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非重症コロナ入院患者の心肺支持療法離脱に有用な治療法は?/JAMA

 非重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者の治療において、治療量のヘパリンにP2Y12阻害薬を上乗せしても、ヘパリン単独療法と比較して21日以内の心肺支持療法離脱日数(organ support-free days)は増加しなかった。米国・NYU Grossman School of MedicineのJeffrey S. Berger氏らが、ブラジル、イタリア、スペイン、米国の病院60施設で実施した非盲検並行群間比較ベイズ流適応型無作為化試験「Accelerating COVID-19 Therapeutic Interventions and Vaccines 4 Acute:ACTIV-4a」の結果を報告した。非重症のCOVID-19入院患者に対するヘパリン療法は、マルチプラットフォーム無作為化比較試験で生存日数や心肺支持療法離脱日数を増加することが示されたものの、患者の24%が死亡または集中治療を必要としたことから、この集団における追加治療が検討されていた。JAMA誌2022年1月18日号掲載の報告。ヘパリン+P2Y12阻害薬またはヘパリン単独に無作為化 研究グループは、2021年2月26日~6月19日の期間に、COVID-19で入院後72時間以内の患者で集中治療室(ICU)への入室は不要の非重症患者562例を、治療量のヘパリン+P2Y12阻害薬併用群(P2Y12阻害薬群、293例)、または治療量のヘパリン単独群(標準治療群、269例)に1対1の割合で無作為に割り付け、14日間または退院のいずれか早い日まで投与した。P2Y12阻害薬としてはチカグレロルが推奨されたが、クロピドグレルやプラスグレルの使用も認められた。90日間の最終追跡日は、2021年9月15日であった。 主要評価項目は、21日間における心肺支持療法離脱日数で、院内死亡(-1)と退院まで生存した患者については21日目までに呼吸/心臓系の心肺支持療法を受けなかった日数(範囲:-1~21日、スコアが高いほど心肺支持療法が少なくアウトカム良好を示す)を組み合わせた順序尺度で評価した。安全性の主要評価項目は、国際血栓止血学会により定義された28日までの大出血とした。ヘパリン+P2Y12阻害薬で、心肺支持療法離脱日数は改善せず、大出血リスクは3倍 無作為化された全562例(平均年齢52.7歳[SD 13.5]、女性41.5%)が試験を完遂し、87%が1日目に治療量のヘパリン投与を受けた。P2Y12阻害薬群では、63%がチカグレロル、37%がクロピドグレルを投与された。 心肺支持療法離脱日数の中央値は、P2Y12阻害薬群で21日(IQR:20~21)、標準治療群で21日(IQR:21~21)であった(補正後オッズ比[OR]:0.83、95%信頼区間[CI]:0.55~1.25、無益性の事後確率[オッズ比<1.2と定義]=96%)。死亡または心肺支持療法を必要とした患者の割合は、P2Y12阻害薬群(75例、26%)が標準治療群(58例、22%)より高かった(補正後ハザード比[HR]:1.19、95%CI:0.84~1.68、p=0.34)。 大出血は、P2Y12阻害薬群6例(2.0%)、標準治療群2例(0.7%)に認められた(補正後OR:3.31、95%CI:0.64~17.2、p=0.15)。

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若年者の再発VTEへの抗凝固療法、6週が3ヵ月に非劣性/JAMA

 21歳未満の若い誘発性静脈血栓塞栓症(VTE)患者において、6週の抗凝固療法は3ヵ月の同療法に対して、再発VTEリスクと出血リスクとのトレードオフに基づく非劣性基準を満たしたことが、米国・Johns Hopkins All Children's HospitalのNeil A. Goldenberg氏らによる無作為化試験「Kids-DOTT試験」で示された。VTEに対する抗凝固療法について、21歳未満の患者における至適な治療期間は不明であった。JAMA誌2022年1月11日号掲載の報告。5ヵ国42施設で417例を対象に無作為化試験 試験は、21歳未満の誘発性VTE患者に対する抗凝固療法について、6週投与は従来法の3ヵ月投与に非劣性であるとの仮説を検証するため、2008~21年に、5ヵ国42医療施設で登録された417例を対象に行われた(主要エンドポイントの最終受診評価は2021年1月)。主な除外条件は重度の抗凝固因子欠乏症またはVTE既往で、持続性の抗リン脂質抗体がなく、診断後6週時の再画像診断で血栓が解消または完全な閉塞は認められない患者を無作為化に2群に割り付け、6週(207例)または3ヵ月(210例)の抗凝固療法を行った。 主要有効性および安全性の評価は、治療割付盲検下の1年以内に、発生が中央で判定された症候性の再発VTEと臨床的に問題となる出血イベントであった。 主要解析はper-protocol集団における非劣性の評価で、非劣性の定義には、症候性再発VTEの絶対増加0%と臨床的に問題となる出血イベントの絶対リスク低下4%など、二変量のトレードオフが組み込まれた(二変量非劣性境界曲線の3つのポイント中の1ポイントとした)。主要有効性アウトカム1年累積発生率、6週群0.66%、3ヵ月群0.70% 無作為化された417例において、297例(年齢中央値8.3歳[範囲:0.04~20.9]、女性49%)が、主要per-protocol解析の基準を満たした。Kaplan-Meier法により、主要有効性アウトカムの1年累積発生率は、6週抗凝固療法群0.66%(95%信頼区間[CI]:0~1.95)、3ヵ月抗凝固療法群0.70%(0~2.07)だった。 両群の再発VTEおよび臨床的に問題となる出血イベントの絶対リスク差に基づき、非劣性が実証された。 有害事象の発生は、6週抗凝固療法群26%、3ヵ月抗凝固療法群32%で、最も頻度の高かった有害事象は発熱(それぞれ1.9%、3.4%)であった。

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ICU入室COVID-19患者にアトルバスタチンは有効か?/BMJ

 集中治療室(ICU)に入室した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)成人患者において、アトルバスタチンによる治療はプラセボと比較し、安全性は確認されたが、静脈/動脈血栓症、体外式膜型人工肺(ECMO)使用および全死亡の複合エンドポイントの有意な減少は認められなかった。イラン・Rajaie Cardiovascular Medical and Research CentreのBehnood Bikdeli氏らINSPIRATION-S試験グループが、同国11施設で実施した2×2要因デザインの無作為化比較試験の結果を報告した。BMJ誌2022年1月7日号掲載の報告。アトルバスタチン群290例、プラセボ群297例を比較 INSPIRATION-S(Intermediate vs Standard-Dose Prophylactic Anticoagulation in Critically-ill Patients With COVID-19:An Open Label Randomised Controlled Trial [INSPIRATION] -statin)試験は、ICUに入室した18歳以上のCOVID-19患者をアトルバスタチン(20mg 1日1回経口投与)群とプラセボ群に無作為に割り付け、退院状況にかかわらず無作為化後30日間投与し行われた。 有効性の主要評価項目は、30日以内の静脈/動脈血栓症、ECMO使用および全死亡の複合とした。事前に規定した安全性の評価項目は、肝酵素値の基準値上限3倍以上の患者の割合、臨床的に診断された心筋症などであった。有効性および安全性の評価は、治療の割り付けについて盲検化された臨床イベント委員会が行った。 2020年7月29日~2021年4月4日に、605例が無作為化された(アトルバスタチン群303例、プラセボ群302例)。なお、605例中343例は、先行して行われた、予防的抗凝固療法としてのヘパリン(エノキサパリン)の中等量と標準量を比較するINSPIRATION試験にも無作為化されており、262例はINSPIRATION試験終了後に無作為化された。 INSPIRATION-S試験の主要解析対象集団は605例中、適格基準を満たしていなかった14例と試験薬が投与されなかった4例を除く587例(アトルバスタチン群290例、プラセボ群297例)で、患者背景は年齢中央値57歳(四分位範囲:45~68)、女性256例(44%)であった。静脈/動脈血栓症・ECMO使用・全死亡の複合エンドポイントに両群で有意差なし 主要評価項目のイベントは、アトルバスタチン群で95例(33%)、プラセボ群で108例(36%)に認められた(オッズ比[OR]:0.84、95%信頼区間[CI]:0.58~1.21)。死亡は、アトルバスタチン群90例(31%)、プラセボ群103例(35%)であった(OR:0.84、95%CI:0.58~1.22)。静脈血栓塞栓症の発現率は、アトルバスタチン群2%(6例)、プラセボ群3%(9例)であった(OR:0.71、95%CI:0.24~2.06)。 心筋症は両群とも確認されなかったが、肝酵素値上昇はアトルバスタチン群で5例(2%)とプラセボ群で6例(2%)に認められた(OR:0.85、95%CI:0.25~2.81)。 なお、著者は「全体のイベント発生率が予想より低値であったため、臨床的に重要な治療効果を排除することはできない」とまとめている。

