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5歳未満のコロナワクチン、地域の流行状況と有効性のバランスを鑑みて(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

 生後6ヵ月~4歳児に対するファイザー製コロナワクチン「BNT162b2」3回接種の安全性と有効性がNEJM誌に示されたので、現状と照らし合わせて検討してみたい。現在日本では、6ヵ月~4歳児に対するコロナワクチンは、この論文で示されている12歳以上の1/10量であるBNT162b2ワクチン3μgを3週間間隔で2回、その後8週間以上空けて3回目接種が可能となっている(厚生労働省「生後6か月~4歳の子どもへの接種(乳幼児接種)についてのお知らせ」)。 本研究では用量設定試験である第I相の結果から3μgの用量を採用した。第II/III相試験において、6ヵ月~2歳児1,178例と2~4歳児1,835例にBNT162b2ワクチンを、それぞれ598例と915例にプラセボを接種して比較検討した。また3回目接種まで完了した児は6ヵ月~2歳児で386例、2~4歳児で606例であった。最も重要な安全性の項目に関しては、ほとんどが軽度~中等度の接種反応イベントとなっており、Grade4のイベントは確認されなかったとされる。大人では頻度の高い発熱も、6ヵ月~2歳児で7%、2~4歳児で5%程度と報告されている。有効性に関してはオミクロン変異株流行下におけるコロナ発症予防効果が、3回目接種後の1週間以降で73.2%と示された。 2023年3月の本論考の執筆時点では、日本の第8波のコロナ流行はほぼ収束しており、コロナワクチン接種の有用性を感じにくくなっている。第7波、第8波の到来から日本小児科学会では、生後6ヵ月~4歳の小児でもコロナワクチン接種のメリットがあると捉え、「努力義務」としている(日本小児科学会「生後6か月以上5歳未満の小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方」)。オミクロン変異株流行期以降は呼吸不全こそまれであるものの、重症例や死亡例が増加していることや、コロナ感染に伴う熱性けいれんや脳症などの重症例が報告されていることに基づいている。また、これまでに有効性の知見から、重症化予防効果は発症予防効果を上回ることが期待されるため、生後6ヵ月~4歳の小児においてもコロナワクチン接種が推奨されている。 先日3月28日に世界保健機関(WHO)から発表された「新型コロナウイルス感染症ワクチン接種ガイダンス」においては、健康な生後6ヵ月~4歳児に対するワクチン接種は「低優先度」に分類されている。1次接種(1、2回目ワクチン接種)や追加接種(3回目ワクチン接種)に関しては有効性や安全性が確認されているものの、他の予防接種に比べベネフィットが少なく、各国の感染状況や費用対効果などを鑑みることとされている(WHO : SAGE updates COVID-19 vaccination guidance)。 本研究ではワクチン接種に伴う副反応に対しても検討されている。発赤や腫脹などの接種部位反応や発熱などの項目に関しては生後6ヵ月~4歳児でも正確な評価が可能だが、倦怠感や頭痛、筋痛や関節痛に関する客観的な項目に関しての評価はNEJM誌に掲載された論文といえども、にわかには信じ難いと4児のパパとしては考える(田中)。もちろん成人に比べワクチン接種量も少なく、局所の副反応も全身性の副反応も頻度は低く、安全性は許容範囲内と捉えられる。現在のコロナ感染が落ち着いている状況下でワクチン接種を進めていくことはいささか難しいと考えるが、今後起こりうる流行の状況や安全性・有効性を考えて、小児期に接種する他の予防接種の間に組み込むことは何の問題もないのではと考える。

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第39回 フードコートのアクリル板は必要か?

感染対策の引き算手洗いや「3密」回避などの政府の基本的対処方針に基づき、各業界は感染対策のガイドラインを作成していましたが、5月8日から「5類感染症」に移行することで、基本的対処方針とそれに基づくガイドラインは廃止される方針です。となると、引き算していく感染対策を検討することになります。東京都民1万人が回答したアンケート調査によると、「もうやめたほうがよい」と思う感染対策は、「学校におけるマスク着用」、「黙食」、「ハンドドライヤー使用禁止」、「窓口や飲食店でのアクリル板やビニールの仕切り設置」が上位にランクインしています(図)。画像を拡大する図. 東京iCDCリスコミチームによる都民アンケート調査結果(2023年2月実施)、第119回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和5年3月23日)資料1)子供のワクチン接種率が低い学校では、有効とされる感染対策のマスクを一律に緩和することについてはさまざまな意見があります。個人的には、インフルエンザと同じように流行に応じて対応すればよいと思っています。フードコートのアクリル板アクリル板などのパーティションについては、結局ヒトの感染リスクを検討した明確なエビデンスがありません。物理的に飛沫を遮断する効果は当然あるので、アドバイザリーボードでも「今後も活用はあり得る」という玉虫色の結論となっています2)。私も子供連れでよくフードコートに行くのですが、現在もアクリル板の仕切りがあります。フードコートは、たとえ定期的に清掃をしているとしても、空いた席に次の人が座っていくシステムですから、前の使用者か次の使用者がきれいに清掃することが重要です。とはいえ、アクリル板まで拭きあげる人はほとんどおらず、飛び散ったうどんの汁や鉄板の油などでアクリル板が汚れていることのほうが多く、家族4人で座ったとき、汚いアクリル板で分断されている現状を非常に残念に思っています。フードコートは、よほどの混雑でなければ、相席ということは起こりません。なので、個人的には飲食店の形態に応じて引き算していけばよいのではと考えています。まれに起こる相席を想定してまで、アクリル板を設置するのはナンセンスだと思います。現時点で、政府は「事業者の判断に委ねる」という方針のようです。参考文献・参考サイト1)東京iCDCリスコミチームによる都民アンケート調査結果(2023年2月実施)、第119回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和5年3月23日)資料2)これからの身近な感染対策を考えるにあたって(第四報)~室内での感染対策におけるパーティションの効果と限界~、第119回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和5年3月23日)資料

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新規ワクチンMV-LASV、ラッサ熱の予防に有望/Lancet

 ラッサ熱の予防において、遺伝子組み換え弱毒生麻疹ベクターラッサ熱ワクチン(MV-LASV)は、安全性と忍容性が許容範囲内であり、免疫原性はベクターに対する既存の免疫の影響を受けないと考えられ、さらなる開発の有望な候補であることが、オーストリア・Themis Bioscience(米国・Merckの子会社)のRoland Tschismarov氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年3月16日号で報告された。単一施設でのヒトで初めての第I相試験 研究グループは、年齢18~55歳の健康な成人を対象に、MV-LASVのヒトで初めての第I相試験を実施した(感染症流行対策イノベーション連合[CEPI]の助成を受けた)。本研究は、非盲検用量漸増試験(漸増期)と観察者盲検無作為化プラセボ対照比較試験(治療期)の2段階から成り、2019年9月~2020年1月に単一施設(ベルギー・アントワープ大学)で参加者の登録が行われた。 用量漸増試験では、参加者は低用量群(組織培養細胞感染量中央値×2×104を2回接種)または高用量群(組織培養細胞感染量中央値×1×105を2回接種)に、非無作為に連続的に割り付けられた。無作為化プラセボ対照試験では、参加者は低用量群、高用量群、プラセボ群に、2対2対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、試験開始から56日目までの非自発的または自発的に報告された有害事象とされた。局所有害事象の頻度はプラセボより高い 漸増期には、低用量群と高用量群に4例ずつが、治療期には、低用量群に25例(平均年齢27.3歳、男性56%)、高用量群に23例(33.9歳、30%)、プラセボ群に12例(33.6歳、33%)が割り付けられた。 ほとんどの有害事象は治療期に発現し、非自発的または自発的に報告された有害事象の頻度は3群で同程度であった。非自発的に報告された有害事象の割合は、低用量群が96%、高用量群が100%、プラセボ群が92%であり(p=0.6751)、自発的に報告された有害事象の割合は、それぞれ76%、70%、100%だった(p=0.1047)。 有意差が認められたのは非自発的に報告された局所の有害事象のみで、プラセボ群(12例中6例[50%])に比べ、MV-LASV接種群(低用量群:25例中24例[96%]、高用量群:23例中23例[100%])で高頻度であった(p=0.0001[Fisher-Freeman-Halton検定])。 有害事象のほとんどは軽度または中等度で、56日目までに重篤な有害事象やとくに注意すべき有害事象、死亡の報告はなかった。 全体として、最も頻度の高い非自発的に報告された局所有害事象は、注射部位の痛み(触れるか否かは問わず)、注射部位硬結、注射部位紅斑/発赤であり、全身性有害事象は、頭痛、インフルエンザ様症状、倦怠感、筋肉痛、下痢であった。また、最も頻度の高い自発的に報告された有害事象は、上咽頭炎、前失神、注射部位出血、筋骨格系のこわばりであった。 一方、MV-LASVは、2つの用量群とも高濃度のLASV特異的IgGを誘導し、最高値を示した42日目の幾何平均抗体価は、低用量群が62.9EU/mL(プラセボ群[6.1EU/mL]との比較でp<0.0001)、高用量群は145.9EU/mL(p<0.0001)であった。 著者は、「今後は、組織培養細胞感染量中央値の1×105倍量の高用量MV-LASVに焦点を当てて開発を進める必要がある」としている。

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スコットランド、P4P廃止でプライマリケアの質が低下/BMJ

