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BRCA変異陽性膵臓がんにオラパリブを承認/FDA

 米国食品医薬品局(FDA)は2019年12月27日、プラチナベースの1次治療化学療法レジメンで16週間以上疾患が進行しなかった生殖細胞系列BRCA(gBRCA)変異陽性の転移を有する膵臓がんの成人患者の維持療法として、オラパリブ(商品名:リムパーザ)を承認した。オラパリブのPFS中央値は7.4ヵ月、プラセボは3.8ヵ月 FDAはまた、コンパニオン診断として、BRACAnalysis CDxテスト(Myriad Genetic Laboratories、Inc.)も承認した。 オラパリブの有効性は、転移を有するgBRCA変異膵腺がん患者154例においてオラパリブとプラセボを比較した多施設二重盲検無作為化プラセボ対照試験POLOで検討された。 主要有効性評価項目は、盲検独立中央委員会による無増悪生存期間(PFS)、追加の有効性評価項目は、全生存期間(OS)および全奏効率(ORR)であった。 PFS中央値は、オラパリブ投与患者7.4ヵ月、プラセボ投与患者では3.8ヵ月であった(HR:0.53、95%CI:0.35~0.81、p=0.0035)。OS中央値は、オラパリブおよびプラセボで18.9ヵ月および18.1ヵ月であった(HR:0.91、95%CI:0.56~1.46、p=0.683)。ORRは23%および12%であった。 POLO試験で観察されたオラパリブの一般的な副作用は既報のものと一致していた。10%以上の項目は、悪心、疲労、嘔吐、腹痛、貧血、下痢、めまい、好中球減少症、白血球減少症、鼻咽頭炎/上気道感染症/インフルエンザ、気道感染症、関節痛/筋肉痛、味覚障害、頭痛、消化不良、食欲減退、便秘、口内炎、呼吸困難、血小板減少であった。

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第3世代セフェムを愛用する医師への処方提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第11回

 今回は、蜂窩織炎に対する抗菌薬の処方提案を紹介します。広域抗菌薬はカバーが広くて使いやすいのですが、薬剤耐性菌が世界的に懸念されている昨今ではターゲットを絞って適正な抗菌薬を適正量用いることが求められています。薬剤師も医師の治療方針を確認しつつ、積極的に処方設計に参画して適正使用を推進しましょう。患者情報70歳、女性(施設入居)体  重:42kg基礎疾患:高血圧症、鉄欠乏性貧血、慢性便秘症、骨粗鬆症、足白癬既 往 歴:68歳時に腰椎圧迫骨折(手術)主  訴:左下肢腫脹、痛みあり直近の採血結果: 血清クレアチニン0.8mg/dL処方内容1.アムロジピン錠5mg 1錠 分1 朝食後2.アルファカルシドール錠0.5μg 1錠 分1 朝食後3.酪酸菌配合錠 3錠 分3 毎食後4.酸化マグネシウム錠330mg 3錠 分3 毎食後5.リセドロン酸17.5mg 1錠 起床時 毎週月曜日6.クエン酸第一鉄ナトリウム錠 2錠 分2 朝夕食後本症例のポイント施設の担当看護師さんから、患者さんが左下肢の腫脹と痛みを訴えたため、臨時往診が行われたという電話連絡がありました。その際、「蜂窩織炎を発症しているようで、医師が抗菌薬をどうするか迷っている」という話を聞きました。そこで、すぐに医師に電話すると、「左下肢の蜂窩織炎を疑っているけれど、セフジニル100mg 3錠 分3でいいかな?」と相談されました。抗菌薬の処方提案においては、(1)感染臓器、(2)想定される起炎菌(ターゲット)、(3)感受性良好な抗菌薬の理解が必要不可欠です。蜂窩織炎は、真皮〜皮下組織を感染部位とした皮膚軟部組織感染症で、想定される起炎菌はβ溶血性連鎖球菌(A、B、C、G群)と黄色ブドウ球菌(メチシリン感受性:MSSA)です。医師が処方を検討しているセフジニルは第3世代セフェム系抗菌薬で、一部の口腔内連鎖球菌や大腸菌、肺炎桿菌もカバーする広域スペクトラムの抗菌薬です。本症例において、セフジニルも選択肢として挙げることは可能ですが、広域抗菌薬のため耐性菌産生の懸念があり、ターゲットを絞って治療を開始することが望まれます。また、バイオアベイラビリティーが25%程度と低く、この患者さんの場合は服用中のクエン酸第一鉄ナトリウムとの相互作用により、キレートが形成されて吸収が著しく低下することから、有効抗菌薬量としては高用量が必要なため適切ではないと判断しました。皮膚への移行性と起炎菌を考慮すると、アモキシシリンかセファレキシンが有効かつ適正と考え、処方提案することにしました。また、患者さんの腎機能がCCr:43.4mL/minと低下していることから、処方設計も併せてお伝えすることにしました。処方提案と経過医師に重症度や想定している起炎菌を確認したところ、軽症の蜂窩織炎で溶連菌群をカバーして治療したいという希望を聞き取りました。そこで、アモキシシリン250mg 6錠 分3 毎食後の内服を提案しました。しかし、セフェム系でなんとかできないかとの返答がありました。この医師は、普段は広域をカバーして安全性も高いと考える第3世代セフェムをよく処方しており、経口ペニシリン系の治療経験が少なくて不安だったようです。次に、患者さんの腎機能低下を考慮して、第1世代セフェムであるセファレキシン錠250mg 4錠 分2 朝夕食後の処方を提案し、承認を得ることができました。その後、患者さんは10日間の服薬を終了し、蜂窩織炎は軽快しました。1)Gilbert DNほか編. 菊池賢ほか日本語版監修. <日本語版>サンフォード 感染症治療ガイド2019. 第49版. ライフサイエンス出版; 2019年.2)セフゾンカプセルインタビューフォーム

