サイト内検索|page:29

検索結果 合計:649件 表示位置:561 - 580

561.

骨折リハビリ後の高齢者に在宅運動療法は有用か?/JAMA

 股関節骨折後に通常のリハビリテーションを行った高齢者について、理学療法士(PT)指導管理下の在宅運動療法を6ヵ月間実施したところ、電話での栄養指導のみ群と比べて、わずかだが有意に身体機能が改善したことが示された。米国・ボストン大学のNancy K. Latham氏らが無作為化比較試験の結果、報告した。高齢者では多くが股関節骨折後、長期にわたって運動機能が制限される。これまで、骨折リハビリ後に最小限の管理体制で行う在宅運動療法の効果については不明だった。JAMA誌2014年2月19日号掲載の報告より。6ヵ月後のSPPBとAM-PACスコア変化を調査 研究グループは2008年9月~2012年10月にかけて、股関節骨折後に通常のリハビリテーションを終了した高齢者232例を対象に、無作為化比較試験を行った。試験は同患者について、PTとのコンタクトが最小限の管理指導下で行う在宅運動療法が機能を改善するかを評価することを目的とした。 被験者を無作為に2群に分け、一方には、PT指導による在宅での身体機能強化のための運動(いすから立ち上がる、踏み台昇降など)を6ヵ月間行った(120例)。もう一方の対照群には、電話による心血管系に関する栄養指導を行った(112例)。 ベースライン時と6ヵ月後、9ヵ月後に盲検化された評価者が身体機能評価を行った。主要アウトカムは、6ヵ月後の簡易身体能力評価尺度(SPPB)と急性期ケア後の活動尺度(AM-PAC)の変化だった。在宅運動群で身体機能が有意に改善 被験者のうち、6ヵ月後に追跡可能だった195例について分析を行った。 結果、在宅運動群は対照群に比べ、身体機能に有意な改善が認められた。 在宅運動群の平均SPPBスコアは、ベースライン時6.2から6ヵ月後7.2に改善したのに対し、対照群ではそれぞれ6.0、6.2で、群間差は0.8(95%信頼区間:0.4~1.2、p<0.001)だった。また、平均AM-PAC可動性スコアも、在宅運動群ではベースライン時56.2から6ヵ月後58.1に改善したが、対照群ではそれぞれ56、56.6で、群間差は1.3(同:0.2~2.4、p=0.03)だった。平均AM-PAC日常活動スコアについても、在宅運動群ではベースライン時57.4から6ヵ月後61.3に改善した一方、対照群はそれぞれ58.2、58.6で、群間差は3.5(同:0.9~6.0、p=0.03)だった。 多重代入分析の結果、群間差の有意性が消失したのは、AM-PAC可動性スコアのみだった。 9ヵ月後も、多重代入分析後もすべての機能評価の両群差は変わらなかった。 これらの結果を踏まえて著者は、「股関節骨折後の通常リハビリを行った高齢者への在宅運動療法は、無作為化後6ヵ月時点の身体機能をわずかだが改善した」と述べる一方で、「所見の臨床的重要性は未確定なままである」とまとめている。

562.

ロコモティブシンドロームの2025年問題

『ロコモティブシンドローム(略称:ロコモ)』という言葉をご存知でしょうか。筋肉、骨、関節、軟骨、椎間板といった運動器の障害のために移動能力の低下をきたして、要介護になっていたり、要介護になる危険の高い状態を指します。いつまでも自分の足で歩き続けていくためにはロコモ対策が必須です。本コンテンツではその原因と対策についてご紹介します。

563.

統合失調症へのアリピプラゾール+リハビリ、認知機能に相乗効果:奈良県立医大

 統合失調症患者における認知機能障害を改善する手段に関する研究には、強い関心が寄せられている。奈良県立医科大学の松田 康裕氏らは、統合失調症患者に対する抗精神病薬治療と認知機能リハビリテーションとの相乗効果について調べた。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2014年2月10日号の掲載報告。 研究グループは、認知機能リハビリテーションの有効性について検討した無作為化試験や、裏付けのための準無作為化実験的試験の参加者で、統合失調症または統合失調感情障害と診断された患者を対象とし、認知機能リハビリテーションへのアリピプラゾールとリスペリドンとの影響について検討した。被験者(43例)を、(1)対照-リスペリドン(CR群、13例)、(2)リハビリテーション-リスペリドン(RR群、9例)、(3)対照-アリピプラゾール(CA群、10例)、(4)リハビリテーション-アリピプラゾール(RA群、11例)に分類し、リハビリテーション群の被験者は、コンピュータベースの認知エクササイズ(24セッション)をブリッジング(12セッション)とともに12週間受けた。ベースライン時と12週時点で、精神症状、認知機能および社会的機能の評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・認知機能リハビリテーションと抗精神病薬投与を2要因とした分散分析の結果、運動速度について有意な相互作用の効果があることが判明した。・作業記憶と運動速度は、CA群と比較してRA群において有意に向上した。・CR群とRR群の間には、有意な改善がみられなかった。・アリピプラゾール治療患者における認知機能リハビリテーションとの相乗効果は、運動速度の改善として観察された。・アリピプラゾール治療患者において、認知機能リハビリテーションは、作業記憶と運動速度を改善すると思われた。・今回の結果を確認するために、抗精神病薬投与と認知機能リハビリテーションの相乗効果について、さらなる研究が必要である。関連医療ニュース 統合失調症の寛解に認知機能はどの程度影響するか:大阪大学 統合失調症患者は処理速度が著しく低下、日本人でも明らかに:大阪大学 統合失調症患者へのセロトニン作動薬のアドオン、臨床効果と認知機能を増大

564.

回復期リハ退院後の30日再入院率は11.8%/JAMA

 米国でメディケア受給者の急性期後(回復期)リハビリテーション(postacute inpatient rehabilitation)後の30日再入院率を調べた結果、最も低かったのが下肢関節置換術後の患者で5.8%、最も高かったのが患者の衰弱の18.8%であったことなどが、テキサス・メディカル・ブランチ大学のKenneth J. Ottenbacher氏らによる調査の結果、明らかにされた。米国のメディケア・メディケイドサービスセンターでは最近、リハビリテーション施設に対して、医療の質の評価指標として30日再入院率を定義づけた。Ottenbacher氏らは、この動きを受けて同施設の再入院率とその因子を明らかにするため、メディケア受給者73万6,536例を対象とした後ろ向きコホート研究を行った。JAMA誌2014年2月12日号掲載の報告より。リハ施設から地域へ退院した73万6,536例の再入院率を6診断群別に評価 対象者は2006~2011年に、1,365ヵ所のリハビリテーション施設から地域へ退院したメディケア受給者73万6,536例(平均年齢78.0[SD 7.3]歳)であった。63%が女性で、85.1%は非ヒスパニック系白人だった。 これら対象者について、6つの診断群(脳卒中、下肢骨折、下肢関節置換、衰弱、神経障害、脳の障害)別にみた30日再入院率を主要評価項目として評価した。最小は下肢関節置換5.8%、最大は衰弱18.8% 全体の平均入院期間は12.4(SD 5.3)日、全30日再入院率は11.8%(95%信頼区間[CI]: 11.7~11.8%)だった。 再入院率は、最小5.8%(下肢関節置換)から最大18.8%(衰弱)にわたった。その他はそれぞれ脳卒中12.7%、下肢骨折9.4%、神経障害、17.4%、脳の障害16.4%だった。 再入院率は、男性が女性よりも高く(13.0%vs. 11.0%)、人種別では非ヒスパニック系黒人が最も高かった。また、メディケイドとの複合受給者がメディケアのみ受給者よりも高い(15.1%vs. 11.1%)、共存症が1つの患者(25.6%)が2つ(18.9%)、3つ(15.1%)、なし(9.9%)の患者よりも高いなどの特徴も明らかになった。 6診断群では、運動および認知機能が高いと再入院率は低かった。 州で補正後の再入院率は、最小9.2%(アイダホ州、オレゴン州)から最大13.6%(ミシガン州)にわたった。 30日以内に再入院した患者の約50%は11日以内で退院に至った。再入院の理由(Medicare Severity Diagnosis-Related Groupコードによる)は、心不全、尿路感染症、肺炎、敗血症、栄養・代謝障害、食道炎、胃腸炎、消化不良などが一般的であった。 著者は、「再入院の原因を明らかにするためにさらなる研究が必要だ」とまとめている。

565.

