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新型コロナワクチン、米の第I相試験で全例が抗体獲得/NEJM

 米国・国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)とModerna(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)が共同で開発中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)mRNAワクチン「mRNA-1273」の、第I相臨床試験の結果が発表された。全例で中和抗体が検出され、試験中止について事前に規定した安全性に関する懸念は発生しなかった。米国・カイザーパーマネンテ(Kaiser Permanente Washington Health Research Institute)のLisa A. Jackson氏らmRNA-1273 Study Groupによる報告で、著者は「結果は、本ワクチンのさらなる開発を支持するものであった」とまとめている。NEJM誌オンライン版2020年7月14日号掲載の報告。25μg、100μg、250μgを28日間隔・2回投与 研究グループは2020年3月16日~4月14日にかけて、18~55歳の健康な成人45例を対象に、第I相の用量漸増非盲検試験を行った。被験者を15例ずつ3群に分け、mRNA-1273ワクチンを、25μg、100μg、250μgのいずれかの用量で28日間隔・2回投与した。2回投与後の全身性有害事象、25μg群54%、100μg・250μg群は全例 1回投与後(29日目)の抗体反応は高用量群ほど高く、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)によるS-2P抗体の幾何平均抗体価(GMT)は、25μg群が4万227、100μg群が10万9,209、250μg群が21万3,526だった。 2回投与後(57日目)のELISAによるS-2P抗体のGMTは、25μg群が29万9,751、100μg群が78万2,719、250μg群が119万2,154と上昇した。これらは、SARS-CoV-2感染回復者のGMTの14万2,140を上回っていた。 また、2回接種後、評価が行われた全被験者において、血清中和抗体は2通りの方法(pseudotyped lentivirus reporter single-round-of-infection neutralization assay[PsVNA]とplaque-reduction neutralization testing[PRNT])で検出された。同検出値は、感染回復期血清検体パネルの上半分値とほぼ同等だった。 被験者の半数以上で認められた有害事象は、疲労感、悪寒、頭痛、筋肉痛、注射部位痛だった。2回投与後の全身性有害事象の頻度は高く、低用量の25μg群では7/13例(54%)、100μg、250μg群では全員(それぞれ15例、14例)と高用量群で高かった。250μg群の3例(21%)では、1つ以上の重篤有害事象が報告された。

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第16回 世界が嘱望の新型コロナ予防ワクチン試験、質が伴うスピード感?

7月に入り第2波ではないかと噂されるほど感染者が急増している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。いま、医療従事者も一般人も一番待ち望んでいるのが予防ワクチンの登場だ。そのような中、開発中のワクチンの中では最も先行していると言われるアストラゼネカ社とオックスフォード大学の第I/II相試験結果がLancet誌に掲載1)され、メディアもこれを取り上げている。オックスフォード大のワクチン、初期の治験で効果確認(朝日新聞)新型コロナ ワクチン臨床で抗体 英・中のチーム発表(毎日新聞[共同通信配信記事])コロナワクチン臨床試験、治験者95%で抗体4倍増…英製薬大手が中間発表(読売新聞)英アストラゼネカのワクチン「強い免疫反応」 初期治験(日本経済新聞)4本の記事を比べると、読売以外は「有望」「期待」という用語を使っており、この記事を読み「いよいよワクチンが登場してくるのか」と期待を膨らませる人は少なくないはずだ。今回の試験は、COVID-19ワクチン候補を髄膜炎菌ワクチンと比較した被験者1,077例の無作為化単盲検比較試験で、うち10例は無作為化の対象とせず、ワクチンのブースター(28日の間隔を置いた2回接種)投与を受けている。また、一部の被験者ではワクチンの副反応軽減目的でアセトアミノフェンの投与が行われている。この結果、投与14日後には新型コロナウイルス(SARS-Cov-2)のスパイクタンパク質に特異的なT細胞反応がピークに達し(n=43)、投与28日後のSARS-Cov-2のスパイクタンパク質に対するIgG抗体量の上昇(n=127)が確認された。抗体量は一部の単回投与例とブ―スター投与例では56日後まで上昇し続けた。また、投与28日後のSARS-Cov-2のスパイクタンパク質に対する中和抗体反応は91%(n=35)で認められ、ブースター投与9例では全例で確認されたとのこと。主な有害事象は疲労感(アセトアミノフェン非投与群70%vs.アセトアミノフェン投与群71%)と頭痛(同68%vs.61%)。このほかには筋肉痛、不快感、熱感、悪寒など(発現率は50~60%前後)で、重篤なものは認められなかった。このようにしてみると、まだ第I/II相試験ということもあり、抗体量の測定などが行われたn数も少なく、個人的には前向きには捉えられるものの、まだまだプリミティブな結果だと受け止めている。ただ、この各紙を一覧すると、細かいことを書いたらそもそも読んでもらえないという一般向け紙面の限界もあり、漠然とした希望だけを持ってしまいかねない。もっともこの中でも朝日新聞は研究チームの会見コメントとして、まだ課題も多く先行き不透明なものであることを強調している。Lancet誌の論文内ではこの点について、まず被験者の年齢中央値が35歳であることを指摘している。第I/II相試験ゆえにこうした年齢中央値になるのはやむを得ないが、COVID-19で重症化、死亡リスクが高いとされる集団の一つは高齢者である。実際、米国医師会雑誌(JAMA)に中国の国立疾病予防管理センター(中国名:中国疾病預防控制中心[中国CDC])のグループが発表した新型コロナ感染者4万4,672人の解析データ2)では、40歳代までの致死率は最大でも0.4%に過ぎないが、50歳代では1.3%、60歳代で3.6%、70歳代で8.0%、80歳代以上では14.8%と右肩上がりに上昇する。このためワクチンが登場した暁には高齢者は優先接種の対象となる可能性は高い。だが、B型肝炎ワクチンに代表されるように加齢とともに抗体価を獲得しにくいワクチンもあるため、今後高齢者を対象とした試験が必要になるはずだ。また、研究グループは論文内でベクターとして使用しているアデノウイルスに対する抗体の影響評価も必要と指摘している。そして、この試験は今年の4月23日~5月21日までに行われたもので、主要評価項目は接種後6ヵ月間のCOVID-19発症抑制と重篤な有害事象の発現率である。単純計算すれば試験終了は11月末になり、データの解析はその後ということになる。ただ、従来からアストラゼネカ社は9月には供給を開始したい旨を公表している。国内外で特例承認のようなスキームを活用すると思われるが、2009年の新型インフルエンザと違い、これまでまったくワクチンのなかったコロナウイルスに対してこのスピードはすごいと思う以上に、「???」「大丈夫?」と思ってしまう。私は最近、こうした仕事柄もあり医療に無縁な人から「新型コロナのワクチンっていつぐらいまでにできる?」と尋ねられることはよくあるが、以前から「まあ極めて順調に行って、来春ぐらいじゃない? でもできない可能性も十分あるよ」と答えている。少なくとも今回の結果を見てもこの答えに変更はない。参考1)Folegatti PM, et al. Lancet. 2020 Jul 20.[Epub ahead of print]2)Wu Z,et al. JAMA. 2020 Feb 24.[Epub ahead of print]

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バロキサビル、インフルエンザの家族間感染予防に有効/NEJM

 インフルエンザの家族間感染予防に、バロキサビル マルボキシル(商品名:ゾフルーザ、以下バロキサビル)の単回投与が顕著な効果を示したことが報告された。リチェルカクリニカの池松 秀之氏らによる多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照試験の結果で、NEJM誌オンライン版2020年7月8日号で発表された。バロキサビルは、ポリメラーゼ酸性タンパク質(PA)エンドヌクレアーゼ阻害作用を有し、合併症リスクの高い外来患者などを含む合併症のないインフルエンザの治療効果が認められている。しかし、バロキサビルの家庭内での曝露後予防効果については、明らかになっていなかった。初発家族にバロキサビルまたはプラセボを投与し、接触家族への予防効果を検証 研究グループは、日本国内52の診療所で、インフルエンザ2018~19シーズン中に、家庭内で最初にインフルエンザの感染が確認された家族(指標患者)の家庭内接触者(接触家族)における、バロキサビルの曝露後予防効果について検証した。 指標患者を1対1の割合で無作為に割り付け、バロキサビルまたはプラセボの単回投与を行った。 主要エンドポイントは、投与後10日間におけるRT-PCR検査によって臨床的に確認されたインフルエンザウイルスへの感染とした。また、感受性の低下と関連するバロキサビルに選択的なPA変異ウイルス株の発生も評価した。高リスク、小児、ワクチン未投与のグループで効果を確認 合計で指標患者545例、接触家族752例が、バロキサビル群またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。 指標患者において、95.6%がインフルエンザA型に感染しており、73.6%が12歳未満で、52.7%がバロキサビルの投与を受けた。 評価を受けることが可能であった患者(バロキサビル群374例、プラセボ群375例)において、臨床的にインフルエンザの感染が確認された割合は、バロキサビル群がプラセボ群よりも有意に低かった(1.9% vs.13.6%、補正後リスク比[RR]:0.14、95%信頼区間[CI]:0.06~0.30、p<0.001)。サブグループでは、高リスク、小児、ワクチン未投与のグループで、バロキサビルの効果が確認された。また、症状を問わずインフルエンザへの感染リスクは、バロキサビル群がプラセボ群よりも低かった(補正後RR:0.43、95%CI:0.32~0.58)。 有害事象の発生頻度は両群で類似していた(バロキサビル群22.2%、プラセボ群20.5%)。 バロキサビル群における変異ウイルス株の検出は、PA I38T/M変異ウイルス株が10/374例(2.7%)、PA E23K変異ウイルス株が5/374例(1.3%)であった。プラセボ群において、これらの変異ウイルス株の伝播は確認されなかったが、バロキサビル群ででは数例の伝播があったことが否めなかった。

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第16回 COVID-19食い止めにT細胞が貢献?/ジャーナル購読の莫大な費用をソフトウェア解析で節約

COVID-19食い止めにT細胞が貢献か?抗体検査のみでは感染者数過小評価の恐れ新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)への抗体は検出されずともT細胞は検出される場合があり、抗体検査だけではその感染(COVID-19)者数を少なく見積もってしまう恐れがあります1)。また、SARS-CoV-2への曝露があっても軽症か発症しないケースではT細胞が貢献しているかもしれません2)。フランスの7家族を調べた試験の結果1)、SARS-CoV-2感染者と密に接したその家族8人のうち6人からはSARS-CoV-2へのT細胞が検出されましたが抗体は見つかりませんでした。スウェーデンの約200例を調べた試験では無症状か軽症のSARS-CoV-2感染者のほとんどから強いメモリーT細胞反応が検出され、それらのT細胞反応獲得者に抗体反応が欠如していることは稀ではありませんでした3)。SARS-CoV-2に曝露か感染すれば抗体がどうあれ重度COVID-19を防げるようになる可能性があるようです。また、メモリーT細胞反応は抗体反応より2倍多く認められ、抗体検査頼りだとSARS-CoV-2に対抗する免疫がどれだけ広まっているかを少なく見積もってしまうようです。SARS-CoV-2へのT細胞反応は風邪症状を引き起こす別のコロナウイルスへの感染によって備わるらしいことも示されています4)。目下のCOVID-19流行からだいぶ前の2015~18年に採取されて保管されていた血液検体を調べたところ約半数にSARS-CoV-2を認識するヘルパーT細胞が備わっていました。風邪を引き起こす4つのヒトコロナウイルスのいずれかに感染したことでSARS-CoV-2も認識しうるT細胞が発生したのだろうとLa Jolla Instituteの研究チームは考えています。そのチームはCOVID-19から回復した10人の全員からSARS-CoV-2スパイクタンパク質を認識するヘルパーT細胞が検出されたことも併せて報告しています。また、スパイクタンパク質以外のタンパク質に反応するヘルパーT細胞も検出されました。現在開発中のワクチンのほとんどはスパイクタンパク質への免疫反応を誘発することを目指しています。しかしもっと欲張った方が良さそうです。他のタンパク質に反応するヘルパーT細胞が今回確認されたことから察するに、それらのタンパク質へも免疫系を駆り立てるワクチンはいっそう有効かもしれません。1つのタンパク質だけにぞっこんにならない方が良いと米国ノースカロライナ大学の分子微生物学者Rachel Graham氏はScience誌に話しています5)。ジャーナル購読の莫大な費用をソフトウェア解析で節約可能に?今年2020年4月にニューヨーク州立大学(SUNY)はオランダの巨大出版会社Elsevier(エルゼビア)との値が張る一括購読契約を打ち切り、248雑誌の購読を中心とするこじんまりとした契約に切り替えました6)。SUNYはその絞り込みで年間購読料を500~700万ドルも減らせる見込みです。Science誌のニュースによるとUnsubというソフトウェアがその絞り込みを手伝いました7)。SUNYがそれまで年間およそ900万ドルを払っていた2,200ものElsevier発行雑誌の10分の1ほどの248雑誌を年間200万ドル払って購読すればSUNYの64施設の研究者は今後5年間に読むであろうElsevier出版論文の約7割を制限なく入手できるとUnsubは推定しました。UnsubはSUNYのそれぞれの図書館の雑誌利用データを解析し、SUNYの施設や学生がすでに無料で利用できるネット上の論文を考慮してそう推定しました。SUNYは支払いを続ける必要がある雑誌を独自に見繕い、その一覧はUnsubが打ち出した一覧と一致していました。Unsubは一大技術であり、おかげで大学の図書館がもはや大金を注ぎ込まずとも機能を保ってやっていけると分かったとSUNY図書館の運営戦略リーダーMark McBride氏は言っています。Unsubは2017年に誕生したUnpaywallというツールを発展させて去年2019年11月に発売されました。Unsubの前身のUnpaywallはネットから無料の論文を探し出し、合法的に支払いを回避して目当ての論文を読めるようにするものです。Unpaywallの欠点を解消して出来上がったUnsubの年間使用料は1,000ドルであり、Unsubを販売する学術支援企業Impactstoryの設立者の1人・Jason Priem氏によるとすでに300の図書館がUnsub使用を決めています。SUNYが踏み切ったような巨額契約打ち切りがこの夏には増え、図書館は交渉力を取り戻すことになるだろうとPriem氏は言っています。SUNYが新たな契約の下で手に入れうる論文のうちおよそ30%はオープンアクセスなのですでに無料で読むことができ、25%はSUNYが何年か契約を続けたことで入手可能です。新たな契約の下で入手不可能な論文はどうするかというと、SUNYのそれぞれの施設ごとに必要な雑誌を個別購読したり他の図書館から一時的な閲覧権を購入して読めるようにします。また、論文の単品購入もあります。それらの追加出費を含めても新たな契約は余りある節約をもたらすと前述のMcBride氏は言っています。顧客の好みがどうあれ高品質な出版物をお値打ち価格で公平にいらつかせず提供することに変わりはないとElsevierの広報担当者はScience誌に話しており、Unsubが台頭したところで同社は特に何か手を打つつもりはないようです。ところでUnsubと似た目的の1figrというソフトがあったのですが、その販売会社1Scienceとその親会社Science-MetrixがElsevierに取得された後に残念ながら姿を消しました。参考1)Intrafamilial Exposure to SARS-CoV-2 Induces Cellular Immune Response without Seroconversion. medRxiv. June 22, 20202)Scientists focus on how immune system T cells fight coronavirus in absence of antibodies / Reuters 3)Robust T cell immunity in convalescent individuals with asymptomatic or mild COVID-19. bioRxiv. June 29, 2020 4)Grifoni A, et al. Cell. 2020 Jun 25. [Epub ahead of print]5)T cells found in COVID-19 patients ‘bode well’ for long-term immunity / Science 6)State University of New York Steps Away From the “Big Deal” with Elsevier 7)This tool is saving universities millions of dollars in journal subscriptions / Science

