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教授 中村正人先生の答え

循環器内科での後期研修について初期研修1年目の者です。循環器内科に興味を持ち始めたのですが、循環器内科といっても幅が広く、心臓血管カテーテル以外にも多くの専門領域があると思います。大橋病院ではどのような体制で診療や研究を行うのでしょうか?入局してくるレジデントは、ある程度専門領域を決めて来るのでしょうか?少し場違いな質問ですが御教授願います。ご指摘のごとく、循環器の診療はカテーテル検査のみでなく、心臓超音波、心臓CT、核医学など画像評価、不整脈、心不全、リハビリテーションなど幅広い知識、経験が必要です。このため我々の診療科では初年度1年間は、画像診断、不整脈、心臓血管カテーテルをローテーションで勉強するシステムを構築しています。その間は、当該領域専門の医師の指導下で関係する検査、関係する疾患の診療を行います。その後に、自分の専門領域を決定します。従って、最初から自分の専門を決めてこられる人は多くありません。ローテーションで回っている間に興味を覚えさらに勉強したいと思った領域を選択する人が多いと言えます。大学では、主として自分の専門領域の診療、研究を行いますが、大学からの出張先ではオールラウンドな診療を行うこととなります。なお、近年自分の専門領域と他科との関わりの中での研究の必要性も高まっています。なお、我々の診療科は循環器として勉強を始める前に消火器科、腎臓内科、呼吸器科を研修するシステムを採用しています。他診療科との連携について先生のコメントの中に「他診療科との連携も重要となります。」とありますが、最近ではどのような科との連携が増えてきたのでしょうか?また、先生が他診療科との連携において最も重視されていること、ご苦労などございましたら教えて下さい。今日、診療はどんどん専門に特化していく方向ですが、複雑化、重症化すればするほど、また長期成績を見据えた治療を考えれば考えるほど他科の先生との連携は避けられなくなってきます。緊急で冠動脈バイパス術をお願いすることはほとんど皆無となりましたが、大動脈弁疾患、大動脈疾患の合併が増加、心臓血管外科の先生との連携は必須です。冠動脈インターベンションの40%以上は糖尿病症例です。糖尿病における冠動脈インターベンションの成績改善には糖尿病の管理は不可欠です。また、数%は透析症例であり、造影剤を用いる検査であるため、造影剤腎症の問題は避けて通ることはできません。今日、アテローム血栓症の概念が提唱されるようになりました。冠動脈と同様な病変は脳血管、頸動脈、腎動脈、下肢動脈と全身に及び、冠動脈の管理のみでは不十分であると考えられています。冠動脈インターベンションの経験はこれら動脈病変の治療において非常に有益です。しかし、頸動脈の治療においては脳外科の先生との連携が重要ですし、下肢閉塞性動脈硬化症の治療において、とくに重症虚血肢の症例では創傷治癒の診療をお願いする形成外科の先生、foot careチームとの連携が必須となります。たとえ、下肢の血流を再開のみでは本病態の改善が得られないからです。TASCにおいても多診療科の連携の重要性が述べられています。しかし、大学病院など大きな病院ではこれら診療科が縦割であり、横の連携が機能しにくい傾向があると指摘されています。専門化の弊害といえます。幸い、当院ではその垣根が低く、多くの先生に協力を得ながら診療を行っています。研修について記事拝見しました。研修で全国を回っていらっしゃることを初めて知りました。研修の内容をもう少し詳しくお聞きしたいです。(研修日程や内容、参加者数、参加者層、講師の先生のことなど。)また、先生の研修に参加することは可能でしょうか?このような機会はあまりないかと思いますので是非教えて頂きたいと思っております。年2回春と秋に土、日曜日の2日間行っています。場所は、郡山、神奈川、神戸、宮崎の4か所を持ち回りで行っています。井上直人先生、村松俊哉先生、横井宏佳先生、私の4名で実施しています。当初4名で実施しましたが、2回目以降は各地域の近隣の経験豊かな先生方に講師として協力していただき実施しています。これまでに7回行われ、次回は神戸で10月に実施予定です。対象は初心者の先生方。これから冠動脈形成術を始める、始めたばかりの先生方であり、基本的、標準的な実技をトレーニングしようとするものです。開催地区近隣の先生の参加が多いのが実情ですが、全国から参加可能です。参加者は20‐30名程度で4つのグループに分かれていただき、ローテーションで動物を用いたカテーテルのトレーニング(ガイドワイヤーの曲げ方、挿入、ステントの留置、バルーンの挿入、抜去、IVUSの操作)。コンピューターによるシィミレーション、モデルを用いたロータブレーターの手技などのトレーニングが行われます。