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新型コロナウイルス感染におけるDOACの意味:ランダム化比較試験か観察研究か?(解説:後藤信哉氏)

 観察研究にて、新型コロナウイルス感染による入院中の血栓イベント予防におけるDOACの価値は限定的とされた。血栓イベントリスクは退院後も高いと想定される。退院後の低分子ヘパリンの継続の根拠も確立されていない。本研究ではVTE risk 2~3以上、あるはD-dimer 500以上の症例を対象として抗凝固療法なしと1日10mgのrivaroxabanを比較するオープンラベルのランダム化比較試験である。退院後の抗凝固薬として標準治療は確立されていない。しかし、無治療と10mg rivaroxabanの比較試験の施行根拠を明確に説明することも難しい。本研究はブラジルの14の施設にて施行された。 一般的にランダム化比較試験は仮説検証試験として施行される。本研究は1国の、比較的少数(n=320)の仮説を生み出す研究である。血栓イベントリスクの高い症例が選択されているが、抗血栓薬なしの症例群でも退院後35日以内の血栓イベント発現率は9%(160例中15例)であった。この値には価値があると思う。今まで真剣に考えていなかったが、新型コロナウイルス感染の症例では退院後も油断はできない。血栓イベントリスクを評価して適切な対応が必要である。 さて、本試験では10mg/日のrivaroxabanと比較された。rivaroxaban群の血栓イベントは3%(159例中3例)と対象群よりも低かった。両群の出血イベントには差がなかった。 本研究成果を見て皆さんはどう考えるだろうか? ランダム化比較試験であるため実験的研究である。研究に必要な費用はrivaroxabanメーカーであるBayer社が負担している。オープンラベルの本研究の成果により新型コロナウイルスによる入院後の血栓リスクの高い症例の血栓イベント予防の適応にてrivaroxabanを承認するのは難しいと思われる。 ランダム化比較試験は標準治療の転換に用いられる。標準治療の転換を目指すランダム化比較試験でもボランティアは自らリスクをとって参加することになる。試験の結果に応じて次世代の標準治療が転換される。医師・患者のみならず企業、規制当局も国際共同ランダム化比較試験による科学的根拠が標準治療の転換に必要と考えている。筆者は、本研究はランダム化比較試験とするよりも新型コロナウイルス感染後の血栓イベントリスクの高い症例の観察研究でよかったと思う。観察研究では企業の資金を得られなかったかもしれない。前向き国際共同観察研究にて、新型コロナウイルス感染後の血栓イベントリスクの高い症例の血栓イベントが10%程度あることを確認し、その後に薬剤介入の効果を検証するランダム化比較試験ができればよかった。本研究には価値はあるが、筆者は被験者にはなりたくないと思ってしまう研究であった。

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高齢AF患者、リバーロキサバンvs.アピキサバン/JAMA

 65歳以上の心房細動患者に対し、リバーロキサバンはアピキサバンに比べて、主要な虚血性または出血性イベントリスクを有意に増大することが、米国・ヴァンダービルト大学のWayne A. Ray氏らが米国のメディケア加入者約58万例について行った後ろ向きコホート試験の結果、示された。リバーロキサバンとアピキサバンは、心房細動患者の虚血性脳卒中予防のために最も頻繁に処方される経口抗凝固薬だが、有効性の比較については不明であった。JAMA誌2021年12月21日号掲載の報告。脳卒中、全身性塞栓症、脳内出血、その他頭蓋内出血などの発生を両群で比較 研究グループは、65歳以上のメディケア加入者のコンピュータ登録および医療費請求の情報を用いて、後ろ向きコホート試験を行った。2013年1月~2018年11月に、心房細動でリバーロキサバンまたはアピキサバンの治療を開始した総計58万1,451例を、2018年11月30日まで最長4年間追跡した。 主要アウトカムは、主要な虚血性イベント(脳卒中、全身性塞栓症)と出血性イベント(脳内出血、その他頭蓋内出血、致死的頭蓋外出血)の複合とした。副次アウトカムは、非致死的頭蓋外出血と総死亡(追跡期間中の致死的虚血性/出血性イベントまたはその他の原因による死亡)だった。 発生率、ハザード比(HR)および率差(RD)を、ベースラインの併存疾患について傾向スコアの逆数を重み付けした解析法(IPTW)で補正して算出し比較検討した。低用量服用者でも、リバーロキサバン群で主要アウトカム発生1.3倍 被験者の平均年齢は77.0歳、女性は50.2%、リバーロキサバンまたはアピキサバンの低用量服用者は23.1%で、延べ追跡期間は47万4,605人年だった(追跡期間中央値:174日[IQR:62~397])。 補正後主要アウトカム発生率は、リバーロキサバン群の16.1件/1,000人年に対し、アピキサバン群は13.4件/1,000人年と低率だった(RD:2.7[95%信頼区間[CI]:1.9~3.5]、HR:1.18[1.12~1.24])。 また、リバーロキサバン群はアピキサバン群よりも、主要虚血性イベント(8.6 vs.7.6件/1,000人年、RD:1.1[95%CI:0.5~1.7]、HR:1.12[95%CI:1.04~1.20])、主要出血性イベント(7.5 vs.5.9件/1,000人年、RD:1.6[1.1~2.1]、HR:1.26[1.16~1.36])の発生率がいずれも高率だった。致死的頭蓋外出血は1.4 vs.1.0件/1,000人年(RD:0.4[0.2~0.7]、HR:1.41[1.18~1.70])だった。 非致死的頭蓋外出血(39.7 vs.18.5/1,000人年、RD:21.1[95%CI:20.0~22.3]、HR:2.07[95%CI:1.99~2.15])、致死的虚血性/出血性イベント(4.5 vs.3.3/1,000人年、RD:1.2[0.8~1.6]、HR:1.34[1.21~1.48])、総死亡(44.2 vs.41.0/1,000人年、RD:3.1[1.8~4.5]、HR:1.06[1.02~1.09])のいずれの発生率も、リバーロキサバン群がアピキサバン群に比べ高率だった。 なお、低用量服用者(27.4 vs.21.0/1,000人年、RD:6.4[95%CI:4.1~8.7]、HR:1.28[1.16~1.40])と標準用量服用者(13.2 vs.11.4/1,000人年、RD:1.8[1.0~2.6]、HR:1.13[1.06~1.21])を別にみた場合も、主要アウトカム発生はリバーロキサバン群がアピキサバン群に比べ高率だった。

