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HR+/HER2-早期乳がんにおける早期再発のリスク因子(WJOG15721B)/日本乳癌学会

 HR+/HER2-早期乳がん患者における早期再発のリスク因子を探索したWJOG15721B試験の結果、若年、静脈侵襲、病理学的浸潤径、病理学的リンパ節転移の個数などが独立したリスク因子として同定されたことを、国立がん研究センター東病院の綿貫 瑠璃奈氏が第32回日本乳癌学会学術総会で発表した。 HR+/HER2-乳がんで、術後内分泌療法開始後3年以内の早期に再発した患者の予後は不良であることが報告されている。monarchE試験では再発高リスクのHR+/HER2乳がん患者において内分泌療法にアベマシクリブを加えることで有意に無浸潤疾患生存期間(iDFS)が延長したことが示されている。monarchE試験の適格基準を満たす患者は極めて再発高リスクであり、この基準を満たさない早期再発の高リスク集団が存在する可能性がある。そこで研究グループは、HR+/HER2-乳がんの臨床病理学的因子や周術期治療と術後3年以内の再発との関連を調べ、早期再発のリスク因子を同定することを目的として後方視的多施設共同観察研究を実施した。 対象は、StageII~IIIのHR+/HER2-乳がんと診断されて手術を受け、2012年1月1日~2017年1月1日に術後内分泌療法を開始した患者であった。術前/術後化学療法の実施の有無については問わなかった。主要評価項目は3年のiDFS割合、副次評価項目はiDFS、全生存期間、3年の無遠隔転移生存(DRFS)割合、DRFSであった。 予後因子の検討のため、多変量Cox比例ハザード回帰モデルにおいて臨床病理学的因子を説明変数として用いた。iDFSの予測モデルを作成するため、説明変数の有意水準を0.05としたステップワイズ法を用いた多変量Cox比例ハザード回帰モデルによってノモグラムを作成した。 主な結果は以下のとおり。●2,732例(年齢中央値:51歳[範囲:23~96])が解析された。StageIIAが1,841例(67.4%)、StageIIBが529例(19.4%)、StageIIIが362例(13.3%)であった。●術前化学療法を受けたのは23.0%、術後化学療法を受けたのは32.5%で、治療薬は90%超がアントラサイクリン系であった。●主要評価項目である3年iDFS割合は92.1%(95%信頼区間[CI]:91.1~93.1)であった(追跡期間中央値:7.1年)。●iDFSに対する多変量解析により、早期再発に関連する統計学的に有意な因子として6つの因子が明らかになった。ハザード(HR)は以下のとおり(括弧内は95%CI)。【年齢】・20~39歳vs.40~69歳 HR:1.46(1.09~1.95)、p=0.011・70歳以上vs.40~69歳 HR:1.73(1.32~2.26)、p<0.001【核グレード】・グレード2 vs.グレード1 HR:1.66(1.31~2.11)、p<0.001・グレード3 vs.グレード1 HR:1.64(1.24~2.19)、p=0.001【静脈侵襲】・ありvs.なし HR:1.36(1.04~1.78)、p=0.027【浸潤径】・2以上5cm未満vs.2cm未満 HR:1.75(1.35~2.27)、p<0.001・5cm以上vs.2cm未満 HR:2.07(1.48~2.89)、p<0.001【リンパ節転移個数】・1~3 vs.0 HR:1.16(0.92~1.46)、p=0.201・4以上vs.0 HR:1.70(1.29~2.24)、p<0.001【術前化学療法歴】・ありvs.なし HR:2.41(1.90~3.06)、p<0.001。●両側乳がん、ER、PgR、HER2、Ki-67、リンパ管侵襲は統計学的に有意な因子ではなかった。●同定された6つの因子で3年および5年iDFS割合を予測するノモグラムを作成したところ、とくに40~69歳と比較して20~39歳は予後が不良であるとともに、70歳以上でも予後が不良であった。術前化学療法を行った患者はそれでもなお予後が不良であった。●ノモグラムの総ポイントに基づきスコアごとに層別化したiDFSの曲線を作成し、ログランク検定とCox比例ハザードモデルで評価した結果、総ポイントが高いほど予後が不良であった。ノモグラムのC-indexは0.68であった。 これらの結果より、綿貫氏は「若年、核グレード、静脈浸潤、病理学的浸潤径、病理学的リンパ節転移の個数がHR+/HER2-乳がん患者の早期再発の独立したリスク因子であることが明らかになった。また、臨床医によって術前化学療法が選択された患者は、術前化学療法を行ってもなお早期再発のリスクが高いと考えられる。今回同定された因子を有するHR+/HER2-乳がん患者に対してアベマシクリブが有効かについてはさらなる検証が必要である」とまとめた。

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一次乳房再建における有害事象のリスク因子/日本乳癌学会

 2013年に乳房インプラントが保険収載されて以降乳房再建は増加傾向にあり、2020年には遺伝性乳がん卵巣がん症候群の予防的切除も保険収載された。一方で、乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)の発生が報告され、再建後有害事象のリスク因子についても多数の報告があるが、結果は一致していない。日本乳癌学会班研究(枝園班)では、一次乳房再建施行患者における有害事象のリスク因子について多施設共同の後ろ向き解析を実施し、聖マリアンナ医科大学の志茂 彩華氏が結果を第32回日本乳癌学会学術総会で発表した。 本研究の対象は、2008年1月~2016年12月に国内12施設で一次乳房再建が施行された、診断時に20歳以上80歳未満の乳がん症例4,720例。Stage IVの患者は除外された。 主な結果は以下のとおり。・患者背景は、年齢中央値46(20~83)歳、65歳以上は4.1%であった。BMIは18.5~25(普通)が74.3%を占めたが、25以上の肥満患者も10%以上含まれた。喫煙歴なしが77.8%、両側性なしが84.0%、乳房手術はtotal mastectomyが35.9%、skin-sparing mastectomy(SSM)が33.8%、nipple-sparing mastectomy(NSM)が30.3%であった。再建方法は、一次一期再建としてインプラントが3.5%、自家組織が11.1%、一次二期再建が85.4%であった。腋窩手術はセンチネルが81.7%、郭清が17.2%、なしが1.1%であった。・組織型は浸潤性乳管がんが64.5%を占め、非浸潤性乳管がんが27.1%、浸潤性小葉がんが4.2%であった。pN0が79.3%を占めた一方、pN≧4の症例も4.5%含まれた。術前/術後化学療法なしがそれぞれ90.0%/77.4%で、術後ホルモン療法は62.3%が受けていた。PMRTの施行を受けていたのは7.6%であった。・有害事象が報告されたのは840例(17.8%)で、最も多かったのは乳頭乳輪(NAC)血流不全(NSM症例のうち14.9%)で、皮弁壊死が4.8%、感染が3.8%と続き、感染についてはGrade3が2.8%であった。・有害事象の転帰については、インプラント症例で感染が発生した場合75.9%で抜去もしくは入れ替えが行われていた。皮弁壊死の場合はインプラント症例の11.9%で抜去もしくは入れ替え、自家再建症例の23.1%で自家再建組織の一部もしくは全切除が行われていた。・有害事象のリスク因子について、65歳以上、BMI≧25、喫煙歴ありの症例については、多変量解析および単変量解析のいずれにおいても有意差が認められた。・連続変数によるロジスティック解析においても、年齢およびBMIが高くなるほど有害事象が増加することが明らかになった。・手術の方法と有害事象の関係について、total mastectomyと比較するとSSM、NSMはともに多変量解析および単変量解析のいずれにおいても有意にリスクが高くなり、とくにNSMで最も多いことが確認された。再建方法については、一次二期再建と比較するとインプラント、自家再建ともに一次一期再建で有意にリスクが高かった。両側性の有無や腋窩手術に関して因果関係は認められなかった。・病理結果と有害事象の関係について、単変量解析の結果、非浸潤性乳管がんと比較すると浸潤性がんでリスクが高かった。リンパ節転移の有無に関しては、pN≧4でリスクが高かった。・治療法と有害事象の関係について、単変量解析の結果、術後ホルモン療法およびPMRTありの場合にリスクが高かった。術前/術後化学療法の有無に関して因果関係は認められなかった。 志茂氏は、「重大な有害事象が起こると再手術が必要になる可能性があり、整容性の低下、患者の負担が懸念される」とし、「リスク因子を有する患者に対しては、術前の管理や術後の経過について十分に注意する必要がある」とまとめている。

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HR+/HER2-進行乳がん1次治療、リアルワールドでのパルボシクリブ+フルベストラント/+AIの効果/日本乳癌学会

 HR+/HER2-進行乳がん1次治療におけるパルボシクリブ+フルベストラントとパルボシクリブ+アロマターゼ阻害薬(AI)の効果をリアルワールドデータ(RWD)で評価した結果、ほぼ同様な傾向であったことを京都大学の増田 慎三氏が第32回日本乳癌学会学術総会で発表した。後治療の検討から、増田氏は「後治療におけるホルモン療法の期間を伸ばす工夫が今後大切」とした。 HR+/HER2-進行乳がんにおいてパルボシクリブと内分泌療法の併用療法が内分泌療法単独と比較して無増悪生存期間(PFS)を有意に延長することは第III相試験において示されているが、実臨床下でフルベストラント併用とAI併用を別々に評価した研究はほとんどない。本研究では、HR+/HER2-進行乳がんに1次または2次治療としてパルボシクリブ+内分泌療法を行った際の実臨床下での有用性を評価した国内20施設の多施設観察研究のデータから、1次治療として登録された420例のうち、術後補助療法終了から再発までの期間(TFI)が12ヵ月以上、および初診時Stage IVの症例を解析対象とした。併用した内分泌療法別に、患者背景、実臨床下でのPFS(rwPFS)、全生存期間(OS)、化学療法開始までの期間(CFS)、後治療の内訳を評価した。 主な結果は以下のとおり。・1次治療でパルボシクリブ+フルベストラントおよびパルボシクリブ+AIで治療された症例は、それぞれ74例および118例であった。患者背景に大きな違いはなかったが、閉経前/閉経周辺期の患者割合がフルベストラント併用群27.0%、AI併用群 6.8%とフルベストラント併用群で多かった。・rwPFS中央値は、フルベストラント併用群 で33.57ヵ月(95%信頼区間[CI]:23.37~50.43)、AI群で34.10ヵ月(同:25.63~44.53)とほぼ同様で、第II相試験であるPARSIFAL試験、PARSIFAL-LONG試験の再現性が認められた。・CFS中央値についても、フルベストラント併用群43.90ヵ月(同:32.57~NE)、AI群42.53ヵ月(同:33.6~NE)で同様の傾向がみられた。・OS中央値はどちらも未達で、今後、長期フォローアップによるデータの更新を予定している。・TFIが12ヵ月以上の再発症例と初診時StageIVの症例、また閉経状況によらず、rwPFS、CFS、OSはおおむね同じ傾向であった。・後治療の内訳は、フルベストラント併用群、AI併用群の順に、化学療法が34.1%および29.5%、内分泌療法単独が19.5%および26.2%、内分泌療法+CDK4/6阻害薬が17.1%および34.4%、内分泌療法+エベロリムスが26.8%および4.9%であった。1次逐次治療で内分泌療法±分子標的治療を選択された患者群の治療期間中央値は、フルベストラント併用群3.0ヵ月、AI併用群4.5ヵ月であった。 増田氏は「HR+/HER2-進行再発乳がん治療において、ホルモン感受性が期待できると考えられる集団の1次治療において、日本人におけるReal world evidence studyから、パルボシクリブ+フルベストラントとパルボシクリブ+AIは共に有用な選択肢であることが示唆された」と結論した。

