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膵臓がんの治療ワクチン、初期段階の臨床試験で有望な結果

 膵臓の腫瘍は、その90%以上に悪性度を高める可能性のあるKRAS遺伝子の変異があるとされるが、この変異を有する膵臓がんに対し、実験段階にある治療ワクチンが有効である可能性が、米テキサス大学MDアンダーソンがんセンター消化器腫瘍学准教授のShubham Pant氏らが実施した小規模な臨床試験で示された。現時点では「ELI-002 2P」と呼ばれているこのワクチンは、KRAS変異を有する固形がんを標的にするものだという。ELI-002 2Pを製造するElicio Therapeutics社の資金提供を受けて実施されたこの試験の詳細は、「Nature Medicine」に1月9日掲載された。 膵臓がんは自覚症状がないまま進行し早期発見が難しいことから、「サイレント・キラー」と呼ばれている。米国がん協会(ACS)によると、米国では推定で年間約6万4,000人が膵臓がんと診断され、約5万5,500人がそれによって死亡している。膵臓がんに対するファーストライン治療は手術だが、再発の可能性もある。ELI-002 2Pは、再発を予防するためにデザインされたワクチンで、免疫細胞のT細胞にKRAS変異を認識して破壊するように仕向ける。ELI-002 2Pは、患者ごとに製造することが可能だ。 今回の臨床試験は、KRAS遺伝子の変異がある膵臓がん患者20人と大腸がん患者5人の計25人(平均年齢61.0歳、女性60%)を対象に実施された。患者は、全例が腫瘍を摘出する手術を受けており、このうち7人は手術に加えて放射線治療も受けていた。Pant氏は、「膵臓がんの手術を受け化学療法を終えた患者でも、再発リスクは残る」と同がんセンターのニュースリリースで述べている。試験では、患者をコホート1〜5の5群に分け、ELI-002 2Pワクチン(0.1、0.5、2.5、5.0、10.0mg)を最大10回投与した。 その結果、ワクチンを投与された全患者の84%(21/25人)で期待されていたKRAS変異特異的T細胞反応が確認され、特に、投与量が5.0mgと10.0mgの群での割合は100%に達したことが明らかになった。腫瘍および腫瘍に関連するDNAの存在の指標となるバイオマーカーの低下も84%の患者で認められ、6人(膵臓がん患者と大腸がん患者が3人ずつ)では、バイオマーカークリアランスが確認された。患者全体での無再発生存期間は16.33カ月であったが、T細胞反応の変化量の中央値(ベースラインからの変化量が12.75倍)で二分して検討すると、中央値以上の患者では未達成であったのに対し、中央値未満の患者では4.01カ月であった。 副作用の発生率は、倦怠感が24%(6人)、注射部位反応が16%(4人)、筋肉痛が12%(3人)だったが、治療の中止や死亡に至るような重度の副作用は認められなかった。このことからPant氏は「ELI-002 2Pの安全性プロファイルは良好だった」と述べている。 Pant氏は「まだ初期段階の試験ではあるが、このワクチンによって多くの患者のがんの再発を防ぎ、生存期間を延長できる可能性があるという有望な結果が示された」と話す。同氏は、「膵臓がんは再発すると治癒に導くことが不可能であり、まさにアンメットニーズの存在する領域であるため、これらの結果の全てが素晴らしい」と喜びを表す。 ELI-002 2Pの第2相臨床試験は2024年後半に開始される予定だ。同試験ではさらに多くのKRAS変異を標的とすることになるとPant氏らは話している。

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2月14日 予防接種記念日【今日は何の日?】

【2月14日 予防接種記念日】〔由来〕1790(寛政2)年の今日、秋月藩(福岡県朝倉市)の藩医・緒方春朔が、初めて天然痘の人痘種痘を行い成功させたことから、「予防接種は秋月藩から始まった」キャンペーン推進協議会が制定した。関連コンテンツインフルエンザ【今、知っておきたいワクチンの話】肺炎球菌ワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】インフルエンザワクチン(1)鶏卵アレルギー【一目でわかる診療ビフォーアフター】コロナワクチン、2024年度より65歳以上に年1回の定期接種へ/厚労省新型コロナワクチン、午前に打つと効果が高い?

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令和6年度コロナワクチン接種方針を発表、他ワクチンと同時接種が可能に/厚労省

 厚生労働省は2月7日の「新型コロナワクチン接種体制確保事業に関する自治体向け説明会」1)にて、令和6年度(2024年度)の接種方針を発表した。2月5日に開催された第55回生科学審議会予防接種・ワクチン分科会2)の議論を踏まえ、2024年3月末まで特例臨時接種が実施されている新型コロナワクチンは、4月以降、インフルエンザや高齢者の肺炎球菌感染症と同じ定期接種のB類疾病に位置付け、高齢者等に対して個人の発病または重症化を予防し、併せて蔓延予防に資することを目的とした接種を実施することとした。対象は65歳以上、もしくは60歳~64歳で心臓、腎臓、呼吸器のいずれかの機能の障害、またはヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害を有する者。定期接種開始は9月以降となる。他ワクチンとの同時接種も可能に 新型コロナワクチンと他疾病ワクチンとの接種間隔については、特例臨時接種となっている現在は、インフルエンザの予防接種は同時接種可能であるが、その他の予防接種との間隔は13日以上空けることとされている。4月以降は定期接種実施要領の規定どおり、注射生ワクチン以外のワクチンにおいては接種間隔を定めず、医師がとくに必要と認めた場合は同時接種を行うことが可能とした。この方針は、諸外国における新型コロナワクチンと他疾病ワクチンとの同時接種を可能とする状況も参考にされた。秋冬接種はWHO推奨株を基本に 接種に使用するワクチンについて、これまでは流行株の状況やワクチンの有効性等に関する知見に加え、諸外国の動向も踏まえて決定し、その後、ワクチンの製造販売業者による薬事申請等がなされ供給されていた。また、世界保健機関(WHO)は2023年以降、株構成に関する専門家会議を少なくとも年2回開催する方針を示している。直近では2023年12月に開催された3)。これらを踏まえ、令和6年度の秋冬接種に用いられるワクチンの検討については、最新のWHOの推奨株を用いることを基本とした。選択肢の確保の観点から、mRNAワクチン以外にもさまざまなモダリティのワクチンを開発状況に応じて用いることとし、具体的な対応株の検討などは、インフルワクチン同様に、研究開発及び生産・流通部会にて行われる。

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第83回 反ワクチンは左派が多い?

illustACより使用SNSでは反ワクチン・反マスク・反医療などが話題になりました。ある程度弱毒化したため、COVID-19のワクチンも以前ほど取り上げられなくなりました。医療従事者でも、もう接種していない人であっても普通に働いている印象です。さて、X(旧Twitter)を使った興味深い研究結果が報告されました1,2)。ズバリ、「反ワクチンは左派が多い」というものです。個人的には右派だろうと左派だろうと、どちらでもいいのですが、SNSでは結構バズっているので取り上げてみました。とはいえ、反ワクチンにも幅があります。何となく心配だから…という人の気持ちはよくわかります。「殺人ワクチンや!」みたいなことを叫んでいる人は、ガチの反ワクチンでよいと思います。そういう方は、攻撃的なアカウントのことが多く、私も職場にいくつか誹謗中傷のお手紙が届きました。風の噂では、「ワクチン接種をやめろ」とカッターナイフが職場に届いた医師もいるそうです。さて、この研究は、2021年1~12月にワクチンを含んだツイート(現在は「ポスト」といいます)を収集して、機械学習を用いて「ワクチン賛成」「ワクチン政策批判」「ワクチン反対」の3つのクラスターに分類しました。ワクチン反対ツイートを多く投稿したアカウントを特定し、このアカウント周辺の方々を反ワクチンと定義しています。ワクチン賛成派と反対派を比較して、反対派の特徴を明らかにしました。結果、ワクチン反対派は賛成派と比べて政治的関心が強いことがわかりました。基本的に、左側に偏った意見が多かったようです。これはわれわれも実感するところです。他方、ワクチン賛成派は政治的なツイートは多くなかったようです。また、コロナ禍以前から反ワクチンだった人は、同様に政治的関心が強く、ほとんどが左派政党や陰謀論に偏っていることもわかりました。そして、コロナ禍以降に新たに反ワクチンになった人は陰謀論・スピリチュアリティ・代替医療に傾倒しやすく、反ワクチンを掲げる参政党への支持を高めているという結果が示されています。確かに、アメリカにおいても反ワクチンは、イベルメクチンや一部政党と関連があったという研究結果も報告されています。国を挙げた政策になることから、ワクチンと政治は切っても切れない関係なのかもしれません。個人的にはワクチンに懐疑的な集団をすべて反ワクチンとひとくくりにするのではなく、エビデンスがしっかり確立されているにもかかわらず、強い熱意を持って反対活動を行い、周囲の人へ当該危険性を知らしめるような行動を取る人に注意すべきだと思っています。参考文献・参考サイト1)Toriumi F, et al. Anti-vaccine rabbit hole leads to political representation: the case of Twitter in Japan. J Comput Soc Sci. 2024 Feb 5. [Epub ahead of print]2)東京大学工学部:人はなぜワクチン反対派になるのか ―コロナ禍におけるワクチンツイートの分析―

