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帯状疱疹ワクチンは心血管イベントリスクを低下させる?

 帯状疱疹ワクチンは、痛みを伴う皮膚感染症を予防するだけでなく、心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントのリスクも低下させる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。帯状疱疹ワクチンのシングリックスを製造販売するグラクソ・スミスクライン(GSK)社のワクチン担当グローバル・メディカル・アフェアーズ・アソシエイト・メディカル・ディレクターのCharles Williams氏らによるこの研究結果は、欧州心臓病学会年次総会(ESC Congress 2025、8月29日~9月1日、スペイン・マドリード)で発表された。 帯状疱疹は水痘(水ぼうそう)を引き起こす水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化によって引き起こされる。水痘に罹患すると、治癒後もウイルスが神経系に潜伏し続け、加齢に伴い免疫力が低下すると、ウイルスが再活性化して帯状疱疹を引き起こすことがある。研究グループによると、水痘罹患経験者の約3人に1人は、ワクチンを接種しなければ帯状疱疹を発症する可能性があるという。米疾病対策センター(CDC)は、50歳以上の人に対して帯状疱疹ワクチンの接種を推奨しているほか、免疫不全状態にある19歳以上の人にも接種を推奨している。さらに研究グループによると、帯状疱疹の発症は心筋梗塞リスクを高める可能性や、ウイルスが頭部の大小の血管に侵入して脳卒中リスクを高める可能性も示唆されているという。 今回の研究でWilliams氏らは、帯状疱疹ワクチン(乾燥組換え帯状疱疹ワクチン、生弱毒化帯状疱疹ワクチン)の心血管イベントに対する効果を検討した研究を検索し、基準を満たした9件(観察研究8件、ランダム化比較試験1件)のデータを統合してメタアナリシスを実施した。9件の研究の参加者は男性が53.3%を占め、平均年齢は53.6~74歳だった。 その結果、帯状疱疹ワクチンを接種した群では未接種の群に比べて、心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントの発生リスクが有意に低下することが明らかになった。リスク低下の大きさは、18歳以上の人では18%、50歳以上の人では16%であった。 これらの結果からWilliams氏は、「現時点で入手可能なエビデンスを検討した結果、帯状疱疹ワクチンの接種は心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントのリスク低下と関連していることが分かった」と述べている。ただし研究グループは、対象とした9件の研究のうち8件は観察研究であるため、本研究によりワクチン接種と心血管イベントの発生リスク低下との間に因果関係があることを証明することはできないと指摘している。 さらにWilliams氏は、「メタアナリシスに用いられた研究は全て、一般集団における帯状疱疹予防の手段としてのワクチンの効果を調べることを目的としたものである。それゆえ、今回の結果を、心血管イベントリスクが高い集団に一般化するには限界がある可能性がある。これは、帯状疱疹ワクチンの接種と心血管イベントとの関連を検討するためのさらなる研究が必要であることを意味する」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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RSウイルスワクチンの1回接種は高齢者を2シーズン連続で守る

 米国では、60歳以上の人に対するRSウイルス感染症を予防するワクチン(RSウイルスワクチン)が2023年より接種可能となった。米疾病対策センター(CDC)は、75歳以上の全ての人と、RSウイルス感染症の重症化リスクがある60〜74歳の人は1回接種を推奨している。このほど新たな研究で、高齢者はRSウイルスワクチンの1回接種により2シーズン連続でRSウイルス関連の入院を予防できる可能性のあることが示された。米ヴァンダービルト大学医療センターのWesley Self氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に8月30日掲載された。 Self氏は、「これらの結果は、RSウイルスワクチンにより高齢者のRSウイルス感染による入院や重症化を予防できることを明確に示している。この新しいワクチン接種プログラムが公衆衛生に有益であることを目の当たりにするのは本当に喜ばしいことだ」と話している。 研究グループによると、RSウイルス感染症は秋から冬にかけて60歳以上の高齢者に深刻な影響を及ぼし、毎年15万人が入院、8,000人が死亡しているという。Self氏らは今回、2023年10月1日~2024年3月31日、または2024年10月1日~2025年4月30日のRSウイルス流行期に急性呼吸器疾患により米国20州の26病院に入院した60歳以上の人6,958人(年齢中央値72歳、女性50.8%)を対象に、RSウイルス関連の入院に対するワクチンの有効性を検討した。対象者のうち、821人(11.8%)はRSウイルス感染症症例(症例群)、6,137人が対照群とされた。また、1,829人(26.3%)は免疫抑制状態にあった。 RSウイルスワクチンを接種していたのは、症例群で63人(7.7%)、対照群で966人(15.7%)だった。2シーズンを合わせたワクチンの有効性は58%と推定された。また、RSウイルス感染症の発症と同じシーズンに接種した場合のワクチンの有効性は69%、前シーズンに接種した場合の有効性は48%であったが、この差は統計学的に有意ではなかった(P=0.06)。さらに、2シーズンを合わせたワクチンの有効性は、免疫抑制状態にない群で67%であったのに対し、免疫抑制状態にある群では30%と有意に低かった。同様に、非心血管疾患患者でのワクチン有効性は80%であったのに対し、心血管疾患を有する群では56%と有意に低かった。 Self氏は、「われわれのデータは、RSウイルスワクチンの有益な効果は時間の経過とともに弱まる傾向があることを示している」とヴァンダービルド大学のニュースリリースで述べている。 CDCのウェブサイトには、「すでに1回接種を受けた人(昨年を含む)はワクチン接種を完了と見なされ、現時点で追加の接種を受ける必要はない」と記載されている。Self氏は、「本研究結果は、ガイドラインの見直しが必要である可能性があることを示している。初回接種後、一定の間隔を置いてワクチンを再接種することは、より長期間にわたりRSウイルスに対する予防効果を維持するための戦略となり得る」と述べている。その上で同氏は、「単回接種後の効果の持続期間や再接種の必要性について理解するために、ワクチンの有効性を今後も綿密にモニタリングしていくことが重要だろう」との見方を示している。

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ChatGPTでPubMedの英語論文検索!【タイパ時代のAI英語革命】第7回

ChatGPTでPubMedの英語論文検索!今回は、ChatGPTを活用した具体的な方法を解説します。正しく使えば、ChatGPTは非常に強力なツールになります。ただし、ChatGPT単体では正確な文献情報を直接取得できないことも多いため、論文検索ツールとの連携が重要です。今回は、世界で最も広く利用されている論文検索ツール「PubMed」とChatGPTの連携方法について、具体的にご紹介します。1. まずは「自分の疑問」を検索可能な英語に変換しようPubMedなど英語ベースのデータベースで論文を検索するには、まず検索したいテーマを英語に変換する必要があります。ChatGPTを使うと、自然な医学英語表現を提案してくれます。ここでは「高齢者とインフルエンザのワクチン」というテーマを例に、手順を説明していきましょう。まず、ChatGPTに以下のように日本語で入力します。プロンプト例「高齢者におけるインフルエンザワクチンの効果」を、医学論文で使用されるような英語のタイトルにしてください。 このとき、プロンプトに「医学論文で使用されるような」という一言を入れておくのがポイントです。最終的には、この変換された英語を基にPubMedで検索を行うことになるため、「どのような英語表現を使うか」が非常に重要です。たとえば、「ワクチン」は日常英語ではshotと表現されることもありますが、医学英語としてはvaccinationが適切です。英語の医学論文においては、間違いなくvaccinationが使われているため、こうした医療英語に変換しておくステップが不可欠です。こうした違いを考慮しながらチャットボックスに入力すると、ChatGPTが“Efficacy of influenza vaccination in elderly patients”といったように提案してくれます。訳は少し異なる場合がありますが、これはAIのStochastic Generation(第1回参照)の原理に基づくものなので問題ありません。これで最初のステップは完了です。2. ChatGPTの「GPT」機能を使いこなそう!ChatGPTは非常に賢くはありますが、あくまで過去のデータからパターンを推測することで回答を出すという手法を取るため、「事実」を検索するような分野は苦手です。以前の章 でも説明したハルシネーションのリスクが高い確率で付きまといます。ハルシネーションとは、AIがでっち上げで、存在しないものを作り出してしまうことでしたね。したがって、確実で正確な論文を得るには、あくまでも「PubMedとの連携に対応した」専用のChatGPTを利用することが重要です。ここでご紹介したいのが「カスタムGPT(マイGPT)」という機能です。「カスタムGPT」は、ChatGPT Plus(有料版)ユーザーが使える機能です(無料版は一部機能のみ利用可)。でも、心配要りません。これから紹介する機能は無料版ユーザーも使えます。まずは有料版における「カスタムGPT」の簡単な説明をすると、プロンプトが事前に組み込まれた、自分好みのChatGPTを作り出すことができる機能です。簡単な例を挙げましょう。ChatGPT画面の左メニューにある「GPT」をクリック し、その先の右上の「+作成する」を選び、画面の指示に従って、「指示」の部分にプロンプトを入力します。「医学論文で使用されるような英語のタイトルにします」というプロンプトを事前に設定し、それを「カスタムGPT」として保存しておけば、作成後いつでも呼び出すことができます。この「カスタムGPT」を呼び出せば、最初の画面で「高齢者におけるインフルエンザワクチンの効果」と打つだけで、英語に変換してくれるツールとして使えるようになります。ただ、今回その作成は行わず、もっと簡単な方法を使います。この機能のすごいところは、過去に誰かがプロンプトを作成してある「カスタムGPT」を、そのまま自分のChatGPT内で使うことができる点です。そして、こちらは無料版ユーザーも使用できます。3. GPTでPubMed Buddyを読み込む「GPT」をクリックした後の画面は、このようになっているかと思います。画像を拡大するこの「GPTを検索する」という中央の検索窓から、誰かが過去に作って共有している「マイGPT」を探すことができます。私がいろいろ使用した中で信頼できるGPTの1つ、「PubMed Buddy」というカスタムGPTを紹介します。検索画面で「PubMed Buddy」と入力してみてください。画像を拡大するいくつか似たGPTが出てくるかもしれませんが、こんなロゴのGPTが表示されていればOKです。そして、「チャットを開始する」というボタンをクリックすれば、設定完了です!このチャット画面内で、1回チャットを投稿すると、自分のChatGPTアカウントの左側に「PubMed Buddy」が追加されます。これをクリックすることで、今後いつでもすぐに「PubMed Buddy」を呼び出すことができます。4. PubMed Buddyの使い方「PubMed Buddy」は、PubMedの論文検索に特化したGPTで、PubMedのデータベースと連携し、実際の検索結果をChatGPT内で提示してくれる優れたツールです。ただ、これはSamuelさんという個人がプロンプトを作って一般公開している「カスタムGPT」ですので、検索結果の最終的な判断は自己責任でお願いします。「PubMed Buddy」はテーマを英語で入力すると、リアルなPubMedの検索結果を要約して提示してくれます。先ほど作った英語のテーマ「高齢者のインフルエンザワクチン」を入力してみましょう。Efficacy of influenza vaccination in elderly patientsこれをチャットに入力すると、次のような形式のメッセージが表示されます:To find the most relevant articles on the efficacy of influenza vaccination in elderly patients, I'll begin by searching PubMed sorted by relevance.Before I start, would you like to apply any of the following filters?Article type: Review, Clinical Trial, Meta-analysis, etc.Date range: e.g., last 5 years, last 10 years, custom rangeSpecific population: e.g., nursing home residents, immunocompromised elderlyOther preferences: Open Access only, human studies, etc.Let me know your preferences, or I can proceed with a general search.これは英語で「さらに検索を絞りますか?」と提案してくれている状態です(GPTによる生成なので、文章は毎回少し変わります)。探したい論文をここからさらに絞りたい場合は、指示に従って論文の種類や発表年などをチャット欄に追加しましょう。例:Clinical Trial, last 10 yearsとくに絞る必要がないという方は、ここで「no」や「no preference」と入力すればOKです。その後、続行を確認する画面が出てきますので、「許可する」をクリックすれば完了です。関連する論文のPubMedのID(PMID)が一気に表示されます。この「PMID:XXXXXXXX」をコピペしてウェブ検索にかけるか、リンクが出ている場合はクリックすれば直接PubMedの論文ページへアクセスできます。いかがでしたでしょうか?最初の設定が少し面倒だと感じる方もいるかもしれませんが、一度設定してしまえば、ChatGPTを開くたびに左側にPubMed Buddyが表示され、クリックするだけですぐに検索を始められるようになります!5. PubMed検索式(Boolean検索式)をChatGPTに作らせるそうはいっても、「使い慣れているし、直接PubMedから検索したい」というあなたへ。ChatGPTを利用すれば、PubMed検索に最適な構造化検索式である「Boolean検索式」を生成することができます。過去にレビュー論文などを書いたことがある方はご存じかと思いますが、PubMedのトップページには「Advanced」というタブがあり、これをクリックすることで、「AND」や「OR」といった演算子とキーワードを組み合わせた、より詳細な論文検索を行うことができます。これがいわゆる「Boolean検索」と呼ばれる方法です。画像を拡大するレビュー論文によっては、この検索方法自体を論文内に記載する必要があります。この検索式を作成するのは意外と複雑で、突き詰めるとかなり専門的な知識が必要になってきます。そこで、この検索式をChatGPTに作ってもらいましょう。まずは、1)の手順に従い、検索したいテーマを英語に変換します。Efficacy of influenza vaccination in elderly patients次に、ChatGPTに以下のように依頼します。これらのキーワードを基に、PubMed用のBoolean検索式を作成してください。すると、以下のような詳細検索式が出てきます:("influenza vaccines"[MeSH Terms] OR "influenza vaccine"[All Fields]) AND (efficacy[All Fields] OR effectiveness[All Fields]) AND ("aged"[MeSH Terms] OR elderly[All Fields] OR "older adults"[All Fields] OR "older people"[All Fields])このような検索式をそのままPubMedに貼り付ければ完了です。簡単に、より精度の高い文献検索が可能になります。もちろん、論文などに使用する検索式を作成する際には、必ず自分の目で確認、修正してくださいね。このように、AIを使いこなせば、英語論文の探索は従来よりも格段に簡単かつ効率的に行えるようになります。

