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1 疾患概要アミロイドーシスとは、通常は可溶性である蛋白質が、さまざまな要因により不溶性の線維状構造物であるアミロイドヘと変性し、諸臓器に沈着することで種々の機能障害を来す疾患群である1)。全身の諸臓器にアミロイド沈着が起こり臓器障害を引き起こす全身性アミロイドーシス、1つの臓器に限局してアミロイド沈着を起こす限局性アミロイドーシスに分類されるが、これまで42のアミロイド前駆蛋白質が明らかになっている(表)。表 主なアミロイドーシスの分類画像を拡大する(Buxbaum JN, et al. Amyloid. 2022;29:213-219.より引用作成)その中で患者数も多く、治療できる疾患は以下の通りである。ALアミロイドーシス、家族性アミロイドポリニューロパチー([familial amyloid polyneuropathy:FAP]、ATTRv)、老人性全身性アミロイドーシス(ATTRwt)は厚生労働省に難病指定されている。1)ALアミロイドーシス異常形質細胞が単クローン性に増殖し、その産物である免疫グロブリン(M蛋白)の軽鎖(L鎖)がアミロイドを形成する。まれに重鎖(H鎖)が前駆蛋白質となるAHアミロイドーシスもある。2)ATTRvアミロイドーシス遺伝的に変異を起こしたトランスサイレチン(transthyretin:TTR)が前駆蛋白となり末梢神経、自律神経系、心、腎、消化管、眼などの臓器に沈着する常染色体顕性遺伝形式のアミロイドーシスを言う。3)AAアミロイドーシス関節リウマチ(RA)など慢性炎症に続発し、血清アミロイドA蛋白が原因蛋白質となる。4)ATTRwtアミロイドーシスTTRが前駆蛋白となり、70歳代以降に発症しやすく、主に心臓や運動器に疾患を来す。5)透析アミロイドーシス長期の透析に伴いβ2ミクログロブリンが前駆蛋白となり、 手根管や運動器に沈着する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)アミロイド蛋白質の沈着臓器は、心臓、腎臓、消化管、神経、眼、運動器など多臓器にわたり、臨床症状は多彩である。初期にはALアミロイドーシスでは全身倦怠感、体重減少、浮腫、貧血などの非特異的症状があるが他の病型では特徴的な症状がない。経過中にうっ血他心不全、蛋白尿、吸収不良症候群、末梢神経障害、起立性低血圧、手根管症候群、肝腫大、巨舌、皮下出血などを呈する。1)心アミロイドーシス超音波エコーや心電図、MRI、血清NT-proBNPなどでスクリーニングができるが、ピロリン酸心筋シンチを行うと90%以上の感度でATTRvやATTRwt症例では陽性になることが明らかになっている。本症は最も生命予後を左右する。2)末梢神経障害ATTRvやATTRwtアミロイドーシス、ALアミロイドーシスなどで認められるが、皮膚パンチ生検、神経伝導速度、SudoScanなどで小径線維の障害を証明することが重要である。3)腎アミロイドーシスしばしばネフローゼ症候群を呈し、蛋白尿や浮腫、 低アルブミン血症を呈する。胸水や心嚢液貯留をみることもある。4)消化管胃および十二指腸に沈着しやすい。交替性下痢便秘が起こり吸収不良症候群や下痢がみられる。血管周囲へのアミロイドの沈着が起こり 消化管出血が起こることもある。■ 診断全身性アミロイドーシスの診断には、 少なくとも2臓器にわたる病変を認めることが重要であり、限局性アミロイドーシスと鑑別する必要がある。確定診断は病理検査が必要で、アミロイドーシス全般のスクリーニングとしては腹壁脂肪生検が広く行われている。低侵襲性で簡便であるが、ATTRv以外では感度が低いため、複数の臓器(消化管[とくに胃・十二指腸]、口唇、皮膚、唾液腺、歯肉生検など)での生検を行いコンゴレッド染色で陽性を確認する必要がある。その後、前駆蛋白を免疫組織染色で決定し(決定できないときは質量分析装置を使用する)、各種検査により病変臓器の範囲を決定し、治療の方針を決めていく。ALアミロイドーシスではM蛋白の検出には、血清・尿の電気泳動が行われてきたが、遊離軽鎖(free light chain:FLC)が保険適用となり感度が98%と高いことから、広く行われるようになっている。アミロイドーシスでは疾患特異的なマーカーがないので、既存の疾患に該当しない場合、まず本症を疑うことが重要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)1)ALアミロイドーシスボルテゾミブ、サリドマイドなどの化学療法薬も用いられるが、ダラツムマブ+ボルテゾミブ+シクロフォスファミド+デキサメタゾン(DCyBorD)療法が保険適用となっている。