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脳転移を有するHER2低発現乳がん、T-DXdの頭蓋内奏効率は?(DESTINY-Breast04)/日本乳癌学会

 化学療法歴を有するHER2低発現の切除不能または転移を有する乳がん患者を対象として、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)と治験医師選択による化学療法(TPC)を比較した第III相DESTINY-Breast04試験の、脳転移を有する患者に絞った探索的研究において、T-DXd群ではTPC群を上回る良好な頭蓋内奏効が得られたことを、昭和大学の鶴谷 純司氏が第32回日本乳癌学会学術総会のアンコール企画で発表した。 脳転移は、HER2低発現の転移・再発乳がん患者の約15%に生じる可能性があり、予後不良であることが報告されている。これまでのDESTINY-Breast04試験のサブグループ解析では、脳転移を有する症例であっても、T-DXd群は全体集団と同様に有意に無増悪生存期間(PFS)が延長したことが報告されているが、頭蓋内転移に対する有効性は不明であった。そこで研究グループは、DESTINY-Breast04試験のうち、ベースライン時に無症候性脳転移を認めた症例におけるT-DXdおよびTPCの頭蓋内病変に対する有効性を、脳MRIまたはCTの盲検下独立中央判定(BICR)に基づき評価した(データカットオフ:2022年1月11日)。 評価項目は、BICR判定による頭蓋内確定奏効率(cORR)(完全奏効[CR]+部分奏効[PR])、頭蓋内最良総合効果、頭蓋内臨床的有用率(CBR)(CR+PR+安定[SD])、病勢コントロール率(DCR)(CR+PR+SD)、BICR判定による中枢神経系PFS(CNS-PFS)、全生存期間(OS)であった。 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時に無症候性脳転移を認めたのは35例で、T-DXd群が24例(うち未治療が8例)、TPC群が11例(同7例)であった。T-DXd群では、年齢中央値が高く、CDK4/6阻害薬の治療歴がない割合が高く、脳転移に対する治療として放射線療法(±外科治療)を受けていた割合が高かった。・頭蓋内cORRは、T-DXd群25.0%、TPC群0%であった。T-DXd群では、16.7%でCRが得られた。・T-DXd群およびTPC群の頭蓋内CBRは58.3%/18.2%、頭蓋内DCRは75.0%/63.6%であった。・頭蓋内最良総合効果のSwimmer Plotでは、奏効している患者はT-DXd群のほうが長い傾向を示した。・T-DXd群におけるCNS-PFS中央値は9.7ヵ月、OS中央値は16.7ヵ月であった。・最初の増悪部位別では、頭蓋内で進行(PD)と判定されたのはT-DXd群8.3%、TPC群27.3%であった。 鶴谷氏は「本探索的研究は部分集団解析であり、前治療歴などは両群で差があったことを加味する必要がある」としたうえで、「組み入れられた患者はごく少数であったが、頭蓋内の有効性データから、TPCを上回るT-DXdの有益性が示された」とまとめた。

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デュルバルマブ+化学療法±オラパリブの日本人子宮体がんに対する成績(DUO-E)/日本婦人科腫瘍学会

 進行子宮体がんに対してデュルバルマブを含む治療と標準化学療法を比較する第III相試験DUO-Eの日本人サブセット解析が、第66回日本婦人科腫瘍学会学術大会で久留米大学の西尾 真氏により発表された。 DUO-E試験では、進行再発子宮体がん1次治療のITT集団において、化学療法・デュルバルマブ併用+デュルバルマブ維持療法群および、同併用+デュルバルマブ・オラパリブ維持療法群共に、化学療法と比べ無増悪生存期間(PFS)の有意な改善が報告されている。対化学療法群におけるハザード比(HR)はそれぞれ0.71(95%信頼区間[CI]:0.57〜0.89、p=0.003)、0.55(95%CI:0.43〜0.69、p<0.0001)であった。・対象:未治療の進行StageIII/IV(FIGO2009)または再発子宮体がん・試験群1: 化学療法(カルボプラチン+パクリタキセル)+デュルバルマブ→デュルバルマブ(TC+D群)・試験群2:TC+デュルバルマブ→デュルバルマブ+オラパリブ(TC+D+O群)・対照群:TC→プラセボ(TC群)・評価項目:[主要評価項目]治験責任医判定によるPFS(TC+D群vs.TC群、TC+D+O群vs.TC群)[副次評価項目]全生存期間、安全性など 主な結果は以下のとおり。・日本人サブセットは88例(TC群32例、TC+D群30例、TC+D+O群26例)であった。・日本人サブセットはITT集団に比べPS良好例、初発例、StageIV例が多く、放射線治療歴が少なかった。・日本人患者のPFS中央値はTC群9.5ヵ月、TC+D群9.9ヵ月(対TC群HR:0.61、95%CI:0.32〜1.12)、TC+D+O群15.1ヵ月(対TC群HR:0.44、95%CI:0.22〜0.85)で、ITT集団と一貫した傾向であった。・安全性プロファイルはITT集団と一貫していた。・Grade3以上の有害事象発現はTC群の19.0%、TC+D群の10.0%、TC+D+O群の45.0%であった。 DUO-E試験の結果から、日本人の子宮体がんにおいて、化学療法+デュルバルマブおよびその後のデュルバルマブ±オラパリブが新たな治療選択肢となり得る、と西尾氏は述べた。

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monarchEとPOTENTの適格性の有無と予後の関連/日本乳癌学会

 再発高リスクのホルモン受容体(HR)陽性HER2陰性乳がんに対する術後補助療法として、アベマシクリブおよびS-1がそれぞれmonarchE試験およびPOTENT試験の結果を基に保険適用となっている。しかしその投与対象は一部が重複しており、またPOTENT試験の適格基準はStage I~IIIBと幅広い。名古屋市立大学の磯谷 彩夏氏らはmonarchE試験およびPOTENT試験の適格/不適格症例ごとの予後を検討することを目的に、単施設の後ろ向き解析を実施。結果を第32回日本乳癌学会学術総会で発表した。 本研究では、1981〜2023年に名古屋市立大学病院で根治的手術を実施したStage I~IIICのHR陽性HER2陰性乳がん2,197例の診療録を後ろ向きに解析した。主要評価項目は無病生存期間(DFS)であった。S-1、CDK4/6阻害薬、PARP阻害薬のいずれかの投与歴のある患者98例が除外され、本研究に適格とされた患者2,099例のうち、両試験適格群は275例、monarchE試験(コホート1)のみ適格群は64例、POTENT試験のみ適格群は810例、両試験不適格群は950例であった。 主な結果は以下のとおり。・患者背景は、年齢(平均56.7歳)、性別(99.6%が女性)、閉経状況(49.6%が閉経後)に各群で大きなばらつきはなかった。化学療法歴はmonarchEのみ適格群(82.8%)および両試験適格群(74.5%)で高く、再発についてもmonarchEのみ適格群(65.6%)で高い傾向がみられた。・観察期間中央値28.5年における全体集団の5年DFSは88.79%、10年DFSは78.71%であった。・各群の5年DFSは、monarchEのみ適格群59.8%、両試験適格群75.0%、POTENT試験のみ適格群89.8%、両試験不適格群94.8%であり、monarchE適格患者は有意に予後不良であった(log-rank検定のp<0.0001)。・POTENTのみ適格の患者の予後は、POTENT不適格の患者と比較するとリンパ節転移の有無によらず不良であり、とくにリンパ節転移陽性の場合は晩期再発も多くみられ、S-1の上乗せはより妥当と考えられた。・POTENTのみ適格でリンパ節転移陰性の患者における予後因子を単変量解析で検討した結果、Gradeが高いほどまた腫瘍径が大きいほど予後不良であることが明らかになった。・POTENTのみ適格でリンパ節転移陰性の患者において、Gradeと腫瘍径別に予後を検討した結果、Grade2では腫瘍径2cm以上3cm未満と比較して3cm以上では有意に予後不良(p=0.001)であった一方、2cm未満と比較して2cm以上3cm未満では有意な差はみられなかった(p=0.51)。またGrade3では腫瘍径2cm未満で比較的予後良好な傾向がみられた。・そこで、POTENTのみ適格でリンパ節転移陰性の患者において、Grade2かつ腫瘍径2cm以上3cm未満およびGrade3かつ腫瘍径2cm未満の患者(予後検討群)を、その他のPOTENT適格患者と比較した結果、予後検討群で有意に予後良好であった(p=0.007)。 磯谷氏は、後ろ向き研究であること、1980年代の症例が含まれていることなどの本研究の限界を挙げたうえで、monarchE適格患者にはアベマシクリブの投与が妥当であり、POTENT試験の適格患者のうち、Grade2かつ2cm以上3cm未満およびGrade3かつ2cm未満の患者は比較的予後が良好であり、S-1の上乗せ効果は限定的である可能性が示唆されたとまとめた。一方で、予後良好患者においてもS-1の上乗せ効果を否定できないため、今後はS-1投与患者における予後調査が必要としている。

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HER2+乳がんに対する周術期至適治療を検討/日本乳癌学会

