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インフルワクチン、小児の救急外来・入院を50%減少/CDC

 今シーズンはインフルエンザが猛威を振るっている。厚生労働省の1月9日の発表によると、インフルエンザの定点当たりの報告数は全国平均で1施設当たり64.39例(2024年第52週時点)で、同時期の報告数として過去10年で最多となった。 インフルエンザは小児に重篤な疾患を引き起こす可能性があり、とくに5歳未満の小児ではリスクが高い。米国疾病予防管理センター(CDC)のKelsey M. Sumner氏らは、2015~20年の5年間にわたり、急性呼吸器疾患(acute respiratory illness:ARI)で救急外来受診や入院治療を受けた生後6ヵ月~17歳を対象にインフルエンザワクチンの有効性を検証した。その結果、ワクチンはすべての重症度において一貫して、50%以上の有効性を示すことが明らかとなった。JAMA Network Open誌2024年12月27日号に掲載。 本研究は、検査陰性デザイン(test-negative design)の症例対照研究で、2015年11月6日~2020年4月8日に、New Vaccine Surveillance Networkに参加している米国8州の医療機関8施設のデータを使用し、急性呼吸器疾患(ARI)で入院や救急外来受診した生後6ヵ月~17歳を対象に実施された。対象者は、インフルエンザ検査陽性群とインフルエンザ検査陰性の対照群に分類された。また、ワクチン接種歴に基づいて分類され、ARIの重症度を基準に登録された。重症度は救急外来受診、非重篤な入院、重篤な入院(ICU入院や死亡を含む)の3段階とした。多変量ロジスティック回帰モデルを用いてワクチン接種オッズを比較してワクチン効果を推定し、ワクチン接種の有無による重症化リスクの低減効果を評価した。 主な結果は以下のとおり。・ARIで治療を受けた小児1万5,728例(男児:55.4%、6ヵ月~8歳:1万3,450例[85.5%]、9~17歳:2,278例[14.5%])のうち、2,710例(17.2%)がインフルエンザ検査陽性(症例群)、1万3,018例(82.8%)がインフルエンザ検査陰性(対照群)であった。・インフルエンザ陽性群のうち、1,676例(61.8%)が救急外来を受診し、896例(33.1%)が非重篤な入院、138例(5.1%)が重篤な入院であった。・全体の約半数(7,779例[49.5%])がワクチン接種を受けていた。症例群の接種率は32.6%、対照群の接種率は53.0%であった。・推定ワクチン効果として、インフルエンザワクチンを少なくとも1回接種すると、インフルエンザ関連の救急外来受診または入院リスクが、接種しなかった場合と比較して推定55.7%(95%信頼区間[CI]:51.6~59.6)低下した。・推定ワクチン効果は、年少児(6ヵ月~8歳:58.1%[95%CI:53.7~62.1])のほうが、年長児(9~17歳:42.6%[95%CI:29.2~53.5])よりも高かった。・重症度別のワクチン効果は、救急外来受診では52.8%(95%CI:46.6~58.3)、非重篤な入院では52.3%(95%CI:44.8~58.8)、重篤な入院では50.4%(95%CI:29.7~65.3)で、いずれの重症度でも同様だった。 インフルエンザワクチンを少なくとも1回接種すると、インフルエンザに関連する小児救急外来受診または入院が50%強減少することが判明した。著者らは本結果について、小児がインフルエンザ関連の重篤な症状を予防するために、毎年のワクチン接種が重要であることを示唆している、とまとめている。

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第244回 レプリコンワクチン懐疑派に共通することは?

2025年、本年もよろしくお願いいたします。さて年内最後の本連載でも触れたが、通称レプリコンワクチンと呼ばれるMeiji Seikaファルマの新型コロナウイルス感染症に対する次世代mRNAワクチン「コスタイベ」に関して、同社は12月25日付で、立憲民主党の衆議院議員・原口 一博氏に対して名誉棄損に基づく1,000万円の損害賠償を求める提訴に踏み切った。原口氏がX(旧Twitter)、YouTube、ニコニコ生放送、著書「プランデミック戦争 作られたパンデミック」で、コスタイベに関し事実に基づかない情報を発信・拡散していることを同社に対する名誉棄損と捉え、法的措置に踏み切ったものだ。同社はすでに2024年10月9日に原口氏に警告書を送付したものの、それに対して原口氏からは「衆院選挙後の国会で論点を明らかにしたい」という旨の回答しか得られず、その後も同様の発信を続けていることから提訴に踏み切ったとしている。今回の名誉毀損にあたる発言の類型同日開催された記者会見では、今回の提訴を担当する三浦法律事務所の弁護士・松田 誠司氏より、名誉棄損と考える発言の類型について、(1)Meiji Seikaファルマを731部隊になぞらえた発言、(2)コスタイベの審査過程を不公正とする発言、(3)コスタイベを生物兵器とする発言、(4)Meiji Seikaファルマが人体実験を行っているとの発言、の4つが挙げられた。軽く解説すると、731部隊とは旧帝国陸軍の関東軍防疫給水部の通称名であり、同部隊は生物兵器の研究開発と一部実戦使用を行い、その過程で捕虜などを利用した生体実験を行っていたことで知られる。類型(4)の人体実験とは、いわゆる臨床試験のことではなく、731部隊の生体実験のようなネガティブな意味での発言を指す。また、松田氏はMeiji Seikaファルマが被った損害は、有形損害が迷惑電話対応(損害120万円)、推定のコスタイベ利益損害(同55億6,000万円)、無形損害が原口氏のSNS上での発信による会社の名誉侵害と説明。「無形損害は1,000万円を下らない」(松田氏)とも語り、これら損害の一部として1,000万円を請求するとした。推定損害額に対して請求額がかなり低いことについて、同社代表取締役社長の小林 大吉郎氏は「今回の訴訟の目的は金銭ではない。あくまで意見・論評を超えた発言を法廷でつまびらかにして、名誉回復を図りたいというのが主な目的」と語った。さてこの会見では、小林氏よりコスタイベに懐疑的な人たちが行う抗議と称した活動の一端が明らかにされた。ワクチン懐疑派が行った具体的な抗議活動明らかにされたのは、懐疑派がX上にアップした治験施設一覧を基にしたと思われる6施設に対する嫌がらせのメール送付、電話、封書投函、Googleマップへの書き込み。そして、コスタイベの接種実施をホームページ(HP)上で明らかにした3医療機関に対する嫌がらせや誹謗中傷の電話殺到、SNSでの誹謗中傷の拡散、Googleマップへの低評価入力による診療への悪影響やHP閉鎖など。また、同社の本社前では頻繁に抗議活動が行われているが、同社の看板に「明治セイカファルマ、死ね バーカ!!」「殺人ワクチン ふざけるな」(原文ママ)などの付箋が張られた写真も示された。なお、原口氏はコスタイベの治験について具体的に「殺人に近い行為」とまで表現している。今回、提訴に至った経緯について小林氏が次のように説明した。長くなるが全文掲載する。なお、発言内の( )は私個人による補足である。「コロナワクチン開発に関わった医学専門家・研究者、接種に当たる多くの善意の医師、真摯に業務に取り組む社員、これはもう一般市民なんですよ、国民なんですよ。原口氏は相当な影響力があって、何十万人という(SNS)フォロワーがいる中で、こういったことを繰り返し拡散しているんですね。ワクチン反対派の活動のリーダー役となっているわけですけれども、そういったことによって実際こういった人たちは業務を妨げられ、精神的に大きな打撃を受けている。百歩譲って何か不正があったとか、データに瑕疵があったとかならば、何か言われるのは理解できますが、まったく瑕疵のない開発行為について、こういったことが繰り返される。実は承認を取ったときに若い研究者、開発者が本当に喜んだんですよ。情熱をもってやった行為ですから。ところが、殺人行為だとか原爆だと言われて、その人たちにも家族がいるわけですね。そういうことも考えますと、このまま放置できないというところまで来てしまったと。提訴をすることについては、極めて消極的だったんです。当初は。」個人的な印象を率直に言うと、SNS上でコスタイベに懐疑的な発信をする人の中には、その情報の審議は別にして強い信念に基づくと見受けられる人もいる反面、野次馬感覚でこのムーブメントに乗っかっていると思われる人も見受けられる。そうした“野次馬”は10年後には、コスタイベのことなど忘れて、ほかのことにかまけて、自分たちの行動によって傷付けられた人たちのことなぞ、おそらく忘れているだろう。私がそう思うのは実体験があるからだ。ワクチン懐疑派の一部は「何かを批判していたい」だけかつて「放射能瓦礫」なる言葉が流布されたことを覚えている人はいるだろうか?東日本大震災の時、主要な被災地域である岩手県、宮城県、福島県では津波被害などに伴い膨大な瓦礫が発生した。そしてご存じのように同震災では、東京電力・福島第一原発事故が起こり、同原発から漏れ出た放射性物質が風によって広範な地域に降り落ちた。こうした放射性物質の量は、地域によって濃淡があり、岩手県や宮城県の大部分の自治体では大きな問題になるほどではなかった。しかし、一部の人達は被災地で発生した瓦礫の多くもこうした放射性物質で濃厚に汚染されたと主張し、一部の人が「放射能瓦礫」と呼んだのである。この件は被災により廃棄物処理能力が大きく低下した被災自治体の支援策として、他の地域でその一部を焼却処分する広域瓦礫処理策が浮上すると、問題として顕在化した。東京都をはじめ実際に瓦礫処理を受け入れた自治体もあったが、一部では反対派が瓦礫を運搬する車両の通行をブロックするなどの妨害行為も発生した。被災自治体出身者の私はこの件に怒りと悔しさを覚え、当時一部の反対派とXでやり合ったことがある。あれから10年以上が過ぎたが、この間、瓦礫処理を請け負った被災地外の自治体で何か問題が起きたであろうか? 答えは否だ。最近、当時やり合った複数のXアカウントを覗いてみたが、あの時のことなぞどこ吹く風である。しかも、その一部は今コスタイベ批判を行っている。率直に言って、呆れるほかない。彼らはあの当時、私が感じた怒りと悔しさ、そして今回の小林氏が訴えた精神的打撃を受けた関係者のことを何と思っているのだろう?そして野次馬感覚とまでは言えないものの、コスタイベについてシェディングなる現象を訴え、それを証明するデータがないと主張する医師の一部では、自院のHPでほかのワクチン接種は行っていることがわかるケースもある。既存のワクチンでは承認に際し、彼らが主張するようなシェディングが起きないことを証明するデータ提出を製薬企業は行っていないし、規制当局もそのようなデータは求めていない。にもかかわらず、コスタイベのみにそれを証明せよなどと言うのは、もはや“信念”ではなく狂気である。言葉は悪いのを承知で言うならば、今回の件でコスタイベの危険性を声高に主張する面々は、私には“知ったかぶりの自己顕示”にしか映らないのである。

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診療科別2024年下半期注目論文5選(呼吸器内科編)

Respiratory syncytial virus (RSV) vaccine effectiveness against RSV-associated hospitalisations and emergency department encounters among adults aged 60 years and older in the USA, October, 2023, to March, 2024: a test-negative design analysisPayne AB, et al. Lancet. 2024;404:1547-1559.<リアルワールドにおけるRSウイルスワクチンの有効性>:RSウイルスワクチンはRSウイルス関連の入院および救急外来受診を予防Test Negativeデザインにより、RSウイルスワクチンの60歳以上の成人におけるリアルワールドでの有効性を評価した初めての研究です。本研究により、リアルワールドにおいても、RSウイルス関連の入院や救急外来受診に対するワクチン予防効果が示されました。Cathepsin C (dipeptidyl peptidase 1) inhibition in adults with bronchiectasis: AIRLEAF®, a Phase II randomised, double-blind, placebo-controlled, dose-finding studyChalmers JD, et al. Eur Respir J. 2024:2401551.<AIRLEAF®試験>:気管支拡張症に対するカテプシンC阻害薬投与は最初の増悪までの時間を減少気管支拡張症の成人を対象に、カテプシンC阻害薬BI 1291583の有効性、安全性、および最適用量を評価した第II相無作為化比較試験です。BI 1291583は、最初の増悪までの時間に基づいて用量依存的にプラセボよりも有意な効果を示しました。今後、この薬剤の第III相試験(AIRTIVITY®)も予定されています。Neoadjuvant pembrolizumab plus chemotherapy followed by adjuvant pembrolizumab compared with neoadjuvant chemotherapy alone in patients with early-stage non-small-cell lung cancer (KEYNOTE-671): a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trialSpicer JD, et al. Lancet. 2024;404:1240-1252.<KEYNOTE-671試験>:NSCLCへの周術期ペムブロリズマブ上乗せでOS改善:KN-671長期成績切除可能な早期非小細胞肺がん患者において、周術期のペムブロリズマブ+化学療法は、プラセボ+化学療法と比較して36ヵ月全生存率(71% vs.64%)および無イベント生存期間中央値(47.2ヵ月 vs.18.3ヵ月)を有意に改善しました。Durvalumab after Chemoradiotherapy in Limited-Stage Small-Cell Lung CancerCheng Y, et al. N Engl J Med. 2024;391:1313-1327.<ADRIATIC試験>:限局型小細胞肺がん、デュルバルマブ地固め療法でOS・PFS改善Efficacy and safety of tezepelumab versus placebo in adults with moderate to very severe chronic obstructive pulmonary disease (COURSE): a randomised, placebo-controlled, phase 2a trialSingh D, et al. Lancet Respir Med. 2024 Dec 6. [Epub ahead of print]<COURSE試験>:トリプル吸入療法使用中のCOPD患者を対象としたtezepelumab投与は増悪を改善せずトリプル吸入療法使用中の中等症から最重症COPD患者を対象としたtezepelumabの第IIa相試験の結果が報告されました。主要評価項目である年間中等度/重度増悪率において、プラセボ群との有意差は認められませんでしたが、好酸球数150cells/μL以上のサブグループでは増悪抑制効果がある可能性が示唆されました。