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一発診断

第1回 歩くと足がしびれる70歳男性第2回 右季肋部に圧痛がある26歳女性第3回 左胸に突き刺すような痛みの18歳男性第4回 腹部膨満感を訴える寝たきりの80歳男性第5回 右第3指の痛みとしびれを訴える52歳女性第6回 両側の手足に皮疹、むくみ、関節痛を訴える28歳女性第7回 左下腿に腫れと痛みがある74歳男性第8回 激しい胸痛を訴える28歳女性第9回 頭頂部に針で刺されるような痛みを訴える36歳女性第10回 39℃の発熱と右頸部に痛みと腫脹がある33歳男性第11回 突然真っ赤な下血を認めた寝たきりの80歳男性第12回 両手足のむくみ・かゆみと膝関節痛の26歳女性第13回 股関節痛のため跛行の6歳男児第14回 右膝に思い当たらないあざができた30歳女性第15回 体動で悪化する右胸の痛みを訴える50歳男性 人気書籍「プライマリ・ケアの現場で役立つ 一発診断100」「プライマリ・ケアの現場で役立つ もっと!一発診断100」を映像化!番組では、まず、症例を提示します。そこに示された症状、所見などから一発診断してみてください。その後、その診断は正しかったのか、どのようなテクニックでその診断に素早くたどり着けるのか、そしてその疾患の関連知識などを確認し、一発診断のスキルを磨いていきましょう!今シリーズでは30症例を厳選!さあ、あなたは閃けるか!該当書籍は以下でご確認ください。amazon購入リンクはこちら ↓【プライマリ・ケアの現場で役立つ 一発診断100】【もっと! 一発診断100】【プライマリ・ケアの現場で役立つ さらに!一発診断100】 ←新作!第1回 歩くと足がしびれる70歳男性今回取り上げるのは、「健診で血圧と血糖値が高いと指摘された50歳男性」「歩くと足がしびれる70歳男性」の2症例。さあ、あなたの一発診断は?第2回 右季肋部に圧痛がある26歳女性今回は「3年以上前から左下腹部痛が続く70歳男性」と「数日前から右季肋部痛が続く26歳女性」の2症例。痛みを訴える患者の数ある所見の中からどこに注目すれば、一発診断を下すことができるのか。第3回 左胸に突き刺すような痛みの18歳男性今回は「手のこわばりと痛み、両手両足背のむくみを訴える72歳男性」「左胸に突き刺すような痛みを訴える18歳男性」の2症例。これらの症例で注目すべき所見は何か?そしてその診断は?第4回 腹部膨満感を訴える寝たきりの80歳男性今回は「腹部膨満感を訴える寝たきりの80歳男性」「咳がおさまらない34歳女性」の2症例を取り上げます。画像や病歴聴取、身体診察を行ったうえで、診断に必要な情報はなにか?一緒に考えてみましょう。第5回 右第3指の痛みとしびれを訴える52歳女性今回は、「右第3指の痛みとしびれを訴える52歳女性」と「発熱、ひどい腹痛、軽い嘔気、下痢の28歳女性」の2症例を取り上げます。診断の切り札となる所見に気付くことができるのか。さあ、あなたの一発診断は?第6回 両側の手足に皮疹、むくみ、関節痛を訴える28歳女性今回は「発熱・嘔気・下痢を訴え、眼球結膜に軽度黄染を認める36歳男性」と「両側の手足に皮疹、むくみ、関節痛を訴えるの28歳女性」の2症例。いずれの症例も決め手になるのは「問診」。診断の決め手となる重要な情報をどのように探し出せるのか!第7回 左下腿に腫れと痛みがある74歳男性今回は「サバを食べてから体中が痒くなった75歳男性」と「左下腿に腫れと痛みがある74歳男性」の2症例を取り上げます。診断の決め手は既往歴と現病歴。安易に診断を下さず、しっかりと確認しましょう!第8回 激しい胸痛を訴える28歳女性今回は「激しい胸痛を訴える28歳女性」「左胸に痛みを伴うミミズ腫れがある50歳男性」の2症例を取り上げます。いずれの症例も「胸痛」を訴えています。ただし、心血管系の痛みではなく、体動などで悪化する痛みです。さあ、診断の手がかりはどこにあるのか!第9回 頭頂部に針で刺されるような痛みを訴える36歳女性今回は「頭頂部に針で刺されるような痛みを訴える36歳女性」と「太ももがピリピリとしびれる50歳女性」の2症例。これらの症例で注目すべき所見は何か?そしてその診断の決め手となるポイントは?これらの疾患の治療についても解説します。第10回 39℃の発熱と右頸部に痛みと腫脹がある33歳男性今回の症例は「右横腹が膨らみ、便秘になったと訴える68歳男性」と「39℃の発熱と右頸部に痛みと腫脹がある33歳男性」の2症例。68歳男性の症例は、実は数週間前に罹患した疾患が重要なヒントに!さあ、あなたの一発診断は?第11回 突然真っ赤な下血を認めた寝たきりの80歳男性今回の症例は「突然真っ赤な下血を認めた寝たきりの80歳男性」と「左耳の後ろの痛みを訴える76歳男性」の2症例。病歴聴取、身体診察、画像など、さまざまな情報の中から、どれが診断の決め手となるのか?第12回 両手足のむくみ・かゆみと膝関節痛の26歳女性今回は、「両手足のむくみ・かゆみと膝関節痛の26歳女性」と「部活中に胸痛・呼吸苦が出現した15歳男性」の2症例を取り上げます。さまざまな鑑別疾患が想起されますが、どこが診断の決め手となるのか。そして、その治療についても解説します。さあ、あなたの一発診断は?第13回 股関節痛のため跛行の6歳男児今回は「後頸部痛のため首を回せない48歳女性」と「股関節痛のため跛行の6歳男児」との2症例を取り上げます。症状からある疾患を疑い、画像を撮影。その画像に答えはあるのか?さあ、あなたの下す診断は?第14回 右膝に思い当たらないあざができた30歳女性今回は「膝に思い当たらないあざができた30歳女性」と「嘔気・嘔吐および腹痛を繰り返す26歳女性」の若年女性に関する2症例。ともに、鑑別診断も多く、どのようにして診断に到達できるのか!診断の決め手は?第15回 体動で悪化する右胸の痛みを訴える50歳男性最終回となる今回は、「嘔気・嘔吐と太もものしびれを訴える84歳女性」と「体動で悪化する右胸の痛みを訴える50歳男性」の2症例を一発診断。いずれの症例も身体診察がポイントでとなります。あなたはどのような問診と診察で、この患者を診断できるのか!さあ、一発診断してみてください!

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中止されたPPIを胃潰瘍リスクで評価して復活【うまくいく!処方提案プラクティス】第10回

 今回は、既往歴や患者情報からプロトンポンプ阻害薬(PPI)が「処方されていない」ことに疑問を持ったところから始まった処方提案です。ポリファーマシーの問題や副作用などから中止対象となることが多いPPIですが、服用継続すべき場合もあります。今回は、PPIが必要な状態について整理し、追加提案に至るまでのポイントの整理と実際の提案方法について紹介します。患者情報84歳、男性(施設入居中)、元住職基礎疾患:慢性心不全、陳旧性心筋梗塞既 往 歴:出血性胃潰瘍(81歳時)、心筋梗塞のため薬剤溶出性ステント(DES)留置(82歳時)、完全房室ブロックのためペースメーカー挿入(年齢不明)往  診:月2回処方内容1.トルバプタン錠7.5mg 1錠 分1 朝食後2.フロセミド錠40mg 2錠 分1 朝食後3.アスピリン腸溶錠100mg 1錠 分1 朝食後4.ピコスルファートナトリウム錠2.5mg 1錠 分1 夕食後5.ピコスルファートナトリウム内用液0.75% 便秘時頓用 適宜調節本症例のポイントこの患者さんは陳旧性心筋梗塞の基礎疾患があり、動脈硬化性疾患の2次予防のために低用量アスピリンが処方されています。アスピリンを長期的に服用すると、消化性出血や潰瘍のリスクがあるため、PPIやH2受容体遮断薬が予防投与されることがあります。とくに、この患者さんのように出血性胃潰瘍の既往がある場合では、PPIの予防投与が国内外のガイドラインで推奨されています。しかし、上記の処方内容のとおり、胃潰瘍の既往があり、アスピリンが処方されているにもかかわらず、PPIの投与がありませんでした。お薬手帳などを確認したところ、以前はPPIが処方されていましたが、施設入居前の処方整理でPPIが中止されたようです。<陳旧性心筋梗塞とアスピリンと潰瘍>陳旧性心筋梗塞(DES留置後)では、禁忌がない場合は低用量アスピリンを2次予防として永続投与することが推奨されている。しかし、アスピリンは低用量であっても長期服用することで、粘膜への影響により胃などに潰瘍を起こすリスクが懸念されている。とくに、出血既往歴がある患者では消化管合併症の発症率が高まることが報告されているため、PPIの併用が推奨されている。PPIが併用されておらず、出血性胃潰瘍を再発し出血性ショックをきたした一例報告もある1)。PPIを服用することのリスクとして、骨折、慢性腎臓病、クロストリジウムディフィシル感染症(CDI)、肺炎など多くの深刻な副作用がありますが、その絶対リスクは患者1人当たり年間約0.1〜0.5%増加させる程度と報告されています2)。以上の点から、出血性胃潰瘍の既往があるこの患者さんにおいてはアスピリンによる胃潰瘍再燃のリスクのほうが重要であり、今後も安全にアスピリンを服用継続するためにPPIの復活を提案することにしました。処方提案とその後の経過回診前のカンファレンスと往診同行時に、出血性胃潰瘍の既往があるのにPPIが併用されておらず、アスピリン服用に伴う出血性胃潰瘍再燃のリスクがあることを医師に相談しました。また、今回の提案の際に参考とした文献も提示し、PPI追加の妥当性について医師と検討しました。施設入居前に薬剤整理が行われたため、医師もPPIが中止になった経緯を把握していませんでしたが、既往歴と現疾患を整理すると、潰瘍リスクを捨て置くわけにはいかないという結論に至りました。そこで、往診翌日からアスピリンと併用してランソプラゾール口腔内崩壊錠30mgを朝食後に追加することになりました。患者さんは、今もアスピリンおよびランソプラゾールを併用していますが、胃部不快感や食道逆流症状、上腹部痛、嘔気などの徴候はなく経過してます。1)Platt KD, et al. JAMA intern Med.2019;179:1276-1227. 2)Vaezi MF, et al. Gastroenterology.2017;153:35-48.

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がん種を問わないNTRK融合遺伝子陽性固形がん治療薬「ロズリートレクカプセル100mg/200mg」【下平博士のDIノート】第38回

