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肺炎球菌ワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第11回

ワクチンで予防できる疾患:肺炎球菌感染症肺炎球菌感染症とは肺炎球菌の感染による疾病の総称であり、肺炎、中耳炎、副鼻腔炎、髄膜炎などが含まれる。肺炎球菌は主に鼻腔粘膜に保菌され、乳幼児では40〜60%と高頻度に、成人ではおよそ3〜5%に保菌されている1)。感染経路は飛沫感染であり、小児の細菌感染症の主な原因菌の1つである。また、成人の市中肺炎の起因菌では38%と最も多い2)。肺炎球菌が髄液や血液などの無菌部位に侵入すると、菌血症を伴う肺炎、髄膜炎、敗血症などの侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal disease:以下「IPD」)を引き起こす。治療は抗菌薬投与および全身管理であるが、近年は薬剤耐性菌の出現も問題となっている3)。わが国の成人IPDの好発年齢は60~80代で4,5)、基礎疾患があることは発症や重症化のリスクとなる3,6)。65歳以上の成人(以下「高齢者」)の罹患率はおよそ5/10万人・年であり、致命率は6%台と高い1)。成人の肺炎球菌感染症とりわけIPDの発症や重症化の予防には、日常診療における基礎疾患の管理とともに肺炎球菌ワクチンの接種が重要である3,6)。ワクチンの概要肺炎球菌の病原因子の中で最も重要なものは、菌の表層全体を覆う莢膜である。この莢膜は多糖体からなり、97種類の型が報告されている3)。ある莢膜型の肺炎球菌に感染するとその型に対する抗体が獲得され、同じ型には感染しなくなるが、別の型には抗体がないため感染が成立し、発症する7)。そのため肺炎球菌による発症や重症化を予防するには、さまざまな莢膜型の抗体をあらかじめ獲得しておく必要があり7)、肺炎球菌ワクチンは莢膜多糖体を抗原としている。国内では以下の2つのワクチンが承認されているが、それぞれカバーする莢膜型の数や種類、免疫応答の方法などが異なる(表)。以下に2つのワクチンの特徴を述べる。1)23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)〔商品名:ニューモバックスNP〕23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(以下「PPSV23」)は、莢膜多糖体からなる不活化ワクチンで、23種類の莢膜型を有する。PPSV23接種による免疫応答では、T細胞を介さないため免疫記憶は獲得されず、B細胞の活性化によりIgG抗体のみが獲得される。IgG抗体は経年的に減弱し、減弱するとワクチン血清型の菌に対して予防効果は期待できなくなる3)。PPSV23の予防効果としては、接種により高齢者のワクチン血清型のIPDを39%減少させ8)、すべての肺炎球菌による市中肺炎を27.4%、ワクチン血清型の肺炎球菌による市中肺炎を33.5%減少させたと国内より報告されている9)。PPSV23は2006年に販売開始となり、2014年から5年間限定で65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳および100歳になる人を対象に定期接種となった。2019年度以降はさらに5年間の期限で、同年齢を対象に定期接種が継続されている10)。初回接種後の予防効果は3〜5年で低下する11)。再接種による予防効果について明確なエビデンスは報告されていないが、再接種後の免疫原性は初回接種時と同等であり、初回接種時と同等の予防効果が期待されている12)。また、再接種時の局所および全身性の副反応の頻度は初回接種時より高いことに注意が必要だが、いずれも軽度で許容範囲と考えられている12)。以上より症例によっては追加接種を繰り返してもよいと考えられ、接種後5年以上の間隔をおいて再接種することができる12)。2)沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)〔同:プレベナー13水性懸濁注〕沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(以下「PCV13」)は、莢膜多糖体に無毒化したジフテリア蛋白を結合させた蛋白結合型の不活化ワクチンで、13種類の莢膜型を有する。PCV13接種による免疫応答は、T細胞とB細胞を介している。まず、樹状細胞に抗原が提示されてT細胞の活性化を誘導する(T細胞依存型)。ついで活性したT細胞とB細胞の相互作用によりB細胞が活性化する。その後、形質細胞によるIgG抗体の産生とメモリーB細胞による免疫記憶が獲得される。そのため記憶された莢膜型の菌が侵入すると速やかにIgG抗体産生能が誘導(ブースター効果)され免疫能が高まる3)。小児に対する7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)は2010年より販売開始となり、同年に接種費用の公費助成が開始された。2013年4月より定期接種となり、同年11月よりPCV13に切り替えられた。予防効果として、PCV7・PCV13の導入により小児のIPD、とくに髄膜炎は87%も激減したと報告されている4)。一方、2014年より高齢者に対しても適応が拡大され、任意接種することが可能となった。PCV13接種により高齢者のワクチン血清型のIPDを47〜57%減少させ、ワクチン血清型の肺炎(非侵襲型)を38〜70%、すべての原因の肺炎を6〜11%減少させたとの予防効果が諸外国より報告されている13)。さらに2020年5月からは、高齢者のみならず全年齢に適応が拡大され、全年齢の「肺炎球菌感染症に罹患するリスクが高い人」に接種が可能となった。また、PCV13接種には集団免疫効果が認められており、小児へのPCV7およびPCV13接種の間接効果(集団免疫)により、成人IPD症例のPCV13血清型(莢膜型)は劇的に減少した3)。その一方で、PCV13に含まれない血清型が増加するなど血清型置換が報告されている3)がこの問題は後述する。表 肺炎球菌ワクチン(PPSV23とPCV13)の比較画像を拡大する接種のスケジュール1)23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)〔商品名:ニューモバックスNP〕【定期接種】これまでにPPSV23を1回も接種したことがなく、以下(1)(2)にあてはまる人は定期接種として1回接種できる。(1)2019年度から2023年度末までの5年間限定で65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳および100歳になる人。なお、2023年度以降は65歳になる年度に定期接種として1回接種できる見込みである。(2)60〜64歳で、心臓、腎臓、呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限されている人。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)で免疫機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な人。【任意接種】2歳以上で上記以外の人。接種後5年以上の間隔をおいて再接種することができる12)。2)沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)〔同:プレベナー13水性懸濁注〕【定期接種】小児(2ヵ月以上5歳未満)以下のように接種開始時の月齢・年齢によって接種間隔・回数が異なることに注意する。(〔1〕1回目、〔2〕2回目、〔3〕3回目、〔4〕4回目)[接種開始が生後2ヵ月~7ヵ月に至るまでの場合(4回接種)]〔1〕〔2〕〔3〕の間は 27 日以上(27~56日)、〔3〕〔4〕の間は 60日以上の間隔をあけて(12~15ヵ月齢で)接種する 。[接種開始が生後7ヵ月~12ヵ月に至るまでの場合(3回接種)]〔1〕〔2〕の間は 27日以上(27~56日)、〔2〕〔3〕の間は 60日以上の間隔をあけて(12ヵ月齢以降で)接種する。[接種開始が12ヵ月~24ヵ月に至るまでの場合(2回接種)]〔1〕〔2〕の間は 60日以上の間隔をあけて接種する。[接種開始が24か月-5歳の誕生日に至るまでの場合(1回接種)]1回のみ接種する。【任意接種】5歳以上の罹患するリスクが高い者:1回1回のみ接種する。日常診療で役立つ接種ポイント1)PPSV23の推奨(1)2歳以上の脾臓を摘出した患者肺炎球菌感染症の発症予防として保険適用されるが、より確実な予防のためには摘出の14日以上前までに接種を済ませておくことが望ましい。(2)2歳以上の脾機能不全(鎌状赤血球など)の患者(3)高齢者(4)心臓や呼吸器の慢性疾患、腎不全、肝機能障害、糖尿病、慢性髄液漏などの基礎疾患がある患者(5)免疫抑制作用がある治療が予定されている患者。治療開始の14日以上前までに接種を済ませておくことが望ましい。2)PCV13の推奨(1)乳幼児(生後2ヵ月~5歳未満:定期接種)IPDは、とくに乳幼児でリスクが高く、5歳未満の致命率はおよそ1%と報告され14)、後遺症を残す危険性もある。そのため乳児であっても、接種が可能となる生後2ヵ月以上ではワクチン接種をされることを強く勧める。(2)基礎疾患がある5〜64歳の人2017年時点のIPDの致命率は、6〜44歳で6.2%、45〜64歳で19.5%と高く、基礎疾患を有することがリスクとなることが報告されている6)。基礎疾患(先天性心疾患、慢性心疾患、慢性肺疾患、慢性腎疾患、慢性肝疾患、糖尿病、自己免疫性疾患、神経疾患、血液・ 腫瘍性疾患、染色体異常、早産低出生体重児、無脾症・脾低形成、脾摘後、臓器移植後、髄液漏、人工内耳、原発性免疫不全症、造血幹細胞移植後など6,15)がある人には、本人・保護者と医師との話し合い(共有意思決定)に基づいてワクチン接種をされることを勧める。詳しくは「6歳から64歳までのハイリスク者に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方」(2021年3月17日)を参照。(3)基礎疾患がある高齢者、高齢者施設の入所者 基礎疾患(慢性的な心疾患、肺疾患、肝疾患、糖尿病、アルコール依存症、喫煙者など)がある高齢者では、本人・家族と医師との話し合い(共有意思決定)に基づいてワクチン接種することを勧める11)。とくに、髄液漏、人工内耳、免疫不全(HIV、無脾症、骨髄腫、固形臓器移植など)の患者には接種を勧める11)。高齢者施設の入所者も医師と相談して接種することを勧める11)。3)高齢者に対するPPSV23とPCV13の接種に関する考え方これまで高齢者に対するPPSV23とPCV13の接種について国内外で議論されてきたが、現時点での日本呼吸器学会・日本感染症学会の合同委員会による「考え方」16)を紹介する。【PPSV23未接種者に対して】(1)まず定期接種としてPPSV23の接種を受けられるようにスケジュールを行う。(2)PPSV23とPCV13の両方の接種をする場合には(1)を考慮しつつPCV13→PPSV23の順番で接種し、PCV13接種後6ヵ月〜4年以内にPPSV23を接種することが適切と考えられている。この順番の利点は、成人ではPCV13接種後に、被接種者に13の血清型の莢膜抗原特異的なメモリーB細胞が誘導され、その後のPPSV23接種により両ワクチンに共通した12の血清型に対する特異抗体のブースター効果が期待されることである。ただし、この連続接種については海外のデータに基づいており、日本人を対象とした有効性、安全性の検討はなされていない。【PPSV23既接種者に対して】PPSV23接種から1年以上あけてからPCV13接種を行う。詳細は以下の図1と「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第3版)」を参照。図1 65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方(2019年10月)(日本感染症学会/日本呼吸器学会 合同委員会)画像を拡大する今後の課題・展望小児へのPCV7およびPCV13接種の間接効果(集団免疫)により、成人IPD症例のPCV13血清型(莢膜型)は劇的に減少したが、一方でPCV13に含まれない血清型が増加し、血清型置換が報告されている3)(図2)。図2 小児へのPCVs導入後のIPD由来株の莢膜型変化画像を拡大する2018年の厚生労働省の予防接種基本方針部会では、国内のIPDや肺炎原因菌の血清型分布などを検討しPCV13を高齢者に対する定期接種に指定しないと結論された17)。また、米国予防接種諮問委員会(ACIP)において、PPSV23はこれまで同様に推奨されたが、小児へのPCV13定期接種の集団免疫効果により高齢者の同ワクチン血清型の感染が劇的に減少したことから費用対効果も考慮し、高齢者へのPCV13の定期接種や一律のPCV13-PPSV23の連続接種は推奨しない方針に変更され、患者背景を考慮してPCV13接種を推奨することとされた13)。PCV13は高齢者の定期接種には指定されていないものの、接種しないことが勧められているわけではなく、その効果や安全性は確認されており13)、患者背景を考慮して接種する必要があることに注意する。とくに基礎疾患がある高齢者、高齢者施設の入所者には積極的に接種を勧めたい。また、2016年時点の高齢者のPPSV23接種率は40%ほど1)に留まっており、接種率のさらなる向上が必要である。基礎疾患を有することはIPDの重症化のリスクであり、日常診療における基礎疾患の管理とともに、適切にPPSV23やPCV13の接種を勧め、被接種者と共有意思決定を行い(shared decision making)、接種を実施し患者や地域住民をIPDから守りたい。わが国では成人IPDの調査・研究に限界があるが、前述の通りIPD症例の莢膜型の変化が報告4)されており、将来的にはさらに多くの血清型をカバーするワクチンやすべての肺炎球菌に共通する抗原をターゲットとした次世代型ワクチンの開発が望まれ、今後の動向にも注目したい3,6,18)。参考となるサイト(公的助成情報、主要研究グループ、参考となるサイト)1)23 価肺炎球菌莢膜ポリサッカライド ワクチン(肺炎球菌ワクチン) ファクトシート. 平成30(2018)年5月14日.国立感染症研究所.2)13価肺炎球菌コンジュゲートワクチン(成人用)に関するファクトシート. 平成27年7月28日.国立感染症研究所. 3)65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第3版 2019-10-30)日本呼吸器学会呼吸器ワクチン検討WG委員会/日本感染症学会ワクチン委員会・合同委員会4)「6歳から64歳までのハイリスク者に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方」(2021年3月17日).日本呼吸器学会呼吸器ワクチン検討委員会/日本感染症学会ワクチン委員会/日本ワクチン学会・合同委員会.5)こどもとおとなのワクチンサイト1)国立感染症研究所. 23 価肺炎球菌莢膜ポリサッカライド ワクチン(肺炎球菌ワクチン) ファクトシート. 平成30(2018)年5月14日. 2018.(2021年8月9日アクセス)2)Yoshii Y, et al. Infectious diseases. 2016;48:782-788.3)生方公子,ほか. 肺炎球菌感染症とワクチン. 2019.(2021年8月10日アクセス)4)Ubukata K, et al. Emerg Infect Dis. 2018;24:2010-2020.5)Ubukata K, et al. J Infect Chemother. 2021;27:211-217.6)Hanada S, et al. J Infect Chemother. 2021;27:1311-1318.7)生方公子, ほか. 肺炎球菌. 重症型のレンサ球菌・肺炎球菌感染症に対するサーベイランスの構築と病因解析、その診断・治療に関する研究.(2021年8月10日アクセス)8)新橋玲子, ほか.成人侵襲性肺炎球菌感染症に対する 23 価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチンの有効性. 2018; IASR 39:115-6.(2021年8月10日アクセス) 9)Suzuki M, et al. Lancet Infect Dis. 2017;17:313-321.10)厚生労働省. 第27回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会 資料. 2019.(2021年8月10日アクセス)11)World Health Organization. Releve epidemiologique hebdomadaire. 2008;83(42):373-384.12)肺炎球菌ワクチン再接種問題検討委員会. 肺炎球菌ワクチン再接種のガイダンス(改訂版). 感染症誌. 2017;9;:543-552.(2021年8月10日アクセス)13)Matanock A, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2019;68:1069-1075.14)国立感染症研究所. 資料3 13価肺炎球菌コンジュゲートワクチン(成人用)に関するファクトシート. 平成27年7月28日. 第1回厚生科学審議会予防接種・ワクチン文科会予防接種基本方針部会ワクチンに関する小委員会資料. 2015.(2021年8月9日アクセス)15)日本呼吸器学会呼吸器ワクチン検討委員会/日本感染症学会ワクチン委員会/日本ワクチン学会・合同委員会. 「6歳から64歳までのハイリスク者に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方」(2021年3月17日). (2021年8月9日アクセス)16)日本呼吸器学会呼吸器ワクチン検討WG委員会/日本感染症学会ワクチン委員会・合同委員会. 65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第3版 2019-10-30). 2019.(2021年8月9日アクセス)17)厚生労働省. 第24回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会 資料 2018.(2021年8月9日アクセス)18)菅 秀, 富樫武弘, 細矢光亮, ほか. 13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)導入後の小児侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の現状. IASR Vol. 39 p112-113. 2018.(2021年8月10日アクセス)講師紹介

