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CHA2DS2-VAScスコアの応用って?~JAMA掲載に値するか~(解説:西垣 和彦 氏)-430

JAMAって? 世の中には、あまた医学雑誌がある。その中でも最高峰に位置するのが、このJAMA(The Journal of the American Medical Association:米国医師会雑誌)である。インパクトファクター(impact factor: IF)は、2014年には54.420と上昇し、臨床医学総合誌では第1位の座を堅持している。しかしながら、インパクトファクターは、自然科学・社会科学分野の学術雑誌を対象として、その雑誌の影響度、引用された頻度を測る指標であるが、あくまでWeb of Scienceに収録された、特定のジャーナルの「平均的な論文」の被引用回数にすぎない。JAMA誌の記事の採択率は、依頼した記事も依頼していない記事もまとめて、年間6,000本受け取るうちのおおよそ8%であり、最難関の雑誌であることは間違いない。しかし、しょせん米国医師会雑誌であり、専門性がない臨床医学総合誌であるので、読者層はおのずから幅広くなり、インパクトファクターが高くなることは必然である。最近、このJAMA誌において、その独自性と総合雑誌であるがゆえに、頭を抱えたくなるような論文が掲載される例が多々目に付く。この論文もその範囲にあるのかもしれない。CHA2DS2-VAScスコアの真意 心房細動は、発作性であっても持続性~慢性であっても、また、心房細動の持続時間とも関係なく、心原性脳血栓塞栓症を発症させるに十分な血栓塞栓(フィブリン血栓)を生成させる可能性がある。しかも、心原性脳血栓塞栓症がいったん発症すると、ほかのアテローム血栓性梗塞やラクナ梗塞の予後とは比較にならないほど重症となり、20%が死亡、40%が要介護4度あるいは5度の寝たきりの状態となる。さらに、急性期に命を取り留めたとしてもその後の5年生存率は30%と、がんなどの予後に匹敵するほど著しく予後不良なため、心原性脳血栓塞栓症は“ノック・アウト型脳梗塞”と呼ばれる。よって、心原性脳血栓塞栓症の最も重要なポイントは、心原性脳血栓塞栓症をいかに発症させないようにするかであるが、これまで心原性脳血栓塞栓症予防のための抗凝固薬は、約50年前の1962年に発売されたワルファリンのみで、ほかに選択の余地がなかった。しかも、このワルファリンは、経験豊富な循環器専門医でさえもその副作用である出血の点で安心して処方できない、非常にハードルの高い薬剤である。よって、ワルファリン投与により、副作用を上回る有効性を担保する患者を層別化する目的で、心房細動患者の血栓塞栓症リスクを評価しスコア化したのがCHA2DS2-VAScスコアなのである。 本論文の臨床的な意義は? 本論文は、デンマークのレジストリデータを用い、心房細動のない心不全患者の場合でもCHA2DS2-VAScが虚血性脳卒中、血栓塞栓症、心不全診断後1年以内の死亡を推定することができるかどうか、心不全患者4万2,987例を対象にして検討された研究である。その結果、CHA2DS2-VAScスコアの高い(≧4)患者では、血栓塞栓症の絶対リスクは心房細動の存在にかかわらず高値であった。 しかし、この結果は、CHA2DS2-VAScスコアの中に心不全の項目が要素として入っていることと臨床的な見地から、当然といえば当然の結果であり、予期された結論であったと考える。しかも、CHA2DS2-VAScスコアという使用目的が異なるスコアを心房細動のない心不全患者の層別化に用いるには、推定精度は中等度であったことからも無理があり、臨床的に使用する意義は少ない。結論として 今回のこの論文を通じて、次の3点が結論としてみえてくる。1)心房細動のない心不全患者に対し、抗凝固療法を行うべきか否かは、出血のリスク層別化スコアであるHAS-BLED等も考慮すべきであり、この論文ではCHA2DS2-VAScスコアで層別化できるかやってみたにすぎない。したがって、今後ガイドラインに何ら影響するほどの論文ではない。2)今後、あらためて心房細動のない心不全患者の虚血性脳卒中や血栓塞栓症の因子を分析し、より精度の高いスコアを考案したうえで、新規スコアを使って層別化された患者群に対して、抗凝固薬投与で虚血性脳卒中や血栓塞栓症、死亡が減らせるかどうかの大規模無作為化比較試験の実施が必要である。3)JAMA誌の採択基準は依然不明であり、その臨床的意義すら窮する論文も存在する。

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発作性夜間血色素尿症〔PNH : paroxysmal nocturnal Hemoglobinuria〕

