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コーヒー摂取量と便秘・下痢、IBDとの関連は?

 コーヒーは現在世界で最も広く消費されている飲料の1つであり、米国では成人の約64%が毎日コーヒーを飲み、1日当たり約5億1,700万杯のコーヒーが消費されているという。コーヒーに含まれるカフェインが消化器症状に与える影響は、世界中で継続的に議論されてきた。カフェイン摂取と排便習慣、および炎症性腸疾患(IBD)との関連性を調査した中国医学科学院(北京)のXiaoxian Yang氏らによる研究結果が、Journal of Multidisciplinary Healthcare誌2025年6月27日号に掲載された。 研究者らは、2005~10年の国民健康栄養調査(NHANES)のデータを利用し、カフェイン摂取量を導き出した。排便習慣(便秘・下痢)およびIBDはNHANESの自己報告データに基づいて定義された。ロジスティック回帰モデルを用いて、カフェイン摂取量と慢性便秘、慢性下痢、IBDとの関連を評価した。年齢、性別、人種、教育レベル、社会経済的地位、喫煙状況、飲酒状況、BMIなどの潜在的な交絡因子を調整した。 主な結果は以下のとおり。・計1万2,759例の成人が対象となった。この中には腸機能正常(n=1万785)、慢性下痢(n=988)、慢性便秘(n=986)が含まれていた。・カフェイン摂取量と慢性下痢には、正の関連性が認められた。1日当たりのカフェイン摂取量が1単位(100mg)増加するごとに、慢性下痢のリスクは4%増加した(オッズ比[OR]:1.04、95%信頼区間[CI]:1.00~1.08)。・カフェイン摂取量と慢性便秘には、統計的に有意な関連性は認められなかった(OR:0.97、95%CI:0.93~1.02)ものの、U字型の非線形関係が認められた。便秘のリスクが最も低くなるのは1日当たり2.4単位(204mg)摂取した場合だった。これ未満の場合は、カフェイン摂取量が1単位増加するごとに慢性便秘のリスクが18%減少したが、これを超えると摂取量が1単位増加するごとにリスクが6%増加した。・カフェイン摂取量とIBDの間には有意な関連性は認められなかった。・サブグループ解析と相互作用検査の結果、60歳以上の高齢者において、カフェイン摂取量が増加するごとに慢性便秘のリスクが14%減少した(OR:0.86、95%CI:0.77~0.95)。 研究者らは「適量のカフェイン摂取は排便に役立つ可能性があるが、過剰なカフェイン摂取は慢性便秘を引き起こす可能性がある。また、高齢者の適切なカフェイン摂取は慢性便秘の予防に役立つ可能性があった。これらの結果から、臨床実践においては、排便の状態に応じてカフェイン摂取量を適切に調整することが推奨される可能性がある」とした。

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主治医は大病院です! さぁ困った!【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第8回

主治医は大病院です! さぁ困った!Point多疾患併存では多職種連携、専門医とプライマリ・ケア医(かかりつけ医)の連携が重要。予後予測や再入院予測ツールをうまく使って患者の状態の概要を把握しよう。患者の身体機能や価値観や嗜好を聞き取り、治療やケアの方針決定に役立てよう。患者側の能力と治療による負荷のバランスから手掛かりを探ろう。症例84歳男性が某大学病院救急外来に失神したと来院した。少し離れて別居している息子が付き添いで一緒に来院した。かかりつけ医は大学病院だという。心筋梗塞でステント留置後、心房細動、慢性心不全で循環器内科にかかり、COPDで呼吸器内科に、陳旧性多発ラクナ梗塞と認知症で脳神経内科に、変形性膝関節症と腰部脊柱管狭窄症で整形外科に、大腸がん(手術適応はなく経過観察)で消化器外科にかかり、なんと5科にまたがり通院中であった。ここ1年で心不全の増悪で3回入院している。内服処方は抗凝固薬・抗血小板薬含め合計15剤もあり、失神を起こしやすい薬剤も数種類含んでいた。すべての薬剤を俯瞰的にみてくれる「かかりつけ医」は不在の状況であった。貧血を認めるものの以前とは大きく変化はなかった。頭部CTで軽度の左慢性硬膜下血腫を認め、脳神経外科にコンサルトするも、血腫の大きさや全身状態から入院や手術の適応はないとのこと。ダメ元で他科のDr.と相談するも「それはうちでの入院の適応じゃないですねぇ」と予想どおりのお返事。本人は以前の入院時に体幹抑制された経験から入院したくないとの希望だが、息子は憔悴した様子で「家は段差も多くて、年々歩き方もぎこちなくなり、また転倒しそうなので、何とか入院させてほしいのですが…」と入院を希望し、苛立ち始めている。主科が決まらず方針は絶賛迷走中。救急で担当した研修医、上級医は途方に暮れていた。おさえておきたい基本のアプローチマルモってなんだ!?主治医が大病院であるときに起きやすい問題にはどんなものがあるだろうか。慢性疾患で在宅ケア・緩和ケアへの移行を考慮する事例。慢性疾患が複数あり(多疾患併存)、各科に担当医がいて(ポリドクター)方針がまとまらない事例。ポリドクターのために起こるポリファーマシー(たとえば別の担当医の薬剤に対する副作用に薬剤が処方されるなど)。老年医学のアプローチが必要だが介入できていない事例。主治医が多忙ゆえに多職種連携がうまく機能していない事例。上記に加え心理・社会・家族問題が絡み合う複雑・困難な事例などだ。ここでは、主に多疾患併存とそこから起きる問題を論ずる。皆さんは多疾患併存という言葉があることはご存じだろうか? 筆者自身それについて学生時代に講義を受けた記憶はなく、最初「マルチモビディティ」と聞いたらなんか強そうだなというイメージをもった。マルサなら国税局査察部、マルボウなら暴力団の事案を取り扱う警視庁組織犯罪対策部、マルモはマルチモビディティ(多疾患併存:multimorbidity)のこと。歴史をひもとくと、おおよそ2003年ごろから急激に出版物でみられるようになった。多疾患併存の定義は、長期にわたり2つ以上の慢性疾患が併存している状態である1)。「疾患とその合併症のことでしょう?」と誤解されがちだ。たとえば、糖尿病が悪化して、末梢神経障害や網膜症、腎障害を合併した事例の場合は中心に糖尿病、そのほかは治療コントロール不良で発症した合併症という関係だから、多併存疾患とは異なる。多疾患併存の場合、罹患期間の長短あれども慢性疾患が併存している状態を指す。言葉は知らなくても、多疾患併存の患者は皆さんの外来にもよく来るはずだ。日本では外来患者に多疾患併存患者が占める割合は52.3%にのぼり、ポリファーマシーとの強い相関を認める2)。併存疾患が2つの多疾患併存患者は全く慢性疾患のない患者と比較しER受診は1.28倍、併存疾患が4つ以上で2.55倍になり、また入院も多疾患併存患者全体では2.58倍高くなる3)。多疾患併存患者の医療コストは、概して倍以上に膨れ上がっており、今後多疾患併存患者への対応は医療経済における大きな課題だ。家庭医をかかりつけ医にするメリット多疾患併存患者は俯瞰的・総合的にみてくれるかかりつけ医の存在が大きい。家庭医の定義ともいえるACCCAは保たれているだろうか(表1)。今後高齢化社会が進み、大病院志向の患者が途方に暮れる機会も増えてくるだろう。表1 家庭医をもつメリットと大病院を主治医にもつデメリット画像を拡大する多疾患併存患者で困難な症例では、家庭医をかかりつけ医にもつのが一番よい。疾患の性格上、大病院にかからざるを得ない場合は、予後に最も影響を与え中心となる慢性疾患の担当医に主治医の役割を果たしてもらうか、多疾患併存患者対応が得意な医師(場合によっては別の病院や診療所の医師でもよい)にかかりつけ医となってもらうことがお勧めだ。責任の所在がわからないと、患者や家族はたらい回しにされたと感じ不快に思うだろう。現代の医原病ともいえる。マルモ(Multi-morbidity)のアプローチ法多疾患併存患者のアプローチ法は、Up to dateやNICE guideline、米国老年学会でそれぞれ紹介されているが、筆者はアリアドネの原則をお勧めする4)(図1)。ギリシア神話の逸話(テセウスを迷宮から脱出させるのにアリアドネが糸で手助けした)より、そのように名付けられた由緒正しい(?)アプローチ法だ。日本ではさしづめ、蜘蛛の糸アプローチもしくは、芥川アプローチとでもいえようか(いや全然違うし、ネーミングに絶望感が漂っている泣)。図1 アリアドネの原則画像を拡大するまず、このアプローチのポイントは、実現可能な治療目標を、患者、医師、多職種間で共有していくことだ。多疾患併存の患者のケアに乗り出すきっかけは、併存する疾患、もしくはそれらの治療薬の相互作用が生じてしまったときだ。実現可能な治療目標を考えるときに、まず患者の心身状態や治療の相互作用を評価するところから始まる。その評価には、性格などの心理的問題、住環境や社会的サポートのレベル、孤独などの社会的環境、患者自身の疾患への理解も影響する。次に、患者の嗜好を考慮に入れたうえで、患者の健康問題への治療介入の優先順位を付ける。多疾患併存の患者では、各科担当医がそれぞれの疾患に対し治療方針を立てるが、それらが競合することはしばしばある。治療の優先順位付けには、患者の予後のみならず、患者の価値観、嗜好も考慮に入れねば、治療目標を患者、医療者の双方が納得して共有することはできない。そして、優先順位を付けた治療介入を患者に最適化したマネジメントまで高める。この段階では介入によって予測される利益が有害事象より勝っているかに注目する。こうして評価、問題の優先順位付け、マネジメントを実行し、必ずフォローアップする。また、新たな状況の変化(たとえば、新たな病気への罹患や周囲の環境の変化)によって、再度評価からアプローチが必要になる。多疾患併存患者へのアプローチは流動的に千変万化するんだ。女心と秋の空、そして多併存疾患患者は状況が変わりやすい。ここまでアプローチの原則について解説してきたが、思い起こせば何十年も前から出来上がった多疾患併存患者の複雑な事例だ。救急外来での一期一会で解決できるようなことはめったにない。しかし、少しでも問題を解きほぐす手助けなら救急外来でもできるはずだ。そのために重要なポイントを学んでおこう。落ちてはいけない・落ちたくないPitfalls「既往症も内服薬もたくさんあったので難治性の便秘かと思って経過観察にしたら、大腸がんでした」多疾患併存患者が救急外来に今までになかった症状で来院すると、併存疾患や内服薬の影響ではないかと思考がとらわれやすい。多疾患併存患者では一般外来において診断エラーが1.83倍起こりやすいとの報告がある5)。とくに、高齢患者には多疾患併存患者の割合が多く、悪性腫瘍の見逃しは避けたいところだ。Point多疾患併存患者は診断エラーが起こりやすい!「多疾患併存患者の状態や治療の評価って、忙しい救急外来で何をしたらよいのでしょう?」多疾患併存患者の状態評価を、多忙な救急外来でどのようにしていけばよいのか? 前述のとおり、多疾患併存患者は高齢者に多いので、高齢者総合評価(comprehensive geriatric assessment:CGA)は全体像の評価に有効だろう。しかし、忙しい救急外来で初診患者にくまなく行うことは難しい。ここではより簡略化したstart up CGAを紹介する(表2)。評価可能なものからやってみて、必要があれば外来主治医や入院担当医に引き継いで評価してもらおう。表2 start up CGA画像を拡大するPoint救急外来では多疾患併存患者の包括的評価はstart up CGAで簡潔に行うべし「多疾患併存患者の評価には心理・社会的問題も大事らしいけど、どのように評価すれば…?」多疾患併存患者の状態には心理・社会的問題も大きな影響を及ぼす。多疾患併存患者に精神疾患を合併すると救急外来への頻回受診が大きく増加すると報告されている6)。また、ホームレスの多疾患併存の患者の割合は一般人口の60代に相当し、救急外来受診率も一般人口と比べて60倍近くあると報告されている7)。救急外来で心理的問題を評価するにはMAPSO問診やPHQ-4が使いやすいだろう。また、社会的問題の把握にはsocial vital signs(HEALTH+P)がもれなく把握できて有用だよ8,9)(表3)。表3 social vital signs(HEALTH+P)(https://drive.google.com/file/d/1MZJRnd8ruUpE4kNjNO6ZmOOQ_50s_Yee/view)より改変画像を拡大するPoint多疾患併存患者の心理・社会的問題の評価にはMAPSO問診、PHQ-4やHEALTH+Pを使うべし多疾患併存患者の治療目標には予後予測が大事って聞くけど、どうすればいい?それぞれの慢性疾患が下降期(たとえば、急性増悪による入退院を繰り返す状態)でなければ、10年間の予測死亡率を算出する有用なツールがある。ePrognosisというサイト内でSuemoto indexが計算できる10)。サイトで患者の診療セッティングと、居住地で米国以外を選択すると入力画面が表示される。それぞれの項目を選択すると算出してくれる。一方、慢性疾患下降期で急性増悪を繰り返す場合、再入院を予測するツールとしてLACE indexがある11)。表4に算出方法を示す。A-scoreの重症か否かの判断は救急外来からの入院かどうかでする。4点以下が低リスク、5〜9点が中等度のリスク、10点以上が高リスクと判断する。表4 LACE index画像を拡大する終末期では予後に最も影響する疾患の予後予測ツールを用いるのがよい。一方で、複数臓器の障害ではPalliative Prognostic Scoreで30日死亡率をある程度予測可能だ12)。いずれの予測ツールも、ある程度イメージをつけるためと割り切って利用する。そこから、主治医や多職種で話し合い、在宅医療へ移行したり、advance care planningにつなげたりすればよいのだ。Point疾患ステージに合う予後予測ツールで状況を把握してよりきめ細やかなケアにつなげよう「前回救急受診した患者がまた来院しました。どうやら受診科、内服薬が多かったため、いくつかを勝手にやめていたようです」多疾患併存患者では治療負担(treatment burden)の増大が、自分の能力(capability)の許容量を越えてしまい病状が悪化することがある。かぜのときに毎食前に漢方薬を飲むだけでも飲み忘れてしまう筆者からすれば、毎食後に10剤近く間違えずに内服できる人はマジリスペクトです。内服薬だけでお腹いっぱいになってご飯が食べられない人、よくみるよねぇ。多疾患併存患者かつ内科病棟入院患者の約4割が薬剤関連の問題が原因で入院し、とくに薬剤の副作用やアドヒアランスの問題がきっかけだった13)。また、救急外来から入院した多疾患併存患者の約半数に治療上の対立を認めた(たとえば抗凝固薬を内服した患者に消化管出血を認めたなど)14)。お薬手帳にところせましと並べられた大量の薬剤名の記載をみると、カルテへの記録も面倒くさくなる。しかし、とくに多疾患併存患者では丁寧にチェックしないと足元をすくわれる。「くすりもリスク」、整理できる薬剤は主治医や処方医に依頼して減らすことで、患者の内服アドヒアランスも向上し有害事象も減って患者も医療者もハッピーになること請け合いだ。また、患者の能力に見合わない過度な生活習慣の指導がなされていることがある。多疾患併存患者にはガイドラインどおりにすべての生活指導を行うと、それがかえって治療負担となり逆にアドヒアランスが悪くなることがある。想像してみても、生活するために毎日朝から晩まで仕事をしながら、毎食後に血糖を測定しながら、毎日8,000歩を歩いて、週3で有酸素運動、食事は塩分制限…となると、患者も医療者もアンハッピーになる。優先順位に従い実現可能な生活習慣から指導するようにしよう。患者の生活を守るために生活指導をするのであって、生活指導して患者の生活が台なしになったのならとても笑えないのだ。Point内服アドヒアランスや薬剤有害事象に目を光らせ、治療対立が起きないように注意しよう「有害事象があったから薬剤中止ね。え? 薬が一包化されてる!?」薬剤有害事象が起きたので、その薬剤中止を患者に説明し主治医にも報告、まではよかったが、詰めが甘〜い! キャラメルマキアートの上の部分くらい甘〜い!! あなたがもし一包化されたものから色と印字を手がかりに目的の薬剤のみ取り出すことができるなら、海賊王にだってなれるはず!? 独居や老老介護で、周囲のサポートが得られない場合には絶望しかない。「〇〇えもん、たすけて〜」、「大丈夫だよ、□□太くん。多職種連携〜」。そう、こんなときのための多職種連携。ケアマネジャーやソーシャルワーカーから薬剤師や看護師、ヘルパーに連絡を取り、これ以上の薬剤有害事象を防ごう。とくに大病院の主治医で、訪問診療をした経験がない場合、どんなに想像力をたくましくしても、自宅で患者がどんな生活して、どんなことで困っているのかは診察室からは計り知れないものだ。実際に、自宅で患者と会っているケアマネジャーやヘルパー、訪問看護師の声に耳を傾けよう。ちなみに、多疾患併存患者に多職種連携とテレメディスンとを組み合わせることで救急外来で一泊入院するのと比較して22%コスト削減できたという15)。安い、早い、うまい! 多職種連携って本当に素晴らしいですね!Point多職種との連携を密にして、重要な指示をチームでもれなく伝えて不要な受診を防ごうワンポイントレッスン患者の対応能力と治療負担のバランス患者の対応能力(capability)と治療負担(treatment burden)のバランスに注目するとアプローチしやすい。どのようなバランスかを図2、表5に示す。図2 患者の対応能力と治療負担のバランス画像を拡大する表5 患者の対応能力と治療負担患者の対応能力を上げて、治療負担を減らす方向に働きかけることで崩れかけたバランスをもち直すことができる。どの要素が負担になっているのか、もしくは対応能力が足りないのかを把握することで、複雑な事例のなかでレバレッジポイントを見出し問題解決の糸口がつかめる。何事もバランスが大事だ。遊びも勉強も大事。お金も大事だが、学際的な仕事をすることも大事。給料が安いなんて文句言わないで、勉強できる環境で仕事ができることをありがたいと思おう、ネ、〇〇センセ!?勉強するための推奨文献 Farmer C, et al. BMJ. 2016;354:i4843. Muth C, et al. BMC Med. 2014;12:223. Muth C, et al. J Intern Med. 2019;285:272-288. Boyd C, et al. J Am Geriatr Soc. 2019;67:665-673. Mercer S, et al., eds. ABC of Multimorbidity. John Wiley& Sons. 2014. 佐藤健太 著. 慢性臓器障害の診かた、考えかた 中外医学社. 2021. 参考 1) NICE guideline 2016 2) Aoki T, et al. Sci Rep. 2018;8:3806. 3) Soley-Bori M, et al. Br J Gen Pract. 2020;71:e39-e46. 4) Muth C, et al. BMC Med. 2014;12:223. 5) Aoki T, Watanuki S. BMJ Open. 2020;10:e039040. 6) Gaulin M, et al. CMAJ. 2019;191:E724-E732. 7) Bowen M, et al. Br J Gen Pract. 2019;69:e515-e525. 8) Mizumoto J, et al. J Gen Fam Med. 2019;20:164-165. 9) Terui T, et al. J Gen Fam Med. 2020;21:92-93. 10) Suemoto CK, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2017;72:410-416. 11) Wang H, et al. BMC Cardiovasc Disord, 14:97, 2014 12) Maltoni M, et al. J Pain Symptom Manage. 1999;17:240-247. 13) Lea M, et al. PLoS One. 2019;14:e0220071. 14) Markun S, et al. PLoS One. 2014;9:e110309. 15) Pariser P, et al. Ann Fam Med. 2019;17:S57-S62. 執筆