血管撮影終了後の止血不十分で大腿神経麻痺を来したケース

循環器最終判決判例時報 1737号110-118頁概要心筋梗塞の疑いで心臓カテーテル検査を受けた61歳女性。カテーテル抜去後合計して約1時間の圧迫止血を行ったが、右大腿鼠径部に広範囲の内出血を来たし、翌日には右足の麻痺が明らかとなった。リハビリテーションによっても麻痺の回復は思わしくなく、2ヵ月後に大腿部神経剥離術を行ったところ、鼠径靱帯遠位部に約1cmにわたる神経の変性壊死が認められた。詳細な経過患者情報近所のかかりつけ医から心筋梗塞の疑いがあると指摘された61歳女性経過1989年8月28日A総合病院循環器内科を受診、心電図で異常所見がみられたため、精査目的で入院となった。なお検査前には、出血傾向、腎機能不全、感染症、発熱などはみられなかった。8月30日14:05心臓カテーテル検査開始(ヘパリン使用)。右大腿静脈:7フレンチ穿刺針に引き続き、シースを挿入。右大腿動脈:5フレンチ穿刺針に引き続き、シースを挿入。右心、左心の順に検査を進め、左右冠動脈造影、薬物負荷試験を行った。この間、右大腿動脈には2本目のシース(8フレンチ穿刺針使用)が挿入された。なお検査の結果肥大型心筋症と診断された。14:48体動が激しいためジアゼパム静注。15:00一連の検査終了が終了し、シースを抜去して用手圧迫による止血開始。10~15分間圧迫し、止血完了を確認後消毒、枕子をのせて圧迫帯を巻いた。ところがその直後に穿刺部周辺の大量出血を来たし、ソフトボール大の血腫を形成した。15:20一時的に血圧低下(77/58mmHg)がみられたため、昇圧剤を投与しながら30~40分用手圧迫を続けた。16:00ようやく止血完了。穿刺部に枕子を当て、圧迫帯を巻いて穿刺部を固定。16:20病室へ戻る。約8~9時間ベッド上の安静を指示された。8月31日右足が麻痺していることに気付く。9月11日別病院の整形外科を受診、右大腿神経の部分壊死と診断された。リハビリテーションが行われたものの満足のいく改善は得られなかった。10月30日別病院の整形外科で右大腿部神経剥離術施行。術中所見では、鼠径靱帯遠位5cmの部位で、大腿神経が約1cmにわたり、暗赤色軟性瘢痕組織に締扼されていて、壊死しているのが確認された。術後の回復は順調であり、筋力は正常近くまで回復し、知覚鈍麻も消失した。しかし、大腿神経損傷後に生じた右膝周囲のカウザルギー(頑固な疼痛)、右下肢のしびれが残存し、歩行時には杖が必要となった。1995年3月7日身体障害者第4級の認定。当事者の主張患者側(原告)の主張1.穿刺部の止血不十分のため大量出血を来し、さらに大腿神経を1時間にわたり強く圧迫したことが原因で神経が損傷、麻痺が生じた2.大出血による右大腿部の麻痺を確認しておきながら、専門医と相談したり転医措置をとらなかった病院側(被告)の主張1.穿刺部からの出血により広範囲の内出血が起きたことは認めるが、これは原告の体動によりいったん止血に成功したあとの再出血である。歩行障害はもともと患っていた腰椎疾患が原因である2.大腿神経麻痺が疑われた場合、とくに手術的措置をとらなくても自然に麻痺が回復することもあるので、経過観察したことに過失はない裁判所の判断1.心臓カテーテル検査終了後の止血措置を誤って大量出血させ大きな血腫ができ、右大腿神経麻痺が発症した2.担当医師は、「いったん止血に成功した後に激しく体動したため再出血した」と主張するが、入院カルテには「圧迫するも止血不完全、再圧迫」と記載されているのみ心臓カテーテル検査記録、報告書、看護記録にも体動に関する記載なし同僚医師・看護師の証言も曖昧で採用できない紹介もとの医師へは(検査終了後の圧迫の際に血腫を形成して大腿神経麻痺を来したことに対して)「どうもすみませんでした」と記載して謝罪しているなどの理由により、患者が動いたために再出血を来したとは到底考えることができない原告側1,778万円の請求に対し、1,144万円の判決考察セルジンガー法の血管撮影においては、大腿動脈に比較的太いシースを挿入するのが普通ですので、検査終了後の圧迫止血を慎重に行わないと本件のように大変な紛争へと発展することがあります。多くの先生方にも経験があると思いますが、ヘパリン使用下に検査を施行することもあって、細心の注意にもかかわらず穿刺部皮下に血液が漏れだし、あとで広範囲にわたる皮下出血となってしまうことがあります。その多くは数日で消退すると思いますが、場合によっては大腿神経に多大な圧迫が及んで下肢の麻痺にまで発展することがある、という重要な教訓を示唆しているケースです。ただし本件の裁判経過をみると、さまざまな問題点を指摘することができます。まず第一に、自分の関与した医療行為の結果、予期せぬ事態が発生し、患者さんに何らかの症状が残遺した場合には、その経過を詳細にカルテに記載しなければならない、という当たり前ではありますがけっして忘れてはならない重要な点です。今回の検査担当医は、「検査中からあまりにも体動が激しいので、心臓カテーテル検査では通常使用しないジアゼパムを静注したが、それでも体動は止まらずに本来施行するべき生検も断念した」、「検査終了後きちんと圧迫止血したけれども、止血完了直後に患者さんが動いたためにひどい出血を来した」と裁判で証言しました。それ以外に検査にかかわったスタッフは曖昧な証言に終始しているため、真相がどうであったのかはよくわかりません。しかし肝心のカルテには、「圧迫するも止血不完全、再圧迫」というたった一行の記載があるだけですので、「そんな重大な事実がありながら記録をまったく残していないのはきわめて不自然である。ということはそのような事実はなかったのだろう」と裁判官は判断しました。このように、医事紛争に巻き込まれた時に自らの正当性を証明する唯一ともいってよい手段は「きちんとカルテに記載を残す」ことにつきると思います。もし本件で、「カテーテル抜去後、約15分間慎重に圧迫止血を行ったが、止血確認直後患者が制止にもかかわらず起きてしまい、穿刺部にソフトボール大の血腫が生じた。その後圧迫止血を1時間追加してようやく止血を完了した」と記載していれば、おそらくここまで一方的な判断にはならなかったかもしれません。なお、本件の医学鑑定を行った専門医は、「カテーテル検査後の止血中には多少の体動はあり得ることであり、それを念頭において止血すべきであって、そのために出血を来すようであれば止血措置としては十分とはいえない」と判断しています。つまり、止血不十分で紛争に至ると、「止血中に動いた患者が悪い」という主張は難しいということになります。さらに本件では、循環器チームの医師、看護師数名が関与していたのに、誰一人として検査担当医をかばうような記録、証言を残しませんでした。おそらく、チーム内のコミュニケーションが相当悪かったことに起因しているのではないかと思いますが、それ以前の問題として、「この患者の主治医は誰であったのか」と首をかしげたくなるような状況でした。具体的に関与した医師は、A医師心臓カテーテル担当医師、検査当日にはじめて患者と会う。B医師主治医。ただし証言では「名目上の主治医」と主張し、検査前のカルテには直接診察していないものの一応主治医ということで記載したので、事前の説明はしていないし、検査中はモニター室に待機、検査終了後に患者を診察した。C、D医師おそらくオーベン医師E、F医師血腫形成後に交代で止血を担当した医師という6名です。このうち、裁判で「けしからん」とやり玉に挙げられたのがA医師ですが、この医師は検査前には一切患者と接することはなく、検査当日にはじめて患者と会い、心臓カテーテル検査を行いましたので、少々気の毒な気さえします。そして、名目とはいっても主治医はB医師であり、この患者を紹介してきたかかりつけ医へは、「大腿神経麻痺を来してどうもすみませんでした」という返事をD医師との連名で記載しています。つまり、はたからみるとB医師が主治医として責任を持つべきかと思うのですが、「主治医でありながら検査中に生じた大きな血腫の形成という異常な事態について原因の究明など十分な事実関係の確認をしなかった」と裁判官は判断し、さらに「被告病院の医療管理上の責任体制や診療録、看護記録の記載のあり方は疑問」という問題点も指摘しています。すなわち、いったいこの病院では誰がこの患者の主治医であったのか、と、きわめて不自然な印象を受けるばかりか、A医師が孤立してしまうような言動をくり返しています。そのためもあってか、大腿血腫に対しては対応が遅れがちとなり、整形外科を受診したのが検査後12日目であったのも、訴訟にまで発展した一因になっていると思います。また、唯一のカルテ記載である「圧迫するも止血不完全、再圧迫」というのは、もしかしたら名目上の主治医B医師が記載したのかもしれず、A医師は検査を担当しただけであったのでカルテ記載をする機会すら逸してしまったのかもしれません。このように本件では6名もの医師が関与していながら、主治医不在のまま紛争に発展したということがいえるのではないでしょうか。いくら複数の専門医チームで患者を担当するといっても、一歩間違えると無責任体制に陥る危険がありますので、侵襲を伴う医療行為をする際にはきちんと主治医を明確にして責任もった対応をする必要があると思います。循環器

566.