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第90回 オミクロン株そのものを使った実験でワクチン追加接種の効果を確認

Pfizer(ファイザー)/BioNTech(ビオンテック)の1週間ほど前の発表1,2)に続き、Reutersが報じたイスラエルでの研究でも両社の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンBNT162b2追加接種がどうやらオミクロン(Omicron)株に有効らしいことが示されました。BNT162b2を2回接種の人の血液はオミクロン株を全く中和できませんでしたが、3回目接種は中和活性を100倍ほど高めたとイスラエルのSheba Medical CenterのGili Regev-Yochay氏が先週土曜日11日に記者会見で発表しました3)。Regev-Yochay氏は同病院の感染症部門を率いています。その発表の3日前の8日水曜日に発表されたPfizer/BioNTechの研究1)によると、BNT162b2の2回接種を済ませた人の血清のオミクロン株に対する中和効果は著しく弱く、他のSARS-CoV-2株に対する中和活性の25分の1未満ほどでしかありませんでした。しかし3回目接種をした人のオミクロン株スパイクタンパク質に対する中和抗体活性は2回接種後に比べて25倍高く、3回接種後のオミクロン株中和活性は2回接種後の非オミクロン株中和活性に肩を並べるほどになると示唆されました。Pfizer/BioNTechとイスラエルの研究はどちらもオミクロン株への3回接種の効果を示すものですが中身が少し違っています。Pfizer/BioNTechの研究ではオミクロン株そのものではなくオミクロン株の変異を仕込んだ代理ウイルス(pseudovirus)が使われました3)。一方、イスラエルの研究はBNT162b2を2回接種してから5~6ヵ月経つ人と3回目接種してから間もない(1ヵ月後)人の血液のオミクロン株そのものへの効果を比較しており、オミクロン株そのものを使ったぶん実態により即しているようです。2回接種群と3回接種群の人数はどちらも20人です。ともあれBNT162b2の3回接種がオミクロン株に有効らしいことが2つの異なる研究で示されたことは頼もしい限りです。BNT162b2を3回接種すればオミクロン株からより確実に身を守れるとPfizerのCEO・Albert Bourla氏は言っています1)。米国の感染症対策の本丸・国立アレルギー感染症研究所(NIAID)を率いるAnthony Fauci(アンソニー・ファウチ)氏もBourla氏と似た考えのようです。ニュースのインタビューでファウチ氏は追加接種が最善(optimal care)であり4)、引き続き検討が必要ではあるもののオミクロン株に特化したワクチンを揃える必要はないかもしれないと言っています5)。米国でのオミクロン株感染は概ね軽症で済んでいる米国でのオミクロン株感染は初出の12月1日から1週間後8日までに22州で確認されています。経過が一通り判明しているそれらオミクロン株感染者43人を調べたところ多くがワクチン接種済みでしたが、幸いなことに概ね軽症で済んでおり、1人が2日間の入院を要したものの誰も死には至っていません6-8)。43人のうち34人(79%)はワクチン接種済みで、およそ3人に1人(14人)は追加接種済みでもありました。咳(89%;33人)、疲労感(65%;24人)、鼻水/鼻詰まり(59%;22人)を多くが呈し、他に発熱(38%;14人)、悪心嘔吐(22%;8人)、息切れ/呼吸困難(16%;6人)、下痢(11%;4人)、味覚や嗅覚の消失(8%;3人)が認められました6)。最も早い発症日は11月15日でした。検体採取からウイルス配列判明まで2~3週間を要したことから11月遅くに発生したオミクロン株感染の同定が近々続くだろうと著者は言っています。参考1)Pfizer and BioNTech Provide Update on Omicron Variant / BUSINESS WIRE2)ファイザー製コロナワクチン、3回接種でオミクロン株にも効果 / ケアネット3)Israeli study finds Pfizer COVID-19 booster protects against Omicron / Reuters4)Fauci says three shots of COVID-19 vaccine is 'optimal care' / Reuters5)Fauci says Omicron-specific version of Covid-19 vaccines may not be necessary / STAT6)CDC COVID-19 Response Team. MMWR. Morbidity and Mortality Weekly Report.2021 December 10 [Epub ahead of print]7)Most reported U.S. Omicron cases have hit the fully vaccinated -CDC / Reuters8)Early U.S. Omicron Cases Caused Mild Illness in Vaccinated / Bloomberg

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コロナ抗原定性検査の種類・活用方法を患者さんに聞かれたら/臨薬協など

 「ワクチン・検査パッケージ」ではPCR検査や抗原定量検査が推奨されているが、抗原定性検査の利用も可能とされ、9月からは薬局での販売も解禁されている。しかし、抗原定性検査は鼻腔ぬぐい液の採取が必要で使用に難しさがある点や、精度と活用方法を理解したうえでの使用が求められる点、未承認のキットも販売されている点など、課題も多い。日本臨床検査薬協会(臨薬協)は11月、抗原定性検査キットの適正な使用を促進し感染制御に資することを目的として、臨床検査振興協議会による一般消費者向けの啓発資料「医療用(体外診断用医薬品)抗原定性検査キットとは?」のウェブサイト掲載を受けて、ホームページ上で抗原定性検査キットの種類を「新型コロナウイルス感染症の医療用抗原簡易キット一覧」で公開している。抗原定性検査の結果=診断ではないことを理解してもらう必要 政府の新型コロナウイルス感染症対策本部では、制度開始にあたり公開した「ワクチン・検査パッケージ制度要綱」の中で、無症状者に対する抗原定性検査は、確定診断としての使用は推奨されないが、無症状者の感染者のうちウイルス量が多いものを発見することにより、事前に PCR 検査等を受検することができない場合にも対応する観点から、場の感染リスクを下げうるとの考え方に基づき、利用可能としている。 また、抗原定性検査の実施方法について詳細・留意点をまとめた「ワクチン・検査パッケージ制度における抗原定性検査の実施要綱」では、飲食店やイベント主催者等が抗原定性検査を実施する際は、担当者の研修受講や陽性者が出た場合の紹介先としての医療機関との連携を求めているほか、結果は、あくまでもワクチン・検査パッケージ制度においてのみ用いられるものであり、受検者が新型コロナ感染者の患者であるかどうかの診断には用いることができないと明記されている。抗原定性検査キットの購入から廃棄までの留意点をQ&Aで説明 臨床検査振興協議会による一般消費者向けの啓発資料「医療用(体外診断用医薬品)抗原定性検査キットとは?」では、キットの購入から検査実施とその後の対応、さらに使用済キットの廃棄までのプロセスにおいて留意すべき点を、イラストを用いながら解説している。設けられている8つのQは以下の通り:Q1医療用の抗原定性検査キットが薬局で買えるようになったと聞いたけど、抗原定性検査キットって何ですか?Q2抗原定性検査ってPCR 検査と何が違うの?Q3薬局には、「研究用」と書いてある検査キットも売っているけど「医療用」とは何が違うの?Q4薬局で普通に買えるの?Q5「医療用」の検査キットを買ってきました。でも、テレビで見たものと違うみたい…大丈夫なのかな?Q6なんだかインフルエンザの時の検査みたいですね。鼻の奥をぐりぐりされて痛かった記憶があるけど、自分で出来るか不安です。Q7結果が出たけど、どうしたらよいの?Q8検査キットは普通に捨ててよいの?抗原定性検査キットで製造販売承認を取得している製品を一覧化 「新型コロナウイルス感染症の医療用抗原簡易キット一覧」では、2021年11月17日時点で製造販売承認を取得している抗原定性検査キット16製品について一覧化して示している。それぞれの抗原定性検査キットで少しずつ使い方が異なっていることから、うちいくつかの製品については、各社のキットの使用上の注意点に関する動画等が閲覧できるサイトへのリンクが貼られている。

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コロナワクチン3種の有効性、流行株で変化?/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するBNT162b2(Pfizer/BioNTech製)、mRNA-1273(Moderna製)、Ad26.COV2.S(Janssen/Johnson & Johnson製)の3種類のワクチンの有効性は、デルタ変異株が優勢になるに伴ってやや低下したものの、COVID-19による入院に対する有効性は高いまま維持されていた。ただし、65歳以上でBNT162b2またはmRNA-1273ワクチン接種者に限ってみると、COVID-19による入院に対する有効率はわずかに低下していたという。米国・ニューヨーク(NY)州保健局のEli S. Rosenberg氏らが、同州データベースを用いた前向きコホート研究の解析結果を報告した。FDAが承認した3種類のCOVID-19ワクチンの有効性に関する、米国の地域住民を対象としたデータは限られており、ワクチンの有効性の低下が、免疫の減弱、デルタ変異株または他の原因に起因するかどうかについても不明であった。著者は、「今回の結果は、COVID-19患者を減少させるためには、予防行動に加えてワクチンが引き続き有効であることを支持するものである」とまとめている。NEJM誌オンライン版2021年12月1日号掲載の報告。NY州869万人における3種類のワクチンの有効性を検証 研究グループは、NY州における4つのデータベース(CIR、NYSIIS、ECLRS、HERDS)※を連携して、同州居住18歳以上の成人869万825例を対象とするコホートを構築し、BNT162b2、mRNA-1273およびAd26.COV2.Sワクチンの有効性を評価した。 評価項目は、2021年5月1日~9月3日における検査で確認されたCOVID-19に対するワクチンの有効性、ならびに2021年5月1日~8月31日におけるCOVID-19による入院(入院時または入院後にCOVID-19と確定診断)に対するワクチンの有効性で、接種したワクチンの種類、年齢、ワクチン接種完了月に準じて定義したコホートと、年齢別のワクチン未接種コホートを比較した。※CIR(Citywide Immunization Registry):NY市居住者のCOVID-19ワクチン接種に関する全データ、NYSIIS(New York State Immunization Information System):NY州およびその他の地域のCOVID-19ワクチン接種に関するデータ、ECLRS(Electronic Clinical Laboratory Reporting System):NY州のすべてのCOVID-19検査結果、HERDS(Health Electronic Response Data System):NY州内全入院施設の日次電子調査(COVID-19の診断が確認された人の全新規入院に関するデータ日次新型コロナ入院データを収集)2021年5月~8月に、3種類すべてで有効性が低下 対象期間中に、COVID-19は15万865例、COVID-19による入院は1万4,477例確認された。 流行中の変異株に占めるデルタ変異株の割合が1.8%だった2021年5月1日の週において、COVID-19に対する有効率中央値は、BNT162b2で91.3%(範囲:84.1~97.0)、mRNA-1273で96.9%(93.7~98.0)、Ad26.COV2.Sで86.6%(77.8~89.7)であった。 その後、有効率は全コホートで同時に低下し、全体の有効率中央値は5月1日の週の93.4%(範囲:77.8~98.0)から、デルタ変異株が85.3%を占めた7月10日頃には73.5%(13.8~90.0)、デルタ変異株が99.6%を占めた8月28日の週には74.2%(63.4~86.8)となった。 一方、COVID-19による入院に対する有効率は、18~64歳では明らかな経時変化はみられず、ほぼ86%以上で維持されていた。65歳以上では、BNT162b2またはmRNA-1273は5月から8月にかけて有効率が低下し(それぞれ94.8%→88.6%、97.1→93.7%)、Ad26.COV2.Sは経時的な変化はないものの他のワクチンよりも有効率が低かった(範囲:80.0~90.6%)。

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第87回 生物兵器の道理で考えるとぞっとする!?オミクロン株軽症者を軽視するリスク

