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第136回 ゾコーバがついに緊急承認、本承認までに残された命題とは

こちらでも何度も取り上げていた塩野義製薬の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)治療薬のエンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)がついに11月22日、緊急承認された。今回審議が行われた第5回薬事分科会・第13回医薬品第二部会合同会議も公開で行われたが、緊急承認に対して否定的意見が多数派だった前回に比べれば、かなり大人しいものになった。今回の再審議に当たって新たに塩野義製薬から提出されたデータは同薬の第II/III相試験の第III相パートの速報値だが、その内容については過去の本連載で触れたので割愛したい。審議内で一つ明らかになったのは第III相パートの主要評価項目、有効性の検証対象の用量、有効性の主要な解析対象集団が試験中に変更されていたことだ。もともと、エンシトレルビルでの主要評価項目は新型コロナ関連12症状の改善だったが、前回の合同会議で示された第IIb相パートの結果やオミクロン株の特性に合わせて、最終的な主要評価項目はオミクロン株に特徴的な5症状に変更されたという。これについて医薬品医療機器総合機構(PMDA)側は、新型コロナは流行株の変化で患者の臨床像なども変化することから、主要評価項目の適切さを試験開始前に設定するのは相当の困難これら変更が試験の盲検キーオープン前だったとの見解で許容している。少なくとも第IIb相のサブ解析結果の教訓を生かした形だ。そして、今回の審議でまず“噛みついた”のは前回審議で参考人の利益相反(COI)状況などを激しく責め立てた山梨大学学長の島田 眞路氏だった(参考:第118回)。その要点は以下の2点だ。緊急承認の条件には「代替手段がない」とあるが、すでに経口薬は2種類ある日本人集団だけ(治験は日本、韓国、ベトナムで実施)での解析では症状改善までの期間短縮はわずか6時間程度でとても有効とは言い切れないこれに対して事務方からの回答は以下のようなものだ。国産で安定供給ができ、適応が重症化リスクを問わないので代替手段がないに該当する日本人部分集団で群間差が小さい傾向が認められたことについて、評価・考察を行うための情報には限りがあり、今後改めて評価する必要がある島田氏の日本人集団に関する指摘に関しては、そもそも臨床試験自体が3ヵ国全体の参加者で無作為化されていることを考えれば、日本人集団のみのサブ解析結果は参考値程度に過ぎず、申し訳ないが揚げ足取りの感は否めない。もっとも島田氏がこの事務局説明に対して「(重症化)リスクのない人に使えるから良いんじゃないかって、リスクのない人はちょっと風邪症状があるなら、風邪薬でも飲んどきゃ良いんですよ」と反論したことは大筋で間違いではない。ただし、過去の新型コロナ患者の中には、表向きは基礎疾患がないにもかかわらず死亡した例があることも考えると、さすがに私個人はここまでは断言しにくい。一方、参加した委員から比較的質問・指摘が集中したのがウイルス量低下の意義に関するものだ。議決権はない国立病院機構名古屋医療センターの横幕 能行氏は「(今回の資料では)感染あるいは発症から72時間以内に投与しないと、機序も含めた解釈ではウイルス活性を絶ち切る、もしくはそれに近い効果を得ることはできない。そして72時間以降の投与ではウイルス量の低下もしくは感染性の低下については基本的にはまったく効果がないと読める。感染伝播の阻止、早期の職場復帰などを考えると、ウイルス量もしくは感染性の低下に関する効果のこの点を十分に認識していただいた上で市中に出す必要があるかと思う」と指摘した。これに関して事務方からは「ウイルス量低下の部分は、確かに数値の低下が認められているものの、これがどの程度の臨床的意義を持つかについてはなかなか評価が難しい」というすっきりしない反応だった。現段階でのデータではPMDAも何とも言えないのも実情だろう。最終的には島田氏以外の賛成多数により緊急承認が認められたが、臨床現場での意義はやはり依然として微妙だ。過去にも繰り返し書いているが、エンシトレルビルは、ニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッド)と同じCYP3A阻害作用を有する3CLプロテアーゼ阻害薬であるため、併用禁忌薬は36種類とかなり多い。中には降圧薬、高脂血症治療薬、抗凝固薬といった中高年に処方割合の多い薬剤も多く、この年齢層で投与対象は少ないとみられる。そもそもこの層はモルヌピラビルやニルマトレルビル/リトナビルとも競合するため、これまでの使用実績が多いこれら薬剤のほうが選択肢として優先されるはずだ。となると若年者だが、催奇形性の問題から妊孕性のある女性では使いにくいことはこれまでも繰り返し述べてきたとおりだ。今回の緊急承認を受けて日本感染症学会が公表した「COVID-19に対する薬物治療の考え方第 15版」では、妊孕性のある女性へのエンシトレルビルの投与に当たっては▽問診で直前の月経終了日以降に性交渉を行っていないことを確認する▽投与開始前に妊娠検査を行い、陰性であることを確認することが望ましい、と注意喚起がされている。しかし、現実の臨床現場でこれが可能だろうか? 女性医師が女性患者に尋ねる場合でも、かなり高いハードルと言える。となると、ごく一部の若年男性が対象となるが、これまで国も都道府県も重症化リスクのない若年者へはむしろ受診を控えるよう呼びかけている。もしこうした若年男性がエンシトレルビルの処方を受けたいあまり発熱外来に殺到するならば、感染拡大期には逆に医療逼迫を加速させてしまい本末転倒である。では前述のような見かけ上では重症化リスクがないにもかかわらず突然死亡に至ってしまうような危険性がある症例を選び出して処方できるかと言えば、そうした危険性のある症例自体が現時点ではまだ十分に医学的プロファイリングができていない。そもそも、エンシトレルビルの第III相パートの結果で明らかになったのはオミクロン株特有の臨床症状の改善であって、重症化予防は今のところ未知数だ。となると、後は重症化リスクのない軽症・中等症の中で臨床症状が重めな「軽症の中の重症」のようなやや頭の中がこんがらがりそうな症例を選ばなければならない。強いて言うならば、たとえば酸素飽和度の基準で軽症と中等症を行ったり来たりするような不安定な症例だろうか? ただ、今までもこうした症例で抗ウイルス薬なしで対処できた例も少なくないだろう。そして国の一括買い上げのため価格は不明だが、抗ウイルス薬が安価なはずはなく、多くの臨床医が投与基準でかなり悩むことになるだろう。ならば専門医ほどいっそ端から使わないという選択肢、非専門医は悩んだ末にかなり幅広く処方するという二極分化が起こりうる可能性もある。この薬がこうも悩ましい状況を生み出してしまうのは、前回の合同会議の審議でも話題の中心だった「臨床症状改善効果の微妙さ」という点にかなり起因する。今回の第III相パートの結果では、オミクロン株に特徴的な5症状総合での改善ではプラセボ対照でようやく有意差は認められたものの、有意水準をどうにかクリアしたレベル(p=0.04)だ。ちなみに、もともとの主要評価項目だった12症状総合では今回も有意差は認められなかった。さらに言うと、緊急承認後に塩野義製薬が開催した記者会見後のぶら下がり質疑の中で同社の執行役員・医薬開発本部長の上原 健城氏は、今回の試験では解熱鎮痛薬の服用は除外基準に入っておらず、第III相パートでは両群とも被験者の2~3割はエンシトレルビルと解熱鎮痛薬の併用だったことを明らかにしている。もちろんリアルワールドを考えれば、解熱鎮痛薬を服用していない患者のみを集めるのは難しいだろう。「(解熱鎮痛薬服用が症状判定の)ノイズになってしまってはいけないので、服用直後数時間はデータを取らないようにした」(上原氏)とのこと。ただし、解熱鎮痛薬の抗炎症効果を考えれば、今回の主要評価項目に含まれていたオミクロン株に特徴的な症状のうち、「喉の痛み」の改善などには影響を及ぼす可能性はある。そうなるとエンシトレルビルの「真水」の薬効は、ますます微妙だと言わざるを得ない。もちろん今回の第III相パートはそもそも9割以上の被験者がワクチン接種済みで、さらに2~3割が解熱鎮痛薬の服用があった中でも有意差を認めたのだから、それらがない前提ならばもっと効果を発揮できた可能性もあるのでは? という推定も成り立つが、そう事は簡単な話ではない。緊急承認という枠組みで今後の追加データ次第では1年後に本承認となるか否かという大きな命題が残っていることもあるが、「統計学的有意差を認めたから、少なくとも現時点での緊急承認はこれで一件落着」と素直には言い難いと私個人は思っている。

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極めて難しい妊婦・産婦の静脈血栓症に対して日本は世界の標準治療ができない?(解説:後藤信哉氏)

