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経皮的脳血栓回収術後の血圧管理について1つの指標が示された(解説:高梨成彦氏)

 経皮的脳血栓回収術はデバイスの改良に伴って8割程度の再開通率が見込まれるようになり、再開通後に出血性合併症に留意して管理する機会が増えた。急性期には出血を惹起する薬剤を併用する機会が多く、これには血栓回収術に先立って行われるアルテプラーゼ静注療法、手術中のヘパリン静注、術後の抗凝固薬・抗血小板薬の内服などがある。 出血性合併症を避けるためには降圧を行うべきであるが、どの程度の血圧が適切であるかについてはわかっていない。そのため脳卒中ガイドライン2021では、脳血栓回収術後には速やかな降圧を推奨しており、また過度な降圧を避けるように勧められているが具体的な数値は挙げられていない。 本研究は血栓回収術後の血圧管理について1つの指標となる重要な結果を示したものである。再開通を果たした患者において収縮期血圧120mmHg未満を目標とした群は、140~180mmHgを目標とした群と比較して、機能予後が悪化していた。 血栓回収術施行中、再開通前の低血圧が予後の悪化と関連していたという報告があるが(Petersen NH et al. Stroke. 2019;50:1797-1804.)、本研究は両群ともにTICI2b以上の患者を対象としているうえに8割以上が完全再開通TICI3の患者である。血管撮影上は灌流障害が解消されたと判断するところであるが、強い降圧によって機能予後が悪化するということは、急性期には画像上は指摘しえない微小な循環障害が残存している可能性が示唆されて、興味深い結果である。 ただし両群共に心原性脳塞栓症の患者は3割弱で、降圧強化群の44%と対照群の53%が動脈硬化性閉塞であったと報告されており、本邦で行われている血栓回収術の対象患者に比べると心原性脳塞栓症患者が少ない。閉塞機序は低灌流への耐性に影響する可能性があるので、結果を参考にするときには注意が必要だろう。

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心血管疾患リスク予測式は、がん生存者に有用か/Lancet

 がん患者は心血管疾患のリスクが高いという。ニュージーランド・オークランド大学のEssa Tawfiq氏らは、がん生存者を対象に、同国で開発された心血管疾患リスク予測式の性能の評価を行った。その結果、この予測式は、リスクの予測が臨床的に適切と考えられるがん生存者において、5年心血管疾患リスクを高い精度で予測した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年1月23日号で報告された。ニュージーランドの妥当性検証研究 研究グループは、がん生存者における心血管疾患リスクの予測式の性能を、プライマリケアで評価する目的で、妥当性の検証研究を行った(オークランド医学研究財団などの助成を受けた)。 「ニュージーランド心血管疾患リスク予測式」の開発に使用されたPREDICTコホート研究の参加者のうち、年齢が30~74歳で、心血管疾患リスクの初回評価日の2年以上前に浸潤がんの初回診断を受けた患者が解析に含まれた。 リスク予測式は、性別で分けられ、予測因子として年齢、民族、社会経済的剥奪指標、心血管疾患の家族歴、喫煙状況、心房細動と糖尿病の既往、収縮期血圧、総コレステロール/HDLコレステロール比、予防的薬物療法(降圧薬、脂質低下薬、抗血栓薬)が含まれた。 較正(calibration)では、男女別に、リスク予測式で推定された5年心血管疾患リスクの平均予測値と実測値とを十分位群別に比較し、さらにニュージーランドのガイドラインの3つの臨床的5年心血管疾患リスクグループ(<5%、5~15%未満、≧15%)に分けて比較することで評価した。判別(discrimination)は、HarrellのC統計量で評価した。がん生存者で妥当な臨床的手段 1万4,263例(男性6,133例[43.0%]、女性8,130例[57.0%])が解析に含まれた。リスク評価時の平均年齢は男性が61(SD 9)歳、女性は60(SD 8)歳で、追跡期間中央値はそれぞれ5.8年、5.7年だった。 追跡期間中に、男性は658例(10.7%)、女性は480例(5.9%)で心血管疾患イベントが発生し、それぞれ110例(1.8%)、90例(1.1%)が致死的な心血管疾患イベントであった。また、心血管疾患の粗発生率は、年間1,000人当たり男性が18.1例、女性は10.2例だった。 リスク予測値の十分位群(高いほど高リスク)における実測値との差は、男性ではほとんどが2%以内であったが、2つの群(第4十分位群:-2.49%、第9十分位群:-2.41%)では約2.5%の過小評価が認められた。同様に、女性では、リスクの予測値と実測値の差は多くが1%以内であったが、1つの群(第10十分位群:-3.19%)では約3.2%過小評価されていた。 臨床的なリスクグループで分類した解析では、心血管疾患リスクの実測値と比較して予測値は、低リスク群では男女とも2%以内で過小に予測していた(<5%群[男性:-1.11%、女性:-0.17%]、5~15%未満群[-1.15%、-1.62%])。これに対し、高リスク群(≧15%)の男性では2.2%(実測値17.22%、予測値19.42%)、女性では約3.3%(16.28%、19.60%)過大に予測していた。HarrellのC統計量は、男性が0.67(SE 0.01)、女性は0.73(0.01)だった。 著者は、「予測式にがん特異的な変量を追加したり、競合リスクを考慮したりすることで、予測値は改善する可能性がある。今回の結果は、この予測式がニュージーランドのがん生存者において妥当な臨床的手段であることを示唆する」としている。

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骨折後の血栓予防、アスピリンvs.低分子ヘパリン/NEJM

 手術を受けた四肢骨折患者、または手術有無を問わない骨盤・寛骨臼骨折患者の血栓予防において、アスピリンは致死的イベント抑制に関して低分子ヘパリンに非劣性を示すことが示された。アスピリンによる深部静脈血栓症・肺塞栓症・90日での全死亡の発現頻度は低かった。米国・メリーランド大学のRobert V. O'Toole氏らMajor Extremity Trauma Research Consortium(METRC)が、米国およびカナダの外傷センター21施設で実施した医師主導の実用的多施設共同無作為化非劣性試験「Prevention of Clot in Orthopaedic Trauma trial:PREVENT CLOT試験」の結果を報告した。臨床ガイドラインでは、骨折患者に対する血栓予防に低分子ヘパリンが推奨されている。しかし、低分子ヘパリンの有効性をアスピリンと比較した試験はこれまでなかった。NEJM誌2023年1月19日号掲載の報告。手術治療の四肢骨折患者、または骨盤・寛骨臼骨折患者約1万2千例を無作為化 研究グループは、受傷後48時間以内に来院し、手術による治療を受けた四肢骨折患者(股関節から中足部までの下肢、または肩から手首までの上肢)、または手術/非手術による治療を受けた骨盤・寛骨臼骨折患者(いずれも18歳以上)を登録し、入院中に低分子ヘパリン(エノキサパリン、30mg用量1日2回)を投与する群、またはアスピリン(81mg用量1日2回)を投与する群に1対1の割合に無作為に割り付けた。投与期間は各病院の臨床プロトコールに基づき、退院時に終了または退院後も継続可とした。 主要アウトカムは、無作為化後90日時点での全死亡、副次アウトカムは非致死的肺塞栓症、深部静脈血栓症、出血性合併症などであった。 2017年4月~2021年8月の期間に、計1万2,211例がアスピリン群(6,101例)または低分子ヘパリン群(6,110例)に無作為に割り付けられた。患者の平均(±SD)年齢は44.6±17.8歳、62.3%が男性で、0.7%に静脈血栓塞栓症、2.5%にがんの既往があった。90日全死亡に関して、アスピリンは低分子ヘパリンに対し非劣性 平均入院日数は5.3±5.7日、入院中の試験薬の平均投与回数は8.8±10.6回であり、退院時に処方された血栓予防薬の期間中央値は21日間であった。 intention-to-treat解析の結果、90日全死亡率はアスピリン群0.78%(47例)、低分子ヘパリン群0.73%(45例)であり、アスピリン群の低分子ヘパリン群に対する非劣性が示された(群間差:0.05ポイント、96.2%信頼区間[CI]:-0.27~0.38、非劣性のp<0.001[非劣性マージン0.75ポイント])。 90日間の深部静脈血栓症の発現率はアスピリン群で2.51%、低分子ヘパリン群で1.71%(群間差:0.80ポイント、95%CI:0.28~1.31)、非致死的肺塞栓症は両群とも1.49%であり、出血性合併症、その他の重篤な有害事象の発現率は両群で同程度であった。

