サイト内検索|page:11

検索結果 合計:245件 表示位置:201 - 220

201.

受診ごとに血圧が変動する症例では認知機能が低下している(コメンテーター:桑島 巌 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(125)より-

受診ごとの血圧変動が大きい高齢者は、認知機能が低下しており、MRIで海馬の萎縮や皮質梗塞が多いという臨床研究である。 本試験はPROSPER試験という、高齢者に対するプラバスタチンの心血管合併症予防効果を検討した試験の後付解析として行われたものである。 日常、高齢者の高血圧患者を診療する場合、受診ごとに血圧が変動したり、家庭血圧でも測定ごとの血圧変動が大きい症例はよく見かけるが、多くはすでに冠動脈疾患、脳血管障害などの動脈硬化性合併症を併発しているという印象をもっている臨床医は多いと思う。実際そのことはいくつかの観察研究でも確認されている1,2)。しかし、本試験では認知機能の障害を示唆し、かつ海馬というアルツハイマー型認知症と関連の深い部位の萎縮を認めたという点で興味深い。 本試験は、血圧変動が、血管障害や認知機能障害の、原因であるのかあるいは結果であるのかを示すものではない。本試験で示された認知機能マーカやMRIは、3.2年間の試験終了時のデータであり、追跡前後の比較は示していない。そのため血圧変動が認知機能障害を低下させたのか、あるいは血管障害や海馬病変の結果として血圧変動が大きいのかは確認できない。 高齢者では収縮期血圧の絶対値が大きいほど、また脈圧が大きいほど予後が不良であることはすでに知られているが、本試験はさらに受診ごとの血圧変動が大きいことも予後不良のサインであることを示唆している。 また本試験には明記されていないが、多くは降圧薬を服用していると思われる。降圧薬自体にも血圧変動、すなわち降圧効果の安定性が異なるという報告もみられる。Ca拮抗薬やクロルタリドンなどの非ループ利尿薬などは受診ごとの血圧変動が少なく、ARBやβ遮断薬などは血圧変動が多いという3)。 高齢者高血圧を診療する場合、安定した降圧が得られるような降圧薬を選択することが重要である。

202.

腎結石の女性、CHDリスクが増大/JAMA

 腎結石を有する女性は冠動脈心疾患(CHD)のリスクが有意に増大しているが、男性にはこのような関連は認めないとの研究結果が、JAMA誌2013年7月24日号に掲載された。これまでの検討では、腎結石の既往歴とCHDリスクの上昇との関連について一貫性のある結果は得られていないという。今回、イタリア・Columbus-Gemelli病院(ローマ市)のPietro Manuel Ferraro氏らは、米国の医療従事者を対象とした3つの大規模な前向きコホート試験のデータを解析した。24万例以上の前向きデータを解析 米国の調査では、腎結石の有病率は1976~1980年の3.8%から2007~2010年には8.8%(男性10.6%、女性7.1%)へと増加している。腎結石は動脈硬化、高血圧、糖尿病、メタボリック症候群、心血管疾患などとの関連が示唆されているが、これらの疾患は腎結石患者に多い腎疾患やカルシウム代謝異常に起因する可能性もあるという。 研究グループは、米国で医療従事者を対象に実施された以下の3つの前向きコホート試験の参加者のうち、ベースライン時にCHDの既往歴のない24万2,105例(男性4万5,748例、女性19万6,357例)について検討した。 Health Professionals Follow-up Study(HPFS:男性4万5,748例、40~75歳、1986~2010年)、Nurses’ Health Study I(NHS I:女性9万235例、30~55歳、1992~2010年)、Nurses’ Health Study II(NHS II:女性10万6,122例、25~42歳、1991~2009年)。 主要評価項目はCHDであり、致死的または非致死的心筋梗塞の発症および冠動脈血行再建術の施行と定義した。フォローアップ期間中は2年に1回、質問票を用いて腎結石とCHDを同定し、診療記録で確認した。HRは男性1.06、女性1.18、1.48 男性は最長24年、女性は18年のフォローアップが行われ、期間の中央値はHPFSが9.8年、NHS Iが8.2年、NHS IIは8.9年であった。1万9,678例が腎結石を、1万6,838例がCHDを発症した。 平均年齢は、HPFSの腎結石群が55.8歳、非腎結石群は53.7歳、NHS Iはそれぞれ59.0歳、58.4歳、NHS IIは37.4歳、36.6歳だった。3試験とも腎結石群で高血圧、チアジド系利尿薬の使用、高コレステロール血症が多く、NHS Iでは腎結石群で糖尿病が、HPFSとNHS Iでは腎結石群で痛風が多かった。また、腎結石群ではカルシウム、カフェイン、ビタミンDの摂取量が少なかった。 女性の交絡因子調整後のCHD発生率は、腎結石群が非腎結石群に比べ有意に高かった。すなわち、NHS Iでは10万人年当たりのCHD発生率が腎結石患群754、非腎結石群514(ハザード比[HR]:1.18、95%信頼区間[CI]:1.08~1.28)、NHS IIではそれぞれ144、55(HR:1.48、95%CI:1.23~1.78)であった。 男性(HPFS)では、10万人年当たりのCHD発生率が腎結石群1,355、非腎結石群1,022(HR:1.06、95%CI:0.99~1.13)であり、有意な差は認めなかった。 致死的/非致死的心筋梗塞(HPFS=536 vs 432/10万人年、HR:1.01、95%CI:0.92~1.11、NHS I=289 vs 196、1.23、1.07~1.41、NHS II=61 vs 25、1.42、1.07~1.90)および冠動脈血行再建術(HPFS=941 vs 706、1.06、0.98~1.14、NHS I=605 vs 401、1.20、1.09~1.32、NHS II=107 vs 40、1.46、1.17~1.81)についても同様の結果が得られた。 著者は、「腎結石の女性ではCHDのリスクが、強固ではないが有意に増大していた。このような性差の原因を解明し、病態生理学的な基礎を確立するために、さらなる検討を進める必要がある」と指摘している。

203.

第16回 診療ガイドライン その2: 「沿う」以上に重要な「適切なガイドライン」作り!!