 血栓症を専門とする医師として最も困難な臨床病態の一つが妊婦・産婦の静脈血栓症である。高齢者の心筋梗塞であれば死亡などの合併症を起こしても納得しやすい。多くの妊婦が安全に出産するなかで自分の家族が静脈血栓症に凶変すれば家族としては納得できない。血栓性素因などが同定されたら、血栓予防を行うことになる。数ヵ月の妊娠期間内、継続的に血栓予防を行うためにはどうしたらいいだろうか? 経口抗凝固薬として長年のデータの蓄積のあるワルファリンは胎盤を通過する。催奇形性もあるため器官形成期には使用できない。選択的トロンビン、Xa阻害薬は心房細動の脳卒中予防などに広く使用されているが、妊婦への使用経験は少ない。低分子として胎盤を通過すれば胎児への影響も懸念される。 妊婦の血栓症に対して使用できる数少ない抗凝固薬がヘパリンである。ヘパリンは分子量の異なる物質が混在している。個人ごとに効果がばらつくためaPTTを用いたモニタリングが必須である。欧米では、ヘパリンから低分子量成分を抽出した低分子ヘパリンが静脈血栓症に対して使用できる。妊娠中、産後の血栓リスクの高い時期には低分子ヘパリンの自己皮下注射が広く普及している。いわゆる予防量とされる少量の固定量が良いか、体重に応じて投与量を調節した方がよいかは不明であった。つまり、妊産婦の静脈血栓症予防の最適治療について欧米諸国は相当標準化が進んでいたが、容量調節の要否についてコンセンサスがなかったので本ランダム化比較試験が施行された。妊娠14週よりも前に静脈血栓が確認された症例を1,110例集めた。出産後6週までの血栓イベント、出血イベントの群間比較を行い両群に差がないとされた。 残念なことに日本では低分子量ヘパリンが静脈血栓症において適応を取得していない。家族とトラブルになるリスクの高い妊産婦の血栓予防に低分子ヘパリンをチャレンジする勇気はない。世界の標準治療と異なるとしてもヘパリンカルシウムなどにて対応せざるを得ない。ランダム化比較試験のエビデンスが標準治療とされる原理の中で、一度世界と標準治療が異なってしまうと追いつくのが難しい。低分子ヘパリンの自己皮下注が使えれば…と思う症例が多い。せめて日本でも大規模な観察研究データでも作って、本研究のように治療下でも1%の症例には静脈血栓イベントが起こる、などの科学的事実を集積できれば患者さんへの説明に役立つ。

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VTE既往妊産婦への低分子ヘパリン、体重補正中用量vs.固定低用量/Lancet

 静脈血栓塞栓症(VTE)既往のある女性において、分娩前~分娩後に体重で補正した中用量の低分子ヘパリン投与は、固定低用量の低分子ヘパリン投与と比べてVTE再発リスクを低減しないことが、オランダ・アムステルダム大学のIngrid M. Bistervels氏らが行った多施設共同非盲検無作為化試験「Highlow試験」の結果、示された。妊娠に関連したVTEは、母体の罹患および死亡の主要な原因であり、VTE既往女性では分娩前および分娩後に血栓予防が適応となる。しかし同期間中のVTE再発予防のための低分子ヘパリンの至適投与量は明らかでなかった。Lancet誌オンライン版2022年10月28日号掲載の報告。9ヵ国70病院で無作為化試験、妊娠14週~分娩後6週まで各用量を投与 Highlow試験は、9ヵ国(オランダ、フランス、アイルランド、ベルギー、ノルウェー、デンマーク、カナダ、米国、ロシア)の70病院から、VTE既往の妊娠中の女性を集めて行われた。客観的診断によるVTE既往のある18歳以上で、妊娠14週以下の女性を適格とした。 適格女性を、1対1の割合でウェブベースシステムと置換ブロック無作為化法にて、妊娠14週前に、体重補正した中用量の低分子ヘパリン投与(体重補正中用量)群または固定低用量の低分子ヘパリン投与(低用量)群に割り付け、分娩後6週まで1日1回皮下投与した。 主要有効性アウトカムは客観的診断のVTE(深部静脈血栓症、肺塞栓症または非典型的部位静脈血栓症など)で、独立した中央判定委員会で確認を行った。評価対象はintention-to-treat(ITT)集団(投与群に割り付けられたすべての女性など)とした。 主要安全性アウトカムは、分娩前、分娩後早期(分娩後24時間未満)を含む大出血、および分娩後後期大出血(分娩後24時間以上~6週間)で、割り付けられた治療の投与を少なくとも1回受け、投与の終了が確認されたすべての女性を評価対象とした。VTE再発に有意差なし、安全性も同等 2013年4月24日~2020年10月31日に、1,339例の妊娠中の女性がスクリーニングを受け、適格であった1,110例が、体重補正中用量群(555例)、低用量群(555例)に無作為に割り付けられた(ITT集団)。 VTEの発生は、体重補正中用量群11/555例(2%)、低用量群16/555例(3%)であった(相対リスク[RR]:0.69[95%信頼区間[CI]:0.32~1.47]、p=0.33)。 分娩前のVTE発生は、体重補正中用量群5/555例(1%)、低用量群5/555例(1%)であり、分娩後のVTE発生はそれぞれ6例(1%)、11例(2%)であった。 安全性解析集団(1,045例)における治療期間中の大出血は、体重補正中用量群23/520例(4%)、低用量群20/525例(4%)であった(RR:1.16[95%CI:0.65~2.09])。

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脳底動脈閉塞の予後改善、発症12時間以内の血栓除去術vs.薬物療法/NEJM

 中国人の脳底動脈閉塞患者において、脳梗塞発症後12時間以内の静脈内血栓溶解療法を含む血管内血栓除去術は、静脈内血栓溶解療法を含む最善の内科的治療と比較して90日時点の機能予後を改善したが、手技に関連する合併症および脳内出血と関連することが、中国科学技術大学のChunrong Tao氏らが中国の36施設で実施した医師主導の評価者盲検無作為化比較試験の結果、示された。脳底動脈閉塞による脳梗塞に対する血管内血栓除去術の有効性とリスクを検討した臨床試験のデータは限られていた。NEJM誌2022年10月13日号掲載の報告。発症後12時間以内の症例で、90日後のmRSスコア0~3達成を比較 研究グループは、18歳以上で発症後推定12時間以内の脳底動脈閉塞による中等症~重症急性期虚血性脳卒中患者(NIHSSスコアが10以上[スコア範囲:0~42、スコアが高いほど神経学的重症度が高い])を、内科的治療+血管内血栓除去術を行う血管内治療群と内科的治療のみを行う対照群に2対1の割合で無作為に割り付けた。 内科的治療は、ガイドラインに従って静脈内血栓溶解療法、抗血小板薬、抗凝固療法、またはこれらの併用療法とした。血管内治療は、ステント型血栓回収デバイス、血栓吸引、バルーン血管形成術、ステント留置、静脈内血栓溶解療法(アルテプラーゼまたはウロキナーゼ)、またはこれらの組み合わせが用いられ、治療チームの裁量に任された。 主要評価項目は、90日時点の修正Rankinスケールスコア(mRS)(範囲:0~6、0は障害なし、6は死亡)が0~3の良好な機能的アウトカム。副次評価項目は、90日時点のmRSが0~2の優れた機能的アウトカム、mRSスコアの分布、QOLなどとした。また、安全性の評価項目は、24~72時間後の症候性頭蓋内出血、90日死亡率、手技に関連する合併症などであった。良好な機能的アウトカム達成、血管内治療群46%、対照群23% 2021年2月21日~2022年1月3日の期間に507例がスクリーニングを受け、このうち適格基準を満たし同意が得られた340例(intention-to-treat集団)が、血管内治療群(226例)と対照群(114例)に割り付けられた。静脈内血栓溶解療法は血管内治療群で31%、対照群で34%に実施された。 90日後の良好な機能的アウトカムは、血管内治療群104例(46%)、対照群26例(23%)で認められた(補正後率比:2.06、95%信頼区間[CI]:1.46~2.91、p<0.001)。症候性頭蓋内出血は、血管内治療群では12例(5%)に発生したが、対照群では発生しなかった。 副次評価項目については、概して主要評価項目と同様の結果であった。 安全性に関して、90日死亡率は、血管内治療群で37%、対照群で55%であった(補正後リスク比:0.66、95%CI:0.52~0.82)。手技に関連する合併症は、血管内治療群の14%に発生し、動脈穿孔による死亡1例が報告された。

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日本には静脈血栓予防・治療の低分子ヘパリンがないのが痛いね(解説:後藤信哉氏)

