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ワクチン接種で役立つ筋肉注射の手技とコツ【今、知っておきたいワクチンの話】特別編

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種が、3月より医療者から始まり、4月からは高齢者、基礎疾患のある方、一般の方へと開始される予定です。現在、承認され接種可能なワクチンはファイザーの「コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)」(商品名:コミナティ筋注)のみであり筋肉注射となっております。今後追加承認が予想されるモデルナ社、アストラゼネカ社のワクチンも筋肉注射による接種となっています。その理由として、「不活化ワクチンによる局所反応は、皮下注射より筋肉注射の方が腫れにくいこと」、「皮下注射よりも筋肉注射の方が痛みが少ないこと」、「皮下注射より血流が豊富な筋肉注射の方が免疫が付きやすいこと」などがあげられています。そこで、本稿では、日本プライマリ・ケア連合学会 予防医療・健康増進委員会ワクチンチームの協力により、同委員会の中山 久仁子氏の解説でこれから実際に臨床現場で接種する際の筋肉注射の手技について、その手順を動画で説明します。また、新型コロナワクチンでは、接種後に懸念されているアナフィラキシーショックでのアドレナリン注射の対応を説明いただきます。筋肉注射は、今回のCOVID-19ワクチンなど特別なものではなく、HPVワクチン、帯状疱疹ワクチン、肺炎球菌ワクチンなどでも行われるものです。この機会に手技に慣れていただき、経験を深めてください。筋肉注射の接種方法のコツ筋肉注射の部位などについて部位:上腕三角筋(1)肩峰から下ろした線(2)前後の腋窩線の頂点を結んだ線(1)と(2)が交わる点または肩峰から3横指下針の長さ:長さ25mmの針を基本的に根元まで刺して注入する痩せ形の体形:ゆっくりと針を進め、確実に筋肉内に注入、または長さ16mmの針に付け替えて根元まで刺して注入高度肥満:長さ38mmの針に付け替えて根元まで刺して注入針の角度:90度、垂直吸引確認:不要筋肉注射の穿刺部位画像を拡大する筋肉注射の手順※接種では、接種者・被接種者ともに座位で行う1)シリンジにワクチンを入れ、溶液に異常がないか目視2)手を下に下ろしていただく(リラックス)3)三角筋の位置を確認する4)三角筋の辺縁を触って確認する注:筋肉をつままない5)アルコールで接種する部位を消毒する6)注射針を皮膚面に対して垂直(直角)に刺入する7)内筒を押しワクチン溶液を全量注入する注:内筒を引かない8)針を抜き、軽く圧迫する。揉まない注:抗凝固薬・抗血小板薬内服中の方は2分間圧迫対象者に痛みを感じさせない接種のために1)筋注は筋肉内に打つ(一般的に不活化ワクチンを皮下に打つと痛い)2)内筒(プランジャー)を引かない(逆血確認不要)3)ワクチンを素早く注入し、刺入中は針の先を動かさない4)接種後に接種部位を圧迫する5)気を紛らわせるように話しかけたり、演技する。接種者は笑顔で!アナフィラキシーショックでの対応:アドレナリン注射(商品名:エピペンなど)の使い方【注射部位】アドレナリンの筋肉注射は患者を横臥位で施行アドレナリンの筋肉注射の部位は大腿中央前外側【エピペン筋肉注射の手順】1)カバーキャップを指で押し開け、注射器を取り出す2)ニードルカバー(オレンジ色)を下に向け、注射器の真ん中を片手で保持、もう片方の手で青色の安全キャップを外し、ロックを解除3)注射器を太ももの前外側に垂直になるようにし、ニードルカバーの先端を「カチッ」と音がするまで強く押し付ける4)太ももに押し付けたまま、5まで数を数える5)注射器を太ももから抜き取る6)注射後、ニードルカバーが伸びているかどうか確認。ニードルカバーが伸びていれば注射は完了アドレナリン注射での注意1)アドレナリンの筋肉注射については、下記の厚生労働省の通知をご参照ください。「予防接種会場での救急対応に用いるアドレナリン製剤の供給等について」「予防接種会場での救急対応に用いるアドレナリン製剤の供給等について(その2)」2)エピペンの処方または使用する医師はマイランEPD合同会社が提供するエピペン登録医講習の受講が必要です。詳しくは「エピペンサイト」をご参照ください。使用に関して動画の解説もあります。参考となるサイト「新型コロナワクチン 今わかっていること まだわからないこと」(日本プライマリ・ケア連合学会 ワクチンチーム制作)同講演 解説資料(PDF)「新型コロナワクチン 筋肉注射の方法とコツ 2021年3月版」(日本プライマリ・ケア連合学会 ワクチンチーム監修)新型コロナワクチン 筋肉注射の方法とコツ 2021年3月版 ダイジェスト版」(日本プライマリ・ケア連合学会 ワクチンチーム監修)講師紹介

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第54回 AZ社COVID-19ワクチン後の普通じゃない血栓症はヘパリン起因性血小板減少症に類似

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイクタンパク質抗原を作るアデノウイルスを下地とするAstraZenecaのワクチンAZD1222を今年2月中頃に欧州で接種した49歳の健康な女性看護師が内臓・大動脈・脳静脈の血栓症や血小板減少を呈し、残念ながら治療の甲斐なく死亡しました。女性の治療にあたった医師らの病院で3月中旬までにさらに8人に同様の症状が認められ、AZD1222接種4~16日後に血栓症を呈し始めたそれらの9人の病態は血小板活性化抗体を原因とするヘパリン起因性血小板減少症(HIT)にはっきり似通っていました1)。HITは血小板第4因子(PF4)とヘパリンの複合体を認識する血小板活性化抗体によって生じる血栓促進性の血小板減少疾患です。9人のうち1人を除く8人は女性で、年齢は比較的若く22~49歳(中央値36歳)でした。7人は脳静脈血栓症、1人は肺塞栓症、最初の検出例である1人は上述の通り内臓や脳などの複数の組織に血栓症を呈し、9人中4人が亡くなりました。9人のうち4人の血清を調べたところどの人の血清もPF4存在下でヘパリンがなくとも血小板を強く活性化しました。誰も発症前にヘパリンを使っておらず、AZD1222接種者の血小板活性化抗体は複合体を形成していない単独のPF4にどうやら結合するようです。欧州医薬品庁(EMA)や世界保健機関(WHO)はAZD1222使用継続を支持していますが2,3)、欧州のいくつかの国やカナダでは血栓症の懸念を受けてその使用を控えています4,5)。9例の検討結果を今回報告した著者は、特に脳や腹部などでの“普通じゃない(unusual)”血栓症や血小板減少がワクチン接種からおよそ5~14日後に稀に生じることを知っておく必要があると言っています。また、その病態をvaccine induced prothrombotic immune thrombocytopenia(VIPIT) と呼ぶことを提案しています。いまのところAstraZenecaワクチンAZD1222でのみ認められているVIPITが生じたならリバーロキサバンやアピキサバンなどのヘパリン以外の抗凝固薬をまずは使ったらよさそうです1)。脳静脈洞血栓症(CVST)などの致死リスクがある血栓症に陥ったワクチン接種者には高用量免疫グロブリン静注が助けになりそうです。インフルエンザワクチンとナルコレプシーワクチンの稀な深刻な有害事象といえば10年以上前のH1N1(ブタ)インフルエンザワクチンPandemrix(AS03アジュバント添加)接種小児の慢性睡眠疾患・ナルコレプシー発現率上昇が思い出されます。発現率は投与1万8,400回あたり約1例と稀ですが、小児の発現がワクチン接種後にとくに増えました6)。AS03アジュバントとナルコレプシー発現率上昇の関連は否定されているものの7)10年以上経た今となってもPandemrixとナルコレプシーの関連性はいまだに結論がでていません8)。しかし疫学やワクチンの研究者などが集まってベルギーで3年前の2018年3月末に開催された検討会ではPandemrix接種後の一貫したナルコレプシーリスク上昇が認められていると結論され9)、同ワクチンとH1N1インフルエンザウイルスの相互作用に帰するナルコレプシーは恐らくあるようだと参加者は考えています8)。参考1)A Prothrombotic Thrombocytopenic Disorder Resembling Heparin-Induced Thrombocytopenia Following Coronavirus-19 Vaccination. Research Square. Posted 28 Mar, 20212)Statement of the WHO Global Advisory Committee on Vaccine Safety (GACVS) COVID-19 subcommittee on safety signals related to the AstraZeneca COVID-19 vaccine / WHO3)AstraZeneca COVID-19 vaccine: review of very rare cases of unusual blood clots continues / EMA4)AstraZeneca COVID Vaccine: Clotting Disorder Mechanism Revealed? / Medscape5)Germany suspends use of AstraZeneca’s Covid shot for the under-60s, dealing another blow to drugmaker / CNBC 6)Sarkanen TO, et al. Sleep Med Rev. 2018 Apr;38:177-186. 7)Weibel D, et al.Vaccine. 2018 Oct 1;36:6202-6211. 8)Why is it so hard to investigate the rare side effects of COVID vaccines? / Nature9)Edwards K, et al. Biologicals. 2019 Jul;60:1-7.

