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複数流産歴のある遺伝性血栓症女性への低分子ヘパリン、出生率を改善せず/Lancet

 2回以上の流産歴があり、遺伝性血栓性素因による特発性血栓症の確定診断を受けた女性に対し、低分子ヘパリン(LMWH)投与は生児出生率の増加に結び付かないことが示された。英国・ウォーリック大学のSiobhan Quenby氏らが、欧米5ヵ国の病院で行った国際非盲検無作為化対照試験「ALIFE2試験」の結果を報告した。抗凝固療法は、不育症および遺伝性血栓性素因を有する女性の流産回数と有害妊娠アウトカムを減らす可能性が示唆されており、研究グループは、同女性集団におけるLMWH vs.標準治療を評価した。結果を踏まえて著者は、「不育症および遺伝性血栓性素因を有する女性にLMWHの使用は推奨しない。また、不育症の女性に遺伝性血栓性素因のスクリーニングを行わないことを推奨する」と述べている。Lancet誌オンライン版2023年6月1日号掲載の報告。妊娠7週目までに低用量LMWHを投与 ALIFE2試験は、英国(26病院)、オランダ(10)、米国(2)、ベルギー(1)、スロベニア(1)の40病院で被験者を募り、18~42歳で、流産歴2回以上、遺伝性血栓性素因による特発性血栓症の確定診断を受け、妊娠を試みている、もしくは妊娠7週目以前の女性を対象に行われた。 尿検査で妊娠を確認後、研究グループは被験者を無作為に2群に分け、一方には標準治療+低用量LMWH投与(LMWH群)、もう一方には標準治療のみ(標準治療群)を行った。LMWH投与は妊娠7週目までに開始し、妊娠終了まで継続した。 主要アウトカムは生児出生率で、データが入手可能な女性全員を対象に評価した。安全性アウトカムは、出血、血小板減少症、皮膚反応などで、無作為化の対象で安全性イベントを報告した全員について評価した。生児出生率、LMWH群72%、標準治療群71%で同等 2012年8月1日~2021年1月30日に、1万625例が適格性評価を受け、428例が試験登録され、うち妊娠が確認された326例が無作為化された(LMWH群164例、標準治療群162例)。 生児出生率は、LMWH群が72%(主要アウトカムデータを入手できた162例中116例)、標準治療群が71%(同158例中112例)だった(補正後オッズ比:1.08[95%信頼区間:0.65~1.78]、絶対群間リスク差:0.7%[同:-9.2~10.6])。 有害イベントは、LMWH群164例中39例(24%)、標準治療群162例中37例(23%)で報告された。

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血圧管理ケアバンドル、脳内出血の機能的アウトカムを改善/Lancet

 脳内出血の症状発現から数時間以内に、高血糖、発熱、血液凝固障害の管理アルゴリズムとの組み合わせで早期に集中的に降圧治療を行うケアバンドルは、通常ケアと比較して、機能的アウトカムを有意に改善し、重篤な有害事象が少ないことが、中国・四川大学のLu Ma氏らが実施した「INTERACT3試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年5月25日号で報告された。10ヵ国121病院のstepped wedgeクラスター無作為化試験 INTERACT3試験は、早期に集中的に血圧を下げるプロトコールと、高血糖、発熱、血液凝固障害の管理アルゴリズムを組み込んだ目標指向型ケアバンドルの有効性の評価を目的に、10ヵ国(低・中所得国9、高所得国1)の121病院で実施された実践的なエンドポイント盲検stepped wedgeクラスター無作為化試験であり、2017年5月27日~2021年7月8日に参加施設の無作為化が、2017年12月12日~2021年12月31日に患者のスクリーニングが行われた(英国保健省などの助成を受けた)。 参加施設は、ケアバンドルと通常ケアを行う時期が異なる3つのシークエンスに無作為に割り付けられた。各シークエンスは、4つの治療期間から成り、3シークエンスとも1期目は通常ケアが行われ、ケアバンドルはシークエンス1が2~4期目、シークエンス2は3~4期目、シークエンス3は4期目に行われた。 ケアバンドルのプロトコールには、収縮期血圧の早期厳格な降圧(目標値:治療開始から1時間以内に140mmHg未満)、厳格な血糖コントロール(目標値:糖尿病がない場合6.1~7.8mmol/L、糖尿病がある場合7.8~10.0mmol/L)、解熱治療(目標体温:治療開始から1時間以内に37.5°C以下)、ワルファリンによる抗凝固療法(目標値:国際標準化比<1.5)の開始から1時間以内の迅速解除が含まれ、これらの値が異常な場合に実施された。 主要アウトカムは、マスクされた研究者による6ヵ月後の修正Rankin尺度(mRS、0[症状なし]~6[死亡]点)で評価した機能回復であった。6ヵ月以内の死亡、7日以内の退院も良好 7,036例(平均年齢62.0[SD 12.6]歳、女性36.0%、中国人90.3%)が登録され、ケアバンドル群に3,221例、通常ケア群に3,815例が割り付けられ、主要アウトカムのデータはそれぞれ2,892例と3,363例で得られた。 6ヵ月後のmRSスコアは、通常ケア群に比べケアバンドル群で良好で、不良な機能的アウトカムの可能性が有意に低かった(共通オッズ比[OR]:0.86、95%信頼区間[CI]:0.76~0.97、p=0.015)。 ケアバンドル群におけるmRSスコアの良好な変化は、国や患者(年齢、性別など)による追加補正を含む感度分析でも、全般に一致して認められた(共通OR:0.84、95%CI:0.73~0.97、p=0.017)。 6ヵ月の時点での死亡(p=0.015)および治療開始から7日以内の退院(p=0.034)も、ケアバンドル群で優れ、健康関連QOL(EQ-5D-3Lで評価)ドメインのうち痛み/不快感(p=0.0016)と不安/ふさぎ込み(p=0.046)が、ケアバンドル群で良好だった。 また、通常ケア群に比べケアバンドル群の患者は、重篤な有害事象の頻度が低かった(16.0% vs.20.1%、p=0.0098)。 著者は、「このアプローチは、収縮期血圧140mmHg未満を目標とする早期集中血圧管理を基本戦略とする簡便な目標指向型のケアバンドルプロトコールであり、急性期脳内出血患者の機能的アウトカムを安全かつ効果的に改善した」とまとめ、「この重篤な疾患に対する積極的な管理の一環として、医療施設は本プロトコールを取り入れるべきと考えられる」としている。

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心房細動を伴う脳梗塞、DOAC投与は早期か後期か/NEJM

 急性脳梗塞を発症した心房細動患者における直接経口抗凝固薬(DOAC)の、至適な投与開始時期は明らかにされていない。スイス・バーゼル大学のUrs Fischer氏らは、「ELAN試験」において、DOACの早期投与と後期投与を比較した。その結果、両群のアウトカムの発生に大きな差はなかったものの、早期に投与を開始しても過度なリスクの増加はないとことが示唆された。NEJM誌オンライン版2023年5月24日号掲載の報告。15ヵ国の無作為化試験 ELAN試験は、日本を含む15ヵ国103施設が参加した医師主導の非盲検無作為化試験であり、2017年11月~2022年9月の期間に患者の登録が行われた(スイス国立科学財団などの助成を受けた)。 脳卒中による入院中に、永続性・持続性・発作性の非弁膜症性心房細動または心房細動と診断された脳梗塞患者が、DOACによる抗凝固療法を早期(軽症または中等症の脳卒中の発症から48時間以内、重症脳卒中の発症から6~7日)、または後期(軽症脳卒中の発症から3~4日、中等症脳卒中の発症から6~7日、重症脳卒中の発症から12~14日)に開始する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、無作為化から30日以内の再発脳梗塞、全身性塞栓症、頭蓋外大出血、症候性頭蓋内出血、血管死の複合とされた。主要アウトカム発生、早期開始2.9% vs.後期開始4.1%、90日後は3.7% vs.5.6% 2,013例(年齢中央値77歳[四分位範囲[IQR]:70~84]、女性45%、軽症37%、中等症40%、重症23%)が登録され、早期抗凝固療法群に1,006例、後期抗凝固療法群に1,007例が割り付けられた。 30日時点で、主要アウトカムのイベントは、早期抗凝固療法群が29例(2.9%)、後期抗凝固療法群は41例(4.1%)で発生した(オッズ比[OR]:0.70[95%信頼区間[CI]:0.44~1.14]、群間リスク差:-1.18ポイント[95%CI:-2.84~0.47])。また、90日の時点では、それぞれ36例(3.7%)、54例(5.6%)で発生した(群間リスク差:-1.92%ポイント[95%CI:-3.82~-0.02])。 再発脳梗塞は、30日の時点で早期抗凝固療法群14例(1.4%)、後期抗凝固療法群25例(2.5%)で発生し(OR:0.57[95%CI:0.29~1.07]、群間リスク差:-1.14ポイント[95%CI:-2.41~0.13])、90日の時点でそれぞれ18例(1.9%)、30例(3.1%)で認められた(0.60[0.33~1.06]、-1.29ポイント[-2.72~0.13])。 また、症候性頭蓋内出血は、30日の時点で両群とも2例(0.2%)で発生し(OR:1.02[95%CI:0.16~6.59]、群間リスク差:0.01[95%CI:-0.52~0.53])、90日の時点でもこの2例(0.2%)ずつのみだった(1.00[0.15~6.45]、0.00[-0.54~0.53])。 著者は、「30日後の主要アウトカムの発生率は、リスク差の95%CIに基づくと、DOACの使用時期が遅い場合よりも早い場合のほうが、2.8ポイント低~0.5ポイント高の範囲と推定される」とまとめ、「30日までの再発脳梗塞や症候性頭蓋内出血の発生率は低いことから、早期治療開始は、適応がある場合、あるいは希望がある場合に支持される。アウトカムの発生率は30日後よりも90日後でわずかに高かったものの、早期抗凝固療法に伴う過度のリスクの増加はないことが示唆される」と指摘している。

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がん化学療法中に発症した肺塞栓症、がん治療医と循環器医が協力して行うべき適切な管理は?【見落とさない!がんの心毒性】第21回