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初の自己注射可能な全身型重症筋無力症薬「ジルビスク皮下注シリンジ」【最新!DI情報】第8回

初の自己注射可能な全身型重症筋無力症薬「ジルビスク皮下注シリンジ」今回は、補体(C5)阻害薬「ジルコプランナトリウム(商品名:ジルビスク皮下注16.6mg/23.0mg/32.4mgシリンジ、製造販売元:ユーシービージャパン)」を紹介します。本剤は、わが国初の自己注射可能な全身型重症筋無力症の治療薬であり、重症筋無力症の症状や日常生活動作の改善が期待されています。<効能・効果>全身型重症筋無力症(ステロイド薬またはステロイド薬以外の免疫抑制薬が十分に奏効しない場合に限る)の適応で、2023年9月25日に製造販売承認を取得しました。本剤は、抗アセチルコリン受容体抗体陽性の患者に投与されます。<用法・用量>通常、成人にはジルコプランとして、体重に合わせた用量を1日1回皮下投与します。56kg未満:16.6mg56kg以上77kg未満:23.0mg77kg以上:32.4mgなお、本剤投与開始12週後までに症状の改善が認められない場合は、ほかの治療法への切り替えを考慮します。<安全性>重大な副作用として、髄膜炎菌感染症(頻度不明)、重篤な感染症(1.4%)、膵炎(0.5%)および重篤な過敏症(0.5%)が報告されています。そのほかの主な副作用は、注射部位反応(注射部位内出血、注射部位疼痛など)、感染症(上気道感染、上咽頭炎、副鼻腔炎、尿路感染など)、肝機能検査値や血中好酸球値の上昇などがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、全身型重症筋無力症の治療に用いる注射薬です。2.ステロイド薬またはステロイド薬以外の免疫抑制薬が十分に奏効しない場合に用いられます。3.この注射は、医師や看護師の指導のもとに医療機関で開始しますが、患者さんやご家族の方が注射できると医師が判断した場合、自己注射での投与も可能です。4.投与中および投与終了後2ヵ月は、髄膜炎菌感染症のリスクが増加するので、「患者安全性カード」を常に携帯してください。5.投与中に頭痛や発熱、悪心など、季節性インフルエンザと似たような症状が生じた場合は、すぐに主治医または緊急時に受診可能な医療機関に連絡してください。<ここがポイント!>重症筋無力症(MG)は、自己抗体によって神経筋接合部の刺激伝達が障害される自己免疫疾患です。わが国のMG全体の約80~85%がアセチルコリン受容体(AChR)抗体陽性で、約5%が筋特異的チロシンキナーゼ(MuSK)抗体陽性です。全身型MGの治療は免疫療法を基本とし、経口ステロイド薬や免疫抑制薬、ステロイドパルス療法、免疫グロブリン静注療法、血漿浄化療法が用いられます。また、難治性全身型MGには、抗補体(C5)モノクローナル抗体であるエクリズマブが使用されます。ジルコプランは補体(C5)を阻害する大環状ペプチドで、分子量が治療用抗体と比較して小さいことから、神経筋接合部への透過性が高いと考えられます。ジルコプランは、C5に結合しC5aおよびC5bへの開裂ならびにC5bおよびC6の結合を阻害する2つの作用によって、補体が関与する損傷を阻害する次世代補体(C5)阻害薬です。日本で初めての在宅自己投与が可能なMG治療の皮下注射製剤です。抗AChR抗体陽性の18歳以上の全身型MG患者を対象とした国際共同第III相二重盲検試験(MG0010)の結果、12週におけるMG-ADL総スコアのベースラインからの変化量の最小二乗平均値は、ジルコプラン群で−4.39およびプラセボ群で−2.30、群間差は−2.09(p<0.001)であり、ジルコプラン群はプラセボ群と比較して統計学的に有意な低下を示しました。本剤は、抗AChR抗体陽性の患者が対象であり、ステロイド薬またはステロイド薬以外の免疫抑制薬が十分に奏効しない場合にのみ投与が可能です。注意点として、補体(C5)阻害薬の使用により髄膜炎菌感染症のリスク増加が報告されている点が挙げられます。髄膜炎菌感染症は死に至る可能性がある重篤な疾患であるため、原則として投与開始の少なくとも2週間前までに髄膜炎菌ワクチンを接種する必要があります。

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インフルエンザウイルスを中和する新たな抗体を同定

 手ごわい敵との闘いで新たな武器の入手につながりそうな研究結果がこのほど明らかになった。米ピッツバーグ大学医学部のHolly Simmons氏らは、複数のインフルエンザウイルス株を中和できる可能性のある、これまで見つかっていなかったクラスの抗体を同定したことを発表した。この抗体は、現在よりも幅広いインフルエンザウイルス株に対して有効なワクチンの開発につながる可能性があるという。研究の詳細は、「PLOS Biology」に12月21日掲載された。 インフルエンザウイルスがヒトに感染する際には、ウイルス表面の糖タンパク質であるヘマグルチニン(HA)が重要な役割を果たす。インフルエンザワクチンは、免疫システムにHAと結合する抗体を作らせて、HAがヒトの細胞に侵入するのを阻止する。しかし、抗体が結合するHAの部位は抗体ごとに異なることに加え、ウイルス自体も変化することから、作られた抗体を回避できる新たなウイルス株が生まれる。 インフルエンザワクチンは、毎年、専門家がそのシーズンに流行する可能性のある主な株を予測し、それに基づき製造される。予測は的中することもあるが、その確率はそれほど高くない。研究グループは、「インフルエンザウイルスの変異に対応するためには、毎年、インフルエンザワクチンを作りかえる必要がある。しかし、われわれの研究から、より広範な防御免疫を誘導するための障壁は驚くほど低い可能性のあることが示唆された」と話している。 現在、さまざまな研究によって、複数のインフルエンザウイルス株に対して予防効果を発揮するワクチンの開発が模索されている。その多くは、HAの2つの型であるH1とH3の両方に防御効果を発揮する抗体に焦点を当てている。H1とH3にもさまざまな亜型が存在するため、広範に感染を引き起こす。 これに対して、今回の研究は、いくつかのH1株に見られる小さな変化に着目したものだ。Simmons氏らの説明によると、H1株表面のHAに「133a挿入」と呼ぶアミノ酸の挿入があると、タンパク質の立体構造に変化が生じて抗体が結合できなくなり、中和効果がなくなるのだという。 Simmons氏らは、4人の患者から採取した血液検体を用いて一連の実験を行い、133a挿入の有無にかかわらず、一部のH3株と一部のH1株を中和できる新たなクラスの抗体を同定した。これらの抗体は、他の抗体とは異なる分子的特徴を持っており、H1株とH3株を異なるメカニズムで交差中和するという。 Simmons氏らは、「今回の研究によって、ウイルスに対するより広範な防御効果を持つワクチンの開発に寄与し得る抗体のリストが増えた」と説明。また、「インフルエンザワクチンの製造のあり方を変えることを裏付けるエビデンスが増える中、今回の研究結果もその一つとなるものだ」と付け加えている。

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COVID-19外来患者において高用量フルボキサミンはプラセボと比較して症状改善までの期間を短縮せず(解説:寺田教彦氏)

