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CHA2DS2-VAScスコア、心不全患者にも有用/JAMA

 心房細動(AF)患者の脳卒中リスク層別化に有用なCHA2DS2-VAScスコアが、AFの有無を問わない心不全(HF)患者にも有用であることが明らかにされた。デンマーク・オールボー大学のLine Melgaard氏らによる検討の結果、同患者でスコアと虚血性脳卒中、血栓塞栓症、死亡のリスクとの関連がみられたという。また、非AF患者のほうがAFを有する患者と比べて、同スコアが高いほど血栓塞栓症の合併絶対リスクが高いことも認められた。一方で、予測精度は中程度であり、HF患者におけるスコアの臨床的な有用性は確定的なものではないと著者は述べている。JAMA誌2015年8月30日号掲載の報告より。AF有無を問わない4万2,987例のHF患者を対象に検証 CHA2DS2-VAScスコアの判定は、うっ血性心不全(1点)、高血圧(1点)、75歳以上(2点)、糖尿病(1点)、脳卒中/TIA/血栓塞栓症(2点)、血管系疾患(心筋梗塞既往、PAD、大動脈プラーク:1点)、65~74歳(1点)、性別(女性:1点)で行う。 研究グループは、このCHA2DS2-VAScスコア判定を用いて、AFを問わないHF患者集団の虚血性脳卒中、血栓塞栓症、死亡を予測可能か調べた。 検討には、デンマークレジストリより全国前向きコホート試験のデータを用いた。被験者は、2000~12年にHF発症の診断を受け抗凝固薬治療を受けていなかった4万2,987例(うちAFを有した患者が21.9%)であった。最終フォローアップは、2012年12月31日だった。 被験者について、ベースラインのAF有無で分けたうえでCHA2DS2-VAScスコア判定を行い(最高9点とし、高スコアほど高リスクと判定)、死亡リスクの比較を考慮した分析を行った。主要評価項目は、HF診断後1年以内の虚血性脳卒中、血栓塞栓症、死亡であった。4点以上では、AF有無を問わず血栓塞栓症リスクが高い 非AF患者において、HF診断後1年以内の各指標疾患の発生は、虚血性脳卒中3.1%(977例)、血栓塞栓症9.9%(3,187例)、死亡21.8%(6,956例)であった。 いずれも高スコア群ほどリスクは高く、スコア別(1点~6点)にみたそれぞれの発生率は、虚血性脳卒中はAF患者群で4.5%、3.7%、3.2%、4.3%、5.6%、8.4%、非AF患者群で1.5%、1.5%、2.0%、3.0%、3.7%、7%。全死因死亡はAF患者群で19.8%、19.5%、26.1%、35.1%、37.7%、45.5%、非AF患者群で7.6%、8.3%、17.8%、25.6%、27.9%、35.0%であった。 CHA2DS2-VASc高スコア(4点以上)群では、血栓塞栓症の絶対リスクが、AFの有無にかかわらず高値であった(AFあり9.7% vs.AFなし8.2%、相互作用に関するあらゆるp<0.001)。 C統計値と陰性適中率は、CHA2DS2-VAScスコアの実行性が今回のAFありなしHF集団では中程度であることを示すものであった。虚血性脳卒中の1年C統計値は、AFあり0.67(95%信頼区間[CI]:0.65~0.68)、AFなし0.64(同:0.61~0.67)、1年陰性適中率それぞれ92%(95%CI:91~93%)、91%(同:88~95%)であった。

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がん患者の再発VTEへのtinzaparin vs.ワルファリン/JAMA

 急性静脈血栓塞栓症(VTE)を呈した担がん(active cancer)患者に対し、低分子ヘパリン製剤tinzaparinは、ワルファリンとの比較においてVTE再発を抑制しなかったことが報告された。カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のAgnes Y. Y. Lee氏らが、900例を対象とした国際多施設共同無作為化試験の結果、報告した。複合アウトカム評価による本検討では、全死因死亡と重大出血抑制との関連は示されなかったが、臨床的に意味のある非重大出血の抑制は認められた。著者は、「再発VTリスクが高い患者で結果が異なるかについて、さらなる検討を行う必要がある」と述べている。JAMA誌2015年8月18日号掲載の報告。32ヵ国164施設900例を対象に無作為化試験 急性VTEを呈した担がん患者の治療については、先行研究の単施設大規模試験の結果を踏まえて、ワルファリンよりも低分子ヘパリンが推奨されている。 今回研究グループは、アジア、アフリカ、ヨーロッパ、北米、中米、南米の32ヵ国164施設で被験者を登録し、tinzaparin vs.ワルファリンの有効性と安全性について検討した。試験期間は2010年8月~2013年11月、無作為化非盲検試験にて試験アウトカムの評価は盲検化中央判定にて検討した。 被験者は、担がん状態(組織学的または細胞診で確認がされており、次のいずれかに当てはまる患者:(1)過去6ヵ月間にがんと診断、(2)再発、局所進行または転移性、(3)過去6ヵ月間にがん治療、(4)非完全寛解の造血器腫瘍)、客観的診断による近位部型深部静脈血栓症(DVT)または肺塞栓症を有し、余命は6ヵ月超、抗凝固薬の禁忌なしの18歳以上成人であった。無作為に2群に割り付け、一方にはtinzaparin 175 IU/kgが1日1回6ヵ月投与(tinzaparin群449例)。もう一方は6ヵ月間の従来療法群として、最初の5~10日間tinzaparin 175 IU/kg 1日1回を投与したのち、ワルファリン単独投与でINR2.0~3.0を維持した(ワルファリン群451例)。 フォローアップ訪問が、7、14、30日、以後30日間ごとに180日時点まで行われ、また再発VTEの徴候や症状がみられないか、スタッフによる電話フォローが、月ごとの訪問後2週目に行われた。 主要有効性アウトカムは、中央判定による再発DVT、致死的または非致死的肺塞栓症、2次性VTE発生の複合とした。安全性アウトカムは、重大出血、臨床的に意味のある非重大出血、全死因死亡などだった。tinzaparin群の再発VTE、有意な抑制は認められず 結果、再発VTEの発生は、tinzaparin群31/449例、ワルファリン群45/451例だった。6ヵ月間の累積発生率は、tinzaparin群7.2% vs. ワルファリン群10.5%で、有意な差は認められなかった(ハザード比[HR]:0.65、95%信頼区間[CI]:0.41~1.03、p=0.07)。 同様に、重大出血(12例 vs.11例、HR:0.89、95%CI:0.40~1.99、p=0.77)、全死因死亡(150例 vs.138例、1.08、0.85~1.36、p=0.54)でも有意差はみられなかった。 一方で臨床的に意義のある非重大出血の発生については、tinzaparin群の有意な低下が認められた(49/449例 vs.69/451例、HR:0.58、95%CI:0.40~0.84、p=0.004)。

