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75歳以上でのマンモグラフィ検診は有効か

 75歳以上の年齢層におけるマンモグラフィ検診の有効性は示されていないことから、米国ワシントン大学のJudith A Malmgren氏らは、マンモグラフィで検出された75歳以上の乳がん患者の特性と転帰を前向きコホート研究で調査した。その結果、マンモグラフィで検出された75歳以上の乳がん患者では、患者や医師により発見された患者より、早いステージで診断され、受ける治療が少なく、疾患特異的生存率が優れていた。この結果から、若年女性でのマンモグラフィ検出によるベネフィットが、高齢女性においても同様に見られることが示唆された。Radiology誌オンライン版2014年8月5日号に掲載。 著者らは、1990年~2011年の間に、75歳以上であったステージ0~IVの原発性乳がん患者を登録データベース(n=1,162)から同定し追跡した。ステージ、治療、転帰、発見方法(患者、医師、マンモグラフィのどれか)を含む詳細情報は診断時のカルテから記した。浸潤性がん疾患特異的生存率の比較はカプランマイヤーを用いた。 主な結果は以下のとおり。・75歳以上の乳がん患者におけるマンモグラフィでの検出は、研究期間中に49%から70%に増加した(p<0.001)。・患者および医師による発見例がステージIIおよびIII(59%)が多かったのに対し、マンモグラフィ検出例はステージI(62%)が多かった。・1990年から2011年までに、ステージIIおよびIIIの乳がん発生率はともに8%減少し、ステージ0の乳がんは15%増加(p<0.001)した。・マンモグラフィで検出された浸潤性乳がん患者は、患者および医師により発見された患者に比べ、腫瘤摘出術および放射線で治療されることが多く、乳房切除術と化学療法施行は少なかった(p<0.001)。・マンモグラフィで検出された患者では、浸潤性乳がんの5年疾患特異的生存率が有意に良好であった[患者/医師による発見87%に対して97%(p<0.001)]。

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急がれるAll RAS検査承認

 2014年7月29日(火)、東京都千代田区において大腸がんにおけるバイオマーカー「RAS遺伝子」をテーマにしたプレスセミナー(主催:メルクセローノ株式会社)が開催された。その中で、愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部長/外来化学療法センター長である室 圭氏が、「大腸がんのさらなる『個別化治療』に向けて バイオマーカーとしての『RAS遺伝子』の可能性」と題して講演を行った。 いまや「個別化治療」は、がんの領域においても広く用いられる言葉の1つである。がんにおける個別化治療とは、バイオマーカーである遺伝子の検査結果に基づき、その患者さんに効果が期待できる薬剤選択を行い、治療を進めることである。個別化治療が広く浸透することによって、患者さんにより高い治療効果が得られる薬剤を投与することができるだけでなく、治療効果が期待できない薬剤を投与しないことで無駄な出費が抑えられ、国民医療費の削減にもつながる。 現在、切除不能大腸がんに投与することのできる分子標的薬のうち、セツキシマブやパニツムマブなどの抗EGFR抗体薬は、KRAS(exon2)野生型の患者さんに効果を示すことがわかっている。そのため、治療薬を投与する前にKRASの遺伝子型を調べ、KRAS変異型の患者さんには他の治療法を選択することが一般的である。しかしながら近年、KRAS(exon2)野生型であっても、治療薬が奏効しない患者さんが存在し、それはKRASのexon3、exon4やNRASの変異型を持つ患者であることがわかってきた。そのため、KRAS、NRASを含むRAS(All RAS)遺伝子検査の必要性が高まっている。 これを受け欧米では、2013年よりセツキシマブやパニツムマブの適応を、KRAS野生型からRAS野生型へ変更したが、本邦でAll RAS検査が承認されるのは、おそらく2014年末から2015年になるだろうと室氏は語る。現時点で保険償還が認められている検査は、KRAS(exon2)遺伝子検査のみであるが、All RAS検査承認へ向け、日本臨床腫瘍学会のホームページでは、「大腸がん患者におけるRAS遺伝子(KRAS/NRAS遺伝子)変異の測定に関するガイダンス」を公開しており、閲覧およびダウンロードができるため、参考にされたい。日本臨床腫瘍学会ホームページ2014年04月10日「大腸がん患者におけるRAS遺伝子(KRAS/NRAS遺伝子)変異の測定に関するガイダンス」が完成しました。 大腸がんでは、近年さまざまな分子標的治療薬の登場により、生存期間中央値は30ヵ月まで延長している。今後、さらなる個別化治療を進めるためにも、一刻も早いAll RAS検査の承認が望まれる。

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糖尿病は大腸がん治癒切除後の予後因子

 国立台湾大学医学院附設病院のKuo-Hsing Chen氏らは、治癒切除を受けた早期結腸がん患者において、糖尿病の有無と予後の関連性を調査した。その結果、早期結腸がん治癒切除後の患者では、糖尿病が全死亡率増加の予測因子であることが示唆された。Oncologist誌オンライン版2014年7月24日号に掲載。 著者らは、2004年1月1日~2008年12月31日にステージI/IIの結腸がんと新規に診断され、治癒切除を受けた結腸がん患者のコホートを、台湾における3つの患者データベースから選択した。また、2型糖尿病、糖尿病治療薬の使用、他の合併症、生存転帰に関する情報を収集し、糖尿病合併患者とそれ以外の患者における結腸がん特異的生存率(CSS)および全生存率(OS)を比較した。 主な結果は以下のとおり。・結腸がん6,937例が選択され、そのうち1,371例(19.8%)が糖尿病に罹患していた。・糖尿病を合併する結腸がん患者は、合併していない結腸がん患者に比べ、高齢で、補助化学療法を受けていることが少なかった。一方、腫瘍ステージおよびグレードは同等であった。・糖尿病を合併していない結腸がん患者に比べ、合併している結腸がん患者は、OS(5年OS:71.0%対81.7%)、CSS(5年CSS:86.7%対89.2%)ともに有意に低かった。・多変量解析で年齢、性別、ステージ、補助化学療法、合併症を調整後も、全死亡率においては、糖尿病は独立した予後因子であったが(調整ハザード比:1.32、95%信頼区間:1.18~1.49)、がん特異的死亡率においてはそうではなかった。・糖尿病の薬物療法を受けた結腸がん患者において、インスリンを使用していた患者は使用していない患者よりもCSSとOSが有意に低かった。

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トリプルネガティブ乳がんでのCOX-2発現

 エストロゲン受容体(ER)とプロゲステロン受容体(PR)、HER2がすべて陰性のトリプルネガティブ乳がん(TNBC)とシクロオキシゲナーゼ(COX)-2過剰発現は、ともに原発性乳がんにおける予後不良マーカーとして知られている。 米国MDアンダーソンがんセンターのKailash Mosalpuria氏らは、TNBC患者の原発腫瘍でCOX-2蛋白が過剰発現しているとの仮説を立て検証した結果、非転移性TNBCと原発腫瘍のCOX-2蛋白過剰発現との関連を認めた。今回の知見は、切除可能なTNBC患者におけるCOX-2標的治療について、さらなる研究を支持するものである。Molecular and clinical oncology誌2014年9月号(オンライン版2014年6月23日号)に掲載。 著者らは、2005年2月~2007年10月に治療されたステージI~III乳がん患者125例の原発腫瘍サンプルにおけるCOX-2発現レベルを、前向きに検討した。臨床病理学的要因に関する情報は前向きのデータベースから取得した。ベースラインの腫瘍特性と患者属性におけるTNBCと非TNBCとの比較は、カイ2乗およびFisherの正確確率検定を用いて行った。 主な結果は以下のとおり。・患者のうち、ER陽性が60.8%、PR陽性が51.2%、HER2/neu増幅が14.4%、TNBC が28.0%であった。・COX-2過剰発現が33.0%に認められた。・TNBCは、COX-2過剰発現(p=0.009)、PR発現(p=0.048)、高グレード(p=0.001)と関連していた。・年齢、閉経状態、BMI、リンパ節転移状況、術前化学療法の調整後、TNBCはCOX-2過剰発現の独立予測因子であった(p=0.01)。