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静脈血栓の抗凝固療法はいつまで必要?(解説:後藤信哉氏)

 以前よりだいぶ増えてきたとはいえ、日本の静脈血栓症の発症リスクは欧米ほど高くない。症状はあるけど画像診断にて末梢側に血栓を認めた症例に抗凝固薬をどのくらい使用したらよいか? 実臨床では迷うケースが多い。静脈血栓症の症候は下肢痛、浮腫なのであるが、重症度にはばらつきが大きい。神経質な症例ではわずかの浮腫も気になるし、大まかな人もいる。症状があって、静脈血栓を見つけたら抗凝固薬を始めるだろう。静脈血栓の多くは6週経過しても3ヵ月経過しても消失することは少ない。静脈血栓としては末梢側にあっても、これから近位置部に進展するかもしれないし、末梢から肺に塞栓を起こすかもしれない。6週間を標準とされても6週間目で中止してよいか否か、臨床医は個別に判定せざるを得ない。 本研究は402例と少数であるが6週間の標準治療終了後に症例をさらに6週間リバーロキサバンを継続する群とプラセボ群に振り分けた。2年まで経過を観察したところ、6週間追加した群にて末梢のDVTの発現率が低かった。症例が少ないので差は出ないが重篤な出血は6週追加群のほうが数値としては多かった。症候がある末梢の静脈血栓の症例に対して、筆者は開始した経口抗凝固薬を止める勇気がないことが多い。薬を始めるにも医師・患者には勇気が必要であるし、薬を止めるときにも同様の勇気が必要となる。ランダム化比較試験のエビデンスは決め難きを決めざるを得ない臨床医の判断の材料にはなる。

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日本で承認されていなくても科学論文には読む価値がある(解説:後藤信哉氏)

 心筋梗塞の症例に対してprimary PCIが日本では広く施行されている。多分、日本の臨床家は、抗血小板薬2剤併用療法にて血栓イベントは十分にコントロールされていると感じているだろう。しかし、心筋梗塞後とのこともあり、本試験では日本にて選択可能な抗凝固治療であるヘパリン群では全死因死亡・BARC分類3~5の重篤な出血イベントの発生は30日以内にて4.39%であった。 bivalirudinは日本では承認されていない選択的なトロンビン阻害薬である。ヒルジンから作成したbivalirudinに日本人は馴染みがない。しかし、臨床開発のための第III相試験も施行され欧米諸国では適応を取得している。エンドポイントの発現率がbivalirudin群では3.06%であった。bivalirudinにより有効性エンドポイント発現リスクがハザード比(HR)として0.69(95%信頼区間[CI]:0.53~0.91)になれば以後のprimary PCI後の抗凝固薬標準治療にbivalirudinを考えるのがランダム化比較試験による標準治療転換の発想である。日本では認可されていない薬剤であっても世界の標準治療転換に利用されるかもしれないランダム化比較試験はしっかり読んでおいたほうがよい。

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lecanemab、FDAがアルツハイマー病治療薬として迅速承認/エーザイ・バイオジェン

 エーザイとバイオジェン・インクは2023年1月7日付のプレスリリースで、可溶性(プロトフィブリル)および不溶性アミロイドβ(Aβ)凝集体に対するヒト化IgG1モノクローナル抗体lecanemabについて、米国食品医薬品局(FDA)がアルツハイマー病の治療薬として、迅速承認したことを発表した。 本承認は、lecanemabがADの特徴である脳内に蓄積したAβプラークの減少効果を示した臨床第II相試験(201試験)の結果に基づくもので、エーザイでは最近発表した大規模なグローバル臨床第III相検証試験であるClarity AD試験のデータを用い、フル承認に向けた生物製剤承認一部変更申請(sBLA)をFDAに対して速やかに行うとしている。米国における適応症および重要な安全性情報など<適応症> lecanemabの適応症はアルツハイマー病(AD)の治療であり、lecanemabによる治療は、臨床試験と同様、ADによる軽度認知障害または軽度認知症の患者において開始すること。これらの病期よりも早期または後期段階での治療開始に関する安全性と有効性に関するデータはない。本適応症は、lecanemabの治療により観察されたAβプラークの減少に基づき、迅速承認の下で承認されており、臨床的有用性を確認するための検証試験データが本迅速承認の要件となっている。<用法・用量(対象者・投与方法・ARIAのモニタリング)> 治療開始前にAβ病理が確認された患者に対して、10mg/kgを推奨用量として2週間に1回点滴静注。lecanemabによる治療の最初の14週間は、アミロイド関連画像異常(ARIA)についてとくに注意深く患者の様子を観察することが推奨される。投与開始前に、ベースライン時(直近1年以内)の脳MRI、および投与後のMRIによる定期的なモニタリング(5回目、7回目、14回目の投与前)が行われる。<副作用> lecanemabの安全性は、201試験においてlecanemabを少なくとも1回投与された763例で評価されている。lecanemab(10mg/kg)を隔週投与された被験者(161例)の少なくとも5%に報告され、プラセボ投与被験者(245例)より少なくとも2%高い発生率であった。主な副作用は、infusion reaction(lecanemab群:20%、プラセボ群:3%)、頭痛(14%、10%)、ARIA浮腫/滲出液貯留(ARIA-E;10%、1%)、咳(9%、5%)および下痢(8%、5%)だった。lecanemabの投与中止に至った最も多い副作用はinfusion reactionであり、lecanemab群は2%(161例中4例)に対して、プラセボ群は1%(245例中2例)だった。<重要な安全情報(警告・注意事項)>アミロイド関連画像異常(ARIA) lecanemabはARIAとして、MRIで観察されるARIA-E、あるいはARIA脳表ヘモジデリン沈着(ARIA-H)として微小出血、脳表ヘモジデリン沈着症を引き起こす可能性がある。ARIAは通常無症候であるが、まれに痙攣、てんかん重積状態など、生命を脅かす重篤な事象が発生することがある。ARIAに関連する症状として、頭痛、錯乱、視覚障害、めまい、吐き気、歩行障害などが報告されている。また、局所的な神経障害が起こることもある。ARIAに関連する症状は、通常、時間の経過とともに消失する。[ARIAのモニタリングと投与管理のガイドライン]・lecanemabによる治療を開始する前に、直近1年以内のMRIを入手すること。5回目、7回目、14回目の投与前にMRIを撮影すること。・ARIA-EおよびARIA-Hを発現した患者における投与の推奨は、臨床症状および画像判定による重症度によって異なる。ARIAの重症度に応じて、lecanemabの投与を継続するか、一時的に中断するか、あるいは中止するかは、臨床的に判断すること。・ARIAの大半はlecanemabによる治療開始後14週間以内にみられることから、この期間はとくに注意深く患者の状態を観察することが推奨される。ARIAを示唆する症状がみられた場合は臨床評価を行い、必要に応じてMRIを実施すること。MRIでARIAが観察された場合、投与を継続する前に慎重な臨床評価を行うこと。・症候性ARIA-E、もしくは無症候でも画像判定によって重度のARIA-Eとされた場合に投与を継続した経験はない。無症候でも画像判定によって軽度から中等度のARIA-Eとされた場合に投与を継続した症例に関する経験は限られている。ARIA-Eの再発症例への投与データは限られている。[ARIAの発現率]・201試験において、lecanemab群の3%(5/161例)に症候性ARIAが発現した。ARIAに伴う臨床症状は、観察期間中に80%の患者で消失した。・無症候性ARIAを含めると、ARIAの発現率はlecanemab群の12%(20/161例)、プラセボ群の5%(13/245例)であった。ARIA-Eは、lecanemab群の10%(16/161例)、プラセボ群の1%(2/245)で観察された。ARIA-Hは、lecanemab群の6%(10/161例)、プラセボ群の5%(12/245例)で観察された。プラセボと比較して、lecanemab投与によるARIA-Hのみの発現率の増加は認められなかった。・直径1cmを超える脳内出血は、lecanemab群の1例で報告されたが、プラセボ群では報告されなかった。他の試験では、lecanemabの投与を受けた患者において、致死的事象を含む脳内出血の発生が報告された。[アポリポタンパク質Eε4(ApoEε4)保有ステータスとARIAのリスク]・201試験において、lecanemab群の6%(10/161例)がApoEε4ホモ接合体保有者、24%(39/161例)がヘテロ接合体保有者、70%(112/161例)が非保有者であった。・lecanemab群において、ApoEε4ホモ接合体保有者はヘテロ接合体保有者および非保有者よりも高いARIAの発現率を示した。lecanemabを投与された患者で症候性ARIAを発症した5例のうち4例はApoEε4ホモ接合体保有者であり、うち2例は重度の症状が認められた。lecanemab投与を受けた被験者で、ApoEε4ホモ接合体保有者ではApoEε4ヘテロ接合体保有者や非保有者と比較して症候性ARIAおよびARIAの発現率が高いことが、他の試験でも報告されている。・ARIAの管理に関する推奨事項は、ApoEε4保有者と非保有者で異ならない。・lecanemabによる治療開始を決定する際に、ARIA発症リスクを知らせるためにApoEε4ステータスの検査が考慮される。[画像による所見]・画像による判定では、ARIA-Eの多くは治療初期(最初の7回投与以内)に発現したが、ARIAはいつでも発現し、複数回発現する可能性がある。lecanemab投与によるARIA-Eの画像判定による重症度は、軽度4%(7/161例)、中等度4%(7/161例)、重度1%(2/161例)であった。ARIA-Eは画像による検出後、12週までに62%、21週までに81%、全体で94%の患者で消失した。lecanemab投与によるARIA-H微小出血の画像判定の重症度は、軽度4%(7/161例)、重度1%(2/161例)であった。ARIA-Hの患者10例のうち1例は軽度の脳表ヘモジデリン沈着症を有していた。[抗血栓薬との併用と脳内出血の他の危険因子について]・201試験では、ベースラインで抗凝固薬を使用していた被験者を除外した。アスピリンやクロピドグレルなどの抗血小板薬の使用は許可された。また、臨床試験中に併発事象の処置のため4週間以内の抗凝固薬を使用する場合は、lecanemabの投与を一時的に中断した。・抗血栓薬を使用した被験者はほとんどがアスピリンであり、他の抗血小板薬や抗凝固薬の使用経験は限られており、これらの薬剤の併用時におけるARIAや脳内出血のリスクに関しては結論づけられていない。lecanemab投与中に直径1cmを超える脳内出血が観察された症例が報告されており、lecanemab投与中の抗血栓薬または血栓溶解薬(組織プラスミノーゲンアクチベーターなど)の投与には注意が必要である。・さらに、脳内出血の危険因子として、201試験においては以下の基準により被験者登録を除外している。直径1cmを超える脳出血の既往、4個を超える微小出血、脳表ヘモジデリン沈着症、血管性浮腫、脳挫傷、動脈瘤、血管奇形、感染病変、多発性ラクナ梗塞または大血管支配領域の脳卒中、重度の小血管疾患または白質疾患。これらの危険因子を持つ患者へのlecanemabの使用を検討する際には注意が必要である。infusion reaction・lecanemabのinfusion reactionは、lecanemab群で20%(32/161例)、プラセボ群で3%(8/245例)に認められ、lecanemab群の多く(88%、28/32例)は最初の投与で発生した。重症度は軽度(56%)または中等度(44%)だった。lecanemab投与患者の2%(4/161例)において、infusion reactionにより投与が中止された。infusion reactionの症状には、発熱、インフルエンザ様症状(悪寒、全身の痛み、ふるえ、関節痛)、吐き気、嘔吐、低血圧、高血圧、酸素欠乏症がある。・初回投与後、一過性のリンパ球数の減少(0.9×109/L未満)がプラセボ群の2%に対して、lecanemab群の38%に認められ、一過性の好中球数の増加(7.9×109/Lを超える)はプラセボ群の1%に対して、lecanemab群の22%で認められた。・infusion reactionが発現した場合には、注入速度を下げ、あるいは注入を中止し、適切な処置を開始する。また次回以降の投与前に、抗ヒスタミン薬、アセトアミノフェン、非ステロイド性抗炎症薬、副腎皮質ステロイドによる予防的投与が検討される場合がある。