 医師は目の前の患者の予後の改善に努力する。10年以上の長いスパンで考えることはない。未来を見通して、将来増える疾患への対応を考えるのは製薬企業なのであろうか? ヘパリンは分子量の異なる各種分子の混合物である。吸収、代謝にばらつきがある。静脈投与と容量調節が必須である。低分子成分を抽出すると吸収、代謝が均一な「低分子ヘパリン」を作ることができる。均質な低分子なので「皮下注可能」、「容量調節不要」との利点がある。個別の患者による家庭での自己皮下注の可能性も開ける。静脈血栓の予防、治療のために日本でもフラグミンなどの適応を拡大しておく選択はあったが、選択してこなかった。 本試験では低分子ヘパリンとしてtinzaparinが選択された。日本では承認されていないので筆者も物質の詳細は知らない。1日1度の皮下注が可能となっているので、作用時間が延長する工夫がなされているのだと思う。 大腸がんの術後に日本では予防的抗凝固療法が普及しているだろうか? 人類は共通と仮定してランダム化比較試験による標準治療の転換を行なってきたが、周囲の日本の患者さんの血栓リスクは欧米人より低いと思う。本研究では標準治療と長期のtinzaparinが比較された。標準治療は入院期間内の標準的抗凝固療法である。退院して活動すれば血栓リスクは下がると想定するが、それでも2ヵ月までのtinzaparinを標準治療と比較したのが本研究である。3年追跡しても両群間に大きな比較はなかった。 新薬開発のランダム化比較試験は世界の均質性を前提とする。意外に世界には各地域独自の特徴がある。各地域の特徴は国際共同試験の妥当性を担保できないほど大きいのではないか? 筆者は、現時点ではランダム化比較試験の科学性を重視するほうであるが、革新的な新規評価法が生まれることにも期待している。

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その血栓症、CATの可能性は?【知って得する!?医療略語】第21回

第21回 その血栓症、CATの可能性は?がんと血栓症は関連があるのですか?そうなのです、がんと血栓症は密接に関連していて、CATとも呼ばれます。≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】CAT【日本語】がん関連血栓症【英字】cancer associated thrombosis【分野】腫瘍関連【診療科】脳神経、循環器【関連】―実際のアプリの検索画面はこちら※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。近年、がん関連血栓症(CAT:cancer associated thrombosis)という言葉を散見するようになりました。CATはがん、もしくはがん治療に関連した血栓症を幅広く表現した概念です。また、がん診療における血栓症の合併リスクを注意喚起するとともに、あらゆる血栓症を治療するにあたり、その血栓形成の背景に“悪性疾患が存在する可能性を念頭に置くべき”であることを認識させてくれる概念だと考えます。脳卒中患者の診療が多かった筆者にとって、最も身近なCATはTrousseau(トルーソー)症候群でした。トルーソー症候群はCATの概念に包含されます。脳塞栓症の多くは、心原性脳塞栓症ですが、一部の塞栓症はトルーソー症候群による脳梗塞で、悪性腫瘍による血栓形成傾向によるものでした。トルーソー症候群の多くが抗血栓療法に抵抗性で短期間に脳塞栓症再発を経験しました。がん治療を受ける方は、脳梗塞を発症しやすく、がん治療中に脳卒中を発症した4人に1人はトルーソー症候群とも言われています。赤塚氏の報告によれば、トルーソー症候群の27.5%は脳梗塞先行群であったことが示されています。このため、「血液凝固能亢進を伴った多発脳梗塞では、悪性腫瘍を念頭に精査を進めることが重要」と述べてられています。CATやトルーソー症候群の疾患概念を念頭に置いていない限り、悪性疾患の精査がなされていない患者に対し、その存在を見過ごしたまま脳梗塞のみを治療するようなことが起きてしまいます。心房細動のない多発性脳梗塞や原因不明のDダイマー上昇を見かけた時には、頭部以下の画像検査も積極的に検討する必要があります。脳領域に限らず、体のどこかで原因不詳の血栓症が見られたら、悪性疾患の併存を疑い、検索することを心がけたいですね。1)赤塚 和寛ほか:当院でのTrousseau症候群40例の臨床的特徴2)野川 茂. 血栓止血誌. 2016;27:18-28.3)岡 亨. 心臓. 2020;52:1337-1341.

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lecanemabが早期アルツハイマー病の症状悪化を抑制、今年度中の申請目指す/エーザイ・バイオジェン

 エーザイ株式会社とバイオジェン・インクは2022年9月18日付のプレスリリースで、抗アミロイドβ(Aβ)プロトフィブリル抗体lecanemabについて、脳内アミロイド病理が確認されたアルツハイマー病(AD)による軽度認知障害(MCI)および軽度AD(これらを総称して早期ADと定義)を対象とした第III相Clarity AD試験において、主要評価項目ならびにすべての重要な副次評価項目を統計学的に高度に有意な結果をもって達成したと発表した。 Clarity AD試験は、早期AD患者1,795例を対象とした、プラセボ対照、二重盲検、並行群間比較、無作為化グローバル臨床第III相検証試験。被験者は、lecanemab 10mg/kg bi-weekly投与群またはプラセボ投与群に1:1で割り付けられた。ベースライン時における被験者特性は両群で類似しており、バランスがとれていた。被験者登録基準においては、幅広い合併症あるいは併用治療(高血圧症、糖尿病、心臓病、肥満、腎臓病、抗凝固薬併用など)を許容している。試験実施地域は日本、米国、欧州、中国。 主要評価項目はベースラインから投与18ヵ月時点でのCDR-SB(Clinical Dementia Rating Sum of Boxes)の変化。主な副次評価項目はベースラインから投与18カ月時点での、アミロイドPET測定による脳内アミロイド蓄積、ADAS-cog14(Alzheimer's Disease Assessment Scale-cognitive subscale 14)、ADCOMS(Alzheimer’s Disease Composite Score)およびADCS MCI-ADL(Alzheimer's Disease Cooperative Study-Activities of Daily Living Scale for Mild Cognitive Impairment)。 lecanemab:可溶性のアミロイドβ(Aβ)凝集体(プロトフィブリル)に対するヒト化モノクローナル抗体で、ADを惹起させる因子の1つと考えられている、神経毒性を有するAβプロトフィブリルに選択的に結合して無毒化し、脳内からこれを除去することでADの病態進行を抑制する疾患修飾作用が示唆されている。 今回発表されたClarity AD試験の主な結果は以下のとおり。・intent-to-treat(ITT)集団における解析の結果、投与18ヵ月時点での全般臨床症状の評価指標であるCDR-SBスコアの平均変化量は、lecanemab投与群がプラセボ投与群と比較して-0.45となり27%の悪化抑制を示し(p=0.00005)、主要評価項目を達成した。・また、CDR-SBは投与6ヵ月以降すべての評価ポイントにおいてlecanemab投与群がプラセボ投与群と比較して統計学的に高度に有意な悪化抑制を示した(全評価ポイントでp<0.01)。・副次評価項目であるアミロイドPET測定による脳内アミロイド蓄積、ADAS-cog14、ADCOMSおよびADCS MCI-ADLの投与18ヵ月時点での変化についても、すべての項目においてプラセボと比較して統計学的に高度に有意な結果を示した(p<0.01)。・抗アミロイド抗体に関連する有害事象であるアミロイド関連画像異常(ARIA)について、ARIA-E(浮腫/浸出)の発現率は、lecanemab投与群で12.5%、プラセボ投与群で1.7%だった。そのうち症候性のARIA-Eの発現率は、lecanemab投与群で2.8%、プラセボ投与群で0.0%だった。・ARIA-H(ARIAによる脳微小出血、大出血、脳表ヘモジデリン沈着)の発現率は、lecanemab投与群で17.0%、プラセボ投与群で8.7%だった。症候性ARIA-Hの発現率は、lecanemab投与群で0.7%、プラセボ投与群で0.2%だった。ARIA-Hのみ(ARIA-Eを発現していない被験者でのARIA-H)はlecanemab投与群(8.8%)とプラセボ投与群(7.6%)で差はみられなかった。・ARIA(ARIA-Eおよび/またはARIA-H)の発現率はlecanemab投与群で21.3%、プラセボ投与群で9.3%であり、総じてlecanemabのARIA発現プロファイルは想定内であった。 本試験結果については、2022年11月29日にアルツハイマー病臨床試験会議で発表し、査読付き医学誌で公表する予定となっているほか、同社では本試験結果をもとに2022年度中の米国フル承認申請、および日本、欧州での承認申請を目指している。

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大腸がん術後の低分子ヘパリン、投与期間延長は有効か?/BMJ