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新型コロナワクチン、予診票で確認すべきポイントは?/厚労省

 4月12日以降に予定されている高齢者への新型コロナワクチン接種開始を前に、厚生労働省は3月26日、新型コロナワクチン「予診票の確認のポイント」を公開した。予診票記載の14項目について接種前に確認すべき点がまとめられている。事務職員が確認可能な項目、最終的に医師の確認が必要な項目についても整理されている。既往症、現在の治療内容についての確認ポイント 予診票には、「現在何らかの病気にかかって治療(投薬など)を受けていますか」という問いが設けられ、抗凝固薬(血をサラサラにする薬と表記)の利用状況を問う項目が設けられている。確認ポイントとしては、とくに以下に該当するかに注意して接種の判断をするよう求めている:・基礎疾患の状態が悪化している場合や全身状態が悪い場合 体調が回復してから接種することが大切なため、体調が悪いときの接種は控える。体調がよくなった頃に、改めて次の接種を相談するよう説明する。接種後の軽度の副反応が重篤な転帰に繋がることのないよう、とくに慎重に予防接種の適否を判断する必要がある。・免疫不全、血が止まりにくい病気のある場合や、抗凝固薬を服用している場合 免疫不全のある方は、新型コロナウイルス感染症の重症化のリスクが高いとされている。米国CDCの見解では、現時点で、有効性と安全性に関する確立されたデータはないが、他の接種不適当者の条件に該当しなければ、接種は可能としている。 血が止まりにくい病気のある方や、抗凝固薬を服用している方は、筋肉内出血のリスクがあるため、接種後2分以上、強めに接種部位を圧迫してもらう必要はあるが、接種は可能(なお、抗血小板薬を服用している方は、筋肉内出血のリスクではないとされているので、接種は可能。ただし、止血に時間がかかる可能性があることに留意が必要)※なお厚労省では、「血をサラサラにする薬を飲まれている方へ」と題した情報提供用資料も公開している。・アレルギー疾患のある方 アレルギー歴についての確認ポイントを参照。アレルギー歴についての確認ポイント 予診票には、「薬や食品などで、重いアレルギー症状(アナフィラキシーなど)を起こしたことがありますか」という問いが設けられ、「薬・食品など原因となったもの」が記載できる。ここでの確認のポイントとしては、下記のようにまとめられている:・接種するワクチンの成分に対し重度の過敏症の既往のある人は、接種不適当者に該当・1回目の接種でアナフィラキシーを起こした人は、2回目の接種はできない・食物アレルギー、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎(花粉症含む)、蕁麻疹、アレルギー体質等だけでは、接種不適当者にはならず、接種するワクチンの成分に関係のないものに対するアレルギーを持つ方も接種は可能・ただし、即時型のアレルギー反応の既往歴がある人は、接種要注意者として、接種後30分間の経過観察をする さらに、「接種するワクチンの成分」について、ファイザー社のワクチンに含まれるポリエチレングリコールや、交差反応性が懸念されているポリソルベートが含まれる製品例や、接種判断の考え方が解説されている。 今回発表された「予診票の確認のポイント」では、上記2項目を含め、下記の全14項目について、確認のポイントとその解説がまとめられている。1~4、13は事務職員等が確認可能とされ、その他の項目も、記入の有無などの確認は事務職員等が行うことができるとされている。5~12、14については、最終的に医師が確認した上で接種を判断する必要があるとしたうえで、これらの項目も、記載内容を医師以外の医療従事者があらかじめ確認することで、医師の予診の時間が短縮されると考えられるとしている。[確認のポイントが示された予診票記載の14項目]1.新型コロナワクチンの接種を初めて受けますか。2.現時点で住民票のある市町村と、クーポン券に記載されている市町村は同じですか。3.「新型コロナワクチンの説明書」を読んで、効果や副反応などについて理解しましたか。4.接種順位の上位となる対象グループに該当しますか。5.現在何らかの病気にかかって治療(投薬など)を受けていますか。6.その病気を診てもらっている医師に今日の予防接種を受けてよいと言われましたか。7.最近1か月以内に熱が出たり、病気にかかったりしましたか。8.今日、体に具合が悪いところがありますか。9.けいれん(ひきつけ)を起こしたことがありますか。10.薬や食品などで、重いアレルギー症状(アナフィラキシーなど)を起こしたことがありますか。11.これまでに予防接種を受けて具合が悪くなったことはありますか。12.現在妊娠している可能性(生理が予定より遅れているなど)はありますか。または、授乳中ですか。13.2週間以内に予防接種を受けましたか。14.今日の予防接種について質問がありますか。