※本症例は、実臨床のエピソードに基づく架空のモデル症例です。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。《今回の症例》年齢・性別30代・男性主訴右下腿の腫脹・疼痛現病歴とくに既往症はなく、生来健康であった。陰嚢腫大を契機に右精巣腫瘍を指摘された。高位精巣摘除術で非セミノーマの診断となり、術後の血液検査で腫瘍マーカーの上昇(LDH、hCG-β、AFP)と、造影CT検査で領域リンパ節と傍大動脈リンパ節の多発転移(最大径4cm)、多発肺転移(最大径3cm)を指摘された。右精巣腫瘍(胚細胞腫瘍・非セミノーマ)、TNM分類はT2N2M1aS1、ステージIIIA、IGCCC分類の予後良好群と診断された。化学療法は腫瘍内科医が担当することとなった。腫瘍内科医は症例患者のステージ、リスク分類から、標準治療であるBEP療法 (ブレオマイシン、エトポシド、シスプラチン) 3コースを行う方針とした。BEP療法2コース後、腫瘍マーカーは正常範囲内まで改善したが、発熱性好中球減少症(FN:febrile neutropenia)や消化器毒性、倦怠感など化学療法に伴う有害事象があり、入院中も臥床時間が長い傾向にあった。1コース目でFNを発症したため、2コース目は二次予防的にG-CSF製剤を使用した。3コース目開始前日に右下腿の腫脹・疼痛の訴えがあり、血液検査を実施したところD-dimerが9.5μg/mLと高値であった。右下腿の腓腹筋の把握痛を認めたため、腫瘍内科医は深部静脈血栓症(DVT:deep vein thrombosis)を疑い下肢静脈超音波検査を行ったところ、右大腿〜膝窩静脈に比較的新鮮と思われる血栓(中枢型DVT)を認めた。バイタルサインに問題はなく、呼吸困難や胸痛の訴えはなかったが、造影CT画像検査で左右の肺動脈に塞栓がみられ、肺塞栓症(PE:pulmonary embolism)も合併していることがわかった。多発リンパ節転移、多発肺転移は化学療法導入前より縮小傾向にあり、リンパ節転移はいずれも短径1cm未満、肺転移も長径2cm未満となっており、化学療法は奏効していると思われた。【問題1】本症例の患者がDVT/PEを発症した原因や誘因について、正しいと思われる選択肢を3つ選んでください。a.長期臥床や骨盤リンパ節転移による下肢静脈の圧排による血流停滞が血栓形成の誘因となった。b.シスプラチンは一般的に血栓塞栓症のリスクが高い抗がん剤とされている。c.ブレオマイシンは一般的に血栓塞栓症のリスクが高い抗がん剤とされている。d.固形がんにおける化学療法中のDVTの発症頻度はがん種によって差があり、胚細胞腫瘍は比較的リスクが高いがん種である。e.化学療法による有害事象対策のための支持療法に使用する薬剤は血栓塞栓症のリスクにはならない。腫瘍内科医は本症例の患者におけるDVT/PEの治療について、循環器内科医にコンサルトした。心電図検査、心臓超音波検査で右室負荷所見は認めず、循環動態は保たれていると判断した。腫瘍内科医と循環器医で協議し、治療方針について検討を行った。【問題2】本症例の治療方針について、不適切な選択肢を1つ選んでください。a.腎機能や体重を確認し、経口薬であるDOACs(direct oral anticoagulants)でDVT/PEの治療を開始した。b.抗凝固薬を開始してもDVTが軽快せず、PEが悪化した場合に致死的になるリスクが高いと思われる場合はIVCフィルターを検討する方針とした。c.腫瘍マーカーの値やCTの結果から、胚細胞腫瘍の病勢はコントロールできているため、DVT/PEの治療を優先し、血栓・塞栓が画像上完全に消失したことを確認してから化学療法を再開する方針とした。d.化学療法がDVT/PEの誘因になった可能性は否定できないが、抗凝固薬を開始してDVT/PEの明らかな増悪がなければBEP療法の3コース目は減量せずに実施する方針とした。e.化学療法後に残存腫瘍に対する外科的切除術を行う可能性があるため、DVT/PEの治療状況や心機能の評価は循環器内科医が併診しながら慎重に経過を観察した。<Take home message>血管新生阻害薬やHER2阻害薬などの分子標的薬、または免疫チェックポイント阻害薬における循環器領域の有害事象が腫瘍循環器領域でのトピックになっているが、いわゆる抗がん剤(殺細胞性抗がん剤)でも腫瘍循環器的プロブレムがみられることがある。それぞれの薬剤における頻度・致死性の高い有害事象を理解することは、腫瘍内科医、循環器内科医の双方にとって重要である。腫瘍内科医は「がんの治療は詳しいが、循環器の治療はよくわからない」。一方で、循環器内科医は「循環器の治療は詳しいが、がんの治療はよくわからない」。腫瘍内科医と循環器内科医が密に連携し、それぞれの専門領域の観点からベストと思われる対応を目指すことが、腫瘍循環器的プロブレムのより良い管理にとって必要である。1)Seng S, et al. J Clin Oncol. 2012;30:4416-4426.2)Oppelt P, et al. Vasc Med. 2015;20:153-161.3)Piketty AC, et al. Br J Cancer. 2005;93:909-914.4)Lauritsen J, et al. J Clin Oncol. 2020;38:584-592.5)Haddad TC, et al. Thromb Res. 2006;118:555-568.6)Khorana AA, et al. Cancer. 2005;104:2822-2829.7)Raskob GE, et al. N Engl J Med. 2018;378:615-624.8)Agnelli G, et al. N Engl J Med. 2020;382:1599-1607.9)Young AM, et al. J Clin Oncol. 2018;36:2017-2023.10)Empowering urologists to provide the best possible care:Testicular Cancer11)Motzer RJ, et al. Cancer. 1990;66:857-861. 12)Mulder FI, et al. Blood. 2021;137:1959-1969.講師紹介

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軽度の心筋梗塞経験者にβ遮断薬の長期投与は必要ない?

 心筋梗塞を経験した人は通常、その後、何年にもわたってβ遮断薬を服用する。しかし、生じた心筋梗塞が軽度だった場合には、その必要はない可能性のあることが新たな研究で明らかになった。心臓のポンプ機能が正常な心筋梗塞の患者に1年以上β遮断薬を投与しても、投与しなかった患者と比較して心血管アウトカムが改善するわけではないことが示されたのだ。ウプサラ大学(スウェーデン)医学部の循環器専門医であるGorav Batra氏らによるこの研究結果は、「Heart」に5月2日掲載された。 β遮断薬は、交感神経のβ1受容体を遮断して心拍数を低下させ、心筋の収縮性を弱めることから、高血圧や頻脈性不整脈、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患、心不全などの治療薬として用いられている。過去の研究では、心筋梗塞により心不全を発症した人では、β遮断薬により転帰が改善することが示唆されている。しかし、心不全や左室収縮機能障害(LVSD)が生じていない軽度の心筋梗塞経験者においても、β遮断薬の長期使用が有用であるのかどうかについては、明確になっていない。 Batra氏は、「軽度の心筋梗塞経験者に対するβ遮断薬の長期投与は、冠動脈バイパス術などの再灌流療法や抗血栓薬などによる薬物療法がなかった頃に実施された臨床試験の結果に基づき実践されている」と説明する。そこで同氏らは、スウェーデンの心筋梗塞患者に関する2005〜2016年の全国登録データを用いて、軽度の心筋梗塞を発症したが、心不全やLVSDは生じていない患者に対するβ遮断薬の1年以上にわたる投与について検討した。 対象者は、上記の条件を満たす心筋梗塞を発症した、18歳以上の4万3,618人(平均年齢64歳、女性25.5%)。このうち、3万4,253人(78.5%)は心筋梗塞による入院から1年後の時点でもβ遮断薬の使用を継続していたが、残りの9,365人(21.5%)は使用していなかった。 ITT解析の結果、中央値4.5年の追跡期間中に、複合アウトカムとした全死亡、心筋梗塞の再発、予期せぬ血行再建術、心不全による入院の100人年当たりの発生件数は、β遮断薬使用群で3.8件、β遮断薬非使用群で4.9件と、遮断薬使用群の方が少なかった(ハザード比0.76、95%信頼区間0.73〜0.80)。しかし、傾向スコアによる逆確率重み付けと結果に影響を及ぼし得る因子を調整して解析すると、両群間で複合アウトカムのリスクに差は認められなくなった(同0.99、0.93〜1.04)。 こうした結果についてBatra氏は、「本研究は臨床試験ではないため、得られた結果は、軽度の心筋梗塞経験者がβ遮断薬を長期使用してもメリットがないことを証明するものではない」と述べ、慎重な解釈を求めている。その上で同氏は、「本研究の結果により、現行の治療法が改められることはないが、今後、臨床試験で検討すべき重要な問題を提起したことは確かだ」との見方を示している。 一方、本研究には関与していない、米コロンビア大学アービングメディカルセンターのAjay Kirtane氏は、「軽度の心筋梗塞の発症者では、短期的にはβ遮断薬が有効な可能性がある。実際、心筋梗塞の発症直後には、心臓のポンプ機能が多少は低下していることがあるからだ」と述べる。そして、「軽度の心筋梗塞経験者にβ遮断薬を処方すべきではないというのは言い過ぎであり、大きなリスクを伴う。しかし、1年以上にわたってβ遮断薬を服用している患者は、担当医にこの薬剤がまだ自分に必要なのかどうかを尋ねてみると良いだろう。β遮断薬は倦怠感やめまいなどの副作用を伴うため、薬剤が必要ないのであれば、そのような問題を回避することができる」と助言している。

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DOACの出血リスクが少ないのは?リバーロキサバンvs.エドキサバン

 非弁膜症性心房細動(NVAF)治療として直接経口抗凝固薬(DOAC)の用量規定を遵守しない投与(off-label dosing)は適応外使用となる。一方、現実の本剤処方の実態は、かなりの頻度で規定用量非遵守の低用量使用(off-label underdosing)が行われている。そこで、北摂総合病院の諏訪 道博氏らは血漿濃度(PCs:plasma concentrations)をモニタリングし、1日1回服用のリバーロキサバンとエドキサバンの投与状況を調査した。その結果、NVAF患者のPCsを監視することで、リバーロキサバンとエドキサバンの出血リスク軽減のための用量調整が可能なことを実証した。また、出血の発生率はリバーロキサバン群よりエドキサバン群で少ないことも明らかになった。Circulation Reports誌2023年3月10日号掲載の報告。 主な結果は以下のとおり。・NVAFの外来患者のうち、リバーロキサバン処方群(391例)とエドキサバン処方群(333例)についてPCsのモニタリングを実施した。PCsの出血イベントのカットオフ値(リバーロキサバン:404 ng/mL、エドキサバン:402 ng/mL)はROC曲線から決定され、それを超えた患者(リバーロキサバン:28.1%、エドキサバン:12.6%)では用量調整が行われ、モニタリングを用いたoff-label dosingにより出血イベントは減少した。・追跡期間の中央値はリバーロキサバンが13ヵ月、エドキサバンが10ヵ月で、出血イベントの年間発生率はエドキサバンよりもリバーロキサバンのほうが高かった(患者年あたり4.88件vs.3.73件、p<0.05)。・さらに、クレアチニンクリアランスが50mL/min以上で、体重60kg以下の患者群の場合、リバーロキサバンは15mg(日本人標準用量)、 エドキサバンは30mgがそれぞれ適応となるが、リバーロキサバン15mgでは、エドキサバン30mgよりも出血イベントの発生率が高くなった(22.2% vs.2.9%、p<0.01)。 研究者らは「これは、リバーロキサバンでの出血発生率が高いとされる理由の一因と思われた」としている。