実技を中心とした研修ですが、講義による座学も行われます。また、夜には困った、悩んだ症例をもちよりみなで議論、親交を深めております。アドバンスコースは年2回、土曜日の一日コースで及川先生、矢島先生、小川先生、濱崎先生と東京の先生に協力していただき、動物モデルで実施しています。10名前後の少数の研修で、人数の関係もあり東京限定で実施しています。これら研修は非常に体力を要し疲労しますが、若い先生の情熱を感じ、昔の自分達を思い出し、終了するたびにやめられないと企画者一同実感しております。薬剤溶出ステントの副作用について以前、薬剤溶出ステントの副作用について話題になったかと思いますが、現在はどのようになっているのでしょうか?欧米に比べると日本の副作用発生率は少ないとの発表もあったようですが、最前線にいらっしゃる先生のお考えをお聞きしたいです。宜しくお願いします。本邦でも、この種のステントが登場して5年を経過しました。この間、多くの成績が報告され、薬剤溶出ステントは揺るぎないものとなっています。しかし、現在のステントの問題点も指摘され、さらなる改善が望まれています。このデバイスの最大の利点は再狭窄を著しく軽減させたことにあります。ステントにても克服できなかった再狭窄の問題が解決に向け大きく前進しました。糖尿病、小血管など従来のステントで成績に限界があった病変、病態におけるインパクトが最大です。一方、従来のステントでは経験しないような留置後1年以降に生じるステント血栓症が新たな問題として浮かび上がりました。このため、チエノピリジン系の抗血小板薬、アスピリンの2剤の抗血小板薬を長期に服薬することが推奨されています。一方、これら薬剤による出血性リスクの懸念もあり、長期服薬の是非が問われています。この合併症の原因は依然として不詳ですが、解決すべく新たなデバイス開発がなされています。薬剤溶出ステントはステント、コーティング、薬剤の3者で構成されていますが、コーティング、最終的にはステントが溶けてなくなるようなデバイスもすでに臨床で試みられています。先生が指摘されたように、上記の合併症は幸いなことに諸外国に比し本邦では極めて低率であることが報告されています。この理由も定かではありません。幾つかの要因が指摘されています。人種差による血小板機能の差異、薬剤コンプライアンスの差異、血管内超音波を用いた治療手技の差異などです。実臨床では個々の症例で原因は異なっているものと考えられ、本邦の成績が良いのは複合的な作用の結果であろうと推測されます。いずれにしても、デバイスは有効性、安全性の両面が重要であり、このテーマは永遠に追求されていくものと思われます。カテーテルを極めるには?医大に通っています。心臓を悪くして亡くなった者がいるので、心臓血管カテーテルに大変興味があります。先生のように、カテーテルを極めるには、どのような進路や経験を積めば良いのでしょうか?心臓血管カテーテルは急速な進歩であり、これは我々の予想を大きく上回るものでした。まさに、成熟期を迎えたと言えます。幸いなことにこれら進歩を眼のあたりにしながら今日まで診療をすることができました。これらかの先生は今日の診療が当たりまえの位置からスタートするわけですから大変であろうと思います。まず、実技に入る前に清書を読むことをお勧めします。歴史を知ることは、今日の問題点が何故あるのか、どのような模索がされてきたかを理解することにつながります。広い視野が重要で、今後非常に参考になるでしょう。絶対的なルールはありませんが、次に大切なポイントはカテーテル検査を好きになることです。この領域は経験がものをいうことは否めませんから一歩、一歩、着実に前進するしかありません。手技は感覚的な要素も含まれるため、見て盗むといった古典的な手法が依然として必要になります。助手、または聴講者としてみているときも、つねに何故?その理論的背景は、自分ならどうするといった心構えが重要と思います。漠然と時間が過ぎていくのではなく、一例一例が重要です。その意味で色々なオプション、引きだしをもつことができるか、それを実践できるかが重要です。良い上司、環境は重要でしょうが、入ってみないと現状はわからないものです。多くの施設を訪問し、多くの先生の意見を聞いてみるのがよいと思います。その中で何か感じるものがあれば、あとは自分の努力で前進は可能です。昔より、勉強する機会、環境は非常に増えたと思います。狭心症患者に「カテーテル治療」と「バイパス手術」の選択について説明する時の注意点私はクリニックに勤めている医師ですが、近隣に住む、狭心症で大学病院にかかっている方から「カテーテル治療」と「バイパス手術」の選択について相談を受けました。患者の状態によって違うとは思いますが、せめて一般的なメリット、デメリット、再発率などを説明してあげたいと思っております。