がん種を問わないNTRK融合遺伝子陽性固形がん治療薬「ロズリートレクカプセル100mg/200mg」今回は、チロシンキナーゼ阻害薬「エヌトレクチニブ」(商品名:ロズリートレクカプセル100mg/200mg、中外製薬)を紹介します。本剤は、小児から成人まで、がん種を問わず横断的に使用できるNTRK融合遺伝子陽性固形がん治療薬として期待されています。<効能・効果>本剤は、NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発固形がんの適応で、2019年6月18日に承認され、2019年9月4日より発売されています。<用法・用量>通常、エヌトレクチニブとして、成人には1日1回600mg、小児には1日1回300mg/m2(体表面積)を経口投与します。用量は600mgを超えない範囲で、患者の状態により適宜減量できます。<副作用>多施設共同非盲検国際共同第II相バスケット試験(STARTRK-2試験)において、ロズリートレクが投与されたNTRK融合遺伝子陽性患者63例のうち、57例(90.5%)に副作用が認められました。主な副作用は、味覚異常29例(46.0%)、疲労24例(38.1%)、めまい19例(30.2%)、便秘18例(28.6%)、下痢、浮腫が各17例(各27.0%)、体重増加14例(22.2%)、貧血13例(20.6%)でした。なお、重大な副作用として、認知障害・運動失調(28.6%)、心臓障害(4.8%)、間質性肺疾患(1.6%)、QT間隔延長(頻度不明)が報告されています(承認時)。<患者さんへの指導例>1.この薬は、NTRK融合遺伝子を有するがん細胞の増殖を抑制することで、がんの進行を抑えます。2.容器を開ける際は、キャップを下に押しながら回して開けてください。3.グレープフルーツジュースを飲むと、この薬の副作用が強く現れることがあるので、摂取を控えてください。4.飲み始めてから、息苦しい、むくみや体重の増加、動悸、胸の痛み、倦怠感、発熱、めまいなどの症状が現れた場合は、すぐに医師に連絡してください。5.自分のいる場所や時間、人の名前がわからなくなったり、いつもできていたことが突然できなくなったりなど、いつもと変わった様子が見られた場合、すぐに受診してください。<Shimo's eyes>がん治療は、薬剤の開発と同時に遺伝子検査の技術も日々進歩しています。近年では、複数の遺伝子変異を一度に解析できる「がん遺伝子パネル検査」が登場しました。固形がんや肉腫からまれに見つかる異常な遺伝子の1つに、本剤の標的である「NTRK融合遺伝子」があります。この遺伝子の検出については、遺伝子変異解析プログラム「FoundationOne CDxがんゲノムプロファイル」が、本剤のコンパニオン診断として2019年6月に承認されています。本剤は、厚生労働省より先駆け審査指定制度の対象品目に指定され、2019年6月に世界で初めて承認されました。成人・小児を問わず、NTRK融合遺伝子陽性固形がんへの使用が認められています。投薬時の対応としては、本剤の服用で発現すると考えられる、貧血、味覚異常、疲労感、吐き気・嘔吐、便秘・下痢、末梢神経障害などの聞き取りが重要です。添付文書には、副作用に対する休薬、減量および中止基準が記載されていますので、疑義照会や処方提案の参考にしましょう。また、妊娠可能な女性患者や、パートナーが妊娠する可能性のある男性患者に投与した場合、妊娠後の胎児への影響が懸念されます。本剤の投与中および投与終了後、女性30日間、男性90日間は適切な避妊を行うよう指導が必要です。包装はPTPシートではなく、チャイルドプルーフキャップを採用しているバラ包装なので、開けるときはキャップを下に押しながら回すように説明しましょう。参考1)PMDA ロズリートレクカプセル100mg/ロズリートレクカプセル200mg

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脊髄小脳変性症〔SCD : spinocerebellar degeneration〕

1 疾患概要■ 概念・定義脊髄小脳変性症は、大きく遺伝性のものと非遺伝性のものに分けられる。非遺伝性のものの半分以上は多系統萎縮症であり、多系統萎縮症では小脳症状に加えてパーキンソン症状(体の固さなど)や自律神経症状(立ちくらみ、排尿障害など)を伴う特徴がある。また、脊髄小脳変性症のうち、遺伝性のものは約3分の1を占め、その中のほとんどは常染色体優性(顕性)遺伝性の病気であり、その多くはSCA1、SCA2などのSCA(脊髄小脳失調症)という記号に番号をつけた名前で表される。SCA3型は、別名「Machado-Joseph病(MJD)」と呼ばれ、頻度も高い。常染色体性劣性(潜性)遺伝形式の脊髄小脳変性症は、頻度的には1.8%とまれであるにもかかわらず、数多くの病型がある。近年、それらの原因遺伝子の同定や病態の解明も進んできており、疾患への理解が深まってきている。多系統萎縮症は一般的に重い病状を呈し、進行がはっきりとわかるが、遺伝性の中には進行がきわめてゆっくりのものも多く、ひとまとめに疾患の重症度を論じることは困難である。一方で、脊髄小脳変性症には痙性対麻痺(主に遺伝性のもの)も含まれる。痙性対麻痺は、錐体路がさまざまな原因で変性し、強い下肢の突っ張りにより、下肢の運動障害を呈する疾患の総称で、家族性のものはSPG(spastic paraplegia)と名付けられ、わが国では遺伝性ではSPG4が最も多いことがわかっている。本症も小脳失調症と同様に、最終的には原因別に100種類以上に分けられると推定されている。細かな病型分類はNeuromuscular Disease CenterのWebサイトにて確認ができる。■ 症状小脳失調は、脊髄小脳変性症の基本的な特徴で、最も出やすい症状は歩行失調、バランス障害で、初期には片足立ち、継ぎ足での歩行が困難になる。Wide based gaitとよばれる足を開いて歩行するような歩行もみられやすい。そのほか、眼球運動のスムーズさが損なわれ、注視方向性の眼振、構音障害、上肢の巧緻運動の低下なども見られる。純粋に小脳失調であれば筋力の低下は見られないが、最も多い多系統萎縮症では、筋力低下が認められる。これは、錐体路および錐体外路障害の影響と考えられる。痙性対麻痺は、両側の錐体路障害により下肢に強い痙性を認め、下肢が突っ張った状態となり、足の曲げにくさから足が運びにくくなり、はさみ歩行と呼ばれる足の外側を擦るような歩行を呈する。進行すると筋力低下を伴い、杖での歩行、車いすになる場合もある。脊髄が炎症や腫瘍などにより傷害される疾患では、排尿障害や便秘などの自律神経症状を合併することが多いが、本症では合併が無いことが多い。以下、本稿では次に小脳失調症を中心に記載する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 鑑別診断小脳失調症については、治療可能なものを調べる必要がある。治療可能なものとして、橋本脳症が多く混ざっていることがわかってきており、甲状腺機能が正常かどうかにかかわらず、抗TPO抗体、抗TG抗体陽性例の測定が必要である。陽性時には、診断的治療としてステロイドパルス療法などの免疫療法の反応性を確認する必要がある。ステロイド治療に反応すれば橋本脳症とするのが妥当であろう。その他にもグルテン失調症などの免疫治療に反応する小脳失調症も存在する。また、抗GAD抗体陽性の小脳失調症も知られており、測定する価値はある。悪性腫瘍に伴うものも想定されるが、実際に悪性腫瘍の関連で起こることはまれで、腫瘍が見つからないことが多い。亜急性の経過で重篤なもの、オプソクローヌスやミオクローヌスを伴う場合には、腫瘍関連の自己抗体が関連していると推定され、悪性腫瘍の合併率は格段に上がる。男性では肺がん、精巣腫瘍、悪性リンパ腫、女性では乳がん、子宮がん、卵巣がんなどの探索が必要である。ミトコンドリア病(脳筋症)の場合も多々あり、小脳失調に加えて筋障害による筋力低下や糖尿病の合併などミトコンドリア病らしさがあれば、血清、髄液の乳酸、ピルビン酸値測定、MRS(MRスペクトロスコピー)、筋生検、遺伝子検査などを行うことで診断が可能である。劣性遺伝性の疾患の中に、ビタミンE単独欠乏性運動失調症(ataxia with vitamin E deficiency : AVED)という病気があり、本症は、わが国でも見られる治療可能な小脳変性症として重要である。本症は、ビタミンE転送蛋白(α-tocopherol transfer protein)という遺伝子の異常で引き起こされ、ビタミンEの補充により改善が見られる。一方、アルコール多飲が見られる場合には、中止により改善が確認できる場合も多い。フェニトインなど薬剤の確認も必要である。おおよそ小脳失調症の3分の1は多系統萎縮症である。まれに家族例が報告されているが孤発例がほとんどである。通常40代以降に、小脳失調で発症することが多く、初発時にもMRIで小脳萎縮や脳血流シンチグラフィー(IMP-SPECT)で小脳の血流低下を認める。進行とともに自律神経症状の合併、頭部MRIで橋、延髄上部にT2強調画像でhot cross bun signと呼ばれる十字の高信号や橋の萎縮像が見られる。SCAの中ではSCA2に類似の所見が見られることがあるが、この所見があれば、通常多系統萎縮症と診断できる。さらに、小脳失調症の3分の1は遺伝性のものであるため、遺伝子診断なしで小脳失調症の鑑別を行うことは難しい。遺伝性小脳失調症の95%以上は常染色体性優性遺伝形式で、その80%以上は遺伝子診断が可能である。疾患遺伝子頻度には地域差が大きいが、わが国で比較的多く見られるものは、SCA1、 SCA2、 SCA3(MJD)、SCA6、 SCA31であり、トリプレットリピートの延長などの検査で、それぞれの疾患の遺伝子診断が可能である。常染色体劣性遺伝性の小脳失調症は、小脳失調だけではなく、他の症状を合併している病型がほとんどである。その中には、末梢神経障害(ニューロパチー)、知的機能障害、てんかん、筋障害、視力障害、網膜異常、眼球運動障害、不随意運動、皮膚異常などさまざまな症候があり、小脳失調以上に身体的影響が大きい症候も存在する。この中でも先天性や乳幼児期の発症の疾患の多くは、知能障害を伴うことが多く、重度の障害を持つことが多い。小脳失調が主体に出て日常生活に支障が出る疾患として、アプラタキシン欠損症(EAOH/AOA1)、 セナタキシン欠損症(SCAR1/AOA2)、ビタミンE単独欠乏性運動失調症(AVED)、シャルルヴォア・サグネ型痙性失調症(ARSACS)、軸索型末梢神経障害を伴う小脳失調症(SCAN1)、 フリードライヒ失調症(FRDA)などがある。このうちEAOH/AOA1、SCAR1/AOA2、 AVED、ARSACSについては、わが国でも見られる。遺伝性も確認できず、原因の確認ができないものは皮質小脳萎縮症(cortical cerebellar atrophy: CCA)と呼ばれる。CCAは、比較的ゆっくり進行する小脳失調症として知られており、小脳失調症の10~30%の頻度を占めるが、その病理所見の詳細は不明で、実際にどのような疾患であるかは不明である。本症はまれな遺伝子異常のSCA、多系統萎縮症の初期、橋本脳症などの免疫疾患、ミトコンドリア病などさまざまな疾患が混ざっていると推定される。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)小脳失調症の治療は、正確な原因診断に関わっている。上記の橋本脳症、GAD抗体小脳失調、そのほかグルテン失調症など他の自己抗体の関与が推定される疾患もあり、原因不明であれば、一度はステロイドパルスをすることも検討すべきであろう。ミトコンドリア病では、有効性は確認されていないがCoQ10、L-アルギニンなども治療薬の候補に挙がる。ミトコンドリア脳筋症、乳酸アシドーシス、脳卒中様発作症候群(MELAS)においてはタウリンの保険適用も認められ、その治療に準じて、治療することで奏功できる例もあると思われる。小脳失調に対しては、保険診療では、タルチレリン(商品名: セレジスト)の投与により、運動失調の治療を試みる。また、集中的なリハビリテーションの有効性も確認されている。多系統萎縮症の感受性遺伝子の1つにCoQ2の異常が報告され、その機序から推定される治療の臨床試験が進行中である。次に考えられる処方例を示す。■ SCDの薬物療法(保険適用)1) 小脳失調(1) プロチレリン(商品名:ヒルトニン)処方例ヒルトニン®(0.5mg) 1A~4A 筋肉内注射生理食塩水(100mL) 1V 点滴静注2週間連続投与のあと、2週間休薬 または 週3回隔日投与のどちらか。2mg投与群において、14日間連続投与後の評価において、とくに構音障害にて、改善を認める。1年後の累積悪化曲線では、プラセボ群と有意差を認めず。(2) タルチレリン(同:セレジスト)処方例セレジスト®(5mg)2T 分2 朝・夕食後10mg投与群において、全般改善度・運動失調検査概括改善度で改善を認める。28週後までに構音障害、注視眼振、上肢機能などの改善を認める。1年後の累積悪化曲線では、プラセボ群と有意差を認めず。(3) タンドスピロン(同:セディール)処方例セディール®(5~20mg)3T 分3 朝・昼・夕食後タンドスピロンとして、15~60mg/日有効の症例報告もあるが、無効の報告もあり。重篤な副作用がなく、不安神経症の治療としても導入しやすい。2) 自律神経症状起立性低血圧(orthostatic hypotension)※水分・塩分摂取の増加を図ることが第一である。夜間頭部挙上や弾性ストッキングの使用も勧められる。処方例(1) フルドロコルチゾン(同:フロリネフ)〔0.1mg〕 0.2~1T 分1 朝食後(2) ミドドリン(同:メトリジン)〔2mg〕 2~4T 分3 毎食後(二重盲検試験で確認)(3) ドロキシドパ(同:ドプス)〔100mg〕 3~6T 分3 毎食後(4) ピリドスチグミン(同:メスチノン)〔60mg〕 1T/日■ 外科的治療髄腔内バクロフェン投与療法(ITB療法)痙性対麻痺患者の難治性の症例には、検討される。筋力低下の少ない例では、歩行の改善が見られやすい。4 今後の展望多系統萎縮症においてもCoQ2の異常が報告されたことは述べたが、CoQ2に異常がない多系統萎縮症の例のほうが多数であり、そのメカニズムの解析が待たれる。遺伝性小脳失調症については、その原因の80%近くがリピートの延長であるが、それ以外のミスセンス変異などシークエンス配列異常も多数報告されており、正確な診断には次世代シークエンス法を用いたターゲットリシークエンス、または、エクソーム解析により、原因が同定されるであろう。治療については、抗トリプレットリピートまたはポリグルタミンに対する治療研究が積極的に行われ、治療薬スクリーニングが継続して行われる。また、近年のアンチセンスオリゴによる遺伝子治療も治験が行われるなど、遺伝性のものについても治療の期待が膨らんでいる。そのほか、iPS細胞の小脳への移植治療などについてはすぐには困難であるが、先行して行われるパーキンソン病治療の進展を見なければならない。患者iPS細胞を用いた病態解析や治療薬のスクリーニングも大規模に行われるようになるであろう。5 主たる診療科脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 脊髄小脳変性症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)Neuromuscular Disease Center(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報全国脊髄小脳変性症・多系統萎縮症友の会(患者、患者家族向けの情報)1)水澤英洋監修. 月刊「難病と在宅ケア」編集部編. 脊髄小脳変性症のすべて. 日本プランニングセンター;2006.2)Multiple-System Atrophy Research Collaboration. N Engl J Med. 2013; 369: 233-244.公開履歴初回2014年07月23日更新2019年11月27日