Stop at one! 骨折連鎖を止める骨粗鬆症治療の最前線

 2月6日(木)、「骨で人生は変わる!忍び寄る“骨粗鬆症”の恐怖とその治療最前線」と題し、日本イーライリリー株式会社主催のプレスセミナーが開催された。 はじめに、同社の臨床開発医師 シニアメディカルアドバイザーの宗和 秀明氏が、骨粗鬆症治療薬テリパラチド(商品名:フォルテオ)の製造販売後調査の中間報告について説明した。 レポートの概要は、骨折の危険性が高い骨粗鬆症患者1,671例(うち女性1,552例)について、1~24ヵ月時における安全性、有効性を評価したものである。対象患者の平均年齢は75.3歳、骨折歴が1,046例(62.6%)にあり、テリパラチド処方前の治療(上位3つ)はアレンドロネート(27.6%)、アルファカルシドール(17.2%)、リセドロネート(14.5%)というものであった。主な副作用(上位3つ)は悪心(0.78%)、めまい(0.48%)、頭痛(0.48%)の順で、12ヵ月後の治療継続率は71.9%であった。 効果として、すべての骨代謝マーカーがベースラインより有意に上昇したものの、骨吸収マーカーは骨形成マーカーほどの上昇はなく、骨密度の変化では、腰椎に有意な増加が認められる結果となった。また、投与12ヵ月後の椎体骨折の発生率は1.21%、非椎体骨折発生率は3.18%であり、背部痛では減少傾向を認めたと報告した。 続いて「骨で人生は変わる!忍び寄る“骨粗鬆症”の恐怖とその治療最前線」と題して、梅原 慶太氏(浜松南病院整形外科・リハビリテーション科 副部長)による、骨粗鬆症の概要(疫学、病態、症状)と治療薬についてのレクチャーが行われた。 骨粗鬆症は、周知のように患者のQOLを著しく阻害する疾患であり、とくに高齢女性の脊椎の圧迫骨折は、自覚症状なく突然起こり、これが連鎖骨折を引き起こすことで、予後を悪化させる怖い病気である。 わが国では、骨粗鬆症患者は1,300万人と推定され、うち治療を受けている患者は200万人程度といわれる。多くの患者が治療を受けず、骨折してはじめて骨粗鬆症に気づき治療を開始するのが現状である。そのため日本骨粗鬆症学会は「骨折連鎖を断つ!」、国際骨粗鬆症財団は「Stop at One!」を合言葉に、骨粗鬆症の啓発に努めている。 骨粗鬆症は、患者の身長が3~4cm低下した、問診で「戸棚の上が遠くなった」などの患者の気づきなどからおおよその診断がつく。また、60代に起こる手首の骨折は、骨粗鬆症のサインであり、このような患者にはとくに注意が必要であることが述べられた。 現在、骨粗鬆症の治療薬は、大きく骨吸収抑制薬と骨形成促進薬とに分けられる。前者は、破骨細胞を抑えることで骨強度・骨質の低下を防ぐもので、ビスホスホネート薬に代表され、内服・注射と種類も多彩である。後者は、骨芽細胞により骨形成を促進させることで骨強度・骨質の増加を促すもので、現在は注射薬のみである。 そして、今回は、骨形成促進薬のテリパラチドの使用と効果について詳しく報告が行われた。テリパラチドは、毎日自己注射を行うものと、週1回医療機関で注射を行うものがあるが、ここでは自己注射製剤フォルテオ®の効果が紹介され、骨密度の増加、微細構造の改善、骨石灰化分布の適正化などの効果や、腰椎骨密度で13.4%の増加、椎体骨折リスクで84%の低下が報告された。また、実際に24ヵ月使用した患者らの感想も動画で披露され、骨折連鎖が止まった症例などが報告された。 最後に梅原氏は、骨粗鬆症は「患者さんの骨を折るだけでなく、精神的にも疲弊させ心を折る疾患であること」、「高齢者であれば骨折による介護の負担も発生すること」を述べたうえで、「そうならないために、早期に骨粗鬆症予防と治療を行うことで健康寿命を延ばすことが、健康長寿社会の今、大事なことである」と結び、レクチャーを終えた。

567.

【寄稿】トピックス いわゆる「新型(現代型)うつ病」

いわゆる「新型(現代型)うつ病」の特徴いわゆる「新型(現代型)うつ病」は、マスメディアを通じて、社会的に広く浸透しているが、精神医学的に厳密な定義はなされていない。うつ病学会もこれを医学用語として認めていない。“新型”や“現代型”と呼ばれる「うつ病」は、伝統的な中高年に多くみられる執着気質やメランコリー親和型性格を基盤にしている、重症になりやすい内因性うつ病とは異なり、(1)若年者に多く、全体に軽症で、訴える症状は軽症のうつ病と判断しにくい(2)仕事では抑うつ的になる、あるいは仕事を回避する傾向があるが、余暇は楽しく過ごせる(3)仕事や学業上の困難をきっかけに発症する(4)病前性格として、“成熟度が低く、規範や秩序あるいは他者への配慮に乏しい”などといった特徴がある。「非定型うつ病」は、歴史的にはさまざまな定義が与えられており、最近の米国精神医学会診断基準(DSM-IV)では、大うつ病のうち、過食、過眠、鉛のような体の重さ、対人関係を拒絶されることへの過敏性など、特定の症状を有するうつ病と定義されている。この場合、正確には「非定型の特徴を伴う大うつ病」と呼ぶが、マスメディアで使われる「非定型うつ病」は、教科書的なうつ病のプロトタイプに合致しないうつ病・抑うつ状態を広く指して用いられ、「新型(現代型)うつ病」とほぼ同義に扱われることもある。若年者のうつ病・抑うつ状態は、古くは、ステューデントアパシー(Walters)、退却神経症(笠原嘉)、逃避型抑うつ(広瀬徹也)、近年では、さらに未熟型うつ病(阿部隆明)、現代型うつ病(松浪克文)、ディスチミア親和型(樽味伸)などと提唱されており、いずれも上記(1)~(4)の特徴を持っているが、それぞれに切り口が異なり、異なる病理を描き出している。また、いずれもメランコリー親和型性格を基盤としたうつ病に比べて抗うつ薬の効果が弱く、軽症ながら難治な病態である。安易な決めつけは“誤診”につながるいわゆる「新型(現代型)うつ病」の特徴は、「そもそもうつ病に特徴的なものか」という議論もある。近年の日本では経済の低迷が長く続き、職場に余裕がなくなっており、労働者の心身の負担も増えている。とくに、勤務経験が少なく技能の習熟度が低い若年者にとって、うつ病・抑うつ状態が増えやすい労働環境に変化した可能性がある。しかも若年者では、精神的な成熟度が低く、規範や秩序あるいは他者への配慮に乏しいことは、精神発達の段階からみても、ただちに病的であると決めつけられない。近年の社会の風潮が、規範や役割意識を以前ほど強調しなくなってきているため、若年者でその傾向が強まり、精神的成熟に年数がかかるようになった可能性もある。若年は、双極性障害のうつ病相や統合失調症の好発年齢であり、学生から社会人となり適応障害を起こしやすい時期でもある。とくに発達障害の方は適応困難になりやすい。これらの鑑別診断がきわめて難しく、精神科医が診断面接を数多く重ねて、初めて見えてくるものであり、安易にいわゆる「新型(現代型)うつ病」と決めつけることは“誤診”につながる。時に、自殺のリスクを有することもあり、内因性疾患であるか否かを慎重に吟味したうえで、環境的要因や性格を把握する必要がある。最初から、患者さんの性格の問題を取り上げるのではなく、治療者が、うつ病を十把ひとからげにせず、一人ひとりの抱える問題をきめ細かく分析し、適切に対応することが重要である。以下に、いわゆる「新型(現代型)うつ病」を疑われ、精神科を受診した症例を示す。【症例】30代の男性大学卒業後、すぐに電気系の会社へ入社した。妻と子供1人の3人暮らし。本人は本社勤務を希望していたが、X-2年、地方の事業所勤務で、機械部品開発の担当となった。X-1年、頭痛、下痢が出現した。X年、抑うつ気分、不安、イライラが顕在化し、ある日、仕事を投げ出すような形で早退し、以降欠勤した。精神科を受診し、抑うつ状態と診断され、休業して自宅療養となった。3ヵ月間の療養後、症状が改善したため一旦は復職したが、2週間で症状が再燃し、再び休業した。休職後すぐに復職を希望し、「休職期間中は傷病手当で受け取り額が目減りするため、生活が苦しい」と言い、復職すると3ヵ月で休職に至った。その後、2ヵ月休職し、休職・復職を計3回繰り返した。休職中は、趣味のゴルフに出かけたり、家族と海外旅行に出かけたりしていた。一方で、「上司の声を聞くだけでも気分が沈む、今の職場では続けられない」と上司への不満が強く、復職しても人間関係のストレスから、抑うつ状態が再発していた。出勤してもしばしば遅刻し、ボーっとしていた。本症例は、本社勤務を希望していたにもかかわらず、思い通りにならず、地方勤務となったことに不満を持ち、職場環境への適応ができず、抑うつ、不安、頭痛、下痢などの身体症状を来した適応障害の1例である。職場を離れての自宅療養により症状は改善するが、元の職場に戻ると症状は悪化していた。精神療法、薬物療法だけでなく、環境調整が治療上、重要となった。いわゆる「新型(現代型)うつ病」への対応いわゆる「新型(現代型)うつ病」の治療は、患者さん一人ひとりが持つ心理的、生物的、社会的要因を分析したうえで、状態に合わせて、精神療法、薬物療法、心理教育、環境調整、リハビリテーションを組み合わせて行う必要がある。薬物療法の効果は限定的であるため、精神療法や心理教育、環境調整、リハビリテーションのウエイトが増す。精神療法では、個人精神療法よりも集団体験で安心感を得て、依存欲求を満たせる「中集団療法」の有効性が報告されている。作業療法士をはじめとした治療スタッフが、患者の攻撃性を受容しつつ、内心の変化を観察し続けることが重要であり、治療にも発達や育成の視点を取り入れることが大切である。心理教育やリハビリテーションにおいては、生活習慣の指導として、規則正しい生活リズムや、禁酒などの指導も有用である。生活の記録表の作成を指導したり、定期的な運動を意識づけることも必要である。英国NICEのうつ病治療ガイドラインでは、軽症うつ病に対してはルーチンで抗うつ薬を処方しないように記載されている一方、運動療法を推奨している。運動療法は、専門家の指導のもと、プログラムされた運動を1週間に最大3回まで、1回当たり45分から1時間、10週間から12週間行うのがよいとされている。有酸素運動はうつ病や不安な気分の改善に有効であるとの多くの報告があり、運動強度が高いほうが抑うつ症状はより軽減する傾向があるが、低強度でも効果はあり、身体活動量は生活習慣病予防と同程度で十分である。筆者も、産業医として勤務した企業において、勤労者を対象に5人1組のチームを作り、チーム対抗で歩数を競うというウォーキングプログラムを実施したところ、もともと運動習慣がなかった者の睡眠状態の改善や抑うつ度の低下、不安度の低下、社会適応度の向上などがみられ、新たなメンタルヘルスの不調者が出現するのを予防し、うつ病による休業者を減少させることができた経験がある。環境調整を行うためには、主治医と職場の管理者や産業医との連携を密にして、本人の適性評価と理解に努めることや、主に上司との関係を軸に、「弱さの是正」ではなく、「適性を活かす」対応が必要である。いわゆる「新型(現代型)うつ病」の者に対しての陰性感情は慎み、気長な「認知療法的」な対応や、適度に励まし背中を押すような関わりを行い、人間的な成長を促すことも大切である。いわゆる「新型(現代型)うつ病」を「うつ病」から排除してネガティブに捉えるのではなく、適切に診断を行うことや、「うつ病」といわゆる「新型(現代型)うつ病」は異なる対応が必要になるということを認識しておくことが必要である。