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COVID-19退院後の血栓イベント予防に、抗凝固療法が有用/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で入院した高リスク患者において、退院後のリバーロキサバン10mg/日投与は抗凝固療法を行わない場合と比較し35日後の臨床アウトカムを改善することが、無作為化非盲検試験「MICHELLE試験」で示された。ブラジル・Science Valley Research InstituteのEduardo Ramacciotti氏らが報告した。COVID-19で入院した患者は、退院後に血栓イベントのリスクがあるが、この集団における血栓予防の効果は不明であった。Lancet誌オンライン版2021年12月15日号掲載の報告。退院時にリバーロキサバン10mg/日投与と抗凝固療法なしに無作為化、35日間追跡 研究グループは、ブラジルの14施設において、COVID-19により入院し、静脈血栓塞栓症(VTE)のリスクが高い患者(VTE予防のための国際登録「IMPROVE」のVTEスコア≧4、または2~3でDダイマー>500ng/mL)を、退院時にリバーロキサバン10mg/日を投与する群(リバーロキサバン群)と抗凝固療法を行わない群(対照群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 有効性の主要評価項目は、35日目における症候性または致死性VTE、両側下肢静脈超音波検査およびCT肺血管造影による無症候性VTE、症候性動脈血栓塞栓症、および心血管死の複合とし、盲検下で判定した。安全性の主要評価項目は大出血。いずれもintention-to-treat解析を行った。リバーロキサバン群で血栓イベントリスクが67%低下 2020年10月8日~2021年6月29日の間に997例がスクリーニングされ、このうち適格基準を満たした320例が登録され、リバーロキサバン群(160例、50%)または対照群(160例、50%)に無作為に割り付けられた。 全例、入院中は標準用量のヘパリンによる血栓予防を行った。165例(52%)は入院中に集中治療室に入室しており、197例(62%)はIMPROVEのVTEスコアが2~3のDダイマー高値例、121例(38%)は同スコア≧4であった。2例(各群1例)は、同意を撤回したため追跡調査ができず、解析から除外された。 有効性主要評価項目の複合イベントは、リバーロキサバン群で159例中5例(3%)、対照群で159例中15例(9%)に発生し、相対リスクは0.33(95%信頼区間[CI]:0.12~0.90、p=0.0293)であった。 両群とも大出血は認められなかった。リバーロキサバン群で2例(1%)にアレルギー反応が報告された。

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肺塞栓除外、YEARS基準+D-ダイマー年齢補正カットオフ値が有効/JAMA

 肺塞栓症の疑いで救急部門に搬送され、肺塞栓症除外基準(PERCルール)で除外できなかった患者について、YEARS基準とD-ダイマー年齢補正カットオフ値を組み合わせた診断戦略は、従来のD-ダイマー年齢補正カットオフ値のみによる診断戦略と比べて非劣性であることが、フランス・ソルボンヌ大学のYonathan Freund氏らが1,414例を対象に行った無作為化試験で示された。YEARS基準+D-ダイマー診断群では、胸部画像撮影実施率も約9%低減し、救急部門入院期間は短縮したという。これまで非コントロール試験では、YEARS基準とさまざまなD-ダイマーのカットオフ値を組み合わせた診断戦略が、安全に肺塞栓症を除外できることが示されていた。JAMA誌2021年12月7日号掲載の報告。肺塞栓をYEARS基準とD-ダイマー年齢補正カットオフ値で除外 研究グループは2019年10月~2020年6月にかけて、フランスとスペインの18ヵ所の救急部門で、肺塞栓症の臨床的リスクは低いもののPERCルールで除外できなかった患者、または肺塞栓症の主観的な中等度の臨床リスクが認められた患者の合計1,414例を対象に、クラスター無作為化クロスオーバー非劣性試験を行った。追跡は、2020年10月まで行った。 各試験センターで、無作為に介入期間とコントロール期間の順序が決められた。介入期間に、YEARS基準に該当せずD-ダイマー値が1,000ng/mL未満、またはYEARS基準1以上に該当しD-ダイマー値が年齢補正カットオフ値(50歳未満は500ng/mL、50歳以上は年齢×10ng/mL)未満の患者について、胸部画像なしで肺塞栓症を除外した(726例)。 コントロール期間では、D-ダイマー値が年齢補正カットオフ値未満の場合に、胸部画像なしで肺塞栓症を除外した(688例)。 主要エンドポイントは、3ヵ月時点の静脈血栓塞栓症(VTE)の発生率で、非劣性マージンは1.35%とした。副次エンドポイントは8項目で、いずれも3ヵ月時点で評価した胸部画像撮影、救急部門入院期間、入院、非適応抗凝固療法、全死因死亡、あらゆる再入院などだった。肺塞栓除外のYEARS基準とD-ダイマー年齢補正カットオフ値の組み合わせは有効 被験者数1,414例(平均年齢55歳、女性58%)のうち、1,217例(86%)を対象にper-protocol解析が行われた。 試験期間中に、救急部門で肺塞栓症の診断を受けたのは100例(7.1%)だった。3ヵ月時点で、VTE発症は介入群1例(0.15%、95%信頼区間[CI]:0.0~0.86)に対し、コントロール群5例(0.80%、0.26~1.86)で、介入群の非劣性が示された(補正後群間差:-0.64%、片側97.5%CI:-∞~0.21)。 解析を行った6項目の副次エンドポイントのうち有意差が認められたのは、胸部画像撮影の実施率(介入群30.4% vs.コントロール群40.0%、補正後群間差:-8.7%[95%CI:-13.8~-3.5])、救急部門入院期間の中央値(6時間[IQR:4~8]vs.6時間[5~9]、補正後群間差:-1.6時間[95%CI:-2.3~-0.9])の2項目のみだった。

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広い範囲で有効なアスピリンでもCOVID-19には効かないみたい(解説:後藤信哉氏)

 アスピリンには抗炎症効果がある。また、アスピリンは心筋梗塞などの血栓イベント予防効果もある。COVID-19はウイルス感染なので炎症が起こる。COVID-19では血栓症も増える。抗炎症効果、抗血栓効果のあるアスピリンはCOVID-19の予後改善効果があると期待された。 話は変わるが筆者はOxford大学と密接に共同研究している数少ない日本の研究者であると思う。Oxford大学は多くのカレッジからなる。臨床研究を主導するのはNuffield Department of Population Health(旧称 Clinical Trial Service Unit:CTSU)である。彼らの臨床医学における実証的ポリシーは揺るがない。バイアスをなくすために大規模ランダム化比較試験により臨床的仮説を徹底的に検証する。COVID-19 pandemicと同時に、少しでも効きそうな治療法についてランダム化比較試験を行うRECOVERY試験を開始した。本研究を主導したMartin Landray教授は筆者の長年の共同研究相手である。RECOVERY試験は次々と成果を生み出している。本年のエリザベス女王の誕生日にLandray教授はRECOVERY試験の貢献により女王陛下のknightに任命され、Sir. Martin Landray教授になった。臨床医学の貢献に対してSirの称号と名誉を与える英国の対応は日本でも真似できるかもしれない。 COVID-19の症例でもアスピリンは28日間の観察期間における血栓性イベントを5.3%から4.6%に減少させ、重篤な出血イベントを1.0%から1.6%に増加させた。つまり、簡易なランダム化比較試験でもアスピリン群ではしっかり薬剤を服用していたと想定される。しかし、死亡率には差がなかった。経過中の人工呼吸器の装着にも差がなかった。カプランマイヤーカーブを見ると、わずかにアスピリン群の予後が良いようにも見える。しかし、14,892例のランダム化比較試験では、アスピリンによる予後改善効果は否定されてしまった。 COVID-19は本当に厄介な病気である。

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DOAC時代の終わりの始まり(解説:後藤信哉氏)