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80歳以上の潜在性甲状腺機能低下症、レボチロキシンの効果は?/JAMA

 80歳以上の潜在性甲状腺機能低下症患者の治療において、レボチロキシンはプラセボに比べ、関連症状や疲労を改善しないことが、オランダ・ライデン大学医療センターのSimon P. Mooijaart氏らが行った2つの臨床試験の統合解析で示された。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2019年10月30日号に掲載された。潜在性甲状腺機能低下症(サイロトロピン[甲状腺刺激ホルモン:TSH]上昇、遊離サイロキシン[FT4]正常範囲)は、便秘、精神機能低下、疲労、うつ症状などがみられ、心血管疾患リスクの上昇との関連が指摘されている。また、加齢に伴い併存疾患やフレイルが増加するため、80歳以上の患者は、疾患管理による有益性と有害性が、若年患者とは異なる可能性がある。一方、現時点で高齢患者のエビデンスはなく、プライマリケア医による治療においてばらつきの原因となっている可能性があるという。2つの無作為化プラセボ対照比較試験の統合解析 研究グループは、80歳以上の潜在性甲状腺機能低下症患者において、レボチロキシン治療が甲状腺関連QOLに及ぼす効果を評価する目的で、2つの二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験の統合解析を行った。 Institute for Evidence-Based Medicine in Old Age(IEMO)試験は、80歳以上の患者を対象に、2014年5月~2017年5月の期間にオランダとスイスの施設で患者登録が行われた。また、Thyroid Hormone Replacement for Untreated Older Adults With Subclinical Hypothyroidism Trial(TRUST)試験は、65歳以上の患者を対象に、2013年4月~2015年5月の期間にオランダ、スイス、アイルランド、英国の施設で患者登録が行われた。 解析には、TRUST試験の80歳以上のサブグループと、IEMO試験のデータが用いられた(対象はサイロトロピン値4.6~19.9mIU/Lの患者)。 主要アウトカムは2つで、1年後の甲状腺関連QOL患者報告アウトカム(ThyPRO)質問票の「甲状腺機能低下症状」および「疲労」のスコア(0~100点、スコアが高いほどQOLが不良、臨床的に意義のある最小変化量は9点)とした。サイロトロピンは有意に低下、BMIは有意に増加 251例(平均年齢84.6[SD 3.6]歳、118例[47%]が女性)が登録され、レボチロキシン群に112例、プラセボ群には139例が割り付けられた。212例(84%)が試験を完遂した。ベースラインの虚血性心疾患が、レボチロキシン群(20.5%)に比べプラセボ群(27.3%)で多かった。 平均サイロトロピン値は、レボチロキシン群ではベースラインの6.50(SD 1.80)mIU/Lから12ヵ月後には3.69(1.81)mIU/Lへと低下し、プラセボ群の6.20(1.48)mIU/Lから5.49(2.21)mIU/Lへの低下と比較して、低下の幅が有意に大きかった(推定平均群間差:-1.9mIU/L、95%信頼区間[CI]:-2.49~-1.45、p<0.001)。 甲状腺機能低下症状スコアは、レボチロキシン群ではベースラインの21.7点から12ヵ月後には19.3点に低下したのに対し、プラセボ群では19.8点から17.4点に低下し、低下の幅に関して両群間に有意な差は認められなかった(補正後の群間差:1.3点、95%CI:-2.7~5.2、p=0.53)。 疲労スコアは、レボチロキシン群ではベースラインの25.5点から12ヵ月後には28.2点へと増加し、プラセボ群では25.1点から28.7点へと増加しており、有意差はみられなかった(補正後の群間差:-0.1点、95%CI:-4.5~4.3、p=0.96)。 EuroQol-5D indexによるQOL評価(補正後の群間差:-0.012、95%CI:-0.063~0.039、p=0.64)および握力による身体機能評価(-0.27kg、-1.79~1.25、p=0.73)にも、両群間に差はなかった。一方、BMI(0.38、0.08~0.68、p=0.01)およびウエスト周囲長(1.52cm、0.09~2.95、p=0.04)は、プラセボ群に比べレボチロキシン群で有意に増加した。 致死的/非致死的心血管イベント(補正前ハザード比[HR]:0.61、95%CI:0.24~1.50)および全死因死亡(1.39、0.37~5.19)には、両群間に差は認められなかった。73例(レボチロキシン群33例[29.5%]、プラセボ群40例[28.8%])で、1件以上の重篤な有害事象が認められた。 著者は「これらの知見は、80歳以上の潜在性甲状腺機能低下症患者の治療におけるレボチロキシンのルーチンの使用を支持しない」としている。