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やはり優れたワルファリン!(解説:後藤 信哉 氏)-399

 BMJ誌は、NEJM誌、JAMA誌とは別の方向の研究を掲載する傾向がある。 本研究は新薬でもなく、仮説検証研究でもない。「Get With The Guidelines (GWTG)-Stroke program」という、文字通りガイドライン遵守率を上げようとする病院群における観察研究の結果である。 筆者はこのGWTGを直接知らないが、米国の健康維持機構(HMO:health management organization)の1つと理解している。筆者は米国に4年住んでいたので、国民皆保険により患者の医療機関選択が自由な日本と、「医療もビジネス」と考え、保険があっても自由に医療機関を選択できない米国の差異を体感していた。 自由主義経済の米国では、保険会社も医療機関を選択する。診療ガイドラインを遵守する医療機関の治療成績が良いのであれば、多くの保険会社が医療コストがトータルで低くなるガイドラインを遵守する病院と契約を結ぶ国が米国である。ガイドライン遵守を売り文句にした医療機関は「われわれのグループはガイドラインを遵守するので、医療コストが低いです。ぜひ、われわれと契約してください」と、保険会社と折衝することになる。そのときに、保険会社を説得するデータとして、本論文のようなデータベースを蓄積することが病院には得になる。 日本の医療は明らかにpublic sectorであるが、米国の医療は基本競争原理の働くprivate sectorである。private sectorゆえにevidence basedの世界に通用するevidence集積のインセンティブが各医療機関に働く。金持ち優遇と批判を受けながら米国の医療システムが分厚く崩れないのは、fairな競争原理に支えられているゆえであろう。 脳卒中のため入院した心房細動症例の脳卒中リスクは高い。ワルファリンが使用されていない心房細動にて、脳卒中で入院した1万2 ,552例を対象とした研究というデザインも面白い。「ガイドラインを遵守する」ことを売り物にしている病院でも、このリスクの高い症例群の12%には、退院時になんらかの理由によりワルファリンを使えなかった。脳卒中を発症するまでワルファリンを使用していなかった心房細動例でも、初回発症後はワルファリンを使用した群において在宅可能期間が長く、心血管イベントの発症率も低かった。 本研究は米国の保険医療データベースである。基本、自由診療の米国ではメディケアを受け、Get With The Guidelines (GWTG)-Stroke programに参加した病院は、米国すべてではない。日本の保険診療は国民皆保険である。日本で保険病名として、「心房細動」があり、「脳梗塞」の病名にて入院した症例のうち、退院時に「ワルファリン」が処方された症例と処方されていない症例の、その後の2年間の「入院」の有無を調べるのは、レセコンデータをみるだけで簡単にできる。 医療がpublic sectorで、保険システムの宣伝をしなくても皆が保険料を払ってくれる国民皆保険制度は、システムとしては素晴らしいが、米国人から見れば「fairではない」、「科学的根拠がない」などと言われる隙がある。TPPなどにより「非関税障壁」が取り払われる前に、世界の人が理解できる科学の論理により、医療を構築できると良いと筆者は考える。

