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ワクチンの追加接種はがん患者のCOVID-19重症化を防ぐ

 がん患者は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が重症化しやすいとされるが、新型コロナワクチンの追加接種を受けることで重症化を予防できる可能性があるようだ。新たな研究で、COVID-19によるがん患者の入院リスクは、新型コロナワクチンの追加接種によって、未接種の患者と比べて29%低下することが示された。米シダーズ・サイナイ医療センター地域保健・人口研究部長のJane Figueiredo氏らによるこの研究結果は、「JAMA Oncology」に7月17日掲載された。 この研究では、シダーズ・サイナイ、カイザー・パーマネンテ北カリフォルニア、ニューヨークのノースウェル・ヘルス、および退役軍人保健局でがん治療を受けたがん患者を対象に、従来型の新型コロナ1価ワクチン(2022年1月までに接種)、および変異株に対応した2価ワクチン(2022年9月1日〜2023年8月31日の間に接種)の追加接種がもたらす効果を検討した。 1価ワクチンの追加接種の効果についての検討で対象とされたがん患者は7万2,831人(女性24.6%)で、そのうちの69%が2022年1月1日までに追加接種を受けていた。3万4,006人年の追跡期間におけるCOVID-19による入院率(1,000人年当たり)は、追加接種群で30.5件、未接種群で41.9件であった。入院予防に対する調整済みのワクチン有効性(VE)は29.2%であり、COVID-19による入院を1件防ぐには166人にワクチンを接種する必要があると推定された。また、COVID-19罹患の予防に対するVEは8.5%、COVID-19関連の集中治療室(ICU)入室予防に対するVEは35.6%であった。 2価ワクチンの追加接種の効果についての検討で対象とされたがん患者は8万8,417人(女性27.8%)で、そのうちの38%が2価ワクチンの追加接種を受けていた。8万1,027人年間の追跡期間におけるCOVID-19による入院率(1,000人年当たり)は、追加接種群で13.4件、未接種群で21.7件であった。入院予防に対する調整済みのVEは29.9%であり、COVID-19による入院を1件防ぐには451人にワクチンを接種する必要があると推定された。また、COVID-19関連のICU入室予防に対するVEは30.1%であった。 Figueiredo氏は、「ワクチン接種群での入院患者数の減少は顕著であり、追加接種の効果を得るために接種が必要な患者数は少なかった。この結果は、がん患者にとってワクチン接種には大きなベネフィットがあることを示しており、接種について医療提供者と相談するきっかけになるだろう」とシダーズ・サイナイ医療センターのニュースリリースで述べている。 Figueiredo氏は、今回の研究では1価ワクチンの接種率が69%、2価ワクチンの接種率がわずか38%であったことについて、「これがワクチンの安全性に対する患者の懸念によるものなのか、それとも医療提供者ががん治療中に接種すべきか迷ったためなのかは明らかではない。確かなのは、がん患者を含む脆弱な集団がこれらのワクチンを接種できるよう強く訴えていく必要があるということだ」と述べている。 さらにFigueiredo氏は、「今回の研究は、新型コロナワクチンの有効性に関する理解を大きく深めるものであり、ワクチンの組成が変更されたり新たな変異株が出現したりしても、患者の健康を守るための最善の勧告を行えるよう、追加研究を実施していくつもりだ」と話している。同氏らは、今後の研究で自己免疫疾患患者や臓器移植を受けた患者などを対象にワクチンの有効性を調べる予定だとしている。

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なぜ今、「AI×医療英語」なのか?【タイパ時代のAI英語革命】第1回

医療英語の必要性が高まる理由近年、医療現場で英語力の必要性がますます高まっています。なぜ、急速に医療英語が医療従事者にとって、より不可欠になっているのでしょうか。1)多様化する患者への対応が必須に日本では在留外国人が370万人、訪日外国人が3,700万人を超え、医療機関が外国人患者に対応する機会が急増しています。とくに救急外来では限られた時間内に英語での的確な対応が求められ、医療スタッフ全員が基本的な医療英会話を身に付けておくことが重要です。2)国内勤務でも、医師のキャリア構築に必須海外での研修や国際学会への参加が増えるなかで、より医療英語が求められるようになっています。学会のオンライン化や英語での発表の機会も増え、英語力がアカデミックキャリアに直結する時代となりました。また、論文の影響力を示すIF(Impact Factor)という数字を比較しても、日本国内のトップジャーナルが10程度であるのに対し、権威ある英語の医学誌、たとえばThe Lancetでは現在98となっており、10倍以上の差があり、国際的な発信力を持つためにも英語力が不可欠です。留学や海外病院勤務といったキャリアを考えていなくとも、医師としてのキャリアを築くに当たって、英語力が必須の時代なのです。3)新しい医療情報のキャッチアップ現代医学の知見の多くは、英語で書かれた論文やガイドラインを通じて提供されています。たとえば、新しい治療法や薬剤の情報は、まず英語圏の医学誌やメディアに掲載され、そこから日本の学会やメディアで日本語化され、ゆくゆくは臨床適応へと広がっていくのですが、どうしてもタイムラグが生まれます。世界の医療の最新の情報をいち早く把握するには、翻訳機能が発展している今でも英語で直接受信する力が必要です。4)医療安全、公衆衛生の確保に必須医療英語は医療安全と公衆衛生とも深く関わります。わかりやすいものだと、英語で記された薬剤情報を医療スタッフの誰かが誤って解釈すれば、投薬ミスや医療事故につながります。公衆衛生の面で考えれば、世界の行き来が簡単になったことが災いとなり、COVID-19が発生した時は瞬く間に世界に広がりました。症状、感染者数、治療法、ワクチンに関する情報はすべて英語発信が最初で、正しいものから誤ったものまで、大量の英語による情報が世界中に拡散されたことは記憶に新しいのではないでしょうか。その際に英語による情報を早く的確に吟味したうえで対応する力が国や医療者全体に求められます。こうした点からも、医療を行ううえで英語との関わりはますます強まっています。AIが切り開く、新しい学習環境医療において英語が大切であることをお伝えしましたが、医療英語は専門用語が多く、一般の英語とは異なる語彙力が求められます。これまでは、参考書を読み込む、英会話スクールに通う、海外の論文を地道に読む、という方法が主流でした。しかし、これらの方法には大きな課題が存在します。それは時間的制約です。多忙な医療現場で働きながらまとまった学習時間を確保するのは難しい、という声を多く耳にします。加えて、学習内容が自分の必要な専門領域に直結していないような場合には、モチベーションの維持も困難です。また、独学ではフィードバックが得られにくく、自分の理解や発音が正しいかどうかを確認する手段も限られていました。そこでAIの登場です。AIは、医療英語と英語学習をつないでくれる最大・最強のツールです。生成AIといわれているものの中でもChatGPTのような大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)は、人間のように自然な文章や会話を生成する能力を持っています。これにより、従来では不可能だった学習支援やコミュニケーション支援が現実のものとなりました。生成AIの最大の強みは、学習者一人ひとりのニーズに合わせて柔軟に対応し、かつ迅速にフィードバックができる点です。また、今後の回で詳しく述べていきますが、生成AIは単なる語学習得の域を超え、医療英語をマスターせずとも、実践的かつ効率的に英語を使いこなす手段としても非常に有効です。生成AIは医療英語の強力な研鑽ツールとなるとともに、たとえ英語が不得手であっても、その力を借りながら積極的に世界とつながるツールともなります。生成AIを使いこなすことで、今後の医師生活において大きな強みとなるでしょう。生成AIを単なる道具としてではなく、共に歩むパートナーとして活用する具体的な方法を、今後の連載で皆さんに紹介したいと思います。生成AIの注意点1 AI Hallucination今後生成AIのさまざまなツールや使い方を述べるに当たって、注意しなければならないことがあります。1つ目はAI Hallucination(ハルシネーション)と呼ばれるものです。いわゆるAIによる“幻覚”ですね。生成AIは今までのデータからパターンを推測することで回答を導き出すので、すべてが事実に基づいているとは限りません。医療の観点で一番起こりやすいものとしては、「論文引用」が挙げられます。たとえば論文を書いていて、引用文献を見つけたいときに生成AIに該当する論文名とリンクを貼ってもらいます。しかし、回答にある論文のタイトルを調べても出てこなかった、リンクに飛んでも論文自体が存在しなかった、なんてことはよく聞く話です。AIとパートナーになりながら最大限に効率を上げることは大事ですが、あくまでもリーダーは「あなた」です。とくに世間に発表したり論文化したりする際に、生成AIが出した答えを丸のみにするのは非常に危険ですので、必ず事実に基づいたものなのか、別のリソースも使いながら、自分の目で最終確認をしてください。生成AIの注意点2 Stochastic Generation2つ目の注意点とはStochastic Generation(ストキャスティックジェネレーション)と呼ばれるものです。まだ日本語で訳されることがあまりないので、いったん「確率的生成」とでもしておきましょう。これは生成AIの強みでもあるのですが、弱点にもなりえます。確率的生成は、AIが文章を生成する際に、次に出現する単語や語句を確率分布に基づいてランダムに選択する手法です。この仕組みは、AIに自然で人間らしい言語生成を可能にする一方で、毎回異なる出力がなされるという不確実性をもたらします。具体的なリスクは、「ニュアンスが変わってしまう」ということです。患者説明用の文書を生成する際を想定すると、「副作用がまれに起こります」と書かれることもあれば、「副作用はほとんどありません」と書かれることもある、というイメージです。ほかの例としては、患者への説明時に「異常な組織の増殖が確認され、さらなる検査が必要です」というのと「あなたには腫瘍があり、がんの可能性があります」というのでは、どちらも一見同じようなことを伝えてはいますが、相手への伝わり方は大きく異なります。このような認識の齟齬が起こりえると知ったうえで、最終的にはAIの使用者が確認し、責任を持つ必要があります。AIを使用する際にはぜひこれらの注意点を十分に理解し、リスク回避策を取ってください。次回は、早速生成AIに関して深く触れていきます!

