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第114回 コロナ新対策決定、協定結んだ医療機関は患者受け入れ義務化、罰則規定も

岸田首相がコロナ新対策公表こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この連載を読んでくれている友人から、今度は「今年はコロナ関連の話題も少ないね」と言われました。確かに、少ない、というかほとんど書いていません。お正月の回で、独自の“楽観論”を書いたところ、不思議なことにコロナが収束に向かい始めたので、少々ウオッチを怠っていたのがその理由です。そんな“楽観論”から約半年、先週、岸田 文雄首相が、新型コロナをはじめとする感染症に対する新対策を公表しました。参議院選挙を睨んだパフォーマンスと見る向きもありますが、それなりにこれまでの反省点を踏まえた内容になっています。今回は新対策に盛り込まれた医療提供体制の改革案について書いてみたいと思います。一元的に感染症対策を行う内閣感染症危機管理庁を新設岸田首相は6月15日、通常国会の閉会を受けて首相官邸で記者会見を行い、新型コロナウイルスを含む今後の感染症に対応する「内閣感染症危機管理庁」を内閣官房に設置し、司令塔機能を強化することを表明しました。内閣感染症危機管理庁は、感染症の危機に備えて「首相のリーダーシップの下、一元的に感染症対策を行う」組織で、同庁の下で平時から感染症に備え、有事の際は物資調達などを担う関係省庁の職員を同庁の指揮下に置き、一元的な対策を行うとしています。またトップには「感染症危機管理監」(仮称)が置かれる予定です。新型コロナ対応は現在、内閣官房の「新型コロナウイルス感染症等感染症対策推進室」と、厚労省の「新型コロナ感染症対策推進本部」の2つの司令塔があり、その連携のまずさが度々問題視されてきました。たとえば「ワクチン・検査パッケージ」を陰性証明に使うかどうかや、ワクチンの3回目接種時期を巡っては、内閣官房と厚労省の考え方の違いが表面化し、政策決定にも支障が出ていました。両者を統括した形の内閣感染症危機管理庁の設置は、省庁をまたぐ縦割りの弊害を解消し、一体的に対応できる体制を構築するためのものだと言えます。感染研と国際医療研究センターを統合し「日本版CDC」にさらに、厚労省における平時からの感染症対応能力も強化されます。各局にまたがる感染症対応、危機管理の部署を統合して「感染症対策部」を新設するとしています。さらに「感染症に関する科学的知見の基盤・拠点となる新たな専門家組織」も一元化するため、研究機関である国立感染症研究所と、高度な治療・研究の拠点である国立国際医療研究センターを統合、米疾病対策センター(CDC)をモデルとした、いわゆる「日本版CDC」を厚労省の下に創設するとしています。危機管理組織や専門家組織の一元化は望ましいことです。ただ、気になる点もあります。一点目は、統合後の組織の位置づけです。米国では感染症研究や臨床試験の主な担い手は米国立衛生研究所(NIH)であり、疾病の情報掌握とそれらが発生した時の公衆衛生対策等が主な役割であるCDCではありません。国立国際医療研究センターの現在の機能はどちらかと言えばNIH的と考えられるので、「日本版CDC」というコンセプトでよいのかどうか疑問が残ります。もう一点は、東京大学医学部のジッツ色が濃い国立国際医療研究センターが、感染症研究の中心になることで、研究分野の主導権や研究費の獲得を巡って大学間で軋轢が生じたりしないかということです。そのあたり現場の調整は意外に大変そうです。「医療機関とあらかじめ協定を締結する仕組みに法的根拠を与える」重症患者受け入れから、市中での検査体制まで、コロナ禍で最もその脆弱性が浮き彫りになった医療提供体制についても、病床確保の面で踏み込んだ改革が行われます。岸田首相は会見で、「本日の有識者会議の報告を受け止め、昨年の総裁選で約束したとおり、国・地方が医療資源の確保等についてより強い権限を持てるよう法改正を行う。医療体制については、11月の『全体像(次の感染拡大に向けた安心確保のための取り組みの全体像)』で導入した医療機関とあらかじめ協定を締結する仕組みなどについて、法的根拠を与えることでさらに強化する。地域の拠点病院に協定締結義務を課すなど、平時から必要な医療提供体制を確保し、有事にこれが確実に回ることを担保する」と語りました。「かかりつけ医機能が発揮される制度整備が重要」と有識者会議政府の「新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議」(座長:永井 良三・自治医科大学長)も同じ15日に報告書1)をまとめ、首相会見の直前に公表しており、その内容を踏まえて岸田首相は医療提供体制の改革案を述べたわけです。そもそも、有識者会議報告書があって、政府がそれを参考に政策立案、参院選前に公表という筋道が必要だったため、有識者会議の議論はかなり拙速気味に行われたようです(会議自体は5月から4回開催、5回目に報告書)。ただ、報告書自体は、以下のようにしごく真っ当な指摘をしています。「感染症危機時に実際に病床を確保するために必要な対応など実際の具体的な運用に関して、感染症法に基づく予防計画や医療法に基づく医療計画との連携ができていなかった」と法整備の不備を指摘、「各地域で個々の入院医療機関が果たすべき役割が明示されておらず、医療機関の協力を担保するための措置もなく、現場は要請に基づいて対応せざるを得なかった」として、現場でのさまざまなドタバタぶりを例示しています。その上で、病院については、「各地域で平時より、医療機能の分化、感染症危機時の役割分担の明確化を図るとともに、健康危機管理を担当する医師及び看護師を養成してネットワーク化」することを提案しました。さらに、かかりつけの医療機関(とくに外来、訪問診療等を行う医療機関)についても、「各地域で平時より、感染症危機時の役割分担を明確化し、それに沿って研修の実施やオンライン診療・服薬指導の普及に取り組むなど、役割・責任を果たすこととした上で、感染症危機時には、国民が必要とする場面で確実に外来医療や訪問診療等を受診できるよう、法的対応を含めた仕組みづくりが必要である。今後、さらに進んでかかりつけ医機能が発揮される制度整備を行うことが重要である」と提言しました。特定機能病院や公立・公的病院には協定締結の義務岸田首相の記者会見から2日後の6月17日、政府は新型コロナウイルス感染症対策本部において、内閣感染症危機管理庁などを新設することや、病床確保を確実にするため国・地方の権限を強化する方針を盛り込んだ「新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に備えるための対応の方向性」2)を正式決定しました。感染症法の改正に向けて本格的な検討に入り、秋の臨時国会に法案提出する予定とのことです。明らかになった「方向性」でとくに注目されるのは、有事の病床確保のために協定の締結を求める点です。具体的には、都道府県が医療機関との間で協定を結び、病床や外来医療を感染者の急増時などに提供できるようにするとのことです。協定の仕組みは法律(感染症法)で定め、地域医療の拠点となる特定機能病院や公立・公的病院には協定締結の義務を課すとのことです。有事に医療機関が協定に従うようにするため、協定の履行状況を公表するほか、特定機能病院については承認の取り消しも視野に入れるとしています。また、自宅・宿泊療養者等への医療提供についても、医療機関との間で協定を締結するとしています。「協力を求め」て「勧告」するくらいでは病院は動かない新型コロナの感染が急増していた昨年、本連載でも国の病床確保策の不十分さについて度々書いてきました。2021年4月21日掲載回では、2021年2月に改正された感染症法(第16条の2)に基づき、奈良県が民間病院を含む県内全ての75病院に病床確保や患者の受け入れを要請したニュースを取り上げました。昨年の感染症法改正では、コロナ病床の確保を目的に、国や地方自治体の権限を強化しました。同法第16条の2は「厚生労働大臣又は都道府県知事等は、緊急の必要があると認めるときは、医療関係者・民間等の検査機関等に必要な協力を求め、その上で、当該協力の求めに正当な理由がなく応じなかったときは勧告することができる(正当な理由がなく勧告に従わない場合は公表することができる)こととすること」となっています。しかし、結局、この動きが全国に広いがることはありませんでした。「必要な協力を求め」て「勧告」するくらいでは病院は動かないことが証明されたのです。次に予定される感染症法等の改正は、明らかにこれに懲りての対応と考えられます。協定の締結を特定機能病院に義務付け、承認取り消しという罰則も想定されています。また、特定機能病院以外の医療機関との協定についても罰則の導入が検討される模様です。罰則導入は、「お願い」ベースでは思うように動かなかった日本の医療機関に対し、ちゃんと動いてもらうための最後手段と言えます。しかし、こうした政府の動きに対し、日本医師会の中川 俊男会長(既にレームダックですが)は6月15日の記者会見で「強制的に病床を確保せよという仕組みは、地域医療にとって決していいことではない」と語ったそうです。罰則規定には、今後新体制となる日本医師会含め、医療関係団体からの反対も予想されますが、昨年の感染症法改正が病床確保にまったく役にも立たなかったことを考えると、次こそ有事に実効性のある改正を期待したいものです。参考1)新型コロナウイルス感染症へのこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に向けた中長期的な課題について/新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議2)新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に備えるための対応の方向性/新型コロナウイルス感染症対策本部

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ワクチン4回目接種スタート、医師は接種したい?したくない?/1,000人アンケート

 2022年5月25日に新型コロナワクチンの4回目接種がスタートした。今回は接種の対象者が、1)60歳以上、2)18~60歳未満で基礎疾患がある人・重症化リスクが高いと医師が認めた人、に限定されている。医師はこの方針についてどう捉え、自身の接種についてはどう考えているのだろうか? ケアネットでは、6月7日(火)に60歳未満の会員医師1,000人を対象に、インターネットで「4回目接種」について希望や考えを問うアンケートを行った。 「現在の自身のワクチンの接種状況」を聞いた設問では、92%が「3回接種済み」と回答した。1回または2回接種済み(計5.4%)、未接種(3%)との回答者もいたものの、医療者として感染リスクの高い場所で勤務している場合が多いことに加え、勤務先からも接種指示が出されるケースも多いと予想され、3回接種を終えている人が大半だった。 一方、「自身は4回目接種を受けたいか」との設問への回答は、意見が分かれた。「対象となったら、すぐに接種したい」が33%、「対象となったら、時期を見て接種したい」が36%と計7割を占めたものの、「対象となっても、接種したくない」「どちらともいえない」も各15%、13%を占めた。 上記の「接種意向」について理由を訊ねた設問(複数回答)では「接種したい」との回答者からは「少しでも感染・重症化リスクを減らしたい」(39%)、「ハイリスク者・発熱患者の診療に携わっている」(32%)が大きな割合を占め、「自分や家族、患者を感染や重症化から守りたい」という声が大半だった。一方で、「接種したくない」との回答者からは「3回接種で十分/4回目接種の効果のエビデンスが不十分」(15%)、「副反応がつらい」(10%)といったものが多かった。 「4回目接種には、どのワクチンを希望するか」との設問では、ファイザー製(mRNAワクチン)が67%と圧倒的支持を集め、ノババックス製(組み換えタンパクワクチン)が9%、モデルナ製(mRNAワクチン)が8%と僅差で続いた。これまでの1~3回目接種では医療者向けにファイザー製ワクチンが重点的に振り分けられたこともあり、「副反応の程度が予想できる同じワクチンで」という心理が働いた面がありそうだ。 今後のワクチン接種に関する意見・要望を聞いた自由回答では、「3回目接種の初動の遅れを活かし、4回目接種(ハイリスク者に対する)を早急に進めるべき。また、余剰ワクチンを医療従事者の希望者に回すなど柔軟な対応を行い、廃棄を減らす努力も必要」(30代、感染症内科、200床以上)、「そろそろ五類感染症への変更を。ワクチン接種もインフルエンザ同様の希望者のみでよい」(50代、精神科、200床以上)、「国産ワクチン開発に向けて頑張ってほしい」(40代、耳鼻咽喉科、0床)などの声が挙がった。アンケートの詳細は以下のページで公開中。https://www.carenet.com/enquete/drsvoice/cg003752_index.html

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添付文書改訂:カナグルに2型糖尿病CKD追加/ツートラムにがん疼痛追加/コミナティ、スパイクバックスに4回目接種追加/エムガルティで在宅自己注射が可能に/不妊治療の保険適用に伴う追記【下平博士のDIノート】第100回