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難治性進行膀胱がん、新たな治療法に期待

 第一選択療法が奏効しない難治性の進行膀胱がん患者に希望をもたらす、新たな治療法に関する研究結果が報告された。Cretostimogene grenadenorepvec(以下、cretostimogene)と呼ばれる新薬による治療で、標準治療のBCG療法に反応を示さなかった筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)患者の4分の3が完全寛解を達成したことが確認された。米メイヨー・クリニック総合がんセンターのMark Tyson氏らによるこの研究結果は、泌尿器腫瘍学会年次総会(SUO 2024、12月4〜6日、米ダラス)で発表された。Tyson氏は、「これらの研究結果は、膀胱がん患者の大きなアンメットニーズに応えるものであり、患者の生活の質(QOL)を向上させる可能性がある」と話している。 米国がん協会(ACS)によると、米国では毎年8万3,000人以上が新たに膀胱がんと診断され、このがんに関連して1万7,000人近くが死亡している。膀胱がんは高齢者に多く、女性よりも男性の方がリスクが高い。 膀胱がんでは、BCGワクチンを膀胱内に注入する治療法(膀胱内BCG注入療法)が標準治療とされている。BCGワクチンは、1921年に結核予防を目的に開発されたが、膀胱に注入することで免疫反応を引き起こし、がん細胞を攻撃してその増殖や再発を抑制する効果を期待できることから、膀胱がんの治療にも用いられている。しかし、全ての患者がBCG療法に反応するわけではないと研究グループは説明する。 今回の研究でTyson氏らは、BCG療法が奏効しなかった110人のNMIBC患者を対象に、cretostimogeneによる治療の安全性と有効性を検討した。Cretostimogeneは、腫瘍溶解性ウイルス療法の一種で、がん細胞に感染させたウイルスの力でがん細胞を攻撃させ、同時に免疫システムを活性化させることでがんの治癒を目指す。対象患者には、3年間にわたり膀胱内にcretostimogeneを断続的に投与する治療が行われた。 その結果、対象者の75%近くががんの完全寛解に至り、その多くが2年以上がんのない状態で生存していることが確認されたことを、Tyson氏らはメイヨー・クリニックのニュースリリースで報告している。また、驚くべきことに、ほとんどの対象者は膀胱摘出術を必要としなかった。さらに、cretostimogeneによる治療の忍容性は高く、重篤な副作用は最小限であったという。 Tyson氏は、「本研究により、cretostimogeneによる治療は効果的で安全性も高いことが判明した。膀胱摘出術の必要性を減らすこの治療法は、治療選択肢が限られている患者にとって待望の代替手段となる可能性がある」と述べている。研究グループは、今後の調査で長期的な有効性や、この治療法を他の治療法と組み合わせることでその有効性が高まるかどうかを調べる予定であるとしている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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高齢者への2価RSVワクチン、入院/救急外来受診リスクを低減

 呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染症に対する2価融合前F蛋白ベース(RSVpreF)ワクチンは、60歳以上の高齢者においてRSV関連下気道疾患による入院および救急外来の受診リスクを低減させたことを、米国・カイザーパーマネンテ南カリフォルニア病院のSara Y. Tartof氏らが明らかにした。JAMA Network Open誌2024年12月13日号掲載の報告。 RSV感染症は主に幼児・小児の感染症とされているが、高齢者が感染すると重大な転機に至ることがある。しかし、臨床試験では75歳以上の高齢者や併存疾患を有する患者に対する有効性、さらにRSV関連下気道疾患による入院や救急外来受診の予防効果は十分に明らかになっていない。そこで研究グループは、高齢者におけるRSVpreFワクチンの有効性を評価するために後ろ向き症例対照研究を行った。対象は、2023年11月24日~2024年4月9日にカイザーパーマネンテ南カリフォルニア病院に下気道疾患で入院または救急外来を受診してRSV検査を受けた60歳以上の患者であった。 下気道疾患に罹患する21日以上前にRSVpreFワクチンを接種した患者はワクチン接種済みとみなし、RSVpreFワクチンではないRSVワクチンの接種者は除外された。対照は、2つの定義が事前に規定された。(1)厳密な対照群:RSV陰性、ヒトメタニューモウイルス陰性、SARS-CoV-2陰性、インフルエンザ陰性で、ワクチンで予防できない原因による下気道疾患(2)広範な対照群:RSV陰性のすべての下気道疾患 主な結果は以下のとおり。・解析には、RSV検査結果のある7,047例の入院または救急外来受診患者が含まれた。平均年齢は76.8(SD 9.6)歳、女性は3,819例(54.2%)、免疫不全は998例(14.2%)、併存疾患を1つ以上有していたのは6,573例(93.3%)であった。最も多い診断は肺炎であった。・RSV陽性は623例(8.8%)であった。RSV陰性(=広範な対照群)は6,424例(91.2%)で、そのうち厳密な対照群に該当するのは804例であった。・RSVpreFワクチンを接種していたのは、全体では3.2%で、RSV陽性群は0.3%(2例)、厳密な対照群は3.6%(29例)、広範な対照群は3.4%(221例)であった。・RSV陽性群と厳密な対照群を比較した解析では、調整後のワクチンの有効性は91%(95%信頼区間[CI]:59~98)と推定された。・RSV陽性群と広範な対照群を比較した解析では、調整後のワクチンの有効性は90%(95%CI:59~97)と推定された。・重度の下気道疾患による入院および救急外来受診に対する調整後のワクチンの有効性は89%(95%CI:13~99)と推定された。 これらの結果より、研究グループは「RSVpreFワクチン接種は、60歳以上の成人(大部分は75歳以上で合併症を有する)において、RSV関連下気道疾患による入院および救急外来受診に対する予防効果を示した。これらのデータは、高齢者におけるRSVpreFワクチンの使用を支持するものである」とまとめた。

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第243回 レプリコンワクチンのデマが現場にも忍び寄る?あるアンケートで明らかに

通称レプリコンワクチンと呼ばれるMeiji Seikaファルマの新型コロナウイルス感染症に対する次世代mRNAワクチン「コスタイベ」に関して、同社は12月25日、立憲民主党の衆議院議員・原口 一博氏を提訴する方針を明らかにした。この件についての詳細は、後日に改めて述べるが、近年SNS上では一部のワクチン懐疑論者が否定的な情報を拡散しており、その影響が実際に現れている別の事例を目にした。福祉施設入所者の接種状況とその理由12月10日に開催された東京都医師会の定例会見で、東京都老人保健施設協会が行ったインフルエンザワクチンと新型コロナワクチンの接種状況に関する緊急調査の結果1)が報告された。調査は都内の介護老人保健施設184施設を対象に行われ、11月28日に1回目、12月9日に2回目が実施され、回答率はそれぞれ49.5%、46.3%だった。それによると、入所者を対象にインフルエンザワクチンを接種した(予定も含む)施設は99%にのぼったのに対し、新型コロナワクチンに関しては81%に留まった。職員を対象とすると、インフルエンザワクチンは82%、新型コロナワクチンは40%とさらに大きな差が開いた。また、2回目の調査では入所者や職員のワクチン接種希望割合を聴取しており、インフルエンザワクチンでは、入所者の希望割合が「7割以上」だった施設は最多の49%、次いで「6割」が25%なのに対し、新型コロナワクチンでは最多が「3割未満」の31%、次いで「3割」が23%だった。ここでもインフルエンザワクチンに比べ、新型コロナワクチンでは明らかに接種に消極的な実態が浮かび上がった。入所者へ新型コロナワクチン接種を実施しない施設に、施設として実施しない理由を尋ねた結果、「体制不足」が35%、「安全性が心配」が15%、「その他」が50%だった。理由の自由記述では、「ワクチン費用が高い、補助金がない」「施設長(医師)の判断」「家族より心配との声」「コスト面と希望者が少ない」「インフルエンザ接種を優先、コロナは1月以降の実施予定」「独立型老健施設での接種は実費になる」「区からの接種券が使用できないので、家族に他の医療機関で接種してもらっている」「外出した際に病院・クリニックで接種してもらっている」「入所前に接種している」などが挙げられた。自由記述を概観すると、施設側としてはやはり体制の問題、とりわけ自治体発行の接種券が施設での集団接種の場合は使いにくいという事情が大きく影響しているとみられる。同時に見逃せないのは、「家族より心配との声」に代表されるような安全性への過度な不安が15%もあることだ。一方、新型コロナワクチン接種を実施する施設で、入所者が接種を希望しない理由を尋ねた結果、「安全性が心配」が33%、「費用負担」が30%、「その他」が37%と、安全性の問題がやや多かった。これに関連する自由記述は「家族の意向」「以前接種後(に)体調を悪くした」「『何回も打ったからいい』という方もいて以前より危機感が薄くなった様子」「使用ワクチンを『コスタイベ』と案内したところネット情報等で不安視し見合わせた家族が多数あり」「必要性を感じない」「罹患した方や、3~4回接種後から実施していない方などが多い印象」「効果が懐疑的という声あり」「自治体とのやり取りの手間」「外部と接触がないので、もう必要ないと思う」「施設で実施すると実費になり高額になるため」「流行していないから」だった。危機感が薄れているとともに、安全性について懐疑的あるいは恐怖を感じる人が少なくない印象だ。しかも、ここでまさに明らかになったように「コスタイベ」を不安視する家族の声で接種を希望しない入所者がいる現実は、外から眺めている私たちが思っていた以上に深刻と言えそうだ。また、職員に対するワクチン接種実施状況については、インフルエンザワクチンでは「原則として全員」が51%、「希望者のみ」が47%、「実施しない」が2%に対し、新型コロナワクチンでは「実施しない」が52%、「希望者のみ」が48%と、やはりここでもインフルエンザワクチンと新型コロナワクチンの差が明確になっている。新型コロナワクチン接種に対する施設側の意見、要望に関する自由記述もあり、その内容を以下にすべて列挙する。「コロナワクチンは無料と有料があり混乱」「できれば高齢者は無料にしてほしい」「65歳未満のコロナワクチンの費用が高すぎる」「65歳未満のコロナワクチンが今回から全額自己負担となり、高額であることから見合わせる職員が大部分。インフルエンザは年齢問わず自己負担額が低いため施設が職員へワクチン接種をすすめ易い」「各市町村によって手続きや費用が違って事務が煩雑、国に一本化してほしい」「コロナワクチンは高額のため希望しない職員が多い」「5類となり、施設負担(手技含む)特に経済的な問題が発生しており、今後、施設実施できない方向」「自治体に確認する手間がかかる為スムーズにいかない」「集団生活の場であり、より多くの方が接種することが望ましいかと思うが、やはり希望しない方に強制する必要もないと考えている」「施設職員に対してコロナワクチンの助成をして欲しい」「2種混合ワクチンがあると良い。高齢者施設では医療関連の手間をかけられない」このように見てみると、施設側やその職員が新型コロナワクチン接種に積極的とは言えない現実については、定期接種対象の高齢者でも一部費用負担が発生してこれが自治体によって異なること、自立型老健施設が主体の集団接種は施設側に費用負担が発生すること、65歳未満で基礎疾患がない職員などの場合は1回1万5,000円前後の高額な接種費用が全額自己負担など、制度や経済的な問題が主な理由と言える。ただ、接種対象の高齢者側が接種を希望しない理由では、新型コロナワクチンの安全性に関する、有体に言えばデマの“汚染”がすでに見過ごせない程度、浸透していることもわかる。もっとも一般論として考えると(アンコンシャスバイアスかもしれないが)、老健に入所している高齢者でSNS上のデマを直接目にしている人は少数派ではないだろうか。実際、ある程度限られた情報ではあるものの、自由記述を見ると安全性への懸念の表明元は入所者からよりも家族からのほうが多そうである。このようにしてみると、コスタイベを含む新型コロナのmRNAワクチンに関するデマは、もはやエコーチェンバーの枠を超え、現場にも迫りつつあるのだと改めて実感している。ちなみに今回、私の連載のご意見・ご質問欄を通じて介護職の方から「レプリコンワクチンはファイザー、モデルナのmRNAワクチンと同程度の安全性をもつと考えていいのでしょうか?」との問い合わせを受けたが、これに対する私の答えは「国内第III相試験の結果を見る限り、同程度と言えます。私は次回の新型コロナワクチン接種ではコスタイベを選択するつもりです」となる。参考1)東京都医師会定期記者会見(令和6年12月10日):令和6年秋冬の新型コロナワクチン定期接種の状況-東京都老人保健施設協会緊急調査結果から-