発作性夜間血色素尿症のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■ 定義発作性夜間血色素尿症(発作性夜間ヘモグロビン尿症、paroxysmal nocturnal hemoglobinuria: PNH)は、血管内溶血を特徴とする後天性の血液疾患で、PIG-A遺伝子に変異を有する造血幹細胞がクローン性に増加するために発症する。■ 疫学欧米におけるPNHの発症頻度は100万人あたり15.9人とされているが、わが国では100万人あたり3.6人ときわめてまれである〔1998年(平成10年)度の厚生労働省の疫学調査研究班による〕。男女比はほぼ1:1で、わが国における診断時年齢は20~60代(平均年齢45.1歳)と、広く分布する。欧米例では血栓症の合併が多いのに対し、わが国では造血不全症状が主体になることが多い。■ 病因PIG-A遺伝子に変異があると、GPIアンカー型の膜蛋白の発現が低下する。補体制御蛋白CD55やCD59もGPIアンカー型膜蛋白であり、PIG-A遺伝子の変異があるとその発現が低下する。このように、PIG-A遺伝子変異のためにCD55やCD59の発現を欠失した血球をPNH型血球と呼ぶ。PNH型血球は補体に対する感受性が高まっており、血管内溶血を生じやすい。PNH型血球が選択されて増加する機序は完全には解明されていないが、まずPIG-A遺伝子変異の入った造血幹細胞が免疫学的な攻撃を免れて相対的に増加し、さらに何らかの別な遺伝子異常が加わってクローン性に増加するものと考えられている。■ 症状典型的には、血管内溶血による貧血と褐色尿(ヘモグロビン尿)が症状の主体となる。溶血性貧血に伴い、全身倦怠感、労作時の息切れ、黄疸がみられる。ウイルス感染などによって補体が活性化されると溶血発作が生じ、急激な貧血の進行をみる。溶血で生じたヘモグロビン尿は、腎障害を引き起こし、むくみなどが生じる。また、深部静脈血栓症や肺塞栓症などの血栓症をしばしば合併する。わが国のPNH患者は造血不全を合併する頻度が高く、貧血に加えて白血球や血小板数の減少がみられることがある(汎血球減少)。汎血球減少がみられる患者においては、感染症や出血のリスクも増加している。■ 分類1)臨床的PNH:溶血所見がみられるもの古典的PNH:末梢血のPNH型血球の比率が高く、溶血症状あるいは血栓症状が顕著。骨髄不全型PNH:骨髄が低形成で汎血球減少を呈する型。再生不良性貧血―PNH症候群とも呼ばれる。混合型PNH2)PNH型血球を有する骨髄不全症:明らかな溶血所見を欠くが、末梢血に少数のPNH型血球が検出され、再生不良性貧血あるいは骨髄異形成症候群の診断基準を満たすもの。PNH型血球陽性の骨髄不全症では、抗胸腺免疫グロブリンやシクロスポリンなどによる免疫抑制療法に反応して血球が増加することが多い。■ 予後わが国におけるPNH患者の診断後の平均生存期間は32.1年、50%生存期間も25.0年と長く、慢性の疾患といえる。この間、溶血発作を反復したり、造血不全、腎障害などが徐々に進行したりするため、QOLは必ずしもよくない。死亡原因としては出血、感染、血栓症が多く、骨髄異形成症候群などの造血器腫瘍への移行、腎障害、および血栓症が予後を大きく左右する。近年、中等症以上の患者に対して、補体C5に対するヒト化モノクローナル抗体のエクリズマブ(商品名:ソリリス)が積極的に用いられるようになった。こういった治療法の進歩によって、患者のQOLと生命予後の改善が期待されている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 主な検査と診断血液検査、尿検査によって血管内溶血の所見を確認する。貧血、網状赤血球数増加、血清LDH値上昇、血清間接ビリルビン値上昇、血清ハプトグロビン値低下、尿潜血(ヘモグロビン)反応陽性は、血管内溶血を疑う所見である。PNHの診断には、フローサイトメトリーを用いたPNH型血球(CD55、CD59を欠損する血球)の検出が不可欠である。古典的なHam試験と砂糖水試験は、最近ではフローサイトメトリーにとって代わられている。FLAER法を用いたフローサイトメトリーでは、非常に高感度にPNH型血球を定量できる(保険診療外)。さらに骨髄検査によって、PNH型血球陽性の造血不全症(再生不良性貧血や骨髄異形成症候群)との鑑別や、PNHの病型分類を行う。■ 重症度分類と指定難病特発性造血障害に関する調査研究班では、溶血所見に基づいた重症度分類を作成している。これによると、ヘモグロビン7g/dL未満または定期的な赤血球輸血を必要とする貧血か、あるいは血清LDHが正常上限の8~10倍程度の高度な溶血を認める場合を「重症」、ヘモグロビン10g/dL未満の貧血か、あるいは血清LDHが正常上限の4~5倍程度の中等度の溶血を認める場合を「中等症」とし、これに該当しない場合を「軽症」としている。ただし、血栓症の既往があれば、溶血の程度に関わらず「重症」とされる。平成27年1月から、PNHは「難病患者に対する医療等の法律」による指定難病となった。これにより、中等症以上の患者の医療費負担が大幅に軽減されるようになった。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)PNHの根治を目指す治療法は同種造血幹細胞移植(骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植)のみであるが、この治療法自体のリスクが大きいために、適応は若年で、かつ重症の骨髄不全症を伴う場合に限られる。さまざまな感染症が溶血発作の引き金になるため、日常生活では感染症の予防が重要である。溶血が長期にわたると、尿から鉄が失われるために鉄欠乏になったり、需要の増大のために葉酸欠乏になったりするので、血清フェリチン値や葉酸値をみながら鉄や葉酸の補充を検討する。溶血発作時には少量の副腎皮質ステロイドを用いることがあるが、糖尿病の発症や易感染性などの副作用のため、長期的な使用の有用性については意見が分かれる。貧血が高度の場合は赤血球輸血を行う。溶血により生じた遊離ヘモグロビンによる腎障害を防止するためには、輸液や利尿剤を用いるほか、高度の溶血発作時には人ハプトグロビン(商品名:ハプトグロビン)を投与することもある。血栓症の予防と治療には、ヘパリンやワーファリン製剤による抗血栓療法を行う。骨髄不全型PNHでは、蛋白同化ホルモンや免疫抑制剤が用いられる。最近、保険適用となったエクリズマブ(同:ソリリス)は、補体溶血を抑制することによって、貧血をはじめとするさまざまな臨床症状を劇的に改善する。この薬剤には血栓症の予防効果もみられる。重症例では積極的適応、中等症では相対的適応とされる。ただし、エクリズマブ治療導入の際には、点滴治療を定期的、継続的に行う必要があること、エクリズマブを中止する際には高度の溶血発作が生じうること、髄膜炎菌など一部の感染症に対する免疫能の低下が起こりうること、および高額な薬剤であることを十分に説明し、髄膜炎菌に対するワクチンの接種を行ってから開始する。エクリズマブ治療開始後に、LDHが低下したにもかかわらず貧血の改善が乏しい場合には、赤血球の膜上に蓄積した補体による血管外溶血あるいは骨髄不全の合併を考える。エクリズマブ治療には、PNHに合併した骨髄不全の改善効果は期待できない。PNH患者の妊娠に関しては、血栓症による流産のリスクが高く、また貧血もしばしば高度になる。平成26年度に、特発性造血障害調査に関する調査研究班および日本PNH研究会によって「妊娠ガイドライン」が作成された。このガイドラインでは、妊娠前の治療状況や血栓症の既往の有無によって、ヘパリンあるいはエクリズマブの使用が推奨されている。4 今後の展望病態面では、PNH型血球クローン増加の機序、血栓症がみられる機序などに関し、さらなる研究の進展が期待される。治療に関しては、エクリズマブの登場によってPNHの治療戦略が刷新された。今後、エクリズマブ不応例への対応や、血管外溶血が顕在化してくる症例に対する治療、妊娠管理などに関して、さらなる知見の集積と指針の充実が待たれる。現在、エクリズマブ以外にも補体系を標的とした新薬の開発が進んでおり、今後、PNH患者のQOLや予後のさらなる改善が期待される。5 主たる診療科血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 発作性夜間ヘモグロビン尿症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)特発性造血障害調査に関する調査研究班(診療の参照ガイドがダウンロードできる)日本血液学会(血液専門医研修施設マップで紹介先の候補を検索できる)日本PNH研究会(患者向けと医療者向けのかなり詳しい情報)患者会情報NPO法人PNH倶楽部(PNH患者と家族の会)公開履歴初回2013年02月28日更新2015年10月13日