 Quality and Outcomes Framework(QOF)は、英国の国民保健サービス(NHS)におけるプライマリケア向けの「pay-for-performance(P4P)」制度であり、2004年に英国の4つのカントリー(イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド)のすべてに導入されたが、2016年にスコットランドはこれを廃止した。英国・ダンディー大学のDaniel R. Morales氏らは、この経済的インセンティブを継続したイングランドと比較して、スコットランドではQOF廃止後に多くのパフォーマンス指標に関してケアの質の低下が認められたと報告した。研究の詳細は、BMJ誌2023年3月22日号に掲載された。16指標を分割時系列試験で評価 研究グループは、2016年のスコットランドにおけるQOFの廃止がケアの質に及ぼした影響を、QOFを継続したイングランドとの比較において評価する分割時系列対照比較試験を実施した(筆頭著者は、英国・Wellcome Trust Clinical Research Career Development Fellowshipの助成を受けた)。 解析には、2013~14年にスコットランドの979ヵ所の診療所に登録された559万9,171例と、イングランドの7,921ヵ所の診療所に登録された5,627万628例のデータが含まれ、2018~19年のデータとの比較が行われた。 2015~16年の会計年度末にQOFを廃止したスコットランドにおける、廃止から1年後および3年後のケアの質の変化を、16項目のパフォーマンス指標(「複雑なプロセス」2項目、「中間的アウトカム」9項目、「治療」5項目)について評価した。治療5項目については有意差なし イングランドと比較して、QOF廃止から1年後のスコットランドでは、16項目のケアの質に関するパフォーマンス指標のうち12項目で、3年後には10項目で有意な低下が認められた。 廃止から3年の時点で、スコットランドとイングランドで絶対差が最も大きかった指標は、複雑なプロセスの2項目、精神的健康のケアプランニング(-40.2ポイント、95%信頼区間[CI]:-45.5~-35.0)と糖尿病性足病変のスクリーニング(-22.8、-33.9~-11.7)であり、いずれもスコットランドで著明に低かった。 また、スコットランドではイングランドと比べ、3年後の中間的アウトカムにも大幅な低下がみられた。なかでも、末梢動脈疾患(絶対差:-18.5ポイント、95%CI:-22.1~-14.9)・脳卒中/一過性脳虚血発作(-16.6、-20.6~-12.7)・高血圧(-13.7、-19.4~-7.9)・冠動脈疾患(-12.8、-14.9~-10.8)それぞれの患者の血圧管理(≦150/90mmHg)のほか、糖尿病患者の血圧管理(≦140/80mmHg)(-12.7、-15.0~-10.4)および糖化ヘモグロビン(HbA1c)管理(≦75mmol/mol)(-5.0、-8.4~-1.5)の低下が顕著だった。 治療の5項目(脳卒中/一過性脳虚血発作・慢性閉塞性肺疾患・冠動脈疾患・糖尿病それぞれの患者へのインフルエンザワクチン接種、冠動脈疾患患者への抗血小板療法/抗凝固療法)には、スコットランドとイングランドで有意な差はなかった。 著者は、「P4P制度を変更する際は、ケアの質の低下を監視し、それに対応できるように、慎重な制度設計と実施が求められる」としている。

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新型コロナ治療薬ゾコーバ錠125mgの一般流通開始/塩野義

 塩野義製薬は3月31日付のプレスリリースにて、同社の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬ゾコーバ錠125mg(一般名:エンシトレルビル フマル酸)について、同日より一般流通を開始したことを発表した。薬価は、1錠7,407.4円となる。 本剤は、2022年11月22日付で厚生労働省より「SARS-CoV-2による感染症」の適応で、緊急承認制度(医薬品医療機器等法第14条の2の2)に基づく製造販売承認を取得した。本剤の緊急承認は、オミクロン株流行期に重症化リスク因子の有無やワクチン接種の有無によらず、幅広い軽症/中等症患者を対象に日本を中心としたアジア(韓国、ベトナム)で実施した、第II/III相臨床試験のPhase 3 partの良好な試験結果に基づく。2023年3月15日に薬価基準収載となった。 本剤の用法・用量は、通常、12歳以上の小児および成人には、エンシトレルビルとして1日目は375mgを、2~5日目は125mgを1日1回経口投与する。なお、本剤は緊急承認医薬品であるため、処方に際しては、担当医師からの説明と患者または代諾者からの同意書の取得が必要となる。

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第141回 令和4年の救急車の出動、過去最高の722万件を記録/消防庁

<先週の動き>1.令和4年の救急車の出動、過去最高の722万件を記録/消防庁2.新型コロナ、基本的な感染対策は自主的に判断を/厚労省3.がん検診率60%以上を目標に、がん対策基本計画/政府4.経鼻インフルエンザワクチンが国内初承認、2024年度シーズンから供給へ/第一三共5.相澤病院、元職員が患者の個人情報を外部に持ち出し/相澤病院6.美容医療「ハイフ」の健康被害防止へ、施術は医師に限定を/消費者庁1.令和4年の救急車の出動、過去最高の722万件を記録/消防庁総務省消防庁は、3月31日に令和4年度の救急出動件数の速報値を発表した。令和4年の救急車の出動件数は前年度に比べて16.7%増の722万9,838件、搬送人数も621万6,909人と過去最高を記録した。同庁によると、高齢者の増加のほか、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、救急要請が増えたのが原因としている。また、同日に救急業務のあり方に関する検討会の報告書を公表し、この中で、マイナンバーカードを活用した救急業務の迅速化・円滑化のため、システム構築の検討を加速することが盛り込まれた。(参考)「令和4年中の救急出動件数等(速報値)」の公表(消防庁)「令和4年度 救急業務のあり方に関する検討会 報告書」(同)救急車の出動最多722万件 22年、コロナで要請急増(日経新聞)2.新型コロナ、基本的な感染対策は自主的に判断を/厚労省3月31日、加藤勝信厚生労働大臣は新型コロナウイルスの感染症法の位置付けが5類に移行する前に、移行後の感染症対策について方針の変更を説明した。手洗いや換気は引き続き有効とするが、入場時の検温などの対策は効果やコストなどを踏まえて、自主的に判断を求めるとする基本的な考えを示した。医療機関や介護施設などに対しては、院内や施設内の感染対策について引き続き国が示すとしている。(参考)【事務連絡】新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付け変更後の基本的な感染対策の考え方について(厚労省)アクリル板設置や検温など事業者判断に 5類移行後の基本的な感染対策で厚生労働省(東京新聞)新型コロナ5類移行後 “入場時検温など自主的に判断” 厚労省(NHK)コロナ対策変更へ、厚労相「マスク着用と同様」主体的な選択を尊重、5類移行で(CB news)3.がん検診率60%以上を目標に、がん対策基本計画/政府政府は、3月28日に2023年度から始まる新たな「第4期がん対策基本計画」を閣議決定した。がんによる死亡率を低下させるため、がん検診の受診率を現行より引き上げ、60%以上に向上させるほか、オンラインによる相談支援や緩和ケアの充実などが盛り込まれた。なお、がん検診の受診率は男性の肺がん検診を除くと、現行の第3期がん対策基本計画でも、50%未満であり、新型コロナウイルス感染症の拡大により頭打ちとなっているがん検診の受診率のさらなる向上を目指す。(参考)第4期がん対策基本計画を閣議決定 政府、デジタル化推進へ(CB news)がん検診率60%に向上目標 政府、4期計画を閣議決定(東京新聞)第4期がん対策推進基本計画案を閣議決定!がん医療の均てん化とともに、希少がんなどでは集約化により「優れたがん医療提供体制」を構築!(Gem Med)がん対策推進基本計画[第4期]<令和5年3月28日閣議決定>(厚労省)4.経鼻インフルエンザワクチンが国内初承認、2024年度シーズンから供給へ/第一三共3月27日、国内初の「経鼻インフルエンザワクチン」が正式に承認されたことを製造メーカーの第一三共が明らかにした。同社によると、2015年にアストラゼネカ社の子会社メディミューン社と提携し、国内での開発・販売契約に基づいて開発を開始。国内における知見の結果、経鼻インフルエンザワクチン「フルミスト点鼻液」としてこの度承認申請を行い、承認された。季節性インフルエンザの予防に新たな選択肢を提供できるとしている。対象は2歳以上19歳未満の人で、0.2mLを1回(各鼻腔内に0.1mLを1噴霧)、鼻腔内に噴霧する。(参考)第一三共、経鼻インフルワクチンが承認 24年度発売(日経新聞)フルミストが製造販売承認を取得(日経メディカル)経鼻弱毒生インフルエンザワクチン「フルミストR点鼻液」の国内における製造販売承認取得のお知らせ(第一三共)5.相澤病院、元職員が患者の個人情報を外部に持ち出し/相澤病院長野県松本市の相澤病院において、患者の個人情報が不正に持ち出されたことが明らかになり、病院を経営する医療法人は内閣府の個人情報保護委員会に2月に報告、また、松本警察署に事件相談を行い、告訴状を提出した。病院によると、2023年1月、同院に通院中の患者の申し出によって、元職員から患者が他の医療機関での治療の勧誘を受けたことが判明。病院側の聞き取り調査によって、2022年5月に元職員が、後輩職員に業務マニュアルの閲覧を申し出て、業務フォルダからデータをコピーして持ち出したことが明らかとなった。漏洩したデータは透析治療患者ならびに高気圧酸素療法患者の個人情報3,137人分(亡くなった患者を含む)の住所・氏名・生年月日など基本的な識別情報のほか、各種医療情報、家族情報が含まれていた。病院側は、研修内容の見直しと再発防止に努めたいとしている。(参考)患者さん個人情報等の漏えい(不正取得)について[お詫び](相澤病院)長野の相沢病院、元職員が患者らの個人情報3137人分を外部に漏えい(読売新聞)松本市の相澤病院 患者ら3100余の個人情報持ち出されたか(NHK)6.美容医療「ハイフ」の健康被害防止へ、施術は医師に限定を/消費者庁痩身などを目的として、エステサロンで超音波を照射する超音波機器「HIFU(ハイフ)」を使った健康被害が増加していることに対し、消費者庁の消費者安全調査委員会は、ハイフを用いた施術について、施術者を医師に限定すべきだと提言した。委員会によると、ハイフによってやけどやシミが生じた事故は、2015年より8年間で135件が報告され、増加傾向にある。医療問題弁護団はこの提言を受け、4月2日に無料で電話相談を行った。(参考)エステの超音波施術「医師に限定を」 消費者事故調が厚労省に提言(朝日新聞)超音波美容施術で事故相次ぐ 消費者事故調 国に法規制求める(NHK)消費者安全法第23条第1項の規定に基づく事故等原因調査報告書)エステサロン等でのHIFU)ハイフ)による事故)を公表しました。(消費者庁)【4月2日(日)10時~16時・HIFUホットライン実施】HIFU(高密度焦点式超音波)被害の電話相談を実施します(医療問題弁護団)