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ファイザー・ビオンテック、LP.8.1対応コロナワクチンの承認取得

 ファイザーおよびビオンテックは8月8日付のプレスリリースにて、オミクロン株JN.1系統の変異株であるLP.8.1に対応した新型コロナウイルスワクチンについて、8月7日に厚生労働省より製造販売承認を取得したことを発表した。承認されたのは「コミナティ筋注シリンジ12歳以上用」「コミナティRTU筋注5~11歳用1人用」「コミナティ筋注6ヵ月~4歳用3人用」の3製品。これらのワクチンは2025~26年秋冬シーズンで使用される予定。 今回の承認は、両社が開発した新型コロナワクチンの安全性と有効性を示した臨床、非臨床およびリアルワールドデータを含むさまざまなエビデンスに基づいている。申請データには、品質に係るデータに加え、LP.8.1対応ワクチンが、XFG、NB.1.8.1、LF.7、および現在流行している他の変異株に対し、昨年度のJN.1対応ワクチンより優れた免疫反応を示した非臨床試験データなどが含まれている。 また、ワクチンの抗原株の変更と合わせて、以下の承認事項も変更された。・有効期間の延長:冷蔵(2~8℃)において8ヵ月から12ヵ月へ延長・包装単位の追加:1シリンジ包装に加え、5シリンジ包装を追加

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ワクチンがないチクングニア熱の診療

ワクチンがないチクングニア熱の症状と治療●原因と感染経路チクングニア熱とは、チクングニアウイルスを持った蚊(ネッタイシマカ・ヒトスジシマカ)に刺されることで生じる感染症。病源体は、図のチクングニアウイルス(Chikungunya virus)。チクングニアウイルスを持っている蚊に刺されることによって感染が成立し、ヒトからヒトに直接感染することはない。●症状蚊に刺されてから3~12日の潜伏期後、「発熱」「発しん」「関節痛」などが出現。急性症状が軽快した後も、数週間~数年にわたり、リウマチに似た関節痛や腫脹、圧痛が続くことがある。●治療症状に応じた対症療法が行われ、関節痛・関節炎の程度に応じて解熱鎮痛薬(アセトアミノフェンなど)が使用される。現在有効なワクチンはない。●予防のポイントチクングニア熱の流行する地域(たとえばセネガル、インドネシア、タイ、べトナム、中国など)に渡航する際、蚊に刺されないような衣服の着用や虫除けなどの工夫が重要。国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト チクングニア熱より引用(2025年8月6日閲覧)https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ta/chikungunya/010/chikungunya-intro.htmlCopyright © 2025 CareNet,Inc. All rights reserved.

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インフルワクチン接種回数と認知症リスクが逆相関~メタ解析

 インフルエンザワクチン接種と認知症リスク低下との関連性については、一貫性のない結果が報告されており、この関連性は明確になっていない。台湾・Keelung Chang Gung Memorial HospitalのWen-Kang Yang氏らは、全人口および慢性腎臓病(CKD)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、血管性疾患などの認知症高リスク患者におけるインフルエンザワクチン接種と認知症リスクとの関連を評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Age and Ageing誌2025年7月1日号の報告。 2025年4月6日までに公表された研究をPubMed、Embase、CENTRALよりシステマティックに検索し、ランダム効果メタ解析を実施した。バイアスリスクの評価には、ニューカッスル・オタワ尺度を用いた。 主な結果は以下のとおり。・8件のコホート研究より993万8,696人をメタ解析に含めた。・1件を除き、メタ解析に組み込んだ研究のバイアスリスクは低かった。・インフルエンザワクチン接種は、認知症高リスク患者において認知症発症リスクの低下と関連していたが、全人口においては関連が認められなかった(ハザード比[HR]:0.93、95%信頼区間[CI]:0.86〜1.01)。・高リスク患者においては、インフルエンザワクチン接種を2回以上受けると認知症発症リスクの低下との関連が認められた。【2〜3回接種】HR:0.84、95%CI:0.76〜0.92【4回以上接種】HR:0.43、95%CI:0.38〜0.48 著者らは「インフルエンザワクチン接種と認知症発症リスク低下との関連には、用量反応関係が認められた」と結論付けている。

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第274回 ケネディ氏のワクチン開発支援打ち切りを深読み

INDEX米国、mRNAワクチン開発を縮小へ契約終了と継続、わかっていること保健福祉省長官の意図悪魔はどっち?米国、mRNAワクチン開発を縮小へ当の本人は大真面目なのだろうが、傍から見ると、もはやガード下の居酒屋にいる酔っ払いオヤジが政治を語っているようだ。何のことかと言えば、米国・保健福祉省(HHS)が8月5日、傘下の生物医学先端研究開発局(BARDA)が行っているmRNAワクチンの研究開発支援を段階的に縮小すると発表した件である。ご存じのように現在のHHS長官はあのロバート・F・ケネディ・ジュニア氏である(第264回参照)。今回、影響を受けるのはBARDAで行われていた総額約5億ドル(約700億円)におよぶ22件のmRNAワクチン開発プロジェクトである。このプロジェクトすべてとその支援金額の詳細は明らかになっていないが、現時点で判明しているのは以下のような感じである。契約終了と継続、わかっていることまず契約が終了したのが、エモリー大学が行っていた吸入できるパウダータイプのmRNAワクチン研究、Tiba Biotech社(本社:マサチューセッツ州ケンブリッジ)が行っていた支援額約75万ドル(約1億2,000万円)のインフルエンザに対するRNA医薬の研究。また、BARDAへの提案そのものが却下されたのが、ファイザー社によるmRNAワクチン開発(詳細不明)、サノフィ・パスツール社によるmRNAインフルエンザワクチン開発、グリットストーン・バイオ社(本社:カリフォルニア州エメリービル)に対する支援額最大4億3,300万ドル(約637億6,300万円)の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対する汎変異株対応の自己増幅型mRNAワクチン開発などである。一方でモデルナ社とテキサス大学医学部が国防総省と協力するフィロウイルス感染症(エボラ出血熱やマールブルグ病)へのmRNAワクチン開発、アークトゥルス・セラピューティクス社(本社:カリフォルニア州サンディエゴ)との支援総額最大6,320万ドル(約9億円)のH5N1鳥インフルエンザ自己増幅型mRNAワクチン開発の一部などは維持されるという。わかっている範囲だけでも、かなり広範な新規mRNAワクチンと既存ワクチンの新規モダリティに影響が及ぶことになるようだ。保健福祉省長官の意図この決定に関するHHSのプレスリリース1)には、「私たちは専門家の意見に耳を傾け、科学を検証し、行動を起こした。BARDAは、これらのワクチンがCOVID-19やインフルエンザなどの上気道感染症を効果的に予防できないことを示すデータに基づき、22件のmRNAワクチン開発への投資を停止する。私たちは、この資金をウイルスが変異しても効果を維持できる、より安全で幅広いワクチンプラットフォームへとシフトさせている」とするケネディ氏のコメントも含まれている。前述のように今回影響を受けるプロジェクトには、ケネディ氏が言うところの「ウイルスが変異しても効果を維持できる」ワクチン開発も含まれているのだが、どうやら本人のmRNAワクチン嫌悪が先に立っている模様だ。そもそも本人のコメントにある「上気道感染症を効果的に予防できないことを示すデータ」とは何を意味するのかは明記されていない始末である。この辺について、より深読みすると、いわゆるワクチンの三大効果と呼ばれる「感染予防」「発症予防」「重症化予防」のうち、ワクチンに懐疑的な人たちがよく示す「感染予防そのものが効果的に得られていないではないか」という主張なのかもしれない。確かに以前の本連載でも取り上げたが、内閣官房の新型インフルエンザ等対策推進会議 新型コロナウイルス感染症対策分科会会長だった尾身 茂氏(現・公益財団法人結核予防会 理事長)がテレビ出演時に言及したように、オミクロン株以降、mRNAワクチンの感染予防としての効果は高くないのが現実である。しかし、最も重大な事象である入院・死亡といった重症化予防効果に関して確たるものがあるのは、もはや異論はないだろう。もし感染予防効果うんぬんだけで測るならば、現在使われているインフルエンザの不活性化ワクチンも同様に無用なものとなってしまうが、そうした認識を持つ医療者はかなり少数派であるはずだ。また、mRNAワクチンは新規ウイルスに対する迅速なワクチン開発という点では、かつてない威力を発揮したことも私たちは実感している。今回のコロナ禍を従来型の不活性化ワクチン開発で乗り切ろうとしていたならば、今のような平常生活に戻るまでに要した時間は相当長いものになっていた可能性が高い。もはやmRNAワクチンについては、これがあることを前提に(1)これまでワクチン開発が難しかった病原体での新規開発、(2)抗体価持続期間の延長、(3)副反応の軽減、という方向性に進むフェーズに来ていると考えたほうがよい。その意味では今回影響を受けたワクチン研究開発プログラムを見ると、(2)については日本発の新型コロナワクチンとなったコスタイベで使われた自己増幅技術が次世代ワクチンとして注目を集めていることもうかがえる。悪魔はどっち?いずれにせよ、ケネディ氏の打ち出した方針はかなりの頓珍漢ぶりである。ちなみに同氏の最近のX(旧Twitter)の投稿を見ると、FDAの中庭のベンチに刻まれたセンテンスという投稿がある。そのセンテンスとは「The devil has got hold of the food supply of this country(悪魔がこの国の食糧供給を掌握している)」というもの。しかし、Xに搭載されている生成AIのGrokが「この写真は改変されている可能性が高い」と指摘している。要はそんなセンテンスなどベンチに刻まれていないということだ。いやはやとんだ人がHHS長官になったものである。「悪魔」はあなたではないのか、と問いたい。 参考 1) U.S. Department of Health and Human Services:HHS Winds Down mRNA Vaccine Development Under BARDA

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インフルエンザ脳症、米国の若年健康児で増加/JAMA

 米国では2024~25年のインフルエンザシーズン中、大規模な小児医療センターの医師たちから、インフルエンザ関連急性壊死性脳症(IA-ANE)の小児患者数が増加したと報告があった。このことから、同国・スタンフォード大学のAndrew Silverman氏らIA-ANE Working Groupは、全米を対象とした直近2シーズンの症例集積研究を実施。主として若年で直前までは健康であった小児の集団において、IA-ANEの罹患率および死亡率が高かったことを明らかにした。急性壊死性脳症(ANE)は、まれだが重篤な神経系疾患であり、疫学データおよび治療データは限られていた。JAMA誌オンライン版2025年7月30日号掲載の報告。2024~25年インフルエンザシーズンのANE小児を調査 研究グループは、IA-ANEと診断された米国の小児における臨床症状、介入およびアウトカムを明らかにするため、ANEと診断された小児を対象に多施設共同集積研究にて長期追跡調査を行った。 症例募集は、学会、公衆衛生機関を通じたほか、同国内76の大学医療センターの小児専門医に直接コンタクトを取り、2023年10月1日~2025年5月30日の症例の提供を要請して行った。 対象基準は、放射線学的な急性視床障害および臨床検査によりインフルエンザ感染が確認された21歳以下の急性脳症患者とした。 主要アウトカムは、主な症状、ワクチン接種歴、検査値および遺伝学的所見、介入、臨床アウトカム(修正Rankinスケールスコア[0:症状なし、1~2:軽度障害、3~5:中等度~重度障害、6:死亡]など)、入院期間、機能的アウトカムであった。39例(95%)がインフルエンザAに感染 提供された58例のうち、23病院からの41例(女児23例、年齢中央値5歳[四分位範囲[IQR]:2~8])が対象基準を満たした。31例(76%)は重大な病歴を有していなかったが、5例(12%)は複雑な疾患を有していた。 主な臨床症状は、発熱38例(93%)、脳症41例(100%)、けいれん発作28例(68%)であった。39例(95%)がインフルエンザA(A/H1pdm/2009:14例、A/H3N2:7例、サブタイプ不明:18例)、2例がインフルエンザBに感染していた。 検査所見で異常値が認められたのは、肝酵素の上昇(78%)、血小板減少症(63%)、脳脊髄液タンパク質の上昇(63%)などであった。 遺伝子検査を受けた32例(78%)のうち、15例(47%)にANEリスクに関連する可能性がある遺伝的リスクアレルがあり、11例(34%)はRANBP2変異を有していた。季節性インフルエンザワクチンの接種を受けていたのは6例(16%)のみ ワクチン接種歴が入手できた38例のうち、年齢に応じた季節性インフルエンザワクチンの接種を受けていたのは6例(16%)のみだった。 ほとんどの患者は複数の免疫調節療法を受けていた。メチルプレドニゾロン(95%)、免疫グロブリン静注(66%)、トシリズマブ(51%)、血漿交換(32%)、anakinra(5%)、髄腔内メチルプレドニゾロン(5%)などであった。 ICU在室期間中央値は11日(IQR:4~19)、入院期間中央値は22日(7~36)。11例(27%)が症状発症から中央値3日(2~4)で死亡し、主な死因は脳ヘルニア(91%)であった。90日間の追跡調査を受けた生存児27例のうち、17例(63%)が中等度以上の障害(修正Rankinスケールスコア3以上)を有していた。