先週触れた新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)のオミクロン株の感染者は、NHKのまとめたデータによると、8日18:30時点で世界53ヵ国・地域で検出され、日本国内でもすでに4例目が確認されている。先週の段階では南アフリカ(以下、南ア)で感染の主流がデルタ株からオミクロン株に移行しつつあったことから、感染力はデルタ株より強いことが示唆されるのではないかと触れたが、その可能性は先週よりも高まっていると言えそうだ。「8割おじさん」こと西浦 博氏(京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻教授)が12月8日に開催された厚生労働省の第62回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードに提出した資料によれば、南アのハウテン州での報告をベースにしたオミクロン株の実効再生産数はデルタ株の4.2倍だという。もっともこれはウイルスの素の感染力である基本再生産数ではなく、報告バイアスの可能性はすべて拭い切れていないことや、ワクチン接種歴や年齢などを加味できていないデータであること、南アのワクチン接種率は30%未満でワクチンより抗体価が低い自然感染での免疫獲得者が多い状態だったことなどが研究の限界として存在したことを西浦氏自身が指摘している。とはいえ、これまでデルタ株主流だった世界各国でオミクロン株の市中感染報告が増加している現状を考えれば、やはりデルタ株を超える感染力の強さという可能性はかなり濃厚と言える。その一方で、あくまで現時点の感染者の多くが無症候、軽症で、野生株や既存の変異株と比べて重症化リスクが上昇している可能性が見えていないことはやや好材料である。もっともこれも現時点での推測に過ぎない。ただ、そのためか「全世界からの外国人入国をストップさせている『鎖国政策』はやり過ぎではないか?」との意見がちらほら出ている。しかし、現時点では私はやむを得ないと思っている。この件は前回も簡単には触れたが、そもそも感染者が無症候、軽症だから気にしなくていいというのはやや極論に過ぎる。重症化リスクが高まっていないとしても、従来株ですら20%は重症化するのだから、感染力が強い可能性があるオミクロン株が流入すれば、日本国内でも大量の市中感染を産み出し、その結果、一定数の重症者が発生してしまう。しかも、現在の日本国内は、高齢者や基礎疾患保有者という重症化リスクの高い人の抗体価が低下し、3回目接種のスタンバイ状態となっている時期である。つまり、今が最もブレークスルー感染リスクが高まっている時期とも言える。加えて新型コロナをインフルエンザと同等に扱えるだけの対処手段はまだ乏しく、それは今申請中の新型コロナの経口治療薬であるモルヌピラビルが承認を受けても劇的に変化するとは断言し切れない。結果としてオミクロン株の流入とそれに伴う感染者の増加は、まだ仮縫いの新型コロナ医療体制を再び逼迫させる恐れがある。百歩譲ってオミクロン株感染者がほとんど重症化しないとしても、流入して感染が広がれば問題は多くなると感じている。そう思うのは、私が過去に共著ながら生物兵器テロに関する新書を執筆した際にお会いした、ある生物兵器の専門家が言っていた一言をふと思い出したからでもある。私はこの専門家にお会いした時、次のような質問を投げかけた。「ベネズエラウマ脳炎ウイルスなんて生物兵器として使えるんですか?」ベネズエラウマ脳炎ウイルスは、トガウイルス科アルファウイルス属に属するウイルスで人獣共通感染症を引き起こす。感染力が強く、10~100個のウイルスでも感染が成立し、ヒトでは2~5日間の潜伏期間を経て発熱・頭痛・筋肉痛などのインフルエンザ様症状が起こる。感染者の約1~3%が脳炎を発症し、そうした人の10~20%が死亡する。生物兵器の候補としてよく書籍や文献に登場するのだが、最終的な感染者の致死率は計算上0.1~0.6%と必ずしも高くない。私としては「その程度の致死率の低いウイルスが生物兵器として効果があるのか?」 という意味で、この専門家に質問したのだった。それに対するこの方の答えは次のようなものだった。「そりゃ致死率が高いもののほうが生物兵器としての効果が高いようにも思えますよね? でも必ずしもそうとは言えない。おおむね致死率が高い病原体は、感染力は低い。また、そうした病原体を生物兵器にすると、開発・使用する側もその過程で感染リスクを負う。これに対し、ベネズエラウマ脳炎ウイルスは開発・使用する側のリスクは低い。敵国に使う際の効果は、確かに殺傷能力という意味では低いが、感染力が強いため、一旦放出されれば次から次に敵側の戦闘員が感染してダラダラと発熱の症状が続いて戦闘能力が大幅に奪われる。感染が民間人に及べば、軍事力を底から支える敵国の経済が低迷し、敵国の継戦能力は軍事力と経済力の双方から削がれる。こう考えると実は最も生物兵器としては利用価値があるとも言える」さすがにこの回答には「なるほど」と唸ってしまった。ここで話をオミクロン株に戻そう。まさに感染力が強く重症化しにくい可能性があるオミクロン株は、ベネズエラウマ脳炎ウイルスと通じるものがある。そしてこのコロナ禍を契機に日本社会全体にようやく「風邪も含め、感染症が疑われる時は無理せず休もう」というごく当たり前の概念が定着しつつある。「風邪でも休めないあなたに…」といったCMコピーはもはや非常識と言い切ってもいい社会環境だ。とすると、オミクロン株による感染者がほぼ軽症か無症候だったとしても、感染者が激増すれば社会全体が経済活動の大幅な縮小を強いられることになる。そうなればようやく感染状況が落ち着いて再開されつつある経済への打撃はいかばかりだろうか? 「感染しても軽症だから」という思考は、社会全体が長らく続くコロナ禍で疲弊しすぎた故の副作用なのかもしれないが、SNSを中心にこの手の発言が比較的著名な言論人から出てくることには危惧の念しかないのである。

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ファイザー製コロナワクチン、3回接種でオミクロン株にも効果

 米国・ファイザー社は、12月8日に発表したプレスリリースで、現在拡大が懸念されているオミクロン株に対する同社の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの効果を調べた研究結果を公表した。それによると、初回接種(2回)では、野生株と比べ、オミクロン株に対する中和抗体力価が大幅な減少を示し、オミクロン株への保護効果が十分ではない可能性があるという。ただ、3回目の追加接種により、従来株と同等の効果が得られることも示された。同社は、より多くの人がまずは初回接種を完遂すると共に、COVID-19拡大防止には追加接種が必要であるとしている。 今回公表したのは予備的な実験データの段階だが、初回接種までの中和抗体力価は、野生株や従来の変異株などに比べ、オミクロン株に対しては有意に減少していたが、3回目の追加接種により、初回接種の25倍まで増強され、従来株並みの高い保護レベルが観察されたという。ファイザー社は、「初回接種によるコロナ重症化予防には引き続き有用だが、追加接種によりオミクロン株も含めたより高い予防効果が得られる可能性がある」とし、各国で進められている追加接種が、引き続きCOVID-19拡大防止に対する最善策であるとの見解を示した。 同社では、追加接種後のオミクロン株に対する中和抗体の持続性などを検討するため、さらにデータ収集を進めることにしている。

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医師が選ぶ「2021年の漢字」TOP5を発表!【CareNet.com会員アンケート】

毎年12月に発表される「今年の漢字」(主催:日本漢字能力検定協会)に先立ち、CareNet.com会員の先生方にも今年の漢字を選んでいただきました! 皆さんは、今年1年の世相を漢字1文字で表すとしたら、何を思い浮かべますか?それでは、医師に選ばれた「2021年の漢字」TOP5を発表します。イラスト内の漢字は、日本習字高等師範免許を持つケアネット社員による書き下ろしです!第1位「禍」第1位は、第2位と倍の差をつけた「禍」。2021年も、昨年に続き新型コロナウイルス感染症の影響が色濃い1年でした。医療現場にとっての第5波は、東京オリンピックよりも大きいインパクトだったようです。来年こそは、平穏な日常を取り戻したいですね。「禍」を選んだ理由(コメント抜粋)コロナ禍という一言に尽きると思う。(60代 整形外科/大阪)コロナ第5波が印象に残っているから。(30代 消化器内科/東京)まだまだコロナの影響が根強いため。(40代 内科/福岡)コロナに巻き込まれ、国も自治体も、個人も人生がかき回された1年だった。(30代 心臓血管外科/大分)コロナによる医療崩壊や度重なる自然災害など禍が絶えない年でした。(50代 泌尿器科/岩手)第2位「輪」第2位にランクインした「輪」は、1年遅れで開催された東京オリンピック・パラリンピックを連想させます。五輪の「輪」だけでなく、世界や人とのつながりを感じたという趣旨のコメントも多数寄せられました。開催には賛否両論ありましたが、無事に閉会でき安堵した方も多かったのではないでしょうか。同じく五輪から連想される「金」や「五」と答えた方もいらっしゃいました。 「輪」を選んだ理由(コメント抜粋)五輪があったとともに、「人の輪」を再認識したから。(30代 糖尿病・代謝・内分泌内科/京都)オリンピック。ワクチン接種が世界各国で行われており世界の輪を感じたから。(30代 精神科/茨城)諸外国と比較しまずまずの感染水準で東京オリンピック、パラリンピックを遂行できたため。記念すべきイベントだったと思います。(30代 耳鼻咽喉科/東京)激動の時代だったと思うがそこからの回復、復興をしている皆の協力をもっての輪、オリンピックの輪。(40代 麻酔科/静岡)■第3位「耐」第3位は「耐」でした。長らく続いた緊急事態宣言による大型商業施設や飲食店の休業、移動制限など、全国民が我慢を強いられた1年でした。医療従事者はさらに第5波への対応やワクチン接種業務などもあり、耐えに耐え抜いた年だったことと思います。1年間本当にお疲れさまでした。 「耐」を選んだ理由(コメント抜粋)2020年に続き、コロナウイルスのために耐える1年だった。(50代 内科/茨城)なかなか収束しない感染状況、自粛生活に耐え、勤務先でも急な退職が相次ぎ、業務増加に耐え…と耐える1年だった。(40代 精神科/熊本)生活、仕事のさまざまな局面で自粛を求められ、耐える一年であったから。(40代 消化器内科/茨城)第4位「忍」第4位の「忍」は、コメントにもあるように、「耐え忍んだから」という理由で選んだ方が多かったようです。とくに医療従事者の皆さんは我慢を強いられる場面も少なくなかったことでしょう。新たな変異株が現れ、先行きが不透明な状況ではありますが、年末年始は少しでも気の休まる時間が取れるとよいです。 「忍」を選んだ理由(コメント抜粋)コロナで国民みんなが耐え忍んだ年だから。(40代 内科/新潟)県外への移動禁止、3密回避など、我慢の一年だったから。(30代 その他診療科/静岡)コロナ禍も2年目となり、オリンピックや選挙などもあったが、大きな混乱もなくさまざまな社会活動を行えるようになっているのは、大勢の人々の忍耐力によるものだったと思う。(50代 麻酔科/兵庫)第5位「乱」第5位は、過去にも何度か登場している「乱」でした。コロナによる世の中や生活の「混乱」を連想した方が多かったようです。来年こそは、落ち着いた気持ちで過ごしたいものですね。同様の理由で「混」を選んだ方もいらっしゃいました。 「乱」を選んだ理由(コメント抜粋)コロナ、政治などいろいろなところで混乱があったから。(30代 泌尿器科/神奈川)新型コロナですべてが乱されたから。(50代 内科/埼玉)自分の生活が目まぐるしく変化して乱れた。(40代 呼吸器内科/大阪)これまで未経験な事態が重なった。(40代 循環器内科/東京)アンケート概要アンケート名『2021年振り返り企画!今年の漢字と印象に残ったオリパラ選手をお聞かせください』実施日   2021年11月15日~21日調査方法  インターネット対象    CareNet.com会員医師有効回答数 1,059件

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mRNAワクチン後24週間の感染リスク、ワクチンで差はあるか/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のmRNAワクチン、「BNT162b2」(Pfizer-BioNTech製)または「mRNA-1273」(Moderna製)を接種後24週間の感染リスクは4.5~5.8件/1,000人と低率であることが、米国・ハーバード公衆衛生大学院のBarbra A. Dickerman氏らによる、ワクチン接種済み米国退役軍人約44万人のデータの解析で明らかにされた。リスクは、BNT162b2よりもmRNA-1273で低く、こうした情勢はアルファ変異株、デルタ変異株が優勢だった時期にかかわらず一貫していたという。mRNAワクチンはCOVID-19に対して90%以上の効果があることが示されていたが、多様な集団におけるさまざまなアウトカムについて有効性の比較は行われていなかった。NEJM誌オンライン版2021年12月1日号掲載の報告。リスク因子に応じ、各ワクチン接種者を1対1でマッチングし追跡評価 研究グループは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)B.1.1.7変異株(アルファ株)が猛威を振るっていた2021年1月4日~5月14日にかけて、「BNT162b2」または「mRNA-1273」の初回接種を受けた米国退役軍人を対象に、電子健康記録を基に分析を行った。 接種者のリスク因子に応じて、各ワクチン接種者を1対1でマッチングし追跡評価した。アウトカムは、記録されたSARS-CoV-2感染、症候性COVID-19、COVID-19による入院やICUへの入室および死亡で、Kaplan-Meier推定量を用いてリスクを推算した。 また、B.1.617.2変異株(デルタ株)の影響を評価するため、別途2021年7月1日~9月20日にワクチン接種を受けた退役軍人を対象に試験を行った。感染、発症、入院リスクはBNT162b2接種群よりmRNA-1273接種群で低い 「BNT162b2」または「mRNA-1273」の接種者それぞれ21万9,842人について分析を行った。 アルファ株流行期24週間の追跡期間中の確定感染の推定リスクは、BNT162b2群が5.75件/1,000人(95%信頼区間[CI]:5.39~6.23)、mRNA-1273群が4.52件/1,000人(4.17~4.84)だった。 同リスクはBNT162b2群がmRNA-1273群より高く、1,000人当たりの過剰イベント数は、確定感染が1.23件(95%CI:0.72~1.81)、症候性COVID-19が0.44件(0.25~0.70)、COVID-19による入院は0.55件(0.36~0.83)、同ICU入室は0.10件(0.00~0.26)、同死亡は0.02件(-0.06~0.12)だった。 なお、デルタ株流行期に注目した12週間の追跡調査において、確定感染に対する過剰リスク(BNT162b2 vs. mRNA-1273)は、6.54件/1,000人(95%CI:-2.58~11.82)だった(リスク比:1.58、95%CI:0.85~2.33)。 結果を踏まえて著者は、「これらのワクチンについて有効性と安全性のさらなる比較評価が必要である」とまとめている。

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日本人ならでは?結果が出た後に垣間見える仕事への向き合い方【臨床留学通信 from NY】第28回