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冬眠中のクマから血栓予防のヒントを発見

 長い間、体を動かさないでいると、人間なら血行不良から命にも関わる血栓ができかねない。しかし、何カ月にもわたって眠り続ける冬眠中のクマにこうした問題が生じないのはなぜなのだろう。この疑問を解く鍵はあるタンパク質にあることが、ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(ドイツ)を中心とする国際研究グループが実施した13年にわたる研究から明らかになった。研究グループは、この発見が血栓予防薬の開発につながるとの期待を示している。研究の詳細は、「Science」4月13日号に報告された。 この研究を行うことになった背景について、研究グループの1人である同大学のTobias Petzold氏は、「冬眠前のクマは、起きている時間の大半を食べることに費やして体重を大幅に増やし、1年の半分にも及ぶ冬眠中には何もせずに寝て過ごす。人間がこのような生活をしたなら、肥満、筋肉減少、骨密度低下、2型糖尿病、深部静脈血栓症や肺塞栓症を含む静脈血栓塞栓症 (VTE)など、さまざまな健康上の問題が生じるだろう。それなのにクマは、冬眠明けでも健康に衰えが見られない。何がクマを守っているのかを突き止めれば、理論的には、“現代のライフスタイル”に関連して生じる人間のさまざまな疾患に対する新たな治療法につながるかもしれないと考えた」と語っている。 研究では、13頭のヒグマから夏と冬の2回にわたって血液を採取し、夏と冬の間での血小板タンパク質レベルの比較を行った。また、慢性的に体を動かせない脊髄損傷患者では血栓リスクが上昇しないことが知られていることから、脊髄損傷により慢性的に動けない患者とその対照となる健常者からも血液を採取して調べた。 その結果、冬眠中のクマでは、止血作用のある血小板でのタンパク質の発現が、通常のレベルより低下していることが明らかになった。特に発現の低下が著しかったのは、ヒート(熱)ショックタンパク質47(HSP47)と呼ばれるタンパク質で、活動中のクマと比べた冬眠中のクマの血小板では55倍も低下していた。このことから、HSP47の発現低下が、何カ月も眠りにつくクマの体内での血栓形成を防いでいる可能性がうかがわれた。そこでPetzold氏らは、HSP47を発現しないマウスを作成して血栓形成能を調べた。その結果、HSP47を発現しないマウスでは、対照と比較して血栓形成頻度が大幅に減少することが確認された。さらに、慢性的に動けない患者と動けない状態に置かれた健常者でも血小板でのHSP47の発現低下が確認された。 Petzold氏は、「この研究結果は、血栓のできやすい状態にある人での血栓形成を予防する、新たな治療薬の開発につながる可能性がある」と期待を寄せる。同氏は、「今後は、HSP47がどのようなメカニズムで血栓を予防するのかを詳しく研究していきたいと考えている」と話している。 血栓予防薬としては、以前よりアスピリンなどが使われている。しかし、Petzold氏によると、そうした抗血栓薬には出血リスクが高まるなどの副作用があるため、より高い効果と安全性を有する薬剤を探求し続ける必要があるという。同氏は、「われわれは、人の体内に生まれつき備わっていて、必要に応じて利用できる『抗凝血薬』が、臨床上で未解決のこのニーズに取り組む際に、一助になると考えている」と述べる。 アルゼンチン国立医学アカデミーで血液凝固メカニズムを研究しているMirta Schattner氏は、「この研究は、自然を観察することが、ヒトの生物学を学ぶ良い方法となり得ることを明示している」との見方を示す。同氏はまた、「糖尿病やさまざまながんのような慢性疾患も血栓リスクを高める可能性がある。熱ショックタンパク質がそのような疾患においても血栓形成に重要な役割を果たしているのかどうかも、今後、検討していくべきだろう」と話している。

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静脈血栓塞栓症治療中の肺動脈塞栓を伴う右室内腫瘤の治療方針【見落とさない!がんの心毒性】第20回

※本症例は、患者さんのプライバシーへの配慮と、臨床経過の円滑な理解を進めるため、一部改変を加えております。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。《今回の症例》年齢・性別50代・女性受診までの経過子宮頸がんに対する化学放射線療法後、無再発で経過していたが、5年目のCT検査にて右腸骨静脈の下大静脈合流部から右下腿までの広範囲な静脈血栓症と静脈周囲の炎症所見があり(図1)、深部静脈血栓塞栓症と血栓性静脈炎の合併として、当科に診療依頼があった。血栓性静脈炎が出現するまでは、日常生活になんら支障がない日常生活動作(ADL)であった。(図1)造影CT検査【既往症】子宮頸がん3B期当院にて5年前に全骨盤外照射 50Gy+CDDP 35mg/m2/week× 6回、両側内腸骨リンパ節および傍大動脈リンパ節領域10Gy、その後、エトポシド25mg/day 内服3週間、休薬1週間を合計21cycle追加し、当科初診時までの5年間無再発。当科初診時、右下肢広範囲の発赤腫脹を認め、血液検査ではD-dimer 7.4μg/mL、抗カルジオリピン抗体は陰性であった。下肢全体の腫脹と疼痛は強かったが、CT検査にて肺動脈血栓塞栓症は認めず、抗凝固療法を開始して1ヵ月ほどでD-dimerが0.8μg/mLと正常化し下肢腫脹も改善した。4ヵ月後にD-dimerの再上昇傾向を認め下肢腫脹が再燃したが、CT検査では、明らかな子宮頸がんの再発や転移を認めず、大腿静脈血栓はほぼ消失したものの、腸骨静脈血栓が残存している状態であった。他院循環器病院へ薬剤抵抗性のDVT後遺症として血管内治療も含めてセカンドオピニオンしたところ、現行の治療継続指示であった。6ヵ月後に軽度の貧血、断続的な発熱と炎症反応高値が出現したため、精査目的に当科入院となった。【入院時所見】WBC 5,900/μL、Hb 8.2g/dL、CRP 14mg/dL、BNP 113.8pg/mL、D-dimer 5.5μg/mL、SCC抗原 0.3ng/mL、新CYFRA 1.0ng/mL、CEA < 0.5ng/mL、心電図は洞調律、III・aVF・V2-3誘導にてT波異常。感染性心内膜炎のスクリーニングとして血液培養を提出し、心臓超音波検査を施行したところ、右室心尖部に可動性の乏しい26×42mmの腫瘤像を認めた(図2)。(図2)心臓超音波検査【入院後経過】貧血に対しては上下部内視鏡検査を予定した。入院時の心エコー検査にて、半年前には認めなかった右室内腫瘤を認め、CT検査では明らかな感染源や、明らかな子宮頸がんの局所再発や主要な他臓器転移も認めなかったものの、右室内に腫瘤が疑われた。また、右腸骨静脈と右肺動脈に造影欠損像を認めた。心臓MRI検査では、右室腫瘤像を認めるが、その腫瘤の質的診断は出来なかった。冠動脈カテーテル検査では、右冠動脈からの栄養血管を認めたが、病理学的な検査は行えなかった。PET-CT検査は、当時の当院では撮影困難であった。【問題】右室腫瘤の精査加療方針として、最も適切と判断した選択肢はどれか。a.不明熱と炎症反応高値を認めるため、感染性疣贅として抗生剤治療を4~6週間施行し、その治療反応性をみてから治療方針を再検討する。b.静脈血栓塞栓症の治療中の肺動脈血栓症の出現があるため、抗凝固療法を2ヵ月施行しその治療反応性をみてから治療方針を再検討する。c.原発性心臓腫瘍の中では発生確率が高い良性腫瘍を疑うが、可動性が乏しいため3ヵ月後に再検する。d.原発性心臓腫瘍や転移性心臓腫瘍、感染性疣贅、血栓などの診断がつかないが、何かしらの悪性腫瘍の可能性があるため、がん薬物治療を開始する。e.明らかな他臓器転移がない状態で診断がつかず肺動脈塞栓症を伴う粗大な心腔内腫瘤であり、開胸右室生検、ならびに右室腫瘤摘出術を施行する。悪性の(原発性、転移性)心臓腫瘍は稀な疾患だが、腫瘍が増大傾向を示す場合などは重要な鑑別疾患である。がんの既往歴の問診や心臓超音波、CT、MRIなどの画像検査、血栓塞栓症合併などのアセスメントは診断の補助となるが、組織学的検査による確定診断が最も重要である。本例のように、外科的切除も含めた心臓腫瘍の診断・治療について、循環器内科、心臓外科、腫瘍内科、放射線科による連携が必要である。1)北原 康行ほか. 呼吸と循環. 2016;64:889-903.2)Butany J, et al. Can J Cardiol. 2005;21:675-680.3)Lam KY, et al. Arch Pathol Lab Med. 1993;117:1027-1031.4)Amano J, et al. Gen Thorac Cardiovasc Surg. 2013;61:435-447.5)Silvestri F, et al. G Ital Cardiol. 1997;27:1252-1255.6)Klatt EC, et al. Cancer. 1990;65:1456-1459.【謝辞】本文作成にあたり、丸山 雄二氏(日本医科大学付属病院心臓血管外科准教授)、金政 佑典氏(都立駒込病院腫瘍内科医長)、向井 幹夫氏(大阪国際がんセンター成人病ドック科部長)、大倉 裕二氏(新潟県立がんセンター新潟病院循環器内科部長)、草場 仁志氏(国家公務員共済組合連合会 浜の町病院 腫瘍内科部長)、志賀 太郎氏(がん研有明病院腫瘍循環器・循環器内科部長)にご指導とご監修いただきました。ここに深く感謝申し上げます。講師紹介