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一部の主要ながんによる死亡回避、予防が治療を上回る

 「1オンスの予防は1ポンドの治療に値する」は、米国の建国の父ベンジャミン・フランクリンの有名な格言の一つだが、がんに関してはそれが間違いなく当てはまるようだ。米国立がん研究所(NCI)がん対策・人口科学部門長のKatrina Goddard氏らによる新たな研究で、過去45年間に、がんの予防とスクリーニングによって子宮頸がんや大腸がんなど5種類のがんによる死亡の多くが回避されていたことが明らかになった。この研究の詳細は、「JAMA Oncology」に12月5日掲載された。 Goddard氏は、「多くの人が、治療法の進歩がこれら5種類のがんによる死亡率低下の主な要因だと考えているかもしれない。しかし、実際には、予防とスクリーニングが死亡率の低下に驚くほど大きく貢献している」と話す。さらに同氏は、「過去45年間に回避されたこれら5種類のがんによる死亡の10件中8件は、予防とスクリーニングの進歩によるものだ」と付け加えている。 この研究でGoddard氏らは、人口レベルのがん死亡率データを用い、Cancer Intervention and Surveillance Modeling Network(CISNET)が開発した既存のモデルを拡張して、1975年から2020年の間に回避された乳がん、子宮頸がん、大腸がん、肺がん、前立腺がんの累積死亡数に対する予防、スクリーニング(前がん病変の除去や早期発見)、および治療の寄与度を定量化した。介入としては、肺がんは喫煙量の削減による一次予防、子宮頸がんと大腸がんは全がん病変の除去を目的としたスクリーニング、乳がん、子宮頸がん、大腸がん、前立腺がんは早期発見、乳がん、大腸がん、肺がん、前立腺がんは治療の寄与度についてそれぞれ評価した。なお、研究グループによると、これら5種類のがんが、新たに診断されるがんと死亡者のほぼ半数を占めているという。 その結果、対象期間中に、予防、スクリーニング、および治療により、これら5種類のがん患者の推定594万人が、がんによる死亡を回避しており、このうちの80%(475万人)は、予防またはスクリーニングによる回避と推定された。介入の寄与度はがん種により異なっていた。乳がんでは、回避された死亡の25%(26万人)はスクリーニング(主にマンモグラフィー)によるものであり、残りの75%(77万人)は治療によるものであった。子宮頸がんでは、回避された死亡の100%(16万人)が、スクリーニング(パップテストやヒトパピローマウイルス〔HPV〕検査)と前がん病変の除去によるものであった。また、大腸がんでは、回避された死亡の79%(74万人)はスクリーニング(大腸内視鏡検査など)による早期発見や前がん性ポリープの除去によるもので、残りの21%(20万人)は治療の進歩によるものであった。さらに、肺がんでは、回避された死亡の98%(339万人)は喫煙量の削減によるものであり、前立腺がんでは、回避された死亡の56%(20万人)はスクリーニング(PSA検査)によるものであった。 こうした結果を受けてGoddard氏は、「これらの調査結果は、検討した全てのがん領域で強力な戦略とアプローチを継続する必要があることを示唆している。がんによる死亡率低下に役立つのは、治療の進歩と予防・スクリーニングの両方なのだ」と話している。研究グループは、HPVワクチン接種による子宮頸がん予防や胸部X線検査による肺がん検診などの新しい戦略により、近年、さらに多くの死亡が回避されている可能性が高いことを指摘している。これらの対策は、本研究期間中は普及していなかった。 研究論文の上席著者であるNCIがん予防部門長のPhilip Castle氏は、「これら5種類のがんの予防およびスクリーニングの普及と利用を最適化し、特に十分な医療を受けられていない人が恩恵を受けられるようにする必要がある。また、膵臓がんや卵巣がんなど、致命的になる可能性の高い他のがんによる死亡を回避するための新たな予防およびスクリーニング方法を開発する必要もある」と述べている。

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第222回 インフル・コロナ同時流行、対症療法薬不足の恐れ/厚労省

<先週の動き>1.インフル・コロナ同時流行、対症療法薬不足の恐れ/厚労省2.電子処方箋で誤表示トラブル、24日まで発行停止で一斉点検/厚労省3.帯状疱疹ワクチン、2025年度から65歳定期接種へ2025年4月開始/厚労省4.医師偏在対策で地方勤務医に手当増額へ、2026年度から/厚労省5.進む医療の「在宅シフト」在宅患者は過去最多、入院は減少/厚労省6.高額療養費制度の見直し、来年夏から70歳以上の外来2千円増/厚労省1.インフル・コロナ同時流行、対症療法薬不足の恐れ/厚労省インフルエンザの流行が全国的に拡大している。厚生労働省によると、2024年12月9~15日までの1週間に、全国約5,000の定点医療機関から報告されたインフルエンザの患者数は9万4,259人、1医療機関当たり19.06人となり、前週比110.9%増と8週連続で増加。40都道府県で注意報レベルの10人を超え、大分県(37.22人)、福岡県(35.40人)では警報レベルの30人を超えた。全国の推計患者数は約71万8,000人に上る。札幌市ではインフルエンザ警報が発令され、小中学校で学級閉鎖などの措置が相次いでいる。一方、新型コロナウイルスの感染者数も3週連続で増加。同期間の全国の新規感染者数は19,233人、1医療機関当たり3.89人(前週比1.27倍)で、44都道府県で増加。北海道(11.93人)、岩手県(10.51人)、秋田県(9.29人)で多く、沖縄県(1.09人)、福井県(1.49人)、鹿児島県(1.51人)で少ない。新規入院患者数も1,980人(前週比1.21倍)と増加傾向にある。北海道では新型コロナウイルスの患者が2024年度最多を更新し、インフルエンザとの同時流行が懸念されている。さらに、マイコプラズマ肺炎や手足口病の報告も過去5年間に比べて多く、医療現場では、発熱外来がひっ迫し、受診を断らざるを得ない状況も発生している。こうした状況を受け、厚労省は、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザなどの対症療法薬(解熱鎮痛薬、鎮咳薬、去痰薬、トラネキサム酸)の需給が逼迫する恐れがあるとして、医療機関や薬局に対し、過剰な発注を控え、必要最小限の処方・調剤を行うよう要請した。具体的には、医療機関には治療初期からの長期処方を控え、必要最小日数での処方や残薬の活用を、薬局には地域での連携による調剤体制の確保や代替薬の使用検討を求めている。厚労省は対症療法薬の増産を製薬会社に依頼しているが、増産分の出荷前に感染症が急激に流行すれば、需給が逼迫する可能性もある。現時点では、在庫放出などで昨年同期の1.2倍の出荷量の調整が可能だが、今後の感染状況によっては不足する懸念もあるため、安定供給されるまでは過剰発注を控えるよう呼びかけている。専門家は、年末年始は人の移動や接触機会が増え、感染がさらに広がる可能性があると指摘。とくに今年は新型コロナ流行でインフルエンザへの免疫がない人が多いと考えられ、流行のピークは来年1月頃と予測されている。手洗いや咳エチケット、マスク着用、ワクチン接種など、基本的な感染対策の徹底が重要となる。また、小児科ではインフルエンザ以外にも感染性胃腸炎や溶連菌感染症なども増えており、注意が必要だ。参考1)インフルの定点報告数が注意報レベルに 感染者数は9万人超え(CB news)2)コロナやインフルの対症療法薬、過剰な発注抑制を 需給逼迫の恐れ 厚労省が呼び掛け(同)3)コロナ感染者3週連続増 前週比1・27倍、厚労省発表(東京新聞)4)インフルエンザ患者数 前週の2倍以上 40都道府県が“注意報”(NHK)5)新型コロナ患者数 3週連続増加 “冬休み 感染広がる可能性も”(同)6)今般の感染状況を踏まえた感染症対症療法薬の安定供給について(厚労省)2.電子処方箋で誤表示トラブル、24日まで発行停止で一斉点検/厚労省厚生労働省は、マイナ保険証を活用した「電子処方箋」システムにおいて、医師の処方と異なる医薬品が薬局側のシステムに表示されるトラブルが7件報告されたことを受け、12月20~24日までの5日間、電子処方箋の発行を停止し、全国の医療機関・薬局に対し一斉点検を実施する。電子処方箋は、処方箋情報を電子化し、複数の医療機関や薬局がオンラインで共有できるサービス。2023年1月から運用が開始され、重複投薬や飲み合わせの悪い薬の処方を防ぎ、薬局での待ち時間短縮などのメリットがあるとされる。一方で、2024年11月時点で導入率は病院で3.0%、医科診療所で7.6%、薬局で57.1%に止まっている。今回報告された7件のトラブルは、いずれも医療機関や薬局におけるシステムの設定ミスが原因で、医師が処方した薬とは別の薬が薬局の画面に表示されていた。薬剤師らが気付いたため、誤った薬が患者に渡ることはなかったが、健康被害が発生する可能性もあったと福岡 資麿厚生労働相は指摘している。一斉点検期間中、医療機関は紙の処方箋で対応し、点検が完了した医療機関から順次、電子処方箋の発行を再開する。厚労省は、点検が完了した医療機関をホームページで公表する予定。また、医療機関に対し、医薬品マスタの設定確認や、特殊な事例を除きダミーコードを設定しないよう呼びかけているほか、薬局に対しては、調剤時に必ず薬剤名を確認するよう求めている。厚労省は、電子処方箋のベンダーに対しても提供するコードの使用について報告を求め、その結果を公表する。2024年11月時点で、電子処方箋を発行している医療機関は2,539施設、同月の推定処方箋枚数約7,500万枚のうち、電子処方箋は約11万枚(約0.15%)だった。政府は2024年度中に、おおむねすべての医療機関と薬局に電子処方箋を導入する目標を立てていたが、今回のトラブルを受け、目標達成に影響が出る可能性もある。厚労省は、国民に必要な医薬品を確実に届けられるよう、システムの安全性確保に万全を期すとしている。参考1)電子処方箋システム一斉点検の実施について(厚労省)2)電子処方箋の導入薬局で「処方と異なる医薬品」が表示されるトラブル、福岡厚労相「健康被害が発生しうる」(読売新聞)3)マイナ保険証活用「電子処方箋」でトラブル 20日から発行停止(NHK)4)電子処方箋システム、一斉点検へ 薬局で誤った薬の表示トラブル7件(朝日新聞)3.帯状疱疹ワクチン、2025年度から65歳定期接種へ2025年4月開始/厚労省厚生労働省は、2025年4月から帯状疱疹ワクチンについて原則65歳を対象とした定期接種とする方針を決定した。高齢者に多い帯状疱疹の予防と重症化を防ぐことが目的で、接種費用は公費で補助される。また、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染で免疫が低下した60~64歳も対象となる。帯状疱疹は、水疱瘡と同じウイルスが原因で、加齢や疲労などによる免疫力の低下で発症する。50歳以上でかかりやすく、患者は70代が最も多い。皮膚症状が治まった後も、神経痛が数年間残るケースもあり、80歳までに3人に1人が発症するという研究データもある。現在、50歳以上を対象に「生ワクチン」と「組換えワクチン」の接種が行われているが、任意接種のため自己負担が必要(約8,000~44,000円)。定期接種化により、接種費用は国や自治体からの補助が見込まれ、自己負担額は自治体によって異なる見通しだ。開始時期は2025年4月(予定)、対象は原則65歳とするが、HIV感染で免疫が低下した60~64歳も対象とされるほか、経過措置として2025年4月時点で65歳を超えている人に対し、5年間の経過措置を設け、70、75、80、85、90、95、100歳で接種機会を提供するほか、100歳以上の人は定期接種初年度(2025年度)に限り全員を対象とする。帯状疱疹は、高齢になるほど発症しやすく、重症化しやすい。また、長年にわたって生活の質を低下させることもあるため、定期接種化により、高齢者の健康維持に寄与することが期待されている。一方で、定期接種化前に接種希望者が増え、ワクチンの供給が不足する可能性も指摘されている。厚労省は、ワクチンの安定供給に向けて必要な対応を検討するとしている。今後は、政令の改正手続きを進め、準備が整った自治体から順次、定期接種が開始される予定。参考1)帯状疱疹ワクチンについて(厚労省)2)帯状ほう疹ワクチン 来年度定期接種へ 65歳になった高齢者など(NHK)3)帯状疱疹ワクチン、65歳対象の「定期接種」に…66歳以上には経過措置(読売新聞)4)帯状疱疹ワクチン、65歳を対象に25年4月から定期接種へ 5年の経過措置を設け、70歳なども対象に 厚科審(CB news)4.医師偏在対策で地方勤務医に手当増額へ、2026年度から/厚労省厚生労働省は12月19日に開催したの社会保障審議会医療保険部会で、医師偏在対策を検討した。医師不足が深刻な地域で働く医師を増やすため、2026年度を目途に新たな支援策の導入を図る見込み。具体的には、医師少数区域に「重点医師偏在対策支援区域(仮称)」を指定し、同区域で勤務または派遣される医師の勤務手当を増額する。この財源には医療保険の保険料を充てることが了承された。手当増額の仕組みは、社会保険診療報酬支払基金が保険者から徴収した保険料を財源とし、都道府県が実施主体となる。費用総額は、国が人口、可住地面積、医師の高齢化率、医師偏在指標などを基に設定し、各都道府県へ按分・配分する予定。この措置に対し、健康保険組合連合会(健保連)など保険者側からは、保険料負担増への懸念や費用対効果への疑問が示された。これを受け厚労省は、対策の進捗や効果を検証する仕組みを整備する方針を示した。国、都道府県、健保連などが参加する会議体を想定し、効果や現役世代の保険料負担への影響を検証する。さらに、保険医療機関に「管理者」の役職を新設し、医師の場合、臨床研修後2年、保険医療機関での勤務3年以上を要件とする。これにより、適切な管理能力を持つ医師を管理者に据え、保険医療の質・効率性向上を図るとともに、美容医療などへの医師流出を抑える狙いがある。今回の措置は医師偏在解消に向けた一歩となる。しかし、保険者の理解を得て実効性を高めるためには、費用総額の設定、効果検証の具体化、保険料負担増を抑えるための診療報酬抑制策など、今後の議論が重要となる。参考1)第190回社会保障審議会医療保険部会(厚労省)2)医師の手当て増額支援、保険者から財源徴収 偏在対策 医療保険部会で了承(CB news)3)医師偏在対策の効果、検証の仕組み整備へ 厚労省(日経新聞)4)都心に集中する医師 「前例なき」参入規制検討も、踏み込み不足?(毎日新聞)5.進む医療の「在宅シフト」在宅患者は過去最多、入院は減少/厚労省厚生労働省が2024年12月20日に発表した2023年「患者調査」の結果によると、在宅医療を受けた外来患者数が1日当たり推計23万9千人と、1996年の調査開始以来、過去最多を記録したことが明らかになった。前回調査(2020年)から6万5,400人増加しており、在宅医療の需要が高まっていることがうかがえた。一方、同年10月の病院・一般診療所を合わせた入院患者数は1日当たり推計117万5,300人で、現在の調査方法となった1984年以降で過去最低を更新した。前回調査から3万6千人減少しており、入院から在宅への移行が進んでいることが示唆された。患者調査は3年ごとに実施され、今回は全国の病院や診療所、歯科診療所計約1万3千施設を対象に、2023年の特定の1日における入院・外来患者数を調査し、推計した。参考1)令和5年(2023)患者調査の概況(厚労省)2)入院患者数、過去最低を更新 23年患者調査(MEDIFAX)3)在宅医療患者1日23万人で最多 23年調査、入院は最少更新(共同通信)6.高額療養費制度の見直し、来年夏から70歳以上の外来2千円増/厚労省厚生労働省は、医療費の自己負担を軽減する「高額療養費制度」について、2025年夏から段階的に見直す方針を固めた。所得区分ごとに自己負担の上限額を2.7~15%引き上げる。とくに高所得者層の引き上げ幅を大きくし、年収約1,160万円以上の区分では月約3万8,000円増の約29万円となる。一方、住民税非課税世帯などの低所得者層に対しては、引き上げ幅を抑えたり、段階的な引き上げを実施することで、急激な負担増による受診控えを防ぐ狙いがある。今回の見直しは、高額な医療費負担を軽減するセーフティーネットである同制度の持続可能性を確保しつつ、子供関連政策の財源確保に向けた医療費抑制を図る目的がある。また、保険給付の抑制により、現役世代を中心に保険料負担の軽減効果も見込まれる。具体的には、2025年8月に70歳未満は、所得区分ごとに自己負担限度額を2.7~15%引き上げ。一般的な収入層(主に年金収入約200万円以下、窓口負担1割)は月2,000円増の2万円。それ以上の所得水準の場合は特例対象外。また、70歳以上で年収約370万円を下回る人が外来受診にかかる費用を一定額に抑える「外来特例」の自己負担限度額も月額2,000円引き上げる方針であり、受診抑制につながる可能性も指摘されているが、詳細については今月末までに決定される見込み。さらに、2026年8月以降に、所得区分を3つに再編して、段階的に引き上げる予定。高額療養費制度の見直しは、国民皆保険制度を守るために、持続可能性と医療費抑制のバランスを取るために行われる。今後、社会保障審議会医療保険部会で具体的な制度設計をめぐる議論を深め、今月末までに最終決定される見通し。参考1)医療保険制度改革について(厚労省)2)高額療養費の外来特例 上限を2千~1万円引き上げ 厚労省最終調整(朝日新聞)3)高額療養費上限引き上げ 激変緩和 最終形は27年8月、3段階検討(同)4)高額療養費の負担上限、高所得で月3.8万円上げ 厚労省(日経新聞)