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新薬創出国“日本”を取り戻す

 イリノテカンやブレオマイシンなど、日本は世界中で広く投与されている抗がん剤を多く創出してきた。現在、アメリカ、スイスに次ぐ第3位の新薬創出国であり、日本は新薬を創出できる数少ない国として広く認知されている。しかしながら、近年、臨床で多く用いられている分子標的治療薬をみると、日本で創出された薬剤はたった2つしかない。そのため、分子標的治療薬の輸入は輸出を上回り、貿易赤字は拡大傾向にある。新薬創出国“日本”は、一体どこに行ってしまったのだろうか。 2014年7月17日~19日、福岡市で開催された日本臨床腫瘍学会において、がん研究会 がん化学療法センター 藤田 直也氏が「アカデミア創薬の橋渡し研究における課題」をテーマに、本邦における新薬創出の問題点と打開策について講演した。 創薬プロセスには、基礎研究から新薬承認までに数十年の長い月日と膨大な研究開発費(1,000億円規模)を要する。さらに、近年、新薬と承認される薬剤が減ってきており、開発成功率が下がってきている。そのため、相対的に1品目当たりの研究開発費が高騰している。しかし、本邦の基礎研究や臨床研究のレベルが下がっているわけではない。基礎研究において、薬の種(シーズ)を発見しても、それを標的にした研究・開発は海外で行われてしまっているのが現状である。 本邦における新薬創出の問題点は、シーズを臨床研究に結び付けるまでのトランスレーショナルリサーチ(TR)にある。TRとは、シーズからターゲットを見つけ、化合物のスクリーニング、動物モデルでの確認、結晶構造解析、特許取得までの一連の研究開発過程を指す。  藤田氏は、TR研究の大学・研究機関(アカデミア)側の問題点として以下を挙げている。1)スクリーニングや構造解析、個体レベルでの解析など、複数の部門が共同で研究を行う必要があるが、現時点では共同研究体の構築が不十分である。2)抗体医薬の毒性試験はサルでのみ行わなければならず、費用が5,000万円ほどかかりコストが高い。3)出口を見越した特許取得戦略が不足している。 また、企業側の問題として以下を挙げている。1)研究開発費絶対額が不足している。2)リスクを取ることに躊躇している。3)アカデミアの成果を評価する人材が不足している。4)ブロックバスターモデルからアンメット・メディカル・ニーズに対応した医薬品開発への転換ができていない。5)研究開発のクローズ手法からオープン化への転換が遅れている。6)低分子化合物に偏りがちでバイオ医薬品開発への転換が遅れている。 ここでは、アカデミアの成果を評価する人材の不足に注目したい。TR研究における日本とアメリカの大きな違いは、創薬ベンチャー企業の存在にある。アメリカでは、創薬ベンチャーがアカデミアと企業の間に入ることで、円滑に開発を進めることができ多くの薬剤を創出している。本邦では、創薬ベンチャー企業が少なく、その起業リスクなどから拡大傾向にないのが現状である。その一方で、経済産業省が推し進めるTLO[Technology Licensing Organization(技術移転機関)]という制度が整いつつある。TLOとは、アカデミアの研究成果を特許化し、それを企業へ技術移転する法人であり、いわばアカデミアと企業をつなぐ「仲介」役として注目されている。 今後、アカデミア側としてはTLOをうまく活用すること、企業側としてはアカデミアとの初期段階からのマッチング、国内アカデミアへの投資・協同を行うことで、TR研究を円滑に進めることができるのではないだろうか。 新薬創出国“日本”の復活が期待される。

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日本における大腸がんの新薬開発状況

 切除不能大腸がんに対する化学療法においては、既に発売されている薬剤のHead to Headの比較試験が実施されている一方で、新たな治療薬の開発治験も進んでいる。7月17~19日に開催された第12回日本臨床腫瘍学会学術集会では、「切除不能大腸がん治療戦略の展望」をテーマとしたインターナショナルセッションが企画され、そのなかで、日本における切除不能大腸がんに対する新規薬剤の開発状況について、吉野 孝之氏(国立がん研究センター東病院消化管内科)が講演した。その内容を紹介する。TAS-102 日本で開発されたTAS-102(一般名:トリフルリジン・チピラシル塩酸塩)が今年3月に承認され、現在は日本でのみ販売されている。 本剤の国際共同第III相試験(RECOURSE試験)は、標準治療に不応・不耐の治癒切除不能進行・再発大腸がん800例を対象に、プラセボを対照として実施された。その結果、生存期間中央値はプラセボ群5.3ヵ月に対しTAS-102群で7.1ヵ月と延長し、全生存のハザード比は0.68(p<0.0001)であった。副作用は、骨髄抑制が比較的強いが、吉野氏によると発熱性好中球減少に注意すれば使いやすい薬剤という。TAS-102と他の薬剤との併用 実験モデルでは、TAS-102とイリノテカンとの併用で最も強い抗腫瘍効果が認められたが、イリノテカンの薬物強度が低く、さらなる検討が必要である。現在米国で投与スケジュールを変更した臨床試験が進行中である。 ベバシズマブとの併用レジメンの有用性を検討する多施設第Ib/II相試験(C-TASK FORSE)が、医師主導治験として吉野氏を中心に今年2月から実施されており、来年のASCOで最初の報告を予定している。nintedanib nintedanibは、VEGFR1-3、FGFR1-3、PDGFRα/β、RETをターゲットとする低分子チロシンキナーゼ阻害薬であり、現在、非小細胞肺がん、腎がん、肝がん、卵巣がんなどに対しても臨床試験が行われている。大腸がんにおいては、標準治療不応症例に対するプラセボとの比較試験(LUME Colon 1 Trial)が近々開始予定とのことである。BRAF阻害薬 大腸がんにおけるBRAF遺伝子変異陽性の割合は少ないものの非常に予後が悪い。BRAF遺伝子変異陽性大腸がんに対する治療としては、FOLFOXIRI単独またはFOLFOXIRIとベバシズマブの併用が有効であるが、副作用が強く全身状態(PS)が悪い場合は投与できない。 開発中のBRAF阻害薬のうち、悪性黒色腫に有効なvemurafenib(申請中)は、単独ではBRAF遺伝子変異陽性大腸がんに対する効果は小さく、現在、セツキシマブとイリノテカンとの併用で検討されている。また、encorafenib、dabrafenibにおいても、抗EGFR抗体(セツキシマブ、パニツムマブ)との併用や、さらにPI3Kα阻害薬、MEK阻害薬も併用するレジメンでの第II相試験が進行している。 最後に吉野氏は、自らが代表を務める多施設共同研究(GI screen 2013-01)における進捗状況を紹介した。本研究は、今後の新薬開発に役立てるため、日本人の切除不能大腸がん症例におけるKRAS、BRAF、NRAS、PIK3CAの遺伝子変異割合を検討することを目的に今年2月に開始。来年3月までに1,000例の登録を目標としているが、7月14日時点で313例に達していると報告した。

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肺がんに分子標的薬の同時併用? 臨床腫瘍学会2014

 非小細胞肺がんの化学療法未治療例に対し、EGFR-TKIと抗VEGF抗体の併用がPFSを延長する可能性が、第二相試験の結果から示された。2014年7月17日~19日まで福岡市で開催された第12回日本臨床腫瘍学会において、国立がん研究センター東病院 後藤功一氏が、再発非小細胞肺がんの一次治療におけるエルロチニブとベバシズマブの併用療法の試験結果を発表した。 EGFR変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)におけるEGFR-TKIの有効性は既に証明されているものの、EGFR-TKIを単独で用いるか併用するか、併用するならどの薬剤を用いるか、などは未だ明らかになっていない。前臨床試験では、EFGRとVGEFRの同時阻害による抗腫瘍活性の相乗効果が示唆されている。臨床試験では、第三相試験であるBeTa Lung studyで、EGFR変異陽性NSCLCの二次治療において、エルロチニブとベバシズマブの併用が、エルロチニブ単独に比べ、OSを延長する可能性を示唆している。そこで今回は、一次治療における同薬剤の併用療法を評価する、オープンラベル第二相無作為比較試験を行った。 対象患者は、化学療法未実施のステージIIIB~IVのEGFR変異陽性非小細胞肺がん(非扁平上皮がん)。2011年2月から2012年3月まで、30施設で154例の患者が登録され、エルロチニブ+ベバシズマブ群77例、エルロチニブ群77例に無作為に割り付けられた。エルロチニブの用量は150mg/日、ベバシズマブの用量は15mg/kg。3週毎にPDとなるまで投与された。 主要エンドポイントはPFS。副次的エンドポイントはOS、奏効率、安全性、QOLである。統計的な優越性の検出をHR0.7に設定し、サンプルサイズは150とした。主要エンドポイントであるPFS中央値は、・エルロチニブ+ベバシズマブ群16.0ヵ月、エルロチニブ群の9.7ヵ月と、併用群で有意なPFSの延長を認めた(HR=0.54 95%CI:0.36~0.79、P=0.0015)。副次的エンドポイントについて奏効率は、・エルロチニブ+ベバシズマブ群69%、エルロチニブ群63%と同等であったが、病勢コントロール率は、エルロチニブ+ベバシズマブ群99%、エルロチニブ群88%と併用群で有意に高かった。・奏効期間の中央値は、エルロチニブ+ベバシズマブ群13.3ヵ月、エルロチニブ群9.3ヵ月と有意に併用群で長かった。安全性については、・有害事象による治療中断は両群で同程度であった。・両群に共有する主な有害事象は、皮疹、高血圧、タンパク尿、肝機能障害であり、高血圧とタンパク尿については、併用群で有意に多かった。・グレード3の間質性肺炎は、エルロチニブ群に3例認められた。・ベバシズマブの主な投与中止理由はタンパク尿と出血イベント。中断時期の中央値はそれぞれ、329日と128日で、出血イベントについては比較的早期に発現していた。 ちなみに、OSは中央値に達していない。 エルロチニブ+ベバシズマブ群はエルロチニブ群に比較して有意にPFSを延長し、新たな有害事象を認めることはなく、毒性に関しても従来の試験と同等であった。