第28回:日本人ならでは?結果が出た後に垣間見える仕事への向き合い方フェローシップマッチの結果が出たのは昨年の12月でしたが、そこからは半年ほど内科レジデントの残りのローテーションを終え、今年7月からフェローシップとなりました。残り半年といえども、推薦状はすでにもらっており、かつマッチングも終えてしまったとなると、正直誰もが少しだらけがちになるのは米国気質かもしれません。日本では、あまり推薦状による縛り付けもなく、ある意味自由な研修で各々がやりたいことをやるということに尽きますが、米国では相互評価、推薦状の兼ね合いもあり、ネコを被るようにある程度気を遣っていた緊張関係が緩んでしまうということによるのでしょう。もちろん我々日本人で、Mount Sinai Beth Israelのメンバーではそのようなことはありませんでしたが、同僚の中には、研修の最後のほうになると明らかなずる休みなども散見されました。日本ならば、当直などでなければ日中の業務をほかのレジデントがカバーすることはさほどありませんが、米国ではレジデント同士で抜けた人員のカバーをし合います。そのためJeopardyと呼ばれるオンコール制の業務があるのですが、誰かが休むと、土日も含め、日勤・夜勤問わずカバーを余儀なくされるため不満が多いローテーションでもあります。これは内科研修の内容が日本に比べて手技も少なく、パソコンに向かってカルテをしっかり書くことが求められていて、あまり面白くないことに起因しているのかもしれません。また、カバーするためだけにローテーションを設定できるのも、そもそもレジデントの数が圧倒的に多いからであり、その中に多少不真面目な人がいても(もちろんコロナを含めた体調不良者の場合もありますが)病院が回るようになっている仕組みなのです。私の場合、フェローシップのマッチの結果が出てからの半年は、淡々とレジデントの仕事をこなし、コロナ研究の残りを仕上げつつ、機械学習による解析方法の勉強などといった新しいことにトライする時間となりました。Column画像を拡大する上記の機械学習の論文を、コロナ患者約1万人のデータベースから死亡予測モデルをPythonを使い、Light GBMという方法で作成しました。ただ、変異株やワクチンの影響など目まぐるしく変わるコロナに対し、死亡予測モデルの意義がなかなか見出せず、論文を仕上げるまでには時間を要しました。それでも、方法論としてこの方法を用いて他のデータベースでも応用できるようになっただけでも収穫かと思います。機械学習で作成した予測モデルを用いてこちらのウェブサイトを作成し、簡単に死亡率が予測できるようになっています。

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第87回 厚労省「対面での面会の検討」求めるも、空気感染濃厚のオミクロン株登場で対応再び難しく

コロナ禍の医療施設と社会福祉施設の面会方法の改善目指すこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は今年の山登りの反省会を兼ねて、山の仲間数人で埼玉県・奥武蔵の伊豆ヶ岳に行って来ました。西武秩父線の吾野駅から子ノ権現、天目指峠を経て伊豆ヶ岳、正丸峠という少々長いコース。行程後半、正丸峠にある奥村茶屋で名物のジンギスカンを食べるというのが毎年恒例の行事になっています。天気もよく紅葉もまだそこかしこ残っていて楽しめたのですが、4週間前に骨折した左手小指の固定がまだ取れていないので、急な登り下りで左手をつかないようにするのが難儀でした。山登りには足だけではなく、手の指も相当使っていることを実感した初冬のハイキングでした。さて、今回は厚生労働省が11月24日付で出したある事務連絡とオミクロン株の空気感染について書いてみたいと思います。事務連絡は、医療施設と社会福祉施設に対して適切な面会方法の検討を求める内容のものです。ただ、この事務連絡発出から2日後の26日、世界保健機関(WHO)は南アフリカなどで確認された新型コロナウイルスの新たな変異株「B・1・1・529」を、現在世界で流行の主流となっているデルタ株などと並ぶ「懸念される変異(VOC)」に指定、「オミクロン株」と命名しました。せっかくの事務連絡発出ですが、病院や高齢者施設での入院患者との面会は再び難しい状況になりそうです。「面会実施の方法について各医療機関で検討せよ」と具体的事例を紹介コロナ禍となって、医療機関や特別養護老人ホームなどで大きく変わったことの一つが面会の規制です。とくに長期療養のための病院や特養などでは、面会の禁止は入院患者や入所者の認知機能の低下にも関係するため、その対応の模索が続いていました。11月24日に都道府県、保健所設置市、特別区の衛生主管部に向けて発出された事務連絡「医療施設等における感染拡大防止に留意した面会の事例について」は、新型コロナウイルスの感染状況が一定程度に収まってきた国内の状況を踏まえて出されました。この事務連絡では、「『新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針』」(令和3年11月19日新型コロナウイルス感染症対策本部決定)が決定され、面会については、面会者からの感染を防ぐことと、患者や利用者、家族の QOL とを考慮することとし、 具体的には、地域における発生状況等も踏まえるとともに、患者や利用者、面会者等の体調やワクチン接種歴、検査結果等も考慮し、対面での面会を含めた対応を検討すること、との方針が示され」たとして、「地域における感染の拡大状況や入院患者の状況等のほか、患者及び面会者の体調やワクチン接種歴、検査結果等を総合的に考慮した上で、面会実施の方法について各医療機関で検討すること」としています。その上で、コロナ禍での感染対策に留意した面会における具体的な事例を紹介、各衛生主管部局に医療機関への周知をお願いする内容となっています(社会福祉施設に対しては担当部局が異なるため別の事務連絡「社会福祉施設等における面会等の実施にあたっての留意点 について」が発出されています)。紹介された事例は、「アクリル板で仕切った面会室を利用」「ワクチン接種歴を参考とする」「タブレット端末を使ったオンライン面会」などで、厚生労働科学研究の研究班の資料を基にしています。オミクロン株登場で「空気感染」再び注目入院患者にとって面会は、家族や社会との接点を保ち、心の安定をもたらす重要な要素です。ゆえに国が「対面での面会」を進めるようアクションを起こすことは、歓迎すべきことだと思います。ただ、気になることもあります。オミクロン株の感染拡大で、感染防止対策が大きく変わりそうだからです。オミクロン株については12月5日現在、感染力がデルタ株より強い可能性があること、再感染のリスクが上がっている可能性があること、ブレークスルー感染を起こす可能性が高いことなどが報告されています。また、ホテルの廊下を挟んで「空気感染」した可能性についても報道されています。香港政府が11月25日に明らかにしたところでは、同じホテルの向かいの部屋にそれぞれ隔離されていた新型コロナウイルスワクチン接種済みの旅行者2人(南アフリカからの旅行者1人と、カナダからの旅行者1人)がオミクロン変異株に感染していることが確認されましたが、南アフリカからの旅行者1人が着用していたのはサージカルマスクではなく、呼気弁には吐く息のフィルター機能がなかったそうです。そのため、部屋のドアが開かれた際にウイルスが廊下に流れ、後者に感染させた可能性が示唆されました。この件には続報があり、12月6日付のBloombergの報道によれば、12月3日に発表された調査結果では、監視カメラの映像によって、2人とも部屋から出ておらず、人にも接触していないことが確認されたそうです。調査を行った香港大学の研究者らは「食事の受け取りや新型コロナ検査のために開けたドアを通じた空気感染が考え得る感染経路として最も可能性が高い」と指摘したとのことです。厚労省も10月に「空気感染=エアロゾル感染」を追認空気感染については、「第76回 『空気感染』主流説報道続々 “野球感染”リスクは球場によって大きく異なる可能性も」でも詳しく書きました。実は厚生労働省は10月下旬にサイトを更新し、新型コロナはウイルスを含んだ空気中に漂う微粒子(エアロゾル)を吸い込むことで感染する、との見解を初めて示しています。それまでは、飛沫感染と接触感染の2つしか挙げていませんでした。感染力が強いデルタ株による第5波を受け、換気対策を進める必要があると考えたためとみられます。更新されたのは、「新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)」の「新型コロナウイルス感染症にはどのように感染しますか」の項目。「感染者の口や鼻から、咳、くしゃみ、会話等のときに排出される、ウイルスを含む飛沫又はエアロゾルと呼ばれる更に小さな水分を含んだ状態の粒子を吸入するか、感染者の目や鼻、口に直接的に接触することにより感染します。一般的には1メートル以内の近接した環境において感染しますが、エアロゾルは1メートルを超えて空気中にとどまりうることから、長時間滞在しがちな、換気が不十分であったり、混雑した室内では、感染が拡大するリスクがあることが知られています」と記され、エアロゾル感染(言うならば空気感染)の危険性を強調するに至っています。今回、感染力がより強いオミクロン株の感染拡大で、空気感染の危険性が再び注目されています。オミクロン株の感染力の強さとコロナの空気感染の関連がより明確になれば、医療機関での面会に限らず、飲食店や交通機関の感染対策なども大幅な見直し(アクリル板はナンセンス…など)を余儀なくされるでしょう。「終末期の患者が家族にずっと会えないと、悲劇的状況を生み出す」面会に話を戻すと、私が先日取材した、あるがんの患者団体の代表の方は、「とくに緩和ケア病棟などにおいて、終末期の患者が家族にずっと会えないと、悲劇的状況を生み出すこともある」と話していました。現在では、スマートフォンやパソコン、タブレット端末などを用いれば、自宅の家族と病院の患者とのコミュニケーションも相当程度可能となりますが、デジタルに弱い高齢者にはハードルが高い面もあります。そう考えると、リアルでの面会をどう安全に行うかは、それぞれの医療機関腕の見せどころと言えそうです。オミクロン株の動向が気になるところですが、「これだ!」という面会方法が、現場で“発明”されることを期待しています。

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「今後のコロナ医療に必要なことは?」感染症内科医・岡秀昭氏インタビュー(後編)