 低分子量ヘパリンtinzaparinによる大腸がん切除術の周術期抗凝固療法は、投与期間を延長しても入院中のみの投与と比較して、静脈血栓塞栓症と術後大出血の発現率は両群で類似していたが、無病生存および全生存を改善しなかった。カナダ・オタワ大学のRebecca C. Auer氏らが、カナダ・ケベック州とオンタリオ州の12病院で実施した無作為化非盲検比較試験「PERIOP-01」の結果を報告した。低分子量ヘパリンは、前臨床モデルにおいてがん転移を抑制することが示されているが、がん患者の全生存期間延長は報告されていない。周術期は、低分子量ヘパリンの転移抑制効果を検証するのに適していると考えられることから、約35%の患者が術後に再発するとされる大腸がん患者を対象に臨床試験が行われた。BMJ誌2022年9月13日号掲載の報告。術前から術後56日間の血栓予防と、術後入院期間中のみの血栓予防を比較 研究グループは、2011年10月25日~2020年12月31日の期間に、病理学的に浸潤性結腸・直腸腺がんと確定診断され、術前検査で転移を認めず外科的切除術が予定されたヘモグロビン値8g/dL以上の成人(18歳以上)614例を、血栓予防を目的としたtinzaparin 4,500 IU/日皮下投与を、手術決定時(無作為化後24時間以内)から術後56日間継続する期間延長群と、術後1日目から入院期間中のみ行う院内予防群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は、3年時点の無病生存(局所領域再発、遠隔転移、2次原発がん[同一がん]、2次原発がん[他のがん]、または死亡を伴わない生存と定義)、副次評価項目は静脈血栓塞栓症、術後大出血合併症、5年全生存などとし、intention-to-treat解析を実施した。 なお、本試験は、無益性のため中間解析後に早期募集中止となった。周術期の抗凝固療法、期間延長でも3年時の無病生存は改善せず 主要評価項目のイベント発生は、期間延長群で307例中235例(77%)、院内予防群で307例中243例(79%)であった(ハザード比[HR]:1.1、95%信頼区間[CI]:0.90~1.33、p=0.4)。 術後静脈血栓塞栓症は、期間延長群5例(2%)、院内予防群4例(1%)に認められた(p=0.8)。また、術後1週間の手術関連大出血はそれぞれ1例(<1%)および6例(2%)報告された(p=0.1)。 5年全生存率は、期間延長群89%(272例)、院内予防群91%(280例)で有意差は認められなかった(HR:1.12、95%CI:0.72~1.76、p=0.1)。 著者は今回の研究の限界として、非盲検試験であること、結腸がんと直腸がんの両方を組み込んだこと、また中間解析の結果を踏まえて早期に試験中止に至ったことなどを挙げている。

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日本でのコロナ死亡例の分析結果/COVID-19対策アドバイザリーボード

 第98回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードが、9月7日に開催された。その中で大曲 貴夫氏(国立国際医療研究センター 国際感染症センター/COVIREGI解析チーム)らのチームが、「COVID-19レジストリに基づく死亡症例の分析」を報告した。 レジストリ研究は、わが国におけるCOVID-19患者の臨床像および疫学的動向を明らかにすることを目的に、2020年1月から行われている。COVID-19と診断され、医療機関において入院管理されている症例を対象に(8月22日時点で登録症例数は7万920症例)、COVID-19の臨床像・経過・予後、重症化危険因子の探索、薬剤投与症例の経過と安全性について解析、検討が行われている。軽症例での死亡率が徐々に上昇【各波の死亡症例】 各波の死亡症例を比較すると、第6波と第7波は中等症および軽症からの死亡が増加していた。登録数で1番死亡例が多かった第3波と比較すると次のようになる〔( )の死亡率は編集部で算出した〕。・第3波 総死亡:1,218、重症死亡数:235(19.3%)、中等症死亡数:957(78.6%)、軽症:26(2.13%)・第6波 総死亡:300、重症死亡数:40(13.3%)、中等症死亡数:250(83.3%)、軽症:10(3.3%)・第7波 総死亡:19、重症死亡数:1(5.2%)、中等症死亡数:17(89.0%)、軽症:1(5.2%)【中等症での死亡症例】 中等症のうち、第4波以降ネーザルハイフローの利用が進んだが、第6波以降酸素のみ使用で死亡する症例が増えている。第5波で約50%、第6波で約65%、第7波で約80%と上昇。【中等症のリスク因子】 第1波~第7波まで共通して、基礎疾患ありの患者の方が死亡していた。第1波 224人中209人が基礎疾患あり(93.3%)第2波 208人中200人が基礎疾患あり(96.2%)第3波 924人中868人が基礎疾患あり(93.9%)第4波 254人中235人が基礎疾患あり(92.5%)第5波 118人中103人が基礎疾患あり(87.3%)第6波 233人中223人が基礎疾患あり(95.7%)第7波 17人中16人が基礎疾患あり(94.1%)【第5波と第6・7波の比較】・入院中のCOVID-19治療目的での薬物投与の登録割合 (第5波)ワクチン接種あり(ステロイド、抗凝固薬、レムデシビル順で多い)ワクチン接種なし(サリルマブ、モルヌピラビル、ナファモスタット、カモスタットの順で多い)(第6・7波) ワクチン接種あり(ステロイド、レムデシビル、抗凝固薬の順で多い)ワクチン接種なし(ファビピラビル、カモスタット、サリルマブが同順で多い)・入院中の呼吸補助の登録割合 (第5波)ワクチン接種あり(酸素投与、ネーザルハイフロー、侵襲的機械換気の順で多い)ワクチン接種なし(体外式膜型人工肺、非侵襲的機械換気、侵襲的機械換気の順で多い)(第6・7波)ワクチン接種あり(酸素投与、ネーザルハイフロー、侵襲的機械換気の順で多い)ワクチン接種なし(体外式膜型人工肺、非侵襲的機械換気、侵襲的機械換気の順で多い)【第6波と第7波の比較】・入院中のCOVID-19治療目的での薬物投与の登録割合 (第6波)ワクチン接種あり(レムデシビル、ステロイド、抗凝固薬の順で多い)ワクチン接種なし(ファビピラビル、カモスタット、サリルマブが同順で多い)(第7波)ワクチン接種あり(レムデシビル、ステロイド、抗凝固薬の順で多い)ワクチン接種なし(ファビピラビル、トシリズマブ、ナファモスタット、カモスタット、サリルマブ、カシリビマブ/イムデビマブが同順で多い)・入院中の呼吸補助の登録割合 (第6波)ワクチン接種あり(酸素投与、ネーザルハイフロー、侵襲的機械換気の順で多い)ワクチン接種なし(体外式膜型人工肺、非侵襲的機械換気、侵襲的機械換気の順で多い)(第7波)ワクチン接種あり(酸素投与、ネーザルハイフロー、侵襲的機械換気の順で多い)ワクチン接種なし(体外式膜型人工肺、非侵襲的機械換気、侵襲的機械換気の順で多い)【まとめ】・第5波と第6-7波の死亡例比較では、第6-7波の方が人工呼吸・ネーザルハイフローの使用率やステロイド処方が下っていた。また、ともに90%の事例では酸素を必要としていた。・第6波と第7波の死亡例比較では、第7波の方が、さらに人工呼吸・ネーザルハイフローの使用率やステロイドの処方率が下がっていた。・ワクチン3回、4回接種者の割合が増加していることから、重篤なCOVID-19肺炎による呼吸不全の方が占める比率が下がっていると推測される。※なお、本報告のレジストリ登録患者は入院患者かつわが国全体の患者の一部であり、すべてのCOVID-19患者が登録されているわけではないこと、また報告では統計学的な検討は実施していないことに注意が必要。

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ワルファリンは揺るぎない経口抗凝固薬の本流!(解説:後藤信哉氏)

 抗凝固薬の重篤な出血合併症は怖い。ワルファリンの有効性は確実であるが、重篤な出血合併症が怖いため血栓イベントリスクの高い症例に絞って使用してきた。経口のトロンビン、Xa阻害薬ではワルファリンに勝る有効性は期待できない。ワルファリンの至適PT-INRを2~3と高めに設定して、辛うじて非弁膜症性心房細動にて適応を取得した。リウマチ性の僧帽弁狭窄症など、血栓リスクの高い症例の血栓イベントは単一の凝固因子の選択的阻害薬ではとても予防できないと想定されていた。高齢社会にて非弁膜症性心房細動の数は多い。経口のトロンビン、Xa阻害薬をごっちゃにしてNOAC/DOACなどの軽い名前のイメージで特許期間内に売りまくった。血栓イベントリスクの高い機械弁では、NOAC/DOACがワルファリンにとても勝てないことはすでに解明されていた(Eikelboom JW, et al. N Engl J Med. 2013;369:1206-1214.)。今回は弁口面積2cm2以下の僧帽弁狭窄症を含むリウマチ性の心房細動の症例をNOAC/DOACのリバーロキサバンとワルファリンに割り付け、両者の有効性・安全性を検証した。 非弁膜症性の心房細動の各種ランダム化比較試験と本試験では、有効性エンドポイントが同一ではない。本試験では脳卒中・全身塞栓症に加え、心筋梗塞、心血管死亡、原因不明の死亡が有効性のエンドポイントとされた。症例は50歳前後と典型的な非弁膜症性心房細動よりも若い。観察期間内の有効性エンドポイントしては脳梗塞・全身塞栓症よりも死亡が圧倒的に多い。非弁膜症性心房細動におけるNOAC/DOAC開発試験でも、脳卒中・全身塞栓症よりも死亡が多かった。心房細動の症例をみたら、近未来の死亡こそ警戒されるべきである! 脳卒中・全身塞栓症、死亡ともに、リバーロキサバン群よりもワルファリン群が少なかった。試験がオープンラベルでPT-INRは2~3を目標とされたが、各施設に任された部分が多かった。重篤な出血、頭蓋内出血ともに数の上ではワルファリン群に多いように見えるが、若年のこともあり絶対数は少ない。 リウマチ性心疾患の心房細動など、血栓リスクの高い症例ではワルファリンが必要であることが改めて示された。ワルファリンは古典的で使い方はNOAC/DOACより難しい。しかし、本当に血栓が心配な症例ではワルファリンが必要である。難しいけど若手には頑張って勉強してほしい!