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高齢者のがん診療、その実態は…

 がん患者は多くが高齢であるが、がん治療のエビデンスは、ほとんどが非高齢者を対象としたデータであり、高齢者のがん診療については大いに検討の余地がある。 2014年7月17日〜19日、福岡市で開催された日本臨床腫瘍学会において、国立がん研究センターがん対策情報センター東尚弘氏が「がん診療パターンの高齢患者・若年患者の間での相違の現状」と題し、本邦において高齢者の受けているがん診療の実態をデータとともに紹介した。 東氏は、厚生労働省の人口動態統計をもとに、一般高齢者の健康状態3段階(上位25%層、平均層、下位25%層)に分けて、年齢別に余命を分析した。 その結果、同じ年齢でも健康状態により大きな違いがあり、70歳時では上位25%の方は下位25%の方に比べ、2倍程度の余命が長いことが分かった。治療を選択する際は、単に年齢だけではなく、目の前の患者さんがどのくらい生きるのかを考慮することが非常に重要だといえる。 また、2011年の全国のがん診療連携拠点病院の院内がん登録とDPCのリンクデータから、168施設での5大がんの標準診療の実施率を年齢別に分析している。 その結果、手術および化学療法については、年齢が上がるにつれて標準療法の実施率が下がる傾向にあることを、非小細胞肺がん、大腸がんのデータを基に紹介した。また、高催吐性化学療法時の予防的制吐剤投与、外来オピオイド鎮痛薬開始時の下剤処方など支持療法の標準診療実施率も年齢と共に下がっていた。 さらに、全国395施設の5大がんの院内がん登録のデータを用い、施設別に75歳以上の患者さんの割合を分析している。 中央値は33%であった。施設間のばらつきは大きく、最も割合の低い施設では13%であるのに対し、最も高い施設では60%と、4倍以上の差があった。施設区分でみると、がん専門施設および大学病院での割合は相対的に低く、それ以外の施設、即ちがん非専門施設において割合が高かった。

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今年3剤が承認、去勢抵抗性前立腺がんの今後の治療選択は?

 近年、患者数が急増している前立腺がんにおいて、標準的な治療であるホルモン療法が無効となる患者も増えている。このような去勢抵抗性前立腺がんにはドセタキセルが標準治療となっているが、ドセタキセル無効症例に対する治療薬の開発が進み、今年これまでに3剤が承認された。そのうち、唯一の化学療法剤であるカバジタキセル(商品名:ジェブタナ)は、どのような患者さんに投与すべきなのか―。7月10日(木)に開催されたメディアセミナー(主催:サノフィ株式会社)にて、横浜市立大学大学院医学研究科泌尿器病態学 准教授 上村 博司氏が、治療の選択や切り替えのタイミングについて解説した。 新たな前立腺がん治療薬として、今年5月にアンドロゲン受容体を阻害するエンザルタミド(商品名:イクスタンジ)が発売され、今月4日には、アンドロゲン合成を阻害するアビラテロン(商品名:ザイティガ)とカバジタキセルが承認され、発売が待たれている。3剤のうち、カバジタキセルは唯一、化学療法剤であり注射剤である。 本講演で上村氏は、前立腺がんは不均一な疾患であることから、「画一的な治療方法ではなく、さまざまな治療法を活かすことが重要である」と述べた。そのうえで、去勢抵抗性前立腺がんの標準治療であるドセタキセル無効後の治療選択として、実臨床ではまず経口薬であるアンドロゲン受容体標的薬2剤のどちらかを選択することが多いと思われるが、化学療法を優先すべき患者を見極めることの重要性を強調した。 上村氏は、化学療法剤を優先すべき患者として、1)転移部位が多く初期ホルモン療法の効果が短期間、2)転移部位の症状が強くPSA上昇が速い、3)肝臓・肺などに転移がある、といった経口ホルモン療法が効きにくい症例、4)介助なく自分自身の行動が管理できる、5)貧血が軽度である、といった全身状態のよい症例を挙げた。 また、先にアンドロゲン受容体標的薬による治療を行っている場合は、病勢の進行を見逃さず、適切なタイミングで治療を切り替えることが重要と上村氏は述べた。アンドロゲン受容体標的薬治療においては、最初から抵抗性の症例(プライマリーレジスタンス)、1年以内に無効となる部分的抵抗性症例、1年半以上効果が継続する感受性症例が存在することから、頻回のモニタリングが海外のガイドラインでも推奨されている。さらに、European Expert Consensus Panelにおいて、アンドロゲン受容体標的薬へのプライマリーレジスタンスを確認する方法として「治療開始から3ヵ月以内に画像上の進行」のコンセンサスが得られていることから、上村氏はCTや骨シンチグラフィーといった画像診断の必要性を強調した。