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経鼻投与のてんかん発作レスキュー薬「スピジア点鼻液5mg/7.5mg/10mg」【最新!DI情報】第43回

経鼻投与のてんかん発作レスキュー薬「スピジア点鼻液5mg/7.5mg/10mg」今回は、抗けいれん薬「ジアゼパム(商品名:スピジア点鼻液5mg/7.5mg/10mg、製造販売元:アキュリスファーマ)」を紹介します。本剤は、介護者による投与も可能な国内初のジアゼパム鼻腔内投与製剤であり、院外での速やかな治療が可能になると期待されています。<効能・効果>てんかん重積状態の適応で、2025年6月24日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人および2歳以上の小児にはジアゼパムとして、患者の年齢および体重を考慮し、5~20mgを1回鼻腔内に投与します。効果不十分な場合には4時間以上空けて2回目の投与ができます。ただし、6歳未満の小児の1回量は15mgを超えないようにします。●2歳以上6歳未満6kg以上12kg未満:5mg(5mg製剤を片方の鼻腔1回)12kg以上23kg未満:10mg(10mg製剤を片方の鼻腔1回)23kg以上:15mg(7.5mg製剤を両方の鼻腔1回ずつ)●6歳以上12歳未満10kg以上19kg未満:5mg(5mg製剤を片方の鼻腔1回)19kg以上38kg未満:10mg(10mg製剤を片方の鼻腔1回)38kg以上56kg未満:15mg(7.5mg製剤を両方の鼻腔1回ずつ)56kg以上:20mg(10mg製剤を両方の鼻腔1回ずつ)●12歳以上14kg以上28kg未満:5mg(5mg製剤を片方の鼻腔1回)28kg以上51kg未満:10mg(10mg製剤を片方の鼻腔1回)51kg以上76kg未満:15mg(7.5mg製剤を両方の鼻腔1回ずつ)76kg以上:20mg(10mg製剤を両方の鼻腔1回ずつ)<安全性>重大な副作用として、依存性、離脱症状、刺激興奮、錯乱など、呼吸抑制(いずれも頻度不明)があります。その他の副作用として、傾眠(10%以上)、意識レベルの低下、貧血、口腔咽頭不快感(いずれも5~10%未満)、眠気、ふらつき、眩暈、頭痛、言語障害、振戦、複視、霧視、眼振、失神、失禁、歩行失調、多幸症、黄疸、顆粒球減少、白血球減少、血圧低下、頻脈、徐脈、悪心、嘔吐、便秘、口渇、食欲不振、発疹、倦怠感、脱力感、浮腫(いずれも頻度不明)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、抗けいれん作用がある点鼻薬です。鼻腔内に使用します。2.脳内の神経の過剰な興奮を鎮めて、てんかん発作を抑える働きがあります。3.この薬は適切な指導を受けた保護者(家族)またはそれに代わる適切な人が使用できますが、2歳以上6歳未満のお子さんの場合は、医師のもとで使用する必要があります。4.噴霧器には1回(1噴霧)分の薬が入っています。噴霧テスト(空打ち)や再使用はしないでください。5.症状が現れたときに、1回1噴霧(どちらか片方の鼻のみ)もしくは2噴霧(両方の鼻に1回ずつ)してください。6.原則として、この薬の使用後は救急搬送を手配してください。<ここがポイント!>てんかん重積状態は、「臨床的あるいは電気的てんかん活動が少なくとも5分以上続く場合、またはてんかん活動が回復なく反復し5分以上続く場合」と定義されています。この定義は、脳へのダメージや長期的な後遺症が懸念される時間の閾値に基づいています。とくにけいれん発作が30分以上持続すると、脳損傷のリスクが高まり、生命予後にも重大な影響を及ぼす可能性があるため、速やかな治療介入が極めて重要になります。治療の第一選択薬の1つとしてジアゼパム静注が挙げられますが、院外では静脈注射や筋肉注射が困難な場合が多く、急性対応の選択肢は限られています。てんかん重積状態の治療には病院到着前の治療(プレホスピタルケア)が重要であるため、簡便に使用できる製剤が必要と考えられていました。本剤は、医療者または介護者による投与が可能な国内初のジアゼパム鼻腔内投与製剤です。ジアゼパムは1960年代から広く用いられている抗けいれん薬であり、本剤は院外での「てんかん重積状態に対するレスキュー薬」の新たな選択肢となります。本剤は、簡単かつ迅速に投与できる点鼻スプレーであり、2歳から成人まで使用可能です。また、室温保存が可能で携帯性に優れた製剤で、自宅での使用にも適しています。てんかん重積状態またはてんかん重積状態に移行する恐れのある発作を有する6歳以上18歳未満の日本人小児患者を対象とした国内第III相試験(NRL-1J02試験)において、主要評価項目である臨床的にけいれん発作と判断される状態が本剤を単回鼻腔内に投与後10分以内に消失し、かつ投与後30分間認められなかった患者の割合は62.5%(95%信頼区間:35.4~84.8)でした。

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大腸がんスクリーニング、CT検査が便中DNA検査よりも有用か