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セルメチニブが希少疾病用医薬品に指定/アストラゼネカ

 アストラゼネカ株式会社は、セルメチニブ硫酸塩(以下「セルメチニブ」という)が希少遺伝性疾患の神経線維腫症1型(以下「NF1」という)の治療薬として、わが国で希少疾病用医薬品指定*を取得したと発表した。*希少疾病用医薬品指定とは、患者数が5万人未満で、アンメットメディカルニーズが高い疾病の治療を目的とした医薬品に対して行われている指定。通常の保険適用とは異なる。幼児期から始まり、平均余命も削る希少疾病 NF1は3,000~4,000人に1人が罹患する遺伝性疾患。NF1遺伝子の自発的あるいは遺伝的変異により発症し、皮膚あるいは皮下の柔らかい塊(皮膚の神経線維腫)、皮膚色素沈着(カフェ・オ・レ斑)、および患者の30~50%にみられる叢状神経線維腫(以下「PN」という)を含む多くの症状を伴う。これらのPNは、外見の変化、運動機能障害、疼痛、気道機能不全、視覚障害、腸や膀胱の機能不全および変形などの病的状態を引き起こす可能性がある。PNは幼児期に始まり、重症度は多岐にわたる。また、この疾患により、平均余命が8~15年短縮する可能性もある。がんの活性化を抑えるセルメチニブの特徴 治療薬として期待されるセルメチニブは、同社とMSDが共同開発、商業化を進めている薬剤で、2020年4月に「症候性かつ手術不能なPNを有する2歳以上のNF1小児患者に対する治療薬」として米国では承認されている。また、PNを有するNF1を適応症とする承認申請が欧州医薬品庁によって受理・審査中であり、その他の地域でも承認申請を検討している。なお本剤はわが国では現在未承認。 同薬剤は分裂促進因子活性化プロテインキナーゼ(MEK1/2阻害剤)である。MEK1/2タンパクは、細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)経路の上流調節因子で、MEKとERKはともに、RASによって調節されるRAF-MEK-ERK経路の重要な構成要素であり、さまざまな種類のがんで活性化されることが多い。単剤投与で66%の客観的奏効率 米国国立がん研究所の米国癌治療評価プログラムによるSPRINT試験(手術不能なPNを有するNF1小児患者を対象にセルメチニブ単剤療法を行い、客観的奏効率や患者報告アウトカムおよび機能転機への影響を評価するもの)の第I相および第II相のStratum1における客観的奏効率(ORR)は、セルメチニブ単剤を経口投与(1日2回)したPNを有するNF1の小児患者において66%(50例中33例、部分奏効を含む)を示した。ORRは、完全奏効または20%以上の腫瘍縮小を評価基準とする部分奏効が確認された患者数から算出している。 同社では、「NF1は、ほとんどの国でその治療選択肢は限られており、今回の指定は、NF1に対する初の治療薬を日本の小児患者に提供できる重要な一歩となる」と今後の発展に期待を寄せている。■関連記事コロナワクチン接種率の違いで死亡率に大きな差/JAMA

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第15回 COVID-19でも顕在化か、ワクチン不信/血液脳関門の定説を覆す結果!?

COVID-19ワクチン接種予定の米国人はわずか2人に1人~ワクチン信用の底上げが必要1月20日に米国で初めて新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染(COVID-19)が確認されるやいなや、反ワクチン活動家はすぐに腰を上げ、そんなウイルスは実在せず、ワクチンで稼ぐためのでっちあげだとのツイッターを投稿しはじめました1)。それから半年近くが過ぎ、世界の科学者たちはCOVID-19ワクチン開発に勤しみ、反ワクチン活動家からの大量の誤った情報は増加の一途を辿っています。そういった情報に惑わされることなく、COVID-19ワクチンを受け入れてもらうための土壌作りを今からはじめる必要があると健康情報の専門家は言っています。実際、今のままだと米国でのCOVID-19ワクチンの普及はあまり期待できそうにありません。最近の調査でCOVID-19ワクチンが使えるようになったら接種すると答えたのはわずかに2人に1人(49%)のみでした。5人に1人(20%)は接種しないと答え、約3~4人に1人(31%)は決めかねていると答えました。そのような調査結果を背景にして、アメリカ疾病管理センター(CDC)はワクチンの信用底上げに取り組むことを計画しています。ワクチン不信は米国に限った問題ではなく、世界の健康機関もワクチンに反対する人々を翻意させるためのあの手この手の取り組みをしています。世界保健機関(WHO)もそれを承知であり、2019年にはワクチン拒否を最も心配な10の公衆衛生問題の1つに数えています。ワクチン不信を取り除くためには、反ワクチン活動家も使うツイッター等のソーシャルメディアを駆使したデジタル世界での取り組みも必要でしょうが、電話でのワクチン接種案内等の血の通った地道な働きかけがより有効かもしれないとノースカロライナ大学の行動科学者Noel Brewer氏はScienceに話しています。また、公衆衛生機関はさまざまな人の輪のリーダーと話して意思疎通をはかり、ワクチンを医療機関に来てもらって接種するのではなく職場や店舗に自ら出向いていって接種することも検討すべきだろうとジョンズホプキンス大学の医学人類学者Monica Schoch-Spana氏は言っています。定説に反し、老化するほど血液脳関門はタンパク質を通し難くなる~若い脳ほど取り込みが旺盛血液脳関門(BBB)は老化につれてより通過しやすくなるとこれまで考えられていましたが、どうやらそうとも限らないようで、若い健康なマウスの脳は血液中のタンパク質を思ったより多く受け入れており、老化は脳に入る血漿タンパク質をむしろ減らすと分かりました2,3)。今回の研究では、マウスの生来の血漿中タンパク質一揃いに印を付けてその行き先を追跡しました。その結果、若いマウスの脳にはこれまでの想定以上の量の血漿タンパク質が移行しました。それらのタンパク質は神経回路とおそらく相互作用しており、全身のタンパク質の有り様は行動や情緒などの神経機能を変化させるようです。今回のような生来のタンパク質ではない、作り物の標識分子を用いたかつての実験では、老化につれてBBBは通過しやすくなることが示されていましたが、生来のタンパク質の動向を追った今回の研究では逆に老化マウスの脳は血漿タンパク質を受け入れ難くなっていました。老化した脳にタンパク質が入り難いことに寄与するBBB経細胞輸送の変化も、今回の研究では把握されています。血液中のタンパク質がBBBの内皮細胞を横断して脳に入る経路は、目当てのタンパク質を取り込む受容体が携わる経細胞輸送が若い頃には優勢ですが、老化すると受容体の媒介がめっきり減って受容体を介さないやみくもな経細胞輸送が優勢になります。ゆえに老化すると脳に入り込むタンパク質はより雑多になり、老化した脳は目当てのタンパク質を若い頃のようにはおそらく受け取れなくなります。過去の作り物の分子を用いた実験ではおそらくやみくもな経細胞輸送のみが測定されていたため、若い脳への血漿タンパク質移行量が過少になっていたようです。若い脳で優勢と今回の研究で判明した受容体媒介経細胞輸送は脳への治療薬投与に利用されています。たとえば米国サンフランシスコ拠点のバイオテック企業Denali Therapeutics社はBBBのトランスフェリン受容体に運ばれて脳に届く薬DNL310を開発しており、ハンター症候群小児対象の第1/2相試験(NCT04251026)が間もなく始まる予定です4)。ALPLというタンパク質を阻害するとトランスフェリン受容体を介した経細胞輸送が向上しうることが今回の研究で判明しており、ALPL阻害剤とDNL310の併用は一層効果的かもしれません。また、ALPLは老齢マウスの脳ほど発現が多く、ALPL阻害は高齢者脳へのトランスフェリン受容体を介した治療薬運搬にとりわけ役立ちそうです。参考1)Just 50% of Americans plan to get a COVID-19 vaccine. Here’s how to win over the rest / Science 2)Unexpected amount of blood-borne protein enters the young brain / Nature3)Andrew C Yang,et al. Nature.2020 Jul 1. [Epub ahead of print]4) Denali Therapeutics Announces Publication of Two New Papers Describing Its Blood-Brain Barrier Delivery Technology in Science Translational Medicine / GlobeNewswire

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第13回 自由診療の抗体検査がもたらす市民の勘違い

本連載もようやく新型コロナウイルス感染症(COVID-19)から離れつつあったが、ちょっと再び戻らせてもらう。なぜかというと、最近、SNS上や報道で目にする抗体検査について不安を覚えるようになったからだ。自治体などが今後の対策のための疫学調査として抗体検査を行うことは何ら問題ないと考えている。しかし、企業が従業員に対して一斉実施したり、市中の医療機関が自由診療で抗体検査を行ったりすることに現時点では何ら意義を感じないからだ。そもそも抗体検査の結果が分かった時に人間はどんな反応を示すだろうか? まず、陰性だった場合は、「感染してなかった」と思いほっとする人、「まだ感染していないのか」とやや不安になる人の2つに分かれるだろう。だが、この陰性という結果が無駄な安心を与えてしまう事例も既に明らかになっている。6月10日に判明した名古屋市での女性の感染例だ。この女性は発熱の症状を訴え、COVID-19の抗体検査を受け陰性と判明した。その翌日は勤務先を休んだものの、解熱したとして翌々日から3日間勤務に復帰。その後、味覚・嗅覚の異常を訴え、最終的に抗体検査から1週間後にPCR検査で感染の事実が判明している。要は抗体検査で陰性の発熱だったのでCOVID-19ではないと勘違いしてしまった事例である。では陽性だったらどうだろう? そもそも市中の医療機関の自由診療でCOVID-19の抗体検査を受けに行く人の多くは、前述の名古屋の事例のような現在進行形の類似症状のあるケースよりも過去に類似の症状を経験したか、単に興味本位という人だろう。そうした人が陽性と分かったら、最初は驚き、思い当たる感染時期がないか振り返るに違いない。ただ、入院も必要もなく軽症あるいは無症状で済んだことに加え、抗体があるという事実から安心しきってしまう人がほとんどではないだろうか。ところがこの安心はかなり的外れである可能性が浮上している。新型コロナの抗体価は持続しにくい?先ごろ、nature medicineに発表された中国の重慶医科大学の研究グループによるCOVID-19感染者の血中抗体価を追跡した研究結果が明らかになった。それによると感染者の退院8週間後のCOVID-19特異的IgG抗体は、無症候者の93.3%、有症状者の96.8%で減少し、抗体減少率の中央値は無症候者で71.1%、有症状者で76.2%。また、中和抗体量は無症候者の81.1%、有症状者の62.2%で減少し、抗体減少率の中央値は無症候者で8.3%、有症状者で11.7%だった。この事実からすれば、抗体検査で陽性であっても長期的な「免疫パスポート」にはならない可能性が高いことになる。しかも、現時点では特異的な治療薬、ワクチンも存在しないという現実。つまるところ、抗体検査を受けた人は結果が陰性であれ、陽性であれ、今後注意すべきことは変わらないということである。にもかかわらず最近では大都市圏のクリニックを中心にこのCOVID-19の抗体検査を行う医療機関が増えている。少なくとも通常よりもややお金がかかる自由診療で検査を受けようとする人の心中は「何らかの安心を得たい」ことがほとんどだろう。しかし、医学的に見て何らかの安心が得られる状況ではないのは既に書いたとおりだ。逆にこうした医療機関には、自由診療で抗体検査を行うことで患者側にどんなメリットがあるのか、と問いたい。むしろ一時的かつ張りボテの安心感を与えることで、その後の感染リスクを高める害のほうが多いのではないかと考える。少なくとも私のオツムではどうしてもこの検査にメリットについて明快な答えを提示できないのである。