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高齢者への高用量インフルワクチン、肺炎などの入院減少せず/NEJM

 インフルエンザの不活化ワクチンでは、標準用量と比較して高用量で優れた感染予防効果が示されているが、重症のアウトカムに対する高用量ワクチンの有効性に関する無作為化試験のデータは十分でないという。デンマーク・コペンハーゲン大学病院のNiklas Dyrby Johansen氏らの研究チームは、高齢者におけるインフルエンザ感染の重症アウトカム(入院)に対する高用量ワクチンの有効性の評価を目的に、実践的なレジストリに基づく非盲検無作為化対照比較試験「DANFLU-2試験」を実施。高齢者への高用量インフルエンザ不活化ワクチン投与は、標準用量と比較してインフルエンザまたは肺炎による入院率を低下させなかったことを報告した。なお、「副次エンドポイントについては決定的な結論は導き出せないものの、高用量ワクチンは、インフルエンザによる入院および心肺系疾患による入院の予防において有益性を示す可能性がある」としている。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年8月30日号で発表された。デンマークの流行期3回の調査 研究グループは、デンマークの直近3回のインフルエンザ流行期(2022~23年、2023~24年、2024~25年)に、年齢65歳以上の高齢者を高用量または標準用量の4価インフルエンザ不活化ワクチンの接種を受ける群に無作為に割り付け、ワクチン接種後14日目から翌年5月31日までに発生したインフルエンザまたは肺炎による入院の割合(主要エンドポイント)を比較した(Sanofiの助成を受けた)。 3回の流行期に合計33万2,438例(平均[±SD]年齢73.7[±5.8]歳、女性16万1,538例[48.6%])を登録し、高用量ワクチン群に16万6,218例、標準用量ワクチン群に16万6,220例を割り付けた。主要エンドポイントに差はない 主要エンドポイントのイベントは、高用量群で1,138例(0.68%)、標準用量群で1,210例(0.73%)に発生し(相対ワクチン有効率[(1−相対リスク)×100%]:5.9%、95.2%信頼区間[CI]:-2.1~13.4)、両群間に有意な差を認めなかった(p=0.14)。 また、主要エンドポイントの個別の構成要素を含む5つの副次エンドポイントの結果は次のとおりだった。(1)インフルエンザによる入院:高用量群0.06%vs.標準用量群0.11%、相対ワクチン有効率:43.6%(95.2%CI:27.5~56.3)、(2)肺炎による入院:0.63%vs.0.63%、0.5%(-8.6~8.8)、(3)心肺系疾患による入院:2.25%vs.2.38%、5.7%(1.4~9.9)、(4)あらゆる入院:9.38%vs.9.58%、2.1%(-0.1~4.3)、(5)全死因死亡:0.67%vs.0.66%、-2.5%(-11.6~5.9)。重篤な有害事象は同程度 ワクチン接種後3ヵ月間の安全性評価期間中に観察された重篤な有害事象(入院または死亡)の発生状況は両群で同程度であった。重篤な有害事象は2万5,953件発現し、少なくとも1件の重篤な有害事象を認めたのは高用量群で9,814例(5.91%)、標準用量群で9,804例(5.91%)だった(p=0.95)。このうち盲検下の評価で132件が試験治療関連と判定され、両群間に差を認めなかった(高用量群75件vs.標準用量群57件、p=0.16)。 予期せぬ重篤な有害反応が疑われる事例が高用量群で2件発生した(接種後3日目の抗合成酵素症候群、接種後1日目の心膜炎)。この2例は、同じ日にCOVID-19ワクチンの接種も受けていた。また、安全性評価期間中に682例が死亡したが、試験治療と関連があると判定されたものはなかった。 著者は、「最近の無作為化試験のメタ解析では、標準用量に比べ高用量ワクチンはインフルエンザまたは肺炎による入院を23.5%低下させたと報告されている。この本試験との不一致は、COVID-19の世界的流行以降、呼吸機能検査の増加によりインフルエンザの検出および診断の精度が向上し、試験期間中のインフルエンザによる入院率がCOVID-19流行前に比べほぼ倍増したという事実で説明が可能と考えられる」としている。

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小児の創傷処置【すぐに使える小児診療のヒント】第6回

小児の創傷処置子供は日々、転んだりぶつけたりして小さなけがを繰り返します。診療所で出会う「擦り傷」「切り傷」は一見軽症に見えることもありますが、保護者の不安は強く、処置や家庭での経過観察の仕方について「どう説明すべきか」と迷うことは少なくありません。症例5歳、男児。公園で走って遊んでいたら転倒して前額部に創傷を負ったため、受診。父親「血が出ていてびっくりしたので、とりあえず絆創膏を貼ってきました。消毒したほうがよいでしょうか?」小児の創傷処置の基本1.消毒は不要かつては「まず消毒」というのが常識でした。しかし、アルコールやヨードは殺菌効果を有する一方で、健常な細胞まで障害し、創傷治癒を遅らせることが知られています。NEJMの総説(Singer, 2008)でも一般的な創傷に対して消毒は推奨されておらず、流水による十分な洗浄が最も重要です。2.乾燥ではなく湿潤環境「かさぶたを作って自然に治す」という従来の考え方は、実は治癒を遅らせ、瘢痕も残りやすいことが明らかになっています。湿潤環境を維持すると血管新生やコラーゲン合成が促進され、その結果、上皮化が進み早く治癒します。疼痛が少なく、創面がきれいに治ることも多くの臨床試験で示されています。創面は適切な被覆材で覆い、乾燥させないことが原則です。3.基本的に抗菌薬は不要小さな創傷には必ずしも抗菌薬を投与する必要はありません。むしろ耐性菌リスクや副作用の観点から投与すべきではないとも言えます。ただし、動物咬傷や深い創傷、汚染創では抗菌薬の投与を検討します。また、破傷風リスクの評価も重要です。三種・四種・五種混合ワクチンには、破傷風ワクチンが含まれています。母子手帳を確認してワクチン歴が不明・不十分であれば破傷風トキソイドの接種を考慮します。■破傷風トキソイド・免疫グロブリン製剤の投与基準■破傷風リスクの評価低リスク汚染がなく小さい創傷高リスク土壌や糞便・唾液で汚染されたもの、動物咬傷、熱傷、刺傷、挫滅創、皮膚欠損を伴うものなど縫合や特別な処置が必要な創傷の見分け方「この創は縫合すべきか」は診療の現場で迷いやすいポイントです。以下に、縫合や病院への紹介を考慮すべき目安をまとめます。圧迫しても止血が得られない皮膚の離開を伴う(寄せても傷口が自然に開いてしまう)皮弁や段差を伴う関節に及ぶ深い創、筋膜や脂肪層が露出している顔など整容上重要な部分汚染が強く、十分な洗浄が難しいガラス片や砂利など皮下異物が疑われる爪床損傷基本的に皮下に達する場合は縫合が必要になることが多いです。また処置の「Golden period」の目安は四肢では6~10時間程度、頭皮や顔面では24時間程度とされています。それを超えてはならないというほど厳密なものではありませんが、受傷から時間が経つと縫合が難しくなったり、縫合した場合の感染リスクが上がったりしてしまうため、迷う場合は早めの処置または紹介が望ましいでしょう。一方で、手技として縫合が可能であっても、創が大きい・複雑な形状・強い汚染を伴う場合、縫合が難しい部位(眼瞼、耳介、口唇、陰部など)、体動の抑制が難しく安全に処置できない場合は、より専門的な施設に紹介したほうが安心です。小児では鎮静下での処置が必要となるケースもあり、施設ごとの体制などに応じて判断することが大切です。紹介先については、小児専門病院が近くにない地域では、形成外科医院、または形成外科や救急科を有する総合病院などへの紹介が現実的です。地域の医療資源に応じて適切な連携先を把握しておくことが望まれます。紹介の際には「受傷からの時間」「洗浄の有無」「止血の状態」を伝えると、2次施設での処置が円滑になります。被覆材の種類と使い分け被覆材は「創傷を乾燥させない」ためのものであり、滲出液の量や部位に応じて選ぶことが多いです。保護者には「貼りっぱなしではなく、1日1回は観察し、汚れたり剥がれたりしたら交換してください」と伝えるとよいでしょう。一般的な絆創膏:浅い擦過傷や小切創に。最も身近。乾燥はしやすい。フィルム材(例:オプサイト):滲出液が少ない浅い創に。透明なので観察はしやすい。ハイドロコロイド材(例:デュオアクティブ):滲出液の多い擦過傷や浅い潰瘍に。滲出液を吸収すると親水性ゲルになり、創面に固着せず湿潤環境を維持できる。疼痛も少ない。柔軟なので指尖部や鼻翼など凹凸のある部位にフィットしやすい。アルギネート材(例:カルトスタット)やハイドロファイバー材:滲出液が多い創に。吸収性に優れる。止血効果もある。ガーゼ+ワセリン:固着を防ぐ。ガーゼは非固着性のもの(例:デルマエイド)を使用するとよりよい。冒頭の症例では、まず創部を流水で洗浄しました。創部の離開はなく、擦過傷で縫合の必要性はありませんでした。滲出液が多かったためハイドロコロイド材で被覆し、経過観察を指示しました。四種混合ワクチンの定期接種が完了していたため、破傷風トキソイドも不要と判断しました。保護者への説明の工夫子供がけがをして受診する保護者の多くは、「痛がっていてかわいそう」「この傷はきれいに治るのだろうか」「傷跡が残ってしまわないか」「自分が目を離していたせいではないか」と、不安や自責の気持ちを抱えて来院します。だからこそ、どんなに小さな傷でも傷の状態を的確に評価し、適切なケア方法をわかりやすく伝えることが非常に重要です。説明の際には、保護者を責めるのではなく、まずは「見せに来てくれてありがとうございます」と声をかけることで、安心感を与えることができます。こうした一言が、その後の信頼関係を築く大切なきっかけになるように感じます。まとめ小児の創傷処置において大切なのは、1.消毒ではなく流水洗浄2.乾燥ではなく湿潤環境3.抗菌薬は原則不要、咬傷や汚染創では適応を判断4.処置が必要と考えられる症例はためらわず紹介5.被覆材は創の性状に応じて選択保護者が根拠に基づいたケアを実践できるように説明するとともに、縫合や特殊処置が必要な場合は迅速に紹介する必要があります。子供のけがは日常の中でなかなか避けられない出来事ですが、適切な初期対応と説明によって、子供と保護者双方の安心につなげることができます。次回は、食物蛋白誘発胃腸炎(消化管アレルギー)についてお話します。 1) Singer AJ, et al. N Engl J Med. 2008;359:1037-1046. 2) Junker JP, et al. Adv Wound Care. 2013;2:348-356. 3) Nuutila K, et al. Adv Wound Care. 2021;10:685-698. 4) Trott AT原著. 岡 正二郎監訳. ERでの創処置 縫合・治療のスタンダード 原著第4版. 羊土社;2019. 5) Minnesota Department of Health:Summary Guide to Tetanus Prophylaxis in Routine Wound Management

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ピロリ除菌は全年齢層で有効、国際的なコンセンサス発表/Gut

