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COVID-19重症化リスクのガイドラインを更新/CDC

 6月25日、米国疾病予防管理センター(CDC)はCOVID-19感染時の重症化リスクに関するガイドラインを更新し、サイトで公開した。 CDCは、重症化リスクの高い属性として「高齢者」「基礎疾患を持つ人」の2つを挙げ、それぞれのリスクに関する詳細や感染予防対策を提示している。また、今回からリスクを高める可能性がある要因として、妊娠が追加された。高齢者のリスクと推奨される対策 米国で報告されたCOVID-19に関連する死亡者の8割は65歳以上となっている。・他人との接触を避け、やむを得ない場合は手洗い、消毒、マスク着用などの感染予防策をとる。・疑い症状が出た場合は、2週間自宅に待機する。・イベントは屋外開催を推奨、参加者同士で物品を共有しない。・他疾患が進行することを防ぎ、COVID-19を理由に緊急を要する受診を遅らせない。・インフルエンザ、肺炎球菌ワクチンを接種する。・健康状態、服薬状況、終末期ケアの希望などをまとめた「ケアプラン」を作成する。基礎疾患を持つ人のリスクと推奨される対策【年齢にかかわらず、重症化リスクが高くなる基礎疾患】・慢性腎疾患・慢性閉塞性肺疾患(COPD)・臓器移植による免疫不全状態(免疫システム減弱)・肥満(BMI:30以上)・心不全、冠動脈疾患、心筋症などの深刻な心臓疾患・鎌状赤血球症・2型糖尿病【重症化リスクが高くなる可能性がある基礎疾患】・喘息(中等度~重度)・脳血管疾患(血管と脳への血液供給に影響を与える)・嚢胞性線維症・高血圧または高血圧症・造血幹細胞移植、免疫不全、HIV、副腎皮質ステロイド使用、他の免疫抑制薬の使用による免疫不全状態・認知症などの神経学的状態・肝疾患・妊娠・肺線維症(肺組織に損傷または瘢痕がある)・喫煙・サラセミア(血液疾患の一種)・1型糖尿病 上記の基礎疾患を持つ人は高齢者同様の感染予防対策をとるほか、疾患治療を中断せず、1ヵ月分の処方薬を常備することが推奨されている。

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第12回 夏本番!冷やし中華ならぬ「抗体検査始めました」の怪

抗体保有率、東京都0.10%こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。6月19日、やっとプロ野球が開幕しました。新型コロナウイルス陽性が判明した巨人の坂本・大城両選手も開幕試合になんとか間に合ったようです。私も何試合かテレビ中継を観ましたが、やはり無観客試合はどうもしっくりきません。打撃音やキャッチングの音、選手の声が聞こえるのはいいのですが、応援なしだとなんだか草野球を観ているようで、プロらしさがあまり伝わってきません。ある中継では、「応援音声再現中」と、バックに過去に録音した応援の音を流していましたが、あれもどうなんでしょう。今年も早く神宮球場の「生ビール半額ナイター」に行きたいものです。さて、今回気になったのは、新型コロナウイルスの抗体検査に関するいくつかのニュースです。6月16日、厚生労働省は3都府県で6月1日から実施していた新型コロナウイルスの抗体保有調査の結果を公表しました。この調査は日本での抗体保有状況の把握のため、2020年6月1~7日にかけて東京都・大阪府・宮城県の一般住民それぞれ約3,000名を無作為化抽出して行われたものでした。対象者は本調査への参加に同意した一般住民(東京都1,971人、大阪府2,970人、宮城県3,009人、計7,950人)。この調査では、陽性判定をより正確に行うため、2種の検査試薬(アボット社・ロシュ社)の両方において陽性が確認されたものを「陽性」としたとのことです。その結果、抗体保有率は、東京都:0.10%(2人)、大阪府:0.17%(5人)、宮城県:0.03%(1人)でした。抗体を持っていた人の割合を、人口に対する報告感染者数の割合(5月31日時点)と比べてみると、東京で2.6倍、大阪で8.5倍、宮城で7.5倍でした。各地で無症状や医療機関を受診しないまま回復した感染者が一定数いた可能性が示唆されます。ただ、米ニューヨーク州が5月上旬に公表した住民1万5,000人を対象にした抗体検査の結果(12.3%)と比べると、日本の低さが際立ちます。これまでの感染状況を考えると当たり前と言えば当たり前の結果ですが、日本ではまだまだパンデミックの余地は残されている、と言えるでしょう。抗体検査は医療機関にとっては割のいい“臨時収入”この報道に先立つ6月12日のNHKニュースでは、「導入相次ぐ『抗体検査』 期待の一方 誤解や課題も」というタイトルで、企業やプロ野球チームなどで抗体検査の導入が進んでいる実態を伝えています。報道では、過去にウイルスに感染したかどうかを調べるため、企業や個人などで抗体検査を受ける動きが広がっている状況を伝えた上で、抗体検査が陰性証明として使えるわけではないこと、抗体陽性が感染防止につながるわけではことなど、抗体検査に関する誤解についてわかりやすく解説していました。麻疹や風疹のように、新型コロナ感染症も1回感染して抗体価が上がればもうかからない、と誤解している人は意外に多いようです。このニュースで興味深かったのは、地域の診療所などの医療機関が自費での抗体検査を始めていることでした。ニュースで紹介されていた東京の銀座のクリニックでは、5月中旬から抗体検査を始め、1ヵ月で検査を受けた人は200人にのぼったとのことです。検査費用は1万1,000円ということですから、抗体検査だけで200万円の売上になります(原価はわかりませんが、仮に中国製だとすると安価でしょう)。外来患者が減った医療機関にとっては、割のいい“臨時収入”といったところでしょうか。少し気になって、ネットで調べてみると、「新型コロナウイルスの抗体検査始めました」とホームページで告知している診療所や病院があるわ、あるわ。中にはサイトに「抗体検査が陽性であればワクチン接種したのと同じ状態ですから、再感染はしにくくなるといわれています」と書いている医療機関もありました。当然ながらどこも保険外で、検査費用は8,000円〜1万円が相場のようです。抗体あっても感染防止できるかは不明夏の到来とともに、冷やし中華のように医療機関のメニューに加わった新型コロナウイルスの抗体検査。本当に医療機関側は受診者の役に立つ、と考えて実施しているのでしょうか。そもそも、新型コロナウイルスの場合、血液中で感染防御に働く「中和抗体」がどのくらいの期間維持されるのか、抗体量がどの程度なら再感染が防げるかなど、多くのことがまだわかっていません。風疹や麻疹のように抗体ができたから大丈夫、とはいかないですし、インフルエンザのようにA型にかかったから今年はもうA型は大丈夫、ともならないのです。さらに、抗体は発症してから1週間程度で作られるため、人に感染させる可能性が高いとされる発症前後は抗体検査に引っかかりません。つまり、「個人が感染の有無を調べるための検査」というよりも、先述の厚労省の調査のように「地域での感染状況を公衆衛生学的に調べるための検査」なのです。新型コロナが存在しない2019年の検体からも陽性がもう1点、気になるのが市中の医療機関で行われている検査の精度です。現時点において、国内で承認された新型コロナウイルス感染症に対する抗体検査向けの検査試薬は存在しません。厚労省の調査で使用されたアボット社・ロシュ社のキットを含めてどれもが「研究用試薬」という位置付けです。両社のキットが厚労省の調査で採用されたのは、米食品医薬品局 (FDA)が性能を確認して緊急使用許可(EUA)を出した抗体検査のうち、日本国内で入手可能なものだったからです。少なくともこの2つのキットにはFDAのお墨付きがあるわけです。しかし、国内では、米国のEUA承認といった一定の評価がなされていない、性能がよく分からない検査試薬が数多く出回っているようです。ちなみにキットの開発企業は米国・ドイツ・中国・台湾とさまざまで、数としては中国が比較的多いようです。冷やし中華のように、「うちも始めました」とPRしている医療機関の多くは、イムノクロマト法で測定できる(専用装置を必要としない)簡易抗体検査キットを採用していると見られます。しかし、これらの簡易キットの検査性能については、感度にバラツキがある、偽陽性が多い(新型コロナウイルスが存在しなかった2019年の検体からも陽性が出たとのことです)など多くの疑問点がすでに指摘されています。政府の専門家会議も、5月に出した提言で「国内で法律上の承認を得たものではなく、期待されるような精度が発揮できない検査が行われている場合があり、注意を要する」としています。厚労省サイト「新型コロナウイルス感染症に関する検査について」では、AMED研究班が日本赤十字社の協力を得てとりまとめた「抗体検査キットの性能評価」が公表されていますので、興味のある方はそちらを参照してください。おそらく、厚労省も全国で未承認の新型コロナウイルスの簡易抗体検査キットが自由診療で使われていることを把握しているでしょう。コロナ禍による外来収入減を補うためのものとしてしばらく“お目こぼし”が続くか、あるいは「意味のない検査は止めるように」といった通知が発出され規制対象となるか、今のところ先行きは不透明です。もっとも、私なら抗体検査は受けず、そのお金で冷やし中華を10杯食べるほうを選択しますが。

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新型コロナ、国内初のワクチン治験開始へ―阪大など

 待ち望まれる国産の新型コロナワクチン実現に王手か―。大阪府は6月17日の記者会見で、大阪大学などと共に産官学連携で開発に取り組んできた、新型コロナウイルスの予防ワクチンの治験を6月30日に開始することを明らかにした。新型コロナウイルスを巡っては、世界規模で予防ワクチンの開発が進行中であり、1日も早い実現が待たれる状況だが、ヒトへの投与が実施されるのは国内初となるという。会見で吉村 洋文知事は、「新型コロナ対策に治療薬とワクチンが非常に重要で、その第1歩を大阪で踏み出す。国産ワクチンによって、日本のコロナとの戦いを反転攻勢させていきたい」と語り、期待感を示した。 大阪府は4月に大阪市や大阪大学、大阪府立病院機構などと連携協定を結び、新型コロナウイルス感染症のワクチンや治療薬の早期実現に向けた研究開発に取り組んできた。すでに動物実験での安全性は確認されており、今月末からの治験へとステップを進める。 まずは大阪市立大学医学部付属病院の医療従事者(20~30例)を対象に実施。2020年10月には、数百例程度に規模を拡大した治験を実施する。府は、安全性が確認できれば、年内にも10~20万単位でのワクチン製造に漕ぎ着けたい考えだ。製造は、プラスミドDNAの製造技術および設備を有するタカラバイオ株式会社を中心に、AGC Biologics社、Cytiva社、シオノギファーマ株式会社が担う。順調に進めば、21年春~秋に国の認可を得て、実用化を目指す。

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MRワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第1回