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帯状疱疹ワクチン、65歳を対象に定期接種化を了承/厚労省

 12月18日に開催された第65回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会において、帯状疱疹を予防接種法のB類疾病に位置付けるとし、帯状疱疹ワクチンの定期接種化が了承された。 2025年4月1日より、原則65歳を対象に定期接種が開始される見込み。高齢者肺炎球菌ワクチンと同様に、5年間の経過措置として、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、100歳時に接種する機会を設ける方針だ。また、60歳以上65歳未満の者であっても、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害を有する者として厚生労働省令で定める者も対象となる。帯状疱疹にかかったことのある者についても定期接種の対象となる。 使用するワクチンは、乾燥弱毒生水痘ワクチン(商品名:ビケン)、または乾燥組換え帯状疱疹ワクチン(商品名:シングリックス筋注用)となる。 接種方法については以下のとおり。【乾燥弱毒生水痘ワクチンを用いる場合】 0.5mLを1回皮下に注射する。【乾燥組換え帯状疱疹ワクチンを用いる場合】 1回0.5mLを2ヵ月以上7ヵ月未満の間隔を置いて2回筋肉内に接種する。ただし、疾病または治療により免疫不全、免疫機能が低下している、もしくは低下する可能性がある者については、医師が早期の接種が必要と判断した場合、1回0.5mLを1ヵ月以上の間隔を置いて2回筋肉内に接種する。 ※接種方法の注意点として、帯状疱疹ワクチンの交互接種は認められない。同時接種については、医師がとくに必要と認めた場合に行うことができる。乾燥弱毒生水痘ワクチンとそれ以外の注射生ワクチンの接種間隔は27日の間隔を置くこととする。 定期接種化に関して、使用ワクチンの1つに定められた「シングリックス筋注用」を生産するグラクソ・スミスクラインは、同日にステートメントを発表した。 ステートメントによると、日本人成人の90%以上は、帯状疱疹の原因となるウイルスがすでに体内に潜んでいるとされ、50歳を過ぎると帯状疱疹の発症が増え始め、80歳までに約3人に1人が帯状疱疹を発症するという。また、高血圧・糖尿病・リウマチ・腎不全といった基礎疾患がある人は、帯状疱疹の発症リスクが高くなるという報告もあるという。今回の了承について、「さらに多くの人々が帯状疱疹のリスクから守られることに寄与する大きな一歩」としてワクチンの供給に貢献することを示した。

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“Real-world”での高齢者に対するRSVワクチンの効果(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

 60歳以上の高齢者に対する呼吸器合胞体ウイルス(RSV:Respiratory Syncytial Virus)に対するワクチンの薬事承認を可能にした第III相臨床試験の結果に関しては以前の論評で議論した(CLEAR!ジャーナル四天王-1775)。今回は実臨床の現場で得られたデータを基に高齢者に対するRSVワクチンの“Real-world”での効果(入院、救急外来受診予防効果)を検証し、高齢者に対するRSVワクチン接種を今後も積極的に推し進めるべき根拠が提出されたかどうかについて考察する。RSVのウイルス学的特徴 RSVは本邦において5類感染症に分類されるParamyxovirus科のPneumovirus属に属するウイルスである。RSVはエンベロープを有する直径150~300nmのフィラメント状の球形を示すネガティブ・センス一本鎖RNAウイルスで、11個の遺伝子をコードする約1万5,000個の塩基からなる。自然宿主はヒトを中心とする哺乳動物である。ヒトRSVの始祖は1766年頃に分岐し、2000年以降に下記に述べる複数のA型ならびにB型に分類される亜型が形成された(IASR. 国立感染症研究所. 2022;43:84-85.)。A型、B型を特徴付けるものはRSVの膜表面に存在する糖蛋白(G蛋白)の違いである。G蛋白は宿主細胞との接着に関与し、宿主の免疫に直接さらされるためRSVウイルスを形成する構造の中で最も遺伝子変異を生じやすく、A型、B型には約20種以上の亜型が報告されている(A型:NA1、NA2b、ON1など、B型:BA7、BA8、BA9、BA10など)。しかしながら、A型とB型ならびにそれらの亜型によって病原性が明確に異なることはなく、A型、B型が年の単位で交互に流行すると報告されている。G蛋白によって宿主細胞と接着したRSVは、次項で述べるF蛋白(1,345個のアミノ酸で構成)を介して宿主細胞と融合し細胞内に侵入する。 新生児においては母親と同程度のRSV抗体(母体からのIgG移行抗体)が認められるが、その値は徐々に低下し生後7ヵ月で新生児のRSV抗体は消失する。すなわち、RSV液性抗体の持続期間は約6ヵ月と考えなければならない。これ以降に認められるRSV抗体は生後に起こった新規感染に起因する(生後2年までに、ほぼ100%が新規感染)。それ以降、ヒトは生涯を通じてRSVの再感染を繰り返し、血液RSV抗体価は再感染に依存して上昇・下降を繰り返す。新生児の現状を鑑みると、RSV抗体が有意に存在する生後6ヵ月以内の新生児において新規のRSV感染は、より重篤な呼吸器病変を発現する場合があることが知られている。すなわち、RSVに対するワクチン接種によって形成されるRSV液性免疫は即座に感染防御を意味するものではなく、RSVを標的としたワクチン接種がより重篤な呼吸器病変を誘発する可能性があることを念頭に置く必要がある。以上の事実は、RSVワクチン接種を今後励行するか否かは、その予防効果を確実に検証した臨床試験の結果を踏まえて決定する必要があることを意味する。RSVワクチンの薬事承認 RSVに対するワクチンの開発は1960年代から始まり、不活化ワクチンの生成が最初に試みられた。しかしながら、不活化ワクチンは“抗体依存性感染増強(ADE:Antibody dependent enhancement of infection)”を高頻度に発現し、臨床的に使用できるものではなかった。それ以降、RSVの蛋白構造ならびに遺伝子解析が進められ、RSVが宿主細胞に侵入する際に本質的作用を有する膜融合蛋白(F蛋白:Fusion protein、コロナウイルスのS蛋白に相当)を標的にすることが有効な薬物作成に重要であることが示された。実際には、宿主の細胞膜と融合していない安定した3次元構造を有する膜融合前F蛋白(Prefusion F protein)が標的とされた。まず初めに膜融合前F蛋白に対する遺伝子組み換えモノクローナル抗体(mAb)であるパリビズマブ(商品名:シナジス、アストラゼネカ)が実用化され、種々のリスクを有する新生児、乳児のRSV感染に伴う下気道病変の重症化阻止薬として使用されている。 新型コロナ発生に伴い高度の蛋白・遺伝子工学技術を駆使した数多くのワクチンが作成されたことは記憶に新しい。新型コロナに対するワクチンは2種類に大別され、Protein-based vaccine(Subunit vaccine)とGene-based vaccineが存在する。これらの技術がRSVワクチンの作成にも適用され、遺伝子組み換え膜融合前F蛋白を抗原として作成されたProtein-based vaccineである、グラクソ・スミスクライン(GSK)のアレックスビー筋注用(A型、B型のF蛋白の差を考慮しない1価ワクチン)とファイザーのアブリスボ筋注用(A型、B型両方のF蛋白を添加した2価ワクチン)が存在する。一方、Gene-based vaccineとしてはModernaのmRESVIA(mRNA-1345、A型、B型のF蛋白の差を考慮しない1価ワクチン)が存在する。 GSKのアレックスビーは60歳以上の高齢者を対象としたRSV予防ワクチンとして世界に先駆け2023年5月に米国FDA、2023年9月に本邦厚生労働省の薬事承認を受けた。2024年11月、本邦におけるアレックスビーの適用が種々の重症化リスク(慢性肺疾患、慢性心血管疾患、慢性腎臓病または慢性肝疾患、糖尿病、神経疾患または神経筋疾患、肥満など)を有する50~59歳の成人にまで拡大された。一方、ファイザーのアブリスボは母子ならびに高齢者用のRSVワクチンとして2023年8月に米国FDAの薬事承認を受けた。本邦におけるアブリスボの薬事承認は2024年1月であり、適用は母子(妊娠28~36週に母体に接種)に限られ高齢者は適用外とされた。これは、アブリスボが高齢者に対して効果がないという意味ではなく、アレックスビーとの臨床的すみ分けを意図した日本独自の政治的判断である。ModernaのmRESVIA(mRNA-1345)は、2024年5月に高齢者用RSVワクチンとして米国FDAの薬事承認を受けたが本邦では現在申請中である。 以上より、2024年12月現在、本邦のRSV感染症にあっては、母子に対してはファイザーのアブリスボ、60歳以上の高齢者あるいは50歳以上で重症化リスクを有する成人に対してはGSKのアレックスビーを使用しなければならない。高齢者RSV感染に対するワクチンの予防効果―主たる臨床試験の結果Protein-based vaccineの第III相試験 60歳以上の高齢者を対象としたGSKのアレックスビーに関する国際共同第III相試験(AReSVi-006 Study)は2万4,966例を対象として追跡期間が6.7ヵ月(中央値)で施行された(Papi A, et al. N Engl J Med. 2023;388:595-608.)。ワクチンのRSV下気道感染全体に対する予防効果は82.6%であり、A型、B型に対する予防効果に明確な差を認めなかった。COPD、喘息、糖尿病、慢性心血管疾患、慢性腎臓病、慢性肝疾患などの基礎疾患を有する高齢者に対する下気道感染予防効果は94.6%と高値であった。ワクチン接種により、RSVに対する中和抗体(液性免疫)ならびにCD4陽性T細胞性免疫が発現する。しかしながら、アレックスビー接種後の液性免疫、細胞性免疫の持続期間に関する正確な情報は提示されていない。有害事象はワクチン群の71.6%に認められたが、注射部位を中心とする局所副反応が中心であった。本邦では適用外であるが、60歳以上の高齢者を対象としたファイザーのアブリスボに関する治験結果も報告されており、予防効果はGSKのアレックスビーとほぼ同等であった(国際共同第III相試験:C3671008試験、2024年1月18日ファイザー発表)。Gene-based vaccineの第III相試験 高齢者を対象としたGene-based vaccineであるModernaのmRESVIA(mRNA-1345)に関する国際共同第III相試験は、3万5,541例を対象とし、追跡期間3.7ヵ月(中央値)で施行された。RSV関連下気道感染に対する予防効果は83.7%であり、基礎疾患の有無、RSVの亜型(A型、B型)によって予防効果に明確な差を認めなかった(Wilson E, et al. N Engl J Med. 2023;389:2233-2244.)。以上の結果は、Gene-based vaccineの予防効果はProtein-based vaccineと質的・量的に同等であり、mRESVIAは本邦においても来年度には厚労省の薬事承認が得られるものと期待される。Real-worldでの観察結果 綿密に計画された第III相試験ではなく、ワクチン承認後の最初のRSV流行シーズンでの60歳以上の高齢者を対象とした“Real-world”でのRSVワクチン予防効果に関する報告が米国から提出された(Payne AB, et al. Lancet. 2024;404:1547-1559.)。この検討は、米国8州の電子カルテネットワークVISION(Virtual SARS-CoV-2, Influenza, and Other respiratory viruses Network)を用いて施行された(対象の集積は2023年10月1日~2024年3月31日の6ヵ月)。解析対象は試験期間中にVISIONによって抽出された入院症例(3万6,706例)あるいは救急外来を受診した症例(3万7,842例)であった。入院症例のうちGSKのアレックスビー、ファイザーのアブリスボを接種していた人の割合はおのおの7%、2%であった。救急外来を受診した症例にあっては、アレックスビーを接種していた人が7%、アブリスボを接種していた人が1%であった。 免疫正常者の入院者数は2万8,271例で、RSV関連入院に対するワクチンの予防効果は80%、RSV感染による重篤な転帰(ICU入院、死亡)に対するワクチンの予防効果は81%であり、重症化もワクチン接種によって明確に軽減できることが示された。免疫正常者のRSV関連救急外来受診者数は3万6,521例で、ワクチン接種の予防効果は77%であった。免疫不全患者のRSV感染による入院者数は8,435例で、免疫不全症例におけるRSV感染関連入院に対するワクチンの予防効果は73%であった。以上の結果はワクチンの種類によって影響されなかった。すなわち、第III相試験ならびにReal-worldでの観察結果は高齢者に対するRSVワクチン接種の有効性を証明した。数十年前に作成されたRSV不活化ワクチン接種時に高頻度に認められた“抗体依存性感染増強”を中心とする重篤な副反応は、現在のProtein-based vaccine、Gene-based vaccineでは発生しないことが実臨床の場で確認された。 成人におけるRSVワクチン接種の今後の課題として、以下が挙げられる。1)ワクチン接種後のIgG由来の液性免疫動態ならびにT細胞由来の細胞性免疫動態の時間的推移を確実にする必要がある。この解析を介してRSVワクチンの至適接種回数を決定できる(年2回、年1回、2年に1回など)。米国CDCは成人に対するRSVワクチンは毎年接種する必要はないとの見解を示しているが、ワクチン接種後の液性免疫、細胞性免疫の持続期間が確実にならない限り、米国CDCの推奨が正しいとは結論できない。2)ワクチン作成の本体を担うF蛋白に関して、その遺伝子変異の状況をもっと詳細にモニターするシステムを構築する必要がある。これによって今後のRSV流行時に、今年度までに作成されたワクチンをそのまま適用できるか否かを決定できる。3)ワクチン接種時期はその年の流行直前が理想的である。しかしながら、本邦においては、RSV感染が小児科定点からの報告のみであり、成人データは確実性に乏しい。今後、RSV感染症に関する流行情報を、成人を含めた広範囲な対象で収集する本邦独自のサーベイランス・システムの構築が必要である。この情報を基に、高齢者におけるワクチン接種の正しい時期を決定する必要がある。4)小児では迅速抗原検査がRSV感染の診断に有用であるが、成人では感染に伴うウイルス量が少なく迅速抗原検査の感度が低い(単独PCR検査の10~20%)。すなわち、現状では成人におけるRSV感染の簡易確定診断が難しく、RSVワクチン接種の対象となる成人を抽出するのに支障を来す。たとえば、ワクチン接種前数ヵ月以内の感染者に対してはワクチン接種を避けるべきである。5)本邦ではRSVワクチン接種の対象が50歳以上(ただし、感染による重症化リスクを有する)まで引き下げられたが、米国CDCは今年になって、本邦の考えとは逆にRSVワクチン接種の対象を75歳以上あるいは60~74歳で重症化リスクを有する高齢者に引き上げた。米国CDCの考えは、医学的側面に加え医療経済的側面を考慮した変更と考えられる。従来の対象者選択基準が正しいのか、米国CDCの新たな選択基準が正しいのか、今後の“Real-world”での観察結果が待たれる。