 HER2+乳がんの周術期治療選択において、Stage Iやリンパ節転移陰性のStage II(T2N0)でのレジメン選択や術前化学療法の適応は施設間で考え方に違いがある。今回、船橋市立医療センターの松崎 弘志氏らは、これらのStageに対する至適な治療法を明らかにするため、手術を実施したHER2+乳がんについて後ろ向きに評価し、第32回日本乳癌学会学術総会で発表した。 本研究は、1994年4月~2021年11月に手術を実施したHER2+乳がん350例を対象とし、Stage別の治療法と無再発生存率(RFS)の関係、Stage Iにおける腫瘍径およびトラスツズマブ追加の有無とRFS 、Stage IIAにおけるT2N0とT1N1の相違、T2N0例におけるペルツズマブ追加とRFSについて、後ろ向きに検討した。 主な結果は以下のとおり。■Stage別の治療法と5年RFSの関係・全Stage(350例)において、トラスツズマブありが84.5%、なしが63.6%とトラスツズマブで有意な予後改善を認めた。・Stage I(113例)では、無治療が78.6%と低く、トラスツズマブのみは90%、化学療法のみは90.9%と高く、化学療法+トラスツズマブでは再発例はなかった。・Stage II(172例)では、化学療法のみでは62.6%と不良であったが、トラスツズマブのみで79.4%、化学療法+トラスツズマブで89.1%であった。・Stage III(65例)では、化学療法+トラスツズマブでも55.6%と予後不良だった。■Stage Iにおける腫瘍径およびトラスツズマブ追加の有無とRFS・腫瘍径別では、T1c(63例) が95.2%と最も高く、T1b(19例) 94.7%、T1mi (17例)92.3%で、T1a は14例と少ないものの局所も含めた再発が4例あり、77.1%と低かった。・Stage I全体でトラスツズマブ投与の有無別では、トラスツズマブなしが85.0%に対し、ありが98.6%と有意な改善がみられ、化学療法の有無にかかわらず投与症例での再発は1例のみだった。■Stage IIAにおけるT2N0とT1N1の相違、T2N0例におけるペルツズマブ追加とRFS・T2N0(96例)が87.2%、T1N1(21例)が68.2%と、T1N1で予後不良な傾向がみられた。・T2N0で化学療法+トラスツズマブを投与した症例において、ペルツズマブありが88.9%、なしが93.5%と明らかな差はみられなかったが、ペルツズマブ投与群では再発がなかった(検討症例の時期から、ペルツズマブ投与は12例にとどまっており、観察期間も短かった)。 松崎氏は、「T1ではトラスツズマブを投与した73例中、再発は1例のみであり、予後改善のための術前化学療法の意義は少ない。一方、トラスツズマブなしではT1a以下の腫瘍径でも再発を認め、投与すべき」と述べ、「T1bおよびT1cは、化学療法+トラスツズマブの適応だが、ペルツズマブ追加の必要性には乏しく、APT試験の結果を合わせ、アントラサイクリン省略も考慮される」と考察した。一方、「Stage IIAでは化学療法+トラスツズマブ投与でも一定数の再発を認め、ペルツズマブが必須、さらには術前化学療法(レスポンスガイド)による予後向上を目指すべきで、T2N0においてもこれらは同様と考える」と述べた。

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コロナ変異株KP.3のウイルス学的特徴、他株との比較/感染症学会・化学療法学会

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第11波が到来したか――。厚生労働省が7月19日時点に発表した「新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移」によると、都道府県別では、沖縄、九州、四国を中心に、定点当たりの報告数が第10波のピークを上回る地域が続出している1)。全国の定点当たりの報告数は11.18となり、昨年同期(第9波)の11.04を超えた2)。また、東京都が同日に発表したゲノム解析による変異株サーベイランスによると、7月18日時点では、全体の87%をKP.3(JN.1系統)が占めている3)。KP.2やJN.1を合わせると、JN.1系統が98.7%となっている。 東京大学医科学研究所システムウイルス学分野の佐藤 佳氏が主宰する研究コンソーシアム「G2P-Japan(The Genotype to Phenotype Japan)」は、感染拡大中のKP.3、および近縁のLB.1と KP.2.3の流行動態や免疫抵抗性等のウイルス学的特性について調査した。その結果、これらの親系統のJN.1と比べ、自然感染やワクチン接種により誘導された中和抗体に対して高い逃避能や、高い伝播力(実効再生産数)を有することが判明した4)。6月27~29日に開催の第98回日本感染症学会学術講演会 第72回日本化学療法学会総会 合同学会にて結果を発表した。本結果はThe Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2024年6月27日号に掲載された。 本研究ではJN.1より派生したKP.3、LB.1、KP.2.3の流行拡大のリスク、およびウイルス学的特性を明らかにするため、ウイルスゲノム疫学調査情報を基に、ヒト集団内における各変異株の実効再生産数を推定し、次に、培養細胞におけるウイルスの感染性を評価した。また、SARS-CoV-2感染によって誘導される中和抗体や、XBB.1.5対応ワクチンによって誘導される中和抗体に対しての抵抗性も検証した。 主な結果は以下のとおり。・2024年5月時点のカナダ、英国、米国のウイルスゲノム疫学調査情報を基にした調査において、KP.3の実効再生産数は、親系統のJN.1よりも1.2倍高いことが認められた。さらに、LB.1、KP.2.3は、KP.2とKP.3よりも高かった。・培養細胞におけるウイルスの感染性について、KP.2とKP.3はJN.1よりも低い感染性を示した。一方、LB.1とKP.2.3は、JN.1と同等の感染性を示した。・これまでの流行株(XBB.1.5、EG.5.1、HK.3、JN.1)の既感染もしくはブレークスルー感染血清を用いた中和アッセイでは、LB.1とKP.2.3に対する50%中和力価(NT50)は、JN.1に対するものよりも有意に(LB.1:2.2~3.3倍、KP.2.3:2.0~2.9倍)低かった。さらに、KP.2に対するものよりも(LB.1:1.6~1.9倍、KP.2.3:1.4~1.7倍)低かった。・KP.3はすべての回復期血清サンプルに対してJN.1よりも高い中和抵抗性(1.6~2.2倍)を示したが、KP.3とKP.2の間に有意差は認められなかった。・コロナ未感染のXBB.1.5対応ワクチン血清サンプルは、JN.1系統(JN.1、KP.2、KP.3、LB.1、KP.2.3)に対するNT50は非常に低かった。・XBB自然感染後のXBB.1.5対応ワクチン血清サンプルにおいて、KP.3、LB.1、KP.2.3に対するNT50は、JN.1に対するものよりも有意に(2.1~2.8倍)低く、さらにKP.2に対するものよりも(1.4~2.0倍)低かった。 本研究の結果、JN.1から派生したKP.2、KP.3、LB.1、KP.2.3は、JN.1と比較して免疫逃避能と実効再生産数が増加し、その中でも、LB.1とKP.2.3は、KP.2やKP.3よりも高い感染性とより強力な免疫逃避能を保持することが明らかとなった。G2P-Japanについて 佐藤氏が主宰する研究コンソーシアム「G2P-Japan」では、所属機関を超えて研究者が共同で研究を行っている。2021年より、新たな懸念すべき変異株出現の超早期にウイルス学的性状について検証し、その成果は主要な医科学誌に断続的に掲載され、世界的に注目されている。佐藤氏は、次のパンデミックに備えるためにも、「G2P-Japan」としての研究活動を継続し、若手研究者の育成や啓蒙することの重要性を訴えた。ウイルス研究に関して、従来のin vivoやin vitroでの解析に加え、疫学や全世界的な流行動態の推定といったマクロの視点から、迅速に変異の影響を理解するためのタンパク質構造解析といったミクロの視点まで、多角的かつ統合的に理解することが必要であるとし、佐藤氏が創設した「システムウイルス学」という新たな研究分野によって解決していきたいと語った。第2回新型コロナウイルス研究集会を開催 新型コロナに関する最新の知見を共有するため、佐藤氏が大会長を務める「第2回新型コロナウイルス研究集会」が8月2~4日に東京・品川にて開催される5)。2023年に開催された第1回はウイルス学に関する基礎研究にフォーカスしたものだったが、第2回研究集会では、疫学、臨床医学、免疫学、ウイルス学と領域を拡大し、各分野で活躍する研究者が登壇する。 開催概要は以下のとおり。第2回新型コロナウイルス研究集会開催日時:2024年8月2日(金)〜4日(日)会場:東京コンファレンスセンター品川[現地開催]2024年8月2日(金)〜4日(日)[オンデマンド]2024年9月2日(月)正午〜9月30日(月)正午 ※予定[参加登録締切]2024年9月30日(月)大会長:佐藤 佳参加登録など詳細は公式ウェブサイトまで。

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乳がん領域におけるがん遺伝子パネル検査後の治療到達割合(C-CATデータ)/日本乳癌学会

 2019年のがん遺伝子パネル検査の保険適用から5年が経過したが、治療到達割合の低さ、二次的所見の提供のあり方、人材育成や体制整備、高額な検査費用などの課題が指摘されている。京都府立医科大学の森田 翠氏らは、とくに臨床医として現場で感じる課題として「治療到達割合の低さ」に着目。がんゲノム情報管理センター(C-CAT)に登録されたデータを用いて日本人乳がん患者における遺伝子変異の頻度、エビデンスレベルの高い実施可能な治療への到達割合などを解析し、結果を第32回日本乳癌学会学術総会で発表した。 本研究では、2019年6月~2023年12月のC-CATデータ“Breast”3,900例から葉状腫瘍、血管肉腫などを除いた“Breast Cancer”3,776例を対象とした。臨床医が求める薬剤到達割合の基準を、・既存のコンパニオン診断では治療に結び付いていないこと・がん遺伝子パネル検査で初めて治療に結び付くもの・日本のPMDA承認薬であることと定義し、さらに基準1(乳がんを対象とした第III相試験が施行されているという従来の基準)と基準2(臓器横断的承認で、第I/II相試験も可とする新しい基準)を設定した。 主な結果は以下のとおり。・患者背景は、年齢中央値56歳、40~50代が54.8%を占め、すでにコンパニオン診断によりgBRCA1陽性と診断されていた症例が2.5%、gBRCA2陽性が4.3%であった。パネル検査はFoundationOne CDxが72.3%、FoundationOne Liquid CDxが16.7%、OncoGuide NCCオンコパネルシステムが10.6%で使用されていた。・検出された遺伝子変異はTP53が58.1%と最も多く、PIK3CAが36.0%、MYCが18.7%、CCNDIが15.0%、GATA3が13.8%と続いた。・検出頻度上位100の遺伝子変異について2024年の最新状況に基づき薬剤到達割合をシミュレーションした結果、PIK3CAの変異(検出頻度:36.0%)は基準1、2ともに19.0%(推奨される薬剤:カピバセルチブ+フルベストラント)、ERBB2の増幅(13.7%)はHER2陰性乳がんにおいて基準1、2ともに3.4%(抗HER2薬)、PTENの変異と欠失(13.4%)は基準1、2ともに5.0%(カピバセルチブ+フルベストラント)、AKT1の変異(7.9%)は基準1、2ともに3.4%(カピバセルチブ+フルベストラント)、NTRK1の遺伝子融合(2.6%)は基準2のみで0.05%(エヌトレクチニブ、ラロトレクチニブ)、BRAFV600E(1.4%)は基準2のみで0.21%(ダブラフェニブ+トラメチニブ、ダブラフェニブ、トラメチニブ)であった。・全体として、基準1を満たしたのは28.4%で、うち3.4%はHER2陰性乳がんにおけるERBB2増幅に対する抗HER2薬の適応、25.0%はAKT経路(PIK3CA/AKT1/PTEN)の遺伝子異常に対するカピバセルチブの適応であった。基準2を満たしたのは37.9%で、基準1からの増加分のうち9.2%はTMB-H、MSI-Hに対するペムブロリズマブの適応、0.3%はBRAF V600E、NTRK fusionsに対する各薬剤の適応であった。・PMDA非承認薬については、企業あるいは医師主導の治験に結び付いた症例は、C-CATデータから検出しうる範囲内で、全体で25例(0.7%)であった。・AKT経路の遺伝子変異を有する症例は全体で944例(25%)、ER陽性HER2陰性乳がんでは最大で50.9%を占めた。3遺伝子の包含関係については、重複する症例もあるが、PIK3CAが719例、AKT1が129例、PTENが190例であった。 森田氏は、HER2陰性乳がんにおけるERBB2増幅について、術前化学療法後にHER2が陽転化した割合が同じく3.4%であった過去の報告1)に触れ、偽陰性であった可能性を指摘。またAKT経路の遺伝子異常に対するカピバセルチブの適応については、FoundationOneをCDxで使用する際に現状では臨床現場で課題があること、働き方改革の観点からは、CGP検査の前倒しよりも3因子に限った小パネル検査を開発することを提案。TMB-H、MSI-Hに対するペムブロリズマブ、BRAF V600E、NTRK fusionsに対する各薬剤の適応については臓器横断的承認であり、承認の根拠となった臨床試験に乳がん症例が含まれておらず、臨床医が自信を持ってこれらの薬剤を使えるかというと疑問が残ると考察した。したがって、現状ではCGP検査による薬剤到達割合は、臨床医の実感どおり非常に低いことが本研究により示された。乳がん診療におけるがんゲノム医療の現状は、現場の負担と患者の期待が大きいことに比して薬剤への到達割合に課題が山積しているとし、今後は臨床医を対象に定期的に広くアンケート調査を実施することなどで、現場の状況を反映していくことも必要ではないかとして講演を締めくくった。