 台湾・台北で行われた「Taipei Global Consensus II」において、Helicobacter pylori(H. pylori)感染の検査・除菌による胃がん予防戦略に関する国際的な合意文書が公表された。日本を含む12ヵ国・地域(台湾、中国、香港、韓国、日本、タイ、シンガポール、マレーシア、ベトナム、ドイツ、フランス、オーストラリア、米国)の32人の専門家がGRADEシステムを用いてエビデンスを評価し、28のステートメントで80%以上の合意が得られた。この内容はGut誌オンライン版2025年9月5日号に掲載された。 主なステートメントの内容は以下のとおり。H. pylori除菌は全年齢層で有効 H. pyloriは胃がんの主要因であり、除菌により全年齢層で胃がんリスクが減少することが確認された。とくに前がん病変(萎縮性胃炎・腸上皮化生など)が発症する前に除菌することで、最大のリスク低減効果が得られる。また、除菌は消化性潰瘍の治癒促進と再発予防、NSAIDs/アスピリン関連の潰瘍リスク低減にも有効である。家族単位でのアプローチが重要 H. pyloriの感染経路は主に家庭内であり、家族全員を対象とした検査と治療が感染拡大防止と治療効果向上の両面で有効とされた。推奨される検査と治療[検査法]尿素呼気検査、便中抗原測定法を推奨。陽性率が低い地域では血清抗体検査も容認されるが、非血清学的検査で確認が必要。[治療法]抗菌薬耐性率が高い地域では、ビスマス系4剤併用療法(PPIもしくはP-CAB+ビスマス製剤+テトラサイクリン系抗菌薬+ニトロイミダゾール系抗菌薬)が第1選択となる。P-CABを基本とするレジメンも選択肢となる(※日本における初回標準治療は、PPIもしくはPCAB+アモキシシリン+クラリスロマイシンの3剤併用療法)。[除菌確認]全例で再検査による除菌確認が強く推奨される。[内視鏡検査]胃がんリスクが高い、またはアラーム症状を有する感染者には内視鏡検査が推奨される。[安全性と今後の課題]除菌による逆流性食道炎と食道腺がんのリスク増加は認められなかった。一方で、長期的な腸内細菌叢・耐性菌への影響、抗菌薬使用増加による環境負荷などは今後の研究課題とされた。さらにH. pyloriワクチン開発の必要性や、遺伝子研究に基づくリスク層別化戦略の確立も未解決の課題である。結論 本コンセンサスは、・成人のH. pylori感染者全員に除菌を推奨・胃がん予防に有効な戦略として臨床実装を推進を結論とした。今後は最適な検査の時期、長期アウトカム評価、精密なリスク層別化の検証が求められる。

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第280回 コロナ治療薬の今、有効性・後遺症への効果・家庭内感染予防(前編)

INDEXニルマトレルビル/リトナビルモルヌピラビルニルマトレルビルか? モルヌピラビルか?感染症法上の5類移行後、これまでの新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の動向について、その1(第277回)では感染者数、入院者数、死亡者数の観点からまとめ、その2(第278回)では流行ウイルス株とこれに対抗するワクチンの変遷(有効性ではなく規格などの変遷)、その3(第279回)ではワクチンの有効性について比較的大規模に検証された研究を取り上げた。今回は治療薬について、ニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッド)とモルヌピラビル(同:ラゲブリオ)について紹介する。もっとも、漠然と論文のPubMed検索をするのではなく、日本での5類移行後にNature誌、Science誌、Lancet誌、NEJM誌、BMJ誌、JAMA誌とその系列学術誌に掲載され、比較対照群の設定がある研究をベースにした。ニルマトレルビル/リトナビル2024年4月のNEJM誌に掲載されたのが、国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照第II/III相試験「EPIC-SR試験」1)。新型コロナの症状出現から5日以内の18歳以上の成人で、ワクチン接種済みで重症化リスク因子がある「高リスク群」とワクチン未接種または1年以上接種なしでリスク因子がない「標準リスク群」を対象にニルマトレルビル+リトナビルの有効性・安全性をプラセボ対照で比較している。ちなみにこの研究の筆頭著者はファイザーの研究者である。主要評価項目は症状軽快までの期間(28日目まで)、副次評価項目は発症から28日以内の入院・死亡の割合、医療機関受診頻度、ウイルス量のリバウンド、症状再発など。まず両群を合わせたニルマトレルビル/リトナビル群(658例)とプラセボ群(638例)との間で主要評価項目、副次評価項目のいずれも有意差はなし。高リスク群、標準リスク群の層別で介入(ニルマトレルビル/リトナビル投与)の有無による主要評価項目、副次評価項目の評価でもいずれも有意差は認めていない。唯一、高リスク群で有意差はないものの、入院・死亡率がニルマトレルビル/リトナビル群で低い傾向があるくらいだ。実はEPIC-SR試験は、各国でニルマトレルビル/リトナビルの承認根拠となった18歳以上で重症化のリスクが高い外来での新型コロナ軽症・中等症患者を対象にした臨床試験「EPIC-HR試験」の拡大版ともいえる。その意味では、より幅広い患者集団で有効性を示そうとして図らずも“失敗”に終わったとも言える。有効性が示せたEPIC-HR試験と有効性が示せなかったEPIC-SR試験の結果の違いの背景の1つとしては、前者が 2021年7~12月、後者が2021年8月~2022年7月という試験実施時期が考えられる。つまり流行主流株が前者は重症化リスクが高いデルタ株、後者はデルタ株より重症化リスクの低いオミクロン株という違いである。このオミクロン株が流行主流株になってからの研究の1つが、2023年4月にBMJ誌に掲載された米国・VA Saint Louis Health Care Systemのグループによる米国退役軍人省の全国ヘルスケアデータベースを用いた後ろ向き観察研究2)である。最終的な解析対象は2022年1~11月に新型コロナの重症化リスク因子が1つ以上あり、重度腎機能障害や肝疾患の罹患者、新型コロナ陽性が判明した時点で何らかの薬物治療や新型コロナの対症療法が行われていた人を除く新型コロナ感染者25万6,288例。これをニルマトレルビル群(3万1,524例)と対症療法群(22万4,764例)に分け、主要評価項目を新型コロナ陽性確認から30日以内の入院・死亡率として検討している。その結果では、ワクチンの接種状況別に検討した主要評価項目の相対リスクは、未接種群が 0.60(95%信頼区間[CI]:0.50~0.71)、1~2回接種群が0.65(95%CI:0.57~0.74)、ブースター接種群が0.64(95%CI:0.58~0.71)で、いずれもニルマトレルビル/リトナビル群で有意なリスク減少が認められた。また、感染歴別での相対リスクも初回感染群が0.61(95%CI:0.57~0.65)、再感染群が0.74(95%CI:0.63~0.87)でこちらもニルマトレルビル/リトナビル群でリスク減少は有意だった。また、サブグループ解析では、ウイルス株別でも相対リスクを検討しており、BA.1/BA.2優勢期が0.64(95%CI:0.60~0.72)、BA.5優勢期が0.64(95%CI:0.58~0.70)で、この結果でもニルマトレルビル/リトナビル群が有意なリスク減少を示した。一見するとNEJM誌とBMJ誌の結果は相反するとも言えるが、後者のほうは対象が高齢かつ重症化リスク因子があるという点が結果の違いに反映されていると考えることができる。一方、新型コロナを標的とする抗ウイルス薬では、後遺症への効果や家庭内感染予防効果なども検討されていることが少なくない。後遺症への効果についてはLancet Infectious Disease誌に2025年8月掲載されたイェール大学のグループによるプラセボ対照二重盲検比較研究3)、JAMA Internal Medicine誌に2024年6月に掲載されたスタンフォード大学のグループによって行われたプラセボ対照二重盲検比較研究4)の2つがある。研究実施時期と症例数は前者が2023年4月~2024年2月で症例数が100例(ニルマトレルビル/リトナビル群49例、プラセボ/リトナビル群51例)、後者が2022年11月~2023年9月で症例数が155例(ニルマトレルビル/リトナビル群102例、プラセボ/リトナビル群53例)。両研究ともにニルマトレルビルの投与期間は15日間である。前者は18歳以上で新型コロナ感染歴があり、感染後4週間以内に後遺症と見られる症状が確認され、12週間以上持続している患者が対象。主要評価項目はニルマトレルビル/リトナビルあるいはプラセボ/リトナビル投与開始後28日目の米国立衛生研究所開発の身体的健康に関する患者報告アウトカム(PROMIS-29)のベースラインからの変化だったが、両群間に有意差はなかった。後者は18歳以上、体重40kg超で腎機能が保たれ、新型コロナ感染後、疲労感、ブレインフォグ、体の痛み、心血管症状、息切れ、胃腸症状の6症状のうち2つ以上を中等度または重度で呈し、90日以上持続している人が対象となった。主要評価項目は試験開始10週後のこれら6症状のリッカート尺度による評価だったが、こちらも両群間で有意差は認められなかった。家庭内感染予防についてはNEJM誌に2024年7月に掲載されたファイザーの研究者によるプラセボを対照としたニルマトレルビルの5日間投与と10日間投与の第II/III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験5)がある。対象は2021年9月~2022年4月に新型コロナの確定診断を受けた患者の家庭内接触者で、無症状かつ新型コロナ迅速抗原検査陰性の18歳以上の成人。症例数はニルマトレルビル/リトナビル5日群が921例、10日群が917例、プラセボ群(5日間または10日間投与)が898例。主要評価項目は14日以内の症候性新型コロナ感染の発症率で、結果は5日群が2.6%、10日群が2.4%、プラセボ群が3.9%であり、プラセボ群を基準としたリスク減少率は5日群が29.8%(95%CI:-16.7~57.8、p=0.17)、10日群が35.5%(95%CI:-11.5~62.7、p=0.12)でいずれも有意差なし。副次評価項目の無症候性新型コロナ感染の発生率でも同様に有意差はなかった。もっとも、この研究では参加者の約91%がすでに抗体陽性だったことが結果に影響している可能性がある。モルヌピラビルこの薬剤については、最新の研究報告でいうとLancet誌に掲載されたイギリスでのPANORAMIC試験6)の長期追跡結果となる。同試験は非盲検プラットフォームアダプティブ無作為化対照試験で、2021年12月~2022年4月までの期間、すなわちオミクロン株が登場以降、新型コロナに罹患して5日以内の50歳以上あるいは18歳以上で基礎疾患がある人を対象に対症療法に加えモルヌピラビル800mgを1日2回、5日間服用した群(1万2,821例)と対症療法群(1万2,962例)で有効性を比較したものだ。ちなみに対象者のワクチン接種率は99.1%と、まさにリアルワールドデータである。主要評価項目は28日以内の入院・死亡率だが、これは両群間で有意差なし。さらに副次評価項目として罹患から3ヵ月、6ヵ月時点での「自覚的健康状態(0~10点スケール)」「重症症状の有無(中等度以上)」「持続症状(後遺症)」「医療・福祉サービス利用」「就労・学業の欠席」「家庭内の新規感染発生率」「医薬品使用(OTC含む)」「EQ-5D-5L(健康関連QOL)」を調査したが、このうち3ヵ月時点と6ヵ月時点でモルヌピラビル群が有意差をもって上回っていたのはEQ-5D-5Lだけで、あとは3ヵ月時点で就労・学業の欠席と家庭内の新規感染発生率が有意に低いという結果だった。ただ、家庭内新規感染発生率は6ヵ月時点では逆転していることや、そもそもこの評価指標が6ヵ月時点で必要かという問題もある。また、後遺症では有意差はないのにEQ-5D-5Lと就労・学業の欠席率で有意差が出るのも矛盾した結果である。もっと踏み込めば、この副次評価項目での有意差自体がby chanceだったと言えなくもない。一方、前述のBMJ誌に掲載されたニルマトレルビルに関する米国退役軍人省ヘルスケアデータベースを用いた後ろ向き観察研究を行った米国・VA Saint Louis Health Care Systemのグループは同様の研究7)をモルヌピラビルに関しても行っており、同じくBMJ誌に掲載されている。研究が行われたのはオミクロン株が主流の2022年1~9月で、対象者は60歳以上、BMI 30以上、慢性肺疾患、がん、心血管疾患、慢性腎疾患、糖尿病のいずれかを有する高リスク患者。主要評価項目は30日以内の入院・死亡率である。それによるとモルヌピラビル群7,818例、対症療法群7万8,180例での比較では、主要評価項目はモルヌピラビル群が2.7%、対症療法群が3.8%、相対リスクが0.72(95%CI:0.64~0.79)。モルヌピラビル群で有意な入院・死亡率の減少が認められたという結果だった。ちなみにモルヌピラビル投与による有意な入院・死亡低下効果は、ワクチン接種状況別、変異株別(BA.1/BA.2優勢期およびBA.5優勢期)、感染歴別などのサブグループ解析でも一貫していたという。ニルマトレルビルか? モルヌピラビルか?新型コロナでは早期に上市されたこの2つの経口薬について、「いったいどちらがより有効性が高いのか?」という命題が多くの臨床医にあるだろう。承認当時の臨床試験結果だけを見れば、ニルマトレルビルに軍配が上がるが、果たしてどうだろう。実は極めて限定的なのだが、これに答える臨床研究がある。Lancet Infectious Disease誌に2024年1月に掲載されたオックスフォード大学のグループが実施したタイ・バンコクの熱帯医学病院を受診した発症4日未満、酸素飽和度96%以上の18~50歳の軽症例でのニルマトレルビル/リトナビル、モルヌピラビル、対症療法の3群比較試験8)である。実施時期は2022年6月以降でニルマトレルビル/リトナビル群が58例、モルヌピラビル群が65例、対症療法群が84例。主要評価項目はウイルス消失速度(治療開始0~7日)で、この結果ではニルマトレルビル/リトナビル群は対症療法群に比べ、ウイルス消失速度が有意に加速し、モルヌピラビル群はニルマトレルビル/リトナビル群との非劣性比較でモルヌピラビル群が劣性と判定された(非劣性マージンは10%)。さて、今回はまたもやニルマトレルビル/リトナビルとモルヌピラビルで文字数をだいぶ尽くしたため、次回レムデシビル(同:ベクルリー)、エンシトレルビル(同:ゾコーバ)でようやく最後になる。 1) Hammond J, et al. N Engl J Med. 2024;390:1186-1195. 2) Xie Y, et al. BMJ. 2023;381:e073312. 3) Mitsuaki S, et al. Lancet Infect Dis. 2025;25:936-946. 4) Geng LN, et al. JAMA Intern Med. 2024;184:1024-1034. 5) Hammond J, et al. N Engl J Med. 2024;391:224-234. 6) Butler CC, et al. Lancet. 2023;401:281-293. 7) Xie Y, et al. BMJ. 2023;381:e072705. 8) Schilling WHK, et al. 2024;24:36-45.