教科書通りの説明は本を読めばできるのですが、先生の御経験に基づいた注意点やポイントなどありましたら教えて頂ければと思います。両治療の差異は侵襲性と再血行再建の必要性にあります。両者に生命予後の点では差がないことが示されています。冠動脈形成術は、侵襲性が低く1-2時間で手技が終了、2-3日で退院可能です。死亡リスクは1%未満で、社会復帰も早期に可能です。最大のアキレス腱は再狭窄がある一定の頻度で生じることです。しかし、この問題も薬剤溶出ステントが登場して著しく軽減、数%となっています。このため、薬剤溶出ステントが汎用されていますが、この種のステントで治療した場合ステント血栓症を防止するためアスピリン、チエノピリジン系抗血小板薬2剤長期服薬が必須です。服薬アドヒアランスが低い患者さんには不向きと言えます。また、冠動脈形成術は局所の治療であるため、治療部位以外のイベントは回避困難であり、厳格なリスク管理が重要です。一方、冠動脈バイパス術は全身麻酔を要し、初期の侵襲性は高く、死亡リスクは1-3%、脳卒中、開胸に伴う合併症、麻酔に伴いトラブルなどのリスクが若干あります。一回で治療を完結できる可能性が高く、グラフトされた末梢での心血管事故防止効果も期待できます。初期に開存が得られ長期的な開存が期待できます(グラフトの種類により差異がある)。他に両治療戦略を選択する重要なポイントに病変形態、合併疾患の有無があります。病変形態が冠動脈インターベンション治療に向いているか否かの判断が極めて重要です。この事実は最近の臨床試験でも示されています。また、腎機能障害があれば複数回のカテーテル治療は腎機能を悪化させるリスクとなります。高齢者では合併症のリスクが高く、最も重要な病変のみ治療を行い薬物で補完することも戦略となります。穿刺部合併症心臓カテーテル検査を始めて3年目なのですが、穿刺部合併症を最近数例件しました。具体的には浅腸骨回旋動脈の穿孔や、血腫、仮性動脈、動静脈瘻を経験しました。 こういった合併症を防ぐために、普段どういったところに注意されていますか? Femoral Punctureでは穿刺部位は透視で大腿骨頭の位置を確認して刺していますが、シースを挿入する前のワイヤー操作はやはりほとんど透視しながらやった方が良いのでしょうか?仮性動脈瘤はlower punctureで合併しやすく、逆にhigher punctureは腹腔穿刺になるため大腿動脈穿刺において穿刺部位は極めて重要です。これは比較的狭い範囲です。先生が実施しているように透視で大腿骨頭の位置を確認することは重要です。当院では全例実施しています。今後も必ず実施してください。大腿骨頭の下縁以下、上縁以上は避けることになります。穿刺はsingle wall punctureが良いとされています。すなわち、血管の後壁を突き抜けないように動脈の前壁のみを穿刺する手法です。当院では外筒のないアルゴンニードルを使用しています。なお、この穿刺針とラジフォーカスは相性が悪く、スプリングワイヤーを用います。その後穿刺針にガイドワイヤーを挿入します。透視を見ながらの挿入は行っておりませんが、ゆっくり挿入し、抵抗を感じた場合必ず透視で確認を行います。この際にラジフィーカスを用いないのは、迷入しても気づきにくいからです。透視で迷入が確認された場合、検査後造影にて確認を行えば確実です。上記の理由でラジフォーカスを用いる場合は透視下で挿入する方が安全でしょう。静脈は動脈の内側に伴走していますが、血管の蛇行などで上下に重なっていることもあります。止血手技も重要です。Learning curveがあり、ある程度の経験が必要です。とくに高度肥満の人、高齢者、大動脈弁閉鎖不全症など脈圧が高い人は要注意です。皮膚の穿刺点と血管の穿刺点は高さが異なること、拍動を感じながら圧迫することなどが重要であり、single wall punctureが望ましく, lower punctureは止血困難な要因となります。どこに問題があったか、自問してみましょう。しかし、実際には動脈穿刺に伴う合併症はある一定の頻度で合併し得るものです。合併症は早期に見つけること、そのためには疑うことが肝要です。PCIにおけるステントの選択に関してPCIにおけるステントの選択ですが、私は、3mm以上の血管に対してはエンデバースプリント、2mm代の小血管に対してはCypher select、AMIに関してはDriver stentという選択をしております。ザイエンスが登場し、遠隔期の成績の良さはよくわかるのですが、メリットである通過性に関してもエンデバースプリントでことたりますし、ザイエンスのデリバリーバルーンのドッグボーン、コンプライアンスが良すぎるバルーン、ウイギング現象を考えるといまいちザイエンスの使い勝手が悪い気がします。中村先生は、ステント選択に関して何かいいポイントはありませんか?