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新型コロナウイルスの感染伝播防止に有効な対策(解説:小金丸博氏)-1252

 COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2は人と人との密な接触で広がっていく。本稿執筆時点では、有効性が示された治療薬や予防ワクチンはなく、感染拡大をいかにして防止するかは重要なテーマである。今回、COVID-19、SARS、MERSの原因ウイルスの伝播防止に、身体的距離、マスクの着用、眼の防護が有効な対策となりうることを示したシステマティックレビューとメタ解析がLancet誌オンライン版より報告された。これまでのメタ解析は、季節性インフルエンザなどの呼吸器系ウイルスに関するランダム化試験や不正確なデータを基にし、医療施設内での予防効果に焦点を合わせたものであったが、本論文ではSARS-CoV-2を含むコロナウイルスのデータに絞り、医療施設内のみでなく市中での感染予防効果に関するデータを含んでいることが特徴である。 結果の概要は以下のとおりであった。身体的距離 人と人との距離が1m未満と1m以上を比較した場合、感染伝播するリスクはそれぞれ12.8%と2.6%であり、距離を1m以上とることで感染リスクは大幅に低下した(群間リスク差:-10.2%、調整オッズ比:0.18)。この感染予防効果はマスクの着用の有無にかかわらず認め、距離が1m離れるごとに2.02倍に増大した。マスクの着用 マスクを着用しない場合と着用する場合を比較した場合、感染伝播するリスクはそれぞれ17.4%と3.1%であり、マスクを着用することで感染リスクは大幅に低下した(群間リスク差:-14.3%、調整オッズ比:0.15)。N95マスクや同等の効果が期待できる類似のマスクは、サージカルマスクと比較して、強い感染防止効果を認めた。N95マスクの感染予防効果に関しては、医療施設内での評価を検討した論文のみ用いられた。マスク着用による感染伝播を防止する効果は、とくに医療施設内での使用で強い効果を示した。眼の防護 眼を防護しない場合と防護する場合を比較した場合、感染伝播するリスクはそれぞれ16.0%と5.5%であり、ゴーグルなどで眼を防護することで感染リスクは大幅に低下した(群間リスク差:-10.6%、非補正相対危険度:0.34)。眼の防護の感染予防効果を評価するために13本の論文が用いられたが、COVID-19に関する論文は1本のみであった。 新型コロナウイルスの流行がいつまで続くかわからない現状において、感染リスクを減らすために人と人との距離を最低1m(できれば2m以上)とることやマスク着用の根拠になりうる研究結果である。本論文で有効性を認めた対策に手指衛生などの対策を追加することで、さらなるウイルス伝播防止効果を期待できると考える。今回のメタ解析にはランダム化比較試験は一つも含まれておらず、より強固なエビデンスを得るためにはさらなる研究が待たれる。

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第13回 ワクチン治験の対象に医療従事者は妥当?大阪ワクチン報道で考えたこと

DNAワクチンの治験始動こんにちは。 医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。5月25日に国の緊急事態宣言が全面解除されたのに次いで、6月11日には都の「東京アラート」が解除されました。それから約3週間、東京ディズニーランドの再開も決まり、皆さん、あちこちに繰り出すようになってきました。東京で感染者数が漸増しているのは気になりますが、かく言う私も久しぶりにテントを担いで、昔の山仲間とともに奥多摩の石尾根を登ってきました。こういうときは、日頃からテント山行をしていると、山小屋の密も避けられていいものです。ちなみに今回は全員1人用テント持参、テントの外で食事を作り、宴会もテント外で行いました。もっとも深夜から土砂降りで、翌朝、濡れたテントを畳み、カッパを着て即下山しました。濡れ鼠にはなりましたが、初夏の山を堪能してきました。さて、今回気になったのは、ケアネットでも報道されていたアンジェスのワクチンの治験のニュースです。6月20日のケアネットでは、「待ち望まれる国産の新型コロナワクチン実現に王手か―。大阪府は6月17日の記者会見で、大阪大学などと共に産官学連携で開発に取り組んできた、新型コロナウイルスの予防ワクチンの治験を6月30日に開始することを明らかにした。新型コロナウイルスを巡っては、世界規模で予防ワクチンの開発が進行中であり、1日も早い実現が待たれる状況だが、ヒトへの投与が実施されるのは国内初となるという」と書いています。その後アンジェスは、6月25日に同社が大阪大学などと共同開発している新型コロナウイルス感染症に対するDNAプラスミドベースのワクチンについて、大阪市立大学医学部附属病院の治験審査委員会が第I/II相臨床試験の実施を承認し、同病院と治験契約を締結したと発表しました。第I/II相臨床試験は、同ワクチンの安全性と免疫原性を評価するもので、実施期間は、2020年6月末から2021年7月末の予定だそうです。”前のめり”の吉村知事この大阪のワクチンに関する一連の報道を読んで、心がざわつくことが2点ほどありました。1つは大阪市大の倫理委員会が承認する前に、大阪府の吉村 洋文知事がその内容や日程、実用化のめどなどを記者会見で公表してしまったことです。17日の記者会見で吉村知事は、「なんとか国産のワクチンを開発し、日本における新型コロナウイルスとの闘いを大きく反転攻勢させていきたい。30日は人への投与を実施することになるが、これを皮切りに大阪で実現させたい」と熱く語っていました。通常、治験は実施される医療機関で承認を受けた後、日程などの計画が公表されます。承認もされていない段階での吉村知事の”前のめり”過ぎる姿勢や発言に24日の毎日新聞は「日程発表が審査に先行する異例の展開に市大関係者から『医療でなく政治の話になっているのではないか』と不安の声が上がる」と報道しています。臨床試験は純粋に医学の問題であり、それに1人の政治家が私見を述べたり、過度な期待をかけたりすることはあってはならないでしょう。しかも、第I/II相臨床試験という、まだモノになるかどうかも全くわからない段階での吉村知事の発言は、プロ野球の春のキャンプで「今年のタイガースは違うぞ!」と書く在阪スポーツ紙のようなものです。また、4月前半、安倍 晋三首相が「アビガン、アビガン」と言っていたことも思い出させます。4月7日、緊急事態宣言を発令した日に開いた記者会見で安倍首相は、富士フイルム富山化学のアビガン錠について、「観察研究の仕組みのもと、希望する患者への使用をできる限り拡大する」との考えを示しました。本来、アビガンの適応外使用は、臨床研究法に定められた特定臨床研究に該当しますが、アビガンなどの投与を通常の診療行為と解釈、観察研究という”甘い”扱いとしたわけです。結果、並行して行われていた臨床研究での患者数は集まらず、結果データも集まらずで、アビガンの臨床試験は遅れに遅れています。この遅れ、安倍首相の”前のめり”が招いた結果と言えなくもないでしょう。同じようなことが、大阪のワクチンでも起こらないことを願うばかりです。医療従事者はADEのリスク高い?もう1つざわついたのは、当初、治験の対象者が「市大病院の医療従事者20~30人」と報道されていたことです。一部には「研修医から選ぶらしい」との噂も流れていました。ワクチンは、そもそも非常にセンシティブな薬です。すでに承認され、市販されているワクチンですら重大な副反応が皆無とは言い切れません。さらに、新型コロナウイルスのワクチン開発では、ADE(Antibody Dependent Enhancement:抗体依存性感染増強)発生の危険性も指摘されています。そう考えると、治験の対象者に医療従事者、それも研修医を選ぶというのは妥当なのでしょうか?ADEとは、ワクチン接種後に、実際のウイルスに自然感染すると、通常よりもウイルスを取り込みやすくなる現象のことです。ワクチン接種などで中途半端な免疫応答が誘導された場合に起こる、と考えられています。2016年にフィリピンにおいて、フランス・サノフィ社が開発していたデング熱ワクチン接種後に数十人の小児が死亡する、という事故が起こり、ADEはその原因の1つとして知られています。WHOも新型コロナウイルスに関する研究開発のロードマップを示した資料において、「感染増強の可能性の評価が重要」と指摘しています。医療従事者は新型コロナウイルスに感染する可能性が一般の人より高いことを考えると、仮に臨床試験で仮に中途半端な免疫しか獲得できなかった場合、ADEを起こす危険性が高いかもしれません。なお、その後、アンジェスの治験の対象者については、「大阪市大の医療従事者に限っているわけではない」と報道も出て、真相はうかがい知れません。とは言え、病院内での立場や発言力が弱い研修医等の医療従事者に半強制的に治験参加を呼びかけたりしていないか、少々気になります。開発競争だけでなく政治や報道も加熱気味ところで、アンジェスが開発するDNAワクチンは、大量生産が可能というメリットの一方で、中和抗体の発現効率が低く、アジュバントなどで増強する必要があると言われています(アンジェスの治験でも免疫原性を高めるためアジュバントを添加するとのこと)。また、人体用に承認されたDNAワクチンはまだ世界に1つもありません(ウマ用、イヌ用、ニワトリ用などはあるようです)。6月27日の朝日新聞は新型コロナワクチンの開発について「国内外で競争が激しくなる中、実用化の見通しが立つ前から量産体制を確立しようとする異例の動き」が出てきたとして、「培養タンク争奪戦」が始まっていると報道しています。また、同日の日本経済新聞は「英製薬大手アストラゼネカの日本法人は26日、英オックスフォード大と開発中の新型コロナウイルスワクチンについて、日本への供給に向けて日本政府と協議を進めることで合意したと発表した」と報じました。新型コロナウイルスのワクチンを巡っては、開発競争だけでなく、政治家やマスコミ報道も少々加熱気味のようです。ただし相手はまだまだ未知な点が多いウイルスです。さらに、どんなワクチンも常に副反応と隣り合わせであり、日本のワクチン行政には苦い歴史もあります。”前のめり”や”期待”より、安全性、有効性を優先した開発を進めてもらいたいものです。

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COVID-19重症化リスクのガイドラインを更新/CDC

 6月25日、米国疾病予防管理センター(CDC)はCOVID-19感染時の重症化リスクに関するガイドラインを更新し、サイトで公開した。 CDCは、重症化リスクの高い属性として「高齢者」「基礎疾患を持つ人」の2つを挙げ、それぞれのリスクに関する詳細や感染予防対策を提示している。また、今回からリスクを高める可能性がある要因として、妊娠が追加された。高齢者のリスクと推奨される対策 米国で報告されたCOVID-19に関連する死亡者の8割は65歳以上となっている。・他人との接触を避け、やむを得ない場合は手洗い、消毒、マスク着用などの感染予防策をとる。・疑い症状が出た場合は、2週間自宅に待機する。・イベントは屋外開催を推奨、参加者同士で物品を共有しない。・他疾患が進行することを防ぎ、COVID-19を理由に緊急を要する受診を遅らせない。・インフルエンザ、肺炎球菌ワクチンを接種する。・健康状態、服薬状況、終末期ケアの希望などをまとめた「ケアプラン」を作成する。基礎疾患を持つ人のリスクと推奨される対策【年齢にかかわらず、重症化リスクが高くなる基礎疾患】・慢性腎疾患・慢性閉塞性肺疾患(COPD)・臓器移植による免疫不全状態(免疫システム減弱)・肥満(BMI:30以上)・心不全、冠動脈疾患、心筋症などの深刻な心臓疾患・鎌状赤血球症・2型糖尿病【重症化リスクが高くなる可能性がある基礎疾患】・喘息(中等度~重度)・脳血管疾患(血管と脳への血液供給に影響を与える)・嚢胞性線維症・高血圧または高血圧症・造血幹細胞移植、免疫不全、HIV、副腎皮質ステロイド使用、他の免疫抑制薬の使用による免疫不全状態・認知症などの神経学的状態・肝疾患・妊娠・肺線維症(肺組織に損傷または瘢痕がある)・喫煙・サラセミア(血液疾患の一種)・1型糖尿病 上記の基礎疾患を持つ人は高齢者同様の感染予防対策をとるほか、疾患治療を中断せず、1ヵ月分の処方薬を常備することが推奨されている。

