サイト内検索

検索結果 合計:477件 表示位置:1 - 20

1.

乳がん周術期化学療法後に長期持続する有害事象、患者報告アウトカムで明らかに~日本の前向き研究

 乳がん周術期化学療法終了後、末梢神経障害、味覚異常、不眠、爪脱落が6ヵ月以上持続することが、患者報告アウトカム(PRO)に基づく質問票を用いた前向き観察研究で明らかになった。日本医科大学の藤井 孝明氏らがCancer Diagnosis & Prognosis誌2026年3月1日号で報告した。 本研究は、2016年1月~2023年3月に群馬大学でドセタキセル/シクロホスファミド療法(TC)またはアントラサイクリン系とタキサン系併用療法(A+T)による周術期化学療法を受けた手術可能な原発性乳がん患者を対象に、化学療法後の有害事象の長期経過を評価した。化学療法終了時および6ヵ月後に、本研究のために作成されたCTCAE準拠のPROに基づく質問票を用いて、悪心、嘔吐、口腔粘膜炎、便秘、下痢、味覚異常、不眠、末梢神経障害、爪脱落、脱毛について尋ねた。各有害事象の頻度および重症度についてレジメン間で比較し、経時的変化を分析した。 主な結果は以下のとおり。・計115例(年齢中央値:50歳)を評価した。・化学療法終了時点では、悪心、嘔吐、口腔粘膜炎、便秘、味覚異常、不眠、末梢神経障害、爪脱落が多かったが、6ヵ月後には消化器症状の頻度は減少していた。・いくつかの有害事象、とくに末梢神経障害、味覚異常、不眠、爪脱落は6ヵ月超持続した。末梢神経障害はGrade3の症状が持続し、爪脱落は6ヵ月時点で増加していることが確認された。・TC群と比較して、A+T群では末梢神経障害の持続期間が長かった。 著者らは「この結果は、化学療法中だけでなく化学療法終了後の数ヵ月間もモニタリングを行うことの重要性を強調している。PROに基づく質問票をフォローアップケアに組み込むことは支持療法の最適化のために重要な可能性がある」とまとめている。

2.

1日1回経口投与の片頭痛発作の発症抑制薬「アクイプタ錠60mg/30mg/10mg」【最新!DI情報】第59回

1日1回経口投与の片頭痛発作の発症抑制薬「アクイプタ錠60mg/30mg/10mg」今回は、経口CGRP受容体拮抗薬「アトゲパント水和物(商品名:アクイプタ錠60mg/30mg/10mg、製造販売元:アッヴィ)」を紹介します。本剤は、1日1回経口投与の片頭痛の予防治療薬です。片頭痛発作の発症を抑制することで、患者さんの健康や生活の質の向上、社会における生産性の向上が期待されています。<効能・効果>片頭痛発作の発症抑制の適応で、2026年2月19日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人にはアトゲパントとして60mgを1日1回経口投与します。なお、本剤投与開始後3ヵ月を目安に治療上の有益性を評価して症状の改善が認められない場合には、本剤の投与中止を考慮します。3ヵ月以降も本剤投与を継続する場合には、定期的に投与継続の要否を検討し、頭痛発作発現の消失・軽減などにより日常生活に支障を来さなくなった場合には、本剤の投与中止を考慮します。<安全性>重大な副作用として、過敏症反応(頻度不明)があります。その他の副作用として、悪心、便秘、食欲減退、傾眠、体重減少、ALT/AST増加(いずれも1%以上)、疲労、そう痒症(いずれも0.1~1%未満)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、経口CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)受容体拮抗薬で、片頭痛発作の発症抑制に用いられます。片頭痛発作時の治療だけでは日常生活に支障を来している人に使用されます。2.CGRPがCGRP受容体へ結合することを阻害し、片頭痛に関与するシグナルの伝達を阻害することで、片頭痛発作の発症を抑制します。3.この薬は起こってしまった頭痛発作を和らげる薬ではないので、この薬を服用中に頭痛発作が起こった場合には、必要に応じて頭痛発作治療薬を頓用で使用してください。<ここがポイント!>片頭痛は慢性の神経疾患であり、わが国における15歳以上の有病率は8.4%と報告されています。片頭痛が日常生活に及ぼす影響は、「いつも寝込む」が4%、「ときどき寝込む」が30%、「寝込まないが支障あり」が40%であり、全体の74%が何らかの形で日常生活に支障を来しています。このように日常生活への影響が認められる場合は、積極的な治療介入が必要です。片頭痛の治療は、発作に対する急性期治療および予防療法に大別されます。急性期治療薬としては、アセトアミノフェンやNSAIDs、トリプタン系薬剤、ラスミジタン、リメゲパント、エルゴタミン、制吐薬などが用いられます。予防療法は、片頭痛発作が月に2回以上、あるいは生活に支障を来す頭痛が月に3日以上認められる患者において、積極的に実施を検討する必要があります。CGRPは、片頭痛の病態において重要な役割を果たす神経ペプチドです。三叉神経終末から放出されたCGRPがCGRP受容体に結合することで、硬膜血管周囲の血管拡張や神経原性炎症を引き起こし、片頭痛発作につながります。アトゲパント水和物は選択的経口CGRP受容体拮抗薬であり、CGRPの作用を阻害することで血管拡張や炎症を抑制し、片頭痛発作を予防します。本剤は経口CGRP受容体拮抗薬としてはリメゲパントに次ぐ2番目の薬剤ですが、今回承認された適応症は「片頭痛発作の発症抑制」のみであり、急性期治療に使用できない点に注意が必要です。なお、2025年12月に片頭痛発作の急性期治療に関する製造販売承認申請が行われており、近いうちに急性期治療にも使用できる可能性があります。本剤を調剤する際は、常に最新の情報を確認し、適応症を把握したうえで処方監査を行うことが重要です。慢性片頭痛患者を対象とした国際共同第III相試験(PROGRESS:3101-303-002試験)において、主要評価項目である投与開始12週間における平均月間片頭痛日数(MMD)のベースラインからの変化量は、本剤60mg群で-6.88日(95%信頼区間[CI]:-7.67~-6.08)、プラセボ群との差は-1.82日(95%CI:-2.89~-0.75)であり、プラセボ群に対する優越性が検証されました(p<0.001)。また、日本人反復性片頭痛患者を対象とした国内第II/III相試験(RELEASE:M22-056試験)においても、投与開始12週間における平均MMDのベースラインからの変化量は、本剤60mg群で-3.34日(95%CI:-3.83~-2.85)、プラセボ群との差は-2.10日(95%CI:-2.78~-1.43)であり、プラセボ群に対する優越性が検証されました(p<0.001)。

3.

nalbuphine:IPFに伴う慢性咳嗽に対する新しいアプローチ(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

 本研究は、IPFに伴う慢性咳嗽に対する「ナルブフィン(nalbuphine)」の有効性と安全性を評価した第IIb相国際多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験である。nalbuphineは、オピオイドκ受容体作動薬かつμ受容体拮抗薬という今までにないユニークな機序を持つ薬剤であり、2026年3月現在、本邦未承認のオピオイドである。その鎮痛活性はモルヒネと同等とされている。8週間以上持続する咳嗽を有するIPF患者165例を、nalbuphine徐放剤27mg、54mg、108mg、またはプラセボを1日2回投与する群に無作為に割り付け、6週間観察した。結果として、主要評価項目である「24時間客観的咳頻度」は、プラセボ群の16.9%低下に対し、27mg群で47.9%、54mg群で53.4%、108mg群で60.2%低下と、用量依存的かつ統計学的に有意な改善を示した。また、高用量群(54mg・108mg)では、患者報告による主観的な咳の頻度、重症度、およびQOLスコアも有意に改善した。 本研究から得られる、実臨床に直結する重要な知見としては、(1)客観的・主観的な咳嗽の改善効果(2)安全性プロファイルと初期の副作用マネジメント(3)既存の抗線維化薬との併用が可能といったところが挙げられる。 まず効果に関するところであるが、IPF患者の最大で80%が咳嗽に苦しみ、これが疾患の進行や予後不良と関連することが知られている。既存の抗線維化薬では咳を十分に制御することができないこともよく知られている。本試験では最高用量(108mg)で客観的な咳の回数を約60%も減少させ、さらに患者自身の「咳が減った」「生活の質が上がった」という主観的評価(PRO)の改善も伴っていた。この客観的指標・主観的指標における改善効果が示されたことはIPFの対症療法としてきわめて強力な武器になると考えられる。 nalbuphineはμ受容体に対して「拮抗的」に作用するため、従来のモルヒネやコデインなどのμ受容体作動薬で懸念される呼吸抑制、多幸感、依存性のリスクが低いという利点がある。とくに高度の拘束性換気障害を持つ重症の間質性肺炎症例では呼吸抑制は注意すべき副作用であるが、そのようなリスクがないことは重要である。実際、本試験でも致死的な有害事象は認められなかった。一方、悪心(33.6%)、嘔吐(21.0%)、便秘(20.0%)といった消化器症状がプラセボ群(悪心5.0%、嘔吐・便秘0%)より高頻度で認められた。しかし、これらは用量を漸増する際に発現しやすく、悪心の持続期間の中央値は6日、嘔吐は2日と、継続によって耐性ができ消失する傾向があった。このような有害事象が判明しているので、実臨床で使用する際は、「導入初期の制吐剤・下剤の併用」と「低用量からのゆっくりとした漸増」といった上手な副作用対策で乗り切ることができるだろう。 本研究では対象症例の約77%がすでにニンテダニブやピルフェニドンといった抗線維化薬が導入されていた。抗線維化薬によるベースライン治療に上乗せする形で強力な鎮咳効果を発揮した点は、実臨床セッティングに非常に合致している。 有効性に関しては素晴らしい結果である一方、観察期間の短さは際立つ。対象患者の平均咳嗽期間が3.0〜5.4年であったように、IPFは慢性疾患であり、IPFによる咳嗽も慢性的な症状である。本試験の投与期間はわずか6週間であり、nalbuphineの効果が数ヵ月、数年単位で維持されるのか、薬剤耐性はどうか、また長期投与によって新たな有害事象が顕在化しないかは、現時点では不明なので今後の検証が望まれる。 本試験では持続的な酸素療法が必要な症例や、最近呼吸器感染症を起こした患者、すでにオピオイドやベンゾジアゼピンを使用している患者は除外されている。実際のIPF診療では、呼吸機能障害が高度で、在宅酸素が導入されている方や、心身の苦痛から睡眠薬・抗不安薬を併用している高齢患者が一定数存在する。こうした「よりフレイルで重症なリアルワールドの患者群」に対する有効性と安全性は明らかではない。 ただnalbuphineは、IPFによる難治性咳嗽という実臨床でも対応が困難なアンメットニーズに対し画期的な薬剤と考える。中枢性と末梢性の両面から咳反射を抑えつつ、呼吸抑制リスクを回避した点は高く評価できるといえよう。今後の症例の集積や長期データには注目したい。

4.