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コロナ重症例への治療、長期アウトカムは?/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)重篤例への6つの治療(免疫調整薬治療、回復者血漿療法、抗血小板療法、抗凝固療法、抗ウイルス薬治療、コルチコステロイド治療)の検証が行われている「REMAP-CAP試験」から、事前規定の長期(180日)アウトカムの解析結果が、オーストラリア・メルボルン大学のAlisa M. Higgins氏ら同研究グループによって報告された。同試験の既報の主要アウトカム(短期21日)の報告では、IL-6阻害薬(免疫調整薬)にベネフィットがある一方、抗ウイルス薬、anakinra(免疫調整薬)、回復者血漿(免疫グロブリン)、抗凝固療法、抗血小板療法にはベネフィットがないことが示されていた。JAMA誌オンライン版2022年12月16日号掲載の報告。6つの治療について、180日目までの生存を解析 REMAP-CAP試験は、パンデミック/非パンデミックでの重度の肺炎患者に対する複数の治療を評価する国際多施設共同無作為化プラットフォーム試験で現在も進行中である。本論で報告されたCOVID-19重篤例への6つの治療の、事前に規定された2次解析には、14ヵ国197地点で2020年3月9日~2021年6月22日に4,869例のCOVID-19重篤成人患者が登録された。最終180日フォローアップは、2022年3月2日に完了した。 被験者は、6つの治療のうちの1つ以上の介入に無作為に割り付けられた(免疫調整薬治療群2,274例、回復者血漿療法群2,011例、抗血小板療法群1,557例、抗凝固療法群1,033例、抗ウイルス薬治療726例、コルチコステロイド治療401例)。 2次解析の主なアウトカムは、180日目までの生存で、ベイズ区分指数モデルを用いて解析した。ハザード比(HR)が1未満は生存の改善(優越性)を示し、1超は生存の悪化(有害)を示すものとした。無益性は、アウトカムでの相対的な改善が20%未満で、HRが0.83超で示される場合とした。6ヵ月生存改善の確率、IL-6阻害薬99.9%超、抗血小板療法95% 無作為化を受けた4,869例(平均年齢59.3歳、女性1,537例[32.1%])において、4,107例(84.3%)がバイタル情報を有し、2,590例(63.1%)が180日時点で生存していた。 IL-6阻害薬は、対照と比較した6ヵ月生存改善の確率が99.9%超であった(補正後HR:0.74、95%信用区間[CrI]:0.61~0.90)。抗血小板療法は、同95%であった(0.85、0.71~1.03)。 一方、試験定義の統計的な無益性(HR>0.83)の確率が高かったのは、抗凝固療法(確率99.9%、補正後HR:1.13[95%CrI:0.93~1.42])、回復者血漿療法(99.2%、0.99[0.86~1.14])、ロピナビル・リトナビル配合剤(抗ウイルス薬)(96.6%、1.06[0.82~1.38])で、有害である確率が高かったのはヒドロキシクロロキン(免疫調整薬)(96.9、1.51[0.98~2.29])、ロピナビル・リトナビル配合剤+ヒドロキシクロロキン(96.8、1.61[0.97~2.67])。コルチコステロイドは、早期に試験中止となり規定の統計解析要件を満たさなかったが、さまざまな投与戦略が用いられたヒドロコルチゾンの6ヵ月生存改善の確率は57.1~61.6%であった。 著者は、「全体的に、既報の短期の結果を踏まえて、当初の院内治療の効果は、ほとんどの治療で6ヵ月間変わらなかったことが示された」とまとめている。