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なぜ心房細動ばかりが特別扱い?(解説:後藤 信哉 氏)-424

 脳卒中予防は重要である。Framingham研究は、地域住民の34年間という長期の観察により、脳卒中のリスク因子として、心房細動、心不全、冠動脈疾患、高血圧などの重要性を示した。近未来の脳卒中発症予測法は、近未来の心筋梗塞発症予測法よりも信頼性が高い。 実際、「非弁膜症心房細動」症例の、近未来の脳卒中リスク予測に用いるCHA2DS2-VASc scoreを構成する、心不全、高血圧、高齢、糖尿病、脳卒中の既往、血管病、性差のうち、心不全、血管病、高血圧が心房細動の有無にかかわらず脳卒中発症の独立した危険因子であることは、Framingham研究からも明らかにされていた。実際、脳卒中発症に関わる「心不全」の寄与は、「心房細動」の寄与に匹敵する。CHA2DS2-VASc scoreが心房細動を合併した症例の脳卒中予防のみでなく、一般的な脳卒中発症予測にも利用価値があるのではないかと考えるのは、きわめて自然である。Framingham研究が、脳卒中の発症における心房細動の重要性をすでに示しているので、予測因子に「心房細動」を含まないCHA2DS2-VASc scoreの脳卒中予測能力は、非心房細動例では心房細動例よりも不安定であろうという仮説も論理的である。 本研究は、およそ20%の心房細動例を含む4万2,987例の心不全症例を対象とした。抗凝固療法を受けている症例は除外されている。心不全発症後1年以内における虚血性脳卒中、全身塞栓症、死亡率と CHA2DS2-VASc scoreの関係が、心房細動例と非心房細動例において検証された。予想のとおりであるが、いずれのエンドポイントも心房細動の有無にかかわらず、CHA2DS2-VASc scoreの高い症例におけるイベント発症率が高かった。本研究は、新規発症の「心不全例」のうち、抗凝固療法を受けていない症例を対象としているが、CHA2DS2-VASc scoreは、脳卒中、全身塞栓症、死亡率の予測に、心房細動の有無にかかわらず役立つことを示して興味深い。 われわれは以前、日本において、心筋梗塞後、脳卒中後、心房細動の症例を登録して8,000例を超えるデータベースを構築した。CHADS 2 scoreは、1年間の観察期間内の心筋梗塞の発症予測には役立たなかったが、脳卒中、死亡率の予測には有用であることを示した1)。CHA2DS2-VASc scoreにしてもCHADS 2 scoreにしても、心房細動症例に限局せず、近未来の脳卒中、死亡率と関連していることは、臨床医は再認識すべきである。今回のJAMA誌の論文は、CHA2DS2-VASc scoreにかかわらず、脳卒中イベントよりも死亡率が近未来のイベントとしてインパクトが大きいことを示した。実際、過去のRE-LY試験、ENGAGE TIMI 48試験など、心房細動を対象としたNOAC開発試験においても、脳卒中発症率よりも近未来の死亡率が高かったことを再認識すべきである。新規開発された経口抗凝固薬が過剰宣伝されると「CHA2DS2-VASc scoreは心房細動症例以外の症例でも脳卒中予防に役立つ」、「CHA2DS2-VASc scoreは近未来の死亡予測に役立つ」など、いわゆるNOAC販売に繋がらない重要な臨床情報が十分に伝達されない。 ヒトの一生は「心房細動」の有無で大きな影響を受けるものではないことを再認識すべきである。

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CHA2DS2-VAScスコア、心不全患者にも有用/JAMA