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脳梗塞後の心房細動患者でのワルファリンの有用性/BMJ

 虚血性脳卒中を呈した心房細動患者に対するワルファリン投与は、長期臨床的アウトカムや自宅生活の期間を改善することが明らかにされた。米国・デューク臨床研究所のYing Xian氏らが、観察研究の結果、報告した。ワルファリンは、心房細動患者の血栓塞栓症予防のために使用が推奨されている。その根拠は、選択された患者集団での臨床試験に基づくものであり、試験設定以外(リアルワールド)の心房細動については、ワルファリンの投与および臨床的な有益性は確認されておらず、とくに、虚血性脳卒中を呈した高齢者において不明であった。BMJ誌オンライン版2015年7月31日号掲載の報告。虚血性脳卒中で入院したワルファリン未治療心房細動患者1万2,552例を追跡 研究グループは、心房細動患者で虚血性脳卒中後のワルファリン治療と長期アウトカムの関連を、地域医療ベースで評価した。検討は、2009~2011年にGet With The Guidelines (GWTG)-Strokeプログラムに参加した米国内1,487病院の協力を得て、虚血性脳卒中で入院したワルファリン未治療の心房細動患者1万2,552例の参加を得て行われた。 退院時にワルファリンを処方された患者と、あらゆる経口抗凝固薬が未処方であった患者を比較し、メディケア報酬支払記録とリンクして長期的アウトカムを評価した。 アウトカムは患者評価をベースとし、退院後継続的ケアを受けることなく暮らした総日数と定義して、主要有害心イベント(MACE)と自宅で暮らした期間を評価した。 治療群間で観察された特性のあらゆる差について、傾向スコア逆確率加重法を用いて検証した。退院時ワルファリン治療群のほうがMACEリスク低下、自宅生活期間が長期 1万2,552例のうち、退院時ワルファリン治療群は1万1,039例(88%)、経口抗凝固薬未治療患者は1,513例であった。 ワルファリン治療群のほうが、年齢はわずかに若く(平均80.1 vs.83.1歳)、脳卒中(14.8 vs.20.6%)や冠動脈疾患(30.8 vs.37.1%)の既往が少ないように思われたが、National Institutes of Health Stroke Scale評価の脳卒中の重症度は同程度であった(中央値6 vs.5)。 経口抗凝固薬未治療患者と比較して、ワルファリン治療群は、退院後2年間の自宅で暮らしている期間(施設ケアとの対比による)が有意に長期間であった。平均期間は治療群468.3日 vs.未治療群389.0日で、補正後の差は47.6日(99%信頼区間[CI]:26.9~68.2日、p<0.001)であった。 また、ワルファリン治療群は、MACEの発生リスク(補正後ハザード比:0.87、99%CI:0.78~0.98、p=0.003)、全死因死亡(同:0.72、0.63~0.84)、虚血性脳卒中の再発(同:0.63、0.48~0.83)についても有意な低下が認められた。 これらの差は、年齢、性別、脳卒中の重症度、冠動脈疾患と脳卒中の既往歴の別でみた臨床的に意義のあるサブグループでも一貫してみられた。

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PADIS-PE試験:ワルファリンをいつ中止するのが良いのか?~特発性肺血栓塞栓症の初発患者の場合(解説:西垣 和彦 氏)-398

 ワルファリンは、いわば“両刃の剣”である。深部静脈血栓症(DVT)を含めた静脈血栓塞栓症(VTE)による肺血栓塞栓症(PE)予防の有効性は顕著であるが、抗血栓薬自体の宿命でもある出血も、しばしば致命的となる症例も少なくない。したがって、メリットとデメリットを十分に勘案し、最大限の効果が得られる抗凝固療法継続期間を求めることには必然性がある。 PEの抗凝固療法継続期間に関して、昨年出された欧州心臓病学会(ESC)のガイドラインでは、次のように記載されている。1)PEの患者には少なくとも3ヵ月は抗凝固療法を行うこと。2)抗凝固療法中止後のPE再発の危険性は、抗凝固薬を6ヵ月ないし12ヵ月で中止しても、3ヵ月で中止した場合と同程度である。3)無制限の抗凝固療法は、再発性VTEのリスクを約90%減少させるが、大出血の発症リスクを年1%以上上昇させ、メリットを部分的に相殺する。 一方、リスクのない特発性PEに関しては、抗凝固療法中止後の再発率が高いため、出血のリスクを勘案したうえでより長期間の継続が望ましいと記載されているだけで、具体的にいつまで継続するかに関して記載がなく、担当医の判断とされている。 今回PADIS-PE試験は、この特発性PEに関して、建設的な見解を出した。それは、(1)抗凝固療法を3~6ヵ月で中止すると、手術などの一時的なリスクにより起因するVTEよりも再発リスクが高くなる、(2)さらに3~6ヵ月延長すると、治療継続中は再発リスクが抑制される結果から、より長期の抗凝固療法が求められたことである。 そもそも、未知の凝固線溶系異常患者を含み、人種差も大きい凝固線溶系であるからこそ、PADIS-PE試験で組み入れた特発性PEの観察対象者自体がすでに異質であり、この結果をそのまま受諾するのは、いささか早計ではある。しかし、PEの再発防止目的でより長期の抗凝固療法を行うことは、賛同できる結果ではないだろうか。 重要なことは、(1)PT-INRをより適切な治療域に保つ努力を怠らないこと、(2)ワルファリンの特質を、医師と患者の双方が十分に理解し、密な相互の関係を築くことである。そのうえで、再発率が高い下肢静脈近位側にDVTが残存している症例や、抗凝固療法中止1ヵ月後のDダイマーが高値である症例などに関しては、無期限の抗凝固療法も視野に入れた、より長期間の抗凝固療法継続を行うべきと考えられる。

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新規経口抗凝固薬の眼内出血リスク、従来薬との比較

 新しい経口抗凝固薬(NOAC)は、ほとんどの血栓形成予防において標準療法に対し非劣性であることが認められているが、安全性プロファイルには差があり、とくに眼内出血のリスクについてはほとんどわかっていない。ポルトガル・分子医学研究所のDaniel Caldeira氏らは、NOACに関連した重大な眼内出血のリスクを評価する無作為化比較試験のメタ解析を行った。その結果、NOACと他の抗血栓薬とで重大な眼内出血のリスクに差はないことを報告した。ただしイベント数が少ないため、「NOACの安全性プロファイルをよりよく特徴づけるためには、眼科の日常的な臨床診療下で患者をモニターする大規模なデータベースから追加の研究がなされるべきである」とまとめている。JAMA Ophthalmology 2015年7月号の掲載報告。 研究グループは、MEDLINE、Cochrane Library、SciELO collectionおよびWeb of Science databasesを用いて2014年11月までの論文を検索するとともに、他のシステマティックレビューや規制当局の資料も調べた。 対象は、NOACのすべての第III相無作為化比較試験(RCT)で眼内出血イベントについて報告されているものとし、2人の研究者が独立してデータを抽出した。 メタ解析にはランダム効果モデルを用い、試験の異質性はI2統計量で評価するとともに、重大な眼内出血については統合リスク比(RR)および95%信頼区間(CI)を算出して評価した。 主な結果は以下のとおり。・17件のRCTがメタ解析に組み込まれた。・心房細動患者において、NOACはビタミンK拮抗薬と比較し重大な眼内出血のリスクに差はないことが確認され(RR:0.84、95%CI:0.59~1.19、I2=35%、RCT5件)、アセチルサリチル酸と比較してもリスクの増加は認められなかった(RR=14.96、95%CI:0.85~262.00、RCT1件)。・静脈血栓塞栓症患者において、NOACは低分子ヘパリン+ビタミンK拮抗薬と比較し重大な眼内出血のリスクは増加しないことが確認された(RR=0.67、95%CI:0.37~1.20、I2=0%、RCT5件)。・整形外科手術を受けた患者においても、NOACと低分子ヘパリンとで差はなかった(RR=2.13、95%CI:0.22~20.50、I2=0%、RCT5件)。