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トランスサイレチン型心アミロイドーシス〔ATTR-CM:transthyretin amyloidosis cardiomyopathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義アミロイドーシスは、βシート構造を豊富にもつ蛋白質がさまざまな病因により前駆蛋白となり、立体構造を変化させながら、重合、凝集を来すことによりアミロイド線維を形成し、細胞外間質に沈着することで臓器障害を生じる疾患の総称である。アミロイド前駆蛋白の種類により、障害される臓器が異なる。心アミロイドーシスとして、臨床的な心臓の障害を呈するのは、トランスサイレチン(transthyretin:TTR)を前駆蛋白とするATTRアミロイドーシスと免疫グロブリン軽鎖(L鎖)を前駆蛋白とするALアミロイドーシスが主な病型である(図1)。さらにATTRアミロイドーシスは、TTR遺伝子変異を認めない野生型ATTRアミロイドーシス(ATTRwt)とTTR遺伝子変異を認める遺伝性TTRアミロイドーシス(ATTRv)に分けられる。図1 心アミロイドーシスの病型分類画像を拡大する(日本循環器学会.2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン.https://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline-series/(2021年2月閲覧).2020.p.11より引用)■ 疫学本症は従来まれな疾患と考えられてきた。しかし、後で述べる検査法の進歩により、とくにATTRwt心アミロイドーシスは、高齢者の心不全(高齢者心不全の数%の可能性)や大動脈弁狭窄症にある一定数存在することが明らかになり、日常臨床で比較的遭遇する疾患であると考えられるようになった。性差があり、高齢男性に多い。ATTRvアミロイドーシスの患者は、わが国は、ポルトガル、スウェーデンに次いで世界で3番目に多いと考えられている。数百人の患者が報告されているが、診断されていない患者も相当数いると考えられる。■ 病因TTRはおもに肝臓、一部脳の脈絡叢や網膜色素上皮細胞で産生される127個のアミノ酸からなる蛋白質であり、甲状腺ホルモンであるサイロキシンやレチノール結合蛋白を運搬する役割を担っている。TTRは、血中では四量体を形成することで安定して存在するが、何らかの原因で四量体が不安定となると解離し、単量体を形成しアミロイド線維の基質となる。TTRが不安定となる原因としては、TTR遺伝子変異が挙げられる。TTR遺伝子における140種類以上の変異型が報告されている。わが国では、30番目の アミノ酸であるバリンがメチオニンに変異するVal30Met変異型がもっとも高頻度に認められる。高齢者に多いTTR遺伝子変異を認めないATTRwtアミロイドーシスでは、単量体への解離がアミロイド線維形成に重要と考えられているものの、具体的な病態分子メカニズムについては不明な点が多い。■ 症状心アミロイドーシスの特異的な症状はなく、心不全による症状や不整脈や伝導障害による脳虚血症状などを認める。ATTRwtアミロイドーシスの主な障害臓器は、心臓に加え、腱や末梢神経が多い。手根管症候群や脊柱管狭窄症が心症状に数年先行して出現することが多く、診断の一助となる。ATTRvアミロイドーシスは、全身臓器障害による多彩な症候を認める(図2)。図2 ATTRv アミロイドーシスの多様な全身症状(日本循環器学会.2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン.https://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline-series/(2021年2月閲覧).2020.p.23より引用改変)■ 予後ATTRwtアミロイドーシスは、確定診断からの生存期間の中央値は約3年半、ATTRvアミロイドーシスでは、未治療の場合は発症からの平均余命は10年程度と報告されている。2 診断 (検査・鑑別診断を含む)心アミロイドーシスの診断において最も重要なことは、原因不明の心不全や心肥大などにおいて本症を疑うことである(図3)。図3 心アミロイドーシス診療アルゴリズム画像を拡大する(日本循環器学会.2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン.https://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline-series/(2021年2月閲覧).2020.p.62より引用)1)スクリニーング検査(1)心電図検査心房細動や伝導障害を認めることが多い。従来心アミロイドーシスの特徴といわれた低電位と偽心筋梗塞パターンの出現頻度は、ATTR心アミロイドーシスでは高くはないので注意が必要である。(2)心エコー左室壁の肥厚、心房中隔の肥厚、心房の拡大、左室心筋のgranular sparklingを認める。ドプラー検査では左室の拡張障害を認める。病期が進行すると左室長軸方向のストレイン値は心室基部から低下していくため、apical sparing(心基部の長軸方向ストレインが低下し、相対的に心尖部では保たれている所見)を認める。(3)採血検査高感度心筋トロポニンの持続高値が診断に有用である。重症度に応じて、B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)およびB型Na利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)が上昇する。(4)心臓MRICine MRIによる肥大の確認と遅延造影 MRIにおける左室内膜下優位のびまん性(late gadolinium enhancement:LGE)が典型的な所見である。T1 mapping法による心筋性状の評価が、ほかの肥大心との鑑別に有用である(心アミロイドーシスではNative T1値高値、細胞外容積分画(ECV)高値)。2)二次検査(1)骨シンチグラフィ(99mTcピロリン酸シンチグラフィと99mTc-HMDPシンチグラフィ)99mTcピロリン酸シンチグラフィおよび99mTc-HMDPシンチグラフィが、ATTR心アミロイドーシスで高率に陽性になり、診断に有用である(図4)。実際には判断が困難な例も存在するが、高い感度、特異度で非侵襲的に本症を疑うことが可能である。図4 99mTc ピロリン酸シンチグラフィ画像を拡大する(2)M蛋白ALアミロイドーシスの除外診断のため、血液あるいは尿中のM 蛋白の有無を確認することも重要である。3)生検および病理診断によるアミロイドタイピング諸外国では、骨シンチの高い診断能のため、生検なしでATTR心アミロイドーシスの診断が可能とされているが、わが国では、現時点(2024年12月)で確定診断のためには組織へのアミロイド沈着の証明と病理学的なタイピングが必要である。心筋生検の陽性率は100%とされるが、その侵襲性の高さより、まずは腹壁脂肪吸引、皮膚生検、口唇唾液腺生検、胃・十二指腸などからの生検が行われるが、いずれの部位もアミロイドの検出は100%ではなく、1つの部位からの生検が陰性の場合は、他部位からの生検や繰り返しの生検、心筋生検を検討すべきである。とくにスクリーニングとして行われることの多い腹壁脂肪吸引は、ATTRwtアミロイドーシスでは陽性率が低いので注意が必要である。病理検査でアミロイドの沈着が証明された場合、各種抗体を用いた免疫染色によるタイピングが必須である。免疫染色でアミロイドタイピングの鑑別ができないときには、質量解析が有用である。4)遺伝子診断アミロイドタイピングでATTRアミロイドーシスと診断された場合、十分な配慮のもと遺伝子診断を行い、ATTRvかATTRwtかの確定診断を行う。5)診断基準アミロイドーシスに関する調査研究班が各学会のコンセンサスのもと作成したATTRwtおよびATTRvアミロイドーシスの診断基準を示す(図5)。図5 ATTRvおよびATTRwtアミロイドーシスの診断基準画像を拡大する(日本循環器学会.2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン.https://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline-series/(2021年2月閲覧).2020.p.18-20.より引用)3 治療1)アミロイドーシスに対する一般的治療(1)心不全基本は利尿剤を中心とした治療である。左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)で生命予後改善効果のあるβ遮断薬やACE阻害薬/アンギオテンシン受容体拮抗薬の効果は明らかでは無い。(2)不整脈心アミロイドーシスに伴う心房細動では塞栓症を来しやすく、禁忌でない限りCHADS2スコアに関係なく抗凝固療法を行うべきである。心房細動の心拍数管理に関して、ジギタリスは副作用を来しやすいため禁忌である。ベラパミルも変時作用や変陰力作用が強く出やすく、左室収縮性の低下した症例では禁忌である。完全房室ブロックなどの徐脈性不整脈を認めれば、恒久的ペースメーカーを植え込む。2)TTRアミロイドーシスに対する疾患修飾治療(図6)(1)TTR産生の抑制ATTRvアミロイドーシスに対して、異常なTTRの産生を抑える目的で、肝移植による治療が行われてきた。一方、TTRのほとんどが肝臓で産生されるため、遺伝子サイレンシングの手法を用いた遺伝子治療の良い標的と考えられる。ブトリシラン(商品名:オンパットロ)は、TTRメッセンジャーRNAを標的とし、遺伝子発現を抑制し、TTRの産生を阻害する低分子干渉RNA製剤である。現時点(2024年12月)では、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーに対し使用可能である。(2)TTR 四量体の安定化TTRを安定化させ、単量体になることを防ぐことで、TTRアミロイドーシスの進行が抑制されることが期待される。タファミジス(同:ビンマック)およびタファミジスメグルミン(同:ビンダケル)は、TTRのサイロキシン結合部位に結合し、四量体を安定化させる。ATTR-ACT試験において、ATTRwtおよびATTRvによる心アミロイドーシス患者に対して、全死因死亡と心血管事象に関連する入院頻度を減少し、トランスサイレチン型心アミロイドーシス(野生型および変異型)に対して適応拡大が行われた。心アミロイドーシス患者に投与する際の適正投与のための患者要件(資料)、施設要件、医師要件に関するステートメントが日本循環器学会より出されている。図6 ATTRアミロイドーシスに対する治療の進歩画像を拡大する図7 トランスサイレチン型心アミロイドーシス症例に対するビンダケル適正投与のための患者要件(1)野生型の場合ア心不全による入院歴または利尿薬の投与を含む治療を必要とする心不全症状を有することイ心エコーによる拡張末期の心室中隔厚が12mmを超えることウ組織生検によるアミロイド沈着が認められることエ免疫組織染色によりTTR前駆蛋白質が同定されること(2)変異型の場合ア心筋症症状および心筋症と関連するTTR遺伝子変異を有することイ心不全による入院歴または利尿薬の投与を含む治療を必要とする心不全症状を有することウ心エコーによる拡張末期に心室中隔厚が12mmを超えることエ組織生検によるアミロイド沈着が認められること4 今後の展望ATTR心アミロイドーシスに対するvutrisiran、ATTR心アミロイドーシスに対するTTR四量体安定化剤acoramidisの第III相試験の結果が報告され、今後の臨床現場での使用が期待されている。さらにATTRアミロイドを標的としたモノクロナール抗体などの試験が現在進行中である。5 主たる診療科循環器内科、脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本アミロイドーシス学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 全身性アミロイドーシス(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本循環器学会 トランスサイレチン型心アミロイドーシス症例に対するビンダゲル適正投与のための施設要件、医師要件に関するステーテメント(医療従事者向けのまとまった情報)1)安東由喜雄 監修. 最新アミロイドーシスのすべてー診療ガイドライン2017とQ&A―. 医歯薬出版:2017.2)2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン(2024年11月25日閲覧)3)佐野元昭 編. Heart View 11月号.Medical View:2020. 4)Ruberg FL, et al. J Am Coll Cardiol. 2019;73:2872-2891.5)Kittleson M, et al. Circulation. 2020;142:e7–e22.公開履歴初回2021年4月5日更新2024年12月26日

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脳卒中再発予防のためには、一過性脳虚血発作(TIA)症状をどこまで広くとらえるべきか?(解説:森本悟氏)-1372

 日本脳卒中学会(2019)や国際疾病分類(ICD-11)により、一過性脳虚血発作(TIA)とは、“局所脳または網膜の虚血に起因する神経機能障害の一過性のエピソードであり、急性梗塞の所見がないもの。かつ、神経機能障害のエピソードは、長くとも24時間以内に消失すること。”と定義されている。また、1975年の米国国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)による報告では、突然発症の“複視、構音障害、眩暈、失調、感覚低下、両側の視覚障害”といった非進行性かつ単発の症状は、TIAとしては典型的ではないとしている(Stroke. 1975;6:564-616.)。2017年にLavallee氏らが、これらの症状をisolated atypical transient symptomsとして、1年後の脳卒中再発率を検討したところ、典型的なTIA患者と比較しても差は認められなかった(Lavallee PC, et al. Stroke. 2017;48:1495-1500.)。 そこで筆者らは、これらのTIAとして非典型的といわれる症状を“non-consensus TIA”と定義し、典型的なTIA患者(n=1,021)およびnon-consensus TIA患者(n=570)の再発リスクについて前向きに検討を行った。初回イベントの後、いずれの群の患者も適切な2次予防介入が実施されている。 筆者らは、典型的なTIA患者と同様に、non-consensus TIA患者も脳卒中の初期(90日間)および長期(10年間)再発リスクが高く、主要血管イベントについても同様であるとしている。そして、non-consensus TIAについて治療介入を要するTIAとして見直せば、TIAの診断数が約50%増加するという結果であった。本研究では、患者背景として、non-consensus TIA患者群はより若年であり、心房細動および冠動脈疾患の有病率、脳卒中の既往が半分程度であること、後方循環系の動脈狭窄(50%以上)が有意に多いという特徴を有していたことも、間接的には筆者らの結論を補強するものとなっている。 ただし、本結果にはいくつか考慮すべき点がある。まず、典型的なTIAを運動症状タイプと非運動症状タイプに分類した場合、非運動症状タイプのTIAおよびnon-consensus TIA患者群と比較して、運動症状タイプのTIA患者群では明らかに脳卒中再発リスクが高い傾向にある点、non-consensus TIA症状の中でも、眩暈/失調や構音障害単独群と比較し、複視単独群では脳卒中の再発リスクがより低い割合で長期間留まっている点、が挙げられる。 確かに、non-consensus TIAにおいても典型的なTIAと同様に、全体として経時的な脳卒中再発および主要血管イベントの増加が認められたものの、症状のタイプ別に明確なリスクの差があることは否定できない。本研究により、実際的なTIA(予防治療介入を要する群)の診断範囲を拡大することが、脳卒中予後に対して好ましい影響を与えることが示されたことは非常に重要な点である。しかしながら、non-consensus TIAの2次予防を行ううえで、除外診断を含めた臨床診断精度および症状の層別化によるリスク分析、抗血栓薬導入に伴う有害事象のリスクについては十分考慮する必要がある。