ESR1変異陽性HR+/HER2-乳がんへの経口SERD「イムルリオ錠200mg」【最新!DI情報】第58回

ESR1変異陽性HR+/HER2-乳がんへの経口SERD「イムルリオ錠200mg」今回は、抗エストロゲン剤/抗悪性腫瘍剤「イムルネストラントトシル酸塩(商品名:イムルリオ錠200mg、製造販売元:日本イーライリリー)」を紹介します。本剤は、経口投与が可能な選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)であり、乳がん患者の通院や投与に伴う身体的・時間的な負担の軽減が期待されています。<効能・効果>内分泌療法後に増悪したESR1遺伝子変異を有するホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳がんの適応で、2025年12月22日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人にはイムルネストラントとして1日1回400mgを空腹時に経口投与します。なお、患者の状態により適宜減量します。<安全性>副作用として、下痢、疲労(いずれも10%以上)、悪心、嘔吐、便秘、腹痛、食欲減退、関節および筋骨格痛、頭痛、ほてり、ALT増加、AST増加(いずれも1~10%未満)、背部痛、静脈血栓症に関連する事象(肺塞栓症)(いずれも1%未満)、咳嗽、トリグリセリド増加(いずれも頻度不明)があります。本剤は生殖能力に有害な影響を及ぼす可能性があるため、妊娠する可能性のある女性に対し、本剤投与中および最終投与後1週間において避妊する必要性および適切な避妊法について説明する必要があります。また、男性に対しては、本剤投与中および最終投与後1週間においてバリア法(コンドーム)を用いて避妊する必要性について説明する必要があります。なお、妊婦または妊娠している可能性のある女性には投与禁忌です。<患者さんへの指導例>1.この薬は、選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)です。内分泌療法後のESR1遺伝子変異を有するホルモン受容体陽性/HER2陰性の乳がんに用いられます。2.エストロゲン受容体(ER)の分解を促進し、エストロゲンのERへの結合を阻害することにより乳がん細胞の増殖を抑えます。3.この薬は、食事とともに服用すると血中濃度が上昇することがあるので、本剤服用の1時間前から服用後2時間は食事を避けてください。4.妊婦または妊娠している可能性のある人はこの薬を使用することはできません。5.妊娠する可能性のある女性および男性は、この薬の投与期間中および最終投与後1週間は必ず避妊してください。<ここがポイント!>乳がんは、がん細胞内部に発現するホルモン受容体(HR)の発現と、がん細胞表面に発現するHER2タンパクの過剰発現またはHER2遺伝子の増幅の有無により、「HR陽性/HER2陰性」、「HR陽性/HER2陽性」、「HR陰性/HER2陽性」「トリプルネガティブ(HR陰性/HER2陰性)」の4つのサブタイプに分類されます。このうち、「HR陽性/HER2陰性」は、乳がん患者の約70%を占める最も頻度の高いサブタイプです。このタイプに対しては、ホルモン療法が標準治療となります。とくに閉経後の患者においては、術後の再発予防や転移例に対し、アンドロゲンからエストロゲンへの変換を阻害するアロマターゼ阻害薬などを用いた治療が広く行われています。しかし、アロマターゼ阻害薬による治療の経過中などに、エストロゲン受容体(ER)をコードするESR1遺伝子に変異が生じることがあります。この変異により、エストロゲンが存在しない状況でもERが恒常的に活性化し、アロマターゼ阻害薬に対する耐性を獲得します。その結果、がん細胞の増殖が抑制されず、再発や転移のリスクが高まります。イムルネストラントは、経口投与が可能な選択的エストロゲン受容体分解薬(Selective Estrogen Receptor Degrader:SERD)であり、ERの分解を促進することでがん細胞の増殖シグナルを遮断します。従来から使用されてきたSERDであるフルベストラントが筋肉注射製剤であるのに対し、本剤は経口製剤であるため、通院や投与に伴う身体的・時間的な負担の軽減が期待されます。ただし、本剤は食事の影響を受けやすく、食事と同時に服用すると血中濃度が上昇する可能性があるため、服用前1時間から服用後2時間は食事を避ける必要があります。内分泌療法歴のあるHR陽性/HER2陰性の局所進行または遠隔転移を有する乳がん患者を対象とした国際共同第III相臨床試験(EMBER-3試験)において、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)の中央値は、本剤単独投与群で5.55ヵ月(95%信頼区間[CI]:5.32~7.26)、治験担当医師が選択した治療(フルベストラントまたはエキセメスタン)単独投与群で5.52ヵ月(95%CI:4.60~5.62)であり、両群の間に統計学的に有意な差は認められませんでした(p=0.1158)。また、ESR1遺伝子変異陽性集団におけるPFSの中央値は、本剤投与群で5.49ヵ月(95%CI:3.91~7.39)、治験担当医師が選択した治療単独投与群で3.84ヵ月(95%CI:3.68~5.52)であり、本剤群で有意な延長が認められました(p=0.0008)。PFSの中央値には1.65ヵ月の改善が認められ、さらに本剤投与群は治験担当医師が選択した治療単独投与群に対して原疾患の増悪または死亡のリスクを38%減少させました(ハザード比:0.617、95%CI:0.464~0.821)。

5.

膀胱でアルコールを醸造していた男性【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第300回

膀胱でアルコールを醸造していた男性飲酒していないにもかかわらず、体内でエタノールが産生され酩酊状態に陥る「自家醸造症候群(Auto-brewery syndrome)」をご存じでしょうか。一般的には、本連載でも取り上げた腸内細菌叢の異常による消化管内発酵が知られていますが、実は尿路においても同様の現象が起こり得ます。A Alduraywish A. Case Report: Diabetic urinary auto-brewery and review of literature. F1000Res. 2021 May 20;10:407.今回紹介する症例は、85歳の男性で、20年来の2型糖尿病があり、過去5年間はインスリン療法を受けていました。重要な点として、この患者は生涯にわたり飲酒歴がありませんでした。てんかんの既往があり、抗てんかん薬(ガバペンチン)を服用中で、慢性便秘も認めていました。発症の契機は、介護者である妻の体調不良により、約1週間にわたって食事管理と服薬が乱れたことでした。患者はめまいと意識変容から始まり、次第に尿便失禁、興奮、暴言、介助拒否といった症状が出現しました。血液検査では、HbA1cが7.25%と中等度のコントロール不良を示していましたが、肝機能・腎機能は正常範囲内でした。衝撃的だったのは、禁酒者であるにもかかわらず、血中エタノール濃度が110mg/dL、尿中エタノール濃度が580mg/dLという高値を記録したことでした。これらの数値は、多くの国で飲酒運転の基準値を大きく上回るレベルでした。アムホテリシンBの静注を5日間行い、治療開始5日後には血中・尿中エタノールは検出されなくなり、尿からカンジダも消失しました。患者の意識状態は改善し、見当識も回復して、日常生活に復帰することができました。これまでの研究の多くは腸管発酵に焦点を当てており、尿路における発酵という視点が見過ごされてきました。糖尿病患者では高血糖に伴う尿糖排泄が増加し、カンジダ属の増殖に有利な環境が形成されます。実際、2型糖尿病患者におけるカンジダ尿症の有病率は2.7〜30%と報告されており、HbA1cが7%を超える患者、尿pHが酸性(5〜6)の患者、尿糖が強陽性の患者でその頻度が高くなります。膀胱でアルコールが醸造されるという病態があること、知っておくと何かの役に立つかもしれません。

6.

食事の影響を受けない子宮筋腫治療薬「イセルティ錠100mg」【最新!DI情報】第57回

食事の影響を受けない子宮筋腫治療薬「イセルティ錠100mg」今回はGnRHアンタゴニスト「リンザゴリクスコリン(商品名:イセルティ錠100mg、製造販売元:キッセイ薬品工業)」を紹介します。本剤は、食事の影響を受けることなく経口投与が可能なGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)アンタゴニストであり、子宮筋腫の新たな治療選択肢として期待されています。<効能・効果>子宮筋腫に基づく諸症状(過多月経、下腹痛、腰痛、貧血)の改善の適応で、2025年12月22日に製造販売承認を取得しました。なお、本剤による治療は根治療法ではないことに留意し、手術が適応となる患者の手術までの保存療法並びに閉経前の保存療法としての適用を原則とします。<用法・用量>通常、成人にはリンザゴリクスとして200mgを1日1回経口投与します。なお、初回投与は月経周期1~5日目に行います。<安全性>重大な副作用として、うつ状態(1%未満)があります。その他の副作用として、ほてり(52.4%)、不正出血(38.2%)、多汗症、頭痛、関節痛、手指などのこわばり、生化学的骨代謝マーカー上昇、倦怠感(いずれも5%以上)、閉経期症状、めまい、月経異常、骨密度減少、脱毛症、傾眠、不眠、AST、ALT、γGTPの上昇、肝機能異常、悪心、便秘、血中コレステロール増加、血中トリグリセリド増加、低比重リポ蛋白増加、脂質異常症、動悸、浮腫(いずれも1~5%未満)、乳房不快感、易刺激性、食欲減退(いずれも1%未満)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、過多月経、下腹痛、腰痛、貧血などの子宮筋腫に基づく症状を改善します。2.この薬は、GnRHの働きを抑えることで、黄体形成ホルモンおよび卵胞刺激ホルモンの分泌を阻害し、卵巣からのエストラジオールやプロゲステロンなどの性ホルモン濃度を低下させます。3.症状が良くなったと感じても、自己判断で使用を中止したり、服用量を減らしたりしないでください。4.妊婦または妊娠している可能性のある人はこの薬を使用することはできません。5.エストロゲン低下作用により骨塩量の低下が現れることがあるため、6ヵ月を超える継続使用は原則として行われません。<ここがポイント!>子宮筋腫は、子宮筋層を構成する平滑筋に発生する良性腫瘍であり、幅広い年代の女性に認められる疾患です。多くは無症状で経過し、健康診断などで偶然発見されることも少なくありません。症状の有無や程度は、筋腫の発生部位や大きさによって異なりますが、代表的なものとして過多月経、過長月経、月経痛、貧血などがあります。さらに、筋腫のサイズが大きくなると、頻尿、排尿困難、便秘といった周囲臓器の圧迫症状もみられることがあります。子宮筋腫の発生原因は未だ明らかになっていませんが、エストロゲンおよびプロゲステロンが筋腫の増大に関与していると考えられています。そのため、閉経後にはこれらのホルモン分泌の低下に伴い、筋腫は自然に縮小する傾向があります。無症状で筋腫が小さい場合は治療を必要とせず、定期的な健診による経過観察が選択されます。しかし、筋腫が大きい場合や症状により日常生活に支障を来す場合には、治療を検討します。治療法は大きく手術療法と薬物療法に分けられます。手術療法には、子宮全摘術、子宮筋腫核出術、子宮鏡下子宮筋腫摘出術などがあり、年齢や妊娠希望の有無、筋腫の性状に応じて選択されます。薬物療法は根治を目指すものではありませんが、GnRHアゴニストまたはアンタゴニストを用いた偽閉経療法が行われています。これにより、子宮筋腫による症状の改善、筋腫縮小による手術時のリスクや侵襲性の軽減、あるいは閉経までの症状コントロール(逃げ込み療法)を目的とした治療が可能となります。現在、GnRHアゴニストとしてはリュープロレリン酢酸塩などの皮下注射が、GnRHアンタゴニストとしては経口製剤であるレルゴリクスが使用されています。リンザゴリクスは、GnRHアンタゴニストに分類される薬であり、GnRH受容体においてGnRHと拮抗することで、性腺刺激ホルモンであるゴナドトロピンの分泌を抑制し、卵巣におけるエストロゲン産生を低下させます。本剤はGnRHアゴニスト製剤で認められる治療開始初期のフレアアップ現象(ホルモン分泌の一過性上昇)がなく、速やかに効果が発現する点が特徴です。また、同じ経口GnRHアンタゴニストであるレルゴリクスと異なり、食事の影響を受けることなく経口投与が可能な点も特徴の1つです。過多月経を有する子宮筋腫患者を対象とした国内第III相臨床試験(KLH2301試験)において、主要評価項目である治験薬投与6週後から12週後までのPictorial Blood Loss Assessment Chart(PBAC)スコアの合計点が10点未満である症例の割合は、本剤200mg群で89.9%(95%信頼区間[CI]:83.7~94.4)、リュープロレリン酢酸塩群で90.8%(95%CI:84.7~95.0)で、投与群間差は-0.9%(両側95%CI:-8.6~6.9)であり、両側95%CIの下限が非劣性マージンである-15%以上であることから、本剤のリュープロレリン酢酸塩に対する非劣性が検証されました(非劣性検定、p<0.001)。また、副次評価項目であるPBACスコアの合計点が10点未満となる症例の割合が50%になる期間は6日、75%になる期間は19日でした。