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人工関節置換術後のVTE予防、アスピリンvs.エノキサパリン/JAMA

 股関節または膝関節の変形性関節症で人工関節置換術を受けた患者における静脈血栓塞栓症(VTE)の予防では、アスピリンはエノキサパリンと比較して、90日以内の症候性VTEの発現率が統計学的に有意に高く、死亡や大出血、再入院、再手術の頻度には差がないことが、オーストラリア・インガム応用医学研究所のVerinder S. Sidhu氏らが実施した「CRISTAL試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2022年8月23日号に掲載された。オーストラリアのレジストリ内クラスター無作為化非劣性試験 CRISTAL試験は、人工股関節置換術(THA)および人工膝関節置換術(TKA)に伴うVTEの予防における、アスピリンのエノキサパリン(低分子量ヘパリン)に対する非劣性の検証を目的とするレジストリ内クラスター無作為化クロスオーバー試験であり、2019年4月~2020年12月の期間に、オーストラリアの31の病院で参加者の登録が行われた(オーストラリア連邦政府の助成を受けた)。 クラスターは、参加施設募集の前年に年間250件以上のTHAまたはTKAを行っている病院とされた。対象は、年齢18歳以上で、試験参加施設でTHAまたはTKAを受けた患者であった。術前に抗凝固薬の投与を受けた患者や、試験薬が禁忌の患者は除外された。 試験参加施設は、THA施行後は35日間、TKA施行後は14日間、アスピリン(100mg/日、経口投与)またはエノキサパリン(40mg/日、皮下投与)の投与を行う群に無作為に割り付けられた。また、試験参加施設は、無作為割り付けされた薬剤群で目標登録患者数が達成された時点で、試験薬をクロスオーバーするよう求められた。 主要アウトカムは、術後90日以内の症候性VTE(肺塞栓症[PE]、膝下または膝上の深部静脈血栓症[DVT])であり、非劣性マージンは1%とされた。副次アウトカムは、90日以内の死亡や大出血など6項目が設定された。解析は、クロスオーバー前の無作為化された薬剤群で行われた。 本試験は、2回目の中間解析(2020年12月)で停止規則が満たされたため、データ安全性監視委員会により患者の登録の中止が勧告され、早期中止となった。膝下DVTがアスピリン群で有意に多い 本試験の当初の目標登録患者数は1万5,562例(各群251例ずつ×31施設)で、9,711例(62%)(年齢中央値68歳、女性56.8%)が登録された時点で中止となった。このうち9,203例(95%)が試験を完遂した。アスピリン群に5,675例、エノキサパリン群に4,036例が割り付けられた。 術後90日以内に、256例で症候性VTEが発現し、PEが79例、膝上のDVTが18例、膝下のDVTは174例で認められた。 90日以内の症候性VTE発現率は、アスピリン群が3.45%(187/5,416例)、エノキサパリン群は1.82%(69/3,787例)であり(推定群間差:1.97%、95%信頼区間[CI]:0.54~3.41)、アスピリン群の非劣性基準は満たされず、エノキサパリン群で統計学的に有意な優越性が示された(p=0.007)。 主要アウトカムの構成要件のうち、90日以内のPE、PEとDVTの双方、膝上のDVTの発現には有意差はなかったが、全DVT(p=0.003)と膝下のDVT(p=0.004)がエノキサパリン群で有意に少なかった。 また、副次アウトカムである90日以内の死亡、大出血、再入院、再手術、6ヵ月以内の再手術、薬剤アドヒアランスには、両群間に有意な差は認められなかった。 著者は、「最近のVTE予防に関する国際的なコンセンサス会議のガイドラインでは、アスピリンの使用が強く推奨されているが、これは症候性VTEと無症候性VTEを区別していない後ろ向き観察研究を多く含むネットワークメタ解析に基づいている」と指摘し、「これらの結果の解釈では、両群間のVTE発生の差は主に膝下のDVTの差によるもので、膝下DVTは膝上DVTやPEに比べ臨床的な重要性が低いことから、今回の知見の臨床的重要性は明確ではない」としている。

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急性期脳梗塞、遠隔虚血コンディショニングで機能予後改善/JAMA

 中等症の急性期脳梗塞成人患者において、症状発現後48時間以内に両側上肢を電子自動制御カフで圧迫・解除を繰り返す遠隔虚血コンディショニング(remote ischemic conditioning:RIC)治療を加えることで、通常の治療のみと比較し90日後の神経学的機能良好の可能性が有意に増加することを、中国・人民解放軍北部戦区総医院のHui-Sheng Chen氏らが、中国の55施設で実施した多施設共同無作為化非盲検試験「Remote Ischemic Conditioning for Acute Moderate Ischemic Stroke Study:RICAMIS試験」の結果、報告した。これまで、前臨床試験でRICが脳梗塞を抑制し神経学的アウトカムを改善することが示され、いくつかの臨床試験においてRICの安全性が報告されていたが、急性期脳梗塞患者におけるRICの有効性に関して明らかなエビデンスは得られていなかった。なお著者は、「RICの有効性を結論付ける前に、今回の結果を別の試験で再現する必要がある」とまとめている。JAMA誌2022年8月16日号掲載の報告。症状発現後48時間以内の中等症の脳梗塞患者約1,800例で検討 研究グループは、2018年12月26日~2021年1月19日の期間に、18歳以上で症状発現後48時間以内の中等症の急性期虚血性脳卒中患者(NIHSSスコアが6~16[スコア範囲:0~42、スコアが高いほど重度])1,893例を、RIC群(922例)または対照群(971例)に1対1の割合で無作為に割り付けた(最終追跡調査日2021年4月19日)。 RIC群では、ガイドラインで推奨されている治療(抗血小板薬、抗凝固薬、スタチンなど)に加え、RIC(両側上肢に電子自動制御のカフを装着し、200mmHgで5分間の圧迫と5分間の解除を1サイクルとして、5サイクル、計50分間繰り返す)を1日2回、10~14日間実施した。 対照群では、ガイドラインで推奨されている治療のみを行った。 主要評価項目は、90日時点の良好な機能アウトカム(mRSスコア:0~1)の患者割合とし、盲検下で評価された。90日後のmRS 0~1の割合は、RIC群67.4%、対照群62.0% 無作為化された1,893例(平均[±SD]年齢65±10.3歳、女性606例[34.1%])のうち、適格基準を満たさず臨床的判断により中止あるいは同意撤回などにより117例が除外され、1,776例(93.8%)が解析対象となった。 90日時点の機能予後良好の患者割合は、RIC群67.4%(582/863例)、対照群62.0%(566/913例)であり、群間リスク差は5.4%(95%信頼区間[CI]:1.0~9.9)、オッズ比は1.27(95%CI:1.05~1.54)と、両群間に有意差が認められた(p=0.02)。 有害事象の発現率は、RIC群6.8%(59/863例)、対照群5.6%(51/913例)であった。