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新型コロナワクチン接種ガイダンスを改訂/WHO

 世界保健機関(WHO)は3月28日付のリリースで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン接種ガイダンスを改訂したことを発表した。今回の改訂は、同機関の予防接種に関する専門家戦略アドバイザリーグループ(SAGE)が3月20~23日に開催した会議を受け、オミクロン株流行期の現在において、ワクチンや感染、またはハイブリッド免疫によって、世界的にすべての年齢層でSARS-CoV-2の抗体保有率が増加していることが考慮されたものとなる。SARS-CoV-2感染による死亡や重症化のリスクが最も高い集団を守ることを優先し、レジリエンスのある保健システムを維持することに重点を置いた、新たなロードマップが提示された。 今回発表された新型コロナワクチン接種のロードマップでは、健康な小児や青年といった低リスク者に対するワクチン接種の費用対効果について検討されたほか、追加接種の間隔に関する推奨などが含まれている。 改訂の主な内容は以下のとおり。・ワクチン接種の優先度順に、高・中・低の3つグループを設定した。・高優先度群には、高齢者、糖尿病や心臓病などの重大な基礎疾患のある若年者、生後6ヵ月以上のHIV感染者や移植患者などの免疫不全者、妊婦、最前線の医療従事者が含まれる。この群に対して、ワクチンの最終接種から6~12ヵ月後に追加接種することを推奨している。・中優先度群には、健康な成人(50~60歳未満で基礎疾患のない者)と、基礎疾患のある小児と青年が含まれる。この群に対して、1次接種(初回シリーズ)と初回の追加接種を奨励している。・低優先度群には、生後6ヵ月~17歳の健康な小児と青年が含まれる。この群に対する新型コロナワクチンの1次接種と追加接種の安全性と有効性は確認されている。しかし、ロタウイルスや麻疹、肺炎球菌ワクチンなど、以前から小児に必須のワクチンや、中~高優先度群への新型コロナワクチンの確立されたベネフィットと比較すると、健康な小児や青年への新型コロナワクチン接種による公衆衛生上の影響は低く、疾病負荷が低いことを考慮して、SAGEはこの年齢層への新型コロナワクチン接種を検討している国に対し、疾病負荷や費用対効果、その他の保健の優先事項や機会費用などの状況要因に基づいて決定するように促している。・6ヵ月未満の乳児における重症COVID-19の負荷は大きく、妊婦へのワクチン接種は、母親と胎児の両方を保護し、COVID-19による乳児の入院の低減に効果的であるため推奨される。・SAGEは新型コロナの2価ワクチンに関する推奨事項も更新し、1次接種にBA.5対応2価mRNAワクチンの使用を検討することを推奨している。

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看護施設スタッフの検査強化で、入所者のコロナ関連死減少/NEJM

 米国の高度看護施設(skilled nursing facilities)において、職員に対する新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)サーベイランス検査の強化は、とくにワクチン承認前において、入所者の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発症および関連死の、臨床的に意味のある減少と関連していた。米国・ロチェスター大学のBrian E. McGarry氏らが、メディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)のデータベースを用いた後ろ向きコホート研究の結果を報告した。高度看護施設の職員へのCOVID-19サーベイランス検査は広く行われているが、施設入所者のアウトカムとの関連性についてのエビデンスは限定的であった。NEJM誌2023年3月23日号掲載の報告。高度看護施設1万3,424施設について、77週間調査 研究グループは、CMSのCOVID-19 Nursing Home Databaseにおける2020年11月22日~2022年5月15日のデータを用い、ワクチン承認前、B.1.1.529(オミクロン)株優勢前、オミクロン株優勢中の3つの期間における、高度看護施設1万3,424施設の職員のSARS-CoV-2検査と入所者のCOVID-19について後ろ向きコホート研究を行った。同データベースは、高度看護施設が米国疾病予防管理センター(CDC)の医療安全ネットワーク(NHSN:National Healthcare Safety Network)に週単位で提出するデータを含んでいる。 主要アウトカムは2つで、潜在的アウトブレイク(COVID-19症例が2週間なかった後にCOVID-19が発生と定義)時におけるCOVID-19発症およびCOVID-19関連死の週間累積例数(潜在的アウトブレイク100件当たりの件数として報告)で、検査回数の多い施設(検査数の90パーセンタイル)と少ない施設(10パーセンタイル)で比較した。スタッフ検査回数が多い施設で、少ない施設よりCOVID-19発症/関連死が減少 77週間の調査期間において、潜在的アウトブレイク100件当たりのCOVID-19症例は、スタッフへの検査回数が多い施設が519.7例に対し、少ない施設は591.2例であった(補正後群間差:-71.5、95%信頼区間[CI]:-91.3~-51.6)。また、潜在的アウトブレイク100件当たりのCOVID-19関連死は、多い施設42.7例に対し、少ない施設49.8例であった(-7.1、-11.0~-3.2)。 ワクチン承認前においては、潜在的アウトブレイク100件当たりのCOVID-19症例は、スタッフへの検査回数が多い施設759.9例、少ない施設1,060.2例(補正後群間差:-300.3、95%CI:-377.1~-223.5)、COVID-19関連死はそれぞれ125.2例、166.8例(-41.6、-57.8~-25.5)であった。 オミクロン株優勢前は、スタッフへの検査回数が多い施設と少ない施設でCOVID-19症例数、COVID-19関連死数のいずれも同程度であった。オミクロン株優勢中は、多い施設でCOVID-19症例数が減少した。しかし死亡数は両群で同程度であった。

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コロナ疾患後症状患者、1年以内の死亡/重篤心血管リスク増

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染から1年間のコロナ罹患後症状(Post-COVID-19 Condition:PCC[いわゆるコロナ後遺症、long COVID])について、米国の商業保険データベースを用いて未感染者と比較した大規模調査が、保険会社Elevance HealthのAndrea DeVries氏らによって実施された。その結果、コロナ後遺症患者は心血管疾患や呼吸器疾患のリスクが約2倍上昇し、1年間の追跡期間中の死亡率も約2倍上昇、1,000人あたり16.4人超過したことが明らかとなった。JAMA Health Forum誌2023年3月3日号に掲載の報告。コロナ後遺症群の死亡率は2.8%で未感染群は1.2% 米国50州の18歳以上の健康保険会員において、2020年4月1日~7月31日の期間にCOVID-19に罹患し、その後コロナ後遺症と診断された1万3,435例と、未感染者2万6,870例をマッチングし、2021年7月31日まで12ヵ月追跡してケースコントロール研究を実施した。評価項目は、心血管疾患、呼吸器疾患、死亡など。コロナ後遺症の診断は、疲労、咳嗽、痛み(関節、喉、胸)、味覚・嗅覚の喪失、息切れ、血栓塞栓症、神経認知障害、うつ病などの症状に基づいて行われた。統計学的有意性はカイ2乗検定とt検定で評価し、相対リスク(RR)と95%信頼区間(CI)を算出した。Kaplan-Meier法を用いて死亡率を算出した。 コロナ後遺症について未感染者と比較した大規模調査の主な結果は以下のとおり。・コロナ後遺症群(1万3,435例)の平均年齢は50.1歳(SD 15.1)、女性7,874例(58.6%)。PCC群のうち3,697例がCOVID-19診断後1ヵ月以内に入院していた(平均年齢57.4歳[SD 13.6]、女性44.7%)。未感染群(2万6,870例)の平均年齢は50.2歳(SD 15.4)、女性1万5,672例(58.3%)。・コロナ後遺症群はCOVID-19を発症する前に、高血圧(39.2%)、うつ病(23.7%)、糖尿病(20.5%)、COPD(19.1%)、喘息(中等症/重症)(13.3%)、高度肥満(10.3%)などの慢性疾患を有する人が多かった。・コロナ後遺症群の追跡期間中によく観察された症状は、息切れ(41%)、不安(31%)、筋肉痛/脱力(30%)、うつ病(25%)、疲労(21%)だった。・コロナ後遺症群において、未感染群と比較して医療利用が増加した疾患は次のとおり。 -不整脈の発症率:PCC群29.4% vs.未感染群12.5%、RR:2.35(95%CI:2.26~2.45) -肺塞栓症:8.0% vs.2.2%、RR:3.64(95%CI:3.23~3.92) -虚血性脳卒中:3.9% vs.1.8%、RR:2.17(95%CI:1.98~2.52) -冠動脈疾患:17.1% vs.9.6%、RR:1.78(95%CI:1.70~1.88) -心不全:11.8% vs.6.0%、RR:1.97(95%CI:1.85~2.10) -末梢血管疾患:9.9% vs.6.3%、RR:1.57(95%CI:1.48~1.70) -COPD:32.0% vs.16.5%、RR:1.94(95%CI:1.88~2.00) -喘息(中等症/重症):24.2% vs.12.4%、RR:1.95(95%CI:1.86~2.03)・追跡期間中の死亡率はコロナ後遺症群2.8% vs.未感染群1.2%で、コロナ後遺症群は1,000人あたり16.4人の超過死亡となる。・COVID-19発症初期に入院を経験したコロナ後遺症群において、未感染群と比較して医療利用が増加した疾患は次のとおり。 -不整脈:51.7% vs.17.4%、RR:2.97(95%CI:2.81~3.16) -肺塞栓症:19.3% vs.3.1%、RR:6.23(95%CI:5.36~7.15) -虚血性脳卒中:8.3% vs.2.7%、RR:3.07(95%CI:2.59~3.66) -冠動脈疾患:28.9% vs.14.5%、RR:1.99(95%CI:1.85~2.15) -心不全:25.6% vs.10.1%、RR:2.53(95%CI:2.32~2.76) -末梢血管疾患:17.3% vs.8.9%、RR:1.94(95%CI:1.75~2.15) -COPD:43.1% vs.19.2%、RR:2.24(95%CI:2.11~2.38) -喘息(中等症/重症):31.6% vs.14.7%、RR:2.15(95%CI:2.00~2.31) コロナ罹患後症状に関する米国での最大規模の追跡調査において、コロナ後遺症患者は死亡率だけでなく心血管疾患や呼吸器疾患のリスクが有意に増加し、とくにCOVID-19発症初期に入院した人では肺塞栓症が6倍、脳卒中が3倍以上など、さらにリスクが高くなることが示された。また、本研究はワクチン利用可能以前のサンプルを用いているため、ワクチン普及後では、ワクチンのコロナ後遺症緩和効果により、個人の医療利用パターンが変化する可能性もあると著者は指摘している。