568.

認知症患者のニーズを引き出すアプリ:神奈川県立保健福祉大学

 認知症患者は進行に伴い、意思疎通が難しくなる。このような問題を解決するため、神奈川県立保健福祉大学の友利 幸之介氏らは、作業療法に当たっての作業選択意思決定支援ソフト「ADOC(Aid for Decision-making in Occupation Choice;エードック)」の活用基準を確定するため検討を行った。検討の結果、ADOCは中等度認知症患者における大切な作業を把握するのに役立つ可能性があることが示された。Disability and Rehabilitation : Assistive Technology誌オンライン版2013年12月24日号の掲載報告。 ADOCは、友利氏らが開発したiPadアプリケーションで、画面上でカードゲームをするように、日常生活上の作業が描かれた95枚のイラストを使って、患者自身が思う大切な作業とそうでない作業に振り分けてもらうことで意思を示してもらうというものである。 検討は、日本国内5つの医療施設から116例の患者を登録して行われた。作業療法士が認知症患者に、ADOCを用いてインタビューを行い、患者が思う大切な作業を確定した。主要介護者により、最も大切な作業を確定してもらい、Mini-Mental State Examination(MMSE)を用いてカットオフ値を算出した。 主な結果は以下のとおり。・受信者動作特性曲線(ROC)分析の結果、ADOCを用いて大切な作業を選択可能なカットオフ値は、MMSEスコア8であることが示された。・感度は91.0%、特異度は74.1%であり、曲線下面積(AUC)値は0.89であった。・ADOCは、中等度認知症患者の大切な作業を引き出すのに役立つ可能がある。・また、ADOCのリハビリテーション的意義として次のような点を列挙した。■認知症が進行するにつれて、活動に関するニーズや要求を表明することは困難になっていく可能性がある。■iPadアプリ「ADOC」は、体系的な目標設定プロセスを通じて意思決定の共有促進に有用であり、MMSEスコア8以上の人において最も大切な作業を選択することが可能である。■ADOCは、中等度認知症患者の最も大切な作業を引き出すのに役立つ可能がある。関連医療ニュース 新たなアルツハイマー病薬へ、天然アルカロイドに脚光 認知症患者へタブレットPC導入、その影響は? てんかん治療で新たな展開、患者評価にクラウド活用

569.

リハビリテーション専門職のための学びと働き方セミナー」開催のご案内

 ベネッセMCMは、2014年1月19日(日)に「リハビリテーション専門職のための学びと働き方セミナー」を開催する。シリーズ第1回目は、業務に活かせる神経系治療学の最新知見の紹介や、リハビリテーション専門職が活躍できる多様な職場や働き方についてのパネルディスカッションを予定している。【セミナー概要】■開催日時2014年1月19日(日) 13:00~15:30(開場12:30) ※15:30~17:00の間で無料転職相談を実施■会場新宿NSビル 3階会議室3‐I ※新宿駅より徒歩7分 (定員:40名)■第一部「PT・OTのための神経系治療学の最新知見 ※60分」講師:植草学園大学教授 松田 雅弘(まつだ ただみつ)氏脳の時代といわれる21世紀、脳の仕組みが徐々に解明され、神経系の治療概念・手法も大きく転換してきています。脳・神経の仕組みを知ることで、今起こっている動きや変化がなぜ生じていたのかを気づけるようになります。ヒトの動きから脳を探るための最新知見に触れていきます。■第二部「リハビリテーション専門職の多様な働き方(パネルディスカッション) ※60分」ファシリテーター:東京工科大学教授 小松 泰喜(こまつ たいき)氏現役リハビリテーション専門職の皆さまをお招きし「働き方」をテーマとしたパネルディスカッションを行います。テーマは「この道を目指した理由」「今の働き方に対する考え、やりがい、悩み」「今後の可能性、職域、キャリアパス」など、職場選びの参考になるお話を伺います。■参加費無料 ※要事前申し込み■主催株式会社ベネッセMCM■対象リハビリテーション専門職に従事されている方■お申し込みこちらのページからお申し込みください。■株式会社ベネッセMCMについて進研ゼミ・こどもちゃれんじでおなじみのベネッセグループの人材サービス会社です。理学療法士・看護師・介護職に特化した人材サービス事業を行っております。今後もセミナー・研修を実施し、医療・介護分野の皆さまのキャリアアップを支援してまいります。<本件に関するお問合せ先>株式会社ベネッセMCM 濱中(ハマナカ)電話番号:03-5766-9845(代表) メールアドレス:t-hamanaka@benesse-mcm.jp<会社概要>株式会社ベネッセMCM設立:2002年8月代表者:西川 久仁子資本金:8000万円従業員数:49名会社URL:http://www.benesse-mcm.jp/告知ページ:http://www.benesse-mcm.jp/seminar/schedule/schedule_20140119.html所在地:〒150-0002 東京都渋谷区渋谷2-22-3 渋谷東口ビル2階関連会社:・株式会社ベネッセコーポレーション「進研ゼミ・進研模試」の教育事業 、「たまごクラブ・ひよこクラブ・サンキュ!」などの出版事業・株式会社ベネッセスタイルケア入居介護サービス事業(高齢者向けホームの運営)在宅介護サービス事業など・ベルリッツ・ジャパン株式会社120年以上の実績を有する世界最高の語学教育事業会社

570.