 大腸がんのスクリーニングにおいては、マルチターゲット便中DNA検査(mt-sDNA検査)よりも大腸CT検査(CT Colonography;CTC)の方が、臨床的有効性と費用対効果の点で優れていることが、新たな研究で示された。米ウィスコンシン大学医学部・公衆衛生学部放射線医学・医学物理学分野のPerry Pickhardt氏らによるこの研究結果は、「Radiology」に6月10日掲載された。 大腸がんのスクリーニングでは、現在も大腸内視鏡検査が主流であるとPickhardt氏は説明する。大腸内視鏡検査は侵襲性が高いものの、検査中に前がん状態のポリープを切除できるため、依然として検診のゴールドスタンダードであるという。しかし、鎮静薬を使い、細くて柔軟なチューブを肛門から結腸に挿入するこの検査に不安を感じ、mt-sDNA検査かCTCを選択する患者は少なくない。mt-sDNA検査は、患者から採取した便サンプルに含まれるDNAを解析して腫瘍細胞に由来する変異遺伝子や異常なメチル化パターンなどを検出する。一方、CTCでは、肛門から炭酸ガスなどを注入して大腸を膨らませた状態でCT撮影を行い、ポリープなどの病変の有無を調べる。 メディケアは現在、mt-sDNA検査とCTCの両方をカバーしている。このことからPickhardt氏らは、これらの侵襲性の低い2種類の検査方法の臨床的有効性と費用対効果を直接比較することにした。そのために同氏らは、米疾病対策センター(CDC)の2017年のデータを基にマルコフモデル(ある状態の別の状態への変化を確率的に予測するモデル)を構築し、45歳の米国人口を代表する1万人の仮想的なコホートを対象に、3つの大腸がんスクリーニング戦略を評価した。3つの戦略とは、1)3年ごとのmt-sDNA検査、2)従来型CTC戦略(6mm以上のポリープは全て内視鏡的切除を行い、検査を5年間隔で実施)、3)CTCサーベイランス戦略(6〜9mmのポリープに対しては3年ごとにCTCで経過観察を行い、10mm位以上のポリープは内視鏡的切除を行う)であった。 その結果、大腸がんの累積発症率は、スクリーニングを受けない場合での7.5%(752人)から、mt-sDNA検査を受けることで59%(310人)、従来型CTC戦略を受けることで75%(190人)、CTCサーベイランス戦略を受けることで70%(223人)減少することが示された。 また、全ての戦略において増分費用効果比(ICER)が支払い許容額の基準である10万ドル/1QALY(質調整生存年)を大きく下回り、これらの戦略はスクリーニングを受けない場合と比べて費用対効果が高いと考えられた。1QALY獲得するのにかかる費用は、mt-sDNA検査で8,878ドル(1ドル145円換算で約128万7,000円)であった。一方、CTCの両戦略は、スクリーニングを行わない場合よりも1人当たりの総医療費が少なく(スクリーニングなし:4,955ドル〔約71万8,500円〕、CTCサーベイランス戦略:3,913ドル〔約56万7,000円〕、従来型CTC戦略:4.422ドル〔約64万1,000円〕)、費用対効果が優れているとともに医療費の節約にもつながることが示された。 研究グループは、「これらの結果は、CTCが従来の大腸内視鏡検査やmt-sDNA検査の中に「正当な最前線のスクリーニングオプション」として加わることができることを示している」と結論付けている。 ただし、CTCを受けるには、検査の前に強力な下剤を使用して結腸を空にする必要がある。それでもPickhardt氏は、「CTCは骨粗鬆症や動脈硬化などの他の問題を調べるのにも有用だ」とメリットを強調している。 研究グループはまた、今回のシミュレーションはこれまでの研究結果と一致しているものの、シミュレーションでは検査方法と大腸がん発症率の低下との間の直接的な因果関係を証明することはできないことにも言及している。

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週1回のカプセル剤が統合失調症の服薬スケジュールを簡略化

 週1回のみの服用で胃の中から徐々に薬を放出する新しいタイプのカプセル剤によって、統合失調症患者の服薬スケジュールを大幅に簡略化できる可能性が新たな研究で明らかになった。この新たに開発された長時間作用型経口リスペリドンは、患者の体内のリスペリドン濃度を一定に保ち、毎日服用する従来の治療と同程度の症状コントロールをもたらすことが臨床試験で示されたという。製薬企業のLyndra Therapeutics社の資金提供を受けて米マサチューセッツ工科大学(MIT)機械工学准教授のGiovanni Traverso氏らが実施したこの研究の詳細は、「The Lancet Psychiatry」7月号に掲載された。 Traverso氏は、「われわれは、1日1回飲む必要があった薬を、週1回飲むだけで済むように作り変えた。この技術はさまざまな薬剤に応用可能だ」とMITのニュースリリースの中で述べている。 今回報告された最終段階の臨床試験の結果は、Traverso氏の研究室が10年以上かけて取り組んできた研究の成果だ。試験で使用されたカプセル剤は、マルチビタミンほどの大きさである。飲み込むと、胃の中でカプセル剤の6本のアームが星形に広がって胃の出口を通過できない大きさになり、そのまま胃の中で漂いながらアームから約1週間かけて徐々に薬を放出する。アームは溶解性で、最終的には分離して消化管を通過して排出される。Traverso氏の研究室は2016年、この星形の薬剤送達デバイスの開発について報告している。 試験では、米国内の5施設の統合失調症または統合失調感情障害を有する患者83人(平均年齢49.3歳、男性75%)を対象に、2種類の用量の長時間作用型経口リスペリドン「LYN-005」の有用性を検証した。リスペリドンは統合失調症の治療薬として広く使用されており、Traverso氏らによると、多くの患者が即放性のリスペリドンを1日1回服用しているという。試験参加者は、試験開始1週目は即放性リスペリドン(2mgまたは6mg)を1日1回服用する導入期間を経た後、LYN-005を週1回、計5回服用した。初回のLYN-005投与週のみ、半用量の即放性リスペリドンも併用した。試験を完遂したのは47人だった。 44人を対象に薬物動態を解析した結果、LYN-005の全用量において活性成分の持続放出が確認された。LYN-005と即放性リスペリドンの血中濃度指標における幾何平均比は、1週目の最小血中濃度(Cmin)で1.02、5週目では、Cminで1.04、最大血中濃度(Cmax)で0.84、平均血中濃度(Cavg)で1.03であり、いずれも事前に設定した薬物動体評価の基準を満たした。副作用に関しては、一部の患者に短期的な軽度の胃酸逆流や便秘が見られたが、全体的には少なく、重篤な治療関連有害事象の発生は1件だった。 こうした結果を受けてTraverso氏は、「この臨床試験では、カプセル剤が予測された薬物血中濃度を達成したことと、多くの統合失調症患者で症状をコントロールできることが確認された」としている。また、論文の筆頭著者である米ニューヨーク医科大学精神医学・行動科学臨床教授のLeslie Citrome氏は、「慢性疾患を抱える人の治療を阻む最大の問題の一つが、薬が継続的に服用されないことだ。それによって症状が悪化し、統合失調症の場合、再発や入院につながる可能性がある。薬を週に1回だけ経口摂取するという選択肢は、注射製剤よりも経口薬を好む多くの患者にとって服薬アドヒアランスの維持を助ける重要な選択肢になる」とニュースリリースの中でコメントしている。 Traverso氏らは、米食品医薬品局(FDA)に対するこのリスペリドンの投与アプローチの承認申請に先立ち、より大規模な第3相臨床試験の実施を予定している。また、避妊薬など他の薬剤の投与にもこのデバイスを用いる初期段階の臨床試験も開始予定としている。

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その痛み、お風呂で温まるとどうなりますか?【漢方カンファレンス2】第1回