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経鼻投与の百日咳ワクチン、単回でも感染抑制の可能性/Lancet

 経鼻投与型の弱毒生百日咳ワクチンであるBPZE1は、鼻腔の粘膜免疫を誘導して機能的な血清反応を引き起こし、百日咳菌(Bordetella pertussis)感染を回避し、最終的に感染者数の減少や流行の周期性の減弱につながる可能性があることが、米国・ILiAD BiotechnologiesのCheryl Keech氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌2023年3月11日号で報告された。米国の無作為化第II相試験 研究グループは、BPZE1の免疫原性と安全性を破傷風・ジフテリア・沈降精製百日咳ワクチン(Tdap)と比較する目的で、米国の3施設で二重盲検無作為化第IIb相試験を行った(ILiAD Biotechnologiesの助成を受けた)。 年齢18~50歳の健康な成人が、次の4つの群に2対2対1対1の割合で無作為に割り付けられた。1日目にBPZE1を接種し、85日目に弱毒BPZE1を接種する群(BPZE1-BPZE1群)、同様にBPZE1接種後にプラセボを接種する群(BPZE1-プラセボ群)、Tdap接種後に弱毒BPZE1を接種する群(Tdap-BPZE1群)、Tdap接種後にプラセボを接種する群(Tdap-プラセボ群)。 1日目には、凍結乾燥したBPZE1に滅菌水を加えて鼻腔内に投与し、Tdapは筋肉内に投与された。マスキングを維持するために、BPZE1群では生理食塩水が筋肉内投与され、Tdap群では凍結乾燥プラセボが鼻腔内投与された。 免疫原性の主要エンドポイントは、29日目または113日目における少なくとも1つのB. pertussis菌抗原に対する鼻腔の分泌型IgAのセロコンバージョン(抗体陽転)が得られた参加者の割合であった。忍容性も良好 2019年6月17日~10月3日の期間に280例が登録された。BPZE1-BPZE1群に92例(平均年齢35.6歳、男性39%)、BPZE1-プラセボ群に92例(35.2歳、50%)、Tdap-BPZE1群に46例(34.6歳、43%)、Tdap-プラセボ群に50例(34.2歳、46%)が割り付けられた。 29日目または113日目における少なくとも1つのB. pertussis菌特異的な鼻腔の分泌型IgAのセロコンバージョンは、BPZE1-BPZE1群が84例中79例(94%、95%信頼区間[CI]:87~98)、BPZE1-プラセボ群が94例中89例(95%、95%CI:88~98)、Tdap-BPZE1群が42例中38例(90%、95%CI:77~97)、Tdap-プラセボ群は45例中42例(93%、95%CI:82~99)で得られ、幾何平均比および幾何平均倍率ではBPZE1群がTdap群よりも高率であった。 BPZE1群では、B. pertussis菌特異的な粘膜の分泌型IgA応答が広範かつ一貫して認められたのに対し、Tdap群ではこのような一貫性は誘導されなかった。 2つのワクチンは共に忍容性が良好で、反応原性は軽度であり、ワクチン関連の重篤な有害事象は認められなかった。1日目の接種後7日以内に非自発的に報告されたGrade1以上の鼻腔および呼吸器の有害事象では、鼻詰まり(BPZE1群39%、Tdap群35%)、鼻水(36%、34%)、くしゃみ(33%、29%)の頻度が高かったが、85日目の接種以降は前回のワクチンの種類を問わず、鼻腔および呼吸器の反応原性イベントは頻度、重症度共に悪化することはなかった。 接種後7日以内のGrade1以上の全身性有害事象では、頭痛(BPZE1群37%、Tdap群36%)、倦怠感(34%、22%)の頻度が高かったが、85日目の接種以降は前回のワクチンの種類を問わず、全身性有害事象の頻度、重症度共に悪化しなかった。 著者は、「本研究は、BPZE1の単回鼻腔投与により、百日咳菌に対する分泌型IgA応答が誘導されることを示したヒトで初めての概念実証試験であり、安全な次世代の百日咳ワクチンとしてのBPZE1のさらなる開発を支持するものである」としている。

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3回接種後の効果、ファイザー製/モデルナ製各160万人で比較/BMJ

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のデルタ変異株~オミクロン変異株の流行期において、BNT162b2(ファイザー製)ワクチンまたはmRNA-1273(モデルナ製)ワクチンによるブースター接種はいずれも、接種後20週以内のSARS-CoV-2感染および新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による入院に関して適度な有益性があることが、英国・オックスフォード大学のWilliam J. Hulme氏らのマッチドコホート研究で明らかとなった。BMJ誌2023年3月15日号掲載の報告。両ワクチン各々約161万9千例で比較 研究グループは、OpenSAFELY-TPPデータベースを用いてコホート研究を行った。本データベースは英国の一般診療所の40%をカバーし、国民保健サービス(NHS)番号を介して救急外来受診記録、入院記録、SARS-CoV-2検査記録および死亡登録と関連付けられている。 解析対象は、BNT162b2またはChAdOx1(アストラゼネカ製)ワクチンを2回接種(プライマリ接種コース)しており、2021年10月29日~2022年2月25日にブースター接種プログラムの一環としてBNT162b2またはmRNA-1273の3回目接種を受けた、ブースター接種前28日以内にSARS-CoV-2感染歴のない18歳以上の成人(介護施設入所者および医療従事者は除外)であった。BNT162b2接種者とmRNA-1273接種者を、3回目接種日、プライマリ接種コースのワクチンの種類、2回目接種日、性別、年齢などに関して1対1でマッチングした。 主要アウトカムは、ブースター接種後20週間におけるSARS-CoV-2検査陽性、COVID-19関連入院、COVID-19関連死、非COVID-19関連死であった。 BNT162b2群、mRNA-1273群で各々161万8,959例がマッチングされ、合計6,454万6,391人週追跡された。相対的有効性はmRNA-1273が良好? 20週間のSARS-CoV-2検査陽性リスク(1,000人当たり)は、BNT162b2群164.2(95%信頼区間[CI]:163.3~165.1)、mRNA-1273群159.9(95%CI:159.0~160.8)、BNT162b2と比較したmRNA-1273のハザード比(HR)は0.95(95%CI:0.95~0.96)であった。 同様に、COVID-19関連入院リスク(1,000人当たり)は、BNT162b2群0.75(95%CI:0.71~0.79)、mRNA-1273群0.65(95%CI:0.61~0.69)、HRは0.89(95%CI:0.82~0.95)であった。 COVID-19関連死はまれで、20週間のリスク(1,000人当たり)はBNT162b2群0.028(95%CI:0.021~0.037)、mRNA-1273群0.024(0.018~0.033)、HRは0.83(95%CI:0.58~1.19)であった。 3回目接種後のCOVID-19関連入院/死亡はまれであったが、SARS-CoV-2検査陽性も含めてmRNA-1273よりBNT162b2のほうがリスクは高いと推定され、これらの結果は、プライマリ接種コースのワクチンの種類、年齢、SARS-CoV-2感染歴、英国予防接種に関する共同委員会(JVCI)の定義による臨床的脆弱性のサブグループ間で一貫していた。

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免疫チェックポイント阻害薬などを横断的に概説、『がん免疫療法ガイドライン』改訂/日本臨床腫瘍学会