 製薬企業というのは戦略的な情報企業だと思う。経口Xa阻害薬アピキサバン、リバーロキサバンが世界で毎年1兆円以上売れている。現状をつくるために、製薬企業はきわめて巧みな情報統制を行った。非弁膜症性心房細動は、心不全、突然死などのリスクのマーカーである。しかし、「非弁膜症性心房細動=脳血栓塞栓症」と徹底的に宣伝した。確かに、心房細動症例に脳卒中が多いことはFramingham研究が示した事実である。しかし、脳血栓塞栓症が多いことは誰も示していない。部分的に真実を入れた広報はプロパガンダの初歩である。将来を見越してしっかりとストーリーをつくった能力には敬服する。 筆者は経口Xa阻害薬など(DOAC)の開発を主導したが、途中で限界が明確に見えてしまった。しかし、企業は第III相試験の結果を徹底的に使ってDOACを広報した。心房細動の脳卒中予防試験は4種のDOACにとっておおむね成功であった。成功の最大の鍵は対照群をPT-INR 2-3のワルファリン治療としたところにあった。実臨床ではPT-INR 2程度を標的としていた医師が多かったのではないだろうか? PT-INR 2-3を過去の標準治療とする明確な根拠はなかった。PT-INRが高くなれば頭蓋内出血、出血性脳卒中が増える。DOAC開発試験の有効性エンドポイントは脳卒中であったため、出血性脳卒中は有効性エンドポイントとなる。まったくの嘘ではない。部分的な真実を入れたプロパガンダはワルファリン群との比較でも成功であった。 ランダム化比較試験を実行していないと気付かないが、DOAC開発試験のワルファリン群のPT-INRは通常の臨床と同じ方法で計測されたわけではない。医師も患者も、ワルファリン服用なのか、DOAC服用なのかわからない。そこで、ベッドサイドで採血して、割り付け番号を入れるとワルファリン群ではPT-INRが、DOAC群では嘘の値が出るPOC装置が使われた。POCによる計測は検査室と同じではない。さまざまにワルファリン群に制限をかけてようやくDOACの認可・承認に至った。 特許期間には膨大な利潤がある。DOAC開発企業・株主は大きなメリットを得た。しかし、特許は喪失する。低分子化合物なので原価数十円に近いジェネリック品に置き換わる。利潤が年間兆円規模となると次が苦しい。血液凝固第XI因子は出血を惹起しない抗凝固標的として以前から注目されていた。Xa阻害薬が売れている間は、XI阻害薬への期待などを企業は話せない(自らのXa阻害薬の欠点:出血リスクを自ら認めることになるので…)。しかし、Xa阻害薬の特許が切れたら、スムーズに次につながる新薬が欲しい。 AXIOMATIC-TKR試験の結果は、経口薬milvexianに血栓イベント抑制効果があること、効果に用量依存性がありそうなこと、重篤な出血リスクは増えなそうことを示唆した。 製薬企業はDOACからXI阻害薬へのスムーズな転換への論理を示せるだろうか? 本研究は第III相試験の用量決定には役立つと想定される。DOACの開発ではワルファリンのPT-INRの恣意的な調節により、一種、人工的な差を出すことに成功した。今後第III相に進むとすれば、市場規模の大きな血栓症ではDOACとの比較試験が必要となる。DOACに勝る有効性、安全性を第III相試験で示しても、マーケットでの競争は安価なDOACのジェネリック品となる。世界の俊英を集めた巨大製薬企業のブレインたちは、次世代の巨大な利潤に向けたmilvexianの絵を描けるだろうか? 筆者は、新薬の価格を著しく釣り上げて特許期間内のみ巨額の利潤を得る現在のモデル自体の転換が必要と考えている。さまざまな意味で期待を持たせる論文であった。

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新規経口抗凝固薬milvexianが術後VTE予防に有効/NEJM

 新規経口第XIa因子阻害薬milvexianは、人工膝関節置換術後の静脈血栓塞栓症予防に有効であり、出血のリスクは低いことが示された。カナダ・マックマスター大学のJeffrey I. Weitz氏らが、エノキサパリンと比較するアダプティブデザインの第II相無作為化並行群間比較試験「AXIOMATIC-TKR試験」の結果を報告した。静脈および動脈血栓塞栓症の予防と治療において、第XIa因子阻害薬は従来の抗凝固薬より効果的で出血も少ない可能性が示されていた。著者は、「milvexianの有効性と安全性については、さらなる研究が必要である」とまとめている。NEJM誌オンライン版2021年11月15日号掲載の報告。milvexian 1日2回投与4用量、1日1回投与3用量vs.エノキサパリン 研究グループは、待機的人工膝関節置換術を受ける50歳以上の患者1,242例を、術後にmilvexian 25mg/50mg/100mg/200mgを1日2回投与、または25mg/50mg/200mgを1日1回投与、またはエノキサパリン40mgを1日1回投与する7群のいずれかに無作為に割り付けた(非盲検)。 有効性の主要評価項目は静脈血栓塞栓症(無症候性深部静脈血栓症、確定診断された症候性静脈血栓塞栓症、全死因死亡の複合)で、安全性の主要評価項目は出血とした。25~200mg 1日2回投与は、エノキサパリンよりVTEの発生が有意に低い 静脈血栓塞栓症は、エノキサパリン群54/252例(21%)に対して、milvexianの1日2回投与集団では25mg群27/129例(21%)、50mg群14/124例(11%)、100mg群12/134例(9%)、200mg群10/131例(8%)で発生した。milvexianの1日1回投与集団では25mg群7/28例(25%)、50mg群30/127例(24%)、200mg群8/123例(7%)であった。 milvexian 1日2回投与集団では有意な用量反応性が認められ、同集団の静脈血栓塞栓症の発生率は12%(63/518例)で、事前に設定した基準値である30%より有意に低かった(片側p<0.001)。 すべての出血(重症度を問わない)の発生は、milvexian群38/923例(4%)、エノキサパリン群12/296例(4%)であった。大出血または臨床的に重要な非大出血はそれぞれ1%および2%に認められ、重篤な有害事象はそれぞれ2%および4%報告された。

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コロナ入院患者にアスピリン併用は有効か/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者において、アスピリンによる治療は28日死亡率、侵襲的人工呼吸管理への移行または死亡のリスクを低下させなかったが、28日以内の生存退院率はわずかに改善した。無作為化非盲検対照プラットフォーム試験「RECOVERY試験」の結果で、英国・オックスフォード大学のPeter W. Horby氏らRECOVERY試験共同研究グループが報告した。これまで、その抗血栓性に基づきCOVID-19に対する治療薬としてアスピリンが提案されていたが、著者らは、「今回の結果は、COVID-19入院患者において、標準的な血栓予防や治療的抗凝固療法としてアスピリンを追加することを支持するものではない」とまとめている。Lancet誌オンライン版2021年11月17日号掲載の報告。通常治療単独とアスピリン併用の有効性を28日死亡率などで比較 RECOVERY試験は、COVID-19入院患者においてさまざまな治療法の有効性を評価する医師主導の試験で、英国177施設、インドネシア2施設、ネパール2施設で実施された。 研究グループは、適格基準を満たし同意が得られたCOVID-19入院患者を、通常の標準治療+アスピリン(150mg、1日1回)群または通常治療群に、Webシステムを用いて1対1の割合(非層別)で無作為に割り付けた。 主要評価項目は28日死亡率で、intention-to-treat解析で評価した。28日死亡率に有意差なし、入院期間と28日以内の生存退院率はわずかに改善 2020年11月1日~2021年3月21日にRECOVERY試験に登録された2万2,560例中、1万4,892例(66%)が適格基準を満たし、7,351例がアスピリン群に、7,541例が通常治療群に割り付けられた。 全体で無作為化から28日以内に、アスピリン群で1,222例(17%)、通常治療群で1,299例(17%)が死亡した(率比:0.96[95%信頼区間[CI]:0.89~1.04]、p=0.35)。事前に規定したすべてのサブグループで、一貫した結果が得られた。 アスピリン群では通常治療群より入院期間がわずかに短く(中央値8日[IQR:5~>28]vs.9日[5~>28])、28日以内の生存退院率が高かった(75% vs.74%、率比:1.06[95%CI:1.02~1.10]、p=0.0062)。 ベースラインで侵襲的人工呼吸管理を受けていなかった患者において、侵襲的人工呼吸管理または死亡に至った割合に有意差はなかった(21% vs.22%、リスク比:0.96[95%CI:0.90~1.03]、p=0.23)。 アスピリンは、血栓イベントの減少(4.6% vs.5.3%、絶対群間差:-0.6%、SE:0.4%)、および大出血イベントの増加(1.6% vs.1.0%、絶対群間差:0.6%、SE:0.2%)と関連していた。 結果について著者は、本無作為化試験は非盲検試験で、入院患者のみを対象としており、放射線学的または生理学的アウトカムに関する情報が不明であることなどを研究の限界として挙げている。なお、現在、入院していないCOVID-19患者におけるアスピリンの安全性と有効性に関する臨床試験が進行中である。