ぜひ教えてください。ステントの成績に関する報告は多数ありますが。これらの報告を実臨床にどのように生かすかが個々の医師に託された仕事であろうと思います。比較試験は限られた対象における検討であり、レジストリーデータは実臨床に近い対象になりますが、バイアスのかかった対象であり、近年はやりのマッチングを行っても比較試験と同等の意味をもたせるには限界があります。最近の臨床試験における各デバイスの差異は数%以内のものであり、基本的に大きな差異はないと言えるでしょう。薬剤の臨床試験と極めて類似して来ました。従って、どのステントを選ぶかは、そのステントの何を生かそうとして選択したかという点に尽きます。抗血小板薬長期服薬困難であるか、ステントのプラットフームが重要な病変であるか、通過性が重要な病変であるかなど個々に適したものを選択すればよいと思います。大切な点は、適切な拡張術で良好なステント拡張を得ることです。この点で、使いなれたステントを用いると予想された結果が得られやすいということは言えるでしょう。さてザイエンスです。ご指摘のごとくコンプライアンスが高く、留意が必要です。特に2.5mmはコンプライアンスが高く、サイズを間違えないことが重要です。また、taper vesselでは近位に合わせたサイズを選択すると危険です。この点先生の意見に賛成です。私は高圧をかけず、低圧で長時間拡張後にステント内を高圧拡張行うようにしています。ステントの特徴はむしろマウントされているバルーンの性能とステントの相性によって決定されるといって過言でありません。従って各ステントにあった拡張を行うことが重要です。それは個々の先生の流儀と相性があるかもしれません。以上のごとく、病変、病態にあったステントを選択し、そのステントにあった拡張術(edge損傷なくステント面積を得る)を行うのが良いと考えています。予後50歳男性心筋梗塞発症15時間後に心カテ施行。1枝は凝固が強く、完全閉塞だが微小な側副血行あり。ヘパリン治療にて24時間経過、バイタルは安定、軽度左室肥大あり。今後の予後予測は?外科適応の指標などあればご教示下さい。ポイントは50歳と若年、1枝病変完全閉塞の2点にあります。本例の梗塞部位は不明ですが、初回梗塞の1枝病変で血行動態が安定しており、高齢でない点から予後は良好、機械的合併症発生のリスクは低いものと予想されます。本例は15時間経過した梗塞例で、側副路の発達が不良な完全閉塞であったとのことから、壊死はすでに完成しているものと推測され、このためこの時点で再灌流による心筋救済のメリットは小さいものと推測されます。結果としての梗塞サイズ、残存心機能が予後を規定します。再灌流が得られていないので梗塞後のリモデリング防止が重要となります。さて、慢性期に1枝完全閉塞であった場合の血行再建の適応は残存虚血の有無、病変部位によって決定されます。虚血がない、または小さい場合は薬物で管理。虚血が残存する場合、バイパス術、PCIなどの血行再建が必要になります。両者の別は病変形態、部位によって決定されます。冠動脈バイパス術は本例が主幹部、LADの近位部にあり、病変形態がPCIに不向きな場合に考慮されます。なお、急性期に完全閉塞であっても自然に再疎通し開存していることが少なくありません。従って、退院前に再造影することをおすすめします。教授 中村正人先生「カテーテルの歴史とともに30年、最先端治療の場で」

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准教授 小早川信一郎先生「白内障手術の光と影」

日本眼科学会眼科専門医。医学を志す中で、自分の専門分野を持ちたいと眼科を志望。微生物・免疫学を米国で研究。現在、東邦大学医療センター大森病院にて眼科・白内障及び感染症の分野を担当している。直径3cmの天体観測白内障手術は高齢化社会の進行により、症例数が年々増加傾向にあります。白内障手術は、安全簡単なイメージが定着しつつありますが、決して100%安全な手術ではありません。医療従事者としても術前術後の患者さんケアは必須であり、手術適応の決定から術後フォローまでが手術治療であると考えています。術後フォローは、患者さん個々の症状に左右され、また患者さん一人ひとりの病気に対する意識も違うので、対応も異なります。高齢化社会の進行に伴い、以前と比較して、手術を受ける患者さんの年齢層が上がってきています。そういった患者さんでは、全身の免疫機能が落ちていることも考えられ、術後感染症など合併症の増加が予測されます。白内障手術は安全簡単なイメージが先行していますが、現場では決してそのような意識はありません。眼球の内部には痛覚が乏しいとされています。圧迫感は感じても、痛さを感じない場合が多くあります。たとえば、白内障の術後感染症が起きた場合、痛みを感じない症例が半分程度存在します。