 がんに対する免疫を介在した治療方法(がん免疫療法)は、新しい薬剤の開発および臨床試験の蓄積により近年急速に発展している。CTLA-4やPD-1/PD-L1といった免疫チェックポイントを標的とした免疫チェックポイント阻害薬(ICI)ががん種横断的に承認されているほか、エフェクターT細胞療法や、複数のICIを組み合わせて使う併用療法、ICIと従来の抗がん剤、分子標的薬、血管新生阻害薬、放射線治療等とを組み合わせた治療法も続々と登場している。 これら免疫チェックポイント阻害薬などのがん免疫療法の基本と指針をまとめた『がん免疫療法ガイドライン』(日本臨床腫瘍学会編)が2023年3月に刊行された。2016年12月の初版、2019年3月の第2版に続く第3版となる。2023年3月16~18日に行われた第20回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2023)上では、二宮 貴一朗氏(岡山大学病院 ゲノム医療総合推進センター)が「第3版改訂のポイント/がん種横断的評価とステートメント」と題した講演で改訂ポイントを解説した。 「ガイドライン委員会で2021年4月から改訂の議論をはじめ、30名を超える専門医のご協力により2年かけて刊行に至った。本版の特徴としては、新たな治療レジメンを踏まえ、有害事象及びその対処法の改訂を行ったこと、がん種別システマティックレビューを行い、がん種・臓器横断的な臨床疑問を設定し、ステートメントを提示したことだ。第2版にあったがん種別のエビデンスに対する推奨の提示は止め、『エビデンスの強さ』のみを提示することにした。これはがん種ごとに推奨される治療法やレジメンが多岐にわたり、かつ頻繁に改訂されており、臓器別ガイドラインと異なる推奨になることは臨床上望ましくないと判断したためだ」(二宮氏)。 個別項目における主な改訂点は以下のとおり。I がん免疫療法の分類と作用機序・免疫チェックポイント阻害薬→新規薬剤である抗LAG-3抗体薬の解説をガイドラインに追加。・エフェクターT細胞療法→造血器腫瘍分野で新たに承認されたCAR-T細胞療法に関する解説を改訂。・複合免疫療法→項目を追加。免疫療法と従来の抗がん薬との組み合わせによる効果などを記載。II 免疫チェックポイント阻害薬の副作用管理 医師以外の医療者も読者対象に想定し、新たなエビデンスに基づいた解説に更新。最近注目されており、より重症化する傾向のあるサイトカイン放出症候群の項目をガイドラインに追加。III がん免疫療法のがん種別エビデンス 「がんワクチン」など否定的な見解が多い療法についてもシステマティックレビューによるエビデンスの確実性に基づいて解説。各療法の歴史などもあわせて解説。IV がん免疫療法における背景疑問(Background Question:BQ) BQごとに、がん種によって異なる治療ラインやレジメンをガイドラインで解説。具体的なBQは下記のとおり。BQ1:進行期悪性腫瘍に対して、免疫チェックポイント阻害薬単剤療法は有効か?BQ2:進行期悪性腫瘍に対して、免疫チェックポイント阻害薬併用療法は有効か?BQ3:進行期悪性腫瘍に対して、免疫チェックポイント阻害薬と他剤を併用した複合免疫療法は有効か?BQ4:悪性腫瘍の根治術後の治療において、免疫チェックポイント阻害薬は有効か?BQ5:免疫チェックポイント阻害薬の効果予測バイオマーカーとして、PD-L1検査は有用か? 二宮氏は「他のガイドラインとは異なり、がん種横断的なアプローチを深く知ることのできる1冊となっている。治療や薬剤の増加に伴って多様化してきた有害事象にも紙幅を多く割いた。この分野は現在進行中の臨床試験も数多く、読者と共に情報をアップデートしていきたい」とした。『がん免疫療法ガイドライン』第3版(金原出版)編集:日本臨床腫瘍学会定価:3,300円発行日:2023年3月20日B5判・264頁・図数:29枚・カラー図数:5枚

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日本におけるオミクロン期のコロナワクチンの有効性は?/長崎大

 長崎大学熱帯医学研究所の前田 遥氏らの多施設共同研究チームは、2021年7月1日より、日本国内における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン効果のサーベイランス「VERSUS(Vaccine Effectiveness Real-time Surveillance for SARS-CoV-2)」を実施している。オミクロン株BA.1/BA.2の流行期における新型コロナmRNAワクチンの効果についてVERSUSのデータを基に評価したところ、初回シリーズの接種により緩やかな予防効果が得られ、さらに、有症状感染を防ぐにはブースター接種がより効果的であったことが明らかとなった。本結果は、Expert Review of Vaccines誌オンライン版2023年3月8日号に掲載された。 本研究では、2022年1月1日~6月26日のオミクロン株BA.1/BA.2の流行期に、11県の医療機関14施設に、COVID-19の徴候または症状(発熱[37.5℃以上]、咳嗽、疲労、息切れ、筋肉痛、咽頭痛、鼻づまり、頭痛、下痢、味覚障害、嗅覚障害)があって受診した7,931例(16歳以上)が登録された。ワクチン効果を多施設共同test-negative case-control研究で評価した。初回シリーズ(1次接種)とブースター接種ともにmRNAワクチンのファイザーの1価ワクチン(BNT162b2)もしくはモデルナの1価ワクチン(mRNA-1273)について評価し、それ以外の新型コロナワクチン接種者は試験結果から除外した。 主な結果は以下のとおり。・サーベイランスに登録された7,931例のうち、検査陽性3,055例、検査陰性4,876例を解析対象とした。年齢中央値39歳(四分位範囲:27~53)、男性3,810例(48.0%)、基礎疾患のある人が1,628例(20.5%)、COVID-19罹患歴がある人が142例(1.8%)であった。・対象者のワクチン接種歴は、ワクチン未接種13.8%、1次接種60.1%、ブースター接種20.1%であった。65歳以上では、未接種5.8%、1次接種49.7%、ブースター接種34.8%であった。検査陽性者の割合は、未接種52.7%、1次接種42.2%、ブースター接種20.3%であった。・未接種と比較した1次接種のSARS-CoV-2有症状感染への効果は、16~64歳では、接種完了から90日以内で35.6%(95%信頼区間[CI]:19.0~48.8)、91~180日で32.3%(20.7~42.2)、180日超で33.6%(18.5~45.8)であった。・未接種と比較したブースター接種の効果は、16~64歳では、ブースター接種完了から90日以内で68.7%(95%CI:60.6~75.1)、91~180日で59.1%(37.5~73.3)であった。・65歳以上では、未接種と比較した1次接種の効果は31.2%(95%CI:-44.0~67.1)、ブースター接種では76.5%(46.7~89.7)に上昇した。・1次接種、ブースター接種ともに、mRNA-1273のほうがBNT162b2よりも効果が高かったが有意差はなかった。・1次接種(接種から180日超)と比較したブースター接種のSARS-CoV-2有症状感染への効果は、16~64歳では、接種から90日以内で52.9%(95%CI:41.0~62.5)、91~180日で38.5%(6.9~59.3)であった。・65歳以上では、1次接種と比較したブースター接種の効果は65.9%(95%CI:35.7~81.9)であった。 本結果について著者は、デルタ株流行期での日本における1次接種のSARS-CoV-2有症状感染への効果は、16~64歳では、接種完了から90日以内で91.8%(95%CI:80.3~96.6)、91~180日で86.4%(56.9~95.7)、65歳以上では90.3%(73.6~96.4)と非常に高かったが、オミクロン株流行時には1次接種の有効性はかなり低下しており、有症状感染を防ぐにはブースター接種が必要だと指摘している。

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IL-13を特異的に中和するアトピー性皮膚炎治療薬「アドトラーザ皮下注」【下平博士のDIノート】第117回

IL-13を特異的に中和するアトピー性皮膚炎治療薬「アドトラーザ皮下注」今回は、アトピー性皮膚炎治療薬「トラロキヌマブ(遺伝子組換え)製剤(商品名:アドトラーザ皮下注150mgシリンジ、製造販売元:レオファーマ)」を紹介します。本剤は、アトピー性皮膚炎の増悪に関与するIL-13を特異的に中和するモノクローナル抗体であり、中等症~重症のアトピー性皮膚炎患者の新たな治療選択肢となることが期待されています。<効能・効果>既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎の適応で、2022年12月23日に製造販売承認を取得しました。本剤は、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬などの抗炎症外用薬による適切な治療を一定期間受けても十分な効果が得られず、強い炎症を伴う皮疹が広範囲に及ぶ患者に使用します。<用法・用量>通常、成人にはトラロキヌマブ(遺伝子組換え)として初回に600mgを皮下投与し、その後は1回300mgを2週間隔で皮下投与します。本剤による治療反応は、通常使い始めてから16週までには効果が得られるため、16週までに効果が得られない場合は投与の中止を検討します。<安全性>全身療法が適用となる中等症~重症のアトピー性皮膚炎患者を対象とした臨床試験において、5%以上の頻度で認められた副作用は、上気道感染(上咽頭炎、咽頭炎を含む)、結膜炎、注射部位反応(紅斑、疼痛、腫脹など)でした。重大な副作用として、重篤な過敏症(頻度不明)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.アトピー性皮膚炎の増悪に関与し、過剰に発現しているインターロイキン-13(IL-13)を特異的に中和するモノクローナル抗体です。2.この薬を投与中も、症状に応じて保湿外用薬などを併用する必要があります。3.寒気、ふらつき、汗をかく、発熱、意識の低下などが生じた場合は、すぐに連絡してください。<Shimo's eyes>本剤は、末梢での炎症を誘導する2型サイトカインであるIL-13を選択的に阻害することで、中等症~重症のアトピー性皮膚炎(AD)に効果を発揮する生物学的製剤です。IL-13は皮膚の炎症反応の増幅、皮膚バリアの破壊、病原体の持続性増強、痒みシグナルの伝達増強などに作用し、IL-13の発現量とADの重症度が相関するとされています。そのため、IL-13を阻害することによって、皮膚のバリア機能を回復させ、炎症や痒み、皮膚肥厚を軽減することが期待されています。現在、ADの薬物療法としては、ステロイド外用薬およびタクロリムス外用薬(商品名:プロトピックほか)が中心的な治療薬として位置付けられています。近年では、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害作用を有するデルゴシチニブ外用薬(同:コレクチム)、ホスホジエステラーゼ(PDE)4阻害作用を有するジファミラスト外用薬(同:モイゼルト)も発売されました。さらに、これらの外用薬でも効果不十分な場合には、ヒト型抗ヒトIL-4/IL-13受容体モノクローナル抗体のデュピルマブ皮下注(遺伝子組換え)(同:デュピクセント)、ヒト化抗ヒトIL-31受容体Aモノクローナル抗体のネモリズマブ皮下注(遺伝子組換え)(同:ミチーガ)、JAK阻害薬のバリシチニブ錠(同:オルミエント)などが発売され、治療選択肢が広がっています。本剤は、医療施設において皮下に注射され、原則として本剤投与時もADの病変部位の状態に応じて抗炎症外用薬を併用します。IL-13を阻害することにより2型免疫応答を減弱させ、寄生虫感染に対する生体防御機能を減弱させる恐れがあるため、本剤を投与する前に寄生虫感染の治療を行います。また、本剤投与中の生ワクチンの接種は、安全性が確認されていないため避けます。臨床効果としては、16週目にEASI75(eczema area and severity index[皮膚炎の重症度指標]が75%改善)を達成した割合は、ステロイド外用薬+プラセボ群では35.7%でしたが、ステロイド外用薬+本剤併用群では56.0%でした。また、32週目のEASI-75達成率は92.5%でした。16週時までのステロイド外用薬の累積使用量はステロイド外用薬+プラセボ群では193.5gでしたが、ステロイド外用薬+本剤併用群では134.9gでした。初期投与期間での主な有害事象はウィルス性上気道感染、結膜炎、頭痛などですが、アナフィラキシーなど重篤な過敏症の可能性があるので十分注意する必要があります。投与は大腿部や腹部、上腕部に行い、腹部へ投与する場合はへその周りを外し、同一箇所へ繰り返しの注射は避けます。遮光のため本剤は外箱に入れたまま、30℃を超えない場所で保存し、14日間以内に使用します。使用しなかった場合は廃棄します。本剤は、海外ではEU諸国、イギリス、カナダ、アラブ首長国連邦、アメリカ、スイスで承認を取得しており、中等度~重度のAD療薬として使用されています(2022年8月現在)。参考1)Silverberg JI. et al. Br J Dermatol. 2021;184:450-463.2)レオファーマ社内資料:アトピー性皮膚炎患者を対象とした国際共同第III相TCS併用投与試験(ECZTRA3試験)