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ICU入室COVID-19へのエノキサパリン、中等量vs.標準量/JAMA

 集中治療室(ICU)に入室した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者に対し、予防的抗凝固療法としてエノキサパリンの中等量(1mg/kg/日、クレアチニン・クリアランス値により調整)の投与は同標準量(40mg/日)の投与と比べ、30日以内静脈または動脈血栓症・体外式膜型人工肺(ECMO)の使用・死亡の複合アウトカムについて、有意差は認められなかった。イラン・Iran University of Medical SciencesのParham Sadeghipour氏ら「INSPIRATION無作為化試験」研究グループが約600例の患者を対象に行った試験結果を報告した。COVID-19重症患者において、血栓性イベントの報告頻度は高い。抗血栓予防療法の強度を高めることに関するデータは限定的であり、今回の検討が行われた。研究グループは、「結果は、ICU入室COVID-19患者に対して非選択的に中等量の予防的抗凝固療法をルーチン投与することを支持しないものであった」とまとめている。JAMA誌オンライン版2021年3月18日号掲載の報告。イラン10ヵ所の医療センターで試験 研究グループはイランの大学医療センター10施設を通じて、ICUに入室したCOVID-19患者を対象に、2×2要因デザインを用いて多施設共同無作為化試験を行った。 本試験で被験者は、エノキサパリン中等量(体重120kg未満でクレアチニン・クリアランス値30mL/分超に対し、1mg/kg/日)または同標準量(40mg/日)による予防的抗凝固療法と、スタチンまたはプラセボ(第2の仮説、本論では結果報告なし)を、それぞれ投与(両群の投与量について、体重とクレアチニン・クリアランス値に応じて調整)。割り付け治療は、30日間のフォローアップ完遂まで行うよう計画された。 被験者の募集期間は2020年7月29日~11月19日で、主要アウトカムの30日間フォローアップの最終日は2020年12月19日だった。 有効性の主要アウトカムは、30日以内の静脈または動脈血栓症・ECMOの使用・死亡の複合だった。試験の適格基準を満たし割り付け試験薬を1回以上投与された被験者を対象に分析を行った。 事前に規定した安全性に関するアウトカムは、BARCによる大出血(タイプ3または5)の非劣性評価(非劣性マージン:オッズ比[OR]1.8)、重症血小板減少症(血小板数:20×103/μL未満)などだった。大出血発生率も非劣性示せず 600例が無作為化を受け、主要解析には562例(93.7%)が含まれた(年齢中央値62歳[範囲:50~71]、女性は237例[42.2%])。 主要有効性アウトカムの発生は、中等量群126例(45.7%)、標準量群126例(44.1%)だった(絶対リスク差:1.5%[95%信頼区間[CI]:-6.6~9.8、OR:1.06[95%CI:0.76~1.48]、p=0.70)。 大出血の発生は、中等量群7例(2.5%)、標準量群4例(1.4%)で、ORは1.83(片側97.5%CI:0.00~5.93)と非劣性は示されなかった(非劣性のp>0.99)。重症血小板減少症の発生は、中等量群でのみ6例(2.2%)で認められた(6 vs.0、リスク差:2.2%[95%CI:0.4~3.8]、p=0.01)。

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第47回 要申請、市町村へアドレナリン製剤の無償提供/マイラン

<先週の動き>1.【要申請】市町村へアドレナリン製剤の無償提供/マイラン2.緊急事態宣言の解除後、感染対策に「5つの柱」3.勤務医の働き方改革など、医療法改正法案が審議入り4.高齢者ワクチン、医師確保が間に合わない自治体2割5.ワクチン優先接種、精神疾患などの患者も対象に6.科学的介護情報システム「LIFE」を訪問・居宅支援に活用へ1.要申請、市町村へアドレナリン製剤の無償提供/マイラン厚生労働省は、4月12日から開始される高齢者の新型コロナワクチン接種に必要となる予診票などの情報提供を開始している。抗血小板薬や抗凝固薬を内服している患者については、接種前の休薬は必要なく、接種後は2分間以上しっかり押さえるようにと具体的な記載がされている。また、ワクチン接種の際にアナフィラキシーショックなどを発現した場合に必要となるアドレナリン製剤(商品名:エピペン注射液0.3mg)については、製造販売元であるマイランEPD合同会社より無償提供について、各市町村(特別区を含む)へ告知されるなど準備が進んでいる。なお、無償提供を希望する市町村は、専用のWEBサイト(https://med.epipen.jp/free/)を通じて申請を行うこと。受付は、18日より開始されている。(参考)新型コロナワクチンの予診票・説明書・情報提供資材(厚労省)予防接種会場での救急対応に用いるアドレナリン製剤の供給等について(その2)(同)マイランEPD 自治体向け「エピペン」無償提供の受付開始 コロナワクチン接種後のアナフィラキシー対応で(ミクスオンライン)2.緊急事態宣言の解除後、感染対策に「5つの柱」菅総理大臣は18日夜、東京都を含む1都3県の緊急事態宣言について、21日をもって解除することを明らかにした。1都3県の新規感染者数は、1月7日の4,277人と比較して、3月17日は725人と8割以上減少しており、東京では、解除の目安としていた1日当たり500人を40日連続で下回っていた。宣言解除に当たり、感染の再拡大を防ぐための5本の柱からなる総合的な対策を決定し、国と自治体が連携して、これらを着実に実施することを発表した。第1の柱「飲食の感染防止」大人数の会食は控えて第2の柱「変異ウイルス対応」第3の柱「戦略的な検査の実施」第4の柱「安全 迅速なワクチン接種」第5の柱「次の感染拡大に備えた医療体制の強化」また、ワクチンについては、今年6月までに少なくとも1億回分が確保できる見通しを示し、医療従事者と高齢者に行きわたらせるには十分な量だと述べた。(参考)新型コロナウイルス感染症に関する菅内閣総理大臣記者会見(首相官邸)【菅首相会見詳報】“宣言”解除へ 再拡大防ぐ「5つの柱」示す(NHK)3.勤務医の働き方改革など、医療法改正法案が審議入り長時間労働が問題となっている勤務医などの働き方改革を目指し、2024年度から、一般の勤務医は年間960時間、救急医療を担う医師は年間1,860時間までとする時間外労働規制を盛り込んだ医療法の改正案が、18日に衆議院本会議で審議入りした。今回の法案には、各都道府県が策定する医療計画の重点事項に「新興感染症等の感染拡大時における医療」が追加された。このほか、医師養成課程の見直しであるStudent Doctorの法的位置付けや地域医療構想の実現に向けた医療機関の再編支援、外来医療の機能の明確化・連携といった2025年問題と、今後の地域医療の提供体制にも大きな影響が出ると考えられる。(参考)勤務医などの働き方改革を推進へ 医療法改正案 衆院で審議入り(NHK)地域医療の感染症対策を強化、医療法改正案を閣議決定(読売新聞)資料 良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案(厚労省)4.高齢者ワクチン、医師確保が間に合わない自治体2割4月12日から開始される65歳以上の高齢者対象の新型コロナウイルスワクチン接種について、厚労省が全国1,741の自治体を対象に行った調査の結果、約2割の自治体が接種を担う医師を確保できていないことが明らかになった。調査は3月5日時点の各自治体の状況についてたずね、各接種会場で1人以上の医師を確保できているとする自治体は1,382(79.3%)だが、残り約2割の自治体では「0人」だった。地元医師の調整に時間がかかっている自治体や医師不足のため近隣自治体と調整中の自治体もあるため、体制の確立には時間を要するとみられる。また、各自治体より高齢者分の接種券の配送時期については4月23日が最も多く、次いで4月12日とする自治体が多かった。(参考)医師確保「0人」が2割 高齢者ワクチン接種(産経新聞)資料 予防接種実施計画の作成等の状況(厚労省)5.ワクチン優先接種、精神疾患などの患者も対象に厚労省は、18日に第44回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会を開催し、新型コロナウイルスワクチン接種の接種順位、対象者の範囲・規模について議論した。接種の対象については、接種実施日に16歳以上とし、一定の順位を決めて接種を進める。4月12日から高齢者への接種を始め、基礎疾患のある人などに優先して接種を行う。(1)医療従事者等(2)高齢者(2021年度中に65歳に達する、1957年4月1日以前に生まれた方)(3)高齢者以外で基礎疾患を有する方や高齢者施設等で従事されている方(4)それ以外この会議において、優先接種に「重い精神疾患」や「知的障害」がある人も加えることになった。具体的には精神疾患で入院中の患者のほか、精神障害者保健福祉手帳や療育手帳を持っている人などが対象で、合わせておよそ210万人と見積もられている。(参考)資料 接種順位の考え方(2021年3月18日時点)(厚労省)6.科学的介護情報システム「LIFE」を訪問・居宅支援に活用へ厚労省は、2021年の介護報酬改定により、科学的介護情報システム「LIFE」の運用を始め、科学的なエビデンスに基づいた自立支援・重度化防止の取り組みを評価する方向性を打ち出した。今回の介護報酬改定で新設される「科学的介護推進体制加算」をはじめ、LIFEの取り組みには多くの加算が連携しており、対応を図る介護事業者にとってはデータ提出などが必須だ。さらに、改定では「訪問看護」にも大きなメスが入った。訪問看護ステーションの中には、スタッフの大半がリハビリ専門職で「軽度者のみ、日中のみの対応しか行わない」施設が一部あり、問題視されていたが、今回の改定ではリハビリ専門職による訪問看護の単位数を引き下げる、他職種と連携のために書類記載を求めるなど対策が行われている。(参考)2021年度介護報酬改定踏まえ「介護医療院の実態」「LIFEデータベース利活用状況」など調査―介護給付費分科会・研究委員会(Gem Med)リハビリ専門職による訪問看護、計画書や報告書などに「利用者の状態や訪問看護の内容」などの詳細記載を―厚労省(同)介護報酬の“LIFE加算”、計画の策定・更新が必須 PDCA要件の概要判明(JOINT)資料 訪問看護計画書及び訪問看護報告書等の取扱いについて(厚労省)