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局所進行食道がんに対する術前補助療法として3剤併用化学療法が標準治療となるか?(解説:上村直実氏)

 日本の臨床現場における食道扁平上皮がんは、発見される時期により予後が大きく異なる疾患である。内視鏡検査によりStage0やIの早期段階で発見されると、外科的手術や化学放射線治療ではなく侵襲の少ない内視鏡的切除により完治する可能性が高い疾患であるが、一方、StageII以上の進行がんになると、化学療法や放射線療法および外科的手術を含む集学的治療を行っても予後が悪い疾患となる。したがって、進行がんの予後に関しては外科的手術に先立つ術前治療の有効性が重要となっている。 今回、術前治療としてわが国の標準治療である2剤併用化学療法(A群、CF療法:フルオロウラシル+シスプラチン)と欧米における標準治療である2剤併用化学療法+放射線療法(B群、CF+RT療法)およびC群として3剤併用化学療法(DCF療法:フルオロウラシル+シスプラチン+ドセタキセル)を加えた3群の有用性と安全性を比較検証するオープンラベルの多施設共同臨床試験(RCT)が施行された結果、C群の3年生存率がA群やB群と比較して統計学的に有意に延長することが2024年6月のLancet誌に掲載された。なお、3年後に生存している患者の割合は、A群が62.6%、B群が68.3%に対して、C群が72.1%であった。 本研究の対象患者はStageIII、すなわち、がんが食道外に進展してリンパ節に転移を認める場合や周囲臓器に進展しているが転移を認めない症例であり、最近の疫学調査によると現在の5年生存率35%程度の改善が期待できる。この結果、進行食道扁平上皮がんに対する術前補助治療に関するガイドラインにおいて、標準治療とされている2剤併用化学療法+放射線治療に代わって3剤併用療法が新たな標準治療となるものと思われる。 今回の臨床研究は国立がん研究センター(NCC)のJCOGが主導して行われたものであるが、世界の食道がん診療ガイドラインに影響を与える大きなインパクトを有するものであり、がん治療に関して免疫チェックポイント阻害薬(ICI)療法や臓器温存療法の分野においても、わが国からのさらなるエビデンスの創出が期待できる。 さいごに、本研究をはじめとしてがんに対する臨床試験の対象症例は20歳から75歳の患者に限定されているが、高齢化が著しい実臨床からみると75歳以上の高齢者を含めた検討が必要と思われる。

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オミクロン対応2価コロナワクチン、半年後の予防効果は?/感染症学会・化学療法学会

 第98回日本感染症学会学術講演会 第72回日本化学療法学会総会 合同学会が、6月27~29日に神戸国際会議場および神戸国際展示場にて開催された。本学会では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する最新知見も多数報告された。長崎大学熱帯医学研究所の前田 遥氏らの研究チームは、2021年7月から国内での新型コロナワクチンの有効性を長期的に評価することを目的としてVERSUS研究1)を開始しており、これまで断続的にその成果を報告している。今回は、2023年4月1日~11月30日の期間(XBB系統/EG.5.1流行期)における、オミクロン株BA.1およびBA.4-5対応2価ワクチンの有効性についての結果を発表した。本結果によると、2価ワクチンの入院予防効果について、接種から半年後でも高い有効性が持続することなどが明らかとなった。 本研究では、コロナワクチンの発症予防の有効性および入院予防の有効性を評価している。発症予防については、全国9都県15施設でCOVID-19を疑う症状で医療機関を受診した16歳以上を対象とした。入院予防については、全国10都府県12施設で呼吸器感染症を疑う症状が2つ以上ある、または新たに出現した肺炎像を認め、医療機関に入院した60歳以上を対象に調査を行った。検査陰性デザイン(test-negative design:TND)を用いた症例対照研究で、ワクチン未接種と比較した2価ワクチン接種の有効性(回数によらない)を推定している。ワクチン接種歴不明、ワクチンの種類不明の場合(起源株対応の従来型のワクチンか2価ワクチンか不明の場合)は解析から除外した。 主な結果は以下のとおり。【発症予防の有効性】・全体で7,494例が解析対象となった。年齢中央値44歳(四分位範囲[IQR]:28~63)、男性45.2%、基礎疾患のある人27.5%。・コロナワクチンの接種歴は、ワクチン接種なし13.1%、起源株対応の従来型ワクチンのみ接種41.6%、オミクロン株BA.1/BA.4-5対応2価ワクチン接種45.2%であった。・16~64歳での2価ワクチンの発症予防の有効性は、ワクチン接種なしと比較して、接種から7~90日では22.9%(95%信頼区間[CI]:-4.8~43.2)、91~180日では32.3%(7.7~50.4)、181日以上では2.9%(-21.5~22.5)となり、接種から半年間の有効性の低下が顕著であった。・65歳以上での2価ワクチンの発症予防の有効性は、ワクチン接種なしと比較して、接種から7~90日では40.8%(95%CI:6.1~62.7)、91~180日では52.2%(21.7~70.8)、181日以上では40.8%(3.8~63.5)であった。【入院予防の有効性】・60歳以上の1,170例が解析対象となった。年齢中央値83歳(IQR:75~89)、男性57.1%、高齢者施設入居者29.7%、基礎疾患のある人76.5%。・コロナワクチンの接種歴は、ワクチン接種なし16.3%、起源株対応の従来型ワクチンのみ接種22.9%、オミクロン株対応2価ワクチン接種60.8%であった。・2価ワクチンの入院予防の有効性は、ワクチン接種なしと比較して、接種から7~90日では59.6%(95%CI:31.2~76.2)、91~180日では69.4%(45.6~82.8)、181日以上では55.3%(19.1~75.3)であった。入院時呼吸不全あり、CURB-65で判断した重症度で入院時の重症度が中等症以上、入院時肺炎ありといったより重症の場合でも、ワクチンの有効性は全入院予防の有効性と比較して同等かそれ以上であった。 本研究により、オミクロン対応2価コロナワクチンの有効性について、発症予防はとくに若年者において低い値であったが、サンプルサイズは限られるものの、入院予防は接種から半年後も高い有効性が保たれていることが認められた。前田氏は、「ただし、より長期的に評価すると、接種から時間が経つにつれ効果は下がってくる可能性があるため、追加接種の必要性を考えるためにも継続して評価が必要である」と見解を示し、「新型コロナワクチン政策や流行株は各国で異なるため、国内におけるワクチンの有効性を評価することは、国内のワクチン政策を考慮する際にとくに重要であり、現在使用されているXBB.1.5対応ワクチンなどについても、今後も継続して評価をしていく」と語った。

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運動が化学療法による末梢神経障害の回避に有効か

 化学療法を受ける患者の多くが発症する化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)の回避に運動が有効である可能性が、新たな研究で示唆された。この研究では、運動をしなかった患者でCIPNを発症した者は、運動をした患者の約2倍に上ることが示されたという。バーゼル大学(スイス)のFiona Streckmann氏らによるこの研究結果は、「JAMA Internal Medicine」に7月1日掲載された。 研究グループによると、化学療法を受ける患者の70〜90%は、痛みやバランス感覚の問題、しびれ、熱感、ピリピリ感やチクチク感などのCIPNの症状を訴え、半数の患者は、がんの治療後もこのような症状が持続するという。 今回の研究では、オキサリプラチン、またはビンカアルカロイド系抗悪性腫瘍薬による化学療法を受ける158人のがん患者(平均年齢49.1歳、男性58.9%)を対象にランダム化比較試験を実施し、感覚運動トレーニング(sensorimotor training;SMT)と全身振動刺激(whole-body vibration;WBV)トレーニングがCIPNの発症や症状の低減に有効であるかどうかが検討された。対象者は、SMTを受ける群(55人)、WBVトレーニングを受ける群(53人)、および、運動は行わずに通常のケアのみを受ける群(対照群、50人)にランダムに割り付けられた。介入群(SMT群とWBV群)は、1回当たり15〜30分間のトレーニングセッションを週に2回、化学療法が終了するまで受けた。 ITT解析の結果、CIPNの発症率は、対照群で70.6%であったのに対し、SMT群では30.0%、WBVトレーニング群では41.2%であり、対照群に比べて介入群では有意に低いことが明らかになった。この結果は、介入に75%を超えて参加した者のみを対象にしたPPS解析ではさらに顕著であった(対照群73.3%、SMT群28.6%、WBVトレーニング群37.5%)。また、2種類の介入のうち、より効果が高かったのはSMTで、SMT群では対照群よりも、開眼/閉眼で両足立ちでのバランスコントロール、片足立ち、振動感覚、触覚、下肢の筋力の改善、および痛みと熱感の軽減の程度が大きく、化学療法の投与量削減を受けた患者が少なく、死亡率も低かった。 Streckmann氏は、「CIPNは、患者に必要な化学療法サイクルの計画通りの実施不可や、化学療法に含まれる神経毒性薬剤の投与量の削減、治療の中止など、臨床治療に直接的な影響を与える」と話す。同氏によると、現時点でCIPNの予防や回復に有効な薬剤は見つかっていない。それにもかかわらず、米国の医師は毎年、CIPNの治療に患者1人当たり推定1万7,000ドル(1ドル160円換算で272万円)を費やしているという。同氏は、「これに対し、運動は効果的である上に安価だ」と述べる。 Streckmann氏らは、支持療法としてがん治療に運動を取り入れるためのガイドラインを病院向けに作成中であるとしている。また、ドイツとスイスの6つの小児病院で、化学療法を受けている小児の末梢神経障害に対する運動の予防効果を確かめる研究が進行中であるという。

