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微量元素含有の高カロリー経腸栄養剤「イノラス配合経腸用液」【下平博士のDIノート】第28回

微量元素含有の高カロリー経腸栄養剤「イノラス配合経腸用液」今回は、経口・経管両用の経腸成分栄養剤「イノラス配合経腸用液」を紹介します。本剤は、1袋(187.5mL)で1日に必要なビタミン・微量元素の約3分の1が摂取できるように配合設計された半消化態経腸栄養剤です。経口での栄養摂取が困難または不十分な場合であっても、少量で効率的に栄養を補給することができます。<効能・効果>本剤は、手術後患者の栄養保持、とくに長期にわたり、経口的食事摂取が困難な場合の経管栄養補給の適応で、2019年3月26日に承認され、2019年6月6日より発売されています。なお、経口食により十分な栄養摂取が可能となった場合には、速やかに経口食に切り替えます。<用法・用量>通常、成人標準量として、本剤を1日562.5~937.5mL(3~5袋)を経管または経口投与します。経管投与の場合は、投与速度50~400mL/hで持続的または1日数回に分け、経口投与の場合は、1日1回または数回に分けて投与します。なお、年齢、体重、症状により投与量、投与速度を適宜増減します。<副作用>第III相比較試験(検証的試験)の安全性評価対象107例のうち、副作用発現数は11例(10.3%)でした。その内訳は、消化器系の副作用が下痢5例(4.7%)、軟便、便秘各1例(各0.9%)であり、その他は血中ナトリウム減少、血中ブドウ糖増加1例、血中トリグリセリド増加、白血球数増加が各1例(各0.9%)でした(承認時)。<患者さんへの指導例>1.経口での食事が摂れない場合や通常の食事だけでは十分な栄養が摂れない場合に、必要なエネルギーや栄養分を補うことができます。2.胃ろうや栄養チューブを使って投与する場合、最初は少量から始めてください。3.ヨーグルト風味とりんご風味の2種類がありますので、好みのフレーバーを医師または薬剤師に伝えてください。4.開封前はよく振ってください。開封後、飲む際はコップなどの容器に移し、残った場合はクリップなどで止めて冷蔵庫に保管して、24時間以内に飲みきってください。5.温めて使用する場合は、未開封の状態で70℃未満の湯せんで温めてください。温め過ぎるとタンパク質が変性する恐れがあります。6.下痢、便秘など、おなかの調子が普段と異なる場合は、1回量を減らすなどの調節をしてください。<Shimo's eyes>経腸栄養剤は、経口での食事摂取が困難または不十分な患者さんに使用することで、栄養状態を維持・改善させることができます。一般的にそのような患者さんは、活動性が低く、必要な維持エネルギー量が少ないですが、本剤は3袋(187.5mL×3=562.5mL)で900kcalのエネルギーに加えて、ビタミンと微量元素もほぼ充足できるように配合されています。本剤は高濃度(1.6kcal/mL)の半消化態経腸栄養剤であり、既存のエンシュア、ラコール、エネーボと比較して、同じカロリーを摂取する際の用量が少なくなります。1回量が少ないことで誤嚥のリスクが低減し、さらに運搬・保管も容易というメリットもあります。なお、本剤は濃縮乳蛋白質とカゼインナトリウムを含むため、牛乳アレルギーの患者さんには禁忌です。また、ビタミンK(メナテトレノン)を含むため、ワルファリンを服用中の患者さんでは、相互作用に注意が必要です。経口栄養剤を摂取している患者さんでは、下痢などを引き起こす可能性があるので、服薬指導ではおなかの調子を具体的に確認するようにしましょう。

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ROS1/TRK阻害薬エヌトレクチニブ、国内承認/中外

 中外製薬は、2019年6月18日、ROS1/TRK阻害薬エヌトレクチニブ(商品名:ロズリートレク)について、「NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形癌」を効能・効果とした製造販売承認を厚生労働省より取得したと発表。エヌトレクチニブは、先駆け審査指定制度対象品目、希少疾病用医薬品の指定を受けていた。エヌトレクチニブは経口投与可能なチロシンキナーゼ阻害薬 今回のエヌトレクチニブの承認は、主にオープンラベル多施設国際共同第II相臨床試験(STARTRK-2試験)の成績に基づいている。有効性評価は、NTRK融合遺伝子陽性の固形がんの成人患者51例を対象として行った。また、小児の有効性評価は海外第I/Ib相臨床試験(STARTRK-NG試験)に登録されたNTRK融合遺伝子陽性の固形がんの患児5例で行った。一方、安全性評価はSTARTRK-2試験に加え、2つの海外第I相臨床試験(STARTRK-1試験およびALKA試験)の3つの試験に登録された339例を中心に行った。エヌトレクチニブの有効性評価 ・STARTRK-2試験において、RECIST ver.1.1に基づく独立評価委員判定による奏効率は56.9%(95%CI:42.3~70.7%)であった。・STARTRK-NG試験において、RECIST ver.1.1およびRANO規準に基づく主治医判定では、5例中4例に奏効が認められた。エヌトレクチニブの安全性の概要 ・最も一般的な有害事象は、疲労、便秘、味覚異常、浮腫、めまい、下痢、吐き気、知覚異常、呼吸困難、痛み、貧血、認知障害、体重増加、嘔吐、咳、血中クレアチニン増加、関節痛、発熱、および筋肉痛であった。 エヌトレクチニブは、ROS1およびTRKファミリーを強力かつ選択的に阻害する経口投与可能なチロシンキナーゼ阻害薬であり、ROS1またはNTRK融合遺伝子を有するがん細胞の増殖を抑制する。エヌトレクチニブは、前治療後に病勢進行した、または許容可能な標準治療がないNTRK融合遺伝子陽性の局所進行または遠隔転移を有する成人および小児の固形がんに対し、米国食品医薬品局(FDA)よりBreakthrough Therapyに、欧州医薬品庁(EMA)よりPRIME(PRIority MEdicines)に指定されている。国内では2019年3月に「ROS1融合遺伝子陽性の局所進行又は転移性非小細胞肺癌」を対象とした承認申請を行っている。