■今回のテーマのポイント1.ガイドラインに沿った診療は紛争化リスクを低減する2.ガイドラインに沿った診療をしていれば、違法と判断される危険性は低い3.実医療現場に沿った適切なガイドラインの作成が課題である事件の概要患者X(54歳)は、4日前より持続する呼吸困難、動悸を認めたため、平成15年10月29日、Y病院を受診したところ、重症心不全および心房細動と診断され、加療のため同日入院となりました。主治医Aは、同日よりXに対し、心不全の治療として酸素投与と利尿薬、カテコラミンの投与を、心房細動に対しヘパリン、翌日よりワルファリンカリウム(商品名:ワーファリン)(2㎎/日)を開始しました。11月4日には、トイレへ歩行しても呼吸苦を認めなくなりました。11月7日、経食道心エコーを行ったところ、左房内に明らかな血栓を認めなかったものの、モヤモヤエコーが描出されました。明らかな血栓がなかったことから、A医師は、Xに対し、電気的除細動を行ったところ、1度は正常洞調律に戻りましたが、その後、心房性期外収縮が頻発するなど不整脈が出現していました。なお、11月6日のXのPT-INRは1.15でした。Xに対するワーファリン®の投与量は、11月4日より3㎎/日に、9日より4㎎/日と順次増量しましたが、10日退院時のPT-INRは1.2でした。A医師は、心不全および心房細胞が改善したこと、Xが退院を希望したことから、ワーファリン®を4.5㎎/日として、10日に退院としました。しかし、翌11日午後7時半頃、Xは、自宅にて右片麻痺が出現し、救急搬送されたものの、脳塞栓症にて右不全麻痺と失語症が残存することとなりました。これに対し、Xは、1)電気的除細動の適応がなかったこと、2)ワーファリン®による抗凝固療法が十分ではなかったにもかかわらず電気的除細動を行ったこと、3)電気的除細動後、抗凝固療法が不十分であったにもかかわらず退院させたことなどを争い、Y病院に対し、約1億5,200万円の損害賠償を請求しました。なぜそうなったのかは、事件の経過からご覧ください。事件の経過患者X(54歳)は、4日前より持続する呼吸困難、動悸を認めたため、平成15年10月29日、Y病院を受診したところ、重症心不全および心房細動と診断され、加療のため同日入院となりました。胸部単純X線上、著明な肺鬱血を認め、心エコー上、左室駆出率は24%、心嚢液貯留を認めました。主治医Aは、同日よりXに対し、心不全の治療として酸素投与と利尿薬、カテコラミンの投与を、心房細動に対しヘパリン、翌日よりワーファリン®(2㎎/日)を開始しました。11月4日には、トイレへ歩行しても呼吸苦を認めなくなったものの、5日に行われた心エコーでは、左室駆出率21%、左房径50㎜、左室拡張末期径64㎜であり、拡張型心筋症様でした。11月7日、経食道心エコーを行ったところ、左房内に明らかな血栓を認めなかったものの、モヤモヤエコーが描出されました。明らかな血栓がなかったことから、A医師は、Xに対し、電気的除細動を行ったところ、1度は正常洞調律に戻りましたが、その後、心房性期外収縮が頻発するなど不整脈が出現していました。なお、11月6日のXのPT-INRは1.15でした。Xに対するワーファリン®の投与量は、11月4日より3㎎/日に、9日より4㎎/日と順次増量しましたが、10日退院時のPT-INRは1.2でした。A医師は、心不全および心房細胞が改善したこと、Xが退院を希望したことから、ワーファリン®を4.5㎎/日として、10日に退院としました。しかし、翌11日午後7時半頃、Xは、自宅にて右片麻痺が出現し、救急搬送されたものの、脳塞栓症にて右不全麻痺と失語症が残存することとなりました。事件の判決1)電気的除細動の適応がなかったこと平成13年ガイドラインでは、除細動により自覚症状や血行動態の改善が期待される場合には、電気的除細動の適応があるとされていること、同ガイドラインでは、除細動しても再発率が高く、効果が期待できない例として、(1)心房細動の持続が1年以上の慢性心房細動、(2)左房径が5センチメートル以上、(3)過去に除細動歴が2回以上、(4)患者が希望しないという条件が1つでもある場合は、積極的な除細動を勧めていないところ、(1)については判断できないが、(2)については11月5日の左房径は5センチメートルとぎりぎりの基準であったこと、同ガイドラインでは、重症心不全では、心房細動が持続していれば電気的除細動を行うのが望ましいとされていることなどから、平成13年ガイドラインから逸脱していない。・・・・・・(中略)・・・・・・すなわち、前記医学的知見に示した、平成13年ガイドラインによれば、重症心不全の場合、心房細動が持続していれば電気的除細動を行うのが望ましいとされているところ、前記認定のとおり、本件除細動時、原告は重症心不全の状態にあったこと、前記前提事実によれば、原告は、本件入院時から本件除細動時の約10日間心房細動が持続していたこと等が認められることから、平成13年ガイドラインによって照合しても電気的除細動を行う適応があったといえる。2)ワーファリンによる抗凝固療法が十分ではなかったにもかかわらず電気的除細動を行ったこと前記前提となる医学的知見によれば、心房細動の持続が48時間以上となると左房内に血栓が形成されて塞栓症を起こす危険が高まること、心房細動では、除細動後、洞調律に戻った後に一過性の機械的機能不全が生じ、この時期に心房内に血栓が形成され、機械的興奮が回復してから血栓が剥がれて飛んで塞栓症の原因となると考えられていること、日本では、INR2程度を目標とすることとされていること、平成13年ガイドラインによれば、心拍数が毎分99以下の発作性心房細動の項で、心房細動の持続時間が48時間を超える場合には、経食道心エコーにて左房内血栓の有無を確認し、無ければヘパリン投与下で除細動を行うとされていることが認められる。そして、前記認定事実によれば、原告のINRは、10月29日に1.15、11月4日に1.14、6日に1.15だったこと、A医師は、本件除細動前に、原告に対して経食道心エコーを行い、左房・左心耳内に血栓がないことを確認したこと、本件除細動時、ヘパリンを投与していたこと等が認められる。以上を総合すると、D医師が電気的除細動の実施に際し、抗凝固の目標値であるINR2~3でワーファリン2をかなり下回るINR1.5程度で本件除細動を行ったことは塞栓症のリスク管理という点から疑問がないとは言えないが、A医師はガイドラインの指針に従って、経食道心エコーにより、左房・左心耳内に血栓がないことを確認し、ヘパリン投与下で本件除細動を行ったのであり、鑑定意見及び医学的知見に照らすと、INRが2程度になる様に抗凝固療法を行った上で除細動を行うべき注意義務があったとまではいえない。3)電気的除細動後、抗凝固療法が不十分であったにもかかわらず退院させたこと平成13年ガイドラインで、電気的除細動施行後はワーファリンによる抗凝固療法(INR2~3)を4週間継続することが推奨されていること、ヘパリンとワーファリンの併用方法としては、ワーファリンの抗凝固療法の効果が出るまでに約72時間ないし96時間を要するため、INRが治療域に入ってからヘパリンを中止することが勧められていることが認められる。前記前提事実及び前記認定事実によれば、A医師は、原告退院時、ワーファリンを従前の4錠(4ミリグラム)から4.5錠(4.5ミリグラム)に増量した上で退院させていることが認められる。しかし、前記前提事実及び前記認定事実によれば、原告の退院時のINRは1.20と、平成13年ガイドラインの推奨するINRの値及び重大な塞栓症が発症する可能性の高いINR1.6を相当下回っていたこと、鑑定書によれば、原告は心不全を合併していたことから特に、脳塞栓症の発生リスクが高まっていたことが認められる。そして、前記認定事実によれば、原告が本件脳梗塞を発症した後の11月13日のINRは1.21であることが認められ、脳梗塞発症時には抗凝固療法のレベルがINR1.2前後であったことが推認できる。・・・・・・(中略)・・・・・・以上の事実を総合すると、原告の退院時の抗凝固レベルは不十分かつ塞栓症発生の危険が高い状態であり、原告退院後、ワーファリン増量の効果が発現するのになお数日を要する状態であったのであるから、A医師には、入院を継続してヘパリンによる抗凝固療法を中止することなく併用しつつ、ワーファリンの投与量を調節して推奨抗凝固レベルを確保する入院を継続させて原告の抗凝固レベルが推奨レベルになるまでの間、特段の事情がない限り、入院を継続し、原告の状態を観察する注意義務があったといえる。・・・・・・(中略)・・・・・・よって、A医師は原告の抗凝固レベルが推奨レベルになるまでの間、入院を継続し、原告の状態を観察する注意義務を怠ったといえる。(岐阜地判平成21年6月18日)ポイント解説今回も、前回に引き続きガイドラインについて解説いたします。前回解説したように、ガイドラインは、裁判所が医療水準を判断する際の重要な資料であり、裁判所はおおむねガイドラインに沿った判断をしていることから、ガイドラインに反した診療をした場合には、「過失」と判断されやすいといえます。それでは、「ガイドラインに沿った診療をしていた場合には、裁判所はどのような判断をするのか?」が今回のテーマとなります。「事件の判決」で挙げている3つの争点について、裁判所は、いずれも日本循環器学会が作成したガイドラインを引用し、過失判断をしています。そして、1)においては、「平成13年ガイドラインによれば、重症心不全の場合、心房細動が持続していれば電気的除細動を行うのが望ましいとされているところ、前記認定のとおり、本件除細動時、原告は重症心不全の状態にあったこと、前記前提事実によれば、原告は、本件入院時から本件除細動時の約10日間心房細動が持続していたこと等が認められることから、平成13年ガイドラインによって照合しても電気的除細動を行う適応があったといえる」と判示し、過失がなかったとしています。第14回で解説したように、判決は法的三段論法(図1)で書かれているところ、1)における大前提(規範定立)は、「平成13年ガイドラインによれば、重症心不全の場合、心房細動が持続していれば電気的除細動を行うのが望ましいとされている」であり、ガイドライン=規範となっています。そして、ガイドライン=規範に本件事案は反していないこと(小前提)から過失はなかった(結論)としているのです。同様に、2)においても、ガイドラインを規範とした上で、「D医師が電気的除細動の実施に際し、抗凝固の目標値であるINR2~3でワーファリン2をかなり下回るINR1.5程度で本件除細動を行ったことは塞栓症のリスク管理という点から疑問がないとは言えないが、A医師はガイドラインの指針に従って、経食道心エコーにより、左房・左心耳内に血栓がないことを確認し、ヘパリン投与下で本件除細動を行ったのであり、鑑定意見及び医学的知見に照らすと、INRが2程度になる様に抗凝固療法を行った上で除細動を行うべき注意義務があったとまではいえない」と判示しており、ガイドラインに沿っていることを理由にPT-INRが低くともなお適法であるとしています。この判示は、より高い医療水準を設定することが可能な場合においても、ガイドラインにさえ沿っていれば、違法と判断しないとした点で重要であるといえます。2000年代前半において、現場の実情や医療を無視した救済判決が出されたことで、医療界が大きく混乱しました。萎縮医療が生じた原因は、医療に対する要望が急速に高まっていく中、年々、求められる医療水準が上昇していったことです(図2)。すなわち、診療当時に入手可能な判例に沿った診療(診療時のルールに基づく診療)を行ったとしても、それが裁判となり争われ、判決が出されるまでの間に、求められる医療水準が上昇(判決時=将来のルール)してしまい、結果、「違法」と判断されてしまったことから、実医療を行うにあたり自身の行為が適法か否かの判断ができなくなってしまったのです。自らの診療の適法性に対する予見可能性がなくなれば、実医療現場で診療する医療従事者にとっては、結果論で裁かれるのと同じことになりますので、その結果、危険を伴う診療には関与しないという萎縮医療が生じてしまいました。本判決のように、その当時のガイドラインに従っていれば、少なくとも違法とは判断されないということは、現場の医療従事者にとっては非常に重要な意味を持ちます。特にその内容が、裁判官ではなく、その領域の専門家である医師によって定められることは、適切な医療訴訟(敗訴しても医師が納得できる)を目指す上でも価値があるといえます。昨今の判決では、裁判所は、ガイドラインを尊重していること、前回解説したように、ガイドラインに準じた治療であった場合には、そもそも弁護士が事件を受任しないことから紛争化自体を防ぐことができるということで、ガイドラインの重要性は増しています。しかしながら、現在作成されているガイドラインの中には、適法性の基準としてみると疑問といえるものも散見されます。特に、複数の選択肢があり、現場の医師の裁量に任せるべきケースに対し、他の選択肢を否定するかのような表記がなされている場合は、しばしば紛争化の道をたどることとなるので注意が必要です。いずれにせよ、医療の正しさは専門家である医師が決定していくということは、重要なことであり、不幸な時期を経て、ようやく手にしたものです。医療界は、ガイドラインを適法性の判断基準にしないで欲しいという後ろ向きの議論をするのではなく、実医療現場で働く医師が困ることのない適切なガイドラインを作成するよう努力していかなければなりません。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。(出現順)岐阜地判平成21年6月18日

204.