 心房細動(AF)患者の脳卒中リスク層別化に有用なCHA2DS2-VAScスコアが、AFの有無を問わない心不全(HF)患者にも有用であることが明らかにされた。デンマーク・オールボー大学のLine Melgaard氏らによる検討の結果、同患者でスコアと虚血性脳卒中、血栓塞栓症、死亡のリスクとの関連がみられたという。また、非AF患者のほうがAFを有する患者と比べて、同スコアが高いほど血栓塞栓症の合併絶対リスクが高いことも認められた。一方で、予測精度は中程度であり、HF患者におけるスコアの臨床的な有用性は確定的なものではないと著者は述べている。JAMA誌2015年8月30日号掲載の報告より。AF有無を問わない4万2,987例のHF患者を対象に検証 CHA2DS2-VAScスコアの判定は、うっ血性心不全(1点)、高血圧(1点)、75歳以上(2点)、糖尿病(1点)、脳卒中/TIA/血栓塞栓症(2点)、血管系疾患(心筋梗塞既往、PAD、大動脈プラーク:1点)、65~74歳(1点)、性別(女性:1点)で行う。 研究グループは、このCHA2DS2-VAScスコア判定を用いて、AFを問わないHF患者集団の虚血性脳卒中、血栓塞栓症、死亡を予測可能か調べた。 検討には、デンマークレジストリより全国前向きコホート試験のデータを用いた。被験者は、2000~12年にHF発症の診断を受け抗凝固薬治療を受けていなかった4万2,987例(うちAFを有した患者が21.9%)であった。最終フォローアップは、2012年12月31日だった。 被験者について、ベースラインのAF有無で分けたうえでCHA2DS2-VAScスコア判定を行い(最高9点とし、高スコアほど高リスクと判定)、死亡リスクの比較を考慮した分析を行った。主要評価項目は、HF診断後1年以内の虚血性脳卒中、血栓塞栓症、死亡であった。4点以上では、AF有無を問わず血栓塞栓症リスクが高い 非AF患者において、HF診断後1年以内の各指標疾患の発生は、虚血性脳卒中3.1%(977例)、血栓塞栓症9.9%(3,187例)、死亡21.8%(6,956例)であった。 いずれも高スコア群ほどリスクは高く、スコア別(1点~6点)にみたそれぞれの発生率は、虚血性脳卒中はAF患者群で4.5%、3.7%、3.2%、4.3%、5.6%、8.4%、非AF患者群で1.5%、1.5%、2.0%、3.0%、3.7%、7%。全死因死亡はAF患者群で19.8%、19.5%、26.1%、35.1%、37.7%、45.5%、非AF患者群で7.6%、8.3%、17.8%、25.6%、27.9%、35.0%であった。 CHA2DS2-VASc高スコア(4点以上)群では、血栓塞栓症の絶対リスクが、AFの有無にかかわらず高値であった(AFあり9.7% vs.AFなし8.2%、相互作用に関するあらゆるp<0.001)。 C統計値と陰性適中率は、CHA2DS2-VAScスコアの実行性が今回のAFありなしHF集団では中程度であることを示すものであった。虚血性脳卒中の1年C統計値は、AFあり0.67(95%信頼区間[CI]:0.65~0.68)、AFなし0.64(同:0.61~0.67)、1年陰性適中率それぞれ92%(95%CI:91~93%)、91%(同:88~95%)であった。

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がん患者の再発VTEへのtinzaparin vs.ワルファリン/JAMA

 急性静脈血栓塞栓症(VTE)を呈した担がん(active cancer)患者に対し、低分子ヘパリン製剤tinzaparinは、ワルファリンとの比較においてVTE再発を抑制しなかったことが報告された。カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のAgnes Y. Y. Lee氏らが、900例を対象とした国際多施設共同無作為化試験の結果、報告した。複合アウトカム評価による本検討では、全死因死亡と重大出血抑制との関連は示されなかったが、臨床的に意味のある非重大出血の抑制は認められた。著者は、「再発VTリスクが高い患者で結果が異なるかについて、さらなる検討を行う必要がある」と述べている。JAMA誌2015年8月18日号掲載の報告。32ヵ国164施設900例を対象に無作為化試験 急性VTEを呈した担がん患者の治療については、先行研究の単施設大規模試験の結果を踏まえて、ワルファリンよりも低分子ヘパリンが推奨されている。 今回研究グループは、アジア、アフリカ、ヨーロッパ、北米、中米、南米の32ヵ国164施設で被験者を登録し、tinzaparin vs.ワルファリンの有効性と安全性について検討した。試験期間は2010年8月~2013年11月、無作為化非盲検試験にて試験アウトカムの評価は盲検化中央判定にて検討した。 被験者は、担がん状態(組織学的または細胞診で確認がされており、次のいずれかに当てはまる患者:(1)過去6ヵ月間にがんと診断、(2)再発、局所進行または転移性、(3)過去6ヵ月間にがん治療、(4)非完全寛解の造血器腫瘍)、客観的診断による近位部型深部静脈血栓症(DVT)または肺塞栓症を有し、余命は6ヵ月超、抗凝固薬の禁忌なしの18歳以上成人であった。無作為に2群に割り付け、一方にはtinzaparin 175 IU/kgが1日1回6ヵ月投与(tinzaparin群449例)。もう一方は6ヵ月間の従来療法群として、最初の5~10日間tinzaparin 175 IU/kg 1日1回を投与したのち、ワルファリン単独投与でINR2.0~3.0を維持した(ワルファリン群451例)。 フォローアップ訪問が、7、14、30日、以後30日間ごとに180日時点まで行われ、また再発VTEの徴候や症状がみられないか、スタッフによる電話フォローが、月ごとの訪問後2週目に行われた。 主要有効性アウトカムは、中央判定による再発DVT、致死的または非致死的肺塞栓症、2次性VTE発生の複合とした。安全性アウトカムは、重大出血、臨床的に意味のある非重大出血、全死因死亡などだった。tinzaparin群の再発VTE、有意な抑制は認められず 結果、再発VTEの発生は、tinzaparin群31/449例、ワルファリン群45/451例だった。6ヵ月間の累積発生率は、tinzaparin群7.2% vs. ワルファリン群10.5%で、有意な差は認められなかった(ハザード比[HR]:0.65、95%信頼区間[CI]:0.41~1.03、p=0.07)。 同様に、重大出血(12例 vs.11例、HR:0.89、95%CI:0.40~1.99、p=0.77)、全死因死亡(150例 vs.138例、1.08、0.85~1.36、p=0.54)でも有意差はみられなかった。 一方で臨床的に意義のある非重大出血の発生については、tinzaparin群の有意な低下が認められた(49/449例 vs.69/451例、HR:0.58、95%CI:0.40~0.84、p=0.004)。