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抗菌薬静脈内投与後のアナフィラキシーショックによる死亡

消化器最終判決平成16年9月7日 最高裁判所 判決概要S状結腸がんの開腹術後に縫合不全を来たした57歳男性。抗菌薬投与を中心とした保存的治療を行っていた。術後17日、ドレーン内溶液の培養結果から、抗菌薬を一部変更してミノサイクリン(商品名:ミノマイシン)を静脈内投与したが、その直後にアナフィラキシーショックを発症して心肺停止状態となる。著しい喉頭浮腫のため気道確保は難航し、何とか気管内挿管に成功して救急蘇生を行ったが、発症から3時間半後に死亡した。詳細な経過患者情報平成2年7月19日 注腸造影検査などによりS状結腸がんと診断された57歳男性。初診時の問診票には、「異常体質過敏症、ショックなどの有無」欄の「抗菌薬剤(ペニシリン、ストマイなど)」の箇所に丸印を付けて提出した経過平成2(1990)年8月2日開腹手術目的で総合病院に入院。看護師に対し、風邪薬で蕁麻疹が出た経験があり、青魚、生魚で蕁麻疹が出ると申告。担当医師の問診でも、薬物アレルギーがあり、風邪薬で蕁麻疹が出たことがあると申告したが、担当医師は抗菌薬ではない市販の消炎鎮痛薬であろうと解釈し、具体的な薬品名など、薬物アレルギーの具体的内容、その詳細は把握しなかった。8月8日右半結腸切除術施行。手術後の感染予防目的として、セフォチアム(同:パンスポリン)およびセフチゾキシム(同:エポセリン)を投与(いずれも皮内反応は陰性)。8月16日(術後8日)腹部のドレーンから便汁様の排液が認められ、縫合不全と診断。保存的治療を行う。8月21日(術後13日)ドレーンからの分泌物を細菌培養検査に提出。8月23日(術後15日)38℃前後の発熱。8月25日(術後17日)解熱傾向がみられないため、抗菌薬をピペラシリン(同:ペントシリン)とセフメノキシム(同:ベストコール)に変更(いずれも皮内反応は陰性)。10:00ペントシリン® 2g、ベストコール® 1gを点滴静注。とくに異常は認められなかった。13:00細菌培養検査の結果が判明し、4種類の菌が確認された。ベストコール®は2種の菌に、ペントシリン®は3種の菌に感受性が認められたが、4種の菌すべてに感受性があるのはミノマイシン®であったため、ベストコール®をミノマイシン®に変更し、同日夜の投与分からペントシリン®とミノマイシン®の2剤併用で様子をみることにした。22:00看護師によりペントシリン® 2g、ミノマイシン® 100mgの点滴静注が開始された(主治医から看護師に対し、投与方法、投与後の経過観察などについて特別な指示なし)。ところが、点滴静注を開始して数分後に苦しくなってうめき声を上げ、付き添い中の妻がナースコール。22:10看護師が訪室。抗菌薬の点滴開始直後から気分が悪く体がピリピリした感じがするという言葉を聞き、各薬剤の投与を中止してドクターコール。22:15「オエッ」というような声を何回か発した後、心肺停止状態となる。数分後に医師が到着し、ただちにアンビューバッグによる人工呼吸、心臓マッサージを開始。22:30気管内挿管を試みたが、喉頭浮腫が強く挿管不能のため、喉頭穿刺を行う。22:40気管内挿管に成功するが心肺停止状態。アドレナリン(同:ボスミン)投与をはじめとした救急蘇生を続けるが、心肺は再開せず。8月26日(術後18日)01:28死亡確認。死因はいずれかの薬剤によるアナフィラキシーショックと考えられた。当事者の主張患者側(原告)の主張今回使用した抗菌薬には、アナフィラキシーショックなど重篤な副作用を生じる可能性があるのだから、もともと薬剤アレルギーの既往がある本件に抗菌薬を静脈内投与する場合、異常事態に備えて速やかに対応できるよう十分な監視体制を講じる注意義務があった。ところが、医師は看護師に特別な監視指示を与えることなく、漫然と抗菌薬投与を命じたため、アナフィラキシーショックの発見が遅れた。しかも、重篤な副作用に備えて救命措置を準備しておく注意義務があったにもかかわらず、気道確保や強心剤投与が遅れたため救命できなかった。病院側(被告)の主張本件で使用した抗菌薬は、従前から投与していた薬剤を一部変更しただけに過ぎず、薬物アレルギーの既往症があることは承知していたが、それまでに使用した抗菌薬では副作用はなかった。そのため、新たに投与した(皮内反応は不要とされている)ミノマイシン®投与後にアナフィラキシーショックを生じることは予見不可能であるし、そのような重篤な副作用を想定して医師または看護師が付き添ってまで経過観察をする義務はない。そして、容態急変後は速やかに当直医師が対応しており、救急蘇生に過誤があったということはできない。裁判所の判断高等裁判所の判断医師、看護師に過失なし(1億2,000万円の請求を棄却)。最高裁判所の判断(平成16年9月7日)原審(高等裁判所)の判断は以下の理由で是認できない。薬剤が静注により投与された場合に起きるアナフィラキシーショックは、ほとんどの場合、静脈内投与後5分以内に発症するものとされており、その病変の進行が急速であることから、アナフィラキシーショック症状を引き起こす可能性のある薬剤を投与する場合には、投与後の経過観察を十分に行い、その初期症状をいち早く察知することが肝要であり、発症した場合には、薬剤の投与をただちに中止するとともに、できるだけ早期に救急治療を行うことが重要である。とくに、アレルギー性疾患を有する患者の場合には、薬剤の投与によるアナフィラキシーショックの発症率が高いことから、格別の注意を払うことが必要とされている。本件では入院時の問診で薬物アレルギーの申告を受けていたのだから、アナフィラキシーショックを引き起こす可能性のある抗菌薬を投与するに際しては、重篤な副作用の発症する可能性を予見し、その発症に備えてあらかじめ看護師に対し、投与後の経過観察を指示・連絡をする注意義務があった。担当看護師は抗菌薬を開始後すぐに病室から退出してしまい、その結果、心臓マッサージが開始されたのが発症から10分以上経過したあとで、気管内挿管が試みられたのが発症から20分以上、ボスミン®投与は発症後40分が経過したあとであり、救急措置が大幅に遅れた。これでは投与後5分以内に発症するというアナフィラキシーショックへの対応は明らかに不適切である。以上のように、担当医師や看護師が注意義務を怠った過失があるから、判決の結論に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるため、死亡との因果関係をさらに審理をつくさせるため、本件を高等裁判所に差し戻すこととする。考察またまた医師にとっては驚くべき裁判官の考え方が示されました。しかも、最高裁判所の担当判事4名が全員一致した判断というのですから、医師と法律専門家との考え方には、どうしようもなく深い溝があると思います。本症例は、S状結腸がんの開腹手術後8日目に縫合不全を来たし(これはやむを得ない合併症と考えられます)、術後17日でそれまで投与していた抗菌薬を変更、その後に報告された細菌培養の結果から、より効果の期待できるミノマイシン®を点滴投与したところ、その直後にアナフィラキシーショックを発症しました。ショック発現までの時間経過を振り返ると、22:00ミノマイシン®開始。数分後に苦しくなりうめき声を上げたので家族がナースコール。22:10看護師が訪室、各薬剤の投与を中止してドクターコール。22:15心肺停止状態。数分後に医師が到着し、救急蘇生開始。22:30喉頭浮腫が強く挿管不能のため、喉頭穿刺を行う。22:40気管内挿管に成功するが心肺停止状態。となっています。今回の病院は約350床程度の規模で、上記の対応をみる限り、病院内の急変に対する体制としてはけっして不十分ではないと思います。最高裁判所の判事は、アナフィラキシーショックは5分以内の発見が大事である、という文献をもとに、もし看護師がミノマイシン®開始後ずっと付き添っていれば、もっと早く救急措置ができたであろう、という根拠で医師の過失と断じました。ところが当時の状況は、大腸がんの開腹手術後17日が経過し、すでに集中治療室から一般病室へ転室していると思われ、何とか縫合不全を保存的治療で治そうとしている状況でした。しかも、薬剤アレルギーの既往症が申告されていたとはいえ、それまでに使用したパンスポリン®、セフチゾキシム®、ベストコール®、ペントシリン®では何ら副作用の問題はなかったのですから、抗菌薬の一部変さらに際して看護師に特別な指示を出すべき積極的な理由はなかったと思います。ましてや、ミノマイシン®は皮内反応が不要とされている抗菌薬なので、裁判官のいうようにアナフィラキシーショックを予見して、22:00からのミノマイシン®開始に際して看護師をつきっきりで貼り付けておくことなど、けっして現実的ではないように思います。もし、看護師がベッドサイドでずっと付き添っていたとして、救命措置をどれくらい早く開始することができたでしょうか。側に付き添っていた家族が異変に気づいたのは、ミノマイシン®静脈注射開始後数分でしたから、おそらく22:05頃にドクターコールを行い、22:10くらいには院内の当直医が病室へ到着することができたと思われます(おそらく5~10分程度の短縮でしょう)。その時点から救急蘇生が開始されることになりますが、果たして22:15の心肺停止を5分間の措置で防ぎ得たでしょうか。しかもアナフィラキシーショックに関連した喉頭浮腫が急激に進行し、気道を確保することすらできず、やむなく喉頭穿刺まで行っていますので、けっして茫然自失として事態をやり過ごしたとか、注意義務を果たさなかったというような診療行為ではないと思います。つまり、本件のような激烈なアナフィラキシーショックの場合、医師が神業のような処置を行っても救命できないケースが存在するのは厳然とした事実です。にもかかわらず、医師や看護師がつきっきりでみていなかったのが悪い、救急措置をもう少し早くすれば助かったかもしれないなどという考え方は、病気のリスクを紙面でしか知り得ない裁判官の偏った考え方といえるのではないでしょうか。このように、医師にとっては防ぎようのないと思われる病態をも、医療ミスとして結果責任を問う声が非常に大きくなっていると思います。極論すると、個々の医療行為に対してすべてのリスクを説明し、それでもなお治療を受けると患者が同意しない限り、医師は結果責任を免れることはできません。すなわち本件でも、患者およびその家族へ、術後の縫合不全や感染症にはミノマイシン®が必要であることを十分に説明し、アレルギーがある患者ではミノマイシン®によってショックを起こして死亡することもありうるけれども、それでも注射してよいか、という同意を求めなければならない、ということですが、そのような説明をすることはきわめて不自然でしょう。本件は「医師や看護師の過失はない」と考えた高等裁判所へ差し戻されていますが、ぜひとも良識のある判断を期待したいと思います。一方、抗菌薬の取り扱いに関して、2004年10月に日本化学療法学会から「抗菌薬投与に関連するアナフィラキシー対策のガイドライン」が発表されました。それによると、これまで慣習化していた抗菌薬投与前の皮内反応は、アナフィラキシー発現の予知として有用性に乏しいと結論付けています。具体的には、アレルギー歴のない不特定多数の症例には皮内反応の有用性はないとする一方で、病歴からアレルギーが疑われる患者に抗菌薬を投与せざるを得ない場合には、あらかじめ皮内反応を行った方がよいということになります。そして、抗菌薬静脈内投与に際して重要な基本的事項として、以下の3点が強調されました。事前に既往症について十分な問診を行い、抗菌薬などによるアレルギー歴は必ず確認すること投与に際しては必ずショックなどに対する救急処置のとれる準備をしておくこと投与開始から投与終了後まで、患者を安静の状態に保たせ、十分な観察を行うこと。とくに、投与開始直後は注意深く観察することこのうち、本件のようなケースには第三項が重要となります。これまでは、抗菌薬静脈内注射後にはまれに重篤な副作用が現れることがあるので経過観察は大事ですよ、という一般的な認識はあっても、具体的にどのようにするのか、といった対策まで講じている施設は少ないのではないでしょうか。しかも、抗菌薬投与の患者全員に対し、「投与開始から投与終了後まで十分な観察を行う」ことは、実際の医療現場では事実上不可能ではないかと思われます。ところが、このようなガイドラインが発表されると、不幸にも抗菌薬によるアナフィラキシーショックを発症して死亡し紛争へ至った場合、この基本三原則に基づいて医師の過失を判断する可能性がきわめて高くなります。当時は急患で忙しかった、看護要員が足りずいかんともし難い、などというような個別の事情は、一切通用しなくなると思います。またガイドラインの記述は、「抗菌薬投与開始直後は注意深く観察すること」という漠然とした内容であり、ではどのようにしたらよいのか、バイタルサインをモニターするべきなのか、開始直後とは何分までなのか、といった対策までは提示されていません。ところが、このガイドラインのもとになった「日本化学療法学会臨床試験委員会・皮内反応検討特別部会の報告書(日本化学療法学会雑誌 Vol.51:497-506, 2003)」によると、「きわめて低頻度であるがアナフィラキシーショックが発現するので、事前に抗菌薬によるショックを含むアレルギー歴の問診を必ず行い、静脈内投与開始後20~30分における患者の観察とショック発現に対する対処の備えをしておくことが必要である」とされました。すなわち、ここではっきりと「20~30分」という具体的な基準が示されてしまいましたので、今後はこれがスタンダードとされる可能性が高いと思います。したがって、抗菌薬の初回静脈内投与では、全例において、点滴開始後少なくとも20分程度は誰かが付き添う、モニターをつけておく、などといった注意を払う必要があることになります。これを杓子定規に医療現場に当てはめると、かなりな混乱を招くことは十分に予測されますが、世の中の流れがこのようになっている以上、けっして見過ごすわけにはいかないと思います。今回の症例を参考にして、ぜひとも先生方の施設における方針を再確認して頂ければと思います。日本化学療法学会「抗菌薬投与に関連するアナフィラキシー対策のガイドライン(2004年版)」日本化学療法学会「抗菌薬投与に関連するアナフィラキシー対策について(2004年版概要)」日本化学療法学会臨床試験委員会・皮内反応検討特別部会報告書(日本化学療法学会雑誌 Vol.51:497-506, 2003)」消化器

