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血液検査で大腸がんを正確に検出/ASCO-GI

 実験的な血液検査をベースにした大腸がんスクリーニング検査により、平均的な大腸がんリスクを有する45歳以上の成人において、大腸がんを効果的に検出できることが示された。米ニューヨーク大学(NYU)グロスマン医学部のAasma Shaukat氏らによるこの研究結果は、米国臨床腫瘍学会消化器がんシンポジウム(ASCO-GI 2025、1月23〜25日、米サンフランシスコ)で発表された。Shaukat氏は、「このような血液検査は、大腸がんのスクリーニング検査の受診率を高めるのに役立つ可能性がある」と述べている。 現状では、大腸がんのスクリーニング検査のゴールドスタンダードは大腸内視鏡検査であるが、この検査では事前に下剤服用や食事調整などの準備が必要な上に、検査時には麻酔や鎮静薬を使用する。便中の血液の有無を調べる便潜血検査も大腸がんのスクリーニングに用いられるが、現在のガイドラインでは毎年の検査実施が必要である。こうした現状を踏まえてShaukat氏は、「便利で安全、かつ実施も容易な新たな大腸がんスクリーニング検査の手段が求められている」と話す。 Shaukat氏らの研究(PREEMPT CRC)は、全米200カ所以上の施設で登録された、平均的な大腸がんリスクを有する45歳以上の成人を対象に、Freenome社の血液検査をベースにした大腸がんスクリーニング検査の有効性を検討している最大規模の研究である。2024年の報告では、この検査は、大腸がんに対する感度が79.2%、advanced colorectal neoplasia(ACN;直径10mm以上の腺腫と大腸がんを包括する概念)に対する特異度が91.5%、ACNの陰性的中率(NPV)は90.8%、陽性的中率(PPV)は15.5%、進行前がん病変(APL)に対する感度は12.5%であることが報告されていた。 今回の研究では、この検査が標準的な米国人口においてどのように機能するかを評価するために、米国の年齢層や性別の分布に基づく重み付けを行った上で解析を実施した。解析対象は、PREEMPT CRCに登録された3万2,731人のうち、評価可能な血液サンプルと大腸内視鏡検査のデータが完備した2万7,010人(年齢中央値57.0歳、女性55.8%)であった。 その結果、大腸がんに対する感度は81.1%、ACNを持たない人に対する特異度は90.4%、ACNを持たない人に対するNPVは90.5%、ACNのPPVは15.5%、APLに対する感度は13.7%であることが示された。 この研究には関与していない、米イェール大学医学部消化器腫瘍学主任のPamela Kunz氏は、「この血液検査は、大腸がんスクリーニングの検査法の選択肢に新たに加わるものだ」と述べている。同氏は、「これらの結果は、このような血液検査が、平均的なリスクを持つ米国人口の大腸がんスクリーニング検査において、便利で効果的な選択肢となる可能性があることを示している」と話す。 研究グループは、大腸がんのスクリーニングの検査法としてのこの血液検査の長期的な影響について研究を続ける予定であるとしている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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せん妄時にハロペリドール5mg投与は適切か?【こんなときどうする?高齢者診療】第10回

CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロン」で2025年1月に扱ったテーマ「せん妄と認知症のBPSD:5つのMを使って症状と原因に対応する」から、高齢者診療に役立つトピックをお届けします。高齢者診療において、認知症、せん妄、抑うつの3つは頻繁にみられる精神・認知にまつわる症状です。これらはオーバーラップし、併発することも多く、正確に3つを見分けることは非常に難しいのが現実です。しかし、安易に「せん妄」とラベリングをして身体拘束、薬剤対応をするのではなく、原因を考える視点が不可欠です。今回は、ケースを通じて、適切な評価と対応について一緒に考えていきましょう。85歳女性 呼吸困難を生じ自宅で転倒。救急を受診し、心不全急性増悪と診断される。尿閉はないが、「尿量把握」のため導尿カテーテル挿入、フロセミド投与による利尿処置を行い、入院治療・観察開始。既往症高血圧、心不全、2型糖尿病、CKDIII、軽度認知機能障害、TIA(3年前)入院1日目21:30心臓モニター、酸素飽和度モニター、末梢点滴、導尿カテーテルなどを開始された状態で病棟に到着。転倒防止のためにベッドアラームも開始された。22:30「不安を訴えた」ため頓服オーダーされていたロラゼパム服用。また痒み症状緩和のためジフェンヒドラミンを経口投与された。3:00不安と痒み症状は軽快せず、体動が続き、ベッドアラーム音により興奮症状が悪化。ベッドから起きてモニターを外し、病院を出ようと試みる過活動性せん妄と判断され、ハロペリドール5mg静注。投与後、就寝し興奮・行動症状は軽快。看護師の報告には「薬剤投与による良好な効果」と記載されていた。入院2日目8:00起床せず、朝食摂取なし。10:30ベッド上におり、ほぼ目を覚まさない。薬剤で興奮がおさまったのは、本当に「良好な効果」だったのか?ベッドサイドで対応した看護師からすると、“興奮症状が出て、指示に従わず自己離床し、病院から出ようとした患者が、薬剤投与後に落ち着いて就寝した。その後、アラームが鳴らず、転倒やモニター外しなどの行動も見られなかった”という状況は、薬剤投与による「良好な効果」に見えてしまうかもしれません。しかし、この状況の正しい解釈は何だったのでしょうか。この状況の適切な解釈のひとつは「過活動性せん妄が過鎮静され、眠ってしまった」ということです。過鎮静を「治療効果」と誤認してしまうと食事摂取量の減少、身体活動量の低下、廃用症候群の進行、転倒、誤嚥リスクの上昇、そして抗精神病薬による死亡率の上昇といった負の影響を招きます1)。薬剤による身体拘束(薬剤拘束)は避けるべき。それでも薬を使うならば-ハロペリドール、クエチアピンやオランザピンのような抗精神病薬は半減期が長いものが多く、高齢者では10時間以上効果が持続する場合もあります。これらの背景を考慮して安全に使用するには、効果が期待できる最少量から始める慎重さが必要です。もちろんどの程度の用量で効果を期待できるかは、患者の身体的な状況や行動精神症状により異なりますので、少量から始め、薬剤それぞれの最高血中濃度到達時間を目安に症状を再評価、薬剤による効果を確認します。※例:静注・筋注のハロペリドールの最高血中濃度到達時間は10~20分症状が治まらなければ再度同量、または必要に応じて増量し再評価。これを繰り返して患者ごとの「効果が確認できる最少量=適量」を見つける手順を踏むのが賢明です。しかし、薬の投与方法を変更することは対処方法のひとつではあるものの、薬剤による鎮静や精神行動症状への対応も「身体拘束のひとつ」であるという認識を持っておくことが重要です。アメリカの長期療養施設や回復期病院では薬剤的か機械的(拘束帯、抑制ミトンなどの使用)かを問わず、身体拘束の実施は行政から厳しく監視されており、実施率の高い病院や施設にはさまざまなペナルティや罰則が課されるとともに、その情報も一般公開されています。日本の身体拘束の実施率は世界と比較して高く、国内でも問題視されはじめていることは近年の診療報酬改定からも明らかです。身体拘束を極力行わないという時代の流れからも、せん妄対策は予防が最も優先されるべきである2)という自覚を持ち、非薬物対応を優先して考え続けることがすべての医療者に求められています。5つのMを使ってせん妄のリスクを見つけ、予防するでは、どのようにせん妄を予防したらよいのでしょうか?ここでも5つのMが役立ちます。5つのMを使って事前にリスク要因を見つけ、環境調整によってせん妄を予防することを考えてみましょう。Matters Most    安心できる環境の欠如Medication     ベンゾジアゼピン系薬、抗コリン薬、不適切な麻薬鎮痛薬使用、中枢神経に影響を及ぼす薬剤Mind       認知症、抑うつ、不安、意思疎通の不具合Morbidity    身体行動の制限、低栄養・脱水、身体の痛み、感覚器官の不具合、照明、部屋の明るさや騒音などの環境Multi complexity急な環境の変化、社会的孤立、家族の訪問などいかがでしょうか?こうしたアセスメントから、環境の変化や痛みが身体・精神・認知に過剰なストレスを与えているかもしれない、腹痛や便秘などがあってもそれを自覚できないかもしれない、あるいは自覚があっても訴え出ることができないのではないかという仮説を立てることができ、身体症状の解消を図るなどの予防的介入を考えられるようになります。せん妄はコモンに起きていて、しかも見逃されている急性期病棟では3人に1人が発症しているといわれるほど、せん妄の頻度は高いものです3)。問題行動が目立つ過活動性せん妄は発見される一方で、その3倍以上の患者が一見症状が顕著でない低活動性せん妄を生じているという報告もあります4)。低活動性のせん妄は見過ごされやすいことに加え、せん妄が生じた後の死亡率が上昇することはあまり周知されていません5)。これらの事実と向かい合い、せん妄を予防し、非薬物療法を最大限に活用し、薬物療法を最小限にすることが、患者の予後とQOLに結び付いているかお判りいただけると思います。これを機に、せん妄の予防にぜひ一緒に取り組んでいきましょう! せん妄のより詳しい対応策はオンラインサロンでオンラインサロンメンバー限定の講義では、問診や日々の観察でせん妄に気付くためのコツ、せん妄に対応するときに使えるHELPプログラムを解説しています。また、酒井郁子氏(千葉大学大学院看護学研究院附属病院専門職連携教育研究センター長)を迎えた対談動画で、看護からみた身体拘束についての学びもご覧いただけます。参考1)Dae H Kim, et al. J Am Geriatr Soc. 2017: Jun;65:1229-1237.2)Chiba Y, et al. J Clin Nurs. 2012 May:21: 1314-1326.3)Inoue SK, et al. N Engl J Med.2006:354:1157-1165.4)Curyto KJ. Am J Geriatr Psychiatry. 2001:9:141-147.5)樋口雅也ほか.あめいろぐ高齢者診療. 112. 2020. 丸善出版