糖尿病ケトアシドーシスの輸液管理ミスで死亡したケース

糖尿病・代謝・内分泌最終判決平成15年4月11日 前橋地方裁判所 判決概要25歳、体重130kgの肥満男性。約2週間前から出現した体調不良で入院し、糖尿病ケトアシドーシス(初診時血糖値580mg/dL)と診断されてIVHによる輸液管理が始まった。ところが、IVH挿入から12時間後の深夜に不穏状態となってIVHを自己抜去。自宅で報告を受けた担当医師は「仕方ないでしょう」と看護師に話し、翌日午後に再度挿入を予定した。ところが、挿入直前に心肺停止状態となり、翌日他院へ転送されたが、3日後に多臓器不全で死亡した。詳細な経過患者情報昭和49年9月3日生まれの25歳、体重130kgの肥満男性経過平成12年3月16日胃部不快感と痛みが出現、その後徐々に固形物がのどを通らなくなる。3月28日動悸、呼吸困難、嘔気、嘔吐が出現。3月30日10:30被告病院受診。歩行困難のため車いす使用。ぐったりとして意識も明瞭でなく、顔面蒼白、ろれつが回らず、医師の診察に対してうまく言葉を発することができなかった。血糖値580mg/dL、「脱水、糖尿病ケトアシドーシス、消化管通過障害疑い」と診断、「持続点滴、インスリン投与」を行う必要があり、2週間程度の入院と説明。家族が看護師に対し付添いを申し入れたが、完全看護であるからその必要はないといわれた。11:15左鎖骨下静脈にIVHを挿入して輸液を開始。約12時間で2,000mLの輸液を行う方針で看護師に指示。18:00当直医への申し送りなく担当医師は帰宅。このとき患者には意識障害がみられ、看護師に対し「今日で入院して3日目になるんですけど、管は取ってもらえませんか」などと要領を得ない発言あり。20:30ひっきりなしに水を欲しがり、呼吸促迫が出現。ナースコール頻回。17:20水分摂取時に嘔吐あり。22:45膀胱カテーテル自己抜去。看護師の制止にもかかわらず、IVHも外しかけてベッドのわきに座っていた。22:55IVH自己抜去。不穏状態のため当直医はIVHを再挿入できず。看護師から電話報告を受けた担当医師は、「仕方ないでしょう」と回答。翌日3月31日14:00頃に出勤してからIVHの再挿入を予定し、輸液再開を指示しないまま鎮静目的でハロペリドール(商品名:セレネース)を筋注。3月31日03:00肩で大きく息をし、口を開けたまま舌が奥に入ってしまうような状態で、大きないびきをかいていた。11:00呼吸困難、のどの渇きを訴えたが、意識障害のため自力で水分摂取不能。家族の要望で看護師が末梢血管を確保し、点滴が再開された(約12時間輸液なし)。14:20担当医師が出勤。再びIVHを挿入しようとしたところで呼吸停止、心停止。ただちに気管内挿管して心肺蘇生を行ったところ、5分ほどで心拍は再開した。しかし糖尿病性昏睡による意識障害が持続。15:30膀胱カテーテル留置。17:20家族から無尿を指摘され、フロセミド(同:ラシックス)を投与。その後6時間で尿量は175cc。さらに明け方までの6時間で尿量はわずか20ccであった。4月1日10:25救急車で別の総合病院へ搬送。糖尿病ケトアシドーシスによる糖尿病性昏睡と診断され、急激なアシドーシスや脱水の進行により急性腎不全を発症していた。4月4日19:44多臓器不全により死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張糖尿病ケトアシドーシスで脱水状態改善の生理食塩水投与は、14~20mL/kg/hr程度が妥当なので、130kgの体重では1,820~2,600mL/hrの点滴が必要だった。ところが、入院してから47時間の輸液量は、入院注射指示簿によれば合計わずか2,000mLで必要量を大幅に下回った。しかも途中でIVHを外してしまったので、輸液量はさらに少なかったことになる。IVHを自己抜去するような状況であったのに、輸液もせずセレネース®投与を指示した(セレネース®は昏睡状態の患者に禁忌)だけであった。また、家族から無尿を指摘されて利尿薬を用いたが、脱水症状が原因で尿が出なくなっているのに利尿薬を用いた。糖尿病を早期に発見して適切な治療を続ければ、糖尿病患者が健康で長生きできることは公知の事実である。被告病院が適切な治療を施していれば、死亡することはなかった。病院側(被告)の主張入院時の血液検査により糖尿病ケトアシドーシスと診断し、高血糖状態に対する処置としてインスリンを適宜投与した。ただし急激な血糖値の改善を行うと脳浮腫を起こす危険があるので、当面は血糖値300mg/dLを目標とし、消化管通過障害も考えて内視鏡の検査も視野に入れた慎重な診療を行っていた。原告らは脱水治療の初期段階で1,820~2,600mL/hrもの輸液をする必要があると主張するが、そのような大量輸液は不適切で、500~1,000mLを最初の1時間で、その後3~4時間は200~500mL/hrで輸液を行うのが通常である。患者の心機能を考慮すると、体重が平均人の2倍あるから2倍の速度で輸液を行うことができるというものではない。しかもIVHを患者が自己抜去したため適切な治療ができなくなり、当時は不穏状態でIVHの再挿入は不可能であった。このような状況下でIVH挿入をくり返せば、気胸などの合併症が生じる可能性がありかえって危険。セレネース®の筋注を指示したのは不穏状態の鎮静化を目的としたものであり適正である。そもそも入院時に、糖尿病の急性合併症である重度の糖尿病ケトアシドーシスによる昏睡状態であったから、短期の治療では改善できないほどの重篤、手遅れの状態であった。心停止の原因は、高度のアシドーシスに感染が加わり、敗血症性ショックないしエンドトキシンショック、さらには横紋筋融解症を来し、これにより多臓器不全を併発したためと推測される。裁判所の判断平成12年当時の医療水準として各種文献によれば、糖尿病ケトアシドーシスの患者に症状の大幅な改善が認められない限り、通常成人で1日当たり少なくとも5,000mL程度の輸液量が必要であった。ところが本件では、3月30日11:15のIVH挿入から転院した4月1日10:25までの47時間余りで、多くても総輸液量は4,420mLにすぎず、130kgもの肥満を呈していた患者にとって必要輸液量に満たなかった。したがって、輸液量が大幅に不足していたという点で担当医師の判断および処置に誤りがあった。被告らは治療当初に500~1,000mL/hrもの輸液を行うと急性心不全や肺水腫を起こす可能性もあり危険であると主張するが、その程度の輸液を行っても急性心不全や肺水腫を起こす可能性はほとんどないし、実際に治療初日の30日においても輸液を160mL/hr程度しか試みていないのであるから、急性心不全や肺水腫を起こす危険性を考慮に入れても、担当医師の試みた輸液量は明らかに少なかった。さらに看護師からIVHを自己抜去したという電話連絡を受けた時点で、意識障害がみられていて、その原因は糖尿病ケトアシドーシスによるものと判断していたにもかかわらず、「仕方ないでしょう」などといって当直医ないし看護師に対し輸液を再開するよう指示せず、そのまま放置したのは明らかな過失である。これに対し担当医師は、不穏状態の患者にIVH再挿入をくり返せば気胸が生じる可能性があり、かえって危険であったと主張するが、IVHの抜去後セレネース®によって鎮静されていることから、入眠しておとなしくなった時点でIVHを挿入することは可能であった。しかもそのまま放置すれば糖尿病性昏睡や急性腎不全、急性心不全により死亡する危険性があったことから、気胸が生じる可能性を考慮に入れても、IVHによる輸液再開を優先して行うべきであった。本件では入院時から腹痛、嘔気、嘔吐などがみられ、意識が明瞭でないなど、すでに糖尿病性昏睡への予兆が現れていた。一方で入院時の血液生化学検査は血糖値以外ほぼ正常であり、当初は腎機能にも問題はなく、いまだ糖尿病性昏睡の初期症状の段階にとどまっていた。ところが輸液が中断された後で意識レベルが悪化し、やがて呼吸停止、心停止状態となった。そして、転院時には、もはや糖尿病性昏睡の症状は治癒不可能な状態まで悪化し、死亡が避けられない状況にあった。担当医師の輸液に関する過失、とりわけIVHの抜去後看護師らに対しIVHの再挿入を指示せずに放置した過失と死亡との間には明らかな因果関係が認められる。原告側合計8,267万円の請求に対し、合計7,672万円の判決考察夜中に不穏状態となってIVHを自己抜去した患者に対し、どのような指示を出しますでしょうか。今回のケースでは、内科医にとってかなり厳しい判断が下されました。体重が130kgにも及ぶ超肥満男性が、糖尿病・脱水で入院してきて、苦労して鎖骨下静脈穿刺を行い、やっとの思いでIVHを挿入しました。とりあえず輸液の指示を出したところで、ひととおりの診断と治療方針決定は終了し、あとは治療への反応を期待してその日は帰宅しました。ところが当日深夜に看護師から電話があり、「本日入院の患者さんですが、IVHを自己抜去し、当直の先生にお願いしましたが、患者さんが暴れていて挿入できません。どうしましょうか」と連絡がありました。そのような時、深夜にもかかわらずすぐに病院に駆けつけ、鎮静薬を投与したうえで再度IVHを挿入するというような判断はできますでしょうか。このように自分から治療拒否するような患者を前にした場合、「仕方ないでしょう」と考える気持ちは十分に理解できます。こちらが誠意を尽くして血管確保を行い、そのままいけば無事回復するものが、「どうして命綱でもある大事なIVHを抜いてしまうのか!」と考えたくなるのも十分に理解できます。ところが本件では、糖尿病ケトアシドーシスの病態が担当医師の予想以上に悪化していて、結果的には不適切な治療となってしまいました。まず第一に、IVHを自己抜去したという異常行動自体が糖尿病性昏睡の始まりだったにもかかわらず、「せっかく入れたIVHなのに、本当にしょうがない患者だ」と考えて、輸液開始・IVH再挿入を翌日午後まで延期してしまったことが最大の問題点であったと思います。担当医師は翌日午前中にほかの用事があり、午後になるまで出勤できませんでした。そのような特別な事情があれば、とりあえずはIVHではなく末梢の血管を確保するよう当直スタッフに指示してIVH再挿入まで何とか輸液を維持するとか、場合によってはほかの医師に依頼して、早めにIVHを挿入しておくべきだったと考えられます。また、担当医師が不在時のバックアップ体制についても再考が必要でしょう。そして、第二に、そもそもの輸液オーダーが少なすぎ、糖尿病ケトアシドーシスの治療としては不十分であった点は、標準治療から外れているといわれても抗弁するのは難しくなります。「日本糖尿病学会編:糖尿病治療ガイド2000」によれば、糖尿病ケトアシドーシス(インスリン依存状態)の輸液として、「ただちに生理食塩水を1,000mL/hr(14~20mL/kg/hr)の速度で点滴静注を開始」と明記されているので、体重が130kgにも及ぶ肥満男性であった患者に対しては、1時間に500mLのボトルで少なくとも2本は投与すべきであったことになります。ところが本件では、当初の輸液オーダーが少なすぎ、3時間で500mLのボトル1本のペースでした。1時間に500mLの点滴を2本も投与するという輸液量は、かなりのハイペースとなりますので、一般的な感触では「ここまで多くしなくても良いのでは」という印象です。しかし、数々のエビデンスをもとに推奨されている治療ガイドラインで「ただちに生理食塩水を1,000mL/hr(14~20mL/kg/hr)の速度で点滴静注を開始」とされている以上、今回の少なすぎる輸液量では標準から大きく外れていることになります。本件では入院当初から糖尿病性ケトアシドーシス、脱水という診断がついていたのですから、「インスリンによる血糖値管理」と「多めの輸液」という治療方針を立てるのが医学的常識でしょう。しかし、経験的な感覚で治療を行っていると、今回の輸液のように、結果的には最近の知見から外れた治療となってしまう危険性が潜んでいるので注意が必要です。本件でも、ひととおりの処置が終了した後で、治療方針や点滴内容が正しかったのかどうか、成書を参照したり同僚に聞いてみるといった時間的余裕はあったと思われます。最近の傾向として、各種医療行為の結果が思わしくなく、患者本人または家族がその事実を受け入れられないと、ほとんどのケースで紛争へ発展するような印象があります。その場合には、医学書、論文、各種ガイドラインなどの記述をもとに、その時の医療行為が正しかったかどうか細かな検証が行われ、「医師の裁量範囲内」という考え方はなかなか採用されません。そのため、日頃から学会での話題や治療ガイドラインを確認して知識をアップデートしておくことが望まれます。糖尿病・代謝・内分泌

205.

中高年の病因不明の慢性湿疹、Ca拮抗薬とサイアザイド系利尿薬との関連

 50歳以上の中高年に認められる病因不明の慢性湿疹について、Ca拮抗薬およびサイアザイド系利尿薬との関連を指摘する知見が、米国・ユタ大学のErika M. Summers氏らによる後ろ向き症例対照研究の結果、報告された。 皮膚科医が、中高年者の慢性湿疹(chronic eczematous eruptions in the aging:CEEA)に遭遇する頻度が高いことから、研究グループは、薬剤性湿疹の可能性について検討した。薬剤性湿疹が疑われる場合、原因となる医薬品を特定することは臨床的に複雑なチャレンジとなっている。JAMA Dermatology誌オンライン版2013年5月1日号の掲載報告。 本研究は米国において特定の医薬品、とくに今回はCa拮抗薬がCEEAと関連しているか検討することを目的とした。 ユタ大学医学部皮膚科部門の外来患者を対象とし、2005年1月1日~2011年12月31日の間に、2ヵ月以上の説明がつかない対称性の湿疹がみられた50歳以上の94例を対象症例とした。薬剤性湿疹が臨床的に疑われる場合、海綿状皮膚炎あるいは接合部皮膚炎などの組織病理学的な変化がみられる場合も適格とし、対照群として年齢、性別、人種でマッチさせた皮膚の状態が良好な132例を設定し分析を行った。また、従来法の皮膚生検で炎症が認められた症例についてサブグループ解析を行い、湿疹型薬疹(湿疹、接合部皮膚炎など)との関連についても調べた。  主要評価項目は、特定の医薬品と、説明がつかない病因不明のCEEAとの関連とした。 主な結果は以下のとおり。・症例群と対照群では、Ca拮抗薬とサイアザイド系利尿薬の使用について、有意な差異が明らかであった。・Ca拮抗薬の適合オッズ比は4.21(95%CI:1.77~9.97、p=0.001)、サイアザイド系利尿薬の適合オッズ比は2.07(同:1.08~3.96、p=0.03)であった。・サブグループ解析では、統計的に有意な関連性が一つも示されなかった。

206.