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アルツハイマー病薬の臨床試験で2例目の死亡例

 臨床試験で脳のアミロイドβを除去する開発中のアルツハイマー病治療薬lecanemab(レカネマブ)の投与を受けていた初期段階のアルツハイマー病の65歳の女性が、重度の脳出血により死亡したことを、「ScienceInsider」が11月27日報じた。Lecanemabに関連して生じた可能性のある2例目の脳出血死であり、この薬剤の安全性に対する疑問が浮上している。 「ScienceInsider」の記事によると、この女性は脳卒中に脳腫脹や脳出血を併発していた。このような抗体薬の投与に伴う脳腫脹や脳出血は、過去にも確認されている。女性を治療した米ノースウェスタン大学医療センターの医師らによると、強力な血栓溶解薬である組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)を投与した直後、女性は脳の外層全体に相当量の出血を来したという。女性の夫は、「医師が薬剤を投与したとたん、妻の体に火がついたかのようになった。妻は悲鳴を上げ、8人がかりで押さえつけなければならないほどだった。本当に恐ろしい状況だった」と同誌に語っている。症例報告によれば、女性は数日後に死亡したという。 今回の死亡例は、lecanemabの第3相試験に参加していた80歳男性の死亡例に続き2例目となる。この男性の死亡原因については、同薬剤と抗凝固薬のアピキサバン(商品名エリキュース)の薬剤相互作用の可能性が指摘されている。今回の死亡女性の剖検を実施した同大学のRudolph Castellani氏は、患者の脳血管の多くにアミロイド沈着が認められたことを報告している。同氏は、2週間ごとのlecanemabの投与により炎症を起こして脆弱化していた患者の血管が、血栓溶解薬に曝露したことで破裂したと考えており、「治療が原因で生じた疾患と死亡であることを私は確信している。同薬剤の使用がなければ患者は今も生きていただろう」と述べている。 Lecanemabが米食品医薬品局(FDA)に承認されれば、アルツハイマー病の治療を目的とする抗アミロイド薬としては2件目となる。1件目のAduhelm(一般名アデュカヌマブ)は、その有効性を疑問視する声を押し切ってFDAによる承認を受けた。Lecanemabは日本のエーザイ株式会社とスウェーデンのBioArctic社が共同で開発している薬剤だ。エーザイが9月28日に発表したニュースリリースでは、18カ月にわたってlecanemabを投与された患者ではプラセボを投与された患者に比べてアミロイドの蓄積が少なく、認知機能の低下が27%抑制されたことが報告されている。同社は「ScienceInsider」の記事を受けて、「これまで得られている全ての安全性データは、レカネマブ治療が被験者全体の死亡リスクの上昇あるいは特定の原因による死亡リスクの上昇に関与していないことを示しています」との見解を示している。 死亡した女性は、18カ月の試験期間中はlecanemabかプラセボのいずれかを投与されていたが、試験の非盲検延長期間には実薬を選択し、死亡前の1カ月間は確実にlecanemabを投与されていた。死亡した2人にはいずれも広範囲に及ぶ脳アミロイド血管症(CAA)が認められた。CAAは脳血管内に徐々にアミロイドが沈着する病態である。CAAでは、lecanemabのような薬剤でアミロイドを剥がそうとすると血管が脆くなり、抗凝固薬や血栓溶解薬に曝露した場合に出血が起こりやすくなることがあるという。この報告書では、アルツハイマー病患者の半数近くにCAAが生じ、また多くの患者が心疾患を有し、抗凝固薬による治療を受けていることが指摘されている。

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第Xa因子阻害剤による出血時の迅速な薬剤特定システムを構築/AZ

 アストラゼネカとSmart119は、12月14日付のプレスリリースで、医療機関と救急隊における第Xa因子阻害剤服用中の出血患者を対象とした情報共有システムを構築し、病院到着時に患者の服用薬剤を特定することで、迅速かつ適切な処置を目指すと発表した。 直接作用型第Xa因子阻害剤を含む抗凝固薬は、非弁膜症性心房細動患者の脳梗塞予防や静脈血栓塞栓症の治療・再発予防を目的として広く使用されている。その一方で、服用中は通常より出血が起こりやすい状態となるため、事故や転倒などのきっかけで、大出血につながるリスクが高くなる。抗凝固薬服用中の患者において大出血が発現した際、抗凝固薬の中和剤を止血処置の一環として投与することで、出血の増大を抑えられる可能性がある。中和剤を適切に使用するためには、患者の服薬情報の把握が必要となるが、現状、救急隊の病院到着時に約30%の患者で、服用薬剤が特定できないと報告されている。  この現状を改善する1つの策として、アストラゼネカとSmart119の2社は、あらかじめ患者の服薬情報をデータベースに集約し、出血発現時に救急隊がSmart119を通じ、これらの情報を把握、搬送先の医療機関と迅速に情報共有できるシステムを構築するという。このシステムの構築は、i2.JP(アイツー・ドット・ジェイピー:Innovation Infusion Japan)―「患者中心」の実現に向けて、医療・ヘルスケア業界はどうあるべきか、といった難題の解決策を探るべく発足―というオープンなコミュニティにおいて、Smart119が運用する救急医療情報システム「Smart119」を活用するというアイデアから生まれた。 アストラゼネカは、「患者中心」の実現を目指す中で、抗凝固薬服用患者に対して、有事の際に一刻も早く適切な処置を届けることができるようSmart119と協力しながら取り組んでいく、としている。

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リバーロキサバン延長で、静脈血栓塞栓症の再発リスク低減/BMJ

 症候性の孤立性遠位深部静脈血栓症(DVT)の患者に対して、リバーロキサバンによる6週間の治療の後、さらに6週間の同薬の投与を行うと、プラセボと比較して、出血のリスクを増加させずに静脈血栓塞栓症の再発リスクが低減することが、イタリア・インスブリア大学のWalter Ageno氏らが実施した「RIDTS試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2022年11月23日号に掲載された。6週と12週投与を比較するイタリアの無作為化試験 RIDTS試験は、イタリアの28施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2017年1月~2020年3月の期間に患者の登録が行われた(Bayerとインスブリア大学の助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、下肢の症候性孤立性遠位DVTと診断され、標準的な用量のリバーロキサバンの投与を6週間受けた患者であった。被験者は、さらに6週間の同薬(20mg、1日1回)の追加投与を受ける群、またはプラセボ群に無作為に割り付けられ、24ヵ月間追跡された。 有効性の主要アウトカムは静脈血栓塞栓症の再発であり、孤立性遠位DVTの進行、孤立性遠位DVTの再発、近位DVT、症候性肺塞栓症、致死的肺塞栓症の複合と定義された。安全性の主要アウトカムは、無作為化から最終投与後2日までの大出血の発現であった。大出血は両群とも発現せず 402例が登録され、リバーロキサバン群に200例(平均[SD]年齢65.0[16.0]歳、女性58%、高リスク例93%)、プラセボ群に202例(65.3[15.4]歳、59%、94%)が割り付けられた。誘因のない孤立性遠位DVTは、リバーロキサバン群が81例(40%)、プラセボ群は86例(43%)であった。 有効性の主要アウトカムは、リバーロキサバン群が23例(11%)で発現し、プラセボ群の39例(19%)に比べ有意に少なかった(相対リスク:0.59、95%信頼区間[CI]:0.36~0.95、p=0.03)。有効性の主要アウトカム発現を1件防止するのに要する治療必要数は13(95%CI:7~126)であった。 孤立性遠位DVTの再発は、リバーロキサバン群が16例(8%)、プラセボ群は31例(15%)で認められた(相対リスク:0.52、95%CI:0.29~0.92、p=0.02)。近位DVTまたは肺塞栓症は、それぞれ7例(3%)および8例(4%)で発現した(0.88、0.33~2.39、p=0.80)。 大出血は、両群ともに認められなかった。臨床的に重要な非大出血は、両群とも1例(0.5%)であった。 著者は、「これらの知見は、本試験で除外されたがん関連の孤立性遠位DVTを有する患者には適用されず、他の抗凝固薬治療に外挿すべきではない。今後、抗凝固薬治療を必要としない可能性のある低リスク患者を特定するための検討が求められる」としている。