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トラスツズマブ、長期補助療法での心イベント発症は?(BIG1-01)

 トラスツズマブの忍容性は一般的に高いものの、心機能障害については、とくにアントラサイクリンベースの化学療法との併用において、議論となっている。今回の研究は、トラスツズマブの補助療法を評価する世界的臨床試験HERA(Herceptin Adjuvant )トライアルの8年にわたる観察期間における心イベント発症について、ベルギー・Jules Bordet InstituteのEvandro de Azambuja氏らが検討している。Journal of clinical oncology誌オンライン版2014年6月9日号の掲載報告。 対象は2001年12月から2005年6月の間に登録されたHER2陽性の早期乳がん患者。初期治療で手術、術前・術後化学療法、(±放射線療法)を受けており、登録時の適格基準はLVEF(左室駆出率)55%以上である。これらの患者を無作為に観察群(1,744例)、トラスツズマブ1年投与群(1,682例)、2年投与群(1,673例)に割り付け、2012年4月まで観察している(観察期間の中央値は8年)。 主要エンドポイントは心臓死、NYHA(ニューヨーク心臓協会)心機能分類III~IVの重症うっ血性心不全(以下CHF)発症。副次的エンドポイントは、著明なLVEF低下(LVEF絶対値のベースラインから10%ポイント以上の低下およびLVEF値50%未満の低下)である。また、トラスツズマブ中止後の急速回復例(投与中止後連続2回以上50%以上のLVEF値を記録した例)の割合を評価している。 主な結果は以下のとおり。・初期治療における化学療法の96%は、アントラサイクリンを含むレジメンであった。・投与中止を引き起こした心臓有害事象の発症は2年投与群で9.4%、1年投与群では5.2%であった。・心臓死は、2年投与群0.2%、1年投与群0%、観察群0.1%であった。・重症CHF発症は、2年投与群0.8%、1年投与群0.8%、観察群0%であった。・著明なLVEF低下は2年投与群7.2%、1年投与群4.1%、観察群0.9%であった。2年投与群vs 1年投与群の絶対値差3.1%(95% CI:1.5~4.6、p<0.001)。・急速回復例は、2年投与群で87.2%(心エンドポイント発症133例中116例)、1年投与群で79.5%(心エンドポイント発症83例中66例)であった。・心イベント発症のリスク因子は、試験登録時におけるLVEF低値であった。 HERAトライアルの中央値8年の長期評価においても、トラスツズマブ補助療法における心イベントの発生は低く、また多くは可逆的であった。ただし、発症率の低さは確認されたものの、早期に心イベントを見つけ適切な処置を行うため、トラスツズマブの使用にあたっては使用前、使用中の心機能評価を行うべき、としている。

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【JSMO見どころまとめ(2)】小児がん患者のサバイバーシップ

 2014年7月17日(木)から福岡国際会議場ほかにて開催される、第12回日本臨床腫瘍学会学術集会に先立ち、先月27日、東京都中央区にて日本臨床腫瘍学会(JSMO)主催のプレスセミナーが開催された。そこで行われた、石井 榮一氏(愛媛大学大学院医学系研究科 小児科学講座)による講演「小児がん患者のサバイバーシップについて」を簡潔にまとめる。【まとめ】・小児がんの予後は、化学療法の進歩や、造血幹細胞移植の導入、分子標的薬の登場などにより飛躍的に改善した。・小児がんサバイバーは、成長とともにさまざまな晩期合併症を来すだけでなく、保険加入や就労の問題など、社会的な偏見も多く残っている。・小児がんサバイバーを長期的にサポートするシステム作りと、小児科から成人診療科へのシームレスな移行が必要である。 本学術集会では、日本小児血液・がん学会との合同シンポジウムを通し、小児がん経験者を社会全体で支援する体制作りについて議論していく。< 小児がんに関する注目演題 >・Presidential Symposium / 会長シンポジウム  第12回学術集会長/日本小児血液・がん学会 合同シンポジウムテーマ:“小児がんサバイバーシップ” 日時:2014年7月18日 15:50~17:50   会場:Room 3(福岡国際会議場3F「メインホール」)【第12回日本臨床腫瘍学会学術集会】■会期:2014年7月17日(木)~19日(土)■会場:福岡国際会議場、福岡サンパレス、福岡国際センター■会長:田村 和夫氏(福岡大学医学部腫瘍・血液・感染症内科学 教授)■テーマ:包括的にがん医療を考える~橋渡し研究、がん薬物療法からサバイバーシップまで~第12回日本臨床腫瘍学会学術集会ホームページ

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Stage IV非小細胞肺がんの2次治療におけるラムシルマブの有用性/Lancet