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名古屋大学医学部 化学療法学(附属病院化学療法部)【大学医局紹介~がん診療編】

安藤 雄一 氏(教授)満間 綾子 氏(病院講師)近藤 千晶 氏(病院助教)宮井 雄基 氏(医員)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴化学療法部では、腫瘍内科の診療とともに、外来化学療法室の運用、がんゲノム医療外来、診療科横断的なカンファレンスやコンサルテーション対応、化学療法レジメンの整備、緩和ケアチームの活動、がん診療連携拠点病院の事業、そしてがん薬物療法の実践的な教育などに取り組んでいます。いずれも日頃からの各診療科や部門との連携によって、初めて実践できるものです。専用病床では、新規抗がん薬の治験や稀ながんや重篤な合併症をもつ患者さんの診療を行っています。名大病院は「臨床研究中核病院」、「がんゲノム医療中核拠点病院」に選定されており、それらの関連事業においても化学療法部は重要な役割を果たしています。昨年度から開始されている文部科学省「次世代のがんプロフェッショナル養成プラン(がんプロ)」では、がん医療を担う大学院生や専門医療人材の養成に取り組んでいます。毎朝行われる多職種カンファレンス同医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力外来化学療法室では、小児から高齢者まで外来で抗がん薬の点滴投与を受けるすべての患者さんに対応しています。殺細胞性抗がん薬はもちろん、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬など臓器横断的に使用されるレジメンが増える中で、多彩な副作用をうまくコントロールすることが求められています。担当医だけでなく、今までがん医療と関連が少なかった分野の専門医や多職種との連携、地域との連携など院内外でのチーム医療が重要です。腫瘍内科学のオンザジョブトレーニングを通して科学的で適切ながん薬物療法を実践できる環境です。外来化学療法室での処置医局の雰囲気、魅力医局では大学院生から医員、教員まで、多様なバックグラウンドをお互いに尊重しながらそれぞれの特色を活かした診療や学術活動を行っています。今後のキャリアパスを考える上で、ロールモデルを見つけることもできますし、迷いが生じた時にはさまざまな経験に基づいたアドバイスを得ることが可能です。これまでの経歴大学卒業後、市中病院で初期研修を行いました。研修終了後の進路として腫瘍に加え、アレルギー、感染など多様な分野が含まれるという理由で呼吸器内科を選択しました。各分野の疾患の診療を通じて難治である進行肺がんの化学療法、中でも分子標的薬に興味を持ち、がん薬物療法専門医を取得するとともに、大学院で学びました。このような経歴もあって、現在はがん種横断的にがんゲノム医療に関わり、化学療法部での仕事・診療とともに名大病院のがん遺伝子パネル検査とエキスパートパネルの運営を行っています。今後のキャリアプランがんの性質を知り、がん患者さんの化学薬物療法の選択肢を広げるためのがんゲノム医療は、2019年の保険診療開始から常に状況が変化しています。がんゲノム医療を多くの患者さんに届け、また名大病院内や地域のがんゲノム医療の普及のための活動、研究を続けたいと考えています。これまでの経歴初期研修を終えたのち、大学院入学とともに入局しました。基礎と臨床の両方を学ぶため、横断的ながん薬物療法の臨床経験を積みながらがん薬物療法専門医を取得する一方で、腫瘍病理学でがんの間質に多く存在するがん関連線維芽細胞に注目し、これらが免疫治療の効果にどう影響するかについての基礎研究にも励んでいます。現在学んでいること治療法の最新動向の把握や有害事象への対応法だけでなく、腫瘍学以外の分野も含めて幅広い知識を日頃から学んでいます。最近は、定量的解析手法の習得に注力しています。具体的には、大規模オミクスデータを解析する手法や高度な統計手法を学び、実際に臨床データや実験データの高精度な解析に応用しています。今後のキャリアプラン海外留学など異なる文化圏での仕事や、他分野の研究者と接することで、視野を広げたいと考えています。この過程で目標が変わる可能性もありますが、現時点では、まだ治療法が少ない、あるいは治療薬開発への機運が乏しい、稀な悪性腫瘍の治療実績の改善に貢献できる医師・医学研究者となることを目指しています。名古屋大学医学部 化学療法学(附属病院化学療法部)住所〒466-8560 愛知県名古屋市昭和区鶴舞町65問い合わせ先chemo-sec@med.nagoya-u.ac.jp医局ホームページ名古屋大学医学部附属病院化学療法部専門医取得実績のある学会日本臨床腫瘍学会日本緩和医療学会日本人類遺伝学会日本内科学会 など研修プログラムの特徴(1)臓器横断的な臨床腫瘍学のトレーニングが可能(2)がん薬物療法学、緩和ケア、ゲノム医療、トランスレーショナルリサーチなど多様な領域の研修・研究が可能名古屋大学医学部附属病院化学療法部【動画】

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食道がんの術前化学療法前のZn濃度、早期再発に影響

 国立がん研究センター中央病院の久保 祐人氏らは、術前化学療法を受ける食道がん患者において、術前の血清亜鉛(Zn)低値が食道がんの早期再発に悪影響を及ぼすことを明らかにし、術前にZnが欠乏している食道がん患者にはZn補給を行う必要があることを示唆した。Annals of Gastroenterological Surgery誌2024年7月号掲載の報告。 本研究では、2017年8月~2021年2月に術前化学療法後に完全切除(R0切除)が施行された食道がん患者185例を対象に、術前の血清Zn値と臨床転帰の関係を遡及調査した。 主な結果は以下のとおり・対象患者は術前の血清Zn濃度の平均に基づき、低Zn群(64μg/dL未満)と高Zn群(64μg/dL以上)に分けられた。・低Zn群では全生存期間(OS)が有意に短く、低Zn群と高Zn群の2年OS率は76.2% vs.83.3%(p=0.044)だった。・ノンレスポンダー(Grade1a以下)の低Znは、無再発生存期間(RFS)の短縮と有意に関連し、低Zn群と高Zn群の術後2年RFS率は39.6% vs.64.1%(p=0.032)であった。・多変量解析の結果、術前栄養指標のうちBMIと血清Zn濃度の低さが、ノンレスポンダーのRFS悪化の独立した危険因子であることが明らかになった。・レスポンダーと比較し、ノンレスポンダーには男性とパフォーマンスステータス1以上が有意に多く、レスポンダーでは血清Zn濃度に差はなかった。 研究者らは「術前血清Zn濃度は食道がん手術後の早期再発の予測マーカーとして役立つ可能性がある」としている。

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tisotumab vedotin、再発子宮頸がんの2次・3次治療に有効/NEJM

 再発子宮頸がんの2次または3次治療において、化学療法と比較してtisotumab vedotin(組織因子を標的とするモノクローナル抗体と微小管阻害薬モノメチルアウリスタチンEの抗体薬物複合体)は、全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)が有意に延長し、新たな安全性シグナルの発現はないことが、ベルギー・Universitaire Ziekenhuizen LeuvenのIgnace Vergote氏らが実施した「innovaTV 301/ENGOT-cx12/GOG-3057試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2024年7月4日号で報告された。27ヵ国168施設の無作為化第III相試験 本研究は、日本を含む27ヵ国168施設が参加した非盲検無作為化第III相試験であり、前治療後に病勢が進行した再発子宮頸がん患者におけるtisotumab vedotinの有効性と安全性の評価を目的に行われた(GenmabとSeagenの助成を受けた)。 再発または転移を有する子宮頸がんと診断され、全身状態の指標であるEastern Cooperative Oncology Group(ECOG)performance-statusのスコアが0または1の患者502例(年齢中央値50歳[範囲:26~80]、前治療ライン数は1が61.4%、2が38.4%)を登録した。 tisotumab vedotin単剤(2.0mg/kg体重、3週ごと)の静脈内投与を受ける群に253例、担当医が選択した化学療法(トポテカン、ビノレルビン、ゲムシタビン、イリノテカン、ペメトレキセドのいずれか)を受ける群に249例を無作為に割り付けた。奏効率も有意に優れる 前治療薬として、全体の63.9%がベバシズマブの投与を、27.5%が抗PD-1または抗PD-L1抗体製剤の投与を受けていた。 主要評価項目であるOS中央値は、化学療法群が9.5ヵ月(95%信頼区間[CI]:7.9~10.7)であったのに対し、tisotumab vedotin群は11.5ヵ月(9.8~14.9)と有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.70、95%CI:0.54~0.89、両側p=0.004)。 12ヵ月時のOS率は、tisotumab vedotin群が48.7%(95%CI:41.0~55.8)、化学療法群は35.3%(28.0~42.7)であった。 PFS中央値は、化学療法群が2.9ヵ月(95%CI:2.6~3.1)であったのに比べ、tisotumab vedotin群は4.2ヵ月(4.0~4.4)と有意に優れた(HR:0.67、95%CI:0.54~0.82、両側p<0.001)。 また、確定された奏効の割合は、化学療法群の5.2%と比較して、tisotumab vedotin群は17.8%と有意に高率だった(オッズ比:4.0、95%CI:2.1~7.6、両側p<0.001)。毒性による投与中止は14.8% 初回投与の1日目から最終投与後30日までに有害事象が1件以上発現した患者の割合は、tisotumab vedotin群が98.4%、化学療法群は99.2%であり、Grade3以上の有害事象は、それぞれ52.0%および62.3%で発現した。tisotumab vedotin群では、14.8%の患者が毒性により投与を中止した。 とくに注目すべき有害事象では、眼イベントがtisotumab vedotin群で52.8%、化学療法群で6.3%に発現し、このうちGrade3以上はそれぞれ4.0%および0%であった。また、末梢神経障害イベントはそれぞれ38.4%および4.2%、Grade3以上は5.6%および0.4%に、出血イベントは42.0%および14.2%、Grade3以上は2.4%および2.9%に発現した。 著者は、「これらのデータを総合すると、tisotumab vedotinは、再発子宮頸がん患者の治療において化学療法よりも優先される2次または3次治療の選択肢となる可能性が示唆される」としている。