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mumps(ムンプス、おたふく風邪)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第17回

言葉の由来ムンプスは英語で“mumps”で、「マンプス」に近い発音になります。なお、耳下腺は英語で“parotid gland”で、耳下腺炎は“parotitis”といいます。英語での“mumps”は日本語での「おたふく風邪」のように、医療者以外でも一般的に広く使われる言葉です。“mumps”の語源は諸説あります。1つの説によると、“mumps”という病名は1600年ごろから使用され始め、「しかめっ面」を意味する“mump”という単語が複数形になったものとされています。ムンプスが引き起こす耳下腺の腫れと痛み、嚥下困難などの症状による独特の顔貌や表情からこの名前が付いたと考えられています。もう1つの説は、ムンプスでは唾液腺の激しい炎症で患者がぼそぼそと話すようになることから、「ぼそぼそ話す」を意味する“mumbling speech”が元になって“mumps”と呼ばれるようになったというものです。日本語の「おたふく風邪」も、耳下腺が腫れた様子が「おたふく」のように見えることに由来します。いずれの呼び方も、特徴的な見た目や症状から病気の名前が付けられたことがわかりますよね。ムンプスは古代から知られており、ヒポクラテスが5世紀にThasus島での発生を記録し、耳周辺の痛みや睾丸が腫脹することも記載しています。近代では、1790年に英国のロバート・ハミルトン医師によって科学的に記述され、第1次世界大戦期間中に流行し兵士たちを苦しめました。1945年に初めてムンプスウイルスが分離され、その後ワクチンが開発されたことで予防可能な疾患になりました。併せて覚えよう! 周辺単語耳下腺炎parotitis精巣炎orchitis卵巣炎oophoritis無菌性髄膜炎aseptic meningitisMMRワクチンMeasles, Mumps, and Rubella vaccineこの病気、英語で説明できますか?Mumps is a contagious viral infection that can be serious. Common symptoms include painful swelling of the jaw, fever, fatigue, appetite loss, and headache. The MMR vaccine offers protection from the virus that causes mumps.講師紹介

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Long COVIDの神経症状は高齢者よりも若・中年層に現れやすい

 新たな研究によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患後症状(long COVID)のうち、重篤な神経症状は、高齢者よりも若年層や中年層の人に現れやすいことが明らかになった。米ノースウェスタン・メディスン総合COVID-19センターの共同所長を務めるIgor Koralnik氏らによるこの研究結果は、「Annals of Neurology」に11月22日掲載された。 Long COVIDの神経症状は、頭痛、しびれやうずき、嗅覚障害や味覚障害、目のかすみ、抑うつ、不安、不眠、倦怠感、認知機能の低下などである。論文の上席著者であるKoralnik氏は、「COVID-19による死亡者数は減少し続けているが、人々は依然としてウイルスに繰り返し感染し、その過程でlong COVIDを発症する可能性がある」と指摘する。同氏は、「long COVIDは、患者の生活の質(QOL)に変化を引き起こしている。ワクチン接種や追加接種を受けている人でも、COVID-19患者の約30%にlong COVIDの何らかの症状が現れる」と話す。 今回の研究では、2020年3月から2023年3月の間にノースウェスタンメモリアルホスピタルのNeuro-COVID-19クリニックを受診し、新型コロナウイルス検査で陽性が判明した最初の1,300人(COVID-19による入院歴のある患者200人、入院歴のない患者1,100人)を対象に、COVID-19の重症度(入院歴の有無)によるlong COVIDの神経症状の違いを検討した。対象患者は、若年層(18〜44歳)、中年層(45〜64歳)、高齢者(65歳以上)に分類された。 COVID-19の発症から10カ月後の時点で、若年層と中年層では、高齢者に比べてlong COVIDの神経症状の発生率が高く、症状の負担も大きいことが明らかになった。また、入院歴のない患者群では、若年層と中年層で高齢者に比べて、主観的な倦怠感や睡眠障害のスコアが高く、これらの層はQOLへの障害をより強く感じていることが浮き彫りになった。さらに、入院歴のない患者群では、認知機能(実行機能や作業記憶)のスコアが最も低かったのは若年層であることも判明した。一方、入院歴のある患者群では、認知機能の一部(実行機能)に統計学的に有意に近い年齢による差が認められたものの、QOLには年齢による有意な差は確認されなかった。 Koralnik氏は、「long COVIDは、社会の労働力、生産性、革新の多くを担う働き盛りの若年成人に特に大きな影響を及ぼし、健康上の問題や障害を引き起こしている」と述べ、「これは社会全体にとって厳しい状況だ」との見方を示している。 さらにKoralnik氏は、「この研究は、long COVIDに苦しむあらゆる年齢の人々に対し、症状を緩和し、QOLを向上させるために必要な治療とリハビリテーションのサービスを提供すべきことの重要性を浮き彫りにするものだ」と米ノースウェスタン大学のニュースリリースで述べている。

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第241回 今だから言える!? 村上氏が明かすコロナ感染の変遷

従来から本連載で私がワクチンマニアであることは何度も触れている(第107回、第204回など参照)。にもかかわらず、昨年は季節性インフルエンザワクチン接種を逃してしまっていた。ということで、今年はかかりつけ医療機関でしっかり接種してきたが、そろそろ効力も落ちてきただろうということで日本脳炎と腸チフスのワクチンも追加接種。さらにこうした機会に私はいつも新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の抗体検査用の採血も行っている。ご存じのように新型コロナの抗体検査は、感染の有無がわかるヌクレオカプシドタンパク質抗体(N抗体)とワクチン接種により獲得したスパイクタンパク質抗体(S抗体)の2種類を調べるもの。私は新型コロナに限らず、ワクチン接種の際にこの2種類の抗体検査を行っている。検査時期はかなりランダムだが、これまでN抗体は6回、S抗体は5回の検査を行っている(共にロシュ・ダイアグノスティックス社のECLIA法)。回数が違うのは、N抗体は新型コロナのmRNAワクチンが登場し、2021年6月に1回目接種する直前に試しに受けてみたのである。この1回目の検査結果は、私がキャンセル待ちで急遽獲得した1回目のワクチン接種後のアナフィラキシー・チェックの待機時間中にA医師から第1報としてメールで受け取った。本当の私のコロナ感染変遷今だから話すが、このとき、A医師から検査結果用紙の写真とともに「陽性です」とのメッセージが送られてきた。1回目のワクチン接種に辿り着けたと、安堵感に満ち溢れていた中で、過去の感染歴とは言え「陽性」という事実にかなり戸惑った。しかもコロナ禍からまだ約1年半という時期。後にオミクロン系統で爆発的に感染者が増加したような時期ではなく、感染者はまだそう多くない時期なのである。実際、それまでにA医師のクリニックでN抗体検査を受けた人の中で陽性者は初だったという。この時、写真に記載されていた数値「COI(Cut off index)」は陰性が1未満に対し、私の検査結果は194.00。完全な陽性なのだが、私は間抜けにも「偽陽性ってことはないですよね? うー、いつ感染したのだろう? 覚えがないです」と返信し、A医師からは「この抗体価は偽陽性ではないですね」と断言された。この直前に感染を疑う症状はまったくなかった。当時は感染者での味覚・嗅覚障害の割合が高いことが報告されており、感染時にいち早く気付けるよう一日一食は納豆を食べていたのに。納豆は私の好物なのだが、毎日食べるほどではなかった。もっともこの時の習慣が定着し、現在は毎日食べるようになった。ちなみに、この時の感染源は後におおよそ特定できた。この検査から過去7ヵ月間に家族以外でノーマスクでの会話を伴う接触をした人は3人しかおらず、全員に私の感染の事実を伝え、3人とも検査を受けた結果、そのうちの1人が陽性だったからだ。その結果、私の感染時期として濃厚なのは2020年12月。α株が感染主流株だった時期である。その後も検査は続けていたが、N抗体は一貫して右肩下がりとなっていった。一方、S抗体はというと、1回目の検査が新型コロナワクチン2回接種の初回免疫終了から約4ヵ月後で、数値は4,583.0U/mL。A医師から「僕の10倍くらいある」と感心された。自然感染とワクチン接種のハイブリッド免疫であるがゆえだったのだろう。その後の推移は、3回目接種(モデルナ製)直前(初回免疫終了から約7ヵ月後)の2022年2月が2,785.0 U/mL、4回目接種(モデルナ製)直前(3回目接種終了から約11ヵ月後)の2022年12月が4,521.0 U/mL 、5回目接種(第一三共製)直前(4回目接種終了から15ヵ月後)の2024年3月が6,252.0 U/mLだった。ちなみにこの間、N抗体のCOIは194.00から51.60 → 27.60 → 13.10 → 7.73と順調に低下していった。直近のS抗体価にがっかり、N抗体価にビックリ!さて今回の抗体検査の結果は2日後に判明した。5回目接種から約8ヵ月後のS抗体は9,999.9 U/mLと上限値オーバー。子供っぽい言い方をすれば「とにかくたくさん」と言うことだ。この結果の感想を言うならば、「ホッとする反面、正確な数値がわからず、ワクチンマニアとしてはちょっとがっかり」というところ。そろそろ6回目の完全自費の新型コロナワクチン接種をしようと思っていた矢先だけに、接種後どれだけ抗体価が上昇したかが正確にわからないのでは、ややつまらない。どこかより厳格な検査結果を示してくれるところはないだろうかと思案している(臨床研究を実施している先生方がいればいつでも協力します 笑)。だが、問題はN抗体のほうだ。今回のCOIは25.50。3回前の検査結果に近い数値まで再上昇していたのである。すなわちこの約8ヵ月間に再感染していたことになる。「え?」「は?」という感じだ。今回も約8ヵ月間に咽頭痛などの自覚症状は記憶がない。数値を見ると、1回目の無症候感染時ほどCOIは高くないので、好意的に解釈すればワクチン接種の恩恵があったとも言えそうだ。しかし、無症候であっても再感染は嬉しくない。ちなみに2023年7月のnature誌に米・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のグループが、アメリカ骨髄バンク登録ドナーのうちヒト白血球抗原(HLA)遺伝子のデータが利用できる約3万人について、無症候感染者と有症状感染者のHLAを比較した研究1)を行い、HLAのバリアントの1つであるHLA-B*15:01を有する人は無症候者に多いと報告されている。もちろん自分がこれに該当するのかはわからない。そして余談を言えば、前回触れた消費者向け遺伝子検査の結果では、私の新型コロナ感染時の重症化リスクは「大」の判定である。まあ、いずれにせよ今もこの感染症は油断がならないことを、なかば身をもって証明したのかもしれない。参考1)Augusto DG, nature. 2023;620:128-136.