 フルボキサミンは、COVID-19流行初期の臨床研究で有効性が示唆された比較的安価な薬剤で、COVID-19治療薬としても期待されていた。しかし、その後有効性を否定する報告も発表され、昨年のJAMA誌に掲載された研究では、軽症から中等症のCOVID-19患者に対するフルボキサミンの投与はプラセボと比較して症状改善までの期間を短縮しなかったことが報告されている1,2)。 同論文では、症状改善までの期間短縮を示すことができなかった理由として、ブラジルで実施されたTOGETHERランダム化プラットフォーム臨床試験3)等よりもフルボキサミンの投与量が少ないことを可能性の1つとして指摘しており、今回の研究では、COVID-19外来患者に対して高用量フルボキサミンの投与により症状改善までの期間を短縮するかの評価が行われた。 本研究では、30歳以上でCOVID-19発症から7日以内の外来患者を、高用量のフルボキサミン群とプラセボ群に無作為に割り付けて比較した。結果は、主要アウトカムである症状改善までの期間短縮は認めず(調整ハザード比:0.99、95%信頼区間:0.89~1.09、有効性のp=0.40)、副次アウトカムの28日以内死亡例は両群ともに0例で、入院や救急外来/救急診療部受診ではフルボキサミン群14例(2.4%)に対してプラセボ群21例(3.6%)とフルボキサミン群での医療介入イベントは3分の1程度少なかったが、事前に定めた基準を満たすほどの差はなかった4)。 また、忍容性の観点では、「調子が悪いため、薬を飲むつもりはない」と報告した患者は、フルボキサミン群6.4%に対してプラセボ群は2.1%と、以前から想定されていた高用量フルボキサミンにおける忍容性の低さが示されたと考える。以上より、昨年の論文に続き、本研究でもCOVID-19に対するフルボキサミン投与の有効性は示されなかった。 今回の主要アウトカムであるCOVID-19の症状改善までの期間短縮では、有意差を示した過去の報告は乏しく、COVID-19に対して死亡率低下や重症化予防効果を示したニルマトレルビルやモルヌピラビルでさえほとんどない。 統計学的に有意な症状改善効果を示した薬剤にはエンシトレルビルがあり、プラセボに比較して症状消失までの時間を約24時間短縮させている5)。本邦で重症化リスクは低いが症状の強い患者から対症療法以外の薬剤も処方希望がある場合は、フルボキサミンを処方するよりもエンシトレルビルを処方するほうが理にかなっているだろう。 ただし、昨今のCOVID-19診療では、流行株の変化やワクチン接種の効果により、死亡率や重症化率は低下傾向で、外来患者の症状もデルタ株流行時よりも軽減しているように感じている。流行株が変遷した現在において、症状改善までの期間短縮のメリットが薬価や副作用・ウイルス耐性化のリスクといったデメリットに勝る薬剤を発見・開発することは、今後もなかなか難しいかもしれない。 さて、現在の医療現場でCOVID-19に関する問題として残っていることには、施設入所や入院中の患者で発生するCOVID-19クラスターがある。執筆時点で、COVID-19に対する発症予防効果が期待されている薬剤は、ワクチンや抗体療法を除くと証明されておらず、現在の流行株によるクラスター対策で即時に有用な薬剤はない。COVID-19は、重症化リスクの乏しい患者においては、インフルエンザウイルスなどと近い重症度になりつつある6)が、現在でも感染力は強く、施設内・院内感染におけるクラスターはいまだに施設や医療機関に負荷をかける原因となっている。 しかし、COVID-19に対して重症化予防が証明された抗ウイルス薬でも、発症予防効果が証明された薬剤はなく、症状改善までの期間短縮の薬剤よりも発症予防効果のある薬剤のほうが医療現場でのニーズは高いかもしれない。■参考1)McCarthy MW, et al. JAMA. 2023;329:269-305.2)CareNet.comジャーナル四天王「フルボキサミン、軽~中等症コロナの症状回復期間を短縮せず/JAMA」(2023年1月30日)3)Reis G, et al. Lancet Glob Health. 2022;10:e42-e51.4)CareNet.comジャーナル四天王「コロナ外来患者への高用量フルボキサミン、症状期間を短縮せず/JAMA」(2024年1月12日)5)日本感染症学会 COVID-19治療薬タスクフォース「COVID-19に対する薬物治療の考え方 第15.1版」(2023年2月14日)6)Xie Y, et al. JAMA. 2023;329:1697-1699.

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悪性黒色腫への個別化mRNAワクチン+ペムブロリズマブの効果は?(KEYNOTE-942)/Lancet

 完全切除後の高リスク悪性黒色腫に対する術後補助療法として、個別化mRNAがんワクチンmRNA-4157(V940)とペムブロリズマブの併用療法は、ペムブロリズマブ単剤療法と比較し、無再発生存期間(RFS)を延長し、安全性プロファイルは管理可能であった。米国・Laura and Isaac Perlmutter Cancer Center at NYU Langone HealthのJeffrey S. Weber氏らが、米国およびオーストラリアで実施した第IIb相無作為化非盲検試験「KEYNOTE-942試験」の結果を報告した。免疫チェックポイント阻害薬は、切除後のIIB~IV期悪性黒色腫に対する標準的な術後補助療法であるが、多くの患者が再発する。mRNA-4157は、脂質ナノ粒子製剤中に最大34個のネオアンチゲンをコードするmRNAを含む個別化ワクチンで、個人の腫瘍mutanomeとヒト白血球抗原(HLA)タイプに特異的に合わせて調製されている。著者は、「今回の結果は、mRNAに基づく個別化ネオアンチゲン療法の術後補助療法における有益性を示すエビデンスとなる」とまとめている。Lancet誌オンライン版2024年1月18日号掲載の報告。主要評価項目は無再発生存期間(RFS) 研究グループは、切除可能なIIIB~IV期(IIIB期は前回の手術から3ヵ月以内の再発のみ適格)の悪性黒色腫を有する18歳以上で、ペムブロリズマブ初回投与の13週間前までに完全切除術を受け、試験開始時に臨床的および放射線学的に無病であり、ECOG PSが0または1の患者を、mRNA-4157+ペムブロリズマブ併用療法(併用療法群)またはペムブロリズマブ単剤療法(単剤療法群)に、病期で層別化して2対1の割合で無作為に割り付け追跡評価した。mRNA-4157は1mgを3週間間隔で最大9回筋肉内投与、ペムブロリズマブは200mgを3週間間隔で最大18回静脈内投与した。 主要評価項目は、ITT集団におけるRFS、副次評価項目は無遠隔転移生存、安全性などであった。ペムブロリズマブ単剤に対するmRNA-4157併用のハザード比は0.561 2019年7月18日~2021年9月30日に、157例が併用療法群(107例)および単剤療法群(50例)に割り付けられた。追跡期間中央値は、それぞれ23ヵ月および24ヵ月であった。 データカットオフ時点(2022年11月14日)で、再発または死亡のイベントは併用療法群で24例(22%)、単剤療法群で20例(40%)に発生し、RFSは併用療法群が単剤療法群と比べて延長し(再発または死亡のハザード比[HR]:0.561、95%信頼区間[CI]:0.309~1.017、両側p=0.053)、18ヵ月RFS率はそれぞれ79%(95%CI:69.0~85.6)、62%(95%CI:46.9~74.3)であった。 治療関連有害事象の多くはGrare1または2であり、Grare3以上は併用療法群でmRNA-4157関連事象12例(12%)、ペムブロリズマブ関連事象24例(23%)、単剤療法群でペムブロリズマブ関連事象9例(18%)であった。 有害事象によりペムブロリズマブの投与を中止した患者は、併用療法群で26例(25%)、単剤療法群で9例(18%)であった。免疫関連有害事象は、併用療法群で37例(36%)、単剤療法群で18例(36%)に認められた。

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プロバイオティクスはCOVID-19の発症を遅らせる?