7.

パーキンソン病〔PD:Parkinson's disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義1817年、英国の外科医であり地質学者であったJames Parkinsonは“Essay on The Shaking Palsy”として6症例のパーキンソン病患者の症状を詳細に報告した。その後、神経学の祖であるJean-Martin Charcotがこのエッセイに着目し「パーキンソン病」と名付け、疾患概念が確立された。本疾患はドパミン神経細胞が脱落するため、動作緩慢、振戦、筋強剛などが出現する。進行すると姿勢保持障害、歩行障害なども顕著になり、転倒のリスクが高まる。さらに、運動症状以外にも睡眠障害、嗅覚低下、自律神経障害、認知症、精神症状など多彩な非運動症状を合併する。そのため日常生活動作が低下し、介護度が高くなり、患者本人の生活の質を悪化させるのみならず、介護者にも多大な影響が及ぶ疾患である。病理学的所見としては、黒質緻密部を中心としたドパミン神経細胞の変性・脱落とレビー小体の形成が特徴である。■ 疫学有病率は10万人当たり100~180人とされているが、65歳以上では1,000人程度存在するといわれている。海外で行われた年齢別有病率を調査した研究では、40~49歳では10万人当たり約40人であるのに対し、80歳以上では約1,900人と報告されており、加齢に伴い急激に増加することがわかる。発症頻度には地域差があり、欧州や北米では高く、アジアやアフリカでは低い傾向がある。また、海外では男性に多いとされる一方で、わが国では女性の有病率が高いと報告されている。■ 病因本疾患の病因は長らく不明とされてきたが、近年の分子病理学的・遺伝学的研究の進展により、その中核にはαシヌクレインの異常凝集と蓄積があることが明らかとなっている。αシヌクレインは、本来シナプス前終末に豊富に存在する可溶性タンパク質であるが、異常構造へ変化するとオリゴマー、プロトフィブリル、フィブリルへと段階的に凝集し、神経毒性を獲得する。これらの凝集体は、神経細胞内でレビー小体やレビー神経突起を形成し、ドパミン神経を中心とした神経変性を引き起こすと考えられている。さらに、病的αシヌクレインは細胞間を伝播する性質を有し、特定の神経回路に沿って病理が拡大することが示唆されている。その一方で、パーキンソン病は単一の原因で発症する疾患ではなく、遺伝的要因と環境要因が複雑に絡む多因子疾患である。αシヌクレインをコードするSNCAは最初に発見された家族性パーキンソン病の原因遺伝子である。さらに常染色体顕性遺伝性パーキンソン病に頻度が高いLRRK2、重大なリスク遺伝子であるGBAなどが同定されており、これらはαシヌクレインの凝集に関与している。また、孤発例においても、複数の感受性遺伝子が発症リスクに寄与することが明らかとなっており、遺伝的背景が病態形成に重要な役割を果たす。そのほか農薬曝露、頭部外傷、腸内細菌叢などの環境因子も発症リスクとして報告されており、遺伝要因と環境要因の相互作用が発症の引き金となる可能性が考えられている。さらに近年では、ミトコンドリア機能障害、酸化ストレス、神経炎症、タンパク質分解系の破綻など、複数の細胞内異常が相互に関連しながら神経変性を進行させることが示唆されている。とくにリソソーム・オートファジー系の障害は、異常αシヌクレインの蓄積を促進し、分解不能になるという悪循環を形成する重要な病態基盤と考えられている。このようにパーキンソン病の病因は、αシヌクレイン凝集を中心とした分子病態を軸に、多層的・連続的な異常が重なり合うことで発症すると考えられる。2 診断臨床診断は主に症候学的所見に基づいて行われる。2015年に国際パーキンソン病・運動障害学会が診断基準を策定した(表)。この診断基準では、寡動を中心に、振戦と筋強剛のどちらか1つがあるとパーキンソン症状があると判断し、特異的な所見である、レボドパ製剤に対する良好な反応性、レボドパ誘発性ジスキネジア、四肢の静止時振戦、嗅覚低下および123I-MIBG心筋シンチグラフィによる心臓交感神経脱落の証明を支持的診断基準としている。除外基準のみならず、パーキンソン病でも認められるが非典型的な症状や経過をレッドフラッグとして挙げている。支持的基準を2つ以上満たし、除外基準およびレッドフラッグが認められない場合は“clinically established”であり、支持的基準を満たしていてもレッドフラッグを認める場合や、レッドフラッグがなくても十分に支持的基準を満たさない場合は“probable”と診断される。診断基準の特異度は高いが感度は低く、類縁疾患である多系統萎縮症や進行性核上性麻痺といったParkinson-like disorderとの鑑別は難しい。また、運動症状が発症する前より、便秘、嗅覚低下、レム睡眠行動異常症が認められる場合がある。ビデオ睡眠ポリグラフでレム睡眠行動異常障害認められる場合、パーキンソン病を発症するリスクが高まる。採血や画像診断は補助的な診断である。採血では特異的な変化はないが、パーキンソン症状を来す疾患(甲状腺機能亢進症や低下症、ウィルソン病、抗リン脂質抗体症候群など)の鑑別は必要である。神経画像は診断に有用であり、頭部MRIやCTなどの構造画像は除外診断目的で行われる。とくにMRIは被殻の萎縮と被殻外側のスリット、脳梁の萎縮、中脳背側(中脳被蓋部)の萎縮、上/中小脳脚の萎縮、橋の萎縮などに注目し、Parkinson-like disorderと鑑別する。また、DATスキャンを行うことで、パーキンソン症状が黒質線条体のドパミン機能障害により引き起こされていることが確認できる。薬剤性パーキンソニズム、本態性振戦、ジストニア、錐体路障害などによるパーキンソン様症状は正常であり除外できる。123I-MIBG心筋シンチグラフィは心臓交感神経の脱落を確認できるが、認める場合はパーキンソン病に特異的な所見であり、重要な診断の手掛かりとなる。最近、髄液に存在する微量な凝集型αシヌクレインを増幅することで診断できる可能性が示されているが、研究レベルであり実用化はされていない。表 国際パーキンソン病・運動障害学会の診断基準画像を拡大する診断のフローを以下に示す。【パーキンソン病の診断基準(MDS)】■臨床的に確実なパーキンソン病(clinically established Parkinson's Disease)パーキンソニズムが存在し、さらに、1)絶対的な除外基準に抵触しない。2)少なくとも2つの支持的基準に合致する。3)相対的除外基準に抵触しない。■臨床的にほぼ確実なパーキンソン病(clinically probable Parkinson's Disease)パーキンソニズムが存在しさらに、1)絶対的除外基準に抵触しない。2)相対的除外基準と同数以上の支持基準がみられる。ただし、2つを超える相対的除外基準がみられてはならない。■支持的基準(Supportive criteria)1)明白で劇的なドパミン補充療法に対する反応性がみられる。この場合、初期治療の段階では正常かそれに近いレベルまで改善がみられる必要がある。もし、初期治療に対する反応性が評価できない場合は以下のいずれかで判断する。用量の増減により、顕著な症状の変動(UPDRS partIIIでのスコアが30%を超える)がみられる。または患者または介護者より治療により顕著な改善がみられたことが確認できる明らかに顕著なオン/オフ現象がみられる2)L-ドパ誘発性のジスキネジアがみられる。3)四肢の静止時振戦が診察上確認できる。4)ほかのパーキンソニズムを示す疾患との鑑別診断上、80%を超える特異度を示す検査法が陽性である。現在この基準を満たす検査として以下の2つが挙げられる。嗅覚喪失または年齢・性を考慮したうえで明らかな嗅覚低下の存在MIBG心筋シンチグラフィによる心筋交感神経系の脱神経所見■絶対的除外基準(Absolute exclusion criteria)1)小脳症候がみられる。2)下方への核上性眼球運動障害がみられる。3)発症5年以内に前頭側頭型認知症や原発性進行性失語症の診断基準を満たす症状がみられる。4)下肢に限局したパーキンソニズムが3年を超えてみられる。5)薬剤性パーキンソニズムとして矛盾のないドパミン遮断薬の使用歴がある。6)中等度以上の重症度にもかかわらず、高用量(>600mg)のL-ドパによる症状の改善がみられない。7)明らかな皮質性感覚障害、肢節観念運動失行や進行性失語がみられる。8)シナプス前性のドパミン系が機能画像検査により正常と評価される。9)パーキンソニズムを来す可能性のある他疾患の可能性が高いと考えられる。■相対的除外基準(Red flags)1)5年以内に車椅子利用となるような急速な歩行障害の進展がみられる。2)5年以上の経過で運動症状の増悪がみられない。3)発症5年以内に重度の構音障害や嚥下障害などの球症状がみられる。4)日中または夜間の吸気性喘鳴や頻繁に生じる深い吸気*注など、吸気性の呼吸障害がみられる。5)発症から5年以内に以下のような重度の自律神経障害がみられる。起立性低血圧:立位3分以内に少なくとも収縮期で30mmHgまたは拡張期で15mmHgの血圧低下がみられる発症から5年以内に重度の尿失禁や尿閉がみられる6)年1回を超える頻度で繰り返す発症3年以内の転倒。7)発症から10年以内に、顕著な首下がり(anterocollis)や手足の関節拘縮がみられる。8)5年の罹病期間の中で以下のようなよくみられる非運動症候を認めない。睡眠障害:睡眠の維持障害による不眠、日中の過剰な傾眠、レム睡眠行動障害の症状自律神経障害:便秘、日中の頻尿、症状を伴う起立性低血圧嗅覚障害精神症状:うつ状態、不安、幻覚9)他では説明のできない錐体路症状がみられる。10)経過中一貫して左右対称性のパーキンソニズムがみられる。*注:inspiratory sighs;多系統萎縮症で時にみられる呼吸障害の1つで、しばしば突然不規則に生じる深いため息様の吸気。(文献1より引用)3 治療本疾患はドパミン神経変性により運動症状および多彩な非運動症状を呈するため、ドパミン補充療法が治療の中心である。L-ドパ製剤は最も有効性が高く中心的薬剤であるが、吸収に食事の影響を受けやすいこと、phasicな刺激によりL-ドパ誘発性ジスキネジアが生じやすく、半減期が短いためウェアリングオフを誘発することが課題となる。MAO-B阻害薬はドパミン分解を抑制することで効果を発揮する。すくみ足に効果があることが示されている。ドパミン受容体作動薬は半減期が長く、continuous dopaminergic stimulation(CDS)に近い刺激が可能で、ジスキネジア発現を遅らせる一方、眠気、衝動制御障害、精神症状に注意を要する。ウェアリングオフ出現時には、L-ドパ頻回投与やCOMT阻害薬併用により血中濃度の安定化を図る。また、アマンタジンを早期から始めることで、ジスキネジアの発現抑制が可能であることが示されている。経口治療で調整困難な場合にはデバイス補助療法を考慮する。経腸的L-ドパ持続療法や皮下持続投与製剤はオフ時間を短縮し、運動の日内変動を大きく改善する。さらに、L-ドパ製剤への反応性を有し、重度の認知症や精神症状を伴わない症例では脳深部刺激療法(DBS)も考慮される。主なターゲットは視床下核(STN)と淡蒼球内節(GPi)であり、STN刺激は薬剤減量効果が期待できる一方、GPi刺激はL-ドパ誘発性ジスキネジアの抑制に有効である。効果は同等とされるが、薬剤減量ができるSTNがfirst choiceである。強い振戦が主体の場合には視床Vim核が選択される。DBSは運動症状を安定化させ、薬物治療の限界を補完する治療オプションであり、適応がある症例の場合、必ず考慮すべきである。4 今後の展望近年、分子病理学的研究やバイオマーカー研究の進展により、パーキンソン病は従来の臨床症候に基づく疾患概念から、αシヌクレイン病理を中核とした生物学的疾患概念へと大きく変容しつつある。とくに、微量な病的αシヌクレインを検出可能とする種増幅アッセイ(seed amplification assay:SAA)は、発症前・前駆期から疾患を同定しうる技術として注目されている。また、脳に蓄積するαシヌクレインを可視化するPET検査も開発されている。これらのバイオマーカーの確立は、早期診断のみならず、疾患の生物学的病期分類や層別化を可能とし、疾患修飾療法(disease-modifying therapy:DMT)の研究を推進する際に適切な対象集団の選定に直結する。現在までに、αシヌクレイン病理、神経変性、遺伝背景を統合した新たな分類・病期分類の枠組みが提唱されており、今後の臨床試験や治療戦略の基盤となることが期待される。5 主たる診療科脳神経内科脳深部刺激療法を行う場合は脳神経外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本神経学会 パーキンソン病診療ガイドライン2018(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター パーキンソン病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報) 1) Bloem BR, et al. Lancet. 2021;397:2284-2303. 2) Armstrong MJ, et al. JAMA. 2020;323:548-560. 3) Ben-Shlomo Y, et al. Lancet. 2024;403:283-292. 4) Hatano T, et al. J Mov Disord. 2024;17:127-137. 5) Postuma RB, et al. Mov Disord. 2015;30:1591-1601. 公開履歴初回2026年2月13日