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肝性脳症〔Hepatic encephalopathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義意識障害には脳機能障害以外に多くの原因があるが、肝機能低下に伴う意識障害が肝性脳症とされている。肝性脳症は多くの場合、肝硬変や劇症肝炎患者などの肝障害が進行した状況において発生する。傾眠傾向といった軽度のものから、重度の深昏睡に至るまで多様な精神神経症状を来す合併症で、肝不全の特徴的徴候の1つである。顕性肝性脳症の臨床病型は急性型、慢性型、および先天性尿素サイクル異常症など代謝異常に伴う特殊型に大別される。また、顕性の意識障害はないが、精神神経機能検査で異常を認める状態を「ミニマル脳症」と呼ぶ。■ 疫学わが国では数十万人の肝硬変患者が存在するとされており、病状の悪化に伴い、いずれの患者においても肝性脳症を発症しうる。ミニマル脳症については、肝硬変患者の1/3が有しているとの報告もあり、ミニマル脳症患者のうち約20%が半年以内に顕性脳症に移行するとされている。急性型の劇症肝炎の発症数は減少しているものの、肝硬変を基礎疾患として急性増悪を来す“Acute-on chronic liver failure(ACLF)”がアルコールを原因とするものとして近年増加している。■ 病因急性型では劇症肝炎が代表的原因である。先行する慢性肝疾患が存在しない患者において、さまざまな原因により広範な肝細胞壊死を来し肝不全に至る。以前はB型肝炎ウイルスによるものが多かったが、近年は減少傾向にある。最近では肝硬変などの慢性肝疾患が急性増悪して、急激に肝不全症状を呈した場合を“Acute on chronic”と呼ぶことが提唱されている。慢性型では肝硬変によるものが臨床的に最も多い。肝硬変では、門脈大循環短絡路を形成していることが多く、その程度により治療反応性と予後が異なることから、短絡路の評価を行ったうえで治療法を決定する。頻度は高くないものの、先天性尿素サイクル異常症も、念頭において診療に当たることが必要である。アンモニア高値のみを示す成人では、オルニチントランスカルバミラーゼ (OTC)欠損症とシトルリン血症などの可能性が考えられる。■ 症状肝性脳症は、傾眠傾向といった軽度のものから重度の深昏睡に至るまで多様な精神神経症状を来す。わが国で広く使用されている犬山シンポジウムの分類を表1に示す。先に述べたミニマル脳症は、臨床的には診断できないためナンバーコネクション(数字追跡)試験などの精神神経学的テストで判断する。なお、このテストはiPadなどにダウンロードして使用でき、日本肝臓学会のホームページから無料でダウンロードできるようになっている。表1 肝性脳症の犬山分類画像を拡大する■ 分類顕性肝性脳症の臨床病型は急性型、慢性型、および先天性尿素サイクル異常症など代謝異常に伴う特殊型に大別される。また、顕性の意識障害はないが、精神神経機能検査で異常を認める状態をミニマル脳症と呼ぶ(表2)。欧米での肝性脳症の分類を表3に示す。表2 臨床病型分類画像を拡大する表3 欧米における肝性脳症の分類画像を拡大する表3に示したように、肝性脳症は大きく(A)急性型、(B)バイパス型、(C)肝硬変型に分けられる。型別頻度は、急性型28%、慢性型のうち再発型54%、末期昏睡型18%といわれており、初回脳症時の生存率は慢性再発型で76%であるのに対し、末期昏睡型では23%と報告されている。救急外来を受診した意識障害患者において、肝性脳症の頻度は約2%とされており、頻度が高いものではないが常に念頭に置くべき疾患の1つである。急性型では劇症肝炎が代表的原因である。先行する慢性肝疾患が存在しない患者において、さまざまな原因により広範な肝細胞壊死を来し肝不全に至る。以前はB型肝炎ウイルスによるものが多かったが、近年は減少傾向にある。■ 予後肝性脳症が出現した患者の予後は悪いことが知られている。海外の報告では脳症出現後の1年生存率は約35%、2年で30%、3年で20%、5年で15%とされている。慢性型では肝硬変によるものが最も多いが、脳症の出現は予後を悪化させる合併症であり、脳症の出現した肝硬変患者の生存率は30~40%と考えられる。また、ACLFに関しても、脳症出現が重症度分類に加えられていることから、脳症の出現は肝疾患全体に関する予後決定因子の1つと考えられる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)臨床症状に加えて検体検査、画像検査、精神神経機能検査などを行って総合的に診断する。身体所見としては肝不全に伴う皮膚黄染(黄疸)、浮腫、腹部膨隆(腹水貯留)を認める場合が多い。羽ばたき振戦や、肝性口臭などは急性型、慢性型のいずれにもみられるが、手掌紅斑、くも状血管腫、腹壁静脈怒張などは慢性型を疑う所見となる。ミニマル脳症は臨床的所見による診断が困難である。わが国では顕性脳症の昏睡度分類として主に表1の犬山分類が用いられる。脳症の昏睡度I度は臨床的には判定困難なことが多く、振り返って初めて診断できることも少なくない。II度になると、羽ばたき振戦など診断は比較的容易であるが、羽ばたき振戦は尿毒症や低血糖症でも出現することがあるので鑑別が必要である。1)検体検査肝不全を判定するため、一般肝機能検査、肝予備能(アルブミン、プロトロンビン時間、コリンエステラーゼなど)とともにアンモニア値を測定する。シトルリン血症などの尿素サイクル異常症では、アンモニア以外の肝機能は正常であることが多い。BCAA/AAAモル比(フィッシャー比)の低下を認めるが、最近では簡便な指標としてBCAA/チロシン比であるBTRが用いられることが多い。また、脱水や消化管出血が誘因となっている場合は、BUN(血液尿素窒素)/Cr(血中クレアチニン)比の上昇がみられ、利尿剤使用による低カリウム血症などの電解質異常を認める場合も多い。2)画像検査腹部超音波、CT検査などで慢性肝疾患や脾腫、短絡路の有無などを検索する。また、頭部MRI検査などで中枢神経系の疾患を除外する。深昏睡では脳浮腫の有無も評価する。慢性再発型ではMRI T1強調検査で淡蒼球の高信号が特徴的とされている。3)精神神経機能検査症状に乏しいミニマル脳症を疑う患者に対しては数字追跡試験、WAIS(Wechsler Adult Intelligence Scale)式成人知能検査などによる評価を行う。脳波は三相波が出現し、進行とともに低振幅徐波となっていく。意識障害を伴っている患者の場合、頭部CT、MRI検査や髄液検査などの検査を行い、中枢神経系の疾患を除外することが大切である。さらに、糖尿病性ケトアシドーシスや低血糖症など代謝性疾患の除外のため、血糖、尿中ケトン体、血液ガス検査なども行う。肝性脳症初期の症状は、睡眠パターン変化、人格変化、被刺激性、精神反応の鈍化など軽微で非特異的な症状であり、臨床的診断は困難である。必要に応じて、定量的精神神経機能検査(数字追跡試験、WAIS式成人知能検査など)や電気生理学的神経検査(脳波[三相波がみられる]、大脳誘発電位など)を組み合わせて診断を試みる。アンモニア値が低いからといって肝性昏睡を否定できないことに注意が必要である。逆にアンモニア値が高くても意識障害を認めない症例も多数あるため、肝性脳症の診断には家人を含めた詳細な問診が必要となる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)肝性脳症の治療は、誘因の除去および食事療法による一般療法と薬物療法に分けられる。1)誘因の除去タンパク質の過剰摂取、便秘、下痢などの便通異常、脱水、感染症、利尿剤や睡眠剤、安定剤の過剰投与などは、非代償性肝硬変患者において容易に肝性脳症を誘発するため、普段より生活指導を行うことが重要である。2)食事療法肝性脳症時の食事療法は、低タンパク食(0.4~0.6kg/標準体重)が基本であるが、長期間のタンパク制限は栄養不良を助長し、予後に悪影響を及ぼすことが懸念されるため、漫然と継続しないことに注意する。3)薬物療法アンモニアの生成および吸収抑制のため(1)合成二糖類、(2)難吸収性抗生物質を用いる。(2)に関して、これまではカナマイシンや硫酸ポリミキシンBが使われてきたが、いずれも保険適用外であり、長期投与による聴力障害や腎機能障害を生じるなどの問題があった。2016年に、海外では30年以上前から使用されていたリファキシミン(商品名:リフキシマ)が、肝性脳症に対してわが国でも使用が認可された。海外のガイドラインでは難吸収性抗生物質は、合成二糖類に併用投与が推奨されている。リファキシミンに関しては、長期投与の安全性が認められていることから第1選択薬としての可能性もあり、今後わが国における検証が期待される。亜鉛補充やカルニチン製剤が、単独投与あるいは合成二糖類や分岐鎖アミノ酸(BCAA)製剤との併用投与により高アンモニア血症を改善するとの報告がある。亜鉛補充は、これまで各施設で硫酸亜鉛などを調剤していたが、ウイルソン病治療薬である酢酸亜鉛(同:ノベルジン)が肝疾患の低亜鉛血症に対して適応拡大となった。4 今後の展望最新の認知症ガイドラインにおいて、早期認知症との鑑別すべき疾患の1つとして肝性脳症が挙げられている。最近問題となっている車の運転における逆走などは、ミニマル脳症の患者も同様のハイリスクを有していることから、ミニマル脳症を含めた早期治療介入の重要性が今後注目されると思われる。さらにリファキシミンに関しては、長期投与の安全性が認められていることから、第1選択薬としての可能性もあり、今後わが国における検証が期待される。亜鉛補充やカルニチン製剤が、単独投与あるいは合成二糖類やBCAA製剤との併用投与により高アンモニア血症を改善するとの複数の報告もなされている。肝性脳症を含めて肝硬変領域においては、この数年間で多くの新薬が上市された。2019年には非代償期のC型肝硬変患者に対する直接的抗ウイルス治療薬(DAA)製剤も認可されており、今後肝硬変診療は新たなパラダイムシフトに向かっていくと思われる。5 主たる診療科消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本消化器病学会ガイドライン閲覧サイト(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本肝臓学会肝性脳症診断ツールダウンロード(医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2019年6月11日