基準通り抗がん剤を投与したにもかかわらず副作用で急死した肺がんのケース

癌・腫瘍最終判決判例時報 1734号71-82頁概要息切れを主訴としてがん専門病院を受診し、肺がんと診断された66歳男性。精査の結果、右上葉原発の腺がんで、右胸水貯留、肺内多発転移があり、胸腔ドレナージ、胸膜癒着術を行ったのち、シスプラチンと塩酸イリノテカンの併用化学療法が予定された。もともと軽度腎機能障害がみられていたが、初回シスプラチン、塩酸イリノテカン2剤投与後徐々に腎機能障害が悪化した。予定通り初回投与から1週間後に塩酸イリノテカンの単独投与が行われたが、その直後から腎機能の悪化が加速し、重度の骨髄抑制作用、敗血症へといたり、化学療法開始後2週間で死亡した。詳細な経過患者情報12年前から肥大型心筋症、痛風と診断され通院治療を行っていた66歳男性経過1994年3月中旬息切れが出現。3月28日胸部X線写真で胸水を確認。細胞診でclass V。4月11日精査治療目的で県立ガンセンターへ紹介。外来で諸検査を施行し、右上葉原発の肺がんで、右下肺野に肺内多発転移があり、がん性胸膜炎を合併していると診断。5月11日入院し胸腔ドレナージ施行、胸水1,500mL排出。胸膜癒着の目的で、溶連菌抽出物(商品名:ピシバニール)およびシスプラチン(同:アイエーコール)50mgを胸腔内に注入。5月17日胸腔ドレナージ抜去。胸部CTで胸膜の癒着を確認したうえで、化学療法を施行することについて説明。シスプラチンと塩酸イリノテカンの併用療法を予定した(シスプラチン80mg/m2、塩酸イリノテカン60mg/m2を第1日、その後塩酸イリノテカン60mg/m2を第8日、第15日単独投与を1クールとして、2クール以上くり返す「パイロット併用臨床試験」に準じたレジメン)。医師:抗がん剤は2種類で行い、その内の一つは新薬として承認されたばかりでようやく使えるようになったものです。副作用として、吐き気、嘔吐、食欲低下、便秘、下痢などが生じる可能性があります。そのため制吐薬を投与して嘔吐を予防し、腎機能障害を予防するため点滴量を多くして尿量を多くする必要があります。白血球減少などの骨髄障害を生じる可能性があり、その場合には白血球増殖因子を投与します患者:新薬を使うといわれたが、具体的な薬品名、吐き気以外の副作用の内容、副作用により死亡する可能性などは一切聞いていない5月23日BUN 26.9、Cre 1.31、Ccr 40.63mL/min。5月25日シスプラチン80mg/m2、塩酸イリノテカン60mg/m2投与。5月27日BUN 42.2、Cre 1.98、WBC 9,100、シスプラチンによる腎機能障害と判断し、輸液と利尿薬を継続。6月1日BUN 74.1、Cre 2.68、WBC 7,900。主治医は不在であったが予定通り塩酸イリノテカン60mg/m2投与。医師:パイロット併用臨床試験に準じたレジメンでは、スキップ基準(塩酸イリノテカンを投与しない基準)として、「WBC 3,000未満、血小板10万未満、下痢」とあり、腎機能障害は含まれていなかったので、予定通り塩酸イリノテカンを投与した。/li>患者:上腹部不快感、嘔吐、吃逆、朝食も昼食もとれず、笑顔はみせるも活気のない状態なのに抗がん剤をうたれた。しかもこの日、主治医は学会に出席するため出張中であり、部下の医師に申し送りもなかった。6月3日BUN 67.5、Cre 2.55、WBC 7,500、吐き気、泥状便、食欲不振、血尿、胃痛が持続。6月6日BUN 96.3、Cre 4.04、WBC 6,000、意識レベルの低下および血圧低下がみられ、昇圧剤、白血球増殖因子、抗菌薬などを投与したが、敗血症となり病態は進行性に悪化。6月8日懸命の蘇生措置にもかかわらず死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張1.シスプラチンと塩酸イリノテカンの併用投与当時は副作用について十分な知識がなく、しかも抗がん剤使用前から腎機能障害がみられていたので、腎毒性をもつシスプラチンとの併用療法はするべきではなかった2.塩酸イリノテカンの再投与塩酸イリノテカン再投与前は、食欲がなく吐き気が続き、しかも腎機能が著しく低下していたので、漫然と再投与を行ったのは過失である。しかも、学会に出席していて患者の顔もみずに再投与したのは、危険な薬剤の無診察投与である2.インフォームドコンセント塩酸イリノテカン投与に際し、単に「新しい薬がでたから」と述べただけで、具体的な薬の名前、併用する薬剤、副作用、死亡する可能性などについては一切説明なく不十分であった。仮にカルテに記載されたような説明がなされたとしても、カルテには承諾を得た旨の記載はない病院側(被告)の主張1.シスプラチンと塩酸イリノテカンの併用投与シスプラチン、塩酸イリノテカンはともに厚生大臣(当時)から認可された薬剤であり、両者の併用療法は各臨床試験を経て有用性が確認されたものである。抗がん剤開始時点において、腎機能は1/3程度に低下していたが、これは予備能力の低下に過ぎず、併用投与の禁忌患者とされる「重篤な腎障害」とはいえない2.塩酸イリノテカンの再投与塩酸イリノテカン研究会の臨床試験実施計画書によれば、2回目投与予定日に「投与しない基準」として白血球数の低下、血小板数の低下、下痢などが記載されているが、本件はいずれにも該当しないので、腎機能との関係で再投与を中止すべき根拠はない。なお当日は学会に出席していたが、同僚の呼吸器内科医師に十分な引き継ぎをしている2.インフォームドコンセント医師は患者や家族に対して、詳しい説明を行っても、特段の事情がない限りその要旨だけをカルテに記載し、また、患者から承諾を得てもその旨を記載しないのが普通である裁判所の判断1. 腎機能悪化の予見可能性抗がん剤投与前から腎機能障害が、シスプラチンの腎毒性によって悪化し、その状態で塩酸イリノテカンの腎毒性によりさらに腎機能が悪化し、骨髄抑制作用が強く出現して死亡した。もし塩酸イリノテカンを再投与していなければ、3ヵ月程度の余命が期待できた。2. 塩酸イリノテカンの再投与塩酸イリノテカン再投与時、腎機能は併用療法によって確実に悪化していたため、慎重に投与するかあるいは腎機能が回復するまで投与を控えるべきであったのに、引き継ぎの医師に対して細かな指示を出すことなく、主治医は学会に出席した。これに対し被告はスキップ基準に該当しないことを理由に再投与は過失ではないと主張するが、そもそもスキップ基準は腎機能が正常な患者に対して行われる併用療法に適用されるため、投与直前の患者の各種検査結果、全身状態、さらには患者の希望などにより、柔軟にあるいは厳格に解釈する必要があり、スキップ基準を絶対視するのは誤りである。3. インフォームドコンセント被告は抗がん剤の副作用について説明したというが、診療録には副作用について説明した旨の記載はないこと、副作用の説明は聞いていないという遺族の供述は一致していることから、診療録には説明した内容のすべてを記載する訳ではないことを考慮しても、被告の供述は信用できない。原告側合計2,845万円の請求に対し、536万円の判決考察本件のような医事紛争をみるにつけ、医師と患者側の認識には往々にしてきわめて大きなギャップがあるという問題点を、あらためて考えざるを得ません。まず医師の立場から。今回の担当医師は、とてもまじめな印象を受ける呼吸器内科専門医です。本件のような手術適応のない肺がん、それも余命数ヵ月の患者に対し、少しでも生存期間を延ばすことを目的として、平成6年当時認可が下りてまもない塩酸イリノテカンとシスプラチンの併用療法を考えました。この塩酸イリノテカンは、非小細胞肺がんに効果があり、本件のような腺がん非切除例に対する単独投与(第II相臨床試験;初回治療例)の奏効率は29.8%、パイロット併用試験における奏効率は52.9%と報告されています。そこで医師としての良心から、腫瘍縮小効果をねらって標準的なプロトコールに準拠した化学療法を開始しました。そして、化学療法施行前から、BUN 26.9、Cre 1.31、クレアチニンクリアランスが40.63mL/minと低下していたため、シスプラチンの腎毒性を考えた慎重な対応を行っています。1回目シスプラチンおよび塩酸イリノテカン静注後、徐々に腎機能が悪化したため、投与後しばらくは多めの輸液と利尿薬を継続しました。その後腎機能はBUN 74.1、Cre 2.68となりましたが、初回投与から1週間後の2回目投与ではシスプラチンは予定に入らず塩酸イリノテカンの単独投与でしたので、その当時シスプラチン程には腎毒性が問題視されていなかった塩酸イリノテカンを投与することに踏み切りました。もちろん、それまでに行われていたパイロット併用試験におけるスキップ基準には、白血球減少や血小板減少がみられた時は化学療法を中止しても、腎障害があることによって化学療法を中止するような取り決めはありませんでした。したがって、BUN 74.1、Cre 2.68という腎機能障害をどの程度深刻に受け止めるかは意見が分かれると思いますが、臨床医学的にみた場合には明らかな不注意、怠慢などの問題を指摘することはできないと思います。一方患者側の立場では、「余命幾ばくもない肺がんと診断されてしまった。担当医師からは新しい抗がん剤を注射するとはいわれたが、まさか2週間で死亡するなんて夢にも思わなかったし、副作用の話なんてこれっぽっちも聞いていない」ということでしょう。なぜこれほどまでに医師と患者側の考え方にギャップができてしまったのでしょうか。さらに、死亡後の対応に不信感を抱いた遺族は裁判にまで踏み切ったのですから、とても残念でなりません。ただ今回の背景には、紛争原因の一つとして、医師から患者側への「一方通行のインフォームドコンセント」が潜在していたように思います。担当医師はことあるごとに患者側に説明を行って、予後の大変厳しい肺がんではあるけれども、できる限りのことはしましょう、という良心に基づいた医療を行ったのは間違いないと思います。そのうえで、きちんと患者に説明したことの「要旨」をカルテに記載しましたので、「どうして間違いを起こしていないのに訴えられるのか」とお考えのことと思います。ところが、説明したはずの肝心な部分が患者側には適切に伝わらなかった、ということが大きな問題であると思います(なお通常の薬剤を基準通り使用したにもかかわらず死亡もしくは後遺障害が残存した時は、医薬品副作用被害救済制度を利用できますが、今回のような抗がん剤には適用されない取り決めになっています)。もう一つ重要なのは、判決文に「患者の希望を取り入れたか」ということが記載されている点です。本件では抗がん剤の選択にあたって、「新しい薬がでたから」ということで化学療法が始まりました。おそらく、主治医はシスプラチンと塩酸イリノテカンの併用療法がこの時点で考え得る最良の選択と信じたために、あえて別の方法を提示したり、個々の医療行為について患者側の希望を聞くといった姿勢をみせなかったと思います。このような考え方は、パターナリズム(父権主義:お任せ医療)にも通じると思いますが、近年の医事紛争の場ではなかなか受け入れがたい考え方になりつつあります。がんの告知、あるいは治療についてのインフォームドコンセントでは、限られた時間内に多くのことを説明しなければならないため、どうしても患者にとって難解な用語、統計的な数字などを用いがちだと思います。そして、患者の方からは、多忙そうな医師に質問すると迷惑になるのではないか、威圧的な雰囲気では言葉を差し挟むことすらできない、などといった理由で、ミスコミュニケーションに発展するという声をよく聞きます。中には、「あの先生はとても真剣な眼をして一生懸命話してくれた。そこまでしてくれたのだからあの先生にすべてを託そう」ですとか、「いろいろ難しい話があったけれども、最後に「私に任せてください」と自信を持っていってくれたので安心した」というやりとりもありますが、これほど医療事故が問題視されている状況では、一歩間違えると不毛な医事紛争へと発展します。こうした行き違いは、われわれすべての医師にとって遭遇する可能性のあるリスクといえます。結局は「言った言わないの争い」になってしまいますが、やはり患者側が理解できる説明を行うとともに、実際に患者側が理解しているのか確かめるのが重要ではないでしょうか。そして、カルテを記載する時には、いつも最悪のことを想定した症状説明を行っていること(本件では抗がん剤の副作用によって死亡する可能性もあること)がわかるようにしておかないと、本件のような医事紛争を回避するのはとても難しくなると思います。癌・腫瘍

207.

心不全への標準治療に加えたアリスキレン投与、長期アウトカム改善せず/JAMA

 心不全入院患者に対し、利尿薬やβ遮断薬などの標準的治療に加え、直接的レニン阻害薬の降圧薬アリスキレン(商品名:ラジレス)の投与を行っても、6ヵ月、12ヵ月後のアウトカム改善は認められなかったことが、米国・ノースウェスタン大学のMihai Gheorghiade氏らによるプラセボ対照無作為化二重盲検試験の結果、報告された。研究グループは、先行研究における、心不全患者に対するアリスキレン投与は脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)を有意に低下し良好な血行動態をもたらすといった報告を踏まえて、アリスキレンの長期アウトカム改善の可能性に関する本検討を行った。JAMA誌2013年3月20日号掲載の報告より。世界316ヵ所で、心不全入院患者1,639例を無作為化 研究グループは2009年5月~2011年12月にかけて、南・北米、ヨーロッパ、アジアの316ヵ所の医療機関を通じ、心不全で入院した患者1,639例を対象に無作為化試験を行った。アリスキレンを、標準的な治療に加え投与した場合のアウトカムについて比較した。 被験者は18歳以上で、左室駆出率(LVEF)40%以下、BNP値400pg/mL以上、またはN末端プロBNP(NT-proBNP)値1,600pg/mL以上であった。また、水分過負荷の徴候や症状も認められた。 主要アウトカムは、6ヵ月後および12ヵ月後の心血管死または心不全による再入院とした。心血管死または心不全のイベント発生率、両群で同程度 被験者のうち最終的に分析対象に組み込まれたのは1,615例だった。平均年齢は65歳、平均LVEFは28%、平均推定糸球体濾過量(eGFR)は67mL/分/1.73m2だった。また被験者のうち41%が糖尿病を有していた。無作為化時点で利尿薬を服用していたのは95.9%、β遮断薬は82.5%、ACE阻害薬またはARBは84.2%、アルドステロン受容体拮抗薬は57.0%だった。 6ヵ月後の主要エンドポイント発生率は、アリスキレン群24.9%(心血管死:77例、心不全による再入院:153例)に対し、プラセボ群は26.5%(同:85例、同:166例)であり、両群で有意差はなかった(ハザード比:0.92、95%信頼区間:0.76~1.12、p=0.41)。 12ヵ月後の同イベント発生率についても、アリスキレン群35.0%に対しプラセボ群37.3%と、両群で有意差はなかった(同:0.93、0.79~1.09、p=0.36)。 なお、高カリウム血症、低血圧症、腎機能障害や腎不全の発症率は、いずれもアリスキレン群で高率だった。

209.