8.

重度の慢性便秘に対する手術は「最終手段」

 米国消化器病学会(AGA)が発表した新しいガイドラインにおいて、重度の慢性便秘患者に対する外科的手術は最終手段とすべきことが明示された。治療に反応しない難治性便秘の患者に対しては、結腸の一部または全てを切除する結腸切除術を検討することがある。しかし、ガイドラインの著者らは、結腸切除術は重大な健康リスクを伴い、必ずしも症状の改善につながるわけではないとしている。米マサチューセッツ総合病院(ボストン)消化器運動研究室ディレクターのKyle Staller氏らがまとめたこのガイドラインは、「Clinical Gastroenterology and Hepatology」に1月7日掲載された。 Staller氏は、「慢性便秘に何年も苦しんできた人にとって、手術は永続的な解決策に聞こえることがある。特に、多くの薬が効かなかった場合にはなおさらだ」と話す。同氏はさらに、「検査で、結腸の動きが極端に遅く、他の治療で何も効果が得られない場合に手術が検討されることがある。しかし、手術はほとんどの患者には適しておらず、事実上リスクを伴い、手術後も腹部膨満感、腹痛、排便コントロール困難などの症状が続く人もいる」と述べている。 米国では約8~12%の人が慢性便秘に苦しんでいると推定されている。Staller氏は、「多くの人は、生涯のどこかの時点で便秘を経験するが、食事の見直し、食物繊維や水分の摂取、市販の下剤の使用といった簡単な対策で改善する。難治性便秘はそれとは別物であり、時間をかけて処方薬やバイオフィードバック、骨盤底筋療法を試しても改善しない状態を指す」と説明している。一方、結腸切除術は、腸閉塞、持続性の腹痛、腹部膨満感、便秘の再発、下剤への継続的依存など、高い合併症率と関連しているという。 新ガイドラインでは、手術を検討する前に踏むべき複数のステップが示されている。例えば、まずは慢性便秘の原因から薬剤の副作用、神経疾患、精神的問題を除外すべきことが述べられている。オピオイド系鎮痛薬や抗精神病薬、鉄剤は便秘を引き起こすことが知られている。また、膀胱疾患、アレルギー、気分障害の治療に使われる抗コリン薬も、腸の不随意運動に関与する神経伝達物質の働きを阻害するため、便秘と関連している。さらに、パーキンソン病や多発性硬化症といった神経疾患、摂食障害や抑うつ・不安などの精神的な問題も便秘リスクに影響する。 精神的な問題が便秘に関与することもあるため、術前の心理評価も意思決定プロセスの重要な一部として推奨されている。また、米食品医薬品局(FDA)の承認薬や市販薬に加え、便秘への有効性が示されている適応外使用薬も全て試すべきだとされている。さらに、大腸通過時間検査や排便造影検査など、結腸機能に加えて腸管全体の活動を評価する検査の実施を推奨している。その上で、最終手段として、一時的人工肛門(ストーマ)の使用を推奨している。これは可逆的で、恒久的な結腸切除が有益かどうかを判断する材料になる。 以上のように、ガイドラインは、手術には慎重な個別判断が必要であることを強調している。Staller氏は、「最良の結果は、十分な準備と共有された意思決定から生まれる。手術が本当に必要な場合でも、現実的な期待を持ち、消化器内科医、外科医、精神医療専門家が連携することで最善の結果が得られる」と述べている。 Staller氏は、慢性便秘のリスクを下げるためにできることとして、1)便秘を悪化させる薬剤について、定期的に医師と見直すこと、2)食事を極端に制限するのではなく規則正しく摂取すること、3)腸の運動を促すために身体的に活発に過ごすこと、4)便意のあるときは我慢せずに排泄すること、5)症状が続く場合は自己判断で治療を強化せず、医療機関を受診すること、を挙げている。また、正常な排便習慣には個人差があり、毎日排便する必要はないことも付け加えている。さらに同氏は、「何より重要なのは、便秘はしばしば長期的な管理を要する慢性疾患であると理解することだ。それがフラストレーションを防ぎ、症状が重症化・難治化するリスクを減らすことにつながる」と述べている。

9.

災害時、“トイレが使えない”現実を前に――医療者として何を備えるべきか【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第13回