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モデルナのLP.8.1対応コロナワクチン、一変承認を取得

 モデルナ・ジャパンは8月5日付のプレスリリースにて、同社の新型コロナウイルスワクチン「スパイクバックス筋注シリンジ 12歳以上用」および「スパイクバックス筋注シリンジ 6ヵ月~11歳用」について、2025~26年秋冬シーズン向けのオミクロン株JN.1系統の変異株LP.8.1対応とする一部変更承認を、8月4日に厚生労働省より取得したことを発表した。6ヵ月~11歳用については、生後6ヵ月以上4歳以下を対象とした追加免疫に関する一部変更承認も7月29日に取得した。 これらの承認により、2025年10月から開始予定の定期接種の対象者だけでなく、生後6ヵ月以上のすべての世代で、LP.8.1対応の本ワクチンを接種することが可能となる。12歳以上用は定期接種開始前の9月中、6ヵ月~11歳用は10月に供給開始の予定。 2025~26年秋冬シーズンの定期接種の対象者は、65歳以上、および60~64歳で心臓、腎臓または呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される人、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な人となっている。定期接種は各自治体において設定された自己負担額が発生する。 厚生労働省が8月1日付で発表した新型コロナの発生状況では、2025年第30週(7月21~27日)の定点報告数は全国平均で1医療機関当たり4.12人となり、沖縄県を除く全都道府県で増加している。

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小児用ワクチン中のアルミニウム塩は慢性疾患と関連しない

 120万人以上を対象とした新たな研究で、小児用ワクチンに含まれるアルミニウム塩と自閉症、喘息、自己免疫疾患などの長期的な健康問題との間に関連は認められなかったことが示された。アルミニウム塩は、幼児向け不活化ワクチンの効果を高めるためのアジュバントとして使用されている。スタテンス血清研究所(デンマーク)のAnders Hviid氏らによるこの研究結果は、「Annals of Internal Medicine」に7月15日掲載された。 アルミニウム塩はワクチンのアジュバントとして長年使われているものの、アルミニウム塩が慢性自己免疫疾患やアトピー性皮膚炎、アレルギー、神経発達障害のリスクを高めるのではないかとの懸念から、ワクチン懐疑論者の標的にもなっている。 今回Hviid氏らは、デンマークで1997年から2018年の間に生まれ、2歳時にデンマークに居住していた122万4,176人の児を対象に、ワクチン接種によるアルミニウム塩への累積曝露量と慢性疾患との関連を検討した。対象児は2020年まで追跡された。アルミニウム塩の累積曝露量は生後2年間に接種したワクチンに含まれる成分から推算し、曝露量1mg増加ごとのリスクを検討した。アウトカムとした慢性疾患は、以下の3つの疾患グループに分類される50種類の疾患であった。すなわち、自己免疫疾患として皮膚・内分泌・血液・消化管に関わる疾患とリウマチ性疾患が36疾患、アトピー性またはアレルギー性疾患として喘息、アトピー性皮膚炎、鼻結膜炎、アレルギーなど9疾患、神経発達障害として自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症など5疾患である。 その結果、生後2年間のアルミニウム塩の累積曝露量は、対象とした50種類の疾患のいずれについても、発症率の増加とは関連していないことが示された。疾患グループ別に見ると、アルミニウム塩曝露量が1mg増加するごとの調整ハザード比は、自己免疫疾患で0.98(95%信頼区間0.94~1.02)、アトピー性・アレルギー性疾患で0.99(同0.98~1.01)、神経発達障害で0.93(同0.90~0.97)であった。 Hviid氏は、「これらの結果は、アルミニウム塩に対する懸念の多くに対処し、小児用ワクチンの安全性について明確かつ強固なエビデンスを提供している」と述べるとともに、「この結果は、親が子どもの健康のために最善の選択をする必要があることを示すエビデンスでもある」と付け加えている。 なお、この研究は、2022年に米疾病対策センター(CDC)の資金提供を受けて実施された、アルミニウム塩含有ワクチンと喘息の関連性を示唆した研究に対する反論として実施された。同研究はその後、ワクチンに含まれるアルミニウム塩と、食品、水、空気、さらには母乳など他の発生源由来のアルミニウムを区別できていなかったとして批判されている。  米フィラデルフィア小児病院ワクチン教育センター所長のPaul Offit氏も、「ワクチンによるアルミニウム塩曝露量が多い人と少ない人を比較する場合、交絡因子をコントロールし、これらの人が摂取したアルミニウム塩供給源がワクチンに限定されていることを知る必要がある」と指摘している。 米国では、アルミニウム塩はジフテリア・破傷風・百日咳(DTaP)ワクチンのほか、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)、B型肝炎ワクチン、肺炎球菌ワクチンにも使用されている。接種したアルミニウム塩は大部分が2週間以内に体内から排出されるが、微量のアルミニウム塩は何年も体内に残ることがある。専門家らは、単一の研究で何かが安全であると証明することはできないものの、この研究は、ワクチンに含まれるアルミニウム塩が無害であることを示してきた過去の研究成果に加わるものであるとの見解を示している。

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胃がんはピロリ菌が主原因、米国の若年で罹患率が増加

 胃がん症例の4分の3(76%)はヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori、以下、ピロリ菌)感染が原因であることが、新たな研究で明らかになった。国際がん研究機関(フランス)のJin Young Park氏らによるこの研究結果は、「Nature Medicine」に7月7日掲載された。Park氏らは、「胃がんのほとんどはピロリ菌への慢性感染によって引き起こされていることから、抗菌薬とプロトンポンプ阻害薬(PPI)の組み合わせによる治療により予防できるはずだ」と述べている。 米メイヨー・クリニックによると、世界人口の半数以上が、生涯、どこかの時点でピロリ菌に感染する可能性があるという。ピロリ菌は、嘔吐物、便、唾液などの体液との接触により広がると考えられており、感染すると、胃痛、お腹の張り(膨満感)、頻回なげっぷなどの症状や、胃や小腸の消化性潰瘍などが引き起こされる。米国がん協会(ACS)によると、米国では2025年に胃がんの新規症例が約3万300件発生し、約1万780人が胃がんにより死亡すると予想されている。胃がん症例のほとんどは、高齢者であるという。 今回の研究では、2008年から2017年の間に生まれた185カ国の若年コホートの将来の胃がん症例数が、胃がんに対する現行の予防措置に変更がないとの仮定のもとで推定された。この推定は、グローバルがん統計(GLOBOCAN)2022による各国の年齢別胃がん罹患率と、国連の人口動態予測に基づくコホート別死亡率を組み合わせて行われた。 その結果、これらのコホート全体で1560万人が胃がんを発症することが推定された。症例の68%(約1060万人)はアジアに集中しており、とりわけ中国とインドでの症例数が多く、全体の42%(約650万人)を占めていた。アジアに次いで多かったのは、南北アメリカ(13%)とアフリカ(11%)であった。ピロリ菌を原因とする症例は全体の76%(約1190万人)であり、そのうちの67%(約800万人)はアジアで生じていた。また、新規症例の58%はもともと罹患率の高い地域での症例だったが、残りの42%は人口増加などの要因により、これまで罹患率が低かった地域で生じることが予想された。発症数の急増が特に大きかったのはサブサハラ・アフリカ地域であり、研究グループは、「将来的には2022年の推定発症数の6倍近くになると予測される」と記している。 研究グループは、「先進国においてさえもピロリ菌を原因とする胃がんが一定数見られるのは、公衆衛生対策が不十分だからだ」と指摘している。また、「米国では現在、胃がん予防に関する国のガイドラインや正式な勧告はないが、胃がんはアジア系・ヒスパニック系・アフリカ系米国人、アメリカ先住民やアラスカ先住民に不均衡に多く発生している。加えて、2016年から2022年の間に50歳未満での胃がん罹患率が増加傾向にあり、特に女性で顕著なことも報告されている」と記している。 Park氏らは、ピロリ菌除去の治療は簡単ではあるものの、この細菌に対するワクチンの開発が最善の策との考えを示している。その上で、「現在、第3相臨床試験で安全性と有効性が確認されたピロリ菌のワクチンは1種類だけだ。小児集団に焦点を当てた将来のワクチン試験へのさらなる投資を行い、ワクチン接種による免疫保護のメカニズムを解明する必要がある」と述べている。

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第273回 孤軍奮闘を迫られる、三次救急でのコロナ医療の現状