 2021年も残すところあと数週間。昨年の年明け早々に始まった新型コロナウイルス感染症との闘いは、2年近くになる。医療現場のみならず、社会全体を激変させたコロナだが、その最前線で治療に当たってきた医師は、最大の患者数を出した第5波を乗り越え、今ようやく息をつける状態となった。この休息が束の間なのか、しばらくの猶予となるのかは不明だが、諸外国の状況やオミクロン株の出現などを鑑みると、それほど悠長に構えていられないのが現在地点かもしれない。 第6波は来るのか。これまでのコロナ政策で今後も闘い続けられるのか―。地域のコロナ拠点病院で重症患者治療に奔走した感染症内科医・岡 秀昭氏(埼玉医科大学総合医療センター)に話を伺った。 前編「五輪の裏で医療現場は疲弊し、ギリギリまで追い詰められていた」はこちら。*******――当面続くと見られるコロナ診療。これまでの経緯を踏まえると、重症者に特化した病院とプライマリとの分担および連携が肝要では? そこが最も重要なポイントだと思う。結局、物事を回転させていくには、ヒト・モノ・カネのバランスが必要で、それらがすべて噛み合うことで回転し、物事が前に進んでいく。しかし、報道や国や政治が声高に強調するのは、モノとカネの支援。だから、「ベッドの占有率が〇%だ」とか、「日本は病床数が世界最大規模なのに、現場がなぜ回らないのか」というズレた議論、医療者はけしからんという論調になる。今、圧倒的に足りないのはモノでもカネでもなく、「ヒト」なのだということをきちんと理解してほしい。例えるなら、航空機のボーイングが何台もあって、飛ばせと言っても、小型機のパイロットしかいなければ飛ばせないのと同じ理屈だ。われわれ医療者に引き寄せて考えてみてほしい。医師免許を持っている人が全員、人工呼吸器を使えて、特殊な感染症が診られるのか。つまり、「ヒト」の考え方がまったく欠落している。今回、コロナで盛んにECMOが取り上げられたが、所有していたところで、それを扱える医療従事者がほとんどいないという現実がまったく知られていない。見当外れの世論を助長させた一端には、モノ・カネ偏重の政策とメディアの報じ方があったのではないかと考える。 コロナ医療を「ヒト」の視点で考える際、軽症と重症に分ける必要がある。軽症は、感染対策が可能な病院や医師ならば誰でも診られると言っていい。問題は、風評被害への懸念、未知の感染症への恐れなど、どちらかというと精神的側面が大きい。そもそも現時点で重症リスクがない患者には有効な薬剤がないので、軽症であれば、周りにうつらないように自然軽快を観察していくことになる。一方、重症者治療となると対応が大きく変わる。厳重な感染対策のもとで細やかな循環呼吸管理をしていかなければいけない。しばしば人工呼吸器やECMOの操作も必要となり、これは集中治療の領域だ。 日本の医療界は、歴史的に集中治療医と感染症医のような臓器横断的に診る医師が圧倒的に少ない。病床数が多かろうと、医師免許を持った人がそれなりにいたとしても、病床の大部分が療養型だったり、精神科病床だったりする。そのような中、カネを出してハード面を整えたとしても、十分に扱える人員がいないのが現状。重症者を診る医師が絶対的に足りないのは、そうした背景がある。 今後、第6波以降に重症者が増えたとしたら、再び医療逼迫が起きるのは必至。現在、感染者数は抑制できているが、今後は患者数が増えてきた場合に、重症者をどれだけ抑えられるかにかかっていると思う。軽症~中等症Iであれば、付け焼刃でも医師免許を持っている人たちへの促成教育は有効だと考える。実際、私は埼玉県に提案し、県のトレーナー制度でコロナ治療に協力してくれる医療機関、医師に対する指導をすでに始めている。しかし、重症を診る人材の育成は即席では難しく、短期的な視点では限界があり、重症者を診る人員が足りないという現実はそう簡単に変わらない。 今回のコロナ・パンデミックに関して新たな人材育成の猶予はないので、やはりポイントは「重症者を増やさない」ことに尽きる。国の対策としては、悪いほうにシナリオを考え、本当に機能する重症者病床は、これ以上増やせないことを理解してほしい。増やすことを仮定した対策ではなく、現状のベッド数で医療が回る対策が必要だ。 私の聞くところであるが、重症者を診るのが大学病院や一部の大病院に限られている上に、呼吸器内科、救急科、集中治療、感染症、総合内科のような一部の診療科の医師がほぼ診ている状態。自院に関しては、感染症と救急の医師に、少数の派遣医師で回しているのが実情。もともと人数の少ない診療科の医師だけで回さざるを得ず、皆が疲弊し切っている。 なぜ、救急や集中治療、感染症、総合診療の医師が育ってこなかったか。理由の1つは、専門としていまだに認められていないということ。麻酔科の経緯に照らして考えるとわかるだろう。外科医が1人で手術をする際、現在ならば麻酔科医が麻酔をかける。しかし、術後感染症が起きたとしたら、外科医が診ることになる。術後、抗がん剤治療を開始する場合、米国ではオンコロジストが担当するが、日本では外科医が抗がん剤治療も行う。さらには、緩和治療をも外科医が一手に引き受けなければならないのが実状。こんな多忙な外科医に、感染管理ができるのだからコロナを一緒にやってくれとはとてもじゃないが言えない。それどころか、本来やるべき手術などがいっさい回らなくなるだろう。それでもやるなら、通常医療を捨てざるを得ないという本末転倒に陥ることになる。その先には病院の収益の問題につながる。 将来的な対策として長期的視点で必要なことは、集中治療医、感染症科医を育て、それなりの病院では現在の麻酔科医のように必須にすること。これは外科医の負担軽減だけでなく、患者にとってもメリットが大きい。集中治療しかり、感染管理しかり、麻酔しかり、専門医が担当することは、医療の質の担保にもつながる。もはや、日本の根性論、精神的頑張りに負うような医療体制は通用しない。今回のコロナを巡る医療逼迫の背景にも、こうした日本独特の医療体制に一端がある。つまり、臓器別の縦割り診療科は認められているので志す人は多く、臓器に関係ない感染症科や麻酔科や集中治療といった横割りの診療科には人が来ない。今後のパンデミックに備えるには、こうした診療科の医師が足りていないということをまずは認め、本腰を入れて養成に入るべき。 感染症科医を例にすると、コロナのような何十年に1度という事態に直面した時には必要性が感じられるが、平時には割に合わないのではないか、というのが一般的な考え方で、経営にもそういう考え方の人が多いのは確かだ。しかしそれは間違っている。感染症指定医療機関でなくても、結核、HIVはもちろん、輸入感染症の患者が来る可能性は十分にあるし、多くの結核患者は咳や微熱で一般病院を受診し、診断を受ける。今回のコロナ禍で、「空気感染を予防できる設備がないのでコロナは診られない」という病院がいくつもあったが、それはおかしいとはっきり言いたい。 病院というのは、そもそもコロナにかかわらずインフルエンザでも結核でも水疱瘡でも日常的に診ている。感染症が未知の種類だから診られないというのはおかしい話で、どんな新興感染症が突然現れたとしても、周りの人が守られるような安全対策が取られているのが「病院」であるべき。何十年に1度のパンデミックに備えて設備投資するのは見合わないなどと言うのは本末転倒で、海外往来が当たり前のこの現代、もうすでにどこの病院にもそのような患者は来ていることを自覚し、備えるのが正しい在り方だろう。さらに、急性期病院は、例えば200床につき1人以上の感染症医を置き、診療報酬上でも加算化する。集中治療医に関しても、そういう形で、必要不可欠にしていくことで専門性が認められていくべきだと思う。他科から診察依頼やコンサルテーション があった場合にも、対価として診療報酬が支払われるべきだろう。そうでなければ、こうした専門医が定着するのは難しい。 私の懸念は、今回のコロナ禍の経験で、厚労省がますます病床数を増やそうという方向に加速していくことだ。必要なのは、増やすことではなく有効に回せるベッドをいかに残すか。診る医師も設備もないのに、病床数をやみくもに増やしても、「日本は世界に誇るベッド数を準備しているのになぜ回らない」と批判的な世論を生むだけだ。――メディアでは“幽霊病床問題”として大きくクローズアップされた。 その通り。まるで病院や医療従事者が対応していないかのような論調だが、そもそも人員が足らないのだから患者を受け入れられないのは当たり前。でも一般市民にはそれはわからない。厚労省は、ベッドの多さ、患者の多さを基準に病院を評価しがちだが、たくさん受け入れたことが偉いという評価基準それ自体が間違っている。その先、医療の実態はどうなのかというところまできちんと確認するべきだ。 当院は40床のコロナ病床を準備したが、人員に照らしたキャパシティを考慮すると38床の受け入れが限界だった。なぜなら、受け入れた患者さんはもちろん、働くスタッフの医療安全上の問題なども考えなければいけなかったからだ。例えば、50床あるのに患者2人しか受け入れないというのは明らかに悪質だが、7~8割の病床を埋めて頑張っているところを責めるのはおかしい。 ECMOの稼働率がメディアに取り上げられたこともあったが、それを扱える人的リソースの問題で「使わない」という選択をすること批判が集まった。しかしわれわれは、人工呼吸器よりも圧倒的に人的負担がかかるECMOにリソースを割くことよりも、その分、人工呼吸器の患者をより多く受け入れて、より多くの患者を救命しようという方針だった。 コロナはある意味、災害医療とも言える。そこにはトリアージの考え方があった。ECMOへのこだわりを持っていると、本来は受け入れられる人を受け入れられなくなり、助けられた人を助けられないということが起こり得た。――最後に、コロナ第6波あるいはもっと長い闘いを想定するとき、医療者はどう備えるべき? これからの戦略を立てる以前に、まずはこれまでの総括・検証が必要だ。少なくとも、五輪開催時期を巡っては、少しでも後ろ倒しにしてワクチン接種率を上げてからにすべきという医療者側の切実な訴えは、政府に聞いてもらえなかった。メディアでは、五輪までにコロナが収束するなどという“有識者”の発言もあったが、とんだデタラメだった。したがって、政策の検証だけでなく、どの専門家の発言が信頼に足るのかというメディアの発信の仕方についても検証が必要だろう。 次に、次のピークに向けた戦略として私が言えるのは、重症者病床がこれ以上増えないという仮定のもとで動くべきだということ。大事なのは「増やす」ではなく「増えない」前提のプランを準備し、明確にしておくこと。実際、第6波において重症者が増えるのか否かは不明だ。しかし、デルタ株に対して重症化を防ぐワクチンの効果は確実なので、ワクチン接種は引き続き進めていくべき。そして、抗体カクテルや今後登場するであろう治療薬をワクチン代わりにはしないこと。ただし、プライマリで重症化リスクのある患者に対し、抗体カクテルや治療薬が確実に使える体制を整えることはとても重要。これは、プライマリの先生方に望むことにもつながるが、軽症や中等症の治療を第5波まではわれわれがやってきた。今後は、プライマリの先生方と協力し、役割分担しつつ、重症者病床は現状から増えないという想定で、ワクチンや抗体カクテル、薬で治療を進めていくべきと考える。 もう1つ、医療にひずみが出ている問題がある。コロナ医療を巡っては、医療と報酬が見合っていない。中には、コロナ重症者を診るスタッフの給与よりも、ワクチン接種のアルバイト報酬のほうが高いといったケースも見られた。これは明らかにおかしい。病院に寝泊まりして、重症コロナ患者を懸命に診て疲弊しきっているスタッフの月給が、ワクチン接種に従事する人の日給と同程度なんてあんまりだと思う。 医療には、その負担や技術・能力に見合った適正価格がある。このような状況では、将来的にも感染症や集中治療を目指す医師はいないだろうと危惧する。将来的なことだけではなく、目下の第6波に備えるためのモチベーションにもつながる。医療の水準に対する正当な評価。これをなくしてコロナ医療は前に進まない。

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第89回 米国が自宅でのCOVID-19検査も無料化、英国は自宅治療を検討

6日のReutersのニュースによると、いまや米国で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン(Omicron)株感染が少なくとも16の州で認められています1)。それらオミクロン株感染の多くはワクチン接種済みの人に生じており、幸いなことに症状は軽度です。米国での先週の1日当たりのSARS-CoV-2感染(COVID-19)者数は平均約12万人(11万9,000人)でした。米国疾病管理予防センター(CDC)の長Rochelle Walensky氏によるとそれら新規感染のほぼすべて(99.9%)は依然としてデルタ株によるものです。しかしオミクロン株らしき報告は多くなっており、おそらくその感染数は今後増えると同氏は予想しています。さしあたり軽症ともっぱら報告されているとはいえまだはっきりしないオミクロン株感染重症度の見きわめに科学者が取り組み、保健部門がこれからの寒い季節の感染数増加への準備を進めるなか、米国政府はデルタ株やオミクロン株から同国民を守るための新たな対策を発表しました2)。今後は米国の誰もが家庭でのCOVID-19検査を無料で受けられるようになります。民間保険に加入している1億5,000人超は病院や薬局で検査を無料で受けられることに加えて自宅での検査も保険からの支払いで無料になります。民間保険に非加入の人は米国全域の2万を超える無料検査拠点を利用できることに加えて自宅でできる無料の検査製品を保健所や病院から配布してもらえるようになります。バイデン政権はワクチン接種を引き続き推進し、飛行機・鉄道・バスなどの公共交通でのマスク着用義務を継続します。マスク非着用の違反には罰金が課されており、最低でも500ドル、違反を繰り返す人は最大3,000ドルを払わねばなりません。米国が検査なら大西洋を挟んだその隣国・英国は家庭で使えるCOVID-19治療探しに取り組みます。COVID-19治療を同定して広める世界的な取り組みを率いてきたことを自負する英国はオミクロン株感染に弱そうな人を守るべく米国Merck(メルク)社の経口薬Lagevrio(モルヌピラビル/molnupiravir)を家庭に届ける試みを準備しているようです3)。その取り組みでは病弱な人や免疫が低下している人のCOVID-19検査陽性判定から48時間以内に同剤が自宅に届けられる予定です。家庭での治療が検討されるのはモルヌピラビルの他にもあるらしく、その詳細は追って伝えると政府の広報担当者は話しています。Reutersのニュースによると英国では先週末12月5日(日曜日)までに246人のオミクロン株感染が確認されています4)。12月5日の感染者数は86人でした。新たな決まりとしてイングランドはオミクロン株感染らしき人と接触した人に10日間の隔離を義務付けています5)。参考1)Omicron variant found in nearly one-third of U.S. states / Reuters2)President Biden Announces New Actions to Protect Americans Against the Delta and Omicron Variants as We Battle COVID-19 this Winter / WHITE HOUSE3)Covid antiviral pill molnupiravir/Lagevrio set for UK at-home trials / Guardian4)UK reports 86 new cases of Omicron COVID-19 variant, total 246 / Reuters5)New rules in response to Omicron variant / Gov.UK

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「五輪の裏で現場はギリギリまで追い詰められていた」感染症内科医・岡秀昭氏インタビュー(前編)