カナグル:2型糖尿病患者のCKD追加<対象薬剤>カナグリフロジン水和物(商品名:カナグル錠100mg、製造販売元:田辺三菱製薬)<承認年月>2022年6月<改訂項目>[追加]効能・効果2型糖尿病を合併する慢性腎臓病。ただし、末期腎不全または透析施行中の患者を除く<Shimo's eyes>SGLT2阻害薬については近年、心血管予後・腎予後の改善効果を示した大規模臨床研究が次々と発表されています。本剤は2型糖尿病患者の慢性腎臓病(CKD)に対する適応追加で、用法・用量は既承認の「2型糖尿病」と同じとなっています。2022年6月現在、類薬で「CKD」に適応があるのはダパグリフロジン(同:フォシーガ)、「心不全」に適応があるのはダパグリフロジンおよびエンパグリフロジン(同:ジャディアンス)となっています。ツートラム:がん疼痛が追加<対象薬剤>トラマドール塩酸塩徐放錠(商品名:ツートラム錠50mg/100mg/150mg、製造販売元:日本臓器製薬)<承認年月>2022年5月<改訂項目>[追加]効能・効果疼痛を伴う各種がん<Shimo's eyes>本剤は、速やかに有効成分が放出される速放部と、徐々に有効成分が放出される徐放部の2層錠にすることで、安定した血中濃度推移が得られるように設計された国内初の1日2回投与のトラマドール製剤です。今回の改訂で、がん患者の疼痛管理に本剤が使えるようになりました。本剤を定時服用していても疼痛が増強した場合や突出痛が発現した場合は、即放性のトラマドール製剤(商品名:トラマールOD錠など)をレスキュー薬として使用します。なお、レスキュー投与の1回投与量は、定時投与に用いている1日量の8~4分の1とし、総投与量は1日400mgを超えない範囲で調節します。鎮痛効果が不十分などを理由に本剤から強オピオイドへの変更を考慮する場合、オピオイドスイッチの換算比として本剤の5分の1量の経口モルヒネを初回投与量の目安として、投与量を計算することが望ましいとされています。なお、ほかのトラマドール製剤(商品名:トラマール注、トラマールOD錠、ワントラム錠)は、すでにがん疼痛に対する適応を持っています。参考日本臓器製薬 ツートラム錠 添付文書改訂のお知らせコミナティ、スパイクバックス:4回目接種が追加<対象薬剤>コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)(商品名:コミナティ筋注、製造販売元:ファイザー/商品名:スパイクバックス筋注、製造販売元:武田薬品工業)<承認年月>2022年4月<改訂項目>[追記]接種時期4回目接種については、ベネフィットとリスクを考慮したうえで、高齢者等において、本剤3回目の接種から少なくとも5ヵ月経過した後に接種を判断することができる。<Shimo's eyes>オミクロン株流行期において、ワクチン4回目接種による「感染予防」効果は短期間とはいえ、「重症化予防」効果は比較的保たれると報告されています。それを踏まえ、4回目の追加接種の対象は、60歳以上の者、18歳以上60歳未満で基礎疾患を有する者など、重症化リスクが高い方に限定されました。また、3回目以降の追加免疫の間隔はこれまで「少なくとも6ヵ月」となっていましたが、今回の改訂で「少なくとも5ヵ月」と短縮されました。追加免疫の投与量については、コミナティ筋注は初回免疫(1、2回目接種)と同じく1回0.3mL、スパイクバックス筋注の場合は、初回免疫は1回0.5mLですが、追加免疫では半量の1回0.25mLとなっています。参考ファイザー 新型コロナウイルスワクチン 医療従事者専用サイト武田薬品COVID-19ワクチン関連特設サイト<mRNAワクチン-モデルナ>エムガルティ:在宅自己注射が可能に<対象薬剤>ガルカネズマブ(遺伝子組み換え)注射液(商品名:エムガルティ皮下注120mgオートインジェクター/シリンジ、製造販売元:日本イーライリリー)<承認年月>2022年5月<改訂項目>[追記]重要な基本的注意、副作用自己投与に関する注意<Shimo's eyes>薬価収載から1年が経過し、本剤の在宅自己注射が可能となりました。承認された経緯としては、日本頭痛学会および日本神経学会から要望書が出されていました。自己注射が可能になることで、毎月の通院が難しかったケースでも抗体医薬を用いた片頭痛予防療法を実施しやすくなることが期待されます。本剤の投与開始に当たっては、医療施設において必ず医師または医師の直接の監督の下で投与を行い、自己投与の適用についてはその妥当性を慎重に検討します。自己注射に切り替える場合は十分な教育訓練を実施した後、本剤投与によるリスクと対処法について患者が理解し、患者自らの手で確実に投与できることを確認したうえでの実施となります。参考日本イーライリリー 医療関係者向け情報サイト エムガルティフェマーラほか:不妊治療で使用される場合の保険適用<対象薬剤>レトロゾール錠(商品名:フェマーラ錠2.5mg、製造販売元:ノバルティス ファーマ)<承認年月>2022年2月<改訂項目>[追加]効能・効果生殖補助医療における調節卵巣刺激[追加]用法・用量通常、成人にはレトロゾールとして1日1回2.5mgを月経周期3日目から5日間経口投与する。十分な効果が得られない場合は、次周期以降の1回投与量を5mgに増量できる。<Shimo's eyes>2022年4月から、不妊治療の経済的負担を軽減するために生殖医療ガイドライン等を踏まえて、人工授精等の「一般不妊治療」、体外受精・顕微授精等の「生殖補助医療」について、保険適用されることになりました。アロマターゼ阻害薬である本剤は、従前の適応は閉経後乳がんでしたが、不妊治療に用いる場合、閉経前女性のエストロゲン生合成を阻害する結果、卵胞刺激ホルモン(FSH)分泌が誘導され、卵巣内にアンドロゲンが蓄積し、卵巣が刺激されて卵胞発育が促進されます。ほかにも、プロゲステロン製剤(商品名:ルティナス腟錠等)は「生殖補助医療における黄体補充」、エストラジオール製剤(同:ジュリナ錠等)は「生殖補助医療における調節卵巣刺激の開始時期の調整」「凍結融解胚移植におけるホルモン補充周期」、さらに卵胞ホルモン・黄体ホルモン配合製剤(同:ヤーズフレックス配合錠、ルナベル配合錠等)は「生殖補助医療における調節卵巣刺激の開始時期の調整」の適応がそれぞれ追加されています。バイアグラほか:男性不妊治療に保険適用<対象薬剤>シルデナフィルクエン酸塩錠(商品名:バイアグラ錠25mg/50mg、同ODフィルム25mg/50mg、製造販売元:ヴィアトリス製薬)タダラフィル錠(商品名:シアリス錠5mg/10mg/20mg、製造販売元:日本新薬)<承認年月>2022年4月<改訂項目>[追加]効能・効果勃起不全(満足な性行為を行うに十分な勃起とその維持ができない患者)[追加]保険給付上の注意本製剤が「勃起不全による男性不妊」の治療目的で処方された場合にのみ、保険給付の対象とする。<Shimo's eyes>こちらも少子化社会対策として、従前の勃起不全(ED)の適応は変わりませんが、保険適用となりました。本製剤について、保険適用の対象となるのは、勃起不全による男性不妊の治療を目的として一般不妊治療におけるタイミング法で用いる場合です。参考資料 不妊治療に必要な医薬品への対応(厚労省)

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第117回 英国の小児の原因不明の急な肝炎は減少傾向 / 血中のアミノ酸・プロリンとうつ症状が関連

英国の小児の原因不明の急な肝炎は減少傾向今年に入ってから6月13日までに英国ではA~E型以外の原因不明の急な肝炎が260人の小児に認められており、死亡例はありませんが12人(4.6%)が肝臓移植を必要としました1)。新たな発生は続いているものの一週間当たりの数はおおむね減っています。いまだはっきりしない病原の検査ではアデノウイルスの検出が引き続き最も多く、検査した241例中156例(約65%)からアデノウイルスが見つかりました。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は入院の際の検査結果がある196人のうち34人(約17%)から検出されています。ほとんどはSARS-CoV-2ワクチン接種の対象年齢ではない5歳までの乳幼児に発生しており、SARS-CoV-2ワクチンとの関連は認められていません。英国の状況報告と時を同じくして米国からも報告があり、小児の肝炎と関連した救急科治療/入院や肝臓移植はSARS-CoV-2感染(COVID-19)流行前に比べて増えてはおらず2017年以降一定でした2)。たとえば0~4歳の小児の1ヵ月当たりの肝炎関連入院数はより最近の2021年10月~2022年3月までは22件、COVID-19流行前は19.5件であり、有意な変化はありませんでした。それに、原因不明の肝炎小児からアデノウイルス41型が検出されていますが、米国での調査ではアデノウイルス40/41型陽性の小児の割合の増加も認められませんでした(40と41型が一括りになっているのは市販の検査のほとんどがそれらを区別できないため)。だからといって小児の原因不明の肝炎はもはや心配する必要がないというわけではないと米国カリフォルニアの小児病院のリーダーRohit Kohli氏はMedscapeに話しています3)。小児肝炎の増加が認められている英国などの他の国のデータと違いがあるからです。血中のアミノ酸・プロリンが多いこととうつ症状が関連軽度~かなりのうつ病やうつでない人あわせて116人を調べたところ腸内細菌の組成に依存して血中(血漿)のアミノ酸・プロリン濃度が高いこととより重度のうつ症状の関連が認められました4-6)。プロリンはどうやらうつ発症の引き金となるらしく、マウスにプロリンを余分に与えたところうつを示す振る舞いが増えました。また、うつ症状と血漿プロリン濃度の関連が強い被験者20人の糞、つまり腸内微生物をマウスに移植したところ、血中のプロリンが多くてより重症のうつ患者の微生物が移植されたマウスほどプロリンを余分に与えた場合と同様にうつを示す振る舞いをより示しました。さらに遺伝子発現を調べたところ、微生物が移植されてよりうつになったマウスの脳ではプロリン輸送体遺伝子Slc6a20などの発現がより増えていました。そこで、プロリン輸送体のうつ症状への寄与がハエ(ショウジョウバエ)を使って調べられました。Slc6a20のショウジョウバエ同等遺伝子CG43066を抑制したショウジョウバエ、すなわち脳がプロリンを受け付けないショウジョウバエはうつを示す振る舞いを示し難くなりました。また、マウスでうつになり難いことと関連し、GABAを大量に生成する乳酸菌(ラクトバチルス プランタルム)を移植したショウジョウバエもうつ様になり難いことが確認されています。GABAやグルタミン酸はプロリンの分解で最終的に生み出されうる神経伝達物質であり、プロリンの蓄積はGABA生成やグルタミン酸放出を妨げてシナプス伝達を害しうることが先立つ研究で示されています7,8)。そういった先立つ研究と同様に今回の研究でもプロリンがGABA/グルタミン酸分泌シナプスのいくつかの経路と強く関連することが示されています。どうやら共生微生物はプロリン代謝に手出ししてグルタミン酸やGABA放出の均衡を妨害してうつに寄与しうるようであり、グルタミン酸やGABAの使われ方へのプロリンの寄与に共生微生物がどう関わるかを調べることがうつ病によく効く新しい治療の開発に必要でしょう4)。そういう今後の課題はさておき、今回の新たな研究によるとプロリンが控えめな食事をすることでうつ症状は大いに緩和できる可能性があります。参考1)Investigation into acute hepatitis of unknown aetiology in children in England: case update / gov.uk2)Kambhampati AK,et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2022 Jun 17;71:797-802.3)Pediatric Hepatitis Has Not Increased During Pandemic: CDC / Medscape4)Mayneris-Perxachs J, et al.Cell Metab. 2022 May 3;34:681-701.5)Study Links Depression with High Levels of an Amino Acid / TheScientist6)A study confirms the relationship between an amino acid present in diet and depression / Eurekalert7)Crabtree GW, et al. Cell Rep. 2016 Oct 4;17(2):570-582.8)Wyse AT, et al. Metab Brain Dis. 2011 Sep;26:159-72.