INDEX5類感染症移行から2年、コロナの現状日本の平均的都市、岡山県の専門医の見解入院患者が増加する時期と患者傾向今も注意すべき患者像治療薬の選択順位ワクチン接種の話をするときの注意5類感染症移行から2年、コロナの現状今年もこの時期がやってきた。何かというと新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の流行期である。新型コロナは、一般的に夏と冬にピークを迎える二峰性の流行パターンを繰り返している。2025年の定点観測による流行状況を見ると、第1週(2024年12月30日~2025年1月5日)は定点当たりの報告数が5.32人。冬のピークはこの翌週の2025年第2週(2025年1月6~12日)の7.08人で、この後は緩やかに減少していき、第21週(同5月19~25日)、第22週(同 5月26日~6月1日)ともに0.84人まで低下。そこから再び上昇に転じ、最新の第29週(同7月14~20日)は3.13人となっている。2023年以降、この夏と冬のピーク時の定点報告数は減少している。実例を挙げると、2024年の冬のピークは第5週(2024年1月29日~2月4日)の16.15人で、今年のピークはその半分以下だ。しかし、これを「ウイルスの感染力が低下した」「感染者が減少した」と単純に捉える医療者は少数派ではないだろうか?ウイルスそのものに関しては、昨年末時点の流行株はオミクロン株JN.1系統だったが、年明け以降は徐々にLP.8.1系統に主流が移り、それが6月頃からはNB.1.8.1系統へと変化している。東京大学医科学研究所システムウイルス学分野の佐藤 佳教授が主宰する研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan) Consortium」によると、LP.8.1系統はJN.1系統と比べ、ウイルスそのものの感染力は低いながらも免疫逃避能力は高く、実効再生産数はJN.1とほぼ同等、さらにNB.1.8.1系統の免疫逃避能力はLP.8.1とほぼ同等、感染力と実効再生産数はLP.8.1よりも高いという研究結果が報告1)されている。ウイルスそのものは目立って弱くなっていないことになる。つまり、ピーク時の感染者が年々減少しているのは、結局は喉元過ぎれば何とやらで、そもそも呼吸器感染症を疑う症状が出ても受診・検査をしていない人が増えているからだろうと想像できる。そしてここ1ヵ月ほど臨床に関わる医師のSNS投稿を見ても感染者増の空気は読み取れる。おそらく市中のクリニック、拠点病院、大学病院などの高度医療機関では、感染者増の実態の中で見えてくる姿も変わってくるだろう。ということで新型コロナの感染症法5類移行後の実際の医療現場の様子の一端を聞いてみることにした。日本の平均的都市、岡山県の専門医の見解場所は岡山県。同県は47都道府県中、人口規模は第20位(約183万人)で県庁所在地の岡山市は政令指定都市である。人口増加率と人口密度は第24位、人口高齢化率は第28位(31.4%)とある意味、日本国内平均的な位置付けにある。同県では県ホームページに公開された新型コロナの患者報告数や医療提供のデータを元に、感染症の専門家など5人の有志チームが分析コメントを加えた情報を毎週発表している。今回話を聞いたのは、有志メンバーである岡山大学病院感染症内科准教授の萩谷 英大氏と津山中央病院総合内科・感染症内科部長の藤田 浩二氏である。岡山大学病院は言わずと知れた特定機能病院で病床数849床、津山中央病院はへき地医療拠点病院で病床数489床。ともに三次救急機能を有する(岡山大学は高度救命救急センター)。ちなみに高齢化率で見ると、岡山市は27.2%と全国平均より低めなのに対し、中山間地域の津山市は32.4%と全国平均(29.3%)や岡山県全体よりも高い。まず感染の発生状況について萩谷氏は「保健所管内別のデータを見れば数字上は地域差もあるものの、その背景は率直に言ってわからない。かつてと違い、今はとくに若年者を中心に疑われてもほとんど検査をしないのが現状ですから」と話す。藤田氏も「定点報告は、あくまでも検査で捕捉されたものが数字として行政に届けられたものだけで、検査をしない、医療機関を受診しない、あるいは受診しても検査をしてないなどの事例があるため、実態との間に相当ロスがある。あくまでも低く見積もってこれぐらいという水準に過ぎません」とほぼ同様の見解を示した。ただ、藤田氏は「大事なのは入院患者数。この数字は誤魔化せない」とも指摘した。入院患者が増加する時期と患者傾向では新型コロナの入院実態はどのようなものなのか? 萩谷氏は「大学病院では90代で従来から寝たきりの患者などが搬送されてくることはほぼありません。むしろある程度若年で大学病院に通院するような移植歴や免疫抑制状態などの背景を有する人での重症例、透析歴があり他院で発症し重症化した例などが中心。ただ、ここ数ヵ月で見れば、そのような症例の受診もありません」とのこと。一方で地域の基幹病院である津山中央病院の場合、事情は変わってくる。藤田氏は「通年で新型コロナの入院患者は発生しているが、お盆期間やクリスマスシーズン・正月はその期間も含めた前後の約1ヵ月半に70~80歳の年齢層を中心に、延べ100人強の入院患者が発生する」と深刻な状況を吐露した。また、高齢の新型コロナ入院患者の場合、新型コロナそのものの症状の悪化以外に基礎疾患の悪化、同時期には地域全体で感染者が増加することから後方支援病院でも病床に余裕がないなどの理由から、入院は長期化しがち。藤田氏は「こうした最悪の時期は平均在院日数が約1ヵ月。一般医療まで回らなくなる」との事情も明かす。さらに問題となるのは致死率。現在のオミクロン系統での感染者の致死率は全年齢で0.1%程度と言われるものの「基礎疾患のある高齢者が入院患者のほとんどを占めている場合の致死率は5~10%。昨年のお盆シーズンは9%台後半だった」という。今も注意すべき患者像こうしたことから藤田氏は「新型コロナではハイリスク患者の早期発見・早期治療の一点に尽きる」と強調。「医療者の中にも、厚生労働省の新型コロナウイルス感染症診療の手引きの記述を『症状が軽い=リスクが低い』のような“誤読”をしている人がいます。しかし、基礎疾患がある方で今日の軽症が明日の軽症を保証しているわけではありません。率直に言うと、私たちの場合、PCR検査などで陽性になりながら、まだ軽症ということで解熱薬を処方され、経過観察中に症状悪化で救急搬送された事例を数多く経験しています。軽症の感染者を一律に捉えず、ハイリスク軽症者の場合は早期治療開始で入院を防ぐチャンスと考えるべき」と主張する。藤田氏自身は、新型コロナのリスクファクターの基本とも言える「高齢+基礎疾患」に基づき、年齢では60代以降、基礎疾患に関してはがん、免疫不全、COPDなどの肺疾患、心不全、狭心症などの心血管疾患、肝硬変などの肝臓疾患、慢性腎臓病(透析)、糖尿病のコントロール不良例などでは経口抗ウイルス薬の治療開始を考慮する。前述の萩谷氏も同様に年齢+基礎疾患を考慮するものの「たとえば60代で高血圧、糖尿病などはあるもののある程度これらがコントロールできており、最低でもオミクロン系統までのワクチン接種歴があれば、対症療法のみに留まることも多い」と説明する。治療薬の選択順位現在、外来での抗ウイルス薬による治療の中心となるのは、(1)ニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッド)、(2)モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)、(3)エンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)の3種類。この使い分けについては、藤田氏、萩谷氏ともに選択考慮順として、(1)⇒(2)⇒(3)の順で一致する。藤田氏は「もっとも重視するのはこれまで明らかになった治療実績の結果、入院をどれだけ防げたかということ。この点から必然的に第一選択薬として考慮するのはニルマトレルビル/リトナビルになる」と語る。もっとも国内での処方シェアとしては、(3)、(2)、(1)の順とも言われている。とくにエンシトレルビルに関しては3種類の中で最低薬価かつ処方回数が1日1回であることが処方件数の多い理由とも言われているが、萩谷氏は「重症化予防が治療の目的ならば、1日1回だからという問題ではなく、重症化リスクを丁寧に説明し、何とか服用できるように対処・判断をすべき」と強調する。また、モルヌピラビルについては、併用禁忌などでニルマトレルビル/リトナビルの処方が困難な場合、あるいはそうしたリスクが評価しきれない重症化リスクの高い人という消去法的な選択になるという点でも両氏の考えは一致している。また、萩谷氏は「透析歴があり、診察時は腎機能の検査値がわからない、あるいは腎機能が低過ぎてニルマトレルビル/リトナビルの低用量でも処方が難しい場合もモルヌピラビルの選択対象になる」とのことだ。ワクチン接種の話をするときの注意一方、最新の厚労省の人口動態統計でも新型コロナの死者は3万人超で、インフルエンザの10倍以上と、その深刻度は5類移行後も変わらない。そして昨年秋から始まった高齢者を対象とする新型コロナワクチンの接種率は、医療機関へのワクチン納入量ベースで2割強と非常に低いと言われている。ワクチン接種について藤田氏は「実臨床の感覚として接種率はあまり高くないという印象。医師としてどのような方に接種してほしいかと言えば、感染した際に積極的に経口抗ウイルス薬を勧める層になります。実際の診療で患者さんに推奨するかどうかについては、そういう会話になれば『こういう恩恵を受けられる可能性があるよ』と話す感じでしょうか。とにかくパンデミックを抑えようというフェーズと違って、今は年齢などにより受けられる恩恵が違うため、一律な勧め方はできません」という。萩谷氏も「やはり年齢プラス基礎疾患の内服薬の状況を考え、客観的にワクチンのメリットを伝えることはあります。とくに過去にほかの急性感染症で入院したなどの経験が高い人は、アンテナが高いので話しやすいですね。ただ、正直、コロナ禍の経験に辟易している患者さんもいて、いきなり新型コロナワクチンの話をすると『また医者がコロナの話をしている』的に否定的な受け止め方をされることも少なくないので、高齢者などには肺炎球菌ワクチンや帯状疱疹ワクチンなどと並べてコロナワクチンもある、と話すことを心がけている」とかなり慎重だ。現在の世の中はかつてのコロナ禍などどこ吹く風という状況だが、このようにしてみると、喉元過ぎて到来している“熱さ”に、一部の医療者が人知れず孤軍奮闘を迫られている状況であることを改めて認識させられる。 参考 1) Uriu K, et al. Lancet Infect Dis. 2025;25:e443.

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帯状疱疹ワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第17回

ワクチンで予防できる疾患帯状疱疹は、水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV)の初感染後、脊髄後根神経節、脳神経節に潜伏感染しているVZVが再活性化によって、支配神経領域に疼痛を伴う水疱が集簇して出現する疾患である。合併症として発症後3ヵ月以上にわたり痛みが持続する帯状疱疹後神経痛(post herpetic neuralgia:PHN)のほかに髄膜炎、脳炎、ラムゼイ・ハント症候群といった生命の危険や神経学的後遺症を来す疾患が知られている。国内で実施されている大規模疫学調査にて、1997~2020年の間で帯状疱疹は年々増加傾向を認め、罹患率は50代から上昇し、70代(2020年度10.45/千人・年)でピークを示した。別の調査では、50歳以上の帯状疱疹患者の19.7%がPHNを発症し、年齢別では80歳以上で32.9%と高齢になるほど発症しやすい傾向を認めた。ワクチンの概要帯状疱疹ワクチン接種の目的は、「帯状疱疹発症率を低減させ、重症化を予防すること」である。国内で2つのワクチンを使用することができるので表に概要を示す。表 帯状疱疹ワクチンの概要画像を拡大する2025年度から、65歳の方などへの帯状疱疹ワクチンの予防接種が、予防接種法に基づく定期接種の対象となった。接種の対象者は、以下に該当する方である。65歳を迎える方60~64歳で対象となる方(※1)2025~29年度までの5年間の経過措置として、その年度内に70、75、80、85、90、95、100歳(※2)となられる方※1ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方※2100歳以上の方については、2025年度に限り全員対象となる。帯状疱疹発症、年齢以外のリスク因子帯状疱疹は、前述した年齢のほかに罹患率を上げるリスクが知られている。HIV/AIDS(相対リスク[RR]3.22)、悪性腫瘍(RR2.17)、SLE(RR2.08)などの免疫不全疾患だけではなく、慢性疾患としての心血管疾患(RR1.41)、COPD(RR1.41)、糖尿病(RR1.24)。他にも精神的ストレス(RR1.47)、身体的外傷(RR2.01)、家族歴(RR2.48)もリスク要因としてあげられる。リスク因子のある方に帯状疱疹が発症した場合は、生命を脅かす疾患となってくるため、ワクチン接種を推奨する意義は高い。免疫不全状態では、生ワクチンは接種不適当であり、シングリックスが推奨される。今後の課題・展望2025年4月からすべての国民で65歳時以降に定期接種として帯状疱疹ワクチンを接種する機会を得ることになった。喜ばしいことではあるが、任意接種としてでも接種を勧めたい対象者が65歳まで接種を待ってしまう可能性が出てくる。前述した高リスク群の方々(とくに免疫不全疾患)には、定期接種を待つことのデメリットを伝え、適切な時期に接種を勧めることも重要である。近年、帯状疱疹と水痘の流行様式に変化がみられる。2014年に小児水痘ワクチンが定期接種となり、水痘患者数の減少と罹患年齢の上昇傾向がある。水痘は罹患年齢が上がるほど重症化する。妊婦が水痘に罹患すると流産や先天性水痘症候群になるリスクがある。接種率の低い任意接種期間でかつ低年齢期に水痘に罹患しなかった若者が、重症化リスクの高い年齢になってきている。2021年9月の国立健康危機管理研究機構(旧国立感染症研究所)の報告によると入院水痘患者は成人割合が71.2%となっており、もはや水痘は麻疹・風疹と同じく成人疾患として重要になりつつある。留意すべきは感染経路であり、水痘感染源として帯状疱疹の割合が増加傾向を認める。増加する帯状疱疹患者から重症水痘患者を発生させないためには、小児期に水痘に罹患せずかつ水痘ワクチン接種も受けていない若者に対する水痘ワクチンのキャッチアップ推奨と中高齢者に対しては今後も帯状疱疹ワクチンを推奨していくことが、今後しばらくの間のVZV感染症対策として必要である。参考となるサイト1)帯状疱疹ワクチンファクトシート 第2版2)こどもとおとなのワクチンサイト 帯状疱疹ワクチン3)乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」添付文書4)シングリックス筋注用 添付文書5)国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト 水痘ワクチン定期接種化後の水痘発生動向の変化~感染症発生動向調査より・2021年第26週時点~講師紹介