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限局性強皮症〔Localized scleroderma/morphea〕

1 疾患概要限局した領域の皮膚およびその下床の組織(皮下脂肪、筋、腱、骨など)の免疫学的異常を基盤とした損傷とそれに続発する線維化を特徴とする疾患である。血管障害と内臓病変を欠く点で全身性強皮症とは明確に区別される。■ 疫学わが国における有病率、性差、好発年齢などは現時点では不明だが、2020~2022年にかけて厚生労働省強皮症研究班により小児期発症例を対象とした全国調査が行われた。今後疫学データが明らかとなることが期待される。■ 病因体細胞モザイクによる変異遺伝子を有する細胞が、何らかの誘因で非自己として認識されるようになり、自己免疫による組織傷害が生じると考えられている。事実、外傷やワクチン接種など、免疫の賦活化が誘因となる場合があり、自己抗体は高頻度に陽性となる。病変の分布はブラシュコ線(図1)に沿うなど、体細胞モザイクで生じる皮疹の分布(図2)に合致する。頭頸部の限局性強皮症(剣創状強皮症[後述]を含む)は皮膚、皮下組織、末梢神経(視覚、聴覚を含む)、骨格筋、骨、軟骨、脳実質を系統的に侵す疾患だが、頭頸部ではさまざまな組織形成に神経堤細胞が深く関与しているためと考えられている(図3)。図1 ブラシュコ線1つのブラシュコ線は、外胚葉原基の隆起である原始線条に沿って分布する1つの前駆細胞に由来する。前駆細胞にDNAの軽微な体細胞突然変異が生じた場合、その前駆細胞に由来するブラシュコ線は、他のブラシュコ線と遺伝子レベルで異なることになり、モザイクが生じる。我々の体はブラシュコ線によって区分される体細胞モザイクの状態となっているが、通常はその発現型の差異は非常に軽微であり、免疫担当細胞によって異物とは認識されない。一方、外傷などを契機にその軽微な差異が異物として認識されると、ブラシュコ線を単位として組織傷害が生じ、萎縮や線維化に至る。(Kouzak SS, et al. An Bras Dermatol. 2013;88:507-517.より引用)図2 体細胞モザイクによる皮疹の分布のパターンType 1alines of Blaschko, narrow bandsType 1blines of Blaschko, broad bandsType 2checkerboard patternType 3leaf-like patternType 4patchy pattern without midline separationType 5lateralization pattern.(Kouzak SS, et al. An Bras Dermatol. 2013;88:507-517.より引用)図3 神経堤細胞と剣創状強皮症の病態メカニズム画像を拡大する神経堤は、脊椎動物の発生初期に表皮外胚葉と神経板の間に一時的に形成される構造であり、さまざまな組織に移動して、その形成に重要な役割を果たす。体幹部神経堤は、主に神経細胞と色素細胞に分化するが、頭部神経堤は顔面域や鰓弓に集まり、頭頸部の骨、軟骨、末梢神経、骨格筋、結合組織などに分化する。頭部神経堤が多様な組織の形成に関与している点に鑑みると、神経堤前駆細胞に遺伝子変異が生じた場合、その異常は脳神経細胞やブラシュコ線に沿った多様な組織に分布することになる。この仮説に基づけば、剣創状強皮症は皮膚、皮下組織、末梢神経、骨格筋、骨、軟骨、脳実質に系統的に影響を及ぼし、症例によって多様な症状の組み合わせが出現すると考えられる。たとえば、皮膚病変のみの症例、骨格筋の萎縮や骨の変形を伴う症例、脳実質病変を伴う症例などが存在する。なお、これらの組織に共通する遺伝子変異の存在は現時点では確認されていない。■ 症状個々の皮疹の形状は類円形や線状など多様性があり、広がりや深達度もさまざまである。典型例では「境界明瞭な皮膚硬化」を特徴とするが、色素沈着や色素脱失あるいは萎縮のみで硬化がはっきりしない病変、皮膚の変化はないが脂肪の萎縮のみを認める病変や下床の筋・骨の炎症や破壊のみを認める病変など、極めて多彩な臨床像を呈する。病変が深部に及ぶ場合、患肢の萎縮・拘縮、骨髄炎、顔面の変形、筋痙攣、小児では患肢の発育障害、頭部では永久脱毛斑・脳波異常・てんかん・眼合併症(ぶどう膜炎など)・聴覚障害・歯牙異常などが生じうる。しばしば他の自己免疫疾患を合併し、リウマチ因子陽性の場合や“generalized morphea”[後述]では関節炎・関節痛を伴う頻度が高い。抗リン脂質抗体が約30%で陽性となり、血栓症を合併しうる。■ 分類現在、欧州小児リウマチ学会が提案した“Padua consensus classification”が世界的に最も汎用されている。“circumscribed morphea” (斑状強皮症)、“linear scleroderma” (線状強皮症)、“generalized morphea”(汎発型限局性強皮症)、“pansclerotic morphea”、“mixed morphea”の5病型に分類される。Circumscribed morpheaでは、通常は1~数個の境界明瞭な局面が躯幹・四肢に散在性に生じる。Linear sclerodermaでは、ブラシュコ線に沿った線状あるいは帯状の硬化局面を呈し、しばしば下床の筋肉や骨にも病変が及ぶ。剣傷状強皮症は、前額部から頭部のブラシュコ線に沿って生じた亜型で、瘢痕性脱毛を伴う。Generalized morpheaでは、これらのすべてのタイプの皮疹が全身に多発する。一般に「直径3cm以上の皮疹が4つ以上あり(皮疹のタイプは斑状型でも線状型のどちらでもよい)、かつ体を7つの領域(頭頸部・右上肢・左上肢・右下肢・左下肢・体幹前面・体幹後面)に分類したとき、皮疹が2つ以上の領域に分布している」と定義される。Pansclerotic morpheaでは、躯幹・四肢に皮膚硬化が出現し、進行性に頭頸部も含めた全身の皮膚が侵され、関節の拘縮、変形、潰瘍、石灰化を来す。既述の4病型のうち2つ以上の病型が共存するものがmixed morpheaである。■ 予後内臓病変を伴わないため生命予後は良好である。一方、整容面の問題や機能障害を伴う場合は、QOLやADLが障害される。一般に3~5年で約50%の症例では、疾患活動性がなくなるが、長期間寛解を維持した後に再燃する場合もあり、とくに小児期発症のlinear sclerodermaでは再燃率が高く、長期間にわたり注意深く経過をフォローする必要がある。数十年間にわたり改善・再燃を繰り返しながら、断続的に組織傷害が蓄積し、全経過を俯瞰すると階段状に症状が悪化していく症例もある。疾患活動性がなくなると皮疹の拡大は止まり、皮膚硬化は自然に改善するが、皮膚およびその下床の組織の萎縮や機能障害(関節変形や拘縮)は残存する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診療ガイドライン1)に記載されている診断基準は以下の通りである。(1)境界明瞭な皮膚硬化局面がある(2)病理組織学的に真皮の膠原線維の膨化・増生がある(3)全身性強皮症、好酸球性筋膜炎、硬化性萎縮性苔癬、ケロイド、(肥厚性)瘢痕、硬化性脂肪織炎を除外できる(ただし、合併している場合を除く)の3項目をすべて満たす場合に本症と診断する。なお、この診断基準は典型例を抽出する目的で作成されており、非典型例や早期例の診断では無力である。診断のために皮膚生検を行うが、典型的な病理組織像が得られないからといって本症を否定してはならない。診断の際に最も重要な点は、「体細胞モザイクを標的とした自己免疫」という本症の本質的な病態を臨床像から想定できるかどうか、という点である。抗核抗体は陽性例が多く、抗一本鎖DNA抗体が陽性の場合は、多くの症例で抗体価が疾患活動性および関節拘縮と筋病変の重症度と相関し、治療効果を反映して抗体価が下がる。病変の深達度を評価するため、頭部ではCT、MRI、脳波検査、四肢や関節周囲では造影MRIなどの画像検査を行う。頭頸部に病変がある場合は、眼科的・顎歯科的診察が必要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)治療の一般方針は以下の通りである1)。(1)活動性の高い皮疹に対しては、局所療法として副腎皮質ステロイド外用薬・タクロリムス外用薬・光線療法などを行う。(2)皮疹の活動性が関節周囲・小児の四肢・顔面にある場合で、関節拘縮・成長障害・顔面の変形がすでにあるか将来生じる可能性がある場合は、副腎皮質ステロイド薬の内服(成人でプレドニゾロン換算20mg/日、必要に応じてパルス療法や免疫抑制薬を併用)を行う。(3)顔面の変形・四肢の拘縮や変形に対して、皮疹の活動性が消失している場合には形成外科的・整形外科的手術を考慮する。なお、2019年にSHARE(Single Hub and Access point for paediatric Rheumatology in Europe)から小児期発症例のマネージメントに関する16の提言と治療に関する6の提言が発表されている2)。全身療法に関連した重要な4つの提言は以下の通りである。(1)活動性がある炎症期には、ステロイド全身療法が有用である可能性があり、ステロイド開始時にメトトレキサート(MTX)あるいは他の抗リウマチ薬(DMARD)を開始すべきである。(2)活動性があり、変形や機能障害を来す可能性のあるすべての患者はMTX15mg/m2/週(経口あるいは皮下注射)による治療を受けるべきである。(3)許容できる臨床的改善が得られたら、MTXは少なくとも12ヵ月間は減量せずに継続すべきである。(4)重症例、MTX抵抗性、MTXに忍容性のない患者に対して、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)の投与は許容される。わが国の診療ガイドラインにおいても基本的な治療の考え方は同様であり、疾患活動性を抑えるための治療はステロイドおよび免疫抑制薬(外用と内服)が軸となり、活動性のない完成した病変による機能障害や整容的問題に対しては理学療法や美容外科的治療が軸となる。4 今後の展望トシリズマブとアバタセプトについてはpansclerotic morpheaやlinear scleroderma、脳病変やぶどう膜炎を伴う剣創状強皮症など、重症例を中心に症例報告や症例集積研究が蓄積されてきており、有力な新規治療として注目されている3)。ヒドロキシクロロキンについては、メイヨークリニックから1996~2013年に6ヵ月以上投与を受けたLSc患者84例を対象とした後方視的研究の結果が報告されているが、完全寛解が36例(42.9%)、50%以上の部分寛解が32例(38.1%)と良好な結果が得られたとされている(治療効果発現までに要した時間:中央値4.0ヵ月(範囲:1~14ヵ月)、治療効果最大までに要した時間:中央値12.0ヵ月(範囲:3~36ヵ月)、HCQ中止後あるいは減量後の再発率:30.6%)。JAK阻害薬については、トファチニブとバリシチニブが有効であった症例が数例報告されている。いずれも現時点では高いエビデンスはなく、今後質の高いエビデンスが蓄積されることが期待されている。5 主たる診療科皮膚科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター 限局性強皮症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)浅野 善英、ほか. 限局性強皮症診断基準・重症度分類・診療ガイドライン委員会. 限局性強皮症診断基準・重症度分類・診療ガイドライン. 日皮会誌. 2016;126:2039-2067.2)Zulian F, et al. Ann Rheum Dis. 2019;78:1019-1024.3)Ulc E, et al. J Clin Med. 2021;10:4517.4)Kouzak SS, et al. An Bras Dermatol. 2013;88:507-517.公開履歴初回2024年12月12日

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COVID-19罹患で自己免疫・炎症性疾患の長期リスクが上昇