ワクチンで予防できる疾患(疾患について・疫学)ワクチンで予防できる疾患、VPD(Vaccine Preventable Disease)は、数えられるほどしかない。しかし、世界ではいまだに多くの子供や大人(時に胎児も)が、ワクチンで予防できるはずの感染症に罹患し、後遺症を患ったり、命を落としたりしている。わが国では2012~2013年の風疹大流行(感染者約17,000人)に引き続き1)、2018~2019年にも流行した(感染者5,000人以上)。その影響もあり、日本は下記期間において世界3位の風疹流行国となっている2)(図1、表1)。風疹ワクチンのもっとも重要な目的は先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrom:CRS)の予防である。それには、風疹が流行しないよう、風疹含有ワクチン接種により集団免疫を高めることが何より重要である。図1 2019年3月~2020年2月(1年間)の風疹発生数と発生率(100万人当たり)画像を拡大する表1 風疹患者数(上位10ヵ国)Global Measles and Rubella Monthly Update (Accessed on April 24, 2020)より引用画像を拡大する一方、麻疹は、世界で約14万人の命を奪う(2018年推計)ウイルス感染症である。麻疹の死亡率は先進国でさえも約1,000人に1人といわれており、重症度の高い感染症である。感染力も強いため、風疹と同様、予防接種により高い集団免疫を獲得する必要がある。しかし、日本国内での麻疹の散発的流行はいまだ絶えない。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る緊急事態宣言が解除された今なお、予防接種は不要不急だと考え接種を控えるケースが見受けられる。しかし「ワクチンと新型コロナウイルスと検疫」でも述べられているように、予防接種(特に小児)は適切な時期に受けることが重要であり、接種を延期する必要はない。過度な制限や自粛により、予防できるはずの感染症に罹患してしまうことは避けなければならない3)。麻疹・風疹の概要VPDの第1弾として、「麻疹・風疹」を取り上げる。麻疹・風疹ワクチンともに、経済性、安全性、有効性に優れており費用対効果も高い。日本国内における麻疹・風疹の感染流行の首座は、小児よりも青年・成人である。そのため、あらゆる年代、あらゆる受診機会に触れるプライマリケア医からの啓発が、非常に重要かつ効果的である。麻疹について1)麻疹の概要感染経路:空気感染、飛沫感染、接触感染潜伏期:10~12日周囲に感染させうる期間:症状出現1日前~解熱後3日間感染力(R0:基本再生産数):12-18感染症法:5類感染症(全数報告、直ちに届出が必要)学校保健安全法:第2種(出席停止期間:解熱後3日経過するまで)注)R0(基本再生産数):集団にいるすべての人間が感染症に罹る可能性をもった(感受性を有した)状態で、一人の感染者が何人に感染させうるか、感染力の強さを表す。つまり、数が多い方が感染力は強いということになる。2)麻疹の臨床症状麻疹の特徴は、感染力の強さと重症度の2つである。空気感染する感染症は、麻疹以外では結核と水痘がある。感染力を表すR0(アールノート)は、インフルエンザが1-2、COVID-19が1.3-2.5(5月時点)なので、麻疹はこれらの約10倍に相当する極めて強い感染力をもつ。典型的な麻疹の臨床経過は、10~12日程度の潜伏期ののち、3つの病期を経る。感染力がもっとも強いカタル期(2~4日間)には、高熱、上気道症状、目の充血、コプリック斑などが出現する。その後、一旦解熱し、再度高熱(二峰性発熱)と全身性の紅斑(発疹期)が拡がる(3~5日間)。発疹が出て3~4日後に徐々に解熱し回復する(回復期)。麻疹に対する免疫をもたない人が感染すると、約3割に合併症が生じ、肺炎や脳炎、中耳炎、心筋炎などを来す。肺炎や脳炎は2大死亡原因と言われ、乳児では麻疹による死亡例の6割が肺炎に起因する。まれではあるが罹患してから数年後に発症する亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という重篤な合併症を来すこともある。病歴や臨床症状から疑い、血清学的検査(IgM抗体、IgG抗体など)やPCR検査(咽頭、尿など)などにより確定診断をする(詳細は「医療機関での麻疹対応ガイドライン 第7版」4)を参照)。特異的な治療法はないため、対症療法が中心である。3)麻疹の疫学麻疹の感染者は、全数報告が開始された2008年が約1万1,000例だったが、2009年以降は、毎年数十~数百例の報告数である。2016年は165例、2017年は186例、2018年282例と続き、2019年は744例と多かった。かつては5歳未満の小児が主な感染者であったが、2011年頃からは20~30代の患者が半数以上占めている5)。2019年は感染者の56%が20~30代であり、主な感染者は接種歴のない乳児を除いて、30代をピークとした成人であることがわかる(図2、3)。図2 年齢群別接種歴別麻疹累積報告数 2019年第1~52週(n=744)画像を拡大する図3 年齢別麻疹累積報告数割合 2019年第1~52週(n=744)国立感染症研究所 感染症発生動向調査 2020年1月8日現在より引用画像を拡大する4)麻疹の抗体保有率抗体保有率は麻疹の感受性調査として、ほぼ毎年国立感染症研究所より報告されている。抗体価はあくまで免疫能の一部を表しているに過ぎないため、抗体価が基準を満たせば良い、という単純な話ではない(総論第4回 「抗体検査」参照)。しかし、年代と抗体保有率との相関性をみることで、ある程度の傾向が把握できるため紹介する。麻疹の抗体保有率(PA法16倍以上:図4赤線)は1歳以上の全年代で95%以上を維持しているが、修飾麻疹を含めた発症予防可能レベルは128倍以上が望ましい6)(図4:緑線)。10代と60代以上で128倍の抗体価を下回る人が多く、注意が必要である。また、すべての年代で128倍未満のものがいることから、輸入麻疹による感染拡大の危機は常につきまとうことになる。図4 麻疹の抗体価保有状況 2019年感染症流行予測調査より(2020年2月暫定値)国立感染症研究所 2019年感染症流行予測調査(2020年2月暫定値)より引用画像を拡大するわが国は2015年3月27日にWHOによる麻疹排除認定を受けた。麻疹排除認定の定義とは「質の高いサーベイランスが存在するある特定の地域、国等において、12ヵ月間以上継続した麻疹ウイルスの伝播がない状態」とされている。これは土着の麻疹ウイルスが国内流行しなくなった状態を意味するだけであり、土着でない、海外から持ち込まれた“輸入麻疹”は、麻疹排除認定後も、2020年現在まで国内で散発的にみられている(図5)。近年の代表的な事例として、2018年には海外からの旅行者を発端とした沖縄での集団感染(101例)や、2019年にはワクチン接種率の低い三重県の宗教団体関係者を中心とした集団感染(49例)などがある。その感染力の高さから4次や5次感染を来した事例も複数報告されている7)。その他、医療関係者、教育関係者、空港職員などが感染した事例も多く、不特定多数の人に接触しうる職種は特に、あらかじめワクチン接種により免疫を獲得しておくことが重要である。図5 麻疹累積報告数の推移 2013~2020年第15週 (2020年4月15日現在)国立感染症研究所 感染症発生動向調査より引用画像を拡大する麻疹はアジア・アフリカ諸国を始め、世界各国で流行が続いており、2019年は40万人以上が罹患したと報告されている。一方で、わが国への出入国者数は年々増加し、年間5,000万人を超えている。つまり、日本全体が麻疹に対する強固な集団免疫を獲得しないと、世界各国とのアクセスが容易な現代においては、“ふと”やってくる輸入麻疹を防げないのである。風疹について1)風疹の概要感染経路:飛沫感染、接触感染潜伏期:14~21日周囲に感染させうる期間:発疹出現前後1週間感染力(R0:基本再生産数):5-7感染症法:5類感染症(全数報告、直ちに届出が必要)学校保健安全法:第2種(出席停止期間:発疹が消失するまで)2)風疹の臨床症状風疹は、比較的予後の良い急性ウイルス感染症である。しかし、妊婦が風疹に罹患すると、その胎児に感染し、先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome:CRS)が発生する可能性がある(後述)。風疹の主な感染様式は、風邪やインフルエンザと同様に飛沫感染であり、感染力は比較的強い(R0は5-7)。風疹の臨床経過について。2~3週間の潜伏期の後、軽い発熱と淡い全身性発疹が同時に出現する。その他、耳下や頸部リンパ節腫脹も特徴的で、関節痛を伴うこともある。発疹は3~5日程度で消失するため、風疹は“三日はしか”とも言われる。風疹ウイルスに感染した成人の約15%は不顕性感染(感染していても症状がでない)であり、たとえ症状がでても軽度なことも多い。そのため、自分が感染していることに気付かず、他人に感染させてしまう可能性がある。診断方法:臨床症状から疑い、血清検査(IgMやIgGなど)にて確定診断を行う。治療:CRSも含め、風疹に特異的な治療法はなく対症療法が中心となる。そのため、ワクチンがもっとも有効な予防方法となる。予後は基本的には良好だが、時に血小板減少性紫斑病や脳炎を合併することがある。3)先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome:CRS)冒頭で述べたように、日本では2012~13年および2018~19年に風疹が流行した。2012~13年には17,000人以上の風疹感染者と45人のCRSが、2018~19年には5,000人以上の風疹感染者と5人のCRSが届出された。妊婦の風疹感染により流産や胎児死亡が起こりうることから、より多くの妊婦と胎児が風疹感染の犠牲となった可能性がある。CRSとは、風疹に対する免疫が不十分な妊婦が、妊娠中に風疹に罹患し、経胎盤感染により胎児が罹患する症候群である。3大症状は難聴、先天性心疾患、白内障であり、その他、肝脾腫、糖尿病、精神運動発達遅滞などを来す。妊婦(風疹に対する免疫が不十分な場合)の風疹感染によるCRS発生率は妊娠週数によって異なり、妊娠初期の感染は80%以上と非常に高率である(妊娠4~6週で100%、7~12週で約80%、13~16週で45~50%、17~20週で6%、20週以降で0%8))。2012~13年に発生したCRS45人の追跡調査で、11人が死亡していたことがわかり、致死率は24%と報告された。そのほとんどが重度の先天性疾患が死因となった1)。一方、CRS児の母親の年代は14~42歳と幅広く、風疹含有ワクチン接種歴が2回確認された母親はいなかった(接種歴1回が11例、なしが19例、不明が15例)。妊娠可能年齢の女性に対する風疹ワクチンの2回接種がいかに重要であるかがわかる。また、4例の母親には妊娠中に感染症状がなかった(31例は症状あり、10例は不明)ことから、不顕性感染によるCRSであったことが推測される。CRSもワクチンで予防できるVPDである。また、風疹流行は、妊婦にとって脅威である。妊娠可能年齢の女性やそのご家族には、積極的に風疹ワクチン2回の接種歴を確認し、不足回数分の接種を推奨いただきたい。4)風疹の疫学と抗体保有率近年の風疹流行の首座は成人(感染者の9割以上)であり、中でも20~50代の男性が約7~8割を占める9)。これらの年代は働き盛り、かつ子育て世代でもあることから、職場や家族内感染が主な感染源と推定された10)。一方、女性の感染者では妊娠可能年齢の20~30代が女性感染者全体の6割を占め、CRS予防の観点からも、憂慮すべきデータである。抗体保有率も上記の年代で低いことがわかる(図6)。風疹抗体価についてはHI法8倍以上(図6:赤線)で陽性とされるが、感染予防には16倍以上(図6:黄線)、さらにはCRS予防には32倍以上(図6:青線)が望ましい。男性については30~50代において抗体価が低いことがよくわかる。近年の風疹流行の首座の年代である。この年代で抗体価が低いのは、後述する過去の予防接種制度の煽りを受けたことが原因であり、昨年度から全国で開始された「風疹第5期定期接種」の対象年齢(1962~1979年生まれ)が含まれる。一方、女性では、HI法8、16倍以上の抗体保有率は高いものの、CRS予防に望ましい32倍以上(図6:青線)の抗体保有率は妊娠可能年齢(10~40代)では7~8割にとどまる。やはり小児期に2回の定期接種が義務付けられていなかった年代が含まれており、男性のように成人に対する定期接種制度はないため、日常診療における接種歴の確認が重要となる。図6 男女別の風疹抗体保有率 2018年画像を拡大する国立感染症研究所 年齢別/年齢群別の風疹抗体保有状況、2018年より引用画像を拡大する妊娠可能年齢の女性やその家族には、あらかじめ風疹ワクチンでの予防措置を講じておくことが非常に重要である。ワクチンの概要(効果・副反応、生または不活化、定期または任意、接種方法) 1)麻疹・風疹ワクチン(表2)画像を拡大する効果(免疫獲得率)麻疹ワクチン:1回接種により免疫獲得率93~95%以上、2回接種で97~99%3)風疹ワクチン:1回接種による免疫獲得率は95%、2回接種では約99%11)副反応:一部(10~30%)に軽度の麻疹様発疹や風疹様症状(発熱、発疹、リンパ節腫脹、関節痛など)を伴うことがあるが、いずれも軽度で数日中に消失する一過性のものである。その他、ワクチン接種による一般的な副作用以外に、MRワクチンに特異的な副反応報告はない。禁忌:発熱や急性疾患に罹患中の人、妊婦、明らかな免疫抑制状態にある人、このワクチンによる重度のアレルギー症状(アナフィラキシーなど)を呈した既往がある人注意事項:生ワクチン接種後は、2ヵ月間は妊娠を避ける。ただし、この期間に妊娠しても、母体や胎児に問題が生じた報告はない。また、輸血製剤またはガンマグロブリン製剤投与後は6ヵ月の間隔をあけてから接種する。麻疹風疹(MR)ワクチンは、2006年から小児に対して2回の定期接種(1期、2期)が定められた。1期(1歳)の接種率は目標の95%以上を維持しているが、2期(5~6歳)についてはいまだ93~94%で推移している12)。あらゆる機会を利用してキャッチアップを行うことにより、すべての人が生涯で計2回のワクチン接種が受けられるような啓発や取り組みが喫緊の課題である。2)麻疹の緊急ワクチン接種麻疹患者との接触者で、麻疹に対する免疫がない人は、接触後72時間以内に麻疹含有ワクチンを接種することで、発症を予防できる可能性がある(緊急ワクチン接種)4)。1歳未満の乳児でも、生後6ヵ月以降であれば曝露後接種は可能である(自費)。しかし、この場合は母親からの移行抗体によりワクチンウイルスが中和されてしまう可能性もあるため、必ず1歳以降で2回の定期接種を受ける必要がある。3)接種のスケジュール(小児/成人)麻疹・風疹ワクチンは、いずれも1歳以上で生涯計2回接種することで、麻疹・風疹ウイルスに対する免疫能を高率に獲得できる。血清検査で診断された罹患歴がなければ、不足回数分の接種を推奨する。ウイルス抗体価の測定は必須ではない。理由は前述の「抗体検査」で述べられたとおりであり、改定された日本環境感染学会のワクチンガイドラインでも同様の考えに基づくアルゴリズムが提示されている13)。抗体価は参考値として測定することはあっても、あくまで接種歴の方が重要度としては高い。よって、抗体価を測定せずに、接種歴の情報を元に接種回数を決めてよい。接種歴がわからない(もしくは、接種した記憶はあるが、記録がない)場合は、接種しすぎることによる害はないため「接種歴なし」として、1ヵ月以上の間隔をあけて、2回の接種を推奨する。4)小児期に2回の麻疹・風疹ワクチン接種が定期接種となった年代麻疹・風疹(それぞれ単独)ワクチン:2000年4月2日生まれ以降の人(表3)は、小児期に麻疹・風疹含有ワクチンが定期接種化されている年代である。ただし、1990年4月2日生まれ~2000年4月1日生まれまでの人(特例措置の年代)の接種率は80%台と低かった。どの年代においても接種歴の確認が重要である。特例措置:麻疹または風疹ワクチンの2回目を、中学1年生(第3期)と高校3年生相当(第4期)に対象者を拡大して5年間の期間限定で接種が行われた。表3 出生年月日および性別別の早見表:麻疹(上段)、風疹(下段)画像を拡大する5)成人に対する風疹第5期定期接種14)1962年4月2日生まれ以降~1979年4月1日生まれの年代(41~58歳)は、小児期の予防接種制度の影響で、小児期に風疹含有ワクチンを2回接種する機会がなかった。そのため、先述したように風疹抗体保有率が低く、風疹流行の首座となってしまった。この世代に対して、2019年度から全国で該当者(風疹含有ワクチンの接種歴がなく罹患歴もないなど)には無料で風疹の抗体価測定を行い、抗体価が不足している場合(HI法8倍以下)は、無料でMRワクチンを接種できる“風疹第5期定期接種”が開始された。しかし、2020年4月時点でクーポン券を使用した抗体検査実施率は16.2%、予防接種実施割合は3.4%と低迷している15)。プライマリケア医による能動的な情報提供、啓発が望まれる。日常診療で役立つ接種のポイント(例:ワクチンの説明方法や接種時の工夫)繰り返しになるが、麻疹・風疹ともに、罹患歴がなければ1歳以上で生涯2回の接種が必要である。接種歴がないまたは不明の場合は、接種しすぎることによる害はないため、任意接種であれば、1ヵ月あけて2回の接種を推奨する。麻疹または風疹のいずれか一方のみの接種を希望する人がいた場合、2回の接種歴が記録で確認できなければ、MRワクチンでの接種を推奨する。下記、MRワクチン接種を負担なく啓発できる工夫について何点かご紹介する。1)外来における工夫(1)小児の受診時受診理由に関わらず、母子手帳の提出をルーチン化する。電話予約時に一言添える、受付時や看護師の予診時などに提出をお願いする。これを習慣化すると、受診者全体に徐々にその文化が根付いていく。医師が診療前後に母子手帳の接種記録を確認し、不足しているものがあれば推奨する。ワクチンスケジュールの知識がある看護師などが担当してもよい。(2)カルテ記録プロブレムリストに「ヘルスメンテナンス」または「予防接種歴」を追加する。医師自身がリマインドできるシステムを作る。外来で扱う主要なプロブレムが落ち着いたときに、患者さんに一言接種歴の確認をするだけでも良い。余裕ができたときに、不足しているワクチンについて紹介、接種の推奨をする。(3)ポスターを掲示するワクチン接種についてのポスターを待合室に掲示する。リーフレットとして配布してもよい15)。2)積極的にワクチン接種を推奨したい対象者(1)妊娠可能年齢の女性とその家族あらゆる感染症は、妊婦の流産早産に関連しうる。CRSを含めたVPDとそのワクチンについて情報提供する。特に、妊娠中は接種が禁忌となる生ワクチン(風疹・麻疹・水痘・ムンプス)について、妊娠前にあらかじめ免疫をつけておくことが重要であることを情報提供する。妊娠希望の女性に対して、MRワクチン接種の助成がある自治体も多い。自治体によっては、そのパートナーにも助成を出しているところもある。あらかじめ自身の自治体の助成制度の確認を行い、該当者がいれば渡せるように当該ページを印刷しておくとよい。(2)風疹第5期定期接種の対象者(41~58歳:2020年4月中旬時点)接種率の低さから、自宅に風疹対策のクーポン券(無料で受けられる風疹抗体検査の受診券)が届いていても、それに気付いていない、またはその重要性を知らず放置している例も多いことが考えられる。定期接種の対象である年代については、受付などで、対象者であることを示す札や目印を作成し、受診時に医療スタッフから制度利用の推奨・案内をできるようにしておくとよい。自宅に定期接種のクーポン券が届いていないかどうか事前に確認し、検査を推奨する。届いていなければ地域の保健所に問い合わせるよう促せば対応してくれる。(3)海外渡航予定のある人海外では麻疹流行国が多数ある。渡航先に関わらず、海外渡航時はルーチンワクチンをキャッチアップする良い機会である。あれば母子手帳をもとに、なければ麻疹を含めたVPDについてしっかり話し合う。長期出張の場合は会社からの補助がでないか、家族同伴の場合は家族の予防接種状況も含めて、安心かつ安全な海外渡航となるよう、サポートする。(4)不特定多数の人と接触する職業(空港など)・医療職・教育関係者などこれらの職業の人は、感染リスクが高く、感染した場合の公衆衛生学的なインパクトも大きい。これらの職業に携わる人には、積極的にワクチン接種歴の確認をし、不足回数分の接種を推奨する。今後の課題・展望世界では、世界保健機関(WHO)などにより、麻疹および風疹排除を加速させる活動が進められている(Global Vaccine Action Plan 2011-2020)。わが国では、2015年に認定された麻疹排除認定を取り消されることがないよう、小児定期接種の高い接種率(1、2期ともに95%以上)を目指すと同時に、海外から麻疹ウイルスを持ち込まれても、国内流行につながらない高い集団免疫を目標にしなければいけない。風疹については、2014年3月に厚生労働省が「風疹に関する特定感染症予防指針」を策定した。この指針は、早期にCRSの発生をなくし、2020年度までに風疹排除(適切なサーベイランス制度のもと、土着株による感染が1年以上確認されないこと)を達成することを目標としている(なお、2020年1~4月の風疹感染者数は73人とCRSが1人、4~5月は3人、CRSは0人15,17))。プライマリケア医には、既存の制度(自治体の助成制度や風疹第5期定期接種など)の積極的利用の促進、また、日常診療内で幅広い年代に対する能動的な啓発および接種歴の確認・推奨を行うことが望まれる。参考となるサイト(公的助成情報、主要研究グループ、参考となるサイト)こどもとおとなのワクチンサイト予防接種啓発ツール 厚生労働省1)2012~2014年に出生した先天性風疹症候群45例のフォローアップ調査結果報告(IASR;Vol.39:p33-34.)2)Global Measeles and Rubella Monthly Update(pptx). Measeles and Rubella Surveillansce Data WHO (Accessed on March,2020)3)新型コロナウイルス感染症に対するQ&A 日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会(2020年4月20日更新)4)医療機関での麻疹対応ガイドライン第7版 国立感染症研究所 感染症疫学センター (2018年4月17日)5)国立感染症研究所 病原微生物検出情報 麻疹[2019年2月現在](IASR Vol.40.p.49-51.)6)国立感染症研究所 病原微生物検出情報 麻疹の抗体保有状況2018年(IASR.Vol.40.p.62-63.)7)多屋馨子. モダンメディア. 2019;65:29-37.8)Ghidini A,et al. West J Med. 1993;159:366-373.9)風疹および先天性風疹症候群の発生に関するリスクアセスメント第3版(国立感染症研究所 2018年1月24日)10)風疹流行に関する緊急情報:2019年12月25日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター)11)風疹Q&A[2018年1月30日改定](国立感染症研究所)12)麻疹風疹予防接種の実施状況(厚生労働省)13)医療関係者のためのワクチンガイドライン 第3版(日本環境感染学会)14)風疹の追加的対策 専用ページ(厚生労働省)15)風疹に関する疫学情報 2020年4月8日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター )16)予防接種啓発ツール(厚生労働省)17)風疹に関する疫学情報 2020年6月3日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター)講師紹介