災害時、“トイレが使えない”現実を前に――医療者として何を備えるべきか大規模災害が発生した際、医療機関が直面する最も深刻なインフラ障害の一つが「トイレ」です。能登半島地震の支援で現地へ向かった際、私自身その現実を痛感しました。支援に入った本部で突き付けられたのは、「下水が完全に止まっている」という事実でした。小便は雪解け水をバケツで汲み、便器に流し込んで重力で無理やり流すしかありませんでした。大便については、幸いポータブルトイレがあったため対応できましたが、もしなかったら、支援に入った医療者も被災者も、排泄すらままならない状況だったと思います。排泄物の処理方法、照明のない暗い個室、強い臭気や衛生面の不安……。診療の前に、人としての基本が揺らぐ環境がそこにありました。図1. トイレに雪解け水を利用図2. 災害時ポータブルトイレトイレが使えないと、なぜ医療が成り立たなくなるのか災害時、排泄環境は「最初に悪化し」「最後まで復旧が遅れる」インフラといわれています。しかし、その影響は単なる不便さにとどまりません。高齢者や基礎疾患のある方は、排泄を我慢するだけで、脱水、急性腎障害、電解質異常、便秘、せん妄を起こしやすいことが指摘されています1)。我慢そのものが健康被害につながるのです。また、適切な排泄管理ができない環境ではノロウイルスなどの胃腸炎が集団発生しやすく、避難所や臨時診療所の医療機能を大きく低下させるリスクがあります2,3)。国際的な災害医療基準でも「医療従事者自身のトイレ環境の確保」は必須項目として位置付けられています4,5)。医療者が安全にトイレを使用できなければ、長時間にわたる診療継続は困難になります。つまりトイレとは、医薬品や医療機器と同様に医療を支える基礎インフラなのです。来たるべきトイレ問題に何を備えておくべきか能登での経験から、小規模医療機関であっても「トイレが止まれば診療が止まる」という現実が浮き彫りになりました。ここでは『避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン』6)を基に、無理なく準備できる最低限の備えをまとめます。(1)携帯トイレ(凝固剤タイプ)の備蓄1日5〜7回を目安に、職員と患者さん分の数日分を備蓄しておくことが望ましいです。既存の洋式トイレにビニール袋をかぶせ、用を足したら凝固剤を入れ、封をして破棄することで、下水道が止まっていてもトイレを使用することができます。(2)ポータブルトイレの準備能登でも、ポータブルトイレが“あるか・ないか”で現場の負担が大きく変わりました。急性期は50人当たりに1台のトイレが推奨されており、有床診療所や小規模な病院であれば、職員も合わせて1、2台あれば足りるでしょう。発災時に災害用のトイレが迅速に調達できるよう、関係団体と協定を結んでおくのもよいと思います。マンホール直上にトイレを設置する方法もあります7,8)。マンホールトイレは、下水道管路にあるマンホールの上に簡易な便座やパネルを設け、災害時に迅速にトイレ機能を確保するものです。図3. 東日本大震災や熊本地震で使用されたマンホールトイレ(参考文献8より)(3)雑用水(洗浄・手洗い用水)のストック雪解け水でしのいだ経験からも、飲用とは別に生活用水の備蓄は必須だと実感しました。飲料水の確保は考えていても、排泄用の水を試算にいれてないことが多いため、事前に計算して備蓄しておくことをお勧めします。また感染症予防のために手洗い水の確保も重要です。(4)トイレ空間の簡易照明停電下でトイレが真っ暗になると、転倒リスクが高まり、医療者の利用にも支障を来します。また防犯上も明かりは必須です。充電式、乾電池式のヘッドライトなどが役立ちます。トイレを確保することは、医療と被災者の安全を守ること災害時には、医療者も被災者も排泄の安全を確保することが不可欠です。医療者は診療継続のため、被災者は健康保持のため、清潔で使いやすいトイレの存在が重要になります。診療を守るための第一歩として、今一度、災害時のトイレの備えを見直していただければと思います。 1) 阪東 美智子. 避難所・応急仮設住宅の現状と課題 ― 高齢者・障がい者への配慮や健康影響の視点から. 保健医療科学. 2021;70:407-417. 2) Kasaoka S, et al. Poor Environmental Conditions Created the Acute Health Deteriorations in Evacuation Shelters after the 2016 Kumamoto Earthquake. Tohoku J Exp Med. 2023;26:309-315. 3) 前田 信治, ほか. 東日本大震災時における避難所のトイレの実態調査. 空気調和・衛生工学会論文集. 2018;43:59-64. 4) Sphere Association. The Sphere Handbook: Humanitarian Charter and Minimum Standards in Humanitarian Response. WASH Section. 2018. 5) World Health Organization (WHO). Technical Notes on Drinking-water, Sanitation and Hygiene in Emergencies. WHO Press. 2013. 6) 避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン. 内閣府. 2022. 7) マンホールトイレ整備・運用のためのガイドライン2025年版. 国土交通省. 2025. 8) 国土交通省. 災害時に使えるトイレ

10.

食道がん1次治療、ニボルマブ+CRTの安全性確認、完全奏効率73%(NOBEL)/京都大学ほか

 国内における食道がんの初回標準治療は、病期や全身状態によって手術、化学放射線療法(CRT)、放射線療法が選択される。近年、切除不能例の2次治療におけるニボルマブをはじめ、免疫療法も承認されているが、CRTとの併用に関するエビデンスは限られていた。京都大学をはじめとした国内5施設において、ニボルマブ+CRTの有用性を検討するNOBEL試験によって本併用療法の安全性が確認され、完全奏効率や1年全生存(OS)率においても有望な成績が報告された。京都大学の野村 基雄氏らによる研究結果は、EClinicalMedicine誌2026年1月号に掲載された。 NOBEL試験は、多施設共同単群第II相試験で、未治療のPS 0~1の食道扁平上皮がん患者(20~75歳、切除可能・不能問わず)が登録された。治療はニボルマブ+CRT(シスプラチン+5-FU、50.4Gy照射)、それに続く最長1年間のニボルマブの維持療法であった。  主要評価項目は安全性で、Grade4以上の非血液学的毒性の発生率10%以下、Grade3以上の肺臓炎発生率15%以下と定義された。副次評価項目は完全奏効率、無増悪生存期間(PFS)、OSなどであった。治療前の生検検体において51の免疫関連遺伝子バイオマーカー解析を実施した。  主な結果は以下のとおり。・2019年1月~2021年9月に患者が登録され、ベースライン後の腫瘍評価を受けた41例(年齢中央値65歳、男性36例)が解析対象となった。・Grade3以上の肺臓炎を経験した患者は5%(2/41例)で、既報から想定された頻度よりも低く、主要安全性評価項目を達成した。最も頻度の高い有害事象は食道炎、便秘、リンパ球減少であり、治療関連死亡は認められなかった。・1年OS率は92.7%(95%信頼区間[CI]:79.0~97.6)、1年PFS率は65.4%(95%CI:48.6~77.9)であった。・完全奏効率は73%(30/41例、95%CI:58~84%)であった。とくに切除可能例における完全奏効率は84%、1年OS率は100%に達した。・バイオマーカー解析においては、免疫活性の高いサブタイプでは奏効率が高い傾向が見られたが、サンプルサイズが小さいため、参考データ扱いとなった。 研究者らは「食道がん初回治療において、ニボルマブとCRTの併用は実施可能であり、許容可能な安全性を示した。切除可能、不能例双方における高い完全奏効率は、この併用療法が有望な治療選択肢であることを示唆している。しかし、サンプルサイズが小さく、切除不能例の登録遅れによって試験が早期に終了したこともあり、これらの結果は予備的なものとして、慎重に解釈すべきである。臨床的意義を確立するためには、より大規模な無作為化試験を経て、結果を検証する必要がある」としている。

11.

1月20日 血栓予防の日【今日は何の日?】

【1月20日 血栓予防の日】〔由来〕「大寒」に前後する、この時季は血栓ができやすいという背景と「20」を「ツマル」と語呂合わせして日本ナットウキナーゼ協会が制定。「ナットウキナーゼ」が血栓を溶解し、脳梗塞や心筋梗塞を予防する効果があることを啓発している。関連コンテンツ小児の消化管アレルギー(食物蛋白誘発胃腸症)【すぐに使える小児診療のヒント】副作用編:下痢(抗がん剤治療中の下痢対応)【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】2日目のカレーは食中毒のリスク【患者説明用スライド】コーヒー摂取量と便秘・下痢、IBDとの関連は?心筋梗塞後の便秘、心不全入院リスクが上昇~日本人データ

12.

肥満症の治療にアミリン受容体作動薬は登場するか?(解説:小川大輔氏)

 肥満症の治療において最も基本となるものが食事療法と運動療法であるが、これらに取り組んでも効果が不十分な場合は薬物療法が検討される。GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬は糖尿病治療薬として開発されたが、体重減少効果もあるため近年は肥満症治療薬としても承認されている。GIPやGLP-1以外にも肥満症の新しい治療標的が探索されているが、その1つがアミリン(amylin、別名:IAPP)と呼ばれるホルモンである。 アミリンは、インスリンと共に膵臓のβ細胞から分泌されるホルモンで、胃の動きを遅らせて糖の吸収を穏やかにする、あるいはグルカゴン分泌を抑制するなど、血糖値の調節に関わることが知られている。また脳に作用して満腹感を高める作用もあり、食欲抑制に重要な役割を果たしていると考えられている。アミリンの働きを模倣するアミリンアナログが糖尿病や肥満症の治療薬として開発され、米国ではすでにpramlintideが糖尿病の治療薬として承認されているが、作用時間が短く1日3回の注射製剤のため使用は限定的である。 eloralintideは長時間作用の選択的アミリン受容体作動薬で、今回肥満患者を対象とした第II相試験の結果が発表された1)。プラセボ群と比較しeloralintide投与群では48週後の体重の平均変化率が9~20%減少と、有意な体重減少効果を認めた。主な有害事象としては悪心、便秘、下痢などの消化器症状と疲労であった。 肥満症の治療薬としてGLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬がすでに使用されており、今後「トリプルアゴニスト」と呼ばれるGIP/GLP-1/グルカゴン受容体作動薬や、新規の経口GLP-1受容体作動薬が登場する予定である。アミリン受容体作動薬としては2021年にcagrilintideが第II相試験で肥満症に対して有効性が確認され2)、さらに2025年にcagrilintideとGLP-1受容体作動薬セマグルチドの配合薬が肥満・過体重の減量に効果があることが報告された3)。今後eloralintideを含め、アミリン受容体作動薬が肥満症の治療薬として日本で使用できるようになるか、引き続き注目したい。

13.

P-CABとPPI、ガストリン値への影響の違いは?

 胃食道逆流症(GERD)および消化性潰瘍患者において、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)はプロトンポンプ阻害薬(PPI)と比較して、全体的な有害事象プロファイルは同様であるが、血清ガストリン値の上昇が有意に大きいことが示された。韓国・亜洲大学校のYewon Jang氏らが、システマティックレビューおよびメタ解析の結果をJournal of Gastroenterology and Hepatology誌オンライン版2025年12月2日号で報告した。 研究グループは、MEDLINE、Embase、Cochrane Libraryのデータベースを用いて、2024年6月3日までに公開された文献を検索した。対象は、GERDまたは消化性潰瘍(胃潰瘍または十二指腸潰瘍)患者において、P-CABとPPIの安全性を比較した無作為化比較試験(RCT)および観察研究とした。なお、Helicobacter pylori除菌療法での使用は除外した。主な評価項目は有害事象および重篤な有害事象の発現割合とし、血清ガストリン値の変化についても解析した。最終的に11件の研究(RCT 10件、観察研究1件)が抽出され、合計5,896例(P-CAB群3,483例、PPI群2,413例)が解析に含まれた。 主な結果は以下のとおり。・特定の有害事象を報告した9件の研究において、下痢(7研究)、便秘(4研究)、上気道炎(4研究)、鼻咽頭炎(3研究)、悪心(3研究)、肝機能検査値異常(3研究)などが報告された。・主な有害事象(5%超に発現)は、鼻咽頭炎(P-CAB群16.4%vs.PPI群16.2%)、上気道炎(7.4%vs.5.1%)、下痢(5.2%vs.5.2%)であった。・P-CAB群ではPPI群と比較して、骨折が多く発現する傾向にあった(1.3%vs.0.4%)。・多くの研究で既存の肝障害患者は除外されていたにもかかわらず、肝関連有害事象は一定数発現した(ALT増加:P-CAB群2.9%vs.PPI群3.1%など)。・重篤な有害事象の発現割合は、ほとんどの研究で両群とも10%未満であり、両群で同程度であった。・血清ガストリン値の具体的な変化を報告した6件の研究のメタ解析の結果、P-CAB群はPPI群と比較して、血清ガストリン値の上昇が有意に大きかった(平均差:130.92pg/mL、95%信頼区間[CI]:36.37~225.47、p<0.01)。ただし、研究間の異質性が高かった(I2=98%)。・ボノプラザンとランソプラゾールを比較した3研究の解析でも、ボノプラザン群で血清ガストリン値の上昇が有意に大きかった(平均差:174.03pg/mL、95%CI:78.43~269.52、p<0.01、I2=98%)。 著者らは、本研究結果について「P-CABの有害事象プロファイルはPPIと同様であることが示唆された。しかし、P-CABを用いる患者では、胃酸分泌抑制に伴う血清ガストリン値上昇のモニタリングが不可欠である。また、P-CABとPPIのいずれを用いる場合でも、肝機能障害について注意深くモニタリングすることが求められる」と結論付けた。また、骨折について「先行研究では、長期のPPI使用者において、高ガストリン血症が骨折リスクの重要な要因であることが報告されている。P-CABも血清ガストリン値の上昇を誘発することから、同様のリスクを有する可能性が考えられる。そのため、とくに骨粗鬆症リスクのある患者において、P-CABの長期安全性を評価するためのさらなる検討が求められる」と考察した。

14.