 COVID-19罹患は、さまざまな自己免疫疾患および自己炎症性疾患の長期リスクの上昇と関連していることが、韓国・延世大学校のYeon-Woo Heo氏らによる同国住民を対象とした後ろ向き研究において示された。これまでCOVID-19罹患と自己免疫疾患および自己炎症性疾患との関連を調べた研究はわずかで、これらのほとんどは観察期間が短いものであった。著者は「COVID-19罹患後のリスクを軽減するために、人口統計学的特性、重症度、ワクチン接種状況を考慮しながら、長期的なモニタリングと管理が重要であることが示された」と述べている。JAMA Dermatology誌オンライン版2024年11月6日号掲載の報告。 研究グループは、Korea Disease Control and Prevention Agency-COVID-19-National Health Insurance Service(K-COV-N)コホートを対象に、COVID-19罹患後の長期における自己免疫疾患および自己炎症性疾患のリスクを調べた。対象は、2020年10月8日~2022年12月31日にCOVID-19罹患が確認された住民(COVID-19罹患群)、2018年に一般健康診断を受けた住民(対照群)とした。 主要アウトカムは、COVID-19罹患後の自己免疫疾患および自己炎症性疾患の発症率とリスクとした。逆確率重み付け法を用いて、人口統計学的特性、一般的な健康データ、社会経済的状況、併存疾患などの共変量を調整して解析した。 主な結果は以下のとおり。・観察期間180日超のCOVID-19罹患者314万5,388例、対照376万7,039例の計691万2,427例(男性53.6%、平均年齢53.39[SD 20.13]歳)が解析に含まれた。・COVID-19罹患群でリスクが高かった疾患(調整ハザード比、95%信頼区間)は以下のとおりであった。 円形脱毛症(1.11、1.07~1.15) 全頭脱毛症(1.24、1.09~1.42) 尋常性白斑(1.11、1.04~1.19) ベーチェット病(1.45、1.20~1.74) クローン病(1.35、1.14~1.60) 潰瘍性大腸炎(1.15、1.04~1.28) 関節リウマチ(1.09、1.06~1.12) 全身性エリテマトーデス(1.14、1.01~1.28) シェーグレン症候群(1.13、1.03~1.25) 強直性脊椎炎(1.11、1.02~1.20) 水疱性類天疱瘡(1.62、1.07~2.45)・人口統計学的特性(男性/女性、40歳未満/以上)別のサブグループ解析では、COVID-19罹患による自己免疫疾患および自己炎症性疾患のリスクは、性別や年齢によって異なることが示された。・とくに、ICU入室を要する重症COVID-19罹患、デルタ株優勢期の感染、ワクチン未接種はCOVID-19罹患後の自己免疫疾患および自己炎症性疾患のリスクが高かった。

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第220回 インフルエンザ患者数が前週比2倍以上に増加、年内にも感染ピーク?/厚労省

<先週の動き>1.インフルエンザ患者数が前週比2倍以上に増加、年内にも感染ピーク?/厚労省2.2040年を見据えた新たな地域医療構想、在宅医療強化が必要/厚労省3.移植希望、複数医療機関に登録可能に、体制改革案を公表/厚労省4.医師の働き方改革でガイドラインを改正、時短計画見直しを強化/厚労省5.地方は分娩数減、都市部はコスト増で産科診療所の経営が悪化/日医総研6.担当医が画像診断報告書を見逃し、肺がん診断が1年遅れる医療過誤/神戸大1.インフルエンザ患者数が前週比2倍以上に増加、年内にも感染ピーク?/厚労省インフルエンザの流行が拡大している。厚生労働省によると、11月25日~12月1日の1週間における定点1医療機関当たりの患者報告数は4.86人と、前週の2倍以上に増加した。全国的な流行期に入ってから6週連続の増加で、患者数は2万4,027人に達した。都道府県別では、福岡県が11.43人と最も多く、ついで長野県(9.07人)、千葉県(8.18人)と続いている。専門家は、このペースで患者数が増加すると、年内にも感染のピークを迎える可能性があると指摘している。インフルエンザは、インフルエンザウイルスによる感染症で、発熱、咳、のどの痛み、頭痛、関節痛、筋肉痛などの症状を引き起こす。感染経路は、咳やくしゃみなどの飛沫感染や、ウイルスが付着した手で口や鼻を触ることによる接触感染。厚労省では、手洗い、マスクの着用、咳エチケットなどの感染対策を呼びかけている。また、ワクチンの接種も有効な予防策となる。ワクチンは、接種してから効果が出るまでに約2週間かかるため、流行期前に接種することが推奨されている。参考1)インフルエンザの定点報告数が倍増 感染者数2万人超える(CB news)2)インフルエンザ 感染ピークはいつ?流行期入り後 患者増続く(NHK)2.2040年を見据えた新たな地域医療構想、在宅医療強化が必要/厚労省厚生労働省は、12月6日に「新たな地域医療構想等に関する検討会」を開き、2040年の高齢社会を見据えた新たな地域医療構想案について検討を行った。2040年頃に迎える高齢者人口のピークと医療ニーズの変化に対応するため、入院医療だけでなく在宅医療の強化や医療機関の機能分担を明確化し、地域完結型の医療体制構築を目指す内容となった。2040年には、85歳以上の高齢者が2020年比で42%増加すると予測され、都市部を中心として在宅医療の需要も62%増加する見込みとなっている。新たな構想では、各地域で将来の在宅医療需要を推計し、医療関係者と連携して必要な体制について検討を行っていく。具体的には、医療機関の機能を「急性期拠点機能」「高齢者救急・地域急性期機能」「在宅医療等連携機能」「専門等機能」の4つに分類し、地域での役割分担の明確化を行う。大学病院などには、医師の派遣や医療従事者育成といった広域的な機能を担うことも期待されており、行政は、地域ごとの医療ニーズを踏まえ、医療機関の機能強化を支援する。この構想は、2024年度補正予算案にも反映されており、医療機関の経営支援、医師不足地域への支援、医療DX推進などに1,311億円が計上されている。一方、財政制度等審議会は、医療費総額の伸びを抑制するため、診療報酬の適正化や医師偏在対策などを提言している。医療現場からは、介護ヘルパーなど在宅医療の担い手不足や、診療報酬改定による経営悪化を懸念する声も上がっており、新たな地域医療構想の実現には、医療費抑制と医療提供体制の充実を両立させることが課題となる。今回、討議されなかった医師偏在対策については来週、開催する会議で検討を行い、年末までに関係者の合意を得て、対策パッケージとして取りまとめたい考えだ。参考1)第14回 新たな地域医療構想等に関する検討会(厚労省)2)新たな地域医療構想、取りまとめ案を大筋了承 連携・再編・集約化を28年度までに協議(CB news)3)新「地域医療構想」案を公表 「在宅医療」対応強化など 厚労省(NHK)3.移植希望、複数医療機関に登録可能に、体制改革案を公表/厚労省厚生労働省は12月5日、脳死からの臓器移植の体制を抜本的に見直す改革案をまとめ、有識者委員会に提示した。改革案では、提供者(ドナー)家族への対応や移植希望者の選定、臓器搬送の調整など、これまで日本臓器移植ネットワーク(JOT)に集中していた業務を分割し、あっせん機関を複数化する。具体的には、ドナー家族への対応は地域ごとに新設する法人に移管し、JOTは移植希望者の選定や臓器搬送の調整などに専念する。また、移植希望者が登録できる医療機関を、現在の原則1ヵ所から複数ヵ所に拡大する。これにより、第1希望の医療機関が受け入れを断念した場合でも、他の医療機関で移植を受けられる可能性が高まる。さらに、知的障害などで意思表示が困難な人からの臓器提供についても、本人の意思を丁寧に推定した上で判断できるようにガイドラインを見直す予定。この改革案は、JOTの業務多忙化や人員不足による対応の遅れ、移植実施病院の受け入れ体制不足など、現在の臓器移植体制が抱える課題を解決することを目指している。厚労省は、今後、パブリックコメントなどを経てガイドラインを改正し、新たな体制を構築していく方針。参考1)第70回 厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会(厚労省)2)厚生労働省 脳死からの臓器移植 実施体制の大幅な見直し案示す(NHK)3)臓器あっせん、複数機関で 厚労省改革案 移植増狙い負担軽減(日経新聞)4)移植医療体制の抜本見直し案、厚労省臓器移植委が了承…移植希望者の複数施設登録を可能に(読売新聞)4.医師の働き方改革でガイドライン改正、時短計画見直しを強化/厚労省厚生労働省は、医師の労働時間短縮計画作成ガイドラインを一部改正し、11月28日に都道府県などに通知した。改正のポイントは、計画の年度途中における「年度暫定評価」と次年度開始後に行う「年度最終評価」の2段階評価を導入し、よりきめ細かく計画を見直すことができるようにした。今回の改正は、「医師の働き方改革を推進するための医療法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第49号)に基づくもの。同法では、時間外や休日の労働時間が年960時間を超え、特例水準を適用する医師が勤務する医療機関などに、医師の労働時間短縮計画の作成を義務付けている。ガイドラインでは、計画期間について5年を超えない範囲で設定することとし、4月を計画の開始月とした場合を例に、毎年の見直し方法を解説している。初年度は、第3四半期頃に「年度暫定評価」を実施し、計画の対象となる医師の時間外・休日労働時間数や、タスク・シフト/シェアによる労働時間の短縮に向けた取り組みについて実績を確認する。確認期間は4月からおおむね6~8ヵ月間とした。その結果に基づき、第4四半期頃に計画見直しを検討し、年度末までに2年目の計画の変更を行う。2年目以降は、前年度全体の「年度最終評価」を第1四半期頃に実施し、「年度暫定評価」と同様に実績を確認する。その結果に基づき、2年目の計画の見直しが必要かどうかを検討し、計画を見直す場合は6月末日までに計画の変更を行う。一連の見直しは毎年行い、特定労務管理対象機関は時間外・休日労働時間の実績などを記入する参考資料とともに計画を都道府県に提出する。それ以外の医療機関は医療機関等情報支援システム「G-MIS」に登録する。厚労省は、今回のガイドライン改正により、医療機関における医師の労働時間短縮に向けた取り組みが、より効果的に推進されることを期待している。参考1)医師労働時間短縮計画作成ガイドラインの一部改正について(厚労省2)医師の時短計画、2段階評価で毎年見直し タスクシフト・シェアの状況も確認 厚労省(CB news)5.地方は分娩数減、都市部はコスト増で産科診療所の経営が悪化/日医総研日本医師会総合政策研究機構は、全国の産科診療所の経営状況などを把握するため、9月にアンケート調査を実施した。その結果をワーキングペーパーとしてまとめ公表した。これによると、2023年度の産科診療所の経常利益率は3.0%で、前年度から0.4ポイント悪化し、赤字診療所の割合は42.4%と、前年度から0.5ポイント拡大したことが明らかとなった。調査は、日本産婦人科医会の会員の産婦人科と産科の診療所1,000ヵ所を対象に、ウェブ形式と紙の調査票で実施された。有効回答は449ヵ所(有効回答率44.9%)で、このうち医療法人の産科診療所は191ヵ所だった。2023年度の経常利益率を地域別にみると、大都市は2.9%、中都市は3.0%、小都市・町村は3.0%だった。前年度に比べ、中都市では1.1ポイント上昇したが、小都市・町村で2.8ポイント、大都市では1.5ポイント悪化した。都市部では物価高騰と賃上げなどによるコストの増加が経営悪化につながり、地方では分娩数の減少が経営を圧迫している現状が浮き彫りになった。回答施設の病床利用率は、平均5割を切っており、入院患者数が減少していることがわかる。しかし、24時間対応の医療スタッフを維持する必要があるため、人件費の削減が難しく、経営悪化に拍車をかけている。日医総研は、こうした状況が続けば、医療スタッフを維持するのが困難になり、分娩の取り扱いを止めざるを得ない診療所が増えるとして、国による支援を呼びかけている。参考1)産科診療所の特別調査(日医総研)2)産科診療所の4割超が経常赤字 日医総研 医業利益率は悪化(CB news)6.担当医が画像診断報告書を見逃し、肺がん診断が1年遅れる医療過誤/神戸大神戸大学医学部附属病院は12月6日、医師2人が患者のCT画像診断報告書に記載された肺がんの疑いを見落とし、診断が約1年遅れる医療過誤があったと発表した。患者は70代の女性で、2016年から心臓血管疾患の経過観察のため、同病院で定期的にCT検査を受けていた。2022年10月のCT検査で放射線科医が肺がんの疑いを指摘したが、当時の担当医は報告書の内容を確認しなかった。翌2023年10月にも同様の指摘がされたが、別の担当医もまた見落としていた。同年10月中旬、患者のかかりつけ医が診断報告書を確認し、肺がんの疑いに気付き、同病院の呼吸器内科に紹介したことで、肺がんの診断が確定した。しかし、発見時にはすでに進行がんの状態であり、完治が難しい状態になっていた。同病院は、早期に発見できていれば手術などの治療が可能だった可能性が高いことを認め、「患者とご家族に多大な苦痛をおかけしたことを反省し、謝罪申し上げる」と発表した。再発防止策として、同病院では、報告書の見落としを防ぐシステムの活用や、診療科ごとに診断リポートの重大な指摘を見逃さないよう確認する責任者を置くなどの対策を講じるとしている。参考1)画像診断レポートの確認不足による肺癌の確定診断及び治療の遅延について(神戸大)2)神戸大付属病院で医療ミス、肺がん疑いの患者CT検査結果の確認怠る…発見遅れ完治困難に(読売新聞)3)神戸大病院 肺がん疑いのCT画像報告書を主治医が見落とし 1年放置し「重大な影響」(神戸新聞)4)神戸大病院で肺がんの診断遅れるミス 疑い指摘を担当医2人が見逃す(朝日新聞)

