーション支援をはかる医療機関もあり、「テレビ電話などでのコミュニケーション支援」が55%と最も多く、「Wi-Fi使用可」が15%、「院内にPC・タブレットを用意」が6%と続いた(複数回答可)。ただ、「とくに何もしていない」という回答が87%と大きな割合を占めており、支援にあたって設備や人員確保の難しさも見える結果となっている。COVID-19感染対策下の面会のため緩和ケア病棟にタブレット 続けて、アンケートの結果も踏まえつつ、登壇者が自施設でのこれまでの対策と現況について情報をシェアした。―COVID-19に対する自施設の対応は? 渡邊氏「流行が懸念される早めの時期から、院内・診療科・部門ごとに感染対策を立て、実行した。通常診療に対しても感染予防策を取り、がん患者さんに対しては個別にリスクの評価を行った上で、治療継続、手術予定の延期、経口の抗がん剤やホルモン薬の使用等の検討を行っている。感染流行の長期化を踏まえ、息の長い対策にしていくことが肝要だ」 秋月氏「患者と同時にスタッフのケアが必要だと考えた。COVID-19感染症病棟のスタッフが孤立しないようリエゾンチームとして感染症病棟を巡回するだけでなく、緩和ケアチームなどを含む院内組織を立ち上げ、院内向けの情報発信にも力を入れた」 廣橋氏「3月に院内でのCOVID-19感染が発生し、これまでに200名以上の感染者を出してしまった。緩和ケア病棟も閉鎖を余儀なくされていたが、5月下旬から診療を再開した。緩和ケアのカギとなる多職種チームの活動も制限せざるを得ず忸怩たる思いだが、現状では感染防止を最優先せざるを得ない状況が続いている」―緩和ケアで重要となる、在宅医療など他施設との連携はどうしていたか? 柏木氏「これまで、電話とFAXと対面で行っていた医療連携だが、対面が使えなくなり、手間がかかるようになったことは事実だ」 廣橋氏「確かに大変にはなったが、以前から『顔の見える連携』をしてきたことが生きている。緩和ケア病棟の事前面談をオンラインで行う試みも開始した」 林氏「対面の機会が限られ、退院前のカンファレンスや家族への介護指導ができないことは痛い。その患者様の安楽な移動方法や介助方法、人工肛門やいろいろな装具を直接見て頂く機会が少ないため、電話で時間をかけてイメージできるまで説明したり、訪問看護に助けて頂いたりするなど、できることを工夫しながら行っている」―患者・スタッフの心のケアをどう行っていたか? 秋月氏「強い呼吸困難を経験した感染患者は、症状が収まってからも強い恐怖感を訴えるケースがある。また、家族や同僚を感染させてしまった、という自責の念に捉われる方もいた。また、異なる視点として、高齢者施設内のクラスターにおいては認知症患者がいる。そうした方はゾーニングを理解できず歩き回ったり、家族と会えずにパニックになったりなど、異なるケアが必要となった」 柏木氏「軽症でホテルに隔離されている患者に対応したが、特殊な環境下で不安を抱える方が多かった。入院されていればすぐに対応できるのだが、やりとりは電話に限られており、診療には限界があった」 秋月氏「スタッフに関しては、感染患者に直接対応しているか、そうでないかで置かれた状況が大きく異なる。直接対応するスタッフは自分や家族への感染リスクに不安を持っており、急ごしらえの対応チームでコミュニケーションミスも起きやすい。直接対応していないスタッフは、対応チームに人員を割かれており、情報のシェアがないと不満がたまりやすい。ストレスチェックやアンケートだけでは現場の実態が把握できないため、『対応策をヒアリングする』と言って個別面接を行った。『声を上げれば、何らかのフィードバックがある』とスタッフに感じてもらえる仕組みづくりが大切だ」―家族へのケア、面会制限はどのように行ったか? 廣橋氏「COVID-19感染対策下におけるご家族との関わりにおいては、日本緩和医療学会の普及啓発ワーキンググループで作成した『感染症対策下における入院患者さんのご家族向けリーフレット』を役立ててもらいたい。面会制限中は、家族に写真やメッセージを持ってきてもらったり、スマートフォンやタブレットのビデオ通話を使った面会を支援したりなど、少しでもコミュニケーションがとれるように工夫している。私を中心に行ったクラウドファンディングでは多くの支援が集まり、今後は希望する緩和ケア病棟にタブレット配置などの環境整備をしていくことができそうだ」 各施設でスタッフ間や患者と家族のコミュニケーション支援においてIT機器やオンラインを使った各種の試みが行われていることが共有され、「今後に活かしていきたい」という声が上がっていた。本セミナーの動画は、合同学術集会の開催時に、参加者に対して公開される予定となっている。

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がん&チーム医療のエキスパートを目指す、アジア最大の学びの場 シリーズ がんチーム医療(1)【Oncologyインタビュー】第16回