Dr.倉原の 喘息治療の不思議:知られざる喘息のリスク因子

はじめに喘息の患者さんを診療する場合、発作を起こさないようにコントロールすることが重要です。そのため、喘息治療薬を使いこなすだけでなく、患者さんの喘息発作の誘発因子を避ける必要があります。喘息発作のリスク因子として有名なのは、アレルギー性鼻炎やアトピー性皮膚炎と同様のアレルゲンです。たとえば、スギ花粉、ブタクサ、ハウスダスト、ダニなどが挙げられます。しかし、世の中にはこんな因子によって喘息を起こすことがあるのか?という“軽視されがちなもの”や“知られざるもの”があります。教科書的なリスク因子はさておき、少し「へぇ」と思えるようなものを紹介しましょう。ストレス呼吸器内科医以外には実はあまり知られていませんが、ストレスは喘息のリスク因子として教科書的に重要です。これには炎症性サイトカインの産生亢進が関与していると考えられています。呼吸器疾患を診療している医師の間でも、ストレスは意外と軽視されがちなリスク因子だと思います。Busse WW, et al. Am J Respir Crit Care Med. 1995;151:249-252.徹夜明けや過労などの身体的ストレスによっても喘息発作が起こりやすいことが知られています。受験前、面接前、入社前、五月病といった精神的ストレスによっても喘息発作を起こすことがあります。私もそういった患者さんを何人か外来で診ています。世界的にも最大規模のストレスとして数多くの研究がなされたアメリカ同時多発テロ事件では、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と喘息の関連が指摘されています。Shiratori Y, et al. J Psychosom Res. 2012;73:122-125.Centers for Disease Control and Prevention (CDC). MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2002;51:781-784.水泳喘息に対する呼吸リハビリテーションの一環として水泳が知られていますが、その反面、水泳そのものが喘息のリスクではないかと考える研究グループもあります。しかしながら、メタアナリシスではその関連は強いとは結論づけられていません。私の外来にも、ある水泳競技をしていた喘息患者さんがいました。その患者さんが引退後に吸入ステロイド薬のステップダウンができたのは、水泳をやめたからなのかどうか、いまだに答えは出ていません。Paivinen MK, et al. Clin Respir J. 2010;4:97-103.Goodman M, et al. J Asthma. 2008;45:639-647.ちなみにスキューバダイビングは喘息のリスク因子ではないかという議論もありますが、現時点では明らかな答えは出ていません。スキューバダイビングでは、温度や呼吸動態の急激な変化が呼吸機能上よくないと考えられています。Koehle M, et al. Sports Med. 2003;33:109-116.感情負の感情(怒り、悲しみなど)は前述のストレスと同じ機序で喘息のリスク因子と考えられていますが、これにはあまりエビデンスはありません。自宅で怒りを爆発させて喘息発作を起こし救急搬送されてきた患者さんを一度診たことがあります。これはおそらく怒鳴り散らしたことが主な原因でしょうが。ちなみに、面白い映像を見た場合と面白くない映像を見た場合を比較すると、面白い映像を見た場合に気道過敏性が有意に改善したという報告もあります。Kimata H. Physiol Behav. 2004;81:681-684.その一方で、あまり笑うと喘息発作を誘発するのではないかという報告もありますので、あまり感情の起伏は喘息にとってよくないものかもしれませんね。Liangas G, et al. J Asthma. 2004;41:217-221.排便トイレできばりすぎて、喘息発作を起こすことがあるそうです。これについてもリスク因子といえる研究はありません。個人的には一度も排便喘息を診たことはありません(問診が甘かったのかもしれませんが)。排便によってアセチルコリンの分泌が誘発され、これによって気管支攣縮を惹起するのではないかと考えられています。Rossman L. J Emerg Med. 2000 ;18:195-197.Ano S, et al. Intern Med. 2013;52:685-687.鼻毛これもリスク因子として書くにはかなり強引な気もしますが、結論からいうと鼻毛は長いほうがよいです。アレルギー性鼻炎の患者さんにおける喘息の発症に鼻毛の密度が与える影響について解析した論文があります。これによれば、鼻毛の密度の低さは喘息発症の有意な因子であると報告されています。厳密には鼻毛の“長さ”と“密度”は異なるのかもしれませんが……。Ozturk AB, et al. Int Arch Allergy Immunol. 2011;156:75-80.おわりにこれ以外にも、症例報告レベルも含めると、アイスクリーム、くしゃみ、温泉、オリンピックなど数多くの喘息のリスク因子や喘息発作を誘発する因子があります。本稿でなぜ珍しい因子を記載したかといいますと、実は喘息診療においては多くのヒントが患者さんとの会話の中にあるのです。「実は最近インコを飼い始めたんです」、「おととい引っ越ししたばかりなんです」、「そういえば先月からシャンプーを東洋医学系の製品に変えたんです」・・・などなど。実はアレルゲンが明らかな喘息の場合、原因を回避すればよくなることがあります。何年も吸入ステロイド薬を使わなくても済むケースもあります。

573.

慢性腰痛の痛みや機能障害などの改善に水中療法の集中プログラムが有効

 水中療法の週5回2ヵ月間集中プログラムは、慢性腰痛患者の疼痛、機能障害、身体組成値および体力測定値を改善するとともにQOLを向上させることが認められた。スペイン・グラナダ大学のPedro Angel Baena-Beato氏らによる比較臨床試験で明らかとなった。Clinical Rehabilitation誌オンライン版2013年10月31日号の掲載報告。 対象は、慢性腰痛を有しあまり運動しない成人患者49例で、水中療法を週5回、2ヵ月間行う集中プログラムの実施群(24例)と、集中プログラムの順番待ちまたはプログラム空き時間に水中療法を行う対照群(25例)に分け、集中プログラムの効果を評価した。 評価項目は、疼痛強度(視覚的アナログスケール:VAS)、機能障害(オスウェストリー障害指数;ODI)スコア、SF-36による健康関連QOL、身体組成値(体重、BMI、体脂肪率、骨格筋量)および体力測定値(長座体前屈、握力、腹筋、1マイル歩行テスト)であった。 主な結果は以下のとおり。・実施群では、疼痛強度が3.83±0.35mm減少、ODIスコアが12.7±1.3減少、SF-36の身体に関するスコアが10.3±1.4増加し、いずれも有意(p<0.001)な改善であったが、SF-36の精神に関するスコアの改善はみられなかった(p=0.114)。・身体組成値と体力測定値は、実施群では有意な改善が認められたが(すべての項目がp<0.01)、対照群ではいずれの項目もまったく変化しなかった。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」連載中!・知っておいて損はない運動器慢性痛の知識・身体の痛みは心の痛みで増幅される。知っておいて損はない痛みの知識・脊椎疾患にみる慢性疼痛 脊髄障害性疼痛/Pain Drawingを治療に応用する

574.

在宅医療推進のための地域における多職種連携研修会 領域別セッション

かかりつけ医の在宅医療参入の教育的支援と市町村単位の多職種チームビルディングの促進を目的とした東京大学高齢社会総合研究機構の教育プログラムから、在宅医療の実践で、必ず知っておくべき疾患の基本と臨床知識を身につける領域別セッションをお届けします。取りあげる疾患は、11月からの「認知症」を皮切りに、12月「摂食嚥下・口腔ケア」、1月「栄養」、2月「褥瘡」、4月「リハビリテーション」を予定しています。対象者は、開業医、病院医師、歯科医師、薬剤師、訪問看護師、病院看護師、介護支援専門員、病院ソーシャルワーカー等です。はじめに ワークショップとグループワークのすすめ方認知症【全3回】 講義:認知症の基本的理解 事例検討:行動心理徴候(BPSD)へのアプローチ ミニレクチャー:行動心理徴候(BPSD)へのアプローチ摂食嚥下・口腔ケア【全6回】 講義1:摂食・嚥下への対応の基本 講義2:口腔ケア 事例検討1:栄養摂取方法 ミニレクチャー1:栄養摂取方法 事例検討2:嚥下リハビリテーション ミニレクチャー2:嚥下リハビリテーション栄養【全4回】 講義:在宅での栄養管理の基本 事例検討:在宅での栄養管理の基本 ミニレクチャー1:嚥下食の作り方 ミニレクチャー2:身体計測の仕方褥瘡【全3回】 講義:褥瘡のケア 事例検討:褥瘡のケア ミニレクチャー:褥瘡のケアリハビリテーション【全3回】講義:在宅でのリハビリテーションの取り組み方事例検討:脳卒中での在宅リハビリテーションの導入事例ミニレクチャー:虚弱高齢者の片麻痺の方のマネジメント講師

575.