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新型コロナウイルス感染:米国退役軍人の医療経験から(解説:後藤信哉氏)-1361

 世界最強の米軍を維持するため、米国の退役軍人は手厚く待遇されている。各都市には退役軍人専用のDepartment of Veterans Affairs管理下の病院、クリニックがある。本研究は米国各地の退役軍人専用病院、クリニックにおける新型コロナウイルス感染者の抗血栓療法の実態と生命予後の解析結果である。2020年3月1日から7月30日までに新型コロナウイルス陽性とされた症例が対象となった。この短期間にて退役軍人に限定して4,297例が本研究の対象となった。一般に、血栓イベントリスクの高い西欧人では入院、安静時には静脈血栓予防の抗凝固療法が標準である。ICUに入院する市条例などでは禁忌がなければ全例予防的抗凝固治療を受ける。本研究では、入院24時間以内に抗凝固治療を受けた3,627例(84.4%)と受けなかった症例の予後を比較した。抗凝固療法の圧倒的多数は(3,600例:99%)ヘパリン(低分子ヘパリン)の皮下注であった。 新型コロナウイルスがあらためて恐ろしいのは30日以内に622例が死亡していたことからもわかる。死亡者のうち513例は抗凝固予防を受けていた。622例のうち、510例は入院期間中の死亡であった。一般に入院例、とくに重症例では抗凝固予防が施行される米国にて抗凝固予防例と非予防例の比較に価値があるか否かは難しい。著者らは傾向スコアを用いて標準化を目指した。予防介入を受けた症例の30日の死亡率は14.3%(95% confidence interval [CI]:13.1%~15.5%)にて、抗凝固予防を受けなかった症例の18.7%(15.1%~22.9%)より低いと本研究では報告されている。24時間以内に抗凝固薬を開始すれば死亡はHR 0.73(95%CI:0.66~0.81)にて低く、かつ重篤な出血イベントが多くなったわけではない。 一般に欧米の入院症例では抗凝固予防の価値が大きいことは知られている。新型コロナウイルス感染でも24時間以内にヘパリンなどを開始することにより死亡率低減効果はありそうである。米国の退役軍人のデータなので、米国、欧州にも適応可能と考える。日本でも同じかどうかはわからない。単純な観察研究なので各種の交絡因子により結論には限界がある。しかし、数値は事実である。健康保険の経済データベースの充実している本邦でも単純に、?月?日から??月??日までに新型コロナウイルス感染にて入院した症例は?例、抗凝固薬使用は?%、死亡は30日以内に?例など数値データベースを速やかに解析、公表する体制を作れば、皆で数値に基づいた議論ができると思う。

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自宅で超重症COVID-19を診きった1例【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第182回

自宅で超重症COVID-19を診きった1例pixabayより使用日本でCOVID-19を診療する場合、基本的に肺炎があったりSpO2が低かったりすると、入院適応になります。当然、両肺に肺炎があって呼吸不全があろうものなら、即入院なわけですが……。エクアドルで報告された、自宅療養で重症例を診きった超絶症例報告を紹介しましょう。Cherrez-Ojeda I, et al.The unusual experience of managing a severe COVID-19 case at home: what can we do and where do we go?BMC Infect Dis . 2020 Nov 19;20(1):862.主人公は、60歳のエクアドル人女性です。7日前から咳と息切れが見られており、救急外来のトリアージでSpO2 86%(室内気)と両側肺炎が見られ、SARS-CoV-2 PCRが陽性になりました。呼吸数が32回/分とかなり厳しい状態だったのですが、入院する部屋がなく、外来治療を余儀なくされました。イヤ、無理でしょ…PaO2が47.70Torrと書いてあるんですが……。――とはいえ、部屋がないものはない。適切な治療プランを立て、自宅に帰さなければいけません。メチルプレドニゾロン、低分子ヘパリン、ニタゾキサニド(抗ウイルス薬)を看護師の往診で投与するよう指示しました。酸素濃縮器も自宅に設置し、鼻カニューレで酸素投与を開始しました。PubMedなどからこの論文の元文献を見てほしいのですが、両肺真っ白です。本当に真っ白のARDSです。日本だといろいろと問題視されそうですが、自宅で急死することもなく、この女性患者さんは次第に回復していきました。治療開始4日目に、危うくSpO2が80%を切るところまでいきましたが、その後復活しています。治療開始14日後の胸部CTでは、陰影の大部分が軽快しました。日本でここまでの医療逼迫に陥ることはないと信じたいですが、自宅やホテルでマネジメントする方法も考えるべき時期が来るもしれません。SpO2が低い症例に、ステロイド錠を手渡すことを検討してもよいかもしれませんが、国内の診療常識ではちょっと難しいでしょうね。

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アジア人がん関連VTE、NOAC vs.低分子ヘパリン

 これまで不明であった、アジア人のがん関連静脈血栓塞栓症(VTE)に対する非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)と低分子ヘパリン(LMWH)の臨床的有益性は、同等であることが示された。台湾・長庚大学のDong-Yi Chen氏らが、台湾のデータベースを用いたコホート研究により、実臨床下でがん関連VTE患者におけるVTE再発および大出血のリスクはNOACとLMWHで同等であり、さらにNOACでは胃腸出血のリスクが有意に低いことを明らかにした。なお著者は、「今回の解析結果を確認するためには、前向き研究が必要である」としている。JAMA Network Open誌2021年2月1日号掲載の報告。 研究グループは、台湾の多施設電子カルテデータベースであるChang Gung Research Databaseを用い、2012年1月1日~2019年1月31日に新たに診断されたがん関連VTE患者1,109例を特定し解析した。 主要評価項目は、VTE/肺塞栓症(PE)再発または大出血。対象患者を、インデックス日(NOACまたはLMWHの最初の処方日)から初回イベント発生、1年間、死亡または追跡終了(2019年1月)のいずれか早い時点まで追跡した。Cox比例ハザードモデルを用い、NOAC(リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン、ダビガトラン)またはLMWHのエノキサパリン投与におけるVTE再発または大出血のリスクを比較。加えて、死亡を競合リスクと見なしたFine-Gray部分分布ハザードモデルを用いた解析も行った。 解析は、2019年3月~2020年12月に実施された。 主な結果は以下のとおり。・1,109例の患者背景は、女性578例(52.1%)、インデックス日の平均年齢66.0歳、NOAC投与が529例(47.7%)、エノキサパリン投与が580例(52.3%)であった。・VTE再発または大出血は、NOAC群75例(14.1%)、エノキサパリン群101例(17.4%)に認められた(加重ハザード比[HR]:0.77、95%信頼区間[CI]:0.56~1.07、p=0.11)。・両群で、12ヵ月時点でのVTE再発(HR:0.62、95%CI:0.39~1.01、p=0.05)ならびに大出血(HR:0.80、95%CI:0.52~1.24、p=0.32)のリスクも同様であった。・ただし、NOAC群はエノキサパリン群と比較して、胃腸出血のリスクが有意に低かった(10例[1.9%]vs.41例[7.1%]、HR:0.29、95%CI:0.15~0.59、p<0.001)。・主要評価項目の結果はいずれも、競合リスク解析と一致していた(VTE再発のHR:0.68[95%CI:0.45~1.01、p=0.05]、大出血のHR:0.77[95%CI:0.51~1.16、p=0.21])。