皆さんは「J-TOP」という名前を聞いたことがあるでしょうか? J-TOPは「Japan TeamOncology Program」の頭文字をつなげた略称で、「がん領域におけるチーム医療」を学ぶことを目的に設立されたプログラムです。J-TOPが発足したのは2001年のこと。がんにおけるチーム医療で有名な米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンター(MDA)の上野 直人教授による、日本癌治療学会学術集会でのシンポジウムがきっかけでした。翌年からMDAのチーム医療を学ぶためのEducational Seminarが始まり、同時に参加者から選抜してMDAへ短期留学するプログラムもスタートしました。留学に参加したメンバーは帰国後も情報交換を続け、MDAと連携しながら留学支援以外にも日本独自の活動を広げ、後進を育成してきたのです。J-TOPへの参加資格は医師(病理医・放射線診断医を含む)、看護師、薬剤師などの資格を持つ医療者であることで、現在約3,500人の会員がいます。職種の垣根なく、ディスカッションしながら協働することで、真のチーム医療の体得を目指しています。過去のMDA短期留学経験者を中心とした100名余りの「チューター」および「J-TOPフレンズ」が、若手や中堅の学びを支えています。また、チューターとして経験を積んだ後、さらに主体的に関わりたいと考えたメンバーは、審査を経て「J-メンター」としてMDAのメンターと一緒に、教育プログラムの企画やJ-TOPの運営に携わります。J-TOPの5つの中心事業J-TOPの具体的な活動を1つずつご紹介しましょう。1)Team Science Oncology Workshop年に1回行われるワークショップは、3日間、全国から集まった参加者がチーム医療のフレームワークを学び、プログラム作成を通してコンフリクトを含むチームダイナミクスを経験する場です。また、期間を通して自分自身のキャリア形成についての理解も深めます。講師はMDAのメンターとJ-メンターが中心となり、講義もディスカッションもすべて英語で行われます。参加者の多くは日本人ですが、台湾、フィリピン、韓国、中国などからも参加しており、15人前後の多国籍チームが3日間かけてプログラムを作成し、最終日にプレゼンテーションを行います。3日間のワークショップはそれなりにハードですが、チーム形成・キャリア形成に必要となるさまざまなスキルの理論と実践を体験することができますし、現場に持ち帰って使える内容ばかりです。英語力はあるに越したことはないですが、参加と学びへの意欲が最も重要となり、チューターも入って参加者がチームメンバーとして議論に参加できるよう支援します。これまでの累計参加者は1,000人を超えており、2020年は11月21日~23日の三連休に都内で開催予定です。ワークショップ中のグループワークの様子。活発な議論が繰り広げられます。複数の人が集まれば必ずコンフリクトが生まれますが、コンフリクトを克服していくチームダイナミクスも、ワークショップの醍醐味の1つ講義での質疑応答の様子。真剣に、でも楽しみながら学びます国や職種などさまざまな背景を持つチューター・メンターが、ワークショップ参加者をサポート。事務手続きは事務局(笛木 浩氏・2列目左端)が担当2)地域に根差したオンコロジーセミナーがん医療に携わる医師、薬剤師、看護師、歯科医師、栄養士、ソーシャルワーカーなどが参加型セミナーを通じて、がんのチーム医療に対する理解を深め、実践するスキルを養うセミナーです。1)のワークショップとは異なり、地域それぞれの課題をテーマとして扱うことと、症例ベースの日本語でのディスカッションが特徴ですが、セミナーを通じて学ぶことの本質は変わりません。毎年1回、日本各地で開催しており、2020年は5月23日~24日に愛媛県の松山大学での開催を予定しています。※COVID-19の影響で延期となりました。3)MDアンダーソンがんセンター留学研修プログラム(Japanese Medical Exchange Program:JME)J-TOPの根幹をなす事業として、MDAに5週間、短期留学するプログラムです。プログラムはMDAのチーム医療を学び、日本で実践するためのJ-TOP向けのオリジナルの内容です。この留学に参加するには、1)のワークショップへの参加が必須条件です。ワークショップ期間中の発言やリーダーシップを見ながら、日米のメンターが留学に適した人を選考する、という仕組みです。留学の定員は現在、医師(治療医)2名、医師(病理医・放射線診断医)各1名、看護師2名、薬剤師2名の最大8名です。4)ウェブサイト(サイト・掲示板運営)J-TOPのさまざまな活動紹介のほか、「掲示板」で患者さんやご家族などから寄せられるがん医療に関する疑問にチューターやメンターが回答します。回答はJ-TOPのベテランから最近加わった人まで、幅広いメンバーがチームを組んで対応します。回答前に、「質問者が求めていることは何か」「どういった提案が不安を和らげられるか」など、メンバー間でディスカッションしたうえで回答案を作成します。治療法などの質問が多くなりますが、セカンドオピニオンにならないよう、注意しながら回答します。回答案を作るまでに多くの時間を要する場合もありますが、掲示板という公共的な場への発信を通し、専門的知識を社会に還元しようと尽力しています。投稿者とのやりとりやメンバー間のディスカッションがチーム医療、EBM、患者さんへのエンパワーメントの在り方など、私たち自身にも大きな学びとなっています。また、最近ではSNSを有効活用するプロジェクトチームが活動し、ワークショップの際などにはライブ感たっぷりにFacebook、Twitterなどへ投稿して、皆さんにJ-TOPに興味を持ってもらえる工夫をしています。5)医療連携拡大事業(Project ECHO)Project ECHO(Extension for Community Healthcare Outcome)は、ニューメキシコ大学が中心となって進める、地域医療の質の均てん化を目的としたプログラムです。地域の医療者と専門家をオンラインでつないだうえで、無料の医療教育プログラム提供や合同症例検討会などの活動を展開しています。実際に、ニューメキシコ大学ではECHOモデルで専門家が地域医療者に症例ベースのメンタリングを行うことでC型肝炎ウイルス感染を減らした1)ように、Project ECHOはエビデンスに基づいた活動でもあるのです。MDAはこの取り組みをがん治療に広げようとしており、J-TOPはそのアジアのハブとして業務委託を受け、Project ECHO Oncology Network Education(ONE)と名付けて2019年6月より日本語でのメンタリングを開始しました。Project ECHO ONEの運営メンバーは日本のメンター、チューターのみならず、海外からJ-TOPメンバーとして活動しているインターナショナル・チューターも含まれます。2020年1月より、海外の医療機関からの症例提示・メンタリングを開始しており、その第一弾はフィリピンからでした。フィリピン以外にベトナム、マレーシア、台湾、日本からの聴講があり、Project ECHO ONEはアジアのハブとして機能しています。メンバ-発案の2つの新たな取り組み以降は、J-TOPのメンバーが発案し開始したもので、取り組みの素晴らしさからJ-TOPの恒常的なプロジェクトになったものです。6)MBTIを用いた体験学習(自己理解・他者理解のための研修会)チーム医療は多様なメンバーを理解できるか否かが成功への分岐点になります。その一助となる概念がMBTIです。MBTIとは、ユングの心理学をベースとした性格検査ツールです。人の情報の取り方や判断の仕方には、多様性がありながらも一定の特徴があります。MBTIのフレームを使うと、こうした人の認知の仕方を16のタイプに分類できるようになります。大切なことは16のすべてのタイプは同等に価値があり、そこには「違い」はあるけれど「優劣」はない、ということです。MBTIはこうした認知の仕方による誤解の源泉を明らかにし、グループワークによって理解し、日々の業務や生活に活かすための体験型学習全般を指します。MBTI実施には、日本MBTI協会より認定を受けた「MBTI認定ユーザー」が必要です。J-TOPには現在5人の認定ユーザーがおり、MBTIをチーム医療に活かすための研修会を行っており多くの反響を得ています。7)EBMのためのトレーニング(International Journal Club)科学的根拠に基づく医療のトレーニングのための抄読会です。MDAのスタッフとの双方向的なディスカッションを行います。英語で学術論文の紹介を行い、批判的吟味のトレーニングをするとともに、参加者同士で自施設の現状や日米間の違いを議論する国際的でハイレベルな学びの空間を共有することを通じて、がん医療の質向上に貢献しています。薬剤師の企画によりスタートしましたが、現在ではさまざまな職種のメンバーが参加しています。どの取り組みも、がんとチーム医療の専門知識を学ぶと同時に、職種のヒエラルキーをなくし、多職種が真に協働することを目的に行われています。学びの時間を共有し、「この空間では何を言っても大丈夫」という心理的安全性を担保することで、自分と異なる専門性や意見を持つ人と建設的な議論ができるスキルを習得します。貴重なチューター・メンターとの絆、就職や共同研究につながった例も私自身は、2014年にセミナーと留学プログラムに参加したことをきっかけに、J-TOPに関わるようになり、2018年から執行委員会・運営委員会議長を務めています。J-TOPは患者中心のチーム医療を実践するために必要なことを学ぶ組織です。医療者が教育を受けることは、患者さんに最も良い治療を届けるための最短の方法です。私はJ-TOPに参加する中で、リーダーシップを発揮するスキル、チームへの参加を通して自身のキャリアを積み上げるノウハウを学びました。J-TOPがなければ今の私はない、と感じます。J-TOPのメンバーはそれぞれが身に付けたスキルを活かして、それぞれのフィールドの第一線で活躍しています。ぜひ、多くの医療従事者にJ-TOPを経験していただき、目の前の患者さんに、施設でのチーム形成に、そしてご自身のキャリア形成に活かして欲しいと思っています。2014年にMDAに留学し、チーム医療を学ぶ筆者(前列中央)とJ-TOP設立者の上野直人MDA乳腺腫瘍内科教授(後列右端)仲間や支援してもらったチューター・メンターとの絆は長く続き、実際にこの縁から就職や共同研究につながった例もあります。目指すは「環太平洋で最高峰のOff the Job Training教育機関」。英語を使う場が多いこともあって、参加への障壁を感じる方もいるようですが、学ぶ意欲さえあれば大丈夫です。少しでも興味を持たれた方は、ぜひその扉を開いてみてください。参考1)Arora S, et al. N Engl J Med. 2011;364:2199-2207.2)ジャパン チームオンコロジー プログラム(J-TOP)