サイトマップ

コンテンツ一覧患者向けスライドニュースeディテーリング症例検討会オンラインセミナー学会レポートケアネットDVDお役立ち連載企画診療科別情報内科循環器内科/心臓血管外科消化器科糖尿病・代謝・内分泌科感染症内科腫瘍科精神科/心療内科皮膚科呼吸器腎臓内科アレルギー科膠原病・リウマチ科血液内科神経内科脳神経外科外科/乳腺外科整形外科泌尿器科産婦人科小児科耳鼻咽喉科眼科放射線科麻酔科救急科リハビリテーション科総合診療科ポイントポイントをためるポイントを交換するポイント獲得履歴ポイント交換履歴アップアップを獲得するアップ獲得履歴会員用ページ新規会員登録会員情報変更ヘルプよくあるご質問(FAQ)会社情報企業情報IR情報事業案内・サービス採用情報ニュースリリースこのサイトについてお問い合わせ利用規約ポイントサービス規約注意事項退会手続き倫理規定等について利用条件セキュリティ著作権個人情報保護の方針

576.

うつ病治療、行動療法の意義はどの程度か:京都大学

 うつ病に対する行動療法とその他の心理療法の有効性は同程度(低~中の質のエビデンス)であることが明らかにされた。京都大学大学院医学研究科社会医学系専攻健康増進・行動学分野の篠原 清美氏らが25件の試験をレビューし報告した。行動療法は現在うつ病治療に臨床活用されている心理療法の1カテゴリーである。しかし、他の心理療法と比較した行動療法の有効性および受容性は不明なままであった。Cochrane Database Systematic Reviewsオンライン版2013年10月号の掲載報告。 研究グループは本レビューにおいて、急性うつ病に対する、(1)全行動療法アプローチとその他の全心理療法アプローチとの有効性を比較すること、(2)行動療法アプローチ別(行動療法、行動活性化療法、生活技能訓練、リラクゼーショントレーニング)に、その他の全心理療法アプローチとの有効性を比較すること、(3)心理療法アプローチ別(認知行動療法[CBT]、third wave CBT、精神力動的療法、人間主義的療法、統合心理療法)に、全行動療法アプローチとの有効性を比較した。Cochrane Depression Anxiety and Neurosis Group Trials Specialised Register(2013年7月31日時点)を検索し、関連無作為化試験をCochrane Library(全発行年)、EMBASE(1974~)、MEDLINE(1950~)、PsycINFO(1967~)から組み込んだ。また、CINAHL(2010年5月)、PSYNDEX(2010年6月)、さらに参照文献リストの試験や関連する発表・未発表の試験のレビューも組み込み、成人の急性期うつ病において行動療法とその他心理介入法を比較した無作為化対照試験を検索した。 主な結果は以下のとおり。・レビューに組み込まれたのは25試験(行動療法とその他心理療法5つのうち1つ以上と比較)、被験者合計955例であった。・大部分の試験はサンプルサイズが小さく、バイアスリスクが不明もしくは高いにもかかかわらず評価が行われていた。・行動療法の寛解率は、その他の全心理療法と比較して有意差はなかった(18試験、690例、リスク比[RR]:0.97、95%信頼区間[CI]:0.86~1.09)。受容性も有意差はみられなかった(15試験、495例、全脱落のRR:1.02、95%CI:0.65~1.61)。・個別に心理療法と比較しても同様で、認知行動療法が行動療法よりも寛解率が優れるというエビデンスは低く(15試験、544例、RR:0.93、95%CI:0.83~1.05)、一方で行動療法が精神力動的療法よりも寛解率が優れるというエビデンスは低かった(2試験、110例、RR:1.24、95%CI:0.84~1.82)。・統合心理療法と人間主義的療法との比較は1試験のみで、解析では行動療法との間に有意差は示されていなかった。・以上のように、行動療法とその他心理療法の有効性は同程度であるという低~中のエビデンスがみつかった。行動療法の相対的な有益性と有害性を評価する現状のエビデンスベースは非常に弱いものであった。・本検討の治療に対する反応と中止に関連したキーアウトカムに関して、効果サイズと精度はいずれも信頼に限りがある。試験参加者が大規模で、試験デザインと治療に対する精度が改善されれば、本レビューにおけるエビデンスの質は改善されるだろう。関連医療ニュース 認知機能トレーニング/リハビリテーションはどの程度有効なのか? ヨガはうつ病補助治療の選択肢になりうるか うつ病の寛解、5つの症状で予測可能:慶應義塾大学

577.

脳卒中介護者へのプログラムを入院中から導入してみると…/Lancet

 先行研究において、脳卒中後“退院”患者の身体的改善や、家族介護者の身体的負担の軽減ならびに不安やうつ病の減少効果が報告された、介護者への訓練プログラム(London Stroke Carers Training Course:LSCTC)について、同プログラムを入院中から行うこと(構造化訓練プログラム:TRACS)の費用対効果を検討した結果、通常ケアと変わらなかったことが明らかにされた。英国・ブラッドフォード教育病院NHS財団トラスト&リード大学のAnne Forster氏らが、クラスター無作為化比較試験および費用対効果分析の結果、報告したもので、「脳卒中直後は、構造化介護者訓練を提供する好機ではない可能性が示された」と結論している。Lancet誌オンライン版2013年9月18日号掲載の報告より。入院中からの構造化訓練プログラムの効果を検討 脳卒中既往患者の大半は、日常生活に関して主として家族であるインフォーマルな介護者に依存している。TRACS試験は、介護者への訓練プログラムLSCTCについて、脳卒中後機能障害を有する患者と介護者の身体的および精神的アウトカムを、費用対効果を含めて調べることが目的であった。試験は、脳卒中ユニットに介入を行うプラグマティックな多施設クラスター無作為対照試験で費用対効果の検討も併せて行われた。 試験適格とした脳卒中ユニットは、ユニット規定基準5つのうち4つを満たしており、ユニット患者の大半が脳卒中と診断されていること、スタッフがLSCTCを提供でき、患者の大半は退院後自宅に戻ることを要件とした。 主要アウトカムは、患者については、6ヵ月時点の日常生活動作について、Nottingham Extended Activities of Daily Living(NEADL)スケールで測定した自己申告評価とし、介護者については、介護者負担スケール(CBS)で測定した自己申告の負担であった。介入群と対照群で費用対効果も含めて有意な差はみられず 49の脳卒中ユニットについて試験適格性を評価し、36のユニットを介入群と対照群に無作為に割り付けた。 2008年2月27日~2010年2月9日の間に、928組の患者と介護者のペアが登録された。介入群は450組、対照群は478組だった。 日常生活動作の拡大を自己申告した患者は、6ヵ月時点において両群で差はなかった。補正後平均NEADLスコアは、介入群27.4、対照群27.6で、差は-0.2ポイント(95%信頼区間[CI]:-3.0~2.5、p=0.866)であった。 介護者負担スケールも有意差はみられなかった。補正後平均CBSは、介入群45.5、対照群45.0で、差は0.5ポイント(95%CI:-1.7~2.7、p=0.660)であった。 患者と介護者のコストは、両群において同程度であった。初期脳卒中入院期間と関連コストは、介入群1万3,127ポンド、対照群1万2,471ポンドで、補正後平均差は1,243ポンド(95%CI:-1,533~4,019、p=0.380)。QALYに基づく費用対効果の可能性は低かった。

578.