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生後6ヵ月~4歳児に、ファイザー2価ワクチン追加接種を承認/FDA

 米国食品医薬品局(FDA)は3月15日、ファイザーの新型コロナウイルスのオミクロン株BA.4/BA.5対応2価ワクチンについて緊急使用許可(EUA)を修正し、生後6ヵ月~4歳の小児において、同社の1価ワクチンの3回接種(初回シリーズ)が完了してから少なくとも2ヵ月後に、2価ワクチンによるブースター接種1回を行うことができることを発表した。 2022年12月に、生後6ヵ月~4歳の小児は、1価ワクチンの初回シリーズの2回目までを接種した者に対して、3回目に2価ワクチンを接種することが承認されていた。今回の生後6ヵ月~4歳への2価ワクチンブースター接種の承認では、上記の3回目に2価ワクチンを接種した小児は対象外となり、初回シリーズをすべて1価ワクチンで3回接種した者のみが対象となる。 FDAは、生後6ヵ月~4歳の小児に対する臨床試験で、ファイザーの1価ワクチンを3回接種し、同社の2価ワクチンのブースター接種を1回受けた60例の免疫応答データを評価した。2価ワクチンのブースター接種から1ヵ月後、被験者はSARS-CoV-2起源株とオミクロン株BA.4/BA.5の両方に対して免疫応答を示した。 安全性のデータは、55歳以上への2価ワクチンのブースター接種、生後6ヵ月以上への初回シリーズ接種、5歳以上への1価ワクチンのブースター接種を評価した臨床試験、1価および2価ワクチンの市販後の安全性データに基づいている。加えて、6ヵ月以上に対して、以下の2つの臨床試験が行われた。 1つの試験では、1価ワクチンを3回接種し、2価ワクチンのブースター接種を1回受けた生後6~23ヵ月の被験者24例において、主な副反応として、イライラ感、眠気、注射部位の発赤、痛みおよび腫脹、食欲低下、疲労感、発熱が報告された。5~11歳の113例の被験者では、主な副反応として、疲労、頭痛、筋肉痛、関節痛、悪寒、発熱、嘔吐、下痢、注射部位の痛み、腫脹、発赤、注射部位と同じ腕のリンパ節の腫脹などが報告された。 もう1つの試験では、1価ワクチンを2回、1価ワクチンのブースター接種を1回、2価ワクチンのブースター接種を1回受けた12歳以上の316例において、主な副反応は5~11歳の被験者で報告されたものと同じであった。

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第151回 マスク脱着による世論分断を防ぐため、知っておきたい人間の特性

政府の方針で3月13日から新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)対策を念頭に置いたマスクの着用は、原則個人の判断が基本となった。この日以降、街中を歩く際はマスク着用の動向を自分なりに眺めているが、確かに着用していない人は若干増えたようだ。もっともパッと見は着用していなくとも、手にマスクをぶら下げているなど様子見のような雰囲気がうかがえることも多い。私個人はというと、信号待ちで人が密集するなどの状況以外、屋外では原則マスクを外し、屋内ではマスクを着用するという元々の方針をほとんど変えていない。が、厳密に言うとむしろ屋外でマスクをするシーンが増えた。というのも、スギ花粉の飛散量が例年よりもかなり多いと言われる今シーズン、どうやら初めて本格的な花粉症を発症したようなのだ。日中、屋外にいる時間が短い場合はほとんど問題ないのだが、ノーマスクのままで数時間経つと、突如くしゃみが止まらなくなる。先日はたぶん人生で初のくしゃみ27連発を経験し(いちいち数えているのもどうかと思われるかもしれないが)、慌ててマスクを着用。それで症状が治まったため、さすがに花粉症なんだろうと思っている。そんなこんなで花粉症対策のマスクのありがたみを実感するとともに、このシーズンが終われば、マスクを外す人はそれなりに増えてくるのだろうと予測している。もっとも私個人は今のところ前述の着用原則を当面変えるつもりはない。新型コロナウイルスがいなくなったわけでもなく、重症化リスクを有する人にとっては相変わらずインフルエンザよりは明らかに恐ろしい感染症であるため、3月13日を「マスク外し記念日」と認識するのは時期尚早と考えるからである。私が屋内外とも全面的にマスクを外すようになるのは、たぶん有効性・抗体価持続期間が現在よりも大幅に改善した新型コロナワクチンが登場した時だろう。さてそんな中、この件に関して厚生労働省が開設した特設ページを見て、モヤモヤした気分になってしまった。書いている内容に間違いはないし、良い意味でお役所らしい「簡にして要」の原則は貫かれている。しかし、良くも悪くも真面目過ぎる。このページを作成した人たちは、おそらく読む人は冒頭から最後まできちっと目を通してくれるはず、あるいは目を通して欲しいと思ったのだろう。だが、メディアという世界に四半世紀以上も身を置いている自分は、多くの場合、そうした期待や願望は幻想に過ぎないという現実を嫌と言うほど経験している。具体例を挙げるならば、記事の見出しだけを見て、すべてをわかった気になっているSNS投稿などがそれだ。では、このページのどこが気になるのか? まず、原則個人の判断ではあるが、“医療機関や高齢者施設、混雑した公共交通機関では従来通りマスク着用が推奨される”というのが訴えたいメッセージのはずである。伝える側の本音として、個人の判断と今後も推奨が続くシーンという情報に本来ならば主従関係などないはずである。ところが、このページの見せ方は完全に主従関係となっている。まず冒頭のやや小さい字のお知らせは「これまで屋外では、マスク着用は原則不要、屋内では原則着用としていましたが令和5年3月13日以降、マスクの着用は、個人の主体的な選択を尊重し、個人の判断が基本となりました。本人の意思に反してマスクの着脱を強いることがないよう、ご配慮をお願いします」とあり、「個人の…基本」にアンダーラインが引いてある。また、後段の図示では「個人の主体的な選択を尊重し、個人の判断が基本となります。感染拡大防止対策として、マスクの着用が効果的である場面などについては、マスクの着用を推奨します」とあり、前文のみがやや大きい赤字フォントで目立つようにしてあり、後半はやや小さい黒字フォントで目立ちにくい。最初に目に入ったものに強く印象付けられるのが人の特性であり、この見せ方では「個人の判断」が及ばない今後も推奨されるシーンが霞んでしまう。「特設ページには前述の着用の推奨が継続するシーンについては大きなイラスト付きで示されているじゃないか」と声を大にしたくなる人もいるかもしれないが、実際こうした部分は良くて流し見、最悪、目すら向けられないことも結構あるのだ。たとえば、単語カードを使って英単語の意味を覚えようとする時、往々にして最初に覚えるのは1枚目のカードだ。1つの単語で複数の意味がある場合も、最初に覚えるのは一番目に表示される意味であることが多い。こうした現象は日常的に少なくないはずだ。ではどうするかというと、こうした人の特性を逆手にとって多少長くとも冒頭から「〇〇や××、あるいは△△のような場面では今後もマスク着用が推奨されますが、それ以外については個人の判断が基本になります」と記載するほうがベターである。また、この「最初に目にしたもの」の原則から気になった点がもう1つある。「本人の意思に反してマスクの着脱を強いることがないよう、ご配慮をお願いします」の「着脱」である。「着脱」は「着けること」と「外すこと」の両方を意味しているし、この使い方そのものは間違いではない。しかし、人は最初の「着」のほうに目が行きがちである。注意深く読まない人やマスクに否定的な人は「着脱」をシンプルに「着けること」のみに解釈しがちである。その結果起こると予想されることが、医療機関などに対して「なんでおたくはマスクを強要するのか」というお門違いのクレームである。その意味ではここでも回りくどくとも、「着けることや外すことを強いることがないよう」と表現するほうがベター。今回の私の指摘を非常に細かい「重箱の隅をつつく」ことと思われる方もいるかもしれない。しかし、少なからぬ国民が3年間のコロナ禍疲れを感じているはずで、原因の1つには、この間に推奨されてきたマスク着用も入っていると考えても差し支えないだろう。その中で今回のマスクに対する推奨の変更は1つの大きな転換点であることは間違いない。とはいえ、新型コロナウイルスがいなくなったわけでもなく、少なくとも日本人の3分の1以上は該当するであろう重症化リスクを有する人たちにとっては、いまだに油断ならない感染症である。だからこそこの局面で理性・論理性に欠くノイジー・マイノリティーのマスク否定派、あるいはそこに影響を受けかねない人たちに都合良く解釈されるかもしれない訴え方は、社会分断への「蟻の一穴」になりかねないものだと危惧している。