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第11回 医療従事者には最大20万円の慰労金、二次補正予算が成立

<先週の動き>1.医療従事者には最大20万円の慰労金、二次補正予算が成立2.病院の再編・統合に向け、地域包括ケア病棟の開設条件を緩和3.今年の薬価調査・薬価改定に関係業界から延期論が相次ぐ4.新型コロナによる受診抑制の影響が明らかに(日本医師会)5.新型コロナ接触確認アプリが今週以降にリリース1.医療従事者には最大20万円の慰労金、二次補正予算が成立6月12日、第2次補正予算案が参議院本会議にて賛成多数により可決、成立した。厚生労働省分は追加額4兆9,733億円(うち一般会計3兆8,507億円、労働保険特別会計1兆4,446億円)であり、「感染拡大の抑え込み」と「社会経済活動の回復」の両立を目指すための対策を強化したものとなっている。具体的には、新型コロナ感染者対策として、病床の確保や人工呼吸器の整備、地域の医療提供体制を強化するため「緊急包括支援交付金」2兆2,370億円の増額分が含まれている。新型コロナ患者を受け入れた医療機関のスタッフや感染が発生した介護施設などの職員に対して、慰労金として20万円のほか、患者の受け入れのため病床確保に協力した医療機関のスタッフなどに10万円、その他の医療機関などで働く人には5万円の支給もこの予算成立によって実施される。(参考)新型コロナウイルス感染症対策関係 令和2年度 厚生労働省第二次補正予算案のポイント(厚労省)2.病院の再編・統合に向け、地域包括ケア病棟の開設条件を緩和今年4月から、地域包括ケア病棟は400床以上の病院では開設できないとされていたが、6月10日に開催された中央社会保険医療協議会総会において、病院の再編・統合によって400床以上となった場合においては、規制を緩める方針が打ち出された。今回の規制緩和は、地域の病院再編・統合により地域包括ケア病棟の新規届け出ができなくなることによって、地域医療提供体制の見直しに支障が出てしまうことを防ぐためのもの。医療提供体制について、地域医療構想調整会議で合意が得られている場合、地域包括ケア病棟を1棟に限り開設が可能となる。今月中に改正通知が発出される見込み。(参考)地域包括ケア病棟入院料の取扱いについて(中医協)3.今年の薬価調査・薬価改定に関係業界から延期論が相次ぐ6月10日にオンライン開催された中医協薬価専門部会において、日本医薬品卸売業連合会などから、2年おきから毎年改定となった今年度の薬価調査について、否定的な意見が出された。現在、大半の医薬品卸売業者は、医療機関側からの訪問自粛要請を受けて、通常の納品・配送業務以外、ほとんど営業活動ができていないため、現状では対応が困難であるとしている。また、日本製薬団体連合会からも、平時とは大きく異なる厳しい状況の中、医療提供体制の確保や医薬品流通における安定供給のために全力を傾注しており、今回の薬価調査・薬価改定を実施する状況にはないとの考えを示した。製薬業界としては、COVID-19に対する有効で安全な治療薬やワクチンの研究開発について、あらゆるリソースを最大限に活用し、優先的かつ迅速に取り組まなければならないとしている。日本医師会と日本歯科医師会、日本薬剤師会も、部会後に記者会見を開き、延期が望ましいとする意見を述べている。(参考)中央社会保険医療協議会 薬価専門部会(第166回) 議事次第「関係業界からの意見聴取令和2年度薬価調査の実施の見送りについて(日本医師会)4.新型コロナによる受診抑制の影響が明らかに(日本医師会)日本医師会は、6月10日の記者会見において、新型コロナ感染症拡大期であった2020年3~4月の医療機関経営の状況についての調査結果を明らかにした。4月の入院外総点数は前年に比べて大幅に減少しており、前年同月比で初診料3割以上、再診料は1割以上減。入院外総点数の減少は新型コロナ患者の受入れにかかわらず、総件数が減少していることから、受診控えが理由と考えられる。一方、電話などによる初診は、算定回数としてはわずかであったが、病院の4.2%、診療所の5.6%で実施されており、再診も4月に入って大幅に増加し、再診料または外来診療料に占める電話等再診の算定割合は病院で2.12%、診療所で1.69%であった。同会は、長期処方、電話等再診が拡大していることから、新型コロナ収束後も受診が戻らないことを懸念しており、「このまま国民の医療機関へのアクセスが疎遠になり、健康が脅かされることのないよう、国民への適切な受診勧奨も必要である」とコメントしている。(参考)新型コロナウイルス感染症対応下での医業経営状況等アンケート調査(2020年3~4月分)(日本医師会)5.新型コロナ接触確認アプリが今週以降にリリース6月中旬に公開予定の「新型コロナウイルス接触確認アプリ」について、厚労省から概要が発表された。新型コロナ感染症拡大防止のために、利用者本人の同意を前提に、スマートフォンのBluetoothを利用して、プライバシーを確保しつつ、新型コロナ陽性者と接触した可能性について通知を受けられる仕組み。同様の試みは韓国やシンガポールなどで導入されているが、効果を発揮させるためには利用者数を増やす必要があり、今後、アプリについての積極的な広報活動が重要となる。(参考)新型コロナウイルス接触確認アプリ COVID-19 Contact-Confirming Application(厚労省)「新型コロナ感染者を追跡するアプリ」が海外で話題。プライバシーの犠牲も止むなしなのか?(GetNavi web)

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中国発・COVID-19ワクチン、接種28日後に免疫原性を確認/Lancet