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家族性アミロイドポリニューロパチー〔FAP: familial amyloid polyneuropathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)は、代表的な遺伝性全身性アミロイドーシスである1,2)。組織の細胞外に沈着したアミロイドは、コンゴレッド染色で橙赤色に染まり、偏光顕微鏡下でアップルグリーンの複屈折を生じる。電子顕微鏡で観察すると、直径8~15nmの枝分かれのない線維状の構造物として観察される。現在までに、36種類以上の蛋白質がヒトの体内でアミロイド沈着を形成する蛋白質として同定されている3)。FAPを生じるアミロイド前駆蛋白質として、トランスサイレチン(TTR)、ゲルソリン、アポリポ蛋白質A-Iが知られているが、大部分のFAP患者は、TTRの遺伝子変異によるため、以下はTTRを原因とするFAP(TTR-FAP)に関して概説する。近年、国際アミロイドーシス学会は、TTR-FAPに代わる病名として「遺伝性TTR(ATTRv)アミロイドーシス」の使用を推奨しているが3)、わが国ではFAPの病名が現在も使用される場合が多いため、本稿ではFAPの病名を用いて概説する。本疾患の原因分子であるTTRは、主に肝臓から産生され血中に分泌される血清蛋白質である。その他のTTR産生部位として、脳脈絡叢、眼の網膜色素上皮、膵臓ランゲルハンス島のα細胞が知られている。血中に分泌された本蛋白質は、127個のアミノ酸から構成されるが、豊富なβシート構造を持つことにより、アミロイド線維を形成しやすいと考えられている。TTR遺伝子には150種類以上の変異型が報告されており、その大部分がFAPの病原性変異として同定されてきた。TTRの30番目のアミノ酸であるバリンがメチオニンに変異するVal30Met型が、最も高頻度に認められる1,2)。生体内では、通常TTRは四量体として機能し、四量体の中心部には1分子のサイロキシン(T4)が強く結合し、T4の運搬を担っている。また、TTRはレチノール結合蛋白質との結合を介して、ビタミンAの輸送も担っている。■ 疫学以前はFAP ATTR Val30Metの大きな家系が、ポルトガル、スウェーデン、日本(熊本県と長野県)に限局して存在すると考えられていたが、近年、世界各国からFAP ATTR Val30Met患者の存在が確認されている1,2)。また、明確な家族歴がなく高齢発症のFAP が日本各地から報告されており4)、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)、糖尿病性ニューロパチー、手根管症候群、腰部脊柱管狭窄症などの非遺伝性末梢神経障害の鑑別疾患として本症を考えることが重要である。スウェーデンでは、FAP ATTR Val30Met遺伝子保因者の3~10%しか発症しないことが知られているが、わが国においても、TTR遺伝子に変異を持ちながら、終生FAPを発症しない症例も存在する。Val30Met以外の変異型TTRによるFAPもわが国から多く報告されている(図1)。わが国の疫学調査の結果では、国内の推定患者数は約600人であるが、的確に診断されていない症例が多く存在する可能性がある。画像を拡大する■ 病因TTRに遺伝子変異が生じると、TTR四量体が不安定化し、単量体へと解離することが、アミロイド形成過程に重要であると、in vitroの研究で示されている。しかし、アミロイドがなぜ特定の部位に沈着するのか、どのように細胞や臓器の機能を障害するのかは、明らかにされていない。アミロイド線維を形成するTTRの一部は断片化されており、アミロイド線維形成への関与が議論されている。■ 症状1)神経症状末梢神経障害は、軸索障害が主体で神経軸索が細胞体より最も遠い両下肢遠位部の症状が初発症状となる場合が多い。また、神経症状は一般に自律神経、感覚(温痛覚低下)、運動(両側末梢優位)の順で症状が出現することが多い。これは、アミロイド沈着により小径無髄線維から大径有髄線維の順に障害が進行するためと考えられている。病初期には、下肢末梢部である足首以下で、温痛覚の低下を認めるが触覚は正常である解離性感覚障害を認める場合が多い。温痛覚障害のため、足の火傷や怪我に患者本人が気付かない場合がある。筋萎縮、筋力低下など運動神経障害は、感覚障害より2~3年遅れて出現する場合が多いが、まれに運動神経障害が主体で感覚障害が軽い症例もある。進行期には、高度の末梢神経障害による四肢の感覚障害と筋力低下や呼吸筋麻痺などを呈する。アミロイド沈着による手根管症候群を呈する場合がある。とくに家族歴が明らかでない症例では、病初期にCIDP、糖尿病性ニューロパチー、腰部脊柱管狭窄症などと誤診されることが多く、注意が必要である。症例によっては、脳髄膜や脳血管のアミロイド沈着による意識障害や脳出血など中枢神経症候を呈する場合がある。2)消化器症状重度の交代性下痢便秘や嘔気などの消化管症状が出現する。末期には持続性の下痢となり、吸収障害や蛋白質の漏出も生じる。3)循環器系障害早期より自律神経障害による起立性低血圧や、アミロイド沈着による房室ブロック、洞不全症候群、心房細動などの不整脈が生じる。心筋へのアミロイド沈着により心不全を生じ、心室の拡張障害が収縮障害に先行すると考えられている。TTR変異型により心症候が主体で、末梢神経障害が目立たないタイプがある。4)眼症状変異型TTRは肝臓のみならず網膜からも産生されており、アミロイド沈着による硝子体混濁はFAP患者に多く認められる。硝子体混濁が本症の初発症状である症例もある。前眼部へのアミロイド沈着による緑内障を来し、進行すると失明の原因となる。また、涙液分泌低下によるドライアイも生じる。5)腎障害アミロイド沈着によるネフローゼ症候群や腎不全を呈するが、症例によりその程度は異なる。病初期には目立たない場合が多い。■ 分類TTR変異型により症候が異なる場合がある。アミロイドポリニューロパチー(末梢神経障害)が主体となるタイプ(Val30Metなど)、心アミロイドーシスにより不整脈や心不全が主体となるタイプ(Ser50Ile、Thr60Alaなど)、脳髄膜・眼アミロイドーシスにより一過性の意識障害や脳出血、白内障や緑内障が強く生じるタイプ(Ala25Thr、Tyr114Cysなど)がある。また、同じATTR Val30Metを持つFAP患者でも、ポルトガルでは若年発症(20~30代で発症)が多く、スウェーデンでは高齢発症(50歳以降)が多い。わが国でも、本疾患の集積地である熊本や長野のFAP患者は若年発症が多いが、他の地域では高齢発症で家族歴が確認できない症例が多く、70歳以降の発症も少なくない。■ 予後未治療の場合は、発症からの平均余命は若年発症のFAP ATTR Val30Metは約10~15年1)、高齢発症のFAP ATTR Val30Metは約7年4)である。進行期には、呼吸筋麻痺、重度の起立性低血圧、心不全、致死的な不整脈、ネフローゼ症候群、腎不全、蛋白漏出性胃腸症、重度の緑内障などを呈する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)本症の診断基準を表に示す。病初期に各治療法の効果が高いため、早期診断、早期治療が重要である。臨床症候や各種の臨床検査により本症が疑われる場合には、生検によりアミロイド沈着を検索すること、および専門施設に依頼し、免疫組織化学染色や質量分析法でTTRがアミロイドの構成成分であることを確認する必要がある(図2)。生検部位は、侵襲度の比較的低い消化管(胃、十二指腸、直腸)、腹壁脂肪、口唇の唾液腺、皮膚などが選択されるが、病初期にはアミロイド沈着が検出されない場合もある。本症の疑いが強い場合は、繰り返し複数部位からの生検を行うことが重要である。また、前述の部位からアミロイド沈着が確認できない場合は、障害臓器である末梢神経や心筋からの生検も考慮する必要がある。TTRがアミロイド原因蛋白質として同定された場合は、野生型TTRが非遺伝性に生じる老人性全身性アミロイドーシス(SSA)(野生型TTR[ATTRwt]アミロイドーシス)との鑑別のため、遺伝子検査や血液中TTRの質量分析によりTTR変異の解析を必ず行う(図3)。画像を拡大する画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)FAPに対する治療は、近年、劇的に進歩している。長く実施されてきた肝移植療法に加えて、TTR四量体の安定化剤であるタファミジス(商品名: ビンダケル)が、国内でも2013年9月に希少疾病用医薬品として承認され、現在、本疾患に対し広く使用されている。また、核酸医薬によるTTR gene silencing療法の国際的な臨床試験が終了し、良好な結果が得られている。図4にFAPに対する治療法を研究中のものを含めて示した。画像を拡大する■ 肝移植療法本疾患の病原蛋白質である変異型TTRの95%以上が肝臓で産生されていることから、1990年にスウェーデンで本疾患に対する治療法として肝移植が初めて行われ、その有効性が示されてきた5)。FAP患者の血液中の変異型TTRは、正常肝が移植された後に速やかに検出感度以下まで低下する。しかし、肝移植で本疾患が完全に治癒するわけではなく、末梢神経障害を含めて、症候の大部分は移植後も残存する。また、発症から長期間経過し、病態が進行した症例や、高齢患者、BMIが低値(低栄養状態)であると、移植後の予後が不良であるため、肝移植が実施できない場合も少なくない。そして、症例によっては、肝移植後も症候(とくに心アミロイドーシス)が進行するケースもある。眼の網膜色素上皮細胞や脳脈絡叢からは、肝移植後も継続して変異型TTRが産生され続けているため、眼や脳・脊髄では、肝移植後も変異型TTRによるアミロイドが形成され、症候も悪化する症例が報告されている。他の治療法が開発されたことにより、本症に対する肝移植の実施数は減少傾向にある。■ TTR四量体安定化剤(タファミジス)TTR四量体が不安定となり単量体へと解離することが、TTRのアミロイド形成過程に重要な過程と考えられている。TTR四量体の安定化作用を持つ薬剤が、本症の新たな治療薬として研究開発されてきた。非ステロイド系抗炎症薬の1つであるジフルニサルなどにTTR四量体の安定化作用が確認され、本症の末梢神経障害に対する進行抑制効果が確認された6)。ジフルニサルには、非ステロイド系抗炎症薬が元来持つCOX阻害作用があり、腎障害などの副作用が出現する可能性が想定されたため、COX阻害作用を持たずにTTR四量体のより強い安定化作用を示す新規化合物としてタファミジスが新たに開発された。本薬剤の国際的な臨床治験が実施され、生体内でもTTR四量体を安定する作用が確認されるとともに、末梢神経障害の進行を抑制する効果が確認されている7)。また、心症候に対する効果も報告された8)。わが国では2013年9月に本症による末梢神経障害の進行抑制目的で承認されている。■ 核酸医薬(TTR gene silencing療法)9, 10)Small interfering RNA(siRNA)9) やアンチセンスオリゴ(ASO)10) を用いて、肝臓におけるTTRの発現抑制を目的としたgene silencing療法の開発が行われ、強いTTR発現抑制効果と良好な治療効果が確認されている9, 10)。これらのgene silencing療法では、変異型TTRに加えて、野生型TTRの発現抑制も標的としている。これらの治療法は、今後、本疾患に対する標準的な治療法となることが期待されている。■ その他の研究段階の治療法前述のごとく、肝移植療法の実施やTTR四量体安定化剤の臨床応用、gene silencing療法によるTTR発現抑制法の開発など、本疾患に対する治療法は近年急激に発展しているが、いずれもアミロイド原因蛋白質であるTTRの発現抑制および安定化を標的としており、沈着したアミロイドを除去する治療法は確立していない。さらなる治療法の改善を目指して、図4に示した方法をはじめとした多くの治療法の開発が精力的に行われている。■ 対症療法本症では、心伝導障害の進行は必発であるため、I度房室ブロックの段階でペースメーカーの植え込みを考慮する場合がある。致死的な不整脈が発生する場合には、植込み型除細動器を積極的に検討する必要がある。起立性低血圧に対して、弾性ストッキングや腹帯の使用を考慮する。手根管症候群に対しては、手術療法を考慮する。眼アミロイドーシスによる白内障や緑内障に対しても手術療法が必要となる。そのほかにも、自律神経症状や消化管症状、心不全などに対して内服薬による対症療法を試みるが、十分な効果が得られない場合が少なくない。4 今後の展望肝移植療法がFAPに対して実施され始めて28年以上が経過し、その有効性とともに治療法としての限界や関連する問題点が明らかになってきた。TTR四量体の安定化剤が臨床応用され、広く使用されるにつれて、本症に対する肝移植実施数は減少傾向にある。また、肝臓でのTTR発現抑制を目的とした核酸医薬によるgene silencing療法の臨床治験で良好な結果が得られ、わが国でも承認が待ち望まれる。これらの治療法の長期的な効果に関しては、まだ不明な点が多く残されているため、長期予後に関する調査が必要である。さらに、すでに組織に沈着したアミロイド線維を除去できる根治療法の研究開発が必要である。5 主たる診療科脳神経内科、循環器内科、眼科、移植外科、消化器内科、腎臓内科、整形外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報家族性アミロイドポリニューロパチーの診療ガイドライン(日本神経学会)(医療従事者向け診療情報)難病情報センター:全身性アミロイドーシス(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)熊本大学 大学院生命科学研究部 脳神経内科学分野(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)熊本大学 医学部附属病院 アミロイドーシス診療センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)信州大学 医学部第3内科 アミロイドーシス診断支援サービス(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)GeneReviews(Pub Med)(医療従事者向けの診療、研究のまとまった情報)GeneReviews(日本語版)(医療従事者向けの診療、研究のまとまった情報)FAP WTR(FAPに対する肝移植に関する国際的レジストリ)(医療従事者向けの診療、研究のまとまった情報)THAOS(TTRアミロイドーシスの自然経過に関する国際的調査)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)The Registry of Mutations of Amyloid Proteins(TTR変異の国際的レジストリ)(医療従事者向けの研究情報)OMIM(医療従事者向けの診療・研究のレビュー情報)日本アミロイドーシス学会(医療従事者向けの研究情報)国際アミロイドーシス学会(ISA)(医療従事者向けの研究情報)厚生労働省 難治性疾患政策研究事業「アミロイドーシスに関する調査研究」班(医療従事者向けの研究情報)患者会情報道しるべの会 second step あゆみ ブログ(患者のブログ)1)Ando Y, et al. Arch Neurol. 2005;62:1057-1062.2)Ueda M, et al. Transl Neurodegener. 2014;3:19.3)Benson MD, et al. Amyloid. 2019 [Epub ahead of print]4)Koike H, et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2012;83:152-158.5)Yamashita T, et al. Neurology. 2012;78:637-643.6)Berk JL, et al. JAMA. 2013;310:2658-2667.7)Coelho T, et al. Neurology. 2012;79:785-982.8)Maurer MS, et al. N Engl J Med, 2018;379:1007-1016.9)Adams D, et al. N Engl J Med. 2018;379:11-21.10)Benson MD, et al. N Engl J Med. 2018;379:22-31.公開履歴初回2013年08月08日更新2019年04月23日