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第12回 夏本番!冷やし中華ならぬ「抗体検査始めました」の怪

抗体保有率、東京都0.10%こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。6月19日、やっとプロ野球が開幕しました。新型コロナウイルス陽性が判明した巨人の坂本・大城両選手も開幕試合になんとか間に合ったようです。私も何試合かテレビ中継を観ましたが、やはり無観客試合はどうもしっくりきません。打撃音やキャッチングの音、選手の声が聞こえるのはいいのですが、応援なしだとなんだか草野球を観ているようで、プロらしさがあまり伝わってきません。ある中継では、「応援音声再現中」と、バックに過去に録音した応援の音を流していましたが、あれもどうなんでしょう。今年も早く神宮球場の「生ビール半額ナイター」に行きたいものです。さて、今回気になったのは、新型コロナウイルスの抗体検査に関するいくつかのニュースです。6月16日、厚生労働省は3都府県で6月1日から実施していた新型コロナウイルスの抗体保有調査の結果を公表しました。この調査は日本での抗体保有状況の把握のため、2020年6月1~7日にかけて東京都・大阪府・宮城県の一般住民それぞれ約3,000名を無作為化抽出して行われたものでした。対象者は本調査への参加に同意した一般住民(東京都1,971人、大阪府2,970人、宮城県3,009人、計7,950人)。この調査では、陽性判定をより正確に行うため、2種の検査試薬(アボット社・ロシュ社)の両方において陽性が確認されたものを「陽性」としたとのことです。その結果、抗体保有率は、東京都:0.10%(2人)、大阪府:0.17%(5人)、宮城県:0.03%(1人)でした。抗体を持っていた人の割合を、人口に対する報告感染者数の割合(5月31日時点)と比べてみると、東京で2.6倍、大阪で8.5倍、宮城で7.5倍でした。各地で無症状や医療機関を受診しないまま回復した感染者が一定数いた可能性が示唆されます。ただ、米ニューヨーク州が5月上旬に公表した住民1万5,000人を対象にした抗体検査の結果(12.3%)と比べると、日本の低さが際立ちます。これまでの感染状況を考えると当たり前と言えば当たり前の結果ですが、日本ではまだまだパンデミックの余地は残されている、と言えるでしょう。抗体検査は医療機関にとっては割のいい“臨時収入”この報道に先立つ6月12日のNHKニュースでは、「導入相次ぐ『抗体検査』 期待の一方 誤解や課題も」というタイトルで、企業やプロ野球チームなどで抗体検査の導入が進んでいる実態を伝えています。報道では、過去にウイルスに感染したかどうかを調べるため、企業や個人などで抗体検査を受ける動きが広がっている状況を伝えた上で、抗体検査が陰性証明として使えるわけではないこと、抗体陽性が感染防止につながるわけではことなど、抗体検査に関する誤解についてわかりやすく解説していました。麻疹や風疹のように、新型コロナ感染症も1回感染して抗体価が上がればもうかからない、と誤解している人は意外に多いようです。このニュースで興味深かったのは、地域の診療所などの医療機関が自費での抗体検査を始めていることでした。ニュースで紹介されていた東京の銀座のクリニックでは、5月中旬から抗体検査を始め、1ヵ月で検査を受けた人は200人にのぼったとのことです。検査費用は1万1,000円ということですから、抗体検査だけで200万円の売上になります(原価はわかりませんが、仮に中国製だとすると安価でしょう)。外来患者が減った医療機関にとっては、割のいい“臨時収入”といったところでしょうか。少し気になって、ネットで調べてみると、「新型コロナウイルスの抗体検査始めました」とホームページで告知している診療所や病院があるわ、あるわ。中にはサイトに「抗体検査が陽性であればワクチン接種したのと同じ状態ですから、再感染はしにくくなるといわれています」と書いている医療機関もありました。当然ながらどこも保険外で、検査費用は8,000円〜1万円が相場のようです。抗体あっても感染防止できるかは不明夏の到来とともに、冷やし中華のように医療機関のメニューに加わった新型コロナウイルスの抗体検査。本当に医療機関側は受診者の役に立つ、と考えて実施しているのでしょうか。そもそも、新型コロナウイルスの場合、血液中で感染防御に働く「中和抗体」がどのくらいの期間維持されるのか、抗体量がどの程度なら再感染が防げるかなど、多くのことがまだわかっていません。風疹や麻疹のように抗体ができたから大丈夫、とはいかないですし、インフルエンザのようにA型にかかったから今年はもうA型は大丈夫、ともならないのです。さらに、抗体は発症してから1週間程度で作られるため、人に感染させる可能性が高いとされる発症前後は抗体検査に引っかかりません。つまり、「個人が感染の有無を調べるための検査」というよりも、先述の厚労省の調査のように「地域での感染状況を公衆衛生学的に調べるための検査」なのです。新型コロナが存在しない2019年の検体からも陽性がもう1点、気になるのが市中の医療機関で行われている検査の精度です。現時点において、国内で承認された新型コロナウイルス感染症に対する抗体検査向けの検査試薬は存在しません。厚労省の調査で使用されたアボット社・ロシュ社のキットを含めてどれもが「研究用試薬」という位置付けです。両社のキットが厚労省の調査で採用されたのは、米食品医薬品局 (FDA)が性能を確認して緊急使用許可(EUA)を出した抗体検査のうち、日本国内で入手可能なものだったからです。少なくともこの2つのキットにはFDAのお墨付きがあるわけです。しかし、国内では、米国のEUA承認といった一定の評価がなされていない、性能がよく分からない検査試薬が数多く出回っているようです。ちなみにキットの開発企業は米国・ドイツ・中国・台湾とさまざまで、数としては中国が比較的多いようです。冷やし中華のように、「うちも始めました」とPRしている医療機関の多くは、イムノクロマト法で測定できる(専用装置を必要としない)簡易抗体検査キットを採用していると見られます。しかし、これらの簡易キットの検査性能については、感度にバラツキがある、偽陽性が多い(新型コロナウイルスが存在しなかった2019年の検体からも陽性が出たとのことです)など多くの疑問点がすでに指摘されています。政府の専門家会議も、5月に出した提言で「国内で法律上の承認を得たものではなく、期待されるような精度が発揮できない検査が行われている場合があり、注意を要する」としています。厚労省サイト「新型コロナウイルス感染症に関する検査について」では、AMED研究班が日本赤十字社の協力を得てとりまとめた「抗体検査キットの性能評価」が公表されていますので、興味のある方はそちらを参照してください。おそらく、厚労省も全国で未承認の新型コロナウイルスの簡易抗体検査キットが自由診療で使われていることを把握しているでしょう。コロナ禍による外来収入減を補うためのものとしてしばらく“お目こぼし”が続くか、あるいは「意味のない検査は止めるように」といった通知が発出され規制対象となるか、今のところ先行きは不透明です。もっとも、私なら抗体検査は受けず、そのお金で冷やし中華を10杯食べるほうを選択しますが。

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新型コロナ、国内初のワクチン治験開始へ―阪大など

 待ち望まれる国産の新型コロナワクチン実現に王手か―。大阪府は6月17日の記者会見で、大阪大学などと共に産官学連携で開発に取り組んできた、新型コロナウイルスの予防ワクチンの治験を6月30日に開始することを明らかにした。新型コロナウイルスを巡っては、世界規模で予防ワクチンの開発が進行中であり、1日も早い実現が待たれる状況だが、ヒトへの投与が実施されるのは国内初となるという。会見で吉村 洋文知事は、「新型コロナ対策に治療薬とワクチンが非常に重要で、その第1歩を大阪で踏み出す。国産ワクチンによって、日本のコロナとの戦いを反転攻勢させていきたい」と語り、期待感を示した。 大阪府は4月に大阪市や大阪大学、大阪府立病院機構などと連携協定を結び、新型コロナウイルス感染症のワクチンや治療薬の早期実現に向けた研究開発に取り組んできた。すでに動物実験での安全性は確認されており、今月末からの治験へとステップを進める。 まずは大阪市立大学医学部付属病院の医療従事者(20~30例)を対象に実施。2020年10月には、数百例程度に規模を拡大した治験を実施する。府は、安全性が確認できれば、年内にも10~20万単位でのワクチン製造に漕ぎ着けたい考えだ。製造は、プラスミドDNAの製造技術および設備を有するタカラバイオ株式会社を中心に、AGC Biologics社、Cytiva社、シオノギファーマ株式会社が担う。順調に進めば、21年春~秋に国の認可を得て、実用化を目指す。

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MRワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第1回