老人保健施設内の転倒事故

内科最終判決平成15年6月3日 福島地方裁判所 判決概要老人保健施設入所中の95歳女性、介護保険では要介護2と判定されていた。独歩可能で日中はトイレで用を足していたが、夜間はポータブルトイレを使用。事故当日、自室ポータブルトイレの排泄物をナースセンター裏のトイレに捨てにいこうとして、汚物処理場の仕切りに足を引っかけて転倒した。右大腿骨頸部骨折を受傷し、手術が行われたが、転倒したのは施設側の責任だということで裁判となった。詳細な経過患者情報明治38年生まれ、満95歳の女性。介護保険で要介護2の認定を受けていた経過平成12年10月27日老人保健施設に入所。入所動機は、主介護者の次女が入院することで介護者不在となったためであった。■入所時の評価総合的な援助の方針定期的な健康チェックを行い、転倒など事故に注意しながら在宅復帰へ向けてADLの維持・向上を図る。骨粗鬆症あり、下半身の強化に努め転倒にも注意が必要である。排泄に関するケア日中はトイレにいくが夜間はポータブルトイレ使用。介護マニュアルポータブルトイレ清掃は朝5:00と夕方4:00の1日2回行う。ポータブルトイレが清掃されていない場合には、患者はトイレに自分で排泄物を捨てにいったが、容器を洗う場所はなかったので排泄物の処理と容器の洗浄のために、ときおり処理場を利用していた。どうにか自分で捨てにいくことができたので、介護職員に頼むことは遠慮して、自分で捨てていた。1月8日05:00ポータブルトイレの処理状況「処理」17:00ポータブルトイレの処理状況「処理していない」夕食を済ませ自室に戻ったが、ポータブルトイレの排泄物が清掃されておらず、夜間もそのまま使用することを不快に感じ自分で処理場に運ぼうとした。18:00ポータブルトイレ排泄物容器を持ち、シルバーカー(老人カー)につかまりながら廊下を歩いてナースセンター裏のトイレにいき(約20m)、トイレに排泄物を捨てて容器を洗おうと隣の処理場に入ろうとした。ところが、その出入口に設置してあるコンクリート製凸状仕切り(高さ87mm、幅95mm:汚物が流れ出ないようにしたもの)に足を引っかけ転倒した。職員が駆け寄ると「今まで転んだことなんかなかったのに」と悔しそうにいった。そのまま救急車で整形外科に入院し、右大腿骨頸部骨折と診断された。平成13年1月12日観血的整復固定術施行。3月16日退院。事故の結果、創痕、右下肢筋力低下(軽度)の後遺症が残り、1人で歩くことが不自由となった。3月7日要介護3の認定。誠意の感じられない施設側に対し、患者側が損害賠償の提訴に踏み切る(なお事故直後の平成13年1月20日、仕切りの凸部分を取り除くための改造工事が施工された)。当事者の主張入所者への安全配慮義務患者側(原告)の主張施設側は介護ケアーサービスとして入所者のポータブルトイレの清掃を定時に行うべき義務があったのに怠り、患者自らが捨てにいくことを余儀なくされて事故が発生した。これは移動介助義務、および入所者の安全性を確保することに配慮すべき義務を果たさなかったためである。病院側(被告)の主張足下のおぼつかないような要介護者に対しては、ポータブルトイレの汚物処理は介護職員に任せ、自ら行わないように指導していた。仮にポータブルトイレの清掃が行われなかったとしても、自らポータブルトイレの排泄物容器を処理しようとする必要性はなく、ナースコールで介護職員に連絡して処理をしてもらうことができたはずである。ところが事故発生日に患者が介護職員にポータブルトイレの清掃を頼んだ事実はない。したがって、入所者のポータブルトイレの清掃を定時に行うべき義務と事故との間に因果関係は認められない。工作物の設置・保存の瑕疵患者側(原告)の主張老人保健施設は身体機能の劣った状態にある要介護老人の入所施設であるという特質上、入所者の移動などに際して身体上の危険が生じないような建物構造・設備構造が求められている。処理場の出入口には仕切りが存在し、下肢機能が低下している要介護老人の出入りに際して転倒などの危険を生じさせる形状の設備であり「工作物の設置または保存の瑕疵」に該当する。病院側(被告)の主張処理場内の仕切りは、汚水などが処理場外に流出しないことを目的とするもので、構造上は問題はなく、入所者・要介護者が出入りすることは想定されていない。したがって、工作物の設置または保存の瑕疵に該当しない。入所者への安全配慮義務患者側(原告)の主張ポータブルトイレの清掃を他人に頼むのは、患者が遠慮しがちな事項であり、職員に頼まずに自分で清掃しようとしたからといって、入所者に不注意があったとはいえいない。病院側(被告)の主張高齢であるとはいえ判断力には問題なかったから、ナースコールで介護職員に連絡して処理をしてもらうことができたはずである。そのように指導されていたにもかかわらず、自ら処理しようとした行動には患者本人の過失がある。裁判所の判断記録によれば、ポータブルトイレの清掃状況は、外泊期間を除いた29日間(処理すべき回数53回)のうち、ポータブルトイレの尿を清掃した「処理」23回トイレの中をみた「確認」15回声をかけたが大丈夫といわれた「声かけ」が2回「処理なし」3回「不明」10回とあるように、必ずしも介護マニュアルに沿って実施されていたわけではない。しかも、実施したのかどうか記録すら残していないこともある。居室内に置かれたポータブルトイレの中身が廃棄・清掃されないままであれば、不自由な体であれ、老人がこれをトイレまで運んで処理・清掃したいと考えるのは当然である。施設側は「ポータブルトイレの清掃がなされていなかったとしても、自らポータブルトイレの排泄物容器を処理しようとする必要性はなく、ナースコールで介護職員に連絡して処理をしてもらうことができたはずである」と主張するが、上記のようにポータブルトイレの清掃に関する介護マニュアルが遵守されていなかった状況では、患者がポータブルトイレの清掃を頼んだ場合に、施設職員がただちにかつ快くその求めに応じて処理していたかどうかは疑問である。したがって、入所者のポータブルトイレの清掃をマニュアルどおり定時に行うべき義務に違反したことによって発生した転倒事故といえる。また、老人保健施設は身体機能の劣った状態にある要介護老人が入所するのだから、その特質上、入所者の移動ないし施設利用などに際して、身体上の危険が生じないような建物構造・設備構造がとくに求められる。ところが、入所者が出入りすることがある処理場の出入口に仕切りが存在すると、下肢の機能の低下している要介護老人の出入りに際して転倒などの危険を生じさせる可能性があり、「工作物の設置または保存の瑕疵」に該当するので、施設側の賠償責任は免れない。原告側合計1,055万円の請求に対し、合計537万円の判決考察このような判決をみると、ますます欧米並みの「契約社会」を意識しなければ、医療従事者は不毛な医事紛争に巻き込まれる可能性が高いことを痛感させられます。今回は、95歳という高齢ではあったものの、独歩可能で痴呆はなく、判断力にも問題はなかった高齢者の転倒事故です。日中はトイレまで出かけて用を足していましたが、夜は心配なのでベッド脇に置いたポータブルトイレを使用していました。当初の介護プランでは、1日2回ポータブルトイレを介護職員が掃除することにしました。ところが律儀な患者さんであったのか、排泄物をどうにか自分でトイレに捨てにいくことができたので、施設職員に頼むことは遠慮して、時折自分で捨てていたということです。そのような光景をみれば誰しもが、「ポータブルトイレの汚物をトイレまで捨てにいくことができるのなら、リハビリにもなるし、様子を見ましょう」と考えるのではないでしょうか。そのため、最初に定めたマニュアル(1日2回ポータブルトイレの確認・処理)の遵守が若干おろそかになったと思われます。ところが、ひとたび施設内で傷害事故が発生すると、どのようなマニュアルをもとに患者管理を行っていたのか必ずチェックされることになります。本件では「ポータブルトイレ清掃は朝5:00夕方4:00の1日2回行う」という介護マニュアルが、実態とはかけ離れていたにもかかわらず、変更されることなく維持されたために、施設側が賠償責任を負う結果となりました。したがって、はじめに定めた看護計画や介護計画については、はたして実態に即しているのかどうか、定期的にチェックを入れることがきわめて重要だと思います。もし本件でも、本人や家族とポータブルトイレの汚物処理について話し合いがもたれ、時折自分で処理をすることも容認するといったような合意があれば、このような一方的な判断にはならずにすんだ可能性があります。次に重要なのが、一見転倒の心配などまったく見受けられない患者であっても、不慮の転倒事故はいつ発生してもおかしくないという認識を常に持つことです。ほかの裁判例でもそうですが、病院あるいは老人施設には、通常の施設とは異なる「高度の安全配慮義務」が課せられていると裁判所は考えます。そのため、自宅で高齢者が転倒したら「仕方がない事故」ですが、病院あるいは老人施設では「一般の住宅や通常の施設とは違った、利用者の安全へのより高度な注意義務が課せられている」と判断されます。つまり、わずかな段差や滑りやすい床面などがあれば、転倒は「予見可能」であり、スタッフが気づかずに何も手を打たないと「結果回避義務をつくさなかった」ことで、病院・施設側の管理責任を必ず問われることになります。高齢になればなるほど、身体的な問題などから転倒・転落の危険性が高くなりますが、24時間付きっきりの監視を続けることは不可能ですから、あらかじめリスクの高いところへは、患者さんができる限り足を踏み入れないようにしなければなりません。たとえば、防火扉、非常口、非常階段などは、身体的に不自由な患者さんにとってはハイリスクエリアと考え、そこへは立ち入ることがないよう物理的なバリアを設けたり、リハビリテーションを兼ねた歩行練習は安全な場所で行うようにするなど、職員への周知を徹底することが肝心だと思います。内科

579.