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NSCLCのALK検査、リキッド・バイオプシーも有用(BFAST)/ESMO2019

 非小細胞肺がん(NSCLC)の遺伝子変異検査で、血液を検体とするリキッド・バイオプシーの有用性を評価した前向き臨床試験の結果が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO2019)で、米国・Rogel Cancer Center/University of MichiganのShirish M. Gadgeel氏より発表された。 BFAST試験は、血液検体のみを用いた6つのコホートからなる国際共同の前向き第II/III相試験である。今回はその中からALK陽性コホートのみ発表された。その他のコホートはRET陽性、ROS1陽性、TMB陽性、Real World Dataなどであり、血液検査(cfDNA)はFMI社によって実施された。・対象:Stage IIIB/IVの未治療のNSCLC。試験全体で2,219例をスクリーニング、ALK陽性は119例(5.4%)で、87例が本試験に登録された。・試験群:ALK陽性コホートにおいては、アレクチニブ600mg×2回/日投与・評価項目:[主要評価項目]治験担当医評価(INV)による奏効率(ORR)[副次評価項目]INVによる奏功期間(DOR)と無増悪生存期間(PFS)。独立評価委員(IRF)によるORR、DOR、PFS[探索的検討項目]脳転移を有する患者群の主治医判定によるORR 必要症例数算定などのために、同じくアレクチニブの国際共同試験であるALEX試験の結果をリファレンスとした(ALEX試験は腫瘍組織検査)。アレクチニブの用量が日本の承認用量とは異なるため、日本からはこのコホートへの登録はなかった。 主な結果は以下のとおり。・登録患者のベースライン特性は、年齢中央値55歳、脳転移有り40%などで、既報のALEX試験と大きな差はなかった。・追跡期間中央値12.6ヵ月。・INVによるORRは87.4%(95%信頼区間[CI]:78.5~93.5)、IRFによるORRは92.0%(95%CI:84.1~96.7)であった。・脳転移を有する患者群(35例)でのINVによるORRは91.4%、脳転移なしの患者群(52例)では84.6%であった。病勢進行(PD)の症例は各群1例と0例であった。・INVによるDORは中央値未到達で、6ヵ月時点でのイベントフリーは63例でありその割合は90.4%であった。・INVによるPFSも同様に中央値未到達であり、12ヵ月時点でのPFSは78.4%(95%CI:69.1~87.7)であった。・Grade3/4の有害事象(AE)は35%、AEによる治療中止は7%、用量減量は8%であった。主なAEは便秘などの消化器症状、浮腫、倦怠感、筋肉痛などであり、既報のアレクチニブの安全性プロファイルと差はなかった。 発表者のGadgeel氏は「血液サンプルでの遺伝子検査(NGS)は、ALK陽性NSCLC患者の治療方針決定に臨床的な意味がある事を示した」と述べた。

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自然呼吸で吸入可能な1回完結型インフル治療薬「イナビル吸入懸濁用160mgセット」【下平博士のDIノート】第35回

自然呼吸で吸入可能な1回完結型インフル治療薬「イナビル吸入懸濁用160mgセット」今回は、長時間作用型ノイラミニダーゼ阻害薬「ラニナミビル(商品名:イナビル吸入懸濁用160mgセット)」を紹介します。本剤は、吸入力が弱く、既存の吸入粉末薬の使用が困難だった小児や高齢者などにも使える1回完結型のインフルエンザ治療薬として期待されています。<効能・効果>本剤は、A型またはB型インフルエンザウイルス感染症の適応で、2019年6月18日に承認され、2019年10月25日より発売される予定です。なお、既存の吸入粉末薬とは異なり、予防投与としては使用できません。<用法・用量>成人および小児には、ラニナミビルオクタン酸エステルとして160mgを日本薬局方生理食塩液2mLで懸濁し、ネブライザを用いて単回吸入投与します。<副作用>国内で実施された第III相試験において、安全性評価対象症例441例中9例(2.0%)に副作用が認められました。主な副作用は、下痢・嘔吐が各2例(0.5%)、便秘・悪心・虚血性大腸炎が各1例(0.2%)でした。インフルエンザ異常行動・言動に該当する有害事象は1例(気分変化)に認められましたが、本剤との因果関係は「関連なし」と判定されています。なお、重大な副作用として、ショック、アナフィラキシー、気管支攣縮、呼吸困難、異常行動、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、中毒性表皮壊死融解症(TEN)、多形紅斑(いずれも頻度不明)が吸入粉末薬で認められている重大な副作用として注意喚起されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、インフルエンザウイルスの増殖を抑えることで、インフルエンザの症状を緩和します。2.吸入時は、吸入マスクを口元にあててリラックスしながら、深く口で呼吸してください。3.小児が泣いたり暴れたりして吸入の継続が困難になった場合、いったん機械を止めて、落ち着いてから吸入を再開してください。霧が出なくなったら終了です。4.インフルエンザにかかった時は、薬の有無や種類を問わず飛び降りなどの異常行動を起こす恐れがあります。発熱から少なくとも2日間は、窓の鍵を確実にかけるなど、転落などの事故に対する防止対策を徹底してください。<Shimo's eyes>同成分の既存の剤形として吸入粉末薬がありますが、今回ネブライザで吸入するタイプの製剤が発売されます。本剤は、吸入力が弱い小児や高齢者でも十分量の吸入が期待できます。ジェット式ネブライザを使用して吸入するため、通常は吸入用機器(コンプレッサー)を設置している病院で使用されることが想定されます。凍結乾燥製剤の溶解に用いる生理食塩水、シリンジ、注射針などは、医療施設で用意する必要があります。吸入粉末薬と異なる点として、添加剤に乳糖が含まれないので、乳糖不耐症や乳製品アレルギーなどの患者に対しても使用できます。また、年齢に応じた用量の設定はありません。本剤は、従来の吸入容器による吸入手技を必要としないため、医療機関の感染予防対策にも有効と考えられます。