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60歳以上への2価RSVワクチン、RSV関連呼吸器疾患による入院を抑制/NEJM

 60歳以上の高齢者に対する呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染症に対する2価RSV融合前Fタンパク(RSVpreF)ワクチン接種は、同ワクチンを接種しなかった場合と比較し、RSV関連呼吸器疾患による入院が減少したことが示された。デンマーク・Copenhagen University HospitalのMats C. Hojbjerg Lassen氏らが、研究者主導のプラグマティックな第IV相無作為化非盲検並行群間比較試験の結果を報告した。RSVは、高齢者において重篤な疾患を引き起こす可能性がある。RSVpreFは、RSV関連呼吸器疾患を予防することが示されているが、入院に関連するアウトカムへの有効性に関する無作為化試験のデータは限られていた。NEJM誌オンライン版2025年8月30日号掲載の報告。デンマークの60歳以上、約13万例をRSVpreFワクチン接種群と未接種群に無作為化 研究グループは、2024~25年冬季シーズンにデンマーク在住で市民登録番号を有する60歳以上の高齢者を募集し、参加者を1対1の割合でRSVpreFワクチン接種群(RSVpreF群、単回筋肉内投与)またはワクチン未接種群(対照群)に無作為に割り付け追跡評価した。 ベースラインデータおよびアウトカムデータは、デンマーク登録番号を介して各種の全国医療レジストリーから収集した。追跡調査期間は、初回試験来院予定日(接種日の変更にかかわらず)の14日後から2025年5月31日までとした。 主要エンドポイントはRSV関連呼吸器疾患による入院、主な副次エンドポイントはRSV関連下気道疾患による入院、およびあらゆる原因による呼吸器疾患による入院であった。解析はITT集団を対象とし、主要エンドポイントおよびRSV関連の副次エンドポイントの成功基準は「ワクチン有効率>20%」と事前に規定した。 2024年11月18日~12月28日に、本試験に招待された139万9,220例のうち13万1,379例(60歳以上のデンマーク人口の約8.6%)が無作為化され、このうち13万1,276例がITT集団に組み込まれた。RSV関連呼吸器疾患による入院の発生率は0.11 vs.0.66、有効率は83.3% 追跡調査期間中のRSV関連呼吸器疾患による入院はRSVpreF群で6万5,642例中3例、対照群で6万5,634例中18例に発生し、発生率は1,000人年当たり0.11 vs.0.66であった。ワクチン有効率は83.3%(95%信頼区間[CI]:42.9~96.9)であり、事前に規定された基準(最小有効率>20%)を満たした(p=0.007)。 RSVpreF群では、対照群と比較しRSV関連下気道疾患による入院も少なく(1件vs.12件、ワクチン有効率:91.7%、95%CI:43.7~99.8、最小有効率>20%のp=0.009)、あらゆる原因による呼吸器疾患による入院も少なかった(284件vs.335件、有効率:15.2%、95%CI:0.5~27.9、有効率>0%のp=0.04)。 重篤な有害事象の発現率は、RSVpreF群2.1%(1,341/6万3,045例)、対照群2.4%(1,669/6万8,326例)であり、両群で同程度であった。

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COVID-19罹患は喘息やアレルギー性鼻炎の発症と関連

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患により、喘息、アレルギー性鼻炎、長期にわたる慢性副鼻腔炎の発症リスクが高まる可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。一方で、ワクチン接種により喘息と慢性副鼻腔炎のリスクは低下することも示された。カロリンスカ研究所(スウェーデン)のPhilip Curman氏らによるこの研究結果は、「The Journal of Allergy and Clinical Immunology」に8月12日掲載された。 Curman氏は、「ワクチン接種が感染そのものを防ぐだけでなく、特定の呼吸器合併症に対しても優れた予防効果をもたらす可能性のあることが興味深い」と同研究所のニュースリリースの中で述べている。 この研究でCurman氏らは、米国の電子健康記録のデータベースを用いて後ろ向きコホート研究を実施し、COVID-19罹患後における2型炎症性疾患(喘息、アレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎、アトピー性皮膚炎、好酸球性食道炎)のリスクを評価した。対象者は、COVID-19に罹患した97万3,794人、新型コロナワクチン接種者69万1,270人、新型コロナウイルスに感染しておらず、ワクチンも未接種の対照群438万8,409人である。 解析の結果、COVID-19罹患群では対照群に比べて、喘息のリスクが65.6%(ハザード比1.656、95%信頼区間1.590〜1.725)、アレルギー性鼻炎のリスクが27.2%(同1.272、1.214〜1.333)、慢性副鼻腔炎のリスクが74.4%(同1.744、1.671〜1.821)、有意に高いことが明らかになった。アトピー性皮膚炎と好酸球性食道炎のリスクについては変化が見られなかった。その一方で、ワクチン接種者ではむしろリスク低下が見られ、喘息リスクは32.2%(同0.678、0.636〜0.722)、慢性副鼻腔炎リスクは20.1%(同0.799、0.752〜0.850)低下していた。直接比較からは、COVID-19罹患群ではワクチン接種群に比べて呼吸器系の2型炎症性疾患リスクが 2〜3倍高いことが示された。 これらの結果を踏まえてCurman氏は、「本研究結果は、COVID-19への罹患は気道に2型炎症性疾患を引き起こす可能性があるものの、他の臓器には影響しないことを示唆している」と述べている。 ただし研究グループは、本研究は観察研究であり、COVID-19罹患と気道の2型炎症性疾患との間に関連が示されたに過ぎないとして、慎重な解釈を求めている。

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インフルワクチンの効果、若年には有意だが80歳以上で認められず/日本臨床内科医会

 日本臨床内科医会が毎年実施しているインフルエンザに関する前向き多施設コホート研究の統合解析が行われ、インフルエンザワクチンは40歳未満の若年層や基礎疾患のない人々において中等度の有効性を示す一方で、高齢者や基礎疾患を持つ人々では有効性が低下することが明らかになった。日本臨床内科医会 インフルエンザ研究班の河合 直樹氏らによる本研究はJournal of Infection and Public Health誌2025年11月号に掲載された。 研究班は、2002~03年から2018~19年までの17シーズンにわたり、全国543施設から14万8,108例の外来患者を登録した。シーズン前に接種状況を登録、シーズン中にはインフルエンザ様症状で受診した患者の迅速抗原検査結果を登録、シーズン終了後に接種群と非接種群(対照群)における罹患率から毎年の発症予防効果(有効率)を算出した。2002~14年は3価、2015~19年は4価の不活化ワクチンが使用された。ロジスティック回帰分析による調整後、17年間におけるワクチンの発症予防効果を推定した。本解析にはCOVID-19パンデミック前のデータが使われており、超高齢化とCOVID-19後のインフルエンザ再興を背景に、年齢層、基礎疾患、ウイルスタイプ、シーズンごとのワクチン有効性評価を目的としていた。 主な結果は以下のとおり。・14万8,108例の参加者の年齢中央値は58歳、女性が58.7%だった。解析の結果、発症予防におけるワクチン有効率(調整後のシーズン別プール解析)は0~15歳で56%、16~65歳で51%と有意な有効性が示されたが、50歳以上では有効性が徐々に低下し、とくに80歳以上では有意な発症予防効果は確認されなかった。・基礎疾患を有する未接種者の罹患率は、15歳以下では基礎疾患のない患者よりも有意に高かった(p<0.001)。未接種の気管支喘息患者のインフルエンザ罹患率は、疾患なし患者より高く(10.9%対4.0%)、とくに15歳以下の小児(24.2%対12.9%)で顕著であった。気管支喘息小児における調整後ワクチン有効率は60%と疾患なし小児(47%)よりも高かった。・インフルエンザAに対する調整後のワクチンの有効性は40代まで有意であり、インフルエンザBに対しては20代まで有意であった。また、インフルエンザAの未調整のワクチン有効性は40%から15%まで低下(2002~09年と2010~19年の比較)しており、これは近年のA香港型における抗原変異や卵馴化による可能性が示唆された。 研究者らは「本研究は、季節性インフルエンザワクチンが40歳未満の若年層や基礎疾患のない人々において中等度の有効性を示す一方、年齢とともに有効性が低下し、80歳、とくに90歳以上では有意な発症予防効果は確認されないことを示した。これらの知見は、ワクチン応答が低下する可能性のある高齢者に対する高用量やアジュバント添加ワクチンの開発や、標的を絞った戦略の必要性を明らかにしている。とはいえ、そのメカニズムは完全には解明されておらず、今回はクリニックを受診した軽症患者を対象とした解析であることからも、ワクチン接種は依然として入院や重症化リスクを低下させる可能性がある。また、基礎疾患の有無によるワクチン有効性の差は、リスク集団に対する特別な予防戦略の必要性を示している。COVID-19パンデミック後のインフルエンザ再興を見据え、年齢層や基礎疾患に応じたワクチン接種戦略の最適化が求められる」としている。

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抗アレルギー点鼻薬がコロナ感染リスクを低減

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の曝露前予防には、ワクチン接種以外の医薬品の選択肢は限られている。今回、抗アレルギー薬であるヒスタミン受容体拮抗薬アゼラスチン※の点鼻スプレーは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染の発生率の有意な減少と関連し、SARS-CoV-2以外の呼吸器病原体の総感染リスク低減とも関連していたことを、ドイツ・ザールランド大学のThorsten Lehr氏らが明らかにした。JAMA Internal Medicine誌オンライン版2025年9月2日号掲載の報告。※抗アレルギー点鼻薬としてのアゼラスチンは海外では一般用医薬品として発売されているが、わが国では未発売。 ワクチン接種と集団免疫の確立により、COVID-19の重症度は大幅に軽減された。しかし、引き続き公衆衛生上の大きな負担であり、とくに高リスク集団に対する効果的な曝露前予防の方法が求められている。そこで研究グループは、SARS-CoV-2およびその他の呼吸器病原体に対する曝露前予防としてのアゼラスチン0.1%点鼻スプレーの有効性を評価するため、第II相二重盲検プラセボ対照試験を実施した。 対象は、急性感染症の兆候がなく、SARS-CoV-2迅速抗原検査が陰性の18~65歳の健康なボランティア450人で、2023年3月~2024年7月に登録された。アゼラスチン点鼻スプレー群またはプラセボスプレー群に1:1の割合で無作為に割り付けられ、1日3回、56日間、鼻孔ごとに投与した。感染の高リスク状況においては1日5回への増量投与を任意に選択できた。 参加者は週2回、研究スタッフによるSARS-CoV-2迅速抗原検査を受け、陽性の場合はPCR検査で確認された。症状があるにもかかわらず迅速抗原検査が陰性の場合には、SARS-CoV-2を含む呼吸器病原体に対してマルチプレックスPCR検査を実施した。主要評価項目は、試験開始から56日までにPCR検査で確認されたSARS-CoV-2感染の発生率であり、両群の比較には2群間の比率の差を検定するz検定を用いた。 主な結果は以下のとおり。・450人のうち227人がアゼラスチン群、223人がプラセボ群に無作為に割り付けられた。平均年齢は33.5歳、女性66.4%、白人92.7%、アフリカ系0.9%、アジア系4.9%、その他の民族が1.6%であった。・主要評価項目であるSARS-CoV-2感染の発生率は、アゼラスチン群はプラセボ群と比較して有意に低かった。 -アゼラスチン群2.2%(5/227例)vs.プラセボ群6.7%(15/223例) -リスク差:-4.5%ポイント、95%信頼区間(CI):-8.3~-0.7、p=0.02 -オッズ比:0.31、95%CI:0.11~0.87・アゼラスチン群では、症候性SARS-CoV-2感染の発生が少なく(1.8%vs.6.3%)、感染者におけるSARS-CoV-2感染までの期間が長く(31.2日vs.19.5日)、迅速抗原検査の陽性期間が短く(3.4日vs.5.1日)、SARS-CoV-2以外の呼吸器病原体を含む総感染者数が少なかった(21人vs.49人)。・PCR検査で確認されたライノウイルス感染症の発生率は、アゼラスチン群のほうがプラセボ群よりも低かった(1.8%vs.6.3%)。・有害事象の発現率は両群で同程度であったが、薬剤との関連が疑われる有害事象(主に苦味、鼻出血、倦怠感)はアゼラスチン群で多く報告された。 研究グループは、「本試験はサンプルサイズが小さく、主に健康なワクチン接種済みの集団を対象としていたため、これらの知見を他の状況に一般化できるかどうかは限定的」としたうえで、「これらの結果は、アゼラスチン点鼻スプレーがSARS-CoV-2による呼吸器感染症の発生率を低下させる可能性を示唆している。アゼラスチン点鼻スプレーは、確立された安全性プロファイル、入手しやすさ、使いやすさから、とくに大規模な集会や旅行といった感染リスクの高い状況における曝露前予防としての可能性がある」とまとめた。