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心房細動患者へのNOAC、間質性肺疾患リスクに影響か

 近年、非弁膜性心房細動(NVAF)患者の脳卒中予防のため、ワルファリンの代替として経口抗凝固薬(NOAC)の使用が推奨されている。しかし、第Xa因子(FXa)阻害薬の使用に関連する間質性肺疾患(ILD)リスクの可能性が報告されている。今回、台湾・長庚記念病院国際医療センターのYi-Hsin Chan氏らがFXa阻害薬による治療がNVAF患者の肺損傷と関連していたことを明らかにした。JAMA Network Open誌11月1日号掲載の報告。 研究者らは、NVAF患者におけるNOAC使用に関連するILDリスクを評価することを目的として、台湾国民健康保険研究データベースを使用し後ろ向きコホート研究を実施した。対象者は2012年6月1日~2017年12月31日までにNOACによる治療を受け、既存の肺疾患のないNVAF患者が含まれた。傾向スコアで安定化重み(PSSW:Propensity score stabilized weighting)を用いて、投薬群(FXa阻害薬、ダビガトランまたはワルファリン、参照をワルファリン)間で共変量のバランスを取った。患者は服薬開始日からILDの発症/死亡、または研究終了(2019年12月31日)のいずれか早い期間まで追跡され、データ分析は2021年9月11日~2022年8月3日に行われた。 主な結果は以下のとおり。 ・10万6,044例(平均年齢±SD:73.4±11.9歳、男性:5万9,995例[56.6%])のうち、ベースライン時点で6万4,555例(60.9%)がFXa阻害薬(内訳:アピキサバン[1万5,386例]、エドキサバン[1万2,413例]、リバーロキサバン[3万6,756例])、2万2,501例(21.2%)がダビガトランを、1万8,988例(17.9%)がワルファリンを使用した。・FXa阻害薬群はワルファリン群と比較して、ILDの発生リスクが高かった(100人年当たり0.29 vs.0.17、ハザード比[HR]:1.54、95%信頼区間[CI]:1.22~1.94、p<0.001)。・一方、ダビガトラン群はワルファリン群と比較して、ILD発生リスクに有意差は見られなかった(同0.22 vs.0.17、HR:1.26、95%CI:0.96~1.65、p=0.09)。・FXa阻害薬とワルファリンのILD発症リスクの高さは、いくつかの高リスクサブグループと一致していた。

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スタチン、抗凝固薬服用の心房細動患者の出血リスクを低減

 経口抗凝固薬を服用している非弁膜症性心房細動患者において、スタチン服用で大出血、全死亡、虚血性イベントのリスクが有意に低下したことが、多施設後ろ向きレジストリ研究で示唆された。兵庫医科大学の内田 和孝氏らがAmerican Journal of Cardiovascular Drugs誌オンライン版2022年11月16日号で報告した。 本研究は、心臓機械弁もしくは肺/深部静脈血栓症の既往歴のある患者を除外した経口抗凝固薬を服用している非弁膜症性心房細動患者を対象とした。2013年2月26日に7,826例を登録し、2017年2月25日まで追跡した。主要評価項目は大出血、副次評価項目は全死亡、虚血性イベント、出血性脳卒中、虚血性脳卒中で、スタチン投与群と非投与群で比較した。 主な結果は以下のとおり。・スタチン投与群(2,599例、33%)は非投与群に比べ、発作性心房細動(37% vs.33%、p=0.0003)、高血圧(84% vs.76%、p<0.0001)、糖尿病(41% vs.27%、p<0.0001)、脂質異常症(91% vs.30%、p<0.0001)を有している患者が多かった。・大出血の累積発生率は、スタチン投与群6.9%、非投与群8.1%であった(p=0.06)。・スタチン投与群の非投与群に対する各評価項目の調整ハザード比(95%信頼区間)は、大出血が0.77(0.63~0.94)、全死亡が0.58(0.47~0.71)、虚血性イベントが0.77(0.59~0.999)、出血性脳卒中が0.85(0.48~1.50)、虚血性脳卒中が0.79(0.60~1.05)だった。

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第141回 退院COVID-19患者に抗凝固薬アピキサバン無効

抗凝固薬は重度の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の回復を助けると広く考えられてきましたが、英国での無作為化試験結果によるとどうやらそうとはいえず、むしろ有害かもしれません。英国全域で実施されている無作為化試験HEAL-COVIDの結果、退院COVID-19患者に経口の抗凝固薬・アピキサバン(apixaban)を投与しても死亡や再入院のリスクは残念ながら低下しませんでした1)。COVID-19患者のその病気との戦いは退院して一件落着というわけにはいかず、心臓、肺、循環器がしばしば絡む症状の新たな発生や悪化、俗に言うlong COVIDをおよそ5人に1人が退院後に被ります。命を落とす人も少なくなく、退院したCOVID-19患者の10人に1人を超える12%は半年以内に死亡しています2)。HEAL-COVID試験はCOVID-19患者のそういった長引く症状や死亡を予防するか減らしうる治療に目星をつけ、それらの治療がCOVID-19患者の長期の経過を改善しうるかどうかを調べることを目当てに実施されています。被験者はCOVID-19で入院した患者から募り、自宅へと退院する少し前にアピキサバン投与群か病院それぞれのいつもの退院後治療群(標準治療群)にそれら患者を割り振りました。アピキサバン投与群の患者は同剤を1日2回2週間経口服用しました3)。1年間の追跡の結果、アピキサバン投与群と標準治療群の死亡か再入院の発生率はほとんど同じでそれぞれ29.1%と30.8%であり、アピキサバンの死亡や再入院の予防効果は残念ながら認められませんでした。アピキサバンは抗凝固薬なだけにHEAL-COVID試験でも出血と無縁ではなく、同剤投与群402人のうち数名は大出血により同剤服用を中止しています。COVID-19患者の退院後の手当として有用と広くみなされていた抗凝固薬は実際のところ死亡や再入院を減らす効果はなく、むしろ危険らしいことを示した今回の試験結果をうけてCOVID-19患者への本来不要な同剤投与がなくなることを望むと試験主導医師Mark Toshner氏は言っています。今回の結果は無益な治療で患者に害が及ぶのを断ち切る重要な役割を担うことに加え、COVID-19患者の長い目でみた回復、すなわちlong COVIDの解消を助ける治療を引き続き探していかねばならないことも意味します1)。HEAL-COVID試験でもその取り組みは続いており、コレステロール低下薬アトルバスタチン(atorvastatin)1年間投与の検討が進行中です。同剤は抗炎症作用があり、COVID-19患者にみられる炎症反応を緩和しうると目されています4)。long COVIDは本連載第140回で紹介したとおり英国では230万人、米国ではその10倍の2,300万人に達すると推定されており、その影響は医療に限らず雇用、障害年金、生命保険、家のローン、老後の備え、家計に波及します5)。それらをひっくるめてlong COVID が米国に強いる負担は4兆ドル近い(3.7兆ドル)とハーバード大学の経済学者David Cutler氏は予想しており6)、その額は実にサブプライムローン絡みの2000年代後半の大不況(Great Recession)の負担に匹敵します。目下のところCOVID-19といえば感染してすぐの時期に目が行きがちですが、感染がひとまずおさまった後の長患いの最適な治療をいまや急いで確立する必要があります1)。参考1)Blood thinning drug does not help patients recover from Covid / Cambridge University Hospitals NHS Foundation Trust2)About HEAL-COVID3)HEAL-COVID試験(Clinical Trials.gov)4)Blood Thinner Ineffective for COVID-19 Patients: Study / TheScientist5)Long Covid may be ‘the next public health disaster’ - with a $3.7 trillion economic impact rivaling the Great Recession / CNBC6)Cutler DM.The Economic Cost of Long COVID: An Update

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STEMIのPCI時の抗凝固療法、bivalirudin vs.ヘパリン/Lancet