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便秘が心不全再入院リスクと関連―DPCデータを用いた大規模研究

 心不全による再入院のリスクに便秘が関与している可能性が報告された。東京都立多摩総合医療センター循環器内科/東京大学ヘルスサービスリサーチ講座の磯貝俊明氏らの研究によるもので、詳細は「Circulation Reports」11月号に掲載された。 便秘は血圧変動などを介して心不全リスクを高める可能性が想定されているが、心不全の予後との関連を調べた研究は限られている。磯貝氏らは、便秘が心不全による再入院リスクに関連しているとの仮説の下、診断群分類(DPC)医療費請求データベースを用いた後ろ向きコホート研究を実施した。 解析対象は、2016年4月~2022年3月に国内のDPC対象病院へ心不全のために初回入院し、生存退院した20歳以上の患者から、先天性心疾患、血行再建術や心臓移植が施行された症例、末期腎不全合併症例などを除外した55万6,792人(平均年齢80.0±12.3歳、女性49.2%)。退院時に下剤が処方されていた患者を「便秘あり」と定義すると22.0%が該当した。便秘あり群は高齢で(82.7±10.1対79.2±12.8歳)、女性が多かった(53.5対48.0%)。 主要評価項目として設定した「退院後1年以内の心不全による再入院」は、10万2,221人に発生しており、発生率は便秘あり群24.0%、なし群18.6%だった。副次評価項目として設定した「退院後1年以内の心不全による再入院および全ての再入院中の死亡」という複合エンドポイントは11万4,661人に発生し、発生率は前記の順に26.6%、20.6%だった。 60項目の共変量(年齢、性別、BMI、併存疾患、入院中の管理・治療、退院時処方薬、入院した年度、入院期間、退院時の日常生活動作〔ADL〕、病院の特徴〔大学病院か否か、年間心不全入院患者数〕など)を調整したCox比例ハザードモデルでの解析により、便秘あり群は便秘なし群に比べ、高い心不全再入院リスクと関連していた(調整後ハザード比〔aHR〕1.08〔95%信頼区間1.06~1.10〕)。また、死亡も含めた副次評価項目についても便秘と有意な関連が認められた(aHR1.09〔1.07~1.10〕)。 著者らは、本研究がDPCデータに基づく解析のため把握不能な臨床指標があること、退院後の増悪時に初回の入院先とは異なる病院に入院したケースを追跡できていないことなどを研究限界として挙げた上で、「心不全患者の便秘有病率は高く、便秘を有することは再入院リスクと関連している。今後の研究では、便秘に対する介入が再入院リスクの抑制につながるかどうかの検証が求められる」と総括している。 なお、便秘が心不全の増悪リスクを高める機序については、排便時のいきみによる血圧上昇、不快感のストレスによる交感神経系の亢進、便秘に伴う腸内細菌叢の変化を介した動脈硬化の進展などが考えられるという。

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食物繊維の摂取は有害な細菌の減少につながる?

 腸の健康を維持する効果的な方法の一つは、食物繊維をたくさん摂取することかもしれない。世界45カ国、1万2,000人以上の人の腸内微生物叢を分析した研究で、腸内微生物叢の構成が肺炎桿菌や大腸菌などの命を脅かす可能性のある感染症に罹患する可能性を予測するのに役立ち、食物繊維を通して有益な腸内細菌を養うことで、感染症に対する体の抵抗力が強化される可能性のあることが明らかになった。英ケンブリッジ大学のAlexandre Almeida氏らによるこの研究結果は、「Nature Microbiology」に1月10日掲載された。 肺炎桿菌や大腸菌などの腸内細菌科(Enterobacteriaceae)の細菌は、世界的に主要な日和見感染症の原因菌である。これらの細菌は健康な人の腸内微生物叢にも広く存在しているため、腸内細菌間の相互作用が感染抵抗性の調節に関与している可能性がある。この点を明らかにするために、Almeida氏らは、45カ国、1万2,238人の腸内微生物叢に関するメタゲノムデータの解析を行った。 その結果、個人の健康状態や地理的な居住地の違いに関わらず、それぞれの腸内微生物叢の特徴から、その人の腸内に腸内細菌科の細菌が定着する可能性を予測できる可能性のあることが明らかになった。具体的には、172種類の腸内微生物種が腸内細菌科の細菌とともに定着する「共定着種(co-colonizer)」に、135種類が互いに排除し合う「競合排除種(co-excluder)」に分類された。また、フィーカリバクテリウム属(Faecalibacterium)が腸内に存在すると、腸内細菌科の細菌が定着しにくい傾向があることが示された。さらに、「競合排除種」は、短鎖脂肪酸の生成、鉄代謝、クオラムセンシング(細菌が互いの分泌物を通して同種菌の状態を感知し、遺伝子発現などを調整する仕組み)の機能と関連し、一方、「共定着種」は、より多様な機能や腸内細菌科に類似した代謝特性と関連していた。 フィーカリバクテリウム属は、野菜、豆、全粒穀物などの食物繊維が豊富な食品を摂取することで増える腸内細菌で、腸の健康に良いとされる化合物である短鎖脂肪酸を生成する。このことからAlmeida氏は、「われわれの研究から得られた主な結論は、腸内微生物叢の組成が腸内の潜在的に有害な細菌の増殖を抑える上で重要な役割を果たしており、この効果は食事を通じて調整できる可能性があるということだ」と述べている。なお、過去の研究では、腸内にフィーカリバクテリウム属が少ないことは、炎症性腸疾患(IBD)などの胃腸疾患に関係していることが明らかにされているという。 Almeida氏は、「この研究で、食物繊維を多く摂取することで有害な細菌が減少することが証明されたわけではないが、食物繊維の摂取量を増やすことには健康上の利点が多くある」と話す。また、本研究には関与していない、米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のWalter Willett氏は、「食物繊維の糖尿病、体重管理、心血管疾患に対する効果については、確固たるエビデンスが存在する」と述べている。なお、同氏によると、成人では1日当たり30g程度の食物繊維の摂取が推奨されているが、ほとんどの米国人はその量の約58%しか摂取していないという。 一方、同じく本研究には関与していない、米コロンビア大学ヴァジェロス医科大学医学・疫学分野のDaniel Freedberg氏は、「食物繊維は、私が診察することの多い便秘や下痢などの胃腸疾患の患者にも良い唯一のものだ」と話す。同氏は、「高繊維食は結腸を保護する可能性がある。被験者を、繊維質が極めて豊富な食事を摂取する群と超加工食品の多い食事を摂取する群にランダムに割り付けた試験では、生検において、超加工食品の多い食事を摂取した人の結腸組織にあまり良くない変化が認められたことが報告されている」と述べている。

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胃酸分泌抑制薬との併用が可能になった慢性リンパ性白血病治療薬「カルケンス錠100mg」【最新!DI情報】第33回