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成人の心血管疾患患者は一般的な感染症のワクチンを接種すべき/ACC

 米国心臓病学会(ACC)が、心血管疾患の成人患者における予防接種に関する専門家のコンセンサス声明である「2025 Concise Clinical Guidance: An ACC Expert Consensus Statement on Adult Immunizations as Part of Cardiovascular Care(2025年簡潔版臨床ガイダンス:心血管ケアの一環としての成人予防接種に関するACC専門家コンセンサス声明)」を作成し、「Journal of the American College of Cardiology」に8月26日公表した。声明では、心血管疾患患者が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、インフルエンザ、RSウイルス感染症などの一般的な感染症を予防するワクチンを接種することの重要性が強調されている。 ACCの新ガイドライン作成委員会委員長を務めた米スタンフォード大学医学部のPaul Heidenreich氏は、「心血管疾患患者にとって、呼吸器感染症やその他の重篤な疾患に対するワクチン接種は極めて重要だ。しかし、人々が接種すべきワクチンの種類や頻度、接種することの重要性を十分に理解できるようにするには、いくつかの障壁がある」とACCのニュースリリースの中で述べている。同氏はさらに、「本ガイドラインを通して、われわれは、臨床医がこれらの内容について患者と話し合い、標準的な予防・治療計画の一環として患者自身がワクチン接種を管理できるよう支援することを促したいと考えている」と付け加えている。 本声明は、トランプ政権により国のワクチン接種システムの抜本的な再構築が行われている中で発表された。特に新型コロナワクチンに関しては、接種が推奨される人を限定するなど、政権の厳しい監視下に置かれている。 声明によると、心血管疾患患者は呼吸器系ウイルスへの感染による影響を受けやすく、重症化、入院、死亡のリスクが高いという。研究では、ワクチンがこうしたリスクの低減に非常に効果的であることが示されている。しかしACCによれば、プライマリケア医のうち、診察時に患者のワクチン接種状況を評価しているのはわずか30%だという。 ガイドラインでは、以下のことが推奨されている。・心血管疾患患者を含む全ての成人は、心血管イベントや死亡のリスクを減らすために、毎年インフルエンザワクチンを接種すること。・心疾患を患う19歳以上の成人は、肺炎や菌血症、髄膜炎などの予防とそれらの疾患を原因とする入院や死亡を防ぐために、1回接種型の肺炎球菌ワクチンを接種すること。 ・COVID-19の重症化、死亡、心筋梗塞、心筋炎、脳卒中、心房細動、long COVIDのリスクを軽減するために、新型コロナワクチンを接種すること。・心血管疾患のある50~74歳の成人、および75歳以上の全ての成人は、RSウイルス感染症予防のためにRSウイルスワクチンを1回接種すること。・心血管疾患のある成人は帯状疱疹の発症リスクが高い可能性があるため、50歳以上の成人は脳卒中や心筋梗塞を予防するために帯状疱疹ワクチンを2回接種すること。 声明では、心筋炎が新型コロナワクチン接種のまれな副作用として報告されていることに言及しているが、ワクチンにより心筋炎を発症するリスクは、COVID-19罹患により発症するリスクよりも低いことを指摘している。 さらに声明には、「心血管疾患患者が一度に複数のワクチンを接種しても危険はなく、実際には、複数のワクチンを同日に接種することで効率性が向上する可能性がある。ただし、2種類の肺炎球菌ワクチンの接種が必要な人は、同時に接種してはならない」と記述されている。

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第279回 ワクチン有効性の今、3つの論文から考察

INDEX2023年10月~24年8月に検査した60歳以上の入院予防効果2023年10月~24年4月の18歳以上対象の入院予防効果XBB.1.5対応型の組換えタンパクワクチンによる中和抗体価感染症法上の5類移行後、これまでの新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の動向について、前々回は感染者数、入院者数、死亡者数の観点からまとめ、前回は流行ウイルス株とこれに対抗するワクチンの変遷(有効性ではなく規格などの変遷)について紹介した。今回は文字数の関係でワクチンの有効性について比較的大規模に検証された最近のデータを複数紹介し、治療薬についてはさらに次回に譲ることにする。2023年10月~24年8月に検査した60歳以上の入院予防効果オミクロン株系統になってから新型コロナワクチンの感染予防、発症予防効果が低下していると言われているが、今から取り上げる研究を見ると、入院予防効果もやや低下しているのが現実である。PLOS One誌に2025年6月に発表されたカナダ・ケベック州保健研究所のグループによる同州の急性期病院で新型コロナの症状により検査を受けた60歳以上を対象に行われたtest-negative designの症例対照研究1)を参照したい。主要評価項目としてXBB.1.5対応型mRNAワクチンによる入院予防効果とその効果持続性を評価している。PLOS One誌という学術誌にネガティブな評価もあることは承知しているが、この研究の特徴は研究期間中に流行ウイルス系統がXBB系統、JN.1系統、KP.2/3系統と変化し、各期間の入院予防効果も算出している点である。test-positive症例数はXBB系統期(1,321例)、JN.1系統期(1,838例)、KP系統期(1,372例)など計5,532例、test-negative対照は10万8,473例(各系統期は順に1万2,881例、5万3,414例、2万8,595例ほか)。全期間を通じたXBB.1.5ワクチンの入院予防効果の有効率は30%(95%信頼区間[CI]:24~35)、XBB系統優勢期が54%(同:46~62)、JN.1系統優勢期が23%(同:13~32)、KP.2/3系統優勢期が0%(同:-18~15)である。JN.1系統から大きく有効性が低下しているが、これはXBB系統とJN.1系統(KP系統はこの子孫株)で大きくウイルスの系統が異なっていることからほぼ説明できるだろう。ちなみに論文内ではハイブリッド免疫(感染+ワクチン)では、JN系統期であっても有効率は41%と高くなる傾向があることも言及している。ちなみにワクチン接種からの経時的有効性の変化では、接種1〜2ヵ月後が最大(XBB系統期::55%、JN系統期:23%、KP系統期:60%)で、3ヵ月後以降は急速に低下し、4ヵ月以降の有効性はほぼ消失しているという結果だ。ただ、より批判的に見れば、この研究期間ではワクチンに最も適応したXBB系統期が期間中の最初の1~2ヵ月のみで、その後、JN系統期に移行しているため、ワクチン対応ウイルス株が流行株とほぼ一致していた場合の有効性の低下速度も同じくらい早いかは厳密な意味で判定はできないだろう。また、この結果は、純粋に臨床的見地から流行を抑え込もうとした場合、現在の日本の定期接種のような季節性的な対応でワクチン株を選定していては対応しきれない可能性も示唆している。2023年10月~24年4月の18歳以上対象の入院予防効果一方、Lancet eClinicalMedicine誌に掲載されたXBB.1.5対応ファイザー製1価ワクチンの欧州4ヵ国(ベルギー、ドイツ、イタリア、スペイン)でのリアルワールドデータを用いたJN.1株に対するtest-negative designの症例対照研究2)による入院予防効果を評価した研究も紹介する。前述の研究とやや似たようなセッティングだが、こちらは対象者が18歳以上のSARI(重症急性呼吸器感染症)で入院した患者3万8,094例を対象に、JN.1変異株に感染、またはJN.1優勢期間中の陽性患者(test-positive群)4,776例と陰性患者(test-negative群)3万3,318例で、ワクチン接種の有無(両群のワクチン接種者合計7,847例)を基に入院予防効果の有効率を算出したものだ。その結果、研究期間中の全体の有効率は53.8%(95%CI:38.4~65.4)。接種後の週数別の有効率は2〜4週未満が52.2%、4〜8週未満が48.9%、8〜12週未満が56.9%、12〜16週未満が54.6%、16〜22週未満が59.5%だった。この研究では5ヵ月間にわたり有効性の低下は認められず、前述のカナダの研究とかなり違う。もっとも試験デザインを見ると対象年齢が大きく異なる。ちなみに論文中では年齢別の有効率も示されており、それによると、18~64歳が56.5%、65~79歳が62.5%、80歳以上が48.8%だった。この2つの研究における入院の定義は後者がより厳格であるが、実はこの後者の研究の筆頭著者がファイザー社の社員であることも考慮に入れたほうが良いかもしれない。ただ、有効性の違いはあるにせよ、致死的になりやすい高齢者で一定の入院予防効果は認められるとは言えるだろう。XBB.1.5対応型の組換えタンパクワクチンによる中和抗体価一方、2023年以降のオミクロン株系統での組換えタンパクワクチンの臨床的な有効性を示す信頼性の高そうな研究論文は少なくとも私が検索した限りでは見つけられなかった。結局、世界的に新型コロナワクチン接種の主流はmRNAワクチンになっているため、十分な症例数を集めることができないのが現実なのだろう。XBB系統以降の論文としては、2025年5月に開発元である米・ノババックス社の研究者を筆頭著者としたLancet Infectious Disease誌掲載のXBB.1.5対応型ワクチンの免疫原性を調べた第II/III相単群試験による研究3)がある。この研究は米国国内30施設で、過去3回以上のmRNAワクチン接種経験がある18歳以上の健常成人332人を対象にXBB.1.5対応型ワクチンを追加接種し、別の試験で起源株対応の同ワクチンを接種した人とXBB.1.5株に対する中和抗体価(幾何平均抗体価:GMT)を比較したもの。それによると、XBB.1.5に対する中和抗体GMTは、XBB.1.5株対応ワクチン接種者が905.9で、対照群が156.6。GMT比は5.8倍で優越性が確認されたという結果である。さて、次回はようやく治療薬の現状について触れたい。 1) Carazo S, et al. PLoS One. 2025;20:e0325269. 2) Nguyen JL, et al. EClinicalMedicine. 2024;79:102995. 3) Alves K, et al. Lancet Infect Dis. 2025;25:585-594.

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第283回 B型肝炎ウイルス(HBV)への免疫と糖尿病を生じ難くなることが関連

