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歴史的なジギタリスと心房細動:ROCKET-AF試験(解説:後藤 信哉 氏)-338

 筆者の世代の循環器医にとって、ジギタリスはなじみの深い薬物である。学生のころ、ジギタリスは南米の矢毒から分離されたと教わったが、本当であるか否かを確認していない。筆者の世代にとって、心不全治療の唯一の選択ともいえる時代があった。ジギタリスは房室伝導を阻害するので、頻拍性不整脈に対しても広く使用されていた。また心房細動症例に対しても、脈拍コントロールのための主要薬剤であった。 心不全症例にジギタリスを使用しても効果がないとの報告はあった。それでも筆者の世代の循環器医は、若い時代からの慣習によりジギタリスを広く使用している。慢性心房細動の心拍コントロールにも実臨床ではいまだに広く使用されている。 今回発表されたROCKET-AFのデータベースでも、心房細動症例の37%がジギタリスを使用している実態を示した。ランダム化比較試験に登録される症例は、厳密な症例登録基準と除外基準を満たし、いわゆる治験慣れした施設からの特殊な症例サンプルである。また、ROCKET-AF試験の目的はPT-INR 2~3のワルファリン治療と、1日20mgを標準用量とするリバロキサバンの脳卒中・全身塞栓症予防効果の差異の有無の検証であって、死亡は2次エンドポイントにすぎない。そのため、本サブ解析はLancetというインパクトファクターの高い雑誌に発表され、統計解析はそれなりに充実しているが、発表された結果が実臨床に応用可能であるか否かの判断には、慎重になる必要がある。 ROCKET-AFに登録されたCHADS2 score 2点以上の非弁膜症性心房細動症例は、年間100例当たり4例以上が死亡する、死亡リスクの高い集団である。ジゴキシン使用と総死亡、血管死亡、突然死の増加も興味ある課題であるが、死亡に関するサブ解析が可能なほど死亡リスクの高い患者集団において、死亡率よりも低い脳卒中・全身塞栓症が1次エンドポイントであった事実を、臨床家は再認識する必要がある。非弁膜症性心房細動の症例を見たら、とくに抗凝固療法をしている症例では近未来の死亡リスクにこそ、注意を向ける必要があるのだ。

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「エドキサバンは日本の薬なのに…」1~遺伝子型と抗血栓療法下の出血、血栓イベントの関係~:ENGAGE AF-TIMI 48試験(解説:後藤 信哉 氏)-336~

 エドキサバンは、日本企業が開発した薬剤である。日本が国際共同試験をリードして、日本国内に臨床データベースがあれば、日本の研究者は数多くの興味深い臨床的研究を発表できたはずである。今回Mega博士らが発表した遺伝子型とワルファリンの薬効については、高橋 晴美博士をはじめ、日本人研究者による先行研究がある。ENGAGE AF-TIMI 48試験は科学的にきわめて質の高い研究であり、かつ登録された症例の数が多いので、Mega博士らの本研究は今後も世界にインパクトを持つ。 ワルファリンは血漿蛋白に結合する。結合しなかったfreeワルファリンが、肝臓のCYP2C9により活性型ワルファリンに転換される。活性型ワルファリンの産生速度は、CYP2C9の遺伝子型に強く作用される。さらに、活性型ワルファリンはVKORC1による凝固因子の機能的完成を阻害する。その作用もVKORC1の遺伝子型に影響を受ける。薬理学的シミュレーション研究でもCYP2C9の遺伝子型とワルファリンの効果の関係の大きさは示唆されていた。この2つの遺伝子型を事前に知っていれば、ワルファリン治療に過剰に反応するグループ、大量のワルファリンが必要な患者グループの同定が可能との仮説が持たれていた。本研究では遺伝子型とワルファリン使用例の、使用早期の出血リスクの関係を示した。 個人の遺伝子を低廉に取得できる時代には、遺伝子型に基づいた個別化医療が期待できる。ワルファリンは個別化医療の恩恵を最も受ける薬剤と想定される。Mega博士らは、CYP2C9とVKORC1の遺伝子型を知れば、ワルファリン服用早期の出血イベントが低下することを示した。パーソナルゲノム情報を基盤とする、未来の個別化医療へのインパクトの高い研究である。日本企業の薬剤でありながら、日本の研究者は共著者にもいない。とてもインパクトの高い研究だけに、臨床データベースを国内に持てない悔しさを、あらためて感じさせる研究であった。

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「エドキサバンは日本の薬なのに…」2~エドキサバン減量と出血、血栓イベントの関係~:ENGAGE AF-TIMI 48試験(解説:後藤 信哉 氏)-337

 EBM(Evidence Based Medicine)を基本原理とする現在の医療において、臨床データベースの保有には圧倒的な意味がある。エドキサバンは日本企業が開発した薬剤である。日本企業には抗トロンビン薬があるがトロンビンの時代から、選択的凝固因子阻害薬の開発力は外資企業に先行していた。残念ながら、分子としての抗Xa薬を介入したときの個人の反応は予測不可能な程度にしか、現在の医学は成熟していない。結果として、エドキサバン介入時の臨床データベースを持っているものが強い。 第一三共の開発したエドキサバンであるが、非弁膜症性心房細動におけるワルファリンとの比較試験「ENGAGE AF-TIMI 48」は、ハーバード大学のTIMI groupをスポンサーとして施行された。膨大なデータベースからは、多くの科学的事実が公表される。本論文も重要なサブ解析の1つである。日本企業が開発した薬剤を用いた試験の重要なサブ解析であるが、残念ながら日本人は著者として参加していない。 ENGAGE AF-TIMI 48試験のプロトコルは単純ではなかった。ワルファリンと2用量のエドキサバンの有効性、安全性の検証を目指した部分のみでも、十分に複雑であった。さらに、本試験では来院時にクレアチニン・クリアランスが30~50mL/分の人、体重が60kg以下の人、または、P糖タンパク質の相互作用のある併用薬を服用したときには、エドキサバン投与量を半減した。試験の最初のみでなく、中途でも減量する基準を設けることにより、抗Xa効果の標準化を目指した。試験の規模が大きいので、プロトコルに規定された30、60mgの標準投与量から減量した5,356例と、減量しなかった1万5,749例の比較が可能であった。抗Xa活性のトラフ値を6,780例にて把握できたことも、科学的試験として、多くの情報をわれわれに与えることができる試験であったといえる。 ランダム化比較試験では、基本的に1つの臨床的仮説の検証のみが可能である。ENGAGE AF-TIMI 48試験では、二重盲検二重ダミー試験として、実臨床に近い0.5mg刻みのワルファリンのコントロールを行った。PT-INR 2.0~3.0を仮の「標準治療」とすることも徹底していた。TTRもきわめて高い。質の高いワルファリン治療下では、血栓イベントも出血イベントも起こりにくい。仮説検証試験としてはエドキサバンの優越性は示せなかった。 50年使用してきたワルファリンに「PT-INR 2.0~3.0」という枠をはめても、ワルファリンが優れた薬剤であることを示したのがENGAGE AF-TIMI 48試験であった。それでも、臨床的特徴に基づいて減量することにより、エドキサバン群の出血イベントリスクを示すことができたので、減量好きな日本の臨床家にはありがたい研究結果であったといえる。 筆者は本試験のDSMB(Data and Safety Monitoring Board)であったので、筆者には資格がないが、本試験に症例を登録した研究者であれば、ぜひ、本研究のような日本の臨床家に役立つサブ解析を主導したいと思った。主導するのがTIMI groupであることを受け入れるとしても、日本人研究者の1人として共著者になり、論文作成段階から寄与したかった魅力的研究である。