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ポンプ本体全内面を生体材料で構成した全置換型人工心臓、初の臨床例を報告/Lancet

 新たに開発された生体弁を用いた全置換型人工心臓CARMAT TAH(C-TAH)の、最初の臨床使用例2例の報告が、フランス・パリ大学のAlain Carpentier氏らにより発表された。2例とも最終的には死亡となったが、うち1例は150日目に退院することができたという。著者は「今回の経験知は、生体材料を用いた全置換型人工心臓の開発に重要な貢献をもたらすことができた」と述べている。Lancet誌オンライン版2015年7月28日号掲載の報告。2例に行われた初の施行例 本検討の目的は、両室心不全で移植不適者であり死が目前に迫った患者について、C-TAHの安全性と使用の可能性を評価することであった。C-TAHは、植込み型の電気駆動型拍動式両室ポンプの人工心臓装置で、バッテリー以外の部品は1装置に収められ、患者の心室を摘出して置換する。これまで、末期の心疾患患者に対する人工心臓の開発では、血栓塞栓症や出血の合併症が重大な課題となっており、これら合併症の発生は生体弁では低率であることからC-TAHが開発された。 研究グループは、フランスの3つの心臓外科センターから、2例の男性患者を選出し、植込み置換手術を行った。 患者1は76歳で、2013年12月18日にC-TAH移植を施行。患者2は68歳で2014年8月5日に移植が行われた。これまで重大な課題であった血栓問題は克服 両心バイパスに要した時間は、患者1が170分、患者2は157分であった。 両患者とも術後12時間以内に抜管。呼吸機能および循環機能は迅速に回復し、精神状態も良好であった。 患者1は23日目に心タンポナーデを呈し再介入が必要となった。術後出血により抗凝固薬は中断。C-TAHは良好に機能し心拍出量は4.8~5.8L/分であったが、74日目に、装置故障により死亡した。 剖検では、抗凝固薬が約50日間投与されなかったにもかかわらず、生体弁またその他臓器からも血栓は検出されなかった。 患者2は、一過性の腎不全および心嚢液貯留で排液を要したが、それ以外は術後経過に問題はみられず150日目に退院となった。ウェアラブルシステムのみで技術的補助は必要としなかった。 自宅に戻ってから4ヵ月後、低心拍のためC-TAHを交換。しかし多臓器不全で死亡した。

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優れた抗血栓性を目指し、ポンプ本体の内面をすべて生体材料で構成したCARMAT完全植込み完全置換型の開発と世界最初の臨床応用(解説:許 俊鋭 氏)-394