その痛み、お風呂で温まるとどうなりますか?以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】80代男性主訴左顔面の痛み既往高血圧、腰部脊柱管狭窄症、79歳:大腸がん手術病歴X年7月、左三叉神経領域の帯状疱疹で2週間の入院加療を行った。退院後、NSAIDs・鎮痛補助薬などを服用したがピリピリとした痛みが持続。9月上旬、胃もたれがひどくなり食事量が減少、また両下肢痛が悪化して歩行困難になったと家族から往診依頼があった。現症身長162cm、体重54kg。体温35.2℃、血圧142/62mmHg、脈拍60回/分整。顔面に皮疹・発赤なし。両下肢浮腫あり・下肢の筋力低下あり。経過初診時「???(1)」エキス3包 分3で治療を開始。(解答は本ページ下部をチェック!)2週後痛みは半分程度まで軽減した。まだ体が冷える。「???(2)」エキス3包 分3を併用開始。(解答は本ページ下部をチェック!)4週後痛みは30%程度で、NSAIDsは中止できた。下肢浮腫が軽減してリハビリもできている。胃の調子がよくなって食欲も出てきた。6週後痛みはほぼなくなった。杖歩行ができるようになった。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイント(漢方カンファレンス第1回参照)に基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<陰陽の問診> 寒がりですか? 暑がりですか? 体の冷えを自覚しますか? 体のどの部位が冷えますか? 寒がりです。 手足や腰、下肢が冷えます。 入浴で長くお湯に浸かるのは好きですか? 冷房は苦手ですか? 入浴は長く湯船に浸かります。 冷房は顔が痛くなるので使っていません。 入浴で温まると顔の痛みはどうなりますか? お風呂に入った後は少し楽になります。 飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか? のどは渇きませんか? のどは渇きません。 温かい飲み物をよく飲んでいます。 <飲水・食事> 1日どれくらい飲み物を摂っていますか? 食欲はありますか? 胃腸は弱いですか? だいたい1日1L程度です。 胃もたれがして食欲がありません。 もともと胃は弱いです。 <汗・排尿・排便> 汗はよくかくほうですか? 尿は1日何回出ますか? 夜、布団に入ってからは尿に何回行きますか? 便秘や下痢はありませんか? 汗は少しかきます。 尿は1日7〜8回です。 夜は2〜3回トイレに行きます。 便は毎日出ます。 下痢はありません。 <ほかの随伴症状> よく眠れますか? 昼食後に眠くなりませんか? 足がむくみませんか? 足がつることはありませんか? 皮膚が乾燥してかゆくありませんか? 顔と足の痛みで眠れないことがあります。 昼食後の眠気はありません。 足がむくんで、重だるいです。 足はつりません。 皮膚のかゆみ、乾燥はありません。 ほかに困っている症状はありますか? 訪問リハビリも受けているのですが 足がふらついてなかなか思うように動けずに困っています。 【診察】顔色はやや不良。脈診では沈・弱の脈。また、舌は湿潤した白苔が中等量、舌下静脈の怒張あり、腹診では腹力は軟弱、腹直筋の緊張、小腹不仁(しょうふくふじん)を認めた。下肢には浮腫があり、触診で冷感があった。カンファレンス 漢方診療で最初に考えることは何でしたか? 最初に寒が主体の病態の陰証か? 熱が主体の病態の陽証か? を考えるのでした。「寒がりですか? 暑がりですか?」、「体が冷えますか?」と最初に問診します。 よいね! 漢方診療は「陰陽の判断で始まる」といってよいのだ。とくに陰証である寒(=冷え)を見逃さないように心がけることが大事だよ。実際の臨床では、寒がり、厚着の傾向、温かい湯茶を好む、長湯ができる、冷房が嫌い、症状が温まると改善する・冷えると悪化するなどの問診や、脈診が沈であったなどの診察により総合的に判断するんだ(陰証については本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)。 今回の症例は、寒がり、冷えの自覚、入浴時間が長い、冷房は嫌いなど寒(冷え)が主体の陰証を示唆する特徴が揃っていますね。 そうですね。さらに痛みが主訴の症例ではとくに、「痛みは入浴で温まると楽になりますか?」という質問が有用です。今回の症例でも入浴で温まると軽減するということから、冷えの関与を考えます。 逆に冷えると悪化するという情報も問診できるとよいね。具体的には、気温が低い日に増悪するとか、スーパーの冷凍食品売り場に行くと痛みが悪化するとか、具体的な問診ができるといいね。本症例でも冷房で悪化するという発言があるね。 また実際に触診して他覚的な冷感を確認します。本症例でも下肢に冷感があることも陰証と考える所見です。 帯状疱疹では、急性期は局所に熱や水疱があって、慢性化すると局所の反応は乏しくなるけど、痛みが持続するという経過は、熱から寒の病態へ、つまり陽証から陰証への流れがわかりやすい疾患といえるね。 下肢の足首から前脛骨部を触診して、こちらの体温が患者に吸われていくようにひんやりと感じる場合は、熱薬である附子(ぶし)を含む漢方薬の適応です。附子はトリカブトの根を減毒処理したもので、温める作用と鎮痛作用を併せもつので、今回の症例でも大事な生薬です。 それでは漢方診療のポイント(2)の虚実の判断はどうでしょう。虚実は、いわば「闘病反応の程度」でした。 虚実は、脈やお腹の反発力などから判断するのでしたね。脈は弱、腹力も軟弱とあるので闘病反応が弱い虚証です。 そうだね。顔面の患部の局所反応も乏しいね。さらにNSAIDsによる胃腸障害や歩行困難から下肢の筋力低下が疑われ、これらも虚証と考えられる所見だね。 漢方診療のポイント(3)気血水の異常はどうでしょうか? 食欲不振は気虚、下肢浮腫は水毒と考えます。ほかには舌下静脈の怒張は瘀血です。 気血水の異常をよく理解できているね。 夜に尿2〜3回と夜間頻尿があり、下肢の冷えや腹部所見で下腹部の抵抗が減弱した小腹不仁があります。これらは加齢症状と考える腎虚でしたね。今回の症例をまとめましょう。 【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?寒がり、手足、腰、下肢が冷える、下肢の冷感→陰証(2)虚実はどうか脈:弱、腹:軟弱→虚証(3)気血水の異常を考える食欲不振→気虚、下肢浮腫→水毒、舌下静脈の怒張→瘀血、夜間頻尿、小腹不仁→腎虚(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む神経痛、胃腸障害解答・解説【解答】本症例は、冷えを伴う体表面の痛みやしびれに用いる桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)で治療をしました。さらに再診で、真武湯(しんぶとう)を併用しました。【解説】桂枝加朮附湯は、冷えを伴う体表面の痛みやしびれ、具体的には関節痛や神経痛、筋肉のこわばりなどに用いられる漢方薬です。桂枝加朮附湯は太陽病・虚証に用いる桂枝湯(けいしとう)に朮(じゅつ)と附子が加わった漢方薬です。附子が含まれることから適応は陰証で、六病位では太陰病〜少陰病に分類されます。朮には利水作用があり、朮と附子の組み合わせで温める作用、利水作用、鎮痛作用があります。慢性化した痛みは、寒い日や雨の日に悪化する、こわばりを伴うなど漢方医学的には冷えと水毒の関与することが多くなり、朮と附子を加えて治療します。桂枝加朮附湯には胃腸に負担がかかる生薬が含まれず、NSAIDsで胃腸障害が出る場合にもよい適応で、鎮痛薬を減量・中止できることもあります。ヘバーデン結節などの手指変形性関節症において桂枝加朮附湯の症例集積研究があり、とくに四肢末梢の冷えが強い冷え症の症例ではすべての症例(11例)で手指足趾の先端が暖まり、疼痛の改善がみられたと報告されています1)。なお、再診時に冷えや痛みが残存していたことから、桂枝加朮附湯の治療効果を高めることを目的として真武湯を併用しています。真武湯にも朮と附子が含まれ、さらに利水作用のある茯苓(ぶくりょう)が含まれています。真武湯を併用すると、この茯苓、朮、附子の組み合わせで温める作用、利水作用、鎮痛作用を高めることができます。桂枝加朮附湯のほかに桂枝湯に茯苓、朮、附子の加わった桂枝加苓朮附湯(けいしかりょうじゅつぶとう)という漢方薬もあります。今回のポイント「陰証」の解説漢方治療は陰陽の判断が出発点です。陰陽は生体に外来因子が加わった際の生体反応の形式で、熱が主体の病態を「陽証」、寒が主体の病態を「陰証」の2型で捉えます。寒≒陰証と考えてよいですが、非活動性、沈降性などの特徴もあります。基本的には多くの病気は陽証で始まり、陰証に向かって進みます。陰証では病因に対して体力が劣り、闘病反応が弱い時期になります。そのため、虚弱者、高齢者、慢性疾患など、長期にわたる疾患では陰証になることが多くなります。実際の臨床では、寒がり、厚着の傾向、温かい湯茶を好む、長湯ができる、冷房が嫌い、症状が温まると改善する・冷えると悪化するなどの問診や、脈診が沈であったなどの診察により総合的に判断します。わずかな冷えを見逃さないように注意深く問診・診察をする必要があります。陽証と陰証はさらに3つずつの病期に分類され、陰証では、太陰病、少陰病、厥陰病に分かれます。さらに一見陽証にみえても、倦怠感が強い、治りが悪いといった場合は陰証が隠れていることもあります。今回の鑑別処方現代医学の臨床推論で鑑別診断を挙げるように、漢方治療でもその鑑別処方を挙げることができるようになると漢方治療が上達します。本連載では症例ごとに鑑別処方の解説をします。葛根加朮附湯は主に上半身の冷えを伴う痛みに用います。桂芍知母湯(けいしゃくちもとう)は冷えと関節の変形が強い場合に用います。附子とともに麻黄が含まれ、実証寄りの漢方薬になります。さらに知母(ちも)には関節のこもった熱を冷ましながら潤すという作用があります。関節リウマチで体全体は冷える傾向にあるものの、関節には局所の熱感がある場合や、関節変形の強い変形性膝関節症やヘバーデン結節などに適応になります。八味地黄丸(はちみじおうがん)は加齢に伴うさまざまな症状を腎虚として、腰以下の冷えと痛み、しびれや夜間頻尿がある場合に用います。本症例も高齢者で下肢の冷えや痛みなどの腎虚の所見があるため鑑別に挙がりますが、胃弱の人には適さないため、胃もたれがある初診時に処方することはないでしょう。大防風湯(だいぼうふうとう)は十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)を用いたいような気血両虚があって、さらに多関節痛がある場合に用います。気血両虚に用いる十全大補湯に附子+鎮痛作用のある生薬が加わった処方で、全身倦怠感や皮膚枯燥のある痛みの症例に用います。本症例でさらに痛みが遷延した場合は大防風湯を使用する可能性があるでしょう。参考文献1)大塚稔. 日東医誌. 2021;72:239-243.

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オピオイド使用がん患者へのナルデメジン、便秘予防にも有用~日本のRCTで評価/JCO

 オピオイドは、がん患者の疼痛管理に重要な役割を果たしているが、オピオイド誘発性便秘症を引き起こすことが多い。オピオイド誘発性便秘症に対し、ナルデメジンが有効であることが示されているが、オピオイド誘発性便秘症の予防方法は確立されていない。そこで、濵野 淳氏(筑波大学医学医療系 緩和医療学・総合診療医学 講師)らの研究グループは、ナルデメジンのオピオイド誘発性便秘症の予防効果を検討した。その結果、ナルデメジンはオピオイド誘発性便秘症に対する予防効果を示し、QOLの向上や悪心・嘔吐の予防効果もみられた。本研究結果は、Journal of Clinical Oncology誌2024年12月号に掲載された。試験デザイン:国内多施設共同二重盲検無作為化比較試験対象:初めて強オピオイドを使用するがん患者99例試験群:ナルデメジン(0.2mg、1日1回)を朝食後14日間内服(ナルデメジン群、49例)対照群:プラセボを朝食後14日間内服(プラセボ群、50例)評価項目:[主要評価項目]14日目におけるBowel Function Index(BFI)※28.8未満の患者割合[副次評価項目]自発排便(SBM)の頻度、QOL(EORTC QLQ-C15-PAL、PAC-QOL、PAC-SYM)、オピオイド誘発性悪心・嘔吐(OINV)の頻度など※:排便の困難さ、残便感、便秘の個人的評価について、VAS(0~100)で評価。28.8未満を便秘なしとする。 主な結果は以下のとおり。・ナルデメジン群、プラセボ群の年齢中央値はそれぞれ67.8歳、66.4歳であり、女性の割合はそれぞれ51.0%、68.0%であった。・がん種の内訳は、肝がん・胆道がん・膵がん(35例)、消化管がん(18例)、婦人科がん(10例)、乳がん(8例)、泌尿器がん(8例)、肺がん(7例)などであった。・主要評価項目の14日目におけるBFI 28.8未満の患者割合は、ナルデメジン群64.6%、プラセボ群17.0%であり、ナルデメジン群が有意に良好であった(p<0.0001)。・14日目における1週間当たりのSBM回数が3回以上の割合は、ナルデメジン群87.5%、プラセボ群53.2%であり、ナルデメジン群が有意に多かった(p=0.0002)。14日目における1週間当たりの完全自発排便回数が3回以上の割合は、それぞれ70.8%、36.2%であり、ナルデメジン群が有意に多かった(p=0.0007)。・14日目におけるQOLは、いずれの指標もナルデメジン群が有意に良好であった。・3日目までの制吐薬の使用割合は、ナルデメジン群10.6%、プラセボ群51.1%であり、ナルデメジン群が有意に少なかった(p<0.0001)。・1~3日目の悪心・嘔吐の発現は、いずれの日においてもナルデメジン群が有意に少なかった(いずれの日もp<0.0001)。・有害事象の発現割合はナルデメジン群29.2%、プラセボ群61.7%であった。嘔吐の発現割合はナルデメジン群12.5%、プラセボ群40.4%であり、ナルデメジン群が有意に少なかった(p=0.0072)。

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不適切な医療行為は一部の医師に集中~日本のプライマリケア

 日本のプライマリケアにおける「Low-Value Care(LVC:医療的価値の低い診療行為)」の実態を明らかにした大規模研究が、JAMA Health Forum誌2025年6月7日号に掲載された。筑波大学の宮脇 敦士氏らによる本研究によると、抗菌薬や骨粗鬆症への骨密度検査などのLVCを約10人に1人の患者が年1回以上受けており、その提供は一部の医師に集中していたという。 LVCとは、特定の臨床状況において、科学的根拠が乏しく、患者にとって有益性がほとんどない、あるいは害を及ぼす可能性のある医療行為を指す。過剰診断・過剰治療につながりやすく、医療資源の浪費や有害事象のリスク増加の原因にもなる。本研究で分析されたLVCは既存のガイドラインや先行研究を基に定義され、以下をはじめ10種類が含まれた。 ●急性上気道炎に対する去痰薬、抗菌薬、コデインの処方 ●腰痛に対するプレガバリン処方 ●腰痛に対する注射 ●糖尿病性神経障害に対するビタミンB12薬 ●骨粗鬆症への短期間の骨密度再検査 ●慢性腎疾患などの適応がない患者へのビタミンD検査 ●消化不良や便秘に対する内視鏡検査 研究者らは全国の診療所から収集された電子カルテのレセプト連結データ(日本臨床実態調査:JAMDAS)を用い、成人患者約254万例を対象に、LVCの提供頻度と医師の特性との関連を解析した。 主な結果は以下のとおり。・1,019例のプライマリケア医(平均年齢56.4歳、男性90.4%)により、254万2,630例の患者(平均年齢51.6歳、女性58.2%)に対する43万6,317件のLVCが特定された。・約11%の患者が年間1回以上LVCを受けていた。LVCの提供頻度は患者100人当たり17.2件/年で、とくに去痰薬(6.9件)、抗菌薬(5.0件)、腰痛に対する注射(2.0件)が多かった。・LVCの提供は偏在的であり、上位10%の医師が全体の45.2%を提供しており、上位30%で78.6%を占めた。・年齢や専門医資格、診療件数、地域によってLVC提供率に差が見られた。患者背景などを統計的に調整した上で、以下の医師群はLVCの提供が有意に多かった。 ●年齢60歳以上:LVC提供率が若手医師(40歳未満)に比べ+2.1件/100人当たり ●専門医資格なし:総合内科専門医に比べ+0.8件/100人当たり ●診療件数多:1日当たりの診療数が多い医師は、少ない医師に比べ+2.3件/100人当たり ●西日本の診療所勤務:東日本と比較して+1.0件/100人当たり・医師の性別による有意差はなかった。 著者らは、「本分析の結果は、日本においてLVCが一般的であり、少数のプライマリケア医師に集中していることを示唆している。とくに、高齢の医師や専門医資格を持たない医師がLVCを提供しやすい傾向が認められた。LVCを大量に提供する特定のタイプの医師を標的とした政策介入は、すべての医師を対象とした一律の介入よりも効果的かつ効率的である可能性がある」としている。