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急性冠症候群、経橈骨動脈アクセスの安全性/Lancet

 急性冠症候群(ACS)患者に対する侵襲的処置では、経橈骨動脈アクセスが、経大腿動脈アクセスに比べ臨床的有害事象の抑制効果が優れることが、オランダ・エラスムス医療センターのMarco Valgimigli氏らが行ったMATRIX Access試験で確認された。ACS患者に対する抗血栓療法を併用した早期の侵襲的処置の重要な目標は、出血イベントを抑制しつつ効果を維持することである。侵襲的処置で頻度の高い出血部位は心臓カテーテル検査時の大腿動脈穿刺部であり、経橈骨動脈アクセスは技術的な困難を伴うが止血の予測がしやすいとされる。2つのアクセス法の有害事象を比較した試験では、相反する結果が提示されているという。Lancet誌オンライン版2015年3月13日号掲載の報告。2つのアクセス法の有害事象を無作為化試験で比較 MATRIX Access試験は、経橈骨動脈的インターベンションにおける穿刺部位の出血や血管合併症の抑制効果を検討する多施設共同無作為化試験(Medicines Company社などの助成による)。対象は、冠動脈造影や経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の適応とされるACS患者(ST上昇型心筋梗塞、非ST上昇型心筋梗塞)であった。 被験者は、経橈骨動脈または経大腿動脈的にアクセスする群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は、30日時の重度の冠動脈有害事象(死亡、心筋梗塞、脳卒中)と、最終的な臨床的有害事象とした。後者の定義は、重度の冠動脈有害事象または冠動脈バイパス移植術(CABG)とは関連のない大出血(Bleeding Academic Research Consortium[BARC]の出血性合併症重症度分類の3または5型)とした。 2011年10月11日~2014年11月7日までに8,404例が登録され、経橈骨動脈群に4,197例、経大腿動脈群には4,207例が割り付けられた。平均年齢は経橈骨動脈群が65.6歳、経大腿動脈群は65.9歳で、75歳以上はそれぞれ25.4%、26.2%含まれ、男性が74.5%、72.4%を占めた。メタ解析で大出血、冠動脈有害事象、死亡が改善 30日時の重度の冠動脈有害事象の発現率は、経橈骨動脈群が8.8%、経大腿動脈群は10.3%(率比[RR]:0.85、95%信頼区間[CI]:0.74~0.99、p=0.0307)であり、有意な差は認めなかった[α水準が2.5%(p<0.025)の場合に有意差ありと定義]。 最終的な臨床的有害事象の発現率は、経橈骨動脈群が9.8%、経大腿動脈群は11.7%(RR:0.83、95%CI:0.73~0.96、p=0.0092)と、有意差がみられた。この差には、非CABG関連のBARC 3/5型大出血(1.6 vs. 2.3%、RR:0.67、95%CI:0.49~0.92、p=0.0128)および全死因死亡(1.6 vs. 2.2%、RR:0.72、95%CI:0.53~0.99、p=0.0450)の影響が大きかった。 また、既報の試験(RIVAL試験)に本試験のデータを加えてメタ解析を行ったところ、経橈骨動脈アクセスにより大出血(RR:058、95%CI:0.46~0.72、p<0.0001)、重度の冠動脈有害事象(RR:0.86、95%CI:0.77~0.95、p=0.0051)、全死因死亡(RR:0.72、95%CI:0.60~0.88、p=0.0011)が減少したが、心筋梗塞や脳卒中の発症には影響はなかった。 さらに、本試験に関連してコホート内症例対照研究を行ったところ、BARC 2/3型の出血は出血以外の原因による死亡と強く関連した。 著者は、「経橈骨動脈アクセスは、ACS患者に対する侵襲的処置の標準とすべきことが示唆された」と結論付けている。

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ワルファリン出血の急速止血に新たな選択肢?(解説:後藤 信哉 氏)-333