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第29回 患者を帰す前の一工夫:病状や処方の説明を十分しよう【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)病状説明は、患者さんが陥りがちな点を踏まえた上で、具体的に、わかりやすく行おう!【症例】71歳男性。高血圧以外の特記既往なく、ADLは自立している。来院前日から喉の痛みを自覚した。来院当日起床時から倦怠感、発熱を認めた。別棟に住む孫が2日前に近医小児科で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の陽性診断を受けており、濃厚接触はしていないものの心配になり受診。●受診時のバイタルサイン意識清明血圧148/91mmHg脈拍90回/分(整)呼吸20回/分SpO297%(RA)体温38.1℃所見全身状態は良好で、流行状況も考慮しCOVID-19迅速抗原検査を施行したところ陽性。飲食も可能であり、解熱薬のみの処方で帰宅の判断となった。〔初診外来での会話〕医師「コロナ陽性だったので、薬を出しておきますので、それで対応してください。保健所から連絡があると思うので、あとはその指示に従ってくださいね。お大事に」患者「あ、はい…」翌日、喉の痛みは改善傾向にあるものの、発熱が持続しているため再度受診したが…。COVID-19禍での外来診療みなさん、体調を崩してはいないでしょうか? 私が勤務する救急外来にも連日多くの患者さんが来院し、「コロナ疑いの患者さんもたぁくさん」という、そんな毎日です。なるべくなら自宅で経過をみることが可能な方への受診は控えてもらいたいと思いながらも、その判断って私たちが思っているほど簡単ではありません。まして子を持つ親であれば、子どもの体調には自分以上に心配になりますし、家族内感染の場合には自宅内隔離を実践しようとするも現実は難しく、日毎に症状を認める家族の対応に悩むことが多いでしょう。日本感染症学会、日本救急医学会、日本プライマリ・ケア連合学会、日本臨床救急医学会の4学会から「限りある医療資源を有効活用するための医療機関受診及び救急車利用に関する4学会声明」が8月2日に提出され、国民一人一人がこの内容を理解することも大切ですが、受診した患者さんに対しても意識させる必要があります1)。再受診患者を防ぐことはできないか救急外来で帰宅可能と判断した患者さんが数日内に再度受診することは、避けたいところですが珍しくありません。現在、ベッド事情が厳しい病院も多いことから、本来入院で経過をみることが望ましい患者さんを外来でフォローすることも増えているかもしれません。このようなケースは致し方ない部分もあるとは思いますが、なかには再度受診したものの、帰宅可能の判断となる患者さんもいます。その多くがちょっとしたことで防ぐことができるものであり、今回の事例ではその辺りを取り上げたいと思います。ちなみに、状態の悪化によって数日内に救急外来を再受診する患者さんは、そうでない患者さんと比較し、初診時に呼吸数が上昇していることが多く、呼吸数は臨床的悪化の独立した危険因子です2)。帰宅可能と最終判断する前に、呼吸数に着目することをお勧めします。バイタルサインは普段の状況で評価を最近は、呼吸困難を主訴に来院する患者さんが多いように感じます。その際、安静時のバイタルサインのみで帰宅の判断をしていないでしょうか。以前にもこの点は取り上げましたが(第12回 呼吸困難)、バイタルサインは「普段の状況」でも確認することを忘れないようにしましょう。普段歩行可能な方であれば、歩行してもらい、それでも症状の再燃が認められないかを確認しましょう。安静時、SpO2が問題ないから帰宅可能、それではダメですよ。歩いてもらったら、呼吸困難の訴えあり、呼吸数上昇、SpO2低下、そんな場合には再度精査が必要かもしれませんし、入院が必要かもしれませんから。帰宅の判断、その前に高齢者が多い救急外来では、特に表の内容を意識しましょう3)。肺炎や圧迫骨折、診断が正しく安静時に状態は落ち着いていたとしても、自宅では管理が難しいことはいくらでもあります。病気の重症度のみで帰宅or入院の判断ができないことを忘れてはいけません。表 帰宅の判断、その前に-高齢者がERから帰る前に必ず確認すべき8つのこと-画像を拡大するまた、救急外来で診断、治療介入し、その後の治療、経過観察をかかりつけの病院や診療所でフォローしていただくことも少なくありません。その場合も、このように対応する理由を患者さん、家族に理解してもらい、治療方針(ケアプラン)をかかりつけ医と共有する必要があります。紹介状は必須とは思いませんが、患者さんや家族が伝えることが難しい状態であれば、一筆でも簡潔に記載し、その助けとしてもらうのが望ましいでしょう。これを面倒くさいなどと思ってはいけません。薬の説明、ちゃんとしていますか?肺炎に対する抗菌薬や解熱薬、なんらかの痛みに対する鎮痛薬など、救急外来や一般の外来で処方することは日常茶飯事です。その際、薬の説明をどの程度行っているでしょうか?医療者に対して処方する場合には、薬の名前のみ伝えればよいかもしれませんが、一般の患者さんへ処方する際には、当然ながら十分な説明が必要です。みなさんが処方している薬を、患者さんは十分理解しないまま内服していることは少なくないのです。救急外来では、抗血栓薬や利尿薬を内服している患者さんに多く出会いますが、内服理由を確認すると「わからない」と返答されることもしばしばです(みなさんもそんな経験ありますよね?)。表にも「(5)新しい処方箋があれば、薬の相互作用について再確認して理解できているか?」という項目がありますが、救急外来では特に処方に関しては注意が必要です。初診の患者さんも多く、定期内服薬の詳細が把握できないこともあるかもしれません。また、アレルギーの確認を怠ってしまうかもしれません。しかし、それでは困ります。当たり前のことではありますが、きちんと把握する努力を怠らないようにしましょう。解熱鎮痛薬処方の際のポイントは?COVID-19の診断を受けた患者さんや家族から頻繁に相談されるのが、「熱が下がらない」、「喉の痛みが辛い」、「薬が効かない」といった内容です。外来診療中にも電話がかかってくることも多いです。そのような場合に、よくよく話を聞いてみると、病状の悪化というよりも薬の内服方法が不適切なことが少なくありません。薬が効かない? 本当は効いているんじゃない?患者さんが訴える「薬が効かない」、これはまったく効果がないというわけでは必ずしもなく、飲めば熱は下がるけれどもまた上がってきてしまう、その意味合いで使用していることもあるのです。これは薬が効いていないのではなく、薬効が切れただけですよね。つまり、薬の具体的な効果を説明していない、もしくは患者さんが理解していないが故に生じた訴えといえます。薬が効かない? 飲むタイミングの問題では?また、こんなこともあります。頭痛や喉の痛みを訴える患者さんが「薬が効かない」と訴えるものの、よくよく聞いてみると、「薬はあまり飲まない方がよいと思って、なるべく使用しないようにしていた。どうしても痛みが辛いから使用したがあまり効かない」と訴えるものです。なんでもかんでも薬を飲むのはお勧めできませんが、痛みに関してはピークに達してから内服するよりも、痛くなりかけている際に内服した方がピークを抑えることができ、症状はコントロールしやすいでしょう。片頭痛に対する鎮痛薬の内服のタイミングなど有名ですよね。さいごに今回の症例のように、COVID-19で予期される症状に関しては、具体的にいつどのように解熱鎮痛薬を使用するのかをわかりやすく説明する必要があります。「頓服」、この言葉も意外と伝わっていないので要注意です。薬剤師さんが丁寧に教えてくれる場合には問題ないかもしれませんが、市販薬や院内処方の場合には十分な説明がなされないこともありますよね。私は、解熱鎮痛薬を処方する際は、まずは毎食後に定期内服してもらい、症状が改善したら頓服へ切り替えていただくようにお話することが多いです。「今日、明日あたりは食後にこの薬を飲みましょう。朝起きて痛みがない、熱が下がって楽、そのような場合には、朝食後には飲まず、症状が出てきたら飲むようにしましょう」とこんな感じで説明しています。COVID-19の診断は、急性腹症や骨折診療に比べればすぐにつきます。診断に時間がかからないぶん、説明には十分時間をかけ、可能な限り患者さんの不安を取り除きつつ、不要な再受診を防ぐ努力をしていきましょう。1)「国民の皆さまへ 限りある医療資源を有効活用するための医療機関受診及び救急車利用に関する4学会声明」2)Mochizuki K, et al. Acute Med Surg. 2016;4:172-178.3)Southerland LT, et al. Emerg Med Australas. 2019;31:266-270.