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心筋梗塞後の便秘、心不全入院リスクが上昇~日本人データ

 心筋梗塞患者において、退院後6ヵ月間における便秘は心不全による入院リスクの上昇と強く関連していることを、仙台市医療センター仙台オープン病院の浪打 成人氏らによる研究の結果、示唆された。浪打氏らは以前、急性心不全後に便秘のある患者は心不全による再入院リスクが高いことを報告しており、今回、便秘による心筋梗塞患者の予後への影響を心不全入院で評価し、BMC Cardiovascular Disorders誌2025年5月28日号に報告した。 本研究では、2012年1月~2023年12月に仙台オープン病院に入院した心筋梗塞患者1,324例(平均年齢:68±14歳、男性:76%)を対象とし、便秘患者は下剤を定期的に使用している患者と定義した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間(中央値2.7年)中に、115例が心不全で死亡し、99例が再入院した。・ランドマークKaplan-Meier解析の結果、0~0.5年における便秘のある患者とない患者の心不全による入院率は7.8%と2.1%(log-rank検定:p<0.0001)、0.5~3年においては4.8%と3.9%(同:p=0.17)であった。・調整Cox比例ハザード解析では、便秘のある患者はない患者と比較して、0~0.5年における心不全による入院リスクが有意に高いことが明らかになった(ハザード比[HR]:2.12、95%信頼区間[CI]:1.07~4.19、p=0.032)。0.5~3年では有意差はみられなかった(HR:0.86、95%CI:0.47~1.57、p=0.63)。 今回の結果から、著者らは「便秘が心筋梗塞後の心不全発症を予防するための新たなターゲットとなる可能性がある」としている。

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静脈血栓塞栓症のリスクが低い経口避妊薬「スリンダ錠28」【最新!DI情報】第41回

静脈血栓塞栓症のリスクが低い経口避妊薬「スリンダ錠28」今回は、経口避妊薬「ドロスピレノン(商品名:スリンダ錠28、製造販売元:あすか製薬)」を紹介します。本剤は単剤型プロゲスチン製剤であり、従来の混合型経口避妊薬よりも静脈血栓塞栓症のリスクが少なく、深部静脈血栓症や肺塞栓症の既往、喫煙者、肥満者、高血圧や弁膜症を有する患者などに対して推奨度が高い避妊薬です。<効能・効果>避妊の適応で、2025年5月19日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>1日1錠を毎日一定の時刻に白色錠から開始し、指定された順番に従い28日間連続経口投与します。以上28日間を投与1周期とし、29日目から次の周期の錠剤を投与し、以後同様に繰り返します。なお、服用開始日は、経口避妊剤を初めて服用する場合、月経第1日目から開始します。<安全性>副作用として、不正性器出血(月経中間期出血、異常子宮出血)(89.9%)、下腹部痛(13.4%)、月経異常(過少月経、過長過多不規則月経、重度月経出血)(14.9%)、頭痛(16.3%)、腹痛(12.3%)、乳房不快感、悪心、下痢、ざ瘡(いずれも5%以上)、無月経、卵巣嚢胞、子宮頸部上皮異形成、子宮筋腫、カンジダ症、外陰部炎、性器分泌物、乳頭痛、乳腺良性腫瘍、乳腺嚢胞症、傾眠、いらいら感、不安感、めまい、片頭痛、上腹部痛、嘔吐、胃腸障害、発疹、そう痒症、背部痛、倦怠感、浮腫、発熱、体重増加(いずれも1~5%未満)、陰部そう痒症、子宮ポリープ、外陰腟痛、卵巣腫大、乳房痛、抑うつ、便秘、消化不良、腹部膨満、口内炎、紅斑、皮膚乾燥、関節痛、肋軟骨炎、貧血、肝機能検査値異常(いずれも1%未満)、リビドー減退、高カリウム血症、ほてり(いずれも頻度不明)があります。<患者さんへの指導例>1. この薬は、妊娠を防ぐための経口避妊薬です。2. 毎日1錠、決まった時間に服用することで、排卵を抑えたり、子宮内膜や子宮頸管の状態を変化させたりして、妊娠を防ぎます。3. この薬は、喫煙者や高血圧の人など、従来の避妊薬が使えなかった人にも適しています。4. 毎日一定の時刻に白色錠から服用を開始し、指定された順番に従い28日間服用してください。5. 1日(24時間以内)の飲み忘れがあった場合、気付いた時点で直ちに飲み忘れた錠剤を服用し、その日の錠剤も通常どおりに服用してください。6. 2日連続して飲み忘れた場合は、気付いた時点で直ちに飲み忘れた錠剤を1錠服用し、その日の錠剤も通常どおりに服用してください。7. 2日以上連続して飲み忘れた場合は妊娠する可能性が高くなるので、その周期は他の避妊法を使用し、必要に応じて医師に相談してください。<ここがポイント!>現在、日本で使用されている経口避妊薬の主流は、低用量エストロゲンとプロゲスチンを配合した混合型経口避妊薬(Combined Oral Contraceptives:COC)です。しかし、COCに含まれるエストロゲンには、静脈血栓塞栓症をはじめとする血栓症のリスクがあることが知られています。世界保健機関(WHO)のガイドラインでは、プロゲスチン単剤の経口避妊薬(Progestin-Only Pill:POP)は、COCと比較して静脈血栓塞栓症のリスクが低く、深部静脈血栓症や肺塞栓症の既往、喫煙者、肥満者、高血圧や弁膜症を有する患者などに対して推奨度が高い避妊薬とされています。本剤は、ドロスピレノン(DRSP)4mgを含有する国内初のPOPであり、排卵の抑制、子宮内膜の菲薄化、子宮頸管粘液の高粘稠による精子の侵入障害などにより避妊効果を発揮します。避妊を希望する日本人女性を対象とした国内第III相臨床試験(LF111/3-A試験)において、13周期投与期終了時の暴露周期(3,319周期)の間に1例が妊娠し、主要評価項目とされた全般パール指数※は0.3917(95%信頼区間[CI]:0.0099~2.1823)でした。95%CIの上限が閾値である4下回ったことから、本剤の有効性が検証されました。なお、妊娠例に関して、受胎推定日は未服薬期間内と判断されています。※パール指数(Pearl index):100人の女性がその避妊法を1年間(13周期)用いたときの妊娠数(対100女性年)日本で発売されているCOCは、血栓症に関連する既往歴や現病歴を有する患者は禁忌でしたが、本剤では禁忌に該当しません。本剤では禁忌に該当しない血栓症関連の疾患などは以下のとおりです。血栓性静脈炎、肺塞栓症、脳血管障害、冠動脈疾患またはその既往歴のある患者35歳以上で1日15本以上の喫煙者血栓症素因のある女性抗リン脂質抗体症候群の患者大手術の術前4週以内、術後2週以内、産後4週以内および長期間安静状態の患者脂質代謝異常のある患者高血圧のある患者(軽度の高血圧の患者を除く)

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長寿の村の細菌がうつ病や鼻炎に有効

長寿の村の細菌がうつ病や鼻炎に有効中国の長寿の村で見つかった細菌が、プラセボ対照無作為化試験でうつ病や鼻炎の治療効果を示しました1,2)。精神の不調の世界的な負担の主因であるうつ病と、便秘などの胃腸不調の関連が最近になって報告されています。たとえば、米国人口を代表する米国国民健康栄養調査 (NHANES)の情報を調べた試験で、慢性の下痢や便秘がうつ病患者でより多く認められています3)。うつ病患者495例の慢性の下痢と便秘の有病率はそれぞれ15.53%と9.10%で、うつ病でない4,709例のそれらの有病率(それぞれ6.05%と6.55%)より高いことが示されました。いくつかの報告によると、うつ病などの気分障害と胃腸不調の関連には腸-脳軸(gut-brain axis)と呼ばれる腸と中枢神経系(CNS)のやり取りが関係しているようです。また、胃腸の微生物が胃腸と脳の通信を促しており、その乱れはうつ病、自閉症、パーキンソン病などの神経や精神の疾患と関連するようです。そこで、ためになる細菌(プロバイオティクス)などで腸内微生物環境を手入れして精神不調を治療する試みが増えています。長寿で知られる中国南西部の村(巴馬)の1人の長寿老人(centenarian)の便から見つかったBifidobacterium animalis subsp. Lactis A6(BBA6)という細菌の研究はその1つで、BBA6が微生物-腸-脳軸を手入れして注意欠如・多動症を模すラットの海馬や記憶の障害を緩和しうることが北京農業大学のRan Wang氏らの研究で示されています4)。その後Wang氏らはBBA6の研究を臨床段階へと進め、うつ病、具体的には便秘でもあるうつ病患者へのBBA6の効き目を調べるプラセボ対照無作為化試験を実施しました。試験にはうつ病患者107例が参加し、便秘でもあるうつ病患者と便秘ではないうつ病患者がそれぞれ8週間のBBA6かプラセボを投与する群に割り振られました。BBA6投与の効果は便秘合併うつ病患者に限って認められました。それら便秘合併うつ病患者への8週間のBBA6投与後のハミルトンうつ病評価尺度(HAMD-17)はプラセボ投与群より低くて済んでいました1)。便秘症状の評価尺度PAC-SYMもBBA6投与群のほうがプラセボ群より下がりました。便秘とうつ病の合併を模すラットで調べたところ、BBA6はうつ病患者に有害らしいキヌレニンを減らしてセロトニンを増やすことが示されました5)。便秘合併うつ病患者のBBA6投与後の血液や便にはセロトニンが多く、キヌレニンが少ないことも確認されており、ラットでの検討と一致する結果が得られています。また、BBA6が投与された便秘合併うつ病患者は先立つ研究でうつ病治療効果やセロトニン生成促進効果が示唆されているビフィドバクテリウムとラクトバチルスがより多く、トリプトファン生合成経路が盛んでした。どうやらBBA6はセロトニンやキヌレニンの出所であるトリプトファン代謝を手入れすることで便秘とうつ病の合併を緩和するようです。さて、BBA6が役立ちうる用途はうつ病治療に限られるわけではなさそうで、Wang氏らによる別のプラセボ対照無作為化試験では、アレルギー性鼻炎の治療効果が示されています2)。試験には通年性アレルギー性鼻炎患者70例が参加し、うつ病試験と同様にBBA6かプラセボが8週間投与され、ベースライン時と比べた8週時点の鼻症状検査点数低下の比較でBBA6がプラセボに勝りました。Wang氏らは便秘とうつ病の合併への長期の効果を調べる試験を予定しています5)。また、アレルギー性鼻炎治療効果のさらなる裏付け試験が必要と述べています2)。 参考 1) Wang J,et al. Sci Bull(Beijing). 2025 Apr 21. [Epub ahead of print] 2) Wang L, et al. Clin Transl Allergy. 2025;15:e70064. 3) Ballou S, et al. Clin Gastroenterol Hepatol. 2019;17:2696-2703. 4) Yin X, et al. Food Funct. 2024;15:2668-2678. 5) Probiotic breakthrough: Bifidobacterium animalis subsp. Lactis A6 shows promise in alleviating comorbid constipation and depression / Eurekalert

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肥満者の体重減少、チルゼパチドvs.セマグルチド/NEJM

 非糖尿病の肥満成人において、チルゼパチドはセマグルチドと比較して72週時の体重および胴囲の減少に関して優れていることが、米国・Weill Cornell MedicineのLouis J. Aronne氏らSURMOUNT-5 Trial Investigatorsによる第IIIb相無作為化非盲検並行群間比較試験「SURMOUNT-5試験」の結果で示された。チルゼパチドおよびセマグルチドは、肥満の管理に非常に有効な薬剤である。肥満であるが2型糖尿病は有していない成人において、チルゼパチドとセマグルチドの有効性および安全性を直接比較した臨床試験はこれまでなかった。NEJM誌オンライン版2025年5月11日号掲載の報告。ベースラインから72週時までの体重の変化率を比較 SURMOUNT-5試験は、米国およびプエルトリコの32施設で実施された。対象は、BMI値30以上、またはBMI値27以上かつ肥満関連合併症(高血圧症、脂質異常症、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、心血管疾患)を1つ以上有する18歳以上の成人で、糖尿病と診断されている患者、肥満に対する外科手術の既往または予定のある患者などは除外した。 適格患者をチルゼパチド(10mgまたは15mg)群またはセマグルチド(1.7mgまたは2.4mg)群に1対1の割合で無作為に割り付け、それぞれ週1回72週間皮下投与した。 主要エンドポイントは、ベースラインから72週時までの体重の変化率とした。重要な副次エンドポイントは、ベースラインから72週時までの体重減少が少なくとも10%、15%、20%および25%以上の患者の割合、および胴囲の変化量などとした。体重減少率20.2%vs.13.7%、体重減少25%以上の患者割合31.6%vs.16.1% 2023年4月21日~2024年11月13日に、適格性を評価した948例のうち751例が無作為化され、そのうち750例が少なくとも1回の治験薬投与を受けた。 72週時の体重変化率の最小二乗平均値は、チルゼパチド群-20.2%(95%信頼区間[CI]:-21.4~-19.1)、セマグルチド群-13.7%(-14.9~-12.6)であり、体重に関してチルゼパチドのセマグルチドに対する優越性が示された(推定治療差:-6.5%ポイント、95%CI:-8.1~-4.9、p<0.001)。 72週時の体重がベースラインから少なくとも10%、15%、20%および25%以上減少した患者の割合は、チルゼパチド群がそれぞれ81.6%、64.6%、48.4%、31.6%、セマグルチド群が60.5%、40.1%、27.3%、16.1%であった。 72週時の胴囲の変化量の最小二乗平均値は、チルゼパチド群で-18.4cm(95%CI:-19.6~-17.2)、セマグルチド群で-13.0cm(-14.3~-11.7)であった(p<0.001)。 有害事象は、チルゼパチド群で76.7%、セマグルチド群で79.0%の患者で報告され、両群における主な有害事象は胃腸障害(悪心、便秘、下痢など)であった。重篤な有害事象はそれぞれ4.8%、3.5%に認められた。