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患者集団を対象とした医療からの脱却法は?(解説:後藤信哉氏)

 ランダム化比較試験は、患者集団の標準治療の確立に役立った。しかし、新型コロナウイルス感染症などの病名にて患者集団を規定しても、集団を構成している個別症例の病態、予後には不均一性がある。たとえば、新型コロナウイルス感染症の入院例においてヘパリン治療がECMOなどを避けるために有効であることはランダム化比較試験にて示されたが、標準治療が集団を構成する全例に対して有効・安全なわけではない。 本研究はヘパリン治療の不均一性を検証するために3つの方法を利用した。(1)は通常のサブグループ解析である。新薬開発の臨床試験では事前に設定した年齢、性別、腎機能などにより分けたサブグループにて不均一性がないことを示している。本研究ではサブグループ解析にて結果の不均一性に注目した。(2)はrisk based model法である。集団からリスクに寄与する因子を抽出して、その因子により個別症例のリスクを事前に予測してグループ分けした。(3)はEffect-Based Approachである。いわゆるrandom forest plotにて効果を予測してグループ分けする方法である。 集団の不均一性を定量化する(1)~(3)の方法とも、新型コロナウイルス感染症による入院例に対するヘパリンの効果の不均一性を示した。 ランダム化比較試験は患者集団に対する標準治療の確立には効果があった。今後は、集団の不均一性に注目して、未来の個別最適化医療を目指すことになる。

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第156回 コロナで収益を得た製薬企業が次々と買収発表、思わずうなる戦略とは

国際的な製薬大手企業による企業買収が再び活発化している。3月13日に米・ファイザー社ががんの抗体薬物複合体(ADC)技術を有するシージェン社を約430億ドル(約5兆7,000億円)で買収すると発表。さらに4月16日には米・メルク社もベンチャーで自己免疫疾患治療薬を手がけるプロメテウス社を約108億ドル(約1兆4,500億円)で買収すると発表した。両社が現在抱える事情はほぼ似通っている。まず、共に新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)パンデミックで特需を経験した。ファイザー社はご存じのように新型コロナワクチン(商品名:コミナティほか)、経口新型コロナ治療薬のニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッドパック)の売上が伸長した。2022年の売上高は、前年比23%増収の1,003億3,000万ドル(約13兆4,400億円)と、前年に引き続き製薬企業で世界1位となっただけでなく、製薬企業史上初の1,000億ドルプレーヤーとなった。この売上高の6割弱はコロナワクチンと治療薬で占められている。一方の米・メルク社も2022年度売上高が前年比22%増収の592億8,300万ドル。前年からの増収分の44%は、新型コロナ治療薬のモルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)の売上伸長が占める。この両者のコロナ関連特需が今後急速にしぼんでいくことは確実である。実際、ファイザー社はすでに2023年通期で、コロナ関連売上高が約60%減少するとの予想を発表している。またメルク社のモルヌピラビルはニルマトレルビル/リトナビルに比べ、効果が劣ることが各種の研究で明らかにされつつあるため、治療選択肢としてのプライオリティは、今後、一層低下していくことは避けられない。さらに両社に共通するのがコロナ関連以外の主力品の特許権失効である。ファイザー社の場合、コロナ関連を除いた売上筆頭製品が抗凝固薬のアピキサバン(商品名:エリキュース)の約65億ドル(約8,700億円)。その特許権は2025~26年にかけて失効すると言われており、もう目前に迫っている。経口薬の場合、アメリカなどではジェネリック医薬品登場から半年程度で先発品市場の約7割がジェネリック医薬品に置き換わるのが一般的だ。ファイザー社にとって事態は深刻である。前述のシージェン社は現在ADC技術を利用したがん治療薬で年間20億ドル程度の売上があるため、これをファイザー社の巨大販路で売上を伸長させ、ファイザー社側としてはアピキサバンの特許権の失効に伴う急速な売上減の穴埋めにしようという腹積もりなのだろう。一方、メルク社の売上高の筆頭は、ご存じの免疫チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)の209億ドル(約2兆8,000億円)。実に現在のメルク社の総売上高の約3分の1を占める。そのペムブロリズマブのアメリカでの特許権失効見込みは2028年である。私が今回やや驚いたのはこのメルク社の買収決断である。まず、特許権の失効まではまだ5年はある。かつ、注射剤のペムブロリズマブは抗体医薬品であり、いわゆるバイオ医薬品のジェネリックは「バイオシミラー」と称されるが、経口の低分子薬に比べ、開発難易度も高い。確かにペムブロリズマブの特許権失効後は同薬のバイオシミラーが登場すると思われるが、現状はアメリカですらバイオシミラーの普及が進まず、先発品市場の20%程度しか市場を奪えていない。にもかかわらず、日本円にして1兆円を超える金額を使い、まだ市場投入製品がないプロメテウス社を買収するのは何ともすごい決断と言わざるを得ない。ただ、よくよく考えれば、この決断は一つひとつが頷けてしまう。まず、アメリカでは近年、バイオシミラーの浸透をより容易にする規制変更の動きがある。オール・オア・ナッシング的に急激な政策決定が進みやすいアメリカの特性を考えれば、今後、バイオシミラーが急速に浸透する可能性はある。また、もしペムブロリズマブの特許権失効時にバイオシミラーの市場侵食が現状の20%程度だったとしても、もともとの売上高が巨大過ぎるため、日本円換算で4,000億円ほどの売上喪失となり、メルク社はかなり打撃をこうむることになるのは確かである。その意味で、この段階から手を打つというのも方策としてはあり得る。とりわけ近年の新薬開発の所要期間、開発費、開発難易度が年々増していることを考えればなおさらだ。そしてプロメテウス社が現在開発中の新薬候補は、潰瘍性大腸炎、クローン病などの炎症性腸疾患(IBD)に対する抗体医薬品。この領域は近年、市場拡大中である。この新薬候補の開発段階は現在第II相試験。今後順調に開発が進めば、3~5年後の2026~28年に上市となるはず。そうすると、ペムブロリズマブの特許権失効への備えとしては時期的にも間に合うだろう。さらにIBDのような自己免疫性疾患の抗体医薬品は、ほかの自己免疫性疾患への適応拡大が容易なことは、アダリムマブ(商品名:ヒュミラ)などの例を見れば明らか。つまりプロメテウス社は今後、全世界で数千億~1兆円規模の売上高を生み出す可能性を秘めているというわけだ。たしかに不確定要素はあるものの、現状からロジカルにさまざまな想定をすると1兆円の買収は十分割に合う可能性がある。すでに四半世紀近く製薬業界を眺めている自分も、一瞬、発表内容をぎょっとして受け止めたが、中身を考えるほど久々にうならされる買収発表だった。ただ、このニュースに接して、あえて残念と思うことがあるとするならば、それは日本の製薬企業の多くが、このような大胆かつ機動的な戦略が取れないことである。

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コロナ入院患者のヘパリンによる治療効果、重症度・BMIで差/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者において、治療量ヘパリン投与の効果にばらつきがあることが、カナダ・トロント総合病院のEwan C. Goligher氏らにより示された。治療効果の異質性(HTE)を3つの手法で評価した結果、入院時の重症度が低い人やBMI値が低い人では有益である可能性があるが、重症度が高い人やBMI値が高い人では有害となる可能性が高かったという。これまでに行われたCOVID-19入院患者を対象とした治療量ヘパリンに関する無作為化臨床試験(RCT)では相反する結果が示されており、個人間のHTEが原因ではないかとみなされていた。結果を踏まえて著者は、「RCTのデザインおよび解析では、HTEを考慮することが重要であることが示された」とまとめている。JAMA誌2023年4月4日号掲載の報告。治療効果の異質性を3つの手法で評価 研究グループは2020年4月~2021年1月に、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアで、COVID-19で入院した3,320例を登録し、治療量ヘパリン vs.通常ケアの薬物療法による血栓予防効果を比較した複数プラットフォーム適応型RCTについて、探索的解析を行った。また、治療量ヘパリンのHTEについて、(1)ベースライン特性の従来型サブグループ解析、(2)多変量アウトカム予測モデル(リスクベースのアプローチ)、(3)多変量因果フォレストモデル(効果ベースのアプローチ)の3つの方法で評価した。解析は、オリジナル試験と一貫したベイジアン統計を主として用いた。 主要アウトカムは、臓器支持療法を必要としない日数(入院中死亡は-1とし、退院まで生存した場合は、最大21日のうち心血管系・呼吸器系の臓器支援が不要だった日数)と、入院生存率だった。複数プラットフォームRCT集団では、治療量ヘパリンの効果認められず 治療量ヘパリン群と通常ケア群のベースラインの人口統計学的特性は似かよっており、年齢中央値は60歳、女性は38%、32%が非白人種、45%がヒスパニック系だった。 複数プラットフォームRCT集団では、治療量ヘパリンによる臓器支持療法を必要としない日数の増大は認められなかった(オッズ比[OR]の事後分布中央値:1.05、95%信用区間[CrI]:0.91~1.22)。 従来型サブグループ解析では、治療量ヘパリンの臓器支持療法を必要としない日数に対する効果は、ベースラインの臓器支持療法の必要性(OR中央値:重症0.85 vs.軽症1.30、OR差の事後確率99.8%)、性別(同:女性0.87 vs.男性1.16、96.4%)、BMI(30未満 vs.30以上、すべての比較において>90%)で差が認められた。 リスクベースの解析では、予後不良リスクが最も低い患者がヘパリンによる便益を得られる傾向が最も高く(最低十分位群:>1のORの事後確率92%)、予後不良リスクが最も高い患者がヘパリンによる害を受ける傾向が最も高かった(最高十分位群:<1のORの事後確率87%)。 効果ベースの解析では、害を受けるリスクが最も高い患者(治療効果の差に関するp=0.05)はBMI値が高く、ベースラインで臓器支持療法を要する可能性が高い傾向が認められた。

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AD治療薬lecanemab、ARIAやQOL解析結果をAD/PD学会で発表/エーザイ・バイオジェン