もちろん、患者さんからの見えないという情報があれば心強いですが、発症初期など自覚に乏しい場合、感染症の進行予測を診察や検査で得る情報のみで判断する場合もあります。眼球は直径3cm、それを顕微鏡で診察しているわけです。眼球は小宇宙であると、たとえられる場合がありますが、毎日我々眼科医は天体観測をしているのかもしれません。医師の満足と患者の満足にギャップ眼科手術はその殆どが局所麻酔で行われます。そのため医師間あるいは看護師との会話、看護師の動きなどが手術を受けている患者さんにも知られてしまうこととなります。手術指導の場合は、特に神経を使います。術後、医師の満足と患者の満足にギャップが生じる時があります。医師は患者さんが本当のところ、どう見えているかがわかりません。見えているはずと判断しても見えていなかったり、その逆であったりと、視点の違いを常に感じています。患者さんの中には、手術をすれば若い時の視力や見え方が取り戻せると考える人もいらっしゃいますので、術前の説明に注意が必要なケースもあります。ただ10年前と比較しますと、白内障手術の際に埋め込む代用水晶体、一般的に眼内レンズと呼ばれていますが、眼内レンズはかなりの技術革新がなされました。もちろん手術技術も進歩しました。当センターでは、遠近両用眼内レンズの使用における先進医療の認可を受けていますが、こういった新しい眼内レンズの登場は、これまでよりも確実に患者さんの満足度を高めていると思われます。白内障手術の光 -ここまで直せる白内障手術-白内障の手術は、この5年ほどで使用できるレンズの種類が多くなりました。1、遠近両用眼内レンズ'08年4月より全国で開始、当センターでも手術が可能です。'10年1月当センターでは先進医療認定を受けたため費用は36万円程度となっています。現在我が国で使用できる遠近両用眼内レンズは3種類で、屈折型1種類、回析型2種類となります。ただし、一番注意して頂きたいことは、全ての患者さんに適応があるわけではないということです。先程の話ではないですが、遠近両用眼内レンズを用いても老視が始まる前、若い頃の視覚、見え方に戻るわけではないのです。どちらかといえば、遠方と近方二つの異なる距離にピントが合うレンズとイメージして頂いた方がよいと思います。中間距離ではピントが合う場合も合わない場合もあります。遠近両用眼内レンズの挿入は、基本的に通常の手術と変わりませんが、より丁寧な手術操作が必要となります。次に、患者さんの選択に関してですが、角膜乱視が1D以上ある人は適応になりませんし、白内障以外の眼の病気がある人はもちろん適応になりません。当センターでは、まだ症例数がそれほど多くないですが、比較的術後成績の良い、回析型のレンズを中心に手術を行っています。2、乱視矯正用眼内レンズ'09年夏頃より乱視度数が加わったレンズが使用可能となりました。乱視が一定以上ある眼とそうでない眼との実際の見え方については、未知の部分もありますが、少なくとも乱視が少ない眼の方が見え方の質は高いはずです。現在、乱視矯正用眼内レンズでは矯正度数が3種類(1.0D, 1.5D, 2.0D)用意されています。すなわち、2.0D以上の乱視は残ることになりますが、このことからも眼鏡のようにきっちりと乱視を矯正するというよりは、乱視を減らすことに重点が置かれています。これまでの乱視矯正は、主に角膜切開術が行われてきました。しかし、術後の戻り(再び乱視となる)や再現性(定量性)が低いなどの理由で広く行われるまでには到りませんでした。我々も昨年末よりこのレンズを用いておりますが、同程度の乱視が残った症例と比較すると明らかに裸眼視力の向上が得られており、患者さんからの評判も上々です。手術は、乱視軸の決定などの操作が加わるため、従来と比較すると、やや煩雑ではありますが、そのために手術時間が何倍にも伸びるということはありません。3、難症例対策、特殊な眼内レンズ労働災害などによる穿(せん)孔性眼外傷により、角膜のみならず虹彩や水晶体まで広範囲に障害をうけた症例に対し、昨年、虹彩付きの眼内レンズを用いた手術を行いました。虹彩付き眼内レンズはヨーロッパを中心に用いられていますが、残念なことに我が国では医療材料として認められていません。こういったレンズは、個人輸入により我々術者の裁量のもとに使用せざるを得ないのです。眼科のみならずどこの科においても共通の問題点とは思いますが、こういった数の多くない症例に対し、欧米で普及しつつある治療法が、我が国においては保険制度の縛りによりスムーズに行えないという現実があります。難しい問題とは思いますが、今後少しでも改善されればと思います。白内障手術の影 -手術に潜む落とし穴-現代の白内障手術は、技術的にほぼ完成の域に達したといわれています。しかし、まだ解決されていない問題点は存在します。