 ラムシルマブ(国内未承認)+ドセタキセル併用療法は、Stage IV非小細胞肺がん(NSCLC)の2次治療において生存期間を有意に延長し、ラムシルマブ追加によるQOLの増悪も認めないことが、米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のEdward B Garon氏らが行ったREVEL試験で示された。ラムシルマブは、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)-2の細胞外ドメインを標的とするヒトIgG1モノクローナル抗体で、すべてのVEGFリガンドの結合と受容体の活性化を阻害する。本薬剤は、進行胃がんの2次治療に関する2つの第III相試験で、単剤またはパクリタキセルとの併用で生存期間を有意に改善することが示されている。Lancet誌オンライン版2014年6月2日号掲載の報告。ラムシルマブ上乗せの有用性を無作為化試験で評価 REVEL試験は、Stage IV NSCLCに対する2次治療としてのラムシルマブ+ドセタキセル療法の有用性を検討する二重盲検プラセボ対照無作為化試験。対象は、年齢18歳以上、プラチナ製剤ベースの化学療法による1次治療中または終了後に病勢が進行した扁平上皮がんまたは非扁平上皮がん患者であった。 患者は、性別、地域、全身状態(PS)、前維持療法の有無で層別化され、1サイクル(21日)の第1日にラムシルマブ(10mg/kg)+ドセタキセル(75mg/m2)を投与する群またはプラセボ+ドセタキセル(75mg/m2)を投与する群に無作為に割り付けられた。治療は、病勢進行、許容されない有害事象、患者の希望による治療中止、死亡のいずれかのイベントが起きるまで継続された。 主要評価項目は全生存期間(OS)とし、副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、客観的奏効率(ORR)とし、有害事象、QOLの評価も行った。2次治療でとくに重要となる上乗せに伴う総QOLの増悪はなかった 2010年12月3日~2013年1月24日までに、6ヵ国26施設から1,253例が登録され、ラムシルマブ群に628例(年齢中央値62歳、男性67%)、プラセボ群には625例(61歳、66%)が割り付けられた。東アジア人(韓国、台湾)が各群に7%ずつ含まれた。データのカットオフ日(2013年12月20日)までに884例が死亡した(打ち切り率は29%)。 OS中央値は、ラムシルマブ群が10.5ヵ月であり、プラセボ群の9.1ヵ月に比べ有意に延長した(ハザード比[HR]:0.86、95%信頼区間[CI]:0.75~0.98、p=0.023)。また、PFS中央値はラムシルマブ群が4.5ヵ月、プラセボ群は3.0ヵ月で、やはり有意差を認めた(0.76、0.68~0.86、p<0.0001)。 担当医判定によるORR(完全奏効[CR]+部分奏効[PR])は、ラムシルマブ群が23%と、プラセボ群の14%よりも有意に良好であった(オッズ比[OR]:1.89、95%CI:1.41~2.54、p<0.0001)。また、病勢コントロール率(DCR、CR+PR+安定[SD])は、それぞれ64%、53%であり、有意差を認めた(1.60、1.28~2.01、p<0.0001)。扁平上皮がんと非扁平上皮がんのORR、DCRは全体の成績と同等であった。 治療関連有害事象は、ラムシルマブ群の98%(613/627例)、プラセボ群の95%(594/618例)に発現した。最も高頻度に認められたGrade 3以上の有害事象は、好中球減少(ラムシルマブ群:49%、プラセボ群:40%)、発熱性好中球減少(16%、10%)、疲労感(14%、10%)、白血球減少(14%、12%)、高血圧(6%、2%)であった。 治療関連有害事象による死亡(5%[31例]、6%[35例])およびGrade 3以上の肺出血(1%[8例]、1%[8例])の頻度は両群間に差はなかった。毒性は適切な減量や支持療法で管理可能であった。 著者は、「ラムシルマブ+ドセタキセル併用療法は、Stage IV NSCLC患者の2次治療において生存期間を改善した」とまとめ、「プラチナ製剤ベースの1次治療が無効であった進行NSCLC患者の2次治療におけるVEGFRを標的とする治療法の有用性を示すエビデンスが得られた。また、新規のがん治療法のリスク・ベネフィット評価では、とくに2次治療においては緩和的効果をも考慮する必要があるため、QOL評価が重要となるが、ラムシルマブを追加しても、患者の自己申告による総QOLの増悪は認めなかった」と考察している。

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化学療法非選択の転移性前立腺がんに、新たな治療選択肢/NEJM

 化学療法を受けておらずアンドロゲン除去療法後に進行がみられた転移性前立腺がん患者に対し、経口アンドロゲン受容体阻害薬エンザルタミドは、増悪および死亡のリスクを有意に低下し、化学療法の開始を有意に延長したことが示された。米国・オレゴン健康科学大学のTomasz M Beer氏らによる第III相二重盲検無作為化プラセボ対照試験の結果で、試験は当初計画した中間解析後に、試験薬の有益性が示されたとして早期終了となった。エンザルタミドは、転移性去勢抵抗性前立腺がん患者で化学療法後の進行例に対し生存を延長することは確認されていた。NEJM誌オンライン版2014年6月1日号掲載の報告より。経口アンドロゲン受容体阻害薬vs. プラセボ、1,717例対象に無作為化試験 研究グループは、化学療法を選択せずアンドロゲン除去療法を選択したが無効であった患者への新たな治療選択の確立を目的に、同患者にエンザルタミドを投与しその有効性と安全性を検討する試験を行った。 被験者は2010年9月~2012年9月に世界207施設で1,717例が登録され、エンザルタミド(160mgを1日1回、872例)またはプラセボ(845例)を投与する群に無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、X線画像診断による無増悪生存と全生存の共同エンドポイントで、計画では約516例の死亡発生後に中間解析を行う予定になっていた。 計画通り死亡540例が報告された時点(データカットオフ2013年9月16日)で中間解析を行った結果、エンザルタミド群の有益性が確認され、試験は早期に終了となった。進行リスクを81%低下、死亡リスクは29%低下 追跡期間12ヵ月時点で、X線画像診断による無増悪生存が確認された患者は、エンザルタミド群65%、プラセボ群14%で、エンザルタミドによる81%の進行リスク低下が認められた(エンザルタミド群のハザード比[HR]:0.19、95%信頼区間[CI]:0.15~0.23、p<0.001)。 データカットオフ時の生存は、エンザルタミド群626例(72%)、プラセボ群532例(63%)で、エンザルタミドによる29%の死亡リスク低下が認められた(エンザルタミド群のHR:0.71、95%CI:0.60~0.84、p<0.001)。 エンザルタミドの有益性は、すべての副次エンドポイントでも認められた。すなわち、細胞毒性化学療法開始までの期間(HR:0.35)、初発の骨格系関連事象までの期間(同:0.72)、軟部組織奏効(59%vs. 5%)、前立腺特異抗原(PSA)増悪までの期間(HR:0.17)、PSA値50%以上低下達成割合(78%vs. 3%)であった(すべての比較のp<0.001)。 エンザルタミド治療に関連した、頻度の高い臨床関連有害事象は、倦怠感と高血圧だった。

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化学療法はがん患者の認知機能と脳活性を低下させるか

 がん化学療法後の認知機能障害は患者のQOLに悪影響を及ぼす。多くの横断的前向き試験が、神経心理学的ながん治療後の認知変化について述べている。しかしながら、決定的な知見はまだない。この試験は最新の神経学的イメージングシステムを用い、乳がん治療後の認知愁訴と脳活性度の変化の関連を検討している。ベルギーのルーヴェン・カトリック大学Sabine Deprez氏らの前向き比較試験。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2014年5月27日号の掲載報告。 18例の化学療法施行乳がん患者について、化学療法施行前(t1)と施行後4~6ヵ月後(t2)に機能的MRI(fMRI)のスキャナー内でのマルチタスク検査を実施した。一方、コントロールグループとして化学療法非施行乳がん患者16例、健康成人17例で同様の検査を同じ間隔で実施している。ベースラインにおいて、3つのグループは同等である。トレーニングにより70~80%の正しい反応を得られるようにして参加者間の格差をコントロールして前向き試験を実施した。認知愁訴については、Cognitive Failure Questionnaire(CFQ)を用いて評価した。神経学的イメージングは、統計的パラメトリックマッピング(SPM8ソフトウェア)を用い、グループ内、グループ間、時間・グループ交互作用を分析した。 主な結果は以下のとおり・化学療法実施グループの認知愁訴は、化学療法施行前(t1)に比べ施行4~6ヵ月後(t2)で有意に増加した(p<0.05)。・他の2グループでは、同様の変化はみられなかった。・化学療法実施グループの脳活性度は、左前帯状回と頭頂間溝において、t1に比べt2で有意に低下した(p<0.05)。・他の2グループでは同様の変化はみられなかった。・化学療法実施グループと健康成人グループにおいて、左前帯状回の活性で有意な、時間・グループ交互作用がみられた(p<0.05)。 この試験の結果から、化学療法由来の認知愁訴の根底に脳活性度の変化があると示唆される。左前帯状回と頭頂間溝はマルチタスク作業時には活性化する部位であり、この変化は、化学療法が与える脳のダメージ、あるいは脳の区域間連携の低下に関連している可能性がある。   今後、追加試験により脳の活性度についての再現性を確認するとともに、大規模な試験により詳細なサブグループ解析を行う必要があるだろう。この試験は、化学療法後の認知愁訴の長期的変化と活性度の変化の関連についてのエビデンスを与えた最初の長期的試験であり、がん化学療法の認知機能への影響について、神経学的に理解するうえで重要なステップといえる。