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COVID-19入院患者への早期予防的抗凝固療法、30日死亡率を低下/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者において、早期予防的抗凝固療法は非投与と比較して、重大出血のイベントリスクを増大することなく30日死亡率を有意に低下することが示された。英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のChristopher T. Rentsch氏らが、4,297例の入院患者を対象に行った観察コホート試験の結果で、BMJ誌2021年2月11日号で発表した。COVID-19患者の死亡原因の一部として、静脈血栓塞栓症および動脈血栓症が報告されている。抗凝固療法は、血栓形成を予防し、抗ウイルス性および潜在的な抗炎症性作用も有し、COVID-19患者に有効であることが期待されている。今回の結果を踏まえて著者は、「今回の所見は、COVID-19入院患者の初期治療として、予防的抗凝固療法の実施を推奨するガイドラインを支持する、強力なリアルワールドのエビデンスを提供するものである」と述べている。抗凝固療法歴のない4,297例を対象に観察コホート試験 研究グループは、米国退役軍人省が運営する全米医療システムに加入し、2020年3月1日~7月31日に、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染が確認された入院患者で、抗凝固療法歴のない4,297例について観察コホート試験を行った。早期予防的抗凝固療法の実施と、死亡率との関連を検証した。 主要アウトカムは、30日死亡率だった。副次アウトカムは、入院死亡率、抗凝固療法の実施(血栓塞栓症など臨床的増悪の代用アウトカム)、輸血を要する出血だった。予防的抗凝固療法で輸血を要する出血リスクは増大せず 4,297例のCOVID-19入院患者のうち、入院後24時間以内に予防的抗凝固療法を行ったのは3,627例(84.4%)だった。そのうち99%超の3,600例が、ヘパリンまたはエノキサパリンの皮下投与を受けた。 入院後30日以内の死亡は622例で、うち予防的抗凝固療法群の死亡は513例だった。 inverse probability of treatment weighted解析にて、入院30日時点の累積死亡率は、予防的抗凝固療法群14.3%(95%信頼区間[CI]:13.1~15.5)、非予防的抗凝固療法群18.7%(95%CI:15.1~22.9)で、予防的抗凝固療法群の30日死亡率に関するハザード比(HR)は0.73(95%CI:0.66~0.81)と27%のリスク低下が認められた。同様の関連性が、入院患者の死亡率と予防的抗凝固療法の実施についても認められた。 一方で、予防的抗凝固療法による輸血を要する出血リスク増大は認められなかった(HR:0.87、95%CI:0.71~1.05)。 量的バイアス分析では、同試験結果は計測されない交絡因子に対してロバストであることが示された(30日死亡率に関するe値の95%CI下限値は1.77)。感度解析でも結果は維持された。

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第25回 その吐血、緊急内視鏡は必要ですか?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)上部消化管出血を疑うサインを知ろう!2)緊急内視鏡の判断を適切に行えるようになろう!【症例】45歳男性。自宅で洗面器1杯分の吐血を認めたため、両親の運転する車で救急外来を受診した。独歩可能な状態で、その後吐血は認めていない。どのようなマネジメントが適切だろうか?●受診時のバイタルサイン意識清明/JCS血圧128/51mmHg脈拍95回/分(整)呼吸20回/分SpO297%(RA)体温36.0℃瞳孔3/3 +/+既往歴高血圧内服薬定期内服薬なしはじめに吐血を主訴に救急外来を受診する患者さんは多く、救急外来が血の海になることも珍しくありません。バイタルサインの管理、内視鏡のタイミング、輸血のタイミングなど悩んだ経験があるのではないでしょうか?今回はまず押さえておくべき上部消化管出血の管理についてまとめておきます。上部消化管出血を疑うサインとは新鮮血の吐血やコーヒー残渣様の嘔吐を認める場合には、誰もが上部消化管出血を疑うと思いますが、それ以外にはどのような場合に疑うべきでしょうか。黒色便、鉄欠乏性貧血などは有名ですね。救急外来などの外来で見逃しがちなのが、訴えがはっきりしない場合です。脱力など自宅で動けない、元気がない、倦怠感などの主訴で来院した場合には、消化管出血に代表される出血性病変を考えるようにしましょう。その他、急性冠症候群、カリウムやカルシウムなどの電解質異常、そして敗血症や菌血症を考えるとよいでしょう。[失神・前失神を見逃すな]失神は以前に「第13回 頭部外傷その原因は?」でも取り上げましたが、診察時には状態は安定しており重症度を見誤りがちです。しかし、心血管性失神を見逃してしまうと致死的となり得ます。また、出血に伴う起立性低血圧も対応が遅れれば、予後はぐっと悪くなってしまうため必ず出血源を意識した対応が必要になります。ちなみに、前失神は失神と同様に危険なサインであり、完全に意識を失っていなくても体内で起こっていることは同様であり軽視してはいけません。意識を失ったか、失いそうになったかは必ず確認しましょう。緊急内視鏡の適応は?目の前の上部消化管出血疑い患者さんの内視鏡はいつ行うべきでしょうか?ショックバイタルでマズい場合には誰もが緊急内視鏡が必要と判断できると思いますが、本症例のように、一見するとバイタルサインが安定している場合には意外と判断は難しいものです。いくつかの指標が存在しますが、今回は“Glasgow Blatchford score(GBS)”(表1)を覚えておきましょう。GBS≦1の場合には入院の必要性はなく、緊急での対応は一般的には不要です1,2)。前述した通り、失神は重要なサインであり、点数も2点と黒色便よりも高く設定されています。失神を認める上部消化管出血は早期の内視鏡治療が必要と覚えておきましょう。1分1秒を争うわけではありませんが、血圧が普段よりも低めであるが故に止まっているだけですので、処置を行うことなく帰宅の判断はお勧めできません。表1  Glasgow Blatchford score(GBS)画像を拡大するちなみに、Hb値は濃度であり、また早期に変化は認められないため、Hb値が問題ないからと出血はたいしたことないと判断してはいけません。黒色便を認める場合には、数日の経過が経っていることが多く、Hb値も普段よりも低下しています。GBSも2点以上となりますが、即刻内視鏡なのか、24時間以内に内視鏡なのか、より具体的な緊急度は、その他バイタルサインやNSAIDs、抗血栓薬などのリスク因子も考慮し判断します。[抗血栓薬内服中の患者ではどうする?]絶対的な指標はありませんが、頭部外傷患者の対応と同様に、内服しているから緊急かというとそうではありません。しかし、リスクの1つではあるため、具体的な処方薬と用量、内服している理由、効果の評価(PT-INRなど)などと共に慎重な経過観察が必要となります。抗血栓薬を止めるのは簡単ですが、そのおかげで脳梗塞などを引き起こしてしまっては困りますよね。明らかな出血を認めている場合に内服を中止することはもちろんですが、その後の具体的な対応をきちんと決めておく必要があります。GBS以外の有名なリスクスコアに“AIMS65”(表2)がありますが、それにはPT-INRの項目が含まれており、緊急度に関わるとされます3)。また、PT-INRが1.5未満であってもDOAC(Direct oral anticoagulants)内服中の患者では、早期の内視鏡が推奨されています。そのような理由から、抗血栓薬を内服している患者さんでは、早期の内視鏡(24時間以内)を行うのが理想的でしょう。※GBSもAIMS65も覚えるのは大変ですよね。私は“MDCalc”というアプリをスマホに入れて計算しています。表2 AIMS65画像を拡大する現実問題として、夜間や時間外などに来院した患者の内視鏡をすぐに行うのか、一晩様子をみてOKなのかどうかを判断する必要があります。上記の内容を頭に入れつつ、施設毎の対応を構築しておきましょう。消化器内科医師などがいつでもすぐに対応可能な施設であれば、GBS≧2でも輸液や輸血でバイタルサインが安定している場合には一晩待てるかもしれませんが、そうではない場合には、「GBSで◯点以上の場合」、「肝硬変患者の吐血の場合」、「抗血栓薬を内服している場合」には緊急で行うなど、具体的なプランを立てておくとよいでしょう。スコアは絶対的なものではありませんが、GBSやAIMS65などを意識しておくと、確認すべき項目を見落とさなくなるでしょう。失神の有無は前述の通り重要ですし、抗血栓薬などの影響から凝固線溶機能に異常を来している場合には拮抗薬など追加の対応が必要なこともありますからね。最後に、上部消化管出血に伴い緊急内視鏡の判断をした場合には、気管挿管など気道の管理が必要ないかは必ず意識してください。ショックや重度の意識障害は気管挿管の適応であり、バイタルサインが不安定な場合には確実な気道確保目的の気管挿管が必須となります。慌てて内視鏡室へ移動し、不穏になり急変、誤嚥して酸素化低下などは避けなければなりません。救急外来で人数をかけ対応することができればベストですが、どうしても少ない人数で対応しなければならない場合には、確実な気道確保を行い万全の状態で内視鏡を行うようにしましょう。まとめ失神・前失神を伴う上部消化管出血は緊急性が高い!GBSやAIMS65を参考に、患者背景・薬の内服理由も考慮し対応を!緊急内視鏡を行う場合には、気管挿管など気道管理の徹底を!1)Blatchford O, et al. Lancet. 2000;356:1318-1321.2)Stanley AJ, et al. BMJ. 2017;356:i6432.3)Saltzman JR, et al. Gastrointest Endosc. 2011;74:1215-1224.