ワクチンで予防できる疾患(疾患について・疫学)ワクチンで予防できる疾患、VPD(Vaccine Preventable Disease)は、数えられるほどしかない。しかし、世界ではいまだに多くの子供や大人(時に胎児も)が、ワクチンで予防できるはずの感染症に罹患し、後遺症を患ったり、命を落としたりしている。わが国では2012~2013年の風疹大流行(感染者約17,000人)に引き続き1)、2018~2019年にも流行した(感染者5,000人以上)。その影響もあり、日本は下記期間において世界3位の風疹流行国となっている2)(図1、表1)。風疹ワクチンのもっとも重要な目的は先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrom:CRS)の予防である。それには、風疹が流行しないよう、風疹含有ワクチン接種により集団免疫を高めることが何より重要である。図1 2019年3月~2020年2月(1年間)の風疹発生数と発生率(100万人当たり)画像を拡大する表1 風疹患者数(上位10ヵ国)Global Measles and Rubella Monthly Update (Accessed on April 24, 2020)より引用画像を拡大する一方、麻疹は、世界で約14万人の命を奪う(2018年推計)ウイルス感染症である。麻疹の死亡率は先進国でさえも約1,000人に1人といわれており、重症度の高い感染症である。感染力も強いため、風疹と同様、予防接種により高い集団免疫を獲得する必要がある。しかし、日本国内での麻疹の散発的流行はいまだ絶えない。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る緊急事態宣言が解除された今なお、予防接種は不要不急だと考え接種を控えるケースが見受けられる。しかし「ワクチンと新型コロナウイルスと検疫」でも述べられているように、予防接種(特に小児)は適切な時期に受けることが重要であり、接種を延期する必要はない。過度な制限や自粛により、予防できるはずの感染症に罹患してしまうことは避けなければならない3)。麻疹・風疹の概要VPDの第1弾として、「麻疹・風疹」を取り上げる。麻疹・風疹ワクチンともに、経済性、安全性、有効性に優れており費用対効果も高い。日本国内における麻疹・風疹の感染流行の首座は、小児よりも青年・成人である。そのため、あらゆる年代、あらゆる受診機会に触れるプライマリケア医からの啓発が、非常に重要かつ効果的である。麻疹について1)麻疹の概要感染経路:空気感染、飛沫感染、接触感染潜伏期:10~12日周囲に感染させうる期間:症状出現1日前~解熱後3日間感染力(R0:基本再生産数):12-18感染症法:5類感染症(全数報告、直ちに届出が必要)学校保健安全法:第2種(出席停止期間:解熱後3日経過するまで)注)R0(基本再生産数):集団にいるすべての人間が感染症に罹る可能性をもった(感受性を有した)状態で、一人の感染者が何人に感染させうるか、感染力の強さを表す。つまり、数が多い方が感染力は強いということになる。2)麻疹の臨床症状麻疹の特徴は、感染力の強さと重症度の2つである。空気感染する感染症は、麻疹以外では結核と水痘がある。感染力を表すR0(アールノート)は、インフルエンザが1-2、COVID-19が1.3-2.5(5月時点)なので、麻疹はこれらの約10倍に相当する極めて強い感染力をもつ。典型的な麻疹の臨床経過は、10~12日程度の潜伏期ののち、3つの病期を経る。感染力がもっとも強いカタル期(2~4日間)には、高熱、上気道症状、目の充血、コプリック斑などが出現する。その後、一旦解熱し、再度高熱(二峰性発熱)と全身性の紅斑(発疹期)が拡がる(3~5日間)。発疹が出て3~4日後に徐々に解熱し回復する(回復期)。麻疹に対する免疫をもたない人が感染すると、約3割に合併症が生じ、肺炎や脳炎、中耳炎、心筋炎などを来す。肺炎や脳炎は2大死亡原因と言われ、乳児では麻疹による死亡例の6割が肺炎に起因する。まれではあるが罹患してから数年後に発症する亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という重篤な合併症を来すこともある。病歴や臨床症状から疑い、血清学的検査(IgM抗体、IgG抗体など)やPCR検査(咽頭、尿など)などにより確定診断をする(詳細は「医療機関での麻疹対応ガイドライン 第7版」4)を参照)。特異的な治療法はないため、対症療法が中心である。3)麻疹の疫学麻疹の感染者は、全数報告が開始された2008年が約1万1,000例だったが、2009年以降は、毎年数十~数百例の報告数である。2016年は165例、2017年は186例、2018年282例と続き、2019年は744例と多かった。かつては5歳未満の小児が主な感染者であったが、2011年頃からは20~30代の患者が半数以上占めている5)。2019年は感染者の56%が20~30代であり、主な感染者は接種歴のない乳児を除いて、30代をピークとした成人であることがわかる(図2、3)。図2 年齢群別接種歴別麻疹累積報告数 2019年第1~52週(n=744)画像を拡大する図3 年齢別麻疹累積報告数割合 2019年第1~52週(n=744)国立感染症研究所 感染症発生動向調査 2020年1月8日現在より引用画像を拡大する4)麻疹の抗体保有率抗体保有率は麻疹の感受性調査として、ほぼ毎年国立感染症研究所より報告されている。抗体価はあくまで免疫能の一部を表しているに過ぎないため、抗体価が基準を満たせば良い、という単純な話ではない(総論第4回 「抗体検査」参照)。しかし、年代と抗体保有率との相関性をみることで、ある程度の傾向が把握できるため紹介する。麻疹の抗体保有率(PA法16倍以上:図4赤線)は1歳以上の全年代で95%以上を維持しているが、修飾麻疹を含めた発症予防可能レベルは128倍以上が望ましい6)(図4:緑線)。10代と60代以上で128倍の抗体価を下回る人が多く、注意が必要である。また、すべての年代で128倍未満のものがいることから、輸入麻疹による感染拡大の危機は常につきまとうことになる。図4 麻疹の抗体価保有状況 2019年感染症流行予測調査より(2020年2月暫定値)国立感染症研究所 2019年感染症流行予測調査(2020年2月暫定値)より引用画像を拡大するわが国は2015年3月27日にWHOによる麻疹排除認定を受けた。麻疹排除認定の定義とは「質の高いサーベイランスが存在するある特定の地域、国等において、12ヵ月間以上継続した麻疹ウイルスの伝播がない状態」とされている。これは土着の麻疹ウイルスが国内流行しなくなった状態を意味するだけであり、土着でない、海外から持ち込まれた“輸入麻疹”は、麻疹排除認定後も、2020年現在まで国内で散発的にみられている(図5)。近年の代表的な事例として、2018年には海外からの旅行者を発端とした沖縄での集団感染(101例)や、2019年にはワクチン接種率の低い三重県の宗教団体関係者を中心とした集団感染(49例)などがある。その感染力の高さから4次や5次感染を来した事例も複数報告されている7)。その他、医療関係者、教育関係者、空港職員などが感染した事例も多く、不特定多数の人に接触しうる職種は特に、あらかじめワクチン接種により免疫を獲得しておくことが重要である。図5 麻疹累積報告数の推移 2013~2020年第15週 (2020年4月15日現在)国立感染症研究所 感染症発生動向調査より引用画像を拡大する麻疹はアジア・アフリカ諸国を始め、世界各国で流行が続いており、2019年は40万人以上が罹患したと報告されている。一方で、わが国への出入国者数は年々増加し、年間5,000万人を超えている。つまり、日本全体が麻疹に対する強固な集団免疫を獲得しないと、世界各国とのアクセスが容易な現代においては、“ふと”やってくる輸入麻疹を防げないのである。風疹について1)風疹の概要感染経路:飛沫感染、接触感染潜伏期:14~21日周囲に感染させうる期間:発疹出現前後1週間感染力(R0:基本再生産数):5-7感染症法:5類感染症(全数報告、直ちに届出が必要)学校保健安全法:第2種(出席停止期間:発疹が消失するまで)2)風疹の臨床症状風疹は、比較的予後の良い急性ウイルス感染症である。しかし、妊婦が風疹に罹患すると、その胎児に感染し、先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome:CRS)が発生する可能性がある(後述)。風疹の主な感染様式は、風邪やインフルエンザと同様に飛沫感染であり、感染力は比較的強い(R0は5-7)。風疹の臨床経過について。2~3週間の潜伏期の後、軽い発熱と淡い全身性発疹が同時に出現する。その他、耳下や頸部リンパ節腫脹も特徴的で、関節痛を伴うこともある。発疹は3~5日程度で消失するため、風疹は“三日はしか”とも言われる。風疹ウイルスに感染した成人の約15%は不顕性感染(感染していても症状がでない)であり、たとえ症状がでても軽度なことも多い。そのため、自分が感染していることに気付かず、他人に感染させてしまう可能性がある。診断方法:臨床症状から疑い、血清検査(IgMやIgGなど)にて確定診断を行う。治療:CRSも含め、風疹に特異的な治療法はなく対症療法が中心となる。そのため、ワクチンがもっとも有効な予防方法となる。予後は基本的には良好だが、時に血小板減少性紫斑病や脳炎を合併することがある。3)先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome:CRS)冒頭で述べたように、日本では2012~13年および2018~19年に風疹が流行した。2012~13年には17,000人以上の風疹感染者と45人のCRSが、2018~19年には5,000人以上の風疹感染者と5人のCRSが届出された。妊婦の風疹感染により流産や胎児死亡が起こりうることから、より多くの妊婦と胎児が風疹感染の犠牲となった可能性がある。CRSとは、風疹に対する免疫が不十分な妊婦が、妊娠中に風疹に罹患し、経胎盤感染により胎児が罹患する症候群である。3大症状は難聴、先天性心疾患、白内障であり、その他、肝脾腫、糖尿病、精神運動発達遅滞などを来す。妊婦(風疹に対する免疫が不十分な場合)の風疹感染によるCRS発生率は妊娠週数によって異なり、妊娠初期の感染は80%以上と非常に高率である(妊娠4~6週で100%、7~12週で約80%、13~16週で45~50%、17~20週で6%、20週以降で0%8))。2012~13年に発生したCRS45人の追跡調査で、11人が死亡していたことがわかり、致死率は24%と報告された。そのほとんどが重度の先天性疾患が死因となった1)。一方、CRS児の母親の年代は14~42歳と幅広く、風疹含有ワクチン接種歴が2回確認された母親はいなかった(接種歴1回が11例、なしが19例、不明が15例)。妊娠可能年齢の女性に対する風疹ワクチンの2回接種がいかに重要であるかがわかる。また、4例の母親には妊娠中に感染症状がなかった(31例は症状あり、10例は不明)ことから、不顕性感染によるCRSであったことが推測される。CRSもワクチンで予防できるVPDである。また、風疹流行は、妊婦にとって脅威である。妊娠可能年齢の女性やそのご家族には、積極的に風疹ワクチン2回の接種歴を確認し、不足回数分の接種を推奨いただきたい。4)風疹の疫学と抗体保有率近年の風疹流行の首座は成人(感染者の9割以上)であり、中でも20~50代の男性が約7~8割を占める9)。これらの年代は働き盛り、かつ子育て世代でもあることから、職場や家族内感染が主な感染源と推定された10)。一方、女性の感染者では妊娠可能年齢の20~30代が女性感染者全体の6割を占め、CRS予防の観点からも、憂慮すべきデータである。抗体保有率も上記の年代で低いことがわかる(図6)。風疹抗体価についてはHI法8倍以上(図6:赤線)で陽性とされるが、感染予防には16倍以上(図6:黄線)、さらにはCRS予防には32倍以上(図6:青線)が望ましい。男性については30~50代において抗体価が低いことがよくわかる。近年の風疹流行の首座の年代である。この年代で抗体価が低いのは、後述する過去の予防接種制度の煽りを受けたことが原因であり、昨年度から全国で開始された「風疹第5期定期接種」の対象年齢(1962~1979年生まれ)が含まれる。一方、女性では、HI法8、16倍以上の抗体保有率は高いものの、CRS予防に望ましい32倍以上(図6:青線)の抗体保有率は妊娠可能年齢(10~40代)では7~8割にとどまる。やはり小児期に2回の定期接種が義務付けられていなかった年代が含まれており、男性のように成人に対する定期接種制度はないため、日常診療における接種歴の確認が重要となる。図6 男女別の風疹抗体保有率 2018年画像を拡大する国立感染症研究所 年齢別/年齢群別の風疹抗体保有状況、2018年より引用画像を拡大する妊娠可能年齢の女性やその家族には、あらかじめ風疹ワクチンでの予防措置を講じておくことが非常に重要である。ワクチンの概要(効果・副反応、生または不活化、定期または任意、接種方法) 1)麻疹・風疹ワクチン(表2)画像を拡大する効果(免疫獲得率)麻疹ワクチン:1回接種により免疫獲得率93~95%以上、2回接種で97~99%3)風疹ワクチン:1回接種による免疫獲得率は95%、2回接種では約99%11)副反応:一部(10~30%)に軽度の麻疹様発疹や風疹様症状(発熱、発疹、リンパ節腫脹、関節痛など)を伴うことがあるが、いずれも軽度で数日中に消失する一過性のものである。その他、ワクチン接種による一般的な副作用以外に、MRワクチンに特異的な副反応報告はない。禁忌:発熱や急性疾患に罹患中の人、妊婦、明らかな免疫抑制状態にある人、このワクチンによる重度のアレルギー症状(アナフィラキシーなど)を呈した既往がある人注意事項:生ワクチン接種後は、2ヵ月間は妊娠を避ける。ただし、この期間に妊娠しても、母体や胎児に問題が生じた報告はない。また、輸血製剤またはガンマグロブリン製剤投与後は6ヵ月の間隔をあけてから接種する。麻疹風疹(MR)ワクチンは、2006年から小児に対して2回の定期接種(1期、2期)が定められた。1期(1歳)の接種率は目標の95%以上を維持しているが、2期(5~6歳)についてはいまだ93~94%で推移している12)。あらゆる機会を利用してキャッチアップを行うことにより、すべての人が生涯で計2回のワクチン接種が受けられるような啓発や取り組みが喫緊の課題である。2)麻疹の緊急ワクチン接種麻疹患者との接触者で、麻疹に対する免疫がない人は、接触後72時間以内に麻疹含有ワクチンを接種することで、発症を予防できる可能性がある(緊急ワクチン接種)4)。1歳未満の乳児でも、生後6ヵ月以降であれば曝露後接種は可能である(自費)。しかし、この場合は母親からの移行抗体によりワクチンウイルスが中和されてしまう可能性もあるため、必ず1歳以降で2回の定期接種を受ける必要がある。3)接種のスケジュール(小児/成人)麻疹・風疹ワクチンは、いずれも1歳以上で生涯計2回接種することで、麻疹・風疹ウイルスに対する免疫能を高率に獲得できる。血清検査で診断された罹患歴がなければ、不足回数分の接種を推奨する。ウイルス抗体価の測定は必須ではない。理由は前述の「抗体検査」で述べられたとおりであり、改定された日本環境感染学会のワクチンガイドラインでも同様の考えに基づくアルゴリズムが提示されている13)。抗体価は参考値として測定することはあっても、あくまで接種歴の方が重要度としては高い。よって、抗体価を測定せずに、接種歴の情報を元に接種回数を決めてよい。接種歴がわからない(もしくは、接種した記憶はあるが、記録がない)場合は、接種しすぎることによる害はないため「接種歴なし」として、1ヵ月以上の間隔をあけて、2回の接種を推奨する。4)小児期に2回の麻疹・風疹ワクチン接種が定期接種となった年代麻疹・風疹(それぞれ単独)ワクチン:2000年4月2日生まれ以降の人(表3)は、小児期に麻疹・風疹含有ワクチンが定期接種化されている年代である。ただし、1990年4月2日生まれ~2000年4月1日生まれまでの人(特例措置の年代)の接種率は80%台と低かった。どの年代においても接種歴の確認が重要である。特例措置:麻疹または風疹ワクチンの2回目を、中学1年生(第3期)と高校3年生相当(第4期)に対象者を拡大して5年間の期間限定で接種が行われた。表3 出生年月日および性別別の早見表:麻疹(上段)、風疹(下段)画像を拡大する5)成人に対する風疹第5期定期接種14)1962年4月2日生まれ以降~1979年4月1日生まれの年代(41~58歳)は、小児期の予防接種制度の影響で、小児期に風疹含有ワクチンを2回接種する機会がなかった。そのため、先述したように風疹抗体保有率が低く、風疹流行の首座となってしまった。この世代に対して、2019年度から全国で該当者(風疹含有ワクチンの接種歴がなく罹患歴もないなど)には無料で風疹の抗体価測定を行い、抗体価が不足している場合(HI法8倍以下)は、無料でMRワクチンを接種できる“風疹第5期定期接種”が開始された。しかし、2020年4月時点でクーポン券を使用した抗体検査実施率は16.2%、予防接種実施割合は3.4%と低迷している15)。プライマリケア医による能動的な情報提供、啓発が望まれる。日常診療で役立つ接種のポイント(例:ワクチンの説明方法や接種時の工夫)繰り返しになるが、麻疹・風疹ともに、罹患歴がなければ1歳以上で生涯2回の接種が必要である。接種歴がないまたは不明の場合は、接種しすぎることによる害はないため、任意接種であれば、1ヵ月あけて2回の接種を推奨する。麻疹または風疹のいずれか一方のみの接種を希望する人がいた場合、2回の接種歴が記録で確認できなければ、MRワクチンでの接種を推奨する。下記、MRワクチン接種を負担なく啓発できる工夫について何点かご紹介する。1)外来における工夫(1)小児の受診時受診理由に関わらず、母子手帳の提出をルーチン化する。電話予約時に一言添える、受付時や看護師の予診時などに提出をお願いする。これを習慣化すると、受診者全体に徐々にその文化が根付いていく。医師が診療前後に母子手帳の接種記録を確認し、不足しているものがあれば推奨する。ワクチンスケジュールの知識がある看護師などが担当してもよい。(2)カルテ記録プロブレムリストに「ヘルスメンテナンス」または「予防接種歴」を追加する。医師自身がリマインドできるシステムを作る。外来で扱う主要なプロブレムが落ち着いたときに、患者さんに一言接種歴の確認をするだけでも良い。余裕ができたときに、不足しているワクチンについて紹介、接種の推奨をする。(3)ポスターを掲示するワクチン接種についてのポスターを待合室に掲示する。リーフレットとして配布してもよい15)。2)積極的にワクチン接種を推奨したい対象者(1)妊娠可能年齢の女性とその家族あらゆる感染症は、妊婦の流産早産に関連しうる。CRSを含めたVPDとそのワクチンについて情報提供する。特に、妊娠中は接種が禁忌となる生ワクチン(風疹・麻疹・水痘・ムンプス)について、妊娠前にあらかじめ免疫をつけておくことが重要であることを情報提供する。妊娠希望の女性に対して、MRワクチン接種の助成がある自治体も多い。自治体によっては、そのパートナーにも助成を出しているところもある。あらかじめ自身の自治体の助成制度の確認を行い、該当者がいれば渡せるように当該ページを印刷しておくとよい。(2)風疹第5期定期接種の対象者(41~58歳:2020年4月中旬時点)接種率の低さから、自宅に風疹対策のクーポン券(無料で受けられる風疹抗体検査の受診券)が届いていても、それに気付いていない、またはその重要性を知らず放置している例も多いことが考えられる。定期接種の対象である年代については、受付などで、対象者であることを示す札や目印を作成し、受診時に医療スタッフから制度利用の推奨・案内をできるようにしておくとよい。自宅に定期接種のクーポン券が届いていないかどうか事前に確認し、検査を推奨する。届いていなければ地域の保健所に問い合わせるよう促せば対応してくれる。(3)海外渡航予定のある人海外では麻疹流行国が多数ある。渡航先に関わらず、海外渡航時はルーチンワクチンをキャッチアップする良い機会である。あれば母子手帳をもとに、なければ麻疹を含めたVPDについてしっかり話し合う。長期出張の場合は会社からの補助がでないか、家族同伴の場合は家族の予防接種状況も含めて、安心かつ安全な海外渡航となるよう、サポートする。(4)不特定多数の人と接触する職業(空港など)・医療職・教育関係者などこれらの職業の人は、感染リスクが高く、感染した場合の公衆衛生学的なインパクトも大きい。これらの職業に携わる人には、積極的にワクチン接種歴の確認をし、不足回数分の接種を推奨する。今後の課題・展望世界では、世界保健機関(WHO)などにより、麻疹および風疹排除を加速させる活動が進められている(Global Vaccine Action Plan 2011-2020)。わが国では、2015年に認定された麻疹排除認定を取り消されることがないよう、小児定期接種の高い接種率(1、2期ともに95%以上)を目指すと同時に、海外から麻疹ウイルスを持ち込まれても、国内流行につながらない高い集団免疫を目標にしなければいけない。風疹については、2014年3月に厚生労働省が「風疹に関する特定感染症予防指針」を策定した。この指針は、早期にCRSの発生をなくし、2020年度までに風疹排除(適切なサーベイランス制度のもと、土着株による感染が1年以上確認されないこと)を達成することを目標としている(なお、2020年1~4月の風疹感染者数は73人とCRSが1人、4~5月は3人、CRSは0人15,17))。プライマリケア医には、既存の制度(自治体の助成制度や風疹第5期定期接種など)の積極的利用の促進、また、日常診療内で幅広い年代に対する能動的な啓発および接種歴の確認・推奨を行うことが望まれる。参考となるサイト(公的助成情報、主要研究グループ、参考となるサイト)こどもとおとなのワクチンサイト予防接種啓発ツール 厚生労働省1)2012~2014年に出生した先天性風疹症候群45例のフォローアップ調査結果報告(IASR;Vol.39:p33-34.)2)Global Measeles and Rubella Monthly Update(pptx). Measeles and Rubella Surveillansce Data WHO (Accessed on March,2020)3)新型コロナウイルス感染症に対するQ&A 日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会(2020年4月20日更新)4)医療機関での麻疹対応ガイドライン第7版 国立感染症研究所 感染症疫学センター (2018年4月17日)5)国立感染症研究所 病原微生物検出情報 麻疹[2019年2月現在](IASR Vol.40.p.49-51.)6)国立感染症研究所 病原微生物検出情報 麻疹の抗体保有状況2018年(IASR.Vol.40.p.62-63.)7)多屋馨子. モダンメディア. 2019;65:29-37.8)Ghidini A,et al. West J Med. 1993;159:366-373.9)風疹および先天性風疹症候群の発生に関するリスクアセスメント第3版(国立感染症研究所 2018年1月24日)10)風疹流行に関する緊急情報:2019年12月25日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター)11)風疹Q&A[2018年1月30日改定](国立感染症研究所)12)麻疹風疹予防接種の実施状況(厚生労働省)13)医療関係者のためのワクチンガイドライン 第3版(日本環境感染学会)14)風疹の追加的対策 専用ページ(厚生労働省)15)風疹に関する疫学情報 2020年4月8日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター )16)予防接種啓発ツール(厚生労働省)17)風疹に関する疫学情報 2020年6月3日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター)講師紹介

