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短時間での投与が可能なHER2陽性乳がん・大腸がん治療薬「フェスゴ配合皮下注MA/同IN」今回は、抗HER2ヒト化モノクローナル抗体・ヒアルロン酸分解酵素配合薬「ペルツズマブ(遺伝子組換え)・トラスツズマブ(遺伝子組換え)・ボルヒアルロニダーゼ アルファ(遺伝子組換え)(商品名:フェスゴ配合皮下注MA/同IN、製造販売元:中外製薬)」を紹介します。本剤は、HER2陽性の乳がんおよび大腸がんの配合皮下注射薬です。従来の静脈注射は60~150分かけて投与するのに対し、本剤では5~8分以上で投与可能であり、患者・医療施設双方の負担が軽減することが期待されています。<効能・効果>HER2陽性の乳がん、がん化学療法後に増悪したHER2陽性の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がんの適応で、2023年9月25日に製造販売承認を取得し、同年11月22日より販売されています。<用法・用量>通常、成人に対して1日1回、ペルツズマブ(遺伝子組換え)/トラスツズマブ(遺伝子組換え)/ボルヒアルロニダーゼ アルファ(遺伝子組換え)として初回投与時にはそれぞれ1,200mg/600mg/30,000Uを、2回目以降はそれぞれ600mg/600mg/20,000Uを、初回投与時には8分以上、2回目以降は5分以上かけて3週間間隔で皮下投与します。HER2陽性の乳がんに対しては他の抗悪性腫瘍剤との併用において投与し、術前・術後薬物療法の場合は投与期間は12ヵ月までとなります。<安全性>重大な副作用として、Infusion reaction(4.0%)、心機能障害(3.6%)、過敏症、間質性肺疾患(各0.8%)、肝障害、敗血症(各0.4%)などが報告されています。その他の主な副作用には、下痢(30.7%)、注射部位反応(14.1%)、発疹、疲労(各5%以上)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬に含まれるペルツズマブおよびトラスツズマブは、HER2というタンパク質の動きを抑えることによりがん細胞の増殖を抑えます。2.この薬の投与により、心臓の機能が低下することが報告されていますので、定期的に心臓の検査を受けてください。3.妊婦または妊娠している可能性がある人はこの薬を使用することはできません。妊娠する可能性がある人は、この薬を使用している間および使用を中止・終了してから7ヵ月間は適切な方法で避妊してください。<ここがポイント!>本剤は、抗HER2ヒト化モノクローナル抗体であるペルツズマブおよびトラスツズマブとボルヒアルロニダーゼ アルファを配合した抗悪性腫瘍薬です。ペルツズマブはHER2細胞外領域のドメインIIに、トラスツズマブは細胞膜近接部位のドメインIVに結合し、異なる経路から包括的にHER2シグナルを遮断し、腫瘍細胞増殖の抑制やアポトーシスを誘導すると考えられています。一方、ボルヒアルロニダーゼ アルファは、結合組織におけるヒアルロン酸を加水分解することにより、薬剤注入時の抵抗を減少させて薬物の体内浸透や拡散を促進させる作用があります。これまで、ペルツズマブおよびトラスツズマブを点滴静注するには60~90分以上の投与時間が必要でしたが、本剤は初回が8分以上、2回目以降は5分以上と短時間での投与が可能となりました。なお、ボルヒアルロニダーゼ アルファが配合された医薬品には、多発性骨髄腫および全身性ALアミロイドーシスに適応を持つダラツムマブ(遺伝子組換え)・ボルヒアルロニダーゼ アルファ(遺伝子組換え)(商品名:ダラキューロ配合皮下注)が2021年5月から販売されています。HER2陽性の早期乳がん患者を対象とした国際共同第III相臨床試験(FeDeriCa試験)において、サイクル7(サイクル8投与前)でのペルツズマブ血清中トラフ濃度が主要評価項目として検討されました。ペルツズマブ+トラスツズマブ(IV)群に対する本剤群のペルツズマブ血清中トラフ濃度の幾何平均値の比(GMR)は1.22(90%信頼区間[CI]:1.14~1.31)であり、信頼区間の下限値が非劣性マージンの0.8を上回ったので、フェスゴ群の非劣性が検証されました。また、副次的評価項目である全病理的完全奏効率は、本剤群が59.7%(95%CI:53.3〜65.8)、ペルツズマブ+トラスツズマブ(IV)群が59.5%(95%CI:53.2〜65.6)であり、その差は0.2%(95%CI:-8.7〜9.0)で同等でした。