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治療が変わる!希少疾病・難病特集 ~血友病~

かつて第VIII因子(FVIII)製剤投与が中心だった血友病治療だが、FVIII製剤には「短い半減期」、あるいは「インヒビターの出現」という問題の存在が明らかとなった。そのため、半減期を延長したFVIII製剤(アディノベイト)が登場すると同時に、FVIII補充ではなく、別機序でFVIII活性を補う、抗活性型第IX因子(FIXa)/第X因子(FX)バイスペシフィック抗体のエミシツマブ(ヘムライブラ)が開発され、今日、世界で頻用されている。これに続く新薬として現在、以下のように、単鎖干渉(si)RNA核酸医薬と抗TFPI抗体、遺伝子治療薬の3種類の開発が進んでいる。siRNA核酸医薬としては、肝臓におけるアンチトロンビンを標的とするフィツシラン(fitusiran)が、唯一、臨床応用に向けて開発が進んでいる。第II相試験における脳静脈洞血栓症による死亡1例を受け、2017年9月に試験中止となるも同年12月の再開を経て、現在は "ATLASプログラム"という複数の第III相試験が進んでおり、2021年上半期には終了予定だという [Sanofi Press Relase 2020 June 19 ] 。抗TFPI抗体は、アンチトロ ンビンと並ぶ主要な抗凝固因子であるTFPI(組織因子経路インヒビター)の阻害を介して止血を改善する。コンシズマブ(concizmab)が先頭を切って第III相試験に入ったが、2020年3月には3例で非致死性血栓塞栓症が報告されたため試験は中止。同年8月には再開されたものの、終了予定時期は明らかにされていない [Novo Nordisk Press Release 2020 Aug. 13] 。あとを追っていたBAY1093884は、第II相試験が血栓症増加のため中止となり [THSNA2020抄録]、2019年9月に安全性を理由とした開発中止が発表された [2019 Bayer Annual Report] 。一方、マルスタシマブ(marstacimab [PF-06741086])は第II相試験で血栓症を含む重篤有害事象が観察されなかったため、2020年11月、第III相試験が開始された。終了予定時期は不明である [Pfizer Press Rleasae 2020 Nov 23]。遺伝子治療の研究も進んでおり、血友病の原因である「血液凝固因子の異常」そのものへの介入を試みられている。 Fidanacogene elaparvovec(PF-06838435)は、血友病B患者に対する第IX因子遺伝子導入薬であり、2018年7月に第III相試験が始まっている [Pfizer Press Release 2018 Jul 16] 。血友病Aに対しては、第VIII因子遺伝子を導入するvaloctocogene roxaparvovec(BMN 270)が今年に入り、第III相試験の予備解析による有意な有用性を報告した [BioMarin Press Release 2021 Jan 10] 。追いかける形となったSPK-8011もすでに予備的第III相試験が走っており、2021年中には本格的な第III相試験が始まる予定である [Spark Therapeutics Press Release 2020 Jul 12] 。

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DOAC でどこまで攻めるか?心房細動を合併した弁置換術後の場合(解説:香坂俊氏)-1345

ワルファリンの有効な代替薬としてDOACが販売されるに至り、さまざまな病態に関して抗血栓治療に関する知見が集まりつつある(本当に2011年以降たくさんのエビデンスが出てきている)。まず心房細動や静脈血栓症といった従来からワルファリンが第1選択とされる病態に対してDOACが有効な代替薬であるということが示された。さらにその後、安全性(副作用としての出血の発症率)に関しては完全に勝るというところが定着し、現在たとえば新規心房細動に対してのDOACの処方率は7割を越えている。最近では、そこからさらに心房細動を合併する冠動脈疾患患者に対しては抗血小板治療を最小限に抑えてよい(ステントなどを使用して抗血小板薬を2剤使用しなくてはならない患者はなるべく早期に1剤に落とし、その後落ち着いて1年ぐらいたったらその1剤も落として抗凝固薬だけに絞る)という知見が得られるに至っている。ワルファリンを使わなくてはならない病態として、心房細動や静脈系の血栓症以外に、人工弁患者が挙げられる。DOACは基本的にこの分野に関しては効果が不十分であるといわれており、ダビガトランというDOACで一度RCTが行われたことがあるが、有害事象が多く、基本的に機械弁に対しては今でもワルファリンが用いられる。が、しかし生体弁に関してはどうか? という疑問は解決されずにきた(生体弁は膜で覆われていてそもそも抗凝固薬が必要ないのだが、心房細動を合併している場合などに問題となる)。今回発表されたRIVER試験では、DOACの中でもとくに抗血栓作用が強いとされるリバーロキサバンを用いてワルファリンとの比較が行われた。詳細に関しては関連記事に譲るが(生体弁による僧帽弁置換術後のAF患者、リバーロキサバンの効果は?/NEJM)、総じてリバーロキサバンはワルファリンに劣らぬ結果を出すことに成功している(非劣性であり、やはりこの分野でもワルファリンの有効な代替薬となることが示された)。DOACの特徴としては、比較的に均一の患者を扱うRCTよりも、多彩な患者を治療しなくてはならないリアルワールドで力を発揮するところにある(https://pmc.carenet.com/?pmid=32341789)。RIVERで用いられたリバーロキサバンの用量は海外用量(20mg、腎機能低下例では15mg)であり、わが国の用量(15mg、同10mg)と若干異なるというところはあるものの、今後この試験結果をきっかけとして心房細動を合併する生体弁患者に関してもDOAC使用の理解が深まっていくのではないか。

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高齢者ニーズに合わせたイグザレルトOD錠発売/バイエル薬品

 バイエル薬品株式会社は、選択的直接作用型第Xa因子阻害剤(経口抗凝固剤)リバーロキサバン(一般名)の新剤形として、「(商品名)イグザレルトOD錠 10mg」・「同 15mg」を1月18日に発売した。 リバーロキサバンは、非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中・全身性塞栓症の発症抑制や、深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症の治療・再発抑制の成人への適応として承認され、2012年よりわが国で販売、広く処方されている。 今回新たに発売されたリバーロキサバンの新剤形は、嚥下力の低下、複数の薬剤の服用といった高齢者が抱える服薬上のニーズに応えるため、日本向けの製剤としてわが国で独自に開発したもので、唾液で速やかに崩壊するため、水なしでも服用ができる。製品概要製品名:イグザレルトOD錠 10mg、同OD錠 15mg一般名:リバーロキサバン効能・効果:非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中および全身性塞栓症の発症抑制、深部静脈血栓症および肺血栓塞栓症の治療および再発抑制用法・用量:[非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中および全身性塞栓症の発症抑制]通常、成人にはリバーロキサバンとして15mgを1日1回食後に経口投与する。なお、腎障害のある患者に対しては、腎機能の程度に応じて10mg 1日1回に減量する。[深部静脈血栓症および肺血栓塞栓症の治療および再発抑制]通常、成人には深部静脈血栓症または肺血栓塞栓症発症後の初期3週間はリバーロキサバンとして15mgを1日2回食後に経口投与し、その後は15mgを1日1回食後に経口投与する。製造発売承認日:2020年8月6日発売日:2021年1月18日薬価:イグザレルトOD錠 10mg:364.10 円/錠、同15mg:517.00 円/錠

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パンデミック再び、ICUで苦悩するコロナ治療【臨床留学通信 from NY】第16回