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第11回 医療従事者には最大20万円の慰労金、二次補正予算が成立

<先週の動き>1.医療従事者には最大20万円の慰労金、二次補正予算が成立2.病院の再編・統合に向け、地域包括ケア病棟の開設条件を緩和3.今年の薬価調査・薬価改定に関係業界から延期論が相次ぐ4.新型コロナによる受診抑制の影響が明らかに(日本医師会)5.新型コロナ接触確認アプリが今週以降にリリース1.医療従事者には最大20万円の慰労金、二次補正予算が成立6月12日、第2次補正予算案が参議院本会議にて賛成多数により可決、成立した。厚生労働省分は追加額4兆9,733億円(うち一般会計3兆8,507億円、労働保険特別会計1兆4,446億円)であり、「感染拡大の抑え込み」と「社会経済活動の回復」の両立を目指すための対策を強化したものとなっている。具体的には、新型コロナ感染者対策として、病床の確保や人工呼吸器の整備、地域の医療提供体制を強化するため「緊急包括支援交付金」2兆2,370億円の増額分が含まれている。新型コロナ患者を受け入れた医療機関のスタッフや感染が発生した介護施設などの職員に対して、慰労金として20万円のほか、患者の受け入れのため病床確保に協力した医療機関のスタッフなどに10万円、その他の医療機関などで働く人には5万円の支給もこの予算成立によって実施される。(参考)新型コロナウイルス感染症対策関係 令和2年度 厚生労働省第二次補正予算案のポイント(厚労省)2.病院の再編・統合に向け、地域包括ケア病棟の開設条件を緩和今年4月から、地域包括ケア病棟は400床以上の病院では開設できないとされていたが、6月10日に開催された中央社会保険医療協議会総会において、病院の再編・統合によって400床以上となった場合においては、規制を緩める方針が打ち出された。今回の規制緩和は、地域の病院再編・統合により地域包括ケア病棟の新規届け出ができなくなることによって、地域医療提供体制の見直しに支障が出てしまうことを防ぐためのもの。医療提供体制について、地域医療構想調整会議で合意が得られている場合、地域包括ケア病棟を1棟に限り開設が可能となる。今月中に改正通知が発出される見込み。(参考)地域包括ケア病棟入院料の取扱いについて(中医協)3.今年の薬価調査・薬価改定に関係業界から延期論が相次ぐ6月10日にオンライン開催された中医協薬価専門部会において、日本医薬品卸売業連合会などから、2年おきから毎年改定となった今年度の薬価調査について、否定的な意見が出された。現在、大半の医薬品卸売業者は、医療機関側からの訪問自粛要請を受けて、通常の納品・配送業務以外、ほとんど営業活動ができていないため、現状では対応が困難であるとしている。また、日本製薬団体連合会からも、平時とは大きく異なる厳しい状況の中、医療提供体制の確保や医薬品流通における安定供給のために全力を傾注しており、今回の薬価調査・薬価改定を実施する状況にはないとの考えを示した。製薬業界としては、COVID-19に対する有効で安全な治療薬やワクチンの研究開発について、あらゆるリソースを最大限に活用し、優先的かつ迅速に取り組まなければならないとしている。日本医師会と日本歯科医師会、日本薬剤師会も、部会後に記者会見を開き、延期が望ましいとする意見を述べている。(参考)中央社会保険医療協議会 薬価専門部会(第166回) 議事次第「関係業界からの意見聴取令和2年度薬価調査の実施の見送りについて(日本医師会)4.新型コロナによる受診抑制の影響が明らかに(日本医師会)日本医師会は、6月10日の記者会見において、新型コロナ感染症拡大期であった2020年3~4月の医療機関経営の状況についての調査結果を明らかにした。4月の入院外総点数は前年に比べて大幅に減少しており、前年同月比で初診料3割以上、再診料は1割以上減。入院外総点数の減少は新型コロナ患者の受入れにかかわらず、総件数が減少していることから、受診控えが理由と考えられる。一方、電話などによる初診は、算定回数としてはわずかであったが、病院の4.2%、診療所の5.6%で実施されており、再診も4月に入って大幅に増加し、再診料または外来診療料に占める電話等再診の算定割合は病院で2.12%、診療所で1.69%であった。同会は、長期処方、電話等再診が拡大していることから、新型コロナ収束後も受診が戻らないことを懸念しており、「このまま国民の医療機関へのアクセスが疎遠になり、健康が脅かされることのないよう、国民への適切な受診勧奨も必要である」とコメントしている。(参考)新型コロナウイルス感染症対応下での医業経営状況等アンケート調査(2020年3~4月分)(日本医師会)5.新型コロナ接触確認アプリが今週以降にリリース6月中旬に公開予定の「新型コロナウイルス接触確認アプリ」について、厚労省から概要が発表された。新型コロナ感染症拡大防止のために、利用者本人の同意を前提に、スマートフォンのBluetoothを利用して、プライバシーを確保しつつ、新型コロナ陽性者と接触した可能性について通知を受けられる仕組み。同様の試みは韓国やシンガポールなどで導入されているが、効果を発揮させるためには利用者数を増やす必要があり、今後、アプリについての積極的な広報活動が重要となる。(参考)新型コロナウイルス接触確認アプリ COVID-19 Contact-Confirming Application(厚労省)「新型コロナ感染者を追跡するアプリ」が海外で話題。プライバシーの犠牲も止むなしなのか?(GetNavi web)

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中国発・COVID-19ワクチン、接種28日後に免疫原性を確認/Lancet