再発・難治性濾胞性リンパ腫、タファシタマブ追加でPFS改善(inMIND)/Lancet

 濾胞性リンパ腫は長期生存率が高いが、一般的に根治が困難で、寛解と再発を繰り返すことから複数の治療ラインが求められている。カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のLaurie H. Sehn氏らによる「inMIND試験」において、再発・難治性濾胞性リンパ腫の治療では、レナリドミド+リツキシマブへの追加薬剤として、プラセボと比較しFc改変型抗CD19抗体タファシタマブは、統計学的に有意で臨床的に意義のある無増悪生存期間(PFS)の改善をもたらし、全奏効割合や奏効期間も良好で、安全性プロファイルは許容可能であることが示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年12月5日号で報告された。世界210施設の無作為化プラセボ対照比較試験 inMIND試験は、日本を含む世界210施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2021年4月~2023年8月に参加者を登録した(Incyteの助成を受けた)。 年齢18歳以上、組織学的にCD19+およびCD20+の濾胞性リンパ腫と確定され、1ライン以上の全身療法(抗CD20モノクローナル抗体を含む)を受けた後に再発または不応の病変を有する患者を対象とした。 被験者を、タファシタマブ(28日を1サイクルとし、1~3サイクル目は1・8・15・22日に、4~12サイクル目は1・15日に12mg/kgを静注投与)を最大12サイクル投与する群、またはプラセボ群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。全例に、レナリドミド+リツキシマブを投与した。 主要評価項目は、ITT集団におけるPFS(無作為化の時点から初回の病勢進行、再発、全原因による死亡までの期間)とし、各施設の担当医がLugano分類(2014)に従って評価した。安全性は、無作為化の対象となった患者のうち少なくとも1回の試験薬の投与を受けた集団で評価した。全生存期間のデータは不十分 548例(ITT集団)を登録した。273例をタファシタマブ群に、275例をプラセボ群に割り付けた。ITT集団の年齢中央値は64歳(範囲:31~88)で、249例(45%)が女性であった。 ベースラインで、433例(79%)が濾胞性リンパ腫国際予後指標で中または高リスクであり、患者全体の前治療ライン数中央値は1(範囲:1~10)で、248例(45%)が2ライン以上の前治療を受けていた。173例(32%)に初回診断から24ヵ月以内の病勢進行(POD24)を認め、209例(38%)が直近の前治療に不応で、233例(43%)は抗CD20モノクローナル抗体に不応の治療歴を有していた。 追跡期間中央値14.1ヵ月の時点で、担当医判定によるPFS中央値は、プラセボ群が13.9ヵ月(95%信頼区間[CI]:11.5~16.4)であったのに対し、タファシタマブ群は22.4ヵ月(95%CI:19.2~評価不能)と有意に優れた(ハザード比[HR]:0.43、95%CI:0.32~0.58、p<0.0001)。 独立審査委員会の判定によるPFS中央値も、タファシタマブ群で有意に延長した(未到達[95%CI:19.3~評価不能]vs.16.0ヵ月[95%CI:13.9~21.1]、HR:0.41、95%CI:0.29~0.56、p<0.0001)。 PFSのサブグループ解析では、POD24の有無、抗CD20抗体の不応歴の有無、前治療ライン数(1ライン、2ライン以上)、地理的地域の違い(欧州、北米、その他)を問わず、いずれの集団でもタファシタマブ群で有意に優れた。 全奏効割合(完全奏効、部分奏効:84%vs.72%、オッズ比:2.0、95%CI:1.30~3.02、p=0.0014)、奏効期間中央値(21.2ヵ月vs.13.6ヵ月、HR:0.47、95%CI:0.33~0.68、p<0.0001)、後治療開始までの期間中央値(未到達vs.28.8ヵ月、HR:0.45、95%CI:0.31~0.64、p<0.0001)は、いずれもタファシタマブ群で有意に良好だった。一方、全生存期間のデータは不十分であり、全体的な解析は追跡期間5年の時点で行う予定とされる。標準治療の新たな選択肢となる可能性 いずれかの群で患者の20%以上に発現した有害事象は、好中球減少(タファシタマブ群133例[49%]vs.プラセボ群123例[45%])、下痢(103例[38%]vs.77例[28%])、COVID-19(86例[31%]vs.64例[24%])、便秘(80例[29%]vs.67例[25%])などであった。 また、Grade3または4の有害事象(タファシタマブ群195例[71%]vs.プラセボ群189例[69%])、および重篤な有害事象(99例[36%]vs.86例[32%])の発現率は両群で同程度だった。 試験期間中にタファシタマブ群で15例(6%)、プラセボ群で23例(9%)が死亡し、それぞれ5例(2%)および17例(6%)が病勢進行による死亡だった。タファシタマブ群では治療関連有害事象による死亡例は認めなかったが、プラセボ群では2例(1%)に治療関連の致死的な有害事象が発現した。 著者は、「この3剤併用療法は3次医療機関だけでなく地域医療においても実施可能であるため、とくに現在選択肢が少ない2次治療として、再発・難治性濾胞性リンパ腫患者の標準治療の新たな選択肢となる可能性が示唆される」「タファシタマブ治療後の患者におけるCD19発現の解析が、その後の治療の決定の指針となる情報をもたらすと考えられる」としている。

15.

「グーフィス」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第83回

第83回 「グーフィス」の名称の由来は?販売名グーフィス®錠5mg一般名(和名[命名法])エロビキシバット水和物(JAN)効能又は効果慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)用法及び用量通常、成人にはエロビキシバットとして10mgを1日1回食前に経口投与する。なお、症状により適宜増減するが、最高用量は1日15mgとする。警告内容とその理由設定されていない禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)1.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者2.腫瘍、ヘルニア等による腸閉塞が確認されている又は疑われる患者[腸閉塞を悪化させるおそれがある。]※本内容は2026年1月5日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2022年4月改訂(第6版)医薬品インタビューフォーム「グーフィス®錠5mg」

16.

「かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)」改訂のポイント

 2025年6月、日本認知症学会、日本老年精神医学会、日本神経学会、日本精神神経学会、日本老年医学会、日本神経治療学会の監修により、「かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)」が公表された1)。2016年の第2版公表から9年ぶりとなる今回の改訂では、最新のエビデンスと新規薬剤の登場を踏まえた、より実践的な治療アルゴリズムが示されている。 本稿では、本ガイドラインのワーキンググループの主任研究者を務めた筑波大学医学医療系臨床医学域精神医学 教授の新井 哲明氏による解説を基に、改訂のポイントと臨床における留意点をまとめる。地域医療におけるBPSD対応の切実なニーズ 認知症患者数は2025年に約471万例、2060年には約645万例に達すると推計されている2)。認知症患者の60〜90%が最低1つは経験するとされるBPSD(行動・心理症状)は、患者本人のQOL低下や早期の施設入所リスクを高めるだけでなく、とくにBPSDにおける過活動・攻撃的行動は、介護者への負担増大により不適切なケアを誘発する「悪循環」を招く最大の要因となっている。 認知症におけるBPSD(行動・心理症状)は、心理症状として、抑うつ、不安、焦燥、無気力・無関心、妄想などがあり、行動症状として、興奮、大声を出す、叩くなどの攻撃的な行動、同じ行動を繰り返す常同行動、徘徊などがある。 この悪循環を防ぐためには、BPSDへの早期かつ適切な介入が不可欠である。地域での支援体制が不可欠であり、とくにかかりつけ医の役割が大きく、早期発見や家族支援、地域包括支援センターや専門医との連携を通じて、認知症の人と家族を支える役割が求められている。 新井氏が紹介した、かかりつけ医200人(内科、精神科、脳神経内科、脳神経外科、老年科)を対象としたアンケート調査では、以下の実態が明らかになった。・処方実態:非専門医であっても約8割がBPSDに対して抗精神病薬を処方している。・処方理由:「危険度が高い時」「介護負担が高い時」が主な理由となっている。・66%の医師が従来のガイドライン(第2版)を活用(参照・利用)している。 この結果は、地域医療の現場においてBPSDへの薬物療法がすでに広く行われていることを示唆しており、より安全で適正な使用指針の普及が急務であった。ガイドライン第3版:BPSDへの対応の原則 今回のガイドライン改訂(第3版)は、新規薬剤の登場やエビデンスの蓄積を反映し、より実践的なアルゴリズムへと刷新された。BPSDへの対応においては、まず以下の原則を順守することが重要となる。 原則として、「緊急性が高く速やかな薬物治療の開始を要するような精神症状が認められた場合には、認知症疾患医療センターを含めた認知症専門医がいる医療機関に紹介する」とされている。たとえば、重度のうつ状態、他者に危害を加える可能性が非常に高い妄想、自分自身や他者を危険にさらす原因となる攻撃性などがそれに相当する。 かかりつけ医・認知症サポート医で対応する場合は以下を考慮する。・せん妄の除外・BPSD様症状を引き起こし得る病態の鑑別:感染症、脱水、便秘、疼痛など・BPSD様症状を引き起こし得る薬剤の除外・レビー小体型認知症の可能性:幻視や妄想、抗精神病薬への過敏性に注意が必要 上記のとおり病態を把握した後、環境調整、ケアの変更、リハビリテーションの利用など、非薬物的介入を優先する。症状が改善しない場合にのみ薬物療法を検討する。薬物治療を開始する際は、低用量で開始する。 向精神薬を使用する場合には、本人・家族との共同意思決定(SDM:Shared Decision Making)のプロセスを経ることが明記された。本人の意思が確認できる場合は、アドバンス・ケア・プランニング(advance care planning:ACP)などによる話し合いを尊重し、本人の理解が不十分な場合や意思が確認できない場合は、家族などと繰り返し話し合い、本人の推定意思と最善利益を踏まえて方針を決定する。向精神薬の使用中は常に減量・中止を念頭に置き、長期使用は避ける、などが明記されている。5つのカテゴリー分類とアルゴリズムの明確化 第2版からの大きな変更点として、BPSDの症状分類が整理された。「過食・異食・徘徊・介護の抵抗」といった薬剤効果が乏しい症状は独立カテゴリーから外れた(非薬物的対応を推奨)。症状は以下の5つに分類され、それぞれの対応方針がアルゴリズムで示されている。・幻覚・妄想:まずメマンチンや抑肝散の投与を検討する。これらにより標的症状が改善せず緊急性が高い場合、抗精神病薬の投与を検討する。レビー小体型認知症にみられる幻視には、まずコリンエステラーゼ阻害薬を投与することが望ましい。・易刺激性・焦燥性興奮(アジテーション):アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感、易刺激性、興奮に起因する、過活動または攻撃的言動に対しては、ブレクスピプラゾールが保険適用を有する。・不安・抑うつ:抗うつ薬やタンドスピロン、抑肝散、クエチアピンの使用を検討する。・アパシー:非薬物的介入が基本だが、コリンエステラーゼ阻害薬が有効なことがある。・睡眠障害:睡眠衛生指導や睡眠覚醒リズムの確立のための環境調整を行った上で、病態に応じてオレキシン受容体拮抗薬、メラトニン受容体作動薬、抗うつ薬(トラゾドン)の使用を検討する。 BPSDに対する薬剤開始後は、副作用のモニタリングを行った後、患者本人の苦痛や介護者/家族の負担が軽減したかどうかを評価する。NPI-Q(Neuropsychiatric Inventory - Questionnaire)を用いて効果の定量的な評価を行うことが望ましい。抗精神病薬の適正使用と各薬剤の臨床的位置づけ とくに介護負担の大きい易刺激性・焦燥性興奮(アジテーション)について、アルツハイマー型と診断された患者には、非薬物的介入が無効な場合、ブレクスピプラゾールのみ保険適用となっている。 クエチアピン、ハロペリドール、ペロスピロン、リスペリドンに関しては、原則として、器質的疾患に伴うせん妄・精神運動興奮状態・易怒性に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認めるとの通達がある(2011年9月28日、厚生労働省保険局医療課長、保医発0928第1号、社会保険診療報酬支払基金、第9次審査情報提供)。このうち、ハロペリドールは錐体外路系副作用が強いことから、パーキンソン病、レビー小体型認知症には使用禁忌である。 チアプリドは、脳梗塞後遺症に伴う精神興奮・徘徊・せん妄に保険適用があるため、血管性認知症患者における易刺激性・焦燥性興奮に対して使用を考慮してもよい。 睡眠障害に対しては、睡眠薬の項の記載に従った薬剤選択を行い、それでも改善のない場合は、クエチアピンの使用を考慮してもよい。レビー小体型認知症の幻覚・妄想、易刺激性・焦燥性興奮、不安・抑うつ、睡眠障害に対しても、クエチアピンの使用を考慮してもよいと記載されている。 本ガイドラインでは、抗精神病薬の副作用についても詳細に記載されている。留意点として以下のような項目が記載されている。・抗精神病薬の併用(2剤以上)は避ける。・2週間くらいの時間をかけて薬効を評価する。・常に減量・中止が可能かを検討し、長期使用は避ける。抗精神病薬でBPSDが軽快した場合には、投与開始4ヵ月以内に減量・中止を試みる。ブレクスピプラゾールへの期待 2024年9月、ブレクスピプラゾールは「アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感、易刺激性、興奮に起因する過活動又は攻撃的言動」に対し、国内で初めて効能・効果を取得した。・対象:易刺激性・焦燥性興奮といった内的な不穏を背景とする攻撃的言動に適応となる。単なる徘徊や、これらを伴わない幻覚・妄想は適応外である。・有効性:国内第II/III相試験(BRIDGE試験)において、CMAIスコア(アジテーション指標)を有意に改善させた。・安全性:錐体外路症状などの副作用リスクは比較的低いとされるが、他の抗精神病薬と同様に、傾眠、運動緩慢、流涎過多などへの注意は必要である。 本ガイドライン改訂を受けて、大塚製薬主催で6月23日に開催されたプレスセミナーにて、新井氏は自ら経験した症例として「夫婦間で、妻の妄想から暴言・暴力に発展したケース」を紹介した。ブレクスピプラゾールの投与によって症状が落ち着き、夫婦関係も良好になったことを挙げ、本剤が患者の在宅生活の継続に寄与する可能性を示唆した。 新井氏は、「ガイドラインが改訂され、治療アルゴリズムや薬剤の位置づけが明確化された。これらの情報が広くかかりつけ医・認知症サポート医に普及することで、より適切なBPSD診療が実現し、本人のQOL向上や介護負担の軽減といった社会的課題の解決につながることが期待される」と結んだ。

17.

小児の便秘症【すぐに使える小児診療のヒント】第9回

小児の便秘症小児の腹痛の約9割は便秘が原因であるというのは比較的有名な話かもしれません。浣腸で一時的に腹痛が改善したとしても、「そうしなければ出ない」状態そのものを改善しないと子供のQOLに大きな影響を与えます。また、一見便が出ているようにみえても、実は「隠れ便秘」を見逃しているサインである場合もあります。症例4歳女児。夕食後から強い腹痛を訴えて眠れないため、23時に救急外来を受診した。腹壁は柔らかく、臍周囲に軽度の圧痛を認め、左下腹部に便塊を触知した。「うんちは毎日出ていますか」と尋ねると、母は「はい、ちゃんと出ています」と答えた。浣腸により大量の排便が得られると、腹痛は速やかに消失し、元気に帰宅した。「たかが便秘」と侮ることなかれ小児の便秘は決してまれではありません。乳幼児期から学童期まで、小児科診療で頻繁に遭遇する病態であり、離乳の開始・終了期、トイレットトレーニング期、就学開始などの生活環境の変化を契機に発症・増悪しやすいことが知られています。便秘は「排便が少ない」という状況だけではなく、排便時痛、硬便、漏便、排便困難など、排便にまつわる苦痛や異常があれば便秘症として治療が必要になります。小児の便秘症が進行しやすい背景には、下記のような2つの悪循環が関連しています。(1)痛みによる排便回避行動硬便や肛門裂創を経験した子供は、排便を避けようとし、脚を交差させる・肛門を締めるなどの「便を我慢する行動」をとります。その間に大腸で便がさらに硬化し、次の排便がより痛くなるという悪循環に陥ります。(2)直腸拡張に伴う便意消失長期間便が直腸に停滞すると直腸が拡張し、便意の感覚が弱くなります。その結果、ますます排便間隔が空き、便の硬化が進行します。診療では、まず「便秘の存在」を見逃さないことが重要です。一見、軟便やコロコロ便が頻回に出ている場合でも、実は肛門を塞ぐような便塊(便塞栓)が直腸にあり、その隙間から漏れ出ている可能性があります。また、鎖肛やHirschsprung病などの器質的疾患、内分泌疾患、心理社会的要因など、2次性便秘を示唆する所見がないかを問診・診察で丁寧に把握します。特別な原因が否定されれば、適切な治療で悪循環を断ち切ることが予後改善の鍵となります。「ちゃんと出ている」も人それぞれ排便状況の聴取では、「うんちは出ていますか?」という問いだけでは不十分です。下記のように、トイレにいるところが頭に思い描けるように詳細に聴取しましょう。週に何日、1日に何回出るのか(週に3日、毎日、1日2回…)1回量はどの程度か(小指の先程度の少量、便器いっぱいくらい大量…)どのような形状・固さなのか(カチカチ、コロコロ、バナナ、べちゃっとした…)排便にかかる時間や様子はどうか(30分こもる、顔を真っ赤にして、べそをかきながら…)保護者や本人が便秘をまったく認識していないことも珍しくありません。実際、「うちの子はずっと下痢気味で、漏らしてばかりで…」と受診したものの、実は慢性便秘症で便塞栓が形成され、漏便が続いていたというケースもあります。冒頭の症例も、表面的には浣腸によって腹痛が改善して問題が解決したようにみえますが、深夜でも面倒がらずに問診を深掘りすると、以下のようなやり取りがあったかもしれません。問診例うんちは毎日出ていますか?はい、ちゃんと出ています。形や固さはどうですか? バナナのような? それともコロコロの硬い便でしょうか?コロコロの硬い便がいくつか出ています。排便のときはどうですか? 踏ん張ってつらそうな様子はありますか?顔を真っ赤にして30分くらい格闘している日があります。そのせいか、最近トイレに行きたがりません。それは便秘の可能性が高いです。薬を使って排便しやすくしたほうがよいでしょう。毎日出ているのに便秘だなんて思ってもいませんでした。治療と専門医紹介のタイミング便秘症の治療は、便塞栓がある場合、まず直腸内に形成された便塞栓を完全に除去することから始まります。多くの児では直腸が拡張して大きな便塊が停滞しているため、この便塞栓が残ったままでは生活指導や薬物治療の効果が不十分です。浣腸や、場合によっては洗腸による便塞栓除去を確実に行い、直腸を「空の状態」に戻すことが治療の出発点となります。そしてその後、維持治療によって便を柔らかく保ち、再度便塞栓を作らせないことが重要です。維持治療では、排便習慣の確立や生活リズムの調整に加えて、モビコールや酸化マグネシウム、ピコスルファートなどの薬物療法を適切に継続し、慢性便秘症に戻らないようサポートします。治療を適切に行っても1~2ヵ月以内に「便秘でない状態」(痛みのない排便が週3回以上、漏便なし、QOL良好)に到達しない場合には、器質的疾患の評価や治療方針の再検討が必要です。また、治療が難渋することを示唆するYellow Flag(重度の便塞栓、反復する漏便、顕著な排便回避行動、心理社会的要因など)がある児では早期の専門医紹介が望まれます。なお、Red Flag(新生児期からの便秘、生後48時間以上の胎便排泄遅延、肛門奇形、著明な腹部膨満、神経学的異常など)を認める場合には、器質的疾患の可能性が高く、治療開始前であっても迅速な専門医紹介が推奨されます。保護者への説明保護者からは「薬を使うと癖になりませんか?」と相談されることがよくありますが、まずは「薬を使うことで規則正しい排便習慣をつける」ことが治療の目的であると説明し、安心して治療に臨めるようにします。また、生活指導では、落ち着いた朝の排便習慣づくりが重要であることも伝えられるとよいでしょう。1日の中でも、とくに朝は副交感神経から交感神経へ切り替わるタイミングです。しっかり朝食をとることで胃-結腸反射が働き、またその後ゆっくりと時間がとれれば、副交感神経優位で腸管蠕動が進み、排便につながります。しかし、朝の慌ただしさですぐに交感神経優位に切り替わってしまったり、「時間がない」状況でトイレを我慢してしまったりすると、排便のリズムが乱れ、便が腸に停滞する原因となり、便秘へとつながってしまいます。排便習慣は日々の生活に密接に関わり、慢性化すると子供のQOLに大きな影響を与えます。「隠れ便秘」を見逃さず、適切な問診・指導・治療につなげましょう。ひとことメモ:便秘と排尿トラブルの関係小児では、慢性便秘により直腸が便で拡張すると、膀胱が物理的に圧迫され、膀胱容量の減少や膀胱過活動が生じます。また、便を長く我慢する習慣は骨盤底筋の緊張を高め、排便だけでなく排尿時にも筋がうまく弛緩しなくなるため、残尿や尿意切迫、昼間尿失禁につながります。さらに、直腸に便が充満した状態では膀胱の完全排尿が妨げられて残尿が増えるため、反復性尿路感染症の原因にもなります。このように、直腸拡張による膀胱圧迫・膀胱機能変化・骨盤底筋の協調不全が同時に起こるため、排尿トラブルの評価時には必ず便秘の有無を確認する必要があります。便秘治療によって直腸が適正サイズに戻り、膀胱機能や骨盤底筋の協調が回復することで、夜尿・昼間尿失禁・尿意切迫などが改善することも多く、両者を一体として診療することが重要です。参考資料 1) 日本小児栄養消化器肝臓学会/日本小児消化管機能研究会編. 小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン2025年版. 診断と治療社;2025. 2) 十河剛. 子どもの便秘はこう診る!親子のやる気を引き出す小児消化器科医のアプローチ. 南山堂;2020. 3) 小児慢性機能性便秘

18.