第16回:パンデミック再び、ICUで苦悩するコロナ治療ご存じの通り、こちら米国ニューヨークは2020年4月に最もひどいパンデミックの中心地となりました。痛い目に逢った教訓から、人々はマスクを着け、ソーシャルディスタンスを保とうと努めていました。欧米においては、もともと日常的にマスクを着ける文化はないため、マスクを着けていること自体に抵抗があるようなのですが、第2波への恐れもあり、ニューヨークの人々は米国の他の州よりもマスクをきちんと着けていた印象です。ところが、9月下旬より学校が再開され、レストランも外ではなく店内での食事が許可されました。さらに、11月下旬のサンクスギビングの週で人々の動きが活発となり、12月上~中旬に新型コロナ第2波が急にやって来ました。人々の行動変化に加え、われわれの以前のデータが示す通り、寒さも関係していると見られます1)。私は、レジデントとしてさまざまな部署をローテートしている最中ですが、12月中旬よりICUに配属され、最前線でコロナ治療に当たりました。16床がほぼ満床、そのうち半分弱がコロナ患者で占められています。残念ながら亡くなる人も多いのですが、空いたベッドには容赦なくすぐに次の患者が入ってくるという状況です。また、医療崩壊が起きていたと見られるクイーンズ地区やブルックリン地区など、マンハッタンの外側の地域からも挿管された患者さんの転院搬送が多く、何とか捌いているという印象です。4月は当初の5倍までベッド数を増やしたICUですが、いまは2~3倍というところに抑えてられています。しかしながら通常のICUではないため、看護師の配置等はどうしても少なめになってしまうのが実情です。治療法は依然、第1波のころからほとんど進歩はなく、抗凝固療法、ステロイドをベースに人工呼吸器管理をするというものです。また、どれほど意味があるのかは不明ですが、酸素化が悪い場合は腹臥位にして無気肺の改善を図ります。やはり、ひとたび人工呼吸器に乗ってしまうと死亡率は非常に高く、われわれの施設のデータから報告されたICUでの死亡率は55%でした2)。サンクスギビングが感染契機となった人もおり、未然に防ぐこともできただけに、とても残念です。サンクスギビングが長らく文化として根付き、家族で集う大事な時だといっても、生命のリスクを追うほどものとは考えられません。抗凝固療法に関しては、Mount Sinai groupから出された観察研究のデータで肯定的な結果3)であったため、わたしの勤務病院でも使用していましたが、すべての人に経験的に使うというのは否定的になりつつあり4)、Dダイマーの数値を基に、経験的に調整している程度です。ステロイドもメタ解析で効果が期待されています5)が、もはや人工呼吸器が必要なほど肺が損傷すると、目に見えて効果を感じることができず6)、われわれのデータが示している通り、長期化すると真菌感染が全面に出てきています。参考1)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32762336/2)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32720702/3)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32860872/4)https://www.hematology.org/covid-19/covid-19-and-pulmonary-embolism5)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32876694/6)https://www.jstage.jst.go.jp/article/yoken/advpub/0/advpub_JJID.2020.884/_articleColumn画像を拡大する最前線でレジデントは働いているわけですが、2020年12月14日より、米国ではワクチンの使用が許可され、医療従事者を優先に投与が始まりました。私もICU勤務であることから、他の人より若干早い12月17日にPfizer/BioNTech社のワクチンを受け、今年1月8日に2回目を接種しました。とくにアレルギー等の副反応はなく、筋注なので上腕の筋肉痛が2~3日ありましたが、それもインフルエンザワクチンと同程度でした。

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COPD急性増悪、入院患者の約6%が肺塞栓症/JAMA

 呼吸器症状の急性増悪で入院した慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者において、あらかじめ定めた診断アルゴリズムを用いると、5.9%の患者に肺塞栓症が検出された。フランス・Centre Hospitalo-Universitaire de BrestのFrancis Couturaud氏らが、同国内の病院7施設で実施した前向き多施設共同横断研究「prevalence of symptomatic Pulmonary Embolism in Patients With an Acute Exacerbation of Chronic Obstructive Pulmonary Disease study:PEP研究」の結果を報告した。COPDで呼吸器症状が急性増悪した患者における肺塞栓症の有病率はこれまで明らかになっておらず、COPDの急性増悪で入院した患者に対していつどのように肺塞栓症のスクリーニングをするかが課題であった。JAMA誌2021年1月5日号掲載の報告。COPD急性増悪による入院患者を肺塞栓症診断アルゴリズムで評価 研究グループは、2014年1月~2017年5月の間に呼吸器症状の急性増悪のため入院したCOPD患者を対象に、あらかじめ定めた肺塞栓症診断アルゴリズム(改訂ジュネーブスコアによる検査前確率判定、Dダイマー検査、スパイラルCT肺血管造影+下肢圧迫超音波検査)を入院48時間以内に適用し、3ヵ月間追跡調査した(追跡調査最終日は2017年8月22日)。 主要評価項目は、入院48時間以内に診断された肺塞栓症であった。主な副次評価項目は、入院時に静脈血栓塞栓症を有していないとして抗凝固療法を受けなかった患者における3ヵ月間の肺塞栓症とした。その他の評価項目は、入院時および3ヵ月間の静脈血栓塞栓症(肺塞栓症または深部静脈血栓症)、ならびに3ヵ月間の死亡(静脈血栓塞栓症が臨床的に疑われるかどうかにかかわらない)とした。COPD急性増悪で入院後、2日以内に約6%で肺塞栓症が確認 COPD急性増悪のため入院した患者の計740例(平均[±SD]年齢68.2±10.9歳、女性274例[37.0%])が登録された。このうち、入院48時間以内に肺塞栓症が確認されたのは44例(5.9%、95%信頼区間[CI]:4.5~7.9%)であった。 COPD急性増悪による入院時に静脈血栓塞栓症を有していないと判定され抗凝固療法を受けなかった患者670例において、3ヵ月間の追跡期間中に肺塞栓症が確認されたのは5例(0.7%、95%CI:0.3~1.7%)で、このうち3例は肺塞栓症に関連して死亡した。 全例における3ヵ月死亡率は、6.8%であった(50/740例、95%CI:5.2~8.8%)。追跡期間中に死亡した患者の割合は、入院時静脈血栓塞栓症有病者が非有病者と比較して高かった(25.9%[14/54例]vs.5.2%[36/686例]、リスク差:20.7%、95%CI:10.7~33.8%、p<0.001)。 静脈血栓塞栓症の有病率は、肺塞栓症が疑われた患者(299例)で11.7%(95%CI:8.6~15.9%)、肺塞栓症が疑われなかった患者(441例)で4.3%(95%CI:2.8~6.6%)であった。 著者は、研究の限界として、呼吸器症状の急性増悪が軽度であった患者や重度呼吸不全患者は過小評価されている可能性があること、17.6%の患者は肺塞栓症の初回評価を完遂できていないことなどを挙げたうえで、「COPD患者における肺塞栓症の体系的なスクリーニングが果たしうる役割について、さらなる研究により理解する必要がある」とまとめている。

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日本人のCOVID-19による血栓症発症率は?

 合同COVID-19関連血栓症アンケート調査チームによる『COVID-19関連血栓症に関するアンケート調査』の結果が12月9日に発表された。それによると、日本人での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連血栓症の発症率は、全体では1.85%であることが明らかになった。 この調査は、COVID-19の病態の重症化に血栓症が深く関わっていることが欧米の研究で指摘されていることを受け、日本人COVID-19関連血栓症の病態及び診療実態を明らかにすることを目的として行われたもの。2020年8月31日までに入院したCOVID-19症例を対象とし、全国の病院399施設のうち109施設からCOVID-19患者6,082例に関する回答が寄せられた。なお、合同調査チームは厚生労働省難治性疾患政策研究事業「血液凝固異常症等に関する研究」班、日本血栓止血学会、日本動脈硬化学会の3組織合同によるもの。 主な調査結果は以下のとおり。・Dダイマーは症例全体の72%で測定され、入院中に基準値の3~8倍の上昇を認めたのはそのうちの9.5%、8倍以上の上昇を認めたのは7.7%と、多くの症例で血栓傾向がみられた。・血栓症は1.85%(血栓症に関する回答のあった5,687例のうち105例)に発症し、発症部位は(重複回答を可として)、症候性脳梗塞22例(血栓症症例の21.0%)、心筋梗塞7例(同6.7%)、深部静脈血栓症41例(同39.0%)、肺血栓塞栓症29例(同27.6%)、その他の血栓症21例(同20.0%)であった。・血栓症は、軽/中等症の症例での発症が31例(軽/中等症症例の0.59%)、人工呼吸器/ECMO使用中の発症が50例(人工呼吸/ECMO症例まで要した重症例の13.2%)であった。・症状悪化時に血栓症を発症したのは64例だったが、回復期にも26例が血栓症を発症していた。・抗凝固療法は、76病院で6,082例のうち880例(14.5%)に実施された。治療法の主な内訳は、未分画ヘパリン591例(880例中の67.2%)、低分子量ヘパリン111例(同13.0%)、ナファモスタット234例(同26.6%)、トロンボモジュリンアルファ42例(同4.8%)、前述の薬剤併用138例(同15.7%)、直接経口抗凝固薬[DOAC]91例(同10.3%)、その他42例(同4.8%)だった。・予防的抗凝固療法の実施について回答した49施設によると、予防的投与を行った患者背景として、Dダイマー高値、NPPV(非侵襲的陽圧換気)/人工呼吸患者、酸素投与患者などが挙げられた。

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