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グローバルヘルスの開発援助、今後5年でさらに低下か/Lancet

 米国・保健指標評価研究所(IHME)のAngela E. Apeagyei氏らは、幅広いデータソースを用い、1990~2030年の保健分野の開発援助(Development assistance for health:DAH)について分析し、主要供与国の援助削減により2025年のDAHは2009年の水準まで落ち込み、今後5年間でさらに低下するとの予測を報告した。DAHは新型コロナウイルス感染症のパンデミック中に最高水準に達したが、その後、世界経済の不確実性や各国での予算の取り合いが増す中で減少し、2025年初頭に米国や英国など主要供与国が援助の大幅な削減を発表したことで、中・低所得国における保健財政の先行きに対する懸念が高まっている。著者は、「DAHの大幅削減は保健格差の拡大を招く恐れがある。過去30年間で達成された世界的な健康問題に関する大きな成果を守るため、被援助国における効率性の向上、戦略的な優先順位付け、財政レジリエンスの強化が急務である」と述べている。Lancet誌2025年7月26日号掲載の報告。OECD、グローバルファンド、Gaviなどを含む幅広いデータソースからDAHを推計 研究グループは、経済協力開発機構(OECD)の債権者報告システム(Creditor Reporting System:CRS)データベース、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)およびワクチンと予防接種のための世界同盟(Gavi)などの機関のオンラインデータベース、民間慈善団体や非政府組織の財務報告書といった幅広いデータソースを用い、1990~2030年のDAHを推計した。 支出は、IHME Financing Global Healthの報告で15年以上にわたり開発されてきた標準化キーワードタグ付け法を用い、資金源、支出機関、保健重点分野および被援助国で分類した。 2025年については、主要供与国が発表した予算削減を組み込み、暫定的な推計を算出した。2030年までの予測については、各供与国の資金提供目標および線形回帰モデルを用いた。今回のDAH追跡では、供与国の範囲拡大および追加の支出組織に関する保健分野の細分化などを改良した。ピークは2021年の803億ドル、2025年に半減、2030年は345~378億ドルに減少 DAHは2021年に803億ドルでピークに達し、2024年には496億ドルに減少した。2025年には、発表された予算削減、とくに米国の二国間援助の削減によりDAHはさらに384億ドルまで減少し、2009年の水準にまで落ち込むと予想された。 主要な感染症や小児ワクチン分野にDAHを提供している世界の主要な保健機関(英国外務・英連邦・開発省、米国国際開発庁、フランス開発庁など)は支出を削減する見込みである。一方で、主要な国際開発金融機関は大規模な資金削減から保護されているため、DAHの支出全体に占める世界銀行の相対的な割合が増加している。 現行の政策の下ではDAHは停滞が続き、2030年には362億ドルになると予想される。感度分析では、2025年の推定値は米国の削減幅の変動に応じて、悲観的シナリオの368億ドルから楽観的シナリオの400億ドルまでの範囲となる可能性がある。同様に今後5年間では、DAHの総額は2030年に、米国の貢献が肯定的なシナリオでは378億ドル、否定的なシナリオでは345億ドルになると予想される。

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帯状疱疹、発生率が高まる時期は?/MDV

 帯状疱疹ワクチンの65歳以上への定期接種が2025年4月よりスタートした。同年3月に「帯状疱疹診療ガイドライン2025」の初版が発刊されたほか、海外での新たな研究では、帯状疱疹ワクチン接種による認知症リスクの低下1,2)や心血管疾患リスク抑制3)も示唆されており、今注目されている疾患領域である。 その帯状疱疹の国内患者推移について、メディカル・データ・ビジョンは自社の保有する国内最大規模の診療データベースから抽出した317施設の2019年1月~2025年3月のデータを対象に調査を行い、7月15日にプレスリリースを公表した。7~10月、患者増の可能性 調査結果によると、毎年2月は患者数が減少し、3月から春先にかけて増加する傾向がみられた。また、7月から10月にかけても患者数が増加する傾向にあり、夏から秋にかけて発症が増える季節性が認められた。一方、11月から翌年1月にかけては患者数がやや横ばい、あるいは減少傾向であった。同社はこれらの理由として、気温や湿度の変化、夏季の疲労蓄積、免疫力の低下などとの関連を挙げた。さらに男女・年齢別の傾向としては、年齢とともに増加傾向となり、70代の患者数が最も多く、女性のほうがやや多い結果を示した。PHNの発症率、治療薬の処方動向 帯状疱疹後神経痛(postherpetic neuralgia:PHN)の発症率については、年齢とともに増加する傾向がみられ、とくに80代が最も高く、全体を通じて男性でわずかに高い傾向であった。治療薬は、アシクロビル、バラシクロビルの順に処方量が多かったが、全体的には各薬剤とも大きな変動はなく安定した使用状況を維持。アシクロビルに関しては2021年以降やや増加傾向であったという。

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米国での麻疹症例数、過去25年間で最多に

 米ジョンズ・ホプキンス大学により設立されたCenter for Outbreak Response Innovation(CORI)のデータによると、米国では7月時点で1,270例以上の麻疹症例が確認され(注:2025年7月15日時点で1,309例)、過去25年間で最多となっている。この数字は2019年に記録された1,274件を上回っている。 専門家は、報告されていない症例も多いことから、実際の症例数はこの数字よりもはるかに多い可能性があると見ている。現時点で、すでにテキサス州で小児2人、ニューメキシコ州で成人1人の計3人が麻疹により死亡している。CNNは、これらの3人はいずれもワクチンを接種していなかったと報じている。 米国医師会(AMA)会長のBruce A. Scott氏は、「麻疹の流行が続く中で、小児の定期予防接種率も低下していることを考えると、この状況はワクチンで予防可能な病気の蔓延をさらに促進するだろう」と述べている。 麻疹は麻疹ウイルスへの感染が原因で生じる疾患で、感染力は非常に強い。米国では、麻疹・おたふく風邪・風疹(MMR)ワクチンの普及により、2000年に麻疹根絶が宣言され、それ以降、症例は年間数十〜数百件で推移していた。 CNNの報道によると、現時点で少なくとも38州において麻疹症例が報告されており、少なくとも27の州で個別のアウトブレイクが起きている。新たな症例数の増加はワクチン接種率の大幅な低下と一致している。最大のアウトブレイクは、1月以降これまでに750件以上の症例(注:7月15日時点で796症例)が確認されたテキサス州西部で発生した。アウトブレイクが発生した同州のゲインズ郡は、州内で小児ワクチン接種率が最も低い郡の一つであり、同地域の未就学児のほぼ4人に1人が、2024~25年度中に義務付けられているMMRワクチンを接種していない。 テキサス州のアウトブレイクは近隣のニューメキシコ州とオクラホマ州にも広がっており、また、カンザス州の症例とも関連している可能性が指摘されている。飛行機での移動も麻疹蔓延の一因となっている。コロラド州では、州外からの旅行者が感染力のある状態で飛行機に搭乗したことが原因で、同時刻に空港にいた人々を含む複数の新規感染者が発生した。テキサス州での流行に関連する症例が2026年まで続いた場合、米国の麻疹根絶のステータスが取り消される可能性があると専門家らは懸念している。 米疾病対策センター(CDC)によると、2025年の麻疹罹患者の約8人に1人が入院しており、症例の約30%は5歳未満の小児だった。症例の大半はワクチン未接種だった。MMRワクチンは非常に効果的であり、麻疹ウイルスに対する有効性は1回接種で93%、2回接種で97%である。 今回のアウトブレイクを受け、テキサス州などの一部の州では、MMRワクチンの接種機会を拡大し、従来の1歳から前倒しして生後6カ月で1回目の接種を受けられるようにした。ヘルスケア分析会社Truvetaのデータによると、この措置によりテキサス州でのワクチン接種率は2019年より8倍増加したという。また、ニューメキシコ州でも接種率は昨年のほぼ2倍になったという。しかし専門家は、それでも全国のワクチン接種率は望ましい水準に達していないと警鐘を鳴らす。米国は未就学児におけるMMRワクチン2回接種率95%の達成を目標としているが、CNNによると、この目標は4年連続で達成されていない。 それどころか、公衆衛生のリーダーたちは、ワクチンに対する不信感の高まりと連邦政府の保健指導部の変更により状況は悪化していると指摘している。米国のワクチン政策を策定するCDCには依然として所長がおらず、米国保健福祉省(HHS)長官のロバート・F・ケネディ・ジュニア(Robert F. Kennedy Jr)氏は長年にわたり反ワクチンの情報を拡散してきた経緯がある。ケネディ氏は4月に、ワクチンを支持するこれまでで最も強力な公の声明を発表したが、それは以前の発言とは矛盾する内容だった。さらに6月には、米国のワクチン接種政策を導くワクチン専門家委員会のメンバーを全面的に解任し、ワクチン懐疑論者を後任として任命している。

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18歳未満の嘔吐を伴う急性胃腸炎、オンダンセトロンは有益か/NEJM