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ASCO2024 レポート 乳がん

レポーター紹介2024年5月31日~6月4日まで5日間にわたり、ASCO2024がハイブリッド形式で開催された。昨年も人が戻ってきている感じはあったが、会場の雰囲気はコロナ流行前と変わりなくなっていた。一方、日本からの参加者は若干少なかったように思われる。これは航空運賃の高騰に加えて、円安の影響が大きいと思われる(今回私が行ったときは1ドル160円!! 奮発した150ドルのステーキがなんと24,000円に…。来年は費用面で行けない可能性も出てきました…)。さて、本題に戻ると、今回のASCOのテーマは“The Art and Science of Cancer Care:From Comfort to Cure”であった。乳がんの演題は日本の臨床に大きなインパクトを与えるものが大きく、とくにPlenary sessionの前に1演題のためだけに独立して行われたセッションで発表されたDESTINY-Breast06試験は早朝7:30のセッションにもかかわらず、満席であった。日本からは乳がんのオーラルが2演題あり、日本の実力も垣間見ることとなった。本稿では、日本からの演題も含めて5題を概説する。DESTINY-Breast06試験トラスツズマブ・デルクステカン(T-DXd)は日本で開発が開始され、現在グローバルで最も使われている抗体薬物複合体(ADC)の1つと言っても過言ではない。乳がんではHER2陽性乳がんで開発され、現在はHER2低発現乳がんにおける2次化学療法としてのエビデンスに基づいて適応拡大されている。20年近く乳がんの世界で用いられてきたサブタイプの概念を大きく変えることになった薬剤である。T-DXdのHER2低発現乳がんの1次化学療法としての有効性を検証したのがDESTINY-Breast06(DB-06)試験である。この試験では、ホルモン受容体陽性HER2低発現の乳がんにおいて、T-DXdの主治医選択化学療法に対する無増悪生存期間(PFS)における優越性が検証された。この試験のもう1つの大きな特徴は、HER2超低発現(ultra-low)の乳がんに対する有効性についても探索的に検討したことである。HER2超低発現とは、これまで免疫組織化学染色においてHER2 0と診断されてきた腫瘍のうち、わずかでもHER2染色があるものを指す。本試験では866例(うちHER2低発現713例、超低発現が152例)の患者がT-DXdと主治医選択治療(TPC)に1:1に割り付けられた。主要評価項目はHER2低発現におけるPFSで13.2ヵ月 vs. 8.1ヵ月(ハザード比[HR]:0.62、95%信頼区間[CI]:0.51~0.74、p<0.0001)とT-DXd群の優越性が示された。ITT集団においても同様の傾向であった。HER2超低発現の集団については探索的項目であるが、PFSは13.2ヵ月 vs.8.3ヵ月(HR:0.78、95%CI:0.50~1.21)とHER2低発現の集団と遜色ない結果であった。一方、全生存期間(OS)についてはHER2低発現でHR:0.83、HER2超低発現でHR:0.75であり、いずれも有意差はつかなかった。有害事象は既知のとおりであるが、薬剤性肺障害(ILD)はany gradeで11.3%であった。2次化学療法の試験であるDESTINY-Breast 04試験ではOSの優越性も示されているため、OSの優越性が示されていない状況で毒性の強い薬剤をより早いラインで使うかどうかは議論が必要であろう。また、HER2超低発現の病理評価の標準化についても課題が残される。postMONARCH試験こちらも待望の試験である。日本国内で使えるCDK4/6阻害薬であるアベマシクリブのbeyond PD(progressive disease)を証明した初の試験である。これまでMAINTAIN試験で(phase2ではあるが)、CDK4/6阻害薬の治療後のribociclibの有効性が示されていたが、ribociclibは日本国内では未承認なため、エビデンスを活用することができなかった。postMONARCH試験では、転移乳がん、もしくは術後治療としてホルモン療法(転移乳がんはAI剤)とCDK4/6阻害薬を使用後にPDもしくは再発となった368例の患者を対象に、フルベストラント+アベマシクリブ/プラセボに1:1に割り付けられた。術後CDK4/6阻害薬後の再発が適格となっていたが残念ながら全体で2例のみであり、プラクティスへの参考にはならなかった。前治療のCDK4/6阻害薬はパルボシクリブが60%と最も多く、ついでribociclibで、アベマシクリブは両群とも8%含まれた。主要評価項目は主治医判断のPFSで、6.0ヵ月 vs. 5.3ヵ月(HR:0.73、95%CI :0.57~0.95、p=0.02)とアベマシクリブ群で良好であった。盲検化PFSが副次評価項目に設定されていたが、面白いことに12.9ヵ月 vs.5.6ヵ月(HR:0.55、95%CI:0.39~0.77、p=0.0004)と主治医判断よりも良い結果となった。有害事象はこれまでの臨床試験と変わりはなかった。この試験の結果をもって、自信を持ってホルモン療法の2次治療としてフルベストラント+アベマシクリブを実施できるようになったと言える。JBCRG-06/EMERALD試験さて、日本からの試験も紹介する。研究代表者である神奈川県立がんセンターの山下 年成先生が口演された。本試験はHER2陽性転移乳がんの初回治療として、標準治療であるトラスツズマブ+ペルツズマブ+タキサン(HPT)療法に対して、トラスツズマブ+ペルツズマブ+エリブリン療法が非劣性であることを証明した。446例の患者が登録され、1:1に割り付けられた。ホルモン受容体は60%が陽性であり、PSは80%以上が0であった。初発StageIVが60%を占めていた。主要評価項目のPFSはHPT群12.9ヵ月 vs.エリブリン群14.0ヵ月(HR:0.95、95%CI:0.76~1.19、p=0.6817)で非劣性マージンの1.33を下回り、エリブリン群の非劣性が示された。化学療法併用期間の中央値はエリブリン群が28.1週、HPT群は約20週であり、エリブリン群で長かった。OSもHR:1.09(95%CI:0.76~1.58、p=0.7258)と両群間の差を認めなかった。毒性については末梢神経障害がエリブリン群で61.2% vs. HPT群で52.8%(G3に限ると9.8% vs.4.1%)と、エリブリン群で多かった。治療期間が長いことの影響があると思われるが、less toxic newと言ってよいかどうかは悩ましいところである。HER2陽性乳がんにおけるエリブリン併用療法は1つの標準治療になったと言えるが、実臨床での使用はタキサンアレルギーの症例などに限られるかもしれない。ER低発現乳がんにおける術後ホルモン療法こちらはデータベースを使った後ろ向き研究であり臨床試験ではないが、実臨床の疑問に重要なものであるため取り上げる。米国のがんデータベースからStageI~IIIでER 1~10%の症例を抽出し、術後ホルモン療法の実施率と予後を検討したものである。データベースから7,018例の対象症例が抽出され、42%の症例が術後ホルモン療法を省略されていた。ホルモン療法実施群と非実施群におけるOSは3年OSが92.3% vs.89.1%であり、HR:1.25、95%CI:1.05~1.48、p=0.01と実施群で良い傾向にあった。後ろ向き研究ではあるが、ER低発現であっても術後ホルモン療法に意義がある可能性が提示されたことは、今後の術後治療の選択にとって重要な情報である。PRO-DUCE試験最後に日本からのもう1つの口演であるPRO-DUCE試験を紹介する。これは治療薬の臨床試験ではなく、ePROが患者のQOLに影響するかを検証した試験である。関西医科大学の木川 雄一郎先生によって発表された。本試験はT-DXdによる治療を受ける患者を対象として、ePRO+SpO2/体温の介入が通常ケアと比較してQOLに影響するかを比較した。主要評価項目はベースラインから治療開始24週後のEORTC QLQ-C30を用いたglobal health scoreの変化であり、ePRO群では-2.4、通常ケア群では-10.4であり、両群間の差は8.0(90%CI:0.2~15.8、p=0.091)と統計学的に有意にePRO群で良好であった。その他の項目では倦怠感はePRO群で良好であったが、悪心/嘔吐は両群間の差は認めなかった。この研究は日本から乳がんにおいてePROが有効であることを示した初の試験である。ePROは世界的にも必須のものとなっており、今後の発展が期待される。

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EGFR陽性NSCLCの1次治療、amivantamab+lazertinibがPFS延長/NEJM

 未治療の上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者の治療において、標準治療であるオシメルチニブ(第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬[TKI])と比較して、amivantamab(EGFRと間葉上皮転換因子[MET]を標的とする二重特異性抗体)+lazertinib(活性化EGFR変異とT790M変異を標的とする第3世代EGFR-TKI)の併用療法は、無増悪生存期間(PFS)が有意に長く、安全性のデータは既報の第I、II相試験と一致することが、韓国・延世大学校医科大学のByoung C. Cho氏らMARIPOSA Investigatorsが実施した「MARIPOSA試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2024年6月26日号に掲載された。実薬対照の国際的な無作為化第III相試験 MARIPOSA試験は、amivantamab+lazertinib併用療法の有効性と安全性の評価を目的とする日本を含む国際的な無作為化第III相試験であり、2020年11月~2022年5月に参加者の無作為化を行った(Janssen Research and Developmentの助成を受けた)。 年齢18歳以上で、未治療の局所進行または転移を有するEGFR遺伝子変異陽性(exon19欠失またはL858R)NSCLC患者1,074例を登録し、amivantamab+lazertinib群(非盲検)に429例(年齢中央値64歳、女性64%)、オシメルチニブ群(盲検)に429例(63歳、59%)、lazertinib群(盲検)に216例を無作為に割り付けた。 主要評価項目は、オシメルチニブ群との比較におけるamivantamab+lazertinib群のPFSとし、盲検下独立中央判定による評価が行われた。中間解析でのOSは評価不能 全体の追跡期間中央値は22.0ヵ月で、投与期間中央値はamivantamab+lazertinib群18.5ヵ月、オシメルチニブ群18.0ヵ月であった。 PFS中央値は、オシメルチニブ群が16.6ヵ月(95%信頼区間[CI]:14.8~18.5)であったのに対し、amivantamab+lazertinib群は23.7ヵ月(19.1~27.7)と有意に長かった(病勢進行または死亡のハザード比[HR]:0.70、95%CI:0.58~0.85、p<0.001)。lazertinib群のPFS中央値は18.5ヵ月(95%CI:14.8~20.1)だった。 また、奏効率は、amivantamab+lazertinib群が86%(95%CI:83~89)、オシメルチニブ群は85%(81~88)であった。奏効期間中央値は、それぞれ25.8ヵ月(95%CI:20.1~評価不能)および16.8ヵ月(14.8~18.5)だった。 一方、予定された中間解析における全生存期間(OS)中央値は両群とも未到達であり、死亡のHRは0.80(95%CI:0.61~1.05)であった。EGFR阻害関連の有害事象が多い 主な有害事象はEGFR阻害関連の毒性作用であり、爪囲炎がamivantamab+lazertinib群の68%、オシメルチニブ群の28%で、皮疹がそれぞれ62%および31%で発現した。注入に伴う反応(infusion-related reaction)は、amivantamab+lazertinib群の63%に認め、その大部分はサイクル1の1日目に発生した。 Grade3以上の有害事象は、amivantamab+lazertinib群が75%、オシメルチニブ群が43%で発現し、重篤な有害事象はそれぞれ49%および33%で発現した。治療関連有害事象によるすべての試験薬の投与中止は、amivantamab+lazertinib群が10%、オシメルチニブ群は3%に認め、死亡の原因となった有害事象はそれぞれ34例(8%)および31例(7%)で発現した。 著者は、「amivantamabをlazertinibと併用する科学的根拠は、オシメルチニブに対する腫瘍の耐性機序への積極的な対処法となることであった。この併用療法には、化学療法を後の治療ラインに温存できるという利点もある」と述べ、また「治療関連有害事象によるすべての試験薬の投与中止の頻度は低く、ほとんどの患者が治療を継続できることが示唆された」としている。