 2021年も残すところあと数週間。昨年の年明け早々に始まった新型コロナウイルス感染症との闘いは、2年近くになる。医療現場のみならず、社会全体を激変させたコロナだが、その最前線で治療に当たってきた医師は、最大の患者数を出した第5波を乗り越え、今ようやく息をつける状態となった。この休息が束の間なのか、しばらくの猶予となるのかは不明だが、諸外国の状況やオミクロン株の出現などを鑑みると、それほど悠長に構えていられないのが現在地点かもしれない。 第6波は来るのか。これまでのコロナ政策で今後も闘い続けられるのか―。地域のコロナ拠点病院で重症患者治療に奔走した感染症内科医・岡 秀昭氏(埼玉医科大学総合医療センター)に話を伺った。******* 今現在(11月8日)、コロナが始まって以来、一番落ち着いている。ここひと月近く、コロナの入院患者はいない。夏休みも取れなかった部下たちが、ようやく交代で休みを取ることができた。――最大のピークとなった第5波はどのような推移を辿り、減少傾向はいつごろから? まず、8月の上旬から逼迫感が出てきて、8月いっぱいはしんどかったと記憶している。それが9月に入り、患者が急激に減ってきた。8月と9月とでは状況がまったく違った。私自身、9月中旬には第5波の振り返りをする余裕も出てきて、9月後半にはずいぶん落ち着いていた。 過去の記録を見ると、9月7日時点で、入院数よりも退院数のほうが上回っている。9月13、20、27日と1週間ごとに、いくつかあったコロナ病棟を、患者の退院で空床化し、いったん閉鎖状態にしたのがこの時期だった。 振り返ると、五輪開幕の直前辺りから五輪期間中が最も大変だった。時期的にも、メディアでは五輪ばかりが話題になって、コロナの状況が取り上げられなくなっていた。 われわれの現場では、7月ごろからかなり危機感が募っていた。しかし一部の人が、重症者数は多くないので、医療体制は問題ないとメディアで公言し、五輪開催の機運が高まった。われわれもできる限りメディアの取材に応え、「重症者のピークは遅れてやってくるので、むしろこれから増える。楽観視しないでほしい」と切実な状況を訴えていたにもかかわらず、それは聞き届けられなかった。 私の主張はただ1つ、「五輪の延期」だった。今になってみてわかることだが、ワクチン接種が進んで落ち着いて来る時期、せめて10月以降になれば有観客でも開催できるはずだっただろうと思う。これは“後出しじゃんけん”ではなく、SNSでもたびたび発信していた。 しかし、菅 義偉前首相は、五輪開催を強行した。それが原因で感染者が増えたのかどうか、本当のところはわからない。しかし、五輪の裏で多くのコロナ患者が重症化し、医療が逼迫した結果、本来失わずに済んだ命が失われたことが紛れもない事実であることを伝えたい。 感染者数が減少にシフトしたかなりの要因は、言うまでもなくワクチンの普及によるものだろう。もうこれ以上の患者数になれば終わりだ……というギリギリまで追い詰められたところで、急速にブレーキが掛かった感覚だった。言い換えれば、われわれが治療に当たったそのころの重症患者のほとんどがワクチン未接種者、死亡も(免疫がつきにくい重篤な基礎疾患を有するなどの一部例外を除いて)、いずれも未接種者だった。五輪を強行開催した菅前首相に関して評価する点を挙げるなら、ワクチンを五輪に何とか間に合わせようと、かなりテコ入れしたことだろう。明らかにワクチン接種の急加速が入った。仮に五輪開催がなかったとしたら、あれほど接種が進まなかったかもしれない。そうなれば、第5波は高齢者を中心に重症者が増え、さらに大きなピークになっていた可能性がある。事実、第5波ピーク時の患者はワクチン未接種の40~50歳代が多かった。ワクチンが広がっていなかったら、さらに高齢者層が大きく上乗せされただろう。そうなれば死亡も格段に増えた可能性がある。 もう1つ、日本人の感染予防に対する意識の高さは、大いに評価されるべきだと思う。海外メディアが報じる現地の状況を見ると、マスクを着けていない人がいかに多いかがわかる。日本人の同調圧力とまでは言わないが、相互監視的に「ほかの人が着けてるから自分も着けなくては」という意識からか、外では皆がきちんとマスクを着用している。 この、ワクチン完遂率の高さと予防意識が、かなり第5波のブレーキには貢献したと考える。――第5波の渦中では、五輪開催と緊急事態宣言の発令などの相反する行動に多くの国民が矛盾と戸惑いを感じた。 さかのぼるが、第4波(2021年3月1日~6月20日)は、緊急事態宣言がスムーズかつ早く、大型連休前に発令された。あの発令については、医療者の中では高く評価されている。中には、「タイミングとして早過ぎるのでは」という指摘もあったようだが、先手を打って出せたのが第4波の宣言だった。ちょうど、より感染力の強いアルファ株に置き換わるタイミングだったにもかかわらず、少なくとも関東地域では比較的“ボヤ”程度で済んだ。ところが、第5波は違った。五輪という目標があり、そこに政治家たちが惑わされた。「そうたやすく宣言は出せない」という政府の思惑があったと思う。しかも、現場からの訴えを聞かず、「重症者は増えていない」というストーリーまで語ったのは間違いだった。あの時点で、すでに静観している場合ではなかった。 さらに、感染力が強いデルタ株の出現があり、より重症化しやすい特性もあった。そして、長らく続いた自粛ムードへの疲れと抑制効果の低下。国民はすでに相当な疲れと緩みを覚えていたし、そういう状況下にもかかわらず五輪は開催されるという。それなら、もう大丈夫なんじゃないかという形で、世論を割ることになってしまった。つまり、五輪開催と感染対策が矛盾し合うことになり、国民にうまく伝わらなかったのが、あの時期の日本だったと思う。――ワクチンに関して、ブレークスルー感染については現場で影響が? 自院では重症や中等症IIの治療がもっぱらで、在宅療養の軽症者は送られて来ない。つまり、ブレークスルー感染が起きていたとしても、現在の状況から推測できるのは、軽症で済んでいる、つまり重症化には至っていないということだ。したがって、ワクチンの90%の予防効果というのは、完全に100%防ぎ切るということではないにせよ、かなり予防できていて、ブレークスルー感染も想定の範囲内だということ。それでも重症化して送られてくるのは、重症化リスクを有するのにワクチン未接種の人とみて、第5波ではほぼ間違いなかった。 ワクチンが接種者のためだけと考えると、重症化しにくい年齢層にはその意義がなかなか見出しにくいかもしれない。ただ、これだけ効果があることがわかってきているコロナワクチンなので、自分も接種者となることで、社会の集団免疫を作る一員になるということ、それに協力することになる。今後、子どもへのワクチンも議論になってくるだろう。子ども個人の健康を守るという側面もあるが、もし第6波で重症者が多く出て来たら、子どもまで接種していかないと抑制できないのではないかと考える。それは子ども自身の現在だけでなく、成人した後の未来も守ることになり、ひいてはその周りの家族をも守ることになる。――米国ではすでに5~12歳まで接種対象が引き下げられている。 日本での導入には議論が必要になると思うが、ポイントとしては、子どもが感染したとしても重症化リスクは小さいということと、人種として多系統炎症症候群(MIS-C)を起こすアジア人が相対的に少ないという点がある。そして大人から子どもへの感染は多いが、その逆は少ないというのもある。その点で、周りを守るというワクチンの意義が、子供に関してはそこまで大きくないのではないかという指摘もある。治験では一定の効果が示されているが、副反応もあり、そこまでして子供に接種させるべきなのかというと、微妙だという意見もある。ワクチン供給量とのバランスという観点も考える必要があるだろう。もしくは、追加接種も含め途上国とのバランスという問題もあり、そこが崩れると輸入感染症になるという危惧が出てくる。 コロナに関しては、ある1つの国が“ひとり勝ち”というわけにいかない。今後、世界的に経済活動が再び活発化してきた時、海外との人流増加は避けられない。ビジネス相手国となるワクチン接種が遅れている一部のアフリカや南米、アジア諸国との行き来が増えれば、確実に入って来る。そうした点でも、世界のバランスをとってワクチン接種を進めていく必要がある。 抗体価は接種から半年で低下するのはすでに知られているが、デルタ株でも重症化を減らす効果は依然続いており、そこまで追加接種を慌てなくてもよいのではないかとは思う。一方で、ワクチンを2回打っていても免疫不全者、とくに抗がん剤治療中の患者や臓器移植患者には抗体が2回では十分につかず、ワクチンの予防効果が下がることがわかっている。今、追加接種が優先的に必要なのはそうした患者、もしくはその周りにいる医療従事者や家族だろう。更なる展望としては、抗体カクテル、モノクローナル抗体治療薬、経口薬も出てくるだろうが、高額な薬価の問題がある。抗体カクテルの重症化リスクがある患者への早期治療投与が有用ということはデータに示されているが、それも7割の重症阻止効果ということで、単純比較だがワクチンのほうが効果が高いことがわかる。また、曝露後予防には9割近い効果があるとされているが、推定薬価は30万前後と高額だ。これらの治療薬の効果が証明されているのは、重症化リスクがある患者に対してであり、リスクのない患者にはコストパフォーマンスも含め効果は不透明である。ワクチンが数千円ということを考えると、未接種者でも、万一感染したら皆が抗体カクテルや経口薬の治療が受けられ、効果もあるという理屈は間違っているという認識が必要だ。抗体カクテルは受動免疫で、一時的に外部から抗体を入れるという仕組み。つまり、入れた抗体がなくなれば無効になる。一方、ワクチンの免疫は接種によって能動的に免疫をつけるという仕組みなので、減弱するものの、長く効果が続く。しかもコストパフォーマンスも良い。抗体カクテルや治療薬が、ワクチンに置き換わるものでは決してないことも理解してほしい。 一部からは、「コロナを5類感染症に」という声が上がっているが、医療費が現在の全額公費負担から3割負担になるのだというところまで理解して言っているのかと問いたい。例えば、レムデシビルは1本6万円。入院初日はそれを2倍量使うので、2本で12万円。さらにその後4日間使うので、薬剤費だけで40万円近く掛かる。レムデシビルが必要な人は酸素やステロイド剤、場合によってはICUに入り、人工呼吸器が必要なケースもある。状況によっては、高価な生物学的製剤や抗菌薬も使う。相当額になる治療費を、現在は公費で全額負担しているのに、5類となった場合にはどうなるのか。高額療養費が適用されるかもしれないが、それでもかなりの額を患者自身が負担することになる。自己負担が大きく増えるということは、全員が望む治療を受けられるかどうかという観点からもかなり危惧する。それだけ最近の治療薬は高コスト。今後続いていくコロナ治療薬も、内服であってもそれなりに高額な薬価となるだろう。 また、コロナ治療薬に関しては、現在のところすべてが特例承認で迅速化が優先されているが、今までもガチフロキサシンやテリスロマイシンなどの抗菌薬などでIII相試験まで治験が進んで効果が確認されたにもかかわらず、いざ承認されて多くの患者に投与したら、低血糖や意識消失などの思わぬ副作用が確認されて使われなくなった例が複数ある。さらにもう1つの懸念は、感染症治療薬は、多用すればいずれは耐性化するのが常であるという問題がある。選択肢が増えてくるのはいいが、その裏にはたくさんの課題があることも忘れてはならない。 コロナに関して、ワクチンの副作用は気にする人が多いのに、治療薬だとなぜウェルカムなのかは疑問だ。治療薬にも副作用があって、新薬が怖いという点はワクチンと同じだ。治療薬を投与するのは、つまりコロナに罹患したということなので、後遺症の問題もある。やはり、感染するより未然に防げたほうがよいのは自明だ。したがって、治療薬が出てきたらワクチンは不要ということには決してならないということは強調したい。<後編に続く>

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mRNAコロナワクチンによる心筋炎・心膜炎、「重大な副反応」に追加/厚労省

 厚生労働省は12月3日、新型コロナウイルス感染症のmRNAワクチンに対し『重大な副反応』の項に「心筋炎」と「心膜炎」を追記するよう、使用上の注意の改訂指示を発出した。対象製剤はファイザー社の「コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)」(商品名:コミナティ)とモデルナ社の「コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)」(商品名:(COVID-19ワクチンモデルナ筋注)。 今年7月の時点で重要な基本的注意に追記されていたが、その後の解析で各2回接種後の若年男性(10~20代)で頻度が高いことが示唆された。 このほか、『その他の注意』の項に注射部位反応に関する記載が新設され、「海外において、皮膚充填剤との関連性は不明であるが、皮膚充填剤注入歴のある被接種者において、コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)接種後に、皮膚充填剤注入部位周辺の腫脹(特に顔面腫脹)が報告されている」旨が追記された。

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第80回 オミクロン株を懸念、3回目接種の間隔見直し検討へ/厚労省

<先週の動き>1.オミクロン株を懸念、3回目接種の間隔見直し検討へ/厚労省2.医師の残業、年間上限導入で2024年から原則年960時間に3.地域医療構想の実現に向け、重点支援区域で準備が進む/厚労省4.がん診療連携拠点病院の指定要件を改定へ/厚労省5.新型コロナ後遺症についても診療の手引きを作成/厚労省6.コロナ経口薬molnupiravir、日本でも承認申請へ/MSD1.オミクロン株を懸念、3回目接種の間隔見直し検討へ/厚労省政府は新型コロナウイルスの新しい変異型オミクロン株の世界的な急拡大に対応するため、来年1月以降から本格的に取り組む予定であった3回目のワクチン接種について、諸外国と同様に2回目接種との間隔の短縮を検討している。12月2日に開かれた全国知事会と日本医師会のオンライン会合では、3回目接種の時期を「前倒しする必要がある」との意見で一致している。3回目の接種をめぐっては、ファイザー製ワクチン以外に、モデルナ製ワクチンの在庫も活用する方向で検討に入っており、早期の開始に向け、準備が進められる。(参考)オミクロン株2例目 政府 ワクチン3回目接種の間隔見直しも検討(NHK)首相、3回目接種前倒し表明へ モデルナ在庫を活用(日経新聞)3回目接種「前倒しする必要がある」…全国知事会と日本医師会が意見交換(読売新聞)2.医師の残業、年間上限導入で2024年から原則年960時間に厚生労働省は、11月30日に労働政策審議会分科会を開催し、医師の働き方改革に関する検討会報告書と医師の働き方改革の推進に関する検討会中間とりまとめを踏まえた医療法の改正に伴い、2024年4月から上限規制を適用することとなった。地域医療を担う医療機関などで特例水準(連携B、B、C-1、C-2)の医療機関で、長時間労働を避けられない場合は、医師労働時間短縮計画作成ガイドラインに基づいて医師労働時間短縮計画の立案と実施をもとに、都道府県の許可を受けた医療機関のみ年1,860時間とする省令案について了承した。なお、都道府県から指定を受けるためには、2021年10月~2022年9月末までに各医療機関が「医師労働時間短縮計画」を策定し、2022年度中に第三者機関による評価を受けたうえで、2023年度に都道府県に申請することが必要となる。(参考)医師残業、年1860時間 上限定める省令案了承(中日新聞)資料 医師の時間外労働の上限水準を超える時間外労働時間を設定する医療機関について(山形県)資料 労働基準法施行規則の一部を改正する省令案等の概要(厚労省)資料 医師の時間外労働規制について(同)3.地域医療構想の実現に向け、重点支援区域で準備が進む/厚労省厚労省は3日に「地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ」を開催し、地域医療構想の取り組み・検討状況について調査し、その結果について討論した。再検証対象の436医療機関において、2025年7月までに病床機能あるいは病床数を変更する予定と回答したのは340医療機関(全体の78%)だった。また、再検証の実施について合意済みまたは合意結果に基づいて措置済みの175医療機関において、2022年7月までに病床機能あるいは病床数を変更する予定と回答したのは150医療機関でほとんどを占めた。具体的には、医療機能(病床機能、診療科など)の集約化のために、医療機関の統合、地域医療連携推進法人の設立、在宅療養支援病院の指定など役割の明確化・変更など実施状況が共有され、今後も重点支援区域の設定を通じて国による助言や集中的な支援を行うこととした。なお、重点支援区域には、宮城県仙南区域、石巻・登米・気仙沼区域のほか、滋賀県(湖北区域)、山口県(柳井区域、萩区域)、北海道(南空知区域、南檜山区域)、岡山県(県南東部区域)、新潟県(県央区域)、佐賀県(中部区域)、兵庫県(阪神区域)、熊本県(天草区域)、山形県(置賜区域)、岐阜県(東濃区域)、新潟県(上越区域、佐渡区域)、広島県(尾三区域)の12道県17区域が含まれている。(参考)資料 地域医療構想に関する地域の検討・取組状況等について(厚労省)再検証対象の公立・公的175医療機関が合意済み 重点支援区域に新潟「上越」「佐渡」、広島「尾三」(CBnewsマネジメント)4.がん診療連携拠点病院の指定要件を改定へ/厚労省厚労省は11月30日にがん診療連携拠点病院等の指定要件に関するワーキンググループを開き、要件の見直しについて検討を行った。がん対策基本法に基づき閣議決定されている「がん対策推進基本計画」により、全国どこでも質の高い医療を提供することができるよう、がん診療の均てん化を目指して整備を進めてきたが、この整備指針の要件や、要件を満たせなくなった施設への対応などについて議論を行った。今後、2022年6~7月までに議論を重ね、整備指針を改定する見込み。(参考)資料 がん診療連携拠点病院等における指定要件の見直しについて(厚労省)2022年夏にがん連携拠点病院の指定要件見直し、高度型の意義、診療実績・体制要件等を議論―がん拠点病院指定要件WG(Gem Med)がん診療拠点病院、指定要件見直しの議論開始 厚労省WG、「望ましい」要件など論点(CBnewsマネジメント)5.新型コロナ後遺症についても診療の手引きを作成/厚労省厚労省は1日に新型コロナウイルス感染症について、「罹患後症状のマネジメント」を公表した。感染者数が減少する一方で、新型コロナウイルス感染からは回復したにもかかわらず“後遺症”と呼ばれるような症状に悩む患者が存在する。今回、診療の手引きの別冊として、回復後の経過を診るかかりつけ医がどのタイミングで専門医の受診を勧めるべきかなどについて書かれている。なお、新型コロナウイルス感染症の後遺症の頻度については、海外における45の報告から出された系統的レビューで、COVID-19の診断・発症・入院後2ヵ月あるいは退院・回復後1ヵ月を経過した患者のうち、72.5%が何らかの症状を訴えたと報告されている。倦怠感、関節痛、筋肉痛といった全身症状のほか、咳、喀痰、息切れなどの呼吸器症状、あるいは集中力低下、記憶障害、不眠、抑うつなどの精神・神経症状のほか、嗅覚障害・味覚障害などが含まれており、もっとも多いのは倦怠感(40%)だった。(参考)新型コロナウイルス感染症 診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント(厚労省)新型コロナ後遺症 初の医療関係者向け手引きを公表 厚生労働省(NHK)「コロナ後遺症」に初めての手引き 「患者の支援を」厚労省が公表(朝日新聞)6.コロナ経口薬molnupiravir、日本でも承認申請へ/MSD米メルク日本法人のMSDは、厚労省に新型コロナウイルス感染症に対する経口治療薬として抗ウイルス薬molnupiravir(モルヌピラビル)の製造販売承認を申請した。今回は特例承認の適用を求めており、今月中に厚労省の専門家部会で審議される見込み。軽症から中等症の新型コロナウイルス感染症の入院していない成人患者を対象としてモルヌピラビルを投与した第III相MOVe-OUT試験の中間解析の結果、無作為割り付けから29日目までに入院または死亡した患者はモルヌピラビル群では7.3%(28/385例)、プラセボ群では14.1%(53/377例)と有意差を認めた(p=0.0012)。29日目までにモルヌピラビル群では死亡は認めず、プラセボ群では8例の患者が死亡した。(参考)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療薬として経口の抗ウイルス薬モルヌピラビルの製造販売承認申請 特例承認の適用を希望した申請(MSD)米製薬大手メルク 新型コロナの飲み薬 日本での使用 承認申請(NHK)コロナ飲み薬「モルヌピラビル」、オミクロン株にも有効な可能性…今月中に特例承認へ(読売新聞)コロナ飲み薬の承認を申請 米メルクのモルヌピラビル(産経新聞)