 2008年に、僧帽弁形成手術で世界的に著名な心臓外科医Alain Carpentier氏が、真に心臓移植の代替治療となりうる完全植込み完全置換型(fully implantable artificial heart)の臨床治験を、2011年までに実施する準備ができたと発表した1)。 ポンプ本体の内面はすべて生体材料 (“biomaterials”or a“pseudo-skin”of biosynthetic、microporous materials)で構成され、これまでの人工心臓でまったく未解決の問題であった、ポンプ内血栓形成が生じない人工心臓をつくるという、きわめて野心的なプロジェクトであった。 CARMAT完全植込み完全置換型(C-TAH)は、4つの生体弁を持つ電気駆動型拍動流拍動完全置換型で、現時点では体外のバッテリーと接続し、エネルギーは体外から供給するシステムではあるが、近い将来、経皮的エネルギー伝送により完全植込み型デバイスになることも可能である。ポンプ内面は、表面処理された生物心膜組織(processed bioprosthetic pericardial tissue)および拡張ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)から成り、抗凝固療法の軽減が潜在的に可能である2)。12頭の牛(体重102~112kg)を用いた平均3日間の実験で、4頭が4日以上(最長10日)生存した。まったく抗凝固療法なしで術後管理されたが、剖検では2頭に小さな腎梗塞がみられたのみであった。 2015年になって立て続けに3本の論文2)3)4)が発表され、本論文はその1つで2013年から始まった臨床例の最初の報告である。ただし、この臨床試験では当初目指した完全植込みには至らず、デバイスは外径8mmのきわめて屈曲性に富んだドライブラインで、体外のリチウムイオンバッテリーに接続して使用している。 C-TAHは2人の男性の患者に植え付けられた。患者1(76歳)は、2013年12月18日の植込み症例、患者2(68歳)は2014年8月5日の植込み症例で、C-TAH植込み手術の人工心肺時間は、157分、170分であった。2例とも術後12時間以内に抜管され、呼吸および循環機能は急速に回復した。 患者1は、術後23日に心タンポナーデのために再開胸止血手術施行し、以後抗凝固療法を中止した。C-TAHは良好に機能し、4.8~5.8L/分の良好な流量が得られた。術後74日目にデバイス機能不全のため患者は死亡した。抗凝固薬なし期間が50日間あったにもかかわらず、剖検ではポンプ内や末梢臓器に血栓はみられなかった。 患者2は、一時的な腎不全と心嚢液貯留に対してドレナージを必要としたが、それ以外は問題なく、術後150日で携帯電源システムとともに自宅に戻った。在宅4ヵ月後に低心拍出状態になりデバイス交換を試みたが、多臓器不全のために患者は死亡した。 本論文掲載決定時にはすでに3症例目の植込みが成功していて、術後104日目で退院直前の状態にある。 日本では、年間20万例が心不全のため死亡している。人口の高齢化とともに心不全はますます増加傾向にあり、65歳以上の循環器疾患医療費はがんを中心とした新生物医療費の2倍(13.3% vs.27.4%、2011年)を要している。心臓移植の対象となる65歳未満の心不全死亡は2万例弱であり、全心不全死亡数の9.7%にしか過ぎない。しかも、日本における年間心臓移植数は40例弱であり、2万例の65歳未満心不全死亡数はおろか、現在心臓移植登録・待機している400例に対しても極端に少ない。 すなわち、心臓移植治療はその絶対数において末期心不全に対する標準的治療とはなり得ない。そのため、米国で2002年に年齢などにより心臓移植適応除外となった症例に対する、心臓移植代替治療としての植込み型補助人工心臓(LVAD)を用いたDestination Therapy(DT)がFDAにより承認され、保険償還が始まった。DTは当初2年生存を目標にスタートしたが、INTERMACSデータでは現時点で2年生存率60%、3年生存率50%が達成されていて5)、今後、さらに治療成績が向上していくものと考えられる。長期の補助人工心臓の成績向上のために解決しなければならない主な課題として、(1)システムの長期耐久性、(2)抗血栓性の向上、(3)感染防止がある。その中で、今日の第2・第3世代の定常流植込み型LVADにおいて、すでに10年生存症例も報告され「(1)システムの長期耐久性」は達成されているが、「(2)抗血栓性の向上」と「(3)感染防止」はまったく解決できていない課題である。C-TAHは「(2)抗血栓性の向上」を目指した野心的なプロジェクトであり、抗凝固療法なしで50日間管理し、まったく血栓が生じなかったことは大きな成果である。また、C-TAHは近い将来、完全植込みを目標としており「(3)感染防止」にも意欲を示している。 残念なことに、ポンプシステムが第1世代拍動流ポンプであることにより、C-TAHには「(1)システムの長期耐久性」は期待できない。しかし、C-TAHポンプ本体の内面をすべて生体材料で構成するという試みは、今日の長期耐久性に優れた第2・第3世代の定常流植込み型LVAD製造技術と結び付くことにより、植込み型LVADの「(2)抗血栓性の向上」に大きく貢献するものと期待される。 近い将来、経皮的エネルギー伝送システムの導入で有効な「(3)感染防止」技術が確立した暁には、植込み型LVADの心臓移植に匹敵するQOL・長期生存率が達成されるものと期待される。

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ワルファリン延長投与、中止後も効果は持続するか/JAMA

 6ヵ月間の抗凝固治療を受けた特発性肺塞栓症の初発患者に対し、さらに18ヵ月間のワルファリン投与を行うと、とくに静脈血栓塞栓症の再発リスクが大きく改善されるが、治療を中止するとこのベネフィットは消失することが、フランス・ブレスト大学医療センターのFrancis Couturaud氏らが進めるPADIS-PE試験で示された。本症に対する抗凝固療法を3~6ヵ月で中止すると、一時的なリスク因子(手術など)に起因する静脈血栓塞栓症よりも再発リスクが高くなる。これらの高リスク集団に、さらに3~6ヵ月の延長治療を行うと、治療継続中は再発リスクが抑制されるが、治療中止後もこの効果が持続するかは不明だという。JAMA誌2015年7月7日号掲載の報告。治療終了後2年時の転帰も評価 PADIS-PE試験は、特発性肺塞栓症に対するワルファリンの18ヵ月延長投与の有用性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化試験(ブレスト大学病院などの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、静脈血栓塞栓症のリスク因子がないにもかかわらず症候性の肺塞栓症を発症し、ビタミンK拮抗薬(INR目標値:2.0~3.0)による6ヵ月間の初期治療を受けた患者であった。 被験者は、ワルファリン(INR目標値:2.0~3.0)またはプラセボを18ヵ月間投与する群に無作為に割り付けられた。 主要評価項目は18ヵ月時の静脈血栓塞栓症の再発および大出血の複合エンドポイントであり、副次評価項目は42ヵ月時(治療終了後24ヵ月時)の複合エンドポイントなどであった。 2007年7月~2012年3月の間に、フランスの14施設に371例が登録され、2014年9月までフォローアップが行われた。ワルファリン群に184例(平均年齢:58.7±17.9歳、>65歳:40.2%、女性:57.6%)、プラセボ群には187例(57.3±17.4歳、37.4%、44.9%)が割り付けられた。フォローアップ期間中央値は23.4ヵ月だった。相対リスクが78%低減、24ヵ月後は有意差消失 18ヵ月の治療期間中の主要評価項目発現率は、ワルファリン群が3.3%(6/184例、2.3/100人年)であり、プラセボ群の13.5%(25/187例、10.6/100人年)に比べ、相対リスクが78%低減した(ハザード比[HR]:0.22、95%信頼区間[CI]:0.09~0.55、p=0.001)。 静脈血栓塞栓症の再発率は、ワルファリン群が1.7%(3例、1.1/100人年)、プラセボ群は13.5%(25例、10.6/100人年)とワルファリン群で良好であった(HR:0.15、95%CI:0.05~0.43、p<0.001)が、大出血はそれぞれ2.2%(4例)、0.5%(1例)であり、両群間に差を認めなかった(3.96、0.44~35.89、p=0.22)。 42ヵ月時の主要評価項目発現率は、ワルファリン群が20.8%(33例)、プラセボ群は24.0%(42例)であり、18ヵ月時に認めた有意な差は消失した(HR:0.75、95%CI:0.47~1.18、p=0.22)。42ヵ月時の静脈血栓塞栓症の再発(17.9 vs.22.1%、p=0.14)および大出血(3.5 vs.3.0%、p=0.85)に差はなかった。 静脈血栓塞栓症の再発および大出血以外の原因による死亡は、18ヵ月時(1.1 vs.1.1%、p=0.78)、42ヵ月時(9.1 vs.3.6%、p=0.45)ともに、両群間に差はみられなかった。 著者は、「本試験に参加した患者などでは、長期的な2次予防治療を要すると考えられるが、ビタミンK拮抗薬や新規抗凝固薬、アスピリンを用いた体系的な治療を行うべきか、あるいはDダイマー値上昇などのリスク因子に従って個別的な治療を行うべきかを決定するには、さらなる検討を要する」と指摘している。