 エーザイとバイオジェン・インクは3月31日付のプレスリリースにて、同社の早期アルツハイマー病(AD)治療薬の抗アミロイドβ(Aβ)プロトフィブリル抗体lecanemabについて、第III相試験「Clarity AD試験」における最新の解析結果を、スウェーデンのイェーテボリで3月28日~4月1日に開催の第17回アルツハイマー・パーキンソン病学会(AD/PD2023)にて発表したことを報告した。lecanemab投与群では、プラセボ群よりアミロイド関連画像異常(ARIA)の発現率が増加したが、抗血小板薬や抗凝固薬の使用によるARIAの発現頻度は上昇せず、ARIA-H単独の発現パターンはプラセボ群と同様だったことが明らかとなり、QOLの結果からは、lecanemab治療が被験者と介護者に有意義なベネフィットをもたらすことが示された。 早期AD患者1,795例(lecanemab群:898例[10mg/kg体重、2週ごとに静脈内投与]、プラセボ群:897例)を対象とした第III相無作為化比較試験「Clarity AD試験」において、主要評価項目ならびにすべての重要な副次評価項目を統計学的に高度に有意な結果をもって達成しており、その結果はNEJM誌2023年1月5日号に掲載されている1)。 AD/PD2023では、本試験における抗血小板薬/抗凝固薬使用とARIA(ARIA-E:浮腫/浸出、およびARIA-H:脳微小出血、脳表ヘモジデリン沈着、直径1cmを超える脳出血)の発現、ARIA-H単独の発現、介護者負担、健康関連QOLに関する最新の結果が発表された。 主な結果は以下のとおり。ARIAが発現した被験者における抗血小板薬/抗凝固薬使用の評価・lecanemab群は、プラセボ群よりARIAの発現率が増加した。・プラセボ群におけるARIA発現率は、抗血小板薬使用の場合9.7%、抗凝固薬(抗凝固薬のみまたは抗血栓薬との併用)使用の場合10.8%、未使用8.9%だった。抗血小板薬や抗凝固薬を使用した場合は、未使用と比較してわずかに高くなった。・lecanemab群におけるARIA発現率は、抗血小板薬使用の場合17.9%、抗凝固薬使用の場合13.3%、未使用21.8%だった。抗血小板薬や抗凝固薬を使用した場合は、未使用と比較して若干低くなった。・ARIA-Eの発現率は以下のとおり。 -抗血小板薬を使用した場合は、lecanemab群10.4%、プラセボ群0.84%。 -抗凝固薬を使用した場合は、lecanemab群4.8%、プラセボ群2.7%。 -未使用の場合は、lecanemab群13.1%、プラセボ群1.5%。・lecanemab群で直径1cmを超える脳内出血が観察された症例が報告された。ARIA-H単独(ARIA-Eを伴わないARIA-H)発現事象・ARIA-H(ARIA-Eを伴うARIA-H、およびARIA-H単独)の発現率は、lecanemab群17.3%、プラセボ群9.0%だった。・ARIA-H単独の発現率は、lecanemab群8.9%、プラセボ投与群7.8%で同程度だった。・ARIA-Eを伴うARIA-Hの多くは、ARIA-E発現と同時期である治療初期に発現するが、ARIA-H単独は、lecanemab群、プラセボ群ともに、18ヵ月の治療期間中に分散して発現した。・アポリポタンパク質Eε4(ApoEε4)とARIA-H単独の発現の関係性については、プラセボ群では非保有者3.8%、ヘテロ接合体保有者7.3%、ホモ接合体保有者18.0%、lecanemab群では非保有者8.3%、ヘテロ接合体保有者8.4%、ホモ接合体保有者12.1%だったが、ApoEε4ステータスはARIA-Hの発現時期には影響しなかった。・lecanemab群のARIA-H単独の発現パターンは、プラセボ投与群と同様だった。健康関連QOLに関する解析結果・被験者の健康関連QOL(HRQoL)として、ベースライン時と投与開始後6ヵ月ごとに、European Quality of Life-5 Dimensions(EQ-5D-5L)とQuality of Life in AD(QOL-AD)の指標により測定した。QOL-ADは介護者による評価も行った。6ヵ月ごとに介護者に対してZarit Burden Interviewを実施した。・lecanemab投与18ヵ月時点での被験者のEQ-5D-5LとQOL-ADのベースラインからの調整後平均変化量は、プラセボ群と比較して、それぞれ49%、56%の悪化抑制を示した。・介護者のZarit Burden InterviewとQOL-ADは、lecanemab投与18ヵ月時点でそれぞれ38%、23%の悪化抑制を示した。・これらの評価結果はApoEε4遺伝子型によらず一貫していた。

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スコットランド、P4P廃止でプライマリケアの質が低下/BMJ

 Quality and Outcomes Framework(QOF)は、英国の国民保健サービス(NHS)におけるプライマリケア向けの「pay-for-performance(P4P)」制度であり、2004年に英国の4つのカントリー(イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド)のすべてに導入されたが、2016年にスコットランドはこれを廃止した。英国・ダンディー大学のDaniel R. Morales氏らは、この経済的インセンティブを継続したイングランドと比較して、スコットランドではQOF廃止後に多くのパフォーマンス指標に関してケアの質の低下が認められたと報告した。研究の詳細は、BMJ誌2023年3月22日号に掲載された。16指標を分割時系列試験で評価 研究グループは、2016年のスコットランドにおけるQOFの廃止がケアの質に及ぼした影響を、QOFを継続したイングランドとの比較において評価する分割時系列対照比較試験を実施した(筆頭著者は、英国・Wellcome Trust Clinical Research Career Development Fellowshipの助成を受けた)。 解析には、2013~14年にスコットランドの979ヵ所の診療所に登録された559万9,171例と、イングランドの7,921ヵ所の診療所に登録された5,627万628例のデータが含まれ、2018~19年のデータとの比較が行われた。 2015~16年の会計年度末にQOFを廃止したスコットランドにおける、廃止から1年後および3年後のケアの質の変化を、16項目のパフォーマンス指標(「複雑なプロセス」2項目、「中間的アウトカム」9項目、「治療」5項目)について評価した。治療5項目については有意差なし イングランドと比較して、QOF廃止から1年後のスコットランドでは、16項目のケアの質に関するパフォーマンス指標のうち12項目で、3年後には10項目で有意な低下が認められた。 廃止から3年の時点で、スコットランドとイングランドで絶対差が最も大きかった指標は、複雑なプロセスの2項目、精神的健康のケアプランニング(-40.2ポイント、95%信頼区間[CI]:-45.5~-35.0)と糖尿病性足病変のスクリーニング(-22.8、-33.9~-11.7)であり、いずれもスコットランドで著明に低かった。 また、スコットランドではイングランドと比べ、3年後の中間的アウトカムにも大幅な低下がみられた。なかでも、末梢動脈疾患(絶対差:-18.5ポイント、95%CI:-22.1~-14.9)・脳卒中/一過性脳虚血発作(-16.6、-20.6~-12.7)・高血圧(-13.7、-19.4~-7.9)・冠動脈疾患(-12.8、-14.9~-10.8)それぞれの患者の血圧管理(≦150/90mmHg)のほか、糖尿病患者の血圧管理(≦140/80mmHg)(-12.7、-15.0~-10.4)および糖化ヘモグロビン(HbA1c)管理(≦75mmol/mol)(-5.0、-8.4~-1.5)の低下が顕著だった。 治療の5項目(脳卒中/一過性脳虚血発作・慢性閉塞性肺疾患・冠動脈疾患・糖尿病それぞれの患者へのインフルエンザワクチン接種、冠動脈疾患患者への抗血小板療法/抗凝固療法)には、スコットランドとイングランドで有意な差はなかった。 著者は、「P4P制度を変更する際は、ケアの質の低下を監視し、それに対応できるように、慎重な制度設計と実施が求められる」としている。

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血小板無力症〔GT:Glanzmann thrombasthenia〕