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チルゼパチド72週の投与で体重が5%以上減少/リリー・田辺三菱

 日本イーライリリーと田辺三菱製薬は、4月11日に発売された持続性GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチド(商品名:ゼップバウンド[皮下注アテオス])について、プレスセミナーを開催した。プレスセミナーでは、肥満症の基礎情報や肥満症の要因、社会的課題とともに、チルゼパチドの臨床試験であるSURMOUNT-J試験の概要が説明された。肥満症治療は薬物治療・外科治療という新しいアプローチに 「複合的な要因からなる慢性疾患『肥満症』のアンメットニーズ」をテーマに、脇 裕典氏(秋田大学大学院医学系研究科 代謝・内分泌内科学講座 教授)が、肥満症の病態や関係する諸課題について説明した。 過体重およびBMI25以上の肥満者は、全世界で約25億人、わが国では約2,800万人と推計され、成人男性のとくに40~50代で割合が高く、最近では小児の肥満も増加している。 肥満の問題としては、BMI30以上40未満の人では、BMI23以上25未満を基準(ハザード比=1)としたときの全死因の死亡リスクが男性1.36および女性1.37という男女別のコホート研究もある1)。また、肥満はメタボリックドミノの上流に位置し、将来的に慢性腎臓病や糖尿病など重大な健康障害を来すとされている。 肥満および肥満症の要因としては、遺伝的、生理的、環境などさまざまな要因が複合的に関与しているにもかかわらず「自己管理の問題」と考えられがちで、肥満・肥満症のある人は、職場や教育現場のみならず、医療現場においても「スティグマ(偏見や差別)」に直面することがある。また、肥満者自身が自分自身の責任と考えてしまう「セルフ・スティグマ」も指摘されている。 肥満症の定義は、肥満(BMIが25以上)かつ、(1)肥満による耐糖能異常、脂質異常症、高血圧などの11種の健康障害(合併症)が1つ以上ある、または(2)健康障害を起こしやすい内臓脂肪蓄積がある場合に肥満症と診断される。わが国の肥満症の特徴として内臓脂肪蓄積型の肥満が多く、BMIが高値でなくても肥満関連健康障害を伴いやすいという。 肥満症治療の目的は、「減量により健康障害・健康障害リスクを改善し、QOLの改善につなげること」であり、治療では、減量目標を設定し、食事・運動・行動療法を行ったうえで3~6ヵ月を目安に各治療成果を評価する。そして、減量目標が未達成の場合に肥満症治療食の強化や薬物療法、外科療法の導入を考慮するとガイドラインでは明記されている。 ただ、課題としてLook AHEAD研究から集中的な生活習慣介入で短期的に減量しても、長期的に減量した体重を維持できたのは半数未満で、元の体重より増加した例も認められたことから、生活習慣の改善のみで減量した体重を維持するのは困難であることが示唆されている2)。 これは、食欲抑制作用の低下により、満腹感が低下した結果、食欲が亢進すること、基礎代謝が低下し、エネルギー消費量が減少することが指摘され、生活習慣への介入だけでは不十分な可能性もある。 最後にまとめとして、脇氏は「肥満症治療の目標は、減量ではなく、肥満に関連する健康障害の改善とそのリスクの低減であり、QOLの改善である。新たな治療選択肢の登場によって肥満症治療はアプローチや支援を見直すときを迎えている」と従来の治療介入だけではない肥満症治療の選択肢を語り、説明を終えた。72週時点のチルゼパチド投与群は体重が5%以上減少 「第III相臨床試験結果からみる持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「ゼップバウンド」登場の肥満症市場における意義」をテーマに門脇 孝氏(虎の門病院 院長)が、持続性GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドの特徴、作用機序、SURMOUNT-J試験の概要について説明を行った。 チルゼパチドは、2024年12月27日に国内製造販売承認を取得し、2025年4月11日に発売された。対象者は、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られないBMI27以上で2つ以上の肥満に関連する健康障害(高血圧、脂質異常症など)を有する者またはBMI35以上の者。 用法・用量について成人では、週1回10mgを維持用量とし、皮下注射する。ただし、週1回2.5mgから開始し、4週間の間隔で2.5mgずつ増量し、週1回10mgに増量する。なお、患者の状態に応じて適宜増減するが、週1回10mgで効果不十分な場合は、4週間以上の間隔で2.5mgずつ増量できる。ただし、最大用量は週1回15mgまでとなっている。 この作用機序は、中枢神経系における食欲調節と脂肪細胞における脂質などの代謝亢進により、体重減少作用を示すとされている。 今回の適応承認のために行われたSURMOUNT-J試験は、2型糖尿病を有しない日本人肥満症患者を対象としたプラセボ対照、二重盲検比較試験。主要評価項目は投与72週時点のベースラインからの体重減少であり、チルゼパチド10mg/15mgを週1回投与したときのプラセボ投与に対する優越性を検討した。 対象者は、BMIが27以上35未満で2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する患者、またはBMIが35以上で1つ以上の肥満に関連する健康障害を有する患者225例。 その結果、主要評価項目である体重ベースラインから投与72週時までの変化率および投与72週時点の体重について5%以上減少していた患者の割合は、チルゼパチド10mg群および15mg群において、プラセボ群に対し優越性が検証された。投与後72週時の体重のベースラインからの平均変化率は、プラセボ群1.7%減(n=75)に対して、チルゼパチド10mg群17.8%減(n=73)、15mg群22.7%減(n=77)だった。 副次評価項目である投与72週時点の体重が7%以上、10%以上、15%以上、または20%以上減少した患者の割合は、いずれのチルゼパチド群でもプラセボ群と比較し、有意に高かった。 また、ベースラインから投与72週時点のBMIの変化量では、チルゼパチド10mg群では-5.8、15mg群では-7.7、プラセボ群では-0.6だった。そのほか、“Impact of Weight on Quality of Life-Lite Clinical Trials Version”(肥満に関連する生活の質を評価するために開発された20項目)では、チルゼパチド10mg群、15mg群のいずれもプラセボ群と比較し、改善していた。 安全性に関しては、ほかのGLP-1受容体作動薬と同様に、便秘、発熱、悪心、下痢、嘔吐、食欲減退など、主な有害事象は消化器系の症状であった。試験中に確認されたすべての有害事象の割合は、プラセボ群69.3%(n=75)に対し、チルゼパチド10mg群83.6%(n=73)、15mg群85.7%(n=77)であり、死亡などの重篤なものは報告されなかった。

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肝線維化を有するMASH、週1回セマグルチドが有効/NEJM

 中等度または重度の肝線維化を有する代謝機能障害関連脂肪肝炎(metabolic dysfunction-associated steatohepatitis:MASH)の治療において、プラセボと比較してGLP-1受容体作動薬セマグルチドの週1回投与は、肝臓の組織学的アウトカムを改善するとともに、有意な体重減少をもたらすことが、米国・Virginia Commonwealth University School of MedicineのArun J. Sanyal氏らが実施したESSENCE試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年4月30日号で報告された。37ヵ国の無作為化プラセボ対照第III相試験 ESSENCE試験は、中等度~重度の肝線維化を有するMASHの治療におけるセマグルチドの有効性と安全性の評価を目的とする進行中の二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2021年5月~2023年4月に日本を含む37ヵ国253施設で患者を登録した(Novo Nordiskの助成を受けた)。今回は、最初の800例に関する中間解析の結果を公表した。 年齢18歳以上、生検で確定したMASHで、ステージF2またはF3の肝線維化を有する患者を、セマグルチド(2.4mg)を週1回皮下投与する群またはプラセボ群に、2対1の割合で無作為に割り付けた。投与期間は240週とし、この中間解析は72週目に行った。 主要エンドポイントは、肝線維化の悪化を伴わない脂肪肝炎の消失、および脂肪肝炎の悪化を伴わない肝線維化の改善とした。脂肪肝炎の消失、肝線維化の改善とも有意に優れた セマグルチド群に534例、プラセボ群に266例を割り付けた。全体の平均(±SD)年齢は56.0(±11.6)歳で、女性が57.1%、白人が67.5%であった。平均BMIは34.6(±7.2)で、2型糖尿病患者が55.9%含まれた。肝線維化はステージF2が31.3%、ステージF3が68.8%だった。 72週の時点で、肝線維化の悪化を伴わない脂肪肝炎の消失の割合は、プラセボ群が34.3%であったのに対し、セマグルチド群は62.9%と有意に高かった(推定群間差:28.7%ポイント[95%信頼区間[CI]:21.1~36.2]、p<0.001)。 また、脂肪肝炎の悪化を伴わない肝線維化の改善を示した患者の割合は、プラセボ群の22.4%に比べ、セマグルチド群は36.8%であり有意に良好だった(推定群間差:14.4%ポイント[95%CI:7.5~21.3]、p<0.001)。消化器系有害事象の頻度が高い 副次エンドポイントの解析では、体重の変化量(セマグルチド群-10.5%vs.プラセボ群-2.0%、推定群間差:-8.5%ポイント[95%CI:-9.6~-7.4]、p<0.001)、および脂肪肝炎の消失と肝線維化の改善の両方を達成した患者の割合(32.7%vs.16.1%、16.5%ポイント[10.2~22.8]、p<0.001)が、セマグルチド群で有意に優れた。 一方、36-Item Short Form Health Survey(SF-36)の体の痛み(bodily pain)のベースラインから72週目までの平均変化量(0.9 vs.-0.5、推定群間差:1.3%ポイント[95%CI:0.0~2.7]、p=0.05)は、セマグルチド群で痛みの程度が低い傾向がみられたが、統計学的に有意な差を認めなかった(事前に、p<0.0045を満たす場合に有意差ありと判定することと定めたため)。 重篤な有害事象は、セマグルチド群で13.4%、プラセボ群でも13.4%に発現した。試験中止に至った有害事象は、それぞれ2.6%および3.3%に認めた。最も頻度の高い有害事象は両群とも消化器系のもので、悪心(36.2%vs.13.2%)、下痢(26.9%vs.12.2%)、便秘(22.2%vs.8.4%)、嘔吐(18.6%vs.5.6%)がセマグルチド群で多かった。 著者は、「MASHの生物学的特性に基づくと、脂肪肝炎が消失すると肝線維化が抑制されると予測され、線維化のステージが高いことは不良なアウトカムと関連するため、ステージの低下はとくに重要と考えられる」「本試験の知見と先行研究の結果を統合すると、ステージF2またはF3の肝線維化を有するMASHの治療におけるセマグルチドの有益性が支持される」「セマグルチドは肝硬変患者にも安全に使用できるが、肝硬変における有効性は確立していないため、MASH患者では肝硬変のスクリーニングを行って、それに応じた治療を行うことが重要である」としている。

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統合失調症の新たなアプローチとなるか? ムスカリン受容体作動薬KarXTのRCTメタ解析