 胃腸炎に伴う嘔吐を呈する小児において、救急外来受診後のオンダンセトロン投与はプラセボ投与と比べて、その後7日間の中等症~重症の胃腸炎リスクの低下に結び付いたことが示された。カナダ・カルガリー大学のStephen B. Freedman氏らPediatric Emergency Research Canada Innovative Clinical Trials Study Groupが、二重盲検無作為化優越性試験の結果を報告した。オンダンセトロンは、救急外来を受診した急性胃腸炎に伴う嘔吐を呈する小児への単回投与により、アウトカムを改善することが報告されている。症状緩和のために帰宅時に処方されることも多いが、この治療を裏付けるエビデンスは限られていた。NEJM誌2025年7月17日号掲載の報告。嘔吐への対応として6回投与分を処方、中等症~重症の胃腸炎発生を評価 研究グループは、カナダの3次医療を担う6施設の小児救急外来で、急性胃腸炎に伴う嘔吐を呈する生後6ヵ月~18歳未満を対象に試験を行った。 救急外来からの帰宅時に、被験者には経口オンダンセトロン液剤(濃度4mg/5mL)またはプラセボ液剤が6回分(それぞれ0.15mg/kg、最大投与量8mg)提供された。介護者には0.1mL単位で調整された投与量が伝えられ、投与後15分以内に嘔吐が再発した場合は再投与し、試験登録後48時間で液剤は廃棄するよう指示された。介護者は7日間の試験期間中、液剤投与および関連した症状を日誌に記録した。 主要アウトカムは、中等症~重症の胃腸炎(試験登録後7日間における修正Vesikariスケール[スコア範囲:0~20、高スコアほどより重症であることを示す]のスコア9以上の胃腸炎発生で定義)。副次アウトカムは、嘔吐の発現、嘔吐の持続期間(試験登録から最終嘔吐エピソードまでの期間で定義)、試験登録後48時間の嘔吐エピソード回数、試験登録後7日間の予定外受診、静脈内輸液の投与などであった。中等症~重症の胃腸炎はオンダンセトロン群5.1%、プラセボ群12.5%、有害事象発現は同程度 2019年9月14日~2024年6月27日に合計1,030例の小児が無作為化された。解析対象1,029例(1例はWebサイトエラーのため無作為化できなかった)は、年齢中央値47.5ヵ月、女児521例(50.6%)、体重中央値16.1kg(四分位範囲[IQR]:12.2~22.5)、ロタウイルスワクチン接種済み562/782例(71.9%)、ベースラインでの嘔吐の持続期間13.9時間(IQR:8.9~25.7)、修正Vesikariスケールスコア中央値9(IQR:7~10)などであった。 主要アウトカムの中等症~重症の胃腸炎は、オンダンセトロン群5.1%(データが入手できた452例中23例)、プラセボ群12.5%(同441例中55例)であった(補正前リスク差:-7.4%ポイント、95%信頼区間[CI]:-11.2~-3.7)。試験地、体重、欠失データを補正後も、オンダンセトロン群はプラセボ群と比べて中等症~重症の胃腸炎のリスクが低かった(補正後オッズ比:0.50、95%CI:0.40~0.60)。 嘔吐の発現や持続期間中央値について、あらゆる意味のある群間差は認められなかったが、試験登録後48時間の嘔吐エピソード回数は、オンダンセトロン群がプラセボ群と比べて低減した(補正後率比:0.76、95%CI:0.67~0.87)。予定外受診および試験登録後静脈内輸液の投与は、試験群間で大きな差はなかった。 有害事象の発現も試験群間で意味のある差は認められなかった(オッズ比:0.99、95%CI:0.61~1.61)。

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最新の新型コロナワクチンは新たな変異株にも有効

 最新の新型コロナワクチンは、新たな新型コロナウイルス変異株に対しても有効であることが、新たな研究で示された。2023〜2024年版の新型コロナワクチンについて検討したこの研究では、ワクチンは特に重症化予防に対して明確な追加的効果のあることが確認されたという。米レーゲンストリーフ研究所生物医学情報センターのShaun Grannis氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に6月25日掲載された。 この研究では、米国の6つのヘルスケアシステムの2023年9月21日から2024年8月22日までのデータを用いて、新型コロナワクチン(オミクロン株XBB.1.5対応1価ワクチン)の有効性が検討された。主要評価項目は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による救急外来(ED)や緊急ケア(UC)受診、入院、および重症化(集中治療室〔ICU〕入室または入院死亡)の予防に対する有効性を検討した。なお、本研究の対象期間には、オミクロンXBB株およびJN.1株の流行期も含まれている。 対象期間中にCOVID-19様症状を呈し、PCR検査または抗原検査を受けた18歳以上の成人34万5,639例(年齢中央値53歳、女性60%)のうち、3万7,096例(11%)が陽性であった。解析からは、ワクチン接種後7〜299日の間におけるED/UC受診予防に対するワクチンの有効性は24%(95%信頼区間21〜26%)であることが示された。また、COVID-19様症状を呈して入院した18歳以上の入院患者11万1,931例(年齢中央値71歳)のうち、1万380例(9%)が陽性であった。解析からは、ワクチン接種後7〜299日の間におけるCOVID-19関連の入院予防に対するワクチンの有効性は29%(95%信頼区間25〜33%)、重症化予防に対する有効性は48%(同40〜55%)であった。ワクチンのこのような予防効果は、特に65歳以上の成人において顕著であることも示された。 さらに、ワクチンの有効性は接種後7〜59日が最も高いことも判明した(ED/UC受診予防:49%、入院予防:51%、重症化予防:68%)。しかし、接種後180〜299日になると効果が大幅に低下し、ED/UC(−7%)と入院(−4%)予防に関しては有効性が認められなくなり、重症化予防についても16%まで低下していた。 Grannis氏は、「この研究は、改良型COVID-19ワクチンが、特にワクチン接種直後の数カ月間に、入院や重症化などの深刻なアウトカムに対して依然として大きな保護効果を発揮することを示している」と述べている。同氏はさらに、「これらの結果は、ウイルスが進化し続ける中で、特に高齢者やより脆弱な患者に対して、推奨通りに最新のワクチンを接種し続けることの重要性を再確認させるものだ」と付け加えている。 この研究結果は、米政府により新型コロナワクチンの改良が妨げられている中で発表された。米食品医薬品局(FDA)は5月に、プラセボ対照試験を実施しない限り、一般向けに改良型新型コロナワクチンを承認しないと発表した。また、同月後半にロバート・F・ケネディ・ジュニア(Robert F. Kennedy Jr.)保健福祉長官は、米疾病対策センター(CDC)は今後、健康な小児および妊婦への新型コロナワクチン接種を推奨しないと発表した。なお、CDC公式サイトには現時点でこの方針は反映されていない。 Grannis氏は、「本研究結果は、高リスクグループに対してタイムリーなワクチン接種と追加接種を推奨するガイドラインを裏付けている」と話す。また、共著者の1人であるレーゲンストリーフ研究所生物医学情報センターのBrian Dixon氏は、「効果的なワクチンの接種は、入院や救急外来の受診を防ぐことで地域社会の健康を維持し、COVID-19に伴うコストを削減する上で依然として重要な手段である」と述べている。

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第271回 参院選のマニフェストに変化?各党が口を揃える政策とは