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肺がん2019 Wrap Up【肺がんインタビュー】 第31回

第31回 肺がん2019 Wrap Up出演:兵庫県立がんセンター 副院長(医療連携・医療情報担当) 兼 ゲノム医療・臨床試験センター長 呼吸器内科部長 里内 美弥子氏2019年肺がんの重要トピックを兵庫県立がんセンターの里内 美弥子氏が、一挙に解説。これだけ見ておけば、今年の肺がん研究の要点がわかる。

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病院「再編統合」時代の一歩先を行く医療経営を考えるシンポ開催ー東京大

 9月に公表された、病院「再編・統合」リストは日本中に衝撃を与えた。どのような基準・根拠でリストは作られ、「実名公表」に踏み切られたのか? 各地の医療ステークホルダーはどう受け止め、対応すべきか? 今後の地域医療の制度経営はどのように展開すべきか? これらの課題をめぐって徹底議論するべく、東京大学「経営のできる大学病院幹部養成プログラム」は、12月4日に特別公開シンポジウムを開催する。シンポジストには、厚生労働省「地域医療構想に関するワーキンググループ」の座長を務めた尾形 裕也氏ほか、地域医療施策に携わる実務者や医療提供体制を分析しているアカデミアを迎え、講演やパネルディスカッションが行われる。■開催概要 日時:2019年12月4日(水)18:00~20:00(開場17:30) 場所:東京大学 鉄門記念講堂(本郷キャンパス医学部教育研究棟14階) 定員:300名 参加費:無料 申し込み方法:webからの事前申し込み制(先着順、空席状況により当日参加可能) http://hep.m.u-tokyo.ac.jp■プログラム第1部(18:05~19:25)地域医療構想の実現に向けて 尾形 裕也(九州大学名誉教授)埼玉県における地域医療行政の立場から 本多 麻夫(埼玉県保健医療部参事・埼玉県衛生研究所所長)千葉県での実例 竹内 公一(千葉大学附属病院地域医療連携部長・特任准教授、鴨川市保健医療参与)DPCデータを用いた埼玉・千葉県の医療提供体制の把握の実例 石川 ベンジャミン 光一(国際医療福祉大学教授)第2部(19:25~20:00)パネルディスカッション 病院「再編統合」リストをどう読み解くべきか司会・進行 橋本 英樹(東京大学教授)<問い合わせ先>東京大学 経営のできる大学病院幹部養成プログラムTEL:03-5800-8750(直通)E-mail:hep@adm.h.u-tokyo.ac.jp