 臨床家は50年にわたり、ワルファリンを使用してきた。新規の経口抗トロンビン薬、抗Xa薬が開発され、使用可能になったとはいっても、真の意味での血栓イベントリスクが高くない非弁膜症性心房細動など、薬剤の必要性が必ずしも高くない症例なので、これらの症例で出血が怖ければ薬剤を使用しないとの選択があった。ワルファリンを使用している症例は、人工弁、血栓性素因など抗凝固薬の必要性が著しく高い症例である。これらの症例でも、ワルファリンコントロールの良否にかかわらず、重篤な出血イベントが起こる場合がある。消化管出血などであれば、開腹、長時間の圧迫止血など、薬剤以外の手段がまったくないわけではない。頭蓋内出血となると、とても困る。時間と共に症状が増悪している頭蓋内出血では、頭蓋内圧増加が止血に寄与しても、ワルファリンの効果が持続している状態では止血は期待し難い。 ワルファリンは、ビタミンK依存性の凝固因子の機能的完成を阻害する薬剤なので、凝固因子を外部から補えば止血に寄与できるとの発想があった。しかし、新鮮凍結血漿の凝固因子濃度は濃くない。血友病治療に用いる第VII因子濃縮製剤は、うまくいかなかった。血液凝固システムは複雑である。ワルファリンは、血小板上での活性化凝固因子複合体の産生阻害を介して抗凝固効果を発揮するので、単一凝固因子を補うよりも、複数因子からなる活性化凝固因子複合体を投与したほうが、止血効率が高いと想定された。同時に補給して酵素カスケード反応を効率化しようというのが、今回の臨床試験の試みである。複数因子を含む製剤の中でも第VII因子がほぼ正常の製剤と、第VII因子を少量含む製剤がある。本試験では、第VII因子を正常量含むfour factor PCCと新鮮凍結血漿の止血効果とPT-INRに及ぼす効果が検証された。 臨床家にとっては止血効果こそ重要である。試験に参加した医師は、止血効果を実感したと想定される。しかし、止血効果は感覚的なので科学的エンドポイントとしては十分性が乏しい。そこでPT-INRに対する効果も検証された。試験は薬剤開発の後期第II相試験である。 試験はオープンラベルの非劣性試験である。薬剤開発試験であるため、スポンサーバイアスもあるかもしれない。止血効果は活性化凝固因子複合体製剤が優越していた。INRの改善も認めた。「心房細動の脳卒中予防に対する抗凝固薬」の有効性を確認する試験など、薬剤が標的とするイベントの発現率が著しく低く、かつ、薬剤中止という選択により実際に患者さんが困るケースが少ない場合には、オープンラベルの第II相試験の後に、有効性を科学的検証する第III相試験が必要かもしれない。しかし、今回の試験の対象薬は「出血により時事刻々と実際に困っている症例」が対象である。認可承認のハードルを低くしても、実際に医師が臨床現場で使用すれば有効性を実感できる。少なくとも「医は仁術」として、ビジネスを度外視している日本の医師は、認可承認の後に「出血により時事刻々と実際に困っている症例」を救えない薬剤は使用しない。このような薬剤は、試験の科学的価値が低くても、臨床現場に早く届ける価値がある。実際に使用する症例数は多くないと想定されるので、認可承認の後、全数の登録レジストリなどをスポンサーに課して、期限内に科学的根拠を示せなければ、承認取り消しの条件に早期承認を可能とするシステムを考えたらよいと筆者は考える。

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PROTECT AF試験:経皮的左心耳閉鎖術~心房細動患者が抗凝固療法を中止できる日は本当に来るのか(解説:矢崎 義直 氏)-329

 PROTECT AF試験は、非弁膜症性心房細動に対する経皮的左心耳閉鎖術の有効性および安全性をワルファリン療法と比較した非盲検無作為化試験である。 経皮的左心耳閉鎖術とは、血栓の好発部位である左心耳の入口部に傘状のWATCHMANデバイス(Boston Scientific社製)を挿入し、左心耳を閉塞させ血栓形成を予防する方法である。心房細動患者に対する抗凝固療法の中止が期待できるのは、カテーテルアブレーションでの根治以外に、この左心耳閉鎖術が有力である。本試験の観察期間18ヵ月および2.3年の結果はすでに報告されているが、今回は3.8年と長期成績の報告である。 ワルファリン投与群のTTR(Time in Therapeutic Range)は70%であり、比較的良好な凝固コントロール群との比較である。左心耳閉鎖術は、ワルファリンと比較して、主要エンドポイントである複合イベント(脳卒中、全身性塞栓症、心血管死)について、非劣性であり全死亡を有意に抑制させた。 左心耳閉鎖術は、ワルファリン療法と同等以上の効果と安全性が示されたわけであるが、当然、NOACs(新規経口抗凝固薬)との比較が気になるところである。本試験の対象は707例であり、1万例を超えるNOACsの大規模臨床試験と直接の比較はできないが、それぞれのデータを見比べてみる。 本試験のCHADS2スコアは平均2.2とRELY試験(ダビガトラン)やARISTOTLE試験(アピキサバン)と類似する。複合イベント発生は有意に低下させたが、ワルファリン群と比べて虚血性脳卒中に差がついていない点は、RELY試験におけるダビガトラン300mg投与群を除くすべてのNOACsの試験と同様の傾向である。出血性脳卒中や心血管死、全死亡は低く、これらがエンドポイントに影響している可能性があり、これも他の試験と類似している。それぞれの試験デザイン、解析方法も違うが、効果に関してはNOACsと同等という印象である。 安全性の複合エンドポイント(頭蓋内出血、輸血を要する出血、LAA閉鎖術群では手技に関連する出血)の発生率は、左心耳閉鎖術はワルファリン群と同等となっているが、2つの点で改善の余地がある。まずは、左心耳閉鎖術はある程度のラーニングカーブが必要であり、手技の習得システムの確立と症例の経験により、周術期の出血の合併症を減らす事ができる。 もう1つ複合イベントの多くを占めているのが、術後の大出血である。デバイス挿入後の抗血栓療法は、ワルファリンとアスピリンの併用となる。動物実験の結果を基に、デバイスが内皮化するとされる術後45日頃に、経食道エコーで左心耳からのリークがなければワルファリンを中止する。代わりにクロピドグレルを追加し、半年間は抗血小板薬2剤となる。半年以降はアスピリン単剤となる。もとよりこのデバイスは出血のハイリスク症例が適応となるため、術後半年の抗血栓薬の併用療法が、大出血の要因となりかねない。小規模な試験ではあるが、術後の抗血栓療法なしの安全性も報告されており、今後のエビデンスの構築が望まれる。 また、本試験の対象はCHADS2スコアが比較的低く、発作性心房細動が43%も含まれており、このような症例にはアブレーションによる根治、抗凝固療法の中止が期待できるわけである。今後、より心耳閉鎖術の適応となるであろうROCKET AF試験(リバーロキサバン)のようなCHADS2スコアの高い、根治が困難な永続性心房細動を対象とした比較試験が必要と考える。さらには、本試験の症例は9割が白人であることには留意すべきで、とくに凝固能には人種間の差があるため、日本人独自の臨床試験が必要である。 WATCHMANデバイスによる左心耳閉鎖術が、つい先日(2015年3月13日)FDAにより承認されたので、近い将来この技術が日本にも入ってくる。デバイス挿入のサポートには経食道心エコーの技術が必須であり、当然全身麻酔も必要となる。日本のカテーテル検査室の現状を考えると、このデバイスを導入するにはいくつかのハードルを越えなければいけないが、抗凝固療法を中止できるのは非常に魅力的であり、脳梗塞予防における治療の選択肢の1つとして期待される。