 遺伝子組み換えアデノウイルス5型(Ad5)をベクターとして用いた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンは、健康成人に接種後28日の時点で免疫原性を示し、忍容性も良好であることが、中国・江蘇省疾病管理予防センターのFeng-Cai Zhu氏らがヒトで初めて行った臨床試験で明らかとなった。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2020年5月22日号に掲載された。2020年5月20日現在、215の国と地域で470万人以上が重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に感染し、31万6,000人以上が死亡したとされる。有効な予防策がない中で、現在、集団発生を抑制する方法として、検疫、隔離、身体的距離の保持(physical distancing)などが行われているが、SARS-CoV-2感染に伴う死亡や合併症の膨大な負担を軽減するには、有効なワクチンの開発が急務とされる。単施設の用量漸増第I相試験 研究グループは、中国CanSino Biologicsが開発中の、SARS-CoV-2のスパイク糖タンパク質を発現する非複製型Ad5ベクターCOVID-19ワクチンの用量漸増第I相試験(単施設、非盲検、非無作為化)を行った(中国国家重点研究開発計画などの助成による)。 年齢18~60歳の健康成人を連続的に登録し、3つのワクチン用量(ウイルス粒子が低用量:5×1010、中用量:1×1011、高用量:1.5×1011)に割り付け、筋肉内に注射した。 主要アウトカムは、ワクチン接種から7日以内の有害事象とした。安全性評価は、ワクチン接種から28日の時点で行った。 特異的抗体は酵素結合免疫吸着法(ELISA)で測定し、ワクチン接種によって誘発された中和抗体反応はSARS-CoV-2ウイルス中和試験と疑似ウイルス中和試験で検出した。T細胞応答は、酵素結合免疫スポット(ELISpot)アッセイとフローサイトメトリーアッセイで評価した。約半数に注射部位の痛みおよび発熱、中和抗体は28日にピークに 2020年3月16日~27日の期間に、108例(平均年齢36.3歳、女性49%)が登録された。各用量群に36例ずつが割り付けられ、全者が解析に含まれた。 ワクチン接種から7日以内に有害事象が報告されたのは、低用量群が30例(83%)、中用量群が30例(83%)、高用量群は27例(75%)であり、各群間に差は認められなかった。 最も多い注射部位の有害反応は痛み(58例[54%])で、低用量群は17例(47%)、中用量群は20例(56%)、高用量群は21例(58%)にみられた。 最も多い全身性の有害反応は発熱(50例[46%])で、次いで疲労感(47例[44%])、頭痛(42例[39%])、筋肉痛(18例[17%])であった。重度(Grade3)の発熱(腋窩温>38.5℃)が9例(低用量群2例[6%]、中用量群2例[6%]、高用量群5例[14%])で発現したが、全群で報告されたほとんどの有害反応は軽度~中等度だった。28日以内に重篤な有害事象の報告はなかった。 ワクチン接種から14日には、3つの用量群で受容体結合ドメイン(RBD)への迅速な結合抗体応答が認められ、28日には高用量群で結合抗体の幾何平均抗体価(GMT)が最も高くなった(低用量群615.8、中用量群806.0、高用量群1,445.8、p=0.016)。 SARS-CoV-2に対する中和抗体は、0日には3つの用量群とも認められなかったが、14日には中等度の増加がみられ、3群とも28日にピークに達した。28日の中和抗体のGMTは高用量群が最も高かった(低用量群14.5、中用量群16.2、高用量群34.0、p=0.0082)。 ELISpotによるT細胞応答は、ベースライン時には3つの用量群とも検出されず、ワクチン接種から14日後にピークに達した。14日時のspot形成細胞数の平均値は、100,000個あたり低用量群が20.8、中用量群が40.8、高用量群は58.0であり、高用量群は低用量群に比べ有意に高かった(p<0.0010)が、中用量群との間には差はなかった。 14日および28日に、すべての用量群でCD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞からのインターフェロンγ(IFNγ)の分泌が検出された。14日時のCD4陽性T細胞での腫瘍壊死因子α(TNFα)の発現は、低用量群が高用量群(p<0.0001)および中用量群(p=0.0032)よりも低かった。また、CD4陽性T細胞から検出されたインターロイキン2(IL-2)の量は、CD8陽性T細胞に比べて多かった。 著者は、「現在、開発が進められているさまざまなワクチンは、いずれも利点と弱点があり、優劣の予測は時期尚早である。今回の研究で得られた知見は、このAd5ベクターCOVID-19ワクチンのさらなる検討を正当化するものである」としている。

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13価肺炎球菌ワクチン、接種対象者を拡大/ファイザー

 ファイザー株式会社(本社:東京都渋谷区)は2020年5月29日、プレベナー13(R)水性懸濁注(一般名:沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン)の新たな適応として、肺炎球菌による疾患に罹患するリスクが高いと考えられる者に対する「肺炎球菌(血清型:1、3、4、5、6A、6B、7F、9V、14、18C、19A、19F および23F)による感染症の予防」の製造販売承認事項一部変更承認を取得した。今回の適応追加により、小児並びに高齢者に限らず、肺炎球菌(血清型:同)による疾患に罹患するリスクが高い方にも接種が可能となる。 肺炎球菌による疾患に罹患するリスクが高いと考えられる者は、以下のような状態の者を指す。●慢性的な心疾患、肺疾患、肝疾患又は腎疾患●糖尿病●基礎疾患若しくは治療により免疫不全状態である又はその状態が疑われる者●先天的又は後天的無脾症(無脾症候群、脾臓摘出術を受けた者)●鎌状赤血球症又はその他の異常ヘモグロビン症●人工内耳の装用、慢性髄液漏等の解剖学的要因により生体防御機能が低下した者●上記以外で医師が本剤の接種を必要と認めた者 本剤は、生後2ヵ月齢から6歳未満の小児、65歳以上の高齢者に対する肺炎球菌(血清型:同上)による侵襲性感染症を予防するワクチンとして、定期接種の対象である。なお、2019年1月現在、本剤は米国や欧州をはじめとする80ヵ国以上で生後6週から18歳未満の青年並びに全年齢の成人に対する接種が既に承認されているが、日本では6~65歳未満に対する接種への適応がなかった。2017年5月に厚生労働省へ要望書「沈降13価肺炎球菌結合型ワクチンの接種対象者拡大に関する要望」が提出され、2018年に国内第III相試験の実施を経て、今回の承認に至った。

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COVID-19に対するレムデシビルによる治療速報―米中のCOVID-19に対する治療薬・ワクチンの開発競争(解説:浦島充佳氏)-1238

 COVID-19に対して各国で治療薬・ワクチンの開発が進められている1)。エイズの治療薬であるカレトラは期待が持たれたが、ランダム化臨床試験でその効果を否定された2)。4月29日、レムデシビルは武漢のランダム化臨床試験で、明らかに治療薬群で有害事象による薬剤中止例が多く、途中で中止された。したがって十分な症例数ではないが、レムデシビル群の死亡率は14%、プラセボ群のそれは13%であり治療効果を確認することはできなかった3)。ところが同日、米国国立アレルギー・感染症研究所のアンソニー・ファウチ博士は同じくランダム化臨床試験[NCT04280705]の結果、レムデシビルを投与された患者の回復期間の中央値は11日で、プラセボを投与された患者(15日)よりも31%短かったことにより、「レムデシビルには、回復までの期間を短縮させる効果がある」と発表した。通常、記者会見は論文が誌上で公表された直後に行われる。トップジャーナルでは、たとえば「○月○日の東部時間○時に誌上発表になる。それ以前よりメディアと打ち合わせして、ニュースをどのように構成するかを相談してもよいが、記者会見はそれ以降とすること」などと厳しく規定される。記者会見の場にはトランプ大統領も同席し、腕を組んでファウチ博士のことをにらみつけていたのが印象的であった。これを受けて米国はレムデシビルをCOVID-19の治療薬として認可し、日本政府も続いて承認手続きに入った。 しかしながら、この米国の臨床試験では、途中で研究計画上の変更が行われている。患者受け入れ期間を20日間延長し、研究対象の範囲も中~重症を酸素投与が不必要な軽症入院事例まで拡大し、対象人数も394人から1,063人に増やし、プラセボを途中から生理食塩水に変更し、効果判定項目も重症度の改善から酸素不要あるいは退院(在宅酸素を含む)に変更している。これは通常の治験あるいは臨床試験ではあり得ない変更だ。たとえば、プラセボが生理食塩水に切り替わったことにより、主治医は目の前の患者がレムデシビル群かプラセボ群かどちらに振り分けられたのかを知りえるかもしれない。主治医がレムデシビルに強い期待を持つことにより、意図的にレムデシビル群で早く酸素を中止したり、早めに退院を誘導し在宅酸素療法に切り替えたりする、逆に生理食塩水の群に含まれた患者で主治医がこの逆をすれば、本当はレムデシビルにCOVID-19患者の症状を改善する効果がないのに、「効果がある」という誤った結論を導く可能性がある。 この治験の詳細な結果は5月22日のNEJM誌に速報として掲載された。内容を精査すると、中等症から軽症の患者には有効であるが、人工呼吸器やECMO を使用するような重症例では効果を認めていない。今後のエビデンスに期待したいが、少なくとも現時点でレムデシビルは致死的COVID-19 に対して有効であるとはいえない。 これは私の考え過ぎかもしれないが、レムデシビルは米国の製薬会社、ギリアド社の開発した薬剤であり、中国はこれを否定し、米国がこれを是が非でも肯定したいという政府の思惑に見えてしまう。1)Borba MGS, et al. JAMA Netw Open. 2020;3:e208857.2)Cao B, et al. N Engl J Med. 2020;382:1787-1799.3)Wang Y, et al. Lancet. 2020;395:1569-1578.

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第9回 黒人差別とアフターコロナの「マスク着用」励行は同罪か

今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)問題を眺め、かつ医療ジャーナリストとして記事を執筆していながら、とりわけ扱いが難しい、伝わりにくいと感じるテーマがある。それはマスク着用に関してだ。ご存じのようにマスク着用によるウイルス感染予防効果に関して、数少ない研究では予防できないとの結果がほとんどだ。有症状者やウイルスキャリアによる感染拡散を減らすという報告はある。つまるところ、マスクは第一義的に感染者が非感染者へと拡散させないための道具である。私も記事を執筆する際にはそのこととともにマスク着用以前に手洗いを徹底すべきと繰り返し記述してきた。ところが市中で見かけるマスク着用者はたぶんほとんどが感染を予防するためと考えているのではないだろうか?実は自分のfacebookのタイムラインでも時々このマスク問題が話題になることがある。そうなるとコメント欄はマスク着用を巡る賛否でやや荒れ模様となる。中にはそれなりに自分で情報をキャッチして「政府の専門家会議が推奨している」「自分がもしかして感染者だったらと考えて着用すべき」との声もある。新しい生活様式、論文や生活の優先順位を反映せずまず政府の新型コロナウイルス感染症専門家会議が提唱した「新しい生活様式」の実践例では確かに「感染防止の3つの基本」として(1)身体的距離の確保、(2)マスクの着用、(3)手洗い、とし、マスクについては「外出時、屋内にいるときや会話をするときは、症状がなくてもマスクを着用」と記述している。しかし、この記述について個人的には相当異論がある。まず3つの基本の順番である。もしかしたら専門家会議、それを受けて内容を公表した官僚たちは、その辺は何も意識せずに並列で記述したのかもしれないが、一般人は素直に(1)から順に重要なことと受け取る。その意味では感染を予防するために(1)が最優先なのは異論がない。しかし、重要度が順番通りならば(2)と(3)は逆であるべきだ。過去の研究でもマスクが予防に有効とされた研究は手洗いの励行との併用の場合である。そもそも、マスクを着用すれば、必然的に顔を触る回数が増えるので手洗いの励行がなければ逆に感染の危険性は増す。実際、世界保健機関(WHO)のホームページでもマスクの着用に際しては、マスクを触る前後で手洗いを推奨している。日常に置き換えた場合、1日喋らない生活と1日手を使わない生活のどちらが難易度が高いかといえば後者なはず。よって、手を介した接触感染のリスクはどんな人でもそこそこ以上に高いはずである。また、「外出時、屋内にいるときや会話をするときは、症状がなくてもマスクを着用」と記述もやや難ありだ。正確に文脈を読み解くことができる人ならば、これは「外出中に屋内にいるときや会話をするときは、症状がなくてもマスクを着用」との意味であることは分かるはずだ。そうでないならば、自宅に一人でいる時もマスクをしなければならないことになる。実際、この記述の仕方では反射的に「外出時も屋内にいる時も会話の時も」と解釈する人もいる。そもそも、この新しい生活様式の実践例は、食事に際して「対面ではなく横並びで座ろう」「料理に集中、おしゃべりは控えめに」など衝撃的過ぎる大きなお世話な内容が満載されているので、そちらのほうが印象に残り、こうした微細な表現はスルーされがちだ。本来、屋外ではアーケード商店街などを除き、多くの人が自然とソーシャルディスタンスを取っており、この初夏の炎天下が始まった屋外で誰かと会話せずに歩行するならば、感染予防でのマスク着用はほぼ不要と考えられる。ところが今現在、爽快な青空の下、そこここで繰り広げられているのは、リチャード・プレストン著によるエボラ出血熱のドキュメント「ホット・ゾーン」のドラマ化の撮影シーンかと思うようなマスクマン大行進の光景である。一方、感染者の約8割が無症候・軽症で発症前に感染力のピークがあるこのウイルスの性質を考えれば、自分が感染者である前提でマスクを着用するという考え方は筋が通っているとも言える。しかし、この理論も今後の行く末を考えると、どうしても引っ掛かりを感じてしまう。こうした考えの人はおそらくCOVID-19に対するワクチンが上市され、多くの人がそれを接種完了した際にマスクなしの日常を送れると考えているだろう。しかし、私はこの考えはかなり見通しが甘いと思っている。マスク着用のマナー化を懸念する理由COVID-19の原因となっているSARS-CoV-2は変異しやすいRNAウイルスである。ワクチンが開発できたとしても、その効果は季節性インフルエンザワクチンのように、一定頻度は接種者でも感染が起こりうるものになる可能性はあるだろう。となると、他人に感染させないためにマスクを着用する理論に従えば、症状発症後に感染力のピークがあるインフルエンザとは異なるSARS-CoV-2の感染拡散を防止するため、ワクチン登場後も自宅外では生涯マスク着用の生活を強いられることになる。このように書くと、「揚げ足取り」と言われかねないかもしれないが、私が最も危惧するのは、マスク着用にリスクがある人が着用を強いられるような空気を懸念するからである。たとえば、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)のガイダンスでは、「2歳以下の幼児」「呼吸機能に問題がある人」「装着に介助が必要な人」はマスクをすべきではないと注意を促している。さらにマスク装着でソーシャルディスタンスの代用はできないとも強調している。また、これから暑くなる時期に心疾患患者などではマスク着用が逆にリスクとなる人もいるはずである。しかも、こうした人たちは外見では判断できない。ところがマスク着用を「マナー」化してしまうと、こうした人たちは無用な差別に晒されることになる。マスクだってタダではない。しかも、手洗いに要する石けんや水と違って比較的ごく当たり前に一般家庭にあるものではなく、今回多くの人が思い知ったように供給状態は不安定で、かつてと比べ価格は高騰している。低所得家計ではマスク購入が家計を圧迫するケースがあってもおかしくはない。実際、こうした空気が影響したのだろう。感覚過敏のためマスク着用ができない人向けの意思表示カードなるものまで登場した。いわゆるヘルプマークのようなもので、これが一定の効果を生むかもしれない。しかし、どんな疾患に罹患しているかは究極の個人情報であり、そのことを進んで公にしたい人はそう多くないはずだ。むしろ、こうした人たちに結果としてここまでさせた私たちのほうが恥じ入らねばならない。どう見てもマスクを着用していない人の中には、リスクのある人とは思えない人が混じっている、と考える人もいるだろう。だが、そうした人には次の問いに答えて欲しい。「ある部屋で財布がなくなりました。被害者を除き、2人がいます。1人が白人、もう1人は黒人です。さて犯人はどちらでしょう?」この問いに根拠もなく黒人と答える人が一定数いることこそが、今ニュースで話題になっているアメリカでのカオスを生み出す。そうである以上、リスクがあってマスクを着用できない人に、何の考えもなしにマスク着用しない人、リスクはなくとも考えがあって着用しない人という誤差範囲も含め、着用できない人と社会全体が考えて接する以外に解決方法はないように思える。今回この意思表示カードを目にし、私自身はやっぱり「蟷螂之斧(とうろうのおの)」だとしても、機会をとらえてマスクについて繰り返し言及していこうという意を新たにしている。