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NSCLCの1次治療としてのペムブロリズマブ単剤の適応をTPS≧1%に拡大/FDA

 米国食品医薬品局(FDA)は、2019年4月11日、外科的切除または根治的化学放射線療法の候補ではないStageIIIまたは転移のある、PD-L1(TPS)1%以上の非小細胞肺がん(NSCLC)の1次治療としてペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)を承認した。この承認は1274例を対象に行われたKEYNOTE-042試験に基づくもの。 ペムブロリズマブ単剤投与の1次治療は従来、PD-L1(TPS)発現50%以上の転移を有するNSCLCに承認されていた。 KEYNOTE-042において患者は、ペムブロリズマブと化学療法(カルボプラチン+ペメトレキセドまたはパクリタキセル)に無作為に割り付けられ、ECOG PS、組織、地域、PD-L1発現(TPS≧50%対TPS 1~49%)によって層別化された。 主要評価項目はTPS≧50%、TPS≧20%、および全母集団(TPS≧1%)の全生存期間(OS)。この試験では、これらすべての集団においてペムブロリズマブ群で統計的に有意な改善を示した。 TPS≧1%の全母集団のOS中央値はペムブロリズマブ群および化学療法群でそれぞれ16.7および12.1ヵ月であった(HR 0.81、95%CI:0.71~0.93)。TPS≧20%サブグループのOS中央値はペムブロリズマブ群および化学療法群でそれぞれ17.7ヶ月および13.0ヶ月(HR 0.77、95%CI:0.64~0.92)。TPS≧50%サブグループのOS推定中央値は、ペムブロリズマブ群および化学療法群でそれぞれ20ヵ月および12.2ヵ月であった(HR 0.69、95%CI:0.56~0.85)。 KEYNOTE-042でペムブロリズマブ単剤投与群で多くみられる(10%以上)有害事象は、倦怠感、食欲減退、呼吸困難、咳、発疹、便秘、下痢、悪心、甲状腺機能低下症、肺炎、発熱、および体重減少であった。■関連記事PD-L1陽性肺がん1次治療におけるペムブロリズマブ単剤の効果(KEYNOTE-042)/Lancetペムブロリズマブ、非小細胞肺がん(PD-L1高発現)1次治療に承認/FDA

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MR選択性の高い高血圧症治療薬「ミネブロ錠1.25mg/2.5mg/5mg」【下平博士のDIノート】第23回

MR選択性の高い高血圧症治療薬「ミネブロ錠1.25mg/2.5mg/5mg」今回は、選択的ミネラルコルチコイド受容体(MR)ブロッカー「エサキセレノン錠(商品名:ミネブロ錠1.25mg/2.5mg/5mg)」を紹介します。本剤は、中等度の腎機能障害およびアルブミン尿を有する2型糖尿病を合併する高血圧症患者にも投与することができ、これまでの高血圧症患者のアンメットニーズを満たす薬剤となることが期待されています。<効能・効果>本剤は、高血圧症の適応で、2019年1月8日に承認され、2019年5月13日より発売される予定です。体液量の恒常性の維持に寄与するアルドステロンが作用するMR受容体の活性化を抑制することで降圧作用を示します。<用法・用量>通常、成人にはエサキセレノンとして2.5mgを1日1回経口投与します。なお、効果不十分な場合は5mgまで増量できます。本剤は、高カリウム血症の患者もしくは本剤投与開始時に血清カリウム値が5.0mEq/Lを超えている患者や重度の腎機能障害のある患者、カリウム保持性利尿剤やカリウム製剤などを投与中の患者には禁忌となっています。<副作用>国内第III相臨床試験において、総症例1,250例中162例(13.0%)に、臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、血清カリウム値上昇51例(4.1%)、血中尿酸増加17例(1.4%)、高尿酸血症13例(1.0%)などでした(承認時)。なお、重大な副作用として高カリウム血症(1.7%)が認められています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、血圧を上げるホルモン(アルドステロン)の働きを抑えることにより、血圧を低下させます。2.血圧が下がることにより、めまいなどが現れることがあるので、高所作業、自動車の運転など危険を伴う機械の操作には注意してください。3.飲み合わせに注意すべき薬や健康食品があるため、現在服用している薬やサプリメントがある場合は、医師・薬剤師にお伝えください。また、新たに薬を飲み始める場合は、あらかじめ相談してください。4.本剤を服用中は、体内のミネラルバランスを保つために、こまめな水分摂取や適度な運動を心掛け、脱水や便秘を予防してください。5.この薬の服用により、血中のカリウム値が上昇することがあります。手や唇がしびれる、手足に力が入らない、吐き気などの症状が現れた場合は相談してください。6.葉物野菜や芋類、豆類、バナナなど、カリウムを多く含む食物を食べ過ぎないように注意してください。カリウムは水に溶けやすいため、ゆでたり水にさらしたりすることで、カリウムを減らすことができます。<Shimo's eyes>MR拮抗薬は『高血圧診療ガイドライン2014』において、高血圧症治療の第1選択薬とはなっていないものの、ミネラルコルチコイドが関与する低レニン性高血圧症にとくに効果が期待でき、治療抵抗性高血圧症に対しても有用であるとされています。既存のMR拮抗薬としては、スピロノラクトン(商品名:アルダクトンA)とエプレレノン(同:セララ)が発売されています。スピロノラクトンのMR拮抗作用は強力ですが、女性化乳房や月経異常などの性ホルモンに関連した副作用を発現しやすいことが治療継続の課題となっています。MRへの選択性が高いエプレレノンは、性ホルモン関連副作用は軽減されていますが、中等度以上の腎機能障害患者や、微量アルブミン尿または蛋白尿を伴う糖尿病患者への投与は禁忌となっています。本剤はMR選択性を有し、本態性高血圧症患者を対象とした臨床試験においてエプレレノンに劣らない降圧作用が認められています。また、中等度の腎機能障害患者、および微量アルブミン尿または蛋白尿を伴う糖尿病患者に対しても、血清カリウム値の定期的な測定は必要ですが投与可能です。今までMR拮抗薬を使用できなかった血圧コントロール不良の患者の新たな治療選択肢となりうるでしょう。なお、2019年4月時点において、海外で承認されている国および地域はありませんので、副作用に関しては継続的な情報収集が必要です。

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こんなにある子供の便秘サイン

 2018年3月18日、EAファーマ株式会社は、「大人が知らない『子供の慢性便秘症』の実態と世界標準へと歩み出した最新治療~便秘難民ゼロを目指して~」をテーマに、都内でプレスセミナーを開催した。 セミナーでは、子供が抱える「言うに言えない便秘の悩み」に大人がどう気付き、診療へ導くのか解説された。子供の5人に1人は便秘 セミナーでは、十河 剛氏(済生会横浜市東部病院小児肝臓消化器科)を講師に迎え、小児の便秘症について詳しくレクチャーを行った。 はじめに横浜市鶴見区で行われた調査報告を紹介。 3~8歳の子供3,595人に食事と排便に関するアンケート調査を行ったところ、718人(約20%)に慢性便秘症(ROMEIII診断基準による)がみられたという(全国平均では約15%)。とくに便秘の子供では、「便を我慢する姿勢や過度の自発的便の貯留の既往」「痛みを伴う便通の既往」「少なくとも週1回の便失禁」が散見されると報告した1)。 子供の便秘に関しては保護者の関心も高い一方で、しつけや教育の問題とされたり、周囲に相談できる人がいなかったり、かかりつけの医師に相談しても対症的な治療だけだったりと不安を訴える。また、子供たちは、友達から「臭い」と言われたり、恥ずかしくて言えなかったりと自尊心が傷つき行き場のない子供を診療で救う必要性があると同氏は問題を指摘する。気付きたい「便秘症」の症状 「便秘」について、その定義、診療はどのようにされるべきか。「小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン」(2014年)によれば、「便秘とは、便が滞った、または便がでにくい状態」と定義され、とくに小児では、排便時に肛門が痛く泣いたり、いきんでも排便ができない状態がみられる。ただ注意すべきは、「便秘」の認識は、個々人で異なるため排便の回数などで判断せず、同時に家族の状況も確認した方がよいと語る。 そして、便秘の症状として「腹痛、裂肛、直腸脱、便失禁、肛門周囲の付着便や皮膚びらん、嘔吐・嘔気、胃食道逆流・げっぷ・口臭、集中力低下、夜尿・遺尿」があり、いかに医療者が気付き、診療介入できるかが重要だと指摘する。 具体的に10歳・女児の症例を紹介。この症例では、「口臭、げっぷ、嘔吐、排便時間30分超」の症状がみられ、他科診療の折に同氏の診療科を受診、便秘症の診療にいたったという。X線検査では、直腸に便塞栓が観察され、大腸に大量の便が貯留していた。慢性便秘症と胃食道逆流症の診断後、プロトンポンプ阻害薬とポリエチレングリコール(PEG)製剤で治療を開始。19日後には、排便時間が10分以内になり、当初の症状も消失したという。 小児の便秘症を疑うポイントとして、前記便秘症状の中でも触れているが、溜まった便で膀胱が圧迫されることによる夜尿やおもらしが多く、便塞栓のために液便による便漏れやこれらに伴う肛門部のびらんなどがみられ、診断の手助けになると語った。小児にも適用できるようになったPEG製剤 小児が便秘症を発症しやすい時期として、「食事の移行期(離乳食から普通食など)」「トイレットトレーニング」「通学の開始」の3期があり、排便への恐れが子供にできないように、環境を整えることも重要と指摘する。 また、便秘症の「便塞栓」について詳説し、本症を疑うポイントとして、「少量の硬い便」「肛門周囲や下着への便の付着」「便がでにくいのに下痢便」「1週間近く排便がない」などが見られたら治療介入し、便秘症の悪循環を断ち切る必要があると強調する。 便秘症治療の三大原則としては、「便塞栓があればその除去の後で、薬剤、食事、生活習慣改善などの治療を行う」「外したフタ(便塞栓)は外したままにする」「便を我慢せず出しきる習慣を身に付ける」ことを説明。とくに排便習慣については、直腸の排便へのセンサーを正常化させることが大事で、また、排便の姿勢についても、自然に排便できるように洋式便座では踏み台などの設置も効果的という。 そして、これら治療を補助するために治療薬があり、「浣腸だけでなく新しい経口治療薬も小児には適用できるようになった」と説明する。現在、わが国では、乳児・幼児に対してラクツロース、酸化マグネシウムなどの浸透圧性下剤、グリセリン、ビサコジルなどの刺激性下剤便秘に多用されている。また、2018年11月からようやくわが国でもPEG製剤(商品名:モビコール)が、2歳以上の小児に使用できるようになったこともあり、便秘薬の選択肢は増えつつあるという(参考までに、海外では便塞栓除去に浣腸だけでなく経口治療薬も選択肢に入っており、イギリスではPEG製剤が第一選択薬となっている2))。 臨床上、成人の便秘症は治療に難渋することがあるが、子供の便秘症では薬剤療法が奏功することもあり、早く介入することが重要と語る。治療の目標は、便秘ではない状態の維持であり、そのためには3~4年近く必要という。 最後に同氏は、子供のトイレ指導のコツについて、「25%できたら褒める」「小さいことから少しずつ」「できた行動に着目する」「具体的な指示をする」「一度に一つだけ指示をする」などを挙げ、「便秘難民がゼロ」になることを期待すると講演を締めた。■参考EAファーマ株式会社 イーベンnavi