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12~18歳の新型コロナワクチン有害事象、女子に高リスク傾向/日本化学療法学会

 現在、12~18歳の約75%が新型コロナウイルスワクチンの2回接種を終えているという。この年齢層での新型コロナウイルスワクチンの有害事象の調査結果について、大阪医科薬科大学の小川 拓氏が、2022年6月3日~5日に開催された第70回日本化学療法学会総会にて発表した。ワクチン接種による有害事象は12~18歳も成人データと大きく変わらない 本研究では、中学校・高等学校の生徒のうち、新型コロナウイルスワクチンの接種を、希望者469人に対して、2021年9月25日~10月28日に職域接種として行った。1回目はすべてモデルナ製ワクチン(0.1mg)であったが、若年男性に心筋炎・心膜炎のリスクがあることが厚生労働省から発表されたことを受け、2回目は男子に限りモデルナ製に加え、ファイザー製ワクチン(0.225mg)も選択可能とした。男子108人(うち2回目ファイザー製72人)、女子44人の計152人が研究に参加した。被験者に、新型コロナウイルスワクチンの有害事象でよく見られる症状を記載したアンケート形式の健康観察票に、2週間分を記録してもらった。 1回目接種後の新型コロナウイルスワクチンの有害事象の主な調査結果は以下のとおり。・男女ともに、接種部の局所反応と全身反応ともに、症状の持続期間の中央値3日であった。接種部疼痛や腫脹などの局所反応は、長くても10日程度で治まっていた。・新型コロナウイルスワクチンの有害事象の頻度として多いものは、接種部疼痛(男子89.8%、女子97.7%)、接種部腫脹(男子39.8%、女子50.0%)、37.1℃以上の発熱(男子38.9%、女子50.0%)、倦怠感(男子41.7%、女子40.9%)、頭痛(男子24.1%、女子40.9%)であった。・男女で統計学的に有意な差が見られた新型コロナウイルスワクチンの有害事象は、38.1℃以上の発熱(男子3.7%、女子18.2%)、頭痛(男子24.1%、女子40.9%)であり、女子のほうに多く見られた。・1回目接種の3日後に、14歳男子1例が虫垂炎のために入院した。・接種後の待機時間中に男子1例が腕のしびれを発症したが、速やかに改善した。 2回目接種後の新型コロナウイルスワクチンの有害事象の主な調査結果は以下のとおり。・新型コロナウイルスワクチンの有害事象の頻度として多いものは、接種部疼痛(男子・ファイザー製80.6%、男子・モデルナ製78.3%、女子100.0%)、37.1℃以上の発熱(男子・ファイザー製77.8%、男子・モデルナ製82.6%、女子92.1%)、38.1℃以上の発熱(男子・ファイザー製38.9%、男子・モデルナ製52.2%、女子89.5%)、頭痛(男子・ファイザー製52.8%、男子・モデルナ製60.9%、女子89.5%)、悪寒(男子・ファイザー製20.8%、男子・モデルナ製21.7%、女子44.7%)であり、1回目よりも2回目接種後のほうが各項目の新型コロナウイルスワクチンの有害事象の発生頻度が高く、男子よりも女子のほうが発生頻度が高かった。・ファイザー製を接種した男子4例が、遷延する咳嗽(2例)、めまい(1例)、嘔吐(1例)のため通院したが、いずれも速やかに回復した。・接種後の待機時間中に男子1例が指のしびれを発症したが、12時間以内に消失した。 小川氏は本結果について「12~18歳のワクチン接種による有害事象について、日本における成人のデータと傾向は大きく変わらず、症状の持続期間の中央値はいずれも3日程度で、すべての有害事象が10日目までに消失している。頭痛は月経のある世代では、男性よりも女性に多く報告されており、交絡因子の可能性がある」と述べている。また、本研究では、接種者469人のうち約3割の152人しか研究に参加しなかったこともあり、サンプルサイズが小さいため、モデルナ製ワクチンの若年男性に発生頻度が高いとされる心筋炎や心膜炎については評価できなかったという。

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日本人乳がん患者におけるワクチン接種後の中和抗体価/ASCO2022

 日本人乳がん患者における新型コロナワクチン2回接種後の中和抗体価が調べられ、95.3%と高い抗体陽転化率が示されたものの、治療ごとにみると化学療法とCDK4/6阻害薬治療中の患者で中和抗体価の低下が示唆された。名古屋市立大学の寺田 満雄氏らによる多施設共同前向き観察研究の結果が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2022 ASCO Annual Meeting)で発表された。・対象:2021年5~11月にSARS-CoV-2ワクチン接種予定の乳がん患者(Stage 0~IV)・試験群と評価法:がん治療法ごとに5群に分け(無治療、内分泌療法、CDK4/6阻害薬、化学療法、抗HER2療法)、最初のワクチン接種前と2回目ワクチン接種後(4週後)に血清サンプルを採取、ELISA法で血清中IgG濃度および各変異株に対する中和抗体価を評価した。・評価項目:[主要評価項目]2回目ワクチン接種4週後のSARS-CoV-2 Sタンパクに対する血清中IgG濃度[副次評価項目]各治療群ごとのIgG濃度および抗体陽転化率、野生株・α・δ・κ・ο株に対する中和抗体価、がん治療への影響(休薬および減薬) 主な結果は以下のとおり。・全体で85例(無治療5例、内分泌療法30例、CDK4/6阻害薬14例、化学療法21例、抗HER2療法15例)が評価対象とされた。・年齢中央値は62.5(21~82)歳、55.3%が早期乳がん・44.7%が進行あるいは転移を有する乳がん患者だった。新型コロナワクチンの種類は、76.5%がファイザー製・3.5%がモデルナ製だった。・抗体陽転化率は全体で95.3%。治療法別にみると、無治療・内分泌療法・CDK4/6阻害薬・抗HER2療法では100%、化学療法のみ81.8%だった。・化学療法群では、無治療群と比較して有意に血清中IgG濃度が低下していた(p=0.02)。・各変異体に対する中和抗体価は、野生株に対する中和抗体価と比較し有意に低下していた。とくにο株に対しその傾向が強く、低下は治療法によらずみられた。・CDK4/6阻害薬群では、無治療群と比較して野生株に対する中和抗体価(p<0.01)およびα株に対する中和抗体価(p<0.01)が有意に低下していた。・化学療法群では、無治療群と比較して野生株に対する中和抗体価(p=0.001)、α株に対する中和抗体価(p<0.001)、およびκ株に対する中和抗体価(p=0.03)が有意に低下していた。・ワクチン接種による副反応と関連した乳がん治療の休薬または減量はみられず、1例のみ副反応への懸念での休薬があった。筆頭著者 名古屋市立大学寺田 満雄氏へのインタビュー今回の結果をどのように解釈されていますか? おおむね健常者と同等のワクチン効果が得られることがわかり、この点は海外の過去の報告とも一致しています。一方で、CDK4/6阻害薬など現在乳がんでしか使われない治療薬にワクチンの効果を妨げる可能性がある薬剤があることもわかりました。また、変異株ごとに大きく異なる点も注目に値します。実際の感染防御にどれほど影響するかは本研究からはわかりませんが、今後のワクチン接種を考える上で重要なデータとなったと考えています。乳がん患者のワクチン接種や感染予防について、今回の結果から示唆されたことは? 効果の面でも、安全面でも今回の結果は、乳がん患者さんへのワクチン接種を支持するものとなりました。しかし、CDK4/6阻害薬や化学療法中では抗体がついたとしても中和抗体の力価としては弱い場合もあり、ワクチン接種後だとしても引き続き予防行動は重要であると言えます。今後の課題、研究の見通しなどがあればお教えください。 なぜCDK4/6阻害薬や化学療法中でワクチン効果が弱まることがあるのかについてはわかっていないことも多くあります。第30回日本乳癌学会学術総会(2022/7/2・土 厳選口演10)では、一部の患者さんでワクチンの効果が十分に得られなかった原因をもう少し考察したデータを発表予定です。がん患者における免疫不全は、COVID-19に限らず重要な課題でありますので、私自身も今後も研究を続けていきたいと思います。

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コロナワクチンの副反応疑い、長期観察での発生率は?ファイザーvs.モデルナ

 RCTではBNT162b2(ファイザー製)ワクチンおよびmRNA-1273(モデルナ製)ワクチンを接種した人の副反応疑い(有害事象)の発生率が低いことはわかっている。しかし、より長期フォローアップかつ大規模で多様な集団での、より広範囲の潜在的な有害事象に対する安全性は明らかになっていない。そこで、米国・ハーバード大学公衆衛生大学院のBarbra A Dickerman氏らは、上記2剤のワクチン接種による有害事象リスクに関して直接の安全性を比較するための調査を実施。その結果、ファイザー製またはモデルナ製ワクチン1回目接種から14日以内では有害事象リスクにほとんど差がなかったものの、42日以内でわずかな差が生じることが示唆された。JAMA Internal Medicine誌オンライン版6月13日号掲載の報告。ファイザー製もモデルナ製も有害事象の38週間リスクは概して低かった 本研究は米国最大の統合医療システムであるアメリカ合衆国退役軍人省のデータベースを用い、2021年1月4日~9月20日の期間にファイザー製またはモデルナ製ワクチンの1回目接種を受けた退役軍人の潜在的な有害事象を評価した。その後に各ワクチン接種者を危険因子に応じて1:1でマッチングさせた。 評価に用いた大規模パネルには、神経学的イベント、血液学的イベント、出血性脳卒中、虚血性脳卒中、心筋梗塞、そのほかの血栓塞栓性イベント、心筋炎または心膜炎、不整脈、腎機能障害、虫垂炎、自己免疫疾患、帯状疱疹/単純ヘルペス、関節炎/関節症、および肺炎が含まれた。1次分析では38週間リスクを、2次分析では14日間または42日間の有害事象リスクを分析した。なお、38週間リスクはカプランマイヤー推定量で推定した。 ファイザー製またはモデルナ製ワクチン接種による有害事象リスクを比較した主な結果は以下のとおり。・43万3,672例が評価の対象となり、うち男性が93%(20万908例)、黒人が20%(4万3,452例)だった。年齢中央値は69歳(四分位範囲[IQR]:60〜74歳)だった。・対象者の併存疾患で最も多かったのは高血圧症(ファイザー製群:63%[13万7,265例]、モデルナ製群:65%[14万774例])で、肥満(同:47%[10万885例]、同:47%[10万1,207例])、糖尿病(同:34%[7万2,895例]、同:37%[7万9,338例])と続いた。・過去5年間のインフルエンザワクチン接種回数は5回以上が最も多かった(ファイザー製群:37%[7万9,717例]、モデルナ製群:37%[8万792例])。・有害事象の38週間リスクは、ファイザー製またはモデルナ製のどちらを接種しても概して低かった。・1万人当たりのイベント発生のリスク差を見ると、ファイザー製群はモデルナ製群と比較し、虚血性脳卒中は10.9件(95%信頼区間[CI]:1.9~17.4件)、心筋梗塞は14.8件(同:7.9~21.8件)、そのほかの血栓塞栓イベントは11.3件(同:3.4~17.7件)、腎機能障害は17.1件(同:8.8~30.2件)と多かった。・上記に対応するリスク比(ファイザー製vs.モデルナ製)は虚血性脳卒中で1.17(同:1.03~1.28)、心筋梗塞で1.32(同:1.16~1.49)、そのほかの血栓塞栓イベントで1.20(同:1.05~1.32)、腎機能障害で1.16(同:1.08~1.29)だった。・上記の推定値は、年齢(40歳未満、40~69歳、70歳以上)と人種(黒人/白人)によるサブグループ間でもほぼ同様の値を示した。しかし、高齢者と白人では、虚血性脳卒中のリスク差は非常に大きく、高齢者間では腎機能障害が、黒人間ではほかの血栓塞栓性イベントのリスク差がより大きかった。・2つのワクチンのなかで有害事象の発生リスクにわずかな差が見られたのは1回目接種から42日間で、14日間ではほとんど違いが見られなかった。

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RBDダイマー由来のCovid-19ワクチンZF2001の成人における有効性と安全性(解説:寺田教彦氏)

 ZF2001ワクチンは、組み換えタンパクCOVID-19ワクチンの1つで、SARS-CoV-2の受容体結合ドメイン(RBD)をベースにしたワクチンである。組み換えタンパクワクチンは抗原以外の物質で免疫の獲得を助ける物質であるアジュバントが添加されるが、ZF2001はアジュバントとして水酸化アルミニウムが含有されている。組み換えタンパクワクチンの技術はCOVID-19ワクチン以前からも用いられており、1986年にB型肝炎が承認されるなど、他のワクチンでも使用実績がある。 本邦で薬事承認され、予防接種法に基づいて接種されているCOVID-19ワクチンは、ファイザー社のmRNAワクチン(商品名:コミナティ)、武田/モデルナ社のmRNAワクチン(同:スパイクバックス)、アストラゼネカ社のウイルスベクターワクチン(同:バキスゼブリア)、武田社の組み換えタンパクワクチン(同:ヌバキソビッド)があるが、このうち、ZF2001と同様の組み換えタンパクワクチンは武田社のヌバキソビッドである。 さて、本研究の内容である有効性と安全性について見てゆく。 ワクチンの有効性は、アップデートした解析では、主要エンドポイントのCOVID-19発症例が、ZF2001群は1万2,625例中158例、プラセボ群は1万2,568例中580例であり、発症予防効果は75.7%(95%信頼区間[CI]:71.0~79.8)だった。重症~致死的なCOVID-19症例は、ZF2001群で6例、プラセボ群で43例であり、重症化予防効果は87.6%(95%CI:70.6~95.7)だった。COVID-19の関連死はそれぞれ2例、12例であり、死亡に対する予防効果は86.5%(95%CI:38.9~98.5)だった。 ZF2001のCOVID-19に対する発症予防効果は70%以上を示し、有効性は示したと考えられる。世界各国で承認されているCOVID-19ワクチンは複数あり、ワクチンによる効果の差は気になるところではあるが、有効性は研究を実施した国の流行状況や流行株、政策などの影響を受けるため、ワクチンの効果を単純な数値のみで比較することは難しい。 副反応は、ZF2001群とプラセボ群で有害事象の発現率や重篤な有害事象の発生率は類似しており、ZF2001群での局所反応の発生率は18.8%で、全身反応の発生率は25.1%と低値だった。 上記の結果から、ZF2001のCOVID-19ワクチンとしての、立ち位置を考える。執筆時点としては、本邦において当ワクチンを新規に採用するメリットは乏しいと思われる。 本邦では、すでに多くの国民がファイザー社や武田/モデルナ社のmRNAワクチンやアストラゼネカ社のウイルスベクターワクチンを接種しており、COVID-19流行の抑制に貢献してきた。本邦でも未接種者やブースター接種が未実施の方がいるが、ZF2001がこれらのワクチンに優先して接種されるとは過去の実績的に考えにくい。これらCOVID-19のmRNAワクチンやウイルスベクターワクチンは世界的に接種されてきた回数も多く、安全性や副反応、効果に十分なデータがある。ZF2001はこれらワクチンに比較すると接種後データは少なく、今後新規の副反応が報告される懸念は残るかもしれない。また、組み換えタンパクワクチンは、局所反応を含めた副反応が低い点やmRNAワクチンが接種できない未接種者にも接種可能になりうる点はあるが、本邦ではすでに武田社の組み換えタンパクワクチン(ヌバキソビッド)が採用されている。ヌバキソビッドの有効性と副反応のデータもNEJM誌に掲載をされている(Heath PT, et al. N Engl J Med. 2021;385:1172-1183.)が、執筆時点でZF2001がヌバキソビッドに明らかに勝る点も指摘が難しい。 次に世界的な観点から考える。本文でも指摘されているように、ZF2001などの組み換えタンパクワクチンは輸送・保存の安定性の点でmRNAワクチンよりも有利である。本邦でもmRNAワクチンを導入する際には、低温での保管が課題となっていた。今後ワクチン接種を進めてゆく国でも輸送や保管の簡便さは求められると考えられる。当ワクチンのCOVID-19に対する有効性と接種後の副作用結果からは、本研究に参加した国々を中心にZF2001の接種が進んでゆくと思われる。 複数のワクチンが選択可能な本邦では当ワクチンが臨床で必要とされる機会は乏しいと考えられるが、世界的には同ワクチンが接種に活用され、接種をされた地域でのCOVID-19流行の抑制に役立つことが期待される。 また、COVID-19に限らず今後も世界的な流行を起こす感染症は発生すると考えられ、複数の国でワクチン開発技術が発展することは望ましいことであろう。