ポンペ病〔Pompe Disease〕

1 疾患概要■ 定義ポンペ病(OMIM232300)は糖原病II型(GSD-II)であり、1932年ポンペにより報告された。ポンペ病はライソゾームに局在する酸性α-グルコシダーゼ(GAA)の酵素欠損によりライソゾーム内にグリコーゲンが蓄積する。■ 疫学遺伝形式として、常染色体劣性遺伝形式をとり、頻度は約4万人に1人といわれている。■ 病因ポンペ病では酸性α-グルコシダーゼの酵素欠損により、ほぼすべての臓器にグリコーゲンが蓄積する。肝臓、筋肉、心臓、消化器系の平滑筋、膀胱、腎臓、脾臓、血管、シュワン細胞などの細胞、組織に蓄積する。内耳の絨毛にも蓄積するために難聴も呈する。肥大型心筋症は、乳児型のポンペ病では特徴的な症状である。骨格筋の組織変化は、筋の種類、部位によりさまざまで、グリコーゲンの蓄積の程度、障害度は異なる。病初期は小さい空胞が認められ、徐々にリポフスチン、ミトコンドリア膜などが大量に蓄積し、オートファゴゾームが形成される。とくにfast-twitch type 2線維に多くみられる。組織の線維化に伴い、年齢と共に二次的な組織変化を認め、酵素治療しても不可逆的変化を来す。オートファゴゾーム内にグリコーゲンが大量に蓄積している。■ 症状ポンペ病の発症は、患者により異なり、0~60代までいずれの年齢にも発症する。臨床的には(1)乳児型、(2)遅発型(小児型、成人型)に分類される(表1)。画像を拡大する1)乳児型通常、患児は生後1.6~2ヵ月で哺乳力の低下、発育障害、呼吸障害、筋力低下などの症状を呈し、発症する。平均診断年齢は生後4~5ヵ月である(図1)。心肥大が病初期より著明であり(図2)、心エコー上心筋の肥大、心電図ではhigh voltage、short P-R intervalなどを呈する。年齢とともに運動発達の遅れが著明となり、頸定も難しく、寝返り、座位もできない。腱反射の低下、舌が大きく、肝臓も中等度に腫大している。酵素補充療法を施行しないと、通常は平均6~8.7ヵ月で死亡する。1歳を超えて生存する患者は少ない。画像を拡大する画像を拡大する2)遅発型患者の発症年齢は残存酵素活性により異なる。生後1歳頃から62歳まで報告されている。筋力低下、歩行障害、朝の頭痛、特徴的な上ずった言葉、顔面筋の萎縮、呼吸障害、ガワーズ徴候などが比較的初期症状である(図3)。主に骨格筋、呼吸筋、舌筋、横隔膜筋、四肢の筋がさまざまな程度で障害を受ける。心筋を障害するタイプは、小児型といわれる非定形型のタイプで障害する。患者は徐々に呼吸障害、構音障害、歩行障害が強くなり、人工呼吸器の装着、車いす状態となり、最後は呼吸障害、気胸、肺炎などを合併して死亡する。通常、発症年齢は27~36歳、診断年齢は34~41歳、人工呼吸器使用年齢は37~47歳、車いす使用年齢は平均41歳である。画像を拡大する■ 分類臨床的には、前述のように乳児型と遅発型(小児型、成人型)に分類される(表1)。■ 予後とくに乳児型では心筋、ならびに骨格筋など全身の組織に蓄積することにより、心肥大、筋力低下を来し、通常心不全を呈し2歳までには死亡する。遅発型では筋力低下に伴う歩行障害から呼吸筋麻痺を来し、人工呼吸器をつける状態で肺炎、気胸などを合併し、死亡する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断としては、1)臨床的診断、2)病理学的診断、3)生化学的診断(酵素活性、バイオマーカーなど)、4)遺伝子診断などがある。1)臨床的診断(表2)特徴的な臨床症状のほか、乳児型では心電図、心エコー、血清CPKの高値を認める。遅発型でも筋力低下、血清CPK、アルドラーゼの高値を認める。心電図ではPR間隔の短縮、QRSの高電位などがみられる。筋CT、MRIは筋の萎縮、変性を評価するのに重要である。小児型、成人型では椎骨脳底動脈領域に動脈瘤を形成しやすい。画像を拡大する2)病理学的診断ポンペ病の病理学的診断は生検筋でのライソゾーム内でのグリコーゲンの蓄積に伴う空胞化で特徴づけられる。成人型ではあまり組織変化が顕著でない症例もある。乳児型では筋線維が大小不同、筋線維の崩壊、オートファジーの形成、ライソゾーム内に著明なグリコーゲンの蓄積、PAS陽性物質の蓄積が認められる。成人型でも軽度であるが、PAS陽性、酸性ホスファターゼ染色陽性である。電顕所見ではライソゾームが巨大化し、ミエリン様封入体の蓄積もみられる。筋原線維の断裂なども著明である。3)生化学的検査(1)酵素活性の測定酸性α-グルコシダーゼの活性は、人工基質である蛍光基質4- methylumbelliferone誘導体を用いて、患者乾燥濾紙血、あるいはリンパ球、皮膚線維芽細胞で測定して著明に低下する。確定診断として、リンパ球、皮膚線維芽細胞で測定する。患者の診断は比較的、酵素診断で可能であるが、正常者の中にはpseudodeficiencyもおり、正常値の20~40%の酵素活性を示す。日本人の頻度は多く、約50人に1人といわれ、遺伝子診断により患者と鑑別する。保因者は約50%の活性であり、pseudodeficiencyとの鑑別も重要である。出生前診断も可能である。(2)尿中のバイオマーカーの測定ポンペ病患者の尿では、オリゴサッカライドが排泄され、4糖を液体クロマトグラフィー、あるいはタンデムマスで測定する。4)遺伝子診断酸性α-グルコシダーゼ(GAA)の遺伝子は染色体の17q25.2-q25.3に局在する。GAA遺伝子は28kbでエクソンは20存在する。現在まで200以上の遺伝子変異が報告されている。最も多い変異は、乳児型あるいは成人型の一部でみられるc-32-13T>Gの遺伝子変異であり、欧米患者では約75%を占める。C1935C>Aは台湾に多く、cdel.525,delexon18変異はオランダなどのヨーローッパ諸国に多い。日本人ではc.1585_1589TC>GT、c1798C>Tが多くみられる変異として報告されている。pseudodeficiencyの遺伝子型としてはc1726G>A(p.G576S)、c2065 G>A (pE689K)が知られている。酵素活性は正常の20~40%程度を示す。頻度としては両者とも正常人の3~4%の頻度で見い出されている。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)最近、遺伝子工学により作成されたヒト型酵素アルグルコシダーゼα(商品名:マイオザイム)の酵素補充療法について、早期の治療による臨床症状の改善が報告されている。また、早期診断・治療のために新生児マス・スクリーニングの有用性が報告されている。ポンペ病の治療は、大きく分類して下記のような治療が挙げられる。1)対症療法●乳児型(1)心不全に対しての治療心筋の肥大、横隔膜の挙上などは呼吸障害の要因にもなる。心不全に対する強心薬、利尿薬などの投与、脱水に対する補液が必要。胸部X線、心エコーで病状をフォローする。(2)呼吸管理肺炎、細菌感染など起こしやすい。抗菌薬(マクロライド系)の投与、去痰薬の投与、排痰補助装置などのほか、必要に応じて酸素投与を行う。末期では人工呼吸器の装着をする。(3)嚥下障害に対する管理チューブ栄養などを行う。(4)リハビリテーション酵素補充療法とともに歩行訓練、四肢の運動などを補助する。(5)栄養管理嚥下できない患児に対しては、チューブ栄養、高蛋白食を基本として、高ビタミン、ミネラルを与える。●遅発型(1)呼吸管理初期のうちはタッピング、CPAP、人工呼吸管理など病状に応じて行う。呼吸状態を評価し、感染の予防、抗菌薬の投与、去痰薬の投与、CPAP、人工呼吸管理が必要。(2)嚥下障害の管理嚥下性肺炎の防止。(3)歩行障害に対しての管理歩行のためのリハビリ、装具の着装。(4)栄養管理高蛋白食、高ビタミン食、嚥下困難なときは刻み食、流動食。(5)感染症に対する管理感染症の管理、抗菌薬の投与。2)酵素補充療法酸性α-グルコシダーゼは、マンノース-6-リン酸あるいはIGF-IIレセプターを介して細胞内に効率良く取り込まれ、とくに肝臓、脾臓などの網内細胞に取り込まれる。しかし、心筋、あるいは骨格筋への取り込みは少ない。ポンペ病では、20mg/kgの高単位の酵素を投与することにより筋肉内に強制的に取り込みをさせている。早期治療した患者では著しい臨床症状の改善が認められている。Kishnaniは、乳児型ポンペ病(18例)において、52週の治療研究で95%の死亡率低下と侵襲的呼吸器装着を有意に低下させることができたと報告している。また、新生児マス・スクリーニングで発見され、生後1ヵ月以内に治療した患者では著明な成果が得られており、生存期間は、ほぼ正常な臨床経過を得ている。一方、遅発型の臨床試験では20mg/kg、2週間に1回の酵素補充療法により、6分間歩行ならびに呼吸機能の悪化を防ぐことができたと報告されている。ポンペ病の場合は、酵素に対する抗体産生により酵素治療に反応するgood responderあるいはpoor responderの症例が存在する。4 今後の展望1)シャペロン治療ファブリー病と同様にポンペ病患者の皮膚線維芽細胞レベルではN-butyldeoxynojirimycin(NB-DNJ)の添加により、一部の遺伝子変異のある患者で酸性α-グルコシダーゼ活性が50%以上、上昇する。しかし、いまだ臨床試験のレベルまでは達成していない。2)遺伝子治療レンチウイルスあるいはAAVベクターを用いてのin vivoポンペ病マウスでの遺伝子治療の成功例が報告されている。また、骨髄幹細胞へのex vivoでの遺伝子治療について、Lentiウイルスベクターを用いたポンペ病マウスへの治療に関しても報告されている。3)新生児スクリーニング乳児型のポンペ病では、とくに早期診断が治療と結びつき、重要と考えられる。台湾のChienらは20万6,088名の新生児を乾燥濾紙血を用いてマス・スクリーニングを行い、5名の患者を見出し、かつ生後1ヵ月以内に酵素補充療法を施行した結果、心拡大、筋に組織変化の改善を認め、いずれの症例も正常な発達ならびに呼吸障害を認めず、新生児スクリーニングの著明な成果を報告している。わが国でもパイロット的に新生児スクリーニングの開発が行われている。乳児型の早期診断、治療の重要性を示した貴重な成果と考えられる。5 主たる診療科小児科、神経内科、リハビリテーション科など※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療・研究に関する情報日本ポンペ病研究会(医療従事者向け情報と一般利用者向けのまとまった情報)難病情報センター(医療従事者向け情報と一般利用者向けのまとまった情報)患者会情報全国ポンペ病患者と家族の会1)Hirschhorn R, et al. Glycogen Storage Disease Type II: Acid-Alpha Glucosidase (Acid Maltase) Deficiency. In: Scriver CR et al, editors. The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease. 8th ed. NY: McGraw-Hill; 2001. p.3389-3420.2)Engel AG, et al. Neurology. 1973; 23: 95-106.3)Kishnani PS, et al. J Pediatr. 2006; 148: 671-676.4)衞藤義勝. ポンペ病(糖原病II型):診断と治療社.2009

210.