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ASCO2024 レポート 老年腫瘍

レポーター紹介昨今、ASCOで老年腫瘍に関する重要な臨床研究の結果が発表されるようになった。高齢がん患者を対象とする臨床研究の枠組みとしては、(1)高齢がん患者を対象とした治療開発(特定の治療の有用性を検証)に関する臨床試験、(2)特定の因子、とくに高齢者機能評価が予後因子になるか否かを評価する臨床研究、(3)「高齢者機能評価+脆弱性に対するサポート」の有用性を評価する臨床試験に大別されるだろう。ASCO2024では、それぞれの枠組みの中で、日常診療の参考になる臨床研究が多数発表されていた。その中から、興味深い研究を紹介する。転移性膵がんを患う「脆弱な」高齢者を対象としたランダム化比較試験(GIANT study: #40031))近年、高齢者という集団は不均一であり、暦年齢だけで治療方針を決めるべきではない、という認識が浸透しつつあるように思う。とくに欧州では、高齢者という集団を全身状態の良いほうから順番に、fit、vulnerable、frailに分類するという考え方が提唱されている。すなわち、“fit”は、積極的ながん治療の恩恵を受けられるような全身状態の良い患者、“frail”はベストサポーティブケアの適応となるような全身状態の悪い患者、“vulnerable”は、その中間に位置することが提唱されている2)。しかし、それぞれの分類の線引きは定まっておらず、がん種ごと、病態ごとに定義が異なっているのが現状である。米国のECOG-ACRINグループが実施したGIANT試験は、“vulnerable”な高齢者を独自に定義し、GEM+nab-PTX vs.5FU/LV+nal-IRIの有用性を比較したランダム化比較第II相試験である。70歳以上、転移性膵管腺がんを有する、ECOG-PS:0~2かつ高齢者機能評価(生活機能、併存症、認知機能、暦年齢、老年症候群[転倒、失禁])の結果で“vulnerable”な高齢者と判断された患者が本試験に登録された(表1)。登録患者は、ゲムシタビン(1,000mg/m2)とナブパクリタキセル(125mg/m2)を14日ごとに投与するA群および5-フルオロウラシル(2,400mg/m2)、ロイコボリン(400mg/m2)、リポソームイリノテカン(50mg/m2)を14日ごとに投与するB群に無作為に割り付けられた。Primary endpointは全生存期間、secondary endpointsは、無増悪生存期間、奏効割合、有害事象などであった。A群の生存期間中央値を7.7ヵ月、B群を10.7ヵ月(HR:0.72)、片側α:0.10、検出力80%とした場合、予定登録患者数は184例であった。本試験は想定よりも予後が悪すぎたため、第1回目の中間解析で無効中止となった。92施設から176例の患者が登録され、年齢中央値は両群とも77歳。登録はしたものの治療を開始できなかった患者はA群で10.2%、B群で14.8%、1~3コースしか治療ができなかった患者はA群で34.2%、B群で42.7%であった。全生存期間は、A群で4.7ヵ月、B群で4.4ヵ月(HR:1.12、0.76~1.66、p=0.72)であり、無増悪生存期間はA群3.0ヵ月、B群2.4ヵ月であった。Grade3以上の有害事象発生割合は、A群45.6%、B群58.7%であった。残念ながら早期中止となってしまったが、“vulnerable”な高齢者を対象として治療開発を試みた意欲的な試験である。高齢者機能評価を用いて高齢者を分類するという手法を用いた臨床試験は過去にも複数存在3)するが、このタイプの臨床試験では試験結果がnegativeになった場合、「試験治療が適切なのか」という問題以外にも、「そもそも高齢者機能評価を用いた分類方法が適切なのか」という問題がつきまとう。本試験の場合、両群で治療強度を弱め過ぎたのかもしれないという問題と、本試験で定義した“vulnerable”という分類方法が適切ではなかったのではないかという問題が生じる。治療が開始できなかった患者や治療期間が極端に短かった患者が多かったことを踏まえると、本試験で定義した“vulnerable”の大部分が本当は“frail”なのではないかという疑問を持ってしまう。患者の大多数は、認知機能障害(46%)、暦年齢が80歳以上(36%)、併存疾患(31.4%)により“vulnerable”と判断されており、これらの患者は、より慎重に化学療法を実施、またはベストサポーティブケアを提案してもよいのかもしれない。一方、サブグループ解析では、75歳以上と75歳未満の集団の生存曲線に大きな違いはなかったため、やはり暦年齢だけで治療方法を決めるのは避けるべきなのだろう。本試験は早期中止となり、また“vulnerable”な高齢者を定義することの難しさを改めて知ることになったが、このような意欲的な試験のデータが蓄積されていくことで、より適切な集団を設定することができ、その集団に適切な治療を提供できるようになると考えている。画像を拡大する日本発の高齢者機能評価+介入のランダム化比較試験の副次的解析(NEJ041/CS-Lung001: #15024))“vulnerable”な高齢者をどう定義するのか、という議論は以前からある。生理的予備能が乏しい高齢者が全身化学療法などで重篤な有害事象が生じると全身状態が悪化することが予想されるため、重篤な有害事象が生じうる集団を“vulnerable”な高齢者とするという考え方もある。化学療法の毒性を予測するツールで有名なものとして、米国の高齢がん研究グループ(Cancer and Aging Research Group:CARG)が作成したChemo Toxicity Calculator(以下、CARGスコア)がある。CARGスコアは簡単な11項目(年齢、がんの種類、予定されている化学療法の投与量、予定されている化学療法の薬剤数、ヘモグロビン、クレアチニンクリアランス、聴力、転倒、服薬管理、身体活動、社会活動)を評価するだけでGrade3以上の有害事象の出現頻度を予測できるとされている5,6)。CARGスコアは米国では妥当性が検証されており、また正式な手順で翻訳されたCARGスコア日本語版があるため日本でも使用しやすいツールである(当該URLのlanguageをJapaneseにすれば日本語になる)7)。しかし、日本人での有用性が評価されていないこと、また分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などは予測式を作成する際の対象集団に含まれていなかったことから、その使用には注意が必要であるとされていた。今回、日本発の高齢者機能評価+介入のランダム化比較試験の副次的解析の中で、日本人におけるCARGスコアの有用性が評価された。NEJ041/CS-Lung001は、非小細胞肺がんを患う75歳以上の患者を対象とした、高齢者機能評価+介入の患者満足度における有用性を評価したクラスターランダム化比較試験であり、主たる解析の結果はASCO2023で報告された。1,021例が登録され、そのうち911例がCARGスコアで評価された。CARGスコアは19点満点であり、0~5点を「低い」、6~9点を「中間」、10~19点を「高い」とした場合、米国のデータでは、それぞれのカテゴリーとGrade3以上の有害事象の発生割合に関連がみられたため、CARGスコアは重篤な有害事象を予測できるという結論に至ったが、今回の日本人データではそれらに関連がみられなかった。また、CARGスコアの対象外とされていた分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬を受けている集団でもCARGスコアの有用性を評価したものの、いずれもCARGスコアのカテゴリーと重篤な有害事象に明らかな関連はみられなかった。欧米のKey opinion leaderが提唱しているツールをそのまま日本に流用することなく、日本人データで妥当性を検証し、日本人でのCARGスコアの有用性をきちんと否定するという重要な研究である。CARGスコアの日本語版はCARGのホームページに掲載してもらっているのだが、日本人でも毒性を予測できるか否かの評価がされていなかったため、研究目的以外でのCARGスコアの使用は推奨してこなかった。今回、副次的解析ではあるものの、日本人ではCARGスコアの有用性が示せなかったことは、臨床上重要である。ただし、欧米でもCARGスコアは絶対的なツールではない。実際、「全がん種」を対象として生まれたCARGスコアでは予測精度が低いという理由で、「乳がん」に特化した予測ツールCARG-BC(Breast Cancer)が作成されている8)。このように、それぞれのがん種、人種に特化した予測ツールが望まれており、今後、日本独自の毒性予測ツールが求められる。『高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療』モデルの費用対効果分析(#15099))欧米の老年腫瘍ガイドラインでは、高齢者機能評価(Geriatric Assessment:GA)を実施するのは当然であり、「高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療」、いわゆるGeriatric Assessment and Management (GAM)の実施までもが推奨されるようになった。これは、世界中で「高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療」の有用性を検証するランダム化比較試験が公表されたためである。ただ、それぞれの試験におけるGAMの診療モデルはまったく異なるため、どの診療モデルが最適なのかはわかっていない。このため今回、GAMの有用性を検証したpivotal study 4試験のデータを基に、費用対効果分析が行われた(表2)。これらの試験のGAMモデルを概説すると、(1)The 5C試験は「老年医学の訓練を受けたチームによる電話を用いてフォローアップするモデル」10)、(2)GAIN試験は「老年医学の訓練を受けたチームによる脆弱な部分をサポートする方法を提示するモデル」11)、(3) GAP70+試験は「老年医学の訓練を受けたチームがいない状態でのGA実施および脆弱な部分をサポートする方法を提示するモデル」12)、(4)INTEGERATE試験は「適宜、老年科医にコンサルトしながら診療を行うモデル」13)である。本試験はカナダの研究者が実施したため、カナダの医療費をベースとして、さまざまなシナリオの下でそれぞれの試験における12ヵ月以内の、がん薬物療法に伴う費用、有害事象に伴う費用、入院/救急外来受診に伴う費用、GAM実施に伴う費用を推定し、質調整生存年(Quality-adjusted life years:QALY)当たりの医療費および増分純金銭便益(incremental monetary benefit、INMB)を計算した(INMB=[λ*ΔQALY]-ΔCosts、閾値は50,000ドル)。患者当たりの平均QALYはGAM群で0.577~0.662、通常診療群(GAMを実施しない通常診療)で0.606~0.665、平均総費用は、GAM群で3万1,234~3万9,432ドル、通常診療群で2万9,261~4万1,756ドルであった。がん薬物療法の費用は総費用の46~66%を占めていた。INTEGERATE試験およびGAP70+試験では、INMBが3,975ドルおよび1,383ドルと正の値だったが、GAIN試験、The 5C試験では、INMBの値がそれぞれ-3,492ドル、-2,125ドルと負の値であった。INTEGERATE試験の診療モデル(適宜、老年科医にコンサルトしながら診療を行うモデル)は最も高価なモデルであったが、入院の減少(GAM群での入院/救急外来受診割合:26.6%、通常診療群:40.2%)により費用対効果が良好になったと考察されている。結果の解釈には慎重になる必要がある研究である。すなわち、12ヵ月のみのデータであること、カナダの医療費を基に計算されたものであること、入院/救急外来受診のしやすさは環境によって変わりうることなど、多くのlimitationがある。しかし、それぞれの診療モデルの一長一短は推察できるため、どの診療モデルが自施設に適していそうかの考察には使えると考えている。欧米の老年腫瘍ガイドラインがGAMを推奨しており、また日本老年医学会が発刊した『高齢者総合機能評価(CGA)に基づく診療・ケアガイドライン2024』でも悪性腫瘍を患う患者に高齢者総合機能評価(ほぼGAMと同じ意味)は推奨しているが、これらガイドラインはGAMを推奨しているにもかかわらず、具体的にどのようなモデルを用いればよいかは提示していない。日本では現状、がん治療に携わる老年科医が少ないため、「老年医学の訓練を受けたチームがいない状態でのGA実施および脆弱な部分をサポートする方法を提示するモデル」、すなわちGAP70+モデルが費用対効果の意味でも適しているのかもしれない。しかし、将来的には老年科医と協働して高齢がん患者の診療を進めてゆける環境がつくられることを祈っている。画像を拡大する参考1)Dotan E, et al. A randomized phase II study of gemcitabine and nab-paclitaxel compared with 5-fluorouracil, leucovorin, and liposomal irinotecan in older patients with treatment-naive metastatic pancreatic cancer (GIANT): ECOG-ACRIN EA2186.J Clin Oncol.2024;42:s4002)Ferrat E, et al. Performance of Four Frailty Classifications in Older Patients With Cancer: Prospective Elderly Cancer Patients Cohort Study. J Clin Oncol. 2017;35:766-777.3)Corre R, et al. Use of a Comprehensive Geriatric Assessment for the Management of Elderly Patients With Advanced Non-Small-Cell Lung Cancer: The Phase III Randomized ESOGIA-GFPC-GECP 08-02 Study. J Clin Oncol. 2016;34:1476-1483.4)Furuya N, et al. Geriatric assessment in older patients with non-small cell lung cancer: Insights from a cluster-randomized, phase III trial―ENSURE-GA study (NEJ041/CS-Lung001).J Clin Oncol.2024.42:s15025)Hurria A, et al. Predicting chemotherapy toxicity in older adults with cancer: a prospective multicenter study. J Clin Oncol. 2011;29:3457-3465.6)Hurria A, et al. Validation of a Prediction Tool for Chemotherapy Toxicity in Older Adults With Cancer. J Clin Oncol. 2016;34:2366-2371.7)Cancer and Aging Research Group, Chemo-Toxicity Calculator.8)Magnuson A, et al. Development and Valida39tion of a Risk Tool for Predicting Severe Toxicity in Older Adults Receiving Chemotherapy for Early-Stage Breast Cancer. J Clin Oncol. 2021;39:608-618.9)Selai A, et al.Cost-utility of geriatric assessment (GA) in older adults with cancer: A model-based economic evaluation of four randomized controlled trials (RCTs). J Clin Oncol.2024;42.16:s150910)Puts M , et al. Comprehensive geriatric assessment and management for Canadian elders with Cancer: The 5C study. 2021. J Geriatr Oncol. 2021;12:s40.11)Li D, et al. Geriatric Assessment-Driven Intervention (GAIN) on Chemotherapy-Related Toxic Effects in Older Adults With Cancer: A Randomized Clinical Trial. JAMA Oncol.2021;7:e214158.12)Mohile SG, et al. et al. Evaluation of geriatric assessment and management on the toxic effects of cancer treatment (GAP70+): a cluster-randomised study. Lance. 2021;398:1894-904.13)Soo WK, et al. Integrated Geriatric Assessment and Treatment Effectiveness (INTEGERATE) in older people with cancer starting systemic anticancer treatment in Australia: a multicentre, open-label, randomised controlled trial.Lancet Healthy Longev. 2022;3:e617-e627.