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患者が後発品への変更を嫌がる薬剤は?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第79回

後発医薬品の品質問題や供給停止の影響で、新規採用する薬剤の情報収集に追われている薬局は多いと思います。そのような中、東京都薬剤師会が後発医薬品に変更しにくい薬剤についてのアンケートを実施し、結果を公表しました。東京都薬剤師会は11月5日の定例会見で、後発品の使用実態に関する調査の続報を明らかにした。すでに示した「変更し難い医薬品」について、具体的な品目名を公表。薬局において変更しにくい内服薬は「エディロールカプセル」と後発品の「エルデカルシトールカプセル」が最も多く、次いで「デパス」「マイスリー錠」と続いた。同様に外用薬は「ヒルドイド」と後発品の「ヘパリン類似物質」が最多で、「モーラス」と「ケトプロフェンテープ」、「ロキソニン」と「ロキソプロフェンナトリウム」の順だった。(2021年11月8日付 RISFAX)この調査は2021年9月に実施されたもので、938人の管理薬剤師と薬局開設者が回答しました。後発医薬品に変更しにくい背景には、薬剤師としての視点だけでなく、実際には患者さんや医師からの要望や領域特有の難しさなどさまざまな理由があります。その品目や問題点を明らかにすることで、今後の使用推進につなげたいという目的があるのでしょう。まず、内服薬についてです。後発医薬品に変更しにくいと回答した薬局が30軒を超えたものは以下の17品目でした(カッコ内の数字は回答数)。なお、先発医薬品から後発医薬品への変更だけでなく、後発医薬品から後発医薬品への変更も含みます。1位エディロール(148)2位デパス(119)3位マイスリー(112)4位ロキソニン(100)5位アレロック(80)6位ハルシオン(80)7位メインテート(69)8位オノン(51)9位エルデカルシトール(47)10位レンドルミン(42)11位ビソプロロールフマル酸塩(41)12位サンバルタ(39)13位ノルバスク(38)14位アムロジン(36)15位ユベラ(34)16位アルファカルシドール(33)17位デパケン(30)変更しにくい理由は「患者希望」が41%、「後発医薬品が入手できない」が38%と高い割合でしたが、「医師の指示」も16%ありました。1位や9位など供給停止が原因の品目は今年ならではですが、それ以外では精神科系と循環器系の品目が多いという印象を受けます。精神科系の薬剤を変更した患者さんから効かなくなったと言われた…というのはしばしば耳にしますので、やはりハードルが高いのでしょう。次に、外用薬についてですが、上位10品目は以下のようになりました(カッコ内の数字は回答数)。1位ヒルドイド(669)2位モーラス(551)3位ロキソニンテープ(289)4位アンテベート(84)5位ホクナリンテープ(57)6位ヒアレイン(49)7位リンデロン(46)8位プロトピック(25)9位キサラタン(24)9位シムビコート(24)外用薬の変更しにくい理由は「患者の希望」が約60%を占めました。外用薬は先発医薬品と後発医薬品で使用感が異なることがあり、それを気にする患者さんがいることは知っていましたが、思っていたよりも多いのかなという印象です。ただ、個人的には、患者さんが後発医薬品を実際に使用したうえで先発医薬品を希望しているのか、後発医薬品は未使用だけれども薬価が安いなどの理由で先発医薬品のままでいいと考えているのかが気になります。また、「後発品調剤体制加算を1段階昇格するための重要な品目は何か」という問いに対して、外用薬を挙げる薬局が多くみられました。患者さんがこだわる使用感をどのように説明してフォローするかが1段階昇格の鍵となりそうです。使用感が異なる後発医薬品は同等ではない!?調査を実施した東京都薬剤師会の永田 泰造会長は、外用薬を変更しにくい理由として最も割合が高かった「患者希望」に関し、貼り心地や塗り心地といった使用感に問題があると指摘して「60%の患者がノーと言っている以上、先発とは同等のものではない」「こうした外用薬は後発品カテゴリーから除外すべきではないか」といった内容の発言をしたと報じられています。この発言に関しては、後発医薬品は先発医薬品と有効成分は同じであり、製剤的に改良していることもあるのに、使用感が違うのなら除外しようというのはちょっと乱暴に思います。しかし、患者さんが求める後発医薬品はどうあるべきか考え直すよい機会かもしれません。参考1)【東京都薬剤師会後発薬調査】「変更し難い医薬品」名を公表/内服1位はエディロール/外用薬1位はヒルドイド/永田会長「製剤技術異なる外用薬は単なる後発薬カテゴリーからはずすべき」|ドラビズon-line(dgs-on-line.com)2)後発品に変更できにくい内服薬は「エディロール」 都薬調査、外用薬は「ヒルドイド」と「モーラス」|日刊薬業(jiho.jp)

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がんと血栓症、好発するがん種とリスク因子は?【見落とさない!がんの心毒性】第8回