 プロバイオティクス、特に乳酸菌の摂取は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患した同居家族を持つ新型コロナワクチン未接種者のCOVID-19発症を遅らせ、発症した場合でも症状を軽減する効果のあることが、新たな臨床試験で明らかにされた。米デューク大学医学部麻酔科学分野のPaul Wischmeyer氏らによるこの研究の詳細は、「Clinical Nutrition」1月号に掲載された。Wischmeyer氏は、「この研究結果は、COVID-19や将来流行する可能性のある他の疾患との闘いにおいて、共生微生物が貴重なパートナーになり得るという考えに信憑性を与えるものだ」と話している。 プロバイオティクスは、主に消化管に生息する有益な細菌や酵母を増やすように設計されている。「プロバイオティクスに呼吸器感染症を予防する効果があることを示す強力なエビデンスは、COVID-19が発生する前からあった」とWischmeyer氏は説明する。 この研究では、プロバイオティクスの摂取が、COVID-19のリスクを低減するための低リスクで低コスト、かつ導入の容易な方法となり得るかどうかが、二重盲検化ランダム化比較試験で検討された。対象者は、過去7日間で家庭内にCOVID-19罹患者がいた1歳以上の新型コロナワクチン未接種者182人で、新型コロナワクチンが広範に接種されるようになる前の2020年6月から2021年6月の間に試験に登録された。これらの対象者は、曝露後予防として28日間、プロバイオティクス(Lacticaseibacillus rhamnosus GG)を摂取する群(プロバイオティクス群)と、プラセボを摂取する群(プラセボ群)に1対1でランダムに割り付けられた。このうち135人(プロバイオティクス群66人とプラセボ群69人)が治療を開始した。主要評価項目は、COVID-19曝露から28日間でのCOVID-19の発症であった。 その結果、プロバイオティクス群ではプラセボ群に比べて、COVID-19の発症リスクが有意に低いことが明らかになった(26.4%対42.9%、P=0.02)。全体的なCOVID-19罹患率は、プロバイオティクス群で8.8%、プラセボ群で15.4%と前者の方が低かったが、統計的に有意な差は認められなかった(P=0.17)。ただし、プロバイオティクス群では、COVID-19の診断を受けるまでの時間が有意に長かった(P=0.049)。 こうした結果についてWischmeyer氏は、「プロバイオティクスは免疫系を強化し、炎症に関わる体内の化学物質を減少させ、感染に対する肺の防御能を高めることが知られている」と指摘。その上で、「今回の試験で得られた結果は、われわれにとっては驚きではなかった。インフルエンザなどの呼吸器感染症に対するプロバイオティクスの強い有効性を実証した先行研究がいくつかあったからだ」と話している。 Wischmeyer氏は、「プロバイオティクスは、ワクチン接種が受けにくい低所得国や、『ワクチン疲れ』で新型コロナワクチンのブースターの接種率が低い米国の地域では特に有用な可能性がある」との見方を示す。米疾病対策センター(CDC)によると、2023年に改良版の新型コロナワクチンを接種した人は、米国の人口の20%以下であるという。

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コロナ第10波、今のXBB.1.5対応ワクチン接種率は?/厚労省

 2024年1月26日付の厚生労働省の発表によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新規感染は、1月15~21日の1定点当たりの報告数が12.23人となり、前週の8.96人から約1.36倍増加している。都道府県別で多い順に、福島県(18.99人)、茨城県(18.33人)、愛知県(17.33人)となっている。COVID-19による入院患者数は3,462人で、すでに第9波のピーク時(2023年8月21~27日)の水準を上回っており1)、第10波が到来したと考えられる。 一方、首相官邸サイトの1月30日付の発表によると、新型コロナワクチンの令和5年秋開始接種(XBB.1.5対応ワクチン)の接種率について、65歳以上の高齢者では51.6%、全年代では21.5%と、低い水準にとどまっている2)。全額公費負担の特例臨時接種は2024年3月末で終了し、4月以降は、65歳以上および重い基礎疾患のある60~64歳を対象に、秋冬に自治体による定期接種が原則有料で行われる。対象者以外の接種希望者は、任意接種として、時期を問わず全額自費で接種することとなる。 厚労省は1月26日に、予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会・医薬品等安全対策部会安全対策調査会が実施した、「オミクロン株XBB.1.5対応1価ワクチンの初回接種および追加接種にかかわる免疫持続性および安全性調査(コホート調査)」の結果を発表した3)。本調査では、ファイザーおよびモデルナのXBB.1.5対応ワクチンについて、最終接種から4週間後までの安全性を評価する前向き観察研究であり、順天堂大学、国立病院機構(NHO)、地域医療機能推進機構(JCHO)が共同で実施した。 主な結果は以下のとおり。・ファイザーのワクチンは、2023年9月29日~2024年1月5日に1,943人が追加接種した。モデルナのワクチンは、2023年10月13日~2024年1月5日に237人が追加接種した。・ファイザーのワクチンの追加接種後1週間(Day8)の日誌が回収できた1,751人では、37.5℃以上の発熱が16.5%(38.0℃以上は6.5%)にみられ、局所反応は疼痛が87.5%にみられた。・モデルナのワクチンの追加接種後1週間(Day8)の日誌が回収できた971人では、37.5℃以上の発熱が39.9%(38.0℃以上は21.7%)にみられ、局所反応は疼痛が93.4%にみられた。・ファイザーのXBB.1.5対応ワクチンは、2回目から令和4年秋開始接種に比べて発熱の頻度が低く、倦怠感、頭痛は2回目から4回目接種より頻度が低かった。1回目接種に比べて発熱、倦怠感、頭痛は頻度が高く、局所の疼痛は1回目から4回目接種よりも頻度が低かったが、全体的に大きな違いは認めなかった。・モデルナのXBB.1.5対応ワクチンは、3回目接種に比べて頭痛の頻度が低く、令和4年秋開始接種より発熱、倦怠感、頭痛の頻度が高かったが、局所疼痛の頻度は全体的に大きな違いは認めなかった。・ファイザーのXBB.1.5対応ワクチン接種者862人の接種前および接種後の抗S抗体価は、接種前の抗ヌクレオカプシドタンパク質抗体(抗N抗体)価が陰性者は接種前7,821U/mL、接種1ヵ月後1万7,971U/mLであった。抗N抗体陽性者は接種前2万3,860U/mL、接種1ヵ月後4万6,106U/mLであった。年齢階層別には大きな違いを認めなかった。・モデルナのXBB.1.5対応ワクチン接種者307人の接種前および接種後の抗S抗体価は、接種前の抗N抗体価が陰性者は接種前6,749U/mL、接種1ヵ月後2万1,797U/mLであった。抗N抗体陽性者は接種前1万9,851U/mL、接種1ヵ月後3万8,136U/mLであった。年齢階層別には大きな違いを認めなかった。・ファイザーとモデルナのXBB.1.5対応ワクチンのいずれも、PMDAへの副反応疑い報告は認められていない。ファイザーのワクチンにおいては因果関係を問わない重篤な有害事象(SAE)は認められていない。モデルナのワクチンにおいて3件の因果関係を問わないSAEが認められている。 なお、現在主流となっているオミクロン株JN.1に対しても、XBB.1.5対応ワクチンは入院や死亡といった重症化の予防に有効だとする見解が、JAMA誌オンライン版2024年1月12日号で示されている4)。

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新型コロナ、ワクチン接種不足で重症化リスク増/Lancet