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悪性神経膠腫〔malignant glioma〕

1 疾患概要■ 定義脳には神経細胞と神経線維以外に、それらを支持する神経膠細胞があり、この神経膠細胞から発生する腫瘍を総称して「神経膠腫(グリオーマ:glioma)」という。細胞の種類により星細胞腫(アストロサイトーマ:astrocytoma)、乏突起膠腫(オリゴデンドログリオーマ:oligodendroglioma)、上衣腫(エペンディモーマ:ependymoma)などに分類される。さらに病理診断上は悪性度に応じてグレード(grade)が1~4までの4つに分かれており、成人の神経膠腫はほとんどがグレード2以上のものであり、びまん性神経膠腫と呼ばれる。グレード4の神経膠腫は膠芽腫(グリオブラストーマ:glioblastoma)と呼ばれ最も予後不良である。グレード2とグレード3の神経膠腫をまとめて低悪性度神経膠腫(lower grade glioma)と呼ぶが、必ずしも悪性度が低いわけではない。■ 疫学「脳腫瘍全国集計調査報告(2005~2008)」では、原発性脳腫瘍のうち神経膠腫全体の頻度は26.9%であった1)。神経膠腫のなかでは、グレード4の膠芽腫が約半数を占め、グレード2、3のlower grade gliomaが約40%の頻度である。Lower grade gliomaのうち、星細胞腫系と乏突起膠腫系がおよそ2:1となっており、以前の統計に比べて乏突起膠腫の頻度が増加している。グレードが上がるにつれて発症年齢も上がっていき、年齢中央値はグレード2のびまん性星細胞腫で38歳、乏突起膠腫で42歳、グレード3の退形成性星細胞腫で49歳、退形成性乏突起膠腫で54歳、グレード4の膠芽腫で63歳となっている。男女比は、膠芽腫で1.39:1、lower grade gliomaで1.34:1と男性にやや多い。■ 病因1)遺伝的素因神経膠腫のほとんどは孤発性に発生し、遺伝的な素因により発症する遺伝性腫瘍はまれである。神経膠腫を生じうる遺伝性腫瘍として、以下のような疾患がある。リ・フラウメニ症候群:生殖細胞系列にTP53遺伝子の異常を有し、家族性にがんを多発する。リンチ症候群:生殖細胞系列にミスマッチ修復遺伝子の異常を有しており、神経膠腫のみならず大腸がん、子宮体がん、卵巣がん、胃がんなどのリスクを有する。ターコット症候群のtype1はリンチ症候群の亜型で、神経膠腫と大腸がんを合併する。2)遺伝子異常腫瘍細胞は、前駆細胞に遺伝子異常が生じ、その結果生物学的な性格の変化を来して発生すると考えられている。神経膠腫においては、腫瘍の組織型別および悪性度別に生じている遺伝子異常に共通性と相違が認められており、その種類や生じる時期により、異なるタイプと悪性度の神経膠腫が発生するのではないかとの仮説が提唱されている。主な神経膠腫の遺伝子異常を図1に示す。図1 神経膠腫の遺伝子異常画像を拡大するびまん性神経膠腫の発生初期に起こる遺伝子異常の代表的なものとして、イソクエン酸脱水素酵素(IDH)遺伝子変異があげられる。網羅的な遺伝子解析の結果、lower grade gliomaおよびグレード2、3の星細胞腫から悪性転化した二次性膠芽腫に非常に高頻度にみられることが明らかになった。このIDH遺伝子変異を持つ細胞にTP53遺伝子変異やATRX遺伝子変異が加わると星細胞腫へ、第1番染色体短腕(1p)および第19番染色体長腕(19q)の全体が共に欠失する(1p/19q共欠失)変異が加わると乏突起膠腫に進展していくという仮説が広く受け入れられている。IDH変異のない膠芽腫では、EGFR遺伝子の増幅、第10番染色体の欠失、TERT遺伝子プロモーター領域の変異などが腫瘍形成に関与していると考えられている。小児悪性神経膠腫において、ヒストンテールをコードする遺伝子変異(H3F3A K27M/G34Rなど)が高頻度に認められることが判明し、この変異がエピゲノム制御を介して腫瘍化に関わっていることが示唆される。毛様細胞性星細胞腫(pilocytic astrocytoma)や類上皮膠芽腫(epithelioid glioblastoma)に高率に認められるBRAF遺伝子変異(BRAF V600E)なども重要な遺伝子異常で、この遺伝子を標的とした分子標的薬による治療が開発されている。3)外的因子放射線照射は脳腫瘍の発生と関連性が深いと考えられており、照射後数年~数十年後に神経膠腫が発生する事例の報告がある。■ 症状神経膠腫の症状としては、(1)腫瘍による脳の圧迫や脳浮腫に由来する頭蓋内圧亢進症状、(2)発生部位の脳機能障害による局所症状、(3)腫瘍に起因する痙攣発作がある。(1)頭蓋内圧亢進症状:頭痛や嘔気・嘔吐の症状が出現し、進行すると意識障害を来す。(2)局所症状:腫瘍の部位により麻痺、感覚障害、失語症、視野障害、認知機能低下などのさまざまな高次脳機能障害が起こりうる。進行の早い膠芽腫では局所症状が起こりやすく、脳腫瘍全国集計調査報告では膠芽腫の初発症状のうち57%が局所症状である1)。(3)痙攣発作:腫瘍が発生源となる部分発作から、二次性全般化を来して全身の強直間代性発作を起こすこともある。特にlower grade gliomaで痙攣発作の頻度が高く、lower grade gliomaの初発症状のおよそ半数が痙攣発作である1)。■ 分類神経膠腫はグリア細胞起源であり、その分化組織型により星細胞腫系、乏突起膠腫系に分かれる。また、疾患予後を表す指標である組織学的悪性度は世界保健機関(WHO)のグレード分類で予後が良い方から悪い方へグレードIからIVに分類される。WHO脳腫瘍分類第4版(2007年改訂)では病理組織所見に基づいて分類され、星細胞腫系、乏突起膠腫系およびそれらの混合腫瘍に分類された(表1)。表1 成人神経膠腫の分類(WHO2007)画像を拡大する2016年にWHO脳腫瘍分類の改訂が行われ、腫瘍組織の遺伝子検査を加味した分類がされるようになった。神経膠腫においては、lower grade gliomaの70~100%の頻度でみられるIDH変異、乏突起膠腫系腫瘍の特徴である1p/19q共欠失を付記し、形態学的診断、悪性度、分子情報を統合したintegrated diagnosis(統合診断)が取り入れられた(表2)。表2 成人神経膠腫の分類(WHO2016)画像を拡大するまた、小児脳幹部に好発する神経膠腫ではヒストンの遺伝子変異などの異常が明らかにされて、びまん性正中神経膠腫(diffuse midline glioma、H3K27M-mutant)という分類が新設された。さらに、2021年にWHO分類の改定が行われ、成人びまん性神経膠腫は以下の3種類に統合された(表3)。グレードの記載はローマ数字からアラビア数字に変更された。表3 成人神経膠腫の分類(WHO2021)画像を拡大する(1)星細胞腫IDH変異型(グレード2、3、4)グレードは病理組織学的に決定されるが、遺伝子解析の結果CDKN2A/B遺伝子のホモ接合型欠失があればグレード4に分類される。(2)乏突起膠腫IDH変異型, 1p19q共欠失(グレード2、3)乏突起膠腫の診断にはこの遺伝子型が必須となり、グレードは病理組織学的に決定される。(3)膠芽腫IDH野生型(グレード4)IDH野生型で、[1]病理での微小血管増殖または壊死、[2]TERT遺伝子プロモーター領域の変異、[3]EGFR遺伝子増幅、[4]7番染色体増加かつ10番染色体の全欠失のいずれかを伴えば膠芽腫と診断される。IDH野生型のグリオーマでこれらの所見を伴わない場合には、小児型のびまん性神経膠腫を考慮することになるが、この分類では診断困難な腫瘍群が出てくることが課題である。■ 予後神経膠腫の予後はグレード、組織型により異なり、最も予後の悪い膠芽腫では標準治療 である放射線治療およびテモゾロミド化学療法の併用療法を行っても生存期間中央値は15~20.3ヵ月と予後不良である1、2)。脳腫瘍全国集計調査報告(2005~2008年)によると、神経膠腫の5年生存率は、グレード4の膠芽腫で16%、グレード3の退形成性星細胞腫で43%、退形成性乏突起膠腫で63%、グレード2のびまん性星細胞腫で77%、乏突起膠腫で92%である(表4)1)。表4 組織型・グレード別予後画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 血液検査神経膠腫の有用な腫瘍マーカーは今のところない。悪性リンパ腫に対する腫瘍マーカーとして可溶性IL-2レセプターがあり、その他各種がんの腫瘍マーカーは転移性脳腫瘍の鑑別診断の補助となる。■ 髄液検査髄腔内播種がある場合、髄液細胞診で異型細胞が検出されることがある。■ 画像検査診断のためにはCT、MRIなどの画像検査が欠かせない。1)CT腫瘍の局在に加えて、腫瘍内の出血や石灰化の有無を確認する。神経膠腫で腫瘍内の石灰化があれば、乏突起膠腫を強く疑う。2)MRI腫瘍の詳細な解剖学的位置情報のみならず、多種類の撮像方法により、病巣の質的・生物学的情報も得ることができる。T2強調画像・FLAIR画像では、病巣の広がりと脳浮腫の領域を、T1強調画像ではガドリニウムによる造影検査を行うことで、血液脳関門の破綻のある腫瘍本体の局在情報が得られる。造影される神経膠腫は、膠芽腫をはじめとした高悪性度(high grade)の腫瘍を疑う。拡散強調画像では、腫瘍細胞密度の推定や急性期脳梗塞との鑑別を行う。拡散テンソル画像(diffusion tensor imaging)を用いて、錐体路、視放線、言語関連線維(弓状束や上縦束など)などの白質線維の描出が可能である。灌流画像により腫瘍の血流・血液量の評価が可能で、腫瘍の悪性度の推定や膠芽腫と悪性リンパ腫の鑑別に有用である。さらに、MR spectroscopy (MRS)では、病巣に含有される分子の成分解析を行い、腫瘍性成分の多寡、嫌気性代謝の有無などの情報が得られ、疾患の鑑別の一助となる。3)PET病巣の代謝活性を直接評価するためにPET検査が有用である。脳はブドウ糖代謝が高度であることから、一般に用いられるブドウ糖をトレーサーとするFDG-PET検査での検出力は低く、アミノ酸代謝を反映するメチオニンPETがより検出力に優れているが、現在まだ保険適用となっていないため自費での検査となる。アミノ酸をトレーサーとするフルシクロビン(18F)PETは2021年に初発悪性神経膠腫に対して薬事承認されたが、いまだ保険収載されておらず、使用できる段階にはない。■ 病理診断診断確定のためには、手術摘出検体(生検含む)を用いた病理組織診断が必要である。■ 遺伝子解析2016年のWHO脳腫瘍分類改訂第4版以降は、IDH変異や1p/19q共欠失などの遺伝子解析が診断確定に必須となる。IDH変異のうち、IDH1遺伝子のR132H変異は免疫染色で高精度に検出できるが、他のIDH変異はサンガーシークエンスやパイロシークエンスなどの解析が必要である。1p/19q共欠失は、FISH法、マイクロサテライト法、MLPA法などで解析を行うのが一般的である。現在、保険収載を目指した1p/19qのFISHプローブの開発が進められている。IDH変異、1p/19q共欠失含め神経膠腫の遺伝子解析は保険適用となっておらず、現在は主要施設において研究の一環として実施されているのが実情であり、今後の課題である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)悪性神経膠腫に対する治療の柱は手術、放射線治療、化学療法であるが、腫瘍の組織型、グレードによりその選択は異なる。また、腫瘍治療電場療法(商品名:オプチューン)やウイルス療法(同:デリタクト)などの新規治療法が近年保険収載され、保険診療下に使用可能となった。初発膠芽腫の標準治療例について、図2に示す。図2 初発膠芽腫標準治療画像を拡大する■ 手術神経膠腫が疑われたら、原則としてまず手術による腫瘍摘出が行われる。摘出標本による病理学的確定診断が極めて重要であり、その結果により術後の補助療法の内容や適否が決定される。神経膠腫の手術は、膠芽腫においてもlower grade gliomaにおいても摘出率を上げることにより予後改善が見込めるという報告が多く、最大限の摘出が望ましい3、4)。ただし、手術合併症により症状を悪化させてしまうと患者QOLを大きく損なうばかりか、生命予後をかえって悪化させてしまうため、症状を悪化させない範囲での最大限の摘出(maximal safe resection)を目指すべきである。手術支援技術が発展してきたため、術中ナビゲーション、電気生理モニタリング、覚醒下手術、術中蛍光診断(5-ALA)、術中MRIなどを駆使した精度の高い手術が可能となってきている。■ 放射線治療神経膠腫への放射線治療は、腫瘍細胞の浸潤性性格から浸潤領域を含む領域に照射することが必要であるため、正常神経細胞の機能障害を最小限とするべく、局所分割照射が行われる。