一つは「術後感染症」です。外科的処置に術後感染症は一定頻度で必ず起こります。眼科手術の術後感染症は、外科などと異なり、感染による全身への影響は少ないですが、視機能の喪失に直結します。当医療センターにおける12年間の白内障術後感染症の症例を見ると約1/3の症例が最終視力0.1以下でした。0.1は社会的な失明ラインとされていますので、この成績からも決して予後の良い疾患ではないことがわかります。現在、術後感染症の頻度は約0,05%とされており、年間100万眼行われている白内障手術では、1年に500眼この術後感染症が発生し、そのおおよそ3分の1、160眼に社会的失明が起こっていると予測されます。もちろん、両眼同時に感染症を起こすということはほとんどありませんので、160人の患者さんが全く生活できなくなるというわけではないのですが、手術前に多少なりとも見えていた眼が手術により見えなくなる、というのは大変恐ろしいことです。白内障手術といえども100%安全ではない、ということを是非知っていただきたいと思います。次に強調したいことは、「短時間で終了する手術は優れた手術ではない」ということです。白内障の手術は眼科専門医全ての医師が経験しています。指導者のもとで行われる経験の少ない術者の手術でも平均20~30分程度で終了し、術後の仕上がりも熟練者と大差ありません。もちろん熟練者であれば、難症例でなければ約10分程度で終了する場合が多いのですが、この約10-20分程度の差による違いは術翌日になればほとんどないのが現状です。一部の眼科医が4~5分で手術が終了するとマスコミを用いて宣伝していますが、とても違和感を覚えます。実際に4-5分で終了する術者を知っていますが、その先生方は決して自ら手術が人よりも早いことを宣伝しません。つまり、手術時間が早いことと優れた手術であることは一致するものでなく、自分の術式を追求した結果がその時間となっているだけであって、時間の早いことに白内障手術の価値を置いているわけではないからです。手術時間が早いことのメリットは、患者さん側よりも医療側にあると考えます。なぜなら、1日当たりに執刀できる症例数が増え、それに伴い手術による収入が増えるからです。私たちにとって理想の白内障の手術とは、短時間で終わる手術ではなく、丁寧な手術、眼に対する侵襲や合併症の少ない手術です。それは、結果的に患者さんの利益になると考えています。眼科医という選択眼科医という道は、何か手に職をつけたい、手術も面白そうだ、と考えたからです。父が眼科を開業していたことも大きかったですね。ただ、いざ始めてみると専門性がとても高く自分には向いていたかなと思います。眼科の検査はその殆どを外来で行っていますので、診療していく中で疑問に思ったことを自分自身で確かめることができます。専門的に活躍したい方には向いていると思います。私が医師になってから最初の10年は、白内障手術が劇的に変化した10年でした。技術革新も目覚ましいものがあり、1年たつともう古いといったことがしょっちゅうありました。自分自身はその変動を外野席から眺めていただけにすぎないのですが、その場所にいたこと、雰囲気を味わえたことはとても幸運だったと思います。人間が外界から得る情報の約8割は視覚、眼からといわれています。先日、認知症の患者さんの白内障手術を全身麻酔で行いました。術後、認知症が治ったとは思えないのですが、行動は術前とあきらかに変化していました。そんな姿を拝見すると、この仕事にやりがいを感じますね。質問と回答を公開中!

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米国で鎮静剤「LUSEDRA注射剤」新発売

エーザイ株式会社は17日、鎮静剤「LUSEDRA(一般名:fospropofol disodium)注射剤」について、米国にて発売を開始したと発表した。同剤は全身麻酔についての訓練を受けた医療従事者によって使用されることになるという。LUSEDRA注射剤は、プロポフォールの水溶性プロドラッグで、静脈注射後、体内で酵素(アルカリ・フォスファターゼ)によりプロポフォールに変換され、鎮静効果を発現する。同剤は、監視下鎮静管理(monitored anesthesia care: MAC)による、成人患者の検査もしくは処置における鎮静の適応について、2008年12月に米国食品医薬品局(FDA)より承認された。なお、同剤は、FDAよりスケジュールIV医薬品に規制分類指定されている。詳細はプレスリリースへ(PDF)http://www.eisai.co.jp/news/news200948pdf.pdf

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頸動脈内膜剥離術では全身麻酔と局所麻酔のいずれを選択すべきか?