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JAK1を強く阻害する関節リウマチ治療薬「リンヴォック錠7.5mg/15mg」【下平博士のDIノート】第51回

JAK1を強く阻害する関節リウマチ治療薬「リンヴォック錠7.5mg/15mg」今回は、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬「ウパダシチニブ水和物(商品名:リンヴォック錠7.5mg/15mg、製造販売元:アッヴィ合同会社)」を紹介します。本剤は、中等度から重度の関節リウマチ患者において、メトトレキサート(MTX)などとの併用の有無にかかわらず、1日1回の投与で臨床的寛解を達成することが期待されています。<効能・効果>本剤は既存治療で効果不十分な関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)の適応で、2020年1月23日に承認され、4月24日に発売されました。なお、2021年5月に「既存治療で効果不十分な関節症性乾癬」、同年8月に「既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎」の効能・効果が追加されました。<用法・用量>通常、成人にはウパダシチニブとして15mgを1日1回経口投与します。なお、患者の状態に応じて7.5mgを1日1回投与することもできます。免疫抑制作用の増強により感染症リスクの増加が予想されるので、本剤とほかのJAK阻害薬や生物学的製剤、タクロリムス、シクロスポリン、アザチオプリン、ミゾリビンなどの免疫抑制薬(局所製剤以外)との併用はできません。<安全性>関節リウマチ患者を対象とした本剤のプラセボ対照第III相試験において、本剤が投与された1,035例中275例(26.6%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、悪心23例(2.2%)、上気道感染、頭痛、アラニンアミノトランスフェラーゼ増加各19例(1.8%)、血中クレアチンホスホキナーゼ増加17例(1.6%)、気管支炎16例(1.5%)などでした(承認時)。なお、重大な副作用として、肺炎(0.1%未満)、帯状疱疹(0.7%)、結核(頻度不明)などの重篤な感染症(日和見感染症を含む)、消化管穿孔(頻度不明)、好中球減少(1.4%)、リンパ球減少(0.8%)、ヘモグロビン減少(貧血:0.7%)、ALT上昇(1.8%)、AST上昇(1.4%)、間質性肺炎(頻度不明)および静脈血栓塞栓症(頻度不明)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬はJAKという酵素を強く阻害することで、関節リウマチの症状を改善します。2.薬の成分が少しずつ出るようにコーティングされているので、かみ砕かないでください。3.本剤の服用を長期間続けると、免疫力が低下する可能性があります。持続する発熱やのどの痛み、息切れ、咳、倦怠感、水疱、痛みを伴う皮疹などが現れた場合は、すぐにご連絡ください。4.この薬を服用している間は、生ワクチン(麻疹、風疹、おたふく風邪、水痘・帯状疱疹、BCGなど)の接種ができません。接種の必要がある場合は主治医に相談してください。5.(妊娠可能年齢の女性の場合)この薬を服用中および最終服用後一定の期間は、適切な避妊を行ってください。なお、国内治験においては、最終投与から30日まで避妊を行うよう定められていました。<Shimo's eyes>関節リウマチの薬物療法は近年大きく進展しています。通常、発症初期はMTXをはじめとする従来型合成疾患修飾性抗リウマチ薬(csDMARD)が使用されますが、十分量用いても効果が不十分な場合には、生物学的製剤、もしくは本剤のようなJAK阻害薬が選択されます。本剤は、関節リウマチに適応を持つ4番目のJAK阻害薬です。JAKには4種類のサブタイプ(JAK1、JAK2、JAK3、Tyk2)があり、本剤は炎症性サイトカインシグナルの伝達においてとくに重要な役割を持つJAK1を強く阻害することで、TNFαやIL-6の働きを遮断し、炎症性サイトカインの産生を抑制すると考えられています。本剤は、MTXで効果不十分な関節リウマチ患者を対象とした第III相無作為化二重盲検比較試験で、12週時のACR50改善率、患者による疼痛評価およびHAQ-DIのベースラインからの変化量において、ヒト型抗ヒトTNFαモノクローナル抗体製剤アダリムマブ(商品名:ヒュミラ)に対する優越性が示されました。また、ウパダシチニブ+MTX群では、プラセボ+MTX群およびアダリムマブ+MTX群と比較して、有意に高い臨床的寛解達成率が示されました。安全性に関する留意事項としては、警告欄で結核、肺炎などの重篤な感染症について注意喚起されています。また、トファシチニブ(同:ゼルヤンツ)、ペフィシチニブ(同:スマイラフ)と同様に、重度の肝機能障害患者には禁忌となっています。本剤は徐放性フィルムコーティング錠であり、調剤時に半割・粉砕することはできません。患者に対しても、割ったりかみ砕いたりしないように伝えましょう。※2022年3月、添付文書の改訂情報を基に一部内容の修正を行いました。参考1)PMDA添付文書 リンヴォック錠7.5mg/リンヴォック錠15mg

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第8回 コロナ修行と化した「新しい生活様式」を導入してみたら

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックに伴い、新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)に基づいて発令された緊急事態宣言が5月25日、5都道県で解除された。これにより緊急事態宣言は、一旦は全国で解除となった。もっともこれですべて元通りの生活に戻るわけではない。現時点で決定打となる治療薬やワクチンもない以上、当面は第2波流行を常に気にしながら、程度の差はあっても恐る恐る生活を続けていくということになるだろう。実際、東京都は「新型コロナウイルス感染症を乗り越えるためのロードマップ」を公表し、7つのモニタリング指標を軸に段階的に外出・営業自粛を緩和していく方針だ。ロードマップに従うと、首都東京で限りなく以前に近い生活に戻せるのは最短でも7月半ば以降となる。また、政府は既に5月4日、新型コロナウイルス感染症専門家会議からの提言を踏まえ、新型コロナウイルス感染を想定した「新しい生活様式」の実践例を公開した。その中身を見て、娯楽、スポーツ等の項目では「歌や応援は、十分な距離かオンライン」、食事の項目では「料理に集中、おしゃべりは控えめに」などとまで記述されており、「大きなお世話だろう!」と怒鳴りたくなるような内容である。国を代表する「専門家」が参集してこんな細かい議論をやっていたのかとびっくりするのだが、ある専門家会議のメンバーによると「そもそも専門家会議も当初はあそこまで示すつもりはなかった。しかし、外部から『もっと具体例を示すべき』というプレッシャーが強く、あのような形になった」とのこと。専門家の皆さんもなかなか気苦労が絶えないらしい。そしてこの「新しい生活様式」を実践した飲み会を開いたという記事も登場した。まあ、有志で試しにやってみたという程度だが、写真を見ると何とも言い難い。記事には「飲食を楽しんだ」と書いてあるが、私がデスクだったらこの紋切り型表現はボツである。決して楽しそうには見えない、むしろ「新型コロナ真理教」かなんかの苦行にしか見えないからだ。しかも、これだけならまだしも、現実にはいたるところでトンチンカンな「対策」もどきが散見される。たとえば「新しい生活様式」を考慮し、感染予防対策を施した居酒屋、さらにはタクシーなど。これらはいずれも次亜塩素酸水を噴霧し、空間消毒を行うというもの。しかし、次亜塩素酸水に関しては認可を受けたものが手指消毒に使える程度で、厚生労働省が出した事務連絡では、次亜塩素酸を含む消毒薬の噴霧は吸入した場合は有害であると明記している。これほどひどいものではないにしても、福岡県の粕屋町は公立の小中学校の授業再開に当たって全生徒にフェイスシールドを配布し、体育の授業と給食以外のシーンではマスクとともに着用すると報じられている。これから気温が上昇していく中でマスクの着用ですら苦痛なはずなのにさらにフェイスシールドとなると、子供たちの苦痛はどれほどかと気の毒に感じてしまう。だが、そもそもこれまで専門家が提唱している感染予防対策は、手洗い励行、「3密」の回避、これに加えてマスクぐらい。多くの方がご存じのようにマスクの感染予防効果はまだまだコントラバーシャルである。今回、やや珍奇な対策が報じられた(報じている側がチンキと思っていないことも問題なのだが)ケースはいずれも「3密」が回避しにくいための追加の措置とも言えなくもないが、それでもやり過ぎ感が否めないと感じるのは私だけだろうか?その意味でここから本格的な出番となる人たちがいる。まずは感染制御の専門家たちである。テレビや新聞にコメンテーターとして登場している「専門家」の中には、ややトンデモな人が混じっているのは本連載第3回でも触れたこと。いわば真の感染制御の専門家ほど現在日常的に忙しいのは承知しているが、少しでもメディアからオファーがかかったら、今こそ難しい時間のやりくりをして登場して欲しいと切に思う。報道に身を置く立場から言うとやや横柄に聞こえるかもしれないが、やはり報道の拡散能力は絶大だからだ。もっとも1回の報道で何かが確実に伝わることが稀なのは、やはり報道側として常に感じている。たとえば、私ごときの存在は報道界の中でも「蟷螂之斧(とうろうのおの)」といってもいい存在だが、それでも感染症におけるマスクの存在について「あくまで感染が疑われる人が他人に感染させないためが第一義。まずは手洗いを」と繰り返し記事に書いている。1回1回はほぼ無力と分かっても、過去の経験上、報道のリフレイン効果は実感しているからだ。COVID-19騒動では、このリフレイン効果の実例がある。ずばり「PCR検査」という単語だ。PCRが何の略かは分からない人がほとんどだろうが、今やこの単語を耳にしたことがないという人はいないはず。だが、この単語を知ることで「それって何?」と理解を深めようとする人のすそ野は確実に増えてくる。繰り返し同じことを訴えるというのは確実に一般生活者での情報リテラシー向上に資するのである。また、今回感染制御の専門家とともに出番となると思われるのが、「学校薬剤師」である。ちなみに医療関係者の間でも「学校薬剤師」の存在はあまり知られていないこともあるようだが、これは学校保健安全法で大学以外の学校では設置が義務付けられている。学校医や学校歯科医と同じ存在である。これは1930年、北海道小樽市の小学校で風邪をひいた女児にアスピリンと間違って塩化第二水銀を服用させ、死亡した事件をきっかけに、同市が学校薬剤師を委嘱し、これが全国に広がって後の学校保健安全法の制定時に制度化されたものだ。では、この学校薬剤師は何をしているかといえば、学校環境衛生の維持管理に関する指導・助言などであり、具体的には換気の指導やプール開きの際の塩素濃度チェックなどだ。まさに感染を防ぐための環境整備にも資する役割である。そもそも薬剤師は、現状では一般人はもちろんのこと医療従事者の間ですら存在感が薄い。このような表現をすると腹が立つ人もいるかもしれないが、「白衣を着て調剤室にこもって袋詰めをしている根暗な人たち」が一般人のイメージといってもいいが、学校薬剤師の経験を持つ人は少なからず存在し、消毒薬などについての知識も有している。しかも、医師と比べ、一般人にとってはやや距離が近い存在である。やや過激な言い方になるかもしれないが、劇作家・寺山修司の言葉を借りれば、今こそ「処方箋を捨てよ、町へ出よう」である。同時にすべての医療従事者に伝えたいのは、「腐らず繰り返し伝えよう」ということ。「お前らメディアが悪い」と言われがちではあるが、目を皿にしてみてもらえば、腐らず地味な情報を繰り返し伝えているメディアも数多くある。実際のところ私たちメディア人も同じ方向を向いていることを知っていただけたら幸いである。