がん患者における血栓症は、頻度が多いにも関わらず見逃されやすい病気です。慎重な身体診察と適切な検査を行うことで、早期診断、早期治療を行うことが重要です。近年、がん患者の血栓症の発症頻度は増加傾向にあり、がん関連血栓症(CAT :Cancer-Associated Thrombosis)と呼ばれて注目されています。とくに、深部静脈血栓症(DVT)と肺血栓塞栓症(PTE)を合わせた静脈血栓塞栓症(VTE :venous thromboembolism)の頻度が高く、入院中のがん患者では約20%に起こると報告されています1)。主な原因は、がんや治療による血液凝固能の異常な活性化、長期臥床や血管の圧迫などによる血流のうっ滞、検査や治療による血管内皮障害により静脈血栓が形成されやすくなることです。さらに、診断率の向上、がん治療の長期化、がん患者の高齢化、心血管毒性を有する抗がん剤の使用なども増加の一因と考えられています。一方、がん患者の動脈血栓塞栓症の頻度は1%以下ですが、脳梗塞、心筋梗塞、末梢動脈疾患などの重篤な病態の原因となり注意が必要です。本稿では、VTEの診断と治療のポイントを解説します。症状と診断VTEを診断するための重要なポイントは、症状を見逃さないように注意深く病歴を聴取し、全身の診察を怠らないことです。DVTの症状では、四肢の腫脹、疼痛、皮膚の色調変化が重要ですが、時に症状に乏しく突然のPTEを来たして診断されることもあります。PTEの症状では、呼吸困難、胸痛が多く、そのほかに咳嗽、喘鳴、動悸、失神などが見られます。急性PTEは致死率が高いため、Dダイマー上昇などの検査所見からVTE を疑うことも重要です。(表1)にDVT、PTEの診断を予測する代表的な「Wellsスコア」「改訂ジュネーブスコア」を示します。「Wellsスコア」では合計点数が3点以上では高リスクで精査が必要ですが、2点以下(低or中リスク)でDダイマー陰性であればDVTの可能性は低くなります2)。「改訂ジュネーブスコア」においてPTEの頻度は1点以下で7.7%(95%信頼区間[CI]:5.2~10.8)、2~4点で29.4%(%同:26.6~33.1)、5点以上では64.3%(同%:48.0~78.5) と予測されています3)。日本のガイドラインでも、問診・診察・Dダイマー検査を行い、DVTが疑われる場合は下肢静脈超音波検査・造影CT、PTEの場合は胸部造影CTなどで確定診断を行うことを推奨しています4)。(表1)DVT、PTE診断における代表的なスコア画像を拡大するVTEのリスク因子がん患者におけるVTE発症のリスク因子は(表2)に示すように患者・がん・治療関連の因子に大別されます。先天性血栓素因やVTEの既往などの一般的な患者関連リスク因子に加えて、がん関連またはがん治療関連リスク因子が報告されています。がんの原発部位別にみると、膵臓がん、胃がん、脳腫瘍でVTEのリスクが高く、組織型、進行度も重要です。また、大手術や中心静脈カテーテル留置もリスクを上げます5)。化学療法中のがん患者は、非がん患者と比べるとVTE発症のリスクが6~7倍上昇すると報告され6)、とくに血管新生阻害薬、血液がんの治療に用いる免疫調整薬、ホルモン療法(タモキシフェンなど)では注意が必要です。(表2)がん患者のVTE発症リスク因子画像を拡大する管理法・治療法VTEの標準治療は抗凝固療法です。本邦で使用可能な抗凝固療法には点滴製剤である未分画ヘパリン(海外では低分子ヘパリンが推奨)、経口製剤としてワルファリン、直接経口抗凝固薬(DOAC)のアピキサバン、エドキサバン、リバーロキサバンなどがあり、経口製剤単独もしくは点滴製剤と組み合わせて治療を行います。DOACは、がん患者を対象とした大規模臨床試験(Hokusai-VTE Cancer7)、CARAVAGGIO8)、SELECT-D9))において、VTE再発や重篤な出血に関して低分子ヘパリンと比較して遜色ない良好な成績が示されたことから、海外の最新のガイドラインではがん患者の急性VTEに対する治療として推奨されています10)。しかし、がん患者では抗がん剤と抗凝固薬との薬物相互作用(例:ワルファリンと5−FU)、抗凝固療法による出血リスクの上昇など、患者ごとに慎重な抗凝固療法の適応判断と薬剤選択を検討する必要があります。抗凝固療法の継続期間は、がん患者では再発リスクの観点から3ヵ月以上の長期的な使用が推奨されています。(表3)DOAC3剤とワルファリンの注意点画像を拡大するそのほかの治療として、血行動態が不安定となるような重症PTEに対して血栓溶解療法(商品名:クリアクター)や外科的血栓除去術を行うこともあります。また抗凝固療法が困難な症例や、抗凝固療法を行っているにもかかわらずVTEが増悪する症例に対しては下大静脈フィルターを留置し突然死を予防することもあります。VTEを発症した症例において、がん治療を中断・中止すべきかどうかは、個々の例の状況に応じて、腫瘍内科医と循環器内科医とが緊密に連携して検討する必要があります。1)Lecumberri R, et al. Thromb Haemost. 2013;110:184-190.2)Wells PS, et al. Lancet.1995;345:1326-1330.3)Klok FA, et al. Arch Intern Med. 2008;168:2131-2136.4)日本循環器学会編. 日本循環器学会編. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン)2017年改訂版)5)Ay C, et al. Thromb Haemost. 2017;117:219-230.6)Blom JW, et al. JAMA. 2005,;293:715-722.7)Raskob GE, et al. N Engl J Med. 2018;378:615-624.8)Agnelli G, et al. Engl J Med. 2020;382:1599-1607.9)Young AM, et al. J Clin Oncol. 2018;36:2017-2023.10)Stevens SM, et al. Chest. 2021 Aug 2.[Epub ahead of print]講師紹介

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COVID-19の血栓症は本当の問題なのか?(解説:後藤信哉氏)

 新型コロナウイルス感染は血管内皮細胞にも起こる。血管内皮細胞障害を介して深部静脈血栓症、脳血栓症などが増える。とくに、最初の武漢からのレポートでは入院例にヘパリン抗凝固療法を施行していないこともあり、約半数の症例に静脈血栓イベントを認めたと注目された。米国、欧州などでは静脈血栓イベント予防のための低分子ヘパリンがルーチンになっていたが、それでも10~20%の症例に静脈血栓イベントを認めた。また、最近のランダム化比較試験にて静脈血栓の治療量を用いても、予防量投与時と重症化後には重篤な予後イベント発症率に差がないとされた。 本研究では症候性ではあるが外来症例が対象とされた。新型コロナウイルス感染の予後が血栓症により規定されているのであれば、従来確立された抗血栓療法である抗血小板薬アスピリン、抗凝固薬アピキサバンは有効なように思われる。考えられた仮説に対してランダム化比較試験による検証をするのが欧米人の偉いところである。登録された症例はPCR陽性、有症候性の40~80歳の男女であった。コントロール、アスピリン、予防量、治療量のアピキサバンの4群比較試験であった。死亡、血栓症などをエンドポイントとした実臨床ベースのランダム化比較試験であった。当初7,000例の登録を目標としたが、予想よりもイベントが著しく少なかったため、657例が対象になったときにDSMBの勧告により試験は中止となった。登録症例のうち22例が45日以内に肺炎にて入院となった。アスピリンまたはアピキサバンを服用した症例のうち、血栓イベントなどの有効性1次エンドポントを発現したのは3例であった。136例のコントロールでの血栓イベントも1例にすぎなかった。 新型コロナウイルス感染の入院例にて血栓イベントが多かったことは事実であった。しかし、有症候であっても外来通院中の症例の血栓イベントは決して多くはない。新型コロナウイルス感染による血栓イベントのメカニズムの解明には本研究は大きく期待できた。しかし、コントロールの血栓イベントの少なさから考えると、アスピリンとアピキサバンの比較まで行うためには数万人の登録が必要と思われる。有症候であっても外来通院中の症例には必ずしも抗血栓療法は必要ないらしい、くらいが本論文が示した結果と思う。

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D-ダイマー高値のコロナ中等症、ヘパリン治療量の有効性は?/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で入院したD-ダイマー高値の中等症患者において、治療量のヘパリンは主要評価項目の有意な改善には至らなかったが、28日死亡リスクは低下し、大出血リスクは低いと考えられることが、カナダ・トロント大学のMichelle Sholzberg氏らによる医師主導の多施設共同無作為化非盲検(評価者盲検)比較試験「RAPID試験」で示された。これまで、無作為化試験において、治療量のヘパリンは中等症のCOVID-19入院患者には有益であるが、重症患者には効果がなく、治療量ヘパリンの開始時期が重要であることが示唆されていた。BMJ誌2021年10月14日号掲載の報告。治療量または予防量のヘパリンを28日間投与 研究グループは、中等症のCOVID-19入院患者に対するヘパリンの治療量と予防量の有効性を比較する目的で、ブラジル、カナダ、アイルランド、サウジアラビア、アラブ首長国連邦および米国の28施設においてRAPID試験を実施した。 対象は、2020年5月29日~2021年4月12日に中等症COVID-19で入院し、D-ダイマー値上昇が認められた成人465例。治療量ヘパリン群(228例)または予防量ヘパリン群(237例)に、施設と年齢(≦65歳、>65歳)で層別化し1対1の割合で無作為に割り付けた。無作為化後24時間以内にヘパリン(低分子ヘパリンまたは未分画ヘパリン)による各用量での治療を開始し、退院、28日目、試験中止または死亡のいずれか早い時期まで継続した。 主要評価項目は、28日目までの全死因死亡、侵襲的機械換気、非侵襲的機械換気または集中治療室(ICU)入室の複合エンドポイント。副次評価項目は、全死因死亡、全死亡または機械的換気の複合、および静脈血栓塞栓症などで、安全性評価項目は大出血などであった。治療量ヘパリン群、28日全死因死亡リスクが有意に低下 被験者465例の背景は、平均年齢60歳、264例(56.8%)が男性、BMI平均値は30.3であった。 28日時点で主要評価項目のイベントは、治療量ヘパリン群で16.2%(37/228例)、予防量ヘパリン群で21.9%(52/237例)に発生した(オッズ比[OR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.43~1.10、p=0.12)。 死亡は、それぞれ4例(1.8%)および18例(7.6%)に発生(OR:0.22、95%CI:0.07~0.65、p=0.006)、全死因死亡と機械的換気の複合イベントはそれぞれ23例(10.1%)および38例(16.0%)に認められた(0.59、0.34~1.02、p=0.06)。 静脈血栓塞栓症の発生は、治療量ヘパリン群2例(0.9%)、予防量ヘパリン群6例(2.5%)で(OR:0.34、95%CI:0.07~1.71、p=0.19)、大出血はそれぞれ2例(0.9%)、4例(1.7%)(0.52、0.09~2.85、p=0.69)報告された。