与党情勢、雲行き怪しく第27回参議院選挙(以下、参院選)も終盤に差し掛かっている。こうした選挙では序盤、中盤、終盤と各社が情勢を報道するが、近年で政権与党側の情勢がここまで坂を転がり落ちるように悪化するのも珍しいと言える。たとえばNNN(日本テレビ系列)の情勢調査によると、勝敗を握る1人区の情勢は、序盤は与党系リードが10選挙区、野党系リードが12選挙区、接戦が10選挙区だったのが、終盤ではそれぞれ7選挙区、20選挙区、5選挙区まで変化している。党勢を直接的に反映する比例代表議席では、序盤で自民党は12~15議席と予想されてきたが、ここに来て自民党内からは12議席も危ういのではないかとすらささやかれている。筆者の知人の自民党関係者は「もう予想がつかない。ただ、ほぼ絶対と言ってもよいかもしれないのは序盤の最大値15議席はないということ」とまで語った。ちなみに現在の選挙制度になって以降、参院選での自民党の比例の最低記録は1998年(橋本 龍太郎政権)と2007年(第一次安倍 晋三政権)の14議席である。これを下回れば自民党にとって過去最大の敗北となる。さて本連載では毎回国政選挙時に各政党が掲げる医療・介護・社会保障関連政策を独断と偏見も交えながら取り上げてきた。昨年秋の衆院選時も前編・後編にわけてお伝えしたが、そこから10か月弱しか経ていない。ということで、今回は政党助成法上の政党要件を満たした各党の政策を約10ヵ月前と比較した変化に着目してお伝えしたいと思う(以下、2024年衆院選マニフェスト=前回、2025年参院選マニフェスト=今回)。なお、取り上げるのは改選前議席数の順としている。自民党(114議席)自民党の場合、選挙時のマニフェストは簡易版に加え「総合政策集(通称・J-ファイル)」を公表している。このJ-ファイルで謳っている社会保障関連項目は70項目を超える。ただ、これを極めてぎゅっとまとめた簡易版では以下のように大枠を記述している。「物価や賃金が上昇する中、地域医療、介護、福祉の基盤を守り、働く方もサービスを利用する方も継続して安心できるよう、次期報酬改定はもとより、経済対策等を通じ、公定価格の引上げなど、経営の安定や他産業に負けない賃上げにつながる迅速かつ確実な対応を行います。わが国の創薬力の強化を図るとともに、持続可能な流通体制を含め、医薬品の安定供給に取り組みます」実は前回は太字にあるような診療報酬引き上げは、物価スライドの可能性については言及していたものの、引き上げそのものまでは言明していなかった。そしてもう1つの太字である創薬強化、流通の安定になぜ私が太字をつけたかを説明しよう。これまでの診療報酬引き上げは、薬価の引き下げを財源としていたのはこの業界では周知のこと。創薬力の強化も安定供給もそれを下支えするのは薬価である。慣例に則れば、診療報酬引き上げと薬価の下支えは二律背反である。だが、それを公言してしまっているのだ。この謎を解くヒントの一端が、J-ファイル2024とJ-ファイル2025の比較で浮き上がってくる。ずばりJ-ファイル2025には前回はなかった「病床数の適正化を進める医療機関への支援を着実に実施」という文言が新たに加わった。診療報酬は引き上げつつも、病床削減による入院医療費削減を念頭に置き、その一部が薬価対策に使われるのではないかと邪推できてしまう。2025年度予算編成に当たって自公維3党合意で謳われた病床削減に少なくとも石破自民党はそれなりに本気であることがうかがえる。この点は大きな変化と言える。立憲民主党(38議席)現在、最大野党の同党だが、診療報酬や介護報酬の引き上げ、薬価の中間年改定は今回も継続して謳っている。その意味で前回と今回では掲げる政策はほぼ変わっていない。その中で2025年度予算編成での与党の最大の敗北ともいえる高額医療費の自己負担限度額の引き上げ撤回については、今後の引き上げについても中止を新たに明言した。この辺はトレンドに乗じたとも言えるのだが、この項目に関連して同党はさらりと「軽症患者の医療費の見直し優先」と記述している。その見直し内容の詳細には触れていないが、おそらくは一般用医薬品(OTC)類似薬の保険外しなどが念頭にあると思われる。国民民主党や日本維新の会ほどははっきりこの点を明言してこなかった同党だが、ついにこの点に踏み込んだ。公明党(27議席)さて与党の一角を占める同党だが、今回はがらっと政策が“変化”している。というか正確に言えば、医療・介護・保育従事者の賃上げやメンタルヘルスケア対応の充実、医療DXなどは維持されているのだが、前回掲げられていた▽医療提供体制の充実▽がん医療提供体制の充実▽医薬品の安定供給・品質の確保▽帯状疱疹ワクチンの円滑な接種▽地域包括ケアシステムの推進▽難聴に悩む高齢者等に対する支援▽介護人材の確保、はごっそり消えた。細かくは紹介しないが、今回は物価高対策に主な重点を置いているようだ。以前から指摘しているが、同党はある意味元祖バラマキ政党とも言えるため、それと親和性の高い物価高対策のほうにベクトルが向かっているのだろう。日本維新の会(18議席)良く言えば「元祖・若者世代の味方」、悪く言えば「元祖・世代間分断の火付け役」とも言える同党は、今回キャッチフレーズから「社会保険料から、暮らしを変える」を打ち出してきた。前回は「高齢者医療制度の適正化による現役世代の社会保険料負担軽減」というざっくりとしたものを打ち出し、その中で▽後発医薬品の使用原則化▽医薬分業制度の見直し▽保険適用薬品の適正化▽診療報酬体系の再構築▽高齢者医療費の一律3割負担、などを打ち出していた。今回もこの大枠は堅持のままだが、まずは2025年度予算編成時の自公維合意で言及し、同党としては“成果”と考えているであろう▽OTC類似薬の保険適用除外▽人口減少等により不要となる約11万床の病床を不可逆的な措置を講じつつ次の地域医療構想までに削減(感染症等対応病床は確保)、を打ち出してきた。病床削減については「不可逆的な措置」とかなり強い文言まで付記している。さらにより具体的なものとして新たに「費用対効果に基づく医療行為や薬剤の保険適用除外の促進」「電子カルテ普及率100%達成」「電子カルテを通じた医療情報の社会保険診療報酬支払基金に対する電磁的提供の実現」「地域フォーミュラリの導入」を打ち出している。言葉が悪いことを承知で言えば、医療費削減につながりそうなものはなんでも盛り込むヤミ鍋状態である。もっとも一部で話題になっている同党東京選挙区の候補者・音喜多 駿氏の昨今のX(旧Twitter)の投稿に代表されるように、医療に対する理解は表層的な印象が強い。日本共産党(11議席)今回の参院選マニフェストでは新たに「国費5,000億円投入による診療報酬引き上げ」と「OTC 類似医薬品の保険給付外し反対」が加わった。前者は昨今報道されている病院経営の苦境、後者は2025年度予算編成時の自公維3党合意を意識したものと思われる。また、前回も「公費1 兆円投入による社会保険料の均等割・平等割を廃止などの抜本的改革」を謳っていたが、今回はここの中で子どもの国保無料化を打ち出した。介護に関しては、変化はほとんどないが、前回打ち出していた「介護事業所の人材紹介業者への手数料上限設定」は今回のマニフェストからは消えた。この点については、国が対策に本腰を入れ始めたからだと推察される。さて共産党と言うと、「無償化」「負担増反対」などある意味バラマキ政策の典型を見せており、この政策の方向性に変化はない。だが、それでも今回のマニフェストには“大きな変化”があった。というのは、こうした政策に必要な財源規模とそれを捻出するための各政策とそれによる予算削減(獲得)規模の大雑把な貸借対照表を公表したことだ。それによると、医療政策も含め共産党が主張する政策実現に必要な予算は25兆6,000億円で、これを捻出するための政策は、法人税率引き上げによる3兆3,000億円など7項目合計で同額。言ってしまえば、金持ちから搾り取る所得再分配を強化するというものだ。つまり国民全体では薄く負担軽減、一部国民へは課税強化というシナリオである。この通りに進むとは思えないが、これまでの「財源は?」という問いに最低限答えたという変化は小さいものではないと考えている。国民民主党(9議席)各種情勢調査で参政党とともに躍進の可能性が伝えられている同党だが、衆院選直後と比べるとやや失速している模様だ。同党のマニフェストは「手取りを増やす夏。」だが、私のような古い世代はこのキャッチフレーズを聞くと、かつてテレビで流れていた大日本除虫菊の蚊取り線香「金鳥の渦巻」のCMキャッチフレーズ「金鳥の夏 日本の夏」を思い出してしまう。さて前回も同党に関してはかなり医療関連政策が作り込まれていると書いたが、そうしたこともあってか、今回も大きな変更はない。だが、ところどころに微修正が見て取れる。たとえば後期高齢者医療制度の公費負担増では、前回は財源について「国民の安定的な資産形成の促進に配慮しながら、富裕層の保有する資産への課税等を検討します」との記述があったが、これが丸々削除されている。おそらく富裕層からの反発を恐れた全方位(八方美人)戦略と言えるかもしれない。また、保険給付範囲の見直しについても前回はセルフメディケーション推進とともに今回維新が掲げた政策と似通った「年齢ごとに健康に生活できる状況を維持するのにかかる医療の費用対効果評価が低いものについては公的医療保険の対象から見直します」と、すでに保険適用になっている技術などの保険外しを意図しているかのような一文もあったが、これも削除された。一方で「セルフメディケーションの推進」の項目では、なぜここに盛り込んだかは不明だが「リフィル処方箋の普及を目指します」との一文が追加されている。この項目にこの文言を盛り込むのは、何かの間違いか、単なる勉強不足のように思えるのだが…。れいわ新撰組(5議席)前回と比べて驚くほど政策に変化がないのが同党である。よく言えば、一貫性がある。その中でも微妙な変化がある。前回は「健康保険証のマイナカードへの統合反対」「国立病院、公立病院の統廃合、病床の削減を根本的に見直し」としていたが、今回はマイナカードの廃止、病床削減の中止を明言した点である。日本保守党(2議席)前回は国政に議席を有していなかったため、取り上げてはいなかった。今回のマニフェストを見ると、▽健康保険法・年金法改正(外国人の健康保険・年金を別立て)▽出産育児一時金の引き上げ(国籍条項をつける)の2点を打ち出している。この部分を見る限り、参政党以上に「日本人ファースト」である。社民党(2議席)昨年と異なるのは「最低賃金全国一律1,500円の早期実現と社会保険料の労使負担割合を1:3にし、手元に残る賃金を増やします!中小零細企業の負担増加分は国の公費助成で補填します」という主張だ。同党は医療費の窓口負担の引き上げや病院統廃合の反対など共産党やれいわ新撰組と政策が似通っているが、社会保険料についての数字を挙げ、ここまで具体的に踏み込んだのはほぼ初だと思われる。参政党(1議席)第270回で取り上げたのでここでは詳細は省くが、変化があったのは今回新たに加わった「政策5 GoToトラベルで医療費削減」と「政策6 金儲け医療・WHOパンデミック条約に反対」の各種政策。昨年の衆院選では新型コロナウイルス感染症ワクチンの健康被害追及への注力を打ち出していたが、この点は鳴りを潜めた。この手の政策に批判が集まりやすいことを念頭に置いたのかどうかはわからないが…。各政党が意識する政策ざっと概観したが、今回、全体を見回して私個人が非常に特徴的と感じたことがある。それはどの政党も「社会保険料の軽減」にやたらと重点を置いていることだ。少なくともこの点の元祖は、これまで各党の政策を眺めてきた私からすると日本維新の会なのだが、この政策を盛り込んでキャッチーに「手取りを増やす」を掲げ、若年層からの票を集めて議席増につなげた国民民主党がインフルエンサーの地位をものにしたと感じている。これまで政治に関心の低い若年層の支持獲得に苦労してきた各党とすれば、前回の国民民主党の躍進でその解の一端を見つけたと思ったのではないか? その意味で今回の選挙は、「国民民主ジェネリック」あるいは「国民民主ポピュリズム」とでもいうべき現象が広がっているように映る。さて最終的な結果はいかなるものになるのだろう。

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産婦人科医が授業に、中学生の性知識が向上か

 インターネットは、性に関する知識を求める若者にとって主要な情報源となっているが、オンライン上には誤情報や有害なコンテンツが存在することも否定できない。このような背景から、学校で行われる性教育の重要性が高まっている。今回、婦人科医による性教育が、日本の中学生の性に関する知識と意識の大幅な向上につながる、とする研究結果が報告された。ほとんどの学生が産婦人科医による講義を肯定的に評価していたという。研究は、日本医科大学付属病院女性診療科・産科の豊島将文氏らによるもので、詳細は「BMC Public Health」に5月28日掲載された。 インターネットへのアクセスが容易になり、子どもたちの性的な内容への露出に対する懸念が高まったことにより、多くの国々が国際的なガイドラインを導入し、包括的な性教育(CSE)プログラムを推進するようになった。2000年には、汎米保健機構(PAHO)と性の健康世界学会(WAS)は、世界保健機構(WHO)と共同で「セクシュアル・ヘルスの推進 行動のための提言」を作成し、全ての人にCSEを提供することを提案した。 日本でも、この提言に呼応し、適切な性に関する知識を得るためのCSEプログラムが求められている。また、世界的に多くのCSEプログラムでは、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種が重要な要素として含まれている。これは、HPVと子宮頸がんとの関連が確立されており、子宮頸がんは「予防可能」であることに由来する。このような背景を踏まえ著者らは、専門医による性教育の講義が、日本の中学生の経口避妊薬(OC)、避妊、子宮頸がん、HPVワクチン接種に関する知識と意識に与える影響を評価することとした。授業の前後にアンケート調査を実施し、知識と意識の変化を調査した。 本研究では、日本国内の公立および私立の中学校37校に通う中学3年生の男女を対象とした。講義で取り上げたトピックは、文部科学省のCSEガイドラインに従い、1:男女の体の違い、2:月経の問題とその管理、3:避妊方法、4:LGBTQやデートDVに関する問題、5:性感染症、6:子宮頸がんとHPVワクチン、の6つとした。生徒は講義の前後にアンケートに回答し、講義内容に関する知識と意識を評価された。 事前アンケートには5,833名、事後アンケートには5,383名が回答し、男女比はほぼ均等だった。講義に先立ち実施した事前アンケートでは、性に関する情報源と現状の知識について回答を得た。情報源として「インターネットやYouTube」と回答した生徒の割合が最も多かったが、男女別に見ると男子学生の割合が有意に高かった。女子学生は「学校の先生や授業」や「両親・家族」を情報源として挙げる割合が高かったのに対し、男子学生では、「友人」や「この種の情報を得たことがない」と回答する割合が高かった。また、講義前はOC、子宮頸がん、HPVに関する知識が乏しく、多くの学生がHPVワクチンに対して不安を抱いていた。 講義後、OCに関する知識(使用可能年齢や副作用など)が向上し、生理痛の緩和など避妊以外のメリットを認識する学生が増えた。また、避妊方法の理解も著しく深まり、「避妊は男性が責任を持つべき」と考える学生の数は減少した。さらに、子宮頸がんやHPVに関する知識も大幅に向上し、HPVワクチンの接種を希望する学生の割合も増加した。 講義後に実施したアンケートでは、ほとんどの学生が今回の講義を肯定的に評価し、5段階評価で4または5を選択した。男子学生よりも女子学生の方が、わずかに高い評価をしていた。 本研究について著者らは「本研究は、国際機関や先行研究の提言を踏まえ、日本の若者にとって包括的でアクセスしやすい性教育の必要性を明確にした。婦人科医などの専門医が関与することで、性に関する幅広い健康トピックについて正確かつ最新の情報を提供でき、こうした介入の効果をさらに高めることができるだろう」と述べている。