B型肝炎ウイルス(HBV)への免疫と糖尿病を生じ難くなることが関連B型肝炎ウイルス(HBV)ワクチンの糖尿病予防効果を示唆する台湾の研究者らの試験結果1)が、まもなく来週開催される欧州糖尿病学会(European Association for the Study of Diabetes:EASD)年次総会で報告されます2,3)。具体的には、HBVワクチンのおかげでHBVへの免疫が備わった人は、糖尿病全般を生じ難いことが示されました。高血糖が続いて心血管疾患、腎不全、失明などの深刻な事態を招く糖尿病の世界の患者数は昨年6億例弱を数え、このままなら2050年までに45%上昇して8億例を優に超える見込みです4)。当然ながら糖尿病治療の経済的な負担は甚大で、総医療費の12%を占めます。肝臓は体内の糖が一定に保たれるようにする糖恒常性維持の多くを担っています。空腹時にはグリコーゲン分解と糖新生により血糖値が下がりすぎないようにし、食後にはグリコーゲン合成によって余分な糖をグリコーゲンに変えて血糖値を抑えます。そのような糖恒常性をHBV感染が害するらしいことが先立つ研究で示唆されています。HBVのタンパク質の1つHBxが糖新生に携わる酵素の発現を増やして糖生成を促進し、糖を落ち着かせる働きを妨げるようです。HBV感染者はそうでない人に比べて糖尿病である割合が高いことを示す試験がいくつかありますし、約5年の追跡試験ではHBV感染と糖尿病を生じやすいことの関連が示されています5)。そういうことならワクチンなどでのHBV感染予防は糖尿病の予防でも一役担ってくれるかもしれません。実際、10年前の2015年に報告された試験では、HBVワクチン接種成功(HBsAb陽性、HBcAbとHBsAgが陰性)と糖尿病が生じ難くなることの関連が示されています6)。その糖尿病予防効果はワクチンがHBV感染を防いで糖代謝に差し障るHBV感染合併症(肝損傷や肝硬変)を減らしたおかげかもしれません。それゆえ、HBVワクチンの糖尿病予防効果がHBV感染予防効果と独立したものであるかどうかはわかっていません。その答えを見出すべく、台湾の台北医学大学のNhu-Quynh Phan氏らは、HBVに感染していない人の糖尿病発現がHBVへの免疫で減るかどうかをTriNetX社のデータベースを用いて検討しました。HBV感染を示す記録(HBsAgかHBcAbが陽性であることやHBVとすでに診断されていること)がなく、糖尿病でもなく、HBVへの免疫(HBV免疫)があるかどうかを調べるHBsAb検査の記録がある成人90万例弱の経過が検討されました。それら90万例弱のうち60万例弱(57万3,785例)はHBsAbが10mIU/mL以上(HBsAb陽性)を示していてHBV免疫を保有しており、残り30万例強(31万8,684例)はHBsAbが10mIU/mL未満(HBsAb陰性)でHBV免疫非保有でした。HBV感染者はすでに省かれているので、HBV免疫保有群はワクチン接種のおかげで免疫が備わり、HBV免疫非保有群はワクチン非接種かワクチンを接種したものの免疫が備わらなかったことを意味します。それら2群を比較したところ、HBV免疫保有群の糖尿病発現率は非保有群に比べて15%低くて済むことが示されました。さらにはHBV免疫がより高いほど糖尿病予防効果も高まることも示されました。HBsAbが100mIU/mL以上および1,000mIU/mL以上であることは、10mIU/mL未満に比べて糖尿病の発現率がそれぞれ19%と43%低いという結果が得られています。年齢、喫煙、糖尿病と関連する肥満や高血圧といった持病などを考慮して偏りが最小限になるようにして比較されましたが、あくまでも観察試験であり、考慮から漏れた交絡因子が結果に影響したかもしれません。たとえばワクチン接種をやり通す人は健康により気をつけていて、そもそも糖尿病になり難いより健康的な生活習慣をしているかもしれません。そのような振る舞いが結果に影響した恐れがあります。HBV免疫が糖尿病を防ぐ仕組みの解明も含めてさらなる試験や研究は必要ですが、HBVワクチンはB型肝炎と糖尿病の両方を防ぐ手立てとなりうるかもしれません。とくにアジア太平洋地域やアフリカなどのHBV感染と糖尿病のどちらもが蔓延している地域では手頃かつ手軽なそれらの予防手段となりうると著者は言っています1)。 参考 1) Phan NQ, et al. Diagnostics. 2025;15:1610. 2) Study suggests link between hepatitis B immunity and lower risk of developing diabetes / Eurekalert 3) Hepatitis B vaccine linked with a lower risk of developing diabetes / NewScientist 4) International Diabetes Federation / IDF Atlas 11th Edition 2025 5) Hong YS, et al. Sci Rep. 2017;7:4606. 6) Huang J, et al. PLoS One. 2015;10:e0139730.

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第259回 75歳以上の医療費負担が10月から増加 300万人に影響/厚労省

<先週の動き> 1.75歳以上の医療費負担が10月から増加 300万人に影響/厚労省 2.新型コロナワクチン、接種費用は最大1万5千円で定期接種10月開始へ/厚労省 3.「睡眠障害内科」の標榜科を新設へ議論開始/厚労省 4.美容医療広告に違反横行 GLP-1ダイエット拡大で健康被害の懸念/厚労省 5.江別谷藤病院の給与未払い、釧路にも波及 職員無給で診療継続/北海道 6.県立こども病院で電子カルテ撮影・送信 20代看護師を停職処分/長野県 1.75歳以上の医療費負担が10月から増加 300万人に影響/厚労省10月1日から、75歳以上の後期高齢者の一部で外来医療費の自己負担が実質的に増える。2022年10月以降、「一定以上の所得」がある高齢者は負担割合が1割から2割に引き上げられていたが、急な負担増を抑えるために導入された「配慮措置」(外来での負担増を月3,000円までに抑制)が9月末で終了する。これにより、たとえば5万円の医療費の場合、これまで窓口支払いは8,000円で済んでいたものが、10月からは1万円の2割負担を全額支払うことになる。対象は後期高齢者の約20%、全国で380~390万人とされ、その大半が今回の影響を受ける。財政背景として、後期高齢者医療制度は患者負担以外に公費が5割、現役世代からの支援金が4割を占め、医療費の膨張に伴い現役世代の負担が重くなっている。2023年度の支援金は7兆1,059億円と過去最高を記録し、制度の持続には高齢者の応分負担が避けられない状況。今後、政府は、3割負担の対象拡大や介護保険での負担増も検討しており、今回の配慮措置終了は「改革の試金石」と位置付けられている。医療現場にとっては、患者からの負担増に関する問い合わせが急増することが予想される。厚労省は医療機関に対し、診療報酬請求の円滑化に向けたレセプトコンピュータ改修を呼びかけるとともに、疑問が生じた場合には2026年3月末まで設置される専用コールセンターに問い合わせるよう要請している。とくに高齢患者では、治療継続への不安や通院控えが生じる可能性もあり、疾患の悪化を防ぐためにも医師主導の情報提供と適切なフォローアップが欠かせない。制度改正を背景に、診療現場には医療の質を保ちながら患者の生活を支える視点がいっそう求められている。 参考 1) 75歳以上、来月から医療費負担増 窓口2割の300万人 現役負荷抑制 改革の試金石に(日経新聞) 2) 高齢者の医療費、2割全額負担 10月から軽減措置撤廃(同) 3) 後期2割負担の配慮措置終了で「レセコン改修を」厚労省が呼び掛け 診療報酬請求の円滑化で(CB news) 2.新型コロナワクチン、接種費用は最大1万5千円で定期接種10月開始へ/厚労省厚生労働省は9月5日、新型コロナウイルスワクチンの定期接種に用いる製品を5種類に決定した。対象は65歳以上の高齢者と基礎疾患を有する60~64歳で、実施期間は2025年10月1日~2026年3月末まで。今回使用されるのは、米国ファイザー・米国モデルナ・第一三共のmRNAワクチン、武田薬品工業の組み換えタンパクワクチン、Meiji Seikaファルマの「レプリコン」ワクチン(細胞内でmRNAが複製される新型製剤)の計5製品で、いずれも昨年度に使用実績があるもの。標的はオミクロン株の「LP・8・1」と「XEC」だが、国内流行中の変異株「ニンバス」に対しても効果が期待されるとしている。接種費用は1回当たり約1万5,000円が見込まれているが、国による助成(8,300円/回)は昨年度で終了した。本年度は自治体独自の補助に限られ、自治体によっては自己負担額が増える可能性もある。定期接種の対象外となる人は、原則全額自己負担となる点も留意が必要である。医療現場にとっては、(1)対象者の確認(年齢・基礎疾患の有無)、(2)ワクチンの種類ごとの特徴や接種スケジュールの説明、(3)自己負担に関する事前の情報提供、が求められる。とくに高齢患者からは「どのワクチンを選べばよいか」「費用はいくらかかるか」といった質問が想定されるため、最新情報を把握し、自治体の補助制度と合わせてわかりやすく伝えることが重要である。また、定期接種対象外であっても希望する患者に対しては、全額自己負担となるため、感染リスクや効果・副反応を踏まえた意思決定支援が必要になる。今回の決定は、感染の再拡大が懸念される冬季に向けた備えと位置付けられる。医師には、患者への丁寧な説明と同時に、接種体制やワクチン在庫管理を含む運営面での調整も期待されている。 参考 1) 新型コロナワクチンの接種について(厚労省) 2) コロナ定期接種に5製品 変異株「ニンバス」にも効果期待 10月1日から、厚労省(産経新聞) 3) コロナワクチン定期接種、5製品の使用決定 10月から 厚労省(毎日新聞) 3.「睡眠障害内科」の標榜科を新設へ議論開始/厚労省厚生労働省は9月4日、医道審議会診療科名標榜部会で、医療機関が掲げられる標榜診療科に「睡眠障害」を追加するか検討を開始した。標榜診療科の追加は、2008年の規制緩和以来初めてとなる見通しで、2026年3月ころの取りまとめを予定している。背景には、日本人の睡眠時間が国際的に最短水準であり、5人に1人が十分な休養を取れていないという状況がある。睡眠障害は高血圧、糖尿病、肥満など生活習慣病リスクを高め、事故や労働生産性低下にもつながるとされ、経済損失はGDPの約3%、年15兆円規模との試算もある。現在、睡眠障害の診療は精神科、呼吸器内科、耳鼻咽喉科など多岐にわたり、患者にとって受診先がわかりにくいことが課題とされてきた。日本睡眠学会は「睡眠障害内科」「睡眠障害精神科」といった標榜を可能にするよう厚労省に要望し、理事長の内村 直尚氏(久留米大学長)は「診療科名が明示されればアクセスが改善し、早期診断・治療を通じて国民の健康増進に寄与できる」と強調した。学会は、標榜追加に必要な「独立性」「国民ニーズ」「わかりやすさ」「知識の普及」の4条件を満たすと説明している。医療側にとっては、新たな標榜が実現すれば患者からの期待が高まり、より明確な診療体制と説明責任が求められる。すでに精神科・内科・耳鼻科などで睡眠障害の診療は行われているが、診療科名として標榜する医療機関の受診者は「専門的な対応」を期待することになる。このため、医師は最新の診断や治療法に関する知識のアップデートが求められる。その一方、地域での診療連携や専門機関との協力体制をどう整えるかが今後の課題となる。 参考 1) 第6回医道審議会医道分科会診療科名標榜部会[資料](厚労省) 2) 診療科名に「睡眠障害」を加えるか検討開始 厚生労働省の医道審議会部会(産経新聞) 3) 「睡眠障害」を診療科追加へ議論 厚労省部会 5人に1人が眠り不十分(毎日新聞) 4) 不眠大国ニッポン ぐっすり眠れてますか? 9月3日は「睡眠の日」(同) 5) 診療科名「睡眠障害内科」可能に、厚労省部会が初の追加を議論(日経新聞) 4.美容医療広告に違反横行 GLP-1ダイエット拡大で健康被害の懸念/厚労省美容医療を巡る広告トラブルが全国で急増している。とくに糖尿病治療薬「GLP-1受容体作動薬」を用いた「GLP-1ダイエット」は、痩せ願望の強い若年女性を中心に広がり、低体重の人がさらに痩せようとする傾向も指摘される。健康被害への懸念が強まるなか、厚生労働省はネット広告の監視を強化している。厚労省によると、2023年度に確認された美容医療関連の広告違反は362サイトで計2,888ヵ所。全体では1,098サイト6,328ヵ所に上り、医療広告分野で最多となった。内容はリスクや副作用の説明が不十分な自由診療の宣伝が目立ち、「必ず痩せる」「満足度99%」など虚偽や誇大表現も横行している。SNSでのビフォーアフター写真や体験談の掲載、有名人利用を強調する手法も規制対象となるが、実際には多くが違反に該当している。実際に都内の30代女性は「痩せる注射」と宣伝された施術を5回受けたが効果はなく、高熱の副作用に苦しんだ。それでも返金は拒否され「だまされた気持ち」と悔しさを語る。国民生活センターへの相談も2023年度は約5,500件に達し、契約トラブルや副作用被害が後を絶たない。厚労省は医療機関に対し、効果には個人差があること、費用や解約条件を丁寧に説明するよう要請。さらにネットパトロールを拡大し、自治体と連携した改善要請や行政指導を強める方針だ。ただ立ち入り検査に消極的な自治体も多く、対応にばらつきが残るのが課題となっている。専門家は「SNSを通じた、偏った情報が女性の健康観に影響を与えている」と警鐘を鳴らし、国には具体的な指導事例の集約と実効性ある取り締まりが求められる。一方で、患者自身も広告を見極める「ヘルスリテラシー」を高めることが不可欠とされ、社会全体での啓発が急務となっている。 参考 1) 美容医療広告のトラブル多発 低体重でも「痩せ願望」強い女性に糖尿病薬のリスク説明不足(産経新聞) 2) 「必ず手術成功」「満足度99%」など違法な医療広告が横行…「違反」1,000サイト超、厚労省確認(読売新聞) 3) “ビフォーアフター写真の加工”“体験談の掲載”はNG!「美容医療広告のルール」を専門家が解説(TOKYO FM) 4) 医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書[第5版](厚労省) 5.江別谷藤病院の給与未払い、釧路にも波及 職員無給で診療継続/北海道北海道江別市と釧路市で医療法人社団「藤花会」が運営する江別谷藤病院、釧路谷藤病院など複数の病院で、医師や職員約300人分の給与が7月から2ヵ月連続で支払われていないことが明らかになった。経営悪化が背景にあり、資材や人件費の高騰が要因とされる。未払いは非常勤を除くほぼ全職員に及び、江別谷藤病院ではすでに10人以上が退職届を提出。9月5日からは患者の受け入れを縮小する事態となっている。江別谷藤病院は1969年開設、病床数122床の中核病院で、夜間・休日の当番病院も担う。しかし、給与未払いが続く中、職員は「患者や仲間のため」と無給で診療を継続している。理事長の谷藤 方俊氏は「経営的な問題が原因」と説明し、「できる限り早期に未払い分を全額支給し、法人の再建に取り組む」とコメントした。地元医師会も「説明がないまま混乱している」と困惑を示し、弁護士は「職員は職業倫理から働き続けているが、地域社会全体で解決に踏み込む必要がある」と指摘する。江別市民からも「将来の診療体制が心配」と不安の声が広がる。当初は江別谷藤病院の問題として報じられたが、同法人が運営する釧路谷藤病院にも同様の給与未払いが波及。法人全体の経営危機が浮き彫りとなった。今後、さらなる退職者増や医療体制の縮小が懸念されており、地域医療の持続性が問われている。 参考 1) 北海道の病院で給料2ヵ月未払い 医師や職員など300人分(共同通信) 2) 「無給でも患者のため」給与未払い2カ月連続 江別谷藤病院で異例事態「地域社会全体で踏み込まなくては」(HTBニュース) 3) 江別谷藤病院、釧路谷藤病院などで2か月分の給与未払い 資材や人件費高騰で経営悪化 江別では5日から患者の受け入れ縮小(北海道新聞) 6.県立こども病院で電子カルテ撮影・送信 20代看護師を停職処分/長野県長野県安曇野市の県立こども病院に勤務する20代の女性看護師が、患者の電子カルテ画面をスマートフォンで撮影し、通信アプリ「LINE」で知人に送信していたことが明らかとなり、県立病院機構は9月4日付で停職1ヵ月の懲戒処分を科した。看護師は2025年4月、勤務先についての会話の中で患者一覧画面を撮影。画面には診療科や氏名を含む24人分の情報が表示されていたが、氏名や病棟名は黒塗りにして送信していた。現時点で患者個人が特定される情報漏洩は確認されていない。7月に県へ通報があり、病院側が調査を実施し、8月に本件事実を公表した。本人は「職場の実情を知ってもらい、看護師としての苦労を理解してほしかった」と説明し、深く反省している。この事案を受け、病院機構は監督責任として院長と看護部長を厳重注意処分とした。機構は「再発防止に努め、研修や教育を強化する」と表明し、個人情報保護の徹底を改めて職員に求めている。今回のケースでは患者特定に至る被害は確認されていないものの、電子カルテを私的に撮影し、外部へ送信する行為は重大なリスクを伴い、医療現場全体の信頼を損ねかねない。情報セキュリティの観点からも、スタッフ教育と組織的な管理体制の強化が改めて課題として浮き彫りとなった。 参考 1) 職員による情報漏えい事故が発生しました(長野県立こども病院) 2) 電子カルテの一部を外部に漏洩 県立こども病院の20代看護師を懲戒処分(長野朝日放送) 3) 「看護師としての苦労を分かってもらいたかった」 長野県立こども病院の20代女性看護師が電子カルテを撮影し通信アプリで知人に送信 停職1カ月の処分(長野放送)