胃酸分泌抑制薬との併用が可能になった慢性リンパ性白血病治療薬「カルケンス錠100mg」今回は、ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬「アカラブルチニブマレイン酸塩水和物(商品名:カルケンス錠100mg、製造販売元:アストラゼネカ)」を紹介します。本剤は、慢性リンパ性白血病治療薬としてすでに発売されているカプセル製剤とは異なり、胃酸分泌抑制薬を服用している患者にも使用しやすいフィルムコーティング錠です。<効能・効果>慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)を適応として、2024年12月27日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人にはアカラブルチニブとして1回100mgを1日2回経口投与します。なお、患者の状態により適宜減量します。<安全性>重大な副作用として、出血(頭蓋内血腫[頻度不明]、胃腸出血、網膜出血[いずれも0.2%]など)、感染症(肺炎[3.2%]、アスペルギルス症[0.2%]など)、骨髄抑制(貧血[5.5%]、好中球減少症[17.5%]、白血球減少症[17.5%]、血小板減少症[7.7%]など)、不整脈(心房細動[1.5%]、心房粗動[頻度不明]など)、虚血性心疾患(急性冠動脈症候群[0.2%]など)、腫瘍崩壊症候群、間質性肺疾患(いずれも0.4%)が報告されています。その他の副作用は、頭痛、下痢、挫傷(いずれも10%以上)、悪心、発疹、筋骨格痛、関節痛、疲労(いずれも5~10%未満)、浮動性めまい、鼻出血、便秘、腹痛、嘔吐、無力症(いずれも5%未満)、皮膚有棘細胞がん、基底細胞がん(いずれも頻度不明)があります。本剤は主にCYP3Aにより代謝されるので、強~中程度のCYP3A阻害薬(イトラコナゾール、クラリスロマイシン、ボリコナゾールなど)、強~中程度のCYP3A誘導薬(フェニトイン、リファンピシン、カルバマゼピンなど)との併用は可能な限り避け、代替の治療薬を考慮します。また、セイヨウオトギリソウ含有食品は摂取しないように指導する必要があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は慢性リンパ性白血病に用いられます。2.この薬は、自己判断して使用を中止したり、量を加減したりすると病気が悪化することがあります。指示どおりに飲み続けることが重要です。3.セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)を含む食品は摂取しないでください。4.この薬を服用中に発熱、寒気、喉の痛み、鼻血、歯ぐきからの出血、青あざができるなどの症状が現れたら、速やかに主治医に相談してください。5.他の医師を受診する場合や薬局などで他の薬を購入する場合は、必ずこの薬を使用していることを医師または薬剤師に伝えてください。<ここがポイント!>慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia:CLL)は、Bリンパ球ががん化することで発症し、多くの場合は緩徐に進行します。CLLは初期段階では無症状であることが多いですが、進行すると脱力感、疲労感、体重減少、悪寒、発熱、寝汗、リンパ節の腫れ、腹痛などの症状が現れます。CLLの初回治療にはイブルニチブもしくはアカラブルニチブ±オビヌツズマブが推奨されています。アカラブルニチブは、経口投与可能なブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)の阻害薬であり、BTKの酵素活性を選択的かつ不可逆的に阻害します。アカラブルチニブはBTKの活性部位のシステイン(Cys-481)残基と共有結合することで、B細胞性腫瘍の増殖および生存シグナルを阻害します。アカラブルニチブはカプセル製剤(商品名:カルケンスカプセル)として2021年に承認され、CLL治療薬として販売されていますが、胃内pHが4を超える条件下では溶解度が低下します。そのため、プロトンポンプ阻害薬との併用は可能な限り避け、制酸薬およびH2受容体拮抗薬と併用するときは投与間隔を2時間以上空けるなどの注意が必要です。しかし、血液がん患者の20~40%は、胃内pHを変化させる薬剤の投与を受けていると推定されているため、胃内pHの条件に左右されずに溶出する新しい薬剤の開発が望まれていました。今回承認されたカルケンス錠は、アカラブルチニブをマレイン酸水和物にすることでpH依存的溶解プロファイルを改善し、生理学的pHの範囲内で十分な溶解性を有することが確認されています。健康被験者を対象とした生物学的同等性試験(海外第I相試験であるD8223C00013試験)において、本剤およびカプセル剤を空腹時投与した結果、カプセル剤投与に対する本剤投与におけるアカラブルチニブのCmaxおよびAUC(0-last)の最小二乗幾何平均値の比は、それぞれ1.00(90%信頼区間:0.91~1.11)および0.99(0.94~1.04)であり、いずれも生物学的同等性の判定基準範囲内(0.8~1.25)でした。これにより、生物学的同等性の基準を満たすことが確認できました。

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脳外科外来の便秘相談 【Dr. 中島の 新・徒然草】(566)

五百六十六の段 脳外科外来の便秘相談日本中が寒波だ大雪だと大変なことになっています。帯広では観測史上最大の積雪を記録したのだとか。ありがたいことに、今のところ大阪は晴れ。しかし、天気予報では金曜日の降雪確率は45%になっています。油断大敵ですね。さて、外来をやっていてよく聞く訴えが便秘です。ひょっとすると「眠れない」の次に多い訴えかもしれません。なぜ脳外科外来で便秘の相談をされるのか、それは謎です。そもそも高齢の患者さんは、診療科に関係なく、その時に一番困っていることを訴える傾向にあります。とはいえ「ここは脳外科です。便秘のことは消化器内科で相談してください」と言うのもあまりいい考えとは思えません。私のイメージする消化器内科医というのは消化器がんなどと戦っている人たちであり、ただの便秘でコンサルするのも気が引けるからです。結局、脳外科外来では何か有難そうな話をしておいて、後はかかりつけ医にお任せするのが一番ですね。なら、どういうアドバイスをするのがいいのか。それをいつものChatGPTに尋ねてみました。もちろん、私が何か投薬するというのは無し。便秘の患者さんには、すでに何らかの処方がされていることが多く、その上に私が薬を重ねると話が無限にややこしくなるからです。薬以外の対策、その1は食事。便通をよくするためには食物繊維の多いものを食べるべし、というのが定説です。食物繊維には不溶性と水溶性の2種類あるのだとか。お恥ずかしながら私は知りませんでした。不溶性食物繊維は便を膨らませて腸の蠕動運動を促進する作用があるそうです。が、狙いどおりにいかない時はお腹が膨らんでガスがたまり、かえって患者さんに辛い思いをさせるかもしれません。だから、こちらを勧めるのはやめておきましょう。一方、水溶性食物繊維は便を柔らかくして便通を良くすることになっています。こっちのほうは、とくに害もなさそう。リンゴ、バナナ、オートミール、大麦、海藻類(わかめ、昆布)、こんにゃくなどに多く含まれるとのこと。この中では大麦というのがよくわかりませんでした。調べてみると、大麦入りを前面に掲げているパン、パンケーキ、麺、クラッカー、スープ、サラダ、シリアルなどがあるようです。まずは自分で買って試してみるのもいいかも。患者さんにお勧めするときに無難なのは、リンゴ、バナナ、わかめ、昆布あたりでしょうか。2番目に、ツボのマッサージ。経験的には母指球やふくらはぎをマッサージすると腸が動き、便が出やすくなる気がします。あらためてツボ(経穴)を調べてみると、いろいろあることがわかりました。まずは母指球をマッサージすると腸が動くというもの。実は母指球を押すときに、その真裏にあるツボの合谷(ごうこく)も押しているのかもしれません。合谷を押すと腸が動くということになっていますから。次に、ふくらはぎをマッサージすると腸が動くというもの。ふくらはぎのある下腿には、便通に関係したツボが2ヵ所あるそうです。1つは足三里(あしさんり)で、これは膝蓋骨の外側下端から下に4横指のすこしくぼんだところ。ここを押すと消化管全般に効くのだとか。もう1つが三陰交(さんいんこう)で、内果から上に向かって4横指の部分。ここも消化管全般に効くとのこと。2ヵ所のツボとも、自分で押してみると気のせいか体調が良くなったような気が……あとは天枢(てんすう)とか太衝(たいしょう)とかいうツボも便秘に効くことになっています。こういったツボは、患者さんが自分でマッサージすることができる分、使い勝手が良さそうですね。最後に生活習慣です。まずは、よく喋るというのが良いそうです。喋ることによって、無意識のうちに消化管に空気を吸い込むのでしょうか。それとも口の動きに腸が連動しているのかもしれません。私の経験でも、喋ると便通が良くなるという現象はあるように思います。独り暮らしの患者さんなど、喋る相手がいなかったら、本の音読とか読経とかで代用できますね。般若心経なら4分くらいですむので、健康と精神修養を兼ねて自分自身でやってみようかな。次に歩くということ。ちょっと考えても、歩くのが腸運動に好影響を与えるということはありそう。また、毎日同じ時間にトイレに座る習慣をつけるのもいいそうです。ということで、これらの有難い話を毎回1つ、患者さんに伝授することにしましょう。私の場合、3ヵ月毎の通院というのが一番多いパターンなので、1つの話で3ヵ月間は持ちます。求められるたびに1つずつ順番に有難い話をしておけば、3年くらいは続くはず。3年経ったら患者さんのほうも話の中身を忘れてしまっているはずなので、また最初からスタートです。どうやら便秘対応にも自信が出てきました。もう「どこからでもかかってきなさい!」という気分です。最後に1句脳外科で 便秘に悩む 雪の日々

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GIP/GLP-1受容体に作用する週1回の肥満症治療薬「ゼップバウンド皮下注」【最新!DI情報】第32回