 主に経橈骨動脈アプローチによる初回経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けるST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者において、bivalirudinのボーラス投与+PCI後2~4時間の高用量点滴静注は、ヘパリンのボーラス投与と比較し、30日全死亡/大出血の発生が有意に低下した。中国・General Hospital of Northern Theater CommandのYi Li氏らが、中国63都市の87施設で実施した医師主導の無作為化非盲検比較試験「Bivalirudin With Prolonged Full-Dose Infusion During Primary PCI Versus Heparin Trial-4 trial:BRIGHT-4試験」の結果を報告した。初回PCIを受けるSTEMI患者を対象にbivalirudinとヘパリンを比較したこれまでの無作為化試験では、bivalirudinの用法・用量あるいは糖蛋白IIb/IIIa阻害薬の併用の有無など試験方法が異なるため、矛盾する結果が報告されていた。Lancet誌2022年11月26日号掲載の報告。bivalirudinのボーラス投与+高用量静注投与vs.未分画ヘパリン単独投与 研究グループは、線溶療法、抗凝固薬、糖蛋白IIb/IIIa阻害薬の投与歴がなく、発症後48時間以内に初回PCI(橈骨動脈アクセスを優先)を受けるSTEMI患者を、bivalirudin群または未分画ヘパリン単独群に1対1の割合で無作為に割り付けた。盲検化は実施しなかった。 bivalirudin群では、冠動脈造影前に0.75mg/kgを急速静注し、続いてPCI施行中および施行後2~4時間に1時間当たり1.75mg/kgを点滴静注した。未分画ヘパリン単独群では、冠動脈造影前に70U/kgを急速静注した。両群とも、糖蛋白IIb/IIIa阻害薬(tirofiban)はPCI施行中の血栓合併症に対してのみ投与可とし、全例に抗血小板薬2剤併用療法(アスピリンとクロピドグレルまたはチカグレロル)が施行された。 主要評価項目は、30日以内の全死因死亡または大出血(BARC出血基準3~5)の複合とし、intention-to-treat解析を行った。 2019年2月14日~2022年4月7日の期間に、計6,016例が無作為化された(bivalirudin群3,009例、未分画ヘパリン単独群3,007例)。カテーテル室への移動中に死亡した6例と冠動脈造影に適さないと判断された2例を除く6,008例のうち、5,593例(93.1%)で橈骨動脈アクセスが使用された。30日全死因死亡/大出血の複合イベントはbivalirudin群で31%有意に低下 主要評価項目のイベント発生は、未分画ヘパリン単独群(132例、4.39%)と比較しbivalirudin群(92例、3.06%)で少なく、群間差は1.33%(95%信頼区間[CI]:0.38~2.29)、ハザード比(HR)は0.69(95%CI:0.53~0.91、p=0.0070)であった。 30日以内の全死因死亡は、未分画ヘパリン単独群で118例(3.92%)、bivalirudin群で89例(2.96%)が報告され(HR:0.75、95%CI:0.57~0.99、p=0.0420)、大出血はそれぞれ24例(0.80%)および5例(0.17%)発生した(HR:0.21、95%CI:0.08~0.54、p=0.0014)。 30日以内の再梗塞/脳卒中/虚血による標的血管再血行再建の発生率は、両群間で有意差はなかった。また、30日以内のステント血栓症は、bivalirudin群で11例(0.37%)、未分画ヘパリン単独群で33例(1.10%)の発生が報告された(p=0.0015)。

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高齢者におけるアスピリンによる消化性潰瘍出血の1次予防に対するピロリ除菌の影響(解説:上村直実氏)

 心筋梗塞や脳梗塞の予防に用いられている抗血栓薬の中でも、使用頻度が最も高い低用量アスピリン(LDA)の最大の課題は有害事象である消化性潰瘍出血であり、LDAにより出血性潰瘍が増加することがよく知られている。予防に関しては、出血性潰瘍の既往歴を有する患者の再発性潰瘍出血がヘリコバクターピロリ(ピロリ)除菌により抑制されることもメタアナリシスで確かめられているが、出血の1次予防に対する除菌の影響に関しては一定の見解が得られていない。 今回、1次予防に対するピロリ除菌の効果に関する新たな知見が、2022年11月のLancet誌に発表された。一般医家でフォローされている60歳以上のLDA常用者のうち、尿素呼気試験で判定されたピロリ陽性者5,367例を対象として除菌群と非除菌群に分けた大規模な無作為化比較試験(RCT)の結果、除菌後の追跡期間が2.5年未満では潰瘍出血による入院を有意に抑制したが、その後、機序は不明であるが、その予防効果は次第に失せていったというものである。 今回の研究はプライマリケア医が中心となって施行した大規模なRCTであるが、除外基準や併用薬剤の禁止など、厳密に規定された研究デザインで行われる臨床薬理試験と異なり、主治医の判断によりLDAの休薬や非ステロイド消炎剤(NSAID)やPPIの使用も許されるといった、実際の日常診療に即したものである。試験のデザインが緩やかなものであっても、精度の低さを補う実臨床に役立つ臨床研究論文がトップジャーナルに掲載されうることを示すものといえる。 今回の研究結果と従来の厳密な研究デザインにより得られた薬理学的エビデンスを総合的に判断すると、高齢のアスピリン常用者に関しては、通常の場合、黒色便に注意することを患者に指導するとともに定期的に貧血の検査を行いつつ診療し、消化性潰瘍出血が致命的となりうる患者や潰瘍リスクの高い潰瘍既往歴を有する者やNSAID併用者に対しては、除菌治療に加えてPPIなどの酸分泌抑制薬を加えた管理が必要と考えられた。 最後に、高齢者におけるポリファーマシーに関して一般的な注意点として、NSAIDが消化性潰瘍自体を惹起し治癒を遷延化する作用を有するのに対して、LDAは潰瘍出血を促進・遷延することなど、使用薬剤の薬理作用に精通した診療が重要である。

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ゾコーバ緊急承認を反映、コロナ薬物治療の考え方第15版/日本感染症学会

 日本感染症学会は11月22日、「COVID-19に対する薬物治療の考え方 第15版」を発刊した。今回のCOVID-19に対する薬物治療の考え方の改訂ではエンシトレルビル(商品名:ゾコーバ錠)の緊急承認を受け、薬物治療における注意点などが追加された。 日本感染症学会のCOVID-19に対する薬物治療の考え方におけるゾコーバ投与時の主な注意点は以下のとおり。・COVID-19の5つの症状(鼻水または鼻づまり、喉の痛み、咳の呼吸器症状、熱っぽさまたは発熱、倦怠感[疲労感])への効果が検討された臨床試験における成績等を踏まえ、高熱・強い咳症状・強い咽頭痛などの臨床症状がある者に処方を検討する・重症化リスク因子のない軽症例では薬物治療は慎重に判断すべきということに留意して使用する・重症化リスク因子のある軽症例に対して、重症化抑制効果を裏付けるデータは得られていない・SARS-CoV-2による感染症の症状が発現してから遅くとも72時間以内に初回投与する・(相互作用の観点から)服用中のすべての薬剤を確認する(添付文書には併用できない薬剤として、降圧薬や脂質異常症治療薬、抗凝固薬など36種類の薬剤を記載)・妊婦又は妊娠する可能性のある女性には投与しない・注意を要する主な副作用は、HDL減少、TG増加、頭痛、下痢、悪心など このほか、抗ウイルス薬等の対象と開始のタイミングの項には、「重症化リスク因子のない軽症例の多くは自然に改善することを念頭に、対症療法で経過を見ることができることから、エンシトレルビル等、重症化リスク因子のない軽症~中等症の患者に投与可能な症状を軽減する効果のある抗ウイルス薬については、症状を考慮した上で投与を判断すべきである」と、COVID-19に対する薬物治療の考え方には記載されている。

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発作性AF、冷凍アブレーションが持続性への移行を有意に抑制/NEJM