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第278回 コロナ流行株の実効再生産数をおさらい、今冬へ備える

INDEX流行株の変遷ワクチン(規格など)の変遷前回、感染症法上の5類移行後、これまでの新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の動向について、感染者数、入院者数、死亡者数の観点からまとめてみた。今回は流行ウイルス株の変遷、これに対抗するワクチンの変遷(有効性ではなく規格などの変遷)について紹介する。なお、当初はワクチンや治療薬の有効性に関する変化を今回紹介しようと考えたが、文字数の都合上、それは次回に譲る。流行株の変遷5類移行後の新型コロナウイルスの流行ウイルス株は基本的にオミクロン株系統内で変遷している。5類移行直後の2023年5月頃の流行株はXBB系統のXBB.1.5株とXBB.1.9.1株だったが、7月頃からXBB.1.16株による感染者が急増した。東京大学医科学研究所のグループの検討によると、XBB.1.16株の実効再生産数は、XBB.1.5株に比べて1.13倍高いことがわかっている1)。この後はしばらくXBB系統内で主流株の入れ替わりが起こるが、2023年12月ごろからはXBB系統とは大きく異なるBA.2.86株の感染が目立つようになった。BA.2.86株は2022年に流行したBA.2株の子孫株だが、オミクロンBA.2株と比較してスパイクタンパク質に30ヵ所以上もの変異が認められる。その後、オミクロンBA.2.86株は世界各地で緩やかに流行を拡大させ、実行再生産数はXBB.1.5株を基準にすると1.3倍高く、XBB.1.16株よりも感染力が強いことが明らかになった2)。もっとも流行主流株としてのBA.2.86株の存在は約3週間程度で、その後は同株の子孫株であるJN.1株が日本をはじめ、世界で大流行した。JN.1株の実効再生産数は、XBB系統のEG.5.1株の1.3~1.4倍である3)。XBB系統のXBB.1.5株の実効再生産数がE.G.5.1の約0.9倍なので、XBB.1.5株を基準とすると、JN.1株の実効再生産数はその1.4~1.5倍と算出される。2024年春ごろからはJN.1株に代わってその子孫株であるKP.2株、同年夏からはKP.3.1.1株が流行株となり、JN.1株を基準にしたそれぞれの実効再生産数は1.2~1.3倍、1.4~1.6倍4)。XBB.1.5株の実効再生産数から見れば、KP.2株が1.7~2.0倍、KP.3.1.1株が2.0~2.4倍となる。そして2025年初から流行し始めたのが、やはりJN.1株の子孫株LP.8.1株。こちらの実効再生産数はBA.2.86株の子孫株XEC株基準で約1.1倍、同じ基準でJN.1株が0.7倍である。こちらもXBB.1.5株基準では実効再生産数は2.2~2.4倍となる5)。現在は今春に香港やシンガポールで流行し始め、国内での検出例も増えてきたNB.1.8.1株、通称ニンバスである。同株はオミクロンXDE株とオミクロンJN.1株の組換え体であるオミクロンXDV株から派生した変異株である。その実効再生産数はLP.8.1株比で約1.2~1.3倍、XBB.1.5株比で2.6~3.1倍である6)。このようにしてみると、実効再生産レベルで見れば、5類移行直後からウイルスの感染力は3倍前後になっている現実がある。ワクチン(規格など)の変遷日本国内での新型コロナワクチンについては、5類移行時点で2021年2月に特例承認されたファイザー製のコミナティ、2021年5月に特例承認されたモデルナ製のスパイクバックスの合計2種類のmRNAワクチンと2022年4月に特例承認された米・ノババックス製(国内での製造販売は武田薬品)の組換えタンパクワクチンであるヌバキソビッドの3種類が現実的に使える選択肢だった。すでにこの時点でmRNAワクチンでは、ワクチン全体をプラットフォームと捉え、流行株に合わせて、挿入するmRNAを変更する一部変更申請(一変)が一般的になっていた。5類移行後では、23年9月にファイザー製、モデルナ製のXBB.1.5系統対応のワクチンの一変が承認された。また、同時期の23年8月には、初の国産ワクチンである第一三共製のダイチロナが承認され、同年11月にはダイチロナもXBB.1.5系統対応のワクチンの一変申請が承認された。また、このダイチロナの一変申請承認と同時にMeiji Seikaファルマ製の自己増幅型m-RNAワクチンのコスタイベが承認されたものの、供給開始は2024年秋へとずれ込んでいる。なお、原則としてほぼ全国民が対象となった国による特例臨時接種は2024年3月末で終了となり、以後は60~64歳までの基礎疾患保有者と65歳以上の高齢者を対象とした秋シーズンの定期接種となったため、各社とも夏時点の流行株を軸に一変申請を行い、それに伴って承認されたワクチンが定期接種などで使用されている。2024年では8月にファイザーとモデルナ、9月に第一三共とMeiji Seika ファルマのJN.1 系統対応1価ワクチンの一変申請が承認された。現在、今年の秋の定期接種に向けては、8月にファイザーとモデルナ、武田薬品がJN.1株の子孫株LP.8.1株対応のワクチンの一変申請の承認を受けたばかりだ。なお、実はここまでの段階で意外と世間から忘れられているワクチンがある。塩野義製薬が開発した組換えタンパクワクチンのコブゴーズである。同ワクチンは2024年5月に承認された。ワクチンの申請自体は2023年に行われていたが、最初の23年7月の審議では、臨床試験で対照薬となったアストラゼネカのウイルスベクターワクチン・バキスゼブリアの中和抗体価が「通常想定される値よりも相当程度低い」との指摘があり、この時点では有効性評価が困難として継続審議となった。結果的には追加資料の提出などにより、初回免疫としての有効性は認められるとして、この局面に限定した承認となっている。一方、各ワクチンとも承認直後は1バイアル当たりの接種回数が、コミナティが5~6回、スパイクバックス、バキスゼブリアが10回分(スパイクバックスは追加接種の場合は15回分)であり、それゆえに一度に大量の接種予定者を集めなければならない、あるいは接種予定者の急なキャンセルなどにより、廃棄などの問題が少なからず起きたのは多くの医療者が記憶に新しいと思う。この点については現在、コミナティが現在ではともに希釈不要の12歳以上用のプレフィルドシリンジ製剤と5~11歳用の1人用のバイアル製剤、6ヵ月~4歳用の3人用のバイアル製剤(要希釈)、モデルナは12歳以上では1回分、生後6ヵ月以上12歳未満では2回分となる0.5mLバイアル製剤、ヌバキソビッドは6歳以上で2回接種分となる1mLバイアル製剤となっている。ダイチロナに関しては、もともと12歳以上で2回分、5歳以上11歳以下で4回分となる1.5mLバイアル製剤。また、コスタイベは発売当初は16人分1バイアル製剤だったが、2025年8月に2人分バイアル製剤の一変申請の承認を受けた。さて、次回はワクチンや治療薬の有効性について可能な範囲で現時点までの変遷を紹介するつもりである。 1) Yamasoba D, et al. Lancet Infect Dis. 2023;23:655-656. 2) Uriu K, et al. Lancet Infect Dis. 2023;23:e460-e461. 3) Kaku Y, et al. Lancet Infect Dis. 2024;24:e82. 4) Kaku Y, et al. Lancet Infect Dis. 2024;24:e736. 5) Chen L, et al. Lancet Infect Dis. 2025;25:e193. 6) Uriu K, et al. Lancet Infect Dis. 2025;25:e443.

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3学会がコロナワクチン定期接種を「強く推奨」、高齢者のリスク依然高い

 日本感染症学会、日本呼吸器学会、日本ワクチン学会の3学会は2025年9月1日、今秋10月から始まる新型コロナウイルス(COVID-19)ワクチンの定期接種を「強く推奨する」との共同見解を発表した。高齢者における重症化や死亡のリスクが依然として高いことや、ウイルスの変異が続いていることを主な理由としている。インフルエンザを大幅に上回る死亡者数 3学会によると、国内のCOVID-19による死亡者数は2024年に3万5,865例に上り、同年のインフルエンザによる死亡者数2,855例を大きく上回っている。COVID-19による死者数のピークだった2022年の4万7,638例からは減少しているものの、依然として高い水準で推移しており、大きな減少はみられていない。 また、2025年に入ってから8月24日までの期間で、COVID-19で入院した患者のうち60歳以上は3万7,000例を超えており、人工呼吸管理が必要な重症者は616例であった。3学会は、高齢者にとってCOVID-19の重症化リスクはインフルエンザと「少なくとも同等かそれ以上」だと指摘し、警戒を呼びかけている。 COVID-19は5類感染症に移行後も流行を繰り返しており、その要因として変異株が繰り返し出現していることが挙げられる。オミクロン株は数ヵ月ごとに変異し、そのたびに免疫を回避する力が強まっているとされている。高齢者施設や医療機関での集団感染も2024年と同レベルで報告されており、感染力は依然として強いことから、今冬の再流行が予想される。新型コロナワクチンの発症・重症化予防効果 2024年秋冬に接種が行われたJN.1対応ワクチンは、国内多施設共同症例対照研究(VERSUS研究)により、65歳以上の発症を52.5%、60歳以上の入院を63.2%予防する効果が確認されている。 しかし、新型コロナワクチンの効果は変異株の影響もあり接種後数ヵ月で減衰するため、インフルエンザワクチンと同様に、その年の流行株に対応したワクチンを毎年接種することが必要になる。2025年度の定期接種では、オミクロンJN.1系統の「LP.8.1」や「XEC」に対応したワクチンが供給される予定だ。【2025/26シーズンに定期接種で用いられる予定のCOVID-19ワクチン】・コミナティ筋注シリンジ12歳以上用(ファイザー)、抗原組成:LP.8.1・スパイクバックス筋注(モデルナ)、同:LP.8.1・ヌバキソビッド筋注1mL(武田薬品工業)、同:LP.8.1・ダイチロナ筋注(第一三共)、同:XEC・コスタイベ筋注用(Meiji Seika ファルマ)、同:XEC また、過去にオミクロン株の感染歴がある場合でも、6ヵ月以上経過すると再感染のリスクが増えることが報告されており、COVID-19感染から3~6ヵ月以上経過していれば、ワクチン接種が望まれる。過去の感染歴があっても新たなワクチン接種によって免疫力をさらに高めることができるとしている。2025年夏に感染した人でも、発症から3ヵ月以上経過していれば、冬の流行に備えて接種を受けることが推奨されている。 新型コロナワクチンには、COVID-19の罹患後症状(long COVID)や、罹患後1年間にわたって増加する心血管疾患や呼吸器疾患、認知機能低下などの続発症を予防する効果も報告されている。 安全性については、接種後に発熱や倦怠感といった一過性の有害事象がみられるものの、その頻度は接種回数を重ねるごとに減少傾向にあると報告されている。また、国内外の研究から、ワクチン接種が死亡リスクを増加させるという関連性はないことが示されている。 3学会は、ワクチンの利益とリスクを科学に基づいて正しく比較し、自身が信頼できる医療従事者と相談のうえで接種を判断するよう呼びかけている。なお、ワクチン接種で感染を完全に回避できるわけではなく、ワクチン接種に加えて、適切なマスクの着用、換気、手洗いなどの基本的な感染予防策を行うことも重要だとしている。