2)ATTRvアミロイドーシス(1)肝移植アミロイド原因蛋白質である異型TTRの95%以上が肝臓で産生されることから、1990年以来、世界各国で肝移植が試みられてきたが治療薬剤の登場と共に行われなくなった。(2)薬剤療法TTRの四量体を安定化させアミロイド沈着を防ぐdiflunisal(外国購入で使われている)、タファミジス(商品名:ビンダケル)が使用可能になり、ニューロパチー、心機能悪化が抑制されている。また、RNAi治療薬パチシランナトリウムを改良し3ヵ月に1回の皮下注射製剤、ブトリシラン(同:アムヴトラ)が開発され、ニューロパチーには改善効果が認められている(海外ではすでに心アミロイドーシスにも使用されている)。(3)眼科的治療緑内障や硝子体混濁に関しては手術を行う。3)ATTRwtアミロイドーシスタファミジスが心不全の改善効果を示し、死亡率を抑制することが明らかになっている。siRNA TTR製剤もATTRvに伴う心不全に対し改善効果があることが明らかになっている。4)AAアミロイドーシス本症を引き起こす原疾患はRAが大多数であるため、リウマチ治療薬が結果として本症の治療になる。抗IL-6受容体抗体トシリズマブ(同:アクテムラ)投与によりアミロイド沈着が完全に消失したとする報告もある。5)透析アミロイドーシス透析膜の改良により発症頻度が低下している。透析にアミロイド吸着カラム(リクセル)を用いることがある。6)その他の対症療法心アミロイドーシスは利尿薬による対症療法が中心となる。ジギタリスやカルシウム拮抗薬はアミロイド線維と結合し感受性が高まるため、中毒のリスクや血行動態悪化の危険があるので、注意が必要である。腎アミロイドーシス蛋白尿の減少にACE阻害薬が有効であることもある。末期の腎不全に関しては腹膜透析、血液透析を行う。腎移植は腎以外のアミロイドの沈着がない場合に考慮する。消化管アミロイドーシスでは下痢に注意が必要である。低栄養状態の患者には十分な栄養を経口、経静脈的に補給する。4 今後の展望ALアミロイドーシスでは、ミエローマ細胞に対する治療薬の開発が進んでいる。ATTRvアミロイドーシスではgene silencing治療に加え、CRISPR-Cas9システムによるゲノム編集治療がPhase studyIIに入っている。AAアミロイドーシスは原因疾患としては最も多いRAの生物製剤治療が進み、今後さらに患者数は減っていくものと思われる。透析アミロイドーシスは透析膜の改良によりさらに患者数が減少している。ALアミロイドーシスとATTRvの組織沈着アミロイドをターゲットとした抗体治療の開発が進みPhase studyに入っている。5 主たる診療科ALアミロイドーシスは血液内科、ATTRvアミロイドーシスは神経内科、循環器内科、消化器内科、整形外科、ATTRwtアミロイドーシスは循環器内科、神経内科、整形外科、AAアミロイドーシスはリウマチ科、透析アミロイドーシスは腎臓内科などの診療科が、これまで主に診療にあたってきたが、アミロイドーシス全体の啓発活動が活発化し、横断的な診療が行われるようになった。心アミロイドーシスを来すのはAL 、ATTRv、ATTRwt アミロイドーシスなどで高率にみられる。どの全身性アミロイドーシスも腎にアミロイド沈着がみられるので腎臓内科の関与が必要である。また、ATTRvアミロイドーシスにおいては眼アミロイドーシスを呈するため、眼科の関与が必要となる。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報「アミロイドーシス調査研究班」(厚生労働省)ホームページ(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報道しるべの会(FAP患者家族会)(患者とその家族および支援者の会)1)植田光晴 編集、安東由喜雄 監修. 21世紀の疾患:神経関連アミロイドーシス. 2020;医学と看護社.2)Kastritis E, et al. N Engl J Med. 2021;385:46-58.3)Ando Y, et al. Amyloid. 2022;29:143-155.4)Frederick L. et al. J Am Coll Cardiol. 2019;73:2872-2891.5)Buxbaum JN, et al. Amyloid. 2022;29:213-219.公開履歴初回2021年4月28日更新2024年6月21日