1 疾患概要■ 定義血小板無力症(Glanzmann thrombasthenia:GT)は、1918年にGlanzmannにより初めて報告された1)一般的な遺伝性血小板障害(Inherited platelet disorders:IPD)であり、その中でも最もよく知られた先天性血小板機能異常症である。血小板インテグリンαIIbβ3(alphaIIbbeta3:いわゆる糖蛋白質[glycoprotein:GP]IIb/IIIaとして知られている)の量的欠損あるいは質的異常のため、血小板凝集機能の障害により主に中等度から重度の粘膜皮膚出血を伴う出血性疾患である。インテグリンαIIbβ3機能の喪失により、血小板はフィブリノーゲンや他の接着蛋白質と結合できなくなり、血小板による血栓形成不全、および多くの場合に血餅退縮が認められなくなる。 ■ 疫学血液凝固異常症全国調査では血液凝固VIII因子の欠乏症である血友病Aが男性出生児5,000人に約1人,また最も頻度が高いと推定される血漿蛋白であるvon Willebrand factor(VWF)の欠損症であるvon Willebrand病(VWD)については出生児1,000人に1人2、3)と報告される(出血症状を呈するのはその中の約1%と考えられている)。IPDは、これらの遺伝性出血性疾患の発症頻度に比べてさらに低くまれな疾患である。UK Haemophilia Centres Doctors Organisation(UKHCDO)に登録された報告2)では、VWDや血友病A・Bを含む凝固障害(87%)に比較して血小板数・血小板機能障害(8%)である。その8%のIPDの中ではGTは比較的頻度が高いが、明らかな出血症状を伴うことから診断が容易であるためと想定される(GT:5.4%、ベルナール・スーリエ症候群:3.7%、その他の血小板障害:90.1%)。凝固異常に比較して、IPDが疑われる症例ではその分子的な原因を臨床検査により正確に特定できないことも多く、その他の血小板障害(90.1%)としてひとくくりにされている。GTは、常染色体潜性(劣性)遺伝形式のために一般的にホモ接合体変異で発症し、ある血縁集団(民族)ではGTの発症頻度が高いことが知られている。遺伝子型が同一のGT症例でも臨床像が大きく異なり、遺伝子型と表現型の相関はない1、4)。血縁以外では複合ヘテロ接合によるものが主である。■ 病因(図1)図1 遺伝性血小板障害に関与する主要な血小板構造画像を拡大するインテグリンαIIbサブユニットをコードするITGA2B遺伝子やβ3サブユニットをコードするITGB3遺伝子の変異は、インテグリンαIIbβ3複合体の生合成や構造に影響を与え、GTを引き起こす。片方のサブユニットの欠落または不完全な構造のサブユニット生成により、成熟巨核球で変異サブユニットと残存する未使用の正常サブユニットの両方の破壊が誘導されるが、例外もありβ3がαvと結合して血小板に少量存在するαvβ3を形成する5)。わが国における血小板無力症では、欧米例とは異なりβ3の欠損例が少なく、αIIb遺伝子に異常が存在することが多くαIIbの著減例が多い。また、異なる家系であるが同一の遺伝子異常が比較的高率に存在することは単民族性に起因すると考えられている6)。このほかに、血小板活性化によりインテグリン活性化に関連した構造変化を促す「インサイドアウト」シグナル伝達や、主要なリガンドと結合したαIIbβ3がさらなる構造変化を起こして血小板形態変化や血餅退縮に不可欠な「アウトサイドイン」シグナル伝達経路を阻害する細胞内ドメインの変異体も存在する。細胞質および膜近位ドメインのまれな機能獲得型単一アレル変異体では、自発的に受容体の構造変化が促進される結果、巨大血小板性血小板減少症を引き起こす。「インサイドアウト」シグナルに重要な役割を果たすCalDAG-GEFI(Ca2+ and diacylglycerol-regulated guanine nucleotide exchange factor)[RASGRP2遺伝子]およびKindlin-3(FERMT3遺伝子)の遺伝子変異により、GT同様の臨床症状および血小板機能障害を発症する。この機能性蛋白質が関与する他の症候としては、CalDAG-GEFIは他の血球系、血管系、脳線条体に存在し、ハンチントン病との関連も指摘されており、Kindlin-3の遺伝子変異では、白血球接着不全III(leukocyte adhesion deficiency III:LAD-III)を引き起こす。LAD-III症候群は常染色体潜性(劣性)遺伝で、白血球減少、血小板機能不全、感染症の再発を特徴とする疾患である5)。■ 症状GTでは鼻出血や消化管出血など軽度から重度の粘膜皮膚出血が主症状であるが、外傷・出産・手術に関連した過剰出血なども認める。男女ともに罹患するが、とくに女性では月経や出産などにより明らかな出血症状を伴うことがある。実際、過多月経を訴える女性の50%がIPDと診断されており、さらにIPDの女性は排卵に関連した出血を起こすことがあり、子宮内膜症のリスクも高いとされている7)。■ 分類GTの分類では、インテグリンαIIbβ3の発現量により分類される。多くの症例が相当するI型では、ほとんどαIIbβ3が発現していないため、血小板凝集が欠如し血餅退縮もみられない。発現量は少ないがαIIbβ3が残存するII型では、血小板凝集は欠如するが血餅退縮は認める。また、非機能的なαIIbβ3を発現するまれなvariant GTなどがある1、5)。■ 予後GTは、消化管出血や血尿など重篤な出血症状を時折引き起こすことがあるが、慎重な経過観察と適切な支持療法により予後は良好である。GTの出血傾向は小児期より認められその症状は顕著であるが、一般的に年齢とともに軽減することが知られており、多くの成人症例で本疾患が日常生活に及ぼす影響は限られている。診断された患者さんが出血で死亡することは、外傷や他の疾患(がんなど)など重篤な合併症の併発に関連しない限りまれである1)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)血小板機能障害は1次止血の異常であり、主に皮膚や粘膜に発現することが多い。出血症状の状況(部位や頻度、期間、再発傾向、出血量)および重症度(出血評価ツール)を評価することは、出血症状を呈する患者の評価における最初の重要なステップである。出血の誘因が年齢や性別(月経)に影響するかどうかを念頭に、患者自身および家族の出血歴(術後または抜歯後の出血を含む)、服薬状況(非ステロイド性抗炎症薬)について正確な問診を行う。また、IPDを疑う場合は、出血とは無関係の症状、たとえば眼病変や難聴、湿疹や再発性感染、各臓器の形成不全、精神遅滞、肝腎機能など他器官の異常の可能性に注意を払い、血小板異常機能に関連した症候群型の可能性を評価できるようにする7)。【遺伝性血小板障害の診断】症候学的特徴(出血症状、その他症状、家族歴)血小板数/形態血小板機能検査(透過光血小板凝集検査法)フローサイトメトリー免疫蛍光法、電子顕微鏡法分子遺伝学的解析(Boeckelmann D, et al. Hamostaseologie. 2021;41:460-468.より作成)出血症状に対するスクリーニング検査は、比較的簡単な基礎的な臨床検査で可能であり非専門施設でも実施できる。血液算定、末梢血塗抹標本での形態観察、血液凝固スクリーニング、VWDを除外するためのVWFスクリーニング(VWF抗原、VWF活性[リストセチン補因子活性]、必要に応じて血液凝固第VIII因子活性)などを行う(図2)。上記のスクリーニング検査でIPDの可能性を検討するが、IPDの中には血小板減少を伴うものもあるので、短絡的に特発性血小板減少性紫斑病と診断しないように注意する。末梢血塗抹標本の評価では、血小板の大きさ(巨大血小板)や構造、他の血球の異常の可能性(白血球の封入体)について情報を得ることができ、これらが存在すれば特定のIPDが示唆される。図2 遺伝性血小板障害(フォン・ヴィレブランド病を含む)での血小板凝集のパターン、遺伝子変異と関連する表現型画像を拡大する血小板機能検査として最も広く用いられている方法は透過光血小板凝集検査法(LTA)であり、標準化の問題はあるもののLTAはいまだ血小板機能検査のゴールドスタンダードである。近年では、全自動血液凝固測定装置でLTAが検査できるものもあるため、LTA専用の検査機器を用意しなくても実施できる。図3に示すように、GTではリストセチンを除くすべてのアゴニスト(血小板活性化物質)に対して凝集を示さない。GTやベルナール・スーリエ症候群などの血小板受容体欠損症の診断に細胞表面抗原を測定するフローサイトメトリー(図4)は極めて重要であり、インテグリンαIIbβ3の血小板表面発現の欠損や減少が認められる。インテグリンαIIbβ3活性化エピトープ(PAC-1)を認識する抗体では、活性化不全が認められる8)。図3 血小板無力症と健常者の透過光血小板凝集検査法での所見(PA-200を用いて測定)画像を拡大する図4 血小板表面マーカー画像を拡大するGTでは臨床所見や上記の検査の組み合わせで確定診断が可能であるが、その他IPDを診断するための検査としては、顆粒含有量および放出量の測定(血小板溶解液およびLTA記録終了時の多血小板血漿サンプルの上清中での血小板因子-4やβトロンボグロブリン、セロトニンなど)のほか、血清トロンボキサンB2(TXB2)測定(アラキドン酸由来で生理活性物質であるトロンボキサンA2の血中における安定代謝産物)、電子顕微鏡による形態、血小板の流動条件下での接着および血栓形成などの観察、細胞内蛋白質のウェスタンブロッティングなどが参考となる。遺伝子検査はIPDの診断において、とくに病態の原因と考えられる候補遺伝子の解析を行い、主に確定診断的な役割を果たす重要な検査である。今後は、次世代シーケンサーの普及によるジェノタイピングにより、遺伝子型判定を行うことが容易となりつつあり、いずれIPDでの第一線の診断法となると想定される。ただしこれらの上記に記載した検査については、現段階では保険適用外であるもの、研究機関でしか行えないものも数多い。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)予防や治療の選択肢は限られているため、日常生活での出血リスクを最小限に抑えること、出血など緊急時の対応に備えることが必要である(図5)。図5 出血性疾患に対する出血の予防と治療画像を拡大する罹患している病名や抗血栓薬など避けるべき薬剤などの医療情報(カード)を配布することも有効である。この対応方法は、出血性疾患でおおむね同様と考えられるが、たとえばGTに対しては血小板輸血による同種抗体生成リスクを可能な限り避けるなど、個々の疾患において特別な注意が必要なものもある。この抗血小板抗体は、輸血された血小板除去やその機能の阻害を引き起こし、輸血効果を減弱させる血小板不応の原因となる。観血的手技においては、出血のリスクと処置のベネフィットなど治療効率の評価、多職種(外科医、血栓止血専門医、看護師、臨床検査技師など)による出血に対するケアや止血評価、止血対策のためのプロトコルの確立と遵守(血小板輸血や遺伝子組み換え活性化FVII製剤、抗線溶薬の使用、観血術前や出産前の予防投与の考慮)が不可欠である。IPD患者にとって妊娠は、分娩関連出血リスクが高いことや新生児にも出血の危険があるなどの問題がある。最小限の対策ですむ軽症出血症例から最大限の予防が必要な重篤な出血歴のある女性まで状況が異なるために、個々の症例において産科医や血液内科医の間で管理を計画しなければならない。重症出血症例に対する経膣分娩や帝王切開の選択なども依然として難しい。4 今後の展望出血時の対応などの臨床的な役割を担う医療機関や遺伝子診断などの専門的な解析施設へのアクセスを容易にできるようにすることが望まれる。たとえば、血友病のみならずIPDを含めたすべての出血性疾患について相談や診療可能な施設の連携体制の構築すること、そしてIPD診断については特殊検査や遺伝子検査(次世代シーケンサー)を扱う専門施設を確立することなどである。遺伝性出血性疾患の中には、標準的な治療では対応しきれない再発性の重篤な出血を伴う若い症例なども散見され、治療について難渋することがある。こうした症例に対しては、遺伝性疾患であるからこそ幹細胞移植や遺伝子治療が必要と考えられるが、まだ選択肢にはない。近い将来には、治療法についても革新的技術の導入が期待される。5 主たる診療科血液内科(血栓止血専門医)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター 血小板無力症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)国立成育医療研究センター 先天性血小板減少症の診断とレジストリ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)大阪大学‐血液・腫瘍内科学 血小板疾患研究グループ山梨大学大学院 総合研究部医学域 臨床検査医学講座(医療従事者向けのまとまった情報)1)Nurden AT. Orphanet J Rare Dis. 2006;1:10.2)Sivapalaratnam S, et al. Br J Haematol. 2017;179:363-376.3)日笠聡ほか. 日本血栓止血学会誌. 2021;32:413-481.4)Sandrock-Lang K, et al. Hamostaseologie. 2016;36:178-186.5)Nurden P, et al. Haematologica. 2021;106:337-350.6)冨山佳昭. 日本血栓止血学会誌. 2005;16:171-178.7)Gresele P, et al. Thromb Res. 2019;181:S54-S59.8)Gresele P, et al. Semin Thromb Hemost. 2016;42:292-305.公開履歴初回2023年3月30日

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高齢者へのDOAC、本当に減量・中止すべき患者とは/日本循環器学会