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1日1回投与に改良した高純度EPA製剤「エパデールEMカプセル2g」【下平博士のDIノート】第104回

1日1回投与に改良した高純度EPA製剤「エパデールEMカプセル2g」今回は、高純度EPA製剤「イコサペント酸エチルカプセル2g(商品名:エパデールEMカプセル2g、製造販売元:持田製薬)」を紹介します。本剤は、既存のエパデールカプセルおよびエパデールS(以下、既存薬)の消化管吸収を高めて1日1回投与にした薬剤であり、トリグリセリド(TG)高値を示す脂質異常症患者の新たな選択肢として期待されています。<効能・効果>本剤は、高脂血症の適応で、2022年6月20日に承認されました。なお、既存薬は「高脂血症」と「閉塞性動脈硬化症に伴う潰瘍、疼痛および冷感の改善」の適応を有していますが、本剤の適応は「高脂血症」のみです。<用法・用量>イコサペント酸エチルとして、通常、成人には1回2gを1日1回、食直後に経口投与します。TG高値の程度により、1回4gを1日1回まで増量することができます。本剤は抗血小板作用を有するため、抗凝固薬や血小板凝集を抑制する薬剤との併用により、相加的に出血傾向が増大するため注意が必要です。<安全性>国内第III相試験において、副作用の発現頻度は本剤2g/日群で9.8%(6/61例)、本剤4g/日群で8.2%(5/61例)でした。2%以上に認められた副作用は、本剤2g/日群で下痢3.3%(2/61例)、本剤4g/日群で軟便3.3%(2/61例)でした。重大な副作用として、肝機能障害、黄疸(いずれも頻度不明)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、肝臓における過剰な中性脂肪の合成を抑制するとともに、余分な中性脂肪の代謝を促進することで、脂質異常症を改善します。脂質異常を改善することで、動脈硬化性疾患の進行を抑えることが期待できます。2.血が止まりにくくなることがあるので、手術や抜歯の予定がある場合は事前に相談してください。3.空腹時の服用では薬剤の吸収が低下するため、食後すぐに服用してください。4.軟カプセルの中には魚の臭いがする油状の成分が入っているため、噛まずに服用してください。5.脂質異常症の治療の基本は、食事・運動・禁煙などの生活習慣の改善です。本剤の服用中も継続して行うことが大切です。<Shimo's eyes>エパデールEMカプセルは、既存のEPA製剤であるエパデールカプセル、小型軟カプセルのエパデールSを消化管で吸収されやすくした高純度改良版です。既存薬は1日2回または3回の服用が必要ですが、本剤は1日1回の単回投与です。エパデールSと同様にアルミスティック包装となっています。既存薬からの切り替えの場合、既存薬1.8g(エパデールS900を1日2回)が、本剤2g 1日1回に相当するように開発されています。エパデールEMカプセル2gの薬価は113.00円、エパデールS900の薬価は62.7円/包(2包で125.4円)、エパデールS600の薬価は46.5円/包(3包で139.5円)ですので、1日薬価の負担は本剤のほうが少なくなっています。なお、本剤の粒子径(約6mm)は、既存薬のエパデールS(約4mm)と比較してやや大きくなっています。EPAの成分は脂肪酸であり、胆汁の主成分である胆汁酸がないと吸収が低下しますが、本剤は体内で脂質成分が界面活性剤と自己乳化することで吸収性が向上し、1日1回投与が可能になりました。本剤は既存薬に比べて食事の影響を受けにくい製剤ですが、食直後の服用でより吸収が高まるため、本剤も食直後の服用となっています。生活習慣病患者はしばしばアドヒアランスの不良が問題となりますが、本剤は1日1回の単回投与であるため、アドヒアランスの向上が期待できます。とくに併用される機会の多いHMG-CoA還元酵素阻害薬の主な用法が1日1回であることからも、本剤のニーズは高いと考えられ、TG高値を示す脂質異常症患者の選択肢を増やす薬剤として意義があるでしょう。

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第124回 ワルファリン解毒酵素が半世紀超を経てついに判明

1936年にデンマークの生化学者Henrik Dam氏が発見したビタミンKは同氏の母国語で凝固を意味するkoagulationにちなんで名付けられ、その由来の通り血液凝固を促します1)。ビタミンKがとる姿はいくつかありますが、血液凝固に携わるのは1つで、ビタミンKヒドロキノン(VKH2)と呼ばれる還元型です。VKH2へのビタミンKの還元には世界で最もよく使われている抗凝固ワルファリンによって阻害されるビタミンKエポキシド還元酵素(VKOR)またはワルファリンに邪魔されない別の還元経路が携わります。ワルファリンに阻害されない(warfarin-resistant)ビタミンK還元酵素は半世紀以上前にその存在が予想されましたが今までわからずじまいでした。ドイツ・ミュンヘンのヘルムホルツ研究所のチームによる新たな研究でVKH2の抗酸化作用がフェロトーシスと呼ばれる細胞死を防ぐ役割を担い、VKH2を維持してそのフェロトーシス阻止作用を支えるビタミンK還元酵素FSP1が同定されました。そしてその還元酵素FSP1こそ半世紀以上前にその存在が予想されたワルファリンに阻害されないビタミンK還元酵素であることが判明しました2,3)。高用量のビタミンKはワルファリン過剰による脳出血などの副作用(ワルファリン中毒)を食い止める解毒作用があります。そのビタミンKのワルファリン中毒解消作用をFSP1が介することもマウス実験で示されています。ワルファリン過剰投与FSP1欠損マウスをビタミンK治療してもプロトロンビン時間は非常に長いままであり、ほぼ全頭が主に脳出血により死なねばなりませんでした。一方、FSP1遺伝子があるマウスは高用量ビタミンK治療で救われ、FSP1はワルファリン中毒の解毒作用に携わることが裏付けられました。フェロトーシスの新たな抑制因子FSP1を発見した今回の成果はアルツハイマー病や急な臓器損傷などのフェロトーシスと関連するらしい病気の数々の新規治療の開発に役立つでしょう。また、フェロトーシスは原核生物や植物から哺乳類に至る種々の生物に備わり、どうやら最古の細胞死の一つらしく、ゆえにそのフェロトーシス阻止を担うビタミンKは自然界で最初に誕生した抗酸化成分の一つかもしれません3)。 参考1)Long-sought mediator of vitamin K recycling discovered / Nature2)Mishima E, et al. Nature. 2022 Aug 3. [Epub ahead of print]3)Vitamin K prevents cell death: a new function for a long-known molecule / Eurekalert

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英語で「抗凝固薬」は?【1分★医療英語】第37回

第37回 英語で「抗凝固薬」は?Why do I need to take a blood thinner?(何で抗凝固薬を飲まなければいけないのですか?)Blood thinners are recommended to prevent blood clots from forming.(抗凝固薬は血栓が作られるのを防ぐために使われます)《例文1》What are the most common side effects of blood thinners?(抗凝固薬によくある副作用は何ですか?)《例文2》Are you on blood thinner medications?(抗凝固薬を服用していますか?)《解説》抗凝固薬は正式には“anticoagulant”ですが、患者さんへの説明には“blood thinner”を使います。日本語でも「血液をサラサラにする薬」と定番の言い方をするのと同様です。“blood thinner”を広義に「抗血栓薬」として、“antiplatelet”(抗血小板薬)を含むことも多く、患者さんへ抗血小板薬を説明する時は、“There are two different types of blood thinners, and antiplatelets  keep your platelets from sticking together.”(2種類の抗血栓薬があり、抗血小板薬は血小板がくっ付くのを防いでいます)と説明すると理解しやすくなります。“blood thinner”の副作用の確認には、“black or tarry stool”(黒色便やタール便 = 血便)、“prolonged nosebleed”(長引く鼻血)、“excessive bleeding gums”(過剰な歯茎からの出血)などの単語を使って説明します。ちなみに抗凝固薬のイグザレルト(Xarelto、一般名:リバーロキサバン)の発音は「ゼロート」という感じで、頭のXはZの音になるので注意が必要です。講師紹介

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急性期疾患の静脈血栓塞栓症予防、中用量の低分子ヘパリンが最適か/BMJ