GIP/GLP-1受容体に作用する週1回の肥満症治療薬「ゼップバウンド皮下注」今回は、持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「チルゼパチド(商品名:ゼップバウンド皮下注2.5mg/5mg/7.5mg/10mg/12.5mg/15mgアテオス、製造販売元:日本イーライリリー)」を紹介します。本剤は、週1回投与の肥満症治療薬であり、食欲を調節すると同時に、脂質などの代謝を亢進させることによって体重を減少させることが期待されています。<効能・効果>肥満症を適応として、2024年12月27日に製造販売承認を取得しました。本剤は高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、以下に該当する場合に使用されます。BMIが27kg/m2以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有するBMIが35kg/m2以上<用法・用量>通常、成人には、チルゼパチドとして週1回2.5mgから開始し、4週間の間隔で2.5mgずつ増量し、週1回10mgを皮下注射します。患者の状態に応じて適宜増減し、週1回5mgまで減量、または4週間以上の間隔で2.5mgずつ週1回15mgまで増量することができます。なお、本剤は週1回投与する薬剤であり、同一曜日に投与します。<安全性>重大な副作用として、低血糖、胆嚢炎、胆汁うっ滞性黄疸、アナフィラキシー、血管性浮腫(いずれも頻度不明)、急性膵炎、胆管炎(いずれも0.1%未満)が報告されています。胃腸障害が現れた場合は急性膵炎の可能性を考慮し、必要に応じて画像検査などによる原因の精査が行われることがあります。また、下痢や嘔吐が続くことで脱水となり、急性腎障害を起こす恐れがあるため、適度な水分補給が必要です。その他の副作用は、悪心、嘔吐、下痢、便秘、腹痛、消化不良、食欲減退、注射部位反応(紅斑、そう痒感、疼痛、腫脹など)(いずれも5%以上)、腹部膨満、胃食道逆流性疾患、おくび、鼓腸、疲労、浮動性めまい、脱毛症(いずれも1~5%未満)、心拍数増加、低血圧、血圧低下、胆石症、糖尿病網膜症、過敏症(湿疹、発疹、そう痒性皮疹など)、味覚不全、異常感覚、膵アミラーゼ増加、リパーゼ増加、体重減少(いずれも1%未満)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は肥満症の患者さんのうち、高血圧や脂質異常症、または2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られない人に用いられます。2.この薬は食欲を調節すると同時に、脂質などの代謝を亢進させることによって体重を減少させる作用があります。3.美容やダイエットの目的で使用しないでください。4.この薬の使用中も食事療法・運動療法を継続してください。5.週1回の投与で効果が持続するように製剤的な工夫をした注射薬です。毎週、同じ曜日に注射してください。6.のどの渇きや立ちくらみなどの脱水症状が現れた場合は、十分な水分摂取を行い、速やかに主治医に相談してください。<ここがポイント!>ゼップバウンドは、持続性のグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)およびグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の2つの受容体に作用する持続性GIP/GLP-1受容体作動薬です。本剤の成分であるチルゼパチドは、2023年4月より2型糖尿病の治療薬としてマンジャロの商品名で販売されていますが、今回新たに肥満症の治療薬として承認を取得しました。肥満症は個人の生活習慣のみによって引き起こされるという誤解がありますが、遺伝的、心理的、社会的なさまざまな要因が複合的に影響し発症する慢性疾患です。チルゼパチドは中枢神経系においてGIP/GLP-1受容体に作用して食欲を調節すると同時に、脂肪細胞のGIP受容体に作用して脂質などの代謝を亢進し、体重を減少させる効果があります。本剤は、食事療法や運動療法を行っても十分に効果が得られない高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有する患者を対象にしています。美容や痩身、ダイエットなど肥満症治療以外の目的で使用することはできません。投与には1回使い切りのオートインジェクター型注入器(商品名:アテオス)を使用し、週1回皮下注射します。適切な在宅自己注射教育を受けた患者または家族は自宅で自己注射が可能です。日本人肥満症患者を対象とした国内第III相試験(GPHZ試験:SURMOUNT-J)において、投与72週時の体重のベースラインからの平均変化率は、プラセボ群が-1.8%であったのに対し、チルゼパチド10mg群では-18.4%、チルゼパチド15mg群では-22.6%であり、チルゼパチド両群でプラセボ群に対する優越性が示されました。また、5%以上の体重減少を達成した試験参加者の割合は、プラセボ群が21.2%であったのに対し、チルゼパチド10mg群では94.9%、チルゼパチド15mg群では96.9%であり、チルゼパチド両群でプラセボ群に対する優越性を示しました。

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肥満症治療薬、減量効果が特に高いのはどれ?

 GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体作動薬などの肥満症治療薬のうち、肥満や過体重の人の減量に最も効果的なのはどれなのだろうか? マギル大学(カナダ)医学部教授のMark Eisenberg氏らにより「Annals of Internal Medicine」に1月7日掲載された新たな研究によると、その答えは、デュアルG(GIP〔グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド〕/GLP-1)受容体作動薬のチルゼパチド(商品名ゼップバウンド)、GLP-1受容体作動薬のセマグルチド(商品名ウゴービ)、および開発中のトリプルG(GLP1/GIP/グルカゴン)受容体作動薬のretatrutide(レタトルチド)であるようだ。これに対し、GLP-1受容体作動薬のリラグルチド(商品名サクセンダ)の減量効果は、これら3種類ほど高くないことも示された。 GLP-1受容体作動薬は、食物を摂取したときに小腸から分泌されるホルモンのGLP-1の作用を模倣した薬剤で、もともと糖尿病の治療薬として開発された。GLP-1は、胃の内容物の排出を遅らせることで食後の血糖値の急上昇を抑えるとともに、中枢神経に作用して満腹感を高める効果を持つ。これにより、食物の摂取量が減り、それが体重減少につながる。デュアルGやトリプルG受容体作動薬は、GLP-1受容体に加え、GIP受容体やグルカゴン受容体などをターゲットにすることで、血糖値上昇を抑制したり満腹感を促進したりする効果を高めようとするもの。 今回Eisenberg氏らは、総計1万5,491人(女性72%、平均BMI 30〜41、平均年齢34〜57歳)を対象にした26件のランダム化比較試験(RCT)のデータを用いて、糖尿病のない肥満者に対する肥満症治療薬の有効性と安全性を検討した。これらのRCTでは、3種類の市販薬(リラグルチド、セマグルチド、チルゼパチド)およびretatrutideなど9種類の承認前薬剤の計12種類の効果が検討されており、治療期間は16週間から104週間(中央値43週間)に及んだ。 その結果、プラセボ投与と比較して、72週間のチルゼパチド(週1回15mg)投与により最大17.8%、68週間のセマグルチド(週1回2.4mg)投与により最大13.9%、48週間のretatrutide(週1回12mg)投与により最大22.1%の体重減少が確認された。また、これらの効果に比べると控え目ではあるものの、26週間のリラグルチド(1日1回3.0mg)投与によっても最大5.8%の体重減少が認められた。安全性の点では、吐き気、嘔吐、下痢、便秘などが一般的な副作用として報告されていたが、薬の服用を中止しなければならないほどひどい副作用はまれだった。 論文の上席著者であるEisenberg氏は、「われわれの調査で対象とした12種類の肥満症治療薬のうち、RCTにおいて最も大きな減量効果が報告されていたのは、retatrutide、チルゼパチド、セマグルチドであることが判明した」と結論付けている。 研究グループは、これらの肥満症治療薬の欠点の一つは、治療効果を維持するために継続的な服用が必要な点であると指摘し、「われわれが実施したシステマティックレビューでは、治療期間が長いRCTでは、追跡期間の短いRCTと同様の減量結果が示されている。この結果は、継続的な治療の必要性を裏付けている」と述べている。なお、retatrutideは、イーライリリー社により開発が進められている薬剤で、現在、臨床試験が進行中である。

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尿閉【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第22回