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がんゲノム医療の今

 手術や放射線治療では根治できないと判断された進行固形がんにおけるがん薬物療法は、正常細胞とがん細胞との“生物学的な違い”をターゲットにする「分子標的薬」や「免疫チェックポイント阻害薬」が主流になりつつある。わが国におけるがんゲノム医療の現状は、どのようになっているのだろうか。 2019年4月、中外製薬株式会社が「第1回 がんゲノム医療に関する基礎メディアセミナー」を都内にて開催した。そこで、土原 一哉氏(国立がん研究センター 先端医療開発センター トランスレーショナルインフォマティクス分野 分野長)が講演を行った。米国に引けを取らないがん遺伝子検査 従来のがん薬物療法は、がん種を診断した後、そのがんに承認されている薬を使っていく形式だが、将来的には治療前に遺伝子診断を行うことで、患者さんにとって最もメリットの高い治療が効率的に選ばれる時代になることが期待されている。 ヒトゲノムの解析コストは、次世代シーケンサーの登場とともに劇的に低下しているが、全ゲノムシークエンスを実臨床に用いるには、解析結果から変異を抽出する作業やクオリティコントロールに高いコストがかかるため、もう少し時間がかかると言われている。検査の効率化を目指して、任意のゲノムを選択的に読み取るターゲットシークエンスや全エクソンシークエンスなども並行して開発が進んでおり、治療の選択に必要なバイオマーカーの研究も進展している。 「“日本のゲノム医療は米国と比較して遅れている”と言われる傾向にあるが、米国が承認したがん関連遺伝子検査は日本でも1年以内に承認されており、現在わが国で全国的に使えるものに関しては、日米でそれほど大きな差はない」と土原氏は説明した。整備されるがんゲノム医療の実施体制 わが国におけるがんゲノム医療の実施体制は整えられつつあり、2019年4月現在、全国に「がんゲノム医療中核拠点病院」が11ヵ所、「がんゲノム医療連携病院」が156ヵ所設置されている。中核拠点病院は、がんゲノム医療を牽引する高度な機能を有する医療機関として、連携病院は、中核拠点病院と連携して遺伝子検査結果を踏まえた医療を実施する医療機関として、国が指定した。 これにより、均てん化されたがんゲノム医療の提供が可能になり、質の高い遺伝子検査や公的保険の整備、説明・同意手順の標準化による患者保護などの、がんゲノム医療のベストプラクティスが目指されている。また、「がんゲノム情報管理センター」が国立がん研究センター内に設置され、中核拠点病院などから得られたゲノム情報や臨床情報をデータベースとして集約し、今後の診療や研究開発に役立てることが目標とされている。がんゲノム医療は拡大しつつあるが、まずは安全性が第一 従来から、エビデンスに基づいた承認薬によるがんゲノム医療は全国の保険医療機関で実施されており、最近は「遺伝子プロファイル検査」の導入も検討されるようになった。これは、中核拠点病院などで実施された患者の遺伝子検査結果などをもとに、専門家会議で総合的に判断し、医学的に効果が期待できる未承認薬を臨床試験や適応外使用として考慮するというもので、今後の適応拡大への足掛かりとして位置付けられている。 がん治療において、結果的に治療薬の効果が得られなかった場合、身体への侵襲性やコストなどを考えると、患者にとって非常にデメリットが大きい。医療経済的な側面を考えても、今後そういったミスマッチを減らしていくのは大きなポイントだという。 同氏は「新しい薬を使う際、その薬が効くか効かないかより、安全性が担保されているのか、予期せぬ副作用への対処法が確立されているのかをまず確認しなければならない。新しい薬の使い方は、わが国の医療全体で確立していくべき。これは、ゲノム解析だけでは解決できない」と慎重な姿勢を示した。がんゲノム医療の情報を医療機関で制御することも必要 1回の検査で複数の変異遺伝子を調査できる「がん遺伝子パネル検査」は、現在薬事承認の段階で、今年度中の保険適用が目指されている。2017年には日本臨床腫瘍学会・日本癌治療学会・日本癌学会が合同で『次世代シークエンサー等を用いた遺伝子パネル検査に基づくがん診療ガイダンス(第1.0版)』を発刊した。しかし、本ガイダンスは遺伝子パネル検査が先進医療として認められる前に発刊されたため、現場での経験などを踏まえ、より使いやすいよう今年度に改訂予定だという。 「現在は、最先端医療を支えるための体制として、まず仕組みを作った段階。ゲノム医療についてTVなどで報道されると、医療現場にはさまざまな質問が寄せられる。患者が情報に溺れないよう、医療者側は正しい認識を持ち、患者に方向性を示すことも必要」と呼びかけた。がんゲノム医療の今後の課題はすでに見えてきている 遺伝子異常の“臨床的意義付け”に関する情報は日々更新されており、3ヵ月前の情報はすでに古くなっている可能性がある。診断をする際、最新の情報にどうアクセスするか、さらに、検査結果を伝えた後の患者などに、その情報をどう伝えていくかなどの方法を今後検討していく必要がある。 より確実な治療効果を予測するためには、多数例のゲノム情報と治療効果を含む臨床情報の集積が求められる。新しい技術をどれだけ早くコストをかけずに実現するのかはがんゲノム医療の当面の課題だが、研究と臨床のインターバルは短くなってきており、現在研究中の技術が実臨床に移るのはそう遠くない未来と考えられている。 同氏は「保険診療などの堅牢な規制と先進医療などの柔らかな規制を組み合わせて、より柔軟な枠組みが必要。新しい技術については、費用対効果の検証をどれだけ早く系統的に行うかなど、課題はひとつひとつ解決していかなくてはならないが、現段階においては安全性が最優先であることを念頭に置いてほしい。また、患者にはゲノム医療がすべての人に効果があるわけではないことをあらかじめ理解してもらう必要がある。医療者側は常に最新情報のアップデートをしていってほしい」と講演を締めくくった。

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セリンクロの登場がアルコール依存症治療を継続させるきっかけに