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第8回 初診のオンライン診療、継続的実施の検討へ

<先週の動き>1.初診のオンライン診療、継続的実施の検討へ2.病院の医業収入は前年比10.5%減、コロナ受け入れ病院では12.7%減も3.コロナの影響で先延ばしされた新たな社会保障制度改革4.新型コロナウイルスに対するワクチンや治療薬の開発が待たれる1.初診のオンライン診療、継続的実施の検討へ19日に開催された国家戦略特区諮問会議において、新型コロナウイルスの影響により、全国で時限的・特例的措置として可能になっている「初診患者のオンライン診療」について議論された。そこでは、安倍 晋三首相より、コロナ収束後も初診のオンライン診療が引き続き活用できるよう、継続的実施に向けて規制や制度の改革を進める方針を表明した。厚生労働省によると、5月14日現在、オンライン診療などを実施しているのは全国で約1万4,500施設、うち初診からの実施は約6,000施設。今後、利点や課題を洗い出した上で、全国的に認めるのかどうかも含めて検討され、年内に取りまとめを急ぐ。(参考)第44回 国家戦略特別区域諮問会議 配布資料2.病院の医業収入は前年比10.5%減、コロナ受け入れ病院では12.7%減も21日、自民党の岸田 文雄政調会長が「令和2年度第2次補正予算の編成に向けて」の提言を安倍首相に提出した。新型コロナの影響で、受診控えなどにより収入が大きく減少し、経営危機に直面している医療機関や薬局が経営破綻しないように求めている。最近、医療機関における経営状態の悪化についてたびたび報道されているが、日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の病院経営状況緊急調査(速報)によれば、前年の2019年4月と今年4月を比較した医業収入は、回答した病院で10.5%減少しており、コロナ患者入院受入病院では12.7%減となっている。日本医師会は、半年間で7兆5,000億円の予算措置などにより、医療機関や薬局などの経営支援を行うことを求めている。取り急ぎ、厚労省は5月分の診療報酬支払いについて、本来より1ヵ月繰り上げた6月に概算で給付する案を検討しており、医療従事者に支払うボーナスなどの原資を確保できるように動く見込み。(参考)第2次補正予算に向けた提言概要(自由民主党政務調査会)新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況緊急調査(速報)(日本病院会)3.コロナの影響で先延ばしされた新たな社会保障制度改革22日に開催された第7回全世代型社会保障検討会議において、安倍首相が今夏に取りまとめる予定だった最終報告を半年ほど遅らせることを表明した。新型コロナウイルス感染拡大を踏まえ、社会保障の新たな課題を取り上げたことなどによる影響。ウイルス感染リスクがある中、医療・介護に従事する労働者が安全に就労できるよう、マスクや消毒液などの衛生用品の確保などの支援や、感染リスクを恐れて受診抑制や介護サービス利用控えなどの動きに対して、オンライン診療や非接触サービスの活用についての言論を求めている。これを受け、75歳以上の患者の窓口負担を1割から2割に引き上げる法案の国会提出が2021年に先送りになるなど、今後の医療改革や健康保険財政などに影響が出る可能性もある。(参考)全世代型社会保障検討会議(第7回)配布資料(首相官邸)新型コロナウイルス感染症の感染拡大を踏まえた社会保障の新たな課題に関する基礎資料4.新型コロナウイルスに対するワクチンや治療薬の開発が待たれるコロナ治療薬開発の進捗状況について、日々報道がなされているが、民間の医療機関が手にする段階は、現時点ではまだ先になりそうである。7日に承認された、新型コロナウイルス感染症に対する国内初の治療薬レムデシビル(商品名:ベクルリー)は、重症患者が対象とされ、一般の患者に用いることは難しいと考えられる。今後、中等症患者を対象とした2本目の第III相試験の結果など、5月下旬に初期のデータが公表される見込み。また、政府が早期承認するとしていたファビピラビル(同:アビガン)については、動物実験で催奇形性(外表異常、内臓異常、骨格異常、骨格変異)が認められており、精液への移行もあるなど、内服投与に当たっては細心の管理が必要である。その上、17日に日本医師会の「COVID-19有識者会議」が発表した「新型コロナウイルス感染パンデミック時における治療薬開発についての緊急提言」によれば、承認を早める事務手続きの特例処置は理解できるとしているが、科学的根拠の不十分な候補薬を治療薬として承認すべきでないとしており、今後の治験結果の公表や承認申請を待つことになる。ワクチン製造を手掛ける大手製薬企業を中心として、開発治験が進んでいると発表されているが、安全性・有効性の確認中であり、正式な承認申請はまだである。第二波の襲来に備えるために、各国と協調体制を取りながら、迅速な開発、供給態勢の整備が進むことが待たれる。(参考)新型コロナウイルス感染パンデミック時における治療薬開発についての緊急提言(日本医師会COVID-19有識者会議)新型コロナウイルス 治療薬・ワクチンの開発動向まとめ【COVID-19】(Answers News)

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新型コロナ陽性率とBCG接種歴の関係は?/JAMA

 一時期、BCGワクチン接種(以下、BCG接種)をしている人は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にかかりにくい、というニュースが世界中を賑わした。ドイツやアメリカではBCG接種によるCOVID-19予防の有用性を検証するために臨床試験も始まっており、動向が気になるところである。このような状況に先駆け、今回、イスラエル・テルアビブ大学のUri Hamiel氏らは「小児期のBCG接種が成人期のCOVID-19に対して保護効果があるという考えを支持しない」という研究結果を発表。本研究で小児期のBCG接種群と非接種群での新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)陽性の結果割合が類似していたことを明らかにした。ただし、重症者の症例数が少ないため、BCG接種状況と疾患重症度との関連については結論付けられないとしている。JAMA誌オンライン版5月13日号のリサーチレターに報告した。 イスラエルでは1955~1982年の間、国家政策として新生児に対する BCG接種を行い、接種率は90%以上だった。しかし、1982年以降のBCG接種対象者は結核流行地からの移住者に限定されていた。 本研究は2020年3月1日~4月5日の期間、COVID-19症状(咳嗽、呼吸苦、発熱)を有する全症例を対象にRT-PCR法を実施、検査陽性率を1979〜1981年生まれ(39〜41歳)と1983~1985年生まれ(35〜37歳)で比較検討した大規模な人口ベースコホート。本研究の限界はイスラエルで出生しておらずワクチン接種状況が不明な人口が含まれたことだった。 主な結果は以下のとおり。・検査結果7万2,060件のうち、1979~1981年に生まれの結果は3,064件(出生コホート:1.02%、男性:49.2%、平均年齢40歳)、BCG非接種である1983~1985年生まれの結果は2,869件であった(同:0.96%、男性:50.8%、平均年齢35歳)。・SARS-CoV-2陽性となった割合について、BCG接種群とBCG非接種群で統計的有意差はなかった(361例[11.7%] vs. 299例[10.4%]、接種群との差1.3%、95%信頼区間[CI]:-0.3~2.9%、p=0.09)。・また、10万人あたりの検査陽性の割合にも統計的有意差はなかった(BCG接種群121 vs.BCG非接種群100、各群差:21、95%CI:-10〜50、p=0.15) 。・各群において重症疾患(機械的換気またはICU入室)は1例いたものの、死亡は報告されなかった。

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企業発の取り組み その1 ピジョン株式会社【風疹ゼロチャレンジ~医師2020人の会~】

その1 ピジョン株式会社2018年より、厚生労働省は現時点で41~58歳の男性を対象に、「風しんの追加的対策」として抗体検査とワクチン接種を公費で助成している。しかし、対象世代の認知度は低く、受診者は狙い通りには増えていないのが現状だ。そうした中で期待されるのが、企業発の取り組みだ。ターゲット世代の男性は働き盛りであり、勤務先からの要請があれば高い受診率が期待できる。すでに複数の企業が、定期健康診断へ抗体検査を盛り込む、社員に抗体検査を呼びかけるなどの活動をはじめている。その中で、社業とのシナジーを生み出しつつ、多角的な活動を行っているのが育児用品メーカーのピジョンだ。同社は2019年秋から「ピジョン風疹ゼロアクション」と銘打ったプロジェクトを立ち上げ、活動を開始している。担当者の一人である、コーポレートコミュニケーション室 広報・ESGグループの半澤 ふみ江氏は、「ピジョンが社会に存在している意義である『赤ちゃんいつも真に見つめ続け、この世界をもっと赤ちゃんにやさしい場所にする』を体現する具体的なアクションを検討していました。社会課題は数多くありますが、先天性風疹症候群 (CRS)は直接に赤ちゃんに関係する課題なので、風疹ゼロに向けた活動に取り組むことを決めました。また、社員とその家族の健康を守るという健康経営のためにも意義がある活動だと考えました」と活動のきっかけを語る。事業内容との親和性が高いことから経営陣の理解も早く、疑問や反対の声は全く出なかったという。ピジョン・コーポレートコミュニケーション室 広報・ESGグループの半澤 ふみ江氏(新型コロナウイルス感染拡大を鑑み、オンラインにて取材)具体的には、2019年秋から2020年春までに3つの活動を行った。1)会社の費用負担での抗体検査・ワクチン接種全従業員約500名を対象に、抗体検査・ワクチン接種を会社負担とし、受診を呼びかけた。前年度から妊婦と接する機会のある職種の社員を対象に同様の取り組みを行っており、それを一歩広げた。「風しんの追加的対策」のターゲット世代の男性社員にはクーポンの使用を呼びかけつつ、世代や性別を限定せず全員を対象とした。2)風疹撲滅の活動を行う団体への募金活動風疹撲滅の活動をサポートするため、CRSの子供を持つ保護者を中心に風疹撲滅の啓蒙を行う団体「風疹をなくそうの会 hand in hand」への募金活動を行った。各フロアに募金箱を置き、活動内容を伝えるチラシやポスターを掲示したところ、期待以上の金額が集まったという。 3)社内講演会募金活動とあわせ、なぜ風疹ゼロアクションに取り組むのかを社員に周知し、理解を深めるために、「風疹をなくそうの会 hand in hand」の役員3名を招き、講演会を開催した。全社員を対象に希望者が参加する形式にしたところ、約60名が参加した。「年齢・性別関係なく、幅広い層の社員が集まりました。強いて言えば若手が多く、社会問題への関心の高さを感じました」(半澤氏)。2019年年末に開催された社内講演会活動を進める中で、課題も浮かび上がった。1つは、活動の意義を伝える難しさだ。赤ちゃんとその家族を顧客とするピジョンでも、全社員に風疹撲滅の意義を自分ごととして理解してもらうことは簡単ではなかったという。身近な病気で怖さが伝わりにくい面もあり、「自分が加害者になるかもしれない」など、いろいろな伝え方を工夫した。もう1つは、抗体検査やワクチン接種をどこまで推奨すべきか、という点だ。医療・社会的に推奨されることではあっても、最終的には個人の身体や信条に関わることでもあり、そのメッセージの強さをどの程度にするべきか、悩むことも多いという。2019年秋から開始したプロジェクトは複数のメディアで紹介され、2020年2月には日本産婦人科医会などが主催する「風疹ゼロ”プロジェクト」から風疹対策を積極的に行った企業として表彰されるといった実績も出た。風疹ゼロ”プロジェクト表彰式の様子半澤氏は「活動開始から日も浅く、今後の継続こそが大事だと考えています」とし、息の長い活動にすべく、今年度の活動内容を詰めているという。参考サイトピジョン株式会社|風疹ゼロアクション日本産婦人科医会|2020年“風疹ゼロ”プロジェクト宣言!!風疹をなくそうの会『hand in hand』

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第6回 感度の低さを認めた抗原検査キットは国民の不安を拭えるか?

「一難去ってまた一難」ということわざはあるが、「一難生じてまた一難」ということわざはない。しかし、現実の世の中では後者の事例は少なくない。しかも、この「一難」が事態を改善すべく行った結果として起きる予期せぬ難事ということも稀ではない。ヨーロッパのことわざを借りれば「地獄への道は善意で舗装されている」というものだ。このような思いを巡らすのは、先週取り上げた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬・レムデシビルの特例承認に続いて、みらかホールディングス傘下の富士レビオが申請した新型コロナウイルスの抗原検査キット「エスプライン SARS-CoV-2」が迅速承認されたからだ。新規抗原検査登場で起こる一般からの誤解新型コロナウイルスの抗原検査としては国内初の承認だが、一般紙の誌面やテレビのスーパーで比較的ポジティブな印象を与える「国内初」の表現が曲者である。これに加え、結果判明まで最短で4~6時間のPCR検査に対し、抗原検査は約15~30分なので「迅速」、さらに「医療機関で行っている通常のインフルエンザの検査と同じ」という言葉が加われば、一般読者・視聴者の脳内では「新型コロナが疑わしければ、近くのクリニックですぐに検査してもらえるのね?」との変換が起こる。しかし、検査を実施する側としてはインフルエンザ検査と同じとはいえ鼻咽頭に細長い綿棒を挿入しての検体採取では飛沫感染の危険性がある。しかも、インフルエンザとは違い、現時点でCOVID-19に特異的な治療薬もワクチンも存在しない。つまるところ現状は十分な感染防止策が取られた医療機関など、現在のPCR検査実施施設で発熱や乾性咳嗽などの症状がある人に行うことが前提となる。実際、この抗原検査キットはまだ生産が本格化していないため、当面は患者発生数の多い都道府県における帰国者・接触者外来、地域・外来検査センターや全国の特定機能病院に供給し、順次供給対象を拡大していくとのこと。一般向けの報道でもそのような内容を紹介している事例もあるが、読者・視聴者は見出しや印象的キーワードで把握しがちなので、前述のような脳内変換が起きてしまう。実はかなり低い抗原検査の感度そしてこの抗原検査キット、承認申請データを見ると何とも頼りない。PCR法との比較に基づく国内臨床性能試験成績(n=72)では、陰性一致率は98%(44/45例)、陽性一致率は37%(10/27例)。陽性検体での陽性一致率を、PCR法テスト試料中の換算RNAコピー数(推定値)に応じて比較すると、100コピー/テスト以上の検体に対する陽性一致率は83%(5/6例)。また、国内の検査検体でのPCR 法との比較に基づく試験成績(n=124)では、陰性一致率は100%(100/100例)、陽性一致率は66.7%(16/24例)、PCR法テスト試料中の換算RNAコピー数(推定値)に応じて比較した場合の100コピー/テスト以上の検体に対する陽性一致率は83%(15/18例)。簡単に言ってしまえば「PCR検査よりも感度は低く、ウイルス量が少なければ大量の偽陰性が出る」ということだ。実際、国は陽性例をこのキットで確定診断として良いが、陰性例に対しては引き続きPCR検査の実施を前提にしている。少なくともこれまでCOVID-19の診療最前線にいる医療機関にとっては、疑わしい症状の患者が来院時に使用すれば、より厳重な隔離をすべきかどうかを迅速に判断できるため、一定の利益があることは確かだろう。抗原検査の登場は検査拡充に寄与しない?一般紙では、今回の承認は、これまで一部の医師から指摘されていた「疑わしい症例のPCR検査が迅速に行われない」ことの解消、その結果としての検査件数の増加を意図していると報じている。ただ、その通りになるかは甚だ疑問を感じざるを得ない。まず、検体採取方法は従来のPCR検査と変わらないため、検査に伴う煩雑さはまったく同じ。検体採取者にとって、より簡便でリスクが低い採取方法に変更しない限り、検体採取段階で目詰まりを起こす。また、迅速診断であるがゆえに検査を受けた人は結果待ちのために実施場所に待機することになる。ソーシャル・ディスタンスを取れる待合スペースがなければ、待機者間での接触・飛沫感染リスクが増加する。十分な待合スペースがなければ、感染予防対策として検査場所への入場制限が必要になり、その結果として検査実施件数の制限も必要になるという目詰まりファクターもある。さらに「迅速診断」ゆえに風邪のような類似の症状を持つ人が幅広く対象になり、結果と検査対象者の増加とそれに伴い発生する陰性者の増加が、確認用PCR検査件数を増やし、逆に現場に負荷をかけて目詰まりを起こすことも考えられる。一方で、最も面倒なのは当面はこの検査の実施機関とはならないプライマリーケアを主体とするクリニックにちょっと風邪様症状がある人が駆け付け、「テレビでやっていた簡単な新型コロナの検査をやってください」と哀願し、現場の多忙さに拍車をかけることだ。そうして来院する人の中には真正のCOVID-19の患者がいる可能性も考慮すると、院内感染の危険性も増す。COVID-19との暗闘に似たあの大事故前回紹介したレムデシビルの特例承認、今回の抗原検査キットの迅速承認とも前例がなくとも部分的でも改善できるなら、いかなるものでも投入するという戦略のようだ。その意味で非常に似た様相を感じるのは、私が過去から取材し、現在も進行中の東京電力・福島第一原発の収束作業である。福島第一原発事故は原子力事故の評価尺度である「国際原子力事象評価尺度 (INES)」 による影響度の指標で「レベル7」と判定された世界最悪の原子力事故である。同じレベルと評価されたのは1986年に発生した旧ソ連(現・ウクライナ)のチェルノブイリ原発事故のみ。チェルノブイリ原発事故は核燃料の除去を断念して石棺で封印しただけだが、福島第一原発の収束作業は、残る核燃料を取り出して廃炉に持ち込もうという有史以来前例のない事態に取り組んでいる。その意味ではすべてがトライ・アンド・エラーの連続である。私は過去にこの作業を「100個の鍵がついた扉の開け方がわからず、とりあえず鍵と名の付くものをありとあらゆるところから集め、1つ1つ鍵穴に入れて開くかどうか確かめるような作業」と表現したことがある。COVID-19に対する戦いも半ば似ていると感じるのだ。奇々怪々な国の対応から透けて見えるもの「だったら徒手空拳からようやく前向きになりつつあるときに、一個一個の『武器』についてネチネチとあげつらうな」との意見もあるかもしれない。だが、今回の事態を見ていると、国の「迅速な対応」と言えば聞こえは良いが、むしろ「拙速な対応」にも見えてしまうのである。そもそもこうした新たな武器を国が特例的に投入するならば、そのメリット・デメリットを一般に広く伝えるのはメディア以上に国側の責務である。とりわけ昨今のようにメディアの多様性が増し、テレビ・新聞といった古典的メディアの役割が相対的に低下しているなかでは、なおのこと国の発信力の位置づけは小さくない。にもかかわらず、記者会見等を見ていると、どうにも中途半端な説明が先行しているように見受けられる。また、かつてはドラッグ・ラグに代表される慎重な審査体制で知られていた厚生労働省がかくも特例承認、迅速承認を「乱発」するのはやや解せない。安倍晋三首相自ら新型インフルエンザ治療薬・アビガンのCOVID-19治療薬としての承認に言及する辺りから推察するに、こうした措置にはかなり政治主導もあるのだろう。もしそうだとするならば、非常事態の名の下に行われる政治の猪突猛進にブレーキをかける存在がいないということにもなる。そんなこんなでレムデシビルの特例承認も、抗原検査キットの迅速承認はすんなりと腹落ちがしないのである。