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診療科別2024年上半期注目論文5選(呼吸器内科編)

Clarithromycin for early anti-inflammatory responses in community-acquired pneumonia in Greece (ACCESS): a randomised, double-blind, placebo-controlled trialGiamarellos-Bourboulis EJ, et al. Lancet Respir Med. 2024 Apr;12:294-304.<ACCESS試験>:全身性炎症反応を認める市中肺炎においてβラクタム系抗菌薬へのマクロライドの追加は早期臨床反応を改善市中肺炎の治療においてβラクタム系抗菌薬へのマクロライド追加の上乗せ効果については、観察研究で証明されてきました。今回、全身性炎症反応症候群、SOFAスコア2点以上、プロカルシトニン0.25ng/mL以上を有する市中肺炎の入院成人患者を対象として、無作為化比較試験としては初めて、マクロライドの有益性が示されました。Perioperative Nivolumab in Resectable Lung CancerCascone T, et al. N Engl J Med. 2024 May 16;390:1756-1769.<CheckMate 77T試験>:非小細胞肺がんへの術前ニボルマブ併用化学療法+術後ニボルマブ単剤で無イベント生存期間を改善切除可能な非小細胞肺がん患者を対象とした無作為化比較試験で、術前ニボルマブ併用化学療法+術後ニボルマブ単剤投与が、無イベント生存期間を有意に改善することが明らかとなりました。新たな安全性シグナルは認められませんでした。Dupilumab for COPD with Blood Eosinophil Evidence of Type 2 InflammationBhatt SP, et al. N Engl J Med. 2024 May 20.<NOTUS研究>:タイプ2炎症を有するCOPDにおいてデュピルマブで増悪が減少タイプ2炎症を有するCOPD患者に対するヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体デュピルマブの有効性を評価した二重盲検無作為化比較試験です。末梢血好酸球数300/uL以上のCOPD患者において、デュピルマブはプラセボに比べて中等度または重度の増悪の減少と有意に関連していました。Bisoprolol in Patients With Chronic Obstructive Pulmonary Disease at High Risk of Exacerbation: The BICS Randomized Clinical TrialDevereux G, et al. JAMA. 2024 May 19.<BICS研究>:ハイリスクCOPD患者へのビソプロロールで増悪は減少せずCOPD患者において、β1受容体選択性遮断薬ビソプロロールがCOPD増悪を減少させるかどうかを検証した無作為化比較試験です。増悪リスクの高いCOPD患者において、ビソプロロールによる治療はCOPD増悪を減少させませんでした。しかし、呼吸器系を含む有害事象の増加をビソプロロールで認めることはなく、ビソプロロールの安全性が示されました。Morphine for treatment of cough in idiopathic pulmonary fibrosis (PACIFY COUGH): a prospective, multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled, two-way crossover trialWu Z, et al. Lancet Respir Med. 2024 Apr;12:273-280. <PACIFY COUPH試験>:特発性肺線維症患者においてモルヒネで咳嗽が減少特発性肺線維症(Idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)患者の咳嗽に対する低用量徐放性モルヒネの効果を検証した無作為化比較試験です。モルヒネはプラセボと比較して、客観的覚醒時咳嗽頻度を39%減少させました。この研究は、IPF患者の咳嗽に対するモルヒネの有用性を報告した初めての研究です。

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新たながん治療で高まる医療者全体の教育ニーズ ゾルベツキシマブで勉強会/WJOG

 新たながん治療の登場は新たな有害事象(AE)との遭遇とも言える。認定NPO法人西日本がん研究機構(WJOG)では、継続的に全医療者を対象とした学習機会を設けている。7月には2024年5月に承認されたゾルベツキシマブを速やかに臨床現場に導入するためのグループワークを実施する。WJOG教育広報委員会副委員長で恵佑会札幌病院腫瘍内科の川上 賢太郎氏に聞いた。新薬の登場は未経験の有害事象との出合い 川上氏は、「分子標的薬の登場で、消化器がん領域では従来の殺細胞性抗がん剤では経験のないAEを経験した」と言う。 2010年大腸がんのKRAS検査が保険適用となり抗EGFR抗体が臨床で使われるようになる。その際、皮膚障害などの新たなAEに遭遇する。皮膚の乾燥、発疹、爪囲炎など消化器科医にとっては「まったく経験したことのない有害事象」だったと振り返る。 近年、消化器がん領域に免疫チェックポイント薬(ICI)が保険適用となる。ICIもまた、消化器科医にとって未知のAEをもたらした。「ICIはメラノーマや肺がんが先行していたので、皮膚科医や肺がん治療医などから使用経験を共有してもらい対応していた」。しかし、「実際に他人ごとから自分ごとになったときに『さあ、どうしよう?』となる。結局自分たちで経験してみないとわからないことも多々ある」と川上氏。医療者全体で対応する 有害事象の対応は医師だけではカバーできない。事前にわかっていれば化学療法委員会やレジメン審査委員会などで看護師、薬剤師など多職種からなるチームで対応策を練る。導入後から対処する場合は、知識や対応経験のあるスタッフによる院内講習会、対応マニュアルなどを作成するが、これは医師だけでは難しい。 また、外来あるいは入院後、患者が帰宅してから起こる有害事象への対応も看護師、薬剤師の協力が必要だ。 川上氏によれば「単純なカルテ記載では拾いきれない事象を拾い上げる」ことが重要である。そのためにも医療者全体で知識を持合い共有する場は欠かせない。消化器がん領域、話題の新薬ゾルベツキシマブでの勉強会を実施 そのような中、WJOGは職種横断的な若手医療者向けセミナーを企画している。2024年7月に取り上げるのが、新規治療薬として注目される抗CLDN18.2抗体ゾルベツキシマブだ。 2024年5月に承認されたゾルベツキシマブは、CLDN18.2陽性切除不能胃がんに対し化学療法併用で有効性を示す。CLDN18.2は多くのがん細胞表面で発現し、幅広いがんターゲットとしても期待される一方、正常の胃粘膜にも発現する。 その影響か、ゾルベツキシマブでは悪心・嘔吐の発現が多い。実際、Pivotal試験であるSPOTLIGHT試験、GLOW試験の2つの第III相試験におけるゾルベツキシマブの悪心・嘔吐発現(全Grade)はそれぞれ89.2%、81.9%と高い。ゾルベツキシマブの悪心・嘔吐の発現は早く、薬剤投与中に起こることもあるという。日本癌治療学会も「ゾルベツキシマブ併用一次化学療法における制吐療法」としてガイドライン速報を出している。 「制吐療法の発達・普及により近年は殺細胞性抗がん剤の悪心・嘔吐はコントロールできているが、ゾルベツキシマブについては従来の方法ではコントロールできない可能性もある」と川上氏は言う。 同セミナーでは対面式のグループワークも含め、「新規治療導入時に解決すべき課題」「多職種で出来る工夫」などを議論する。WJOG2024年多職種の若手で考えるプロジェクト 第2回若手医療従事者向けセミナー多職種で学ぶ!胃がん診療-新規治療導入時のポイント:ゾルベツキシマブ導入について考えよう日時:2024年7月27日(土)場所:東京、品川TKPカンファレンスセンター WJOGイベント参加募集ページ

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