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絶食治療患者の消化吸収力と血糖管理/糖尿病学の進歩

 2019年3月1~2日に開催された第53回糖尿病学の進歩において、瓜田 純久氏(東邦大学総合診療・救急医学講座)が「絶食治療を要する疾患で救急搬送された糖尿病患者の臨床経過と栄養管理」について講演し、絶食治療による消化吸収とそれに付随する血糖値変動について講演した(特別企画1:低栄養リスクのある糖尿病患者の栄養サポートと栄養管理)。救急搬送される糖尿病患者の栄養状態とは? 慢性的な栄養不足は、栄養障害によるランゲルハンス島細胞の栄養不良、β細胞量と機能の低下などを引き起こす。そして、救急搬送される患者の多くには、β細胞機能不全を招くほどの急性の負荷が生じている。このような状況下での低栄養を防ぐため、瓜田氏は同施設における2005年7月からの1,531名のカルテを用いて、糖尿病患者の急性疾患時の栄養状態をケトアシドーシス以外の観点から解析した。 まず、救急搬送された患者の糖尿病の有無と絶食期間を調べるために、入院後3日以上の絶食が必要な症例を抽出、HbA1cで区分したところ、HbA1cが6%より高い患者の割合は4割程度であった。また、高齢糖尿病入院患者の栄養状態をMNA-SF1)(簡易栄養状態評価表)で評価したスペインの研究2)によると、入院患者の54%に低栄養または低栄養の恐れがあったという。これらのことから、急性疾患によって搬送される糖尿病患者は、意外と栄養状態が悪いということが明らかになった。栄養障害の原因を探る方法 同施設で入院後3日以上の絶食が必要な症例は、肺炎、急性腸炎、憩室炎、イレウス、消化管出血、虫垂炎、尿路感染症などが全体の45%を占め、同氏が担当する症例には、糖尿病患者の血糖コントロールを悪化させるような急性疾患が多く含まれている。そこで、同氏らは、栄養障害がみられる全患者に対して「食事摂取状況の写真撮影とRapid turnover protein(RTP:レチノール結合タンパク)によるタンパク漏出測定による診断」を実施し、栄養障害の早期発見に努めている。 タンパク質の合成障害や摂取不足がある状態では、半減期(Alb:20日、Tf:7~10、Pre Alb:3~4日、RTP:半日)が短い成分ほど大きく低下するが補いやすい。この性質を活かし、栄養障害がタンパク合成能、摂取不足どちらに起因しているものかをRTPで判断する。たとえば、1900kcalの食事をしっかり食べているにもかかわらずAlb値が下がる糖尿病患者に対し、この検査を実施すると合成障害とわかり、「糖尿病患者のタンパク合成能は落ちていない」と判断することができるという。ただし、下痢、体重減少、貧血、腹部膨満感、浮腫、無力脱力感などがある場合は、まずは、消化管検査や心電図を含む主要な検査を実施して評価を行うことが望ましく、それらに異常がない場合は、開腹などの既往歴や吸収障害を惹起する薬剤(ステロイド、刺激性下剤、酸分泌抑制薬など)の服用を確認してから、低栄養と断定する」と、栄養評価時の注意ポイントを示した。食事を再開した時の消化吸収力と血糖コントロール 絶食治療後の明確な食事再開基準はなく、患者の意思に委ねられている。同氏は、この問題を解決する方法として“呼気中水素総排出量”の算出が有用と考えている。これは炭水化物の消化吸収を表す指標で、絶食期間中は低値を示す。実際に、同氏の解析したデータでも食事再開時は消化吸収の効率が低下していることが明らかとなり、「糖尿病患者の血糖値に“食べた物がすべて反映されている”という考えを間引かなければならない」とし、「たった1日の絶食が消化吸収阻害に影響を及ぼしている」と、絶食におけるリスクを示した。 最後に同氏は「絶食治療により、消化吸収は大きく変化する。絶食治療は必要であるが、血糖、栄養、消化吸収を同時に評価する必要性がある」と締めくくった。■参考1)Nestle Nutrition Institute:MNA-SF2)Sanz Paris A,et al. Nutr Hosp. 2013;28:592-599.

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オピオイド使用障害に持効性ブプレノルフィン注が有用/Lancet

 オピオイド使用障害治療の月1回皮下注薬であるRBP-6000(徐放性ブプレノルフィン:BUP-XR)について、多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照第III相臨床試験の結果、プラセボと比較してオピオイド断薬率が有意に高く、忍容性も良好であることが示された。米国・Indivior社のBarbara R. Haight氏らが報告した。BUP-XRは、月1回投与によりオピオイド乱用の薬物嗜好を遮断するブプレノルフィン血中濃度を維持し、同時に離脱症状や渇望症状をコントロールすることから、医療現場ではBUP-XRの投与が中毒や乱用等も軽減することが期待されていた。Lancet誌2019年2月23日号掲載の報告。BUP-XRの2つの用量についてオピオイド断薬率をプラセボと比較 研究グループは2015年1月28日~11月12日に、米国の36施設で、18~65歳の治療を要する中等度~重度オピオイド使用障害(DSM-5)患者を、ブプレノルフィン/ナロキソン舌下フィルム剤による最長2週間の非盲検導入試験に登録し、その後、適格患者についてBUP-XR300mg/300mg(300mg×6回注射)、BUP-XR300mg/100mg(300mg×2回+100mg×4回注射)、またはそれぞれのプラセボ群に4対4対1対1の割合で音声自動応答/Web応答システムを用いて無作為に割り付けた。いずれも28日ごとに投与するとともに、個別に週1回の薬物療法のカウンセリングを行った。ブプレノルフィンの追加投与は不可とした。 有効性の主要評価項目は、尿検査陰性および5~24週におけるオピオイド不正使用の自己報告で確定したオピオイド断薬率である。オピオイド断薬率は、プラセボ5%に対しBUP-XR両群で約41~43% スクリーニングされた1,187例中665例が導入試験に登録され、504例がBUP-XR300mg/300mg(201例)、BUP-XR300mg/100mg(203例)、またはプラセボ(各群50例、計100例)の投与を受けた。 オピオイド断薬率(平均±SD)は、BUP-XR300mg/300mg群41.3±39.7%、BUP-XR300mg/100mg群42.7±38.5%、プラセボ群5.0±17.0%であった(BUP-XR両群でp<0.0001)。BUP-XR投与中に非オピオイド系薬の代償的使用は確認されなかった。 主な有害事象は、頭痛(BUP-XR300mg/300mg群8%、BUP-XR300mg/100mg群9%、プラセボ群6%)、便秘(それぞれ8%、9%、0)、悪心(18%、9%、5%)、注射部位の掻痒感(9%、6%、4%)であった。注射部位反応はBUP-XRの投与を受けた患者の5%以上で報告されたが、その多くが軽度で治療を制限するものではなく、BUP-XRの安全性プロファイルはオピオイド使用障害に対する他のブプレノルフィン製剤と一致していた。