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やはり優れたワルファリン!(解説:後藤 信哉 氏)-399

 BMJ誌は、NEJM誌、JAMA誌とは別の方向の研究を掲載する傾向がある。 本研究は新薬でもなく、仮説検証研究でもない。「Get With The Guidelines (GWTG)-Stroke program」という、文字通りガイドライン遵守率を上げようとする病院群における観察研究の結果である。 筆者はこのGWTGを直接知らないが、米国の健康維持機構(HMO:health management organization)の1つと理解している。筆者は米国に4年住んでいたので、国民皆保険により患者の医療機関選択が自由な日本と、「医療もビジネス」と考え、保険があっても自由に医療機関を選択できない米国の差異を体感していた。 自由主義経済の米国では、保険会社も医療機関を選択する。診療ガイドラインを遵守する医療機関の治療成績が良いのであれば、多くの保険会社が医療コストがトータルで低くなるガイドラインを遵守する病院と契約を結ぶ国が米国である。ガイドライン遵守を売り文句にした医療機関は「われわれのグループはガイドラインを遵守するので、医療コストが低いです。ぜひ、われわれと契約してください」と、保険会社と折衝することになる。そのときに、保険会社を説得するデータとして、本論文のようなデータベースを蓄積することが病院には得になる。 日本の医療は明らかにpublic sectorであるが、米国の医療は基本競争原理の働くprivate sectorである。private sectorゆえにevidence basedの世界に通用するevidence集積のインセンティブが各医療機関に働く。金持ち優遇と批判を受けながら米国の医療システムが分厚く崩れないのは、fairな競争原理に支えられているゆえであろう。 脳卒中のため入院した心房細動症例の脳卒中リスクは高い。ワルファリンが使用されていない心房細動にて、脳卒中で入院した1万2 ,552例を対象とした研究というデザインも面白い。「ガイドラインを遵守する」ことを売り物にしている病院でも、このリスクの高い症例群の12%には、退院時になんらかの理由によりワルファリンを使えなかった。脳卒中を発症するまでワルファリンを使用していなかった心房細動例でも、初回発症後はワルファリンを使用した群において在宅可能期間が長く、心血管イベントの発症率も低かった。 本研究は米国の保険医療データベースである。基本、自由診療の米国ではメディケアを受け、Get With The Guidelines (GWTG)-Stroke programに参加した病院は、米国すべてではない。日本の保険診療は国民皆保険である。日本で保険病名として、「心房細動」があり、「脳梗塞」の病名にて入院した症例のうち、退院時に「ワルファリン」が処方された症例と処方されていない症例の、その後の2年間の「入院」の有無を調べるのは、レセコンデータをみるだけで簡単にできる。 医療がpublic sectorで、保険システムの宣伝をしなくても皆が保険料を払ってくれる国民皆保険制度は、システムとしては素晴らしいが、米国人から見れば「fairではない」、「科学的根拠がない」などと言われる隙がある。TPPなどにより「非関税障壁」が取り払われる前に、世界の人が理解できる科学の論理により、医療を構築できると良いと筆者は考える。

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脳梗塞後の心房細動患者でのワルファリンの有用性/BMJ

 虚血性脳卒中を呈した心房細動患者に対するワルファリン投与は、長期臨床的アウトカムや自宅生活の期間を改善することが明らかにされた。米国・デューク臨床研究所のYing Xian氏らが、観察研究の結果、報告した。ワルファリンは、心房細動患者の血栓塞栓症予防のために使用が推奨されている。その根拠は、選択された患者集団での臨床試験に基づくものであり、試験設定以外(リアルワールド)の心房細動については、ワルファリンの投与および臨床的な有益性は確認されておらず、とくに、虚血性脳卒中を呈した高齢者において不明であった。BMJ誌オンライン版2015年7月31日号掲載の報告。虚血性脳卒中で入院したワルファリン未治療心房細動患者1万2,552例を追跡 研究グループは、心房細動患者で虚血性脳卒中後のワルファリン治療と長期アウトカムの関連を、地域医療ベースで評価した。検討は、2009~2011年にGet With The Guidelines (GWTG)-Strokeプログラムに参加した米国内1,487病院の協力を得て、虚血性脳卒中で入院したワルファリン未治療の心房細動患者1万2,552例の参加を得て行われた。 退院時にワルファリンを処方された患者と、あらゆる経口抗凝固薬が未処方であった患者を比較し、メディケア報酬支払記録とリンクして長期的アウトカムを評価した。 アウトカムは患者評価をベースとし、退院後継続的ケアを受けることなく暮らした総日数と定義して、主要有害心イベント(MACE)と自宅で暮らした期間を評価した。 治療群間で観察された特性のあらゆる差について、傾向スコア逆確率加重法を用いて検証した。退院時ワルファリン治療群のほうがMACEリスク低下、自宅生活期間が長期 1万2,552例のうち、退院時ワルファリン治療群は1万1,039例(88%)、経口抗凝固薬未治療患者は1,513例であった。 ワルファリン治療群のほうが、年齢はわずかに若く(平均80.1 vs.83.1歳)、脳卒中(14.8 vs.20.6%)や冠動脈疾患(30.8 vs.37.1%)の既往が少ないように思われたが、National Institutes of Health Stroke Scale評価の脳卒中の重症度は同程度であった(中央値6 vs.5)。 経口抗凝固薬未治療患者と比較して、ワルファリン治療群は、退院後2年間の自宅で暮らしている期間(施設ケアとの対比による)が有意に長期間であった。平均期間は治療群468.3日 vs.未治療群389.0日で、補正後の差は47.6日(99%信頼区間[CI]:26.9~68.2日、p<0.001)であった。 また、ワルファリン治療群は、MACEの発生リスク(補正後ハザード比:0.87、99%CI:0.78~0.98、p=0.003)、全死因死亡(同:0.72、0.63~0.84)、虚血性脳卒中の再発(同:0.63、0.48~0.83)についても有意な低下が認められた。 これらの差は、年齢、性別、脳卒中の重症度、冠動脈疾患と脳卒中の既往歴の別でみた臨床的に意義のあるサブグループでも一貫してみられた。