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アリスミアのツボ Q24

Q24 抗凝固療法、抗血小板薬2剤の併用(triple therapy)は大丈夫? 「混ぜるな、危険」が基本ですが…… ヒトは太古の昔から出血と闘ってきました。今でこそ血栓症が死因の多くを占めますが、つい江戸時代までは斬る、斬られるで、大出血や感染症が死因の多くを占めていたと考えられます。 そして、この大出血を防ぐための生体のシステムが、血小板と凝固カスケードです。と考えれば、抗凝固療法で凝固カスケードをブロックし、抗血小板薬2剤併用で二方向から血小板機能をブロックすれば、大出血を防ぐためのシステムがなくなり……その結果すべての出血が大出血へと変化してしまいます。“The more, the better”は、そもそもこの領域には当てはまらないのです。 なので、抗血栓薬は「混ぜるな、危険」が基本です。ただ、人間の行動には慣性モーメントが働いています。これまで動脈血栓予防には抗血小板薬を、静脈血栓予防には抗凝固薬をと身に染みつくくらい習ってきたので、両方のリスクがあるなら抗血栓薬を重ねるという慣性モーメントが働いてしまいます。 まだ、この分野には十分なエビデンスがなく、最低限これだけで大丈夫とはいえないのですが(具体的な処方はまだ確定していません)、できるだけ抗血栓薬は少なくできないかを考える機会を持つことが重要でしょう。そのとき、 (1)ステントを用いていない場合は、抗凝固療法は抗血小板薬を兼ねる (2)ステントが入っている場合でも、ステントの改良で抗血小板薬2剤の併用が必要となる期間は短縮している という2つの知識が生かされると思います。長い間お楽しみいただいた「Dr山下のアリスミアのツボ」は、今回で最終回となります。ご愛読ありがとうございました。

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生データによるメタアナリシスの診療ガイドラインへの引用割合(解説:折笠 秀樹 氏)-325

 診療ガイドライン策定に当たり、系統的レビューやメタアナリシスがよく引用されるのは周知のとおりである。メタアナリシスとは複数の研究結果を統合する解析法のことであるが、通常は研究論文中に掲載されている数値を基にして結果を併合する。一方、生データを取り寄せ、それらに基づき統合するメタアナリシスも存在する。この方法をIPDメタアナリシス(今後、IPD-MAと略す)と呼んでいる。ちなみに、IPDはIndividual Participant Dataの頭文字を取った。本論文では、診療ガイドラインにIPD-MAがどれくらい引用されているかを調査した。 精選された医療情報を収集し、それらをメタアナリシスで統合し、世の中へ提供しているグループがある。それはコクラン共同計画(Cochrane Collaboration)という団体である。このコクラン共同計画の中に、IPD-MA Methods Groupという専門部会がある。そこが所有するIPD-MAデータベースから33件のIPD-MAが調査された。ちなみに、本論文の著者はこの専門部会のメンバーである。これら33件のIPD-MAの内容に合致した診療ガイドラインとして177件が選ばれた。そして、診療ガイドラインでの引用率をIPD-MAごとに算出した。まったく引用されていないIPD-MAが8件(8/33=24%)もあった。その一方で、88%(14/16)も引用されたIPD-MAがあった。それはATT(Antithrombotic Trialists’ Collaboration)である。コクラン共同計画が主導したIPD-MAであり、アスピリンなどの抗血栓薬の有効性を示した。また、スタチンなどの脂質改善薬に関するIPD-MAであるCTT (Cholesterol Treatment Trialists’ Collaboration)でも43%(6/14)引用されていた。平均的には37%の引用率のようであった。 IPD-MAにもピンキリがあり、コクラン共同計画や主要学会が主導する立派なものから、一部の研究者が主導する低質のものまで存在する。前者は診療ガイドラインにかなり引用されているので、一概にIPD-MAが診療ガイドラインへ引用されないともいい切れないだろう。それよりも、質の高いIPD-MAをもっと行うべきではないかと思う。IPD-MAでは生データが必要となるが、昨今の研究データの公開化が進めばやりやすくなることだろう。

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エドキサバン、臨床的特徴で減量しても有効?/Lancet

 心房細動患者に対し、エドキサバン(商品名:リクシアナ)の投与量を、臨床的特徴に応じて半減しても、脳卒中・全身性塞栓症の予防効果は維持され、大出血リスクは低下することが明らかにされた。米国ハーバード・メディカル・スクールのChristian T Ruff氏らが、2万人超を対象に行った二重盲検無作為化試験「ENGAGE AF-TIMI 48」のデータを分析し報告した。Lancet誌オンライン版2015年3月10日号掲載の報告より。クレアチニン・クリアランス値や体重に応じて投与量を半減 ENGAGE AF-TIMI 48は、2008年11月19日~2010年11月22日にかけて、心房細動患者2万1,105例を対象に行われた。試験では被験者を、エドキサバン60mg/日(高用量群)、または同30mg/日(低用量群)、もしくはワルファリン(国際標準化比[INR]:2.0~3.0)のいずれかの投与を受ける群に無作為に割り付け比較検討された。 また同試験では、ベースライン時、または試験実施期間中に、クレアチニン・クリアランスが30~50mL/分、体重が60kg以下、またはP糖タンパク質の相互作用のある併用薬を服用している人については、エドキサバン投与量を半減した。 研究グループは、こうしたエドキサバンの投与量の調整と、過剰な血中濃度および出血イベントの予防との関連を検証した。投与量半減で血中濃度は3割減 投与量を減少した患者は5,356例、減少しなかった患者は1万5,749例だった。減少した患者のほうが、脳卒中、出血、死亡の発生が高率だった。 エドキサバンの投与量は15~60mgにわたり、血中濃度の平均トラフ値(データが入手できた患者6,780例において16.0~48.5ng/mL)、および抗Xa因子活性の平均トラフ値(データが入手できた患者2,865例において0.35~0.85IU/mL)は2~3倍の範囲にわたった。 分析の結果、エドキサバン投与量の減少によって、血中濃度平均値は高用量群で29%(48.5ng/mLから34.6ng/mL)、低用量群では35%(24.5ng/mLから16.0ng/mL)、それぞれ減少した。抗Xa因子活性の平均値についても、それぞれの投与群で、25%(0.85IU/mLから0.64IU/mL)、20%(0.44IU/mLから0.35IU/mL)減少した。 また、エドキサバン高用量群、低用量群ともに用量を減少しても、脳卒中や全身性塞栓症の予防について、ワルファリン投与群と比べた有効性は維持された(高用量群p=0.85、低用量群p=0.99)。一方、大出血については、そのリスクの低下が認められた(高用量群p=0.02、低用量群p=0.002)。 これらの結果を踏まえて著者は、「エドキサバンの投与量を患者の臨床的特徴のみで調整することで、過剰な血中濃度を防ぎ、虚血性イベントリスクと出血イベントリスクの適正化に寄与する」と結論付けた。■「リクシアナ」関連記事リクシアナ効能追加、静脈血栓症、心房細動に広がる治療選択肢