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新時代のタニマチをMASTER DAPT試験から考える【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第41回

第41回 新時代のタニマチをMASTER DAPT試験から考える2021年8月末に開催されたESC(欧州心臓病学会)においてMASTER DAPT試験の結果が報告されました。冠動脈内に薬剤溶出性ステントを留置した後は、ステント血栓症を予防するために抗血小板薬を2剤服用(DAPT)することが必要となります。高齢患者である場合や、他の疾患のため経口抗凝固薬の服用を余儀なくされる場合では、出血性合併症のリスクが高く、DAPT期間をどの程度に設定するかが問題となります。MASTER DAPT試験は、ステント留置から1ヵ月が経過した時点でDAPTから単剤治療に変更する群(短縮群)と、さらに最低2ヵ月以上DAPTを継続する群(継続群)にランダマイズし、割り付けから335日経過時点で両群の安全性と有効性を比較しています。心臓および脳の有害事象と出血イベントの複合として定義される主要評価項目で、短縮群と継続群の間で非劣性が満たされました。とくに出血イベントでは短縮群は継続群に対し優越性を示しました。このように、出血性合併症リスクの高い患者において、DAPT期間の短縮は予後の改善につながることを明らかにしました。本試験の結果は、発表と同時にNEJM誌に論文が公表されました(N Engl J Med. 2021 Aug 28. [Epub ahead of print])。このMASTER DAPT試験は、欧州、日本、アジア、オーストラリア、南米地域の30ヵ国の140施設が参加し遂行されました。特筆すべき点は、この研究に登録された患者のすべてのステント治療は、日本企業であるテルモ社のUltimaster(アルチマスター)ステントを用いて行われたことです。DAPT期間の差異を正確に評価するためには、患者によってバラバラではなく統一したステントを用いるべきです。さらに、そのステントは現代のPCI治療に要求されるレベルをクリアしていなければなりません。この研究の結果がNEJM誌に掲載されるという快挙を成し遂げたことは、研究の根幹をなす治療器具であるステントが、世界規模の研究に求められる基準を満たしていることを意味します。こういった大規模な研究を推進し完遂するには大きな資金が必要となります。その金額は、おそらく読者の皆さまが思い浮かべる額よりも、ゼロが後ろに何個も必要な莫大なものです。営利企業の関与が大きいほど、研究という学術行為の社会的責任と産学連携活動に伴い生じる利益が衝突・相反する状態が必然的に発生します。医学系研究の独立性が損なわれたり、結果公表で企業寄りのバイアスも懸念されます。日本においても過去に社会問題化する事件もありました。MASTER DAPT試験に対してテルモ社が資金援助していることはNEJM誌の論文内にもしっかり記載されています。隠すのではなく堂々と開示することが求められる時代です。それに加えて、金銭的な援助はするが、研究デザイン・患者募集・モニタリング・解析・データ解釈・原稿執筆のいずれにもテルモ社は一切関与していないことまで具体的に論文に記載されています。「金は出すが口は出さない」ことが求められるのです。大相撲で、力士のひいき筋・後援者のことをタニマチ(谷町)と呼ぶ隠語があることはご存じでしょう。明治の末ごろ、大阪谷町筋4丁目の相撲好きの外科医である薄恕一(すすき・じょいち)が相撲取りからは治療代を取らなかったことに由来するそうです。タニマチの援助は、繁華街等での豪遊まで広範囲に及んでいたそうです。援助を受ける方にも、提供されるものは相手を精査せずに何でも頂く「ごっつぁん体質」があったようです。現在の社会では容認されない考え方です。我が家には、援助を受けることを当然として生きている、「ごっつぁん体質」の権化がいます。そうです。飼い猫のレオです。猫は支援を獲得する天才です。我が家は猫を飼っているのではなく猫に居ていただいている、猫に遊んでいただいている、援助させていただいているという謙虚な気持ちでお世話しております。これは猫をサポートすることによって、われわれ人間側が享受する歓びがあまりに大きいから成立しているのでしょう。研究を資金面で援助する企業が目に見える形の利益を求めるのではなく、もっと大きな社会的な歓びを獲得できることが肝要と思います。MASTER DAPT試験におけるテルモ社の役割から、新時代のタニマチのあり方を感じ取ってもらえればと思います。あらためまして、MASTER DAPT試験の成功おめでとうございます!Congratulations!

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コロナ外来患者へのアスピリン・アピキサバン投与は?/JAMA

 臨床的に安定した症候性新型コロナウイルス感染症(COVID-19)外来患者において、アスピリンまたはアピキサバンによる治療はプラセボと比較し複合臨床アウトカムを改善しなかった。米国・ブリガム&ウィメンズ病院のJean M. Connors氏らが、無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験「ACTIV-4B試験」の結果を報告した。急性期のCOVID-19入院患者は通常、抗血栓療法を受けるが、COVID-19外来患者における抗血栓療法のリスクとベネフィットは確立されていなかった。なお、本試験は、イベント発生率が予想より低かったため、予定症例数の9%が登録された時点で試験中止となった。JAMA誌オンライン版2021年10月11日号掲載の報告。アスピリン、アピキサバンの予防用量と治療用量、プラセボの4群を比較 研究グループは2020年9月~2021年6月に米国の52施設において、新たに症候性のCOVID-19と診断された40~80歳の外来患者を、アスピリン群(81mg、1日1回経口投与)、アピキサバン予防用量群(2.5mg、1日2回経口投与)、アピキサバン治療用量群(5mg、1日2回経口投与)、またはプラセボ群に、1対1対1対1の割合で無作為に割り付け、45日間投与した後、30日間の安全性追跡調査を行った(最終追跡調査日2021年8月5日)。血小板数が10万/mm3以上、クレアチニンクリアランスが30mL/分/1.73m2以上の患者を適格とした。 主要評価項目は、投与開始後45日までの症候性深部静脈血栓症、肺塞栓症、動脈血栓塞栓症、心筋梗塞、虚血性脳卒中、心血管または肺イベントによる入院、および全死亡の複合エンドポイントである。治験薬を少なくとも1回服用した患者を対象に、有効性および出血イベントに関する主要解析を行った。 なお、本試験はイベント発生率が予想よりも低かったため、2021年6月18日、データおよび安全性モニタリング委員会によって早期終了が勧告された。この時点で657例が無作為化されていた(年齢中央値54歳[四分位範囲:46~59歳]、女性59%)。抗血栓療法は効果なし、安全性ではプラセボより出血リスクが高い 無作為化された657例中、22例(3.3%)は治療開始前にCOVID-19で入院し、558例が治療を開始していた。診断から無作為化までの期間および無作為化から治療開始までの期間(ともに中央値)は、それぞれ7日および3日であった。 主要解析対象集団の558例において、主要評価項目のイベントはアスピリン群で1例(0.7%)、アピキサバン予防用量群で1例(0.7%)、アピキサバン治療用量群で2例(1.4%)、プラセボ群で1例(0.7%)に発生した。プラセボ群とのリスク差は、アスピリン群で0.0%(95%信頼区間[CI]は算出不能)、アピキサバン予防用量群で0.7%(95%CI:-2.1~4.1)、アピキサバン治療用量群で1.4%(-1.5~5.0)であった。 有害事象については、大出血、播種性血管内凝固症候群の発生は報告されなかった。出血イベントのプラセボ群とのリスク差は、アスピリン群2.0%(95%CI:-2.7~6.8)、アピキサバン予防用量群4.5%(-0.7~10.2)、アピキサバン治療用量群6.9%(1.4~12.9)であった。