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PADIS-PE試験:ワルファリンをいつ中止するのが良いのか?~特発性肺血栓塞栓症の初発患者の場合(解説:西垣 和彦 氏)-398

 ワルファリンは、いわば“両刃の剣”である。深部静脈血栓症(DVT)を含めた静脈血栓塞栓症(VTE)による肺血栓塞栓症(PE)予防の有効性は顕著であるが、抗血栓薬自体の宿命でもある出血も、しばしば致命的となる症例も少なくない。したがって、メリットとデメリットを十分に勘案し、最大限の効果が得られる抗凝固療法継続期間を求めることには必然性がある。 PEの抗凝固療法継続期間に関して、昨年出された欧州心臓病学会(ESC)のガイドラインでは、次のように記載されている。1)PEの患者には少なくとも3ヵ月は抗凝固療法を行うこと。2)抗凝固療法中止後のPE再発の危険性は、抗凝固薬を6ヵ月ないし12ヵ月で中止しても、3ヵ月で中止した場合と同程度である。3)無制限の抗凝固療法は、再発性VTEのリスクを約90%減少させるが、大出血の発症リスクを年1%以上上昇させ、メリットを部分的に相殺する。 一方、リスクのない特発性PEに関しては、抗凝固療法中止後の再発率が高いため、出血のリスクを勘案したうえでより長期間の継続が望ましいと記載されているだけで、具体的にいつまで継続するかに関して記載がなく、担当医の判断とされている。 今回PADIS-PE試験は、この特発性PEに関して、建設的な見解を出した。それは、(1)抗凝固療法を3~6ヵ月で中止すると、手術などの一時的なリスクにより起因するVTEよりも再発リスクが高くなる、(2)さらに3~6ヵ月延長すると、治療継続中は再発リスクが抑制される結果から、より長期の抗凝固療法が求められたことである。 そもそも、未知の凝固線溶系異常患者を含み、人種差も大きい凝固線溶系であるからこそ、PADIS-PE試験で組み入れた特発性PEの観察対象者自体がすでに異質であり、この結果をそのまま受諾するのは、いささか早計ではある。しかし、PEの再発防止目的でより長期の抗凝固療法を行うことは、賛同できる結果ではないだろうか。 重要なことは、(1)PT-INRをより適切な治療域に保つ努力を怠らないこと、(2)ワルファリンの特質を、医師と患者の双方が十分に理解し、密な相互の関係を築くことである。そのうえで、再発率が高い下肢静脈近位側にDVTが残存している症例や、抗凝固療法中止1ヵ月後のDダイマーが高値である症例などに関しては、無期限の抗凝固療法も視野に入れた、より長期間の抗凝固療法継続を行うべきと考えられる。

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新規経口抗凝固薬の眼内出血リスク、従来薬との比較

 新しい経口抗凝固薬(NOAC)は、ほとんどの血栓形成予防において標準療法に対し非劣性であることが認められているが、安全性プロファイルには差があり、とくに眼内出血のリスクについてはほとんどわかっていない。ポルトガル・分子医学研究所のDaniel Caldeira氏らは、NOACに関連した重大な眼内出血のリスクを評価する無作為化比較試験のメタ解析を行った。その結果、NOACと他の抗血栓薬とで重大な眼内出血のリスクに差はないことを報告した。ただしイベント数が少ないため、「NOACの安全性プロファイルをよりよく特徴づけるためには、眼科の日常的な臨床診療下で患者をモニターする大規模なデータベースから追加の研究がなされるべきである」とまとめている。JAMA Ophthalmology 2015年7月号の掲載報告。 研究グループは、MEDLINE、Cochrane Library、SciELO collectionおよびWeb of Science databasesを用いて2014年11月までの論文を検索するとともに、他のシステマティックレビューや規制当局の資料も調べた。 対象は、NOACのすべての第III相無作為化比較試験(RCT)で眼内出血イベントについて報告されているものとし、2人の研究者が独立してデータを抽出した。 メタ解析にはランダム効果モデルを用い、試験の異質性はI2統計量で評価するとともに、重大な眼内出血については統合リスク比(RR)および95%信頼区間(CI)を算出して評価した。 主な結果は以下のとおり。・17件のRCTがメタ解析に組み込まれた。・心房細動患者において、NOACはビタミンK拮抗薬と比較し重大な眼内出血のリスクに差はないことが確認され(RR:0.84、95%CI:0.59~1.19、I2=35%、RCT5件)、アセチルサリチル酸と比較してもリスクの増加は認められなかった(RR=14.96、95%CI:0.85~262.00、RCT1件)。・静脈血栓塞栓症患者において、NOACは低分子ヘパリン+ビタミンK拮抗薬と比較し重大な眼内出血のリスクは増加しないことが確認された(RR=0.67、95%CI:0.37~1.20、I2=0%、RCT5件)。・整形外科手術を受けた患者においても、NOACと低分子ヘパリンとで差はなかった(RR=2.13、95%CI:0.22~20.50、I2=0%、RCT5件)。

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ポンプ本体全内面を生体材料で構成した全置換型人工心臓、初の臨床例を報告/Lancet