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第7回 COVID-19に立ち向かう医療従事者をBCGワクチンで守れるか? 国際試験が進行中

新生児の結核予防にほぼ100年も前から使われてきたワクチンがほかの感染症も防ぐという裏付けに触発され、フランスの微生物学者の名にちなんで名付けられたそのワクチン・カルメットゲラン桿菌(BCG)で、目下の新型コロナウイルス感染(COVID-19)流行を防ぐことができるのか、研究者が調べ始めています。BCGワクチンの成分は結核を引き起こす細菌の類縁菌・Mycobacterium bovisを弱毒化したものです。これまでに40億人以上に接種されており、世界で最も広く投与されているワクチンの一つとなっています1)。BCGは結核に対する特異的な効果のみならず、幅広く、多くの感染症に対し非特異的に防御する効果を免疫系に備わせる働きがあります2)。たとえば、新生児の死亡率が高いギニアビサウでの3試験のメタ解析の結果、低体重出生児へのBCG-Denmark(BCGワクチンの1つ)接種は生後28日間の死亡率の38%低下と関連し、その効果は主に肺炎や敗血症による死亡の減少によってもたらされました3)。12~17歳の若者が参加した南アフリカでの無作為化試験ではBCG-Denmark接種で上気道感染症発現率がプラセボ群に比べて73%(2.1% vs 7.9%)低下しました2,4)。オランダのMihai Netea氏等による試験では、ウイルスへの効果も示唆されています。健康な成人にBCG-Denmarkを接種してしばらくしてからあえて弱毒化黄熱病ウイルスを投与したところ、血中ウイルス量がプラセボ投与に比べて有意に減少しました5)。そのような試験や研究成果を背景にして、COVID-19への効果の緒を掴むべく、BCG接種義務国とそうでない国を比較した結果が報告されるようになっています。たとえば査読前報告掲載サイトmedRxivに今月初めに掲載された報告によると、BCG接種が義務であることは流行最初の30日間のCOVID-19症例数や死亡数の増加がより緩やかであることと関連しました6)。3月末にmedRxivに掲載された別の報告ではイタリア、米国、オランダ等のBCGワクチンが広まっていない国はワクチンが広く接種されている国に比べて流行の被害がより大きいことが示されています7)。ただしそれらの報告は因果関係を示すものではありません。また、個々のヒト単位の比較ではなく国と国の比較には結果を偏らせる多くの要因が存在し、それらをすべて差し引いて解析することは不可能です。BCGワクチンをかれこれ20年調べているデンマークの疫学者Christine Stabell Benn氏は、COVID-19に関するそれらの最近のBCGワクチンの検討データは裏付けの重みとしては最底辺の類のものだが、長年に渡って蓄積された裏付けによると、BCGワクチンのCOVID-19予防効果にかけてみるのは悪くないと科学ニュースThe Scientistに話しています。Benn氏はすでに動きだしており、COVID-19のリスクが最も高い人々、すなわちその対処にあたる医療従事者1,500人を募る試験を始めています。BCGで欠勤が減るかどうかやCOVID-19発現が減るかどうか等が調べられます。デンマークでは1980年代までBCGワクチンが使われており、学校でかつてBCGワクチン接種経験がある医療従事者も試験には混じるでしょう。Benn氏は過去にBCG接種経験がある人への更なる接種は接種経験がない人より有効だろうと想定しています。Benn氏と協力関係にある上述のNetea氏はオランダで同様の試験を開始しています。また、オーストラリア出身のメディア王マードック氏の母親Dame Elisabeth Murdoch(エリザベス マードック)氏の支援を受けて30年前の1986年に設立された同国の小児健康研究所Murdock Children’s Research Institute(MCRI)は、Netea氏も協力する国際試験BRACEを3月27日に始めています。医療従事者を対象としたそれらの試験結果は待ち遠しいですが、無作為化試験以外で先走ってCOVID-19予防にBCGを接種してはいけないと世界保健機関(WHO)は釘を刺しています。あまり当てにならない最近の査読前報告を高品質な裏付けと勘違いしてBCGに群がると、すでに不足気味となっているBCGワクチンがそれを必要としている乳幼児に行き渡らなくなる恐れがあります。実際、アフリカの一部では小児向けのワクチンが医療従事者に横流しされていると上述のBRACE試験を率いるNigel Curtis氏は聞いており、「軽はずみにワクチンを使い始めると幼い子にツケが回る。いまあるワクチンは赤ちゃんの結核を予防するものだ」とThe Scientistに話しています。試験外での不適切な使用を注意しつつCurtis氏が進めているBRACE試験を支援する動きは広がっており、最近になってその被験者数はゲイツ財団(Bill & Melinda Gates Foundation)からの1,000万ドル支援を受けて4,000人から1万人へと大幅に増えています。5月5日の発表によると、試験にはすでに医療従事者2,500人が組み入れられています8)。感染症に広く効きうるBCGワクチン等が病因狙い撃ちワクチン完成までの橋渡しの役割を担うことは、目下のCOVID-19流行や将来の感染流行への対処に大いに貢献するだろうとCurtis氏等はLancet誌に記しています2)。参考1)An Old TB Vaccine Finds New Life in Coronavirus Trials / TheScientist2)Curtis N,et al. Lancet. 2020 Apr 30.3)Biering-Sørensen S,et al. Clin Infect Dis. 2017 Oct 1;65:1183-1190. 4)Nemes E,et al. N Engl J Med. 2018 Jul 12;379:138-149.5)Arts RJW,et al. Cell Host Microbe. 2018 Jan 10;23:89-100.6)Mandated Bacillus Calmette-Guerin (BCG) vaccination predicts flattened curves for the spread of COVID-19. medRxiv. May 04, 20207)Correlation between universal BCG vaccination policy and reduced morbidity and mortality for COVID-19: an epidemiological study. medRxiv. March 28, 20208)10M grant enables MCRI’s BCG vaccine trial to expand internationally, enrol 10,000 healthcare workers / Murdoch Children’s Research Institute’s (MCRI)

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ワクチンと新型コロナウイルスと検疫【今、知っておきたいワクチンの話】総論 第5回