 英国において、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン接種が推奨回数に満たないワクチン接種不足者が、2022年6月時点の同国4地域別調査で32.8~49.8%に上り、ワクチン接種不足が重症COVID-19のリスク増加と関連していたことが、英国・エディンバラ大学のSteven Kerr氏らHDR UK COALESCE Consortiumが実施したコホート研究のメタ解析の結果で示された。ワクチン接種不足は完全接種と比較して、COVID-19による入院や死亡といった重症アウトカムのリスク増大と関連している可能性がある。研究グループは、ワクチン接種不足の要因を特定し、ワクチン接種不足者の重症COVID-19のリスクを調査する検討を行った。Lancet誌オンライン版2024年1月15日号掲載の報告。英国のほぼ全国民をカバーする医療データセットを用いて解析 研究グループは、イングランド、北アイルランド、スコットランド、ウェールズの4地域におけるTrusted Research Environment(TRE)の医療データセットを用いてコホート研究を行った。このデータデットには、ほぼ全国民をカバーする匿名化された電子健康記録のデータが含まれている。 5歳以上を対象に2022年6月1日時点のワクチン接種不足の補正後オッズ比を推定するとともに、同日~9月30日の4ヵ月間における重症COVID-19の発生について、ワクチン接種不足との関連を解析した。ワクチン接種は、英国の予防接種に関する共同委員会(Joint Committee on Vaccination and Immunisation:JCVI)による年齢層別の推奨接種回数を満たしている場合を完全接種、満たしていない場合を接種不足と定義した。 重症COVID-19とワクチン接種不足との関連は、4地域の各TREで解析を行った後、逆分散加重固定効果メタ解析を用いて統合した。完全接種なら、重症COVID-19の2割弱(7,180/4万393件)は回避できた可能性 2022年6月1日時点のワクチン接種不足者は、イングランドで5,896万7,360人中2,698万5,570人(45.8%)、北アイルランドで188万5,670人中93万8,420人(49.8%)、スコットランドで499万2,498人中170万9,786人(34.2%)、ウェールズで235万8,740人中77万3,850人(32.8%)であった。4地域全体の接種不足者は3,040万7,626人(44.4%)であった。 5~74歳の集団において、若年、社会経済的貧困度が高い、非白人、合併症の数が少ないといった人ほど、ワクチン接種不足の可能性が高かった。 重症COVID-19の発生は、全体で4万393件であった。このうちワクチン接種不足者での発生は1万4,156件であった。ワクチン接種不足は、すべての年齢群、すべての地域で、とくに75歳以上において重症COVID-19のリスク増大と関連していた。 2022年6月1日時点で、すべての人がワクチンを完全接種していたと仮定して分析したところ、追跡期間4ヵ月時点で、5~15歳210件(95%信頼区間[CI]:94~326)、16~74歳1,544件(1,399~1,689)、75歳以上5,426件(5,340~5,512)、合計7,180件の重症COVID-19を減少したと推定された。 75歳以上におけるCOVID-19重症化の補正後ハザード比は、推奨回数より1回少ない場合で2.70(95%CI:2.61~2.78)、2回少ない場合で3.13(2.93~3.34)、3回少ない場合で3.61(3.13~4.17)、4回少ない場合で3.08(2.89~3.29)であった。

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医療者へのワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】総論 第6回

はじめここでは特定のワクチンではなく、医療機関で働く医療者に対して接種が推奨されるワクチンを一括して扱う。本稿の対象は、医療機関で働き患者と対面での接触がある職員(医師、看護師、各種技師、受付事務員など)に加え、医療現場で実習を行う医療系学生(医学生、看護学生など)である。以降は、まとめて「医療職員」と記載する。医療職員は、常にさまざまな病原体にさらされている。伝染性疾患の患者は、そうと知らずに治療を求めて病院を訪れるし、易感染性状態にある免疫弱者も同じ空間に密集しうる。これら両者に対応する医療職員も、また、常に病原微生物に曝露されている。したがって、医療職員が感染すると、自身が感染症患者になるだけでなく、無関係な来院者や入院患者へ2次感染を起こす原因にもなりうる。これを回避するためにワクチンがある(ワクチンで予防できる)感染症(VPD)については最大限に対策する必要がある。以上の観点から、対象となるのは以下のVPDとなる。1.空気感染もしくは飛沫感染するVPD2.接触感染または針刺しが原因となるVPD3.一部の医療従事者で必要となるVPD4.曝露後対応を要するVPDワクチンで予防できる疾患(疾患について・疫学)1.空気感染もしくは飛沫感染するVPD1)麻疹、風疹、ムンプス、水痘(1)いずれも代表的なVPDで、飛沫やエアロゾルによる強烈な感染力がある。ムンプス以外は定期接種に指定されているが、海外からの持ち込みなどもあり根絶には程遠い状況にある。(2)近年は医学部などの卒前教育課程でワクチン接種が推奨される医療系学生も増えてきたが、記録の確認は確実に行っておく必要がある。医療資格を持たない事務系職員も忘れずに対応する必要がある。2)季節性インフルエンザ(1)インフルエンザウイルスによる流行性感冒。A型とB型があり、それぞれ流行の度に表面抗原も微妙に異なる。(2)わが国では晩秋から春にかけて流行することが多いが、沖縄を含む熱帯地方では年間を通じて循環している。海外との往来や温暖化により、流行時期は増えている。(3)感染既往やワクチン接種による免疫は発症を予防するほど十分でないため、ワクチンを接種しても罹患するなど個人レベルでは恩恵を実感しにくいが、集団としてはワクチン接種率が高いほど疾病負荷が減るため有益性がある。3)SARS-CoV-2(COVID-19)(1)2019年末から世界的パンデミックを起こしたコロナウイルス。2023年現在はオミクロン株派生型が主流で、軽症にとどまることが多いもののエアロゾル感染を起こすため強い感染力がある。4)百日咳(1)飛沫により感染する細菌感染症。成人が感染すると乾性咳が長く続き、新生児が感染すると致死的な経過を取ることがある。以上から、新生児と接触がある成人に免疫付与するコクーニング(cocooning)による新生児感染予防が推奨されている。2.接触感染または針刺しが原因となるVPD1)B型肝炎(1)ヒトのあらゆる体液(汗を除く)から感染するウイルス性疾患で、15年以上の経過で肝硬変や続発する肝がんの原因となる。(2)世界保健機関(WHO)が1992年からuniversal vaccinationキャンペーンを展開して感染抑制が進んだ地域も多い中、わが国は定期接種化が2016年と世界的には後発であり、高齢者の陽性キャリアはいまだ多い。3.一部の医療者のみ考慮の対象となるVPD1)破傷風(1)土中の芽胞菌である破傷風菌が損傷皮膚に感染して起こす疾患で、発症後の死亡率は30%と高い。肉眼で確認できない微細な損傷でも感染が成立する。(2)屋外で転倒する可能性を考えれば全住民に免疫付与が望まれるが、医療機関での業務として考えた場合、土壌に触れる業務がある職員(清掃職員、園芸療法に関わる者など)で接種完遂が求められる。2)髄膜炎菌(1)飛沫感染によって細菌性髄膜炎を起こす。集団生活や人の密集状態で、時に集団発生することが知られている。(2)救急外来や病理検査室のように、曝露を受ける可能性が高い部署では職員に対して接種を勧める。4.曝露後対応を要するVPD(曝露後緊急接種に用いる)1)MR、水痘(1)麻疹と水痘への曝露があった場合、すみやかに追加接種(72時間以内だが早いほど良い)することで、免疫がなくても高い発症阻止効果が期待できる。(2)風疹とムンプスでは曝露後接種の有効性は示されていないが、曝露の時点でワクチン接種歴が明らかでなければ将来利益も考慮して接種を推奨する。2)HBV(B型肝炎ウイルス)(1)接種未完了者がHBV陽性体液に曝露された場合、免疫グロブリンに加えてHBVワクチン1シリーズ(3回)接種を開始することで感染を予防できる可能性がある。3)破傷風(1)屋外での外傷により発症リスクが懸念される場合、追加接種を行う。医療職員が未接種である可能性は低いが、その場合は免疫グロブリン投与も必要となる。ワクチンの概要(効果、副反応、生または不活化、定期または任意・接種方法)1)MR、ムンプス、水痘(1)上記いずれも生ワクチンであり、MRと水痘は現在国の定期接種となっているが、1回接種だった時代もあり、接種回数が不足している可能性がある。2)季節性インフルエンザ(1)4価の不活化ワクチン(A型2価+B型2価)が最も一般的。成人はシーズン前に1回接種。(2)上記の通り、個々人の発症や重症化を予防する効果は高くないが、集団発生の確率を減らすことで疾病負荷を軽減するために接種が推奨される。3)SARS-CoV-2(COVID-19)(1)パンデミック対策として各種ワクチンが緊急開発・供給された中、初めて実臨床使用されたmRNAワクチンが、現時点までもっとも安全かつ有効なワクチンである。(2)2023年現在、野生株とオミクロン株の2価ワクチンが流通している。(3)伝統的なワクチンに比べて発熱や疼痛などが強い傾向はあるものの、重篤な副反応はとくに多いとはいえず、安全性は他のワクチンと大差はない。4)百日咳、破傷風(1)3種または4種混合として定期接種化されている不活化ワクチン。(2)免疫能を維持するために10年ごとの追加接種が望ましいとされているが、追加分は定期接種に設定されていないため、可能なら医療機関で職員の接種時期を把握しておき、接種を知らせたい。接種のスケジュールや接種時の工夫いずれのワクチンについても、接種歴を確実に記録し、必要な追加接種が遅れずに実施できるように努める。1)MR、ムンプス、水痘(1)「生後1年以降に2回の接種」が完遂の条件。間隔が長くても問題ない。(2)上記を満たさない・記録が確認できない場合は、不足分を接種する。(3)2回接種が必要な場合、1ヵ月以上時間を空ける。(4)混合ワクチンにより3回以上の接種となる成分があっても問題ない。(5)接種前後での抗体検査は必要ない。2)百日咳、破傷風(1)小児期の基礎免疫が完遂している場合、沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン(商品名:トリビック)を1回接種する。(2)小児期の基礎免疫が不明なら、基礎免疫として0、1、2ヵ月で3回接種する。(3)破傷風の単独ワクチンを接種していても、百日咳の免疫付与が必要ならトリビックを接種して良い。3)季節性インフルエンザ(1)一般的な4価の不活化ワクチンは、流行前に1回接種する。(2)添付文書上は皮下注とされているが、効果や副作用の観点からは筋注が望ましいため、実臨床では「深い皮下注」を心がけると良い。4)SARS-CoV-2(COVID-19)(1)院内感染対策の一環として、医療職員は都度すみやかに接種を行うことが望ましい。日常診療で役立つ接種ポイント(例:ワクチンの説明方法や接種時の工夫など)業務上の必要性から職員へ接種を勧める観点から、以下の点に留意したい。職種により事前の説明を調整する接種費用は医療機関が負担する接種記録は人事記録として保管する妊娠や治療などが接種不可の理由になることから、ワクチン接種情報はプライバシー保護の対象として対応する。たとえば、「集団一斉接種をしない」、「接種対象者名簿を公開しない」など。年次健康診断や新人オリエンテーションと一緒に接種するなど、業務への影響を最小限に抑える工夫をする曝露後接種の取り扱いは、あらかじめ院内感染予防マニュアルに手順を明記しておく。そうすることで、発生報告からワクチン接種まで迅速に処理され接種時期を逃さない。参考となるサイト環境感染学会医療者のためのワクチンガイドライン 第2版/第3版こどもとおとなのワクチンサイト講師紹介