 遺伝子組み換えアデノウイルス5型(Ad5)をベクターとして用いた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンは、健康成人に接種後28日の時点で免疫原性を示し、忍容性も良好であることが、中国・江蘇省疾病管理予防センターのFeng-Cai Zhu氏らがヒトで初めて行った臨床試験で明らかとなった。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2020年5月22日号に掲載された。2020年5月20日現在、215の国と地域で470万人以上が重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に感染し、31万6,000人以上が死亡したとされる。有効な予防策がない中で、現在、集団発生を抑制する方法として、検疫、隔離、身体的距離の保持(physical distancing)などが行われているが、SARS-CoV-2感染に伴う死亡や合併症の膨大な負担を軽減するには、有効なワクチンの開発が急務とされる。単施設の用量漸増第I相試験 研究グループは、中国CanSino Biologicsが開発中の、SARS-CoV-2のスパイク糖タンパク質を発現する非複製型Ad5ベクターCOVID-19ワクチンの用量漸増第I相試験(単施設、非盲検、非無作為化)を行った(中国国家重点研究開発計画などの助成による)。 年齢18~60歳の健康成人を連続的に登録し、3つのワクチン用量(ウイルス粒子が低用量:5×1010、中用量:1×1011、高用量:1.5×1011)に割り付け、筋肉内に注射した。 主要アウトカムは、ワクチン接種から7日以内の有害事象とした。安全性評価は、ワクチン接種から28日の時点で行った。 特異的抗体は酵素結合免疫吸着法(ELISA)で測定し、ワクチン接種によって誘発された中和抗体反応はSARS-CoV-2ウイルス中和試験と疑似ウイルス中和試験で検出した。T細胞応答は、酵素結合免疫スポット(ELISpot)アッセイとフローサイトメトリーアッセイで評価した。約半数に注射部位の痛みおよび発熱、中和抗体は28日にピークに 2020年3月16日~27日の期間に、108例(平均年齢36.3歳、女性49%)が登録された。各用量群に36例ずつが割り付けられ、全者が解析に含まれた。 ワクチン接種から7日以内に有害事象が報告されたのは、低用量群が30例(83%)、中用量群が30例(83%)、高用量群は27例(75%)であり、各群間に差は認められなかった。 最も多い注射部位の有害反応は痛み(58例[54%])で、低用量群は17例(47%)、中用量群は20例(56%)、高用量群は21例(58%)にみられた。 最も多い全身性の有害反応は発熱(50例[46%])で、次いで疲労感(47例[44%])、頭痛(42例[39%])、筋肉痛(18例[17%])であった。重度(Grade3)の発熱(腋窩温>38.5℃)が9例(低用量群2例[6%]、中用量群2例[6%]、高用量群5例[14%])で発現したが、全群で報告されたほとんどの有害反応は軽度~中等度だった。28日以内に重篤な有害事象の報告はなかった。 ワクチン接種から14日には、3つの用量群で受容体結合ドメイン(RBD)への迅速な結合抗体応答が認められ、28日には高用量群で結合抗体の幾何平均抗体価(GMT)が最も高くなった(低用量群615.8、中用量群806.0、高用量群1,445.8、p=0.016)。 SARS-CoV-2に対する中和抗体は、0日には3つの用量群とも認められなかったが、14日には中等度の増加がみられ、3群とも28日にピークに達した。28日の中和抗体のGMTは高用量群が最も高かった(低用量群14.5、中用量群16.2、高用量群34.0、p=0.0082)。 ELISpotによるT細胞応答は、ベースライン時には3つの用量群とも検出されず、ワクチン接種から14日後にピークに達した。14日時のspot形成細胞数の平均値は、100,000個あたり低用量群が20.8、中用量群が40.8、高用量群は58.0であり、高用量群は低用量群に比べ有意に高かった(p<0.0010)が、中用量群との間には差はなかった。 14日および28日に、すべての用量群でCD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞からのインターフェロンγ(IFNγ)の分泌が検出された。14日時のCD4陽性T細胞での腫瘍壊死因子α(TNFα)の発現は、低用量群が高用量群(p<0.0001)および中用量群(p=0.0032)よりも低かった。また、CD4陽性T細胞から検出されたインターロイキン2(IL-2)の量は、CD8陽性T細胞に比べて多かった。 著者は、「現在、開発が進められているさまざまなワクチンは、いずれも利点と弱点があり、優劣の予測は時期尚早である。今回の研究で得られた知見は、このAd5ベクターCOVID-19ワクチンのさらなる検討を正当化するものである」としている。

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13価肺炎球菌ワクチン、接種対象者を拡大/ファイザー

 ファイザー株式会社(本社:東京都渋谷区)は2020年5月29日、プレベナー13(R)水性懸濁注(一般名:沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン)の新たな適応として、肺炎球菌による疾患に罹患するリスクが高いと考えられる者に対する「肺炎球菌(血清型:1、3、4、5、6A、6B、7F、9V、14、18C、19A、19F および23F)による感染症の予防」の製造販売承認事項一部変更承認を取得した。今回の適応追加により、小児並びに高齢者に限らず、肺炎球菌(血清型:同)による疾患に罹患するリスクが高い方にも接種が可能となる。 肺炎球菌による疾患に罹患するリスクが高いと考えられる者は、以下のような状態の者を指す。●慢性的な心疾患、肺疾患、肝疾患又は腎疾患●糖尿病●基礎疾患若しくは治療により免疫不全状態である又はその状態が疑われる者●先天的又は後天的無脾症(無脾症候群、脾臓摘出術を受けた者)●鎌状赤血球症又はその他の異常ヘモグロビン症●人工内耳の装用、慢性髄液漏等の解剖学的要因により生体防御機能が低下した者●上記以外で医師が本剤の接種を必要と認めた者 本剤は、生後2ヵ月齢から6歳未満の小児、65歳以上の高齢者に対する肺炎球菌(血清型:同上)による侵襲性感染症を予防するワクチンとして、定期接種の対象である。なお、2019年1月現在、本剤は米国や欧州をはじめとする80ヵ国以上で生後6週から18歳未満の青年並びに全年齢の成人に対する接種が既に承認されているが、日本では6~65歳未満に対する接種への適応がなかった。2017年5月に厚生労働省へ要望書「沈降13価肺炎球菌結合型ワクチンの接種対象者拡大に関する要望」が提出され、2018年に国内第III相試験の実施を経て、今回の承認に至った。

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COVID-19に対するレムデシビルによる治療速報―米中のCOVID-19に対する治療薬・ワクチンの開発競争(解説:浦島充佳氏)-1238

 COVID-19に対して各国で治療薬・ワクチンの開発が進められている1)。エイズの治療薬であるカレトラは期待が持たれたが、ランダム化臨床試験でその効果を否定された2)。4月29日、レムデシビルは武漢のランダム化臨床試験で、明らかに治療薬群で有害事象による薬剤中止例が多く、途中で中止された。したがって十分な症例数ではないが、レムデシビル群の死亡率は14%、プラセボ群のそれは13%であり治療効果を確認することはできなかった3)。ところが同日、米国国立アレルギー・感染症研究所のアンソニー・ファウチ博士は同じくランダム化臨床試験[NCT04280705]の結果、レムデシビルを投与された患者の回復期間の中央値は11日で、プラセボを投与された患者(15日)よりも31%短かったことにより、「レムデシビルには、回復までの期間を短縮させる効果がある」と発表した。通常、記者会見は論文が誌上で公表された直後に行われる。トップジャーナルでは、たとえば「○月○日の東部時間○時に誌上発表になる。それ以前よりメディアと打ち合わせして、ニュースをどのように構成するかを相談してもよいが、記者会見はそれ以降とすること」などと厳しく規定される。記者会見の場にはトランプ大統領も同席し、腕を組んでファウチ博士のことをにらみつけていたのが印象的であった。これを受けて米国はレムデシビルをCOVID-19の治療薬として認可し、日本政府も続いて承認手続きに入った。 しかしながら、この米国の臨床試験では、途中で研究計画上の変更が行われている。患者受け入れ期間を20日間延長し、研究対象の範囲も中~重症を酸素投与が不必要な軽症入院事例まで拡大し、対象人数も394人から1,063人に増やし、プラセボを途中から生理食塩水に変更し、効果判定項目も重症度の改善から酸素不要あるいは退院(在宅酸素を含む)に変更している。これは通常の治験あるいは臨床試験ではあり得ない変更だ。たとえば、プラセボが生理食塩水に切り替わったことにより、主治医は目の前の患者がレムデシビル群かプラセボ群かどちらに振り分けられたのかを知りえるかもしれない。主治医がレムデシビルに強い期待を持つことにより、意図的にレムデシビル群で早く酸素を中止したり、早めに退院を誘導し在宅酸素療法に切り替えたりする、逆に生理食塩水の群に含まれた患者で主治医がこの逆をすれば、本当はレムデシビルにCOVID-19患者の症状を改善する効果がないのに、「効果がある」という誤った結論を導く可能性がある。 この治験の詳細な結果は5月22日のNEJM誌に速報として掲載された。内容を精査すると、中等症から軽症の患者には有効であるが、人工呼吸器やECMO を使用するような重症例では効果を認めていない。今後のエビデンスに期待したいが、少なくとも現時点でレムデシビルは致死的COVID-19 に対して有効であるとはいえない。 これは私の考え過ぎかもしれないが、レムデシビルは米国の製薬会社、ギリアド社の開発した薬剤であり、中国はこれを否定し、米国がこれを是が非でも肯定したいという政府の思惑に見えてしまう。1)Borba MGS, et al. JAMA Netw Open. 2020;3:e208857.2)Cao B, et al. N Engl J Med. 2020;382:1787-1799.3)Wang Y, et al. Lancet. 2020;395:1569-1578.

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第9回 黒人差別とアフターコロナの「マスク着用」励行は同罪か

今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)問題を眺め、かつ医療ジャーナリストとして記事を執筆していながら、とりわけ扱いが難しい、伝わりにくいと感じるテーマがある。それはマスク着用に関してだ。ご存じのようにマスク着用によるウイルス感染予防効果に関して、数少ない研究では予防できないとの結果がほとんどだ。有症状者やウイルスキャリアによる感染拡散を減らすという報告はある。つまるところ、マスクは第一義的に感染者が非感染者へと拡散させないための道具である。私も記事を執筆する際にはそのこととともにマスク着用以前に手洗いを徹底すべきと繰り返し記述してきた。ところが市中で見かけるマスク着用者はたぶんほとんどが感染を予防するためと考えているのではないだろうか?実は自分のfacebookのタイムラインでも時々このマスク問題が話題になることがある。そうなるとコメント欄はマスク着用を巡る賛否でやや荒れ模様となる。中にはそれなりに自分で情報をキャッチして「政府の専門家会議が推奨している」「自分がもしかして感染者だったらと考えて着用すべき」との声もある。新しい生活様式、論文や生活の優先順位を反映せずまず政府の新型コロナウイルス感染症専門家会議が提唱した「新しい生活様式」の実践例では確かに「感染防止の3つの基本」として(1)身体的距離の確保、(2)マスクの着用、(3)手洗い、とし、マスクについては「外出時、屋内にいるときや会話をするときは、症状がなくてもマスクを着用」と記述している。しかし、この記述について個人的には相当異論がある。まず3つの基本の順番である。もしかしたら専門家会議、それを受けて内容を公表した官僚たちは、その辺は何も意識せずに並列で記述したのかもしれないが、一般人は素直に(1)から順に重要なことと受け取る。その意味では感染を予防するために(1)が最優先なのは異論がない。しかし、重要度が順番通りならば(2)と(3)は逆であるべきだ。過去の研究でもマスクが予防に有効とされた研究は手洗いの励行との併用の場合である。そもそも、マスクを着用すれば、必然的に顔を触る回数が増えるので手洗いの励行がなければ逆に感染の危険性は増す。実際、世界保健機関(WHO)のホームページでもマスクの着用に際しては、マスクを触る前後で手洗いを推奨している。日常に置き換えた場合、1日喋らない生活と1日手を使わない生活のどちらが難易度が高いかといえば後者なはず。よって、手を介した接触感染のリスクはどんな人でもそこそこ以上に高いはずである。また、「外出時、屋内にいるときや会話をするときは、症状がなくてもマスクを着用」と記述もやや難ありだ。正確に文脈を読み解くことができる人ならば、これは「外出中に屋内にいるときや会話をするときは、症状がなくてもマスクを着用」との意味であることは分かるはずだ。そうでないならば、自宅に一人でいる時もマスクをしなければならないことになる。実際、この記述の仕方では反射的に「外出時も屋内にいる時も会話の時も」と解釈する人もいる。そもそも、この新しい生活様式の実践例は、食事に際して「対面ではなく横並びで座ろう」「料理に集中、おしゃべりは控えめに」など衝撃的過ぎる大きなお世話な内容が満載されているので、そちらのほうが印象に残り、こうした微細な表現はスルーされがちだ。本来、屋外ではアーケード商店街などを除き、多くの人が自然とソーシャルディスタンスを取っており、この初夏の炎天下が始まった屋外で誰かと会話せずに歩行するならば、感染予防でのマスク着用はほぼ不要と考えられる。ところが今現在、爽快な青空の下、そこここで繰り広げられているのは、リチャード・プレストン著によるエボラ出血熱のドキュメント「ホット・ゾーン」のドラマ化の撮影シーンかと思うようなマスクマン大行進の光景である。一方、感染者の約8割が無症候・軽症で発症前に感染力のピークがあるこのウイルスの性質を考えれば、自分が感染者である前提でマスクを着用するという考え方は筋が通っているとも言える。しかし、この理論も今後の行く末を考えると、どうしても引っ掛かりを感じてしまう。こうした考えの人はおそらくCOVID-19に対するワクチンが上市され、多くの人がそれを接種完了した際にマスクなしの日常を送れると考えているだろう。しかし、私はこの考えはかなり見通しが甘いと思っている。マスク着用のマナー化を懸念する理由COVID-19の原因となっているSARS-CoV-2は変異しやすいRNAウイルスである。ワクチンが開発できたとしても、その効果は季節性インフルエンザワクチンのように、一定頻度は接種者でも感染が起こりうるものになる可能性はあるだろう。となると、他人に感染させないためにマスクを着用する理論に従えば、症状発症後に感染力のピークがあるインフルエンザとは異なるSARS-CoV-2の感染拡散を防止するため、ワクチン登場後も自宅外では生涯マスク着用の生活を強いられることになる。このように書くと、「揚げ足取り」と言われかねないかもしれないが、私が最も危惧するのは、マスク着用にリスクがある人が着用を強いられるような空気を懸念するからである。たとえば、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)のガイダンスでは、「2歳以下の幼児」「呼吸機能に問題がある人」「装着に介助が必要な人」はマスクをすべきではないと注意を促している。さらにマスク装着でソーシャルディスタンスの代用はできないとも強調している。また、これから暑くなる時期に心疾患患者などではマスク着用が逆にリスクとなる人もいるはずである。しかも、こうした人たちは外見では判断できない。ところがマスク着用を「マナー」化してしまうと、こうした人たちは無用な差別に晒されることになる。マスクだってタダではない。しかも、手洗いに要する石けんや水と違って比較的ごく当たり前に一般家庭にあるものではなく、今回多くの人が思い知ったように供給状態は不安定で、かつてと比べ価格は高騰している。低所得家計ではマスク購入が家計を圧迫するケースがあってもおかしくはない。実際、こうした空気が影響したのだろう。感覚過敏のためマスク着用ができない人向けの意思表示カードなるものまで登場した。いわゆるヘルプマークのようなもので、これが一定の効果を生むかもしれない。しかし、どんな疾患に罹患しているかは究極の個人情報であり、そのことを進んで公にしたい人はそう多くないはずだ。むしろ、こうした人たちに結果としてここまでさせた私たちのほうが恥じ入らねばならない。どう見てもマスクを着用していない人の中には、リスクのある人とは思えない人が混じっている、と考える人もいるだろう。だが、そうした人には次の問いに答えて欲しい。「ある部屋で財布がなくなりました。被害者を除き、2人がいます。1人が白人、もう1人は黒人です。さて犯人はどちらでしょう?」この問いに根拠もなく黒人と答える人が一定数いることこそが、今ニュースで話題になっているアメリカでのカオスを生み出す。そうである以上、リスクがあってマスクを着用できない人に、何の考えもなしにマスク着用しない人、リスクはなくとも考えがあって着用しない人という誤差範囲も含め、着用できない人と社会全体が考えて接する以外に解決方法はないように思える。今回この意思表示カードを目にし、私自身はやっぱり「蟷螂之斧(とうろうのおの)」だとしても、機会をとらえてマスクについて繰り返し言及していこうという意を新たにしている。