 2019年3月28日、大塚製薬株式会社は、同社の製造販売する飲酒量低減薬ナルメフェン(商品名:セリンクロ)が発売されたことを機し、都内でプレスセミナーを開催した。セミナーでは、アルコール依存症の現状と治療の最新情報が解説された。推定患者数107万のうち受診者はわずか5万人 セミナーでは、「アルコール依存症をとりまく現状と治療 新しい診断治療ガイドラインを踏まえて」をテーマに、樋口 進氏(久里浜医療センター 院長)が講師としてレクチャーを行った。 わが国の飲酒実態とアルコール依存症治療のギャップに触れ、飲酒量全体は横ばいまたは微減となっている中で、アルコール依存症患者は約107万人と推定されているが、実際に治療を受けている患者は、約5万人とかなりの未診療患者がいると指摘した。この治療ギャップを埋めるためにも「医療連携の促進・地域の取り組み・軽症例のプライマリケアでの受診・診療ガイドラインの作成」などの取り組みが必要と同氏は提起する。重症依存症になる前に アルコール依存症の治療目標は、「飲酒を完全に断ち続けることが、最も安全かつ安定的」とされているが、そもそも患者が医療機関を受診しなかったり、治療中断をするために難渋しているという。そうした状況を変える取り組みとして、同氏が所属する久里浜医療センターでは、アルコール依存症手前の患者を対象に「プレアルコホリック外来」が開設されている。同外来では、アルコールの有害使用者を対象に、1ヵ月に1回外来個人精神療法とミーティングを行うもので、まず6ヵ月の断酒に挑戦し、その後断酒または節酒をするか患者に決めてもらうという。また、2017年4月からは「減酒外来」も開設し、この外来には比較的社会機能が保たれている患者が、自分の意思で来院するという。受診理由の多くは男女ともに「ブラックアウト(一時的記憶喪失)」であり、「社会機能が保たれているうちに、介入・進行予防をすることが重要」と同氏は早期治療の必要性を強調する。治療継続に期待できるナルメフェン(商品名:セリンクロ) 軽症例からの早期介入に使える治療薬が、3月より発売されたナルメフェン(商品名:セリンクロ)である。ナルメフェンの効果、安全性について行われた国内第III相試験では、アルコール依存症患者(DSM-IV-TR)と診断された20歳以上の男女666例のうち、ナルメフェン10mg群(180例)、同20mg群(242例)、プラセボ群(244例)に分け、24週、プラセボ対照、無作為化、多施設共同二重盲検並行群間比較試験で行われた。主要評価項目は、12週目におけるHDD(多量飲酒日)数*のベースラインからの変化量である。その結果、ベースラインからの変化量はプラセボ群で-7.91日/月であったのに対し、ナルメフェン10mg群で-12.09日/月、ナルメフェン20mg群で-12.25日/月とナルメフェン群で有意な減少を示した。安全性については、有害事象として悪心、めまい、傾眠などが報告されたが、重篤なものはなかった。以上の結果を受け、「減酒のための治療薬の登場により、患者に治療継続をさせるきっかけができる」と同氏は期待をにじませる。*1日のアルコール消費量が男性60g、女性40gを超えた日の1ヵ月あたりの日数新ガイドラインの重点は「軽依存症患者」「非専門医」に重点 次に2018年に上梓された『新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン』について触れ、新ガイドラインでは「軽依存症」「有害な使用」に焦点をおいた内容であること、非専門医でも対応できる基準を示していることを説明した。また、アルコール依存症の治療目標に関する推奨事項は「断酒とその継続」としながらも、選択肢の1つとして飲酒量低減を目標にして、失敗時の断酒への切り替え、軽症依存症では飲酒低減も目標になりうるなど柔軟な目標設定をしていることを説明した。そのほか、断酒への薬物治療としては、第1選択薬はアカンプロサートが推奨され、断酒への動機付けなどの第2選択薬としてジスルフィラムやシアナミドが、飲酒量低減を目標にする場合はナルメフェンを考慮すると説明した。 最後に、国は施策として「アルコール健康障害対策基本法」を制定するとともに、依存症拠点機関事業も実施し、アルコール依存症の対策を行っていると説明。「今後、各地域で依存症対策事業も開始されるので、アルコール依存症を非専門の医師が診療する機会も増えると思う。今後関係する学会や研究会も開催されるので、こうした場で知見を吸収してもらいたい」と述べ、セミナーを終えた。

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【GET!ザ・トレンド】吸入指導をクラウドで管理 地域連携で喘息死ゼロへ