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ChatGPT、ワクチン忌避に関する質問を正確に処理

 ChatGPTは、ワクチン接種のためらいや安全性に関する質問に対して正確な回答を提供するが、時には不完全な場合もあるとの研究結果が、「Human Vaccines & Immunotherapeutics」に9月3日掲載された。 サンティアゴ・デ・コンポステーラ大学(スペイン)のAntonio Salas氏らは、ワクチンの安全性に関してインターネット上で流布している50の最も一般的な偽情報、真偽両方の禁忌、俗説についてチャットボットに質問することで、ワクチン接種のためらいに関する意見を生成するChatGPTの能力を検討した。 解析の結果、ほとんどの質問に対して正確な回答が得られ、ほとんどの回答が「優秀(excellent)」または「良い(good)」と評価され、平均スコアは10点満点中9点であった。専門家の総合的な評価では、回答の85.5%は「正確」、14.5%は「正確だが不完全」と判定された。 著者らは、「全体として、ChatGPTはワクチンや予防接種に関する偽情報を検出することができる。現在の形態では、この人工知能が使用する言語は過度に専門的ではなく、一般の人々にも理解しやすいが、科学的な厳密さを犠牲にしないものだ。現在のバージョンのChatGPTは、専門家や科学的エビデンスに取って代わることはできない。しかし、今回の結果は、ChatGPTが一般の人々にとって信頼できる情報源となり得ることを示唆している」と述べている。 なお複数人の著者が、製薬企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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コロナワクチンとインフルワクチンで異なる、接種を躊躇する理由とは?

 米国・ハーバード大学T.H. Chan公衆衛生大学院のGillian K. SteelFisher氏らの研究グループは、新型コロナウイルス感染症ワクチンとインフルエンザワクチンに対して、人々の有効性や安全性の捉え方、接種の意向、躊躇する理由などについて調査した。その結果、有効性については両ワクチンとも40%の人が非常に効果的だと考える一方で、インフルワクチンのほうがコロナワクチンに比べて安全性への信頼度が高く、同様に接種の意向も高いことが示された。JAMA Network Open誌2023年12月21日号Research Letterでの報告。 本調査は2023年7月7~16日に、米国の18歳以上の成人の確率に基づくサンプルを対象にアンケート調査を実施した。 主な結果は以下のとおり。・調査に招待された3,232人のうち、1,430人(44%)がアンケートに回答した。・ほぼ同数の割合が、ワクチン接種が重篤な症状や入院を防ぐのに非常に効果的であると回答した。コロナワクチン42% vs.インフルワクチン40%。・ワクチンの安全性については、コロナワクチンと比べてインフルワクチンは非常に安全だと思っている割合が高かった。コロナワクチン41% vs.インフルワクチン55%。・今シーズンにワクチンを接種する可能性が非常に高いと答えた割合も、コロナワクチンと比べてインフルワクチンのほうが多かった。コロナワクチン36% vs.インフルワクチン49%。・50歳以上(659人)に限っても、全年代と同様の傾向がみられた。・ワクチン接種を躊躇する人において、コロナワクチンとインフルワクチンで懸念する理由が異なっていた。・コロナワクチンを懸念する理由として最も多い順に、より多くの研究をしてほしい(60%)、ワクチンの安全性への懸念がある(51%)、政府機関によるワクチンの推進を信頼していない(45%)、ワクチンが予防に非常に有効だと思わない(40%)、ワクチンよりも感染して自然免疫を得たい(38%)、ワクチンの製薬企業を信頼していない(38%)が挙げられた。・インフルワクチンを懸念する理由として最も多い順に、ワクチンよりも感染して自然免疫を得たい(37%)、人々があまりにも多くのワクチンを接種することを期待されていると感じる(30%)、政府機関によるワクチンの推進を信頼していない(27%)、ワクチンが予防に非常に有効だと思わない(27%)、感染しても重症になると考えていない(27%)、ワクチンの安全性への懸念がある(25%)が挙げられた。 人々がインフルワクチンよりも新型コロナワクチンの接種に、より消極的であることが示された。著者は本結果を踏まえて、医療者がワクチンに関する情報提供などの患者とのコミュニケーションにおいて、同時接種が提案される際はより人気のあるインフルワクチンを先に始めたり、両ワクチンの安全性と有効性について一貫したメッセージを提供したりすることを勧めている。今シーズン以降のワクチンの普及を促進するためには、医療者やコミュニケーターが公衆の意見の微妙な違いに対応することが不可欠だとしている。

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スパイクバックス筋注の新規剤形、0.5mLバイアル製剤を承認申請/モデルナ

 Moderna(米国)の日本法人モデルナ・ジャパンは、2024年1月19日付のプレスリリースで、同日に新型コロナウイルスワクチン「スパイクバックス筋注」の新規剤形を、厚生労働省に承認申請したと発表した。 今回申請した新規の剤形は以下のとおり。・0.5mLバイアル製剤 この新規剤形は、2023年9月に開始された予防接種法上の特例臨時接種において使用されることはない。 モデルナ・ジャパンは、新型コロナウイルス感染症の感染状況が地域によっては第10波に入ったともいわれているため、1年を通した感染状況のモニタリングや、とくに高齢者や免疫不全といったリスクの高い人のワクチン接種の重要性について引き続き啓発していきたい、としている。

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第178回 COVID-19の後遺症、倦怠感が最多、女性に多く発症