エキスパートに聞く!「COPD」Q&A

認知症や寝たきり患者さんのCOPD診断の方法は?この場合、呼吸機能検査や胸部所見もとれませんので厳しい状態ではありますが、換気不全については呼気CO2アナライザーを用いて確認可能です。換気不全があると呼気中CO2濃度は上昇します。間質性肺疾患など拘束性換気障害ではこのような現象はみられませんので、呼気中CO2濃度の上昇は閉塞性障害がベースにあるという根拠になります。長い喫煙歴がありCOPDの肺所見もあるが、スパイロメトリーは正常な患者に対する対応法は?横隔膜の平低化などの画像所見がある方で、スパイロメトリーが正常だということはまずなく、何か異常があるものです。しかし、閉塞性換気障害が確認できない場合でも、咳や痰などの症状がある場合、旧分類ではステージ0とされ、将来COPDになる可能性が高いため、禁煙が推奨されています。また、こういった方たちの進行をいかにして防ぐかというのは今後の課題でもあります。呼吸器・循環器疾患の既往がなく非喫煙者であるものの、スパイロメトリーが異常な患者に対する対応法は?このケースではさまざまな要素が考えられます。閉塞性換気障害があることを想定すると、まず喘息の鑑別が必要です。また、非喫煙者であっても受動性喫煙についての情報をとることも重要です。さらに、胸郭の変形の確認や、日本人にはほとんどいませんがαアンチトリプシン欠損の除外も必要です。それから、もう1つ重要なことは、再検査によるデータの確認です。患者さんの努力依存性の検査ですから、適切に測定されて得られる結果かどうかの確認はぜひとも必要です。COPDと心不全合併症例における治療方針は?原則としてCOPDについてはCOPDの治療を行いますが、薬物療法とともに低酸素血症への酸素投与が重要です。COPDにより誘導される心不全は、基本的には右心不全であり、利尿薬が選択されます。拡張性心不全に準じて、利尿薬とともに利尿薬によるレニン-アンジオテンシン系の刺激作用を抑制するためにACE阻害薬やARBの併用が勧められています。不整脈などの症状が出たら、それに合わせた対応が必要となります。吸入ステロイドを導入するケースは?吸入ステロイド(以下:ICS)はCOPDそのものに対する有効性はあまり認められていません。しかし、急性増悪の頻度を減らすことが認められています。そのため、ICSは増悪を繰り返す際に安定を得るために投与するのが良いと考えられます。また、現在は長時間作用性β2刺激薬(以下:LABA)との配合剤もあり、選択肢が広がっています。LAMA、LABA/ LAMA配合薬、ICS/LABA配合薬の使い分けについて教えてくださいLAMAおよびLABA/LAMAについては、さまざまな有効性が証明されており、COPDの薬物療法のベースとして考えていただくべきだと思います。ICS/LABA配合薬 については、上記ICSの適応症例に準じて、適用を判断していくべきだと思います。また、テオフィリンのアドオンも良好な効果を示し、ガイドラインで推奨されているオーソドックスな方法であることを忘れてはいけないと思います。*ICS:吸入ステロイド、LABA:長時間作用性β2刺激薬、LAMA:長時間作用性抗コリン薬

211.

〔CLEAR! ジャーナル四天王(50)〕 降圧薬併用にNSAIDsで、急性腎障害が増加する!-多剤併用にご用心

薬剤による腎障害は、腎臓が多くの薬物の排泄臓器であることから、急性腎不全の重要な原因であり、臨床家は薬剤の使用にあたって、常に薬剤に起因する腎障害のリスクに配慮することが望まれている。数ある薬剤の中でも、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、その汎用性から、多くの使用機会があり、注意が必要とされる薬剤の一つである。とくに高齢者は複数の疾病を併存することが一般的であり、個々の疾病に沿ったガイドラン治療は、多くの場合、併用薬物によるリスクまでは十分に言及されていないのが現状である。 本論文は、およそ50万人のコホートを対象に、降圧薬、中でも降圧利尿薬、レニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬と、NSAIDsの併用による腎障害の発症リスクを解析した論文である。急性腎障害の判定は、ICD-10の診断コードに基づいている。 CKD診療は、腎保護と心血管保護とを両立させることが大きな目標である。降圧薬は高血圧合併のCKD診療において重要な地位を占めているが、これまでの臨床研究からは、その期待に反する結果をもたらす実態が明らかになっている。とくにRA系阻害薬では、併用による有害作用が報告されている。たとえば、RA系阻害薬同士の併用は、ALTITUDE試験やONTARGET試験において、腎機能障害を増加させることが示唆されている。また、RA系阻害薬と降圧利尿薬との併用は、GUARD試験およびACCOMPLISH試験で、尿蛋白改善とeGFR低下という腎保護効果に乖離が認められ、腎イベントの増加をもたらした。本研究では、RA系阻害薬、降圧利尿薬およびNSAIDsの、三剤併用により30%の急性腎障害の増加が認められ、その発症の多くは30日以内であり、改めて降圧薬の腎障害リスクに警鐘を鳴らすものとなった。 多くの臨床研究は、結果をもたらすメカニズムを証明することはできない。この研究も例外ではないが、著者らは本論文中に、“Biological Mechanism”の一節を設けて、降圧利尿薬とNSAIDsの併用下では、腎血流の低下(体液量の減少)と輸入細動脈の収縮(プロスタサイクリンの合成抑制)が起り、angiotensin IIを介する輸出細動脈の収縮と、ナトリウム貯留によって糸球体濾過量が保たれていること、RA系阻害薬がこのようなangiotensin IIの生理的な機能を抑制することにより、有害作用をもたらすことに言及している。局所性RA系が、さまざまな臓器障害をもたらすとする仮説が提示され、これまでにしばしば、RA系抑制薬の “降圧を超えた臓器保護効果”が訴求されている。しかし、これまでの大規模臨床研究の結果は、必ずしもこのような作用の存在を支持している訳ではない。 今一度、生体の恒常性を維持する生理的システムとしてのRA系の役割に対する認識を新たにすることが、必要ではないか。

212.

降圧薬2剤併用にNSAIDsを追加併用、30日間は急性腎不全に注意が必要/BMJ

 利尿薬、ACE阻害薬あるいはARB、NSAIDsの組み合わせによる3剤併用制法は、急性腎不全リスクを増大することが、カナダ・Jewish General HospitalのFrancesco Lapi氏らによるコホート内症例対照研究の結果、報告された。リスクは、治療開始から30日間が最も強かったという。著者は、「降圧薬は心血管系にベネフィットをもたらすが、NSAIDsを同時併用する場合は十分に注意をしなければならない」と結論している。BMJ誌2013年1月12日号(オンライン版2012年12月18日号)掲載報告より。2剤併用とNSAIDsを追加した3剤併用療法の、急性腎不全リスク増大との関連を調査 研究グループは、降圧薬の利尿薬、ACE阻害薬あるいはARBの2剤併用療法に、NSAIDsを追加し3剤併用療法とした場合の、急性腎不全リスク増大との関連について調べた。 コホート内症例対照研究の手法を用いた後ろ向きコホート研究で、UK Clinical Practice Research DatalinkとHospital Episodes Statisticsデータベースから一般診療関連のデータを抽出して行われた。 主要評価項目は、直近の2剤または3剤併用療法との関連でみた急性腎不全の発生率[95%信頼区間(CI)]だった。3剤併用療法、開始後30日間の急性腎不全の補正後発生率比1.82 対象は、降圧薬を服用する48万7,372人であった。 平均追跡期間5.9年(SD 3.4)の間に、急性腎不全の発生が特定されたのは2,215件であった(発生率:7/1万人・年)。 全体として、利尿薬、ACE阻害薬、ARBのいずれかと、NSAIDsとの組み合わせによる2剤併用療法の利用者では、急性腎不全発生の増大はみられなかった。補正後発生率比は、利尿薬+NSAIDsは1.02(95%CI:0.81~1.28)、ACE阻害薬またはARB+NSAIDsは0.89(同:0.69~1.15)だった。 一方で、3剤併用療法の利用者では急性腎不全発生の増大がみられた。補正後発生率比は1.31(95%CI:1.12~1.53)だった。 また2次解析の結果、3剤併用療法で最も高率のリスクがみられたのは、使用開始後30日間だった。同期間の補正後発生率比は1.82(95%CI:1.35~2.46)だった(31~60日:1.63、61~90日:1.56、≧90日:1.01。またNSAIDs半減期別では、<12時間:1.29、≧12時間:1.77)。

213.

〔CLEAR! ジャーナル四天王(45)〕 腎障害を伴った心不全に対して持続的限外濾過療法は有害?

本研究は、腎機能悪化を伴う急性非代謝性心不全例に対して持続的静静脈限外濾過治療と通常治療(フロセミドの静脈内投与)の効果や副作用を比較したものである。このような急性心腎症候群例は実臨床ではよく遭遇するが、エビデンスのある治療法は確立されていない。 本研究は、このような例を対象に限外濾過法を早期から使用することによりその予後を改善できることを期待して行われたが、その結果は、残念ながら明らかな改善効果はみられず副作用が若干多かったというものであった。しかし、この研究を解釈するにあたり、考慮しなければならない事がいくつかある。 第一に、患者群は比較的若年(中央値で68歳)で、軽症(早期)の心腎症候群と思われる(割り付け前の血清クレアチニン上昇値は0.45 mg/dL)。つまり、利尿薬やその他の抗心不全薬でまだ改善が期待できそうな例が含まれている。第二に、研究開始時には血管拡張薬と強心薬が静脈内投与されていた例は除外されているが、最終的(第1エンドポイント確定前)に限外濾過群と比較して通常群で強心薬の静脈内投与が多く用いられている(3% vs 12%、p < 0.05)。第三に、心不全の原因として虚血性心疾患の割合が通常治療群に比較して、限外濾過群で有意に高いことである(51% vs 70%、 p < 0.01)。虚血性心疾患による心不全例は非虚血性心疾患によるものに比較して予後が悪いことが知られている。最後に、論文中でも述べられているように、急性心腎症候群に対する適切な限外濾過治療法(濾過の速度、量、時間)がまだ確立されていない事も問題である。 以上より、本研究を解釈する際には、利尿薬静注の工夫でまだ改善させうる余地がある急性心腎症候群例に対し、限外濾過群が若干不利な状況(虚血性心疾患が多い、強心薬併用頻度が低い、濾過の適切使用法が未確立)で行った結果であることを考慮する必要があろう。

214.

心腎症候群を呈した急性非代謝性心不全患者への限外濾過法vs.段階的薬物療法/NEJM

 急性非代謝性心不全で腎機能低下と持続的うっ血(心腎症候群)を呈した患者への限外濾過法(Aquadex System 100を使用)の有効性と安全性について、段階的薬物療法と比較した無作為化試験の結果、限外濾過法よりも段階的薬物療法のほうが腎機能保護効果に優れていることが米国・ヘネピン郡医療センターのBradley A. Bart氏らにより報告された。また体重減少は同程度であったが、有害事象の発現率は限外濾過法のほうが高かったという。急性非代謝性心不全患者で利尿薬静注を受ける患者は多いが、25~33%で心腎症候群が伴い転帰不良と関連する。心腎症候群には利尿薬静注が直接関与する場合もあり、また腎機能低下後の利尿薬投与はさらなる腎損傷を招く可能性があり、限外濾過法は代替療法としてガイドラインでも明記されている(クラスIIa、エビデンスB)。しかしこれまで有効性と安全性についてはほとんど不明であった。NEJM誌2012年12月13日(オンライン版2012年11月6日号)掲載より。無作為化後96時間の血清クレアチニン値と体重の変化をエンドポイントとし評価 試験は2008年6月~2012年1月の間、米国・カナダの22施設から、急性非代謝性心不全で心腎症候群を呈した188例を登録して行われた。 被験者は無作為に、限外濾過法(体液除去率200mL/時、94例)または段階的薬物療法(利尿薬静注の増減で尿量3~5L/日を維持、94例)を受ける群に割り付けられた。 主要エンドポイントは、無作為化後96時間で評価した、血清クレアチニン値と体重の、ベースラインからの変化であった。限外療法群でクレアチニン値が上昇、エンドポイントは薬物療法よりも劣る結果に 結果、96時間時点で評価した血清クレアチニン値および体重のベースラインからの変化は、いずれも有意な差がみられ、エンドポイントは限外濾過法群のほうが薬物療法群よりも劣っていた(p=0.003)。主としては、限外療法群でのクレアチニン値上昇によるところが大きかった。クレアチニン値の変化は、薬物療法群では平均0.04±0.53mg/dL低下したのに対し、限外濾過法群では0.23±0.70mg/dL上昇していた(p=0.003)。 体重減少については、両群で有意差は認められなかった。減少量は薬物療法群が5.5±5.1kg、限外濾過法群は5.7±3.9kgであった(p=0.58)。 一方で、重篤な有害事象を発現した患者の割合は、限外濾過群のほうが薬物療法群よりも高かった(72%対57%、p=0.03)。

215.