尿閉の患者さんを診ることはよくあると思います。最も頻度が高い原因は前立腺肥大症とされていますが、他の疾患で生じることもあるため、系統立てて除外する必要があります1)。今回は救急外来を受診した患者さんを通じて、さまざまな可能性を考えながら対応してみましょう。<症例>63歳、男性主訴尿が出ない既往歴前立腺肥大症、高血圧内服薬アムロジピン病歴受診日前日夕方より尿意があるが尿が出ない状況が続いている。深夜2時ごろに腹痛が出現し、耐えられなくなったため救急外来を受診した。救急外来で働いているとよく聞く病歴だと思います。しかしながら、尿閉のアプローチはさまざまです。今回は、Emergency Medicine Practiceの「An Evidence-Based Approach To Emergency Department Management Of Acute Urinary Retention」のアプローチをベースにまとめてみたいと思います2)。(A)本当に尿閉かどうかを鑑別上記症例であれば、ほぼほぼ尿閉で間違いないのですが、無尿を「まるで尿閉」のように訴えて来院する患者さんがいます。とくに認知症のある人や、前立腺肥大症など排尿に問題がある人に多いです。以前、「尿閉」の主訴で受診したものの、実はS状結腸憩室炎に伴う急性腎不全のため無尿という結果になったケースがありました。別のパターンで、尿閉を「便秘」と訴えて受診した人もいました。便秘と考えて排便をしようと腹圧をかけると、少し尿が出て楽になり、「便秘」と判断してしまったようです。これらのケースでは、腹部超音波検査が有用です。拡張し緊満した膀胱を認めれば、尿閉と診断できます。私は、便秘の訴えがある患者さんで、初回もしくは「いつもの便秘と違う」という訴えがある場合は腹部超音波を行うことがあります。この患者さんは下腹部に膨隆を認めて、腹部超音波検査をしたところ膨満した膀胱を認めました。(B)外陰部の診察非常にまれですが、外陰部の障害が原因となり尿閉を発症することがあります。男性であれば包茎、嵌頓包茎、腫瘤などで、女性であれば子宮脱、膀胱脱、腫瘤などが挙げられます。本症例はとくに問題がありませんでした。なお、ここまでの(A)(B)は手短に終了しましょう。というのも尿閉に伴う腹痛はかなりつらいためです。(C)導尿まれに包茎で尿道が同定できない、前立腺肥大症による通過障害で導尿が難しいということがあります。私は2トライして難しいようでしたら泌尿器科に相談しています。通過障害であれば先端が固いチーマンカテーテルなど、種々の導尿デバイスがありますが、手馴れていない場合は無理をしないほうがよいと考えます。続いてバルーン留置するか、単回の導尿にするかどうかです。これはケースバイケースと考えます。本症例のように深夜帯に受診し、朝になればかかりつけ医を受診できるような場合であればバルーン留置は必要ないと考えます。しかし、フォローアップまでに時間がかかり、再度尿閉症状が出てまた救急外来を受診しなければならないリスクが高い場合はバルーン留置を実施します。私は最終的には患者さんと相談し決定していますが、この患者さんの場合は日中すぐ受診できるため、単回導尿としました。800mLほど排尿があり、腹痛症状が消失ました。(D)尿閉の原因を探索思わず「前立腺肥大症が原因でしょう」と言いたくなりますが、ほかの可能性を否定しましょう。私は大きく4つは救急外来で必ず否定するようにしています。(1)神経因性膀胱、(2)薬剤性、(3)尿路感染症、(4)便秘による通過障害、です。(1)に関してはとくに脊髄に障害がないかを確認する必要がありますが、ほとんどの場合は排便に障害があるなどの病歴で絞れます。懸念があれば、肛門周囲の感覚や肛門括約筋の収縮を確認します。(2)については、多数の薬が尿閉を誘発することがあります。新規に開始した薬剤がないかを確認しましょう。私がよく経験するのが、抗ヒスタミン薬やエフェドリンを含有した風邪薬を内服しているケースです。いずれも膀胱の収縮を弱めます。(3)は膀胱炎や尿道炎により尿の通過が悪くなるため発生します。こちらは尿検査で確認しましょう。(4)は蓄積した便が直腸を通じて尿道を圧排して尿閉が生じることがあります。排便の経過をチェックしましょう。この患者さんは、排便に問題なく、新規薬剤もなく、尿検査で膿尿や細菌尿は認めませんでした。最終的に前立腺肥大症の可能性が高いと判断しました。(E)血液検査の必要性の検討尿閉で血液検査が必要になるのはどういったときでしょうか? 私は尿閉の経過が数日以上の場合には実施しています。(A)で述べたように便秘だと思って数日間我慢したケースや、認知症などにより意思疎通がとれず、いつから尿閉なのかわからないケースです。なぜかというと、腎後性腎不全を生じている可能性があるからです。腎不全を起こしていた場合、入院して適切な体液管理が必要になることが多いです。本症例は数時間前からの発症なので血液検査は必要ないと判断しました。この患者さんは排尿後に症状が軽快して帰宅となりました。上記がさまざまな可能性を考えながら尿閉に対応した場合の流れです。日々の診療に役立てばと思います。1)Selius BA, et al. Am Fam Physician. 2008;77:643-650.2)Marshall JR, et al. Emerg Med Pract. 2014;16:1-20.

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酸化Mg服用患者へのNSAIDs、相互作用を最小限に抑える消化管保護薬は?【うまくいく!処方提案プラクティス】第65回

 今回は、慢性腰痛に対するアセトアミノフェンをセレコキシブへ変更する際の消化管保護薬の選択について、既存の酸化マグネシウムとの相互作用を考慮して処方提案を行った事例を紹介します。患者情報80歳、男性(在宅)基礎疾患脊柱管狭窄症、前立腺肥大症、認知症、骨粗鬆症在宅環境訪問診療を2週間に1回訪問看護毎週金曜日通所介護毎週水・土曜日処方内容1.タムスロシン錠0.2mg 1錠 分1 朝食後2.ドネペジル錠5mg 1錠 分1 朝食後3.セレコキシブ100mg 2錠 分2 朝夕食後4.酸化マグネシウム錠500mg 2錠 分2 朝夕食後5.アルファカルシドール05μg 1錠 分1 夕食後本症例のポイントこの患者さんは、腰部脊柱管狭窄症による慢性腰痛でアセトアミノフェンを服用していましたが、効果不十分のためセレコキシブ200mg/日への変更が検討されました。NSAIDsへの変更に伴い、高齢者は消化性潰瘍リスクが高い1)ため消化管保護薬の追加が必要と考えましたが、それに加えて酸化マグネシウムへの影響2)が懸念されました。酸化マグネシウムは胃内で水和・溶解することで薬効を発揮するため、胃内pHの上昇は本剤の溶解性と吸収に影響を与え、作用の減弱につながります。そのため、従来のPPIでは胃内pHの上昇により便秘を悪化させる可能性があります。そこで、P-CAB(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)であるボノプラザンの併用を提案することにしました。ボノプラザンは、従来のPPIと比較して、(1)24時間を通じて安定した胃酸抑制効果がある、(2)食事の影響を受けにくい、(3)酸化マグネシウムの溶解性への影響が比較的少ない、などの特徴があります2)。酸化マグネシウムとの相互作用が最小限であるということは、本症例のような高齢者の便秘管理において重要なポイントとなります。医師への提案と経過訪問診療に同行した際、医師と直接話をする機会を得ました。その場で、ボノプラザンの併用を提案しました。提案の際は、以下の点を具体的に説明しました2)。従来のPPIと異なる作用機序により、24時間を通じて安定した胃酸抑制効果が期待できる。食事の影響を受けにくく、服用タイミングの自由度が高い。従来のPPIと比較して酸化マグネシウムの溶解性への影響が少なく、便秘への影響を最小限に抑えられる可能性がある。医師からは、「高齢者の便秘管理は生活の質に直結する重要な問題であり、薬剤の相互作用を考慮した提案は非常に有用」と評価いただき、ボノプラザンが追加となりました。その後、患者さんは胃部不快感などの症状変化もなく、疼痛増悪もなく経過しています。このように、訪問診療という場面を生かした直接的なディスカッションにより、より深い薬学的介入が可能となった症例でした。なお、医療経済的考察として、P-CABを選択することで薬剤費が増加(約8倍)することが懸念されますが、便秘悪化による追加処方の回避、消化性潰瘍発症リスクの低減、服薬アドヒアランス向上による治療効果の安定化が期待できることから、潜在的なコスト削減効果があると思っています。1)日本消化器病学会編. 消化性潰瘍診療ガイドライン2020(改訂第3版). 2020:BQ5-7.2)タケキャブ錠 インタビューフォーム

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ペムブロリズマブ、進行再発子宮体がんの1次治療に承認/MSD

 MSDは、2024年12月27日、ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)が、進行再発子宮体がんに対する化学療法との併用療法において、国内製造販売承認事項一部変更の承認を取得したことを発表した。 今回の製造販売承認事項一部変更承認は、化学療法歴のない進行再発子宮体がん患者810例(日本人7例を含む)を対象に、ミスマッチ修復正常(pMMR)588例またはMMR欠損(dMMR)222例に分け、ペムブロリズマブ・化学療法(パクリタキセル+カルボプラチン)併用療法およびペムブロリズマブ単独維持療法の有用性を検討した国際共同第III相試験KEYNOTE-868/NRG-GY018試験の結果に基づいている。 同試験において、pMMRおよびdMMR、いずれの集団でもペムブロリズマブ群は、プラセボ群と比較し無増悪生存期間(PFS)を有意に延長した(pMMR集団のPFSのハザード比[HR]:0.57、95%信頼区間[CI]:0.44〜0.74、p<0.0001、dMMR集団のPFSのHR:0.34、95%CI:0.22〜0.53、p<0.0001)。 安全性解析対象例382例中365例(95.5%)(日本人2例中2例を含む)に副作用が認められた。主な副作用(20%以上)は、疲労225例(58.9%)、貧血178例(46.6%)、脱毛症163例(42.7%)、悪心146例(38.2%)、末梢性感覚ニューロパチー117例(30.6%)、便秘112例(29.3%)、下痢110例(28.8%)、末梢性ニューロパチー98例(25.7%)、白血球数減少97例(25.4%)、血小板数減少93例(24.3%)、好中球数減少87例(22.8%)および関節痛80例(20.9%)であった。