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新型コロナワクチン、米国政府の投資額はいくら?/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のmRNAワクチンの開発、製造、購入に関連した米国政府の投資額を調べた結果、少なくとも319億ドルに上ることを、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のHussain S. Lalani氏らが明らかにした。このうち、COVID-19パンデミック前の30年間(1985~2019年)にわたり基礎的研究に投じmRNAワクチンの重要な開発に直接寄与した投資額は、3億3,700万ドルだったという。また、2022年3月までのパンデミック中に投じた金額は少なくとも316億ドルで、臨床試験(6%)、ワクチン開発(2%)、ワクチン購入(92%)に充てられていた。著者は「これらの公的投資は何百万人もの命を救うことにつながり、また将来のパンデミックへの備えとCOVID-19をしのぐ疾患を治療する可能性ももたらし、mRNAワクチン技術の開発に見合ったものであった」と述べ、「社会全体の健康を最大化するために、政策立案者は、公的資金による医療技術への公平かつグローバルなアクセスを確保しなければならない」とまとめている。BMJ誌2023年3月1日号掲載の報告。NIHデータやRePORTERなどでワクチン開発への研究助成金などを算出 研究グループは1985年1月~2022年3月にかけて、米国国立衛生研究所(NIH)の資金提供に関するデータや研究成果を収載したReport Portfolio Online Reporting Tool Expenditures and Results(RePORTER)などを基に、米国政府がmRNA COVID-19ワクチンの開発に投じた公的資金を算出した。 政府の助成金を、mRNA COVID-19ワクチン開発の4つの重要なイノベーション(脂質ナノ粒子、mRNA合成または改良、融合前スパイクタンパク質構造、mRNAワクチンバイオテクノロジー)への主任研究者、プロジェクトのタイトルおよびアブストラクトをベースとした直接的または間接的な関与、あるいは関与が認められないもので評価した。 同ワクチン開発研究に対する直接的な公的投資額について、パンデミック前の1985~2019年と、パンデミック後の2020年1月~2022年3月で分類し評価した。COVID-19パンデミック後、ワクチン購入に292億ドル投資 NIHによるmRNA COVID-19ワクチンの開発に直接関連した研究助成金は、34件だった。これらの助成金と、その他の米国政府助成金・契約金の合計は、319億ドルだった。そのうち、COVID-19パンデミック前の投資額は3億3,700万ドルだった。 パンデミック前、NIHはmRNAワクチン技術の基礎的研究や橋渡し(translational)科学研究に対し1億1,600万ドル(35%)を投資。米国生物医学先端研究開発局(Biomedical Advanced Research and Development Authority:BARDA)は1億4,800万ドル(44%)、米国国防総省は7,200万ドル(21%)を、それぞれワクチン開発に投資した。 パンデミック後には、米国公的資金はワクチン購入に292億ドル(92%)を、臨床試験支援に22億ドル(7%)を、製造に加え基礎的研究および橋渡し科学研究に1億800万ドル(1%未満)を費やしていた。

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9価HPVワクチン「シルガード9」、9歳以上15歳未満の女性への2回接種の追加承認取得/MSD

 MSDは2023年3月8日のプレスリリースで、同日、ヒトパピローマウイルス(HPV)の9つの型に対応した「シルガード9水性懸濁筋注シリンジ(組換え沈降9価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン[酵母由来])」について、9歳以上15歳未満の女性に対する2回接種の用法および用量を追加する製造販売承認事項一部変更承認を取得したと発表した。今回の承認により、対象年齢の女性の来院および接種回数を1回減らすことができ、ワクチン接種者や医療関係者をはじめとする接種に関わる人々の負担軽減にもつながることが期待される。 日本では、毎年約1万例の女性が新たに子宮頸がんと診断され、年間約約2,900例が亡くなっている1)。また、子宮頸がんは20代、30代の若い女性でも罹るがんで、発症年齢が出産や働き盛りの年齢と重なることもあり、治療によって命を取りとめても女性の人生に大きな影響を及ぼすことが多い疾患である。子宮頸がんの予防方法には、10代からのワクチン接種と20歳になってからの定期的な検診がある。 「シルガード9」は、9歳以上の女性を対象に、子宮頸がんなどの予防を効能または効果として、合計3回接種する用法および用量で、2020年7月21日に製造販売承認を取得している。今回の追加承認は、国内ならびに海外第III相試験の結果に基づくもので、9歳以上15歳未満の女性における2回接種の免疫原性(抗体の産生など免疫反応を引き起こす性質)および安全性は良好であることが確認された。 9価HPVワクチンは、2014年12月に世界で初めて米国で承認されて以来、2023年2月時点で80以上の国または地域で承認されている。また、米国を含む諸外国では、定期接種としておおむね11~13歳を対象に9価HPVワクチンの2回接種が推奨されている2)。 HPVワクチンの接種環境がさらに整うことにより、日本においても子宮頸がんの予防が促進されることが期待される。1)国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録/厚生労働省人口動態統計)全国がん罹患データ(2019年)/全国がん死亡データ(2021年)2)第19回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会2022(ワクチン評価に関する小委員会 資料1-1)

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第138回 新型コロナ5類移行後、医療費は原則自己負担/政府