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JAK1を強く阻害する関節リウマチ治療薬「リンヴォック錠7.5mg/15mg」【下平博士のDIノート】第51回

JAK1を強く阻害する関節リウマチ治療薬「リンヴォック錠7.5mg/15mg」今回は、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬「ウパダシチニブ水和物(商品名:リンヴォック錠7.5mg/15mg、製造販売元:アッヴィ合同会社)」を紹介します。本剤は、中等度から重度の関節リウマチ患者において、メトトレキサート(MTX)などとの併用の有無にかかわらず、1日1回の投与で臨床的寛解を達成することが期待されています。<効能・効果>本剤は既存治療で効果不十分な関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)の適応で、2020年1月23日に承認され、4月24日に発売されました。なお、2021年5月に「既存治療で効果不十分な関節症性乾癬」、同年8月に「既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎」の効能・効果が追加されました。<用法・用量>通常、成人にはウパダシチニブとして15mgを1日1回経口投与します。なお、患者の状態に応じて7.5mgを1日1回投与することもできます。免疫抑制作用の増強により感染症リスクの増加が予想されるので、本剤とほかのJAK阻害薬や生物学的製剤、タクロリムス、シクロスポリン、アザチオプリン、ミゾリビンなどの免疫抑制薬(局所製剤以外)との併用はできません。<安全性>関節リウマチ患者を対象とした本剤のプラセボ対照第III相試験において、本剤が投与された1,035例中275例(26.6%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、悪心23例(2.2%)、上気道感染、頭痛、アラニンアミノトランスフェラーゼ増加各19例(1.8%)、血中クレアチンホスホキナーゼ増加17例(1.6%)、気管支炎16例(1.5%)などでした(承認時)。なお、重大な副作用として、肺炎(0.1%未満)、帯状疱疹(0.7%)、結核(頻度不明)などの重篤な感染症(日和見感染症を含む)、消化管穿孔(頻度不明)、好中球減少(1.4%)、リンパ球減少(0.8%)、ヘモグロビン減少(貧血:0.7%)、ALT上昇(1.8%)、AST上昇(1.4%)、間質性肺炎(頻度不明)および静脈血栓塞栓症(頻度不明)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬はJAKという酵素を強く阻害することで、関節リウマチの症状を改善します。2.薬の成分が少しずつ出るようにコーティングされているので、かみ砕かないでください。3.本剤の服用を長期間続けると、免疫力が低下する可能性があります。持続する発熱やのどの痛み、息切れ、咳、倦怠感、水疱、痛みを伴う皮疹などが現れた場合は、すぐにご連絡ください。4.この薬を服用している間は、生ワクチン(麻疹、風疹、おたふく風邪、水痘・帯状疱疹、BCGなど)の接種ができません。接種の必要がある場合は主治医に相談してください。5.(妊娠可能年齢の女性の場合)この薬を服用中および最終服用後一定の期間は、適切な避妊を行ってください。なお、国内治験においては、最終投与から30日まで避妊を行うよう定められていました。<Shimo's eyes>関節リウマチの薬物療法は近年大きく進展しています。通常、発症初期はMTXをはじめとする従来型合成疾患修飾性抗リウマチ薬(csDMARD)が使用されますが、十分量用いても効果が不十分な場合には、生物学的製剤、もしくは本剤のようなJAK阻害薬が選択されます。本剤は、関節リウマチに適応を持つ4番目のJAK阻害薬です。JAKには4種類のサブタイプ(JAK1、JAK2、JAK3、Tyk2)があり、本剤は炎症性サイトカインシグナルの伝達においてとくに重要な役割を持つJAK1を強く阻害することで、TNFαやIL-6の働きを遮断し、炎症性サイトカインの産生を抑制すると考えられています。本剤は、MTXで効果不十分な関節リウマチ患者を対象とした第III相無作為化二重盲検比較試験で、12週時のACR50改善率、患者による疼痛評価およびHAQ-DIのベースラインからの変化量において、ヒト型抗ヒトTNFαモノクローナル抗体製剤アダリムマブ(商品名:ヒュミラ)に対する優越性が示されました。また、ウパダシチニブ+MTX群では、プラセボ+MTX群およびアダリムマブ+MTX群と比較して、有意に高い臨床的寛解達成率が示されました。安全性に関する留意事項としては、警告欄で結核、肺炎などの重篤な感染症について注意喚起されています。また、トファシチニブ(同:ゼルヤンツ)、ペフィシチニブ(同:スマイラフ)と同様に、重度の肝機能障害患者には禁忌となっています。本剤は徐放性フィルムコーティング錠であり、調剤時に半割・粉砕することはできません。患者に対しても、割ったりかみ砕いたりしないように伝えましょう。※2022年3月、添付文書の改訂情報を基に一部内容の修正を行いました。参考1)PMDA添付文書 リンヴォック錠7.5mg/リンヴォック錠15mg

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第8回 コロナ修行と化した「新しい生活様式」を導入してみたら

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックに伴い、新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)に基づいて発令された緊急事態宣言が5月25日、5都道県で解除された。これにより緊急事態宣言は、一旦は全国で解除となった。もっともこれですべて元通りの生活に戻るわけではない。現時点で決定打となる治療薬やワクチンもない以上、当面は第2波流行を常に気にしながら、程度の差はあっても恐る恐る生活を続けていくということになるだろう。実際、東京都は「新型コロナウイルス感染症を乗り越えるためのロードマップ」を公表し、7つのモニタリング指標を軸に段階的に外出・営業自粛を緩和していく方針だ。ロードマップに従うと、首都東京で限りなく以前に近い生活に戻せるのは最短でも7月半ば以降となる。また、政府は既に5月4日、新型コロナウイルス感染症専門家会議からの提言を踏まえ、新型コロナウイルス感染を想定した「新しい生活様式」の実践例を公開した。その中身を見て、娯楽、スポーツ等の項目では「歌や応援は、十分な距離かオンライン」、食事の項目では「料理に集中、おしゃべりは控えめに」などとまで記述されており、「大きなお世話だろう!」と怒鳴りたくなるような内容である。国を代表する「専門家」が参集してこんな細かい議論をやっていたのかとびっくりするのだが、ある専門家会議のメンバーによると「そもそも専門家会議も当初はあそこまで示すつもりはなかった。しかし、外部から『もっと具体例を示すべき』というプレッシャーが強く、あのような形になった」とのこと。専門家の皆さんもなかなか気苦労が絶えないらしい。そしてこの「新しい生活様式」を実践した飲み会を開いたという記事も登場した。まあ、有志で試しにやってみたという程度だが、写真を見ると何とも言い難い。記事には「飲食を楽しんだ」と書いてあるが、私がデスクだったらこの紋切り型表現はボツである。決して楽しそうには見えない、むしろ「新型コロナ真理教」かなんかの苦行にしか見えないからだ。しかも、これだけならまだしも、現実にはいたるところでトンチンカンな「対策」もどきが散見される。たとえば「新しい生活様式」を考慮し、感染予防対策を施した居酒屋、さらにはタクシーなど。これらはいずれも次亜塩素酸水を噴霧し、空間消毒を行うというもの。しかし、次亜塩素酸水に関しては認可を受けたものが手指消毒に使える程度で、厚生労働省が出した事務連絡では、次亜塩素酸を含む消毒薬の噴霧は吸入した場合は有害であると明記している。これほどひどいものではないにしても、福岡県の粕屋町は公立の小中学校の授業再開に当たって全生徒にフェイスシールドを配布し、体育の授業と給食以外のシーンではマスクとともに着用すると報じられている。これから気温が上昇していく中でマスクの着用ですら苦痛なはずなのにさらにフェイスシールドとなると、子供たちの苦痛はどれほどかと気の毒に感じてしまう。だが、そもそもこれまで専門家が提唱している感染予防対策は、手洗い励行、「3密」の回避、これに加えてマスクぐらい。多くの方がご存じのようにマスクの感染予防効果はまだまだコントラバーシャルである。今回、やや珍奇な対策が報じられた(報じている側がチンキと思っていないことも問題なのだが)ケースはいずれも「3密」が回避しにくいための追加の措置とも言えなくもないが、それでもやり過ぎ感が否めないと感じるのは私だけだろうか?その意味でここから本格的な出番となる人たちがいる。まずは感染制御の専門家たちである。テレビや新聞にコメンテーターとして登場している「専門家」の中には、ややトンデモな人が混じっているのは本連載第3回でも触れたこと。いわば真の感染制御の専門家ほど現在日常的に忙しいのは承知しているが、少しでもメディアからオファーがかかったら、今こそ難しい時間のやりくりをして登場して欲しいと切に思う。報道に身を置く立場から言うとやや横柄に聞こえるかもしれないが、やはり報道の拡散能力は絶大だからだ。もっとも1回の報道で何かが確実に伝わることが稀なのは、やはり報道側として常に感じている。たとえば、私ごときの存在は報道界の中でも「蟷螂之斧(とうろうのおの)」といってもいい存在だが、それでも感染症におけるマスクの存在について「あくまで感染が疑われる人が他人に感染させないためが第一義。まずは手洗いを」と繰り返し記事に書いている。1回1回はほぼ無力と分かっても、過去の経験上、報道のリフレイン効果は実感しているからだ。COVID-19騒動では、このリフレイン効果の実例がある。ずばり「PCR検査」という単語だ。PCRが何の略かは分からない人がほとんどだろうが、今やこの単語を耳にしたことがないという人はいないはず。だが、この単語を知ることで「それって何?」と理解を深めようとする人のすそ野は確実に増えてくる。繰り返し同じことを訴えるというのは確実に一般生活者での情報リテラシー向上に資するのである。また、今回感染制御の専門家とともに出番となると思われるのが、「学校薬剤師」である。ちなみに医療関係者の間でも「学校薬剤師」の存在はあまり知られていないこともあるようだが、これは学校保健安全法で大学以外の学校では設置が義務付けられている。学校医や学校歯科医と同じ存在である。これは1930年、北海道小樽市の小学校で風邪をひいた女児にアスピリンと間違って塩化第二水銀を服用させ、死亡した事件をきっかけに、同市が学校薬剤師を委嘱し、これが全国に広がって後の学校保健安全法の制定時に制度化されたものだ。では、この学校薬剤師は何をしているかといえば、学校環境衛生の維持管理に関する指導・助言などであり、具体的には換気の指導やプール開きの際の塩素濃度チェックなどだ。まさに感染を防ぐための環境整備にも資する役割である。そもそも薬剤師は、現状では一般人はもちろんのこと医療従事者の間ですら存在感が薄い。このような表現をすると腹が立つ人もいるかもしれないが、「白衣を着て調剤室にこもって袋詰めをしている根暗な人たち」が一般人のイメージといってもいいが、学校薬剤師の経験を持つ人は少なからず存在し、消毒薬などについての知識も有している。しかも、医師と比べ、一般人にとってはやや距離が近い存在である。やや過激な言い方になるかもしれないが、劇作家・寺山修司の言葉を借りれば、今こそ「処方箋を捨てよ、町へ出よう」である。同時にすべての医療従事者に伝えたいのは、「腐らず繰り返し伝えよう」ということ。「お前らメディアが悪い」と言われがちではあるが、目を皿にしてみてもらえば、腐らず地味な情報を繰り返し伝えているメディアも数多くある。実際のところ私たちメディア人も同じ方向を向いていることを知っていただけたら幸いである。

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