グレード4の膠芽腫には、手術に引き続き後述のテモゾロミド併用放射線治療を60Gy/30回分割(1回線量2Gy)で施行する。照射範囲は腫瘍周囲のT2高信号域に若干のマージンを加えた範囲とすることが一般的である。高齢者の膠芽腫に対しては、40Gy/15回分割の放射線治療の非劣性が示され、寡分割照射が推奨される5)。また、高齢者や脆弱なフレイル患者に対して25Gy/5回分割照射の40Gy/15回分割照射に対する非劣性が示され、さらなる照射期間の短縮が治療選択肢となり得る6)。グレード3の退形成性神経膠腫には、総線量54~60Gyが照射される。摘出術後に引き続き照射を行うことが標準的であるが、予後良好な因子を持つ退形成性乏突起膠腫に対しては、照射を待機する試験的な治療も臨床試験では検討されている。グレード2の低悪性度神経膠腫の場合は、摘出度、年齢、腫瘍径、組織型などにより高リスク(high risk)例では放射線治療を行うことが推奨される。低リスク(low risk)例では術後早期の放射線治療は行わず、慎重に経過をみることが提案される。■ 化学療法わが国で神経膠腫に対して保険適用のある薬剤は、テモゾロミド(TMZ)、ニムスチン(ACNU、商品名:ニドラン)、ベバシズマブ(bevacizumab;BEV、同:アバスチン)、カルムスチン(BCNUウエハー、同:ギリアデル)、プロカルバジン(PCZ、同:プロカルバジン)、ビンクリスチン(VCR、同:オンコビン)などである。1)膠芽腫テモゾロミド(TMZ)18歳以上70歳以下の成人初発膠芽腫患者に対しては、手術後TMZを放射線治療期間中、ならびに放射線終了後投与するStuppレジメンが強く推奨される7)。TMZはリンパ球減少を生じやすく、その結果ニューモシスチス肺炎などの日和見感染のリスクが高まるため、ST合剤などの予防処置を行う。神経膠腫においては、O6-methylguanine-DNA methyltransferase (MGMT)遺伝子プロモーター領域のメチル化があるとTMZがより有効である8)。高齢者の膠芽腫において、短期照射の放射線治療にTMZの上乗せが有効かどうか検証した第III相臨床試験において、TMZ併用の有効性が示された9)。特にMGMTメチル化のある高齢者膠芽腫に対してはTMZ併用が勧められる。ベバシズマブ(BEV)血管新生の主因となる血管内皮増殖因子(VEGF)を阻害するヒト化モノクローナル抗体で、2013年6月に悪性神経膠腫に対して薬事承認された。初発膠芽腫に対して、AVAglioとRTOG0825の2つの第III相臨床試験が報告され、どちらも無増悪生存期間は延長するが、全生存期間は延長させないという結果であった10、11)。わが国では保険診療下で初発膠芽腫でのBEVの使用が可能であるが、全生存期間の延長が示されないことから必ずしも推奨されない。術後の残存腫瘍や浮腫によりperformance status(PS)を下げている患者には、浮腫軽減効果の強いBEV併用が期待できる可能性がある。一方、TMZ治療後の再発膠芽腫に対しては、国内外での臨床試験で高い奏効割合、無増悪生存期間と症状改善効果が示され、BEV単独療法は再発膠芽腫に対する有力な治療法と考えられる12、13)。これまでのところ、他剤との併用による効果増強は示されておらず、単独投与が基本である。BCNUウエハー手術時に摘出腔壁に留置してくるニトロソウレア系BCNUの徐放性ペレット剤(ギリアデル)が、2013年1月に承認された。初発および再発悪性神経膠腫に対する欧米での第III相臨床試験の結果は、BCNUウエハー留置による全生存期間が、初発時では悪性神経膠腫に対し、再発時にはサブ解析にて膠芽腫に対し、有意な延長が認められた。逆に、初発時の膠芽腫に、また再発時の悪性神経膠腫全症例には有意差はみられなかった。一方、BCNUウエハーの使用による有害事象としては、術後の脳浮腫が約25%で認められたほか、摘出腔内ガス発生、髄液漏、創感染、けいれん発作などが生じる可能性がある。現在、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)において、90%以上の摘出が見込まれる初発膠芽腫に対して術中ランダム化してBCNUウエハー留置の有効性を検証する第III相試験が行われている(JCOG1703)。2)グレード3神経膠腫グレード3神経膠腫に対しては、術後薬物療法が推奨される。退形成性星細胞腫に対して放射線治療に同時併用(concurrent)と維持療法(adjuvant)のTMZを併用するかどうかを検証したCATNON試験では、concurrent TMZは放射線治療単独に比べて無増悪生存期間(PFS)・全生存期間(OS)ともに差を認めなかったが、adjuvant TMZはPFS・OSともに有意に延長するという結果であった14)。退形成性乏突起膠腫(1p/19q共欠失腫瘍)に対する放射線治療単独と放射線治療とPCV療法(PCZ+CCNU+VCR)の併用療法を比較した欧米の2つの第III相試験において、PCV療法の併用がOSを有意に延長することが示された15、16)。わが国ではCCNUが未承認であるため、ACNUを代替薬として用いるPAV療法が行われている。また、放射線治療+PCV療法と、放射線治療+TMZを比較するCODEL試験が現在行われている17)。3)グレード2神経膠腫High riskのグレード2神経膠腫に対しては、放射線治療+PCV療法の併用療法が放射線治療単独に比べてOSを延長することが示された18)。同じくhigh riskのグレード2神経膠腫に対するTMZ単独療法と放射線治療の第III相試験では、両群に差を認めなかった19)。■ 腫瘍治療電場療法(オプチューン)脳内に特殊な電場を発生させて腫瘍増殖を抑制する治療法で、交流電場腫瘍治療システム(オプチューン)を用いる。頭皮に電極パッド(transducer arrays)を貼り、中間周波の交流電場(Tumor Treating Fields)を持続的に発生させて腫瘍細胞の分裂を阻害する。初発テント上膠芽腫に対して、手術とTMZ併用放射線治療後、TMZ維持療法時にオプチューンを併用することで有意にPFS・OSが延長することが示され、2018年にわが国でも承認された20)。装着のために髪の毛を頻繁に剃り、約1.2kgの装置を常時持ち運びする必要が生じるため日常生活が制限される可能性がある。装着時間が長いほど治療効果が高まるが、接触性皮膚炎などの皮膚トラブルに注意が必要である。4 今後の展望■ ウイルス療法腫瘍溶解ウイルス療法(oncolytic virus therapy)とは、腫瘍細胞だけで増えるように改変したウイルスを腫瘍細胞に感染させ、ウイルスそのものが腫瘍細胞を殺しながら腫瘍内で増幅していくという新しい治療法である。ウイルスが直接腫瘍細胞を殺すことに加え、腫瘍細胞に対するワクチン効果も誘発する。2021年6月、世界初の脳腫瘍に対するウイルス療法として、テセルパツレブ(デリタクト)が承認されたが、薬剤の供給が間に合わずまだ普及はしていない。■ がん遺伝子パネル、がんゲノム医療2019年6月にがん遺伝子パネル検査としてOncoGuide NCCオンコパネル(シスメックス社)とFoundationOne CDxがんゲノムプロファイル(中外製薬)が保険収載され、それぞれ114遺伝子、324遺伝子の遺伝子変異などを解析することが可能となった。神経膠腫においてもがん遺伝子パネル検査を行い、遺伝子異常に応じた分子標的薬治療につなげるがんゲノム医療が進んでいくことが期待される。5 主たる診療科脳神経外科、脳脊髄腫瘍科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本脳腫瘍学会オフィシャルホームページ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)がん情報サイト「オンコロ」(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報脳腫瘍ネットワーク(Japan Brain Tumor Alliance:JBTA)(患者とその家族および支援者の会)がんの子どもを守る会(患者とその家族および支援者の会)1)Brain Tumor Registry of Japan(2005-2008). Neurol Med Chir(Tokyo).2017;57:9-102.2)Wakabayashi T, et al. J Neurooncol. 2018;138:627-636.3)Sanai N, et al. J Neurosurg. 2011;115:3-8.4)Smith J.S, et al. J Clin Oncol. 2008;26:1338-1345.5)Roa W, et al. J Clin Oncol. 2004;22:1583-1588.6)Roa W, et al. J Clin Oncol. 2015;33:4145-4150.7)Stupp R, et al. N Engl J Med. 2005;352:987-996.8)Hegi M.E, et al. N Engl J Med. 2005;352:997-1003.9)Perry J.R, et al. N Engl J Med. 2017;376:1027-1037.10)Chinot O.L, et al. N Engl J Med. 2014;370:709-722.11)Gilbert M.R, et al. N Engl J Med. 2014;370:699-708.12)Friedman H.S, et al. J Clin Oncol. 2009;27:4733-4740.13)Nagane M, et al. Jpn J Clin Oncol. 2012;42:887-895.14)van den Bent M.J, et al. Lancet Oncol. 2021;22:813-823.15)Cairncross J.G, et al. J Clin Oncol. 2014;32:783-790.16)van den Bent M.J, et al. J Clin Oncol. 2013;31:344-350.17)Jaeckle K.A, et al. Neuro Oncol. 2021;23:457-467.18)Buckner J.C, et al. N Engl J Med. 2016;374:1344-1355.19)Baumert B.G, et al. Lancet Oncol. 2016;17:1521-1532.20)Stupp R, et al. JAMA. 2015;314:2535-2543.公開履歴初回2022年6月16日

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モデルナ2価ワクチン候補、オミクロン株に対する抗体反応で優越性確認

 2022年6月13日、Moderna(米国)はオミクロン株を含む2価追加接種ワクチン候補 mRNA-1273.214について、同社の承認済みのワクチンmRNA-1273(商品名:スパイクバックス筋注)の追加接種と比較して、オミクロン株に対する抗体反応で優越性が示されたことを発表した。Moderna2価追加接種ワクチン候補の副反応はmRNA-1273と同程度 mRNA-1273.214は、mRNA-1273の有効成分と変異株であるオミクロン株を標的とするワクチンの有効成分候補を含有する、Moderna の2価追加接種ワクチン候補である。 ベースラインの血清反応陰性被験者において、mRNA-1273.214は、mRNA-1273の追加接種(50μg)と比較した場合、オミクロン株に対する中和抗体反応など第II/III相臨床試験のすべての主要評価項目を達成した。 事前に規定した優越性基準である中和幾何平均抗体価比(GMR)および対応する97.5%信頼区間[CI]は1.75(1.49~2.04)であり、mRNA-1273.214の追加接種により、オミクロン株に対する中和幾何平均抗体価(GMT)についてベースライン値の約8倍の増加が確認された。また、祖先ウイルスであるSARS-CoV-2(D614G)に対するGMRは1.22(1.08~1.37)であり、主要評価項目である祖先ウイルスSARS-CoV-2に対する非劣性が達成された。 安全性については、mRNA-1273.214を50μg追加接種したときの忍容性はおおむね良好であり、副反応はmRNA-1273を50μg追加接種したときと同程度だという。 Modernaは数週間以内に、今秋の追加接種でのmRNA-1273.214の使用許諾に向けた承認申請を予定している。