アテローム動脈硬化性の頸動脈狭窄に対する頸動脈内膜剥離術施行時の麻酔法として、全身麻酔と局所麻酔では周術期の脳卒中やその他の合併症の抑制効果に差はないことが、イギリスWestern General Hospital臨床神経科学科(エディンバラ市)のSteff C Lewis氏らが行ったGALA(General anaesthesia versus local anaesthesia for carotid surgery)試験の解析結果から明らかとなった。今後、いずれの麻酔法を選ぶかは、患者の好みや他の医学的な理由に委ねられることになりそうだ。Lancet誌2008年12月20/27日合併号(オンライン版2008年11月27日号)掲載の報告。主要評価項目、QOL、入院期間に有意差なし頸動脈内膜剥離術は、重篤な動脈硬化性の頸動脈狭窄による同側の脳卒中発症リスクを低下させるが、術中あるいは術後の合併症がその効果を相殺することが知られている。周術期の脳卒中を予測してそれを回避するには、全身麻酔下よりも局所麻酔下のほうが容易である可能性が示唆されている。GALA試験の研究グループは、これらの麻酔法のイベント抑制効果の比較を目的に、多施設共同無作為化対照比較試験を実施した。1999年6月~2007年10月までに、24ヵ国95施設から症候性あるいは無症候性の頸動脈狭窄患者3,526例が登録された。全身麻酔群に1,753例が、局所麻酔群には1,773例が割り付けられた。主要評価項目は、無作為割り付け時から術後30日までの脳卒中(網膜梗塞を含む)、心筋梗塞、死亡の発生率とした。主要評価項目の発生率は、全身麻酔群が4.8%(84例)、局所麻酔群は4.5%(80例)であり、局所麻酔による1,000例あたりのイベント抑制数は3例にすぎなかった(リスク比:0.94、95%信頼区間:0.70~1.27)。QOL、入院期間は両群間に有意な差はなく、事前に規定されたサブグループ(年齢、対側頸動脈閉塞の有無、ベースライン時の手術リスク)における主要評価項目の解析でも有意差は認めなかった。以上により、GALA試験の研究グループは「頸動脈内膜剥離術においては全身麻酔と局食麻酔で有用性は同等であった」と結論し、「麻酔科医と外科医は、患者コンサルテーション時に、個々の患者の病態に応じていずれの麻酔法を選択するかを決めるべきである」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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LUSEDRA注射剤、FDAより承認を取得

エーザイ株式会社は15日、同社の米州統括会社であるエーザイ・コーポレーション・オブ・ノース・アメリカが、成人患者の検査もしくは処置における鎮静を目的とした鎮静剤「LUSEDRA(一般名:fospropofol disodium)注射剤」について、FDA(米国食品医薬品局)より承認を取得したことを発表した。なお、この承認においてFDAは、全身麻酔についての訓練を受けた医療従事者が投与すること、本剤を投与された全ての患者を検査・処置中および鎮静からの回復まで医療従事者の観察下におくこととしている。詳細はプレスリリースへhttp://www.eisai.co.jp/news/news200861.html

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手術の世界的な年間施行数はどれくらい?