 新たに開発された生体弁を用いた全置換型人工心臓CARMAT TAH(C-TAH)の、最初の臨床使用例2例の報告が、フランス・パリ大学のAlain Carpentier氏らにより発表された。2例とも最終的には死亡となったが、うち1例は150日目に退院することができたという。著者は「今回の経験知は、生体材料を用いた全置換型人工心臓の開発に重要な貢献をもたらすことができた」と述べている。Lancet誌オンライン版2015年7月28日号掲載の報告。2例に行われた初の施行例 本検討の目的は、両室心不全で移植不適者であり死が目前に迫った患者について、C-TAHの安全性と使用の可能性を評価することであった。C-TAHは、植込み型の電気駆動型拍動式両室ポンプの人工心臓装置で、バッテリー以外の部品は1装置に収められ、患者の心室を摘出して置換する。これまで、末期の心疾患患者に対する人工心臓の開発では、血栓塞栓症や出血の合併症が重大な課題となっており、これら合併症の発生は生体弁では低率であることからC-TAHが開発された。 研究グループは、フランスの3つの心臓外科センターから、2例の男性患者を選出し、植込み置換手術を行った。 患者1は76歳で、2013年12月18日にC-TAH移植を施行。患者2は68歳で2014年8月5日に移植が行われた。これまで重大な課題であった血栓問題は克服 両心バイパスに要した時間は、患者1が170分、患者2は157分であった。 両患者とも術後12時間以内に抜管。呼吸機能および循環機能は迅速に回復し、精神状態も良好であった。 患者1は23日目に心タンポナーデを呈し再介入が必要となった。術後出血により抗凝固薬は中断。C-TAHは良好に機能し心拍出量は4.8~5.8L/分であったが、74日目に、装置故障により死亡した。 剖検では、抗凝固薬が約50日間投与されなかったにもかかわらず、生体弁またその他臓器からも血栓は検出されなかった。 患者2は、一過性の腎不全および心嚢液貯留で排液を要したが、それ以外は術後経過に問題はみられず150日目に退院となった。ウェアラブルシステムのみで技術的補助は必要としなかった。 自宅に戻ってから4ヵ月後、低心拍のためC-TAHを交換。しかし多臓器不全で死亡した。

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優れた抗血栓性を目指し、ポンプ本体の内面をすべて生体材料で構成したCARMAT完全植込み完全置換型の開発と世界最初の臨床応用(解説:許 俊鋭 氏)-394

 2008年に、僧帽弁形成手術で世界的に著名な心臓外科医Alain Carpentier氏が、真に心臓移植の代替治療となりうる完全植込み完全置換型(fully implantable artificial heart)の臨床治験を、2011年までに実施する準備ができたと発表した1)。 ポンプ本体の内面はすべて生体材料 (“biomaterials”or a“pseudo-skin”of biosynthetic、microporous materials)で構成され、これまでの人工心臓でまったく未解決の問題であった、ポンプ内血栓形成が生じない人工心臓をつくるという、きわめて野心的なプロジェクトであった。 CARMAT完全植込み完全置換型(C-TAH)は、4つの生体弁を持つ電気駆動型拍動流拍動完全置換型で、現時点では体外のバッテリーと接続し、エネルギーは体外から供給するシステムではあるが、近い将来、経皮的エネルギー伝送により完全植込み型デバイスになることも可能である。ポンプ内面は、表面処理された生物心膜組織(processed bioprosthetic pericardial tissue)および拡張ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)から成り、抗凝固療法の軽減が潜在的に可能である2)。12頭の牛(体重102~112kg)を用いた平均3日間の実験で、4頭が4日以上(最長10日)生存した。まったく抗凝固療法なしで術後管理されたが、剖検では2頭に小さな腎梗塞がみられたのみであった。 2015年になって立て続けに3本の論文2)3)4)が発表され、本論文はその1つで2013年から始まった臨床例の最初の報告である。ただし、この臨床試験では当初目指した完全植込みには至らず、デバイスは外径8mmのきわめて屈曲性に富んだドライブラインで、体外のリチウムイオンバッテリーに接続して使用している。 C-TAHは2人の男性の患者に植え付けられた。患者1(76歳)は、2013年12月18日の植込み症例、患者2(68歳)は2014年8月5日の植込み症例で、C-TAH植込み手術の人工心肺時間は、157分、170分であった。2例とも術後12時間以内に抜管され、呼吸および循環機能は急速に回復した。 患者1は、術後23日に心タンポナーデのために再開胸止血手術施行し、以後抗凝固療法を中止した。C-TAHは良好に機能し、4.8~5.8L/分の良好な流量が得られた。術後74日目にデバイス機能不全のため患者は死亡した。抗凝固薬なし期間が50日間あったにもかかわらず、剖検ではポンプ内や末梢臓器に血栓はみられなかった。 患者2は、一時的な腎不全と心嚢液貯留に対してドレナージを必要としたが、それ以外は問題なく、術後150日で携帯電源システムとともに自宅に戻った。在宅4ヵ月後に低心拍出状態になりデバイス交換を試みたが、多臓器不全のために患者は死亡した。 本論文掲載決定時にはすでに3症例目の植込みが成功していて、術後104日目で退院直前の状態にある。 日本では、年間20万例が心不全のため死亡している。人口の高齢化とともに心不全はますます増加傾向にあり、65歳以上の循環器疾患医療費はがんを中心とした新生物医療費の2倍(13.3% vs.27.4%、2011年)を要している。心臓移植の対象となる65歳未満の心不全死亡は2万例弱であり、全心不全死亡数の9.7%にしか過ぎない。しかも、日本における年間心臓移植数は40例弱であり、2万例の65歳未満心不全死亡数はおろか、現在心臓移植登録・待機している400例に対しても極端に少ない。 すなわち、心臓移植治療はその絶対数において末期心不全に対する標準的治療とはなり得ない。そのため、米国で2002年に年齢などにより心臓移植適応除外となった症例に対する、心臓移植代替治療としての植込み型補助人工心臓(LVAD)を用いたDestination Therapy(DT)がFDAにより承認され、保険償還が始まった。DTは当初2年生存を目標にスタートしたが、INTERMACSデータでは現時点で2年生存率60%、3年生存率50%が達成されていて5)、今後、さらに治療成績が向上していくものと考えられる。長期の補助人工心臓の成績向上のために解決しなければならない主な課題として、(1)システムの長期耐久性、(2)抗血栓性の向上、(3)感染防止がある。その中で、今日の第2・第3世代の定常流植込み型LVADにおいて、すでに10年生存症例も報告され「(1)システムの長期耐久性」は達成されているが、「(2)抗血栓性の向上」と「(3)感染防止」はまったく解決できていない課題である。C-TAHは「(2)抗血栓性の向上」を目指した野心的なプロジェクトであり、抗凝固療法なしで50日間管理し、まったく血栓が生じなかったことは大きな成果である。また、C-TAHは近い将来、完全植込みを目標としており「(3)感染防止」にも意欲を示している。 残念なことに、ポンプシステムが第1世代拍動流ポンプであることにより、C-TAHには「(1)システムの長期耐久性」は期待できない。しかし、C-TAHポンプ本体の内面をすべて生体材料で構成するという試みは、今日の長期耐久性に優れた第2・第3世代の定常流植込み型LVAD製造技術と結び付くことにより、植込み型LVADの「(2)抗血栓性の向上」に大きく貢献するものと期待される。 近い将来、経皮的エネルギー伝送システムの導入で有効な「(3)感染防止」技術が確立した暁には、植込み型LVADの心臓移植に匹敵するQOL・長期生存率が達成されるものと期待される。