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インフルエンザでも、mRNAワクチン第III相試験開始/モデルナ

 2022年6月7日、Moderna(米国)は季節性インフルエンザワクチン候補mRNA-1010の第III相臨床試験において、最初の被験者への投与を行ったことを公表した。 mRNA-1010は、世界保健機関(WHO)が推奨するA/H1N1、A/H3N2、B/山形系統およびB/ビクトリア系統の4つのインフルエンザ株の血球凝集素(HA)糖タンパク質がコードされた新規mRNAワクチン候補である。 本試験は、既存の季節性インフルエンザワクチンに対するmRNA-1010の安全性および免疫学的非劣性を評価することを目的とし、南半球諸国の成人約6,000人が登録される。Modernaは、必要に応じて、早ければ2022/2023年の北半球のインフルエンザシーズンにmRNA-1010の有効性確認試験を実施できるよう開発準備を進める。

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第104回 教授に指導医停止処分、試験要件の研修時間を水増しで/内科学会

<先週の動き>1.教授に指導医停止処分、試験要件の研修時間を水増しで/内科学会2.HPVワクチン副反応疑い症例15件、安全性に重大な懸念なし/厚労省3.感染症法改正で、民間病院に対する自治体の指揮権を強化へ4.骨太方針2022を閣議決定、デジタル化で医療制度改革を加速へ/政府5.医療保護入院の縮小は削除、虐待通報義務化も明記せず/厚労省6.手術動画の外部提供と利活用、指針作りを/コンピュータ外科学会1.教授に指導医停止処分、試験要件の研修時間を水増しで/内科学会日本内科学会は、新潟大学医学部の教授に対し3年間の指導医停止の処分をしたことが明らかになった。報道によると、処分を受けたのは消化器内科教授で同大病院の内科医科長。去年2月、専門医認定試験の受験要件に満たない9人の医局員に対して、研修時間に大学院での研究や当直勤務の時間を合わせて申告するよう指示していた。内科専門医の受験には、2年間の初期研修と、臨床病院で常勤する3年間の後期研修が原則必要だが、新潟大消化器内科では後期研修中の一部期間も大学院で研究に従事させた。学会への匿名の告発を受けた研修先の新潟大病院による調査で問題が発覚し、9人は受験できなかった。同時に研修プログラム責任者の別の特任教授も指導医を6ヵ月停止とする処分が出ているが、同大は別の医師を責任者とし、内科専門医の研修を続けている。今回、現行の専門医制度が2018年度に開始されて以降、最も重い処分となった。(参考)研修時間の水増し申告指示、新潟大医学部教授を処分 日本内科学会(朝日新聞)2.HPVワクチン副反応疑い症例15件、安全性に重大な懸念なし/厚労省厚生労働省は10日に第80回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会を開催し、HPVワクチンの副反応について検討を行った。HPVワクチン接種は2013年に定期接種となったが、副反応が報道されたのを機に積極的な接種推奨が中止されており、9年ぶりの2022年4月に再開された。積極的勧奨の再開後に報告された「サーバリックス(2価)」「ガーダシル(4価)」ならびに定期接種対象外の「シルガード9(9価)」の有害事象についてそれぞれ検討を行ったが、現時点でワクチンの安全性に重大な懸念はないとする見解がまとめられた。厚労省は今後も、およそ1ヵ月ごとに部会を開いて検証するという。(参考)子宮頸がんなど防ぐHPVワクチン 副反応疑い症例 15件報告(NHK)HPVワクチン「安全懸念なし」 厚労省専門部会、再開後初評価(毎日新聞)3.感染症法改正で、民間病院に対する自治体の指揮権を強化へ政府は、新型コロナウイルスの感染拡大時に、感染症指定医療機関だけでは感染者の受け入れをしきれず、病床確保に取り組んだものの適切な医療を維持できなかったことから、民間病院に対する自治体の指揮権を強化する感染症法改正案をまとめた。改正案では、公立・公的医療機関や大学病院に対して有事を想定した病床確保計画の策定を求め、自治体と協定の締結を行い、国や自治体の指示に従わない場合は医療機関名を公表できるようにする。岸田内閣は、内閣官房の新型コロナ感染症対策推進室と厚生労働省の対策推進本部などを統合した「健康危機管理庁」の創設を検討しており、国会へ法案の提出を目指し、今後の感染症対策に役立てたいとしている。(参考)病床確保、政府が医療機関へ指示権限 感染症法改正案、概要判明(毎日新聞)民間病院に直接指示 政府、新感染症に備え病床確保(日経新聞)感染症対策の司令塔、「健康危機管理庁」創設へ…厚労省と内閣官房の部署統合も検討(読売新聞)4.骨太方針2022を閣議決定、デジタル化で医療制度改革を加速へ/政府7日、岸田内閣は初の「経済財政運営と改革の基本方針」(通称:骨太の方針)をまとめた。この中で、経済社会活動の正常化に向けた感染症対策として、新型コロナウイルス感染症対策を踏まえた医療提供体制の強化とともに、感染状況や変異株の発生動向に細心の注意を払い段階的な見直しを行い、経済社会活動の正常化を目指す。また、医療DXを推進し、医療情報の基盤整備とともにG-MISやレセプトデータ等を活用し、病床確保や使用率、オンライン診療実績など医療体制の稼働状況の徹底的な「見える化」を進める。さらにワクチン接種証明書のデジタル化等により、入国時での効率的なワクチン接種履歴の確認など円滑な確認体制を進め、今後、医療のデジタル化推進にマイナンバーカードなどを活用することが盛り込まれている。政府はこれをもとに来年度の予算編成を行う方針だ。(参考)経済財政運営と改革の基本方針2022(内閣府)骨太方針2022を閣議決定、コロナ禍踏まえた医療提供体制改革、データヘルスの推進などの方向を明確化(Gem Med)骨太方針2022を閣議決定 「医療DX」は実行フェーズに 国民目線の医療・介護提供体制の改革へ(ミクスonline)5.医療保護入院の縮小は削除、虐待通報義務化も明記せず/厚労省厚労省は9日に「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」の報告書を取りまとめ、公表した。精神疾患を有する患者の数は増加傾向であり、2017年には約420万人となっている一方、自殺者数は2017年以降10年連続で減少していたが、2020年には増加に転じている。入院医療を必要最小限にするための予防的取り組みを充実させるとともに、精神障害者が強制入院(医療保護入院)となった場合、入院中に患者が同意できる状態になったら、「速やかに本人の意思を確認し、任意入院への移行や入院治療以外の精神科医療を行うことが必要である」とされる。当初案にあった医療保護入院の縮小方針は削除され、虐待通報義務化も明記されないなど、当事者や障害者団体からは「患者の権利が守られない」と批判の声が上がっている。(参考)「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」報告書について(厚労省)虐待通報義務化、明記せず 強制入院の縮小方針も削除 精神医療、厚労省検討会(共同通信)医療保護入院中の患者「意思確認し任意入院へ」厚労省が検討会報告書を公表(CB news)6.手術動画の外部提供と利活用、指針作りを/コンピュータ外科学会6月9~10日に東京で開かれた第31回日本コンピュータ外科学会大会において、手術動画の外部提供や利活用について討論がされた。今年、医療機器メーカーに白内障治療用眼内レンズの手術動画を提供した医師に、販売促進目的に現金提供がされたことが問題になったこともあり、手術動画の活用に当たって、ガイドラインの策定を求める声が上がった。(参考)“手術動画の活用 指針作り検討すべき” シンポジウムで意見(NHK)“手術動画”で医師に現金提供 業界団体がメーカーを調査(NHK)

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ワクチン接種者のlong COVIDリスク

 ブレークスルー感染者においてもコロナ罹患後症状(いわゆる後遺症、long COVID)が発現するか、米国退役軍人のコホート研究で調査した結果、急性期以降の死亡やコロナ罹患後症状発現のリスクがあることが確認されたが、ワクチン未接種の感染者より発現リスクが低いことが示された。本結果は、Nature Medicine誌オンライン版2022年5月25日号に掲載されている。 本調査では、2021年1月1日~10月31日の期間での退役軍人保健局の利用者で、ブレークスルー感染(BTI)群(3万3,940例)と、コロナ既往歴のない同時期対照群(498万3,491例)ほか、ワクチン未接種の感染群(11万3,474例)や、季節性インフルエンザ入院群(1万4,337例)など複数のコホートを構成し、2つの尺度でリスクを比較検証した。1つは死亡もしくは特定の症状発現(肺、心血管、血液凝固、消化器、腎臓、精神、代謝、筋骨格など)の補正ハザード比(HR)、もう1つは、BTI群におけるSARS-CoV-2検査陽性後6ヵ月間の各アウトカムについて1,000例当たりの補正超過負荷(excess burden)を推定した。 BTI群は、ジョンソン・エンド・ジョンソン製ワクチン初回接種から14日以上、もしくはファイザー製またはモデルナ製ワクチン2回接種から14日以上経過し、コロナ検査陽性後30日間生存した人が対象となる。ワクチン接種完了者のうちBTIの割合は1,000例当たり10.60例(95%信頼区間[CI]:10.52~10.70)だった。 主な結果は以下のとおり。・BTI群は同時期対照群と比べて死亡リスクが上昇しており(HR:1.75、95%CI:1.59~1.93)、BTI後6ヵ月の患者1,000例当たりの超過負荷が13.36例(95%CI:11.36~15.55)増加することが示された。・BTI群は同時期対照群と比べて、コロナ罹患後症状と考えられる症状を1つ以上経験するリスクが上昇した(HR:1.50、95%CI:1.46~1.54)。超過負荷はBTI後6ヵ月の患者1,000例当たり122.22例(95%CI:115.31~129.24)増加。・BTI群は同時期対照群と比べて、罹患後症状のリスクが次のように上昇した。肺機能障害HR:2.48(95%CI:2.33~2.64)、超過負荷:39.82(95%CI:36.83~42.99)心血管障害HR:1.74(95%CI:1.66~1.83)、超過負荷:43.94(95%CI:39.72~48.35)血液凝固障害HR:2.43(95%CI:2.18~2.71)、超過負荷:13.66(95%CI:11.95~15.56)疲労HR:2.00(95%CI:1.82~2.21)、超過負荷:15.47(95%CI:13.21~17.96)消化器障害HR:1.63(95%CI:1.54~1.72)、超過負荷:37.68(95%CI:33.76~41.80)腎臓障害HR:1.62(95%CI:1.47~1.77)、超過負荷:16.12(95%CI:13.72~18.74)精神障害HR:1.46(95%CI:1.39~1.53)、超過負荷:45.85(95%CI:40.97~50.92)代謝障害HR:1.46(95%CI:1.37~1.56)、超過負荷:30.70(95%CI:26.65~35.00)筋骨格系障害HR:1.53(95%CI:1.42~1.64)、超過負荷:19.81(95%CI:16.56~23.31)神経系障害HR:1.69(95%CI:1.52~1.88)、超過負荷:11.60(95%CI:9.43~14.01)・BTI群において、コロナ急性期に入院していない人よりも、入院した人、さらにICUに入院した人のほうが、罹患後症状のリスクが有意に上昇していた。・BTI群はワクチン未接種の感染群と比べて、死亡リスクが低く(HR:0.66、95%CI:0.58~0.74)、超過負荷は-10.99(95%CI:-13.45~-8.22)であった。・BTI群はワクチン未接種の感染群と比べて、罹患後症状のリスクが低く(HR:0.85、95%CI:0.82~0.89)、超過負荷は-43.38(95%CI:-53.22~-33.31)であった。・BTI群はワクチン未接種の感染群と比べて、調査した47の罹患後症状のうち24のリスクを低下させた。・BTI群は季節性インフルエンザ入院群と比べて、死亡リスクが高く(HR:2.43、95%CI:2.02~2.93)、超過負荷は43.58(95%CI:31.21~58.26)であった。・BTI群は季節性インフルエンザ入院群と比べて、罹患後症状のリスクが高く(HR:1.27、95%CI:1.19~1.36)、超過負荷は87.59(95%CI:63.83~111.40)であった。 研究グループはこの結果に対して、ワクチン接種は感染後の死亡と罹患後症状のリスクを部分的にしか減少させることができないため、SARS-CoV-2感染による長期的な健康への影響のリスクを軽減させるためには、ワクチンだけではなく予防対策が必要であるとしている。