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尿失禁が生命予後に影響?OABに早期介入の必要性

 わが国では、40歳以上の約7人に1人が過活動膀胱(OAB)を持ち、切迫性尿失禁を併せ持つ割合は70%を超えると推定されている。定期通院中の患者が症状を訴えるケースも多く、専門医以外でも適切な診療ができる環境が求められる。 2019年2月28日、OAB治療薬「ビベグロン錠50mg(商品名:ベオーバ)」の発売元であるキョーリン製薬とキッセイ薬品が共催したメディアセミナーにて、吉田 正貴氏(国立長寿医療研究センター 副院長 泌尿器外科部長)が講演を行った。本セミナーでは、「OABの病態と治療―新たな治療選択肢を探るー」をテーマに、高齢のOAB患者を取り巻く現状と薬物療法について語られた。“過活動膀胱”もしくは“低活動膀胱”を持つ高齢者が増加 OABとは、尿意切迫感を必須症状とし、しばしば昼間/夜間頻尿や切迫性尿失禁を伴う症状症候群である。発症率は加齢とともに上がり、ホルモン変化、神経疾患や局所性疾患、生活習慣病など、さまざまな要因が関与すると考えられている。とくに最近では、下部尿路への血流の悪さが発症要因の1つとして注目されている。 吉田氏は、高齢者におけるOAB診療の問題点として、加齢に伴う副作用(口内乾燥、便秘)の発生頻度増加、フレイルとサルコペニア、認知症への影響、多剤服用の4つを提起した。さらに、高度の慢性膀胱虚血は、排尿筋の活動低下“低活動膀胱”を引き起こす。これは、近年増加しているため、高齢者に抗コリン薬を使用する際にはとくに注意が必要だという。フレイルと尿失禁による生命予後の悪化が危惧される 続いて、高齢者のフレイルと尿失禁の併発による生命予後への影響が語られた。これまでに、65~89歳の尿失禁有症者は尿禁制者に比べ、フレイルへ分類される可能性が6.6倍にもなること1)や、フレイルは1年以内の尿失禁発症の予測因子となり、尿失禁は1年後の死亡リスク上昇につながる恐れがあること2)などが海外で報告されている。 尿失禁がある患者は、臭いやトイレの近さを気にするため引きこもりがちになり、筋力が低下しやすいことを指摘し、「高齢者のフレイルや尿失禁は、生命予後にかかわる可能性があり、OAB患者の尿失禁にはとくに早期に介入していく必要がある」と強調した。高齢者のOAB治療における薬剤選択は慎重に行うべき 今回紹介されたビベグロンは、国内で2番目のβ3受容体作動薬で、膀胱の伸展を増強する。国内第III相比較試験では、プラセボ群に対して、1日の平均排尿回数を有意に減らし、すべての排尿パラメータを改善するなどの結果を収め、世界で初めてわが国で承認された薬剤だ。長期投与における安全性と有効性も確認されており、過活動膀胱診療ガイドライン(2015)の次回改定では、既存の同効薬ミラベクロンと同様の推奨グレードになる見通しだという。 同氏は、高齢者OAB患者に対する薬物療法の注意点について、ガイドラインに記載される6項目を紹介した。1.少量で開始し、緩やかに増量する2.薬剤用量は若年者より少なくする(開始量の目安は成人量の4分の1~2分の1)3.薬効を短期間で評価する:効果に乏しい場合は漫然と増量せず、中止して別の薬に変更4.服薬方法を簡易にする:服薬回数を減らす5.多剤服用を避ける:認知症患者ではとくに注意が必要6.服薬アドヒアランスを確認する:在宅患者では、一元的な服薬管理と有害事象の早期発見が重要 最後に、「高齢社会でOAB患者は増加しているが、これは健康寿命の延伸を抑制する一因となっている。高齢者の診療に当たって、多剤服用はフレイルの増悪因子であり、安易な薬剤の追加には注意が必要。とくに、抗コリン薬は認知機能やせん妄にも影響する恐れがあるため、患者の状況をしっかり確認して、慎重に治療薬を選択してほしい。β3受容体作動薬は、抗コリン作用を持たないため、高齢者にも比較的安全に使用できる可能性がある」と締めくくった。

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第18回 花粉症患者に使える!こんなエビデンス、あんなエビデンス【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 インフルエンザがやっと落ち着いてきたと思ったら、花粉症が増える季節になりました。症状がひどい方は本当につらい季節で、身の回りでも花粉症の話題でもちきりとなっています。今回は、服薬指導で使える花粉症に関するお役立ち情報をピックアップして紹介します。アレルゲンを防ぐには?アレルギー性疾患では、アレルゲンを避けることが基本です1)。花粉が飛ぶピークタイムである昼前後と日没後、晴れて気温が高い日、空気が乾燥して風が強い日、雨上がりの翌日や気温の高い日が2~3日続いた後は外出を避けたり、マスクやメガネ、なるべくツルツルした素材の帽子などで防御したりしましょう。それ以外にも、鼻粘膜を通したアレルゲンの吸入を物理的にブロックするために、花粉ブロッククリームを直接鼻粘膜に塗布するという方法もあります。この方法は、ランダム化クロスオーバー試験で検証されており、アレルギー性鼻炎、ダニおよび他のアレルゲンに感受性のある成人および小児の被験者115例を、花粉ブロッククリーム群とプラセボ軟膏群に割り付けて比較検討しています。1日3回30日間の塗布で、治療群の鼻症状スコアが改善しています。ただし、必ずしも花粉ブロッククリームでないといけないわけではなく、プラセボ群でも症状改善効果が観測されています2)。ほかにも小規模な研究で鼻粘膜への軟膏塗布で有効性を示唆する研究3)がありますので、やってみる価値はあるかもしれません。症状を緩和する食材や栄養素は?n-3系脂肪酸大阪の母子健康調査で行われた、サバやイワシなどの青魚に多く含まれるn-3系脂肪酸の摂取量とアレルギー性鼻炎の有病率に関する研究で、魚の摂取量とアレルギー性鼻炎の間に逆の用量反応関係があることが指摘されています4)。ただし、急性の症状に対して明確な効果を期待できるほどの結果ではなさそうです。ビタミンEビタミンEがIgE抗体の産生を減少させる可能性があるとして、アレルギー性鼻炎患者63例を、ビタミンE 400IU/日群またはプラセボ群にランダムに割り付け、4週間継続(最初の2週間はロラタジン/プソイドエフェドリン(0.2/0.5/mg/kg)と併用)した研究があります。しかし、いずれの群も1週間で症状が改善し、症状スコアにも血清IgEにも有意差はありませんでした5)。カゼイ菌アレルギーは腸から起こるとよく言われており、近年乳酸菌やビフィズス菌が注目されています。これに関しては、カゼイ菌を含む発酵乳またはプラセボを2~5歳の未就学児童に12ヵ月間摂取してもらい、アレルギー性喘息または鼻炎の症状が改善するか検討した二重盲検ランダム化比較試験があります。187例が治療群と対照群に割り付けられ、アウトカムとして喘息/鼻炎の発症までの時間、発症数、発熱または下痢の発生数、血清免疫グロブリンの変化を評価しています。通年性の鼻炎エピソードの発生は治療群でやや少なく、その平均差は―0.81(―1.52~―0.10)日/年でした。鼻炎にわずかな効果が期待できるかもしれませんが、喘息には有効ではないとの結果です6)。薬物治療の効果は?薬物治療では、抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬、アレルゲン免疫療法が主な選択肢ですが、抗ヒスタミン薬にフォーカスして見ていきましょう。比較的分子量が小さく、脂溶性で中枢性の副作用を生じやすい第1世代よりも、眠気など中枢性の副作用が少ない第2世代の抗ヒスタミン薬がよく用いられています。種々の臨床試験から、第2世代抗ヒスタミン薬は種類によって効果に大きな差はないと思われます。たとえば、ビラスチンとセチリジンやフェキソフェナジンを比較した第II相試験7)では、効果はほぼ同等でビラスチンは1時間以内に作用が発現し、26時間を超える作用持続を示しています。なお、ルパタジンとオロパタジンの比較試験では、ルパタジンの症状の改善スコアはオロパタジンとほぼ同等ないしやや劣る可能性があります8)。また、眼のかゆみなど症状がない季節性のアレルギー性鼻炎であれば、抗ヒスタミン薬よりもステロイド点鼻薬の有効性が高いことや、ステロイド点鼻薬に抗ヒスタミン薬を上乗せしても有意な上乗せ効果は期待しづらいことから、点鼻薬を推奨すべきとするレビューもあります9)。副作用は?抗ヒスタミン薬の副作用で問題になるのがインペアード・パフォーマンスです。インペアード・パフォーマンスは集中力や生産性が低下した状態ですが、ほとんどの場合が無自覚なので運転を控えるようにすることなどの指導が大切です。フェキソフェナジン、ロラタジン、またそれを光学分割したデスロラタジンなどはそのような副作用が少ないとされています10)。口渇、乏尿、便秘など抗コリン性の副作用は、中枢移行性が低いものでも意識しておくとよいでしょう。頻度は少ないですが、第1世代、第2世代ともに痙攣の副作用がWHOで注意喚起されています11)。万が一、痙攣などが起こった場合には被疑薬である可能性に思考を巡らせるだけでも適切な対応が取りやすくなると思います。予防的治療の効果は?季節性アレルギー性鼻炎に対する抗ヒスタミン薬の予防的治療効果について検討した二重盲検ランダム化比較試験があります12)。レボセチリジン5mgまたはプラセボによるクロスオーバー試験で、症状発症直後の早期服用でも花粉飛散前からの予防服用と同等の効果が得られています。予防的に花粉飛散前からの服用を推奨する説明がされがちですが、症状が出てから服用しても遅くはないと伝えると安心していただけるでしょう。服用量が減らせるため、医療費抑制的観点でも大切なことだと思います。鼻アレルギー診療ガイドラインでも、抗ヒスタミン薬とロイコトリエン拮抗薬は花粉飛散予測日または症状が少しでも現れた時点で内服とする主旨の記載があります1)。以上、花粉症で服薬指導に役立ちそうな情報を紹介しました。花粉症対策については環境省の花粉症環境保健マニュアルによくまとまっています。また、同じく環境省による花粉情報サイトで各都道府県の花粉飛散情報が確認できますので、興味のある方は参照してみてください13)。1)鼻アレルギー診療ガイドライン2016年版2)Li Y, et al. Am J Rhinol Allergy. 2013;27:299-303.3)Schwetz S, et al. Arch Otolaryngol Head Neck Surg. 2004;130:979-984.4)Miyake Y, et al. J Am Coll Nutr. 2007;26:279-287.5)Montano BB, et al. Ann Allergy Asthma Immunol. 2006;96:45-50.6)Giovannini M, et al. Pediatr Res. 2007;62:215-220.7)Horak F, et al. Inflamm Res. 2010;59:391-398.8)Dakhale G. J Pharmacol Pharmacother. 2016 Oct-Dec 7:171–176.9)Stempel DA, et al. Am J Manag Care. 1998;4:89-96.10)Yanai K, et al. Pharmacol Ther. 2007 Jan 113:1-15.11)WHO Drug Information Vol.16, No.4, 200212)Yonekura S, et al. Int Arch Allergy Immunol. 2013;162:71-78.13)「環境省 花粉情報サイト」

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レビー小体型認知症のBPSD、対応のポイントは?