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ガイドラインでは薬物相互作用を強調すべき(解説:桑島 巌 氏)-322

 わが国と同様、世界の先進国は超高齢化社会を迎えている。一方において、各国は主要な疾患に対してガイドラインを制定して、標準的治療の推進を呼びかけているという事実がある。実は、この2つは大きな矛盾も抱えているのである。すなわち超高齢化社会の最大の特徴は多様性であり、画一的な集団での研究から得られた臨床研究の結果であるガイドライン、あるいは標準的治療とは必ずしもそぐわないのである。 NICEガイドラインは、イギリスの国立医療技術評価機構(National Institute for Health and Clinical Excellence)によって策定された治療指針であり、治療法や臨床運用のみでなく、それぞれの医療技術の費用対効果も盛り込むなど、世界的に最も洗練された評価の高いガイドラインである。 超高齢者では腎機能障害を有する例が多いことと、多疾患であることも特徴であり、この点は高齢者で薬物治療を行うに当たって最大の注意を払うべきポイントである。 本論文は、NICEが策定した12のガイドラインのうち、高齢者に多い2型糖尿病、心不全、うつ病の3疾患と、11の一般的症状または併存疾患との関連について、薬剤誘発性疾患あるいは薬物間相互作用を詳細に分析した報告である。 その結果によると、重篤な薬物-疾患相互作用や薬物間作用についての記述は数多く認められてはいるものの、強調されているとはいえないとして、ガイドライン作成者は他疾患を併存する場合を想定した、薬物相互作用あるいは薬物誘発性疾患について系統的アプローチを考慮すべきと結論付けている。 翻ってわが国の、たとえば「高血圧治療ガイドライン2014」をみてみると、薬物相互作用についての記載はごくわずかであり、きわめて一般的なことに限定されており、腎機能障害などとの関連についての記載は非常に乏しい。 とくに最近登場した新規抗凝固薬(NOAC)や、新規糖尿病治療薬による有害事象が頻発しているが、ガイドラインでは、これらの新薬に関して腎機能との関連や薬物相互作用にはもっとページを割くべきであった。

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抗凝固療法の出血リスク、遺伝子型で異なる/Lancet

 ワルファリンの出血リスクについて、CYP2C9、VKORC1の遺伝子型を持つ患者において早期出血の傾向がある人を特定できることが示された。米国ハーバード・メディカル・スクールのJessica L Mega氏らが、ENGAGE AF-TIMI 48試験の被験者データを分析し報告した。検討では、ワルファリンと比較して、エドキサバンの早期安全性に関するベネフィットが大きいことも明らかになったという。Lancet誌オンライン版2015年3月10日号掲載の報告より。ワルファリン感受性について遺伝子型に基づき3分類し評価 研究グループは、遺伝子型により、ワルファリンによる出血リスクが高い患者を特定可能か、またワルファリンと比べてより安全な直接作用経口抗凝固薬を特定可能かを検討した。 ENGAGE AF-TIMI 48は、心房細動患者を対象とした無作為化二重盲検試験で、被験者をワルファリン群、エドキサバン高用量(60mg)群、エドキサバン低用量(30mg)群に無作為に割り付けて、国際標準比(INR)2.0~3.0の達成について検討した試験であった。 事前規定の遺伝子分析に組み込まれたサブグループ患者は、CYP2C9、VKORC1の遺伝子型を持つことが示された。そのデータを用いて、ワルファリンへの反応性について、3つの遺伝子型機能区分(標準、感受性が高い、感受性が高度に高い)に分類し分析した。ワルファリン感受性が高いほど出血リスクが高いことが判明 遺伝子分析に含まれたのは、1万4,348例の患者であった。 このうちワルファリン群の患者4,833例は、ワルファリン感受性について、標準群2,982例(61.7%)、感受性が高い群1,711例(35.4%)、非常に感受性が高い群140例(2.9%)に分類された。 標準群と比較して、他の2群は治療開始90日間において抗凝固作用が過剰であった時間割合が大きかった。標準群は中央値2.2%(IQR:0から20.2%)に対し、感受性が高い群は8.4%(同:0~25.8%)、非常に感受性が高い群は18.3%(同:0~32.6%)であった(傾向のp<0.0001)。 そしてワルファリン出血リスクは感受性が高いほど増大することが認められた。標準群と比較した感受性が高い群のハザード比は1.31(95%信頼区間[CI]:1.05~1.64、p=0.0179)、非常に高い群は2.66(同:1.69~4.19、p<0.0001)であった。遺伝子型は臨床リスクスコアとは異なる独立した情報を与えることが認められた。 一方、治療開始90日間において、ワルファリン群と比較してエドキサバン群で出血リスクが低く、感受性について標準群よりも感受性が高い群および非常に感受性が高い群で、より低下することが両用量群ともに認められた(エドキサバン高用量群の相互作用p=0.0066、低用量群の相互作用p=0.0036)。 90日以降は、出血リスクの低下に関するベネフィットはエドキサバン群とワルファリン群で遺伝子型を問わず同程度であった。

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ビタミンK拮抗薬の急速中和製剤(4F-PCC)の効果は?/Lancet