ARBの長期使用はがんのリスクを増大させるか?

 アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の長期使用とがんとの関連については、ランダム化比較試験や観察研究のメタアナリシスで矛盾した結果が報じられており、物議を醸している。 カナダのLaurent Azoulay氏らは、ARBが4つのがん(肺がん、大腸がん、乳がん、前立腺がん)全体のリスク増大に関連するかどうかを判断し、さらにそれぞれのがん種への影響を調べるため、United Kingdom General Practice Research Databaseにおいてコホート内症例対照解析を用いて後ろ向きコホート研究を行った。その結果、ARBの使用は4つのがん全体およびがん種ごとのいずれにおいても、リスクを増大させなかったと報告した。PLoS One 誌オンライン版2012年12月12日号に掲載。 本研究では、1995年(英国において最初のARBであるロサルタンの発売年)から2008年の間に降圧薬を処方された患者コホートを2010年12月31日まで追跡調査した。 症例は、追跡調査中に新たに肺がん、大腸がん、乳がん、前立腺がんと診断された患者とした。ARBの使用と利尿薬やβ遮断薬(両方またはどちらか)の使用とを比較して、条件付きロジスティック回帰分析を行い、がんの調整発生率比(RR)と95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・コホートには116万5,781人の患者が含まれ、4万1,059人の患者が4つのがん種のうちの1つに診断されていた(554/100,000人年)。・ARBの使用とがんの増加率は、利尿薬やβ遮断薬(両方またはどちらか)の使用と比較し、4つのがん全体(RR:1.00、95%CI:0.96~1.03)、およびがん種ごとのどちらにおいても関連が認められなかった。・アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬(RR:1.13、95%CI:1.06~1.20)とCa拮抗薬(RR:1.19、95%CI:1.12~1.27)の使用が、それぞれ肺がんの増加率と関連していた。 著者は、「ACE阻害薬とCa拮抗薬による肺がんの潜在的なリスクを評価するためにさらなる研究が必要」としている。

216.

Dr.須藤のやりなおし輸液塾

第3回「輸液に必要な臨床所見・検査の見方」第4回「症例で考える」 第3回「輸液に必要な臨床所見・検査の見方」今回から実戦編として、「輸液に必要な臨床所見・検査の見方」を学んでいきます。教科書にはなかなか書かれていないのに、現場では非常に重要かつ悩ましい事例について、痒いところに手が届く解説でお届けします。  細胞外液量と血管内容量の評価について、いくつかの身体所見を例にとり、体液量の異常は病歴と身体所見でかなり把握できるようになります。また、特に輸液の際に重要な尿所見についての今さら聞けない生理学的な知識のおさらいから、意外と知られていない利尿薬の投与法の基本などについて須藤流の解説で、楽しみながら学べます。第4回「症例で考える」「輸液がこんなに奥深い分野とは!」と好評を博したシリーズ最終回は実戦編の総まとめとして、臨床現場で必ず突き当たる壁と言える症例から、輸液を考えていきます。  今回取り上げる症例は、「脱水症」、「高Na血症における水欠乏」、「乏尿」、「低Na血症の三つのケース」の4つです。これらの症例において、何を、どのくらい輸液していけばいいのかを、須藤先生がこれまでの経験から導き出した輸液の考え方、具体的な方法論をベースに解説します。特に、須藤先生考案の「輸液製剤・マグネット」を貼り付けながら、ビジュアルに理解してもらう試みは要チェックです。是非、明日の診療に役立ててください !

217.

【速報!AHA2012】同時複数箇所焼灼カテーテルを用いた腎動脈アブレーションの安全性:降圧効果は?:EnligHTN 1

 近年、Symplicityカテーテルを用いた腎動脈アブレーションの、薬物治療抵抗性高血圧に対する著明な降圧作用が報告されている。今回、EnligHTNカテーテルを用いても、同様の有用性を期待できることが明らかになった。パイロットスタディ "EnligHTN I" の結果として、4日のClinical Science: Special RepoertsセッションにてVAメディカルセンター(米国)のVasilious Papademetriou氏が報告した。  EnligHTNカテーテルは血管内で拡張し、血管壁の異なる4カ所を同時にアブレーションできる。このため、Symplicityカテーテルならばプルバックしながら周回性に4回行うアブレーションを、一度で施行できる。また4つのアブレーション部位は位置関係が常に同じとなるので、アブレーションをより正確な位置で行いうるなどの利点があるという。 今回、Papademetriou氏らは、このEnligHTNカテーテルによる腎動脈アブレーションの安全性と降圧作用を、薬物治療抵抗性高血圧で検討した。「薬物治療抵抗性」の定義は、利尿薬併用にもかかわらず、「診療所収縮期高血圧(SBP)≧160mmHg」である。 46例が登録された。診療所血圧は、平均4.1剤の降圧薬服用にもかかわらず176/96mmHgだった。心拍数は71拍/分。また30%に睡眠時無呼吸を認めた。  まず安全性だが、腎動脈アブレーション後6か月間に大きな問題は認めなかった。すなわち周術期に事故はなく、アブレーションに由来する腎動脈狭窄も認めなかった。1例が入院を有する低血圧を来したものの、降圧薬の調節で解決した。腎機能も、糸球体濾過率(eGFR)半減、血清クレアチニン2倍化、末期腎不全移行は認めなかった。ただし有意ではないが、経時的にeGFRは低下、血清クレアチニンは増加していた。  降圧作用については、アブレーション前に176/96mmHgだった診療所血圧から、1か月後には28/10mmHgの有意な低下を認め、3か月後27/10mmHg、6か月後にも26/10mmHgと降圧作用は維持された。一方、24時間平均血圧の低下幅は、1か月後、3か月後とも10/5mmHg、6か月後10/6mmHgと、診療所血圧に比べ降圧幅が小さい傾向にあった。夜間血圧の降圧幅は示されなかった。 指定討論者のRobert Carey氏(バージニア大学:米国)はこの結果を、先行する一連のSimplicity試験とおおむね同じと評し、最終的には臨床転機を評価せねばならないと述べた。取材協力:宇津貴史(医学レポーター)「他の演題はこちら」

218.

エキスパートに聞く!「高血圧」Q&A

CareNet.comでは9月の高血圧特集企画を行う中で、会員の先生より「高血圧」に関する質問を募集しました。その中から、特に多くいただいた質問に対し、下澤達雄先生にご回答いただきます。家庭血圧を用いる際の留意点について教えてください。昨年8月に発表された英国の高血圧ガイドラインでは、24時間血圧あるいは家庭血圧を高血圧の確定診断ならびに降圧治療の効果判定に用いることが強く推奨されました。わが国でも家庭血圧測定の指針が高血圧学会より出されており、実臨床でも多くの先生がお使いになっていることが、今回たくさんのご質問をいただいたことからも推察されます。そこで、家庭血圧を用いる際の留意点をいくつか挙げたいと思います。1.信頼性機械そのものの信頼性は診察室で同時に用手法と比較することで確認することができますが、血圧手帳を用いた自己申告による血圧値は必ずしも信頼できません。高知県で行われた調査では実測値と自己申告値には開きがあり、患者は低めに申告することが報告されています。よって、家庭血圧が低い場合でも臓器障害がある場合にはとくに診察室血圧を参考にした降圧治療が必要となります。あるいはメモリー機能をもった家庭血圧計を用い、実測値を医療側が把握できるようにする工夫が必要です。2.家庭血圧の測定方法血圧は複数回測れば必ず異なった値を示します。一般的には数回測ると徐々に低い値となります。高血圧学会の家庭血圧の指針では1日1回でよいと書かれていますが、これはまず患者に家庭血圧を測定させるために簡便な最低限の方法が記載されていると理解しています。すでに家庭血圧を日常的に測定できる患者においては複数回測定し、一番高い値と一番低い値、あるいは平均値を記載してもらうのがいいかと思います。測定時間は服薬直前が望ましいですが、日常生活にあわせてほぼ同じタイミングで測定できる時間を指導しています。3.夜間血圧を反映するか?何がわかるのか?残念ながら夜間血圧は夜間に測定する必要があり、家庭血圧では知ることができません。正しく測定でき、正直に申告された家庭血圧で白衣性高血圧、仮面高血圧がわかることはもちろんですが、曜日による血圧変動(週末ストレスがない場合に血圧が下がる)や睡眠状態との関連を知ることもできます。4.診察室血圧との乖離前述のように白衣性高血圧、仮面高血圧と診断されますが、臓器障害がある場合は高いほうの血圧を目安に治療を行うべきです。血圧変動について教えてください。外来診察毎の血圧変動が大きいと脳血管イベントが多くなることが報告されました。以来、糖尿病の際の血糖の変動が臓器障害と関連づけられています。動物実験でも交感神経を切除して血圧変動を大きくすると、レニン・アンジオテンシン系が亢進して臓器障害が進行することが報告されています。ヒトにおいては長期にわたる一拍ごとの血圧変動をみることは困難であり確立したエビデンスはありませんが、血圧変動は少なくする方が望ましいでしょう。血圧変動が大きい原因として自律神経障害、褐色細胞腫のような器質的な異常のほかに服薬アドヒアランス不良、精神的ストレス、不眠(睡眠時無呼吸)といった要因もあり、医師のみならず看護師、薬剤師などからの患者の病歴、生活歴聴取が必要となります。服薬は管理されているにもかかわらず認知症患者ではとくに血圧変動が大きいことが問題になりますが、多くの場合は多発性脳梗塞を合併している例です。転倒のリスクがなければ認知症の進行、脳梗塞の再発予防を考えて血圧は低い値にコントロールしたいところです。実際には服薬数を増やせないなどの制限があり、合剤を積極的に使ってのコントロールとなります。食塩感受性について教えてください。塩分摂取により血圧が上昇する食塩感受性患者は、上昇しない非感受性患者にくらべ血圧値が同等でも心血管イベントが多いことから、食塩感受性の診断についての質問を多くいただきました。しかし、食塩感受性を診断するには現在のところ入院にて食塩負荷、減塩食を食べさせ、その間の血圧を測定することのほかには確実な方法はないのが現状です。実臨床においては早朝第二尿のナトリウムとクレアチニンを測定することで食塩摂取量を知ることができる(「日本高血圧学会減塩ワーキンググループ報告」日本高血圧学会より入手可能)ので塩分摂取量が多い患者について経時的に観察したり減塩指導の動機付けとして用いることもできます。あるいはサイアザイド系利尿薬に対する血圧反応性も食塩感受性を知る一つの方法です。効果的な減塩指導について教えてください。日本の食文化はみそ、塩、しょうゆの上に成り立っているので、減塩指導はともすれば日本の食文化を否定することにもなりかねません。しかし、現在の一般的食生活を見てみると加工食品がふんだんに使われており、この点を改善指導することで減塩は可能となります。たとえばソーセージ100gに塩は約2g、プロセスチーズでは約3g含まれており、こういった加工食品を減らすことを指導できるでしょう。また、加齢に伴い味覚は低下するため減塩が難しくなります。そこはワサビ、生姜、茗荷、唐辛子、胡椒といったスパイスをうまく使うように指導します。そして、食卓に出された食材に塩、しょうゆを追加でかけないよう、食卓には塩、しょうゆを置かないなどの細かな指導が必要となります。男性患者の場合、食事を実際に作る配偶者への指導も重要で、医師だけでなく看護師、栄養士、薬剤師、検査技師、保健婦など患者に関わるすべての医療従事者の協力体制が有効です。塩分過剰摂取は血圧上昇のみならず血圧が上昇しない場合でも酸化ストレスを増加させ耐糖能異常につながることが動物実験では示されており、摂取量を6g/日程度まで下げることは高血圧の有無にかかわらず有用であると思われます。降圧薬の減量、中止方法について教えてください。血圧のコントロールが良好で、臓器障害がないような場合、また尿中ナトリウムも低めの場合は降圧薬を中止できることもあります。その場合、4~5月位に中止し、夏の暑い間を経過観察し、10~11月から冬の寒い間に血圧が再上昇しないことを確認します。その後も家庭血圧で血圧を経過観察し、年に一回の臓器障害の進展のチェックを行います。多剤併用しており血圧が良好なコントロールの場合、薬剤の減量が可能です。長期にβ遮断薬を使っている場合は心筋虚血のリスクがあるのでβ遮断薬は漸減します。便秘、浮腫、歯肉腫脹、起立性低血圧がある場合はカルシウム拮抗薬の副作用の可能性もあるためカルシウム拮抗薬から減量します。昨今の酷暑ではとくに高齢者や腎機能低下例においては、レニン・アンジオテンシン系抑制剤や利尿薬の減量が必要となる例があります。早朝高血圧の対処方法について教えてください。家庭血圧を測定あるいは24時間血圧にて早朝高血圧が明らかになった場合、最近の研究では夜間高血圧ほどのリスクはないとの報告もありますが、降圧薬の服用時間を調整することでコントロール可能となることがあります。レニン・アンジオテンシン系阻害薬は夕方服用に適した薬剤といえます。ただし、夜間の過度の降圧に注意して少量より開始するのが好ましいでしょう。α遮断薬も有効とする報告もありますが、α遮断薬自体の臓器保護効果が疑問視されており、α遮断薬を追加投与するよりは現在服用しているレニン・アンジオテンシン系阻害薬の服用時間をずらすことが適切と考えます。難治性高血圧の対処方法について教えてください。異なる三系統の降圧薬を十分量を内服しても血圧のコントロールがつかない場合、難治性高血圧と呼ばれます。このような例では服薬アドヒアランス、二次性高血圧の再評価、睡眠時無呼吸の評価をまず行います。服薬アドヒアランスが不良の場合は合剤を用いること、服薬の必要性を再教育すること、服薬想起の道具(ピルボックスなど)が有効といわれており、医師だけでなく薬剤師、看護師、保健婦の協力が必要となります。すでに薬剤を服用している場合、ホルモン検査は薬剤の影響を受けるので評価が難しくなります。実臨床では副腎のCTを先行させてもいいと思います。あるいは十分量の抗アルドステロン薬(スピロノラクトンで75~100mg)を投与し治療的診断を行うことも有用です。腎血管性高血圧についてはMR angiographyが有用でしょう。以上のような精査で問題がない場合、中枢性の降圧薬(レセルピン)を少量朝1回追加することが有用である例を経験しています。あるいはジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬をかんきつ類と一緒に服用させる、あるいはヘルベッサーと併用しジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬の血中濃度を高めることも有用でしょう。白衣性高血圧の対処方法について教えてください。イギリスのガイドラインでは診察室血圧と24時間血圧、あるいは家庭血圧を用いて高血圧の診断を行い、臓器障害がない場合は白衣性高血圧は薬物介入をせずに年に1回の経過観察をするとしています。24時間血圧を用いて病院来院時のみ高血圧でその他の日常生活の中では全くの正常血圧であり、アルブミン尿も含め臓器障害が認められず、糖尿病などのリスク因子がない場合は薬物介入は必要ないと考えます。しかし、経過観察は必要で、患者には日常生活の中で突然の来客などストレスがかかると血圧が上がっている可能性を話し、徐々に臓器障害が出てくる可能性を説明する必要があるでしょう。白衣性高血圧で患者が薬物介入を希望する場合、抗不安薬も有効です。また、臓器障害がある場合はJSH2009に則って合併する臓器障害に応じて薬物を選択します。その際、心拍数が上昇するといった副作用のない薬物をまず選択します。拡張期血圧の対処方法について教えてください。収縮期血圧が大動脈のコンプライアンスと心拍出量で規定されるのに対し、拡張期血圧は全身の末梢血管抵抗と心拍出量で規定されます。よって高齢者で大血管の硬化が明らかになると収縮期血圧が上昇し脈圧が増大します。心臓の仕事量は収縮期血圧と心拍数の積に比例するため、収縮期血圧が高くなると心筋酸素消費量が増え、心虚血と心不全のリスクが増えます。一方冠動脈は拡張期に灌流されるので、拡張期血圧を下げすぎると、冠血流が低下する危険があります。実際、大規模臨床試験をみても拡張期血圧と心血管イベントにはJカーブに近い現象が認められます。拡張期のみ高い例は若年者に多く認められますが、治療の第一歩は減塩にあります。また個人的経験ですが、10年ほど前にARBが発売された当初、カルシウム拮抗薬やACE阻害薬にくらべ拡張期血圧がよく下がる印象がありましたが、統計的処理はされていません。また当時は利尿薬の使用頻度が低かったというバイアスもあります。現状では拡張期血圧のみを下げるための有効な治療法は生活習慣の改善のほかには確立されていないといえます。合剤の有用性について教えてください。いかなる服薬介入治療もその効果は服薬アドヒアランスに依存することは明白です。それゆえ、われわれは服薬アドヒアランスをよくする努力は惜しむべきではありません。アドヒアランスに関わる因子は複数ありますが、処方する立場として最も簡便にできることは服薬数を減らすことであり、その点において合剤はきわめて有効といえます。現在降圧薬に限らずぜんそく薬、糖尿病薬、高脂血症薬の合剤が日本でも使用可能ですが、海外の現状をみるとまだまだ立ち遅れています。私は実臨床の中で合剤の併用も行いARBの最大容量を合剤として処方し、3種の薬剤を2錠ですませ、患者の経済的負担も軽減するよう努力しています。