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第270回 絶句の連続…某党が掲げる医療政策

東京都内が猛暑日を迎える中、街中が賑わしい。7月3日に第27回参議院選挙が公示されたからだ。前哨戦とも言われた東京都議選で国政・都政与党の自民党は大敗、公明党も議席を減らし、立憲民主党、国民民主党、参政党が議席増。とくに国民民主党と参政党は前回議席なしから、それぞれ9議席、3議席を獲得した。なかでも参院選を前に過去1週間以内に発表された世論調査で支持率(共同通信は参院選比例投票先)を伸長させているのが参政党で、その支持率はNHKが4.2%、JNN(TBS系列)が6.2%、ANN(テレビ朝日系列)が6.6%、NNN(日本テレビ系列)・読売新聞、朝日新聞がそれぞれ5%、共同通信が8.1%。共同通信調査では自民党に次ぐ第2位、JNN、ANN、NNN・読売新聞の調査で自民党、立憲民主党に次ぐ第3位(国民民主党とタイ)、NHK、朝日新聞の調査で第4位である。本連載では過去から国政選挙時に各政党の政策を取り上げているが、今回はまず急激に支持を広げる参政党の医療・介護政策について、より詳細に見ていきたいと思う。社会保険料を疾患一次予防で削減?昨年の衆議院選挙では「日本をなめるな」、そして今回は「日本人ファースト」をスローガンに掲げる同党。今回はこのスローガンの下に「3つの柱と9つの政策」を謳い、この各柱の下に3つずつ政策が連なっている。まず、「1の柱 日本人を豊かにする~経済・産業・移民~」では、「政策1 “集めて配る”より、まず減税」で、▽対症療法から予防医療への転換で支出を最適化し、社会保険料の負担を軽減▽消費税減税と社会保険料軽減によって国民負担率上限35%の実現を提言している。後者は前回の衆議院選挙でも同党が掲げた政策だが、当時はその方法論を明示はしていなかった。今回、国政選挙でその一端を明示したわけだが、率直に言ってのっけから???である。まず、同党の政策でいう「予防」が「一次予防」を意味するのか、「二次予防」を意味するのかは文言だけでは判別不能である。もっとも一般人がイメージする「予防」の多くは「一次予防」だろう。その前提で考えてみる。世の中に存在する疾患の中には、そもそも原因すら不明で予防策すら見つからないものは多々ある。難病はその典型である。しかも、難病では近年、新たな治療薬の開発・上市も進んでいるが、その多くは高額である。少なくともこの領域では予防も医療費の最適化も困難である。では、ほかの疾患についてはどうか? 端的に言えば、理論上予防対策がある疾患は存在するが、それを具体的に国策に落とし込めるか否かは別問題である。ここで2023年に国立がん研究センターと国立国際医療研究センターが共同で行った、がん予防の経済効果(がんによる経済的負担と生活習慣や環境要因など予防可能なリスク要因に起因するがんの経済的負担を推計)に関する研究を引用してみたい。同研究によると、予防可能なリスク要因に起因するがんの経済的負担は約1兆240億円。予防可能な主なリスク要因別の経済的負担は、「感染」が約4,788億円、「能動喫煙」が約4,340億円、「飲酒」が約1,721億円と推計されている。このうち感染、すなわちヘリコバクター・ピロリ菌による胃がん、B型肝炎ウイルス・C型肝炎ウイルスによる肝がん、ヒトパピローマウイルスによる子宮頸がん・中咽頭がんは、ある意味で政策には落とし込みやすいとは言える。とはいえ、定期接種であるHPVワクチンも最終的に接種するかどうかは個人の意思であり、完全なコントロールは不能である。そして喫煙、飲酒はどうするのか? 究極はタバコ、酒の販売禁止しか方策はない。こう言うと、いまだに「酒は多少ならば…」と言い出す人もいるが、昨今の研究では飲酒は量の多少にかかわらず、がんをはじめとする各種疾患のリスクになり得るという研究が明らかになっている。「運動不足」「過体重」に至っては、国として実効性のある政策に落とし込むことすら難しいだろう。政策で国民に運動の励行を半ば強制するならば、もはや北朝鮮のマスゲーム状態である。また、仮にこれらを完全に実行できたとしても、社会保険料の引き下げという形で国民に恩恵をもたらすのは、おそらく数十年後である。確かに疾患予防は理想的ではあるが、それを政策化して定着させるためには、がんに限ってもいくつもの壁がある。また、それ以前に予防に関するエビデンスもいまだ十分とは言えない。このように少なくとも公党が政策として“予防”を掲げる環境にはなく、それでもなお掲げるのであれば、より具体的な政策まで落とし込んだ提案が必要であり、率直に言って、今回の参政党が掲げた内容はファッションの域を出ないというのが個人的な印象である。争いを起こしたいの?そして「2の柱 日本人を守り抜く〜食と健康・一次産業〜」では、「政策5 GoToトラベルで医療費削減」と謳い、▽一定期間、健康を維持し、医療費削減に貢献された高齢者に対し、国内旅行で使えるクーポン券を支給する「Go To トラベルによる医療費削減インセンティブ制度」を創設▽制度導入時に予防医療のエビデンスに基づいたサービスを健康保険の対象とする制度改革も実施と提言している。「Go To トラベルによる医療費削減インセンティブ制度」だが、そもそも加齢により生理機能が低下している高齢者で、何をもって「一定期間、健康を維持した」と定義するかが不明である。ただ、想像するに各種検査値の正常維持を念頭に置いているのではないだろうか? 少なくとも一定期間の健康維持を国の政策として採用するならば、明確な数値が必要だからだ。しかし、それはあまりにも無理があると言わざるを得ない。たとえば血圧値で考えれば、とくに乱れた日常生活を送っていなくとも、加齢とともに上昇するのは医療者ならばご存じのとおり。また、個々人ごとの遺伝的な体質の違いもあり、検査値の正常を維持したくともできない人もいるのである。その中で「健康」と「不健康」を分け、しかもそこにインセンティブを国として与えようなどと言うのは、高齢者内の分断を生む愚策でしかない。頑張ってもクーポン券をもらえない高齢者は、もらえた高齢者をどんな目で見つめるのだろうか?この政策を目にして、あるドラマのワンシーンを思い出した。TBSを代表するドラマ「3年B組金八先生」だ。三者面談の際に自分の成績に見合わない高い志望校を提示した生徒と母親に、武田 鉄矢氏が扮する坂本 金八と石黒 賢氏が扮する副担任の新米教師・真野 明が対峙する。希望する志望校にやや難色を示す金八と真野の前に母親が偏差値60を超えた塾での成績表を見せると、真野が笑いながら「まぐれじゃないのか?」と応じると、母親は「何で褒めてくださらないのですか? 塾の先生は60超えた生徒にはハンバーガーをご馳走してくれるのに…」と食い下がる。この面談を終えた後に、問わず語りのように金八先生が真野先生に語るシーンがある。「しかし塾の先生も本当にむごいことするな。ハンバーガーをおごってもらえなかった。子供の気持ちこそが問題なんだよ。たかだか200円か300円の代物だよ。しかし、おごってもらえなかった子供は食っとるやつをじっと見とるよ。腹の中じゃな、ぶっ殺してやりたいと思いながら食っとるやつを眺めとる。そしてハンバーガーを食うたんびに、その悔しさを思い出すんだよ。ハンバーガーをおごってもらえない子供たち、その大多数がわれわれの教え子だ。しかし、この大多数こそが社会に出ると無口で実に誠実な労働者になる。そして彼らこそが日本を日本の社会を支えてるんですよ。ですから、食い物で釣っちゃいかん、食い物で差別しちゃいかん」(3年B組金八先生シリーズ3 第10話「進路決定・三者面談1」より 全文ママ)まったく同じことがこの件でも言えるのではないだろうか???????さらに「2の柱」では、「政策6 金儲け医療・WHOパンデミック条約に反対」という項目もある。この内容を箇条書きすると、▽感染症の再発防止やまん延防止のための独立した国内機関を設立▽国際機関の勧告が日本の国情や科学的知見に合致しない場合に国内判断を優先する主権的対応を制度化▽危険性の高い病原体を扱う研究施設については、居住地や都市部から十分な距離を確保する立地規制▽ワクチンや治療薬の安全性・有効性は利益相反のない第三者機関による評価を義務付ける制度を整備となる。一番目はすでに自公政権下でこの4月から発足した「国立健康危機管理研究機構(JIHS)」に近いものかもしれないが、「独立した」という表現からすると、行政機関からも独立したものを想定しているのかもしれない。しかし、より充実した感染症対策を進めるには膨大な予算が必要であり、完全民営の機関設立は現実的とは言えない。3番目についてはバイオセーフティレベル4(BSL4)施設のことを意味していると考えられ、一定の理解もしうるが、人里離れた地域では土砂災害などの危険性も考慮しなければならず、住宅地などから距離を取ればよいという単純なものではない。だが、これ以上に問題なのは2番目と4番目である。そもそも国境を越えた人の往来が活発化している中で、感染症対策を一国独自主義で対応することそのものがナンセンスであることは、すでに新型コロナウイルス感染症のパンデミックで証明済みである。「日本の国情や科学的知見」と言うが、「日本の国情」はまだしも「日本の科学的知見」とはなんぞや?と首をかしげてしまう。そもそも新興感染症では各国とも国際機関と連携しながら科学的知見を共有・統一するのが原則である。そのなかで日本だけの独自の科学的知見と言ってしまうのは、まるで「1+1」の答えが国境を超えると変わるかのような言いっぷりである。そして4番目だが、国の医薬品・ワクチンの承認審査での利益相反管理をまるで知らないかのようだ。もはや、どこぞの国のACIP委員総入れ替え問題を彷彿とさせるレベルの話である。以上をざっくりまとめるならば、医療に対する「ド素人の戯言」である。

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