 未治療の発作性心房細動に対するクライオ(冷凍)バルーンアブレーションによる初期治療は、抗不整脈薬と比較して、3年間の追跡期間における持続性心房細動の発生率および心房頻脈性不整脈の再発率が低いことが、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のJason G. Andrade氏らがカナダの18施設で実施した医師主導の無作為化非盲検評価者盲検試験「EARLY-AF試験」の結果、示された。心房細動は慢性化する進行性の疾患で、心房細動の持続は血栓塞栓症や心不全のリスクを増加させる。初期治療としてのカテーテルアブレーションは、心房細動の発症機序に作用し持続性心房細動への移行を抑制する可能性が期待されていた。NEJM誌オンライン版2022年11月7日号掲載の報告。全例に心臓モニタを植え込み、3年間追跡 研究グループは、症候性の発作性心房細動および、無作為化前24ヵ月以内に1回以上心電図で記録された心房細動のエピソードを有し、クラスIまたはクラスIII抗不整脈薬による治療歴のない18歳以上の患者を、冷凍バルーンアブレーション群(以下、アブレーション群)または抗不整脈薬群に無作為に割り付けた。患者は、登録時に全例が植込み型心臓モニタを植え込み、データの自動送信は毎日、手動送信は毎週行われるとともに、治療開始後7日目の電話連絡、3、6、12ヵ月時およびその後は6ヵ月ごとの来院で、少なくとも3年間追跡された。なお、アブレーション群では、経口抗凝固療法をアブレーション後3ヵ月以上実施した。 主要評価項目は、持続性心房細動(7日間以上持続する、または48時間~7日間持続し停止に除細動を要した心房頻脈性不整脈)の初発、ならびに心房頻脈性不整脈(30秒以上の心房細動、心房粗動、心房頻拍)の再発、副次評価項目は不整脈負荷(心房細動の時間の割合)、QOL、救急外来受診、入院、安全性などであった。 2017年1月17日~2018年12月21日に計303例が登録され、154例がアブレーション群、149例が抗不整脈薬群に無作為に割り付けられた。冷凍バルーンアブレーション群で持続性心房細動への移行率が低い 3年間の追跡期間において、主要評価項目の持続性心房細動はアブレーション群で1.9%(3/154例)、抗不整脈薬群では7.4%(11/149例)に発生し(ハザード比[HR]:0.25、95%信頼区間[CI]:0.09~0.70)、心房頻脈性不整脈の再発はそれぞれ56.5%(87/154例)、77.2%(115/149例)に認められた(HR:0.51、95%CI:0.38~0.67)。 心房細動の時間の割合(中央値)は、アブレーション群で0%(四分位範囲[IQR]:0.00~0.12)、抗不整脈薬群で0.24%(0.01~0.94)であった。また、3年時にアブレーション群で5.2%(8例)、抗不整脈薬群で16.8%(25例)が入院していた(相対リスク:0.31、95%CI:0.14~0.66)。重篤な有害事象は、アブレーション群で7例(4.5%)、抗不整脈薬群で15例(10.1%)に認められた。

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Pharmacoequity―SGLT2阻害薬/GLP-1受容体作動薬は公正に処方されているか?-(解説:住谷哲氏)

 筆者は本論文で初めてpharmacoequityという用語を知った。「処方の公正性」とでも訳せばよいのだろうか。平等equalityと公正equityとの違いもなかなか難しいが、この用語の生みの親であるDr. Utibe R. Essienは、Ensuring that all individuals, regardless of race, ethnicity, socioeconomic status, or availability of resources, have access to the highest quality medications required to manage their health is “pharmacoequity”. と述べている1)。その意味するところを簡単に言えば、エビデンスに基づいた治療薬を必要とするすべての患者に公正に処方することを担保するのがpharmacoequityである、となる。 Essienが最初に報告したのは、心房細動患者に対するDOACをはじめとする抗凝固薬の処方率が人種race/民族ethnicityで異なり、白人に比較してアジア人と黒人で有意に低かった、とするものである2)。この研究も本論文と同じく対象患者は退役軍人保健局(Veterans Health Administration)の加入者であり、これが両論文のポイントであるが、すべての加入者に薬剤が無料または低価格で提供されるため、薬価によるバイアスがほとんどない。本論文は同様のアプローチで、心房細動患者に対する抗凝固薬の代わりに、2型糖尿病患者に対するSGLT2阻害薬/GLP-1受容体作動薬の処方率を検討した研究である。その結果は、抗凝固薬の場合と同様に、SGLT2阻害薬/GLP-1受容体作動薬の処方率は白人に比較して黒人で有意に低率であった。 人種/民族が、なぜ抗凝固薬またはSGLT2阻害薬/GLP-1受容体作動薬の処方率と関連していたのかは、両研究では明らかになっていない。しかし心房細動患者に対する抗凝固薬の処方だけではなく、本論文によって2型糖尿病患者に対するSGLT2阻害薬/GLP-1受容体作動薬の処方にも人種/民族が影響していることが明らかとなった。したがって、他のエビデンスに基づいた治療薬の処方においても同様の状況にある可能性は十分にある。EBMの実践が人種/民族によって影響される状況は公正とは言えないだろう。多民族国家ではないわが国ではこのあたりの状況に敏感ではないが、医療における公正性equity in medicine をいま一度よく考える契機となる報告である。

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第136回 ゾコーバがついに緊急承認、本承認までに残された命題とは