<先週の動き>1.新型コロナ5類移行後、医療費は原則自己負担/政府2.新型コロナ病床確保の補助金半減、9月末まで継続/厚労省3.コロナワクチン接種後死亡症例、「因果関係は否定できない」と認定/厚労省4.第8次医療計画へ新興感染症対策を追加、大筋で合意/厚労省5.アレルギー情報、薬剤禁忌などカルテ情報の共有へ/厚労省6.介護保険料の負担金額、4月以降 過去最高に/厚労省1.新型コロナ5類移行後、医療費は原則自己負担/政府政府は3月10日に新型コロナウイルス感染症対策本部を持ち回りで開催し、5月8日新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けを5類に変更するのに合わせ、医療提供体制および公費支援の見直しを行うと発表した。従来行ってきた行政による入院措置や限られた医療機関による特別な対応から、幅広い医療機関による通常の対応に移行するのに合わせ、医療費については原則自己負担を求め、高額な医薬品代は公費支援を9月末まで継続する。外来診療については、新型コロナ罹患や疑いのみを理由とする診療拒否は「正当な事由」に該当しないとし、現在、新型コロナ患者を診療している約4.2万の医療機関を、季節性インフルエンザを対応している最大6.4万の医療機関まで拡充するとした。(参考)新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけの変更に伴う医療提供体制及び公費支援の見直し等について(厚労省)加藤大臣会見概要[新型コロナウイルス感染症対策本部後](同)コロナ5類移行後、原則自己負担 病院名公表は継続、政府決定(共同通信)政府 コロナ5類移行後 最大6万4000の医療機関で受け入れ目指す(NHK)コロナ5類移行 医療費負担が増える? 受診できる医療機関はQ&A(同)2.新型コロナ病床確保の補助金半減、9月末まで継続/厚労省厚生労働省は、新型コロナウイルスの感染症法上の分類引き下げに伴い、医療提供体制を正常化するため、コロナ患者の受け入れ医療機関に対して払ってきた「病床確保料」を半減させる方針を、3月10日に加藤厚生労働大臣の記者会見で明らかにした。また、受け入れ病院はこれまで約3,000の医療機関だったが、5月以降は約8,200の全病院での対応を目指す。このため急性期病棟以外での要介護者の受入れを評価するなど受入れを推進する。(参考)コロナ病床確保料半減へ 5類移行で厚労省、9月末まで(日経新聞)コロナ病床の補助金半減 通常医療と両立目指す(東京新聞)診療報酬のコロナ特例、5月8日に見直し 24年度からウィズコロナの報酬体系へ(CB news)3.コロナワクチン接種後死亡症例、「因果関係は否定できない」と認定/厚労省厚生労働省は、3月10日に厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会と、薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会を開催した。この中で、昨年11月初旬に、ファイザー社のオミクロン株対応ワクチンの接種を受け、同日中に死亡した症例についても検討が行われた。症例は接種5分後に体調悪化を発言し、15分後に呼吸停止、心肺蘇生を行ったが、アドレナリン注射は静脈ルートからの注射を指示されるも静脈ルートがなく、医療機関へ搬送したが、接種開始後1時間40分余りで死亡した。委員会は発生した患者とワクチンの因果関係については「ワクチン接種と死亡との直接的因果関係は否定できない」とした。(参考)第92回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和4年度第27回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会資料(厚労省)コロナワクチン接種後42歳女性死亡「因果関係否定できない」 初認定(産経新聞)コロナワクチン接種後の死亡で初の認定「因果関係否定できず」(NHK)コロナワクチン接種後に死亡、因果関係「否定できず」 初めて評価(朝日新聞)42歳女性の接種後死亡「因果関係否定できず」…コロナワクチンで初の判定(読売新聞)4.第8次医療計画へ新興感染症対策を追加、大筋で合意/厚労省厚生労働省は、3月9日に「第23回第8次医療計画に関する検討会」を開催し、2024年度から始まる第8次医療計画に新たに「新興感染症発生・まん延時の医療」について盛り込む方向性を大筋で合意した。これまで医療計画には、5疾病(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病、精神疾患)、5事業(救急医療、災害医療、へき地医療、周産期医療、小児医療)」を二次医療圏ごとに定めてきたが、次なる新興感染症の発生・蔓延に備えて、医療計画の中に「新興感染症対策」を位置付けて整備を進める。この中で、新興感染症の発生時には、まず特定感染症指定医療機関・第1種感染症指定医療機関・第2種感染症指定医療機関(345病院)が中心となって対応し、流行の場合は特別協定を締結した医療機関が対応する。さらにその後、公立・公的病院や地域医療支援病院、特定機能病院に対応を拡大し、最終的には「入院医療を担当する」などの協定を結んだ医療機関など全体で対応することとし、平時から医療機関と自治体で締結することを求めた。厚生労働省は、今年5月には指針・関連通知を示したいとしている。(参考)第23回第8次医療計画等に関する検討会(厚労省)意見のとりまとめ(新興感染症発生・まん延時における医療)(同)医療計画での新興感染症対策、取りまとめ大筋了承 厚労省検討会、5月ごろに計画作成指針(CB news)新興感染症への医療計画での対応方針固まる!感染症の流行度合に応じ「段階的」な対応体制を平時から固めておく!?第8次医療計画検討会(Gem Med)5.アレルギー情報、薬剤禁忌などカルテ情報の共有へ/厚労省厚生労働省は、3月9日「第7回 健康・医療・介護情報利活用検討会医療情報ネットワークの基盤に関するワーキンググループ」を開催し、新たに立ち上げる電子カルテ情報交換サービス(仮称)において、診療情報提供書や退院時サマリーを電子的に紹介先病院と共有・送付する仕組みや、患者のアレルギー情報、薬剤禁忌、検査値などの電子カルテ情報を患者自身や全国の医療機関で確認できる仕組みを可能とする方向性について討議し、大枠で合意した。ただ、電子カルテはベンダーごとに規格が異なり、早期に体制を整えるために、国が標準規格を策定する必要があるなどさらに検討が必要だが、厚生労働省は2023年度から社会保険診療報酬支払基金でシステム構築を進めたいとしている。(参考)第7回健康・医療・介護情報利活用検討会 医療情報ネットワークの基盤に関するワーキンググループ資料(厚労省)医療のデジタル化、現状は? マイナ保険証の活用が鍵(日経新聞)医療機関・患者自身で「電子カルテ情報」を共有する仕組みの大枠決定、2023年度からシステム構築開始-医療情報ネットワーク基盤WG(1)(Gem Med)6.介護保険料の負担金額、4月以降 過去最高に/厚労省厚生労働省は、現役世代が支払う介護保険料(第2号保険料)が今年の4月以降で、現在より100円余り増加し、平均6,200円余りと過去最高となると推計を発表した。介護保険制度は2000年に発足し、40歳以上で介護認定を受けた被保険者の介護サービス利用の場合、9割まで給付する内容となっている。令和4年度の介護給付費は予算ベースで12.3兆円となっており、財源の半分は加入者からの保険料が50%、残りは公費(国25%、都道府県12.5%、市町村12.5%)からとなっている。発足当初、第2号保険料は2,075円だったが、今回の厚生労働省の推計によれば、平均で1月あたり6,216円と発足時の3倍となり現役世代の負担が増加している。同省では、団塊の世代が後期高齢者になるのを前に、高齢者の負担能力に応じた負担の見直しや、高齢者が支払う介護保険料の見直しを検討し、今年の夏までに結論を出すことにしている。(参考)令和5年度 介護納付金の算定について(厚労省)現役世代が支払う介護保険料 4月以降 過去最高に 厚労省推計(NHK)2023年4月から「介護保険料」改定で6,216円に。40歳~65歳未満「現役世代」の負担は重く(LIMO)

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2022年11月以降の中国・北京における新型コロナウイルス流行株の特徴(解説:寺田教彦氏)

 本研究は2022年1月から12月までに収集された新型コロナウイルスサンプルについて、次世代シーケンサーを用いた遺伝子解析結果を報告している。本研究結果からは、2022年11月14日以降の中国・北京における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行時の主流はBA.5.2とBF.7で、新規亜種は検出されなかったことが報告された(「北京では22年11月以降、新たな変異株は認められず/Lancet」、原著論文Pan Y, et al. Lancet. 2023;401:664-672.)。 本研究の研究期間である2022年11月以降に中国では新型コロナウイルス感染者が増加していたが、同年12月7日以降のゼロコロナ政策終了により拍車がかかり、新型コロナウイルス感染者は急増していたと考えられている。そのため、感染者が激増した中国から「懸念される変異株」が出現し、各国へ流入する恐れがあり、日本や欧米では中国からの渡航者に対し水際対策を強化していた。 本研究の結果のとおり、2022年12月における中国・北京でのCOVID-19流行では新規の変異株出現はなかったと考えられ、現在は各国の水際対策は緩和されている。これは本研究のような中国からの報告に加えて、中国から各国への渡航者で検出された新型コロナウイルスの株の解析からも矛盾がないことが確認されていることがあるだろう。たとえば、2022年12月後期の本邦への渡航者検疫で確認されたCOVID-19患者のうち、中国からの渡航者で検出された株もBF.7やBA.5.2がほとんどであった(厚生労働省.「新型コロナウイルス感染症(変異株)の患者等の発生について(検疫)」2023年(令和5年)1月5日.https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_30137.html, (参照2023-03-03).)。 今回検出されたBA.5.2系統とBF.7系統はともに、BA.5系統を起源としており、BA.5系統は2022年2月に南アフリカ共和国で検出されて以降、世界的に検出数が増加し、本邦でも同年6月以降はBA.2系統からBA.5系統への置き換わりが進んでいた。7月以降の第7波はBA.5系統のBA.5.2が流行の主体となっており、第8波も初期の流行の主体はBA.5系統だったが10月以降はBQ.1系統やBA.2.75系統の占める割合が上昇傾向となっていた(国立感染症研究所「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株について(第25報)」. https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/11794-sars-cov-2-25.html, (参照2023-02-27).)。 同時期の世界に目を向けると、BA.2系統やBA.5系統を起源とする亜系統も検出されていたが、BQ.1系統、XBB系統など特徴的なスパイクタンパク質の変異が起こり、ワクチン接種や感染免疫による中和抗体から逃避しやすくなる亜系統、感染力がさらに高まったと予測される亜系統も報告されるようになり、とくに北米ではXBB.1.5系統のように既存の流行株に比して感染者数増加の優位性がみられる亜系統が報告されていた(Uriu K, et al. Lancet Infect Dis. 2023;23:280-281.)。 ところで、2022年12月ごろ、特定の流行株が世界的に優勢とはなっていなかったとはいえ、感染者が増加していた株はBQ.1系統やBA.2.75系統などが考えられ、同時期にBF.7系統やBA.5.2系統が流行していた国は多くはなさそうである(World Health Organization. “Weekly epidemiological update on COVID-19 - 15 February 2023”. https://www.who.int/publications/m/item/weekly-epidemiological-update-on-covid-19---15-february-2023, (参照2023-02-27).)中国において、これらの株が流行した理由について考えると、1つは、中国のゼロコロナ政策により、中国国外で流行していたBQ.1系統などの株が国内へ流入することを防いでいたことがあるだろう。本文中でも、中国国内感染と海外からの輸入株に違いがあることは指摘されており、輸入株ではBQ.1系統、BA.5.2系統そしてXBB.1系統の順番で検出されたことを報告している。中国のゼロコロナ政策により、他国からより感染力の高いBQ.1系統やXBB.1系統が流入していなかったことが、BF.7系統やBA.5.2系統が主流株になった一因ではないだろうか。 もうひとつは、各国で接種したワクチンの差異もあるかもしれない。本邦や欧米ではmRNAワクチンの接種が行われたが、これらのワクチンは、1価、2価にかかわらずBA5.2系統やBF.7系統に対しては中和抗体が増加することが知られており、XBB.1.系統などよりもBA.5.2系統やBF.7系統では感染予防効果や重症化予防効果が期待できると考えられる(Miller J, et al. N Engl J Med. 2023;388:662-664.)。中国で接種されたワクチンのBA.5.2系統やBF.7系統に対する効果が公表されている資料からは調査できなかったが、場合によっては接種したワクチンの差異が流行株の選択の一因になったのかもしれない。 さて、2022年12月までの中国の新型コロナウイルス流行においては、新規の流行株の出現はなかったと考えられるが、中国は多数の人口を抱えている国家である。本研究では、2022年12月のCOVID-19流行時にBQ.1系統やXBB系統などの感染免疫による中和抗体からの逃避や感染者数増加の優位性が示唆された亜系統の検出が乏しいことを考えると、これらの株の流入によっては、COVID-19の流行を再度起こす可能性が懸念される。 翻って本邦の流行を考えると、2023年3月時点では第8波が落ち着きつつあるが、本邦でもXBB.1.5株などの流行がなかった。今後は、これらの株が第9波を引き起こす懸念があり、引き続き、COVID-19に対する持続可能な感染対策を模索する必要があるだろう。

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