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第13回 糖尿病合併症の管理、高齢者では?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第13回 糖尿病合併症の管理、高齢者では?高齢糖尿病患者は罹病期間が長い例が多く、進行した合併症を有する例も多く経験します。今回はいわゆる三大合併症について解説します。合併症の進展予防には血糖管理だけではなく、血圧、脂質など包括的な管理が必要となりますが、すべてを厳格にコントロールしようとするがあまり“ポリファーマシー”となり、症例によっては、かえって予後を悪化させる場合もありますので、実際の治療に関しては個々の症例に応じて判断していくことが重要になります。Q1 微量アルブミン尿が出現しない場合も? 糖尿病腎症の管理について教えてください。高齢糖尿病患者でも、高血糖は糖尿病腎症の発症・進展に寄与するため、定期的に尿アルブミン・尿蛋白・eGFRを測定・計算し、糖尿病腎症の病期分類を行うことが推奨されています1)。症例にもよりますが、血液検査は外来受診のたび、尿検査は3~6カ月ごとに実施していることが多いです。高齢者では筋肉量が低下している場合が多く、血清Cre値では腎機能をよく見積もってしまうことがあり、BMIが低いなど筋肉量が低下していることが予想される場合には、血清シスタチンCによるeGFR_cysで評価します。典型的な糖尿病腎症は微量アルブミン尿から顕性蛋白尿、ネフローゼ、腎不全に至ると考えられており、尿中アルブミン測定が糖尿病腎症の早期発見に重要なわけですが、実際には、微量アルブミン尿の出現を経ずに、あるいは軽度のうちから腎機能が低下してくる症例も多く経験します。高血圧による腎硬化症などが、腎機能低下に寄与していると考えられていますが、こういった蛋白尿の目立たない例を含め、糖尿病がその発症や進展に関与していると考えられるCKDをDKD (diabetic kidney disease;糖尿病性腎臓病)と呼びます。加齢により腎機能は低下するため、DKDの有病率も高齢になるほど増えてきます。イタリアでの2型糖尿病患者15万7,595例の横断調査でも、eGFRが60mL/min未満の割合は65歳未満では6.8%、65~75歳で21.7%、76歳以上では44.3%と加齢とともにその割合が増加していました2)。一方、アルブミン尿の割合は65歳未満で25.6%、 65~75歳で28.4%、76歳以上で33.7%であり、加齢による増加はそれほど目立ちませんでした。リスク因子としては、eGFR60mL/min、アルブミン尿に共通して高血圧がありました。また、本研究では80歳以上でDKDがない集団の特徴も検討されており、良好な血糖管理(平均HbA1c:7.1%)に加え良好な脂質・血圧管理、体重減少がないことが挙げられています。これらのことから、高齢者糖尿病の治療では、糖尿病腎症の抑制の面からも血糖管理だけではなく、血圧・脂質管理、栄養療法といった包括的管理が重要であるといえます。血圧管理に関しては、『高血圧治療ガイドライン2019』では成人(75歳未満)の高血圧基準は140/90 mmHg以上(診察室血圧)とされ,降圧目標は130/80 mmHg未満と設定されています3)。75歳以上でも降圧目標は140/90mmHg未満であり、糖尿病などの併存疾患などによって降圧目標が130/80mmHg未満とされる場合、忍容性があれば個別に判断して130/80mmHg未満への降圧を目指すとしています。しかしながら、こうした患者では収縮期血圧110mmHg未満によるふらつきなどにも注意したほうがいいと思います。降圧薬は微量アルブミン尿、蛋白尿がある場合はACE阻害薬かARBの使用が優先されますが、微量アルブミン尿や蛋白尿がない場合はCa拮抗薬、サイアザイド系利尿薬も使用します。腎症4期以上でARB、ACE阻害薬を使用する場合は、腎機能悪化や高K血症に注意が必要です。また「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」では、75歳以上で腎症4期以上では、CCBが第一選択薬として推奨されています4)。腎性貧血に対するエリスロポエチン製剤(ESA)の使用については、75歳以上の高齢CKD患者では「ESAと鉄剤を用い、Hb値を11g/dL以上、13g/dL未満に管理するが、症例によってはHb値9g/dL以上の管理でも許容される」となっています。高齢者ではESAを高用量使用しなければならないことも多く、その場合はHbA1c 10g/dL程度を目標に使用しています。腎臓専門医への紹介のタイミングは日本腎臓学会より示されており、蛋白尿やアルブミン尿の区分ごとに紹介基準が示されているので、ご参照ください(表)。画像を拡大するQ2 網膜症、HbA1cの目安や眼科紹介のタイミングは?高血糖が糖尿病網膜症の発症・進展因子であることは高齢者でも同様です。60歳以上の2型糖尿病患者7万1,092例(平均年齢71歳)の追跡調査では、HbA1c 7.0%以上の患者ではレーザー光凝固術の施行が10.0%以上となり、HbA1c 6.0%未満の患者と比べて約3倍以上となっています5)。また、罹病期間が10年以上の高齢者糖尿病では、10年未満の患者と比べて重症の糖尿病性眼疾患(失明、増殖性網膜症、黄斑浮腫、レーザー光凝固術施行)の頻度は高くなりますが、80歳以上ではその頻度がやや減少すると報告されています6)。このように、高齢糖尿病患者では罹病期間が長く、光凝固術の既往がある例も多く存在します。現在の血糖コントロールが良好でも、罹病期間が長い例では急激に糖尿病網膜症が進行する場合があり、初診時は必ず、その後も少なくとも1年に1回の定期受診が必要です。増殖性前網膜症以上の網膜症が存在する場合は急激な血糖コントロールにより網膜症が悪化することがあり、緩徐に血糖値をコントロールする必要があります。どのくらいの速度で血糖値を管理するかについて具体的な目安は明らかでありませんが、少なくとも低血糖を避けるため、メトホルミンやDPP-4阻害薬単剤から治療をはじめ、1~2ヵ月ごとに漸増します。インスリン依存状態などでやむを得ずインスリンを使用する場合には血糖目標を緩め、食前血糖値200mg/dL前後で許容する場合もあります。そのような場合には当然眼科医と連携をとり、頻回に診察をしていただきます。患者さんとのやりとりにおいては、定期的に眼科受診の有無を確認することが大切です。眼科との連携には糖尿病連携手帳や糖尿病眼手帳が有用です。糖尿病連携手帳を渡し、受診を促すだけでは眼科を受診していただけない場合には、近隣の眼科あての(宛名入りの)紹介状を作成(あるいは院内紹介で予約枠を取得)すると、大抵の場合は受診していただけます。また、収縮期高血圧は糖尿病網膜症進行の、高LDL血症は糖尿病黄斑症進行の危険因子として知られており、それらの管理も重要です。高齢者糖尿病の視力障害は手段的ADL低下や転倒につながることがあるので注意を要します。高齢糖尿病患者797人の横断調査では、視力0.2~0.6の視力障害でも、交通機関を使っての外出、買い物、金銭管理などの手段的ADL低下と関連がみられました7)。J-EDIT研究でも、白内障があると手段的ADL低下のリスクが1.99倍になることが示されています8)。また、コントラスト視力障害があると転倒をきたしやすくなります9)。Q3 高齢者の糖尿病神経障害の特徴や具体的な治療の進め方について教えてください。神経障害は糖尿病合併症の中で最も多く、高齢糖尿病患者でも多く見られます。自覚症状、アキレス腱反射の低下・消失、下肢振動覚低下により診断しますが、高齢者では下肢振動覚が低下しており、70歳代では9秒以内、80歳以上では8秒以内を振動覚低下とすることが提案されています10)。自律神経障害の検査としてCVR-Rがありますが、高齢者では、加齢に伴い低下しているほか、β遮断薬の内服でも低下するため、結果の解釈に注意が必要です。検査間隔は軽症例で半年~1年ごと、重症例ではそれ以上の頻度での評価が推奨されています1)。しびれなどの自覚的な症状がないまま感覚障害が進行する例もあるため、自覚症状がない場合でも定期的な評価が必要です。とくに、下肢感覚障害が高度である場合には、潰瘍形成などの確認のためフットチェックが重要です。高齢者糖尿病では末梢神経障害があると、サルコペニア、転倒、認知機能低下、うつ傾向などの老年症候群を起こしやすくなります。神経障害が進行し、重症になると感覚障害だけではなく運動障害も出現し、筋力低下やバランス障害を伴い、転倒リスクが高くなります。加えて、自律神経障害の起立性低血圧や尿失禁も転倒の誘因となります。また、自律神経障害の無緊張性膀胱は、尿閉や溢流性尿失禁を起こし、尿路感染症の誘因となります。しびれや有痛性神経障害はうつのリスクやQOLの低下だけでなく、死亡リスクにも影響します。自律神経障害が進行すると神経因性膀胱による排尿障害、便秘、下痢などが出現することがあります。さらには、無自覚低血糖、無痛性心筋虚血のリスクも高まります。無自覚低血糖がみられる場合には、血糖目標の緩和も考慮します。また、急激な血糖コントロールによりしびれや痛みが増悪する場合があり(治療後神経障害)、高血糖が長期に持続していた例などでは緩徐なコントロールを心がけています。中等度以上のしびれや痛みに対しては、デュロキセチン、プレガバリン、三環系抗うつ薬が推奨されていますが、高齢者では副作用の点から三環系抗うつ薬は使用しづらく、デュロキセチンかプレガバリンを最小用量あるいはその半錠から開始し、少なくとも1週間以上の間隔をあけて漸増しています。両者とも効果にそう違いは感じませんが、共通して眠気やふらつきの副作用により転倒のリスクが高まることに注意が必要です。また、デュロキセチンでは高齢者で低Na血症のリスクが高くなることも報告されています。1)日本老年医学会・日本糖尿病学会編著. 高齢者糖尿病診療ガイドライン2017.南江堂; 2017.2)Russo GT,et al. BMC Geriatr. 2018;18:38.3)日本高血圧学会.高血圧治療ガイドライン2019.ライフサイエンス出版;20194)日本腎臓学会. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018. 東京医学社会; 20185)Huang ES, et al. Diabetes Care.2011; 34:1329-1336.6)Huang ES, et al. JAMA Intern Med. 2014; 174: 251-258.7)Araki A, et al. Geriatr Gerontol Int. 2004;4:27-36.8)Sakurai T, et al. Geriatr Gerontol Int. 2012;12:117-126.9)Schwartz AV, et al. Diabetes Care. 2008;31: 391-396.10)日本糖尿病学会・日本老年医学会編著. 高齢者糖尿病ガイド2018. 文光堂; 2018.