 緊急の外科的・侵襲的手技においてビタミンK拮抗薬(VKA)投与を必要とする患者について、4因子含有プロトロンビン複合体濃縮製剤(4F-PCC)の血漿製剤に対する、急速VKA中和および止血効果に関する非劣性と優越性が確認された。米国・マサチューセッツ総合病院のJoshua N Goldstein氏らによる第IIIb相の非盲検非劣性無作為化試験の結果、示された。VKAによる抗凝固療法は、緊急外科的・侵襲的手技を要する患者に関して迅速中和を必要とする頻度が高い。しかしこれまでその至適な手法について、臨床比較試験による確定は行われていなかったという。Lancet誌オンライン版2015年2月26日号掲載の報告より。止血効果と急速INR低下の2つを主要エンドポイントに比較 研究グループは、4F-PCCの有効性と安全性を血漿製剤と比較して検討した。試験は国際多施設共同(33病院;米国18、ベラルーシ2、ブルガリア4、レバノン2、ルーマニア1、ロシア6)にて行われ、緊急外科的・侵襲的手技の前に急速VKA中和を必要とする18歳以上の患者を登録した。 患者を、VKA投与と共に4F-PCC(Beriplex/Kcentra/Confidex;ドイツ・CSLベーリング社製)または血漿製剤を単回投与する群に1対1の割合で無作為に割り付けた。投与量は国際標準化比(INR)と体重に基づき調整した。 主要エンドポイントは2つで、止血効果と急速INR低下(投与後0.5時間時点で1.3以下)。 解析は、最初に両エンドポイントについて非劣性(両群差の95%信頼区間[CI]下限値が-10%超と定義)を評価し、次いで非劣性が認められた場合に優越性(同0%超と定義)を評価した。 有害事象と重篤有害事象は、それぞれ10日時点、45日時点まで報告された。いずれのエンドポイントも4F-PCCの非劣性、優越性を確認 181例の患者が無作為に割り付けられた(4F-PCC群90例、血漿製剤群91例)。有効であったintention-to-treat比較集団は168例(それぞれ87例、81例)であった。 止血効果が認められたのは、4F-PCC群78例(90%)に対し血漿製剤群61例(75%)で、4F-PCCの血漿製剤に対する非劣性および優越性が確認された(両群差14.3%、95%CI:2.8~25.8%)。 また、急速INR低下を達成したのは、4F-PCC群48例(55%)に対し血漿製剤群8例(10%)で、こちらについても4F-PCCの血漿製剤に対する非劣性および優越性が確認された(両群差45.3%、95%CI:31.9~56.4%)。 4F-PCCと血漿製剤の安全性プロファイルは類似していた。有害事象の発現は4F-PCC群49例(56%)、血漿製剤群53例(60%)であった。とくに注目された有害事象は、血栓塞栓イベント(4F-PCC群6例[7%] vs. 血漿製剤群7例[8%])、輸液過剰または関連心イベント(3例[3%] vs. 11例[13%])、遅発性出血イベント(3例[3%] vs. 4例[5%])であった。

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Vol. 3 No. 2 脳卒中を巡るコントロバーシー 脳卒中の再発予防にスタチンは有効か?