 高齢者の心房細動治療において、つい抗凝固薬を減量してしまいがちだが、それは本当に正しいのだろうか。今回、小田倉 弘典氏(土橋内科医院)が『心房細動抗凝固薬(アブレーションを望まない高齢のPAFなど)』と題し、第87回日本循環器学会学術集会のセッション「クリニックで選択されるべき循環器治療薬~Beyond guideline~」にて、高齢者心房細動の薬物療法における注意点を発表した。 小田倉氏はまず、以下の高齢者の症例を提示し、実際に直接経口抗凝固薬(DOAC)を処方するかどうか、またその際に減量するか否かについて問題提起した。高齢者へのDOAC減量と出血リスクの管理<症例>●年齢・性別:82歳・男性、体重:64kg、クレアチニンクリアランス(CCr):52 mL/min(血清クレアチニン[Cr]:1.0mg/dL)●主訴:ある日、脈をとったら不整で、心電図で心房細動と診断された。●服用歴:降圧薬、認知症治療薬、前立腺肥大症治療薬など6種類●患者背景:要介護2。トイレ歩行は可能だが受診時は車いす。転倒歴あり。長男夫婦と3人暮らしだが、日中は1人のことが多い。●CHADS2スコア:3点、HAS-BLEDスコア:1点 上記の高齢者の症例について、「DOAC各薬剤の添付文書にある減量基準、たとえば、アピキサバンは(1)80歳以上、(2)60kg以下、(3)Cr 1.5mg/dL以上のうち2つ以上が、エドキサバンは(1)60kg以下、(2)CCr 15~50、(3)P糖蛋白阻害薬服用のうち1つ以上が該当する場合にそれに当たるが、いずれにも該当していないので、この患者の場合、該当項目を見る限りでは処方可能であり、減量する必要もない」とコメント。 しかし、実際には高齢というだけでDOACの減量基準を満たさずとも減量する例が散見される。クリニックの患者が主体となった日本の高齢者心房細動に対する抗凝固薬療法に関する2つの試験からもその状況が見て取れる。・ANAFIEレジストリ1):3万2,275例(平均年齢81.5歳[85歳以上が26.1%]、経口抗凝固薬の服用:92.4%、ワルファリンTTR :75.5%、発作性心房細動:42%、認知症:7.8%[通院・在宅患者])ではunder-doseが16.8%、未承認低用量が3.7%。 ・GENERAL研究2):5,717例(平均年齢73.9歳、経口抗凝固薬の服用:100%、フレイル[要介護]:12.1%、認知症治療薬の併用:5.9%)ではunder-doseが27.3%。 では、実臨床で高齢者(75歳以上)に対しDOACをunder-doseする理由とは何か。35.8%でunder-doseを認め、脳卒中/全身性塞栓症が有意に多かったXAPASS study3)の結果によると「処方医は通常用量による出血リスクを最も懸念し、続いて高齢、腎機能低下を意識していた。一方、低体重や併用薬剤を選んだ者は少なかった」とコメント。 ところが、75歳以上の日本人で非弁膜症性心房細動患者を対象としたJ-ELD AF試験4)によれば、アピキサバン5mg/日(低用量)群と同薬10mg/日(通常用量)群に割り付け、脳卒中または全身性塞栓症、入院を要する出血について評価したところ、いずれの発生率も有意差が得られなかった。ただし、サブ解析で出血イベントの発生とアピキサバンの血中濃度の関係性を調べたところ、低用量群では血中濃度が高い(トラフ中央値:86ng/dL)群で出血性イベントが有意に多かった。その原因は明らかではないが、「減量基準以外のunknown factorsの存在が示唆される」と同氏は指摘した。DOAC減量基準を満たした患者の出血リスクに注力を これらの報告を踏まえ、同氏は「DOACの減量基準に該当しなければ用量を守り、減量基準を満たす患者は減量したうえで、いかに出血の関連リスクを減らせるかを考えることが重要」と述べ、「その関連リスクはDOAC減量基準やHAS-BLEDスコアに記載がないものにも注意を払う必要があり、改善可能なソフトプロブレム(上記unknown factorsにおおむね相当)と改善困難なハードプロブレムに分類できる。前者にはポリファーマシー(抗凝固薬と併用注意の薬剤を確認)、フレイル(転倒頻度や低体重を考慮)、認知症(服薬アドヒアランスを確認)、高血圧(外来での血圧130/80mmHg目標)が該当し、後者には腎機能低下や出血の既往があるだろう。後者では低用量投与を前提とし、2020年改訂版不整脈薬物治療ガイドライン5)に従い、腎機能チェックの採血をCCr<60mL/minの患者では少なくともXヵ月(X=CCr/10)に1回実施すれば、リスク回避につながる」と対策を講じた。DOACの中止を考えるタイミング また、とくに高齢者ではDOAC中止を考える場面は多いが、具体的には以下が挙げられた。・出血したとき →出血の制御ができないような大腸憩室炎、蜂窩織炎などの既往歴がある場合 →生活面に支障を来すような重い後遺症が残る可能性のある場合・出血以外の副作用が出たとき・腎機能が低下してきたとき・アドヒアランス不良のとき・フレイル(要介護度)が進行した(寝たきりになった)とき 最後に同氏は「併存疾患の有無や身体機能レベルが個々で大きく異なるにもかかわらず、そもそも高齢者を1つのカテゴリーとして捉えることは不可能であり、多様な視点からのカテゴライズが必要となる。言うならば、“科学”と“生活”の両面からのアプローチが必要なのであり、それにはゴールはないため、考え続けることが重要である」と締めくくった。

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DOAC時代のVTE診療の国内大規模研究、再発リスクの層別化評価と出血リスク評価の重要性が明らかに/日本循環器学会

 日本では過去に静脈血栓塞栓症 (肺塞栓症および深部静脈血栓症、以下VTE)の患者を対象とした多施設共同の大規模観察研究:COMMAND VTE Registry(期間:2010年1月~2014年8月、対象:3,024例)が報告されていた。しかしながら、同研究はワルファリン時代のデータベースであり、抗凝固薬の88%がワルファリンであった。現在はVTE患者の治療には直接経口抗凝固薬(DOAC)が広く普及しており、そこでDOAC時代における日本のVTE診療の実態を明らかにすることを目的としたCOMMAND VTE Registry-2が実施され、3月10~12日に開催された第87回日本循環器学会学術集会の「Late Breaking Cohort Studies Session」にて、同研究班の金田 和久氏(京都大学大学院医学研究科 循環器内科学)が、その主解析の結果を報告した。DOAC時代のVTE患者を対象とした大規模な観察研究 COMMAND VTE Registry-2は、日本の31施設において2015年1月~2020年8月の期間に、急性の症候性の肺塞栓症および深部静脈血栓症と診断された患者5,197例を登録した多施設共同の観察研究である。本研究の特徴は、1)DOAC時代に特化したデータベースであること、2)世界的にみてもDOAC時代を対象とした最大規模のリアルワールドデータであること、3)詳細な情報収集かつ長期的なフォローアップが実施されたレジストリであることだ。 日本循環器学会が発行するガイドライン最新版1)では、VTE再発リスクを3つのグループに分類し検討されていたが、近年は国際血栓止血学(ISTH)よりさらなる詳細なリスク層別化が推奨され、世界中の多くの最新のVTEガイドラインでは、VTE再発リスクに応じて5つのグループに分類している(メジャーな一過性リスク群[大手術や長期臥床、帝王切開など]、マイナーな一過性リスク群[旅などで長時間姿勢保持、小手術、ホルモン療法、妊娠など]、VTE発症の誘因のない群、がん以外の持続的なリスク因子を有する群[自己免疫性疾患など]、活動性のがんを有する群)。 今回の主解析では、ISTHで推奨されている詳細な5つのグループに分類し、患者背景、治療の詳細、および予後が評価された。 DOAC時代における日本のVTE診療の実態を明らかにすることを目的としたCOMMAND VTE Registry-2の主な結果は以下のとおり。・全対象者は5,197例で、平均年齢は67.7歳、女性は3,063例(59.0%)、平均体重は58.9kgだった。・PE(肺塞栓症)の症例は、2,787例(54.0%)で、DVTのみの症例は2,420例(46.0%)であった。・初期治療において経口抗凝固薬が使用されたのは4,790例(92.0%)で、そのうちDOACが処方されたのは4,128例(79%)だった。DOACの処方状況は、エドキサバン2,004例(49%)、リバーロキサバン1,206例(29%)、アピキサバン912例(22%)、ダビガトラン6例(0.2%)であった。・治療開始1年間の投与中止率は、グループ間で大きく異なっていた(メジャーな一過性リスク群:57.2%、マイナーな一過性リスク群:46.3%、VTE発症の誘因のない群:29.1%、がん以外の持続的なリスク因子を有する群:32.0%、活動性のがんを有する群:45.6%、p<0.001)。・メジャーな一過性リスク群(n=475[9%])はVTE再発リスクの5年間の累積発生率が最も低かった(2.6%、p<0.001)。・マイナーな一過性リスク群(n=788[15%])では、メジャーな一過性リスク群と比較するとVTE再発リスクの5年間の累積発生率が比較的高かった(6.4%、p<0.001)。・VTE発症の誘因のない群(n=1,913[37%])では長期にわたり再発リスクがかなり高かった(5年時点にて11.0%、p<0.001)。・活動性のがんを有する群(n=1,507、29%)では再発リスクが高く(5年時点にて10.1%、p<0.001)、また、大出血の5年間の累積発生率は最も高く(20.4%、p<0.001)、抗凝固療法の中止率も高かった。 発表者の金田氏は「欧米の最新のVTEガイドラインでもマイナーな一過性リスク群に対する抗凝固療法の投与期間は、短期vs.長期で相反する推奨の記載があるが、今回の結果を見る限り、日本人でも出血リスクの低い患者においては長期的な抗凝固療法を継続するベネフィットがあるのかもしれない。欧米のVTEガイドラインでは、VTE発症の誘因のない群では、半永久的な抗凝固療法の継続を推奨しているが、日本人でも同患者群での長期的な高い再発リスクを考えると、出血リスクがない限りは長期的な抗凝固療法の継続が妥当なのかもしれない。活動性がんを有する患者では、日本循環器学会のガイドラインでもより長期の抗凝固療法の継続が推奨されているが、DOAC時代となっても出血イベントなどのためにやむなく中止されている事が多く、DOAC時代となっても今後解決すべきアンメットニーズであると考えられる」と述べた。 最後に同氏は「今回、日本全国の多くの共同研究者のご尽力により実施されたDOAC時代のVTE患者の大規模な観察研究により、日本においても最新のISTHの推奨に基づいた詳細な再発リスクの層別化が抗凝固療法の管理戦略に役立つ可能性があり、一方で、より長期の抗凝固療法の継続が推奨されるようになったDOAC時代においては、その出血リスクの評価が益々重要になっていることが明らかになった」と話し、「本レジストリは非常に詳細な情報収集を行っており、今後、さまざまなテーマでのサブ解析の検討を行い共同研究者の先生方とともに情報発信を行っていきたい」と結論付けた。 なお、本学術集会ではCOMMAND VTE Registry-2からサブ解析を含めて総数20演題の結果が報告された。(下記、一部を列記)―――Actual Management of Venous Thromboembolism Complicated by Antiphospholipid AntibodySyndrome in Japan. From the COMMAND VTE Registry-2久野 貴弘氏(群馬大学医学部附属病院 循環器内科)Risk Factors of Bleeding during Anticoagulation Therapy for Cancer-associated Venous Thromboembolism in the DOAC Era: From the COMMAND VTE Registry-2平森 誠一氏(長野県厚生連篠ノ井総合病院 循環器科)Chronic Thromboembolic Pulmonary Hypertension after Acute Pulmonary Embolism in the Era of Direct Oral Anticoagulants: From the COMMAND VTE Registry-2池田 長生氏(東邦大学医療センター大橋病院 循環器内科)Clinical Characteristics and Outcome of Critical Acute Pulmonary Embolism Requiring Extracorporeal Membrane Oxygenation: From the COMMAND VTE Registry-2高林 健介氏(枚方公済病院 循環器内科)Clinical Characteristics, Anticoagulation Strategies and Outcomes Comparing Patients with and without History of Venous Thromboembolism: From the COMMAND VTE Registry-2土井 康佑氏(京都医療センター 循環器内科)Risk Factor for Major Bleeding during Direct Oral Anticoagulant Therapy in Patients with Venous Thromboembolism: From the COMMAND VTE Registry-2上野 裕貴氏(長崎大学循環病態制御内科学)Utility and Application of Simplified PESI Score for Identification of Low-risk Patients withPulmonary Embolism in the Era of DOAC西川 隆介氏(京都大学医学研究科 循環器内科学)Management Strategies and Outcomes of Cancer-Associated Venous Thromboembolism in the Era of Direct Oral Anticoagulants: From the COMMAND VTE Registry-2茶谷 龍己氏(倉敷中央病院 循環器内科)Clinical Characteristics and Outcomes in Patients with Cancer-Associated Venous Thromboembolism According to Cancer Sites: From the COMMAND VTE Registry-2坂本 二郎氏(天理よろづ相談所病院 循環器内科)Direct Oral Anticoagulants-Associated Bleeding Complications in Patients with Gastrointestinal Cancer and Venous Thromboembolism: From the COMMAND VTE Registry-2西本 裕二氏(大阪急性期・総合医療センター 心臓内科)Influence of Fragility on Clinical Outcomes in Patients with Venous Thromboembolism and Direct Oral Anticoagulant: From the COMMAND VTE Registry-2荻原 義人氏(三重大学 循環器内科学)Comparison of Clinical Characteristics and Outcomes of Venous Thromboembolism(VTE)between Young and Elder Patients: From the COMMAND VTE Registry-2森 健太氏(神戸大学医学部附属病院 総合内科)Off-Label Under- and Overdosing of Direct Oral Anticoagulants in Patients with VenousThromboembolism: From the COMMAND VTE Registry-2辻 修平氏(日本赤十字社和歌山医療センター 循環器内科)The Association between Statin Use and Recurrent Venous Thromboembolism: From theCOMMAND VTE Registry-2馬渕 博氏(湖東記念病院 循環器科)Clinical Characteristics and Outcomes of Venous Thromboembolism Comparing Patients with and without Initial Intensive High-dose Anticoagulation by Rivaroxaban and Apixaban大井 磨紀氏(大津赤十字病院 循環器内科)Initial Anticoagulation Strategy in Pulmonary Embolism Patients with Right Ventricular Dysfunction and Elevated Troponin Levels: From the COMMAND VTE Registry-2滋野 稜氏(神戸市立医療センター中央市民病院 循環器内科)Current Use of Inferior Vena Cava Filters in Japan in the Era of DOACs from the COMMAND VTE Registry-2高瀬 徹氏(近畿大学 循環器内科学)Patient Characteristics and Clinical Outcomes among Direct Oral Anticoagulants for Cancer Associated Venous Thromboembolism: From the COMMAND VTE Registry-2末田 大輔氏(熊本大学大学院生命科学研究部 循環器内科)―――