こちらでも何度も取り上げていた塩野義製薬の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)治療薬のエンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)がついに11月22日、緊急承認された。今回審議が行われた第5回薬事分科会・第13回医薬品第二部会合同会議も公開で行われたが、緊急承認に対して否定的意見が多数派だった前回に比べれば、かなり大人しいものになった。今回の再審議に当たって新たに塩野義製薬から提出されたデータは同薬の第II/III相試験の第III相パートの速報値だが、その内容については過去の本連載で触れたので割愛したい。審議内で一つ明らかになったのは第III相パートの主要評価項目、有効性の検証対象の用量、有効性の主要な解析対象集団が試験中に変更されていたことだ。もともと、エンシトレルビルでの主要評価項目は新型コロナ関連12症状の改善だったが、前回の合同会議で示された第IIb相パートの結果やオミクロン株の特性に合わせて、最終的な主要評価項目はオミクロン株に特徴的な5症状に変更されたという。これについて医薬品医療機器総合機構(PMDA)側は、新型コロナは流行株の変化で患者の臨床像なども変化することから、主要評価項目の適切さを試験開始前に設定するのは相当の困難これら変更が試験の盲検キーオープン前だったとの見解で許容している。少なくとも第IIb相のサブ解析結果の教訓を生かした形だ。そして、今回の審議でまず“噛みついた”のは前回審議で参考人の利益相反(COI)状況などを激しく責め立てた山梨大学学長の島田 眞路氏だった(参考:第118回)。その要点は以下の2点だ。緊急承認の条件には「代替手段がない」とあるが、すでに経口薬は2種類ある日本人集団だけ(治験は日本、韓国、ベトナムで実施)での解析では症状改善までの期間短縮はわずか6時間程度でとても有効とは言い切れないこれに対して事務方からの回答は以下のようなものだ。国産で安定供給ができ、適応が重症化リスクを問わないので代替手段がないに該当する日本人部分集団で群間差が小さい傾向が認められたことについて、評価・考察を行うための情報には限りがあり、今後改めて評価する必要がある島田氏の日本人集団に関する指摘に関しては、そもそも臨床試験自体が3ヵ国全体の参加者で無作為化されていることを考えれば、日本人集団のみのサブ解析結果は参考値程度に過ぎず、申し訳ないが揚げ足取りの感は否めない。もっとも島田氏がこの事務局説明に対して「(重症化)リスクのない人に使えるから良いんじゃないかって、リスクのない人はちょっと風邪症状があるなら、風邪薬でも飲んどきゃ良いんですよ」と反論したことは大筋で間違いではない。ただし、過去の新型コロナ患者の中には、表向きは基礎疾患がないにもかかわらず死亡した例があることも考えると、さすがに私個人はここまでは断言しにくい。一方、参加した委員から比較的質問・指摘が集中したのがウイルス量低下の意義に関するものだ。議決権はない国立病院機構名古屋医療センターの横幕 能行氏は「(今回の資料では)感染あるいは発症から72時間以内に投与しないと、機序も含めた解釈ではウイルス活性を絶ち切る、もしくはそれに近い効果を得ることはできない。そして72時間以降の投与ではウイルス量の低下もしくは感染性の低下については基本的にはまったく効果がないと読める。感染伝播の阻止、早期の職場復帰などを考えると、ウイルス量もしくは感染性の低下に関する効果のこの点を十分に認識していただいた上で市中に出す必要があるかと思う」と指摘した。これに関して事務方からは「ウイルス量低下の部分は、確かに数値の低下が認められているものの、これがどの程度の臨床的意義を持つかについてはなかなか評価が難しい」というすっきりしない反応だった。現段階でのデータではPMDAも何とも言えないのも実情だろう。最終的には島田氏以外の賛成多数により緊急承認が認められたが、臨床現場での意義はやはり依然として微妙だ。過去にも繰り返し書いているが、エンシトレルビルは、ニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッド)と同じCYP3A阻害作用を有する3CLプロテアーゼ阻害薬であるため、併用禁忌薬は36種類とかなり多い。中には降圧薬、高脂血症治療薬、抗凝固薬といった中高年に処方割合の多い薬剤も多く、この年齢層で投与対象は少ないとみられる。そもそもこの層はモルヌピラビルやニルマトレルビル/リトナビルとも競合するため、これまでの使用実績が多いこれら薬剤のほうが選択肢として優先されるはずだ。となると若年者だが、催奇形性の問題から妊孕性のある女性では使いにくいことはこれまでも繰り返し述べてきたとおりだ。今回の緊急承認を受けて日本感染症学会が公表した「COVID-19に対する薬物治療の考え方第 15版」では、妊孕性のある女性へのエンシトレルビルの投与に当たっては▽問診で直前の月経終了日以降に性交渉を行っていないことを確認する▽投与開始前に妊娠検査を行い、陰性であることを確認することが望ましい、と注意喚起がされている。しかし、現実の臨床現場でこれが可能だろうか? 女性医師が女性患者に尋ねる場合でも、かなり高いハードルと言える。となると、ごく一部の若年男性が対象となるが、これまで国も都道府県も重症化リスクのない若年者へはむしろ受診を控えるよう呼びかけている。もしこうした若年男性がエンシトレルビルの処方を受けたいあまり発熱外来に殺到するならば、感染拡大期には逆に医療逼迫を加速させてしまい本末転倒である。では前述のような見かけ上では重症化リスクがないにもかかわらず突然死亡に至ってしまうような危険性がある症例を選び出して処方できるかと言えば、そうした危険性のある症例自体が現時点ではまだ十分に医学的プロファイリングができていない。そもそも、エンシトレルビルの第III相パートの結果で明らかになったのはオミクロン株特有の臨床症状の改善であって、重症化予防は今のところ未知数だ。となると、後は重症化リスクのない軽症・中等症の中で臨床症状が重めな「軽症の中の重症」のようなやや頭の中がこんがらがりそうな症例を選ばなければならない。強いて言うならば、たとえば酸素飽和度の基準で軽症と中等症を行ったり来たりするような不安定な症例だろうか? ただ、今までもこうした症例で抗ウイルス薬なしで対処できた例も少なくないだろう。そして国の一括買い上げのため価格は不明だが、抗ウイルス薬が安価なはずはなく、多くの臨床医が投与基準でかなり悩むことになるだろう。ならば専門医ほどいっそ端から使わないという選択肢、非専門医は悩んだ末にかなり幅広く処方するという二極分化が起こりうる可能性もある。この薬がこうも悩ましい状況を生み出してしまうのは、前回の合同会議の審議でも話題の中心だった「臨床症状改善効果の微妙さ」という点にかなり起因する。今回の第III相パートの結果では、オミクロン株に特徴的な5症状総合での改善ではプラセボ対照でようやく有意差は認められたものの、有意水準をどうにかクリアしたレベル(p=0.04)だ。ちなみに、もともとの主要評価項目だった12症状総合では今回も有意差は認められなかった。さらに言うと、緊急承認後に塩野義製薬が開催した記者会見後のぶら下がり質疑の中で同社の執行役員・医薬開発本部長の上原 健城氏は、今回の試験では解熱鎮痛薬の服用は除外基準に入っておらず、第III相パートでは両群とも被験者の2~3割はエンシトレルビルと解熱鎮痛薬の併用だったことを明らかにしている。もちろんリアルワールドを考えれば、解熱鎮痛薬を服用していない患者のみを集めるのは難しいだろう。「(解熱鎮痛薬服用が症状判定の)ノイズになってしまってはいけないので、服用直後数時間はデータを取らないようにした」(上原氏)とのこと。ただし、解熱鎮痛薬の抗炎症効果を考えれば、今回の主要評価項目に含まれていたオミクロン株に特徴的な症状のうち、「喉の痛み」の改善などには影響を及ぼす可能性はある。そうなるとエンシトレルビルの「真水」の薬効は、ますます微妙だと言わざるを得ない。もちろん今回の第III相パートはそもそも9割以上の被験者がワクチン接種済みで、さらに2~3割が解熱鎮痛薬の服用があった中でも有意差を認めたのだから、それらがない前提ならばもっと効果を発揮できた可能性もあるのでは? という推定も成り立つが、そう事は簡単な話ではない。緊急承認という枠組みで今後の追加データ次第では1年後に本承認となるか否かという大きな命題が残っていることもあるが、「統計学的有意差を認めたから、少なくとも現時点での緊急承認はこれで一件落着」と素直には言い難いと私個人は思っている。

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極めて難しい妊婦・産婦の静脈血栓症に対して日本は世界の標準治療ができない?(解説:後藤信哉氏)

 血栓症を専門とする医師として最も困難な臨床病態の一つが妊婦・産婦の静脈血栓症である。高齢者の心筋梗塞であれば死亡などの合併症を起こしても納得しやすい。多くの妊婦が安全に出産するなかで自分の家族が静脈血栓症に凶変すれば家族としては納得できない。血栓性素因などが同定されたら、血栓予防を行うことになる。数ヵ月の妊娠期間内、継続的に血栓予防を行うためにはどうしたらいいだろうか? 経口抗凝固薬として長年のデータの蓄積のあるワルファリンは胎盤を通過する。催奇形性もあるため器官形成期には使用できない。選択的トロンビン、Xa阻害薬は心房細動の脳卒中予防などに広く使用されているが、妊婦への使用経験は少ない。低分子として胎盤を通過すれば胎児への影響も懸念される。 妊婦の血栓症に対して使用できる数少ない抗凝固薬がヘパリンである。ヘパリンは分子量の異なる物質が混在している。個人ごとに効果がばらつくためaPTTを用いたモニタリングが必須である。欧米では、ヘパリンから低分子量成分を抽出した低分子ヘパリンが静脈血栓症に対して使用できる。妊娠中、産後の血栓リスクの高い時期には低分子ヘパリンの自己皮下注射が広く普及している。いわゆる予防量とされる少量の固定量が良いか、体重に応じて投与量を調節した方がよいかは不明であった。つまり、妊産婦の静脈血栓症予防の最適治療について欧米諸国は相当標準化が進んでいたが、容量調節の要否についてコンセンサスがなかったので本ランダム化比較試験が施行された。妊娠14週よりも前に静脈血栓が確認された症例を1,110例集めた。出産後6週までの血栓イベント、出血イベントの群間比較を行い両群に差がないとされた。 残念なことに日本では低分子量ヘパリンが静脈血栓症において適応を取得していない。家族とトラブルになるリスクの高い妊産婦の血栓予防に低分子ヘパリンをチャレンジする勇気はない。世界の標準治療と異なるとしてもヘパリンカルシウムなどにて対応せざるを得ない。ランダム化比較試験のエビデンスが標準治療とされる原理の中で、一度世界と標準治療が異なってしまうと追いつくのが難しい。低分子ヘパリンの自己皮下注が使えれば…と思う症例が多い。せめて日本でも大規模な観察研究データでも作って、本研究のように治療下でも1%の症例には静脈血栓イベントが起こる、などの科学的事実を集積できれば患者さんへの説明に役立つ。

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