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いわゆる「新規経口抗凝固薬」:中和剤は臨床的に意味があるか?【2】(解説:後藤 信哉 氏)-383

 ワルファリンは第II、VII、IX、X因子の機能的完成を阻害する薬剤であるため、濃縮血漿を加えることにより抗凝固活性を速やかに阻害することができる。最近開発された新規経口抗凝固薬(抗Xa、抗トロンビン薬)存在下では濃縮血漿を加えても、抗トロンビン、抗Xa薬により凝固因子の効果が阻害され続けるので、薬剤が体内から消失するまで止血効果を期待できない。第Xa因子の場合には、血漿中の抗凝固効果以上に、細胞膜上のprothrombinase complexを構成するXaも中和しなければならないので、抗Xa薬中和剤の開発はいっそう困難である。 中和剤の開発は、抗トロンビン薬ダビガトランにおいて抗Xa薬よりも容易である。そこで、ダビガトランに対する選択的モノクロナール抗体を用いて、「ダビガトランの抗トロンビン効果の指標である希釈トロンビン時間、エカーリン凝固時間、a-PTTなど」を指標とした抗トロンビン効果を確認したproof of concept試験が、以前にLancet誌に発表された。 ダビガトラン抗体が、血液凝固指標を用いた抗トロンビン効果を中和できるとのコンセプトを、実臨床においてダビガトラン急速中和の必要な症例を対象とした本試験が施行され、N Engl J Med誌に発表された。Lancet誌のPOC試験同様、本試験でも、抗ダビガトラン抗体Fabの投与の後、数分以内に希釈トロンビン時間、エカーリン凝固時間、a-PTTなどを指標とした抗トロンビン効果は中和された。われわれは実臨床の場において、ダビガトランの抗トロンビン作用を急速中和する薬剤を手にしたと理解して、大きな誤りはない。 解析対象とされた症例は、(1)重篤な出血により急速止血が必要な症例、(2)8時間以内の手術介入が必要な症例、の2種類であり、両者共にリスクの高い症例である。ダビガトランの抗トロンビン効果は急速中和されても、これらの症例の臨床的予後は目に見えるほどは改善されていない。実際、抗ダビガトランヒト化抗体Fab(idarucizumab)投与後90日以内の死亡は、90例の対象中18例(重篤な出血に対して投与を受けた51例中9例、および緊急手術を必要とした39例中9例)であった。 重篤な出血が致死的出血であれば、idarucizumabの急速中和効果により救命できた可能性は期待できるが、臨床的エビデンスは不明確である。 本試験は、経口抗トロンビン薬ダビガトラン服用中の重篤な出血、緊急手術により抗トロンビン効果の中和が必要なリスクの高い症例を対象とした。いずれの症例群においてもidarucizumabは速やかに抗トロンビン効果を中和した。われわれは、重篤な出血を経験した症例の1例でも中和剤により救命できれば、その1例にとって中和剤は意味があったと考える。しかし、その1例があったか否かは本試験では明確ではない。idarucizumabはダビガトランの抗トロンビン作用を急速中和した。その結果が救命に意味があったのかに関しては不明である。ヒト化モノクローン抗体Fabを受けるという大きな決断を踏み出すには、臨床経験は不十分である。難しい症例を対象とした試験ではあったが、血液学的中和剤が完成した事実には意味が大きい。

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ダビガトランに対するidarucizumab、患者での中和効果は?/NEJM