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脳卒中治療は心筋梗塞治療の後追いをしているね(解説:後藤信哉氏)

 心筋梗塞症例の院内死亡がアスピリン、ストレプトキナーゼにて減少できることは、ISIS-2試験により示された。原因が血栓なので、フィブリン選択的線溶薬を使い、各種抗凝固薬、抗血小板薬を併用したが、有効性イベントの減少を明確に示すことはできなかった。アルガトロバンは日本が開発した世界に誇る選択的トロンビン阻害薬である。経静脈投与できるので急性期の症例に使いやすい。線溶薬に抗トロンビン薬を追加すれば、急性脳梗塞を起こした血栓は再発しにくいと想定されるが、臨床試験ではアルガトロバン追加の効果を明確に示すことができなかった。 本研究は中国一国にて施行されたランダム化比較試験である。巨大な人口を要する中国から、今後も世界の医療にインパクトを与える臨床試験の結果が報告される可能性は高いと思う。

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重症の肺血栓塞栓症、早期段階での手術により生存率向上の可能性

 米国心臓協会(AHA)はこのほど、より多くの高リスク肺血栓塞栓症(PE)患者に対する手術の考慮を勧めるとの声明を発表した。AHAの心臓血管外科・麻酔科評議会、動脈硬化症・血栓症・血管生物学評議会、生活習慣・心血管代謝健康評議会、末梢血管疾患評議会を代表する内容として作成されたこの声明文は、「Circulation」に1月23日掲載され、米国胸部外科学会(STS 2023、1月21~23日、米サンディエゴ)でも同時発表された。 PEは、血栓が血液の流れに乗って肺に運ばれ、肺の動脈が詰まって起こる疾患であり、米国では心血管疾患による死因としては3番目に多い。PEを発症した患者のうち、重症化する患者の割合は約45%と推定されている。重症PE患者では、血栓によって肺の血圧が上昇し(肺高血圧)、右室への負荷がかかり、死亡リスクが高まる。現行の治療ガイドラインに従った治療が行われた場合でも、死亡リスクは一部の患者群で約40%に上る。 PEの治療選択肢としては、抗凝固療法あるいは血栓溶解療法、薬剤やカテーテル治療によって血栓を壊す治療がある。そのほかにも、先進的な外科的介入や機械的循環補助(MCS)などの選択肢がある。ただし、手術は他の治療が奏効しなかった場合の最後の手段とされることが多い。 これに対して今回の声明では、重症のPE患者に対しては、早期段階で手術を考慮することが勧められている。声明文の筆頭著者で、米ウェストチェスター心臓血管センターの胸部心臓外科医であるJoshua Goldberg氏は、「この声明では、心停止となり心肺蘇生(CPR)を受けた患者を含む最も重症の患者においても、最新の外科的治療戦略とMCSによって極めて高い生存率(97%)を達成できることを明確に示した」と説明。その上で、「現在、最新の外科的戦略とMCSは、ほとんど活用されていない」と指摘している。 声明ではこのほかに、PEのリスクレベルの定義の見直しが、より早期の外科的介入によりベネフィットを期待できる患者の特定に役立つ可能性に言及している。また、中リスクおよび高リスクの患者での治療効果をモニタリングするための患者登録の開始や、医師および外科医に対する外科的介入の選択肢に関する教育の強化を求めている。 Goldberg氏は、「われわれは、今回の声明がきっかけとなって、高リスクPEという最も不安定な状態の患者に対する最新の外科的介入とMCSの安全性と有効性についての認知度が高まることを期待している。また、PEの経過と有効な治療法についての理解が深まり、この高頻度に生じる致死的な疾患に罹患した患者の生存率を向上させるための研究がより積極的に行われるようになることを望んでいる」と述べている。

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英語で「薬剤誘発性」は?【1分★医療英語】第68回

第68回 英語で「薬剤誘発性」は?I feel dizziness lately.(最近、めまいがするんです)It might be drug-induced hypoglycemia.(薬剤誘発性の低血糖かもしれません)《例文1》The patient has a history of drug-induced liver injury due to overdose of acetaminophen.(アセトアミノフェン過剰摂取による薬物誘発性肝障害の病歴があります)《例文2》These are common stress-induced symptoms.(それらは、一般的なストレス起因性の症状です)《解説》“○○-induced”で、「○○誘発性(○○によって引き起こされる、○○由来の)」という意味になります。“heparin-induced thrombocytopenia(HIT)”(ヘパリン起因性血小板減少症)など、病名にも使われます。薬物治療による副作用に対して、新たな処方をすることを、“prescribing cascade”(処方カスケード)と呼びますが、どんどん薬が足されてしまうことを避けるためにも、患者さんが抱えている症状が“drug-induced”の症状でないかを丁寧に確認することが大切です。講師紹介

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アスピリンでいいの?(解説:後藤信哉氏)

 骨折症例は肺塞栓症などの致死的静脈血栓リスクが高いと認識されている。欧米諸国では静脈血栓予防の標準治療は低分子ヘパリンである。皮下注射といえども注射と経口の差異は大きい。血栓イベント予防が目的であれば経口薬が好ましい。 静脈血栓予防におけるアスピリンの有効性については長年の議論がある。無効とも言いにくいが、抗凝固薬よりも有効性が乏しいと一般に理解されていると思う。しかし、本論文のintroductionに記載されているようにアスピリンと低分子ヘパリンとのしっかりしたランダム化比較試験が施行されてきてはいない。 エビデンスが明確でないのでランダム化比較試験をやって仮説を検証しようとの発想は欧米らしい。実臨床のうえでの低分子ヘパリンとアスピリンのランダム化比較試験を下半身の骨折症例を対象として施行した。有効性の1次エンドポイントは90日の時点での総死亡とした。 1万2,211例のランダム化比較試験の結果は無視できない。骨折症例は抗凝固薬による血栓予防という固定概念があるが、安価で安易なアスピリンでもよいのかもしれない。議論を起こしそうだが、1つの実験による科学的事実としては評価せざるを得ないと思う。

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