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甲状腺がん〔thyroid cancer〕

1 疾患概要■ 概念・定義甲状腺がんは甲状腺腫に発生する悪性腫瘍である。そのほとんどは甲状腺濾胞上皮に由来する分化がん(乳頭がん、濾胞がん)である。まれに甲状腺内に存在する傍濾胞細胞(C細胞)から髄様がんが生じる。■ 疫学わが国における甲状腺がん罹患率は、緩やかながら上昇傾向にある。2003年における推定罹患数は8,069人とされ、年齢調整罹患率は男性 2.56、女性 7.17(人口10万対)であった。一方、2007年における甲状腺がん死亡者数は1,558人で徐々に増加傾向ではあるが、年齢調整死亡率は男性 0.84、女性 1.61(人口10万対)と上昇傾向にはない。■ 病因甲状腺がんの発生には多くの要因が関与していると思われるが、その大半は明らかになっていない。ただし、わが国の原爆被爆や海外での原子炉事故などの経過から、とくに若年者において、放射線による外部被曝や内部被曝が甲状腺がん発生を増加させることが観察されている。また、甲状腺髄様がんの一部は遺伝子変異によって家族性に発症する。■ 症状自覚症状を呈さないことが多い。最近では頸動脈エコー検査で偶発的に発見される機会も増えている。腫瘍が大きくなれば頸部腫瘤やそれによる違和感を訴えることがある。甲状腺がんの進行に伴って大きな転移リンパ節を形成する、あるいは局所浸潤によって嗄声(反回神経麻痺)や血痰(気管浸潤)などの症状を呈することもある。■ 分類甲状腺に発生する悪性腫瘍のおおよその内訳は90%が乳頭がん、5%が濾胞がん、残りの5%が髄様がん・未分化がん・悪性リンパ腫である。甲状腺がんは、これらの病理組織学的診断によって臨床像が異なることが特徴である。■ 予後乳頭がん、濾胞がん、髄様がんでは長期の生命予後を期待できる。ただし、一部には再発を繰り返してがん死に至る症例もあり、初回治療の段階でそうした危険を見極めることが大切である。一方、未分化がんはきわめて予後不良の甲状腺がんである。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 身体診察触診は甲状腺がん診断の基本である。正常甲状腺は触れない。したがって触診で甲状腺を触れたら、何らかの理由があると考えるべきである。とくに乳頭がんの触診所見は特徴的である。腫瘤は硬く、辺縁が不整で表面は不平滑、可動性に乏しいことが多い。気管などの周囲臓器や組織へ浸潤すれば腫瘍は固定し、嗄声を呈することがある。転移リンパ節が腫大して触知できる場合もある。髄様がんも似た所見を呈する。一方、濾胞がんでは良性腫瘍との鑑別が難しい。未分化がんは日一日と増大する。大きな腫瘤を形成し、嚥下障害や嗄声などの症状を呈する。腫瘤の圧迫によって、あるいは気管内への浸潤によって、時に気道狭窄(呼吸困難)を来す。しばしば疼痛を伴い、発熱をみることもある。■ 血液検査橋本病あるいはバセドウ病を合併しない限り、甲状腺機能には異常がない。髄様がんではカルシトニンとCEAが高値を示す。■ 画像検査頸部超音波検査が最もよく使われる。簡便で検査費用も高額ではなく、熟練した検者が施行すれば短時間で済み、診断能も高い。CT検査は甲状腺がんと診断がついたあとで、その進行度合いを診断するのに適している。MRI検査の有用性は限定的であり、PET検査は有用ではない。■ 細胞診断穿刺吸引細胞診を行って病理組織診断を推定する。細胞診断は甲状腺悪性腫瘍全体の90%、良性腫瘍の95%で的確に診断できるが10%の偽陰性(悪性の見逃し)、5%の偽陽性(過大診断)がある。ただし細胞診で濾胞がんの診断を推定することは困難である。現状では濾胞腺腫の可能性を含めて「濾胞性腫瘍」と診断されることが多い。針生検は甲状腺腫瘍においても、より正確な診断を可能とする診断法ではあるが、解剖学的理由から検査に伴う危険性を考慮し、一般的には推奨されない。大きな腫瘍で未分化がんや悪性リンパ腫を疑うときには適応がある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 乳頭がん外科治療は進行度に応じて甲状腺切除とリンパ節郭清の範囲を決定する。わが国の『甲状腺腫瘍診療ガイドライン2010年版』では、再発の危険が低いと考えられる症例(腫瘍径2cm以下、リンパ節転移なし、遠隔転移なし)には、腫瘍側の甲状腺葉のみを切除して甲状腺機能の温存を図る術式を推奨している。一方、進行がんでは甲状腺を全摘し、術後に放射性ヨウ素内用療法と甲状腺刺激ホルモン(TSH)抑制療法を実施する方針を勧めている。リンパ節の切除(郭清)範囲は転移の状況によって異なる。明らかな転移を認めない症例に対する予防的郭清は、気管周囲リンパ節領域のみにとどめるか、あるいは患側の内深頸リンパ節領域までとする。■ 濾胞がん手術時にすでに血行転移などを認めて濾胞がんの診断が明らかであれば、甲状腺全摘を行う。そうでなければ患側葉切除を行い、病理組織診断で広汎浸潤型と判明すれば、追加で対側葉を切除する(補完甲状腺全摘)。広汎浸潤型では血行転移の懸念があるので、術後に放射性ヨウ素内用療法とTSH抑制療法を行う。■ 髄様がん発生様式には家族性と散発性とがある。前者は多発性内分泌腺腫瘍症2型(multiple endocrine neoplasia type 2: MEN2)であり、がん原遺伝子であるRETに点突然変異が生じて発症する。他の構成病変として褐色細胞腫や副甲状腺機能亢進症を合併することがある。甲状腺の手術前にまず褐色細胞腫発症の有無を確認し、あれば髄様がんの手術に先んじてその治療を行う。MEN2の髄様がんは、両側葉に発症するので甲状腺全摘と進行度に応じたリンパ節郭清を行う。副甲状腺機能亢進症を合併していれば、4腺すべてを摘出して一部を前腕の筋肉内に移植する(全摘+自家移植)か、または腫大の最も少ない1腺の一部を温存して他をすべて摘出する(亜全摘)。散発性では乳頭がんに準じた手術を行う。放射性ヨウ素内用療法やTSH抑制療法の適応はない。■ 未分化がん診断と治療に準緊急の対応を必要とする。腫瘍の急速な増大を特徴とし、気道狭窄もまれではない。甲状腺分化がん、とくに乳頭がんを発生母地とすることが多い。年余にわたって分化がんが診断されず、高齢者になって悪性度のきわめて高い未分化がんに転化するものと考えられている。外科治療は困難であることが多い。腫瘍を摘出できても遠隔転移が高率で起き、予後はきわめて不良である。化学療法や放射線外照射治療を併用することが治療効果を高めると期待されるが、効果は限定的である。一方で症状緩和の対応は、診断の早期から行う必要がある。4 今後の展望■ 放射性ヨウ素内用療法分化がん血行転移症例に対する放射性ヨウ素(I-131)100mCi治療が可能な入院施設は非常に限られており、治療までの待ち時間が今後の課題となっている。一方、補助療法としての30mCi外来内用療法(アブレーション)が2011年から実施可能となった。高危険群に対するアブレーションの評価は今後待たれる。■ 分子標的薬分化がんおよび髄様がんの再発進行例に対する分子標的薬の有効性が、海外から報告されている。わが国での使用はいまだ承認されていないが、有効な手立ての少ない甲状腺がんの治療に役立つことが期待される。5 主たる診療科内分泌外科、耳鼻咽喉科、頭頸部外科6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本癌治療学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報: 甲状腺腫瘍診療ガイドライン 2010年版の閲覧ができる)1)日本内分泌外科学会、日本甲状腺外科学会編. 甲状腺腫瘍診療ガイドライン2010年版. 金原出版; 2010.

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進行非小細胞肺がんの2次・3次治療におけるエルロチニブとドセタキセルの比較

 既治療のEGFR変異不特定の進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者における、エルロチニブとドセタキセルの有効性を評価したDELTA試験の結果が、国立病院機構近畿中央胸部疾患センターの川口 知哉氏らにより報告された。同試験は、国内で行われた第III相無作為化試験である。Journal of Clinical Oncology誌 2014年5月19日号の掲載報告。 主要エンドポイントは無増悪生存期間(PFS)、副次的エンドポイントは、全生存期間(OS)、奏効率、安全性、またEGFR野生型腫瘍に対する効果についても検討している。対象は既治療(1または2レジメンの化学療法治療歴あり、ドセタキセルおよびEGFR-TKIは未使用)、IIIBまたはIV 期かつECOG PSが0~2の非小細胞肺がん患者。 主な結果は以下のとおり。・2009年8月から2012年7月まで、エルロチニブ群(150mg/日)150例とドセタキセル群(3週毎に60mg/m2)151例に無作為割り付けされた(そのうちEGFR野生型:エルロチニブ群109例、ドセタキセル群90例)。・全体におけるPFS中央値は、エルロチニブ群、ドセタキセル群でそれぞれ、2.0ヵ月、3.2ヵ月であった(HR 1.22、95%CI:0.97~1.55、p=0.09)。・全体におけるOS中央値は、エルロチニブ群、ドセタキセル群でそれぞれ、14.8ヵ月、12.2ヵ月であった(HR 0.91、95%CI:0.68~1.22、p=0.53)。 EGFR野生型のサブセット解析では・PFS中央値は、エルロチニブ群、ドセタキセル群でそれぞれ、1.3ヵ月、2.9ヵ月であった(HR 1.45、95%CI:1.09~1.94、p=0.01)。・OS中央値は、エルロチニブ群、ドセタキセル群でそれぞれ、9.0ヵ月、10.1ヵ月であった(HR 0.98、 95%CI:0.69~1.39、p=0.91)。