北川 一夫 氏東京女子医科大学医学部神経内科学はじめにスタチンは、脂質低下作用以外に多面的作用を有し、脂質低下と抗炎症作用をはじめとしたさまざまな機序により心血管疾患発症予防に寄与していると考えられている。本稿では、最初に脳卒中と血清脂質の疫学的な関連について解説したうえで、スタチンの脳卒中予防効果に関する臨床研究を概説し、最後に本件に関する著者の意見を述べてみたい。脳卒中発症と脂質との関係 ―臨床疫学的検討―脳卒中と脂質の関連は“cholesterol paradox”といわれるほど複雑である1)。疫学的に明確なのは、低コレステロール血症が脳出血のリスクとなる点である2)。臨床疫学研究のメタ解析でもコレステロールが低下すると脳出血リスクが高まることが報告されている。ちょうど30年以上前の日本人の食生活では、蛋白質、脂質の摂取量が少なく低栄養状態であり、かつ塩分摂取が多いため、高血圧とともに低コレステロール血症が脳出血リスクを増大していたと考えられる。近年の茨城県の一般住民を対象としたコホート研究でも、LDLコレステロールが80mg/dL未満の群では脳出血リスクが高いことが報告されている(本誌p.45図1を参照)3)。一方、脳梗塞と血清脂質との関連は明確でない。脳梗塞には、アテローム硬化を基盤として発症するアテローム血栓性脳梗塞、脳細動脈の閉塞が原因のラクナ梗塞以外に、脂質との関連が少ないと考えられる心原性脳塞栓症が含まれ、久山町研究では血清脂質とアテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞との関連が示されている(本誌p.45図1を参照)4)。しかし脳梗塞の各病型を含めた解析では、LDLコレステロールで160mg/dL、総コレステロールで260mg/dLまでの軽度から中等度の脂質異常が脳梗塞のリスクとなるかどうかについては明確となっていない。心筋梗塞と血清脂質の関連が各年代でこれら脂質レベルでも明確なのと対照的である5)。また近年、脳梗塞を発症した患者ではむしろ血清脂質レベルが軽度上昇しているほうが、機能予後がよいことが報告されている6)。血清脂質レベルが低下している症例では、全身栄養状態が低下していることが多く、血清脂質レベル低値そのものあるいは、そのことに反映される栄養状態不良のどちらが、脳出血リスクや脳卒中発症後の予後不良に寄与しているのかは明らかとなっていない。スタチンの脳卒中予防効果脳卒中と血清脂質レベルの関連が疫学的に不明瞭であるのと対照的に、スタチンが脳卒中発症予防効果を示すことは多くの臨床試験から示されている。もともと冠動脈疾患の発症、再発予防を目的としたスタチンの介入試験で、副次エンドポイントとして評価されていた脳卒中が20%程度発症抑制されていた7)。特に冠動脈疾患既往を有する患者での臨床試験では一貫して脳卒中発症が抑制されていた。一方、血管疾患の既往を有さない患者を対象としたプラバスタチンの冠動脈疾患の初発予防効果を検証したMEGA研究では、プラバスタチン投与群で脳梗塞発症が低下する傾向がみられたが有意な差に至らなかった8)。海外では血管疾患の既往を有さないが血液高感度CRP濃度が軽度上昇した患者を対象としたJUPITER試験が実施され、ロスバスタチン投与により血清LDLコレステロール値とともに高感度CRP濃度も低下し、心筋梗塞および脳卒中発症が50%近く抑制されていた9)。このように多くの試験でスタチンの脳卒中予防効果が示されているが、発症抑制された脳卒中病型は脳梗塞であった。またスタチンの脂質低下レベルと脳卒中抑制効果には直線的な関係があり、治療開始時の脂質レベルによらず、スタチンを投与してLDLコレステロールが低下するほど脳卒中発症抑制効果が高いことが報告されている7)。一方、脳卒中既往患者を対象とした臨床試験としてSPARCL研究が発表されている。脳卒中または一過性脳虚血発作症例を対象としてアトルバスタチン80mg/日またはプラセボを投与して脳卒中再発を主要エンドポイントとした試験であるが、アトルバスタチン投与群で脳卒中再発が16%抑制され、特に脳梗塞再発が20%抑制されることが明らかとなった(本誌p.46図2を参照)10)。アトルバスタチン投与によりLDLコレステロールが十分に低下した場合に脳卒中、心筋梗塞発症が有意に抑制されていた。脳梗塞病型別の検討ではアテローム血栓性脳梗塞、内頸動脈狭窄を有する症例では、スタチン投与により脳卒中再発とともに心筋梗塞発症が抑制されることが明らかとされた11)。日本では常用量のスタチンであるプラバスタチンを用いた非心原性脳梗塞患者の再発予防効果を検証するJ-STARS試験が終了しており、その結果発表が待たれている12)。SPARCL研究では、脳卒中および脳梗塞再発は有意に抑制したが、アトルバスタチン投与群で脳出血が1.68倍増加したため、スタチンの脳出血リスクが危惧された。SPARCL試験のサブ解析では、脳出血のリスクとなる因子として、脳出血の既往、男性、高血圧が抽出されたが、LDLコレステロール値と脳出血との間には関連がみられず、LDLコレステロール値が50mg/dL未満の群でも脳出血リスクが高まる傾向はみられなかった13)。またスタチンを用いた臨床試験の大規模なメタ解析も行われ、スタチン投与と脳出血リスクとの間には関連がないことが報告されている14)。ただSPARCL研究のサブ解析では、脳梗塞のなかでも脳内小血管の疾患であるラクナ梗塞ではスタチン投与群で脳出血リスクが有意に高まっており、基盤に脳小血管病(脳出血、ラクナ梗塞)を有する患者では、スタチン投与に際して脳出血リスクを念頭におく必要があると考えられる。脳卒中再発予防にスタチンを使用すべきか?前述の内容をもとに、脳卒中再発予防におけるスタチンの意義について考察する。まず脳卒中のなかでも出血性脳卒中―脳出血、くも膜下出血―では脂質異常の関与は少ないため、脂質管理は動脈硬化疾患ガイドラインに沿ってLDLコレステロールが140mg/dL未満であれば、スタチンの投与は必要ないと考えられる。脳梗塞では、病型ごとにスタチンの投与を考えるべきであり、アテローム血栓性脳梗塞およびラクナ梗塞では、スタチンは脳卒中、特に脳梗塞再発抑制効果が期待できるため積極的に投与すべきと考えられる。一方動脈硬化疾患ガイドラインでは、これら脳梗塞病型ではLDLコレステロールを120mg/dL未満に管理することが推奨されているが、スタチンには血管炎症抑制効果15)があるため、LDLコレステロールの値にかかわらず投与したほうがよいという考えもあり、筆者も同意見に賛成である。内頸動脈狭窄や脳主幹動脈病変を有する場合は積極的なスタチン投与の適応と考えられ、脳卒中再発のみならず冠動脈疾患発症抑制効果も期待できる。一方、SPARCL研究で危惧されたスタチンの脳出血リスクについては、脳血管事故の既往のない症例ではメタ解析の結果から心配する必要はないと思われる。しかし脳卒中既往症例については、SPARCL試験の成績を念頭におく必要があろう。すなわち脳出血、ラクナ梗塞など脳小血管病の既往のある症例では、スタチン投与により脳出血リスクが高まる可能性が示唆されており、ラクナ梗塞でのスタチン投与に際しては、血圧管理を厳格に行うべきと考えられる。MRI検査の発達により、無症候性脳小血管病として脳微小出血(図)が検出されるようになり16)、脳微小出血が観察される症例についてもスタチンを投与する際には血圧管理を特に厳格にすべきであろう。脳梗塞既往患者ではほとんどの症例が抗血栓薬を内服しており、抗血栓薬、スタチンを併用しているラクナ梗塞患者では、収縮期血圧130mmHg未満をめざした管理が望ましいと考えられる。図 脳微小出血(脳MRI T2*画像)a. 健常者に観察される皮質下微小出血  (→で示す)画像を拡大するb. 遺伝性脳小血管病患者で観察される  多数の微小出血(→で示す)画像を拡大する脳卒中再発予防にスタチン以外の脂質低下手段は有効か?スタチン以外の脂質低下薬については、フィブラート、ナイアシンでは脳卒中発症予防に有効とのエビデンスは示されていない17)。近年、次々と新規薬剤が開発されているが、これらの薬剤について脳卒中予防効果は検討されていない。日本で脂質異常を有する患者にエイコサペンタエン酸(EPA)を常用量のスタチンに追加投与したJELIS試験が実施された。脳卒中発症に関しては全症例ではEPA投与の有用性は示されなかったが、卒中既往症例に限った解析ではEPAにより脳卒中再発が抑制されることが示されている18)。しかしpost hoc解析であり、脳卒中発症から登録までの期間も明らかでないため、強いエビデンスを示すには至っていない。おわりに表題の脳卒中再発予防にスタチンは有効か、という問いかけに対しては、出血性脳卒中、心原性脳塞栓症では有効性は低く、非心原性脳梗塞であるアテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞では有効であるというのが現時点のコンセンサスであろう。なかでも内頸動脈狭窄、頭蓋内動脈閉塞・狭窄を伴いアテローム硬化の強い症例では、脂質レベルに関わりなくスタチンは積極的に投与すべきであろう。一方、ラクナ梗塞既往があり脳MRIで微小出血を有する症例ではスタチン投与の有効性は十分期待できるが、脳出血リスク低減のため血圧管理を厳格にした上でスタチンを使用すべきであるというのが著者の考えである。文献1)Amarenco P Steg PG. The paradox of cholesterol and stroke. Lancet 2007; 370: 1803-1804.2)Wang X et al. Cholesterol levels and risk of hemorragic stroke: a systematic review and meta-analysis. Stroke 2013; 44: 1833-1839.3)Noda H et al. Low-density lipoprotein cholesterol concentrations and death due to intraparenchymal hemorrhage: the Ibaraki Prefectural Health Study. Circulation 2009; 119: 2136-2145.4)Imamura T et al. LDL cholesterol and the development of stroke subtypes and coronary heart disease in a general Japanese population: the Hisayama study. Stroke 2009; 40: 382-388.5)Prospective Studies Collaboration, Lewington S et al. Blood cholesterol and vascular mortality by age, sex, and blood pressure: a meta-analysis of individual data from 61 prospective studies with 55,000 vascular deaths. Lancet 2007; 370: 1829-1839.6)Olsen TS et al. Higher total serum cholesterol levels are associated with less severe strokes and lower all-cause mortality: ten-year follow-up of ischemic strokes in the Copenhagen Stroke Study. Stroke 2007; 38: 2646-2651.7)Amarenco P, Labreuche J. Lipid management in the prevention of stroke. Review and updated meta-analysis of statins for stroke prevention. Lancet Neurol 2009; 8: 453-463.8)Nakamura H et al. Primary prevention of cardiovascular disease with pravastatin in Japan (MEGA Study): a prospective randomised controlled trial. Lancet 2006; 368: 1155-1163.9)Ridker PM et al. Rosuvastatin to prevent vascular events in men and women with elevated C-reactive protein. N Engl J Med 2008; 359: 2195-2207.10)The Stroke Prevention by Aggressive reduction in Cholesterol Levels (SPARCL) Investigators. High-dose atorvastatin after stroke or transient ischemic attack. N Engl J Med 2006; 355: 549-559.11)Amarenco P et al. Results of the stroke prevention by aggressive reduction in cholesterol levels (SPARCL) trial by stroke subtypes. Stroke 2009; 40: 1405-1409.12)Nagai Y et al. Rationale, design, and baseline features of a randomized controlled trial to assess the effects of statin for the secondary prevention of stroke: the Japan Statin Treatment Against Recurrent Stroke (J-STARS). Int J Stroke 2014; 9: 232-239.13)Goldstein LB et al. Hemorrhagic stroke in the stroke prevention by aggressive reduction in cholesterol levels study. Neurology 2008; 70: 2364-2370.14)Hackam DG et al. Statins and intracerebral hemorrhage: collaborative systematic review and meta-analysis. Circulation 2011; 124: 2233-2242.15)Blum A, Shamburek R. The pleiotropic effects of statins on endothelial function, vascular inflammation, immunomodulation and thrombogenesis. Atherosclerosis 2009; 203: 325-330.16)Greenberg SM et al. Cerebral microbleeds: a guide to detection and interpretation. Lancet Neurol 2009; 8: 165-174.17)Goldstein LB et al. Guidelines for the primary prevention of stroke: a guideline for healthcare professionals from the American Hear t Association/American Stroke Association. Stroke. 2011; 42: 517-584.18)Tanaka K et al. Reduction in the recurrence of stroke by eicosapentaenoic acid for hypercholesterolemic patients. Subanalysis of the JELIS trial. Stroke 2008; 39: 2052-2058.