 ダビガトラン(商品名:プラザキサ)投与中の患者に対して、idarucizumabは数分以内で抗凝固作用を完全に中和することが、米国・ペンシルベニア病院のCharles V. Pollack, Jr氏らによる検討の結果、報告された。idarucizumabは、経口非ビタミンK拮抗薬に対する特異的な中和薬がない中、ダビガトラン特異的に抗凝固作用を中和するために開発されたヒト化モノクローナル抗体フラグメントである。これまでボランティア被験者(腎機能正常の健常若年者、65~80歳高齢者など)を対象とした試験で、迅速かつ完全な中和作用をもたらすことが示されていた。NEJM誌オンライン版2015年6月22日号掲載の報告より。重大出血患者群と要緊急手術患者群で安全性と有効性を検討 今回の報告は、現在も進行中の多施設共同前向きコホート試験RE-VERSE AD(38ヵ国400施設で300例登録を計画)の、早期登録患者90例(2014年6月~2015年2月に35ヵ国184施設で登録)において得られた中間解析の所見である。 RE-VERSE AD試験は、重大出血を呈した患者(A群)または緊急手術を要した患者(B群)におけるidarucizumab 5g静注の安全性を確認すること、およびダビガトラン抗凝固作用の中和能を確認することを目的とした。 主要エンドポイントは、idarucizumab投与後4時間以内のダビガトラン抗凝固作用の最大中和率(%)で、中央ラボにて確認(希釈トロンビン時間とエカリン凝固時間)が行われた。また、止血までの時間を副次エンドポイントのキーとした。88~98%の患者で、数分以内の抗凝固作用の中和を確認 登録患者90例の内訳は、A群51例、B群39例であった。患者の90%超が心房細動後の脳卒中予防のためダビガトラン治療を受けていた。年齢中央値は76.5歳、クレアチニンクリアランス中央値は58mL/分であった。 結果、ベースラインで希釈トロンビン時間の上昇がみられた68例、およびエカリン凝固時間の上昇が認められた81例において、最大中和率が100%であった(95%信頼区間[CI]:100~100)。 idarucizumab投与により、希釈トロンビン時間は、上昇がみられたA群98%の患者、およびB群93%の患者において正常化が認められた。またエカリン凝固時間についてはA群89%、B群88%の患者において正常化が認められた。それぞれの効果は、血液サンプルの結果から、初回投与後、数分以内に発現したことが明らかとなった。 また、24時間時点で、79%の患者において非結合ダビガトラン濃度は20ng/mL以下にとどまっていた。 止血に関する評価については、A群35例(中央ラボではない研究者による)の、止血までの時間中央値は11.4時間であった。手術を受けたB群36例のうち33例で、正常な周術期止血が報告され、軽度止血異常は2例、中等度止血異常は1例の報告であった。 また、抗凝固薬が再投与されていなかった患者1例において、idarucizumab投与後72時間以内の血栓性イベントが報告された。(武藤まき:医療ライター)関連記事 dabigatranの中和薬、リアルワールドな試験で良好な成績

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いわゆる「新規経口抗凝固薬」:中和剤は臨床的に意味があるか?【1】(解説:後藤 信哉 氏)-380

 長らく使用されてきたワルファリンには、経験的に中和法が確立されている。ワルファリン抗凝固薬としての作用機序は、経験に基づいて理解されてきた。ワルファリンは、基本的には第II、VII、IX、X因子の機能的完成を阻害する薬剤であるため、濃縮血漿を加えることにより抗凝固活性を速やかに阻害することができる。最近開発された新規経口抗凝固薬(抗Xa、抗トロンビン薬)存在下では濃縮血漿を加えても、ダビガトラン存在下では第II因子機能、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン存在下では第Xa活性の速やかな回復は期待できない。第Xa因子は血漿中でプロトロンビンをトロンビンに転換するのみならず、活性化血小板膜上のprothrombinase complexにより、固相でもトロンビンを産生するため、生体におけるXa活性の中和は論理的にも困難である。 ダビガトランは、主に液相で起こるトロンビンによるフィブリンの産生を阻害する薬剤であるため、血漿からダビガトランを取り除けば効果の中和を期待できる。そこで、スポンサーはダビガトランに対する選択的モノクロナール抗体を作成した。抗体を作成し、抗体をヒト化して免疫原性を減らす方法は、すでに血小板膜糖蛋白GPIIb/IIIaに対する選択的阻害薬治療として技術は確立している。ダビガトラン中和剤の投与を一生1回と割り切れば、アナフィラキシーの心配も大きくない。出血がコントロールできない場合、緊急手術時には欠点の多い抗体でも少数例でも出血死亡例は減らせると期待されて、idarucizumabというヒト化抗ダビガトラン抗体Fab(IgGのFcを切り離し、Fabを1ドメインのみ製剤化したという意味)が開発された。 本論文は、idarucizumab開発の第I相試験である。NEJM誌、 Lancet誌などの臨床的一流雑誌に第I相試験が掲載されることは少ない。上記の解説のごとく、ヒト化monovalent Fabとはいえ、アナフィラキシーショックの可能性が否定できないので一生に2度は使えない(すなわち、本試験に参加したヒトが将来ダビガトランを必要とし、なお、その中和が必要になってもこの薬を使うと、アナフィラキシーのリスクが高くなるという問題)。本論文は第I相試験であるので、健常人に対して「重篤な出血イベントリスクを増加させる」ダビガトランを「臨床的にメリットがない」と想定される状態で使用されている。さらに、まったく新しいヒト化monovalent Fabを、「臨床的に必要がないのに」ダビガトランを服用している症例に重ねてランダムに介入している。完全に実験的研究であり、今後繰り返される可能性はない。 本実験的研究によりidarucizumabは、ダビガトランにより惹起されたdiluted thrombin time(dTT)、ecarin clotting time(ECT)、activated partial thromboplastin time(aPTT)の延長を正常化することが示された。確かに、本試験は既存の薬剤開発システムの中ではproof of concept (POC)として必須と考えられる。しかし、被験者は出血のリスク、抗体投与のリスクなどを負うがメリットがあるとは考えにくい。ハードエンドポイントを含まないサロゲートエンドポイントを指標としたtrickyな試験なので、ヒトを用いず実証実験により精緻化されたsimulationなどにより、このような試験をスキップできる方法を考えるべきである。 日本ではとても、このような第I相試験はできないだろうな(というよりも、このような試験をする国にはなりたくないな)と思いました。

699.