<先週の動き>1.COVID-19の後遺症、倦怠感が最多、女性に多く発症2.大学病院勤務医の教育・研究の「研鑽」は労働時間と通知/厚労省3.保険医療機関に対する指導・監査、不正請求で19.7億円返還/厚労省4.救急車の過剰利用に対策、非入院患者に7,700円徴収開始/松坂市5.脳神経外科の不適切な手術記録や説明不十分な日赤病院に対して改善指示/京都市6.糖尿病を見落とし患者死亡、神戸徳洲会病院に改善命令/神戸市1.新型コロナウイルス感染症の後遺症、倦怠感が最多、女性に多く発症新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者が国内で初めて確認されてから4年が経過し、ウイルス感染後の後遺症が重要な課題となっている。世界保健機関(WHO)は「症状が少なくとも2ヵ月以上続き、ほかの病気の症状として説明がつかないもの」と定義し、通常はCOVID-19発症から「3ヵ月たった時点にもみられるもの」とされている。後遺症には疲労感、呼吸困難、集中力の低下など200以上のさまざまな症状が報告されており、北野病院の調査によると、後遺症患者のうち女性は68.8%で、男性は31.2%と女性が多かった。とくに働き盛りの年代で発症しやすい傾向があることが判明している。後遺症の原因としては、持続感染、免疫機能の異常、腸の具合の悪化などが指摘されている。また、後遺症の患者の約7割が女性であり、主な症状には倦怠感が最も多いことがわかってきた。後遺症のメカニズムについて、免疫機能に関わる物質の変化や、コルチゾールの減少、リンパ球の増加、ヘルペスウイルスの再活性化などが関連していることが示されている。ただ、後遺症の予防には、ワクチン接種が有効であり、ワクチン接種によって後遺症の発症を抑える効果があることが報告されている。一方で、治療法はまだ確立されておらず、対症療法が主になっている状況。後遺症の患者支援に、時短勤務や産業医の支援などが必要とされている。参考1)新型コロナ 国内で初確認から4年 感染と後遺症への対策が課題(NHK)2)多様なコロナ後遺症 国内発生4年 不明だった実態、徐々に明らかに(朝日新聞)3)コロナ後遺症、発症者の7割が女性 倦怠感が最多 民間病院調査(毎日新聞)4)働き盛りの女性がコロナ後遺症になりやすく 予防するには?(同)2.大学病院勤務医の教育・研究の「研鑽」は労働時間と通知/厚労省厚生労働省は、1月15日に「大学病院に勤務する医師の教育・研究活動に関連する「研鑽」を労働時間に含めるべき」とする通知を改正した。これは、医師の働き方改革の一環として行われたもので、2024年4月から勤務医の時間外労働に上限が設けられることに伴う措置。改正された通知では、大学病院勤務医の教育・研究活動が本来の業務に含まれることを明示し、これに関連する研鑽も労働時間に該当するとされた。具体的には、医学部生への講義、試験問題の作成・採点、学生の論文指導、入学試験や国家試験に関する事務などが含まれる。この改正は、教育・研究活動が自己研鑽として扱われることによる時間外労働の問題を解決するためのもので、医師と上司間のコミュニケーションを重視し、正しい理解を促すことを目的としている。参考1)医師等の宿日直許可基準及び医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方についての運用に当たっての留意事項について」の一部改正について(厚労省)2)医師等の宿日直許可基準及び医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方についての運用に当たっての留意事項について」の一部改正について 新旧対照表(同)3)大学病院勤務医、教育・研究の「研鑽」は労働に該当 厚労省が明示(朝日新聞)3.保険医療機関に対する指導・監査、不正請求で19.7億円返還/厚労省厚生労働省は、2022年度の保険医療機関と薬局に対する指導・監査の結果、不正請求などで保険指定が取り消された施設は計18件(取り消し相当を含む)であったことを明らかにした。厚労省の指導・監査によって、医療機関や薬局からの返還総額は約19.7億円となり、コロナ感染拡大の影響もあり前年度からは約28.7億円減少していた。取り消し処分を受けた施設の内訳は、医科7件、歯科9件、薬局2件で、医療保険者や医療機関の従事者からの通報・情報提供が処分のきっかけとなったケースが多かった。また、保険医や保険薬剤師の登録取り消しは計14人に上った。不正請求の内容は架空請求、付増請求、振替請求など多岐にわたり、監査は診療内容や診療報酬の請求に不正やいちじるしい不当が疑われる場合に実施された。指導・監査の実施件数は、個別指導が1,505件、新規個別指導が6,742件、適時調査が2,303件、監査が52件となっている。参考1)令和4年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況について(厚労省)2)保険医療機関・薬局の指定取消計18件 22年度、返還19.7億円(CB news)3)不正請求等で18件・14人の医師等が保険指定取り消し等の処分、診療報酬20億円弱を返還-2022年度指導・監査(Gem Med)4.救急車の過剰利用に対策、非入院患者に7,700円徴収開始/松坂市三重県松阪市は、2024年6月1日から、市内の3つの基幹病院(松阪中央総合病院、済生会松阪総合病院、松阪市民病院)に救急搬送されたが入院に至らなかった患者に対し、保険適用外の「選定療養費」として1件あたり7,700円(税込み)を徴収することを発表した。この措置は、救急車の過剰利用に歯止めをかけるために行われる。松坂市の救急車の出動件数は、2023年に過去最多の1万6,180件に達し、市は現行の医療体制が限界に近付いていると判断した。この新しい制度は、軽症者に救急車以外の選択肢を促し、医療従事者の負担軽減と緊急患者への適切な医療提供を目指している。ただし、紹介状を持参した患者や公費負担医療制度の対象者、医師の判断で必要とされる場合は徴収対象外とされる。参考1)6月から1件7,700円を徴収 救急車“便利使い”歯止め 三重・松阪市(夕刊三重)2)救急車はもはや“有料化”すべき? 出動件数「過去最高」というハードな現実、賛否渦巻くワケとは(Merkmal)3)三重・松坂の救急搬送、入院しなかったら「7,700円」徴収へ…出動急増で「助かる命が助からない」(読売新聞)5.脳神経外科の不適切な手術記録や説明不十分な日赤病院に対して改善指示/京都市京都市の京都第一赤十字病院の脳神経外科で、手術の説明や記録が不十分だった事例が発覚し、京都市は同病院に対して改善を求める行政指導を行った。この問題は、病院関係者からの通報を受け、京都市が立ち入り検査を実施した結果、明らかになったもの。市の調査では、脳腫瘍やくも膜下出血などの手術において、患者や家族への説明の不備や、医療安全管理委員会への報告不足が確認された。さらに、手術や治療後に患者が死亡した12件の重大なケースについても、市は再検証を要求している。京都第一赤十字病院は、行政指導を真摯に受け止め、適切に対応する意向を示している。参考1)手術説明不十分、京都第一赤十字病院に行政指導 患者死亡の重大事例12件も(産経新聞)2)京都第一赤十字病院、手術の説明や記録で不適切対応 京都市が行政指導(京都新聞)3)手術の説明や記録不十分 京都市が病院に改善求める行政指導(NHK)6.糖尿病を見落とし患者死亡、神戸徳洲会病院に改善命令/神戸市神戸市の神戸徳洲会病院で、70代の男性患者が糖尿病の治療を受けずに死亡した問題について、神戸市は医療法に基づく改善命令を出す方針を固めた。この患者は新型コロナウイルス感染症に感染し、肺炎の悪化により一時的に大学病院に転院した後、徳洲会病院に戻ったが、糖尿病の持病があるにも関わらず、主治医である院長がこれを見落とし、インスリンの投与などの必要な治療が行われていなかった。同病院は、この事態を内部で検証したが、結論を出さずに放置していたとされている。神戸徳洲会病院は、以前から安全管理体制に問題があり、昨年8月にはカテーテル治療を受けた別の患者が複数死亡した事件に関連して行政指導を受けていた。兵庫県内で医療法に基づく改善命令が出されるのはこれが初めて。参考1)糖尿病既往歴見落とし、入院患者死亡 神戸徳洲会病院に改善命令へ(毎日新聞)2)神戸徳洲会病院に市が改善命令へ 入院患者に糖尿病治療行わず(NHK)

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新型コロナJN.1が世界の主流株に、高い伝播力と免疫回避能/東大医科研