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不安障害に対するベンゾジアゼピン長期使用~メタ解析

 不安障害の治療ガイドラインでは、ベンゾジアゼピン(BZD)の長期使用は認められていないが、実際の臨床現場では一般的に行われている。慶應義塾大学の新福 正機氏らは、不安障害に対するBZD長期使用に関するメタ解析を実施した。International Clinical Psychopharmacology誌2019年9月号の報告。 不安障害患者に対する13週以上のBZD長期使用における有効性を検討したランダム化比較試験(RCT)またはRCT後の維持研究を対象とし、2019年5月までに公表された研究をPubMedより検索した。その後、ベースラインからエンドポイントまでのハミルトン不安評価尺度(HAM-A)スコアの変化、すべての原因による中止、副作用、パニック発作回数に関してメタ解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・8研究(1,228例)が特定された。・最初の8週間の治療後、BZDと抗うつ薬におけるすべての結果に、有意な差は認められなかった。・BZDのHAM-Aスコアの変化は、プラセボと比較し、有意な差が認められなかった。BZDは、プラセボよりも中止率が低く、便秘および口渇の頻度が高かった。 著者らは「最初の8週間で治療反応が認められる患者では、継続的なBZD使用の有効性および安全性は、抗うつ薬と同等であることが示唆された。しかし、研究数は限られており、BZD長期使用の有効性および安全性については、さらなる調査が必要とされる」としている。

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ビスホスホネート製剤を噛み続ける患者の中止提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第6回

 服用状況を確認すると、意外な薬の飲み方をしているケースがしばしばあります。今回は、施設職員向けの勉強会を契機に副作用リスクを発見できた症例を紹介します。患者情報施設入居(5年目)、80歳、女性現病歴:骨粗鬆症、高血圧症、便秘症、アルツハイマー型認知症血圧推移:140/70台既往歴:大腿骨頸部骨折(78歳時)2週間に1回の往診あり(薬剤師も同行)処方内容1.アムロジピン錠5mg 1錠 分1 朝食後2.オルメサルタン錠20mg 1錠 分1 朝食後3.エルデカルシトールカプセル0.75μg 1錠 分1 夕食後4.酸化マグネシウム錠330mg 2錠 分2 朝夕食後5.アレンドロン酸錠35mg 1錠 分1 起床時 毎週土曜日症例のポイントこの患者さんは、アルツハイマー型認知症のため短期記憶が乏しく、入居時より施設職員が内服薬を管理していました。2年前に転倒、大腿骨頸部骨折のため入院し、骨粗鬆症が指摘されたためエルデカルシトールとアレンドロン酸の内服が開始となりました。しかし、その入院を契機に認知機能低下がさらに進行し、食事や排泄は全介助が必要になり、自立歩行も困難で臥床の時間が長くなったと施設職員から情報提供がありました。ある日、施設職員に向けて粉砕不可の薬についての勉強会を薬剤師主導で実施したところ、「この患者さんは内服薬を口にするとすべて噛み砕いてしまうが問題ないか」という相談がありました。アレンドロン酸などのビスホスホネート内服薬は、粉砕や分割することで口腔粘膜や食道に付着し、潰瘍などの刺激性症状を引き起こす可能性が知られており、薬剤の中止や剤形の変更が必要と考えました。患者は服用時に薬を噛み砕くことが習慣になっており、このままアレンドロン酸を継続すると、潰瘍発生の可能性がある。また、臥床の時間が長く、週1回の内服とはいえ、アレンドロン酸を服用するために起床直後に上体を起こしてその後30分間維持することは、患者、施設職員ともに負担に感じていた。アレンドロン酸の代替薬として、ビスホスホネート製剤の注射薬(月1回投与)があるが、ADLを考えると積極的な適応をどこまで優先させるか検討が必要である。エルデカルシトールは内容物が液状であり、脱カプセルや噛み砕くのに不適であるため、粉砕不可薬であり、服用しやすい剤形としてアルファカルシドールへの変更も検討したい。処方提案と経過その後の往診にて、患者さんがアレンドロン酸を含むすべての薬剤を服用時に噛み砕いていることや30分以上上体を起こしていることが負担となっていることを、医師に報告しました。リスク回避を目的にアレンドロン酸の処方中止または注射薬への変更と、エルデカルシトールをアルファカルシドールに変更することを提案したところ、ビスホスホネート製剤の積極的な治療適応ではないため、アレンドロン酸は中止となりました。エルデカルシトールはアルファカルシドールに変更したうえで、定期服用薬は本人が服用しやすいよう粉砕調剤の指示を受けました。現在、患者さんは服用薬によるむせ込みもなく施設で生活を続けています。

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オピオイド誘発性便秘わが国の実態(OIC-J)/Cancer Medicine

 オピオイド誘発性便秘(OIC)は、オピオイド疼痛治療で頻繁にみられる副作用だが、その発生率は報告によりさまざまで、十分に確立されているとはいえない。この発生率のばらつきは、臨床試験および横断研究におけるOICの診断基準の複数があることも要因である。 近年、大腸疾患の基準であるRome IVがOICの基準に取り入れられた。そのような中、Rome IV基準を用いた日本人がん性疼痛患者におけるOICの発生率を検討した多施設共同前向き観察研究の結果がCancer Medicine誌8月号で発表された。 対象は、オピオイド疼痛治療を行っている安定した⽇本⼈がん患者(20歳以上、ECOG PS0〜2、便秘なし)。主要評価項目はROME IV診断基準によるOIC発症割合(14日間の患者の日記入力による)。副次評価項⽬は、Bowel Function Index(BFI、スコア28.8以上)、⾃発的排便回数([spontaneous bowel movement、以下SBM]、週3回以下)、医師診断によるOIC発症割合、および予防的便秘薬投与の有無によるOICの回数である。観察期間中の便秘治療は許容されていた。 主な結果は以下のとおり。・2017年1月5日~2018年1月31日に220例の患者が登録された。・平均モルヒネ相当量は22mg/日であった。・Rome IV基準によるOICの累積発生率は56%であった(95%CI:49.2〜62.9)。1週目の発生率は48%、2週目では37%であった。・予防的便秘薬を投与された患者のOICの累積発生率は48%(38.1〜57.5)で、投与されなかった患者65%(55.0〜74.2)に比べて低かった。・Rome IV以外の診断基準を用いた2週間累積OIC発症率は、BFIで59%(95%CI:51.9~66.0)、SBMで45%(95%CI:38.0~51.8)、医師診断61%(95%CI:54.3~68.1)であった。 オピオイド開始前の週あたりのBMの頻度は、OICの発生に最も影響力のある因子であった。便秘症に対する予防薬の利用は、OICの発生率の減少に対する中程度の効果と関連していた。報告されたOICの発生率は、関与する診断ツールに応じて変動した。

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新しい抗うつ薬の出現(解説:岡村毅氏)-1117

 まったく新しい機序の抗うつ薬に関する臨床からの報告である。まずは抗うつ薬についておさらいしてみよう。1999年にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が使えるようになり、うつ病の薬物療法に革命的な変化が起きた。それまでの古典的抗うつ薬には抗コリン作用(便秘など)や抗ヒスタミン作用(眠気など)などが伴ったが、SSRIには消化器症状(吐き気など)以外は比較的少なかったからである。 また、このころ(製薬業界にとっては黒歴史かもしれないが)うつはこころの風邪というキャンペーンがなされたりして、精神科・心療内科の敷居がずいぶん低くなった。うつはこころの風邪という言説は、今ではすっかり疾病喧伝(薬を売るために変な宣伝をしたという批判)の文脈で引用されるが、個人的には物事には両面があると思う。今では信じられないかもしれないが、「うつは弱い人がなるものだ」「精神科に行くなんて人生の破滅だ」と信じて、誰にも助けを求められずに重篤化する人もいたので、このキャンペーンによって救われた人もいただろう。 もちろん操作診断が使われるようになり、専門家が経験と知識に基づいて診断する「うつ病」から、いくつかの基準を満たしたときに診断される「うつ病エピソード」として捉えられるようになったことも大きいだろう。 ともあれ、20世紀から21世紀になるころ、うつ病は特殊で恐ろしい精神疾患ではなくなり、僕らの生活世界に現れた。人々は、かつてはそう簡単には「わたし、うつっぽいかも」とは言わなかったが、いまやずいぶん簡単に言うようになった。あれから20年間、いち臨床医としての意見であるが、SSRIが出たときのような革命的変化をもたらした薬剤は出ていない。 これは実は、統合失調症についてもいえる。1996年に同じく副作用が少ない非定型抗精神病薬が使えるようになって(もちろん、ないわけではない)、革命的な変化が起きた。具体的には新たな長期入院者はほとんど見なくなった。その後いくつかいい薬は出たが、破壊的イノベーションは起きていない。そして人々は「トウシツ」などと気軽に言うようになった。 おそらく50年前には、うつ病や統合失調症を経験した友達がいる人は少なかったであろう。今では、たぶん普通のことだ。 いずれにせよ、うつ病の薬物治療は20年程度、革命的な進歩はない。よく言えば漸進している状態である。むしろ、うつ病として治療すべき状態と、そうではない状態(たとえば生活習慣の乱れをまずは治すべき状態)などの、薬物治療以前の仕分けがしっかりなされるようになってきている。また人的資源の少ないわが国でも認知行動療法もようやく行われつつある。修正型電気けいれん療法(m-ECT)もいまや広く行われている。薬物療法以外が拡充しているのだから、健全なことだと思う。 さて、うつ病の薬物治療で現在のところ期待されている薬剤は「ケタミン」と「GABA受容体作用薬」であろう。本論文は、後者についての明らかな臨床効果を報告するものである。 これが、革命を起こしたSSRI以来の20年間に出現した「その他大勢」の新薬の末席に連なることになるのか、ブレークスルーになるのかは、もうしばらく見てみないとわからないだろう。 なお、筆者は抗うつ薬が常に必要だとは思わない。うつ病の治療には薬物治療、精神療法、環境調整の3つの柱があり、とくに軽症の場合は薬物を使わなくてもよい場合も多い。一方で、医学はしょせん人間の営みであり、苦しむ人を支援するためには、3つの柱を総動員しなければならない。また、こころを込めて治療をしても治らないときもある。とはいえ、この3つの柱はがんの「標準治療」みたいなものであり、奇妙な代替療法に患者さんが迷い込まないことを祈りたい。