 統合失調症は、陽性症状、陰性症状、認知関連症状を特徴とする複雑な精神疾患である。xanomelineとtrospiumを配合したKarXTは、ムスカリン受容体を標的とし、ドパミン受容体の遮断を回避することで、統合失調症治療に潜在的な有効性をもたらす薬剤である。エジプト・ Assiut UniversityのHazem E. Mohammed氏らは、KarXTの有効性および安全性を評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。BMC Psychiatry誌2025年3月31日号の報告。 2024年10月までに公表されたランダム化比較試験(RCT)をPubMed、Scopus、Web of Science、Cochraneデータベースより、システマティックに検索した。KarXTによる治療を行った成人統合失調症患者を対象としたRCTを分析に含めた。エビデンスの質の評価はGRADEフレームワーク、バイアスリスクはCochrane Risk of Bias 2.0ツールを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・4つのRCT、690例をメタ解析に含めた。・KarXTは、プラセボと比較し、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の合計スコアの有意な低下(平均差:−13.77、95%信頼区間[CI]:−22.33〜−5.20、p=0.002)、陽性症状および陰性症状のサブスケールスコアの有意な改善を示した。・PANSSスコアの30%以上低下の割合も有意な増加が認められた(リスク比:2.15、95%CI:1.64〜2.84、p<0.00001)。・さらに、KarXTは良好な安全性プロファイルを有しており、嘔吐や便秘などの副作用は、軽度かつ一過性であった。・注目すべきことに、KarXTは、従来の抗精神病薬で頻繁に認められる体重増加や錐体外路症状との有意な関連が認められなかった。 著者らは「KarXTの独特な作用機序および忍容性は、統合失調症治療における満たされていないニーズを解決する可能性を示唆している。今後の研究において、KarXTの長期的有効性、遅発性の副作用、既存治療との有効性比較を検討していく必要がある」と結論付けている。

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患者ナビゲーション導入でリスクを有する患者の大腸内視鏡検査受診率がアップ

 患者に対する個別サポートが、大腸がんリスクを有する患者の大腸内視鏡検査受診率を高めるのに役立つことが新たな研究で示唆された。免疫学的便潜血検査(FIT検査)によるスクリーニングで大腸がんリスクが判明した後に大腸内視鏡検査を受けた人の割合は、患者ナビゲーターが割り当てられた人の方が、単に検査結果を知らされただけの人よりも高かったという。米アリゾナ大学がんセンター人口科学副所長のGloria Coronado氏らによるこの研究結果は、「Annals of Internal Medicine」に4月1日掲載された。 患者ナビゲーションとは、米国の複雑な医療制度の中で患者が円滑かつ適切に医療を受けられるように支援する制度のことであり、その役割を担う人は患者ナビゲーターと呼ばれる。米疾病対策センター(CDC)による地域予防サービスガイド(Guide to Community Preventive Services)では、患者ナビゲーションの導入が推奨されている。しかし、患者ナビゲーションが、大腸がんリスクを有する人における大腸内視鏡検査の受診率向上に寄与しているのかどうかは不明である。 大腸がん検診では、毎年のFIT検査か、10年ごとの大腸内視鏡検査を選択することができる。大腸内視鏡検査は侵襲的な検査であり、準備として強力な下剤を服用する必要があるため、多くの人がFIT検査を選択する。しかし、便の中に血液やがんの遺伝物質が見つかった場合には、ただちに大腸内視鏡検査を受ける必要がある。Coronado氏は、患者がフォローアップの大腸内視鏡検査を遅らせた場合、大腸がんで死亡するリスクが7倍高くなると指摘する。Coronado氏は、「FIT検査で異常が確認された患者は、大腸がんの発症リスクやがんが進行してから発見されるリスクが高まる。そのため、できるだけ早く大腸内視鏡検査を受けることが重要だ」と話す。 Coronado氏らは今回、FIT検査の結果が陽性だった患者を対象に、患者ナビゲーターを割り当てることで大腸内視鏡検査の受診率が向上するのかを調査した。対象として、米ワシントン州西部で32カ所のクリニックを運営する連邦政府認定医療センターであるシーマーコミュニティーヘルスセンターの50〜75歳の患者985人が登録された。対象者は、患者ナビゲーターを割り当てられる群(患者ナビゲーション群)と、検査結果だけを知らされる通常ケア群にランダムに割り付けられた。 患者ナビゲーターは、FIT検査で陽性と判定された患者が大腸内視鏡検査を受けるようにするために、平日の午前8時から午後6時の間に最大で6回、患者に連絡を取ることを試みた。12回試みても連絡が取れなかった患者には、フォローアップの手紙を送付した。通常ケア群に対しては、最大2回の電話と大腸内視鏡検査の予約を促す手紙の送付という従来の方法が取られた。 967人を対象にITT解析が行われた(患者ナビゲーション群479人、通常ケア群488人)。このうち、フォローアップの大腸内視鏡検査を受けた患者の割合は、患者ナビゲーション群で55.1%、通常ケア群で42.1%であり、患者ナビゲーション群の方が高かった(リスク差13.0%、95%信頼区間6.5〜19.4)。また、患者ナビゲーション群では、通常ケア群に比べて大腸内視鏡検査を受けるまでの期間も平均27日短縮された。 こうした結果を受けてCoronado氏は、「本研究により、患者ナビゲーターがFIT検査で異常が認められた患者を支援することでフォローアップの大腸内視鏡検査の受診率が向上し、検査を受けるまでの時間も短縮されることが明らかになった。このプロセスを通じてのガイダンスにより、がんが早期発見され、患者の生存率が向上する可能性がある」と述べている。また同氏は、「患者ナビゲーションを標準化することで、クリニックは患者に検査結果を通知し、大腸内視鏡検査の重要性を理解できるように支援する手順を確立できる」と話している。

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終末期の「身の置きどころのなさ」への対応【非専門医のための緩和ケアTips】第100回

終末期の「身の置きどころのなさ」への対応今回は記念すべき100回ですね。先日、これまでの連載を見返す機会があったのですが、いろんな話題を扱ってきたなあと感慨深かったです。ここまで続けてこられたのも、質問や感想を下さる読者の皆さまのおかげです。どうもありがとうございます。これからも緩和ケアの臨床に役立つ話題や、知っておくとより緩和ケアに興味が湧くことを発信してまいります。今回の質問お看取りが近い患者さん、身の置きどころがない様子で苦しそうで、家族も心配しています。入院を勧めることも考えるのですが、予後が短いことは確実なので、できれば最後まで自宅で過ごさせてあげたい気持ちもあり、悩んでいます。今回は100回記念らしい、緩和ケアの実践で非常に重要なご質問を頂きました。この「終末期の身の置きどころのなさ」は、緩和ケアの教科書では「Terminal restlessness」と表現されています。多くの場合、患者はせん妄のような意識障害の状態で、じっと横になっていられないような様子です。見るからに苦しそうで、話すことのできる患者さんなら「きつい、きつい」と言っている方を多く経験しました。ご家族が心配するのも当然です。こうした状況に対して、まずは介入可能な病態や症状を検討します。と言っても、多くの場合は原疾患が進行し、日単位で亡くなりそうな状況だからこそ生じている症状なので、原因を見つけて介入したら改善した、といった成功体験はありません。ただ、見逃すと申し訳ない点、具体的には不快な身体症状(痛み、呼吸困難など)の緩和は十分か、尿閉や便秘はないか、薬剤によるせん妄が生じていないか、を改めて確認します。可逆的な要因がないことを確認し、予後が日単位であれば、薬剤の投与を考えるのが現実的な対応策です。具体的にはベンゾジアゼピンと抗精神病薬との投与を検討します。ベンゾジアゼピン単剤だとせん妄を悪化させる可能性があるため、ハロペリドールなどの抗精神病薬を併用することが多いです。病状的に内服が難しいことが大半なので、皮下もしくは静脈注で投与します。この場合のベンゾジアゼピンは深い鎮静というよりも、少しうとうとさせることで身の置きどころのない症状を和らげることを企図したものです。具体的にはミダゾラムを調節型鎮静と同じように使用します。在宅だとすぐに注射薬が準備できない場合もあるかもしれません。その際はジアゼパムやブロマゼパムの坐薬で急場をしのぐことも検討します。ひとまず緊急避難的に症状を落ち着けたうえで、ご家族と丁寧な対話をするよう心掛けましょう。お看取りが近いことの共有や、ケアの目標についてこれまでを振り返りながら考えることも大切です。身の置きどころのなさは「緩和ケア的緊急事態」です。ぜひ、対応法を復習してみてください。今回のTips今回のTips終末期の身の置きどころのなさは「緩和ケア的緊急事態」。適切に症状を緩和し、本人・家族とコミュニケーションを図りましょう。

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第261回 ほぼほぼ生き残り確定の零売薬局(後編) 憲法違反の指摘や「処方箋医薬品以外はOTC医薬品とするシンプルな制度」導入の提案など零売規制への反対相次ぐ