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サプリメントや健康食品に関する相談への対応【もったいない患者対応】第20回

サプリメントや健康食品に関する相談への対応患者さんから、サプリメントや健康食品に関する相談を受けることがよくあると思います。新聞広告や通販サイトなどを見て、「認知症の予防」「血圧が下がる」「関節痛が治る」などの効能を期待し、こうした食品を買いたいと考える人は多いようです。医療者としてどのように対応すればいいでしょうか? 意識すべきことは2点あると考えています。原則として、効果があるのは承認されたもののみ1つ目は、信頼性の高い臨床試験で効果が実証された治療は、原則、保険診療で安価に利用できるものだと伝えるべき、ということです。本当に統計学的に有意な程度に認知症が防げたり、血圧が下がったりするのであれば、とうに病院で薬として安価に処方できるようになっているはずです。逆にいえば、効果の証明が不十分であるからこそ「食品」の域を出ない、と考えるべきでしょう。むろん、妊婦に必要な葉酸サプリなど、ピンポイントで補給すべき成分を摂取するといった、目的が明確な食品もあります。乳酸菌やビフィズス菌のようなプロバイオティクスが便秘を改善するという知見も、ある程度エビデンスがあります1)。薬と混同しないよう注意を促すとともに、各専門分野のエビデンスに基づき、補助的な摂取が許容されるかを慎重に判断してください。治療を妨げない範囲であれば、理解を示すことも大事2つ目は、上記のようなことを十分理解しているのであれば、そうした食品への嗜好や期待感まで奪う権利は医療者にはないということです。医療者が「効果が確実でないものはすべて排除せよ」という姿勢を見せると、患者さんは治療への意欲を削がれてしまうかもしれません。「自分の気持ちを理解してもらえなかった」と感じ、信頼関係に傷がつく恐れもあります。医療者は「標準的な治療を妨げない範囲であれば許容する」という寛容な姿勢を見せるべきでしょう。医学的根拠の乏しい商品にお金を払いたいと考える患者さんは、時として、標準治療に不信感や疑念をもっていることがあります。そうした思いに耳を傾けることも大切です。とくにがんの治療では、こうした代替療法に注意が必要です。ある研究では、がん治療において標準治療に加えて代替療法を選択した人は、標準治療だけを選択した人に比べて有意に治療成績が悪く、手術や化学療法、放射線治療などの標準治療の一部を拒否する人の割合も有意に高いことがわかっています2)。代替療法が標準治療の妨げになっていないかどうか、担当医として必ず気にかけておく必要があるでしょう。なお、がん患者さんの場合、こうした代替療法を利用している人の61%は主治医に相談していない、というデータもあります3)。医師がすべてを把握できるとは限らないことにも、私たちは敏感であるべきでしょう。参考文献1)日本消化管学会 編. 便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症 南江堂;2023.2)Johnson SB, et al. JAMA Oncol. 2018;4:1375-1381.3)日本緩和医療学会 編. がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス2016年版 金原出版;2016.

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第246回 カロリー制限と抗老化作用の関連を担う胆汁酸を発見

カロリー制限と抗老化作用の関連を担う胆汁酸を発見現代は定期的な食事に重きが置かれていますが、古く古代より断食(カロリー制限)の効用が説かれています1)。また、古代(紀元前16世紀)のエジプトのパピルス古文書には浣腸やその他の治療として胆汁(bile)が使用されたとの記載があり、胆汁の重要な役割は古代の医師にとって自明の理だったようです2)。中国からの最新の研究成果により、古代より知られていたその2つの効能を関連付ける仕組みが判明しました。先週水曜日にNatureに掲載されたその研究の結果、カロリー制限が抗老化作用をもたらすことに胆汁酸の一種であるリトコール酸(LCA)が寄与すると判明しました3)。餌を減らした研究用の動物の寿命が伸びることが知られています。ヒトも同様の絶食で健康が改善するようです。しかし、カロリーを抑えた食事を長く続けられる人はおよそ皆無でしょう4)。そこで、ほぼ継続不可能なカロリー制限をせずとも、その効果を引き出すカロリー制限模倣化合物(CRM)を探す取り組みが始まっています。AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)はCRMの有望な標的の1つです。AMPKはヒトを含め真核生物ならおよそ持ち合わせており、カロリー制限で活性化し、カロリー制限の効能になくてはならない分子です。たとえばカロリー制限のマウスの筋肉はAMPKが活発で、萎縮し難くなることが知られています5)。糖尿病薬メトホルミンやワインに含まれる植物成分レスベラトロールはAMPKを活性化するCRMであり、種々の生物の寿命や健康生存を伸ばしうることがわかっています。そういうCRM探しが進展する一方で、カロリー制限への代謝順応がどのような仕組みでAMPKを活性化して健康を維持し、寿命を伸ばすのかは不明瞭であり、多くの疑問が残っています。そこで中国のチームはカロリー制限で変化する特定の代謝産物がAMPKの調節に携わるかもしれないと当たりをつけて研究を始めました。まず初めにカロリー制限したマウスの血清のAMPK活性化作用を調べ、加熱しても損なわれずにAMPKを活性化しうる低分子量の代謝産物が確かに存在することが示されました。続いて、カロリーを制限したマウスとそうでないマウスの血中の1,200を超える代謝分子が解析され、カロリー制限で増える212の代謝産物が見つかりました。それらを培養細胞に与えて調べた結果、LCAがAMPKを活性化することが突き止められました。LCAは肝臓で作られる胆汁酸の2次代謝産物です。その前駆体であるコール酸(CA)やケノデオキシコール酸(CDCA)が肝臓から腸に移行し、そこで乳酸菌、クロストリジウム、真正細菌などの腸内細菌の手によってLCAが作られます。特筆すべきことに、LCAは絶食で増える血清の代謝産物の1つであることが健康なヒトの試験で示されています6)。カロリー制限していないマウスにLCA入りの水を与えたところ、どうやら代謝がより健康的になり、インスリン感受性が向上してミトコンドリアの性能や数が上向きました。また、体力も向上するようで、いつもの水を飲んだマウスに比べてより長く速く走れ、より強く握れるようになりました。LCAが老化と関連する衰えを解消しうることをそれらの結果は示唆しています6)。研究はさらに進み、LCAがAMPKを活性化する仕組みも判明しました。LCAはTULP3というタンパク質を受容体とし、LCAと結合したTULP3で活性化したサーチュイン遺伝子がAMPK活性化を導くことが解明されました7)。LCAに延命作用があるかどうかは微妙です。ショウジョウバエや線虫の寿命を延ばしたものの、マウスの検討では有意な延命効果は認められませんでした3,6)。ヒトと同じ哺乳類のマウスがLCAで延命しなかったことは興ざめ4)ですが、その効果がないと結論付けるのはまだ早いようです。ヒトで言えば中年のマウスで試しただけであり、より若いうちからLCAを与えてみるなどの種々の切り口での研究が必要です。中国の研究チームは先を急いでおり、サルでのLCAの効果を調べる研究をすでに開始しています4)。参考1)A bile acid could explain how calorie restriction slows ageing / Nature2)Erlinger S. Clin Liver Dis (Hoboken). 2022;20:33-44.3)Qu Q, et al. Nature. 2024 Dec 18. [Epub ahead of print]4)Restricting calories may extend life. Can this molecule do it without the hunger pangs? / Science 5)A bile acid may mimic caloric restriction / C&EN6)Fiamoncini F, et al. Front Nutr. 2022;9:932937.7)Qu Q, et al. Nature. 2024 Dec 18. [Epub ahead of print]

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1日1回投与の高カリウム血症改善薬「ビルタサ懸濁用散分包8.4g」【最新!DI情報】第29回