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固形がん患者へのブースター接種、抗体価の変化は?/JAMA Oncol

 積極的な治療を受けている固形がん患者では新型コロナウイルス感染症により予後が悪化するリスクが高く、また、化学療法を受けているがん患者ではBNT162b2 mRNAワクチン(Pfizer/BioNTech)による体液性応答が低下することが報告されている。今回、イスラエル・Hadassah Medical CenterのYakir Rottenberg氏らが、主に化学療法を受けた固形がん患者でのBNT162b2ワクチンの3回目(ブースター)接種後30日未満の体液性応答を調査したところ、ほとんどの症例でブースター接種後早期に抗体反応がみられたことがわかった。JAMA Oncology誌オンライン版2021年11月23日号に掲載。ブースター接種後にほぼすべてのがん患者で高い抗体価 本研究の対象は、Hadassah Medical Centerにおいて化学療法、生物学的製剤、免疫チェックポイント阻害薬、もしくはこれらの組み合わせで治療された固形がん患者で、BNT162b2ワクチンを2回接種していた患者。血液サンプルの採取日の中央値は、ブースター接種後13日(範囲:1~29)で、スパイクタンパク質結合抗体について分析した。 がん患者のブースター接種後の体液性応答を調査した主な結果は以下のとおり。・2021年8月15日~9月5日に37例がブースター接種後に血清学的検査を受けた。2回目接種とブースター接種との間隔の中央値は214日(範囲:172~229)、2回目接種と2回目接種後抗体測定の間隔の中央値は86日(範囲:30~203)だった。・年齢中央値は67歳(範囲:43~88)で、11例(30%)は転移がなく、19例(51%)は化学療法を受けていた。・1例(40代、dose-dense AC療法後パクリタキセル+トラスツズマブ+ペルツズマブによる術後補助療法中)を除いた患者が血清学的検査で陽性だった。さらに、化学療法の有無に関係なく、2回目接種後の反応が中程度または最小だったがん患者で、ほぼすべてのがん患者が高い抗体価を示し、有意に抗体価が増加した。・多重線形回帰の結果、2回目接種後の抗体価(p<0.001)と高齢者(p=0.03)がブースター接種後の高い抗体価と関連した。一方、性別、化学療法の有無、3回目接種と抗体検査の間隔との関連はみられなかった。

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ファイザー製ワクチン2回目後、90日から徐々に感染増加/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防におけるBNT162b2ワクチン(Pfizer-BioNTech製、21日間隔で2回接種)は、2回目接種から数ヵ月後には重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染の防止効果が低下し始め、2回目接種から90日以降はブレークスルー感染リスクが徐々に増加することが、イスラエル・Leumit Health ServicesのAriel Israel氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2021年11月25日号で報告された。イスラエルの後ろ向きのtest negative design研究 研究グループは、BNT162b2ワクチンの2回目接種後の経過期間とCOVID-19の罹患リスクとの関連を評価することを目的に、test negative designを用いた後ろ向き症例対照研究を行った(イスラエル・Leumit Health Servicesなどの助成を受けた)。 解析には、イスラエルの大規模な国立医療機関であるLeumit Health Servicesの電子健康記録(electronic health records)が用いられた。対象は、年齢18歳以上、2021年5月15日~9月17日の期間に逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT-PCR)による検査を受け、ワクチンの2回目接種後少なくとも3週間が経過し、3回目の接種は受けておらず、COVID-19の既往歴がない集団とされた。 解析では、2回目接種からRT-PCR検査までの期間が90日未満の集団を参照として、30日ごとに90~119日、120~149日、150~179日、180日以上の集団に分けた。また、全年齢層のほか、3つの年齢層(60歳以上、40~59歳、18~39歳)に分けて解析が行われた。 主要アウトカムは、RT-PCR検査で検出されたSARS-CoV-2感染とされた。SARS-CoV-2陽性例と対照(陰性例)を、検査を受けた週、年齢層、人口統計学的集団(超正統派ユダヤ教徒、アラブ系住民、一般人口)でマッチさせた。条件付きロジスティック回帰を用いて、年齢、性、社会経済的状況、併発疾患で補正し、感染リスクの補正後オッズ比(OR)を算出した。ブレークスルー感染率:接種後90日未満1.3%から180日以上は15.5%に上昇 研究期間中に8万3,057例(平均年齢43.97[SD 16.89]歳、女性4万3,554例[52.4%])がSARS-CoV-2感染を検出するRT-PCR検査を受け、7,973例(9.6%)が陽性であった。2回目接種からRT-PCR検査までの期間中央値は164日(IQR:138~185)であった。マッチング後のコホートは、陽性例が6,320例、陰性例は3万1,600例だった。 マッチング前の集団における2回目接種後の経過期間(日数)中央値は、3つの年齢層のいずれにおいても、RT-PCR検査陽性例が陰性例よりも有意に長かった。すなわち、60歳以上では、陽性例が192日、陰性例は173日(p<0.001、標準化平均差[SMD]:0.61)、40~59歳ではそれぞれ185日および166日(p<0.001、SMD:0.62)、18~39歳では174日および164日(p<0.001、SMD:0.62)であった。 マッチング前の集団における2回目接種後のSARS-CoV-2陽性率(ブレークスルー感染の割合)は、接種後の経過期間が長くなるほど有意に高くなり、21~89日(参照集団)の1.3%に対し、90~119日が2.4%(OR:1.91、95%信頼区間[CI]:1.39~2.67)、120~149日が4.6%(3.67、2.75~4.98)、150~179日が10.3%(8.82、6.67~11.90)、180日以上は15.5%(14.10、10.68~19.01)と、経時的に上昇した。また、2回目接種から180日以上が経過すると、3つの年齢層のすべてでSARS-CoV-2陽性率が有意に上昇していた(p<0.01)。 マッチング後の集団における2回目接種から90日以上経過後の、参照集団(90日未満)と比較した感染の補正後ORは、90~119日が2.37(95%CI:1.67~3.36)、120~149日が2.66(1.94~3.66)、150~179日が2.82(2.07~3.84)、180日以上は2.82(2.07~3.85)であった(30日間隔ごとのp<0.001)。 著者は、「これらの知見の解釈は、観察研究デザインの制約を受けるが、3回目のワクチン接種の検討が必要であることを示唆する」としている。

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第86回 “外交官”のオミクロン株感染から学ぶ、入国禁止以外にできる水際対策とは

一体、私たちはギリシャ文字のアルファベットをいくつ覚えなければならないのだろう。そしてこれまでの各方面の努力が水泡に帰するのだろうか? 南アフリカ(以下、南ア)が起源と考えられている新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の新たな変異株・オミクロン株の登場に世界が震撼している。ちょうど先週末から今週初めまである地方都市に滞在していたので、夜の飲食店の暖簾をくぐったが、カウンターだけの店内ではオジサンだらけ(もちろん自分も含めてである)。そこでもほかの客が時々「オミクロン」と口にしていて、ややうんざりしてしまった。もっとも私自身は何もオミクロン株を軽視しているわけではない。むしろこれまでよりも厄介なのではないかとすら思っている。すでに広く知られているように、オミクロン株は新型コロナウイルスの野生株と比べ、スパイクタンパク質部分に30ヵ所以上の変異を有し、この数はこれまでの変異株の中で最多。このうち約半分が受容体結合部位(RBD)に関する変異で、常識的に考えれば、この数の多さだけで感染やワクチン接種によりできた抗体の抗原認識能力は低下すると考えられる。しかも細胞へのウイルスの侵入を容易にし、感染性の増強に関わる変異も有するので極めて厄介と言わざるを得ない。起源と言われる南アでは昨年5月下旬から9月初旬にかけての第1波、昨年11月下旬から今年2月上旬にかけての第2波、そして今年5月中旬から9月下旬まで続いた第3波を経験し、11月中旬から第4波とみられる感染流行を見せている。この第4波では各国で猛威を振るい日本の第5波を引き起こしたデルタ株からオミクロン株への置き換わりが進み、感染流行の主流株になりつつあるという。その意味でオミクロン株はデルタ株より感染力は増している可能性があり、実際一部の事例の報告からその可能性がうかがい知れる。たとえば、香港では入国後に検疫用隔離ホテルに滞在していた南ア渡航歴がある人でオミクロン株感染が判明し、同じホテルでこの感染者の真向いの部屋に滞在していたカナダからの帰国者でも感染が発覚。その後の調査から同じフロアの廊下などの環境中からもオミクロン株が検出されている。このような経緯もあり、日本政府は11月27日から水際対策の強化を目的に南アとそれに隣接するナミビア、ボツワナ、ジンバブエ、エスワティニ(旧スワジランド)、レソトの計6ヵ国からの入国者に国指定の宿泊施設で10 日間の待機を義務付け、翌28日にはこの対象国にザンビア、マラウイ、モザンビークを加えた。もっともアフリカの事情を考えた場合、この対策は不十分だと思い、私個人はそのことをTwitterでツイートもしていた。何かというと、アフリカ大陸は1880年代から第一次世界大戦期までの「アフリカ分割」と称されるヨーロッパ列強による植民地支配により、各国とも人流において、当時の支配者だったいわゆる旧宗主国とのつながりが深い。たとえば当初の水際対策強化の対象だった6ヵ国の場合はそうした事情でイギリスが旧宗主国であり、追加された3ヵ国のうちモザンビークはポルトガル、残り2ヵ国もやはりイギリスがそれである。つまりこれらの対象国からの流入阻止を考えた場合、ヨーロッパからの入国にも一定の制限を設けなければ理屈に合わない。また、前述の9ヵ国から日本への直行便はないため、これらの国からの来日はアフリカ大陸でも世界各地への旅客機の本数が多いエジプト、エチオピア、ケニア、あるいは中東のアラブ首長国連邦やカタール、アジア圏内の韓国、中国、タイ、シンガポール各国を経由する。つまりこのルートも厳重警戒を払わねばならない。結局のところ水際対策を強化するならば、ほぼ全世界からの入国に対して対策強化をしなければならないのだ。その意味で11月30日午前0時から全世界からの外国人の入国を1ヵ月停止し、オミクロン株が確認されている各国からの日本人帰国者を厳重な隔離施設で待機させるとした首相官邸の決定は、かなりの英断だったと個人的には評価している。ただ、最終的に撤回はされたものの、国土交通省を通じて日本に到着する国際線を運航する各航空会社に新規予約を止めるよう要請していた件は、不安に駆られ帰国を急ぎたい日本人をさらに不安に陥れるという意味で愚策だったことは確かだ。また、日本の在留資格を有する外国人が、日本入国直前14日以内に前述の9ヵ国にアンゴラを加えた10ヵ国に滞在歴がある場合、特段の事情がない限り再入国を原則拒否する決定もやり過ぎの感がある。在留資格を持つということは日本に一定の生活基盤があることを意味し、そうした人たちを追い返すのは人道上問題だからだ。さて、それだけの対策を取っていても、日本では11月28日に入国したナミビア滞在歴のある30代男性、29日にペルーから入国した20代男性の合計2人のオミクロン株感染者が確認された。ナミビアからの入国者に関しては外交官で、モデルナ製ワクチンを2回接種済みだったと報じられている。正直、ブレークスルー感染という事実以上に、私は日本で確認された1例目が外交官だったことに衝撃を受けている。表現が適切と言い難いかもしれないが、外交官と言えば、どこの国であっても社会の上流層だ。ナミビアの人口当たりのワクチン接種完了率は、「Our World in Data」によると12月1日時点で11.39%で、この外交官はまさに国民の10人に1人の恩恵にあずかった人である。そのナミビアは国連が算出した所得分布の不平等さ、つまり経済格差を表す「ジニ係数」は世界2位。ワクチンを接種できる外交官が感染する社会・衛生状況ならば、下流層はどうなっているのだろうか? いわんや、ジニ係数で世界1位、アフリカ大陸内での国別人口ランキング5位、人口密度はナミビアの16倍でオミクロン株の起源国と言われる南アの実際の状況はいかばかりかと想像してしまう。さらに12月2日午前段階で日本も含め世界の27ヵ国・地域でオミクロン株の感染者が確認されているが、そのうちの1つ、ベルギーで確認されている事例はアフリカ大陸内で国別人口第2位(約1億39万人)のエジプトへの渡航歴を有する人であり、お隣の韓国で確認された事例はアフリカで最大の人口(約2億96万人)を有するナイジェリアに渡航した韓国人だったと報じられている。これらも渡航目的が業務であれ観光であれ、この時期と社会環境で渡航できる以上、衛生面にも配慮が可能なある程度の裕福な層の人だろう。そうした人たちがこの巨大な人口を有する国で感染してしまうのである。これらを総合すると、アフリカでのオミクロン株の蔓延は数字で判明している以上のものなのではないかと考えられる。もっとも現状でのせめてもの救いは、各国で判明しているオミクロン株の感染者の多くが無症候か軽症であるということ。ただ、いまだに新型コロナに対抗する手段が十分とは言えない状況では、軽症であれ感染者が増加するのは看過できない事態である。水際対策では完全に流入を防ぎきれるものではないことは確かだが、メリハリをつけながらも当面は厳重な体制を敷くほうが合理的ではないだろうか。一方、懸念されるワクチンの効果減弱だが、理論上はワクチンの効果が低下すると予想されているが、そうした中でイスラエルからファイザー製ワクチンのブースター接種完了者で検討したオミクロン株に対する有効率が、感染予防で90%、重症化予防で93%と報道されている。数字だけを見れば安心してしまうが、そもそも国内で4例しかオミクロン株の感染者がいないイスラエルで、南アのデータなども参考にして算出したともいわれているが、根拠が不明確で額面通りに受け取るのは難しい。とくに日本の場合はブースター接種が医療従事者で始まったばかりで、参考にするには状況が違いすぎる。また、ここで浮かび上がってきた課題がある。それはワクチン接種率の低い発展途上国で新たな変異株が登場したという現実だ。今回警戒されているアフリカ南部10ヵ国のワクチン接種完了率は、Our World in Dataによると、最高でレソトの26.51%、最低はマラウイの3.06%である。こうした接種率の低い国が存在すれば、そこで感染が激増し、変異株を生むことになる。そうなればワクチン接種と変異株登場のイタチごっこが続くだけだ。日本や先進国は自国の接種率向上やブースター接種推進を急ぐだけでなく、こうした国々へのワクチン供与などで協調支援に動くべき段階に来ているとも言えるだろう。