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Ca拮抗薬からの処方カスケードを看破【うまくいく!処方提案プラクティス】第5回

 今回は、薬剤の副作用対策のために次々と薬剤が追加されていった処方カスケードの症例を紹介します。処方の経緯をたどることによって、処方カスケードを発見できる可能性が高まります。患者情報外来患者、72歳、女性現病歴:高血圧症、便秘症血圧は130/70台を推移両下肢足背に浮腫+処方内容1.アムロジピン錠10mg 1錠 分1 朝食後2.フロセミド錠20mg 1錠 分1 朝食後3.プロピベリン錠10mg 1錠 分1 夕食後4.酸化マグネシウム錠500mg 2錠 分2 朝夕食後症例のポイントある日、高血圧症にて近医を受診継続中の患者さんから、浮腫がひどくて足がだるいという相談を受けました。症状や処方薬を確認して、まず気になったのはアムロジピンが10mgという高用量で投与されていることでした。Ca拮抗薬は高用量であるほど、投与期間が長いほど浮腫の生じる可能性が高いことが知られています。そのため、高血圧症以外の特記すべき現病歴や既往歴がなく、心不全や甲状腺機能低下症、腎機能・肝機能低下などの指摘もないことから薬剤性の浮腫を疑いました。Ca拮抗薬が高用量で投与されるようになった理由を探るため、処方された順番をたどってみることにしました。処方は、(1)10年前、便秘症にて酸化マグネシウム錠660mg /日開始、(2)5年前、高血圧症にてアムロジピン錠5mg開始、(3)1年前、血圧が高くなったためアムロジピン錠10mgに増量、(4)下腿浮腫のためフロセミド錠20mg開始、(5)頻尿のためプロピベリン錠10mg開始、(6)便秘症の悪化のため酸化マグネシウム1,000mg/日に増量、という経緯であったことが確認できました。Ca拮抗薬が高用量となったタイミングで下腿浮腫が生じているため、やはり薬剤性の浮腫の可能性が高く、その浮腫を改善する目的でフロセミドが処方されたものと考えられます。アムロジピンはL型Caチャネル遮断を主作用として細動脈の強い拡張効果を示すが、細静脈は拡張しないことから浮腫を生じやすいと考えられる。また、浮腫は高用量服用群で報告例が多い。一方で、L/N型Caチャネル遮断作用を有するシルニジピンは、細静脈を拡張させるため下腿浮腫の報告は少ない。本症例は、アムロジピンによる浮腫→フロセミドの追加→フロセミドの利尿作用による頻尿および患者QOL低下→過活動膀胱薬の追加→過活動膀胱薬の抗コリン作用による便秘の悪化→酸化マグネシウムの増量、という処方カスケードの典型症例であると考えられる。処方提案と経過そこで、下肢浮腫はCa拮抗薬が原因である可能性があり、Ca拮抗薬を減量することで改善するのではないか、ということを医師にトレーシングレポートを用いて処方提案しました。トレーシングレポートには、アムロジピンの添付文書の副作用欄に記載されている、高用量(10mg)投与群を含む第III相試験および長期投与試験の結果である「高用量(10mg)投与時に浮腫が高い頻度で認められ、5mg群で0.65%、10mg群で3.31%であった」というエビデンスを引用しました。後日、トレーシングレポートの内容を確認した医師より電話がありました。Ca拮抗薬の副作用に浮腫があることを把握していなかったとのことで、血圧に変動がないことからアムロジピンを5mgに減量して様子をみることになりました。1ヵ月後の来局時に、足背の浮腫の改善がみられ、血圧も130/70台と変わりがないことが確認できたため、浮腫のために処方されていたフロセミドの中止を提案し、採用されました。さらに1ヵ月後も足背の浮腫や血圧の悪化はなく経過しました。プロピベリンも中止して差し障りはないと思いましたが、中止することで排尿トラブルが生じることを患者さんが心配したため、そのまま経過をみることになりました。今後、排便・排尿状況を確認しながら、プロピベリンの継続意向に変わりがないかどうかを確認していきたいと考えています。

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国内初のインスリン+GLP-1受容体作動薬の配合注射液「ゾルトファイ配合注フレックスタッチ」【下平博士のDIノート】第33回

国内初のインスリン+GLP-1受容体作動薬の配合注射液「ゾルトファイ配合注フレックスタッチ」今回は、持効型溶解インスリンアナログ/ヒトGLP-1アナログ配合注射液「インスリン デグルデク/リラグルチド(商品名:ゾルトファイ配合注フレックスタッチ)」を紹介します。本剤は、持効型インスリンとGLP-1受容体作動薬を1回で投与できる国内初の配合注射製剤で、より簡便で確実な血糖コントロールが期待されています。<効能・効果>本剤は、インスリン療法が適応となる2型糖尿病の適応で、2019年6月18日に承認されています。<用法・用量>通常、成人では、初期は1日1回10ドーズ(インスリン デグルデク/リラグルチドとして10単位/0.36mg)を皮下注射します。投与量は患者の状態に応じて適宜増減しますが、1日50ドーズを超える投与はできません。注射時刻は原則として毎日一定とします。なお、投与量は1ドーズ刻みで調節可能です。<副作用>国内で実施された臨床試験において、安全性評価対象症例380例中126例(33.2%)に224件の臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、便秘28例(7.4%)、下痢18例(4.7%)、悪心16例(4.2%)、糖尿病網膜症11例(2.9%)、および腹部不快感9例(2.4%)でした(承認時)。なお、重大な副作用として、低血糖、アナフィラキシーショック、膵炎、腸閉塞(いずれも頻度不明)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、不足している基礎インスリン分泌を補充する薬と、血糖値が高くなるとインスリンの分泌を促す薬の2種類が配合されており、血糖コントロールを改善します。2.めまいやふらつき、動悸、冷や汗などの低血糖症状を起こすことがあるので、高所作業、自動車の運転など、危険を伴う作業には注意してください。これらの症状が認められた場合は、ただちに糖質を含む食品を摂取してください。3.嘔吐を伴う持続的な激しい腹痛などが現れた場合は、使用を中止し、速やかに医師の診断を受けてください。4.未使用の薬剤は冷蔵庫内に保管してください。凍ってしまった場合は使えなくなるので注意してください。なお、旅行などに際して短期間ならば室温に置いても差し支えありません。5.使用開始後は、30℃以下の室内で遮光して保管してください。25℃以下の環境であれば4週間以内、30℃に近くなる環境では3週間以内に使用してください。<Shimo's eyes>本剤は、国内初の持効型インスリン製剤とGLP-1受容体作動薬の配合皮下注射製剤です。インスリン デグルデク(商品名:トレシーバ)と、リラグルチド(同:ビクトーザ)が固定比率で配合され、デバイスにはプレフィルドペン型注入器「フレックスタッチ」が採用されています。インスリンを用いた治療では、経口血糖降下薬と持効型インスリン製剤を組み合わせた「BOT(Basal Supported Oral Therapy)」や、持効型インスリン製剤と(超)速効型インスリン製剤を組み合わせた「強化インスリン療法」がよく行われています。本剤のような、持効型インスリン製剤とGLP-1受容体作動薬を組み合わせた治療法は「BPT(Basal supported post Prandial GLP-1 Therapy)」と呼ばれています。1日1回の投与で空腹時血糖と食後血糖両方の改善を期待できることから、BOTから強化インスリン療法にステップアップする前段階の治療として、近年注目されています。これまでBPTを行う場合は2種類の注射薬が必要でしたが、本剤によって1種類での治療が可能となったため、長期治療を必要とする糖尿病患者さんのアドヒアランスの向上と血糖コントロールの改善が期待できます。臨床試験では、本剤は基礎インスリン製剤に比べて低血糖のリスクを上げることなく、空腹時および食後の血糖コントロールを改善していますが、外来で変更する場合はとくに低血糖発現時の対応方法や連絡方法をしっかりと確認しましょう。なお、リラグルチドとDPP-4阻害薬はいずれもGLP-1受容体を介した血糖降下作用を有しているため、併用処方の場合には疑義照会が必要です。参考KEGG 医療用医薬品 : ゾルトファイ

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