重度精神障害の機能評価ツール、その信頼性は

 スペイン・オビエド大学のMaria P. Garcia-Portilla氏らは、統合失調症および双極性障害患者を対象とし、重度精神障害患者の機能評価ツールとしてUniversity of California Performance Skills Assessment(UPSA)スペイン版の信頼性、妥当性の評価を行った。その結果、UPSAスペイン版はその他の機能評価ツールと良好な相関を示し、信頼性の高い検証ツールであり、「機能アウトカムのモニタリング手段として臨床試験および日常診療での活用が望ましい」と報告した。Schizophrenia Research誌オンライン版2013年9月18日号の掲載報告。 重度精神障害患者における、UPSAスペイン版の検証を目的とし、自然的、6ヵ月間フォローアップ、多施設共同、バリデーション試験を行った。対象は、統合失調症患者139例、双極性障害患者57例、対照31例とし、スペイン版UPSA(Sp-UPSA)、Clinical Global Impression, Severity(CGI-S)、Global Assessment of Functioning(GAF)および Personal and Social Performance(PSP)などのスケールを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。<信頼性>・統合失調症における内部整合性(クロンバックのα係数)は0.81、双極性障害では0.58であった。Test-retestは、それぞれ0.74、0.65(p<0.0001)であった。<構成のValidity>・Sp-UPSAとPSP総スコア間のピアソン相関係数は、統合失調症が0.42(p<0.0001)、双極性障害が0.44(p=0.001)であった。・Sp-UPSAとGAFスコアの相関係数は、それぞれ0.43、0.52(p<0.0001)であった。<弁別的Validity>・ Sp-UPSAにより、患者と対照が識別された。・統合失調症患者において、CGI-Sスコアによる疾患重症度の相違が識別された。・統合失調症における対照/患者の曲線下面積は0.89、カットオフ値85における感度は82.7%、特異度は77.4%であった。・双極性障害における対照/患者の曲線下面積は0.85、カットオフ値90における感度は82.5%、特異度は64.5%であった。関連医療ニュース 統合失調症の再入院、救急受診を減らすには 認知機能トレーニング/リハビリテーションはどの程度有効なのか? 治療抵抗性の双極性障害、認知機能への影響は?

580.

院内の転倒事故で工作物責任を問われたケース

リハビリテーション科最終判決判例時報 1736号113-118頁概要脳内出血後に生じた右不全片麻痺に対し入院リハビリテーションを行っていた71歳女性。病院内の廊下を歩行していたところ、子供が廊下の壁に沿って設置されていた防火扉の取っ手に触れたため、防火扉が閉じ始めて患者と接触、その場に転倒し、右大腿骨頸部骨折を受傷した。患者側は、防火扉の設置保存に瑕疵があったために負傷したとして、病院に損害賠償を請求してきた。詳細な経過患者情報脳内出血による左不全片麻痺を発症し、急性期治療を他院で受けた71歳女性経過1996年11月5日リハビリテーション目的で某病院に入院となる。ADL(日常生活動作)については、T字杖を用いて200m程度歩行可能。手摺を使えば階段昇降も可能、ベッド上からの起き上がり、車椅子からベッドへの乗り移り、更衣、食事、排泄、入浴も一人で行うことができた。12月6日病院の廊下を歩行中、子供が廊下の壁に沿って設置されていた防火扉の取っ手に触れたため、防火扉が閉じ始めて患者に接触、その場に転倒するという事故が発生した。X線写真で右大腿骨頸部骨折と診断され、人工骨頭置換手術が行われた。術後もリハビリテーションを続けたが、T字杖ではなく、もっぱら4点杖を使用して50m程度しか歩行できなくなり、転倒への恐怖心や病院への不信感などから、リハビリテーションに対しては消極的となった。それ以外のADLでは、入浴の際、膝から下を洗うことが困難となった以外には目立った変化はみられなかった。その他、右臀部痛がひどく、ベッドから起き上がる際には介助が必要となった。もともと患者は一人暮らしを希望していたが、介助が必要になったため娘との同居を余儀なくされた。当事者の主張患者側(原告)の主張1.防火扉の設置保存の瑕疵により発生した傷害事故であるため、病院側は工作物責任を負うべきである2.もともと労災等級で第3級に相当する状態であったところへ、人工骨頭置換術により下肢の三大関節の用廃第8級が追加されたため、両者を併合して第1級の後遺障害である病院側(被告)の主張1.子供が触れた防火扉を避けきれずに転倒したのは、脳内出血による右片麻痺が寄与していたし、転倒して骨折したことには重度の骨粗鬆症が寄与しているため、7割の過失相殺がある2.後遺障害の等級は事故前後ともに第3級相当である裁判所の判断1.病院内は高齢者や身体に疾患を有するものが多数往来しているため、今回のような事故を回避するために、一般の住宅や通常の施設とは違った、利用者の安全へのより高度の注意義務が課せられている。したがって、本件は病院内工作物の設置保存の瑕疵により生じた事故である2.患者は現在一人で生活をおくることはきわめて困難であり、随時介護を要する状態にあるので、後遺障害は第2級に該当する3.患者の年齢、骨折の際の肉体的苦痛、リハビリテーションの負担などは原告にとって相当程度のものであったことを斟酌すると、後遺障害の等級を減じる要素や過失相殺の要因とはならない原告側2,590万円の請求に対し、2,010万円の支払命令考察このような事件は、患者さんにしてみればとても不幸なことですが、病院側に「全面的な責任あり」という判決が下っても、もなかなか容易には受け入れ難いように思います。そもそも、病院を建設する時には消防法にしたがって適切な場所に防火扉を設置する義務があるわけですし、その防火扉を病院職員が誤って閉じたのならまだしも、面会に来ていた子供がいたずらして閉じてしまったのですから、「そこまで責任を負わなければならないのか」、という感想をもちます。なかには、子供の保護者に責任をとってもらうべきだというようなご意見もあるでしょう。ただし、このような事件が実際にあるということは、われわれ医療従事者にとっては病院内の設備を見直すときのとてもよい教訓となりますので、今後同じような紛争が起きないように配慮を行うことが肝心だと思います。まず第一に、将来的には欧米並の訴訟社会に移行することを念頭において、病院内の設備にはリスクがないかどうか、細心の注意を払って見直す必要があります。少々極端な話にも聞こえますが、「病院内で滑って転んだのは掃除の時に水をこぼしたのが悪い」ですとか、「玄関の自動ドアに手を挟まれたのは病院の責任だ」、「職員が非常口のドアを反対側から突然開けたので転倒した」などなど、例を挙げればきりがないと思います。今回の事件では防火扉が予期せぬところで閉じてしまったために、たまたま居合わせた患者が負傷するという事故が発生しました。そのような場合には、「病院は一般の住宅や通常の施設とは違った、利用者の安全へのより高度の注意義務が課せられている」と判断されますので、あらかじめリスクの高いところへは患者さんがいかないようにしなければなりません。すなわち、防火扉、非常口、非常階段などは、身体的に不自由な患者さんにとってはハイリスクエリアと考え、そこへは立ち入ることがないよう物理的なバリアを設けたり、リハビリテーションを兼ねた歩行練習は安全な場所で行うようにするなど、職員への周知を徹底することが肝心だと思います。また、普段病院に常駐しているスタッフにとっては、いつもと違った角度で施設内のリスクを見直すにはどうしても限界があると思いますので、定期的に外部の人間にチェックしてもらうなどの方策を講じるのがよいと思います。なお今回と同様の事故として、高齢の入院患者が窓際に設置されたベッドから窓の外に転落し死亡したケースに対し、病院側の工作物責任を認めたもの(判例タイムズ 881号183頁)、見舞いに来た幼児が窓際に設置したベッドから窓の外に転落した事故(判例時報 693号72頁)などがあります。次に、不幸にして院内で転倒そのほかの事故が発生してしまい、結果的に患者さんへの不利益が生じた場合には、スタッフ全員ができる限り誠意のこもった対応をするよう心がける必要があります。今回の事件でも、病院側は「やむを得なかった」という弁解をくり返し、自らの責任を認めようとしなかったため、患者側は著しい不信感を抱き、かえって話がこじれてしまいました(もし当初からきちんと話し合いをしたうえで、できる限り力になりましょうという態度をとっていれば、訴外で解決できた可能性も十分にあると思います。もちろん、その場合にも損害保険会社の施設賠責保険が使用可能です)。では具体的にどのようにすればよいのか、という点に明快な回答を用意するのは難しいのですが、少なくとも病院内で発生した外傷事故、あるいは結果的に患者さんにとっての不利益が院内で生じた場合には、病院側にも責任の一端があるという態度で臨むべきではないかと思います。その際の責任範囲をどこまで設定するのかということについては、さまざまな考え方があるかと思いますので、必ず院内の安全管理委員会で検討するとともに、弁護士をはじめとする外部の顧問にアドバイスを求めるのがよいと思います。リハビリテーション

検索結果 合計:649件 表示位置:561 - 580