衆議院厚生委員会の附帯決議で法律の方針が180度転換こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。前回、久しぶりに零売について書いたので、以前利用した零売薬局を久しぶりに訪れてみました(「第127回 アマゾン処方薬ネット販売と零売薬局、デジタルとアナログ、その落差と共通点(後編)」参照)。以前と同様、腰痛用にロコアテープを購入、ついでに「零売薬局が規制でなくなる、と聞いたのですが?」と店頭の薬剤師(女性)に聞いてみました。すると、「そういう話は我々も聞いていますが、法律やルールに則ってやっていますので、なくならないと思います。実際、ニーズも高く都内の店舗もここ数年で増やしていますし」との答え。国会での細かな議論については知らないようでしたが、最前線の薬剤師に規制への危機感は感じられませんでした。さて、厚生労働省が今回の薬機法等改正法案で「原則禁止」にしようと目論んでいた零売が、衆議院厚生委員会において「セルフメディケーション推進の政策方針に逆行することがないよう」「国民の医薬品へのアクセスを阻害しないよう」といった附帯決議が採択されたことで法律の方針が180度転換、生き残りに向けて光が見えてきました。その背景にはいったい何があったのでしょうか。「法改正が将来にわたり違憲のそしりを受けないか慎重に審議すべき」と立民議員まず考えられるのは「憲法違反」の可能性です。前回書いたように、今年1月、零売規制が薬剤師の権利を侵害するなどとして、薬剤師らが国を相手取り訴訟を起こしました。原告の薬剤師の一人は記者会見で、裁判で「これまで国から出された通知には法的根拠がないことの確認を求める。さらに、零売の規制は憲法上の『職業選択の自由』や『表現の自由』を侵害し、国民の医薬品アクセスも阻害するものと主張」するとしていました。担当弁護士も「当該改正法が憲法違反に該当すると考える余地がある」と説明しました。また、4月11日付の薬事日報によれば、4月9日の衆院厚労委員会において立憲民主党の早稲田 夕季議員は、零売は「緊急時の手段として非常に有益で、法制化してまで対処する必要があるのか疑問」と訴えるとともに、零売に関する行政訴訟を5月に控えていることを踏まえ、「法改正が将来にわたり違憲のそしりを受けないか慎重に審議すべき」と話したそうです。こうした意見に対して、福岡 資麿厚生労働相は「緊急時等のやむを得ない場合に薬剤師と相談した上で、必要最小量の数量を販売する本来の趣旨に則って経営している薬局はこれまで通り継続できる。必要最小限かつ合理的な規制措置で行っていきたい」、「施行に向けて関係者の意見を聞きながら、省令やガイドライン等の策定により周知を図りたい」、「零売は国民の緊急時に医薬品へのアクセスを確保するために必要な制度だ。改正法が成立した際にはこの考えのもとで運用し、求められる対応も分かりやすい形で示したい」などと答えたとのことです。法案提出時の「原則禁止」の“勢い”が完全に削がれた答弁と言えます。うがった見方をすれば、法案提出後に内閣法制局に再確認して、「憲法違反」の可能性を指摘されたのかもしれません。厚労省が処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売、いわゆる零売を公式に認めたのは2005年厚労省が処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売、いわゆる零売を公式に認めたのは、2005年とそんなに昔のことではありません。それ以前は法令上での明確な規定がなく、一部薬局では医療用医薬品の販売がごく普通に行われていました。零売を容認するきっかけとなったのが2005年4月の薬事法改正です。医薬品分類を現在の分類に刷新するとともに「処方箋医薬品以外」の医療用医薬品の薬局での販売を条件付きで認める通知を発出しました。同年3月30日の厚労省から発出された「処方せん医薬品等の取扱いについて」(薬食発第0330016号 厚生労働省医薬食品局長通知)は、「処方せん医薬品以外の医療用医薬品」は、「処方せんに基づく薬剤の交付を原則」とするものであるが、「一般用医薬品」の販売による対応を考慮したにもかかわらず、「やむを得ず販売せざるを得ない場合などにおいては、必要な受診勧奨を行った上で」、薬剤師が患者に対面販売できるとしました。零売に当たっては、1)必要最小限の数量に限定、2)調剤室での保管と分割、3)販売記録の作成、4)薬歴管理の実施、5)薬剤師による対面販売――の順守も求められることになりました。2005年4月施行の薬事法改正は、処方箋医薬品の零売を防ぐことも目的の一つでした。それまでの「要指示医薬品」と、全ての注射剤、麻薬、向精神薬など、医療用医薬の約半分以上が新たに「処方箋医薬品」に分類されたわけですが、逆に使用経験が豊富だったり副作用リスクが少なかったりなど、比較的安全性が高い残りの医薬品が「処方箋医薬品以外の医薬品」(ただし原則処方箋必要)に分類され、零売可能となったわけです。現在、日本で使われる医療用医薬品は約1万5,000種類あり、このうち半分の約7,500種類は処方箋なしでの零売が認められています。鎮痛剤、抗アレルギー薬、胃腸薬、便秘薬、ステロイド塗布剤、水虫薬など、コモンディジーズの薬剤が中心で、抗生剤や注射剤はありません。また、比較的新しい、薬効が強めの薬剤も含まれません(H2ブロッカーはあるがPPIはない等)。その後、通知によって不適切な広告・販売等で零売を行う薬局を牽制2005年の通知の内容は2014年3月18日に厚労省から発出された「薬局医薬品の取扱いについて」(薬食発0318第4号 厚生労働省医薬食品局長通知)に引き継がれました。しかし、本通知の趣旨を逸脱した不適切な広告・販売方法が散見されるとして、2022年8月5日、「処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について」(薬生発0805第23号 厚生労働省医薬・生活衛生局長通知)が発出され、「処方箋がなくても買える」、「病院や診療所に行かなくても買える」といった不適切な広告・販売方法等で零売を行う薬局を問題視、牽制してきました。その延長線にあるのが今回の薬機法等改正案というわけです。とはいうものの、そもそも明確な法規制がなく、昔から“既得権”として行われ、薬の販売方法として一定の役割を担っていた零売を、原則禁止としてしまうのは無理があるように感じます。厚労省もそのことは重々わかっていたからこそ、これまで法律ではなく通知による“緩い”コントロールに留めてきたのでしょう。重大な健康被害があったわけでもないのに、法規制は明らかに“行き過ぎ”の感は否めません。今年に入って零売規制への批判高まる零売生き残りの光が見えてきたもう一つの背景として考えられるのは、マスコミなど世間からの批判の声です。薬機法等改正案が国会に提出される直前の2月5日、日本総研は調査部主任研究員の成瀬 道紀氏によるレポート「零売規制の妥当性を問う」を公表しました。同レポートは、「零売は、病院や診療所を受診せずとも処方箋医薬品以外の医療用医薬品を入手でき、患者にとって利点がある。とりわけ、処方箋医薬品以外の医療用医薬品は、OTC医薬品(市販薬)よりも費用対効果が高い製品が多い」とそのメリットを説く一方、「零売は販売時に医師の関与がないため、薬剤師による患者指導が不十分な場合は、患者の健康に悪影響を与え得る懸念が指摘されている」と問題点にも言及、その上で、「今求められるのは、第1に、薬剤師の職能の尊重である。もちろん、薬剤師自身が自己変革に取り組む努力も不可欠である。第2に、医療用医薬品というわが国特有の区分を廃止してダブルスタンダードを解消し、処方箋医薬品以外の医薬品はOTC医薬品として薬局で薬剤師が堂々と販売できるようにすることである」と提言しました。ちなみに、日本総研の成瀬氏は3月13日に開かれた参議院予算委員会公聴会に公述人として出席、「零売の原則禁止は改正案から削除すべき項目であり、改正すべきは関連通知」と述べています。「零売という言葉は明治時代には存在し、当時は薬局間での薬の売買の方法だった」3月17日付の日本経済新聞朝刊も、「自分の病は自分でも診よう」と題する大林 尚編集委員の記事を掲載、処方箋医薬品以外の医療用医薬品(いわゆる現在、零売可能な医薬品)について、「7千種類の類似薬は原則、処方箋不要にしてOTC薬にひっくるめる」という成瀬氏の改革案を紹介しています。それによって、「患者は安くて効き目のよい薬を身近に入手できる。これは、類似薬を健康保険の適用から外す保険制度改革と表裏の関係にある。最大の効用は年間1兆円の保険医療費の節約だ。医師はその資格にふさわしい病の治療に専念し、患者は処方箋目的の『お薬受診』をやめる。医療機関に入る初診・再診料や処方箋料、また調剤薬局に取られる技術料のムダも省ける」と書くとともに、「ところが厚労省は供給側重視を鮮明にしている。類似薬に処方箋を求める規制について行政指導から法で縛る制度への格上げをもくろみ、今国会に関連法案を出した。与野党を問わず、政治家がこの規制強化の不合理さを主体的に理解すれば法案修正は可能である。硬い岩盤をうがつべく、立法府の力をみせてほしい」と、零売規制が時代に逆行した政策だと指摘しています。さらにAERA DIGITALも3月20日、「『零売薬局』なら処方箋ナシで『病院の薬』が買える ニーズがあるのになぜ『規制強化』が進むのか」と題する記事を配信しています。同記事は零売が規制強化に向かう現状をリポートするとともに、「零売という言葉は明治時代には存在し、当時は薬局間での薬の売買の方法だった」という歴史についても言及、金城学院大薬学部の大嶋 耐之教授の「昔の薬剤師は、街のお医者さん的な存在で、薬だけではなく病気や健康に関するさまざまな相談を聞いてアドバイスをしてくれた。利用者のセルフメディケーション(自分自身の健康に責任を持ち、軽度な不調は自分で手当てすること)にも貢献していたんです。そうした関係が成り立っているなら、零売は『患者にとって良いこと』とも言えると思います」というコメントを紹介、「規制強化の動きの一方で、零売のメリットを訴える声もある。▽医療費削減につながる▽病院で処方される薬より安い場合があり、経済的負担が軽減する▽どうしても医療機関に行けないときに助けてもらえる、など」と零売擁護を訴えています。日本総研は「処方箋医薬品以外はOTC医薬品とするシンプルな制度」を提案こう見てくると、零売規制は、単に「薬局に処方箋医薬品以外の医療用医薬品を売らせるかどうか」という単純な問題ではなく、医師や薬剤師の役割分担、国民のセルフメディケーションの意識改革、無駄な医療費削減等にも関わる大きな問題だということがわかります。ことは、OTC類似薬の保険適用外しとも関連してきます。前述したように日本総研の成瀬氏は、レポート「零売規制の妥当性を問う」で医療用医薬品という日本特有の区分を廃止し、処方箋医薬品以外はOTC医薬品とする諸外国と同様のシンプルな制度とすることを提案、「医療用医薬品という区分が廃止され、ダブルスタンダードが解消されれば、零売という概念そのものがなくなる」と書いています。もっとも、それが実現した時に重要な役割を担うはずの薬剤師の団体、日本薬剤師会自体は薬機法等改正法案に賛成し、零売にも否定的で弱腰な点が気になりますが……。「処方箋医薬品以外はOTC医薬品とするシンプルな制度」は一見大胆なようですが、とても理にかなった提案だと思います。薬機法等改正案成立後の政省令や通知類、そして社会保障改革に関する自民党、公明党、日本維新の会の3党協議で検討が進められるOTC類似薬の保険外しなど(「第253回 石破首相・高額療養費に対する答弁大炎上で、制度見直しの“見直し”検討へ……。いよいよ始まる医療費大削減に向けたロシアン・ルーレット」参照)、医薬品を巡る今後の議論の行方に注目したいと思います。

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事例022 モビコール配合内用剤の査定【斬らレセプト シーズン4】

解説処方箋にて投与したマクロゴール4000、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化カリウム(商品名:モビコール)配合内用剤HD(以下「同剤」と略す)が、「突合点検結果連絡書」にてB事由(医学的に過剰・重複と認められるものをさす)が適用されて査定になりました。審査結果の理由などには、過剰と判断されたのは調剤薬局のコメントに基づくものと記載されていました。同剤は年齢に応じて投与量が異なるため、年齢区分に気を付けて添付文書を調べてみると投与量は添付文書の範囲内でした。審査結果の理由などをよく確認すると、調剤薬局コメントに「夕食後1回」と記載されていたことが確認できました。医師に確認すると、服用方法を1日3回に変更したが、処方箋入力時の誤りに気付かなかったとのことでした。同剤の1日量としては添付文書の範囲内ですが、1回量としては過剰になっていたのです。調剤薬局のコメントという思わぬところから過剰であると判断されて査定となったものと推測します。既存の処方入力システムでは、添付文書の用法用量を超える場合にはアラートが表示される仕様になっていましたが、服用方法までチェックできていませんでした。処方入力システムには服用量と方法の組み合わせにより過剰処方になりかねない院内採用薬剤に対して、警告を表示させるよう改修しました。医師には、医学的に必要がある場合には、その旨のコメント入力をいただくことをお願いして査定対策としました。

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フェリチン値から必要のない鉄剤を見極めて中止を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第66回

 鉄欠乏性貧血の治療において、「いつまで鉄剤を続けるべきか」「どのような投与方法が最適か」というのは薬剤師による処方提案の重要なポイントです。今回の症例では、高齢患者さんの鉄剤服用の必要性を血液検査データから見極め、さらに適切な投与スケジュールについて最新の英国ガイドラインを参考に提案しました。とくに注目すべきは、鉄剤投与後のヘプシジン上昇が次の鉄吸収を阻害するメカニズムに基づいた「1日1回投与」や「隔日投与」の有効性です。新しい知見では、従来の「分2投与」から「隔日投与」へ変更することで、患者さんの服薬負担を減らしながらも同等かそれ以上の治療効果が期待できることが示されています。貧血が改善し、フェリチン値が十分な状態であれば、鉄剤の中止も視野に入れることができます。患者情報95歳、女性(外来患者)ADL自立、要介護1、デイサービスなど利用なし身長:145cm、体重:40kg基礎疾患高血圧、鉄欠乏性貧血、低カリウム血症服薬管理通院時は娘と来局、自己管理可能処方内容1.アムロジピンOD錠2.5mg 1錠 分1 朝食後2.エチゾラム0.5mg 1錠 分1 就寝前3.クエン酸第一鉄錠50mg 2錠 分2 朝夕食後4.アスパラカリウム錠 1錠 分1 朝食後処方提案までの経過この患者さんは、鉄欠乏性貧血に対してクエン酸第一鉄を服用中でしたが、「薬の粒が大きく服薬が困難」との相談があり、評価を実施しました。お薬手帳から少なくとも半年以上の鉄剤服用が確認できましたが、客観的な血液検査値による貧血状態は不明でした。検査データを確認したところ、以下の結果が得られました。<介入当初の採血結果>ヘモグロビン:12.8mg/dL(正常範囲内)平均赤血球容積:97.5(正常範囲内)フェリチン:203.5ng/mL(十分量の鉄貯蔵を示す)血清鉄:71μg/mL(正常範囲内)総鉄結合能:277(正常範囲内)これらの検査結果から、患者さんの鉄欠乏性貧血は改善し、貯蔵鉄も十分蓄積されていることが明らかになりました。なお、消化器症状(嘔気や便秘悪化)などの鉄剤による副作用はありませんでした。鉄剤の服用方法について調査したところ、英国消化器学会のガイドラインでは、分2投与より分1投与が推奨され、隔日投与も許容されていることも確認しました1)。鉄投与後にヘプシジンが上昇し、約24時間鉄吸収が低下するため、1日1回投与や隔日投与のほうが吸収効率が高いという新たな知見に基づく推奨です。処方提案とその後の経過服薬情報提供書を用いて、医師に以下の内容を提案しました。1.検査結果に基づく客観的評価フェリチン値が203.5ng/mLと鉄貯蔵が十分であるヘモグロビン値も12.8mg/dLと正常範囲内である2.服薬アドヒアランスの問題粒子径が大きく服用困難である患者の服薬負担軽減の必要性がある3.提案内容鉄欠乏性貧血の改善が認められるため、鉄剤の服用を中止または隔日投与に変更することで、服薬回数を減らして負担を軽減医師の診察で、提案内容と検査結果を踏まえ、フェリチン値も充足していることから鉄剤の服用継続の必要性がないと判断され、処方中止となりました。その後、患者さんからは動悸や息切れ、倦怠感などの貧血症状は報告されず、経過は良好です。服薬回数減少とともに服薬負担が軽減され、QOL向上に繋がりました。1)Snook J, et al. Gut. 2021;70:2030-2051.

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