ヘパリンブリッジに意味はあるのか?(解説:後藤 信哉 氏)-381

 抗血栓療法は、リスクを飲み込んでメリットを期待する「両刃の剣」の治療である。 脳卒中リスクを有する心房細動症例ではとくに喧伝されているが、血栓イベントの多くが不可逆的なので、血栓リスク・出血リスクのどちらを重視するかは、個別の臨床医と患者さんの選択である。 多くの抗血栓薬は、2~3年間の観察期間内の血栓イベント、出血イベントにより、有効性、安全性を検証されて一般臨床における使用推奨がなされる。 日本人の死因の第1位は出血疾患としての悪性腫瘍なので、過去のランダム化比較試験に基づいて抗凝固療法が開始された症例であっても、将来発がんし、出血を伴う検査、手術などが発生するリスクが高い。日本でも多くの症例が抗凝固治療を受けており、消化器内視鏡治療を受けるために一時的にヘパリンブリッジを受けている症例も多い。各種診療ガイドラインではヘパリンブリッジについて触れているが、一様に「明確なエビデンスはないが…」と記載されている。 本試験は、日本の標準治療である未分画ヘパリンではなく低分子ヘパリンではあるが、明確なエビデンスである。Medical legal issueとしても、手術時に「ヘパリンブリッジ」をしなかったと苦情を受けることが多い。今後は「ヘパリンブリッジについてのevidenceはある」、「evidenceはヘパリンブリッジをしても、非ヘパリンブリッジと比較して血栓イベント・出血イベントについて劣らないことを示した」と明確に答える根拠ができてとてもよかった。

700.

心房細動患者の手術、ブリッジング抗凝固療法は必要か/NEJM

 待機的手術などの侵襲性の処置のためにワルファリン治療を中断する必要のある、心房細動(AF)患者に対するブリッジング抗凝固療法の必要性は不明とされる。今回、カナダ・マクマスター大学のJames D Douketis氏らは、BRIDGE試験を行い、低分子量ヘパリンによる周術期のブリッジング抗凝固療法は、動脈血栓塞栓症の予防や大出血リスクの抑制には効果がないことを確認したことを報告した。ブリッジング抗凝固療法の必要性そのものに対する根本的な疑問があり、エビデンスもないため、現行の診療ガイドラインの勧告には説得力がなく、一貫性に欠ける状況だという。NEJM誌オンライン版2015年6月22日号掲載の報告。動脈血栓塞栓症予防の非劣性、大出血リスク抑制の優越性を検証 BRIDGE試験は、AF患者の周術期の動脈血栓塞栓症予防における非ブリッジング抗凝固療法の、低分子量ヘパリンによるブリッジング抗凝固療法に対する非劣性、および大出血リスク抑制における優越性を検証する二重盲検プラセボ対照無作為化試験である(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]の助成による)。 対象は、年齢18歳以上、心電図またはペースメーカーに関連する診察時に慢性のAFまたは心房粗動が確認されて3ヵ月以上のワルファリン治療(INR:2.0~3.0)を受けており、待機的手術などの侵襲性の処置のためワルファリン治療の中断を要する患者であった。 被験者は、低分子量ヘパリン(ダルテパリン100IU/kg、1日2回、皮下投与)によるブリッジング抗凝固療法を受ける群またはプラセボ群(非ブリッジング群)に無作為に割り付けられた。ワルファリン治療は手術の5日前に中止された。試験薬の投与は手術の3日前に開始し、24時間前まで続けられた。 ワルファリンは手術日の夕方または翌日に再投与が開始された。試験薬は、出血リスクの低い手技の場合は術後12~24時間に、出血リスクの高い手技の場合は術後48~72時間に再投与が開始された。フォローアップは術後30日まで続けられた。 主要評価項目は、動脈血栓塞栓症(脳卒中、全身性塞栓症、一過性脳虚血発作)および大出血であった。大出血、小出血ともブリッジング群で高頻度 2009年7月~2014年12月までに北米の108施設に1,884例が登録され、非ブリッジング群に950例(平均年齢71.8±8.74歳、男性73.3%、平均CHADS2スコア2.3±1.03)、ブリッジング群には934例(71.6±8.88歳、73.4%、2.4±1.07)が割り付けられた。 術後30日時の動脈血栓塞栓症の発生率は、非ブリッジング群が0.4%(4/918例)、ブリッジング群は0.3%(3/895例)であり、非ブリッジング群のブリッジング群に対する非劣性が確証された(平均群間差:0.1%、95%信頼区間[CI]:-0.6~0.8、非劣性検定:p=0.01、優越性検定:p=0.73)。 また、大出血の発生率は、非ブリッジング群が1.3%(12/918例)、ブリッジング群は3.2%(29/895例)であり、非ブリッジング群の優越性が示された(相対リスク:0.41、95%CI:0.20~0.78、優越性検定のp=0.005)。 副次評価項目である死亡(0.5 vs.0.4%、優越性検定のp=0.88)、心筋梗塞(0.8 vs.1.6%、p=0.10)、深部静脈血栓症(0 vs.0.1%、p=0.25)、肺塞栓症(0 vs.0.1%、p=0.25)には優越性に関する差はみられなかったが、小出血の頻度はブリッジング群で有意に高かった(12.0 vs.20.9%、p<0.001)。 著者は、「全体的な臨床ベネフィットは、非ブリッジングのほうが良好であることが示された」と結論し、「ワルファリン中断中の周術期の動脈血栓塞栓症リスクは過大に評価され、ブリッジング抗凝固療法では抑制されない可能性がある。周術期の動脈血栓塞栓症の発症メカニズムには、手術の種類や術中の血圧変動が、より密接に関連している可能性がある」と指摘している。

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