1990年代後半から、喘息死は減少を続けていたが、昨年増加に転じた。原因の詳細は不明だが、吸入薬を正確に使用できていない可能性が指摘されている。喘息死ゼロへ向けた取り組みと最新の医薬連携システムについて、目的と意義を大林 浩幸氏に聞いた。無駄をなくした医療で患者の健康を守る大林氏が院長を務める東濃中央クリニック(岐阜県瑞浪市)では、呼吸器内科、アレルギー科、消化器内科、老年内科、リハビリテーション科を標榜診療科とし、地域の住人から頼られる病院として献身的に診療を行っている。同氏は、「精度の高い診断と厳選された少数の薬による『的を射抜く』治療を心掛けており、患者さんを薬漬けにしないことで、患者さんの満足度の向上と医療経済の貢献を目指している」と診療への心意気を語った。アカデミー設立により、吸入指導から地域医療連携を進める体制づくり同氏は、薬剤師の知識の均てん化と指導力の底上げを目的に、薬剤師を主体として、2013年に一般社団法人 吸入療法アカデミーを設立した。吸入薬は喘息治療のfirst lineに位置付けられているが、吸入薬にはそれぞれ専用のデバイスがあり、正しい吸入ができていない実態に現場では多く直面するという。いかに優れた薬剤であっても、患者自身が適切に吸入できなければ、期待する治療効果は得られない。そのため、このアカデミーでは、各地域の薬剤師会と協力し、すべての吸入薬・デバイスに対し、的確な吸入指導ができる薬剤師の養成を行い、地域内のどの薬局に処方箋が持ち込まれても、均一で良質な患者吸入指導ができる体制整備を目指した活動を展開している。同氏は、吸入デバイスの誤操作をピットホールと呼び、「ピットホールの原因の多くは、加齢現象、癖、個性(利き手)、性格、生活スタイルなど患者さん側に起因するもの」と述べる。適切な吸入薬の効果を得るため、これらを医療者側でクローズアップさせる必要がある。また、同氏は「患者さんが正しく操作できるところではなく、できないことを見るのが大切。医療者側が、陥りやすいピットホールを学習・共有しておくことで、患者さんの吸入状況が医師にも伝わりやすくなり、地域医療連携にもつながる」と強調する。基盤ができたところで、吸入カルテシステムの開発同氏は、吸入療法アカデミーにおいて、吸入指導における医療連携クラウド(吸入カルテシステム)の開発を、權 寧博氏(日本大学医学部内科学系 呼吸器内科学分野 教授)らのシステムを基盤に進めてきた。このクラウドサービスは、日本大学工学部電気工学科の「戸田研究室」が協力し、医療者の利便性も盛り込み開発された。iOS・Android端末、PCなどがあればどこでも対応でき、従来の紙・FAXによるやり取りでの不便さが解消され、即時対応が可能という大きなメリットがある。セキュリティについても考慮されており、患者情報は診察券・カルテ番号で照合、識別するため、第三者に個人が特定される危険を防いでいる。システムの流れは、吸収指導が必要な患者に吸入薬が処方されたとき、クラウドに登録された医師が、本システムで吸入指導の依頼書を作成する。処方箋などで指導依頼を受けた薬剤師は、指定されたIDでアクセスすることで、指導前に患者情報を医師と共有することができる。指導を終えた薬剤師は、フィードバックとして報告書を作成する。医師・薬剤師が、吸入指導時の問題点、指導後の経過や患者の生活面、性格面についてなどを即時的に共有できるため、患者個人に寄り添った継続的な指導が期待される。また、病棟などの看護師が吸入指導を行う場面も考慮し、本システムには看護師の枠も設けられている。システムの概要スライドを拡大するスライドを拡大するシステムの流れ(システムは現在改訂中)1.医師が吸入薬の処方時に、吸入指導依頼書を作成する。依頼書はすべてクリック選択で作成することができる。下部には同意書が付いており、その場で患者の同意を確認する。2.吸入指導依頼書を受け取った薬剤師・看護師は、システムにログインして依頼内容を確認し、吸入指導を行う。3.吸入指導を行った薬剤師・看護師は、吸入指導の結果と医師への伝言(画面上部)(画面下部)などをシステム上で報告(クリックのみで報告書の作成も可能)する。特記事項があれば、記入することもできる。4.医師は、リアルタイムで報告書を確認し、次回の診察・処方に役立てることができる。※リンクで画面イメージをご確認いただけます大林氏の喘息死ゼロへ向けた取り組み

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突然やってくる!? 外国人患者さん対応エピソード集 第2回

第2回 外国人患者の本人確認は保険証では不十分?提出を拒まれたら?<Case2>ある日、肌の色や体形、服装などから、インド系の方と見受けられる患者さんが都内の医療機関へ来院。患者さんは流暢な日本語を話し、コミュニケーションに困ることはありませんでした。ところが、院内の外国人患者受付ルールに従い在留カード※の提示を求めたところ、「私は日本人です。在留カードは持っていません」の一点張りで、受付ができず…。※在留カード:適法な在留資格を有し、在留期間が3ヵ月を超える中長期滞在者に対して交付される証明書(入国管理局)対談相手NTT東日本関東病院 医療連携室 外国人向け医療コーディネーター 海老原 功氏澤田:今回は、院内で最初に患者さんの対応をする受付でのエピソードです。海老原さんの病院にも、さまざまな国籍の患者さんが来院されますよね? 受付での本人確認ルールは、どのように整備されていますか?海老原:当院では、受付における本人確認の方法を段階的に定めています。まず提示をお願いするのは、在留カード※です。外国人旅行者など、在留カードをお持ちでない場合は、写真付きの身分証明書であるパスポートの提示をお願いします。それ以外のケースとしては、外交・公用を目的とした在住と駐留米軍の在住がありますが、それぞれお持ちの公的な身分証明書(IDカード)がありますので、その提示をお願いしています。澤田:今回のケースでも、在留カードがないということで、写真付きの身分証明書の提示を何とかお願いしたそうです。その結果、最終的に患者さんのバッグから出てきたのは見慣れた赤いパスポート…なんと帰化された正真正銘の日本人の患者さんだった、ということです。見かけだけで判断せず、患者さんの話を丁寧に聞く必要もありますね。ところで、日本在住の外国人の方でしたら保険証を持っていることもありますよね。保険証を確認するだけでは、本人確認にはならないのでしょうか。海老原:はい。保険証のみでは本人確認には不十分と考えます。澤田:受付でそこまで厳密に本人確認をすることが重要である理由は何でしょうか。海老原:本人確認の一番の目的は医療事故を防ぐことです。とくに最近は、他人の保険証を利用する“なりすまし”のケースも出てきているため、万が一、当院に来院歴がある患者さんの保険証が使い回された場合、なりすまし患者と、病院に登録されている保険証の持ち主の血液型やアレルギーなどに関する情報に相違がありますので、それにより問題が発生するリスクがあります。また、患者さんの名前や住所が一致していないと、帰宅後に何か問題が発覚した際、迅速に対処することができません。澤田:なるほど。本人確認書類を提示してもらった後の流れは、どのようになりますか。海老原:患者さんから許可をいただいたうえでコピーを取り、在留カードの場合は入国管理局のシステムを利用して照会し、有効であるかを確認します。それにより、不法滞在であることが発覚する場合もありますね。澤田:不法滞在者の場合は、どのような対処をされているのでしょうか?海老原:患者さんの状態をみて、緊急性が高いと判断した場合は、医療優先で対応をします。緊急性がない場合には、有効な身分証明書がない限り当院では診察出来ないことを伝え、しかるべき手続きをしたうえで、再来院するようお願いしています。 澤田:本人確認の方法も、患者さんの状況や状態に合わせて行われるのですね。海老原:はい。患者さんが適切な医療を受けられるようにすることが目的ですので、患者さんに寄り添えるだけ寄り添うようにしています。しかし最終的には、医療機関として譲らないラインを設定しておくことが、患者さんの安全のために重要だと思います。澤田:患者さん自身には想定できないリスクも多いですので、おっしゃるとおりですね。ありがとうございました。<本事例からの学び>受付では本人確認ルールの徹底を! 患者さんの安全のためには譲らない姿勢で