経口orforglipron、2型糖尿病の肥満にも有効/Lancet

 2型糖尿病の過体重/肥満成人において、生活習慣改善の補助的介入としての経口低分子GLP-1受容体作動薬orforglipronの1日1回投与は、プラセボと比較して体重減少効果は統計学的に優れ、安全性プロファイルは他のGLP-1受容体作動薬と同等であったことが示された。米国・University of Texas McGovern Medical SchoolのDeborah B. Horn氏らATTAIN-2 Trial Investigatorsが、第III相の多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照試験「ATTAIN-2試験」の結果を報告した。肥満は2型糖尿病およびその合併症と深く関わる。非糖尿病の肥満成人を対象としたATTAIN-1試験では、orforglipron 36mgの1日1回投与による治療で72週後の体重が最大12.4%減少し、心代謝リスク因子が改善したことが示されていた。Lancet誌オンライン版2025年11月20日号掲載の報告。BMI値27以上、HbA1c値7~10%を対象にorforglipronの3用量vs.プラセボ ATTAIN-2試験は、10ヵ国(アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、チェコ、ドイツ、ギリシャ、インド、韓国、米国)136施設で行われ、3週間のスクリーニング期間と、72週間の治療期間(うち用量漸増期間最長20週間)および2週間の治療後安全性追跡期間で構成された。 BMI値27以上、HbA1c値7~10%(53~86mmol/mol)の患者を対象とし、orforglipronを1日1回6mg、12mg、36mgまたはプラセボを投与する群に1対1対1対2の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、ベースラインから72週までの体重の平均変化率であった。主要推定値は、治療レジメン推定値(中間事象にかかわらず無作為化された全被験者のデータを使用)とし、補助解析として有効性推定値も算出した。 安全性は、試験薬を少なくとも1回投与を受けたすべての患者を対象に評価が行われた。体重およびHbA1c値など心代謝指標、orforglipron群で統計学的有意に改善 2023年6月5日~2024年2月15日に、2,859例がスクリーニングを受け、1,613例が生活習慣改善指導(健康食と運動)とともにorforglipronを1日1回6mg(329例)、12mg(332例)、36mg(322例)投与またはプラセボ(630例)投与を受けるよう無作為化された。 試験を完遂したのは1,444例(89.5%)であった。治療中止の理由として最も多くみられたのは、個人的事情(試験とは関係ない理由、スケジュールが合わない、転居のため)および有害事象であった。 無作為化された1,613例のベースラインの特性は、orforglipron群とプラセボ群で類似しており、平均年齢56.8歳(SD 10.7)、女性757例(46.9%)、体重101.4kg(SD 22.5)、BMI値35.6(SD 6.6)、HbA1c値8.05%(SD 0.75、64.4mmol/mol[SD 8.2])であった。 治療レジメン推定値でみたベースラインから72週までの体重の平均変化量は、プラセボ群-2.5%(95%信頼区間[CI]:-3.0~-1.9)であったのに対して、orforglipron 6mg群は-5.1%(95%CI:-6.0~-4.2、対プラセボ推定治療差[ETD]:-2.7[95%CI:-3.7~-1.6]、p<0.0001)、12mg群は-7.0%(-7.8~-6.2、ETD:-4.5[-5.5~-3.6]、p<0.0001)、36mg群は-9.6%(-10.5~-8.7、ETD:-7.1[-8.2~-6.1]、p<0.0001)であった。 事前に規定した体重およびHbA1c値など心代謝指標は、orforglipron群で統計学的に有意に改善した。有害事象(軽症~中等症の消化器イベント)、主に用量漸増期間中に発現 有害事象を理由とした治療中止の割合はorforglipron群がプラセボ群よりも高かった(orforglipron 6mg群6.1%、12mg群9.6%、36mg群9.9%、プラセボ群4.1%)。orforglipron群で最も多くみられた有害事象は軽症~中等症の消化器関連イベント(下痢、悪心、嘔吐、または便秘)で、主に用量漸増期間中に発現した。 死亡は試験期間中に10例(orforglipron群6例[12mg群4例、36mg群2例]、プラセボ群4例)が報告された。試験治療担当医師により、プラセボ群の1例とorforglipron 12mg群の1例以外の死亡は、試験治療との関連性はないと判断された。orforglipron群の症例では関連性を示す報告はされておらず、死亡前の1年間に試験薬による治療を受けていなかった。

19.

術前療法後に残存病変を有するHER2+早期乳がん、T-DXd vs.T-DM1(DESTINY-Breast05)/NEJM

 再発リスクの高い、術前化学療法後に浸潤性残存病変を有するHER2陽性(+)の早期乳がん患者において、術後療法としてのトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)はトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)と比較して、無浸潤疾患生存期間(iDFS)を統計学的に有意に改善し、毒性作用は主に消化器系および血液系であったことが、ドイツ・Goethe University FrankfurtのSibylle Loibl氏らDESTINY-Breast05 Trial Investigatorsが行った第III相の国際共同非盲検無作為化試験「DESTINY-Breast05試験」の結果で示された。NEJM誌オンライン版2025年12月10日号掲載の報告。主要評価項目はiDFS、重要な副次評価項目はDFS 研究グループは、術前化学療法後(タキサン系化学療法と抗HER2療法を含む)に乳房または腋窩リンパ節に浸潤性残存病変を有する、あるいは初診時に手術不能病変を有する、再発リスクの高いHER2+乳がん患者を対象に、術後療法としてT-DXd 5.4mg/kgと現行の標準治療であるT-DM1 3.6mg/kgを比較した。再発高リスクの定義は、術前療法前にT4 N0~3 M0またはcT1~3 N2~3 M0で手術不能と判断、または術前療法前に手術可能と判断されたが(cT1~3 N0~1 M0)術前療法後に腋窩リンパ節転移が陽性(ypN1~3)であったこととされた。 主要評価項目はiDFS。重要な副次評価項目は無病生存期間(DFS、非浸潤性乳がんおよび二次原発性非乳がんのDFSを含む)であった。その他の副次評価項目は、全生存期間、無遠隔転移生存期間および安全性などであった。iDFSおよびDFSイベントの発生とも、T-DXd群で統計学的に有意に改善 2020年12月4日~2024年1月23日に1,635例が1対1の割合で無作為化され、T-DXd(818例)またはT-DM1(817例)の投与を受けた。データカットオフ(2025年7月2日)時点で、追跡期間中央値は両群ともおよそ30ヵ月(T-DXd群29.9ヵ月[範囲:0.3~53.4]、T-DM1群29.7ヵ月[0.1~54.4])であった。ベースライン特性は両群で類似しており、大半が65歳未満(T-DXd群89.9%vs.T-DM1群90.1%)、ホルモン受容体陽性(71.0%vs.71.4%)、術前療法後に腋窩リンパ節転移陽性(80.7%vs.80.5%)、術前療法として2剤併用抗HER2療法(78.5%vs.79.1%)、アントラサイクリンまたはプラチナ製剤ベースの化学療法(アントラサイクリン:51.7%vs.48.8%、プラチナ製剤:47.2%vs.48.0%)、および放射線療法(93.4%vs.92.9%)を受けていた。また、被験者のほぼ半数がアジア人(48.8%vs.47.2%)であった。 iDFSイベントの発生は、T-DXd群51例(6.2%)、T-DM1群102例(12.5%)であった(ハザード比[HR]:0.47、95%信頼区間[CI]:0.34~0.66、p<0.001)。3年iDFS率はそれぞれ92.4%と83.7%であった。 DFSイベントの発生は、T-DXd群52例(6.4%)、T-DM1群103例(12.6%)であった(HR:0.47、95%CI:0.34~0.66、p<0.001)。3年DFS率はそれぞれ92.3%と83.5%であった。間質性肺疾患リスクに対する適切なモニタリングと管理が必要 最も多くみられた有害事象は、T-DXd群では悪心(発現率71.3%)、便秘(32.0%)、好中球減少(31.6%)、嘔吐(31.0%)であり、T-DM1群では肝機能評価値の上昇(AST上昇50.2%、ALT上昇45.3%)および血小板数の低下(49.8%)であった。 治療薬に関連した間質性肺疾患の発現頻度は、T-DXd群(9.6%)がT-DM1群(1.6%)と比べて高かった。T-DXd群では、間質性肺疾患を呈した2例が死亡した。 著者は、「T-DXdの特定された重要なリスクは間質性肺疾患であり、適切なモニタリングと管理が必要である」と述べている。

20.

12月11日 胃腸の日【今日は何の日?】

【12月11日 胃腸の日】 〔由来〕 「いに(12)いい(11)」(胃にいい)の語呂合わせから日本大衆薬工業協会(現:日本OTC医薬品協会)が2002年に制定。師走に1年間を振り返り、大切な胃腸に負担をかけてきたことを思い、胃腸へのいたわりの気持ちを持ってもらうのが目的。胃腸薬の正しい使い方や、胃腸の健康管理の大切さなどをアピールしている。関連コンテンツ 小児の消化管アレルギー(食物蛋白誘発胃腸症)【すぐに使える小児診療のヒント】 副作用編:下痢(抗がん剤治療中の下痢対応)【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】 2日目のカレーは食中毒のリスク【患者説明用スライド】 コーヒー摂取量と便秘・下痢、IBDとの関連は? 心筋梗塞後の便秘、心不全入院リスクが上昇~日本人データ

検索結果 合計:477件 表示位置:1 - 20