 2019年2月20日、大日本住友製薬主催により、レビー小体型認知症(DLB)に関するプレスセミナーが開催され、その中で2つの講演が行われた。DLBは早期介入が重要 初めに、小田原 俊成氏(横浜市立大学 保健管理センター教授・センター長)が、DLBの現状、認知機能障害、行動・心理症状(BPSD)の特徴について講演を行った。 現在、日本国内におけるDLBの推定患者数は、50~100万人程度とされている。しかし、類似疾患との鑑別が難しく、DLBと診断されていない患者も多く存在すると考えられている。実際に、臨床診断されるDLBの割合は4%程度だが、病理診断される割合は20%近いという報告もある。小田原氏によると、「アルツハイマー型認知症(AD)では初期からほとんどの症例で記憶障害を呈する一方で、DLBでは初期から記憶障害を呈するのは3分の1程度である」、「注意・遂行機能や、視知覚機能の障害が、ADよりも強く現れる」といった点がDLBに特徴的だという。さらに、DLBではADに比べ、妄想、幻覚、不安、睡眠障害といったBPSDによる弊害も多い。これらは、患者本人のみならず介護者の大きな負担やQOLの低下に直結するため、「介護者がレビー小体型認知症の特徴的症状を把握し、患者本人に受診動機を持ってもらう。そうすることで、早期に治療介入を行えるようにすることが大切である」と述べた。DLBにおけるBPSD、「運動症状への対応」がカギ 次に、服部 信孝氏(順天堂大学医学部 脳神経内科)より、DLBの非運動・運動症状の特徴について講演が行われた。 DLBの鑑別診断が難しい要因として、認知症を伴うパーキンソン病(PDD)と病理学的に同一のスペクトラムであるため、両疾患の診断基準を同時に満たすケースが存在することも挙げられると、服部氏は語る。一方、両者を正確に区別することは難しいものの、DLBでは、記憶障害がみられるようになる数年前から、便秘、嗅覚障害、レム期睡眠行動異常症(RBD)、抑うつの症状などが現れる点が特徴的であるという。この中でもとくに「RBD」は、2017年に改訂されたDLBの臨床診断基準で中核的臨床特徴に位置付けられるなど、その重要性が注目されている。中核的臨床特徴には、このほかに「認知機能の変動」、「繰り返す具体的な幻視」、「特発性パーキンソニズム」があるが、パーキンソニズムは、転倒による予後の悪化や、患者のADL・QOL低下、介護者のQOL低下、社会的コストの上昇(パーキンソニズムのスコアが1上昇すると827米ドルのコスト上昇という報告もある)などがみられるため、とくに注意が必要だと服部氏は強調する。その一方で、「DLBのパーキンソニズムに対する薬物療法は、精神症状を悪化させる可能性があるため、精神症状をコントロールしつつ、運動症状を治療していくことが大切。運動症状が悪化する前に、RBDや嗅覚障害などの特徴からDLBを早期に発見し、早期に治療介入していくことが重要である」と述べ、講演を締めくくった。

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パーキンソン病〔PD:Parkinson's disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義パーキンソン病(Parkinson's disease:PD)は、運動緩慢(無動)、振戦、筋強剛などのパーキンソニズムを呈し、緩徐に進行する神経変性疾患である。■ 疫学アルツハイマー病の次に頻度の高い神経変性疾患であり、平成26年に行われた厚生労働省の調査では、男性6万2千人、女性10万1千人の合計16万3千人と報告されている。65歳以上の患者数が13万8千人と全体の約85%を占め(有病率は1.5%以上)、加齢に伴い発症率が上昇する(ただし、若年性PDも存在しており、決して高齢者だけの疾患ではない)。症状は進行性で、歩行障害などの運動機能低下に伴い医療・介護を要し、社会的・経済的損失は著しい。超高齢社会から人生100年時代を迎えるにあたり、PD患者数は増え続けることが予想されており、本疾患の克服は一億総活躍社会を目指すわが国にとって喫緊の課題と言える。■ 病因これまでの研究により遺伝的因子と環境因子の関与、あるいはその相互作用で発症することが示唆されている。全体の約90%が孤発性であるが、10%程度に家族性PDを認める。1997年に初めてα-synucleinが家族性PDの原因遺伝子として同定され、その後当科から報告されたparkin、CHCHD2遺伝子を含め、これまでPARK23まで遺伝子座が、遺伝子については17原因遺伝子が同定されている。詳細はガイドラインなどを参照にしていただきたい。家族性PDの原因遺伝子が、同時に孤発性PDの感受性遺伝子となることが報告され、孤発性PDの発症に遺伝子が関与していることが明らかとなった。これら遺伝子の研究から、ミトコンドリア機能障害、神経炎症、タンパク分解障害、リソソーム障害、α-synucleinの沈着などがPDの発症に関与することがわかっている。環境因子では、性差、タバコ、カフェインの消費量などが重要な環境因子として検討されている。他にも農薬、職業、血清尿酸値、抗炎症薬の使用、頭部外傷の既往、運動など多くの因子がリスクとして報告されている。■ 病理PDの病理学的特徴は、中脳黒質の神経細胞脱落とレビー小体(Lewy body)の出現である。PDでは黒質緻密層のメラニン色素を持った黒質ドパミン神経細胞が脱落するため、肉眼でも黒質の黒い色調が失われる(図1-A、B)。レビー小体は、HE染色でエオジン好性に染まる封入体で、神経細胞内にみられる(図1-C、D)。レビー小体は脳幹の中脳黒質(ドパミン神経細胞)だけではなく、橋上部背側の青斑核(ノルアドレナリン神経細胞)、迷走神経背側運動核、脳幹に分布する縫線核(セロトニン神経細胞)、前脳基底部無名質にあるマイネルト基底核(コリン作動性神経)、大脳皮質だけではなく、嗅球、交感神経心臓枝の節後線維、消化管のアウエルバッハ神経叢、マイスナー神経叢にも認められる。脳幹の中脳黒質の障害はPDの運動障害を説明し、その他の脳幹の核、大脳皮質、嗅覚路、末梢の自律神経障害は非運動症状(うつ症状、不眠、認知症、嗅覚障害、起立性低血圧、便秘など)の責任病変である。PDのhallmarkであるレビー小体が全身の神経系から同定されることはPDが、多系統変性疾患でありかつ全身疾患であることを示しており、アルツハイマー病とはこの点で大きく異なる。家族性PDの原因遺伝子としてα-synuclein遺伝子(SNCA遺伝子)が同定された後に、レビー小体の主要構成成分が、α-synuclein蛋白であることがわかり、この遺伝子とその遺伝子産物がPDの病態に深く関わっていることが明らかとなった。図1 パーキンソン病における中脳黒質の神経脱落とレビー小体画像を拡大する■ 症状1)運動症状運動緩慢(無動)、振戦、筋強剛などのパーキンソニズムは、左右差が認められることが多く、優位側は初期から進行期まで不変であることが多い。初期から仮面様顔貌、小字症、箸の使いづらさなどの巧緻運動障害、腕振りの減少、小声などを認める。進行すると、姿勢保持障害・加速歩行・後方突進・すくみ足(最初の一歩が出ない、歩行時に足が地面に張り付いて離れなくなる)などを観察し、歩行時の易転倒性の原因となる。多くの症例で、進行期にはL-ドパの効果持続時間が短くなるウェアリングオフ現象を認める。そのためL-ドパを増量したり、頻回に内服する必要があるが、その一方でL-ドパ誘発性の不随意運動であるジスキネジア(体をくねらせるような動き。オフ時に認める振戦とは異なる)を認めるようになる。嚥下障害が進行すると、誤嚥性肺炎を来すことがある。2)非運動症状ほとんどの患者で非運動症状が認められ、前述の病理学的な神経変性、レビー小体の広がりが多彩な非運動症状の出現に関与している。非運動症状は、運動症状とは独立してQOLの低下を来す。非運動症状は、以下のように多彩であるが、睡眠障害、精神症状、自立神経症状、感覚障害の4つが柱となっている。(1)睡眠障害不眠、レム睡眠行動異常症(REM sleep behavior disorders:RBD)、日中過眠、突発性睡眠、下肢静止不能症候群(むずむず足症候群:restless legs syndrome)など(2)精神・認知・行動障害気分障害(うつ、不安、アパシー=無感情・意欲の低下、アンヘドニア=快感の消失・喜びが得られるような事柄への興味の喪失)、幻覚・妄想、認知機能障害、行動障害(衝動制御障害=病的賭博、性欲亢進、買い物依存、過食)など(3)自律神経症状消化管運動障害(便秘など)、排尿障害、起立性低血圧、発汗障害、性機能障害(勃起障害など)、流涎など(4)感覚障害嗅覚障害、痛み、視覚異常など(5)その他の非運動症状体重減少、疲労など嗅覚障害、RBD、便秘、気分障害は、PDの前駆症状(prodromal symptom)として重要な非運動症状であり、とくに嗅覚障害とRBDは後述するInternational Parkinson and Movement Disorder Society(MDS)の診断基準にもsupportive criteria(支持的基準)として記載されている。■ 分類病期についてはHoehn-Yahrの重症度分類が用いられる(表1)。表1 Hoehn-Yahr分類画像を拡大する■ 予後現在、PDの平均寿命は、全体の平均とほとんど変わらないレベルまで良くなっている一方で、健康寿命については十分満足のいくものとは言い難い。転倒による骨折をしないことがPDの経過に重要であり、誤嚥性肺炎などの感染症は生命予後にとって重要である。2 診断■ 診断基準2015年MDSよりPDの新たな診断基準が提唱され、さらにわが国の『パーキンソン病診療ガイドライン2018』により和訳・抜粋されたものを示す。これによるとまずパーキンソニズムとして運動緩慢(無動)がみられることが必須であり、加えて静止時振戦か筋強剛のどちらか1つ以上がみられるものと定義された。姿勢保持障害は、診断基準からは削除された。パーキンソン病の診断基準(MDS)■臨床的に確実なパーキンソン病(clinically established Parkinson's Disease)パーキンソニズムが存在し、さらに、1)絶対的な除外基準に抵触しない。2)少なくとも2つの支持的基準に合致する。