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第3回 東京医科歯科大学「がんを考える」市民公開講座【ご案内】

 東京医科歯科大学医学部附属病院 腫瘍センター、同院腫瘍化学療法外科、同大学院がんプロフェッショナル養成基盤推進プラン、同大学院応用腫瘍学講座は、2017年1月15日(日)に、第3回「がんを考える」市民公開講座を開催する。本講座は、地域がん診療連携拠点病院である同院が活動の一環として行っている、がんに関するさまざまなテーマで開催する公開講座の3回目となる。今回は「一緒に考え、選び、支えるがん治療」をテーマに、さまざまな職種ががん患者と家族を支える窓口について、広く知ってもらうための内容になっており、各種ブース展示や体験コーナーなど、楽しく学べる企画が多数予定されている。 開催概要は以下のとおり。【日時】2017年1月15日(日)《セミナー》13:00~16:30《ブース展示》12:00~17:00【場所】東京医科歯科大学 M&D タワー2F 鈴木章夫記念講堂〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45現地キャンパスマップはこちら【参加費】無料(※参加申し込み不要)【テーマ】一緒に考え、選び、支えるがん治療【予定内容】《セミナー》13:00~16:30 鈴木章夫記念講堂司会:石川 敏昭氏(東京医科歯科大学医学部附属病院 腫瘍化学療法外科)13:00~13:10 開会挨拶 三宅 智氏(東京医科歯科大学医学部附属病院 腫瘍センター センター長)13:10~13:30 講演1 がん治療を「選ぶ」ためのヒント 石黒 めぐみ氏(東京医科歯科大学医学部附属病院 腫瘍化学療法外科)13:30~14:10 情報提供 あなたのがん治療に必要な「支える」は? 《座長》  本松 裕子氏(東京医科歯科大学医学部附属病院 腫瘍センター 緩和ケア認定看護師) 《パネリスト》  橋爪 顕子氏(同院 がん化学療法看護認定看護師)  安藤 禎子氏(同院 皮膚・排泄ケア認定看護師)  侭田 悦子氏(同院 皮膚・排泄ケア認定看護師)  高橋 美香氏(同院 医療連携支援センター医療福祉支援室 退院調整看護師)  山田 麻記子氏(同院 がん相談支援センター 医療ソーシャルワーカー)  坂下 千瑞子氏(同院 血液内科)14:10~14:30 医科歯科大のがん治療 update(1) 整形外科「骨転移専門外来」をご活用ください! 佐藤 信吾氏(東京医科歯科大学医学部附属病院 整形外科)14:30~14:50 医科歯科大のがん治療 update(2) 咽頭・食道がんの低侵襲治療~大酒家のためのトータルケア 川田 研郎氏(東京医科歯科大学医学部附属病院 食道外科)14:50~15:10 休憩15:10~15:50 講演2 がんを病んでも地域で暮らす~かかりつけ医と在宅医療のすすめ 川越 正平氏(あおぞら診療所 院長)15:50~16:25 講演3 正しく知ろう!「緩和ケア」 三宅 智氏(東京医科歯科大学医学部附属病院 腫瘍センター センター長)16:25~16:30 閉会挨拶 植竹 宏之氏(東京医科歯科大学医学部附属病院 腫瘍化学療法外科 科長[教授])《ブース展示》 12:00~17:00 講堂前ホワイエ■がんと栄養・食事 (東京医科歯科大学医学部附属病院 臨床栄養部)■お口の楽しみ、支えます (東京医科歯科大学歯学部 口腔保健学科)■ウィッグ・メイクを楽しもう! (アプラン東京義髪整形/マーシュ・フィールド)■在宅治療の味方 皮下埋め込みポートって何? (株式会社メディコン)■がん患者さんの家計・お仕事に関するご相談 (特定非営利活動法人 がんと暮らしを考える会)■がん患者と家族へのピアサポートの紹介 (特定非営利活動法人 がん患者団体支援機構)■がん相談支援センター活用のすすめ (東京医科歯科大学医学部附属病院 がん相談支援センター)■「もっと知ってほしい」シリーズ冊子 (認定NPO法人 キャンサーネットジャパン)■「看護師」にご相談ください~一緒に解決の糸口を探しましょう~ (東京医科歯科大学医学部附属病院 専門・認定看護師チーム)【お問い合わせ先】東京医科歯科大学医学部附属病院 腫瘍センター〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45TEL:03-5803-4886(平日 9:00~16:30)【共催】東京医科歯科大学医学部附属病院 腫瘍センター東京医科歯科大学医学部附属病院 腫瘍化学療法外科東京医科歯科大学大学院 がんプロフェッショナル養成基盤推進プラン東京医科歯科大学大学院 応用腫瘍学講座【協力】認定NPO 法人キャンサーネットジャパン【後援】東京医科歯科大学医師会東京都医師会/文京区/東京都第3回 東京医科歯科大学「がんを考える」市民公開講座 詳細はこちら(PDF)

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医療情報を個人が管理する時代へ?医療介護危機の打開策となるか