 2023年12月時点で、オミクロン株BA.2.86の子孫株であるオミクロン株JN.1が世界各地で流行を拡大し、JN.1は世界保健機関(WHO)により「注目すべき変異株(VOI)」に分類されている。東京大学医科学研究所の佐藤 佳氏らによる研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan(G2P-Japan)」の研究で、JN.1は、これまで主流の1つだったXBB系統のEG.5.1より高い伝播力(実効再生産数)を有し、自然感染やワクチン接種により誘導される中和抗体に対しても高い回避能を有していることが認められた1)。本結果は、The Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2024年1月3日号に掲載された。 2023年11月時点で、BA.2.86の子孫株であるJN.1(別名:BA.2.86.1.1)の感染が世界中で急速に拡大している。JN.1はBA.2.86と比較して、スパイクタンパク質の455番目のアミノ酸がロイシン(L)からセリン(S)に置換された変異(S:L455S変異)を有しており、JN.1の持つS:L455S変異が流行の拡大に重要であると考えられている。なお、11月30日~12月31日のデータによると、世界で検出された変異株のうちJN.1が占める割合は32.85%となり、世界の主流株になっている2)。 本研究ではJN.1の流行拡大のリスク、およびウイルス学的特性を明らかにするため、ウイルスゲノム疫学調査情報を基に、ヒト集団内におけるJN.1の実効再生産数を推定し、次に、培養細胞におけるウイルスの感染性を評価した。また、SARS-CoV-2感染によって誘導される中和抗体や、XBB.1.5対応ワクチンによって誘導される中和抗体に対しての抵抗性も検証した。 主な結果は以下のとおり。・フランス、英国、スペインのゲノム監視データを基にした調査において、JN.1の実効再生産数は、それまで主流だったEG.5.1やHK.3よりも高いことが確認された。・JN.1は親株のBA.2.86と比較して、S:L455S変異という1つのアミノ酸の違いしかないにもかかわらず、BA.2.86より高い感染価を示した。・XBB系統XBB.1.5およびEG.5.1のブレークスルー感染によって誘導される中和抗体の中和活性について検証したところ、JN.1はいずれの中和抗体に対しても、BA.2.86よりも3.8倍高い中和抵抗性を示した。・JN.1は、EG.5.1の子孫株であるHK.3に比べ、XBB.1.5ブレークスルー感染による中和抗体に対して2.6倍(p=0.0016)、EG.5.1ブレークスルー感染による中和抗体に対して3.1倍高い(p<0.0001)中和抵抗性を示した。・XBB.1.5対応1価ワクチンにより誘導される中和抗体に対して、JN.1は、XBB系統非感染の場合ではBA.2.86よりも3.6倍高い(p=0.016)、XBB系統感染の場合ではBA.2.86よりも4.5倍高い(p=0.0020)中和抵抗性を示した。

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組み換え帯状疱疹ワクチン、接種回数別の4年後の効果

 組み換え帯状疱疹ワクチン(商品名:シングリックス)の2回接種は、臨床試験において有効率97%と非常に高い有効性を示しているが1)、実臨床における長期有効性は明らかになっていない。そこで、米国・Kaiser Permanente Northern CaliforniaのOusseny Zerbo氏らは、組み換え帯状疱疹ワクチンの実臨床における効果を調べた。その結果、1回接種の場合は有効性が1年後に低下したが、2回接種の場合は4年間の追跡期間において有効性が低下しなかった。本研究結果は、Annals of Internal Medicine誌オンライン版2024年1月9日号で報告された。 本研究は、Vaccine Safety Datalinkに登録された、50歳以上の組み換え帯状疱疹ワクチン接種者および帯状疱疹ワクチン未接種者を対象とした。有効性について、抗ウイルス薬の処方を伴う帯状疱疹の診断を基にした、帯状疱疹予防効果をワクチン未接種者との比較によって評価した。また、ワクチン接種後の期間別およびステロイド使用の有無別にワクチンの有効性を評価した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は約200万人、追跡期間は761万4,196患者年であった。・接種後の期間別にみたワクチンの有効率は以下のとおりであった(1回接種の有効率vs.2回接種の有効率)。【30日後~1年未満】70% vs.79%【1年後~2年未満】45% vs.75%【2年後~3年未満】48% vs.73%【3年後以降】52% vs.73%・ステロイド使用の有無別にみたワクチンの有効率は、ステロイド非使用者が77%、帯状疱疹リスクの高いステロイド使用者で65%であった。 著者らは、本研究結果について「臨床試験での報告よりは有効性が低かったものの、実臨床においても組み換え帯状疱疹ワクチンは非常に有効であった。2回接種の有効性は4年間の追跡期間中にほとんど低下しなかったが、1回接種の有効性は1年後に大幅に低下した。このことから、2回接種の重要性が示された」とまとめた。

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国内初のRSVワクチン発売、対象は60歳以上/GSK

 グラクソ・スミスクライン/GSKは、60歳以上におけるRSウイルス(RSV)による感染症の予防を目的とした組み換えRSVワクチン「アレックスビー筋注用」を2024年1月15日に販売開始した。本ワクチンは、60歳以上を対象とした国際共同第III相無作為化比較試験「AReSVi-006試験」の結果1)に基づき、2023年9月25日に製造販売承認を取得している。 AReSVi-006試験の対象は、60歳以上の成人(医学的に安定している基礎疾患を有する者を含む)2万4,981例(日本人1,038例を含む)で、主要評価項目はRSV感染による下気道疾患※の初回発現を指標とした予防効果であった。主要評価項目に関する有効率は82.6%であり、RSV感染による下気道疾患に対する本ワクチンの有効性が検証された。なお、日本人集団ではRSVによる下気道疾患の発現はみられなかった。※:24時間以上持続する1つ以上の下気道徴候を含む2つ以上の下気道症状/徴候がある、または24時間以上持続する3つ以上の下気道症状がある 本ワクチンは、アジュバント添加RSVワクチンであり、抗原として膜融合前型立体構造を保持できるよう改変したRSVのfusion(F)糖タンパク質の3量体を含有している。この抗原にGSK独自のAS01Eアジュバントを組み合わせている。また、国際共同第III相無作為化比較試験(NCT05590403)2)に基づき、RSVによる感染症のリスクが高い50~59歳の成人への接種対象者拡大についても、2023年12月に厚生労働省へ承認申請を行っている。【アレックスビー筋注用 製品概要】製品名:アレックスビー筋注用一般名:組換えRSウイルスワクチン効能又は効果:RSウイルスによる感染症の予防用法及び用量:60歳以上に1回、0.5mLを筋肉内接種

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エムポックスワクチン、5分の1の投与量でも有効

 コンゴ民主共和国では2023年に入って以来、エムポックス(サル痘)の感染例が例年より大幅に多く、すでに何百人もの人が死亡している。こうした中、米ニューヨーク大学(NYU)の研究グループが、エムポックスワクチン(Jynneos)の5分の1の量を皮内接種することでも十分な感染予防効果が得られるとする研究結果を報告した。筆頭著者であるNYUグロスマン医学部の感染症専門医であるAngelica C. Kottkamp氏は、「ワクチン不足に直面した際の緊急措置として少量のワクチンを投与することの有効性が確認された」と述べている。この研究結果は、「The New England Journal of Medicine(NEJM)」12月14日号に掲載された。 2022年にLGBTQ+の人やHIV感染者を中心に世界各国でエムポックスが流行し、それに伴い、エムポックスワクチンの供給が限界にまで逼迫した。この事態に対処するために、米食品医薬品局(FDA)は2022年8月9日、より多くのワクチンを行き渡らせるために、通常は皮下投与するJynneosの5分の1の量を皮内投与する接種法に緊急使用許可を与えた。NYUのニュースリリースによると、この年の夏にニューヨークでエムポックスが流行した際に約15万5,000人のニューヨーカーがワクチンを接種したが、その大部分は5分の1用量の接種だったという。しかし、HIV感染者におけるワクチンの皮内投与の効果やJynneos接種後のエムポックスウイルスに対する抗体の持続期間は明らかになっていない。 この研究では、エムポックス罹患歴のない145人のニューヨーカー(男性80.7%)を対象に、Jynneosの皮内投与後の抗体の持続期間が調査された。対象者の24%はHIV感染者で、20%は天然痘ワクチンの接種歴があり、89%(うち85%が男性)はLGBTQ+を自認していた。Kottkamp氏らは、エムポックスウイルス中和の指標として、エムポックスウイルスのH3Lタンパク質に対するIgG抗体価を測定した。 その結果、天然痘ワクチンの接種歴がない人では、Jynneosの2回接種後にH3Lタンパク質に対するIgG抗体価がピークに達した後、低下していくことが明らかになった(抗体半減期107.9日)。一方、天然痘ワクチンの接種歴がある人では2回目接種後3カ月にわたり、より高い抗体価を維持していた。天然痘ワクチンの接種歴がない人では、Jynneosの2回接種後の幾何平均抗体価が1回接種後の4倍だった(199.4対49.6)。Jynneosの2回接種後のIgG抗体価に、投与経路(皮内/皮下投与)やHIVの状態による違いは認められなかった。 主任研究者であるNYUグロスマン医学部のMark Mulligan氏は、「この研究結果は、エムポックスウイルスへの感染リスクが最も高い人には貴重なサポート情報を提供し、また、感染症の専門家には、エムポックスが再流行した場合に、それを短期間で効果的に対処するためのワクチン接種の手段と知識があることの裏付けとなるだろう」と述べている。

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