219.

高血圧白書2012 CONTENTS

1.調査目的と方法本調査の目的は、高血圧症診療に対する臨床医の意識を調べ、その実態を把握するとともに、主に使用されている降圧薬を評価することである。高血圧症患者を1ヵ月に10人以上診察している全国の医師500人を対象に、CareNet.comにて、アンケート調査への協力を依頼し、2012年6月15日~18日に回答を募った。2.結果1)回答医師の背景回答医師500人の主診療科(第一標榜科)は、一般内科が51.4%で最も多く、次いで循環器科で14.6%、消化器科で8.0%である。それら医師の所属施設は、病院(20床以上)が63.3%、診療所(19床以下)が36.7%となっている(表1)。表1画像を拡大する医師の年齢層は40-49歳が最も多く37.2%、次いで50-59歳以下が36.2%、39歳以下が21.9%と続く。40代から50代の医師が全体の7割以上を占めている。また62.6%もの医師が高血圧症患者を月100例以上診ている(表2)。表2画像を拡大する2)薬物治療開始血圧/降圧目標の推移年齢別薬物治療開始血圧/降圧目標の推移薬物治療開始血圧と降圧目標を年齢別でみると、一部例外はあるもののともに年々低下傾向がみられ、収縮期血圧については、65歳未満では薬物治療開始が平均146.9mmHg、降圧目標が130.5mmHg。65-74歳が同149.1mmHg、同133.5mmHg。75歳以上が同152.2mmHg、同136.8mmHgとなっている。2010年6月の調査で一時的に高くなっている理由として、Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes (ACCORD)試験、Valsartan in Elderly Isolated Systolic Hypertension(VALISH)試験において、積極的降圧群の結果が通常降圧群とエンドポイントの発生率で差が認められなかった無作為化比較試験の結果が、調査直前に発表されたことが影響していると考えられる。このように、高血圧症患者の年齢層が高くなるにしたがって、薬物療法開始血圧、降圧目標も高くなる傾向がみられている。(図1)図1画像を拡大する糖尿病有無別治療開始血圧/降圧目標の推移薬物治療開始血圧と降圧目標を糖尿病合併の有無別でもみると、同様に年々低下傾向がみられ、収縮期血圧については、合併症なしの場合は薬物治療開始が平均148.2mmHg、降圧目標が132.9mmHg。糖尿病を合併している場合には同132.9mmHg、同128.6mmHg。このように、糖尿病を合併している患者では降圧目標値をより低く設定し、早い段階から薬物治療を開始する傾向がみられる。(図2)図2画像を拡大する3)降圧薬の選択合併症がない高血圧症への第一選択薬合併症がない高血圧症に対する第一選択薬として最も多いのが「Ca拮抗薬」で47.3%、次いで多いのが「ARB」で43.3%と続く。以前と比べると低下しつつあるものの、今なお第一選択薬はCa拮抗薬が最も多いという結果となった(図3)。図3画像を拡大する糖尿病を合併した高血圧症への第一選択薬糖尿病を合併した高血圧症に対する第一選択薬として最も多いのが「ARB」で60.8%、次いで多いのが「Ca拮抗薬」で28.4%と続く。2009年に改訂された「高血圧治療ガイドライン」において、糖尿病合併例における第一選択薬はACE阻害薬、ARBが推奨されているが、Ca拮抗薬を第一選択薬として処方されている患者さんが3割弱いる。(図4)。図4画像を拡大するCa拮抗薬で降圧不十分な場合の選択肢Ca拮抗薬で降圧不十分な場合の選択肢として最も多いのが「ARBの追加投与」で50.1%、次いで多いのが「合剤(ARB+CCB)への切り替え」で16.8%と続く。2010年に発売されたARBとCa拮抗薬配合剤の割合が増加傾向にある(図5)。図5画像を拡大するARBで降圧不十分な場合の選択肢ARBで降圧不十分な場合の選択肢として最も多いのが「Ca拮抗薬の追加投与」で43.4%、次いで多いのが「合剤(ARB+CCB)への切り替え」で16.2%と続く。また、2006年12月にARBと利尿薬の配合剤が発売されて以来、配合剤への切り換えも含めたARBに利尿薬を追加する処方が増加し、ARBとCa拮抗薬の配合剤が発売された2010年4月以降、配合剤への切り換えも含めたARBにCa拮抗薬を追加する処方が増加してきているのがわかる(図6)。図6画像を拡大するCa拮抗薬+ARBで降圧不十分な場合の選択肢Ca拮抗薬+ARBで降圧不十分な場合の選択肢として最も多いのが「降圧利尿薬の追加投与」で32.6%、「ARBを合剤(ARB+利尿薬)に切り換え」が8.9%であるから、利尿薬成分を追加する処方が41.5%と3剤併用が普及してきている。(図7)。図7画像を拡大する降圧薬選択における重要視項目の推移降圧薬を選択するために重要視している項目を尋ねた(複数選択可)。図8には2005年時点で30%以上の医師より支持されていた項目の推移を示している。2005年に最も多かった「降圧効果に優れる」が7年間でさらに重要視される傾向にあり、90.2%の医師が重要視していた。次いで多いのが「24時間降圧効果が持続する」61.8%、「腎保護作用が期待できる」58.0%と続く。「腎保護作用が期待できる」については慢性腎臓病(CKD)の概念がわが国でも提唱された2007年以降に重要度が増している。一方、「大規模試験で評価できるエビデンスがある」は、2009年をピークに減少傾向にある。これは降圧薬を用いた大規模試験においてポジティブな結果が少なくなっていることと関係していると考えられる。これら8年にわたる重要視項目の変化は、この期間に発表されたエビデンスの多くが、「降圧薬の種類より、治療期間中の降圧度が重要である」ということを反映しているものではないかと推察している。図8画像を拡大するインデックスページへ戻る

220.

治療抵抗性高血圧の血圧コントロールのために有用なのは、アドヒアランスの改善か、薬物治療の強化か?

 治療抵抗性高血圧の要因には、血圧測定上の問題、白衣現象、アドヒアランス不良のような偽治療抵抗性、生活習慣の問題、薬物治療の問題、二次性高血圧があるが、これらの要因の解消が血圧コントロールにつながるかは明らかにされていなかった。Daugherty氏らは治療抵抗性高血圧患者のデータをレトロスペクティブに解析した結果、血圧コントロールの改善と薬物治療の強化は有意な相関を示したが、血圧コントロールの改善とアドヒアランスの改善とは有意な相関を認めなかったことをHypertension誌に発表した。Daugherty氏らは、なぜ血圧コントロール不良例が薬物治療の強化を受け入れないのかを調査する必要性があることを強調している。 米国コロラド大学のDaugherty2002年〜2006年に2つの健康管理システムに登録された治療抵抗性高血圧またはコントロール不良高血圧をレトロスペクティブに分析した。3,550例が該当し、コホートの49%が男性、平均年齢は60歳であった。これらのコホートの薬物治療内容、服薬アドヒアランス、薬物治療の強化の有無、1年後の血圧コントロール状況を抽出した。主な結果は下記のとおり。(1) ベースラインより1年後には次の降圧薬が処方されていた患者は有意に減少していた。   利尿薬 92.2% → 77.7%(P

検索結果 合計:245件 表示位置:201 - 220