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COPD増悪入院患者、肺塞栓症診断戦略の追加は?/JAMA

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の増悪で入院した患者において、通常治療に積極的な肺塞栓症(PE)の診断戦略を追加しても、通常治療のみと比較し複合的な健康アウトカムの有意な改善は認められないことが、スペイン・Universidad de AlcalaのDavid Jimenez氏らが同国18施設にて実施した、多施設共同無作為化非盲検試験「Significance of Pulmonary Embolism in COPD Exacerbations trial:SLICE試験」の結果、示された。PEはCOPDの増悪を呈した患者に多くみられることが報告されているが、増悪により入院したCOPD患者においてPEを積極的に検査することで臨床アウトカムが改善されるかどうかを評価した臨床試験はこれまでなかった。JAMA誌2021年10月5日号掲載の報告。通常治療と、無作為化後12時間以内のPE診断追加を比較 研究グループは2014年9月~2020年7月に、増悪のために入院したCOPD患者746例を、通常治療+積極的なPE診断戦略(無作為化後12時間以内にDダイマー検査→陽性の場合は肺血管造影CT検査)を行う介入群(370例)と、通常治療のみの対照群(367例)に、1対1の割合で無作為に割り付け、3ヵ月間追跡調査した(最終2020年11月)。 主要評価項目は、無作為化後90日以内の非致死的な新規/再発症候性静脈血栓塞栓症(VTE)、COPDによる再入院または死亡の複合エンドポイントであった。副次評価項目は主要評価項目の各イベントとし、有害事象についても評価した。アウトカムの改善には結び付かず 無作為化された746例のうち、無作為化時点で抗凝固薬を投与されていた4例、同意撤回3例、および誤って無作為化された2例を除く737例(98.8%)がintention-to-treat解析対象集団となった(平均年齢70歳、女性195例[26%])。 主要評価項目のイベントは、介入群で110例(29.7%)、対照群で107例(29.2%)に認められた(絶対リスク差:0.5%[95%信頼区間[CI]:-6.2~7.3]、相対リスク:1.02[95%CI:0.82~1.28]、p=0.86)。介入群の対照群に対する無作為化後90日以内の複合アウトカム発生に関するハザード比は1.0(95%CI:0.8~1.3、p=0.82)であった。 無作為化後90日以内の非致死的な新規/再発症候性VTEは、介入群で2例(0.5%)、対照群で9例(2.5%)(絶対リスク差:-2.0%[95%CI:-4.3~0.1]、相対リスク:0.22[95%CI:0.05~1.01])に発生した。COPD増悪による再入院についても、94例(25.4%)vs.84例(22.9%)で両群に差はなかった(2.5%[-3.9~8.9]、1.11[0.86~1.43])。90日死亡率は、6.2% vs.7.9%であった(-1.7%[-5.7~2.3]、0.79[0.46~1.33])。 有害事象については、大出血は介入群で3例(0.8%)、対照群で3例(0.8%)に発生した(相対リスク:1.0、95%CI:0.2~4.9、p=0.99)。

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浮腫の見分け方、発症形式と部位を押さえよう!【Dr.山中の攻める!問診3step】第7回

第7回 浮腫の見分け方、発症形式と部位を押さえよう!―Key Point―片側性の下腿浮腫は、深部静脈血栓症の可能性を第一に考える突然発症の浮腫はアナフィラキシーや血管浮腫を想起する薬剤が原因で浮腫を起こすことがある症例:73歳女性主訴)左下肢腫脹現病歴)4日前から左下肢が腫れてきた。膝背部や大腿が椅子に座ると痛む。近くの診療所からリンパ浮腫の疑いと紹介があった。胸痛や歩行時の息切れはない。既往歴)特になし身体所見)バイタルサインは体温:36.4℃、血圧111/59mmHg、心拍数63回/分、呼吸数20回/分、SpO2 95%(室内気)。意識清明、左下肢全体に浮腫と発赤があった。経過)鑑別診断として深部静脈血栓症と蜂窩織炎を考えた。骨盤造影CT検査を行い左総腸骨静脈血栓症と診断した。◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!どの部位に浮腫があるか発症形式(時期)病態生理【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】浮腫の部位、発症形式に注目し、病態生理を考える全身性浮腫心不全、肝硬変、腎不全、ネフローゼ症候群などによる低アルブミン血症、甲状腺機能低下症、薬剤(Ca拮抗薬、NSAIDs、ステロイド、シクロスポリン)局所性浮腫口唇(血管浮腫)、上肢(上大静脈症候群)、片側下肢(深部静脈血栓症、蜂窩織炎、リンパ浮腫)発症形式(時期)突然発症(数分以内)アナフィラキシー、血管浮腫急性発症(数日)深部静脈血栓症、蜂窩織炎、急性糸球体腎炎慢性(数ヵ月)心不全、肝硬変、静脈不全病態生理1)患部を指で圧迫する非圧痕性浮腫甲状腺機能低下症、リンパ浮腫圧痕性浮腫fast edema(40秒以内に圧痕が消失)なら低アルブミン血症、slow edema (40秒経っても圧痕が残る)なら心不全、静脈不全2)血栓の有無や静脈不全を見逃さない血栓片側性下腿浮腫では、深部静脈血栓症→肺塞栓の可能性を第一に考える。悪性腫瘍(とくに腺がん)に伴う過凝固が原因で深部静脈血栓症ができることもある。静脈不全見逃されていることが多い。内果の血管拡張、うっ滞性皮膚炎、静脈瘤、足関節付近の色素沈着、下腿潰瘍があれば疑う。3)浮腫の原因は複合的なことが多い1)[例]薬剤(Ca拮抗薬)+静脈不全+塩分過多+長時間の立位図)正常と静脈不全の下肢2)画像を拡大する【STEP3】治療を検討する● 深部静脈血栓症抗凝固療法● 静脈不全塩分制限、下肢挙上、弾性ストッキング● 薬剤性薬剤の中止<参考文献・資料>1)高橋良. 本当に使える症候学の話をしよう. じほう.2020.p.124-154.2)Thai KE, at al. Fitzpatrick’s Dermatology in General Medicine. 7th. 2007.p.1680.

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心房細動患者に対する心臓手術では左心耳閉鎖も追加すべきである(解説:高月誠司氏)

 心房細動患者には心原性脳梗塞の予防のための抗凝固療法を適切に導入することが大事である。近年経皮的左心耳閉鎖術はワルファリン内服とほぼ同等の臨床効果が報告され、保険適応となった。一方、外科的な左心耳閉鎖術、切除術は単独で行われることは少ないが、よく他の弁膜症や冠動脈疾患の心臓手術に伴い行われる。本LAAOS IIIは既知の心房細動患者が心臓手術を受ける際、左心耳閉鎖術を追加することの意義をランダム化比較試験で検討した。術後通常診療を継続中の脳梗塞や全身性塞栓症が1次エンドポイントである。大動脈クランプ時間、人工心肺時間や術中、術後の出血量は両群間で有意な差を認めなかった。術後閉鎖群と非閉鎖群の3年後の抗凝固率はそれぞれ75.3%、78.2%だったが、1次エンドポイントはそれぞれ4.8%、7.0%で発生し、ハザード比0.67(p=0.001)で有意に左心耳閉鎖群における塞栓症の発生は少なかった。本研究から心臓手術に左心耳閉鎖術を追加することのメリットが証明されたが、左心耳閉鎖して抗凝固薬を中止した群の比較ではなく、抗凝固を中止するかどうかは別の判断が必要となる。本研究における左心耳閉鎖術は多くがcut and sewやステープルを用いた左心耳切除術であった。左心耳は心房性利尿ホルモンの分泌部位として知られ、その切除には心不全を惹起する懸念が以前から示唆されていたが、本研究では術後の心不全の発症率に差はなく、左心耳切除が血行動態に与える影響は少ないと考えられた。

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