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mRNAコロナワクチンにギラン・バレー症候群の注意喚起/使用上の注意改訂指示

 厚生労働省は6月10日、新型コロナウイルスに対するmRNAワクチン「コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)」(商品名:コミナティ筋注、コミナティ筋注5~11歳用、スパイクバックス筋注)について、使用上の注意の「重要な基本的注意」の項にギラン・バレー症候群に関して追記するよう改訂指示を発出した。ギラン・バレー症候群がコロナワクチン接種後に報告されている 今回の改訂指示は、第80回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和4年度第5回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催)(2022年6月10日開催)における審議結果などを踏まえたもので、「重要な基本的注意」に以下を追加するよう指示がなされた。「コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)接種後に、ギラン・バレー症候群が報告されている。被接種者又はその保護者に対しては、ギラン・バレー症候群が疑われる症状(四肢遠位から始まる弛緩性麻痺、腱反射の減弱ないし消失等)が認められた場合には直ちに医師等に相談するよう、あらかじめ説明すること。」

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デルタクロン株、ワクチンや感染による免疫から逃避する?/NEJM

 新型コロナウイルスオミクロン株BA.3とデルタクロン株が、ワクチン接種や感染による誘導免疫を逃避するかどうかは不明である。今回、米国・オハイオ州立大学のJohn P. Evans氏らが、3種類の血清サンプルでオミクロン株BA.3とデルタクロン株に対する中和抗体価を調べた結果、BA.3株は免疫逃避変異株ではないが、デルタクロン株はBA.1株やBA.2株における強力な耐性を保持していることが示唆された。NEJM誌オンライン版2022年5月18日号のCORRESPONDENCEに掲載された。デルタクロン株はBA.1株およびBA.2株と同様の中和抗体耐性を示した Evans氏らは、オハイオ州立大学Wexnerメディカルセンターでワクチンを接種した医療従事者と、オハイオ州コロンバス地域でデルタ波とオミクロン波の各時期のCOVID-19患者から得た血清サンプルについて中和抗体価を調査し、スパイクタンパクにD614G変異*のある祖先株と、BA.3株とデルタクロン株に対する中和抗体価を調べ、BA.1株、BA.2株、デルタ株の既報のデータと比較した。*COVID-19流行早期からみられた変異で、現在は世界中で検出されるほとんどの株にみられる オミクロン株BA.3とデルタクロン株に対する中和抗体価を調べた主な結果は以下のとおり。・モデルナ製ワクチン(3人)もしくはファイザー製ワクチン(7人)を2回接種した医療従事者の2回目接種から3〜4週間後に採取した血清サンプルの中和抗体価を調べたところ、D614G変異株に対する抗体価と比較して、BA.3株に対する抗体価は3.3分の1、デルタクロン株に対する抗体価は44.7分の1だった(どちらもp<0.001)。また、同じ医療従事者における3回目接種(最初の2回と同じワクチンを接種)後の中和抗体価は、D614G変異株に対する抗体価と比較して、BA.3株に対する抗体価は2.9分の1、デルタクロン株に対する抗体価は13.3分の1だった(どちらもp<0.001)。デルタクロン株はBA.1株およびBA.2株と同様の中和抗体耐性を示したが、BA.3株は2回接種および3回接種の医療従事者のいずれの血清サンプルに対しても感受性が高かった。・デルタ波におけるICU入院患者18例(ワクチン未接種12例、2回接種5例、3回接種1例)の入院3日後に採取した血清サンプルの中和抗体価を調べたところ、D614G変異株に対する抗体価と比較して、BA.3株に対する抗体価はほぼ同じだったが、デルタクロン株に対する抗体価は137.8分の1だった。デルタクロン株の中和抗体耐性はBA.1株およびBA.2株と同様だったが、BA.3株は中和に対する感受性をほぼ維持していた。ワクチン接種患者(6例)は、ワクチン未接種患者よりもD614G変異株およびBA.3株に対する抗体価が大幅に高かったが、デルタクロン株はほとんど耐性だった。・オミクロン波の時期に入院したがICUには入らなかった患者(31例)の血清サンプルでは、デルタクロン株およびBA.3株の中和反応はD614G変異株の中和反応と同様であり、力価はデルタ波での患者サンプルよりも大幅に低かった。デルタクロン株およびBA.3株の中和反応はBA.1株およびBA.2株の中和反応と同様だった。・3回のワクチン接種を受けた医療従事者は、オミクロン波での感染者(ワクチン接種の有無によらず)よりも強力で幅広い免疫を持ち、D614G変異株に対する中和抗体価はオミクロン波での感染者の59.9倍、2回接種を受けた医療従事者の4.2倍、デルタ波での感染者の2.8倍であった。 これらの結果は、BA.3株は免疫逃避変異株ではないことを示し、それについて著者らは、BA.3株がBA.1株やBA.2株より受容体結合ドメインの変異の数が少ないためと考察している。一方、デルタクロン株は、BA.1株やBA.2株での強い耐性を保持し、デルタ波での患者の血清サンプルに対する感受性の増強は見られなかった。デルタ株由来の変異は中和耐性を弱めないようだと著者らは述べている。

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ワクチン忌避に対抗できるか?植物由来の新しいコロナワクチン(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

 新型コロナウイルスに対するまったく新しいタイプのワクチンの効果がNEJM誌に報告された。本研究で検討された「植物由来ワクチンCoVLP+AS03」は、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)という植物内でコロナウイルスのスパイクタンパクを発現し、コロナ様粒子(CoVLP)とアジュバント(AS03)を組み合わせた新しいタイプのワクチンである。 本研究は、過去にコロナワクチン接種歴のない方で18歳以上の約2万4,000例が今回の接種対象となっている。1:1でワクチン接種群とプラセボ群に割り付けられ、コロナ感染が確認された165例での解析がなされている。結果は症候性コロナ発症に対する有効性は69.5%、中等症~重症コロナ発症に対する有効性は78.8%と比較的高い効果を示していることがわかる。90%以上の発症予防効果を誇る従来のmRNAワクチンと比較すると、この植物由来ワクチンCoVLP+AS03は数字上ではやや劣るように感じる。ただ、2つのワクチンを比較検討したわけではなく、研究が行われた時期や背景、患者群が異なるので一概に効果の違いはわからない。特筆すべきはワクチン接種群で重症例は認められなかったことと、コロナ診断時にプラセボ群はワクチン接種群に比べてウイルス量が100倍以上高かったことも、重要なポイントと考えることができる。副反応は、局所的な有害事象(92.3% vs.45.5%)も全身的な有害事象(87.3% vs.65.0%)もワクチン接種群の頻度が高かったことは理解可能であるが、Grade4や5の有害事象の報告は認められなかったことは評価される。 今回の研究の中で、コロナ感染が確認された165例中122例でウイルス配列が同定され、ガンマ株が43.4%、デルタ株が45.9%で大多数を占める。2021年3月~9月に行われた研究であり、時期的にオミクロン株は含まれていない。そのような時代背景の中でも症候性コロナ感染を約70%、中等症~重症を約80%抑えるという高い有効性が期待できるこの植物由来ワクチンCoVLP+AS03ではあるが、2022年6月の時点で80%以上の国民が1回以上のコロナワクチンを接種した日本においては、本試験の対象に該当する症例は限られている。また過去にコロナワクチン接種歴のない方で、かつ18歳以上が今回の接種対象となっているが、被検者の年齢の中央値が29歳ということで若年者が対象となっていることから、高齢者や基礎疾患を持つ方に対する有効性が示されたわけではないことは差し引いて考える必要がある。 まったく医学的ではないが、新しいコロナワクチンではあるものの「mRNA」や「ウイルスベクター」ではなく「植物由来Plant-based」ということで、今までのコロナワクチンに忌避感を示している方に少し受け入れられやすい可能性がある。ワクチン未接種者が本研究の主な対象ということで、今後のウィズコロナ時代においてさらに感染者や重症者に対する対策という意味では、もしかしたら1つの選択肢となりうる。今後幅広く活用されるためには、従来のmRNAワクチン接種後の交互接種のデータや、基礎疾患のある症例や高齢者に対するデータが補完されることを期待したい。

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ワクチン3回目、異種・同種接種での有効性~メタ解析/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンのあらゆるプライマリ接種におけるブースター接種にはmRNAワクチンが推奨されること、異種・同種ワクチンの接種を問わず3回接種レジメンが、種々の変異株のCOVID-19予防に比較的有効であることを、中国・香港大学のWing Ying Au氏らが、システマティック・レビューとネットワークメタ解析の結果、報告した。ただし、3回接種レジメンのCOVID-19関連死への有効性については不明なままだったとしている。BMJ誌2022年5月31日号掲載の報告。ワクチン有効性、SUCRAスコアを比較 研究グループは、ブースター接種の有無を含む異種・同種COVID-19ワクチンレジメンのCOVID-19感染、入院および死亡に対する予防効果を評価するシステマティック・レビューとネットワークメタ解析を行った。 世界保健機関(WHO)の38のCOVID-19データベースについて、2022年3月から毎週検索を行う方法(Living systematic review)にて、COVID-19ワクチンの同種または異種レジメンの有効性について評価した試験を抽出した。ブースター接種の有無は問わなかった。 解析対象としたのは、ワクチン接種群と非接種群について、症候性や重症COVID-19、COVID-19関連の入院や死亡数を記録した試験だった。 主要評価項目は、ワクチンの有効性で、1-オッズ比で算出し評価。副次評価項目は、surface under the cumulative ranking curve(SUCRA)スコアとペアワイズ比較の相対的効果だった。 バイアスリスクについては、非無作為化介入試験バイアスリスク評価ツール「ROBINS-I」を、無作為化比較試験については、コクランバイアスリスク評価ツール「ROB-2」を用いて評価した。mRNAワクチン3回接種、免疫不全でも高い有効性 53試験を対象に、初回解析を行った。COVID-19ワクチンレジメンの24の比較のうち、mRNAワクチン3回接種が、非症候性・症候性COVID-19感染に対し最も有効だった(ワクチン有効性:96%、95%信頼区間[CI]:72~99)。 アデノウイルスベクターワクチン2回接種+mRNAワクチン1回接種の異種ブースター接種の非症候性・症候性COVID-19感染に対する有効性は88%(95%CI:59~97)と良好なワクチン効果が認められた。また、mRNAワクチン2回の同種接種の、重症COVID-19に対する有効性は99%(79~100)だった。 mRNAワクチン3回接種は、COVID-19関連入院においても最も有効だった(有効率:95%、95%CI:90~97)。mRNAワクチン3回接種者における死亡に対する有効性は、交絡因子により不明確だった。 サブグループ解析では、3回接種レジメンは、高齢者(65歳以上)を含むすべての年齢群で同程度の有効性が認められた。mRNAワクチンの3回接種レジメンは、免疫低下の有無にかかわらず比較的良好に機能することが認められた。 同種・異種のワクチン3回接種レジメンは、COVID-19変異株(アルファ、デルタ、オミクロン)のいずれに対しても、感染予防効果が認められた。