1日1回投与の高カリウム血症改善薬「ビルタサ懸濁用散分包8.4g」今回は、高カリウム血症改善薬「パチロマーソルビテクスカルシウム(商品名:ビルタサ懸濁用散分包8.4g、製造販売元:ゼリア新薬工業)」を紹介します。本剤はナトリウムを含まないため、食塩制限が必要な慢性腎臓病や心不全を併存する高カリウム血症患者にも使用することができ、1日1回投与のため良好なアドヒアランスが期待されています。<効能・効果>高カリウム血症の適応で、2024年9月24日に製造販売承認を取得しました。本剤は効果発現が緩徐であるため、緊急の治療を要する高カリウム血症には使用しません。<用法・用量>通常、成人には、パチロマーとして8.4gを開始用量とし、水で懸濁して1日1回経口投与します。以後、血清カリウム値や患者の状態に応じて適宜増減しますが、最高用量は1日1回25.2gです。なお、増量する場合は8.4gずつとし、増量間隔は1週間以上空けます。<安全性>重大な副作用には、低カリウム血症(4.6%)、腸管穿孔、腸閉塞(いずれも頻度不明)があります。重篤な低カリウム血症が発現した場合は生命の危機に陥ることがあるため、用法・用量を遵守することが重要です。また、血清カリウム値に影響を及ぼす薬剤の用量に変更が生じた場合は、血清力リウム値の変動に注意が必要です。その他の副作用は、便秘(14.5%)、下痢、腹部膨満(いずれも1~2%未満)、鼓腸、低マグネシウム血症(いずれも1%未満)があります。<患者さんへの指導例>1.本剤は高カリウム血症を改善する薬です。2.水に懸濁して、1日1回服用します。3.飲み忘れた場合は、同日中に服用してください。翌日以降に決して2回分を服用しないでください。4.服用中は、排便状況を確認し、便秘に引き続き持続する腹痛、嘔吐などの症状が現れた場合には、速やかに医師または薬剤師に相談してください。<ここがポイント!>高カリウム血症は、軽度ではほとんど症状のない非症候性ですが、血清カリウム濃度が5.5mEq/Lを超えると心筋脱分極が促進し、心電図の変化および不整脈が生じます。腎不全や心不全患者、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系阻害薬(RAASi)などの薬剤の使用によって生じることがあります。治療目標は、血清カリウム値を正常範囲内に維持することであり、急性期だけでなく長期的に血清カリウム値を管理することが重要です。また、高カリウム血症を伴う患者において、RAASiの減量や中止は心腎疾患の悪化につながる可能性があるため、RAASi治療の継続率を高めるためにもカリウム値の管理が必要です。パチロマーソルビテクスカルシウムは、カルシウム塩とD-ソルビトールを含む非吸収性の陽イオン吸着ポリマーです。このポリマーは、消化管内腔のカリウムと結合し、糞中へのカリウム排泄を増加させることで、体内のカリウムを除去し、血清カリウム値を低下させます。本剤は、ナトリウムを含まないため、食塩制限が必要な慢性腎臓病や心不全を併存する高カリウム血症患者にも使用できます。また、従来の高カリウム血症治療薬は、1日に複数回の服用が必要でしたが、本剤は1日1回投与であるため、服薬アドヒアランスの向上が期待できます。ただし、本剤は効果発現が緩徐であるため、緊急の治療を要する高カリウム血症には使用できません。日本人の高カリウム血症患者を対象とした国内第III相試験(ZG-801-02)において、主要評価項目である二重盲検期4週後での二重盲検期ベースラインからの血清カリウム値変化量の調整済み平均値は、本剤群で-0.02mEq/L(95%信頼区間:-0.19~0.15)、プラセボ群で0.78mEq/L(同:0.60~0.96)でした。群間差は-0.80mEq/L(同:-1.05~-0.54)であり、両群間で有意差が認められました(p<0.001)。また、二重盲検期中のRAASi投与患者において、本剤およびプラセボ群のRAASi用量維持割合は、それぞれ84.6%(同:65.2~95.6)および53.6%(同:33.9~72.4)でした。群間差は31.0%(同:5.8~53.6)であり、本剤群のRAASi治療継続率は、プラセボ群に対して有意に高いことが示されました(p=0.019)。

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12月13日 ビタミンの日【今日は何の日?】

【12月13日 ビタミンの日】〔由来〕1910年の今日、鈴木梅太郎博士(農芸化学者)が、米糠から抽出した成分を「オリザニン」と命名し、東京化学会で発表した。このオリザニンは後に、ビタミンB1(チアミン)と同じ物質であることが判明し、「ビタミン」と呼ばれるようになったことを記念し「ビタミンの日」制定委員会が2000年に制定。関連コンテンツビタミンB1ってなあに?【患者説明用スライド】ビタミンC摂取と片頭痛との関係ビタミンB1で便秘リスク軽減、男性、高血圧・糖尿病既往なしで顕著認知機能の低下抑制、マルチビタミンvs.カカオ抽出物ビタミンDは高齢者の風邪を減らせるか、RCTで検証

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12月11日 胃腸の日【今日は何の日?】

【12月11日 胃腸の日】〔由来〕「いに(12)いい(11)」(胃にいい)の語呂合わせから日本大衆薬工業協会(現:日本OTC医薬品協会)が2002年に制定。師走に1年間を振り返り、大切な胃腸に負担をかけてきたことを思い、胃腸へのいたわりの気持ちを持ってもらうのが目的。胃腸薬の正しい使い方や、胃腸の健康管理の大切さなどをアピールしている。関連コンテンツ慢性下痢症診療の最新知識【診療よろず相談TV】便通異常症 慢性便秘(1)便秘の定義【一目でわかる診療ビフォーアフター】食欲不振には六君子湯?【漢方カンファレンス】糞便中ヘリコバクター・ピロリ抗原検査、胃がん予防に有効か/JAMAベンラリズマブ、好酸球性食道炎に有効か?/NEJM

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便秘【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第21回

便秘は古今東西いろいろな場面で遭遇します。しかし、「便秘でしょ」と軽く考えていると痛い目を見ることがあります。今回は救急外来での症例を通じて、便秘診療の注意点を確認してみましょう。<症例>80歳、女性主訴便秘病歴3日くらい前から排便がなく、1時間前から腹痛を訴えている。本人が「便秘かも」と言っており、浣腸を希望して受診した。思わず「浣腸しておいて」と言いたくなるかと思いますがそこはぐっと我慢して、ステップを追って診察していきましょう。ステップ1 本当に便秘?と疑う腹痛の鑑別は多岐にわたります。鑑別を記載すると膨大になるため割愛しますが、患者さんが「便秘のようだ」というときに、「本当に便秘?」と常に疑う必要があります。まれに尿閉を便秘と訴える患者さんもいます。「便秘浣腸」という行為は、医療者以外でも一般的に行っている対処方法ですが、浣腸でも重篤な合併症を生じる可能性があります。浣腸は下行結腸・S状結腸あたりから直腸膨大部までの腸管内容物を排除することを目的としています。腸管壁の脆弱性を生じる疾患(憩室炎など)があった場合、圧をかけることにより消化管穿孔のリスクになるという報告があるため1)、安易に便秘と診断して浣腸することは控えるべきです。この患者さんの腹部の所見は、左下腹部に圧痛を認めるものの腹膜刺激症状はなく、直腸診では便塊を触れるのみで腫瘤の触知は認めませんでした。本人曰く、排尿は来院前に済ましているとのことで尿閉は否定的でした。他に腹痛を生じる疾患は認めなかったため、便秘と診断しました。ステップ2 治療便秘は16%の人が経験し、60歳以上となると33.5%の人が罹患するという報告があります。便秘の種類としては器質性と機能性に分けられます。器質性は腫瘍や炎症などによる腸管の狭窄、蠕動低下を来した状態であり、適切に治療しないと重篤化するため早期の発見が必要です2,3)。機能性は器質性以外の便秘で、腸管蠕動の低下や脱水により便が固くなり、排便が困難となり発症します。この患者さんは直腸診で硬便を触れるため機能性の便秘の可能性が高いと判断したところで、看護師より「摘便しましょうか?」と提案がありました。便秘の治療はさまざまです。この患者さんのように、すでに便が直腸下部にある場合、坐剤、浣腸、摘便がよい適応になります4)。私は肛門近くに便塊がある場合(糞便塞栓)、可能な限り摘便した後に浣腸をしています。固い便が肛門をふさいでいると浣腸や坐剤がうまく使用できないと考えるからです。患者さんに摘便、浣腸を行ったところ大量の排便があり、患者の腹痛はきれいに消失しました。なお、80歳という年齢を考えると、器質性の便秘の可能性も最後まで否定できないため、必ず大腸内視鏡検査を進めましょう。ステップ3 便秘を繰り返さないための指導便秘になるたびに浣腸をする人がいますが、浣腸は頻度が高くはないとはいえ消化管穿孔などの重大な合併症や習慣性を招くという報告があります5)。機能性の便秘を生じる原因は多岐にわたり、原因を1つに絞るのは難しいと言われています2)が、最も頻度が高い原因は生活習慣(食物繊維の不足、脱水、運動不足など)とされ、適度な飲水、運動が便秘の頻度を下げるという報告があり重要です6)。そして忘れてはいけないのが薬剤性です。便秘を生じる薬剤は、Ca拮抗薬、抗うつ薬、利尿薬など多岐にわたります。必要な薬は内服しなければいけませんが、昨今では高齢者のポリファーマシーが問題になっており、処方薬の調整のきっかけにしてもらいたいと考えます7)。この患者さんの内服薬は降圧薬くらいで、運動不足が便秘の原因と言われたことがあるため可能な限り体を動かしているとのことでした。生活習慣でこれ以上改善するのは難しいと判断し、薬剤投与を行うこととしました。わが国の慢性便秘症診療ガイドラインでは、「浸透圧下剤(酸化マグネシウム)」、「上皮機能変容薬(ルビプロストンなど)」が最も強く推奨されています4)。私は中でも安価で調節がしやすい酸化マグネシウムを好んで処方しています。投与後の反応は患者によって異なるため、330mgを毎食後で開始して、処方箋に「自己調節可」と記載し、患者さんに説明したうえで調節してもらっています。酸化マグネシウムを増量しても効果が乏しい場合は刺激性下剤を追加しています。酸化マグネシウムを投与する際に注意してほしい合併症が高マグネシウム血症です。投与量(≧1,650mg/日)や投与期間(36日以上)、腎機能障害(糸球体濾過量<55.4mL/min)、血中尿素窒素の上昇(≧22.4mg/dL)によってリスクが増加すると報告があり、長期投与を行う場合は漫然と処方するのではなく、定期的な血中マグネシウム濃度の測定が必要です8)。腎機能障害があるなどリスクが高い場合は、上皮機能変容薬を選択しています。この患者さんには酸化マグネシウムを処方し、近医に通院して加療を継続してもらうこととなりました。便秘という疾患は多くの人が経験する疾患であり、便秘が主訴の患者さんに対して「便秘だろう」という先入観で診察を怠ると痛い目にあうことがあります。積極的に介入していきましょう。1)大城 望史ほか. 日本大腸肛門病学会雑誌. 2008;61:127-131.2)Forootan M, et al. Medicine(Baltimore). 2018;97:e10631.3)Black CJ, et al. Med J Aust. 2018;209:86-91.4)日本消化器病学会関連研究会慢性便秘の診断治療研究会. 慢性便秘症診療ガイドライン2017.南江堂;2017.5)Niv G, et al. Int J Gen Med. 2013;6:323-328.6)Leung L, et al. J Am Board Fam Med. 2011;24:436-451.7)大井 一弥. YAKUGAKU ZASSHI. 2019;139:571-574.8)Wakai E, et al. J Pharm Health Care Sci. 2019;5:4.