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ワルファリン延長投与、中止後も効果は持続するか/JAMA

 6ヵ月間の抗凝固治療を受けた特発性肺塞栓症の初発患者に対し、さらに18ヵ月間のワルファリン投与を行うと、とくに静脈血栓塞栓症の再発リスクが大きく改善されるが、治療を中止するとこのベネフィットは消失することが、フランス・ブレスト大学医療センターのFrancis Couturaud氏らが進めるPADIS-PE試験で示された。本症に対する抗凝固療法を3~6ヵ月で中止すると、一時的なリスク因子(手術など)に起因する静脈血栓塞栓症よりも再発リスクが高くなる。これらの高リスク集団に、さらに3~6ヵ月の延長治療を行うと、治療継続中は再発リスクが抑制されるが、治療中止後もこの効果が持続するかは不明だという。JAMA誌2015年7月7日号掲載の報告。治療終了後2年時の転帰も評価 PADIS-PE試験は、特発性肺塞栓症に対するワルファリンの18ヵ月延長投与の有用性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化試験(ブレスト大学病院などの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、静脈血栓塞栓症のリスク因子がないにもかかわらず症候性の肺塞栓症を発症し、ビタミンK拮抗薬(INR目標値:2.0~3.0)による6ヵ月間の初期治療を受けた患者であった。 被験者は、ワルファリン(INR目標値:2.0~3.0)またはプラセボを18ヵ月間投与する群に無作為に割り付けられた。 主要評価項目は18ヵ月時の静脈血栓塞栓症の再発および大出血の複合エンドポイントであり、副次評価項目は42ヵ月時(治療終了後24ヵ月時)の複合エンドポイントなどであった。 2007年7月~2012年3月の間に、フランスの14施設に371例が登録され、2014年9月までフォローアップが行われた。ワルファリン群に184例(平均年齢:58.7±17.9歳、>65歳:40.2%、女性:57.6%)、プラセボ群には187例(57.3±17.4歳、37.4%、44.9%)が割り付けられた。フォローアップ期間中央値は23.4ヵ月だった。相対リスクが78%低減、24ヵ月後は有意差消失 18ヵ月の治療期間中の主要評価項目発現率は、ワルファリン群が3.3%(6/184例、2.3/100人年)であり、プラセボ群の13.5%(25/187例、10.6/100人年)に比べ、相対リスクが78%低減した(ハザード比[HR]:0.22、95%信頼区間[CI]:0.09~0.55、p=0.001)。 静脈血栓塞栓症の再発率は、ワルファリン群が1.7%(3例、1.1/100人年)、プラセボ群は13.5%(25例、10.6/100人年)とワルファリン群で良好であった(HR:0.15、95%CI:0.05~0.43、p<0.001)が、大出血はそれぞれ2.2%(4例)、0.5%(1例)であり、両群間に差を認めなかった(3.96、0.44~35.89、p=0.22)。 42ヵ月時の主要評価項目発現率は、ワルファリン群が20.8%(33例)、プラセボ群は24.0%(42例)であり、18ヵ月時に認めた有意な差は消失した(HR:0.75、95%CI:0.47~1.18、p=0.22)。42ヵ月時の静脈血栓塞栓症の再発(17.9 vs.22.1%、p=0.14)および大出血(3.5 vs.3.0%、p=0.85)に差はなかった。 静脈血栓塞栓症の再発および大出血以外の原因による死亡は、18ヵ月時(1.1 vs.1.1%、p=0.78)、42ヵ月時(9.1 vs.3.6%、p=0.45)ともに、両群間に差はみられなかった。 著者は、「本試験に参加した患者などでは、長期的な2次予防治療を要すると考えられるが、ビタミンK拮抗薬や新規抗凝固薬、アスピリンを用いた体系的な治療を行うべきか、あるいはDダイマー値上昇などのリスク因子に従って個別的な治療を行うべきかを決定するには、さらなる検討を要する」と指摘している。

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