筆者は家庭医として長年予防接種および渡航医学に従事してきたが、2017年からは検疫官に転じて空港検疫所で勤務している。本稿は本来、2020年夏に開催予定であった東京オリンピック・パラリンピックに向けて、輸入感染症対策と検疫について執筆する予定であった。しかしご承知のとおり、新型コロナウイルス感染症(以下「COVID-19」)の拡大に伴って同競技会は延期が決定し、本稿執筆時点の5月上旬には新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急事態宣言が5月31日まで延長されることとなった。市中医療機関と同じく、空港検疫所もCOVID-19対応に忙殺されている。筆者は現在成田空港検疫所に派遣され、大量の鼻咽頭検体採取を行っている。本稿は業務の合間を縫って書いている。COVID-19と検疫検疫業務の目的は「日本に常在しない病原体が国内に侵入することを防ぐこと」である(検疫法第1条)。わが国に常在しない病原体は世界中に無数にあるが、現地での発生頻度、重症度、船舶・航空機を介した侵入リスクなどを勘案して、15種の感染症(病原体でカウントすればさらに増える)が「検疫感染症」として検疫法第2条に指定されている。2019年12月31日に初めて世界に報告されたCOVID-19は、2020年2月1日には感染症法における指定感染症と同時に「検疫感染症」として定められた。さらに2月14日には「検疫法第34条の感染症」へと再指定され、陽性患者の隔離(強制入院)などの強い措置の権限が付与された。しかし、COVID-19は後者の再指定に遡ること1ヵ月前の1月16日には、国内で最初の患者が発見されていた。その後も輸入例や国内感染例が続発し、再指定直前の2月13日には東京での屋形船や和歌山での院内感染などのクラスター発生がすでに報告されていた。わが国に常在しない病原体の国内侵入の防止が検疫の目的であるにもかかわらず、検疫所に措置の権限が付与された時点では新型コロナウイルスはすでに「日本に常在する病原体」と化していたのである。厚生労働省発表によると、5月6日時点で国内のCOVID-19患者は累計15,192人が報告されているが(ダイヤモンドプリンセス号および武漢からのチャーター便での報告を除く)、空港検疫での発見数は147人と国内報告の100分の1に満たない。新型コロナウイルスが完全に日本に定着した状況でCOVID-19に対する検疫にどの程度人的・物的リソースを投じるかは、国内の発生状況や自治体、市中医療機関、検査機関への負荷などとのバランスを考慮しつつ、政府が臨機応変に見直していく必要がある。Withコロナの予防接種COVID-19の特異な臨床経過や感染様式、緊急事態宣言などに伴う外出自粛要請の影響により、市中医療機関のリアル外来受診数は大幅に減少している。それに伴い予防接種実施数も大きく減少する傾向にある。院内感染や来院前後の往来での感染を避けたいという心理は当然了解できる。しかし、COVID-19蔓延期、すなわち“withコロナ”で“stay home”が強く推奨される状況においても、予防接種のための受診は決して不要不急の外出には当たらず、むしろ必要火急とすら言える。[Withコロナで予防接種が必要火急であるのはなぜか?]1)ワクチン予防可能疾患(VPD:vaccine-preventable disease)は、必ずしも「家の外」だけで感染する疾患ばかりではない。肺炎球菌やヒブはヒトの気道常在菌であり、年長小児や成人の気道から免疫不十分な乳幼児へと感染し、致命的な侵襲性感染症を引き起こす。Stay homeにより家族間接触がより濃厚になる今だからこそ、それら感染症のリスクはむしろ高いと言える。あるいはstay homeで庭いじりや日曜大工に精を出す人も増えていよう。そうした作業で汚染外傷を生じれば破傷風リスクがある。Stay homeだからこそ、それらVPDに対する予防接種は必要火急なのだ。2)医療従事者をはじめ、通勤・出勤せねば業務が成り立たない職種も少なくない。通勤や勤務においてVPDに感染するリスクは常にあり、また、家で待つ家族にVPDを持ち帰るリスクも続いている。特に重大な麻疹1)と風疹2)は、4月7日の緊急事態宣言による全国的な外出自粛要請にもかかわらず発生の連鎖は止まっていない。それらVPDに対する予防接種も必要火急である。3)5月上旬時点で国内のCOVID-19発生は減少傾向にある。いずれ外出自粛が緩和され、各地の学校も再開される日が来る。そのとき、stay homeで勢いをひそめていたVPDが再び火を吹き始める。VPDの多くは発熱を伴うため、COVID-19との鑑別が困難であることから受診に至るまでに種々の手間とタイムラグが発生し得る。そうした近い将来のリスクを避けるためにも、今こそ予防接種は必要火急なのである。上記理由により、withコロナの現在だからこそ積極的に予防接種を進めていただきたい。それでも現実には予防接種実績は低迷する恐れが強い。ならば、リアル受診が回復し始めると同時に、接種遅れに対するキャッチアップ接種を積極的に行っていただきたいと強く切望する。さらに、一時的にCOVID-19発生が抑制できても、今冬には再び増加することが懸念されている3)。前記3)以上に、季節性インフルエンザとCOVID-19の初期の鑑別は困難である。インフルエンザの発生数自体を少なくすることが医療機関の負担軽減に直結する。インフルエンザワクチンは例年10月はじめには供給開始される。供給開始と同時に1人でも多くインフルエンザ予防接種を行っていただきたい。インフルエンザ患者が1人減れば医療機関の負担も1人分減るのだ。COVID-19のワクチンの可能性COVID-19のワクチンは武漢での発生当初から世界各国で盛んに研究開発が進んでいる。4月28日現在で90以上のワクチン候補が誕生し、うちすでに6ワクチンはヒトに対する第I相試験に進んでいる4)。古典的な弱毒化または不活化の手法は当然試されている。しかし、一般論として、安全かつ免疫原性の強い弱毒株は、ウイルス培養を繰り返す過程で生ずる変異株が偶然の産物として登場するのを待つしかなく、いつ実現するかは予測困難である。また、不活化ワクチンは少なくとも既知のコロナウイルスでは充分な効果のあるものが登場していない。新興病原体に対するワクチン開発で近年主流になっているのが、ヒトへの病原性がない他のウイルスに目的ウイルスの遺伝子を組み込むことで特異抗原を産生させ、そのまま“生”として、または不活化してワクチンとする遺伝子組み換え手法である。2018年から続いているコンゴ民主共和国でのエボラ出血熱アウトブレイクで濃厚接触者へのring vaccinationとして行われているワクチンも遺伝子組み換え“生”ワクチン(rVSV-ΔZEBOVワクチン)である。2012年に登場したMERSコロナウイルスにはこの手法でワクチン開発が進められ、動物実験までは行われている。COVID-19ワクチンの開発手法もこれを採用しているチームが多い。そのほか、核酸ワクチンという手法もある。ウイルス粒子ではなく、ヒトの免疫系が反応しうるウイルス抗原部分をコードしたウイルスゲノム(RNAのまま、またはDNAに変換)をワクチンとして接種し、ヒト細胞に取り込ませることで抗原を産生させ、それに対する免疫応答を惹起するのが目的である。コロナウイルスの持つタンパクのうち特にヒト免疫が反応しやすいもの(サブユニットと呼ぶ)だけを抽出してワクチン成分とするサブユニットワクチンもある。2003年に登場したSARSコロナウイルスに対してはすでにサブユニットワクチンが開発済みであるが、SARSが完全に封じ込められた影響もあり、サルでの動物実験に留まりヒトでの治験実績はない。これら以外にもワクチン開発技術には大小の異同があり、それぞれのチームが研究開発のしのぎを削っている。わずか4ヵ月あまり前に世界に登場した病原体に対して、すでに90以上のチームがワクチン開発に着手していることには希望が持てるが、しかし安全かつ効果のあるワクチンの開発は決して容易なことではない。COVID-19ワクチンへ希望は持ちつつも過剰な期待はせず、感染拡大防止の努力を徹底した上で、既存ワクチンの接種を遅れることなく推し進めることこそが医療職の使命と言える。読者諸氏には、必要なワクチンを1人でも多く接種いただきたく、深くお願い申し上げる。※上記はすべて筆者個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。1)国立感染症研究所.麻疹.Accessed May 6,2020.2)国立感染症研究所.風疹.Accessed May 6,2020.3)Sun Lena H. The Washington Post, April 22, 2020.4)Callaway E. Nature. 2020;580:576-577.講師紹介

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第5回 新型コロナ治療薬、レムデシビルは武器か凶器か

これまで治療薬もワクチンもなかった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して、ようやく新たな「武器」が登場する。厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会は2020年5月7日、ギリアド・サイエンシズがCOVID-19の中等度~重症入院患者向けに開発中の抗ウイルス薬・レムデシビル(商品名:ベクルリー)をCOVID-19の治療薬として「特例承認」した。緊急対応を要する際に他国で販売されている薬剤など国内臨床試験を省いて承認する「特例承認制度」の適用は、2010年の新型インフルエンザワクチン以来。しかも、日本に先だって米国食品医薬品局(FDA)は緊急時の使用許可を認めたものの、これは正式承認までの暫定措置なため、レムデシビルの正式な製造販売承認は日本が世界初だ。国の焦りや危機感が垣間見える決定とも言える。しかし、この特例承認は歓迎すべき決定である反面、医療現場では新たな「火種」になるかもしれない。4月29日にアメリカ国立衛生研究所(NIH)傘下の国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)が主導した世界68施設での重症COVID-19患者に対する臨床試験の予備的解析結果が発表された。臨床試験は1,063例を登録したプラセボ対照二重盲検無作為化比較試験であり、一定の信頼度はおける試験デザインである。その結果は、主要評価項目である回復までの期間はレムデシビル群:11日、プラセボ群:15日、副次評価項目の患者死亡率はレムデシビル群:8.0%、プラセボ群:11.6%。この発表以降、報道が一気に過熱した。4月30日以降、一般紙では「肯定的な結果」「新型コロナ有望薬」などの見出しが躍った。これに加え、「特例承認」「緊急承認」などの見出しも次々に登場する。もちろん報道側にいる私もこうした報道になるのは、ある意味やむを得ないとは思う。ところが、一般読者は各紙の報道を繰り返し聞かされることで生じる「リフレイン効果」によって、脳内には「有望」「肯定」「特例」「緊急」といった断片的なキーワードが残る。結果として一般読者は「新型コロナに良く効く薬が(or だから)緊急承認される」と脳内で変換してしまう可能性がある。そして、今後は検査で陽性となった患者が重症度にかかわらず医療機関に「私にあのレムデシビルとかいう薬を投与してください」という問い合わせをする現象が起きる可能性がある。実際、免疫チェックポイント阻害薬であるオプジーボの原理を発見した本庶 佑氏のノーベル医学生理学賞の受賞決定時、医療機関ではオプジーボの投与を求める各種がんの患者から問い合わせが殺到しているからだ。医療機関がこうした患者の問い合わせで疲弊するという現象は想像に難くない。しかも今回の試験結果は非常に微妙な内容、突き詰めればCOVID-19による死を恐れる一般人の期待に応えきれるものでないことは医療従事者ならば先刻ご承知だろう。前述の臨床成績のうち統計学的有意差が認められたのは回復までの期間のみで、死亡率では有意差は認められていない。しかも、主要評価項目である回復までの期間ですらハードエンドポイントではなく、ソフトエンドポイントと言ってよい。加えてNIAIDの発表同日に中国の国立呼吸器疾患臨床研究センターのグループが237人の重症新型コロナ患者を対象に同じ手法でプラセボ対照比較試験の結果を「Lancet誌」に報告したが、こちらはレムデシビル群とプラセボ群で症状改善効果に有意差はないという結果になった。レムデシビルは現在も症例規模を拡大したフェーズIII試験が進行中であるため、このように書くと「やや辛口すぎる評価では?」という意見もあるだろう。だが、2群間の比較試験では症例規模を拡大すればするほど統計学的有意差が生じやすいのは周知のこと。今後、より症例規模の大きい試験で死亡率に統計学的有意差が認められたとしても、それは一般人が期待するような死亡率急低下につながるような差にはならないだろうと推定できる。現状、レムデシビルで見込める可能性のある効果とは、回復期間の短縮、すなわち患者の入院期間短縮を通じた病床不足への歯止めという点くらいである。これはその通りならば一定の意義はあるが、なかなか患者・一般生活者には伝わりにくい。レムデシビル登場が逆に現実と一般人の期待の板挟みになる医療従事者を増やすことになるかもしれない。「それは報道のせいだろう」とも言われてしまいそうだが、実は医療を担当する一般向けメディアの記者もその点は悩みなのだ。本連載の第3回でも書いたように記事内にアルファベットが出てくるだけで目を逸らすほど一般読者・視聴者は浮気な存在である。その彼らに「統計学的有意差」「ハードエンドポイント」「ソフトエンドポイント」という言葉は、かみ砕いても伝わりにくい。そんなことを伝えようとしようもなら新聞ならスポーツ面に、テレビならお笑い番組に飛ばされてしまう。しかも、紙面や放送時間には常に限りがあるので、かみ砕けばかみ砕くほどリソース不足となる。よく、一般では代表的な医療批判として「3時間待ち5分診療」が挙げられる。しかし、限られたリソースの中で患者を診察するうえではやむを得ないことは理解できる。そして実は報道する側も似たようなジレンマを常に抱えている。もっとも個人的にはその不可能をどこまで可能にするかの取り組みはやってみるつもりだが…。

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始まった感染症予防連携プロジェクト/日本感染症学会・日本環境感染学会

 新型コロナウイルス感染症の流行により、麻疹や風疹の被害が置き去りにされている中で、日本感染症学会(理事長:舘田 一博氏)と日本環境感染学会(理事長:吉田 正樹氏)は、国際的な同一目的で集合した多人数の集団(マスギャザリング)に向けて注意すべき感染症について理解を広げるWEBサイト「FUSEGU ふせぐ2020」をオープンした。 これは感染症対策に取り組む医学会、企業・団体が連携し、マスギャザリングでリスクが高まる感染症の理解向上と、必要な予防手段の普及を目標に感染症予防連携プロジェクトとして推進しているものである。 同サイトでは、マスギャザリングと感染症をテーマに、「学ぶ」「触れる」「防ぐ」の3 つの視点から情報をまとめている。理解を深めたい感染症として、第1弾は「麻疹」「風疹」「侵襲性髄膜炎菌感染症」を取り上げ、感染経路や予防手段などを紹介している。 具体的には「学ぶ」では対象感染症の症状や特徴、感染拡大の歴史などを紹介し、「触れる」ではアンケート調査、感染症カレッジ、市民公開講座などの情報発信を予定している。「防ぐ」では手指衛生、マスク、ワクチンなどの予防方法が記載されている。とくにワクチンでは、“what(ワクチンの目的)、who(接種すべき人)、when(いつ接種するか)、where(接種できる場所)”と分類されイラストとともにわかりやすく説明されている。 今後は市民を対象とした意識調査やイベントなど、感染症予防啓発のため実施するプログラムの詳細についても順次公開予定としている。

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HPVワクチン+検診で子宮頸がん撲滅可能−日本はまず積極的勧奨中止以前の接種率回復を(解説:前田裕斗氏)-1222

 子宮頸がんはヒトパピローマウイルス(HPV)の感染によって生じることがわかっている、いわば「感染症」の1つである。2018年のデータによれば全世界で約57万件の新規発生と約31万人の死亡が報告されており、女性において4番目に頻度の多いがんである。この子宮頸がんを予防するうえで最も効果的なのがHPVワクチンだ。当初はがんを起こしやすいHPV16、18を対象とした2価ワクチンのみであったが、現在では9価のワクチンが開発され、海外では主に使用されている。ワクチンの効果は高く、接種率の高い国ではワクチンの対応する型のHPVを73~85%、がんに進展しうる子宮頸部の異形成(中等度以上)を41~57%減少させたと報告されている。 今回の論文では数理モデルを用いて、どのような閾値をもって根絶と定義するか、根絶に至るのはいつなのか、どのくらいの死が避けられるのか、そして最も効果的でコスト面に優れた戦略はどのようなものかについて検討している。モデルの詳しい内容はさておき結果を把握することが大事だ。詳細は別記事に譲るが、重要な結果として、根絶の定義を新規発症が1年当たり4例/10万人未満とした場合、HPVワクチンの女性への投与のみでは中低所得国の約60%のみが達成できるのに対し、生涯に1回の検診を加えれば約96%、2回の検診を加えればほぼすべての国で子宮頸がんの根絶が可能であるということが挙げられる。また、HPVワクチンのみで根絶不可能な国は年齢調整した新規発症が1年当たり25例/10万人以上であった。こうした新規発症が多い国では、90%以上の接種率でないと根絶は難しいと本文中で述べられている。 日本では子宮頸がんの年齢調整罹患率は14.7例/10万人で、先進国の中では高いほうである。また、その推移は横ばいで、減少傾向にない。HPVワクチンの接種率についてはご存じのとおり副反応報道による積極的勧奨中止から1%未満にまで落ち込み、これからの回復が期待される。検診率は約42%であり、こちらもWHOが示す目標である70%以上(35、45歳で1回ずつ)には達していない。では、日本ではどの程度のワクチン接種率・検診率を目指せばよいだろうか。2020年2月にLancet Global Healthで報告された論文では、日本におけるHPVワクチンの接種率が、副反応報道による積極的勧奨中止以前の接種率である70%に速やかに回復し、検診率も最低1回を70%、2回を40%の人口が受けることで接種率の減少による2万4,600~2万7,300例の発生および5,000~5,700例の死亡のうち、1万4,800~1万6,200例の発生および3,000~3,400例の死亡を防ぐことができると報告されている。この報告からも示唆されるように、まずは積極的勧奨中止以前の水準へ回復するだけでも効果を期待できる。これからの接種率上昇に期待したい。

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