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麻疹ワクチン、接種率の世界的な低下により罹患者が増加

 麻疹ワクチン接種率の低下により、2022年から2023年にかけて、世界中で麻疹罹患者が20%増加し、2023年には1030万人以上がこの予防可能な病気を発症したことが、世界保健機関(WHO)と米疾病対策センター(CDC)が共同で実施した研究により明らかになった。この研究の詳細は、「Morbidity and Mortality Weekly Report」11月14日号に掲載された。 CDC所長のMandy Cohen氏は、「麻疹罹患者が世界中で増加しており、人命と健康が危険にさらされている。麻疹ワクチンはウイルスに対する最善の予防策であり、ワクチン接種の普及拡大に向けた取り組みに引き続き投資する必要がある」とCDCのニュースリリースで述べている。 一方、WHOのテドロス事務局長(Tedros Adhanom Ghebreyesus)は、「麻疹ワクチンは過去50年間で、他のどのワクチンよりも多くの命を救ってきた。さらに多くの命を救い、この致死的なウイルスが最も影響を受けやすい人に害を及ぼすのを阻止するためには、居住地を問わず、全ての人がワクチンを接種できるように投資しなければならない」と話している。 WHOとCDCによると、2023年には2220万人の子どもが2回接種の麻疹ワクチンの1回目さえ受けていなかったという。これは、2022年から2%(47万2,000人)の増加であった。2023年の世界全体での子どもの麻疹ワクチンの1回目接種率は83%であったが、2回目を接種したのはわずか74%であった。保健当局は、麻疹のアウトブレイクを防ぐために、麻疹ワクチン接種率を95%以上に維持することを推奨している。また、CDCは、麻疹ウイルスに感染した人がウイルスに対する免疫を保持していない場合、周囲の人の最大90%にウイルスが広がる可能性があるとしている。 麻疹のアウトブレイクが報告された国は、2022年の36カ国から2023年には58%増加の57カ国となった。57カ国中27カ国(47%)はアフリカであった。2023年の麻疹罹患者(1034万1,000人)は、2000年(3694万人)と比べると72%減少していたが、2022年(罹患者864万5,000人)からは20%増加していた。一方、麻疹による2023年の死者数(10万7,500人、主に5歳未満)は、2020年(死亡者80万人)からは87%、2022年(11万6,800人)からは8%減少していた。WHOとCDCは、2022年と比べて2023年に死亡者がわずかに減少したのは、子どもが麻疹に罹患しても、医療環境が整っていて死亡する可能性が低い地域で最大の感染拡大が起きたことが主な理由だと述べている。CDCによると、米国では、2024年の11月21日時点で、すでに31州とワシントンDCで麻疹のアウトブレイクが16回発生し、280症例が報告されている。2023年には、わずか4回のアウトブレイクしか発生していなかった。 麻疹の症状には、高熱、咳、結膜炎、鼻水、口内の白い斑点(コプリック斑)、頭からつま先まで広がる発疹などがある。WHOは、乳幼児は肺炎や脳の腫れなど、麻疹による重篤な合併症のリスクが最も高いとしている。なお、麻疹のワクチン接種率は、新型コロナウイルス感染症パンデミック中に世界的に低下し、2008年以来最低の水準に達した。

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ワクチン同時接種、RSV+インフルエンザ/新型コロナの有効性は?

 高齢者における呼吸器疾患、とくにRSウイルス(RSV)、インフルエンザ、新型コロナ感染症は重症化リスクが高く、予防の重要性が増している。mRNA技術を用いたRSVワクチンとインフルエンザワクチン(4価)または新型コロナワクチンの同時接種の安全性と免疫原性を評価した研究結果が、The Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2024年11月25日号に掲載された。 本研究は、50歳以上の健康な成人を対象とし、2部構成でそれぞれ下記の3群に分けて接種した。主要評価項目は同時接種群の単独接種群に対するRSVの免疫反応(Geometric Mean Ratio:GMRの95%信頼区間[CI]>0.667、血清反応率の差の95%CI>-10%)と安全性の非劣性だった。【パートA】2022年4月1日~6月9日:1,623例1)RSVワクチン(mRNA-1345:モデルナ)+インフルエンザワクチン(4価):685例(42%)2)RSVワクチン+プラセボ:249例(15%)3)インフルエンザワクチン+プラセボ:689例(42%)【パートB】2022年7月27日~9月28日:1,681例1)RSVワクチン+新型コロナワクチン(mRNA-1273.214:モデルナ):564例(34%)2)RSVワクチン+プラセボ:558例(33%)3)新型コロナワクチン+プラセボ:559例(33%) 主な結果は以下のとおり。・【パートA】RSV-Aに対する抗体価の比較では、併用群の単独群に対するGMRは0.81(95%CI:0.67~0.97)、血清反応率の差は-11.2%(95%CI:-17.9~-4.1)であった。・【パートB】RSV-A に対する抗体価の比較では、併用群の単独群に対するGMRは0.80(95%CI:0.70~0.90)、血清反応率の差は-4.4%(95%CI:-9.9~1.0)であった。・同時接種の安全性プロファイルは、単独接種の場合とおおむね一致した。・接種後7日以内の局所反応(注射部位の痛みなど)や全身反応(倦怠感、頭痛など)は軽度から中等度が大半だった。深刻な副反応や接種に関連した死亡例は報告されなかった。 研究者らは「RSVワクチン+インフルエンザワクチン、またはRSVワクチン+新型コロナワクチンの同時接種は、50歳以上の成人において、各ワクチンの単独接種と比較して許容できる安全性プロファイルを示し、ほとんどの場合で免疫反応は非劣性だった。ただし、RSVワクチン+インフルエンザワクチンにおける血清反応率の差は、非劣性の基準を満たさなかった。全体として、これらのデータは、この集団における同時接種を支持するものであり、本研究の継続でより長期の評価がされる」とした。

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トリプルネガティブ乳がんの治療にDNAワクチンが有望か

 悪性度が高く、治療も困難なトリプルネガティブ乳がんの女性に新たな希望をもたらす可能性のある、DNAワクチンに関する第1相臨床試験の結果が報告された。ワクチンを接種した18人の患者のうち16人が、接種から3年後もがんを再発していないことが確認されたという。米ワシントン大学医学部外科分野教授のWilliam Gillanders氏らによるこの研究の詳細は、「Genome Medicine」に11月14日掲載された。 トリプルネガティブ乳がんは、他のタイプの乳がんの典型的な原因である、ホルモン受容体(エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体)とHER2(ヒト上皮成長因子受容体2)がいずれも陰性であるため、これらの受容体を標的にした治療法が効かない。そのため、手術、化学療法、放射線療法などで対処するより他ないのが現状である。全米乳がん財団によると、米国で発生する乳がんの約10〜15%はトリプルネガティブ乳がんであるという。 今回の試験は、補助化学療法後もがんが残存している非転移性トリプルネガティブ乳がん患者18人を対象に実施された。このような患者は、がんを外科的に切除した後も再発リスクが高いという。研究グループは、患者のがん細胞と健康な組織を比較・分析し、それぞれの患者のがんに特有の遺伝子変異を特定した。このような遺伝子変異により、がん細胞では変異したタンパク質(ネオアンチゲン)が生成される。ネオアンチゲンは、免疫系によって異物として認識されるため、健康な組織に影響を与えることなく、変化したタンパク質のみを認識して攻撃するように免疫系を訓練できる可能性がある。 研究グループは、自分たちで設計したソフトウェアを用いて、患者のがん細胞内で生成され、強力な免疫反応を引き起こす可能性が最も高いと目されるネオアンチゲンを選び出し、その情報(設計図)をDNAワクチンの中に組み込んだ。対象者のそれぞれのワクチンには、平均11個(最小4個から最大20個)のネオアンチゲンの情報が含まれていた。対象者は、1回4mgのDNAワクチンを計3回(1日目、29±7日目、57±7日目)接種した。 その結果、ワクチン接種後に生じた有害事象は比較的少なく、認容性は良好であることが示された。また、Enzyme-Linked ImmunoSpot(ELISpot)アッセイおよびフローサイトメトリーによる測定の結果、18人中14人でネオアンチゲン特異的T細胞応答が誘導されたことが確認された。中央値36カ月間の追跡期間における対象者の無再発生存率は87.5%(95%信頼区間72.7〜100%)であった。 Gillanders氏は、「この試験の結果は予想以上に良かった」と話す。研究グループが、標準治療のみで治療されたトリプルネガティブ乳がん患者の過去のデータを分析したところ、治療から3年後も無再発で生存していた患者の割合は約半数と推測されたという。同氏は、「われわれは、このネオアンチゲンワクチンの可能性に興奮している。この種のワクチン技術をより多くの患者に提供し、悪性度の高いがんに罹患した患者の治療成績の向上に貢献できることを期待している」と話している。 ただし、研究グループは、今後はより大規模な臨床試験でこのワクチンの有効性を証明する必要があると述べている。Gillanders氏は、「この種の分析に限界があることは承知している。しかし、われわれはこのワクチン戦略を追求し続けており、標準治療とワクチン接種による併用療法と標準治療のみの場合の有効性を直接比較するランダム化比較試験を現在も行っている最中だ。現時点では、併用療法に割り当てられた患者で確認されている結果に勇気付けられている」と述べている。

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HBV母子感染予防、出生時HBIG非投与でもテノホビル早期開始が有効か/JAMA

 B型肝炎ウイルス(HBV)の母子感染は新規感染の主要な経路であり、標準治療として母親への妊娠28週目からのテノホビル ジソプロキシルフマル酸塩(TDF)投与開始と、新生児への出生時のHBVワクチン接種およびHBV免疫グロブリン(HBIG)投与が行われるが、医療資源が限られた地域ではHBIGの入手が困難だという。中国・広州医科大学のCalvin Q. Pan氏らは、妊娠16週からのTDF投与とHBVワクチン接種(HBIG非投与)は標準治療に対し、母子感染に関して非劣性であることを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年11月14日号で報告された。中国の無作為化非劣性試験 研究グループは、妊婦へのTDF早期投与開始と新生児への出生時HBIG投与省略がHBVの母子感染に及ぼす影響の評価を目的とする非盲検無作為化非劣性試験を行い、2018年6月~2021年2月に中国の7施設で参加者を募集した(John C. Martin Foundationの助成を受けた)。 年齢20~35歳、HBe抗原陽性の慢性B型肝炎でHBV DNA値>20万IU/mLの妊婦280例(平均年齢28[SD 3.1]歳、平均妊娠週数16週、HBV DNA値中央値8.23[7.98~8.23]log10 IU/mL)を登録した。 これらの妊婦を、妊娠16週目から出産までTDF(VIREAD[Gilead Sciences製]、300mg/日)を投与する群(実験群)に140例、妊娠28週目から出産までTDFを投与する群(標準治療群)に140例を無作為に割り付けた。すべての新生児は生後12時間以内にHBVワクチンの接種を受け、1ヵ月および6ヵ月後に追加接種を受けた。加えて、標準治療群の新生児のみ、出生時にHBIG(100 IU)を投与された。 主要アウトカムは母子感染とし、生後28週時の乳児における20 IU/mL以上の検出可能なHBV DNA値またはHBs抗原陽性の場合と定義した。母子感染率が、標準治療群と比較して実験群で3%以上増加しなかった場合に非劣性と判定することとし、90%信頼区間(CI)の上限値で評価した。ITT集団、PP集団とも非劣性基準を満たす 全生産児273例(ITT集団)における母子感染率は、実験群が0.76%(1/131例)、標準治療群は0%(0/142例)であった。また、per-protocol(PP)集団の生産児(プロトコールの非順守がなく28週時点のデータが入手できた)265例の母子感染率は、それぞれ0%(0/124例)および0%(0/141例)だった。 母子感染率の群間差は、ITT集団で0.76%(両側90%CIの上限値1.74%)、PP集団で0%(1.43%)と、いずれも非劣性の基準を満たした。 また、母親における分娩時のHBV DNA値<20万IU/mLの達成率は、実験群で有意に高かった(99.2%[130/131例]vs.94.2%[130/138例]、群間差:5%、両側95%CI:0.1~10.0、p=0.02)。 先天異常/奇形は、実験群で2.3%(3/131例)、標準治療群で6.3%(9/142例)に発生した(群間差:4%、両側95%CI:-8.8~0.7)。忍容性は全般的に良好 母親へのTDF治療は全般的に忍容性が高く、投与中止は吐き気による1例(0.36%)のみであった。コホート全体で最も頻度の高かった有害事象として、母親のALT値上昇が25%(実験群23.6% vs.標準治療群26.4%)、上気道感染症が14.6%(11.4% vs.17.8%)、嘔吐が12.9%(16.4% vs.9.3%)で発生した。 実験群では、妊娠中絶1件(ファロー四徴症)、胎児死亡4件(流産1件、死産3件)を認めた。新生児におけるグレード3/4の有害事象の頻度は両群で同程度だった。 著者は、「これらの結果は、とくにHBIGを使用できない地域では、HBV母子感染の予防において、妊娠16週目から妊婦へのTDFを開始し、新生児へのHBVワクチン接種を併用する方法を支持するものである」「新生児へのHBIG使用を最小限に抑えるための母親へのTDF療法の最適な期間はいまだ不明である」としている。

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