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NSCLCに対する術前化学療法の生存ベネフィットをメタ解析で確認/Lancet

 切除可能な非小細胞肺がん(NSCLC)に対する術前化学療法は、全生存率、無遠隔転移再発、無再発生存を有意に改善することが、英国・ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンのSarah Burdett氏らNSCLC Meta-analysis Collaborative Groupの検討で明らかとなった。NSCLCに対する最良の治療選択肢は手術とされるが、治癒切除が可能な腫瘍は20~25%にすぎない。術前化学療法は、腫瘍を縮小させて手術可能例を増やし、微小転移を消失させる可能性があるが、手術の時期を遅らせ、無効の場合は腫瘍が切除不能となるリスクがある。術後化学療法の全生存率改善効果はメタ解析で確証されているが、術前化学療法については十分なエビデンスは示されていなかった。Lancet誌2014年5月3日号(オンライン版2014年2月25日号)掲載の報告。術前化学療法の効果をメタ解析で評価 研究グループは、切除可能NSCLCに対する術前化学療法の効果を検証するために、文献の系統的なレビューを行い、個々の患者データに基づくメタ解析を実施した。 1965年1月1日以降に開始された手術単独と術前化学療法+手術を比較した臨床試験の文献を系統的に検索し、個々の試験の最新データについて評価を行った。選出された個々の試験の結果を、固定効果モデルを用いて統合した。 主要評価項目である全生存は、無作為割り付け時から全死因死亡までの期間と定義し、生存例は最終フォローアップ時で打ち切りとした。副次評価項目は、無再発生存、無局所再発、無遠隔転移再発、がん特異的死亡、切除率などであった。5年後の絶対的な生存ベネフィットは5% 日本のJCOG 9209試験を含む15の無作為化対照比較試験に登録された2,385例(無作為割り付けの対象となった患者の92%)が解析の対象となった。男性が80%、年齢中央値は62歳、全身状態(PS)良好が88%で、臨床病期はIB~IIIAが93%を占め、扁平上皮がんが50%、腺がんが29%であり、フォローアップ期間中央値は6年であった。 全生存率は、術前化学療法群が手術単独群に比べ有意に改善し(ハザード比[HR]:0.87、95%信頼区間[CI]:0.78~0.96、p=0.007)、相対的な死亡リスクが13%減少した。また、全生存率に関して試験間に有意な差は認めなかった(p=0.18、I2=25%)。これは、5年後の全生存率が絶対的に5%改善されたことを意味する(40%から45%へ)。 化学療法レジメンや投与スケジュール、薬剤数、使用されたプラチナ製剤の種類、術後放射線療法の有無が生存に及ぼす影響に関する明確なエビデンスは得られなかった。また、術前化学療法によるベネフィットに、年齢、性、PS、組織型、臨床病期別の差は認めなかった。 ほとんどの患者が臨床病期IB~IIIAであったにもかかわらず、無再発生存(HR:0.85、95%CI:0.76~0.94、p=0.002)および無遠隔転移再発(HR:0.69、95%CI:0.58~0.82、p<0.0001)も術前化学療法群で有意に良好であった。無局所再発は、術前化学療法群で良好な傾向がみられたが、有意な差はなかった(HR:0.88、95%CI:0.73~1.07、p=0.20)。 著者は、「切除可能NSCLCに対する術前化学療法は、全生存率、無遠隔転移再発、無再発生存を有意に改善したことから、妥当な治療選択肢であることが示唆される。手術を延期して術前化学療法を行っても早期死亡が増加することはないと考えられる」とまとめ、「術前化学療法では毒性とのバランスが重要で、本試験では毒性評価はできなかったが、多くの試験では十分に耐容可能と判定されていた」としている。

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ネオアジュバント実施HER2陽性乳がん患者の予後予測

 ネオアジュバント(術前補助化学療法)+トラスツズマブの治療を受けたHER2陽性初期乳がん患者の無病生存(DFS)、同時にDFS予測因子と病理学的反応の予測因子について調査した。対象は2001~2010年に本邦38機関での治療患者829例。京都大学医学部附属病院 乳腺外科 高田 正泰氏らによる多施設後ろ向き観察研究。Breast Cancer Research and Treatment誌2014年5月号(オンライン版2014年3月30日号)の掲載報告。 主な結果は以下のとおり。・3年DFS率は87%(95%CI:85~90)、病理的完全奏効(pCR)率は51%であった。・pCR率は、ER/PgR陰性患者が陽性患者に比べ高かった(64対36%、p<0.001)。・pCR患者は非pCR患者より高いDFS率を示した(93対82%、p<0.001)。独立したDFS不良予測因子・リンパ節転移:cN2~3対cN0(HR 2.63、95%CI:1.36~5.21、p=0.004)。・組織学的異型度:グレード3(HR 1.81、95%CI:1.15~2.91、p=0.011)。・非pCR(HR 1.98、95%CI:1.22~3.24、p=0.005)。ER/PgR陰性におけるDFS不良予測因子・非pCR(HR 2.63、95%CI:1.43~4.90、p=0.002)。・腫瘍進展度:cT3~4対cT1~2(HR 2.20、95%CI:1.16~4.20、p=0.017)。ER/PgR陽性におけるDFS不良予測因子・組織学的異型度:グレード3(HR 3.09、95%CI:1.48~6.62、p=0.003)。・リンパ節転移:cN2~3対cN0(HR 4.26、95%CI:1.53~13.14、p=0.005)。・年齢:40歳以下 対 40歳超(HR 2.40、95%CI:1.12~4.94、p=0.026)。陰性・陽性双方のDFS不良予測因子・厳格なpCR:ER/PgR陰性(HR 2.66、95%CI:1.31~5.97、p=0.006)      :ER/PgR陽性(HR 3.86、95%CI:1.13~24.21、p=0.029) これらの結果は、HER2陽性乳がん患者の的確な予後予測と個別化治療の確立に役立つ可能性がある。

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参考になるメタ解析~乳がん術後リンパ節転移への放射線療法(コメンテーター:藤原 康弘 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(202)より-

過去にも実績を有するグループにより、方法論的に丁寧に検討がなされたうえで実施されたメタアナリシスである。 今回の解析により、乳房切除、および少なくともLevel II以上の腋窩郭清を受け、リンパ節転移が陽性例の術後に胸壁、腋窩、鎖骨上、および内胸動静脈の領域に放射線治療を行うことで、放射線治療を受けない場合と比較して、有意に乳がんに関連した死亡を抑制した。また、放射線治療は、局所再発だけでなく、遠隔転移を含めた初回再発も抑制していた。 腋窩リンパ節転移状況について、転移個数が1~3個、および4個以上に分けて解析したところ、放射線治療は、両者ともに、局所再発、初回再発、および乳がん関連死亡を有意に抑制していた。 また、薬物療法(いわゆる全身治療)を受けた症例においても、放射線治療は、局所再発、初回再発、および乳がん関連死亡を有意に抑制していた。 解析対象となった試験が実施された時代(1964~86年)と現在において、1)放射線治療の技術が進歩し(照射野、および照射線量の管理など)、より安全性が高くなっていると考えられること、2)乳がん術後の全身治療が進歩し(今回の解析対象では、化学療法の大半はCMF、内分泌療法の大半はtamoxifen)、術後薬物療法により治療成績が向上していること、を念頭に置き、今回の解析結果を解釈し、実際の症例における術後放射線治療の適応を決めるべきと考える。 局所再発などの解析はデータの取り扱いに難しい所があり、どのような解析方法を取ったのかを確認したうえで結果を解釈するほうが望ましい。 本論文に関しては、解析にあたってどのような考え方に基づきデータを取り扱ったかがappendixに記されており、厳密に結果を解釈したい場合にそれを参照できるようになっている。appendix pp7-9に提示されている内容は、本論文の解釈だけでなく、同様のエンドポイントを用いた他の研究論文を読み解くうえでも参考になるものである。過去にEBCTCGのメタアナリシス論文を読んだことのある方であっても、あらためて目を通されることをお勧めする。

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