 急性期疾患で入院した成人患者への抗凝固薬は、症候性静脈血栓塞栓症のリスク低下と大出血リスクを考慮すると、中用量低分子量ヘパリンが最適と思われる見解を、オランダ・フローニンゲン大学のRuben J. Eck氏らが、被験者総数9万人超を対象としたシステマティック・レビューとネットワークメタ解析の結果、示した。未分画ヘパリン(とくに中用量)と直接経口抗凝固薬(DOAC)のプロファイルは最も不良であったという。BMJ誌2022年7月4日号掲載の報告。 エビデンスの質はCINeMAで評価 研究グループは、急性期疾患で入院した患者において、静脈血栓塞栓症の予防を目的とした抗凝固薬投与のベネフィットと有害性を抗凝固薬の種別および投与量別に評価するシステマティック・レビューとネットワークメタ解析を行った。 Cochrane CENTRAL、PubMed/Medline、Embase、Web of Science、臨床試験レジストリ、全国保健局データベースをデータソースとして2021年11月16日時点で検索した。適格試験は、急性期疾患で入院中の成人患者に対する静脈血栓塞栓症予防を目的に、低~中用量低分子量ヘパリン、低~中用量未分画ヘパリン、DOAC、五炭糖、プラセボ、または非介入を評価した公表/未公表の無作為化対照試験。 ランダム効果・ベイジアンネットワークメタ解析に用いた主要アウトカムは4項目で、90日時点(またはそれに最も近い時点)の全死因死亡、症候性静脈血栓塞栓症、大出血、重篤な有害イベントだった。 また、バイアスリスクは、コクランバイアスリスク2.0ツールで評価し、エビデンスの質はCINeMA(Confidence in Network Meta-Analysis)フレームワークでグレード付けした。大出血リスク、中用量未分画ヘパリンが2.6倍、DOACが2.3倍 44の無作為化試験、被験者総数9万95例が主要解析に含まれた。 いずれの介入もプラセボとの比較において、全死因死亡を低下しなかった(エビデンスの質:低度~中等度)。 症候性静脈血栓塞栓症の発症の軽減は、低いほうから五炭糖(オッズ比[OR]:0.32、95%信用区間[CrI]:0.08~1.07)、中用量低分子量ヘパリン(0.66、0.46~0.93)、DOAC(0.68、0.33~1.34)の順で、中用量未分画ヘパリン(0.71、0.43~1.19)が最も軽減する可能性が高かった(エビデンスの質:非常に低度~低度)。 大出血については、中用量未分画ヘパリンOR:2.63、95%CrI:1.00~6.21)、DOAC(2.31、0.82~6.47)は、最も発症を増大する可能性が高かった(エビデンスの質:低度~中等度)。 重篤な有害イベントに関して、介入の違いによる差は認められなかった(エビデンスの質:非常に低度~低度)。 プラセボではなく非介入との比較では、いずれの実薬も静脈血栓塞栓症および死亡のリスクに関して好ましい結果が示されたが、大出血については好ましい結果は示されなかった。これらの結果は、事前に規定した感度・サブグループ解析でも一貫していた。 なお研究グループは、エビデンスの質が低度~中等度であること、事後処理の統計学的不一致などを主な理由として、今回の検討は限定的なものと述べている。

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オンデキサの臨床的意義とDOAC投与中の患者に伝えておくべきこと/AZ

 アストラゼネカは国内初の直接作用型第Xa因子阻害剤中和剤オンデキサ静注用200mg(一般名:アンデキサネット アルファ[遺伝子組み換え]、以下:オンデキサ)を発売したことをうけ、2022年6月28日にメディアセミナーを開催した。 セミナーでは、はじめに緒方 史子氏(アストラゼネカ 執行役員 循環器・腎・代謝/消化器 事業本部長)により同部門の新領域拡大と今後の展望について語られた。 AstraZeneca(英国)とアレクシオン・ファーマシューティカルズが統合したことで、今後多くのシナジーが期待されるが、今回発売されたオンデキサはその象徴的なものであると考えている。同部門では、あらゆる診療科に情報提供を行っているため、オンデキサの処方が想定される診療科だけでなく、直接作用型第Xa因子阻害剤を処方している診療科にも幅広く情報提供が可能である。オンデキサが必要な患者さんに届けられるよう、認知拡大や医療機関での採用活動に注力していきたいと述べた。オンデキサは国内初の直接作用型第Xa因子阻害剤中和剤 続いて、国立病院機構 九州医療センター 脳血管・神経内科 臨床研究センター 臨床研究推進部長 矢坂 正弘氏による国内初の直接作用型第Xa因子阻害剤中和剤における臨床的意義と今後の展望が語られた。 心房細動などにより心臓内でできた血栓が脳に詰まることで生じる脳卒中を心原性脳塞栓症という。心原性脳塞栓症は再発率が高いことから、発症リスクの高いCHADS2スコア1点以上の患者では、直接経口抗凝固薬(DOAC)の投与による予防治療が推奨されている1)。DOACは従来の抗凝固薬であるワルファリンに比べ脳梗塞予防効果は同等かそれ以上、大出血発症リスクは同等かそれ以下とされるが、時には生命を脅かす出血あるいは止血困難な出血に至ることもあるため、投与中は出血時の止血対応が重要となる。出血時の対応として中和剤が使用されるが、これまでDOACのうち中和剤があるのはダビガトランのみで、直接作用型第Xa因子に対する中和剤はなかった。今回発売されたオンデキサは、国内初の直接作用型第Xa因子阻害剤中和剤である。オンデキサ投与の有効性と安全性 オンデキサはヒト第Xa因子の遺伝子組換え改変デコイタンパク質で第Xa因子のデコイとして作用し、第Xa因子阻害剤に結合してこれらの抗凝固作用を中和する作用をもつ。 第Xa因子阻害剤(アピキサバン、リバーロキサバン、エドキサバン、エノキサパリン)投与中の第Xa因子活性抑制下で急性大出血を発現した患者を対象にした試験では、評価可能であった有効性解析集団のうちエノキサパリン投与例を除く全体集団324例において79.6%(95%信頼区間[CI]:74.8~83.9%)の患者でオンデキサによる有効な止血効果が得られた。正確な95%CIの下限値が50%を上回ったため、オンデキサによる止血効果が認められた2)。副作用の発現割合は11.9%(57/477例)であり、主な副作用は虚血性脳卒中1.5%(7例)、頭痛1.0%(5例)、脳血管発作、心筋梗塞、発熱、肺塞栓症が各0.8%(各4例)であった2)。DOAC投与中の患者に伝えておくべきこと 止血を適切に行うためには、患者さんが服薬中のDOACを特定しそれに対する中和剤を投与することが重要である。そのため、医療機関と調剤薬局が協力して、DOAC服薬の患者さんに対して、最新のお薬手帳や抗凝固薬のカードを持ち歩いてもらうことや、自身の病名や服薬中の薬剤を家族と共有してもらうことの重要性を伝えていく必要がある、と締めくくった。

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コロナの血栓塞栓症予防および抗凝固療法の診療指針Ver.4.0発刊/日本静脈学会

 6月13日に日本静脈学会は『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)における血栓症予防および抗凝固療法の診療指針 Ver.4.0』を発刊した。今回の改訂点は、コロナに罹患した際の国内での血栓症の合併頻度や予防的抗凝固療法の実態を調査したCLOT-COVID研究のエビデンスが追加されたこと。また、今回より日本循環器学会が参加している。 本指針は、日本静脈学会、肺塞栓症研究会、日本血管外科学会、日本脈管学会の4学会合同で、出血リスクの高い日本人を考慮し、中等症II、重症例に限って選択的に保険適用のある低用量未分画ヘパリンを推奨するために、昨年1月にVer.1.0が発表された。

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オンデキサ発売、国内初の直接作用型第Xa因子阻害剤中和剤/アレクシオンファーマ・アストラゼネカ

 アストラゼネカは5月25日付のプレスリリースで、アレクシオンファーマが製造販売承認を取得したオンデキサ静注用 200mg(一般名:アンデキサネット アルファ[遺伝子組換え]、以下:オンデキサ)の販売を開始したことを発表した。オンデキサ投与後12時間で患者の79.6%に有効な止血効果 直接作用型第Xa因子阻害剤は、血栓が形成されないよう血液の凝固を防ぐ一方で、生命を脅かす重大な出血のリスクを高める可能性がある。しかし、大出血を起こした直接作用型第Xa因子阻害剤を服用している患者に対して中和剤はこれまでなく、高いアンメットニーズが存在していた。 オンデキサは、血液凝固に関与するヒト血液凝固第Xa因子の遺伝子組換え改変デコイタンパク質であり、国内で唯一第Xa因子阻害剤に結合し、その抗凝固作用を速やかに中和する作用をもつ薬剤として承認された。 オンデキサ承認の根拠となった国際共同第IIIb/IV相14-505(ANNEXA-4)試験では、直接作用型第Xa因子阻害剤の投与を受けており、急性の大出血を起こした患者を対象に、オンデキサの有効性(第Xa因子阻害剤の抗第Xa因子活性の中和効果、および止血効果)と安全性が評価された。 オンデキサ承認の根拠となったANNEXA-4試験の主な結果は以下の通り。・オンデキサはいずれの第Xa因子阻害剤を投与した患者でも、本剤を静脈内投与後には抗第Xa因子活性を速やかかつ有意に低下させた。・オンデキサ投与後12時間の時点で患者の79.6%(258/324例)に有効な止血効果が確認された。・オンデキサの副作用の発現頻度は、11.9%(57/477例)で、主な副作用は、虚血性脳卒中1.5%(7/477例)、頭痛1.0%(5/477例)、脳血管発作、心筋梗塞、肺塞栓症、発熱各0.8%(4/477例)、脳梗塞、塞栓性脳卒中、心房血栓症、深部静脈血栓症、悪心各0.6%(3/477例)であった。 オンデキサは、第Xa因子阻害剤であるアピキサバンまたはリバーロキサバン投与中に大出血を起こした患者に対する中和剤として、2018年5月に米国食品医薬品局より迅速承認制度による承認を受け、2019年4月に欧州委員会から条件付き承認を取得した。日本でオンデキサは、2019年11月19日付で希少疾病用医薬品に指定されている。

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