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便秘は心臓病のリスクを高める?

 便秘は心筋梗塞や脳卒中のリスクを高める可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。この研究では、便秘のある人における主要心血管イベント(MACE)の発生リスクは、正常な排便習慣を持つ人より2倍以上高いことが示されたという。セント・ヴィンセント病院(オーストラリア)の臨床データアナリストであるTenghao Zheng氏らによるこの研究の詳細は、「American Journal of Physiology-Heart and Circulatory Physiology」に9月24日掲載された。研究グループは、「便秘はMACEのリスク上昇と独立して関連する潜在的なリスク因子であることが明らかになった」と同誌のニュースリリースの中で述べている。 この研究でZheng氏らは、便秘は、高血圧などの従来の心血管疾患のリスク因子とともにMACEリスクに関連しているとの仮説を立て、UKバイオバンク参加者40万8,354人の健康データの分析を通じてその仮説を検証した。データには、電子健康記録、ライフスタイル調査の結果、自己申告による健康状態や薬の使用状況などが含まれていた。参加者のうち、2万3,814人に便秘があることが確認された。MACEは、急性冠症候群、虚血性脳卒中(脳梗塞)、心不全のいずれかの発生と定義された。 解析の結果、便秘のある人は、正常な排便習慣を持つ人と比べてMACEリスクが2倍以上有意に高いことが明らかになった(オッズ比〔OR〕2.15、P<1.00×10-300)。便秘はMACEのサブグループとも有意に関連しており、リスクは、心不全(OR 2.72)、脳梗塞(同2.36)、急性冠症候群(同1.62)の順で高かった。 また、15万7,414人に高血圧の診断歴があり、このうちの8.6%(1万3,469人)には便秘もあった。便秘のない高血圧患者と比べて、便秘のある高血圧患者でもMACEのオッズは有意に高く(OR 1.68)、MACEの発生リスクは34%高いことが示された(ハザード比1.34、P=2.3×10-50)。 さらに、便秘と心血管疾患に関連すると考えられる900万以上の遺伝的変異の解析から、便秘は心血管疾患と約21%から27%の遺伝的変異を共有しており、両者の間に遺伝的相関のあることが明らかになった。さらに、ゲノム解析により、便秘が遺伝的な特性である可能性は約4%と推定された。 研究グループは、このように便秘とMACEの関連が特定されたことで、「プレシジョンメディシン(精密医療)の原則に沿った、個々の患者のリスク評価に基づいた新たな治療介入を見出し、より効果的な管理戦略を実施できるようになる」との見方を示している。 その一方でZheng氏らは、「便秘とMACEの関連をより深く理解するために、さらなる研究が必要である」と述べている。

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大腸がん検診、現時点では血液検査よりも大腸内視鏡検査が優れる

 大腸がん検診において、新たな検査選択肢である血液検査は大腸内視鏡検査ほど有効ではないことが、米スタンフォード大学医学部消化器・肝臓内科学教授のUri Ladabaum氏らのレビューによって明らかになった。血液検査を推奨通りに3年に1回受けている人では、大腸内視鏡検査を10年に1回受けている人と比べて、大腸がんによる死亡が約2.5倍多く発生すると推定された。Ladabaum氏らは、大腸内視鏡検査や便の検査ではなく血液検査を選択する人が多くなると、大腸がんによる死亡が増加するとの予測を示している。この研究結果は、「Annals of Internal Medicine」に10月29日掲載された。 米食品医薬品局(FDA)は2024年7月、大腸がんリスクが平均的な人に対する大腸がん検診として血液検査を初めて承認した。この承認は、約8,000人を対象とした臨床試験の結果に基づき決定されたもの。同試験では、血液検査によって大腸に腫瘍のある人の83%以上で大腸がんを検出できることが示されていた。しかし、この検査によって、前がん病変である大腸ポリープを検出できた人の割合は約13%に過ぎなかった。 大腸内視鏡検査は簡単な検査とは言い難い。この検査を受ける人は、前もって強力な下剤を飲んで腸を完全に空にしなければならず、検査に際しては鎮静薬の投与も必要となる。しかし、医師が検査中に前がん病変のポリープを見つけた場合には、その場でそれを取り除くことができることから、この検査によって大腸がんは予防可能ながんの一つになった。Ladabaum氏は、「このことは、大腸内視鏡検査ががんを予防する可能性もあるユニークながん検診の手段であることの理由となっている。それにもかかわらず、検診を全く受けていない人、あるいは推奨されている頻度で検診を受けていない人は数多くいる」と指摘する。 便検査または血液検査の結果が陽性となった患者は、がんまたはポリープがあるかどうかのダブルチェックのため大腸内視鏡検査を受けるよう促される。Ladabaum氏らは今回の研究で、市販されているか開発段階にある6種類の血液検査、便検査、および大腸内視鏡検査のデータを収集して統合した。次に、この統合データを使って各スクリーニング法による大腸がん検診を受けた人における大腸がんの新規症例と大腸がんによる死亡の相対発生率を推定した。 その結果、10年ごとに大腸内視鏡検査を受けた場合、10万人当たり1,543人が大腸がんを発症し、672人が死亡すると推定された。また、1年から3年ごと(検査によって異なる)の便検査では、10万人当たり2,181~2,498人が大腸がんを発症し、904~1,025人が死亡すると推定された。さらに、3年ごとの実施が推奨されている新しい血液検査では、10万人当たり4,310~4,365人が大腸がんを発症し、1,604~1,679人が死亡すると推定され、死亡者数は、大腸内視鏡検査を受けた場合の約2.5倍に上った。このほか、血液検査と比べて大腸内視鏡検査と便検査の方が費用対効果に優れていることも示された。 Ladabaum氏は、「第一世代の血液検査は、大腸がん検診のパラダイムにおける実に素晴らしい進展である。しかし、現時点では、大腸内視鏡検査や便検査を受ける意思があり、それが可能であるなら、血液検査に切り替えるべきではない」と主張している。また同氏は、「何も検査を受けないよりは血液検査を受ける方が、はるかに良い選択であることは確かだ。しかし、大腸内視鏡検査から第一世代の血液検査に切り替える人がいるのであれば、集団としての転帰が悪化し、医療費が上昇することになる」とスタンフォード大学医学部のニュースリリースの中で指摘している。その上で、「最善のシナリオは、大多数の人は引き続き大腸内視鏡検査または便検査を受け、これら2つの選択肢であれば検診は受けたくないという強い抵抗感を持つ人だけが血液検査を受けるようにすることだ」との考えを示している。

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