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国内初の慢性便秘症PEG製剤「モビコール配合内用剤」【下平博士のDIノート】第18回

国内初の慢性便秘症PEG製剤「モビコール配合内用剤」今回は、慢性便秘症治療薬「マクロゴール4000/塩化ナトリウム/炭酸水素ナトリウム/塩化カリウム(商品名:モビコール配合内用剤)」を紹介します。本剤は、慢性便秘症に対する国内初のポリエチレングリコール(PEG)製剤で、併用薬などの使用制限もなく、小児や腎機能が低下した高齢者にも使いやすい薬剤として期待されています。<効能・効果>本剤は、慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)の適応で、2018年9月21日に承認され、2018年11月29日より販売されています。本剤は、PEG(マクロゴール4000)の浸透圧効果により、腸管内の水分量を増加させることで、便の軟化と便容積の増大を促し、用量依存的に便の排出を促進します。<用法・用量>本剤は、水で溶解して経口投与します。通常、成人および12歳以上の小児には、初回用量として1回2包を1日1回経口投与します。症状に応じて1日1~3回まで適宜増減可能ですが、最大投与量は1日に6包(1回量として4包)までです。増量は2日以上空けて行い、増量幅は1日2包までです。2歳以上7歳未満の幼児では、初回用量1回1包、7歳以上12歳未満の小児では、初回用量1回2包を1日1回経口投与します。症状に応じて1日1~3回まで適宜増減可能ですが、いずれも最大投与量は1日4包(1回量として2包)までです。増量は2日以上空けて行い、増量幅は1日1包までです。<副作用>承認時までの国内の臨床試験(成人、小児それぞれを対象とした第III相試験)では、192例中33例(17.2%)に副作用が認められています。主な副作用は、下痢7例(3.6%)、腹痛7例(3.6%)でした。なお、重大な副作用としてショック、アナフィラキシー(頻度不明)が現れることがあるため注意が必要です。<患者さんへの指導例>1.お薬によって腸管内の水分量を増やし、便を軟らかくして排便を促します。2.この薬は、1包当たりコップ3分の1程度(約60mL)の水に溶かして服用します。飲みにくい場合は、ジュースなどに溶かしても構いません。3.溶かした後すぐに服用しない場合や飲み切れなかった場合は、ラップをかけて冷蔵庫に保管し、当日中に飲み切るようにしてください。4.腹痛、おなかの張り、腹部の不快感が現れた場合には、主治医か薬剤師までご連絡ください。5.蕁麻疹、喉のかゆみ、息苦しさ、動悸、顔のむくみなどが現れた場合はすぐに受診してください。<Shimo's eyes>本剤は、日本で初めて慢性便秘症に適応を持つPEG製剤です。塩化ナトリウムなどの電解質を含有しており、浸透圧性下剤に分類されます。海外では欧州を中心に、小児を含めた慢性便秘症治療薬として広く用いられており、ガイドラインでも使用が推奨されています。わが国では、日本小児栄養消化器肝臓学会から、小児慢性便秘症に対する開発要請が出され、2015年5月に開発が開始されました。従来、浸透圧性下剤として酸化マグネシウムが汎用されていますが、高齢者などの腎機能低下患者では高マグネシウム血症に注意が必要であったり、ビスホスホネート製剤やニューキノロン系抗菌薬などとの相互作用が問題となったりすることがあります。さらに、酸化マグネシウムは胃酸分泌抑制時に効果が減弱するため、プロトンポンプ阻害薬などを服用している場合や胃切除後では効果が低下する可能性もあります。本剤の主薬であるPEG(マクロゴール4000)には併用禁忌、併用注意の薬剤はありません。本剤は2歳から使用でき、水に溶解して服用しますが、味などが気になって服用しにくい場合は、ジュース、スポーツドリンク、お茶などの冷たい飲料で溶解することも可能です。効果は用量依存的なので、患者さんの便秘の状態に応じて適切な服用量に調節することができます。とくに小児や、高マグネシウム血症が問題となる高齢患者でも安心して使える薬と考えられるでしょう。

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便秘が、全死亡・心血管イベントリスクと関連

 便秘は日常診療で最も遭遇する症状の1つであり、アテローム性動脈硬化症の発症と関連している(腸内微生物叢の変化による可能性)が、心血管イベント発症との関連についてはほとんど知られていない。今回、米国退役軍人コホートにおける研究から、便秘であることと便秘薬の使用がそれぞれ独立して、全死因死亡、CHD発症、虚血性脳卒中発症のリスクと関連していたことを、米国テネシー大学/虎の門病院の住田 圭一氏らが報告した。Atherosclerosis誌オンライン版2018年12月23日号に掲載。 2004年10月1日~2006年9月30日(ベースライン期間)に、推算糸球体濾過量(eGFR)が60mL/分/1.73m2以上であった米国退役軍人335万9,653例において、2013年まで追跡し、便秘の有無(診断コードと便秘薬の使用により定義)・便秘薬の使用(なし、1種類、2種類以上)と、全死因死亡率・冠動脈疾患(CHD)発症・虚血性脳卒中発症との関連を検討した。 主な結果は以下のとおり。・335万9,653例のうち、23万7,855例(7.1%)が便秘と同定された。・人口統計、一般的な併存症、薬物治療、社会経済的地位に関する多変量調整後、便秘の患者は、便秘ではない患者と比べて全死因死亡率が12%高く(ハザード比[HR]:1.12、95%CI:1.11~1.13)、CHD発症率が11%(HR:1.11、95%CI:1.08~1.14)、虚血性脳卒中発症率が19%高かった(HR:1.19、95%CI:1.15~1.22)。・便秘薬使用なしの患者に比べ、1種類および2種類以上の便秘薬使用患者のHR(95%CI)はそれぞれ、全死因死亡率で1.15(1.13~1.16)および1.14(1.12~1.15)、CHD発症率で1.11(1.07~1.15)および1.10(1.05~1.15)、虚血性脳卒中発症率で1.19(1.14~1.23)および1.21(1.16~1.26)であった。

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β3アドレナリン受容体に作用して膀胱容量を増大させる過活動膀胱治療薬「ベオーバ錠50mg」【下平博士のDIノート】第17回

β3アドレナリン受容体に作用して膀胱容量を増大させる過活動膀胱治療薬「ベオーバ錠50mg」今回は、「ビベグロン錠(商品名:ベオーバ錠50mg)」を紹介します。本剤は、抗コリン作用を有しない過活動膀胱(OAB)治療薬であり、これまで抗コリン作用に基づく副作用によって治療継続が困難であった患者さんや高齢者のQOL改善が期待されています。<効能・効果>本剤は、OABにおける尿意切迫感、頻尿および切迫性尿失禁の適応で、2018年9月21日に承認され、2018年11月27日より販売されています。膀胱平滑筋のβ3アドレナリン受容体を選択的に刺激し、膀胱を弛緩させることで膀胱容量を増大させます。<用法・用量>通常、成人にはビベグロンとして50mgを1日1回1錠、食後に経口投与します。<副作用>国内でOAB患者を対象に実施された第III相比較試験および第III相長期投与試験において、本剤50mgまたは100mgを投与した906例中75例(8.3%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、口内乾燥、便秘各11例(1.2%)、尿路感染(膀胱炎など)、残尿量増加各6例(0.7%)、肝機能異常、CK(CPK)上昇各3例(0.3%)でした(承認時)。なお、重大な副作用として、尿閉(頻度不明)が認められています。前立線肥大症などの下部尿路閉塞疾患を合併している患者に処方された場合は、処方医への確認が必要です。<患者さんへの指導例>1.この薬は、膀胱に作用して尿をためやすくすることで、OABによる尿意切迫感、頻尿、切迫性尿失禁などの症状を改善します。2.この薬を飲み始めてから尿が出にくくなるようなことがあった場合は、すぐに診察を受けてください。3.本剤を服用中の授乳は避けてください。<Shimo's eyes>尿意切迫感や頻尿、切迫性尿失禁などの排尿に関する悩みはQOLを大きく低下させ、社会生活を送るうえでしばしば問題になります。2002年に日本排尿機能学会が行った調査では、OAB症状を自覚する人は40歳以上では平均12.4%存在し、高齢になるほど増えると報告されており、考えられてきた以上に有病率が高いことが明らかになっています。わが国におけるOABの薬物治療では、ムスカリン受容体阻害作用を有する抗コリン薬が広く使用されていますが、抗コリン作用に基づく口内乾燥、便秘、排尿困難などの副作用によってアドヒアランスが低下することもしばしばあります。また、認知機能を悪化させる可能性もあるため高齢者では注意が必要です。2011年からは、新たな作用機序である選択的β3アドレナリン受容体作動薬ミラベグロン(同:ベタニス)が発売されています。ミラベグロンは、抗コリン作用を有していないため、これまで抗コリン薬を使用できなかった患者にも使用することができます。しかし、生殖可能な年齢の患者への投与は避ける必要があること、併用禁忌を含めた薬物相互作用が多いこと、投与開始前および投与中は定期的な血圧測定が必要なことなど、いくつかの注意点があります。本剤はβ3アドレナリン受容体作動薬として、ミラベグロンに続く2剤目の薬剤です。本剤の場合には、生殖可能年齢の患者への投与を避けるという警告はなく、併用禁忌薬もありません。本剤はCYP3A4またはP糖タンパクの基質ですが、強力な誘導・阻害作用は示さないと考えられるため、併用注意薬は少なくなっています。重篤な心疾患のある患者、高度の肝機能障害がある患者に対しては、臨床試験における使用経験がないため慎重投与となっていますが、肝機能、腎機能にかかわらず単一の用量で投与することができます。本剤は、抗コリン薬で副作用が生じている患者、高齢者、あるいは何らかの理由でミラベグロンが使用できない患者でも使用しやすい薬剤と考えられます。なお、2018年9月時点において、海外で承認されている国および地域はありませんので、副作用に関しては継続的な情報収集が必要です。

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