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第277回 コロナの今、感染・入院・死亡者数まとめ

INDEX定点報告数推移入院・重症化例死亡者数新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)が感染症法の5類に移行したのが2023年5月8日。それから丸2年以上が経過した。現在、全国的に感染者が増加していると報道されているが、先日の本連載でも報告したように地域の基幹病院では、流行期に苦境を迫られているのが現実だ。もっとも世の中全体が新型コロナについて「喉元過ぎた熱さ」化した今、5類移行以後の新型コロナがどのような経過をたどってきたかについての認識は、医療者の中でも差があるだろう。私自身は医療者ではないが、隠さず言ってしまえば、まさに喉元過ぎた熱さ化しつつあるのが実際である。ということで、自省も込めてこの段階で、5類移行から現在に至るまでの新型コロナの状況について経過をたどってみることにした。今回は感染者数、入院者数、死亡者数についてまとめてみた。定点報告数推移まず、5類移行後の一番大きな変化としては感染者報告が定点報告1)となった点である。その最初となった2023年第19週(5月8~14日)は全国で2.63人。この後は第35週(8月28日~9月3日)の20.50人まで、途中で第31週(7月31日~8月6日)と第32週(8月7~13日)に前週比で若干減少したことを除けば、ひたすら感染者は増加し続けた。ただ、ここからは急速に減少し、わずか4週後の第39週(9月25日~10月1日)には8.83人まで減少。第44週(10月30日~11月5日)には第19週の水準を下回る2.44人となった。16週間かけてピークまで増加した感染者数が9週間で減少したことになる。最終的には第46週(11月13~16日)の1.95人で底を打った。もっともここからは再び増加に転じ、この年の最終週の第52週(12月25~31日)には5.79人と6週間で約3倍まで増加した。2024年第1週(1月1~7日)は6.96人で始まり、第5週(1月29日~2月4日)に16.15人。以後は第18週(4月29日~5月5日)の2.27人まで一貫して減少したが、第19週(5月6~12日)からは2.63人と反転し、第30週(7月22~28日)の14.58人まで増加を続けた。そしてこれ以降は再び減少し始め、第45週(11月4~10日)の1.47人がボトムとなり、最終週の第52週(12月23~29日)は7.01人。7週間で5倍弱に増加した。2025年は第1週(2024年12月30日~2025年1月5日)が5.32人と2024年最終週からは減少したものの、翌第2週(1月6~12日)は7.08人と跳ね上がり、これが冬のピーク。この後は緩やかに減少していき、第21週(5月19~25日)、第22週(5月26日~6月1日)ともに0.84人まで低下。そこから再び一貫した上昇に転じ、最新の第33週(8月11~17日)が6.30人である。このデータを概観すると、1月中が冬のピークで、その後は感染者が減少。5月中下旬から感染者が増加し、7~8月にピークを迎え、そこから11月中旬にかけてボトムとなり、再び増加に転じるという流れが見えてくる。現時点において、この夏まで4つの波が到来している形で、年々ピークの感染者数は低下している。もっとも、これは以前書いたようにウイルスの感染力が低下しているわけではなく、次第に多くの人がコロナ禍を忘れ、喉の痛みや鼻水が大量に出るなどの呼吸器感染症の症状が出ても受診・検査をしていないケースが増えているからだろう。また、注意が必要なのが定点報告医療機関数の変化である。2025年第14週(3月31日~4月6日)までは約5,000医療機関だったが、これが再編されて第15週以後は約3,000医療機関に変更されていることだ。その意味ではもはや定点報告数は大まかに流行を捉えるという位置付けにすぎないといえるだろう。そうした中でこの流行の波形を見ると実は特徴的な地域がある。沖縄県だ。同県の場合、ほかの都道府県に見られる冬期の波がほとんどない。これは同県が日本では唯一の亜熱帯に属する県であることが理由だろう。すなわち冬に暖房を使って屋内に籠ることがほとんどないということだ。つまるところ「暑さや寒さでエアコンを使い換気が悪くなる時期に各地で感染者が増加する」という従来からの定説を如実に裏付けているともいえる。実際、夏前の流行の立ち上がり時期を見ると、九州・沖縄地方は全国傾向と同じ毎年第19週前後だが、北海道や東北地方は第25週前後である。逆に冬期は北海道、東北地方は第42週前後に感染者が増加し始めるが、九州地方では第49週前後である。入院・重症化例最も医療機関にとって負荷がかかるのは新型コロナによる入院患者の増加であることはいうまでもない。厚生労働省では医療機関等情報支援システム(G-MIS)2)のデータから週報とともに重症化事例も公表している。当然ながら、定点報告の感染者数のピーク前後で入院事例が増えると考えられるため、各ピーク期に絞ってその状況を取り上げる。まず、2023年については、夏のピークだった第35週の直前である第34週(8月21~27日)の全国の新規入院患者数1万3,972人がピークである。この時の7日間平均でのICU入院中患者数が228人、ECMOまたは人工呼吸器管理中が140人である。ICU入院中の患者数は第33~36週までは200人超である。2024年の冬季の感染者数ピークは第5週だが、入院患者のピークはその前の第3週(1月15~21日)の3,494人である。夏に比べて一気に入院患者数が減少したようにもみえるが、これは2023年9月25日より、入院患者数をG-MISデータ(約3万8,000医療機関)から全国約500ヵ所の基幹定点医療機関からの届出数に変更したためである。その代わり、この時点から入院患者の年齢別などの詳細が報告されるようになっている。この2024年第3週の入院患者の年齢別内訳を見ると、60歳以上の高齢者(同データは65歳以上の区分なし)が83.1%を占めている。これ自体は驚くことではない。ただ、10歳刻みの年齢区分で見ると、60歳以降の3区分と50~59歳の区分に次いで多いのが1歳未満である。また、この時の入院時のICU入室者は117人、人工呼吸器利用者は57人である。さらに同年夏の入院患者数ピークは、感染者数ピークの第30週の翌週である第31週(7月29日~8月4日)の4,590人。この時も60歳以上の高齢者が84.4%を占め、第3週前後の時と同様に60歳以降の3区分と50~59歳の区分に次いで1歳未満の入院患者が多い。この週のICU入室者は187人、人工呼吸器の利用者は80人。2025年冬の入院患者数ピークは、感染者数ピークと同様の第2週で2,906人。60歳以上の高齢者割合は86.0%。年齢階層別の入院患者数で1歳未満が高齢者層に次ぐのは、この時も同じだ。この週のICU入室者は120人、人工呼吸器の利用者は54人だった。死亡者数人口動態統計3)の年次確定数で見ると、2023年の新型コロナによる死亡者数は3万8,086人。前年の2022年が4万7,638人である。ちなみに2023年のインフルエンザの死亡者数が1,383人である。2024年(概数)は3万5,865人、2025年については現在公表されている3月までの概数が1万1,207人である。ちなみに前年の1~3月は1万2,103人であり、やや減少している。ここでまたインフルエンザの死亡者数を挙げると、2024年が2,855人、2025年1~3月が5,216人である。今年に入りインフルエンザの死亡者は増加しているものの、新型コロナの死者は2023年でその27.5倍、2024年で12.6倍にも上る。この感染症の恐ろしさを改めて実感させられる。次回は流行株の変遷とワクチン、治療薬を巡る状況を取り上げようと思う。 参考 1) 厚生労働省:新型コロナウイルス感染症に関する報道発表資料(発生状況等) 2) 厚生労働省:医療機関等情報支援システム(G-MIS):Gathering Medical Information System 3) 厚生労働省:人口動態調査

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LP.8.1対応組換えタンパクコロナワクチン、一変承認を取得/武田

 武田薬品工業は8月27日のプレスリリースで、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のオミクロン株LP.8.1を抗原株とした組換えタンパクワクチンの「ヌバキソビッド筋注1mL」について、厚生労働省より一部変更承認を取得したと発表した。ヌバキソビッド筋注は、同社がノババックスから日本での製造技術のライセンス供与を受けたもので、LP.8.1対応ワクチンは9月中旬以降に供給が開始される予定。 2025年5月28日に開催された「厚生科学審議会 予防接種・ワクチン分科会 研究開発及び生産・流通部会 季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの製造株について検討する小委員会」において、2025/26シーズンの定期接種で使用する新型コロナワクチンの抗原組成は、WHOの推奨と同様に、「1価のJN.1、KP.2もしくはLP.8.1に対する抗原又は令和7年5月現在流行しているJN.1系統変異株に対して、広汎かつ頑健な中和抗体応答又は有効性が示された抗原を含む」とされている1)。 今回の承認は、抗原株の変更に係るデータに加え、LP.8.1を抗原株としたヌバキソビッド筋注が、直近の新型コロナ変異株(LP.8.1、LP.8.1.1、JN.1、KP.3.1.1、XEC、XEC.4、NP.1、LF.7およびLF.7.2.1)に対しても中和抗体を産生することが認められた非臨床データに基づく。 本剤は、6歳以上を対象とした初回免疫(1、2回目接種)および12歳以上に対する追加免疫(3回目接種以降)の適応を取得している。用法・用量は、12歳以上には1回0.5mLを筋肉内に接種する。また、6歳以上12歳未満には、初回免疫として、1回0.5mLを2回、通常、3週間の間隔をおいて、筋肉内に接種する。

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米国の小児におけるインフルエンザ関連急性壊死性脳症(IA-ANE)(解説:寺田教彦氏)

 本報告は、米国2023~24年および2024~25年シーズンにおける小児インフルエンザ関連急性壊死性脳症(IA-ANE)の症例シリーズである。 IA-ANEは、インフルエンザ脳症(IAE)の重症型で、米国2024~25年シーズンのサーベイランスにおいて小児症例の増加が指摘されていた(MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2025 Feb 27)。同レポートでは、小児インフルエンザ関連死亡例の9%がIAEによる死亡と報告され、早期の抗ウイルス薬使用と、必要に応じた集中治療管理、インフルエンザワクチン接種が推奨されていた。 本研究では、2024~25年シーズンで大規模小児医療センターの医師からIA-ANEが増加していると指摘があり、主症状、ワクチン接種歴、検査結果および遺伝学的解析結果、治療介入、臨床アウトカム(修正Rankinスケールスコア)、入院期間、機能的アウトカムを主要アウトカムとして調査結果が報告された。詳細は「インフルエンザ脳症、米国の若年健康児で増加/JAMA」に記載のとおりである。 本研究のdiscussionでは、サーベイランス結果と同様に、速やかな診断と集中治療管理、ならびにインフルエンザワクチン接種の有用性が強調されている。前者については、死亡例の多くが入院後1週間以内(中央値3日)に発生し、主因が脳浮腫に伴う脳ヘルニアであった点から指摘されている。後者については、米国における2023~24年および2024~25年シーズンの小児インフルエンザワクチン接種率がそれぞれ55.4%、47.8%であったのに対し、本研究に登録されたIA-ANE患者で接種歴を有したのは16%にとどまっていた点から指摘されている。 また、本研究では、アジア系の子供で急性壊死性脳症(ANE)が多かった。日本を中心としたアジアではANEが多い可能性が指摘されており、日本では2015~16年シーズン以降、IAEは新型コロナウイルス感染症の世界的な流行期間を除き毎年約100~200例が報告されており、2023~24年シーズンは189例が報告されていた(「インフルエンザ流行に対する日本小児科学会からの注意喚起」日本小児科学会)。本研究でもアジア人が登録された割合は高かったが、ANEに関連する可能性があるRANBP2やその他の遺伝的変異はアジア系の子供で多いわけではなく、非遺伝的要因が関与している可能性がある。 ANEは健康な小児でも発症することがあり、頻度は低いが壊滅的な神経学的合併症を来し、死亡することもある疾患である。日本での急性脳症の予後の報告でも、平成22年度の報告書では、急性脳症全体/急性壊死性脳症(ANE)で治癒56%/13%、後遺症(軽・中)22%/2%、後遺症(重)14%/33%、死亡6%/28%、その他・不明1%/3%だった。 本報告は米国におけるANEの臨床像と深刻さを明確に示すとともに、日本においても適切なワクチン接種の実施、IA-ANEの早期診断と集中管理、治療プロトコルの標準化が急務であることを再確認させられた。

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