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抗血栓療法中のNSAIDs、出血・心血管イベント増大/JAMA

 心筋梗塞(MI)後の抗血栓療法中の患者における非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)の併用投与は、短期間であっても出血や心血管イベントリスクを増大することが明らかにされた。デンマーク・コペンハーゲン大学ゲントフテ病院のAnne-Marie Schjerning Olsen氏らが、同国患者データ6万1,971例を分析し報告した。著者は、「所見についてはさらなる検討を行い確認する必要があるが、MI後の患者へのNSAIDs処方には注意を払わなくてはならない」とまとめている。JAMA誌2015年2月24日号掲載の報告より。デンマーク、心筋梗塞後6万1,971例のNSAIDs治療併用有無別にアウトカムを分析 研究グループは、MI後で抗血栓療法中の患者についてNSAIDsを併用投与した場合の、出血・心血管イベントを調べた。 同国2002~2011年の入院レジストリデータを用いて、30歳以上で初発MIを経験し、退院後30日間生存していた患者について、MI後のアスピリン、クロピドグレルまたは抗血栓薬、およびそれらの組み合わせ治療と、NSAIDs治療の併用について調べた。 主要評価項目は、NSAIDs治療併用有無別にみた出血リスク(入院を要する)または心血管複合アウトカム(心血管系による死亡、非致死的MI、脳卒中)で、補正後時間依存的Cox回帰モデルを用いて評価した。 分析には6万1,971例が組み込まれた(平均年齢67.7[SD 13.6]歳、男性63%)。そのうち34%の患者が1種以上のNSAIDsを処方されていた。併用群、出血リスク2.02倍、心血管イベントリスク1.40倍 追跡期間中央値3.5年間で、死亡者は1万8,105例(29.2%)であった。出血イベントの発生は計5,288例(8.5%)、心血管イベントは計1万8,568例(30.0%)であった。 出血イベントの粗発生率は100人年当たり、NSAIDs治療併用群4.2例(95%信頼区間[CI]:3.8~4.6例)、非併用群2.2例(同:2.1~2.3例)であった。心血管イベントについてはそれぞれ11.2例(同:10.5~11.9例)、8.3例(同:8.2~8.4例)であった。 多変量補正後Cox回帰分析の結果、NSAIDs治療併用群は非併用群と比較して、出血リスクは2.02倍(ハザード比:2.02、95%CI:1.81~2.26)、心血管イベントリスクは1.40倍(同:1.40、1.30~1.49)増大することが認められた。 出血および心血管イベントリスクは、抗血栓療法やNSAIDsの種別を問わず、また併用期間を問わず、併用により増大することが認められた。

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抗凝固薬による脳内出血、血腫増大の分岐点/JAMA

 抗凝固療法の合併症で脳内出血を発症した人は、4時間以内の国際標準比(INR)が1.3未満で、収縮期血圧が160mmHg未満だと、血腫増大リスク、院内死亡リスクともに減少することが明らかにされた。オッズ比はそれぞれ0.28、0.60であった。ドイツ・エアランゲン-ニュルンベルク大学のJoji B. Kuramatsu氏らが、約1,200例の患者について行った後ろ向きコホート試験の結果、明らかにした。同発症患者について、経口抗凝固薬の再開についても分析した結果、再開は虚血イベントの低下につながることが示されたという。なお、これらの結果について著者は、前向き試験での再現性と評価の必要性を指摘している。JAMA誌2015年2月24日号掲載の報告より。血腫増大リスクや経口抗凝固薬の再開について分析 研究グループは2006~2012年にかけて、ドイツ19ヵ所の三次医療機関を通じ、抗凝固療法の合併症で脳内出血を発症した患者1,176例について追跡した。そのうち853例については血腫増大、719例については経口抗凝固薬の再開について、それぞれ分析を行った。 主要評価項目は、INR値や血圧値と血腫増大発症率との関連などだった。INR値1.3未満の血腫増大発症率は19.8%、1.3以上では41.5% その結果、血腫増大が発症したのは、853例中307例(36.0%)だった。血腫増大率低下と関連がみられたのは、入院4時間以内のINR値が1.3未満と、同じく4時間以内の収縮期血圧160mmHg未満だった。具体的には、INR値1.3未満の血腫増大率は19.8%に対し、INR値1.3以上の同発症率は41.5%(p<0.001)。収縮期血圧160mmHg未満の同発症率は33.1%に対し、収縮期血圧160mmHg以上では52.4%だった(p<0.001)。 入院4時間以内のINR値が1.3未満で収縮期血圧160mmHg未満だった場合、血腫増大に関するオッズ比は0.28(95%信頼区間[CI]:0.19~0.42、p

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