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接種勧奨再開のHPVワクチン、男性にも高い有効性

 副反応の報道により、2013年から個別接種の積極的勧奨が中止されていたHPVワクチンについて、国内外から有効性と安全性を認める報告が集積し、ついに2022年4月から積極的勧奨が再開される見通しだ。定期接種として無料で接種できるのは13~16歳の女子だが、同ワクチンが若年男性の感染症およびウイルス起因のがん予防に有効であるという報告が、The Lancet Infectious Diseases誌オンライン版11月12日号に掲載された。 米国マウントサイナイ医科大のStephen E Goldstone氏らによる本研究は、4価のヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンを用いた、16~26歳の男性1,803例を対象とした無作為化プラセボ対照試験。10年間の追跡調査で、HPV6または11に関連した外性器疣贅、HPV6、11、16、18に関連した性器病変および肛門異形成の発生率を評価した。 3年間の基礎試験は18ヵ国71施設で実施された。対象は異性愛者の男性(16~23歳)または男性と性交渉を持つ男性(=MSM、16~26歳)で、スクリーニング時にHPV以外の性感染症への感染を示唆する肛門性疣贅や性器病変がある、またはそのような所見の既往歴がある例は除外された。参加者は4価HPVワクチンまたはプラセボのいずれかを、1日目、2ヵ月目、6ヵ月目の計3回接種した(両群比1対1)。 続く7年間の長期フォローアップ試験は、16ヵ国46施設で行われた。基礎試験の期間中に4価HPVワクチンを1回以上接種した参加者が登録可能とされた(早期群)。プラセボ群は、基本試験の終了時に4価HPVワクチンの3回接種を行い、1回以上接種した時点で長期フォローアップの対象となった(キャッチアップ群)。 有効性に関する主要評価項目は以下のとおり。・全被験者におけるHPV6または11に関連した外性器疣贅の発生率・HPV6、11、16、18に関連した性器病変の発生率・MSM例におけるHPV6、11、16、18に関連した肛門上皮内新生物(肛門疣贅と扁平病変を含む)または肛門がんの発生率 早期群のper-protocol集団における主要な効果分析は、1)3回のワクチン接種を受けた、2)1日目に血清陰性、1日目から7ヵ月目まで分析対象となるHPV型のPCR検査陰性、3)ワクチン効果の評価に影響を与えるプロトコル違反がない、4)長期フォローアップ中に1回以上の診察を受けた参加者を対象とした。 キャッチアップ群における有効性は修正intention-to-treat集団で評価され、1)1回以上ワクチン接種を受けた、2)ワクチン接種前の基本試験1日目から最終フォローアップ診察日までのPCR検査陰性、3)長期フォローアップ中に1回以上の診察を受けた参加者を対象とした。 主な結果は以下のとおり。・2010年8月10日~2017年4月3日の間に1,803例が登録され、うち936例(異性愛:827例、MSM:109例)が早期群に、867例(異性愛:739例、MSM:128例)がキャッチアップ群に組み入れられた。・早期群はワクチン3回目接種後に中央値9.5(範囲:0.1~11.5)年、キャッチアップ群は3回目接種後に中央値4.7(0.0~6.6)年のフォローアップ調査を受けた。・「長期フォローアップ中の早期群」と「基本試験中のプラセボ群」を比較した1万人年当たりの発生率は以下のとおり。●外性器疣贅:0.0(95%CI:0.0~8.7)対137.3(83.9~212.1)●外性器病変:0.0(0.0~7.7)対140.4(89.0~210.7)●MSMの肛門上皮内新生物または肛門がん:20.5(0.5~114.4)対906.2(553.5~1,399.5)・キャッチアップ群の「ワクチン接種前の基本調査中」と「ワクチン接種後のフォローアップ中」を比較したの1万人年当たりの発生率は以下のとおり。●外性器疣贅:149.6(101.6~212.3)対0(0.0~13.5)●MSMの肛門上皮内新生物または肛門がん:886.0(583.9~1289.1)対101.3(32.9~236.3)・フォローアップ中のキャッチアップ群において、外性器病変の新規報告例はなかった。・ワクチンに関連した重篤な有害事象は報告されなかった。 著者らは「4価のHPVワクチンは、HPV6、11、16、18に関連する肛門性器疾患に対する持続的な保護を提供する。この結果は、キャッチアップ接種を含む男性への4価HPVワクチン接種を支持するものである」としている。 国内におけるHPVワクチンの承認状況は、女性対象は2価(商品名:サーバリックス)、4価(ガーダシル)、9価(シルガード9)が承認済みだが、男性対象は4価のみで公費助成は対象外、適応は肛門がん(扁平上皮がん)およびその前駆病変、尖圭コンジローマとなる。海外では男性に対しても接種勧奨や公費助成の対象とする国も多い。

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第27回 有名だけれども意外と見落とされがちな意識障害の原因は?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)意識障害の原因は主軸を持って対応を!2)忘れがちな意識障害の原因を把握し対応を!【症例】62歳男性。意識障害仕事場の敷地内で倒れていた。●受診時のバイタルサイン意識20/JCS血圧128/51mmHg脈拍95回/分(整)呼吸20回/分SpO295%(RA)体温36.0℃瞳孔4/4 +/+既往歴高血圧内服薬定期内服薬なし所見麻痺の評価は困難だが、明らかな左右差なし意識障害の原因は?1)救急外来では意識障害患者にしばしば遭遇します。以前に取り上げた意識障害のアプローチに準じて対応しますが、今回の原因は何らしいでしょうか。意識障害というとどうしても頭蓋内疾患を考えがちですが、一般的に頭蓋内疾患が原因の意識障害では血圧は高くなるため、この時点で明らかな麻痺も認めないことから脳卒中は積極的には疑いません。クモ膜下出血の多くは左右差を認めないため、突然発症であった場合には注意が必要ですけどね。それでは原因は何でしょうか?意識障害の原因は多岐に渡り、“AIUEOTIPS”などの語呂合わせで覚えている人も多いのではないでしょうか。急性発症の意識障害であれば、低血糖を除外し、その後頭部CTを検査するというのは一般的な流れかと思います。診療の場において頻度は異なりますが、救急外来を受診する患者では感染症、脳卒中、痙攣、薬剤性、外傷が多く、その他、血糖異常やアルコール、電解質異常などもそれなりに経験します。今回はその中でも見逃しがちな意識障害の原因を見逃される理由と併せて整理しておきましょう。細菌性髄膜炎2)頻度として高くはありませんが、病態として敗血症が考えられる状況においては常に考える必要があります。見逃してしまう理由は、そもそも鑑別に挙げることができない、鑑別に挙げても発熱がない、項部硬直を認めないなどから除外してしまう、その他腰椎穿刺は施行したものの細胞数の上昇を認めなかったため除外してしまったなどが一般的でしょう。ワクチンの普及によって、以前と比較し細菌性髄膜炎は減少傾向にあるものの、毎年私の施設でも数例を経験します。忘れた頃にやってくる疾患といったイメージでしょうか。救急外来では、qSOFA陽性患者では鑑別に挙げ、他のフォーカスが明らかでない場合には積極的に腰椎穿刺を施行し、たとえ細胞数が上昇していなくてもグラム染色所見や培養結果で根拠を持って否定できるまでは、細菌性髄膜炎として対応するようにしています。髄膜刺激徴候は重要ですが、ケルニッヒ徴候やブルジンスキー徴候など特異度が比較的高い所見はあるものの、感度が高い身体所見は存在しないことに注意が必要です(項部硬直は感度46.1%、特異度71.3%)。単一の指標ではなく、総合的な判断が必要であるため、髄膜刺激徴候は1つ1つ確認しますが、結果の解釈を誤らないようにしましょう。細菌性髄膜炎は内科的エマージェンシー疾患であり、安易な除外は禁物です。レジオネラ症(legionellosis)「レジオネラ肺炎」。誰もが聞いたことがある病気ですが、早期に疑い適切な介入を行うことは簡単なようで難しいものです。呼吸困難を主訴に来院し、低酸素血症を認め、X線検査所見では明らかな肺炎像、尿中抗原を提出して陽性、このような状況であれば誰もが考えると思いますが、実臨床はそんなに甘くはありません。肺炎球菌と並んで重症肺炎の代表的な菌であるため、早期発見、早期治療介入が重要ですが、入り口を把握し疑うポイントを知らなければ対応できません。レジオネラ肺炎を見逃してしまう理由もまた同様であり、そもそも鑑別に挙がらない、疑ったものの温泉入浴などの感染経路がなく否定してしまった、尿中抗原陰性を理由に除外してしまったなどが挙げられます。市中肺炎患者に対して肺炎球菌をカバーしない人はいないと思いますが、意外とレジオネラは忘れ去られています。セフトリアキソン(CTRX)やアンピシリン・スルバクタム(ABPC/SBT)などの抗菌薬は、しばしば救急外来で投与されますが、これらはレジオネラに対しては無効ですよね。重症肺炎、喀痰グラム染色で起因菌が見当たらない、紹介症例などでCTRXなどβラクタム系抗菌薬が無効な場合には積極的にレジオネラ肺炎を疑う必要があります。難しいのは入り口が肺炎を示唆する症状ではない場合です。レジオネラ症の初期に認めうる肺外症状を頭に入れておきましょう(表)。これらを認める場合、他に説明しうる原因があれば過度にレジオネラを考える必要はありませんが、そうではない場合、「もしかしてレジオネラ?!」と考え、改めて病歴や身体所見をとるとヒントが隠れているかもしれません。また、意識すれば発熱の割に脈拍の上昇が認められない比較的徐脈にも気付くかもしれません。尿中抗原は診断に多々利用されていますが、これも注意が必要です。特異度は比較的高いとされますが、偽陽性の問題もあります。また、感度は決して高くないため陰性であっても否定できません。(1)重症肺炎、(2)βラクタム系抗菌薬が効かない肺炎、(3)グラム染色で有意な菌が認められない場合、(4)肺外症状を認める場合、(5)比較的徐脈を認める場合、このような場合にはレジオネラを意識して対応するようにしています。表 レジオネラ肺炎の肺外症状画像を拡大するウェルニッケ脳症4)アルコール多飲患者では鑑別に挙げ対応することが多いと思いますが、それ以外の場合には忘れがちです。フレイル患者など低栄養の患者さんでは常に考えるべき疾患であると思います。ウェルニッケ脳症が見逃されがちな5つの誤解があります。それは、「(1)非常にまれである、(2)慢性アルコール患者のみに起こる、(3)3徴(意識障害、眼球運動障害、歩行失調)が揃っていなければならない、(4)チアミンを静注するとアナフィラキシーのリスクが高い、(5)他の診断があれば除外できる」です。正確な頻度は不明であるものの、私たちが行わなければならないのはウェルニッケ脳症を診断すること以上に治療介入のタイミングを逃さないことです。意識障害患者に対するビタミンB1の投与は経静脈的に行いますが、迷ったら投与するようにしましょう。典型的な症状が揃うまで待っていてはいけません。重要なこととして(5)の他の診断があれば除外できるという誤解です。フレイル患者が脳梗塞を起こした場合、肺炎を起こした場合、その場合にビタミンB1が欠乏している(しかけている)ことも考え対応するようにしましょう。意識すると撮影した脳梗塞のMRIに典型的な所見が映っているかもしれませんよ。今回の症例の最終診断は「レジオネラ肺炎」でした。診断へのアプローチは紙面の都合上割愛しますが、意識障害のアプローチは主軸を持ちつつ、そのアプローチで見逃しがちな点を把握し、対応することが重要です。私は重度の意識障害患者に対するアプローチ方法を決め、そこから目の前の患者さんでは必要のない項目を引く形で対応しています。これもあれもと足し算で対応すると忘れたり、後手に回ることがありますからね。1)坂本 壮、安藤 裕貴著. 意識障害。あなたも名医!. 日本医事新報社;2019.2)Akaishi T, et al. J Gen Fam Med. 2019;20:193-198.3)Cunha BA. Infect Dis Clin North Am. 2010;24:73-105.4)坂本 壮 編著. 救急外来、ここだけの話. 医学書院;2021.

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