 4月14日都内にて、第1回編成医療情報戦略フォーラム「日本を救う!自己情報コントロールによるヘルスケア戦略」が開催された。東京大学大学院情報理工学系研究科附属ソーシャルICT研究センターと一般社団法人 日本統合医療支援センターの共催による本フォーラムは、医療介護に関わる個人情報のあり方を見直し、効率を高め、現場の負担を軽減することで、少子高齢化に伴う医療介護危機を回避するための具体的な方法を提言することを目的としており省庁や関連分野の企業などから150名を超える参加者が集まった。 まず、ソーシャルICT研究センター教授の橋田 浩一氏による基調講演が行われた。橋田氏は、現在の医療情報管理の課題として、データ管理の主体が事業者であることを挙げた。そのため、データ解析対象が自社ユーザーのみに限定されること、また、事業者は大量の個人情報を蓄積・管理しなければならないため、大きな負担を抱えているという状況を解説した。 これらの問題を解決する手段として、橋田氏が提案しているのが“分散PDS”(Personal Data Store)である。これは、本人がデータを管理し、自ら指定する他者と共有し活用するための仕組みである。分散PDSは、特定の事業者に依存せずに個人がデータを活用できるため、既存のシステムでは難しいとされる競合事業者間のデータ共有も個人経由で行うことができる。したがって、さまざまな事業者、医療圏、連携サービスなどにわたる生涯健康手帳の実現も可能になるということだ。  橋田氏は、自身が提唱する分散PDSの一種であるPLR(Personal Life Repository)介護記録アプリの運用事例として、山梨県で介護施設に入居中の患者の介護情報を、家族を介してほかの施設や医療機関と共有できている例を紹介した。このアプリは技術的に、より多くの人へ適応可能であり、普及すればセカンドオピニオンの取得も容易になることを説明した。 橋田氏によると、現在、地域医療連携システムは全国200ヵ所以上で運用されているものの、医療情報の共有は人口のおよそ2%程度にとどまっているとのことだ。普及を妨げる要因として、事業者集中型管理ではコストが大きいことや、患者が直接把握できないところでデータが管理されていることなどが考えられる。2016年度診療報酬改定により、診療情報提供の電子的送受が認められたことや医療制度改革により、今後、病院の機能分化や在宅医療の推進が見込まれる。そうした中、医療機関はデータを共有していくことが必須になる、と橋田氏はみている。 また、医療機関のみのデータでは生活習慣などのデータが得られず、適切な保健対策を講じることができないため、保険外事業との連携の必要性についても触れた。今後は、個人の意思とデータに基づいて、患者自身が自分に関係のあるデータおよび適合するサービスを主体的に受け取れるような仕組みを構築していく方針を示した。“電話とFAXの世界”からの脱却により医療者の負担を軽減 続いて、日本統合医療支援センター代表理事であり、医師・薬剤師でもある織田 聡氏より、現場経験に基づく発表が行われた。冒頭、織田氏は、「医療・介護現場の人々は疲弊している」と医療現場の人材不足の深刻さを訴えた。そして、この状況を改善するためにはICT活用による効率化が必須であり、具体的には、医療現場におけるICTの利用価値の可視化と操作性の向上が課題であるとした。 医療情報の共有基盤は整備されつつあるものの、実際の現場では、パソコンを使って書類を作成しても、それを印刷し、FAXで送信するということが日常的に行われており、医療業界はまだ“電話とFAXの世界”にあるとの見解を述べた。加えて、現在医療機関で使用している電子カルテは、病院ごとにシステムが異なっており、情報を共有するうえでの障壁になっている。こうした状況を踏まえたうえで、自己情報コントロール権の観点から、現在医療機関で保管している医療情報を“患者へ返す”ことを織田氏は提案した。 これにより、患者権限で医療情報が共有できるようになれば、必要なときにすぐさま患者の医療情報を共有できるようになり、毎回、医療機関ごとに新たにカルテ作り直したり、医療情報を関係機関へその都度FAXしたりするなどの手間がなくなる。ひいては、医療現場の負担軽減につながると織田氏は考える。 また、医療情報に含めるべき情報の範囲について、織田氏は自身の患者を例に意見を展開した。担当する患者らが、ある民間療法について、以前はよく話をしてくれていたのに、その療法が社会的に批判を受けたことを機に、一切教えてくれなくなったという。多くの患者が、サプリメントや鍼灸などの保険外サービスや商品を利用しているが、情報共有の範囲に線引きをすると、患者にとって有益でないものに関する情報がより得られづらくなる危険性を指摘した。よって、安全性の観点から、これら保険外のサービスや商品の使用の可否は別として、すべての情報を共有する必要性を訴えた。 また、医療現場のICTツールは、医療者にとって必ずしも使いやすいものでないという問題点も指摘した。これらの操作性については、介護職員のおよそ3割を占めている60代女性をユーザーとして想定し、直感的に容易に操作できる仕様にすべきであるとした。例として、同氏が中心となって開発した「みんなのカルテ」を挙げ、情報入力が手書きや音声入力にも対応している点や、個々の現場のニーズに応じてカスタマイズできるなどの特徴を紹介した。 「カルテなどの医療記録を共有することに関して、抵抗がある医師も存在するのでは」という会場からの質問に対して、織田氏は、「医療記録はそもそも自分がいなくても、継続的に医療が滞ることなく行われる目的で書いている。情報共有が患者の予後に悪影響を及ぼすような特定のケースを除けば、問題となることはないのでは」との考えを示した。 このフォーラムでは、横断的連携により医療介護の現場の負担を軽減し、2025年問題を乗り越えるような情報共有基盤の構築を目指す方針とのことだ。また、織田氏は情報連携の先にある“顔の見える連携”を強化するために、専門職連携教育(IPE)や専門職連携協働(IPW)に関する研究会を発足し、西洋医学を軸として、補完医療等のあらゆる方法を適切かつ最大限に利用する診療戦略“編成(フォーメーション)医療” の実現を目指していくことを述べた。第1回編成医療情報戦略フォーラムの詳細・資料はこちら

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