 世界全体では毎年、膨大な数の手術が行われ、大手術(major surgery)の手技に起因する高い死亡率および合併症発生率ゆえに、いまや手術の安全性は国際的な公衆衛生学の実質的な懸案事項とすべきことが、「WHO患者安全プログラム」の一環として実施された調査で明らかとなった。手術のニーズは工業化に伴う疾病パターンの転換に伴って医療資源の多寡にかかわらず急激に増加した。この、いわゆる「疫学的な過渡期」ゆえに公衆衛生における手術の役割も増大してきたが、その安全性の改善やサービスの不足を補うためにも、手術的介入の総数、配分状況を把握する必要があるという。米国Harvard大学公衆衛生学部のThomas G Weiser氏がLancet誌2008年7月12日号(オンライン版2008年6月24日号)で報告した。WHO加盟192ヵ国を対象に手術の総量を計算 研究グループは、世界で施行されている大手術の数を推定してその配分状況を記述し、公衆衛生学の国際的な施策における手術の重要度を評価するための検討を行った。 WHO加盟192ヵ国の人口、健康、経済データを収集。手術施行率のデータは、政府機関、統計や疫学の研究機関、既報の研究、手術に関する施策を主導する個人などに当たることで集めた。また、2004年に行われた解析から、国民一人当たりの医療費データを入手した。 大手術は、「病院の手術室で行われる切開、切除、操作、組織の縫合からなる介入で、一般に局所あるいは全身麻酔もしくは鎮静を要するもの」と定義した。データがない国の大手術の施行率を推計するモデルを作成し、人口学的な情報を使用して世界的な手術の総数を計算した。世界的な大手術の年間施行数は2億3,420万件、医療費の高低で格差が 手術データは56ヵ国(29%)から得られた。世界では毎年、2億3,420万件(95%信頼区間:1億8,720~2億8,120万件)の大手術が実施されていると推算された。10万人当たりの大手術の年間平均施行率は、一人当たりの医療費が100ドル以下の国(47ヵ国)では295件(SE 53)であったのに対し、1,000ドル以上の国(38ヵ国)では平均1万1,110件(SE 1,300)であった(p<0.0001)。 2004年の手術件数は、人口が世界の30.2%に当たる医療費が平均点な国(401~1,000ドル)と高額な国(1,000ドル以上)が1億7,230万件(73.6%)を占めたのに対し、人口が34.8%に相当する低額の国(100ドル以下)は810万件(3.5%)にすぎなかった。 Weiser氏は、「世界では毎年、膨大な数の手術が行われており、その安全性は国際的な公衆衛生学の実質的な懸案事項とすべき」と結論し、「低収入国における手術へのアクセス機会の過度な不足が示唆するのは、対策が講じられていない世界的な疾病負担の大きさである。手術に対する公衆衛生学的な戦略の確立は最優先事項である」と指摘している。

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遺伝子治療でレーバー先天性黒内障患者は失明から救われる?

 レーバー先天性黒内障(LCA)は幼児期に発症し重度の視力障害から青年期には失明に至る一群の遺伝性疾患。異常な眼振を主症状とし網膜電図検査と対光反射で診断が行われるが、治療は現在のところない。ペンシルベニア大学Scheie Eye InstituteのAlbert M. Maguire氏らは、同疾患のうちLCA2の患者に対して遺伝子治療を行い、正視には至らなかったが有害事象もなく視力改善に成功したことを報告した。NEJM誌2008年5月22日号(オンライン版4月27日号)に掲載されたブリーフレポートより。組み換え型アデノウイルスベクターを網膜下に注入 LCA2は網膜色素上皮特有の遺伝子RPE65の突然変異によって発症することから、RPE65相補DNAを含む組み換え型アデノウイルスベクターであるAAV2.hRPE65v2を網膜下に注入する遺伝子治療が行われた。本手法についてはすでにイヌモデルでの長期の視覚機能回復の実証データがあり、ヒトでの安全性が検討された。 患者は2007年9月~2008年1月の間に治験登録した19歳女性と26歳男女の計3人。フィラデルフィア小児病院で生成された最新のベクターが全身麻酔下で、右眼にのみ注射された。 術後6ヵ月間、主観的な視力テスト、対光反射および眼振テストが行われ安全性および有効性が評価された。 臨床的ベネフィットは6ヵ月経っても継続 患者は3人とも術後2週時点で主観的な視力テストで網膜機能に適度の改善が認められた。対光反射も改善し、治療を受けた右眼は術前より約3倍、光に対する感度が増していた。眼振については治療後、右眼だけでなく左眼ともに減少が認められた。 障害物コースの操縦テストについては、治療前は大きな困難があったにもかかわらず治療後は可能となった患者が1人いた。 視力の改善について、6週時点まで向上し続けその後改善率は鈍化したことが観察されている。また1人の患者について、治療を受けていない左眼の視力も改善していたが、これはイヌモデルでも報告されたように、眼振の改善に伴うものではないかとしている。 ベクター曝露に関連した有害事象は局所性・全身性ともに認められなかった。患者のうち1人に無症候性黄斑円孔が発症したが、炎症性あるいは急性の網膜毒性の徴候は認められなかった。また無症候性黄斑円孔を発症した患者も、網膜機能は治療前より回復している。 患者に対する臨床的ベネフィットは6ヵ月経っても継続。Maguire氏は安全性と有効性を評価するため、より長期および大規模な試験が必要であること、また「弱視と網膜変性が確定される前、すなわち小児期に治療を行えばより有効性が向上するのでは」と述べ、「追跡期間が短く正視には至っていないが、今回の治験結果はLCAおよび一連の他網膜変性疾患への遺伝子治療のアプローチの可能性を示すものとなった」とまとめた。

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