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サル痘に気を付けろッ!【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さん、こんにちは。大阪大学の忽那です。この連載では、本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。さて、2年ぶりに連載が再開した「気を付けろッ!」ですが、いつの間にか私の所属も大阪大学に変わってしまいました(まあ変わったのもすでに1年前なんですが…)。冨樫義博先生(漫画家)が『HUNTER×HUNTER』(週刊少年ジャンプ)の連載再開に向けて動き出しているということで、私も頑張らなあかんな~と思い、筆を取った次第です。この連載とは別に『ちょっくら症例報告を書いてみよう』という連載も開始しましたので、こちらの連載の方はCareNet.comの担当者からは「最後に1つ書いて終わってください」と言われていますが、「いやいや、くつ王、連載やめへんで! CareNet.comの連載2本持ちをしている文豪(&遅筆)としてこれからも邁進してまいります」ということで今回は「サル痘」についてです。サル痘はアフリカ由来サル痘は、1970年にコンゴ民主共和国で初めてヒトでの感染例が報告されたサル痘ウイルスによる動物由来感染症です。サル痘という名前ですが、サルも感染することがあるというだけで、もともとの宿主はネズミの仲間のげっ歯類ではないかと考えられています。天然痘ウイルスやワクシニアウイルスと同じオルソポックスウイルスに属するサル痘ウイルスによる感染症であり、アフリカの異なる地域にそれぞれ別の系統が分布しています。コンゴ民主共和国などの中央アフリカのサル痘ウイルスよりも、ナイジェリアなどの西アフリカのサル痘ウイルスの方が病原性が低いことがわかっています。これまでに報告されているサル痘患者の大半はアフリカからのものですが、同様に近年、アフリカでサル痘患者が増えているとナイジェリアやコンゴ民主共和国などから報告されております。その理由として、天然痘の根絶後、種痘の接種歴のある人が減っていることでサル痘患者が増加してきているのではないかと懸念されています。アフリカ以外でも、まれに旅行や動物の輸入に関連したサル痘患者がアメリカ、イギリス、シンガポール、イスラエルなど海外でも散発的に報告されていました。ほかの感染症との鑑別とサル痘の主症状そんな中、2022年5月からイギリスを発端としてアフリカ以外の地域でサル痘の患者が急増しています。2022年6月2日現在、600人を超えるサル痘患者が30ヵ国から報告されています。これまでにわかっている確定例は大半が男性患者であり、20代~40代の比較的若い世代に多いことも特徴です。また、今回の感染者のうち、ゲイやバイセクシュアルなど男性とセックスをする男性、いわゆる男性同性間性的接触者(MSM)の間で発生したケースが多いことが指摘されています。表 サル痘、天然痘、水痘の特徴の違い画像を拡大する(文献5と6をもとに筆者が作成)サル痘は1980年に世界から根絶された「天然痘」に病態がとても良く似ており、症状だけでこれら2つの疾患を鑑別することは困難だと言われています。しかし、サル痘では人から人へ感染する頻度は天然痘よりも低く、また重症度も天然痘よりもかなり低いことが知られています。ヒトがサル痘ウイルスに感染すると約12日の潜伏期の後に発熱や発疹などの症状がみられます。アメリカにおける2003年のアウトブレイクの際にサル痘と診断された34人の患者では、以下の症状がみられました。●サル痘の主な症状発疹(97%)発熱(85%)悪寒(71%)リンパ節の腫脹(71%)頭痛(65%)筋肉痛(56%)この報告では発熱が発疹よりも2日ほど先行し、発熱は8日間、発疹は12日間続いたとのことです。通常、全身に発疹がみられますが、今回のアウトブレイクでは性器や肛門周辺にのみ発疹がみられた事例も報告されているようです。アフリカにおけるサル痘患者の致死率は約1〜10%とされていますが、先進国ではこれまでに死亡者は確認されていません。サル痘の皮疹は天然痘と非常に似ており、水疱がみられることが特徴です。同様に水疱がみられる水痘では、水疱の時期、痂皮になった時期などさまざまな時期の皮疹が混在しますが、サル痘や天然痘では全身の皮疹が均一に進行していくのが特徴です。天然痘と比べると、サル痘では首の後ろなどのリンパ節が腫れることが多いと言われています。診断は水疱内容物や痂皮などを検体として用いたPCR検査を行うことになります。サル痘が疑われた場合は、最寄りの保健所を経由して国立感染症研究所で検査が実施されます。サル痘の治療は治療は原則として対症療法となります。海外ではシドフォビル、Tecovirimat、Brincidofovirなど天然痘に対する治療薬が承認され、実際に投与も行われている国もありますが、わが国ではこれらの治療薬は現時点では未承認です。感染経路は、接触感染(サル痘ウイルスを持つ動物に噛まれる、引っかかれる、血液・体液・皮膚病変に接触する、サル痘に感染した人の体液・発疹部位)と飛沫感染(サル痘に感染した人の飛沫を浴びる)の2つと考えられています。今回のアウトブレイクでは、ゲイやバイセクシュアルなど男性とセックスをする男性(MSM)の間で発生したケースが多いことから、性交渉の際の接触が感染の原因になっているのではないかと疑われています。種痘(天然痘ワクチン)はサル痘にも有効です。コンゴ民主共和国でのサル痘の調査では、天然痘ワクチンを接種していた人は、していなかった人よりもサル痘に感染するリスクが5.2倍低かったと報告されています。しかし、1976年以降日本では種痘は行われていませんので、昭和50年以降に生まれた方は接種していません。院内感染対策については、サル痘患者における科学的研究はほとんどなく、そのほとんどがアフリカで実施されたものです。サル痘ウイルスの人から人への感染は、天然痘と同じメカニズム、すなわち飛沫または接触によって起こると考えられていますので、天然痘と同様に考え、標準予防策、接触予防策、飛沫予防策を行うことになります。なお、アメリカの疾病対策予防センター(CDC)は、サル痘ウイルスが空気感染する理論的なリスクがあるということで、可能な限り陰圧個室隔離の上で空気感染予防策を適用することを推奨しています。1)Rimoin AW, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2010;107:16262-16267.2)Traeger MW, et al. Lancet Infect Dis. 2022;S1473-3099.3)Sklenovská N,et al. Front Public Health. 2018;6:241.4)Huhn GD, et al. Clin Infect Dis. 2005;41:1742-1751.5)McCollum AM,et al. Clin Infect Dis. 2014;58:260-267.6)Frey SE, et al. N Engl J Med. 2004;350:324-327.

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第112回 規制改革推進会議答申で気になったこと(前編)タスクシフトへの踏み込みが甘かった背景

「新型コロナは医療関連制度の不全を露呈させた」と答申こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。先週の過酷な皇海山登山の身体へのダメージがことのほか大きかったため、今週末は街で、映画を2本観て過ごしました。話題の2作、「シン・ウルトラマン」と「トップガン マーヴェリック」です。「シン・ウルトラマン」は庵野 秀明氏が企画・脚本・総監修ということで期待して観たのですが、今一つでした。「ウルトラマンの内面にまで迫った」と高く評価する映画評もありますが、個人的には少々理屈っぽく、かつ怪獣(禍威獣)も宇宙由来のものが主体で、これではウルトラマンではなくウルトラセブンではないか、と落胆した次第です。一方の「トップガン マーヴェリック」は、前作から36年ぶりの新作ですが、トム・クルーズの立ち位置(前回はやんちゃな戦闘機乗り、今回はやんちゃな若者を導く教官)や、前回エピソードの活かし方、圧倒的な空中戦のシーンなど、素晴らしい出来でした。時節柄、戦争や“敵国”の描き方への批判もあるようです。しかし、娯楽作としては群を抜いた映画だと感じました。映画評論家(で時代劇研究家)の春日 太一氏は、5月27日付の日本経済新聞夕刊の「シネマ万華鏡」で、「『トップガン』のファンなら誰もがそう夢想する何もかもを、本作は最高レベルで提示してくれる」と激賞しています。まったく同感です。個人的には、冒頭場面で主人公マーヴェリックが、36年前も乗っていたカワサキのオートバイ、GPZ900Rに今も乗っていることに、映画の作り手のこだわりを感じました。この映画はできるだけスクリーンが大きいIMAXシアターで観ることをお勧めします。さて、今回は政府の規制改革推進会議(議長:夏野 剛・近畿大学特別招聘教授/情報学研究所長)が5月27日に取りまとめた答申、「規制改革推進に関する答申~コロナ後に向けた成長の「起動」~」1)について書いてみたいと思います。同答申は、医療改革のためだけのものではありませんが、「新型コロナは医療デジタル化の遅れをはじめ医療関連制度の不全を露呈させた」と指摘、医療や介護に関する規制改革の項目が大きな柱となっています。医療DXの基盤整備に重点「医療・介護・感染症対策」については、表のような内容です。画像を拡大する表:規制改革推進会議答申に盛り込まれた「医療・介護・感染症対策」に関する項目「医療DXの基盤整備(在宅での医療や健康管理の充実)」のため、オンライン診療については、1)デジタルが不得意な高齢者らがデイサービス施設や公民館など、自宅以外でも受診できるようにする、2)患者の本人確認手続きを簡略化する…、ことなどを求めています。また、コロナ対応で特例的に認めている薬局での抗原検査キット販売の本格解禁も求めています。事前のオンライン注文を条件に、販売資格を持つ人がいないコンビニなどでも一般用医薬品を受け取れる制度の検討も要請しました。いずれも、コロナ禍で問題となった自宅での検査・療養態勢の充実のためです。政府は近く、この答申を反映した規制改革実施計画を閣議決定、同計画が今後の規制改革の指針となります。ワーキング・グループ委員は在宅医療寄り規制改革推進会議は、企業や医療現場などの生産性向上に向け、首相の諮問に応じて規制の緩和を議論する場です。内閣府に設置されており、行政改革推進会議などと併せてデジタル臨時行政調査会が統括しています。テーマごとにワーキング・グループを設けて関係省庁や有識者が参加して改革案をつくります。現在は「人への投資」「医療・介護・感染症対策」「デジタル基盤」など、5つの部会があります。医療・介護・感染症対策ワーキング・グループには5人の専門委員がおり、印南 一路・慶應義塾大学総合政策学部教授、大石 佳能子・株式会社メディヴァ代表取締役社長、佐々木 淳・医療法人社団悠翔会理事長・診療部長らが構成メンバーです。臨床の現場で働いているのは在宅医である佐々木氏のみです。大石氏は在宅医療も展開する用賀アーバンクリニックなどを運営する医療法人プラタナスの経営に関わるコンサルタント会社、メディヴァの社長ですが医師ではありません。ということで、専門委員は在宅医療の関係者に少々偏っている印象を受けます。タスクシェアは在宅現場の薬剤師の業務拡大のみそれはさておき、今回の答申で気になった点が2つあります。一つは、「医療人材不足を踏まえたタスクシフト/タスクシェアの推進」の項目です。タスクシフト/タスクシェアは、医師をはじめとする医療現場の働き方改革を進めていく中でとても重要な施策と考えられています。今回の規制改革推進会議の答申でも、人手不足が見込まれる介護施設で人員配置の基準緩和や、薬剤師などが看護の仕事の一部を担う「タスクシフト/タスクシェア」を求めてはいます。しかし、実際の医療現場の改革については、「在宅医療を受ける患者宅において必要となる点滴薬剤の充填・交換や患者の褥瘡への薬剤塗布といった行為を、薬剤師が実施すること」の検討を厚生労働省に求めたくらいで、特段踏み込んだ内容とはなっていません。「聖域になっていた医師の業務独占にもメスを入れるべきだ」と日経新聞医療関係職種のタスクシフト/タスクシェアについては、「第66回 医療法等改正、10月からの業務範囲拡大で救急救命士の争奪戦勃発か」でも詳しく書きました。2021年5月に成立した医療法等改正法によって、医師の負担軽減を目的に、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、救急救命士の4職種の資格法が改正され、それぞれの職種の業務範囲が同年10月から拡大されました。昨年の規制改革推進会議の答申では、これらのタスクシフトの動きについて「規制改革実施計画通りの進捗を確認した。今後も引き続きフォローアップを行っていく」としていました。今回の答申についても、その先の大改革の提案を期待した向きもあったようですが、物足りない内容に終わっています。日本経済新聞の6月1日付の社説は「医療人材生かす幅広いタスクシェアを」というタイトルで、「医療従事者のタスクシェアはこれに限らず広く実現していくべきだ。例えば米国やカナダで、ワクチンを打つのは薬局の薬剤師の仕事だ。日本でも再教育を受けた薬剤師が打ち手になれば、感染症危機への対応力が高まる」、「聖域になっていた医師の業務独占にもメスを入れるべきだ。日本の看護師は医師の指示がないと湿布を貼ることすらできない。(中略)能力のある看護師は自らの裁量で一定の医行為を行えるよう法改正すべきだ」と、今回の答申の不十分さを厳しく指摘しています。診療看護師が医師の指示なしで診療行為ができるようになれば答申でタスクシフト/タスクシェアの項目が在宅における薬剤師の業務範囲拡大だけに留まったのは、夏の参議院選挙を前に日本医師会を刺激したくなかったから、との見方もあるようです。また、内容が在宅医療関係だけに絞られたのは、先述したようにワーキング・グループのメンバーに在宅医療の関係者が多かったことも関係しているかもしれません。私自身は、日医が“内紛”や会長選でバタバタしている今こそ、大胆なタスクシフト/タスクシェアの内容を盛り込むべきではなかったかと考えます。特に重要なのは、看護師業務の大胆な拡大でしょう。2017年4月に厚生労働省の「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」が報告書を取りまとめました。同報告書は医師と他の医療職間で行う「タスク・シフティング(業務の移管)、タスク・シェアリング(業務の共同化)」を提言、新たな診療看護師(NP)の養成や、薬剤師による調剤業務の効率化、フィジシャン・アシスタント(PA)の創設などを盛り込みました。しかし、日本における診療看護師の制度自体はそれから大きくは変わっていません。今でも、2015年に創設された「特定行為に係る看護師の研修制度」に基づき、あらかじめ作成した手順書に沿って、特定行為をはじめとする診療行為しか行うことはできません。医師の働き方改革が叫ばれる中、多忙な医師の業務を軽減するには、診療看護師に相当の業務をシフトし、米国などにならって医師の指示がなくても一部の診療行為や医薬品の処方までできるようにすることだと思いますが、皆さんどう思われますか。併せて、老健施設の施設長も看護師が担えるようにすれば、介護の現場も大きく変わると思うのですが……。今回の答申で気になったもう一つは、薬(処方薬の市販化、SaMD)に関してです。それについては次回で。(この項続く)参考1)規制改革推進に関する答申 ~コロナ後に向けた成長の「起動」~/規制改革推進会議

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